孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

緊張が高まる韓国・北朝鮮 韓国では日本への認識にも変化も 来年4月の総選挙次第でまた変化も

2023-12-31 22:51:49 | 東アジア

(【12月7日NHK】)

【“2つのコリア”】
緊張が高まる韓国・北朝鮮の南北関係の概要については、以下のようにも。

****朝鮮半島 緊迫する“2つのコリア”*****
朝鮮戦争の休戦から70年となった朝鮮半島では、軍事境界線を挟んで対峙する韓国と北朝鮮の関係が緊迫の度を増しています。
ともに初めてとなる軍事偵察衛星を打ち上げ、緊張緩和を目指して5年前に結ばれた南北軍事合意は“有名無実化”。偶発的な衝突の可能性も懸念されています。対立が先鋭化する“2つのコリア”の今を考えます。

まず、最近の南北の動きを振り返ります。

北朝鮮は11月21日、初めての軍事偵察衛星「マルリギョン(万里鏡)1号」の打ち上げに、3度目にして成功し衛星が地球周回軌道に正確に進入したと発表。さっそく沖縄やグアム、韓国にあるアメリカ軍基地、アメリカ本土のホワイトハウスや国防総省などを撮影したと主張しました。軍事偵察衛星で得られた情報を運用する新たな組織が12月2日から任務に着手したとしています。

「万里を見下ろす『目』と万里をたたく『拳』を手に入れた」。キム・ジョンウン(金正恩)総書記の言葉です。「目」は軍事偵察衛星を、「拳」はミサイルを指します。(中略)

北朝鮮は、今年の事業を総括し来年の重要政策を決めるため12月下旬に開く朝鮮労働党の中央委員会総会で、来年、複数の軍事偵察衛星を追加で打ち上げる計画を決定するとしています。

これに対し韓国も、競い合うように宇宙空間から監視する「目」を手に入れました。
12月2日、韓国初の軍事偵察衛星がアメリカから民間のロケットで打ち上げられました。アメリカ頼みだった衛星情報を独自に収集できるようになったことで、北朝鮮による弾道ミサイル発射の兆候を捉えて先制攻撃で破壊する能力を高めていくとしています。
韓国政府は、再来年までに全部で5機の軍事偵察衛星を打ち上げて運用する計画です。

また、韓国は11月22日、再三の警告をかえりみず衛星の打ち上げを強行した北朝鮮への対抗措置を即座に打ち出しました。南北軍事合意の一部効力停止です。

2018年9月に南北が署名した軍事合意のうち、韓国が効力を停止したのは、軍事境界線の上空の飛行禁止区域を定めた部分です。固定翼の航空機やヘリコプターのような回転翼機、それに無人機や気球を含む全ての機種について、軍事境界線から最大で40キロ以内の飛行が禁じられていますが、韓国軍はこの空域での偵察・監視活動の再開に踏み切りました。

韓国軍が警戒するのは、北朝鮮が軍事境界線近くに配備した大量のロケット砲の存在です。北朝鮮より優れた偵察・監視能力を持つ韓国軍の活動が合意によって制限されてきたという不満も背景にあります。

これを受けて北朝鮮は11月23日、今後は合意に縛られず軍事境界線付近に強力な武力や新型の軍事装備を配置すると表明。事実上の合意破棄とも受け止められています。(中略)

今の南北関係は、対立局面の真っただ中にあるわけです。

北朝鮮は去年以降、核・ミサイル開発を異例のペースで加速。9月の最高人民会議では憲法を修正して「核兵器の高度化」を明記し、戦術核の先制使用も辞さない姿勢を強調しています。

これまで韓国を「南朝鮮」と呼んできた北朝鮮ですが、この夏以降は、カッコ付きで「大韓民国」と正式名称で呼ぶケースが目立っています。韓国を「統一の対象」ではなく、突き放す形で「別の国家」と見なし始めたという見方が出ています。韓国との窓口機関・祖国平和統一委員会も公式報道に登場しなくなりました。

先に中国で開かれたアジア大会では、北朝鮮選手らが韓国選手との記念撮影や握手を拒否。北京にある北朝鮮レストランでは、従来お得意さんである韓国人客が入店を拒否されるケースもあったと言います。韓国のいかなる人物の入国も許可しないとしている北朝鮮の敵対的な姿勢があらわになっています。

一方の韓国でも、ユン・ソンニョル(尹錫悦)政権が「力による平和」を掲げ、北朝鮮に対する軍事的圧力を強めています。アメリカとの間では核戦力を含む抑止力で同盟国を守る「拡大抑止」の強化で合意。合同軍事演習の規模を拡大するとともに、日本との関係改善を急いで日米韓3か国の安全保障協力を重視する姿勢が鮮明です。

「北が核を使用する場合、米韓同盟の圧倒的な対応を通じて北の政権を終わらせる」。ユン大統領は9月、ソウル中心部で10年ぶりに行われた軍事パレードでそう演説しました。ユン政権は対北朝鮮政策の中核を担う統一省の人員を削減し交流・協力部門を統廃合する一方、情報分析機能は強化しています。

韓国の世論にも変化が見られます。大統領直属の諮問機関が8月に発表した調査結果によりますと、望ましい南北の将来像について、「往来が自由な2国家」と答えた人が52%で、「統一国家」と答えた人28.5%を大きく上回りました。

朝鮮半島が南北に分断されてから70年。今や韓国の1人あたりのGDP=国内総生産は北朝鮮の50倍以上と経済的な格差も広がる中、統一は遠のくばかりに見えます。

来年、韓国はユン政権3年目、1月から国連安全保障理事会の非常任理事国となり、4月には総選挙を控えています。一方、北朝鮮はキム総書記が1月で40歳になるとみられ、「国防5か年計画」の4年目に入ります。

“2つのコリア”の緊張の高まりは、東アジアの安全保障環境にとって大きなリスクです。偶発的な衝突を避けるとともに、朝鮮戦争で離ればなれになった離散家族の再会や韓国人拉致被害者の帰還などを進めるためにも、対話の糸口を探る努力も忘れてはならないと思います。【12月7日NHK】
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【北朝鮮 対韓国政策を公式に見直し、韓国を威嚇 韓国は警戒を強める】
こうした南北間の緊張を受けて、北朝鮮は2024年に軍事偵察衛星を3基打ち上げる計画を示すとともに、もはや韓国を和解と統一の相手とはみなさないという、対韓国政策の見直しを表明しています。

****北朝鮮「もはや同族関係ではない」 対韓国政策の見直しを表明****
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は12月31日、26日から開かれていた朝鮮労働党中央委員会の拡大総会が30日に閉会したと報じた。金正恩(キムジョンウン)総書記は、「国家防衛力の急進的な発展をさらに加速させる」と強調。11月に打ち上げた軍事偵察衛星「万里鏡1号」に続いて、2024年に軍事偵察衛星を3基打ち上げる計画を示した。

金氏は「24年は核兵器生産を持続的に増やすことができる土台を構築する」と述べ、ミサイル開発・生産部門の重点目標と課題も明らかにした。

また金氏は、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権が、北朝鮮を「主敵」と位置づけていることを強く批判。「もはや同族、同質の関係ではない。敵対的な国家関係、交戦国の関係に完全に固着した。和解と統一の相手とみなすのは、これ以上、我々が犯してはならない誤りだ」と述べ、対韓国政策を根本的に見直したと表明した。対韓国政策を統括している党統一戦線部などの組織を整理・改変させる方針も示した。

さらに金氏は「朝鮮人民軍は、万一の核危機事態に迅速に対応し、有事の際は、核武力を含むすべての物理的手段と力量を動員し、南朝鮮(韓国)全土を平定する準備に拍車をかけなければならない」と韓国を威嚇。韓国の反発は必至で、朝鮮半島をめぐる緊張の水位はさらに高まりそうだ。

対米政策については「強対強、真っ向勝負の闘争原則を一貫して堅持する。高圧的で、攻勢的な超強硬政策を実施しなければならない」と表明。日米韓が協力を拡大しながら、北朝鮮に圧力をかけていることにも言及し、「朝鮮半島情勢をさらに予測がつかない危うい状況に追い込んでいる」と反発した。【12月31日 毎日】
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北朝鮮の韓国に対する認識は前出【NHK】記事にも“この夏以降は、カッコ付きで「大韓民国」と正式名称で呼ぶケースが目立つ”とあるように、「統一の対象」ではなく「別の国家」として扱う姿勢を示していましたので、今回の認識もその流れに沿うものです。

現実を追認したまでと言えばそうですが、「南朝鮮(韓国)全土を平定する準備に拍車をかけなければならない」と改めて言われると韓国ならずとも身構えるものがあります。

****韓国、年初のテロに警戒 金正恩氏が「平和統一」の前提放棄****
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、対韓国政策の根本的転換を明言し、同じ民族同士が平和的に南北統一するという金日成(キム・イルソン)主席以来、半世紀にわたって掲げてきた大前提を捨てる立場を示した。韓国当局は、北朝鮮が2024年に軍事的行動やテロの形で対韓強硬策を行動に移す事態を警戒している。(中略)

北朝鮮は1972年に韓国と単一民族としての平和統一をうたった南北共同声明を発表。南北関係が冷え込んだ時期でも南北関係の前提として維持してきた。だが今回、正恩氏は韓国を「和解や統一の相手」とみなすのは錯誤だとし、統一政策の立場を刷新すべきだと主張。米韓が対決を企てるなら核抑止力を持って「重大な行動に移る」と警告した。

韓国の情報機関、国家情報院は最近、正恩氏が側近らに、2024年初めに韓国に「大きな波紋を起こす方策」を準備するよう命じたと明らかにした。韓国の4月の総選挙や11月の米大統領選を控え、韓国当局は、北朝鮮による局地的な軍事行動のほか、サイバーテロなどに備えている。【12月31日 産経】
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「別国家」という現状追認路線は韓国も同様です。

****韓国、北朝鮮を「国家」として扱う “南北統一”困難と判断か”****
韓国政府が26日、公開した韓国軍兵士むけの教材で北朝鮮を「国家」として扱っていることがわかりました。南北統一は困難との現政権の考えが反映されたとみられます。

韓国政府は従来、北朝鮮について、南北統一を目指す観点から“国家”とは表現せずに“政権”などとしてきていました。

26日、公開された韓国軍兵士むけの新たな教材では、「北朝鮮は最悪の国家だ」などと北朝鮮を“国家”とする表現が複数回出てきています。

北朝鮮が今月も新型ICBM=大陸間弾道ミサイルの発射訓練を行うなど、アメリカと韓国への敵対姿勢を鮮明にするなか、南北の統一は困難だとする尹錫悦政権の考えが反映されているとみられます。

一方、北朝鮮側も金正恩総書記が、韓国のことを従来の「南朝鮮」ではなく初めて「大韓民国」と表現していて、韓国メディアは「南北統一を前提としなくなった姿勢の表れ」などと指摘しています。【12月26日 日テレNEWS】
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【「統一」に対する韓国世論の変化 男女間で大きな差も】
韓国世論も「統一」に固執しない流れが強まっています。ただ、必ずしも「統一は要らない」という訳でもない・・・という側面も。また、若い世代で男女差が顕著なのは興味深いところです。

****「統一は必要」と考える韓国人、史上最少…20〜30代は男女差顕著****
韓国政府系機関の民主平和統一諮問会議(民主平統)は、四半期ごとに韓国国民の朝鮮半島の統一に対する意識調査を行っているが、「統一が必要だ」と答えた人の数が、最低を記録した。

民主平統は、韓国の19歳以上の男女1000人以上を対象に行なった世論調査の結果を、「第4四半期国民統一世論調査」にまとめて13日に発表した。それによると、「統一がとても必要だ」と答えた人の数は30.8%、「ある程度必要だ」と答えた人は33.2%で、合わせて64.0%で、2015年の調査開始以来、最低を記録した。ちなみに最も高かったのは、2018年第2四半期の79.1%で、それ以降、今年第2四半期までは概ね70%台を保っていた。

一方で「統一は全く必要ない」は13.8%、「あまり必要ない」は21.5%、合計で35.3%だった。

統一が必要だと考える理由としては、「戦争の脅威の解消」が31.8%で最も多く、ついで「経済発展」が27.7%、「民族同一性の回復」が15.5%、「自由と人権の実現」が11.5%、「国際社会での地位の向上」が8.9%と続いた。

北朝鮮をどう捉えるかという問いには「協力対象」が30.0%で最も多かったものの、「警戒対象」が25.7%で、「敵対対象」の21.5%と合わせると47.2%となり、否定的に見ている人は全体の47.2%に達した。一方、「協力、支援の対象」と見ている人は40.6%だった。

年齢別に見ると、20代男性の76.7%、30代男性の64.2%が北朝鮮を「警戒、敵対の対象」と見ている一方で、20代女性の56.3%、30代女性の47.1%が北朝鮮を「協力、支援の対象」と見ている。韓国では近年、「ジェンダー葛藤」と呼ばれる、性別、性的指向、性自認を巡る論争が激しくなっているが、それが統一についての考えにも影響を及ぼしていることが読み取れる。

参考までに、ソウル大学統一平和研究院が今年7月に行った統一に関する世論調査で、「統一が必要」と答えた人は43.8%で、2007年の調査開始以来最低を記録した。一方で、公共放送KBSが今年8月に行った世論調査では、統一に肯定的と答えた人は68.8%で、2022年とほぼ同じで、2021年よりは増えている。

調査方法が異なるため単純比較はできないものの、北朝鮮を見る視線は悪化しても、必ずしも「統一は要らない」という答えにはつながらないようだ。また上述したが、2〜30代男性の保守化、2〜30代女性のリベラル化という傾向は、他の世論調査でも共通して表れている。

北朝鮮の偵察衛星発射については64.6%が「懸念する」と答え、2024年の北朝鮮の軍事挑発の可能性については46.6%が「高いだろう」と答えた。また、2024年の南北関係については、48.9%が「今年より悪化するだろう」と答えるなど、南北関係については全体的に悲観的な空気となっている。【12月19日 デイリーNKジャパン】
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【保守系「朝鮮日報」 「克日の時代は過ぎ去った」「並んで歩く方法を自ら探し出さねば」】
韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権は、北朝鮮への厳しい認識、南北間の緊張の高まりを背景に、アメリカ、そして日本との関係強化に進んでいます。(そのことが北朝鮮を更に硬化させることにもなる訳ですが)

そうした伊政権の姿勢、韓国経済成長の自信も反映して、韓国メディア「朝鮮日報」は日本との関係について、「克日の時代は過ぎ去った」「並んで歩く方法を自ら探し出さねば」というコラムも。

****「克日の時代は過ぎ去った」と韓国紙、「並んで歩く方法を自ら探し出さねば」とも****
日本と韓国の関係をめぐり、朝鮮日報は東京特派員発のコラムを掲載した。この中では「克日(日本に追い付き、追い越せの意)と呼ばれていた時代は過ぎ去った」と強調。「日本の背中だけを見て走っていれば万事オーケーだった時代は終わり、これからは日本と並んで歩く方法を自ら探し出していかなければならない」と訴えた。

コラムはまず11月28日、東京ドームで開かれ、日本のロックグループ「X JAPAN」のリーダー、YOSHIKIが出演した「2023 MAMA AWARDS」を紹介した。

YOSHIKIが演奏する1980年代の名曲「エンドレスレイン(Endless Rain)」のピアノの旋律が流れると、「韓国のアイドルグループTOMORROW X TOGETHERのテヒョンが最初のフレーズを歌った。『わあ』という歓声は一瞬、東京ドーム全体を埋め尽くした。21歳のKポップアイドルが58歳を迎えたJポップの伝説、X JAPANのYOSHIKIと日本の観客の前に立ったのだ」と説明した。

続いて2日後には、日本の知性を代表する東京大学の安田講堂に崔泰源(チェ・テウォン)SKグループ会長が登場。崔会長は英語で「韓国と日本が享受してきた『単一の世界経済圏』時代はほぼ終わりを迎えつつある」とし、「(経済分断の時代に)米国と中国、EU(欧州連合)はそれぞれ25兆ドル(約3600兆円)、18兆ドル、16兆ドル経済圏を持っているが、日本と韓国は1国では小さな市場だ」と述べ、「2050年、世界で最も古い国となる韓日が一緒に7兆ドルの経済圏をつくろう」と提唱した。

これについては「韓国の高度成長期を導いた60〜70代の読者にはなじみのない光景だろう」と言及。「1960年代に経済復興に乗り出した韓国は、『克日』を掲げ、日本の進んだ経済、産業、文化を学ぶ立場にあった。『アジアの四竜』と自ら言い聞かせたが、当時世界2位の経済大国だった日本と比較するにはあまりにも恥ずかしいのが現実だった」と述べた。

そして「韓国の財閥は日本の技術者を週末に工場に連れてきてはノウハウを授かり、夕食をもてなした。テレビ局のプロデューサーは東京に一度赴いては旅館に閉じこもってテレビ番組だけを一晩中研究し、韓国の番組に応用してきた時代だ」と回顧した。

さらに「日本の歌謡曲のコピーとうわさされた韓国の人気曲の盗作論議は得てして事実だった」と指摘。「『技術であれ歌であれ、甚だしくは失敗までもすべてコピーする』という日本の皮肉を聞く羽目になった。サッカーの韓日戦でなんとか日本と対等に渡り合える韓国を感じながら慰められてきた時期だ」とも振り返った。

コラムは「尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が今年7回も岸田文雄首相と会見したのも、隣国日本と対等に生き抜く方法を模索していく過程だったのかもしれない」と論評。「東大で出会った大学生は『老衰した日本経済を案じる韓国の崔会長の忠告を肝に銘じたい』と語った。韓国も同じことだ」と結んだ。【12月31日 レコードチャイナ】
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日本でも若い世代では韓国文化への垣根が薄れており、今やっているNHK紅白歌合戦にはK-POP関連グループ6チーム(歴代最多)が出演ます。

もちろん従来通りの日韓が対立する問題は多々あります。そうであるにしても「並んで歩く方法を自ら探し出さねば」・・・・反日感情が根深い韓国でもようやく・・・と言いたいところですが、「朝鮮日報」は韓国でも最も保守色の強いの論調のメディアですので、その点は留意する必要があります。

これが左派系の「ハンギョレ」などが同じようなコラムを掲載するようになったら・・・日韓関係改善も本物になります。(ちなみに「ハンギョレ」は「一つの民族」「一つの同胞」といった意味だそうで、冒頭の対北朝鮮認識に直接つながります)

【来年4月総選挙で野党勝利なら流れがまた変わることも 現時点では野党有利の情勢】
北朝鮮との関係にしても、日本との関係にしても、韓国の場合左右の立場で大きく対応が異なります。来年4月に予定されている総選挙で保守系与党が敗退すれば、伊政権は「死に体」化して、流れはまた変わることも予想されます。

****来年4月の韓国総選挙 過半数獲得へ与野党が激突=与党敗北なら政権「死に体」も****
韓国国会(定数300)の勢力図を再編する第22代総選挙(2024年4月10日投開票)が3カ月半後に迫った。2年ぶりの全国単位の選挙となる今回の総選挙は、発足3年目を控える尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権に対する中間評価とともに、国会で過半数の議席を握る革新系最大野党「共に民主党」に対する評価という意味合いもあり、与野党のいずれも国民の厳しい審判を受けることになる。(中略)

◇大統領支持率・最大野党代表の司法リスクが変数に
現在のところ、世論の流れは「政権けん制論」が「政権支援論」をリードしている。

8日に発表された世論調査会社・韓国ギャラップの調査結果によると、35%が「現政権を支援するために与党候補が多く当選すべきだ」、51%が「現政権をけん制するために野党候補が多く当選すべきだ」と答えた。この調査で、尹錫悦大統領の支持率は32%だった。

しかし、総選挙まではまだ3カ月以上あり、勝敗の行方を断定することはできない。 選挙結果を左右する要素として、尹大統領の支持率と国民の力の臨時執行部である非常対策委員会の発足による効果、李在明・共に民主党代表の司法リスクと党内の統合問題などが挙げられる。(後略)【12月27日 聯合ニュース】
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南アフリカ  イスラエルを国際司法裁判所に提訴 その背景にある国内政治事情 格差・治安の問題

2023-12-30 22:12:29 | アフリカ

(南アフリカ共和国ダーバンのウムゲニ川に沿った緑豊かな河岸斜面にあるパプア・セウゴルムゴルフ場。6番ホールのティーから数十メートルのところに非公式居住区が広がっているなんておよそ信じられないだろう。低いコンクリート塀で、丁寧に手入れが行き届いたフェアウェイと粗末なブリキ小屋が分離されている。【2016年07月01日 HUFFPOST】)

【トルコ・エルドアン大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相 “口撃”の応酬】
多大な民間人犠牲者を出しているイスラエルがガザ地区で行っている攻撃に関しては、国際的に批判が強まっています。

後ろ盾アメリカも攻撃規模縮小を再三求めており、イスラエル・ネタニヤフ首相としてもいつまでも今の攻撃レベルを続けられないのは承知で、それだけに今の段階で何とか成果(人質救出、ハマス指導者殺害)を出したいと焦って攻撃を強化している側面もあります。

ガザでの戦闘が起きる直前はイスラエルとの関係を改善するような動きを見せていた(イスラム世界をリードしたい思惑のある)トルコ・エルドアン大統領はもともとはパレスチナを支援し、イスラエルに対して厳しい立場にあって、今回のガザ地区での攻撃に対しても、ヒトラーを持ち出してイスラエル・ネタニヤフ首相批判を展開しています。

****トルコ・エルドアン大統領 「ネタニヤフ首相はヒトラーと何が違うのか」と批判****
トルコのエルドアン大統領は27日、パレスチナ自治区ガザへの地上侵攻を続けるイスラエルのネタニヤフ首相について、ナチス・ドイツの「ヒトラーと何が違うのか」と強く批判しました。

トルコのエルドアン大統領は27日、首都アンカラで行った演説で、イスラエルのネタニヤフ首相が続けるガザへの地上侵攻とナチスによるホロコースト=ユダヤ人大虐殺を重ね合わせ、「ヒトラーと何が違うのか」と述べました。

そして、アメリカや西側諸国がイスラエルを全面的に支援しているとして、「ヒトラーより裕福だ」「その支援によってガザで2万人以上を殺害した」と批判しました。

エルドアン大統領は、これまでにもイスラエル批判を繰り返す一方、今年10月にはイスラム組織ハマスについて「テロ組織ではない」と擁護する発言をしています。【12月28日 TBS NEWS DIG】
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ネタニヤフ首相も言われて黙っているような性格ではありませんので・・・

****「ヒトラーと同じ」と非難され「クルド人を虐殺する人が道徳を説けるのか」と応酬****
(中略)ユダヤ人を虐殺したナチスの独裁者を引き合いに出されたネタニヤフ氏は猛反発している。

声明を発表し、「クルド人を虐殺する人が道徳を説けるのか。(イスラエル)軍はテロ組織を排除するために戦っている」と反論した。【12月29日 読売】
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【南ア イスラエルを国際司法裁判所に提訴 ガザでの攻撃はジェノサイド】
こうした一種のパフォーマンス的な“口撃”の応酬というのは、外交、特にエルドアン大統領やネタニヤフ首相のような個性の強い政治家では珍しくありませんが、国際司法裁判所に提訴となるとやや重みが違ってきます。

****ガザ攻撃は「ジェノサイド」 南アがイスラエルを国際司法裁判所に提訴****
イスラエルがパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスに対して行っている戦争はジェノサイド(大量虐殺)に当たるとして、南アフリカが29日、国際司法裁判所(ICJ)に審理の開始を申し立てた。

南アフリカは訴えの中で、イスラエルが「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)」に違反していると主張。「イスラエルの行為および不作為はジェノサイド的な性質をもつ。ガザのパレスチナ人を破滅させるという明確な意図をもって行われている」と訴えた。

ガザ地区の保健当局によると、10月7日以来の死者は2万1507人を超えている。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によれば、この中には国連の避難所に身を寄せていた少なくとも308人が含まれる。

ICJへの申し立てについてイスラエル外務省は、南アフリカがイスラエル国家の破壊を求めていると強調。南アフリカの主張は「事実的にも法的にも根拠を欠く」と反論した。

その上で、「イスラエルは国際法を順守し、それに従って行動しており、軍事行動はテロ組織ハマスと、ハマスに協力するテロ組織のみに対して行っている」と述べ、「非当事者への被害を最小限にとどめ、ガザ地区へ人道支援を届けるために最大限の努力をしている」と強調した。

南アフリカ国際関係協力省は29日、「イスラエルの無差別的な武力行使と住民の強制排除に伴うガザ地区の民間人の窮状」に重大な懸念を表明。「人道に対する罪や戦争犯罪が行われているとの報告も続いている」と指摘した。【12月30日 CNN】
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唐突に・・・という話ではなく、南アフリカはこれまでもイスラエルを厳しく批判してきました。

****南ア議会、イスラエル大使館閉鎖と外交関係停止を決議****
南アフリカ議会は21日、首都プレトリアにあるイスラエル大使館を閉鎖し、イスラエルがイスラム組織ハマスとの休戦に合意するまで外交関係を停止するとした決議案を賛成多数で可決した。

これを実行するかどうかはラマポーザ大統領の判断に委ねられるため、決議自体は象徴的な意味合いが濃い。
ただ大統領府の報道官は、ラマポーザ氏が南アとイスラエルの外交関係、特に大使館の処遇に関する議会の方針に「留意し、積極的に評価している」と述べた。

ラマポーザ氏や南ア外務省高官らはかねてから、パレスチナ自治区におけるイスラエルのハマスに対する軍事行動を批判し、国際刑事裁判所(ICC)に戦争犯罪が起きている可能性を調査するよう要請している。

イスラエルの駐南ア大使は決議案可決の前日に、本国での協議のためにテルアビブに呼び戻されていた。

今回の決議案は野党の経済的開放の闘士(EEF)が提出。与党のアフリカ民族会議(ANC)側が、外交関係停止についてイスラエルによる休戦受け入れと、イスラエルが拘束力を持つ国連あっせんの交渉に応じると約束するまで、という条件を加え、可決の運びとなった。【11月22日 ロイター】
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****南ア、イスラエルの戦争犯罪と「ジェノサイド」非難****
南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は21日、パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルによる戦争犯罪と「ジェノサイド(集団殺害)」を非難した。

ラマポーザ氏は議長を務めたブラジル、ロシア、インド、中国、南アで構成する新興5か国によるオンラインでの臨時首脳会議で、「イスラエルの違法な武力行使によるパレスチナの民間人に対する集団的懲罰は、戦争犯罪だ。ガザ住民への医薬品や燃料、食料や水の意図的な供給停止はジェノサイド(集団殺害)も同然だ」と述べた。

また「即時かつ完全な停戦」、および「戦闘休止の監視と民間人保護」のため国連軍の派遣を呼び掛けた。

ラマポーザ氏は「ガザでの死と破壊について、各国はそれぞれ深刻な懸念を表明してきた」「この歴史的な不当な行為を終わらせるため、本会議をわれわれの力を結集し行動の強化を呼び掛ける場としよう」と述べた。(後略)【11月22日 AFP】
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【背景に、与党支持ジリ貧の国内政治事情も】
南アフリカがイスラエルに対し厳しい姿勢をとる理由のひとつとして、“南アは長年、パレスチナの大義を明確に支持してきた。与党・アフリカ民族会議はしばしば、自らのアパルトヘイト(人種隔離政策)との闘いとパレスチナ問題を関連付けている。”【同上】ということがあります。

更に、国内政治的な背景としては、故マンデラ氏が率いた政権与党は近年党勢が振るわずジリ貧傾向にあり、イスラエル批判で親パレスチナ野党にすり寄りたい思惑も指摘されています。

****マンデラ後、南アフリカ与党苦境 死去10年、ガザ情勢で活路****
南アフリカでアパルトヘイト(人種隔離)撤廃に尽力したマンデラ元大統領の死去から12月5日で10年。かつて率いた与党のアフリカ民族会議(ANC)は、カリスマの不在で党勢が衰退。

苦境に陥る中、最近は緊迫するパレスチナ自治区のガザ情勢を巡り、イスラエルへの非難を強めている。政権運営の安定化に向け、親パレスチナ野党への接近に活路を見いだしたい党指導部の思惑がにじむ。

ANCはマンデラ政権が誕生した1994年以来、政治を牛耳ってきた。ただ近年は高失業率に苦しむ黒人支持者が離反し、来年実施予定の総選挙では、下院での過半数割れが現実味を帯びている。【11月28日 共同】
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南アフリカの政治といえば、これまではアパルトヘイト撤廃闘争を指導したアフリカ民族会議(ANC)でしたが、マンデラ死後10年、その神通力もうせ、アパルトヘイト撤廃の大功績も長年の腐敗・格差拡大・治安悪化でさすがに色褪せてきたようです。

来年は、全ての人種が参加する民主的な選挙が行われてから30年という節目の年に当たりますが、与党・アフリカ民族会議(ANC)の置かれた状況は厳しいものがあります。

****“民主化30年”を迎える南アフリカ****
南アフリカは、アパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃され、全ての人種が参加する民主的な選挙が行われてから2024年で30年という節目の年を迎えます。かつてマンデラ氏が率いたANC(アフリカ民族会議)は、この間一貫して政権を担ってきましたが、汚職や内部対立が絶えません。別府正一郎キャスターの解説です。

マンデラ氏「全ての人種が平和的に共存する“虹の国”を打ち立てよう」
南アフリカは、もともとはイギリスの植民地で、かつてのアパルトヘイト(人種隔離政策)では、少数の白人が国を牛耳り、大多数の黒人を貧しい居住区に押し込めて支配するなど、人種差別と人権侵害が横行する体制でした。旧宗主国のイギリスも、女性初の首相となった当時のサッチャー首相が、特に白人政権を擁護していたことが知られています。  

しかし、ネルソン・マンデラ氏が率いるANC(アフリカ民族会議)などが粘り強く闘争を続け、1990年代初頭にようやく撤廃に追い込み、1994年に初めて、全ての人種が参加する民主的な選挙が行われ、マンデラ氏は大統領に選出されました。逆に言えば、1994年まで、黒人は投票すらできない体制だったのです。

その選挙から、2024年には30年の節目となります。歴史的な選挙だっただけに、南アフリカはもちろん、各国メディアの間からも、この30年間を振り返り、検証しようという関心が高まっています。  

とりわけ、解放運動から政党となったANCが、民主化後に一貫して与党の座にあったので、ANCの統治の功罪について注目が集まっています。というのも、ANCのもとで、一部で黒人の生活水準の向上や、経済成長があった一方で、「格差の拡大」や「汚職の蔓延」、さらに、「犯罪の横行」などが課題になっているからです。  

私は1月に帰国し、この番組を担当し始めるまで4年半駐在していましたが、犯罪は常に警戒していました。たとえば、強盗に車が奪われる犯罪も起きていますので、街なかを運転する時は、後ろをつけられていないかを警戒していました。つけられているなと思ったら、スピードをあげたり、大通りに出たりしました。また、役場での手続きで、賄賂を要求されるようなこともあり、閉口したこともありました。  

1994年の就任演説で、マンデラ氏は、全ての人種が平和的に共存する「虹の国」を打ち立てようと呼びかけました。しかし、ANCの長期政権のもとで、さまざまな問題が噴き出しているのが現状です。「虹の国」の理想の実現に向けた、南アフリカは大きな試練に直面しています。(12月5日放送の「キャッチ!世界のトップニュース」)【12月6日 NHK】
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【治安の悪さから自警団 それが私刑などの新たな問題も】
南アフリカの治安の悪さは“定評”がありますが、背景には格差・貧困の問題があると思われます。
住民は自衛のために自警団を組織したりもしていますが、今度はその自警団の「ネックレス」に代表される私刑も問題になっています。

****暴徒によるリンチ殺人、7人の焼死体発見 南ア****
南アフリカで3日、国内で最も治安が悪いとされるタウンシップの一つで「暴徒」が男性7人を襲い、体を縛ったうえで火を付け殺害する事件が発生した。警察や住民が明らかにした。警察は殺人事件として捜査を開始した。

南アフリカでは殺人発生率が増えている。

事件が起きたのはヨハネスブルク北方にある人口35万人超のディエプスルート。タウンシップの代表は、地区内での殺人やレイプの発生率は高いが、当局からは見放されていると語った。

警察はAFPに、2人の「焼死体」が発見され、1日夜から警戒態勢を敷いたと述べた。2日未明には、ディプスロット近郊でさらに5人の遺体が発見されたという。
これまでの捜査から、両事件とも被害者は暴徒に襲われ焼かれたとの見方を示した。

ある住民は「彼らは追いかけられ、捕らえられ、縛られて、殺された」と話した。首にタイヤを掛け、それにガソリンを注いで火を付けるリンチ(私刑)の方法「ネックレス」が行われたという。

動機は分かっていないが、警察は「自警行為や私的制裁を加えることは重大な犯罪行為であり、強く非難する」と話した。【12月4日 AFP】AFPBB News
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【暴力の標的とされる移民】
格差・貧困・失業、治安悪化・・・ということで攻撃の対象となりやすいのが移民。南アには経済破綻した隣国ジンバブエからの移民が多数暮らしています。

****南アフリカ:襲撃に怯えるジンバブエ移民ら****
4月上旬、南アフリカのヨハネスブルグ北部、ディープスルートで自警団による移民襲撃が繰り返され、ジンバブエ人1人が死亡した。当局は、自警団の暴力から移民を保護する対策を強化しなければならない。

数人の移民がアムネスティに語ったところでは、今、多発する犯罪や増加する失業が移民のせいにされており、移民を敵視する自警団にいつ襲われるかもしれない恐怖の中で生活しているという。

自警団は、「移民の排除は地域社会から犯罪をなくすため」と主張する。当局によれば、3つの自警団によって少なくとも7人が殺された。

シリル・ラマポーザ南アフリカ大統領は、移民、特にジンバブエ人が、自警団の襲撃対象になっているという認識を示している。実際、自警団による移民襲撃は、ディープスルートだけでなく、南アフリカ全体に広がりつつある。

ここ数カ月、ヨハネスブルグのソウェトやヒルブロウでも移民を狙った極めて組織的な襲撃事件が起こっている。
襲撃が続いていることは、警察当局の無策と、襲撃に対する政府内の問題意識の欠如を浮き彫りにしている。いずれの事件も、未然に防止することはできたはずだ。

殺害
ヨハネスブルグで7人が殺害された複数の襲撃がきっかけに、反移民の自警団に対する抗議が始まった。
社会不安が広がる最中、ジンバブエの男性が、自警団から要求された身分証明書を見せることができなかったため、焼き殺された。この殺害をめぐり、犯人が逮捕されたかは明らかになっていない。

その後、ラマポーザ大統領は、相次ぐ襲撃事件の対応に警察力を増強すると約束し、また、外国籍の人たちへの暴力や脅しをやめるよう市民に呼びかけた。

「もはや安心して暮らせない」
ジンバブエやモザンビークから来た人たちは、アムネスティに「大変な恐怖の中で暮らしている」と話す。警察や自警団に、理由や権限もなく身分証明書の提示を要求され、日常的に身の危険を感じているという。

2人の子を持つ女性が、最近あった出来事をアムネスティに語った。女性は、10年ほど前にジンバブエを出てディープスルートに移住し、路上で野菜を売って生計を立ててきた。最近、子どもと一緒にいるときに襲撃を受け、自分の掘っ立て小屋にかろうじて逃げ込み、難を逃れた。「いつも恐怖と背中合わせで、どうしたらいいのかわからない。ここで暮らすのが怖い」と話す。

襲撃の被害者を含む移民の人たちは、昨年末に特別在留許可の期限が切れた後、大統領に「身の安全を保障し、ちゃんとした身分証明書を出してほしい」と訴えてきた。

またモザンビークからの移民は、「自警団に犯罪者扱いされるのが辛い。家族のために働いているだけ。祖国を出たのは、国内の状況が厳しかったから」と話す。

移民への襲撃が始まったのは2008年だが、その年だけで60人以上の移民が犠牲になった。以来、移民襲撃は毎年発生してきた。アムネスティは、南アフリカ政府に対し移民への暴力追放に向けた政策を立て、加害者が罪を問われない状況に終止符を打つことを繰り返し求めてきた。

今回、ラマポーザ大統領が、昨今の襲撃殺害事件を強く非難したことは評価したい。今こそ大統領は、自警団の暴力から移民を保護する具体的な対策を実行し、この憎むべき犯罪を起こした者が必ず法の裁きを受けるようにしなければならない。

背景情報
ジンバブエからの移民は、特別在留許可を発給された上で南アフリカに長年暮らし、働いてきた。だが、反移民感情の圧力に屈した政府は昨年末、在留許可の更新を突然取りやめたため、移民は不法滞在の状況に陥った。

移民排除で組織化する自警団は、#PutSouthAfricaFirst(南アフリカ人第一)などのハッシュタグを使い、ジンバブエや他の国から来た人たちで昨年末に特別在留許可の期限が切れた人たちを標的に襲撃してきた。

その後、政府は方針を転換し、ビザ申請により在留資格を取得できるようにするため、今年末までの在留を認めた。とはいえ、正規の身分がないことに変わりなく、移民は襲撃を受けやすくなっている。

今年2月、ヨハネスブルグの南の町ソウェトと、ビジネスの中心地ヒルブローでも襲撃事件があったが、警察はその場にいたにもかかわらず、取るべき対応を取らなかった。【2022年4月13日 アムネスティ国際ニュース】
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南ア政府は、ガザ地区の惨状もさることながら、自国内にも早急に対応すべき問題を抱えているように思われます。
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ミャンマー  中国系特殊詐欺グループ撲滅で始まった少数民族武装勢力の攻勢、中国仲介後も続く緊張

2023-12-29 23:15:32 | ミャンマー

(【12月27日 NHK】ヤンゴン 食料品店の前にできた長蛇の列)

【中央政府の支配が及ばない地域での中国系特殊詐欺グループの大規模な活動】
私事ですが、2010年にタイ北部の拠点都市チェンライから更に北上して、ミャンマー国境も近いメーサローンやチェンセーンを観光したことがあります。

メーサローンは中国共産党による革命後、台湾ではなくミャンマー・タイに逃れた国民党の残存勢力が1987年に武装解除するまで支配権を握り、軍事訓練などを行っていた地域(今も当時の施設が残っています)、チェンセーンは麻薬製造で有名な「ゴールデントライアングル」で、メーサローンの国民党残党と同時代に麻薬王クンサーが活動していたエリア・・・ということで、山深いこのタイ北部からミャンマー・ラオス、さらに中国雲南省にかけての一体は、中国・タイ・ビルマの中央政府の力が及ばない状況で独自の勢力が活動した非常に興味深い地域です。

その伝統というか、歴史は今もなお残存しており、ミャンマー北部のコーカン一体で活動していたのが(過去形にしていいのか・・・はわかりませんが)怪しげな中国系特殊詐欺グループです。そのグループはミャンマー軍事政権とも繋がっていると言われています。

この地域に住むコーカン族はもともと中国からの難民が起源と言われているように、この地域は国境を接する中国とのつながりが非常に強い地域です。

****コーカン族***
コーカン地区の多数派である「コーカン族」は、約400年前、中国の明朝末期に迫害されて雲南省まで逃げてきた民族が起源といわれている。実際には、そうした正統派コーカン族に加え、四川省から流入した人たちが含まれる形跡もある。また第二次世界大戦後に中国雲南省から移住し、そのまま現在に至るまで住み続けている中国人も「コーカン族」と自称している。【ウィキペディア】
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そして、中国の強い要請にもかかわらずミャンマー国軍が一向に摘発しようとしない詐欺グループの活動を撲滅することを名目に、10月27日から少数民族武装勢力が国軍に対し軍事攻勢をかけ、事実上中国はこれを黙認してきました。

****ミャンマーの山岳地帯にある「巨大詐欺団地」に中国人が誘拐され働かされていた…その数なんと12万人!ミャンマー北部で起きている「驚愕の混乱」と「中国の困惑」****

中国人に広がる「ミャンマー詐欺産業」による被害
中国との国境に近いミャンマー・コーカンで内戦が激化し、中国人民解放軍は雲南省の国境付近で11月24日に実弾を使った射撃、銃撃訓練を開始した。中国側はあくまでも国境の安全を守るための訓練だと主張したが、ネット上では内戦を逃れてきたものの、中国が築いた鉄条網のフェンスに遮られた人々が、中国側から発射されたと見られる催涙弾に逃げまどう姿を捉えた動画がアップされている。

この内戦は10月27日に「三兄弟同盟」によって仕掛けられた。「三兄弟」とは、コーカン地区の元実力者だった故・彭家声が設立した「ミャンマー民族民主同盟軍」(MNDAA)と、コーカン西部に暮らすタイ系民族のトーアン民族解放軍(TLNA)、バングラデシュとの国境に近いミャンマー西部を本拠地にするアラカン人で構成されるアラカン軍(AA)で、それぞれ自らの本拠地で自治区政府樹立を目指している。

彼らの共通する直接の敵はミャンマー軍事政権だが、今回の内戦では「ミャンマー内で定常化している中国人をターゲットにした特殊詐欺産業の撲滅」を旗色の一つに掲げているという。

というのも中国では、コーカンはここ数年「特殊詐欺」あるいは「振り込め詐欺」の大本営として注目されているからだ。ただし、中国で話題に上がるのは、「いくら騙された」といった詐欺被害そのものではなく、中国人が誘われたり、誘拐されたり、あるいはうまい話に載せられて出かけたところ身柄を拘束され、強制的に詐欺産業に従事させられたり、という被害のことで、その数が万単位に上るらしいという話である。

特に今春、国家シンクタンクである中国科学院に勤務していた若い博士まで囚われの身となって働かされていることが報道され、「いったいなぜだ?」と大騒ぎになった。

実はこの博士氏、婚約者の家族が重病にかかり、その治療費を捻出しようと「ワリの良い仕事」を求めて、昨年シンガポールでの英語教師募集に応募したという。だが、シンガポールは当時まだコロナ対策で中国からの入国ができず、このため、相手の会社に「支社のあるタイでまず仕事を始めてほしい」と言われて向かったところ...詐欺グループの手中に落ちてしまったらしい。

「巨大な詐欺団地」には監視役やスパイが入り乱れ...
彼が送られたのはコーカンではなく、タイとミャンマーの国境近くにあるミャワディという地域で、中国に近いコーカンでは中国国内向けの詐欺が行われているのに対し、ミャワディでは世界各地をターゲットに詐欺が行われているそうだ。

送り込まれた詐欺団地の周囲は高い壁で囲まれ、その中はまるでひとつの街のような作りになっており、彼と同じようにさまざまな手段で連れてこられた人たちが働き、暮らしていたという。連れてこられた当初はスマホを取り上げられ、他の人と接触できない個室に閉じ込められた。そして、集団部屋に移っても、そこには居住者同士の共謀や逃走を防ぐため監視係が混ざっているとされ、おいおい話もできなかったとその後、証言している。(中略)

彼の場合は、その身分及び前職があまりにも一般中国人の想像を超えていたために大きな注目を浴びたが、普通の転職話やうまい話に載せられてそうしたグループに誘拐された人がかなりいるらしい。

実際に国連人権高等弁務官事務所によると、ミャンマーで詐欺に従事させられている中国人の数はなんと12万人に上る可能性があるとされ、今年9月には中国の公安部長自らがミャンマーを訪問して、ミャンマー軍事政権に詐欺グループによる中国人誘拐解決の最後通牒を突き付けた。

もともと中国の一部だった歴史を持つコーカン
ただ、一般にはミャンマーだけではなく東南アジアを舞台にした詐欺グループが「高収入」や投資話をばらまき、それにつられた人を「誘拐」、詐欺グループの本拠地に軟禁して働かせている……といわれているものの、実際には詐欺に従事することを知りつつ、自ら一攫千金を求めてその本拠地に向かう人も少なくないらしい。(中略)

山岳地帯のコーカンは、かつては中国の領土地図に組み込まれていた時代もあると、中国では言われている。その根拠になっているのがコーカンに華人の血を受け継ぐ住民が多く暮らしていることだ。

それもあって同地は長らく、歴代ミャンマー中央政府に対して自治区行政組織の設立を求めて抗争を続けてきた歴史があり、コーカンで生まれ育った彭家声が樹立した自治政府がようやく1989年に当時のミャンマー政府に認められ、しばしの休戦状態に入った。

彭は当時、現地で盛んに行われていた麻薬生産を止めさせ、産業の転換を進めたとされる。そんな状況下において、ギャンブルなど娯楽産業が発達、それに惹かれて中国側からも多くの人たちが表や裏の方法でコーカンに入り、そのまま住み着いた。

コーカンでは実際に中国語が公用語となっており、中国の通貨である人民元が通用し、また今ではスマホの通信回線も中国側から提供されているため、一山当てたい中国人にはある意味、たいへん住みやすいのだ。

しかし、2009年になって軍事政府が新たに実権奪還を求めてコーカンに迫ったため、彭家声と「ミャンマー民族民主同盟軍」(MNDAA)はその手下たちの裏切りもあって敗走する。そしてコーカンは、彭を裏切った白、劉、張、魏という姓を持つ四大家族によって支配されるようになった。

もちろん、この四大家族はコーカンの主幹産業となってしまった詐欺産業の事業主でもある。つまり、冒頭でご紹介した三兄弟同盟による自治政府への反攻は、ミャンマー軍事政権に連なるこの四大家族の駆逐を目的としつつ、「詐欺産業の撲滅」を掲げることで故・彭家声が頼りにし続けた中国政府のバックアップを取り付けようとしたと見られるのである。

MNDAAと中国に裁かれた「第5家族」
そしてその蜂起で真っ先に血祭りにあげられたのは、四大家族に次ぐ勢力を持つ「第5家族」と呼ばれる明学昌一族だった。(中略)

そして、中国当局は11月17日に大々的にこの3人(明学昌一族)の「詐欺首謀者」とともになんと3万1000人の詐欺グループメンバーを逮捕したと伝え、中国国内に移送する様子を捉えた動画を流した。

中国がミャンマーで進めたい「陸の一帯一路」計画
勢いに乗ったMNDAAなどの三兄弟同盟はコーカン自治区政府の実権を奪還すべく、さらなる戦闘を続行。

しかし、中国は自国にとって国境すぐ側での戦火は自国に与える影響も少なくないため、停戦調停に乗り出した。その結果、12月中旬になって、ミャンマー軍事政権と三兄弟同盟が中国の国内で停戦協定を結んだ、と大きく報じられた。 ただし、調停後も一部ではまだ戦闘が続けられているとする報道もある。

その一方で中国政府は、12月12日に、コーカンの四大家族の主要メンバー10人を、特殊詐欺の首謀者として懸賞金付きで指名手配した。うち、白一族の「長」、白所成はかつてコーカン自治区政府の主席を務めたこともある人物だが、やはりミャンマー国籍ではなく中国国籍だと報道されている。

しかし、たとえ四大家族を壊滅させたとしても、コーカン地区の産業形態からみて、詐欺産業が一掃されることはないだろうという分析もある。今後MNDAAが実権を握ることになっても、駆逐された四大家族の末裔が残る限り、再び戦闘が起きる可能性もあるとされている。

ただし中国にとってミャンマーは、一帯一路構想に正式に参加し、中国内陸部から陸路で東南アジアに向かうための要という位置づけにある。さらに中国が手掛けている、バングラデシュ国境近くのミャンマー・アラカン港開発によって、そこで陸揚げされる石油をミャンマー国内をパイプラインで貫通させ中国に運び込む計画も進められている。このため、戦乱の継続や、ミャンマーの政情不安は中国にとっても好ましいことではないのだ。(後略)【12月23日 ふるまい よしこ氏 フリーライター 現代ビジネス】
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【中国も黙認する形で始まった少数民族武装勢力の攻勢】
上記記事にあるように、ミャンマー・シャン州での10月27日からの少数民族武装勢力「三兄弟同盟」による攻勢は中国系特殊詐欺グループの存在、その摘発を求める中国政府の意向が強く反映しています。

****ミャンマー 少数民族側が軍に一斉攻撃 “中国は黙認と認識”****
ミャンマーで少数民族の武装勢力がことし10月に開始した軍への一斉攻撃について、少数民族側の報道官は、事前に中国側との接触があったことを明らかにし、ミャンマー軍と友好関係にある中国が作戦を事実上、黙認していたという認識を示しました。(中略)

中国外務省は今月14日、中国の仲介で双方が一時的な停戦に合意したと発表しましたが、軍と少数民族側からの発表はありません。

このうちTNLA=タアウン民族解放軍は、15日にシャン州北部にある軍の施設を攻撃して制圧し、多数の武器を押収したとする映像や写真を公開し、戦闘は続いているとしています。
TNLAの報道官はNHKのインタビューに対し「今月だけでおよそ50の軍の施設を制圧した」と成果を強調しました。

そのうえで一斉攻撃の目的について、市民の生命と財産の保護、軍の打倒、それに特殊詐欺の撲滅をあげました。

特殊詐欺を巡っては、中国人の詐欺グループがシャン州の中国国境周辺に拠点を置いているとされ、中国政府は繰り返しミャンマーに取締りを求めていますが、軍には詐欺グループを保護する見返りとして金銭が流れていると指摘されています。

一斉攻撃の目的の1つに特殊詐欺の撲滅を掲げたことについて、報道官は「もともとは中国が思いつき、われわれも実行することを決めた。作戦の開始前には中国側が連携を求めてきたので喜んで受け入れた」と述べ、事前に中国側からの接触があったことを明らかにし、ミャンマー軍と友好関係にある中国が、少数民族の作戦を知りながら事実上、黙認していたという認識を示しました。

一斉攻撃には民主派勢力も呼応し、その後拡大していて、国境周辺の安定化もはかりたい中国がどれだけ関与していくかに関心が集まっています。(中略)

OHCHR=国連人権高等弁務官事務所は、ミャンマー国内では、外国人を含む少なくとも12万人が特殊詐欺に加担させられていると分析しています。

中国 高齢者や富裕層などねらった特殊詐欺 被害深刻に
中国では高齢者や富裕層などをねらった特殊詐欺の被害が深刻となっていて、公安当局が取締りを強化しています。

国営メディアによりますと、去年1年間に当局が摘発した特殊詐欺の件数は46万件余りにのぼり、年々、増加傾向にあるということです。

一方、中国国内での取締りが強化されるにつれて、東南アジアの国々など海外に拠点を移した詐欺グループが動きを活発化させていることから、各国の当局などとも連携して対応に乗り出しています。

とりわけ国境を接するミャンマーでは、特殊詐欺に関わった疑いで拘束された容疑者が中国側に引き渡されるケースが相次いでいて、ことし9月上旬には1207人、10月中旬には2349人がミャンマー北部から一斉に移送され、中国当局が取締りの成果を強調しています。

中国の王毅外相は、ミャンマー軍が外相に任命したタン・スエ氏と今月に会談した際、特殊詐欺への対応をめぐる協力について言及したうえで「双方は協力をさらに強化し、特殊詐欺という腫瘍を徹底的に取り除くべきだ」と述べています。【12月23日 NHK】
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【混乱拡大を避けたい中国の仲介後も続く緊張 ミャンマー全土の市民生活困窮と連動して更に大きな動きにつながる可能性も】
中国としては特殊詐欺グループが摘発されるのは歓迎ですが、混乱が拡大して一帯一路事業に支障がでるのは困りますので、停戦の仲介に乗り出し、中国外務省は今月14日、中国の仲介で双方が一時的な停戦に合意したと発表しました。

しかし、その後の状況はよくわかりませんが、少数民族武装勢力側は軍事政権打倒を掲げて戦闘を継続する姿勢を見せています。

****中国、自国民にミャンマー北部から退避指示 停戦仲介後も情勢不安定****
在ミャンマー中国大使館は28日、治安上のリスクが高まっているとして、北部コーカン地区ラウカイからできるだけ早期に退避するよう自国民に促した。

ミャンマー軍は武装勢力による組織的な攻撃と戦っている。

中国外務省の毛寧報道官は定例会見で「コーカン自治区の現在の治安情勢は深刻で複雑だ」とし「ミャンマーの当事者が最大限の自制を維持し、現場の緊張緩和に向けた取り組みを進め、ミャンマー北部情勢の軟着陸を共同で推進することを期待する」と発言。地元当局に対し中国人の安全を保証するよう求めた。

中国外務省は今月、ミャンマー国軍と少数民族の武装勢力が中国の仲介で一時停戦に合意したと発表した。
ただ、少数民族の武装勢力で構成する「3兄弟同盟」は「独裁政権」を打倒する決意を改めて表明。国軍との協議や停戦には触れていない。【12月28日 ロイター】
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状況は越年し、来年は更に戦闘・混乱が拡大する可能性もあります。

****ミャンマー クーデター以来の「転換点」 軍と抵抗勢力の戦闘激化…未来はどうなる?****
ミャンマー軍がクーデターによって全権を掌握して、まもなく3年。各地で軍と抵抗勢力の戦闘が激しくなり、軍の支配地域が失われる大きな「転換点」を迎えている。その一方で、市民の犠牲は増え、国内はますます不安定になっている。ミャンマーの未来はどうなるのか?(中略)

■軍が劣勢に…そのワケは?
なぜ、ここまで軍が劣勢に立たされているのか? ミャンマー情勢に詳しい京都大学の中西嘉宏准教授は「雨期が終わる時期を見計らって攻撃を仕掛けている。さらに、武装勢力が連携して奇襲を仕掛けることで、軍は防衛線を維持できなくなっている」とみている。抵抗勢力同士が入念に準備をした上で作戦を実行したことが、大きな要因だと指摘する。

さらに、「交代の兵士を前線に送ることができなかったり、補給もできなくなったりして、部隊が全滅する危機に陥り投降する兵士が多い」と話す。軍の士気も低下し、兵士の数も不足していると分析する。

■増える民間人の犠牲 66万人以上が避難民に
戦闘が拡大するに従って、犠牲となっているのが市民だ。国連機関によると、作戦が始まってから、女性や子どもを含む370人以上の民間人が犠牲になり、66万人以上が新たに避難民になったという。

また、戦闘に巻き込まれなくても、クーデター以降、市民は苦しい生活を強いられている。
現地記者からの報告によれば、ミャンマーでは電力が不足し、最大都市ヤンゴンでさえ停電が日常だという。「1日8時間停電している。地域によって数時間しか電気が使えない地区もある」との声もあり、さらに米の値段は3倍、燃料の価格も5倍程度に跳ね上がっているという。

■民主化の顔不在の中 ミャンマーの未来は?
かつてはミャンマーの顔だったアウン・サン・スー・チー氏。一時、政府施設に移されたと報じられたが、結局、刑務所に戻ったとみられている。その動向を伺い知ることは難しい。

民主化運動の象徴が不在の中、ミャンマーの未来はどうなるのか?抵抗勢力が勝利すれば、平和は訪れるのか? 中西准教授は「この戦闘は勝ち負けの問題ではない。軍政が終わると民主化すると思っている人もいるようだが、それは幻想だ。戦闘が長引くとお互いに疲弊し、国全体の力は落ちていく」と指摘する。

国内が不安定になれば、結局、その影響はさらなる犠牲や生活苦となって市民に跳ね返ってくる。
現地記者は「外に出れば自由はないし、安全だとも感じない。楽しいことも幸せなこともない」と、切迫した気持ちをあらわにした。ミャンマーの平和な未来の姿は、ますます見えなくなっている。【12月29日 日テレNEWS】
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戦闘の状況と併せて、“最大都市ヤンゴンでさえ停電が日常だという。「1日8時間停電している。地域によって数時間しか電気が使えない地区もある」との声もあり、さらに米の値段は3倍、燃料の価格も5倍程度に跳ね上がっているという。”という市民生活の困窮が軍事政権への国民の不満を強め、少数民族武装勢力が拠点とする辺境地域だけでなく、ミャンマー全土において軍事政権の支配体制を揺り動かす可能性もあります。

今後の問題は、自民族の権利拡大を主眼とする少数民族側の思惑と、軍事政権打倒を目標とする民主派の間の連携・意思統一がうまくいくのか・・・という点でしょう。
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インドネシア・アチェ州  急増するロヒンギャ難民船 同情的対応から一変して、高まる反難民感情

2023-12-28 23:26:18 | 難民・移民

(インドネシア西部アチェ州の州都バンダアチェで、ロヒンギャ難民が一時保護されている施設前に集まり抗議する学生たち(2023年12月27日撮影)【12月28日 AFP】)


(ロヒンギャ難民=2023年12月27日、インドネシア(REUTERS)【12月28日 The News Lens Japan】)

【「忘れてしまっていても、問題はなくならない」】
世界の目がコロナ、ウクライナ、そしてパレスチナに向く中で、ミャンマー国軍の民族浄化を目論む虐殺・暴力・放火・レイプ等によって西部ラカイン州を追われたイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる状況は改善していません。

70万人以上が隣国バングラデシュに避難したとされますが、それまでのロヒンギャ難民を合わせると100万人規模にもなるバングラデシュの難民キャンプの環境は劣悪です。しかし、国軍支配が続くラカイン州の状況は安全が保証されず、帰還も進みません。

****“世界最大の人道危機”ロヒンギャ難民問題 100万人生活の難民キャンプ、新たな問題に直面****
世界最大の人道危機とされるロヒンギャ難民問題。100万人が生活するロヒンギャの難民キャンプでは、避難が長引く中、新たな問題に直面しています。

■スマホを売り買い、教育や収入を手にする機会も
南アジア・バングラデシュ。ミャンマーとの国境近くに広がるのは「ロヒンギャ」と呼ばれる人々が暮らす難民キャンプです。

女性「ミャンマーでは、私たちには人間としての権利がありませんでした」
彼らは、ミャンマーの少数派イスラム教徒・ロヒンギャ。2017年、ミャンマー軍などによる武力弾圧が行われ、これまでに、およそ100万人がバングラデシュに逃れてきました。

大規模な難民キャンプの誕生から6年。私たちが目撃したのは…。
店員「1日に3〜4個売れます」 キャンプ内でスマートフォンが売り買いされている光景でした。
さらに…。

青年「このイヤホンは、お兄さんが僕のために買ってきてくれたんです。ここでは学校に通えるし、スポーツをすることもできます」 ミャンマーでは得ることのできなかった教育や収入を手にする機会が得られ、笑顔を見せる人々もいます。

■自由を求め脱出する人が急増、暴力を受けて脱出した子どもも
しかし、いまある問題が浮上。

記者「難民キャンプから車で1時間ほどの漁港です。キャンプを出た女性たちも働いています」
ここ数年、身体的・金銭的な自由を求めて、キャンプを脱出する人が急増しているのです。

ある女性は、1か月半前にキャンプを脱出。娘の結婚資金を得るため仕事を求めて脱出を決断したといいます。
女性「キャンプの中には娘も親戚もいます。でも、お金を稼がなければいけないので、ここに来ました」

水産物を加工する作業で得られるのは、月におよそ2万5000円。難民キャンプでの生活と比べれば破格の待遇といえます。

女性「難民キャンプは、たくさんの人が閉じ込められている牢屋(ろうや)みたいです。ここは自由で良い場所です」

さらに、やむをえない事情でキャンプから逃れてきた子どもも。
男の子「キャンプには戻りたくない。あそこは好きじゃないです。お兄さんから暴力を受けていたので、ここに逃げてきました」

7人兄弟から暴力を受けていたと打ち明けた男の子。4か月前、難民キャンプから、ひとりで脱出し、ストリートチルドレンの集団に合流したといいます。ゴミ山で一日中、プラスチックを集めても、1日に300円ほどにしかなりません。

■「忘れてしまっていても、問題はなくならない」
現地で支援を続ける日本人職員は。
UNHCRコックスバザール事務所・赤阪陽子所長「新しいエマージェンシー(緊急事態)、ウクライナやアフガニスタンなどに、ドナー(支援者)の関心がいってしまう。忘れてしまっていても、彼らが直面している問題はなくならない」

難民キャンプでは近年、治安の悪化も問題に。ふるさとに戻るメドが立たず、長引く避難生活が難民の心に影を落としています。

それでも懸命に生きる人々の姿も。
女性「ここに来て、もう怖くなくなりました。これまで知らなかったことが分かるようになりました。いまは私ひとりで、どこにでも行けます」

100万人のロヒンギャ難民をどう救うか。国際社会には息の長い支援が求められています。【4月8日 日テレNEWS】
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【インドネシア・アチェ州 急増するロヒンギャ難民船】
過酷な現状、希望のない明日・・・難民キャンを脱出して粗末なボートで海外に逃れようとする難民も増加します。
また、ミャンマー国軍の弾圧が続くラカイン州からも、状況が悪化しているバングラデシュではなく、海上へ出る人々も。

しかし、周辺国にとってロヒンギャ難民は“厄介者” 従来から漂着した周辺国ではろくに水も食糧も与えず難民船を海に押し返す・・・といった対応が横行していましたが、特に新型コロナが拡大した期間は、更に受入れが厳しくなりました。

****ロヒンギャ難民船がインドネシアに相次ぎ漂着 ミャンマー脱出後各地で苦難続く****
(中略)
今回アチェに漂着した難民は「マレーシアを目指していた」と証言したように多くのロヒンギャ族難民はイスラム教国であるマレーシアで新生活を始めることを希望している。

しかしマレーシア政府はコロナ感染防止やロヒンギャ難民の中にARSAなどの武装組織メンバーが混入している可能性があることなどから多くの難民船を食料や飲料水を与えたうえで国際海域に追い返していた。2020年には22隻の難民船を追い返したといわれている。

こうしたことからインドネシアの中でも唯一イスラム法適用が許され、厳しいイスラム教の戒律が順守されているアチェ州を目指す難民船も増えているという。

海流の影響とこうした理由が重なってアチェへのロヒンギャ族難民は増加しており、アチェ州では収容所を設置して飲料水や食料、医療品を支援して保護に努めている。

国際機関などはロヒンギャ族難民の受け入れを国際社会に求めているが、マレーシアのようにコロナ感染防止対策や過激派組織の上陸回避のため、積極的な受け入れが実現していない実情がある。(後略)【2022年12月27日 大塚智彦 Newsweek】
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上記のような事情(イスラム教徒が大半を占めるインドネシアはロヒンギャに同情的で、特にイスラムが重視される北部アチェ州ではその傾向が強い)もあって、インドネシア・アチェ州へのロヒンギャ難民船漂着が急増しています。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告によれは、11月中旬からの約1カ月間で1543人のロヒンギャ難民がアチェ州に漂着したとのことです。今年のアチェ州へのロヒンギャ密航1700人余りの大半がこの1カ月間に集中していることになります。なお、難民の約8割が女性や子どもだとのこと。
(この時期に集中しているのは、海流の影響もあるのかも。そのあたりはよく知りません)

****ロヒンギャ約400人、インドネシア漂着 大統領は人身売買に言及****
インドネシアのアチェ州に10日、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ400人余りが新たにボートで漂着した。地元の漁業関係者が確認した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は先に、インドネシアに漂着したロヒンギャが11月以降、1200人に達したと発表した。

漁業関係者によると、10日午前にアチェ州の2地区にボートが各1隻漂着し、いずれも約200人が乗っていたという。

ジョコ大統領は8日声明を発表し、最近のボート漂着急増の背景に人身売買が存在する疑いがあるとの見方を示し、国際機関と協力して対応に当たると述べた。

インドネシアは国連難民条約に署名していないが、沿岸に漂着した難民を受け入れてきた歴史がある。【12月11日 ロイター】
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イスラム重視のアチェ州では、かつては当局がコロナを理由に難民受入れを拒否しても、地元住民が反発して難民を上陸させるといったこともありました。

****ロヒンギャ難民81人、マレーシアに上陸拒否され113日漂流 インドネシアで救出へ****
<コロナ禍やクーデターなどで世界の関心は減ったが、難民たちは今日も生き延びようとしている>
(中略)

アチェ州はロヒンギャ族難民拒否せず
バングラデシュのロヒンギャ族難民キャンプはほぼ飽和状態で政府による人道支援はあるものの、食料は慢性的に不足。医療事情が悪くコロナ感染防止が不十分であること、さらに居住区では顔役による暴力や物品の奪取などがあるとされ、必ずしも平穏なキャンプ生活が維持できないのが実状といわれている。

こうした状況から逃れるために多くのロヒンギャ族難民が新たな生活拠点を求めて、イスラム教徒が多いマレーシアやインドネシア、地理的に近いタイなどを目指して船で脱出を図るケースが絶えない。

当初はロヒンギャ族の難民船を受け入れていたマレーシアやタイは自国のコロナ感染拡大もあり、海上で発見した場合、最近は食料や水を与えて受け入れ上陸を拒否するケースが増えているという。

これに対し、ロヒンギャ族難民が漂着することが多いインドネシアのアチェ州は住民の多数が厳格なイスラム教徒で唯一イスラム法(シャーリア)に基づく統治が認められていることもあり、同じイスラム教徒であるロヒンギャ族難民を原則として受け入れてきた。

2020年6月にはコロナ感染を懸念するあまり、ロヒンギャ族の漂着を拒否したアチェ州当局の判断に地元アチェ人漁民が反発して、独自に難民を上陸させる事態も起きている。

アチェ州にはロヒンギャ族を収容する施設もあり、多数が収容されているものの、なぜか最終的にはマレーシアを目指すロヒンギャ族難民が多く、知らない間にマラッカ海峡を横断してマレーシアに密航するケースも増えているという。インドネシア人の密航請負人が船を用立ててこうした密航を支援しているとされている。(後略)【2021年6月7日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【かつての同情的対応から一変、高まる反難民感情】
しかし欧州のシリア難民でもそうでしたが、当初は受入れに同情的でも、急増して受け入れ側の負担が大きくなると事情が変わります。インドネシアにあっても特にイスラム重視のアチェ州でも、そのあたりは同様のようです。

****学生デモ隊、ロヒンギャ難民を強制排除 インドネシア****
インドネシア最西端アチェ州の州都バンダアチェで27日、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ難民100人以上が収容されている一時保護施設に大学生数百人が押しかけ、ロヒンギャを強制的に立ち退かせた。

アチェ州沿岸には11月中旬以降、1500人以上のロヒンギャがボートで漂着しており、国連は過去8年間で最多の流入だと指摘している。地元住民に拒絶されたり、海に押し戻されたりしたケースもあるという。

さまざまな大学の校章が付いたジャケットを着た学生たちは、ロヒンギャ137人が収容されていた公営ホールに突入した。

AFPが確認した映像によると、学生たちは地元の入国管理局に対し、ロヒンギャを退去させミャンマーに強制送還するよう要求。「追い出せ」「アチェはロヒンギャを受け入れるな」とシュプレヒコールを上げた。中には難民の持ち物を蹴る学生もいた。

涙を流すロヒンギャの女性や子どもや、顔を伏せ祈る男性の姿も映っていた。

現場にいたAFPの記者によると、デモ隊と、おびえるロヒンギャを警護していた警官隊とのもみ合いになったが、警官隊は最終的にデモ隊によるロヒンギャの排除を許可した。

デモ隊はタイヤを燃やし、ロヒンギャを移動させるためのトラックを用意したという。AFP記者によると、警察はロヒンギャをトラックに乗せるのを手伝った。ロヒンギャは近くにある別の政府施設へ移送された。

AFPはバンダアチェ警察にコメントを求めたが、回答は得られていない。

国連難民高等弁務官事務所は、この出来事は難民に衝撃とトラウマを残したと批判した。
インドネシアは国連の難民条約に未加盟で、ミャンマーからの難民を受け入れる義務はないと主張。近隣諸国に対し、受け入れの負担を分かち合い、沿岸に到着したロヒンギャを再定住させるよう求めている。 【12月28日 AFP】
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当局の受け入れ拒否に反発して、独自に難民を上陸させた日から3年半ほど。
アチェの社会で一体何が変わったのか・・・。
「追い出せ」「アチェはロヒンギャを受け入れるな」と叫ぶ学生たちを突き動かすものが何なのか?

****インドネシア、ロヒンギャ難民が急増 国際社会に責任を共有するよう呼びかけ****
バングラデシュやミャンマーから逃れ、インドネシア・アチェ州に漂着するイスラム教徒の少数派、ロヒンギャの人たちが急増し、地域社会の資源不足を招くとして地元では反ロヒンギャ感情が高まっている。そのため、インドネシア政府は難民条約加盟国および国際社会に対し、難民問題の解決に向け、より多くの責任を果たすよう求めている。

AP通信やインドネシアのオンラインニュースメディアTempo.co、中東の衛星テレビ局アルジャジーラの報道では、インドネシア当局は12月12日、11月以降イスラム系少数民族であるロヒンギャ難民1500人がボートでインドネシアのアチェ沿岸に到着したと発表し、国際社会に支援を求めているという。

インドネシアやタイ、マレーシアなどの東南アジア諸国は、1951年の難民条約に署名しておらず、難民を受け入れる義務はないが、タイやマレーシアに比べれば、インドネシアはバングラデシュやミャンマーからロヒンギャを受け入れており、一時避難所として難民キャンプを設置している。

しかし、難民の増加によってインドネシア国内の反ロヒンギャ感情が高まっており、政府は対策を取るよう迫られている。

インドネシア外務省のムハンマド・イクバル報道官は12月12日、ジャカルタで記者会見を行い、難民問題への対応、特に再定住が非常に遅れていると述べ、「それゆえ我々は、難民条約の加盟国や国際社会に対し、ロヒンギャ難民問題の解決にいっそうの責任を果たすよう求めている」と強調した。

イクバル報道官はまた、インドネシア政府は難民問題を解決するために国際機関、特に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国際移住機関(IOM)と協力し続けると述べ、UNHCRは施設の提供及び難民の再定住への解決策を検討することを約束したと付け加えた。

UNHCRは現在、難民がアチェに到着した後に発生する犯罪行為、すなわち人身売買や密輸を防止し、根絶することに重点を置いていると強調した。

**バングラデシュとミャンマーからのロヒンギャ難民
2017年、ミャンマー軍による弾圧から逃れるため、74万人のロヒンギャの人々が続々と隣国バングラデシュに流出した。 

しかし、近年、バングラデシュでは難民キャンプにおいてギャングが増え、犯罪率が上昇するなど環境が悪化し、ロヒンギャがバングラデシュに逃れるのは困難になりつつある。また、ミャンマーのクーデター後も軍事政権によるロヒンギャへの弾圧が続いており、その結果、インドネシアのアチェ州に多数のロヒンギャの人たちが上陸している。

外務省のイクバル報道官は「インドネシアは難民条約には加盟していないが、国際組織犯罪防止条約には加盟しており、ロヒンギャ難民を受け入れる義務はないが、人身売買と密輸の防止と撲滅に参加する義務がある」と述べ、問題の根源はミャンマーで続く紛争であり、それを解決しなければならないと強調した。

反ロヒンギャ感情が高まる地域社会
12月10日には、アチェ州サバン島の難民一時避難所に100人以上の抗議デモ参加者が集まり、ロヒンギャ難民の再定住(つまり、インドネシアから第三国への出国)を訴えたという。

「我々はみんな貧しいのに、政府はなぜ我々を助けるためにお金をくれないのか?なぜ彼ら(ロヒンギャ)に食料を配らなければならないのか」とデモ参加者の1人はアルジャジーラに訴えた。

更にもう1人も「私たちはロヒンギャを拒否します。一刻も早く別の場所に移してほしい。彼らが運んでくる病気に感染したくない」と語った。

UNHCRのファイサル・ラフマーン准難民保護官は「我々は、地域住民が安心するよう懸命に取り組んでいる」と述べた。一方、ラフマーン氏は増え続ける難民に対し、指定シェルターの収容能力がもはや対応できなくなっていることを認めた上で、「到着する難民の数が非常に多いため、政府はシェルター提供のため懸命に努力しているところだ」と述べた。【12月28日 The News Lens Japan】
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「我々はみんな貧しいのに、政府はなぜ我々を助けるためにお金をくれないのか?なぜ彼ら(ロヒンギャ)に食料を配らなければならないのか」・・・・昨日ブログ最後にも書いたように、自分たちの生活が苦しいと、他者への寛容さも失われるのが現実です。
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英米で急騰する家賃 増加するホームレス

2023-12-27 23:38:01 | 欧州情勢

(【12月26日 NHK】 急騰するイギリス・ロンドンの家賃)

【1人当たり名目GDPでG7最下位になった日本だが・・・】
日本経済が低迷を続けていることは今更の話です。

****日本の1人当たりGDPがG7最下位に、OECD加盟国中でも過去最低順位に―台湾メディア****
2023年12月26日、台湾メディア・信伝媒は、日本の1人当たり国内総生産(GDP)が先進7カ国(G7)中で最下位になったことを報じた。

記事は、内閣府が25日に22年の1人当たり名目GDP(ドル建て)が3万4064ドルだったと発表したことを紹介。G7中で最も少なく、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中でも21位と比較可能な1980年以降で最も低い順位になったとした。

また、日本のGDPが世界に占める割合も2021年の5.1%から4.2%に減少したと伝えた。

そして、日本の1人当たりGDPは台湾の3万2625ドル、韓国の3万2423ドル、中国の1万2732ドルと周辺のアジア諸国・地域に比べると依然として高いものの、米国の7万6291ドルをはじめ、欧米の先進国に比べるとはるかに少なかったと指摘。日本がG7の中で最下位になるのは08年以来のことで、大幅な円安と日本の経済地位の後退が大きく影響しているとの見方を紹介した。

また、日本の22年の名目GDPは4兆2600億ドルで世界3位をキープしたものの、米国の25兆4400億ドル、中国の17兆9600億ドルに大きく水を開けられたとし、国際通貨基金(IMF)の予測によると23年にはドイツに抜かれて世界3大経済大国の座から転落する見込みだと伝えている。【12月27日 レコードチャイナ】
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もちろん、生活の質とか暮らしやすさというのは決して経済指標だけで決まるものでもなく、社会・文化といった総合的環境のなかで決まるものでしょう。

経済的側面だけをとっても、単に“1人当たりGDP”といった数字だけは把握できないものもあります。

別に、だから「日本はやっぱり素晴らしい」と言うつもりもありませんし、上記の事実は真摯に向かい合う必要がありますが、必要以上に卑下する必要もないのかも。(ただし、“ジリ貧”という言葉から連想するように、今のような状況が続けが、やがては経済以外のいろんな面で、今はうまくいっているような面でも問題が表面化してくることはあるでしょう)

【イギリス 高騰する家賃 増加するホームレス】
イギリスでは昨年後半から今年前半にかけて、二桁を超える消費者物価上昇が続いていましたが、今年後半、ようやく落ち着いてきたようです。

****イギリス11月の消費者物価3.9%上昇 2年2か月ぶりの低水準****
イギリスの11月の消費者物価指数は去年の同じ月と比べ3.9%の上昇となり、伸び率は2年2か月ぶりの低水準となりました。

イギリス統計局が20日に発表した11月の消費者物価指数は、去年の同じ月と比べ3.9%の上昇となりました。伸び率は前の月の4.6%から0.7ポイント縮小し、2021年9月以来、2年2か月ぶりの低い水準となりました。

エネルギー価格の下落で燃料費などを含む「輸送」が前の月から2ポイント下がりマイナス1.5%となったほか、「食品や飲料」が0.9ポイント下がり9.2%の上昇となったことなどが影響しました。

イギリスの中央銀行、イングランド銀行は3回連続で政策金利を5.25%に据え置くと発表していて、2%の物価目標を達成するため当面は現在の高い金利水準を維持する姿勢を示しています。【12月21日 TBS NEWS DIG】
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もちろん、上昇率が小幅になったということで、物価が下がった訳でもありませんので生活苦は続いています。
ハント財務相はインフレ率の発表を受けて「健全で持続可能な成長への道筋が戻りつつあるが多くの家庭は依然として物価高に苦しんでいる」とコメントし、引き続きインフレ対策に優先して取り組むと強調しました。

すべてが値上がりしたなかでも、生活を直撃しているのが家賃の上昇。

****家賃が47万円!? ロンドンで「家が借りられない」 いま何が?****
「えっ、1か月の家賃が平均およそ47万円!?」 これはイギリスの首都、ロンドンの実際の話です。今、ロンドンでは家を借りられないだけでなく、住まいを追われる人も急増しています。「賃貸クライシス」に揺れる霧の都。いったい何が起きているのでしょうか。

1人暮らしなんて無理!さらに…
「家賃が高すぎて、1人暮らしなんて、手が届きません…」 こう嘆くのは、ロンドン中心部に住むジョセフ・スパナーリさん(31)です。

ジョセフ・スパナーリさん医療機関に勤めるスパナーリさん。緊急時に病院に駆けつける必要があるため、職場の近くで4人暮らしのシェアルームを借りています。

1人部屋の広さは6.5畳ほど。それでも家賃は日本円で月およそ14万円(1ポンド=180円 / 2023年12月22日時点)です。4人で割っていることを考えれば、単純計算でこの物件の家賃は56万円にもなります。

スパナーリさんが借りているシェアルームそれでもロンドン中心部にある立地の良さをみれば、家賃は“手ごろ”とも言えるそうです。以前、1部屋空きが出たときには、なんと220人から内覧の申し込みがあったといいます。

シェアルームを出て本当の1人暮らしを夢見て、スパナーリさんは節約の日々を送っています。料理は週末に作り置き。外食もほぼしません。土曜日も仕事をしてお金をためています。

しかし、スパナーリさんはため息まじりに打ち明けてくれました。 最近、1人暮らしができる部屋を探したところ、1500ポンド(日本円でおよそ27万円)以下の物件は、まったく見つからなかったといいます。

さらに、今住んでいる所も、いつまで住めるのか分からないといいます。「シェアルームの大家からは、近く『家賃を値上げする』と言われています。賃料がどのくらい上がるか分からず、不安でいっぱいです」

賃貸物件の不足、コロナ明けで拍車
もともと慢性的な住宅不足問題を抱えるロンドン。なかでも今、深刻化しているのが賃貸物件の不足です。

根強いインフレが続くイギリスでは金利が上昇しています。その結果、銀行から資金を借りている賃貸物件のオーナーが返済に困り、物件を手放すケースが相次いでいるのです。

また、コロナ禍が収束したことで、住宅の“都心回帰”ともいえる動きが拍車をかけました。ロンドン中心部の住宅への需要が高まり、2023年10月の時点で、賃貸が可能な物件の数は、コロナ禍前と比べて3割以上減少。手ごろな部屋を見つけることは、より困難な状況になっているのです。

この結果、何が起きているのか。
こちら(冒頭グラフ)は、ロンドンの賃貸住宅の家賃の推移について変化率で示したものです。2021年以降、急上昇しています。

また、イギリスの不動産会社によりますと、ことし7月から9月の賃貸住宅の家賃の平均は月2627ポンド、日本円でおよそ47万円。2022年の同じ時期より、12%値上がりしたとしています。(中略)

“家がない”ホームレス17万人!?
家賃の高騰が続くロンドン。賃貸物件を借りられるだけましともいえる状況にまでなっています。コロナ禍、そして長引くインフレで、ホームレス※が急増しているのです。

その1人だった、キラーン・オブライアンさんです。
キラーン・オブライアンさんいまでこそ、慈善団体の支援をうけて住まいをみつけ、バリスタとして働けるようになりましたが、かつては路上生活を余儀なくされていました。仕事もなく、部屋を探すことなんて夢のまた夢だったといいます。

「住宅の数が少ないので競争が激しく、何度も挑戦しましたが借りられませんでした。失業している場合、シェアルームを含め選択肢は市場の5%に限られ、競争が激しいのです。サポートを得られなければ、私はまだホームレスだったでしょう」

キラーンさんを支援したロンドンにある慈善団体では経営するカフェでホームレスの人たちに職業訓練を行い、一時的な住まいの手配も行っています。

ホームレスの人たちに職業訓練を行うカフェ現在、生活に困窮していると相談を寄せてきた人は、およそ1500人。2年前に比べると、3倍になっているといいます。

「これまでホームレスでなかった人たちが、生活費の高騰やインフレなどが重なって、ホームレスになってしまう。今、私たちはホームレスになって間もない人たちを見つけ、仕事を通じてホームレス状態から立ち直る手助けをしています。しかし市場に出回る物件が減って、ホームレスが利用できる住宅が少なくなっています。今のような状況は見たことがありません」

ロンドンの自治体などを取りまとめる団体「ロンドン・カウンシルズ」はことし8月、家がなく、一時宿泊施設に入るなどの支援を受けている人は、推定で子ども8万人を含めておよそ17万人にのぼると発表しました。

政治や行政はどう対処?政党間の対立も
家賃の記録的な高騰に、ホームレスの急増…。 こうした現状を悪化させている理由の1つに、ある法律の存在が指摘されています。

この法律は「セクション21」と呼ばれるもので、大家が「賃貸契約を終了する」と借り手に正式に通知すれば、家賃滞納などの問題がなくても、立ち退かせることができるというものです。言ってしまえば借り手側の都合は関係なく、貸し手側の大家の事情が優先されるというわけです。

ロンドン市は、週に平均して290人が立ち退き通知を受けているとしています。政治や行政はこうした現状にどう対処しようとしているのでしょうか。

この法律を廃止しようという改正案はことし中に、議会に提出される見込みでしたが、10月に提出の延期が決まりました。支持者に大家が多い与党・保守党の議員の反発を受けたことが理由の一つだと伝えられています。

ロンドン市長は、法律の改正が来年に延期された場合、さらに数千人がホームレスになるおそれがあるとして、一刻も早い改正を訴えています。

住宅を無償提供 企業から支援の手も
(中略)

解決策は?どうする
解決策はあるのでしょうか。
その1つの動きとして、民間企業による賃貸住宅の建設の取り組みがあります。ロンドンの不動産会社「Savills」のアナリストによりますと、過去10年で4万2000戸の賃貸住宅が新たに建設され、すでに市民が入居を始めているということです。

また、日本の大手住宅メーカー「大和ハウス」もことし8月、ロンドンで分譲マンションの開発に乗り出すと発表しています。

さらに政治にも動きが出てきています。この住宅問題は2024年にも行われる総選挙の争点の1つとして、与野党が公約でその解消策を打ち出しています。

このうち、与党・保守党は不満を抱える若い層の支持率の低下を防ごうと、スナク首相がことし7月、手頃な価格の住宅を新たに100万戸建設するという政策を発表しました。

これに対して最大野党・労働党も10月の大会で、市営・公営住宅に重点的に投資して、5年間で150万戸を建設することを公約に掲げました。

ただ、解決は簡単ではありません。背景として2020年のEU離脱の影響があります。離脱によって働くためのビザの要件が厳しくなり、経済を支えてきたEU各国の労働者が帰国したことから建設関連の労働力が不足しているのです。

さらに、イギリスの建設業界では長年生産性の向上が課題となっているほか、住宅の建設許可が煩雑であることなども指摘されています。

賃貸住宅の不足がこのまま続いた場合、国の経済へ影響が及ぶと懸念されています。その一つが、労働力の流動性の硬直化です。というのも、1人暮らしができず親と同居する若者が増えると、通勤できる範囲が限定され、企業側の人材採用も難しくなることなどが指摘されているのです。

すでに「賃貸住宅の不足がイギリス経済低迷の主な要因」だと指摘するシンクタンクもあるほどです。「衣食住」の1つで、生活に最も身近な住まいの問題に、具体的な解決策を見いだせるのか、ロンドン市民の1人として、注視していきます。(11月2日 キャッチ!世界のトップニュースで放送)【12月26日 NHK】
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賃借人の権利が一定に保護されている日本からすれば、「セクション21」というのは随分乱暴な法律に思えます。1988年に制定されたもののようですが、どういう経緯で出来たものでしょうか。

1人暮らしができず親と同居する若者が増えると、通勤できる範囲が限定され、労働力の流動性が硬直化するというのは「なるほど・・・」という指摘です。

またEU離脱の悪影響がここでも・・・という話のようです。

上記にもあるように、こうした家賃高騰によってホームレスが急増しています。

****英イングランド地方部でホームレス急増 生活費高騰などで****
英イングランドの地方部で、ホームレスの数が5年で40%増加したことが分かった。地方部で活動する慈善団体が26日、明らかにした。
 
英国では生活費の高騰が深刻化。食費、光熱費、家賃、住宅ローンの金利が上がる中、会計が苦しくなった人も多い。

2022年10月には、インフレ率が11%と過去41年で最高を記録した。今年11月には3.9%まで下がったが、主に10年前に比べ福祉手当が減額されていることや住宅不足などから、食料を買えない人やホームレスが増加している。

イングランドの地方部で手頃な住宅の供給を訴えている慈善団体CPREによると、地方のホームレスの数は2018年には1万7212人だったが、2023年には2万4143人に増加した。多くの自治体において賃金が上がっていないことと住居費の値上がりが背景にあるという。

同団体によると、イングランドで最もホームレス率が高い地方自治体は、ロンドンの北東に位置するボストンだった。10万人当たりのホームレスの数は全国平均では15人だが、最新データがある今年9月時点で、ボストンでは48人に上った。

次いで、ロンドン北部ベッドフォードが10万人当たり38人、イングランド南西部ノースデボンは29人となっている。

CPREは、「都市部と違い、地方のホームレスは目につかないことが多い。野山で野営したり、農場にある建物で雨露をしのいだりしている」としている。またこうした人々は「支援を受けていないことが多い」ため、実際の数は政府統計を利用した今回の分析を上回ることはほぼ間違いと指摘した。

同団体によると、イングランド地方部では30万人が公営住宅への入居を待っている。 【12月27日 AFP】
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【アメリカも同様】
状況はアメリカでも同様で、ロンドンが家賃47万円なら、ニューヨークの1DKの平均家賃は4,000ドル(約60万円)!【11月16日 Tokyo fm plus 「NYの1DKの平均家賃約60万円!物価高騰に苦しむニューヨークZ世代の節約法とは?」より】

しかも、外食費など全てが値上がりしていますので、“巷では「$100 bill is news $20 bill(今の100ドルは、ついこの間までの20ドル)」と言われ始めています。”【同上】という状況。 映画館の売店で、水1本が7ドル(約1000円)といった話も。

これでは最低賃金(最低時給は7ドル25セント(約1,000円)、ニューヨークは15ドル(約2,250円))では到底暮らせませんし、年収1000万円でもギリギリの生活になります。

結果、“米国のホームレス数が65万人に急増、コロナ対策支援の終了が背景に”【12月19日 Forbes】といった事態に。

(ロサンゼルス【同上】)

そうしたアメリカの状況はまた別機会に。

単に“1人当たりGDP”といった数字だけは把握できないものもあるという話でした。

また、自分が生活するのに精一杯という状況では、難民・移民など他者への配慮をする余裕がなくなり、とにかく自分第一主義になりやすいというのも無理からぬところがあります。
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イスラエル  ガザの惨状にもかかわらず攻撃を続ける背景には、惨状を伝えていないメディアの責任も

2023-12-26 22:51:33 | パレスチナ

(パレスチナ自治区ガザ地区で展開するイスラエル国防軍の部隊と面会したイスラエルのネタニヤフ首相【12月26日 BBC】)

【ガザ地区「悲惨な状況」 飢え死にするより、殉教者として家で死ぬ方がまし】
パレスチナ・ガザ地区の惨状については多くの報道がなされています。
24日のクリスマスイブの夜、難民キャンがイスラエル軍に空爆され70人ほどが死亡したとのこと。

****ガザ難民キャンプ空爆、WHO「悲惨な」状況確認****
世界保健機関の職員が25日、パレスチナ自治区ガザ地区の病院を訪問し、イスラエルによる空爆の被害者らが置かれた「悲惨な」状況について確認した。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長はX(旧ツイッター)に「WHOのチームは、医療従事者や被害者から、爆発による被害に関する悲惨な証言を得た」と投稿。「ある子どもはキャンプへの攻撃で家族全員を失った。同病院の看護師も同じ目に遭った」とつづった。

ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの保健当局は、24日夜にマガジ難民キャンプ内の建物3棟がイスラエルによる空爆を受け、少なくとも70人が死亡したと発表した。AFPは死者数について独自に確認できていない。

ガザ中部デイルアルバラのアクサ殉教者病院の敷地には、白い袋に入れられた犠牲者の遺体が多数並べられていた。病院職員は、キャンプへの攻撃の負傷者約100人が病院に搬送されてきたと報告している。

テドロス氏は、病院の処理能力を超えており「治療が間に合わず、多くが命を落とすだろう」とし、「24日のガザへの爆撃は、直ちに停戦すべき理由をはっきりと示している」と語気を強めた。

WHOによると、ガザ地区の病院36施設のうち現在でも稼働しているのは、限定稼働の施設を含む9施設のみとなっている。 【12月26日 AFP】
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食糧事情も深刻化し、餓死の脅威が現実のものとなっています。

****配給頼るガザ住民、わずかな食料に長蛇の列 餓死の恐れも*****
パレスチナ自治区ガザ南部のラファで避難民のための食料配給に連日、ボランティアとして参加するバクル・ナジさんは、子どもたちの胃袋を満たすには量が足りないことが分かった瞬間に、毎回、やるせない気持ちになる。

ラファの食料配給所で取材に応じたナジさんは、わずかな食料を求め、無数の人が列をつくると話す。自身もガザ市の自宅から逃れてきた避難民だが、同じ境遇にある人々のために、炊き出しのボランティアをしている。

AFPに対し、「一番つらいのは、食料を配る時だ」と述べ、「食べ物が尽き、子どもたちに『おなかがすいた』『もうないの』と言われると、とても心苦しくなる」と説明した。

そのような状況に直面すると、ボランティアたちの多くは、自らの食料を差し出す。

21日に公表された国連の総合的食料安全保障レベル分類報告書は、12月初め時点までにガザでは200万人以上が危機的な飢餓状態にあり、37万8000人超は「壊滅的な飢餓」に直面していると指摘した。

イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が繰り広げられているガザには、わずかの人道支援物資しか搬入されない。

ラファの食料配給所では、フェンスで囲われたエリアで炊き出しが行われている。大人も大勢の子どもも、プラスチック製のボウルや小さな鍋を手にフェンスの外で辛抱強く待つのだ。

1日当たり約1万人分の食料を配っている慈善団体の職員、ハレド・シェイク・エイドさんは、「レンズ豆もブルガー小麦も市場からなくなった。エンドウ豆も白インゲン豆も消えた」と話す。

エイドさんによると、配給所は寄付とボランティアの参加で運営できているが、常に乏しい物資でやりくりせざるを得ないという。

■「餓死より殉教の方がまし」
ナジさんは、「豆の缶詰の値段は1シェケル(約40円)から6シェケルに跳ね上がった」と語る。
「戦争前も人々は貧しく、職を持つ人でも子どもに十分食べさせられなかった。それなのに、この状況にどう対処すればいいのか」と述べ、「餓死者が出るのではないかと恐れている」と続けた。

南部ハンユニスから逃れてきた、妊娠5か月のヌール・バルバクさんは、食料配給所が開く何時間も前から列に並んでいた。

トマト3個と2シェケル(約80円)を握り締めたバルバクさんは、「12歳の長男にときどき来させているが、暴力を振るわれるだけで何ももらえずに泣きながら帰ってくる」と話し、「ここがなければ、私たちは何も入手できない」と訴えた。
子どもたちはやせ細り、空腹のため夜中に起きる」と厳しい状況を説明し、激戦地となっているハンユニスの自宅に戻ろうと考えたこともあると打ち明けた。「飢え死にするより、殉教者として家で死ぬ方がましだから」 【12月24日 AFP】AFPBB News
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“国連世界食糧計画(WFP)などは21日、パレスチナ自治区ガザ地区のおよそ6人に1人が「壊滅的」な飢餓状態にあるとする報告書を発表した。WFPのマケイン事務局長は「安全かつ安定した支援がなければ状況は絶望的だ。ガザで飢餓から逃れられる人はいない」と警告した。”【12月22日 毎日】

【攻撃の手を緩めないイスラエル エジプト停戦案もハマス拒否 イスラエルは“落としどころ”が見つからず苦慮している面も】
こうした状況でもイスラエル軍の攻撃は熾烈を極めています。ガザ地区の死亡者は2万人を超えています。

****パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍の攻撃続く 24時間で200人超死亡 拘束の人質も死亡か****
パレスチナ自治区ガザでは、イスラエル軍による攻撃が続いていて、1日の死者が200人を超えています。

ガザ保健当局は23日、過去24時間で201人が死亡し、戦闘開始以降の死者数は合わせて2万258人になったと発表しました。

これに先立ち、イスラエル軍の報道官は22日、ガザ北部での戦闘について「最終段階に近づいている」としたうえで、南部での作戦を継続しつつ、範囲をさらに拡大させる考えを示しています。

一方、イスラム組織ハマスは攻撃によって人質5人を担当していたグループとの連絡が途絶え、人質は死亡したとみられると発表しました。

こうした中、アメリカのバイデン大統領は23日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、民間人保護の重要性を改めて伝えた一方で、戦闘の一時停止については「求めなかった」としています。【12月24日 TBS NEWS DIG】
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ようやくと言うか、エジプト仲介で停戦案も提示されています。

****エジプトが3段階のガザ停戦案提示…第1段階で2週間の戦闘停止、人質40人解放****
サウジアラビアのニュースサイト「アシャルクニュース」は24日、イスラエルとイスラム主義組織ハマスの交渉を仲介するエジプトが、2週間の戦闘停止や人質解放などを第1段階とする3段階の停戦案を提案していると報じた。

同サイトによると、停戦案は先週、ハマスの最高幹部イスマイル・ハニヤ氏らがエジプトを訪問した際に提示された。ハニヤ氏らは組織内で協議するため、23日に滞在先のカタールに戻った。地元紙タイムズ・オブ・イスラエルによると、複数のイスラエル高官が提案があったと認め、交渉につながる可能性を示唆したという。

停戦案の第1段階では、戦闘を2週間停止し、ハマスが人質40人を解放するのと引き換えに、イスラエルはパレスチナ人収監者120人を釈放する。

第2段階では、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸とガザの分断を解消するため、エジプト主導で「パレスチナ国民協議」を開き、ガザの再建を監督する実務者中心の政権を樹立する。

第3段階では、包括的な停戦や残りの人質と収監者の交換を取り決め、イスラエル軍がガザから撤退することを想定している。【12月25日 読売】
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“25日のイスラエル公共放送カンによるとイスラエル当局者は停戦案について「完全にまとまったものではないが、数回の協議を経て合意に至る可能性がある」と述べた。”【12月25日 読売】という前向きの反応も報じられていますが、“イスラム組織ハマスはエジプトが仲介する人質解放や戦闘終結についての提案を拒否したと、ロイター通信が報じました。”【12月26日 日テレNEWS】とも。

すぐに停戦・・・という状況ではないようです。
イスラエル・ネタニヤフ首相は戦闘継続姿勢を崩していません。

“ネタニヤフ首相は25日、与党の会合で、パレスチナ自治区ガザでのハマス掃討作戦を今後数日間のうちに強化すると述べた。「長期戦になるだろう。戦闘終結には近づいていない」と説明。国会演説では「軍事的な圧力」の必要性を強調し、戦闘休止や人質解放交渉に改めて慎重姿勢を示した。地元メディアが伝えた。”【12月26日 共同】

****イスラエル首相「われわれは止まらない 戦争は最後まで続く」****
イスラエルのネタニヤフ首相は25日、ガザ地区北部に展開する部隊を視察しました。
ネタニヤフ首相は兵士たちを前に「誰が停止について話そうとわれわれは止まらない。戦争は最後まで続くだろう」と述べ、ハマスを壊滅させるまで軍事作戦を継続する考えを改めて強調しました。【12月26日 NHK】
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そのうえで・・・

****イスラエル首相 和平実現の3条件 米紙に寄稿****
ネタニヤフ首相は25日、アメリカの有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し、和平を実現するための条件として▽ハマスの壊滅、▽ガザ地区の非武装化、それに▽ガザ地区の脱過激化の3つを挙げました。

ネタニヤフ首相としてはアメリカなど関係国が戦闘休止に向けた働きかけを続けるなか、軍事作戦を継続する正当性を強調する狙いがあるとみられます。【12月26日 NHK】
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要するに、完全勝利するまで戦いをやめない・・・ということですが、そうした表向きの強気姿勢の一方で、人質の救出も進まず、ハマス指導者の確保・殺害も実現していない状況で、戦いを止めるに止められない、落としどころが見つからない状況で、戦闘の長期化に苦慮しているとも報じられています。【12月26日 NHKより】

【イスラエル国民の約7割がガザの民間人の苦境を考慮する必要がないと回答 しかし、メディアでガザの惨状に関する情報が正しく伝えられていない懸念も】
イスラエル軍のガザ猛攻に対して国際的には厳しい目が向けられていますが、イスラエル国内では人質救出を求める声はあるものの、ガザ攻撃を容認・支持する世論が続いています。

****ガザ苦境、国民の7割が考慮せず イスラエルの世論調査****
パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘を巡り、イスラエル国民の約7割がガザの民間人の苦境を考慮する必要がないと考えていることが26日までのシンクタンク「イスラエル民主主義研究所」の世論調査で分かった。約8割が、軍は国際法を順守しようと努力しているとも回答した。

深刻化するガザの人道危機を懸念する国際社会とイスラエル社会の差が浮き彫りになった。

「イスラエルは軍事作戦の継続を計画する際に、ガザ市民の苦境を考慮する必要があるか」との問いに対し、計69.3%が「全く考慮する必要はない」「ほとんど考慮する必要はない」と答えた。【12月26日 共同】
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こうした世論を生む背景には、ハマスの攻撃への怒りだけでなく、現在のガザ地区がどのような状況に陥っているのか、どれだけ多くの民間人が犠牲になり、飢え・病気に苦しんでいるのか・・・そうした情報が正しくイスラエル国民に伝わっていないのではないか・・・という疑念があります。

****「ガザ被害を報じたか?」TBS記者が聞くと取材中断…イスラエルメディアは“ガザ被害伝えてない”と批判の声も****
パレスチナ自治区ガザで、イスラエル軍の攻撃による甚大な被害が広がる一方、イスラエルメディアはガザの様子を伝えていないという批判の声が上がっています。

イスラエル軍による空爆で破壊された街並み。子どもの遺体を涙ながらに抱きかかえる女性の姿。私たちはガザの悲惨な光景を連日目にしますが、イスラエルでは違います。

イスラエルで優秀なジャーナリストに贈られる賞を受賞した経歴を持つ「ハーレツ」のギデオン・レヴィ氏は…
イスラエル紙「ハーレツ」 ギデオン・レヴィ氏「イスラエルのテレビや主流の新聞を読んでいる平均的なイスラエル人は、ガザでの残虐行為や恐ろしい光景に全く触れていません」

軍の行動を巡る世論調査では、ユダヤ系イスラエル人のおよそ8割がガザ市民の苦しみについて「ほとんど考えなくて良い」、または「あまり考えなくてよい」と答えました。この背景にはメディアの責任があるとレヴィ氏は主張します。

イスラエル紙「ハーレツ」 ギデオン・レヴィ氏「10月7日の蛮行のあと、イスラエルはどんなことをしても良いと思ってしまっているのです」

こうした批判をテレビ局はどう考えているか。取材に応じたのはイスラエル最大の民放放送局で、20年以上にわたり中東エリアの取材を担当するオハド・ヘモ氏。

イスラエルの民間放送局 オハド・ヘモ氏「ガザで起きたことというのは、ガザがイスラエルに対して宣戦布告したということです」

ヘモ氏は「ガザについて十分に報じている」と主張。ただ、軍に同行し、ガザで取材したことについて聞くと…
イスラエルの民間放送局 オハド・ヘモ氏「私たちが見たのは弾薬や武器が病院で見つかり、テロリストによって使われていたということです。それを見ました」

では、ガザの被害については…
記者 「ガザの街の破壊についても報じようとしましたか?」
ヘモ氏「もちろんです」
記者 「どのように報じましたか?」
ヘモ氏「すいません、このインタビューは嫌です。私の国は…攻撃されたんです」
記者 「もちろん分かっています」

インタビューは中断となりました。

戦闘開始から2か月半。停戦を求める国際社会の声が高まる一方、イスラエルでは戦闘継続を支持する声が根強いままです。【12月26日 TBS NEWS DIG】

情報が正確に伝えられていないのはパレスチナ側も同じです。
ガザ地区住民には、10月7日にハマスがイスラエルで行った蛮行についてはほとんど報じられていません。

正しい公平な情報が伝わらないところでは、また、憎しみを煽るような情報しか示されないところでは、合理的な判断も生まれません。メディアの役割の重要性を改めて感じます。

【ネタニヤフ首相 ガザ住民の「自発的移住」促す方針に言及 「民族浄化」との批判】
パレスチナについては、仮にイスラエルがハマスを壊滅させたとしても、「二国家共存」を否定するイスラエルには「ポスト・ハマス」の青写真がないという大きな問題があることは再三取り上げてきましたが、ネタニヤフ首相は「ザの住民を地区外へ自発的に移住」に言及しています。

****ネタニヤフ氏、ガザ住民の「自発的移住」促す方針…パレスチナ側は「民族浄化」と猛反発****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は25日、党首を務める与党リクードの会合で、パレスチナ自治区ガザの住民を地区外へ自発的に移住するよう促す方針を示した。事実上ガザからのパレスチナ人追放につながりかねず、パレスチナ側は猛反発している。

主要紙ハアレツなどによると、ネタニヤフ氏は会合で「我々の問題は(ガザ住民の)退去を許可するということでなく、移民を受け入れようとする国があるかどうかだ」と述べた。

リクードの国会議員ダニー・ダノン元国連大使は25日夜、公共放送カンのインタビューで「イスラエルは様々な国からガザの難民を受け入れる用意があるとの照会を受けた」と言及した。具体的には南米やアフリカの国々だとし、「いくつかの国は金銭の支払いを求め、別のことを要求した国もある」と述べた。

パレスチナ自治政府は「イスラエルの目的がパレスチナ人の存在を消し去ることだと明らかになった」と反発し、国際社会に対し「民族浄化」をやめるよう求める声明を出した。【12月26日 読売】
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これは「アウト」でしょう。“自発的に移住するよう促す”と言ったところで、実際には様々な圧力がかけられ、出ていくしかないような状況がつくられるのでしょう。それは「民族浄化」に他なりません。
コメント
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メコン川  変容の背景に中国のダム建設 中国「メコン川協力が国と国の関係の手本」

2023-12-25 23:18:31 | 中国
(漁に使う木造船に乗り「漁は好きだから続ける」と話すソムサック・ナンタラットさん=タイ北部チェンライのドーンティ村で2023年11月19日、武内彩撮影【11月30日 毎日】)

【水量、魚や堆積物が減少するなど変容するメコン川】
チベット高原から南シナ海へ約4350キロを流れるメコン川は、流域の中国、ラオス、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナムに住む数千万人の農業や漁業を支えています。

近年、そのメコン川の水量が大きく減少し、流域に暮らす人々の生活を脅かしています。

****漁師ら「食べていけぬ」 タイ・メコン川 温暖化で水量激変、漁獲減****
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで30日、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が開幕する。焦点の一つが、温暖化による「損失と被害」を受けた国を支援する基金のあり方だ。資金拠出をめぐって先進国と途上国が対立する中、中所得国のタイは支援の対象から外れる可能性もある。

タイ北部チェンライのドーンティ村は、ラオス国境を流れるメコン川沿いにある。11月中旬、漁師のソムサック・ナンタラットさん(46)が川に仕掛けた網に小さな淡水エイが約1カ月ぶりにかかった。淡水エイが揚がるのは以前は珍しくもなかった。だが、今は月に1匹も取れればいい方だ。「こんなに魚が取れないんじゃ、漁で食べていくのは無理だ」。川に浮かべた木造船の上で、ナンタラットさんは肩を落とした。

中国のチベット高原を源流に、インドシナ半島を蛇行して南シナ海に注ぎ込む全長約4800キロのメコン川は、流域に暮らす約6000万人の暮らしを支える。チェンライの川沿いにはドーンティ村を含めて43の村落がある。雨期になればメコン川の水量は増え、乾期になれば減る。流域の住民は、季節によって川の水量が変わる自然のサイクルに合わせ、漁業で生計を立ててきた。

ところが、ナンタラットさんらの生活に今、異変が起きている。1990年代以降に上流や支流でダムが相次いで建設されたことに加え、異常気象による降水量の減少などで、季節ごとの川の水量が激変して不安定になり、魚が取れなくなった。市場に卸せるほどの漁獲量はなく、ナンタラットさんはネット交流サービス(SNS)を通じて細々と魚を売りながら、やっとのことで生活している。

メコン川の下流域にあるタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムでつくる「メコン川委員会」は「気候変動により過去10年で流量が減った」と指摘する。

メコン川下流域では2019年、過去100年で最悪といわれる干ばつに襲われた。降水量の少なさに加え、上流の中国にあるダムが水不足に備えて放水量を制限したことも被害を深刻にしたとされる。さらに20年以降も雨期の降水量がこれまでの平均を下回った。同委員会は、メコン川での漁獲量は、気候変動の影響も考慮すると40年までに07年と比べて40%も減ると予測している。

30年近くこの流域を調査してきた環境NGO「リビングリバーサイアム」のソムキャット・クンチンサ氏は「ダムの建設で水量や水流が不安定になった。さらに洪水などを引き起こす異常気象が漁獲量の減少に拍車をかけている」と話す。チェンライの川沿いでは、漁師の多くが農業に転向したり、山あいのプランテーションで働くために移住したりして、漁村の生活は一変した。

ナンタラットさんも午前中は飼料用トウモロコシの畑に向かい、午後から1人乗りの木造船で川に出て網を仕掛ける。川の水位が下がる2〜4月に収穫していたカイと呼ばれる川藻も激減した。

「川の変化に動植物が適応できなくなっている」。それが、漁師らの一致した見方だ。20年前に30人ほどいた村の漁師は次々と漁をあきらめ、今は10人ほどしかいない。

約60キロ下流のパッインターイ村も状況は同じだ。20年ほど前までは50世帯以上が漁をしていたが、今は畑で野菜を栽培する傍ら約10人が漁をするだけだ。アムノイ・スワンディさん(55)は「メコン川ではもう食べていけない」と漏らす。雨期には1日10キロの魚が取れたが、最近はゼロの日が多い。「以前は季節ごとに漁場を変えていた。だが、過去の知恵が役に立たなくなった」と話す。

タイ政府は、地球温暖化による影響に適応する対策として、メコン川流域で養殖の導入や洪水対策の護岸工事などを進めた。だが、養殖は不安定な水量などに影響されて軌道に乗せるのが難しく、一部の護岸工事は岸辺での農業を妨げることになった。

政府機関「気候変動・環境研究所」のアトサモン・リムサクル上級研究員は「今まさに損害を受けている住民には『適応』策が必要だ。だが、効果を検証するには時間も資金もかかる。国際的な支援が必要だ」と訴える。

クンチンサ氏は言う。「温暖化の責任を押しつけ合う議論が続いているが、その間にしわ寄せを受けるのはメコン川流域の漁師らだ。問題を引き起こした側が、まず責任をとるべきだ」【11月30日 毎日】
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タイ・チェンライ付近は2010年に観光しましたが、メコン川水系のコック川を小さなボートでミャンマー国境近くの町まで4時間余り遡ったことがあります。当時の川岸のどかな風景が忘れられませんが、今は随分変わってしまったかも。

****ベトナムのメコンデルタ、35年までに砂枯渇の可能性 WWF報告書****
世界有数の穀倉地帯とされるベトナム南部の三角州メコンデルタで、2035年までに砂が枯渇する可能性を警告する報告書が5日発表された。砂の採掘や上流のダムによるせき止めが原因と指摘されている。

メコン川が南シナ海に注ぐ河口にあるメコンデルタは、生物多様性ホットスポットであり、数千万人の暮らしと食料を支えている。

だが上流の水力発電ダムの影響で土砂の流量が減り、生態系の維持に不可欠な川底の砂が急激に減少。世界自然保護基金によると、好景気の建設部門による砂の採掘がこれに拍車を掛けている。

WWFの報告書「ベトナム・メコンデルタの砂量」は、年間3500万〜5500万立方メートルの砂が採掘されており、このままのペースでいけば「採掘可能な砂はあと10年でなくなる」と警告している。

報告書を共同執筆者したセファー・エスラミ氏はAFPに対し、砂が枯渇すれば、塩害の被害を受ける地域が10%拡大すると指摘。また気候変動と海面上昇の脅威が迫る中、「川岸の浸食や洪水が増え」、メコンデルタの存続自体が危うくなると述べた。

調査によると、昨年デルタに流れ込んだ砂はわずか400万立方メートルで、過去の平均700万立方メートルを大きく下回っている。 【10月6日 AFP】
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個人的な話ですが、メコン川は大好きで、あちこちで観光しています。ベトナムのメコンデルタの中心都市カントーを旅行したのは2001年。カントーはメコン最大の支流ハウザン(後江)の南西岸の大都市です。更にメコンデルタの奥の地域を観光したいとも考えていますが・・・。

ベトナムに限らずメコン川を船で遊覧していると、川砂を採取している光景をよく目にします。 東南アジア諸国のことですから資源保護などはあまり重視されず、「無秩序・勝手に採取しているのでは・・・」、「そのうち砂もなくなるだろうに・・・」と思うこともあります。

【最上流で中国が建設するダムの影響】
メコン川の変容の背景には、上記の記事でも指摘されているように、温暖化や砂採取などのほかに、上流でのダム建設の影響があります。

ダムは流域国が建設していますが、最上流で、かつ、多数のダムを建設している中国の問題がよく指摘されています。

****メコン川を脅かす中国の水力発電ダム****
メコン川はチベット高原から約5,000キロメートルにわたって伸び、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジアを通り、最終的にはベトナムのメコンデルタに至る。東南アジアで最長のこの川は、農業や漁業で水路に依存している人々の生活に欠かせない栄養豊富な堆積物を運んでいる。

しかし、このメコン川が干上がってきている。ワシントンD.C.に本拠を置くシンクタンク、スティムソン・センター(Stimson Center)の分析によると、近年、その水位は記録的な最低レベルにあると、ラジオ・フリー・アジア(Radio Free Asia)が2022年に報じている。

メコン川下流域では、人が歩いて渡れるほど水位が低いこともある。15年前には年間1億4,300万トンと推定されていた重要な堆積物の多くがブロックされている。

ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の2023年8月の報告書によると、このような状況は下流域の約6,000万人の人々の食料不安と環境危機の一因となっているという。

専門家らは、気候変動の影響を認めながらも、この川の危機の直接の原因は中華人民共和国によるメコン川上流(中国では瀾滄滄と呼ばれる)での水力発電ダムの建設にあると述べている。

ダムは魚の移動経路を遮断し、堆積物や栄養分を閉じ込める物理的障壁となり、その波及効果により水位の低下や塩水の侵入が起こる」と世界自然保護基金は2023年10月に報告している。

ロイター通信が2022年12月に報じたところによると、中国はメコン川の支流に少なくとも95の水力発電ダムを建設している。また、1995年以来、主流の巨大ダムを11基建設しており、今後更なる建設も計画し、ラオスの2つのダム建設にも協力した。

下流の危機の一因となるのはダムだけではなく、その管理方法であり、アナリストらは中国政府が他のメコン諸国をほとんど考慮せずに行動していると主張している。

スティムソン・センター東南アジアプログラム(Stimson Center’s Southeast Asia Program)のディレクター、ブライアン・アイラー(Brian Eyler)氏はVOAに対し、中国は「雨季には川から水を汲み上げ、乾季には水力発電のために水を戻している。そしてそれにより、現在生じている干ばつの状況をさらに悪化させている」と語った。

同氏は、「中国は雨季に大量の水流が必要とされることを認めるべきだが、これまでのところ中国はこれを否定している」と述べている。

メコン川委員会は、2040年までにデルタ地帯に到達する川由来の土壌は毎年500万トン未満になると推定している。同委員会は流域に隣接する国々によって1995年に設立され、加盟国と協力して水資源の管理に取り組んでいる。しかし、中国は近隣諸国と水共有協定を締結していない。

ベトナムの家族の農場で40年以上米を栽培しているトラン・ヴァン・クン(Tran Van Cung)さんは、「川は堆積物を運んでこないし、土壌は塩分化している」とロイターに語った。

60歳のクンさんは、最近の収穫量では数年前の収入のわずか半分にしかならず、2人の子供たちと近所の人たちは仕事を求めてこの地域を離れていると語った。「沈殿物がなければ、私たちは終わりだ」とクンさんは嘆く。

カンボジアの漁師ティン・ユソス(Tin Yusos)さんとその妻と孫娘は、2021年に自宅兼ボートに乗ってプノンペン近くのトンレサップ川とメコン川で釣りをしていた。「まだたくさんの魚が釣れていた頃は、このような釣りをした日には約30キロぐらい魚が釣れていたが、今では1キロちょっとしか釣れない。今は魚がいない」とティンさんは話す。【12月12日 FORUM】
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【中国 「メコン川協力が国と国の関係の手本に」】
・・・と、ここまでの話は、これまでもメコン川について取り上げてきた過去のブログと内容的にはほぼ同じです。今回敢えてその同じ話題を取り上げたのは、腰を抜かすような↓の記事を見たからです。

****瀾滄江・メコン川協力が国と国の関係の手本に―中国外交部****
22日に行われた外交部の定例記者会見で、記者から今月25日に開催される瀾滄江・メコン川協力第4回指導者会議について、「中国は瀾滄江・メコン川協力の現状をどう評価しているか、今回の会議にどのようなことを期待しているか」との質問がありました。

汪文斌報道官は、「瀾滄江・メコン川協力は運命共同体の建設を目標とし、流域の6カ国が協議し、共同で建設し、共有する初めての新型地域協力メカニズムだ」と示した上で、「この7年間、急速な発展を遂げており、『指導者がリードし、全面的にカバーし、各部門が参与する』という瀾滄江・メコン川構造が形成されている。

また『平等に接し、誠実に助け合い、家族のように親しむ』という瀾滄江・メコン川文化が育まれ、国と国の関係の模範、地域協力の手本、南南協力のベンチマークとなっている」と述べました。

さらに、「現在、流域の各国は急速な発展と現代化に向かう重要な岐路に立っている」と強調するとともに、「今回の指導者会議を通じて、流域の国家運命共同体構築の推進を中心に、総合的発展やグリーン環境保護、科学技術革新、安全ガバナンス、人文交流などの分野での協力の強化に重点に置き、流域の経済発展ベルト構築の推進を深く議論し、域内諸国の共同発展の実現、現代化への協力に積極的な貢献をすることを期待している」と述べました。【12月24日 レコードチャイナ】
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別にメコン川の問題を中国だけの責任と批判するつもりはありません。中国には中国の事情もあるでしょうし、他の流域国にも問題はあるでしょう。

ただ、前出【FORUM】にもあるように、中国政府が他のメコン諸国をほとんど考慮せずに行動しているとの批判が強く存在しています。

そうしたなかで「メコン川協力が国と国の関係の手本」と言ってのける中国政府の厚顔ぶりに驚いた次第です。

中国がいかに経済的に成長し、軍事的に巨大化し、国際政治で重きをなすようになっても、日本を含めた周辺国から恐れられることはあってもリスペクトされないのは、こうした傍若無人ぶりにあります。

中国はいつになったらそのことに気付くのか?
『平等に接し、誠実に助け合い、家族のように親しむ』・・・・是非ともそうありたいものです。

【国際河川管理の難しさ ナイル川でも】
メコンに限らず、国際河川のダム建設は上流国・下流国の利害が対立する難しい問題です。
メコンと並んで何回か取り上げたこともある、ナイル川のエジプト・エチオピアの対立もうまくいっていないようです。

****エジプト、エチオピアと水争い ナイル川巨大ダム巡り「交渉決裂」****
ナイル川の水資源を巡り、上流で巨大ダムを建設しているエチオピアと下流に位置するエジプトが対立している問題で、エジプト政府は19日、ダムの管理方法に関する交渉が決裂したと発表した。

両国の首脳は7月、4カ月以内に解決することで合意し、交渉が続いていた。希少な水資源を巡る対立の難しさが改めて浮き彫りになった。

問題となっているのは、エチオピア高原を水源に持つ「青ナイル」沿いでエチオピアが2011年から本格的に建設を始めた「大エチオピア・ルネサンスダム」。

最大貯水量は青ナイルの平均年間流水量の約1・5倍とされ、エチオピアはすでに段階的に貯水を始めている。エジプトはこのダムが将来的に水不足を引き起こす懸念を強めている。

交渉では、エジプトはダムの管理方法などについて法的拘束力のある合意を求めているとされる。エジプト水資源・かんがい省は声明で、「交渉は、エチオピアが技術的・法的な合意を一貫して拒否しているため失敗に終わった」と批判した。

エジプトは水需要の9割以上をナイル川に依存しており、水資源の確保は死活問題だ。ダムにより水不足が深刻化すれば、両国間で緊張が高まる可能性がある。【12月20日 毎日】
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交渉が決裂・・・エジプト側には「軍事行動に訴えてでも・・・」という強硬論が以前からありますが、さすがに完成している「大エチオピア・ルネサンスダム」を破壊するというのはシシ大統領もできないでしょう。多分。
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コンゴ  20日の大統領選挙、トラブル多発で延長 ルワンダが支援と言われるM23をめぐる動き

2023-12-24 23:29:31 | アフリカ

(2日、コンゴ民主共和国の首都キンシャサで大統領選への出馬を表明したデニス・ムクウェゲ氏=ロイター【10月3日 読売】)

【国内の戦闘がおさまらない資源大国コンゴ 20日の大統領選挙は多くのトラブルがあって延長】
日本では(おそらく、世界の多くの国でも)ほとんど報じられることもありませんが、12月20日にアフリカ中部のコンゴ民主共和国で大統領選挙が行われました。

パレスチナ・ガザでも、ウクライナでも激しい戦闘が続いていますが、国内に多くの武装勢力が割拠し、恒常的に政府軍と武装勢力の間、あるいは武装勢力同士の衝突、それに伴う地域住民への暴力(性暴力を含む)が継続し、多くの国民がその犠牲になり、大量の避難民を生んでいる・・・そんなコンゴの状態は座視すべきものではなく、今後の状況が大統領選挙で改善に向かうのであれば、世界全体にとってもその意義は小さくありません。

“国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2020年末時点でのコンゴ難民の数は合計約84万人です。難民の数を出身国別に比較すると、コンゴ民主共和国は、シリア、ベネズエラ、アフガニスタン、南スーダン、ミャンマーに次いで、世界で6番目に多くの難民を生み出しています。”【World Vision】

****コンゴ民主共和国 大統領選挙 治安回復や経済立て直しが争点に****
アフリカ中部のコンゴ民主共和国で大統領選挙の投票が行われました。選挙には現職の大統領のほか、紛争下での性暴力の被害者の治療に当たり、ノーベル平和賞を受賞したムクウェゲ医師らが立候補していて、治安の回復や経済の立て直しが争点となっています。

コンゴ民主共和国では20日、大統領選挙の投票が始まり、現地からの映像では早朝から多くの人が投票所に列をつくって票を投じていました。

今回の大統領選挙には、2期目を目指す現職のチセケディ大統領や、野党の有力者のほか、東部の紛争地域で長年、性暴力の被害者の治療に当たり、2018年にノーベル平和賞を受賞したムクウェゲ医師なども立候補しています。

コンゴ民主共和国は、電気自動車のバッテリーに使われるコバルトの世界最大の産出国として注目されていて、日本政府も資源外交の重点国として関係強化に力を入れています。

一方で、国内の経済は低迷し、国民の60%以上が貧困にあえいでいるとされています。

また、東部では武装勢力による襲撃や政府軍との衝突が続き治安の悪化も深刻で、選挙戦では治安の回復や経済の立て直しが最大の争点となっています。

選挙結果は年内にも発表される見通しですが、選挙に関わる暴力や不正を指摘する声も上がっていて、投票や開票作業が順調に進むのか懸念されています。【12月20日 NHK】
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“国内の経済は低迷し、国民の60%以上が貧困にあえいでいる”・・・一方で、コンゴには金や銅、スズ、ダイヤモンド、コバルト、ウラン(ウラニウム)、コルタンなど世界有数の豊富な地下資源があって、マクロ経済的には成長しています。

その地下資源が生む富が多くの国民にいきわたらず、支配階層の腐敗を生み、多くの武装勢力の資金源となって紛争を慢性化させ、その富を狙った周辺国・関係国の介入を招きやすい・・・という“資源の呪い”に翻弄されている国がコンゴです。

投票は予想されたように多くのトラブルに見舞われ、21日も延長して行われました。
多くのトラブルはあるものの、2期目を目指す現職のチセケディ大統領が優勢と見られています。

****コンゴの大統領選挙****
12月20日、コンゴ民主共和国で大統領選挙を含む総選挙が実施された。日本の6倍以上の巨大な国で、有権者数は4400万人、投票所は7万5000ヵ所を数える。

20日の選挙では、予想どおり、相当の混乱が生じた。投票用機材搬入の遅れから投票開始時刻が大幅にずれ込んだり、停電等のトラブルのために投票用機器が動かなかったり、多くのトラブルが報告されている(21日付ルモンド)。投票は、21日も継続して行われた。

今回の選挙では、現職のチセケディが再選を果たすかが最大の注目点である。選挙が1回しか行われず(決選投票がない)、野党候補が統一されていない状況では、チセケディの優勢は動かない。

前回の選挙では、前大統領カビラに近い人物で占められた選挙管理委員会が投票を操作し、チセケディを勝利させたというのが定説だが、今回はそうしたどんでん返しは考えにくい。多少のトラブルはあっても、チセケディの再選が発表される可能性が高い。

選挙戦の中で、チセケディはナショナリスティックな論理を多用した。有力な野党候補のカトゥンビについて、「外国から送り込まれた候補者であり、ルワンダとつながっている」と主張した(17日付ルモンド)。

また、選挙戦の締めくくりにキンシャサで行われた集会では、「ルワンダが無責任な態度を続けるなら、戦争も辞さない」と発言した(19日付ARIB)。実際、コンゴは中国から攻撃・偵察用戦闘機を購入し、ルワンダ国境に近い南キヴ州に配備している(20日付ルモンド)。

チセケディ政権の下で、コンゴのマクロ経済は成長を続けている。コンゴ産鉱物資源への高い需要を考えれば、経済成長はこれからも継続するだろう。これは政権にとっての追い風だが、経済の成長はルワンダとの緊張をいっそう強める可能性がある。その意味で、不安定性や脆弱性を抱え込んだ成長である。【12月23日 武内進一氏 現代アフリカ地域研究センター】
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コンゴの選挙があまり報じられていないのは、パレスチナやウクライナと違って地政学的な重要性がない(もっと有体に言えば、何百、何千人が犠牲になろうが誰もアフリカ奥地のことなど関心を持っていない)ことに加え、現職大統領が再選され、状況はこれまでとほとんど変わらないだろうと思われていることもあるのかも。

【ノーベル平和賞受賞者ムクウェゲ医師も立候補 ルワンダによって分断の脅威にさらされていると主張】
冒頭NHK記事にもあるように、2018年にノーベル平和賞を受賞したムクウェゲ医師も立候補しています。

****性暴力に立ち向かうノーベル平和賞受賞医師 アフリカの資源大国の大統領選に挑戦****
世界有数の資源大国であるアフリカのコンゴ民主共和国で20日、大統領選挙が行われます。選挙にはノーベル平和賞を受賞した医師が挑んでいます。何を訴えているのでしょうか。

Q.大統領選挙に立候補したノーベル賞受賞者とはどんな人物ですか?
紛争地域で性暴力の被害を受けた女性たちを支援し、5年前ノーベル平和賞を受賞した婦人科医のデニ・ムクウェゲ氏です。コンゴ民主共和国はかつてザイールと呼ばれ、1994年に自衛隊がルワンダ難民の救援活動を行いました。

その東部では100以上の武装勢力が跋扈し、紛争下で数十万人とも言われる女性が戦闘員や兵士から性暴力を受け、「女性にとって世界で最悪の場所」と呼ばれてきました。

ムクウェゲ氏は20年以上にわたって被害者の治療と精神的なケアを続けるとともに、国際社会にこの地域で生産されるレアメタルを購入しないよう訴えてきました。

Q.資源を買わないようにとはどういうことですか?
武装勢力の資金源となっているからです。スマートホンやパソコンのバッテリー、電気自動車の電池などに使われるコバルトは世界の生産量の半分以上を占めます。電子機器のコンデンサーや半導体などに使われるタンタルも世界1です。

アフリカで2番目に大きいこの国では他にもダイヤモンドやプラチナ、金、石油などを抱える資源大国ですが、武装勢力が利権争いを続け子どもたちに過酷な労働を強いてきました。

ムクウェゲ氏は何度も命を狙われながら政治の腐敗と搾取、人権侵害から人々を守るために戦い、選挙では「国家機能と治安の回復」を訴えました。

Q.その思いは通じるのでしょうか?
現職の大統領などと比べ政治的な基盤や資金力もないため厳しい戦いのようです。治安が悪く選挙が無事行われるかが最初の関門ですが、この国の行方は資源の安定供給にも影響するだけに日本にとっても他人事ではありません。

中国に対抗して日本政府は「資源外交の重点国」と位置づけ、資源探査などの協力関係の強化をはかっています。もちろん資源の確保も大事ですが、ムクウェゲ氏がめざす「正義と平和」の実現のためにも治安の回復と民主化を後押しすることも重要ではないかと思います。【12月20日 NHK】
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性暴力にはさまざまな形態がありますが、木の枝、棒、びん、銃身、バナナや熱い石炭などが性器に挿入されたり、時には集団レイプの後、膣が撃たれたりすることもあります。

紛争下の性暴力は性欲と関係なく、命を産みだし育てる存在としての女性とその性器を破壊する意図を持って行われるもので、ムクウェゲ医師は性暴力ではなく、「性的テロリズム」と呼んでいます。

紛争下の性暴力は、住民に屈辱を与え、支配し、恐怖を植え付け、(特定の)民族グループを強制的に移住させ、土地や資源を奪取する目的で行われます。 そのため大量の難民・避難民を生みます。

ムクウェゲ氏はこうした性暴力の蔓延を糾弾しているだけでなく、コンゴが腐敗した支配階級の手中にあり、分断の脅威にさらされていると主張しています。

“分断の脅威”・・・現職チセケディ大統領がナショナリスティックな論理で隣国ルワンダを敵視しているのと同様に、ムクウェゲ氏もコンゴ東部がルワンダに侵略・乗っ取られようとしていると、ルワンダを糾弾しています。

第1次コンゴ戦争(1996〜1997年)、第2次コンゴ戦争(1998〜2003年)を通じて、ルワンダはコンゴ東部に軍を侵攻させ、都市を支配し、政治・軍事当局を親ルワンダ系に置き換え、政治的実権を掌握しているとも言われています。

こうしたルワンダの侵略によってコンゴが消滅することへの危機感が、ムクウェゲ氏を大統領選挙に駆り立てている大きな理由です。

【ルワンダが支援しているとも言われるM23に対し、コンゴ政府側は民兵組織を糾合】
ルワンダが支援しているとされるのが、ルワンダ・カガメ大統領と同じツチ系のM23という武装勢力です。
ルワンダでは1994年、政権を握っていた多数派フツ住民による少数派ツチ住民へのジェノサイドが起こり(730万人の人口のうち、117万4000人が約100日間のジェノサイドで殺害された)、ツチ反政府勢力を率いるカガメ氏がこの混乱を収めて権力を掌握していますが、コンゴに展開するフツ系武装勢力を一掃するためコンゴ領内でツチ系武装勢力M23を支援していると言われています。カガメ大統領はM23との関係を否定しています。

****コンゴ東部でM23をめぐる紛争続く****
1月26日、M23は北キヴ州マシシ県のキチャンガ(Kitchanga)を制圧した。昨年10月末に本格的な攻撃を再開したM23は、ウガンダ国境の街ルチュルからゴマに向けて南下し、コンゴ軍との間で戦闘が続いてきた。

12月初めの虐殺事件を契機に、M23、そしてルワンダへの圧力が高まり、M23は占領地からの撤退を表明したのだが、それ以降ゴマ西方のマシシ方面での軍事的プレゼンスを強めている。コンゴ軍の攻撃に反撃する形で、キチャンガを制圧したと報じられている(3日付ルモンド)。

M23をめぐる紛争については、アンゴラのロウレンソ大統領がアフリカ連合(AU)および南部アフリカ開発共同体(SADC)から委任を受けて仲介役を務めており、同時にケニヤッタ元ケニア大統領が東アフリカ共同体(EAC)のファシリテーターとして調停にあたっている。

昨年7月、(アンゴラ大統領)ロウレンソが(コンゴ大統領)チセケディと(ルワンダ大統領)カガメを首都ルアンダに招き、和平に向けた合意を得たが、停戦は続かなかった。9月以降、ケニアのイニシャティブでコンゴ東部にEAC(東アフリカ共同体)軍が展開されたが、抑止力としては機能していない。

この間、コンゴとルワンダの関係は悪化を続けている。M23の攻勢はルワンダの支援によるものだというコンゴ側の主張と、コンゴの国内問題だというルワンダ側の主張が平行線をたどっており、チセケディとカガメは相互に非難を繰り返すだけで、直接対話もできなくなっている。

国際社会のスタンスは、ルワンダにM23への支援を止めるよう求めるものだ。それに対してカガメ大統領は、M23はコンゴ国内の問題であり、問題はコンゴのガバナンスだと繰り返し、国際社会へのいらだちを隠していない。

ルワンダが何らかの形でM23への支援を行っていることは、国連専門家委員会が認めるところである。一方、コンゴ側のガバナンスに深刻な問題があること、そして紛争の中で民兵組織を利用してきたこともまた事実である。

ルワンダを締め上げれば問題が解決するわけではない。こうした状況下、戦闘の意思と能力を持つM23に引きずられる形で、紛争が拡大している。【2月4日 武内進一氏 現代アフリカ地域研究センター】
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コンゴ政府も民兵組織を糾合してM23に対抗しています。

****コンゴ東部紛争の民兵組織****
(12月)13日付ルモンド紙は、コンゴ東部紛争の民兵組織ワザレンド(wazalendo)に関する記事を掲載した。ワザレンドはスワヒリ語で「愛国者」を意味する。ルワンダから支援を受けているといわれるM23への対抗勢力として、注目を浴びるようになった。

ワザレンドがメディアに登場したのは、ここ二ヶ月程度のことに過ぎない。M23との戦闘を主導する勢力として報じられるようになった。

この背景には、昨年9月に展開を開始した東アフリカ共同体地域軍(EACRF)の撤退に伴う情勢変化がある。EACRFはM23が制圧していた地点を引き継いで平和維持に当たっていたが、M23が活動を停止せず、地域住民やコンゴ政府側からの不満が高まっていた。

結局チセケディ政権は、EACRFが成果を上げていないとして10月にその任期を更新しない決定をし、12月には部隊の撤収が始まった。撤収後の主導権をめぐってM23と政府側との衝突が激化するなかで、ワザレンドは政府軍と協働してM23と戦っている。

記事によれば、ワザレンドとは、従来マイマイなどの名称で呼ばれていた多数の武装勢力を糾合したもののようだ。ただし、そうした武装勢力の糾合は、政府が働きかけたものである。

2022年11月、チセケディは国営テレビで演説し、M23に対抗して自警団グループを立ち上げるよう国民に呼びかけた(2022年11月4日付ルモンド)。

また、コンゴ軍と民兵組織の協働も、2023年9月3日の政令で、国軍内に民兵の存在を制度化することによって、公式化された。ワザレンドは、来週に予定されている大統領選挙でチセケディに投票するよう呼びかけているという。

コンゴ軍は20年前の東部戦争の際にも、ルワンダのフトゥ人を中心とする武装勢力(FDLR)と協働するなど、従来から民兵組織との関係が取り沙汰されてきた。チセケディ政権はその公式化に動いたのである。

国連平和維持活動を担うMONUSCOも撤退へと動くなか、チセケディ政権の論理としては、ルワンダが支援する勢力に自前で対抗する、ということになる。ルワンダを敵として愛国心を煽り、民兵を動員する手法は、相当に危うい。【12月15日 武内進一氏 現代アフリカ地域研究センター】
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上記のようなコンゴ東部でのコンゴ政府軍・民兵組織vs.M23・ルワンダの戦闘が今回大統領選挙で改善するか・・・と言えば、ほとんど期待できません。

【野党は選挙の「やり直し」を要求】
トラブルが多発した大統領選挙に関しては、野党側は「やり直し」を求めています。

****コンゴ大統領選の投票延長=野党はやり直し要求****
アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)で20日に行われた大統領選など一連の選挙の投票は、手続きを巡る混乱のため延長され、21日も続けられることになった。АFP通信によると、選挙委員会が20日夜、国営テレビを通じ発表した。

コンゴは国土が広大だがインフラが不備で、20日は必要な機材が届かず投票開始が遅れたり、投票所が閉鎖されたままだったりするケースが続出。こうした事態を受けて選挙委は、影響が出た投票所で21日も投票を行うと表明した。

一方、ロイター通信によると、ノーベル平和賞受賞者の医師デニ・ムクウェゲ氏を含む野党候補5人は20日、連名で声明を出し、選挙委に投票延長を決定する法的権限はないと主張。「失敗選挙」を組織し直し、全関係者が同意した日程で改めて実施するよう要求した。【12月21日 時事】 
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よほどのことがない限り、政権側が「やり直し」要求に応じることはないでしょう。
選挙結果を受けて再選されたとする政権側に対し、これを不当とする野党側の抵抗・混乱も懸念されます。
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ロシア大統領選挙  獄中で行方不明のナワリヌイ氏 「プーチン大統領は無名の女性候補を恐れた」

2023-12-23 23:05:06 | ロシア

(大統領選挙に立候補した無名の女性地方議員、エカテリーナ・ドゥンツォワ氏【12月21日 時事】 選管は無所属での出馬を認めないことを決めています。)

【プーチン大統領の選挙「演出」】
既定路線であったプーチン大統領の来年3月に行われる大統領選挙へ出馬表明・・・でも、どうしてこんな臭い演出をするのでしょう。ロシアではまともに受け取る人がいるのでしょうか?

****ロシアのプーチン大統領 来春の大統領選に出馬表明****
 ロシアのプーチン大統領は来年3月の大統領選に出馬すると表明しました。

アルチョム・ジョガ氏:「あなたは私たちの大統領であり、私たちはあなたのチームであり、私たちはあなたを必要とし、ロシアもあなたを必要としています」

プーチン大統領:「ありがとうございます」「今こそ決断の時です。私はロシア大統領に立候補します」

プーチン大統領は8日、ロシア大統領府で行われた軍の授賞式でドネツクのスパルタ大隊の司令官、アルチョム・ジョガ氏らに対して来年3月の大統領選へ出馬の意向を明らかにしました。

プーチン大統領は2017年にも訪問先の自動車工場で従業員からの求めに応じる形で出馬表明するなど、国民に求められる形で立候補の意向を明らかにするという演出を繰り返してきました。

ロシアの大統領選は来年3月15日から17日にかけて投票が行われることになっています。【12月8日 テレ朝news】
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プーチン氏の勝利は間違いないですが、プーチン氏が気にしているのは投票率と得票率。 国民からの圧倒的支持を受けて選ばれた・・・と、その正当性を西側にアピールしたい狙いです。

正当性を西側にアピールという点では、ちゃんと対立候補がいて、まともな選挙戦が行われた・・・という形を演出することも重要。また、対立候補なしでは投票率も上がりません。もちろん、脅威となりそうな人物は刑務所に収監して、選挙になど出させないというのが実態ですが。

【行方不明のナワリヌイ氏 選挙への影響力警戒か】
ここ数年、プーチン大統領の正当性を揺さぶっているのがプーチン体制の腐敗、汚職を暴露してきた反政府指導者ナワリヌイ氏ですが、周知のように同氏は禁錮19年の判決を受けて今獄中にあります。それでもその影響力は大きいようです。

****「プーチンのいないロシア」 大統領選挙を控え反体制派と現政権の攻防始まる****
来年3月17日のロシア大統領選挙に向け、ロシアの反体制派とプーチン政権の攻防がはじまりました。

ロシア反体制派のナワリヌイ氏陣営は7日、プーチン大統領以外の候補者への投票を呼びかけるキャンペーン「プーチンのいないロシア」を開始しました。

ナワリヌイ氏の陣営は、モスクワやサンクトペテルブルクなどの各都市に、当局の目をかいくぐるようにナワリヌイ氏と無関係を装った看板を設置しました。QRコードを読み取ることでキャンペーンのサイトにアクセスできる仕組みです。

しかし、看板の存在がSNSで広まると、「早速、警察官が来て看板をチェックしています。警察官がチェックに来てからわずか数十分後、すぐに看板は取り外されました」。

ナワリヌイ氏の陣営は、「投票結果は改ざんされるだろうが、我々の任務はロシアがプーチンを必要としていないことを誰の目にも明らかにすることだ」として、抵抗を続けるよう訴えています。(ANNニュース)【12月8日 ABEMA TIMES】
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そのナワリヌイ氏はこれまでの刑務所からどこかへ移送され、「行方不明」となっています。

*****ナワリヌイ氏、不明2週間 大統領選へ反対派締め付け強化か****
ロシアのプーチン政権を批判する活動家ナワリヌイ氏が収監先のモスクワ東方ウラジーミル州の刑務所から移送され、行方不明となって2週間が過ぎた。18日に予定されていた法廷審理は来年1月11日に延期。

プーチン大統領が通算5選を目指す来年3月の大統領選に向け、当局側が反対派の締め付けを強めているとみられる。  

ナワリヌイ氏陣営によると、弁護士が6日に刑務所を訪れたが面会できず、7日以降に遠隔で参加予定だった審理にも「故障」を理由に参加しなかった。刑務所側は既に同氏は別の地域の施設へ移送されたと説明。陣営は各地に照会しているが所在を確認できていない。【12月20日 共同】
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獄中にあるナワリヌイ氏をどうしてプーチン大統領は警戒するのか?

****反プーチン 獄中のナワリヌイ氏の闘い*****
(中略)
獄中にあっても、ナワリヌイ氏は反プーチンの中でもっともカリスマ性があり、行動力のある指導者です。

今回の大統領選挙で、ナワリヌイ氏は、「プーチン以外の候補者に投票しよう」「それぞれが10人の知り合いを説得して反プーチンの輪を広げよう」と具体的な呼びかけをしていました。その意思を仲間がSNSを通じて拡散しています。

強権的なロシアでも立候補者の署名集めに協力することは法律で認められており、ナワリヌイ氏は戦争に否定的な候補者の署名集めに協力することで、選挙を利用して反戦争、反プーチンの意思を示すよう呼び掛けているのです。

2012年の大統領選挙ではナワリヌイ氏は同じようにプーチン以外の候補者に投票しようと呼びかけ、プーチン氏の得票率は最低の64%にまで落ち込みました。その再現を狙っているのです。

こうした活動を恐れた体制がナワリヌイ氏と外界との連絡を遮断した可能性もあります。(後略)【12月18日 NHK】
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【無名の女性地方議員が立候補届け出 選管は無所属での出馬を認めず 「プーチン大統領は無名の女性候補を恐れた」】
プーチン大統領の選挙演出としては、ナワリヌイ氏のような本当に脅威となる人物はあの手この手で選挙には出させない、しかし一方で、前述のように対立候補なしでは選挙の正当性に疑問が持たれ恰好がつかない、選挙戦が盛り上がらず投票率も下がる・・・ということで、自身の勝利に影響のない、負けると分かっている対立候補は必要です。

そのため、政権側が裏で画策して、敢えて反プーチンあるいは非プーチンの対立候補を出せるという「演出」も行います。

そうした状況で、平和と民主主義を掲げる無名の女性地方議員が立候補を届け出て、本当の対立候補なのか、上記のような政権側の「演出」なのかというところも含めて話題になりました。

****ロ大統領選、女性議員が立候補届け出=リベラル派初、プーチン氏に挑戦****
来年3月のロシア大統領選に向け、独立系の女性地方議員エカテリーナ・ドゥンツォワ氏(40)が20日、立候補を届け出た。書類を受理した中央選管は、5日以内に出馬の可否を判断。認められた場合、無所属での立候補に必要な30万人分の署名集めに移る。

届け出は通算5選を目指すプーチン大統領に続くもので、リベラル派からは初。現在はモスクワ北西のトベリ州ルジェフ市議を務めている。

最近までほぼ無名で、現地メディアは「3児の母、法律家、ジャーナリスト」と紹介。ロシアのウクライナ侵攻に反対しているほか、「(プーチン氏の政敵の元石油王)ホドルコフスキー氏に支援されている」(ロシア通信)といわれ、出馬を認められるかは不透明だ。 【12月21日 時事】
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ドゥンツォワ氏はプーチン大統領の対立候補の擁立を模索する運動「ナーシ・シュタープ」の支援を受けて11月に立候補を表明すると急速に支持を拡大し、今月17日、モスクワで集会を開き、届け出に必要な500人の推薦人を集めました。

一方で“一方で、リベラル派の一部からは市民の不満のガス抜きのためにプーチン政権が裏で操っている候補者だと警戒する声も出ています”【12月22日 テレ朝news】とも。

出馬表明後に、身の危険を感じることはあるかとの質問を受けたドゥンツォワ氏は、「懸念」はあるものの、自身の行為は「合法」だと述べたとのことです。【12月21日 AFPより】

プーチン氏の政敵の元石油王ホドルコフスキー氏との関係は否定しています。

****元石油王の支援受けず、ロ大統領選に出馬表明のドゥンツォワ氏****
来年のロシア大統領選への出馬を表明したエカテリーナ・ドゥンツォワ氏は21日、海外で反体制活動を行っている大手石油会社ユーコス元社長ミハイル・ホドルコフスキー氏から支援を受けていないと述べた。

ロシア国営通信RIAは、20日に大統領選出馬の正式な届け出を行ったドゥンツォワ氏について、「亡命中の新興財閥である(外国のエージェントの)ホドルコフスキー氏から支援と資金提供を受けている」と報じた。ロシアで「外国のエージェント」という言い回しはスパイとほぼ同じ意味で使われている。

ドゥンツォワ氏は野党勢力のユーチューブ番組のインタビューで、RIAの報道はでっち上げだと主張。ホドルコフスキー氏と「直接的な関係」はなく、同氏が亡命したロシア人を支援するために立ち上げたプロジェクトの責任者がドゥンツォワ氏を支持していることが根拠になっているのかもしれないと指摘した。

インタビューではプーチン氏を正面から批判することは避けつつ、ロシアはプーチン氏が政権を握ったこの24年間に間違いなく停滞していると述べた。【12月22日 ロイター】
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しかし、中央選管は23日、書類に不備が見つかったとして無所属での出馬を認めないことを決めたています。
ということは「演出」ではなかったようです。

****女性議員の出馬認めず=「無名候補恐れた」と政権批判―ロシア大統領選****
来年3月のロシア大統領選に立候補を届け出た独立系の女性地方議員ドゥンツォワ氏(40)について、中央選管は23日、書類に不備が見つかったとして無所属での出馬を認めないことを決めた。関係者が明らかにした。同氏は20日に立候補届を提出していた。

無所属での立候補には30万人分の署名が必要となるなどハードルが高く、ドゥンツォワ氏をリベラル系野党「ヤブロコ」が支援するシナリオもささやかれている。

反体制派指導者ナワリヌイ氏の側近は「プーチン大統領は無名の女性候補を恐れた」と政権を批判した。【12月23日 時事】 
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名前のスペルの間違いなど書類に100以上の誤りがあったとのことで、重箱の隅をつつくような選管の対応のようです。

リベラル系野党「ヤブロコ」から立候補する・・・ということになれば、ウクライナ侵攻反対といった主張がどれだけ得票できるか興味深いところですが・・・届け出は今月27日に締め切られることもあって、どうでしょうか?

プーチン政権の侵攻を非難する文化人への「締め付け」強化については、下記のようなニュースも。

****ロシア人気作家「過激派」に アクーニン氏、口座凍結****
ロシア金融監視庁は18日、ロシアの人気作家で日本文学研究者のボリス・アクーニン氏を「テロリスト・過激派」のリストに登録した。インタファクス通信によると、銀行口座が凍結され、金融サービスを受けられなくなる。同氏はウクライナ侵攻に反対の立場を公言していた。

タス通信は治安当局者の話として同日、ロシア軍に関する虚偽情報を流布し、信用を失墜させた疑いで、アクーニン氏に対する捜査が始まったと報じた。

ロシアの出版大手ASTは先に、侵攻に関する不適切な発言があったとしてアクーニン氏の作品の出版を停止すると発表。書籍販売大手も販売停止を決めた。アクーニン氏はロンドンを拠点に活動している。【12月19日 共同】
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アルゼンチン  ミレイ新大統領の「ショック療法」に国民はどこまで耐えられるか?

2023-12-22 22:55:19 | ラテンアメリカ

(【12月19日 NHK】選挙戦でチェーンソーを振りかざすミレイ氏 この熱狂が、今後の痛みを伴う「ショック療法」をどこまで支持容認するのか・・・)

【当面「過激な主張」は控えて、補助金廃止・規制撤廃・民営化に着手】
“景気循環論で有名なノーベル賞経済学者サイモン・クズネッツは「世界には4つの国がある。先進国と途上国、そして日本とアルゼンチンだ」とジョークを飛ばしたといわれる。アルゼンチンの衰退と日本の成長が異例という意味だが、今では皮肉なことに、後述する理由によって、日本がアルゼンチンに続いて衰退しようとしている。”【2022年2月7日 加谷珪一氏 ダイアモンド・オンライン】

19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落したアルゼンチン。上記サイモン・クズネッツ氏のジョークでは、その没落したアルゼンチンと好対照に驚異的な成長をとげた日本・・・ということだったのですが、今や日本はアルゼンチンと同じ轍を踏もうとしているとも言われています。

****日本が「先進国脱落」の危機にある理由、衰退国家アルゼンチンの二の舞いに?****
19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落したアルゼンチン。日本も同じ道を辿るのか

アルゼンチンは19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落した国家として知られる。農産物の輸出で成長したが、工業化の波に乗り遅れ、急速に輸出競争力を失ったことがその要因だ。国民生活が豊かになったことで、高額年金を求める声が大きくなり、社会保障費が増大したことも衰退につながった。

時代背景は違うが、似た現象が起きているのが現代の日本である。IT化の波に乗り遅れ、工業製品の輸出力が衰退しているにもかかわらず、社会は現状維持を強く望んでいる。この状況が続けば、アルゼンチンの二の舞いになっても不思議ではない。(後略)【同上】
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その今も物価高と通貨安に苦しむアルゼンチンで、大統領選中に中央銀行の廃止と自国通貨のドル化を主張し、チェーンソーを振り回す過激なパフォーマンスでも話題になったミレイ氏が決選投票を制して大統領に就任しました。

(選挙戦のこれまでの経緯、アルゼンチン経済の状況などについては

****「中央銀行は廃止」過激な主張のアルゼンチン新大統領の手腕は****
(中略)中央銀行を「地球上に存在する最悪のゴミだ」と訴えてきたのが、12月10日に南米アルゼンチンの新大統領に就任したハビエル・ミレイ氏です。選挙戦では、物価高や通貨安に苦しむ国民を救うとして、自国の通貨ペソをドルにかえ、中央銀行を廃止すべきだと訴えてきました。(中略)

従来の政策は“切り捨てる”
 「チェーンソー!チェーンソー」 支持者の声援を受けて、選挙向けの集会ではチェーンソーを振り回す姿が地元メディアで大きく紹介されたアルゼンチンの新大統領、ハビエル・ミレイ氏(53)。 前政権や従来の政策を「切り捨てる」という意味合いを込めたパフォーマンスで人気が急上昇しました。

ただ、支持を伸ばした背景には、パフォーマンスだけにとどまらない、アルゼンチンの深刻な経済状況があります。

記録的なインフレが続き、消費者物価はことし11月に前年比160.9%の上昇に。1年前は100円で購入できたモノが、今は260円になっている計算で、人々の生活の大きな負担になっています。

人口約4600万のアルゼンチンの国民の5人に2人が、日々の食料などを十分に賄えない貧困層だと推計されています。

首都ブエノスアイレスの両替所では、自国通貨ペソを安定したドルに換えようという人が大勢います。ペソ売りの動きが通貨安につながり、輸入物価が上昇し、物価高に拍車をかけています。

アルゼンチンの中央銀行は、インフレ抑制のための利上げやペソ下落を食い止めるため市場介入を続けてきましたが、なかなか状況は改善しないという悪循環が続いていたのです。

中央銀行も自国通貨も要らない
こうした中で、ミレイ氏が選挙戦で訴えたのが、中央銀行の廃止と自国通貨のドル化です。
アルゼンチン中央銀行アメリカのメディア、ブルームバーグとのインタビューでは「中央銀行はこの地球上に存在する最悪のゴミだ」と断じ、インフレを止められない中銀の廃止を主張。

地元のラジオ番組に出演した際には、自国通貨ペソについて「排せつ物以下だ」と述べるなど、その過激な主張から「アルゼンチンのトランプ氏」とも言われるようになります。

ミレイ氏は、大統領選挙に立候補した時には下院議員でしたが、もともとは国内の大学で経済学を修めた経済学者です。

ドル化の狙いについては「法定通貨をドルにすれば、通貨の下落を防ぎ、輸入物価が抑えられるためインフレも止められる」と指摘。

さらに「輸出した際に必ず外貨をペソに換えるというルールも不要になり、貿易の活発化や投資の拡大にもつながる」とも述べています。

アルゼンチンでは、不動産などの売買にはドルがすでに使われていることもあり、経済学者による分かりやすい訴えが、爆発する国民の不満を受け止める形となって、大統領選挙で当選を果たしたのです。

中央銀行の廃止とペソのドル化で何が起こる?
ミレイ氏の主張どおり、中央銀行を廃止して、通貨をペソからドルにかえると何が起こるのか。

アメリカのドル紙幣とアルゼンチンのペソ紙幣スーパーや薬局に並ぶ商品の値札、レストランの表示はすべてドルに置き換えられ、ペソは流通せず、使うこともできなくなります。日本で円が使えなくなることを考えれば、その特異な状況がよく分かると思います。

ドルが自国の法定通貨になれば、輸入物価はペソ安の影響を受けず、国民を苦しめているインフレも落ち着く可能性があります。国民も企業も安心して取り引きができ、海外との貿易も増えるかもしれません。

一方、中央銀行が廃止されれば、アルゼンチンは独自に金融政策を行うことができなくなります。 自国の経済が落ち込んでも、利下げなどによって経済を下支えできず、逆に過熱する景気やインフレを抑えるための利上げもできません。

外国メディアや専門家はどうみる
このため、アメリカの有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルが「アルゼンチンのドル化は的外れ」と論じるなど多くの欧米メディアが、ミレイ氏の政策実現に否定的です。

自国通貨のドル化は、中南米では2000年代以降、エクアドルやエルサルバドルなどで実施例がありますが、アルゼンチンの経済規模はこうした国々よりはるかに大きく、それに見合う大量のドルが必要になるため、実現のハードルは高くなります。

途上国・新興国経済に詳しい第一生命経済研究所の西濱徹主席エコノミストも2つの大きな問題があると指摘します。

その1つが、ドル化を目指しても、ドルを含む外貨準備がアルゼンチンには200億ドルに満たない水準しかなく、金融システムの安定に不可欠な“最後の貸し手”である中央銀行が不在になった場合の対応策がないという技術的な問題です。

もう1つが、議会の上下院ともに、ミレイ氏が率いる与党は圧倒的少数だという政治的な問題です。いずれもクリアするのが難しいと言います。

第一生命経済研究所 西濱徹 主席エコノミスト
「ミレイ氏が選挙戦では高いボール、アドバルーンをあげているものの、おそらく現実路線としてどこかに落としどころを探ることになる。しかし、ドルとペソのレートを固定化するペッグ制も、かつてメキシコやブラジルで通貨危機を招いた原因になったことを考えると、現実的ではない」

ミレイ氏の政策を支持する学者も
一方で、ミレイ氏にとっては心強い応援団もいます。アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の著名な経済学者、スティーブ・ハンケ教授です。

ジョンズ・ホプキンス大学 スティーブ・ハンケ教授ハンケ教授は、2000年から2001年には、エクアドルで経済相のアドバイザーとしてドル化の実施に参画した経歴を持ちます。

ハンケ教授はNHKの取材に対し「アルゼンチンでは、歴代政権が歳入不足を補うために中央銀行に頼り続けてきたことで、ペソの安定と価値が長年にわたって損なわれ続けてきた。さらに、インフレが長期に及んでいることは、国民の財産や富を政府に移管しているようなもので、事実上の強奪だ」と指摘します。

その上で、「多くの経済学者の見方に反して、ドル化は完全に実現可能だ。ドル化とはその国の会計単位を変更することであり、債務をドル建てにすることも、ペンを走らせるだけで達成されるという事実を経済学者は見落としている。ドル化に必要な前提はない」と主張します。

困窮する国民の期待に応えられるか
ミレイ新政権は早速動き始めています。経済政策の司令塔である経済相には、過去に金融相や中銀総裁を歴任した人物を任命し、緊急対策を発表。

政府の支出を減らして需要を抑制しインフレを抑えるため、新規の公共工事の中止や公共交通機関への補助金の削減などを進め、財政赤字の低減に取り組むとしています。

ただ、この対策には、中銀廃止やペソのドル化の具体的な計画は含まれていず、まずは経済の再生を優先して進める方針とみられます。

世界的なインフレに対し各国の中央銀行が大胆な金融政策に取り組むなか、中銀廃止や自国通貨のドル化は奇異にも見える構想ですが、そうであっても、ミレイ氏が支持を集めた背景には経済の悪化で苦しむアルゼンチン国民の厳しい現実があります。

困窮する国民の期待に応えられるのか、新大統領の手腕が注目されます。(11月19日 「ニュース7」などで放送)【12月19日 NHK】
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中銀廃止やペソのドル化といった「過激な主張」の実行は当面控える様子ですが、持論の規制廃止・民営化は進めていく構えです。

****アルゼンチン大統領、エネルギー部門の非常事態宣言 値上げ目指す****
アルゼンチンのミレイ大統領は18日、エネルギー部門の「緊急事態」を宣言、今後、政府が国内ガス・電力規制当局の管理を強化し、長年管理されてきた料金の引き上げを目指すと述べた。

ミレイ氏はエネルギー・輸送補助金を以前から問題視してきた。昨年の同補助金は約120億ドル。国民が支払う代金はコストの15%前後にとどまっている。

今月大統領に就任したミレイ氏にとって、エネルギーコストは大きな課題。同氏は大幅な財政赤字の解消を公約に掲げているが、エネルギー料金を値上げれすれば、すでに200%近くに達しているインフレ率がさらに上昇し、5人に2人が貧困層である国民に打撃が及ぶ。

政府はエネルギー料金の低さがガス・電力網への投資不足につながったと指摘。「継続的な供給を保証する」ため、自由市場の競争で値上げを認めることを検討すると述べた。

また、料金の見直しが終了するまでは、当局が一時的な値上げや定期的な調整を承認できると主張。「早急に対策を講じなければ、質の低いサービスが一段と悪化し、利用者の不利益になる」としている。(後略)【12月19日 ロイター】
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****アルゼンチン、輸出促進や規制緩和を推進 大統領令に署名****
アルゼンチンのミレイ大統領は20日、輸出制限の撤廃や規制緩和を盛り込んだ大統領令に署名した。

ミレイ氏はテレビ放送で大統領令について、「最初の一歩にすぎない」と強調。「ひとりひとりが再び自由と自律を持てるようにするのが目的で、今回の措置を手始めに経済成長を妨げてきた山のような規制の撤廃に乗り出す」と述べた。(中略)

ミレイ氏は10日の大統領就任以来、アルゼンチン経済立て直しのため「ショック療法」を採ると宣言、3桁のインフレ抑制に向けた歳出の大幅カットや通貨ペソの大幅切り下げなどを打ち出している。

首都ブエノスアイレスでは20日、政府の緊縮財政計画に抗議して数千人がデモ行進した。国内貧困率は今年上半期に40%を超えて急上昇した。【12月21日 ロイター】
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****アルゼンチン航空など国営企業を民営化へ-ミレイ大統領、改革案発表****
アルゼンチンのミレイ大統領は、広範な大統領令で国営企業を民営化する最初の一歩を踏み出した。民間企業が主要セクターで支配的地位を得る扉が開かれそうだ。

ミレイ大統領は20日夜、数十社の国営企業の売却を可能にする一連の改革案を発表した。これらの企業の多くは赤字経営。

大統領はテレビ演説で、「国営企業の民営化を妨げている規則を撤廃する」と述べ、民営化への道を完全に開くため、すべての国営企業の法的構造を変更すると付け加えた。(中略)

ミレイ氏は大統領令によって企業の民営化を目指すことができるものの、同氏が率いる政党は少数派で、議会で反発を受ける公算が大きく、株売却の実現に必要な十分な票の確保に苦慮する可能性がある。【12月21日 Bloomberg】
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【国民はどこまで「ショック療法」に耐えられるのか】
中銀廃止やペソのドル化といった「過激な主張」はさて置き、「補助金廃止」や各種規制撤廃、民営化が経済活動を適正化して、投資などの資源配分を改善する・・・というのは経済学的には「(原則的には)正論」ですが、一時的には値上げなどを誘発し、国民の大きな痛みを伴います。

****我慢のアルゼンチン国民、物価高騰に補助金削減 新政権が「ショック療法」****
アルゼンチンでは13日、消費者物価上昇率が前年同月比約160%に達した。

ママニさんはAFPに対し、「政府の対策導入後、値段を引き上げている」と話した。(中略) 別の店のミゲルさんは、値上げは20~60%、物によっては2倍に跳ね上がっていると語った。(中略) 「客に価格転嫁せざるを得ない。他に選択肢はない。来週ももう一段の値上げとなるだろう」

10日に就任したハビエル・ミレイ大統領は、経済危機は緩和に向かう前に一段と深刻化する公算が大きいと語っている。

経済立て直しに向け、政府は12日、一連の対策を発表した。マヌアル・アドルニ大統領報道官は、「ひん死の状態での集中治療」とたとえた。

対策としてはペソ切り下げのほか、交通機関・燃料補助金の削減などが打ち出された。新規の公共事業は停止され、政府広告も全面的に停止される。

目標は歳出を250億米ドル(約3兆5500億円)相当、率にして国内総生産(GDP)の5%削減することにある。経済規模で中南米第3位のアルゼンチンは、慢性的に財政赤字を抱えており、それを改善するのが狙いだ。

■バス料金値上げへ
国民はしかし、懸念を抱く一方で、ミレイ氏が選挙戦の際に大出力のチェーンソーを振りかざして予告していた、一連の「削減」を甘受する構えのようにも見える。 

三つの職を掛け持ちしているという大学生のカミラ・ヘイグさん(18)は、「生活はぎりぎりで、誰にとっても(削減は)困難が伴うだろう」と話した。 「何か月間かは大変な時を我慢して、いずれより良い国になると信じるしかない」

首都ブエノスアイレスのある混み合ったバス停で、蒸し暑さの中、利用客は補助金によって乗車1回分52ペソ(約10円)に抑えられたバスを待っていた。 アルゼンチンは、バスからスブテと呼ばれる地下鉄まで、広範囲かつ効率的な公共交通網を誇る。政府が来年1月から補助金を引き下げれば、利用者の懐は直撃を受ける。

バス待ちの列に並んでいた郵便局員、セバスティアン・メディナさん(48)は、「値上げには腹が立つが、遅かれ早かれ起きるはずのことだった」と語った。(中略) 今後数か月ついては、「私たちは危機にはもう慣れっこだが、今回のはこれまで以上に困難なものになるだろう」と予想。「希望を持たねば」と言った。

やはりバスを待っていた自動車販売員のリアン・ヒメネスさん(27)も、バス料金値上げについて「国民への影響は大きい」としながら、新政権の対策には同意すると語った。「導入されるだろうということは私たちは分かっていた」

■「購買力を破壊」
ミレイ大統領は11月に行われた大統領選で、債務や紙幣の増刷、インフレ、財政赤字など、数十年間にわたり繰り返された経済危機への怒りを追い風に勝利。

新政権は、これまでの政権が政策運営を失敗してきた結果、アルゼンチンはハイパーインフレ寸前、完全な「金欠」状態にあると繰り返し喧伝(けんでん)している。

しかし、ミレイ大統領は、貧困層に対する福祉政策は維持するとの公約に沿う形で、子ども手当てを増額、食事補助券の支給額も50%引き上げた。

国際通貨基金(IMF)は緊縮策を歓迎。それに対し、アルゼンチン労働総同盟(CGT)は「国民に対する重荷」だとして反発している。

CGTは、各種の削減措置により「数百万人の国民が社会・経済的な窮状」に置かれ、「購買力は破壊される」だろうとしている。

2001年のアルゼンチン経済のメルトダウン(破綻)を機に毎年行われているデモが来週、挙行される予定だ。ミレイ大統領としては、就任後初めて、街頭からの洗礼を浴びることになる。2001年にはデモが暴徒化し、約40人が死亡している。

誰もが耐え忍べるわけではない。
「あちこち移動したり病院に行ったりする」ためにバスを利用しているというロサ・カバニジャスさん(66)にとって、「バス料金の値上げは不安」だ。「良いことだとは思えない」と話した。【12月21日 時事】
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ミレイ大統領は「ショック療法」を公言して当選し、国民も(少なくとも彼を支持した者は)一時的な「悪化」を甘受する意思を示していますが、実際に値上げが続いたときに国民がそれを容認するのか・・・議会では少数派であるという現実と併せて、政治状況が混乱・流動化する可能性もあります。

国民はどこまで痛みを伴う政策を理解・容認できるのか・・・壮大な社会実験が始まったようにも見えます。
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