孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  「移民がペットを捕まえて食べている」 偽情報拡散の構図

2024-09-23 23:08:50 | アメリカ

(Xでは「ペットを救おう」などと猫やアヒルとトランプ氏をあしらった画像が多く投稿され、討論会の直前にはトランプ氏自身がSNSの「トゥルース・ソーシャル」に、生成AIで作ったとみられる、猫に囲まれた自らの画像を掲載しました。【9月21日 NHK】)

【トランプ氏 司会者の警告をさえぎって「移民がペットを捕まえて食べている」と主張】
アメリカ大統領選のテレビ討論会で、トランプ前大統領が「移民がペットを捕まえて食べている」という“デマ情報”と一般的には見られている内容を、司会者の警告にもかかわらず主張し、注目されました。

****「移民はペットを食べている」? 米大統領選討論会、両候補の発言ファクトチェック****
米大統領選挙の共和党候補ドナルド・トランプ前大統領は10日夜、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領との初のテレビ討論会で、移民による犯罪、インフレ、後期妊娠中絶について複数の虚偽発言を繰りかえした。

一方、ハリス副大統領も、トランプ政権下での雇用喪失について誇張された主張を行ったとしてファクトチェック警告を受けた。 

CNNのファクトチェック担当記者ダニエル・デールによると、討論会の中でトランプは少なくとも33回にわたり虚偽の主張を行い、そのうちいくつかは壇上でABCテレビの司会者によって誤りを正された。 

ハイチ移民がペットを食べている? 
トランプ氏は、オハイオ州スプリングフィールドでは移民が「犬を食べている。猫を食べている。連中が食べているのは、そこに住んでいる人々のペットだ」と発言した。

これは、共和党の副大統領候補J.D.ヴァンスと複数の右派議員や右派コメンテーターが広めた虚偽の主張だ。 スプリングフィールドの警察当局はこの主張をはっきりと否定しており、フォーブスの取材にも「移民によってペットが傷つけられたり、けがをしたり、虐待されたりしたという信憑性のある報告や具体的な訴えはない」と答えている。 

トランプの発言を受け、司会者のデービッド・ミュアーがスプリングフィールド当局者の話を引き合いに出してただちに事実確認を行ったが、トランプは「テレビで」「私の犬が連れ去られ、食用にされた」と言っている人々の声を聞いたと改めて主張した。 

トランプはまた、民主党が大統領選で不法移民に投票させようとしているという根拠のない主張を繰りかえした。この点について専門家は、保守系シンクタンクのヘリテージ財団を含むさまざまな情報源のデータを引用し、米国の選挙で外国人(外国籍者)が投票する事例は「非常にまれ」であり、不法移民が投票することは「さらにまれ」だと指摘している。 

米国のインフレ率についても、トランプは「おそらく米国史上最悪だ。(中略)21%だった」と述べたが、これは事実と異なる。インフレ率は2022年半ばに9.1%と40年ぶりの高水準まで上昇したが、1980年代には14%、1974年には11.1%を記録している。 

妊娠中絶問題 
妊娠中絶の問題では、トランプは民主党を「急進派」として印象づけようと試み、ハリスの副大統領候補ティム・ウォルツが「妊娠9カ月での中絶はまったく問題ないと言っている」「出生後に殺してもOKだと言っている」などと虚偽の主張をした。即座に司会者のリンジー・デービスが「生まれた赤ちゃんを殺すことが合法な州は米国にはない」と訂正した。(中略)

ハリスの主張にも虚偽の指摘 
一方のハリスは、トランプが「大恐慌以来最悪の失業率を残した」と誤った主張をした。米国の失業率はトランプ政権下で新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった直後、1930年代の世界恐慌以降で最悪の14.8%に上昇した。しかし、トランプの任期中に失業率は低下し、ジョー・バイデン大統領が就任した際には6.4%だった。 

ハリスはまた、水圧破砕法を使ったシェールガス・石油の開発(フラッキング)について、自身の考えを「2020年に明言した」と述べたが、これは完全には正しくない。(後略)【9月12日 Forbes】
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【情報拡散の発端となった女性「こんなことになるとは思ってもみなかった」】
この種の根拠のないデマはどのようにして広がったのか?

****“移民がペットを食べている””根拠ない情報はどう広がったか****
(中略)
情報の発端は
否定されたにも関わらず、「移民がペットを食べている」とする主張はいまも広がり続けています。この根拠のない情報はどこから来たのか。

最初に広がったのはアメリカの右翼団体などが多く使うとされるSNS「Gab」だったとみられています。

7月下旬に画像掲示板サイトに投稿された、黒人の男性がガチョウの死体を運んでいる画像に、「ハイチ人は公園のガチョウやアヒルを無料の食事だと思っている」とする情報が書き込まれて投稿されました。
この画像はスプリングフィールドで撮影されたものではなく、さらに男性がハイチからの移民だという情報はありません。

また、スプリングフィールドの警察も、この時点でアメリカの公共ラジオNPRの取材に対して、「『ハイチからの移民が公園でアヒルを殺している』といった報告を受けているが、そのようなものは現認していない」と否定しています。

舞台となった”スプリングフィールド”とは
 オハイオ州のスプリングフィールドは人口6万人近く。生活費が安く、工場などでの労働者が足りず仕事が得やすいという情報がハイチ人コミュニティーに広がったことで、ここ数年ハイチなどからの移民が急増し、その数は周辺を含めて1万5000人ほどとされています。

ハイチの人たちは、ハイチで不安定な情勢が続き、安全が確保されていないとして、アメリカ政府が滞在を認める措置をとっていて、スプリングフィールド市はハイチからの移民は不法滞在ではないと説明しています。

近所の人の友人が…
スプリングフィールドでは、8月27日にもインフルエンサーを名乗る住民が市の委員会で「ハイチ人が公園でアヒルを切りつけて食べている」と根拠不明の主張を行いました。

さらに9月上旬には地元住民のフェイスブックのグループに、「近所に住む人から聞いた話です。その人の娘の友人の猫がいなくなり、彼女はハイチ人の家でつるされているのを見た。ハイチ人は猫を食べるために切り刻んだ」といううわさ話が書き込まれました。
この投稿はXで拡散し、さらに最初に広がった「ガチョウの死体を持つ黒人男性」の画像をつけたものも広がりました。

しかし、投稿を書き込んだ女性はロイター通信の取材に対し、「近所の人から聞いた」と答え、その「近所の人」も「友人が友人から聞いた」と明かしています。 もとの投稿自体、「誰かに聞いた」という伝聞で根拠が不明な情報でした。(中略)

副大統領候補も イーロン・マスク氏も
この情報は根拠不明にもかかわらず、多くのフォロワーを持つ政治家なども加わって、さらに拡散されました。

9月9日には共和党の副大統領候補、バンス上院議員がXに「報告によると、この国にいるべきではない人々にペットが誘拐され食べられた」などと投稿、9月20日正午までで1100万回以上閲覧されました。

さらにトランプ氏に近い極右のインフルエンサー、ローラ・ルーマー氏や実業家のイーロン・マスク氏らも同様の情報を投稿し、なかには5000万回以上閲覧されたものもありました。

地元の当局が重ねて否定しても拡散は収まらず、バンス氏は「これらのうわさがすべて嘘であることが判明する可能性もあります」としながら、猫についての話を広げるよう呼び掛けました。

イーロン・マスク氏の投稿それを受けて、Xでは「ペットを救おう」などと猫やアヒルとトランプ氏をあしらった画像が多く投稿され、討論会の直前にはトランプ氏自身がSNSの「トゥルース・ソーシャル」に、生成AIで作ったとみられる、猫に囲まれた自らの画像を掲載しました。

地元当局 “必要ない恐怖や分断が”
そして、9月10日に開かれた大統領候補の討論会での発言を受けて、この情報はさらに拡散することになりました。

地元スプリングフィールド市の当局者は、NHKの取材に対して「移民の人たちがペットに危害を加えたといった確たる情報はない」としています。

スプリングフィールド市内の小学校市内では、ハイチ出身の人たちの子どもも通う学校などに爆破予告の脅迫もありました。それにも触れて、次のようにコメントしています。

「誤った情報が拡散し、私たちのコミュニティーに大きな影響を与え、必要のない恐怖や分断をもたらしていることを深く懸念している。私たちは言論の自由を支持するが、事実にもとづかない言葉は深刻な影響を伴う可能性がある。すべての人に対し、情報を共有するにあたっては十分に注意し、責任を持って対応することを求める」

否定されても拡散
地元の警察やオハイオ州知事も発言を否定しましたが、拡散は収まる気配がなく、討論会後の9月14日には「移民が実際にオハイオ州で猫を食べている」とする動画が拡散し、2600万回以上再生されました。

投稿した人物は、スプリングフィールドから40キロほど離れたオハイオ州デイトンでコンゴからの移民を撮影したと主張しています。

デイトンの警察は「移民コミュニティーを含むいかなるグループもペットを食べる行為に関与していることを示す証拠はまったくありません」とする声明を発表しました。

なぜここまでの拡散が?
アメリカ政治や政治のコミュニケーションに詳しい慶応大学の烏谷昌幸教授に聞きました。

烏谷教授 「反トランプやリベラル系の人たちからは、『また非常識なことを言っている』と見えるが、支持者の側から見ると不法移民がアメリカの小さな町を乗っ取ってしまうという、彼らが一番恐れていることを非常に生々しく伝えるエピソードになっている」

「トランプ氏が話題を設定していて、うそか本当かということが必然的に二の次になるようなものなのだと思う。ただ、今回も市の施設に爆破予告がされるなど暴力的な行動を結びつきやすくなっていて本当に深刻な問題だ」(後略)【9月21日 NHK】
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上記記事にもある「近所に住む人から聞いた話です。その人の娘の友人の猫がいなくなり、彼女はハイチ人の家でつるされているのを見た。ハイチ人は猫を食べるために切り刻んだ」と9月上旬に地元住民のフェイスブックのグループに書き込んだ女性は・・・

*****「まさかこんなことになるとは…」トランプ氏の虚偽発言、発端はある女性の投稿か。後悔を口に****
(中略)Facebookに投稿した女性本人は、 NBCニュース の取材に対し「こんなことになるとは思ってもみなかった」と語った。

「ハイチ系住民のコミュニティに同情します。もし私がハイチ出身だったら、たしかに怖いです」
「彼らが愛しているものを傷つけていると思われても仕方がない。でも私が意図していたこととはまったく違うんです」

女性の発言は、NBCの番組内でも紹介された。女性は「私が間違っていた」と後悔と謝罪の言葉を口にしている。
SNSでは女性に対し、「自分の発言に責任を持ってほしい」と厳しい意見が上がっている。【9月22日 BuzzFeed】
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【支持者の不安を具現する「情報」 候補者は意図的に拡散】
ただ、烏谷教授が指摘しているように、トランプ支持者にとっては心中の不安を的確に示した情報であり、非常に安易に飛びついてしまうことになります。

****「移民がペット捕食」 トランプ氏支持者の過半数が陰謀論信じる****
米中西部オハイオ州スプリングフィールドでハイチからの移民が「ペットの犬や猫をさらって食べている」との陰謀論について、共和党のトランプ前大統領の支持者の計52%が「間違いなく本当」「おそらく本当」とユーガブ社の世論調査に回答した。

この陰謀論は今月に入ってソーシャルメディアで徐々に広がり、共和党副大統領候補のバンス連邦上院議員が9日にX(ツイッター)で言及したことで拡散。トランプ氏が10日の討論会で言及したことで波紋がさらに広がった。

11〜12日のユーガブ社の調査では、9%が「間違いなく本当」、17%が「おそらく本当」と回答。11月の大統領選で「トランプ氏に投票する」と答えた人に限定すると、22%が「間違いなく本当」、30%が「おそらく本当」と回答した。

スプリングフィールドでは過去数年間にハイチからの移民が集住するようになり、学校や病院などの対応が困難になっていた。しかし、「ペットをさらっている」との情報は確認されておらず、移民に対する差別感情をあおっている。

米メディアによると、討論会後には爆破予告が相次ぎ、市庁舎や学校が閉鎖を余儀なくされた。学校は再開に当たって警備を強化した。マヨルカス国土安全保障長官は17日、「爆破や暴力の脅迫があり、コミュニティーは非常に脅威を感じている」と懸念を示した。【9月18日 毎日】
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一方、候補者側からすれば、事実であろうがなかろうが、これほど支持者にアピールする話もないので、意図的に流布することにもなりがちです。

****ヴァンス氏、ハイチ移民が「HIVなどの感染症を増やしている」新たな差別的主張****
(中略)トランプ氏やヴァンス氏は発言を撤回、謝罪することはなく、むしろ新たな差別的虚偽情報を拡散させている。

ヴァンス氏は9月、ハイチ移民のせいで、スプリングフィールドではHIVや結核などの伝染病が増加している主張を繰り返しXに投稿した。

この主張に対し、州保健局のブルース・バンダーホフ局長は、州内で「重大あるいは認識できるような病気の増加は見られない」と否定している。 また、保健局は州内の感染症などのデータをウェブサイトに掲載しているが、目立った増加は見られない。

開発途上国では感染症が発生・流行する割合が高い。それは十分な医療環境が整っていないためであり、一定の国の人が病気を感染させやすいわけではない。

ヴァンス氏の「ハイチ移民が感染症を増やしている」という主張は、社会的に最も弱い立場の人たちを利用して支持を集めようとするだけではなく、世界の暗い歴史を繰り返す行為だ。

ドイツ・ナチス政権は「ユダヤ人がチフスを流行させている」という主張をプロパガンダとして使用し、医師らも加担した。(後略)【9月19日 HUFFPOST】
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【選挙戦術的に見て、デマ情報拡散がプラスになるのか、マイナスになるのか  極めて微妙な選挙戦状況】
選挙戦術的に見て、このようなデマ情報拡散がプラスになるのか、マイナスになるのか・・・よくわかりません。
コアな支持者に強烈にアピールするのは間違いないですが、中間的な立場の人々にあっては、眉をひそめる者も少なくないでしょう。

今回大統領選挙はどちらが勝利するのかわからない極めて微妙な戦いとなっています。

トランプ前大統領はネブラスカ州の選挙人5人の配分を巡り、一部を下院選挙区ごとに割り当てる現行方式から州全体の勝者総取りに変えるよう求めています。

ほとんどの州は“勝者総取り”ですが、ネブラスカ州は例外。現行方式ならハリス氏が選挙人を1名獲得する可能性がありますが、勝者総取りになればすべてトランプ氏が獲得すると見られています。

僅か選挙人1名ではありますが、“ハリス氏が優勢な州・首都の選挙人は225人。激戦7州のうちペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン各州の計44人を抑え、ネブラスカ州の1人を獲得すれば、ちょうど勝利に必要となる270人に達する。”【9月23日 読売】ということで、もし勝者総取りになればハリス氏は更にもう1州で勝利することが必要になり、選挙戦略が変わってきます。

変更を決定する州議会では共和党が決定に必要な3分の2を占めているということで、その対応が注目されています。

また、民主党でも共和党でもない“第3の候補”として、ハーバード大を首席で卒業した元医師の環境活動家、スタイン氏の存在が注目されています。イスラエルを批判し、気候危機対策で急進的な政策を標ぼうしています。

同氏の得票自体は極めて僅かで勝利は望めませんが、その支持層は民主党左派に重なります。もし1ポイントでもハリス氏からスタイン氏に票が流れると、選挙戦の結果を左右しかねません。

このように選挙人1名、得票率1ポイントはが勝敗を分けるかも・・・という微妙な選挙戦にあって、デマ情報拡散がどのような影響を与えるのか?

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少子化  子育て支援策の手本とされてきたフィンランドで進む少子化が示す問題

2024-09-22 23:00:52 | 人口問題

(【2月20日 荒川和久氏 YAHOO!ニュース】)

【子育て支援策の手本とされてきたフィンランドで進む少子化】
今更ではありますが、日本が抱える最大の課題は少子化・人口減少でしょう。

日本の少子化対策の手本とされていたのが北欧フィンランド。2010年頃、日本の合計特殊出生率が1.3~1.4だったのに対し、フィンランドは1.8~1.9の高い数値を示していました。

しかし、その後フィンランドの出生率が急減し、近年では1.26と日本と同レベルとなっています。

****子育てしやすい国、フィンランドで出生率の低下? 要因は「将来への不安」「価値観の変化」 “少子化”どう向き合うか****
「子育てがしやすい国」として知られる、フィンランド。子どもを迎える家族に国から贈られる育児用品などが詰まった「育児パッケージ」や、保健師や助産師が出産前から出産後まで切れ目のない支援を行う「ネウボラ」など、日本の一部自治体で取り入れられている制度も少なくない。

しかし、近年出生率の低下が続いている。北欧各国の出生率は、2010年ごろまで高い水準を維持していたが、近年は各国で低下傾向に。特にフィンランドは1.26と、日本に近い水準にまで低下している。

主な原因について、東洋大学の藪長千乃(やぶなが ちの)教授は「2008年の金融危機に一つは原因があり、経済状況が出生率に影響を与えている部分は否めないだろうと言われている」と説明。

別の要因として考えられているのが「価値観の変化」だといい、「研究の中で、子どもを持つことに対する“新しい文化”が生まれているのではないかと指摘されている。子どもを持つことを絶対ではないのか、子どもを持たないことを肯定する文化が生まれている」と述べた。

必ずしも自分が産んだ子どもでなくてもいいという考え方も広まっており、国際養子縁組で子どもを迎えるカップルもよく見られるという。

出生率低下の改善策はあるのか。藪長教授は「出生率を上げるために何かを変えていくことは、個人の生き方やライフスタイルに政府が介入することになってしまうので、それはできるだけ避ける。個人の意思選択、これが最大限に尊重される社会ではないか」と答えた。

一方で、自ら子どもを持ちたい人を支援するため、育休制度の改正などが進められている。個人の選択を最大限に尊重しながら出生率の低下に対応する難しいかじ取りを迫られているフィンランド。

藪長教授は「出生率を無理に上げることが適切ではないのであれば、人材を他に確保しようと高齢者、特に前期の高齢者たちの能力や労働力として活用する。アクティブエイジング(活動的な高齢化)や、移民を受け入れる方向に転換している」と話す。

こうしたフィンランドの現状や取り組みから、日本はどんなことが学べるのか。「日本はできることがたくさんある。おそらく一番重要なのは労働文化じゃないか。無理なく定時に帰れるような社会が育成できれば変わっていくと思う」との見方を示した。

日本でもフィンランドでも「将来への不安」が子どもを持つことを諦める一因になっていることに、藪長教授は「若者自身がこれから順調に生活を維持していける、そして家族を養うことが可能だと女性も男性も思えるように、そういった将来展望を持てる社会にしていくことが、とても重要なのではないかと思う」と述べた。【9月22日 ABEMA Times】
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【子育て支援では出生数の増加にはつながらない】
このフィンランドの数字が示す事実は、いわゆる子育て支援策(保育所の受け入れ枠拡大、男性の育児休暇取得促進など)の限界です。(意味がないという話ではなく、子供を持とうとする者への助けにはなりますが、それだけでは大きな流れを転換させることはできないということです)

****「フィンランドの出生率1.26へ激減」子育て支援では子どもは生まれなくなった大きな潮目の変化****
子育て支援では出生数の増加にはつながらない。
この話は、もちろん私の感想ではなく、当連載でも何度もお話している通り、統計上の事実であるわけだが、この話は特に政治家にとっては「聞いてはいけない話」なのか、まったく取り上げようとしない。

これも何度も言っているが、子育て支援を否定したいのではない。子育て支援は、少子化だろうとなかろうとやるべきことだが、これを充実化させても新たな出生増にはならないのである。

日本における事実は、2007年少子化担当大臣創設以降、家族関係政府支出のGDP比は右肩上がりに増えているが、予算を増やしているにもかかわらず出生数は逆に激減し続けていることはご存じの通りである。2007年と2019年を対比すれば、この政府支出GDP比は1.5倍に増えたのに、出生数は21%減である。(中略)

家族関係政府支出を増やしても出生数には寄与しないことは韓国でも同様である。

北欧を見習え?
そうすると、「見習うべきは子育て支援が充実している北欧である」という声が出てくるわけだが、その北欧の一角であるフィンランドの出生率が激減している現状をご存じなのだろうか?

フィンランドの合計特殊出生率は、2023年の速報統計で1.26になったという発表があった。過去最低と大騒ぎになった日本の2022年の出生率と同等である。

フィンランドの出生率の推移を見ると、特にここ最近の2010年以降で急降下していることがわかる。
コロナ渦中の2021年だけ異常値が発生しているが(これは欧州全体で発生した)、フィンランドと日本はほぼ同等レベルになったといっていい。むしろ、2018-19年には2年続けてフィンランドの出生率は日本より下だったこともある。

フィンランドには、子どもの成長・発達の支援および家族の心身の健康サポートを行う「ネウボラ」という制度があることで有名である。保育園にも待機することなく無償で通える。また、児童手当および就学前教育等が提供される「幼児教育とケア(ECEC)」制度が展開されるなど、子育て支援は充実していると言われている。

が、そうした最高レベルの子育て支援が用意されていたとしても、それだけでは出生数の増加にならないばかりか、出生数の減少に拍車をかけることになる。

家族支援政策の限界
フィンランドの家族連盟人口研究所のアンナ・ロトキルヒ氏は「フィンランドの家族支援政策は子を持つ家族には効果があったのかもしれないものの、本来の目的である出生率の上昇には結びついていない」と述べており、これは正しい事実認識であるとともに、日本においても同じことが言える。

フィンランドでこれだけ出生率が急降下しているのは、特に20代女性の出生数が激減しているからである。
フィンランド統計より、2010年と2022年の各年代の出生数を比較すると、20-24歳で58%減、25-29歳で43%減である。間違いなく20代の出生が減っていることが全体の出生率を下げていることになる。

20代の出生減とは、言い換えれば20代で第一子が生まれてこない問題と同じである。第一子が産まれなければ第二子も第三子もない。そして、20代とはいわないが、若いうちに出産をしないまま過ごすと、出産が後ろ倒しになるのではなく、「もう子どもを産まなくてもいい」と結果的に無子化になる。

日本の女性の生涯無子率は世界一の27%だが、フィンランドも20%超えである。そして、この20代出生数の減少は日本も韓国も台湾もまったく一緒だ。

逆にいえば、下がっているとはいえかろうじて出生率をそこまで激減させていないフランスは20代の出生数がまだまだ多いからだ。

ジェンダー平等や育休で出生数は増えない
日本の出生率があがらないのは「ジェンダーギャップ指数が125位だから」「男性の育休が進まないから」などという声もあるが、ジェンダーギャップ指数でいえばフィンランドは2023年調査で世界3位である。男性の家事育児参加や育休取得レベルも北欧はいつも日本との比較で出されるくらい多い。それでも出生は減るのである。

ジェンダー平等にしろ、男性の育休にしろ、子育て支援の充実にしろ、それ単体としては進めればよいと思うが、それらを改善すれば出生があがるなんて因果はどこにもないし、別立てで考えるべきである。むしろ、それらを一緒くたにまとめて因果推論をすることが問題の本質をわかりにくくしているのである。

どこにも通用する普遍的な「少子化解決の魔法の処方箋」などあるわけがないが、起きている現象には先進諸国共通のものがある。

ひとつは、ゼロ年代までは通用した家族支援は効果を生まなくなっていること。もうひとつは、「子どもがコスト化し、裕福でなければ、そもそもパートナーも子どもも、そうしようとする意欲すら持てなくなっている」ということである。

そろそろこの問題に向き合わなければならないだろう。日本だけではなく。【2月20日 荒川和久氏 YAHOO!ニュース】
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【経済・雇用環境の改善が少子化に歯止めをかけるために重要】
各国に共通する少子化の原因の一つは子育てが高コスト化する一方で、若い子育て層の経済状況が悪化していることでしょう。

*****「子育て先進国」フィンランドの出生率が急低下のワケ*****
欧州の子育て先進国も政策効果の一巡後は出生率低下に直面している。持続的な向上には、良好な経済・雇用環境も欠かせない。(中略)

政府は、10年代に保育所の受け入れ枠を拡大し、待機児童はおおむね解消した。その後も男性に育児休暇取得を促すなど、子育て支援や少子化対策に注力してきたが、少子化に歯止めはかかっていない。政府は、「こども未来戦略」を策定して児童手当の拡充や保育環境の充実などを図る予定であるが、それらが少子化反転につながるかどうかは予断を許さない。(中略)

大幅低下のフィンランド
欧州には、先進的な少子化対策を導入し、高い合計特殊出生率(TFR)を実現してきた国が少なくない。しかし、少子化対策のモデルとされてきたフランスや北欧諸国で、近年TFRが低下している。一方、少子化対策に後れを取り、以前はTFRが低かった国の中には上昇に転じた国もある。(中略)

少子化対策先進国において、特段政策メニューが変化したわけではないにもかかわらずTFRが低下傾向にある一因に、政策による効用が限界的に逓減していることがある。優れた少子化対策も、それがスタンダードとなった後では、目新しさがなくなり、再び少子化が顕在化したとみられる。

逆にドイツなど、10年にTFRが低かった国の一部には、上昇傾向がみられた国もある。少子化対策に後れを取った国の一部で、先進国で成果が上がったと目される政策を後追いで導入したことが奏功していると考えられる。(中略)

独は賃金・雇用改善に連動
00年以降横ばいであったドイツのTFRは、10年以降は明確に上昇トレンドとなった。ドイツは、10年をはさむリーマン・ショックから欧州債務危機に至る時期の経済・雇用環境が、欧州諸国の中で最も良好に推移した国である。とりわけ失業率の改善は明らかで、その効果は実質賃金に明確に表れている。

ドイツの実質賃金は、10年までの横ばいから一転上昇傾向となった。子育ての中心的な若い世代の経済・雇用環境が急速に改善したことが、TFRの押し上げに寄与したと考えられる。

ドイツにおける経済・雇用環境の好転は、ドイツ人のTFR押し上げに寄与したほか、移民の増加を通じて出生数増ももたらした。1990年代後半に移民容認政策にかじを切ったドイツでは、その後外国籍の親から生まれる子どもが増えた。(中略)

なお、ドイツへの移民といえば難民が注目されがちだが、10年以降の移民の半数以上はEU(欧州連合)内の他国から流入したものである。

しかし、ドイツのTFRが低下に転じた17年と時を同じくして、外国人のTFRが低下に転じた。その背景には、経済要因のほか、10年代中ごろからの移民に対する排斥の動きが広がった影響があるとみられる。

シリアからの難民が急拡大した15年ごろからドイツ国内で移民排斥の動きが顕著となり、そうした社会情勢も、外国人のTFR急低下の一因となったと考えられる。

フィンランドの少子化は、首都ヘルシンキへの人口の集中など、多様な要因が指摘されるが、最も大きな影響を及ぼしたのは、経済・雇用環境の悪化である。ドイツとは正反対に、リーマン・ショック以降失業率は高止まりし、00年代に着実に上昇していた実質賃金も横ばいに転じた。

欧州の少子化対策先進国においても、近年TFRの低下が顕著であるように、保育所の充実など、従来の対策を続けているだけでは、TFRの低下圧力に抗しきれなくなる。保育所整備や男性育休推進などの子育て環境整備を生かすのも、良好な経済・雇用環境あってこそだ。

日本では、春闘において大幅賃上げが実現したものの、実質賃金がプラスとなるにはもうしばらくの時間を要するとみる専門家が多い。

若い世代が将来に向けて豊かになっていくという実感を持つことが、少子化に歯止めをかけるために最も重要な処方箋である。企業や業界団体には、今後さらなる賃上げや処遇改善などに取り組むことが望まれる。【5月16日 藤波匠氏 週刊エコノミストOnline】
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【子供をあまり希望しないという価値観の変化を前提にした政治・経済・社会の仕組み】
少子化が止まらないもうひとつの根本的な問題は、そもそも子供を持ちたいという希望自体が低下していることです。

****フィンランドで理想子ども数ゼロの人が急増:出生率低下の原因か****
(中略)
フィンランドの出生率は急減しており、日本と同じレベルの出生率になっている。その大きな要因は、子どものいない人口(無子)の増加と言われている。

新しい研究によって、まだ子どもがいない男女ともに2割以上の人が理想子ども数を0人と答えている、と報告した。つまり、フィンランドの出生率の減少は、意図して子どもを産まない人の増加が関係していそう。

日本でも同様に、理想子ども数を0人と答える人は増加しているものの、まだ8%と少ない。他国と比べても高い無子割合は、意図したものではなさそう。【2023年9月4日 茂木良平氏 note】
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「子どもを持つことを絶対ではないのか、子どもを持たないことを肯定する文化が生まれている」という「価値観の変化」には子育て支援策はほとんど効果を持ちません。

「夫婦は子供を産むのが当然だ」という伝統的価値観に沿って、産みたくないという国民を政策的に出産へ誘導するのは、、個人の生き方やライフスタイルに政府が介入することにもなります。

であれば、子育て支援策などで一定に緩和はできるものの、基本的に少子化は避けられないという前提にたって、少子化であっても経済・社会が回るような仕組みに政治・経済・社会を適応させていく努力が必要でしょう。

それは、非嫡出子の扱い、同性婚の養子、移民の問題など伝統的価値観とは衝突するところが大きいでしょうが、避けて通ることはできないのではないでしょうか。
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スリランカ・カンボジア  中国による港湾軍事拠点化の現況

2024-09-21 22:09:27 | 中国

(2024年5月に撮影された衛星写真で、リアム海軍基地に中国のコルベット艦2隻が停泊している様子が確認できる【9月18日 毎日】)

【スリランカ 中印の「冷戦」状態のハンバントタ港】
中国の「一帯一路」を議論する際に、“債務の罠”の代表事例として必ず言及されるのがスリランカのハンバントタ港です。

債務返済できなくなったスリランカ政府が2017年に運営権を中国に事実上譲渡したハンバントタ港の現況がどうなっているのかを示したのが下記記事。

中国と、中国に対抗するインドの間で“相互監視”状態にあるようです。インドは港に近いマッタラ・ラジャパクサ国際空港の運営権を獲得するようで、ハンバントタ港の中国による軍事利用を牽制する効果があるとか。

同空港運営にはロシアも参加するとのことで、スリランカからすれば、ロシアも含めることで中印の対立が先鋭化するのを抑制したい狙いのようです。

****「債務の罠」で押さえらえたハンバントタ港 中印が相互で監視、「冷戦」状態****
スリランカのほぼ南端に位置するハンバントタ港は、同国が中国からの借金で整備したものの返済が滞り、運営権を中国に事実上譲渡した「債務の罠(わな)」の典型例といわれる。

中国と間で領土問題を抱えるインドが、同港が中国に軍事利用されるのではないかと懸念を募らせる中、現地では中印間の「冷戦」が起きていた。

現在のハンバントタ港は厳重に警備され、許可なく立ち入ることができない。最近までの状況を知るスリランカ政府元職員によると、港にはインドの油田探査船が2年以上も停泊し、乗組員の中にインド海軍の元軍人がいた。

「次に向かう運航先の指示を待っている」と語っていた元軍人については、インド政府が同港の状況を監視するために送り込んだのではないかと疑われていたという。

セメント船を清掃する人たちを乗せたインド船も停泊していて、同国の対外諜報機関、調査分析局(RAW)の一員が混じっていたとされる。

ハンバントタ港をめぐっては、債務返済に窮したスリランカ政府が2017年、99年間にわたって中国側が運営権を所有する契約を交わした。

同港の管理会社は中国企業とスリランカ港湾局の合弁となっている。ただ、管理会社は主要な管理職を中国人が占め、監視カメラや無人機(ドローン)を駆使するなどして港の警戒にあたっているという。元職員は「管理職の中に中国人民解放軍がいたことは100%間違いない」と断言した。
スリランカはアジアと中東・アフリカの中間に位置するシーレーン上の戦略的要衝といわれ、ハンバントタ港では燃料や物資の補給を行う船舶の往来が絶えない。

同港の運営権が中国側に渡ったことで神経をとがらせているのが、スリランカとポーク海峡をはさんで10キロほどしか離れていないインドだ。

中国の調査船が約2年前に入港した際、インドは「スパイ船だ」と反発した。その後、スリランカは来年1月までの1年間、外国調査船の活動を認めない措置を取った。

中国はスリランカに対し、調査船活動の再開を含む同港の有効利用に向けて圧力をかけているとみられる。港が中国の管理下で軍事利用されると、インドは安全保障上の脅威となる。

このため、インドも独自に港を監視する体制を取っている可能性がある。
ハンバントタ港近くには、米フォーブス誌に「世界で最も空いている空港」と揶揄(やゆ)されたマッタラ・ラジャパクサ国際空港がある。

「旅客便が最近到着したのが5月11日」(空港関係者)という空港は、この地が故郷のラジャパクサ元大統領が中国から巨額の資金を得て建設した。

同空港についても、中国に運営権が渡るのではとの見方もあったが、スリランカはインドとロシアの合弁企業に運営を委ねることを決めている。インド側企業関係者は20日、運営権移譲は「今月中だろう」と明らかにした。

中国ではなく、印露に委ねる理由について、印シンクタンク、統合サービス研究所は「海外に海軍基地をつくるには、航空機による海上監視能力が必要だ」との専門家の見方を紹介。空港の運営権を得ることでインド側は「港の利用方法をかなりコントロールできる」と分析している。

スリランカは、ロシアを関与させて中印の緊張の緩和を図ろうと腐心しているといえそうだ。
スリランカでは21日、大統領選が投開票され、次期政権下でインド太平洋地域の安全保障環境に変化があるかどうかが注目されている。

現地情勢に詳しいインド紙デカン・ヘラルドのETB・シバプリヤン副編集長はこう指摘する。
現職のウィクラマシンハ大統領か野党、統一人民戦線(SJB)のプレマダサ党首が勝てば「スリランカとインド、西側諸国との最良の関係は続く」。野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首が勝利すれば「JVPはインドや米国と良好な関係を築いたことがなく、状況が劇的に変わる可能性はある」。

また、印シンクタンク、オブザーバー研究財団のアディティア・ゴウダラ・シバムルティ近隣国準研究員は「経済危機により、スリランカは中国、インド、日本、米国に同様に依存している。今後もこれらの国々とのバランスを取らざるを得ない。安全保障環境が変わることはほとんどないだろう」と予測している。【9月21日 産経】
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その大統領選挙は今日投票が行われ、先ほどから開票が始まっています。事前の世論調査では野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首がリードしています。

****スリランカ大統領選挙 きょう投票 日本主導の債務再編に影響も****
深刻な経済危機の影響で、2022年、事実上のデフォルト=債務不履行に陥ったスリランカで21日、大統領選挙の投票が行われます。

経済の立て直しに向け、現政権が推し進めてきた緊縮政策に対しては、国民の反発も強く、選挙の結果次第では、日本が主導してきた債務再編にも影響が及ぶ可能性があります。

インド洋の島国スリランカは、前の政権による財政政策の失敗や、新型コロナの影響などでおととし深刻な外貨不足に陥り、急激な通貨安やインフレに見舞われました。

21日投票が行われる大統領選挙には▼現職の大統領のウィクラマシンハ氏、▼野党「統一人民戦線」の党首プレマダーサ氏、▼野党の左派勢力「国民の力」を率いるディサナヤケ氏の事実上3人で争われる構図となっています。

このうち、経済危機後に大統領に就任したウィクラマシンハ氏は、IMF=国際通貨基金から4年間でおよそ30億ドルの金融支援を取り付けた上で増税や国有企業の改革などに取り組み、経済の立て直しに道筋をつけたとして実績を訴えています。

一方で、こうした緊縮政策に対して国民からの反発は強く、野党の2人の候補者は見直しを訴えて支持の拡大を図っています。

現地の研究機関が今週公表した最新の世論調査では▼ディサナヤケ氏が48%と支持を伸ばす一方、▼プレマダーサ氏は25%、▼ウィクラマシンハ氏は20%と伸び悩んでいて、選挙の結果次第では、日本が主導してきた債務再編にも影響が及ぶ可能性があります。

投票は日本時間の午後7時半に締め切られたあと、開票される予定です。【9月21日 NHK】
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日本なら出口調査ですぐにおおよその結果がわかるのですが、スリランカですので、この記事のアップ時点ではまだ傾向は判明していません。

【カンボジア リアム海軍基地の中国側の動向に神経を尖らせるアメリカ】
中国の軍事拠点化ということでは、もう1箇所注目されるのが中国と緊密な関係にあるカンボジアのリアム海軍基地。

****中国艦船、新たに2隻入港 カンボジア基地、拠点化か****
中国の支援を受けて拡張工事が進むカンボジア南西部のリアム海軍基地で、昨年12月ごろから寄港していた中国海軍の艦船が帰国し、別の中国艦2隻が新たに入港したことが27日、複数のカンボジア軍関係者への取材で分かった。中国軍の海外拠点化に向けた新たな布石とみられ、今後の動向が注目される。

カンボジア軍関係者らによると、中国艦はローテーションを組んでリアム海軍基地への停泊を一定期間続ける予定だ。中国の影響力拡大に米国は懸念を強めている。

カンボジアと中国は5月30日までの合同軍事演習で初めて海上演習を実施した。【6月27日 共同】
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上記中国艦船はコルベット艦(フリゲート艦より小さい規模の航洋艦)とのこと。

そしてカンボジア国防省は9月上旬、中国から艦船2隻の供与を受けると明らかにしています。
カンボジアが艦船を欲しがるのは、隣国タイとの国境問題などがあるためのようです。

中国によるリアム海軍基地の軍事拠点化については、アメリカが神経を尖らせています。

****中国のカンボジア「軍事拠点化」を懸念 艦船供与「見返り」で 米国****
カンボジアと中国の軍事協力が深化している。カンボジア国防省は9月上旬、中国から艦船2隻の供与を受けると明らかにした。

中国の支援で拡張工事が進む南西部のリアム海軍基地には、昨年末から中国海軍の艦船が停泊を続けているとされる。米国などは支援の「見返り」として、中国の海外拠点化が進むことを警戒する。

英字紙クメール・タイムズによると、供与はカンボジアの要請に基づくもので、新造のコルベット艦2隻が早ければ来年にも引き渡される。隣国タイとの国境問題がくすぶるカンボジアにとって、沿岸警備のためにも軍備の増強が課題だった。

リアム海軍基地の拡張工事も近代化の一環で、中国の支援を受けて2022年に着工した。基地は南シナ海に近いタイ湾に面し、マラッカ海峡からインド洋につながる要衝にあることから、これまでも臆測を呼んできた。

19年には米メディアがカンボジアと中国の間で独占使用の合意があると報じ、当時首相だったフン・セン氏が「憲法は自国内に外国の基地を設けることを認めていない」と強く否定する一幕があった。

ところが、今年4月に米戦略国際問題研究所の「アジア海洋透明性イニシアチブ」が、中国海軍の艦船2隻が23年12月から基地に停泊していることを衛星写真の分析で確認したと発表。

6月には米国のオースティン国防長官がプノンペンを訪問し、フン・マネット首相や国防相らと会談した。停泊理由を訓練のためと説明するカンボジア側にくぎを刺したとみられる。

カンボジアは国際空港や高速道路などのインフラ整備を中国からの投資や援助に頼り、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも特に中国寄りとされる。中国が領有権を主張する南シナ海問題でも、当事国のフィリピンやベトナムなどから距離を置いてきた。

中国との軍事協力について、王立プノンペン大東南アジア研究センターのチャイ・リム客員研究員は「カンボジアが軍備の近代化を進めるには他国の支援が欠かせない。だが、人権状況を問題視する米国の支援は期待できず(内政不干渉の)中国に頼らざるをえない状況だ」と解説する。

一方で、フン・マネット氏は昨年8月の就任後、父親のフン・セン氏から引き継いだ親中路線を維持しながら、西側諸国との関係強化に取り組む。

欧米で教育を受けた経歴を強みに欧州や日本などの首脳らと会談を重ね、経済や安全保障分野での協力を協議してきた。

政敵の弾圧といった人権問題を脇に置いて外交関係を広げたいカンボジアが譲歩を引き出せるのか、基地の工事完了後に中国以外の国の艦船の寄港を許可するのかが焦点になりそうだ。【9月18日 毎日】
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フン・マネット首相が、父親のフン・セン氏から引き継いだ親中路線を維持しながら、西側諸国との関係強化に取り組む・・・・そうした西側との関係強化の事例に関するニュースはまだ目にしていませんが、中国との更なる関係強化に関するものなら・・・。

****カンボジアに「習近平大通り」 経済・安保、取り込み加速****
カンボジアのフン・マネット首相は28日、首都プノンペンや近郊を通る主要道路を中国の習近平国家主席の名前を冠し「習近平大通り」と命名すると表明した。

中国は国際的な影響力を強化するため経済支援で途上国の取り込みを加速し、カンボジアとは外交・安全保障を含む、あらゆる分野で関係が緊密化している。

中国国営通信新華社は29日、カンボジアの発展に対する習氏の「歴史的貢献」が感謝されたと報じた。

カンボジアメディアによると、習近平大通りは全長約50キロ。首都から地方都市に延びる複数の国道をつなぐ重要な道路で、中国企業が建設工事を請け負った。【5月29日 共同】
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中国  深セン日本人児童刺殺事件への中国政府・世論の反応

2024-09-20 23:23:55 | 中国

(中国人らが次々と献花に訪れた深圳日本人学校(20日、中国・深圳で)=大原一郎撮影【9月20日 読売】)

【中国政府「単独犯の偶発的事件」 日本との関係悪化や社会の不安定化を回避する意図】
周知のように、6月に江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子が男に刃物で襲われ負傷し、案内係の中国人女性が死亡した事件に続いて、18日には広東省深セン市で日本人学校に登校中だった日本人男児(父親が日本人、母親が中国人)が、学校から200メートルほどの位置で男(44)に刺され亡くなりました。

相次ぐ日本人学校・日本人が標的となる事件が起きたこと、事件発生の9月18日が満州事変につながった柳条湖事件が起きた「国辱の日」であったことなどから、「反日」を背景にした日本人を狙った犯行ではないかとの憶測がある一方で、中国政府は微妙な日中関係への影響を最小限に留め、社会不安を抑止する意図があるようで、事件の背景には言及しない形で「単独犯の偶発的事件」として処理する姿勢です。

*****「単独犯の偶発的事件」=中国深センの日本人男児襲撃を地元紙詳報―当局、社会不安警戒****
中国南部・広東省深セン市で日本人男児が刺されて死亡した事件で、地元有力紙・深セン特区報は20日、警察から得た情報として「偶発的事件だった」とSNSで伝えた。44歳の男による単独の犯行で、容疑を認めているという。日本政府の情報提供要請を受け、中国当局が同紙を通じて事件の詳細を公表した形だ。

中国では6月、東部の江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子が男に刃物で襲われ負傷し、案内係の中国人女性が死亡する事件が発生。その時も中国当局は「偶発的事件だった」と説明した。

同紙によると、容疑者の男は定職に就いていない。2015年に公共の通信設備を壊して警察沙汰になったほか、19年には公共の秩序を乱したとして深センの警察に拘束された。

日本人を狙った犯行なのかや殺意があったのかを含め、動機は不明。同紙は容疑者について「刃物で児童を傷つけた行為を認めている」とし、「さらに調べが進められている」と報じた。

中国当局は今回の事件によって、経済を中心に日本との関係が悪化する事態を望んでいない。類似の事件が相次いで中国社会が不安定化することも警戒している。同紙はSNSで論評記事も配信し、「犯行を強く非難する」と表明。「この容疑者の暴力行為は一般の中国人の素養を代表するものでは決してなく、社会全体の状況を反映するものでもない」と強調した。(後略)【9月20日 時事】
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44歳の容疑者の男は定職についておらず、2015年には電信設備の破壊、2019年にはデマで公共秩序を乱したとして拘束されていたようです。

中国の主要メディアは沈黙を貫いており、中国国内での報道は規制されているようです。
SNS上では多くの事件を批判し、被害者への哀悼の意を示す多くのメッセージがよせられる一方で、日本の歴史認識や対中姿勢が事件を引き起こしたとの反日感情を露わにする声もあります。

****深圳の日本人男児殺害、中国主要メディア沈黙 SNSは「批判」と「反日」が混在****
中国広東省深圳(しんせん)市で日本人学校の日本人男子児童(10)が男に刺殺された事件で、中国の主要メディアは沈黙を貫いている。当局から情報統制が敷かれているもようだ。

情報が飛び交う交流サイト(SNS)には「国の恥だ」と批判する声も多いが、事件の遠因が「日本にある」との〝異常〟な意見もあり、度を越えた「反日分子」の存在が浮き彫りとなっている。

「心から謝罪」「日本に原因」
地元紙「深圳特区報」は20日、警察から得た情報として「偶発的事件だった」と伝えた。男は容疑を認めている。日本政府の要請を受け、当局が同紙を通じて詳細を公表したとみられる。

ただ他のメディアの記事は皆無だ。18日に一報を伝えたメディアの記事は現在、削除されている。模倣犯の発生や政権批判への転化を避けたい狙いとみられる。

事件が発生した18日以降、中国の短文投稿サイト、微博(ウェイボ)には多くのコメントが書き込まれた。「深圳人として心から謝罪する」「子供は無実。あらゆる暴力行為を非難する」などと事件を批判する書き込みも少なくない。

満州事変につながった柳条湖事件の9月18日に事件が起きたことに反応するコメントも数多かった。「国恥の日に子供を殺した男は国の恥だ」との見方もある一方、日本の歴史認識や対中姿勢が事件を引き起こしたとの声も散見された。

悲劇悼む動きも
NHKラジオ国際放送で尖閣諸島を「中国の領土」と発言するなどして解雇され、帰国した中国人男性とされるアカウントも事件に反応。

在中日本人や在日中国人の生活を揺るがす元凶は「安倍晋三政権が推進してきた歴史修正主義路線だ」とし、日本が一方的な姿勢を続ければ「両国で非理性的な傷害事件を引き起こすことになる」などと警告した。

事件の背景に反日教育が関係している可能性もゼロではないが、「抗日教育を中傷する者は犯人と同じく卑劣な人間だ」との投稿も。

在中国日本大使館のアカウントには中国人から多数の謝罪や追悼が寄せられるが、中国人が日本で犯罪に遭った際に同様の光景を「見たことがない」として、「中国人の命は日本人よりも軽いのか」とする書き込みもあった。

一方、X(旧ツイッター)には、男児が通っていた日本人学校前に献花に訪れた男性が「(中国の)長期にわたる憎悪教育が招いた結果だ」と話す動画が拡散。19日には東京都内で在日中国人有志が追悼集会を開くなど、悲劇を悼む動きも広がっている。【9月20日 産経】
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【「亜人事件」など、根深い反日感情も】
中国社会に反日感情が根深いのは事実でしょう。最近話題になった事件としては・・・

****円明園で日本人観光客らが難癖付けられる、警備員まで「小鬼子」と加勢する異常事態―中国****
中国・北京市の円明園で日本人観光客らが中国人インフルエンサーから難癖をつけられる動画が中国のSNS上に投稿され、反響を呼んでいる。

報道によると、騒動は今月7日に起きたとみられる。日本人観光客の男女と中国人通訳が円明園で記念撮影をしていたところに男性インフルエンサーが現れた。撮影していた通訳が「フレームに入ってしまうから」と男性インフルエンサーに移動を頼むと、男性インフルエンサーは「日本人か?」などと確認。「そう、日本人だよ」と言われると、「円明園というこの場所で、日本人のためにどけというのか」などと怒り、難癖をつけ始めた。

通訳が「どこの国かは関係ない」と言うと、男性インフルエンサーは「俺は関係あると思うぞ」と応じ、さらにまくしたてる。話が通じないと思った通訳は「あなたが関係あると思うならもういい」とあしらい、日本人観光客2人と共にその場を後にするが、男性インフルエンサーは後を追い回して撮影。

それに気づいた日本人観光客の男性が「通報するぞ」と言うと、男性インフルエンサーは「日本人が中国で警察に通報するのか」「俺は日本人のために場所を譲る気はない」などと個人的な主張を続け、通訳に対しても「日本人を守るのか」などと罵声を浴びせた。

その後、警備員がやってきたが、警備員は「日本人と聞いたが。はっきり言えば(日本人を円明園に)入れることはない」と説明。通訳が「それは管理所としての意見ですか?それはちょっと違うでしょう」と反論すると、警備員は「去年も日本のツアー客は入れなかった」とした。

通訳が「チケットは購入しているし、管理所は(彼らを)中に入れた。あなたは管理所の意見を代表しているのですか?」と質問すると、警備員は「(管理所を)代表してはいないが、あなたはわれわれを尊重しなければならない!」と語気を強め、日本人の蔑称である「小鬼子」という単語を交えてまくし立て、男性インフルエンサーの言動に賛同する意思を示した。

あまりにも理不尽な言いがかりに中国のネットユーザーからは「このインフルエンサーが故意に難癖をつけているように感じる」「単なる言いがかり」「日本人観光客に何か落ち度があったようには思えない。もしわれわれが日本に旅行に行ってこのようなことをされたら?」「そもそも円明園が日本人と何の関係があるんだ」「円明園を焼き討ちし、略奪したのは英仏軍だろう」「そんなことなら、なぜ日本人を入国させたんだと中国の税関に文句を言えよ」といった声が上がり、「彼はどうすればトラフィックが稼げるか理解している」「今のインフルエンサーはみんな愛国を掲げて金を稼いでいるが、実際は国に泥を塗っているだけ」といった声も寄せられた。(後略)【9月9日 レコードチャイナ】
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このインフルエンサーは「亜人(アジアンマン)」の名で活動する中国のインフルエンサーで、中国政府は「いかなる特定の国に対しても、差別的な方法を取ることはない」としています。

****円明園で日本人観光客らに難癖、中国外交部「われわれは特定の国を差別しない」****
(中略)9日の外交部定例会見で騒動について聞かれた毛寧(マオ・ニン)報道官は「具体的な状況については把握していない。個人の言動については論評しない」としつつ、「中国はオープンで包容的な国。われわれはいかなる特定の国に対しても、差別的な方法を取ることはない」と強調した。

中国のネット上では「亜人」と見られる人物が2019年に米国で性的暴行や脅迫の容疑で逮捕されていたとの情報が流れており、靖国神社に落書きをして最近中国の警察当局に別件で拘束されたインフルエンサーのアイアンヘッド(鉄頭)こと董光明(ドン・グアンミン)容疑者と同類だとの批判が寄せられている。【9月10日 レコードチャイナ】
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【中国世論の多くは事件を批判 特に子供を狙った犯行には反発】
日本人としては、この種の反日に凝り固まった言動に接すると気分も悪くなりますが、一方で多くの中国人はそうした「反日」的なものとは一線を画しています。

特に、子供を対象とした犯行には批判の声が多いようです。

****中国SNSに書き込まれた“異例の反応”とは? 「日本人学校10歳男児刺殺事件」に猛反発の声****
(中略)
「この種の『愛国心』は国に混乱をもたらす」
 6月に蘇州で日本人学校バス襲撃事件が発生した際、「デイリー新潮」は中国SNSにあふれる「日本人学校に物申す」系動画の存在を報じた。旧知の通り、中国SNSでの「反日」は再生数稼ぎに最適のテーマであり、日本人学校も数年前からその1つとなった。

ただし、靖国神社動画のような破壊行為でなく、「学校の数が多すぎる」「中国人が入学できないのはおかしい」「なぜ警備が厳重なのか」といった“疑問”を提起するスタイルが大半だ。

配信者が校門前でお決まりの“疑問”を繰り返し、時には守衛と言い争うが、そもそもその“疑問”は中国国内でもネット検索で答えが得られる内容ばかりだ。

そうしたお手軽な「愛国」動画が登録なしで確認できる中国SNSとして、TikTokの中国版・ドウインがある。今回の事件についてもいち早く動画が公開され、様々なコメントが飛び交った。容疑者の動機に対する関心が深いのは日本と同様だが、これまで公開された「反日」動画の影響からか、多くのユーザーは「愛国」が動機だと考えているようだ。

「彼らが宣伝した悪がついに花開いた」 「我々の同胞の多くが日本にもいるという事実を考えてほしい」 「少しの前の亜人事件も然り、この種の『愛国心』は国に混乱をもたらす」 「法に基づいて厳罰に処すべきであり、この風潮が傲慢になりすぎてはならない」

「亜人事件」とは今月7日、北京の名所・円明園でインフルエンサー「亜人」が日本人観光客2人とガイドに執拗に絡み、暴言を吐いた事件を指す。この件も議論を呼び、「良い愛国」と「悪い愛国」の線引きを進めたようだ。香港メディアのオピニオン記事によれば、亜人を支持したのは一部の「脳なしの愛国主義者」だけだったという。

「このままでは中国が孤立する」
深圳の事件に戻ると、SNSコメントからはもう1つ猛烈な反発を招いている要素が浮かび上がる。「子供を狙った」という点だ。

「容赦のない厳罰を」 「子供は無実。暴力反対」 「何があっても子供を攻撃してはならない」 「とても理不尽。子供たちと何の関係がある?」

「事件の全体像がわからないと何とも判断できない」という声には「10歳の子供のどこに非があるのか?」というレスがついている。近年は薄れてきているとはいえ、家族や一族の絆を重要視する中国の一般家庭では「子供と老人」に配慮する傾向がある。

もちろん、事件を非難する声ばかりではない。中国ポータルサイト大手・捜狐(ソウコ)のアカウントが日本のニュースを引用し、「憎しみから弱者を攻撃するのは愛国心ではない。行き過ぎた感情は中国に孤立をもたらすだけだ」と訴えた動画には、「捜狐はどこの会社ですか?」というレスがついた。

だが、「このままでは中国が孤立する」という声は他ユーザーからもこのように寄せられている。
「歴史を念頭に置くと、より重要なのは自らを強くして、国家の自信を高めること。肉切り包丁を手に取って同じことをすれば、世界はあなたから離れていく」【9月20日 デイリー新潮】
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****日本人学校に千束超える献花 中国人ら男子児童に哀悼の意****
中国広東省深センで日本人の男子児童が刺殺された事件で、男児が通っていた日本人学校に20日までに計千以上の花束が贈られたと学校側が明らかにした。ほとんどは現地の中国人が贈ったもので、哀悼の意を示す人が後を絶たない。

「天国で安らかに」などとメッセージが添えられたものもある。インターネット上では事件を巡り反日的な書き込みも少なくないが、市民は子どもが犠牲となった事件に衝撃を受けている。(後略)【9月20日 共同】
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【「偏狭で過激なポピュリズムやナショナリズムの高まりは、社会の正常な発展や交流・協力、国民の幸福にとって有害だ」】
今回のような日中関係に影響する事件で、国内にある反日的な意向を意識する中国政府が表だって「偶発的事件」云々以上に踏み込むことは困難に思えますが、そうした表の話とは別に、現在ネット上で垂れ流されている虚偽も多く含んだ反日的な情報に対し、これまで以上に厳しい対応をとるように働きかけることが今後の日中関係を改善していく上で重要だと考えます。

****3カ月で2度の日本人襲撃事件、「個別事案で国の発展を阻害してはならない」と香港メディア****
2024年9月19日、香港メディア・香港01は、中国で3カ月以内に2度発生した日本人襲撃事件について「極端な個別事案で国の健全な発展を阻害してはならない」とする記事を掲載した。

(中略)「国辱を忘れないことと、今回の日本人小学生に対する暴行事件は、まったく別問題であることをはっきりさせておかなければならない」と主張した。(中略)

3カ月前の6月24日に蘇州のバス停で起きた日本人親子襲撃事件にも言及しつつ「2つの事件はそれぞれ個別の事案であり、日本人を標的にした一連の事件であることを示す決定的な証拠はなく、事件の背景を民族憎悪のレベルにまで昇華させることはできない」と主張。

その一方で、ネット世論では近ごろ排外主義や外国人排斥を主張する書き込みが確かに多いと指摘し、「中国は国を発展する中で狂乱的なポピュリズム(大衆迎合主義)が入り込む余地を与えないよう警戒する必要がある」と指摘している。

そして、民族国家を競争単位とする国際秩序において、適度なナショナリズムは正常な現象であるものの、「他者を誹謗(ひぼう)中傷したり、悪意を持って攻撃するような行動に発展したり、アクセス数や利益を稼ぐために過激な言動をすることは国と国民を誤った方向に導く行為だ」とも指摘。「偏狭で過激なポピュリズムやナショナリズムの高まりは、社会の正常な発展や交流・協力、国民の幸福にとって有害だ」と断じた。

記事は、蘇州と深センで発生した事件について再三「個別事案」であることを強調した上で、「個別事案が中国のイメージと日中関係に悪影響を及ぼすのを防ぐために、中国社会は有力な措置を講じて悲劇の再現を防ぎ、狂乱的なポピュリズムとは一線を画すとともに、さらなる改革開放の中で世界に向けて『狂乱的なポピュリズムは中国社会を代表するものではない』ということを示すべきだ」と結んでいる。【9月20日 レコードチャイナ】
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こういう事件に対しては、日本国内でも「正論」を主張する強気の大きな声が表に出てきがちですが、日本政府も日本の声はしっかりと中国側に伝えつつも、中国政府の状況・立場も踏まえた賢明な対応をとってほしいと思います。いたずらに相手を硬化させるだけの対応は、自己満足にはなっても、事態を悪化させるだけかも。

****中国の危険情報「レベル0」維持 外務省「見直しは検討していない」子供連れには注意喚起****
中国・広東省深圳市の日本人学校に通う男子児童(10)が刺殺された事件を受け、外務省が出す渡航・滞在の「危険情報」が注目されている。

中国の危険度は、新疆ウイグル、チベット両自治区を除き「レベルゼロ」。インドは全土がレベル1以上、ロシアはレベル2だ。外務省は「現段階では見直しの検討はしていないが、中長期的な観点から総合的に判断する」としている。

中国では6月にも江蘇省蘇州市でスクールバスを待っていた日本人母子が刃物で切りつけられる事件が発生。日本国内でも靖国神社での落書き事件など「反日」が理由とみられる事件が続いており、日本政府が具体的な行動を取らないかぎり邦人の安全は守れないとの指摘も出ている。

一方で、外務省は男児が死亡した19日、日本人の安全に関わる重要な事件が発生した際に速報する「スポット情報」で「凶悪犯罪に対する注意喚起」を出し、「特にお子さん連れの方は、十分注意して行動してください」などと呼びかけた。(後略)【9月20日 産経】
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【日本の水産物の輸入について段階的に再開することで合意】
なお、日中間では懸案事項であった日本の水産物の輸入について段階的に再開することで合意したことが明らかになっています。

****中国、日本の水産物輸入を段階的に再開へ=中国ネット民の反応は…****
中国が日本の水産物の輸入を段階的に再開することで合意したことが分かった。日中のメディアが20日に報じた。

報道によると、岸田文雄首相は同日、中国側が安全基準に合致した日本産水産物の輸入を再開することで、日中両国が合意したと明らかにした。国際原子力機関(IAEA)の枠組みの中で行われている処理水のモニタリングを拡充し、中国を含む各国の専門家による水のサンプリング採取や分析機関による比較などを追加で行い、その結果をもって輸入再開が決定されるという。

この情報は中国メディアも速報した。鳳凰網は「日本政府は福島原発の汚染水の海への排出を一方的に開始した。中国は利害関係国の一つとして、この無責任なやり方に断固反対している」と強調する一方、「同時に、われわれは日本側に国内外の懸念に真剣に応え、自らの責任を確実に履行し、効果的かつ長期的な国際モニタリングに全面的に協力するよう、また中国側の独立したモニタリングに同意するよう促してきた」と説明した上で、日本側と4点の共通認識に達したと報じた。(後略)
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“鳳凰網の投稿には多数のコメントが寄せられているが、反発の声が大きいためかコメント閲覧ができない状態になっている。”【同上】と、ネット世論では批判が多いようです。

中国外務省は記者会見で、「日本による一方的な海への放出には断固反対していて、この立場に変わりはない」「中国がただちに日本の水産物の輸入を全面的に再開するわけではない」とも。苦渋の決断のようです。
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インド  ウクライナ問題でみせるしたたかなモディ外交

2024-09-19 23:04:01 | 南アジア(インド)

(ロシアのウクライナ侵攻開始後初めてキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領(左)と抱擁を交わすインドのモディ首相=23日)【8月23日 北海道新聞】)

【注目されたモディ首相のウクライナ・ロシア仲介外交】
インドはウクライナの問題では、ロシアとウクライナ双方と関係を維持する姿勢をとっています。モディ首相は7月にモスクワを訪問してプーチン大統領と会談、8月にはウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会談・・・ということで。その「仲介外交」が注目されました。

インドのこうした外交姿勢の背景には、武器輸入などロシアとの強いつながり、アメリカにおける「もしトラ」を見据えた動き、そしてライバル中国への意識があると指摘されています。

****インド・モディ首相のウクライナ訪問、なぜ今なのか?その狙いと苦悩****
インドのモディ首相が8月23日にウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。モディ首相は、ゼレンスキー大統領に、友人として平和に協力する用意があることを伝えたようだ。7月にはモスクワを訪問してプーチン大統領に会ったばかり。モディ首相は何の理由があって両国を訪問したのだろうか。

モディ首相のウクライナ訪問が注目されるわけ
まず、なぜモディ首相のウクライナ訪問がそれほど重要なのか。ウクライナは戦時下だが、すでに多くの欧州諸国の首脳が訪問し、アジアからも、インドネシアに続いて、日本の岸田文雄首相も訪問している。その点から言えば、モディ首相が訪問しても、特に新しい側面はない。

ただ、インドがそれを行う場合、他の国とは違う側面がある。なぜなら、インドはロシアと非常に強いつながりがあるからだ。

1970〜90年代、インドは非同盟政策を掲げていたにもかかわらず、実際には、ロシア(ソ連)と正式な同盟関係にあった。

1971年にインドとソ連が結んだ印ソ平和友好協力条約の第9条は、両国が第3国に対して軍事的に協力することが書かれているから、これは同盟関係の定義に該当する。そのため、インドはソ連から大量の武器を輸入するようになり、武器の修理部品や弾薬の供給をめぐって、現在でも、ロシアに大きく依存している。

そのため、2022年2月にロシアがウクライナ侵略を開始したとき、インドはロシアを非難しない姿勢をとってきた。ウクライナのブチャで虐殺が明るみになった時も、インドは国連でその行為を激しく非難したが、「ロシア」という国名を出さないように配慮していた。

そして、日本を含め西側諸国がロシアに経済制裁をかけている最中でも、インドはロシアから原油輸入を増やし、制裁の効果を減殺してしまっていた。

ただ、インドは、相当、苦悩の末に、このような決断に至っていたようである。それがわかるのは、西側諸国にも数多くの配慮をみせてきたからであった。

まず、西側諸国による、対ロシア経済制裁に関して、中国は西側諸国を非難しているが、インドは非難していない。ウクライナに対する人道支援も行っている。

ゼレンスキー大統領に対しても、昨年、広島で行われた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の際に会ったことも含め、対面・電話両方で、繰り返し会談している。そして、モディ首相がプーチン大統領に会った際は、「今は戦争の時代ではない」と直接伝え、戦争に反対であることを明確に示したのである。

このような行動の結果、インドに対して、一つの期待が生まれた。それはインドが、ロシアによるウクライナ侵略において、両方の指導者と直接やり取りできる、仲介者になれるのではないか、という期待である。

だから、モディ首相がモスクワを訪問した次の月にキーウを訪問したことは、注目されるのである。実際にモディ首相は会談でそのような姿勢を示したようだ。

なぜ今、仲介なのか
ただ、ロシアのウクライナ侵略が始まったのは、22年2月で2年半も前だ。それまで仲介がうまくいっていないのに、なぜ今、インドの仲介外交が、注目されるのだろうか。おそらく背景には、米国の大統領選挙がある。

(中略)トランプ前大統領は、繰り返し、ロシアのウクライナ侵略を終わらせ、ロシア対策から中国対策へと、政策をシフトさせることを主張している。しかも「電話一本で終わらせる」とまで豪語している。

そのため、もし仮に11月に選挙で勝利したら、1月の就任を待たず、トランプ大統領がロシアとウクライナの停戦交渉に着手する可能性がある。

そのため、各国とも動き始めている。すでにゼレンスキー大統領はトランプ前大統領と会談しているし、ウクライナの隣国ポーランドの大統領もトランプ前大統領と会談した。

ウクライナの軍事作戦も変わった。ロシアから奪われた領土の奪還だけでなく、一部地域でロシアに積極的に攻め込んでいる。もし停戦交渉が行われるなら、奪い取った領土を交換することも考えられ、11月までにできるだけ交渉カードを得ておきたいからだ。(中略)

こうした行き来で、遠距離では伝え難いメッセージを、直接送ったり、有力人物と会ってコネを作っておくことは、トランプ前大統領が勝利した際の停戦交渉においても、インドが貢献するかもしれないことを意味している。

もし貢献したら、「米国が行う停戦交渉は、実はインドのおかげで成功した」と外交的成果をアピールできる。そのためには、今、先手を打って、動いておかなければならないのである。

ただ、インドの動きには、もう一つ懸念事項がある。中国の動きだ。プーチン大統領だけでなく、ウクライナのクレバ外相も中国を訪問しており、中国による仲介外交にも注目が集まっている。

もし仲介外交で中国が成果を上げれば、中国の影響力はますます高まる。インドは、中国に負けたくないのである。(後略)【8月26日 WEDGE】
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“ウクライナ訪問を終えたインドのモディ首相は、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、対話の重要性を改めて強調しました。モディ氏は、アメリカのバイデン大統領にも和平に向けた支援を伝えるなど、積極的な仲介の姿勢もみせています。”【8月27日 TBS NEWS DIG】

【戦争状態をうまく利用して「漁夫の利」を狙った動きとも】
よく言えば、ロシア・ウクライナ両国との関係を活かした仲介外交とも言えますが、悪く言えば両国の戦争状態をうまく利用してインドの利益を最大とする「漁夫の利」を狙った動きとも。

西側制裁を利用したロシア産原油の“買いたたき”はこれからも続けるようです。

****インド、安価なロシア産原油の購入を継続へ=石油・天然ガス相****
インドのプーリー石油・天然ガス相は17日、安価なロシア産原油の購入を継続する方針を示した。米ヒューストンで開催されたイベントでロイターのインタビューに応じた。

ロシアのウクライナ侵攻に対する西側諸国の制裁により、ロシア産原油の上値は抑えられてきた。
プーリー氏は「制裁対象外であれば、最安値で販売する企業から石油を購入するのは当然だ」とした上で、欧州各国や日本企業もロシア産原油を購入しており、インドだけではないと強調した。(後略)【9月19日 ロイター】
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一方で、インドはウクライナに砲弾を提供しており、ロシアの抗議も無視する構えです。

****インド製弾薬、欧州経由でウクライナへ ロシア抗議でも規制の兆しなし****
欧州企業がインドの軍需企業から購入した砲弾や弾薬がウクライナにわたっていることがインドと欧州の当局者の話で分かった。ロシア政府はインド側に抗議したが、インド政府は取引停止の措置を取っていないという。

インドの武器輸出規制は、武器の使用を申告した購入者に限定し、無許可の転売などがあれば取引停止にすると定める。インド外務省報道官は1月の記者会見で、インドはウクライナに砲弾を供給・販売はしていないと述べた。

当局筋によると、ウクライナに供給されているインド製砲弾薬は、国有軍需企業ヤントラなどが製造したもの。取引は1年余り前から行われており、税関の記録によるとイタリア、チェコなどからウクライナに輸出されている。

元ヤントラ幹部は非上場のイタリア防衛企業MESが同社の最大の海外顧客だと述べた。MESは、ヤントラから中身が空の砲弾を購入し、爆発物を詰めてウクライナに輸出しているという。

ロシアは事態を深刻視し、7月の外相会談を含め少なくとも2回、インド側に対応を求めた。インド当局者によると、政府は状況を監視しているが、欧州向け輸出を制限する措置は取っていないという。

関係者は、ウクライナが使用する砲弾薬でインド製が占める割合はごくわずかと指摘。ロシアによる侵攻開始後にウクライナが輸入した武器全体の1%以下と推定されている。

キングス・カレッジ・ロンドンの南アジア安全保障の専門家、ウォルター・ラドウィグ氏は、比較的少量の弾薬の移転はインド政府にとって地政学的に有益とみる。インドはロシア・ウクライナ戦争について、「ロシアの味方」ではないことを西側にアピールできると指摘した。またロシアはインドの決定に対してほとんど影響力を持たないと述べた。【9月19日 ロイター】
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“インド側には、長期化するウクライナ侵攻を軍需産業の好機と捉える見方があるとしている。”【9月19日 共同】とも。

比較的少量の弾薬をウクライナへ輸出することで、ロシアと決定的に対立することなく、「ロシアの味方」ではないことを西側にアピール・・・なかなか“うまい”と言うか、したたかな戦略です。

ただ、こうした“どっちつかず”で“漁夫の利”を狙う動きは、どっちからも本当には信頼されないということもありますので、注意が必要です。

いずれにしても、いんどのある意味“身勝手”の行動に対し、ウクライナ・ロシアだけでなく、中国を意識するアメリカもインドをつなぎとめて起きたい思いから、あまり強くは出られない・・・といったところです。

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アフリカ  中国をはじめ多くの国から“求愛”を受けながらも貧困から脱却できない事情

2024-09-18 22:56:19 | アフリカ

(6日、アンゴラ・ルアンダで中国海軍病院船「平和の方舟」の中国人医師の診察を待つ患者ら。【9月14日 新華社】)

【習近平主席 「中国とアフリカの関係は新時代の『全天候型運命共同体』にレベルアップする」】
9月3日ブログ“中国 中国・アフリカ協力フォーラムサミット開催 変化するアフリカ向け融資”でも取り上げたように、中国の対アフリカ支援に近年“バラマキ”から“収益性重視”という変化が見られます。

****中国、「ばらまき」から収益性重視か-曲がり角の対アフリカ融資****
中国は10年以上にわたり「一帯一路」構想を通じ1200億ドルを支援
「債務のわな」や搾取、汚職といった批判がつきまとう

中国の習近平国家主席がアフリカ各国の首脳を北京に今週迎える際、習氏はアフリカ側への貸し付け規模を縮小し、中国が引き換えに何を求めているのかをより明確に示すとみられる。つまり、リターンの向上とトラブルの減少だ。(後略)【9月3日 Bloomberg】
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****中国の対アフリカ開発融資、最盛期の6分の1 撤退した分野とは?****
中国が2023年にアフリカ諸国向けに決定した開発融資は総額約46億ドル(約6700億円)で、最盛期のおよそ6分の1だった。米ボストン大グローバル開発政策センターの集計で判明した。経済が停滞した新型コロナ禍以降では初めて上昇に転じたが、中国がある分野からは手を引いたことがうかがえるという。

中国は00年代以降、巨大経済圏構想「一帯一路」に沿って、豊富な天然資源を有するアフリカへの進出を強化してきた。エネルギー・資源開発や、道路や空港・港湾といった輸送インフラ整備、防衛、農業など分野は多岐にわたり、ピークの16年には計288億ドル(約4兆2300億円)に達した。

ただコロナ禍では、経済基盤が弱いアフリカ諸国の国家財政は大きな打撃を受け、対外債務の返済が厳しくなるケースが続出。中国も不良債権化を恐れて新規融資を抑えるようになり、22年には融資総額が10億ドル(約1470億円)にまで落ち込んだ。

23年にはこういったコロナ禍のダメージからの回復傾向が見られる。同センターによると中国は23年、ナイジェリアでの鉄道網整備▽マダガスカルでの水力発電所の建設▽アンゴラでのインターネット網整備――など8カ国と13件の融資契約を結んだ。

一方、中国が最近アフリカで融資を行っていないのが、石炭火力発電所計画だ。習近平国家主席は地球規模の気候変動対策の一環として、21年9月の国連総会で「石炭火力発電所の新たな輸出はしない」と発言した。同センターの集計でも、19年以降は新規の石炭火力発電所融資は確認されていない。中国がアフリカでも「脱炭素」にかじを切っていることが読み取れる。

中国の海外開発融資は「外交機密」を理由に詳細が公表されないケースがある。また中国の企業や人材を利用することが前提の「ひも付き」の融資が大半だ。支援を受ける側が返済に窮し、資産などを差し押さえられてしまう「債務のわな」に陥るリスクが高いと国際的に批判されてきた。

同センターによると、中国は近年、アフリカ輸出入銀行(エジプト・カイロ)やアフリカ金融公社(ナイジェリア・ラゴス)といった国際的な開発金融機関を通じた融資にも力を入れている。中国政府が前面に出ることがないため、融資に伴うリスクや批判を回避できるメリットがある。

中国が00〜23年に行ったアフリカ向け融資は、49カ国と七つの開発金融機関などに対して計約1823億ドル(約27兆円)だった。中国は今後、従来の「重厚長大」から「量より質」を重視する路線にかじを切りつつ、アフリカへの影響力を維持・拡大していく狙いとみられる。【平野光芳】
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そうした支援・融資の質・量の変化はあるものの、中国は毛沢東時代から一貫して対アフリカ外交を重視しており、そのことは今も変わりません。

****中国が6年ぶりにアフリカ諸国と首脳会合 グローバルサウスを取り込みへ 北京で6日まで****
中国とアフリカ諸国が参加する「中国アフリカ協力フォーラム」の首脳会合が4日、北京で開幕。2018年以来6年ぶりの開催となる。

習近平国家主席は会合出席のため訪中した各国首脳と相次いで会談し、グローバルサウス(南半球を中心とした新興・途上国)の取り込みを図った。

2000年に発足した同フォーラムには50カ国以上が参加している。6日まで開かれる今回の首脳会合について、中国メディアは「中国が近年主催した外交行事中で最大規模」と強調する。(中略)

習氏は4日までに20カ国以上の首脳と個別に会談し、南アフリカやナイジェリアなどと2国間関係の格上げを宣言した。ロイター通信によると、4日にはタンザニアとザンビアを結ぶ鉄道の改修に向けた合意文書の署名に習氏も立ち会った。

中国としては、米欧との対立激化も念頭にグローバルサウスとの関係強化を進める狙いとみられる。習氏は2日に行った南アフリカのラマポーザ大統領との会談で、「国際情勢が複雑になるほど、グローバルサウス諸国はますます独立自主、団結、協力を堅持し、国際的な公平や正義をともに守る必要がある」と発言した。【9月4日 産経】
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****習主席「運命共同体だ」関税ゼロに200億円の食糧援助…会議にアフリカ50カ国超が参加****
中国が主催し、アフリカの50以上の国の首脳らが参加する会議が北京で開かれ、習近平国家主席が「中国とアフリカは運命共同体だ」とアピールしました。

中国 習近平国家主席 「中国とアフリカの関係は新時代の『全天候型運命共同体』にレベルアップする」

「中国アフリカ協力フォーラム」の開幕式で習主席は貿易や農業など10分野での協力を打ち出しました。
貿易では発展途上国33カ国の製品の関税をゼロにする優遇措置を取るほか、食糧援助として10億元、約200億円を提供するとしています。

また、安全保障分野でも同じく10億元を無償援助し、アフリカの軍人などの育成に協力するとしました。

中国はこれらの援助を通じ、「グローバルサウス」と呼ばれるアフリカ諸国への影響力を高めたい考えです。

アフリカ記者 「中国はウガンダに友好的なローンを提供してくれる。多くのインフラのメガプロジェクトが役に立つ」

会議にはアフリカ各国から多くの記者も招待され、各国に成果を強調する狙いもあります。【9月5日 テレ朝news】
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****対アフリカで7兆円支援へ=「米欧との違い」アピール―中国主席****
中国の習近平国家主席は5日、北京で開催中の「中国アフリカ協力フォーラム」首脳会合で基調演説を行った。アフリカ諸国首脳が一堂に会する中、今後3年間で3600億元(約7兆3000億円)の資金援助を実施することや、軍事協力の強化を表明した。

首脳会合は4〜6日の日程で、中国外務省によると、50以上のアフリカ諸国・機関の首脳らが出席した。習氏は5日の演説で「中国とアフリカの関係は史上最良だ」と強調。

対立する米国を念頭に「西側諸国は近代化の過程で多くの発展途上国に苦難をもたらしたが、中国とアフリカは絶えず歴史の不公平を正そうとしてきた」と述べ、米欧との違いをアピールした。【9月5日 時事】
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また、経済・安全保障だけでなく、医療支援といったイメージアップ活動も行っているあたり、明確な国家戦略が窺えます。

****中国海軍の病院船「平和の方舟」、コンゴ共和国訪問へ****
海外医療支援任務「和諧使命−2024」を遂行中の中国海軍病院船「平和の方舟」が11日、アンゴラでの7日間にわたる友好訪問を終え、同国のルアンダ港を離れて7カ所目の訪問先となるコンゴ共和国に向かった。【9月14日 新華社】
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また、国家レベルの支援だけでなく、人的レベルでの交流も盛んに行われています。

****中国の若者はアフリカ就職を目指す 年々深まるアフリカとの関係 習主席「歴史上もっとも良い」背景に失業率や激しい競争****
近年、中国とますます関係を深めているのがアフリカの諸国です。こうした中、今、国では就職先としてアフリカを目指す若者が増えています。(中略)

中国で始まった中国アフリカ協力フォーラム。習近平国家主席は今後3年間で7兆円を超える規模の資金を拠出すると表明しました。

中国 習近平 国家主席 「中国とアフリカ諸国の関係は現在、歴史上、最も良い時期にある」

習主席が強調するように、中国とアフリカの関係は年々深まっています。現在、中国とアフリカの貿易額は過去最高を記録。ここ10年だけでもおよそ1.5倍に拡大しました。農業やインフラ建設に加え、最近は電気自動車やIT分野での経済的な結びつきが顕著です。

こうした中、今、就職先としてアフリカを目指す中国の若者が増えています。

劉さん 「私は今、ナイロビにいます。このような決断をするとは思っていませんでした」

ケニアの首都・ナイロビで半年前から不動産関連の企業で働く劉さん(23)。なぜ、アフリカで就職しようと思ったのでしょうか?

劉さん 「中国の深センで働いていましたが 仕事は好きではありませんでした。競争が激しく、残業が当たり前で、給料もよくなかったからです」

彼女のように激しい競争を避け、アフリカを目指す若者が、ここ数年、増えているといいます。また、若者の失業率が高いこともアフリカへの就職に拍車をかけていると中国メディアは伝えています。

今ではケニアでの暮らしに満足しているという劉さん。

劉さん 「来る前はアフリカは貧しく、安全ではないという情報ばかりでしたが、来てみたら良かったです。アフリカには、まだ多くのチャンスがあります」

今後、新たな活躍の場を求め、新天地を目指す若者はますます増えそうです。【9月5日 TBS NEWS DIG】
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日本では“アフリカでの就職を目指す”若者・・・まず見ないですね。このあたりが、アフリカに対する姿勢に関する日中の違いでもあります。その姿勢・認識が変わらないと日本がTICADでいくらカネをバラまいても余り効果も上がらないかも。

【中国をはじめ多くの国から“求愛”を受けながらも貧困から脱却できないアフリカ 債務問題と内戦等による人道的危機の問題が重大な制約に】
“グローバルサウス”重視の昨今、中国だけでなく、日本や欧米、更にはインドや中東湾岸諸国をはじめとする多くのミドルパワーがアフリカへの働きかけを強めていますが、“21世紀はアフリカの世紀”と言われつつも、アフリカの現状は芳しくありません。

****<“ミドルパワー”から求愛されるアフリカ>盛んな投資を受けるも貧困から脱却できない複雑な背景****
フィナンシャル・タイムズ紙(FT)の8月30日付社説‘The middle-power competition in Africa’が、アフリカにおいて湾岸諸国等のミドルパワーの影響力争いによりもたらされている成長の機会をアフリカ諸国が無駄にしている、と論じている。要旨は次の通り。

アフリカが世界の主要議題となることはほとんどない。しかし、このような明白な経済的、戦略的影響力の欠如にもかかわらず多くのアフリカ諸国は、トルコ、ブラジル、ロシアなど様々な国から求愛されている。

このような「ミドルパワー」の関心は、アフリカの指導者たちに投資と戦略的パートナーに関する多くの選択肢を提示している。

このような多様な選択の可能性を巧みに利用すれば、各国が貧困から脱却できる機会になるかもしれない。重要なインフラ・プロジェクトに関しより良い取引ができ、一次産品取引に原材料の国内加工を伴うことを主張することもできる。アフリカ大陸自由貿易地域を加速させるべきであり、それだけで分断された経済を魅力的な単一市場に変えることができる。

英、仏といった旧植民地大国は長年にわたり、アフリカ大陸に生産的に関与しようと苦闘してきたが、かえって反発を招いてきた。

米国は、冷戦後、冷淡になった。投資家は、アフリカとの距離と厳しい贈賄防止法によって意欲をそがれた。ワシントンはアフリカをほとんど安全保障の観点からしか見なかったが、バイデン大統領のもとで、戸惑いながらも再関与の兆しを見せている。

米国と欧州の影響力の相対的な低下による空白を最初に埋めたのは中国である。その後にインドや湾岸諸国をはじめとする多くのミドルパワーが加わった、アフリカは国連に人材と票を提供している。

長期的には、アフリカには市場が約束されている。2050年までにアフリカの人口は25億人に達しその半分は25歳以下である。彼らがそこそこの生活水準に達するだけで、それは大量の消費者となる。また、コバルト、リチウム、マンガン、銅などのエネルギー転換鉱物をめぐる競争も激化している。

アフリカから見れば、この新たな関心は選択肢を意味する。タンザニアはドバイが運営する港を、ガーナとニジェールはトルコが建設する空港ターミナルを、中央アフリカとマリはロシアの傭兵を選んだ。

選択肢にはコストが伴う。欧州のアフリカへの投資は、中国にはない国内的な精査を受けることになる。しかし、中国からの借金の累積は、ザンビアからエチオピアに至るまで、債務不履行の波につながっている。

無用の長物のような投資が多すぎるのだ。ケニアに建設された40億ドルの中国鉄道は、経済の生産性向上よりも、政治家の取り巻きのために建設された。

ミドルパワーは、新たな安全保障上の絡みをもたらしている。スーダンの内戦へのアラブ首長国連邦(UAE)の介入は、世界最悪の人道的大惨事を長引かせている。金やダイヤモンドで報酬を得るロシアの傭兵は、経済的、社会的発展の面では何も提供しない。

ケニアの抗議者たちが指摘しているように、アフリカの指導者たちは、国家の発展のためではなく、自分たちの利益のために行動することがあまりにも多い。

アフリカにおける競争は、より多くの成長、より多くの製造業、そしてより多くの雇用の拡大が期待できるが、提供されている新たな関与のパターンによる機会を、今のところ、ほとんどのアフリカの政府が浪費している。

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アフリカの発展へ考慮すべき点
上記の社説の、ミドルパワーのアフリカへの関心を効果的に利用すべきだとの指摘は、現状の一面において的確な指摘ではあるが、アフリカの発展について論ずるのであれば、社説中に簡単に言及のある、債務問題と内戦等による人道的危機の問題が重大な制約となっていることを無視することはできず、これらの面を合わせて考慮しなければバランスが取れない。

8月28日付ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙の解説記事によれば、アフリカの対外債務は昨年末で1兆1000億ドル以上に達し、20カ国以上が過剰債務を抱え、外国債権者の数と多様性が従来になく際立ち、解決を困難にしている。

対外債務はナイジェリアで400億ドル、ケニアで350億ドル、ウガンダで120億ドルに達し、債務返済のための増税に反対する大規模な抗議活動やインフレ、極度の貧困の下での反政府デモが頻発している。

これらの国の債務の70~80%は中国が債権者であるが、中国は、債務救済に消極的で、債務不履行に陥ったザンビアは、債務再編まで4年近くかかった。この債務問題は、アフリカから成長の機会を奪い、社会的不安定を煽るものである。

また、人道的危機については、現在、スーダン、マリからナイジェリア北部に至るサヘル地域、中央アフリカ、コンゴ民主共和国東部、ソマリア、リビアといった地域で、内戦や過激派イスラム組織との武力衝突といった状況がある。

特に、スーダンでは、1年以上続く内戦で850万人の避難民が生じており、反乱軍を支援するアラブ首長国連邦が紛争終結の鍵を握るとされている。また、コンゴ民主共和国東部ではルワンダが介入する長年の紛争で730万人が故郷を追われた避難民となっているとされる。(後略)【9月16日 WEDGE】
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9月5日、国連のグテレス事務総長は中国アフリカ協力フォーラム首脳会合でアフリカ諸国について、不十分な債務救済や資源の乏しさが社会不安につながっているとの認識を示し、国際的な金融構造の改革を促しています。

****国連事務総長、不十分な債務救済がアフリカの社会不安の原因と警告****
国連のグテレス事務総長は5日、アフリカ諸国について、不十分な債務救済や資源の乏しさが社会不安につながっているとの認識を示し、国際的な金融構造の改革を促した。

ケニアでは増税に反対するデモ隊と警察が衝突し、ナイジェリアや ウガンダでは生活費を巡り抗議デモが発生した。

アフリカ諸国は20カ国・地域(G20)が提唱した「共通枠組み」を通じた債務再編を模索してきたが、協議は期待通りに進んでいない。

ザンビアは6月、債務不履行から3年以上を経て、このスキームを活用した債務再編に成功した最初の例となった。

グテレス氏は北京で開催された中国アフリカ協力フォーラム首脳会合で、アフリカの債務は「持続不可能で社会不安の原因となっている」と指摘。

「アフリカは効果的な債務救済を受けることができず、資源も乏しく、国民の基本的なニーズに応えるための資金も明らかに不足している」と述べた。

その上で「時代遅れで非効率的な国際金融構造の抜本的改革」の重要性を指摘し、中長期的な解決策を模索しつつ流動性の提供を可能とする政策の必要性を訴えた。【9月5日 ロイター】
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ミャンマー  徴兵実施、就労国外出国禁止に翻弄される若者 水害で“異例”の国際社会への支援要請

2024-09-17 23:23:59 | ミャンマー

(ミャンマー・ネピドー近郊で物資を運ぶ人たち【9月14日 共同】 首都ネピドーはいいですが、問題は戦闘が続いているような奥地に支援が届くかどうかです)

【徴兵実施、就労国外出国禁止に翻弄される若者】
国軍と少数民族武装勢力及び民主派武装組織との戦闘が続くミャンマーでは、国軍の兵員不足を補うために2月10日に徴兵制の実施が宣言されました。

その内容や時期については二転三転しており、若者たちの人生が翻弄されていますが、同時に就労のための国外出国が禁止になるなどの措置も。

周知のように、ミャンマーでは多くの若者が日本での就労を希望して日本語学校で学んできましたが、彼らの道も閉ざされた形になっています。

****ミャンマー「徴兵宣言」から半年、苦渋の選択を迫られる日本語学習者たち****
2021年にクーデターを起こしたミャンマー軍事政権は、今年2月10日に徴兵制の実施を宣言したが、対象者や実施時期に関する発表が二転三転し混乱を招いている。民主化時代に日本企業への就職を目指して日本語を学び始めた若者たちは、不条理な現実と折り合いをつけながらそれぞれの未来を選択している。(中略)

ミャンマー人は祝日がころころ変わることなど日常茶飯事と笑い飛ばす。実際、徴兵制度という人の一生を左右するほどの重大事でさえ、猫の目のように内容変更が繰り返されている。

▽2024年2月10日に徴兵制の実施を発表。
▽2月20日に女性の徴兵対象外とする⇒現在は徴兵の対象としている。
▽特定技能・育成就労など就労目的の出国禁止令を発令⇒撤回⇒現在は男性にのみ就労目的の出国を禁止。
▽徴兵制は4月下旬からと発表⇒3月末に開始。

現在もいつ実施内容が変更されるかわからない状況だ。国軍メディアと独立系メディアの報道が入り混じり、さらにSNSの無責任情報や町中での噂話が混在している。その中に、それらの情報に振り回される個人の現実が存在する。

「もう日本には行けない」――授業も希望も捨てた生徒
あるヤンゴンの日本語学校の教師が「まるで防空壕の中で震える人を見ているかと思った。戦争経験などないのに」と話してくれたことがある。2月10日、軍が徴兵制の実施を発表した日の話だ。

日本語教師は前日となんら変わらない朝を迎え、いつものように授業に向かったところ、教室の教え子たちがみな土気色をした顔で表情がないことに驚いたという。昨日と何が違うのか? 重い空気だけが教室に淀んでいる。みな平静を装い受講しているものの、休憩時間にはひそひそ話が始まる。

異様な様子に驚いている日本語教師にスタッフが、徴兵制の発表があったのだと説明した。日付が変わった頃からSNSで情報が出回っており、そのスタッフも昨晩は一睡もできなかったという。一方、日本人である教師は、徴兵制がもたらす現実の重みをすぐには理解できなかった。

徴兵の対象は男性18歳〜35歳、女性18歳〜27歳。学生、公務員は猶予するという発表だった。ミャンマー報道の難しさに定義の曖昧さがある。年齢を出生時で1歳とする場合(数え年)と出生後1年目に1歳とする場合(満年齢)があり、場合によってどちらを使用するかもまちまちであるため、発表された年齢を正確に把握することができない。

ミャンマーの徴兵制は2010年に導入されていたが未実施のままであった。民主派や少数民族武装勢力と軍の攻防が激化し、軍が劣勢になり始めたという情報が飛びかう中での実施発表だった。しかし、発表と同時に疑問の声があがった。

投降・脱走などによる兵士不足を補うための徴兵制ということだが、「軍事政権」と「民主派」がもめている状況下、後者の側に立って軍に抵抗する傾向が強い一般の若者たちを徴兵して、軍人にできると考えているのか?
「だから、軍はバカなんですよ」と嬉しそうに耳打ちする人もいる。大声では言えないが言わずにはいられないのだろう。しかし、軍を批判したところで若者が徴兵制に震えていることは事実なのだ。(中略)

それぞれの意見・分析がどうであろうと、現政権(軍)の決めたことに抗うことはできない。国民がいうところの「めちゃくちゃ」な内容変更も続く。

ミャンマーの海外人材派遣協会(MOEAF)は2月13日、海外就労に対する求人の情報更新を停止すると発表。在ミャンマーの日本の送り出し機関には労働局から、徴兵条件に当てはまる若者に対しての送り出し中止の通達が届いた。関係者の話によるとこの通達は電子メールなどで各送り出し機関に伝えられ、軍評議会労働省からの公的な正式発表はなかったという。

それでも、就労目的のミャンマー人が通う日本語学校が次々と休校(時には閉鎖)しているという話が広がった。事実がどうであれ、軍の思惑に従うポーズは必須と考えるのは事業者として当たり前だろう。

逆に、できるだけ早く教え子たちを日本に脱出させる必要を唱える人々もいた。ある日本語学校のミャンマー人校長は「軍の決めたことはすぐに変わる。私の学校は休校にしませんでした。就労目的の授業は普通に行っていますよ。でもね、徴兵制の発表直後に“もう日本に行けない”と落胆しきった一人の生徒は、授業を放棄して、つまり今までの努力も希望も放り出して田舎に帰ってしまいました。止めるわけにはいきません。私は田舎までの道のりのほうが危険だとは思いましたが……」 徴兵制の実施が発表された2月はこのような混乱が続いていた。

留学か就労か、それぞれの選択
(中略)このように大きな混乱を呼んだ徴兵発表の日から、半年がたった。ヤンゴンで日本語を学ぶ若者たちは今何を考えているのか。旧知の日本語教師に教え子を紹介してもらい、今後の人生プランについて聞いてみた。

〈介護奨学金で脱出する〉男性・27歳
A君は日本語能力がN3(日常的な会話をある程度理解できるレベル)、通信大学中退(中退の理由はクーデター)の27歳だ。

男性の就労目的の出国は24年8月現在では認められていない。だから、A君は特定技能や育成就労のような申請で日本へ行くことはできない。そうかといって、自費で学生として留学することなど完全に不可能な経済状況だ。「選択肢は介護奨学金留学生の立場での出国一択になります」という。

介護奨学金制度では、介護福祉士の資格を取るための約2年間の学費を介護施設が提供し、その奨学金の返済期間として約5年間の就労が条件となる。7年間の拘束期間が確実となる選択であるが、本人はなるべく早く国を出ることを最優先する選択に迷いはないという。20代後半〜30代半ばという貴重な時期を、自分の意志での進路変更が不可能な環境で過ごすと決めた。

A君の友人は「ふた月前はちょっと長めの黒髪のイケメンでしたが、あっという間に白髪が増えたんですよ」と彼の胸中を察していた。「介護奨学金を受けるには日本語能力N3が絶対に必要。A君はのんびり屋さんの印象でしたが、これだけの短期間に日本語学習をしたことをほめてやりたいです」

〈大卒でも「特定技能」を選ぶしかない〉女性・20代後半
介護奨学金で渡日することができない例も存在する。Bさんは日本語能力N2(上から2番目のレベル)の大卒。面倒見のいい女性であり、介護分野は自分に向いていると思っていたと話す。しかし、介護奨学金ではなく特定技能の在留資格で渡日を目指すこととした。

「私のパスポートはPJなんです」
ミャンマーのパスポートには種類がある。PJとは「パスポート・ジョブ」のことで、就労用パスポートを意味する。コロナ禍前、特に渡航目的を定めずにパスポート申請をしたBさんは、PV(パスポート・ビジット=観光用パスポート。留学も可)より使い勝手が良いかもしれないとPJを選択していた。

ところが人によっては、パスポートがPJであるかPVであるかが、ミャンマー出国の成否を分けることになる。就労目的で出国しようとして、パスポートがPVであったため出国できなかったという事例があった。飛行機にチェックインし、いざ出国というときにはじかれたのである。

(中略)たまたま選んだパスポートの種類によって、人生の選択肢が絞られてしまったのである。

パスポートの新規取得さえ難しくなっている今、PJをPVに変更するのにどれほど時間とお金がかかるかわからない。手持ちの条件の中で少しでもマシな人生を選択することが賢明だ。BさんはPJの有効な使い道は特定技能での渡日と判断。14種ある特定技能のうち、介護ではなく宿泊業を選ぶそうだ。(後略)【9月12日 新潮社 Foresight】
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【軍事政権 台風11号水害で“異例”の国際社会への支援要請】
台風11号は9月6日(金)に中心気圧925hPaの非常に強い勢力で中国の海南島に上陸し、その後7日(土)にはベトナムに上陸しました。この台風は戦闘に疲弊するミャンマーにも大雨を降らし、甚大な洪水被害をもたらしました。

****ミャンマー軍“大雨による洪水などで死者226人、行方不明者77人” 東南アジアで被害拡大 4か国で約500人死亡****
ミャンマー軍事政権は、連日の大雨による洪水や土砂崩れで226人が死亡し、77人が行方不明となっていると発表しました。

ミャンマーでは今月9日以降、大雨による洪水や土砂崩れの被害が各地で相次ぎ、首都・ネピドーでも多くの家屋が浸水しました。

国の実権を握るミャンマー軍は17日、これまでに全土で226人が死亡したほか、77人が行方不明になっていると発表しました。

OCHA=国連人道問題調整事務所は「63万1000人が被災したと推定される」としたうえで、通信の遮断や道路の寸断などに加え、クーデター以降続いている軍と抵抗勢力の武力衝突で救援活動が妨げられているとしています。

戦闘の長期化で、国内の避難民はすでに200万人を超えており、人道危機のさらなる悪化が懸念されています。

東南アジアでは、台風11号が熱帯低気圧に変わったあとも大雨の被害が拡大していて、ベトナム、タイ、ラオス、ミャンマーの4か国で、死者はあわせておよそ500人に上っています。【9月17日 TBS NEWS DIG】
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この種の災害被害に関し、ミャンマー軍事政権には深刻な“前歴”があります。
2008年5月、サイクロン「ナルギス」によって死者・行方不明者13万人超という甚大な被害を被ったにもかかわらず、軍事政権は大部分の国際支援が入るのを拒否し、新憲法の国民投票実施を強行しました。

国民の生命より政治日程を優先させる軍事政権の姿勢は当時国際社会から強い批難を浴びました。

*****ミャンマー  国民投票強行、進まない救援活動、物資横流しも・・・****
(中略)
被災地を封印
サイクロン被害の救援活動については、外国・国際機関からの人的支援を拒んできましたが、タイ・インドといった近隣の比較的良好な関係を持つ国々からの支援は認めたものの、その他については以前頑なな姿勢を崩していません。

軍政は被災地の封印を図っているとも伝えられます。【5月15日 毎日】
ヤンゴンから被災地に向かう道路に検問所を設け、通過車両を1台ずつチェック。外国人が乗っていると、強制的に引き返させています。

被災地に入る援助関係者には事前に「特別許可」を取得するよう求めていますが、国連関係者によると、許可はわずかしか発行されません。

一般市民が食糧など救援物資を直接持ち込むことも禁止し、政権の翼賛団体に寄付するよう求めています。
 
そんななか、国連事務総長から軍政トップの国家平和発展評議会議長に全面的な支援受け入れを求めた3通目の書簡を託された緊急援助調整官室の事務次長が、18日にミャンマーを訪問する予定です。

援助物資横流しも
現地からは、軍政の救援活動の不十分さ、あるいは物資横流しなどの情報が多数報じられています。

「(被災地で)軍による救援活動を一度も見なかった」「援助なんて何も来ていない」「あれだけ軍隊がいるのに、何をやっているのか」「軍事政権は被災地での被害状況調査も一切行っていない」【5月17日 毎日】

「役人が救援物資の国際援助食糧を質の悪いものにすり替え、被災者に渡しているのを目撃した」
「軍人が小袋の米を1万チャット(約1000円)で売っていた」
ヤンゴン空港に届いた被災地用の発電機が新首都ネピドーに転送されたとの目撃情報もある。【5月16日 読売】

タイが送った援助用食料が同市内の市場で売られているほか、援助物資として届いた防水シートや蚊帳、即席めんなどが市場の内外に立つ露天で販売されている。【5月14日 時事】

海外から届いた援助物資に「○○将軍から○○地区への寄付」と書いた紙が貼られていた。【5月16日 IPS】(後略)【2008年5月17日ブログより再録】
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2023年5月14日にも、猛烈なサイクロン「モカ」が上陸。西部ラカイン州などが大きな被害を受け、500人以上が死亡したと報じられていましたが、国連の支援などを制限、避難民に救援物資を届けようとしたASEAN代表団を乗せた車列が銃撃されるなど、支援活動はうまく進みませんでした。

そうした“前歴”を踏まえてのことでしょうか、今回は“異例”の国際社会への支援要請を行っています。

*****ミャンマー軍政、台風被害で国際社会に異例の支援要請 32万人避難****
ミャンマーで台風による洪水被害が拡大し、軍事政権が国際社会に支援を求める異例の事態になっている。

軍政によると、今月上旬に東南アジアを襲った台風により、国内で少なくとも113人が死亡し、32万人が避難しているという。軍政はこれまで外部の介入を嫌ってきたが、抵抗勢力との戦闘の長期化で疲弊し、支援に頼らざるをえない状況とみられる。

国営メディアは14日、ミンアウンフライン最高司令官が「救助や物資の支援を受けるため、外国と連絡を取る必要がある」と述べたと報じた。

東南アジアとの関係強化を進めるインド政府は15日、ミャンマーに医薬品など10トンの緊急支援物資を送ったと発表。インドのジャイシャンカル外相は同日、X(ツイッター)にミャンマーやベトナム、ラオスに送る物資を軍艦などに積み込む写真を公開した。

ミャンマーでは2023年5月にも大型サイクロンによる甚大な被害が出た。当時、国連などが支援を申し出たが、国軍は軍の関与なしに物資を市民に届けられないように制限。そのため、復興が難航し、国連人権高等弁務官が国軍を非難した経緯がある。

21年にクーデターで全権を掌握した国軍は国際社会から孤立し、内戦の長期化で社会や経済の混乱を招いてきた。国内避難民は既に300万人を超えたとされ、災害が国民生活に追い打ちをかけている。【9月16日 毎日】
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17日発表では死者は226人に。

“独立系地元メディア「イラワジ」によると、16日現在で30万人以上が避難している。国軍のほかミャンマーの民主派勢力が樹立した「国民統一政府(NUG)」なども17日、食料や医薬品など物資の提供を国連などに呼びかけた。”【9月17日 読売】

支援物資は戦闘によって阻害されることなく速やかに被災地に届くことを願います。

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中米エルサルバドル  ブケレ大統領の超法規的治安対策 成果の一方で冤罪も

2024-09-16 22:54:25 | ラテンアメリカ

(【9月12日 TBS NEWS DIG】)

【ブケレ大統領 治安対策が評価され得票率は83%前後で圧勝】
今年2月、中米エルサルバドルでは現職のブケレ大統領が国民の圧倒的支持を受けて再選されました。

ギャングが横行し、「世界一治安の悪い国」であったエルサルバドルにおいて、徹底したギャング対策を行い治安を大幅に改善させたことが評価された理由です。

しかし一方で、憲法で保障された一部権利を制限した上での強硬なギャング対策、事実上の一党独裁に近い形態については、民主主義の観点からの懸念も強く存在します。

****エルサルバドル大統領選、現職ブケレ氏圧勝で1党独裁の懸念****
エルサルバドルで4日実施された大統領選は、現職のブケレ大統領が地滑り的勝利を収めた。ギャング弾圧による治安改善が支持された形だが、事実上の1党独裁国家になり、民主主義が脅かされるとの懸念も広がっている。

5日時点で開票は続いているが、ブケレ氏の得票率は83%前後に達するもようで、議会選(定員60)でも同氏の与党・新思想党が58議席を制する勢いだ。

人権団体は、権力の集中が進んで公民権がさらに抑圧されると懸念している。中米大学・人権研究所のディレクター、ガブリエラ・サントス氏は「ここまで権力が集中したということは、エルサルバドルに(公民権の)保証はなくなったことを意味する」と述べた。

しかし支持者らは、法的手続きに基づかずに多くの市民を拘束するなどの独裁的手法を意に介さず、むしろギャングによる暴力が減って夜間に外出できるようになったことに感謝している。

一部の中米諸国は、左派ゲリラと、米国を後ろ盾とする右派独裁体制との紛争を経て、持続的な民主主義モデルを立ち上げるのに苦慮してきた。ブケレ氏の人気ぶりは、そうした実情を浮き彫りにしている。

ブケレ氏は大統領の任期制限を撤廃し、隣国ニカラグアのオルテガ大統領のように終身統治を目指すのではないか、との懸念もある。

一方、野党の大統領候補はいずれも得票率が1桁台にとどまる見通しで、支持率回復は遠い道のりだ。ブケレ氏は、インターネット上でジャーナリストや政敵を攻撃してくれる「部隊」を雇ってメディアを巧みに操り、選挙戦で野党を「ギャングの仲間」と位置付けることに成功した。

ここ数年、議会はブケレ氏の提案を右から左へ通すだけで、成立した法律の大半は大統領府の提案によるものだった。【2月6日 ロイター】
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【「例外措置体制」で人口の1%超を逮捕 「世界一治安の悪い国」から米大陸ではカナダに次ぐ2番目の低さへ】
ブケレ大統領の治安対策「成功」は、同様に治安の悪化に直面している中南米のほかの国々からはモデルケースとして注目されています。

*****約7万5000人を拘束 「世界一治安の悪い国」からの脱却****
最も成果を上げているのが治安対策です。

2019年6月に「犯罪地域コントロール計画」を打ち出し、警察と軍の装備を強化してギャングの取締りを進めました。

2022年3月に、取締りに反発したギャング側が1日に62人を殺害すると、議会に要請し、憲法で保障された一部の権利を制限する「例外措置体制」を発動しました。

「例外措置体制」のもとでは逮捕状なしでギャングのメンバーを大量拘束でき、これまでに人口の1%を超えるおよそ7万5000人が拘束されたとされています。

ブケレ大統領は拘束した大量のギャングのメンバーを収容するために4万人を収監できる刑務所を新たに建設し、ギャングのメンバーを厳しい監視下に置きました。

エルサルバドルは長年、「世界一治安の悪い国」とされてきましたが、こうした治安対策で人口10万人あたりの殺人事件の件数はブケレ大統領が就任する前の2018年に世界最悪の51人だったのが、2023年には2.4人にまで減少し、アメリカ大陸ではカナダに次ぐ2番目の低さにまで治安が改善しました。

ブケレ大統領の治安対策は、人権を侵害しているうえ刑務所では拷問も行われているなどとして国際社会や人権団体から批判の対象となっていますが、治安の悪化に直面している中南米のほかの国々からはモデルケースとして注目されています。【2月3日 NHK“エルサルバドル 現職大統領の再選確実視 ギャング対策を徹底”】
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これまでにギャング関係者として逮捕された8万2000人におよび、人口634万人の1.3%に達します。(日本の人口に換算すると約160万人)

【「社会復帰させない」ことを前提にした隔離のための巨大刑務所】
この膨大な逮捕者を収容すべく、定員4万人の巨大刑務所が建設されています。

****“世界一恐ろしい”エルサルバドルの4万人巨大刑務所を日本メディア初取材 「ギャング撲滅作戦」の壮絶さとは…****
(中略)
中米・エルサルバドルの巨大刑務所「テロリスト監禁センター」。定員は4万人。収監されているのは殺人や誘拐など、複数の凶悪犯罪にかかわったギャングの元メンバーとされています。

記者 「このエリアを見下ろすように監視員が立っていて、銃を持っています」

政府はギャングを「テロリスト」と定義し、安全の確保を最優先にしています。

受刑者は誰もが丸刈りで、枕も毛布も使えません。フォークやナイフなどは凶器として使われる可能性があるため、食事は「手づかみ」と決められています。そして、家族はもちろん、外部との接触は一切禁じられています。

殺人や強盗など500以上の犯罪にかかわったという受刑者に、本人の意思を確認したうえで、特別な許可を得て話を聞きました。

ギャンググループの元リーダー
「ここは厳格な規律と厳しい服従を求められる刑務所だ。5つ星のホテルではない。若者はもちろん、『かつての敵』であっても誰もここに収容されてほしくない」

エルサルバドルは30年近くにわたってギャングが縄張り争いを繰り広げ、「世界で最も治安が悪い国」と呼ばれるほど国民生活は荒廃していました。

しかし、近年、政府は非常事態を宣言し、「超法規的な措置」でギャング撲滅作戦を展開しています。例えば、ギャングと関係するタトゥーが体に見つかったり、第三者からの通報があったりすれば、司法手続きを経なくても逮捕が可能となっています。

それにより、2010年代に世界最悪だった殺人事件の発生率は劇的に改善。「中南米で最も安全な国」と言われるまでになりました。

今、街中からギャングの姿は消え、平穏を取り戻した国民の多くは現政権を熱狂的に支持しています。ただ、なりふり構わぬ治安対策の「負の側面」も表面化しています。

ドゥラン・ロドリゲスさん。ギャングとの関係を疑われた22歳の息子が去年、刑務所で死亡しました。

ドゥラン・ロドリゲスさん
「息子はギャングのメンバーではありませんでした。息子に会いたいです。でも、もうそれはできません」

ロドリゲスさんによると、ある晩、匿名の通報を受けた警察が突然、家にやってきて、息子を逮捕したといいます。「拳銃を持っているはずだ」と捜索を受けましたが、結局、銃は見つかりませんでした。

しかし、息子はそのまま刑務所で亡くなり、当局からも詳しい説明などはないということです。

ドゥラン・ロドリゲスさん
「ギャングを捕まえるのは素晴らしいことですが、もう止めてもらいたい。多くの母親たちが私と同じように苦しんでいます」

地元の市民団体などから冤罪や人権侵害を批判する声もあがっていますが、政府は「最後のギャングを逮捕するまで撲滅作戦を継続する」としています。【9月4日 TBS NEWS DIG】
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【超法規的措置による冤罪も多発】
****殺人に誘拐…凶悪犯罪 “世界最恐”ギャング刑務所の実態「世界一治安が悪い国」が“ギャング撲滅作戦”で激変も…えん罪訴える人続出【news23】*****
(中略)
世界で最も治安が悪い国 エルサルバドルの"日常" 80ドル払えずギャングから銃撃
エルサルバドルは30年近くにわたって、ギャングが縄張り争いを繰り広げ「世界で最も治安が悪い国」とも呼ばれました。

最悪だったのは、2015年で10万人あたりの殺人事件は106.3件。単純比較はできませんが、直近の日本(0.7件)の約150倍。エルサルバドルの治安は崩壊状態でした。

当時、人々を苦しめたものの1つが、ギャングの「みかじめ料」でした。露天商として生計を立ててきたホセ・アントニオさん。 

7年前にギャングに銃で撃たれました。商売をするために要求された80ドルのみかじめ料を払えなかったからです。(中略)

アントニオさんは病院に運ばれ一命をとりとめましたが、これがエルサルバドルの「日常」でした。

政府“ギャング撲滅作戦” 殺人事件の発生率は劇的に改善
こうした状況を一変させたのが、2019年に発足した現政権による"ギャング撲滅作戦"です。

大橋記者 「日が暮れたところですが、軍による治安維持のオペレーションが始まりました。一軒一軒家をまわって、不審者がいないかどうか確認するということです」

政府は、治安対策を最優先課題に軍隊や武装した警察官をギャングの取り締まりに投入。 特に成果を挙げているのが、例外的な位置づけで導入された「超法規的措置」です。

ギャングと関係するタトゥーが体に見つかったり、第三者からの通報があったりすれば、司法手続きを経なくても逮捕が可能となっています。

強権的な措置は功を奏したのか、世界最悪だった殺人事件の発生率は劇的に改善。わずか数年のうちに「中南米でもっとも安全な国」と言われるまでになりました。

なりふり構わぬ治安対策 “負の側面”も
いま街からギャングの姿は消え、平穏を取り戻しました。(中略)国民の多くは政府を支持していますが、なりふり構わぬ治安対策の「負の側面」も表面化しています。(中略)

ドゥラン・ロドリゲスさん。 ギャングとの関係を疑われた22歳の息子が2023年、刑務所で死亡しました。(中略)

こうした“冤罪”を訴える人がエルサルバドル全土で続出していて、国際社会からも非難の声があがっています。
例外的な「超法規的措置」はいつまで続くのか?政府の責任者は…

地元の専門家は、政府がギャング対策の名のもとに人権侵害を正当化していると指摘します。

セントロアメリカ大学 ガブリエラ・サントス教授
「安全の確保のため人権を犠牲にするのは、本来あってはいけないことです。 『超法規的措置』は一時的なものだったはずですが、もはや恒久的な政策です」

国民の安全を守るためには、一定の人権侵害はやむを得ないのか。
例外的な「超法規的措置」はいつまで続くのか?

私たちは政府の責任者を訪ねました。

ビジャトロ司法公共治安大臣 「私たちエルサルバドル政府は、国内でギャングのメンバーの最後の1人とすべての連続殺人犯を捕まえるまでは現在の”緊急態勢”を維持し続けるつもりだと公言してきました。これ以外の方法はあり得ません」

政府は「法律は順守していく」とする一方、国民からの支持を背景に“ギャング撲滅作戦に変更はない”という方針で、巨大刑務所の受刑者は当分増え続ける見通しです。【9月12日 TBS NEWS DIG】
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****「無実の被害者」解放を ギャング取り締まりのエルサルバドル****
エルサルバドルで15日、ナジブ・ブケレ大統領が推し進める犯罪組織対策で拘束された「無実の被害者」を解放するよう訴えるデモ行進が行われた。

息子が拘束されたという母親は、「私の息子は無実。私の息子は犯罪者ではない」と訴えた。息子のエデニルソンさんは2022年5月、ザカテコルカ市の職場で、正当な理由もなく身柄を拘束されたという。

ブケレ大統領は2022年3月、ギャングを取り締まるための「戦争」を開始し、非常事態を宣言。逮捕状が不要になるなど、憲法で保障された権利の一時制限措置を発令した。

ブケレ氏の手法は人権団体らに批判されているが、暴力に疲弊していた市民の大半は、殺人事件の発生率低下を歓迎している。

人権団体らは、これまでにギャング関係者として逮捕された8万2000人のうち、約30%は無実と推定されるとしている。 【9月16日 AFP】AFPBB News
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エルサルバドル同様の超法規的治安対策で圧倒的成果を収め、高い国民支持を獲得したのがフィリピン・ドゥテルテ前大統領も麻薬対策でした。

フィリピン・ドゥテルテ前大統領の場合は、“超法規的”殺人が横行し、警察だけでなく、謎の集団が麻薬取引関係者と見られる者を大量に殺害しました。

その中にはもちろん無実の罪で殺害されるケースもありましたし、警察(こういう国では大抵犯罪組織と癒着しています)に都合の悪い者を“抵抗した”という理由をつけて“口封じ”的に殺害することも。

おそらく、エルサルバドル・ブケレ大統領はフィリピン・ドゥテルテ前大統領の取組を参考にしたのではないでしょうか。(ブケレ大統領の場合は、殺害するのではなく、逮捕して巨大刑務所に隔離して外に出さない・・・ということで、ドゥテルテ比大統領に比べたら穏健かも)

ドゥテルテ前大統領が教える教訓は、”どんなに強引な方法であっても、治安改善という結果を出せば、多くの国民はこれを支持する”ということでしょうか。

超法規的対策の被害が及ばない圧倒的多数の一般国民にとっては、犯罪者がどいう扱いを受けようが知ったことではなく、治安が改善すれば「大成功」と評価します。

国民の多くがそういう観点で投票すれば、超法規的対策が選挙で民主的に支持されます。

民主主義というものは、有権者が自分にとっての利害だけでなく、ある特定の者が負わされる不当な状況に関して思いを寄せる想像力を有するのでなければ、単なる“数”によるポピュリズムに堕します。

もちろん、ギャング・麻薬組織が横行する状況では、従来のような生ぬるい対応では治安は改善せず、多くの国民がその被害を被る・・・というのもわかります。どこまでが許されて、どこからが許されないのか、一概に言うのは難しいところですが、バランスの問題でしょう。

“超法規的”殺人はレッドカードだと思いますが、“超法規的”逮捕となると・・・その中身でしょう。
“超法規的”が(もしどうしても必要ということであれば)許されるのは危機的状況のなかでの一時的なことで、速やかに明確なルールが定められるべきで、併せて警察以外の第三者によるチェックが必要でしょう。

また、犯罪組織と癒着した権力内部・警察の改革断行も必要でしょう。
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アフガニスタン  女性抑圧を法制化 女子教育にインターネットや衛星放送を利用する国外取組も

2024-09-15 23:23:26 | アフガン・パキスタン

(カブールで、人道支援団体から配給される食糧を待つアフガニスタンの女性たち(2023年5月23日)【8月26日 HUFFPOST】)

【女性が全身と顔を覆うことを義務化する新法 タイトな服、歌声も禁止】
アフガニスタンでは国際批判にもかかわらず、タリバン暫定政権による女性教育の制限など、女性の権利に対する侵害が続いていますが、タリバン暫定政権は8月21日、女性が公の場で全身と顔を覆うことを義務化するなどした新たな法律を発表しました。

イスラム法に基づくと主張している現行の抑圧政策を法制化し、規制の徹底を図る方針だです。女性が公の場で全身と顔を覆うことを義務化するのは「誘惑」を避けるため・・・だそうです。

****女性は顔出しも歌声も禁止。アフガニスタンのタリバン政権が女性の権利をさらに規制****
アフガニスタンの実権を掌握している武装勢力タリバンは8月21日、公共の場で女性が顔を出したり、歌ったりすることを禁止する法律を発表した。

AP通信によると、規制は35条から成る「悪徳の防止と美徳の促進法」の一環で、このうち第13条では、女性は公共の場でベールを着用し、他人を誘惑したりされたりすることを避けるために顔を覆うことが義務づけられている。

着用する衣服は、薄い生地やタイトなデザインであってはならず、堕落を避けるために、性別に限らずイスラム教徒以外の前では身を隠す義務があると定められている。

また、血縁や婚姻関係のない男性を見ることや見られることも禁じられている。

さらに、女性の声は「親密」なものとみなされ、人前で歌ったり、朗読したり、大声で読み上げたりすることが禁じられている。

法律には、メディアの制限や、女性の一人での移動に送迎手段の提供を禁じる内容も含まれており、タリバンが設置した「勧善懲悪省」の役人が、法律に違反したと判断すれば、警告や逮捕などの罰を与えられるという。

勧善懲悪省の報道官は22日、「このイスラム法は美徳の推進と悪徳の撲滅に大いに役立つだろう」とコメントしている。

一方、国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)は25日、新法はアフガニスタンの人々を厳しく規制するものであり、恣意的で厳しい強制力を持つ可能性があると懸念を表明した。

UNAMAトップのローザ・オトゥンバエワ氏は、「法律は、アフガニスタンの女性と女の子の権利に対する、すでに耐え難い制限を拡大するものです。家の外での女性の声でさえ道徳的に違反とみなされるのです」とコメントした。

タリバンは2021年にアフガニスタンを掌握した後、女性や少女の権利を制限してきた。女子は中学校以上の教育が受けられなくなっており、美容サロンを閉鎖するなどして働く場を奪い、女性を公共の場から排除する動きも強まっている。

オトゥンバエワ氏は「アフガニスタンの人々は数十年にわたる戦争を経験し、悲惨な人道危機の真っただ中にあります。礼拝に遅れたり、家族以外の異性を見たり、愛する人の写真を持っているだけで脅迫されたり、勾留されたりすべきではない」と述べている。(後略)【8月26日 HUFFPOST】
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なお、「反イスラム的」であることを理由に、打撃や関節技などを交えた総合格闘技も禁じられています。
TV・映画・ビデオ・凧あげ・闘鶏など全ての娯楽が禁じられた旧タリバン政権時代に戻っています。

旧タリバン政権時代から、一定に外部との接触などもあって、タリバンも“以前のタリバンと同じではない”かも・・・とも政権復活当時やや期待もされましたが、期待外れだったようです。昔と同じです。

【タリバン “法律を批判した者は裁判にかける” 国際批判には「内政問題 政策の違い」】
今回の法律について国連の安全保障理事会の12の理事国は9月6日、共同声明を発表し「タリバンによる女性に対する抑圧を最も強い言葉で非難する」としたうえで、「女性の人権と基本的自由の享受を制限するすべての政策と慣行を速やかに撤回するよう求める」と訴えています。
しかし、タリバンは女性の権利の問題は内政問題であり、「政策の違い」であるとの立場で、歩み寄る兆しはありません。

****アフガニスタン タリバン “法律を批判した者は裁判にかける”*****
アフガニスタンで実権を握るイスラム主義勢力タリバンは、女性に対して全身を布で覆うよう義務づける法律を施行するなど、イスラム法を独自に解釈した統治を進める中、「法律をメディアや集会などで批判した者は裁判にかける」と警告し、批判を封じる強硬な姿勢を示しました。

タリバンの暫定政権は8月、女性に対して公の場で全身や顔を布で覆うことを義務づけ、大きな声で話したり歌ったりすることなども禁じる法律を施行し、女性の人権をさらに制限するものだとして国際社会の懸念が強まっています。

こうした中、暫定政権の法務省は12日声明を発表しました。
この中では、タリバンが制定したすべての法律や法的文書はイスラム法に基づいているとしたうえで「偏見に基づいて法的文書を批判する者がいればそれはイスラム法に対する批判であり、決して受け入れられない」と主張しました。

そして、今後、メディアや集会などの場で法律を批判すれば「イスラム法にのっとり、裁判にかけられることになる」と警告しました。

タリバンは8月、女性の人権状況の改善を求めていた国連の特別報告者の入国を禁止する措置をとるなど、国際社会への反発を強めていて、国内外の批判を封じる強硬な姿勢を改めて示した形です。【9月13日 NHK】
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【アフガニスタンの少女向けのオンライン授業】
タリバンの頑なな姿勢に悲憤慷慨してばかりでは何も改善しないので、少しでもアフガニスタンの女性教育に資する取組を・・・ということで、外国からアフガニスタンの少女向けのオンライン授業を行う取組などもなされています。

****教育規制下のアフガニスタンの少女たち オンライン授業が生きる原動力に****
教育を受ける権利を奪われたアフガニスタンの女性たちにオンライン授業を行う草の根運動が、遠くバングラデシュやスイスにも広がる。権利擁護団体は、今こそタリバン政権に圧力をかけ、この基本的人権を取り戻すべきだと訴える。

19歳のマフブベ・イブラヒミ氏は勉強熱心だ。祖国アフガニスタンからスイスに逃れてまだ2年ほど。定住したチューリヒで中学校をもうすぐ修了する。もし今もアフガニスタンに残っていたら自宅を出ることもままならず、他の少女や女性たちと同様、小学校以降の教育を受けることを禁じられていただろう。

祖国の状況を憂いたイブラヒミ氏は2023年、アフガニスタンの少女向けのデジタル学習プラットフォームを立ち上げた。

非営利団体「ワイルド・フラワー」は現在ヨーロッパに70人のボランティア教師がおり、アフガニスタンにいる少女約120人が数学、コンピューターサイエンス、英語などの科目を熱心に学ぶ。イブラヒミ氏の目標は生徒数を500人まで増やすこと。自身の事業の持つインパクトに喜ぶ。

イブラヒミ氏は「支援以上の意味がある」と話す。幼少期、家族と共にアフガニスタンから逃れ、イランで育った。「多くの少女たちにとって、単なる学び以上の意義がある。世界の他地域に友人ができる。そしてアフガニスタンの外に住む人たちが、彼女たちの置かれた現状を認識しているということを知っている」

2021年8月の政権復帰を機に、タリバンは女性たちに対し初等教育以降の教育、ほぼ全分野での就労、男性同伴者なしの外出を禁じるなど権利を大幅に制限した。困難な状況に置かれた少女たちの無償教育を支援する「マララ基金」によると、アフガニスタンでは現在、教育の機会を奪われた少女たちは200万人超に上る。

ワイルド・フラワーのほかにも、亡命したアフガニスタン人や国内外の非営利団体が立ち上げたデジタル学習の取り組みは数多くあり、少女・女性たちが安心して学び続けられる場を提供している。

こうした教育格差を埋める草の根運動が進む一方で、タリバンに女性の人権状況改善を求める国際社会の動きは3年前から進展していない。

女性の権利 「目標というより障害」に
(中略)
だが今日、タリバンと交渉しその姿勢を改めさせようとする動きに陰りが見え始めている。今年6月にドーハで開かれた国連主導の会合(スイスを含む25カ国・組織が参加)にタリバンが参加することに同意したが、女性を招待しないことが前提だった。

アフガニスタン政権との関係を模索する国連主導の取り組みの一環として行われた同会合では、人権問題も議題に除外されたままだった。(中略)

タリバン代表団を率いるザビフラ・ムジャヒド報道官は少女・女性の権利に対するタリバンの姿勢は他国との『政策の違い』に過ぎず、アフガニスタンの内政問題であり外交とは無関係だと述べた。(後略)【9月13日 Swissinfo.ch】
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アフガニスタンではインターネット接続が不安定ですが、オンライン授業が困難な場合、ワイルド・フラワーの教師たちは授業を即席でビデオやボイスメッセージ形式にして届けているとも。

【衛星放送によるテレビによる授業も】
ただ、やはり現在のアフガニスタンでインターネットを利用できる環境にある少女は僅かでしょう。

より広範な少女を対象とするためにはTVでしょう。国内放送はできませんので衛星放送を利用する形になります。
アフガニスタン国民の半数以上が衛星テレビを視聴できるようです。

****学校から排除されたアフガン少女、頼みの綱は衛星放送****
アフガニスタンで暮らす16才のプリナ・ムラディさんは、毎日、朝食を済ませるとテレビに向かう。映画やアニメを見るためではない。数学や科学、文学の勉強が目的だ。

2021年以降、学校には行っていない。イスラム主義組織タリバンが国内を制圧し、女子が中等教育を受けることを禁じてしまったからだ。

だが彼女は今、大急ぎで遅れを取り戻しつつある。学校から締め出されてしまった少女たちのために、アフガニスタンのカリキュラムを丸ごとフランスから放送する衛星テレビ番組のおかげだ。

首都カブールの自宅で、ムラディさんは「希望がよみがえった」と語る。「これは無知との戦いだ」

この「ベーグムTV」は、アフガン系スイス人の起業家ハミダ・アマン氏の発案によるものだ。アフガニスタンの少女と女性を支援する非営利団体「ベーグム・オーガナイゼーション・フォー・ウィメン(BOW)」の創設者である。

昨年11月、BOWは「ベーグム・アカデミー」を立ち上げた。アフガニスタンの中等教育課程を網羅する約8500本の動画を、同国の公用語であるダリー語、パシュトー語で配信するデジタルプラットフォームだ。

ところが、アフガニスタンの少女の大半はインターネットを利用できない。そこでアマン氏は3月、より多くの視聴者に向けて「ベーグムTV」を開始した。

アマン氏はトムソン・ロイター財団に対し、「アフガニスタンで最も有力なメディアはテレビだ」と語った。

「政治への介入や体制打倒といったことを考えているわけではない。私たちの使命は、日々苦しんでいる姉妹たちを支援し、教育面で子どもたちを支えることだ」

学校教育から女子を排除している国は、世界でもアフガニスタンだけである。

またタリバンは、女性が大学で学ぶことや大半の職業に就くことを禁じ、移動の自由を制限するなど、1996年に最初に権力を握った時期に課した厳しい制限を復活させつつある。

公共の場で女性が話したり顔を見せたりすることを禁じる新たな法律は、新たに国際的な怒りを呼び起こしている。

<非合法の学校も>
最初のタリバン政権が終焉(しゅうえん)を迎えた2001年以降、女子教育は大きな前進を見せ、学位を取得しキャリアを重ねる女性の数は増加した。だが今、その成果は損なわれつつある。

ムラディさんは、学校から追い出された日について「胸が張り裂けるような思いだった」と語る。

「弁護士かジャーナリストになりたかった。でもアフガニスタンの崩壊とともに、私の夢も崩れ去ってしまったような気がした」

国連教育科学文化機関(ユネスコ)によれば、中等教育からの女子排除はすでに約140万人の少女に影響を及ぼしている。毎年、初等教育を修了する女子生徒の分だけ、この数字は増えていく。

ムラディさん一家は2022年にアフガニスタン北部から首都カブールに引っ越してきた。この街で密かに運営されている「地下学校」にムラディさんを通わせるためだ。

だが両親は、ムラディさんが捕まるのではないかといつも心配していた。それだけに、ベーグムTVが登場し、自宅でも学習が可能になったのはありがたかった。

2人の兄弟が学校に向かう一方、ムラディさんはテレビの前でノートを広げる。学ぶのは、兄弟と同じ全国共通カリキュラムだ。ただし、停電のせいで授業は頻繁に中断される。

得意科目は数学とダリー語文学だという。

<メディアへの圧力>
(中略)
ベーグムTVは複数の国際機関と民間の慈善財団から資金提供を受け、10人のアフガニスタン出身、フランス在住の女性ジャーナリスト、司会者により、パリから放映されている。

夜は、ムラディさん一家がお気に入りのインド「ボリウッド」発のドラマといった娯楽番組や、音楽、トークショーなどを放映している。

トークショーでは、健康問題から女性の権利に至るまで、家庭内暴力などセンシティブな問題も含めて、あらゆるテーマが取り上げられる。

アマン氏は「これが、衛星放送を利用することによる自由だ」と言う。「アフガニスタンのメディアは現在厳しい監視下に置かれているが、衛星テレビを使えば検閲をかいくぐることができる」

アマン氏は、生活への束縛が強まる中で少女や女性たちのメンタルヘルスは深刻な影響を受けており、その面での支援として娯楽番組が重要だと指摘する。

<小学校を離れる子どもたち>
BBCメディアアクションによる2023年の報告では、アフガニスタン国民の半数以上が衛星テレビを視聴できるとされている。

タリバンが娯楽や情報の自由なやり取りに対する圧迫を強める中で、どうやら衛星テレビの人気は上昇しているようだ。

ベーグムTVの視聴者のほとんどはアフガニスタン在住だが、パキスタンやイランにもいる。両国にはアフガニスタン出身の難民が多い。

ベーグム・アカデミーは今年12月、生徒たちがオフラインでも授業にアクセスでき、教師との交流も簡単にできるようなアプリを発表する予定だ。また、優秀な生徒がオンライン大学に参加できるよう、試験も実施している。

親や生徒たちの要求に応え、初等教育の授業についても準備が進められている。

初等教育の年代の少女はまだ学校に通うことができるが、ユネスコによれば、教育の質は低下しており、男女を問わず、学校から落ちこぼれていく子どもは多いという。

その背景には、貧困の深刻化や、女性が男子生徒に教えることをタリバンが禁じたために悪化した教員不足などがある。

また、もっと広範囲に及ぶ課題もある。

アマン氏は頻繁にアフガニスタンを訪問しているが、女子教育の禁止があっというまに日常化してしまっていることに恐怖を感じると話す。

「残された道は結婚しかなく、少女たちは絶望している」とアマン氏は言う。

カブールで暮らすムラディさんは、学校教育を受けられなくなってしまい、10代半ばで結婚する少女も多いと話す。彼女の親友も15才で結婚した。

ムラディさん自身には別の計画がある。「何が何でも勉強を続けなければ」とムラディさんは言う。「アフガニスタンの少女、女性でも大きな成功を収めることができると世界に知らせてやる、と心に決めたから」【9月15日 ロイター】
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タリバンがこの状況に更に介入・制限するようなことにならないよう願いますが・・・・。
国際社会も、現実問題としてタリバンに女性の学校教育復活を認めさせることは困難なので、せめて上記のような取組は黙認するように働きかけることが重要でしょう。

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欧州  拡大する反移民の流れ

2024-09-14 22:27:07 | 難民・移民

(英中部ロザラムにも広がった反移民暴動(8月4日)【8月28日 Newsweek】)

【反移民・右傾化の流れ】
欧州で失業や生活苦への不満の受け皿となる形で反移民・右傾化のうねりが広がっています。

****反移民、欧州で強まる右傾化 独仏英、結束に影****
ドイツ東部の2州の州議会選で排外主義を掲げる右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進した。欧州では、欧州議会選で欧州連合(EU)に批判的な極右や右派が議席を増やし、フランスや英国では極右や右派ポピュリスト政党が台頭するなど右傾化が強まる。特に欧州をけん引する大国に顕著な動きで、結束の弱体化が懸念される。

ドイツやフランス、英国で躍進した右派や極右政党は反移民を掲げる。移民流入が高い失業率や労働賃金の引き下げなどを招いたとする声も少なくなく、不満の受け皿となって支持を拡大した。

6〜7月のフランス国民議会総選挙では、反移民、反EUを掲げる極右「国民連合(RN)」が第3勢力にとどまったものの党史上最多の議席を獲得。7月の英下院総選挙では、反移民の右派ポピュリスト政党「リフォームUK」が二大政党に次ぐ得票率で初めて議席を獲得し、存在感を示した。

6月の欧州議会選でドイツやフランスの与党が大敗を喫する中、イタリアのメローニ首相率いる右派政党は伸長した。【9月2日 共同】
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【イギリス 反移民暴動】
反移民の右派ポピュリスト政党「リフォームUK」が総選挙で躍進したイギリスでは、少女3人が刺殺された事件がイスラム教徒移民による犯行との誤情報に扇動された反移民暴動が発生。反移民・極右暴動に対抗してカウンターデモも行われ、社会を揺るがせました。

****英暴動の逮捕者1000人超に、少女刺殺事件巡るデマ発端****
英国では、放火、略奪、イスラム教徒など移民を標的とする人種差別的攻撃を伴う暴動が続いており、警察当局によるとこれまでに1000人以上が逮捕された。

暴動は、7月29日にイングランド北部サウスポートで少女3人が刺殺された事件がイスラム教徒移民による犯行との誤情報がインターネット上で流れたのを発端に始まり、イングランド各地と北アイルランドに波及した。その後、暴動関与者を特定する取り組みが強化されたことで、先週以後は収束しつつある。

当局によると、英国全土で1024人が逮捕、575人が起訴された。【8月14日 ロイター】
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イギリスでは保守党前政権時代の移民ルワンダ移送計画を労働党政権が中止するなど、移民対応が政治の中心課題となっています。

【ドイツ 国境管理強化】
ドイツでは冒頭記事にあるように、東部の2州の州議会選で排外主義を掲げる右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進しましたが、中道左派・社民党を軸とする連立政府もAfD躍進の背景にある反移民の空気を考慮せざるを得ず、移民対応を強化しています。

****ドイツ、全ての陸上国境管理で不法移民に対応 16日から6カ月間*****
ドイツ政府は9日、不法移民に対応し、イスラム過激主義などの脅威から国民を守るため、全ての陸上国境で管理を強化すると発表した。16日に開始し、少なくとも6カ月継続する。

フェーザー内相は「国内の治安を強化し、不法移民に対する厳格な姿勢を維持する」と表明。政府が欧州委員会と隣接国に国境管理計画を通知した述べた。

政府は当局が国境で直接、より多くの移民を拒否できるようにする制度も設計したという。

ドイツではこのところ、反移民を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持を拡大。政府は主導権を取り戻すため、移民問題への姿勢を強めている。

8月に西部で起きた刃物による襲撃事件の容疑者が難民施設に所属していたことを受け、移民を巡る懸念が高まっている。同事件では3人が死亡。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。

ドイツは昨年、初回の難民申請の急増に対応し、ポーランド、チェコ、スイスとの国境で管理を厳格化した。

これら3カ国およびオーストリアとの国境の管理により、2023年10月以降3万人の移民送還が可能になったという。

フェーザー氏は新たな制度により政府はさらに多くの移民を送還できるようになるが、保守派との非公開協議を控えているとし、内容への言及を避けた。

ドイツは前出の4カ国のほか、デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フランスと国境を接している。【9月10日 ロイター】
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メルケル前首相は中道右派ながら移民に寛容な姿勢でしたが、流れは変化しつつあります。

【スウェーデン 帰国すれば最大480万円】
北欧・スェーデンも、反移民を掲げる極右の野党、民主党の閣外協力を受ける右派連立政権が移民帰還を促す方向に向かっています。

****帰国すれば最大480万円、スウェーデンの新たな移民抑制策****
戦争や迫害を逃れた人々の安息の地となってきた北欧スウェーデンの右派連立政権は12日、自主帰還する移民に支給する給付金を最大35万クローナ(約480万円)に増額する計画だと明らかにした。

スウェーデンは数十年にわたり「人道大国」と見なされてきた。だが近年、移民の社会的統合を進めているにもかかわらず、多くは溶け込めていない。

反移民を掲げる極右の野党、民主党の閣外協力を受ける政権は記者会見で、2026年から自由意志に基づき出身国に帰還する移民は、最大35万クローナを受け取ることができると述べた。

ヨハン・フォシェル移民相は最新の移民抑制策を発表する際、「われわれは移民政策におけるパラダイムシフトの真っただ中にある」と述べた。

現在、帰国する移民に支給される金額は、成人1人当たり最大1万クローナ(約14万円)、子ども1人当たり5000クローナ(約7万円)で、1家族当たり4万クローナ(約55万円)までとなっている。

この措置について移民団体にコメントを求めたが、コメントは得られていない。 

欧州で帰国する移民に給付金を支給している国はスウェーデンだけではない。デンマークは1人当たり1万5000ドル(約210万円)以上、ノルウェーは約1400ドル(約20万円)、フランスは2800ドル(約40万円)、ドイツは2000ドル(約28万円)を支給している

スウェーデンは1970年代から多額の外国に開発援助を惜しみなく行い、1990年代からは主に旧ユーゴスラビアやシリア、アフガニスタン、ソマリア、イラン、イラクなどの紛争地帯から多数の移民を受け入れてきた。

欧州移民危機のピークを迎えた2015年だけでも、スウェーデンは庇護希望者16万人を受け入れ、人口当たりで欧州連合最多となった。

スウェーデンでは、外国出身者の失業率が極めて高いために経済格差が拡大し、「揺り籠から墓場まで」と呼ばれるほど充実した社会保障制度にとって重荷となった。

欧州移民危機が転換点となり、当時の与党・社会民主党は、移民への門戸開放政策をこれ以上続けることはできないと表明。

以来、歴代政権は左右を問わず移民抑制策を講じてきた。それには、難民認定申請者の在留資格を短期滞在に限定したり、家族を呼び寄せる条件を厳格化したり、欧州連合域外出身者の就労ビザの申請に必要な収入基準を引き上げたりするなどの措置が含まれる。

ウルフ・クリステション政権はさらに、薬物乱用、犯罪組織への関与、スウェーデンの価値観を脅かす発言などを行った移民の強制送還の容易化も計画している。 【9月13日 AFP】AFPBB News
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帰国すれば最大480万円・・・・現在の“1家族当たり4万クローナ(約55万円)まで”と比べても破格の金額ですが、それだけ支払っても移民を受け入れるコストの方が大きいということでしょう。

失業手当などを考えるとそうなるのでしょう。外国出身者の雇用を促進して、税負担も自国民と同じようにしてもらえれば、そういう問題もでないのでしょうが。問題の根っこは、なぜ外国出身者の失業率が極めて高いのか、それはどうにもならないのか?というあたりでしょう。

なお、移民受け入れで以前は寛容とされていたスウェーデンですが、ヘニング・マンケルのミステリーなど読むと、2000年代の頃から移民に反対する勢力の活動で陰鬱な空気が社会に漂っていたことが窺えます。反移民感情は決して昨今のものではありません。

【オランダ EU共通難民庇護制度から離脱申請】
オランダはウィルダース党首率いる極右、自由党主導の4党連立政権ですが、そうした政権の性格を反映して移民政策も厳格化し、EU共通の難民庇護制度からの離脱を要請する方針を示しています。

****オランダ、厳格な移民政策発表 EU共通難民庇護制度から離脱へ****
2オランダのディック・スホーフ首相は13日、同国史上最も厳格な移民政策を発表するとともに、来週には欧州連合共通の難民庇護制度からの離脱を要請する方針を示した。

ヘルト・ウィルダース党首率いる極右、自由党主導の4党連立政権は、「難民危機」を宣言し、国境管理をはじめとする一連の厳格な措置によって移民の流入を抑制する意向を明らかにしている。

スホーフ氏はハーグでの記者会見で、今後3年間の政府計画を発表。「わが国は大規模な移民の流入に耐え続けることはできない」「国民は難民危機に直面している」とし、「よって近々、移民・難民の受け入れ厳格化などの緊急措置を講じる」と表明した。

昨年11月の下院総選挙から約7カ月を経て成立した連立政権は、難民認定申請者や不法移民の入国阻止に向けて強硬姿勢を取ると明言している。

しかし、法律の専門家だけでなくウィルダース氏自身も、EU共通の難民庇護制度からの離脱には数年かかると認めている。

ウィルダース氏は5月、AFPに対し、「デンマークが実施しているように、わが国も難民庇護制度からのいわゆる離脱を試みていく。成功するとしても、数年かかるだろう」と述べた。

デンマークはEU共通の難民庇護制度からの離脱を交渉しており、オランダ政府もそれに続く方針だ。 【9月14日 AFP】
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【先進国の人出不足で移民増加】
移民対応厳格化に舵を切る欧州各国ですが、欧州など先進国で移民流入が増加したのは先進国側の都合もあってのことです。

****昨年の移民、過去最多=先進国の人手不足背景―OECD****
経済協力開発機構(OECD)は23日、日米欧など加盟38カ国への2022年の新規移民が推計610万人に上り、過去最多を記録したと発表した。難民認定者の増加や先進国での人手不足が背景で、前年比で26%、コロナ禍前の19年比でも14%増えた。

不法移民や短期就労者、ロシアによる侵攻で国外へ避難したウクライナ人らは除いて集計した。国別の移住先は米国が前年比25%増の105万人と最多で、次いでドイツが21%増の64万人、英国が35%増の52万人。日本は58%増の10万6000人だった。

OECD加盟国に逃れたウクライナ人は、23年6月時点で約470万人。このうちドイツが100万人強、ポーランドが100万人弱、米国とチェコが各40万人弱を受け入れている。【2023年10月24日 時事】 
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【強気のハンガリー・オルバン首相】
上記のような反移民・難民の流れが強まる欧州で、以前から反難民姿勢を貫くハンガリー・オルバン首相は強気。

****ハンガリー、難民対応巡り欧州委と対立 「境界守った」逆提訴の構え****
欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会と加盟国のハンガリーが、難民申請者への対応を巡り対立を深めている。

EUの欧州司法裁判所は6月、ハンガリーが難民申請者の権利を保護しなかったとして制裁金2億ユーロ(約313億円)の支払いを命じた。だが、ハンガリーは応じず、欧州委に対し、EUの境界を「守った」費用として、逆に20億ユーロの支払いを求める訴訟を起こす構えを見せている。

ハンガリーのグヤーシュ首相府長官は9月12日、「ハンガリーは近年、(域内の自由な移動を可能にする)シェンゲン協定の域外との境界の防御に約20億ユーロを費やしたが、EUから補償金を受け取っていない」として、「欧州委を相手取り、費用を回収するため訴訟を起こす用意がある」と述べた。

欧州司法裁は6月13日、欧州委の提訴を受け、ハンガリーが難民申請者を不法に留め置いたり、申請手続き中の滞在を認めず国外に追放したりするなど、EUの難民保護のルールに違反し続けているとして、2億ユーロの制裁金の支払いなどを命じた。

これに対し、ハンガリーのオルバン首相は「EUの境界を守る我が国への制裁金は言語道断で容認できない」と反発し、支払いを拒否した。欧州司法裁はハンガリーが是正措置を講じるまでの間、1日100万ユーロの追加制裁も科しており、制裁金の総額は膨らんでいる。

ハンガリーは強硬姿勢を見せることで、制裁金の支払いを巡り、欧州委の譲歩を引き出す戦術とみられる。AP通信によると、ハンガリー政府は9月12日、欧州担当相に問題解決に向けて欧州委と協議するよう指示した。

ハンガリーは6日にも、難民申請者を対象に、セルビアとの国境地帯からEU本部のあるベルギーの首都ブリュッセルまでの片道バス利用券を提供する方針を明らかにし、EUに圧力をかけている。

これに対してベルギー政府は9日、「EUの結束と協力を損ねる」と批判し、ハンガリーからのバスによる難民申請者を受け入れない方針を発表した。

欧州委員会の報道官は10日、「もしハンガリーが(バスによる移送を)実行すれば、明らかなEU法違反であり、加盟国の協力や相互信頼の原則に反する」と非難。欧州委は通過ルートとなる可能性がある加盟国と対応を協議した。

近年、中東やウクライナなどからのEUへの難民申請者は増加し、2023年は計約114万人に達した。受け入れに必要な公的費用の増加などから、加盟国が対応に苦慮している側面もある。

こうした中、ドイツ政府は9月9日に国境での検問を強化する方針を発表し、10日には難民申請者の受け入れを厳格化した。オルバン氏はX(ツイッター)で、ドイツに対して「ようこそ移民停止クラブへ」と皮肉を込めた投稿をした。

ハンガリーは7月から、EUの加盟国で構成する欧州理事会の議長国(任期6カ月)を務めている。ウクライナ支援への消極姿勢やロシアとの友好関係が目立つなど、他の加盟国との摩擦が続いている。【9月13日 毎日】
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【外国人労働者の社会統合】
移民問題の根幹は社会統合が進まず、雇用が不安定で、失業したり、なかには犯罪に走ったり・・・ということでしょう。

日本は正確には“移民・難民”ではなくあくまでも技能実習制度や育成就労制度に基づく外国人労働者ですが、コンビニ・飲食店でよく見かける外国人については、「不愛想な日本人店員より外国人のほうが感じがいい」という声もよく聞きます。

もちろん、日本における外国人労働者についても差別・人権侵害、劣悪な雇用環境など問題は多々あります。ただ、その一方で、上記のような“とけ込んでいる”ようにも見える部分も。そのあたり、工作機械・ロボットにすら名前をつけて愛着を寄せる日本社会は欧米社会とはまた違う側面もあるのかも・・・というのは期待しすぎでしょうか。
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