孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南シナ海での存在感を強める中国、アメリカとの覇権争いも

2010-07-31 13:35:15 | 国際情勢

(南シナ海を巡航するアメリカ艦隊 中国艦隊の進出で南シナ海の波が今後高まることが予想されます。
“flickr”より By Official U.S. Navy Gallery
http://www.flickr.com/photos/usnavynvns/4379219449/)

【鄭和で「平和外交」アピール】
ヴァスコ・ダ・ガマが喜望峰を回り、ヨーロッパ人として初めてインドのカリカットに到着したのが1498年ですが、このヨーロッパの大航海時代に先だって1405年7月11日、中国・明の宦官である鄭和が永楽帝の命により第1次航海へと出ました。
“『明史』によれば長さ44丈(約137m)、幅18丈(約56m)という巨艦であり、船団は62隻、総乗組員は2万7800名余りに登る。”【ウィキペディア】という、巨艦・大船団です。
鄭和の遠征は、永楽帝死後の1431年まで7回行われ、東南アジア、インド、アラビア半島を経てアフリカ東海岸に至っています。

中国が、その鄭和の偉業を「平和外交」の象徴として、中国とアフリカの歴史的交流をアピールしています。
****中国明代・鄭和艦隊の難破船、ケニア沖に 「平和外交」の象徴、共同研究*****
15世紀初めにアフリカまで航海したといわれる中国・明代の武将、鄭和(ていわ)の大艦隊のうち、磁器などを積み込んだ1隻が東アフリカのケニア沖に沈没している可能性が高いとして、中国とケニア両国が共同研究に乗り出した。中国はいま、近代的な外洋海軍の整備を着々と進めており、約600年前にインド洋を横断して東アフリカまで到達した鄭和を“平和外交”の象徴として強調することで、国際社会の懸念を和らげる狙いがあるとみられている。(中略)
経済成長に必要な資源などを獲得するため、アフリカで独裁政権を支援し欧米の批判を招くことも少なくない中国だが、最近、鄭和が交易を中心とした“平和外交”を推進したと主張。その後、アフリカに到達した欧州諸国が武力を行使し、奴隷貿易まで行った負の歴史との違いを強調している。
中国側には、航海から600周年に当たる2018年までに中国とアフリカの歴史的交流を証明し、国際社会に中国とアフリカ関係の長さをアピールする狙いがあるようだ。(後略)【7月30日 産経】
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鄭和の遠征が“平和外交”だったかどうかについてはよくわかりませんが、【ウィキペディア】によれば、自衛、あるいは現地要請によるとされる武力行使もあるにはあったようです。
“(第3次遠征)帰路のセイロンで現地の王が鄭和の船に積んである宝を強奪しようと攻撃してきたので鄭和は反撃して王とその家族を虜にして本国へと連れ帰り、1411年7月に帰国した。”
“(第4次遠征)帰路の途中、スマトラで現地の王の要請で兵を使って反逆者を討ち、1415年7月に帰国した。”
一方、“鄭和が寄港した各地の港でも鄭和の評判は非常に高く、ジャワ・スマトラ・タイには三宝廟が建立されて祀られている”とも。

鄭和の遠征の目的については、“中国艦隊が南シナ海やインド洋における海上覇権を樹立することによって諸国の朝貢を促し、宮廷で使用される海外の奢侈品を入手するのが主目的だったと考えられる”という経済目的が重視されていますが、当然ながら、中華思想を背景にした国威発揚、周辺国を威圧することでの中国を中心とした世界秩序の構築という政治的な思惑もあったと想像されます。
「62隻、総乗組員2万7800名」という大船団を目にして、周辺国は朝貢を余儀なくされたことでしょう。


【「核心的利益」】
時代は下って現代の中国。急成長する経済活動を支えるため中東・アフリカから石油などの資源・エネルギーを海上交通路(シーレーン)で安定輸入する目的で近年、官民挙げてインド洋沿岸諸国の港湾整備を積極支援しています。その拠点は、パキスタンのグワダル、スリランカのハンバントタ、バングラデシュのチッタゴン、ベンガル湾のココ諸島などで、「真珠の首飾り」と呼ばれています。
また、中国は海軍力を急速に強化し外洋艦隊へと成長させています。
それに合わせて、南沙諸島や西沙諸島の領有権で東南アジア各国との軋轢がある「南シナ海」を、台湾やチベット、新疆ウイグル両自治区などと並ぶ「核心的利益」と位置付け、今後更にこの地域へのプレゼンスを強める意志を明確に示しています。

****中国:南シナ海で海軍が大規模演習 米国けん制が狙いか*****
30日付の中国軍機関紙・解放軍報によると、中国海軍は26日、南シナ海で艦艇多数が参加した実弾演習を実施した。中国は、南沙(スプラトリー)諸島など周辺国と領有権紛争を抱える南シナ海に米国が介入することを警戒しており、演習には米国をけん制する狙いがありそうだ。
演習には、中国海軍の北海、東海、南海各艦隊の主力艦や潜水艦、戦闘機などが参加。(中略)
現場では、陳炳徳総参謀長(中央軍事委員会委員)が「情勢変化に注目し、着実に軍事闘争を準備しなければならない」と強調した。軍首脳の軍事委委員が演習に現場で参加することは珍しく、今回の演習を重視していることがうかがえる。
南シナ海を巡っては、クリントン米国務長官が23日にハノイで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)で多国間協議を支持。当事国2国間での係争解決を主張する中国側と鋭く対立している。【7月30日 毎日】
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南シナ海問題では、上記記事にもあるように、23日のASEAN地域フォーラム(ARF)で、いつになく激しい議論が中国と関係国の間で交わされたばかりです。
****ASEAN、南シナ海問題で拘束力ある枠組み主張*****
ハノイで23日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)では、ASEAN―中国間で緊張が高まっている南シナ海の領有権を巡る問題も大きな焦点となった。
ASEAN側は、平和解決に向けて拘束力のある枠組み作りの必要性を主張し、今後結束して対処すると表明。これに対し、中国は対話には応じつつ、主権が絡む妥協は拒否する構えを崩さなかった。

「南シナ海問題で中国側とこれほど論議したのは久しぶりだ」とASEAN筋が語る。会議では、この問題が北朝鮮問題に次いで議論され、中国の楊外相発言のほとんどは、南シナ海を巡るものだった。
スプラトリー(南沙)諸島などの領有権争いを巡り2002年にASEAN、中国が署名した「行動宣言」は、法的拘束力がない。ASEAN側はこれまで、信頼醸成などでの具体的行動を明記し、法的拘束力を持たせた「行動規範」の策定を働きかけてきたが、中国側に拒否されてきた。
今会議でASEANは、「行動宣言」の影響が及ぶのは「海域の権利主張国」と限定していた従来の主張を変え、ASEAN全体の利害にかかわる問題だと強調した上で、「『行動宣言』の完全履行に加え、『行動規範』策定に向け、努力を促す」ことを声明に盛り込むよう求めた。【7月24日 読売】
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この問題は議長声明では、平和解決を盛り込んだ「行動宣言」の重要性などを再確認するにとどまりました。

南シナ海の現代の鄭和は相当にこわもてです。
****中国:武装艦で威嚇「拿捕の漁船解放せよ」 一触即発の海*****
青く、穏やかな南シナ海に緊張が走った。6月23日、インドネシア領ナトゥナ諸島のラウト島から北西57カイリ(約105キロ)。現場海域からの立ち退きを命じるインドネシア海軍艦船に対し、(軍艦を改造した)中国の白い大型漁業監視船が、「拿捕(だほ)した中国漁船を解放しなければ攻撃する」と警告。大口径の機銃が銃口を向け、インドネシア海軍艦も応戦準備に入った--。
「洋上対決」は前日、同じ海域で10隻以上の中国漁船団が操業したのが発端だ。インドネシア警備艇がうち1隻を拿捕した。「排他的経済水域(EEZ)内であり、他国は勝手に操業できない」(当局者)ためだ。だが約30分後、2隻の白い中国の漁業監視船が現れ、「インドネシアのEEZとは認めていない」と無線で主張し、解放を要求してきた。(中略)
警備艇はいったん、漁船を放したが翌朝、応援のインドネシア海軍艦船の到着を待って再び拿捕した。だが中国側は、海軍艦の登場にもひるまなかった。ファイバー製の警備艇は被弾すればひとたまりもない。やむなく漁船を解放したという。中国監視船は5月15日にも拿捕漁船を解放させていた。「武装護衛艦付きの違法操業はこれが初めて」(インドネシア政府当局者)だった。(後略)【7月26日 毎日】
毎日新聞 2010年7月26日 23時41分(最終更新 7月26日 23時49分)
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【激しさを増す米中の海上覇権争い】
ARFでは、クリントン米国務長官が冒頭発言の3分の1を「南シナ海問題」の説明に充て、(1)南シナ海の「航行の自由」が米国の国益(2)領有権問題の外交解決(3)武力行使や威嚇に反対--を主張。
これに対し中国外務省は25日、「中国を攻撃するものだ」、「(東南アジア諸国を)脅迫している」と、反ばくする楊外相の談話を発表しています。
単に中国と東南アジア各国の間の問題ではなく、中国とアメリカの海上覇権をめぐる争いの様相も呈しています。

****転換期の安保2010:海をゆく巨龍 大国間、揺れるフィリピン*****
南シナ海の領有権を巡り、東南アジア諸国は中国と衝突してきた。うちフィリピンは、同盟国・米国と新たな地域大国・中国の板ばさみとなった。冷戦時代にアジア最大の米海軍基地を抱え、後に撤退させた事情もあり、東南アジアでもとりわけ2大国のはざまでジレンマに悩んでいる。

「すみやかな艦船の撤去を求める」--。5月、任期満了が迫ったフィリピンのアロヨ政権は中国政府から抗議文を受けた。「艦船」とは、南沙諸島の浅瀬に座礁した元米海軍の戦車揚陸艦だ。約10キロ先で中国に占拠されたミスチーフ環礁を監視する前線基地として使ってきた。
フィリピン国防大のロンメル元教授によると、同環礁の中国軍施設は3階建てビルやヘリ発着所、運動場を持ち、南沙諸島にある中国軍の拠点7カ所で最大。フィリピン海軍幹部は「中国の(撤去)主張に我々は抗議できない」と弱気だ。(中略)
中国は、アキノ新大統領が就任して3日後の7月2日、南沙諸島で軍事訓練を行った。フィリピン・デラサール大のデカストロ教授(国際関係論)は、「米国の同盟国がどう反応するか試している」と話す。アキノ政権は演習についてコメントしていない。
中国は南シナ海問題への米国の介入や、実施中の米韓合同演習などを通じた中国周辺への米国の影響力伸長に警戒感を強めている。米中外相同士による非難合戦は、南シナ海を舞台にした両大国の覇権争いを印象付けた。【7月27日 毎日】
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日本もこうした流れのなかで対応をみせています。
“自衛隊もこれまでの枠組みを広げ、外洋に出ている。海自は今年、米ハワイ沖で行われている「環太平洋合同演習」(リムパック2010)で、軍事行動以外の海賊対処訓練などに限り、各国海軍の合同部隊による多国間訓練にも初参加。歴代政府が「集団的自衛権」にかかわるとして80年代から一貫して避けてきた「封印」を解くためのステップをひとつ上った。”【7月29日 毎日】

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イラン核開発問題  米・EUの独自制裁、イランからは交渉再開の動きも

2010-07-30 23:13:08 | 国際情勢

(今年6月3日、イランは2019年までに有人宇宙衛星を実現すると語るアフマディネジャド大統領 そのロケット技術が宇宙船だけでなく、大陸間弾道弾にも使われることへの懸念もあります。それはイランに限った話でもありませんが。“flickr”より By owlbeasts haunt my dreams
http://www.flickr.com/photos/nike6/4827277371/)

【国連安保理の追加制裁にイラン保守派反発】
6月9日、国連安全保障理事会は核兵器開発疑惑のあるイランに対する追加制裁決議案を賛成12カ国、反対2カ国(ブラジル、トルコ)、棄権1カ国(レバノン)の賛成多数で採択しました。
決議案は、加盟国に戦車など大型武器の対イラン輸出を禁止し、核兵器やミサイル関連物資を積むとみられるすべての貨物船について、港湾だけでなく、公海上でも検査を行うよう求めています。また、アフマディネジャド大統領の権力基盤であり、核開発の主体でもある革命防衛隊の関連企業の資産凍結も含まれています。

アメリカ・オバマ大統領は、7月1日、石油精製品をイランに輸出する企業を米国の金融市場から閉め出す「ガソリン禁輸」措置を含む、国連安保理の制裁決議の内容を超えるアメリカ独自の制裁法に署名、イランへの圧力を強めています。
このアメリカのイラン制裁法には、イランのエネルギー産業に技術支援をした外国企業や、イラン革命防衛隊と取引している外国銀行を米金融市場から排除する内容も含まれています。

こうしたアメリカ主導の国際社会のイラン封じ込めに対し、イランでは保守派からの反発が強く、対話再開の糸口が見えてこないとも報じられていました。

****イラン:対話再開の糸口なし 制裁決議で保守派反発*****
行き詰まりの様相を見せているイラン核問題で、米国のケリー上院外交委員長や欧州連合(EU)のアシュトン外務・安全保障政策上級代表(外相)が相次いで対話再開へ向けたシグナルを送っている。だが、イラン側では先月の国連安全保障理事会による経済制裁決議以降、保守強硬派による反発の声が強まっており、対話再開の糸口は依然として見えてきていない。
イランは制裁決議後に反発を強めるばかりで、核政策を見直す機運は全く見られない。イラン核問題の行き詰まりは、米国内のいらだちを高めるだけでなく、イスラエルを刺激してイランへの武力攻撃にもつながりかねない。そのため米国は、対話再開で事態を動かしたい考えだ。(中略)
アフマディネジャド大統領は、表向きの強硬姿勢とは裏腹に水面下で米欧との接点を探ろうとしていたが、保守強硬派との路線対立が激化して身動きが取れなくなっている。【7月21日 毎日】
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また、国際社会の経済制裁は正規の貿易業者には打撃となるものの、イランで横行する密輸(年間120億ドル)、そして密輸ビジネスを牛耳る革命防衛隊には効果がない・・・との報道もあります。【7月21日号 Newsweek日本版】

【EU独自追加制裁、ロシアもイラン批判】
これに対し、EUが新たな経済制裁を発動するとともに、核協議に応じる用意も示す「アメ(対話)とムチ(制裁)」でイランに揺さぶりをかけています。
****EU:イラン追加制裁を決定…石油取引制限*****
欧州連合(EU、加盟27カ国)は26日、ブリュッセルで外相会議を開き、国連安保理決議に反してウラン濃縮活動を続けるイランに対する新たな経済制裁の発動を決めた。イラン経済の基盤である石油・天然ガス産業を初めて制裁対象に加え、金融・保険、運輸を含む広範な分野への締め付けを強める。一方でイランとの核協議に応じる用意を示し、硬軟両面で揺さぶりをかけている。
欧米紙によると、EUは6月の首脳会議でエネルギー分野を含む制裁の発動方針で合意していた。制裁では、欧州企業による(1)イラン石油・ガス産業への新規投資や技術支援(2)石油精製や天然ガス液化などに携わるイラン企業への重要な機材や技術の売却・提供・移転--が禁じられる。(中略)
だが、EUのイラン政策は「アメ(対話)とムチ(制裁)」路線のため、アシュトン外務・安全保障政策上級代表(外相)は同時にイランに核協議再開の日程設定を求めている。【7月26日 毎日】
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これまでイランとのつながりが強かったロシアは、「イランは核兵器製造に利用できる能力の保有に近づいている」というメドベージェフ大統領の発言など、ここにきてイランと距離を置き、欧米と強調する姿勢を強めています。
****ロシアとイラン、非難の応酬 核製造能力発言めぐり****
イランの核開発問題をめぐり、友好国だったはずのロシアとイランが非難の応酬を繰り広げている。「イランの核兵器製造能力の保有は近い」と警告したロシアのメドベージェフ大統領を、イランのアフマディネジャド大統領は「米国の芝居を演じている」などと強い調子で批判。ロシア外務省は26日、「決して受け入れられない発言だ」とする声明を出した。

ロシアのイズベスチヤ紙によると、アフマディネジャド大統領は24日にテヘランで、「メドベージェフ大統領の発言は、イランに向けられた米国の宣伝芝居の始まりとなった。なぜロシア大統領が米国の芝居を演じなければならないのか」「メドベージェフ大統領はイランの敵国思想の表現者になった」と批判した。
これに対し、ロシア外務省は、アフマディネジャド大統領の発言は「外交的解決をめざすロシアの客観的なアプローチや建設的な路線をゆがめるものだ」と指摘、「イランは無益で無責任な発言の代わりに、具体的で建設的な歩みをすべきだ」などと述べた。(中略)ロシアはイランの核開発疑惑に懸念を強めており、制裁の一環として、イランへの地対空ミサイルシステム「S300」の納入を中止している。【7月27日 朝日】
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ロシアとともにイラン包囲網のカギをにぎる中国に対しては、アメリカが調整を進めています。
****米国務省:調整官が8月に中国訪問へ イラン制裁巡り*****
イランと北朝鮮の制裁を担当する米国務省のアインホーン調整官は29日、下院監視・政府改革委員会の公聴会で「(対イラン制裁に関し)中国を懸念している」と述べ、8月下旬に訪中することを明らかにした。中国は原油輸入を通じてイランとの関係が深く、調整官は国連決議の履行を求めるとみられる。【7月30日 毎日】
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【ウラン20%濃縮停止、交渉再開の動き】
国際社会の包囲網が狭まるなかで、イラン側からも交渉に応じる意向を示す発言が出てくるようになっています。
****ウラン国外搬出で「交渉の準備ある」、イラン外相*****
イランのマヌチェフル・モッタキ外相は25日、5月にトルコ、ブラジルと合意した低濃縮ウランの国外搬出について、疑問を提示していた欧米各国とただちに対話する準備があると語った。26日に米国、ロシア、フランスのウィーングループの提示した疑問に返答する書簡を、国際原子力機関(IAEA)に提出する予定で、その中で、対話の希望を伝えるという。【7月26日 AFP】
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****イラン、無条件で核燃料に関する交渉に復帰する用意*****
イラン国営通信(IRNA)によると、イランは無条件で核燃料の交換交渉に復帰する用意があると表明した。・・・ IRNAによると、同国の国際原子力機関(IAEA)代表を務めるアリ・アスガル・ソルタニエ氏は、イランがIAEAに送った核燃料交換提案に関する書簡について、「イランが核燃料に関して無条件で交渉を行う準備が完全に整っているという明確なメッセージを伝えている」と述べた。
アハマディネジャド大統領はこれまで、イスラエルが保有している核兵器に対する対応、核不拡散条約に関するスタンス、イランの友好国あるいは敵国のどちらとして交渉の席につくか、の3点を西側諸国が明確にするまでは、イランは交渉に応じないと言明していた。
それに対し、今回、ソルタニエ代表は条件はつけないと言明。「各国の準備が整い次第、われわれは核燃料に関する交渉を行う準備がある」と述べた。【7月27日 ロイター】
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イラン側の対話再開へのシグナル、特に25日のモッタキ外相との会談について、トルコのダウトオール外相が「研究に必要な核燃料が(外国から)提供されるなら、ウランを20%濃縮することをやめるとのメッセージをイランから受けた」と説明したこともあって、アメリカ側からも対話再開へ向けた発言も出てきています。

****米国:「イランと対話の用意」 20%濃縮中断示唆受け*****
米国務省のクローリー国務次官補(広報担当)は28日、イランがウランの20%濃縮を条件付きで中断する意向を示唆しているとの報道を受け、「イランと引き続き話し合う準備はできている」と語り、国連安保理常任理事国とドイツの6カ国とイランによる核交渉再開に問題はないとの認識を示した。「協議は数週間のうちに開かれることを希望する」と述べた。
イランが先月の国連安保理追加制裁を受け、事態打開に動いたとみられる。ただ、イランは濃縮継続は譲らないとみられ、対話の成果があがるかどうかは未知数だ。
イランとの核交渉に関し、オバマ米政権はウラン濃縮の完全停止を最低条件と位置づけている。国務次官補は、ウラン濃縮を含む国際義務違反が続く限り、対イラン制裁が継続することも強調した。

イランと欧米の仲介を行っているトルコのダウトオール外相は28日、イランのモッタキ外相との25日の会談について「研究に必要な核燃料が(外国から)提供されるなら、ウランを20%濃縮することをやめるとのメッセージをイランから受けた」と説明した。
イランはトルコ、ブラジルと今年5月、イランの低濃縮ウランをトルコに搬出、燃料と交換する提案を行っていた。イランが20%濃縮を継続する意思を示し、交換の内容も不透明なため欧米が反発していた。
イランは交換の提案を欧米が受け入れれば、20%濃縮を停止するとの妥協案を示したとみられる。ただそのほかの低レベル濃縮の停止には触れていない。
トルコのアナトリア通信によればダウトオール外相は「協議は9月に行うことで(米国とイランは)基本的に合意したが、日程変更もありうる」と語った。また低濃縮ウランと燃料の交換について、実務レベルでの協議が始まっているという。

国連安保理常任理事国とドイツの6カ国とイランによる核交渉は昨年10月に行われたが、成果がないまま中断している。クローリー国務次官補は「同様な会議が、数週間以内に開始されることを期待している。もう一度会議を開くことに関心がある」と述べた。
イランのアフマディネジャド大統領は、対立している保守強硬派に配慮して米欧を非難し、今年8月末まで交渉に応じないとの姿勢をとっていたが、水面下では接点を探ってきた。【7月29日 毎日】
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【国民世論も気にかけるアフマディネジャド大統領】
イランのアフマディネジャド大統領はイスラム原理主義や民主化運動弾圧の強権的なイメージもありますが、一方で国内世論の動向を気にする現実的な政治家でもあります。かねてよりその経済運営には国内的に批判がありましたが、国際社会の経済制裁でイラン国内経済が更に打撃を受け、国民の不満が高まることを懸念しているように見えます。

ポピュリストとも言われるアフマディネジャド大統領ですが、国民の反感を気にして、女性の服装取締に対しても批判的だそうです。
****女性の服に甘いイラン大統領 規制に反対、宗教者は反発*****
イランのアフマディネジャド大統領が、イスラム式の服装を守らない女性への取り締まりを重ねて批判している。警察当局の摘発は今夏、例年にも増して厳しいが、強権一点張りでは不興を買うだけとの思いがあるようだ。しかし、政権を支える宗教指導者は「宗教に口を出すな」と大統領をいさめる始末。「政教一致」の国のややこしい権力構造の一端をのぞかせている。
「それは政府とは関係のないこと。我々は認めてはいない。聞きたければ警察に尋ねて下さい」。6月末の記者会見で取り締まりについて質問された大統領は、突き放すようにそう答えた。・・・・大統領は06年、女性の競技場でのサッカー観戦を認める方針を打ち出したが、宗教界は「下品なヤジが飛び交う場所に女性は入れられない」と反発。実現が見送られたこともあった。【7月28日 朝日】
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保守派の意向と国民生活への影響の板挟み状態のアフマディネジャド大統領に、核問題で妥協する余地があるのか・・・。

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アメリカ  アリゾナ州新移民法、連邦地裁が主要部分を差し止め

2010-07-29 23:29:47 | 世相

(アリゾナ州の新移民法に対する抗議 “flickr”より By Fibonacci Blue
http://www.flickr.com/photos/fibonacciblue/4556668580/)

【「人種分離法」に終止符を打った公民権法】
「移民の国」アメリカは、人種で見るとアフリカ系(黒人)12.1%(3490万人)、アジア系4.3%(1250万人)、また、ヒスパニック系(全ての人種)は14.5%(4190万人)と、著しく多様な人種・民族構成になっていますが、それでも「アメリカ」という国家としての一体感を強く保持していることは、人種・民族問題で紛糾している世界各国の状況からすれば、“魔法”のような感もあります。

しかし、当然ながら、人種・民族間の対立は社会に根深く存在します。
制度的に見ても、リンカーン大統領による奴隷廃止宣言が1863年、合衆国憲法で奴隷廃止が規定されたのが1865年のことです。
その後も「人種差別の合法化」の時代が長く続きました。

“1883年の公民権裁判での最高裁の判断は、「アメリカ合衆国で生まれた(または帰化した)すべての者に公民権を与える」とした「修正第14条は私人による差別には当てはまらない」とし、個人や民間企業によって公民権を脅かされた人々を保護しなかった。特に、このときの判決は、公共施設での黒人への人種差別を禁止した1875年に制定された公民権法のほとんどを無効にしてしまった。さらに1890年にルイジアナ州は、黒人と白人で鉄道車両を分離する人種差別法案を可決した。
これに対してルイジアナ州ニューオーリンズの反人種差別団体が「プレッシー対ファーガソン裁判」と呼ばれることになる裁判を起こしたものの、1896年5月18日に最高裁判所は、「分離すれど平等」の主義のもと、「公共施設での黒人分離は人種差別に当たらない」とする、事実上人種差別を容認する判決を下した。

この「プレッシー対ファーガソン裁判」の判決を元に、20世紀初頭には南北前に黒人奴隷を合法としていたジョージア州やアラバマ州、ミシシッピ州などの南部諸州で、白人による黒人に対する「人種分離(=人種差別)」が合法的に進められた。さらにこの判決を受けて、南部諸州のみならずアメリカ国内の全ての州では、黒人をはじめとする全ての有色人種に対する蔑視や公然の差別が、1964年の公民権法制定までの間大手を振って続くこととなった。
これらの「人種分離法(=人種差別法)」は一般に「ジム・クロウ法」と呼ばれ、アパルトヘイト政策下の南アフリカ同様、交通機関や水飲み場、トイレ等の公共施設のみならず、学校や図書館などの公共機関、さらにホテルやレストラン、バーやスケート場などにおいても白人が黒人と全ての有色人種(白人以外のすべての人種のこと)を分離するもので、当然のごとく有色人種専用のものは劣悪で不潔なものであった。”【ウィキペディア】

こうした「人種分離法(=人種差別法)」に対するキング牧師らの公民権運動、これに理解を示したケネディ大統領の施策があり、そのあとを継いだジョンソン大統領のもとで1964年7月2日に公民権法が成立、これで制度上の、法の上での人種差別はなくなりました。
いずれにせよ、公民権法が成立したのはわずか46年前です。私が子供の頃は、アメリカは「白人専用」といった看板が街角で見られた社会でした。

【オバマ大統領のもとでの複雑な様相】
こうした制度上の問題とは別に、人々の心の中での垣根が今も強く残っていることは言うまでもないところです。
黒人初の大統領となったオバマ大統領ですが、就任当時の人種問題が解消に向かうような高揚感とは裏腹に、黒人であるがゆえに発言には慎重にならざるを得ない現実、黒人大統領誕生やヒスパニック系移民増大に危機感をつのらせる白人保守層の反発など、複雑な様相を見せています。

昨年7月、医療保険改革法案問題で揺れていた頃、黒人教授を自宅で不法侵入者と誤認して逮捕した白人警官を批判したオバマ大統領ですが、波紋が広がり医療保険改革法案にも影響しそうな展開に、慌てて関係者の「ビールサミット」で沈静化をはかったこともありました。

****誤認逮捕で沈静化呼び掛け=黒人教授と白人警官招待へ-オバマ米大統領****
米ハーバード大(マサチューセッツ州ケンブリッジ)の黒人教授が自宅で不法侵入者と間違われて逮捕され、背景に人種差別があったのではないかとの議論が沸騰している問題で、オバマ大統領は24日、ホワイトハウスで、「非難し合うのはやめ、警察と地域のマイノリティー(少数派)社会との関係改善につながるよう、冷静に考えよう」と訴え、事態の沈静化を呼び掛けた。
オバマ大統領は誤認逮捕事件後、「ケンブリッジの警察の行為は愚か」と批判したことから、警察が猛反発。地元警察はオバマ大統領に謝罪を求めていた。
オバマ大統領は、「警察と教授双方が過剰に反応したことが、こじれた一因ではないか」と指摘する一方で、「わたしの発言が、事態を過熱させることにもなった」と語り、配慮が足りなかったことを認めた。
一方で、「ここまで問題が大きくなったのは、人種問題が依然、米国社会を悩ましている証しだ」と述べ、人種や偏見の問題解決に取り組む姿勢を強調した。
オバマ大統領はこの日、当事者であるヘンリー・ルイス・ゲーツ教授と、逮捕した白人警察官に電話し、ホワイトハウスに近く招待することを伝えた。オバマ大統領は「3人でビールを飲みながら語り合いたい」と述べた。【7月25日 時事】
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ギブズ報道官は、アメリカの長年の問題である人種間の緊張に対し、オバマ大統領ができることはこの程度しかないと指摘。「大統領が繰り返し述べているとおり、すべての問題を政府が解決するわけではなく、すべきでもない」と釘を刺しています。

最近では、保守派ブログに“乗せられて”、農務省職員のシャーリー・シェロッドさんを解雇、その後大統領が謝罪するというドタバタ劇もありました。

****差別発言で辞職の米農省職員 実は潔白 大統領も遺憾 *****
米国で、黒人女性の農務省職員が人種差別的な発言をしたとして辞職に追い込まれたが、実は、発言の証拠とされた映像が意図的に編集されたものであったことが発覚し、農務長官が謝罪するまでに発展する騒ぎがあった。22日にはオバマ大統領が直接、女性に電話で遺憾の意を伝えた。
発端は、農務省職員のシャーリー・シェロッドさんが3月の講演で、白人農場主に適切な支援を提供しなかったと発言をしている映像が、インターネットの保守系ブログに掲載されたことだった。ブログには、この発言は農務省職員としてのシェロッドさんの体験を語ったものだと書かれていた。この映像をフォックス・ニュースや保守系メディアが一斉に報道し、批判を受けたシェロッドさんは辞職に追い込まれた。
だが、元の映像をすべて確認すると、この発言はシェロッドさんが農務省に就職する数十年前の体験を話したときのものであり、「人種を超えて協力するべきだ」という趣旨の話の一部分にすぎないことが分かる。
しかも、話に出てきた白人農場主本人が、シェロッドさんは自分を支援してくれたとテレビで語り、彼女の潔白を証明したのだ。
ビルサック農務長官は当初、独自の判断でシェロッドさんの辞職を受け入れたとしていたが、真相が明らかになったのを受け21日、シェロッドさんに謝罪し、省内の別の仕事を提示した。シェロッドさんは仕事を受けるかどうか決めかねている。
また、オバマ大統領は22日、シェロッドさんと電話で7分間話し、遺憾の意を伝えた。シェロッドさんはこれに大いに満足しているという。【7月23日 CNN】
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【増加する不法移民への反発 アリゾナ州新法】
こうした事件に見られるように、アメリカにとって人種問題は非常にデリケートで取り扱いに注意を要する問題です。
そのデリケートな問題に、見方によっては相当に無神経な対応で踏み込んだのがアリゾナ州の移民法問題です。

アメリカには密入国やビザ切れなどで国内にとどまる不法移民が約1080万人いると言われています。メキシコと国境を接し、不法移民の通過点になっているアリゾナ州では、移民政策の責任を負う連邦政府の取り締まりが効果を上げていないことへの不満が強く、4月に不法移民の取り締まり強化を柱とした自前の対策法を成立させました。
この移民法は今月29日に施行予定でしたが、新移民法を「人種差別的」と批判するヒスパニック系住民らの激しい反発があって、オバマ政権は「連邦法が優先するとした合衆国憲法の規定に違反する」などの理由で提訴、アリゾナ州フェニックスの連邦地裁は28日、アリゾナ州新移民法の主要部分の施行差し止めを命じました。

****不法移民取り締まり強化 米地裁 州法施行差し止め*****
米西部アリゾナ州の新移民法をめぐり、連邦政府が法施行の差し止めを求めていた訴訟で、フェニックス連邦地裁は28日、不法移民と疑われる場合、警官が職務質問できるなどとした新移民法の一部を差し止める判断を示した。州政府はこれを不服として控訴する構え。新移民法が憲法違反に当たるかどうかの判断は避けており、最終決着までには時間がかかりそうだ。
地裁は新移民法が規定した(1)不法移民と疑われる合理的な理由がある場合、警官が身柄の拘束や逮捕ができる(2)外国人登録の未申告または登録証の不携帯を違法とする(3)不法移民の就労や求職を違法とする(4)場合によっては逮捕令状がなくても逮捕できる-との条項の差し止めを命じた。
理由は、連邦法の優先規定を定めた憲法に「新移民法が違反する」との連邦政府の主張が妥当とみられるからだとしている。
連邦地裁は同時に、「アリゾナ州当局者は連邦政府当局者と不法移民対策に当たることができる」といった条項については差し止めを命じておらず、こうした条項は当初の予定通り29日に効力が発生する。【7月29日 産経】
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フェニックス連邦地裁のボルトン判事は、アリゾナ州移民法の施行により、警察当局が合法移民を誤って逮捕する可能性があると指摘。州法の施行よりも差し止めによる現状維持の方が「害が少ない」と結論付けいます。

国内世論は不法移民取締強化を狙うアリゾナ州新移民法を支持する傾向にあります。
アリゾナ州には人口約660万人の7%、約50万人の不法移民がいると推定され、「彼らが我々の職を奪っている」との不満が根強くあります。各種世論調査では州民の70%前後が州法を支持しています。
米調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が5月6~9日に実施した世論調査によると、アリゾナ州の新移民法について全米の59%が「賛成」と回答。共和党支持層の82%、民主党支持層も45%が同法に賛同しています。

【ヒスパニック系差別の懸念】
同法は「人種や肌の色で不法移民かどうかを判断してはいけない」と定めてはいるものの、不法移民と疑われる合理的な理由がある場合、警官が職務質問を行い、合法的に滞在していることを証明する書面を提示できなければ身柄の拘束や逮捕ができるという内容は、事実上、ヒスパニック系住民を不法移民の疑念で見る人種差別につながることが懸念されていました。

この問題の背後には、建設業や清掃業などの特定の業種についてはヒスパニック系の不法移民抜きでは成り立たない現状、中間選挙を控えて黒人をしのぐ規模となったヒスパニック系住民の批判をオバマ政権として無視できない事情もあります。
もちろん、デリケートな人種問題をどう扱うかという、「移民の国」であるアメリカ社会の基本理念、人種差別撤廃に向けた社会の取組にかかわる問題です。
アリゾナ州のブリュワー知事は声明で「長い法的闘争の末に、アリゾナ州は市民を守る権利を勝ち取るだろう」と、控訴する意向を示しています。
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イラク  難航する連立協議 政治混乱に乗じたテロも

2010-07-28 23:29:21 | 国際情勢

(第1党となった世俗派政党連合「イラキーヤ」を率いるアラウィ元首相 “flickr”より By ZAMMILIAT ALNUSSIMIA ALSULTANIA
http://www.flickr.com/photos/a35m40/4392396179/)

【手間のかかる民主主義】
民主主義というものは、なかなか手間のかかる厄介な仕組みでもあります。
選挙で民意を問い、その民意を反映した政権が政治を行う・・・ということですが、国民の考え・立場もさまざまですので、支持が分散し、ひとつの政治勢力・政党だけでは政権が担えないことも、ごく普通に出現します。

そこで「連立」ということになるのですが、これが厄介です。
オランダ語圏とフランス語圏に分裂したベルギーでは、4月に連立内閣が崩壊。6月に総選挙が行われましたが、連立交渉が難航しており、新政権は10月中旬まで成立しない可能性があります。当面は、4月に崩壊したルテルム政権が新政権が成立するまで暫定政権として存続する形になっています。
なお、ベルギーは今年後半はEU議長国となっていますが、EU大統領はファンロンパイ前ベルギー首相であることもあって、暫定政権でも支障はないようです。【7月13日 オックスフォード・アナリティカより】

6月の総選挙で右派の自由民主党が初めて第1党に躍進したオランダでも連立協議が難航し、新政権発足のめどが立たない状況に陥っています。連立合意の障害になっているのが、第3党に急伸した極右政党・自由党です。第1党の自由民主党と第3党の自由党だけでは過半数に達しませんが、他の主な政党は、イスラム移民排斥などを主張している自由党との連立を拒否しています。
そこで、自由党をはずした連立も模索されていますが、これも政策の違いでなかなか進展していません。
一方、第3党に躍進しながら政権の枠組みから外されそうな自由党・ウィルダース党首は「右翼外しは民意に反する」とこうした動きを牽制しています。【7月25日 朝日より】

ネパールでは、制憲議会で約4割を占める第1党・ネパール共産党毛沢東主義派(毛派)主導の連立政権が09年5月に崩壊。その後、第3党の統一共産党出身のネパール氏が非毛派各党の毛派抜き連立を率いていました。
憲法制定には議会の3分の2の賛成が必要で、毛派の協力が不可欠ですが、毛派軍の国軍編入などをめぐり毛派と他政党の溝が埋まっていません。
今年5月、主要与党は毛派との間で、任期切れとなる制憲議会の任期延長の見返りに、ネパール氏を辞任させることで合意。(ネパール氏本人はこれに反発していましたが、最終的には辞任に同意しました。)
後任首相については、毛派のダハル書記長と、ネパール会議派のパウデル副総裁による決選投票が実施されましたが、両候補とも当選要件の過半数を得票できず、8月2日に再び投票が行われます。
次期首相が決まるまで、ネパール氏が暫定的に執務を続けます。【6月30日 朝日より】

組閣はできていても、タイのタクシン派反政府勢力と反タクシン派・現政権との対立が根深く、政治が機能マヒに陥っている事例もあります。
こうした事例を眺めていると、日本の衆参のねじれ現象などは、まだ対処しやすい方ではないかとも思えます。

【カギを握るサドル師、第1党「イラキーヤ」と会談】
選挙は行われたものの、その後の組閣ができないもうひとつの事例がイラクです。
3月に行われた国民議会選挙で、マリキ首相率いる与党は、あらうぃ元首相率いる世俗派政党連合「イラキーヤ」に及びませんでした。しかしマリキ首相は連立工作で政権維持をはかっています。
そのマリキ首相の連立工作も、「イラキーヤ」による政権構想も問題が多く、いつ果てるともしれない連立協議が延々と続いています。

****イラク第一党のアラウィ元首相と会談 サドル師、次期政権のカギ****
イラクのイスラム教シーア派指導者、ムクタダ・サドル師は19日、シリアの首都ダマスカスで、イラクの世俗派政党連合「イラキーヤ」を率いるアラウィ元首相と会談した。3月のイラク国民議会(国会、325議席)選挙で、イラキーヤは第一党となる91議席を、サドル師派は第三党となるシーア派統一会派「イラク国民同盟(INA)」70議席中39議席を占めた。
同議会は、6月14日の初招集後、30日以内に大統領と国会議長の選出を求める憲法の規定を守れなかった。憲法では、大統領を選出後、大統領が第一会派から首相を指名し、組閣を要請することになっている。
再選を目指すマリキ首相の宗派横断的政党連合「法治国家連合」は国民議会選で第二党となる89議席を獲得。INAと統一会派を組むことで合意したが、過半数の163議席に4議席足りない。また、INAに属するサドル師はマリキ首相の続投に反対し、別の次期首相候補を立てるよう求めている。
サドル師が表だって次期政権交渉をアラウィ元首相と行ったのは今回が初めて。サドル師の関与で、マリキ首相の再選は難しくなり、イラキーヤが何からのかたちで新政権に加わる可能性が高まった。【7月23日 オックスフォード・アナリティカ】
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会談するなら選挙直後に行えばいいのに・・・せっかちな日本人としては、そんな感じもします。

【イラク:政治的混乱に乗じたテロ攻撃】
どの国も、政権がすぐに成立しなくてもいい・・・ということはありませんが、とりわけイラクは本来そんな余裕はない国です。
復興に向けた課題は山積していますし、何より、一時の宗派対立・内戦状態は脱して安定してきたとは言え、いまだにテロが横行し、宗派対立に火がつく危険も残っている国です。
アルカイダなど反政府勢力も、こうした政治の混乱を狙って、テロ攻撃をしかけてきています。
“イラク全土における今年5月のテロ事件は595件だった。2007年5月の3930件、08年5月の2335件、09年5月の1040件から大幅に改善しているが、今年は1月から4月まで、それぞれ618件、576件、810件、637件とほぼ横ばいだ。”【7月10日 オックスフォード・アナリティカ】

最近の主な事件だけでも、首都バグダッド南西部で7月18日朝、イラク政府に協力してアルカイダとの戦いを進めるイスラム教スンニ派の治安組織「覚せい評議会」メンバーらを狙ったとみられる自爆テロがあり、少なくとも39人が死亡しました。

7月22日には、イラク中部・ディヤラ州バクバのイスラム教シーア派モスク近くで自動車爆弾が爆発し、30人が死亡しています。
****イラク中部でテロ、30人が死亡 自動車爆弾が爆発*****
イラク中部・ディヤラ州バクバのイスラム教シーア派モスク近くで21日、自動車爆弾が爆発し、AFP通信によると周囲にいた30人が死亡した。シーア派住民を狙ったスンニ派過激派のテロとみられる。警察が現場周辺でさらに爆弾を2発見つけ、処理したという。
また、イラク駐留米軍は同日、ディヤラ州内で米軍車両が爆弾攻撃を受け、米兵1人が死亡したと発表した。詳しい地点などは明らかにしていない。ディヤラ州ではシーア派とスンニ派の間で争いが続き、米軍とアルカイダ系過激派との衝突も起きている。【7月22日 朝日】
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更に、26日にはイラク中部のカルバラやバグダッドで爆弾テロが相次いでいます。
****イラク:爆弾テロが相次ぎ 31人が死亡*****
イラク中部のカルバラやバグダッドで26日、爆弾テロが相次ぎ、AFP通信によると計31人が死亡した。8月末の駐留米軍戦闘部隊の撤退を前に、イラク治安部隊の能力に改めて疑問符が付いている。
カルバラでは、シーア派の宗教行事のため集まった巡礼者の近くで車爆弾2発が爆発し25人が死亡、68人が負傷した。同派と対立するイスラム教スンニ派の過激派による犯行との情報もある。
一方、バグダッドでは中東の衛星テレビ、アルアラビーヤの支局付近で小型バスを使った自爆テロが発生し警備員や女性職員ら6人が犠牲になった。自爆犯は少なくともイラク治安部隊が設けた2カ所の検問所を通過していた。バグダッドの治安当局者は「(国際テロ組織)アルカイダ系の犯行」との見方を示した。【7月27日 毎日】
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米軍の取り組み、国際社会の関心はアフガニスタンに移り、イラク問題は終わったかのようにも受けとめられていますが、現在のような政治混乱が続くほどに、不安定要素が増していきます。
選挙当時から予想された事態とは言え、撤退を控えたアメリカも早期の組閣を呼び掛けています。

****組閣遅れ「イラクに危機招く」 米副大統領、訪問し警告*****
イラク訪問中のバイデン米副大統領は4日、バグダッドで同国のマリキ首相やアラウィ元首相らと会談し、3月の国民議会選挙後に難航する組閣交渉を早期に終えるよう要請した。AP通信によると、バイデン氏はマリキ氏に対し、組閣の遅れは「イラクに危機を招く」と警告したという。
国民議会選挙ではアラウィ氏率いる「イラク国民運動」が325議席中91議席を獲得。マリキ首相の「法治国家連合」の89議席を上回る最大勢力となったが、連立協議は難航している。組閣は9月にずれ込む可能性もあるが、バイデン氏は駐留米軍の戦闘任務を8月末に終え、駐留規模を5万人に縮小する計画を予定通り進める考えも示した。【7月5日 朝日】
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アフガニスタン:米軍機密文書暴露が明らかにしたパキスタンのタリバン支援、民間人被害の実態

2010-07-27 23:12:48 | 国際情勢

(08年11月 米軍による結婚式会場への誤爆とされる事件があり、子供や女性を含む住民37人が死亡しました。“flickr”より By noodlepie
http://www.flickr.com/photos/noodlepie/3005923761/)

【アメリカのアフガン戦略への疑念】アフガニスタン駐留米軍や米国の諜報機関の活動内容が示された9万点以上の機密文書が25日、民間の内部告発サイト「ウィキリークス」に公表され、波紋が広がっています。
公表された資料は、アメリカの同盟国であり、かつ、アメリカから巨額の支援を受けるパキスタンの情報当局が、水面下でアメリカと闘うタリバンを支援していることや、米軍などの攻撃による住民の犠牲が過小報告されていたことをうかがわせる内容となっています。

****内部告発サイトが新公開した機密文書、その意味*****
内部告発サイト『WikiLeaks』は25日(米国時間)、アフガニスタン紛争に関連する大量の米軍機密文書を公開した。情報源は不明だが、米国中央軍のデータウェアハウス『CIDNE』から引き出されたものと見られるものだ。(中略)
今回公開された文書数は約7万7000件だが、Wikileaksによると完全なデータベースには9万2000件が入っているという。情報源からの要請によって1万5000件を非公開にしたが、これは現地等で人的被害が起こりうることを避けるためで、状況が許すようになったら暫時公開していく予定だという。2004年から2009年12月末までの資料であり、ほとんどは「Secret」レベルの資料だ。一部は「Confidential」であり、約3000件には機密指定が無いという。ホワイトハウスは、文書がWikiLeaksサイトに公表される直前に、情報漏えいは米国民の命を脅かす危険があると非難する声明を発表した。

(中略)今回WikiLeaksが公開した大量の文書は、戦略的に大きな重要性を持つ可能性がある。米国とその同盟国が、どんな理由でどのように戦争を遂行しているかに関して疑問を抱かせる資料だからだ。
今回公開された資料は、6年間に多国籍軍によって市民が犠牲になった144事例を詳述しているだけではない。米国の同盟国とみなされているパキスタン内部の要因によって、アフガニスタン紛争がいかに維持されているかを如実に示すものでもある。
パキスタンの三軍統合情報部(ISI:Inter Services Intelligence)が、アフガニスタンのタリバン、ハッカーニー・ネットワーク、そしてグルバディン・へクマチアルの率いるヒズブ・イスラミ(イスラム党)とつながりを持っているという事実は、以前からの周知の事実だ。
しかし『New York Times』紙が報道しているように、WikiLeaksの資料は、ISIがアフガニスタン紛争を続けさせるためにどのようなことをしていたかについて、米国が6年にわたってどう見てきたかを、かつてない詳細さで提示している。(中略)

アフガニスタン紛争を支援するかのようなISIの動きは、ほぼ公然の秘密になってきた。少なくともISIの一部が、アフガニスタン内に生じる動きを統制するための保険として、タリバンやその分派の過激派グループとのつながりを保っているというのは、ワシントンのアナリストの大部分にとって当然の認識になっている。
しかし今回ホワイトハウスを震撼させたのは、アフガニスタン紛争に対するパキスタンの援助が、一般に認識されているよりもずっと深く及んでいるのではないかという疑問が、WikiLeaksによって浮き彫りにされたことだ。オバマ政権は現在、パキスタンに接近することで、こういうつながりを断ち切らせようという戦略を採っているが、この戦略の現実性について、さらなる疑問符が投げかけられることになる。一方で、こういったつながりを強めることによって、反体制派がアフガニスタンのハミド・カルザイ政権と取引を行ない、戦いが終結するように進むかもしれないという可能性もある。
こういったなかで、7月18日(米国時間)、米国からの拡大援助資金の初回分となる5億ドル相当が、パキスタンに到着した。このうちどれぐらいが、アフガニスタン反体制派のポケットに納まるのだろうか。・・・【7月27日 WIRED VISION】
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パキスタンの三軍統合情報部(ISI)(あるいは、その一部が)がタリバンなどイスラム過激派を支援していることは、ほぼ公然の秘密とされていました。
ISIは、もともとタリバンの成立に関与した組織であり、インドと対立するパキスタンは、アフガニスタンからインドの影響力を排除し、自国の影響が及ぶ勢力を打ち立てることに関心があるとされています。

ただ“公然の秘密”“うわさ”と、詳細・大量の裏付け資料が公表されることは、やはり意味合いが異なります。
ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)などが機密文書の内容として報じたところによると、ISIがタリバンと接触し、アフガニスタンのカルザイ大統領の暗殺を計画したり、テロ行為をアフガン国内に限定するよう求めたりしたとのことです。

アメリカのアフガニスタン戦略にとって、タリバンの支援地域となっているパキスタン北西部をどのように抑えるかが決定的に重要であり、そのためにパキスタンに巨額の資金援助を行い、パキスタンをイスラム原理主義勢力との戦いに引き込んでいる訳ですが、そのパキスタンがタリバンを支援しているとなるとアメリカの基本戦略の妥当性に疑問が生じます。
パキスタンに対しては、今後5年間にわたってアメリカから75億ドルの援助資金が渡ることになっています。

今回資料は、タリバンが航空機の撃墜に携帯用の熱線追尾ミサイルを使用していることも明らかにしています。
タリバンはコーランとカラシニコフだけで戦っている訳ではなく、何者かがタリバンにミサイルを売っていることを示しています。
“その何者か”は、パキスタン国内の、アメリカからの資金援助の受け取り手であるかも・・・という疑念も出てきます。

オバマ政権側は、ウィキリークスが兵士を危険にさらす可能性のある文書を事前に当局に打診することなく公開したことを強く批判しています。一方で、国防総省のラパン広報官は初期段階の調査結果として、流出文書の多くは「秘密」扱いで、より機密度の高い「極秘」扱いの文書は含まれていないとし、影響は限定的との見方を示唆しています。

しかし、上院外交委員長のケリー上院議員は声明で「流出した文書はその(アフガンの)危険度を強調したもので、即座に政策を調整する必要があることを示しているかもしれない」と、文書がアフガン政策に影響を与える可能性を否定していません。
“連邦議会で大詰めを迎えるアフガン戦費の補正予算審議への影響に懸念が出ているうえ、11月の中間選挙前に国民にえん戦ムードがさらに高まるのを警戒し、オバマ政権側は沈静化に躍起だ。”【7月27日 毎日】とも。

【ネット社会における機密保持】
「ウィキリークス」の創設者、ジュリアン・アサーンジ氏は26日、ロンドン市内で記者会見し、「9万点の機密文書に記された一つ一つの死がアフガンで進行する戦争の真実を物語っている」「オバマ政権は民間人の犠牲を回避する戦略に切り替えたが、何も変わっていない」などと語っています。
オーストラリア出身の同氏は元ハッカーとしても知られ、4年前に「ウィキリークス」を創設。米国防総省は今年に入り漏出した機密文書の公表を阻止するため、行方を追っていました。【7月27日 産経より】

情報化社会の現代は、為政者にとって情報管理が極めて難しい時代となっています。
****現代版「ペンタゴン・ペーパーズ」 機密保持の難しさ示す****
「ウィキリークス」によるアフガニスタン関連機密文書の暴露は、電子文書のかたちで膨大な情報が一瞬のうちに持ち出され、公開されてしまう現代における機密保持の難しさを改めて示している。
今回の暴露をめぐっては、ニクソン政権下の1971年、米紙ニューヨーク・タイムズがベトナム戦争に関する国防総省の調査報告書(ペンタゴン・ペーパーズ)の掲載に踏み切った経緯になぞらえる指摘もメディアから挙がっている。
「ペンタゴン・ペーパーズ」は、元国防総省職員のダニエル・エルズバーグ氏によってタイムズ紙にリークされた。米歴代政権が正確な情報を国民に示さないまま泥沼の戦争に突入していった過程が明らかになり、政府への国民の不信をかき立て、後の米軍撤退の一因になったともされる。
だが今回との大きな違いは、情報の伝達手段の格段の進化だろう。当時の内幕を描いた「メディアの戦場」(ハリソン・ソールズベリー著)によると、エルズバーグ氏はリークに際し、友人や家族まで動員して「ペンタゴン・ペーパーズ」のコピーをとりまくったという。
また、掲載途中で政権側が中止を求めて一旦(いったん)は司法判断にもつれ込むなど、現代から考えれば慎重な手続きを経ていたといえる。
一方、今回のリークの経緯は明らかになっていないが、現代では電子文書が一瞬にして持ち出され、ネットに流される。基本的には全世界のだれもが一斉に「現物」を目にすることになるのだ。
ただ、これまで数々の内部文書を暴露してきた「ウィキリークス」自身、今回初めて、公開によって危険を招く可能性を精査するためとして、文書の公開を遅らせるなど新たな対応を迫られているのも事実だ。【7月27日 産経】
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【アフガン国民の反感を強める民間人犠牲】
今回公表された資料は、パキスタンのタリバン支援のほか、米軍などの攻撃による住民の犠牲が過小報告されていたことをうかがわせています。
オバマ政権下で米軍の秘密部隊が、テロ組織上層部の拘束、殺害を目的にした作戦を強化しており、一部の作戦では民間人の犠牲が出ていることも示しています。

そんな折、また民間人犠牲が問題となる事態が起きています。
****アフガン:誤爆で市民52人死亡 駐留部隊のロケット弾?*****
アフガニスタン大統領府は26日、南部ヘルマンド州サンギン地区で23日にロケット弾が民家に着弾、最大で民間人52人が死亡したとして、「最も強い表現で非難する」との声明を発表した。同国情報機関の報告では、ロケット弾は駐留外国部隊が発射したという。
州知事によると、ロケット弾は外国部隊と武装勢力の戦闘の間に発射されたとみられる。カルザイ大統領は26日、ロケット弾がどちらから発射されたのかや、正確な死者数について、州政府に調査を命じた。

アフガン駐留米軍のペトレアス司令官は今月4日の就任後、民間人の巻き添えを減らす姿勢を強調したばかり。調査結果次第では、外国部隊に対するアフガン国民の反感がいっそう強まる可能性がある。ロイター通信によると、国際治安支援部隊(ISAF)も調査隊を派遣した。【7月27日 毎日】
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国際治安支援部隊(ISAF)は26日、ロケット弾は駐留外国部隊が発射したという指摘に対し「現時点では完全に事実無根」と反論する声明を発表しています。
「ウィキリークス」に公表された民間人被害の実態と相まって、今回事件の調査結果が注目されます。



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カンボジア特別法廷、最初の判決 トゥールスレン政治犯収容所長に禁固35年

2010-07-26 23:12:42 | 国際情勢

(大勢が見守るなかで行われるカンボジア特別法廷 日本が法廷運営費用の最大拠出国で、二審の裁判官の一人に日本人の野口元郎氏が任命されています。 “flickr”より By Extraordinary Chambers in the Courts of Cambodia
http://www.flickr.com/photos/krtribunal/3677307940/)

【国民の4分の1を虐殺】
解放者として市民から歓迎される形でポル・ポト率いるクメールルージュがカンボジアの首都プノンペンを制圧したのが75年4月17日。
当初、ポル・ポトなる人物が何者なのかも国際社会には伝わっていませんでしたが、その秘密のヴェールの向こう側では、文化大革命の中国を模したともみられる徹底した共産主義の名のもとに、カンボジア全土に虐殺の嵐が吹き荒れていました。
貨幣は廃止され、都市住民・知識人は農村での強制労働で消耗品のように“使い捨て”られました。
洗脳可能な子供が革命の実行者にしたてられ、家族も否定され、子供が親を密告することも。
また、事態が混乱するにつれ、猜疑心にかられた政治的粛正も横行しました。
ポル・ポト時代の犠牲者数は定かではありませんが、国民のほぼ4分の1にあたる約170万人が死亡したとも言われています。
その虐殺の象徴的存在がトゥールスレン政治犯収容所で、約2万人が拷問の末に殺害されたと言われています。

【「彼の犯罪は出所を許されるものではない」】
06年、この旧ポル・ポト政権(1975~79年)時代の大量虐殺を裁く特別法廷がカンボジア政府と国連共同で設置され、今日26日、初めての判決が言い渡されました。
裁かれたのは、トゥールスレン政治犯収容所の所長だったカン・ケ・イウ被告(67)(通称ドッチ)で、求刑・禁固40年に対し、禁固35年の判決でした。ただし、被告が過去にカンボジア軍により違法に拘束されていた期間を考慮して5年が差し引かれるそうです。
なお、特別法廷では死刑はなく、最高刑は終身刑です。

****カンボジア:元収容所長に禁固35年…ポト派虐殺で初判決*****
・・・・イウ被告が所長を務めたトゥールスレン政治犯収容所では、約2万人が拷問の末に殺害されたとみられる。被告は「命令に従っただけだ」と主張する一方で、「子供や女性まで拷問し、許される行為ではなかった」と責任を認めた。被告が裁判に協力したこともあり、5年減軽された。
裁判は2審制で、検察、弁護側双方が30日以内に控訴できる。判決が確定すれば、未決拘置期間などを刑期に算入して収監は今後19年間になる。
年齢的に被告が受刑後に出所できる可能性が出てきたことについて、傍聴した生存者の一人、画家のブー・メインさん(69)は「(最高刑の)終身刑を望んでいた。彼の犯罪は出所を許されるものではない」と話した。

ポル・ポト政権は都市住民を敵視し、大量殺害や強制労働で世界を震撼(しんかん)させた。特別法廷は、ポト派政権下で何が行われたのかを明らかにし、負の歴史を清算して国民和解を図ることが目的だ。だが、国内では既にポト派時代を思い起こさせる殺伐とした雰囲気は消え、国民の関心は未来に向かっている。
裁判が遅きに失した感は否めない。「20年前なら、私は落ち着いて裁判を傍聴することはできなかった。長い時間が私の心を癒やしてくれた」。判決を聞いた男性(49)は、兄がポト派に連行され帰ってこなかった記憶をたどりながら語った。・・・・【7月26日 毎日】
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トゥールスレン政治犯収容所で行われた虐殺行為からすれば、禁固35年の判決の判決はいかにも軽い感はいなめません。
ただ、本人が一応罪を認めていること(最後の意見陳述では上層部の命令に従っただけだと主張して、裁判長に「放免してほしい」と求め、被害者や遺族からは驚きと憤りの声が上がったそうですが)、特別法廷が復讐や処罰というより、真相解明と国民和解を重要な目的とする場であることを考慮すれば、こういう判決にもなるのでしょう。

【「真相解明」に向けて】
ただ、「真相解明」というなら、カン・ケ・イウ被告(ドッチ)は問題の中核ではありません。
政権中枢にいた他の4名の被告の裁判こそが中核です。
特別法廷は現在、最高幹部14人のうち生存しているヌオン・チア元人民代表議会議長(84)、イエン・サリ元副首相(84)、キュー・サムファン元締部会議長(78)の3人と、元副首相の妻イエン・チリト元社会問題相(77)を拘束しています。最高指導者ポル・ポトは98年に死亡し、拘束されている4人は関与を一貫して否定しています。罪を全部死人のポル・ポトにかぶせよう・・・との思惑ともとれます。
カン・ケ・イウ被告の裁判は国民大虐殺の全容解明という点から言えば入り□にすぎません。

最高幹部ら4人に関しては、捜査判事の報告書がすでに検察官に送られ、起訴するかどうかの判断は9月に出る見込みです。【7月25日 朝日より】

カンボジア政府、フン・セン首相は、ポル・ポト時代の犯罪の解明にそう“積極的”という訳ではありません。
フン・セン首相自身がかつてはクメールルージュの一員だったように、あまり範囲を拡大していくと現在の政権内部にも火の粉が及びます。
また、投降したクメールルージュ勢力を刺激し、社会混乱も招きかねません。
また、国民にも“過去の悲しみにあまり触れたくない”という思いもあるようです。

****虐殺解明 道筋つくか***** 
国民から証言届く
特別法廷は2006年、国連とカンボジア政府が共同で設置した。加害者の処罰以上に、真相解明と国民和解を重要な目的として掲げる。
集団虐殺や人道犯罪を裁く国際法廷はほかにもあるが、当事国に法廷が設置され、その国の検事、弁護士、判事も加わった形式のものは例がなく成否が注目されている。
ポト政櫓下で親族を失った遺族は、語らないことで心の傷を忘れようとしてきた。政権側にいた人たちも沈黙で過去を封印した。ポト派元最高幹部の捜査が難航する背景には、国民が捜査協力に消極的だったことがあった。
しかし、元所長の裁判を通じて変化が生まれた。裁判は国営放送で全国中継され、傍隠者も増えた。様々な事実が明らかになるのを目の当たりにし、「真実を知りたいと思う国民が増えた」(法廷報道官)。最高幹部らの犯罪立証に役立ててほしいと4千人以上から証言が届いた。

ただ、国連・カンボジアの共同運営のきしみも顕在化している。判事、検事、弁護人はカンボジア人と外国人がペアを組むが、考え方の違いが対立に発展することもある。
カンボジアのフン・セン首相は、訴迫する元最高幹部を4人に限定したい考えだ。訴追対象を広げれば、今は同じ国民として暮らす元ポト派の人々を刺激し、社会が動揺するとの考えからだ。外国人捜査判事や検事は、元最高幹部の責任追及を確かなものにするため、もっと多くの関係者を起訴すべきだとの立場だ。
カンボジア人の法廷関係者は「外国人はカンボジアの事情を理解せず、国際法をかさして柔軟さがない」と不満を隠さない。

国内法廷に注目’
集団殺害や人道に対する罪などで個人を裁く国原法廷は旧ユーゴスラビアやルワンダなどが知られている。いずれも法廷は国外。犯罪の背景となった民族対立が解決していなかったり、当事国に置くとその政府が裁判に介入する恐れがあったりするためだ。こうした措置は、当事国からすれば「外部者による制裁的な裁き」と映ることが多い。国際法廷は被告を裁くことはできても、犯罪当事者の反省を促し、再発を防ぐのが難しいといわれるゆえんだ。こうした点で関係者のカンボジア法廷への関心は高い。【7月25日 朝日】
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いろいろ難しい判断はありますが、少なくも現在拘束している最高幹部4名の裁判は早期に実現させ、当時クメールルージュ中枢部が何を考えてあの虐殺を実行したのか・・・真相の一端を解明してもらいたいものです。
被告たちの年齢を考えると残された時間はあまり多くありません。

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ASEAN  拡大する枠組み、遠い共同体への道のり

2010-07-25 18:51:25 | 国際情勢

(7月23日 ASEAN地域フォーラムに参加するカナダ外相(左端) “flickr”より By dfait.maeci
http://www.flickr.com/photos/dfait-maeci/4821110474/)

【54カ国、世界人口の約7割が参加】
東南アジア諸国連合(ASEAN)は欧州EUのような強固なつながりを持つ地域共同体を目指すとされながらも、加盟国間の政治体制の違いが大きく、内政不干渉の原則の枠内での議論しかできず、結果としてその存在感は軽いものにとどまっているように思えます。

そのASEAN基本条約に、中東トルコと北米カナダが調印ということですが、核となる加盟国間の議論が深められないなかで、関係国ばかり拡大してどうなるのか・・・という懸念も感じます。
****トルコ、カナダがASEAN基本条約に調印*****
トルコとカナダは23日、ASEAN地域フォーラムが開催されたハノイで、ASEANの基本条約である「東南アジア友好協力条約」に署名した。
また、ASEAN各国は同日、地域機構が同条約に参加できるようにするための修正議定書に署名し、欧州連合(EU)の加盟に道を開いた。【7月23日 読売】
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修正議定書が署名によって発効次第、すでに加入を表明している欧州連合(EU)・欧州委員会(EC)の加入が正式に認められます。
1976年にASEAN原加盟5カ国でスタートした「東南アジア友好協力条約」(TAC)は、一昨年には北朝鮮、昨年はアメリカが加入しています。EUの正式加入後は計54カ国、世界人口の約7割が参加するまでに広がります。【7月22日 赤旗より】

ASEANの拡張路線は、ASEANと日本、中国、韓国など16カ国首脳が参加する東アジアサミット(EAS)でも見られます。来年からはアメリカ・ロシアも参加することになりましたが、その背景には日本・中国の思惑もあるとか。

****ASEAN:外相会議 東アジアサミットに米露参加で合意*****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は20日、ベトナムの首都ハノイで開いた外相会議で、ASEANと日本、中国、韓国など16カ国首脳が参加する東アジアサミット(EAS)への米露両国の参加について正式合意した。両大国の参加でASEANの地域協力や広域的な安全保障体制の核としての地位は高まるが、一方でEASの「東アジア」首脳会議としての位置付けはあいまいとなり、会議が単なるセレモニーになりかねない恐れもはらんでいる。

ASEANは10月の首脳会議で米露のEAS参加を最終決定。来年以降、EASに合わせて毎年両国大統領がASEAN入りすることになる。
ASEANの域外対話の枠組みには、日本、中国、韓国が加わるASEANプラス3と、さらにインド、豪州、ニュージーランドが参加するEASがある。中国の影響力拡大を懸念する日本は豪州などが参加するEASを推し、同盟関係にある米国の参加を求めてきた。一方、中国は「プラス3」中心の枠組みを重視し、EASにはロシアの参加を要求してきた。
ASEANにはEASに超大国である米国を呼び込むことで、地域で一層影響力を強める中国をけん制する狙いもあるとみられる。一方、昨年誕生したオバマ米政権も、中国の影響力への懸念からASEAN重視を鮮明にし、EAS参加にも積極姿勢を示している。

だが「東アジア」とうたいながらインドや豪州が参加し位置付けがあいまいなEASは、これまで具体的な成果に乏しい。米露参加で地域の枠組みが完全にはずれ、これまで以上に「何を協議するのか」が問われる。
外相会議で採択された共同声明では、今年20年ぶりに総選挙が実施されるミャンマー情勢について、民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんの選挙参加などは求めず、スーチーさん抜きで実施される同国総選挙を事実上容認。一方で各国はミャンマーに、ASEANによる選挙監視団の受け入れを求めた。
また、韓国哨戒艦沈没事件について共同声明は、北朝鮮の国名には触れず、23日のASEAN地域フォーラム(ARF)に外相を派遣する北朝鮮に配慮する形となっている。【7月20日 毎日】
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【韓国哨戒艦沈没事件と南シナ海問題】
その東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)は、韓国哨戒艦沈没事件と南シナ海での南沙諸島・西沙諸島をめぐる中国とASEAN各国の緊張で、かなりもめたようです。
中国は最近、南シナ海を「核心的利益」と表明。その海軍力増強を背景とした中国の攻勢に、領有権を主張するASEAN各国ではナショナリズム高揚、軍備増強に向かう動きが出ています。

****ASEAN、南シナ海問題で拘束力ある枠組み主張****
ハノイで23日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)では、ASEAN―中国間で緊張が高まっている南シナ海の領有権を巡る問題も大きな焦点となった。
ASEAN側は、平和解決に向けて拘束力のある枠組み作りの必要性を主張し、今後結束して対処すると表明。これに対し、中国は対話には応じつつ、主権が絡む妥協は拒否する構えを崩さなかった。
「南シナ海問題で中国側とこれほど論議したのは久しぶりだ」とASEAN筋が語る。会議では、この問題が北朝鮮問題に次いで議論され、中国の楊外相発言のほとんどは、南シナ海を巡るものだった。
スプラトリー(南沙)諸島などの領有権争いを巡り2002年にASEAN、中国が署名した「行動宣言」は、法的拘束力がない。ASEAN側はこれまで、信頼醸成などでの具体的行動を明記し、法的拘束力を持たせた「行動規範」の策定を働きかけてきたが、中国側に拒否されてきた。
今会議でASEANは、「行動宣言」の影響が及ぶのは「海域の権利主張国」と限定していた従来の主張を変え、ASEAN全体の利害にかかわる問題だと強調した上で、「『行動宣言』の完全履行に加え、『行動規範』策定に向け、努力を促す」ことを声明に盛り込むよう求めた。【7月24日 読売】
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ARFは23日閉幕しましたが、議論の紛糾を受けて、24日夕になっても参加国外相の発言を総括した議長声明が発表されない異常事態になっていました。
ようやく発表された議長声明は、韓国哨戒艦沈没について「攻撃により引き起こされた韓国の哨戒艦沈没に深い懸念を表明」としたものの、北朝鮮の名指し非難は避けた形となっています。

南シナ海問題については、“中国とASEANが対立した南シナ海の領有権問題に関しては、南沙(スプラトリー)諸島や西沙(パラセル)諸島などでの紛争を平和的に解決することを目指した「南シナ海行動宣言」の重要性を確認。同宣言が「相互の信頼醸成に役立った」と指摘、関係国に紛争回避を目指した取り決めの順守を促した。”【7月24日 産経】とのことで、“「行動宣言」の重要性などを再確認するにとどめた”というところのようです。

【ミャンマー総選挙「訪問団」】
ASEAN加盟国枠外での韓国哨戒艦沈没事件などよりASEANにとっては重要課題であるべき加盟国ミャンマーの総選挙問題については、20日の外相会議で、“インドネシアが、ミャンマーの反発に配慮して選挙監視団ではなく「訪問団」の受け入れを打診した。ミャンマー側は本国の選挙管理委員会に伝えると約束したという。”とのことのようです。「訪問団」・・・・。

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コロンビア 治安回復の光と影 ベネズエラ・チャベス大統領、また断交宣言

2010-07-24 22:27:48 | 国際情勢

(ウリベ・コロンビア大統領(右)と言葉を交わすサントス国防相(新大統領) いかにもラテン系のチャベス・ベネズエラ大統領と比べると、ちょっと“こわもて”の感も。
“flickr”より By a-ser-definido http://www.flickr.com/photos/36488424@N03/3367325606/)

【誘拐も213件と大幅に減少】
世界最悪の誘拐多発国として知られた南米・コロンビアでしたが、南米の数少ない右派・親米政権であるウリベ大統領が国内の反政府左翼ゲリラや麻薬組織への強力な掃討作戦を進め、劇的な治安回復を実現したことは周知のところです。
6月20日の大統領選挙においても、当初の接戦予想を覆して、ウリベ大統領の後継者であるサントス前国防相が圧勝しました。国民は、変革よりは、ウリベ政権の成果の継続を選択した形です。

****伸びる海外からの投資=治安改善のコロンビア―出遅れ目立つ日本企業*****
殺人や誘拐の多発国として悪名高かったコロンビアの治安が急速に改善し、海外からの投資が活発化している。しかし、日本企業はまだ及び腰で、現地駐在員の間からは「バスに乗り遅れる」と懸念の声も強い。
 ◇事件大幅減で投資3倍に
コロンビアでは反政府左翼ゲリラや麻薬組織などによる暴力がはびこり、ウリベ大統領就任前の2001年には殺人が2万7841件、誘拐も2917件発生。人口10万人当たりの発生率では世界最悪レベルとなっていた。同大統領は国軍や警察の規模を拡大・強化し、09年には殺人件数を1万5817件、誘拐も213件と大幅に減少させることに成功した。
治安の改善に伴い各国はコロンビアへの進出を急ぎ、中央銀行によると、海外直接投資は世界不況にもかかわらず、09年は72億ドルと01年に比べ約3倍に増大した。
寺沢辰麿駐コロンビア大使は、米国にとってコロンビアが4番目の援助国であり、反米政権の多い南米諸国の中で、同国が米国と良好な関係を維持していることは「投資家にとっての担保になっている」と指摘。さらに、労働の質の高さ、民間企業の国有化の実例がないことも外国企業の進出には有利に働くと述べている。【7月22日 時事】
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2001年の「殺人が2万7841件、誘拐も2917件」から、09年の「殺人が1万5817件、誘拐も213件」ですから、“劇的な改善”であることは間違いありません。
ただ、09年の数値も、治安には定評のある日本の感覚からすると、まだ「とんでもない数字」ではあります。
日本企業が二の足を踏むのももっともです。
3月23日には南西部カンデラリア在住の筒井雅夫さんが犯罪グループに誘拐されていますが、その後、FARCに身柄を売り渡された可能性があるとも言われています。

【報奨金目当ての軍によるゲリラねつ造・処刑】
いずれにせよ、“劇的な治安改善”を実現したウリベ政権ですが、その強権的性格、軍の横暴には批判があることも事実です。
****消えた若者 突然「戦死」*****
南米コロンビアで、ある突然町から消えた若者が、遠く離れた土地で「戦闘で死んだゲリラ」として遺体で見つかる事件が相次いでいる。多くが、報奨金目当ての軍兵士の犯行とされる。2002年からのウリベ政櫓下で治安は大幅に回復。しかし、軍による人権侵害事件への懸念は高まっている。(ボゴタ=平山亜理)

「ゲリラだった」軍ねつ造?
・・・・町では、行方不明になった青年が「軍との戦闘中に死んだゲリラ」として遺体で見つかる事件が相次いでいた。08年以降14人。サイズが全く合わないゲリラの制服を着ていたり、左利きなのに右手に拳銃を持って死んでいたり、不自然なことが多かった。
・・・・ボゴタ市の宣房長だづたクララ・ロペスさんが、ボゴタと周辺の若者が相次いで遺体で見つかっていると報告を受けたのは08年10月のことだ。
みな18~25歳の若者で「戦闘中に死んだゲリラ」とされ、行方不明になってわずか1、2日後に遺体となって安置所に運ばれていた。
「たとえ本当にゲリラにリクルートされたとしても、翌日に戦闘現場で死ぬなんてあり得ない」。ロペスさんの告発は反響を巻き起こした。

国防省が05年、戦闘中にゲリラを殺害した兵士に報奨金を与えるガイドラインを示していたことも明らかになった。ロペスさんは「山奥でゲリラと闘うより、普通の若者を殺して『ゲリラ』にすることを選んだ兵士もいただろう。その方が楽だから」などと話す。
犠牲者数については諸説あるが、検察当局者は「(全国で)1300件を捜査中」と明かす。コロンビア政府は個別の事件に兵士が関与したことは認めるが、あくまでも「軍内の腐った一部の人関による犯罪」との立場。多くの兵士が告発されながら、有罪判決に至った例はごくわずかだ。
ソアチヤのオンブズマン、エスコバルさんと遣族たちは、地元の小中学校や高校をまわって少年らに被害に遭わないよう訴える。被害者に共通するのは、学歴が低く、貧しいことだ。軍の兵士が職のあっせんを装って若者に近づく例も報告されている。
失業率はボゴタの倍近く。実際、町には左翼ゲリラ組織「コロンビア革命軍」(FARC)などがリクルートに来る。だから、兵士たちはこの町の若者に目をつけた、とエスコバルさんは考える。

国際的にも懸念の声
02年就任のウリベ大統領はFARCに対する武力制圧を進め、大幅に治安を回復。6月の大統領選決選投票では、後継者のサントス前国防相が圧勝した。
ただ、軍による人権侵害をめぐっては国際的にも懸念の声が上がる。昨年6月には国連人権理事会の委嘱を受けた報告者が軍による一連の市民殺害の調査に入り、今年3月報告書を提出。事件の背景について、軍内に「ゲリラ対策で『成果を見せなければならない』とのプレッシャーがあった」と指摘した。コロンビア政府には全事件を調査し、戦闘中の殺害に対する報奨金を禁止するよう求めた。
8月に新大統領に就任するサントス氏は一連の事件が表面化したときの国防相。大統領選の対立侯補、緑の党のモックス元ボゴタ市長はその責任を追及した。サントス氏は「軍内部でこんな事件が起きたのを知った時、胸が張り裂けそうだった」とする一方、FARCに対する強硬姿勢は崩さず、「一切の譲歩はない」とゲリラ制圧作戦を強める構えだ。【7月23日 朝日】
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国防相だったサントス新大統領の「軍内部でこんな事件が起きたのを知った時、胸が張り裂けそうだった」という発言は、あまりにも“見え透いて”います。
それでも、遺族・関係者以外の国民にとっては治安改善が優先するというのも、すさまじい殺人・誘拐の横行を考えると理解できるところでもあります。
サントス新大統領が人権面での配慮も見せることを願います。

【チャベス大統領、また対コロンビア断交】
ところで、そのコロンビアに対し、隣国ベネズエラの反米左翼政権・チャベス大統領が“また”国交断絶を宣言しています。
****ベネズエラのチャベス大統領、コロンビアとの断交を宣言****
ベネズエラのチャベス大統領は22日、コロンビアとの関係を断絶すると発表した。コロンビア政府は米州機構(OAS)の会議で、1500人のコロンビア反政府左翼ゲリラがベネズエラに潜伏しており、同国が黙認していると指摘。
これを受けチャベス大統領は、コロンビアの主張は米国に触発された「侵略」と批判、コロンビアとの国境に最大の警戒態勢を取る姿勢を示した。
ベネズエラのマドゥロ外相はコロンビアのボゴタにあるベネズエラ大使館を閉鎖するとともに、ベネズエラ国内のコロンビア政府高官に72時間以内に出国するよう命じた。さらに、コロンビアへの航空便の運行を一時的に停止するなどの措置も検討していることを明らかにした。【7月23日 ロイター】
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親米コロンビアのウリベ大統領と、反米の急先鋒ベネズエラ・チャベス大統領は、コロンビア国内の左翼ゲリラをめぐって、ことあるごとに衝突しています。
2007年11月28日には、左翼ゲリラFARCが拘束する人質45人の解放をめぐるコロンビア政府とFARCとの交渉仲介役から外されたことをチャベス大統領が怒り、「ウリベ大統領が大統領職にある限り彼やコロンビア政府といかなる関係も持たない」と宣言しました。

また08年3月には、コロンビア軍がエクアドル領内のジャングルにあるFARC基地を越境攻撃し、FARCのマルランダ最高司令官の後継者と目されていたラウル・レイエス副官を殺害した事件で、チャベス大統領は対コロンビア国境に陸軍10個大隊を終結させるとともに、コロンビアとまたも断交しています。
この越境攻撃で、コロンビア側は、チャベス大統領がFARCを資金援助していた事実をつかんだと言われています。

こうした経緯もありますし、日頃のチャベス大統領の言動から、「またか・・・」という感もあります。
チャベス大統領は、08年1月に議会で演説を行い、欧州や中南米各国の政府に、コロンビアの左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」などをテロ組織指定から解除するよう要請しました。
その際、「FARCやELNはテロ組織ではなく、コロンビアに領地を持つ正規軍として承認されるべきで、我が国で尊重される『21世紀の社会主義』的な政治思想を持った反乱軍だ」と語っています。
その信条からして、ベネズエラ国内にFARCが潜伏し、ベネズエラ政府の支援を受けていたとしても、何ら不思議ではありません。

政治的には対立を繰り返す両国ですが、隣国とあって経済的には緊密な関係があります。チャベス大統領の「断交宣言」もそう長く続かないのではないでしょうか。

【「21世紀の社会主義」を掲げるも・・・・】
ベネズエラ経済の状態は悪化しています。
****ベネズエラ 行き詰まる国営化戦略 中小への拡大、混迷深める恐れ *****
南米ベネズエラの反米左翼、チャベス大統領は2日、「国境なきブルジョアジー(資本家階級)に対する経済戦争」を宣言した。「21世紀の社会主義」を掲げる同大統領は、これまでも電力、エネルギー、通信産業など、インフラ部門を中心に国営化を進めてきた。最近、経済統制は小売業を含めて、さまざまな産業分野に及び、中小企業も接収の対象となっている。しかし、こうした政策は同国の経済発展に逆効果であり、経済危機をさらに深める恐れがある。(中略)
国有化の推進によって経済危機が深まり、暴動が起きる恐れも高まる。既存の国営部門、特に公的インフラ部門は、投資の不足や上限価格の設定、貧弱な経営のために、供給不足や停電を起こすなどして、業績はお粗末だ。国営企業の深刻な問題として、官僚主義、先見性の欠如、不透明な会計手続きがみられ、生産性が低く、汚職が起きやすい脆弱(ぜいじゃく)な体質となっている。(中略)
ベネズエラ政府は、経済を石油産業への依存から脱却させ、多角化を図ることに成功していないばかりでなく、経済転換のための効果的な政策を持っていない。一段と国有化を推進し、私的財産権に改めて挑戦することを通じて、供給不足に対処しようとしているが、チャベス大統領が進める資本家階級との「経済戦争」は、激烈な反資本主義感情を内包しており、同国の経済危機をかえって深める恐れが大きい。【6月10日 オックスフォード・アナリティカ】
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「21世紀の社会主義」「国境なきブルジョアジー(資本家階級)に対する経済戦争」といったもの言い、世界の潮流に逆らう国有化政策拡大・・・何やら北朝鮮の金政権とも似ているような・・・。
外交面での問題提起は、国内経済の行き詰まりを糊塗するためでは・・・とも勘ぐられます。あるいは、経済悪化を断交のせいにしようというのでしょうか。

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中国  労使交渉に関する包括的な法規、不動産税導入 社会の変質を追う法整備

2010-07-23 22:09:32 | 世相

(先富論の先頭を疾走する上海  その街角に目をやれば、ホームレスも物乞いも売春婦もいます。
“flickr”より By cuellar
http://www.flickr.com/photos/cuellar/4404260837/)

【スト権】
中国で最近多発する労働争議については、7月11日ブログ“中国 労働争議多発 「ルイスの転換点」 内需主導経済への転換”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100711)でも取り上げました。
こうした労働市場の需給関係変化に伴う賃金上昇を求める動きは、中国国内の購買力・内需拡大に資するものではありますが、一方で政権にとっては社会不安をもたらすものともなりかねません。
そうした危機感もあってか、労働関係の法律整備が進められているようです。

****労使交渉条例案を審議=採択なら中国初―広東省****
新華社電によると、中国・広東省は21日、ストなど労働争議や労使交渉の在り方などを定めた「広東省企業民主管理条例」案をめぐり審議した。採択されれば、労使交渉に関する包括的な法規としては中国初となる。
条例案の83条項のうち、25条項は賃金交渉に関するもので、交渉は全従業員の5分の1以上の要求に基づき、少数の代表のみが参加できると規定。経営側が交渉を拒否した場合、スト権が与えられる。また、経営側はスト参加を理由に従業員を解雇できないことなども盛り込まれた。【7月22日 時事】
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労働者階級の国でありながら労働者の権利がきちんと定められてこなかったことは、外部の人間には非常に奇異に映りますが、労働者階級の社会なのだから欧米のような労働争議などは本来ありえない・・・という前提に立てば、労使交渉に関する法律など必要なかったのでしょう。
しかし、実態は欧米・日本同様の、あるいはもっと劣悪な労働環境での企業活動が行われている訳ですから、実態に即して考えれば、遅きに失した法整備でしょう。
政権側としては、労使関係のトラブルが拡大して社会不安につながるのを阻止したいという思惑でもあるのでしょう。

【資産家層 やがて大地主も】
もうひとつ、中国社会の実態に即した法整備の動きが報じられています。
****中国、2012年に不動産税を導入へ=地元紙****
中国の毎日経済新聞は、中国政府が2012年に不動産税の課税を開始すると報じた。まず一部の都市で試験的に導入するという。
財政省のセミナーに出席した関係筋の話として報じた。
全国一斉に課税するのは難しいため、一部の都市で先行導入するという。
先行導入する都市の名前は不明だが、上海市は先月、不動産税の導入計画を中央政府に提出している。
中国政府は、不動産市場の過熱を抑制するため、規制の強化を進めている。【7月22日 ロイター】
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この「不動産税」については、これまでも次のように報じられています。
****一部都市で不動産税を試験導入へ―中国*****
2010年3月29日、中国国土資源部・土地利用司の冷宏志副司長は国務院新聞弁公室主催の会見で、中国の一部都市で近く「物業税」(不動産税)を試験的に導入すると述べた。
同税は、土地・家屋などに課税するもので、現行の土地の所有・賃貸に絡む「房産税」、不動産譲渡益に課する「土地増値税」、土地使用権の使用料に対する「土地出譲金」を一本化する。固定資産税のように不動産の価額によって決められる。不動産購入時の税負担が増すことから、不動産市況コントロールの「特効薬」と期待される。【4月2日 Record China】
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****不動産引き締め策近く発表 、不動産税を導入へ―上海市****
2010年5月12日、上海市政府が今月中にも、不動産税の導入を中心とした市況の引き締め細則を発表する見通しであることを、中国各メディアが伝えた。
複数の住宅を保有する資産家層を対象に、自己居住用ではない物件に不動産税を導入。営利目的で保有されている住宅に関して、基準価格の1000分の8相当の税率が適用される見込み。不動産価格が上昇すれば課税額も上がるので、投資目的の不動産購入者に大きな影響を与えそうだ。
課税対象地区は、市況の高騰が目立つ浦東区、閔行区、宝山区、松江区、青浦区、金山区に限定されるとみられる。【5月14日 Record China】
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不動産に関する課税が現行全くない訳ではなく、バラバラに存在する各種税を整備一本化するもののようです。
また、対象は資産家層の営利目的の物件のようです。
それにしても、営利目的の不動産を多数保有できる「資産家層」が存在すること自体が、毛沢東時代の中国では考えられないことですが、「向銭看」というか、拝金主義というか、中国の現実です。
より実態に沿った改革を進めるなら、次は貧富の差拡大を防止するための「相続税導入」でしょうか。

そもそも社会主義国中国で不動産売買がどこまで認められているのかよく知りませんが、94年の「住房制度改革」で住宅について建築購入が認められ、その後の改正で、国家の土地所有権以外についてはどんどん自由化されているようです。
また、都市・農村の格差是正策の一環として、08年には「農民の土地使用権に関する売買を認め、使用権を抵当とした融資も可能とする」ことを認める方向が、党の中央委員会全体会議で決議されたそうです。(遠藤誉氏「拝金主義 中国」より)

このことは、「農地の私有化」「大地主の発生」にもつながる改革です。
中国社会は、欧米・日本的資本主義社会に類似した社会に向けて、その変質を加速させているように見えます。
なお、こうした変化のスタートとなった、改革開放を進めた小平の先富論「先に富むことができる人と地域が先に富め」という言葉には後段があって、「先富人たちが、まだ富んでいない人たちと地域を牽引していき、共に富んでいこう」という「共富論」を説いているそうです。
今は先富論だけが独走しているようにも見えますが、経済効果は必ず波及しますので、他の人・地域のレベルも上がってくることでしょう。格差拡大はその過程での一過性の現象・・・でしょうか?

【「高官の家族は殴ってはならないが、一般市民なら殴っていいのか」】
中国社会の「独自性」を伝える記事も。
****治安担当高官の夫人を袋だたき=警官6人、陳情者と勘違い―中国*****
22日付の香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストなどによると、中国湖北省の省都・武漢市で、治安問題を担当する地元高官の夫人が警官6人に陳情者と勘違いされて殴るけるの暴行を受け、重傷を負う事件があった。
事件が起きたのは6月23日。警察、検察などを管轄する省共産党政法委員会幹部(副局長級)の妻(58)が省党委本部を訪れ、警備員に「政法委に行く」と言って正門から入ろうとしたところ、いきなり私服警官に囲まれ、袋だたきに遭った。
警察当局は6人を停職にし、「誤解だった。高官の夫人だとは知らなかった」と謝罪。これに対し、インターネット上では「高官の家族は殴ってはならないが、一般市民なら殴っていいのか」などと批判の声が出ている。【7月22日 時事】
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「高官の家族は殴ってはならないが、一般市民なら殴っていいのか」・・・・しごくまっとうな指摘です。



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コソボ独立について国際司法裁判所が判断

2010-07-22 23:00:59 | 国際情勢

(2月17日 コソボ独立2周年を祝う人々 “flickr”より By Ivan S. Abrams
http://www.flickr.com/photos/trainplanepro/4365949500/)

【没交渉状態にある両国の関係再構築に向けた試金石】
コソボがセルビアからの一方的独立を宣言してから2年半が経過します。
めまぐるしく移り変わる世界にあって、遠いヨーロッパでの出来事でもあるコソボ独立はすでに“過去の話”というのが正直な印象ですが、セルビアはいまだコソボの独立を認めていません。
そのコソボ独立に関する国際司法裁判所の判断が下されるそうです。

****コソボ:一方的な「独立」、国際司法裁が合法性判断へ*****
コソボによるセルビアからの一方的な「独立」の合法性について、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)が22日、初めて判断を下す。08年2月の独立宣言から約2年半。既成事実を盾に独立を維持する構えのコソボに対し、セルビアは外交圧力によって独立の引き延ばしを図る方針。ICJの判断は、没交渉状態にある両国の関係再構築に向けた試金石になる。

「コソボの独立はいまや不可逆的であり、(是非についての)交渉は必要ない」。先に最大の同盟国・米国を訪問したコソボのサチ首相は、ICJの判断を前にこう語った。これまでに欧米や日本など69カ国から国家承認を取り付けた自信が背景にある。
コソボは住民の多数派がイスラム教徒のアルバニア系だが、第2次大戦後は旧ユーゴスラビア連邦の中で、セルビア正教を中心とするセルビア共和国の一自治州だった。90年代末からのセルビア人武装勢力と激しい武力紛争を経て、北大西洋条約機構(NATO)軍の軍事支援で独立に至った経緯がある。

一方、セルビアにとって、中世セルビア王国の中心地だったコソボは不可分な地とされる。セルビアのイエレミッチ外相は「一方的な独立宣言を認めない方針は変わらない」と断言した上で、交渉による妥協の必要性にも言及。ICJの判断を受け、独立問題が再び国連総会の場で協議される機会を利用し、外交圧力によってコソボから妥協を引き出す考えを示した。
コソボも交渉には反対していない。だが、コソボの法的地位自体を議題にするよう求めるセルビアに対し、コソボ側は独立を認めた上での技術的問題を話し合うべきだと主張。両者の見解は平行線をたどっている。

ただ、両者とも欧州連合(EU)加盟による経済再建と外資増加を強く期待している点では共通している。関係改善なしにEU加盟は困難なことから、ICJの判断が新たな外交交渉を後押しする可能性も指摘されている。【7月22日 毎日】
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「コソボの独立はいまや不可逆的であり」というのはもっともなことで、今更IJCが「独立は違法」と判断してもどうにもならないし、事態はますます混乱するだけ・・・という感があります。
「独立は合法」との判断がでれば、セルビアが方針を変更して、独立を認めたうえでの両国間の交渉に入るというのであれば意味がありますが。

【“コソボの独立宣言自体は事実行為”】
今回のICJの判断は、そもそもセルビアが求めたものです。
2008年10月8日、国連総会は、セルビアが提出した、「コソボ暫定自治政府による一方的独立宣言の国際法上の合法性如何。」との諮問内容のICJ勧告的意見を要請する旨の決議を採択しました。
これを受け、ICJは、この問題について国連及びその加盟国が陳述書を提出することが可能とし、その提出期限を2009年4月17日に決定しました。

日本政府もコソボ独立を支持・正当化する陳述書を提出しています。
“コソボの独立宣言自体は事実行為であり、これを規律する国際法はないと解されること、また、コソボの分離独立については、国連を中心とする国際社会の深い継続的関与に特徴付けられた特殊性にかんがみ正当化され得るものであり、関連の国連安保理決議を含め、国際法に照らしても問題はないと考えられる”というのが、日本政府の陳述書骨子です。【外務省ホームページより】

【「欧州最貧国」】
今更逆戻りはできませんし、独立当時の民族対立・相互不信・憎悪・暴力を考えると、独立もやむを得ない選択であったと個人的には考えていますが、独立を果たしたコソボの内情は厳しいものがあります。
冒頭記事には“欧米や日本など69カ国から国家承認を取り付けた自信”とありますが、逆に言えば、いまだそれだけの国からの承認しか得ていないとも言えます。

****経済深刻、進まぬ国家承認=独立宣言から2年-コソボ****
旧ユーゴスラビアのコソボがセルビアからの独立を宣言してから(2月)17日で2年となった。依然として汚職、犯罪など課題は尽きず、国家づくりは難航。国際社会からの国家承認も進まない上、経済は外国からの支援に頼ったままで、「欧州最貧国」から抜け出す道筋は見えてこない。
ロイター通信によると、イタリアの駐コソボ大使は「国際社会が援助を続けるだけでは経済問題は解決しない。支援依存の悪循環から脱却する必要がある」と述べ、コソボに自立を促した。しかし、輸出額は輸入額のわずか10分の1。失業率は40%に達しており、展望は一向に開けない。
一方、セルビアやロシアは独立を認めず、国家承認した国は国連加盟国の3分の1にすぎない65カ国。過去1年間に承認した国は11カ国にとどまり、国際社会入りを目指すコソボにとって痛手となっている。ヒセニ外相は「未承認国は、国際司法裁判所が独立の合法性に関する判断を示すのを待っている」との見方を示している。【2月17日 時事】
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「未承認国は、国際司法裁判所が独立の合法性に関する判断を示すのを待っている」ということで、ICJの合法判断があれば、承認国は増加するでしょう。
もっとも、ICJは“事実行為”たる国家独立について、“合法”“違法”という明確な判断を出せるのでしょうか?(こうしてブログを書いている間にも、判断内容の報道が流れるのでは・・・という段階ですが、今のところはまだ何も報じられてはいないようです。)

【民族和解に向けて】
重要なのは、当地においていまだ民族間の不信・憎悪が収まっておらず、暴力行為もなくなっていないことです。
****コソボ:セルビア系帰還者に発砲も 家族殺害の恨みなお*****
セルビアから独立して約2年半を経たコソボで、少数派セルビア系難民などの帰還に対し、多数派アルバニア系住民の反発が続いている。両者とも悲惨な衝突の記憶はぬぐい難く、民族和解の第一歩となる難民帰還への道はなお険しい。「コソボ独立」の合法性に関する国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)の22日の初判断を前に、現地を訪ねた。【ザルチ(コソボ西部)で樋口直樹】

首都プリシュティナから西へ車で1時間余り。のどかな農村ザルチに入ると、セルビア系帰還者のテント群が現れた。背後には、戦時中に焼き打ちされた民家の廃虚。壁には新しい弾痕が刻まれていた。道路の入り口にはパトカーが止められ、数人の警官が目を光らせている。
「夜中に突然、自動小銃のようなもので撃たれた。その前にはここから出て行くよう何度も抗議され、投石もあった」。ここで暮らす22家族の代表デルレビッチ・ネボシャさん(45)は、4月から5月にかけて続発した地元アルバニア系住民の抗議行動と、これに続く投石、銃撃事件を言葉少なく振り返った。
セルビア・メディアによると、コソボからのセルビア人勢力排除を狙った北大西洋条約機構(NATO)軍の空爆(99年3~6月)などでコソボを離れ、難民登録しているセルビア系住民は約20万人(09年8月現在)。ネボシャさんらは今年3月末、避難先のセルビアなどから帰還した。
村を出たのは99年6月。「アルバニア系住民に何をされるか分からない」という恐怖感からだったが、「どうしても生まれ故郷に戻りたい」と、帰還に踏み切ったという。

だが、地元のアルバニア系住民も同じ恐怖を味わってきた。セルビア系帰還者の仮設テントから数十メートル離れた場所で暮らすベック・カルマンディさん(53)は、セルビア支配下の98年夏、セルビア人警官から「ここはセルビア人の国。すぐに出て行け」と脅迫され、99年5月まで別の村で避難生活を送った。
この間、カルマンディさんは自分の母親と妻、当時8歳だった息子、さらにいとこまでセルビア人武装勢力に殺され、自分も足を撃たれて不自由な生活を強いられたという。「暴力には反対だ。でも、私はセルビア人と一緒に暮らすことはできない」と唇をかんだ。

紛争発生前の村の人口は約1400人。NATO空爆を受けた旧ユーゴスラビア軍の撤退に伴い、セルビア系住民のほとんどが流出したため、現人口は最大で800人程度にとどまっているという。【7月20日 毎日】
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暴力の嵐を経験したセルビア系・アルバニア系両住民の心の傷を癒すには、2年半ではなくもっと長い数十年という年月が必要なのかも。
今回のICJ判断・・・というよりは、それに対するセルビア・コソボ両国の反応が、セルビア系・アルバニア系両住民融和に向けた長い道のりの「始まり」の入り口を開くものであってもらいたいものです。

(P.S.)
先ほど入ったニュースによれば、ICJはコソボ独立を認めたそうです。
****コソボ独立「国際法に違反せず」 国際司法裁が判断****
2010年7月22日(木)23:28
国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)は22日、2008年2月のコソボによるセルビアからの独立宣言が「国際法に違反しない」との判断を示した。判断は法的拘束力のない「勧告的意見」だが、独立を合法と認めたことで、コソボが国際社会で独立国家として承認されることに道が開かれた。【共同】
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