孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エチオピアでクーデター未遂事件  ノーベル平和賞最有力候補アビー首相の進める改革への抵抗か

2019-06-24 22:14:42 | アフリカ

(エチオピアのアビー首相【6月24日 CNN】

(首都アディスアベバにおいて「暴力のない生活へ」というテーマで開催された女子マラソンの参加者 【2018年9月27日 Yutaro Yamazaki氏 GNV】 前回ブログでも使用した画像ですが、エチオピアの明るい将来を期待させますので再掲しました。)

【クーデター未遂 エチオピアの安定化と改革を目指すアビー首相にとって新たな打撃となるか?】

数日前の619日ブログ“人口分布的に世界の中心となるアフリカ 未だ遠い平和と安定 西アフリカのマリ・ブルキナファソでは”でアフリカのネガティブな側面を取り上げましたが、そのなかで“明るい話としては、東アフリカ・エチオピアのアビー首相が、国境線を巡り紛争に発展した隣国エリトリアとの関係正常化に尽力していることでしょうか。”と書いたように、アビー首相率いるエチオピアの改革は明るい側面の代表でもあります。

 

アビー首相はノーベル平和賞の最有力候補とも目されています。

 

****平和賞、エチオピア首相が最有力 ノーベル賞予想****

「ノーベル平和賞ウオッチャー」として知られる国際平和研究所(オスロ)のウーダル所長は15日までに、今年の平和賞受賞者予想を発表、有力候補のトップにエチオピアのアビー首相を挙げた。国境線を巡り紛争に発展した隣国エリトリアとの関係正常化に尽力したことが評価に値するとした。

 

ミャンマーでロイター通信記者が国家機密法違反罪に問われるなど、世界各地で報道の自由を脅かす動きが見られる中、有力2番手に国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」を選んだ。【216日 共同】

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ほかにノベール平和賞候補として名前があがっているのは、2015年の夏から登校拒否をし、「気候変動のための学校ストライキ」と書かれたプレートを掲げ、一人っきりで議会前に座り込む抗議活動を始めた(当時15歳)スウェーデンの女子高生グレタ・トゥーンベリさんや安倍首相が推薦するトランプ米大統領など。

 

そのエチオピアでクーデター未遂事件が報じられています。

 

****エチオピアでクーデター未遂、陸軍参謀総長ら4人死亡 自身の護衛に撃たれる****

アフリカ東部のエチオピアでクーデター未遂が起き、陸軍参謀総長ら4人が死亡した。首相府が23日に確認した。

事件は22日、北西部アムハラ州の州都バハルダールで発生。州の行政トップと州政府顧問の2人が射殺された。首相府によれば、州の司法長官も重傷を負い、病院で手当てを受けている。

 

一方、首都のアディスアベバでは陸軍の参謀総長と元少将が殺害された。現場は参謀総長の自宅で、自らのボディーガードによって射殺されたという。

参謀総長は殺害された当時、アムハラ州での事件の対応を指揮していた。

 

アビー首相は今回のクーデター未遂について、アサミネウ・ツィゲという名の准将とほか数名によるものだと主張した。この人物は刑務所に収監されていたが昨年恩赦を受けて釈放され、アムハラ州の行政機関の責任者に就任していた。

 

首相府の声明によれば、アムハラ州の現状は連邦政府によって完全に掌握されている。22日に軍服姿でテレビの記者会見に臨んだアビー首相は、クーデター未遂を引き起こしたのは「いかなる民族集団でもなく、悪意を抱く複数の個人だった」との見方を示した。

 

国内最大の民族オロモ族出身者として昨年初めて首相に就任したアビー氏は改革路線を進めてきたが、民族間の対立は依然として続いている。

 

AFP通信によれば、民族同士の衝突が原因でこれまで100万人を超える人々が住む家を追われているという。【624日 CNN】

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事件が起きたアムハラ州は、エチオピアに九つある州の一つで、2番目に人口が多い州で、首謀者とされる州治安部隊司令官は2009年にも反乱未遂を起こしているとも。【623日 時事より】

 

「いかなる民族集団でもなく、悪意を抱く複数の個人だった」とのことですが、アビー首相が進める改革に対する抵抗が存在するのは容易に想像できるところで、そうした動きとの関連は現在のところよくわかりません。

 

****改革派首相に新たな打撃****

アビー氏は2年にわたって政情不安が続いた後の20184月に首相就任。それ以来、過去の首相たちによる強権的な支配を終わらせたと称賛されてきた。

 

アビー氏は経済改革に着手し、反体制派の帰国を認め、人権侵害の取り締まりを目指し、軍や情報部の幹部数十人を逮捕した。さらに、長年にわたり対立してきた隣国エリトリアとの平和宣言にも調印した。

 

しかし1億人以上の人口を抱える多民族国家エチオピアでは、主に土地や資源をめぐって民族間の対立が深まっており、死者を伴う衝突も発生。アビー首相はこうした問題に苦慮している。

 

民族間の衝突で、これまでに100万人以上が家を追われた。

専門家は衝突の原因について、かつて全権力を握っていた与党エチオピア人民革命民主戦線の弱体化や、政権移行によって生じたチャンスを利用しようとするさまざまなグループの存在などを挙げている。

 

昨年6月には、アビー首相が演説した政治集会で手りゅう弾が爆発し、2人が死亡する事件も起きた。

 

エチオピアの安定化と改革を目指すアビー首相にとって、今回のクーデター未遂は新たな打撃となった。 【624日 AFP】

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【多い課題 改革にはつきものの抵抗も】

アビー首相の進める改革については、20181015日ブログ“エチオピア  民族間の融和、エリトリアとの関係改善、経済活性化・・・期待されるアビー首相の改革”でも取り上げましたが、なにぶん情報が少ないエチオピアでの話ですので、その後の状況についてはよくわかりません。

 

人口的には多数派であるオモロ族からの初めての首相となったアビー首相が登場して改革の乗り出した経緯や直面している課題については、以下のようにも。

 

****エチオピア大改革:アビー新首相は救世主となれるか****

(中略)エリトリアは穏便にエチオピアから独立したはずであったが、国境線の画定、貿易や外交などを巡って関係がこじれていった

 

1998年、国境地域のバドメ地区の領有権を争いエリトリアとの武力衝突が全面戦争に発展した。このエチオピア・エリトリア国境戦争により、少なくとも7万人が亡くなった。

 

アフリカ統一機構(OAU)の調停による停戦が行われ、平和維持部隊(PKO:UNMEEが国境線付近に派遣された。

 

第三者の国境委員会によりバドメ地区がエリトリアに帰属することが決まったが、エチオピアがこれを受け入れず実行支配を続けた。その為、これ以降もエリトリアとの対立は続き、2018年まで国交断絶状態が続いた。

 

メレス政権に移った後も国内で様々な対立は続いていた。与党のEPDRFはティグレを代表するTPLFとオロモ人民民主機構(OPDO)に加えてアムハラ民族民主運動(ANDM)、南エチオピア人民民主運動(SEPDM)の4つの組織から構成されている与党であるが、実際は人口の6しかいないTPLFのティグレ勢力が実質的に政治を支配しており、オロモ州、オガデン地区、アムハラ州では政府による多くの人権侵害が続いていた。

 

これにより、オロモ州だけでも、2017年までに少なくとも700人が殺され、数千人が投獄された。

 

さらに、政府与党EPRDFは、オロモ州に囲まれた首都アディスアベバの拡大を2014年に発表した。こうした政策に対して、人口がもっとも多いオロモ州では、さらに不満を募らせ、政治的自由や社会的平等を求める反政府デモはさらに激化していった。

 

アビー首相の誕生

2012年、メレス首相の死去により首相の座を引き継いだSEPDMを代表するハイレマリアム・デザレン首相は、こうしたオロモ州とアムハラ州、オガデン地区を中心とした反政府運動の高まりを受け、政治犯の解放や拷問を行った刑務所の閉鎖を行うことで鎮静化を図った。

 

しかし、相次ぐ再逮捕により反政府勢力との溝を埋められず、自身の政治改革や経済改革も与党内でティグレ勢力によって阻まれたハイレマリアム首相は、2018年に辞任を発表した。

 

そして、その後任として初オロモ州出身首相となったのがアビー氏であった。アビー首相は、オロモ出身だけでなく、ムスリムの父とキリスト正教会の母を持ち、与党を構成する民族のオロモ、アムハラ、ティグレの言語を話すことができるという多様なバックグラウンドがある。

 

4月の就任演説では、過去の政権による反政府勢力の殺害を謝罪し、国民が政府に異議を唱えることを歓迎するなど民主主義への姿勢を示した。

 

このように、アビー首相は、大きな政策転換を行い、これまでの政治に改革の手を加えようとしている。どのように様々な問題を解決しようとしているのだろうか。アビー首相の改革について詳しくみていく。

 

アビー改革は政治問題の解決となるか

初のオロモ出身首相であるアビー首相の誕生は、オロモでの政治的不満に対する鎮痛剤の役割を果たした。彼は、オロモの民衆の不満の原因となっているティグレが支配する政治の改革を進めようとしている。

 

加えて、権力独占が再び起こらないようにするため、首相に任期制限が適用されるように憲法を修正する予定だ。これらの改革はオロモで歓迎され、不満が緩和されたことで、デモの減少や緊急事態宣言の解除につながった。

 

また、アビー首相はオガデン地区に対して、政治犯の拷問や拷問を行っていた刑務所の廃止、停戦合意を行うことで和平を目指そうとしている。これにより、長年にわたるソマリ系移民とエチオピア政府との溝が埋まることが期待されている。

 

そして、アビー首相は国外において最も対立が激化していたエリトリアとの和平にも着手した。エチオピアとエリトリアの国境争いを終わらせる歴史的な「平和と協力の宣言」を発表し、20186月エリトリアの首都アスマラにおいて、エリトリアのイサイアス大統領との会談を実現させた。

 

この会談において、バドメ地域のエリトリアへの帰属を合意が為され、和平が成立した。加えて、国交正常化も実現し、ブレなどの国境が通れるようになったことで、内陸のエチオピアはこれまでジブチからしか海にアクセスできていなかったが、エリトリア側からのルートも開かれた。

 

国境により断絶されていた家族が再会し、両国間の通話や航空便が利用できるようになるなど、その恩恵は非常に大きく、現地は祝福ムードに包まれている。また、エリトリアとの和平は、ソマリアやジブチ、スーダンなどのアフリカの角の地域全体に様々な影響を及ぼすと見られている。

 

残る課題

こうしたポジティブな報道が続く一方で、エチオピアでは解決すべき課題は多く残っている。

 

アビー首相の誕生とその改革も全国民が喜んでいるわけではない。623日、手榴弾がアビー首相の政治集会にいる群衆に投げ込まれ、1人が死亡し153人がけがを負うという事件が起こった。

 

アビーは、複数政党による民主主義の活発化を図っているが、必ずしも与党の票を維持しながら野党と仲良く共存できるとは限らない。

 

次の2020年の選挙で、予想される議席の再分配が摩擦や対立につながる可能性もある。

 

アビー首相の誕生による効果が最も期待されたオロモ州においても、問題は多く残る。オロモの人々の中にはエチオピアからの独立を目指す分離主義者も存在しており、彼らはアビー首相を裏切者だとみなしている。

 

また、亡命していたOLFのリーダーたちと1,500の兵士が9月にエチオピアに戻ったが、それにより首都アディスアベバで衝突が起こり、23が亡くなった。

 

また、法制度や警察は、長年非民主的な政権の干渉を受ける存在であったため、これらの機関が中立を保ち、法の支配を高めることが今後の課題である。

 

経済面においても海外からの多額の負債を抱えており、深刻なインフレに陥っている。これを受けて、政府は市場開放や国営企業の民営化といった経済改革に着手しており、それによって経済の活性化を成し遂げられるかが鍵となりそうだ。【2018927日 Yutaro Yamazaki氏 GLOBAL NEWS VIEW

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直面する課題は多く、どこから今回事件のような火の手が上がっても不思議ではない状況です。「改革」というのは、そういうものでしょう。

 

混迷するアフリカ諸国の政治にあっては、民主主義を体現する稀有の政治家でもあり、今後とも「改革」を進めることでアフリカのイメージを一新することを期待します。

 

【スーダン軍部の不興を買うエチオピアの民主的調停案】

なお、“また、エリトリアとの和平は、ソマリアやジブチ、スーダンなどのアフリカの角の地域全体に様々な影響を及ぼすと見られている。”とありますが、隣国スーダンでは民主化を求める勢力と軍部との犠牲者を伴う対立が続いていますが、アビー首相はその調停にも関与しています。

 

ただ、その“民主的”姿勢は権力維持を目論むスーダン軍部には不興を買っているようです。

 

****スーダン軍事評議会、AUとエチオピアに民政移管の提案統一を要請****

4月のクーデター後にスーダンを暫定的に統治している軍事評議会は23日、民政移管に向けて外交努力を展開しているアフリカ連合とエチオピアに対し、文民政権樹立までの青写真を統一するよう要請した。

 

民政移管を求める抗議デモの指導部によると、民間人主体の統治機構を設置するというエチオピアの提案に、軍事評議会側は難色を示している。

 

4月の軍事クーデターでオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領が失脚したスーダンでは、実権を握った軍事評議会と、抗議デモ指導部との対立が深刻化。今月3日、首都ハルツームの軍本部前で座り込みを続けていたデモ隊を軍が強制排除し、多数が死亡する事態となった。

 

この危機を解決するため、AUとエチオピアが仲裁に乗り出している。

 

軍事評議会のアブデル・ファタハ・ブルハン議長は23日、AU、エチオピア双方の代表と面会。その後、記者会見した評議会報道官は、議長が「仲裁努力は共同提案の準備に重点を置くべきだと強調した」ことを明らかにするとともに、エチオピアの提案が遅れ、AUと異なる内容だったことを批判した。

 

民主化勢力の一派「自由・変革同盟」の指導者らは22日、エチオピアから民政移管に向けて民間人8人と軍人7人の計15人からなる統治機構を設けるとの仲裁案を提示され、受け入れたと発表していた。 【624日 AFP】

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アフリカ連合(AU)がどのような調停案を出しているのかは知りませんが、強権支配国家の多いAUですから、おそらくスーダン軍部の意向に沿った内容でしょう。

 

エチオピアが、軍部が嫌う“民間人主体の統治機構を設置するという”提案をしているあたりにも、アビー首相の民主主義を重視した改革の姿勢がうかがえます。


コメント

高まる「核戦争」のリスク 軍拡競争は「スターウォーズ」時代へ 絶え間ない新兵器開発

2019-06-23 22:15:13 | 国際情勢

(【623日 NHK】 公開されたアメリカの「連合宇宙運用センター」 なんだか狭苦しいですね。

“連合”ということで、イギリス、ドイツ、フランスから連絡官を受け入れているほか、日本の航空自衛官も常駐させる方向で調整を進めているそうです。)

 

【核戦争のリスクが第2次世界大戦後で最も高くなっている】

*****世界の核兵器1万3800個=北朝鮮は最大30保有―国際平和研****

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は17日、世界の核軍備に関する報告書を発表し、米英仏中ロにインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮を加えた9カ国の核弾頭保有数が、今年1月時点で計約1万3865個だったとの推計を明らかにした。

 

全体の保有量の約9割を占める米ロ両国が、新戦略兵器削減条約(新START)に沿って戦略核を減らしたことから、前年比600個の減少となった。一方で両国とも、既存の核兵器や生産施設の近代化と更新に向け「大規模かつ高額なプログラム」を推し進めているという。

 

中国の保有数は前年比10個増の290個。北朝鮮は前年の推定10〜20個から同20〜30個に増えた。報告書は北朝鮮について、「昨年に核実験と中長距離弾道ミサイルの試射中止を宣言した後も、軍用核開発を安保戦略の中心に位置付け、優先的に取り組んでいる」と分析した。【617日 時事】 

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この種の記事を読んでの素朴な感想は「米ロで1万発以上も保有なんて、何を考えているのだろうか?そんなに必要なのだろうか?」という疑問。

 

実際、核兵器も近代化されればそんなに数は必要なく、数が多くても老朽化する核兵器の管理など面倒なコストが増加するだけ・・・ということで、米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)があります。

 

しかし、射程5005500キロの地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルの全廃を取り決めている中距離核戦力(INF)全廃条約の失効問題に続き、米ロ対立の状況で新STARTが延長されずに破棄される可能性が危惧されています。

 

****懸念される「核をめぐる米ロの新冷戦の始まり」****

トランプ政権がINF条約破棄の意図を表明したのに対して、プーチン大統領は、米国がINF条約を破棄するならばロシアは中距離核ミサイルを配備すると反発した。このように、米ロ間では、核をめぐる新冷戦の始まりが懸念されている。(中略)

 

INFの対象ミサイルを持つ国は、中国以外にも、イン ド、イラン、イスラエル、サウジ、韓国、パキスタン、台湾など10か国に及ぶと言う。(中略)

 

中国については、陸上配備ミサイルの95%INF条約の対象である中距離核戦略であるという。これは台湾への威嚇、東アジアでの中国の軍事的影響力の増大などの観点から懸念されている。 

 

この中国の動きにどう対処すべきか。トランプ政権は、中国の中距離核戦力に対抗するため、米国自身が中距離核戦力を持つべきで、そのためINF条約から離脱すべきであると述べている。

 

しかし、その結果、中国の中距離核戦力に歯止めがかかるとは思われない。かえって、米中間で中距離核戦力の軍拡競争が起こる恐れがある。 

 

もう一つの方法は、INF条約を手直しして、中国の中距離核戦力にも縛りをかけるようにすることである。

 

後者の方が望ましいのは明らかであるが、中国がINF条約への参加をするインセンティブを持っているかが疑問で、中国の参加の可能性はまず考えられない。 

 

当面は、中国の中距離核戦力についての諸外国の関心をあらゆる機会を使って出来るだけ高め、中国をけん制するしか方法はないと思われる。

 

他方、新STARTについては、2011年に発効し、10年の期限で5年の延長が可能とされている。米ロの戦略核弾頭を1550発に、ICBMの保有数を800基、配備数を700基に制限するもので、軍備管理上きわめて重要な条約である。

 

20212月に期限が来るが、去る3月にプーチン大統領は、ロシアは延長に関心があると述べた。他方、米国では、918日に、トンプソン国務次官が、上院の公聴会で、新STARTの延長について「あらゆる選択肢が検討されている」と述べ、延長しない可能性もあることを示唆した。 

 

トランプ政権は、INF条約にせよ、新STARTにせよ、軍備管理を優先させて考えていないようである。が、上記のニューヨーク・タイムズ紙によると、米国は、オバマ政権の時から、INF条約からの撤退を検討していたようである。

 

国防総省は、当時から、静かに米国の核戦力を強化する選択肢を模索していた。(中略)

 

トランプ政権は、軍備管理体制が無くなった状態が軍拡競争を招き、世界、特に欧州、アジアのみならず、米国自身の安全保障環境を極めて不安定にすることを認識すべきである。

 

米国内の心ある者、欧州、日本を先頭とするアジア諸国は、トランプ政権が軍拡のリスクと軍備管理の有用性を認識し、INF条約につき、欧州や日本などと協議するよう説得に努めるべきである。【17日 WEDGE Infinity

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中距離核戦力(INF)全廃条約については、ポンペオ米国務長官は22日、破棄するとロシアに正式通告したと声明で発表。アメリカは同日付で条約の義務履行を停止。条約で定められた6カ月の猶予期間にロシアが条約を順守しなければ、条約は8月初旬に失効します。

 

514日にロシア南部ソチで行われたロシアのラブロフ外相と米国のポンペオ国務長官の会談で、両氏は2021

年に期限が切れる米露間の新戦略兵器削減条約(新START)の延長に向けた協議を進めることで一致したと報じられていますが、方向性はまだ定まっていません。

 

米政府高官は、新START延長の是非に関し、トランプ大統領は来年判断するとの見通しを示しています。【530日 時事より】

 

一方、プーチン大統領は・・・。

 

****プーチン大統領、新START破棄の可能性を示唆****

)ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は6日、米国との間で締結している新戦略兵器削減条約、通称「新START」について、延長することに利益がないなら同条約を破棄する用意があると発言した。(中略)

 

プーチン大統領はサンクトペテルブルクで開かれた経済フォーラムで、「もし新STARTの延長を誰も望まないなら──(延長)しないだろう」という見方を示した。

 

さらにプーチン氏は、「われわれは(延長する)用意があると何百回も言った」にもかかわらず、米側が協議に応じていないと批判。「正式な交渉プロセスが存在しない。2021年には全てが終わるだろう」と述べた。 【66日 AFP】

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このプーチン大統領の発言の前、5月末にはロシアが低出力の核実験を行っている可能性について米ロが非難しあう事態も。

 

****ロシアが核実験か 米ロ対立さらに強まるおそれ 米紙****

アメリカのメディアは、情報機関の分析として、ロシアが低出力の核実験を行っている可能性があると伝え、核軍縮をめぐる両国の対立がさらに強まるおそれがあります。

 

アメリカの有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナルは29日、情報機関の分析として、ロシアが新たな核兵器を開発する目的で、北極圏にあるノーバヤ・ゼムリャ島で、低出力の核実験を行っている可能性があると伝えました。

アメリカとロシアは核爆発を伴う核実験を停止していますが、ワシントンで29日、講演したアメリカ国防情報局のアシュリー長官は、「アメリカ政府はロシアが核実験の一時停止を守っていないと考えている」と述べました。

一方でアメリカは、ロシアが批准しているCTBT=包括的核実験禁止条約を批准しておらず、ことし2月には西部ネバダ州で核爆発を伴わない臨界前核実験を行ったことが明らかになっています。

ウィーンにあるロシアの国際機関代表部のウリヤノフ常駐代表は、「アメリカこそCTBTの批准を拒み、核実験場を維持している。自分たちが批判されないようロシアに矢を向けるとは、やり方が汚い」と非難しました。

アメリカとロシアは、INF=中距離核ミサイルの全廃条約を破棄するなど、核軍縮をめぐって対立していて、この対立がさらに強まるおそれがあります。(後略)【530日 NHK】

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米ロの対立、中国の軍備拡大の流れのなかで、「現在は核戦争のリスクが第2次世界大戦後で最も高くなっており、これは世界がもっと深刻に受け止めるべき喫緊の課題だ」(国連軍縮研究所(UNDIR)のレナタ・ドワン所長)という状況にもあります。

 

【加速する衛星破壊兵器の開発】

しかし、既存の核兵器にも歯止めが有効にかからない状況で、新たな分野での新たな兵器開発が加速しています。

 

****「宇宙運用センター」米軍公開 背景に中ロの脅威 軍拡懸念も****

宇宙空間の監視や防衛を担うアメリカ軍の「連合宇宙運用センター」がNHKなど一部のメディアに公開されました。アメリカ軍は中国やロシアが衛星への攻撃能力を高める中、防衛力の強化と同盟国との協力態勢の構築を進める方針です。

 

公開されたのはアメリカ西部、カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地にあるアメリカ軍の「連合宇宙運用センター」で、19日、NHKやアメリカの一部のメディアのカメラが入りました。

「連合宇宙運用センター」はアメリカの軍事衛星や商業衛星に対する妨害や攻撃、それに宇宙ごみの動きを監視し、衛星網を防衛する任務に当たっています。

センターでは各国の衛星や大量の宇宙ごみなど宇宙空間を漂う2万5000の対象物を24時間体制で監視していて、この日は地上からミサイルが発射された場合の対応を再現しました。(中略)

アメリカ軍によりますと、衛星はGPSや通信をはじめ地球規模で展開する部隊の活動の基盤となる一方、中国やロシアが衛星を攻撃する能力を発展させ、対衛星ミサイルに加え、衛星自体から攻撃する「キラー衛星」と呼ばれる兵器の脅威も高まっているということです。(中略)

アメリカ軍ではこうした脅威に対抗するため宇宙軍の創設など防衛能力の強化と同盟国との協力態勢の構築を進めています。その一環として連合宇宙運用センターではイギリス、ドイツ、フランスから連絡官を受け入れているほか、日本の航空自衛官も常駐させる方向で調整を進めています。(中略)

宇宙空間での軍拡加速に懸念の声も

アメリカが中国やロシアに対抗して宇宙での軍事力の強化に乗り出すことで、宇宙空間での軍拡競争が加速し、平和利用に深刻な影響を与えるとして、国際的な議論を求める声も上がっています。

トランプ政権が宇宙軍の創設を打ち出したことに対し、アメリカの団体、「憂慮する科学者同盟」は声明を発表し、「各国が宇宙兵器の開発を進めれば軍事衝突の可能性が高まる」として、宇宙の平和利用が脅かされると懸念を示しました。

そのうえで「宇宙空間の安全保障は軍事的手段だけでは達成できず外交を通じたよりよい方法がある」として、宇宙での軍拡競争を防ぐための国際的な行動規範の策定や国連の場での議論の提起を求めていて、今後、国際的な議論を求める声も高まりそうです。

 

アメリカ 来年までに「宇宙軍」創設目指す

アメリカのトランプ政権は中国やロシアによる衛星破壊兵器の開発を受けて、宇宙をサイバー空間とともに「新たな戦闘領域」と位置づけ、来年までに新たに「宇宙軍」の創設を目指すとしています。

アメリカ軍はGPSや通信からミサイルへの警戒など活動の基盤を衛星網に大きく依存しているため、これが打撃を受ければ軍の行動全体に深刻な影響を及ぼす危険性が指摘されています。

このためアメリカ軍では宇宙軍の創設で宇宙空間の監視能力を高めるとともに、新たな兵器の開発など防衛力の強化に取り組むとしています。

さらにアメリカ軍は同盟国との「宇宙同盟」の構築を目指していて、西部カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地にある「連合宇宙運用センター」をその基盤に位置づけ、同盟国からの連絡官の受け入れを進めています。(中略)

アメリカ軍としては宇宙空間での同盟国との連携を強化することで、中国とロシアに対抗する態勢づくりを進めるねらいです。

 

宇宙での中ロの脅威 米政府が分析

アメリカ国防総省の国家航空宇宙情報センターはことし1月に発表した「宇宙での競争」と題した報告書で、「中国は複数の部隊で対衛星ミサイルの訓練を開始した」と指摘し、中国軍が対衛星ミサイルの配備に向け訓練を活発化させているとの分析を初めて示しました。

またアメリカの情報機関を統括するコーツ国家情報長官がことし1月に議会に提出した報告書では「中国は低軌道衛星を撃ち落とすことをねらった運用可能なミサイルを保有している」として、衛星破壊能力の急速な進展に強い危機感を示しています。

さらに国防総省の情報機関、国防情報局はことし2月に取りまとめた宇宙空間の脅威に関する報告書で、来年までに中国が低軌道の人工衛星をねらったレーザー兵器を配備する可能性が高いと指摘しました。

またロシアについては、すでに去年7月の時点でレーザー兵器の配備を開始し、人工衛星をねらった兵器である可能性が高いと分析しています。

 

専門家「中ロがキラー衛星開発も」

宇宙空間の安全保障問題を研究するアメリカのシンクタンク、「セキュア・ワールド・ファウンデーション」のブライアン・ウィーデン氏は、中国が衛星攻撃能力を高めアメリカへの大きな脅威になっていると指摘しました。

このなかでウィーデン氏は「中国はアメリカがこの20年近くイラクとアフガニスタンでの戦闘でいかに軍事衛星を活用してきたか、分析を進めてきた」として、中国が軍事衛星に依存するアメリカ軍の特性をねらって、衛星攻撃兵器の開発を進めているという分析を示しました。

(中略)そのうえで「おそらく低軌道の人工衛星を破壊できる能力はかなり成熟しており、ミサイルの運用に向け配備を進めているとみられる」と述べ、中国が対衛星ミサイルの配備を進めているとの見方を示しました。

またウィーデン氏は中国が2016年に打ち上げた人工衛星の軌道に注目し、「一定期間、別の衛星の近くにとどまったあとに他の衛星に近づいている」と指摘しました。

これについてウィーデン氏は、衛星自体から攻撃を仕掛ける「キラー衛星」の開発に向けた実験ではないかと分析しています。

さらにウィーデン氏はロシアについても、「低軌道と静止軌道の両方で数多くの実験を実施してきた」と指摘し、「キラー衛星」の開発をかなり進展させていると指摘しました。

そのうえで「ロシアは電子戦能力にも多くの資源を投じ、実際にシリアやウクライナでの紛争で使用している」と述べ、衛星との通信を妨害するロシア軍の能力は実戦段階に入っているという分析を示しました。

ウィーデン氏はこうした中国やロシアの脅威への対抗策として「衛星を多数保有することで1つの衛星が攻撃されても影響を抑えることができる」として、安価で簡易な衛星を多数、打ち上げるとともに、同盟国との連携を強化する必要があるとしています。【623日 NHK】

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いよいよ「スターウォーズ」の世界のようです。

 

【新兵器開発への驚異的な情熱】

そのほかにも、新たな兵器開発の報道は多々あります。

 

****EMP攻撃の恐怖と日米共同対処について****

大都市の電気、ガス、水道、交通、インターネットなどのインフラが一瞬にして破壊される新たな軍事的脅威にいかに備えるか―日米両国はこのほど、防衛相会談で、そのための情報交換や抑止力向上などの面で共同対処していく方針を確認した。

 

「新たな脅威」とは従来の核ミサイルなどとは異なり、EMP(電磁パルス)による攻撃を意味し、「EMP兵器」として知られる。

 

EMPはもともと、強力なパルス状の電磁波であり、雷、大規模な太陽フレアといった自然界の現象としても生じるが、高高度の大気圏外核実験でも人工的に大量発生させることができる。これを軍事転用したのが「EMP兵器」だ。(中略)

 

通信、交通、公衆衛生、食糧供給、給水といった電力グリッドに依存した緊要なインフラ体制は、EMP攻撃によるブラックアウト(大停電)によって1年あるいはそれ以上の長期にわたり機能停止となる。(中略)

 

ロシア、中国、北朝鮮はすでにこの核EMPによる対米攻撃能力を保有しており、テロリスト集団もその気になればEMP攻撃を仕掛けることも可能だ。というのは、ミサイル発射後の大気圏再突入システムや正確な標的誘導装置などの高度技術を必要としないからだ。(後略)【610日 WEDGE

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以下、見出しだけ。

“米が秘密の新ミサイル開発、標的をピンポイントで殺害”【510日 WSJ】

“米当局が「昆虫兵器」開発? 欧州の科学者が懸念”【310日 朝日】

“インド、ミサイルによる人工衛星破壊実験に成功 米露中に次いで4カ国目”【327日 毎日】

 

各国がこうした方面の研究開発への情熱・関心、資源・資金の配分を平和的な分野や貧困等に苦しむ国への支援に振り向ければ・・・とも思うのですが、残念ながら・・・。

 

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トランプ米政権の不法移民対策  メキシコをねじ伏せ、米国内では一斉検挙へ 中米への支援は停止

2019-06-22 22:54:48 | 難民・移民

(米メキシコ国境を流れるリオグランデ川を越え、米国入りを目指す中米からの移民【6月13日 WSJ】)

 

【トランプ大統領「私は移民が大好き」】

トランプ大統領は「壁」や「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策に象徴されるように、移民の流入に非常に厳しい姿勢を支持層向けにアピールしていますが、それはあくまでも「不法」移民の話であって、ヒスパニック系でも「(正規の)移民は大好き」だそうです。

 

****「移民大好き」 トランプ氏、ヒスパニック系有権者に猛アピール****

2020年大統領選で2期目を目指すと正式に発表したドナルド・トランプ米大統領は20日、米スペイン語テレビ局「テレムンド」の番組に出演し、「私は移民が大好き」と述べてヒスパニック系有権者にアピールした。

トランプ大統領がスペイン語チャンネルのインタビューに応じるのは、今回が初めて。

 

司会者のホセ・ディアスバラルト氏から、不法移民を厳格に取り締まる「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策や、不法移民の親子の引き離し政策、未成年時に親に連れられて不法入国した移民の救済制度「DACA(ダカ)」の打ち切りなどについて質問されたトランプ氏は、「私は移民が大好きだ」と答えた。
 
さらに「あなたの言っているのは、不法移民のことだろう」「私はこれまで移民にはとても親切にしてきたからね」とトランプ氏は発言。

 

「この国は移民によって成り立っている」と述べた上で、工場の人手不足を補うため、移民をいっそう歓迎するとも主張した。トランプ氏は、就任後に米国内の工場労働者の仕事を取り戻したと豪語している。

 

トランプ氏はまた、ヒスパニック系米国人の失業率が史上最も低い水準になったのも自身の任期中だと主張。世論調査ではヒスパニック系の支持率が17ポイント上昇しており、自分はヒスパニック系住民の間で人気があると得意げに語った。

 

その上で、人気の理由は全て、トランプ政権の移民・国境政策のおかげだとコメント。「ヒスパニック系の人々が、厳格な国境管理を求めているからだ」「彼らは、流入してきた人々が職を奪う事態を望まない。犯罪者の流入も望んでいない。彼らは誰よりも国境のことを知っている」などと述べた。 【6月21日 AFP】

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まあ・・・・そういうことのようです。大統領本人が言っていますので。

 

【メキシコに対応を迫るアメリカ 圧力に抗えないメキシコ、国内には「米国はわれわれの国を収容所にしようとしている」との批判も】

アメリカには1000万人超の不法移民がいるそうです。

これだけの数になると、法律上の違反云々の問題を超えて、現実問題としてアメリカ社会を構成する大きな要素になっているとも言えます。

 

また、これだけの不法移民が存在するということは、アメリカ経済・社会がそうした人々を必要としてきたということを示すものでもあるでしょう。

 

これまでの経緯から隣国メキシコからの不法移民が多数を占めてはいますが、近年はメキシコ経済の好調さのため、メキシコ人に関しては流入より帰国の方が多く、メキシコ人割合は半数を割っています。現在の主流は中米からの移民です。

 

****米不法移民人口 、メキシコ人半数割り込む 50年ぶり****

米国に滞在している不法移民のうち、メキシコ人の比率が2017年に50%を割り込んだことが最新の調査で明らかになった。少なくとも1965年以降では初めて。

 

米シンクタンクのピュー研究所が実施した調査では、米南部国境における過去何十年にもわたる状況の変化が浮き彫りになった。暴力や貧困から逃れるためエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスなどの中米諸国から流入する移民が増える一方、仕事を求めて米国にやってくるメキシコ人が減った。

 

調査によると、2017年に不法に米国内に滞在していた外国人は1050万人と推計される。このうちメキシコ人は490万人で、全体に占める比率は47%となった。米国内に不法滞在するメキシコ出身者数は、ピーク時の2007年の690万人から約200万人減少している。(中略)

 

今回の調査報告書は12日に発表された。共同執筆者であるパッセル氏は、「正式な承認を得ていないメキシコ人の入国は依然として続いているが、出国するメキシコ人の方がずっと多い」と指摘した。

パッセル氏によれば、この減少は米国側国境での警備強化とメキシコ国内経済の改善の結果とみられる。

 

パッセル氏は「人々は(米国に行く代わりに)メキシコ国内を移動している」と指摘。近年、農業や製造業での雇用機会が増加していると付け加えた。「メキシコ国内に雇用を提供する多数の工場が存在し、人々は海外へ行く必要がない」という。

 

同報告書によれば、メキシコ人移民が出国して減少した分は、中米、アジア諸国からの移民が取って代わっている。

 

過去8カ月間で中米から何十万人もの移民が家族連れないし子どものみでやって来ているため、国境の米職員に大きな負担がかかっている。

 

トランプ大統領は先週、メキシコを通じて米国に向かう中米出身者の流れを抑制するためにメキシコ当局が対策を強化しなければ、メキシコに追加関税を課すと警告。メキシコ政府は、同国南部の国境に国家警備隊を配置することに同意したほか、米当局が米国の判事による判断を待つ難民申請者をより多くメキシコに送還できるようにすることにも同意した。

 

連邦政府のデータによると、米国の国境では2014年以降、85万1000人を超える中米出身者が不法入国で逮捕されている。そのほぼ全員は、本国に送還されれば安全が脅かされるとして、難民としての保護を求めている。

 

子連れの場合は米国内で釈放され、移民判事が米国での滞在が容認されるかを判断するのを待つことになるが、この手続きが終わるまでには何年もかかる場合がある。

 

ピュー研究所によると、米国に不法滞在する外国人の総数は近年、1050万人前後で横ばいに推移している。

【6月13日 WSJ】

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メキシコ人不法移民は減少しているにしても、「メキシコが中米からの移民を有効に阻止していないから、彼らがアメリカにやってくる」と、トランプ大統領の怒りの矛先はメキシコに向けれており、上記記事にあるような関税圧力をかける形で、メキシコが国境管理を厳格化することなどで一定の合意に達していますが、それがうまくいかないときは・・・という話が合意には含まれているようです。

 

****トランプ氏、文書ちらつかせ合意内容うっかり漏らす メキシコ不法移民対策****

アメリカのドナルド・トランプ大統領は11日、メキシコと7日に合意した不法移民対策の詳細の一部をうっかり漏らした。

 

トランプ大統領は記者団に対し、国内への不法移民の流入に歯止めをかけることを目的とした対策について、「適切な時に」メキシコ側から発表させたい考えだと述べ、詳細は明らかにしなかった。

 

ただ、この時トランプ大統領が手にしていたのは、合意内容の詳細が書かれた1枚の紙だった。これを終始ちらつかせなが取材に応じたため、メディアが撮影した写真によって内容が明らかになった。

 

この合意には、複数のラテンアメリカの国がアメリカによる関税措置を免れるために難民申請手続きを進めることになるとみられる、地域難民計画への言及が含まれていた。

 

メキシコ側の発表

メキシコのマルセロ・エブラルド外相は10日、合意内容の一部をすでに公表しており、同国は「45日後」に移民対策の効果が出ているかを評価するという。

 

メキシコは現在、アメリカを目指す移民の流入を食い止めるため、同国南側のグアテマラ国境に国家警備隊6000人を派遣している。

 

この対策が失敗に終わった場合について、エブラルド外相は、メキシコはアメリカが求める「安全な第3国」に指定されるだろうと述べた。これは、メキシコ領を通過する難民申請者は、アメリカではなくメキシコで申請を行なう必要が生じることを意味する。

 

外相によると、アメリカはこの措置にこだわっており、早急に実施したがっているものの、同国は直ちには応じなかったという。(中略)

 

仮にメキシコが45日以内に移民を食い止められなければ、他の国々もこの問題に引き込まれる。

アメリカを目指す移民が経由地として通過するブラジルやパナマ、グアテマラと、難民申請手続きの負担を分担させられるかどうか、協議が行なわれる見通しだ。

 

エブラルド外相は、アメリカ側の交渉担当者がメキシコ国内を通過する「移民をゼロ」にするよう求めてきたが、それは「不可能な任務」だと述べた。【6月12日 BBC】

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“うっかり漏らす”とありますが、文書が写真撮影されることを見越したトランプ大統領による意図的「リーク」でしょう。わざとらしいパフォーマンスです。

 

政治課題をこういうTV番組的な演出レベルに引き下げているところが、トランプ大統領の問題でもあります。

 

メキシコのロペスオブラドール大統領は、トランプ米政権と合意した不法移民対策強化の予算を、大統領専用機の売却などで工面する方針を明らかにしていますが、メキシコに責任を負わせるやり様に、メキシコ国内では反発も強いようです。

 

“メキシコで高まる対米反発、関税見送りも関係悪化”【6月10日 WSJ】

“米と合意の不法移民対策、メキシコ与党内で批判噴出”【6月17日 ロイター】

 

メキシコ内相は「いかなる国家警備隊であっても、2000人や3000人のキャラバンを止めることは不可能だ」とコメントし、グアテマラ国境に配備する国家警備隊の活用に懐疑的な見方を示しています。

 

メキシコ下院議長は、“米国の「安全な第三国」要求を受け入れれば、主権を失うことになるとし、「米国はわれわれの国を収容所にしようとしている」と批判。トランプ氏は「経済テロ」でメキシコに圧力をかけているが、メキシコはそれに屈するべきでない、と主張した。”【6月17日 ロイター】とのこと。

また、メキシコが国境管理を厳しくしても、結局は越境補助をビジネスとする人身売買業者を喜ばすだけとの指摘も。

“米メキシコ合意の不法移民対策、人身売買業者に恩恵か”【6月10日 AFP】

 

トランプ米政権は14日、難民申請中の不法移民をメキシコで待機させる合意に基づき、南部テキサス州エルパソからメキシコ側に約200人の移民を送還しています。これまで1日約100人だった人数枠を倍増させた形で、メキシコ外相は「無制限に受け入れない」と強調していますが、アメリカ側への反発が強まっているメキシコでは今後問題化する可能性もあります。【6月15日 時事より】

 

かなり端折りましたが、この問題に関するメキシコ側の反発は上記のように強く、今後については不透明です。

 

****メキシコ、米国との貿易戦争に勝てる 対立回避すべき=大統領****

メキシコのロペスオブラドール大統領は17日、メキシコは米国との貿易戦争に勝てると述べた。ただ、勝ったとしても割りに合わない勝利で、メキシコはこのような対立は回避した方が良いとの考えを示した。(後略)【6月18日 ロイター】

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要するに、「泣く子とアメリカには勝てない」ということで、大統領専用機の売却まで決意したメキシコ大統領は国内的了解を求めています。

 

短期的には圧倒的な力を拠り所とした強気なトランプ外交の“勝利”とも言えますが、長期的に見た場合、アメリカへの不信感を高めるこういう対応がアメリカの利益になるのかははなはだ疑問です。このあたりは、他の外交懸案事項についても同様です。

 

その点では、南シナ海で「大国」の力を振りかざす中国と“似た者同士”にも。

 

【国外退去命令が出されている不法移民、約2000世帯の一斉検挙へ】

一方、トランプ大統領は、アメリカ国内の不法移民について、明日23日にも一斉検挙に乗り出す予定です。

 

****トランプ氏、不法移民2000世帯の一斉検挙を23日実施と指示か 米報道****

ドナルド・トランプ米大統領は移民税関捜査局に対し、国外退去命令が出されている不法移民、約2000世帯について、早ければ23日に一斉検挙を行うよう指示した。米メディアが21日に報じた。(中略)

 

移民家族の一斉検挙は、テキサス州ヒューストンやシカゴ、ニューヨークやマイアミなどを含む最高10都市で、夜明け前の強制捜査とともに開始されると思われる。

 

CNNによると、ケビン・マカリーナン国土安全保障長官代行は、この作戦に全面的に賛成しているわけではない。ワシントン・ポストによると、同氏はICEに対し、弁護士を雇っていたものの法的手続きを放棄して姿を消してしまった不法移民、約150世帯を中心に対処するよう働き掛けてきた。

 

米国は現在、母国でのギャング組織による暴力と貧困から逃れて来た中米諸国の移民が大量に流入する問題に直面している。トランプ氏は、こうした移民流入を「侵略」と呼び、不法移民との闘いを主要政策に掲げている。 【6月22日 AFP】

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“一斉検挙”ということで、かつての“赤狩り”のようなヒステリックなものもイメージしましたが、一応、国外退去命令が出されている不法移民、約2000世帯に限定したもののようです。

 

それでも、1000万人をこえる不法移民社会に与えるインパクトは強烈でしょう。

 

法律違反を犯していると言えばそれまでですが、問題は1000万人をこえる不法移民の多くがアメリカ社会のなかでそれなりの役割を担いながらも、いつ摘発されるかわからないという不安とともに生活しているというあたりです。

 

アメリカのTVドラマ・映画では、制約された権利のもと、そうした不安を抱えて生きる不法移民が、ごく日常的な存在として頻繁に描かれています。

 

不法移民約2000世帯は、拘束後に本国に送還される見通しです。

人道上の理由などから不法移民に寛容な政策を取る「聖域都市」と呼ばれる自治体や人権団体から批判が続出していますので、今後の問題ともなりそうです。

 

メキシコも不法移民対策に乗り出すようですが、こちらはより穏健な方法のようです。

 

****1ドルで母国に帰れます=メキシコの格安航空、中米不法移民に呼び掛け****

メキシコの格安航空会社(LCC)ボラリスは21日、同国内で暮らす中米出身の不法移民に向け、1ドル(約107円)で母国に帰ることができるキャンペーンを発表した。EFE通信が伝えた。同国は米国入りを目指す中米出身者の中継点で、多くの不法移民が滞留している。

 

「家族再会プログラム」と称するボラリス社のキャンペーンは、「現在メキシコで暮らす不法移民のうち、自発的に母国に帰りたい中米人」が対象。身分証明書か出生証明書、旅券があれば1ドルと税金で出身国への航空券を手にすることができる。同社は「不法移民問題の代替的な解決策」と説明している。【6月22日 時事】 

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こんな生ぬるい方法では誰も暴力と貧困がはびこる母国には帰らない・・・という話かもしれませんが。

 

【中米3カ国に対する援助停止を発表 米国内には超党派の異論も】

根本的な問題は、母国に暴力と貧困がはびこっていることで、そこをなんとかしない限り、単に移民を希望する者を母国の檻に閉じ込め、自分たちの社会を壁で守ろうとするだけの話になります。

 

不法移民も好き好んで“不法”に入国している訳でもなく、暴力と貧困がはびこる母国では暮らせない、一方でアメリカは正規にはなかなか入れないというなかでの選択でしょう。

 

しかし、流れは逆光しているようにも。

 

****中米3カ国への援助停止=不法移民対策「不十分」と断定―米政府****

米国務省は17日、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの中米3カ国に対する援助停止を発表した。トランプ大統領はかねて、米国に向かう不法移民の流出阻止で十分な対策を講じていないとして、3カ国への援助停止を通告していた。

 

米メディアによると、停止された援助は2017、18の両年度に議会で承認された総額5億5000万ドル(約600億円)。

 

同省のオルタガス報道官は17日の記者会見で「米国に向かう不法移民を減らすため、3カ国の政府がわれわれの満足できる具体的行動を起こさない限り、援助計画に基づく新たな資金を提供しない」と述べた。【6月13日 時事】 

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この対応には、アメリカ国内の与野党に異論があるようです。

 

****米超党派議員、中米3カ国への援助削減再考を要求 国務長官に書簡****

米下院外交委員会の共和、民主両党のトップはポンペオ国務長官に書簡を送り、中米3カ国への援助を削減する計画を再考するよう訴えた。援助削減は中国の影響力拡大につながると警告している。(中略)

 

外交委のエンゲル委員長(民主党)とマッコール委員(共和党)は23日公表した書簡で「援助は成果を伴っており、改善の余地はあるものの、援助削減は非生産的で、米国に押し寄せる移民の増加につながるとわれわれは考える」と表明。

 

また、援助削減は安定したパートナーとしての米国の信頼性に疑問を生じさせ、中国をはじめとする敵対国が米援助削減の穴埋めを狙うようになると警告した。(後略)【4月24日 ロイター】

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今回の援助停止を発表は、こうした超党派の異論を押し切ってのものです。

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アメリカ  大統領選挙の争点となる気候変動対策 爆弾サイクロンでトランプ支持層でも高まる関心

2019-06-21 22:06:00 | 環境

3月末にパキスタン・フンザを旅行した際に、カラコルムハイウェイ沿いから見たパスー氷河先端)

 

【進む氷河・氷床の融解】

温暖化・気候変動の影響と思われる氷河・氷床の融解に関しては、頻繁に報道を目にしますが、たまたま昨日、そうした記事がいくつか重なっていましたので、今日はそうした温暖化・気候変動関連の話。

 

まず、ヒマラヤ、北極、グリーンランドに関する異なる、しかし、意味するとことは同じ三つの記事。

 

****ヒマラヤの氷河融解、今世紀初めの2倍速に 米研究****

ヒマラヤ山脈の氷河の融解速度が、今世紀初頭の2倍になっているとする研究結果が19日、米科学誌「サイエンス・アドバンシーズ」に掲載された。研究には米国が冷戦時代に衛星を使って撮影し、最近、機密解除された写真が使用されている。

 

研究の結果、気候変動の影響でヒマラヤ山脈の氷河が解け、南アジア一帯に住む数億人のための水の供給を脅かしている最新の兆候が明らかになった。

 

同研究論文の筆頭著者で、米コロンビア大学博士候補生のジョシュア・マウアー氏は、「これはヒマラヤの氷河がこの期間のうちにどれほど速く融解しているのか、そしてなぜそれが起きているのかをこれまでで最も明確に示す研究だ」と述べた。

 

研究者らは、インド、中国、ネパール、ブータンにまたがる全長約2000キロに及ぶ地域を40年にわたって撮影した衛星写真を精査し、2000年以降、毎年45センチ相当のヒマラヤ山脈の氷河が消滅していることを発見した。2000年以降に融解した氷河の量は、1975年から2000年の間に融解した量の2倍に達している。

 

研究は、氷河融解の最大の要因は気温の上昇だと結論付けている。気温は地域によって異なるが、2000年から2016年の平均気温は、1975年から2000年の平均気温と比較して1度上昇している。

 

研究者らはその他の要因として降雨量の変化を挙げ、雨の減少が氷量の減少につながっていると指摘。また化石燃料の燃焼から生じる煤煙が雪で覆われた氷河の表面にかぶさり、太陽光を吸収して融解を促進していることも一因だと説明した。 【620日 AFP】

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“冷戦時代に衛星”とありますが、もっとはっきり言えばアメリカの「スパイ衛星」KH-9ヘキサゴンが、1973年から1980年にかけてこの地域を撮影した画像が機密解除されて分析できるようになった成果です。

スパイ衛星も、思わぬところで役立っています。

 

ジョシュア・マウアー氏によれば、過去40年間でヒマラヤから4分の1もの氷が失われたとのこと。

 

“平均気温が1℃上昇”ということで、わずかな変化のように思えますが、最終氷期の最中でさえ、年間平均気温は現在よりわずかに3℃低かっただけだそうですから、その影響は甚大です。【621日 NATIONAL GEOGRAPHYより】

 

ヒマラヤの氷や雪は、インダス川、長江、ガンジス川、ブラマプトラ川といった大河の水源となっており、南アジア一帯に住む数億人の生活を支えています。

 

氷河融解の加速によって洪水の発生、また、氷河湖が決壊して壊滅的な洪水を招く危険性も増しています。すでにネパールでは被害も出ています。

 

長期的には大河の水源が失われて、水不足を招きます。

“今のところは、暖かい季節に雪解け水が増えている。だが、氷河が消失するにつれて、雪解け水は数十年以内に次第に減ってゆくと予測される。”【621日 NATIONAL GEOGRAPHY

 

この水不足は人間の生活・経済活動にとって致命的で、現在の石油をめぐる争い以上に深刻な国家間の対立・紛争を生むものと推察されます。(現在でも国際河川の水利用をめぐっては東南アジアでも南アジアでも深刻な対立がありますが、数十年後はその危機は現在の比ではなくなることが懸念されます)

 

「アジアは、極端な熱波とヒマラヤからの水の不足という、未曾有の災害に直面しているのです」(シェーファー氏)【同上】

 

話が少し横にそれますが、熱波が出てきたところで、インドの熱波の件。先日、ひとつの列車内の暑さで4人が死亡したという話題も取り上げましたが、半端ない暑さと水不足に襲われているようです。

 

“酷暑続くインド、北東部の州では1日だけで49人死亡”【616日 AFP】

“インド 最高気温45度超 厳しい熱波で200人超が死亡”【618日 NHK】

“インドの水危機が深刻化、抗議デモで500人以上逮捕”【621日 CNN】

 

話を戻して、次は北極。

 

****北極で記録的高温、進む氷の融解 137億トンの消失も****

北極圏のデンマーク領グリーンランドでは既に観測史上最高気温が記録されているが、2019年は北極にとって再び「ひどい年」となる可能性があると、科学者らは指摘している。グリーンランドの巨大な氷床の融解が進行すると、いつの日か世界の沿岸地域が水没する恐れがあるという。

 

デンマーク気象研究所の気候学者、ルース・モットラム氏は「2012年に記録された北極の海氷面積の史上最小値(中略)とグリーンランドの氷床融解量の史上最大値の両方が、更新される可能性がある」と警告した。「今年は気象状態に非常に左右されている」

 

DMIの科学者ステファン・オールセン氏は13日、グリーンランド北西部で通常より早く氷が解けて、犬が明るい青空の下、雪のない山々を背に水の上を歩いているように見える印象的な様子を撮影した。この写真はネットで拡散した。

 

オールセン氏は係留型の海洋気象ブイと気象観測所の調査中で、写真は自身が乗るそりを引く犬たちがフィヨルドの海氷が解け、数センチ水がたまっている中を進む様子を捉えていた。(中略)

 

モットラム氏によると、オールセン氏の調査旅行に同行した地元の人は「海氷がこれほど早く解け始めるとは予想していなかった。通常は氷が非常に厚いのでこのルートを通るが、海氷の上にたまった水がだんだんと深くなり前に進めなくなったため、引き返さざるを得なかった」と話していたという。

 

この写真が撮影された日の前日12日に、カーナークにある最も近い気象観測所が気温17.3度を記録した。これは2012630日に観測された史上最高気温をわずか0.3度下回っていただけだった。

 

「冬に降雪が少なかった上、最近は暖気と晴天、日照(がある)。これらはすべて、氷がいつもより早く溶けるための前提条件といえる」と、モットラム氏は説明した。

 

■狩猟やホッキョクグマにも影響

(中略)

 

1日で37億トンの氷を消失

(中略)デンマークの気象学者らは、氷の融解時期が通常よりほぼ1か月早い5月初めに始まったと発表している。

 

氷の融解が5月上旬よりも前に始まったのは、データの記録が開始された1980年以降で2016年の1回だけだ。

 

グリーンランドの氷の融解は、年間約0.7ミリの海面上昇の原因となっている。融解が現在の水準で続くとこの値はさらに増加する可能性がある。

 

また、グリーンランドの氷河の融解による海面上昇は、1972年以降で13.7ミリに達している。 【620日 AFP】

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次の記事もグリーンランドに関するもので、より長期的な話題。

 

****グリーンランドの氷、1000年後には完全融解? より正確な新モデルで予測****

温室効果ガスの排出が現在のペースで続けば、北極圏のデンマーク領グリーンランドの氷床は1000年後には完全に解けてなくなってしまうと示唆する研究結果が、米科学誌サイエンス・アドバンシズに発表された。

 

グリーンランドの氷床には、完全に融解すると世界の海面を7メートル上昇させるほどの氷が存在するとされる。(中略)

 

この最新モデルによると、現在のペースでグリーンランドの氷床が融解すれば、今後200年のうちに世界の海面は48160センチ上昇し、従来予測よりも80%高くなる可能性があるという。 【620日 AFP】

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数十年後が危惧されている状況では“1000年後”の話はあまり現実味もないので、大幅に省略しました。(人類が生き残っているかさえ定かではありませんから)

最後の部分で、200年後に海面上昇が48160センチの可能性ということは、より現実的な話として100年後は100センチ内外といったところでしょうか。

 

【温暖化対策を後退させるトランプ大統領】

この種の話は枚挙にいとまがありませんが、世界の将来に大きな影響力を持つアメリカ・トランプ政権の対応は相変わらずのようです。

 

****米、CO2規制を大幅緩和 温暖化対策後退、批判も****

トランプ米政権は19日、発電部門の温室効果ガス排出を削減するためにオバマ前政権が定めた厳しい規制に代わり、二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭火力発電を存続しやすくするなど大幅に規制緩和する政策を最終決定した。米メディアによると30日以内に導入される予定で、温暖化対策の後退と批判の声が出ている。

 

トランプ政権は地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を表明するなど温暖化対策に消極的で、化石燃料産業の優遇姿勢が改めて鮮明になった。【620日 共同】

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トランプ大統領のこうした姿勢は、オバマ前大統領のレガシーをひっくり返したいという衝動と、石炭産業労働者の支持票目当てという側面がありますが、現実にはトランプ政権下でも経済的優位性を失った石炭火力発電は全く増加していません。

 

****米国の石炭火力発電所、トランプ政権下で50か所閉鎖 新設わずか1か所****

20171月にドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任して以降、米国内で50か所の石炭火力発電所が閉鎖されていたことが分かったと、環境保護団体シエラクラブが9日、明らかにした。

 

シエラクラブによると、閉鎖の発表があった51か所のうち50か所の閉鎖が確認できたという。

 

米国では2010年以降、国内の石炭火力発電の容量の4割に当たる289か所の発電所が閉鎖されており、現在も稼働しているのは241か所。トランプ政権下で新たに開設された石炭火力発電所は最近アラスカ州で操業を開始した1か所のみだという。

 

また10年ほど前から水圧破砕法(フラッキング)による天然ガスの採掘が広く行われるようになって以降、石炭は掘削コストの面で不利になってきており、天然ガスが石炭に代わって急成長を続けている。

 

米国のエネルギー発電比率では、2015年には35%を占めていた石炭発電は今年夏までに25%に落ち込む見通し。一方、米エネルギー情報局によると天然ガスは電力供給の40%を占めるという。

 

エネルギーに関する公式統計によると、米国の石炭生産量はピーク時の2008年から3分の1減少しており、炭鉱は2008年から半数以上が閉鎖している。 【510日 AFP】AFPBB News

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トランプ大統領の石炭火力発電重視政策は、環境問題への理解だけでなく、経済合理性も欠いているように思われます。

 

【爆弾サイクロンで、トランプ支持農家でも高まる気候変動への関心】

トランプ大統領がこのまま温暖化・気候変動に背を向け続けていられるかと言えば、必ずしもそうも言いきれない事態がアメリカで(トランプ支持層の間で)で進行しているとの指摘があります。

 

****爆弾サイクロンで農作物が壊滅被害  「トランプ支持」やめる農家も****

「気候変動」が新たな争点に

 アメリカのトランプ大統領が、来年11月に行われる大統領選で再選を目指す考えを正式に表明した。新たなスローガンは「Keep America Great(アメリカを偉大なままに)」。今後、選挙戦を本格化させ、自身が掲げた公約実現を強硬に進めるものとみられる。

 

前回の選挙戦では、メキシコ国境の壁建設などの過激発言で旋風を巻き起こし、劇的な勝利を遂げたトランプ大統領だが、次の選挙の争点は何なのか。

 

4月下旬にNBCニュースとウォールストリートジャーナルが実施した世論調査によると、移民政策、雇用創出に続く形で注目されるのが気候変動問題だ。日本でニュースになる貿易問題への関心は2%に過ぎない。

 

■政府が優先的に取り組むべき課題は?(NBC&ウォールストリートジャーナルによる調査)

ヘルスケア 24

移民 18

雇用創出 14

安全保障 11

気候変動 11

国家債務・歳出 11

銃規制 5

貿易協定 2

 

日本ではあまり争点化しない気候変動問題だが、アメリカでは共和党と民主党で大きくスタンスが異なり政治イシューになる。

 

トランプ大統領は、パリ協定脱退表明以降も、オバマ政権の環境規制を次々と後退させ、環境問題に背を向けている。そのため「気候変動は信じない」と公言する有権者も多い。

 

一方、民主党側は包括的な環境対策「グリーン・ニュー・ディール」を打ち出すなど、選挙戦の新たな対立軸として積極的に取り組みをアピールしている。

 

「爆弾サイクロン」の襲撃

実は、この問題で、トランプ大統領の支持基盤を揺るがす新たな事態が起きている。

今年3月、「爆弾サイクロン」と言われる歴史的な暴風雨が中西部ネブラスカ州などを襲った。ミズーリ川が氾濫し、発生から3カ月が経つ今も一帯の大豆、コーン畑は浸水状態となっている。中西部の農家といえば、共和党の伝統的な支持基盤だ。その農家が壊滅的な打撃を受けている。

 

この洪水被害は、気候変動の影響と指摘されている。ネブラスカ大学で気候変動を研究するマーサ・シュルスキー准教授によると、一帯では、気候変動により、近年冬がより寒く、春に雨量が多い傾向で、大量の雪解け水が発生するようになった。3月には、爆弾サイクロンによって川に大量の氷が押し寄せ、ダムが決壊するという異常事態も発生した。

シュルスキー氏は「このような傾向は今後強まると予測される。気象条件だけをみれば、洪水の可能性はさらに高まる」と警鐘を鳴らす。

 

トランプの「無策」を批判する農家も

こうした状況を受け、被害にあった農家が気候変動へ関心を寄せ始めているのだ。

 

ネブラスカ州北部で6代続く農家を営むアンソニー・ルジスカさんの土地には、洪水によって大量の氷の塊が押し寄せ、自宅や畑が壊滅的被害を受けた。古い時代に建てられた屋敷や手作業で作った小屋、飼っていた牛や豚300頭も失った。アンソニーさんは「政治のことは詳しくわからない」と言葉を濁す一方、「気候変動は起きている。振れ幅がひどくなっていて、時に非常に暴力的だ」と語る。

 

(中略)周辺には、前回の選挙でトランプ大統領に投票したものの、貿易戦争と大雨でトランプ支持をやめると話す農家も多いという。

 

(中略)次の選挙戦で気候変動が大きな焦点になることは確実だ。トランプ大統領の支持基盤を揺るがす地殻変動につながるのか、注目が集まる。【620日 FNN】

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イランとアメリカ 戦争は望まないが交渉上の優位性を求める戦いが その過程で不測の事態も

2019-06-20 22:50:43 | イラン

(オマーン湾で攻撃を受け炎上するタンカー 【618日 WSJ】)

 

【国際社会には「ほんとですか〜〜??」というアメリカへの不信感も】

オマーン湾で起きたタンカー2隻への攻撃については、「証拠」写真なるものを公開してイランがやったと主張するアメリカと「やってない」とするイランが対立していることは周知のとおり。

 

「真犯人」が誰かはわかりませんが、アメリカ主張に対して「どうも、アメリカの言うことは信用できないからな・・・」という国際社会のアメリカへの不信感も感じられます。

 

****イラク戦争と同じ構図か。ホルムズ海峡タンカー攻撃の「真犯人」****

(中略)

それにしても、なぜ「証拠を提示した」にも関わらず、アメリカの主張は、信じてもらえないのでしょうか?一番の理由は、「イランの動機がわからん」ということでしょう。(中略)

 

もう一つは、「アメリカが提示した証拠、説得力がイマイチ」ということでしょう。このこと、指摘している人もいます。(中略)

 

アメリカは、ウソつきすぎで信じてもらえない

もう一つ、「アメリカの話に説得力がない理由」。それは、アメリカが「ウソを多用しすぎ」ということ。なんというか、国際社会から「オオカミ少年」のように見られている。いろいろいろいろあるのですが、代表的な例を二つあげておきます。

 

一つは、イラク戦争。開戦理由は二つでした。すなわち、「フセインは、9.11を起こしたアルカイダを支援している」「フセインは、大量破壊兵器を保有している」でした。新しい読者さん、これ二つとも「大うそ」だって知ってました???????????(中略)

 

もう一つ。20138月、オバマさんは、「シリアを攻撃する!」と宣言しました。理由は、「アサド軍が化学兵器を使った」から。これもウソだった可能性が高いのです。なぜ?20135月、国連は、こんな報告書を出していた。(中略)

二つ例をあげましたが、同じような例は、たくさんあります。最近のアメリカの情報戦は非常に稚拙。日本は「米英情報ピラミッド」に組み込まれているので、こんな重要情報も拡散されないのですね。

 

アメリカはこんな感じ。それで、この国が「イランがやった!!!」と主張しても、「ほんとですか〜〜??」というリアクションになってしまうのです。【619日 北野幸伯氏 MAG2 NEWS

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シリアの化学兵器についてはともかく、イラク開戦は上記のとおりでしょう。

更にあげるなら、ベトナム戦争本格化の引き金となった「トンキン湾事件」もあります。

 

そんなこんなで「ほんとですか〜〜??」ということになりますし、しかも言っているのが平気でウソをつくトランプ大統領と、イランを攻撃したくてたまらないボルトン補佐官などですから・・・。

 

“アメリカが「ウソを多用しすぎ」ということ”に加えて、(日本・安倍政権は違いますが)欧州ドイツ・フランスなどとアメリカ・トランプ政権の溝がこれまでになく深いということも影響しているでしょう。

 

一方、イギリスがいち早くアメリカ主張に賛同したのは、従来からの米英の「特別な関係」というだけでなく、EU離脱後は(トランプだろうが何だろうが)アメリカを頼らざるを得ないという切羽詰まった状況のあらわれのようにも見えます。

 

個人的には、タンカー攻撃だけなら「ほんとですか〜〜??」というところですが、後述するような、その後の一連の攻撃・挑発の動きと併せて考えると、「(ロウハニ政権が絡んでいるかどうかはわかりませんが)やっぱり、イラン関係筋の仕業かな・・・」という感も。

 

【戦争は望んでいないトランプ大統領・イラン】

タンカー攻撃に関して、トランプ大統領は以下のようにも。

 

****石油確保での武力行使明言せず=タンカー襲撃「影響小さい」―米大統領****

トランプ米大統領は18日の米誌タイム(電子版)に掲載されたインタビューで、ホルムズ海峡付近でのタンカー襲撃を踏まえ、石油輸送路確保のため軍事力を行使する可能性について「(質問の)疑問符は、そのままにしておく」と述べ、明言を避けた。イランによる核兵器保有を阻止するためなら、武力行使をためらわないという姿勢も示した。

 

トランプ氏は、エネルギー輸出国となった米国にとって、タンカー襲撃の起きた海域の重要性は以前と比べ大幅に低下したと指摘。襲撃の影響は「今のところ、極めて小さい」と語った。

 

襲撃にイランが関与したとする米情報当局の分析に関しては「同意しない人は少ないだろう」と述べた。その一方、「(2015年の)イラン核合意調印時、イランはいつも『米国に死を』と叫んでいたが、今はあまり耳にしない」とも話し、イラン政府がここに来て米国への敵対姿勢を強めているわけではないとの見方を示した。【619日 時事】

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トランプ大統領は相手を追い詰めて有利な交渉をしたいという狙いで、カネのかかる戦争や(票につながらない)中東への関与には消極的とされています。政権内には、ボルトン補佐官らの好戦的勢力との対立があるとも言われています。

 

上記の発言には、トランプ大統領の「衝突・戦争はしたくない」という思いがにじんでいます。

 

戦争になれば壊滅的な打撃を被るイランとしても、(一部好戦的な勢力を除けば)戦争をしたくないのは当然です。

 

****イラン、「米国との戦争は起きない」=IRNA****

イラン最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長は19日、同国と米国の間で軍事対立は起こらないと述べた。国営イラン通信(IRNA)が報じた。

シャムハニ氏は「戦争をする理由はなく、イランと米国の間で軍事対立は発生しないだろう。他国に圧力をかけようとするなかで、他国を非難することは米当局者の一般的な慣行となっている」と述べた。(後略)【619日 ロイター】

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イランは、1980年代の8年間に及ぶイラン・イラク戦争を孤立無援のなかで戦い抜いたという自信を持っていますが、当時と比べて都市化が進んだ現在は食糧を輸入に頼る経済構造に変化しており、当時の話が現在に通用する訳でもないという指摘もあります。

 

市民の不満が高まれば、体制が動揺する可能性も。

 

【レバレッジ(交渉上の相対的優位性)を巡る戦い】

戦争をしたくないというのが本音のトランプ大統領とロウハニ政権ですが、現在の対立を可能な限り有利な方向に持っていきたいということで、「最大限の圧力」かけあう両国でもあります。

 

イランは濃縮ウランの増産という核合意への「違反」に踏み切り、「このままでは合意を破棄して核開発を再開せざるを得ない、それでもいいか?」と欧州など関係国に圧力をかけています。

 

タンカー攻撃も、「いつでもホルムズ海峡の石油輸送を混乱させることができるぞ!」という示威行動だったのかも。

 

アメリカは、「イランのさらなる攻撃の抑止が目的」、「トランプ大統領は戦争を望んでいない」(ポンペオ米国務長官)としながらも、地対空ミサイル「パトリオット」1個大隊や有人・無人のISR(情報・監視・偵察)関連装備

を含む米軍約1000人規模を中東に追加派遣することを明らかにしています。

 

****米・イランの緊張増大、背後で何を駆け引き?****

イランが17日発表した濃縮ウランの増産は、急激に緊迫する中東情勢の背後にある「真実」をほぼ完璧に物語っている。

 

世界が今、目にしているのは、戦争へ向かう序章というよりは、レバレッジ(交渉上の相対的優位性)を巡る戦いだ。トランプ政権はこれまで、イランに対し著しいレバレッジを手にする一方、イランはそれに対抗するためのレバレッジを切実に必要としている。

 

だからといって戦争が起こらないという訳ではない(読み間違いをする可能性は高く、そのリスクはさらに高まっている)。

 

戦争は米・イラン双方とも望んでいる結果ではないということだ。校庭でにらみ合っている子供たちが、一線を越えずに済むことを願いながら、越える構えを見せようとするのと同じ「いちかばちか」の賭けだ。

 

イランが17日、濃縮ウランの貯蔵量が2015年の核合意で定められた上限を近く超えそうだと明らかにしたことで、米国とイランのにらみあいは一段と危険を増した。

 

イランが核合意の存続を目指す欧州諸国を脅すことで、米国の対イラン制裁に対抗するよう必死の説得を試みていることは明らかだ。

 

イランは実際、米国の制裁を回避できるような金融システムを構築するという約束を欧州諸国が果たせば、濃縮ウランの製造に関する決定は覆すことが可能だと主張している。

 

米国とイランはこの対立において、それぞれレバレッジを手に入れる2つの大きな手段を持っている。トランプ政権はイラン経済を崩壊させる経済力、そして他国を従わせる外交力を有していることを見せつけた。

 

一方、イランはここで、自らが持つ2つのレバレッジ手段で対抗できることを示す必要がある。つまり、ホルムズ海峡の石油輸送に支障を生じさせる力と、核開発を再開できる力だ。

 

イランは最近、同国が行ったとされるオマーン湾航行中の石油タンカー攻撃により、一つめの力を持っていることを示した。

 

そして目下、核活動を活発化させることで、二つめの力をちらつかせている。

 

こうした行動に出る背景には、核合意を破棄する構えを見せることで、国際社会が結束してイランに反対するのではなく、むしろイランを支持してくれることに賭けている(しかもこれは大きな賭けだ)ことがある。

 

(中略)これ(トランプ大統領の対イラン制裁)により、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は窮地に追い込まれた。(中略)

 

イランが過剰な反応を示せば、米軍による攻撃を招きかねない。もしくは、国際社会から非難され、国際的な孤立を深める結果、経済を巡る市民の不満を高めることになろう。

 

こうした状況で、ハメネイ師には3つの望ましからざる選択肢しか残されていないと(カーネギー国際平和財団のイラン担当アナリスト)サジャドプアー氏は指摘する。

 

具体的には、トランプ氏よりも長く政権の座にとどまることを目指す、新たな核合意を協議するというトランプ氏の提案を受け入れる、もしくは一段と緊張を高めるの3つだ。

 

ハメネイ師は今のところ、緊張を高める方法を選んだ。ただ、慎重に線引きされた限度内にとどめている。

 

ハメネイ師はイラン沖のホルムズ海峡を通過中の石油タンカー船への攻撃を承認することで、原油価格の高騰を通じて米国民に経済的な痛みをもたらす一方、欧州や日本、中国を脅迫し、イランに対する圧力を軽減するようトランプ政権に強要することを狙ったようだ。

 

また同時に、イランの仕業ではないとして責任を逃れることができるよう石油タンカーへの攻撃を秘密裏に行うことで、説得力のある否定論拠を維持しようとしている。

 

さらに、核合意の破棄も辞さない構えを見せる一方で、実際に破棄を宣言し、核兵器能力の取得にまい進し始めるには至っていない。

 

イラン核合意を離脱すれば、公然と石油タンカーに攻撃を加えるのと同様、世界は一丸となってトランプ氏に対抗するのではなく、イランに対抗することになるだろう。 

 

イランはまた、最後にある読みを行っているように見える。つまり、トランプ氏と同盟国の関係は不安定で、トランプ氏個人の信頼も低く、世界はイラン側の主張を信じ、イランが緊張を増大させたとみるのではない――そして、米政府を批判する――と読んでいるフシがある。

 

要するに、イランの目的は公然と戦いを誘発することではなく、レバレッジを得ることだ。リスクの高い戦略だが、不合理なものではない。【618日 WSJ】

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【いつなんどき不測の事態が起きてもおかしくない状況も】

上記のようにハメネイ師が“石油タンカー船への攻撃を承認”したのかどうかは知りません。

 

ただ、タンカー攻撃以降も、イランの影響力が強いイラクやイエメンで、アメリカ関連施設やアメリカの同盟国サウジアラビアを対象とした同種の攻撃が相次いでいます。

 

****米石油会社敷地にロケット弾=北部の基地も標的―イラク****

イラク軍は19日、南部バスラ近郊にある米石油大手エクソンモービルなどが操業する油田関連施設の敷地内にロケット弾が撃ち込まれ、3人が負傷したと明らかにした。油田の操業に影響はないという。ロイター通信が伝えた。

 

また、AFP通信によれば、この攻撃の数時間前には北部モスルの軍基地にもロケット弾が着弾した。基地には米軍が駐留しているとされる。いずれも誰が攻撃したかは不明。

 

イラクでは17日に、米軍要員も駐留する首都バグダッド北方の基地にロケット弾が着弾したばかり。米国とイランの緊張が高まる中、米国の権益を狙ったとみられる事件が続いており、イラクで活動する親イラン勢力の関与を疑う声が上がりそうだ。【619日 時事】

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****サウジ淡水化プラントにミサイル、イエメンから発射か ****

サウジアラビアの海水淡水化プラントがミサイル攻撃を受けた。隣国イエメンから発射されたとみられる。米政府高官が明らかにした。死傷者の有無は分かっていない。

 

今回の攻撃を受け、米政府機関の高官らが19日夜、ホワイトハウスに召集されたという。

 

サウジアラビア主導の連合軍はイエメン内戦に介入し、反政府武装勢力「フーシ派」と対立している。フーシ派はイランが支援しているとされる。【620日 WSJ】

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上記淡水化プラントへの攻撃と同じものかどうか判然としませんが、“al arabiya net al qods al arabi net は、hothy(フーシ派)軍報道官が、同軍のミサイル部隊が(サウジアラビア)ジャザーンのal shaqiq 発電所を巡航ミサイルで攻撃し、ミサイルは目標に正確に命中したと声明したと報じています(攻撃の日時等は不明)。”【620日 中東の窓】という情報も。

 

発電所攻撃の情報の方は、これまでの「弾道ミサイル」ではなく、イラン提供と推察される「巡行ミサイル」が使用された点に注目し、情報の真偽については「本当でしょうか?」としながらも、仮に本当ならイランのフーシ派支援について“質的変化”が生じている可能性を懸念しています。

 

更に、イランの精鋭革命防衛隊がアメリカの無人偵察機を撃墜する事態に。

 

****イラン革命防衛隊「米の無人偵察機を撃墜」 緊張高まる***

イランの最高指導者直属の精鋭部隊「イスラム革命防衛隊」は20日、同国南部のホルムズガン州のオマーン湾に近いイランの領空内で、米国の無人偵察機を撃墜したと明らかにした。政府系のファルス通信などが報じた。

 

ホルムズ海峡周辺ではタンカー攻撃事件が起きるなど、米国とイランの緊張が高まっており、偶発的な衝突が懸念されている。(後略)【620日 朝日】

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撃墜はアメリカも認めていますが、イランが「イランの領空を侵犯した」としているのに対し、アメリカは領空侵犯を否定し、国際空域を飛行していたと主張しています。

 

“イランの精鋭部隊「イスラム革命防衛隊」は20日、米国のドローンが撃墜されたことについて、米国への「明らかなメッセージ」だとし、米国の侵略には力強く対応すると表明した。”【620日 ロイター】とも。

 

アメリカ・イラン両国とも戦争を始める考えはなく、相手に圧力をかけ、交渉を有利に持っていきたいとしているだけ、両国ともに相手に甚大な被害を与える軍事力を有しており、両国間に一定の相互抑止が効くだろう・・・・というのが、一般的な見方ですが、上記のような動きが頻発すれば、いつなんどき不測の事態に発展してもおかしくもない現状でもあります。

 

大規模な衝突となれば、レバノンのシーア派武装勢力ヒズボラやイエメンのフーシ派も加わって、紛争はサウジアラビア・イスラエルを巻き込む形で容易に拡大します。(あるいはイスラエルがイラン核施設を空爆するか)

そうした事態は、中東原油に頼る日本にとっては悪夢です。

 

安倍首相のイラン訪問が今のところは成果がなかったにしても、今後とも間に入ってアメリカ・イラン双方に自重を促す取り組みを続けることは日本にとって必要なことでしょう。 

 

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人口分布的に世界の中心となるアフリカ 未だ遠い平和と安定 西アフリカのマリ・ブルキナファソでは

2019-06-19 23:23:37 | アフリカ

(マリ中部にある、襲撃を受けたドゴン人の村ソバヌクーで掘られた墓穴(2019611日撮影)【613日 AFP】)

 

2050年には、サハラ以南アフリカの人口は現在の2倍に増加】

現在、アフリカの人口は約12億人ほど。

急速に増加する世界人口にあって、その増加の中心はアフリカです。

 

****世界人口、2050年には97億人に 国連予測****

国連(UN)の経済社会局(DESA)は17日、現在77億人の世界人口が、2050年には97億人に達するとの見通しを明らかにした。サハラ以南アフリカの人口は現在の2倍に増えると予想されている。

 

国連の報告書「世界人口予測(World Population Prospects)」最新版によると、世界人口はさらに2100年までに110億人に達するという。

 

報告書によると今後、少数の国では平均寿命の伸びにより人口の増加が見込まれる一方で、世界全体の人口増加率は出生率の低下により鈍化する。

 

2050年までに増える世界人口の半分以上は、インド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア、インドネシア、エジプト、米国の9か国に集中する見通し。

 

現在世界で最も人口の多い中国では、2019年から2050年の間に約3140万人減り、2.2%の人口減少が予測されている。

 

また、ベラルーシ、エストニア、ドイツ、ハンガリー、イタリア、日本、ロシア、セルビア、ウクライナでは死亡数が出生数を上回るが、人口減少は移民の流入によって相殺されると予想される。

 

1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を示す合計特殊出生率は、世界全体で1990年には3.2だったが、2019年には2.5に減少。2050年にはさらに2.2まで下がる見通しだという。

 

人口移動がなかった場合、人口維持に必要な合計特殊出生率は最低でも2.1だといわれる。【618日 AFP】

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人口増加は地域的に大きく偏っています。

 

“サブサハラ・アフリカの人口は2050年までに倍増(99%)する一方、その他の地域の予想人口増加率(2019-2050)は、オセアニア(オーストラリア・ニュージーランドを除く)56%、北アフリカ・西アジア(46%)、オーストラリア・ニュージーランド(28%)、中央・南アジア(25%)、ラテンアメリカ・カリブ諸国(18%)、東・東南アジア(3%)、欧州・北米(2%)と、地域によって異なる。”【618日 飯山みゆき氏 国際農研】

 

人口分布で見る限り、世界の中心はアフリカに向かっており、「アフリカの平和・安定」が「世界の平和・安定」に寄与する程度は現在以上に高まります。

 

【未だ遠い「アフリカの平和と安定」】

問題は、その「アフリカの平和・安定」が現在のところ最悪な状況で、近い将来好転する兆しも見つけにくいことです。

 

北アフリカ・アルジェリアでは、憲法評議会が2日、7月4日に予定していた大統領選の中止を発表しました。同国では4期20年の長期政権を敷いたブーテフリカ大統領が4月に辞任した後も、支配体制の刷新を求める反政府デモが毎週続いています。新たな選挙日程は未定で、政情不安が長期化しそうとの見方も。

 

スーダンでは、バシル前大統領失脚後の軍部と民政移管を求める勢力のせめぎあいが続いています。「双方は協議再開で合意した」という話ではありますが。

 

エジプトもテロ活動を抑えきれていない状態で、モルシ元大統領が17日裁判開廷中に急死したことで、ムスリム同胞団関連の反発も懸念されています。

 

南スーダンは最近あまり情報を目にしません。キール大統領派とマシャール副大統領派の間では、ひと頃ほどの衝突はないのでしょうが、状況が大きく改善したという訳でもなさそう。“国連の3機関は本日(614日)、南スーダンでは過去最多の696万人(人口の61%)が危機的な食糧不足に直面する恐れがあると警鐘を鳴らしました。”【ユニセフHP】

 

武装勢力が割拠するコンゴでは、エボラ出血熱対策もままならず感染拡大が止まりません。隣国ウガンダにも感染は拡大しています。

 

そのウガンダは、かつては盟友関係にもあった隣国ルワンダとの関係が急速に悪化し、国境を閉鎖し、スパイ行為や政治的理由に基づく暗殺、内政干渉を行っていると非難の応酬が繰り広げられています。

 

2013年から紛争が続く中央アフリカでは今年2月に、政府と14の武装勢力が権力分担などを規定した和平合意に達したと発表されています。ただ、5月にはフランス系スペイン人の修道女が頭部を切断されるといった事件も報じられていますので、まだ安定している訳でもなさそうです。

 

西アフリカの人口大国ナイジェリアでは相変わらずボコハラムのテロが止んでいません。“アフリカ・ナイジェリアの北東部で、少女2人と少年1人を使った自爆テロが立て続けに起こり、30人が死亡、39人が負傷した。”【618日 CNN】

 

南アフリカでは5月の総選挙で、ラマポーザ大統領を擁する与党アフリカ民族会議(ANC)が勝利を収めたものの、多くの課題に直面しており、マンデラの遺産を将来につなげることができるか今後の状況は不透明です。

 

明るい話としては、東アフリカ・エチオピアのアビー首相が、国境線を巡り紛争に発展した隣国エリトリアとの関係正常化に尽力していることでしょうか。

 

もちろん、上記のようなネガティブな話題だけではなく、アフリカ諸国では人口増加に伴う「人口ボーナス」によって、急速な経済成長も実現されてはいます。

 

ただ、これだけネガティブな状況が存在すると、将来に対しての楽観的な見方はなかなか困難です。

 

【西アフリカのマリでは民族間の“血で血を洗う抗争”】

そうした中にあって西アフリカのマリでは、イスラム過激派は仏軍によって掃討されたものの、その後も治安は安定せず民族対立による「殺し合い」が横行しています。

 

****マリ内閣総辞職、160人死亡の民族間衝突で政府対応に非難***

狩猟民族が牧畜民族の村を襲撃して160人を殺害した事件をめぐって政府批判が高まっていた西アフリカのマリで18日、内閣が総辞職した。

 

大統領府の発表によると、スメイル・ブベイ・マイガ首相と全閣僚の辞任を、イブラヒム・ブバカル・ケイタ大統領が承認した。

 

マリでは、情勢が不安定な中部モプティ州で民族間の衝突が激化しており、政府の対応に批判が集まっていた。

 

特に先月23日、狩猟民族のドゴン人がブルキナファソとの国境に近いオゴサグ村を襲い、土地利用をめぐって長年対立してきた牧畜民族フラニの村人160人を虐殺した事件では、マイガ政権への退陣圧力が高まっていた。

 

首都バマコでは今月5日、数万人規模のデモが行われ、襲撃事件の増加防止策が不十分だと政府を非難。17日には与野党の議員が共同で、マイガ政権は社会不安を抑え込めていないとして内閣不信任決議案を提出していた。

 

マリでは北部の広大な砂漠地帯を2012年に国際テロ組織「アルカイダ」系のイスラム過激派組織が掌握。20131月にフランス主導の軍事作戦が開始され、過激派の大半は掃討されたものの、今なお国土の広域が無法地帯と化しており、政府は治安の回復・安定化に苦慮している。 【419日 AFP】AFPBB News

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その後も、現代の出来事かと疑うような襲撃・殺戮“血で血を洗う抗争”が続いています。

 

****マリの村襲撃事件、当局が死者数を35人に訂正****

西アフリカのマリ中部で、武装集団が村を襲撃して当初95人が死亡したとみられていた事件で、当局は12日、最終的に確認された死者数は35人だったと発表した。

 

今回の発表によると、犠牲者のうち24人は子どもだったという。さらに「定期の巡回」により6人の身柄が拘束されていることも明らかになった。

 

ドゴン人の村ソバヌダまたはソバヌクーは9日夜、銃で武装した集団による襲撃を受けた。生存者らの証言によると、住民が殺されて家々が焼かれ、攻撃は7時間にも及んだという。

 

複数の少数民族の集落が隣接するこの地域では、2015年にイスラム過激派の集団が姿を現してから情勢が不安定となっており、今回の事件が報復の暴力行為を招くという懸念も生じている。(後略)【613日 AFP】

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地元当局者の話では、約300人が暮らす村に襲撃者らがやって来て「銃撃と略奪、焼き討ちを開始した」「ドゴン人の村1つが事実上消滅した」とも。【610日 AFPより】

 

“この地域では、イスラム過激派の説教師アマドゥ・クーファ師が率いる主に牧畜民族フラニ人のグループが、バンバラ人やドゴン人を標的とし始めたことで報復の連鎖が始まった。

 

フラニ人はもともと、牛の飼育および取引で生計を立ててきたが、バンバラ人とドゴン人は伝統的に農耕に携わってきたという。”【610日 AFP】

 

更に、襲撃は続きます。

 

****武装集団が村襲撃、38人死亡 マリ中部****

西アフリカのマリ中部で、武装集団がドゴン人の村二つを襲撃し、38人が死亡、多数が負傷した。政府が18日、明らかにした。死者数は暫定的なものとしている。

 

政府の声明によると、ブルキナファソとの国境に近いガンガファニ村とヨロ村が17日夜、「テロ攻撃」の標的とされたという。

 

この襲撃に関してこれまでに犯行声明を出した勢力はない。しかしマリでは今年、ドゴン人とフラニ人の間で血で血を洗う抗争が続いている。

 

フラニ人は主に牛の飼育や取引で生計を立てているのに対し、ドゴン人とバンバラ人は伝統的に定住し、農耕に携わってきた。

 

マリでは中部の民族対立だけでなく、イスラム過激派の活動も続いており、政府が鎮圧に苦慮している。 【619日 AFP】

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【ブルキナファソで相次ぐイスラム過激派のテロ活動】

一方、やはり西アフリカのブルキナファソではイスラム過激派の活動が火を噴いています。

 

****教会襲撃、6人死亡 武装勢力が乱射 ブルキナファソ****

AFP通信などによると、西アフリカブルキナファソの北部の村で28日、キリスト教会が武装勢力に襲われ、6人が死亡した。同国では、各地でイスラム過激派による襲撃が相次いでおり、今回の事件にも関与している可能性がある。

 

襲撃は28日午後1時ごろ、北部スム県の村で起きた。バイクに乗った武装勢力が、教会の牧師や礼拝に訪れた人々に向け、銃を乱射したという。

 

同国では、国際テロ組織アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)などが根を張る。首都ワガドゥグでは昨年3月、フランス大使館や軍本部などが襲撃され、複数の死傷者が出た。2017年8月にも、首都のレストランが攻撃される事件があった。【430日 朝日】

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****仏軍、ブルキナファソで人質4人救出 兵士2人死亡****

フランス軍は、アフリカ西部ブルキナファソ北部で、何者かに拉致されていた仏人2人の救出作戦を実施し、この2人に加え、米国人1人、韓国人1人の計4人の人質の救出に成功した。ただその際、仏兵2人が死亡したという。仏大統領府が10日、発表した。(中略)

 

仏人観光客2人はベナンで拉致された後、国境を越えてブルキナファソへ連行されていた。ブルキナファソではここ数か月、イスラム過激派が攻撃を激化させている。

 

フランスは、貧困にあえぎ武力衝突が絶えないサヘル地域の北西部で「バルハン作戦」を展開しており、軍と特別部隊が数千人規模で駐留している。 【519日 AFP】AFPBB News

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****ブルキナファソで武装集団が教会襲撃、司祭と信者ら6人死亡****

アフリカ西部ブルキナファソの北部ダブロで12日、武装集団がカトリック教会を襲撃し、ミサを行っていた司祭1人と信者5人が死亡した。治安筋と地元当局が明らかにした。

 

ダブロ市長がAFPに語ったところによると、午前9時ごろ、ミサの最中だったカトリック教会に武装集団が突入し、礼拝者が逃げる中、発砲し始めた。実行犯らは礼拝者の一部を閉じ込めそのうちの5人と、ミサを執り行っていた司祭を殺害し、6人の死者が出たという。(後略)【513日 AFP】

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テロを繰り返すイスラム過激派はISやアルカイダとの関連も指摘されています。

 

****ISやアルカイダに忠誠 西アフリカで武装勢力が過激化****

アフリカ西部ブルキナファソで、武装勢力による襲撃や外国人を狙った拉致事件が相次いでいる。過激派組織「イスラム国」(IS)とのつながりが指摘される勢力もおり、治安の悪化が懸念されている。

 

AFP通信などによると、同国北部の二つのキリスト教会では先月28日と今月12日、武装した男たちが銃を乱射する事件が起き、少なくとも計12人が亡くなった。13日にも北部の街でキリスト教徒が襲われ、4人が死亡。政府は「テロリスト集団は我々を分断する目的で、宗教を標的にしている」との声明を出した。

 

また、隣国ベナンとの国境沿いにある国立公園では、今年に入ってフランス人観光客2人が武装勢力に拉致された。今月9〜10日に仏特殊部隊が救出作戦を実施。この2人のほか、以前から拉致されていたとみられる米国人と韓国人の女性も助け出されたが、作戦中に隊員2人が銃撃戦で犠牲になった。

 

いずれの事件も、武装勢力の目的や規模は分かっていないが、イスラム系の集団とみられる。イスラム教徒が多いブルキナファソではここ数年、国際テロ組織アルカイダやISに忠誠を誓う勢力が台頭しているからだ。AFP通信によると、2015年以降に約400人が殺された。

 

背景にあるのが、2011年にリビアのカダフィ政権が崩壊し、大量の武器が周辺国に流出したことだ。また、隣国マリでアルカイダやISに忠誠を誓う勢力がブルキナファソへ活動範囲を拡大しているとの見方も出ている。

 

昨年3月に同国の首都ワガドゥグにある軍本部とフランス大使館が襲撃され、兵士ら8人が死亡した事件では、マリを拠点にし、アルカイダ系とされる過激派「イスラムとムスリムの支援団(JNIM)」が犯行声明を出した。

 

ISも4月29日、最高指導者のアブバクル・バグダディ容疑者だとする動画を公開し、ブルキナファソやマリの勢力を称賛した。

 

マリのドゥラメ外相は14日、ベルギーで欧州諸国の外相らと会談した後、「我々は支援を必要としている」と国際社会の支援を求めた。【516日 朝日】

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こうした西アフリカを含むアフリカでの治安悪化は、欧州への難民流入圧力となりますので、アフリカの平和と安定が達成されない限り、欧州の安定もありえません。

 

中米からの移民・難民が流入するアメリカの場合も同様で、いくら壁を高くして自国を守ろうとしても・・・という話は、また別機会に。

コメント

AI(人工知能)の驚異的な可能性 必要なAI活用ルール 不可避な社会変革

2019-06-18 23:03:25 | 世相

(【618日 レコードチャイナ】)

 

10年以上も前に失踪した子供を経年変化に対応した顔認識技術で探し出す 生後数か月の子供も】

最近はAIに関する記事を目にしない日はないぐらい。その有用性・可能性とともに、限界や問題点なども多々指摘されています。

 

また、中国ではこのAI技術をいち早く実用化し、顔認証システムなどに応用していますが、こちらもいわゆる「監視社会」の問題点が多々指摘されています。

 

そうした問題点、留意すべき事項は多々ありますが、下記のような話を聞くと、やはりAIの可能性には驚嘆せざるを得ません。

 

****AIで尋ね人探し!10年前に誘拐された子供4人を探し出す―中国****

(中略)騰訊(テンセント)優図実験室が実施した経年変化に対応した顔認証技術による絞り込みに基づき、警察がDNAによる親子鑑定を行った結果、約10年前に行方不明となっていた4人の子供を探し出した。これは、中国国内で初めてのことであり、非常に素晴らしいブレイクスルーといえる。

テンセント守護者計画の安全専門家である李新氏は、警察官として8年のキャリアがあり、行方不明者捜索・誘拐グループ摘発事件に携わったのは、今回が初めてではない。だが、今回の行方不明者捜索にAIを使った点は、極めて特殊だったといえる。

李氏の同僚が、行方不明となった子供を探す両親から寄せられた子供の写真を見た時、誰もが言葉を失った。どの写真も少しでも汚れたりしてしまわないように1枚ずつぶ厚い油紙に幾重にも包まれていたからだ。

 

行方不明の子供たちはそのほとんどが3歳以下で、生まれてから撮影された写真が1枚しかないという子供や、生後満1カ月の時の写真だけという子供もいた。

四川省公安庁刑偵局誘拐対策処の蒋暁玲(ジアン・シャオリン)処長は、「写真を集めた時、両親は、『くれぐれも写真を無くさないでほしい』と繰り返し言っていた。両親にとってこれは子供が残してくれた唯一の拠り所だったからだろう」と当時を回想した。

これらの写真に写っている子供たちは全員、四川省公安庁誘拐対策処の未解決事件と関係があった。2008年から2010年にかけて、3歳前後の子供10人が、四川省で連続して誘拐されるという事件が起こったためだ。

四川省公安庁誘拐対策処と事件が発生した県・市の公安当局はこの10年間、誘拐されて行方が分からなくなった10人の子供を探し続けてきた。

 

蒋処長は「訪問調査やモンタージュ写真の公開、ネットワーク公告など試せることはすべて試してみたが、事件発生から時間がたちすぎており、仲介人の手掛かりもなく、事件は迷宮入りになるかと思われていた」と話した。

しかし201712月に転機が訪れた。公安部刑偵局の陳士渠(チェン・シーチュー)副局長が調査のためテンセントを訪れた際に、優図実験室の経年変化に対応した顔認証技術のことを知り、この技術に関する情報を四川警察に伝えたのだ。

李氏は、「難易度は非常に高く、実はその当時、関係者も自信はなかったが、あのぶ厚い油紙に包まれた写真を見て、どこまでも努力していく決心がついた」と当時を振り返った。

その当時、10年以上も前に失踪した子供を経年変化に対応した顔認識技術で探し出したケースは、世界的に見ても皆無だった。

 

経年変化に対応した顔認証技術については、優図顔認証計算式の責任者である李博士が同僚とともに、0歳から18歳までの子供の顔の成長・変化に対するモデリング・シミュレーションを行い、学習可能な顔のサンプルを大量に生成した。その後、ディープニューラルネットワークのアルゴリズム用いて、これらの人の顔に成長過程で生じる複雑な変化を学習させた。

(
中略)ついに大きなブレイクスルーを実現した。「DDL(データ駆動型学習)」と呼ばれるアルゴリズムによる経年変化に対応した顔認識の精確率は96%以上に達した。

間もなく、優図実験室チームは、彼らのモデルを用いて警察に提供された膨大な量のデータに対する第1回のマッチングを実施し、警察は行方不明の子供たちそれぞれに最も似ていた順位トップ5人まで絞り、最終的にオフラインでの確認作業を行った。

(中略)警察はDNA鑑定を経て、この第1回のマッチングで誘拐された4人の子供の所在を突き止めることに成功し、その4人のうち3人の精確率は最高だった。

蒋所長にとって最も印象深かったことは、第1回のマッチングで見つかった4人の子供の中には生後わずか数カ月の写真しかなかった子供が含まれていたことだった。彼女は、「科学技術の力は偉大すぎる」と感嘆を禁じえなかった。

引き続きこの技術を用いてさらに3人の子供が見つかった。当時四川省で相次ぎ連れ去られた10人の子供のうち、現在まですでに7人が見つかっている。

 

公安部刑偵局の陳副局長は、「誘拐された子供の多くが無事見つかったことは、誘拐されて長年が経過した子供を探す上でAIが重要な役割を担うことができる事実を裏づけている。経年変化に対応した顔認証技術は、DNA鑑定に続き、公安機関が誘拐された子供を捜索する上で、極めて有効な方法を提供するものであり、大きな『一里塚的意味合い』を備えている」とコメントした。【618日 レコードチャイナ】

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生後わずか数カ月の写真をもとに10年後に顔認証するというのは驚異的ですが、本来問題とすべきことは、AI云々より、中国では子供の行方不明が異常に多いということでしょう。

 

中国メディアが取り上げる「日本社会の不思議・驚異」として、“なんと、日本では子供だけで登下校する!”ということがよく挙げられます。

 

中国では“誘拐”などの子供の行方不明が信じられないぐらいに多く(年間20万人(!)とも)、登下校は親などが付き添うというのが常識になっているようです。

 

****年間20万人の児童が行方不明に! 中国マフィアの「誘拐イノベーション」****

旧正月に多発 超監視社会に対抗する最新犯行手口

 

(中略)ところで、この分野でも「大国」なのが中国だ。子どもをかどわかして売り飛ばす誘拐犯を指す言葉として、中国語には「人販子」というこなれた単語が存在し、メディアでも日常的に使われている(それだけ身近な概念なのだ)。

 

香港紙『文匯報』によると、中国で1年間に立件される子どもや女性の誘拐事件は約2万件で、1日平均50件とのこと。また2015年にNHKは、中国で行方不明(誘拐のみとは限らない)になる児童数は年間20万人に達すると伝えている。

 

誘拐した子どもの「市場価格」は約140万~170万円

中国大手週刊誌『中国新聞週刊』の記事によれば、誘拐した子どもの「市場価格」は、20173月時点で8万~10万元(約140万~170万円)ほど。

 

男の子は女の子よりも高く、男の赤ちゃんが15万元(約260万円)で売買された例もあったという。

 

さらわれた子どもの多くは、社会保障制度の不備から老後の不安を抱える、農村部の子どもがいない夫婦に売られているようだ。(後略)【2018216日 安田峰俊氏 文春オンライン】

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二言目には「安心・安全」の日本からすれば“とんでもない”ことですが、そのことは今回パス。

 

【必要となるAI活用のルールづくり】

話をAIに戻すと、その応用は中国だけでなく世界各地で始まっています。

 

****全米初、訴追手続きにAI導入へ サンフランシスコ、偏見排除狙い****

米サンフランシスコ市検察当局は13日までに、人種の違いによる偏見がもたらす冤罪などの排除を目指し、7月から訴追手続きに人工知能(AI)技術を導入すると発表した。

 

多様性に富む社会で公正な法治の実現を目指す全米初の試みとして注目を集めている。米メディアが伝えた。

 

検察官は声明で、犯罪を検討する際に「人種(問題)を取り除く」と説明。全米各地でも活用できるモデルづくりを目指したいと意欲を示した。

 

米国では黒人など有色人種の犯罪検挙率が高いとされる。背景には捜査当局の偏見があると指摘する声があり、新たな取り組みで市民の不信感を払拭する狙い。【614日 共同】

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AIには人種や性別に関する差別・偏見がないのか・・・と言えば、そんな訳でもなく、(AIのことは皆目わかりませんが)AIを学習させる過程で、現在社会に存在する差別・偏見が刷り込まれてしまうことはあるようです。

 

そうした点には注意する必要がありますが、もっと差別・偏見に凝り固まった人間ははいて捨てるほどいますので、総体的にはAI利用で偏見排除が期待できるでしょう。

 

ただ、AIに委ねた際に、ブラックボックス化する懸念などもありますので、利用時のルールが必要にもなります。

 

****OECDがAI活用の基本指針を採択 「人間中心」の原則明記****

経済協力開発機構(OECD)は22日、パリで閣僚理事会を開き、急速に進展する人工知能(AI)の活用に関する基本指針を採択した。

 

人とAIの共生に向け、基本的人権を阻害しない「人間中心」を掲げ、説明責任や個人情報保護など、AIの開発や利用にあたって重視すべき原則を明記した。国際機関によるAIの指針は初めて。今後はこの指針をたたき台に国際ルール作りが加速することになる。

 

AIは膨大なデータを分析して判断を下すことができ、生産性の飛躍的な向上が期待されている。一方、病気の診断や融資の審査、就職の採用判断など、人生を左右する決定に使われることも見込まれ、データに偏りがあれば差別的な判断を下したり、プライバシー侵害を招いたりするとの懸念が出ている。

 

指針では、法の支配を重視する「人間中心」のほか、AIの判断が差別を生まない「公平性」、AIの恩恵から取り残される人のいない「包摂的な成長」などの原則を明記。開発にあたる組織、個人、政府機関に対し、重視するよう求めた。

 

AIの仕組みは複雑で分かりにくく、「ブラックボックス化される」との懸念も出ている。このため、正しく判断する「高い精度」だけでなく、AIが下した判断の根拠を人々に分かりやすく示す「透明性、説明可能性」の原則も盛り込んだ。

 

AI開発では、「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コム)と呼ばれる米巨大IT企業が膨大な個人情報を蓄積して新たなサービスを展開している。こうした個人情報の流出防止など、プライバシーを保護する「安全対策の徹底」も求めている。

 

OECDの調査によると、AIの普及に伴う自動化によって既存の仕事の14%が消滅し、32%の仕事が劇的な変化を迫られるという。このため、指針では各国政府が連携して労働市場の変化に対応していくことも求めている。

 

今回の指針には、日本を含むOECD加盟国のほか、アルゼンチン、ブラジルなどの非加盟国も賛同しており、最終的に40カ国以上が採択する見通し。

 

6月に大阪で開催される主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でもAIが議題になるとみられ、議長国の日本がルール作りを主導できるか問われることになる。【522日 毎日】

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膨大なデータを分析して瞬時に判断を下すことができるということで、人間では問題にならなかったような新たな問題も出てきます。

 

AIの活用が現実化している車の自動運転では、正面に一群の子供たちを発見したとき、右によければ大勢のお年寄りがいる、左によければ自分が壁に衝突する・・・さて、どうするか?といった問題も。

 

人間なら、頭が真っ白になって“合理的な判断”などできず、反射的な対応で終わりますが、AIなら分析できます。

分析できますが、子供の命を守るのか、高齢者を犠牲にすべきか? それとも自分の命を・・・といった極めて判断しづらい問題をいかに判断させるべきかを事前に開発段階で人間が悩む必要があります。

 

仮に大勢の命を救うためなら、運転者を犠牲にするように設計されているとなると、購入者が納得するかどうか・・・。

 

【“既存の仕事の14%が消滅し、32%の仕事が劇的な変化を迫られる”ことによる社会変革】

そうした個々の問題もありますが、社会的に大問題となるのは“AIの普及に伴う自動化によって既存の仕事の14%が消滅し、32%の仕事が劇的な変化を迫られる”ということでしょう。

 

AIに仕事を“奪われた”人間はどうすればいいのか?

生産性向上で、人間は働かなくてすむようになったとして、収入さえ保証されればそれでいいのか?

 

****(シンギュラリティーにっぽん)第1部・未来からの挑戦:7 AIが奪う雇用、どう支える****

人工知能(AI)が雇用を奪う、との心配が広がる。テクノロジーが脅威になるとき「公的な支え」が必要にならないのか。個人はどう備えればいいのだろうか。

 

(中略)

 ベーシックインカム、財源難

AI時代になぜBI(ベーシックインカム)が必要か――。5月16日夜、東京都内であった近未来の社会システムを考えるイベントで、駒沢大学の井上智洋准教授が講演した。「AI時代には生活保護だけでは不十分。幅広く生活を保障する制度が必要になる」

 

18世紀の産業革命以降、技術革新は肉体労働を中心に雇用を奪ってきたが、AIの登場は知的労働を脅かす、と井上准教授は考える。「工場などでAIやロボットが生産するようになれば、多くの人手は必要とされなくなる。雇用は破壊され、所得格差が広がる」

 

低成長が続き格差が拡大する先進国を中心に、BIへの注目が高まっているのは確かだ。右派と市民政党の連立政権が誕生したイタリアでは今年1月、ポピュリズムの台頭を背景にBIが貧困層に限って導入された。フランスやインドは20年の法制化をめざす。

 

しかし、誰にでも最低所得を保障するBIは人々の労働意欲をそがないのか。

 

フィンランドで昨年末まで失業者2千人を対象に行った実証実験では、BIを受けた失業者と受けなかった失業者で労働意欲に差はなかった一方で、健康状態が「とても良い」「良い」と答えた人は、BIを受けていた方が9ポイント多かったという。それでも、同国社会保健省は本格導入を見送った。

 

BIという「バラマキ」策が財政を悪化させる懸念もつきまとう。日本でBIが導入されるとしたら、最大の壁はやはり財源問題だ。

 

三菱総合研究所が昨年4月、国内の会社員ら3千人を対象にしたアンケートによると、BI導入について24%が「必要」とし、月に平均「10万円」の支給が必要と答えた。一方、「不要」は28%だった。

 

三菱総研によると、18歳以上に月10万円、17歳以下に半額を給付した場合、約130兆円の財源が必要。消費税率を現在の8%から49%に上げないと捻出できない。

 

アンケートでも、負担を明示するとBIが「必要」との回答は12%に減った。

 

三菱総研の森重彰浩シニアエコノミストは「負担増に抵抗を感じる人は多く、日本でのBI導入は現実的とは言えない」と指摘する。

 

 ■自動化の波「個人の備え必要」

東京都目黒区の商店街の一角に、今年1月オープンした三菱UFJ銀行の新型店舗は、近未来の銀行の一つの姿を予感させる。

 

スリム化された店頭にはカウンター窓口がない。ネットバンキングの口座開設などは来店客が自分でタブレット端末を操作。税金や公共料金などは自動受付機で支払う。AIを使って店内に10台以上設置したカメラの情報から性別、年齢などを分析し、マーケティングに役立てる。

 

長引く低金利で厳しい収益が続くメガバンクは、業務量や人員の削減を迫られている。三菱UFJは23年度までに、現在の約500店のうち従来の窓口がある店舗を約半分にする計画だ。

 

30年ごろ、日本の労働人口の49%が自動化される可能性がある――。野村総合研究所と英オックスフォード大が4年前に出した報告書は、銀行の窓口係と並び、経理事務員などがAIやロボットに取って代わられやすいと予想した。(後略)【526日 朝日】

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おそらく産業革命にも匹敵するような社会の変革が現実のものになるのでしょう。

 

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香港  中国側譲歩の背景 SNSを駆使した「リーダー不在」の戦いの成果と限界

2019-06-17 22:53:58 | 東アジア

(【6月17日 朝日】 幹線道路を埋め尽くす16日の「200万人デモ」)

 

【本人が望んでも中国は林鄭行政長官の辞任を認めない】

香港の「逃亡犯条例」改正案をめぐる問題については、決定権を持つ中国指導部は最後まで譲らないのでは・・・と、個人的には考えていました。

 

12日段階では、香港政府トップの林鄭月娥行政長官が声明を発表し、若者らのデモについて「公然と暴動を起こした」と非難していましたので、「動乱」と位置付けられた天安門事件も想起される状況で、譲歩はないのだろう・・・と。

 

その後の展開は、報道のとおり。

林鄭長官は15日、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案の審議を無期限で延期すると表明したうえで、市民への謝罪も。

 

“香港政府の報道官は16日夜に声明を発表し「政府は条例改正の作業を再開する予定がない」と強調した。声明で林鄭氏は「政府の仕事ぶりで社会に大きな紛争を巻き起こした」としたうえで「市民に謝罪し、謙虚に批判を受け入れることを約束する」と述べた。”【6月16日 日経】

 

しかし、撤回はしていないこと、およびゴム弾や催涙ガスを使用した警官隊の対応に関して、市民の間では長官の辞任を求める声が高まり、16日には過去最大の「200万人デモ」に。

****香港トップ、大規模デモに衝撃 辞任圧力強まる可能性も****

香港で中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案の撤回や林鄭月娥行政長官の辞任を求める16日のデモの参加者が1997年の香港返還以降で最多の「200万人近く」(主催者発表)になった。

 

15日の改正案延期の発表で事態の沈静化を図れると踏んでいた林鄭氏にとっては衝撃の規模で、今後辞任圧力が強まる可能性もある。(後略)【6月16日 共同】

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市民の大規模抗議行動は17日朝までにほぼ収束し、衝突は起きていませんが、一部若者らは抗議行動を続けています。

 

****香港200万人デモから一夜 「対話と辞任」求め行進****

一夜明けた17日も、若者らが抗議を続けている。(中略)

 

デモ開始から丸一日が過ぎた17日夕方、若者らが、香港政府トップの林鄭月娥行政長官の事務所までデモ行進し、対話を求めた。

 

林鄭行政長官は、一連の対応を謝罪する声明を出したが、デモ主催者側は、長官辞任も求めていて、抗議活動が収まるかは不透明。【6月17日 FNN PRIME】

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法案の撤回、および長官辞任に関しては「香港政府の高官」の話として、以下のようにも。

 

****行政長官の辞任、中国は容認せず 条例は事実上廃案=香港高官****

香港政府の高官は17日、たとえ林鄭月娥行政長官自身が望んでも中国は林行政長官の辞任を認めないとの見方を示した。一方、無期限の審議延期となった中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案については、事実上廃案との認識を示した。

「逃亡犯条例」改正案の審議は無期限延期となったものの、抗議デモは収まる気配はなく、林行政長官に対する辞任要求が強まっている。

政治危機について協議する会議のメンバーとなっているこの高官は、「それ(辞任)はない」とし、「林行政長官は中央政府に指名された。したがって辞任するには本土でのハイレベルの検討を必要とする」と述べた。

また、いま辞任すれば、事態を悪化させるだけだと指摘した。

中国外務省の陸慷報道官は17日の定例会見で、同国が引き続き香港の林鄭月娥行政長官を支持すると述べた。

高官は、「逃亡犯条例」改正案について「中断というのは実質的廃案を意味する。再度持ち出せば政治的自殺だ」と述べた。【6月17日 ロイター】

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“たとえ林鄭月娥行政長官自身が望んでも中国は林鄭行政長官の辞任を認めない”・・・・林鄭長官もつらい立場です。

 

【中国側の予想を超えた香港市民の反発 G20での国際批判も考慮】

予想に反して、中国指導部が“無期限延期”という譲歩を示した背景には、雨傘運動挫折以降の香港民主化運動の低迷もあって、香港市民の激しい抵抗を中国側も予測できなかったということがあります。

 

6月12日ブログ“香港 若者たちの抵抗 「今回が最後のデモ活動だ」 台湾では、中国批判を避ける国民党候補”でも取り上げたように、改正案が成立すれば、デモに参加したことが罪に問われて中国に引き渡される恐れもあることから、「今回が最後のデモ活動だ」という切羽詰まった思い、「改正案が成立すれば香港の一国二制度は実質的に終わる」という思いが市民を激しい抗議に駆り立てました。

 

また、警官隊の強硬な排除策も、市民の怒りの火に油を注ぐ結果にも。

雨傘運動の「女神」・周庭(アグネス・チョウ)氏は、ゴム弾は雨傘運動のときは使用していないとも、また今回は催涙弾を至近距離から発射しているとして、「香港人として暴力を許せない。警察は(デモ参加者を)殺す気ではないでしょうか」と警官隊の対応を批判しています。【6月17日 Newsweekより】

 

****「私たちの子供を撃たないで」 逃亡犯条例反対集会に母親数百人 香港****

香港中心部の公園で14日夜、刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡せるようにする「逃亡犯条例」改正に反対する母親たちの集会があった。数百人の母親らが集まり、改正案の撤回や林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官の辞任を求めて気勢をあげた。

 

母親らが次々と前に出て、政府批判を展開した。ある母親は「催涙弾やゴム弾で、平和的なデモをする若者たちを攻撃するよう指示した行政長官は決して許せない」と憤った。別の母親は「若者たちよ、あなたたちは孤独じゃない。私たちが共にいる」と叫んだ。(後略)【6月15日 毎日】

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中国指導部は、こうした香港市民の激しい抗議を受けて、これ以上強行して犠牲者を出すような事態ともなれば、今月末に予定されているG20で強い国際批判にさらされるというリスクを考慮したと推察されます。

 

そうでなくても激しい米中対立のなかで行われるG20ですから、アメリカ側に絶好のカードを提供することにもなります。

 

“審議を続けて衝突が起き、けが人や死者が出れば、「第二の天安門事件」として国際社会が非難するのは必至だ。月末に大阪で開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議が習近平国家主席への批判の場となるのを避けるため、中国政府も香港政府の判断を受け入れざるを得なかったのだろう。”【6月16日 倉田徹氏 朝日】

 

なお、香港で大規模な抗議行動が繰り返されるのは、民意を反映する手段として選挙・議会が大きな制約を受けている事情があります。

 

****香港で続く「抗議の歴史」 選挙で反映できぬ民意を示すデモ****

中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案は、デモで示された民意を香港政府も無視できなくなり一時断念を余儀なくされた。

 

限定的な選挙制度が取られている香港では、選挙では反映しにくい民意を表明する手段としてデモの文化が息づいている。

 

英BBC放送(電子版)は「香港には豊かな抗議の歴史がある」と指摘する。1966年には香港島と九竜半島を結ぶ「スターフェリー」の値上げをめぐり激しい抗議が起きるなど、英国統治下でも度々デモが行われてきた。89年5月には中国の民主化運動を支援するため150万人規模のデモも開かれている。

 

英国から中国への返還後の2003年には、国家分裂行為などを禁じる「国家安全条例」案に反対する50万人規模のデモが発生。最終的に香港政府は白紙撤回に追い込まれた。

 

記憶に新しいのは、香港政府トップの行政長官の民主的な選挙を求めた14年の「雨傘運動」だ。学生らが79日間にわたって街頭を占拠したが、政府側から譲歩を引き出すことができず、当局により強制排除されて終わった。

 

香港は1997年の中国返還後も「一国二制度」で高度な自治が50年間認められているものの、民意がそのまま政治に反映されているとは言い難い。

 

行政長官は、政財界などの代表で構成する選挙委員会による間接選挙で選ばれ、立法会(議会)の議員選挙では親中派に有利とされる制度が一部採用されている。

 

そうした環境下で、民意を直接示す方法とされるのがデモだ。BBCは「香港人は一定の自治は持っているが、投票における自由は少ない。抗議には自分たちの意見を聞いてもらう数少ない手段という意味がある」と指摘する。【6月16日 産経】

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【「親中派」内部にも足並みの乱れ】

中国側の誤算は、本来「親中派」であるはずの香港経済界からも改正に反対の声が強かったこともあります。

 

****香港財界、条例改正で苦境 親中だけど…ビジネスに影響 報復関税対象外、米見直しも****

香港で中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案をめぐり混乱が続く中、香港の経済界が苦境に直面している。

 

今後のビジネスを考えれば、改正を支持する中国側の意向を無視できない。しかし改正されれば、国際社会から香港のビジネス環境が悪化したとみなされる−。こうした経済界の足並みの乱れも、改正反対デモが勢いづいている背景にある。

 

香港の有力経済団体、香港総商会のハリレラ会長は13日、改正案の原則には同意するとしながらも、「市民の声に耳を傾け、有意義な対話を行うよう政府に求める」とコメント。同会の袁莎●(=女へんに尼)総裁も「香港の国際的な評判に影響を与えないよう関係者に自制を促したい」と述べた。

 

香港の経済界では、中国本土との経済的な結び付きが年々強まる中で、親中派財界人の影響力が増している。中国の習近平政権が最近、香港を核とした国家プロジェクト「粤港澳(えつこうおう)(広東省・香港・マカオ)大湾区」を推進している折だけになおさらだ。

 

しかし今回、逃亡犯条例が改正されれば、「香港を支えてきた良好なビジネス環境が崩壊する」(メディア関係者)恐れがあり、事情が異なる。たとえば、香港を訪れた外国人も中国本土へ引き渡される可能性が出てくる。「香港が中国の司法制度の支配下に置かれる」(同)ことを意味し、本来、高度な自治が保障された香港の「一国二制度」は有名無実と化す。

 

実際に米国では、一国二制度を前提に通商面などで香港を優遇してきた「米・香港政策法」の見直しを求める動きが出ている。香港は同法に基づき、トランプ米政権による対中報復関税の対象外となっているが、その特別な地位が脅かされているのが現状だ。

 

経済界の足並みの乱れを受けて、習政権は「香港財界の有力者たちを北京に呼んで支持固めを図った」(外交筋)ものの、まとまりきれないもようだ。

 

中国との結び付きが特に強い経済団体、香港中華総商会は14日、産経新聞などに対し、「われわれは改正案を支持している」とコメントした。【6月15日 産経】

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香港富裕層には資産をライバル・シンガポールなどに移す動きも出ているとも。

 

****香港の富裕実業家が海外に資産逃避、逃亡犯条例を懸念****

銀行家や法律専門家によると、香港の富裕な実業家が中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案への懸念を強め、個人資産を海外に移す動きが始まっている。

こうした動きに関与した助言サービス関係者によると、ある大物実業家は法改正で政治的リスクが自らに及び得ると考え、1億ドル余りを香港のシティバンクの口座からシンガポールのシティバンクの口座に移し始めた。同様の例をほかにも耳にしているが、いずれも目立たないように行われているという。

逃亡犯条例は、香港市民だけでなく香港に居住したり旅行で通過したりする外国人や中国籍の人間を対象にしており、香港の金融センターの地位を支える法の支配を脅かしかねないとの懸念が異例な広がりを見せている。条例が成立すれば、中国本土の裁判所が香港の裁判所に要請して、中国本土での「犯罪」に関連したと見なす資産を凍結したり押収したりできるようになる。

国際展開している香港の銀行のプライベートバンキング部門トップも、顧客が資金を香港からシンガポールに移していると指摘。「彼らは中国本土の顧客ではなく、香港の富裕な顧客だ。香港の情勢は混乱している」と述べた。「香港の富裕層は、林鄭月娥行政長官や中国の指導部が逃亡犯条例による経済的損失を理解できないほど愚かなことを見過ごせないのだ」

香港とシンガポールはアジア随一の金融センターとしての地位を巡って激しく争っている。クレディ・スイスの2018年のリポートによると、香港は個人資産1億ドル以上の資産家が853人と、シンガポールの2倍以上だった。【6月17日 ロイター】

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「親中派」内部の足並みの乱れもあって、これ以上の強硬策を思いとどまる中国指導部の判断にもなったのでしょう。

 

【SNSを駆使した「リーダー不在」の戦い 長期的目標達成には限界も】

今回の抗議行動の特徴は「リーダー不在」という点です。

 

****香港、リーダーなき反政府デモの「勝利」 テレグラム利用で情報共有****

中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案をめぐり、多くの香港市民が参加して繰り広げた反対運動はひとまず、立法会(議会)審議の無期限延期という譲歩を当局から勝ち取った。一連のデモは「リーダーなき反対運動の勝利」だったとの見方が広がっている。(中略)

 

民主派の区諾軒・立法会議員は今回の改正反対運動について「これまでのデモとの違いは、リーダーが存在しないことだ」と指摘する。地元ジャーナリストも「香港政府は今回、誰と交渉したらいいのか分からなかった」という。

 

区氏によると、改正反対運動で多くの参加者が利用したのが、携帯電話用の通信アプリ「テレグラム」だ。ロシア人が創設したアプリで、最大20万人のグループを作ることができるという。メッセージが暗号化されて送られるため、保秘性が高いことでも知られる。

 

実際、改正反対運動に関するグループの一つには約2万9千人が参加していた。こうしたグループが多数存在し、反対デモに関する情報を共有していた。あるグループでは「犬に注意」などの隠語を使って、警察などの治安部隊がどこにどれだけ配置されているか−といった情報を知らせるものもあった。

 

地元ジャーナリストによると、こうしたアプリを通じて情報を得た多くの学生らは今回、当局の追跡をかわすため共通の対策をとっていたという。

 

マスクやヘルメット、ゴーグルを多用し、いつも以上に身元を特定しにくくしていたのもその一つ。また、地下鉄やバスを利用してデモに参加する際、当局による追跡が容易なICカードではなく、現金を使っていたようだ。

 

9日のデモには主催者発表で103万人が参加し、反対運動に弾みがついた。こうした中、テレグラムは12日、大量のデータを送りつける「DDoS(ディードス)攻撃」を受けていると公表。運営会社は13日、攻撃の大半は中国からだったと明らかにしている。【6月15日 産経】

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SNSが重要な役割を果たすのは、近年の抗議行動に共通していますが、香港では当局の追跡をかわすための対策にも大きな配慮がなされたとのことのようです。

 

ただ、一般論で言えば、こうしたSNSを駆使した「リーダー不在」の抗議行動というのは“しりすぼみ”に終わる傾向もあります。

 

****SNS発の抗議デモ、なぜしりすぼみに ソーシャル上の怒りがぶつかる壁の正体****

ソーシャルメディアで拡散した市民の怒りが大きなデモに発展する光景が、世界各地で見られるようになった。現在進行形なのが東欧のセルビアだ。

 

昨年12月から、大統領の辞任を求めて若者らを中心としたデモが続き、一時は国の全土に抗議が広がった。デモのスタートから5カ月。抗議運動を急速に広げたSNSの力が若者たちに何をもたらしたのかを確かめるため、現地を訪れた。

 

(中略)ソーシャルメディアを使って抗議を広め、人々を動員する手法は、セルビアに限らず今や世界で共通している。最近ではフランスの「黄色いベスト運動」でも使われた。日本でも2015年に安保法制反対の中心的な存在になった学生団体「SEALDs(シールズ)」が駆使したことで注目された。

 

SNSと社会運動の関係を研究する米ノースカロライナ大学准教授のゼイナップ・トゥフェックチーは「ある問題について自分がどう感じるかが運動の始まり。だから、感情を拡散するのに有効なソーシャルメディアは国全体のムードをがらりと変えるほどの力を持つ」と話す。

 

しかし、ソーシャルメディアの登場から10年以上がたち、明らかになりつつあるのは「力」よりもむしろ「限界」だ。

 

「アラブの春」は中東と北アフリカで独裁的な政権を崩壊させたが、発端となったチュニジア以外は独裁政権に後戻りするか内戦に陥った。貧富の格差を社会の不正義として訴えた「オキュパイ・ウォールストリート」は、短期間のうちに世界中に広まったもののほどなく消え去り、経済格差はむしろ広がっている。

 

トゥフェックチーはその限界をこう説明する。「ソーシャルメディアは、本来は広告のための道具であって、社会問題を解決するためのプラットフォームとしては設計されていない。急速に怒りを拡散できたとしても、それだけでは社会を変えるのに必要な政治的組織の構築にはつながらず、壁にぶつかってしまう」(後略)【6月2日 GLOBE+】

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香港では、SNSによって「一国二制度を守るための最後の戦い」という強いメッセージを発信することで“怒りを共有”し、当局からの譲歩を勝ち取ることができましたが、今後の撤回に向けた戦いを続けていくためには、SNSで集まる「リーダー不在」というだけでは難しいかも。

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欧州  揺らぐドイツ連立政権 躍進した「緑の党」 極右への対抗軸へ 今後もEUを牽引する独仏

2019-06-16 22:22:38 | 欧州情勢

(欧州議会選の速報を聞いて喜ぶ緑の党のアンナレーナ・ベーアボック代表(前列右から2人目女性)ら=ベルリンで526日 【615日 毎日】)

 

【ドイツ 中道二大政党の低迷 連立維持も危うい状況】

ドイツでは20113年以降、メルケル首相のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)の連立政権が続いていましたが、5月下旬の欧州議会選でこの二大政党の著しい退潮が明確になり、党首の責任が問われる状況ともなって、連立政権の維持も危うい情勢になっています。

 

****ドイツ社会民主党の党首が辞任へ 連立解消の動き加速か****

ドイツの連立与党の一角、社会民主党(SPD)のナーレス党首(48)は2日、党首と連邦議会議員団長をともに辞める意向を示した。

 

5月下旬の欧州議会選で大きく議席を減らし、責任を問う声が強まっていた。辞任によって連立解消に向けた動きが加速する可能性がある。

 

SPDは、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)との連立を続け、メルケル政権を支えている。今回の欧州議会選では、得票率が15・8%と、前回2014年の選挙より11ポイント以上も下落。緑の党に抜かれ3位に後退した。

 

17年の総選挙でも戦後最低の得票率を記録し、党勢は落ち込む一方だった。党内からは、連立を解消して独自色を打ち出すべきだとの声が根強くある。(後略)【62日 朝日】

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****メルケル独首相後継者にも辞任論、政権ピンチ****

メルケル独首相の後継と目される、中道右派・キリスト教民主同盟(CDU)のクランプカレンバウアー党首が失言により危うい立場に置かれている。辞任すれば党内の保守色が強まる可能性が高く、大連立を組む中道左派・社会民主党(SPD)の離脱とメルケル政権崩壊を早めかねない。

 

辞任論の引き金となったのは5月末の欧州議会選挙だ。投票の1週間前、若者に人気の男性ユーチューバー「レゾ」が、「CDUの破壊」という動画をインターネット上にアップした。55分間にわたり、気候変動対策の遅れなどを批判した。動画は1週間で約1000万回視聴された。

 

CDUは投票日前に文書で反論したが、国政会派キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の選挙結果は前回比6・4ポイント減の得票率28・9%と低迷。

 

クランプカレンバウアー氏は選挙後、「仮に新聞社が投票の2日前にCDUとSPDに投票しないように呼び掛けたら、世論操作になる。世論操作に対してデジタル分野ではどのような規制が有効なのかが問題だ」と述べ、ネット上の発言を規制する可能性に言及した。

 

この発言に批判が殺到。ユーチューバーらによるネット上の抗議の署名は8万3000人(10日時点)を超え、党幹部からも「基本法(憲法)はすべてのメディアに表現の自由を保障している」などと批判が噴出した。(中略)公共放送ARDは、メルケル氏がクランプカレンバウアー氏を次期首相に適任ではないとの判断に至ったと報じた。

 

クランプカレンバウアー氏は昨年12月、保守色の強いメルツ元党連邦議会会派代表を破って新党首に選出された。辞任すれば、後任次第でメルケル氏の穏健な中道路線から、保守色を強く打ち出す方向へと転換。大連立を組むSPDとの路線対立が決定的となり、大連立政権が立ちゆかなくなる可能性が高い。

 

大連立を巡っては、大連立の継続を主張していたナーレスSPD党首が3日に辞任したばかり。国政第1党・CDUと第2党・SPDの近年の党勢低迷はともに、大連立により政策の違いが見えなくなった中道路線が一因とされる。【611日 毎日】

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これまでの政治を主導してきた中道・穏健路線が有権者から見放され、ポピュリズム的な政党を含む左右の過激な勢力が台頭する形で国内で分断が進む・・・というのはドイツに限らず欧州やアメリカでも見られる最近の政治の流れです。

 

【「緑の党」ドイツでは支持率1位に 欧州全体でも「緑の波」】

そうした流れを受けて、左右の中道政党に代わって台頭してきた極右・ポピュリズム政党、ドイツで言えば「ドイツのための選択肢(AfD)」が注目を集めていますが、ドイツではAfD以上に躍進したのが「緑の党」です。

 

今や、社会民主党(SPD)はおろか、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)さえ凌ぎ、第1位の支持率になっています。

 

****独与党連合支持率が過去最低、緑の党との差が拡大=世論調査****

8日に発表された調査機関フォルサの世論調査で、ドイツのメルケル首相率いる保守系与党連合の支持率が過去最低に落ち込むとともに、再び伸びてきた緑の党との差が拡大している。

連立政権に対する幻滅感の強まりが反映された格好。主に連立与党の一角である社会民主党(SPD)内部の混乱から、2021年の任期満了まで連立が維持できるか疑念が高まっており、いまや多くの専門家が来年に連邦議会選挙が実施される可能性が高まりつつあるとみている。

調査では、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の保守連合支持率が24%で、前週から2ポイント低下。SPDの支持率は過去最低水準の12%と、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と同水準にとどまった。

欧州全域にわたる気候変動への懸念の高まりを追い風に欧州議会選で第2党に躍進した緑の党の支持率は、トップの27%だった。【610日 ロイター】

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欧州全体で見ても、「緑の波」とも称される「緑の党」系環境政党の躍進が見られ、その存在は移民排斥を掲げる右派ポピュリズム勢力に対する「防波堤」ともなっています。

 

****欧州政治に「緑の波」 欧州議会選挙で4番目に躍進****

欧州政治で「緑の党」系環境政党が存在感を強めている。5月下旬に実施された欧州連合(EU)の欧州議会選挙で4番目に大きな会派に躍進し、分極化が進んだ欧州議会で多数派形成のカギを握る存在となった。地球温暖化対策を求める若者たちのデモの拡大が、「緑の波」をもたらしたと指摘されている。

 

欧州議会選で、「緑の党」系会派は定数751のうち75議席を獲得(11日現在)、改選前の52議席から大きく勢力を伸ばした。左右の中道勢力が初めて過半数を割るなか、EUの気候変動対策や環境規制で一定の影響力を及ぼしそうだ。

 

「緑の党」系会派の政党は西欧や北欧の加盟各国で支持を伸ばしたが、特に顕著だったのがドイツだ。得票率は20.5%で前回から倍増し、政党別で2位になった。出口調査によると29歳以下で3人に1人から支持を受けた。

 

選挙後の複数の世論調査では、初めてメルケル首相率いる与党を上回り、支持率首位に躍り出た。ルーバン・カトリック大学(ベルギー)のバージニー・バン・インゲルゴム特任准教授(政治学)は「気候変動のような地球規模の問題は、(加盟国レベルよりも)欧州レベルで取り組むべきだとの考えが有権者に広がっている」と指摘する。

 

緑の党の躍進を報じた複数の欧州メディアは「グレタ効果」と呼んだ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(16)が契機になった気候変動の危機を訴える若者たちによる抗議活動が、支持拡大に影響したとの見方だ。

 

各地に広がった抗議活動は学生が主体だったが、支持層は親の世代などにも拡大。域内の市民を対象に実施したEUの世論調査では、気候変動対策を選挙の主要な争点と考える人の割合は、この半年間で若者と高学歴層を中心に上昇した。

 

「緑の党」の伸長は、移民排斥を掲げる右派ポピュリズム勢力の「防波堤」としても働いた。今回の選挙では、中道2大会派の合計議席は過半数を割ったが、リベラル系と緑の党を合わせた親EU4会派で3分の2を確保。

 

緑の党は、社会的少数者の権利保護を訴えて右派ポピュリズム政党への対抗軸となり、排外主義の広がりに危機感を持つEU支持層の受け皿となった。

 

環境政策を巡るEUの当面の焦点は、温室効果ガスの長期削減目標だ。「緑の波」に後押しされ、欧州委員会やフランスなどはEU全域で2050年までに温室効果ガスを「実質ゼロ」とする目標の合意を目指す。エネルギー分野への投資を含めて従来の取り組みの延長では実現が難しい意欲的な目標で、加盟国の姿勢にはまだ開きが大きい。【615日 毎日】

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【既成政党への幻滅 極右勢力への対抗軸として支持を集める「緑の党」】

もちろん、「緑の党」躍進の背景には気候変動など環境政策への関心の高まりがあり、「グレタ効果」も一定にあったでしょうが、それだけではないようにも見えます。

 

これまで政治を担ってきた左右の中道政党にはもはや期待できない、一方で、極右勢力の拡大が予想されるという状況で、極右勢力への対抗軸として「緑の党」への支持が集まったようにも思われます。

 

****欧州議会選で「緑の党」が大躍進した理由は環境だけじゃない****

<欧州議会選挙でグリーン派が第4勢力に――極右勢力への対抗軸として支持が広がっている>

気候変動が地球環境にもたらすであろう衝撃に比べれば、先の欧州議会選挙における勢力図の変化などは取るに足りないことかもしれない。しかしそこに、欧州政治の静かだが歴史的な変化を予感させるものを読み取ることもできる。グリーン(緑の党)と総称される環境保護勢力の躍進だ。

メディアの関心は極右政党がどこまで躍進するかに集まっていたから、グリーンの台頭に気付くには時間がかかった。しかし今回の選挙で、各国のグリーン派は既成政党に挑戦状を突き付ける一方、各国の政治をむしばむポピュリストの脅威への対抗軸を示したのではないか。

ドイツでは、緑の党がアンゲラ・メルケル首相の率いる中道右派・キリスト教民主同盟(CDU)に次ぐ議席を獲得。フランスでも左右の既成政党を押しのけて3位を確保。イギリスではテリーザ・メイ首相率いる保守党を破り、ジェレミー・コービン率いる最大野党・労働党を脅かすまでの健闘を見せた。

国境を超えた会派で構成される欧州議会の議席数で見ると、グリーン派は今回の選挙で22議席増の74議席を獲得、ついに4番目に大きな勢力となった。

 

単独過半数の会派はないから、EU首脳人事での発言権は増すし、二酸化炭素(CO2)の排出削減はもちろん、寛容で人道的な移民・難民政策の推進も主張しやすくなるだろう。

グリーン派が躍進したのはなぜか。最もシンプルな答えは地球温暖化に対する懸念の広がりだが、それだけではない。

左右対立の構図は古い
英シンクタンク「欧州改革センター」のソフィア・ベッシュに言わせれば、20世紀後半以降の欧州各国および欧州全体の政治を支配してきた中道右派と中道左派の二大潮流に「ヨーロッパの未来は任せられないという思いが有権者にはあった」。

 

右ポピュリズムの台頭でEUの根幹が揺らぎそうな今だからこそ、EUの統合深化を明確に支持するグリーン派が極右の対抗軸になり得たという事情もありそうだ。

EU
離脱に揺れるイギリスでグリーン派が議席を伸ばしたのは、有権者に既成政党、とりわけ中道左派への幻滅があるからだ。

 

イングランドとウェールズの緑の党を率いるジョナサン・バートリーは言う。「1%の超富裕層からの富の再分配を求める私たちを左派と決め付ける人もいるが、実際は労働党だけでなく、保守党からも私たちに票が流れている。もはや昔のような左派と右派の対立という構図は崩壊している」

その崩壊の恩恵を受けたのはグリーン派だけではない。いわゆる自由主義派(欧州では企業寄りで市場の自由を尊重する中道右派を指す)も議席を増やしたし、環境保護政策に反対する極右勢力も台頭した。

それでも、若い世代の間でグリーン派への支持が広がっているのは朗報と言えるだろう。ドイツ緑の党のスベン・ギーゴルドによれば、2年前の国政選挙で極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」になびいた若者たちも、今回は温暖化対策に後ろ向きなAfDに背を向けたという。

 

ただし「この傾向がずっと続く保証はない」とギーゴルドは言う。今後は極右や既存の主要政党も、環境政策重視に舵を切ると考えられるからだ。

そうなると、既成政党との連立協議などでグリーン派の環境政策が薄められる恐れもある。それに耐える余力が、今の地球にあればいいが。【613日 Newsweek
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【足元が揺らぐ独仏だが、EUを牽引するのはやはり両国】

上記のような「緑の党」躍進はあるものの、当面の現実論としては、イギリス離脱後のEUを牽引していくのは、国で見るとやはりドイツであり、フランスです。

 

ドイツ・メルケル政権の内情は前述のとおりですが、フランス・マクロン大統領も極右ルペン氏の勢力に敗北し、芳しい状況にはありません。さはさりながら・・・・というところです。

 

****ヨーロッパを率いるのは誰か?揺らぐ2大大国****

ヨーロッパをけん引してきた2つの大国、ドイツとフランス。しかし、ドイツのメルケル政権、フランスのマクロン政権ともに国内での支持離れが進み、足元が揺らいでいます。混迷するヨーロッパの未来、一体誰が率いていくのでしょうか。

 

メルケル政権崩壊の危機

(中略)

 

仏の希望の星にも逆風

一方のフランス。さっそうと現れた希望の星、マクロン大統領も、強い逆風に直面しています。

就任当初、「フランスとドイツは改革の機運を作ることができる」とドイツに協力を求めました。

メルケル首相は「強いフランスがなければ、ヨーロッパもドイツもうまくいかない」と連携に積極的な姿勢を歓迎。多くのドイツ国民も、マクロン大統領が掲げるヨーロッパの将来像に共感し、大きな期待を寄せました。

それから2年。事実上の信任投票となったヨーロッパ議会選挙で、マクロン大統領の政党はEU懐疑派のルペン党首が率いる極右政党・国民連合を下回る結果となりました。去年11月の燃料税引き上げをきっかけに反政権デモが全国に拡大し、逆風をまともに受けた形です。

 

独仏間のすきま風

中小規模の国々がひしめくヨーロッパ。超大国アメリカや中国と対抗していくためには個々の国々では歯が立たず、EUのもとに団結する強いヨーロッパが必要だーードイツやフランスはヨーロッパの統合が欠かせないと考えてきました。

しかしどこまで統合を進めるのかをめぐって、独仏間には深い溝があります。

マクロン大統領が提唱するEU改革の柱は財政面での統合強化です。具体的には通貨ユーロに加盟する国々の間で共通の予算をつくり、豊かなドイツなどの北部の国々が持つお金を財政難が続くギリシャやイタリアといった南部の国々に振り分けよう、という考え方です。

しかしドイツ国民の間では「自分たちの支払った税金が放漫財政の国々の穴埋めに使われることになるのではないか」との警戒感がぬぐえません。メルケル首相もマクロン大統領の提案には冷ややかです。

さらにドイツとフランスの溝はEUの人事をめぐっても表面化しています。(中略)

 

誰がヨーロッパを率いるのか?

ユーロ危機やウクライナ問題で指導力を発揮し、「ヨーロッパの盟主」と呼ばれるようになったドイツ。しかしその間、ユーロ危機で緊縮財政を主張し続け、南ヨーロッパ諸国から反発を生んだほか、中東などからの難民受け入れも、EUに懐疑的な感情を高めるきっかけとなりました。

さらにギリシャ政府がドイツ政府に対し、第2次世界大戦中のナチス・ドイツによる占領などに対する賠償金の請求を行う考えを示すなど、歴史問題も再燃しています。

「強すぎるドイツ」に対する警戒感を抑え、ヨーロッパ内のバランスをとる意味で、ドイツはフランスというパートナーが必要です。

一方、フランスにとっても、ヨーロッパで突出する経済力を持つドイツの後ろ盾が欠かせません。過去に繰り返し戦火を交えてきたかつての宿敵との友好関係はEU発足の原動力となり、その理念は今も失われていません。

 

EUは現在、28もの国々の集合体になりました。しかし今年10月にイギリスが離脱すれば、ドイツとフランスの2か国だけでEUのGDPの40%強を占めることになります。政治的にも経済的にも、この2か国が協力してEUを引っ張っていくしか道がないのが現状です。

世界では今、アメリカのトランプ大統領が国際協調から背を向け、ロシアや中国がEUの周辺国にも影響力を強めようとしています。

EUが国際社会の重要なプレーヤーとして存在感を保っていけるのか。ヨーロッパ統合の軸となってきたドイツとフランスはEU創設以来の正念場を迎えています。【614日 NHK

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フィリピン  対中国では、親中派大統領と世論には乖離もあるなか、中国漁船「当て逃げ」事件

2019-06-15 23:12:29 | 東南アジア

(フィリピンの首都マニラの中国領事館前で抗議する活動家ら(2019年6月12日撮影)【6月15日 AFP】)

 

【親中国のドゥテルテ大統領、中国に厳しい国民世論を刺激する中国側対応に苛立ちを示す場面も】

米中間の貿易や5G・ファーウェイなどの新技術をめぐる争いやイラン周辺でのキナ臭い動きなどがあって、最近はニュースで目にする機会が少なくなった南シナ海での中国の領有権主張をめぐる争い。

 

南シナ海での“もめ事”に関する報道を目にする機会が少なった理由は、他のホットな問題の陰に隠れていることのほか、中国に対しかつてはもっとも厳しい姿勢を示していたフィリピンが、ドゥテルテ大統領に代わって以降、中国との協調路線に転じたことが大きな理由となっています。

 

ただ、フィリピン周辺海域で我が物顔にふるまう中国漁船、海域の軍事拠点化を進める中国に対し、フィリピン世論は不満を強めており、国民ベースでの対中国感情が良い訳でもありません。

 

特に、今年4月ごろ、フィリピンの中間選挙直前の頃は両国間の不協和音が目立ちました。

 

****フィリピンで反中デモ、「侵略に等しい」と市民が反発****

フィリピンの首都マニラにある中国大使館前で9日、フィリピン国内で強まる中国の影響力に対する抗議行動が行われ、1000人ほどが参加した。係争地域となっている南シナ海での中国の存在感をめぐり、緊張が高まっている。

 

フィリピン国旗を振るデモ隊は、「中国は出て行け」とシュプレヒコールを上げたり、「わが国の主権を守れ」と書かれた横断幕を掲げたりして、海底資源豊かな南シナ海での中国の領有権拡大に抗議した。

 

デモに参加した男性教師は、「ロドリゴ・ドゥテルテ政権は対応が甘い。中国の行為は侵略に等しい」と不満をもらした。

 

ドゥテルテ大統領はこれまで、中国との争いは無益であり、貿易や投資を求めてきた中国と事を構える意図はないと繰り返し述べるなど、一時過熱した南シナ海の領有権問題に目をつぶる姿勢を示していたが、フィリピンが実効支配するパグアサ島(中国名:中業島)付近でこの数か月間に中国船数百隻の航行が確認されたことを受けて緊張が再燃。

 

政府は中国船の存在は「違法」と断じ、ドゥテルテ氏はパグアサ島に立ち入ろうものなら軍事行動も辞さないと警告している。 【49日 AFP

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中国船は単なる漁船でもないような指摘も。“フィリピン軍幹部は船舶に軍事訓練を受けた民兵が乗船している可能性に触れ、「船舶は釣りをせず、停泊していることもある」とも指摘した。”【47日 産経】

 

国内の中国に対する反発を受けて、選挙直前ということもあって、親中国的なドゥテルテ大統領の口からも以下のような発言もありました。

 

“ドゥテルテ氏は演説で中国に対し、「友人同士でいよう」と呼びかけながらも「パグアサ島やその他の島に手を出してはならない」と強調。「それらの島々に向けてことを起こすなら、話は変わってくる。わが軍の兵士たちに『自爆任務の準備をせよ』と命じることになるだろう」と語った。

そのうえで自身の言葉について、警告ではなく「友人への忠告だ」と付け加えた。”【45日 CNN

 

“自爆任務”云々は、他の指導者が発言すれば国際的大問題になりますが、ドゥテルテ大統領だと、「ああ、またなんか派手なことを言っているね・・・」で終わってしまいます。

 

****南シナ海に中国漁船、一日で87隻 フィリピン反発****

領有権をめぐる国際的な争いのある南シナ海で、中国船が多数確認されているとして、近隣のフィリピンベトナムが反発を強めている。中国と東南アジア諸国連合ASEAN)の関係改善などにともない「安定」していた情勢が、再び緊張している。

 

フィリピン国軍によると、南シナ海南沙(スプラトリー)諸島で同国が実効支配するパグアサ島周辺では1月から3カ月間、中国漁船が600隻以上確認された。2月には1日で87隻が集まった日もあった。沿岸自治体は「中国船に漁師が操業を妨害されている」と訴える。

 

ドゥテルテ大統領は今月4日の演説で「パグアサ島は我々のものだ。手を触れるな」と中国を批判。軍による自爆作戦を辞さないともほのめかした。

 

2016年6月に就任したドゥテルテ氏はこれまで、南シナ海の軍事拠点化を進める中国に対し、批判を封印してきた。急務とされるインフラ整備などへの支援が必要だからだ。

 

議長国を務めた17年のASEAN首脳会議の議長声明では、中国を念頭に14年から続いた「懸念」という表現も外すなど、融和ムードを演出してきた。

 

一転して中国に厳しい態度を見せたのは、国民の反中感情の高まりからだ。公共工事のために中国から多額の借金をしているのに加え、多数の中国人労働者が工事現場で働くために流入していることが、問題視されている。

 

中国船問題は、火に油を注いだ。今月9日には、国旗を掲げた市民ら約900人がマニラの中国大使館前で「中国は出て行け」と叫び、政権の弱腰姿勢も批判した。

 

フィリピンでは、5月13日に中間選挙(上院の半数と下院、地方選)がある。任期折り返しの年にあたる「通信簿」と位置づけられ、ドゥテルテ氏も無視できなくなったとみられる。

 

一方、中国外務省の陸慷報道局長は今月11日の記者会見で「昔から中国の漁民が漁をしており、その権利への挑戦は許されない」と述べ、南シナ海での自国の立場を改めて正当化した。

 

中国船をめぐるトラブルは、ベトナム海域でも起きている。3月には西沙(パラセル)諸島でベトナム漁船が中国船によって沈没させられ、ベトナム外務省が中国側に抗議。今月7日、ベトナム海域で違法操業をした中国漁船が警告に従わず、ベトナム側が高圧放水で追い払う騒動があった。

 

ベトナムでは14年、中国による南シナ海での石油掘削活動に抗議する大規模デモが発生。18年にも、経済特区で中国などの投資家に99年間の土地租借を認める案に反対するデモが起きている。【413日 朝日】

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苛立ちを強めたドゥテルテ大統領は、習近平主席との会談で、2016年の仲裁裁判所の判断を議題に取り上げたとも報じられています。

 

****比、南シナ海問題「いらいら」 大統領が中国主席に不満示す****

フィリピンのパネロ大統領報道官は29日記者会見し、ドゥテルテ大統領が25日の中比首脳会談で、南シナ海での中国の主権主張を退けた2016年の仲裁裁判所の判断を議題にしたと認め、ドゥテルテ氏が判断を受け入れない中国の習近平国家主席に対し、南シナ海で「いらいらさせられることが起きている」と不満を示したことを明らかにした。

 

仲裁判断があるにもかかわらず、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のうち、フィリピンが実効支配するパグアサ(同ティトゥ)島周辺に多数の中国船が出没していることに不快感をあらわにしたもようだ。【429日 共同】

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しかし、中間選挙に圧勝したのちは、ドゥテルテ大統領は再び親中国路線を前面に押し出しています。

 

****ドゥテルテ大統領、中国人の働きぶりを称賛―中国メディア****

2019512日、中国メディアの観察者網は、フィリピンの不完全就業率がここ十数年で最低となる中、同国のドゥテルテ大統領が中国の経済発展と中国人の働きぶりを称賛し、国民に学ぶよう奨励したと報じた。

フィリピンメディアの報道を引用して伝えたところによると、ドゥテルテ大統領は10日、ダバオでの選挙運動で「中国をよく見てほしい。われわれは彼らの進歩にかなり遅れている。中国人を見てほしい。彼らの仕事の効率はプレートが飛ぶほど速く、仕事の時は本当によく働く」と述べた。

さらにドゥテルテ大統領が「彼らは雷雨でも働き続ける。それに比べて私たちは、こぬか雨でも肺炎にかかる」と述べると、会場は大きな笑いに包まれたという。(中略)

記事はさらに、ドゥテルテ氏就任以来、大量の中国人がマニラに流入し、その多くは中国人ユーザーを対象とした複数のオンラインゲーム企業に雇用されていることをめぐり、一部政治家から中国人流入が地価上昇を招き、フィリピン人の職を奪い、税収にも影響しているとの懸念の声が上がっていることについて、ベリョ労働雇用相が「外国人がフィリピン人の職を奪うという状況は起きてないない」と述べたことも伝えている。【514日 レコードチャイナ】

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****「私は中国が好きだ」ドゥテルテ大統領、親中派アピール****

フィリピンのドゥテルテ大統領は31日、東京都内で開かれたシンポジウムで講演し、南シナ海で領有権を争う中国について「私は中国が好きだ」と話し、親密な関係ぶりをアピールした。

 

5月中旬にフィリピンであった中間選挙の前に、南シナ海問題をめぐって中国への態度を硬化させたが、「親中派」に戻った。

 

ドゥテルテ氏は2016年の就任以来、中国との関係を重視して南シナ海問題での中国批判を抑制してきた。だが、フィリピンが実効支配している島周辺に多数の中国漁船が現れたことなどで国民の対中感情が悪化。今年4月、「島は我々のものだ。手を触れるな」と中国を牽制(けんせい)するようになった。

 

この日の講演でも「海全体が自分たちのものだと主張するのは正しいことだろうか」と指摘したが、全体的なトーンは一転させた。4月に会談したばかりの習近平(シーチンピン)国家主席について「機会があればぜひ南シナ海問題も話してみたい」と秋波を送り、閣僚レベルでの対話の可能性にも言及。「国際法を使いながら緊張を緩和することができるかもしれない」などと話した。【61日 朝日】

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そのときどきの政治事情で対応に変化はあるものの、基本的にはドゥテルテ大統領は中国へのシンパシーが非常に強いようです。

 

【中国漁船“当て逃げ”事件で更に硬化しそうな世論】

しかし、大統領の中国への好意的共感にもかかわらず、中国船の“傍若無人”な対応は改まらないようです。

 

****南シナ海 フィリピンの漁船が中国漁船に衝突され沈没****

(中略)フィリピン国防省は、中国とフィリピンが領有権を争う南シナ海のリード礁付近で、今月9日夜、停泊していたフィリピンの漁船が中国の漁船に衝突され沈没したと発表しました。

この際、フィリピン人の乗組員22人が海に投げ出されましたが、衝突した中国の漁船は救助活動を行うことなく、その場を離れたということです。

乗組員たちは、近くを航行していたベトナムの漁船に全員救助され、命に別状はないということです。

フィリピン国防省は、中国の漁船が救助活動を行わなかったとして、「中国の漁船の卑劣な行動を最も強い表現で非難する。これは友好関係がある国の行うことではない」と強く非難しました。

また、フィリピン外務省も、外交ルートを通じて中国政府に対し、正式に抗議したことを明らかにしました。

衝突のあったリード礁周辺はフィリピンの排他的経済水域内ですが、南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張する中国は多数の漁船を操業させているほか、2012年にも中国の貨物船がフィリピンの漁船に衝突して沈没させたあと、そのまま立ち去る事故があり、今回も両国の緊張が高まりそうです。【613日 NHK】

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中国側は“衝突”は認めているものの、“当て逃げ”は否定しています。

 

****中国政府、フィリピン漁船への衝突認める 「当て逃げ」は否定****

中国政府は15日、領有権問題で周辺国と係争中の南シナ海のリード堆(フィリピン名:レクト環礁)近海に停泊していたフィリピン漁船に9日に衝突したのは中国のトロール船だったことを認めた。ただし、フィリピン当局が批判する「当て逃げ」行為については否定している。

 

中国のトロール船は9日、リード堆近海で起きた衝突事故の後に逃走。フィリピンの当局やメディアからは怒りの声が上がっていた。

 

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、豊富な資源を有する南シナ海をめぐって対立する中国への批判を一時期よりはトーンダウンさせているが、フィリピン国民の多くは同海域における中国政府の動きにいら立ちを募らせている。

 

フィリピンの首都マニラにある中国領事館は、中国のトロール船「粤茂浜漁42212」がフィリピン漁船に衝突したことを認めたが、安全性を懸念してその場を離れたとして、「中国人の船長は、フィリピン漁船の乗組員たちを救助しようとしたが、他のフィリピン漁船から包囲されることを恐れた」と主張。

 

フィリピン当局から「当て逃げ」と批判を受けたことについて、問題のトロール船は「フィリピン漁船の乗組員たちが救出されたことを確認した」として、当て逃げを否定した。だが、フィリピン側の乗組員22人は海の中で数時間、救助を待っていたと主張しており、言い分に食い違いをみせている。

 

乗組員らはその後、ベトナム漁船に救助され、14日にフィリピン海軍の船で帰国した。

 

ドゥテルテ大統領の報道官はこの事故について、漁船の乗組員を見捨てるとは「あってはならない、残忍な」行為だと非難。フィリピンの沿岸警備隊は、事故に関する調査を進めている。 【615日 AFP】

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ドゥテルテ大統領はともかく、中国に対するフィリピン世論の方はこの事件でまた硬化しそうです。

 

【批判を封じる強権体質 中間選挙圧勝で体制を固め、次期大統領戦略も】

国民からの高い支持率を維持するドゥテルテ大統領ですが、“フィリピン大統領「私も同性愛者だったが『治した』」”【63日 Newsweek】といった「なんじゃ、そりゃ?」という話題など多々あります。

 

大統領の強硬な麻薬対策は国民世論の支持を得ていますが、一方で、その強権的体質はやはり大きな問題をはらんでいます。

 

****フィリピン民放最大手、大統領に批判的報道で閉鎖危機****

フィリピンドゥテルテ大統領に批判的な報道を続けてきた民放最大手ABSCBNが閉鎖の危機にある。議会下院は11日、同局の営業認可更新に関わる法案審議を凍結。7月に法案が再提出されなければ、来年3月20日に認可が切れる見通しだ。

 

同局はアキノ前大統領に近いロペス家が経営。現地報道によると、ドゥテルテ氏は2016年の大統領選の際に自分に好意的な宣伝の放送を断られ、抵抗勢力のCMが流されたことへの怒りをたびたび口にしてきた。同局は多くの死者が出ている麻薬犯罪撲滅キャンペーンにも批判的で、凍結はこうした内容への圧力とみられている。

 

一方、同局所属の人気アーティストや国民の反発も想定され、閉鎖には至らないとの見方もある。同局作品は世界50の国・地域で放送され、最近も中国、トルコ、インドネシアでの放送が決まったばかりだ。

 

フィリピンではドゥテルテ氏就任以来、政権に批判的なメディアの閉鎖を示唆する動きが頻発している。【612日 朝日】

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中間選挙圧勝で現体制を強固なものとした大統領は、後任に自分の娘を考えているとか。

 

****フィリピン中間選挙でドゥテルテ派圧勝、勢い増す強権体制****

フィリピンで5月13日に中間選挙が行われ、上下両院でドゥテルテ大統領(74)を支持する勢力が圧勝した。2016年6月末に発足以来、7〜8割という高支持率を維持してきた現政権に対する国民の信任が裏付けられた形だ。

 

今回の勝利は政権内で「ドゥテルテマジック」と呼ばれ、任期が終了する22年まで強権体制が続く見通し。大統領が公約に掲げていた死刑制度の復活や連邦制導入に向けた憲法改正の審議が前進しそうだ。(中略)

 

外交では、大統領がこれまで進めてきた親中路線の行方が注目される。南沙諸島の領有権問題では、中国から経済援助を引き出す見返りに軍事拠点化を黙認してきた。

 

しかし、中間選挙の1カ月前には中国への態度を硬化させる発言が飛び出し、5月下旬の訪日時にも「海全体を一国が主張するのは正しいのか」と疑問を呈するなど、中国に対する不信感を示す場面も出てきた。一方でこうした姿勢は、選挙を踏まえたリップサービスとの見方もある。

 

憲法では大統領の再選は禁じられている。ドゥテルテ大統領は22年に任期を終えることになるが、次期大統領選で反ドゥテルテ派が巻き返しを図れば、麻薬撲滅戦争による超法規的殺人や隠し資産疑惑などで逮捕、訴追される可能性がある。歴代政権では、エストラダ(任期19982001)、アロヨ(同0110)両大統領が汚職に関与したとして政権交代後に逮捕された。

 

次期大統領選の候補者には早くも、ドゥテルテ大統領の娘で、サラ・ダバオ市長の名前が上がっており、今回の中間選挙でも改革党を立ち上げて勝利に貢献した。大統領は任期終了後に自身が逮捕されることを阻止するためにも、サラ市長を次期候補に見据えた政権運営を行うとみられる。【614日 WEDGE】

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超法規的殺人に手を染めていますので、反対派による政権奪取となれば、逮捕は間違いないでしょう。

なんとしても、信頼できる者に後を託す必要があります。

 

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