孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  銃乱射事件ふたたび トランプ前大統領、銃規制強化ではなく学校の警備強化を求める

2022-05-28 22:15:30 | アメリカ
(ライフル協会年次総会で演説するトランプ前大統領【5月28日 TBS NEWS DIG】)

【飲酒は21歳から、ライフル銃は18歳から】
24日にアメリカ・テキサス州ユバルディで起きた児童19人を含む21人が死亡した銃乱射事件・・・・正直な感想は「またか・・・」というもの。14日には黒人が多く住むニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットで黒人10人が自称白人至上主義者に射殺されたばかりです。

バイデン大統領も「もううんざりだ」と行動を求めてはいますが・・・

****米バイデン大統領「もううんざりだ」 小学校で銃乱射、児童ら21人死亡…容疑者の高校生は警官に撃たれ死亡****
アメリカ・南部テキサス州の小学校で24日、銃の乱射事件がおき、地元当局によりますと、児童19人と教師2人の21人が死亡しました。(中略)

容疑者は地元に住む18歳の高校生で、現場にかけつけた警察官に撃たれて死亡しました。(中略)事件のあったユバルディはヒスパニック系が多く住む地域でした。容疑者は事件の前に祖母を撃ったということですが、事件との関連や詳しい動機などはわかっていません。

また、日韓訪問を終え帰国したばかりのバイデン大統領も急きょ演説し、「もううんざりだ。今こそ、この痛みを行動に移す時だ」と述べ、銃規制の強化を訴えました。【5月25日 日テレNEWS24】
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犯行に使用されたのは、AR-15半自動ライフル銃。飲酒は21歳からですが、ライフル銃は18歳で購入できる・・・というのがアメリカ。

****飲酒は禁止、でも半自動ライフル銃=AR15は合法的に購入・所持できるアメリカの18歳****
(中略) 
ライフル銃は18歳、拳銃は21歳から購入“合法”
一方、アメリカでの銃の購入・所持の制度は一体どうなっているのか?

良く知られている通り、銃を持つ権利は合衆国憲法修正第2条で認められている。そして、アメリカ連邦政府のルールでは、購入者の最低年齢は、ライフル銃は18歳。拳銃は21歳とされている。ちょっとびっくりじゃないですか?

それにより、現状、アメリカの50州のうちテキサス州を含む44州では、18歳になったら合法的にライフル銃を購入できる。残りの6州は、2018年にフロリダ州パークランドの高校で起きた銃乱射事件を受けて、18歳から21歳に引き上げられた。(中略)

AR-15は、アメリカ軍が使うM-16自動小銃の民生型で、高性能と信頼性がウリだ。そのためアメリカ社会に広く普及しており、一方で殺傷能力も高いため、銃乱射事件での登場頻度も高いベストセラーだ。そんなライフル銃を18歳になったばかりで(親の同意などもなしに)合法的に買える。それが銃社会アメリカの実態だ。(中略)

お酒は20歳になっても飲めないのに…
もう一つ、年齢との関係で言えば、アメリカの成人年齢は18歳だが、一部の州は19歳や21歳などと定めている。飲酒については全米一律21歳になってからだ。

成人年齢と銃の購入、そして飲酒の年齢はそれぞれに関連し合っていそうだが、「成人になっても酒は飲めないが、AR-15は買える」。それが憲法が認めるアメリカであり、NRA=全米ライフル協会はこの状況を守り抜くために、一切の規制強化に反対する。

日韓歴訪から帰国したばかりのバイデン大統領が、その疲れにもかかわらず感情的な演説をしようと、そんなのは笑止千万なのだ。【5月27日 FNNプライムオンライン】
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【多くの国民は銃規制強化に賛同しているが・・・】
この種の事件の度にメディアでは銃規制の必要性が論じられますがほとんど進展がなく、事件が起きるたびに人々は銃砲店に押し寄せ銃を買い求めるという現実も。

銃規制を求める世論がない訳ではなく、むしろ数字的には国民の大半が規制強化を求めています。

****米国民の大半が銃規制強化支持、議会対応には確信弱く=調査****
25日に発表されたロイターとイプソスの世論調査で、米国民の大半が銃規制法の強化を支持する一方、一連の銃乱射事件を受けても議会が対応するとの見方は多くないことが分かった。

調査は940人に実施。前日にはテキサス州の高校で21人が死亡した乱射事件が起きたほか、14日には黒人が多く住むニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットで黒人10人が自称白人至上主義者に射殺されている。

調査では、回答者の84%が全ての銃器販売での経歴調査を支持。公共の安全に脅威とされる人物の銃を差し押さえる「レッドフラッグ法」を支持した回答者は70%だった。

さらに、銃購入が可能となる年齢を18歳から21歳に引き上げることに賛成する回答は72%だった。

こうした政策は民主党、共和党で一応に大半が支持しており、これまでに公表された調査結果と一致している。

しかし、大半の回答者は議会が行動するとは考えておらず、年内の銃規制法強化を確信しているとの回答が35%にとどまったのに対し、その確信はないとの回答は49%だった。【5月26日 ロイター】
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議会が行動するとは考えていない・・・大きな理由としては後述の全米最強のロビー団体ライフル協会の問題がありますが、それにしても上記のような規制強化を求める国民が多いのに規制強化が前進しない、むしろ多くの州では緩和されているという現実は日本人には理解し難いところです。

憲法で銃所有の権利が保護されていること(想定している状況が憲法制定時と今では全く異なりますが)に加え、銃規制に反対する人々の論理は、悪いのは銃ではなく、犯人の精神状態が問題、事件を防ぐには「銃を持った善人」を増やして犯人に反撃すること、銃が持つ悪人が多い現状で銃規制を強いるのは銃の犠牲者になることを強いるもの・・・といった考え方です。

【アボット知事に詰め寄るオルーク元下院議員】
とりわけ、今回事件が起きたテキサス州は銃乱射事件が続発する土地柄ですが、事件に関しての会見を行うアボット知事(共和党)に対し、オルーク元下院議員(民主党)が「これはあなたの責任だ」と壇上に詰め寄り退場させられる場面も。

テキサス州は銃規制に消極的な共和党が強い州ですが、オルーク氏は2018年の上院選で現職のテッド・クルーズ氏を約3ポイント差まで詰めて一躍注目を集め、20220年の大統領選にも名乗りを上げています。

****今週もまた…米国で繰り返される銃乱射事件 歴代ワースト10でテキサス州が半数占める訳****
(中略)年々増加する米国の銃乱射事件だが、過去に米国で発生した犠牲者数の多い銃乱射事件ワースト10のうち、半数がテキサス州で発生していた。その理由とは―。

テキサス州ユバルディで24日午前、地元の高校に通っていた18歳のサルバドール・ラモス容疑者が、「(同居する)祖母を撃った」とフェイスブックに投稿し、続けて、「これから学校で銃撃する」などと犯行を予告する内容の投稿をしていたことが分かった。最初に撃たれた祖母は重傷を負ったとしている。

AP通信によると、容疑者は今月、現地で合法的に銃が購入できる18歳の誕生日を迎え、地元の銃砲店でライフルや弾薬を相次いで購入していた。学校でいじめを受けていたとされるが、詳しい犯行の動機などは明らかになっていない。

事件を受けてバイデン大統領は、銃規制強化の重要性を訴えたが、共和党のアボット・テキサス州知事は会見で、その必要はないとし、銃規制をめぐる意見の隔たりが改めて浮き彫りとなっている。

同州オースティンのNBC系列のテレビ局KXANは、過去に米国で起きた銃乱射事件のうち、今回を含む犠牲者数の多い事件ワースト10の半数が同州で起きていると伝えた。

テキサス州は人口規模では全米でカリフォルニア州に次いで2番目。だが、カリフォルニアがワースト10に入っているのは1984年にサンディアエゴのマクドナルド店で21人が死亡したサン・イシドロ・マクドナルド銃乱射事件だけだ。

その全米ワースト10のうち、テキサス州で発生した事件は、24日のもの以外は次の通り。

●1966年8月1日 テキサスタワー乱射事件
元海兵隊員で大学院生だったチャールズ・ホイットマン(当時25)は、テキサス大学オースティン校にある本館時計塔に狙撃ライフルなど銃器を持って立てこもり、銃を乱射。妊娠中の女性を含む14人を殺害、30人を負傷させた。うち2人は撃たれた傷がもとで後日亡くなった。ホイットマンは警察の狙撃部隊により射殺された。

●1991年10月16日 ルビーズ銃乱射事件
ジョージ・へナード(当時35)は、同州中部キリーンにあったレストラン「ルビーズ・カフェテリア」のガラス窓を車で激突させて突き破り、店内にいた客など43人を撃った後、トイレに隠れ、自殺した。この事件で23人が死亡、27人が負傷した。

●2017年11月5日 サザーランド・スプリングス教会銃撃事件
デビン・パトリック(当時26)はサザーランド・スプリングスのファーストバプテスト教会に押し入り、妊婦を含む26人を射殺し、22人が負傷した。パトリックは運転してきた車の中で自殺した。

●2019年8月3日 エルパソ銃乱射事件
米スーパーマーケットチェーン「ウォルマート」のエルパソ店に、自動小銃で武装したパトリック・クルシウス(当時21)が侵入し、銃を乱射。客ら22人が死亡し、数十人が負傷した。事件後、クルシウスは自首。裁判で被告は無罪を主張し、連邦と州裁の2つの裁判所で公判が行われる。

ちなみに、全米ワースト1は17年10月1日にネバダ州ラスベガスで起きたラスベガス・ストリップ銃乱射事件。ラスベガスの野外コンサートの観客を標的とし、ホテル32階の部屋から無差別に銃を乱射し、60人が死亡、867人が負傷した史上最悪の大量殺人。パドックは警官隊の突入前に自殺したとみられている。

(中略)では、なぜテキサス州でそのような銃乱射事件が後を絶たないのか。
その象徴的な出来事が事件後、アボット知事の記者会見中に起きた。学校の講堂で行われた会見を聞いていたオルーク元下院議員(民主党)が壇上に詰め寄り、「知事、言いたいことがある」と声を上げた。「(事件は)予測出来なかったと言ったが、十分に予測できた」などと主張。不適切な発言だとされ、オルーク氏は講堂から退場させられたが、その途中も同氏は知事に向かって、「これはあなたの責任だ」と訴えた。

オルーク氏が知事の責任を追及したのは、昨年9月に施行された銃規制緩和の新法のことだ。免許を取得せずに、一般住民が安全講習を受けなくても公共の場所で銃を人目に見える状態でも持ち歩くことが可能になったのだ。以前は、免許を持つ住民のみが拳銃の携帯を認められ、講習を修了して筆記試験や実技試験に合格することが条件とされていた。

新法の採決では、同州議会下院で共和党は民主党や銃規制推進派の反対を押し切り、賛成82、反対62で可決。アボット知事は、「ローンスター州(テキサス)に自由を浸透させた」と宣言して法案を成立させた。

これにより、CNNは「警察が銃暴力から市民を守ることが一層難しくなる」と専門家は警鐘を鳴らしたと伝えた。「銃を持つ善人と銃を持つ悪人」を警官が見分けるのが難しくなったというわけだ。

それでも多くのテキサス州の住民にとっては、「事件があるからこそ銃が必要だし、持ちたい市民の権利をはく奪することは死ねと言うこと」という銃社会独特の思考があり、それは米国の合衆国憲法修正第2条で「銃を持つ権利」がうたわれている。

これだけ全米各地で銃による犯罪が繰り返される中、テキサス州のように銃規制を緩和する州が増えつつあるのも現実だ。

これまで多くの共和党候補の支援してきた〝全米最強のロビイスト〟と呼ばれる全米ライフル協会(NRA)は27日(日本時間28日)、テキサス州ヒューストンで年次総会を3日間の予定で開く。トランプ前大統領も出席するこの会議で何が語られるか、世界中から注目が集まる。【5月27日 The News Lens】
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【トランプ前大統領 ライフル協会年次総会で「銃を持った悪人を止める唯一の方法は、銃を持った善人」】
でもって、注目された〝全米最強のロビイスト〟と呼ばれる全米ライフル協会(NRA)の年次総会。
テキサス州のアボット知事(共和党)は、直接出席せず、録画したビデオ演説を行うとのことでしたが、中間選挙を控えて活動を強めているトランプ前大統領は出席して演説。

****「銃を持った悪人を止める唯一の方法は銃を持った善人」 トランプ氏、銃規制の強化でなく“警備強化”訴え 米テキサス州****
銃の乱射事件が起きたアメリカ南部テキサス州で銃を持つ権利を主張する「全米ライフル協会」の年次総会が開かれ、トランプ前大統領が演説しました。

アメリカ トランプ前大統領
「昔から言われているが、銃を持った悪人を止める唯一の方法は、銃を持った善人。聞いたことはあるかい?」

テキサス州では24日に小学校で21人が死亡する銃の乱射事件が起きたばかりですが、トランプ氏は演説で銃規制の強化ではなく、学校に警察官や警備員を配置するなど警備強化を訴えました。

銃規制強化を求める市民
「アメリカだけで銃乱射事件が起きているのは恥ずべきことです。アメリカは変わらなくてはなりません」

一方、会場近くでは抗議集会が開かれ、「子どもたちを救え」などと書かれたプラカードを掲げ銃規制の強化を訴えました。【5月28日 TBS NEWS】
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“トランプ氏は演説で「暴力的で精神的に錯乱した者を精神病院に留め置くことをはるかに簡単にする必要がある」と指摘。また学校のセキュリティー向上に強力なフェンスや金属探知機を備えるほか、全ての学校に警官または武装した警備員を常に配置することも必要だと訴えた。”【5月28日 ロイター】

教師に銃を持たせることで学校が安全になるとも。

日本人的には「いや、いや。先ずは規制強化だろう」というところですが、常識が異なるようです。(前述のようにアメリカでも共和党支持者を含め、多くの国民は規制強化を求めていますが・・・)

【選挙活動・集票に直結する一部の「大きな声」に引きずられる党・議員】
一般世論と政党・議員の行動の乖離は人工中絶問題でも見られます。

****米民主党、妊娠中絶政策で支持集める=世論調査****
 ロイター/イプソスの世論調査によると、米国では人工妊娠中絶について、共和党の政策よりも民主党の政策を支持する有権者が多かった。共和党員の5人の2人は、同党の中絶政策を支持しないと回答した。

調査は今月16─23日に実施した。連邦最高裁が中絶の権利を認めた1973年のロー対ウェイド判決を覆す可能性が指摘される中、有権者の間で不安が広がっていることが浮き彫りとなった。

調査対象の成人4409人のうち、34%は民主党の中絶政策を支持すると回答。共和党の中絶政策を支持するとの回答は26%だった。残りの回答者は「どちらも支持しない」もしくは「分からない」と答えた。

61%の有権者(共和党員の38%、無党派の39%)は、中絶を禁止したり厳格に制限する法案を支持する候補に投票する可能性は低いと回答した。【5月27日 ロイター】
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党・議員にとっては、常識的な多数の一般的な声よりも、選挙活動に直結する一部の者の大きな声が優先する・・・ということでしょうか。

そうした“大きな声”を利用するトランプ前大統領は・・・という話にもなりますが、そこらは長くなるのでまた別機会に。

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アフガニスタン  独自の思考を市民に強制するタリバン 女性には顔を隠す服装命令

2022-05-27 23:18:11 | アフガン・パキスタン
(【2019年9月14日 GNV】 タリバンが推奨するブルカ姿の女性 これでは誰が誰かもわかりません。
なお、この写真はタリバン再支配以前の2019年当時のもので、女性が示す指先のインクは投票済みの印。今後はタリバン支配のもとで選挙も行われなくなり、こういう光景も見ることもなくなるのでしょう)

【日本の憂うべき「マスク依存症」】
落ち着く傾向の新型コロナ感染状況、あるいは、感染被害を一定に抑制できる状況になってきたことを受けて海外では各種規制の撤廃、“普通の生活”への回帰が進んでいますが、日本でも5月20日、厚生労働省は新型コロナウイルス対策のマスク着用について、人との距離が2メートル以上あれば、屋内でも屋外でも、多くの場合はマスクを外せるとする基準を公表しました。

欧米ではマスクで顔を隠すことへの違和感が強く、コロナ禍の間もマスク着用義務をめぐる議論・抗議が多くありましたが、日本人はマスクへの抵抗感があまりなく、むしろ顔を隠せることで安心感が得られ、マスク着用が必要になってもマスクを外せない「マスク依存症」的な傾向があるようです。

****マスクなしの素顔が恥ずかしい? 長引くコロナ、子どもに「依存」広がる懸念 専門家「発育妨げる」弊害訴え****
長期の新型コロナウイルス流行でマスク着用が常態化し、素顔を見せることを恥ずかしがる子どもが増えている。専門家は「コミュニケーションの発達や不登校に影響しかねない」と懸念し、子どものマスク着用の弊害を訴える。

◆オンライン授業なのにマスク着用
3月、東京都内の母親(29)は自宅でオンライン授業を受ける小学4年の娘(10)を見て不思議に思った。自宅ではふだんマスクを外し、以前はオンライン授業も素顔で参加していたが、この時はマスクを着けていた。理由を聞くと「みんな着けているから何となく」。画面の子どもの半数がマスク姿だった。
 
母親は「外でマスクを外していいと伝えた時も娘は恥ずかしがった。以前より素顔をさらすのが不安になっている」と心配する。
 
調査会社「日本インフォメーション」が2月、10~60代の会員約1000人を対象にインターネット調査を実施したところ、「コロナ収束後もマスクを使用するか」との質問に対し、10代は男女ともに約5割が「いつも必ず使用」か「できるだけ使用」と答えた。
 
理由は、10代女性では「かわいい、きれい、かっこよく見える」が最も多く、感染対策と関係がなかった。実際、東京・原宿で尋ねると、女子高校生(17)は「素顔を見せられるクラスメートは5人くらい。今さら外せない」と苦笑した。

◆「マスク依存」はコロナ前からある
「マスク依存の子どもが増えている可能性がある」と警告するのは、赤坂診療所(東京都港区)でマスク依存の患者を診てきた精神科医の渡辺登さんだ。従来のマスク依存について「人前に立つことを極度におそれる『社会不安障害』のある方らが、表情を隠すために着用していた」と説明する。依存に陥ると意思疎通が難しく、孤立して不登校や引きこもりになるリスクが増えるという。
 
広島県の男子大学院生(23)はコロナ禍前にマスク依存を経験した。「高校入学時に花粉症対策で着用したら、表情を隠せる安心感で外せなくなった」と振り返る。「コミュニケーションに困る」と悩んだ末、大学進学を機に自力で脱却した。国民のほとんどがマスク姿の現状には「望まずに依存する人が増えないでほしい」と願う。
 
渡辺さんは「子どもは顔にコンプレックスを抱えている場合も多い。感染対策のはずが、素顔を隠すことに利点を持つと、将来マスクを外せなくなりかねない」と強調。「感染リスクがない時はできるだけ外させた方がいい」と指摘した上で、「着用をやめるタイミングを政府が示してほしい」と求める。【5月10日 東京】
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他人の視線を遮断できて安心感が得られる「匿名性」への依存は、子供や女子学生、若者だけでなく会社でも「プレゼンテーションをする際に、マスクを装着していると視線が気にならずに落ち着く」 「苦手な上司と仕事をする時も、マスク越しであれば気持ちが楽になる」などの理由で広がっているようです。

前出【東京】にもあるように、「マスク依存症」的傾向は新型コロナ以前からあり、特に若い女性に“マスク女子”が目立っていました。

話は飛躍するようですが、欧米社会でイスラム教徒女性の顔を覆う服装が問題になる件を取り上げる際に、「匿名性」に隠れず、個人が面と向き合って接触するのが市民社会におけるコミュニケーションの基礎であり、日本の「マスク女子」の傾向は好ましくない風潮だと思っている旨をこれまでも述べてきました。

新型コロナによって、日本人のこの風潮が拡大し強固になったようで案じられます。

「マスク依存症」は市民社会のコミュニケーションを阻害するだけでなく、こういう他人の評価を恐れる「内向きベクトル」は、これまた話が飛躍しますが、日本の「失われた30年」をもたらしたものにも通じるもので、おそらく今後の「失われた数十年」、「沈下する日本」をもたらすメンタリティーだと思っています。

そんなにマスクが好きなら、イスラム教に改宗してニカブかブルカでも被れば?」と言いたくもなりますが・・・。

【タリバン 女性に顔を隠す服装命令 欧米は批判】
そんな日本の話はさておき、イスラム原理主義勢力タリバンが統治するアフガニスタンでは、タリバンがその本来の主張を徐々に露わにしつつあります。

****アフガンのタリバン、女性に顔を隠す服装命令 全身覆うブルカが「最善」****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の勧善懲悪省は7日、女性が公共の場で、目の部分以外の顔を布で覆わなければならないとの命令を発表した。従わなければ父親などの近親男性が投獄されたり、男性が公務員であれば解職されたりする場合があるとしている。

同省は、最も良いのは全身を覆う青い「ブルカ」だとした。アフガンの女性の大半は髪を隠すスカーフをつけているが、首都カブールなどの都市部では顔は隠していない女性が多い。

公共の場でのブルカの着用はタリバンが1996年から2001年まで政権を掌握した際に女性に強制された。

発表を受けて国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は同日、「タリバンが表明してきた女性の人権の尊重と保護と矛盾していることを深く懸念している」との声明を出し、タリバンに即刻協議を求めるほか、他の国際組織と相談するとした。

米国などは既にアフガン開発援助を打ち切り、同国の銀行システムに制裁を科している。【5月9日 ロイター】
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日本の女性(一部男性も)なんかは、こうしたタリバン命令を大歓迎するのでしょうが、欧米基準では女性の人権の尊重に反するものとみなされます。

****米、タリバンが方針転換しなければ圧力拡大 女性の権利巡り****
米国務省のプライス報道官は9日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が最近決定した女性の権利を制限する方針を転換しなければ、圧力を強める用意があると表明した。

ブリーフィングで「われわれには複数の手段があり、方針が転換されないと感じれば、講じる用意がある」と述べた。具体的な措置の詳細や、タリバンがどのように方針を転換する可能性があるのかには言及しなかった。(中略)

タリバンは女性の就労や女子の通学なども制限している。【5月10日 ロイター】
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****タリバンの女性の権利制限でアフガン孤立化、G7外相が人権尊重訴え**** 
主要7カ国(G7)の外相は12日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権による女性や少女の権利の制限がアフガンを国際社会から孤立化させているという見解を示した。

G7外相と欧州連合(EU)の外交政策トップは、フランスが公表した共同声明で、女性と少女に対する制限を解除し、人権尊重に向けた緊急行動を取るようタリバンに要請した。

タリバン暫定政権の勧善懲悪省は7日、女性が公共の場で、目の部分以外の顔を布で覆わなければならないとの命令を発表。従わなければ父親などの近親男性が投獄される場合があるとした。【5月13日 ロイター】
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【TV女性司会者に対しても同様指示】
一部女性は街で抗議の声をあげています。(タリバン支配の状況でのこの種の抗議は多大な危険を伴います)

****全身覆う衣装着用に抗議=アフガン女性「正義を」と訴え****
アフガニスタンの首都カブールで10日、イスラム主義組織タリバン暫定政権が女性に公共の場で全身を覆う衣装の着用を義務付けたことに対し、十数人の女性が抗議活動を行った。多くが顔を隠さずに、「正義を」とシュプレヒコールを上げた。
 
タリバンは全身を覆うブルカの着用が最適としているが、女性らは「ブルカは私たちのヒジャブ(頭部を覆うスカーフ)ではない」と叫んだ。

女性の一人は「私たちは家の片隅に閉じ込められた動物としてではなく、人間として生きたい」と訴えた。タリバンは外に重要な仕事のない女性に「家にいるよう」命じている。【5月10日 時事】 
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ブルカの問題は単に服装の問題ではなく、女性の就労・教育を否定して「家にいるよう」命じるようなタリバンの歪んだ女性観を示すものでもあります。

更にタリバンは、テレビ局に対し、女性プレゼンターが放送中に顔を覆うことを徹底するよう求めています。

****アフガンのタリバン、女性TV司会者に顔を覆う服装指示****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、テレビ局に対し、女性プレゼンターが放送中に顔を覆うことを徹底するよう求めた。勧善懲悪省の報道官が19日明らかにした。

同省は今月、女性が公共の場で目の部分以外の顔を布で覆わなければならないとの命令を発表した。

報道官は、メディア関係者が政権の「助言」を快く受け入れたとロイターに述べ、国民もこの措置を歓迎するとの見方を示した。今月21日までに順守する必要があるとも述べた。

従わなかった場合の措置は明らかにしなかった。【5月20日 ロイター】
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“メディア関係者が政権の「助言」を快く受け入れた”とのことですが、この指示に抵抗する女性司会者も。

****女性司会者、顔覆う命令を拒否 タリバンに「抵抗続ける」*****
アフガニスタンのテレビ局「カブール・ニュース」の報道番組の女性司会者が出演中に目の部分以外の顔を布で覆うよう命じたイスラム主義組織タリバン暫定政権に抵抗し、覆わずにニュースを伝え続けている。タリバン独自のイスラム法解釈で女性抑圧を強めていると批判、「カメラの前で闘い続ける」と語る。
 
この司会者はロマ・アディルさん(26)。暫定政権は7日、女性は公共の場で顔を覆うよう命令した。19日には各テレビ局へ女性司会者に従わせるよう指導したが、アディルさんは取材に「イスラムの教えやアフガンの慣習ではなく、従う理由がない」と指摘した。【5月24日 共同】
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アディルさんは放送中も髪を覆うスカーフは使用しています。

私が観光した国の経験で言えば、同じイスラム教の国であるインドネシアやマレーシアでは、あるいはイランでも、髪を覆うスカーフは一般的ですが、それ以上のニカブ(目だけを出すもの)を見かけるのはまれで、ブルカ(目の部分が網目になっており、顔全体を隠すもの)を見かけることはありません。ブルカはアフガニスタン特有の服装です。

ただ、現実問題としては、こうした抵抗を続けるのは困難でしょう。その後多くの女性司会者はヒジャブやベールで目の周囲以外を覆った姿で出演しているようです。

そうしたなか、タリバン指示に抗議する男性司会者もいるようです。

****女性キャスターの顔覆うよう命じたタリバンに抗議、男性司会者がマスク着用****
アフガニスタンの報道専門チャンネル「トロニュース」の総合司会者、ニサール・ナビル氏は、放送が始まる直前に黒いマスクを着用する。イスラム主義組織タリバンの暫定政権が、女性キャスターにテレビ出演の際は顔を覆うよう命じたことへの抗議だ。

「私たちは女性の同僚を支持している。生放送のニュースや政治番組では、抗議としてマスクをしている」とナビル氏は、首都カブールにあるスタジオでAFPに語った。
 
タリバンは昨年8月の実権掌握以来、さまざまな女性の権利を制限してきた。最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダ師は今月、女性に公共の場では顔まで完全に覆うよう義務付け、ブルカの着用が望ましいとした。
勧善懲悪省は、女性キャスターも21日以降は番組出演の際に顔を隠すよう命じた。
 
女性キャスターらは当初この命令に反発したが、22日からはトロニュースのほか、1TV、シャムシャドテレビ、アリアナ・テレビなど各局で、ヒジャブやベールで目の周囲以外を覆った姿で出演している。
 
一方、男性キャスターは命令への抗議運動を開始。黒いマスクを着用してニュース番組に出演するようになった。女性キャスターと共演することもある。
「タリバンは、こうした制限を課すことで報道機関に圧力をかけようとしている。メディアを意のままに操りたいのだ」とナビル氏は指摘する。
 
主要民放局である1TVの編集責任者、イドリース・ファロキ氏は、女性キャスターが顔を覆ったまま3時間も4時間も収録を行うのは難しいとして、「われわれはタリバンが決定を見直し、制限を撤回することを望んでいる」と述べた。
 
だが、タリバンのイナムラ・サマンガニ副報道官は今週、ツイッターへの投稿で、「ネクタイ着用の義務付けが礼儀にかなっているというなら、なぜヒジャブはだめなのか」と主張した。
 
1TVのキャスター、モヒブ・ユースフィ氏は、当局が男性キャスターの服装にも規制をかけるのは時間の問題だとし、「多くの男性キャスターが心配している。私もだ」と述べた。 【5月26日 AFP】
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「ネクタイ着用の義務付けが礼儀にかなっているというなら、なぜヒジャブはだめなのか」とのことですが、タリバンのブルカへのこだわりが単なる服装の問題ではないことは前述のとおりです。

【次第に広がるタリバン的施策】
そうしたタリバンの思考を表す動きも広がっています。

****タリバン、男女一緒の外食・公園利用禁止 西部ヘラート****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは西部ヘラートで、男女が一緒に外食したり公園を訪れたりすることを禁止した。当局者が12日、明らかにした。
 
アフガンは極めて保守的で家父長制の根強い国だが、男女が一緒に外食をする光景はよく見られる。特にヘラートは長年、比較的リベラルな都市と考えられていた。
 
だがタリバンは昨年8月の復権以来、イスラム教の厳格な解釈に従って、男女を隔離する規制を強めている。
 
ヘラート勧善懲悪省のリアズーラ・シーラット氏は「飲食店で男女を分けるよう指示している」と語った。この規則は「たとえ夫婦でも」適用される旨を店主らに口頭で伝えているという。
 
匿名でAFPの取材に応じたある女性は、11日にヘラートの飲食店で店長から夫と別々に座るよう告げられたと語った。
 
飲食店経営のサフィウラ氏(アフガンに多い1語のみの名前)は「命令には従わなければならないが、商売には非常にマイナスだ」と言い、男女同席の禁止が続けば従業員を解雇せざるを得なくなると付け加えた。
 
シーラット氏は、ヘラートでは公園の利用についても、曜日ごとに男女別に分ける法令を定めたと明らかにした。女性は木曜、金曜、土曜で、残りが男性だという。
 
指定の曜日以外に運動をしたい女性は「安全な場所を見つけるか、自宅で行うべき」だと語った。 【5月14日 AFP】
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****タリバン、人権委を廃止 「必要ない」、懸念深まる****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、昨年8月に崩壊した民主政権下で女性や子どもの権利擁護を監視していた独立人権委員会を廃止した。ロイター通信が17日までに伝えた。暫定政権は女性の権利抑圧を強めており、国際社会の懸念を一層深めそうだ。
 
暫定政権のサマンガニ副報道官は「必要性がないとみなされ、予算も計上されなかったため廃止した」と説明。必要とされれば再開するとした。
 
民主政権下の2020年に設立され、タリバンとの直接交渉に当たった国家和解高等評議会や、憲法の履行状況を監督する委員会も同様の理由で廃止された。【5月17日 共同】
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【危機的食料事情】
アフガニスタンは世界でも最悪レベルの食料事情で、本来は大規模な国際支援が必要ですが、タリバンの人権侵害を強める姿勢が障害となって国際支援も滞りがちです。

****アフガン、食料危機続く WFP「かつてない飢餓」****
世界食糧計画(WFP)などは10日までに、イスラム主義組織タリバンが暫定政権を樹立したアフガニスタンで6月から11月にかけ、人口の45%に当たる1890万人が深刻な食料危機に陥るとの予測を発表した。

小麦の収穫期を迎え3〜5月の1970万人と比べ若干改善するが、「かつてない水準の飢餓が継続する」とみている。
 
アフガンでは5〜8月に小麦の収穫期を迎え、人道支援の拡大も状況改善に寄与した。ただ、降水量の少なさから収穫量は平年を下回る見込み。ロシアによるウクライナ侵攻で国際的な食料や燃料価格も高騰。状況改善の妨げとなった。【5月10日 共同】
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太平洋島しょ国地域  中国は安保・経済を含む包括協定を提案 対抗する豪新政権 激しさを増す勢力争い

2022-05-26 22:27:33 | オセアニア
(【5月26日 日経】 オーストラリアが危機感を募らせるのも当然でしょう・・・)

【中国 南太平洋の10か国に対し警察活動、安全保障、データ通信の協力を盛り込んだ包括協定を提案】
旧日本軍の激戦地ガダルカナル島を含むソロモン諸島に影響力を強める中国と、これに反発する米・豪の争いについては、5月4日ブログ“ソロモン諸島  米中つばぜり合いの舞台に 中国による軍事基地化を懸念する米豪”でも取り上げました。

中国の進出は更に拡大して、太平洋島しょ国地域の多くの国と警察活動、安全保障、データ通信の協力を盛り込んだ包括合意を求める計画とされています。

****中国、南太平洋10か国に安保・経済協定を提案****
中国が南太平洋の10か国に対し、安全保障や経済面での協力を大幅に拡大する計画を提案したことが25日、AFPが入手した文書で明らかになった。当該国の首脳からは、中国の影響力拡大を懸念する声も上がっている。
 
入手した文書は、「包括的発展の展望」と題された協定の草案と5か年計画。中国の王毅外相が26日に開始する太平洋諸国歴訪で各国と協議し、30日にフィジーで開く外相会合での承認を目指すとみられる。
 
中国は10か国に対し、数百万ドル(数億円)規模の援助、自由貿易協定の展望、14億人を抱える中国市場への参入機会提供を提案。見返りとして、各国の警察の訓練、サイバー安全保障への関与、政治的関係の拡大、海洋地図の作成、天然資源の利用拡大を求めている。
 
南太平洋は1900年代から米国が強い影響力を有しているが、近年は米中の覇権争いが激化。中国は軍事的、政治的、経済的な足がかりの強化を目指しているものの、大きな進展には至っていない。
 
今回明らかになった一連の協定について、南太平洋諸国では警戒感が広まっている。ミクロネシア連邦のデービッド・パニュエロ大統領は他の当事国首脳に宛てた書簡で、中国側の提案は一見すると魅力的だが、中国に対し「われわれの地域への参入と支配」を許すものだと警告。提案は「不誠実」であり、中国による政治介入、主要産業の支配、通話や電子メールの大量監視が可能になると指摘した。
 
ミクロネシア連邦は米国と自由連合盟約(コンパクト)を締結しており、南太平洋諸国の中でも米国と特に緊密な関係にある。一方で他の国々は、中国の提案を有益と見なす可能性もある。
 
10か国のうち、ソロモン諸島はすでに中国との安全保障協定締約に向けた交渉を秘密裏に進めていたことが明らかになっている。流出した協定の草案には、オーストラリアから2000キロ足らずのソロモン諸島での中国海軍駐留につながる可能性もある条項も含まれていた。
 
中国による今回の提案は、ソロモン諸島との安保協定の主要要素を他の9か国に事実上拡大するもので、米国、オーストラリア、ニュージーランドの懸念を生むことは必至だ。 【5月26日 AFP】
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中国を警戒するミクロネシア連邦については、いかのようにも。

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ロイターが確認した太平洋地域指導者21人に宛てた書簡の中で、ミクロネシア連邦のパニュエロ大統領は、中国と西側の間で新たな「冷戦」を引き起こす恐れがあるため、「事前に決められた共同声明」を拒否すべきと主張するとしている。

パニュエロ氏は、台湾を巡る米中の緊張が高まる中、太平洋島しょ国が地政学的な対立に巻き込まれる危険性を強調。「中国がわれわれの通信インフラ、海洋領土と資源、安全保障の面で支配することによる具体的な影響は、主権への影響とは別に、中国がオーストラリア、日本、米国、ニュージーランドと対立する可能性を高めることだ」とした。【5月25日 ロイター】
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【モデルはソロモン諸島との協定】
逆に中国との関係強化の推進役となるのがソロモン諸島。中国としてはソロモン諸島との関係をモデルケースとして太平洋島しょ国地域全体に拡大したい意向です。

****中国とソロモン諸島の関係、太平洋島しょ国の手本にしたい=中国外相****
中国の王毅外相は26日、中国とソロモン諸島との関係が他の太平洋島しょ国の手本となることを期待すると語った。

王氏は26日から10日間の日程で、中国が外交関係を持つ太平洋島しょ国8カ国を歴訪する。この日は最初の訪問国のソロモン諸島に到着した。

外務省ウェブサイトに掲載された声明によると、王氏は、ソロモン諸島は中国と外交関係を樹立することで「誠実で信頼できるパートナー」を得たとの考えを示した。ソロモン諸島は2019年に台湾と断交し中国と国交を結んでいる。

ロイターが確認した文書によると、中国は王外相主催の会議を来週フィジーで開催する際、警察活動、安全保障、データ通信の協力を盛り込んだ太平洋島しょ国地域全体の包括合意を求める見通しだ。【5月26日 ロイター】
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王毅外相は26日にソロモン諸島の首都ホニアラでマネレ外相と会談し、「両国関係を高い水準へ引き上げたい」と強調。マネレ氏は「両国間協力の前途に期待する」と歓迎しています。

王毅外相はソロモン諸島を皮切りに、6月4日までの日程でソロモン、キリバス、サモア、フィジー、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、東ティモールの8カ国を公式訪問します。

【日本・米豪は軍事基地建設を懸念 中国は否定】
こうした中国の動きに、先日東京で開催されたクアッドの首脳会議でも強い懸念が出されています。

****“経済支援”で影響強める中国 南太平洋・ソロモン諸島では…****
(中略)
こうした中国の行動に対抗することを念頭に、クアッドの4か国は連携の強化を目指しています。

岸田総理 「東シナ海・南シナ海における一方的な現状変更の試みへの深刻な懸念を含め、地域情勢について率直な意見交換を行った」

共同声明では「太平洋島しょ国との協力をさらに強化する」と明記したうえで、岸田総理は「海洋安全保障の分野では地域諸国間の情報共有を促進する。海洋状況把握の新たなイニシアチブを4首脳で歓迎しました」と述べました。

インド太平洋地域の漁業や船の往来の安全を確保するため、人工衛星などを使い海洋状況を監視するシステムを今後5年間かけて構築することを明らかにしました。

この決定に対し、中国外務省の報道官は「小さなグループをつくり、対立を作ることこそ、海洋の平和や安定をおびやかしている」と強く反発しました。【5月24日 日テレNEWS24】
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日本や米豪の、中国はこの地域に軍事基地を建設するのでは・・・との懸念に対し、中国はこれを否定しています。

****ソロモン諸島に基地建設の「意図ない」 中国外相****
中国の王毅外相は26日、訪問先の南太平洋のソロモン諸島で、中国がソロモン諸島に軍事基地を建設する「意図は全くない」と明言した。両国は先月、安全保障協定を締結しており、その目的をめぐって臆測が広がっていた。
 
王氏は、両国の安保協定は「誠心誠意を込めた公明正大な」ものであり、国際社会の懸念には当たらないと述べた。 【5月26日 AFP】
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何をもって“軍事基地建設”とするかにもよるでしょう。前出【AFP】にあるように、公開されていないソロモン諸島との協定では(リークされた草稿では)中国海軍駐留につながる可能性もある条項も含まれていると指摘されています。

【中国に対抗する豪新政権】
この中国の影響力拡大の直接的影響を受けるのがオーストラリア。
先の総選挙でも争点となり、政権側は「中国の進出を許した」として批判を受け、与党敗北、政権交代の一因ともなりました。

新たに首相となったアルバニージー氏は太平洋島しょ国への支援を強化する方針を表明しています。
また、中国・王毅外相に対抗して、アルバニージー首相はフィジーを訪問しています。

****豪首相、太平洋島しょ国支援強化を表明 中国の攻勢に対抗****
オーストラリアのアルバニージー首相は26日、中国が影響力拡大を図る太平洋島しょ国への支援を強化する方針を表明した。

ロイターは、中国が太平洋島しょ国10カ国との間で警察活動、安全保障、貿易、海洋、データ通信分野の合意を求めるとする共同声明草案を報じた。

アルバニージー氏は「これに対応する必要がある」と言明。スカイに対し、「前政権のように(島しょ国支援を)後退させるのではなく、強化する必要がある」と述べ、労働党による新政権が海洋安全保障などで島しょ国支援強化を公約したことに触れた。

ウォン豪外相は26日にフィジーを訪問し、同国首相と会談する。23日の就任以来初の太平洋島しょ国訪問となる。

一方、中国の王毅外相は、太平洋島しょ国8カ国歴訪の最初の訪問地であるソロモン諸島に到着。来週にはフィジーで太平洋地域外相会議を主催し、5年間の行動計画について合意を求める方針だ。

フィジーのバイニマラマ首相は26日のツイッター投稿で、27日にウォン氏、30日に王氏と会談すると明らかにし、「どの交渉のテーブルでも、最も重要なのはわが国民と地球、そして国際法の尊重だ」とした。【5月26日 ロイター】
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またオーストラリアは中国を念頭に、ひも付きではないパートナーになると表明しています。

****豪外相、太平洋諸島のひも付きパートナーを否定 中国けん制****
フィジーを訪問しているウォン豪外相は26日、気候変動に関する「世界的な議論をリード」している太平洋島しょ国の声に耳を傾け、ひも付きではないパートナーになると表明した。

オーストラリアも加盟する太平洋諸島フォーラム(PIF)の事務局で演説し、豪州はこれまで気候変動や海面上昇と闘う太平洋島しょ国を軽視してきたと指摘。

しかし、労働党による新政権は気候変動対策インフラへの資金のほか、太平洋地域市民に対する豪州への移住や就労の道を提供するなどの取り組みを強化すると述べた。

また、中国を念頭に「オーストラリアはひも付きで持続不可能な財政負担を強いることのないパートナーになる」と語った。

PIFのヘンリー・プナ事務局長は、豪新政権の特に気候変動に関するコミットメントを歓迎。太平洋地域への豪外交政策に期待を示した。【5月26日 ロイター】
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キリバスなど海面上昇による水没の危機にある国も含まれていますので、気候変動対策は大きなポイントとなるでしょう。

【豪新政権発足直後に先手を打つ中国】
今回の中国の動きは、オーストラリアの新政権発足に先手を打つ形にもなっています。

****中国、南太平洋で外交攻勢****
外相が8カ国訪問、関与強める 豪州抑え込みで新政権に先手

中国が南太平洋島しょ国での影響力拡大に向けた動きを加速させる。中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は26日から10日間かけ、島しょ国7カ国と東ティモールを訪問する。地域で米豪と中国の対立が先鋭化する中、オーストラリアの新政権発足直後に中国は先手を打って地域への関与強化を打ち出した。(中略)

豪州では21日に総選挙が実施され、政権交代が決まった。「中国が太平洋でより強い影響力を行使しようとしている」。労働党政権のアルバニージー新首相は24日に出席した日米豪印4カ国の「Quad(クアッド)」首脳会議後、こう警戒を示したばかりだった。

選挙戦を通じ、労働党は中国とソロモンの安保協定締結を許したモリソン政権を批判し、地域への関与を深める方針を示してきた。習近平(シー・ジンピン)指導部はこうした動きを警戒。クアッド出席などアルバニージー氏が慌ただしく外交日程をこなす中、豪新政権の機先を制して王氏を派遣する。

王氏はキリバスやトンガも回る。太平洋島しょ国14カ国のうち中国と国交を持つのは10カ国だ。そのうち7カ国を訪問する長期訪問となる。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)はソロモンに加え「キリバスともう1カ国」が中国と安保協定に向けた交渉をしていると報じた。

王氏がこのタイミングで訪問するのは、日米豪印の首脳が24日に中国を念頭に海洋監視を強める方針を確認し、警戒心を強めているためだ。米国との長期対立をにらむ習指導部は西太平洋への影響力拡大を目指している。米同盟国の豪州を抑え込む上で、南太平洋の島しょ国との連携は不可欠とみている。

王氏は東南アジアの東ティモールも訪れる。中国企業が多く進出する同国では中国が年々影響力を強めている。南太平洋の島しょ国と合わせて押さえることで、豪州北部のダーウィンにある豪軍基地に東西からにらみを利かせることができると判断している。

地域の動きに詳しい豪シンクタンク、ロウイー研究所のミハイ・ソラ氏は「王氏の訪問は、この地域での中国の影響力拡大に歯止めをかけたい豪州の動きを阻む目的もある」と指摘する。一方、豪外相のウォン氏は25日、フィジーを26日に訪問し、バイニマラマ首相と会談すると発表した。地域での米豪と中国の勢力争いは今後、激しさを増しそうだ。【5月26日 日経】
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食料品価格高騰  その元凶と非難されるロシア 食料船の人道回廊提供の用意表明 インドの輸出制限

2022-05-25 22:24:37 | 食糧・飢餓
(ウクライナ黒海沿岸の港湾都市オデーサの埠頭近くに立つ倉庫やサイロ=3月17日撮影【5月7日 CNN】)

【食料供給を「武器」として利用していると非難されるロシア 人道回廊提供の用意を表明】
****ロシア、食料船のウクライナ出港で人道回廊提供の用意****
ロシア政府は、食料を積んだ船がウクライナを出発するための人道回廊を提供する用意があると明らかにした。インタファクス通信が25日、ルデンコ外務次官の話として伝えた。(後略)【5月25日 ロイター】
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食料品価格の高騰で、世界の貧困層は飢えの危機にさらされ、一部の国では政情も不安定化している・・・その食料品価格高騰を加速させているのが穀物輸出大国ウクライナでの戦争、ロシアへの制裁である・・・といった話は連日報じられています。

もともと食料品価格は昨年末段階から、天候関連の要因やコロナ禍からの回復需要急増などで、その高騰が懸念される状態にありましたが(価格上昇自体はその前から)、今年2月末のウクライナ戦争によって危機感は更に大きなものとなっています。

****世界で食料品の価格が高騰 主な原因と今後の展望まとめ****
世界で食糧価格が高騰を続けている。主な原因と今後の見通しを整理した。

なぜ食料価格は上昇しているのか
グローバルな食料価格が上昇を始めたのは2020年半ば、各国企業が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのために活動を停止し、サプライチェーンが圧迫されたことによるものだ。

農産物をスーパーマーケットまで運ぶトラック輸送が利用できなくなったため、農家は牛乳を廃棄し、果実や野菜は腐るままとなり、消費者が食料の備蓄に走ったことで価格は高騰した。ロックダウンによる移動制限で移民労働者が不足したことも、世界的な収穫低下につながった。

その後も、世界各地で主要農産物に問題が発生した。大豆輸出量で世界首位のブラジルは、2021年に深刻な干ばつに襲われた。中国における今年の小麦収穫量は、これまででも最悪の部類に入る。

パンデミックの中で食料安全保障への関心が高まったことで、将来的な欠乏に備えて主要穀物の備蓄を積み上げた国もあり、グローバル市場への供給が絞られた。

2月末に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、食料価格の展望を急激に悪化させた。
国連食糧農業機関(FAO)によれば、食料価格は2月に過去最高を記録し、3月にはさらに記録を更新した。ロシアとウクライナを合わせた小麦と大麦の生産量は世界の3分の1近くに達し、調理用のひまわり油の輸出量では世界の3分の2を占めている。ウクライナはトウモロコシ輸出量で世界第4位だ。

今回の紛争によりウクライナの港湾や農業インフラが打撃を受け、今後数年にわたり、同国の農業生産が制約される可能性は高い。
一部のバイヤーは、西側諸国による制裁を理由に、ロシア産の穀物の購入を控えている。

インドネシアは4月末、調理用油の国内供給を確保するため、パーム油の輸出をほぼ全面的に禁止した。ケーキからマーガリンに至る食品全般で使われている食用油に関して世界最大の生産国からの供給が途絶えたことになる。
(筆者注:インドネシアのジョコ大統領は5月19日、輸出を禁止して3週間になるパーム油を23日から輸出できるようにすると発表しています。)

食料価格のうち最も上昇しているのは何か
パンデミックの期間を通じて、植物油の価格高騰が全般的な食料コストの上昇につながった。また、ウクライナでの戦争によりトウモロコシと小麦の出荷が制約された結果として、3月には穀物価格もやはり過去最高を記録した。

FAOによれば、4月には乳製品と食肉の価格も過去最高に達した。タンパク源へのグローバルな需要増大が続いており、またトウモロコシと大豆を中心とする家畜飼料の価格が高止まりしていることを反映している。さらに、欧州と北米における鳥インフルエンザの発生により、鶏卵や鶏肉の価格にも影響が出ている。

米国における3月のインフレ率を見ると、食肉、鶏肉、魚介類、鶏卵の指数は1年前に比べ14%、牛肉は16%上昇している。

食料価格はいつ下がるか
何とも言えない。農業生産は天候など予測困難な要因に左右されるからだ。国連のグテレス事務総長は5月初め、ウクライナの農業生産と、ロシア産食料と肥料の世界市場への供給が回復しないかぎり、グローバルな食料安全保障の問題は解決できないと述べている。

世界銀行は、2022年の小麦価格は40%以上上昇する可能性があると予測している。世銀では2023年には前年に比べ農産物価格が下落すると見ているが、アルゼンチンやブラジル、米国からの穀物供給が増大することが前提であり、これについては何の保証もない。

肥料の主要生産国であるロシアとその同盟国であるベラルーシからの買い控えの影響で肥料の価格が急騰しているため、農家が適切な量の施肥をためらう可能性がある。これは収量の減少や生産の低下につながり、危機の長期化を招くかもしれない。地球温暖化によって異常気象が以前よりも一般化しつつあり、これもまた、穀物生産にとってリスクとなっている。

最も影響を受けているのは
フィッチ・レーティングスによれば、米国では3月、インフレに占める食料価格のシェアが最大となった。これは1981年以来初めてのことだ。4月、英国における店頭価格も、過去10年以上見られなかったペースで上昇した。

だが食料価格の上昇により最大の影響を受けているのは、所得に占める食費の比率が先進国より高い開発途上国の住民だ。
国連と欧州連合が共同で設立した食料危機対策グローバルネットワークは年次報告の中で、ロシアによるウクライナ侵攻はグローバルな食料安全保障に深刻なリスクとなっていると指摘。食糧危機に直面している国として、特にアフガニスタン、エチオピア、ハイチ、ソマリア、南スーダン、シリア、イエメンといった国を挙げている。【5月17日 Newsweek】
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こうした状況で、国連や欧米から危機の原因として“標的”とされているのが、ロシアによるウクライナからの穀物輸出を封じる措置です。

****国連事務総長、ロシアにウクライナからの安全な穀物輸出認めるよう訴え****
国連のグテレス事務総長は18日、ブリンケン米国務長官が国連本部で開いた食料安全保障に関する閣僚級会議に出席し、ロシアに対してウクライナからの穀物輸出の安全を確保し、ロシア産食料・肥料への「完全かつ無制限のアクセス」を認めるよう改めて訴えた。

ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、穀物や食用油、燃料、肥料の国際価格が高騰。グテレス氏は、これが貧困国における食料、エネルギー、経済の危機を悪化させると警告し、何千万人もが食料不足とその後の栄養不良、飢饉に陥る状態が何年も続きかねないと懸念を示した。

こうした中でグテレス氏は、ウクライナ産穀物の輸出再開に向けてロシア、ウクライナ、トルコ、米国、欧州連合(EU)と緊密に連絡しているとした上で「希望を持っているが、道のりはなお遠い。安全保障と経済、金融の諸要素が複雑に絡んでいるので、全ての関係者の善意こそが求められる」と語った。

ウクライナはロシアの侵攻を受ける前まで、黒海に面した港湾から輸出品を積み出していたが、現在は鉄道ないしドナウ川の小さな港しか利用できなくなっている。

国連世界食糧計画(WFP)のビーズリー事務局長はロシアのプーチン大統領に向けて「少しでも良心があるなら、(ウクライナの)港湾をどうか開放してほしい。これはウクライナの問題ではなく、われわれが話をしている間にも、世界でも最も貧しい人々が飢餓の瀬戸際にあるということだ」とメッセージを送った。

ロシアとウクライナからの小麦供給量は合計で世界全体の3分の1近くに上る。ウクライナはトウモロコシ、大麦、ひまわり油などの主要輸出国で、ロシアと同盟国ベラルーシは肥料となるカリの輸出が世界の4割を超えている。

ブリンケン氏も、ロシアはウクライナが陸上ないし海上から食料その他重要物資を安全に輸送できるような「回廊」を設置すべきだと指摘。「目下ウクライナのサイロには推定で2200万トンの穀物があり、国外に持ち出されさえすれば、それを必要とする人々に直ちに行き渡ることになる」と述べた。【5月19日 ロイター】
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国連安保理でアメリカとロシアが激しく応酬する場面も。

****米国務長官「ロシアが食料を武器に…」強く批判****
ロシアによるウクライナ侵攻で食料危機の深刻化が懸念される中、アメリカのブリンケン国務長官は19日、「ロシアが食料を武器として使っている」と強く批判しました。

ブリンケン国務長官「ロシアは食料を武器として使用することで、ウクライナの人々の精神を破壊することができると考えている」

国連の安全保障理事会の会合でアメリカのブリンケン国務長官は、侵攻の影響でウクライナからの穀物の輸出が滞っていることについて、「ロシア軍が数百万人のウクライナ人と、世界の何百万人の人々への食料供給を人質に取っている」と強く批判しました。

アメリカは緊急食料支援として2億1500万ドル、日本円でおよそ275億円を追加拠出すると表明しています。

一方、ロシアのネベンジャ国連大使は「全くの誤りだ」と反発し、西側諸国によるロシアへの制裁が危機を深刻化させていると主張しました。【5月20日 日テレNEWS24】
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EUもアメリカと歩調をそろえてロシアを非難しています。

****ロシアは食料を「武器」に、飢餓回避に協議必要=欧州委員長****
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は24日、ロシアはエネルギー供給と同様に食料供給を「武器」として利用しているとの考えを示し、ロシア軍による海上封鎖でウクライナから輸出できなくなっている小麦の輸送を可能にするよう、ロシアとの協議を呼びかけた。

フォンデアライエン委員長は世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で「ロシア軍はクライナで穀物や機械を没収しているほか、黒海ではロシア軍の艦船が小麦やヒマワリの種を積載したウクライナの船舶の航行を阻んでいる」と指摘。世界的な協力こそが「ロシアの脅迫に対する解毒剤」になると述べた。(後略)【5月25日 ロイター】
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ウクライナへの武器支援で黒海封鎖を打破しようとの動きもありますが、いろいろ難しい事情も。

****米が露の黒海封鎖打破へ、ウクライナに対艦ミサイル供与=関係者****
バイデン米政権は、ウクライナに新型の対艦ミサイルを供与し、ロシアの黒海封鎖を打ち破る手助けをすることを検討している。複数の関係者が明らかにした。(中略)

米国の政府高官や元高官、議会関係者に話を聞くと、ウクライナに対してより長射程で性能が強力な兵器を送る上では幾つかのハードルがある。戦争のエスカレートを巡る懸念はもちろんとして、兵器を扱うため長期の訓練が必要なことや、保守管理の難しさ、最新兵器がロシアの手にわたってしまう恐れなどが挙げられる。

そうした中で3人の米政府高官と2人の議会関係者は、米ボーイングの「ハープーン」やノルウェー企業と米レイセオンの「NSM」の2種類の対艦ミサイルをウクライナに直接供与、もしくはこのミサイルを保有する欧州の同盟国から供与する案が活発に検討されていると述べた。(中略)

米政府高官の話では、自分たちからハープーンをウクライナに提供しても良いという国は何カ国か存在するが、こと自分たちが保有するハープーンがロシア艦艇を撃沈した場合の報復を恐れ、真っ先に名乗り出たがらないという事情もある。それでも、保有数の多いある国がまずハープーンをウクライナに送ることを検討中で、この国が供与を確約すれば他国も追随するかもしれないという。(後略)【5月20日 ロイター】
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欧米諸国による黒海の封鎖を突破する実力行使を求める声も上がっていますが、アメリカなどが、ロシアとの戦争になりかねないこういうリスクをとるとは思えません。

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ジャック・キーン退役陸軍大将は、外交がうまくいかない場合、米国が主導する国際的な食料・商船護衛作戦が必要になるかもしれないと述べている。これは、人道的作戦として計画され、そう周知されるのが最善だ。

その任務は、国際的な軍艦の連合体を結成し、商船がオデッサ港と黒海から安全に出られるよう護衛することだ。それは、プーチン氏がNATOからの新たな挑発だと主張するのを可能にするようなNATOのプロジェクトではなく、有志連合として機能するものがいいだろう。【5月25日 【社説】ウクライナ穀物、封鎖突破の方法は WSJ】
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冒頭記事は、このような中でのもので、ロシアも食料危機回避を求める国際世論、その危機の原因として集中砲火を浴びるリスクに一定に配慮したものでしょうか。

ただ、停戦交渉にしろ何にしろ、“話”として出ることと、実際に実行されることは別物。
実際にロシアが黒海港湾からの輸出を認めるような措置に出るのかどうかはまだわかりません。

【インド 自国ファーストの姿勢は食糧問題でも 小麦・砂糖の輸出制限】
ウクライナ問題で、ロシアほどではないにしても、欧米からの評判が芳しくないのがインド。
対ロシア制裁に参加せず、逆に安くなった石油を大量に買い付けており、ロシアの制裁逃れを助けているとも。

インドの「自国ファースト」の姿勢は食糧問題でも。

****小麦輸出一時停止のインド、輸送が混乱****
インドが先週、インフレや食糧安保をめぐる懸念から小麦の輸出を突然一時停止したことを受けて、17日には同国の主要港で多数のトラックや船が小麦を積んだまま行き場を失うなど、輸送が混乱した。
 
世界第2位の小麦生産国であるインドは13日、輸出業者が政府の許可なく新たに輸出契約を結ぶことを禁止する命令を出した。
 
この突然の発表を受け、グジャラート州のカンドラ港は大混乱に陥った。港の運営会社によると、トラック約4000台が構外で列をつくっている。小麦の積載が一部終わった船4隻も港に停泊したままだ。積載量は計8万トン前後とされる。(中略)
 
今回の輸出停止は、ウクライナ侵攻でインフレが進む中、保護貿易主義を危惧する先進7か国から批判を受けている。
 
3月に記録的な熱波に見舞われたインドでは、小麦生産にも影響が出ており、政府は減産を予想している。また、小麦価格は世界的に高騰している。 【5月17日 AFP】
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****インド、砂糖も輸出制限 小麦に続き****
インド政府は24日、今年度の砂糖輸出量を1000万トンに制限すると発表した。国内供給の確保とインフレの抑制が狙い。同国は今月半ばに小麦の輸出停止を発表したばかり。
 
インドは世界最大の砂糖生産国で、輸出はブラジルに次ぎ世界2位。
 
食料省は、9月に終わる今販売年度の輸出量を1000万トンに制限すると発表。約900万トン分の契約が既に結ばれており、うち780万トンは出荷済み。今年度の輸出量は過去最高になるとみられる。
 
インドは小麦についても、インフレと食糧安全保障を理由に、政府の許可なしに新規に輸出することを禁止している。今年は3月の気温が観測史上最高を記録し、減産が見込まれるためとしている。 【5月25日 AFP】
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インドが対ロシア制裁に参加しないのは、兵器のロシア依存など、これまでのロシアとの緊密な関係もあってのことですが、そうした事以外に、石油にしても食料にしても、インドと欧米では事情が異なることもあっての対応でしょう。

未だ飢餓ライン上の絶対的貧困を多数抱えるインドの場合、燃料・食料の僅かな価格変化も市民生活に大きく影響します。その程度は欧米とは比べ物にならない・・・そういう状況では「きれいごと」ではなく、国民生活を安定させる施策が何より重視される・・・・というのがモディ首相の立場でしょう。

ただ、輸出制限については、各国が同様対応をとれば、結果的にインドを含めた世界中の人々が苦しむことにもなります。

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中国・新疆ウイグル自治区  「発砲しろ」・・・「再教育施設」の戦慄の実態 「新疆公安ファイル」公開

2022-05-24 22:53:01 | 中国
(テケス看守所内部を撮影したとされる写真。収容者が手錠、足かせ、覆面をつけられ連れ出されている。訓練とみられる。画像データによると、撮影は2018年9月25日午後4時31分=「新疆公安ファイル」より【5月24日 毎日】)

【真相はわからないことだらけ】
バイデン米大統領の「台湾防衛」の意思を明確に示した発言が、歴代米政権の「あいまい戦略」を踏み越えたものか、それとも「失言」か・・・多くの識者の考えが報じられていますが、(誰しも思うことなのに)誰も言わないことがひとつ。

バイデン大統領のこの問題での「失言」だか「発言」だかは3回目です。そのたびにホワイトハウスは火消しに。

この問題は世界の平和・安定に直結する米中関係の根幹をなすものです。
もし、これが単なる「失言」であれば、バイデン大統領はお気の毒ながら、何度説明されても問題の重要性が理解できない認知症を患っている・・・としか考えられず、とても「核のボタン」を管理できる状況になく、即刻辞任を考えるべきでしょう。

そういう“当たり前”のことを誰も言わないというのは、言ってはいけないタブーなのでしょうか?
そこらは白黒はっきりさせると、どっちに転んでも面倒になるということで「あいまい戦略」でしょうか。

もし、バイデン大統領が認知症を発症していないとすれば、単なる失言ではなく、表向きのアメリカ政府の立場を追求されないように敢えて個人的「失言」の形で中国を牽制したもの・・・ということになるでしょう。なかなか手の込んだ対応です。

“お気の毒なお年寄り”か“喰えないジジイ”か・・・真相はわかりません。
別に国際関係だけでなく、世の中、真相はわからないことだらけですが。

【信ぴょう性がありそうな「新疆公安ファイル」公開】
中国の新疆ウイグル自治区における「ウイグル族弾圧」に関しても、真相はわからないけど、これまでの疑惑を裏付けるような重要な情報が。

欧米は新疆ウイグル自治区におきて100万人規模の住民が「強制収容所」に拘束されていると非難してきましたが、中国側はイスラム主義テロの過激思想に対処するための職業訓練所だとし、2019年終盤には全員が「卒業」したと発表しています。

****「逃げる者は射殺」 中国のウイグル族「再教育施設」内部資料が流出****
中国新疆ウイグル自治区で少数民族のウイグル族らが「再教育施設」などに多数収容されている問題で、中国共産党幹部の発言記録や、収容施設の内部写真、2万人分以上の収容者リストなど、数万件の内部資料が流出した。

「(当局に)挑む者がいればまず射殺せよ」などと指示する2018年当時の幹部の発言や資料からは、イスラム教を信仰するウイグル族らを広く脅威とみなし、習近平総書記(国家主席)の下、徹底して国家の安定維持を図る共産党の姿が浮かぶ。
 
今回の資料は、過去にも流出資料の検証をしている在米ドイツ人研究者、エイドリアン・ゼンツ博士が入手した。毎日新聞を含む世界の14のメディアがゼンツ氏から「新疆公安ファイル」として事前に入手し、内容を検証。取材も合わせ、同時公開することになった。
 
幹部の発言記録は、公安部門トップの趙克志・国務委員兼公安相や自治区トップの陳全国・党委書記(当時)らが会議で行った演説。特に陳氏の発言記録は「録音に基づく」とあり、正式な文書にまとめられる前の感情が交じった言葉が並んでいる。
 
収容政策で重要な役割を果たした陳氏は17年5月28日の演説で、国内外の「敵対勢力」や「テロ分子」に警戒するよう求め、海外からの帰国者は片っ端から拘束しろと指示していた。「数歩でも逃げれば射殺せよ」とも命じた。
 
また、18年6月18日の演説では、逃走など収容施設での不測の事態を「絶対に」防げと指示し、少しでも不審な動きをすれば「発砲しろ」と命令。習氏を引用する形で「わずかな領土でも中国から分裂させることは絶対に許さない」と述べ、「習総書記を核心とする党中央を安心させよ」と発破を掛けていた。
 
内部の写真が流出したのは、自治区西部イリ・カザフ自治州テケス県の「テケス看守所(拘置所)」とされる収容施設。抵抗や逃走防止の訓練とみられる様子などが撮影されている。
 
写真では、手錠や足かせ、覆面をつけられ連れ出された収容者が、「虎の椅子」と呼ばれる身動きができなくなる椅子で尋問を受けている。また、銃を持つ武装警察らが制圧訓練をしているとみられる写真や、収容者が注射のようなものを受けている写真もある。
 
これらは、中国当局が過激思想を取り除くためなどとして運用した「再教育施設」の元収容者が証言した内容とも一致した。
 
収容者のリストには、身分証番号や収容の理由、施設名などが記されている。主に自治区南部カシュガル地区シュフ県在住のウイグル族など少数民族のもので、ゼンツ氏は、数千人分を含む452枚のリストを検証。17〜18年の時点で、シュフ県の少数民族の成人のうち12・1%(2万2376人)以上が「再教育施設」、刑務所、拘置所に何らかの形で収容されていると推計した。別に警察署などで撮影された収容者約2800人の顔写真も流出した。
 
資料を見ると、1980、90年代にモスクでイスラム教を学んだなどとして17年に拘束され、テロ行為の準備罪で懲役15年の判決を受けたケースなど、テロとの結びつきが疑問視されるものが目立つ。中国当局が少しでも宗教色があると判断すれば「再教育施設」や刑務所に収容しているケースが多いとみられる。
 
この問題をめぐっては、国連のバチェレ人権高等弁務官が23日から6日間の日程で中国を訪問中だ。欧米諸国が人権侵害を指摘する自治区を訪れる。しかし、中国側は「政治的に利用することに反対する」として、人権問題の調査が目的ではないと強調している。国連外交筋は「(何も問題はないという)中国側の宣伝に利用される危険がある」と警戒を示している。
 
中国政府は「職業技能教育訓練センター」と呼ぶ「再教育施設」について、イスラム教の過激思想の影響を受けた人物によるテロ行為を防ぐために設置し、19年後半に運用を終えたとしている。中国語の学習や食品加工などの職業訓練を行ったとも主張。欧米からの「ジェノサイド」との指摘には「荒唐無稽(むけい)で、下心あるデマだ」と反論している。
 
流出文書を検証した14のメディアは、内容について共同で中国外務省にコメントを求めた。
 
日本時間24日午前9時段階で回答はないが、在米中国大使館の報道官は問い合わせに対し「新疆に関する問題は本質的に反テロ、脱過激化、反分裂主義にあり、人権や宗教問題ではない」と強調。「深刻で複雑なテロ対策の状況に直面し、新疆は、断固とした強固で効果的な脱過激化の措置を多数講じてきた。その結果、新疆では数年間連続して暴力的なテロ事件は発生していない。新疆は現在社会の安定と調和、経済の発展と繁栄を享受している」と回答した。個別の質問には答えなかった。【ニューヨーク隅俊之】
   ◇
流出した内部資料は、情報提供を受けた世界の14のメディアが取材・確認を進めた上で、取材結果を共有して検証の精度を高めた。
 
ゼンツ氏によると、資料は新疆ウイグル自治区南部カシュガル地区シュフ県と西部イリ・カザフ自治州テケス県の公安当局のコンピューターに保存されていたもので、第三者がハッキングを通じて入手し、ゼンツ氏に提供したと説明している。
 
14のメディアは、収容者リストに載っている人の家族への取材や流出写真の撮影情報の確認、衛星写真との比較、専門家への鑑定依頼などを行った。毎日新聞は検証で確認された情報の信ぴょう性と社会的意義から報道する価値があると判断した。
   ◇
今回の報道に参加したメディアは以下の通り。
BBC News(英)▽ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)▽USA TODAY(米)▽Finnish Broadcasting Company YLE(フィンランド)▽DER SPIEGEL(独)▽Le Monde(仏)▽EL PAIS(スペイン)▽Politiken(デンマーク)▽Bayerischer Rundfunk/ARD(独)▽NHK WORLD−JAPAN(日本)▽Dagens Nyheter(スウェーデン)▽Aftenposten(ノルウェー)▽L’Espresso(イタリア)▽毎日新聞
【5月24日 毎日】
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BBCなど一定に信頼性のあるメディアが検証したうえでの報道ということですから、素人的には信用してもいいかな・・・という感じがあります。

“少しでも不審な動きをすれば「発砲しろ」”という状況は、世間一般では「職業訓練施設」とは言いません。

かねて言われている「100万人」という規模については、個人的には「いくらなんでも多すぎるのでは・・・」という疑念もあったのですが、習近平国家主席の指示のもとで「200万人」規模を計画していたとか。

さすが、14億人の人口を抱える国なると、発想も日本のような島国とは違う・・・ということでしょうか。

****新疆収容施設の建設、習氏が指示 英BBC報道、目標200万人****
英BBC放送電子版は24日、中国新疆ウイグル自治区で少数民族の収容施設を建設するよう習近平国家主席が指示していたとする内部資料の内容を報じた。2018年当時の記録で、「過激な思想」を持つ200万人を収容することが目標だったという。中国の人権状況に関する国際社会の懸念がさらに高まりそうだ。
 
内部資料は政府幹部の発言記録など複数あり、新疆の警察のコンピューターから流出したという。趙克志公安相が18年6月に新疆を訪れた際に演説し、収容のための施設建設や資金増額の「重要な指示」を習氏が出したと称賛していた。【5月24日 共同】
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中国側は「嘘」「デマ」と否定しています。

****中国政府「嘘の流布」ウイグル族「再教育施設」内部資料流出報道受けて****
イギリスの公共放送BBCなどが、中国の新疆ウイグル自治区の内部資料として報じた2万人を超える収容者リストなどについて、中国政府は「嘘の流布だ」などと反論しました。

イギリスBBCなどは24日、中国の少数民族のウイグル族らを対象にした「再教育施設」に関する内部資料として、中国共産党幹部の発言記録や2万人以上の収容者リストなどを報じました。

これについて、中国外務省の汪文斌報道官は。

中国外務省 汪文斌報道官
「嘘やデマの流布では世の中の人を欺くことはできない」

記者会見で「嘘の流布だ」などと反論、「新疆ウイグル自治区の経済は発展、人民は安定して生活し仕事を楽しんでいる」と主張しました。

今回の報道は、中国を訪れている国連のバチェレ人権高等弁務官の新疆ウイグル自治区訪問に合わせ、BBCなど世界14のメディアがアメリカにいるドイツ人研究者が入手したという資料をもとに一斉に伝えました。【5月24日 TBS NEWS】
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【沈黙するバチェレ人権高等弁務官を牽制する側面も】
国連のバチェレ人権高等弁務官の新疆ウイグル自治区訪問については4日前の5月20日ブログ“中国・新疆ウイグル自治区 不妊処置を示す人口動態か 国連人権高等弁務官が今月中国訪問”でも取り上げたところですが、中国側の「やらせ」「お膳立て」による「弾圧隠し」、更には「(何も問題はないという)中国側の宣伝に利用される危険」が指摘されており、沈黙を守るバチェレ人権高等弁務官に対しアメリカは批判も。

****米、中国の新疆訪問制限を懸念 国連人権弁務官の沈黙批判****
米国務省のプライス報道官は20日の電話記者会見で、バチェレ国連人権高等弁務官が予定している中国新疆ウイグル自治区訪問について、中国政府に行動を制限されるとの懸念を表明した。

バチェレ氏についても「中国政府が新疆で人権侵害をしている疑う余地のない証拠があるのに沈黙している」と批判した。

中国外務省は20日、バチェレ氏が中国政府の招待で23〜28日に訪中すると発表。米政府や人権団体は、人権侵害はないとする中国側の宣伝に利用される恐れがあると警戒を強めている。

プライス氏は「完全な評価のために必要な立ち入りを中国が認めるとは思えない」と述べた。【5月21日 共同】
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今回の「新疆公安ファイル」公開は、こうしたバチェレ国連人権高等弁務官の対応を牽制するものともなっています。
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イギリス  国内的には苦境のジョンソン首相 北アイルランド議定書を放棄する意向

2022-05-23 23:12:40 | 欧州情勢
(【5月18日 BBC】)

【ウクライナ問題で存在感をアピールするものの、国内ではパーティー問題にインフレ進行】
イギリス・ジョンソン首相は4月9日にはウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会談、4月23日にはゼレンシキー大統領との電話会談でウクライナへの装甲車やドローン、対戦車兵器など武器追加供与を発表、5月3日には外国の首脳として初めてウクライナ議会で演説し、さらなる軍事支援を表明・・・と、外交面ではウクライナへの積極支援でEUを離脱したイギリスの存在感をアピールしています。

しかし、内政面では問題山積・・・だからこそ、外交面で話題作りに励んでいる(あるいは、指導力をアピール)と言うべきか・・・。

先ずは新型コロナ規制を無視したバーティー参加で罰金を課された件

****罰金の英首相、「逃げ切り」図る 世論調査は57%「辞任すべきだ」****
ジョンソン英首相は(4月)12日、新型コロナウイルス対策の行動規制中にもかかわらず首相官邸で開かれた自身の誕生日パーティーに参加したとして、警察当局から罰金を科され、支払ったことを明らかにした。

野党は辞任を求めているが、ロシアによるウクライナ侵攻で欧州が揺れる中、与党の大半は首相の指導力が不可欠と擁護しており、首相は「逃げ切り」を図る構えだ。
 
英メディアによると、現職の首相が法律違反で罰金を科されるのは初めて。罰金は50ポンド(約8000円)と報じられている。スナク財務相も同様に罰金を科された。

処罰対象となったのは2020年6月19日の集まりで、首相は「私の誕生日に10分以下の集まりがあり、職員らが祝ってくれた。当時は違反とは思わなかった」と釈明。「全面的に謝罪する」と述べる一方、今後も責務を果たすとして辞任を否定した。
 
これに対し野党・労働党のスターマー党首は「統治者として不適格」と辞任を要求。与党・保守党の一部からも「擁護できない」(ミルズ議員)との声が出始めている。
 
それでも首相が辞任を否定する背景には、ウクライナ情勢がある。2月のロシアによるウクライナ侵攻後、首相はウクライナのゼレンスキー大統領と頻繁に電話で協議。4月9日には首都キーウ(キエフ)を電撃訪問し、新たに装甲車の提供を申し出るなどウクライナ支援の姿勢を内外に示してきた。保守党のミリング議員はツイッターに「ウクライナを守るには最適の人物だ」と擁護した。
 
だが世論は厳しい。調査会社ユーガブの緊急世論調査では、英国民の57%が辞任すべきだと回答した。【4月14日 毎日】
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****パーティー問題で首相調査へ=議会にうそ?退陣論加速も―英****
英首相官邸で新型コロナウイルスの規制中にパーティーが繰り返されていた問題で、同国下院は(4月)21日、ジョンソン首相が議会にうそをついたか否か調べる動議を承認した。警察による捜査の終了後、調査が始まる見込み。結果次第で首相退陣論が加速する可能性もある。
 
野党労働党が提出した動議は、規則違反はなかったと再三述べてきたジョンソン氏の主張が虚偽だったかどうか、下院の特権委員会に調査を求める内容。与党保守党を含め反対は出なかった。首相は先週、パーティー参加で罰金を科されたことを認め、「違反行為」が明白となっている。
 
インド訪問中のジョンソン氏は、英テレビのインタビューで「隠すことは何もない。(調査の行方を)全く心配していない」と強気の姿勢を示した。【4月22日 時事】 
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ジョンソン首相への国民視線が厳しくなっているのはルール違反のパーティー問題だけでなく、経済の根幹であるインフレ問題もあります。

****4月の英物価9%上昇 40年ぶり高水準****
イギリスの4月の消費者物価指数は、電気・ガス料金が大幅に引き上げられた影響で前の年の同じ月と比べて9.0%上昇しました。およそ40年ぶりの高い水準です。

イギリスの国家統計局が18日に発表した4月の消費者物価指数は前の年の同じ月と比べて9.0%上昇しました。

4月から電気・ガス料金が大幅に引き上げられたことにより、3月の物価上昇率よりも大きくなっていて、およそ40年ぶりの高い水準となりました。

ロシアのウクライナ侵攻に伴うガソリンや食料などの価格高騰も続いていて、中央銀行にあたるイングランド銀行は年内に消費者物価指数が10%を超えると予測しています。【5月18日 TBS NEWS】
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【統一地方選挙で与党敗北】
こうしたパーティー問題、インフレ進行を受けて、地方選挙では与党への厳しい審判が下されています。
ただ、敗北は想定内で“首相辞任論が加速するかどうかは見通せない”との指摘も。

5月5日、イギリスでは統一地方選が行われました。イングランドとスコットランド、ウェールズでは主な計200の自治体で各議会の6千以上の議席が選ばれました。英領北アイルランドでも、自治政府の行方を左右する議会選が行われました。有権者は国政レベルの課題も考慮するとみられ、政権の取り組みに審判が下されると見られていました。【5月5日 共同より】

****英与党の保守党、地方選敗北 ジョンソン政権に痛手****
英各地で5日に投票が行われた統一地方選は6日に大半の開票が終わり、ジョンソン首相の率いる国政与党の保守党が議席を大幅に減らした。BBC放送が伝えた。事実上の敗北となった。首相官邸でのパーティー開催問題で批判を浴びたことや、最近の物価高騰が逆風となったもようだ。
 
ジョンソン政権にとっては痛手となった一方、一定の議席減は想定通りで「直ちに危険区域に入ったわけではない」(英メディア)との見方もある。保守党内でくすぶっていた首相辞任論が加速するかどうかは見通せない。【5月7日 共同】
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【敢えて(?)強気姿勢を貫くジョンソン首相】
そうした国内に問題を抱えるジョンソン首相ですが、攻めの姿勢で大胆な財政改革も手がけています。

****英首相、公務員9万人削減を指示 減税の財源確保で=報道****
ジョンソン英首相が、減税の財源を確保するため公務員9万1000人の削減を閣僚に命じたと、デーリー・メール紙が12日報じた。

ジョンソン氏は生活コストに関する11日の閣議で、家計への圧迫を緩和するための取り組み強化を指示。

公務員を5分の1近く削減する計画を1カ月以内に策定するよう命じた。これによって年間約35億ポンド(42億7000万ドル)を節減できるという。【5月13日 ロイター】
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公務員を5分の1近く削減・・・労働組合、野党・労働党の反発は必至ですが、政権基盤である保守層には歓迎される政策でしょうか。

ジョソン首相を生みだしたのはブレグジット支持層ですが、ブレグジット支持層ではEU離脱によって移民流入を減らせるとの考えが強く、下記の不法移民対策などもそうした政権支持層には歓迎される政策でしょう。たとえ、「非人道的」云々の批判はあっても。

ジョソン首相自身も、EU離脱のプラス面として「国境管理の主権を取り戻したこと」を挙げて来た経緯があります。

****英「不法移民、ルワンダに移送」案が波紋 「非人道的」と批判も****
英仏海峡を渡って英国に入国を試みる不法移民・難民について、英政府がアフリカ中部ルワンダに「移送」する新政策を発表し、波紋を広げている。政府は危険な密航を阻止する効果を狙うが、命がけで渡航してきた人々の身柄をさらに別の国に引き渡すことになり、「非人道的だ」といった批判の声も上がっている。
 
「制御できない移民の増加は、わが国の医療や福祉に過度な負担となる」。ジョンソン首相は4月14日、英南東部ケント州で演説し、新政策の理由を説明。そのうえで「ルワンダは世界で最も安全な国の一つだ」と述べ、移送への理解を求めた。
 
ルワンダは約80万人が死亡した1994年の内戦後、民族和解が進展。現在は政情も安定して経済成長も著しく、「アフリカの奇跡」と呼ばれている。近年はリビアなどからの難民を受け入れた実績もある。
 
英政府の説明によると、英国は今後ルワンダに1億2000万ポンド(約195億円)を投資し、移送される移民らを支援する。移送の対象となるのは今年1月1日以降の不法入国者とされるが、実際にどれだけの人数が移送されるかは不明だ。
 
だが、いわば「カネと引き換え」に人々を受け入れてもらう政策については反対の声も上がっている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「戦争や迫害から逃れてきた人々に思いやりや共感を持つべきだ。商品のように交換されるべきでない」との声明を出した。

英国国教会の最高位聖職者のウェルビー・カンタベリー大主教も4月17日、「深刻な倫理的疑問がある」と述べた。世論調査会社ユーガブの調査でも、英国内でこの政策に反対と回答した人は42%に上り、賛成の35%を上回った。
 
ルワンダでは強権的なカガメ大統領の下、言論の自由が制限されているとの指摘もあり、ルワンダの野党からも「ルワンダは人々を歓待する国だが、まずは国内問題の解決が先だ」との声が出ているという。
 
英BBC放送によると、2021年に英仏海峡をボートで渡り、英国に到着した人々は2万8000人以上で、20年から約8000人増加した。21年11月にはボートが転覆し、27人が死亡する事故もあった。渡航者は中東やアフリカ出身者が多いという。
 
英国では、ブレグジット(欧州連合=EU=からの離脱)につながった16年の国民投票で、離脱派が移民増加を理由の一つに掲げていた。ジョンソン首相も19年の就任以降、不法移民対策の強化を訴えている。【4月29日 毎日】
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支持層が歓迎する施策なら、もともと政権に批判的な層がどのように反対しようが押し通す・・・というスタイルは、トランプ前大統領的な政治スタイルのようにも。

【ブレグジットの条件だった北アイルランド議定書を放棄 英・EU間の貿易戦争の懸念も】
EUとの関係でさらに問題となりそうなのが、ブレグジットの条件であった北アイルランドの扱いを一方的に反故にしょうという施策。ブレグジットの際に最後まで問題となったところでもあります。

****英、北アイルランド通商協定を変更へ EUは反発****
英政府は17日、欧州連合離脱(ブレグジット)協定に盛り込まれた英領北アイルランドに関する特別通商ルールを大幅に変更する意向を表明した。北アイルランドでの政治的停滞を解消するためとしているが、EUとの貿易戦争に発展する可能性がある。

変更が発表されたのは、「北アイルランド議定書」と呼ばれる離脱協定の一部。英政府は、協定内容の変更は不可能だとするEU側の立場が変わらなければ、同議定書を修正する法案を数週間以内に提出するとしている。

同議定書は、紛争を経験した北アイルランドの不安定な情勢や、EU加盟国のアイルランドと国境を接していることを踏まえて合意されたもので、イングランド、スコットランド、ウェールズの英本土3地域から到着する商品への通関検査を義務付けている。

だが、北アイルランド最大の親英派政党・民主統一党は検査義務に反発。議定書が修正されなければ、今月の自治議会選挙で歴史的勝利を収めた親アイルランド派政党・シン・フェイン党との共同統治を拒む構えを見せている。

英政府は、通関検査の大部分を廃止する方針を示した。2019年にボリス・ジョンソン首相が合意したEU離脱協定の重要な要素を事実上放棄する形になるが、ジョンソン氏はこの変更が国際法に違反するとの見方を否定している。

しかしEUは、英国が離脱協定に違反した場合、重い関税が課される可能性があると警告。議定書の再交渉には応じない意向を示している。 【5月18日 AFP】AFPBB News
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ブレグジットで問題になったのは、EU加盟国であるアイルランドと英領北アイルランドの国境において物流管理のためにハードな国境管理を復活させると、IRAのテロなど多くの血が流れた北アイルランド問題を再燃させることにもなること。

そこで、北アイルランドはEUルールに従うとしてアイルランド国境はこれまで同様にフリーに行き来できることとし、代わりにイギリス本土と北アイルランドの間で物流管理を行うとしました。当然、北アイルランド最大の親英派政党・民主統一(DUP)は「北アイルランド切り捨てだ」と反対していました。

自治議会選挙で敗北した民主統一党が態度を硬化させたこともあっての「北アイルランド議定書」反故のように見えますが、当初からジョソン首相の頭にはいずれこうした事態があるという考えもあった・・・のかも。

****英、EUと摩擦か 「北アイルランド」問題でルール変更模索****
英国が本土と英領北アイルランドの間に税関手続きが発生した欧州連合(EU)離脱に伴う通商ルールの変更に乗り出した。

北アイルランドでは議会選で勝利した親アイルランド派政党に対し、本土との一体性を重視し、第2党に転落した民主統一党(DUP)が協力を拒み、自治政府の新政権樹立が見通せない。

DUPは協力の条件として通商ルールの変更を求め、英政府が応じようとしている形だが、変更を拒否するEUとの摩擦が懸念される。

トラス英外相は17日、EUとの離脱協定に盛り込まれている通商ルールの変更に向けた法案を議会に提出すると表明した。新法案では、税関手続きの一部撤廃を含める見通しだ。

英国は2020年末でEUを完全離脱したが、北アイルランドと本土と間の物流に税関手続きを設ける通商ルールが決まった。北アイルランドとEU加盟国のアイルランドとの間で国境管理を復活させないためで、北アイルランドの帰属を巡り約30年間続いた紛争の再燃を防ぐ措置だった。

5日の北アイルランド議会選では、隣国アイルランドとの統一を掲げるカトリック系のシン・フェイン党が初めて第1党となった。

同党はアイルランド統一を求めて過去にテロ行為を重ねた過激派、アイルランド共和軍(IRA)の元政治組織。選挙戦では住民の関心が高い住宅や医療の問題に焦点を当てて支持獲得につなげた。

北アイルランドでは1998年の和平合意の下、親アイルランド派と親英派の代表政党が共同で自治政府を運営している。第1党から首相、第2党から副首相を出すのが通例だが、DUPは副首相の擁立に非協力的な姿勢を見せ、通商ルールの修正がなければ「共同統治に応じない」との姿勢を示す。DUPは通商ルールの内容について以前から「(北アイルランドが)EUに取り残された」と不満を示していた。

政権を樹立できなければ共同統治の原則が崩れ「和平が危機に陥る」(トラス氏)との懸念は強い。現地では今春、親英派と親アイルランド派の住民が衝突する暴動も起こった。

ただ、EU欧州委員会のシェフチョビッチ副委員長は17日の声明で、「一方的な行動は許されない」と英側の動きに反発。「EUはあらゆる手段を講じて対応する」と警告した。【5月20日 産経】
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再交渉を拒否しているEUも、昨年一定の譲歩案は示していました。

****「北アイルランド議定書」とは? なお続くブレグジットの通商問題****
(中略)
EUは以前から、北アイルランド議定書の再交渉は問題外であり、イギリスによる一方的な行動は悪影響を招くと警告してきた。

昨年10月には議定書の改定案を発表し、譲歩の道を模索した。その内容は以下の通り。
イギリスから北アイルランドに到着した食品の8割は、物理的な検査を必要としない
北アイルランドの輸入業者に必要な事務手続きを削減する
貿易業者の認可を拡大し、より多くの企業と製品を関税から除外する
医薬品のアイルランド海をまたぐ移動に支障が出ないよう法律を改正する
北アイルランドの政治家や企業団体といったステークホルダーとの協議体制を改善する

一方で、イギリスから北アイルランドに運ばれた製品がEUに輸送されない対策が必要だとしていた。

しかし、イギリスは先週、事態をさらに悪化させるとして、この改定案をはねつけた。

これからどうなる?
法案はイギリス議会で可決される必要があるため、一連の手続きには数カ月かかる可能性がある。
EUがどういった対応を取るかは明らかではないが、英・EU間の貿易戦争につながるとみる専門家もいる。

テリーザ・メイ前首相は、北アイルランド議定書を放棄すればイギリスの評判を損なうと警告した。
メイ氏は政府に対し、このような動きが「イギリスと、イギリスが署名した条約を順守する意志について、どんなメッセージを発するのか」考えるべきだと述べた。【5月18日 BBC】
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EUとの合意を一方的に反故にする「イギリス・ファースト」的な姿勢もトランプ的なところがあります。支持層には受けるのでしょうが・・・。

ウクライナ問題で手一杯のEUは、この件でイギリスと事を構える余裕はないのかも。
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ロシア  ウクライナ情勢の苦境で国内論調に変化も 市民生活にのしかかるインフレ 悪化する国際環境

2022-05-22 23:11:34 | ロシア
(ロシアでは果物・野菜の価格が1年前より約3割高い(政府データ)【5月21日 WSJ】)

【苦境が報じられるロシア軍 ただ、長期化などの懸念も】
ウクライナ軍の反転攻勢も伝えられるなか、ロシア軍は投入した地上戦力の3分の1を失った・・・など、ロシア軍の苦境が多く報じられています。

ただ、ロシア側が支配地域の“守り”に入れば戦争は長期化し、ウクライナ側の対応如何ではロシアの核使用も懸念される事態にもなります。

****戦車に食洗器や冷蔵庫の半導体まで転用…兵器不足でロシアの攻撃が止まる日は来るのか?【報道1930】****

ウクライナへの侵攻から間もなく3か月、ロシア軍は投入した地上戦力の3分の1を失ったとの分析もある。大量の兵力損失は、今後の戦い方をどう変えるのか。また戦争の終結は早まるのか。(中略)

■プーチン氏と軍部の関係「相当ぐらついている」
ロシア軍の制服組のトップ・ゲラシモフ参謀総長の消息が途絶えた。(中略)今、軍部で何が起きているのか。

東京大学先端科学技術研究所 小泉 悠 専任講師
「戦勝記念日は軍が主役のイベントなので参謀総長が来るべきもの。(中略)可能性は幾つかあると思うが、今回の戦争を巡って相当にプーチンの信頼を失っているという話がある。ゲラシモフは事実上更迭されているとの噂話もある。最後のチャンスを貰えるかどうかプーチンと折衝中だと。

現場の司令官クラスも罷免されるだけでなく、捕まっているのではないかという。参謀本部の中でも何人か罷免されているという話もある。軍とプーチンの関係は相当にぐらついているというのは間違いないと思う」

こうした中、16日にロシアで有名な軍事評論家のホダリョノク元大佐が国営テレビに出演し、こんな発言をしたことが物議をかもしている。
「ロシアにとって戦況は明らかに悪化している。軍事的、政治的状況の最大の問題点は、私たちは完全に孤立していて、全世界が私たちに反対していることだ」

プロパガンダ化した国営テレビで、プーチン氏に不利に聞こえるような戦況を語ることは珍しい。一体どんな意図があるのだろうか。

東京大学先端科学技術研究所 小泉 悠 専任講師
「ホダリョノク氏も随分勇気がある発言をしたと思う。こういう発言を許したのが、ホダリョノク氏の独走だったのか、それとも仕込みで何らかの理由でこういう発言をさせているのかは気になるところだ。

実は他にも何人か軍人や専門家は、『動員をかけないと勝てませんよ』とか語り始めている。戦況が厳しいということを専門家の口を借りて喋り始めている、或いは専門家がそういう発言をすることを妨げなくなってきている。では、言わせた末に何処に持っていきたいのか…もはや何々をしてもやむを得ない、という方向に世論を持って行きたいのだろう。その“何々”が何なのかということがこれからの焦点だと思う」  

■戦力は3分の1に「逃走して再編成しないと使い物にならない」
(中略)
元・陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏
「ロシア軍は厳しい状況だと言える。戦術の常識では、ひとつの部隊の存亡が30%になるとその部隊は使い物にならない。後ろに逃走して再編成しないと使い物にならない。3分の1というのは33%ですから、この時点でロシア軍をみるとかなり無理をしなければ作戦が出来ないような状態になっている。

攻撃する側は5倍の戦力でなければならないと私は言っているのだが、これが出来ないような状況になっている。だから、ドンバス地域においてロシア軍の攻撃が進捗していない。これは明らかな原因がここにあると思う」  

■食洗器・冷蔵庫の半導体を戦車に…
ロシアは兵器の増産に躍起になりたいところだが、どうやら更なる難関に直面しているようだ。1936年創業のウラル・バゴン・ザヴォート社は、ロシアの最新戦車のほとんどを製造する。しかし、ウクライナ国営メディアによると、部品不足のため3月21日に操業を停止したという。米国商務省の輸出管理担当者も「ロシアでは制裁で通信機器などに使用する半導体が足りなくなっている」と分析している。

また、驚くべき報告もある。米国のレモンド商務長官は11日、ウクライナ側からの報告として「ロシア軍の戦車を調べた際、食洗器や冷蔵庫から取り出した半導体が使われていた」と明かした。

さらにロシアの戦車連隊で、備蓄していた戦車10両のうち実際に運用できる戦車は1両しかなかったという。これは電子機器などの主要な部品が盗まれていたためだと、ウクライナの国防情報局が明らかにしている。(中略)

■“守り”の戦いで 戦争長期化 核使用の口実も―
ロシアは戦力を大量に喪失し、更には戦力を補えない状態が続いていることは確かなようだ。ウクライナ国防情報局のブダノフ情報局長は「ターニングポイントは8月の後半になる。激しい戦闘行為のほとんどは今年の終わりまでに終了するだろう」と語り、アンドルシフ内務省顧問は今後について次のように分析した。

「ロシア軍が東部で占領地を拡大する第2段階に失敗し、現在は防御戦に移行。占領地を維持する第3段階入った」
これはどういうことを意味するのだろうか。

元・陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏
「ロシアの第3段階とは、現在ロシアが占領している地域を保持することだ。そこで、ロシア軍とウクライナ軍の戦力比だが、例えばウクライナ側に防御するロシア側の5倍の戦力があるかと言えば、それはない。そうなると、もう膠着状態にならざるをえない。だから来年まで戦争は続いてもおかしくない。もしプーチン大統領がこの戦いはまだまだ続けるんだという決心を変えなければ、長くなるんだろうと思う」(中略)

更に今後の警戒すべき点について2人はロシアによるザポリージャ州、ヘルソン州の併合だという。

元・陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏
「ロシアはヘルソン州で防御態勢をどんどん作っている。ロシアにとって、ヘルソン州は絶対に明け渡したくない成果。それを確保するために一所懸命陣地を構築して、プーチン大統領に是非ロシア領にしてくださいと要望しているのだと思う。そうなると、ここが攻撃されたらロシアの領土が侵されたとして戦術核を使う、という脅しが実際に起きる可能性があると思う」

東京大学先端科学技術研究所 小泉 悠 専任講師
「(中略)でも、ザポリージャ、ヘルソンがロシア領になるということになれば、これはロシアの領土が侵されているんだという建付けになるので、核使用の布石になると見られてもおかしくはない」

実際、メドベージェフ前大統領が17日こんなことを言っている。「我が国が攻撃された場合には、即刻、超強大な報復が可能だ」

東京大学先端科学技術研究所 小泉 悠 専任講師
「一方で、戦術核にせよ何にせよ、使った場合、どこまでエスカレートするか、これはロシアには制御できない。ウクライナがどう応じるか、西側がどう応じるかにかかって来る。

従って、ロシアの核使用は現実に考えると、そう簡単に気軽に決断できる問題ではないはず。現実に我々はどのへんまでロシアを抑止できていて、何処が不利なのか、あいまいな領域はどこなのか、ということを考えながらウクライナ戦略を考えていく必要がある」

追い込まれていくロシアに対し小泉氏は、いまこそ経済制裁を西側が“働きかけ”の武器にすることを提案した。

東京大学先端科学技術研究所 小泉 悠 専任講師
「戦車の部品一つとっても、半導体であるとか、それを作るための工作機械だとか、自国じゃできないわけです。ロシアもまた国際的なサプライチェーンの中にいないと、もう大国として振る舞うことは出来ない。

だから、そこにロシアに対して働きかける余地はあると思う。経済制裁もすぐに効かないじゃないかとか、一般民衆が苦しむだけで権力者は平気ではないかとの意見もあるが、私はロシアの軍事力とか権力とか、産業とか、我々がどこを閉めたらロシアのどこが痺れるのか、相関関係をマッピングして、ちゃんと働きかける方法はまだまだあるのではないかと思う。それは対ロシアだけでなくこれから日本が色々な所で使ったり、使われたりする武器なのだろうと思います」(BS−TBS 『報道1930』 5月18日放送より)【5月30日 TBS NEWS】
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【ロシア国内で批判的な論調も】
「プーチンの戦争」を圧倒的に支持してきたロシア社会にも、メディアの論調において変化の兆しが見えます。

****露で広がる侵攻への疑問、戦況膠着で風向き変化****
戦場での失態が増えるのに伴い、トーンに変化

ウクライナ侵攻を巡り、ロシア国内で批判的な論調が広がってきた。政府寄りのコメンテーターは当初、戦いぶりと軍指導部を称えていたが、戦場での失態が増えるのに伴い、そのトーンにも変化が生じている。

ミハイル・ホダレノク退役大佐は今週テレビ番組に出演し、西側がウクライナへの兵器供与や金融支援を強化する中、ウクライナにおける「わが国の状況は明らかに悪化するだろう」と警告した。「われわれにとって最も重要なのは、軍事的および政治的な現実をしっかり認識することだ」と同氏。「これを見失えば、歴史からひどい仕打ちを受け、何が起こるか分からなくなる」

ホダレノク氏はロシアの国益にならないとして、当初からウクライナ侵攻には反対の立場だった。だが、政府の見解を代弁することで知られる国営テレビ「1チャンネル」において司会者と白熱した議論を交わすことは異例で、同氏の批判的な論調は注目を集めた。

ところが、その数日後に再び同じ番組に出演したホダレノク氏は発言のトーンを一転。政府と同じ見解を公然と展開し、近くロシア軍が勝利するとの見方を示した。

世論に大きな影響を与えるロシア国営メディアは侵攻を全面的に支持しており、政府が「特別軍事作戦」と呼ぶこの戦争を肯定的に伝えている。独立系の世論調査によると、今回の戦争とウラジーミル・プーチン大統領に対する国民の支持はなお極めて高い。

しかしながら、ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)や北東部の都市ハリコフから後退したことで、一段と慎重な論調も広がってきた。

5月初めには、ウクライナ東部の川を渡ろうとしていたロシア軍大隊をウクライナ軍が総じて撃退。ロシア軍は戦車や装甲車を破壊され、多くの兵士を失った。これを受け、軍事評論家は恥ずべき失敗だと断じた。

ロシア政府寄りの著名司会者が務める第1チャンネルの別の番組では、元ウクライナ議員で、ロシア政府を支持したことで知られる評論家イゴール・マルコフ氏が、今回の戦争でロシアが敗北する可能性があると認めた。

マルコフ氏は「われわれの命がかかっており、勝つという選択肢しかない」としつつ、「現在の状況を見る限り、それをどう達成できるか分からない」と述べた。「戦況に関して、司令官に真実を報告していることを心から望む」

国営テレビで聞かれるようになったこうした批判は、戦争の行方と国家の運命について陰で不安をもらしているロシア国民の心境を映し出している。

2017年にクリミア半島で従軍し、仲間の兵士と連絡を取っているという徴集兵は、現場の兵士らも幻滅していると話す。「彼らは皆、常に無敵だと思っていた軍に失望させられたと感じている」

かねてロシア軍を支持していた人々も似たような懸念を口にしている。ロシアの軍事ジャーナリストで、従軍経験もあるアレクサンドル・スラドコフ氏はテレグラムで「遺憾なことが多いが、悪いことは言いたくない。だが、1つだけ疑問がある。わが軍はどこにいる?」と問いかけた。

その上で「違いに気付いてほしい。われわれはかつてハリコフ、そしてキエフでの戦いについて話していた」とし、「だが、今ではわれわれの成功は違う形に変わり、小さな町での勝利について語っている」と指摘した。(後略)【5月20日 WSJ】
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イギリス国防相の推計ではロシア軍兵士の死者は1万5千人ほどとも。
犠牲となった兵士の遺体が多数戻ることで、苦しい戦況は隠せなくもなります。「プーチンの戦争」への疑問も次第に膨らむことが予想されます。

【4月の消費者物価指数 前年同月比17.8%上昇】
苦しいのは戦況だけでなく市民生活も同様です。長期化すればするほど制裁の影響は大きくなります。プーチン大統領にとっては、戦況云々よりも政権基盤を揺るがす重大な問題でしょう。

****ロシア市民にインフレの痛み、制裁で品不足も****
西側諸国の経済制裁を受けているロシアで今、インフレが欧米の倍のペースで進行している。食品などスーパーに並ぶモノの価格が急激に値上がりし、人々の生活を直撃している。

ロシアでは景気低迷のあおりで賃金が上がらず、消費者の生活は一段と悪化している。在庫が少なくなる中、現金を手元に置いておくよりも早く使ってしまおうとする人々の行動もインフレを加速させかねず、状況はさらに悪化するとみられている。

政府のデータによると、1年前に比べ砂糖は7割弱、果物・野菜は約3割値上がりしている。食品全体では4月の上昇率は2割と、米国の2倍だ。パスタや穀物・豆類も3割以上価格が上がっている。

ロシアでは家計支出に占める食品の割合が大きいため、値上がりの影響はより深刻だ。米農務省によると、平均的な家計支出に占める食品の割合は2020年時点で米国が7.1%、英国が9.4%だったのに対し、ロシアは約29%に達した。

ロシアの賃金上昇ペースは物価上昇に追いついておらず、22年1-3月期の実質可処分所得は前年同期比1.2%減少した。22年の国内総生産(GDP)はマイナス10%程度になる見通しで、賃上げが進むとは考えにくい。

一方、4月の消費者物価指数(CPI)上昇率は米国が前年同月比8.3%、ユーロ圏が7.4%に達したが、ロシアでは17.8%と、それよりはるかに高い水準となった。

ロシアが2月にウクライナに侵攻して一連の経済制裁が科されると、インフレ率は急上昇し、それ以降は高止まりしている。洗剤や掃除用品は4月に前年同月比30%、電気製品・家電は28%値上がりした。一方、ロシアは世界有数の原油・ガス生産国であり、ガソリン価格は6%の上昇にとどまっている。

ロシアの消費者は、化粧品から宅配ピザまであらゆるものの値引き情報を求めて対話アプリ「テレグラム」に目を凝らしている。同国の反独占庁は、さまざまな商品の値上がりを巡って苦情が寄せられたことを受け、砂糖、プラスチック、ベビーフードなどの業者を対象に検査を実施した。

輸入品の在庫がなくなり、輸送費も上昇する中、長年ロシアを悩ませてきたインフレは今後も高止まりする公算が大きい。

ドイツ国際安全保障問題研究所のロシア経済専門家ヤニス・クルーゲ氏は「多くの企業はまだ、欧米製の部品やモノの在庫を持っている。数カ月分か、1年分あるかもしれない。だが、いずれは底を突き、品不足になって価格が押し上げられるだろう」と指摘した。

物価高騰や不透明な景気見通しに直面しているロシア人は、現金の価値が下がる前にカネを使うという、昔ながらの習慣に戻っている。これはインフレ下では常とう手段だが、さらなる物価上昇を招きかねない。

独立系コンサルティング会社Rポリティクの創業者タチアナ・スタノバヤ氏は「経済情勢の悪化がいつ、どれほどの速さでプーチン氏の支持率低下につながるかはまだ読めないが、国民の団結が揺らげば、早々にそうなるのは間違いない」と述べた。【5月21日 WSJ】
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【厳しさを増すロシアを取り巻く国際的環境】
「プーチンの戦争」が裏目に出て、フィンランド・スウェーデンのNATO加盟表明という、目的とは逆の事態に陥っているのは周知のところ。

それ以外にも、5月17日ブログ“カザフスタン、ベラルーシに見る旧ソ連CSTO参加国にも広がる「ロシア離れ」”でも取り上げたように、ロシアを取り巻く国際的環境は厳しさを増しています。

****ついにロシアを見限った、かつての「衛星国」たち****
<プーチン政権とロシアへの反感と抵抗を募らせる、「旧ソ連圏」の国々。今回のウクライナ侵攻には加担せず、餓死や粛清などソ連時代の残虐行為への責任も問う声が一般市民にも広がっている>

隣人と仲良くするのは難しいものだ。とりわけそれがロシアの場合には──。
ウクライナで戦争が始まって以来、かつて「衛星国」と呼ばれた国々が続々とモスクワの重力圏を離れようとしている。

足元でロシアの脅威を感じるモルドバやジョージア(グルジア)から、ロシアに借りのある中央アジアのカザフスタンまで、多くの国がウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアから距離を置き始めた。

ソ連時代の親密な関係を再検証する動きもある。かつてのソ連は「みな兄弟」と言っていたが、そんなのは嘘っぱちだと今は誰もが気付いている。みんな対等なんて話は、暴力でソ連が生まれた100年前から嘘だった。

そのソ連が崩壊してから30年を経た今、かつての衛星国の目に映る今のロシアは、単なる厄介な隣人だ。(後略)【5月19日 Newsweek】
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頼みの中国も、自分が火の粉を被ってまでロシアを支援する考えはないでしょう。

****中国ハイテク企業、ロシアとの取引ひそかに停止****
中国のハイテク企業が米国の制裁措置やサプライヤーからの圧力を受けて、ひそかにロシアとの取引から手を引いていることが分かった。中国政府は外国の制裁に屈しないよう求めているが、複数の主要企業が公表することなくロシアでの販売を減らしている。内情に詳しい関係筋が明らかにした。(後略)【5月7日 WSJ】
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もちろん、ロシアが以前として多くの地域を支配しており、東部などで攻勢をかけているのも事実です。
上記のような“ロシアの苦境”云々は、ある意味、ロシアが苦境に耐えかねで戦争を中止して欲しいという“期待”“希望”もこめられた議論でもあります。

なお、一部日本メディアで報じられている「ウクライナ、反転攻勢へ…大統領顧問『米欧提供の武器がそろう6月中旬以降』」というのは拡大解釈のミスリードとの指摘も。
互いが“大本営発表”するなかで、戦争の実態はよくわからないところも。

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米バイデン大統領 日韓歴訪で中国包囲網  “中国排除”を生き抜くファーウェイが示すことは?

2022-05-21 23:20:58 | 国際情勢
(20日、韓国平沢のサムスン電子半導体工場で尹錫悦大統領と生産施設を視察し、両手の親指を立てているバイデン米大統領。【5月21日 中央日報】)

【中国を牽制するバイデン大統領の日韓歴訪 中国は中国切り離し・排除の動きを批判】
アメリカのバイデン大統領が明日5月22日から24日にかけて、大統領就任後初めて日本を訪問します。
その目的はアメリカのインド太平洋地域への関与は揺るがないと明確に示すことにあるとされています。

より具体的には、台湾有事の可能性も念頭にした日米の安全保障分野での連携強化、アメリカの「核の傘」を含む(同盟国に対する攻撃を自国への攻撃と見なし、もし攻撃したら報復することをあらかじめ宣言する)「拡大抑止」の再確認、インドとの関係強化が主眼となる日米豪印の4か国からなるクアッド首脳会合開催、IPEF(アイペフ インド太平洋経済枠組み)の発表などにあります。

それらの取り組みは中国への対抗を念頭に置いたものになります。

****バイデン氏がアジア歴訪へ、大統領補佐官「メッセージは中国にも届くだろう」****
(中略)ジェイク・サリバン米国家安全保障担当大統領補佐官は18日の記者会見で、歴訪の意義を「同盟国・友好国とともに、米国のリーダーシップが世界中の人々に貢献できるという力強いメッセージを発信することだ」と強調。「特定の国を狙ったものではないが、メッセージは中国にも届くだろう」とも語り、中国をけん制する意図もにじませた。(後略)【5月19日 読売】
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当然ながら中国は不快感・警戒感を示しています。

****中国、米大統領の日韓歴訪牽制 中国紙「騒動の旅」****
中国外務省の趙立堅(ちょうりつけん)報道官は19日の記者会見で、バイデン米大統領の日韓歴訪について「米国と日本が二国間関係を発展させるのに、第三国を標的にしたり、その利益を害したりすべきではない」と述べ、アジア太平洋地域での「中国包囲網」強化に警戒感を示した。

趙氏は「いかなる地域協力の枠組みも、平和と発展という時代の潮流に即したものであるべきだ」と強調。米主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を念頭に置いた発言とみられる。

一方、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は19日付の社説で、今回の歴訪について「中国を標的にした騒ぎを起こす旅だ」と論評した。歴訪を前に米側の当局者やメディアが「どのように韓国、日本と調整して中国を包囲、排除するか熱弁を振るっている」とした。

同社説は、バイデン政権が経済面における新たな「対中カード」としてIPEFを持ち出してきたと警戒。「中国とのデカップリング(切り離し)に引き込み、経済面で中国を排斥する小派閥をつくる」ことが米国の狙いだと分析した。【5月19日 産経】
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【経済的中国包囲網としてのIPEF 日本とって経済的メリットは大きくないとも】
「対中カード」としてIPEF・・・ということですが、日本にとっては日米の協力関係を強化するということでは意味がありますが、経済的に見るとあまりメリットがないのが実情で、アメリカのTPP復帰が見込めないなかでの“次善の策”とも。

****「なぜTPPではなく新しい経済枠組み?」 バイデン提案への岸田首相の本音****
バイデン米大統領が22日からの訪日中に打ち出す新たな経済連携「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」について、日本政府は参加を表明する方向で調整しているものの、経済的な実利は少ないとの冷めた見方が政府関係者の間から聞かれる。米国の環太平洋経済連携協定(TPP)復帰が見込めない中、中国包囲網の抜け穴を埋めるための次善の策だと関係者は口を揃える。

IPEFはバイデン大統領が昨年10月の東アジアサミットで表明した経済圏構想で、シンガポールや韓国などが参加検討を表明している。日本も参加する方向で調整を進めており、松野博一官房長官は18日、米国のインド太平洋地域への関与を示すものとして歓迎の意を示した。

貿易や供給網(サプライチェーン)、脱炭素などいくつかのテーマを設定し、どこに参加するかを自由に選べる形になる見込みで、米政府は多くの国が手を挙げられるようハードルを低く設定している。しかし、TPPと異なり関税引き下げによる市場開放を打ち出しておらず、巨大な米国市場にアクセスできる機会が増えるかどうか分からない経済枠組みに参加するメリットを感じる国は多くない。

米・ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会談のためにワシントンを訪れたベトナムのファム・ミン・チン首相は11日、「関心があるが詳細を知る必要がある」と述べた。インドネシアなども参加を表明していない。

日本の経済産業省の関係者は「米国はアジアの実情について不勉強。アジア各国が乗りやすい仕組みを作らないと、上から目線で新たな枠組みを構築しても参加しない」と解説する。

TPP脱退で恨み節
表向きは支持する姿勢を表明した日本の政府内にも、米国の通商政策が目まぐるしく変わる状況を冷淡な目で見る向きがある。日本は対中包囲網の意味合いがあった米国主導のTPPに乗ったものの、自国第一主義を強めたトランプ政権が途中で離脱を決め、はしごを外された苦い経験がある。

岸田文雄首相に近い政府関係者は、米国主導のTPP交渉に「日本側は多大な労力を割いてきたにも関わらず米国が勝手に脱退した」と話す。

バイデン大統領は12日、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳らとの特別会議でて総額1.5億ドル(約193億円)の支援を表明した。しかし「同時期に米国はウクライナに約400億ドル(約5.1兆円)の支援を表明しており、米国にとってアジアの優先順位は高くないとの見方を助長する可能性がある」と、テンプル大学ジャパンキャンパスのジェームス・ブラウン上級准教授は指摘する。

米国のアジアへのコミットを強めるため
それでも日本がIPEFに参加するのは、中国が台頭する中で米国のアジアへの関与を一段と強めるためだと、複数の政府関係者は言う。

日米安全保障条約や日米豪印4カ国の枠組みクアッドなど、安全保障面で中国をけん制する地域協力は複数あるが、経済面は米国がTPPが参加しなかったことで網に穴が空いた状態にある。

本来は米国のTPP復帰という形でけん制したいところだが、バイデン政権に代わっても保護主義が続く中で実現は難しいと、日本の政府関係者はみている。

「トランプ前大統領以来の保護主義的な通商政策に対し、民主・共和両党の穏健派から懐疑的な声がある」と、外務省関係者は言う。「日本は引き続き米国にTPP復帰を求めるという立場だが、それまでのつなぎという位置づけでIPEFを歓迎する」と語る。(後略)。【5月20日 Newsweek】
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IPEFについて冷めているのは日本だけでなく、ASEAN諸国も同様です。

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アメリカが参加を期待するASEAN=東南アジア諸国連合の国々の反応がいまひとつです。
ASEAN諸国のなかには、アメリカの「本気度」に対する懐疑的な見方や、経済的結び付きの強い中国との関係悪化を懸念する声が少なくないからです。さらに、関税の引き下げといった目に見えるメリットが感じられないことへの不満もあります。

このためバイデン大統領は今回、ASEAN諸国の間で信頼度の高い日本の後押しを受ける形で、IPEFの立ち上げに向けた協議の開始を東京で発表することで、スタートダッシュを図りたい考えです。IPEFの具体的な中身のほか、何か国が参加するのかが注目されています。【5月21日 NHK】
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【先端技術と供給での中国排除を目指すバイデン大統領】
対中国ということでは、バイデン大統領は、日本に先立つ訪問国である韓国の尹錫悦大統領とサムスン電子の半導体工場を視察し、供給網の強化に向けて韓国と連携し、中国に依存しない考えを強調しています。

****バイデン氏 半導体供給網で「脱中国」強調 日韓歴訪を開始****
アメリカのバイデン大統領は、日韓歴訪を開始し、最初の訪問先・韓国で、半導体の供給網について「脱中国」を目指す考えを強調した。

アメリカ・バイデン大統領「ウクライナでのプーチンの残忍で無謀な戦争は、われわれの重要な供給網を確保し、経済や国家安全保障で価値観を共有しない国に依存しないことが必要となっている」

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領「今回の訪問を機に、米韓関係が先端技術と供給網の協力に基づいた、新たに経済安保同盟に生まれ変わることを望む」

バイデン大統領は、尹錫悦大統領とサムスン電子の半導体工場を視察し、供給網の強化に向けて韓国と連携し、中国に依存しない考えを強調した。尹大統領も、先端技術と供給でアメリカとの連携を強化していくことを確認した。

また、バイデン大統領は「アメリカの労働者は世界クラスの技術を持っている」と述べ、半導体工場のアメリカへの誘致を呼びかけた。【5月21日 FNNプライムオンライン】
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先端技術と供給で“中国企業締め出し”の代表企業とされたのが中国通信機器大手ファーウェイですが、アメリカと共同歩調をとる(孟晩舟副会長を拘束した)カナダと中国のバトルは今も続いているようです。

****カナダ 5GでファーウェイとZTE排除、中国との関係さらに悪化の可能性****
カナダ政府は、次世代通信規格「5G」から、中国通信機器大手ファーウェイとZTEの製品を排除すると発表しました。

カナダ政府は19日、5Gに関して、安全保障上の懸念があるなどとして、ファーウェイとZTEの製品の新規利用を禁じ、既に利用中の機器は2024年6月までに撤去するか利用を停止するとしています。また、ファーウェイとZTEについて、「カナダの法律に違反したり、カナダの利益を損なうような外国政府からの指示に従う可能性がある」と指摘しています。

ファーウェイに対しては、アメリカをはじめイギリスなどヨーロッパ各国や日本も政府調達から事実上排除していて、カナダもこれに追随した形となりました。

これまでファーウェイをめぐっては孟晩舟副会長が2018年にカナダ当局に拘束され、その後、中国がカナダ人2人を拘束し、カナダ政府が報復措置だと批判するなどしていて両国の関係がさらに悪化する可能性があります。【5月21日 TBS NEWS】
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【生き残った“中国企業締め出し”の代表企業ファーウェイ その現在が示すことは?】
このように先端技術と供給の分野での“中国企業締め出し”の代表企業とされている中国通信機器大手ファーウェイですが、必ずしもアメリカの意図したようには事は進んでいないとの指摘も。

****米国の「中国ハイテク企業締め出し」、先行き不透明で自国内に「死活問題」も発生****
米国政府は2019年5月、中国企業70社を列記する「エンティティーリスト」を発表した。自国企業などに対して、リストに掲載された企業との取引を厳しく制限する措置だ。

リストに掲載された企業で特に注目されたのは、スマートフォン売上台数でアップルを抜いて世界第2位に躍り出ていた華為技術(ファーウェイ)だった。スマートフォン製造に必要な電子部品を米国企業から調達できなくなり、さらに中国企業が製造したスマートフォンではグーグルが提供する各種サービスを利用できなくなるからだ。

■米国の制裁により、ファーウェイの「脱皮」が加速
しかし、それから3年が経過した現在も、ファーウェイは生き残っている。それどころか、企業としての体制を整備して、技術力も大いに向上させた。

スマートフォン分野での「快進撃」の記憶は実に強烈だったが、同社の状態は大きく変化した。まず同社はスマホの売り上げに大きく頼るのではなく、「通信会社向け事業」、「(通信会社以外の)事業者向け事業」、「端末事業」の三大分野を推進する性格を強めた。(中略)

■ファーウェイの「ピンチ」は、大きなチャンスにつながる可能性も
(中略)「あまりにも偉大な成功」を経験すると、その成功経験に固執したことが大失敗につながる例は多い。象徴的な実例として語られることが多いのが、米国企業のコダックだ。(中略)

ファーウェイの場合、「苦境」は現在も続いている。しかし、スマホ事業での大成功という「過去の栄光」に束縛されない状態が、米国の制裁のおかげでより早く実現した感すらある。ピンチは時として、大きなチャンスのきっかけになる。

■米政府が中国製品撤去のために用意した助成金は実情と比べて大幅に不足
一方、制裁を科した側の米国の状況はどうなのか。米国メディアのブルームバーグは11日、米国当局が進める「安全の確保」を理由とする自国の通信インフラからの中国ハイテク製品の締め出しが順調に進んでいないと報じた。

米国当局は自国の通信インフラで使われている華為科技(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)の製品を他の製品に交換するよう、分野ごとに指示している。業者側の負担を低減するために、助成金制度も設けたが、予算総額が大幅に不足している。(中略)

影響が特に大きいのは、地方の規模が小さな接続業者だ。中国製品の排除という政府の方針は支持しつつも、資金が足りない場合には事業からの撤退を決断すると話す経営者もいるという。(中略)

■米通信業者は10年前、自国政府の誘導により中国製品を導入
(中略)米国政府が「中国製品締め出し」のために制定した助成金制度には、もう一つの問題がある。同等の機能を持つ中国製品以外の機器に交換する場合に対しての助成金という制約だ。

技術の進歩が速い通信業界では通常、「機器交換」はアップグレードを意味するが、助成金に付帯する条件のために、機器を交換しても技術面では「停滞」せざるをえないという。

また、通信の仕様が変わるために、サービスの個別利用者が、携帯電話などの端末機器を自己負担で買い替えねばならない場合もある。米国による「中国企業制裁」は、自国の業者にも消費者にも、大きな負担をもたらしつつある。

■米国で「中国との競争について見通しが甘かった」の真剣な反省
米ハーバード・ケネディ・スクール ベルファーセンターは2021年12月、「大いなる技術の対抗:中国 vs 米国」と題する長大なリポートを発表した。同リポートは、米国国内における「中国関連予想」が、はずれ続けたと紹介した。(中略)

2010年になると、中国が巨大工業国として成長しつつあることははっきりと認識されていたが、中国問題の専門家ですら「中国では(学習の方法の)大部分が丸暗記」であり、中国は「規則に縛られた国」であり、中国人はイノベーションを成し遂げることはできず、模倣しか出来ないと考えていた。また、「情報技術における進歩はファイアー・ウォールの背後にある独裁的な体制の下ではなく、自由に考える者で成り立つ社会で達成される」と考えが一般的だった。

そして、ベルファーセンターのリポートは、技術分野における中国観は現在までに「中国は巨大製造国の地位を越えて、21世紀の基礎的な技術分野である人工知能(AI)、5G、量子情報科学(QIS)、半導体、バイオテクノロジー、グリーンエネルギーで、脅威ある対抗者になった。中国はいくつかの競争において、すでにトップだ」などと、大きく変化したと指摘。

同リポートによれば、多くの米国人は古い中国観に固執しているが、専門家からは「このままの状態が続けば、中国は最先端技術の分野で、10年以内に米国を追い越す」との指摘も出ている。

■米国のファーウェイ制裁、中国の「米国猛追」をさらに加速する可能性
(中略)最も成功した中国ハイテク企業の一つであるファーウェイは、最低でも売上高の10%に相当する金額を研究開発費に充てることを社是としている。21年における研究開発費の売上高に対する割合は、前年比6.5ポイント増の22.4%だった。同割合が大きく跳ね上がった最大の要因は売上高が前年比28.6%と激減したことだが、研究開発費は実際の金額も、前年よりわずかではあるが増えている。

中国ではファーウェイの創業者であり最高経営責任者(CEO)である任正非氏が、「経営の神様」と見なされている。米国の圧力に堂々と立ち向かう姿が、「愛国心」を刺激している面もあるが、それだけではなく、常に長期展望をもって会社を成長させてきた姿勢と手腕が評価されているという。そのファーウェイの経営に大きな特徴が、「研究開発に多くをつぎ込む」だ。

科創板に上場した企業の経営者が、任氏やファーウェイの経営方針を大いに意識にしていることは間違いない。その結果、中国のハイテク企業には「研究開発に多くをつぎ込む」が、企業文化として浸透したと言える。

その結果、中国企業が画期的な技術を開発する可能性は高まりつつある。企業の研究開発に対する米国のファーウェイに対する制裁が、長期的に見れば中国との技術開発競争で、米国にとって「さらに不利な状況」をもたらす可能性は否定できない。【5月20日 レコードチャイナ】
*******************

上記記事はいささかファーウェイの側に立つような感もありますが、そこを差し引いても、IPEFのような取引面で中国を排除するような“小細工”を弄している間に、中国企業はイノベーションでその壁を乗り越え、排除したはずの国々がやがて置いていかれる・・・といった事態にならなければ幸いですが・・・。

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中国・新疆ウイグル自治区 不妊処置を示す人口動態か 国連人権高等弁務官が今月中国訪問

2022-05-20 22:42:33 | 中国
(中国国旗などが飾り付けられたバザール(2019年12月、新疆ウイグル自治区・ウルムチで)=片岡航希撮影【5月20日 読売】)

【人口増加率が急減したウイグル族 当局関与による不妊処置急増を反映か】
アメリカ議会上院は昨年12月に、新疆ウイグル自治区を産地とする物品輸入を全面的に禁じる「ウイグル強制労働防止法案」を全会一致で可決するなど、中国のウイグル族に対する人権侵害及び、そのことへのアメリカの批判は激しさを増す米中対立の「主戦場」の様相を呈していました。


しかし、ロシアのウクライナ侵攻がアメリカ・国際社会の主要関心事になったせいか、最近はあまりウイグル族弾圧関連のニュースは目にしません。

そうしたなかで、(中国側は否定するものの)強制収容施設、強制労働、不妊手術強制、宗教・民族文化の抑圧、漢民族優遇などが行われていると欧米が批判する中国のウイグル族等少数民族弾圧政策の結果、特に不妊処置強制を示すものとも思われる人口動態の数字が報じられています。

****ウイグル人口増加率急減 少数民族地域100分の1も 当局の出生抑制策が影響か****
中国新疆ウイグル自治区の少数民族が集まる地域で、人口千人当たりの増加数を示す「人口増加率」(移住を除く)が極端に低下している。

地元当局の統計によると、ウイグル族が人口の9割超を占めるカシュガル地区では、2017年の30・42から19年は0・31に激減。ホータン地区も17年の11・8から19年は0・9に落ち込んだ。こうした地域では14~18年に不妊処置件数が急増しており、当局の関与が疑われているウイグル族を狙った人口抑制の実態が浮き彫りになった。 

地元当局の統計資料「カシュガル地区統計年鑑」によると、19年に人口千人当たり1人も増えなかったことを意味する人口増加率「1未満」だったのはカシュガル、ホータン両地区で、いずれも18年以降に急減。特にカシュガル地区は17年の約100分の1に落ち込んだ。
 
新疆全体の統計年鑑では、19年分から地域別の人口データが非公開とされた。ウイグル族への人口抑制策の影響を読み取れなくする狙いがあった可能性があるが、同年鑑作成の基礎資料となるカシュガル地区統計年鑑には19年分までの地域別データが記載されていた。
 
カシュガル、ホータン両地区以外のウイグル族の集住地域もトルファン市が1・02、アクス地区1・48と、いずれも中国の平均(3・32)や新疆の平均(3・69)を大幅に下回った。漢族が人口の7割超の区都ウルムチ市(5・66)やカラマイ市(5・31)は、中国や新疆の平均を上回った。
 
ホータン地区の統計年鑑(13~17年分)では、人口の約97%を占める「その他の民族」(うちウイグル族が99%超)の人口増加率が年々下がる一方、人口の約3%の漢族は上昇している実態も判明。17年には漢族の増加率がその他の民族を上回る逆転現象が起きた。

産児制限「一人っ子政策」が15年に撤廃されたことに伴い、中国全体で16年から不妊手術や子宮内避妊具(IUD)装着手術が減少したが、新疆では当局による少数民族抑圧が強まった疑いがある14~18年に不妊処置件数が急増した。

新疆統計年鑑によると、18年に不妊処置を受けていた人は新疆全体で約29万3千人に上り、約75%がウイグル族集住地域に集中。そのうち不妊手術は約8万9千人に上り、約99%がウイグル族の集住地域の住民だった。
 
自治区政府系の研究機関幹部は、新疆でウイグル族が増え続けて漢族との人口差が広がることの「政治的リスク」を問題視した論文を17年に発表。人口抑制策の実施を強く促してきた。
 
ウイグル族 
ウイグル族はトルコ系民族で大多数がイスラム教徒。2009年に中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチで大規模暴動が発生し、政府は過激主義によるテロとして監視を強化。14年、習近平国家主席が新疆を視察時にも自爆テロが起き、統制がさらに強まったとされる。

国連人種差別撤廃委員会は18年、最大100万人以上のウイグル族などが思想改造のための施設に収容されたと報告した。中国政府は昨秋公表した新疆の人口動態に関する白書で「過去20年のウイグル族の人口増加率は全国の少数民族をはるかに上回る」と強調。不妊手術の強制も否定し「自主的な選択」とした。【5月12日 坂本 信博氏 西日本】
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【バチェレ国連人権高等弁務官の中国訪問 中国は「歓迎」するも、「調査」が目的ではないという姿勢】
こうしたウイグル族の実情を調査するため、バチェレ国連人権高等弁務官が5月に中国を訪問することで、中国側も同意しています。

****国連に新疆への完全なアクセス許可を、米が中国に要求****
米国は9日、バチェレ国連人権高等弁務官の中国訪問が決まったことを受け、新疆ウイグル自治区での人権侵害を調査するため、同地区への「制限や監視のないアクセス」を認めるよう中国に求めた。

バチェレ氏は8日、5月にも自身が訪中することで中国政府と合意したと表明した。新疆も含まれる。国連人権高等弁務官の訪中は2005年以来となる。

在ジュネーブ国連機関の米代表を務めるシェバ・クロッカー氏は、バチェレ氏が新疆のウイグル族やさまざまなグループと個人的に面会し、「残虐行為」や強制労働などの虐待が報告されている場所にアクセスできる必要があると指摘。

「アクセス制限や活動・報告妨害は、バチェレ氏の訪問の信頼性を著しく損ない、新疆での人権侵害を否定するプロパガンダを支持することになる」と述べた。

活動家らは約100万人のウイグル族が拘束されていると指摘している。

中国は虐待を否定しており、収容施設について過激思想に対処するための職業訓練所だとし、19年終盤には全員が「卒業」したと発表している。【3月10日 ロイター】
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【国連人権高等弁務官の中国訪問を前に「弾圧隠し」も】
4月末には先遣隊が中国に入り中国側と調整していますが、詳細は明らかにされてません。
中国側はバチェレ国連人権高等弁務官の中国訪問を「歓迎」を示しているものの、“交流と協力の推進が目的であり、人権問題に対する「調査」が目的ではない”というのが中国側のスタンスです。

そうした状況で、中国側の「やらせ」疑惑も報じられています。

****ウイグル自治区で「弾圧隠し」か…国連高官の訪問前に監視台撤去・モスク礼拝を指示****
国連のミチェル・バチェレ人権高等弁務官が今月末までに中国入りし、少数民族ウイグル族への人権侵害が指摘される新疆ウイグル自治区を視察する。自治区では訪問を前に「弾圧隠し」が始まっている模様で、バチェレ氏が実態を把握するのは困難とみられる。

◆やらせ
「自治区では、ウイグル族のイスラム教信仰を保障しているかのような『やらせ』が増えている。バチェレ氏の目から弾圧を隠す意図があるのは明らかだ」 海外在住のウイグル族男性(48)は本紙の電話取材に、そう憤った。
 
自治区に住む人から男性が得た情報によれば、区都ウルムチでは、街中に数百メートルおきに設置されていた警察の監視台の撤去が進んでいる。5月上旬には、当局が普段は禁じるモスク(イスラム教礼拝所)での礼拝を指示し、当局者がその様子をビデオで撮影したという。バチェレ氏の訪問にあたり、宣伝材料として利用される可能性がある。
 
ウイグル族の女性(37)は「ウイグル族が住む集合住宅の入り口に設置されたテロ防止名目の鉄柵も、2か月前から撤去され始めた」と明かした。
 
また、米政府系放送局のラジオ自由アジア(RFA)は、当局が自治区の複数都市の住民に対し、許可なく国連訪問団の質問に答えることを禁止し、外国を含む自治区外からの電話にも出ないよう指示したと伝えた。「外国人と会話してはならない」と通知した村もあるという。

◆お膳立て
バチェレ氏訪中の具体的な日程は公表されていないが、国連によれば、約1週間の滞在中、自治区訪問のほか、政府高官との会談も予定されている。北京は訪れないという。

国際人権団体は懸念を深め、視察が「独立した立場で無制約で行われる」よう求めている。「人権侵害はない」とする中国がお膳立てした視察では、今回の訪問を受けた報告書が中国に有利な内容となるおそれがあるためだ。
 
一方、AP通信は17日、自治区南部の一つの村でウイグル族1万人以上がテロに関連する罪で収監されていると報じた。25人に1人が収容されている計算で「世界最悪の投獄率」だとしている。

RFAによると、自治区西部のカシュガルでは、ウイグル族の特産品が集まり「ウイグル文化の展示場」と呼ばれる国際貿易市場の解体も進んでいる。

同化政策 高官人事にも
中国の習近平シージンピン政権は、大多数の漢族と少数民族を一つの「中華民族」と位置付け、同化政策を意味する「共同体意識の強化」を掲げてきた。少数民族の居住区域などでは、それに基づく高官人事も進んでいる。
 
寧夏回族自治区では今月9日、区都トップの張雨浦ジャンユープー氏が区政府主席代理に就いた。地元ナンバー2の政府主席に昇格する公算が大きい。張氏は回族ながら山東省出身者で、自治区での勤務経験は1年以下だ。内モンゴル自治区で昨年、遼寧省の出身者が主席ポストに就いたことに続き、自治区外出身者の起用となる。
 
香港紙・星島日報は一連の人事の狙いを「地元勢力の拡大を防ぐため」と伝えた。国内五つの自治区では、いずれもトップの共産党委員会書記ポストは漢族が独占。

少数民族の起用が制度化されている主席ポストについても、地元出身者を充てることで地元への配慮を示すこともあった。こうした人事手法が見直されている可能性がある。
 
特に内モンゴル自治区では近年、当局の言語政策に対する抗議活動が起きており、地元の反発に気兼ねなく同化政策を推進する布石との見方がある。習政権は2020年、少数民族政策部門トップにも、少数民族ではなく漢族を起用する異例の人事を行っている。【5月20日 読売】
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【国連監視団体 ベラルーシ人国連特別報告者が中国から20万ドルを受け取る一方、ウイグル人に対する「民族浄化を隠蔽するのを支援」したと批判】
なお、「国連」と言っても、当然ながら欧米・日本的な価値観の国だけでなく、中国や強権支配国家も多く存在しますので、「国連」=(欧米・日本が考えるような)民主主義的価値観という訳でもありません。

ただ、そこに「カネ」が絡むと・・・

****国連特別報告者に中国から2500万円、「民族浄化の隠蔽支援」 監視団体****
国連監視団体「UNウオッチ」は19日、国連のアリーナ・ドゥハン特別報告者が2021年に中国から20万ドル(約2560万円)を受け取る一方、同国がイスラム系少数民族ウイグル人に対する「民族浄化を隠蔽(いんぺい)するのを支援」したと非難し、返金を求めた。
 
ドゥハン氏はベラルーシ人法学者。2020年3月、国連人権理事会から特別報告者に任命された。一方的な制裁の負の影響を専門とする。国連特別報告者の主張は必ずしも国連の見解を反映するものではない。
 
ドゥハン氏は昨年9月、新疆ウイグル自治区を「素晴らしい土地」と喧伝(けんでん)する中国政府が後援するオンラインプロパガンダイベントに出席した。
 
イベントでは中国の外交官や高官が、西側諸国が中国に対する中傷キャンペーンを展開していると非難。「新疆ウイグル自治区の政策は国際的な労働・人権基準に従っており、生活水準の向上を目指す全民族の意志を支持する」と主張する映像も流された。
 
欧米諸国は中国によるウイグル人へのジェノサイド(大量虐殺)を認定しているが、中国は断固として否定している。
 
UNウオッチによると、ドゥハン氏は昨年、他にも二つの西側諸国による制裁を批判するイベントに出席。イベントは中国、ベラルーシ、イラン、ベネズエラ、ロシアの共催だった。
 
UNウオッチのヒレル・ノイアー事務局長は「独立した立場であるべき人権専門家が政権から金を受け取り、残虐行為を隠蔽すべく企図されたイベントを支持するとは信じ難い」と非難した。
 
中国からドゥハン氏への献金は3月、国連総会に提出された国連人権理事会が任命したすべての特別報告者と作業部会の活動に関する報告書で発覚した。
 
国連人権理事会の報道官はAFPの取材に対し、特別報告者の活動資金は国連の通常予算で賄われるが、委託された仕事の量に対して決して十分とはいえないとして、特定の活動に対する任意献金の必要性を強調した。
 
特別報告者の活動には多くの国が献金しているが、中国が昨年ドゥハン氏に献金した額は群を抜いて多かった。ドゥハン氏はロシアからも15万ドル(約1900万円)、カタールからも2万5000ドル(約320万円)を受け取った。
 
ドゥハン氏はベネズエラやジンバブエ、イランなどを訪問。制裁は「壊滅的な人道的影響」をもたらし違法であり、解除すべきだと主張。人権活動家からは、権威主義国の苦境は西側諸国に科された制裁が原因だと主張し、権威主義政権のプロパガンダに利用されていると批判されている。 【5月20日 AFP】
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国連特別報告者も“いろいろ”なようです。

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中国  「ゼロコロナ」等の経済悪化、不満で高まる李克強首相の存在感と待望論 習近平退陣の怪情報も

2022-05-19 22:40:00 | 中国
(李克強首相は水曜日(18日)、雲南大学の2022年就職フェアを視察し、卒業と失業に直面している大学生を応援した【5月18日 ラジオフリーアジア】)

【“当たり前”の李克強首相の経済対策に関する発言ではあるが・・・】
「共同富裕」を目指すとする習近平主席の政策や「ゼロコロナ」の厳しい規制措置によって、さしもの中国経済も落ち込みが明らかになっています。

****中国の4月消費は11%減 上海封鎖が直撃、生産もマイナス****
中国国家統計局が16日発表した4月の主要経済指標によると、消費動向を示す小売売上高は前年同月比11・1%減だった。マイナスは2カ月連続で、下落幅は前月(3・5%)から拡大。

3月下旬から上海市のロックダウン(都市封鎖)が続くなど、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて全国的に移動制限が強化されたことが直撃した。(中略)

工業生産は2・9%減だった。前月(5・0%増)から一気に落ち込んだ。生産量では自動車が43・5%減だった。上海など封鎖に踏み切る都市が相次いでいることを受け、サプライチェーン(供給網)が深刻な打撃を受けている。

投資動向を示す固定資産投資は、1〜4月の累計で6・8%増で、1〜3月(9・3%増)から低下した。不動産開発投資は2・7%減で、1〜3月(0・7%増)から下落した。中国政府による不動産業界への規制強化もあり冷え込みが深刻化している。【5月16日 産経】
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このような後退局面の経済情勢に関して、李克強首相が「政策的余地がある」と語っています。

****中国、高まる経済下押し圧力に政策対応の余地=李首相****
中国の李克強首相は18日、経済下押し圧力が強まる中、課題に対処する政策的余地があると述べた。国営メディアが伝えた。

李首相は雲南省で開かれた会合で、上半期と通年の経済運営を「合理的な範囲内」に収めることを確実にするとし「現在、物価は安定しており、課題に対処する政策的余地がある」と述べた。(後略)【5月18日 ロイター】
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国内経済状況に対する政策対応を首相が語る・・・「当たり前」の話ですが、最近の中国政治状況と照らすと、意味深な感じも。

【「ゼロコロナ」や習近平主席の政策による経済悪化で高まる李克強首相の存在感】
そもそも、本来国内政策は李克強首相が担当する分野ですが、これまでは「一強」状態で、今秋異例の三選が確実視されている習近平国家主席が外交だけでなく国内経済についても指導する場面が多くなり、それに伴って李克強首相は中国関連ニュースでほとんど名前を見ることがなく、いるのかいないのかわからないぐらいに存在感が薄れていました。

ところがここのところ、李克強首相の存在感が以前より増しているようです。
前出【ロイター】に記された李克強首相の政策対応云々の話も、そうした流れの一環のようにも見えます。

****忘れられた中国首相、経済低迷で再び表舞台に****
経済減速の原因となった政策撤回で習主席に圧力

中国の習近平国家主席は長年、ナンバー2の有力政治家である李克強首相(66)を蚊帳の外に追いやってきた。だが、ここにきて李氏は自身の強みを生かし再び表舞台にはい上がっており、10年近く不在だった政権トップの対抗勢力を形成する可能性が出てきた。

中国経済が近年まれに見る不振にあえぐ中、李氏は西側の資本主義から距離を置き、かつ中国経済の減速を招いている措置を縮小するよう、習氏を促している。政府当局者や意思決定に詳しい顧問らへの取材で分かった。

中国はこのほど民間テクノロジー企業に対する規制を緩和し、不動産開発業者や住宅購入者への貸出規定を緩めるとともに、習氏の「ゼロコロナ」戦略により中国の大部分がロックダウン(都市封鎖)を余儀なくされている中で製造業の生産を一部再開した。こうした動向は李氏の影響力によるものだという。

あと1年足らずで退任する李氏は、後任人事にも自身の意向が反映されるよう努めている。意志決定に詳しい関係筋が明らかにした。権力固めを進める習氏は少なくともさらに5年は実権を握ると見込まれており、李氏は習氏の対抗勢力となれるような次期首相を望んでいるという。

中国の政治システムは極めて不透明なため、李氏が内部でどの程度の支持を得ているのかを判断することは難しい。ただ、意志決定に詳しい関係筋は、李氏の動きに対しては共産党内で一定の支持が集まっていると話す。習氏が経済成長を確保するための実利的な措置ではなく、毛沢東の社会主義的な構想に根ざした思想に準じることを過度に重視し過ぎていると懸念する党幹部らが後押ししているという。

李氏の支持者には、中国共産党の青年組織、共産主義青年団(共青団)関係者も含まれる。共青団は胡錦濤元国家主席ら歴代指導者を輩出するなど強い影響力を持っていたが、習氏の時代になって影が薄くなった。(中略)

しかしながら、こうした足元の変化(李克強首相らの政策への影響力発揮)により、経済における国家の役割拡大という習氏の政策が縮小される、あるいは西側との関係強化につながるとは想定されていない。習氏はここ数十年で最も強力な中国指導者であり、幹部の多くは習氏の強硬な政策を支持しているためだ。

李氏やその支持者らによる政策面での勝利は、すぐに撤回される可能性もある。習氏は民間資本に対して極めて強い不信感を抱いており、党幹部が中国を再び経済自由化へと誘導することは難しいためだ。

とはいえ、李氏の影響力が足元で高まっていることは確かだ。米クレアモント・マッケナ大学の裴敏欣政治学教授が中国国営メディアの報道を分析したところ、李氏が2021年に新聞の見出しを飾った回数は前年比で15回増えており、22年初頭のトレンドが続けば、通年では前年比でおよそ倍になる見通しだ。

同教授によると、21年以前は李氏は「実質的に存在していなかった」。だが、今では「日増しに良くなっている」とし、「習は根底では左派的な思想を持っているが、経済については戦術的な譲歩が必要だ」と述べる。

今秋の共産党大会を控え、習氏の指導力に対しては不満が高まっている。習氏が共産党大会で3期目続投を決めるのはほぼ確実視されているとはいえ、忠誠な側近で周辺を固められるか、あるいは歴代政権の慣例に沿って反対意見を許容する余地を残さざるを得ないかは不透明だ。(中略)

折しも、習氏の政策に対する党内の不満が高まる中で、李氏とその支持者らにとっては影響力を発揮する糸口が見えてきた。中国経済は不振にあえいでおり、金融市場にも痛みが広がっている。4-6月期に中国経済がマイナス成長に陥ると予想する声すら出てきた。また数百万人の卒業生がなかなか就職できずにいる。

習氏がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と親密な関係を築いていることで、中国はここ数十年で最も国際社会から孤立する事態にも陥った。党内の議論に詳しい関係筋は、習氏の独裁的なスタイルに対する不満は頂点に達していると明かす。

こうした中、李氏は足元で、銀行の融資促進など成長下支え策の大半を指導している。財政省はインフラ投資の原資調達に向けた地方債発行の承認手続きを加速。住宅投機の抑制に向けて習氏が支持していた不動産税の試験プログラムなど実験的な措置を棚上げした。

習氏のゼロコロナ対策による雇用や経済への影響に危機感を強めた李氏は、 テスラ の上海工場などが生産を再開できるよう、会合を開いて物流の障害を取り除くよう関係各省に指示した。

習氏は次期首相として、上海市の共産党委員会書記を務める李強氏を推している。だが、同氏に対しては、上海市のコロナ感染拡大への対応を巡って党内で批判が上がっており、市民も長引く封鎖措置に怒りを爆発させている。

意志決定に詳しい関係筋によると、こうした状況から、李首相が望む人物が有力な後任候補として台頭する可能性が出てきた。これには汪洋全国政治協商会議(政協)主席、貿易・外国投資担当の副首相である胡春華氏が含まれる。両氏とも共青団の出身だ。【5月12日 WSJ】
********************

【「習近平、秋に退陣」という、ガセと思われる“怪情報”に注目があつまる背景 李克強待望論】
「実質的に存在していなかった」李克強首相が、今では「日増しに良くなっている」・・・・そうした政治状況を反映したものか、「習近平主席は秋で退陣し、李克強首相が党総書記に」といった怪情報が飛び交っているそうです。

怪情報の内容は・・・
*******************
怪情報の概要はこうである。まずは江沢民元国家主席が人民解放軍を掌握し、胡錦濤前主席が党を掌握した上で、両勢力は5月2日に共産党政治局拡大会議を開き、習主席に退陣を迫った。そして双方による駆け引きの結果、次のようなことが決められた。

習主席が自らも同意の上、彼の退陣は決定された。その一方、政治的大混乱を避けるために秋の党大会までに習氏が引き続き共産党総書記のポストに留まるがこととなった。

その間、李克強首相は実質上のナンバーワンとして党と政府の運営を司るが、秋の党大会で習氏は正式に引退し、李克強が党総書記に就任して、名実ともに中国共産党政権の最高指導者となって「李克強政権」をスタートさせる、というのである。【5月18日 石 平氏 現代ビジネス】
******************

この怪情報を取り上げている石 平氏も、同じく別記事で同情報を取り上げている福島 香織氏も、情報自体は事実関係が確認されず、おそらく“ガセ”“デマ”であろうとしています。

ただ、両氏ともに、こういう“怪情報”が出現する意味合い・背景を論じています。

****ついに飛び出す怪情報「習近平退陣」、そのウラで「反習近平勢力」が結集か 「人民日報」上で李克強の地位急上昇****
(中略)
単なるデマが走り出すだけの背景
以上では、いわば「北京政変・習近平退陣情報」を検討してそれが単なるデマであろうとの結論に達した。

しかしよく考えてみれば、この程度の「噂話」が海外の中国語ネット上でかなり流布して、日本でも一部から注目されていることの背景にはやはり、習近平政権の乱暴な政治に対する多くの人々の反感・反発が広がっていることと、「こんな政権は長く持つことはないのではないか」という、政権の危うさに対する人々の希望的な観測があるのであろう。

いずれにしても、民心は習近平政権からかなり離反していることは今の中国政治の現実である。
その中では、習主席最大の政治的ライバルである李克強首相はむしろ、指導者としての株を上げている最中である。

李首相は習主席の肝煎りの「ゼロコロナ政策」対して完全無視の態度を取る一方、経済運営などの領域で大きな存在感を発揮していることは前回掲載の本コラムの記述した通りであるが、実は最近、李首相の「ゼロコロナ政策無視」の態度はいよいよ、「習主席無視」へとエスカレートしている感がある。

例えば4月21日、27日、5月5日、11日、李首相は連続4回の国務院常務会議を開き、雇用問題・投資拡大・中小企業問題・農業生産・貨幣政策などを検討し、様々な対策・政策を矢継ぎに打ち出しているが、その一連の会議において李克強は相変わらずコロナ問題や「ゼロコロナ政策」に一切触れずにいて、この習主席の看板政策に対して無視、あるいは不賛成の態度を露骨に示している。さらに、現在の中国政治の慣例に反して、習主席のことにも一切触れずにいて、習主席その人の存在を無視していることが注目される。

少なくとも、人民日報に掲載されている、上述の一連の李首相主宰会議の公式発表においては、「習主席」の「し」の字も一切出てこないのは事実。「そんな主席はどこにいるのか」という感じである。

李克強の異常なほどの習近平無視
今の中国政治において、このようなことはどれほど異常であるのかが、他の指導者たちの習主席に対する態度を見ればよく分かる。(中略)

一方、李克強の地位は急上昇
しかしその中では唯一、李克強首相はこの党内の慣例を完全に無視し、「習近平無視」の態度を頑なに貫くことによって、習主席に従うつもりのないことを明確に示しているのである。

ここまできたら、李首相と習主席との対立はもはや明々白々のこととなっているが、だからと言って、李首相の政治的地位はこれで危うくなるようなことは全くない。むしろ逆に、李首相の地位上昇を表す「大珍事」としての出来事が最近になって起きたのである。

5月14日、その日の人民日報を手にした多くの中国人はおそらく、一度、わが目を疑ったのであろう。紙面の1面にまず、「国務院第五回廉政工作会議における李克強講話(2面掲載)」という記事のタイトルが出ているが、紙面の2面を開くと、そこにはなんと、李首相の講話はほぼ紙全体を覆う形で全文掲載されていることに気が付く。

講話の内容はともかくして、人民日報の2面をほぼ全部を使って李首相の講話を掲載したのは実は、李氏が9年前に首相に就任してから初めてのことであって、まさに「大珍事」そのものなのである。(中略)

しかし5月14日、李首相は初めて、人民日報で習主席とほぼ同等の待遇を受けた。そのこと自体はまさに刮目の一大ニュース、中国の政治動向に敏感な人ならかなり大きなインパクトを受けているのであろう。

「政変」は今度こそ現実になるか
李首相が習主席に対して不服従の態度を明確に取り続けながらも、その政治的地位はむしろ安泰であってむしろ上昇している。

その意味するところは要するに、今の習主席は政敵を圧倒するほどの力を持っていないこと、習主席よりもむしろ李首相の方に党内の人望と支持が集まっていること、そして李首相はまさに「反習近平」の態度を露骨に表すことによって「反習近平勢力」の結集を促していることである。

今後においても習主席の失政や権威失墜がそのまま続くなら、李首相を中心とする反習近平勢力の結集は一定の規模とレベルに達した暁には、海外の中国人「老灯」が願望している「北京政変・習近平退陣」は今度こそ現実の展開になるかもしれない。

「最後の戦い」の舞台となるのは夏の北戴河会議である可能性もあれば、秋開催予定の党大会である可能性もあろう。いずれにしても、中国の政治を襲う巨大の嵐はそろそろやって来るのである。【5月18日 石 平氏 現代ビジネス】
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****大スクープかフェイクか、「習近平が秋に引退」説が飛び出た背景****
(中略)では、なぜ老灯はこうした裏の取れない情報をあえて流したのか。(中略)そして、なぜ多くのチャイナウォッチャーが「これはフェイクだろう」と思いつつ、この話題に注目するのか。

おそらく多くの人たちが「これが一番、中国にとっても(国際社会にとっても)穏便で現実的な習近平の失敗の幕引きシナリオ」と思うような説得力があるからだ。
 
このまま習近平が長期権力を握れば、第2の文革が起きるかもしれないし、台湾侵攻戦争をやらかすかもしれない。そんなことは誰も望んでいない。別に権力を失ったあとに習近平を逮捕しようとか幽閉しようとかそんなつもりはないから、おとなしく引退してほしい、という願いは、おそらく党内の主要官僚たちの本音ではないだろうか。

かといって習近平が去ったところで問題は残る。では誰がその後始末をつけるべきか、と言えば、若手にいきなり任せるよりも、現役の政治局常務委員の李克強か汪洋に託す方がよかろう。少なくとも彼らには習近平の暴走を食い止められなかった集団指導体制メンバーとしての責任もある。

李克強は今年の全人代で1年後の首相引退を表明しているので、李克強が総書記兼国家主席となって改革開放路線回帰への道筋をつける。胡春華らを政治局常務委員会に引き上げて急ぎ実務を覚えさせれば、2年後には次の集団指導体制に引き継げるではないか──。
 
フェイクか、予言か。今の中国官僚たちに宮廷クーデターや政変を実行するほどの実力も意志もないけれど、習近平に自身の無能さをなんとか分からせたいという思いが、こういう根も葉もない噂になって広がっていくのかもしれない。【5月19日 福島 香織氏 JBpress】
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【習近平主席 難しい「ゼロコロナ」脱却 ウクライナ問題も今後影響】
習近平主席にとって今後のハードルは不満が高まる「ゼロコロナ」をどこまで維持するのか、どのように変更するのか・・・ということでしょう。

***転換はいつ来るのか 中国のゼロコロナ政策***
多くの国が新型コロナとの共生の道を選ぶ中、中国は好戦的なゼロコロナ政策を続けているが、これでは新型コロナに勝つことは覚束ない、と4月30日付の英エコノミスト誌が論じている。

コロナ対策をめぐり習近平政権は確かに難局に立たされている。コロナが中国だけに止まっておれば、ゼロコロナ政策は完璧な成功であった。だが、世界規模での蔓延の持続と変異種の登場は、中国のコロナ政策、ひいては習近平政権の統治そのものに重大な挑戦を突きつけている。
 
ゼロコロナ政策は、間違いなく修正を迫られている。感染力の増大と重症者の減少という特徴を持つオミクロン株の登場は、これまでのやり方のコストを著しく高めているからだ。後述するように国民との関係や経済への影響も深刻化してきている。だが、中国の医療体制は脆弱であり、緩めれば簡単に医療崩壊が起こり得る。(中略)

さらに最も脆弱な高齢者対応が遅れていることもあり、感染者が増えれば死者も増える。死者が少ないことを「売り」としてきたゼロコロナ政策の破綻となる。徐々に修正していくしかない。

政策変更の制約は国内政治からも来る。習近平は、2020年の武漢危機を乗り切り「大成功」させた時点で、ゼロコロナ政策を中国式ガバナンスの勝利、習近平の指導力の成果と位置づけた。今年(22年)の党大会を自己に有利に乗り切るという内政上の考慮からだ。
 
その政策の修正は習近平の権威を損なう。党内非主流派は、これを利用しようとするだろう。簡単に政策を修正できないのだ。国民の反応も厳しい。上海市民の不満も伝えられている。だが、だからといってすぐにどうなるというものでもない。(中略)

注目はゼロコロナ「後」の政策
経済への影響は特に心配だ。(中略)中国でも、感染対策と経済との共生は喫緊の課題なのだ。
 
中国のゼロコロナ政策は、このような状況の中にある。当面は、微調整を加えながら、これを続けるということだろう。だが世界のコロナが続けば、中国だけ鎖国を続けるわけにはいかない。いずれ次のコロナ政策を出してくる。その内容により、習近平の党内掌握度あるいは党大会への流れを推測できる。(後略)【5月19日 WEDGE】
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ウクライナ問題も、盟友プーチン大統領の去就がとやかく言われるほどにロシアは追い込まれつつあり、それは(表向きはともかく)実質的にロシアを支援してきた習近平政権の責任問題にもなります。そのあたりは長くなるのでまた別機会に。

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