孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

国連の紛争対応について  ルワンダ大使「涙の訴え」 コンゴPKOで「平和強制部隊」

2013-02-28 23:12:54 | 国際情勢

(シリア ミサイル攻撃による犠牲者 “flickr”より By EDMD1 http://www.flickr.com/photos/44951574@N03/8501583998/

シリア問題で有効策を打ち出せない国連安保理
悪化するシリア国内情勢は、大都市住宅街にミサイルが撃ち込まれ多数の子供などが犠牲になるといった、手段を選ばない末期症状の色合いも見せています

****シリア:アレッポで141人死亡…政府軍がミサイル攻撃****
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は26日、内戦状態に陥ったシリアで18〜22日に、政府軍が最大都市アレッポ近郊に弾道ミサイルを撃ち込み、少なくとも子供71人を含む141人が死亡したと発表した。周辺では反体制派がアレッポ国際空港の掌握を目指し攻勢をかけており、激しい戦闘が続いている模様だ。

同団体によると、攻撃を受けたのはいずれも多数の市民が暮らす住宅街。反体制派の支配下にあるが、攻撃があった当時は戦闘員はいなかったとされる。ミサイルはダマスカス近郊の軍基地から発射されたという。
シリアでは11年3月の内戦開始以降、これまでに少なくとも7万人以上が死亡し、国内避難民は300万人を超えるとされる。【2月26日 毎日】
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シリアを巡る国際情勢については、“欧州・中東9カ国を歴訪中のケリー米国務長官は26日、訪問先のベルリンでロシアのラブロフ外相と会談し、内戦が続くシリア情勢を中心に協議した。ラブロフ外相は会談後、記者団に対し、アサド政権とシリア反体制派の対話実現に向けて「あらゆる努力」を続けることで米露両国が一致したと語った。”【2月27日 毎日】とのことですが、“シリア情勢は、米国がアサド政権の早期退陣を前提に反体制派を支援しているのに対し、ロシアがアサド政権の後ろ盾になっている構図に変化はない”【同上】というように、欧米諸国とアサド政権支援のロシア、国際介入を嫌う中国の対立が国連安保理でも続いており、有効な対策が打ち出せずにいます。(欧米諸国側にも、イスラム過激派が含まれる反体制派への武器支援をためらうといった事情も存在しますが)

【「これ以上、何を聞く必要があるのか」】
そうしたなかで、安保理非常任理事国ルワンダの大使が「安保理は話し合いではなく行動すべきだ」との「涙の訴え」を行ったそうです。

****安保理:「すぐ行動を」ルワンダ大使が涙の訴え****
内戦状態に陥っているシリア問題を巡る国連安全保障理事会の動きの鈍さに対し、非常任理事国メンバーから批判の声が高まっている。27日の非公式協議では、ルワンダのガサナ大使がおえつしながら「安保理は話し合いではなく行動すべきだ」と主張した。

「涙の訴え」の背景には、民族対立で約80万人が犠牲になった94年のルワンダ大虐殺の際も安保理が積極的に介入しようとせず、被害の拡大を招いたことがあるようだ。

安保理関係者によると、協議ではエイモス人道問題調整官ら国連高官3人が報告。周辺国へのシリア難民が約94万人に達し、女性の性的暴力被害が拡大していることなどを説明した。
報告後、今年1月から安保理メンバーになったルワンダのガサナ大使は涙で言葉を詰まらせながら「これ以上、何を聞く必要があるのか」と安保理の「行動」の必要性を強調。さらに「これから非常任理事国としての2年間、あなた方に休息を与えることはしない」と他の大使らに向かって宣言し、シリアの問題を提起し続ける意向を明らかにした。

シリア情勢への対応で安保理は、常任理事国の米国とロシアがアサド大統領の処遇を巡って対立、効果的な対策を打ち出せない状態が続く。ガサナ大使の後も「安保理は国際社会の危機を解決するのではなく、管理するだけの存在になっている」(ルクセンブルク)、「安保理は重大な責任がある」(オーストラリア)など、安保理非難の意見が続出。「非常任理事国の欲求不満が鮮明になった」(安保理筋)という。

一方の常任理事国5カ国は、米国、英国、フランスが人道状況の悪化についてアサド政権を非難したのに対し、ロシアと中国は政権と反体制派の双方に責任があると主張。従来通りの対立構図のままだった。【2月28日 毎日】
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内戦により80万〜100万人が虐殺されたルワンダ大虐殺については、これまでもしばしば取り上げましたが、上記記事の簡単な紹介では以下のようになっています。

****ルワンダ大虐殺****
ルワンダの旧宗主国ベルギーは、人口の8割超を占める農耕民フツと、少数派の牧畜民ツチを分断統治した。62年の独立後フツ政権がツチを弾圧し、両者の対立が激化。94年、政府軍やフツ強硬派民兵が、ツチとフツ穏健派を襲撃。内戦により80万〜100万人が虐殺された。当時、国連安保理は難民救出のため国連ルワンダ支援軍の拡大を呼びかけたが、各国が派兵をしぶり、効果をあげられなかった。
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問題は、大虐殺発生当時にベルギー軍を主体とする国連PKOの平和維持軍が存在したにも関わらず大虐殺の発生を止められなかったこと、止めるどころかベルギー軍部隊に10名の犠牲者を出たことでベルギー軍は撤退を開始、国連安保理も軍事要員を大幅に縮小することを決めたことで、国際社会が手を引く姿勢を見せた4月だけで20万人以上の犠牲者数が出たと言われています。
あまりの惨状に、国連安保理は方針を変更して軍事要員を増派することとしましたが、各国の協力が得られませんでした。

大虐殺の混乱当時にルワンダ愛国戦線(RPF)を率い、現在ルワンダ大統領の席にあるカガメ大統領は、目の前で虐殺が行われているときじっと動かなかったUNAMIR(PKOである国連ルワンダ支援団)司令官ダレール将軍のことを「人間的には尊敬しているが、かぶっているヘルメットには敬意を持たない。UNAMIRは武装してここにいた。装甲車や戦車やありとあらゆる武器があった。その目の前で、人が殺されていた。私だったら、絶対にそんなことは許さない。そうした状況下では、わたしはどちらの側につくかを決める。たとえ、国連の指揮下にあったとしてもだ。わたしは人を守る側につく。」と、語ったそうです。

今回のルワンダ大使の「涙の訴え」の背景には、このような国際社会から見放された紛争現地の惨状への思いがあります。

ソマリアでの失敗後、2回目の「平和強制部隊」】
国連及び国際社会の紛争・内戦への対応は、現在のシリア情勢のように関係国の利害が対立して具体策が打ち出せないという問題のほかに、ルワンダで見られたように、国連が平和維持軍などを派遣したとしても、どこまで現地情勢に関与できるか、武力行使がどこまで認められるのかという問題があります。

後者の問題について、国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は、コンゴPKOにおいて本格的な戦闘行為もできる「平和強制部隊」創設の方針を打ち出しています。

****コンゴ「平和強制」PKO、1年派遣…国連総長****
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は27日、コンゴ民主共和国の国連平和維持活動(PKO)に関する特別報告書を国連安全保障理事会に配布し、武装勢力との本格的な戦闘行為もできる「平和強制部隊」を同PKOに当面1年間設置するとの方針を示した。
特殊部隊なども備えた本格的な陣容で、国連PKOでは18年ぶりとなる平和強制部隊の設立を目指す。

本紙が入手した報告書によると、平和強制部隊はコンゴ東部国境地帯の武装解除などが目的で、既存のコンゴPKOの一部となる。3個歩兵大隊、特殊部隊の1個中隊や砲兵隊で構成され、攻撃ヘリも拡充。コンゴ国軍とは別に単独でも攻撃作戦を行える権限を持つ。

安保理は近く、潘氏の提案を審議するが、平和強制部隊の設立自体には目立った反対論がない。フランスが近く決議案を示す方針で、採択される見込みだ。【2月28日 読売】
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“18年ぶりとなる平和強制部隊”ということですが、前回はソマリアで実施され、それが失敗したことで、最初で最後の試みとなっていました。
当時のガリ国連事務総長の構想に基づき、1993年、憲章第7章のもとで平和強制を行う史上初めてのPKO、第2次国連ソマリア活動(UNOSOM II)が設置されました。UNOSOM IIは、PKOでありながら、人道援助のみならず、戦闘阻止、強制武装解除、警察・司法を含む統治機構の構築などがその任務とされました。

“UNOSOM IIは、飢餓状態の緩和など人道面で成果をあげたものの、強制行動を行うことによって自らが紛争当事者となり、数千人の犠牲者が国連側にも出た。1993年10月には、首都モガディシオでアイディードの本拠地を襲撃に行ったアメリカ特殊部隊が、逆に地元武装勢力に包囲され、18人の米兵が殺された。そのうちの一人が市民に遺体を引きずり回されるシーンがテレビで放映されたりもした。その結果、アメリカをはじめとする数カ国が相次いで部隊撤収意思を表明するにいたった。人道目的よりも自国の利益(この場合、自国の兵士の命)を優先させたのである。1994年2月、安保理は決議897を採択し、UNOSOM IIに課せられた任務を大幅に縮小、武装解除や和平協定実施は現地の武装勢力各派が自発的に行うとされ、平和強制権限は削除された。その後も和平プロセスの実質的な進展は見られず、結局、1995年3月にUNOSOM IIは完全撤退した。こうして、ガリ事務総長(当時)の提唱した平和強制は失敗したとの評価が下された。”
【国連による平和強制:ソマリア 池尾靖志氏 http://www.yikeo.com/advanced/ch1/advanced1-6.html

【「市民の保護が問われる場合は、部隊の中立はあり得ない」】
このソマリアでの平和強制の失敗で、今後は行わないことをガリ事務総長自身が宣言した経緯がります。
ただ、ルワンダやスレブレニツァの虐殺事件が起きたボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の経験などから、国連は現地の紛争にもっと積極的に関与して犠牲者増大を食い止めるべき・・・との流れが強まっているようです。

2005年に開かれた国連首脳会合は、「保護する責任」と命名した新たな概念で合意しました。国家主権は住民を保護する責任を伴い、国家がもしその責任を果たせないときは国際社会が代わって責任を果たすべきだという考え方です。


この「保護する責任」を基に、リビア・カダフィ政権を巡る内戦状態に対し、潘基文(パン・ギムン)事務総長は「一刻も早く、決定的な行動を起こさなければならない」と、国際社会に介入を強く促しています。

また、2011年のコートジボワールの混乱に関して、潘基文事務総長は「市民の保護が問われる場合は、部隊の中立はあり得ない」との判断を示しています。

****PKO活動、常に中立あり得ぬ」 国連事務総長が発言****
国連の平和維持活動(PKO)をめぐり、潘基文(パン・ギムン)事務総長が「市民の保護が問われる場合は、部隊の中立はあり得ない」と安全保障理事会の理事国に説明していたことがわかった。
従来のPKOは「中立性の順守」を掲げ、日本のPKO参加5原則でも「中立的立場の厳守」を定めており、今後議論を呼びそうだ。

複数の国連外交筋が朝日新聞に明らかにした。発言のきっかけは、大統領選をめぐる混乱が続いていたコートジボワールで、大統領職に居座るバグボ氏派の拠点をPKO部隊が先月4日に攻撃したこと。安保理理事国のロシアや南アフリカが「PKOは公平・中立の義務がある」と反発したため、4月末にPKOのあり方をめぐり、安保理の15理事国の代表と潘氏で非公式の協議が開かれたという。

その協議で潘氏は、コートジボワールでのPKO部隊によるバグボ派拠点の攻撃は、あくまで市民の保護と部隊の自衛のためだったと述べて正当化し、「国連の平和維持活動は公平・公正の立場に立つが、常に中立であることはあり得ない」と強調したという。

従来のPKOでは、展開する前提として「紛争当事者の合意」とともに「中立性の順守」を掲げてきた。潘氏の発言は、今後のPKOでは国連が「市民の保護」の観点から人権侵害をしていると見なした相手に対しては、直接的な軍事行動を取ることもあり得ると踏み込んだものだと、協議の出席者らは受け止めた。

発言に対して、複数の安保理理事国が国家主権の尊重や内政不干渉を理由に反発。ナイジェリアとフランスは「人権侵害を防ぐために、強制措置を取ることはやむを得ない」と理解を示したという。
日本では、「中立的立場の厳守」などの参加5原則を維持したまま、潘氏の下でのPKOに参加できるかが問題視される可能性がある。

ある外交筋は「PKOは今後、国連主導の武力行使につながる可能性が出てきた。日本政府も自衛隊をPKOに派遣するには、市民の保護の最優先など国民に説明できる一貫した論理を打ち出さなければならないだろう」と指摘した。【2011年5月14日 朝日】
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今回のコンゴPKOにおける平和強制部隊創設の試みは、一連のこうした流れに沿うものと思われます。
国連の活動の国家主権の関係、紛争・内戦の混乱状態で“「市民の保護」の観点から人権侵害をしていると見なした相手”というのが公平・公正に判断できるのか・・・という難しい問題を伴います。

例えば、セルビアは民族浄化を行う“悪者”としてNATO空爆の対象となりましたが、こうしたセルビアのイメージは多分にメディア戦略の結果とも言われ、内戦当時、反対勢力側にもセルビアが行っていたのと同様の残虐行為はあったとも言われています。
シリアに関しても、政府側・反体制派双方が相手方の犯行として相手方を非難する事例が多々あるというか、殆んどがそうした事例です。反体制派の流す情報にはかなり歪みがあるとも指摘されています。

とは言え、“UNAMIRは武装してここにいた。装甲車や戦車やありとあらゆる武器があった。その目の前で、人が殺されていた。私だったら、絶対にそんなことは許さない。そうした状況下では、わたしはどちらの側につくかを決める。たとえ、国連の指揮下にあったとしてもだ。わたしは人を守る側につく。”というカガメ大統領の言葉には重いものがあり、中立を掲げて虐殺を放置するというのはやはり容認できません。

今後のPKOへの日本の自衛隊参加にあたっては、「市民の保護が問われる場合は、部隊の中立はあり得ない」という“覚悟”が求めらることも出てくるでしょう。その“覚悟”には参加部隊の犠牲の覚悟も含まれますし、そのためには武装に関する再検討も必要になります。
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アメリカ  先送りされる財政問題 今度は3月1日からの「歳出強制削減」

2013-02-27 22:44:25 | アメリカ

(26日、ニューポートニューズで、妥協しない共和党を批判するオバマ大統領 【2月27日 TBS News】http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye5267852.html

【「三つの壁」】
「財政の崖」、債務上限問題(デフォルトの危機)、歳出強制削減など、アメリカの財政問題が昨年から続いています。
一連の騒動の背景を簡単にまとめると、以下のとおりです。

“金融危機を受けて発足したオバマ政権は、過去最高の7870億ドルの景気対策など湯水のように財政資金をつぎ込んだ。その反動として、財政赤字も年間1兆ドルを突破し、それは1期目の4年間を通じて続いた。

青くなった大統領と議会は財政赤字削減に向けた与野党協議を何度も行ったが、富裕層増税を主張する与党民主党と、歳出削減を求める野党共和党の意見は鋭く対立。協議は決裂したが、その“ペナルティー(罰則)”として、強制的に財政赤字を減らすため、2013年の年明けから全世帯を対象にした所得減税の失効と巨額の歳出の自動削減が決まり、米景気への壊滅的な影響が危ぶまれた。いわゆる「財政の崖」問題が、米国と世界を揺さぶった。

崖を避けるための与野党協議もまたもつれ、一部の富裕層を除く減税延長でなんとか妥協。崖からの転落は寸前で回避されたが、その他の抜本的な税財政改革は先送りされ、米紙ワシントン・ポストは社説で、「米国の長期的な債務問題に取り組むためには、(与野党の合意は)あまりに無力だ」と批判。これでは多額の財政赤字を減らす効果は見込めないと嘆いた。”【2月3日 産経】

昨年末の「財政の崖」は問題先送りで回避した訳ですが、2期目のオバマ政権は“債務上限”“歳出強制削減”“暫定予算失効”の3つの財政問題に早々に直面しています。

****米財政問題:2期目のオバマ大統領 「三つの壁」に直面****
2期目のスタートを切ったオバマ大統領は、財政問題を巡る「三つの壁」▽債務の上限引き上げ▽歳出の強制削減▽暫定予算の失効−−に直面している。いずれも早急な対応をとらなければ、債務不履行(デフォルト)や政府機関の閉鎖など米国をはじめ世界経済に打撃を及ぼす恐れがある。

 ◆債務上限
米政府の債務はすでに法律で定められた16.4兆ドルの上限に達しており、2月中旬にも議会が上限を引き上げなければ債務不履行(デフォルト)の懸念が高まる。野党共和党は5月19日まで暫定的に上限引き上げを認める方針で、23日に共和党が多数を占める下院での法案採決を予定している。ただ、共和党は「長期の上限引き上げには責任のある政府の歳出削減が必要」(ベイナー下院議長)と、与党民主党に反発が強い社会保障費などの大幅な歳出削減を迫る戦略だ。

 ◆歳出強制削減
年明けの「財政の崖」回避を巡り、一時的に先送りされた歳出の強制削減(10年間で1.2兆ドル規模)は3月初めに発動される。実施されれば、景気への影響は不可避だ。

 ◆暫定予算失効
更に13会計年度(12年10月〜13年9月)は暫定予算で必要な歳出を確保しているが、3月27日に期限が切れる。新たな対応なしには予算が執行できなくなり、政府機関の閉鎖などの事態に陥る。

これらの問題が解決困難なのは、中長期的な財政赤字削減策でオバマ政権と共和党が合意できていないためだ。「財政の崖」など、危機に直面するたびに与野党は新たな期限を切って問題を先送りし続けている。
オバマ大統領は21日の就任演説で、インフラや教育、環境関連の新技術開発など成長力の強化に向けた投資の必要性を強調。しかし、共和党との合意を得て中長期的な財政健全化に道筋をつけなければ、これらの政策は実現が困難だ。(後略)【1月23日 毎日】
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【“チキンレース”で、時間切れか?】
1番目の債務上限問題については、債務の法定上限を暫定的に引き上げることになり、デフォルトを回避して何とか8月頃までしのげる形になっています。恐らくその時期になれば、また同じような議論が繰り返されることかとは思いますが。

****米、デフォルト当面回避…大統領が署名、法成立****
オバマ米大統領は4日、連邦政府の借り入れ枠である債務の法定上限を16兆3940億ドル(約1510兆円)から暫定的に引き上げる法律に署名し、同法が成立した。
今月半ばにも陥ると懸念されていた米国債のデフォルト(債務不履行)は当面、回避された。

5月18日までの間、国債の元利払いなどに必要な資金の借り入れが可能となった。その後も、米財務省が資金繰りの非常措置を発動して、8月ごろまでしのぐ見通しだ。【2月5日 読売】
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次に間近に迫ってきたのが、2番目の歳出強制削減の問題です。
もともとは、2011年の「債務上限問題」から生じたもので、12年末の「財政の崖」で先延ばしされた問題です。

****米歳出強制削減“チキンレース” 「3・1」発動、政権と議会の協議暗礁****
米国で巨額の歳出強制削減の発動が3月1日に迫っている。国防や景気への影響が懸念されるが、発動回避のためのオバマ政権と議会の協議は増税で対立、暗礁に乗り上げている。与野党はぎりぎりまで協議を続ける方針だが、時間切れも現実味を帯び、全米に動揺が広がっている。

「企業は解雇通告を準備している。家庭も財布のひもを締め始めた。危険が迫っている」。オバマ大統領は25日に全米各州の知事を招いた会合で、歳出強制削減の影響が広がっていると危機感を募らせ、発動回避へ議員に圧力をかけるよう訴えた。

与党民主党は、小規模な歳出削減と歳入増をセットにした暫定予算を可決し、歳出強制削減を来年に先送りすることを提案している。そうして抜本的な税制改革の時間を稼ぎ、社会保障のスリム化や富裕層に恩恵の大きい税制優遇の見直しで1兆8千億ドルの財政赤字削減案の合意を目指すのが大統領の青写真だ。

だが、野党共和党は「大統領は先月増税したばかり。終わった議論だ」(ベイナー下院議長)と猛反発する。「財政の崖」をめぐる与野党協議で、共和党は党内の激論の末に所得税の富裕層増税を容認した。さらに増税に応じれば保守派の突き上げは必至で、共和党は歳出強制削減の回避には増税ではなく無駄な政府事業などの歳出をカットすべきだと訴えている。

歳出強制削減の影響が最も大きいのは予算が13%削られる防衛関連だ。兵器整備要員など約75万人の職員の多くが一時帰休の対象となり、ヘイル国防次官は、「米軍の即応能力に深刻な影響が出る」と警告。国防産業でも雇用や事業を見直す企業が目立ち始めた。

低所得者向け住宅補助の見直しで約12万5千世帯が持ち家を失う恐れがあるなど、国民生活への影響も大きい。主要空港では職員削減で待ち時間が最大4時間を超え、規制が緩和されたばかりの米国産牛肉の対日輸出も食品検査官の削減で停滞する懸念も出ている。

大統領は「妥協できるはずだ」と与野党に歩み寄りを促すが、米メディアによると、共和党内には「政権側が譲歩しなければ、歳出強制削減の発動もやむなし」との強硬論も飛び交う。政府や議会の関心も「歳出削減がもたらす影響の度合いに移っている」(米紙ワシントン・ポスト)との見方すらある。【2月27日 産経】
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当然ながら、オバマ大統領は野党・共和党に妥協を強く求めています。

****米の歳出強制削減、大統領が共和党非難 ****
アメリカの850億ドルに及ぶ歳出削減が強制発動されるまであと3日、オバマ大統領は最も大きな打撃を受ける国防産業の工場で演説し、野党・共和党に対し、強制発動の回避へ向け妥協するよう訴えました。

「皆さんは議会に圧力を加え続ける必要がある。努力し続ける必要がある。戦い続ける必要がある」(アメリカ オバマ大統領)
オバマ大統領はバージニア州にある原子力潜水艦の工場を訪れ、歳出削減問題で野党・共和党が「1インチも妥協しようとしていない」と共和党を非難しました。その上で、すでに海軍が空母の修理を延期したり、新たな空母の建造を見合わせるといった動きが出ていると指摘し、歳出削減の強制発動を回避する必要があると訴えました。

ただ、オバマ政権と民主党が富裕層への新たな増税と歳出削減の組み合わせで財政赤字の削減を図ろうとしているのに対し、野党・共和党は増税を受け入れない方針を崩していません。
さらに、オバマ政権が「合意に失敗すれば、国防のみならず交通機関など市民生活にさまざまな影響が出る」としているのに対し、共和党側は悪影響を誇張していると主張するなど、双方の歩み寄りは見られず、3月1日の強制発動まで時間ばかりが経過する状況が続いています。(2月27日 TBSNews)
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演説を行った場所のあるニューポートニューズは造船の町として知られ、軍事関連受注が大きな比重を占めています。

一連の財政問題の背景には、大統領・与党民主党側と野党共和党側の“チキンレース”的な対立がありますが、国民もいいかげんうんざりしたのか、歳出強制削減については、“一度やってみたら・・・”といった声も強いようです。

****強制削減、半数近く「やむなし」=大胆な歳出カットに期待―米調査****
26日発表の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCテレビの合同世論調査結果によると、3月1日に発動期限が迫った強制的な歳出削減について、回避に向けた与野党の妥協が望めない以上は断行もやむを得ないと考えている人が半数近くの46%に上った。

過去最悪レベルに達した財政赤字の削減方法に関し、調査は「オバマ大統領と議会は歳出の強制カットを回避し、協力して赤字削減案を探るべきだ」と「妥結は困難なので、この際は赤字削減に劇薬を用いるべきだ」とする二つの選択肢を提示。その結果、強制カットの回避を求める人が50%、断行を容認する人が46%となり、ほぼ並んだ。

また、現在予定されている強制的な歳出カット策への支持は14%、さらなる歳出削減を期待する人は39%に上った。これに対し、歳出削減額の縮小を求める人は37%で、全体として大胆な歳出削減を促す声が大きいことが分かった。
調査は21~24日、有権者1000人を対象に実施された。【2月27日 時事】 
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ただ、低所得者向け住宅補助の見直しで持ち家を失うなど、簡単に“一度やってみたら・・・”とは言えない面もあります。
与野党間に歩み寄りはなく、“このまま時間切れとなる公算が大きくなっている”【2月27日 毎日】状況とも報じられています。

【「武力の空白を生み出す危機にある」】
最も直接的な影響を受ける国防関係は、“冗談じゃない”と不満を募らせています。
****米国防総省、歳出強制削減は「武力空白の危機****
アメリカ国防総省のリトル報道官は、3月1日に迫った歳出削減の強制発動について「武力の空白を生み出す危機にある」と述べ、議会に対しその回避を求めました。
「軍の即応準備が転換点にある。我々は武力の空白を生み出す危機にある」(アメリカ国防総省・リトル報道官)

リトル報道官は、歳出削減が強制発動されれば国防総省は今年度、全体の9%カットにあたる460億ドルの削減を強いられ、兵員の訓練や空母の展開、さらに4月以降には関係者80万人の一時解雇など、深刻な影響が出ると警告しました。さらに、日本や韓国のアメリカ軍への影響については直接答えなかったものの、「世界中のアメリカ軍への何らかの影響が予想される」と述べました。

イラク、アフガニスタンの2つの戦争が終結に向かう中、議会などでは大幅な国防費の削減は可能だとの見方もありますが、リトル報道官は「北朝鮮やイラン、テロリストの脅威がまだ残されている」と述べ、歳出削減の影響を誇張しているわけではないと強調しました。(2月27日 TBSNews)
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今回の問題は別にしても、アメリカの医療保険支出は今後10年間で倍増すると言われており、増税でカバーできる余地は限られていますので、基本的には巨額の国防費を削るしかないのではと思われます。
そのことは、日本の安全保障問題にも大きく影響してきます。

日本では脱「ねじれ」の動きも
与野党間の対立で「決められない政治」が続いているのは日本も同じですが、先の総選挙の自民党大勝・民主党大敗を受けて、少し流れも変わってきたのかも。
26日の参院本会議で、政府も「否決されるのでは」と考えていた補正予算が思いがけずも「1票差で可決」しました。

****補正予算 参院1票差で可決 民主衝撃 自民、脱「ねじれ」弾み****
平成24年度補正予算は26日の参院本会議で1票差で可決、成立した。「1票差で否決」との見方もあっただけに、自民党はこの日の採決を衆参「ねじれ」の解消に向けたターニングポイントと意気込む。対する民主党は中盤国会のヤマ場となる25年度予算案の審議に向け態勢の立て直しを急ぐが、離党者が相次ぎ、有効な戦術を描けずにいる。

 ◆「否決」のはずが
「薄氷を踏む思いの採決だったが、何とか1票差で成立した。この1票差は決められない政治から決められる政治への第一歩だ」
安倍晋三首相は26日、野党が多数を占める参院で補正予算が可決、成立したことの意義を記者団にこう強調した。

自民党では野党議員の動向を最後までつかみきれず、参院本会議で「否決か、可否同数で民主党出身の議長の1票で否決」(国対幹部)とみていた。
ところが、ふたを開けてみると、衆院で賛成した日本維新の会に加え、新党改革と国民新党、さらにみどりの風の大半が賛成票を投じた。民主党を離党した2人のうち、川崎稔氏は賛成し、植松恵美子氏は欠席。その上、生活の党の藤原良信氏が棄権したことで1票差での可決につながった。

自民党の鴨下一郎国対委員長は可決後の記者会見で「極めて大きい話で、重大な意義がある」と喜びを隠さなかった。
政府は25年度予算案を28日に国会提出する方針。次期日銀正副総裁人事案の国会同意と合わせ、いずれも補正採決通りの展開となれば、「ねじれ」に悩むことなく、強力な政権運営が可能となる。(後略)【2月27日 産経】
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今後、日銀人事や25年度本予算が焦点となりますが、議員各自の判断もあって“票が読めない”ということは、民主主義の形骸化を救うことではないか・・・とも思われます。
問題ごとに、各議員への働きかけ、政治的取引などがあって、実際に採決するまでわからない・・・という緊張感が政治を活性化します。
もちろん、行き過ぎた“政治的取引”の弊害もあるでしょうが。
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コソボ 独立から5年、「祖国」を手にしたが、生活向上には高い壁  進まぬセルビア系住民との和解

2013-02-26 23:34:41 | 欧州情勢

(「分断の街」ミトロビツァのセルビア系住民居住区での集会の様子 【2月17日 産経】)

EU加盟のための関係正常化模索
バルカン半島の旧ユーゴスラビア領内には多くの民族が暮らしていますが、ユーゴスラビア連邦の解体はその民族間の緊張関係“火薬庫”に火を付け、各地で紛争を惹起しました。

イスラム教のモスレム人(ボシュニャク人)、カトリックのクロアチア人、セルビア正教のセルビア人の3勢力が争ったボスニア・ヘルツェゴビナについては、人口構成の変化が民族間の対立感情再燃というパンドラの箱を開きかねないため、いまだ国勢調査すらできないという現状を、1月30日ブログ「「国家」という枠組み ボスニア・ヘルツェゴビナ、アメリカ、EU」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130130)で取り上げました。

セルビアからの分離独立を目指して激しい内戦を戦ったコソボとセルビアの関係も未だ癒えていません。
欧米諸国の支援を受けたコソボは2008年2月に独立を宣言し、欧米や日本など96カ国が国家承認していますが、セルビアはコソボの国家承認を拒否しています。ロシア・中国も承認していません。
なお、セルビアはキリスト教徒(セルビア正教)が多数派であるのに対し、コソボはイスラム教徒のアルバニア系住民が多数派です。

ただ、セルビア、コソボともにEU加盟を目指しており、セルビアは昨年3月、加盟候補国として承認されています。
EUは両国の関係正常化を加盟手続きの事実上の条件としているため、本心は別としても、歩み寄りの姿勢を見せる必要があります。そうした事情もあって、セルビアのニコリッチ大統領とコソボのヤヒヤガ大統領が2月6日、ブリュッセルで会談し、関係正常化をめぐり協議を行っています。
両国の大統領同士が会談するのは2008年2月にコソボがセルビアからの独立を宣言して以来初めてです。

****セルビア・コソボ:初の大統領会談へ EU仲介で****
セルビアのニコリッチ大統領とコソボのヤヒヤガ大統領が6日、欧州連合(EU)の仲介によってブリュッセルで会談する。激しい民族紛争の末、08年にコソボがセルビアからの分離独立を宣言して以来、国家承認を拒み合ってきた両国元首が対話のテーブルに着くのは初めて。早期のEU加盟という共通の目標達成に向け、加盟条件の一つである関係正常化への道を探る。

EUのアシュトン外務・安全保障政策上級代表(外相)が招いた会談は、「両国の関係正常化にとって象徴的で重要な意味を持つ」(EU)。両国は11年3月から高官級対話、さらに昨年10月からは首相同士の協議をそれぞれ重ね、事実上の国境管理事務所設置やコソボ側での関税徴収、住民・土地台帳の作成などで合意してきた。

コソボの独立阻止を主張してきたセルビアだが、今年1月にはコソボ政府の施政を事実上認める代わりに、セルビア系住民が多数を占めるコソボ北部の自治を求める国会決議を採択するなど、現実路線へ大きくかじを切った。セルビアのダチッチ首相は「コソボにおけるセルビアの主権は実質的に存在しない」と言明。現実を受け入れ、条件闘争に転じる構えだ。

景気回復にてこずり、失業率が約25%に達するセルビアにとって、EU加盟の成否は死活問題。セルビアは、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷への協力やコソボ政府との対話継続などが評価され、昨年3月に加盟候補国の地位を手に入れた。今年6月のEU首脳会議で加盟交渉開始のゴーサインを得るため、コソボとの関係正常化に向け一層の成果を迫られている。

ただ、関係正常化がそのまま国家承認を意味するわけではない。EUも加盟条件として国家承認までは求めていない。このため、セルビアは今後もコソボの承認を拒みつつ、国境管理や関税徴収など実務面で協力関係を築いていくものとみられる。

一方、EUの狙いはセルビアやコソボをはじめ、バルカン半島西部の国々をEUに加盟させ、「火薬庫」と呼ばれる地域を安定させることにある。ただ、EU内でも、国内に分離独立運動を抱えているスペインなど5カ国がコソボを承認していない。EUはあくまで全加盟国の同意によるコソボとセルビアの同時加盟を目指しており、実現への道は長く険しいのが実情だ。【2月6日 毎日】
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“EUのアシュトン外交安全保障上級代表(外相)によると、「率直かつ建設的な雰囲気」で進められ、両大統領は対話の継続を約束した”【2月7日 時事】というのは、EU側の手前みそ的な評価でしょう。
“ヤヒヤガ大統領は会談に先立ち、「過去の敵意を若い世代に伝えないと固く決心している」と表明。一方、極右民族派として知られ、コソボに強硬なニコリッチ大統領側は会談予定を公表したにとどまる”【2月7日 産経】とも。

もちろん、「セルビアの対応はEU加盟のためにやっている戦略的なものだ」といった見方がありますし、事実、そうした側面は否定できないでしょう。
そうであったにしても、互いに交渉すらしないよりはずっとましでしょう。将来に向けた何らかの関係も生まれる可能性があります。

独立しても欧州最貧国の一つである苦しさは続く
分離独立を果たしたコソボですが、独立から5年がたった今も、経済的には苦しい状況が続いています。

****コソボ独立5年、進まぬ和解…生活厳しく「祖国」発展は道半ば****
アルバニア系住民が主体のコソボがセルビアから独立を宣言し、17日で丸5年を迎える。国民は激しい闘争を経てようやく「祖国」を手にしたが、生活の向上には高い壁が立ちはだかり、少数派セルビア系住民との“和解”も進んでいない。国民が胸に描く「独立国家」としての発展は道半ばだ。

1月下旬の日曜日、クリントン元米大統領の像が立つ首都プリシュティナの繁華街は、多くの人でにぎわっていた。一角の女性用服飾店では、ひっきりなしに訪れる客の応対をしながら、ガスマン・イメラルダ店長(36)は「独立したおかげで、自由に(商売ができるように)なった」と笑顔を見せた。(中略)

市内各所では真新しいマンションなどが目立ち、ビルや高速道路の建設現場で槌音が響く。「インフラも改善され、団地も多くなった。少しずつ良くなっている」。繁華街を家族で訪れた電力会社社員のアルメンド・ガシさん(30)も明るい表情を見せた。
国際通貨基金(IMF)によると、2009~12年のコソボの経済成長率は年平均約4%。世界銀行は昨秋、ビジネス環境に関する各国ランキングで、コソボの順位を前年の126位から98位に引き上げた。

ただ、発展の実感は多くの国民に共有されているわけではないようだ。プリシュティナ近郊のドブロシュツォフ村で家族9人で暮らす電気技師のアレイ・シェイホさん(48)は、「発展の恩恵を受けているのは一部の金持ちだけだ」とやるせない思いを吐露した。
世帯収入は月額約400ユーロ(約5万円)。野菜などは自給自足しているが、生計を支えるのは米国の親類からの年間3千~4千ユーロの仕送りだ。長男の大学費用、自宅別棟の建築費用も親類が負担。大学に籍は置くものの、学費を出せず通っていない次男(20)は「これ以上、親類に迷惑をかけられない」と肩を落とす。

シェイホさん一家の生活は例外ではない。国連機関の報告によると、コソボでは国外の親類らの送金に全世帯の25%が依存。総額は国内総生産(GDP)の最大16%に相当するとされる。独立しても欧州最貧国の一つである苦しさは続く。

同時にコソボの発展に影を落とすのが汚職だ。国内開発を進める中、公共事業発注や公営企業民営化などをめぐる政治家・官僚と企業側の癒着は絶えない。
汚職疑惑を追及する非政府組織(NGO)「チョフー(目覚めろ)」の共同設立者、アブニ・ゾギアニ氏は「民主主義国家としての未成熟さが、腐敗蔓(まん)延(えん)の背景にある」と分析する。

若者の失業率が7割超とされる中、雇用創出には外国からの投資が不可欠。だが、増加傾向にあった投資も昨年は減少したと伝えられる。シンクタンク「コソボ政策開発研究所」のイリル・デダ所長は、「汚職が原因だ。外国投資家を(国外に)追いやってしまった」と指摘している。(後略)【2月17日 産経】
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【「分断の街」ミトロビツァ 「セルビアの土地だ」】
コソボ領内に取り残された形になっているセルビア系住民と多数派アルバニア系住民の対立も大きな問題となっています。
コソボ北部では、独立を受け入れないセルビア系住民が多く暮らしていますが、その中心が川を挟んでセルビア系住民とアルバニア系住民が暮らす「分断の街」ミトロビツァです。
(12年5月8日ブログ「コソボのセルビア系住民に残された道は・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120508
11年12月5日ブログ「セルビア 国境共同管理でコソボと合意 EU加盟候補国へ向け前進」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111205)など)

事実上の国境管理事務所設置やコソボ側での関税徴収をセルビアが認めたことで、本国セルビアにも失望したセルビア系住民によって往来が妨害されるなどのトラブルもおきています。

****一緒に暮らせるはずなのに…」コソボで見た“不信”と“共生****
独立宣言5周年を機にコソボを訪れた。北部の「分断の街」ミトロビツァでは、イバール川を隔てた北側にあるセルビア系住民の居住区に、アルバニア系住民は危険を恐れ立ち入らない。だが、北側に入ってみると意外な反応だった。

当日は北側でデモ集会が行われ、アルバニア系の警官は「やめた方がいい」と助言してくれた。「写真だけ…」のつもりで川にかかる橋の北詰めに行くと、付近のセルビア系住民が手ぶりで集会場所を指す。「集会まで行け」と言っているのだ。周りにいたセルビア系警官も同じそぶり。「私らの意見も聞いてくれ」ということだ。

取材を終えると、案内人のコソボのジャーナリストが橋の北詰めまで迎えにきていた。連絡せずに川を渡ったので心配したようだ。彼はアルバニア系の警官も連れており、「スナイパーが潜んでいることもあるんだよ」と忠告された。本当にスナイパーがいたかはわからないが、両民族の根深い相互不信と当事者が抱く恐怖心をうかがわせた。

ただし、付記すべきエピソードもある。ジャーナリストが案内してくれたある街の市場では長年、両民族が一緒に商売している。買い物中のセルビア系の老人は「北部のセルビア人も一緒に暮らせるはずなのに…」。共生への希望がないわけではない。【2月26日 産経】
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上記記事にあるセルビア系住民居住地での“集会”については、“集会に参加した警備員、マルコ・ラトビッチさん(30)は「コソボはここを自分たちの物にしようとしているが、セルビアの土地だ」と憤る。「対立の解決策は?」という記者の問いには、こう言い切った。「この地がセルビアに戻ることだ。みんながそう思っている」”【2月17日 産経】とのとで、「共生への希望」は実現までには時間を要しそうです。
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欧州経済安定に向けて  キプロスは「緊縮派」勝利で金融支援前進へ、イタリアは?

2013-02-25 23:16:03 | 難民・移民

(ミラノ市内で投票するイタリア・ベルルスコーニ前首相 【2月25日 時事】 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130225-00000015-jijp-int.view-000

キプロス金融支援で、飛び火を防止
地中海の島国キプロスの大統領選挙は今月17日に行われましたが、欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請している保守系野党・民主運動党(DISY)のニコス・アナスタシアデス党首(66)が得票率45・5%で1位となったものの、過半数には届かず、得票率26・9%で2位だった与党・労働者進歩党(AKEL)のスタブロス・マラス前保健相(45)との決選投票が24日に行われました。

マラス前保健相は、支援と引き換えにEUなどが求める財政緊縮策に反発も示しており、結果次第ではキプロス金融支援が遅滞する可能性もある選挙でしたが、決選投票において「EU・IMF金融支援容認・緊縮財政派」のアナスタシアデス候補が勝利し、こえによりキプロス金融支援に向けて動き出すことになりました。

****キプロス大統領選:「緊縮派」が当選 金融支援交渉前進へ****
地中海のキプロス共和国(ギリシャ系)で24日、任期満了に伴う大統領選の決選投票が実施され、即日開票の結果、最大野党の右派・民主運動党のアナスタシアディス党首(66)が当選した。債務危機に直面するキプロスは欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請している。支援の前提となる緊縮財政を公約した新大統領の誕生で、交渉は前進する見通しとなった。

得票率はアナスタシアディス氏の57.48%に対し、与党の左派・労働人民進歩党が推す無所属のマラス元保健相(45)が42.52%だった。

キプロスは経済的に依存するギリシャ危機のあおりを受け、EUなどに支援を要請。昨年末、財政支援を受けることでほぼ合意したが、経済再生計画など支援条件の最終決定は持ち越された。EUのバローゾ欧州委員長は「経済改革への強い信任だ」と歓迎した。

フリストフィアス大統領(66)の後継を狙ったマラス氏は、支援受け入れに賛成しつつ、公営企業の民営化反対などを掲げていた。
ロイター通信によると、アナスタシアディス氏は勝利集会で「欧州を味方につけなければならず、私たちは(経済改革などの)約束を守らなければならない」と演説した。3月1日に就任する。任期5年。投票率は81.58%だった。【2月25日 毎日】
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キプロス自体は経済規模も小さな国ですが、キプロスの破綻は火種を抱える南欧各国に飛び火する危険もあって、キプロス支援の行方は欧州経済の安定の観点から注目されていました。

****小国キプロスをEUが救うべき理由****
地中海の島国キプロスがEUなどに金融支援を求めている。
支援額は170億7とみられ、ギリシャやスペインヘの大型融資に比べれば「はした金」。だが「経済が小規模だから救済してもしなくてもユーロの安定性に関係ない」との油断は、新たな危機の呼び水になりかねない。

ギリシャも当初はユーロ圏に占めるGDPの割合がわずか2・6%の小国だ、という理由で軽視されていた。だがギリシャ財政への懸念はスペインやポルトガルにも飛び火し、欧州全域に債務危機を引き起こした。
同じ意味でキプロスの動向も重要な意味を持つ。EUがキプロスを救済し、危機の連鎖を食い止めるべきなのは間違いない。

ただし支援の方法には一考の余地がある。膨大な政府債務が元凶だったギリシャに対し、キプロスは銀行の不良債権問題が根底にある点でアイルランドに似ている。破綻寸前の銀行に公的資金を注入して財政難に陥ったアイルランドに、EUは巨額の支援を提供した。
だが同国の公的債務は膨れ上がり、国民は長期の緊縮財政に苦しんでいる。やみくもな銀行救済を支えたために痛みを長引かせた失敗を、キプロスで繰り返すべきではない。【2月19日号 Newsweek日本版】
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イタリア総選挙の行方は?】
ただ、欧州経済・ユーロ安定のカギとなるのは、24・25日に投票が行われた欧州有数の経済大国イタリアの総選挙の行方です。

2月8日に実施された有権者投票意向調査は以下のとおりで、緊縮財政を維持する方向の中道左派連合、中道連合が勢いを欠き、緊縮策を批判するベルルスコーニ前首相派、既成政治を否定する五つ星運動が勢いを得ていることは各種メディアが報じているところです。
・中道左派連合民主党ベルサニ書記長 35.2%
・中道右派連合自由国民(PDL)党ベルルスコーニ前首相 28.3%
・ポピュリスト五つ星運動グリッロ氏 15.9%
・中道連合 マリオ・モンティ首相 14.8%

“先行する中道左派連合を反緊縮派が猛追しており、モンティ暫定首相(69)の構造改革路線が継承されるかどうかが焦点。専門家は「中道左派主導政権が樹立される公算が大きい」と予測しつつ、中道右派連合のベルルスコーニ前首相(76)らが勝利すれば「イタリアの信用が低下する」と警戒する。”【2月24日 毎日】

金銭・セックスのスキャンダルまみれながらも、まさかの復活の勢いを見せているベルルスコーニ前首相に対しては、無責任なばら撒き政策・人気とり政策でイタリア、ひいては欧州経済を混乱に導きかねないとの批判が関係国には根強くあります。

****ベルルスコーニ氏に投票しないで=伊選挙に介入―欧州議会議長****
ドイツからの報道によると、欧州連合(EU)欧州議会のシュルツ議長(独出身)は21日、イタリア国民に対し、24、25両日の伊総選挙では、中道右派連合を率いるベルルスコーニ元首相を支持しないよう呼び掛けた。

ベルルスコーニ氏は首相だった2003年当時、欧州議員のシュルツ氏をナチス・ドイツの強制収容所の監視役に適任だと発言し、独伊間で外交問題になった経緯がある。
報道によれば、シュルツ議長は「ベルルスコーニは無責任な言動でイタリアを混乱に陥れた。有権者は必ずや(総選挙で)正しい選択を行うだろう」と述べた。【2月21日 時事】 
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世界が注目する選挙ですが、投票率は低かったようで、政治不信の表れとの指摘もあります。
イタリアの失業率は昨年12月時点で11・2%。25歳未満だと、36・6%という状況ですから、政治への信頼を期待するのが無理とも言えます。

****イタリア総選挙、投票率が大幅低下 政治不信の表れか ****
財政再建などモンティ政権による改革路線の是非を問うイタリア総選挙は24日、初日の投票を終えた。内務省によると午後10時(日本時間25日午前6時)現在の下院の投票率は55.2%で、前回2008年4月の総選挙の同時点より7.4ポイントも下がった。

今回は欧州債務危機後で初の総選挙となったが、選挙日が近づくにつれて二大勢力である中道右派と中道左派の両陣営に関連するスキャンダルが続出。政治への不信感が投票率の低下につながった可能性がある。

投票は25日午後に締め切り、同日夜(日本時間26日未明)に大勢が判明する見通し。下院で勝利する公算が大きい中道左派が、上院でも過半数を獲得できるかが焦点だ。改革路線の継承をうたう左派が安定政権を確立できなければ、同国の財政再建が後退するとの不安から、金融市場で欧州債務危機が再燃することが懸念されている。【2月25日 日経】
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あと1時間もすれば、投票締め切り後の出口調査が発表されると思われますが、どうなることやら・・・。
下院は追い込まれながらも中道左派連合が過半数を獲得すると予想されていますが、上院は不透明です。結果次第では、いくつかの連立の組み合わせも予想されています。

【追記】
“投票終了直後に公表された投票当日の支持率調査では、モンティ政権の財政再建・緊縮策を大枠で支持する中道左派連合(民主党など)が35~38%で首位となり、緊縮策大幅緩和を掲げるベルルスコーニ前首相の中道右派連合(自由の人民など)が29~32%で続いた。反緊縮・反既成政党の「五つ星運動」は17~21%、緊縮策堅持を訴えるモンティ首相の中道連合(キリスト教中道民主連合など)は7~10%だった。”【2月25日 読売】
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アメリカ  再燃する無人機攻撃の合法性問題

2013-02-24 22:21:31 | アメリカ

(2011年4月22日のアメリカ無人機による攻撃で多数の民間人犠牲者がでたとして,星条旗を燃やして激しく抗議するパキスタン市民 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/5644792433/

無人偵察機の航行システムを乗っ取り地上に着陸させた
今日イランで、一昨年12月に続いて無人偵察機がまた補足されたようです。

****イラン:無人偵察機捕捉と発表、国名は言及せず****
イランの革命防衛隊は23日、同国南部で実施している軍事演習の区域内に侵入しようとした外国の無人偵察機1機を捕らえたことを明らかにした。どの国の偵察機かは言及していない。イランのメディアが伝えた。
革命防衛隊によると、無人偵察機の航行システムを乗っ取り、演習区域近くの「地上に着陸させた」としている。

イランは2011年12月、同国東部の領空を侵犯した米無人偵察機を撃墜したと発表。同機は敵のレーダーに探知されにくい高度のステルス性能を持つRQ170とされ、米側は高度な技術情報の流出を懸念している。【2月24日 毎日】
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無人機をイランで飛ばすとしたらアメリカかイスラエルでしょうが、前回のアメリカ無人偵察機のときも“革命防衛隊の電子戦部隊のわなにかかり、サイバー攻撃によってほとんど無傷で着陸させられた”と発表されていました。
故障とか撃墜とかでなく“航行システムを乗っ取り着陸させた”ということであれば、今後の無人機の活動にも大きな影響があるのではないでしょうか。
前回補足された機体はその後どうなったのでしょうか?ロシアと中国が機体の調査をイランに申し出ているという話もありましたが。

客観性が担保されない“暗殺”か、躊躇は「敗戦に至る道」か
アメリカ・オバマ政権は、“米兵の生命に直接的な危険がなく、極めて効率的に効果を得られる無人機攻撃”を多用していますが、このところ、アメリカでは無人機攻撃によるテロリスト殺害の法的妥当性が再び問題となっています。

****論議再燃 無人機による“処刑”の是非****
米国の対テロ戦争で、無人機攻撃の是非を問う議論が改めて再燃している。大統領は情報当局が国際テロ組織アルカーイダの幹部と判断すれば、具体的な理由を「機密情報」の闇に包んだまま、たとえ米国人でも無人機による“処刑”が可能だ。
国家同士の戦闘とは異なる対テロ戦争で、米国の安全を守るため、どこまで司法や議会のチェックを経ない権力の行使が許されるのかが問われている。

オバマ政権下で急増
オバマ政権のテロ政策を主導し、次期中央情報局(CIA)長官に指名されたジョン・ブレナン大統領補佐官(57)は7日、上院情報特別委員会の公聴会で、オバマ政権が無人機攻撃を実行するのは「脅威を軽減させる他の選択肢がなく、人命を守る最後の手段」と判断した場合のみであることを強調した。

オバマ政権はこの4年で、米兵の生命に直接的な危険がなく、極めて効率的に効果を得られる無人機攻撃に対テロ作戦の重心を移してきた。
シンクタンク、新アメリカ財団の調査では、2008年に33回だった無人機攻撃は10年には3倍以上の118回。ブッシュ前政権時代は通算でも50回以下で、大幅増が顕著になっている。

無人機攻撃がクローズアップされたのは11年9月、米国籍を持つイスラム武装勢力「アラビア半島のアルカーイダ」(AQAP)幹部で、米国を狙った複数のテロ事件に関与したアンワル・アウラキ容疑者の殺害だ。
バラク・オバマ大統領(51)はアウラキ容疑者の死亡を公表した演説で「アルカーイダや関連組織は、世界のどこにも安全なる聖域を見つけることはできない」と胸を張った。だが、客観的なチェックのない政権単独の判断で、米国人が“処刑”される事態には、被害防止と加害者の人権のバランスをめぐる議論を加速させた。

担保されない客観性
政権側が主張する無人機攻撃の根拠は、米議会が中枢同時テロを受けた2001年9月、アルカーイダ掃討のため、大統領に与えた武力行使容認の権限にある。それを基に司法省が、米国籍テロリスト殺害の法解釈に関する報告書を作成しており、機密扱いとなっている。

NBCテレビが今月4日に報じた報告書の内容によると、政府は「切迫した脅威」があれば、テロリストを殺害できる。脅威を具体的に示す必要はなく、対象者の「最近」の「活動」に米国の「脅威となる攻撃」への関与があれば十分という。

反対派が問題視するのは「切迫した脅威」や「活動」が何を意味するのかが、極めて曖昧な点だ。何より、内容を問いただそうにも「機密」の壁があり、政府側は解答を拒否できる。戦時とはいえ、客観性が担保されない“暗殺”への懸念が、ここに集約されている。
上院情報特別委の公聴会で、民主党のロン・ワイデン上院議員(63)は、国民の殺害に関し、法や議会の監視といった「束縛のない権限」を大統領に与えるのは問題だと指摘した。

米紙ニューヨーク・タイムズも8日付社説で「監視監督や検証なし」に米国人を殺害できるとの政権側の主張は「受け入れられない」と切り捨て、テロを防ぐためとはいえ、あらゆる制約から解放されるわけではないと強調した。

躊躇は「敗戦に至る道」
一方、米紙ウォールストリート・ジャーナルは7日付の社説で「無人機での戦闘は合法であり、米国を守るのに必要だ」と主張。戦場での標的の識別に司法判断が必要になれば、米国は「敗戦に至る確かな道」を歩むことになると警鐘を鳴らした。

国家同士が戦火を交える従来の戦争と違い、対テロ戦争は標的が一般市民に紛れ、国境を越えて活動する。一瞬の躊躇(ちゅうちょ)が容疑者を取り逃がし、後の大規模なテロに結びつきかねない。
一方で、チェック機能が働かぬまま、政府が自国民を殺害する法治国家などあり得ず、米国での議論は、ますます活発になりそうだ。【2月24日 産経】
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アメリカの無人機攻撃による死者数について、米上院議員が“民間人を含めて4700人”という具体的数字を明らかにしたことも話題になっています。改めて考えると、“4700人”という数字は膨大な数です。

****米無人機攻撃による死者は4700人、米上院議員****
米サウスカロライナ州イーズリーの情報ウェブサイト「イーズリーパッチ」は20日、同州選出のリンゼー・グラム上院議員(共和党)が、米国の無人機攻撃でこれまでに死亡したのは民間人を含めて4700人だと語ったと報じた。

無人機攻撃を強く支持しているグラム上院議員はイーズリーのロータリークラブの会合で、罪のない民間人の犠牲も出ていることは憎むべきことだと思っているとした上で、「これは戦争だ。(無人機攻撃で)アルカイダの主要幹部の殺害にも成功している」と語ったという。

これまでに米政府高官が民間人死傷者数の推定をほのめかしたことはあったが、米政府関係者あるいは米議員が無人機攻撃による死者の総数に言及したのはグラム議員が初めて。
グラム議員の事務所は報道された内容の発言があったことは否定せず、この情報はすでに明らかにされているものであり政府の機密を漏えいしたものではないという姿勢をAFPに示した。

米軍はアルカイダ戦闘員の掃討作戦としてパキスタンやイエメンなどで数百回にわたり無人機攻撃を実施しているが、人権団体などから超法規的な暗殺だという批判が出ている。米政府は無人機を使った作戦の詳細を公にすることを拒んでおり、無人機攻撃による死者数は明らかになっていなかった。【2月21日 AFP】
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現実感のないゲーム感覚での殺害
無人機攻撃の合法性については、上記【2月24日 産経】で紹介している、「切迫した脅威」「脅威となる攻撃への関与」の客観性・情報非開示の問題の他、2011年10月6日ブログ「アメリカの無人機攻撃 アウラキ師殺害で改めて問われる合法性」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111006)で取り上げられているように、多くの攻撃が法的には戦闘員ではない米中央情報局(CIA)に属する操縦士によって行われてこと、戦闘地域の外で警察でもない者が、しかも警告もなく破壊的武器を使用することの問題、巻き添えになった一般市民犠牲者の問題などが挙げられています。
どんな大義を掲げようが戦争そのものが超法規的殺し合いであり、「これは戦争だから」と言ってしまえばそれまでですが。

「これは戦争だから」ということで合法性の問題を避けたとしても、もっと基本的な違和感も残ります。

****自宅から出勤「午前はアフガン、午後イラク*****
米国本土の基地から衛星通信を使い、1万キロ以上離れた戦地で無人航空機を飛ばす。兵士は自宅で家族と朝を迎え、基地に出勤。モニター画面に映る「戦場」で戦い、再び家族の待つ家に帰る--。

「午前中3時間はアフガンで飛ばし、1時間休憩する。午後の3時間はイラクで飛ばす。米国にいながら、毎日二つの戦場で戦争をしていた」。イラク戦争が始まった03年、米西部ネバダ州ネリス基地で無人機のパイロットをしていたジェフリー・エガース大佐(48)が振り返る。【2010年4月30日 毎日】
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また、2010年5月3日ブログ「戦争を変える無人航空機の実像と問題」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100503)でも、この“違和感”について取り上げました。

****現実感ない「死」の映像****
米陸軍によると、無人機操縦者の7人に1人は民間人。無人機の急増に、兵士の訓練が追いつかない状況だ。米軍交戦規則で民間人の戦闘行為は禁じられているため、ミサイルボタンを押す瞬間は「兵士と交代する」(陸軍)。一方、民間人SOの大半は、20代の若者。戦場を歩いた経験もない。映像から不審な動きを報告するSOの役割は大きく、攻撃態勢を一気にエスカレートさせることもある。【2010年5月2日 毎日】
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2011年10月6日ブログでも書いたように、遠く離れた本国などで、現地事情に詳しくないオペレーターが、血しぶきを浴びることも、叫び声を聞くこともなく、自ら危険にさらすことなく、さながらゲーム感覚で殺害を実行、終われば帰宅して自宅ソファでグラスを傾ける・・・そうしたことへの違和感が拭えません。

こうした無人機攻撃に対抗するのは、自らの体を武器とする自爆攻撃です。
ただ、自爆攻撃には洗脳された若者なども多く使われ、また、薬物で錯乱させられた女性が爆弾を巻きつけられて遠隔操作で起爆する例などもあるようで、人間としての心を喪失し、操られているという意味では無人機と似ているのかもしれません。

無人機攻撃の“ゲーム感覚での殺害”に違和感は感じますが、どんな方法をとろうと戦闘行為に差はないとも言えますし、血しぶきを浴びて殺すのがよくて、そうでないとが悪いという訳でもないでしょう。同じ殺すなら、残忍な現場にいずに事を終えるというのは“進化”かもしれません。・・・・うまく整理がつきません。

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パレスチナ  ハマス、穏健化路線模索? エジプト・モルシ政権を軸に進む関係調整

2013-02-23 22:17:11 | パレスチナ

(エジプト・モルシ政権によるガザ地区密輸トンネルへの注水作戦については、イスラエル国内にその真意を疑う向きもあるようです。 “flickr”より By Jerusalem Prayer Team http://www.flickr.com/photos/jerusalemprayerteam/8477160830/

際立つ停戦の「本気ぶり」】
パレスチナ情勢に関して、昨日下記の短い記事を目にしました。

****ロケット弾攻撃ゼロに=ガザ停戦から3カ月―パレスチナ****
2012年11月に発生したイスラエルとパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの大規模衝突の停戦が成立してから3カ月。この間、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区からのロケット弾攻撃が完全に停止している。
イスラエル軍によると、11年ぶりのことで、今回の停戦の「本気ぶり」が際立っている。
ガザへの影響力を強めるエジプトのモルシ政権が自重を求めているのに加え、ハマスが穏健化路線を模索していることが背景にある。【2月22日 時事】
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記事にあるようなハマスの穏健化路線が本気なら、ファタハとの統一政府づくりも加速し、ひいてはイスラエルとの和平交渉への枠組みもつくれることになります。

パレスチナ自治政府を率いるファタハとガザ地区を実効支配するハマスは、これもエジプト・モルシ大統領の仲介でトップ会談が先月実現しましたが、その後の動きに関する情報はまだ目にしていません。

****パレスチナ:ファタハとハマス、1年ぶりトップ会談****
パレスチナ自治政府の主要政党ファタハのアッバス議長と自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの指導者、マシャル氏が9日、エジプトの首都カイロで会談した。会談内容は明らかにされていないが、和解交渉について協議したとみられる。両者の会談は約1年ぶり。

両者は会談前、個別にモルシ・エジプト大統領と会談。パレスチナ統一政府樹立などに向け具体的進展を目指したが、アッバス議長との会談後、エジプト側は進展がなかったことを明らかにした。
ファタハとハマスは11年5月、統一政府を樹立することや1年以内に議会選挙などを実施することで合意。しかし、その後も統一政府や選挙は実現していない。【1月10日 毎日】
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この会談については、“AFP通信によると、協議を仲介したエジプトのモルシ大統領の報道官は、「両者は和解に向けた具体的な履行を進めることで合意した」と語った。ハマス、ファタハ幹部は、協議は「前向きな雰囲気」で行われたと強調した。ただ、今後の協議の内容や日程などは明らかにされておらず、和解合意の履行が順調に進むかどうかは不透明だ。”【1月10日 読売】とも報じられていました。

エジプト:イスラエルとの協調姿勢も
エジプト・モルシ大統領の出身母体「ムスリム同胞団」は、かつてハマスを生んだ組織でもありますので、その関係の近さを利用してパレスチナ仲介を進めているようです。
一方で、エジプト・モルシ大統領にとってイスラエルとの関係も重要です。
エジプトは1979年にイスラエルと平和条約を締結し、アラブ世界で最初のイスラエル承認国となり、現在も国交を有しています。
ムバラク政権が崩壊し、ハマスと近いムスリム同胞団を基盤とするモルシ政権が誕生したことで、エジプト・イスラエルの関係がどうなるのかは注目されているところです。

****エジプト:ガザ境界の密輸トンネル破壊 イスラエルと協調****
エジプト治安当局は今月10日から、パレスチナ自治区ガザとの境界にある地下密輸トンネルを注水によって破壊する作戦を始めた。治安当局は、武装勢力の越境や、イスラエルとの戦闘に使う武器の運搬にトンネルが使われているとみている。治安の強化とともにイスラエルとの関係安定を図る狙いがあるとみられるが、物資不足からガザ住民の反発を招くことも予想される。

エジプトメディアによると、ガザの境界には2010年時点で約1200の密輸トンネルがあった。これまでも爆破などで破壊してきたが、すぐに別ルートが掘られる状況が続いたため、広範囲でトンネル掘削が困難になるように注水作戦を強化したとみられる。

背景には周辺地域での治安の悪化がある。11年のリビア内戦後、エジプトを通じて大量の武器がガザに渡ったと指摘されてきた。12年6月にはリビア国境近くでガザに運ばれる途中のロケット弾約140発などがエジプト当局に押収された。
12年8月には、ガザ境界近くの検問所が武装勢力に襲撃され、兵士ら16人が殺害された。治安当局は事件直後からトンネルの破壊作戦を開始。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によると、12年に100本以上のトンネルがエジプト当局に破壊された。

ガザでは、イスラム原理主義組織ハマスが実効支配した07年以降、イスラエルが経済封鎖を行い、物資の輸入を規制した。中でも「軍事転用が可能だ」として輸入が原則禁止されたセメントなどの建築資材は、主にトンネル経由で調達されてきた。UNRWAによると、エジプトのトンネル破壊によって建築資材が供給不足に陥り、価格が約45%値上がりしたといい、エジプトへの非難が高まりかねない状況だった。

だがイスラエルは昨年12月末、規制を緩和し、セメントなどの輸入を認めた。11月にイスラエルが8日間にわたってガザを空爆。ハマスと関係が深いムスリム同胞団出身のモルシ大統領の仲介によって停戦が成立しており、輸入規制緩和も停戦工作の一環だった。今回の注水作戦は、譲歩を示したイスラエルとの協調姿勢を示す狙いがあるとみられる。【2月18日 毎日】
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ガザ地区と結ぶ密輸トンネルに対するエジプトの対応は基本的によくわかりません。
これまでもエジプトが本気で潰す気があれば約1200とも言われるトンネルは存続できるはずもなく、エジプトはトンネルの存在を一定に黙認してきたようにも思えます。
そうしたなかでの、今回のイスラエルとの協調もアピールする注水作戦とのことです。当然、ハマスとは何らかの話を行ったうえでの作戦でしょう。

モルシ大統領の仲介で、イスラエルとハマスが停戦し、ハマスは行動を自重し穏健化を進め、一方でエジプト・イスラエル関係も協調的に維持される・・・・ということであれば、エジプトを軸にしたイスラエル・パレスチナの和平合意交渉も・・・・という話にもなりますが、もちろん事はそう簡単ではないでしょう。
ただ、エジプト・イスラエル平和条約も、“条約は、エジプトおよびパレスチナ自治政府との間の和平を連鎖させることを企画していた”【ウィキペディア】とのことですので、当初意図された流れに沿うものではあります。

エジプト・イスラエル平和条約を締結したサダト大統領は条約に反対する過激なイスラム主義者によって暗殺されましたが、今、イスラム主義を掲げるモルシ政権によって、エジプト・イスラエル・パレスチナの中東安定が実現させるのか?

イスラエル:リブニ元外相が新政権入り
イスラエルでは総選挙を受けてネタニヤフ首相の組閣が行われていますが、外相には、選挙戦で和平交渉の再開を公約に掲げた中道の新党ハトヌア党首のリブニ元外相が起用されています。

****リブニ元外相が政権入りへ=中東和平交渉担当も―イスラエル****
1月のイスラエル総選挙後にペレス大統領から続投を要請され、組閣作業を行っているネタニヤフ首相は19日、中道の新党ハトヌア党首のリブニ元外相が新政権入りし、パレスチナとの和平交渉を担当すると発表した。リブニ氏は法相に就任する見通し。選挙戦で和平交渉の再開を公約に掲げたリブニ氏の起用で、停滞する交渉の打開につながる可能性もある。

総選挙で与党リクードの統一会派が第1党になり、ネタニヤフ首相は組閣作業に入ったが、連立協議は難航している。閣僚ポストと参加政党が決まるのは初めて。【2月20日 時事】
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エジプト:4月に議会選挙
外交的には存在感を示すエジプト・モルシ大統領ですが、経済的苦境を背景にイスラム勢力と世俗・左派系の対立・混乱が続くエジプト国内事情は相変わらずです。
この4月には議会選挙が行われますが、イスラム勢力が圧勝した前回選挙の再現となるのかが注目されています。

****議会選は4月27日から=4回に分け実施―エジプト****
エジプトのモルシ大統領は21日、人民議会(国会)選挙を4月27日から4回に分けて実施することを決めた。大統領令によれば、新議会は7月6日に招集される。

今回の選挙は、大統領が属するイスラム原理主義組織ムスリム同胞団が母体の自由公正党が、2011年11月から12年1月にかけて行われた前回選挙と同様に圧勝できるかが焦点。また、大統領支持派のイスラム勢力と世俗・左派系の対立が激化する中、円滑に実施できるかも課題となる。【2月23日 時事】 
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アフガニスタン  米軍、今後1年間で約半分に縮小 15年以降の国際部隊については方針決定遅れる

2013-02-22 22:37:20 | アフガン・パキスタン

(ブズカシは、“2組の騎馬隊がヤギをボール代わりにして奪い合う競技で、アフガニスタンの国技”“もともと、生きたヤギを引き回していたが、後にヤギの皮に砂を詰め、使うようになった”【ウィキペディア】とのことです。アフガニスタンらしいワイルドな競技ですが、スポーツ・音楽・娯楽などを禁じるタリバン統治下では禁止されました。写真は“flickr”より By tlehtonen@yahoo.com http://www.flickr.com/photos/tlehtonen/6522279495/

【「治安責任を引き継ぐアフガン政府の能力に沿った決定」】
「14年末までの国際部隊撤退」というスケジュールに沿って、アメリカのアフガニスタン撤退が具体化しつつあります。
オバマ大統領は12日の一般教書演説で、アフガニスタン駐留米軍を2014年の初めまでに3万4000人撤退させ、現在の駐留米軍6万6000人を約半分に縮小することを表明しています。

アフガニスタン政府もこの撤退計画を一応歓迎しています。タリバンは、もちろん「アメリカは今すぐ出ていけ」ということで不満を見せていますが。

****米撤退計画を「歓迎」=タリバンは不満表明―アフガン****
アフガニスタン外務省報道官は13日、オバマ米大統領がアフガン駐留米兵の約半数に当たる3万4000人を今後1年間で撤退させると表明したことについて「治安責任を引き継ぐアフガン政府の能力に沿った決定であり、歓迎する」と述べた。

報道官はまた、国際部隊からの治安権限移譲が完了する「2014年末以降もアフガン部隊が全土で完全に治安を守れると確信している」と自信を見せた。ただ、アフガン治安部隊は現在35万人規模まで増加したものの、個々の能力は国際部隊に及ばない上、12年には治安部隊員が仲間の国際部隊を襲撃する事件が相次ぐなど組織統制の脆弱(ぜいじゃく)さも露呈。本格的な治安維持能力の獲得には時間を要しそうだ。

一方、反政府勢力タリバンの報道官は取材に「速やかにアフガンを去り、占領に終止符を打つべきだ」と即時の全面撤退を要求、段階的な撤退計画に不満を示した。【2月13日 時事】
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アメリカで1月11日に会談したオバマ、カルザイ両大統領は、治安維持の主導権を、今年半ばの予定を前倒しして今春にアフガニスタン側に移譲することと確認、権限移譲を加速させています。

刑事訴追免責を巡る米アフガニスタン間の確執
しかし、能力的に未だ問題が多いアフガン治安部隊の教育・訓練のために、14年末の撤退後もある程度の規模の国際部隊は残留しますが、この点に関してはアメリカの方針決定が遅れています。
一番大きな原因は、米軍の犯罪をアフガニスタン国内法で裁かないという刑事訴追免責を巡る問題です。
アメリカ側は免責が絶対条件としていますが、アフガニスタン・カルザイ大統領は「アフガニスタンの主権や法が侵害されない形」を要求しています。

****アフガン:国際部隊編成、暗礁に 米国の方針決定遅れ*****
北大西洋条約機構(NATO)が14年末に撤退を完了した後、アフガニスタン国軍の教育・訓練を担当する国際部隊の編成作業が暗礁に乗り上げている。

21日開幕したNATO国防相会議で訓練部隊の大枠を決める予定だったが、米国の方針決定が遅れ延期になった。背景にはアフガンと米国間の安全保障協定の締結遅れや、展開規模・地域を巡る米大統領と軍、NATO諸国間の意見対立がある。
NATOでは今年6月にブリュッセルの本部で「ミニ首脳会議」を開き事態を打開する案も浮上している。

NATOは昨年の首脳会議で15年以降も教育・訓練部隊を担うことで合意。オーストラリアやスウェーデンなどNATO以外の10カ国も参加を検討中だ。
しかし、部隊の半分を担う米国の方針が決まらず、NATO国防相会議での枠組み決定を見送った。ラスムセン事務総長は21日、「数カ月以内に決める」と話し、パネッタ米国防長官も21日、加盟国に来年2月までに決めるとの意向を示した。

背景には、米兵の刑事訴追免責を巡る米アフガン間の確執がある。両国は、駐留米軍の地位を定める安全保障協定を協議中だが、米側がアフガン国内法による米兵の訴追を免責する条項を盛り込むよう要求。アフガン側が拒み、難航している。
イラクでは刑事免責で合意できず、11年に米軍が完全撤退している。NATO高官は「免責はアフガンの主権の核心。協議は極めて困難で時間がかかるが、今年半ばまでの解決を期待する」と話す。

また、財政難から駐留規模を抑えたい米大統領側と、治安の混乱を憂慮し規模を大きくしたい米軍側の意見対立も残る。オバマ大統領は今月の一般教書演説で、約6万6000人の駐留米軍を今年末までに3万4000人削減することは表明したが、15年以降の数字は言及しなかった。

NATOでは訓練部隊を2万人規模にし、半分を米軍が担う案が有力だが、米国次第で大きく左右される。
NATO内では、訓練部隊を首都カブールに集中させる案と、地域での拠点を維持する案の対立もある。【2月21日 毎日】
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刑事訴追免責を巡る問題は、なかなか厳しいと思われます。
日本でも、沖縄駐留米軍の事件で日米地位協定がしばしば大き政治・社会問題となります。
まして、アフガニスタンは民間人を巻き込む事件が容易に起きうる準戦時下の状況です。

アフガニスタン側からすれば、当然に“主権の問題”です。何か問題が起きたとき国民感情を逆なですることになります。そうでなくても、主権を譲り渡したとタリバンなどからの批判を浴びます。
アメリカ側からすれば、自国兵士がアメリカの手の及ばないところで裁かれるというのは国内的に容認できないところでしょうし、独自の判断による軍事的作戦も遂行できないということにもなります。

上記記事にもあるように、イラク撤退時にはマリキ政権との協議が結局整わず、アメリカ側は完全撤退することになりました。
誤爆などの民間人犠牲者が多く出ている現状から、アフガニスタン・カルザイ大統領は、当時のイラク・マリキ政権以上にアメリカの行動に批判的です。そこがアメリカの気に入らないところでもありますが。
ただし、一応は反政府勢力の大規模活動は抑えられていたイラクと異なり、アフガニスタンはタリバンが反政府勢力として未だ存在しており、アメリカの後ろ盾を必要とする度合いもより大きいと言えます。

国内世論向けに“主権”をアピールする必要性と、軍事的な米軍の必要性の兼ね合いの問題になります。
政治スケジュール的にも、カルザイ大統領が退任して2014年4月には次期大統領選挙が実施されという微妙なところです。

カルザイ大統領は米軍などによる誤爆について、かねてより厳しい批判を行っていますが、ISAFへの空爆要請を禁じるとの方針も出されています。
 
****誤爆続く支援部隊にアフガン大統領「空爆禁止****
アフガニスタンのカルザイ大統領は16日、旧支配勢力タリバンの掃討作戦に従事するアフガン治安部隊に対し、後方支援として国際治安支援部隊(ISAF)に空爆を要請することを禁じる考えを表明した。
首都カブールの国軍士官学校で講演し、「いかなる状況下でも外国軍の戦闘機に我々の民家を爆撃させるような応援要請は許さない」と述べ、大統領令を出す意向を示した。

ISAFの戦闘機による誤爆は後を絶たず、12日にも東部クナール州で子供や女性を含む市民10人が死亡した。ただ、現実問題としてアフガン治安部隊はISAFの空爆に大きく依存しているとされ、応援要請が禁じられれば作戦への影響も避けられない。【2月17日 読売】
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アフガニスタン治安部隊だけの作戦行動がどこまで可能なのか・・・疑問も残るところですが、タリバン側が弱体化してきているのに対し、装備的にも勝り、米軍等の訓練成果もあってアフガニスタン治安部隊の実力は増している・・・との見方もあるようです。

駐留規模については、アメリカ国内の厭戦気分と財政難から、オバマ政権としては小さく抑えたいところでしょう。
オバマケアもあって、アメリカの医療保険支出は今後10年間で倍増すると見られています。増税でカバーできる余地は限られていますので、巨額の国防費を削るしかないところでしょう。
軍部・共和党がどのように反応するか・・・。

【「この国では有名になると命を狙われる」】
話は変わりますが、アフガニスタンで撮影された短編映画がアカデミー賞にノミネートされ、主役を演じたアフガニスタンの少年がアメリカ市民の寄付金によってアメリカへ招待されるという“心温まる話”が話題になっています。

*****アカデミー賞:実生活もとに演じたアフガン少年、表彰式に*****
アフガニスタンで撮影された短編映画「ブズカシ・ボーイズ」が今年のアカデミー賞短編実写映画賞にノミネートされ、主演のファワド・ムハンマディさん(14)が24日に米ハリウッドで行われる授賞式に参加する。実生活をもとにカブールの路上で地図を売って生活する貧しい少年を演じた。対テロ戦争の現場からレッドカーペットを踏むことに「言葉にできないほどうれしい」と語った。

ムハンマディさんは学校の7年生(日本の中学1年に相当)。5年前に父を病気で亡くし、路上での物売りで8人家族の生計を支えている。その様子が米国人のサム・フレンチ監督の目に留まり、起用された。(中略)

外国旅行は初めて。市民団体がインターネットで呼びかけ13カ国の237人から計1万ドル(約93万円)以上の寄付が集まり実現した。20日、ロサンゼルスの空港に到着したムハンマディさんはフレンチ監督の出迎えを受け、「(アクション映画)ランボーに出たシルベスター・スタローンに会いたい」と笑顔を見せた。

映画が昨年公開されて以降、地図を買ってくれる人が増えたという。「でもこの国では有名になると命を狙われる。カブール郊外では(旧支配勢力)タリバンが今でも支配し、夜間は出歩けない」と不安ものぞかせた。【3月22日 毎日】
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TVニュースでちらっと観たところ、彼が路上で売っている地図は世界地図のように見えました。アフガニスタンの路上で世界地図が売れるのか、ちょっと心配にもなりました。いろんな地図を扱っているのでしょうか。
“心温まる話”はともかく、「でもこの国では有名になると命を狙われる。カブール郊外では(旧支配勢力)タリバンが今でも支配し、夜間は出歩けない」という言葉がアフガニスタンの現状であり、心に残るところです。
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バングラデシュ  独立戦争当時の残虐行為に関連して、最大イスラム政党の非合法化を検討

2013-02-21 21:49:54 | 南アジア(インド)

(2月14日 ダッカ 独立戦争当時の残虐行為に関連したとされるイスラム協会指導者の死刑を求める群衆
要求内容は別にして、バングラデシュでは「ホルタル」(ゼネスト)に代表されるように、政治的要求が往々にして過激な騒乱(政治勢力によって意図的に仕組まれることも)の形をとるようです。
写真は“flickr”より By AJstream http://www.flickr.com/photos/61221198@N05/8477446610/)

国旗の赤色は犠牲者の血の色
普段あまりメディアに取り上げられることがないバングラデシュに関して、興味深い記事がありました。
バングラデシュは人口の83%ほどがイスラム教徒というイスラム国家ですが(残りの16%ほどはヒンドゥー教徒)、“バングラデシュ政府が、活動家殺害を理由に同国最大のイスラム政党を禁止することを検討中”とのこと。
最近世界各地で活動が活発化しているイスラム過激派対策か・・・と最初思ったのですが、1971年の独立戦争当時の残虐行為に関係するもののようです。

****バングラ政府、イスラム政党の禁止検討―ブロガー殺害を理由に****
バングラデシュ政府は17日、同国最大のイスラム政党であるイスラム協会を禁止することを検討中だと発表した。首都ダッカで広がった大規模デモの開催を支援した、オンライン活動家を殺害したことが理由だと説明している。

警察によると、15日夜にアハメド・ラジブ・ハイデルさんが自宅前で刺し殺されているのが発見された。ハイデルさんは26歳のブロガーで、イスラム教徒への罰の厳格化を求めるデモの開催を支援した。このイスラム教徒は1971年のパキスタンからの独立戦争で残虐行為を働いたと非難されている。一連のデモは過去20年のバングラデシュで最大規模となっている。

同国のハシナ首相は、16日にハイデルさんの家を訪問した後にテレビ出演し、同国最大のイスラム政党のイスラム協会がハイデルさんを殺害したと非難した。

シャフィク・アフメド法相は17日、記者会見で、政府が「暴力的な戦術」を理由にイスラム協会の禁止を検討していると述べ、「人殺しをする政党が運営を許されることはできない」と説明した。
イスラム協会はハイデルさんの死への関与を否定し、「大規模なプロパガンダキャンペーン」だと政府を非難した。
同協会は声明で、「バングラデシュのイスラム協会も(関連組織も)この恐ろしい犯罪と何の関係もない」と訴え、「われわれは独立した調査を求める」と訴えた。

ハシナ首相のアワミ連盟率いる政府の議員らは17日夜、戦争裁判を支配する法律の改定を承認。これにより、検事が遡及(そきゅう)的により厳しい刑罰を求めて上訴できるようになった。元の法律では、国は無罪判決を求める上訴しかできなかった。
今回の改定ではまた、政府が組織を戦争犯罪裁判にかける権限を得た。アナリストらはイスラム系の政党を起訴する前触れとなる動きかもしれないと語る。
 
1971年の独立戦争では民間人数十万人が死亡したが、その多くがパキスタンからの独立に反対するイスラム武装組織による殺害だった。2010年、ハシナ氏は戦争犯罪の裁判所を設置し、40年間引きずってきた傷をいやそうとした。ここで裁判にかけられた容疑者10人のうち8人が、主要野党のバングラデシュ民族主義党(BNP)と同盟を組むイスラム協会の所属だ。

先月下された戦争裁判所初の判決では、被告不在のままイスラム協会の元リーダーに対して死刑が宣告された。今月あった次の判決では、党幹部のアブドル・カデル・モラに終身刑が下された。
この2つ目の判決を受け、ダッカで大規模デモが発生。子供連れの家族も含めたデモ隊が同都市中心部の目抜通り、シャハバグに次々流れ込み、モラ氏の絞首刑を要求した。【3月20日 The Wall Street Journal】
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イギリスからの独立したパキスタンは、西パキスタン(現在のパキスタン)と東パキスタン(現在のバングラデシュ)という、インドによって1000km以上も隔てられた地域が国家を形成する不自然とも言える“飛び地国家”でした。

政治の中心は西パキスタンが握っており、東パキスタンは実質的に西の植民地的地位に置かれていました。
“1970年12月の選挙で人口に勝る東パキスタンのアワミ連盟が選挙で勝利すると、西パキスタン中心の政府は議会開催を遅らせた上、1971年3月には軍が軍事介入を行って東パキスタン首脳部の拘束に動いた”【ウィキペディア】ということから、東パキスタンは独立を求めて戦争状態に入ります。

このバングラデシュ独立戦争においては、独立を阻止するべく西パキスタン軍に加えて過激なイスラム政治団体などが、独立運動活動家はもとより、知識人やヒンドゥー教徒を標的として殺戮を繰り返したと言われています。
今回問題となっている戦争犯罪行為はこのときのものです。
戦争の方は、大量の難民が流入したインドがバングラデシュ独立を支持して介入、1971年バングラデシュの独立が達成しました。

この独立戦争による犠牲者は約100万人とも言われていますが、バングラデシュ政府は約300万人と発表しています。
第2次大戦後の戦争犠牲者としては、朝鮮戦争、ベトナム戦争、ビアフラ内戦、カンボジア内戦、アフガニスタン内戦などに匹敵するものです。
バングラデシュの国旗は緑地に赤い日の丸ですが、緑は豊かな大地、日の丸はパキスタン国旗の月と星に対抗して昇る太陽を、その赤色は犠牲者の血の色を表しているそうです。

バングラデシュは人口約1億5000万人と、世界で7番目に人口が多い国ですが、1日2ドル未満で暮らす貧困層は国民の75%を超えるという最貧国のひとつでもあります。

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ガンジス川の氾濫により涵養された、世界有数の豊かな土地を誇り、外からの侵略も絶えなかった。「黄金のベンガル」とも言われていた時代もあり膨大な人口と労働力を持っており経済の潜在能力は高いが、洪水などの影響もあり現在では貧困国の一つに数えられる。

バングラデシュは内外問わずに援助を受けているにもかかわらず、過剰な人口や政治汚職などによって未だに貧困を脱しきることが出来ないでいる。バングラデシュの発展を阻害しているものとしては、多発するサイクロンやそれに伴う氾濫などの地理的・気候的要因、能率の悪い国営企業、不適切に運営されている港などインフラの人的要因、第一次産業のみではまかない切れない増加する労働人口などの人口要因、能率の悪いエネルギー利用法や十分に行き渡っていない電力供給などの資源的要因、加えて政治的な内部争いや崩壊などの政治的要因が挙げられる。【ウィキペディア】
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成長を阻害してきた激しい政争
ここ数年は6%台の成長が続き、今後が期待されてもいるバングラデシュ経済ですが、これまでバングラデシュの成長を阻害してきた大きな要因のひとつが“混乱を招く政治的争い”と“身内・関係者の利害を優先した政治”であり、その根幹はハシナ首相率いるアワミ連盟(AL)と、ジア前首相率いるバングラデシュ民族主義党(BNP)の争いでした。

2007年1月には、軍を後ろ盾とする暫定政府が全権を掌握、政治的混乱を招いてきたハシナ、ジア両氏が汚職容疑で相次いで逮捕され、各政党では党内改革も同時に実施されましたが、有力指導者が現れず、結局、ハシナ、ジア両氏とも釈放されています。

激しく争うハシナ首相、ジア前首相の二人の女性政治家は似たような経歴の持ち主で、そのあたりは2008年12月18日ブログ「バングラデシュ 総選挙がもたらすものは民主主義か混乱か?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081218)などでも取り上げたことがあります。
“ここで裁判にかけられた容疑者10人のうち8人が、主要野党のバングラデシュ民族主義党(BNP)と同盟を組むイスラム協会の所属だ”というあたり、与党ALと野党BNPの確執も背後にあるような印象も受けます。

ドラえもん受難
バングラデシュを取り上げたついでに、最近の話題をもうひとつ。

****ドラえもん」が放送禁止に、母国語習得に悪影響 バングラデシュ****
バングラデシュで、日本のアニメ「ドラえもん」のテレビ放映が禁止された。番組がヒンディー語版で放映されており、子供たちの母国語のベンガル語習得がおろそかになる恐れがあるためという。

ハサヌル・ハク・イヌ情報相は14日の議会で、同国内での「ドラえもん」放映禁止を関係放送局に公式に通達したことを明らかにし、「政府は『ドラえもん』が子供たちの教育に支障をきたすことを望んでいない」と説明した。

禁止に先立って複数の地元紙は、「ドラえもん」を熱心に視聴する子供たちがベンガル語ではなくヒンディー語で会話をしている点に懸念を表明し、番組の放送禁止を呼び掛けていた。また、与党議員からも、海外のアニメ作品の放映に際してはベンガル語版だけを認可するよう求める声が出ていた。

バングラデシュでは衛星放送を通じて隣国インドのヒンディー語の番組が視聴でき、国内の数百万世帯でベンガル語の番組より人気が高い傾向があることから、自国の文化に影響が出かねないとして政府が非常に神経をとがらせている。

ドラえもんは2008年、日本文化を海外に広める役割を担う外務省の「アニメ文化大使」の初代大使に任命されている。【2月18日 AFP】
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マレーシア・サバ州の帰属をめぐる事件 「スールー王国」再建?

2013-02-21 00:12:45 | 東南アジア

(ボルネオ島サバ州のサンダカンは、かつて日本から貧しい女性たちが「からゆきさん」として渡ったところでもあります。 写真は映画「サンダカン八番娼館 望郷」より)

数日前に、マレーシアのサバ州(ボルネオ島北東部)にフィリピンのイスラム武装勢力数十人が不法上陸したとの報道がありました。

****比の武装集団か マレーシア上陸 政府、国外退去求め交渉****
マレーシア東部サバ州の海岸に、フィリピン南部から来たとみられる80~100人の武装集団が上陸し、発見したマレーシアの軍や警察とにらみあっている。地元の治安当局が14日、明らかにした。周辺住民が人質に取られているとの情報もある。

マレーシア治安当局によると、武装集団は12日、ボルネオ島にあるサバ州東岸タンビサンに複数の小型ボートに分乗して上陸。約60キロ西方のラハダトゥ郊外まで移動したところで、駆けつけた軍や警察が取り囲んだ。
ナジブ首相は14日、「交渉を通じて、平和的に国外に退去させる」と声明を出したが、地元の治安当局者は朝日新聞の電話取材に「上陸の目的や要求もはっきりせず、交渉がまとまる気配はない」と明らかにした。

フィリピン南部では昨年10月、武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)とフィリピン政府が、自治政府の樹立を目指す和平合意に署名した。今回、上陸した武装集団の所属は不明だが、「和平合意に反発するグループ」「武装勢力間の抗争から逃れてきた」などの見方がある。ロイター通信によると、フィリピン外務省報道官は「現在情報の収集中で、マレーシア政府と連絡を取り合っている」と述べた。

サバ州東岸は、フィリピン南部の島々からボートで1時間弱の距離。過去にも越境してきた武装勢力による事件が起きている。ラハダトゥでは1985年に銀行が襲われ、武装勢力が銃を乱射して11人が死亡。2000年には東部沖のシパダン島で、欧米の観光客21人がフィリピンへ連れ去られ、身代金を要求される事件があった。【2月15日 朝日】
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フィリピン南部では上記記事にもある、ミンダナオ島で活動するイスラム武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)のほか、ボルネオ島に近い地域にアルカイダと連携する過激イスラム武装組織アブ・サヤフが存在しています。

アブ・サヤフ相手に「交渉を通じて、平和的に国外に退去させる」というのは難しいのでは・・・と感じたのですが、続報によれば上陸したのは15世紀に成立したとされるイスラム教国「スールー王国」の再建を目指す勢力ということで、どうも事情が異なるようです。

****北ボルネオ領土問題再び フィリピンVSマレーシア*****
王国の末裔”400人不法上陸

マレーシアのボルネオ島北部サバ州に、フィリピン南部ミンダナオ島から、「スールー王国軍」を名乗るイスラム教徒400人が不法上陸した。一部が武装しており、治安部隊に包囲されている。サバ州をめぐり両国は、15世紀に成立したとされるイスラム教国「スールー王国」の歴史に根ざす領有権問題を抱えており、事件は棚上げ状態の争いに再び光をあてている。
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グループは今月中旬、サバ州ラハド・ダトゥの海岸に不法上陸した。リーダーはスールー王国のスルタン(君主)の末裔(まつえい)、ラジャ・ムダ・アジムディン・キラム氏。反政府武装勢力「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)の元メンバーも含まれている。

マレーシアのナジブ首相は、治安部隊と陸・海軍を派遣し「流血の事態を避け、平和裏に彼らを退去させる。軍は事態を掌握している」としている。グループは抵抗せず、警察が交渉に当たっている。一方、フィリピン側は、「身柄の安全と、平和的な解決」(大統領報道官)を求めている。

歴史をひもとくと、15世紀半ばに、フィリピン南西端のスールー諸島を中心に成立したとされるスールー王国の領土は、現在のサバ州にも及んでいた。その後、スペインによる占領時代などを経て1897年、フィリピンが米国に併合されると、王国も終焉(しゅうえん)した。

問題は、北ボルネオが1946年に英国領となり、63年にはマレーシア連邦の成立とともに連邦の1州となって、「分割」されたことにある。フィリピンは北ボルネオを含む王国の領有権を、スルタンと62年に締結した文書により獲得していると主張する。一方、マレーシアは63年以降、スルタンの末裔側に毎年、“租借料”として5300リンギット(約16万円)を支払っており、今日に至っている。

グループを派遣したのはリーダーの兄で、74歳のジャマルール・キラム氏。派遣を「帰国の旅」と形容し、その目的については「戦うことではない。われわれが歴史的に有するサバの領有権の行使だ」と述べている。具体的には、旧スールー王国の承認と、領土(サバ州)の返還などを求めているという。
その背景として、昨年10月にフィリピン政府とMILFが合意し、新自治政府の創設を柱とする和平の枠組みから、サバ州が「除外」されたことに対する不満があると指摘されている。【2月20日 産経】
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スールー王国、及びこの海域一帯の結びつきの強さについては、08年7月20日ブログ「ASEAN  マレーシアの不法移民強制退去問題など」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080720)でも取り上げたことがあります。

産経がこの話題を取り上げたのは、領土問題を“棚上げ状態”などにしておくから、こんな問題がいつまでも続くのだ・・・という主旨でしょうか。
個人的印象としては、サバ州はマレーシアの一部であるという現状は動かし難く、“スルタンと62年に締結した文書”云々といった過去の経緯をもとに現状を否定しようとする行動に滑稽さを感じます。
当事者は真剣なのでしょうが、第三者から見ると争いごとというのはそんなものです。
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シリア  アサド政権にとどめをさせない反体制派と支援国の事情

2013-02-19 23:00:51 | 中東情勢

(1月13日 首都ダマスカス いたって平穏・・・のようにも見えます “flickr”より By عدسة شاب تلي | Lens Young Tali1  http://www.flickr.com/photos/92649400@N08/8476297472/

【「傍観者の立場で、行き詰まり、殺りくを黙って見ている状態をこれ以上続けてはならない」】
シリア内戦は泥沼状態で、犠牲者だけが増え続けています。
11年3月以来の死者は7万人と、ここ1カ月だけで1万人も増加。国外避難民も1日あたり5000人に及んでいるとのことです。

****死者数は1か月で約1万人増加*****
・・・・一方、国連のナバネセム・ピレイ人権高等弁務官は、2011年3月から続く戦闘による死者数が7万人に達しつつあると発表した。わずか1か月前の発表では、死者数は6万人とされていた。

またこの発表に先立ち、国連の潘基文(パン・キムン)事務総長は、シリア反体制派の統一組織「シリア国民連合」のアフマド・モアズ・ハティブ代表との対話の提案を「逃してはならない機会」として受け止めるよう、シリア政府に要請した。さらに潘事務総長は、国連安全保障理事会が「傍観者の立場で、行き詰まり、殺りくを黙って見ている状態をこれ以上続けてはならない」と述べている。【2月13日 AFP】
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****シリア内戦、毎日5000人が国外避難****
内戦状態が続くシリアでは、国外に逃れる人が増え続けており、その数は1日当たり約5000人に達している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が8日に発表したところによると、避難した人の総数は、ここ1か月で25%増加した。
避難先は周辺諸国が中心で、レバノンに約26万1000人、ヨルダンに約24万3000人、トルコに約17万7000人、イラクに約8万5000人が避難している。・・・・【2月10日 AFP】
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アサド政権:相手側の都合で墓場に行けず立ち往生
アサド政権が追い込まれながらも、劇的な変化が見られない現状を作り出している理由として、反体制派内部の不統一、方向が定まらないことが指摘されています。

****生殺し」のアサド****
「とどめ」の能力を欠く反体制派

「2013年を、再び6万人のシリア人を殺す年にしてはならない」。1月中旬、英国のヘイグ外相はこのように述べて、平和的な手段でシリア問題が解決されるべきと訴えたが、英国を含め、軍事介入の選択肢をもたない欧米に和平実現の具体策はない。
一般市民を狙った重火器での容赦ない攻撃と、これに対抗する虐殺行為の応酬は激しさを増す一方で、このペースでいけば、一年を待たずして犠牲者が倍増する恐れすらある。
(中略)
地元の評論家は、「アサドがもはや死に体で、復活の可能性がないことは明らかだが、今でも血塗られた王座にしがみついていられるのは、反体制派が一体何を、どうしたいのかさっぱりわからないからだ」と評している。つまり、アサド政権が冷血非道な独裁政権だということも、また国民に大砲を向け、既に大統領としての正当性を失っていることもわかりきっているので、この際問題ではない。

しかし、これを追い落とすべき立場の反体制派、とくに昨年12月鳴り物入りで設立された「シリア国民連合」が、米国をはじめとする欧米諸国の全面的支持を受けながら、イスラム過激主義者と世俗主義者が対立し、亡命政権を樹立できないでいることの方がよほど問題だ、というのである。

つまり、シリアの現状を俯瞰すると、「アサドの亡霊」(前出評論家の表現。もはや命運が尽きている)が、相手側の都合で墓場に行けず立ち往生している、といったところだろう。・・・・【2月号 選択】
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日本を含む100カ国以上から「シリアの唯一、正統な代表」と承認されている「シリア国民連合」のハティブ議長は1月末、「個人的な見解」と断った上で「政権側と直接対話をする用意がある」として、アサド政権側との対話を呼び掛けています。しかし、組織内部で強い反発も招きました。

****シリア:「アサド政権との対話」 反体制派に波紋****
内戦が続くシリアの反体制派主要組織「シリア国民連合」のハティブ議長が、アサド政権側との対話を打ち出したことが反体制派内に波紋を広げている。

反体制派の大半はアサド大統領の排除を和平の条件としており、議長の独断専行に批判が出たが、米欧やアラブ諸国は議長の提案を支持した。反体制派にとって外国の支援は不可欠なだけに、今後の活動方針を巡って困惑が広がっている。

ハティブ議長は1月30日、インターネットの交流サイト「フェイスブック」を通じ、政治囚の釈放と国外の反体制派活動家への旅券発給を条件に、アサド政権側との対話を打ち出した。「個人的な意見」としていたが、2月上旬にドイツで開かれた安全保障会議でも同様の見解を国際社会に示した。

議長はアサド政権を支援するロシアとイランの外相とも相次いで会談。対話の相手としてシャラ副大統領を指名した。イスラム教アラウィ派が中核を占めるアサド政権だが、シャラ氏は反体制派に多いスンニ派だ。7日閉幕のイスラム協力機構会議でも、対話路線は支持された。

議長が方針転換を表明した背景には、組織内外からの圧力がある。シリア問題に関するブラヒミ国連・アラブ連盟合同特別代表は、アサド政権と反体制派の双方に対話による事態打開を求めてきた。また国民連合は昨年11月の発足以来、100カ国以上から「シリアの唯一正統な代表」との承認を得た以外に目立った実績がなく、反体制派内でも不満が募っていた。

だが、議長の対話路線表明は、組織内の反発を生んだ。国民連合内の主要勢力である国民評議会は5日、議長提案に反対する姿勢を表明。自由シリア軍のイドリス司令官は毎日新聞の電話取材に「議長を信頼しているが、我々はアサド大統領を排除し、政権幹部が法廷で裁かれるまで戦う」と語った。

ただ、議長が条件としてあげた政治囚の釈放などを、アサド政権が認める可能性は低い。ゾアビ情報相は8日、国営テレビで「あらゆるシリア国民と対話する用意があるが、前提条件はなしだ」と強調した。【2月9日 毎日】
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国連の潘基文事務総長が、この対話の提案を「逃してはならない機会」として受け止めるようシリア政府に要請しているというのは、冒頭【2月13日 AFP】にあるとおりです。

その後、内部からの批判を踏まえたものでしょうか、ハティブ議長は移行政府についてアサド大統領の排除を明確にしたうえで、デモ弾圧や市民殺害に関与していないアサド政権幹部や官僚らの参加を容認する旨を発表しています。

****シリア:反体制派が和平協議原則「移行政府に政権幹部も」font>****
シリア反体制派の統一組織「シリア国民連合」は15日、アサド政権側との和平協議に臨むにあたっての原則を発表した。移行政府の陣容などについて、アサド大統領や治安機関幹部らは含めないと明確にする一方、デモ弾圧や市民殺害に関与していない政権幹部や官僚らの参加を歓迎する意向を表明した。しかし、アサド政権は、反体制派との無条件での対話開始を求めており、内戦終結に向けた道筋は見えていない。(後略)【2月16日 毎日】
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【「アラブの春」が招くイスラム過激派台頭への警戒感
シリア内戦を長引かせている要因として、反体制派内部の問題に併せて、反体制派を支援する欧米諸国の“及び腰”というか“躊躇”みたいなものがあります。
欧米では、「アラブの春」が結果的にイスラム過激派の台頭を招いているのではという認識が広まっています。

“「アラブの春」が当初信じられたように、アラブ各国の独裁体制に対する民衆の怒りに端を発した民主化革命であるという認識は、すぐさま砂漠の蜃気楼のように消え去り、砂嵐の去った後に目を凝らすと各国にイスラム過激主義体制が出現していた。世界、とりわけ欧米諸国はこの問題の取り扱い方法に誤りがあったのではないかと感じ始めていた。”

“アラブの春は、「広場と大衆の民主主義」という形をとりつつ、これが「議会を通じた民主主義」に至る前にイスラム過激主義者により乗っ取られ宗教独裁に向かうという進展を見せている。政権樹立に成功したチュニジア、エジプトの状況はある程度ましだが、一方で今回のアルジェリアにおける事件が示したとおり、対テロ戦争以来の過激なジハード主義の拡散を許す、深刻な情勢をもたらした。” 【2月号 選択】

このため、シリアと接するイスラエルなどは、アサド政権が崩壊してイスラム過激派が台頭するような政権ができるよりは、アサド政権が「死に体」のまま存続してくれた方がいい・・・というのが本音でしょうし、イスラエルの後ろ盾アメリカも、アサド政権崩壊には慎重にならざるを得ないところです。

また、リビア・カダフィ政権の崩壊によって大量の武器がイスラム過激派の手に渡り、そのことがマリ北部の混乱や、アルジェリアでの人質事件につながったとも見られています。
シリア反体制派の戦闘員にはイスラム過激派の勢力が深く関与しており、反体制派への武器支援はイスラム過激派を補強することにもなりかねません。

****EU:外相会議 シリアへの武器禁輸、意見まとまらず****
欧州連合(EU)は18日、外相会議を開き、シリアへの武器禁輸措置を解除し、反体制派に武器を供給する方針転換について、強く推進する英国と反対する北欧やドイツの意見がまとまらなかった。
妥協案として、武器禁輸を3カ月延期し、防弾チョッキなど「非殺傷」型の軍事支援を強化することで合意した。和平合意など政治解決が進展せず、内戦状態に陥っているシリアへの対応に国際社会は苦慮している。

英国は反体制派の武装強化を通じて、アサド政権の打倒を手助けすることを目標に、今月末で期限を迎えるEUの武器禁輸を解除すべきだと主張。フランスも理解を示した。
しかし、北欧やドイツが(1)アサド政権と反体制派の戦闘が泥沼化する(2)武器がイスラム過激派などに渡る恐れがある−−などとして強く反対。あくまで政治的解決を主張した。

結局、武器禁輸措置を3月初めから3カ月延期することで合意。再度、協議することになった。
また、妥協点として、従来認めている「非殺傷」型の支援を「市民を保護するためにより強化」することを決めた。具体的には防弾チョッキや暗視装置、通信設備などの供給が想定されている。ヘイグ英外相は「この機会を利用して支援を強化する」と述べた。

シリアのアサド政権による反体制派への軍事攻撃は激しさを増しているが、中露の反対で国連安保理もまとまらないうえ、欧米諸国では軍事介入をためらう国が大多数で、手詰まり状態になっている。【2月19日 毎日】
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アシュトン外交安全保障上級代表は理事会後、「民間人保護のために殺傷力を伴わない一段の援助や技術的な支援ができるよう修正する」とした制裁措置修正は「軍事的支援ではない」と説明。
一方、ヘイグ英外相は「重要な進展」と強調し、近く具体的な支援策が協議されるとの見解を示しています。【2月19日 産経より】

一方、アサド政権を支えてきたロシアについては、ひところプーチン大統領のアサド政権を見限るような発言などもあって、対応が変化したのでは・・・とも見られていましたが、アサド政権への武器支援は続いているようです。

****対シリア兵器供給を継続=輸出総額は過去最高―ロシア****
ロシア国営兵器輸出会社ロスオボロンエクスポルトのイサイキン社長は13日の記者会見で、内戦下のシリアのアサド政権に対空防衛システム「パンツィリS1」を供給していることを明らかにし、今後も対シリア輸出を継続する方針に変わりはないと語った。

一方、2012年のロシアの兵器輸出額が全体で129億ドル(約1兆2000億円)と過去最高に上ったと発表。11年の107億ドル(約1兆円)、10年の87億ドル(約8000億円)から増加傾向にあることを強調した。シリアは輸出先の中で13~14位の額を占めるという。【2月13日 時事】
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アサド政権に支払い能力があるのでしょうか?アサド政権が崩壊したらロシアは踏み倒されることにもなるのでは?それを考えると、いつまでロシアが支援できるのか?・・・といった感もあります。

シリアの失業率:37%
反体制派内部はまとまりを欠き、支援する側にもためらいがある、ロシアはアサド政権を完全には見限ってはいない・・という展開で、弱体化したアサド政権がしばらく続きそうです。
アサド政権が内戦状態のなかでどのような統治を行っているのか、行政が機能しているのか、市民生活がどうなっているのか・・・・よくわかりませんが、内閣改造が報じられています。

****シリアで内閣改造、経済・社会問題に焦点****
シリアのバッシャール・アサド大統領は9日、内閣改造を行った。今回の改造では経済と社会問題の大臣に焦点が当てられた。

国営シリア・アラブ通信によると今回交代した閣僚は7人。また社会労働省を2つに分割し、社会問題相に女性を起用した。シリアで反体制騒乱が始まった2011年3月以降、アサド大統領は数回にわたって内閣改造を行っており、今回はリヤド・ヒジャブ元首相が政権を離脱した直後の2012年8月に続くもの。

約2年にわたる騒乱でシリアは未曾有の経済不況のどん底にある。世界銀行はシリアの国内総生産(GDP)が20%縮小したと発表。国連の西アジア経済社会委員会(ESCWA)によると、同国の失業率は37%にのぼっており、2013年末までに50%に達する可能性があるという。【2月10日 AFP】
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内戦状態にありますから、経済が“どん底”にあることは想像に難くないところですが、全土が戦火に覆われ経済・市民生活が完全に崩壊している訳でもないようです。
報じられる情報は戦闘地域からのもので、必ずしもシリア全体を表しているものでもない・・・ということでしょうか。
失業率が37%というのは、ギリシャの27%などを考えると、そんなにひどい数字でもないように思えます。
“37%”という数字が信用できるなら・・・の話ですが。
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