孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  米中対立激化で強まる中国の軍事的脅威 一方、戦える状況にないとの指摘もある台湾軍

2020-09-30 22:39:53 | 東アジア

(蔡英文総統(中央)と厳徳発国防部長(左から2番目)の下で軍は深刻な機能不全の状態に【9月22日号 Newsweek日本語版】)

 

【米中対立の最前線にあって、強まる中国の軍事的脅威】

米中対立が激化するなかで、アメリカが支援を強化する一方で、中国はけん制を強めるという形で、台湾がその前面に立っていることは、9月19日ブログ“台湾 米中対立のなかで中国との軋轢も激化 「民主主義の防波堤」とは言うものの・・・”でも取り上げました。

 

****中国軍戦闘機や爆撃機など19機、台湾の防空識別圏に進入****

中国は、クラック米国務次官による李登輝・台湾元総統の告別式参列に反発し、台湾への威嚇効果を狙った台湾海峡付近での軍事演習を行った。

 

台湾国防部(国防省)によると、19日午前には戦闘機「殲(J)16」や爆撃機「轟(H)6」など19機の中国軍機が台湾の防空識別圏に進入した。中国軍機による進入は2日連続で、前日の18機を上回った。

 

中国が懸念するのは、クラック氏訪台が、将来的な米国務長官や国防長官の訪台への布石となることだ。米台が高官レベルで安全保障協力を公然と強化すれば、中国が目指す台湾統一への障害になる。

 

共産党機関紙・人民日報系の環球時報は19日の社説で、国務長官などが訪台した場合、中国軍がミサイルを発射して台北市の総統府上空を通過させる可能性があるとして、「米台は状況を見誤るな」と主張した。【9月19日 読売】

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こうした中国側の反応を、アメリカは「脅し」と批判。

 

****中国の台湾海峡演習は「脅し」=南米で経済侵略に警戒呼び掛け―米国務長官****

南米4カ国を歴訪中のポンペオ米国務長官は18日、中国軍が台湾海峡で同日開始した実戦演習を「われわれは(李登輝元総統の)告別式のために使節団を送っており、中国は明白に軍事的な脅しで応じた」と非難した。ガイアナのアリ大統領と会談後の記者会見で語った。(後略)【9月19日 時事】 

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ただ当事者の台湾としては、事態が制御できない状況になることは避ける必要があります。

 

****台湾総統、中国共産党に自制要求 連日の軍事威嚇に****

台湾の蔡英文総統は20日、中国が多数の軍用機を連日、台湾海峡の中間線を越えて台湾側に進入させたことについて「台湾人が警戒を高め、国際社会も中国がもたらす脅威を理解することにつながる」と指摘、共産党には自制して挑発行動を取らないよう要求した。総統府が明らかにした。(後略)【9月20日 共同】

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社会でも不安が高まっているのは事実でしょう。

 

****中国軍機が頻繁に活動、台湾で不安高まる―米メディア****

2020年9月21日、ボイス・オブ・アメリカの中国語版サイトは、最近中国軍機が頻繁に活動していることに台湾人は不安を感じていると伝えた。

記事は、「台湾国防部の報告によると、この4カ月、中国人民解放軍の空軍機が台湾海峡の中間線を越える頻度と数が増加している」と紹介。

 

台湾国防部は、中国人民解放軍が戦争準備を積極的に進めており、台湾攻撃能力が増強されているため、台湾軍はコンピューターを使った図上での漢光演習で最も厳しい戦闘プランを設定し、新たな事態の発展と新たな脅威に対応したことを明らかにしたと伝えた。

こうした点を踏まえて台湾の淡江大学の戦略研究教授の黄介正(ホアン・ジエジョン)氏は、「私は普通の民衆が実際の軍事衝突に対する心の準備ができているとは思わない」との見方を示した。

記事は、台湾の大学院生の呉さんの例を紹介。呉さんは中国軍機の活動が不安を引き起こしているとし、「中国軍はわざと騒ぎを起こしてわれわれの対応能力を見ているのだと思う」と語った。また、台湾男性として最終的に軍事任務に就くよう召集されるのではないかと心配していると述べた。

また記事は、台湾ヤフーの調査では、9月初めの時点で64%の人が中国との衝突を心配しており、衝突するとは思わない人は33.5%だったことも伝えている。【9月22日 レコードチャイナ】

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中国側は、そうした台湾側の不安を煽ることで、状況を有利な方向に変えたいとの思惑も。

 

****中国の基地からJ-20戦闘機を飛ばせば15〜20分で台湾を爆撃できる―台湾メディア****

2020年9月26日、中国紙・環球時報は台湾メディア・中時新聞網の報道を引用し、中国のJ-20戦闘機は15〜20分で台湾に到着し爆撃できると伝えた。

記事は、浙江省衢州市の市民が衢州空軍基地に着陸するJ-20ステルス戦闘機の映像を撮影したことを紹介。「このJ-20は安徽省蕪湖空軍基地の王海大隊所属の戦闘機で、衢州空軍基地に最近配備されたようだとの分析がある」と伝えた。(中略)


また中時新聞網は、「J-20がミサイルを搭載してこの基地から離陸した場合、時速2000キロ近い速度で7〜8分飛行すると、台湾北部にある戦闘機は長距離空対空ミサイルの射程圏内に入り、15〜20分で台湾上空から爆撃できる」と指摘した。【9月28日 レコードチャイナ】

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台湾側は「中国には、今は“その気”はない」と社会不安を和らげる対応。

 

****中国、台湾との全面戦争に備える兆候ない=国防部長****

台湾の厳徳発国防部長(国防相)は29日、中国が台湾との全面的な戦争の準備をしている兆候は見られないとの見解を示した。

厳氏は議会で「中国共産党は台湾に対する挑発を続けているが、今のところ本格的な戦争の準備ができているという兆候は見られない」と指摘。中国が部隊を内陸部から台湾に面した東部沿岸に移動させる様子はないと説明した。

台湾の軍隊は平時の戦闘準備態勢を維持しており、警戒レベルを引き上げていないと述べた。

蘇貞昌行政委員長(首相)は議会で、台湾市民は自らの命と領土を守るべく戦い抜くと述べ、攻撃すれば高い代償を払わなければならないと強調した。【9月29日 ロイター】

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【まともに戦える状況にない台湾軍の実情】

「今のところ本格的な戦争の準備ができているという兆候は見られない」としても、万一、日増しに軍事力を増強している中国が(多大な政治的リスクを覚悟のうえで)実際に軍事進攻を決意した場合、台湾として軍事的に防衛することは極めて困難だろう・・・ということは素人考えでも想像できます。(その際のアメリカの対応は・・・わかりません)

 

しかし、「台湾市民は自らの命と領土を守るべく戦い抜く」とは言うものの、台湾軍の実情は“保有する戦車の半数はまともに動かない”といったように、「素人の想像」以上にお寒いものだとの指摘が。

 

****中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿勢と内部腐敗の実態****

<アメリカ製の最新兵器をひけらかし万全の体制で中国を迎え撃つと息巻く台湾政府......実際には戦車は壊れ、自腹で修理部品を調達するよう若い兵士に強要する始末>

 

中国は台湾海峡周辺に軍隊を集結させ、台湾島の奪還には「手段を選ばない」と息巻いている。アメリカとその友好国としては、台湾が自力で中国軍の侵攻を食い止めてくれると信じたいところだ。

 

しかし現実は厳しい。今の台湾には現役の兵士が少な過ぎ、予備役の動員システムもお粗末過ぎる。それだけではない。驚くなかれ、保有する戦車の半数はまともに動かない。実戦で使えそうな武器はもっと少ない。

 

そのせいで、中国軍と砲火を交える前から尊い人命が失われている。政治家は血税で買ったアメリカ製の最新兵器をひけらかすが、軍の補給体制は旧態依然。だから、メンテナンスに必要な部品を自腹で買い求めていた若い将校が絶望して自ら命を絶った。

 

黄志劼(ホアン・チーチェ)は台湾軍の中尉だった。徴兵で入隊し、当初は空挺部隊に配属されたが、志願して将校になる道を選んだ。今は「将校なんて責任ばかり重くて給料は安い」と思われている時代なのに、だ。

 

黄は第269機械化歩兵旅団に配属され、補給物資の倉庫の担当係になった。(中略)だが4月16日の夜、黄(当時30歳)は基地の食堂近くの暗い階段で首をつった。(中略)

 

黄の母親は記者会見で、息子が上司からしごかれ、修理部品が足りないなら自腹で調達するよう、上官から圧力をかけられていたと訴えた。

 

実際、黄は市販の修理用ハンマーや消火バケツなど多くのアイテムを購入して、なんとか足りない物資を補おうと苦労していた。

 

議会の公聴会に呼ばれた国防部長の厳徳発(イェン・トーファー)は「兵士が自費で備品を購入することは軍規に反する」と述べた。「何かが壊れたり、欠損した場合は、必要な書類を作成し、しかるべき部署に提出して代替品を要求すればいい」

 

この発言、現場の将校や兵士には悪い冗談にしか聞こえなかった。実際、同じ公聴会で軍の監察官は厳の発言を否定し、部品を自腹で買ってこいという上からの圧力を兵士が受ける事例は「何度もあった」と認めている。

 

黄の死後、彼の担当していた倉庫を調べた監察官は、少なくとも31種類の部品が補充されていないことを確認した。

ちなみに、この第269機械化歩兵旅団は後方支援の部隊ではない。台湾北部の桃園市郊外に戦略的に配置された精鋭の戦闘部隊だ。中国軍が台湾に上陸し、首都・台北へ向けて進軍する事態に備え、地上戦でそれを阻止するのが任務とされている。

 

こんな精鋭部隊でさえ、物資の不足が深刻なのだ。その他の部隊の状況は想像するのも恐ろしい。

 

軍も政府も、有事に遅滞なく対応できる部隊の実態を公表していない。しかし毎年恒例の「漢光演習」を含め、シミュレーションによる机上演習の際には、兵員の90%が戦闘能力を保持し、兵器類の85%以上が実戦使用に耐えることを前提としている。

 

「そんな数字は無意味だ。何の現実的根拠もない」。そう切り捨てるのは、台湾の退役陸軍中佐で軍事評論家のジェームズ・ホアンだ。

 

「どれだけの戦車や銃が、本当に実戦で使える状態にあるのか。軍上層部には、それを知る手掛かりもないだろう。なぜなら、軍隊の底辺にいる兵士でさえ、いいかげんな数字を上司にあげているからだ。そうすれば将校連中はバラ色の絵を描き、上層部や政治家を喜ばせることができるわけだ」

 

使える戦車はわずか3割

第542装甲旅団の司令官だった退役少将の于北辰(ユィ・ペイチェン)は、黄の配属先ではあまりに多くの備品が破損または欠損していたため、正規ルートで交換を申請できない状況だったのではないかと推測する。

 

もしも正直に報告すれば、現在の軍の体制では「軍価格」の高額な部品の購入を求められ、どう考えても予算を超過する恐れがある。

 

それに正規ルートでの申請にはあきれるほど煩雑な手続きが必要で、経験の浅い下級将校の手に余るという。上層部の調査が入ることを嫌うから、上官もいい顔をしない。

 

そこで黄は、おそらく前任者たちの例に倣って書類を偽造して事態を隠蔽し、自分で穴埋めしようとしたのだろう。于はそう推測する。

 

ネット上のフォーラムをのぞいてみれば、補給部隊や武器庫管理の任務についてぼやく自称「退役軍人」の書き込みがいくらでも見つかる。

 

信じ難い話ばかりだ。自腹で部品を買った、書類や整備記録を偽造した、手抜きの修理作業を見逃してやった、装備点検や演習の時期が近づくと仕方ないから別な部隊から部品を盗んだ、などなど。

 

補給部隊での経験が長く、今も現役の曹長である陳(チェン※現役の軍人なので姓しか明かさなかった)は、悲しいけれどこれが現実だと認めた。

 

「実戦で使える」という文句をどう定義するかによるが、と前置きして陳は言った。「米国製であれ台湾製であれ、装甲兵員輸送車の90%程度は一応走れる状態にある。しかし車軸などの整備状況が悪いから、舗装道路を50キロも走れば動けなくなる」

 

キャタピラ式だと、もっと悲惨だ。「私の知る限り、走行可能な状態にある戦車や自走砲は約50%だ。運よく走行できても、搭載した兵器が使える保証はない。米軍の基準で言えば、まともに走れて武器も使える戦車は全体の30%程度だろう」

 

それだけではない、と陳は言う。大規模な演習が始まる時期を除けば、弾薬も燃料も恒常的に不足している。メンテナンスの人材も十分だったためしがないという。

 

「いま中国が攻めてきたらどうなるか」と陳は言う。「こちらの戦車に実弾を積み込み、走行できる状態に仕上げるまで何日か、あるいは何週間か待ってくれと、敵にお願いするしかない」

 

軍備削減のしわ寄せが

軍備の老朽化には、さまざまな理由が考えられる。だが元軍人たちの言い分には説得力がある。

元海軍大尉で、今は台湾国際戦略研究センターに所属する常漢青(チャン・ハンチン)に言わせれば、最大の問題は台湾軍のあまりにも急激な、そして拙速なリストラだ。

 

1990年代後半から2000年代初頭にかけて、台湾は兵力を50 万人から20万人以下に削減する方針を打ち出した。この改革の大半は台湾国防部の作戦・計画参謀本部が立案したもので、実を言えば常自身も当時のスタッフの1人だった。

 

「政治家は、軍の規模を縮小して最終的に徴兵制を廃止したいと考えていた。軍の上層部も、その要望に応じるしかなかった。しかし中国の脅威が強まっていることを考えれば、戦闘部隊の削減はあり得なかった。ならば、代わりにどこを削減すればいいか。そう、まずは補給部隊だ。前線で戦う部隊がいれば後方支援の部隊は必要ないと言わんばかりの対応だった」

 

こうして補給部隊は予算も人員も大幅に削減された。そしてたちまち、膨大な整備作業のニーズに応えられなくなった。

 

一方で、前線部隊の下級将校や兵士らは必要な技術も知識もないまま、複雑な整備作業や交換用部品の在庫管理を任された。その結果、整備不良や故障が増え、交換用部品やリソースの配分が狂う悪循環に陥った。(中略)

 

台湾国防部には本稿の内容について、何度もコメントを求めた。だが返ってきたのは「国防部はよく知っているメディアとしか話をしない。独自の調査には返答しかねる」という言葉だった。

 

いざとなればアメリカに

今回取材を行った軍の現役および元幹部たちはいずれも、国防部長の厳こそが、長年台湾軍をむしばんできた機能不全の指導部の典型だと口をそろえた。(中略)

 

国際戦略研の常も、台湾の防衛能力をことさらに誇示する蔡政権の姿勢には問題があると語る。彼のみるところ、蔡政権の体質は敗北主義で、中国との関係は(軍隊ではなく)政治で解決すればいいと考えている。

 

「本音の部分では、現政権は台湾が軍事力で中国に対抗するのは無理だと考えている」と常は言う。「今の強硬姿勢は見せ掛けにすぎない。アメリカから買った最新兵器を誇示するだけで、本当に中国が攻めてきたらアメリカが助けてくれると信じ、そういうシナリオに懸けている」

 

しかし台湾の新聞を読むまでもなく、中国側のスパイは台湾軍の兵士が兵員輸送車の部品をネット通販で探しているのを知っている。台湾軍がまともに戦える状態にないことも把握している。しかし、それで台湾の軍人には祖国防衛の覚悟がないと結論するのは間違いだ。于は言う。

 

「退役軍人の1人として、これだけは言える。わが軍の兵士や将校団の祖国防衛に懸ける決意には一点の曇りもない。いざ戦場に立てば、彼らは立派に任務を果たす。たとえ装備が足りなくても」【9月22日号 Newsweek日本語版】

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上記指摘がどこまで本当なのかは知りません。

ただ、「現政権は台湾が軍事力で中国に対抗するのは無理だと考えている」のは事実でしょう。

 

その上での、強硬姿勢の危うい「綱渡り」・・・・難しい立場です。

 

****米国連大使、台湾の国連加盟を支持****

クラフト米国連大使は29日、台湾政府などが主催したオンライン会合に出席し、「世界は台湾が国連に完全加盟することを必要としている」と述べ、台湾の国連復帰を支持する考えを示した。台湾は中国の国連加盟を受け、1971年に国連を脱退している。

 

これを受け、中国の国連代表部は「中国の主権と領土保全を損なう発言で、強い憤りと反対を表明する」と声明を発表。台湾との接触をやめるよう米国に要求した。トランプ米政権は中国に対抗し、台湾を支援する姿勢を強めている。

 

クラフト氏は、台湾の民主主義を称賛し、「世界のための良い力だ」と指摘。その上で「特に公衆衛生と経済発展に影響を与える問題に関して、世界は、国連システムへの台湾の完全な参加を必要としている」と述べ、台湾が参加しない国連は「世界を欺いている」とも訴えた。(後略)【9月30日 産経】

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台湾にとっては本来喜ぶべき話でしょうが、こういう話が表立ってされるようになれば、中国との緊張もさらに一段レベルアップします。

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中国社会面記事に見る今日的中国

2020-09-29 23:32:59 | 中国

(売り場の中心に置かれたばら売りの月餅【9月18日 レコードチャイナ】)

 

【「体力テスト」の滑稽さに、かつての文革とも通じる現実無視の教条主義の影も】

中国からは日々、いろんなニュースが届きますが、下記記事もそのひとつ。

 

スポーツ界の「笑える話」と言えばそれまでですが、根っこの部分で案外中国政治の根幹とつながっているかも・・・という印象も。

 

****「中国スポーツ界は終わり」の声も、有力選手を相次ぎ脱落させる“珍制度”に大ブーイング!*****

中国のスポーツ大会で新たに導入されている「体力テスト」の結果で成績を決める方式に、各方面から疑問の声が上がっている。

■アジア記録で1位も決勝に進めず?
発端は青島市で開催された全国水泳選手権だ。女子1500メートル自由形予選で、遼寧省の王簡嘉禾(ワン・ジエンジアハー)が15分45秒59をマークし1位になった。

 

これは、中国記録とアジア記録を塗り替えるものだったが、3000メートル走、懸垂、ベンチプレス、スクワット、などの10種目からなる「体力テスト」の成績が振るわなかったため決勝に進出できなかった。

ほかの種目でも同様の現象が見られ、傅園慧(フー・ユエンフイ)、于静瑶(ユー・ジンヤオ)、方[吉吉](ファン・ジャー)らはいずれも予選1位のタイムを出しながら「体力テスト」の成績によって決勝に進めず。男子50メートル自由形で中国記録をマークした余賀新(ユー・ホーシン)も例外ではなかった。

 

この大会では、予選の成績上位16人のうち体力テストの成績上位8人が決勝に進出すると規定されていた。

■各方面から疑問の声
王は予選のレース後、体力テストを重視していないわけではないとしつつも、「体力テストの結果で上位8人を決めるというのは、やはりやや思慮に欠けると思う」と遠回しに不満を表明した。

 

2016年リオデジャネイロ五輪での天然キャラでブレイクし、日本の番組にも取り上げられた傅は、SNSに「私が一生のうちに長距離走を走れる日が来るとは想像できない」と書き込み、くやしさをにじませた。

関係者からは「一番の問題は十把ひとからげにしているところ。科学的な基準を設けるべきだ。どの競技の選手も3000メートルを走らなければならないというのはおかしい。持久力を測るにはさまざまな方法がある」との声も上がった。

 

また、水泳選手からは「私たちにとって大切なのは脚の関節の柔軟性」「水中競技の選手なので陸上競技は得意ではない。マラソン選手が泳げるわけではないのと同じこと」との声も聞かれた。ある専門家は「テストの項目を細分化し、競技に応じたテストにすべき」との見解を示した。

■中国水泳協会は反論
選手らからの不満の声に対し、中国水泳協会の周継紅(ジョウ・ジーホン)会長は「中国水泳界がさらに高いレベルに行くためには、基礎と専門の両方が必要。中国の選手の短所を補い、世界における競争力を高めることが目的で、選手たちに身体能力と専門競技のいずれにおいても世界トップレベルになるよう奨励するものだ。今大会で初めて導入したが、この改革の方向性を堅持する」とした。

また、「多くの選手が体力テストで良い成績を残し、満点を出している選手もいる」と強調し、中国記録をマークした余について「去年の世界のランキングでは11番目の成績。世界大会で準決勝に入る実力があることを示しているが、決勝進出を保証するものではない」と説明した。傅らの記録についても評価する一方、「世界レベルとはまだ開きがある」とした。

■他の競技でも有力選手が次々脱落
「体力テスト」は競泳のほかにも、陸上、バレーボール、バドミントンなどの国内大会で採用されているが、やはり物議を醸している。

全国体操選手権の女子跳馬では、この「体力テスト」で基準をクリアできなかった選手が続出し、決勝に進出できたのはわずか5人。そのうちの1人は、決勝で助走から跳馬に手をつき、前方に一回転する「前転とび」という「最も簡単な技」で全国5位を獲得した。中国メディアの新浪新聞は「体力テストが滑稽な一幕を生み出した。全国大会でアマチュア演技」と痛烈に皮肉った。

また、南京市で行われたフェンシングの全国大会の女子エペでは、2019年の世界選手権団体優勝メンバー2人が「体力テスト」の「前屈」と「縄跳び」の成績に振るわなかったことでベスト8に入れず。同大会ではベスト16のうち体力テストの成績上位8人が競技に臨み、残りの8人は体力テストの成績で順位が決定した。

■ネットでは不満の声が多数
「体力テスト」による順位付けについて、ネットユーザーからは「明らかに問題があるルール」「天下に名をはせる滑稽さ。スポーツ選手が身体能力を競い合う」「こんなおかしな規定で一生を台無しにされる選手がかわいそう」「世界記録を破っても体力テストを通過できなきゃ試合に出られない。中国スポーツ界の謎」「こんなことを続けるようなら中国スポーツ界は終わりだ」など、反発する声が大半を占めている。

 

中には、「お聞きしますが、スポーツ関係の役人は体力テストを受けなくてもその職に就けるのですか?」とやゆするユーザーもいた。

なお、中国版ツイッター・微博(ウェイボー)のランキングでは29日午前現在、「体力テスト」に関するワードが上位を占めている。【9月29日 レコードチャイナ】

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「本当かね?」と思えるほど、「笑える話」です。

 

“ネット上でも「中国のスポーツ管理当局に存在する形式主義、官僚主義がまた露呈した」などの批判が出ていると記事は伝えている。”【9月29日 レコードチャイナ】とも。

 

「基礎と専門の両方が必要。中国の選手の短所を補い、世界における競争力を高めることが目的で、選手たちに身体能力と専門競技のいずれにおいても世界トップレベルになるよう奨励するもの」という中国水泳協会の主張には一理あります。

 

一理ありますが、その一点でもって複雑多岐な現実すべてに網をかけてしまう粗雑な思考に、私は文化大革命の粗暴さを連想しました。

 

(習近平周辺は、再評価したがっているようで、評価に揺らぎがみられますが)今では否定されたことになっている文化大革命にしても、主導した毛沢東・四人組にも一定の理念はあったでしょう。

 

ただ、その理念を絶対視し、それにそぐわない現実をすべて否定・破壊しようとした教条主義・原理主義が、あの悲劇を生みました。

 

何かその文革の誤り・滑稽さと同じようなものを今回の「体力テスト」に感じた次第です。

 

【変わらない中国 変わる中国 ここが変われば・・・】

以下、最近目にした中国発の興味深いニュースをいくつか。

 

先ず、「いかにも中国らしい・・・」と思わせる、従来からあるネガティブイメージがいまだに現実にそんざいすることを示すニュース。

 

****砂にはまった車を助けようとしたら全力で阻止された理由とは―中国****

2020年9月14日、中国メディアの澎湃新聞は、旅行客を罠(わな)にはめるための公衆トイレについて紹介する記事を掲載した。

記事によると、甘粛省敦煌市に、旅行客を罠にはめるための公衆トイレがある。このトイレは道路から少し離れた所に設置してあり、途中は砂地になっている。トイレに行くために車が砂地に入ると、深い砂にはまって出られなくなり、ロープでけん引する際に多額に費用を請求するのだという。

中国版ツイッター・微博(ウェイボー)にこのトイレについての動画が投稿された。動画を撮影した男性は、ちょうど通りかかった時にトイレに行こうとして砂地にはまったキャンピングカーを見かけたのでけん引ロープで引っ張ってあげようとしたが、その場にいた作業員数人に阻止された。

 

けん引フックにロープを引っかけても、作業員によってすぐに外されてしまっている。作業員はこの男性に「救援証を出せ」と要求。男性は「救援するのに証書が必要なのか?」と反論している。さらに作業員は「わが社にはわが社の決まりがある」と主張している。

作業員は警察に連絡するなどと言っていたが、1時間たっても警察官が来ないため、この男性は通報したふりだったと判断。結局、この男性がけん引ロープでキャンピングカーを引っ張り上げたという。

同市公安局は15日、この件で5人を逮捕したと発表。北京青年報の以前の報道によると、国道215号線のこの場所では、これまでも多くの旅行客が「罠」にはまっており、ある旅行者によると、店のけん引に同意しないとトイレの鍵を渡してくれないのだという。【9月17日 レコードチャイナ】

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トイレに行く車が砂地に入るように「罠」を仕掛け、救出の牽引に法外な料金を要求する・・・という悪質な手口ですが、昔の川渡しの雲助のようなことが今も行われているとは・・・さすがに中国でもこれは犯罪行為であり、逮捕されたようですが。

 

カネが儲かるなら何をしてもかまわないというネガティブな職業意識のひとつの表れでしょう。

 

エジプトのピラミッド観光のラクダでも、法外な料金を要求し、払わないと客をラクダから降ろさない・・・といった類が行われていました。

 

結果、誰もラクダに乗らなくなって、自分たちの首を絞める結果にも。(もっとも、今は、コロナで客そのものがいなくなりましたが)

 

中国人に関してはメンツにこだわり、見栄を張るといういうネガティブイメージもありますが、こちらは最近変化も見られるようです。

 

****高級包装の月餅が「寵愛を失う」、ミニ月餅が人気に****

中秋節(旧暦8月15日、今年は10月1日)が近づき、今年は「節約を励行し、浪費に反対する」という社会の気風の中、月餅を製造する企業では、味の争いのほか、包装の小型化や簡素化もマーケティングの焦点となり、包装やサイズなどに到るまで倹約の気風を表しています。

各大型スーパーでは、ばら売りや小型パッケージの月餅が売り場の中心を占め、注目を集めています。これらの月餅はさまざまな味があり、コストパフォーマンスが高いことから、大人気ということです。

ばら売りの月餅が人気である一方、多くの店では有名ブランドの月餅ギフトセットの売れ行きはあまりよくありません。

 

スーパーのショッピングアドバイザーは、「伝統的な月餅は120〜150グラムで、1個全部食べると、数回分の食事のカロリーになるため、若者たちは小さくてさまざまな食感の月餅をより好んでいる。1個全部食べてもしつこくない」と述べています。【9月18日 レコードチャイナ】

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華美・無駄な高級月餅の需要が減ったのは、まっとうな流れでしょう。

 

「節約を励行し、浪費に反対する」・・・・8月16日ブログ“中国 メンツ文化を改善できるか、習近平主席指導の「光盤(皿を空にする)運動」”で取り上げた流れにも共通する風潮でしょうか。

 

光盤運動もいい話だとは思います。もっとも、食糧危機に備え節約を奨励する「内向き」に習近平主席の基本的性向を見る向きも、鄧小平なら輸入拡大を奨励しただろうと。

 

それはともかく、お上が「節約」奨励、「浪費」反対などと言い出すと、庶民の生活を束縛する息苦しさも出てきます。やはり、このあたりも習近平主席の「文革」評価・再現ともつながるものがあるのかも。

 

9月26日ブログ“中国 日本への関心の高さをうかがわせる「怪しい日本街」”で、取り上げ忘れた記事。

 

中国人の日本への最近の高評価の大きな要素に、日本社会の「清潔」があることを取り上げ、中国でも最近は街は綺麗になったことこと、ただし、自分で綺麗にする意識には欠けていることなどにも触れました。

下記記事はそうした中国の「清潔さ」に関する現状を示すものでしょう。

 

****なぜ日本にはコインランドリーがあるの? 「他人が使った洗濯機は汚くないの?」=中国報道****

コインランドリーといえば、かつては洗濯機のない単身者や学生が利用するというイメージだったが、最近ではカフェが併設されているおしゃれな空間や、ガソリンスタンドに併設されたコインランドリーもあり、ずいぶんと様変わりしたようだ。
 
すっかり魅力的になった日本のコインランドリーだが、中国人には抵抗があるようだ。中国メディアの百家号は19日、日本のコインランドリーについて紹介する記事を掲載した。中国ではほとんど見かけないため珍しく思ったようだ。

記事の中国人筆者は、中国人なら普通「他人が使った汚い洗濯機で洗いたくない」と考えるもので、だから中国ではコインランドリーが普及しないのだと分析。これは、「他人の使ったものは汚いもの」という固定概念によるようだ。

 

中国では、自分のものは大切に使うが、そうでなければきれいに使わないので、公共の場所がすぐに汚れたり壊れたりする傾向がある。

しかし日本人は、他人に迷惑をかけないことを重視するので公共の場所も自分の家と同じように、時にはそれ以上にきれいにしようとするものだ。

 

だからこそ、日本旅行に来た中国人が、口をそろえて日本の公共トイレはきれいでトイレットペーパーさえ盗まれていないと感嘆するのだろう。公共の場所は汚いと相場が決まっている中国とは大違いだ。(後略)【9月23日 Searchina】

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こおあたりの公共物をきれいに・大切に使うということが実現できるようになれば、本当に「中国は変わった」ということにもなり、マクロ的には世界をけん引する立場も実現できるようになるのでしょう。

 

自分のものしか大切にしない、公共トイレが汚い国が、いくら世界平和、共存共栄を訴えても白々しいものがあります。

 

【どうしてこんな間違いが?】

最後に、「どうしてこんなことが?」という奇妙な話題。

 

****「習近平氏娘の熱唱動画」は誤り、実際は日本の有名人*****

中国の習近平国家主席の娘、習明沢さんが米ハーバード大学の2014年の卒業式で歌っているという動画がフェイスブックで600回以上シェアされている。しかし、この動画は2008年からネット上にあり、歌っているのは日本人の歌手だ。

 

8月30日にフェイスブックに投稿されたこの動画は、9月に入った時点で再生回数が677回を超えていた。

 

投稿には、「習近平氏の娘、習明沢さんは2010年から2014年までハーバード大に在籍か?」「非常に優秀で、大学卒業まで習主席の娘とは確認されていなかった」といった内容が繁体字中国語で書き込まれている。

 

さらに、大学の卒業式では、母親譲りの美声でコニー・フランシスさんの歌「ボーイ・ハント(原題:Where the Boys Are)」を披露したと書かれている。

 

中国の国営メディア、中央人民放送によると、明沢さんは1992年生まれで、習近平主席と歌手の彭麗媛夫人の一人娘。フェイスブックと、ユーチューブに投稿された同じ動画にも同様の説明が書き込まれている。

 

だが、この説明は誤り。

キーワード検索をしたところ、日本の歌手で女優の西田ひかるさんが歌っている同じ動画が見つかった。2008年7月に「where the boys are - 西田ひかる」というタイトルでユーチューブに投稿されている。

 

ただし、米誌ニューヨーカーによると、明沢さんが2014年にハーバード大学を卒業したのは本当。そのときは違う名前を使用していたと同誌は報じている。 【9月19日 AFP】

*********************

 

一体どうして西田ひかるが習近平の娘になったのでしょうか?

不思議な間違いもあるものです。

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レバノン  組閣失敗 長引く政治混乱でレバノンからの難民流出、東地中海情勢の更なる緊張も

2020-09-28 22:59:14 | 中東情勢

(ベイルートの爆発現場【9月28日 日経】)

 

【首相候補が組閣を断念 閣僚ポストをめぐる各宗派間で対立 時にヒズボラの抵抗】

中東レバノンでは8月4日に港に保管されていた大量の硝酸アンモニウムが大爆発し、死者は137人超、負傷者は約5000人という大惨事が発生、その後政治混乱、旧宗主国フランス・マクロン大統領の改革を求める関与などについては

8月7日ブログ“レバノン これまでも機能不全の政府 首都ベイルートの大爆発で懸念される復興・新型コロナ・食糧

8月11日ブログ“レバノン 爆発事故で火が付いた国民の政治への怒り 困難な政治改革への道

でも取り上げてきました。

 

しかし、多くの宗教・宗派がモザイクのように入り組み、イランおよびその支援を受けるヒズボラの影響力が大きいレバノンの改革は非常に困難で、その方向性すら不透明です。

 

現在の政治の機能不全の大きな原因が宗教・宗派ごとに大統領・首相や議員数などが割り振られる制度にあるとはされていますが、この規制を廃止すれば、今後は宗教・宗派が争う内戦の危険性が再燃します。おそらくその結果は、圧倒的武力を持つヒズボラ・イランのレバノン支配でしょう。

 

そうした困難な状況で、予想されたように組閣すらできない事態となっています。

 

****親イラン政党の抵抗で組閣が難航 大規模爆発のレバノン このままでは「地獄に向かう」****

8月に大規模爆発が起きたレバノンで、イランに近いイスラム教シーア派政党が組閣に異議を唱えて新政権が発足しない状態となっている。

 

爆発は政府が長期にわたり放置した大量の発火物が原因とみられ、政治の機能不全を露呈。旧宗主国フランスのマクロン大統領が政治改革の第一段階として、15日までの新政権の成立を求めていた。

 

ロイター通信によると、ヒズボラなどシーア派の2政党が新政権での財務相ポストを要求し、組閣が難航している。ヒズボラと併存する同名の民兵組織はイランから資金や武器などの支援を受けているとされる。

 

一方、トランプ米政権は今月、ヒズボラと関係があるとして財務相経験者ら2人を独自の制裁対象に指定、ヒズボラ排除の圧力を強めている。

 

レバノンのアウン大統領は8月31日、爆発を受けて退陣を表明したディアブ首相の後任に駐独大使だったアディブ氏を指名した。同氏は財務相など閣僚ポストを宗派別に割り当てるのではなく交代制にするよう提案、シーア派政党が反発した。

 

財務相はここ数年、シーア派が占めている。在レバノンの記者(29)によると、公共事業の発注額の水増しなどで裏金が作りやすいポストだと指摘されている。

 

ヒズボラはレバノン国会で大きな勢力を持っており、閣外に出たら法案が全く通過しない事態になる可能性もあるとされる。レバノンはすでに財政破綻の状態だが、国際社会は政治改革を断行しなければ資金支援は行わない姿勢を崩していない。アウン氏は新政権が発足しなければ、レバノンは「地獄に向かう」と危機感を示している。【9月24日 産経】

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****1カ月たたず…レバノン新首相が辞意 組閣で行き詰まり****

8月に首都ベイルートで大爆発事故が起きたレバノンで26日、新首相に指名されたばかりのムスタファ・アディブ氏が就任辞退を表明した。組閣に向けて調整してきたが、閣僚の主要ポストをめぐる勢力争いが激化し行き詰まった。

 

国際的な支援を呼びかけている旧宗主国のフランスは、支援の「条件」として早期の組閣を要求してきた。今回の辞退で、以前からの経済危機への対応や、爆発の被害からの再建が遅れる可能性がある。アディブ氏はこの日、前日に続いてアウン大統領と会談したが、最終的に組閣を断念し、テレビ演説で国民に謝罪した。

 

レバノンでは8月4日の爆発を受けて内閣が総辞職。駐ドイツ大使だったアディブ氏が同31日に新首相に指名され、組閣に着手していたが、閣僚ポストをめぐって各宗派間で対立が起きていた。【9月26日 朝日】

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この事態にフランス・マクロン大統領は怒っています。

 

****レバノンの組閣断念「裏切り」=政治指導者への制裁示唆―マクロン仏大統領****

フランスのマクロン大統領は27日、記者会見し、レバノンの首相候補が組閣を断念したことについて「裏切りだ」と非難した。旧宗主国のフランスは、8月に起きた爆発事故後のレバノン支援の条件として、9月中旬までの組閣を求めていた。

 

マクロン氏は「レバノンの政治勢力は約束を破ることを決定し、国の総合的な利益より仲間内の利益を優先した」と指摘。レバノン側が「重い責任を負うことになる」と述べ、政治指導者らへの制裁を改めて示唆した。【9月28日 時事】 

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【4人に1人以上が難民 政治混乱で難民流出へ】

多くの宗教・宗派がモザイクのように入り組みことから「中東の火薬庫」とも称されるレバノンの混乱は、中東全般に影響しますが、レバノンの持つもう一つの側面は、この国が大量のシリア難民・パレスチナ難民の受け入れ国であるということ。

 

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人口わずか440万人、岐阜県とほぼ同じ大きさのレバノンには(2019年9月時点で)約92万人のシリア人難民がUNHCRに登録していますが、推定では150万人が滞在しているとされています。

 

さらに、シリア紛争以前から滞在しているパレスチナ難民約30万人とシリアからのパレスチナ難民を合計すると、レバノンの人口のじつに4人に1人以上が難民です。【パルシック(PARCIC)】

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決して豊かではない小国レバノンに暮らす難民の生活は困窮を極めており、コロナ禍による追い打ちもあります。

 

****ドキュメント「シリア難民からのSOS」の衝撃(1)「難民の子が誘拐されて臓器を摘出されて死んでいた」****

シリア難民たちが生活苦の果てに自分の「臓器」を売っている!

 

中東のレバノンに内戦が続く隣国シリアから逃れた難民たちが臓器売買で急場をしのいでいるという。

腹部に大きな切り痕が残る年配の女性が証言する。「約14万円もらった」

角膜を売ったという若い女性が手術跡の眼球を指で開きながら話す。「生活のために腎臓か角膜を売るしかなかった」(中略)

 

さらにショッキングなのは…。

難民の子どもが「臓器目的」でさらわれて殺されている!

 

難民の臓器を狙って子どもの誘拐事件まで起きている現実がある。子どもがさらわれてゴミ捨て場で遺体が見つかった時には腹部をえぐられた痕があったという。

 

子どもを抱える母親が満足な仕事がなく、売春で生活費を稼ぎ、父親が分からない子どもを妊娠して流産している実態も示される。

 

極限状況の中で9人家族の大黒柱だった父親が追いつめられて焼身自殺するという悲劇も起きた。

そんなシリア難民たちの今を描いたドキュメンタリーが放送された。(後略)【7月24日 水島宏明氏 YAHOO!ニュース】

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レバノン政治の混乱は、こうした難民たちの生活をさらに厳しいものともし、限界を超えた人々の欧州へ向けた命がけの脱出をも惹起します。

 

【ガス田をめぐる東地中海の緊張 コロナ、難民でさらに緊張高まる】

もとより、東地中海はガス田開発をめぐって9月14日ブログ“トルコと南欧諸国が対立する東地中海問題 トルコ・欧州間の移民・難民問題にも影響する可能性”で取り上げた緊張状態にありますが、その緊張に「難民問題」がかぶさってくることにも。

 

****コロナで加速する地中海危機****

感染症による難民増、トルコ対ギリシャ、レバノンの不安定化・・・・新たな難民危機と地域的緊張で地中海は危険な状況に

 

9月初め、シリアとレバノンの難民や移民を乗せてレバノン北部を出航した6隻の船が、キプロスに停泊しようとした。こう書くと大した数ではないように聞こえるが、昨年1年間にレバノンからキプロスに向けて出港した難民船は1隻だけだった。

 

高速船なら、レバノン北部の港からキプロス島南東部のグレコ岬までの180キロほどを6時間で航行できる。レバノン政府が混乱状態にある今、この穏やかな海域は密航業者にとって夢のような場所だ。

 

船が小さいので、乗っているのは数十人程度だが、キプロス当局は法的に問題のある対応に踏み切った。国連の難民条約を無視して船を海上で阻止。「経済難民」をレバノンに送還したのだ。相手国政府との取り決めがあると、キプロス側は主張する。

 

実際には、キプロスは難民の新たな流人への備えができていないだけだ。一時収容施設は既に過密状態。非効率な官僚主義と複雑な法律のせいで、難民申請手続きの処理に3~5年かかっている。

 

政府は最近になって、この混乱から抜け出すための立法措置に動いたが、難民の権利と適正な申請手続きをめぐる懸念は消えていない。

 

8月にレバノンの首都ベイルートの港湾地区で発生した大規模爆発の後、レバノンヘの支援は急増しているが、キプロスも他の国々も追加の難民を受け入れる意思はほとんど示していない。

 

一方、レバノンの状況はますます不安定化している。9月10日には同じ港で再び大火災が発生。人々の不安はさらに高まった。

 

厄介な大国トルコの野心

地中海東岸地域の地政学的状況が平穏だったことはめったにないが、ここ数力月は特にひどい。レバノンの政治家は外国勢力の言いなりで、内政に目を向けようとしない。

 

結果、レバノンは何度も経済危機に見舞われ、財政難の政府は昨年、スマホの通話アプリに課税しようとしたほどだ。

 

8月の爆発事故ではレバノンの食糧備蓄が大量に失われ、国民の心に致命的な打撃を与えた。多くの国々が人道支援の医薬品や食料を緊急に送り、インフラ修復や生産能力の強化を支援してきたが、この傷から回復するまでには何年にもわたる持続的な国際支援が必要になりそうだ。

 

その間も新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって、レバノンの悲惨な内政と外国からの圧力に対する脆弱性、経済的混迷は悪化し続けるはずだ。

 

この巨大な嵐は、レバノン国民の大量脱出を引き起こしかねない。故郷を追われ、この国に身を寄せているシリア人とパレスチナ人は言うまでもない。

 

さらに国際社会が新型コロナ対策に追われている問に、オスマン帝国の栄光の復活を目指すトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領が影響力の拡大に動いている。

 

トルコは周辺地域で代理戦争を戦い、ガス田の権益を主張し、ヨーロッパに新たな難民を送り込むと脅している。

 

ギリシヤのキリアコスーミツォタキス首相は毅然とした態度を取り、ガス田のある海域に探査船を派遣したトルコに異議を唱えた。キプロスは両国のはざまで十字砲火に巻き込まれている。

 

政治的緊張が高まっているのは、イギリスの離脱にまつわる交渉でもめているEUの国々も同様だ。パンデミックに対応した国境閉鎖は、EU域内の自由な移動を定めたシェングン協定の将来に疑問を投げ掛けている。

 

関係国は今から準備を

寒い冬が来ればパンデミックは悪化し、レバノンをさらに追い詰めると予想される。

キプロス、ギリシヤ、トルコ、EUは、レバノンを含む地中海東岸からの新たな難民の波に備えて今から準備を始めるべきだろう。最悪の場合、いてつく海と陸地を越えた難民の移動は、新型コロナの感染拡大と相まって、この地域でさらに大きな人道危機を引き起こしかねない。

 

包括的な新戦略を短期間で立てるのは不可能かもしれないが、EUは少なくとも、地中海東岸地域の国や自治体に緊急支援金の拠出を始めることはできる。

 

それがあればキプロスや、おそらくギリシャ最東端の島々でも、難民キャンプに必需品を備蓄し、社会的距離を保てるように施設を拡張できる。臨時スタッフや通訳を雇い、難民申請手続きを迅速化することも可能だ。

 

こうした準備に加え、レバノン、キプロス、ギリシヤ、そしてEU全域のそれぞれの事情に合わせた人道支援と広報活動も必要になる。EU諸国のメディアは人々の共感を呼び起こさせるようなやり方で難民問題を報道すべきだ。

 

重要なのは、キプロスとギリシャが欧州連帯の原則を信頼できるようにすることだ。

そのためにはレバノンを含む地中海東岸からの難民を他のEU諸国にも配分して再定住させる必要がある。

 

北キプロスが事実上トルコの支配下にあることを考えると、どのような取り決めにもエルドアンの支持が欠かせないだろう。

 

新たな難民危機の懸念と地域的緊張の高まりを受けて、地中海東岸の状況はここ数年にないほど危険なものになっている。この問題が顕在化すれば、ヨーロッパ南東地域は深刻な安全保障上の脅威に直面することになる。

 

EUはこの課題に立ち向かい、地域協力のための共通基盤を見いださなければならない。ギリシャ東部レスボス島のモリア難民キャンプに壊滅的な被害を与えた最近の火災は、現在の安定があっという間に崩れてしまうものであることを見せつけた。【9月29日号 Newsweek日本語版】

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【強気の姿勢を変えないエルドアン大統領 米関与低下後のロシア・トルコ拡張に対する仏マクロン大統領】

ガス田開発に関しては、積極的なトルコの姿勢は変わっていません。

 

****トルコ、キプロス島沖のエネルギー掘削を10月半ばまで延長****

トルコ政府は15日、キプロス島沖の地中海東部で稼働しているエネルギー掘削船「ヤウズ号」について、10月12日まで活動を延長すると発表した。トルコはこの海域をめぐり長年にわたってギリシャ・キプロス共和国と対立しており、緊張が高まる可能性がある。

ある海事通知書によると、ヤウズ号は同国籍の3隻を伴い作業するという。通知書には「全船舶に対し、同海域への侵入禁止を強く要望する」と記されている。(後略)【9月16日 ロイター】
***********************

 

欧州側を主導するのは、東地中海へのアメリカの関与が低下するなかで、ロシア・トルコの影響力拡大を懸念することを懸念するフランス・マクロン大統領です。

 

****東地中海、ガス田探査で緊張 仏VSトルコ「米抜き安保」の試金石*****

トルコによるガス田探査に端を発した東地中海での対立が激しくなっている。トルコの歴史的ライバルであるギリシャをフランスが支え、トルコが反発する構図だ。

 

マクロン仏大統領は欧州連合(EU)による危機解決を目指し、対トルコ制裁も辞さない構え。米国が欧州安保への関与を低下させる中、EUの「自立」を問う試金石と位置付けている。

 

マクロン氏は10日、仏コルシカ島でギリシャ、イタリアなどEUの南欧7カ国による首脳会議を開き、トルコのガス田探査は「一方的で、違法な挑発行為だ」と非難した。トルコが対話に応じなければ、月末のEU首脳会議で制裁を検討すると迫った。

 

続いてギリシャ政府が、フランスからラファール戦闘機18機を購入すると表明。トルコのエルドアン大統領は「フランスは、トルコとケンカしようとは思わない方がいい」と牽制(けんせい)した。トルコはいったん探査船を撤収させたが、「給油と整備のため」としており、活動を続ける方針は変えていない。

 

対立は今夏、トルコが軍艦の護衛付きでガス田の海底探査を始め、ギリシャが「わが国の権益を侵害した」と反発したのが発端。豊富な天然ガス資源を擁するとされる東地中海では、トルコとギリシャなどの排他的経済水域(EEZ)が画定していない。

 

フランスは8月半ば、ギリシャ側に立って同国クレタ島に戦闘機を派遣。さらに、地中海でギリシャ、イタリアとともに軍事演習を行い、トルコを威圧した。

 

トルコやギリシャ、フランスはいずれも、米主導の北大西洋条約機構(NATO)加盟国。米国は地中海岸に第6艦隊の基地を置くが、ポンペオ国務長官は「外交による解決が必要。トルコの動きを懸念している」としつつ、仲介は避けている。

 

マクロン氏が強硬姿勢を崩さないのは、米国の存在感が薄れるのに従い、ロシアやトルコが地中海沿岸で権益拡大を図っているからだ。ロシアはシリアでアサド政権の後ろ盾として軍事介入を深め、トルコはシリアやリビアの紛争に介入する。マクロン氏は「NATOは脳死状態」と公言し、欧州独自の安保構築を訴えてきた。

 

一方、マクロン氏の姿勢には、EU内で慎重論も強い。多数のトルコ系移民を抱えるドイツのマース外相は「EUはギリシャとともにある」としながら、制裁には消極的な姿勢だ。【9月17日 産経】

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マレーシア  進む巨大汚職疑惑の「幕引き」 アンワル氏、議会多数派獲得として政権を要求

2020-09-27 22:31:02 | 東南アジア

(23日のアンワル元副首相(右)の会見には、妻のワンアジザ前副首相(左)も同席した。【9月23日 日経】)

 

【進む汚職疑惑「1MDB」の幕引き】

マレーシア最大の汚職疑惑「1MDB」をめぐる捜査は、疑惑がナジブ氏失脚、マハティール政権誕生の基盤となったように、マレーシア政治と表裏の関係にあります。

 

マハティール政権のもとでナジブ元首相は逮捕され有罪とされましたが、マハティール前首相の辞任、ムヒディン現首相のナジブ氏勢力との連立によって、この国家ぐるみの巨大汚職捜査の幕引きが図られていることは、7月28日ブログ“マレーシア 1MDB疑惑でナジブ元首相有罪に しかし、全体としては「幕引き」が進む動き”でも取り上げました。

 

*****1MDB疑惑****

1マレーシア・デベロップメント・ブルハドとは、2008年マレーシアで設立されたソブリン・ウエルス・ファンド。略称は1MDB。エネルギー・不動産・観光・アグリビジネス銘柄を保有する。

 

国内産業の振興・多角化を建前とする資金洗浄が行われた。2015年7月2日ウォール・ストリート・ジャーナルが、ファンドからナジブ・ラザク(マレーシア第6代首相)の個人口座へおよそ7億ドルが振り込まれた公文書記録を報じた。

 

本国当局だけでなくオフショア市場のある各国の金融当局までもが、翌8月のパナマ文書を利用してファンド資金の行方をグローバルに捜査した。欧米言語による媒体が次々と不正を追及していった。

 

事件の規模は年内にたちまち拡大し、国際金融市場においてクリアストリーム事件以来の醜聞となった(1MDB scandal)。1MDBは創設と運営から債務不履行と政治的解決に至るまで、一貫してマレーシア経済を機関化する道具であった。【ウィキペディア】

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汚職に関与されたとされる米ゴールドマン・サックスとも「手打ち」が進行しているようです。

 

****ゴールドマン、マレーシア政府に1MDB巡り25億ドル支払う-関係者****

ゴールドマン・サックス・グループがマレーシア政府に25億ドル(約2650億円)を支払った。政府系投資会社1マレーシア・デベロップメント(1MDB)を巡る資金不正流用問題の決着に向けた合意の一環。事情に詳しい関係者が明らかにした。

  

同政府はこの資金をエスクロー(第三者預託)口座を通じて27日に受け取った。関係者が非公開情報だとして匿名を条件に語った。

 

関係者によれば、ゴールドマンからの資金は2022、23両年に償還を迎える35億ドルの債券を含め1MDBの債務返済に充てられる。マレーシア財務省とゴールドマンの担当者はコメント要請にすぐには応じなかった。【8月26日 Bloomberg】

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****マレーシア検察、1MDB巡りゴールドマン起訴取り下げ=国営通信****

マレーシアの検察当局は4日、マレーシア政府系ファンド「1MDB」の巨額汚職事件を巡り、約65億ドルの起債で投資家を誤解させた罪に問われていた米ゴールドマン・サックスの子会社3社への起訴を取り下げた。国営ベルナマ通信が報じた。

 

ゴールドマンは7月、同事件でマレーシア政府と和解金39億ドルの支払いで合意したと発表。

 

米司法省は1MDBから2009─14年の期間に45億ドルの資金が不正流用されたと推定しており、ゴールドマンが調達に関わった資金が含まれる。

 

起訴された子会社はロンドン、香港、シンガポールにある。3社は2月に無罪を主張しており、ゴールドマンは一貫して不正を否定している。

同社の弁護団と検察からコメントは得られていない。

 

同汚職事件を巡り、クアラルンプールの裁判所は7月、ナジブ元首相に職権乱用罪で12年の禁錮刑を言い渡している。ナジブ被告は無罪を一貫して主張している。【9月3日 ロイター】

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本来は、カネを返しておしまい・・・ではなく、資金不正流用の詳細を明らかにし、関与した者の責任を追及すべき問題ですが・・・

 

「幕引き」が進められる背景には、コロナ禍で国民は「1MDB」どころではないといった事情もあるのかも。

 

マハティール前首相が辞任してから、ナジブ氏以外の関係者については起訴取り下げが続いています。

 

【アンワル氏が多数派を形成したと政権を要求】

なお、有罪とされたナジブ元首相が属する統一マレー国民組織(UMNO)は3月に就任したムヒディン首相が率いる与党連合の一角として権力の座に復活しています。

ナジブ元首相有罪判決によって国民のムヒディン首相への信頼感が強まる一方でUMNOが中核政党である与党連合の結束は弱まる可能性がある【7月28日 ロイターより】というあたりが関係しているのか・・・ムヒディン政権は大きく揺れているようです。

 

まず、ムヒディン首相に政権を追われたような形にもなったマハティール前首相は復帰をあきらめたようです。

さすがに95歳ですから・・・・

 

****マハティール氏が引退表明 マレーシア前首相、95歳****

マレーシアのマハティール前首相(95)は24日、首都クアラルンプール近郊で共同通信のインタビューに応じ「次期総選挙には出馬しない」として、下院議員を引退する意向を示した。2月の首相辞任後、不出馬を明言したのは初めて。側近によると高齢が理由だが、政治活動は続ける方針。

 

マハティール氏は1981年から22年間、同国の首相を務め、強い指導力でカリスマ性を示した。日本や韓国を手本とする「ルックイースト(東方)政策」を推進し、来日100回を超えるほどの親日家としても知られる。【9月24日 共同】

*****************

 

一方、マハティール氏からの禅譲が約束されていたアンワル元副首相が、野党に加え、UMNOの一部議員も取り込んだ多数派工作に成功したとして、ムヒディン首相からの政権奪取を表明しています。

 

 

****マレーシア野党指導者アンワル氏、議会で多数派確保 新政権目指す****

マレーシアの野党指導者で元副首相のアンワル・イブラヒム氏は23日、議会で「強力な多数派」を確保したと述べ、新政権の樹立を目指す考えを表明した。

アンワル氏は記者会見で「ムヒディン首相の政権が崩壊したことを意味する」と主張した。

首相就任は国王の同意が必要になる。アンワル氏は国王に謁見を求めていると述べた。

同氏は「5─6席ではなく、もっと多くの支持を得ている」と主張。具体的な数字は明かさなかったが、連邦議会下院(定数222)の3分の2近くの支持があると述べた。

さらに「国を運営し救うためには強力で安定した政府が必要だ」と強調した。

ムヒディン政権は3月、政治的混乱の末に誕生した。

ムヒディン首相の議会内での支持はかろうじて過半数を上回る程度で、政権基盤強化のため選挙に打って出るのではとの憶測が広がっていた。

首相府はコメント要請に応じていない。【9月23日 ロイター】

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しかし、議会で多数派を形成した者に組閣を命じる国王が病気入院で、アンワル氏は拝謁もできないとのこと。

 

****マレーシア国王は病院に、首相任命巡り1週間は拝謁は許されず****

 マレーシアのアブドラ国王は、病院の観察下にあり1週間は誰にも拝謁を許すことはない。王宮関係者が25日明らかにした。

国王はほぼ儀礼的役割を担っているだけだが、議会での多数派を得ていると判断すれば首相を任命することができる。

マレーシアの野党指導者であるアンワル元副首相は23日、議会で多数派を得たとし、新政権の樹立を目指す考えを表明した。

アンワル氏は22日に国王との謁見を予定していたが、体調不良で国王が病院に運ばれたため取りやめとなっていた。【9月25日 ロイター】

**********************

 

この国王入院が全くの健康上の問題なのか、政権交代という政局絡みの背景があるのかは知りません。

 

当然ながら、ムヒディン首相は自分が合法的首相だと主張しています。

 

****ムヒディン氏「私が合法的に首相」と訴え****

ムヒディン首相は9月23日、「議会の3分の2を掌握」とした野党・人民正義党(PKR)のアンワル・イブラヒム総裁の発言を受け、「(議員数を)証明するまでは国民連盟(PN)政権は強固のままで、私は合法的な首相だ」との声明を発表した。

 

必要な手続きを通さない発言は単なる主張にすぎないとも述べ、詳細を明らかにするようアンワル氏に求めた。

 

一方で、与党・統一マレー人国民組織(UMNO)のアフマド・ザヒド総裁は同日、同党内でアンワル氏を支持する議員が「多数いる」と認めた。

 

すでに議員名と議員数も把握しているもようで「各議員のアンワル氏支持を止めることはできない。意思を尊重する」として容認する発言もした。  

 

与党の他の政党は現政権の支持を表明しているが、UMNOが与党内では最多の議員数を確保しており、政権崩壊が現実味を帯びてきたようだ。【9月24日 M-Town】 

*******************

 

国民のムヒディン政権支持率では、8月時点の調査で69%と高い水準を保っていることが報告されています。

国民の多数を占めるマレー系住民の支持はまだ高いようです。【9月4日 NNA ASIAより】

 

今後の政局がどうなるのかは不透明ですが、個人的には、これまで(イスラム社会ならではの)同性愛疑惑という「政治的」捜査で投獄を繰り返し政権に手が届かなかったアンワル氏に、一度は政権の座を任せたいという思いはあります。

 

ただ、アンワル氏は与党に対抗する立場で、華人など少数派民族の支持を背景にしてきましたので、既得権益を維持したい多数派マレー系住民の支持は薄く、マレー系住民を支持基盤とするUMNOの一部議員も取り込んで政権についても、マレー系とその他の間のバランスで厳しい政権運営も予想されます。

 

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中国  日本への関心の高さをうかがわせる「怪しい日本街」

2020-09-26 22:48:09 | 中国

(中国広東省にある「怪しい日本街」 【9月24日 レコードチャイナ】)

 

【日本への関心・好感と不信感・敵意・嫌悪感】

ネット上では、中国の人が日本に来てみて日本の素晴らしさに驚いた・・・といった「日本はすごい」の類の情報が多々見られます。

 

(日本でそういう情報が好まれるので、日本向けにそうした情報が多く発信される事情もあるのでしょう) 

 

また、以前から日本のアニメ文化に対する中国若者の好感度も高いものがあるようです。

 

一方で、特段、記事などになることもないですが、先の戦争以来の日本に対する不信感・敵意・嫌悪感みたいなものが根強く残っているのも事実でしょう。

 

そうした日本に対するふたつの見方がせめぎあうなかで、下記のような話にもなるようです。

 

****日本好きを公言すると「罵られるのは納得いかない」 中国人が日本を好きになっちゃダメなのか?=中国ネット****

中国では「近代における歴史は決して忘れてはならない事実」として教え込まれ、同時に愛国精神を抱くよう教育が行われていることから、日本に対して好意的な感情を抱くことができない中国人は少なくない。

 

一方で、幼い時から日本のアニメや漫画を見て育った世代は日本に対してまた違った感情を抱いているようだ。

中国のQ&Aサイトの知乎にはこのほど、「中国人が日本を好きになるのは間違ったことなのか」と問いかけるスレッドが立ち上げられ、中国人ネットユーザーから様々な意見が寄せられている。

スレッドを立ち上げた高校2年生の中国人は、「自分は中国人として愛国心を持っており、日中の歴史も学んで理解しているが、それでも日本が好きなのも正直な気持ち」だと主張。それなのに「日本好きであることを公言すると、批判されたり、罵られたりするのは納得がいかない」と訴えた。

これに対し、自分も思春期に日本のアニメに触れたと振り返り、「学生時代に学業のストレスに苦しむ時、日本のアニメで描かれる青春や友情を見て、中国の学校生活に不満を感じることもあった」と同調を示すも、社会人となって「より広い視野で日中の政治や社会情勢を見た時に、日本に対する感情は変化し、日本は中国に謝罪すべきという考え方になった」という意見が寄せられた。

一方、「自分も日本の文化が好きで日本語を学んでいる」という中国人ネットユーザーからは、「中国人が日本を好きになることは別に間違ったことではなく、自分が好きなもののなかに日本の文化が含まれていただけ」とする声も寄せられた。

 しかし、中国のネット上で日本の文化や習慣を過剰なまでに称賛する傾向が一部で見られることについては、「あまりに盲目的で理性に欠ける愚かな態度」と批判する意見もあったほか、「中国の若い世代が過去の歴史の一切を水に流し、現在の自分とは全く関係がないと考えるなら、それは間違っている」とし、歴史認識に対する日中の相違を解決せずに先に進むことは許されることではないとする意見も見られた。【9月25日 Searchina】

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【日本への関心の高さをうかがわせる「怪しい日本街」】

冒頭に、“日本でそういう情報が好まれるので、日本向けにそうした情報が多く発信される事情もあるのでしょう”と書きましたが、中国人の日本への関心の高さがあながち虚像でもないことをうかがわせるトピックが「怪しい日本街」

 

****中国広東省に「怪しい日本街」、日本のSNSで話題に!****

日本のツイッターユーザーが近ごろ「広東省仏山市に怪しい日本がある」とツイートし、現地の画像を掲載したところ反響を呼んだ。画像には、日本を代表する繁華街の一つである東京の「歌舞伎町一番街」を模したとみられる「一番街」のゲートのほか、映画館、クラブ、バー、飲食店など、歌舞伎町を想起させる看板が道の両側に並ぶ様子が見て取れる。

また、看板に書かれている内容は「毛利探偵事務所」「アンパンマン」「藤原豆腐店」「うずまきナルト」「DORAEMON」「ケロロ軍曹」「大長編ドラえもんのび太の人類補完計画Q」など、多くが日本のアニメやゲームに関するもので、道路にも日本の標識が立っているほか、「止まれ」「タクシー」といった文字が書かれている。横断歩道には「じてんしゃ」とひらがなで書かれ、郵便ポストも中国で一般的な緑色ではなく、赤い「日本仕様」だ。

この怪しい日本街は、中国在住の複数の日本人がその様子を伝えるとともに「現地の若者の間で人気がある」などと紹介している。

 

また、この様子を伝える投稿に対し、日本にいるユーザーも大いに関心を持ち「中国に行けるようになったら一度は行ってみたい」「外国人がゲームで再現した日本の街って感じ」「中国人から見た中華街ってこんな感じかも」「とても怪しい雰囲気がいい」「毛利探偵事務所はいつから中国に支点を構えたのか」といったコメントを残している。【9月24日 レコードチャイナ】

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****「怪しい日本街」だけじゃない! 各地に日本風の街が続々登場―中国****

日本のSNSで中国広東省にある「怪しい日本街」が注目を集めたが、実は中国には他にも日本風情たっぷりの街並みが存在している。

日本のSNSで反響を呼んだのは、「広東省仏山市に怪しい日本がある」という日本のツイッターユーザーの投稿。掲載された画像からは、東京の「歌舞伎町一番街」を模したとみられる「一番街」のゲートのほか、歌舞伎町を想起させる看板が道の両側に並ぶ様子が見て取れる。

一方、上海に近い江蘇省蘇州市では、日本風情豊かな「淮海街」がリニューアルオープン目前という状況だ。中国のネット上に23日に掲載された文章によると、淮海街は全長約580メートルの通りだが、訪れた人を一瞬にして「日本に連れていく」のだそう。

 

店の内装から店員の服装に至るまで日本の雰囲気を色濃く醸し出しており、「ドラマ『深夜食堂』のシーンを思い出さずにはいられない」との声も出ている。

淮海街は今年4月に改造工事が始まり、約5カ月間かけて全面的なバージョンアップが施された。新たな姿は今月27日にお披露目される予定だ。

淮海街をめぐっては、以前にも「通りの両側には日本料理店や居酒屋が並んで周囲に住む日本人の憩いの場となっている。そして多くの蘇州人が日本の風情を体験し、舌を楽しませる美食街でもある」などと紹介されている。

中国ではほかにも遼寧省大連市で、「京都風情街プロジェクト」が進んでいる。今月19〜20日には同プロジェクトのPRや日本の人気商品の展示販売の場となる日本物産展が開催された。このイベントは来月も行われるという。【9月25日 レコードチャイナ】

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もちろん、日本各地、世界各地に「中華街」はありますが、中華街は華人が多く集まったエリア。

この「怪しい日本街」は、一種の日本を再現したテーマパークみたいなものでしょう。

 

そこまで日本に関心を持ってもらえるというのは、やはり日本人としても喜ぶべきことでしょう。

日中間には問題が多々ありますし、日本からすれば受け入れがたい中国政治の現状もあります。

 

さはさりながら、互いに関心を持ち、相手を理解することが、関係改善の第一歩であることは間違いないでしょう。

 

【日本への好感の大きな理由が清潔さ】

中国人が日本に来て、素晴らしいと感じるもの要素としては、自然、文化、社会の在り様などさまざまですが、「清潔さ」というのは、非常に大きなウェイトを占めているようです。

 

****日本に対する一番いい印象は・・・?=中国メディア**** 

中国のポータルサイト・百度に21日、「日本についての最も良い印象は、清潔であること」とする記事が掲載された。

記事は「初めて日本を訪れたのはもう何年も前のことだ」とした上で、一緒に行った人が「日本は清潔だった」と賞賛する通り、確かに清潔だったと紹介。

 

一方で「その頃はまだ若かったので、心の中では日本に優れた部分があるということを認めたくなかった」と伝えた。

そして、初めて日本に行ってから長い時間が経過し、年齢を重ねたことで考え方も極端ではなくなり、他人の長所を認識し、受け入れられるようになってから再び日本を訪れ、今度は日本の清潔さを「楽しむ」ことができたと紹介。日本の清潔さは人、サービス、規則という3点によって支えられているのだとの考え方を示している。

まず、人については外出中に自分で出したゴミを可能な限り持ち帰って処理をする姿勢、そこまでやらなかったとしても、少なくともそこかしこにゴミをポイ捨てしたり、痰や唾を吐いたりする人が少ないことから、街の清潔が十分に保たれているのだとした。

 次に、行政を含めた環境保護に関連するサービスが行き届いている点に言及。ゴミの分別では、各自治体が分別の仕方を各世帯向けに啓発、指導し、分別して捨てられるように種類別のゴミ箱がちゃんと用意され、分別されたゴミの処理体制も整っていると伝えた。

さらに、環境を守るための規則が充実しており、いずれも実行可能で、なおかつ数量化、可視化されたルールであると説明。その例として厳しい自動車排ガス規制基準を挙げ、厳しい基準が設けられ、徹底されているからこそ日本は自動車の台数が多い一方で空気がきれいなのだと論じている。(編集担当:今関忠馬)【9月23日 Searchina】

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日本の社会・文化・国民性のいろんな要素が、この「清潔さ」に集約されているとも言えます。

同日に、日本の清潔さに関する記事が、他にも2本。

 

“日本のビジネスマンは毎日ワイシャツを換えるらしい! こんな国民性だから「日本は清潔なんだ」=中国”【9月23日 Searchina】

 

記事にもありますが、“日本人としては、中国人は毎日ワイシャツを換えないのかと驚くところだろう”という感も。

 

“アジアで一番清潔な国と、そうでない国=中国メディア”【9月23日 Searchina】

 

記事が“日本は確かに世界でもトップクラスの衛生環境を持つ国の一つ”としながらも“一番清潔な国”として挙げたのはシンガポール、“アジアで最も衛生環境が悪い国”として挙げているのはインド。

 

インドのカオスは、中国人としても辟易するものがあるようです。

 

なお、昔の中国は、みな平気で痰を吐くは、トイレはすごい状態だし・・・という世界でしたが、近年は非常にきれいになっています。

 

地方都市でも、道路にはゴミもほとんど落ちておらず、そんなに日本と変わりない感も。

ただ、それは清掃作業に従事する者がいての話であり、各人が気を付ける日本とはまた異なるものもあるようです。

 

【異なる仕事への価値観 中国人には理解しがたい日本の高齢者労働】

一方、中国人から見て、日本の奇異に感じられることとしていつも挙げられるのが、日本ではどうして高齢者があんなに大勢働いているのか?ということ。

 

****日本では定年後も働きたい人が6割以上=中国ネット「私は今すぐにでも退職したい」「これは伏線か?」****

2020年9月21日、新華網は日本メディアの報道を引用し、日本では定年後も働きたいと回答した人が64%だったと伝えた。

記事が紹介したのは、日本生命保険が保険契約者を対象に行った定年退職後に関するアンケート。7543人から回答を得たが、このうち「現在の仕事を続けたい」が38.7%、「別の仕事をしたい」は25.3%で、合わせて64%が働き続けることを希望していた。

仕事を続けたいとした人に何歳まで働き続けたいか尋ねたところ、40%の人が65〜69歳と回答し、11.7%の人が75歳以上との回答だった。記事は、日本では来年4月に実施される改正高年齢者雇用安定法で70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となると伝えた。

これに対し、中国のネットユーザーから「私は今すぐにでも退職したい」とのコメントが非常に多く寄せられた。また、「お金がなければ働き続けたいさ。お金があれば200%働かないね」というコメントもあり、基本的に働きたくないという人が多いようだ。

しかし、「70歳で退職というのもいいね。老化を遅らせることができる」「社会に必要とされていると感じられるから働き続けたいと思う」など、働き続けることに意欲的な意見もあった。

ほかには、「まずは60歳まで生きられたらの話だな」「まずは35歳以下の失業問題を解決すべきだ。求人は35歳以下ばかりだ。女性だと26歳を過ぎると難しくなる」と問題点を指摘するコメントや、「これはわれわれの定年を引き延ばすための伏線なのか?」というユーザーもいた。【9月22日 レコードチャイナ】

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(私を含めて)日本の高齢者は多く働く理由は多々あり、経済的な必要があってという側面も軽視できませんが、社会とのつながり、生きがいなどのポジティブな側面も多くあるところ。

 

なかなかそこらは、中国人には理解しがたいものもあるようです。

 

仕事・労働に対する価値観が、日中では大きく異なるということ、そこらが中国のサービス精神の欠如、粗悪品の蔓延といった問題にもなるのでしょう。

 

いずれにしても、新型コロナのために現在は往来がストップしていますが、一日も早く往来が再開して、相互の理解が深まることを願います。

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北朝鮮・金委員長 韓国人射殺問題で異例の謝罪 南北関係の情勢急転のきっかけとなるか?

2020-09-25 22:41:03 | 東アジア

(【9月25日 ABS】)

 

【金委員長「非常に申し訳ない」 異例の謝罪】

今日一番驚いたニュースは、各メディアが一斉に報じている↓。

 

****金氏、「非常に申し訳ない」と異例の謝罪 韓国人射殺問題****

朝鮮半島の西側の南北境界線付近の海上で、韓国から北朝鮮入りを試みた男性を北朝鮮の兵士らが射殺した問題について、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は25日、「予期せぬ不名誉な出来事」であり、「非常に申し訳ない」と異例の謝罪を行った。韓国大統領府が発表した。

 

北朝鮮兵士らは22日、韓国の海洋水産省職員を射殺。韓国政府によると、遺体は新型コロナウイルス対策として海上で焼かれたという。

 

北朝鮮軍による韓国の民間人殺害は、ここ10年ほど起きておらず、韓国では怒りの声が上がっている。

 

韓国の徐薫(ソ・フン)国家安保室長は、北側からの書簡を公表し、「悪質なコロナウイルス」の脅威に直面し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と韓国国民を助けるのではなく「失望させる予期せぬ不名誉な出来事」が起きたとして、金委員長が「非常に申し訳ない」と謝罪したと明かした。

 

この書簡で北朝鮮は、「北朝鮮の海域に違法に侵入」し、身元を明かすことを拒否した男性に対し、10発前後発砲したと認めるとともに、国境警備隊によるこの発砲は、現行の規定に従ったものだったと説明したとされる。

 

北朝鮮側、しかも金氏本人からの謝罪は極めてまれ。南北関係が冷え込み、米朝間の核問題をめぐる交渉もこう着する中での異例の事態となった。 【9月25日 AFP】

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射殺された男性は、自らの意思で北に越境したとされていますが、韓国世論における非難の高まりで、今後の南北関係を冷却させるものと考えられていました。

 

****北「コロナ防疫」、越境希望の韓国船員を銃殺し遺体焼却か…南が糾弾声明****

韓国軍は24日、黄海上の離島・延坪島ヨンピョンド付近の北朝鮮海域で、北朝鮮軍が越北を希望した韓国の船員を銃殺した上で遺体を焼いたと発表した。韓国政府は「人道に反する行為で強く糾弾する」との声明を出した。南北関係は当面、冷却化を余儀なくされそうだ。

 

海上で銃撃した直後に遺体を焼くという無慈悲な行為は、新型コロナウイルスの流入を無条件で阻止する北朝鮮海軍による指示だと韓国軍は説明している。

 

韓国軍によると、船員は海洋水産省所属で漁業指導をしていた21日昼頃、失踪した。船内に靴を残し、救命胴衣を着て浮遊物につかまりながら北朝鮮海域に流れ着き、北朝鮮側に入国を願い出たという。船員は自分の意思で海に飛び込んだとみられる。動機は不明だ。

 

北朝鮮兵士は22日、防毒マスクと防護服を着用したまま警備艇で近づき、船員から北朝鮮入国の意向を聞いたとみられる。兵士はその後、上部の指示で船員を射殺し、海上で遺体に油をまいて焼いたという。

 

対北融和を掲げる文在寅ムンジェイン政権は、北朝鮮が6月16日に開城ケソンの「南北共同連絡事務所」を爆破した後も対北人道支援を模索していた。

 

文大統領は今回の事件直後の23日未明(韓国時間)、国連総会の一般討論演説で、朝鮮戦争(1950〜53年)の終戦宣言の実現に向けた国際社会の協力を要請していた。

 

保守系野党から「今は終戦宣言をうんぬんする時ではない」と突き上げられており、文政権としても対応せざるを得なくなっている。文氏は24日、大統領府で開かれた国家安全保障会議(NSC)常任委員会から報告を受けた後、「衝撃的事件で極めて遺憾だ。北朝鮮当局は責任ある措置を取らなければならない」とコメントした。【9月25日 読売】

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金委員長が謝罪した北朝鮮側は、(コロナ対策として)遺体を焼いたとされる件は否定しているようです。

 

****北朝鮮 韓国人男性の遺体焼却を事実上否定****

北朝鮮に近い海域で行方不明となっていた韓国公務員の男性を北朝鮮軍が射殺した事件について、北朝鮮は25日、韓国青瓦台(大統領府)に通知文を送り、男性を射殺したことは認めたが、遺体を燃やしたことは事実上、否定した。

韓国の軍当局は北朝鮮側が男性を射殺後、油をまいて燃やしたとみられると説明していた。

北朝鮮は通知文で、「われわれの軍人が艇長の決心の下、約10発の銃弾を違法侵入者に向けて射撃した」とし、「この際の距離は40〜50メートルだったという」と伝えた。

また、「射撃後、いかなる動きも音もなく、約10メートルまで接近して確認、捜索したが、正体不明の侵入者は浮遊物の上にいなかった」と説明。大量の血痕を確認したとした。

その上で、「われわれの軍人は違法侵入者が射殺されたと判断し、侵入者が乗っていた浮遊物は国家非常防疫規定により、海上で焼却したという」と明らかにした。【9月25日 聯合ニュース】

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【謝罪前は厳しい批判 情勢は急転?】

謝罪前の情勢としては、単に南北関係冷却だけでなく、対北朝鮮融和政策をとる文大統領および軍にとっても厳しいものとなっていました。

 

****文在寅大統領 “北”の射殺に触れず 国内で反発強まる****

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は25日、韓国軍の式典で演説したが、北朝鮮軍が韓国人を射殺した事件には一切触れず、波紋が広がるとみられる。

 

文大統領は演説で、「国民の生命を脅かす行為に断固として対応する」と強調したが、22日に北西部の海上で、韓国人男性が北朝鮮軍に射殺されて、遺体が燃やされた事件については言及しなかった。

 

事件発生直後のタイミングには、北朝鮮との対話を求める文大統領の国連のビデオ演説があり、韓国政府は、40時間近く事件を公表していなかった。

 

このため野党は、「国連演説のために意図的に発表を遅らせた」と批判していて、25日の演説内容についても反発が強まるとみられる。【9月25日 FNNプライムオンライン】

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****北朝鮮による韓国公務員射殺、「ただ見守っていた」韓国軍に批判の声****

2020年9月24日、韓国・ニューシスは「軍、公務員の殺害を見守っていた…北朝鮮の蛮行現場になすすべなく」と題する記事を掲載した。

韓国海洋水産部所属の漁業指導公務員が北朝鮮軍に射殺され、遺体が燃やされる惨事が発生した。

記事によると、公務員は21日午前11時30分ごろ、韓国北西部の小延坪島付近の海上にあった漁業指導船で行方不明になった。これを受け、同日午後1時50分から海洋警察・海軍・海水部船舶20隻と海洋警察航空機2機が捜索を行うも発見されず、海兵隊・延坪部隊の監視装備に録画された映像を確認しても見つからなかったという。

捜索が難航する中、22日午後3時30分ごろ、韓国軍の監視網が北朝鮮水上事業所の船舶が行方不明の公務員と推定される人物と接触する場面を捉えた。公務員は救命胴衣を着て浮遊物に乗っており、ひどく疲れた様子だったという。

その後、北朝鮮の船舶は公務員を海上に放置したまま北朝鮮側にやってきた経緯などを尋ねていたが、突然取り締まり艇を現場に送り、約6時間後の午後9時40分に射撃。午後10時11分には遺体に油をまいて燃やしたという。

これについて韓国軍は「北朝鮮が射殺し燃やすことまでは予想していなかった」としている。黄海上の北方限界線(NLL)の北朝鮮地域の近隣であったことから、軍事作戦が困難だったという点も強調しており、「南北が軍事的に対峙(たいじ)したり軍事的対応措置が必要なものではなかった」とも話したという。さらに、韓国大統領府と国防部も事情を把握していたものの、何ら手を打てなかったという。

これに韓国のネットユーザーからは「公務員を送り帰すよう放送すべきだった。なんで北朝鮮の好き勝手にさせたの?」「国防長官は退任すべき」と韓国軍の対応を非難する声が上がっている。

また「どうせ韓国政府は『北朝鮮を刺激する行為は控えるべき』とか言うんでしょ」「北朝鮮は韓国と仲良くしたいと思ってもいないのに、大統領1人だけ別の世界に暮らしているようだ」「大統領はこれを全部知ってて(国連の一般討論演説で)終戦宣言の話を持ち出したの?」「文大統領は一体どの国の大統領なの?」「セウォル号は朴前大統領が責任取ったし、文大統領もそろそろ準備したら?」など、文政権への厳しい声も数多く上がっている。【9月25日 レコードチャイナ】

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こうした大統領・軍への厳しい糾弾は、金委員長の異例の謝罪で急転する可能性も。

24時間の間にこれだけ状況が急転する事案も珍しいかも。

 

【文大統領は「終戦宣言」に言及】

事件が報道される前、文大統領は「終戦宣言」に言及していました。

 

****韓国・文大統領「終戦宣言こそが恒久平和への道」…米朝協議の再開後押し****

韓国の文在寅ムンジェイン大統領は23日(米東部時間22日)、国連総会の一般討論演説で、「(朝鮮戦争の)終戦宣言こそが恒久的平和体制の道を開く扉になる」と強調した。

 

終戦宣言は、北朝鮮が非核化に取り組む代わりに米側が北朝鮮に与える「体制の安全の保証」の一環として検討されてきたが、米朝非核化協議が暗礁に乗り上げ、実現のめどは立っていない。文氏は終戦宣言の必要性をアピールすることで、米朝協議の再開を後押ししたい考えとみられる。

 

文氏は「終戦宣言を通じて和解と繁栄の時代に前進できるよう、国連と国際社会も協力してほしい」と訴えた。【9月23日 読売】

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これには国内外からの批判がありました。

 

****「終戦宣言」に言及した文大統領を米専門家らが叱咤?=韓国ネット「世界の笑いものだ」****

2020年9月23日、韓国・朝鮮日報は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が国連総会の一般討論演説で「終戦宣言を端緒に北朝鮮を再び対話の場に引き出す」との考えを示したが、米国の朝鮮半島専門家から「厳しい叱咤(しった)を受けている」と報じた。

文大統領は演説で「朝鮮半島の平和は北東アジアの平和を保障し、世界秩序の変化に肯定的に作用する」とし、「その始まりは朝鮮半島の終戦宣言だ」と述べた。その上で「終戦宣言こそが朝鮮半島で非核化と恒久的な平和体制の道を開く扉になるだろう」と強調したという。

 

これについて記事は「非核化に向けた対話や南北関係が視界ゼロの状況で『終戦宣言』を持ち出し、平和プロセスの動力を再び確保したい意思の表れ」と分析している。

これに対し、米タフツ大学フレッチャースクールのイ・ソンユン教授は、「真の平和とは、単に緊張がないだけではなく、そこに正義が存在することである」というキング牧師の言葉を引用し、「北朝鮮は不正義そのものだ」として文大統領の構想を批判した。

 

記事は「対話を通じて一時的に緊張を緩和させるのではなく、核、人権、サイバー問題などを包括する根本的な解決策の必要性を訴えたものとみられる」と説明している。

また、対北朝鮮制裁専門家のジョシュア・スタントン弁護士は「終戦宣言をしたとして、駐韓米軍を撤収させ、全ての制裁を解除し、非核化をあきらめ、北朝鮮の反人道的犯罪を許し、銀行詐欺をそのまま放置するつもりか」と指摘し、「終戦宣言は絶対に実現しないし、したとしても何も終わらない」と批判したという。

米ワシントンのある消息筋も「2年前もそうだったが、北朝鮮がすべてを閉ざした状況の中、(文大統領の構想は)韓国政府の希望的観測(wishful thinking)で終わる可能性が高い」と指摘したという。

今回の米ドナルド・トランプ大統領の一般討論演説では、文大統領とは対照的に北朝鮮への言及はなかったという。

この記事を見た韓国のネットユーザーからは「これでは世界の笑いものだ」「非核化宣言を先に引き出すべき。非核化のない終戦宣言なんてありえない」「北朝鮮が南北連絡事務所を爆破したことはどう考えているのか」「文大統領は1人で夢の国をさまよっている」「文大統領は国民の安全より自分の名誉を優先している。統一せずに別の国としてそれぞれが好きなように生きていけばいいのに」などの声が上がっている。

一方で「米国から何を言われても韓国は平和の道を進めばいい」「難しくても挑戦することが大切だ」などと反論の声も寄せられている。【9月23日 レコードチャイナ】

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神にも等しい金委員長が異例の謝罪するというからには、その後の展開に道筋をつけるためでしょう。

 

文大統領の主張する「終戦宣言」が、これで現実味を帯びてくる可能性も。

 

もっとも、文大統領がスピーチしたときはすでに事件が発生し、それを知らされていたはずですから、そのあたりの「認識」は問題視されるところですが・・・・。

 

利害関係が整えば、あの金委員長でも謝罪するというのは、日本の拉致問題についても参考にすべきかも。

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中国  内モンゴル政策をめぐり、一部太子党が連名の公開書簡で習近平批判 背後に権力闘争?

2020-09-24 22:51:04 | 中国

(習近平批判の紅二代・任志強【9月24日 大紀元】 禁固18年の重い判決は反習近平勢力への“みせしめ”とも)

 

【「第2の新疆ウイグル自治区」になりかねない】

中国・内モンゴル自治区において、小中学校で9月から中国語教育が強化されたことへの抗議活動が広がっていることは、9月10日ブログ“中国・内モンゴル自治区における中国語教育強化 反発する住民 共産党政権の内外統一運動への警戒感”でも取り上げたところです。

 

****中国語教育強化、抗議広がる 内モンゴル自治区、「文化の危機」****

中国内モンゴル自治区の学校で9月から中国語教育が強化されたことに対し、モンゴル族による授業のボイコットや大規模な抗議活動が起きている。中国政府は近年、ほかの少数民族にも標準中国語を普及させる政策を進めているが、モンゴル族の強い反発に遭った形だ。

 

 ■取り締まりで逮捕者も

自治区政府は8月26日、「民族の交流と融和を進める」などとして、モンゴル族の民族学校の小学1年と中学1年の「中国語」の授業では、従来のモンゴル語ではなく中国語で教えるとの方針を通知。教科書もモンゴル語を主体としたものから漢民族の学校と同じものに変更し、来年からは道徳、再来年からは歴史の授業でも同様の対応をとるとした。

 

9月の新学期の直前に示された変更に対し、モンゴル族の保護者や教員、研究者らが「民族文化の危機だ」などと反発。

 

自治区東部の通遼市や区都フフホト市など各地で抗議活動や授業のボイコットが起き、AFP通信などによると、参加者は各都市をあわせて数万人規模に達した模様だ。

 

隣国モンゴルの国営放送によると、首都ウランバートルでもこのほど、内モンゴル自治区出身者らが中国大使館前などで抗議した。

 

自治区政府は「(中国語、道徳などの)3科目以外はこれまでと変わらない」「(新課程は)就職に有利に働く」などと繰り返し釈明したが事態は収まらず、AFP通信などによると、当局の取り締まりで逮捕者やけが人が出ている。警察がデモ参加者の顔写真を公開して懸賞金をかけたり、デモの様子を伝える投稿がSNSから削除されたりもしている。

 

中国国営新華社通信によると、趙克志・公安相が自治区に入り、地元の警察幹部らに「反分裂闘争を進め、地域の安定を守れ」と指示した。

 

習近平(シーチンピン)指導部は「中華民族」としての一体感を強めようと、近年、少数民族への中国語教育を強化。内モンゴル自治区と同様の措置は2017年に新疆ウイグル自治区、18年にチベット自治区でも導入されている。

 

内モンゴル自治区では資源開発などで伝統的な生活環境や暮らしが激変し、失業や格差の拡大などが深刻化。11年には炭鉱に出入りする車両に遊牧民がひき殺された事件を機に激しい抗議運動が広がるなど、民族意識の高まりも指摘されている。(後略) 【9月8日 朝日】

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「国の共通言語を学ぶことは各市民の権利であり義務だ」(中国外務省の華春瑩報道局長)とは言うものの、敢えて変更することによって、ウイグル、チベット同様の民族浄化的な同化政策が強化されるのでは・・・と懸念されています。

 

また、共産党政府が外モンゴルとの統一運動を不安視しているということは前回ブログで取り上げたとおりです。

 

この内モンゴルについて今日目にした、中国政治事情に疎い私などにはいささか唐突な感もある記事。

 

****太子党「第2の新疆」と習氏批判 モンゴル巡り公開書簡****

中国の内モンゴル自治区で少数民族モンゴル族への標準中国語(漢語)教育が強化された問題で、「太子党」と呼ばれる高級幹部の一部子弟らが連名の公開書簡で、習近平国家主席に「第2の新疆ウイグル自治区」になりかねないと政策の見直しを求めたことが、24日までに分かった。

 

習氏自身も元副首相を父に持つ太子党で“身内”から批判が出た格好だ。

 

内モンゴル自治区では9月から中国語教育を強化し、母語のモンゴル語が失われると恐れたモンゴル族が授業ボイコットなどで抵抗。逮捕者が相次ぎ、区都フフホトでも厳戒態勢が敷かれている。【9月24日 共同】

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どういう背景があるのでしょうか?

 

もちろん、先述のように内モンゴルでの対応に多大な問題が懸念されるのは事実ですが、中国のような政治体制において政府・党の方針に異議を唱えることは、非常に例外的、かつ、危険なことです。

 

しかも、習近平一強体制という現状にあっての意義申し立てというのは、よくよくのことと推測されます。

 

人権活動家みたいな立場の者であれば、自己の信念に基づいて・・・ということで、その後に我が身にふりかかる厄介・弾圧にもめげずに・・・・ということもあるでしょう。

 

しかし、「太子党」と呼ばれる高級幹部の子弟らは、中国にあっては貴族階級、特権階層であり、モンゴル族の心情に思いをはせて「信念」に基づく行動をとるとはとても思えません。

 

習近平氏自身が同様の出自であり、利害が一致しているとも考えられてきたグループであり、異議申し立てによって失う特権・資産も多いグループです。

 

こういうグループがリスクの大きい危険な行動に出るのは、「次は自分たちが標的にされる」という恐怖・不安か、もしくは、大きな権力闘争の流れの中で、勝算があると見込める場合でしょう。

 

【革命の功労者を親に持つ実業家・任志強が習近平批判で重罪判決】

折しも中国では、遠慮のない発言、放言で知られ、「裸の皇帝」「道化」などと露骨な習近平批判を行っていた紅二代(親が革命の功労者)の実業家・任志強(じん・しきょう)氏に対し、汚職の罪で厳しい禁固刑が言い渡されています。(任志強がそうした方言をこれまで咎められなかったのは、習近平政権の実力者・王岐山の親友ということもありました)

 

****中国裁判所、実業家に汚職で禁固18年の判決 習氏風刺で身柄拘束****

中国・北京市の第2中級人民法院は22日、国有不動産会社の会長だった任志強被告に汚職の罪で禁固18年、罰金420万元(61万9003ドル)の刑を言い渡したと明らかにした。

判決文によると、任被告は1億1100万元を横領し、125万元の賄賂を受け取った。また、自身の地位を悪用し、複数の国有会社に1億1700万元の損失を負わせる一方で、自分は1941万元の利益を得たとしている。

任被告は不当に得た金を全額返還し、「すべての訴因について自主的に自白し」、判決を受け入れ上訴しない方針という。

任被告は、習近平国家主席が2月に行った政府の新型コロナウイルス対応に関する演説を巡り、習氏を道化師などと評する記事を出し、3月に身柄を拘束された。【9月22日 ロイター】

*******************

 

任志強の逮捕・非常に厳しい禁固刑判決は、共産党政権内部にうごめく習近平氏をめぐる権力闘争的な動きがあることを推測させます。このあたりの事情が、先述の太子党の内モンゴルを巡る公開書簡・習近平批判ともつながるのでしょう。

 

****「中国のトランプ」に鉄槌、習近平文革の始まりか****

「中国のトランプ」といわれるほどの遠慮のない発言、放言で知られる、紅二代(親が革命の功労者)の実業家・任志強(じん・しきょう)は、今年(2020年)2月に習近平を「裸の皇帝」「道化」などと激しく批判し、宮廷クーデターを煽ったともとれる署名原稿を米国発の華字論文サイトに寄稿したことで、およそ半年にわたって身柄拘束されていた。9月22日、その任志強に、懲役18年という重い判決が言い渡された。

 

任志強は元中央規律検査委員会書記の王岐山の親友という極めて強い政治的バックがあり、これまでは習近平に批判的な態度をとっても党籍剥奪を免れていた。

 

だが、ついに党籍剥奪どころか、懲役18年という69歳の老身にとっては無期懲役ともいえる重い判決を受けたのである。

 

中国政治の人治性を知る人間からすれば、これは相当激しい権力闘争が背景にあったと想像せざるを得ない。この任志強の判決によって、習近平は党内の紅二代グループと完全に対立したともいえるし、また実業界にも激震が走ったことだろう。

 

罪の重さは“宮廷クーデター”未遂に匹敵?

任志強が問われた罪状は4つ、汚職、収賄、公金横領、国有企業人員としての職権乱用である。(中略)

 

任志強の習近平批判論文は2月に発表され、3月に、身柄拘束が伝えられた。4月末には任志強が絶食して尋問に抵抗したといった噂が流れた。7月になって党籍剥奪の決定が発表され、起訴され裁判で罪が問われることになった。

 

任志強の周辺の友人らによれば、任志強裁判のために、王滬寧(中央政治局常務委員、宣伝・イデオロギー担当)は専門のタスクチームを立ち上げ、“反党的”な任志強の自白をとり、重罪判決方針を決めた。

 

中国では単純に裁判で罪が決まるわけではないことは当然といえば当然だが、このやり方は、まるで文革時代の江青林彪集団を模倣したかのように見える。(中略)

 

習近平がこれまで粛清してきた人物で思い出すのは、元重慶市書記の薄熙来、元政治局常務委員の周永康、胡錦涛の腹心でもあった令計画らで、いずれも無期懲役の判決だった。だが彼らは党内のハイレベル政治家であり、習近平から権力奪取する陰謀を企てたと噂されていた。

 

ほかには、中国の政治体制の変革を訴える「零八憲章」の起草人の1人で、2010年に中国の獄中でノーベル平和賞を受賞した劉暁波が、「国家政権転覆煽動罪」で懲役11年の判決を下された。

 

また、中国の人権問題を啓発するインターネットサイト「六四天網」の創始者・黄琦は、国家機密漏洩罪と外国に不法に国家秘密を適用した罪で、昨年、懲役12年を言い渡されている。

 

つまり任志強の“経済犯罪”は、国家政権転覆煽動や国家機密漏洩よりも重罪で、党中央ハイレベル政治家の“宮廷クーデター”未遂に近い罪だということになる。

 

なぜ再び習近平を攻撃し始めたのか

任志強が身柄を拘束されたのは、2月に発表した習近平を激しく批判する文章が直接的なきっかけであろうが、彼の体制批判、政権批判の発言はそれ以前から物議を醸していた。

 

2016年2月に習近平がCCTV、新華社、人民日報などの政府系メディア各社を視察したときに、CCTVが「CCTVの姓は党、絶対忠誠を誓います。どうぞ検閲してください」と卑屈な標語を社内に掲げたことに対して、任志強が「人民の政府はいつ党の政府になった?」といった批判をSNSの「微博」上でつぶやいた事件があった。

 

この批判がきっかけで、習近平が中央メディアを使って、自分を毛沢東のように神格化すべくキャンペーンを張ろうとした「個人崇拝路線」は挫折した。一部ではこの事件を、習近平が仕掛けた“プチ文革”が任志強によって10日で挫折したという意味で、「十日文革」事件とも呼ばれた。

 

任志強は、中国メディアで「反党的」と一斉にバッシングされ、そのバッシングは任志強の親友である王岐山にも及んだ。だが、それでもその時は任志強の党籍は剥奪されなかった。北京市西城区の共産党委員会は任志強を「党の政治規律に違反した」として1年の観察処分に処しただけった。

 

それから4年、任志強は表舞台から身を引いていた。なぜ任志強は再び、習近平を攻撃し始めたのだろうか。十日文革のときには、党籍剥奪こそされなかったが、かなり激しいバッシングに遭っていたし、後ろ盾の王岐山もすでに現役ではなくなっている。

 

考えられるのは、党内で任志強に同調し、新型コロナ肺炎の蔓延や、中国の国際社会における孤立、経済悪化の責任を習近平に取らせたいと考える勢力が実は想像以上に存在するということ、そしてその勢力には、王岐山以上のかなりの上層権力者が含まれているのではないか、ということである。

 

中国内政に詳しい元香港民主党創始者の林和立はアメリカの政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア」の取材にこんな見方を寄せていた。

 

「任志強がこれほど重い判決を受けたのは、党内の“反習近平派”に対して、“鶏を殺して猿に脅す”(見せしめ)的効果をねらったものだろう。たとえ紅二代であっても、(習近平に逆らえば)罪を逃れられない、と思い知らせる効果を狙ったのだろう」

 

「習近平はこの1〜2年の間、自分に対する批判を行った人間に対し厳しい懲罰を与え続けてきた。彼にとっては劉暁波よりも任志強への懲罰の方が重要だった。これほど判決が重いということは、任志強の書いた一つ二つの批判文章だけが理由ではないと思う。習近平は、彼を党内の反習近平派のメンバーの1人とみなしたのだろう」

 

内部から続々とあがる体制批判の声

実際、この1年、習近平を公開で批判する体制内人士が続出している。

 

中央党校の定年教授の蔡霞は「共産党はゾンビ」「習近平はマフィアのボス」と批判し、党籍をはく奪された。彼女はすでに米国に亡命している。(中略)

 

また、現在進行形の内モンゴル自治区での第二類双語教学導入(学校での漢語教育強化)への抵抗運動には多くの共産党員、公務員も反対の声を上げている。

 

その中には革命家で政治協商会議副主席も務めたことのある馬文瑞の娘の馬暁力、つまり紅二代も含まれているという。馬文瑞と習近平の父親の習仲勲は親友であり、習近平と馬暁力も幼馴染の関係だ。

 

9月10日、米国に亡命している元中央党校教授の蔡霞はボイス・オブ・アメリカの取材に「数年前から中国共産党内の紅二代が集まる会食の席では、みな今の共産党政治への反省の話になる。その中には共産党体制に疑問を持つ声もあった」と証言していた。

 

紅二代は、中国共産党内の特権階級、いわば貴族のような扱いであったが、その中から中共の合法性についての疑問が語られるようになったということは、もやは、共産党の寿命が尽きている、ということに他ならない。

 

紅二代勢力を極度に恐れる習近平

(中略)任志強の父親は商業部副部長を務めたこともある任泉生だ。王岐山と親密な関係にあり、不動産企業・北京市華遠集団元会長でもある大富豪だが、彼の歯に衣着せぬ発言は大衆に支持されていた。

 

2013年の北京大学での講演会では、彼はこう語っている。「今の中国の現状で、我々の唯一の社会的責任は、ここにいるみんなが、努力して立ち上がり、目の前の壁を倒して、社会民主制度を打ち立てることだ」。

 

習近平はこうした紅二代勢力によって、自分が権力の座から追い落されることを極度に恐れている。だからこそ、王滬寧らに命じて任志強を何としても重い判決に処し、紅二代勢力全体に対する委縮効果を狙ったのだろう。

 

だが、任志強一人を牢獄に閉じ込めても、紅二代の反感は抑えむことができるだろうか。紅二代勢力は、実業界、学者知識人界、官僚界、そして解放軍内に幅広くネットワークをもっており資金力もある。

 

習近平の性格を思えば、こうした実業家や学者、知識人、官僚らを次々と、それこそ文革時代のように粛清していかねば安心できない、ということになる。

 

今回の任志強事件は、十日では済まない長い“習近平文革”の始まりを告げるものになるかもしれない。【9月24日 福島 香織氏 JB press】

********************

 

今回の内モンゴルを巡る公開書簡・習近平批判が、上記記事にある紅二代・馬暁力を含む“内モンゴル自治区での第二類双語教学導入(学校での漢語教育強化)への抵抗運動には多くの共産党員、公務員も反対の声を上げている”者によるものなのかどうかは知りません。

 

中国共産党政権を“自分たちの親がつくった政権”として身近なものに感じている紅二代・太子党の面々にしてみれば、習近平一強体制のもとで変質する政権への不満・危惧があるのでしょう。

 

そうした紅二代・太子党の面々の不満と、彼らの影響力を恐れる習近平主席の不安が交錯する形で、なにやらドロドロしたものがうごめいている・・・・との指摘です。

 

【権力闘争の存在をうかがわせる教科書における「文革」評価の揺らぎ】

「文革」を復活させようとしているとも指摘される習近平政権と反対勢力のせめぎあいは、「文革」に関する教科書記述の揺らぎにも表れているとも。

 

*****「文革」評価揺り戻しから見える習近平の危うい立場****

(中略)このように、近年、中国歴史教科書で大きく変化したのは、2018年版である。

 

おそらく習近平政権は、前年の2017年(ないしは、それ以前)から「文革」への評価を変更しようとしていた事が窺える。そして、実際、2018年の教科書改訂につながった。これは「習近平派」が一時、党内で優勢になった結果ではないだろうか。

 

ところが、翌2019年には、「反習近平派」(その中心は李克強首相)が徐々に巻き返し、今年2020年には、以前の「文革」評価に戻っている。これは、2018年〜19年にかけて「反習派」が党内で支配的になった事を物語るのではないか。

 

だからと言って、軽々に、「反習派」が共産党全体を牛耳っているとは決めつけられないだろう。習近平主席が依然、軍・武装警察・公安等を掌握しているからである。

 

ただし、いつ習主席に対するクーデターが起きても不思議ではない状況にある。直近では、今年3月、郭伯雄の息子、郭正鋼がクーデターを起こしたと伝えられている。(後略)【9月11日 澁谷 司氏 JB press】

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太子党の公開書簡による習氏批判というのも、李克強首相らの反習近平勢力につながる動き・・・・でしょうか?

“習氏の粛清が本格化、公安機関を完全掌握へ”【8月19日 WSJ】

“習近平と9人の経済ブレーン、李克強を“のけ者”に”【8月27日 福島 香織氏 JB press】

といった話も。

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新型コロナワクチンの公平な国際的供給を目指す枠組み「COVAX」

2020-09-23 23:26:55 | 疾病・保健衛生

(米ホワイトハウスはWHOが主導する「COVAX」に参加しない方針を明らかにした【9月2日 CNN】)

 

【ワクチンの公平な配布で死者半減】

新型コロナに対して世界中の人々がワクチンを待ち望んでいます。

 

当然、なんとか自国について先ず早急な対応を・・・という発想にもなりますが、ワクチン開発のための資金力・技術力、開発されたワクチンの購買力に、国家間で大きな差があるのも歴然たる事実です。

 

資金力のある先進国がワクチンを独占すれば、結果として人類全体としては大きな犠牲を払うことになる・・・というのは容易に想像できるところです。もし、世界中で分け合うことができれば、犠牲者は半減するとも。

 

****報告:ワクチンの公平な配布、富裕国買い占めに比べて死者半減*****

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンを富裕国が優先的に確保すると、各国の人口に応じて均等に配布した場合に比べ、死者数が数十万人単位で多くなる可能性があるとする報告書を、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏と妻の慈善団体「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」が9月14日に発表した。

 

同財団が米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)と共同で作成している年次報告書「ゴールキーパーズ・レポート」は、教育へのアクセス向上や飢餓撲滅、ジェンダー平等などを実現するために国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)について、達成状況を評価するもの。過去の報告書では、目標達成に向けて順調に前進していると評価していた。

 

ところが第4刊にあたる今回(2020年)の報告書では、ほぼすべての指標が、世界中の人々の生活の質が低下したことを示している。質の低下は特に、もともと苦しい状況にあった人々で顕著だ。

 

なかでもIHMEの調査結果が際立っている。ここ20年続いていた貧困の解消が、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)によって止まり、今年に入ってから推定3700万人が、1日1ドル90セント(約200円)未満で暮らす「極度の貧困」状態に追いやられたというのだ。

 

ゲイツ氏は9月10日に記者会見を開き、「パンデミックは、ほぼすべての側面で不平等を悪化させました」と述べた。可能な限り多くの命を救い、できる限り早くパンデミックを終息させるには、ワクチンと治療法の開発、製造、および全世界への公平な配布で各国が協力すべきだと今回の報告書には記されている。

 

現在、全世界で150種以上のワクチンが開発中で、そのうち8種が臨床試験の後期に入っている。

 

報告書によると、当初完成した30億回分のワクチンを、仮に各国の人口に応じてすべての国に配布すれば、ワクチンが存在しなかった場合に比べて死者数を61%減らせるという。

 

一方、そのうち20億回分を富裕国が買い上げた場合、33%の命しか救うことができない。この対照的な2つのシナリオは米ノースイースタン大学生物・社会技術システムモデリング研究所による試算だ。

 

「最も豊かな人々に配布するような使い方は間違っています」とゲイツ氏はナショナル ジオグラフィック英語版編集長スーザン・ゴールドバーグとのインタビューで述べた。「まず最終目標を設定し、世界のために前例のない方法で協力しましょうと皆に呼び掛けるべきです」

 

 

危機の連鎖

ゲイツ氏は記者会見で、パンデミックに起因する悲劇の連鎖反応について説明した。健康危機が経済危機を生み、それが教育危機につながり……と危機が次々と誘発されることで、国や性別、人種によってすでに存在する不平等が増幅されるのだ。(中略)

 

世界を回復に導くには

年次報告書が言及しているのは過去6カ月の劇的な状況悪化だけではない。今後数年にわたり、パンデミックは複数の主要部門に影響を及ぼし続けると予測している。(中略)今回は2通りの未来予測シナリオが用意された。

 

楽観的なシナリオでは、COVID-19が短期間で根絶できると仮定している。その場合のデータモデルは、わずか2年ほどで持続的な開発目標(SDGs)達成の軌道に戻ることができると予測している。

 

一方、迅速な封じ込めは不可能だと仮定した最悪のシナリオでは、目標に向けて再び前進し始めるまでに10年以上かかる可能性もあると予測している。

 

どちらの未来が現実になるかは、企業や国が今後数カ月に何をするかによっておおむね決まるとゲイツ氏は話す。ゲイツ氏はまた、これほど複雑に絡み合う問題を解決するには、世界的な協力体制が不可欠だと訴えている。

 

ワクチンの製造は協力可能な分野の一つだ。ゲイツ氏は、2021年前半までにワクチンが開発されると楽観的に予想しているが、世界規模でパンデミックと闘うために必要な量を製造できるかどうかについては疑問視している。

 

ゲイツ氏はこのジレンマの解決策として、ごく少数の富裕国に集中するワクチン開発企業が、製造能力の高い世界中のメーカーと手を組むことを提案している。

 

多くの命を救い、しかも不公平が生じないようワクチンを配布するには、各国がどのように協力し合えばいいかという問題もある。

 

例えばゲイツ氏が指摘するように、米国は6種のワクチンの研究開発を支援している点では評価すべきだが、そのワクチンを他国が購入する支援については、話し合いにすら参加していない。トランプ政権は9月に入り、世界保健機関(WHO)などが主導する、ワクチンを複数の国で共同購入する枠組みに参加しない方針を明らかにした。

 

ワクチンの配布が、開発資金を出した国に多少傾くことはゲイツ氏も受け入れている。だがそのうえで、富裕国は公平なワクチン配布に力を注ぐべきだと氏は主張している。世界のどこかにCOVID-19が存在する限り、世界中でパンデミックの影響は終わらないからだ。

 

「発展途上国を支援するのは、人道的、戦略的な理由からだけではありません」とゲイツ氏は言う。「そうすれば通常の生活に戻ることができるという、利己的な理由もあります」【9月19日 ナショナル ジオグラフィック日本版】

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【WHOなどが主導するワクチンの公平な供給を目的とした枠組みCOVAX】

ワクチンの公平な供給を目指す枠組みとしては、日本も参加する世界保健機関(WHO)が主導する「COVAX」があります。

 

*****ワクチン供給の国際枠組み、156カ国が参加 米中は見送り*****

世界保健機関(WHO)などは21日、新型コロナウイルスワクチンの公平な供給を目的とした枠組み「COVAX」に156カ国が参加したと発表した。米国と中国は参加しなかった。

途上国へのワクチン普及を進める国際組織「Gaviワクチンアライアンス」とWHOによるこの枠組みは、2021年末までに世界で20億回分のワクチン供給を目指す。参加国は世界の人口の約3分の2を占めるという。

COVAXの関係者によると、中国は参加していないものの、協議を続けている。

WHOのテドロス事務局長はオンライン会見で「COVAXは世界で最も大規模で多様なワクチン候補をそろえることになる」とし、「慈善ではなく、各国の最善の利益につながるものだ」と述べた。

GAVIは、さらに38の富裕国が数日中に参加する見通しだとした。また、ワクチン研究・開発向けに14億ドルの拠出確約を取り付けたが、さらに7億─8億ドルが早急に必要だと訴えた。

COVAXに資金を拠出する一方で同枠組みを通じたワクチン調達を行わない国名は明らかにしなかった。フランスとドイツはこれまでに、欧州連合(EU)の共同調達計画からのみ調達する方針を示している。【9月22日 ロイター】

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****中露独自のワクチン開発に対抗…日本のCOVAX参加が英断だった理由****

コロナワクチンの南北格差

世界中で新型コロナウィルスの感染拡大が止まらない。安倍首相が退陣を発表した8月28日の午前中、政府は2021年前半までに全国民分のワクチンを確保する方針を明らかにした。英アストラゼネカおよび米ファイザーからぞれぞれ1億2000万回分のワクチンを購入できる見通しである。(中略)

 

日本のように高所得で人口の多い国々は、製薬会社との個別交渉によって、ワクチンが完成する前に先物買いが可能である。しかし低所得で人口の少ない国々は、自前でワクチンを調達するのが困難であるため、日本は先進国の一員として、自国のみならず地球全体の新型コロナ感染拡大を食い止めるための努力に参画する必要がある。  

 

8月31日、日本政府はWHOなどが推進する「COVAX」というワクチン開発・分配の枠組みへの参加を表明した。

 

独自にワクチン開発を進める中ロ

米国のトランプ政権をはじめとして「自国第一主義」が広がる中、なぜ日本が世界全体のために貢献しなければならないのだろうか?   

 

その理由の一つは、世界各国は「新型コロナウィルスの感染拡大を食い止める」ためのスキームに関与しており、それを自国の国際貢献の成果としてアピールすることで影響力拡大を図っているからである。特に中国とロシアは、開発途上国に積極的にワクチンを供給する姿勢を見せている。(中略) 

 

「大国独行」か「国際協調」か

このような中国、ロシアの開発途上国へのワクチン供給は、いわば「大国独行戦略」に基づいている。

 

両国ともに一国でワクチンを開発できる能力を持っていることに加えて、人口規模が大きいことから国内のワクチン市場も大きい。国内市場において安定した売り上げを確保しながら、輸出で海外市場に打って出るという構想が見て取れる。したがって、ワクチン開発に関して他国と協調するメリットは小さい。  

 

これに対してヨーロッパ諸国や日本は、大国独行戦略を採用するような環境にない。

 

EU諸国は域内加盟国の結束を志向するので、ドイツやフランスはワクチンを開発する能力があるにもかかわらず、中国やロシアのような独行戦略は取らない。イギリスもEUから離脱したばかりであり、独行戦略を採用してこれ以上孤立するのは望ましくない。  

 

そして日本では、国産ワクチンの開発が試みられているものの、実用化まではまだ時間がかかる見込みである。将来はともかく、現状では中国やロシアのような独行戦略を取り得ない。  

 

このような状況に置かれているミドル・パワーの国々が採用しているのが「国際協調戦略」である。国際協調戦略の優位点は、途上国も含めた多くの国々と透明性が高く並行的な関係を結べることである。  

 

中国やロシアの戦略は、ワクチン供給国と需要国の間に力関係を想起させやすい。両国ともに第3相試験の結果を待たずにワクチンの実用化に踏み出しているため、有効性も安全性も低いワクチンが発展途上国に提供される可能性がある。途上国側も、相手国への配慮から、それを受け取らざるを得ない状況になってしまうという懸念がある。  

これに対して、国際協調戦略では、ワクチンの開発者、生産者、そして開発されたワクチンを接種する消費者らに対して透明性を持ったルールを適用し、先進国・途上国いずれにおいても「誰一人取り残さない」という理想に基づくワクチン開発・普及のメカニズムを形成できる。そして有効性や安全性について、国連などのお墨付きを得たうえでワクチンを世界各国に提供できる。

 

「COVAX」によるワクチン開発

この国際協調戦略を体現しているのがCOVAX Facility (COVID-19 Global Vaccine Access Facility)である。その主な機能は、(1)ワクチン開発資金の援助、(2)開発途上国へのワクチン供給、の2つである。COVAXは、WHO、CEPI(セピ)とGavi(ガビ)という3つの組織によって推進されている。(中略)

 

CEPI(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations:感染症流行対策イノベーション連合)は、2017年に設立された官民連携パートナーシップで、感染症ワクチンに関する研究開発資金の調達と分配を担っている。 

 

Gavi(The Global Alliance for Vaccines and Immunization:ワクチンと予防接種のための世界同盟)は2000年に国連などの支持を受けて設立された組織で、各国政府や財団などが参加している。主にワクチンの普及と開発を促進するための制度設計を行っていて、後述するAMCという、途上国向けのワクチン開発促進制度の推進役として知られている。 

 

今年5月に開催されたWHO年次総会において、加藤厚生労働大臣は、日本政府がWHOの新型コロナ対策用予算に7,640万ドル、CEPIに9,600万ドル、Gaviに1億ドル(ただし6月に安倍首相がこれを3億ドルに増額することを表明)を拠出することを明らかにした。  

 

COVAXの第一の機能であるワクチンの開発資金援助は、CEPIが中心となって現在9つのワクチン候補に対して実施されている。(中略) 

 

第二の機能である開発途上国へのワクチン供給は、Gaviが他の感染症ワクチンの開発のために実施しているAMC(Advance Market Commitment:ワクチン買取補助金事前保証制度)という制度を、新型コロナワクチン向けに設計しなおしたGavi COVAX AMCとして実施されている。

 

Gavi COVAX AMCの仕組み

AMCとは、熱帯で蔓延する感染症のワクチンの研究開発に対して、民間の製薬会社に投資を促すために設計された制度で、提唱者は2019年にノーベル経済学賞を受賞したマイケル・クレーマーである。  

 

熱帯にある低所得の途上国は購買力が小さいので、現地で蔓延している感染症のワクチンを開発しても利益につながりにくいことから、一般の製薬会社は敬遠しがちであった。

 

そこで投資を活発化させるため、援助機関が「ワクチン完成の暁には、途上国がワクチンを購入する資金を融資する」と事前に約束する、というのがAMCの仕組みである。(中略) 

 

Gavi COVAX AMCの立ち上げと同時に、オックスフォード大学と英のアストラゼネカのワクチンに、このAMCが適用されることが発表された。  

 

今年8月末までに20億ドルの資金拠出が約束されれば、2021年末までに20億回分のワクチンを確保し、参加各国の人口の20%に対して配分する、という計画である。低所得国と低位中所得国には特別な配慮がなされ、1回3ドルという低価格で提供される。  

 

米のモデルナ社のワクチンが60ドル、中国のシノファーム社製ワクチンが72ドルと言われている(7月30日付Financial Times、8月20日付South China Morning Post)状況で、この価格は破格の水準である。(中略)  

 

先進国・日本はどうすべきか?

中国やロシアは大国独行戦略を採用して、ワクチン供給による貢献を発展途上国にアピールしている。アメリカも大国独行的ではあるが、現政権においては、発展途上国へのワクチン提供を重視している様子は見られない。  

 

ワクチン開発競争は「勝者一人勝ち」ではない。(中略)特徴を持ったいくつかのワクチンが目的に応じて選択的に使用されうる。 

 

したがって、中国やロシアのワクチンが「完成」を宣言して供給を始めたからといって、それらが世界のワクチン市場を席巻するとは限らない。より有効性も安全性も高い製品への需要は、「一番乗り」のワクチン完成後も高いといえよう。  

 

このような状況下で、ミドル・パワーであるヨーロッパの先進国や韓国、日本は、大国独行戦略を採用する国々の動きを注視しつつも、他の国々や国連と団結し、途上国も含めた世界全体の国際協調を演出するという国際協調戦略を取ることが得策である。  

 

その意味で、COVAX Facilityに積極的に参加し、その中の重要なアクターとしての役割を果たすべきである。その点から言って、日本政府が参加表明をしたのは然るべき対応であった。  

 

残念ながら、客船ダイヤモンド・プリンセス内での感染やPCR検査数の少なさによって、日本のCOVID-19対応は海外からマイナスイメージを持たれてしまっている。

 

このイメージを払拭し、日本が世界のリーダーとしての評価と敬意を取り戻すためには、国際協調戦略を採用して途上国へのワクチン供給に関与し、COVAX Facilityでの存在感を示すことが重要である。【9月8日 山形 辰史氏(立命館アジア太平洋大学教授) 現代ビジネス】

***********************

 

【自国第一のもと国際協調に背を向ける米トランプ政権】

WHOの独立性に疑問を呈し、中国寄りだと批判してきた。7月からは1年後のWHO脱退に向けた正式な手続きを進めている米トランプ政権は不参加。

 

****米政権、ワクチン供給の国際枠組みに不参加表明****

米ホワイトハウスは1日、世界保健機関(WHO)などが主導する新型コロナウイルスワクチン供給の国際的な枠組み「COVAX」には参加しない方針を明らかにした。(中略)

 

ホワイトハウスのディア副報道官は声明で、米国は新型コロナウイルス克服に向けてパートナー諸国との協力を続けるとする一方、「腐敗したWHOや中国の影響下にある多国間組織の制約は受けない」と主張した。(後略)【9月2日 CNN】

*********************

 

トランプ米国大統領は9月22日、国連総会の一般討論演説で国連加盟国に対して、「自国民を大切にすることによってのみ、協力のための真の礎を見つけることができる」と説き、自国第一を掲げるべきだと主張しています。

 

“協力のための真の礎”・・・自己正当化の言葉遊びのようにも。

国内に自国民優先の声があれば、それに対し国際協調の意義、結果的に自国の利益になることを説くのが政治の役割だと思います。

 

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アメリカ  最高裁判事後任人事をめぐる問題  あらゆるものを政治化するトランプ政治

2020-09-22 22:52:26 | アメリカ

(後任人事として名前が挙がっているシカゴの連邦高等裁判所で判事を務めるエイミー・コニー・バレット氏 画像は【9月22日 Bloomberg】

現在48歳のバレットが終身制の判事に就任すれば、数十年はその座を保持できるかもしれない。 トランプが最初に任命した2名の最高裁判事ニール・ゴーサッチとブレット・カバノーはどちらも50代だ。 トランプ任命の判事が、何世代にもわたって最高裁の3分の1を代表する可能性が出てきたことになる。【9月21日 COURRIER JAPON】)

 

【早ければ25日にも女性候補を発表か】

激戦のアメリカ大統領選挙は、かつてない規模の郵便投票による開票の遅れで「混乱必至」の状況ですが、ここにきて、18日にリベラル派の象徴的存在だったギンズバーグ最高裁判事が死去したことで「最高裁判事の後任指名」という新たな要因が加わり、ますます混迷の度を深めているのは多くのメディアが報じているところです。

 

周知のように、中絶、銃規制、移民、オバマケアなど国論を二分する問題が最終的には最高裁で決着するアメリカでは、大統領の最大の仕事が自派の最高裁判事を送り込むことで、その点ではトランプ大統領はすでに保守派判事2名を送り込み大きな実績を示しています。

 

更にもう1名・・・ということになれば、保守・リベラルのバランスは圧倒的に保守に傾き、任期4年の大統領と違って終身制の最高裁判事だけに、トランプ再選以上に今後のアメリカの進む道に影響を与えることになるようにも思えます。

 

とりあえずの情勢としては、早ければ今月25日にもトランプ大統領から女性候補が発表されるのでは・・・とのこと。

 

****トランプ大統領 最高裁判事指名25日にも 与党からも反対の声****

アメリカの連邦最高裁判所の女性判事が亡くなったことを受けて、トランプ大統領は今月25日にも後任を指名したいという考えを明らかにしました。ただ、大統領選挙前に後任を選ぶことには与党・共和党の一部からも反対の声が上がっていて、論議を呼ぶことになりそうです。

 

FOXニュースの番組電話出演で

トランプ大統領は21日、FOXニュースの番組に電話で出演し、今月18日に死去した連邦最高裁判所のリベラル派の判事、ギンズバーグ氏の後任について「指名は今週の金曜日か土曜日になると思う。敬意を表すためにも葬儀が終わるまでは待つべきだ」と述べ、葬儀が終わったあとの、今月25日か26日にも指名したいという考えを示しました。

しかし、銃規制や人工妊娠中絶の是非など、アメリカ社会を二分する問題を判断する連邦最高裁判所の判事の指名については、投票日が40日余り後に迫った大統領選挙で選ばれた次の大統領に託されるべきだという考えから、野党・民主党に加えて、与党・共和党の一部からも急ぐべきではないという声が上がっています。

9人いる連邦最高裁判所判事はリベラル派のギンズバーグ判事が亡くなったことで保守派が5人、リベラル派が3人となり、トランプ大統領が保守派を後任に指名すると保守化が一層進むことになり、大統領選挙前の指名は論議を呼ぶことになりそうです。【9月22日 NHK】

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人選については、女性のエイミー・コニー・バレット米高等裁判所判事の名前が取り沙汰されています。

 

****トランプ大統領、最高裁判事候補をバレット氏に絞り込む-関係者****

トランプ米大統領は連邦最高裁判所の判事に、シカゴの連邦高等裁判所で判事を務めるエイミー・コニー・バレット氏を指名する方向に傾いていると、事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。

 

指名すれば、18日に死去したギンズバーグ最高裁判事の後任候補となる。トランプ氏は一方で、最大5人の候補者を検討していると21日に述べている。

 

(中略)バレット氏は人工中絶反対派からの支持が厚い。中絶反対の活動家らは、バレット氏を指名するようホワイトハウスやトランプ氏に積極的に働き掛けている。共和党のマコネル上院院内総務に近い複数の関係者によれば、マコネル氏もバレット氏を推している。

  

バレット氏を推す人々はホワイトハウスに対し、カトリック教徒である同氏を指名すれば、トランプ氏は中西部のカトリック票を確保でき、民主党候補のバイデン前副大統領にリードされている「ラストベルト(中西部地域と大西洋岸中部地域の一部にわたる脱工業化が進んでいる地帯)」や五大湖周辺州での巻き返しに役立つと指摘している。(後略)【9月22日 Bloomberg】

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【共和党内にも強行への異論・・・とは言うものの】

大統領選挙前の承認について、共和党内部にも異論があるということに関しては、強行することへの世論の反発を警戒するもののようです。

 

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共和党上院からも「速やかに承認手続きを行うことができるのは(野党・民主党の)最大限の協力が得られる場合で、今はそうではない」(コーニン上院議員)などと手続きを慎重に進めるべきだとの声が出ている。

 

採決を大統領選前に強行すれば批判が高まり、大統領選や上院選で民主党を利することになりかねないとの懸念があるためだ。【9月22日 毎日】

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決定権を持つ上院の情勢は微妙。賛否同数で副大統領が決定という場面もあるかも。

あるいは、票読みに自信がもてなければ採決回避も。

 

****駆け込み補充、共和2人反対=トランプ氏戦略に暗雲―米最高裁人事=****

ギンズバーグ米連邦最高裁判事の死去を受けた後任の選定を遅滞なく行うトランプ大統領の方針について、与党共和党のマカウスキ上院議員が20日、支持しない考えを表明した。反対論を唱えた共和党議員は2人目。現任期中に駆け込みで保守派判事を最高裁に送り込みたいトランプ氏のシナリオに暗雲が漂い始めた。

 

マカウスキ氏は、2016年にオバマ前大統領が指名した最高裁判事候補の承認を、当時上院を支配していた共和党が「次期政権まで待つべきだ」として拒否したことに言及。「われわれは2カ月足らずで大統領選を迎える。同じ基準を適用する必要がある」と主張した。

 

19日には、共和党のコリンズ上院議員も「選挙で選ばれた大統領が後任を指名すべきだ」として反対している。

 

定数100の上院で53議席を持つ共和党は、反対を3人に収めれば、可否同数の場合に副大統領(ペンス氏)が投票に加わる規定で人事案を承認できる。ただ、米メディアによると、トランプ氏と対立するロムニー上院議員ら3人がまだ態度を明らかにしていない。【9月21日 時事】 

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このあたりの票読みは、裏でホワイトハウス主導のし烈な駆け引き・政治取引が行われていると推測されますので、部外者には今後の展開は全くわかりません。

 

【米国内のあらゆる機関が、持続的に政治的圧力を受けている】

冒頭にも触れたように、最高裁判事のバランスは国内の政治・社会に極めて大きな影響を持ちますが、より広い視点に立てば「最高裁をはじめとする米国内のあらゆる機関が、持続的に政治的圧力を受ける」という問題が指摘されます。

 

****最高裁「政治化」の代償、広がる制度不信****

視野を狭くして言うと、米国民にとっての喫緊の課題は、最高裁判事の後任人事とその行方が選挙にどう影響するかだ。

 

だが、より広範な問題の方がおそらく重大な意味を持つだろう。最高裁をはじめとする米国内のあらゆる機関が、持続的に政治的圧力を受けるこの時代をどう乗り切るかという問題だ。米機関の立場と社会における役割はここにきて、政治的圧力に脅かされている。

 

もちろん、最高裁が政治から完全に切り離されていたことはこれまで一度もない。だが、ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事の死去に伴う後任人事を巡る攻防は「最高裁の政治化」の時代がその極みに達していることの表れとも言えそうだ。

 

米国では1987年、民主党が最高裁判事に指名されたロバート・ボーク氏の人事案を阻止する方向に動いたことで、「政治化」時代の幕が開けた。

 

共和党のミッチ・マコネル上院院内総務(ケンタッキー州)は、2016年にはバラク・オバマ前大統領が指名した最高裁判事候補の人事案を阻止した一方で、ドナルド・トランプ大統領が2020年に指名する候補者の承認手続きは迅速に行う構えだ。

 

マコネル氏はこうした行動を通じて、大統領選の年に最高裁判事に空席が出た場合、人事手続きを進めるかどうかは、どちらの政党が連邦政府のどの権力を握っているかによって完全に決定されるとの前例を確立した。

 

こうした事例が示すように、民主・共和両党はいずれも、最高裁判事について、司法判断を下す人物としてではなく、イデオロギー的に望ましい結果をもたらす政治的な立場にある人物だとの見方を強めている。この現状は、指名を受けた判事候補を直接選挙で決める方法の「一歩手前」にあるように感じられる。

 

しかも、このサイクルは今後も延々と続く可能性がある。共和党がギンズバーグ氏の後任の承認にこぎづけ、その後の大統領選で敗北すれば、民主党指導部は、自らも「核兵器」を駆使して対抗するよう求める支持層からの巨大な圧力にさらされるだろう。

 

具体的には、民主党支持派の活動家は、最高裁判事の数を増やす法律を制定するよう要求している。その上で、民主党が支持する判事を送り込み、「最高裁判事を大きく右派に傾けた共和党の不当な行動」を相殺するよう求めている。

 

司法制度の原理ではなく、政治の力が最高裁の勢力を決定する大きな要因になりつつあるのだ。

 

幸いなことに、最高裁は任務を遂行するその姿から、国民の信頼を十分に維持できているとみられる。米国の機関に対する信頼感を調べたギャラップの年次調査によると、最高裁を大いに、もしくはかなり信頼しているとの回答は40%と、ボーク氏を巡る攻防が繰り広げられていた当時の52%からは低下したものの、少なくとも過去10年は一定した支持を維持している。

 

他の機関はこれ以上にひどい結果だ。議会、大統領、大企業、銀行、新聞・テレビ報道に対する信頼は過去20年に低下の一途をたどっている。ギンズバーグ氏の後任人事を巡る与野党の主戦場となる議会に対する信頼感は13%にすぎない。

 

しかも、怒りと両極化したポピュリスト(大衆迎合主義)に特徴づけられる今の時代においては、米国のあらゆる機関が批判の矢面に立たされている。

 

トランプ氏やその支持者から、反トランプ派の既得権益層による「ディープステート(闇の政府)」の一派として非難を浴びるものもあれば、リベラル派から人種差別社会の名残として批判の矛先を向けられるものもある。単に党派対立のあおりを受けるものもある。

 

米連邦捜査局(FBI)は、ヒラリー・クリントン氏の個人メール使用問題に加え、前回の米大統領選でロシアがトランプ陣営を支援したとされる干渉疑惑の双方への対応を巡り、民主・共和両党から恨まれる存在となった。かつて党派争いを超越していた機関はもはや、その一部と化してしまった。

 

米国務省の外交局、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)のメンバーはいずれも、かねて超党派プロ集団のとりでだと考えられていたが、今ではトランプ政権を取り巻く党派対立の混乱に巻き込まれてしまった。

 

トランプ氏やその側近は、忠誠心に欠けるとして外交局およびNSCのメンバーを公然と批判。一方で、両機関のメンバーはトランプ氏や同氏のチームによる「不適切、あるいは弾劾に相当する」とみる行為について、内部告発を後押ししている。

 

情報当局者たちも同じような圧力にさらされており、トランプ米大統領はその仕事ぶりや忠誠心について、公の場で疑問を投げかけている。

 

一方、民主党内では、過去10年の大統領選で一般投票の得票数では上回りながら2度も敗北を喫したことに不満を強める左派が、選挙人制度を廃止し、大統領を直接選挙で選ぶことを唱え始めている。これには労力のかかる憲法改正が必要で、激しい議論を呼ぶことになるのは必至だ。

 

さらに、黒人男性ジョージ・フロイドさんがミネアポリス警察の手によって殺害された事件は、米国の制度全般における人種差別の名残を巡る議論を高めるきっかけとなっただけでなく、予算削減要求を含めた地元警察への具体的な攻撃にも発展した。

 

これらすべての機関に共通することは、厳しい時代や政情不安の時期にあっても米国と政府の結束を維持できるよう、背後で支えてきたという点だ。こうした機関が今後も同じような行動を続けられるかが、今まさに改めて問われている。【9月22日 WSJ】

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最高裁判事の数を増やす法律を制定・・・そういう「核オプション」もあるんですね・・・。

 

米国内のあらゆる機関が、持続的に政治的圧力を受けていることに関しては、コロナ禍のもと、政治ではなく科学に基づくべき米食品医薬品局(FDA)と米疾病対策センター(CDC)においても顕著で、大きな混乱を招いています。

 

****ホワイトハウスから「前代未聞」の圧力、米2大保健機関に 専門家ら警鐘****

米国のドナルド・トランプ大統領は、新型コロナウイルス感染症のワクチンを11月の大統領選までに実用化できるかもしれないと述べている。だがそのワクチンは安全かつ有効なのか?

 

専門家らは、ワクチンの承認と流通プロセスの監督に責任を持つ世界的に有名な米保健機関が、政治的圧力によっていっそう妥協を強いられつつあり、人の命を犠牲にすることにもなりかねないと懸念している。

 

問題の渦中にあるのは、米食品医薬品局と米疾病対策センターだ。歴史的に派閥対立を超越した存在とみなされてきたこの2つの機関は、世界の科学界から幅広い尊敬を集めてきた。

 

だが両機関の専門家らは今、トランプ氏のトップ補佐官らから深い疑念の目で見られている。大統領が進める経済再開策に抵抗しているとみなされているのだ。

 

これまで公衆衛生上の危機の際には定例会見を開いてきたCDCの上級科学者らは、今回の新型コロナウイルスに対しても最初に警鐘を鳴らしたが、3月以降は脇へ追いやられている。

 

長らく世界基準とみなされてきたCDCの公式ガイドラインにこの夏、不可解な改訂があった。学校の対面授業再開を強く奨励するようになったこと、それからCOVID-19患者との接触者でも無症状であれば検査の必要はないと助言したことだ。

 

特に後者の動きが言語道断とみられているのは、科学的根拠が何も示されていないことに加え、トランプ氏が発言している検査数を少なくしたいという意向に沿ったものだからだ。(中略)

 

同報告(CDCの「週間疾病率死亡率報告」)の編集委員であるウィリアム・シャフナー氏はAFPの取材に「米国の政治指導層が、これらの機関の科学的機能を侵犯するのは前代未聞だ」と語った。

 

■「恐怖の風潮」

一方、FDAの信頼も損なわれているというのは、米スクリプス・トランスレーショナル研究所のエリック・トポル所長だ。同氏は医薬品規制機関として世界で最も影響力を持つFDAの信頼性が揺らいでおり、パンデミック(世界的な大流行)に関する最も重要な決定、つまり最初のコロナワクチンをいつ承認するかという決定に大きな影響を及ぼしかねないと警告する。

 

トポル氏は重要な出来事があったとして、次の2つを挙げた。まず3月にFDAは、COVID-19への治療効果の証拠がないにもかかわらず、トランプ氏が熱心に推奨する抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンの緊急使用を承認した。だが安全性への懸念から、この承認は6月に取り消された。

 

またトランプ氏が共和党全国大会へ向けて準備をしていた8月にはFDAは、COVID-19から回復した患者の血漿(けっしょう)を用いた治療を緊急許可した。その発表の際、FDAのスティーブン・ハーン長官は血漿が生命救助に大きな効果を持つことをデータで示したが、この引用は不正確で、ハーン氏は後に謝罪と撤回に追い込まれた。

 

ハーン長官はFDAがホワイトハウスから圧力を受けているのではないかとの批判を否定し、審査プロセスには独立した専門家らが加わっていると強調している。

 

さらに9月上旬にはツイッターへの投稿で「これらの(新型コロナウイルスの)ワクチンやその他のワクチンに関し、われわれの科学に基づく独立した審査に対する国民の信頼を脅かすことはしない。危険すぎることだ」と述べた。

 

現在、ワクチンの臨床試験は最終段階にあるが、トランプ氏がいう10月いっぱいまでに十分なデータが入手できる可能性は低い。また実用化のめどが十分に立っていない医薬品で、製薬企業が自社の評判を危うくすることもありそうにない。

 

だが専門家らは今も懐疑的だ。彼らが懸念材料として挙げるのは、米医薬品大手ファイザーの最高経営責任者が早ければ数週間以内にも承認申請を行うと、連日のように発言していることだ。

米ハーバード大学の疫学者マイケル・ミナ氏は、「承認を迫る不穏な圧力運動が起きているのだと思う」と語った。

 

スクリプス研究所のトポル氏は、CDCとFDAが「トランプ政権下のホワイトハウスの面々に従属してしまっている」と指摘し、「失職することに対する恐れや、大統領とその支持者らによる敵意あるツイートの標的になることを怖がる『恐怖の風潮』がある」と批判した。 【9月21日 AFP】

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本来、政治から独立していることを求められる機関への政治圧力というのは、今も昔も常にあったことではありますが、それを露骨に、公然と行うという話になれば、その危険度のレベルは数段増します。

 

国民をひとつにしようとしない、その素振りすら見せないことに加え、こうした政治圧力を隠そうともせず、むしろ力を誇示するかのように見えることはトランプ政治の大きな問題であり、アメリカ民主主義を全く別物に変容させるものであるように思えます。

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EUと中国のオンライン形式首脳会談 懸案の投資協定の結論出せず 「人権」で中国不快感

2020-09-21 23:34:11 | 欧州情勢

(14日、中国の習近平国家主席(左上)やドイツのメルケル首相(左下)、EUのミシェル首脳会議常任議長(右上)らが出席し、オンライン形式で開かれた会議の模様【9月16日 朝日】)

 

【欧州側の「人権」言及に、習近平主席は強い不快感】

今月14日、EUと中国によるオンライン形式での首脳会談が行われました。

 

米中対立が深まる中で、欧州としてはアメリカの対決姿勢とは一線を画して、中国との独自の関係を構築するのが狙いです。

 

****EU、中国と首脳会談 警戒と協力のバランス外交探る 米国の封じ込め策とは距離****

欧州連合(EU)は14日、中国とオンライン形式での首脳会談を行う。EU側からは議長国ドイツのメルケル首相、フォンデアライエン欧州委員長ら、中国側は習近平国家主席が出席する。

 

香港問題や巨大経済圏構想「一帯一路」による投資攻勢などで、EUは対中警戒を強めている。だが環境問題や経済関係では「中国との協力は不可欠」との立場だ。米国の中国封じ込め策と一線を画し、バランス外交を探る機会となる。

 

EU筋によるとEUは会談で人権問題を提起し、国家安全維持法が施行された香港も議題する。さらに南シナ海情勢で、中国の海洋進出に懸念を表明する。

 

しかし、最大の課題は双方が年内合意を目指す投資協定の行方だ。交渉は2013年から続いている。

 

10日にデジタル問題のハイレベル対話が行われ、EUはデータ保護などで「透明でオープンな制度」を中国側に要求した。中国が8日、米国の封じ込め策に対抗し、データ管理の世界基準作りを目指す姿勢を示したことへの懸念がある。

 

EUは今夏、欧州に投資攻勢をかける中国企業の規制案作りに着手した。第5世代(5G)移動通信システムで安全保障を理由に華為技術(ファーウェイ)製品の採用に、慎重姿勢を示す加盟国も増えている。

 

中国は米国の圧力が強まる中で欧州に活路を見いだす戦術だ。EUとの首脳会談を前に中国外交トップの楊潔●(=簾の广を厂に、兼を虎に)(よう・けつち)共産党政治局員と、王毅(おう・き)国務委員兼外相が相次ぎ欧州を歴訪した。

 

王氏はフランスでの講演で米国の中国たたきを「歴史的誤り」と批判し、イラン核合意や環境問題で欧州と中国の協力を訴えた。【9月14日 産経】

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首脳会議にはEU側から議長国ドイツのメルケル首相、フォンデアライエン欧州委員長ら、中国側は習近平国家主席が出席しました。

 

ミシェルEU大統領は、交渉中の投資協定をめぐり、「われわれは公平で、対等な関係を要求した」と述べ、結論に至らなかったと明らかにしています。

 

****EU、中国に「利用されず」 首脳会談で公平な貿易関係要求****

欧州連合(EU)は14日、中国とオンライン形式で首脳会談を行った。ミシェル大統領は中国に「利用されない」と述べ、一段と公平な貿易関係を要求した。

ミシェル氏は会談後、記者団に対し「欧州には競技場ではなくプレーヤーが必要だ」とした上で、「われわれはもっと公平で、よりバランスの取れた関係を望んでいる。それは互恵関係と公平な競争環境を意味する」と語った。

ドイツのメルケル首相は、EU・中国間の投資協定の締結に向け、交渉を急ぐよう中国側に圧力をかけたと明らかにし、「全体として、中国との協力は互恵主義や公正な競争といった一定の原則に基づく必要がある。われわれの社会システムは異なっており、多国間主義にコミットしてはいるが、ルールに基づくことが前提だ」と述べた。

欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、中国の強制的な技術移転などの問題で進歩が見られるものの、投資協定を結ぶには中国が市場を一段と開放する必要があると指摘。中国は鉄鋼などの伝統的な分野にとどまらず、ハイテク分野でも過剰な生産能力に対処すべきとした。

中国の習近平国家主席は会談後の会見に参加せず、共同声明も出されなかった。

国営新華社通信によると、習氏は会談で中国の問題、特に人権に関する干渉を拒否。「中国人民は人権に関する『指図」を受け入れず、『二重基準』に反対する。中国は相互尊重の原則に基づいて欧州側との交流を強化し、双方が共に前進できるよう望む」と発言したという。【9月15日 ロイター】

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習近平国家主席は会談後の会見に参加せず、共同声明も出されなかった・・・和気あいあいという雰囲気ではなかったようです。

 

中国・習近平主席の側には、投資協定がまとまらなかったのもさることながら、欧州側が「人権」を持ち出すことへの苛立ちがあったのでしょう。

 

“中国人民は人権に関する『指図』を受け入れず”・・・下世話な言い方をすれば「教師づらするんじゃねえ!」といいたところでしょう。

 

実際、他の記事では「指図」ではなく、「教師ずら」「先生」といった言葉になっています。

習近平主席がどのような表現を使ったかは知りませんが、相当に強い不快感の表明であることには変わりありません。

 

****EU、中国へ強まる警戒 コロナ・米中対立経て…距離感に変化 首脳会談****

欧州連合(EU)と中国の首脳による14日のオンライン会談で、EU側は香港情勢やウイグル族をめぐる問題などへの強い懸念を表明した。

 

経済を軸に結びついてきた両者だが、米中対立や新型コロナウイルスも背景に、すきま風が吹き始めた。

 

 ■ウイグル監視団、受け入れを要求

新型コロナの影響でオンラインで行われた会談は、緊迫する場面もあった。

 

EU側によると、ミシェル首脳会議常任議長(大統領に相当)が人権問題を提起。少数民族への抑圧が指摘される新疆ウイグル自治区への監視団を受け入れるよう求めた。香港情勢にも言及し、「深い懸念」を伝えたという。

 

中国外務省によると、習近平(シーチンピン)国家主席は「中国は人権で『教師づら』する者を受け入れない」と強い言葉で反発した。

 

EUがあえて敏感な話題を強調した背景には、中国への警戒感の高まりがある。技術覇権や安全保障など、米中対立で米国が強調する懸念をEU側も共有するからだ。

 

たとえば、ドイツは今月、インド太平洋地域に関する政策指針を発表し、「自由で民主的な価値観を共有する国々との協力を強化する」とした。中国包囲網を築こうとする米国と完全に同調するわけではないが、「中国一辺倒」ではないとの姿勢を見せたと受け止められている。

 

 ■経済での協力は続く

ただ、ドイツをはじめとするEU側にとって、中国は米国に次ぐ貿易相手国。急激に経済関係を冷え込ませるつもりはない。人権問題を提起しつつも、投資協定などを通じて中国の市場開放を淡々と求めていくという姿勢だ。

 

その点で、対中圧力を強める米国との温度差は大きい。(中略)

 

EU議長国のトップとして出席したドイツメルケル首相は会談後の記者会見で、「中国と戦略的関係を築くことは重要と信じる」と述べる一方、中国との関係に「幻想を抱かず現実に照らしてみなければならない」と語った。

 

 ■依存するリスク、認識

一方、欧州をつなぎとめておきたい中国の習氏は会談で、「中国とEUは互いに重要なパートナーだ」と強調。「EUが公正で差別のないビジネス環境を築くことを望む」と語り、米国が各国に求める中国製品の排除に同調しないよう求めた。

 

中国人民大学EU研究センター主任の王義キ教授はEU側の態度の変化について、新型コロナで中国のサプライチェーン(供給網)に依存することへのリスクを自覚したことが影響していると指摘。中国と良好な関係を築いてきたメルケル氏が来年秋に退任する見通しである点も含め、「中独、中欧関係は不確実性に直面している」と話す。【9月16日 朝日】

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【力関係の変化で行き詰まるEUの対中戦略】

「人権」で“緊迫する場面もあった”とのことですが、欧州側は中国側の反発を考慮して、一定に抑制した対応だったとも。

 

それでも中国側の強い不快感を招いたということで、中国が今後ますます経済力・技術力を強めるなかで、“公平で、よりバランスの取れた関係”(ミシェルEU大統領)の構築は現実問題としては難しいものがあります。

 

****EUの対中戦略行き詰まり 強気の中国に人権で強く出られず****

米中対立の陰で、欧州連合(EU)の対中戦略が行き詰まっている。

 

EUは米国のように中国を真正面から攻撃せず、投資や環境の分野で対中協力を模索してきたが、習近平国家主席は14日のEU・中国首脳会談でEUの懐柔策を受け入れなかった。新型コロナウイルス流行後の中国、EU間の力関係の変化も背景にある。

 

 ◇人権「封印」も空振り

首脳会談で最大の課題は過去7年、交渉を続けてきた投資協定だった。過去の貿易で中国から技術移転ばかり迫られたEUは情報通信やバイオ産業の市場開放を要求する一方、香港や新疆ウイグル自治区などの人権問題では、「懸念」を表明するのにとどめた。

 

それでも、習氏は「中国は人権問題の『先生』を受け入れない」と反発し、会談は投資協定の「年内合意」の目標を確認しただけで終わった。EUのミシェル大統領は「われわれは中国に利用されない」といらだちを示した。

 

 ◇形勢逆転

EUが第5世代(5G)移動通信システムや人工知能(AI)、エネルギーなど戦略分野で大きく後れをとっていることは交渉上の弱みになっている。

 

5Gではデンマークやスロベニアが安全保障上の懸念から中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)製品採用を見送ったが、EUですぐに取って代われる企業は多くない。電気自動車(EV)でも欧州自動車大手は中国企業のバッテリーが頼みだ。中国は技術力でEUを凌駕しつつある。

 

中国は米国に対抗するため自国産業の育成に熱をあげ、投資協定が目指す市場開放どころか保護主義色を強める。北京の欧州商工会議所は今月、「中国の外資規制は強まり、欧州の競合企業を締め出そうとしている」と懸念を示した。

 

 ◇EU内で批判も

中国は新型コロナ流行後、EUへの態度を変えた。医療用品の不足に苦しんだEUは供給を中国に頼ったが、中国は「感謝せよ」と迫った。

 

これが欧州では居丈高な態度と映り、世論調査で「中国への見方が悪化した」と答えた人はフランスで62%、ドイツで48%にのぼった。

 

EUは昨年春の対中方針で中国を「競争相手」と位置付けた。米国が離脱したイラン核合意や地球温暖化対策で協力しつつ中国市場の開放で譲歩を狙ったが、出口の見えない戦略を産業界は疑問視する。ドイツ機械工業連盟は「投資協定が年内に合意できない場合、EUは状況を見直すべきだ」と声明で促した。

 

 ◇人権制裁法

欧州ではEUが「人権で弱腰」であるとの批判も強まる。フォンデアライエン欧州委員長は16日の演説で、迅速な制裁を可能にするため、「米マグニツキー法の『欧州版』導入に取り組む」と述べた。首脳会談の不調を受け、中国側に圧力をかけようとした。

 

この法は人権侵害に関わった外国人の資産凍結、渡航禁止などを定め、米政権は香港政府や新疆ウイグル自治区の高官に制裁をかける根拠とした。だが、EU議長国ドイツは制裁に否定的で、「欧州版」実現の見込みは乏しいのが現状だ。【9月20日 産経】

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欧州、そして世界が直面しているのは、一言で言えば、「力関係」の変化、ますます強まる中国の経済力・技術力ということでしょう。

 

日本では、経済力について「なんだかんだ言っても中国はアメリカに及ばない」という認識が主流ですが、そうした認識は世界的には“少数派”となっているようです。

 

****世界経済のリーダーはどの国?日韓だけが「米国」、残りは…****

2020年9月16日、韓国・ソウル新聞は、米機関が世界各国を対象に行った世論調査で、「世界経済のリーダーはどの国か」との質問に対し、日韓だけが「米国」と回答したことに注目した。

記事は、米ピュー・リサーチ・センターが15日(現地時間)、同盟国13カ国の成人1万3273人を対象に電話調査(6月10日〜8月3日)した結果を伝えている。

 

それによると、「世界経済のリーダー」を問う質問に対し、日本は53%が米国、31%が中国と回答。韓国は77%が米国、16%が中国と回答した。

 

この他、ドイツ、英国、スペイン、イタリアなど欧州諸国10カ国では中国が最多、米国と隣接するカナダも中国が47%で米国(36%)より多かった。

 

なお13カ国の平均は中国が48%、米国が34%だった。「多国間貿易を守る中国と、保護貿易を中心に新しい貿易秩序をつくろうとする米国の対外経済政策の違いが反映された結果」とみられているという。(後略)【9月17日 レコードチャイナ】

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日韓の対中国評価が低いのは、両国が中国事情に比較的詳しいためか、利中国との間に多くの問題を抱えているためか、あるいは、アメリカ中心の世界観から抜け出せないためか・・・・。

 

中国製品に対するイメージも変化しているようです。

 

****「中国製=模倣、パクリ」は昔のこと、ドイツで中国製に対するイメージ向上―独誌****

2020年9月17日、環球時報はドイツ誌の記事を引用し、ドイツでは中国製品に対するイメージが向上していると伝えた。

記事は、「国際製品を比較した時にドイツは最も人気のある生産国の1つだ」と紹介。「しかし、『メイド・イン・ジャーマニー』はもともと、英国がドイツ製品の質の悪さを警告するためにつけたもので、日本製品や韓国製品もかつては同様に西洋諸国から質の劣る製品と見なされていた。ところが、今では自動車や電子機器の分野で『1等席』を占めるようになっており、『メイド・イン・チャイナ』についても同様の変化が見られる」とした。

その上で、「華為技術(ファーウェイ)が12年から16年に発表したドイツにおける中国のイメージ調査では、半数以上のドイツ人が『メイド・イン・チャイナ』を粗悪品と見なしていた。中国製品と『模倣』『パクリ』を結び付ける人がほとんどで、これがドイツメディアの伝える中国のイメージだった」と説明した。

一方で、「この数年後の各種調査によると、中国製品の使用者と魅力が安定して増している」と指摘し、「ファーウェイや小米(シャオミ)などの中国ブランドはドイツで人気が高まっている」とした。

 

また、ドイツ品質協会が17年に行った研究で、中国の電子機器に対してポジティブな見方をしている人が7割に達したことに言及し、「多くの若者がファーウェイやTikTokなどのブランドと共に成長しており、中国製品を受け入れる割合が増加し続けている」とした。

この他にも、「ビジネスパートナーとしての中国のイメージも改善している」と紹介。19年の調査では、半数近くのドイツ人が「米国よりも中国の方が信頼できる」と回答していたことを挙げた。

記事は、「高品質製品の生産国でありビジネスパートナーである中国のイメージがドイツで向上していることは、中独関係においてグッドニュースである。しかし、中国製品の競争力が高まるにつれ、ドイツ製品が直面するプレッシャーもまた大きくなっている」と結んだ。【9月18日 レコードチャイナ】

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