孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国  “潮目の変化”を感じさせる日韓関係 「セカコイ」「スラムダンク」人気に見る複雑な対日感情

2023-02-05 22:34:29 | 東アジア
(映画「THE FIRST SLAM DUNK」を上映中の映画館で、記念撮影する人たち=ソウルで1月23日、共同【1月24日 毎日】)

【“潮目の変化”を感じさせる最近の日韓関係】
昨年5月の韓国・尹錫悦(ユンソンニョル)保守派政権発足によって、どん詰まり状態だった日韓関係も随分潮目が変わってきたように見えます。

(日本側では、“山ほどある”韓国にネガティブなブログなどは依然として警戒感を露わにしていますが、まあ、そのあたりは韓国側も事情は似たようなものでしょう)

年が明けてからも、上記の“潮目の変化”を感じさせる動きが続いています。

****元徴用工問題、韓国の財団が日本企業の賠償肩代わりする案…韓国外交省が明らかに****
韓国外交省は12日午前、日韓間の最大の懸案となっている元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題の解決に向け、韓国の財団が日本企業の賠償を肩代わりする案を明らかにした。同省の徐旻廷ソミンジョンアジア太平洋局長が、韓国国会で開いたこの問題を巡る公開討論会で説明した。

財団による肩代わり案については、資金を拠出するのが日韓両国の企業か、韓国企業のみとするかで日韓の意見が分かれているが、徐氏は明言を避けた。韓国政府は今後、討論会での意見を検討した上で、最終的な解決案を発表する方針だ。

元徴用工問題では、韓国の大法院(最高裁)で2018年、三菱重工業などに対し賠償を命じる判決が確定した。原告側は、日本企業の韓国内資産を差し押さえて売却する「現金化」の手続きを進めている。

徐氏は、昨年5月の尹錫悦ユンソンニョル政権発足後、日韓関係の改善などのため、元徴用工問題の解決を急いできたと説明。韓国政府の傘下で、元徴用工らの支援を行っている「日帝強制動員被害者支援財団」が、被告の日本企業の代わりに、原告に賠償金の相当額を支払う案を示した。

原告側は被告の日本企業に資金拠出を求めているが、徐氏は事実上難しいとの見解を示した。原告側が求めている日本側の謝罪も困難だとした上で、日本政府が過去に表明した「痛切なおわびと反省」の継承が重要だとの認識を示した。【1月12日 読売】
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もちろん、上記「政府案」に対して韓国国内の野党などからは痛烈な批判があります。

****徴用解決策「屈辱的」と政府に撤回要求 野党議員と市民団体=韓国****
韓日間の徴用問題の解決策を探る韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権に対し、韓国野党の国会議員と市民団体は12日、「屈辱的な解決案を直ちに撤回せよ」と要求した。

多数の市民団体でつくる「歴史正義と平和な韓日関係のための共同行動(韓日歴史正義平和行動)」と、革新系最大野党「共に民主党」の24人、革新系野党「正義党」の6人、無所属2人の計32議員はこの日国会前で、「非常時局宣言」とする記者会見を開いた。

日本による植民地時代の韓国人徴用被害者への賠償問題を巡る韓国政府の解決の方向性について、一同は「被害者に対する日本の加害企業の謝罪と賠償が抜け落ちたまま、韓国企業の寄付金だけで判決金(賠償金)を代わりに支払わせる案」と指摘。「司法府の判決を行政府が無力化する措置で、三権分立に反し、憲法を否定するもの」と見なし、「日本の圧力に屈服し、韓国の司法の主権を放棄するも同然だ」と批判した。

また加害企業からの正当な謝罪と賠償を求める被害者を、寄付金を乞うような立場に追い込み、人権を踏みにじるものだとし、「誰のために韓日関係を正常化しようというのか」と問いただした。

政府はこの日、徴用問題の解決策を取りまとめるために最後の意見集約となる公開討論会を開催している。【1月12日 聯合ニュース】
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世論調査でも厳しい数字が出ています。

****財団賠償肩代わり、反対64% 元徴用工問題の韓国政府案****
韓国の元徴用工問題で、同国最高裁が日本企業に命じた賠償の支払いを財団に肩代わりさせる韓国政府の解決案について、韓国のMBCテレビは21日、反対が約64%で、賛成の約23%を大きく上回ったとの世論調査結果を報じた。

韓国政府は12日の公開討論会で案を公表。MBCの世論調査は18〜19日に行われた。日韓政府は早期の問題決着を目指しているが原告側は強く反発。厳しい世論も浮き上がった形で、難航は避けられそうにない状況だ。【1月21日 共同】
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こうした批判・世論動向は尹錫悦政権としても当然に想定しているところでしょうが、それでも敢えて賠償肩代わり案を出してきた政権側の狙い・意図がどこにあるのか興味深いところです。

日韓政府の間での解決に向けては、まだ紆余曲折があることも想像されますが、前政権時よりは遥かに希望が持てる流れです。

日韓の感情的対立を象徴する形にもなっていた対馬の盗難仏像をめぐる裁判にも変化が。(政治・世論を反映する傾向のある韓国司法の)「潮目の変化」を意識した司法判断のようにも。

****日韓改善への悪影響は回避 盗難仏像巡り韓国高裁 「徴用工」交渉が佳境***
韓国人窃盗団が長崎県対馬市の観音寺から韓国に持ち込んだ仏像をめぐり、韓国・大田(テジョン)高裁の1日の判決は韓国側の所有権を否定した。

日韓関係の最大の懸案である、いわゆる元徴用工訴訟問題の解決へ両国政府の協議が大詰めを迎える中、関係改善に向けたムードに韓国の司法判断が水を差す事態は回避された形だ。

「10年前に窃盗団に盗まれて不法に韓国に持ち込まれたという事件の本質に立ち返るべきだ」。観音寺の田中節竜住職は昨年6月、控訴審弁論に韓国政府側の補助参加人として出廷し、こう訴えていた。

2017年1月の1審大田地裁判決は、仏像が盗まれ韓国に持ち込まれた経過や、現代法上の所有権の論点を考慮しないまま、倭寇の存在などに言及して韓国・浮石寺(プソクサ)への像の引き渡しを命令した。

これには韓国国内でも「韓国人が盗んできたことが明らかな文化財を『韓国のものだ』と主張するのは国益にならない」(朝鮮日報)などと疑問視する声が上がった。

韓国司法でも軌道修正を図る動きがあり、1審が認めた判決確定前の仏像引き渡しについて、地裁の別の裁判官が強制執行を認めないと判断。控訴審では、裁判所が原告側に、仏像を日本に返還して複製品を保管するよう提案したことも報じられた。

韓国の司法判断が日韓関係を悪化させた点で、日本企業に賠償を命じた18年10月の韓国最高裁判決が外交の障害となった徴用工問題に重なる。

この問題では、韓国政府による解決案の公表に向け大詰めの交渉が続くが、先月30日のソウルでの局長級協議では詳細の合意に至らなかった。韓国の朴振(パクチン)外相は1日、今月中旬に国際会議があるドイツで林芳正外相との面会実現に期待を示し、「持続的な協議を通じて合理的な解決策を見つけたい」と話した。【2月1日 産経】
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【愛憎相半ばする、あるいは、屈折した対日感情】
政治の動きを離れて、社会の風潮という点で見ると、日本製品の不買運動である「ノージャパン運動」といった根深い反日世論がある一方で、若い世代を中心に日本文化を受容する流れも存在するという、愛憎相半ばする、あるいは、屈折した対日感情があることは以前からの話です。

(韓国文化にあまり抵抗がないというのは、日本若者も同じのようですが。年寄りの私でも、最近よく韓国ドラマを動画配信サイトで観ますし、その出来は高く評価しています。)

****「セカコイ」観客100万人超え=日本映画で21年ぶり―韓国****
日本の恋愛映画「今夜、世界からこの恋が消えても(略称・セカコイ)」(三木孝浩監督)の韓国での観客動員数が29日、100万人を超えた。映画輸入会社が発表した。

韓国メディアによると、アニメを除く日本映画の観客数が韓国で100万人を超えるのはホラー映画の「呪怨(じゅおん)」以来、約21年ぶり。(中略)

日本のアニメ映画では、バスケットボール漫画「SLAM DUNK(スラムダンク)」の劇場版「THE FIRST SLAM DUNK」が今月、韓国で観客数100万人を超えたばかり。若年層で日本映画への関心が高まっている。【1月29日 時事】
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上記記事にもあるように「スラムダンク」も大人気のよう。その人気を支えているのが、30〜40代で文在寅(ムン・ジェイン)前大統領支持層と重なるというところが面白いところ。

****映画「スラムダンク」人気に韓国社会の複雑な反応 文在寅支持派の人気アナに批判の矛先が****
日本同様、韓国でも劇場版「ザ・ファースト・スラムダンク(THE FIRST SLAM DUNK)」が大人気だ。封切りから3週目となる1月25日現在、全国の観客動員数は約159万人(韓国映画振興委員会発表)を記録。この調子なら500万人も難くないといわれる。

映画レビューの評価も高い。大型フランチャイズ映画館であるロッテシネマとメガボックスのサイトを見ると、観客評価点数は10点満点でそれぞれ9.7点と9.4点。韓国のシネコン最大手のCGVの場合は観覧評価数で評価されるが、100点満点で97点を記録した。

人気は漫画にも波及。韓国の大型インターネット書店「YES24」の新年初日のベストセラーは「スラムダンク チャンプ」だった。韓国のテレビ局ではかつて韓国語吹替版のスラムダンクを放送したが、韓国語バージョンのオープニング曲を歌った歌手が参加する特別上映では、430席ある座席が前売り開始2時間で売り切れた。

最近は会社の同僚や友人に会うと、スラムダンクが常に話題になる。会話も「スラムダンク観た?」ではなくて「まだ観てないの?」になる。

「スラムダンク」の観客と重なる文在寅支持層
映画の観客層は30〜40代に集中している。CGVの集計によると、映画の前売り購入者は30代が39.8%、40代が32.8%で、この年齢層が70%以上を占める。筆者も見に行ったが、観客の半分以上が30〜40代の男性だった。学生だった頃、漫画やテレビを通じてスラムダンクに熱をあげた世代だ。

韓国ではこの世代が、昨年、退陣した文在寅(ムン・ジェイン)前大統領支持層と重なる。昨年5月、世論調査専門機関「リアルメーター」が文在寅氏の大統領退任直前に国政支持率を実施した。その結果は42%だったが、40代の支持率が圧倒的に高く、なんと60%だった。スラムダンク人気が、そこに亀裂を生んでいるのだ。

バッシングを受けた“反日アナ”
非難の矛先が向けられているのは、韓国の有名アナウンサー、ペ・ソンジェさんだ。1978年生まれの彼は最近、知人たちと「ザ・ファースト・スラムダンク」を観て記念写真を撮り、SNSにアップした。自身が進行するラジオでも以前、「スラムダンク」の漫画を50回以上読んだほどのファンだと告白していて、映画を観たあとで漫画を読み直したいとも発言したのだ。

彼は文在寅元大統領の熱烈な支持者としてよく知られている。文氏を支持する有名人とも親交があり、文政権が主催するイベントではよくメイン司会を務めた。また自分の祖父が日本帝国時代の独立運動家だと明らかにしていた。

2014年に行われたサッカーのブラジルワールドカップ大会で、旭日旗のペインティングを顔に施した日本人サポーターがテレビの画面に映ると、「戦犯旗を顔に描く心理はなんなのか」「チケット代がもったいない」「アジアではナチスの模様と変わらないのでスタジアムから追い出すべきだ」と発言した。当時このニュースは日本にも伝わった。

そんなペさんに、保守派のコミュニティが非難を浴びせるのだ。「日本嫌いを自称し、人を諭しておきながら、自身は日本の漫画を観るなんておかしいじゃないか」、「選択的反日にへどが出る」という内容である。

日本に行かない、ユニクロ着ない…
韓国には「クリアン(CLIEN)」というコミュニティサイトがある。文在寅前大統領が所属する政党「共に民主党」を支持するネットユーザーが主に活動している。

文政権時に行われた日本製品の不買運動である「ノージャパン運動」をPRし、いまも参加を求めている。運動の最盛期には、日本旅行に行かず、ユニクロの服を着ず、日本のビールを飲まず、日本車を野球バットで打ち砕くなどの行動もあった。

彼らが支持するクリアンには、「ノージャパン運動の実践のため、回転寿司を食べに行ってもアサヒビールの代わりに国産ビールを飲み、スラムダンクではなく他の映画を観た」「ノージャパン運動には『スラムダンク』を観ないことも含まれる」「第2の植民地時代を生きたいのか。『スラムダンク』を観るな」などといった書き込みが溢れる。

なかには、「ザ・ファースト・スラムダンク」の代わりに韓国映画「英雄」を観て、愛国とノージャパン運動を実践しようと言い出すグループもいる。「英雄」は1909年に伊藤博文を暗殺した朝鮮の安重根(アン・ジュングン)の一代記を描いたミュージカル映画だ。

残念ながら1月10日時点の人気ランキングで「ザ・ファースト・スラムダンク」を下回り、ノージャパン運動を叫ぶクリアンのユーザーたちの願いはかなわなかったが。

居直り派も登場
もっとも、クリアンには、「スラムダンクの大ファンで、山王工業高校との試合を映画で観られて大満足」「娘と一緒に観に行ってきた。とても満足した。カン・ベクホ(桜木花道の韓国語バージョンでの名前)がかわいいと娘がいっていた」などいった書き込みも少なくない。

約3年前まで文在寅政権を支えノージャパン運動の先頭に立った30〜40代が、スラムダンクのコアファンという皮肉……。映画1本を観ることで、同じ左派の支持者たちから非難を受けないか、顔色をうかがわなければならない状況だ。「ノージャパンは実践するけれどスラムダンクは観る」という居直り派も生まれている。

“中間派”を自称するビジネスマンのPさん(41)はこういう。「私の世代にとって、スラムダンクは楽しい思い出。しかし、その後、ノージャパン運動に夢中になった人々には、若い頃のスラムダンク愛が痛恨のブーメランとなって戻ってきている」【2月1日 デイリー新潮】
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韓国の30代から40代の人たちにとっては「スラムダンク」は、日本文化がどうこうというより、以前から慣れ親しんでいる青春の思い出のような作品だということであり、あまり深読みするのはどうか・・・という話にもなりますが、ひと頃に比べると、あまり政治や両国の関係を気にせず、エンタテインメントのコンテンツとして韓国の人たちにそのまま受け入れられるようになった・・・ということは望ましいことでしょう。

【韓国の若い世代は日本より中国の方に拒否感を抱いている】
単純ではない対日感情ですが、特に韓国の若者の間では今や日本より中国を嫌う者が多いというのも、近年よく言われている話です。

****韓国若者の7割が「核武装」必要、「最も遠く感じる国」は北朝鮮、中国、ロシア、日本、米国の順****
韓国の20代・30代の7割弱が北朝鮮の核ミサイルの脅威が高まっているのに伴い、韓国の独自核武装が必要だと考えていることが調査で明らかになった、と朝鮮日報が報じた。中国に対する認識も大きく悪化。「最も遠く感じる国」は北朝鮮、中国、ロシア、日本、米国の順だった。

朝鮮日報によると、この「対北・統一認識調査」は「統一と分かち合い財団」と同紙、ソウル大学社会発展研究所がカンターパブリックに依頼し、韓国国内の20歳から39歳までの世代1000人を対象に昨年11月14日から21日にかけて行われた。

「北朝鮮が核兵器を廃棄しない場合、韓国も核兵器の保有をすべきか」という質問には68.1%が「賛成」と回答。「反対」の31.9%より2倍以上高かった。

核兵器保有に賛成する理由については「北朝鮮の核の脅威に対応すべきだから」が39.2%で最多。続いて「主権国家として国家・体制の安定を守るため」(37.3%)、「国際社会での影響力が増大」(23.3%)だった。

核兵器の保有に反対する理由としては「国際社会の制裁による被害」(40.1%)、「周辺国の核武装をあおる懸念」(26.3%)、「北朝鮮との関係がさらに悪化」(18.5%)、「米国の核の傘で十分」(14.7%)などが挙げられた。

北朝鮮の核兵器に対し、20代・30代の82.9%は「脅威を感じる」と答えた。「脅威を感じない」は17.1%だった。「北朝鮮は核兵器を放棄しないだろう」という意見についても「そう思う」(85.4%)が「そうは思わない」(14.6%)より圧倒的に多かった。

さらに若者の60.2%は「北朝鮮が核兵器を実際に使う可能性」についても「ある」とした。「ない」は35.8%だった。昨年、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)が先制核攻撃を含む「核武力法制化」を鮮明にしたことなどが影響を及ぼしたとみられる。

一方、「最も遠く感じる国」を尋ねる質問に対しては、北朝鮮(29.1%)に次いで中国(25.3%)となった。中国に続いてはロシア(24.5%)、日本(18.5%)、米国(2.6%)だった。中国に対する関係認識に関する質問でも「警戒の対象」とする回答が45%を占め、最も多かった。

「最も近く感じる国」は米国(75.3%)、日本(11.5%)、北朝鮮(8.5%)、中国(2.5%)。朝鮮日報は「ここ数年にわたり『ノー・ジャパン運動』が繰り広げられ、歴史問題などで日本との摩擦が続いている中でも、韓国の若い世代は日本より中国の方に拒否感を抱いている」と伝えた。【2月3日 レコードチャイナ】
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話は、上記の核兵器保有論や、韓国と中国の関係になりますが、そこは長くなるのでまた別機会に。
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同性婚の法制化 「関係ない人にはただ、今までどおりの人生が続くだけです」

2023-02-04 23:02:46 | ジェンダー

(【2021年6月23日 エコノミスト】
日本の大手新聞社調査によれば、「同性婚を認めるべき」が2015年調査の41%から2021年調査では65%に増加、「認めるべきではない」は37%から22%に減少しています)

【「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ」】
報道されているように、同性婚をめぐって「見るのも嫌だ」などと発言した荒井勝喜総理大臣秘書官について、岸田首相は、政権の方針と相いれない発言で言語道断だとして、更迭したことを明らかにしました。

****岸田首相 同性婚「見るのも嫌だ」などと発言の荒井秘書官 更迭****
(中略)荒井秘書官は3日夜、オフレコを前提にした記者団の取材に応じた際に、同性婚についての見解を問われ「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ。人権や価値観は尊重するが、認めたら、国を捨てる人が出てくる」などと発言しました。

しかし、発言への批判が相次いだことから改めて取材に応じ、不適切な発言だったとして撤回し、謝罪しました。

岸田総理大臣は、訪問先の福井県で記者団に「大変深刻に受け止めており、秘書官の職務を解く判断をした。本人からも辞意があった」と述べ、荒井秘書官を更迭したことを明らかにしました。

そして、荒井氏の後任には、経済産業省の伊藤禎則秘書課長の起用を決めたと説明しました。

その上で、荒井氏の発言について「今の内閣の考え方には全くそぐわない言語道断の発言だ。『性的指向』や『性自認』を理由とする不当な差別や偏見はあってはならない」と述べました。

また、みずからの任命責任を問われ「任命責任を感じているからこそ今申し上げた対応をとっている」と述べました。

荒井氏は、経済産業省出身で、岸田内閣が発足したおととし10月から総理大臣秘書官を務め、広報やメディア対応を担当し、岸田総理大臣の演説などの原稿の執筆役も担っていました。(後略)【2月4日 NHK】
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荒井秘書官は、「首相秘書官室全員に聞いても同じことを言っていた」とも発言。同時に「LGBT(の人)も好きでなっているわけじゃない。サポートしたり、救ってあげたりしないといけない」と語っていました。

荒井秘書官の発言は、岸田首相が2月1日の衆院予算委員会で同性婚に関し、「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」として慎重に対応する考えを示した答弁に関する記者の質問に対してなされたものです。

****岸田首相 夫婦別姓や同性婚「改正で家族観 価値観 社会が変わってしまう」****
岸田総理大臣は、夫婦別姓や同性婚について「制度を改正すると、家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と述べ、慎重な検討が必要だという考えを示しました。

岸田総理大臣は、2月1日の衆議院予算委員会で、児童手当をめぐって自民党が民主党政権時代に所得制限の導入を主張したことについて「この10年の間に子ども・子育て政策のニーズ自体も大きく変化し、より経済的な支援を重視してもらいたいと、求められる政策も変わってきた」と述べました。

そのうえで、与野党双方から所得制限の撤廃に加え18歳までの支給対象の拡大などを求める声が出ていることを踏まえ、政府として内容の具体化を進める考えを改めて示しました。(中略)

また岸田総理大臣は、夫婦別姓や同性婚について「制度を改正するということになると、家族観や価値観、そして社会が変わってしまう課題なので、社会全体の雰囲気のありようにしっかり思いをめぐらせたうえで判断することが大事だ」と述べ、慎重な検討が必要だという考えを重ねて示しました。【2月1日 NHK】
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【急速に変化する社会】
十数年前、所得制限なしの子供手当支給に対し「愚か者めが」と罵声を浴びせた自民党でしたが、「ニーズも、求められる政策も変わってきた」との首相の認識です。 同性婚については?

東京都は昨年11月から同性カップルを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」の運用を開始しました。

****東京都、同性パートナーを公認 「宣誓制度」の運用開始****
東京都は1日、都内に居住または勤務する同性カップルを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」の運用を開始した。日本では同性婚が認められておらず、同制度の開始は待ち望まれていた。

LGBTなど性的少数者のカップルは、都から受理証明書を受け取ることで、住宅、医療、福祉などさまざまな公共サービスで結婚したカップルと同等の扱いを受けられる。これまでに少なくとも137組からの届け出があった。

東京都では2015年、渋谷区が国内初の同性パートナーシップ証明制度を導入。以降、全国200以上の自治体が同様の制度を設けている。結婚と同じ法的権利は保障されないが、性的少数者に対する差別の撲滅につながると期待されている。 【2022年11月2日】
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性的マイノリティーの権利を守る活動をする認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」(大阪市)と渋谷区の共同調査によると、性的マイノリティーのカップルを公的に認める「パートナーシップ制度」を導入している自治体は9府県を含めて239(2022年10月11日時点、人口でみると全国の55.6%を占めるとのことで、東京都の開始により、6割を超すのは確実な状況です。

アメリカでは、日本以上にドラスティックに変化しています。おそらく日本もスピードに差はあれ、同じような流れをたどるのではないかと想像されます。

****米 同性婚の権利を連邦レベルで保障する法律 大統領署名で成立****
アメリカで、同性どうしによる結婚の権利を連邦レベルで保障する法律が、バイデン大統領の署名で成立しました。
首都ワシントンのホワイトハウスでは13日、記念の式典が開かれ、バイデン大統領が、「平等と自由に向けて重要な一歩を踏み出す日だ」と述べたあと、法案に署名し法律が成立しました。(中略)

アメリカでは、2015年に連邦最高裁判所が同性婚を認める判断を示し、すべての州で事実上、合法化されていますが、保守派の判事が多数派を占めるようになった連邦最高裁が、同性婚についてのこれまでの判断を覆す可能性が指摘されています。

今回、成立した法律では、仮に連邦最高裁が判断を覆し、一部の州で同性婚が禁止されたとしても、同性婚が認められているほかの州から移動してきたカップルの権利は維持されることになっていて、法案を提出した民主党としては先手を打った形です。

アメリカの2020年の国勢調査によりますと、同性どうしのカップルの世帯数は全体の1.5%に当たる98万世帯となっていますが、同性婚を認めるか認めないかをめぐっては、保守層とリベラル層の間で長年対立が続いています。【2022年12月14日 NHK】
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世論の同性婚への賛否は、10年でほぼ逆転しました。

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1996年に米議会が「結婚は男女の関係に限る」という内容の「結婚防衛法」を審議した際、上院議員だったバイデン氏は賛成していた。法案は圧倒的多数の支持で可決され、民主党のクリントン大統領が署名して成立した。

当時、米国ではまだ同性婚を認めている州はなかった。ただ、保守的なキリスト教徒を中心に同性愛に否定的な人は多く、「予防的」な法律とされていた。

その後、同性婚を認める動きが始まり、2004年にマサチューセッツ州が初めて容認した。同時に、政治的な反発も強まった。ピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、当時は同性婚支持が31%に対し、反対が60%だった。

一方、若い世代を中心に同性婚への支持は急速に拡大していった。世論調査でも、11年に支持と反対が逆転する。12年には副大統領だったバイデン氏が同性婚を支持する立場を明言した。直後には、立場を明確にしていなかったオバマ大統領も支持を表明した。

翌13年には連邦最高裁が初めて同性婚の権利を認め、「結婚防衛法」を違憲と判断。さらに15年には全ての州で同性婚を認めるべきだとした。世論調査でも19年には支持が61%、反対が31%となり、04年とほぼ逆の傾向を示した。

性的少数者(LGBTQなど)の権利確立に取り組むNPO「ラムダ・リーガル」のジェニファー・パイザーさんは「同性婚に反対する人たちは、『家族制度の崩壊につながる』『子どもが危険にさらされる』と主張した。しかし、実際に同性婚が実現すると、その主張がいかに荒唐無稽かが示された」と指摘する。

米国で同性婚に反対を明言する政治家が減ったことも大きいという。慎重な立場をとってきた共和党でも、現在は同性婚の権利を認めつつ、宗教的な信念に基づいて積極的には関与しない権利もある、といった立場を取る人が多い。

一方、かつて同性婚に向けられた「社会にとって脅威となる」といった言動は現在、心と体の性別が一致しないトランスジェンダーの人を相手に続く。「同じような動きが、対象を変えて続いている」とパイザーさんは懸念する。【2022年12月15日 日系メディア】
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【「同性愛宣伝禁止法」のロシアメディア 「岸田首相が率いる保守の自民党議員の多くは認めることに反対している」】
荒井秘書官の更迭は、海外メディアでも報じられています。5月に広島市で主要7カ国首脳会議(G7サミット)を控えるなか、先進国のなかで同性婚を認めていない日本の異質性と合わせて取り上げられています。

一方、性的少数者(LGBTなど)の情報発信を事実上、禁止したロシアの国営タス通信は、荒井氏の発言を紹介し、「岸田首相が率いる保守の自民党議員の多くは認めることに反対している」と伝えています。

ロシアでは昨年12月、「同性愛宣伝禁止法」にプーチン大統領が署名して成立。性的少数者を小児性愛などとまとめて「非伝統的な性的関係」だとし、メディアや書籍を含めて情報発信をほぼ禁止。すでに違法とみなされる恐れのある本の公開を取りやめたほか、大手書店で販売を取りやめる事態となっています。

【「同性婚を認めても、関係ない人にはただ今まで通りの人生が続くだけ」】
同性婚への社会の理解・支持は変わりますが、同性婚を認めることで「家族観や社会が変わってしまう」のか?
その変化は忌避すべきものなのか?

****同性婚で社会が変わる?合法化から17年のスペインから見る同性婚の価値観****
同性婚の法制化をめぐって岸田総理が「家族観や社会が変わってしまう」と発言し、さらに首相秘書官がその発言について「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」とコメントをしたというニュースをSNSで目にしました。

国のトップやその秘書官がこう言った差別的な発言をしれっとしてしまうことに驚きを隠せませんが、今日はこれを機会にスペインでは同性婚を始め家族の多様性についてどのような動きがあるのかを紹介したいと思います。
  
同性婚は2005年から合法
スペインでは、2005年7月3日から同じ性を持つ2人の婚姻(同性婚)が法律で認められています。(中略)

この法が制定された時、当時のホセ・ルイス・サパテロ首相は演説でこう述べています。「皆さん、私たちは遠くにいる奇妙な人たちに向けて法制定をしているわけではありません。私たちは私たちの隣人、仕事仲間、友人、家族が幸せになる機会を広げるとともに、よりまともな国を構築しているのです。まともな社会というのは、国民たちを辱めることのない社会です。」

オランダ、ベルギーに続いて世界で3番目に同性婚を合法化したスペインでは、これまで4万組を超える同性カップルが法的に夫婦として認められてきました。

スペインに住んでいて同性カップルを見かけることは珍しくありませんし、同性カップルに対して冷たい視線を向ける人を見ることもありません。

同性カップルの存在はもはや当たり前の存在なので、同性婚に対して周りの友人に意見を聞いても「普通じゃない?好きな人と一緒にいたいなら勝手にすればいいと思うよ。自分たちには関係ないし。」と、特に男女のカップルと区別していないという印象を受けました。

家族観や価値観は他人の結婚で変わるものなのでしょうか。具体的にどう変わるのか私には想像がつきません。愛し合う2人が夫婦になることの何がいけないのでしょう。
  
16の家族の形を発表
同性婚を認めて17年。スペイン社会は多様性へ向けて年々変化しています。去年12月、社会権省のロネ・べララ大臣は新しい「家族法」を発表しました。

この法律には3歳未満の扶養児童1人につき月100ユーロの子育て支援、2親等以内の親族や同居人の世話(怪我・病気等)をするための年5日の有給介護休暇、子どもが8歳になるまで継続・中断可能な8週間の育児休暇などの内容が含まれています。そのほかに「父親・母親・子供」という従来の家族のステレオタイプを取り除き、多様性教育や補助金支給に役立てるために「16タイプの家族」というリストも今回の法で定められました。

リストには「片親家族」「同性婚家族」「養子縁組家族」「事実婚家族」から、「複数民族家族」「多国籍家族」「移民家族」「貧困家族」など16種類にわたる家族の形が記載されています。今後これらは学校の多様性教育にも組み込まれていくそうです。

社会は変わらなければいけない
今回はスペインの同性婚や家族の多様性について紹介しましたが、世界でこのような動きがどんどん進んでいます。2019年には隣国台湾が、2022年にはチリ、スイス、スロヴェニア、キューバが同性婚を合法化しているのです。

社会や世界の価値観がどんどん変化し前進している中で、それらの変化を恐れて古い当たり前にすがりつき立ち止まってしまうことは、世界からどんどん遅れをとっていくことを意味するでしょう。

「よそはよそ、うちはうち」と言われたらそれまでですが、それは日本が所詮それまでの国であることを認めることになるのではないでしょうか。私は日本も同性婚を法制化するべきだと思いますし、法制化をしないということは差別だと認識しています。(後略)【2月4日 松尾彩香氏 Newsweek】
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岸田首相の言うように、同性婚法制化によって社会の価値観の変化が後押しされるというのは事実でしょう。

ただ、一部の者を極度に抑圧する現状について、変わるべきものは変わらなければいけないし、それによって異性婚の者が不利益を被るものでも、価値観を強制されるものでもありませんので、その変化を恐れる必要もない・・・ということでしょう。

今回の「騒動」で、ニュージーランドの元議員のスピーチが改めて注目を集めています。2013年に当時議員だったモーリス・ウィリアムソン氏が、同性婚を認める法案の最終審議と採決の際に行ったものです。

****「同性婚を認めても、関係ない人にはただ今まで通りの人生が続くだけ」*****
(2013年に当時議員だったニュージーランドのモーリス・ウィリアムソン氏が、同性婚を認める法案の最終審議と採決の際に行ったスピーチ)

「『不自然なもの』を支援していると批判されました」
私の選挙区の有権者に、「同性婚を認める法案が通れば、その日からゲイによる総攻撃が始まるだろう」と言った聖職者がいました。 

ゲイの総攻撃って、どんなものでしょうね。大勢のゲイたちが軍隊となって高速道路を攻めてくるんでしょうか? それともガスか何かが流れてきて、私たちを選挙区に閉じ込めてしまうんでしょうか? 

カトリックの聖職者にも、私が『不自然なもの』を支援していると批判されました。面白いですね。だって、一生独身、禁欲の誓いを立てた人がそう言うんです。まぁ、私には禁欲がどんなものかはよくわかりませんけどね。 

『永遠に地獄の業火で焼かれるだろう』とも言われました。間違いです。私は物理学の学位を持っています。自分の体重や体水分率を測って、熱力学の式で計算しました。もし5000度の火で焼かれたら、たった2.1秒で燃え尽きます。これはとてもじゃないけど永遠とは言えないですよね。 

養子縁組についてひどい意見もありました。私には3人の素晴らしい養子がいます。養子縁組がどんなに素晴らしいか知っていますし、だから、そういう意見がくだらないものだとわかります。邪悪ないじめです。私は小学校の時から、いじめには屈しないと決めています。

「この法案が社会にどういう影響があるか、心配しているんでしょう。言わせてください」
反対する人の多くは、この法案が社会にどういう影響があるかということに関心があり、心配しているんでしょう。
その気持ちはわかります。自分の家族に起こるかもしれない「何か」が心配なんです。

 繰り返しになりますが、言わせてください。 今、私たちがやろうとしていることは「愛し合う二人の結婚を認めよう」。ただそれだけです。 

外国に核戦争をしかけるわけでも、農作物を一掃するウイルスをバラ撒こうとしているわけでもない。お金のためでもない。 

単に、愛し合う二人が結婚できるようにしようとしているのであり、この法案のどこが間違っているのか、本当に理解できません。なぜ、この法案に反対するのかが。自分と違う人を好きになれないのはわかります。それは構いません。みんなそのようなものです。

「関係ない人にはただ、今までどおりの人生が続くだけです」
この法案に反対する人に私は約束しましょう。水も漏らさぬ約束です。 明日も太陽は昇るでしょうし、あなたの10代の娘はすべてを知ったような顔で反抗してくるでしょう。明日、住宅ローンが増えることはありませんし、皮膚病になったり、湿疹ができたりもしません。布団の中からカエルが現れたりもしません。 明日も世界はいつものように回り続けます。だから、大騒ぎするのはやめましょう。

この法案は関係がある人には素晴らしいものですが、関係ない人にはただ、今までどおりの人生が続くだけです。 

最後になりますが、私のところに、この法案が干ばつを引き起こした、というメッセージが来たんです。この法案が干ばつの原因だと。

ええと、私のTwitterアカウントをフォローしている方はご存知かもしれませんが、パクランガでは今朝、雨が降ったんですよ。 そしたら、今まで見たことがないくらい、大きな虹が見えたんです。ゲイ・レインボーが。 

これは、しるしに違いありません。あなたがもし信じるならば、間違いなく、しるしです。 

結びとして、この法案を心配している全ての人のために、聖書を引用させて下さい。旧約聖書の申命記、1章29節です。 「恐れることなかれ」【2月2日 HUFFPOST】
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イギリス  インフレ、相次ぐストライキ  EU離脱から3年、「西欧最貧国」へ転落?

2023-02-03 23:34:27 | 欧州情勢

(記録的なインフレが続くイギリスで、教師ら公務員が、過去10年で最大規模とされる50万人規模のストライキを実施した。【2月2日 FNNプライムオンライン】)

【記録的インフレに相次ぐストライキ】
記録的なインフレが進むイギリスで、賃上げを求めるストライキが頻発し、国民保健サービス(NHS)の下で働く看護師らでつくる労組の「王立看護協会(RCN)」も12月15日、待遇改善を求めて全国規模のストライキに突入した件は以前ブログで取り上げました。


背景にあるのは人員不足からの医療体制の崩壊状態。「王立看護協会(RCN)」の組合書記長は「イギリスの医療は、落ちるところまで落ちた」とも。

****“落ちるところまで落ちた”イギリスの医療****
救急車を呼んでも、特に1分1秒を争う生命の危機がある場合以外は長く待たされる。
患者が搬送されても、「要入院」と判断されてから12時間は待たされる。昨年12月段階では、こういう「宙ぶらりん」の重症者5万人以上病院で長時間放置されていた。

一般の診療待ち患者に至っては、700万人が数か月待ちといった状態。政府が「年内にせめて、18か月以上診療待ちの人を診て欲しい」とNHSに懇願するような状況。

医師・看護師・事務職員・・・あらゆる段階での人員不足が放置され続けていた。
国民は看護師のストを支持。
この後は、各地の病院、医療関連労働者が雪崩を打ったようにストに突入。
さらに鉄道労働者、教員組合も。【日系雑誌2月号より】
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体調が悪いから「今」受診を希望している訳で、それが18か月以上待たされたら・・・・。当然ながら、体調が更に悪化する者が増大し、そのような者は働けなくなり、更に社会全体の人出不足を加速させることにもなります。

こうした人出不足状態の原因については、コロナ後遺症やEU離脱の影響も指摘されています。

****英経済に人手不足の暗雲、コロナ後遺症やEU離脱で****
(中略)
<原因はコロナ後遺症か>
長期間病気を患う人の増加が、どれほど直接的に新型コロナに起因するかを正確に示すのは難しい。
新型コロナの症状が1カ月以上続いている英国人の数は4月初めの時点で約180万人と報告されており、このうち34万6000人前後は日々の活動を「大きく制限」せざるを得ないほど症状が酷いと述べている。これは労働参加率低下の原因かもしれない。

BOE(イングランド銀行)の金融政策委員会(MPC)のマイケル・ソンダース委員は最近の講演で、パンデミックによって緊急治療以外の医療を受けるための待ち時間が大幅に長期化したことで、病気が重症化して働けなくなる人が増えた可能性も指摘した。(中略)

<ブレグジットが追い打ち>
英国は今、求人が増えており、今年第1・四半期には賃金が前年比7%上昇した。英国のEU離脱(ブレグジット)前であれば職に就く人が増え、必要に応じてEU諸国から労働者を呼び込んでいたところだろう。

しかし過去2年間で、英国で働くEU加盟国籍の人は21万1000人減った一方、非EUの労働者は18万2000人増えた。そして今ではほぼすべての外国人労働者がビザを取得する必要があるため、海外からの雇用は困難さを増し、適切な職能を備えた人材を素早く採用して穴を埋めるのはハードルが高くなっている。(後略)【2022年5月31日 ロイター】
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上記のような状況は今も続いており、2月1日には「過去約10年で最大規模」の学校教員や公共交通機関職員らによる同時ストが行われました。

****教師や鉄道職員ら同時スト=50万人参加、学校閉鎖も―英****
英国で1日、学校教員や公共交通機関職員らによる同時ストが行われた。参加者は全体で50万人とされ、英メディアによると「過去約10年で最大規模」。物価高騰などを受けた「生活費危機」に対応する一連の賃上げ要求の一環で、多くの学校で授業が中止されるなど市民生活に大きな混乱が生じた。

BBC放送のまとめによれば、イングランドとウェールズで中等教育までの教員10万人以上が参加。列車やバスの運転手、公務員、大学の教職員らもそれぞれストを行った。

これにより2万3000校以上の学校が閉鎖などの対応を余儀なくされ、通勤客の多くも交通手段を奪われた。【2月1日 時事】
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【経済・市民生活を悪化させたEU離脱 「西欧最貧国」へ転落との指摘も】
「光熱費や生活費は上がるのに、給料はまったく変わらない!」という状況、あるいはコロナの影響などは日本や他の欧米諸国も同様でしょうが、イギリスの場合、EU離脱という経済全体に悪影響を及ぼす特殊要因も影響しています。

そのため世論調査において「離脱は間違いだった」との声が増加しているようです。

****EU離脱「悪い方向」45%=3年経過で大幅増―英世論調査****
英国の欧州連合(EU)離脱から31日で3年が経過するが、「予想より悪い方向に進んでいる」と考えている人が45%と、2021年6月調査の28%から大きく増えていることが明らかになった。世論調査会社イプソスが30日、成人1000人を対象に実施した調査結果を発表した。

離脱によって日常生活がどう影響を受けたかについても、45%が「悪化した」と答え、「良くなった」と回答した11%を大きく上回った。

離脱によるマイナスの結果としては、「EUとの貿易障壁」を挙げた人が40%と最も多く、「移動の自由の終了」が30%で続いた。逆に、良い結果については「何もない」が24%で最も多かった。
 
イプソスは調査結果について「3年間で市民は国の方向性に悲観的だ。離脱派と残留派の根本的な意見の相違も依然として存在する」と分析している。【1月31日 時事】 
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****「私たちを一気に崩壊させた」イギリスのEU離脱から3年も厳しい声 約16兆円の損失との試算も****
EU=ヨーロッパ連合離脱から3年を迎えたイギリス。最新の世論調査では、半数以上が「離脱は間違いだった」と回答。離脱に否定的な考えの人が増えていることが分かりました。

ロンドンの金融街シティを中心に、ヨーロッパの金融センターとして発展してきたイギリス。しかし…

記者 「ヨーロッパ最大だった、ロンドン株式市場の時価総額がパリ市場に逆転されるなど、EU離脱の影響は金融街シティにも及んでいます」

3年前のEU離脱後、金融機関が人員や機能をイギリスから移す動きが進み、ブルームバーグ通信によりますと去年11月、ヨーロッパでトップだったロンドン株式市場の株式時価総額はパリ市場に抜かれました。

シティで働く人 「EU離脱の影響は絶対にあります。私はEU残留に投票しましたが、離脱の投票者は後悔していると思います」

また、イギリスで行われた最新の世論調査では「離脱は間違いだった」と答えた人が54%と、離脱の是非を問う国民投票が実施された7年前より10%以上増える結果となりました。

紅茶の販売会社社長、アガーウォルさん(50)も離脱に否定的な人のひとりです。
ニラージュ・アガーウォルさん 「EU離脱が私たちを一気に崩壊させました」

アガーウォルさんの会社は、離脱に伴う煩雑な通関手続きによる手数料の増加などで利益が大幅に減少。
ニラージュ・アガーウォルさん 「EU離脱の影響で、毎年およそ6万ポンド(約1000万円)近くの損失が出ています」

利益の半分を充て行っている、生まれ育ったインドでの学校の運営も厳しくなりました。事業継続のため、アガーウォルさんはEUへの輸出を止め、北米、さらに日本などに販路を拡大しています。
ニラージュ・アガーウォルさん 「フランスやドイツの顧客に販売するよりも、アメリカに売る方がはるかに簡単です」

EU離脱について、イギリスのスナク首相は「すでに多大な利益とチャンスをもたらしている」と主張。
一方で、ブルームバーグエコノミクスはこれに反する分析として、イギリス経済に年間およそ16兆円の損失が生じているとの試算を出しています。【2月1日 TBS NEWS DIG】
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EU離脱がイギリス経済に悪影響をもたらすということは、当初からわかっていた話で、個人的には「何を今更・・・」という感も。

イギリス経済の凋落は単なる生活実感ではなく、数字にあらわれています。

****英国が「西欧最貧国」に転落へ****
EU離脱で深まった「生活苦」
(中略)
国際通貨基金(IMF)の二一年のまとめでは、英国の一人当たりGDP(国内総生産)は約四万六千ドルで、オランダ(約六万二千ドル)やドイツ(約五万四千ドル)に比べると、かなり低い。

これから大ロンドンを除くと、二万ドル台になり、旧東欧諸国とほぼ同水準になるというのだ。

一般家庭の困窮ぶりは、セックス産業の従事者急増に表れている。イングランドには、セックス産業従事者を支援する団体が複数あるが、その一つによると、昨年夏には前年比で「相談が三〇%増えた」という。

既婚の女性が家計を支えるため、この業界に続々と入ってくるのだ。マンチェスターやバーミンガムなど地方都市での急増ぶりが特に目立つという。【日系雑誌2月号】
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【生活苦の国民から遊離した資産家スナク首相】
国民がセックス産業に入ってでも何とか生活を支えよう・・・としている時期の首相として、国王をも凌ぐと言われる資産家のスナク首相は何とも場違いな感じも。

****英スナク新首相は資産1200億円の超リッチマン! スーツ59万円、靴に7万6000円、コーヒーカップは3万円!****
10月25日、チャールズ国王の任命を受けて英国の首相に就任するスナク元財務相。スナク氏は、インド系ヒンズー教徒で、英国初のアジア系首相が誕生する。  

スナク氏は、1960年代に英国に移住したインド系アフリカ移民の両親を持つ。父は医師、母は薬剤師。本人は名門全寮制校ウィンチェスター・カレッジ、オックスフォード大学で学んだ英才だ。  

卒業後、渡米してスタンフォード大学大学院でMBAを取得し、米金融大手ゴールドマン・サックスに就職。その後、ヘッジファンドで働いた後、政界入り。エリート街道を歩んできた。  

妻はインドのIT企業インフォシス創業者の娘。スナク夫妻は2022年、英紙「サンデー・タイムズ」の長者番付で、英国のもっとも裕福な250人にランク入りした。

推定資産は、夫妻合わせて7億3000万ポンド(約1227億円)だ。 「英紙『ガーディアン』によると、夫妻が2人の娘と過ごす自宅は現在、 200万ポンド(約3億3600万円)以上の価値があり、寝室が5室。40万ポンド(約6700万円)の、12m×5mの屋内スイミングプールや、ジム、ヨガスタジオ、テニスコートまで備えています。  

選挙運動中に建築現場を視察する際にも、3500ポンド(約59万円)もする特注のオーダースーツを着用。靴は450ポンド(約7万6000円)の、プラダのローファー。妻からの贈り物とされるマグカップは、オンラインで最大180ポンド(約3万円)で販売されているもので、充電コースターもついているため、温かい温度を最大3時間、保持できるとのこと。 

『ガーディアン』紙は、スナク夫妻はチャールズ国王以上の資産家と伝えています」(英国事情に詳しいジャーナリスト)  

スナク氏の妻は、父親のソフトウェア会社・インフォシスの株の0.93%(約1160億円相当)を所有しており、配当は年間1160万ポンド(約19億5000万円)。妻が「非定住者」として、海外での所得について税金を英国で納めていなかったことが、批判されたこともある。  

エネルギー価格高騰に苦しむ英国民。経済の安定を求める国民の声に、「超リッチマン」であるスナク氏は答えられるだろうか。【2022年10月25日 FLASH】
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こうした国民の目をスナク首相も意識しており、首相は1月、国民の生活苦を「自分の目で見る」という触れ込みで、ホームレスのための給食センターで、配食係を買って出たそうです。

しかし、首相周辺が案じた通り、ホームレスたちとは会話が成立しなかったとか。首相のスーツ一着で、ホームレスは何か月も遊んで暮らせるのですから・・・・。

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「デイリー・エクスプレス」紙の一月の世論調査によると、スナク政権が今年末まで続くと考える人はわずか三三%。四八%が「年末までもこない」と答え、一九%が「分からない」だった。

(スナク首相が掲げる)緊急増税で財政危機、金融危機をとりあえず回避すれば、現政権の任務は終わる。どうやらその辺に、(スナク首相を支援する)金融界の狙いがあるようだ。

英国の次期総選挙は二五年一月までに行われる。【日系雑誌2月号】
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“人々の不満を反映して、スナク政権の支持率は12%と低迷。不支持は70%になっています。”【2月2日 TBS NEWS DIG】とも。

金融界にとって、首相は「使い捨て」でいくらでも首をすげ替えられますが、このままでは保守党政権の存続は難しいようにも見えます。
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アメリカ  不法移民対応に揺れる 強制送還措置は? バスでNY市に送られた移民のその後は?

2023-02-02 23:27:23 | 難民・移民

(メキシコとの国境を視察するバイデン米大統領(左から3人目)=テキサス州エルパソで8日、AP【1月10日 毎日】)

【当面存続することになった強制送還措置「タイトル42」】
アメリカにおいて中絶や銃規制と並んで政治を左右する大きな問題となっているのがメキシコ国境に押し寄せる不法移民への対応。

トランプ前政権は、コロナ対策を名目に、通常の法的審査なしで移民希望者を即座に送還できる「タイトル42」を適用して強制送還していました。

バイデン大統領は選挙ではこの「タイトル42」廃止を掲げていましたが、実質的には就任後もこれを運用継続して移民を強制送還してきました。

しかし、移民の権利を重視する勢力からの批判もあって、バイデン政権は昨年末の「失効期限」に併せて、タイトル42を失効させることとしました。

これに対し、不法移民規制を求める州からはタイトル42の存続を求める訴えがだされ、昨年末段階ではその扱いに関する司法判断が注目されていました。

****国境に殺到する不法移民…「タイトル42」まもなく失効 「送還」と「受け入れ」で揺れるアメリカ国内****
アメリカ南部のメキシコとの国境沿いに、不法に国境を越える移民が殺到している。国境の川沿いにはテントがひしめき合い、すでに入国した移民希望者のなかには、滞在するはずの避難シェルターが満員状態となり、空港で生活する人まで出ている。

なぜこのような事態に陥っているのか。それはトランプ政権時代の2020年に導入した「タイトル42」と呼ばれる移民制限措置を連邦地裁が無効とし、21日に失効する予定となっていたからだ。

“国境が開放される”と希望を持った移民希望者が大挙して押し寄せ、メキシコとの国境の街、テキサス州エルパソ市では行政機能が破綻直前となり、非常事態も宣言された。

バイデン政権は「国境を開放するものではない」と事態の混乱を抑えるメッセージを出す一方で、予定通りにこの「タイトル42」を廃止する方向で進めていた。

しかし連邦最高裁は19日、19州からの緊急請願を受け、この失効を一時停止し、20日までに19州からの要望に対する政府の回答を求めた。

バイデン政権は20日に、この法律の失効の一時停止を少なくとも27日まで延長した上で、「タイトル42」を予定通り失効させるべきとの回答を最高裁に示した。

「タイトル42」実際の運用は…
不法移民が押し寄せている、テキサス州のグレッグ・アボット知事は18日、米ABCテレビのインタビューで「タイトル42の終了は完全な混乱をもたらす」と強調し、法律の失効に大きな懸念を示した。

この「タイトル42」とはアメリカの公衆衛生法の一部で、伝染病などを持ち込む危険があると判断した場合に、入国を禁止できる措置だ。

トランプ政権時代の2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大し発動された。表向きは、感染拡大を防ぐためとしているが、実際の法律の運用は、不法移民を入れないために適用されている面があり、2年間での送還者は250万件以上に及んでいる。

移民制限措置は他にもあるが、もう1つの主な法律である「タイトル8」と呼ばれるものは、罰則も含めて適用が厳格な分、送還するプロセスに何年もかかることがある。一方で、タイトル42は、伝染病の蔓延を防ぐ立て付けのため、通常の法的審査なしで移民希望者を即座に送還できるメリットがあり、運用する側は非常に使い勝手がよいのだ。

アメリカメディアによれば、ほとんどの場合、2時間以内に不法とされた移民を追い出すことができるとしている。ただ、移民希望者に対して、国内で亡命を求めることを認めず、迫害や人権侵害の恐れがある人までも簡単な手続きで追放できることから、人権無視だとの批判も起きていた。

さらに、送還されてもそれがほとんど記録に残ることはないため、繰り返し何度も挑戦することができ、事態の解決にはつながっていないとの声もある。

アメリカとしては、処理に時間がかかる従来の法律と、簡単に送還できる「タイトル42」との併用を続けてきたわけだが、この片翼の「タイトル42」が失効することで、不法移民は期待を持って国境を渡ろうとし始めたのだ。

押し寄せる不法移民に街は大混乱
国境の自治体関係者や非営利団体などは、すでに入国した移民希望者への住居、食料、衣料を提供しているが、行政機能は限界を迎えているといっていい状況だ。

テキサス州エルパソ市では、国境警備隊の不法移民との遭遇件数が12月に1日あたり2500件に達し、すでに5万人以上の不法移民が市や非営利の避難所、街中に解放された。避難所は収容人数の限界を超え、公立学校の建物を使う可能性なども検討されている。

しかしエルパソ市では、入国希望者を保護する施設やアメリカ国内で移動する手段を提供することができず、街中に人があふれかえり、さらに押し寄せる不法移民の波に、非常事態を宣言する状況に追い込まれてしまった。

テキサスの地元紙「テキサスマンスリー」はこの事態に、バイデン大統領とアボット知事の両方に対して厳しい論調を示している。ニカラグアのような権威主義と機能不全に陥っている国や、ベネズエラのような国から逃れてきた人たちを受け入れることもできず、難民と地元住民の双方を危険にさらしていると批判。

「深刻な問題に直面しているが、解決可能な問題だ」と強調して、政治的な対立を優先せずに、大統領と知事がともにこの問題の対処に当たるよう呼びかけた。(中略)

政治的な対立を超えて対策は?
この状況にかみついたのは、トランプ前大統領だ。
19日の声明では、「過去2年間、バイデンは何百万人もの不法移民を招き入れ、巨大な不法越境を行わせてきた」と政権を批判。(中略)

バイデン政権は2022年の早々に、このタイトル42を解除しようと動いたこともあったが、準備不足という面も否めず、不法移民に悩む州からの訴えもあり、この解除を延長した経緯もある。

実際に、トランプ政権からバイデン政権に移行して以降は、移民希望者や不法移民は増加傾向にあり、アメリカ国内でも大きな社会問題となっている。移民政策に寛容なバイデン政権としては不法移民の対策をしつつ、移民を受け入れようという意欲は見えるものの具体的な対策は乏しく、後手に回っている印象だ。

ただ、野党・共和党側にも果たして責任がないのかとも言える状況でもある。アボット知事側はこれまで、増加する不法移民をバスに押し込め、民主党・バイデン政権の支持基盤である、ニューヨークやワシントンDCと言った都市に送りつける強硬手段をとって物議を醸したこともある。

11月に行われた中間選挙を前に、「政治的パフォーマンス」とも批判されたが、連邦政府、州政府ともに具体的な対応策を協調して行う動きは見られず、現状の解決にはほど遠い状況にあると言える。

国民からは、「何でもかんでもバイデン政権のせいにする」と批判の声も強まり、党派を超えてこの問題を解決していこうという姿勢が感じられないというものだ。(後略)【2022年12月27日 FNNプライムオンライン】
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「12月27日以降」どうなるのか注目されていた「タイトル42」でしたが、アメリカ最高裁は12月27日、法廷闘争が決着するまで継続を認める判断を示しました。

【バイデン大統領 新たな移民対策】
“具体的な対策は乏しく、後手に回っている印象”との批判があるバイデン大統領は年明け早々に、新たな対策を発表しましたが、国境管理強化の側面があるため民主党内には批判もあります。

****民主党内には失望の声も****
バイデン政権は5日、新たな対策を打ち出した。国境管理を強めつつ、人道配慮とのバランスも図った内容だ。

不法入国者への取り締まり強化策として、中南米の4カ国(ベネズエラ、キューバ、ハイチ、ニカラグア)から許可なく入国しようとした移民は、強制退去の対象とすることにした。

一方で、合法的な入国の道を広げることにした。この4カ国から、特別な入国枠で毎月最大3万人を米国に受け入れる。ただし、不法入国を試みた人は対象外にするという。同様の措置はすでにベネズエラに導入し、不法移民を減らす一定の効果があったという。

ただ、身内の民主党内には寛容な移民政策を求める声も強い。ヒスパニック議連を率いるバラガン下院議員(民主)は、強制退去対象を拡大することについて「トランプ時代に(導入されて)失敗した政策を拡大することに失望している」との声明を出した。

バイデン氏は今回の対策について「国境問題を完全に解決するものではない」と認め、議会で移民制度改革を議論するよう訴えている。ただ、移民問題は共和党によるバイデン政権への攻撃材料となっており、超党派の協力は難しそうだ。【日系メディア】
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バイデン大統領は1月8日には就任後初めて国境を訪問して、上記対策をアピールしています。

****バイデン米大統領、メキシコ国境を初訪問 不法移民対策をアピール****
バイデン米大統領は8日、中南米からの移民希望者が殺到している南部テキサス州エルパソを訪問し、国境管理の現場を視察した。バイデン氏がメキシコとの国境地帯を訪れるのは大統領就任後初めて。5日に公表した不法移民対策の新たな措置をアピールする狙いがある。

バイデン氏はエルパソで税関・国境警備局の担当者らから取り締まり状況の説明を受けた。国境沿いに設置されている巨大なフェンスも視察。支援団体などと対策の在り方についても意見交換した。

新たな措置は、昨年10月からベネズエラ出身者に適用している制度をキューバ、ハイチ、ニカラグアの出身者にも拡大するのが柱。米国に身元引受人がいるなどの条件を満たせば2年間の滞在と就労が可能になる。不法越境した場合は原則としてメキシコに強制送還される。(後略)【1月9日 毎日】
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共和党からは国境訪問が「遅すぎた」「写真撮影のため」(マッカーシー下院議長)といった批判も。

【NYにバス移送された不法移民は今どうなっているのか?】
一方、共和党アボット・テキサス州知事など南部州知事がバスに押し込め、民主党・バイデン政権の支持基盤である、ニューヨークやワシントンDCといった「移民に寛容」とされる都市に送りつけた不法移民はその後どうなったのか?

****南部州からNYにバス移送された不法移民は今どうなった?****
<南部州から大量に移送されてきた不法移民は、リベラルなニューヨークでどんな暮らしをしているのか。思ったより悪くないとも思えるが、「俺たちは犬じゃない」と怒っている>

ベネズエラ人のアイザック・カスティリャーノ(21)は2022年8月に米南部の国境を越えてアメリカに入国。10月からニューヨーク市に滞在し、12月からはマンハッタンにあるワトソンホテルで暮らしてきた――今週までは。

1月29日、外出先から戻ってみると、カスティリャーノは1カ月半滞在したホテルから突然、締め出された。ニューヨーク市が、不法移民のうち独身男性をブルックリンにあるクルーズ・ターミナルに設置したテント村に移し、ワトソンホテルには子連れの家族を滞在させることにしたためだ。

カスティリャーノはその日のうちにバスでテント村に向かったが、施設を一度ぐるりと見た後、マンハッタンに戻ることにした。市が用意した「新しい家」の状況について、仲間の移民たちに警告しなければと思ったためだ。

彼をはじめ、ほかにも「引っ越し」を求められた不法移民たちは、ホテルの部屋にはもう入れないため野宿をすることにした。1月31日午後の時点で、彼らはまだ57丁目の路上に設置したテントの中で、ホテルに戻る許可が下りるのを待っていた。

「ワトソンホテルのような、もっと安定した場所に滞在できるという約束だった」と彼は本誌に述べ、さらにこう続けた。「騙された気分だ」

国の問題なのに都市に負担が
ニューヨーク市当局によれば、過去1年で推定4万3000人を超える不法移民が、南部の州からバスでニューヨークに移送されてきている。

ジョー・バイデン米政権に、南部国境地帯の問題に対処するよう圧力をかけるために始められたこの「移送」が、ニューヨークの資源を圧迫し、多くの不法移民を混乱に陥れている。

ニューヨークのエリック・アダムズ市長は、バイデンに連邦政府の助けを求めてきた。バイデンは31日に、看板政策のインフラ投資法をアピールする遊説のために、ニューヨークを訪れる予定だ。アダムズは、「国家の問題」についてニューヨークのような都市が負担を強いられているのは不公平だと主張する。

テキサス州など南部の複数の州の知事は、大量の移民が不法に越境してくる問題に注目を集めるため、バイデンが大統領に就任した2年前から、移民をバスに乗せて北部の州に移送してきた。

政府は不法移民の問題に対処するための長期計画を模索しているが、アダムズは「必要なのは短期計画だ」と言う。

1月25日にMSNBCの人気番組「モーニング・ジョー」に出演したアダムズは、次のように語った。「自分の家が燃えている時に、防火対策についての議論なんて聞きたくはない。私は火を消して欲しいのだ。いま起きている火事は、国内の複数の都市に不法移民や難民希望者が集中しすぎているという問題だ」

アダムズの事務所は本誌と共有した声明の中で、ブルックリンのクルーズ・ターミナルはワトソンホテルと同様のサービスを提供すると主張している。

だが1月29日にバスで移送された不法移民たちは、テント村から出て、自分たちが目にした状況について抗議の声を上げている。

インターネット上に投稿されたテント村の写真や動画には、狭いスペースに折り畳みベッドが並んでいる様子が映っている。カスティリャーノは本誌に対して、新たな施設にはプライバシーがほとんどなく、400人以上の収容者に対してトイレが4つだけで、持ち込みを許されたスーツケース1個の保管場所もないし、携帯電話を充電するためのコンセントもないと語った。

ほかの複数の男性は、ニューヨークのウェブメディア「Gothamist」に対して、新たな施設はとても寒く、暖房もなければお湯も出ないと語った。

「あそこで犬みたいに寝るのはごめんだ」とカスティリャーノは言い、さらにこう続けた。「僕らが望んでいるのは、もっとましな生活だ」(中略)

アダムズの報道官は、ブルックリンに出来た新たな施設は暖房があって適切な温度管理が行われており、トイレも85~90あると説明。収容者一人ひとりに、荷物を収納するスペースが割り当てられていると述べた。

カスティリャーノをはじめとする不法移民たちがブルックリンのテント村に移るのを拒んでいる理由のひとつは、同施設が公共交通機関では訪れにくいレッドフックに設置されていることだ。ワトソンホテルの近くで仕事を見つけたり、英語のクラスに通ったりしている者にとってブルックリンへの引っ越しは、新たな職場や学校から約13キロも離れた場所に移ることを意味する。

ニューヨーク・ポスト誌は1月に入って、アダムズがニューヨーク市ホテル協会と2億7500万ドルの契約を結び、今後6カ月にわたって少なくとも5000人の移民を同協会に登録する300のホテルで受け入れる取り決めを交わしたと報じた。ただしニューヨーク市は、これらのホテルには家族連れの移民を優先的に滞在させたいとしている。

カスティリャーノは、今の一番の悩みは、少なくとも3カ月は確実に滞在できる場所を見つけることだと言う。ワトソンホテルに移る前には、ランドールズ島にある広さ約7800平方メートルの仮設の人道支援施設に滞在していたが、ここは開設から1カ月を待たずして閉鎖されてしまった。ニューヨークに来てからは何度も滞在場所が変わったため、地理には詳しくなったという。

「保護を求めている訳ではない。何も求めてはいない。ただベッドと、安心して眠れる場所が欲しい」とカスティリャーノは言った。(後略)【1月31日 Newsweek】
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ニューヨーク市のアダムズ市長によれば、受け入れ費用は最終的に20億ドル(約2560億円)に達する見通しとのことで、バイデン民主党政権に対策を求めています。

一方で、移民のための支出に市民からは不満も。

****宿泊1泊5万円…NY移送の〝不法移民〟への不満募る****
米ニューヨーク市のアダムズ市長(民主党)が米南部の国境地域から移送された4万人超の〝不法移民〟への対応に苦慮している。受け入れ費用は最終的に20億ドル(約2560億円)に達する見通しで、バイデン民主党政権に対策を求めた。

アダムズ氏は受け入れを歓迎するが、膨大な費用がかかるのに加え、一時滞在先のホテルでの移民の振る舞いが問題化し、市民の不満は募っている。

「ホテルの部屋に調理器具を持ち込んで自炊し、カーペットが焦げた」「感染症対策を守らない」「飲酒禁止なのに大量のビールの空き缶が廃棄される」。一時滞在先ホテルの従業員は1月、米ABCテレビにこう証言し、火災発生や伝染病拡大への懸念を訴えた。

ホテルはマンハッタン中心部に位置し、宿泊費用は通常1泊400ドル(約5万2千円)以上という。「米国人でも手が届かないサービスを移民に提供するのは間違っている」(マッコーイ元ニューヨーク副知事)との不満も出ている。

移民はもともと、メキシコからビザ(査証)を持たずに米南部テキサス州などに侵入し、拘束された不法移民。米国が制裁を科す反米左派政権のベネズエラから来る例が増えている。亡命を申請し、一定の条件を満たすと判断されれば、申請に対する決定が出るまで、合法的な一時滞在が認められる。

不法移民に寛容なバイデン政権の発足後、一時滞在が認められやすくなると期待が高まり、不法入国を試みる人が急増した。負担の増えたテキサス州などで批判が強まり、アボット同州知事(共和党)が昨春から、政権への抗議の意思を込めて首都ワシントンにバスでの移送を始めた。

ニューヨーク市への移送は昨年8月に開始。アダムズ氏は昨秋の中間選挙を前に、「ニューヨークは移民の街だ。常に新たな移民を歓迎する」と述べる一方、アボット氏を「思いやりの心がない」と批判するなど、移民政策は党派対立を色濃く反映した課題となっていった。

米公共ラジオなどの8月時点の全米調査では、「南部国境が侵食されている」と答える成人が半数を超えた。ニューヨーク在住の20代女性も「本音を言えば心地よいわけではない」と話す。

ニューヨーク市の負担は移民用の食事確保や教育支援などで増加の一途をたどり、アダムズ氏は非常事態を宣言。今年1月にはバイデン大統領に続き、テキサス州国境付近の街エルパソを視察した。2人の視察は「現場に来て実態を知るべきだ」とアボット氏が訴えていたものだ。

対策に窮するアダムズ氏は視察後、「移民を全米各地に分散する計画を立ててほしい」とバイデン政権に要望。移民支援の活動家は、政権の対応に期待を寄せる。

ただ、たらい回しにされることに嫌気がさす人もいるようだ。子供2人を連れてベネズエラからニューヨークにたどり着いたダビッド・ガストロさん(34)は1日、取材に対し「カナダの(最大都市)トロントに行きたい。米国よりも移民に寛容なイメージがあるからだ」と話した。【2月2日 産経】
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“1泊5万円”云々は、全てのホテルの話ではなく、中にはそういう事例もあるということではないでしょうか。

いずれにしても不法移民への対応は難しい。寛容に扱っても、厳しく扱っても、批判はあるでしょう。バイデン大統領の対応が後手に回っているのも、ニューヨーク市などへの支援が十分でないのも、そういった問題の性格によるものでしょう。
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ミャンマー  国軍のクーデターから2年 状況は「悪化の一途」 困難な抵抗、薬物に逃避する若者も

2023-02-01 23:17:55 | ミャンマー

(買い物客でにぎわうミャンマー・ヤンゴンの市場=1月29日(共同)【2月1日 産経】 一見、平穏な市民生活が営まれているようにも見えますが・・・・)

【「悪化の一途」 「状況は10年前に逆戻り。いや、それよりひどい」】
昨日・今日、国際面で最も多く目についたニュースはミャンマー情勢に関するもの。何か変化があった訳ではなく、国軍によるクーデターから2年経過という「節目」にあたっての記事です。

2年が経過しての状況は一言で言えば「悪化の一途」。欧米によるミャンマー軍政批判に慎重な日本政府が言うのですから間違いないでしょう。

****悪化の一途をたどるミャンマー情勢を深刻に懸念=松野官房長官****
松野博一官房長官は1日午前の記者会見で、ミャンマーで軍がクーデターを起こしてから2年が経過するなか「ミャンマー国軍は国際社会の声に聞く耳を持たず、暴力行為は止む兆しがない」と指摘、「悪化の一途をたどるミャンマー情勢を深刻に懸念している」と述べた。(後略)【2月1日 ロイター】
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クーデター勃発後の2021年4月にミャンマー国軍が拘束。5月に解放され、日本に帰国することを余儀なくされたジャーナリストの北角裕樹氏は「状況は10年前に逆戻り。いや、それよりひどい」と。

****ミャンマー国軍によるクーデターから2年「状況は10年前に逆戻り。いや、それよりひどい」ジャーナリスト・北角裕樹氏が解説****
(中略)ミャンマー経済は、2011年の軍事政権による民政移管後、概ね順調な拡大を続けていた。北角氏は「民主化が進んで夢があり、明るい未来があった。しかしクーデター後の混乱で、立て直せない状態にある。商店には日常が戻ってきていると聞いているが、ダメージを負っているのはとくに貧困層だ。物乞いをしなくてはいけない人もいると聞いている」と厳しい経済状況について触れた。

国軍の弾圧で民間人の死者はおよそ2900人、拘束中の政治犯は1万3000人を超え、いまも各地で民主派との武力衝突が頻発している。

言論活動については「今は政府・国軍の批判は出来ない。するとしたら地下活動でしか出来ない。ジャーナリストが他の仕事を持ちながらヤンゴンに潜伏し、インターネットで配信するという方法になる」と述べた。

また「ミャンマーの90年代は圧政の時代だったが、『今はそれに輪をかけて厳しい』とミャンマー人が言っている。いまは内戦状態で、国民が敵・味方に分かれて戦っており、いつ密告されるかもしれず喫茶店でも話が出来ない」と、心休まらずピリピリとした緊張状態に置かれた国内の様子について指摘した。【2月1日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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国軍は「力による支配」の体制を固めており、8月までに行うとされていた総選挙もその実施は不透明になっています。仮に実施されたとしても国軍に都合の悪い勢力の参加は許されず、国軍支配を正当化するための形式的儀式でしかないでしょう。

****ミャンマー支配を固める国軍 クーデターから2年****
ミャンマーで国軍がクーデターにより全権を掌握してから1日で2年となる。国軍は8月までに総選挙を行う意向を示すが、公正な選挙が行われる可能性は低い。

民主派への弾圧や少数民族武装勢力との戦闘を続けながら、国軍は形式のみの「民政移管」で親軍政権を樹立し、支配を固めようとしている。

国軍は2021年2月1日、国家顧問兼外相のアウンサンスーチー氏(77)や与党、国民民主連盟(NLD)の幹部らを拘束し、全土に非常事態を宣言。憲法はその期間を最大2年と規定しており、31日に期限を迎えた。終了後は半年以内に総選挙を行う必要がある。

国軍はNLDが圧勝した20年の総選挙に不正があったとしてクーデターを起こし、総選挙実施はその直後から表明していた。ただ、国民的人気があるスーチー氏には度重なる刑事訴追で身柄拘束を続け、政治生命を断つ動きを進める。スーチー氏が受けた刑期は計33年に及ぶ。選挙制度も改め、組織票を持つ国軍系政党に有利な比例代表制を導入する予定だ。

民主派は総選挙をボイコットする考え。NLD元国会議員は産経新聞の取材に「すべてが国軍に有利な環境で行われる選挙に参加する意味はない」と述べた。

国内では民主派がつくる挙国一致政府(NUG)が結成した「国民防衛隊」と国軍の戦闘が続き、NUGに呼応する少数民族武装勢力も攻勢を強める。不安定な治安状況を名目に、国軍トップのミンアウンフライン総司令官は選挙延期の可能性も示唆している。

市民団体によると、クーデター以降の弾圧の死者は2901人、逮捕者は1万7525人。国連の集計で住居を追われた市民は120万人を超える。NUG関係者は「最大の課題は国際的関心が薄れていること。国際社会はミャンマー市民が日々殺されていることを踏まえ、国軍の横暴をさらに糾弾すべきだ」と訴えた。【1月31日 産経】
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【スーチー氏の近況】
スーチー氏の近況は詳しくは報じられていませんが、“スーチー氏は首都ネピドーにある刑務所内の約20平方メートルのバンガローに収容されたままだ。スーチー氏が率いた国民民主連盟(NLD)の男性幹部によると、暑さが厳しく、水が汚いことから皮膚アレルギーの症状が出ているという。”【2月1日 共同】

その政治的影響力はほぼ封じ込められている状況のようです。「前世代の人」との評価も。もっとも、もし解放されれば、再び民主派の中核となる存在でしょう。

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スーチーさんと市民による武装勢力とは完全に分離されています。スーチーさんが彼らや彼女たちを指導している状況にはありません。

市民の武装勢力はもちろん、軍に反対する一般市民はスーチーさんたちの解放を求めていますが、あくまで「市民の権利と義務」を意識して行動しています。スーチーさんは民主化のシンボルでしたが、すでに前世代の人だという認識があるようにも感じます。【2月1日 フォトジャーナリストの宇田有三氏 日系メディア】
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【せめてもの「沈黙のストライキ」】
国軍支配に抵抗する民主派勢力は外出を控えて軍への抗議の意思を示す「沈黙のストライキ」を呼びかけています。
そのことは、国軍の厳しい支配下で積極的な抗議は出来ない状況にあり、そうした方法しかとれないという現状を示してもいます。

****ミャンマー“クーデター”から2年 民主派勢力、抗議の意志示す「沈黙のストライキ」呼びかけ****
ミャンマー軍がクーデターを起こしてから、1日で2年です。軍による武力弾圧が続く中、民主派勢力は1日、抗議の意志を示す「沈黙のストライキ」を呼びかけています。

ミャンマー軍が全権掌握の根拠としていた非常事態宣言は、先月31日で期限を迎えました。軍は憲法にのっとり、8月までに総選挙を行い、民政移管する意向を示していますが、民意を反映した選挙になるかは疑問視されています。

一方、民主派勢力は1日、外出を控えて軍への抗議の意思を示す「沈黙のストライキ」を呼びかけています。軍の徹底した武力弾圧で、表だった抗議行動はできなくなっています。(後略)【2月1日 日テレNEWS】
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「沈黙のストライキ」すら、国軍の圧力のもとで行うのは非情な決断と覚悟を要します。

【薬物に逃避する若者も それを黙認する国軍】
もちろん武装闘争に身を委ねているような若者らの意思は固いものがあります。
“右手を失った男性「(Q.後悔は?)命をかけて戦っている仲間を思えば、右手くらいなんでもない。ただ、母に伝えた時、母は泣きました。そのことは悲しかったです」”【2月1日 TBS NEWS DIG】

しかし、普通の一般市民にとっては、出口の見えない泥沼状況は耐えがたいものがあり、一部には「薬物」に逃避するような状況もあるようです。また、そうした状況を軍が黙認・誘導しているとも。

****ミャンマー軍事クーデターから2年 軍と民主派の戦闘が泥沼化…市民生活に影 若者の一部に「薬物」まん延も****
ミャンマーで軍事クーデターが起きてから2月1日で2年です。軍と民主派の戦闘が泥沼化する中、電力事情の悪化で停電が続くなど、生活に影を落としています。市民の間に閉そく感が広がり、一部の若者たちの間では「薬物」がまん延。国外に逃れようとする若者も後を絶ちません。
   ◇◇◇
ミャンマーの国境地帯。クーデターに反対する若者たちは、今も軍と激しい戦闘を続けています。一方、最大都市ヤンゴンの車通りはクーデターの直後より戻ってきた印象も。市場にはたくさんの食材が並び、都市部では日常が戻りつつあるように見えます。

しかし、世界銀行によると、ミャンマーでは経済の落ち込みで、貧困ライン以下で暮らす人が2017年(24.8%)から1割以上増え、全人口の約4割に達しているということです。

鶏肉店の店員 「客は3分の2に減った。みんな、お金がないのだと思う」

さらに、市民生活に影を落としているのが、電力事情の悪化による停電です。毎日4時間ほど停電が続く地区もあるといいます。幹線道路では信号機も停電し、商店が立ち並ぶエリアでは至る所で発電機が使われていました。

店のオーナーは、「少しイライラします。電気が止まると(発電機の)ガソリンを買いに行くので、その分、仕事が増えます」と話すなど、市民の間に閉そく感が広がっています。
   ◇◇◇
民主化への道筋が見えない中、抑圧された環境は若者たちを追い詰めています。

かつて抗議デモに参加していた25歳の女性が見せてくれたのは、カラフルな照明が輝くナイトクラブの映像です。1年あまり前、友人に誘われて、初めて訪れた時のものだといいます。

女性(25) 「たくさんのテーブルにパイプや皿を置いて、堂々とドラッグをやっている人たちがいたんです」
話の途中、彼女が突然バッグから取り出したのは、黄色いプラスチック製のパイプ。彼女も薬物を常習するようになっていました。若者の一部でまん延しているのは通称“K”。幻覚作用のある「ケタミン」です。

女性(25) 「ここ(ナイトクラブ)は、ヤンゴンで楽しめる唯一の場所です。私たちはどこへ行っても自由ではありませんから」

無法地帯となっているナイトクラブですが、当局は見て見ぬふりをしているといいます。また、国連薬物犯罪事務所(=UNODC)によると、ミャンマーでは去年、麻薬の原料となるケシの栽培面積が3割以上増えたとの報告もあります。

“黙認”の理由について、別の20歳の女性は「(軍事政権は)若者が政治に興味を持たないよう、注意をそらそうとしています」と話しました。
   ◇◇◇
混迷が深まるミャンマー。国外に逃れようとする若者も後を絶ちません。

29日、ヤンゴンにあるアパートの一室を訪ねると、肩を寄せ合って座る女性たちの姿がありました。国外で職を得るために、英語の勉強をしているのです。地方から出てきた20歳から35歳までの女性9人が、共同生活をしています。パスポートが発行されたら、一刻も早く国外に出るためです。

出国を目指す女性(20) 「母と祖母の体調があまりよくありません。もし、お金があれば2人の治療ができます。稼げるなら“悪い仕事”(売春)以外、何でもやります」

クーデターから2月1日で2年。混迷からの出口はいまだ見えません。【1月31日 日テレNEWS】
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(中略)(ナイトクラブの)周りのテーブルでも若者たちが同じように白い粉を吸っている。「ケタミンを吸うと、力がみなぎる。ナイトクラブの大音量と相性が良く、若者向きなんだ」

2021年2月に国軍がクーデターを起こし、その1年後ごろから急に「K」がはやり始めた。1回分が6万~8万チャット(約3700~5千円)。1日の最低賃金が4800チャット(約300円)のこの国では、かなり高額だ。

クーデター直後、抗議デモへと繰り出したのは主に若者だった。その一部は今、夜な夜な麻薬にふけるようになった。

「若者を責められない。何の希望もないのだから」男性はそう話し、若者を三つのグループに分けた。
 (1)国軍と戦い続ける  (2)現実を忘れたくて麻薬に走る  (3)自分のために生きる

男性は自分自身を二つ目に分類した。
「友人の何人かは、武器を手に国軍と戦っている。でも、自分にはできない。無力な自分が嫌で、薬を使わずにはいられなくなる」

国軍は取り締まる姿勢を強調する。1月18日付の国営紙は、昨年1年間でケタミンの押収量が2千キロ超に上ったと報じた。

ただ、昨年3月まで地方の麻薬対策部門に所属し、クーデターに反発して職場を放棄した元警官は、こう打ち明ける。「若者が政治に無関心になるように、国軍は意図的に麻薬を流している。これは長年、国軍が使ってきた戦略だ」

証言を裏付ける証拠は得られていないが、ミャンマーではよく聞く話だ。(後略)【1月30日 日系メディア】
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【制裁に参加しない日本 結果的に資金が国軍へ】
「力による支配」を強める国軍に対し、欧米は制裁強化で対抗しています。制裁の効果があがっているとは言えない状況ではありますが。

****米と同盟国、ミャンマーに追加制裁発動****
米国は31日、同盟国の英国、カナダ、オーストラリアと協調してミャンマーへの追加制裁を科す。ロイターが入手した米財務省の声明で分かった。(中略)

声明によると、米政府はミャンマーの選挙管理委員会、ともに国営の鉱業関連企業2社、エネルギー関係当局者、現・元軍人に対して制裁を科す。カナダとオーストラリアは1月31日に追加制裁を科した。

財務省の声明によると、今回の米国の制裁では国営のミャンマー石油ガス会社(MOGE)のマネージングディレクターと副マネージングディレクターを対象にする。人権擁護団体は、軍事政権の重要な収入源となっているMOGEに対する制裁を要求してきた。

財務省によると、Myo Myint Ooエネルギー相も対象となる。同氏は国内外のエネルギー部門でミャンマー政府を代表し、石油・ガスの生産と輸出に関わる国有企業を管理している。【2月1日 ロイター】
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日本はこうした欧米の制裁には参加せず、民主派と同時に国軍ともパイプを維持する対応をとっていますが、日本も制裁に参加するように促す声もあります。

****「日本も制裁参加を」=ミャンマー危機で国連報告者****
ミャンマー国軍によるクーデターから2年になるのを前に、同国の人権問題を調べる国連のアンドルーズ特別報告者が31日、報告書を公表した。その中で日本に対し、国軍関係者らへの制裁網への参加や、軍関係者の即時国外追放を促した。

報告書は、ミャンマー国軍が設置した最高意思決定機関「国家統治評議会(SAC)」について「正統な政府ではなく、承認されるべきではない」と強調。国連加盟国に対し、承認につながる行動を慎み「SACを外交的に孤立させる」よう求めた。

日本や韓国など、ロシアのウクライナ侵攻で制裁を発動しながら、ミャンマー危機では制裁を見送っている国に対しては「直ちに制裁を科すよう勧告する」と訴えた。【2月1日 時事】
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日本はクーデター以降、経済制裁を強める欧米諸国と一線を画し、対話を探ってきましたが、国軍の強硬さは増す一方です。また、「対話」と言いながらも成果はほとんどなく、日本が手を引いたあとの中国の影響力拡大を経過しているのが本音とも。

新規ODAは停止していますが、既存のODAは続行されており、その資金が国軍支配化の企業に流れており、結果的に国軍支配を資金的に支援している形にもなっています。

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国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、橋梁事業などを手掛ける横河ブリッジが、ミャンマー国軍傘下のミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)に対し、約130万ドル(約1億7000万円)を支払っていたことが判明したと発表した。

松野長官は、バゴー橋建設事業について「交通や物流のボトルネックを解消し、ミャンマーの経済発展を支え、国民生活の向上を促すことを目的とした事業」と説明、「ミャンマー国軍の利益を目的として実施しているものではない」と述べた。【2月1日 ロイター】
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一方的に事業を中断すれば契約違反になる可能性があるとのことで継続されている事業ですが、国軍支配に苦しむミャンマー国民を納得させる理由ではないようにも思えます。

****ミャンマー “非常事態宣言 6か月間延長” 国営メディア****
ミャンマーの国営メディアは、軍が2年前のクーデターに伴って発令していた非常事態宣言を6か月間延長すると伝えました。非常事態宣言は、軍による統治を正当化し、民主派勢力を抑え込む根拠とされてきました。【2月1日 NHK】
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インド  モディ首相とガンジーの間の深い溝 再び問題視される州首相時代のムスリム殺害暴動関与

2023-01-31 23:24:44 | 南アジア(インド)

(インド・ニューデリーで、マハトマ・ガンジーの慰霊碑「ラージガート」を訪れガンジーを追悼するナレンドラ・モディ首相(2023年1月30日撮影)【1月30日 AFP】)

【「人口世界一」のインドが抱える問題】
インドが中国を抜いて「人口世界一」になったようだ・・・という話は多くのメディアが取り上げています。

その圧倒的市場規模を背景に、先進的なIT技術などを活用し、今後インドが世界経済において中心的な役割を担うのでは・・・という期待・予想の一方で、インド社会は世界経済をリードすると言うにはあまりにも深刻な問題を抱えています。

****中国抜き「人口世界一」のインドに難題 人口の半数が30歳以下…雇用に不安****
中国の人口が減少に転じたことで、インドが世界で最多の人口を抱える国となったもようだ。

モディ政権が国際社会でインドの存在感を高めようとする中、国内では「世界一」を歓迎する声が上がる一方、若年層の雇用対策など課題が山積している。医療インフラの整備も不十分な中、人口増には不安も漂う。

中国が今月17日に発表した昨年末の同国の総人口は14億1175万人で、61年ぶりの減少となった。インドの国勢調査は2011年以来実施されていないが、国連によると、昨年の推計人口は14億1200万人であることから、既にインドが世界一になっている可能性がある。

インドも長期的傾向として出生率は低下しているが、人口は50〜60年代まで増加するもようだ。印シンクタンク、人口調査センターは産経新聞の取材に「伝統的価値観として、大きな家族を持つこと、また子や孫が高齢者の世話をすることが重要と考えられている」と指摘している。

モディ政権は人口世界一に対して正式な反応を示していないが、米外交誌ディプロマット(電子版)は、インドが「経済的、地政学的な主要プレーヤーとしての地位を確立しつつある」中、存在感向上につながるとの見方を示した。

ただ、30歳以下が人口の約半数を占める中、国内では特に若年層の職不足が深刻化している。21年の15〜24歳の失業率は約28%というデータもある。また、国内の貧困層は約2億2890万人とされ、路上生活者は300万人に上るとの推計もある。人口増は経済や医療を圧迫するとの懸念は強い。

インドではこれまで人口抑制が話題となったことはある。ただ、特に近年はヒンズー至上主義を掲げる与党インド人民党(BJP)の一部が、出生率が高いとされたイスラム教徒の増加を抑えたいとの思惑があった。

地元紙ヒンドゥー(電子版)は「人口抑制をめぐってはこれまで宗教的な面に焦点が当たってきた」と指摘。人口世界一となることで議論の本格化を求めた。【1月26日 産経】
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インドが抱える根本的問題のひとつが絶対的貧困・格差の存在、カーストといった身分制度の残存があります。
一番楽観的に考えれば、経済的な貧困などの問題は、今後の経済成長のなかで緩和されていくと期待することもできるでしょう。

身分制度の話は部外者にはうかがい知れぬ問題ですが、インド社会が何千年も付き合ってきた問題ですから、今後も「それなりに」付き合っていくのかも・・・よくわかりませんが。

【没後75年のガンジー追悼式にモディ首相も参列 しかし・・・】
一方、モディ政権が問題を更に難しくしているのが宗教の問題。少数派イスラム教徒への対応の問題です。
かねてより、モディ政権のヒンドゥー至上主義的性格は指摘されているところで、今後この宗教対立が先鋭化すると、インドの経済における、また、民主主義における安定性は大きく揺らぐことにもなります。

上記記事にもあるように、多数派ヒンドゥー側には、人口においてもイスラム教徒の増加を不安視する見方があり、宗教的理由による人口抑制といったことが許されるなら、基本的な人権侵害、民主主義からの逸脱となります。

インド建国時に遡ると、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の共存に最後まで拘ったのがガンジーであり、その考えに同調せず、イスラム教徒の国を建国したのがジンナーであり、結果として生まれたのがパキスタンです。(あまりに簡略化した書き方であり、本来はこの問題はもっと正確に論じるべき問題でしょう)

宗教的理由から分かれた1947年8月のインド・パキスタンの分離独立の前後の時期、インドでは宗教対立・暴動の嵐が吹き荒れ、イスラム教徒への宥和的姿勢のためヒンドゥー至上主義者から敵視されていたガンジーは1948年1月30日、ヒンドゥー至上主義者によって殺害されました。

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ガンディーを銃で撃ったのはナートゥーラーム・ゴードセーで、ヒンドゥー原理主義団体の民族義勇団(Rashtriya Swayamsevak Sangh,RSS)に所属していた。イスラーム地域の分離独立をはじめ、ヒンドゥー教徒を犠牲にしてでもムスリムに譲歩するガンディーは「イスラム教徒の肩を持つ裏切り者」であるとの理由から暗殺に及んだ。胸腹部に三発の銃弾を受けたガンディーはその場に倒れて死亡、78歳であった。【ウィキペディア】
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ガンジー没後75年 インド各地で追悼****
インドは30日、「独立の父」マハトマ・ガンジーの没後75年を迎え、各地で追悼式が行われた。

同日にはナレンドラ・モディ首相も、ガンジーの慰霊碑があるニューデリーの「ラージガート」を訪れた。
 
ガンジーは1948年1月、狂信的なヒンズー教徒ナトラム・ゴドセに暗殺された。ゴドセはガンジーが国内少数派のイスラム教徒に融和的な態度をとったことにいら立ち、犯行に及んだ。

ガンジーの命日は「殉教者の日」となっている。 【1月30日 AFP】
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ヒンドゥー至上主義者としても批判されるモディ首相はガンジーを暗殺したヒンドゥー原理主義団体の民族義勇団(RSS)に属しています。RSSは「ガンジーもネールもイスラム教徒に弱腰でヒンドゥー教徒を苦しめた」と非難しています。

モディ首相自身はさすがにインド最高の「偉人」たるガンジーを表だって批判することもなく、上記のように追悼式にも参列しています。ただ、ガンジーの思想をリスペクトしている訳でもないような・・・

****モディ政権の「ガンジー・テーマパーク」建設に批判****
2024年の次期総選挙にらむ与党の思惑も

インド政府は建国の父マハトマ・ガンジーが暮らし、独立運動を指導した施設「サバルマティ・アシュラム」を改築する計画だ。新たに博物館、フードコートなども建設する。

背景には2024年に想定される総選挙での勝利を目指す与党の思惑も浮上する。ガンジーを信奉する人々は「テーマパーク化」による冒涜(ぼうとく)だと反発している。

アシュラムはインド西部のグジャラート州にある。多くの信奉者が訪れ、17年には安倍晋三首相(当時)が同州出身のインドのモディ首相と共に訪問した。

1917年から30年までガンジー夫妻が暮らした。ガンジーはここで、綿糸と手紡ぎ車による布の生産を始め、英国の植民地政策に抵抗し、インドの綿製品を着用するよう呼びかけた。

改築にはインド文化省が1億6600万ドル(約180億円)を支出し、次の総選挙が見込まれる24年の完成を目指す。200台を収容できる広大な駐車場を併設する。

モディ氏とグジャラート州知事の直轄事業だ。プロジェクトはモディ氏と親しいとされる建築家の会社が主導する。この建築家は首都ニューデリーの再開発計画をはじめ、多くの政府事業に関わってきた。

インド政府が改築計画を発表したのは19年だった。8月になり、詳細が判明すると、ガンジーを信奉する100人を超える活動家や思想家が計画に反対する公開書簡をまとめた。

書簡は改築後のアシュラムが、せいぜい(崇高さを失った)「ガンジー・テーマパーク」にしかならないと指摘した。最悪の場合、ガンジーに対する(1948年に次ぐ)「2回目の暗殺」にも匹敵する冒涜になりかねないと批判する。

祖父がガンジーとともに独立運動に加わっていた歴史家は「ガンジーが最も愛した場所を軽々しく改築するのは、ガンジーへの侮辱だ」と非難する。「(モディ氏は)ガンジーの歴史的遺産を利用し、自分の名声を高めたいだけではないか」と疑う。

この歴史家は、モディ政権が改築を成功させることで、新型コロナウイルスの感染拡大による経済不振への批判を打ち消そうとしていると見立てる。

ガンジーのひ孫の一人も改築計画に嫌悪感を示している。この男性は「中央政府の悪意からサバルマティ・アシュラムを守らなければならない」とツイートした。【2021年9月14日 日経】
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【教科書で触れられぬガンジー暗殺】
モディ首相の思惑が疑われ、批判されるのは、同氏及び同氏率いるインド人民党がかねてから(ガンジーの思想とは相容れぬ)ヒンドゥー至上主義を鼓舞してきているからでもあります。

モディ首相のもとで、ガンジーの足跡は教育の場でも薄められているとの指摘もあります。

****ガンディー、ネルーも抹消して、モディ政権のインドはどこへ行く?****
インドでモディ首相が就任して4年。この間、私たちが慣れ親しみ仄かな尊敬さえ抱いていたインドのイメージが大きく変わりつつある。
たとえば、公立学校の社会科教科書から、なんと、初代首相ネルーの記述が消えた。建国の父、ガンディーの暗殺にさえ触れられていない。
ガンディーやネルーは、いわずとしれた、モディ氏率いる現与党インド人民党(BJP)のライバル政党・国民会議派のかつての中心人物であり、現在の会議派総裁もネルーの曾孫ラーフル・ガンディー氏だからだ。
だが、たんなるライバル関係を超えた、深い対立・断絶が両者の間にはある。

◆ 教科書書き換えの背景にあるもの
1947年、インドを独立に導いたガンディー、ネルーらの国民会議派は、「セキュラリズム(宗教的融和、政教分離)」と「少数者への配慮」を国是に掲げた。

百万人に及ぶ犠牲者を出す深刻な騒乱を経て、イスラム教徒主体のパキスタンとヒンドゥー教徒やシク教徒主体のインドに分離独立し、独立後もなお国内に約80%のヒンドゥー教徒と約15%のイスラム教徒をはじめ多様な宗教が混在し、しかもその間で対立・緊張を孕むインドにおいては、この国是こそが社会の安定と公正の基盤であった。

ところがインドには、独立前から、インドをヒンドゥー教徒の国と捉え、他宗教を排斥し、「多数派ヒンドゥーの力による強大な国家を」と唱えて、暴力的手段も用いてその実現を策してきた集団がある。それがモディ首相の出身母体RSS(民族義勇団)であり、その政治部門がモディ氏率いるインド人民党(BJP)である。

彼らにとっては、ガンディーやネルーは、イスラム教徒に妥協してヒンドゥー教徒を苦しめ、インドを弱体化した裏切り者なのである。

それゆえ、ガンディー、ネルーに替わって教科書に登場するのは、ガンディー暗殺への関与も疑われるヒンドゥー主義思想家サーヴァルカルや、RSSの愛唱歌、はては、イスラム教徒やキリスト教徒は本来のインド人ではない「外来者」と排除するトンデモ言説である。

連邦制のインドでは教科書の内容は州政府が決める。だから全国画一ではないが、BJPが政権を握る多くの州で進行中の事態である。

◆ 神話を操作して党勢を拡大
異変は学校教育だけではない。州政府発行の観光ガイドブックから、かの有名な世界遺産タージマハルが削除された。イスラム系王朝の遺跡だからという。

また、たとえば映画館に入ると、上映前に国歌斉唱のための起立が要請される。インド最高裁が一昨年、「愛国主義を醸成する」として下した判決に基づくもので、その後は、起立しない観客が与党BJPの支持者らに暴行される事件も頻発している。

国歌が流れ、スクリーンに国旗がたなびく中、観客の中の男性の誰かがヒンディー語で「インドの女神に」と叫ぶ。すると、周囲一帯が「勝利を!」と大声で唱和する。この文言は、モディ首相が演説の締めによく使う言葉で、インドは女神に象徴される多数派ヒンドゥーの文化に基づく国家だという主張の宣揚である。
イスラム教徒やキリスト教徒は恐怖を覚えるという。

じつは、RSSやBJPはヒンドゥーの神や神話の象徴性の操作にとりわけ意を用いている。
モディ氏はこう述べたことがある。「ガネーシャは、形成外科がすでに古代インドで行われていた証拠だ」。

ガネーシャは、父シヴァ神に首を切られ象の頭に付け替えられたという神話をもつ、インドで最も親しまれている象頭人身の神だが、その神話をもってヒンドゥー文化に基づくインドの優越性を誇ろうというのだ。

もちろん、神話と歴史の混同は批判される。だが、モディ政権は批判など意に介さず、一昨年、古代史を再検討する委員会を設置した。文化相いわく、「神々の話は神話ではなく史実。古典の内容と考古学の史資料との差を埋める必要がある」。

だが、じつは、この神話と歴史の混同こそが、インド人民党(BJP)の躍進のそもそもの原動力であった。

1980年にRSSの政党として創設されながらその主張の極端さから低迷していたBJPが起死回生を図ったのが、「北インドのアヨーディアという町にあるモスクは、かつてラーマ神が祀られていたヒンドゥーの神殿を毀して建てられたものだから、そのモスクを破壊してラーマ神殿を再建しよう」という運動であった。

90年、RSSやBJPは数万人の支持者を動員してモスク破壊を企てるが治安部隊に阻まれて果たせず、92年に再び挑戦してついに破壊した。その両回とも、ヒンドゥー教徒対イスラム教徒の宗教暴動が起こり、数万人の死傷者が出た。

この事件を通じてイスラム教徒への敵意を煽り広げることによってヒンドゥー教徒を結束させ、それを選挙に結びつけて、党勢の飛躍的な拡大を達成したのである。

モディ氏自身が政治家として名を高めたのも、州首相時代、グジャラート州で2002年に起きた、アヨーディア関連で3,000人近くのイスラム教徒が殺害された宗教暴動を通じてであった。【荒木重雄氏 オルタ広場】
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【くすぶり続けるグジャラート州首相時代のイスラム教徒大量殺害暴動との関係】
モディ氏がグジャラート州の州首相時代に起きた宗教暴動に関与していたのではないかとの指摘は常々なされています。司法的にはモディ氏を罪に問うべきものはないとされていますが、同氏がイスラム教徒殺害の暴動を止めようとしなかった・・・と多くの者は考えています。

この問題は、モディ首相の否定にもかかわらず、未だにくすぶり続けています。

****インド政府、モディ氏巡るBBC番組批判 国内の視聴阻止****
インド政府は、2002年に西部グジャラート州で発生した暴動を巡る英BBCのドキュメンタリー番組を国内で視聴できなくするよう交流サイトの運営会社に指示した。番組は当時州首相を務めていたモディ首相の対応に疑問を投げかける内容。

インド国内で番組は放送されていないが、政府高官によるとユーチューブの複数のチャンネルに投稿されていたという。

政府はツイッターに対して、番組の動画にリンクしている50以上の投稿をブロックするよう指示。ユーチューブにはビデオの投稿を阻止するよう命じた。ユーチューブとツイッターは政府の指示に従っているという。

グジャラート州で発生した暴動では、政府発表によると1000人以上が死亡した。その大半はイスラム教徒だった。

暴動は、ヒンドゥー教徒の巡礼者たちを乗せた列車が炎上して59人が死亡したことをきっかけに起きた。モディ氏に対しては暴動を止められなかったと批判が出ているが、同氏はこれを否定している。

インド外務省の報道官は先週、BBCの番組について「信用できない物語」を押し付けるために作られた「プロパガンダ作品」と批判した。【1月23日 ロイター】
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“止められなかった”というのは、モディ首相に寛容な表現のようにも。一般的には“止めようとしなかった”と表現されます。

****首相批判への弾圧強化=英BBC映像に反発、学生を拘束―インド****
インドで過去に起きた宗教暴動の背景に迫ったドキュメンタリー映像を巡り、インド政府が言論弾圧を強化している。

映像は暴動に関するモディ首相の対応を批判する内容で、英BBC放送が制作した。政府は「偏見に満ちたプロパガンダだ」と反発。上映会を企画した大学生を拘束するなど統制に躍起となっている。

「警官は学生を殴り、弾圧した」。首都ニューデリーの大学2年で、大学構内で映像の上映会を企画したディビヤジョーティ・トリパティさん(20)は時事通信の取材に、取り締まりの様子をこう証言した。トリパティさんは上映会当日の25日、他の学生12人と共に拘束され、翌日解放された。

映像は未公開の文書や関係者の証言を基に、西部グジャラート州で2002年に起きた宗教暴動を検証。当時州首相だったモディ氏が混乱を止めようとしなかったことを疑問視する内容だ。

暴動は、ヒンズー教の巡礼者が乗った列車をイスラム過激派が放火したことが発端。ヒンズー教徒が報復としてイスラム教徒を襲撃し、イスラム教徒を中心に1000人以上の犠牲者が出た。

モディ氏はヒンズー至上主義を掲げる「民族奉仕団」(RSS)出身。RSSを支持母体とする与党インド人民党(BJP)は、少数派のイスラム教徒に対し敵対的な政策を打ち出してきた。最高裁は、モディ氏が暴動に関与したことを示す証拠はないと結論付けたが、疑念はくすぶり続けている。

インドではネット上での映像視聴が規制されているが、トリパティさんは仮想プライベートネットワーク(VPN)を使って見たという。「中立的な内容で、一人ひとりに見てほしい。政府の検閲に人々は疑問を持つべきだ」と語った。

当局の締め付けにもかかわらず、上映会開催の動きは大学を中心に全土で広がっている。【1月30日 時事】
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グジャラート暴動の問題は以前から言われている話ですが、それでもモディ氏が首相になれた・・・(モディ氏個人の問題と言うより)それを可能にしたインド社会の問題のように思えます。
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チュニジア  「アラブの優等生」の混迷 権限集中を進めるサイード大統領 一様ではない評価

2023-01-30 22:33:00 | 北アフリカ
(12月17日、チュニジアの首都チュニスで、議会選挙の投票をするサイード大統領【2022年12月18日 産経】)

【「盗まれた革命」か、独裁返りか】
周知のように、2010年から2012年にかけて中東・北フリカのアラブ諸国に民主化を求める大規模反政府運動が瞬く間に拡散し、強権的な独裁・王権支配の多くの国で国家体制を揺るがし、幾つかの独裁政権が倒れました。

いわゆる「アラブの春」ですが、その発端となったのが、北アフリカのチュニジアであり、その後多くの国が独裁・紛争などに「後退」するなかで、唯一「アラブの春」の成果としての民主主義を維持できているのが、そのチュニジアであることも、しばしば取り上げられるところです。

しかし、その「唯一の成功例」とされるチュニジアにおいて、サイード大統領が議会を停止し、権力を独占する体制に移行しつつあることは、2021年12月19日ブログ“チュニジア 「アラブの春」の唯一の「成功例」が存続するのか、独裁の復活か”で取り上げました。

それから1年以上が経過しましたが、事態に大きな変化はなく、サイード大統領への権力集中、その体制固めが進行しています。

サイード大統領が首相を解任、議会を停止し、権限を自身に集中させているのは、単なる権力欲という訳でもなく、それなりの背景があってのことではあります。

党利党略に明け暮れる政党政治・議会は市民が困窮するなかで有効な解決策を提示できず、そうした事態を打破しようとするサイード大統領を支持する若者らも存在します。

****盗まれた革命*****
2011年10月、制憲議会のメンバーを選ぶ最初の選挙が行われると、様々な政党が、有権者に現金をばらまいた。第1党になったのは、イスラム政党「ナハダ(覚醒)」。旧独裁政権党の流れをくむ政党も公然と活動を始めた。

議会では政党対立が繰り返され、行政は汚職が横行。経済状況は革命前より悪化した。(民衆デモの先頭に立った若者活動家)ラミーらは怒った。「路上の若者が独裁者を追放したのに、権力層は残り、腐敗している。革命は盗まれた」

<支えた若者たち>
そのころ、デモを続けるラミーらの前に背の高い高齢の男性が顔を出すようになった。のちに大統領となる憲法学者サイードだ。「サイードとは貧困層や若者のことを何時間も議論した」。ラミーは振り返る。

テレビ番組で制憲議会が起草した憲法について問われサイードはこう答えた。「この国の唯一本当の憲法は、革命を叫ぶ若者たちの路上の壁の殴り書きだ」

2019年、サイードは大統領選に立候補した。支えたのは若者たち。大量の資金を使い、派手な選挙運動をする政党系候補をよそに、サイードらは下町のカフェを回り、人々に話しかけ、SNSを駆使。結果は、サイードの圧勝だった。

大統領となったサイードは21年7月、強硬手段に出る。ナハダと世俗派が対立を続ける議会の閉鎖を突然宣言。全政党が「大統領のクーデター」と批判するなか、若者たちは路上に出て歓喜した。【日系メディアより】
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サイード大統領による首相解任・議会停止以前から、チュニジア政治は混乱していました。

****独裁返りか? チュニジア「アラブの優等生」報道が無視してきたこと****
<大統領サイードの全権掌握には、反対デモが起こっているだけでなく、賛成の声もある──欧米メディアが使い続ける「優等生」という表現が誤解を助長してきた、チュニジア政治と民主化プロセスの複雑性とは>

7月25日、チュニジアのカイス・サイード大統領が、ヒシャム・メシシ首相の解任と、議会の30日間停止を発表した。首都チュニスの議事堂周辺には治安部隊が配置され、議員たちの立ち入りを禁止した。

さらに翌日、サイードは法相代行と国防相も解任し、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラの支局閉鎖を命令。一般市民についても3人以上の集会を禁止した。一連の措置について、ラシド・ガンヌーシ議会議長は「クーデター」だと厳しく批判した。

そんなことはない、とサイードは言う。チュニジア憲法80条は、「国家の一体性および、国家の安全保障や独立を脅かす差し迫った危険」が生じた場合、国家元首が全権を掌握することができると定められているというのだ。

確かにチュニジアは、長く経済が停滞し、議会は迷走し、新型コロナウイルスの感染者が急増している。だがそれが、国家の差し迫った危険かどうかは、議論が分かれるところだろう。本来なら憲法裁判所が裁定を下す問題だろうが、そのような法廷はない。

チュニジアはこうした政変とは無縁の国のはずだった。2011年のアラブ諸国の民主化運動「アラブの春」に先駆けて、25年近く権力の座にあったジン・アビディン・ベンアリ大統領を権力の座から引きずり降ろした後も民主主義体制が維持されてきた唯一の国であり、アラブの優等生だった。

だが、欧米メディアが使い続けてきたこの表現は、一種の誤解を助長してきた。まるでチュニジア政治には、民主化以外の道のりはなくて、デモの次は選挙、その次は憲法制定と、直線的に進化している印象を生み出したのだ。

独裁を試してもいい?
興奮気味の社説が、「本物の民主主義」への平和的な移行が起きていると語るとき、チュニジア政治の複雑性や、民主化のプロセス全般の複雑性は割愛されていたのだ。

サイードの全権掌握が、チュニジアの民主化の終わりを意味するのかどうかは、まだ分からない。それに、チュニジアで民主主義が壊れそうになったのは、この10年でこれが初めてではない。2013年には野党党首が暗殺されて、長期にわたり政局が混乱した。

2015年には、チュニジアで民主的に選ばれた初の大統領であるベジ・カイドセブシが、議会第2党のイスラム主義政党アンナハダとの協力を拒んだため、またも政局が混乱した(カイドセブシは議会第1党で世俗的な政党ニダチュニスの元党首だった)。

結局、カイドセブシと、アンナハダ党首のガンヌーシの間で和睦が生まれたが、それは2人が、相手に自分の意思を押し付けるだけの大衆の支持(つまり議席)がない現実を受け入れた結果だった。

それでも、2013年の暗殺事件が大掛かりな騒乱に広がらなかったことや、15年に2人の大物政治家の間で協力関係が構築されたこと、そして19年にカイドセブシが任期中に病死したとき平和的な権力の引き継ぎが行われたことは、大いに称賛に値する。

だからといって、今後もチュニジアの民主化が続くとは限らない。チュニジア情勢を丹念に追ってきた専門家なら、それを知っているはずだ。チュニジアの経済難、アイデンティティー問題、エリート層における旧秩序への回帰願望、そして議会の機能不全を考えれば当然だろう。

実際、現在のチュニジアでは、サイードが全権掌握を発表したことに対して、賛成のデモと、反対のデモの両方が起こっている。

現地からの報告によると、サイード支持派は、首相の政権運営と高止まりしたままの失業率に辟易していた。さらにこの1年のコロナ禍で、チュニジアの医療体制は大打撃を受けた。だから今、「もっと大きな権力を与えてくれれば、国民の生活を改善できる」と約束する独裁者に、賭けてもいいかもしれないと思う人が増えているのだ。

欧米人がチュニジアで交流する専門家やジャーナリストや社会活動家は、より公正で民主的な社会を構築したいと言うかもしれない。だが、幅広い庶民はどうだろう。少なくともここ数日路上に繰り出している人々は、民主主義についてもっと複雑な感情を抱いているようだ。

「成功例」というプリズム
彼らが求めているのは、特定の政治体制ではなく、雇用と社会的なセーフティーネットをもたらしてくれる、もっと実務能力の高い政府だ。

確かにこの10年で、チュニジアの人々はより大きな自由を得た。しかし経済難ゆえに、彼らの多くが自由を手放して、なんらかの形の権威主義を試してみてもいいと思うようになった可能性がある。

(中略)そこで厄介な問題となるのは、米政府も「チュニジアはアラブの春の成功例だ」というプリズムを通して物事を見る傾向があることだ。専門家も民主活動家も、チュニジアは民主化を成し遂げたのだから、もっと支援するべきだと主張してきた。

実際、アメリカは2011年以降、チュニジアの民主主義定着のために、総額14億ドルの支援を約束してきた。具体的には、国内の治安と安全保障、民主主義実践の強化、持続可能な経済成長などが含まれている。

もし、サイードの議会停止・全権掌握が一時的なものではなく、長期にわたり続くことになったら、つまりサイードが独裁と化したら、アメリカはこうした援助を停止または打ち切るのか。

それは価値観的には正しい判断かもしれないが、安全保障を考えるとリスクが高い。チュニジアはこれまでにも過激派分子を多く生み出してきたし、イスラム過激派の武力が交錯する隣のサヘル地域も不安定だ。

ひょっとすると、チュニジアは民主主義体制とか独裁体制といった、国家の体制に基づき外交政策の大枠を決める時代が終わりつつあるという教訓なのかもしれない。政治体制は変わるものだ。それも驚くほどあっという間に。【2021年8月2日 Newsweek】
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【権限集中を進めるサイード大統領】
サイード大統領の権限集中の軌跡を簡単にたどると、2021年9月、解任で空席となった首相に、国内で世界銀行のプロジェクトに携わった経験があるものの政治的には未知数の女性地質学者のナジラ・ブーデン氏を指名。

“チュニジア大統領、司法最高評議会を解体 裁判官ら強く反発”【2022年2月7日 ロイター】

****チュニジアで改憲案の国民投票 大統領の権限強化へ****
チュニジアで25日、カイス・サイード大統領の権限を強化する憲法改正案の是非を問う国民投票が行われた。大統領にほぼ無制限の権限を与える内容で、民主化運動「アラブの春」発祥の地である同国を独裁体制に回帰させるものだと批判されている。

サイード氏はちょうど1年前、行政府を解任し、議会を停止して自身の権限を強化。反対派からはクーデターだと非難を浴びた。だが同国では、独裁政権を率いたジン・アビディン・ベンアリ元大統領が失脚した2011年からの10年以上、経済危機と政治的混乱が続いており、生活が改善しないことに不満を抱く国民の多くはサイード氏を支持した。

サイード氏はここ1年、自身の権限を強化してきたが、経済の大きな改善にはつながっていない。今回の改憲案は可決される見通しだが、投票率の高さが同氏に対する世論の支持の指標となる。改憲案の可決に必要な最低投票率は設定されていない。

改憲案は大統領に対し、軍の指揮権や、議会の承認なしに行政府を任命する権限を与える一方で、大統領の罷免を事実上不可能とする内容。

また、大統領は議会に法案を提出できるようになり、議会は大統領の法案を優先させなければいけない。反対派は、改憲によりチュニジアが独裁体制に後戻りする恐れがあると警告している。(後略)【2022年7月26日 AFP】
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憲法改正案は「賛成94.6%」で成立したものの、野党が投票をボイコットするなかで投票率は30.5%にとどまりました。

“チュニジアは11年の政変以降、軍隊や警察によるクーデターもなく、暴力的な衝突もなかった。民主主義を根付かせるため、苦労しながら様々な困難を乗り越えてきたのがチュニジアの良さだ。新憲法が成立したとしても、すぐに独裁になる可能性は低いとみている。”【2022年7月28日 日系メディア】

一方で、「アラブの春」で独裁体制が倒れた後、民主選挙でイスラム政党が勝利。政治が混乱し、強い権力を持つ大統領が再び登場するという流れは、エジプトとも重なる・・・という見方もあります。

昨年末には議会選挙が行われましたが、主要政党がボイコットし、8%台の低投票率(その後の正式発表では11.2%)にとどまりました。

****チュニジア議会選挙の投票率わずか8.8%、主要政党はボイコット****
(2022年12月)17日に行われたチュニジア議会選挙で、選挙管理当局が発表した暫定投票率はわずか8.8%にとどまった。権限強化を進めるサイード大統領に反発した主要政党は選挙をボイコットし、経済悪化などを背景に国民の間にも現政権への不満が広がっている構図が浮き彫りになった。

有力野党の1つである「救国戦線」は、低い投票率はサイード氏の政権に正当性がない証拠だとして大統領の辞任を求めるとともに、国民に大規模なデモや座り込みによる抗議に動くよう呼びかけた。

別の有力政党「自由憲政党」を率いるアビル・ムッシー氏もサイード氏の退陣を要求し、国民の9割以上がサイード氏の政治プランを拒否したと強調した。

投票所近くで話しを聞いたある有権者は「今回の選挙には納得していない。これまでの選挙では真っ先に投票してきたが、今は興味がなくなった」と語った。

17日は、ちょうど11年前にこのチュニジアで独裁体制に抗議する男性が焼身自殺を図り、中東・北アフリカの民主化運動「アラブの春」につながった節目の日。ただ同国ではサイード氏が政権を掌握して以来、昨年7月に議会を停止し、大統領令だけで政策運営を行うなど強権的な姿勢を打ち出し、民主主義の先行きに暗雲が立ち込めている。【2022年12月19日 ロイター】
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“権利保護団体によると、チュニジアではサイードによる権力掌握以来、民間人に対する軍事裁判がますます一般的になっている”との指摘も。

****チュニジア政権、反サイード派の政治家を拘束****
チュニジアの軍事控訴裁判所は20日、即時発効の14か月の禁固刑をマフルフ氏に言い渡した、と同氏の弁護士を務めるイネス・ハラス氏は述べた

チュニス:チュニジアの私服警官が21日早朝、軍事裁判所の判決後、カイス・サイード大統領に批判的な著名人一人を拘束したと、被拘束者の弁護士が述べた。

ザイフェディン・マフルフ氏は、2021年3月のチュニス空港でのにらみ合いの際、警察を侮辱した罪で有罪となっていた。

弁護士が投稿したフェイスブックの動画によると、イスラム国家主義政党アル・カラマのマフルフ党首は、車に押し込まれる前に「クーデターを打倒せよ」「チュニジア万歳」と叫んでいたそうだ。

権利保護団体によると、チュニジアではサイードによる権力掌握以来、民間人に対する軍事裁判がますます一般的になっているという。(中略)

野党連合「国民救済戦線」(NSF)の代表は、21日、ジャーナリストに対し、この判決は「復讐の精神」を反映していると述べた。アーメド・ネジブ・チェビ氏は、「私たちは自由の殺害と民主主義の破壊を目の当たりにしています」 と述べた。「民間の反対勢力や政治的敵対勢力の指導者たちを排除したいという願望が存在しています」

20日遅くに大統領府のフェイスブックに掲載された声明では、「すべての腐敗した人々と、自分たちは法を超越すると信じている人々に対処する」取り組みを呼びかけている。【1月22日 ARAB NEWS】
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【11%台投票率に終わった議会選挙の決選投票】
1月29日に行われた議会選挙の決選投票も投票率は11%あまりでした。

****議会選決選、投票率11.3%=大統領への不信あらわ―チュニジア****
チュニジアで29日行われた議会選挙(定数161)の決選投票で、選挙管理委員会は投票締め切り後、暫定投票率が11.3%だったと発表した。

昨年12月の第1回投票と同じく異例の低投票率で、「政治改革」と称して強権化を進めるサイード大統領への国民の不信があらわになった。

第1回の投票率は11.2%で、23人が当選。決選投票は第1回で過半数を得票した候補者がいない131選挙区の上位2人によって行われた。暫定結果は2月1日までに、最終結果は3月4日までに発表される。【1月30日 時事】 
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****投票率11%、国民の負託なきチュニジア議会****
(中略)
「チュニジア国民は本日、カイス・サイードのプロセスや選挙を受け入れないという最終決定を下した」。主要野党勢力Salvation Frontを率いるネジブ・チェビ氏は記者会見でそう語った。

チュニジアでは生活必需品が店頭から消える一方で、政府は破産回避のために外国の救済を求め、助成金を削減している。経済状況は悪化しており、多くの国民が政治に失望し、指導者に怒りを感じている。

「私たちは選挙を求めていません。欲しいのはミルクや砂糖、食用油です」。29日、チュニスのEttadamon地区で買い物していた「ハスナ」という女性はそう語る。(後略)【1月30日 ARAB NEWS】
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サイード体制が独裁・強権支配に陥っているのか、あるいは、民主主義が根付かない状況での不毛の政党政治の弊害を取り除き、市民生活の安定に資するのか・・・評価が難しいところです。

冒頭の“盗まれた革命”に登場するサイード大統領を支持する若者ラミーは・・・

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サイードの下で、チュニジアが再び独裁に戻る心配はないのだろうか。ラミーは笑い飛ばす。
「この国で独裁なんてもう不可能だ。若者たちは路上で戦い、『独裁に対するワクチン』を打っている。サイードが暴走すれば、路上でつぶす」【日系メディアより】
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ナイジェリア  アフリカ最大の人口・経済 その光と影

2023-01-29 22:32:56 | アフリカ

(水上スラム「マココ」の水路の始発・終点 【2022年12月18日 不破直伸氏 Foresight】)

【大統領選を前に偽情報が増加拡散】
アフリカの「大国」ナイジェリアで、よくわからないニュースが。

“イジェリア中部ルクビで24日、大規模な爆発が起き、遊牧民ら56人が死亡した。国営ラジオが報じた。地元ナサラワ州の知事はドローンによる攻撃だと説明した一方、ドローンを誰が操作していたかについては明言しなかった。”【1月29日 日系メディア】

一方、地元の畜産協会関係者は、爆発はジェット機による空爆だと主張しています。
「空爆能力を持っているのは軍だけだ」として、詳しい調査を求めたとのことですが、軍の広報官は取材にコメントしていません。

56人が死亡するというのは大きな事件ですが、上記情報以外に今のところ続報がなく、内容がわかりません。

イスラム過激派の襲撃とか、部族対立による衝突で数十名が死亡するという事件なら、ナイジェリアではしばしば耳にしますが、ドローンとか空爆とかいう話になると、そういった類でもないようにも。

それとも“ガセ”“フェイク”で、いつもの部族衝突の類でしょうか。

そうした“よくわからない状況”が関連しているのかどうかは知りませんが、ナイジェリアは大統領選挙を来月に控えて、偽情報が飛び交う状況にあるとのこと。

****アングル:ナイジェリア、広がる偽情報 大統領選前に攻防激化****
ハリウッドスターのイドリス・エルバさんとマシュー・マコノヒーさんが、来月のナイジェリア大統領選候補者の1人を支持する動画を「TikTok(ティックトック)」で目にした時、ファクトチェック(事実確認)の仕事に携わるケミ・ブサリ氏はすぐにフェイク動画だと分かった。

「ばればれだ。でも信じ込んでしまう人もいる」。ブサリ氏が編集長を務めるウェブサイト「ドゥバワ」は昨年11月にこの動画のファクトチェックを行い、すぐに幾つかのソーシャルメディア・プラットフォームから削除させた。

2月25日の大統領選を控えてインターネット上では偽情報が増えており、中には特定しにくいものもある。主要ニュースサイトで繰り返し流され、有権者の間に不信感を植え付けてしまうこともある。

政治に関する活動団体「センター・フォー・デモクラシー・アンド・デベロップメント」のディレクター、イダヤット・ハッサン氏は「従来型メディアがソーシャルメディア上の偽情報にひっかかってしまうとしたら、(真偽の)境界がぼやけていることを憂慮しなければならない」と語った。

11月には、ナイジェリア選挙委員会がある候補者の犯罪捜査に踏み出したとする偽の声明が拡散されて複数の主要メディアがそのまま報じ、同委員会が情報を否定する事態に発展した。

その2カ月前には、ガーナの大統領があるナイジェリア大統領候補者に政敵に道を譲るよう助言した、というフェイスブックの投稿があり、大統領が自身の投稿ではないと表明した。

ナイジェリアの学生、セグン・アデニランさん(24)は、州知事が難民キャンプで有権者の本人確認証を買っているというTikTok動画を見て絶対に本物だと思ったと言う。偽情報だと気付いたのは、1月に虚偽を暴く記事を読んだ時だ。

「ここまで来ると、もう何を信じて良いのか分からない」

<IT大手の対応>
ハッサン氏によると、フェイクニュースを流す人々は「より巧妙になり、組織化されてきている」。複数のソーシャルメディアに矢継ぎ早に情報を流すことで、なるべく多くの人の目に触れることを狙うようになったという。

「フェイスブック投稿のスクリーンショットを撮ってツイッターに載せ、それが何度も閲覧されて次はワッツアップで拡散される」といった具合で、有権者は不確かな情報に基づいて投票してしまう恐れがあるとハッサン氏は指摘した。

ナイジェリアでは人口2億1600万人の半分以上がネットを利用しており、アフリカで最もソーシャルメディアのユーザーが多い。データ分析会社データリポータルによると、動画投稿サイト「ユーチューブ」の利用者は約3300万人、フェイスブックは2600万人余りに上る。

フェイスブックやメッセージアプリのワッツアップを所有する米メタ・プラットフォームズ、ユーチューブを傘下に収めるグーグルなどのIT大手は、選挙絡みの偽情報を減らすための資源を追加投入すると約束している。

しかし人権団体やファクトチェック組織は、こうした企業の取り組みが不十分だと言う。

ブサリ氏は、フェイスブックは問題提起されたコンテンツを速やかに調査してくれることが多いと説明。しかし選挙期間中にファクトチェック組織が政治家の怪しい投稿に対処することは同社の規約によって阻まれているため、フェイクニュースを撲滅できないと話す。(後略)【1月22日 ロイター】
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【ブハリ現大統領の評価と選挙見通し】
大統領選挙は2月25日に予定されています。2期8年間、大統領を務めたムハンマド・ブハリ氏は任期を終え、次期大統領は誰になるのか・・・・・有力視されているのが、現与党・全進歩会議(APC)のボラ・ティヌブ氏、現最大野党・人民民主党(PDP)のアティク・アブバカル氏、第3党の労働党(LP)のピーター・オビ氏の3氏とのこと。

元軍人のブハリ現大統領の評価については、堅物との評価もある同氏の性格を反映してか、汚職は少なかったようです。一方で、強権的な側面も。

****有識者に聞く、2023年ナイジェリア総選挙の見通し****
(中略)
ブハリ政権に対する評価は。
答え:(ナイジェリア地域研究者で名古屋外国語大学教授の島田周平氏)
あくまでこれまでの他政権との比較においてだが、汚職は少なかった。前任のグッドラック・ジョナサン政権の汚職を追及して勝利したこととも関連しているが、特に第1期は汚職に対して強硬な姿勢を見せていた。

また、軍政下で最高軍事評議会議長を務めた人物であり、軍内部に対するコントロールが良く働いていた。手ぬるいという批判もあったが、北東部におけるボコ・ハラムの掃討作戦は一定の成果を上げている。

逆に、彼の軍政的統治手法が時に国民の強い批判を浴びた。ブハリ政権は軍・情報局・警察などの要職を北部で固めているとの批判が強く、南西部諸州の知事らが要求した州管理の自警団組織(通称「アモテクン」)の設置を正式には認めなかった。

南東部州の自警団組織に対しては軍を派遣して徹底的に阻止した。さらに、住民運動、例えば、秘密警察の横暴なやり方に対する反対運動などには徹底的に弾圧を加えた。あたかも軍政下にあるかのごとき印象を国民に与えた。
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選挙見通しに関しては、与党の元来の票田である北西部地域の有力政治家たちがいまだ誰を支持するか分からないといった情勢にあって、流動的な状況とのこと。

ナイジェリアは民政移管して既に四半世紀になろうとしていますが、来月の選挙は元軍人ではない候補者だけによる初めての大統領選挙ということになります。有力候補者らの軍に対する統率力は未知数です。

【アフリカのスタートアップの中心】
一般にアフリカについては、紛争・武装勢力の跋扈・貧困・格差といった負のイメージと、今後の大きな可能性、実際、現段階で急速に経済成長しているというポジティブなイメージの両側面があります。

特に、アフリカにあって最大の人口と経済規模を誇るナイジェリアには、その両側面が凝集しています。

ボコ・ハラムなどイスラム過激派の問題はしばしば取り上げていますが、下記はポジティブな側面・大きな可能性に関するもの。

****2050年人口4億人ナイジェリア、起業家集う新たな聖地****
アフリカの大国、ナイジェリアの最大都市ラゴスはどこもあふれかえる人の波で大混雑していた。本土と潟湖を取り囲む複数の島からラゴスは形成されている。ラゴス島と本土を結ぶ12キロメートルに及ぶ巨大な橋を通り抜けた先で記者が訪れたのは、ブライアン・メズエさんの会社が運営する薬局だ。

店内には米国や韓国、中国などの医薬品が整然と並ぶ。偽造品も一切見当たらない。日本では一見何の変哲もない薬局の光景だが、ラゴスでは貴重だ。

ナイジェリアは医療保険への加入率が5%ほどにすぎない。薬局は国民の健康を守るライフラインだが、大量に流通する偽造品が社会課題になっている。世界保健機関(WHO)によると、サハラ以南のアフリカだけでも偽造や粗悪な抗マラリア薬によって毎年多ければ11万人以上が命を落とす。

ナイジェリア、アフリカのスタートアップの中心
メズエさんはそんな社会課題の解決を目指し、病院や薬局向けに医薬品をオンライン販売するスタートアップを立ち上げた起業家だ。病院や薬局の需要を取りまとめて供給元から大量調達し、正規価格よりも10~15%安く提供できる。今では国内の700を超える薬局や病院がシステムを利用し、在庫や顧客管理といった店舗のIT(情報技術)化を後押しする。

「ナイジェリアは経済的に自分の足で立っていける」。メズエさんは真剣なまなざしで志を立てる。

メズエさんの志はあながち夢物語とは言えない。ナイジェリアは2050年に人口4億人に迫り、世界4位になるとみられている。台頭する「第三世界」の一角として世界が注目し、新世代の起業が相次ぐアフリカのスタートアップの拠点としても変貌を遂げている。

米パーテック・パートナーズの調査では21年にアフリカ全体の資金調達額が20年比3.6倍超の52億ドル(約6800億円)を超え、うち3割以上をナイジェリアが占めた。国際協力機構(JICA)によると、ラゴスを中心に100近いインキュベーター(起業支援会社)が集まる。

新世代の起業家、投資マネー呼ぶ
投資マネーを引き寄せる磁力となっているのが、海外から母国に舞い戻った新世代の起業家たちだ。メズエさんもその1人。ナイジェリアで医者の一家に生まれた。10代を英国で過ごし、大学卒業後は米ハーバード大で経営学修士号(MBA)を取得した。大手コンサルティング会社で活躍していたが、ナイジェリアに戻って17年に起業した。

なぜ、輝かしいキャリアをリセットしてまで母国に帰ったのか。記者が疑問をぶつけると、メズエさんはアフリカへの思いを打ち明けてくれた。「私にはアフリカの苦難の『物語』を変える夢がある。自立した尊厳のあるアフリカに、私が変えたい」。世界を渡り歩いてきたメズエさんには、「気の毒だ」「助けたい」といった感情でいつまでも語られるアフリカのイメージに対する反発があった。

奴隷貿易によって16~19世紀にかけてアフリカの人口増加がなかったに等しいとする説を考えれば、その後の経済発展に与えた影響は大きい。ナイジェリアは1960年の独立後も内戦などで長らく政情不安が続き、エリート層が相次いで国を離れていった経緯がある。

「もうアフリカは慈善事業の対象ではない」
メズエさんのような国外にいるナイジェリア人は、奴隷として移り住んだ子孫なども合わせると1700万人以上いるとされる。在外ナイジェリア人による国内への送金額が年間195億ドルとGDPの4.5%を占めるというから、その影響力は大きい。

アグリテック企業を立ち上げたウゾマ・アヨグさんも、米マイクロソフトの内定を蹴り母国への思いと野心を持って米国から帰国した1人だ。「もうアフリカは慈善事業の対象じゃない」。数々の苦難を越え、世界から対等にビジネス相手として受け入れられ始めたと感じている。同情やあわれみをかけられるのではなく、世界と対等になる。アヨグさんは反骨心を奮い立たせている。

とはいえ、ナイジェリア社会の現実はまだまだ苦しい。世界銀行によると18年のナイジェリアの貧困率は約4割だった。21年にはインフレ率が17%に達し、20~22年にかけて続く物価高がさらに800万人のナイジェリア人を貧困に追いやったとしている。

脆弱な社会基盤、スタートアップの飛躍に影
脆弱な社会基盤はスタートアップの飛躍も阻みかねない。人口における電気の普及率は20年で約55%で、都市部でも約84%と近年は伸びていない。それでもナイジェリアの起業家たちはへこたれていない。「必要は発明の母」を地で行く会社も取材した。

2022年12月初旬の正午、医師の資格を持つイブクン・ツンデオニさんのオフィスでは、頻発する停電に備えて大型の発電機が大きな音を鳴らして稼働していた。ツンデオニさんは電話1本で酸素ボンベや注射器などの装備とともに駆けつける救急医療サービスで起業した。

イブクン・ツンデオニさんは悔しさをバネに、医者をやめて起業した
渋滞がひどいラゴスでもいち早い救命につなげるため、フル稼働するのがバイクだ。ツンデオニさん自身も救急治療を受けられなかったことでおじを亡くした経験がある。医療体制が整わずインフラの脆弱なナイジェリアでは、命の危機はすぐそばにある。

新たな医療インフラを築ければ、医師として働くよりも多くの人の命を救える。ツンデオニさんは悔しさをバネに道を切り開く。

起業家たちが胸に抱く「沈まぬ太陽」
起業家らの話を聞いた帰り道、ラゴスの街をつなぐ近代的な橋からは、川沿い一面に低所得者らが住む居住地が見えた。ナイジェリアはアフリカ最大の石油産出を誇る経済大国である半面、世界最大規模の貧困街を抱える国でもある。

記者はナイジェリアの起業家たちの不屈の精神を取材し、アフリカなどを舞台にした小説「沈まぬ太陽」を思い起こした。

作家の山崎豊子はタイトルについて「どんな逆境にも『明日を約束する心の中の沈まぬ太陽』を信じて生きていくという願いを込めた」と自らのエッセーで明かしている。アフリカの新世代が抱く沈まぬ太陽はどこから昇ってきたのか。

「ナイジェリアはこんなものじゃない」。アヨグさんがもどかしそうに何度もつぶやいた言葉が胸に迫る。ナイジェリアの起業家たちのプライドに沈まぬ太陽を見た。【1月5日 日経】
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【一方で、世界最大規模の貧困街を抱える国】
一方で、上記記事にもあるように、ナイジェリアは“世界最大規模の貧困街を抱える国”でもあります。
そうした貧困・格差を象徴するのが水上スラム「マココ」

****ナイジェリア水上スラム「マココ」が映し出す光と影****
ナイジェリアで急速に発展している商業都市ラゴスでは、地価の上昇に伴い、「マココ」と呼ばれる水上スラムへの立ち退き圧力が高まっている。しかしそれは25万人もの人々が住居を失うことを意味する。行政サービスが行き届かず、水道や電気のインフラも脆弱で、長らく地図上にさえ存在していなかったマココは、ラゴスの光と影を映し出す存在だ。

ナイジェリア最大の商業都市ラゴスには、「マココ(英語表記:Makoko)」というスラムがある。アフリカで最もユニークな都心部のスラム街の1つで、水上に約25万人が住んでいると推定されているが、誰も正確な数値は把握していない。彼らの住居はラゴス潟湖沿いに張り巡らされた水路の上に立っており、 住民はカヌーのようなボートでゴミだらけの真っ黒な水の上を移動する。

この世界最大規模の水上スラムには、幾度となく立ち退き話が出てきた。2000万人超が暮らすラゴスの急速な発展に伴う地価の上昇などにより、ラゴス州政府からは都市再開発計画も発表されている。

しかし、漁師として生計を立てている住民が多い中、マココ再開発・住居移転は彼らにとって死活問題だ。
今回はそんなマココの現状をお届けしたい。

漁業集落として始まったマココ
マココは19世紀ごろに漁業集落として始まったコミュニティーだ。漁師のほとんどは、ナイジェリア南部や、隣国のベナン共和国からこの地域に移り住んだ。そのため、現在のマココのコミュニティーは複数の言語と文化が混ざり合っている。

中でも話者が多いのが、ベナン共和国の公用語であるフランス語だ。彼ら漁師は現在もエビ、カニやサバなどの魚介類を獲ってラゴスの街中で売りさばくことで収入を得ている。

しかしながら、地価の上昇などに伴い、住人には政府からの退去圧力がかかっている。2012年7月にはラゴス州政府がマココ地域の一部の取り壊しを命じ、実際に住民への通知から72時間以内に取り壊され、多くの住民が住居を失った。

マココ地域の酋長の息子であるシェメデ・サンデー氏は「ラゴス政府は我々を追い出そうとしている」という。
マココはインフォーマルなコミュニティーであり、存在が「公」に認知されていない。それゆえに、行政サービスが届かず、水道・電気などのインフラも脆弱であり、土地所有権も曖昧だ。

ドローンを使った地図作成
マココへの行政サービス、支援サービス提供が行き届かず、また住民の土地所有権なども不明瞭であることの1つの原因が、マココが地図上に存在しないことだ。正確には、以前は存在しなかった。そのため、マココ地域の構造、密集度合い、道路・水路に関する情報がほぼなかった。 

このような状況を改善するため、2019年9月に南アフリカに拠点を置くNGO「コード・フォー・アフリカ」は、米国を拠点とするジャーナリズム団体「ピューリッツァー・センター」と、オンライン地図作成を通じた人道・災害・開発支援を行っているグループ「ヒューマニタリアン・オープンストリートマップ・チーム(HOT)」からの援助を受けて、ドローンを使い上空より画像を撮影し、マココ地域のオンライン地図の作成を開始。今までは知られていなかったマココの詳細な建築物の位置などをマッピングすることに成功した。(中略)

BOPビジネスの可能性
マココに住む人の収入や雇用に関する正確な統計データはないが、低所得者や収入のない人が大半と想定される。購買力が低いため、マココでビジネスを展開するのは非常に難しいが、社会課題の解決と採算性を確保するビジネスとして両立するBOPビジネスの可能性もある。

BOPはBase (or Bottom) Of the (economic) Pyramidの略で、世界の所得別人口構成ピラミッドで最下位層に位置する、一人当たり年間所得が購買力平価で3000米ドル程度以下の低所得貧困層を指す。BOPビジネスはこうしたBOP層をターゲットとしたビジネスを意味する。(後略)【2022年12月18日 不破直伸氏 Foresight】
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マココのBOPビジネスの可能性が現実のものとなるのか、その前にマココ全体が取り壊されてしまうのか・・・可能性としては後者でしょうが、マココが取り壊されても、そこに生活していた貧困層が消える訳でもなく、他の地域に拡散移動するだけでしょう。

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トルコ  5月14日に大統領・議会選挙を前倒し実施 内政・外交、全ては選挙に向けて・・・

2023-01-28 23:25:35 | 中東情勢

(「今日(または今度の日曜日に)選挙があればどの党に投票しますか」との問いに対する回答【1月 間 寧氏 JETRO】)

【悪化するスウェーデンNATO加盟をめぐる状況 トルコ・エルドアン大統領は選挙を意識して強硬姿勢】
スウェーデン、フィンランドの北欧2ヶ国のNATO加盟問題はトルコが両国の対クルド人対策をめぐって加盟に同意を示しておらず、停滞しています。

特に、多くのクルド人を抱えるスウェーデンの状況は難しさを増しています。
スウェーデンは1990年代以降、多くのクルド人武装勢力PKK関係者らの政治亡命を受け入れてきており、スウェーデンのクルド人は約10万人とされ、多くがトルコ出身者です。

そのスウェーデンのクルド人社会では、スウェーデンのクルド人への寛容政策に、NATO加盟を承認を見返りとする圧力をかけるトルコ・エルドアン大統領への批判・不安が強まっています。

****クルド人団体がエルドアン氏逆さづり動画 トルコ、スウェーデンに抗議****
スウェーデンに拠点を置くクルド人団体がトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領を逆さづりにする動画を投稿したことを受け、トルコ政府は12日、スウェーデン大使を呼び出して厳重に抗議した。(中略)

クルド人団体は11日、第2次世界大戦中のイタリアの独裁者ベニト・ムソリーニの処刑写真と、エルドアン氏を模した人形が逆さづりになっている場面を映した動画をツイッターに投稿。

「独裁者の末路は歴史で示されている」「エルドアンは今こそ辞任する時だ。(トルコ・イスタンブールの)タクシム広場で逆さづりにならないようこの機に辞任せよ」とキャプションを添えた。【1月13日 AFP】
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一方のエルドアン大統領は、むしろハードルを高くする強硬姿勢を示しています。

****トルコ大統領「テロリスト130人送還必要」、北欧2国NATO加盟へ***
トルコのエルドアン大統領は、同国議会が北欧スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟を批准する前に、両国が最大130人の「テロリスト」をトルコに送還もしくは引き渡す必要があるという認識を示した。

フィンランドとスウェーデンは昨年、ロシアのウクライナ侵攻を受け、NATOへの加盟を申請。両国の加盟に当初難色を示していたトルコは、同国がテロ組織と見なすクルド人勢力の身柄引き渡しなどを条件に承認する考えを示していた。(後略)【1月17日 ロイター】
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エルドアン大統領の高圧的態度はスウェーデン国内の極右勢力をも刺激して事態は更に悪化。ストックホルムでは21日、極右政治家がデモを行った際にコーランを燃やし、トルコ側が「完全なヘイトクライムだ」と猛反発しています。

****トルコ大統領、コーラン焚書に怒り スウェーデンのNATO加盟に暗雲****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は23日、スウェーデンの首都ストックホルムにあるトルコ大使館前で聖典コーランが燃やされた「事件」を受け、スウェーデンは北大西洋条約機構への加盟でトルコの支持を「期待すべきではない」と警告した。

今回のエルドアン氏の警告発言で、スウェーデン、フィンランド両国のNATO加盟実現への見通しは一段と不透明になった。

事件は21日、反イスラムを掲げる政治家ラスムス・パルダン氏によって起こされた。同日、トルコ大使館前ではデモが行われていた。トルコ側はデモに反対していたが、スウェーデンの警察当局が許可した経緯がある。

パルダン氏の行動をめぐっては、スウェーデン国内でもこれまでたびたび非難されてきた。その一方で、政治指導者らは広範な表現の自由を擁護している。

スウェーデン、フィンランド両国はロシアのウクライナ侵攻を受け、NATOへの加盟を申請。NATO加盟国ではトルコとハンガリーの承認がまだ得られていない。
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は先に、来月の議会で両国の加盟を批准する予定だと語っている。【1月24日 AFP】AFPBB News
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スウェーデンのクリステション首相は24日に記者会見を開き、ロシアの脅威があるなかで北大西洋条約機構(NATO)に加盟する重要性について「国民全員に深刻さをわかって欲しい」と訴え、事態の鎮静化を求めています。

一方、エルドアン大統領は“23日の閣議で、「8500万人のトルコ国民の精神的な個性に対する攻撃だ」と非難。「(トルコ)大使館の前でこのような恥辱を許した者はNATO加盟において、もはや我々の支持を期待できないのは明らかだ」と怒りをぶちまけた。”【日系メディア】と怒っていますが、“トルコでは今年5月に大統領選が予定されており、敬虔なイスラム教徒の支持者も多いエルドアン氏は選挙に向けて簡単には妥協しない可能性もある。”【同上】というように、トルコ国内の大統領選挙への影響が絡んでいます。

エルドアン大統領が強硬姿勢を崩さないのは、そうした“強い姿勢”を国内向けに示すことが、国内保守層をまとめるのに有利だとの判断があってのことでしょう。

ということは、大統領選挙が終わるまではエルドアン大統領の譲歩は期待できず、スウェーデンのNATO加盟も進まない・・・ということにもなります。

なお、スウェーデンとの同時加盟を目指しているフィンランドでは、こじれるスウェーデン・トルコ関係を受けて、“フィンランドのペッカ・ハービスト外相は24日、同国は北大西洋条約機構に、スウェーデンと共にではなく、単独での加盟を検討すべきだと述べた。”【1月24日 AFP】といった、単独先行加盟の話も出てきています。

【深刻な国内経済情勢悪化 増加する貧困】
エルドアン大統領がことさらに外交的成果を必要としているのは、国内経済の悪化から国民の目をそらしたいという狙いがあってのことです。

トルコではある切ない動画が、現在の国民の経済苦境を物語るものとして話題になったようです。
後日、この動画はそのような貧困を表すものではなかったということが判明していますが、大統領選挙を控えた“政治の季節”の世相を反映した騒動のようにも。

****深刻さを増すトルコの貧困 ‐ 脱却はあるか****
数日前の 1 月 20 日はトルコの学校 (小・中・高) で 1 学期が終了した日で、生徒たちに通知表が配られました。現在、生徒たちは 2 週間の冬休み休暇中。トルコでは通知表が配られる学期末というのは大きなイベントで、多くのトルコ人の子供たちにとっては成績が良かったら親からプレゼントやお小遣いをもらえる日でもあり、家庭によってはちょっと豪華な食事にしたりする日でもあります。

そんな特別な日に、とあるお肉屋さんを舞台にしたある短い動画がトルコのソーシャルメディア上で炎上しました。小学校低学年の可愛い少年がお母さんとお肉を買いに来たところ、「通知表のプレゼントには何をもらうの?」とレポーターに質問され、「通知表のプレゼントにママはお肉 (et) を買った」と答えました。そしてお肉屋さんがこの子供に 3 本のラムチョップをプレゼントするところまでが動画で流されました。

ソーシャルメディア上では、この少年の短い答えはトルコの貧困や窮状を如実に表している、つまりトルコではお肉はもはや特別な日にしか食べれない高級品になってしまって、そうそう食べれない子供が増えている、という嘆きの声がたくさん上がりました。(中略)

野党の政治家たちによってこの少年の言葉が引用されたことで、その動画が Twitter 上でリツイートされ、「トルコはどうなってしまったのか」「トルコの窮状をみよ」という現状への批判の声が大きくなりました。

しかし後に明らかになったのは、実はこの少年の家庭は貧しくなく、父親は大企業に勤めていて月に何度もお肉を買いに来ているという事実です。その後改めてこの少年と母親にインタビューがなされ、この少年は実は父親からタブレットをプレゼントされていたことが分かりました。(中略)

こうした真実が歪曲された報道は、迫る大統領選挙に向けて与野党が攻防を繰り広げている現在のトルコの世相を如実に表しているといえるかもしれません。

しかしトルコの貧困が深刻度を増していることは事実です。約 1 か月前にトルコ労働組合連盟 (Turk Is) が行った調査はそれを物語っています。

この調査で示されているのは、hunger line (飢餓線または空腹線というのでしょうか) と poverty threshold (貧困線)。4 人家族が暮らすうえで最低限必要とされる金額が提示されています。

例えば、4 人家族が飢えずに何とか食べれるとされる最低金額 (飢餓線) は 8130TL。2023 年 1 月現時点の最低賃金は 10,008TL です (手取りは 8506TL)。実はこの最低賃金は今月から上がったものです。昨年 12 月つまりほんの 1 か月ほど前には最低賃金は現在の約半額の 5500TL だったのです。ということは、飢餓線を下回る金額で多くのトルコ人家庭が過ごしていたということです。

最低賃金が値上げされたとはいえ、インフレ率が 170% ともいわれている現状では物価の上昇のスピードのほうがはるかに速く、焼け石に水であることも否定できません。

さらにこの報告によると、4 人家族の貧困線は 1 か月で 26481TL だといわれています。貧困線とは「統計上、生活に必要な物を購入できる最低限の収入を表す指標。それ以下の収入では一家の生活が支えられないことを意味する。貧困線上にある世帯や個人は、娯楽や嗜好品に振り分けられる収入が存在しない」と定義されています。

この 26481TL という金額は、現在の最低賃金の実に 3 倍以上です。実はトルコの人口の約 90% が貧困だともいう報告もあります。これは少し大げさなのではないかと思いますが、それにしてもトルコの貧困率は毎月上がっているといえます。

このすべてがここ 2 年弱で起きているので、このスピードの速さに誰もがついていけていないのが現状です。もちろん一部の富裕層を除いては。(中略)田舎に行けば行くほど貧困率も上がります。

「チーズ危機」も現在大きな問題になっています。昨年 12 月のことですが、チーズの値段が赤身のお肉の値段を越えたと報道されていました。ある記事によると、執筆時点で 700 グラムのチェダーチーズが 115-165 TLで売られていました。対して牛ひき肉は 110-150 リラだったということです。チーズがお肉より高くなるのはトルコの歴史上初めてのこと。

その理由というのが、経済危機で牛に餌をやることができないため。トルコは飼料を輸入に頼っているようで、リラ安ドル高に伴い価格が急騰しています。ここ半年ほどの間に 200 万ほどの乳用牛が殺処分されているそうです。そのためもはや牛乳が手に入りにくくなり、連動してチーズの値段が高騰しているのだということです。(後略)【1月25日 Newsweek】
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【大統領選挙 前倒し実施 エルドアン大統領にもっとも有利なタイミングで】
エルドアン大統領は大統領選挙の前倒しして、5月14日に実施することを発表しています。

****野党の統一候補擁立が焦点=トルコ大統領選、5月14日実施****
トルコ大統領府は22日、エルドアン大統領が今年前半に予定される大統領・議会選挙を5月14日に行う意向であると明らかにした。

20年以上にわたり政権を率い、続投を目指すエルドアン氏に対抗できる統一候補を野党連合が擁立できるかどうかが、当面の焦点となる。(中略)

トルコでは大統領、国会議員とも7月に5年間の任期満了を迎え、選挙を6月18日までに行う必要がある。最大野党の共和人民党(CHP)など6党で構成する野党連合は、統一大統領候補の擁立を視野に政策の擦り合わせを進めており、エルドアン氏が投票日を示唆したことで調整が加速しそうだ。【1月23日 時事】 
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当然ながら、エルドアン再選に最も有利なタイミングでの選挙実施、その時期に合わせたバラマキ政策、対外的なアクションの配置などを考慮しての時期決定です。

****エルドアンの巻き返し――選挙前トルコの政治経済****
(中略)
為替・所得政策
2021年12月にトルコリラ為替相場が1ドル12リラから一時は18リラにまで下落した。エルドアンはそれまで為替相場下落を「リラ切り下げによる輸出拡大」という理屈で正当化していたが、通貨危機の再発を恐れて為替相場維持に転じた。

政府が窮余の策として為替相場下落分が補填されるトルコリラ定期預金(「為替保護預金」)を導入すると為替相場は同月末までに12リラにまで「回復」した。ただしその裏では、中央銀行が国営銀行を仲介として数十億ドルの外貨準備を費やして為替介入していた。

エルドアンはまた、インフレに伴う実質所得低下にも遅ればせながら対応した。最低賃金手取額のドル換算値は、2020年初に420ドルだったが、2021年末の急速なインフレで同年12月に228ドルにまで落ち込んだ。それを2022年1月に50%、7月に30%の、異例の年2回引き上げを実施した1。それでも7月の328ドルという値は、2020年初に比べてまだ92ドル少ない。(中略)

これらの経済措置の実施や発表に加え、夏の外国人観光客回帰による経済活性化も消費者信頼指標の若干の改善に貢献した。すると7月以降、それまで低迷していた与党連合の支持率やエルドアン大統領の業績に対する信任率は若干ながら持ち直してきた。

ただし(中略)経済措置のエルドアン支持押し上げの効果は3カ月程度続くものの、年末に消滅するかに見える。その場合、エルドアンは2023年初めにもう一度、大幅な最低賃金引き上げなどにより支持率浮揚を狙う可能性が高い。

賃金引き上げは製品価格への転嫁を通じてインフレに拍車を掛ける可能性も大きい。ただし、(中略)賃金を大幅に引き上げてもそれが3桁インフレをもたらすまでに若干の時間的猶予がある。(中略)

硬軟両様の対外関係
エルドアンは2022年11月13日にイスタンブルの繁華街で起きた爆弾テロ事件をも利用した。彼は事件をクルディスタン労働者党(PKK)による犯行と断定し、北シリアにおけるPKK系組織の拠点に対して報復の空爆を行ったうえで、地上戦を予告した。

PKKはトルコにおけるテロ組織だが、トルコ軍の攻撃を避けられる北シリアにクルド民主統一党(PYD)という名のPKK系組織を作り、勢力を拡大してきた。そのためPYDへの軍事作戦は国内世論の支持を得やすい。

対外強硬姿勢や仲介外交などによる国威発揚は、支持率を通常3ポイント程度上げるが、その支持率浮揚効果は1カ月くらいしか続かない。北シリアのPYDを目標とした地上戦が実施される場合、繰り上げ選挙前1カ月以内、たとえば3月頃になるのかもしれない。(後略)【1月 間 寧氏 JETRO】
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【ライバルのイスタンブールのイマモール市長への政治迫害 野党側は統一候補選定に苦慮】
エルドアン大統領にとって、より直接的な選挙対策は、有力対立候補を選挙から排除してしまうことです。
また、どの候補が野党統一候補になるかで、選挙結果が変わります。

****エルドアン氏の対抗馬探し混迷、野党有力候補に有罪判決****
トルコの裁判所が14日、最大都市・イスタンブールのイマモール市長(52)に対し公務員を侮辱した罪で禁錮刑と政治活動禁止の判決を言い渡したことで、野党勢力は大統領選を半年後に控えたこの時期に、エルドアン大統領の対抗馬探しで窮地に立たされている。

次期大統領選は、20年近く政界を牛耳ってきたエルドアン氏を追い落とす絶好の機会だ。協和人民党(CHP)など野党6党は、来年の選挙に向けて政策のすり合わせに努めてきた。

ただ、複数の関係筋によると、野党内では候補者について意見が割れたまま。この課題についてオープンな議論さえ始まっておらず、インフレやリラ安、生活水準の急激な低下で落ち込んだ支持を取り戻そうと焦るエルドアン氏に塩を送る形になっている。

14日の判決の確定には上級審の承認が必要だが、そうした野党側の状況下で有力候補の1人とされてきたCHPのイマモール氏は政治生命に黄信号が灯った。

元ビジネスマンのイマモール氏は2019年のイスタンブール市長選で勝利し、世俗派として25年ぶりに与党・公正発展党(AKP)などの親イスラム政党からイスタンブール市長職を奪回した。今回の判決はイマモール氏の注目度を高める面もある。(中略)

エルドアン氏の対抗馬としては、アンカラ市長のヤワシュ氏とCHP党首のクルチダルオール氏の2人が候補に挙がっている。クルチダルオール氏は繰り返し出馬の意向を表明しているが、イマモール氏に比べて選挙戦が不得手との見方もある。

サバジュ大学のBerk Esen准教授(政治学)は「今回の判決でイマモール氏がエルドアン氏の最も苦手なライバルであることが浮き彫りになった」と指摘。「野党勢力と野党支持の有権者は、イマモール氏の立候補を求め圧力をかけ始めるだろう」と述べた。(後略)【2022年12月17日 ロイター】
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イマモール・イスタンブール市長への政治的迫害で、同氏の人気が上昇することはエルドアン大統領も承知していますが、それよりイスタンブール市長をとりあえず(議会承認で)与党が取り戻す事の方が選挙に有利で、うまくいけばライバルを選挙から排除できる・・・という狙いです。(イスタンブール市長職は与党の選挙資金調達や支持基盤の宗教勢力への財源分配などで重要な役割を果たしているとのことです。)

野党からすれば、敢えてイマモール・イスタンブール市長で押すという強行策もあります。
その場合、選挙直前または最中に有罪判決が下る可能性は高い。するとイマモール氏の候補または当選結果が無効となるうえ、代わりの候補を擁立できないという危険はあります。
しかし、エルドアン氏が信任投票で過半数を獲得するのも難しい。そうなると再選挙になって、野党側は新たな候補を擁立できる・・・という戦略です。

なお、一番人気のアンカラ市長のヤワシュ氏はクルド人有権者の支持が多くは見込めない欠点があるとか。

クルド人有権者の動向という点では、(クルド系政党)HDP元党首のデミルタシュ氏(現在は政治的裁判の結果、2016年以来投獄されている)が、獄中からCHP党首クルチダルオール氏への支持を、メディアを通じて2022年9月に暗示しています。

イマモール・イスタンブール市長の裁判の動向をどう見込むか、クルド人有権者の取り込みをどのように図るか・・・等々で、野党側も誰を統一候補にすべきか悩ましいところのようです。
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南太平洋島しょ国  影響力をめぐってせめぎあう米豪と中国

2023-01-27 23:10:02 | オセアニア

(パプアニューギニア 街中のいたるところに「中国援助」の文字【2022年11月19日 TBS NEWS DIG】)

【中国への傾斜を強めたソロモン諸島 米豪も対抗 激しい綱引きに】
昨年4月、南太平洋の島国ソロモン諸島が中国と「安全保障協定」を結ぶことで基本合意し、その内容に「ソロモン諸島は中国に警察や軍人の派遣を要請できる」「中国は中国の人員やプロジェクトを守るために中国の部隊を使用できる」「中国は船舶の寄港や補給ができる」などと、中国の軍事的な関与を認める記載があることが明らかになったことをきっかけに、南太平洋をめぐる中国とアメリカの影響力競争が激化したことはこれまでも数回取り上げてきました。


現実にも、一昨年11月のソロモン諸島で起きた反政府デモが暴動に発展した際には、中国から現地に警察顧問団が送られたこともあります。

アメリカ・オーストラリア・ニュージーランドなど関係国はソロモン諸島が中国の軍事拠点になりかねないとして神経をとがらせています。

ソロモン諸島に関しては“人口約70万人のソロモン諸島は豪州の北東約2千キロメートルに位置し、米国と豪州を結ぶシーレーンの要衝だ。中国が米軍の影響力を排除する目的で小笠原諸島からグアム、インドネシアを結ぶ形で設定する戦略ライン「第2列島線」にも近い。米英豪が安全保障協力の枠組み「AUKUS」を立ち上げるなど、米中の対立が深まるなかで地政学的な重みが増している。”【日系メディア】という地政学的重要性もあります。

アメリカ・バイデン米政権は昨年9月28~29日に太平洋島しょ国との初の首脳会議を首都ワシントンで開催し、南太平洋地域で影響力拡大を図る中国を念頭に、島しょ国との関係を強化を図っています。

ソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相は昨年10月7日、前日のオーストラリアとの首脳会談で、自国への中国軍駐留を容認しないと確約したと明らかにしていますが、一方で、米豪との関係も天秤にかけつつ、中国との関係強化も進めているようです。

****ソロモン諸島警察に中国から放水車 豪から銃も****
南太平洋の島国ソロモン諸島は(2022年11月)4日、中国から放水車を寄贈され、警察の装備を強化した。3日前にはオーストラリアからも銃を提供されている。

ソロモン諸島をめぐり、米豪は影響力拡大を図る中国をけん制して外交上の駆け引きを行っている。

マナセ・ソガバレ首相が4日に首都ホニアラで行った式典で、中国はソロモン諸島の警察に放水車2台、バイク30台、多目的スポーツ車20台を寄贈。

李明中国大使は、ソガバレ政権の要請に応じたもので、「ソロモン諸島の法と秩序の執行に貢献」を果たすはずだと述べた。

豪連邦警察も2日、銃身の短いライフル60丁と車両13台を寄贈している。ソロモン諸島が今年4月、中国と安全保障協定を締結したためにオーストラリアとの関係は緊張。豪政府は先月、ソガバレ氏を迎えて両国の関係改善に動いていた。

今回の寄贈をめぐり、ソロモン諸島の野党党首マシュー・ウェール氏は懸念を表明。
AFPに対し、「外的脅威はどう見てもないのに、なぜこうした強力な銃を導入するのか。わが国は再び軍国主義への道を歩んでいるのだろうか」と疑問を呈し、「もしそうなら、われわれは自国民に対して武装することになる」との考えを示した。 【2022年11月5日 AFP】AFPBB News
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ソロモン諸島が中国への傾斜を強めた背景には、南太平洋の島嶼とうしょ国で最低クラスの経済力のため進まないインフラ整備、部族対立からの政情不安などがあります。

一方で、台湾を切り捨てて中国との関係に走ることで不利益を被る国民も存在し、政権の中国重視政策への不満もあります。

****「首相は操り人形と化した」…対中傾斜強まるソロモン、「中国に仕事奪われ」若者は昼から飲酒****
南太平洋の島国、ソロモン諸島が中国への傾斜を強めている。今年4月には安全保障協定を締結し、米国やオーストラリアは強い懸念を表明している。外交政策の転換は、住民の生活にも大きな変化を及ぼしている。

中国系の商店が立ち並ぶ首都ホニアラのチャイナタウン。店のシャッターは閉じ、窓は割れ、建物の壁は黒焦げだ。マナセ・ソガバレ首相を名指しし「辞めろ」などの落書きも目に付く。

昨年11月、中国寄りのソガバレ首相に抗議するデモの一部が暴徒化した。夫がスーパーで働いていたという女性(38)は、うつろな表情で「商売あがったりだ」と嘆いた。

ソガバレ政権は2019年9月、台湾と断交し、中国との国交樹立を発表した。今年4月に締結した安全保障協定は中国軍の派遣を可能にするとされ、軍事拠点となる可能性が指摘される。

人口約70万人の小国は、なぜ中国に接近したのか。

穴だらけの道路
ホニアラの国際空港の近くに、「中国援助」と書かれた青いゲートが立つ。来年に開かれる太平洋諸国の競技会で使われるスタジアムだ。米ワシントン・ポスト紙によると、中国の国営企業が約5000万ドル(約68億円)をかけて建設を進めている。

ソロモン諸島の1人当たり国民総所得(GNI)は2300ドル(21年)で、南太平洋の島嶼とうしょ国で最低クラスだ。インフラ整備も進まず、首都の道路ですら穴だらけで渋滞が多発している。

農村開発省のサムソン・ビウル次官は「(米豪など)西側諸国の支援は人材育成ばかり。中国はモノを造ってくれる。インフラが整備されれば、産業も誘致できる」と強調する。

一方、国交樹立時を知る政府の元高官は「中国企業がソロモンで利益を得るために対中傾斜を後押ししている。ソガバレ氏はその操り人形と化している」と明かす。

中国企業へ不満
住民からは、中国企業への不満も出ている。

ホニアラの廃棄物最終処分場では、養豚を営むリンドラ・ダニさん(38)が残飯を拾い集めていた。豚の餌にするという。

以前は台湾の農場が豚を買ってくれたが、断交で撤退。代わって進出した中国の農場は労働者を本土から連れてきて養豚に従事させた。ダニさんは販路を失い、収入は半減し、豚の餌が買えなくなった。「中国は我々の仕事を奪った」と憤る。

ホニアラ郊外の農村にある教会で牧師を務める男性(52)によると、中国系の大規模な農場ができ、地元で採れた野菜は価格で太刀打ちできなくなった。失業者や学校に行けない子供が増え、昼から飲酒している若者も多い。

主産業の材木の輸出でも、「中国企業が利益を独占し、地域に還元しないケースが多い」(外交筋)という。シンガポールの調査会社による昨年の暴動後の世論調査では、「中国と自由な民主主義国のどちらと連携すべきか」との質問に対し、「中国」とした回答はわずか9%だった。

牧師の男性は「この国は一体どこへ向かっているのか」と不安そうに話した。

軍事拠点化 米豪が疑念
ソロモン諸島は南太平洋の戦略的要衝に位置し、中国と締結した安全保障協定は、米国や豪州の強い反発を呼んだ。米国家安全保障会議(NSC)インド太平洋調整官のカート・キャンベル氏は4月、ソガバレ氏との会談で、中国軍が駐留するなどした場合、「相応の対応を取る」と警告した。

安保協定を結んだ背景には、暴動が続くソロモン諸島の国内事情がある。1998年末に激化した部族対立で当時の首相が武装勢力に拘束され、2006年には新首相就任に反対する暴動が起きた。

ソロモン諸島は軍隊を持たず、治安維持に不安を抱える。中国との安保協定について、元首相のダニー・フィリップ氏は「国内の治安維持を想定したもの」と指摘する。

それでも中国が軍事拠点化を進める疑念は払拭ふっしょくしきれない。危機感を強めた米国は今年に入り、ウェンディー・シャーマン国務副長官ら高官を派遣。2月には、1993年に閉鎖した大使館の再開を発表した。

豪州も10月、ソロモン諸島の治安維持活動などへの支援を表明。太平洋地域の島嶼とうしょ国などへの支援も4年間で約9億豪ドル(約830億円)増やすと発表した。

ソロモン政府関係者は「米中対立の間で我々は重要なポジションを得た。これを最大限に利用して双方から支援を得られれば、国民に良い生活をもたらすことができる」ともくろみを明かした。【2022年12月17日 読売】
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体中国感情が複雑なことは推測できますが、「中国と自由な民主主義国のどちらと連携すべきか」という設問は、最初から中国を非民主的な「悪しき国」と誘導しており(実際、そうではあるでしょうが)、世論調査の公正さという点ではいささか問題も。

【利益を実感させている中国の進出 「発展するようになったのは中国が来るようになってからだ」】
南太平洋のパプアニューギニアでも米豪と中国がその影響力を競っています。

****南太平洋パプアニューギニアでしのぎを削るアメリカと中国 経済援助の先に…軍事的影響力拡大への懸念*****
いまアメリカと中国という2つの大国が、南太平洋の島国との関係強化に乗り出しています。中でも最も大きな国土を持つパプアニューギニアで起きている、米中対立の最前線を取材しました。

■街中のいたるところに「中国援助」の文字
国内に800の言語があると言われるほど、多様な人々が暮らすパプアニューギニア。人口は太平洋島しょ国の中では最大の約900万人。天然ガスなどの資源も豊富で、この地域では大国でもある。

海上の天然ガス関連施設未明、首都ポートモレスビーに到着した飛行機は、中国からの出稼ぎ労働者でいっぱいだった。中国の3倍、月に1万5000元(約30万円)近くは稼げるということで渡航を決めたという。彼らの向かう先は建設現場だ。

近年、ポートモレスビーでは中国企業によって建てられているビルが目立つようになっている。民間の建物だけではなく裁判所など政府の施設も中国企業によって作られていた。

(中略)街中のいたるところに「CHINA AID(中国援助)」と書かれたモニュメントが置いてあり、道路脇や建物の目立つところに中国の援助で作られたことを示すマークがついている。

「オーストラリアとの関係は深いけど…」「中国は良すぎる」
中国の影響が色濃く見えるが、実はパプアニューギニアの最大の援助国かつ貿易相手国はすぐ南に位置するオーストラリアだ。スーパーマーケットにはオーストラリアからの輸入品がずらりと並んでいる。

旧宗主国として長年影響力を持ってきたが、伝統的な海上生活をする人々の集落を訪ねると…
家の中まで電気は通っていて、ガスも使えるようになっている。しかし水道はないため汲みに行かなくてはならない。「オーストラリアとの関係は深いけど、発展への貢献はあまり感じない。発展するようになったのは中国が来るようになってからだ」

2022年のパプアニューギニアの予算書では、中国からの援助額は約200億円と見込まれている。額としてはオーストラリアの半分だが、現地の人たちにとっては中国の方が発展に貢献していると映っている。

橋の建設に携わった若者 「(中国のおかげで)道もできたし、街灯もできたし、橋もできた。うれしいよ」

政府間の合意のもと、現地のインフラ整備などに投資する中国企業には、10年間の所得税免除といった優遇がある。現地で複数の会社を経営する中国人は…

パプアニューギニアの中国人経営者 「政府間の合意によって良い投資環境ができたね。パプアニューギニアが良くなれば中国も良くなるし、パプアニューギニアはもっと良くなる」 中国の進出がパプアニューギニアのためになるという。(中略)

住民 「中国は良すぎるね。村の人にとっては、大きな店は高すぎて物を買えないけど、中国人のお店に行けばとても安く買える。だから中国人の店に行くのさ」

■経済協力の先に・・・「中国が軍事基地を手に入れるかもしれない」
一方、経済的な結びつきが強まるにつれ、高まっている懸念がある。それは軍事的な面での影響力だ。パプアニューギニアのシンクタンクの専門家はある計画の名前をあげる。

パプアニューギニアのシンクタンク ポール・ベイカー氏 「ガルフという場所でイフ経済特区を作る計画がありますが、飛行場と軍事施設が含まれていて奇妙なのです」

(中略)既に一部の中国企業が覚書を交わしたが、問題視されているのがパプアニューギニア軍の海軍基地建設だ。経済特区が計画されている場所は、オーストラリアの対岸で500キロほどしか離れていない。

この場所に中国が投資する軍事施設ができる可能性があることにオーストラリアメディアは強く反発している。プロジェクトの担当者は「将来中国の影響力が高まれば中国が基地を手に入れるかもしれない」と語ったとも伝えている。(後略)【2022年11月19日 TBS NEWS DIG】
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【米豪のうざい“上から目線”の指摘も】
ソロモン諸島にしてもパプアニューギニアにしても、従来のオーストラリアとの関係から中国重視に変化している背景に関して

「(オーストラリアなどの)上から目線というのでしょうか。どちらかというと面倒見てやってるという押し付けられている印象すら持っているのに対して、必ずしも良い感情を持っていない。そういったときにできれば多くの違う形のアクター(関係者)が欲しいと考えてきている」(東海大学の黒崎岳大准教授)【同上】という指摘も。

【大国間の争いに巻き込まれることへの懸念】
一方で、第2次世界大戦で「戦場」となったこの地域には、大国の争いに巻き込まれることへの懸念・不安もあります。

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パプアニューギニアの前首相、ピーター・オニール氏は中国による支援や企業が投資しやすい環境を整えた立役者でもあるが、今の中国の動きをこう懸念する。

ピーター・オニール前首相
「とても深刻に受け止めています。私たちは第二次世界大戦や世界中で起きている紛争のような経験を繰り返したくないのです。どの国の軍事施設もこの地域に入れたくはありません。それが平和と秩序を守る方法です。中国とアメリカの間でおきている地政学的な議論の中で、私たちは板挟みになっています。私たちは安全保障の分野で中国と何かをしようとはしていません」【同上】
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【国内政治状況で変化する米豪・中国との関係 フィジーは中国重視の見直しへ】
米豪・中国との関係は、当該国の国内政治情勢でも変化します。

フィジーでは昨年12月の議会選挙で(前政権が敗北を認めず、治安部隊を出動させるなど一時は不穏な状況にもありましたが)政権交代が実現。それにともなって対中国政策も変化するようです。

*****フィジー新政権、対中融和見直し 警察協力協定を停止へ****
南太平洋フィジーで昨年12月の総選挙を経て就任したランブカ新首相が親中政策の見直しを進めている。中国の進出に警戒感を示し、中国と結んだ両国警察間の協力協定の停止を表明。

人口約90万人で南太平洋でも経済規模が大きいフィジーの外交姿勢の変化は、中国が覇権的な海洋進出を進める地域情勢に影響を与える可能性がある。

総選挙では、単独過半数を確保した政党はなかったが、ランブカ氏を軸とする野党勢力が連立で合意し、約16年ぶりに政権交代が実現した。ランブカ氏は1992〜99年にも首相を務めたことがある。

バイニマラマ前首相は軍司令官だった2006年にクーデターで全権を掌握。14年の民政移管後も首相として国政を担った。バイニマラマ氏の強権的な手法をオーストラリアやニュージーランドが批判したことを受け、首相在任中には中国との関係緊密化が進んだ。

ランブカ氏は首相就任後、「(南太平洋で)中国が影響力を増大させる動きが強まっている。自分はよく知っている人たちについて行くのが安全と信じている」と述べ、中国との関係を見直し、豪州などとの連携を深める姿勢を示した。

ランブカ氏が停止する意向を示した警察に関する協力協定は、バイニマラマ政権期に締結された。フィジーの警察官が中国で訓練を受け、中国人警察官が3〜6カ月間フィジーに派遣されるとの内容だという。

中国は昨年11月に島嶼(とうしょ)国の警察トップを招待した初のオンライン国際会議を開催するなど、治安維持面での連携強化を通じ、各国に浸透する構えを見せている。

ランブカ氏は中国との決定的な対立は避けたい考えも示しているが、近隣国はフィジー外交の行方を注視している。豪州紙オーストラリアン(電子版)は「他の太平洋島嶼国の指導者たちは、地域支配を目指す中国を警戒するランブカ氏の見解に耳を傾けるべきだ」と強調した。【1月27日 産経】
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今後も、中国・米豪の働きかけ、当事国の国内事情で、この地域の方向性はいろいろと変化もありそうです。
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