孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア  「同盟」サルビーニ内相の“正直な”発言が示すロマ差別 排斥を容認する「民主主義」

2018-06-19 23:50:39 | 欧州情勢

(「泥棒家族」を支える14歳少年を描く映画「チャンブラにて」より 【https://ameblo.jp/yukigame/entry-12371311313.html】)

【「同盟」党首サルビーニ内相「(イタリア国籍を保有しているロマは)“残念ながら”国内にとどめておかなければならない」】
日本では“ジプシー”という呼称の方が馴染みがある“ロマ”の人々への差別の問題は、これまでもときどき取り上げてきました。
(2016年9月24日ブログ“ロマ差別  欧州を逃れてアメリカへ逃れるロマも増加 東欧諸国の「破られた約束」”など)

上記ブログのロマに関して説明した冒頭部分を一部再録します。

****犯罪関与などの現実が助長する欧州におけるロマ差別****
“ロマ(Roma)は、ジプシーと呼ばれてきた集団のうちの主に北インドのロマニ系に由来し中東欧に居住する移動型民族である。移動生活者、放浪者とみなされることが多いが、現代では定住生活をする者も多い。”【ウィキペディア】(中略)

日本では「ジプシー」という呼び名が方が一般的ですが、「ジプシー」などの呼称は物乞い、盗人、麻薬の売人などの代名詞のように使われる場合がままあり、「差別用語」のイメージがあるため、ポリティカル・コレクトの観点から現在は「ロマ」の呼称が使われることが多いようです。

呼称を変えたからといって差別がなくなる訳でもありませんが、あからさまな嫌悪感・侮蔑をまき散らすよりはましでしょう。(中略)

現在、ロマはルーマニア・ブルガリアなど東欧を中心に、西欧にも広く拡散しており、各地で差別の対象となっています。

“欧州連合の行政府・欧州委員会によると、欧州に暮らすロマの人口は推定1000万~1200万人。 欧州評議会の各国別推計によると、ルーマニア185万人、ブルガリア75万人、スペイン72万5000人、ハンガリー70万人、スロバキア49万人、フランス40万人、ギリシャ26万5000人、チェコ22万5000人、イタリア14万人など。”【ウィキペヂア】

欧州でのロマへの差別的感情は、イスラムやユダヤ以上に強いものがあるとか。

ロマが差別される理由として・流れ者の民族で文化が違う・キリスト教徒ではない・コーカソイド(白人系)ではない・個人主義で、決して地域に同化しない・・・などが挙げられていますが、現実問題として差別されて合法的な暮らしが困難なロマが窃盗などの犯罪や物乞いに関与することが多いことが一般市民の彼らへの感情を更に悪化させているものと思われます。【上記2016年9月24日ブログからの再録】
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“犯罪”という面では、「ローマではジプシーのスリに注意!」といった注意もよく目にします。

久しぶりにロマ差別の問題を取り上げたのは、下記のイタリア内相の発言が報じられているためです。

****伊内相、少数民族ロマの人口調査を計画 国外追放も示唆****
イタリアのマッテオ・サルビーニ内相は18日、同国内に居住する少数民族ロマの人口調査を実施し、イタリア国籍がなければ国外追放する意向を明らかにした。サルビーニ氏は反移民を掲げる極右政党「同盟」の党首。
 
サルビーニ氏は自身の出身地である北部ロンバルディア州の地元テレビ局に対し、伊当局にロマに関する人口調査の実施を許可し、外国籍で不法滞在と判明したロマについて国外追放の可否を検討できる権限を与えると発言。
 
一方で、イタリア国籍を保有しているロマについては「残念ながら国内にとどめておかなければならない」と述べた。
 
サルビーニ氏は今月、地中海で救助されたアフリカ系を中心とする移民630人あまりを乗せた船の入港を拒否して非難を浴びたが、今回のロマに関する発言に対しても抗議の声が上がっている。【6月19日 AFP】
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上記記事にもあるイタリアのサルビーニ内相のアフリカ難民船寄港拒否、及び、スペインが受け入れを発表した際の「勝利だ!」との発言については、6月13日ブログ「イタリア新政権  移民・難民船を“たらい回し”にして「勝利!」とする“良識”」でも取り上げました。

合法的な滞在資格を持たない“不法入国者”を国外追放にする・・・・という話は一般的なことですが、もし“ロマ”を標的・狙い撃ちにする形で調査を行うということになると、その排斥姿勢が問題にもなります。

もっとも、こうしたロマを狙い撃ちにした追放措置は、やはり「同盟」(当時は「北部同盟」)の主張もあって、以前からとられてきました。

****仏に続きイタリアもロマ送還 内相が表明****
イタリアのマローニ内相は(2010年8月)21日までに、国内に居住する少数民族ロマについて、十分な収入や定住先などの要件を満たしていなければ、欧州連合(EU)市民であっても出身国に送還する政策を進める考えを明らかにした。コリエレ・デラ・セラ紙が伝えた。

ロマをめぐっては、既にフランスが19日、犯罪対策の一環として送還を開始しており、イタリアもこれに倣った形。人権団体などから、人種差別的政策との批判を呼びそうだ。

内相は、EU欧州委員会がこうしたロマ送還を禁ずる決定をしているため、9月6日に予定されるEU内相会合で、決定を見直すよう働き掛けると語った。

イタリアには同国の市民権を持つロマのほか、ルーマニア、ブルガリアなど他のEU諸国の市民権を持つロマが多数、居住している。

内相は右派政党、北部同盟出身。同党は不法移民が犯罪の温床になっているほか、イタリア人の職を奪ったり福祉財政に負担をかけているとして移民排斥を主張。ベルルスコーニ政権は連立与党である同党の主張を受け、移民に厳しい国内法整備を進めている。【2010年8月22日 共同】
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今回、非常に印象的というか、この極右政治家の本音を正直に語っているのが、“イタリア国籍を保有しているロマについては「残念ながら国内にとどめておかなければならない」と述べた。”という部分です。

国籍を有していれば完全なイタリア国民です。そのイタリア国民を国内にとどめておくことが“残念”というのは、滞在資格の有無が問題ではなく、なんとかロマを排斥したという気持ちが実に正直に出ています。

こうした発言が一部の抗議を受ける程度で、政治的・社会的に許容されというのも不思議なことです。
また、こうした発言の延長線上には、そのうち何らかの理由をつくって、たとえイタリア国籍があってもロマを国外へ追放する・・・・といったことにもなるのではとも危惧されます。

根底にあるのは、かつてのユダヤ人に対するホロコーストとほとんど同じ民族的嫌悪感とも言える排他的感情です。

【「民主主義」の変容
人種的嫌悪感を発散する政治家が存在することは珍しいことではありませんが、サルビーニ内相率いる移民排斥政党「同盟」が3月の総選挙で第3位の議席を獲得し、「五つ星運動」ともに連立与党を形成するまでに躍進したということは、その躍進を支持した民主主義の在り様について考えさせられるものがあります。

最近、民主主的な政治形態に対し、中国をモデルにした「チャイナ・スタンダード」の世界への拡散、中国の自信が取りざたされることが多くありますが、その「チャイナ・スタンダード」に対峙する民主主義自体が、アメリカのトランプ大統領や、欧州の極右政党台頭に見られるように、人々の不満のはけ口として「不寛容」方向に大きく変質しているように思われます。

少数民族の人々に対する敵意は伝染しやすい
イタリアにおけるロマは冒頭にも紹介したように14万人と、他の国に比べて多いということはありませんが、アフリカ移民がほとんど流入していない中東欧諸国で激しい受け入れ拒否が起きているように、民族的嫌悪感というの人数の多寡にはあまり関係しないのかも。

イタリアにおけるロマ差別に関しては、1年前に以下のような事件も報じられています。

****ロマ人の3姉妹が放火で死亡、キャンピングカーで就寝中 イタリア****
イタリアの首都ローマ(Roma)郊外で10日、少数民族のロマ人のキャンピングカーが放火され、中にいた3人の姉妹が死亡する事件が発生した。国内に悲しみが広がっている。
 
犠牲となったのは4歳、8歳、20歳の3姉妹で、放火された当時、両親や他の8人のきょうだいと就寝中だった。
 
捜査当局によると、監視カメラには火の手が上がる前、1人の男がキャンピングカーに向けて瓶を投げる様子が映っていたという。
 
外国人に対する憎悪によるものなのか、移動生活をしている別の家族からの恨みによる犯行なのかなどは不明。報道によると、ここ数日、地元住民から脅迫を受けていたと遺族が証言しているという。
 
セルジョ・マッタレッラ大統領は「恐ろしい犯罪」と糾弾し、ローマのビルジニア・ラッジ市長も哀悼の意を表した。ローマ法王庁(バチカン)は、遺族の悲しみを和らげ「具体的な支援」を行うため、フランシスコ法王が司祭を派遣したことを明らかにした。
 
イタリアに住むロマやシンティの人々は約17万人おり、その半数以上は定職や定住する家、市民権も持っているが、貧困層へのヘイトクライム(憎悪犯罪)が後を絶たない。【2017年5月11日 AFP】
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上記記事にある“シンティ”とは、“15世紀頃からドイツ語圏に定住したロマと同根のロマニ系の集団”【ウィキペディア】とのこと。

ロマ差別に関して、“少数民族の人々に対する敵意は伝染しやすい”という、ある意味当然のことのような現象に関する“実験”も報じられています。

****民族的敵意は伝染する、チェコ・スロバキア研究****
少数民族の人々に対する敵意は伝染しやすく、少数民族に対する破壊的な行動の受容性は、他者の行動次第で容易に変わるという研究結果を、チェコとスロバキアの合同チームが発表した。
 
研究に参加したミハル・バウアー氏とユリエ・ヒティロバ氏は23日、「反社会的な行動を規制する社会規範は、そうした行動が少数民族に向けられた場合、非常にもろくなる」とAFPに語った。
 
研究は2013年に、チェコ・プラハのカレル大学にある経済研究所「CERGE-EI」と独ミュンヘンのマックス・プランク研究所、スロバキアのコシツェにある工科大学が、多くの少数民族ロマの人々が暮らすスロバキア東部で行った。
 
今年4月に米科学アカデミー紀要に掲載された論文によると、研究はスロバキア人が多数派の学校の13〜15歳の生徒327人を対象とした実験に基づいたもの。
 
実験では、生徒たちにそれぞれ2ユーロ(約250円)を渡した後、0.2ユーロ(約25円)を払う代わりにペアになった相手から1ユーロ(約126円)を取り上げてもらう破壊的な選択か、そのまま何もせず互いに2ユーロを保持するかを選んでもらった。
 
次に生徒3人のグループを作り、スロバキア人とロマ人の典型的な名前20人のリストから選ばれた相手について、グループ内で順番に「破壊的」にするかどうかを選択してもらった。
 
実験は、同じ民族の仲間が他集団の民族に害を加えた場合、その影響は仲間に害を加えた場合よりも増大するとの仮説を検証する目的で行ったものだが、その結果は驚くべきものだった。論文の指摘によると、少数民族に危害を加えるという意思決定において仲間の影響が著しいという。
 
最初の生徒が少数民族の生徒に対して「平和的」な選択をした場合、次の生徒が「破壊的」な選択をする割合は19%だったが、最初の生徒が少数民族の生徒に対して「破壊的」な選択をした場合、次の生徒が「破壊的」な選択する割合は77%に上った。
 
1番目と2番目の生徒の両方、または一方が「平和的」な選択をした場合、3番目の生徒が「破壊的」な選択をする割合はわずか18%だったが、1番目と2番目の生徒が両方とも「破壊的」だった場合、3番目の生徒の88%が「破壊的」な選択をした。
 
バウアー氏とヒティロバ氏は「実験に参加した生徒たちは、ほかの生徒がロマ人の生徒に嫌がらせをしていると、ロマ人に対する憎悪的な行為は社会的にも容認されるものだと見なすようになった」と指摘している。【5月30日 AFP】
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極めて“当たり前”のようなことに関する実験でもありますが、「少数民族の人々に対する敵意は伝染しやすい」「反社会的な行動を規制する社会規範は、そうした行動が少数民族に向けられた場合、非常にもろくなる」ということを裏付ける実験でもあります。

先述のサルビーニ内相の発言などが、“ロマ人に対する憎悪的な行為は社会的にも容認されるものだ”という社会的雰囲気を醸成していくことが懸念されます。
トランプ大統領への支持、欧州極右の台頭に見られるように、反社会的な行動を規制する社会規範の崩壊はすでに現実のものとなっています。
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アメリカ  トランプ大統領の不法移民親子引き離しにメラニア夫人が異例の批判的発言

2018-06-18 22:16:57 | アメリカ

(【6月18日 BBC】メキシコから国境を越え米国に不法入国しようとした成人は拘束され、子供は親から引き離され別場所に収容されます。乳幼児を含む子どもだけの収容が増えたことで、トランプ政権はテキサス州の砂漠地帯に子どもたちを収容するテントの仮設住宅地を建設する計画を立てていますが、この地域では、気温が40度にまで上がるとも)

中南米系不法移民 実態とイメージの間には大きなギャップも ことさらに悪いイメージを広めるトランプ発言
トランプ政権の不法移民対策については、下記「トランプは移民問題をどうしたいのか」に詳しく説明されていますが、後半のDACA代替法案が遅れている経緯等については大幅にはしょって、主に前半部分を引用します。

****トランプは移民問題をどうしたいのか****
「メキシコからの移民は麻薬密売人や強姦魔だ」。「米墨国境に壁を作る」。ドナルド・トランプは、2016年大統領選挙の最中から移民に関する様々な発言で注目を集めた。

トランプの発言が注目を集めた背景に人口動態の変化がある。1960年には人口の85%を占めていた白人(中南米系を除く、以下同様)は2050年までには人口の半数を下回ると予想されている。

他方、移民人口は増大している。特に、中南米系は2011年段階で人口の17%と既に黒人(12%)を上回っており、2050年までに人口の3割に達すると予想されている。

近年、世界的に移民問題が大きな話題になっている。多くの国で移民が議論される場合、合法移民受け入れの是非が問題になる。だが、アメリカは一定数の合法移民を受け入れるのを当然と考えており、現在も年間70万人を受け入れている。

アメリカで問題となっているのは不法移民対策である。不法移民をこれ以上増やすべきでないことについては一定の合意があるが、既に1100万人以上存在するとされる不法移民への対応については見解が分かれている。

全員国外退去させるべきという人がいる一方で、それは現実的に困難なので、一部の不法移民に滞在と労働の許可を与え、国籍付与の可能性も検討すべきと言う人もいる。

移民の印象を悪化させるトランプの「動物」発言
中南米系移民が争点となるのは、彼らには従来の移民と違う特徴があると考える人が多いからである。

中南米とアメリカは地理的に近接していることもあり、中南米系には出稼ぎ感覚で来ている移民も多い。外貨獲得を目指す中南米諸国が、アメリカに行った移民に二重国籍取得を促して繋がりを確保しようとしていることもあり、中南米系はアメリカに対して十分な忠誠心を持たないと考えている人もいる。

また、アメリカでは国籍について出生地主義原則が採用されているため、不法滞在中の人の子どもであっても、国内で生まれた者には国籍が付与される。そのようにして産まれた子どもが21歳になれば家族を呼び寄せるのが容易になるため、この制度を活用しようとして不法移民が来ているのではないかとも批判されている。

中南米系が、白人労働者階級の職を奪っているとか、社会福祉政策を悪用していると主張する人もいる。また、アメリカで流通している麻薬の多くがメキシコから流入しているため、中南米系移民が犯罪率を押し上げているという議論もなされている。

実際には、中南米系移民に対する批判は妥当でない所が多い。
歴史的に見て、出稼ぎ感覚で移民してきた人は他にも存在したし、移民の子どもが出生地主義原則に基づいて国籍を取得するのも一般的だった。

白人労働者階級の仕事が減少している主な原因は、産業構造の変化と機械化である。移民は基本的に公的扶助を受給することができず、年金を受給するには10年間の社会保障税の納入が必要なため、社会福祉制度に大きな負荷をかけていない。移民の犯罪率は標準的なアメリカ人と比べて低く、麻薬を持ち込む人はごくわずかである。
 
このように、実態とイメージの間には大きなギャップが存在する。だが、上述のように良くないイメージを中南米系に対して抱く人々が多い以上、トランプ的な発言が支持される可能性がある。

中南米系をめぐるトランプの発言で最近注目されているのは、一連の「動物」発言である。

今月半ば、カリフォルニア州フレスコ郡の保安官がMS-13と呼ばれるギャング団(正式名称はマラ・サルバトルチャ)の脅威について発言したのを受けて、トランプ大統領は、「アメリカに入ってきている、入ってこようとしている連中がいて、我々はその多くを止めさせて、国外に追い出している。奴らがどれだけ悪い連中かわからないだろう。奴らは人間じゃない。動物だ」と発言した。

これは、もともとはギャングについての話だったはずのものを、トランプが移民の問題として提起し直し、移民が犯罪と関係しているとの印象を与えるとともに、彼らを非人間化した発言として、多くのメディアに取り上げられている。

トランプはしばしば麻薬やギャングの問題を中南米系移民の問題に置き換えて論じることがあり、犯罪に関与した(移民を含む)外国籍の者を頻繁に動物と呼んでいる。このような発言が移民に対する印象を悪いものとしている。

宙に浮いたままのDACA撤回
大統領となったトランプは、大統領選挙中に移民について示した方針を実現しようとしている。だが、アメリカでは大統領には法案提出権がないため、トランプにできるのは、法案作成を議会に依頼することか、既存法規の枠内で大統領令を出すことである。その中で、今日注目を集めているのが若年層向け強制送還延期プログラム(DACA)の取り扱いである。

不法移民問題の中で例外的位置を占めるのが、ドリーマーと呼ばれる人々をめぐる問題である。幼少期に家族に連れられて不法入国した人々は不法移民だが、その責を本人に帰すことの妥当性は低い。

幼少期からアメリカに居住しているため、アメリカ人としてのアイデンティティを持つ人も多いし、英語しか話せない人もいる。

このような人々の救済を目的として、ドリーム法と呼ばれる法案が何度か提出されてきた。DACAは、2012年にオバマ大統領が出した大統領令であり、ドリーマーの一部に滞在と労働を認める2年ごとの更新制プログラムである。

DACAは一定の支持を得ており、69万人が恩恵を受けている。法的に見ると、ドリーマーに滞在許可を与えることは、行政権の行使として容認されるとされている。

全ての不法移民を一斉に強制送還するのは不可能なので、どの人を優先的に送還するかを決める必要があるためである。

だが、強制送還しない人々に労働許可を与えることについては議論がある。今ある法律の運用という枠を超えているため、このようなことを大統領令でやってしまうのは権力分立を否定する行為だと批判されているのである。

 
トランプ大統領は2017年9月に、2018年3月5日から徐々にDACAの執行を停止すると発表した。それと同時に、国境警備強化と引き換えにドリーマーに滞在と労働を許可する政策を法制化することで、ナンシー・ペロシやチャック・シューマーら民主党指導部と合意した。

だが、ニューヨークやカリフォルニアなどの州政府がDACA撤回の取り消しを求める訴訟を提起し、連邦地方裁判所もそれを認めたため、DACA撤回は宙に浮く形となった。

トランプ政権は判決無効を求めて控訴中である。また、4月末に、テキサス、アラバマ、アーカンソー、ルイジアナ、ネブラスカ、サウスカロライナ、ウェストヴァージニアの7州が、DACAの執行を停止するよう、連邦政府に対して訴訟を提起する事態となっている。

DACA代替法案もトランプの言動によって実現せず
DACAをめぐる問題は、トランプ大統領の発言と行動によりさらに混乱している。

先ほど指摘したとおり、昨年9月にトランプはDACA停止を決定する一方で、連邦議会にDACA代替法案の作成を要請している。そして、これまで少なくとも4回、DACA代替法案の実現をめぐる試みがなされているが、いずれもトランプの発言や行動の結果、失敗している。(中略)

中間選挙に向けて不安高まる共和党議員
このような状況を好ましくないと考え、党指導部に反旗を翻した共和党中道派の下院議員がいる。(中略)
 
共和党下院議員の中でこのような動きが行われるのは、移民問題をめぐる一連のトランプ大統領の行動の結果、今年の中間選挙で自らの再選可能性が低くなったと考える共和党議員が存在するからである。

トランプ登場以後、共和党は移民に冷淡だという印象が強まっている。だが、移民が一定程度居住する都市部を選挙区とする共和党議員の中には、親戚や友人の国外退去を回避してほしいと望む有権者の支持をつなぎとめておきたいと考える者が多い。今後、中南米系を中心とする、移民を起源とする有権者の人口比率が高くなっていくことを考えると、その思いは強いだろう。(後略)【5月30日 Wedge】
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【「ゼロ・トレランス」(容赦なし)政策で、子どもと親を引き離す対応に
DACA代替法案がまとまらない状況で、トランプ大統領は不法入国する親たちを全員逮捕し、子どもと引き離すことを認める「ゼロ・トレランス」(容赦なし)政策を4日月から実施しています。

****トランプ氏が求める移民法改正、子供を早期送還へ****
ドナルド・トランプ米大統領は米国に不法入国した子どもについて、早期に強制送還・収容しやすくするために移民関連法を改正するよう議会に要求している。難民申請の条件も厳しくしたい意向だ。

トランプ氏は不法移民の流入に歯止めをかけるため、議会は「抜け穴」をふさがなければならないと主張している。ただこうした提案には民主党の多数の議員と共和党の一部から反対の声が上がっている。トランプ氏の看板政策である「国境の壁」建設よりもさらに実施しにくいだろう。(中略)

トランプ政権は5月、不法に越境した親を拘束・訴追できるように子どもを家族から引き離すと発表した。政権関係者らは、法律が見直されればそうした措置を取らずに済むとしている。

オバマ前政権も家族ぐるみの不法入国者の急増に見舞われ、同じような法改正を提案していた。2014年には家族の施設収容を決定した。

ただ、親と一緒であったとしても子どもを約20日以上拘束することは1997年の和解合意に違反すると連邦裁判所が判断したため、この慣行は打ち切られていた。

だがここへ来て、トランプ政権は議会に97年の合意を覆し、家族の拘束を再開させようとしている。そうしなければ、大人を拘束・訴追するために家族をばらばらにする以外の道はないとしている。(後略)【6月1日 WSJ】
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****米に不法入国した親から引き離された子ども、6週間で2000人に****
米当局は15日、米国に不法入国した親や成人の保護者から引き離された未成年者が、5月末までの6週間で約2000人に上ったと発表した。家族の分断をめぐる統計として今年に入ってから最も包括的なデータを発表する中で明らかにした。

米国土安全保障省報道官は電話記者会見で、期間中、不法入国容疑での訴追を前に米国境警備当局が拘束している成人1940人から、子ども1995人が引き離されたと述べた。

米ドナルド・トランプ政権は先月、米国に不法入国する親たちを全員逮捕し、子どもと引き離すことを認める「ゼロ・トレランス」(容赦なし)政策を発表。それ以降、拘束者が急増しているもよう。

テキサス州の小売り大手ウォルマートのスーパーマーケットだった施設には、約1500人の少年が拘束されている。

子どもの拘束に対して激しい抗議が起こる中、同省当局者は、未成年者らは適切な環境を享受していると主張した。

この当局者によれば、取り締まりで拘束された親は収監された状態で越境行為に対する裁定を待っている。この手続きには数週間かかる可能性があり、その後訴追されることもあり得る。(後略)【6月16日 AFP】
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(共和党内には“犯罪を犯した親から子どもが引き離されるのは当たり前だ”との賛成派もいますが)親と子どもと引き離すということで批判も多いこの政策に関し、トランプ大統領は例によって“責任逃れ”の“根拠不明”な発言に終始しています。

“トランプ大統領は、国境で親から子供を引き離す政策は民主党政権が成立させた法律の問題だとツイートした。しかしAP通信が確認したところ、国境で家族を引き離すことを義務付ける法律は実際には存在せず、トランプ政権が導入した新政策だと判明したという。”【6月8日 BBC】

この主張は今も続いています。

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トランプ大統領は、この政策の根拠となる法律は「民主党から引き継がれたもの」だと批判しているが、どの法律を指しているのかは定かではない。

トランプ氏は16日にツイッターに「民主党は、彼らが作った家族を国境で無理やり引き離す政策を、共和党と一緒に新しい法律を作ることで変えられる!だから11月にもっと共和党議員が選ばれる必要がある。民主党が得意なのは高い税金、高い犯罪率、そして妨害だけだ。残念!」と投稿した。

しかし批判する人々は、親子を別々に収容する政策は、5月にジェフ・セッションズ米法務長官が発表したもので、議会での採決なしに止められるものだと指摘している。【6月18日 BBC】
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なお、“家族が引き離されるケースはオバマ前政権でも確認されていたが、人権活動家によるとその数はごくわずかだった”【同上】とも。

DACA代替法案 共和党穏健案に大統領は賛成?反対?】
与党・共和党からは穏健案・強硬案の双方が提出されていますが、大統領の発言は、これも例によって“日替わりメニュー状態”で、その真意はよくわかりません。

****トランプ米大統領、共和党提出の移民関連2法案を両方支持=報道官***
米ホワイトハウスのシャー副報道官は15日、トランプ大統領は与党共和党が提出し、下院で審議されている移民関連2法案をどちらも支持していると表明した。

法案はそれぞれ穏健、強硬な内容となっており、大統領は先に、穏健な案に反対する立場を示していた。

トランプ大統領はこの日のFOXニュースとのインタビューで、2つの法案のうち「より穏健な案に署名することはしない」と言明。「米国の国境警備をとてつもなく強固にする法案が必要だ」と付け加えた。

この発言を受けてライアン下院議長など下院共和党の指導部は、穏健な案に議員らの支持を取り付ける取り組みを停止。

同案は幼少期に親と米国に不法入国した若者の強制送還を猶予する「DACA」制度の受給者「ドリーマー」を保護し、市民権獲得に道を開く内容となっており、もう1つの法案よりも可決の可能性が高いとみられていた。

ただ、シャー副報道官は文書で、トランプ大統領は、ボブ・グッドラット下院議員(共和党)が提出した強硬な案と下院指導部による穏健な案の「両方を完全に支持」していると説明。どちらも署名するだろうとした。

グッドラット議員提出の法案は、ドリーマーに市民権獲得の機会を提供しない内容となっている。

トランプ大統領はこの日、ツイッターに、「いかなる移民法案も(メキシコ国境沿いの)壁への全面的な予算計上、(不法移民を捕らえてもいったん釈放する)キャッチ・アンド・リリース、ビザ抽選、連鎖移民の各制度の廃止、技能ベースの移民制度への移行を盛り込むべきだ」と投稿した。

共和党議員提出の2法案には野党民主党や移民擁護団体が厳格すぎるとして反発している。両案ともメキシコ国境沿いの壁建設費を予算計上し、永住権を得た移民が祖国から親族を呼び寄せる連鎖移民の下でのビザ配給を抑制する内容となっている。

トランプ大統領は昨年9月、オバマ前政権が導入したDACAの撤廃方針を決定したが、今年3月5日までに議会が代替案を法制化することを認める考えも示していた。期限までに代替案は可決されなかった。【6月18日 ロイター】
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メラニア夫人「米国は心ある統治を行う国家でなくてはならない」】
こうした状況にあって、これまで役割を“ファーストドーター”イヴァンカ氏に譲って、表舞台からは身を引いていた“ファーストレディ”メラニア夫人が異例の政治的発言を行い注目されています。

****親子を引き離す米移民政策は中止を、メラニア夫人が異例の政治的発言****
メラニア・トランプ米大統領夫人は17日、米国に不法入国した移民の子どもを国境で親などの保護者から強制的に引き離すことを認める「ゼロ・トレランス(容赦なし)」政策を中止するよう求めた。メラニア夫人が政治的な発言を行うのは異例。

「ゼロ・トレランス」はドナルド・トランプ政権が導入した厳格な国境警備政策で、5月初めにジェフ・セッションズ司法長官が発表した。難民認定を申請中であってもメキシコ側から不法入国した移民は全て国境で逮捕するというもので、未成年者は不法移民の収容施設に送ることができないため、親などの保護者と引き離すことを認めている。
 
過去6週間で2000人近い子どもが保護者と引き離されたと政府が発表したことを受け、政策への批判が過熱。17日が「父の日」ということもあり、共和、民主両党の議員からも非難の声が相次いだ。
 
トランプ大統領自身は、引き離し政策は中止したいと述べつつ、移民をめぐる危機の責任は野党・民主党にあるとの主張を繰り返している。政策を批判する人々は、トランプ氏自身が招いた状況だと指摘している。
 
こうした中、いつもは政治の領域に踏み込むことのないメラニア夫人が、トランプ政権の政策を批判こそしないものの、移民対策の改善案を共和、民主両党で協議するよう求めたことが明らかになった。
 
メラニア夫人の広報責任者ステファニー・グリシャム氏は、米CNNに対し「メラニア夫人は、子どもたちが家族から引き離されるのを見るのをとても嫌がっている。両党がどうにか協力して、移民政策の改善に成功できるよう願っている」と説明。

「米国は全ての法を順守する国であるべきだが、心ある統治を行う国家でなくてはならないと夫人は信じている」と語った。【翻訳編集】AFPBB News
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“心ある統治を行う国家”・・・・夫のトランプ大統領からは一番縁遠いもののように思えますが・・・。

なお、親子引き離しの問題については、ブッシュ元大統領夫人も批判しています。

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ローラ・ブッシュ氏はワシントン・ポストへの寄稿で、「政府はスーパーマーケットを改築した場所に子どもたちを留め置いたり、砂漠のテントに住まわせようとするなんてことに関わってはいけない」と述べた。

さらに、「この光景は、第2次世界大戦中にあった日系米国人の強制収容所に気味が悪いくらい似ている。強制収容所は米国史上最も恥ずべき出来事の一つだ」と指摘した。【6月18日 BBC】

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カンボジア  民主主義に逆行するフン・セン政権正当化のための総選挙を支援する日本政府

2018-06-17 22:13:11 | 東南アジア

(日本政府のカンボジア総選挙支援の中止を求めてデモ行進する在日カンボジア人ら=17日、東京・銀座【6月17日 朝日】)

【「選挙はいんちきで、民主主義の死を示唆するものだ」「日本は独裁者を助けるのをやめて」】
カンボジアで1985年以来、33年間にわたって首相職に就いているフン・セン首相が、7月29日に実施される総選挙に向けて、最大野党を解党させ、その党首・幹部を逮捕、あるいは海外亡命に追い込み、メディア統制を強め・・・・と、なりふり構わぬ形で“不正な選挙”に突き進んでいること、そのカンボジア総選挙を日本政府は表向き“国民の意思を適切に反映した形で実施されることが極めて重要である”とは訴えつつも、実質的には中国ともに資金的に支える姿勢を続けていることなどは、5月9日ブログ“カンボジア 中国の支援のもと、民主化に逆行するフン・セン政権 日本も資金援助・総選挙支持”でも取り上げました。

日本政府の要請に対し、フン・セン政権が何かを改善したという話は聞きません。
日本政府が対応を変えたという話も聞きません。

(まともに選挙が行われれば、最近の選挙結果から見て与党に勝利する可能性も高かった)解党に追い込まれた最大野党は、総選挙のボイコットを訴えています。

****カンボジア総選挙で野党、ボイコットを呼びかけ****
カンボジアで昨年11月に解党に追い込まれた最大野党・救国党の党員が、7月29日に実施される総選挙の投票ボイコットを同国民に呼びかける14日付の英文声明を発表した。

政党としての活動再開を求めていたが、選挙に出る政党登録が14日に締め切られ、参加できないことが確定した。
 
声明は、国民の半数近い支持を得た救国党を選挙に参加させず、国民の権利を奪ったとしてフン・セン政権を批判。「選挙はいんちきで、民主主義の死を示唆するものだ」とし、国際社会に選挙結果を承認しないよう求めた。【5月16日 朝日】
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また、日本政府に対し、選挙支援を中止するように求めています。

****選挙支援打ち切りを”カンボジア総選挙 最大野党が日本に要求****
カンボジアでことし行われる総選挙をめぐって、去年、解党を命じられ、参加を認められなかった最大野党は1日、アメリカ・ニューヨークで集会を開き、日本政府に選挙への支援を打ち切るよう求めました。

カンボジアでは、来月行われる総選挙の政党と立候補者の届け出が締め切られましたが、去年、裁判所に解党を命じられ、幹部の政治活動も禁止された最大野党・救国党の参加は認められませんでした。

救国党の幹部の多くは、アメリカなど海外に逃れていますが1日、ニューヨークで、北米に住む支持者らおよそ100人とともに集会を開き、「カンボジアの民主主義は偽物だ」と書かれた横断幕を掲げ、強権的な姿勢を強めるフン・セン政権を非難しました。

さらに、参加者は「日本は独裁を支えるのをやめろ」とシュプレヒコールをあげ、その後、日本の国連代表部まで行進して選挙への支援の打ち切りを求める嘆願書を提出しました。

カンボジアの総選挙をめぐって、アメリカやEU=ヨーロッパ連合は、選挙支援を打ち切るなど、フン・セン政権に対し、厳しい対応をとっていますが、中国とロシア、韓国、それに日本の4か国は支援を続けています。

去年、国家反逆の疑いで逮捕された救国党の党首の娘で、アメリカに滞在しているケム・サマティダさんは「尊敬する日本には、言論の自由があったかつてのカンボジアに戻すために行動してほしい」と話していました。【6月2日】
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その後もカンボジアへの選挙支援を続ける日本に対するカンボジア人による抗議が、ニューヨークでも日本でも行われています。

****日本は選挙支援やめて カンボジア野党NYでデモ****
カンボジア政府の弾圧により昨年解散させられた最大野党カンボジア救国党の支持者ら数百人が16日、ニューヨークの国連本部近くで、同党を参加させない7月の下院選は不当だと訴え、日本政府に選挙支援をやめるよう求めるデモをした。
 
参加者の多くは米国やカナダ在住のカンボジア人。カンボジア国旗のほか、英語とカンボジア語、日本語で「自由で公正な選挙を」「日本は独裁者を助けるのをやめて」などとフン・セン政権批判が書かれたプラカードや日の丸を掲げた。

参加者らは広場で集会を開いた後、シュプレヒコールを上げながら日本の国連代表部まで行進した。【6月17日 共同】
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****日本政府支援の総選挙にNO カンボジア人が銀座でデモ****
7月末にあるカンボジア総選挙について、最大野党が解党させられるなど不公正だとして、日本在住のカンボジア人約1千人が17日、選挙費用の支援などをやめるよう日本政府に求めて東京・銀座をデモ行進した。参加者は「カンボジアに公正な選挙を」「独裁はいらない」と声を上げた。
 
デモを呼びかけたのは20〜30代の在日カンボジア人ら約100人でつくる「カンボジア救国活動の会」。代表の会社員ハイ・ワンナーさん(31)は「総選挙で与党の圧勝は目に見えている。野党が復活できるよう、最大の支援国だった日本からカンボジア政府に働きかけてほしい」と話す。(中略)

カンボジアでは、フン・セン政権に批判的なメディアが閉鎖に追い込まれるなどしている。最大野党の救国党に対しても、政権転覆計画に関わったとして最高裁が解党命令を出した。

欧州連合(EU)や米国は「選挙の正当性が問われる」として選挙費用の支援を停止したが、日本は投票箱の供与など8億円の支援を決めている。【6月17日 朝日】
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強権支配や人権弾圧のある国に“内政不干渉”で支援を続ける姿勢は中国がしばしば批判されますが、日本もかつてのスリランカやミャンマーなど、中国と似たり寄ったりの“内政不干渉”支援を行っています。

当該国の民主化・人権よりは、中国への対抗、過去・現在の経済関係の方を優先させているようです。

結果的に、中国的価値観「チャイナ・スタンダード」に突き進むフン・セン首相を日本政府も後押ししているようにも見えます。

****世界を席巻する中国的価値観「チャイナ・スタンダード****
■チャイナ・スタンダード(世界を席巻する中国式)
カンボジアのリゾート地シアヌークビルは「第2のマカオ」と呼ばれる。中国資本によるカジノ建設が相次ぎ、その数は年内に40カ所を超える見通しだ。

中国から観光客や不動産投資家が押し寄せる。街の中国語学校は現地の子どもや大人で満員だ。校長は「この街では英語より中国語が重要だ」と言う。

カンボジアでは中国マネーの恩恵で年7%の経済成長が続く。中国の影は国家統治のあり方にも及ぶ。首相のフン・センは7月の総選挙を前に最大野党を解党させた。追いかけるのは、一党支配の中国が示す「民主化なき発展」の道だ。

欧米の影響力に陰りが見えるなか、中国の存在感が増している。中国的なシステムや価値観が生み出す「チャイナスタンダード」が既存の秩序を揺るがしつつある。民主主義や人権といった普遍的価値も例外ではない。

フン・セン政権は昨年10月、「カンボジアのカラー革命」と題したビデオを公表した。カラー革命とは2000年ごろから、旧ソ連・東欧や中東諸国で独裁や腐敗に抗議して政権を倒した民主化運動を指す。

ビデオは、デモ隊が治安部隊とぶつかる映像、野党が躍進した13年のカンボジア総選挙の際の衝突、さらには旧ポル・ポト政権時代の大虐殺を思わせる大量の頭蓋骨(ずがいこつ)を映し出した。野党をのさばらせて「カラー革命」を許せばカンボジアにも悲劇が再来するとの暗示だ。

同じようなビデオは、中国にも存在する。13年、軍幹部を養成する国防大学が制作した。昨年9月、その中国から帰って来たフン・センは「中国とカラー革命の研究所を設立する」と発表。「反カラー革命」は、個人の自由より国家の安定を重んじる中国的な統治に傾く国々を結ぶ合言葉となる様相だ。(後略)【6月2日 朝日】
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豊かで平和なカンボジア社会のために民主的基盤形成を目指す政治運動も存在するが・・・
フン・セン政権の“民主化に逆行する”施策、日本政府の支援状況などについては、前回ブログでも一部引用した“カンボジアの民主主義は死んだのか?”【5月8日 米倉雪子氏 SYNODOS】に詳しく書かれています。

それによれば、カンボジアにも草の根民主主義を実践している野党が存在しているとのことです。

****カンボジアの民主主義は死んだのか****
(中略)
逆境の中でも希望を捨てずに独立系の政党活動を続ける人々
このような状況では、2018年の総選挙は自由で公正な選挙とはいえないという見解が国際社会で強まっているが、逆風の中、農家と市民を母体とし、民主的な政党活動を続ける新しい政党がある。草の根民主党(Grassroots Democratic Party: GDP)である。

GDPは2015年8月2日に、「クメールのためのクメール(Khmer for Khmer:KfK)」という社会ネットワークの仲介により、元NGO代表、10か所の地方の農家グループ・リーダー、教員、労組メンバー、若者などによって創立された。

KfKは民主的で豊かな社会を実現するためには、一般の人々が政治過程に参加し、民主的に運営される政党活動が重要であることを広めていた。(中略)

GDPの主要な構成員は、多様な市民や農家で、二大政党である救国党や人民党が政策論議ではなく党首間の誹謗中傷に終始し、党運営もトップダウンであることに共感できず、GDPのボトム・アップ・アプローチや農業政策、ジェンダー政策など政策に共鳴して支持者となった人たちだ。

GDP党首は、権利・法律の教育などを行うNGO・CLECの元代表のイェング・ヴィラク氏、GDP事務局長はNGO・Life with Dignity(LWD)(元国際NGOルーテル世界連盟(Lutheran World Federation (LWF)))元代表のサム・イン博士である。党首と事務局長はGDP党員の投票によって選出されている。

カンボジア最大規模の農村開発NGO・カンボジア農業開発研修センター(CEDAC)創立者のヤン・セン・コマ博士もCEDAC代表を辞任し、加わっている。

同氏はCEDACによる「幼苗一本植え(SRI)」の普及で、農家20万人がSRIを実践して米の収量が増大し経済効果があったとされ、2012年にアジアのノーベル賞といわれるラモン・マグサイサイ賞を受賞している。(中略)

GDPは、持続的な地域開発と民主的な地域統治のためのコミュニティー・エンパワメントを政策にかかげ、地域で党員が自分たちの真の代表を選び、選挙に立候補して議会に自分たちの代表を議員として出すという、真に民主的な運営をする政党として設立された。

党の核心となる価値観は、団結、正義、非暴力で、ヴィジョンとして、全市民が尊厳を持って生きることができる、完全な市民主権のカンボジア国家を掲げる。

GDPのミッションは、豊かで平和なカンボジア社会のために良いリーダーシップを養成し、民主的基盤をつくることである。

GDPは2017年6月4日の地方選挙/コミューン議会選挙で9県(中略)の27コミューンで立候補者を立てた。その結果、3県3コミューン(中略)のコミューン評議会で5議席を獲得した。

同選挙では各地域の候補者を党員が投票で選出し、各候補の写真と略歴をGDPリーフレットに載せた。候補者がトップダウンで任命され、政党看板には党首と副党首のみを載せる二大政党とは、まったく異なるボトム・アップ・アプローチを実践している。現在、GDP党員は1万名に増え、その約7割が農家という。

2017年11月に救国党が解党され、同党の議席が小政党に分配されたが、GDPは議席を受け取ることを断り、全政党が参加できる自由で公正な総選挙の実施を求めている。

GDPは2018年7月の総選挙で全県、全125議席に候補者を立て、総選挙に出ることをめざしている。(中略)

またGDPではジェンダー政策もあり、第一位と第二位が男性候補となった場合、第三位には女性候補者の中から候補を選出している。

GDPの政策は、持続可能で平和で豊かなコミュニティーの構築をかかげている。各地域がその特産物や特性を活かして経済を活性化できるよう、農業生産を増やすため5000人の農業技術指導員の各地への派遣、低利子の農業ローンを設ける。

教育と保健医療にも力をいれ、1万か所の幼稚園、各県に首都のカンタボパ小児病院と同様の質の高い病院の建設、月500リエルの保険料納付による全国民を対象とする健康保険、などの政策を掲げる。(後略)【5月8日 米倉雪子氏 SYNODOS】
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非常に“立派な”政治運動ですが、立派過ぎてカンボジアの政治・社会の現実のなかで、どこまで国民に受け入れられ、どれほどの影響力を発揮できるのか・・・・という懸念も感じます。

選挙では金品が乱れ飛び、権力の乱用が当たり前のカンボジアの“泥臭い”現実は以下のようにも。

****2013年カンボジア総選挙で見たこと****
(中略)
1.自由・公正・公平な選挙?!
昔カンボジアに来てすぐに知人から、この国は民主主義じゃないからね、といわれて驚いたことがありますが、それを示すような出来事が今回私の周りで次々と起こりました。

選挙キャンペーン初日の朝には、我が家の門に与党のビラが勝手に貼られました。選挙の度にあることとは言えひどいと、私と夫は相談してこのビラを剥がしました。

翌日、同居の義姉が勤める役場の上司から電話があり、何故ビラを剥がしたのか、このままではもう仕事はないぞと脅されました。

クビになるのを恐れた義姉は、その後職場からの総動員がかかるたびに与党の集会やパレードに参加しに行っていました。そこでは出欠がとられるということでした。

後から分かったことですがビラを貼ったのは村長で、剥がされているのを見て上の人に告げ口したようでした。普通の家は怖がってビラを剥がしたりはしませんので、目立ったのだと思います。

この村長は、各戸を回って投票用紙の見本を見せて、与党の欄にチェックを入れさせたり(まるで踏絵のように)、洋服の布を賄賂として渡したりもしていました。

また、トゥクトゥクの運転手さんは、2万リエル(約500円)貰えるので与党の選挙パレードに参加しに行くと言っていました。買収はとくに地方で大々的に布や調味料、現金を配る形で行われています。
 
情報統制も露骨です。テレビや新聞は与党一色。(後略)【眞野ちひろ氏】
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「草の根民主党(GDP)」に対しても政権側の様々の嫌がらせはあるようですが、政治活動が許されているということは、政権が“脅威”としては感じていない、存在させておくことが国際的に「野党の活動も認めている」との弁解に役立つと判断されているからでしょう。

日本は何のためにPKOに参加し、復興を支援してきたのか?】
上記GDPに比べたら、解党された最大野党・カンボジア救国党は与党と体質的には似たり寄ったりの面もあるでしょうし、カンボジア内戦時も海外にいて、その後も亡命を繰り返す指導者サム・ランシー氏については、一般国民との距離や政治家としての覚悟のほどにやや疑念も感じます。

そうであるにしても、政権獲得の可能性もあった最大野党・カンボジア救国党が解党に追い込まれた時点で、総選挙は意味のない、フン・セン支配を正当化するだけのものになったと言えます。

****打開にむけた日本の役割****
(中略)
日本政府はカンボジア和平プロセスに貢献し、パリ和平協定締結後、国際連合カンボジア暫定機構(UNTAC)には平和維持活動(PKO)要員として、第二次世界大戦後初めてとなる自衛隊派遣を行った。

UNTACでは2名の日本人(国連ボランティア故中田厚仁氏、文民警官故高田晴行氏)が命を落としている。

また日本からカンボジアへの政府開発援助(ODA)は、法整備、選挙支援など2014年度までに累計1000億円、その他含め、累計3500億円、投じてきた。

しかし、現在、その民主化プロセスに逆行する政策がとられ、「援助効果」が問われている。独裁政治か、自由民主主義か、カンボジアは非常に重要な岐路に立たされている。

世界が注視する中、パリ和平協定で署名国が公約した「人権侵害の再発防止」に積極的に取り組むことが、日本が今、果たすべき役割であり、アジアの真の平和と安全に貢献することにつながるのではないだろうか。【5月8日 米倉雪子氏 SYNODOS】
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イエメン 重要港湾ホデイダ奪還作戦 人道危機深刻化の懸念も UAE・サウジの思惑は?

2018-06-16 22:49:42 | 中東情勢

(赤印がホデイダ)

暫定政府軍、重要港湾ホデイダ奪還作戦を開始 膠着したイエメン内戦の転換期の可能性も
中東アラビア半島の先っぽ、中東最貧国イエメンでの内戦は、暫定政府を支援するサウジアラビアと反政府勢力フーシ派を支援するイランの代理戦争の構図となっています。

そして2015年3月にサウジアラビア主導の連合軍がフーシ派掃討作戦に介入して以来、これまでに1万人近くが死亡。さらにコレラ感染で約2200人が死亡しているうえ、数百万人が飢餓状態にあるというように、内戦・コレラ・飢餓の三重苦による人道危機が進行しています。

内戦の戦況の方は、サウジアラビアの大規模な(そして、民間人犠牲も多数発生しているということで国際的には評判が悪い)空爆支援にも関わらず膠着状態が続いており、5月にはサウジアラビアの空爆に対抗する形でフーシ派がサウジアラビア領内にミサイルを連日のように撃ち込んでいました。

ここにきて、フーシ派が支配する西部の重要港湾ホデイダの暫定政府軍による奪還作戦が本格化しており、イエメン内戦の転換期となる可能性も指摘されています。

****イエメン主要港周辺で戦闘激化、政権軍が進撃****
サウジアラビア主導のアラブ連合軍の支援を受けたイエメン暫定政権軍は14日、主要港湾都市ホデイダに向けて進撃し、現地を支配する反政府武装組織「フーシ」の抵抗を受けて戦闘が激化した。国連は戦闘の停止と対話の再開を訴えている。
 
今回の連合軍の作戦を主導するアラブ首長国連邦(UAE)は、米国に無人偵察機や掃海艇による支援を求めたが拒否された。米国とUAEの当局者が14日明らかにした。
 
イランが後ろ盾となっているフーシがホデイダ港の海中に仕掛けた機雷を除去するため、UAEはフランスに緊急の軍事支援を要請。フランスは掃海艇を現地に送ることに同意したという。米国の在フランス大使館は14日、この情報は確認できていないと述べた。
 
連合軍がホデイダ港を支配下に置けば、3年にわたる内戦の転換点になるかもしれない。米国が後ろ盾となっているアラブ連合軍は、アブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領の復権を支援している。
 
イエメンの主要港であるホデイダは、海外から送られる支援物資や食料の大半を受け入れている。ホデイダ奪還作戦は、フーシの経済的・軍事的な生命線を奪って膠着(こうちゃく)状態を脱し、政治的な解決に向けてフーシに圧力をかける狙いがある。
 
UAEのアンワル・ガルガーシュ外務担当国務相は14日、「彼ら(フーシ)がホデイダとその収益、その戦略的な立地を保持し続ければ、戦闘が長引き、イエメン国民の苦しみは続く」とし、「膠着状態は終わらせなければならない」と述べた。【6月15日 WSJ】
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戦闘は、暫定政府軍が郊外の空港を制圧して有利な情勢にあるようですが、今後の市街戦ではフーシ派の激しい抵抗も予想されています。

支援物資搬入拠点での戦闘は人道危機深刻化の懸念
このホデイダ奪還作戦については、ふたつほど留意すべき点があります。
ひとつは、この軍事行動が人道危機をさらに深刻化させる懸念があること、もうひとつはサウジアラビアではなくアラブ首長国連邦(UAE)が前面に出ていることです。

ひとつ目の人道危機深刻化の懸念については、紅海沿岸のホデイダはイエメン向け支援物資の約7割が荷揚げされる港湾であることから、5月29日、国連事務総長報道官が、国連としてはホデイダを巡る情勢に重大な懸念を有しているとして、ホデイダ攻防戦は多数の新たな避難民を生み出すだろうと警告しています。【5月30日 「中東の窓」より】

また、前出【WSJ】にもあるように、国連は戦闘の停止と対話の再開を訴えています。

****<イエメン内戦>要衝港の奪還作戦開始 飢餓深刻化も****
イエメン内戦に軍事介入しているサウジアラビア主導のアラブ諸国連合軍は13日、親イランのイスラム教シーア派系反政府組織「フーシ」が支配する西部の港町ホデイダの奪還作戦を開始した。

約800万人が飢餓状態にある「世界最悪の人道危機」(国連)が続く中、食糧・支援物資の搬入拠点でもあるホデイダで戦闘が激化した場合、危機がさらに深刻化する恐れもある。
 
中東の衛星テレビ局アルアラビーヤなどによると、空爆のほか地上軍の進軍も始まった模様だ。サウジが支援するスンニ派のハディ暫定政権は「フーシをホデイダから平和的に撤退させる全ての手段は尽くした」と主張。交渉決裂はフーシに責任があるとして、軍事攻撃を正当化した。(中略)

内戦では民間人を含む1万人以上が死亡。病院や水道施設も破壊され、人口2800万人のうち800万人が飢餓状態にある。昨年はコレラも流行した。【6月14日 毎日】
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暫定政府軍がホデイダを制圧した場合、イランからのフーシ派への武器支援も抑えられるのでしょうが、内陸部の首都サヌアなどフーシ派支配領域への国際的支援物資はどうなるのでしょうか?

****イエメン政権部隊、主要港奪還へ攻撃開始 人道支援への影響に懸念****
(中略)マーチン・グリフィスイエメン担当国連特使は、支援物資の配布に引き続き同港を利用できるよう、関係各方と交渉を継続していると表明した。
 
一方、連合軍の柱となっているアラブ首長国連邦は、今回の攻撃で必要不可欠な支援物資の供給が途絶えることはないとしている。
 
連合軍は、フーシ派は弾道ミサイルをはじめとする武器をイランから調達するためホデイダ港を利用していると非難。同派はサウジアラビア領内へのミサイル発射を増やしてきた。【6月14日 AFP】
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上記記事にあるようにUAEは問題ないとしているようですが、支援物資がスムーズに流されるとは思えませんので、今でも深刻な飢餓は、さらに破滅的なレベルに達することが懸念されます。

アメリカも国連の懸念に同調
興味深いのは、国連が人道支援の停滞を危惧しているのは当然ですが、アメリカも国連に同調して、ホデイダ奪還作戦に否定的なところです。

****ホデイダに関する米国のUAEに対する警告****
ホデイダに関しては、先日国連が同市の攻防戦は人道的危機を招く危険がると、警告したことは報告済みですが、al qods al arabi net は米国がUAEに対して警告したと報じています。(中略)

記事によると、米国家安全保障筋は、米国は国連のホデイダに関する懸念を共有していて、サウディ及びUAEが同港を攻撃することに反対であると語った由。

同筋は更に、米国としてはホデイダに対する攻撃が、同港のインフラを破壊して、家目の人道危機を更に深刻化させることに反対であるとして、総ての当事者が戦争法規(人道法)を守ることを要求するとしている由。(後略)【6月6日 「中東の窓」】
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中東において後先考えずにイスラエル・サウジアラビアを支援して混乱を拡大しているようにも見えるトランプ大統領にしては、随分慎重姿勢にも思えます。

そもそも「忘れられた戦争」とも言われるようなイエメン内戦などには関心もなく、意思決定に関与していないのか?

トランプ政権がイエメンの人道危機を憂慮しているとも思えません。アメリカの思惑・懸念については、以下のようにも。

なお、記事表題は“軍事的役割の拡大を検討”となっていますが、検討の結果、現在のところはアメリカはUAEへの無人偵察機や掃海艇による支援を拒否しています。

****米国、イエメン内戦への軍事的役割の拡大を検討****
(中略)UAEとサウジの当局者らは、米政府の支援を受けるまで、フダイダ港の奪還に乗り出さないことを約束しているという。

だがトランプ政権内では、同港を巡る戦闘が手に負えない状況に陥り、米国が行動を取らざるを得なくなることへの懸念が高まっている。
 
ある米高官は「われわれはフダイダに対する軍事行動に多くの懸念を抱いている。連合軍が攻撃を仕掛け、それを完璧にこなして大惨事を回避できたとしても、100%安心することはできない」と述べた。【6月4日 WSJ】
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“やるならアメリカを巻き込まずに、自分たちで勝手にやれ”ということでしょうか。結果、サウジ・UAEはアメリカの支援なしで軍事行動を開始しています。

ホデイダ奪還を主導するUAE サウジ・UAEによるイエメン分割?】

(ホデイダ郊外に展開するイエメン暫定政権軍の兵士ら(13日)【6月15日 WSJ】 “政権軍”というより民兵のようにしか見えませんが・・・・)

ふたつ目の留意点である今回作戦におけるUAEの存在ですが、地上軍の訓練・指揮を行てきたUAEが主導的役割を担っているようです。

****ホデイダ情勢(UAEの野望?) イエメン****
(中略)al qods al arabi net はUAEはイエメンの主要港を支配するとの野望を実現するために、ホデイダ攻撃には前大統領サーレハの甥を利用しているとして、この野望が実現することを危惧する声が上がっていると報じています。

確かにUAEはアラブの春で、サーレハが失脚して以来、彼の長男を大使として受け入れたり、サーレハ一族をかくまってきており、その背後には何らかの政治的思惑があるのだろうと思っていましたが、こういう形で利用されているのですかね?

どこまで信用できる記事かは不明ですが、取りあえず記事の要点のみ

「ホデイダの攻防戦が続くに従って、消息筋の間では、UAEが、ホデイダをサーレハの甥のtareq muhammad abdallah saleh准将に引き渡すのではないかとの懸念が高まっている。

デイダ攻撃は突然の動きであったが、消息筋はUAEが、ホデイダの解放後、自分が育成してきたサーレハの甥に引き渡し、イエメンの主要港を支配下に置くとの野望を実現するのでは、との危惧を表明している。

この男はサーレハ前大統領の甥で、現在大統領警備隊の司令官であるが、UAEは、hothyグループによるサーレハ前大統領殺害後、彼がサナアを脱出してきたところに、多額の資金と近代兵器を与えて、元エリート部隊の共和国警備隊やその他の旧軍の兵士集めての部隊づくりを支援してきた。

彼は過去数か月で数個大隊の兵を訓練したが、これらは政府軍には属しておらず、UAEの支配下にある由。

最近の急激なホデイダ攻防戦の進展では、これらの部隊は戦闘に参加しておらず、政府軍の奪還後、、その治安維持(要するに支配)にあたるものと見られている」http://www.alquds.co.uk/?p=945002

これまでアラブ連合の主要参加国のうちサウディとUAEの思惑については、種々の推測があったところ、どうやら彼らはイエメンの分割(と言っても直接の領土的支配ではなく、2つの影響圏への分割)を狙っているんではないかとの見方が再起入力で、その場合当然UAEはアデン中心の南イエメンがその支配権と見られていました。

ホデイダは、サナアの外港であるだけに、どちらかと言うと北イエメンで、すなわちサウディの勢力圏に入るのかと思われてきましたが、ここをもUAEがその支配地域に置くとなると、先日のスコトラ島の場合のように、サウディとUAEの対立を招く可能性もあり、いずれにしても要注意ですね。【5月31日 「中東の窓」】
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ホデイダをサウジ・UAEのどちらが支配するかはともかく、サウジアラビアとUAEが“イエメンの分割(と言っても直接の領土的支配ではなく、2つの影響圏への分割)を狙っている”という話になると、現在神輿として担がれているハディ暫定大統領はどうなるのか?・・・という疑問も。

そのハディ暫定大統領がサウジから急遽イエメン・アデンに帰還したそうです。

****hadi大統領のアデン帰還****
al arabiya net とal jazeera net は、hadi大統領が14日夕イエメンの臨時首都のアデン(首都サナアは反乱軍hothyグルプの支配下にある)に帰還したと報じています。

彼のアデン帰還は1年4月ぶりのことだとのことですが、ちょうどラマダン休暇とホデイダ攻略戦の開始のタイミングでの帰還で、al arabiya net (サウディ系)は、hadiがサウディ等の支援でホデイダの奪還は目前だが、ホデイダ奪還はイエメン内戦の転換点になると声明したと報じています。

この程度の話ならニュース価値もない(実はこの話は昨夜報じられていた)が、al jazeera net は、タイミングを合わせたかのようにサウディのhadi 引き下ろし計画が暴露されたと報じています。

それによるとintelligence on lineとかいうネットが、サウディがhadi の前大統領サーレハの息子ahamad と差し替える陰謀を計画していて、湾岸の情報筋によれば、アハマドは近くサウディを訪問して、皇太子と会談する予定であると報じていると伝えています。(中略)

そもそもサウディがhadi の差し替えを計画しているのであれば、なぜ今頃になって彼のアデンへの帰還を認めたのか?の疑問があるし、アデンは確か今でもUAEの実質的な支配下にあるはずなので、そんなところに帰って、、hadiが何をしようとしているのか、どうも不思議な話が続きます。

確か先にUAEはサーレハの系列でも,むしろその甥を担ごうとしていたとの噂があったところで、とにかく眉唾の話が続きます。【6月15日 「中東の窓」】
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サウジアラビアの“hadi の前大統領サーレハの息子ahamad と差し替える陰謀”云々は上記記事にもあるように“眉唾”の話ではありますが、ハディ暫定大統領はサウジアラビアで軟禁状態にあったとも報じられています。

アメリカ・トランプ政権はイランの勢力拡大を問題視していますが、レバノンのハリリ首相の軟禁疑惑といい、カタール断交といい、サウジアラビアのこの地域における傍若無人なふるまいも目に余ります。

イエメン統治の難しさ 容易には収まりそうにない混乱
今後サウジ・UAEはフーシ派勢力の一掃に軍事的に成功して、“イエメンの分割(と言っても直接の領土的支配ではなく、2つの影響圏への分割)を狙っている”という野望を実現したとしても、イエメンの混乱は収まらないようにも思えます。

サウジアラビアが勢力圏としたい自国につながる北部はフーシ派の地盤であり、抵抗は続くでしょう。
UAEが狙う南部でも、すでにUAEに対する不満も出ています。

“al qods al arabi net の2つの記事は、アデンで我が物顔に行動する、UAEの支援する民兵が、アデン奪還に活躍した活動家を逮捕したことに抗議して(逮捕の理由は壁に「打倒 UAE」と書いたとか)、民衆がUAEの旗とアブダビ皇太子の肖像を引きずり下ろし、それを公道に放置し、車や通行人に踏ませたと報じています。”【5月28日 「中東の窓」】

まだホデイダの帰趨も定かではない状況ですが、仮にホデイダを暫定政府軍が奪還し、さらに将来、内戦全体を勝利する形で終わらせたとしても、イエメンの混乱は続くのでは・・・・という“先の先”の話にも。

「アラブの春」で失脚し、それまで共闘していたフーシ派によって昨年末に殺害されたサレハ前大統領はかつて、イエメンを統治することの難しさを「蛇の頭の上でダンスを踊ることに等しい」と表現していました。(それが出来るのは自分だけだ・・・とも)

北部のフーシ派、南部の分離独立派、アルカイダ系過激派を抱えて、サウジ・UAE・イラン等の関係国との関係を慎重に維持していくことの難しさです。

誰が、あるいはどの勢力が、“蛇の頭の上でダンスを踊る”ことが出来るのか?
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ロシア  ワールドカップ開幕で「W杯外交」展開の一方で、国民に不人気な年金・経済改革もこっそりと

2018-06-15 22:50:09 | ロシア

(13日、サッカーW杯ロシア大会開幕に先立ち、モスクワの赤の広場でコンサートを鑑賞する、前列左からインファンティノFIFA会長、プーチン・ロシア大統領、パナマのバレラ大統領、北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長【6月14日 産経】)

【「W杯外交」で存在感をアピールするプーチン大統領 トランプ発言で足並みが乱れる欧米
サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会が14日開幕しましたが、クリミア併合以降、欧米との対立が深まっているロシア・プーチン政権にとっては、その存在感を誇示する絶好の機会ともなります。

****<ロシア>「W杯外交」プーチン氏、積極的に****
サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会が14日開幕したことに合わせ、中国や北朝鮮などロシアの友好国や旧ソ連諸国の首脳がモスクワを訪れ、「W杯外交」が展開された。

ロシアは欧米諸国との関係悪化が続くことから、サッカー界の最大のイベントを利用し、非西側陣営の集結を演出した格好だ。
 
ロシア大統領府によると、開会セレモニーに出席したり、開幕試合を観戦したりした外国首脳らは16カ国に及んだ。内訳は▽サウジアラビアのムハンマド皇太子▽北朝鮮の国家元首に当たる金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任委員長▽中国の孫春蘭副首相▽旧ソ連8カ国の首脳▽中南米3カ国の首脳−−など。
 
プーチン露大統領は14日、開会セレモニーに先立ち、ムハンマド皇太子や金氏らと相次いで会談した。ムハンマド皇太子とは原油生産の協調や中東情勢について意見を交わした。

金氏との会談でプーチン氏は、12日の米朝首脳会談が成功したとの認識を示し祝意を伝え、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の訪露を改めて求めた。旧ソ連諸国の首脳とも立て続けに会談し、地域の盟主であることをアピールした。
 
西側諸国の現職首脳は出席しなかったものの、開幕試合の観戦者一覧にはフランスのサルコジ元大統領が記載されていた。同国からはマクロン大統領が大会期間中の訪露と観戦に意欲を示しており、西側陣営でロシアへの対応が一致しない側面もうかがえる。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領も21〜23日に訪露しプーチン氏との首脳会談に臨むほか、観戦も予定している。

 ◇W杯開会セレモニーや開幕試合に首脳らを派遣した国
サウジアラビア、北朝鮮、中国、アゼルバイジャン、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、モルドバ、タジキスタン、ウズベキスタン、ボリビア、レバノン、パナマ、パラグアイ、ルワンダ【6月15日 毎日】
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一方、欧米諸国は開幕戦に政府要人を送らない形で、ロシアへの強い姿勢をアピールしていますが、先のG7でのトランプ大統領による“ドタバタ”で明らかになったように、その結束は乱れがちです。

ロシア疑惑があるだけにロシアへの厳しい対応を余儀なくされているトランプ大統領ですが、ロシア・プーチン大統領への宥和的な心情は今も変わらないようです。

****トランプ氏、ロシア再加入提案=欧州は反対―G7サミット****
トランプ米大統領は8日、カナダ東部シャルルボワでの先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)開幕を前に、ロシアを再びサミットの枠組みに加えるべきだと提案した。

ただ、ロシアは2014年のウクライナ東部クリミア半島編入を機に参加停止となっており、欧州諸国は一斉に反発。当のロシアも「G8」復帰への意欲を示していない。

トランプ氏はカナダに向かう前、記者団に「ロシアを入れるべきだ。なぜロシアなしの会合をやるのか」と述べた。かねて対ロ関係改善に意欲的なトランプ氏だが、復帰すべき具体的理由は説明していない。

これに対し、貿易問題などで米国と対立するG7の欧州各国は一斉に反対した。AFP通信によると、ドイツのメルケル首相はウクライナ問題の「実質的進展」なしに、ロシア復帰を認めないことを英仏伊各国と確認したと強調。カナダのフリーランド外相も「現在の振る舞いのままで復帰する余地はない」と述べた。【6月9日 時事】
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トランプ氏は、「知ってのとおり、好きか嫌いかに関わらず、また政治的に正しくないかもしれないが、我々は世界を動かしていかなければならない。G7はかつてG8だったが、彼らはロシアを追放した。彼らはロシアを復帰させるべきだ」と述べた。

トランプ氏の発言に対しては当初、最近就任したイタリアのジュゼッペ・コンテ首相が、「皆の利益になる」とツイートし、ロシアの再加入を支持した。【6月9日 BBC】
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唐突なトランプ大統領のこの主張は、貿易問題での対米批判に染まる会議をかく乱するための戦略とも見られています。

“これはトランプ氏の意図的な戦術だと考えられる。貿易と保護主義をめぐる米国以外のG7各国との言葉による戦争から注意をそらす戦術だ。”【同上】

なお、トランプ大統領の“誘い”に対し、ロシアのペスコフ大統領報道官は、「ロシアは別の枠組みに注目している。ロシアが参加しているG20のような枠組みの方が重要性を増している」と冷ややかなコメントを出していますが、一方で、プーチン大統領は10日、アメリカ側の準備が整い次第、いつでも・トランプ大統領との会談に臨む用意があると述べ、米ロ首脳会談の候補地としてオーストリアのウィーンを挙げています。【6月10日 AFPより】

クリミア併合を正当化するトランプ大統領
ただ、このG7において、トランプ大統領はクリミア併合を容認する趣旨の発言もしていると報じられています。

****トランプ氏がロシアのクリミア併合を正当化? G7で発言と米報道 ホワイトハウスはコメントせず****
米ニュースサイト「バズフィード」は14日、トランプ大統領がカナダで今月開かれた先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)で、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合を正当化する発言をしたと伝えた。複数の外交筋の話としている。
 
トランプ氏は8日の夕食会で、クリミアでは主にロシア語が使われていることを理由にロシアに属するとの認識を示したとされる。また、「ウクライナは世界中で最も腐敗した国の一つだ」と、他の首脳のウクライナへの支持を疑問視するような発言をしたという。
 
これに対し、ホワイトハウスのサンダース大統領報道官は14日の記者会見で、報じられたトランプ氏の発言を承知していないとし、「私的な会話にコメントしない」と述べた。
 
サミットでトランプ氏はロシアのサミット復帰によるG8の枠組み再開を主張した。同国のプーチン政権も、ロシア人やロシア語話者に対する権利侵害をクリミア併合やウクライナ東部への介入を正当化する論理として使ってきた。【6月15日 産経】
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現在の欧米世界の対ロシア対応を根底からひっくり返す発言です。

個人的には、これまでも何度か当ブログで書いてきましたが、トランプ大統領も言うように、クリミアはもともとロシアと一体化した地域であり、力で奪い取る手法を正当化する訳ではありませんが、ロシアへの対応にあたっては一定にそのことは考慮すべき要素だと思います。
 
また、ウクライナ政府が腐敗・汚職まみれであることも事実です。

ただ、欧米世界が一致して対ロシア制裁を実施している現状にあって、欧米世界をリードする立場にある米大統領がそれを口にする以上は、(ウクライナ以外の多方面の問題も含めた)対ロシア総合戦略を前提にすることが必要であり、そこらのネットユーザー的な感覚で、あるいは会議の“かく乱”狙いで、軽々に発言されても困ります。

ツイッターでG7首脳宣言をアメリカとして承認しないよう、事務方に指示したという“ちゃぶ台返し”【6月10日 読売】といい、同盟国・カナダ首相を不誠実だと切り捨てた直後に、核問題だけでなく、人権問題で価値観の異なる北朝鮮・金正恩委員長をほめちぎるなど、トランプ大統領の言動にはうんざりするものがあります。

トランプ大統領の“プレゼント”は苦境にあるロシア経済を救うか?】
話をロシアに戻すと、トランプ大統領のロシア・プーチン大統領への宥和姿勢にもかかわらず、アメリカは対ロシア制裁を強化しています。

ひと頃のマイナス成長から回復はしたものの、まだ足元が弱いロシア経済にとって、4月6日にアメリカ財務省が発表した一連の制裁がかなり効果をあげている(ロシアにとってはダメージが大きい)ということは、5月18日ブログ“ロシア 続く国際的孤立 “勝利”したシリアではイラン・イスラエルの対立激化”でも取り上げました。

更に、追加の制裁も。

****米、ロシアに追加制裁 サイバー攻撃、関係悪化も****
トランプ米政権は11日、米国へのサイバー攻撃などを理由に、ロシアのサイバー関連企業など5企業と3個人に制裁を科すと発表した。米国はロシア制裁を立て続けに実施しており、両国関係の一層の悪化が懸念される。
 
米財務省によると、制裁対象企業は情報機関のロシア連邦保安局(FSB)と関連があるとみられる。制裁対象者は米企業との取引が禁じられ、米国内の資産が凍結される。今回の制裁対象にはリビア人らも含まれている。【6月12日 共同】
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欧米諸国の経済制裁で苦しい状況にあるロシア経済を救うことになるかも・・・と思われたのが、やはりトランプ大統領の“イラン核合意離脱”という、ロシアへの大きな“プレゼント”でした。

イラン制裁再開によってイラン産原油が市場から排除されれば原油価格が高騰し、資源依存型のロシア経済・財政にとってはまたとないチャンスとなります。

****イラン合意からの米離脱をプーチンが喜ぶ訳****
<対イラン制裁強化による石油の供給減と価格急騰のおかげで財政は回復へ――ただし行き過ぎは石油離れの原因になる>

ドナルド・トランプ米大統領は5月上旬にイラン核合意離脱を宣言し、「イランにかつてない最強の制裁を科す」と誓った。最大の標的の1つは活況に沸くイランの油田。ヨーロッパとアジアに日量400万バレルの原油を供給する経済の原動力だ。

イランや諸外国がひるむなか、アメリカの方針転換に唯一喜んだ国がある。ロシアだ。

その理由は需要と供給。新たな制裁が今秋全面実施されれば、日量100万バレルのイラン産石油が世界市場から消える見込みだ。その結果、原油価格が急騰して一番得をするのはロシアだろう。ロシアは世界最大のエネルギー輸出国だが、過去4年間、原油価格の下落によって経済が深刻な打撃を受け、財政赤字や緊縮計画につながってきた。

だがそれもトランプのおかげで風向きが変わるかもしれない。「トランプの思いがけない贈り物に感謝しなくては」とモスクワの石油アナリスト、アレクセイ・ガブリロフは言う。「イランの損はロシアの得になる」

石油の需要回復はロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとって政治生命の新たな命綱だ。

5月7日、プーチンは通算4期目の就任宣誓で、ロシアが「独自の開発計画を策定し、障害や環境に邪魔されずに自分たちの未来を自分たちだけで決められるようにする」と誓った。だがその裏では長引く不況を乗り切るため、財政赤字に備えた安定化基金1250億ドルを使い果たそうとしていた。

14年、ロシアによるクリミア併合とウクライナ分離独立派への支援に対してアメリカが初の制裁を科して以来、通貨ルーブルの価値は半分近く下落。インフレ率は2桁に達し、ロシアの多くの大物実業家が国際金融システムから締め出された。

国際的な石油価格の下落も財政危機の一因となった。石油と天然ガスはロシアの輸出の約50%を占める。損失を補塡し、軍事支出と社会支出を維持するべく、プーチンは原油価格下落に備えて蓄えていた安定化基金を利用した。

だが今年1月、ロシア財務省は安定化基金が約170億ドルに減少し、枯渇しかけていると発表。政府は年金受給開始年齢を現在の女性55歳、男性60歳から、男女とも65歳に引き上げる不評な年金制度改革まで計画した。(後略)【6月19日号 Newsweek日本語版】
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ただ、原油価格の動向はそれほど単純でもなさそうです。

アメリカのイラン核合意離脱・制裁再開と産油国ベネズエラの混乱で供給が減少すると見込まれ、5月には原油価格が高騰(WTI原油先物で1バレル=72ドル付近)しましたが、5月末頃からロシア・サウジアラビアの供給が増えるとの予測から急落し、現在はWTI原油先物で1バレル=66ドル付近で推移しています。

また、今後原油価格が高くなると、アメリカ産のシェールオイルが増産され価格上昇を抑えます。
更には、消費国の石油離れも一層進みます。

そうした供給・需要双方の要因がありますので、トランプ大統領の“プレゼント”がロシア経済を救えるかどうかは簡単ではなさそうです。

そんなこともあってか、ロシアでは上記【Newsweek】記事でも触れられている、年金制度改革などが進められています。

それも、国民に不人気な政策とあって、ワールドカップ(W杯)ロシア大会開幕に国民の目が向いている間に・・・という“せこい”方法で。

****ロシア、W杯開幕日に増税発表 政府に不満噴出****
サッカーのワールドカップ(W杯)が開幕した14日、開催国ロシアの政府は付加価値税を現行の18%から20%に増やし、年金受給年齢を引き上げると発表した。

国民の注意がそれる機会をわざと選び、痛みを伴う財政改革案を発表したとの不満が国内で噴出している。
 
大衆紙モスコフスキー・コムソモーレツの電子版は、政府が公約に反して社会全体で議論せず「重大な決定をするのに最もふさわしくないタイミング」を選んで発表したと非難した。国民が熱狂する大会が終わるころには「不人気な法案は既に下院で承認されているだろう」と皮肉った。【6月15日 共同】
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それなりの良識を示したロシア大統領府
ワールドカップ(W杯)ロシア大会関連のロシアの話題をもう一つ。

****ロ議員「W杯ファンとの性交渉自粛を」発言、大統領報道官が反論****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の報道官は14日、同国の議員が自国の女性たちに対し、サッカーW杯ロシア大会の試合観戦のために同国を訪れるファンと性交渉を持つべきではないと発言したことについて、女性が自ら決めることだとして反論した。
 
家族や女性、子どもに関する下院委員会の委員長を務めるタマラ・プレトニョーワ共産党議員は13日に地元ラジオで、W杯に伴うファンとの情事は、ロシア人女性たちが「別人種」の子を育てることにつながりかねないと主張した。
 
これについてドミトリー・ペスコフ大統領報道官は記者会見で、「政府の権限が及ぶ範囲外」の問題だとした上で、国際サッカー連盟がW杯ファンの身分証明書に「人種差別にNOと言おう」というスローガンを記載していることに言及し、「ロシア人女性たちは恐らく自己管理できる。彼女たちは世界一の女性たちなのだから」と述べた。【6月15日 AFP】
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この点では、ロシア大統領府は一部議員よりは“良識”があるようです。
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オーストラリア  政界工作への中国警戒論と最大貿易相手国・中国の反発 人種差別的行為も表面化

2018-06-14 22:28:35 | 中国

(写真は昨年8月のASEAN会議で握手する王毅中国外相(右)とビショップ豪外相(左)【5月23日 ロイター】
今年5月の両者の会談で、王毅国務委員兼外相は、冷え込んだ両国の関係を正常化するにはオーストラリア側が「色眼鏡」を外す必要があると指摘)

中国との関係修復に苦心するターンブル首相
日本などアジアの多くの国々同様、オーストラリアにとっても中国は最大の貿易相手国であり、また、中国人観光客による経済的恩恵を大きく受けている国です。

また、人口2400万人ほどのオーストラリアには中国系住民が100万人以上(120万人とも)暮らしています。

したがって、当然に中国との良好な関係は重要課題になりますが、中国の影響力が強まるにつれてオーストラリア国内に反発や脅威論が強まる傾向もあって、ターンブル政権はそのバランスに苦慮しています。

****豪首相、対中改善で板挟み 国内に中国脅威論、中国からは農産物輸入で「嫌がらせ****
オーストラリアのターンブル首相が、中国との関係修復に苦心している。

ビジネス界出身で当初は「親中派」とみられたが、中国による内政干渉疑惑が世論の反発を呼び、対中強硬路線に軌道修正。

これに反発した中国側が、豪州産農産物輸入で「嫌がらせ」をするなどの圧力をかけ、豪経済界からは関係改善を求める声があがる。国内で板挟み状態のターンブル氏を見透かした中国は、揺さぶりを強めている。
 
オーストラリア連邦議会で22日、情報・安全保障合同委員会のハスティー委員長が、中国出身の大富豪、チャウ・チャック・ウィン(中国名・周沢栄)氏を告発した。
 
元国連総会議長と中国の不動産開発業者らの贈収賄事件に絡み、米連邦捜査局(FBI)がチャウ氏を捜査対象にしており、2007年ごろから「中国共産党や同党中央統一戦線部とつながっている」と指摘。豪メディアは昨年から、中国が同氏を通じ内政干渉してきた疑惑を報道している。
 
チャウ氏は中国広東省出身で、1980年代に渡豪し、豪州国籍を取得。中国への不動産投資などで巨額の富を得て、2004年以降、主要政党へ400万豪ドル(約3億3千万円)以上、大学など研究機関にも4500万豪ドルを寄付してきた。
 
ターンブル氏は25日、報道陣に「オーストラリアの民主主義と主権を守る」と述べ、政治献金規制など外国からの内政干渉を防ぐために昨年、提出した法案の意義を強調。名指しを避けながら、中国を牽制した。
 
一方、中国の王毅外相は21日、訪問先のアルゼンチンで豪州のビショップ外相と会談し、「(豪州は)色眼鏡を外すべきだ」と批判。中国を狙い撃ちした報道や法整備に反発した。
 
両国関係の悪化はとくに貿易面で顕著で、豪州産ワインの対中輸出で通関手続きに遅れが生じる事態などが発生。ターンブル氏は担当閣僚を訪中させ、最大の貿易相手国、中国の「理解」を求めるのに躍起だ。
 
ターンブル氏自身も、関係修復に向け年内の訪中を表明。だが、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は23日、豪州が巨額の対中貿易黒字を享受してきたと指摘。その上で、豪州に「傲慢の代償を支払わせる」とし、同氏の訪中は2年以上据え置き、両国関係を「冷却」すべきだと、脅しをかけた。【5月27日 産経】
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特に問題視されているのが、“内政干渉”ともとれる、チャイナマネーのオーストラリア政界への影響です。

****チャイナスタンダード)親中政界工作、豪・NZに矛先 与野党に巨額献金、意見誘導****
軍事的に威圧するでも、強硬な外交姿勢をとるでもなく、じわりじわりと外国の政治家に「親中基準」を吹き込んでいく。中国による政界工作の矛先が、民主政治が定着した先進国に向かっている。

 ■有力政治家と交流の団体、「中国共産党が関係」の指摘
ボートが停泊する入り江を望む高台に、ひときわ目を引く豪邸が立つ。高級住宅街、シドニー北部モスマン。所有者は黄向墨氏という。中国広東省出身、豪州でショッピングセンターなどを手がける開発会社の会長だ。

ここを個人的に訪れるほど黄氏との親密な間柄で知られた政治家がいた。2017年11月、その発言が報じられ、物議を醸した。

「中国の領域の保全は中国の問題だ。友人である豪州の役割は数千年の中国の歴史を知ることだ」

発言の主は最大野党労働党の若手有望株だったサム・ダストヤリ上院議員(当時)。16年6月に在豪中国系メディア向け会見で話したもので、横にいたのは黄氏。その音声データが暴露されたのだった。

各国が領有権を争う南シナ海で「中国人が2千年前から活動してきた」と主張し、岩礁の軍事拠点化を進める中国の言い分を正当化する内容だ。批判が高まり、今年1月、ダストヤリ氏は議員辞職に追い込まれた。

2人の関係を知る鍵は、黄氏が会長を務めていた「豪州中国和平統一促進会」(ACPPRC)にある。豪議会図書館の調査によると、08年から16年の間、10人の同会役員と関係者・団体から計574万8450豪ドル(1豪ドル=約83円)もの献金が二大政治勢力である労働党と与党保守連合(自由党、国民党)にほぼ二分される形で流れていた。

黄氏はその中で2番目の大口献金者だ。自身の会社や関係者を通じて労働党に68万豪ドル、自由党に125万5千豪ドルを献金。さらに黄氏は、労働党の資金調達担当だったダストヤリ氏個人の訴訟費用5千豪ドルを肩代わりしていた。(中略)

00年に設立されたACPPRCについて、在シドニー中国総領事館書記官だった05年に豪州へ亡命した陳用林氏は「(台湾問題や華僑対策などを担当する)中国共産党統一戦線工作部が関係する組織だ」と指摘。

政治献金には、豪州を「米国に依存しない国に変える」という最終的な狙いがあると解説する。中国系が120万人以上もいて開放的な多文化社会でもある豪州は「くみしやすい相手」だという。

ACPPRCの行事にはターンブル首相ら有力政治家が出席してきた。「気前のいい献金者に感謝すれば、自然に『豪州の中国人社会の見解』を吹き込まれる。それは実際には中国共産党の見解なのだ」。豪州での中国の影響力拡大を調べた「サイレント・インベージョン(静かな侵略)」の著者クライブ・ハミルトン氏は警鐘を鳴らす。(中略)

一連の報道を受けてターンブル政権は昨年末、外国からの政治献金禁止やスパイ行為の関与への厳罰化、外国政府・企業のために活動する際の公表義務などを盛り込んだ法案を出した。

だが陳氏は言う。「中国は別のやり方を試してくるはずだ。完全には止められない」

黄氏は朝日新聞の取材に「私が集中しているのは自分のビジネスだ。献金の動機は誤って説明されている。スパイ映画の見過ぎだ。根拠のない非難を信じないでほしい」と答えた。(後略)【5月29日 朝日】
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オーストラリア側の中国警戒論に対し、中国は冒頭記事にもあるように反発を強め、豪州産農産物輸入で「嫌がらせ」というか、揺さぶりをかけています。

生産者からは、中国と軋轢を生む政府のやり方への不満も出ています。
“オーストラリアのワイン業界団体は、中国との外交関係修復を求め、6日に政府と緊急会合を開く。二国間関係の悪化を受けた貿易制限を巡り、政府がこう着状態を打開できないとの不満が広がっている。”【6月6日 ロイター】

事態打開を模索するオーストラリア政府に対し、中国側は突き放すような強硬姿勢も。

****中国が訪中した豪貿易相の打診を一蹴、冷え込む豪中関係****
オーストラリアのチオボー貿易・観光・投資相が今月中国を訪れた際、通商担当閣僚との面会希望を拒否されていたことが分かった。外務貿易省のアダムソン次官が31日、議会で証言した。

オーストラリア政府が外国からの政治献金禁止法案の成立を目指していることや、重要な国内資産に対する中国企業主導の買収計画を承認しなかった影響で、両国関係は緊迫化している。(後略)【5月31日 ロイター】
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(中国側は随分と強硬な姿勢です。同様のことが日中間であれば大問題にもなります。そういう意味では、中国側は日本に対しては“それなりに”抑制的なのか? それとも、下記の内政干渉阻止法案がよほど腹に据えかねるのか)

また、冒頭記事にあるように、中国の共産党機関紙・人民日報系の環球時報は、最近のオーストラリアの反中国的な姿勢に不満を示すため、オーストラリアとの関係を縮小すべきだとの見解を示しています。【5月23日 ロイターより】

このような状況で審議されている(中国を念頭に置いた)外国による内政干渉を阻止する法案は7月末成立予定とのことで、さらなる中豪関係への影響が予想されています。

****豪政権、内政干渉阻止法案の成立目指し内容修正 中豪関係悪化も****
オーストラリアのターンブル政権は8日、外国による内政干渉を阻止する法案の議会通過を目指し、緩和の方向で修正を加えたことを明らかにした。

ターンブル首相は昨年、「中国の影響に関する気掛かりな報道」を法案の根拠に挙げており、中豪関係が一段と悪化する恐れがある。

同法案を巡っては、一部条項への反発から成立のめどが立っていなかった。
修正案では、民間多国籍企業の関係幹部については外国エージェントとしての登録を義務付けないとした。

ポーター司法長官は記者団に対し「外国政府や外国の政治組織による一定のコントロールを受ける企業を中心に対象を絞った」と説明した。

野党・労働党は修正案を支持する方針を示した。法案は近く議会に提出され、7月末までに成立する見通しだ。

中豪関係は中国の干渉を巡るターンブル首相の発言を受けて冷え込んでおり、両国の貿易にも影響が出ている。【6月8日 ロイター】
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【「アジア人はオーストラリアに来るな」「中国人は歓迎しません」】
中豪間の政治的・経済的緊張を反映したのか、社会的にも人種差別的な動きが表面化しています。

****アジア人差別の貼り紙、オーストラリアでまた見つかる****
2018年5月14日、環球時報によると、豪シドニーにあるショッピングセンターで先日、アジア人を差別する貼り紙が見つかった。

ポスターは駐車場の柱とショッピングカートに貼られており、駐車場で見つかったポスターは「アジア人はオーストラリアに来るな」という内容。
ショッピングカートの方は「このカートはアジア人に盗まれてここに捨てられた」だった。

これらはすでにはがされており、撤去を指示したシドニー市長は「このショッピングセンターはさまざまな文化と多様性に満ちたコミュニティー。われわれは全てのコミュニティーのメンバーと多元的な文化を重視する」とコメントしている。

現地でアジア人を差別する貼り紙が見つかるのは今回が初めてではなく、ある中国系の不動産投資業者は昨年2月、工事現場に設置した看板にこのような紙を貼られたという。【5月15日 Record china】
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****中国人は歓迎しません」入居者募集貼り紙が人種差別と物議―豪州****
2018年6月7日、北京青年網は、オーストラリア・メルボルンで不動産賃貸物件の入居者募集の張り紙に「中国人は歓迎しません(CHINESE NOT WELCOME)」と書かれており、人種差別ではないかとの声が出ていることを伝えた。

現地市民によると、メルボルン南東部のマントンにある物件の入居者募集の張り紙に「中国人は歓迎しません」と書かれているのを6日に発見したという。

物件を扱う賃貸業者のマネージャーは「誰がこんな張り紙を掲示したのか分からないが、嫌悪感を覚える」と不快感を示すとともに、同日中に現場を訪れ、問題の張り紙を撤去したことを明らかにした。(後略)【6月8日 Record china】
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オーストラリア社会全体がアジア人・中国人を蔑視しているという訳ではなく、少なくとも1,2年前の調査では中国に対する好感度は高いものがありました。

****豪州人が考える「アジアで最高の友人」、中国が日本を上回る****
2016年6月22日、環球時報によると、豪州のローウィ国際政策研究所がまとめた報告書で、豪州人の中国に対する複雑な感情が浮き彫りとなった。

同研究所が21日に発表した報告書によると、豪州人の30%が「アジアで最高の友人」に中国を選び、日本(25%)よりも多かった。以下、インドネシア(15%)、シンガポール(12%)、インド(6%)、韓国(4%)が続いている。ただし、好感度では日本が70ポイントなのに対して、中国は58ポイントとなっている。

知り合いの中国人に対してポジティブな印象を抱いている人は85%に上り、中国の文化や歴史が好きだという人は79%、中国の経済成長を楽観視している人は75%となった。

記事は専門家の話を引用しながら、多くの豪州人にとって中国は非常に重要な経済パートナーであると考えていると伝えた。

「米国との関係と中国との関係ではどちらが重要か」という質問では、それぞれ43%で並んだ。14年に同様の調査を行った時は、米国との関係が48%、中国との関係が37%だった。(後略)【2016年6月23日 Record china】
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ただ、周知のように、オーストラリアは昔は“白豪主義”で知られた人種差別国であり、アボリジニ先住民をカンガルー同様に殺戮した歴史もあります。

開放的で明るいイメージの現在のオーストラリア社会の底流に、そうした負の歴史とつながるようなものがなければいいのですが・・・。

数年前、インド人留学生が増えたときも、“カレー・バッシング”と称されるインド人襲撃が相次ぎました。

****豪でまたインド人襲撃 「人種差別だ」感情的対立に****
オーストラリアのメルボルンで9日、インド人男性(29)が4人組の男に襲われ、車ごと火を付けられ顔などに大やけどを負った。メルボルンでは2日にも、インド人男性(21)が公園で何者かに刺され死亡した。

襲撃事件が一向に解決しないことから、インド紙は最近、オーストラリアの地元警察を人種差別主義者だと揶揄(やゆ)する漫画を掲載。これにオーストラリア側が反発するなど、感情的対立へと発展しつつある。(中略)

州警察側は「犯人も分からないのに人種差別につなげるのは、ばかげている」と非難した。
ただ、フランス通信(AFP)によると、同州内のインド人襲撃事件は昨年7月までの約1年間で1447件に上り、その後も毎月数十件発生しているだけに、州警察も焦燥感を強めている。【2010年1月11日 産経】
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アフガニスタン派遣オーストラリア軍不祥事発覚で「軍の文化に懸念」 軍だけの問題か?】
オーストラリアはアフガニスタンに派兵していますが、最近、オーストラリア軍による不祥事が相次いで発覚しています。

*****豪兵士、無防備な住民を崖から落とし殺害か アフガンで****
アフガニスタンに派遣されていたオーストラリア陸軍特殊空挺(くうてい)連隊の兵士らが、無防備な住民らを殺害するなどの残虐行為をしていた疑いが浮上した。戦争犯罪の可能性もあり、豪国防省が調査している。地元紙シドニーモーニングヘラルドが9日、伝えた。
 
同紙によると、一例として、アフガン南部ウルズガン州の村で2012年9月、同連隊の兵士が地元の羊飼いの男性を後ろ手に縛った状態で崖の端に連れて行き、蹴り落として殺害したケースがあったという。
 
同連隊は、豪軍兵士3人を射殺した容疑者を捜索中で、殺害された男性は、連隊が情報収集のために拘束した数十人の地元民の一人だった。

当時、妻と7人の子どもたちと暮らしており、前日に歩いて3時間離れた自宅から小麦粉を入手するために村に来ていたという。男性の兄弟の一人は同紙に「小麦粉を取りに行っただけの人間がどうして死ななければならないのか」と語った。
 
一帯ではほかにも、残虐行為をしたとされる兵士の部隊が巡回後、非武装の住民らの遺体が見つかるなど不審な事例があるという。
 
豪州は、同盟国の米国に協力して01年のアフガン戦争から陸海空の部隊を派兵。13年末に戦闘部隊を引き上げたが、現在も300人ほどがアフガンの治安部隊の訓練などをしている。【6月9日 朝日】
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****オーストラリア軍車両に「ナチスのかぎ十字の旗」、首相「到底容認できない****
オーストラリアの軍用車両がアフガニスタンにおける任務中、ナチス・ドイツを象徴するかぎ十字が描かれた旗を掲げていたことが明らかになった。マルコム・ターンブル首相が事実を認め、「到底容認できない」と述べた。
 
豪ABCは、2007年に撮影されリークされた問題の写真を公表し、国防省筋が本物のネオナチを示すものではなく「ブラックユーモア」だと説明したことを報じた。
 
ターンブル首相はナチスの旗の掲揚について「100%間違っている」「到底受け入れられない」と述べた。さらに「この事件は2007年に(当局者に)報告されたが、問題の旗は当然外され、関与した兵は処罰された」「それにしてもこの事件は間違っている……100%間違っている。上官がただちに対処した」と報道陣に語った。

豪国防省はAFPに対し「旗もその使用も国防の価値観にそぐわない」「この旗は2007年、アフガニスタンでオーストラリア軍の車両に短時間掲揚された。司令官がただちに対処し、この不快な旗を下ろさせた」と述べた。旗は後に処分され、事件に関与した兵は訓告処分を受けたという。さらに、問題の旗を目撃した全兵士に教育と訓練を強化する措置が取られたという。【6月14日 AFP】
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“事件に関与した兵”だけでなく、そうした行為を容認・黙認するような雰囲気・環境が軍内にあった・・・ということが問題でしょう。
“ABCは「軍の文化に懸念」と伝えている”【6月14日 朝日】

ただ、“軍の文化”にとどまらず、社会全体にアジア人への蔑視・差別意識といった“文化”があって、ときにそれが「中国人は歓迎しません」といった貼り紙や、“カレー・バッシング”といった行為として噴出する・・・・ということであれば、そこは注視する必要があるでしょう。
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イタリア新政権  移民・難民船を“たらい回し”にして「勝利!」とする“良識”

2018-06-13 22:51:47 | 難民・移民

(地中海で救助され、救助船アクエリアス号への乗船を待つ移民ら【6月12日 AFP】〉

大幅に減少はしたものの、依然高水準にある移民・難民の犠牲者
国際移住機関(IOM)によると、中東・アフリカから船で渡る「地中海ルート」(主にリビア・チュニジアからイタリアなどを目指す)で欧州に到着した難民・移民は、2016年は約36万3000人だったが、17年は約17万1000人に半減したとのことですが、依然として命がけの渡航、そして遭難のニュースはよく目にします。

****地中海、2日間で約1500人の移民救助****
地中海で24〜25日に約1500人の移民が救助された。イタリアの沿岸警備隊が明らかにした。
救助活動にはイタリア海軍やNGO団体、欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)がチャーターした船舶も参加していた。
 
25日には別々に行われた七つの救助活動で、欧州を目指して地中海を渡ろうとしていた移民1050人が救助された。救助活動に参加したドイツの2つのNGOは、過密状態の船舶3隻からそのうちの半数近い450人を救助したと明かした。
 
3隻目の船に乗っていた移民たちが救助される際、現場にリビアの巡視船が接近してきたため、リビアに送還されることを恐れた一部の移民が海に飛び込んだ。だが、巡視船は一定の距離を保っていたため、ドイツの両NGOに全員が救助された。
 
24日、イタリア海軍は移民69人を救助。フロンテックスによる移民の密航を取り締まる「トリトン作戦」に参加しているポルトガル海軍は296人を救助した。
 
国際移住機関によれば、今回救助された移民を除き、イタリアでは今年に入ってから1万800人の移民が登録されているが、この数字は昨年同期比では約80%減となっている。【5月26日 AFP】
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“玄関口”イタリアには14年以降、リビアから海を渡り60万人余りの難民が押し寄せました。
2017年夏にはリビアとの間で繁栄する密入国ビジネスの取り締まりを促す取り決めを交わし、これが貢献し、昨年イタリアに到着した難民は前年比33%減少しました。【2月2日 WSJより】

今年は登録者数で見る限りは、“昨年同期比では約80%減”と、さらに大きく減少しているようです。

欧州全体で見ても、“欧州連合(EU)の欧州庇護支援事務所(EASO)は1日、2017年の欧州30カ国への難民申請件数が約70万7000件と、前年比43%減少したことを明らかにした。16年の申請件数は戦後の最高だった15年の140万件をやや下回っていた。”【同上】と減少傾向にあります。

ただ、今年これまでに欧州を目指して地中海で死亡した移民・難民数は785人【6月19日号 Newsweek日本語版】とのこと。
IMOによれば昨年2017年の死者は3116人ということですから、犠牲者数も減少傾向にはありますが、依然高い水準にあるとも言えます。

****<チュニジア沖>不法移民100人死亡 今年最悪の犠牲者数****
国際移住機関(IOM、本部ジュネーブ)は7日までに、チュニジア中部スファクス沖で不法移民を乗せた漁船が2日夜に沈没し、少なくとも100人が死亡したとみられると発表した。

AP通信によると、今年地中海で起きた海難事故では最悪の犠牲者数という。
 
IOMによると、漁船には約180人が乗っていたとみられ、これまでに60人の死亡を確認。約50人は行方不明だが死亡した可能性が高いという。68人は救助された。

漁船は2日夕にチュニジアを出発し、同日午後10時45分ごろに救難信号を発信。最大90人乗りだったとみられ、定員を大幅に超過していた。
 
乗っていたのは大半がチュニジア人だが、リビアやモロッコ、マリ、カメルーン出身者もいた。現地報道によると、欧州への密航費用として1人あたり2000〜3000チュニジア・ディナール(約8万4000〜12万6000円)を密航業者に支払っていたという。

チュニジアのシャヘド首相は6日、密航を防止できなかったとしてブラヘム内相を更迭した。(後略)【6月8日 毎日】
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アフリカ難民船たらい回し イタリア・ポピュリズム新政権が上陸拒否 スペインに押し付け「勝利だ!」】
こうした状況にあって、移民・難民船が各国が受け入れを拒否して“たらい回し”される事態にも。

****地中海で立ち往生の移民600人超、スペインが受け入れ表明 伊は拒否****
ローマ(CNN) 600人以上の移民を乗せた船が地中海で立ち往生している問題で、スペイン政府は11日、東部バレンシアへの入港を認める方針を発表した。これに先駆けイタリアでは、ポピュリズムを掲げる新政権が船の受け入れを拒否していた。

行き場をなくしているのは国際医療支援団体「国境なき医師団(MSF)」とドイツの慈善団体「SOSメディテラ」が運営する船舶「アクアリウス号」。

9日夜から10日朝にかけ、リビア沿岸でゴムボートに乗った移民の救出作業を行った。MSFによると、伊沿岸警備隊から現在位置にとどまるよう指示を受け、10日以降はマルタ島とシチリア島の間の海域に足止めされているという。

救助された移民のうち120人以上は身寄りのない未成年で、妊婦も7人いる。MSFは15人が薬品による重いやけどを負っており、低体温症にかかっている人も複数いるとしている。

過去に前例がないとも指摘される今回の救出作業を統括した人物は11日、スペインの国営ラジオの取材に答え、船内の食料が残り1日分しかないと明かした。

スペインのサンチェス首相は同日、人道上の災厄を回避するため、アクアリウス号と乗船者をバレンシアに寄港させることを発表した。同船の現在位置はバレンシアからおよそ1280キロの距離にあり、到着まで3日かかるとみられている。

これに対し、10日の時点でアクアリウス号の寄港拒否を表明していたイタリアのサルビーニ内相は、スペイン政府の受け入れ発表後即座にソーシャルメディアへコメントを投稿。「勝利だ!629人の移民が乗ったアクアリウス号はスペインへ向かう。最初の目的を果たした!」と述べた。同氏は反移民をうたう政党「同盟」の党首も務める。

イタリアのコンテ首相もフェイスブックへの書き込みでスペイン政府の意向を歓迎。「重要な転機だ」「イタリアの要請が聞き入れられるようになってきた」との見解を示した。

一方、イタリア同様アクアリウス号の寄港を認めない方針を示したマルタの政府は、同船に食料やビスケット、飲料水を届けた。

スペインに上陸する移民の数は増加傾向が続いており、国際移住機関(IOM)によると、2018年はここまで前年比で50%増えている。これに対してイタリアでは、75%前後の減少が見られるという。【6月11日 CNN】
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****イタリアが拒否した移民救助船、スペインが受け入れ****
(中略)1週間前に就任したばかりのサンチェス首相は、アクエリウス号はバレンシア港に入港すると述べた。
また首相府は、「人権への責務に基づき、人道的惨事を防ぎ、これらの人々に安全な港を提供することは我々の義務である」としている。

欧州評議会はスペインの動きを歓迎。ドゥニャ・ミヤトビツ人権委員長は、「海での人命救助は、国家が常に支持すべき責務」とツイートした。

マルタのジョゼフ・ムスカット首相はツイッターでスペインへの感謝を述べた一方、イタリアは国際ルールを破り、こう着状態を招いたと話した。

また、マルタはアクアリウス号に新鮮な支援物資を送ると明らかにしたうえで、「こうしたことが再び起きないよう、座って話し合うべきだ。これは欧州の問題だ」と述べた。(後略)【6月12日 BBC】
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もちろん、大量の移民・難民が押し寄せる“玄関口”となっているイタリアの苦悩はわかります。
移民・難民の受け入れについて、様々な立場・見解があることもわかります。

全員の受け入れは拒否する考えもあるでしょう。

ただ、そうであるにしても、幼児・妊婦、負傷者などを含む大勢の人々を十分な食料もなく海上に放置し、他国へ追いやったことについて「勝利だ!」とする感覚には、“寒い”ものを感じます。

いつも言うように、『蜘蛛の糸』で「この糸は俺のものだ。下りろ。」と叫ぶカンダタのイメージが重なります。お釈迦様は悲しいお顔をされているのでは・・・。

EUのダブリン条約の改正を求めるイタリア新政権
イタリアにあっては、大衆迎合主義(ポピュリズム)政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」という“異色”の組み合わせで連立政権が誕生したことは周知のところです。

肌合い、政策の違いはありますが、既成政治を批判し、EUに対し懐疑的な面は共通するものもあります。

特に「同盟」は移民排斥を掲げており、難民・移民受け入れには厳しい対応をとることが予想されています。

****欧州の難民キャンプにはなれない」 極右のイタリア新内相が警告****
イタリアのポピュリスト連立新政権の内相兼副首相に就任した極右政党「同盟」のマッテオ・サルビーニ書記長は3日、南部シチリア島にある移民・難民の収容施設を訪れ、「イタリアは欧州の難民キャンプにはなれない」と述べるとともに、難民キャンプ化するのを防ぐには「良識」が必要だと訴えた。
 
サルビーニ内相は、難民の主要上陸地点の一つとなっているシチリア島ポッツァッロを訪問し、自身の政治基盤強化につながってきた反移民政策をアピール。炎天下に集まった支持者らに向け「イタリアとシチリア島は、欧州の難民キャンプにはなれない」と語った。

「不法移民はビジネスと化しているとの私の確信は、誰も否定できない。子どもたちを死なせることで金もうけする連中がいることを思うと、怒りがこみあげてくる」(サルビーニ氏)
 
この演説の後でサルビーニ氏は難民・移民の収容施設内に入り、今月1日に人権団体の船に救助されポッツァッロに上陸した移民ら約158人と面会した。
 
イタリア沿岸警備隊と協力して行われた救助活動の数時間前、サルビーニ氏は内相に就任。イタリアに「到着する移民の人数を減らし、国外退去者の人数を増やすにはどうしたら良いか」を省内の専門家に相談すると発言していた。また、2日には「不法滞在者に優しい時代は終わった。荷物をまとめて出て行く準備をせよ」と述べていた。
 
一方でサルビーニ氏は、新政権について「移民に対して強硬路線は取らず、ただ良識の一つを採用する」だろうとも語った。【6月4日 AFP】
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サルビーニ氏にとっては、「勝利だ!」とする感覚は“良識”のようです。
いずれにしても、移民・難民政策をめぐって、今後EUとの間で軋轢がありそうです。

****反移民政策に近隣国懸念=イタリア新政権「公平な負担」主張****
イタリアの新興政党「五つ星運動」と右派政党「同盟」(旧北部同盟)による連立政権が発足し、移民排斥を掲げる同盟のサルビーニ書記長が内相に就任した。

コンテ首相は6日の演説で、欧州連合(EU)内の難民受け入れ政策の見直しを主張。伊国内の難民や移民が流出すれば周辺国に多大な影響が及ぶ可能性があり、EUや近隣国は警戒感を強めている。
 
地中海を挟んで中東やアフリカに近いイタリアやギリシャでは、2015年をピークに大量の難民が流入。同盟は、雇用不安や治安悪化を背景に支持を広げた。
 
コンテ首相は6日、難民が最初に到達した国での保護申請処理を義務付けた「ダブリン規則」に関し、「根本的な見直しを要求する」と述べ、EU内での「公平な負担」を主張。サルビーニ氏も内相就任後、「(イタリアが)欧州の難民キャンプであってはならない」と強調した。
 
これに対しコロン仏内相は、「イタリアも国際的な枠組みの中で(難民問題に)取り組まなければならない」と述べ、けん制した。
 
EU内でもイタリアやギリシャの負担軽減に向けた改革が議論されてきたが、合意には至っていない。今後、難民を追い出したいイタリアと、流入を阻止したい周辺国の間で、せめぎ合いが激化しそうだ。【6月7日 時事】 
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EUを悪玉にするポピュリスト的主張には誤解も 自分たちがやるべきことをやっていないのが一番の問題
イタリアが移民・難民の玄関口になっているのは事実ですが、イタリアが不相応に多数の移民・難民を受け入れている、EUに押し付けられている・・・というポピュリスト的な主張には誤解もあるとの指摘もあります。

****EUのせいだ」はもう通用しない****
EU悪玉論で支持をつかんだポピュリズム政権は自国が抱える問題の根本的な解決を迫られることに   
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター所長)

(中略)2党の政策には違いも多々あるが、イタリアが抱える問題の多くを「ヨーロッパ」のせい、EUのルールと共有の原則のせいにしている点は共通だ。
 
イタリアの有権者は、EUが北アフリカからの難民を自分たちの国だけに押し付けていると考え、不公平感を抱いている。

実際、リビアから地中海経由でヨーロッパに押し寄せている難民の大半はイタリアに上陸するか、救助されてイタリアに連れて来られる。そうした難民の多くが、より豊かな生活を求めてヨーロッパを目指した「経済難民」であることもまた事実だ。
 
そうではあっても、イタリアは割に合わないほど多くの難民を受け入れているというポピュリストの主張は間違っている。

2014年以降、イタリア当局に提出された難民申請は約40万件。これはEU全体の件数390万件の約H%に当たり、
EU全体の人口に対するイタリアの人目とほぼ同程度だ。
 
イタリアの難民危機が特に深刻に見えるのは、制度上の不備でほかのEU加盟国に比べて難民認定手続きや不認定者の強制送還に手間取っているためだ。

また、イタリアでは難民の多くが住宅不足の都市部に集中しているため、ますます難民が街にあふれているように見える。
 
新たに発足した連立政権はEUのダブリン条約の改正を求めるだろう。この条約では、原則として難民が最初に足を踏み入れた国が認定手続きを行うことになっている。

この取り決めを見直すのは結構だが、それでイタリアの難民問題が解決するわけではない。難民受け入れの割合は今と変わらないからだ。
 
ポピュリスム政権の主張とは裏腹に、イタリアの難民問題はイタリア政府の手で解決できる。必要なのは認定手続きが迅速に進むよう制度を見直し、難民に空き住宅を斡旋するなど統合を進める政策を実施することだ。

選挙で勝つには有効でも
経済問題も同様だ。ポピュリスト政治家は財政赤字と債務残高の上限を定めたEUの財政ルールのせいで、景気刺激のための財政出動ができないと言う。

だが、このルールはユーロ加盟国全てに課されている。ユーロ圈の平均よりも常に成長率が低いイタリアが自国経済の不振をEUの財政規律のせいにするのは筋違いだ。
 
確かに、08年の世界的な金融危機とそれに続くユーロ危機で最も打撃を受けたユーロ圏の国々は、緊縮財政を強いられたために回復が遅れたとも言える。

だがそうだとしても、他の国々はとっくに危機を脱している。
 
そもそもイタリアはEUに何度も財政赤字の上限超えを大目に見てもらっている立場。財政規律を強いられているせいで景気後退が長引いているというのは下手な言い訳にすぎない。
 
EU経済が再び成長軌道に乗り、難民危機もやや緩和したため、EU主要国はEU改革とユーロ改革の道筋を探りつつある。

しかしイタリアが共通のルールや健全財政の基本的原則に背を向けるなら、改革は頓挫する。 

それはEUにとっては懸念材料だが、今の状況はユーロ危機のピーク時とは全く違う。イタリアの連立政権の発足を受け、市場にもひとまず安堵感が広がった。

ポピュリスム政権ができてイタリアは困るにしても、ユーロが脅かされることはないと、投資家は判断したようだ。
 
そこにはヨーロッパ各国のポピュリスム政党が学ぶべき教訓がある。国内の問題を何でもEUのせいにすれば、選挙では勝てるかもしれないが、国際的な孤立は避けられない。EUを悪玉に仕立てるのは、長い目で見れば勝ち目のない戦略だ。【6月19日号 Newsweek日本語版】
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“認定手続きが迅速に進むよう制度を見直し、難民に空き住宅を斡旋するなど統合を進める”ことが、サルビーニ氏の“良識”に合致すればいいのですが・・・。
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アフガニスタン 水面下の交渉の成果?ラマダン明け停戦実現か 米軍、タリバンの資金源「ケシ栽培」攻撃

2018-06-12 22:12:04 | アフガン・パキスタン

(アフガン北東部ハダフシャン州でケシ畑の破壊を試みる警察官(2017年5月)【5月31日 WSJ】)

米軍「タリバンに圧力をかけ、交渉による和平を目指す」 政府・タリバン、異例のラマダン明け一時停戦発表
アフガニスタンにおけるテロはタリバンによるものだけでなく、ISによる無差別テロも頻発しており、そうしたイメージからすると、下記の米軍司令官による「タリバンによるテロなどの攻撃が過去5年の同時期の平均と比較して30%減少した」という発言は、「本当かね・・・?」という感がありました。

****<アフガン>米軍空爆、タリバン70人以上殺害****
アフガニスタンの駐留米軍は5月30日、アフガン南部で同月中旬から下旬に10日間実施した空爆で、反政府武装闘争を続ける旧支配勢力タリバンの幹部ら70人以上を殺害したと発表した。

ニコルソン司令官は記者会見で「タリバンに圧力をかけ、交渉による和平を目指す。水面下で多くの外交活動が続いている」とも述べ、和平交渉開始に向けた動きが加速していることも明らかにした。
 
発表によると、最大の空爆は24日にムサカラで実施されたロケット弾によるもので、会議のために集まっていたタリバン幹部や司令官50人以上が死傷した。
 
ニコルソン氏は、アフガンのガニ大統領がタリバンに和平を呼びかけた2月から4月までの間、タリバンによるテロなどの攻撃が過去5年の同時期の平均と比較して30%減少したと指摘。

一方、戦闘と和平交渉の開始に向けた対話の状況が当面続くとの見解も示した。【5月31日 毎日】
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そうしたなかで、ガニ大統領がタリバンに対する一時停戦を発表。

****<アフガン>タリバンと一時停戦 和平協議を促す狙い****
内戦が続くアフガニスタンのガニ大統領は7日、旧支配勢力タリバンと一時停戦すると発表した。期間は来週から10日間程度で、タリバンに和平協議に応じるよう促す狙いがあるとみられる。タリバンはコメントを発表していない。
 
ロイター通信によると、ガニ氏は「停戦はタリバンが内省する機会だ」と述べた。一方、過激派組織「イスラム国」(IS)への掃討作戦は続けるという。
 
今回の停戦は、首都カブールで今月4日に開催されたイスラム教の宗教指導者らによる会議で、停戦を求める宗教令(ファトワ)が出されたことを受けた措置。この会議の直後には会場近くで自爆テロがあり、14人が死亡している。
 
ガニ氏は今年2月、タリバンに対して政党として認めることなどの譲歩案を提示し、和平協議に応じるよう打診。タリバンは現在まで応じておらずテロを続けている。【6月7日 毎日】
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“イスラム暦のラマダン(断食月)明けの祝祭に合わせた異例の措置で、現地からの報道によると、12〜19日の8日間が対象となる。”【6月7日 時事】とも。

おそらく、ニコルソン司令官の言う“水面下での多くの外交活動”があってのガニ大統領の発表でしょう。タリバン側もこれに応じる“異例”の展開となっています。

****タリバン、アフガン政府軍との3日間の停戦を発表****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは9日、イスラム教の断食月「ラマダン」が明けるのを祝う祭り「イード・アル・フィトル」に合わせ、政府軍と3日間、一時停戦すると発表した。しかし「外国の占領軍」に対する作戦は続ける意向を示した。
 
アフガニスタン政府は7日に突然、タリバンと1週間停戦すると発表したが、これは政府側の一方的な発表だったとみられる。

一時停戦に合意したタリバンだが、地元メディアに送られてきた声明で、(停戦においても)もし攻撃を受けた場合は「全力で防衛する」としている。イード・アル・フィトルに合わせてタリバンが停戦に合意したのは、2001年に米軍が進攻して以降初めて。
 
またタリバンは、「外国の占領軍は(停戦の)対象外」だと戦闘員らに告げており、「われわれの占領軍に対する作戦は引き続き行われ、占領軍を目にしたらどこであろうと攻撃する」と主張している。
 
アシュラフ・ガニ大統領が先に公式ツイッターで発表した停戦は、ラマダンの27日目からイード・アル・フィトルの5日目まで(今月12日から19日まで)続くとされている。【6月9日 AFP】
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わずか3日間とは言え、停戦が実現することは喜ばしいことで、今後への期待をつなぐものでもあります。

もちろん成果を出すには、地道な交渉と双方の妥協が求められます。気にいらないからといって交渉成果をひっくり返したりするような我儘・独善や、テレビ・支持者受けを狙ったパフォーマンス的な政治ショーではなく。

停戦直前のテロ頻発 ISとタリバン穏健派の違い
しかし、一時停戦の実施を狙ったように、直前にテロが頻発。
“アフガニスタン各地で11日、政府施設や検問所などを狙った爆弾テロや襲撃が相次ぎ、地元警察などによると、少なくとも34人が死亡した。”【6月11日 共同】

タリバン内部は一枚岩ではなく、政府との交渉を是認する穏健派から、交渉を拒否する強硬派までありますので、一時停戦実施を阻止するための強硬派の犯行か、あるいは、政府交渉など眼中にないISによる犯行か・・・。

カブール中心部にある地方開発省の庁舎近くで起きたテロについてはmISが犯行を主張しています。

****政府庁舎付近で爆発、12人死亡=ISの自爆テロか―アフガン首都****
アフガニスタンの首都カブール中心部にある地方開発省の庁舎近くで11日、爆発が発生し、保健省当局者によると少なくとも12人が死亡、31人が負傷した。自爆テロとみられる。ロイター通信によると、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行を主張した。
 
11日はイスラム暦のラマダン(断食月)中のため、大半の政府職員は勤務を早めに切り上げていた。地元民放トロTVは「職員が帰宅しようと庁舎を出た際、入り口付近で爆発が起きた」と報じた。【6月11日 時事】 
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ISは一般住民に多数の犠牲者がでるこを厭わない、あるいは、そのことを目的としたようなテロを繰り返していますが、最終的には統治を目指すタリバンは民心に配慮する必要もありますので、いたずらに住民被害が増えるテロは避けているようにも見えます。

そうしたタリバンのISとの違いを強調する形での政府・タリバン間の交渉ができれば、今回の“3日間の一時停戦”が将来的な長期停戦やタリバンの政治参加への道につながるのかも。

タリバン資金源の「ケシ栽培」壊滅を目指す空爆で圧力
一方の“圧力”に関しては、タリバンの資金源となっている「ケシ栽培」へを標的とした空爆を強化しているとのこと。

****アフガン米軍、タリバン資金源「ケシ畑」壊滅狙う****
アフガニスタン駐留米軍が、反政府武装勢力タリバンの戦闘員だけではなく資金源をも標的にした空爆作戦に出ている。
 
米軍は昨年11月に開始した戦略爆撃作戦で、タリバンがケシの栽培・販売や道路税の徴収で得ているとされる収入源を断つための空爆を113回実施した。米軍はタリバンを和平交渉のテーブルにつかせる戦略に大きくシフトしている。
 
駐留米軍のランス・バンチ空軍准将は、「新たな戦略は、これまでにないやり方でタリバンに圧力を加えようというものだ」と説明する。
 
この空爆作戦は、米軍がシリアとイラクで過激派組織「イスラム国(IS)」に対して実施し成功を収めた作戦をモデルにしたものだ。

ISとの戦いでは、米軍機はISに多額の石油収入をもたらしていたIS支配下の製油所やタンクローリーなどを定期的に攻撃した。第2次世界大戦中、連合軍が日本やドイツの工業地帯を爆撃したのを想起させる作戦でもある。
 
米軍によれば、アフガンでの最近の空爆の典型的な例としては、F16戦闘機2機がケシ栽培の中心地ヘルマンド州南部で、約30メートル四方の泥壁で囲われた麻薬製造施設を爆撃したものがある。作戦に従事したパイロットは「建物は完全に破壊された」と述べた。
 
ドナルド・トランプ米大統領は昨年8月に発表した南アジア戦略で、アフガン戦争の膠着(こうちゃく)状態を打破するため、米軍のアフガンでの交戦規定を緩和した。それまでは、米軍機は武装勢力が有志連合軍と戦闘しているか、あるいはその恐れがある場合に限り、武装勢力を標的に攻撃できた。
 
新たな規定では、米軍機は武装勢力を発見すればどこであっても攻撃したり、タリバンの武器庫や司令部、収入源の破壊を試みたりできることになった。
 
バンチ准将はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、「われわれは、タリバンがこれまでならば安全と思ったり、行動の自由があったりした場所でも、攻撃できる権限を持っている」と話した。
 
例えば米軍機は、道路上の検問所を攻撃している。武装勢力が通行人から料金を徴収する場所だ。また、米軍関係者によると、違法な鉱物採掘場も標的のリストに加わる可能性があるという。
 
だが、資金源を狙った空爆は、米軍の空域任務に占める比率がまだ小さく、空爆の大半は、アフガニスタンの広大なケシ畑で生産される生アヘンの加工施設を標的としている。

アフガン軍の軍用機も空爆を行っているほか、アフガン麻薬対策部隊も地上で麻薬バザール(取引場)を急襲するなどしている。
 
タリバンは、麻薬取引との一切の関係を否定している。
タリバンの広報担当であるザビフラ・ムジャヒド報道官は、「われわれが政権を握っていた当時は、ケシ栽培がゼロに減っていた」と述べた。

タリバンは、米軍を中心とした2001年のアフガン進攻まで、独自の厳格なイスラム法解釈に従って同国を支配していた。同報道官は「(米軍など)侵略者がやって来ると、この現象(ケシ栽培)が復活した。

米軍の将軍や情報高官らは、カブールの(アフガン)政府閣僚や議員らと一緒に、麻薬の密輸に関与し、その取引を維持している」と述べた。
 
だがバンチ准将によると、米軍はタリバンの収入の50~60%が麻薬由来だとみている。これは年間約3億2000万ドル(約350億円)に相当するという。

タリバンはこれで戦闘員に給与を支払ったり、武器を購入したりしている。これまでの空爆作戦により、タリバンは4400万ドル相当の資金源を失ったという。
 
アフガニスタンは世界最大のケシ栽培国だ。ケシはモルヒネやヘロインに精製される。

米国は進攻した2001年以降、アフガンのケシ栽培農家と密輸業者に対し、さまざまな対策を続けてきた。独立系の政策調査・分析組織であるアフガニスタン・アナリスツ・ネットワーク(AAN)のリポートによると、米軍は当初、麻薬取引に関与している軍関係者と協力していた。
 
英国は当初、米国など同盟諸国のために麻薬対策を指揮し、ケシを根絶させるため栽培農家にカネを払うことを主張した。AANのリポートによると、米国は2008年、他の同盟国を説得し、武装勢力とつながりのある麻薬取引業者を殺害できる権限を軍の部隊に与えた。
 
米軍の関与が盛んだった頃、つまり2010年から12年までの間、前線部隊が優先していたのは、麻薬との戦争ではなく、反政府勢力との戦争だった。

このため、米海兵隊はヘルマンド州を定期パトロールする際、周囲に広がっているケシのピンク色や白色の花畑をおおむね無視していた。
 
皮肉なことに、これらの農場に水を供給していたのはカジャキ・ダムとその下流にある広大なかんがいシステムだったが、それらの施設は1960年代に米国の農業支援資金によって建設されたものだった。
 
タリバンのムジャヒド報道官はWSJに対し、「ケシ畑を破壊しても、貧しくてぜい弱な農民に代替(作物)が提供されない限り、役立たない」と述べた。
 
国連薬物犯罪事務所(UNODC)の統計によれば、長年にわたるケシ栽培取り締まり努力にもかかわらず、昨年のアフガニスタンのケシ栽培面積は過去最高の32万8000ヘクタールに達し、前年比で63%も増加した。
 
米軍の現場指揮官たちは、麻薬資金の流れの維持がタリバンの大きな関心事になっていると述べている。アフガン駐留の米特殊作戦指揮官は「タリバンには政治というものは、もはやほとんど存在せず、麻薬を動かすことしか念頭にない」と語った。
 
元外交官で米国平和研究所(USIP)のアフガン専門家、ジョニー・ウォルシュ氏は、タリバンという集団は、麻薬ギャングと、宗教的に鼓舞された反政府勢力の複雑な結合体だと述べている。

タリバンが同国の広範な土地に影響力を拡大できたのは、本来の強硬路線の考え方を、地元の諸条件に適応させたことが一因だったという。
 
同氏は「タリバンは極度にイデオロギー的であると同時に、麻薬取引から極限まで利益を享受している」と述べ、「彼らはイデオロギーでは資金を調達できないし、麻薬では新兵を募集できない」と語った。【5月31日 WSJ】
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戦場の建前と現実
“それまでは、米軍機は武装勢力が有志連合軍と戦闘しているか、あるいはその恐れがある場合に限り、武装勢力を標的に攻撃できた”・・・・そういう交戦規定がったというのは初耳です。

もちろん双方が“命がけ”の戦場、狂気が支配する戦場にあっては、建前と現実は異なるのが常です。

上記交戦規定の話は驚きですが、下記のような話には別に驚きはありません。「そんなものなんだろう・・・」といった感じです。

****豪兵士、無防備な住民を崖から落とし殺害か アフガンで****
アフガニスタンに派遣されていたオーストラリア陸軍特殊空挺(くうてい)連隊の兵士らが、無防備な住民らを殺害するなどの残虐行為をしていた疑いが浮上した。戦争犯罪の可能性もあり、豪国防省が調査している。地元紙シドニーモーニングヘラルドが9日、伝えた。
 
同紙によると、一例として、アフガン南部ウルズガン州の村で2012年9月、同連隊の兵士が地元の羊飼いの男性を後ろ手に縛った状態で崖の端に連れて行き、蹴り落として殺害したケースがあったという。
 
同連隊は、豪軍兵士3人を射殺した容疑者を捜索中で、殺害された男性は、連隊が情報収集のために拘束した数十人の地元民の一人だった。

当時、妻と7人の子どもたちと暮らしており、前日に歩いて3時間離れた自宅から小麦粉を入手するために村に来ていたという。男性の兄弟の一人は同紙に「小麦粉を取りに行っただけの人間がどうして死ななければならないのか」と語った。
 
一帯ではほかにも、残虐行為をしたとされる兵士の部隊が巡回後、非武装の住民らの遺体が見つかるなど不審な事例があるという。
 
豪州は、同盟国の米国に協力して01年のアフガン戦争から陸海空の部隊を派兵。13年末に戦闘部隊を引き上げたが、現在も300人ほどがアフガンの治安部隊の訓練などをしている。【6月9日 朝日】
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農民対策と政権内腐敗一掃の必要
話を「ケシ栽培」に戻すと、タリバンの資金源を断つ戦略が有効なのはわかりますし、アフガニスタンのケシ栽培の話を聞くたびに「ケシ畑は隠せるものでもあるまいし、どうして規制ができないのか?」と不思議でもありましたが、タリバン側報道官の言うように「ケシ畑を破壊しても、貧しくてぜい弱な農民に代替(作物)が提供されない限り、役立たない」という面もあります。

農民がケシ栽培に手を出すのは、ケシ以外には有効な換金作物が栽培できないからでもあり、そこに踏み込まずに単にケシ畑を攻撃するだけでは、農民の生活が維持できるのか危惧されますし、政府・米軍への憎悪を助長するだけにもなりかねません。

農民対策と併せて、政府・軍内部に巣くう、麻薬ビジネスに結びついている勢力の一掃も何としても必要です。
おそらく麻薬ビジネスはタリバン単独で行えるものではないと思います。

政権内部の腐敗こそが、タリバン勢力拡大の背景にある大きな要因です。戦闘を続けるにせよ、和平交渉でタリバンの政治参加が実現しようと、その腐敗を改善できない限りアフガニスタン政府に未来はないと思われます。

追伸 6月12日 23:40
結局、停戦は実現しなったようです。

****アフガン政府の停戦不成立 タリバンが攻撃継続****
反政府武装勢力タリバンとの一時停戦を計画していたアフガニスタン政府は12日、一方的に戦闘を停止したが、タリバンは各地で攻撃を継続し、政府主導の停戦は成立しなかった。政府は中断している和平協議再開への機運醸成を狙うが、再開の道筋は見えない。

政府側は12日から8日間の戦闘停止を宣言したのに対し、タリバンはラマダン(イスラム教の断食月)明けの祝祭(イード)となる15日ごろから3日間停戦すると表明していた。

東部ガズニ州などで12日もタリバンの自爆テロや攻撃が続き、地元メディアなどによると、国軍兵士や警察官ら少なくとも21人が死亡した。
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台湾  米中対立のはざまで強まる圧力 トランプ政権に“カード”として使われる懸念も

2018-06-11 22:50:39 | 東アジア

(台湾・台中の空軍基地で実施された実弾演習に参加した、攻撃用ヘリコプターのAH64E「アパッチ」(2018年6月7日撮影)【6月7日 AFP】)

【“米朝会談の裏番組的ポジション”の台北事務所新庁舎完工式問題は、とりあえず米側が中国刺激を回避
明日12日に行われる米朝首脳会談に世間の注目が集まっていますが、半島情勢に北朝鮮の後ろ盾となってきた中国の意向が強く反映されることは当然であり、その観点で、半島情勢は、貿易戦争、台湾情勢、南シナ海問題など、アメリカと中国の関係・対立がどうなるのかという大きな流れのひとつの側面でもあります。

明日12日は、米朝首脳会談の日であると同時に、“米朝会談の裏番組的ポジション”【5月30日 福島 香織氏 日経ビジネス】にもある、米国在台協会台北事務所(AIT、米大使館に相当)の新庁舎落成式が予定されています。

****中国が米に「レッドライン」、台湾問題で****
12日は中国の重要な日だ。それは米政権のせいだが、ドナルド・トランプ大統領が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談を予定しているためだけではない。
 
米国はこの日、事実上の在台湾大使館となる新庁舎開設を予定している。中国が自国の一部だと主張する台湾は、長らく米中関係の火種となっている。米国と台湾の当局者にとって、台湾で12日に行われる開設式は両者の関係強化を象徴するものだ。
 
米当局者によると、中国の外交当局者らはトランプ政権に閣僚の派遣を見送るよう求めた。派遣すれば、米政府は台湾との関係を非公式なものにとどめるべきだとの了解に反することを示唆したという。
 
米当局者は「(中国は)新たなレッドライン(越えてはならない一線)を設けつつある」と述べた。
 
別の米当局者は国務省の高官が出席すると述べたが、トランプ政権はより高位の高官が出席する可能性を排除していない。米政権は中国の外交官らに対し、台湾へのサポートは以前と変わっておらず、中国政府との合意に反していないと述べた。
 
台湾を巡る摩擦は、米中政府の緊張が既に高まっているなかで再燃している。
 
台湾での今回の式典は長らく計画されていたが、シンガポールでの米朝首脳会談と同日に行われることから、米政権はアジアにおける中国政府の影響力低下を狙っているとの中国の懸念に拍車をかけている。
 
2億4000万ドル(現在のレートで約263億円)をかけた米国在台協会(AIT)台北事務所の新庁舎建設は9年にわたり、計画より大幅に遅れている。公園やハイテク企業で知られる台北の一角に位置する新庁舎について、実質的な駐台湾大使に当たるキン・モイ所長は「台米関係の目に見える象徴だ」と述べた。【6月11日 WSJ】
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結局、米朝首脳会談への悪影響などへの配慮もあって、アメリカは台北事務所の新庁舎完工式にマリー・ロイス米国務次官補(教育・文化担当)が出席すると発表しています。

****<台湾>米国務次官補が台北事務所の新庁舎完工式に出席へ****
(中略)米メディアではトップレベルの高官が訪台するとの観測も出ていたが、トランプ米政権は中国の反発を考慮し、国務次官補の派遣にとどめたとみられる。
 

台湾メディアによると、国務次官補クラスは過去にも訪台したことがある。トランプ大統領は台湾重視の姿勢が強いが、12日は米朝首脳会談もあり、北朝鮮に影響力がある中国を台湾問題で刺激することは避けた形だ。
 
ただ、ロイター通信は米政府が9月に予定される台北事務所新庁舎の開所式に高官の派遣を検討していると報じている。米メディアでボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の訪台説が浮上した経緯もあり、火種は残りそうだ。【6月11日 毎日】
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強まる中国の圧力 苦慮する航空会社
AIT台北事務所の件は“ひとます”は落ち着きましたが、中国・習近平政権は最近、特にアメリカ議会が台湾旅行法を2月末に可決して以降、台湾への圧力を強めています。

2016年12月のサントメ・プリシンペ、2017年6月のパナマに続き、今年5月1日にはドミニカ、同月24日にブルキナファソが台湾との断交を発表。その背景には、もちろんチャイナマネーの力があります。

これで台湾と国交を維持している国家は過去最少の18カ国となりました。台湾には気の毒ですが、これらの国々が中国か台湾のどちらかを選ぶように強いられたとき、中国を選択するのは、現在の国力をを考えれば当然の成り行きでしょう。

最近目立つのは、中国で活動する外国企業への、台湾に関する表記を国家扱いではなく中国台湾省とするようにとの圧力です。

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中国は外国の航空会社に台湾表記を「中国台湾」と表記するように4月25日に通達。一カ月以内に応じない場合は行政罰を課すとの圧力を加え、通達を受けた44社のうち18社がすでにこの要請を受け入れた。

残りの26社は技術的問題を理由に、変更期限の延期を申し入れているが、7月25日までには変更するとみられている。米国はこれに対して猛抗議を行っている。
 
航空会社だけでなく、銀行、ホテルその他の企業でも台湾に関する表記を中国台湾省とするように圧力がかけられている。

日本の衣料・生活雑貨店の無印良品が商品に「原産国:台湾」と表記していた商品を中国国内で販売していたことに対し、「中国の尊厳や利益を損ねた」として20万元の罰金が科された。無印良品側は中国国内法に違反したことを謝罪し、すぐさま表記の変更を行ったという。

米アパレル大手のGAPも、Tシャツの柄の中国地図について「台湾が描かれていない不正確な地図」を書いたとして、中国のSNS微博などで炎上、GAP側はTシャツの廃棄処分と謝罪に追い込まれた。【5月30日 福島 香織氏 日経ビジネス】
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アメリカは“抗戦”の構えです。

****中国要求に従うな」米政権、台湾表記問題で米航空会社に要請 英紙報道****
中国政府が外国航空会社に対し、ウェブサイトなどで台湾を中国の一部として表記するよう求めている問題で、英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は6日までに、トランプ米政権が米国の航空大手に中国の要求を飲まないよう要請したと報じた。米政府当局者がユナイテッド航空など大手3社に伝えたという。
 
同紙によると、米政権はユナイテッドやアメリカン航空、デルタ航空に対し、自社のウェブや地図上で中国当局の基準に沿った「中国台湾」などの表記をしないよう要請した。
 
中国民用航空局が4月、36社に対し、台湾や香港、マカオが中国の一部であることを明確に表記するよう改善を求める書簡を送付したとして、米ホワイトハウスは先月上旬、抗議する声明を出していた。
 
ただ、米航空大手は「米政府と緊密に協議しながら対応を検討している」(デルタ)などと対応に苦慮。中国路線は成長市場で、中国国内の空港への着陸を不許可とする中国側の制裁措置が大きな懸念となるためだ。

欧米メディアによるとオーストラリアのカンタス航空などが中国の要求を受け入れる方針を示した。【6月6日 産経】
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中国の肩を持つつもりは毛頭ありませんが、台湾を自国領土と考える中国からすれば“当然の要求”でしょう。「中国要求に従うな」と言われても・・・・板挟みになった航空会社は苦しい立場です。

台湾との関係が強い日本の航空会社の対応が注目されていますが、一時的に変更され、すぐに戻される・・・と、対応に苦慮・混乱しているようです。日本政府の働きかけなど、水面下で激しい動きがあるのでしょう。

****台湾表記、一時「台湾(中国)」に 日航・ANA****
台湾の主要紙「自由時報」(電子版)は8日、ANAホールディングス(HD)と日本航空のサイト上で、運航ルートの地図の台湾の表記が一時的に「台湾(中国)」に変更されたと報じた。台湾が中国の一部だと示す表記。

台湾を孤立させようとする中国の圧力に屈したとの観測が出たが、すぐに削除されたという。両社は「意図したものではない」としている。(中略)

台湾では表記が削除され、安堵が広がっている。両社は中国の要求への対応を関係機関と協議しており、航空券の予約サイトなどで表記を変更するかを検討中という。
 
中国は台湾を自国の一部と位置づけ、台湾側も国家と主張。多くの航空会社はサイト上の項目を「国/地域」などとぼやかし複雑な中台事情に触れるのを避けてきた。明確な表記を求める中国への対応に苦慮している。【6月8日 日経】
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対抗姿勢を強める台湾・アメリカ
中国は台湾周辺での軍事演習などで、軍事的圧力を強めていることはこれまでも取り上げてきましたが、台湾側も対抗姿勢を強めています。

****台湾軍、「侵攻」撃退の実弾演習実施 蔡総統が視察*****
台湾軍は7日、中国軍による「侵攻」を撃退する実弾演習を公開した。中国政府が軍事・外交的圧力を強める中、演習には戦闘機やヘリコプター、数千人規模の部隊が参加した。
 
5日に始まった、「漢光」と命名された演習では、中国による軍事的脅威の高まるを反映し、空からの、また沿岸部への奇襲攻撃が想定されている。
 
蔡英文総統は7日、兵士4100人の他、台中の空軍基地から攻撃用ヘリコプターや戦闘機が参加して行われた実弾演習を視察。
 
蔡氏は「わが軍の能力を実際に目にした。軍が『堅固な防衛と重層的な抑止』という目標を達成できると確信している」と述べた。【6月7日 AFP】
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アメリカも台湾海峡への戦艦派遣を検討しています。

****米国、台湾海峡への戦艦派遣を検討 中国の反発必至****
米高官がロイターに明らかにしたところによると、米国は台湾海峡への戦艦派遣を検討している。貿易摩擦や北朝鮮の核問題で米中関係が緊迫するなか、中国が激しく反発するのは必至とみられる。(中略)

米高官によると、米国は今年に入り航空母艦の派遣を検討したが、実施しなかった。恐らく中国への配慮という。前回米航空母艦が台湾海峡を通過したのは2007年。

頻繁ではないが、定期的に海軍の別の戦艦を台湾海峡に派遣することも選択肢のひとつとなっている。前回実施されたのは2017年7月で、航空母艦の派遣ほどは中国を刺激しない行為とみられている。米国防総省は今後の軍事行動に関するコメントを拒否している。

トランプ大統領はこれまでの慣例を破り、2016年に正式な外交関係のない台湾の蔡英文総統と電話会談を行った。ただ、ここ数カ月は、北朝鮮の核問題で中国の支持を取り付けるため、以前よりも台湾との距離を置いている。【6月5日 ロイター】
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また、台湾では“台湾の与党・民進党が中国国旗(五星紅旗)の掲揚禁止の是非を問う住民投票実施の動きを見せている”【6月5日 Record china】との動きも。

さすがに“刺激的・危険すぎる”との批判や、憲法抵触の疑義などもあって、党としての正式な動きではないと釈明はされているようです。

トランプ政権にとって台湾問題の位置づけは?】
****台湾をめぐる米中対立が激化、その行方は****
(中略)カナダの華字メディア新華僑報は同日、今年に入ってからのこうした米中の一連の台湾をめぐる動きを総じて、「火薬のにおいが濃くなっている」と警告を発している。

二大大国の駆け引き交渉のまさにカードとなっている台湾自身の危機感も当然深まっており、2018年1月の民意調査(台湾民主基金会調べ)では、68%の青年が中国が侵攻してきたら軍に志願するかその他の手段で抵抗する、と答え、台湾が独立をかけて戦争するなら55%が参戦すると答えていた。

もちろん91%が戦争ではなく現状維持を望むとするものの、台湾が統一を望まない場合に中国が一方的に武力統一を仕掛けてくる可能性はいまだかつてなく高まっていると感じているようだ。(中略)

こうした台湾をめぐる米中駆け引きのエスカレートは、当然のことながら、半島問題での駆け引きと米中通商協議などその他の米中交渉とのからみの中で動いている。

トランプ政権、習近平政権ともに、トップの判断がそのまま方針や決断に反映されやすい部分があり、これまでの官僚・省庁中心で良くも悪くも縦割りで交渉されていた通商問題や個々の外交問題が、今は一つテーブルの上ですべてを交渉材料としてダイナミックに駆け引きされうる状況だ。

トランプがZTEへの禁輸措置を持ち出せば、習近平も金正恩となにやら密談したふりをしてみせる。米国が台湾接近姿勢を示せば、中国は南シナ海の軍事拠点化をアピールする。

気になるのは両国にとっての優先順位で、私は中国にとっての最優先事項はおそらく台湾問題であろうとみている。

習近平政権にとって、通商問題で妥協するより、半島問題で妥協するより、台湾統一を諦めることの方が、党内・国内における国家指導者としての正統性や求心力を大きく損なう。

逆に言えば、台湾統一は、少々の経済問題や半島問題の失点をリカバリーできるだけの中国にとっての悲願なのだ。だからこそ武力侵攻も辞さないという、かなり本気の恫喝を交えて台湾を事実上の“無血開城”に追い込もうと画策しているわけだ。

台湾の民主主義と独立性を守ることの意義
では米国の最優先事項はどこになるのか。通商問題なのか半島問題なのか台湾問題なのか、あるいは中東なのか。

中国側は、おそらくトランプ個人がビジネスマン気質であるという根拠から、トランプ個人の経済的利益、中間選挙に有利かどうかを最優先に考える、と想定しているのではないか。

だが、もし米国が本気でアジアにおけるプレゼンスを取り戻し、米国一強時代を守り抜く、ということを政権としての最終目標にもっているならば、中国の太平洋進出の野望を抑え込むことこそがポイントで、そのために、台湾の民主主義と独立性を守ることこそ最優先テーマだと判断するのではないだろうか。

私は米国政府からの直接情報筋は持っていないので、トランプ政権の最終目標がどこにあるのかについては分からない。先日、コロンビア大学の中国専門家と意見交換した際には、トランプが大統領になった真の目的は、個人的経済利益(ビジネスにプラスになるなど)である、という見立ても聞いた。

とすれば、ある一定の大統領としてのメンツが立てられれば、対中融和的姿勢に転じて、中国市場におけるビジネス利権を追求するといったことも考えられる。

それはあまり当たってほしくない想定だが、台湾と同様、米中関係の間で自国の安全が揺れる日本としては、自分たちの望ましくない展開もありうることを頭の隅にいれておくべきだろう。

そういう望ましくないシナリオを実現させないためには、少なくとも日本は、台湾の民主主義と独立性を中国の恫喝から守ることの意義をきちんと米国はじめ国際社会に向けて発信する必要がある、ということも忘れてはならない、と付け加えておく。【5月30日 福島 香織氏 日経ビジネス】
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“トランプが大統領になった真の目的は、個人的経済利益(ビジネスにプラスになるなど)である”とまでは思いませんが、“米国が本気でアジアにおけるプレゼンスを取り戻し、米国一強時代を守り抜く、ということを政権としての最終目標にもっている”とも思いません。

これまでも言っているように、最終的には中国と“取引”してアメリカにとっての経済的利益を引き出すことができれば、東アジアにおける中国の影響力をアメリカとしても一定に容認する形で、米中の“ウィンウィン”の大国関係が構築されることを、トランプ大統領としては考えているのでは・・・と思っています。

自由主義・民主主義の理念とか価値観に基づいて、最後まで台湾を中国の影響から守り抜く・・・・といった思考は、トランプ大統領にはないでしょう。

極言すれば、台湾問題は米中関係構築の“取引”のための“カード”として使用されることが想定され、現在のアメリカ・トランプ政権の台湾への関与については、台湾としてもそうした側面に留意する必要があります。

もちろん台湾側も十分に承知のところで、それでもアメリカに頼らざるを得ないところが、現在の台湾の置かれている苦しい状況です。

台湾が生き残る道は“中華圏における「民主化の先進地”】
台湾がやるべきこと、できることは、民主主義という点で台湾が中国とは異なる社会であることを世界に強くアピールすることでしょう。

****自由な空気」求め台湾へ 言論締めつけの香港から 蔡政権、違いアピール****
台湾の蔡英文(ツァイインウェン)政権が、中華圏における「民主化の先進地」と台湾を位置づけ、自由度の高さをアピールしている。事実上、共産党の独裁が続く中国との違いを国際社会に示すのが狙いだ。
中国の弾圧を受けた香港の書店などが台湾を拠点に選ぶ動きも出ている。

台湾東部の離島、緑島で17日、政治弾圧の歴史を伝える人権博物館の開設式が開かれた。台湾で国民党の独裁体制が続いた時代、島には政治犯が収容され「監獄島」とも呼ばれた。
あいさつした蔡総統は「(施設を通じて)我々が勇気を持って歴史を反省できることを示せる」と訴えた。(中略)

蔡氏が意識するのは、台湾に統一を迫る中国との違いだ。蔡氏は昨年6月4日、中国で民主化を求めた学生らが弾圧された89年の天安門事件を踏まえ、「両岸(中台)の最大の違いは民主主義と自由だ」「台湾は民主化の経験を対岸に分け与えることを願う」とフェイスブックに投稿した。

対中政策を担う大陸委員会は今月制作したPR動画で、中国の締め付けが強まる香港から台湾へ移住した女性を紹介。陳明通主任委員は「台湾にはより自由な空気がある」と語った。

香港では2014年、若者が民主的な選挙の実現を求めて中心部を占拠したデモ「雨傘運動」が発生。翌15年には、中国共産党の批判本を販売していた「銅鑼湾書店」の店長らが中国側に拘束される事件が起きるなど、民主化の停滞や後退が顕著だ。(後略)【5月30日 朝日】
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マレーシア  “バージョンアップした『マハティール2.0』”の新政策 中国との関係は?

2018-06-10 21:30:24 | 東南アジア

(画像は【http://ampang301.blog.fc2.com/blog-entry-930.html】より
東海岸鉄道(ECRL)は、米海軍の環太平洋の拠点があるシンガポールを封鎖された場合を想定すると、中国にとって地政学的に極めて重要なルートです)

【「首相はいま『独裁者』をやめる練習をしている」】
特に目新しい話がある訳ではありませんが、下記【朝日】の“バージョンアップした『マハティール2.0』”との表現が面白かったので、今日はマレーシア首相に92歳で返り咲いたマハティール首相の話。

独立以来政権を維持してきた与党・ナジブ首相に対し、その師匠筋にもあたる92歳のマハティール元首相がナジブ氏の汚職疑惑を批判して、かつて自らが権力から追い落とした旧敵アンワル元副首相(選挙当時は政治的陰謀とも言われる同性愛の罪で服役)に代わって野党勢力を束ねて選挙戦を挑み、見事に首相に返り咲いた件は、5月11日ブログ“マレーシア 独立後初の政権交代 マハティール氏、異例の高齢再登板 難しいかじ取りも”で。

ただ、かつてのマハティール氏には、アンワル氏追放に見られるような強権的姿勢もあって、共闘した勢力にも同氏の政治姿勢への警戒感も根強くあります。

****マハティール氏、柔軟さアピール 批判に耳傾け・強権復活に警戒感も マレーシア新政権1カ月****
マレーシアで初の政権交代が実現して10日で1カ月になる。マハティール新首相(92)は、矢継ぎ早に新しい政策を打ち出す一方、批判に耳を傾ける姿勢も見せ、「新しいマハティールは謙虚だ」と国民の人気は高い。
ただ、かつての強権ぶりがいずれ復活するのではと警戒する声も漏れる。
 
1981年から5期22年にわたり首相を務めたマハティール氏は、ナジブ前政権を批判し古巣の国民戦線(BN)と対立。政党連合の希望連盟(PH)を率い、先月9日の総選挙を制した。

首相に就くと、前政権の政策を相次いで転換。消費税を6月1日から廃止する一方、前政権の財政状況を調査し、国の債務が公表値を大幅に上回る1兆リンギ(約28兆円)にのぼると公表した。
緊縮財政への理解を呼びかけ、シンガポールと結ぶ高速鉄道建設計画の中止も発表した。
 
マハティール氏は以前に首相を務めた際には、政敵や批判的なメディアへの強権的な姿勢で知られた。だが、今回は柔軟だ。

当初は自らが教育相を兼ねると表明したが、権力集中を懸念する声が上がるとあっさりと撤回。前政権下で制定された「フェイクニュース対策法」についても、当初は存続させる意向を示したが、批判されるとすぐに廃止すると言明した。
 
前のマハティール政権下で、治安維持法違反で収監されたモハマド・サブ新国防相は「首相はいま『独裁者』をやめる練習をしている。閣議でも批判的な意見に耳を傾けてくれる」と話す。地元メディアはこうした姿勢を「バージョンアップした『マハティール2・0』だ」などと評価する。
 
ただ、マハティール氏は初めて首相に就いた際、民主化政策を打ち出しながら後に強硬姿勢に転じた。それだけに警戒感を持つ人も多く、NGOの連合体「ブルシ(清廉)」のシャルル・アマンさんは「大事なのはこうした新政権の姿勢が続くかどうかだ。注視していかなければならない」と話す。【6月9日 朝日】
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92歳で“『独裁者』をやめる練習”が効果をあげるのか・・・。(人間はいつになっても変われるとも言えますし、そうそう変わるものではないとも・・・・)

入りやすい入り口“ナジブ前首相の汚職疑惑追求” 財政再建には困難な道のり
もともと、マハティール氏の政界復帰は、ナジブ政権下で権力中枢への道を阻まれた自身の息子の政権への道を切り開くため・・・との憶測・批判もありましたが、もちろん、そうした見方を本人は否定しています。

マハティール氏が政権を譲るとしている同性愛行為の罪で服役していたアンワル元副首相(70)に国王の恩赦を受けさせ、アンワル氏は5月16日に釈放されました。

首相に就任するには国会議員になる必要があるため、アンワル氏は今後、補選の機会をうかがい、国政復帰を目指すことに。
“ただ、マハティール首相(92)は2年程度は首相の座にとどまる意向で、権力の移譲には曲折も予想される。”【5月16日 産経】とも。

釈放されたアンワル氏と立場が一転したのがナジブ元首相。

****<マレーシア>ナジブ前首相を事情聴取 汚職対策委****
巨額の不正流用が取りざたされるマレーシアのナジブ前首相は22日、汚職対策委員会(MACC)の本部に出頭し、事情聴取を受けた。自身が設立した政府系ファンドの元子会社から個人口座に送金された資金について聴取されたとみられる。ナジブ氏は約5時間後に本部を出た。再聴取は24日にも行われる予定。
 
疑惑追及の徹底を掲げるマハティール首相は21日、政府系ファンド「1MDB」に対する特別捜査チームを設立。MACCや警察、中央銀行などで構成され、米国やスイス、シンガポールなどの捜査機関とも協力し、不正の全容解明を目指す。
 
一方、地元紙によると、警察が18日までにナジブ氏の自宅などから押収した現金は「多額過ぎて集計が終わっていない」という。現金のほか高級ブランドのバッグや宝飾品も大量に押収された。

ナジブ氏の妻ロスマさんの散財ぶりは、数千足もの靴を所有していたフィリピンのマルコス元大統領夫人をなぞり「マレーシアのイメルダ」と報じられている。【5月22日 毎日】
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夫ナジブ氏を叱咤激励し、とかく前面に出てくる妻ロマスさんとマハティール首相は犬猿の仲とか。今後の「マレーシアのイメルダ」ロマスさんの運命も危うそうです。

ナジブ政権の汚職追及は公約でもあり、国民受けもしますし、一番手をつけやすいところでしょう。
ただ、公約の“消費税廃止”などもあって、懸案の財政再建は時間を要します。

****マハティール氏、「負の遺産」集中処理 ナジブ前首相追及急ぐ 政権交代1カ月 財政再建に課題 ****
マレーシアで1957年の独立以来、初の政権交代が実現してから1カ月がたった。

マハティール首相はナジブ前首相の汚職疑惑など前政権の「負の遺産」の清算を加速。消費税の廃止といった国民受けする政策も早速実行し、政権交代の意義を訴えるのに懸命だ。ただ、財政再建の道は険しく、政権運営が安定するのにも時間がかかりそうだ。
 
汚職体質からの決別を掲げて5月9日の総選挙に勝利したマハティール氏が首相就任後、真っ先に取り組んだのがナジブ氏の責任追及だ。政府系ファンド「1MDB」の資金を不正に流用し、7億ドル(約770億円)近い資金を受け取ったとの疑惑に対し、汚職対策委員会が2度にわたって長時間の事情聴取を実施した。
 
ナジブ夫妻の関係先から多額の現金や宝石類、高級バッグを押収したとも発表し、国民に前政権の腐敗ぶりを印象づけた。マハティール氏はナジブ氏の立件にも自信をみせる。
 
政権交代によって明るみに出たのは、前首相個人の異常な蓄財だけではない。国の債務額が従来の公表値を大幅に上回る1兆リンギ(約28兆円)に上ることや、1MDBの債務返済のために財務省や中央銀行が不適切な取引に手を染めていたことも明らかになった。

マハティール氏は法務長官、財務次官、中央銀行総裁といった関係機関のトップを次々に更迭し、国全体に巣くった汚職の根を断ち切ろうとしている。
 
こうした負の遺産との決別はマレーシアが国内外からの信認を回復するために必要である一方、新政権の公約実行の重荷になっている。

マハティール氏は総選挙で、消費税の廃止や高速道路の無料化、燃料補助金の復活といった公約を掲げた。目玉である消費税の廃止こそ6月1日付で実施したものの、高速道路料金については今のところ2日間の割引でお茶を濁している。
 
首都クアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道計画の中止を発表するなど、財政難の影響は国の基盤であるインフラ整備にも及んでいる。

マハティール氏は「多額のお金がかかるだけで、利益にならない」と主張するが、隣国とを結ぶ大型鉄道の開通は周辺開発を促進し、ヒトやモノの行き来を活発にする効果が見込めた。

マレーシアの債務水準はアジアの中でも比較的高く、新政権が財政再建と将来の経済成長の基盤づくりを両立するのは容易ではない。
 
政権の体制整備も遅れている。当初は5月中にも全閣僚を任命する予定だったが、外交を担う外相や通商交渉・産業政策を担当する貿易産業相など10近い閣僚ポストが依然空席だ。
 
華人のリム・グアンエン氏を財務相にあてるなど、マハティール氏はこれまで主流だったマレー系以外の人材の登用を進めている。

多民族国家の融和につながるとの評価がある半面、民族にこだわっていては組閣や省庁幹部の任命ができないという苦しい台所事情も映し出している。これまで野党だった希望連盟には経験豊富な政治家が少なく、92歳のマハティール氏の手腕に頼る状態が続いている。
 
米調査会社ユーラシア・グループのピーター・マンフォード氏(アジア担当)は「マハティール氏の復讐(ふくしゅう)心や独断によって政策や人事が決まる傾向が強まれば、本来は良い政策が退けられ、内閣が機能しなくなるリスクが高まる」と指摘する。
 
マハティール氏は1~2年後に、かつて政敵だったアンワル元副首相に首相職を禅譲する方針を公言している。アンワル氏への移行を円滑に進めるためにも、全閣僚による集団統治の体制を早々に軌道に乗せ、マハティール氏頼みを脱する必要がある。【6月8日 日経】
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高速鉄道計画中止に、利権絡みの問題指摘も
日本で一番関心が持たれているのが、新幹線も中国との受注競争に参加していた首都クアラルンプールとシンガポール約350キロを約1時間半でを結ぶ高速鉄道計画の中止です。

「多額のお金がかかるだけで、利益にならない」という財政上の理由のほか、ナジブ前政権の中国寄り姿勢を転換するものとしても注目されています。

****マレーシア中国離れ 高速鉄道計画中止****
(中略)
マハティール首相の中国依存脱却姿勢
受注競争が激化していた高速鉄道の車両の提供や線路の建設などを担う「鉄道資産会社」の入札には中国が中国鉄道総公司を中心とするコンソーシアムで参加する意向を示し、日本もJR東日本、住友商事、日立製作所など10社で受注を目指していた。このほかにドイツ、フランス、イタリア、オーストリアが参入を表明、受注を目指していた。

ナジブ前首相が親中国であることからこれまで中国が有利との見方が強かったが、4月19日に当初予定していた6月29日の入札締め切りを事業者から「準備が間に合わない」との要請が相次ぎ、今年12月28日に入札を延期、受注者決定は2018年末から2019年にずれ込む可能性が出ていた。開業予定の2026年は変更なかった。

マハティール首相の「中止決定」の背景にはまだ入札前であることも影響したという。

マレーシア国内の駅予定地周辺では中国が関係するインフラ整備案件が複数進んでいる。たとえば、主要駅となるマラッカでは沖合に約550haの大規模埋め立てが地元企業と中国企業によって進められている。

埋立地には商業施設、マンション、工業団地などを誘致する方針で、鉄道計画が白紙になったことで今後開発を中国側が継続するのかが注目される。

このように今回のマハティール政権の大型インフラプロジェクト見直しは、ナジブ前政権の中国への過度の依存を再検討するもので、今後もマレーシアの「中国離れ」は加速するものとみられている。

マレーシアでの巨大プロジェクトを「一帯一路」の要の一つと位置づける中国政府が、こうした新政権の「中国離れ」にどう対応するか、今後の両国関係からも目が離せない。【6月3日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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ただ、老獪なマハティール氏ですから、単に国の財政問題を憂えて・・・というだけでなく、利権絡みの話もあるのではとの見方もあるようです。

****マレー高速鉄道“撤回”は利権奪回の布石? 92歳マハティール首相の積年の思い****
(中略)すでに入札手続に入っていた国家間プロジェクトをシンガポール側に事前通告なしに白紙撤回した判断で、受注を目指していた日本企業にも困惑が広がる。

乱暴に見える判断の根底には、92歳で15年ぶりにマレーシア首相に返り咲いたマハティール氏の個人的な思惑もありそうだ。

(中略)シンガポールの日本企業関係者は「希望的観測を含め、完全白紙撤回と言い切っていいかは、まだ正直迷うところ」と打ち明ける。

マハティール氏は、シンガポールの初代首相のリー・クアンユー氏(2015年に91歳で死去)と、経済開発で競い合うとともに、政治的ライバルだった。(中略)

両国は近年、ナジブ氏やリー現首相ら次世代が、協調路線を推進してきた。その端的な例が、過去の鉄道問題解消と、高速鉄道計画だったといえる。
 
マレーシア国営鉄道が所有していた、シンガポール南部のタンジョンパガー駅をはじめとする用地が、ようやくシンガポールに返還されたのは2011年。ナジブ氏とリー現首相が10年の首脳会談で、マレーシア側が鉄道用地を返還するのと引き換えに、シンガポール中心部2カ所を、両国の政府系投資会社が共同開発することで合意。土地や権益をめぐる長年の争いを「ビジネス」で解決した。

そして、シンガポールの資本や技術を取り込みたいマレーシア、狭い島国として後背地を得たいシンガポール、両国の思惑が、高速鉄道計画につながった。(中略)

だが、マハティール氏は、「多大な費用がかかり、もうからない」と廃止理由を語った。同計画の事業費は、500億~700億リンギットと見積もられていたが、「1100億リンギットはかかる」と、見積もりを引き上げて「財政再建」を廃止理由にした。

そこに、リー初代首相との争いを繰り広げた、マハティール氏のシンガポールへの「敵対心」を感じた人は多い。
 
マハティール氏が、高速鉄道計画廃止の決定を急いだ背景には、利権奪回の狙いも見え隠れする。

マレーシア側の高速鉄道最終駅建設予定地であるクアラルンプール中心の開発地を含め沿線では、ナジブ氏の影響力が指摘される不動産投資が進められてきた。

マレーシアではインフラ開発に関わる汚職の噂が絶えない。計画廃止で前ナジブ政権の利権構造がリセットされれば、マハティール氏が表紙をかえて、高速鉄道計画を再開する可能性はある。(後略)【6月7日 産経】
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単純ではない中国との関係見直し
高速鉄道だけでなく、中国「一帯一路」戦略の重要役割(シンガポールを封鎖された場合を想定すると、中国にとって「一帯一路」の生命線とも)を担う東海岸鉄道(ECRL)事業の見直しも俎上に。

****マレーシア、中国の“野望”に反旗 国内最大規模の鉄道建設も見直し本格化****
マレーシアのマハティール首相は、28日に表明した高速鉄道計画の廃止に並び、同国最大規模の鉄道建設計画の見直しも本格化。中国の「一帯一路」の“野望”が、逆回転を始めた。
 
マハティール氏は、東海岸鉄道(ECRL)事業について、中国と契約条件の再交渉を行っていると、28日付のマレーシアの経済誌エッジに語った。
 
ECRL計画は、タイ国境近くから、中国が開発を進める東海岸クアンタン港を経由し、西海岸のクラン港まで全長約690キロを結ぶ。昨年8月、着工した。
 
だが、マハティール氏によると、総額550億リンギット(約1兆5千億円)の事業費は、融資する中国輸出入銀行から、受注した中国交通建設に直接支払われ、マレーシア側は一度も引き出していない。支払いは出来高でなく計画ベース。利息も含むと、中国への債務は920億リンギットに。前政権が続いていれば「国は破綻していた」と非難する。
 
16年の中国からの直接投資は、「一帯一路」の名の下、前年比約7倍に急増(日本貿易振興機構調べ)。過度に中国へ依存した前政権から、軌道修正を図るとみられる。(中略)
 
採算性や必要性が不明確なまま、巨額のインフラ資金を融資し、不透明な資金を得た親中政権が、国民の審判を受ける。「開発独裁」につけ込んで周辺国を債務不履行に陥れ支配する。そんな中国の思惑に、限界が見え始めている。【5月28日 産経】
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マハティール首相は6日、首都圏と半島東海岸を縦断する東海岸鉄道(ECRL)事業について、財政上の理由から、延期または中止の方向で検討していることを明らかにしています。

ただ、中国の“野望”云々はともかく、中国との関係は一国の指導者としてはいたずらに刺激・対立して済む話ではないことは当然です。

****マハティール首相が中国からの投資容認 当選後は一転して「ルック・チャイナ****
マレーシアのマハティール氏が首相就任後、中国が投資する大型開発事業について、「再審査はするが、両国間で協議された内容は順守する」と述べ、中国寄りに大きく路線転換した。
 
ナジブ前政権はマレー半島縦断高速鉄道、マラッカ海峡の港湾設備などで中国資本に頼る姿勢だったが、マハティール氏は選挙戦で「中国資本に依存すると、国の主権を奪われかねない」と懸念を表明していた。

しかし、当選後は「中国人の積極的でまじめな仕事ぶりには学ぶところがある」と待ち上げ「ルックーチャイナ」を強調した。

マレーシアのメディアは、首相の中国投資批判は選挙対策用のポーズだったと分析した。【「選択」6月号】
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このあたりの中国との“取引”は、老獪なマハティール氏の得意とするところでしょう。ただ、同氏がかつて政権を担っていたときに比べ、中国の力は圧倒的に強くなっています。そこを見誤ると中国に飲み込まれてしまいます。
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