孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエルとアメリカ  不協和音も目立つものの、「真に特別な関係」は維持

2014-07-31 22:57:04 | パレスチナ

(7月30日 ガザ市内の病院に横たわる負傷した幼児 “flickr”より By activestills https://www.flickr.com/photos/activestills/14783879511/in/photolist-owpfjk-ofq73F-ouDiWQ-of88Pd-ofpiEn-ox1kbW-ofHoTy-owKimc-oyXYkF-ovbrwN-oyMSZk-ofwP5b-oySxKD-owBWuB-ofBXYd-ofxCVu-owQPP6-ofHBaM-oyXYo6-oxbtqS-ofJnAt-ovbrc9-ofHE2Z-oyXX9n-owWgAg-ofHoEs-ofHK6L-ox1cLh-oxdiUX-ovbrG7-ofHKoQ-oxdi5R-owWhea-ofHKrf-ovbpsh-oyXZmP-ofHDYT-ofHB4e-ovbriw-ofJnGR-ofHKES-oxdhSX-oyXWJe-ofHKSA-ox1cBE-ofHmjq-ofJn5P-ofHB7a-owWgwD-ox1dL3)

【「戦時下の市民の保護を定めた国際人道法に拘束されない国はない」】
昨日ブログでも取り上げたパレスチナ・ガザ地区では、30日も100人以上が死亡し、これまでにガザ地区で死亡した人は1300人を超え、その3分の2以上が一般の市民であると言われています。

30日には国連が管理する学校にも砲撃があり、避難していた子供を含む住民十数人が亡くなっています。
イスラエルは関与を明らかにしていませんが、ハマスが兵器を隠しているとして学校や病院も攻撃対象にしています。

また、ガザ地区では発電施設が被害を受けて電気が止まり、ポンプが止まったために上下水道も使えなくなっています。

一方のイスラエルは“イスラエル側は兵士53人を含む56人が死亡”【7月30日 毎日】とのこです。
イスラエルにしてはこれまでになく多い犠牲者ではありますが、民間人の死亡は3人ということになります。

イスラエルの立場にたてば、ハマスからのロケット弾攻撃に対する正当防衛であり、自衛のための攻撃であるということになります。

犠牲の大きさを亡くなった人命の数ではかることはできないでしょうが、現在の状況はあまりにバランスを欠いた過剰防衛のように思えます。

自国民を守るためなら何をしてもいい・・・というものでもないでしょう。

国際的にもイスラエルの行き過ぎた攻撃に批判が高まっており、元スウェーデン外相でもあるエリアソン副事務総はイスラエル軍の攻撃は明らかに行き過ぎたもので国際人道法に違反すると指摘しています。

****イスラエルは国際人道法に違反****
・・・・こうしたなか、国連のナンバー2に当たるエリアソン副事務総長がニューヨークの国連本部で記者会見し、イスラエル軍による攻撃とイスラム原理主義組織ハマスによるロケット弾攻撃の双方を非難しながらも、「イスラエル側とパレスチナ側の被害状況を比較するかぎり、イスラエル軍の攻撃の規模は均衡を逸しており、その責任は免れない。戦時下の市民の保護を定めた国際人道法に拘束されない国はない」と述べ、イスラエルによる攻撃が国際人道法に違反していると指摘しました。

そのうえで、エリアソン副事務総長は「これ以上の市民の殺りくを止めるという人道的な目的の一点のために停戦を実現し、イスラエル側が要求しているガザ地区の非武装化や、ハマスが求めているガザ地区の封鎖の解除については、それに続いて協議するべきだ」と述べ、改めて即時停戦を強く呼びかけました。【7月31日 NHK】
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そりがあわないオバマ・ネタニヤフ両政権
ただ、イスラエルにはアメリカという強力な後ろ盾があります。

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・・・・国際的非難にさらされながらも、イスラエルがこのような振る舞いをし続けているのはアメリカの後ろ盾があるからだ。

米国には527万人のユダヤ人が住んでいるが、総人口に占める割合は1.7%に過ぎない。この「少数民族」は金融、ジャーナリズム、ハリウッドなどに強固な人脈を張り、豊富な資金でロビー活動に威力を発揮する。

大統領選でも議員選挙でも全米ユダヤ人協会の支持は選挙結果を左右しかねない重みがあり「米国政治はユダヤロビーに牛耳られている」とさえ言われる。【7月31日 “「殺戮100倍返し」のイスラエル ガザ制圧でも見えない本当の勝利” CIAMOND online】
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もっとも、リベラルなアメリカ・オバマ大統領と保守強硬派のイスラエル・ネタニヤフ首相が“そりが合わない”ことはかねてから言われていることです。

また、「就任以来パレスチナ和平のことしか考えていない」とも批判されるほどパレスチナに深く関与しているアメリカ・ケリー国務長官のパレスチナ仲介についても、「ケリー氏はパレスチナとの紛争について何も知らないくせに救世主ぶっている」「ケリー氏がノーベル賞を取って我々を放ってくれるまでは救われない」(イスラエルのヤアロン国防相)と言ったイスラエルからの酷評が話題になったこともあります。

アメリカの方は、和平交渉に本気で乗ってこないイスラエルに苛立ちを感じており、今回の衝突においてもケリー国務長官がマイクがオンになっているのを気づかす、イスラエルの軍事攻撃が大勢の民間人や子供を犠牲にしていることを「恐るべきピンポイント攻撃」と皮肉る発言が表ざたになるなどの騒ぎがありました。

それでも、この失態に気づいたケリー長官はすぐに、ハマスの一斉射撃に対するイスラエルの反撃が「適切かつ正当な」自衛防衛だと断言する形でアメリカの公式方針を語っています。【7月23日 日経より】

表面化する不協和音
アメリカ国内におけるユダヤ人社会の大きな影響力もあって、イスラエル支持がアメリカの基本方針ではありますが、上述のようにあまりしっくりしない関係を反映して、今回のイスラエルの対応に関する不協和音も表面化しています。

****対立深まる米-イスラエル 停戦案を暴露され・・・・****
パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの戦闘をめぐり、イスラエルが、オバマ米政権の「調停外交」に対する不信感を露わにし、米国との対立を深まっている。

ケリー米国務長官が示した停戦案がリークされたことにより、米側は「ハマス寄りだ」と激しい批判にさらされており、事態はこじれるばかりとなっている。

停戦案は25日、イスラエル訪問中のケリー氏が提示した。イスラエルが「自衛のためだ」として、破壊を実行しているガザからの秘密トンネルには言及せず、ハマスが停戦条件としてイスラエルやエジプトに求めているガザ封鎖の緩和につながる内容を含む。

イスラエル政府は「これではハマスの要求を受け入れるに等しく安全が保障されるものではない」として拒絶した。

イスラエル紙ハーレツが27日に停戦案をスクープするとメディアは「裏切り」などと一斉に批判した。同紙によると、イスラエルの閣僚も停戦案を「テロ行為に対する褒美だ」と語っているという。

これに対し、米国のライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は28日、ユダヤ系団体の会合で「報道はケリー氏の停戦努力をミスリードしており、失望した」と語った。

米国務省のサキ報道官もリークについて「同盟国がお互いを扱うやり方ではない」と述べ、イスラエル政府に不快感を表明した。

オバマ政権はイスラエルの軍事作戦を自衛権に基づくものとして支持してきたが、ガザでの死者が1千人を超え、国連管理下の学校への砲撃で子供たちが犠牲になったことでいらだちを強めている。

オバマ氏は27日、イスラエルのネタニヤフ首相に電話で「パレスチナの市民の死者数が増加していることに米国で懸念が強まっている」と伝えた。(後略)【7月31日 産経】
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アメリカは、国連が管理する学校への砲撃についても、イスラエル名指しは避けながらも異例の批判を行っています。

****米国:イスラエルと「場外戦」 ガザ戦闘めぐり****
長年の同盟国である米国とイスラエルが、パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘をめぐり対立を深めている。

オバマ米政権は、パレスチナ民間人の死傷者急増に懸念を強め、イスラエルに対策強化を要求する。

一方、イスラエルはケリー米国務長官による停戦仲介が、ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマス寄りだとして、交渉内容をメディアにリークする作戦で対抗。同盟国同士の「場外戦」が続いている。

「イスラエル軍に自宅退去を求められた多数のパレスチナ人が国連の避難所でも安全でないことに、極めて強い懸念を抱いている」。米国家安全保障会議のミーハン報道官は30日、米国政府としては異例に強い調子の声明を発表した。

ガザで同日発生した国連避難所として利用されている学校砲撃事件を受けたもので「子供を含む罪のないパレスチナ人が死傷した」として非難した。

砲撃自体に関しイスラエルの名指しは避けたが、内容的には「イスラエル非難」のトーンで、シュルツ大統領副報道官も「イスラエルは民間人死傷者の抑制のため取り組みを強める必要がある」と明言した。(中略)

米国政府はイスラエルを「真に特別な関係」(ライス大統領補佐官)と見なしており、こうした対立が両国関係の決定的悪化につながる可能性はほぼない。

だが、オバマ大統領とネタニヤフ・イスラエル首相の「不仲説」はこれまでも伝えられている。

ロイター通信によると、ガザの保健当局者の集計ではパレスチナ側の死者は30日現在1346人で、過半数は民間人と見られる。イスラエル側では兵士56人と民間人3人が死亡した。

ただ、米国世論はイスラエルを支援する傾向が強い。ピュー・リサーチ・センターが28日に公表した世論調査では、今回の紛争は「ハマスの責任」とする回答が40%で最も多く「イスラエル」は19%だった。【7月31日 毎日】
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「ハマスの責任」とする回答が40%・・・・テロをイメージするイスラムへの嫌悪感の他、家の芝生への侵入者を撃ち殺しても正当防衛が主唱されるお国柄でしょうか。

【「真に特別な関係」とアメリカのダブルスタンダード
しかし、なんだかんだありつつも、「真に特別な関係」ということで、アメリカのイスラエル支持は揺らいではいません。

****米 イスラエルに弾薬供与は国益****
イスラエル軍がパレスチナ暫定自治区のガザ地区で攻撃を続け多数の死者が出るなか、アメリカ国防総省はイスラエル軍に先週、弾薬を供与したことを明らかにし、「イスラエルへの支援は、アメリカの国益にとって極めて重要だ」と正当性を強調しました。(中略)

こうしたなか、アメリカ国防総省のカービー報道官は、30日発表した声明で、今月20日にイスラエル側から要請があり、イスラエル軍に弾薬を売却したことを明らかにしました。

売却されたのはアメリカ軍の管理の下で、イスラエル国内に備蓄されていた2種類の弾薬です。

カービー報道官は、「アメリカ政府は、イスラエルの安全保障に関与しており、イスラエルの自衛能力を強化する支援は、アメリカの国益にとって極めて重要だ」として、弾薬の供与の正当性を強調しました。

しかし、ガザ地区で多数の死者が出るなか、アメリカ政府が停戦に向けて働きかけを行う一方で、同盟国のイスラエルに軍事支援を続けていたことで、アラブ諸国を中心に今後、アメリカに対する批判が強まることも予想されます。【7月31日 NHK】
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アメリカが、これまで同様のイスラエルとの「真に特別な関係」を続ける限り、パレスチナに平和は望めません。

マレーシア航空機を撃墜したウクライナ東部の親ロシア勢力へのロシア・プーチン政権の武器供与が批判されるのであれば、多大な民間人犠牲を出しながらも攻撃を継続するイスラエルに弾薬提供するアメリカも同様でしょう。

プーチン大統領を批判しながら、また、イスラエルの過剰防衛をいさめながら、イスラエルへの弾薬提供を続けるというのは釈然としません。

イスラエル軍は、新たに1万6000人の予備役の兵士を招集し、さらに作戦を強化する構えを見せています。

****トンネル破壊まで停戦せず=ガザ攻撃でイスラエル首相*****
イスラエルのネタニヤフ首相は31日、閣議の席上、パレスチナ自治区ガザで進めているトンネルの破壊作業について、「この重要な任務を達成できない限り、(イスラム原理主義組織ハマスとの)停戦を受け入れない」と述べた。

国際社会からの停戦圧力が高まる中、地上戦の目的であるトンネルの破壊の必要性を訴えた形だ。

AFP通信によると、イスラエル軍が地上侵攻を始めた17日以降、閣議で作戦の進捗(しんちょく)状況が報告されたのは初めて。

首相は、ハマスがトンネルを使い、イスラエル人の誘拐や殺害、テロ攻撃を仕掛けようとしていたと強調した。【7月31日 時事】 
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“イスラエル当局者が30日、ハマスとの停戦を仲介するエジプトの首都カイロ入りしたとの情報もある。パレスチナの代表団も近くカイロ入りするとみられ、停戦を模索する動きが水面下で広がっているもようだ。”【7月31日 時事】といった話もあるようです。
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パレスチナ  住民を「人間の盾」として使うハマス、その「人間の盾」に構わず攻撃を続けるイスラエル

2014-07-30 23:09:08 | パレスチナ

(イスラエルの攻撃が始まった頃、飲み物などを持ってイスラエル軍によるガザ地区空爆の様子を丘の上から見物するイスラエル市民 すでにこの頃、“自衛”のための空爆によりガザでは100人以上が死亡しています。【7月12日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/3020370?pid=

今月8日以降の犠牲者数は約1260人近く
パレスチナ・ガザ地区の惨状については、連日報道されているところです。

****ガザ地区北部の国連学校に砲撃、16人以上死亡*****
パレスチナ自治区ガザ地区北部のジャバリア難民キャンプで30日早朝、国連の運営する学校がイスラエル軍に砲撃され、少なくとも16人が死亡した。パレスチナ側の医療関係者が明らかにした。

今月8日に始まったイスラエル軍と、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの衝突は、30日で23日目となった。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が運営する女子校への砲撃が始まったのは午前5時30分(日本時間同日午前11時30分)ごろ。国連の職員はAFPに対し、学校には自宅を追われた多数の住民が避難していたと語った。

■ガザ地区各地に砲撃、「数十人」死亡
イスラエルは同日、ガザ地区の各地を砲撃した。救急医療サービスの広報担当者は当初、攻撃による死者数を20人程度としていたが、その後「数十人」に引き上げている。

ガザ地区北部では、体の不自由な11歳の少女が死亡。
また、中部の16歳の少女が犠牲になったほか、南部ハンユニスでは同じ家族の10人が亡くなった。
さらに、南部ラファでは中年の男性1人の死亡が確認されている。

30日に死亡したのは少なくとも29人で、今月8日以降の犠牲者数は約1260人近くに上っている。

死者の3割近くが「子ども」
こうした状況を受け、犠牲になる子どもの多さに複数の人権団体が懸念を表明している。

国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)の声明によると、これまでに死亡したパレスチナ市民のうち240人以上が子どもで、犠牲者の少なくとも29%を子どもが占めている。

一方、攻撃開始以降のイスラエル側の死者は、兵士53人、民間人3人。このほか、ガザから撃ち込まれるロケット弾で子ども6人が負傷している。【7月30日 AFP】
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30日の国連の運営する女子校への砲撃について、イスラエル側は、現在、状況について調査中で、イスラエル軍の攻撃によるものかどうか確認していると説明しています。

ガザでは24日にも、北部ベイトハヌーンにあるUNRWAの学校が砲撃を受け、避難民ら15人が死亡しています。イスラエル側は校庭に着弾したのはイスラエル軍の迫撃砲弾だったと認めてはいますが、イスラエル軍の攻撃は学校を標的にしたものではなく、着弾時に校庭は無人だったことから、「死者が出たとは考えにくい」とも主張しています。【7月29日 産経より】
28日夕方には、子どもたちが遊んでいた公園に攻撃が行われ、パレスチナのメディアによると8人の子どもを含む10人が死亡し、40人がけがをしたということです。

これについても、ハマス側はイスラエル軍によるものだとしているのに対し、イスラエル軍はこれを否定し、「ガザ地区から発射されたロケット弾が失敗して着弾したものだ」と主張しています。【7月29日 NHKより】

27日夜には、ガザ地区に電力を供給している唯一の発電施設が砲撃によって操業が出来なくなっており、ガザ地区のほぼ全域で停電しています。

パレスチナ当局者らはイスラエルによる空爆との見方を示していますが、イスラエルは「発電所は狙っていない」と主張しています。

個々の件についてどちら側の砲撃によるものだったはともかく、ガザ地区では29日だけで100人以上が死亡するなど、犠牲者は1200人を超えています。

攻撃から逃れて避難生活を余儀なくされる人も20万人を超えていますが、国連管理の学校が砲撃されるように、地区内ではどこに逃げたらいいかわからない状態です。

住民の命を無視した駆け引き
停戦が成立しないまま、攻撃と非難の応酬が続き、犠牲者だけが膨らんでいます。

****イスラエルとハマスが非難の応酬 停戦の見通し立たず****
・・・・パレスチナ解放通信(WAFA)は、パレスチナ自治政府が24時間から最長72時間の休戦を提案し、ハマスがこれに同意したと伝えた。しかし、ガザのハマス報道官はこの報道を否定した。

ハマス側は、イスラエルがガザ封鎖を解除しない限り交渉には応じないとの立場を示す。

ハマス軍事部門トップのデイフ氏はハマス系テレビ局を通し、「こちらの住民の安全が確保されない限り、イスラエルも安全を手に入れることはできない」と述べた。(中略)

一方、イスラエルのネタニヤフ首相は停戦の前提条件として、ガザからの地下トンネルを破壊する必要があると主張する。ハマスはこのトンネルを使ってイスラエル領内への攻撃を繰り返している。

イスラエル政府のレゲフ報道官はCNNとのインタビューで、「ハマス側の死者もイスラエル側の死者もすべてハマスの責任だ。ハマスが停戦を拒否するから戦闘が続き、人々が死んでいくのだ」と非難した。(後略)【7月30日 CNN】
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国連の潘基文(バン・キムン)事務総長は28日、「人道的見地から、暴力は止めなければならない」と訴えてはいます。

しかし、“(イスラエルのネタニヤフ首相は)自国への攻撃に使用されているパレスチナ自治区との境界にあるトンネルを破壊するまで攻撃を続行すると宣言。「長期的な作戦になる」と警告しており、停戦に向けた国際社会の訴えは、無視された格好だ。”【7月30日 AFP】

停戦に関しては、ハマス側はガザ地区の経済封鎖解除を求め、イスラエル側はハマスの武装解除を求めています。

****ガザ、抗戦崩さぬハマス 経済封鎖の解除を狙う****
・・・・軍事力で圧倒的に優位のイスラエル軍に対し、ハマスは徹底抗戦の構えをみせる。生き残りをかけた駆け引きの間、市民の犠牲がさらに増えるとみられる。(中略)

停戦条件をめぐり、イスラエルとハマスには深い溝がある。イスラエルがハマスの武装解除を求めるのに対し、ハマスはガザの経済封鎖の解除を掲げる。

イスラエルは境界を通じたガザへの燃料や建設資材の搬入を厳しく制限。南西側の境界を接するエジプトには昨年のクーデターでハマスを敵視する政権ができ、人の往来を救急搬送などに限って封鎖を強化し、ガザの生活を支える密輸ルートも絶たれた。

ハマス政治部門トップのメシャール氏は25日放送の英BBCのインタビューで「ガザの人々は世界最大の監獄の中で、死を伴う罰を受け続けている」と訴えた。

抑圧を受けるパレスチナ人の代弁者として存在を示す狙いとみられるが、譲歩を引き出せないまま停戦に応じれば、ガザでの支持を一気に失う恐れがある。

一方、イスラエルも後にはひけない状況だ。3週間の作戦で兵士43人が死亡。イスラエルを国家として認めないハマスを弱体化させることは、現政権の公約になっている。

ネタニヤフ氏は28日、国連の潘基文(パンギムン)事務総長に対し、ガザ情勢について「重大な懸念」を示した同日の安全保障理事会の声明について、「テロリスト側に共感し、イスラエルの安全保障に向き合っていない内容だ」と電話会談で批判。ガザへの攻撃を続ける意思を強調した。【7月29日 朝日】
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【「人間の盾」】
イスラエルにとってガザを占領しても重荷になるだけでメリットはあまりありません。それより“弱体化した”ハマスに“管理”させる方が現実的です。

右派の保守強硬派とされるネタニヤフ首相ですが、地上戦などのガザ地区への深入りには消極的だったとも言われ、地上戦についても「トンネル破壊をほぼ終える週内の作戦完了」を主張していますが、閣内には地上戦の拡大・継続を求める強硬右派のリーベルマン外相らも存在します。

イスラエル国内の世論調査では、戦闘継続を求めた人は87%で、停戦を求めた人(7%)を大きく上回るという状況で、“国際社会の圧力と国内世論のはざまで、ネタニヤフ首相は難しい判断を迫られている。”【7月28日 毎日】とも。

ハマスについては、ガザ住民を「人間の盾」とすることで、犠牲者を増加させているとの批判があります。

犠牲者が増えれば、住民のイスラエル憎悪からハマスの求心力が強まり、国際的にもイスラエル批判が強まることで交渉に有利に働く・・・との思惑があるとも言われています。

****人間の盾」で被害拡大  病院・学校にハマス軍事拠点****
パレスチナ自治区ガザ地区の戦闘は死者が1000人を超え、イスラエルの大規模作戦で1400人超が死亡した2008~09年の軍事衝突の際に迫る被害規模となっている。

ガザ地区で民間人の犠牲が増大しているのは、イスラム原理主義組織ハマスが軍事拠点を住宅密集地に置くなど、一種の「人間の盾」戦術を駆使していることも要因となっている。

「われわれは民間人に退避を促しているのに、ハマスが(攻撃対象地域に)とどまらせている」。
イスラエルのネタニヤフ首相は27日、米テレビ局のインタビューでこう述べハマスはガザ住民の犠牲をあえて増やし国際的な宣伝戦に利用していると非難した。

ハマスが、病院や学校などの民生施設を隠れみのに利用していることを示す情報もある。
国連の潘基文(パンギムン)事務総長は23日、ガザ住民の避難先となっている国連管理下の学校の一つで大量の武器類が見つかりその後所在が分からなくなっていると指摘した。ハマスなどの武装勢力が武器隠匿に関与している可能性は高い。

ハマス軍事部門は、司令部をハマス系の病院の地下やその付近に設置しているなどとも指摘される。

軍事力で圧倒的に劣勢なハマスは従来、拠点を分散させて攻撃を受けにくくする戦術をとっており、軍事目標と民間施設との区別を難しくしている。

また、イスラエルから退避警告があったとしても狭いガザ地区で逃げ場が少ないのも事実だ。

国際社会による停戦調停が難航する中、ハマスには停戦の前提条件としているガザ封鎖解除の保証を得るためガザの惨状をアピールする思惑もありそうだ。

■「ガザ再占領」政権に強硬論も
一方、イスラエルとしては、どの時点で停戦に踏み出すかが大きな問題だ。
イスラエル軍は、地上作戦の目的はガザからの秘密トンネル網破壊と、ハマスのロケット弾攻撃を阻止することにあるとしている。

しかし、ネタニヤフ政権内では、極右「わが家イスラエル」を率いるリーベルマン外相らがガザ再占領とハマスの完全武装解除を主張。

シャロン政権期の05年に一方的に撤退したガザやヨルダン川西岸を含めた領域が本来のイスラエルの版図だと唱える「大イスラエル主義」勢力なども「再占領」を支持している。

再占領には軍事的・経済的に多大なコストがかかると予想され現実味は薄いとの指摘もあるものの、一連の強硬意見が軍事作戦拡大につながる可能性もなお排除できない。【7月29日 産経】
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住民を「人間の盾」として使うハマス、その「人間の盾」に構わず攻撃を続けるイスラエル。
互いの念頭にあるのは、いかに交渉を有利にするかということであり、双方とも住民の生命を無視している点では同罪です。

国際社会も無力です。かつてのエジプトのような仲介国もありません。

いくらロケット弾を撃ち込んだところでイスラエルがなくならないことぐらいハマスも承知です。
いくらハマスを叩いてもイスラエルを敵視する勢力がなくならないこともイスラエルは承知です。犠牲者に倍する復讐者を生むだけです。おそらく現在のハマスよりもっと過激で凶暴な。

それでも勇ましい主戦論だけが叫ばれ、戦いが止みません。
あとどれだけの血が流されれば事態が収まるのか・・・救いのない話です。
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リビア  首都でも東部でも戦闘が続く  議会選挙はリベラル勢力勝利か

2014-07-29 22:55:54 | 北アフリカ

(首都トリポリの空港周辺での戦闘 【7月29日 TBS Neswi】http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2261419.html)

複数の武装勢力が各地で衝突
5月24日ブログ「リビア 首都で武装勢力が対峙 6月の議会選挙で混乱に拍車の恐れも」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140524)でも取り上げたように、カダフィ政権崩壊後のリビアでは、多くの武装勢力が内戦時の武器を保持したまま残存し、新たな国家体制を構築する作業が進まないなかで、政府軍・武装勢力が入り乱れて戦闘を行う混乱が拡大しています。

武装勢力・民兵組織は、宗教色の濃淡、地域、部族などで様々な組織・勢力があります。

****リビア首都の戦闘、2週間で97人死亡 400人超負傷****
リビアの首都トリポリの空港周辺で続く武装勢力間の戦闘により、ここ2週間で97人が死亡、400人以上が負傷した。

同国の保健省が27日、発表した。戦闘が急速に激化する中、エジプトと西側諸国の各政府は自国民に対しリビアからの退去を勧告している。

軍と医療当局が27日に伝えたところによると、これとは別に東部のベンガジ市では、政府軍とイスラム武装集団との24時間にわたる戦闘で、兵士ら38人が死亡した。

トリポリの武力衝突は、過去3年間空港を支配・管理していたリベラル派民兵組織「ジンタン旅団」を、イスラム勢力を中心とする武装グループの連合体が襲撃したことから始まった。
この連合体は以降、リビア第三の都市ミスラタの武装勢力の支援も受けている。

エジプト外務省の報道官はAFPの取材に対し、トリポリで26日にグラートロケットが民家に着弾して23人が死亡したと述べた。死者にはエジプト人が含まれるが、正確な人数は不明という。

トリポリ国際空港の支配をめぐって争う武装勢力の激しい戦闘のため、米国は26日に在リビア大使館の全職員を国外退避させた。これに続き、ドイツと英国、エジプトの各政府も自国民の退去を勧告。ベルギー、マルタ、スペイン、トルコはそれ以前から退去を勧告している。【7月28日 AFP】
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戦闘は西部の首都トリポリと、東部の中心都市ベンガジの両方で起きています。

東部ベンガジに関しては、“イスラム系武装勢力が2日間にわたってリビア軍特殊部隊の拠点を襲撃。一般市民を含む少なくとも38人が命を落とした。”【7月27日 時事】とのことです。

ただ、5月24日ブログでも触れたように、東部ベンガジでの戦闘は、もともとカダフィ旧政権下で軍将官であり、カダフィ独裁政権打倒で中心的な役割を果たした世俗派とされるハフタル氏とイスラム武装勢力の争いと報じられていました。

一方、議会・政府はイスラム主義勢力が強く、政府と世俗派ハフタル氏は対立関係にあり、ハフタル氏と連携する武装勢力(【7月28日 AFP】で登場するリベラル派民兵組織「ジンタン旅団」の戦闘員とも言われています)が首相選定を行う議会に乱入するという混乱も起きていました。

しかし、東部ベンガジでは“政府の命令に反する形で一部の軍ヘリコプターなどがハフタル氏側について戦闘に参加したとみられており、政府が軍を掌握できていない実情も浮き彫りとなった”とも。

このように、5月段階ではイスラム主義勢力主導でハフタル氏と対立していた政府ですが、【7月28日 AFP】では“政府軍とイスラム武装集団との24時間にわたる戦闘”と記されています。

この「政府軍」が政府の意向に沿って動いている部隊なのか、一部の軍が政府の意向とは異なりハフタル氏などの勢力と連携してイスラム武装勢力と衝突しているのか・・・・よくわかりません。おそらく後者ではないでしょうか。

どんな出来事でも、表の動きとは別に、“裏事情は・・・・”“実際のところは・・・”という話になると、日本国内の出来事でもよくわからないものであり、ましてや海外のことになると雲をつかむようなことにもなります。

ただ、リビアの現状は、報道されるニュースを見ていても、表の動きすらよくわからないところが多々あります。
現在、リビア政府が衝突する武装勢力に対しどういう立ち位置にあるのか、政府軍がどういう動きをしているかなども、そうしたよくわからない話のひとつです。

機能不全に陥った制憲議会から暫定議会へ 治安安定は困難
6月25日には議会選挙が行われました。

****リビア暫定議会選:世俗派とイスラム勢力、議席争い焦点****
リビアで25日、暫定議会選挙(定数200)が行われた。世俗派とイスラム勢力の議席争いが焦点。

東部ベンガジを中心に世俗派武装組織とイスラム過激派組織との武力衝突が激化しており、選挙後に発足する暫定政府が治安改善を実現できる見通しはない。

選挙は新憲法策定を担う制憲議会が世俗派武装組織の圧力を受けて解散したことに伴うもので、新憲法成立までの間、暫定的に国会の役割を果たすとみられる。

東部では元軍将校のハフタル氏率いる世俗派武装組織と政府軍の一部が、イスラム過激派との衝突を続けており、投票が円滑に行われるかは不透明だ。

また西部の少数民族ベルベル人は、民族の権利が保障されていないとして、選挙をボイコットした。

リビアでは2011年に内戦を経てカダフィ独裁政権が崩壊したが、反カダフィ派の武装解除が進まず、混乱が続いている。【6月26日 毎日】
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“政府の統治能力が弱体化していることから、状況が改善するのは難しい”【6月26日 NHK】というのが、大方の見方です。

ただ、それ以前の話として、この選挙の結果がどうなったのか報道がなく、“よくわからないなあ・・・”と思っていたのですが、1週間ほど前に結果に関する報道がようやくありました。
どうも世俗派・リベラル派が勝利したようです。

****リビア暫定議会選、リベラル勢力が勝利か 機能不全の制憲議会と交代****
フランス公共ラジオによると、リビアの選挙管理委員会は21日、6月に行われた暫定議会選の結果を発表した。立候補は無所属に限定されたため正確な勢力図は不明だが、リベラル勢力が勝利したとみられる。

定数200のうち188議席が決まり、リベラル勢力が50議席以上、イスラム勢力は30議席以下との推定が出ている。当選議員は今後、会派を形成する。

暫定議会は、両勢力の対立などで機能不全に陥った制憲議会と交代。招集後に新首相を指名、憲法起草委員会による憲法案策定を待って国民投票で是非を問う。憲法公布後の総選挙で正式な議会が発足する。【7月22日 msn産経】
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もっとも“正確な勢力図は不明”ということで、また、どういう勢力図になっても混乱がおさまるとも思えません。
どうしてイスラム主義勢力が後退したのか・・・もちろんそうした事情はよくわかりません。

トラウマを抱えるアメリカは大使館閉鎖
比較的わかりやすい話としては、アメリカが大使館を閉鎖したということがあります。

リビアでは2012年9月、東部ベンガジの米領事館が襲撃を受け、駐リビア米大使ら米国人4人が死亡する事件があり、アメリカ国内では未だにこの問題を巡ってオバマ政権の責任を問う議論がなされています。
ウクライナとかガザ、シリア・イラクと、議論すべき問題は山ほどあるのですが・・・・。

次期大統領を狙うとされている当時国務長官だったヒラリー・クリントン氏にとっても、大きな政治的傷となっています。(“傷”にするために共和党側が執拗に問題にしている・・・とも言えますが)

そういう事情というか、トラウマがありますので、また問題が起きる前に早々に引き揚げたというところでしょう。

****米、リビア大使館を閉鎖 要員は一時退避 民兵同士の戦闘激化で****
米政府はリビアの首都トリポリの米大使館を閉鎖し、要員全員を陸路で隣国チュニジアに退避させた。

米国務省のハーフ副報道官は声明を発表し、大使館付近で民兵同士の戦闘が激化したことによる一時的な措置だと説明した。(中略)

ケリー米国務長官は26日、パリで記者団に「要員に危機が迫っており大使館での外交活動を一時中止する。大使館閉鎖ではない」と述べ、引き続き対リビア外交や戦闘中止に向けた働きかけを行うと強調した。(後略)【7月28日 産経】
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石油生産は比較的順調 トリポリ燃料施設に被害も
首都トリポリでも、東部ベンガジでも戦闘が収まらず、外国大使館が閉鎖されるという状況で、経済も大混乱か・・・というと、そうでもないようです。

前回ブログでも“リビア西部の油田とパイプラインが12日に稼働を再開し、同国の原油生産量が倍増する見通しとなった。”【5月13日 WSJ】という話をとりあげましたが、現在も、“トリポリ以外の地域では石油生産にある程度の改善が見られている。”【7月23日 WSJ】とのことです。

ただ、“リビアのトリポリ空港周辺で激しい戦闘が発生し、ガソリン輸送車が炎上した。最近のリビア情勢悪化で石油インフラに被害が出たのは初めて。”【同上】というように、トリポリでは戦闘の影響も出ています。

更に、27日にはトリポリ郊外の燃料貯蔵施設をロケット弾が直撃して、制御不能状態になっています。

****リビア、燃料貯蔵施設の火災が「制御不能」に 戦闘で消火できず****
リビアの首都トリポリ郊外にある燃料貯蔵施設で発生した大規模な火災が28日、制御不能となり、大災害に発展する恐れが懸念されている。

この火事は27日夜、600万リットル以上の燃料が入ったタンクにロケット弾が直撃して発生。同国政府は、「別の燃料貯蔵施設でも火災が発生し、非常に危険な状況」だとして、「予測不能な被害を伴う大災害」に発展する恐れを警戒している。

この燃料貯蔵施設はトリポリの国際空港へつながる道沿いにあり、同市から約10キロ離れている。周辺では今月中旬から、対立する武装勢力間の激しい戦闘が繰り広げられている。

消防隊が消火活動に当たっているが、戦闘が続いているため何度も火災現場からの避難を余儀なくされている。
国営燃料会社の広報担当者は、「消防隊はすでに現場から退避した。制御不能の事態に陥っている」と発表。

一方政府は火災現場から半径3キロ圏内の住民に対し、「自宅からの即時避難」を呼び掛けた。同時に政府は声明で武装勢力に対し、「直ちに停戦」するよう改めて訴えた。

しかし現地で取材に当たっているAFPのカメラマンによるとロケット弾の応酬は続いている。当局は、9000万リットルの天然ガスが貯蔵されている施設に火が燃え移る可能性を危惧している。【7月29日 AFP】
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現在でもトリポリは燃料不足に苦しんでいますが、上記火災で更に事態は悪化しそうです。

カダフィ独裁政権が倒れて事態はかえって悪化したような感があるリビア情勢ですが、現在の状況が過渡期の苦しみであった・・・と思えるような日が来てもらいたいものです。
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中国  鉄道建設外交 ミャンマーは白紙へ トルコでは高速鉄道を建設 日本の新幹線は?

2014-07-28 22:04:50 | 中国

(7月25日 中国企業が建設に参加したトルコの首都アンカラとイスタンブールを結ぶ高速鉄道の第2期工事が完成し、運行を開始 【7月28日 Recoed China】)

アフリカ全土に中国製の鉄道網を張りめぐらせる構想
毛沢東時代のタンザニア鉄道以来、鉄道建設は中国外交の中心的役割を果たしています。

中国は近年、中東に依存していた原油をはじめ資源の調達先を増やすため、アフリカへの関与を強めていますが、そこでも鉄道建設が通信インフラ整備とならんで活用されています。

“欧米の資源メジャーに対抗するために取ったのは、政府ぐるみの便宜供与。資源の採掘や積み出しのための鉄道や港湾、発電所といったインフラ建設を中国が請け負う。資金は中国政府の援助に加え、国有の中国輸出入銀行や国家開発銀行も有利な融資を提供した。”【6月24日 朝日】

****中国とアフリカという高速列車を加速する****
・・・・中国の李克強(リーコーチアン)首相は5月前半にエチオピア、ナイジェリア、アンゴラ、ケニアを歴訪した。

中国が2年前、エチオピアの首都アディスアベバに2億ドル(約200億円)を投じて建設したアフリカ連合の本部で演説し、アフリカ全土に中国製の鉄道網を張りめぐらせる構想を打ち出した。

ナイロビでは、中国が総工費36億ドルの9割を借款として融資し、中国の国有企業が建設する鉄道の調印式に出席した。

ケニアのケニヤッタ大統領のほか、いずれ鉄道が伸びる計画があるウガンダのムセベニ大統領、ルワンダのカガメ大統領、南スーダンのキール大統領も駆けつけた。

線路は、植民地時代に敷設された狭軌より幅が広い標準軌に変わり、コンテナも運べるようになる。いずれアフリカ内陸部の資源が、これに乗ってモンバサ港からインド洋を渡り、中国へと運ばれていく。

建設にあたる中国路橋工程有限公司の熊仕伶ケニア事務所副総経理は「モンバサからナイロビまで15時間かかっているところを4時間に短縮する。これでケニアのGDPは1・5%高まる」と指摘する。

ケニア鉄道局のマイナ局長も、新たな鉄道は「ケニアの人々の利益になる」と地元への恩恵を強調した。(後略)【同上】
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豊富な資金を提供しながら、政治には口を出さない「内政不干渉」の原則を掲げて、欧米諸国が深入りを嫌う独裁政権にもカネを出して資源の獲得を重ねる中国方式は、逆に言えば中国の利益のためなら独裁政権でも支援するということでもあり、批判も多々あるところです。

支援を受ける側にとっては、うるさいことを言わない中国方式は好評ですが、現地住民との軋轢、賄賂の横行など、中国の進出に伴う弊害も指摘されています。

壮大な「中国の夢」 ミャンマーでは頓挫
当然ながら、支援を受ける側は国際状況を見て、中国の支援を受けるのが得策かどうか・・・判断する訳で、民主化に伴い欧米接近が強まるミャンマーでは、中国による“ミャンマーのど真ん中を西南から東北に貫くチャオピユー・昆明間の鉄道”建設計画が白紙に戻ったようです。

****ミャンマーが「中国による鉄道建設」を白紙に****
どうやらミャンマーは、中国を相手に強力なカードを切ったようだ。

7月22日に伝えられたところでは、ミャンマー鉄道運輸省当局者が、(1)2011年に中国との間で締結された鉄道建設に関する協定に記された3年の期限が過ぎても、中国側に工事着工の動きが見られない(2)当該鉄道建設にミャンマー国民の一部、社会組織、いくつかの政党が賛成していない――を理由に挙げ、「当該協定を実施しないことを決定した」ことを明らかにした。(中略)

今回のミャンマーの措置によって、中国が東南アジア大陸部で進めて来た鉄道ネットワーク構築計画におおきな狂いが生じかねないことだろう。

当初、昆明を基点に西南に進み、大理を経て瑞麗で国境を越え、ミャンマー側のムセーを結び、ミャンマー中央部を西南に下り、インド洋に臨む深海港のチャオピューまでの総延長810キロの路線が計画されていた。

実は中国は、中国西南、ミャンマー、ラオス、ヴェトナム、タイ、カンボジア、マレーシア、シンガポールに跨る泛亜鉄路と呼ぶ鉄道ネットワークを構想していた。昆明を基点にミャンマーを通過する西線、ラオス・タイを貫くマレーシア・シンガポールと進む中央線、ヴェトナム・カンボジア・タイと繋ぎマレーシアからシンガポールを結ぶ東線の3ルートによって、これらの国々を結び付けてしまおうというものだった。

その上、重慶・成都・新疆ウイグル・中央アジア・東欧を経てドイツ・オランダへと繋がる鉄道を、さらに昆明、シンガポールへと繋げることで、中国を仲介役にヨーロッパと東南アジアを鉄道で結んでしまおうという「渝新欧国際鉄路大道(渝=重慶、新=シンガポール、欧=ヨーロッパ)」計画までぶち上げていた。

最近では北京からシベリア東部を経てベーリング海峡を越え、南北アメリカとも鉄道で結んでしまおうという計画――「中国の夢」というのだろうか――まで話題に上がり始めた。

いわば今回のミャンマーの対応によって、「中国の夢」が白日夢に終わってしまう可能性も考えられないわけではない。ミャンマーは中国の喉元に鋭い匕首を突きつけたともいえる。(後略)【7月25日 樋泉克夫氏 フォーサイト】
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ヨーロッパと東南アジアを鉄道で結び、更にシベリア東部を経てベーリング海峡を越え、南北アメリカとも・・・・とは、何とも壮大な「中国の夢」です。

その現実性とか、鉄道で結ぶ意味などのいろんな問題はさておき、このような大風呂敷を広げられる“勢い”は、閉塞感漂う日本から見るとうらやましくもあります。
もし本当に動き出したら、朝鮮半島から対馬海峡を渡って東京へもつなげてほしいものです。

日々の生活、現実に直面している様々な問題も重要ですが、「夢」を語ることも大切なことです。

“(日本)政府は、無人探査機による月面着陸・調査に向けた研究開発を本格化させる。月の地質調査などを行い、資源利用の可能性を探る計画だ。2019年度の打ち上げを目指し、文部科学省が15年度の概算要求に関連予算を盛り込む方向だ。”【7月15日 読売】なんて話もあっていいのでは。

トルコで、中国が国外で請け負った最初の高速鉄道建設プロジェクトが開通
話を中国の鉄道輸出に戻すと、これからの鉄道建設の中心は高速鉄道になります。
中国は、日本の新幹線技術などをベースにして高速鉄道網の総延長で日本を抜き世界トップに立っていますが、海外への高速鉄道輸出にも乗り出しています。

****トルコの高速鉄道開通=中国が初の建設請け負い****
27日付の中国共産党機関紙・人民日報によると、中国が建設に参加したトルコの首都アンカラと最大都市イスタンブールを結ぶ高速鉄道の2期工事が完了し、25日、エルドアン首相がアンカラからイスタンブールに向けた一番列車に乗り、開通を祝った。

中国が国外で請け負った最初の高速鉄道建設プロジェクトで、同紙は高速鉄道の「海外進出」を進める上で重要な意義があると強調した。【7月27日 時事】 
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もっとも、このトルコ高速鉄道の開通式はさんざんだったようです。

****トルコ高速鉄道が開通、首相乗車も一時停止で遅延****
トルコで25日、首都アンカラと最大都市イスタンブールを結ぶトルコ高速鉄道(YHT)の完成記念式典が行われ、初走行の列車にレジェプ・タイップ・エルドアン首相が乗車した。

しかし、技術的な問題が発生したことで走行は約30分間停止。首相は予定より遅れて目的地に到着した。

高速鉄道の運行開始により、2大都市間の所要時間はおよそ半分にまで短縮されて約3時間半となる。首相は完成を祝う演説で、この鉄道は新しいトルコの象徴だと誇らしげに語ったが、開業日は着工以来、数回にわたって延期された上、複数の事故も発生した。

首相に同行するテレビ局の記者や高官レベルの代表らを含む招待客を乗せた初走行の列車は、アンカラからイスタンブールに向けて順調な走行を続けていたものの、衛星都市イズミットで突然に停止した。

記者らは、高架線に問題が発生して列車への電力供給が停止したことが原因と指摘したが、政府関係者はこれを否定。妨害行為があった可能性を否定できないと主張している。

一方、イスタンブール郊外、ボスポラス海峡のアジア側にあるペンディック駅で演説した首相は、列車が一時停止したことには言及せず、「トルコは70年前から鉄道の開通を願い続けてきた。現政権の発足以前は、高速鉄道の開業は夢見ることさえ不可能だった」 と述べた。

鉄道はまだ終点となるイスタンブール中心部までは開通しておらず、ペンディックからイスタンブールの中心部までは依然、長ければ2時間近くかかる。

政府は向こう数年で全線を開通させたい考えだが、完成予定の時期は今のところ未定だ。
首相によれば、鉄道運賃は開業から1週間は無料。2週目以降は、片道70リラ(約3400円)となる。【7月27日 AFP】
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気性の激しいエルドアン首相のこですから、責任者がどうなったのか他人事ながら心配です。

実績は台湾のみの日本・新幹線
日本にとっても、武器輸出が原則的にはできない国情、原発も国内で稼働していない現状では、新幹線技術を生かした高速鉄道は数少ない大型技術輸出プロジェクトですが、最高速度250キロ超の高速鉄道を建設・計画中の国はアジア、アフリカの新興国から米国やカナダまで22カ国に及ぶなかで、これまで日本が技術を輸出できたのは台湾だけというのが実際のところです。

****首相が売り込み****
2012年11月20日、ASEAN関連首脳会議のためにカンボジア・プノンペンを訪れた野田佳彦首相は、インドのシン首相と笑顔で握手を交わした。

この日のトップ会談で、インド西部のムンバイ―アーメダバード(500キロ)の高速鉄道計画について、「新幹線システムの採用を念頭に協議を進める」と双方が合意したのだ。だが、両首脳は表舞台を去った。

JR東日本などでつくる鉄道コンサルティング会社が建設に向けて調査を始めているが、欧州勢が猛烈に巻き返しを図る。

インドには、この区間を含めて総延長4600キロ、計7路線に及ぶ高速鉄道の建設構想がある。フランスやスペインがすでに事前調査などを受注。8月に来日を予定するモディ首相に、安倍晋三首相らが新幹線システムの採用を、トップセールスで売り込む。

総事業費9千億円と試算されるマレーシア・クアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道計画は、早ければ来年にも工事の入札が始まる。JR東日本がシンガポールに事務所を置き、情報収集などを進める。(後略)【7月16日 朝日】
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欧州勢や、低コストと資金援助などで攻勢をかける中国といったライバルが多い中で、どうでしょうか・・・。
専用線方式で安全性には実績がありますが、建設コストも高く、乗継も不便というデメリットもあります。

アメリカがどの方式を採用するかも、世界標準としての影響力があるとされています。
米国高速鉄道協会(US HSR)は、全米の大都市を結ぶ2万7000キロ余りの高速鉄道の開発構想を掲げていますが、実現にはまだハードルがあるようです。

そのアメリカ高速鉄道のカギとなるのが、サンフランシスコとロサンゼルスを結ぶ路線とされています。

****米加州の高速鉄道を全米への足掛かりに、推進派の期待高まる****
米カリフォルニア州で建設が計画されているサンフランシスコとロサンゼルスを結ぶ高速鉄道の推進派は、先月開かれた関連会議で、今年の着工が実現すれば全国的にはまだ大きな動きにはなっていない高速鉄道構想が大きな転機を迎えるという期待感を示した。

バラク・オバマ大統領と民主党は高速鉄道建設を進めようとしているが、推進派は根強い反対があることを認識している。一例を挙げると米議会共和党は財政支出に難色を示している。

カリフォルニア州は2008年の住民投票で、29年の開通を視野に、建設費の一部として99億5000万ドル(約1兆100億円)の支出を承認。

サンフランシスコ-ロサンゼルス間(約840キロ)が最高時速320キロの高速鉄道で結ばれると、3時間未満で移動可能となる。

計画が順調に進めば22年までにサンフランシスコの南方約200キロのマーセドとロサンゼルス郊外サンフェルナンドバレーを結ぶ区間がまず開業する見通しだ。(後略)【3月16日 AFP】
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連邦政府と州の負担がどうなっているのは知りませんが、どちらも金欠状態です。しかも議会・共和党との対立で政治は機能マヒ状態・・・ということで、しばらくは動きはないのでは。
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タイとミャンマー  憂慮する側とされる側の立場が逆転

2014-07-27 22:10:16 | 東南アジア

(ヤンゴンの路上販売 小奇麗なコンビニなどが増えて、こうした光景が少なくなっていくことには、“アジア的”風景を求める観光客としては寂しいものがありますが・・・・。 “flickr”より By Jochen Hertweck https://www.flickr.com/photos/59238173@N07/8347857624/in/photolist-dHEXeJ-u8Bz4-4G55Js-6cWFk5-wTu8C-5TEtoe-61WT7K-zdDvJ-845uKo-j9uRys-2MywNZ-29QwuT-e1w8RJ-e4gs1t-zsU8J-mMp6dK-zhVFR-ucDUi-ucDUc-4xboze-vE7Ma-2sqGu4-2J2M2P-zhYph-2J84uu-zPYE3-4CNwVu-7sz5Sf-5pDWCA-jsNt8w-5ztqH4-zsU8W-z6Dey-5pTtKc-e95VEM-4synTg-e1w899-6godcs-dMpGSB-8mj3NK-e4n3wm-2BcTmL-4uwU3T-4uwNDK-BUVAw-4uATvs-4uwUTn-4uwHYT-4uwHb4-4uAJ2h)

改革を進めるミャンマー 先行き不透明なタイ
テイン・セイン大統領のもとで民主化が進んだミャンマーについては、7月19日ブログ「インドネシア・アフガニスタン・ミャンマーそしてタイ 民主主義は貧しい国々には享受できない贅沢なのか?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140719)でも取り上げたように、スー・チー氏が大統領に挑戦できるような憲法改正がなされ、民主化を更に深化できるか・・・という課題があります。

また、7月5日ブログ「ミャンマー また噴出した宗教対立 改善しないロヒンギャの状況」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140705)で取り上げた宗教対立やロヒンギャの問題、更には少数民族の問題も大きな課題として残っています。

ただ、軍政時代に比べると改革も進み、テイン・セイン大統領は経済面でも外資に門戸を開く方向での改革を実行しています。

****ミャンマー、小売り自由化 外資規制を年内にも撤廃****
ミャンマー政府が流通業の外資規制を撤廃する方針を固めた。

小売業の出店を自由化し、現在国内企業にしか認めていない輸入品の販売も外資に解禁する。近く閣議決定し、年内にも規制の一部は撤廃する見通し。

イオンなど日本の小売り大手は人口6000万のミャンマーを有望市場と位置づけており、現地進出の追い風となりそうだ。
ミャンマー政府高官が明らかにした。

同国では外国投資の許認可権を持つミャンマー投資委員会(MIC)などの通達の中で外資参入を規制する分野を定めている。

政府はこの通達を全面的に刷新し、小売業、卸売業、貿易業、倉庫業を規制対象から除外する。ミャンマーの経済開放が一段と進むことになる。(中略)

ミャンマーでは地場資本保護を目的に、広範な業態で外資の参入が制限されてきた。11年春に発足したテイン・セイン政権は外資導入をてこに成長を目指す方針に転換。

金融分野などでも外資規制の緩和を進めている。銀行業では今夏にも外銀に初の営業免許が交付される見通し。

15年に総選挙が迫るなか、改革の成果を目に見える形で国民にアピールする狙いもある。【7月27日 日経】
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ヤンゴンやマンダレーでも、セブンイレブンやローソンなどのコンビニが利用できる日も近いかも。

一方、東南アジア随一の民主主義を誇っていたタイでは、7月23日ブログ「タイ 硬軟両面で“国民和解”の新体制づくりを進める軍事政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140723)で取り上げたように、軍事クーデターによる民主化調整作業が行われています。

2015年中に総選挙を実施して民政復帰するスケジュールが示されてはいますが、プラユット陸軍司令官は「我々は行程の実現を目指すが、必要な改革が達成されなければ(民政移管までの)期間は延長せざるを得ない」とも語っています。

ミャンマーに言論の自由を憂慮されるタイ
そんなミャンマーとタイに関して、ミャンマー側がタイの軍事クーデター・政治情勢に憂慮を示すといった、立場が逆転したような現象も出ているようです。

もちろん、ミャンマーの民主化にも危ぶまれる点は多々ありますが。

****タイとミャンマー 民主化への苦闘に目配りを 柴田直治****
「同情するよ。苦労はわかるからね」

ヤンゴン中心部、外務省の施設を改修したミャンマー戦略国際問題研究所の瀟洒(しょうしゃ)な応接間で、ニュンマウンシェイン所長は隣国タイの外務次官を気遣った。

所長は軍独裁下で40年間の外交官生活を送った。最後は、国際機関が集うジュネーブの政府代表部の大使。人権問題を中心に国際社会の批判にさらされた。

様々な会合でタイの大使から声をかけられた。「貴国の政府、もう少し柔軟にならないですか」

意に沿わぬ決定でも、本国の指令は絶対だ。無理な説明や適切とは思えない方針でも、本国を代弁しなければならない。

そのときのタイ大使がいま外務次官として、5月のクーデターで実権を握った軍事政権の説明役を担わされている。欧米諸国の高官からは面会を拒否されるなど厳しい状況が続く。

約300人の記者らが加わるミャンマー・ジャーナリストネットワークは5月末、タイの軍がクーデター後にメディア関係者らを拘束したことを「深く憂慮し、言論の自由の尊重を求める」との声明を発表した。

ミンチョウ事務局長は「憂慮する側とされる側の立場が逆転した」という。

タイ人、特にインテリ層は、これまで民主化後進国とみていた隣国からのこうした視線に複雑な感情を抱いているようだ。そして両国の差異を懸命に強調する。

「勾留施設はミャンマーほどひどくはない」「タイの軍は20回近くクーデターを試みたが、民政移管はいつも比較的早い。あちらは2回だが、軍政は長期化した」
     *
ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン最高司令官が4日、バンコクを訪問した。

タイ国軍のタナサック最高司令官と固く抱き合い、「タイ国軍は現在、適切にことを進めている。軍の最も重要な任務は国家の安定と人々の安全を守ることだ」と、軍政への連帯を表明した。

さらに「我が国は1988年に似たような経験をした。タイは間違いなくうまくやるだろう」とエールを送った。

88年の経験とは、軍がクーデターを宣言し、民主化を求める学生らを武力で排除した事件を指す。死者は数千人ともされる。

2年後の総選挙で、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟が圧勝したが、軍はそれを無視して20年に及ぶ独裁を続けた。クーデターと軍政を正当化するため、現代史に刻まれた流血の惨事を引き合いに出す軍人の神経に、ミャンマー(ビルマ)人民主活動家らはあぜんとした。

その一人、キンオーンマーさんとヤンゴンの喫茶店で会った。88年に国を離れ、タイを拠点に民主化活動を続けた。入国禁止が解除された2012年10月に帰国。タイでは92年と06年のクーデターを経験した。

「タイ人は自国の民主主義は他国と違うと主張するが、自信過剰だ。クーデターはクーデター。軍の本質は変わらない」

両軍政に共通点は多い。なかでもタイの軍政がテレビ局を相次いで閉鎖、ネットも含めて検閲を徹底させ、集会を禁止している点は「ビルマモデルを踏襲したのでは」(国境なき記者団)とみられている。
     *
「わが国はいまや東南アジアで報道の自由が最も保障された国のひとつだ」。ミャンマーのテインセイン大統領は、国民に向けた7日のラジオ演説でそう誇った。

確かに11年に検閲を廃止した後、新聞や雑誌が相次いで創刊された。だが最近、軍政時代に先祖返りしたかのような報道規制が息を吹き返している。

地元週刊誌の編集者らが国家秩序毀損(きそん)の疑いで逮捕されたのは、ラジオ演説の翌日だ。「スーチー氏と少数民族の代表が国の暫定指導者に選ばれた」とする政治団体の声明を掲載したことが問われた。

演説の3日後には、中部パコク地方裁判所が地元紙の経営者と記者ら5人に国家機密法違反で懲役10年の判決を言い渡した。「国軍が化学兵器工場を秘密裏に運営している」と1月に報じたことが理由である。

経済制裁がほぼ解除され、世界の関心が民主化から経済へと移るなかでの動きだ。

一方のタイ。06年のクーデターで、タクシン首相(当時)を追放した軍は憲法を変え、小選挙区制から中選挙区に戻したものの、後の選挙でタクシン派に連敗した。

その二の舞いを避けることが軍政の至上命令だ。普通に選挙をやれば数に勝るタクシン派の排除は不可能。とすればタイの軍政はミャンマーにならうしか道がないと、京都大の玉田芳史教授は占う。

「国会で民選議員の割合を減らすことが選択肢のひとつ。25%の軍人枠を持つミャンマーがモデルだ。あるいは選挙を無期限に先送りする。ミャンマーは久しくそうだった」

タイには日系企業4千社が進出し、ミャンマーは「最後のフロンティア」といわれる。

気になるのは、日本の経済界や在留邦人から「政治が安定する軍政は経済にプラス」「クーデターは日本でいえば政治改革」「大統領はやはり軍出身者がいい」といった声が聞こえてくることだ。
 
民主化への苦闘に無頓着すぎないか。【7月26日 朝日】
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ミャンマーに「我が国は1988年に似たような経験をした」と言われては、タイの面目がありません。
しかし、現実問題として、タクシン派排除のための憲法改正で民選議員の割合を減らし、国王が任命する勅選議員枠をつくるのではないか・・・と個人的にも懸念しています。

これまで政治的にも経済的にも東南アジアをリードしてきたと自負するタイ側の、ミャンマーからの“憂慮”への反発は想像に難くないところです。

東アジアで台頭する中国・韓国に対する“かつての盟主”日本の屈折した感情にも共通するものがあるように見えます。

いずれにしても、「タイ人は自国の民主主義は他国と違うと主張するが、自信過剰だ。クーデターはクーデター。軍の本質は変わらない」というのは改めて熟慮すべきところでしょう。

コメ輸出でもタイを追撃するミャンマー
タイとミャンマーの関係に関して経済的な話題も。

タイではコメの高値買い取り制度がインラック前首相を司法的に失脚させる原因となりましたが、この制度によって高値で買い取られたコメは安い国際価格での輸出もままならないということで、コメの輸出が停滞しています。

一方、ミャンマーは低コストを武器に、コメ生産を大幅に生産を拡大して輸出市場に復帰する流れとなっています。

****ミャンマーとカンボジア、コメ輸出でタイ追撃 ****
世界の“コメどころ”の東南アジアでコメの輸出競争が激しくなってきた。

かつてコメ輸出大国だったミャンマーとカンボジアが本格輸出を再開。三井物産と丸紅がそれぞれ現地企業と組み、タイ、ベトナムの二大輸出国が握る市場で存在感を高めている。

コメの需要はアフリカなどで拡大する見通しで、世界輸出の4割を占める東南アジアの勢力図が変わる可能性を秘める。

ミャンマー最大都市ヤンゴンにある港。昼夜問わずトラックが乗り付け、コメが詰まったナイロン製の袋を大型貨物船へと次々に積み込んでいく。行き先は日本。6月下旬に名古屋港に陸揚げされ、加工食品用として販売される。

三井物産は昨秋、コメ販売大手ミャンマー・アグリビジネス・パブリック・コーポレーション(MAPCO)と提携、同社を通じて地元農家から購入したコメを45年ぶりに日本に輸出した。

今年は前年比2割増の6千トンを輸出する。食糧本部の川本光哉氏は「アフリカや中東に販路を広げ、近い将来10万~20万トンを輸出したい」と意気込む。

コメの作付面積が日本の5倍程度のミャンマー。1960年代初めには世界最大の輸出国だったが、軍政下の価格統制や欧米の経済制裁で落ち込んだ。

政府はコメの輸出量を現状比3倍の400万トンに引き上げる計画を発表。労働力の安さを生かしたコスト競争力を武器に輸出増を狙う。(中略)

競争環境を変えたのが長年、輸出国トップだったタイの混迷だ。コメを高値で事実上買い取る制度を11年に導入し、割高なコメ在庫を抱え込んだ。

手厚い保護政策に甘え、かんがいが広がらないなど生産性も伸びず、輸出競争力が低下した。12年の輸出量は前年比3割減の695万トンとインド、ベトナムに抜かれて3位となり、13年もほぼ同量にとどまった。

ミャンマー、カンボジアの輸出量はタイ、ベトナムの10分の1程度にすぎない。道路や港などの輸送インフラが脆弱で、資金力が乏しいといった課題も残る。

だが、両国とも人口の7割が農村に住む農業大国だけに潜在的な成長力は大きい。

タイは安値販売で今年の輸出量が900万トン程度に増え、世界首位に返り咲く可能性があるが、コメ輸出業者協会のジャルーン・ラオタマタット会長は「ベトナムよりもミャンマーの方が脅威になる」と危機感を強める。

生産性向上を急ぎ、コスト競争力を高めなければ、輸出新興国にその地位を脅かされかねない。【7月25日 日経】
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政治・経済情勢は刻々と変化します。
民主化でも、経済でも、タイの「東南アジアの盟主」という地位が揺らぎつつあるようです。
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アメリカ  急増する南米からの子供の不法移民 党派対立で遅れる「緊急人道事態」対応

2014-07-26 22:50:46 | アメリカ

(カリフォルニア州マリエータ テキサスで逮捕された子供・女性の不法移民を手続きのために移送するバスを追い返そうとする抗議者(右側でしょうか)ともみ合う反対者たち “flickr”より By FuTurXTV https://www.flickr.com/photos/28646916@N06/14635589953/in/photolist-ooy4BQ-opraLm-o1hFqH-od1GkH-nZ3nCf-nZ3Jzz-oiidZP-nZ3opy-ooSEDD-o6cGU6-ogC7Yr-o9JQW5-obGSQy)

【「私が仕事をしていることを理由に訴えるというのか」】 
7月3日ブログ「アメリカ 膠着した議会を通さず大統領令で制度改革を進めるオバマ政権 次の目標は移民改革」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140703)で取り上げたように、アメリカでは中間選挙を控えてオバマ大統領と共和党の対立が一段と激しくなっており、議会が麻痺状態のためオバマ大統領は大統領令で議会を無視しても施策を行う強い姿勢をみせ、一方、共和党はこれを職権乱用として提訴する構えを見せています。

****ピークに達した米大統領と共和党の対立****
・・・・「議会に不満を持つ皆さんに、何が問題かをはっきりさせようじゃないか。もう大統領選に出る必要がないから、思い切って言えるんだ」

オバマ氏はテキサス州オースティンでの演説で、最低賃金の引き上げや包括的な移民制度改革に関する自らの提案を進めようとしない連邦議会の共和党指導部を強くなじった。

下院の過半数を共和党が握る「ねじれ」状態の中、オバマ氏は大統領令を多用せざるを得ない。共和党のジョン・ベイナー下院議長(64)がこれを職権乱用だとして、訴訟を起こす意向を表明したことを取り上げたくだりでは、興奮のあまり声が裏返った。

「彼らは『大統領を訴える』『弾劾する』という。ホントか? 私が仕事をしていることを理由に訴えるというのか」
【7月20日 産経】
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オバマ大統領は怒っていますが、共和党側は提訴に向けて動き出しています。

****オバマ氏提訴決議案を可決=米下院委****
米下院議事運営委員会は24日、野党・共和党のベイナー下院議長がオバマ大統領を職権乱用で提訴することを可能にする決議案を、同党の賛成多数で可決した。

与党・民主党は反対しているが、決議案は来週中にも下院本会議で採決され、成立する可能性が高い。

11月の中間選挙に向けて強硬姿勢を強めるベイナー議長は、成立すれば直ちに提訴に踏み切るとみられ、米政治の混乱は一層拡大しそうだ。【7月25日 時事】 
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保護されても収容しきれず、食料や医療も十分行き渡らない
国内政策で目下の最大の懸案事項は、前回7月3日ブログでも取り上げた、急増する南米からの不法移民の問題です。

従来、不法移民と言うと、隣国メキシコからの流入が問題となっていましたが、メキシコ経済の好調でメキシコ移民流入が収まった一方、犯罪と貧困が深刻なグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルなどから、子供の不法移民が急増していることが問題となっています。

****不法入国:中米諸国→米国、子供急増 ギャングから逃亡/犯罪組織が手引き****
米南部テキサス州などでメキシコ国境から親などの同伴なく不法入国して保護される中米諸国の子供たちが急増している。

オバマ政権は8日、「緊急人道事態」として37億ドル(約3700億円)の資金拠出を議会に要請し、収容施設の確保や強制送還の迅速化など対応強化に理解を求めた。

だが、野党・共和党のみならず、人権団体や国連からも「応急措置に過ぎない」との批判が出ている。

米税関・国境警備局によると、昨年10月から今年6月までにメキシコ国境付近で保護された17歳以下の子供は前年同期比2倍の約5万7000人。

メキシコからの不法入国は大きく減少しているものの、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの中米3カ国の出身者の急増が目立つ。

不法入国する子供の急増で、保護されても収容しきれず、食料や医療も十分行き渡らない。
72時間以内に保健福祉省に引き渡され、送還手続き開始を待つが、約37万人が待機中だ。

今回の資金で、収容施設の確保や医療の提供、子供を迅速に送還する体制と国境警備の強化を行うという。

国連児童基金(ユニセフ)によると、中米の子供たちが母国を脱出して不法入国を試みるのは、ギャングや犯罪組織などによる残虐行為や暴力▽貧困▽不平等−−などから逃げる目的だ。

また、米下院のマコール国土安全保障委員長は「麻薬密輸犯罪組織が、子供1人につき5000〜8000ドルで密入国を請け負い、搾取している」と指摘する。

また、人身売買を禁じる法律が2008年に制定されて子供の送還審理に時間がかかるようになり、中米で「子供はいったん入国すれば滞在できる」とのうわさが拡大したことも不法入国急増の理由だ。

オバマ大統領が進める包括的な移民制度改革への期待も背景にあるとみられる。
国境警備を厳しくする一方、既に入国している不法移民のうち一定の条件を満たした者には市民権が取得できる道を開く内容だからだ。

しかし、法案は米上院を通過したものの、共和党が過半数を占める下院では審議が進まず、共和党指導部は年内に採決は行わない意向を示している。

子供たちを支援しているNPO(非営利組織)「弁護が必要な子どもたち」のウェンディ・ヤング代表は米NBCテレビで「根本的な解決策に向けて動く時だ」とし、問題の根源である中米の国々の問題に対処し、子供たちが安全に自分の国で暮らせるようする必要があると強調した。【7月15日 毎日】
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****米へ不法入国の子急増 中米から暴力・貧困逃れ 「来なければ死んでいた****
・・・・麻薬密売組織に協力しないと子どもを殺すと脅された母親も多い。・・・・国連によると、2012年の殺人事件発生率は、ホンジュラスが10万人あたり90・4件と世界最悪。エルサルバドル、グアテマラもワースト5に入る。・・・・祖国や道中に暴力を振るわれたり性的虐待を受けたりした子も多い。・・・・一方で、密入国者を敵視する人々もいる。1日、カリフォルニア州の国境沿いの町ムリエッタでは、一部の住民が、テキサス州から密入国者の母や子どもたちを移送してきたバスを包囲。「犯罪者」「国に帰れ!」などと叫び、町に入ることを拒否した。・・・【7月11日 朝日】
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“問題の根源である中米の国々の問題に対処し、子供たちが安全に自分の国で暮らせるようする必要がある”というのは間違いないですが、そうは言ってもすぐにどうこうなるものでもありません。

【「米国が『機会の国』というならば、それを見せてほしい」】
先述の大統領と議会の対立によって、当面の緊急対策についても予算措置がままならない状況です。

****子だけの不法入国深刻化=予算確保見通し立たず―米政府****
貧困や犯罪から逃れるため単身で中米の親元を離れ、米国に不法入国する子供たちの問題が深刻化してきた。オバマ政権は一時保護する施設すら足りなくなり、37億ドル(3800億円)の追加予算を議会に要求。
しかし、議会では党派対立が深まり、予算が承認される見通しは立っていない。

オバマ大統領は25日、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの中米3カ国の首脳とホワイトハウスで会談し、不法入国急増の背景にある貧困と犯罪を撲滅するため、協力して取り組むことで合意した。

大統領は道中で犯罪に巻き込まれる子供が多いとの報告を踏まえ「子供を危険にさらす流れを止めなければならない」と語った。

米政府などによると、親を伴わずにメキシコ国境を越え、当局に取り押さえられた17歳以下の子供は、昨年10月からの9カ月間で5万7525人。

大半が中米3カ国の出身者で、6歳以下の幼児だったケースもある。9月までに9万人に達するという試算もある。

親が劣悪な生活環境から子供の将来を悲観し、米国に移り住んだ親類を頼って、不法入国を請け負う組織に子供を委ねるケースが目立つ。

大統領が移民受け入れに前向きとみられ、「米国にたどり着けば永住が認められる」と誤解が広がっていることも不法入国急増の一因のようだ。【7月26日 時事】 
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南米不法移民の問題は、アメリカ国内で人口増加に伴って存在感を増し、大統領選挙などでキャスティングボードを握りつつあるヒスパニック票の行方にも関わります。

****中米「難民」の子、受け入れを 若者、断食で訴え 米国****
危険や貧しさから逃れ、中米から米国にひそかに入国する大勢の子どもを支援するため、ロサンゼルス在住の14~22歳の若者8人が、市内のユニオン駅前で21日から5日間の断食を続けている。

8人は米政府に、入国した子どもたちを「難民」として受け入れることを求めている。

参加者の一人、グアテマラ人のヤミレックス・ルストリアンさん(18)は7歳の時、6歳の妹の手を引き、砂漠を越えた。

米国で広がる子どもの密入国反対運動について「子どもは、危険から逃げてきた。彼らの祖先にも同じ苦労をした人がいるだろう。米国が『機会の国』というならば、それを見せてほしい」と憤る。【7月26日 朝日】
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ヒスパニック系住民の間では、不法移民の強制送還を続けるオバマ大統領への失望・怒りも出てきています。

移民は、日本が固く門戸を閉ざしているように、様々な厄介な問題を引き起こします。
“不法”移民は犯罪者だから、追い返せ!・・・・というのはもっともですが、救いを求めてやってくる人々を追い返すことがまっとうなことなのか?という疑問にもなります。

特に、アメリカのような“移民の国”にあっては、国の理念ともかかわります。

ピルグリム・ファーザーズ以来これまでアメリカが世界中から移民を受け入れてきたのは、労働力として移民が必要だったということがあるのでしょうが、その必要がなくなったから、あるいは自分たちの生活への弊害が目立つようになったからといって、過去の移民の子孫たちが新たな移民に門戸を閉じてしまうというのも随分と身勝手な感もあります。

現在は一時保護施設がパンク状態で非人道的状態になっているとのことです。

「難民」として受け入れるかどうかはともかく、せめて強制送還までの一時保護施設等の緊急対策だけでも党派対立を離れてすみやかに対処すべきと思うのですが、現実政治は非情です。

たとえ一時的保護でも手厚い措置は、ますます多くの不法移民を引き寄せてしまう・・・ということでしょう。
しかし、そうした社会的コストは、生まれた国・場所で人の幸・不幸が決まってしまうという不条理とも言える現在の国家の枠組みを“やむを得ない現実”として黙認するうえでの代償でしょう。
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イラク・シリアの「イスラム国」  国境線や宗教で既存の枠組みを覆す試み

2014-07-25 23:36:14 | 中東情勢

(自らをカリフと主張する「イスラム国」指導者アブ・バクル・アル・バグダディとされる映像 腕のスイス製高級時計も話題になりました。 【7月6日 AFP】)

預言者ヨナの墓を破壊 カーバ神殿破壊も計画
イラク・シリアで支配地域を広げるイスラム過激派組織「イスラム国」が、イラク・モスルのキリスト教徒に「改宗か納税か、さもなくば死か」という選択を迫っており、キリスト教徒の避難が起きているという話を昨日のブログ「シリア・イラク 国際的関心が薄れるなかで続く危機的状況」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140724)で紹介しました。

その「イスラム国」が、旧約聖書に「ヨナ書」として収められている預言者ヨナの墓を破壊したとのことです。

****預言者ヨナの墓、ISISが破壊 キリスト教などの聖地*****
イラク北部モスルを制圧しているイスラム教スンニ派武装組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」が、キリスト教やイスラム教の聖地とされる預言者ヨナの墓を破壊した。治安関係者がCNNに明らかにした。

動画共有サイトのユーチューブには、寺院の建物が爆発し、炎と煙を噴き上げる映像が投稿された。

ヨナはイスラム教とユダヤ教、キリスト教に登場する預言者で、魚に飲み込まれた話で知られる。破壊されたのは、この預言者の埋葬地と伝えられる場所で、墓はイスラム教スンニ派のモスク内にあった。

治安関係者によると、ISISは墓の周りに爆弾を仕掛け、遠隔操作で爆発させたという。

ISISはイラク国内の複数の都市を制圧し、イラクとシリアにまたがるイスラム国家の建設を目指している。

反イスラム的とみなした寺院などは破壊すると警告し、この数週間でモスルにある複数のスンニ派の聖地を破壊していた。

キリスト教系の住民に対しては、イスラム教に転向しなければ殺害すると予告して、キリスト教徒がモスルから脱出している。【7月25日 CNN】
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記事の表題を見て、昨日の人頭税同様、キリスト教に関連するものを否定する行動か・・・と最初に思ったのですが、預言者ヨナはイスラム教の聖典コーランにも収録されている存在で、その墓はイスラムにとっても聖地です。

キリスト教云々と言うよりは、“反イスラム的とみなした寺院などは破壊すると警告し、この数週間でモスルにある複数のスンニ派の聖地を破壊していた。”というような、彼らのイスラムに関する考え方による行動のようです。

モスクや墓どころか、“イスラム教の聖地メッカまで遠征して、毎年巡礼数百万人が参拝に訪れるカーバ神殿を破壊する計画もある”【7月22日 CHRISTIAN TODAY】(http://www.christiantoday.co.jp/articles/13712/20140722/isis-jonah.htm)とか。

スンニ派「イスラム国」は、イラク国内ではシーア派主導のマリキ政権に不満を持つスンニ派住民の支持も一部得て、シーア派政府を攻撃していますが、スンニ派モスクは破壊するは、カーバ神殿破壊を計画するは・・・・ということになると、スンニ派の盟主でありカーバ神殿の守護者であるサウジアラビアの逆鱗に触れそうです。

「イスラム国」の指導者アブ・バクル・アル・バグダディは、自らを宗教と政治を一体化させた最高権威者「カリフ」であるとしています。
この唐突なカリフ宣言には、スンニ派法学者も反発を強めています。

第1次大戦後に英仏が国境線を引いたサイクス・ピコ協定(1916年)に基づいて決まったシリア・イラクの国境線を無視した「イスラム国」の建国だけでなく、宗教的にも既存の体制を根底から覆そうとする、文字通りの“過激派”です。

【「テロの戒律」をことごとく無視
他のイスラム武装組織の関係でも、「アルカイダ」を率いるウサマ・ビンラディンの後継者アイマン・アル・ザワヒリの「シリアから手を引け」という指示を無視して絶縁状態にあります。

“バグダディへの支持を表明しているのは、エジプトやリビアのいくつかの武装組織と、「パキスタン・タリバン運動(TTP)」や「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の一部”“「ISISが建国パーティーを催したのに、誰も参加しなかったようだ」”【7月17日 Newsweek】というように、世界のイスラム武装組織のなかでも突出した存在となっています。

既存のイスラムテロ組織の代表である「アルカイダ」と新興「イスラム国」の対比を論じた“ISISが破る「テロの戒律」”【7月8日号 Newsweek日本版】によれば、ウサマ・ビンラディンは多くの書簡などで、以下のようなルールを強調していたそうです。

*******************
①領土獲得にこだわるな
・・・・治安当局に対する長期的な戦闘は、民衆に大きな負担を与える。時間がたち、身の回りに犠牲者が出てくると、人々は戦いをやめたいと思い始める。そうなると大衆迎合的な世俗的政府が支持を得やすくなる・・・

②民間人を犠牲にするな
・・・ビンラディンは「一般市民の不要な犠牲者」を出さないこと、とする指針を策定するよう部下に命じていた。
モスクなど公共施設を爆破したことが、「多くの国がムジヤヒディン(イスラム聖戦士)に背を向ける」結果を招いたと、ビンラディンは嘆いた。・・・・

➂残虐な言動は慎め
・・・・イエメンのアルカイダ組織に宛てた書簡で、「ムジヤヒディンヘの支持を傷つける言動は慎め」と命じている。
また、「敵がわれわれをケダモノだとか殺人者と非難するのを避けるため、声明は慎重に作成」しなければならないとしている。・・・・

④厳格な統治は程々に
・・・・一般にスンニ派は、シーア派よりもイスラムの戒律を厳格に実行する傾向がある。
だがビンラディンはアルカイダの傘下組織に対して、シャリーア(イスラム法)を厳格に適用し過ぎて大衆の反感を買うことがあってはならないと諭している。・・・・

⑤協力者と戦うな
・・・・「アンバル州の子供たちが正当な理由もなく犠牲になるまでは、多くのイラク人がアメリカに対する聖戦に参加していた。しかしこの事件のために、アンバル州の部族は聖戦に反対するようになった」・・・・

⑥民衆の空腹を満たせ
・・・・「国や町を支配する前に、(住民の)基本的ニーズを満たすことを考えなければならない。たとえ占領勢力が住民の大半に支持されていても、基本的ニーズを満たせなければ、その支持は低下するだろう。食糧や医薬品がないために子供が死んでいくことは誰にとっても耐え難い」・・・・

⑦敵を警戒させるな
・・・・サウジアラビアが警戒感を募らせたら、「莫大な資金力でイエメンの部族を利用し、われわれを殺させようとするだろう。さらに向こうは大衆の支持という武器を得る」。そうなればイエメンのアルカイダ勢力は「十分な準備が整わないうちに敵の砲火を浴びることになる」・・・・ 【7月8日号 Newsweek日本版より】
****************

これらの「テロの戒律」を見ると、テロリストのイメージとは裏腹に、「アルカイダ」、少なくともウサマ・ビンラディンが、常識的とも言えるような穏健で慎重な姿勢をとっていたことが窺われます。
(ただ、実際の各地のアルカイダ関連組織は、多くの「戒律」を無視しているようにも見えます)

そして新興「イスラム国」は、国家を建国し、民間人を殺しまくり、残虐行為を誇り、シャリア支配を進め、ヌスラ戦線やクルド人勢力とも争いを構え、生活改善より信仰改善を重視し、周りに敵をつくりまくっている・・・というように、ビンラディンの「戒律」をことごとく破っています。

おそらく短期的には、「イスラム国」はその過激さから、現状に不満を抱く者の支持を集めることができるでしょう。
例えば、パレスチナ・ガザ地区での戦闘で犠牲者が増え、あるいは停戦ということになれば、膨大な犠牲への復讐、政治的妥協への不満から「イスラム国」のような過激派が台頭することも予想されます。

しかし、より長い目で見ると、暴力による恐怖支配、独りよがりの信仰のおしつけ、民衆の生活無視は人々の離反を招き、多くの敵との抗争は体力を消耗することになるでしょう。
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シリア・イラク  国際的関心が薄れるなかで続く危機的状況

2014-07-24 23:22:27 | 中東情勢

(イラク難民キャンプで、母親と一緒に水汲みを待つ少女 “flickr”より By International Federation https://www.flickr.com/photos/ifrc/14667743192/in/photolist-om9231-omaMva-oj8T77-onVKcg-okXZcj-onGJ8G-ocnYpz-o4G7qt-o4EXPL-o4Ff7y-omaM8g-o4EY5f-omaMoX-okTjaB-omaMcV-oj8SRN-omaMiM-onVKvT-oj8Tou-o4F7Ln-nXHbR7-nZq4od-ogC3n8-nZrbtT-odgBoU-nWx56D-o2Q3Bd-obhEWF-o7eLUQ-nXYdei-nXY5yN-oheikB-odqvx7-ofaJGg-nXYd4Z-ohei1D-ohei2a-nXZ4Rx-nXZ4RH-nXZ4zk-ohehzZ-ohehUg-ofhit9-ofaPvK-nXXRsE-nXXREo-ofpo1j-ofaJcD-odqveb-o6f7TH)

出口が見えないシリア・イラク
ひとの関心にはキャパシティーがあると言ううか、忘れやすいと言うべきか、新しい出来事が起きると、それまでのことは意識の外に置かれてしまいやすいものです。

現在、ウクライナやパレスチナ・ガザで事態が切迫しているため、どうしても関心はそちらに向いてしましますが、シリアやイラクの情勢が好転している訳では決してありません。

****イラクとシリアはウクライナとガザより深刻だ****
ウクライナとガザの情勢がメディアの関心を集める影で、忘れられた2つの内戦が悪化の一途をたどっている

このところ世界はガザとウクライナに目を奪われ、シリアとイラクの内戦のことは忘れてしまったようだ。メディアの報道では"目新しさ"が優先されるらしい。

シリア内戦は延々と続いているが、メディアが取り上げるのは、化学兵器使用の疑いが出たり、アメリカが空爆を行う可能性があるなど、劇的な変化が起きたときだけだ。

シリアでもイラクでも最近はガザやウクライナのような派手な変化は起きていない。
だがシリアでは先週、アサド政権側とスンニ派の過激派組織ISIS(イラク・シリア・イスラム国、別名ISIL)の戦闘で700人以上の死者が出た。2日間の戦闘による犠牲者としては、シリア内戦における過去最悪の記録だ。

イラクの首都バグダッドでも今週、ISISの自爆テロで31人の死者が出た。その多くは民間人だ。
ISISは武力で占拠したイラク各地で政治的支配を進めている模様で、彼らの支配地域には油田もあり、密売ルートで石油を売り、新たな資金源にしている。

イラク政府が派閥対立に引き裂かれ、機能不全に陥っているかぎり、ISISの台頭は押さえられそうもないが、シーア派、スンニ派、クルド人指導者の間での権力分配をめぐる話し合いはいっこうにまとまらない。

そうしたなか、イラクの治安部隊がシリアのアサド政権が使用したことで悪名高い樽爆弾(樽状の容器に金属片などを詰めて殺傷力を高めた爆弾)を空爆に使い、民間人の犠牲者を出した疑いが浮上し問題になっている。

ガザ、イラク、ウクライナ、さらには南シナ海と、「弧状に連なるグローバルな不安定要因」がオバマ政権を試練に立たせているという議論を最近よく耳にするが、こうした言説には大きな問題がある。

長年火種がくすぶってきた地域における一時的な戦闘激化と、それよりもはるかに大規模で、国際情勢を大きく変容させかねない出来事を同列に扱っているからだ。

ガザの状況は悲惨きわまりないとはいえ、遅かれ早かれ停戦合意がまとまり、戦闘は収束するだろう。
東ヨーロッパの人々は警戒心を募らせているが、ウクライナ東部の紛争が地域全体に広がる可能性は低く、せいぜい国境を接する国々に飛び火する程度だろう。

イラクとシリアはこれとは事情が異なる。
この2つの内戦はいっこうに終わりが見えず、混迷は深まる一方で、これといった政治的解決策は見当たらない。

長年存続してきた国家の枠組みが崩れ、この一帯が国際的なテロの温床となる危険性もある。
さらに、この2カ国からあふれ出す難民は近隣諸国にも緊張をもたらす。アメリカが最も直接的な責任を負うのも、この2つの国の危機だ。

いま最も関心を集めている悲劇はいずれ幕引きを迎えるだろうが、イラクとシリアの混迷のドラマは落としどころがまったく見えない。【7月24日 Newsweek】
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確かに、撃墜されたマレーシア航空機の298人の犠牲者は痛ましいことではありますが、ウクライナではロシア・プーチン大統領と欧米との間で“落としどころ”を探る段階となっています。
目下の焦点は、その両者の国際的綱引きにあるとも言えます。

今回犠牲によってロシアの行動が制約されることになれば、ウクライナ東部の混乱にも収束の可能性も出てきたとも言えます。

一般市民が多くを占める700人を超す犠牲者を出しているパレスチナ・ガザ地区についても、イスラエルはガザという野外監獄を管理する看守としてハマスを必要ともしており、また、ハマスが徹底抗戦してもイスラエルの基盤が揺らぐ訳でもなく、いずれ停戦が模索されるものと思われます。

それなら、何のための住民の犠牲なのか・・・という憤りはありますが。

一方のシリア・イラクの方は、相手が妥協することが考えられないイスラム過激派であること、アサド政権・マリキ政権ともに問題を抱えていることから、出口が見えません。

このまま混乱が拡大すれば、「イスラム国」による中東地図の書き換え、クルド人の分離独立問題、難民を抱えるレバノン、ヨルダンの不安定化等々、新たな問題を引き起こしかねません。

非現実的なアサド排除
強権姿勢・非人道的行為が非難されるシリア・アサド大統領は3期目を迎え、反体制派・欧米が目指すアサド排除はますます非現実的となっています。

****シリア・アサド大統領「和解実施」 3期目就任、強権化に懸念も***
内戦下のシリアで16日、アサド大統領の3期目の就任式があった。

内戦当初は政権存続を危ぶむ見方もあったが、強硬な軍事策で反体制派の攻勢を食い止めた。任期は7年。アサド氏は国民和解を進めると表明したが、政権は今後、さらに強権化するおそれもある。

アサド氏は演説で「大統領選挙の結果はテロと戦う国民の意思を表している」と述べた。さらに「イラクでイスラム過激派が出てきたことはシリアだけでなく、中東全体への深刻な脅威だ」と語った。

テロとの戦いを進めるため、「国民和解の実施と、汚職の追放、経済の再生と社会基盤の再建」などを3期目の課題として掲げた。

首都ダマスカス市内には至る所にアサド氏の看板が立ち、ポスターが張られている。「あなたと共に」「最善の選択」「国のために」との文句が並ぶ。

中心部の繁華街シャアラン通りで衣料品店を営むマジド・サンマンさん(47)は「この2カ月ほどで売り上げは3割以上伸びた。治安が回復し、人々に気持ちの余裕がでて、やっと服を買おうという気になっている」と話した。

反体制派は一時、ダマスカス中心部から5キロまで迫り、中心部に迫撃砲弾が着弾することもあった。しかし、政権軍は1年前から郊外の反体制派支配地域を包囲。「兵糧攻め」を続けた結果、首都近郊の反体制派の力は衰えた。

さらに政権軍は、最大の激戦地・北部アレッポで、住宅地に爆薬を入れた「たる爆弾」を投下。国際的な非難を浴びつつも支配地域を広げた。

政権軍は、隣国イラクにまたがる地域でイスラム国家の樹立を宣言した過激派「イスラム国」の掃討も続ける。

ダマスカスで活動する野党勢力「シリア建設潮流」のアナス・ジョウデ副代表は、「和解と言っても軍事力による停戦であって政治的な解決にはほど遠い」と批判的だ。

同組織は6月の大統領選をボイコットした。「アサド氏は政治改革を約束したが、実現していない。このままでは強権化が強まる」とみる。

ただ、ジョウデ氏は「シリア国民連合」などの反体制派がアサド氏の排除を求めていることも「非現実的だ。現実を無視している」と批判した。【7月17日 朝日】
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そのアサド政権とイスラム過激派組織「イスラム国」の衝突も激しくなっています。

****<「イスラム国」>シリアでも勢力拡大…国土の35%制圧****
イラクへの侵攻を続けるイスラム過激派組織「イスラム国」が、隣国シリアでも勢力を拡大している。

シリア反体制派組織によると、北部ラッカ県と東部デリゾール県を中心に国土の35%を制圧し、従来は衝突が少なかったアサド政権との攻防も激化した。

対照的に欧米が支援する反体制派は、トルコやヨルダンとの国境に押し込められ、北部アレッポでも守勢に回っている。(中略)

イスラム国は従来、北部や東部での実効支配拡大に注力し、国土西半分に拠点を置くアサド政権側との「すみ分け」ができていた。

だがラッカ、デリゾール両県の支配を固めたことで、政権側への攻撃も本格化させた模様だ。

アサド政権側は、イスラム国の支配地域を空爆しているが、首都ダマスカス郊外や北部アレッポでの反体制派との戦闘に追われ、本格的に反撃する余裕がない。(後略)【7月21日 毎日】
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反攻態勢がとれないイラク
イラクの方は、イスラム過激派組織「イスラム国」の拡大という“国家的危機”にありながら、マリキ首相の居座り、相変わらずシーア派・スンニ派・クルド人の対立で、反攻態勢がとれない状況です。

****<イラク>連邦議会、新議長を選出…次期政権樹立へ一歩****
イスラム過激派「イスラム国」が主導するスンニ派武装勢力の侵攻が続くイラクで15日、連邦議会が開かれ、スンニ派のサリム・ジュブリ氏を新議長に選出した。

憲法の規定では、議会は今後30日以内に大統領を選出し、大統領が首相候補に組閣を命じる。

4月の連邦議会選挙に基づく次期政権樹立に向けて一歩踏み出した格好だが、首相の座を巡って、続投に意欲を見せるマリキ首相と反マリキ派の政争が続いている。

15日の本会議には、反マリキ派も含めた大半の議員が出席し、スンニ派の最大会派が推すジュブリ氏が議長選で勝利した。

2003年のフセイン政権崩壊後、イラクでは首相をシーア派、大統領をクルド人、議長をスンニ派から選ぶことが慣例化している。次の焦点は大統領の選任となる。

クルド人はシーア派に対して首相候補を一本化するよう求めている。マリキ首相の党派は最多議席を占めており、続投の道を模索している。だが、シーア派内でも混乱を招いたマリキ氏に反発する声は強い。

スンニ派武装勢力は北部や西部の広域を支配し、バグダッド近郊でも戦闘が続いている。【7月16日 毎日】
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“一歩踏み出した”と言うより、この非常時に“一歩”しか動けていないと言うべきでしょう。

「イスラム国」の方は、その原理主義的性格が前面に出てきていることが報じられています。

****改宗か死か ISISがキリスト教徒に最後通告****
イスラム過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」に掌握されたイラク第2の都市モスルで、キリスト教徒が「改宗か死刑か」の選択を迫られ、逃亡を余儀なくされている。

ISISは18日、モスル市内のキリスト教徒に対し、19日正午までに改宗しなければ、55万イラクディナール(約4万8000円)の人頭税を納めなければならないとの通告を出し、いずれにも従わない場合は「剣で死刑にする」と言い渡した。

これを受けて19日早朝、計52世帯のキリスト教徒が自宅から逃げ出した。
改宗や納税を拒否する住民は市外への退去を認められたものの、身に着けた服以外、現金や貴金属などを持ち出すことは禁じられた。(後略)【7月21日 CNN】
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「イスラム国」の主張を額面通りにとれば、「改宗か死刑か」ではなく、「改宗か納税か、さもなくば死か」ということです。

異教徒に対する人頭税はイスラム草創期からの伝統的異教徒対策ですが、信仰の自由を当然の権利とする現代の欧米的価値観からすれば到底容認できません。

ただ、異教徒を認めない十字軍的世界にあっては、一定に異教徒の存在・権利を許す施策でもありました。
しかし、異教徒に辱めを与え、イスラムの優越性を見せつけるようなやり方で徴収されたとも言われています。

イラクの平均年収の5%ほどとも言われる今回の55万イラクディナール(約4万8000円)という金額が負担可能な金額なのか、支払えば本当に生命・権利が保証されるのか、実質的なキリスト教徒追放策にすぎないのか、シーア派住民はどのように扱われるのか・・・その実態はよく知りません。

本当に生命・権利が保証されるのなら、アルカイダ以上に過激・凶暴と言われ、シーア派樹民を殺しまくっていた「イスラム国」しては、寛容な施策とも言えるかも。

シリア・イラク以上に忘れられた紛争も多々あります。
そのひとつ中央アフリカでのイスラム教徒とキリスト教徒の間の殺し合いに、停戦が成立したという歓迎すべきニュースもあります。

****中央アフリカ:武装勢力が停戦合意****
アフリカ中部・中央アフリカ共和国で戦闘を続けていたイスラム教徒とキリスト教徒の武装勢力が23日、停戦に合意した。

同国では武装勢力同士の衝突が宗教対立に発展し混乱が続いてきた。人口の2割以上に当たる約100万人が避難生活を余儀なくされた危機的状況が収束に向かうか注目される。

隣国コンゴ共和国のサスヌゲソ大統領が仲介し、同国の首都ブラザビルで、イスラム教徒主体の武装勢力セレカとキリスト教徒の民兵組織アンチ・バラカが停戦に合意した。【7月24日 毎日】
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タイ  硬軟両面で“国民和解”の新体制づくりを進める軍事政権

2014-07-23 23:36:40 | 東南アジア

(プミポン国王に謁見するプラユットNCPO議長(陸軍司令官) 【7月23日 ANN NEWS】http://www.youtube.com/watch?v=vJe_ZTBDB0M&feature=youtube_gdata_player)

ステープ元副首相、突然の出家
タイで反タクシン派を率いて激しい街頭行動を展開(結局、その効果があって、社会混乱を鎮めるという立場で、クーデターによって反タクシン派に近い軍政が敷かれている訳ですが)していたステープ元副首相が突然に出家したそうです。

****タイ元副首相が出家…反政府デモの指導者****
タイで5月の軍事クーデター直前まで反政府デモを指揮したステープ元副首相が出家し、周囲を驚かしている。

タイ英字紙バンコク・ポストなどによると、ステープ氏は15日、出身地の南部スラタニ県の寺院で仏教僧になる儀式に臨み、16日朝、住民から食料の施しを受ける 托鉢 ( たくはつ )を行った。

仏教徒が9割以上のタイでは、一時的に出家して寺院で生活を送ることは珍しくない。ただ、妻も出家の計画を知らなかったといい、修行期間も不明だ。

ステープ氏が半年以上指揮したデモの会場では、爆発や銃撃で死傷者が出たことから、供養のために出家したとの見方がある。

また、副首相時代の2010年にタクシン元首相派のデモ隊を鎮圧した際、死傷者を出したとして、殺人罪などに問われており、裁判官の心証をよくするためとの臆測も出ている。【7月18日 読売】
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ステープ元副首相については、クーデターを主導したプラユット陸軍司令官と2010年頃から「タクシン体制の打倒」を目指し連絡を取り合っていたことも、以前報じられていました。

****タイ:反政府デモ側と軍「政権打倒で共同歩調」報道****
タイの英字紙バンコク・ポストは23日、政治混乱で反政府デモ隊を率いたステープ元副首相が、プラユット陸軍司令官と2010年からタクシン元首相の影響力を排除するために話し合っていたことを周囲に明かしたと報じた。プラユット氏率いる軍事政権は報道を否定している。

バンコク・ポストによると、ステープ氏は21日、支持者約100人を集めた夕食会を開催。民主党政権(反タクシン派)に反発するタクシン派のデモで騒乱が起きた10年以降、プラユット氏と携帯電話のメッセージで「タクシン体制の打倒」を目指し、度々連絡を取り合ってきたことを打ち明けた。

ステープ氏は「(5月20日の)戒厳令発令前にプラユット氏から『あなた方(反政府デモ隊)は疲れている。軍が役割を引き継ぐ時が来た』と言われた」とも明かしたという。軍は戒厳令発令の2日後にクーデターを実行し、タクシン派政権を崩壊させた。

発言が事実なら、クーデターは反タクシン派と軍部による“共謀”の疑いが強まるが、軍政の報道官は23日、「プラユット氏がステープ氏と個人的に連絡を取り合ったことはない」と否定した。【6月23日 毎日】
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この報道がなされたのち、6月末には、ステープ元副首相がプラユット陸軍司令官の不興を買った・・・という報道もありました。

****ステープ氏、資金集め会合中止=軍政トップの怒り買う―タイ****
タイの反タクシン元首相派指導者ステープ元副首相は、毎週末に首都バンコクで開くとしていた資金集めの夕食会を中止した。軍事政権トップのプラユット国家平和秩序評議会(NCPO)議長の怒りを買ったためとみられる。【6月28日 時事】
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反タクシン派のステープ元副首相とプラユット陸軍司令官は親しい関係にあったのでしょうが、その関係を誇示して自分の政治的立場を強めたいステープ元副首相に対し、国民融和に向けて表向きは中立性をアピールする立場にあるプラユット陸軍司令官が機嫌をそこねた・・・といったところでしょうか。

突然の出家もそうしたプラユット陸軍司令官・軍政との微妙な関係が背景にありそうですが、仏教と人々の生活が身近な東南アジアにあっては、一時的出家はごく普通のことですし、ごく短期間で還俗するのもよくあることですから、政治状況を睨んでそのうちまた戻ってくるのでしょう。

インラック前首相「わたしはタイ国民を見捨てはしない。タイに戻ってくる」】
一方、戻れるのか、あるいは、戻るの気があるのか微妙なのが、タクシン派政権を背負ってステープ元副首相と対峙していたインラック前首相です。

インラック前首相は今月20日からの欧州への出国が軍政によって許可されて現在旅行中ですが、旅行が許可された同日、国家汚職追放委員会はインラック前首相を訴追するよう検察当局に要請することを決めています。

訴追され有罪が確定ということになれば、逮捕・収監ということになりますので、このまま帰国せず亡命状態になるのでは・・・と見る向きもあります。

旅行期間は今月20日~8月10日の予定で、実兄のタクシン元首相が7月26日に65歳の誕生日を迎えるのを祝ってパリで開催される誕生パーティーに出席するものとされています。

****インラック前首相を送検へ タイ、亡命懸念も****
タイの国家汚職追放委員会は17日、前政権が進めたコメの買い上げ制度をめぐり、職務怠慢があったとして、インラック前首相を送検する方針を決めた。起訴されて有罪判決が下される可能性がある。

クーデターで全権を掌握したタイ国家平和秩序評議会(NCPO)は同日、インラック氏から要請が出ていた欧州への渡航を認めた。

送検を受け、収監を恐れたインラック氏がそのまま海外逃亡することを懸念する声も上がっている。

インラック氏の兄、タクシン元首相は、過去のクーデター後に土地取引で実刑判決を受け、事実上の海外亡命生活を送っている。

コメの買い上げ制度は、インラック前政権の目玉政策として2011年10月から始まったが、約5千億バーツ(約1兆5700億円)の財政損失を招いたとされる。

汚職追放委は今回のクーデター前、この件でインラック氏を上院へ弾劾請求することを決定。憲法裁判所が人事上の職権乱用を認める判決を下し失職した。【7月17日 産経】
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憲法裁判所や国家汚職追放委員会は、既成秩序・既得権益維持を重視する反タクシン派の牙城でもあり、かねてからタクシン派・インラック首相には厳しい姿勢で臨んでいます。

「コメの買い上げ制度」は、コメを担保にお金を農家が借りられる仕組みですが、返済しない農家が大半のため、タクシン派政権を支持する農家への「ばらまき」との批判もありました。

国家汚職追放委員会は、インラック氏が国家に損失を与えるこの制度を中止しなかったことが職務怠慢にあたるなどと判断しています。

「ばらまき」には間違いなく、政策的に適正でなかった・・・とは言えますが、どのような施策を行うかは政府の判断であり、施策に財政負担が伴うのは当然のことで、それが犯罪行為に当たるのか・・・?
その施策の適否を決めるのは国家汚職追放委員会ではなく、選挙による有権者の判断であるように思うのですが。

インラック首相は出国前の7月18日、「外国に出たままタイに戻らないのではないか」との見方が出ていることに対し、「わたしはタイ国民を見捨てはしない。タイに戻ってくる」と明言しています。【7月19日 バンコク週報より】

随分と殊勝なもの言いですが、政治対立では精神的にも相当に追い詰められていたようですので、どうでしょうか・・・。

もし、このまま帰国せず海外逃亡生活ということになれば、兄タクシン前首相と同じ運命となります。
帰国して、逮捕されても主張を貫けば、兄の操り人形から脱することもできるのでは・・・。

あくまでも、本人にその気があればの話ですが。
それと、有罪になると公民権が5年間停止され、政治の表舞台に立てなくなります。

ステープ元副首相は出家、インラック首相は海外逃亡または逮捕・・・という形で双方の指導者を排除して、政治対立の解消を目指す・・・というのは、2007年当時、政党対立で機能がマヒしたバングラデシュで、軍事暫定政権が二大政党のハシナ元首相とジア前首相を国外追放しようとし、その後逮捕拘束した事例も思い出します。

バングラデシュの軍事暫定政権は、結局二大政党の影響を排除することができず、現在はハシナ首相が政権に返り咲いています。

ソフト路線で融和をアピールするも、批判者は容赦なく拘束
タイの軍政は、前回クーデターの失敗も教訓として、硬軟両面で“国民和解”の新体制づくりに取り組んでいます。

“軟”と面としては、‟軍はコンサートや食事会を開催。ギターを弾き、アイスクリームを提供するなど、人々の友好のための雰囲気作りに躍起になっている。”【NHK】とも。
軍のコンサートで歌われるのは、プラユット陸軍司令官が作詞した曲「タイに幸せを取り戻す」です。

一方、“硬”の面としては、軍政批判を徹底して封じ込めています。

****サンドイッチも読書も「反逆分子」の印****
国民からの反発を封じ込めようと軍事政権が振りかざす驚きの拘束理由

5月のクーデターでタイ国軍が政権を掌握した後、国民に発したメッセージは明白だった。
「われわれを支持するか、さもなければ黙っていろ」だ。

今では、クーデターをあからさまに批判した者は次々と拘束され、「態度を矯正」するために軍の施設へ送り込まれる。

チャトチャレーム・チャレームスク陸軍副参謀長いわく、拘束者は「ゲストハウスのような場所」で丁寧に扱われているというが、現実には程遠いだろう。

反軍事政権派は静かで目立たない抗議方法に訴えるようにとっているが、当局はばかばかしい理由をつけて強引に拘束している。例えば……。

■不適切なTシャツ
激しいスローガンが書かれたものに限らず、Tシャツが拘束理由になるケースは多い。

かつて反体制派の集会場となった首都バンコクの環状交差点で、「平和を願う」と書いたTシャツを持っていただけで拘束された男性もいる。

先月には「私の票を尊重して!」と記したTシャツを着ていた70代の女性が逮捕された。

■サンドイッチ
当局の取り締まりをかわそうと、学生の民主化活動家たちは先月に異例のイベントを企画した。
デモ集会の代わりに、無料でサンドイッチを配って静かな「ピクニック」を行おうとしたのだ。

さすがにサンドイッチを食べただけでは逮捕できない・・・と思ったら大間違い。
事前に公表していた集合場所に現れた若者の1人が、震える手でサンドイッチを食べ始めた途端、当局に取り囲まれて逮捕された(ほかにも6人の身柄を拘束)。

拘束理由は「悪意のあるサンドイッチを所持していた」から。サンドイッチを食べること自体は罪ではないが、軍政を批判する活動のカモフラージュに用いた場合は犯罪になると、警察当局のある幹部は語っている。(中略)

■「3本指」のサイン 
アメリカの人気SF小説・映画『ハンガーゲーム』で、市民が独裁政権への反逆の印として3本指を立てるシーンは有名。

タイの反軍事政権派はこのサインを取り入れ、抗議の姿勢を示すジェスチャーとして使うようになった。

この方法なら本やサンドイッチのような「物的証拠」も残らない。
それでも警察当局はこのサインを見つけては、反逆行為として次々と拘束している。

もっとも、こうした抵抗を次々に取り締まっても、また新たな手法が出てくるだけ。このままだと「ゲストハウス」がパンクする日も近そうだ。【7月22日号 Newsweek日本版】
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****デモ参加者に初の有罪判決=反クーデターで―タイ****
タイの裁判所は3日、クーデターに抗議するデモに参加した男性(49)に対し、禁錮2月、罰金6000バーツ(約1万8800円)の有罪判決を言い渡した。

男性が罪を認めたため禁錮1月、罰金3000バーツ、執行猶予1年に減刑された。反クーデターデモをめぐって判決が出たのは初めてという。【7月3日 時事】 
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今後の政治スケジュールも明らかになっていますが、軍が主導する枠組みで新憲法を制定して、来年中に総選挙・民政移管が行われる予定です。

新憲法づくりは、タクシン派の影響力を抑制し、選挙でタクシン派が復権できないような制度をつくる方向で動くものと思われます。

****タイ軍政、暫定憲法を公布=NCPO議長が首相に優越****
タイ軍事政権の国家平和秩序評議会(NCPO)は22日、官報を通じ暫定憲法を公布した。

これに先立ち、軍政トップのプラユットNCPO議長(陸軍司令官)がこの日、中部フアヒンのクライカンウォン宮殿でプミポン国王に謁見(えっけん)し、NCPOが提出した暫定憲法案について承認を得た。

全48条で構成される暫定憲法は、平和や国家安全保障を損なう行動を防ぐといった目的で、NCPO議長は「立法・司法・行政のいかなる行動も阻止する命令を出すことができる」と規定。事実上、プラユット氏に対し暫定首相に優越する権限を付与する内容となっている。

暫定首相は、国会の役割を担う立法議会の議決に基づいて国王が任命する。暫定首相にはこれまでプラユット氏の就任が有力視されてきたが、NCPO議長が強大な権限を保持することで、別の人物が暫定首相に就く可能性が出てきた。

暫定憲法に基づき、立法議会が8月、暫定内閣は9月に発足する見通し。また、改革の枠組みづくりや新憲法の制定に当たる国家改革評議会は10月までに設置されると見込まれている。【7月23日 時事】
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軍事クーデターでタイの市民生活に静けさが戻ったのは事実ですが、意にそぐわない勢力を排除する枠組みに力で変えてしまう試みには賛同しかねます。
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増加する日本企業の中国からの撤退

2014-07-22 23:28:42 | 中国

(「上海福喜食品」の生産ライン 【7月21日 SHANGDU.COM】http://food.shangdu.com/baoguang/20140721/896_5926263.shtml)

【「食べても死にはしない」】
上海にある食品加工会社「上海福喜食品」が、使用期限を過ぎた食品を加工しなおしたり、表示を書き換えたりして、チキンナゲットやハンバーガー用のパテとして販売していることが報じられ、日本でも日本マクドナルドやファミリーマートなどの企業がこの食材を利用していたことから販売中止などの対応に追われています。

こうした食品の安全性の問題に関して言えば、おそらく今回の事件は巨大な氷山のほんの一角にすぎないのでしょう。

****地元テレビ局が伝える食品加工会社の実態****
上海のテレビ局は21日、問題となった食品加工会社の従業員が使用期限切れの肉を使用していた実態を告発するインタビューや、ずさんな衛生管理が行われていた工場内の映像を放送しました。

このうち内部告発をした従業員は、使用期限が過ぎた肉のデータを改ざんしていたと明らかにしたうえで、「改ざんした報告書を当局に見せて実態を隠していた」と話しています。

また、工場内部の映像では、作業中の従業員が「肉が腐っていて悪臭がしている」と話す様子や、別の作業員が「使用期限が切れているが食べても死にはしない」などと話す様子も映っています。

さらに、従業員が地面に落ちた肉を処分せず生産ラインに戻して製品として出荷しようとする様子も放送し、ずさんな衛生管理だと指摘しています。【7月22日 NHK】
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「食べても死にはしない」・・・・偽粉ミルクを飲み数十人の乳児が栄養失調で死亡した事件(2004年)、メラミンで汚染された粉ミルクを飲んだ乳児が腎臓結石になった事件(2008年)、下水道の汚水を精製した地溝油(ちこうゆ)という油が食用油として販売されていた事件(2010年)等々に比べれば、確かにまだましな方かも。

ただ、企業のモラルとして、こうした問題が後を絶たない状況は日本の感覚からすると異質な感があります。
(中国の食の安全性については、こうした企業モラル以外に、そもそも農地が重金属で汚染されているという問題もあります)

企業モラルに限らず、拝金主義の横行、腐敗・汚職の蔓延、職権乱用、人権無視等々、中国社会全体にモラルの欠如があるように見えます。

もちろん、自分を含め人間の心にはダークサイドに引っ張られる部分が必ず存在していますので、日本でも、世界各地でも、不正・犯罪などのニュースには事欠かない訳でもあります。

しかし、一方で個人の心の中、社会にはモラル・倫理観が存在し、その両者のバランスでダークサイドに落ちる事例の数やその程度にも歯止めがかかります。

中国の場合、個人の心の中、社会のモラル・倫理観が脆弱でこのバランスが崩れて、エゴや欲望がストレートに表面化している事例が散見されるように見えます。

共産主義的理念が失われた後を埋めるような価値基準が十分に成立していないまま、生産活動だけが拡大している・・・ようにも見えます。

最近、習近平国家主席は「ハエも虎も叩く」汚職没滅キャンペーンに取り組んでいますが、モラルを欠いた社会への政権側からの是正の試みのひとつではあるのでしょう。

【「引き潮」ムード
これまで日本企業は中国での生産拡大に努めてきましたが、その流れに変化が出てきていることが最近しばしば指摘されています。

****引き潮」ムードが高まる中国の製造拠点国内回帰は進むのか? 戻るに戻れない工場も****
空洞化が叫ばれて久しい日本の製造業だが、最近“回帰現象”が起きていると聞く。

生産拠点をベトナムやカンボジアなどポストチャイナの新興国に移す企業がある一方で、「日本に戻す」企業も少なくないようだ。日本の工場立地は今後、どのように再編されていくのだろうか。

東京に本社を置くX社は、10年前から中国で自動車のプラスチック部品加工を行っているが、近年は中国で人件費が高騰し、中国に拠点を置くメリットはほとんどないという。

X社の中国工場は一時は拡大路線をたどり、日本の本社工場とは比較にならないほど大規模で従業員も多い。しかし発展は幕を下ろした。X社では、中国の拠点がなくなっても生産を継続できる体制づくりを急いでいる。目下取り組んでいるのが、日本の生産拠点の拡充だ。

日本に目を向ける最大の理由は、価格競争から抜け出すためである。Y社長は「これからは日本製で戦いたい。メイド・イン・ジャパンなら、中国産の倍以上の価値があります」と意気込む。

そしてY社長はおもむろに2つの部品をテーブルの上に並べた。「右が中国製、左が日本製です。見た目は同じですが、品質はまったく違います。中国製は材料に混ぜ物を加えるから、品質維持が困難なのです」

中国製の部品は、この10年にわたってX社に大きな富をもたらした。だが今では、低コストで生産することが難しくなってきた。

また、市場では「高価な日本製」が再び価値を高めており、Y社長はそこに目をつけている。
「確かに中国で作るのよりもコストはかかります。けれども、日本で作る方がトータルとして得をするんです」(後略)【7月22日  姫田 小夏氏 JB Press】
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“回帰現象”の理由には、日中関係の悪化という政治的側面や、労働コストの上昇という経済的側面もありますが、中国における労働者のモラルの問題も小さくないようです。

*****俺は中国から脱出する!」ある中小企業経営者の中国撤退ゲリラ戦記******
・・・・A社長にとって、中国の従業員は名実ともに“家族”だった。従業員の個人的なトラブルのみならず、その家族まで面倒をみた。盆暮れの労いや病人の見舞いなども決しておろそかにはしなかった。

おかげで十数年も共に働く「老員工」(古株)にも恵まれた。B社は地元が誇る唯一の日本企業でもあった。

それから12年が経った昨年末、A社長はある大きな決断をした。それは中国からの撤退だった。
「我慢の限界」――それがA社長の偽らざる心境だった。

「物は盗む、仕事はしない。(月給が)10元違えばよそに行く」と、農村出身の従業員にはほとほと手を焼いた。
10年前はハングリーさと手先の器用さが評価された中国の労働者たちも、昨今は「80后(80年代生まれの若者)は1時間で辞職する」など、質の劣化が進んでいる。

日本で採用し一人前に育てたはずの人材も、中国に赴任させれば一人の例外もなく会社の金を使い込んだ。(後略)【7月4日 DIAMOND online】
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政治的・経済的問題だけなら頑張ってなんとか・・・ともなりますが、随分と過激な表現ではありますが、“物は盗む、仕事はしない”ではその気も萎えてしまいます。

撤退は経営者が最後に課される「悶絶の苦しみ」】
前出【7月22日  姫田 小夏氏 JB Press】では、“戻るに戻れない工場も”ということについては、日本の向上を閉めて中国進出したため「できれば撤退したい。しかし、帰るところがない」という事情が紹介されています。

しかし、それとは別に、そもそも地元が企業の撤退を許さないという事情があり、撤退したくてもできない・・・ということもあるようです。

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中国から撤退するには、会社自体を解散する清算や破産以外に、合弁パートナーに自社持分の譲渡をするという方法が採られることが多い。

いずれのケースも董事会(取締役会に相当)での承認が必要となるが、そもそも中国人役員らにとっては職を失うことにもなりかねず、なかなか彼らは首を振らない。

中国ではよく台湾人が“夜逃げ”という手段を選ぶが、それにはもっともな理由がある。つまり、撤退を正攻法でやっても埒が明かないのである。

しかも、「撤退させたくない」のが地元政府の本音だ。「はい、そうですか」とハンコを押してくれるわけがない。

・・・・撤退は経営者が最後に課される「悶絶の苦しみ」であり、中国脱出のための「最後の闘い」となるのである。【同上】
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そのため、撤退相談に乗る「撤退ビジネス」が活況を呈しているそうです。

****中国撤退ビジネス、活況 税や解雇の対策指南****
日本企業が中国から撤退する動きが加速している。
人件費、土地代などが高騰し、尖閣問題などの政治リスクも改善する見通しが立たないからだ。

ただ、中国からの撤退は、実は容易ではない。難しさを象徴するように、撤退相談に乗るコンサルタントや弁護士が増え、「撤退ビジネス」が活況を呈している。

東京都のコンサルタント会社「ケイエス」(赤井嘉晴社長)。もともとは中小企業向けに中国進出を助言していた。だが、2012年の尖閣諸島国有化を受けた反日デモ以降、「撤退・縮小」の相談が急増。「中国ビジネス撤退支援」を事業に加えた。

彼らが指南するのが「撤退障壁」への対処法だ。外資系企業が解散するには地元政府の認可が必要。複数のコンサルタントは「認可審査の際に、過去の税金支払いを調査されるため膨大な手間と時間がかかる」と証言する。

多くの外資系企業は進出後、地域ごとに数年間、企業所得税が免除される。しかし、免除期間を経過せずに会社を解散しようとすると、免除された分の全額の支払いを求められるケースも珍しくない。

従業員の解雇にも「経済補償金」が必要だ。経済補償金の法定額は、例えば1年勤続の場合は1カ月分の月給額で、2年勤続では2カ月分となり、12年以上は一律12カ月分となる。

しかし、従業員の補償金積み増し圧力は強く、実際には法定額以上がかかるという。

撤退にも膨大な資金が必要で、企業の海外展開を支援しているコンサルタント会社「コンサルビューション」(東京都)の高原彦二郎社長は「経済補償金を支払うために、日本の本社から撤退資金を送金してもらうケースもある」と語る。(後略)【7月8日 毎日】
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中国からの企業撤退を決行する壮絶な「最後の闘い」の具体事例については、前出“「俺は中国から脱出する!」ある中小企業経営者の中国撤退ゲリラ戦記”【7月4日 DIAMOND online】http://diamond.jp/articles/-/55505に詳しく紹介されています。
想像以上に大変なことのようです。

「中国が世界の工場である時代は終わった」のか?
進出企業が増えれば、撤退企業も増加するのは当然ですから、「引き潮」ムードについてはもう少し検証が必要な感もあります。

いずれにしても、生産拠点としての役割が減少したとしても、日本にとって中国が最大の市場であることは変わりはないでしょう。
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