孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  12月の大統領・議会選挙実施で分裂状態に終止符を・・・・とのことだが、実現には紆余曲折も

2018-05-31 22:51:05 | 北アフリカ

(リビアの首都トリポリの殉教者広場で、ムアマル・カダフィ政権打倒につながった大規模デモ7周年を記念する祝賀行事に集まった人たち(2018年2月17日撮影)。 【2月18日 AFP】

“祝賀”とは言うものの、長引く混乱とテロの拡大、経済情勢の悪化などから「独裁者の時代の方がましだった」という気分が広がっても不思議でもない現状です。

そのように「アラブの春」を全否定するのもいかがなものか・・・という感もありますが、少なくとも今のリビアは、後先考えず独裁権力を力で打ち倒すだけでは、さらなる混乱につながりかねないという実例ではあります。)

統一的国家権力が機能せず、無法地帯と化すリビア
最近、北朝鮮問題でよく目にする「リビア方式」という言葉。

リビアのカダフィ政権が2003年12月、米英の圧力を受け核兵器や化学兵器、弾道ミサイルなどの大量破壊兵器の一括放棄に応じ、その代わりに制裁解除を取り付けたことを指すもので、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)らが主張。

しかし、少しずつ状況を変えて、抵抗を少なくする「サラミ方式」と呼ばれる手法により、体制保証や経済支援などの見返りの最大化を狙う北朝鮮の基本的スタンスと異なるだけでなく、大量破壊兵器の放棄に応じたカダフィ大佐はその後、米英仏が武力加担する形で権力の座を追われ死亡したこと、すでに核保有国に達したとする北朝鮮を開発初期段階だったリビアと比較することが「侮辱的」と北朝鮮側にとられたことなどで、北朝鮮が激しく反発して米朝首脳会談が中止される・・・・といった事態にもなったことは周知のところです。

それはそれとして、その「リビア」がその後どうなったのか・・・という情報はあまり多くありません。

基本的には、これまで何回か取り上げてきたように、東西に政権が並び立つ分裂状態にあり、国家としての機能がまともに働かない状況にもある訳ですが、特に最近の状況に関する情報はほとんど目にしません。

“分裂状態”に関しては、1年前の2017年5月25日ブログ“リビア 分裂状態の統一に向けた動きも見られたものの、事態はむしろ逆行 内戦再燃の懸念も”で取り上げましたが、その後の動きはよくわからない・・・というか、あまり大きな変化はない・・・・というか、どうにもこうにもならない・・・というか、国際的にも大きな話題にならないといった感じのようです。

そんな情報が少ないなかで、今年2月には下2行ほどの短い記事が。

****リビア首都、カダフィ独裁崩壊につながった大規模デモから7年を祝う****
リビアは17日、最高指導者ムアマル・カダフィ大佐の独裁体制崩壊につながった大規模デモから7周年を迎え、首都トリポリで行われた祝賀行事には大勢の市民が参加した。【2月18日 AFP】
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西の自称“統一政府”が主催した行事でしょうが、今のリビアは“祝賀”というにはあまりに縁遠いような印象が正直なところです。

政府がまともに機能していないため、欧州を目指す難民の規制もままなりませんが、それだけでなく、アフリカ各地から命がけで集まる難民が人身売買組織の手にかかり、不当に監禁されたり、奴隷市場で売られたり・・・という話もよく聞きます。

****リビア、人身売買組織に拘束されていた移民100人以上が脱出****
リビア北西部バニワリドで23日夜、人身売買組織に拘束されていたアフリカ東部からの移民100人以上が組織の収容所から脱出した。国際団体や地元の情報筋などが26日、明らかにした。

移民たちは地元の団体や住民らによって市内のモスク(イスラム礼拝所)に保護された。
 
脱出したのはエリトリア、エチオピア、ソマリアからの移民たちで、収容所では拷問を受けていた。バニワリドの病院によれば、拷問によって負傷した約20人が治療を受けた。
 
国際緊急医療援助団体「国境なき医師団」は目撃者の話として、脱出の際、移民15人が殺害され25人が負傷したと述べた。地元筋からの確認情報はまだない。
 
脱出したのはほとんどが10代半ばの若者たちで、3年も人身売買組織に拘束されていたとMSF職員に話した移民も複数いるという。
 
MSFによると、病院に搬送された移民のうち7人は銃で撃たれており重傷だという。
 
リビアで長年にわたって独裁体制を敷いてきたムアマル・カダフィ大佐が2011年に失脚し殺害された後、首都トリポリは危険な航海で欧州を目指す移民たちの主要出発港となっている。

トリポリの南東170キロに位置するバニワリドでは、人身売買組織や誘拐組織が約20か所に収容所を設けており、拘束した移民の家族に身代金を要求するなどしている。【5月27日 AFP】AFPBB News
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“人身売買組織や誘拐組織が約20か所に収容所を設けている”とわかっていながら放置されている、取り締まる公権力が機能していないのが、リビアの現状です。

“政府”と称するものを支える勢力自身が人身売買組織や誘拐組織とつながっているのでは・・・とも想像してしまいます。

12月の大統領・議会選挙で合意したものの、紆余曲折も 「リビアの統一と安全は軍が確保する」】
そうした無政府状態にも近いリビアで、大統領選挙と議会選挙を12月に実施することで、東西政府が合意したとか。

****<リビア>大統領選と議会選、12月実施で4者合意*****
国家分裂状態が続くリビアの安定化を目指し、西部の首都トリポリを拠点とするシラージュ暫定首相と、東部で武装組織「リビア国民軍」を率いるハフタル将軍ら4者が29日、パリで会談し、大統領選と議会選を12月10日に実施することで合意した。

当初は今春の予定だったが、延期されていた。会談はマクロン仏大統領が仲介した。
 
各勢力は選挙実施に向けて国連と協力し、選挙結果を尊重することを確認。だが対立は根深く、実現までには曲折も予想される。
 
リビアは2011年のカダフィ政権崩壊後、複数の勢力が支配地域を独自に統治する内戦状態に突入。混乱に乗じ、過激派組織「イスラム国」(IS)も勢力を拡大するなど治安が悪化した。

15年には国連の仲介で主要勢力が統一政府樹立に合意したが、東部トブルクを拠点とする「暫定議会」はシラージュ暫定首相が統治する西部の政府を拒否。

暫定議会は同じ東部を拠点とするハフタル将軍と協力し、「東西分裂」が鮮明になっていた。【5月30日 毎日】
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“4者”とは、西のトリポリを拠点として“統一政府”を自称しているシラージュ暫定首相と、東部で武装組織「リビア国民軍」を率いるハフタル将軍のほか、東のトブルク議会議長、西のトリポリの国民評議会議長のようです。

それはともかく、“仏大統領府が発表した共同声明は「9月16日までに必要な選挙法を整備し、12月10日に議会選と大統領選を実施する」と表明。リビアの安定化を目指す国連の活動にも前向きに協力することで合意した。”【5月30日 時事】とも。

実行されるなら素晴らしい話ですが、リビアの現状からすると、非常に難しい話にも思えてしまいます。
選挙のためには有権者を登録し、投票用紙を配布し、投票所を管理し、集計作業を行うといったことが必要になりますが、今のリビアでできるのだろうか?という疑問も。

年内に選挙を・・・という話は前からあって、“選挙管理委員会本部”も存在しているようです。
ただし、ISによる自爆攻撃の対象となっていますが。

****リビア選管への自爆攻撃で12人死亡 ISが犯行声明****
リビアの首都トリポリにある選挙管理委員会本部で2日、自爆攻撃があり、少なくとも12人が死亡、7人が負傷した。同国保健省が明らかにした。
 
事件をめぐっては、イスラム過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出している。
 
アブデルサラム・アシュール内相は記者会見で、武装した襲撃犯2人が選管本部を襲い、警備員と当局者に発砲した後に自爆したと発表した。
 
国連は現在、ムアマル・カダフィ大佐による独裁体制が崩壊して以降のリビアの混乱に終止符を打つことを目指しており、年内の選挙実施を期待している。
 
投票日は未定だが、憲法草案をめぐる国民投票と選挙法制定の後になる見通し。【5月3日 AFP】
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ISなどのイスラム過激派の妨害も懸念されますが、そもそも当事者にどこまでやる気があるのか・・・?
選挙をやって統一的な国家体制を構築するということは、現在分裂している権力の片方が、もう片方に従うということでもあります。

勝てることが確実なら喜んで選挙を行うでしょうが、そうでなければ選挙を避けようとするのが世の常です。

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al qods al arabi netは、リビアの観測者の中には、テロの背後には例のhaftar将軍と、彼の支持者たちの総選挙を喜ばない勢力があるとみている者がいると報じていることです。

それによると将軍はテロの数日前に、選挙の重要性を否定し、現時点での選挙がリビア国民の声を反映するとも思われず、リビアの統一と安全は軍が確保すると語った経緯があるとのことです。【5月3日 「中東の窓」】
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al qods al arabi netの報道がどこまで真実なのかはわかりません。
わかりませんが、“リビアの統一と安全は(選挙ではなく)軍が確保する”と東の実力者ハフタル将軍が語ったというのは、リビアの現状に沿っているようにも思えます。

統一の基盤のないところに、形だけの統一政府・統一議会を作ろうとしてもなかなか・・・・。

カダフィの息子が大統領選挙出馬?】
なお、大統領選挙には独裁者カッダフィの息子が出馬の意向を表明しているそうです。

****カッダーフィ息子の大統領選出馬****
本年はリビアでも大統領選挙等が行われることになっていて、革命前のリビアの独裁者カッダーフィ(中略)の息子のseif al islam (確か次男であったかと思う)が、大統領選に出馬するとの噂が出回っていましたが、どうやら彼は19日正式に?立候補の意向を表明した模様です。

これは彼の政治プログラムの作成にあたっている男が、19日チュニスで発表したとのことで、その中でカッダーフィはすべてのリビア人に開かれていて、対話を通じて、リビア国家の再建を図っていく意向とした由。

確か彼は、革命後反カッダーフィ派の民兵にとらえられ、zintanaで拘留されていたが、その後何処かへ連行されたことになっていたかと思います。

また、彼についてはトリポリ裁判所が欠席裁判で死刑の判決を行い、その後トブルク政府が恩赦したかと思います。
さらに彼については、他のカッダーフィの息子どもや関係者とともに、国際刑事裁判所が、リビア革命の際の人道法違反(要するに人民の虐殺の罪か?)で、訴追していて、彼の引き渡しを求めていたが、現在でもその立場に変更はなかったと思います。

アラブの春直後には、中東の内外で、中東を揺るがした大動乱の責任は、当時の支配階級(カッダーフィを含めて大部分が、アラブ民族主義の生き残りやその系統)にあるとされていましたが、その後どの国でも長引く混乱とテロの拡大、経済情勢の悪化等から、幻滅が相次ぎ、旧支配階級に対する再評価(現状に比べたら、むしろ当時の独裁者の時代の方がましだった!)が進んでいるように思われますが、仮にseifu al islam が大統領に当選すれば、旧時代の正式な公式復活no1ということになりそうです。

勿論カッダーフィの息子が復活するか否かは今後の情勢次第ですが(確かカッダーフィは、その後継者としてはこの次男を考えていたと言われ、非常に有能で、カリスマ性も備えている模様)取り敢えずのところです。【3月20日 「中東の窓」】
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実力者ハフタル将軍もカダフィ時代の支配階級の一人ですから、カダフィの息子が大統領に出馬しても不思議ではないかも。

民兵組織が割拠するような現状を統一してくれるなら、カダフィの息子だろうが何だろうが・・・という気にもなります。
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コロンビア  大統領選挙(第1回投票)に示された和平合意への国民不満

2018-05-30 22:55:04 | ラテンアメリカ

(首都ボゴタで投票する保守派のイバン・ドゥケ氏(2018年5月27日撮影)。【5月28日 AFP】)

埋まらない分断された世論の溝 依然として根強い和平合意の国民批判
南米コロンビアでは2016年、半世紀に及ぶ内戦を終結させるため、政府と左翼ゲリラ「FARC(コロンビア革命軍)」の間で和平合意が成立し、サントス大統領がノーベル平和賞を受賞しました。

そのコロンビアでは、和平合意後初めての大統領選挙が行われていますが、27日の第1回投票で、元ゲリラに対する刑の減免などを批判し、和平合意の見直しを訴える右派候補が1位で決選投票に進むことになり、サントス大統領が推す候補は決選投票に進むことができませんでした。

****コロンビア大統領選、決選投票へ 内戦の和平合意に賛否****
南米コロンビアで27日あった大統領選は、現職のサントス大統領が結んだ左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)との和平合意の見直しを訴える右派候補がトップ、2位に合意尊重を唱える左派が続いた。

和平合意で半世紀に及んだ内戦が終わったが、合意への賛否を巡ってコロンビア社会は分断を深めている。

選挙管理当局によると、右派で和平合意の見直しを訴えるイバン・ドゥケ前上院議員(41)が39.14%の得票率で1位。

合意を尊重する別の左翼ゲリラ出身のグスタボ・ペトロ前ボゴタ市長(58)が25.08%で続いた。いずれも過半数獲得には至らず、6月17日に決選投票がある。

FARCとの和平合意で2016年のノーベル平和賞を受賞したサントス大統領は、中道右派のヘルマン・バルガス前副大統領(56)を支持。だが、「極端な選択はすべきではない」と訴えたバルガス氏の得票率は7.28%と4位にとどまり、決選投票には進めなかった。

ドゥケ氏は、和平合意の結果、FARCの元幹部らが処罰されていないことなどを問題視。FARCが麻薬密売に関与してきたことから「麻薬密売者との交渉は認めない。正義を伴う平和が必要だ」と主張した。

大統領選では、こうした主張が一定程度、受け入れられた形だ。

内戦で25万人超が死亡・不明
コロンビアでは内戦の結果、死者・行方不明者が25万人を超え、少なくとも500万人以上が国内避難民になった。

和平合意により合法政党に移行したFARCだが、国民の間にはなお不信は根強い。和平路線に反対し、今もゲリラ活動を続けるFARCの分派組織もある。4月には隣国エクアドルの記者たちが殺害された。

一方、貧富の差が左翼ゲリラを生む温床ともなったのも事実だ。合意の継続を唱えた左派のペトロ氏は「暴力がコロンビア社会の不平等を助長してきた」とし、平和を維持しながら社会保障を拡充する必要性を訴えた。

分断された世論の溝は埋まらぬまま、6月の決選投票を迎えることになる。【5月29日 朝日】
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周知のように、和平合意は2016年10月の国民投票では予想に反して僅差で否決(賛成49.78%、反対50.21%)され頓挫しかかりましたが、投票直後に発表されたサントス大統領へのノーベル平和賞授与という国際社会からの後押しもあって、国民投票を避けて議会での承認を得る形で成立に至っています。

この経緯からもわかるように、“死者・行方不明者が255万人を超え、少なくとも500万人以上が国内避難民になった”という大きな犠牲に対し、和平合意はFARCに甘すぎる(凶悪・重大犯罪を除く元メンバーへの免責、FARCを政党化して一定議席を与えるなど)との批判が国民感情として根強くあります。

(3月に行われた上下両院議会選挙では、FARCからは両院で計74人が立候補しましたが、得票率は上院(定数108)で0.34%、下院(同172)で0.21%にとどまり、当選者は出ませんでした。ただ、2016年の和平合意に基づき、FARCには両院で26年まで自動的に計10議席が割り振られます。)

サントス大統領を批判しているウリベ前大統領や、彼が推薦する今回首位となったドゥケ氏は、“甘い”合意への批判を代弁する形となっています。

2016年の国民投票については、そうした内容に関する批判以外に、37%という低い投票率に示されているように、政権側が“当然に賛成される”と楽勝ムードで油断していたこと、大統領支持者の多い北部地域へのハリケーン襲来と投票日が重なったことも賛成派の敗因とされ、さらに、サントス大統領自身の支持率の低さが足を引っ張ったことなども指摘されています。

反対派勝利の結果に、反対派自身が驚く・・・といった状況でした。

“甘すぎる”云々に関しては、和平合意を牽引した側からすれば、“免責しなければ、FARCが合意に応じることは100%あり得ない”ということにもなります。

一方、反対派からすれば、“それなら和平合意など必要ない。弱体化したFARCをさらに徹底して武力で追い詰めればいい”という話にもなります。また、支持率が低く、功績も少ないサントス大統領が功績を求めて“合意ありき”で交渉を行ったために、FARCに交渉の主導権をとられた・・・との批判も。

和平合意しなければ、武力衝突が今後も続き、犠牲者はさらに増大する・・・ということにもなります。ノーベル賞授与など、国際社会は和平の実現を期待しましたが、コロンビア国民の考えは少し異なるようです。

今回大統領選挙の数字を見ると、依然として和平合意に納得していない国民が多いことがわかります。

続くFARC残党との戦闘 元メンバーへの“報復”も
和平合意のもとにある今現在も、合意にしがわないFARC残党のゲリラ発動は続いています。

****旧左翼ゲリラ残党11人殺害=コロンビア****
コロンビアのビジェガス国防相は28日、南部カケタ州で政府軍が旧左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」残党と交戦し、11人を殺害したと発表した。
 
ビジェガス氏は「残党を壊滅するための重要な作戦だ」と強調。掃討を進める考えを示した。
 
同国最大の武装組織だったFARCは、2016年11月に政府と停戦合意を締結。武装解除し、合法政党「人民革命代替勢力(FARC)」に衣替えしたが、一部勢力は組織を離れて辺境地帯で闘争を続けている。残党らは自治体や地元電力会社を脅迫していたという。【5月29日 時事】
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また、和平合意に従って社会復帰したFARC元メンバーに対する“報復”も続いていると、元FARC側は主張しています。

****Farc元ゲリラがまた殺害された コロンビア****
大統領選挙の翌日の5月28日月曜日、和平合意により合法政党に生まれ変わった人民革命代替勢力(Farc)は、バジェ デル カウカ県とカウカ県で5月22日から26日にかけて元Farcゲリラ3人が殺害されたと警告しています。

Farcの発表によれば、今回の3人を加え今年これまでにFarc元ゲリラ24人が殺害されています。

「合法政治活動のために武装を放棄した我々への暴力を許すことは出来ない。」とFarcは声明の中で強調しています。(後略)【5月30日 音の谷ラテンアメリカニュース】
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大統領決選投票がどうなるのかはわかりませんが、ドゥケ氏の39.14%の得票率という数字を見ると、かなり優位にあるということでしょうか。

仮に、ドゥケ氏が当選して、和平合意の見直しを始めるということになれば、FARC元メンバーの多くは再びジャングルに戻り、銃を手にとる・・・ということにもなるのでしょう。

合意破棄については、トランプ大統領によるイラン合意破棄もそうですが、そんなに簡単に合意を破棄していいのだろうか・・・という疑念もありますし、合意破棄の結果、厄介な事態となる責任をどうとるのかという問題もあります。

政権が代われば将来的に破棄される可能性があるということになれば、政治的合意などはますます難しくなり、力による決着が横行することにもなります。

ドゥケ氏の主張する“見直し”が“合意破棄”に至るものなのか、部分的な手直しに収まるのかは知りません。

【“駆け込み”的に進み始めた民族解放軍(ELN)の和平交渉
一方、FARCに次ぐ武装ゲリラ組織の民族解放軍(ELN)の和平交渉は停滞していましたが、次期政権が厳しい対応をとりそうだ・・・との観測もあって、“駆け込み”的に、現政権で合意をまとめようとの動きもあるようです。

****コロンビア政府と左翼ゲリラ、和平交渉開始を発表****
コロンビア政府は5日、同国最大の左派武装ゲリラである民族解放軍(ELN)と和平交渉に臨むことで合意したと発表した。キューバ政府の仲介を受け、来週にもハバナで交渉を始める。

両者は1月に和平交渉を打ち切ったばかりだったが、27日に予定される大統領選でゲリラとの和平合意に批判的な右派候補が支持を集める中、方針を転換したとみられる。

ELNは1500人程度の構成員を抱えており、昨年にコロンビア革命軍(FARC)の武装解除が完了したことを受け、同国最大の勢力となっている。

サントス大統領は5日、ツイッターに「我々は政府が平和を獲得するという約束を達成する最後の日まで働く」と投稿。和平合意に自信を見せた。

2016年のFARCとの和平達成後も、ELNと政府はテロや掃討作戦でぶつかってきた。1月には度重なるELNの攻撃に対しサントス氏が「私とコロンビア人の忍耐力には限界がある」と述べ交渉を打ち切ったほか、両者の橋渡しとなっていたエクアドル政府が4月に仲介をやめたことで和平合意の実現は困難視されていた。

今回、双方が態度を変えた背景には、27日の大統領選でゲリラとの和平合意に批判的な右派のドゥケ氏が世論調査でリードしていることがあるとみられる。

ドゥケ氏が大統領になれば新たな和平合意は絶望的となる。ゲリラに対し融和的な現政権下で交渉をまとめたいELN側と、ノーベル平和賞を受賞したサントス氏のレガシー(政治的遺産)づくりを目指す政権との間で利害が一致した。【5月6日 日経】
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ミャンマーの「忘れられた紛争」 国軍はロヒンギャに次いで北部のカチン族を標的に

2018-05-29 21:43:53 | ミャンマー

(ミャンマー北部カチン州で、軍とカチン独立軍との衝突を避けて避難する住民(2018年4月26日撮影)【4月29日 AFP】)

約10万人が避難生活を強いられているミャンマー北部で戦闘激化、避難民も更に増加
ミャンマーでは、西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャに対する国軍等による“民族浄化”(昨年8月以降、約70万人のロヒンギャが隣国バングラデシュに避難)が国際的にも大きな問題となっていますが、ミャンマーではイギリスの支配から独立した1948年から70年間、20以上の少数民族勢力との戦闘が続いてきました。

2015年10月に当時のテイン・セイン政権と少数民族武装勢力8組織との間で署名が交わされ、今年2月にはスー・チー政権のもとではじめて、新たに2組織と停戦合意が署名されています。

ということは、まだ半数が停戦に合意していないということで、そのうちの一つ、北部カチン州のカチン独立軍(KIA)との戦闘が、4月に国軍兵士26人が殺害された襲撃以来、激しさを増しています。

“KIAは(戦闘が続く少数民族の)主要勢力の一つで、キリスト教徒が多いカチン族の自治権拡大を求めている。
KIAと国軍は11年以降、断続的に戦闘を続け、村落を追われ約10万人が避難生活を強いられている。
ミャンマー政府は、早ければ5月中にも3回目となる和平交渉の場「21世紀のパンロン会議」を開き、和平実現に向けて道筋を示したい考えだ。【5月9日 日経】”

4月以降の戦闘激化でさらに数千人ほど、今年1月からでは2万人ほどの避難民が発生しています。

****ミャンマー北部で軍と武装勢力が衝突、数千人が避難 国連****
国連(UN)当局によると、軍と少数民族武装組織の間で緊張が続くミャンマー北部で新たな戦闘が発生し、数千人が避難した。
 
国連人道問題調整事務所(OCHA)のマーク・カッツ代表が27日、AFPに語ったところによると、過去3週の間に、中国国境に近いミャンマー北部カチン州で4000人以上の住民が避難したという。
 
この人数には、今年1月以降に避難していた約1万5000人と、2011年に発生した強力な少数民族の武装勢力「カチン独立軍(KIA)」とミャンマー軍の衝突以来、カチン州とシャン(Shan)州内の国内避難民用キャンプに住む約9万人は含まれていない。
 
カッツ氏は最近発生した衝突について、「われわれは地元当局から、紛争地帯に大勢の民間人が現在も閉じ込められているという報告を受け取っている」と述べた。
 
衝突で民間人が殺害されたという報告について、OCHAは真偽を確認できていない。また、ミャンマー政府の報道官のコメントは得られていない。【4月29日 AFP】
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“国軍は1月以降、KIAへの攻勢を強めている。KIAの報道担当者は「(国軍は)空軍機の爆撃や重火器による攻撃を強化している」と指摘。カチン州の州都ミッチーナの教会に約3千人が避難し、2千人がジャングルに逃れていると語った。地元出身のリン・リン・ウー議員は「避難民は飲料水不足などに直面している」と支援を訴えた。”【5月9日 日経】とも。

****ミャンマーの「忘れられた紛争」、家を追われるカチンの人々****
(中略)ミャンマー北東部での反政府活動は、過去60年にわたり続いているが、イスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる問題とは対照的に、世界中で大きく取り上げられることはまれだ。

「忘れられた紛争」と呼ばれることもあるが、今年に入ってからは状況が劇的に悪化しており、すでに2万人が避難を余儀なくされている。
 
この紛争では、自治権や民族的アイデンティティー、麻薬、ヒスイやその他の天然資源など、さまざまな要素をめぐって武装勢力「カチン独立軍」とミャンマー政府が対立している。
 
4月11日、銃声と戦闘機の音が近づく中、ダナイの村の住民たちは農地へと逃げ込んだ。しかし、その3日後、村内への着弾をきっかけに、地域の指導者たちは住民2000人を避難させることを決めた。
 
避難民の中に、前日に女の子を出産したばかりのセン・ムーンさんがいた。ムーンさんは、ダナイの避難所でAFPの取材に応じ、「(出産直後で)まだ出血していた。死ぬかと思った」「とても大変だったけれど、私たちは川を渡らなければならなかった」と語った。
 
幼い子どもや病人、高齢者が多いグループにとって、深い森の中を進むのは容易ではない。
 
だが幸運なことに、森の厳しい状況の中で地元の象使いたちから救いの手が差し伸べられた。目的地の避難所に向かうためには、胸の深さほどある川を渡る必要があるのだが、体の弱い避難民らを中心に、ゾウ使いが彼らを対岸まで運んだのだ。避難所は木造の小さな教会敷地内に設けられていた。
 
少数民族のカチン族は主にキリスト教徒だが、ミャンマーでは仏教徒が圧倒的多数を占める。(後略)【5月29日 AFP】
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カチン独立軍と共に、やはりまだ停戦合意していないタアン民族解放軍もシャン州で作戦を展開しているようです。

****軍と武装勢力の衝突で19人死亡 ミャンマー****
ミャンマーのシャン州で12日、ミャンマー軍と少数民族武装勢力との間で新たな武力衝突が発生し、少なくとも19人が死亡、数十人が負傷した。同軍および地元の情報筋がAFPに明らかにした。
 
武力衝突はミャンマー軍と、自治権の拡大を求める少数民族武装勢力の一つである「タアン民族解放軍」の間で発生したものとみられる。(後略)【5月13日 AFP】
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この衝突地域は中国国境地帯で、中国側にも被弾し中国人3名が死亡したということで、中国がミャンマーに抗議しています。

やはり中国と国境を接するカチン州の戦闘について、ミッソン水力発電ダムの問題や難民流入などもあって、中国が和平に向けた仲介を行っているという話は、1年前の2017年5月17日ブログ“ ミャンマーの少数民族和平交渉を仲介する中国の思惑”でも取り上げました。

(2017年5月23日号 Newsweek日本語版)

その後の中国の動きは把握していません。

対ロヒンギャの残虐行為で非難されている部隊を配備
カチン独立軍等による衝突の今後の“惨劇”を想像させる不吉な兆候は、カチン州にロヒンギャに対する残忍な行為が非難された第33軽歩兵師団がカチン州に配備されたことです。

****ミャンマー軍、ロヒンギャの次はカチン族を標的に****
ミャンマー軍が少数民族への弾圧を再び強めている。イスラム系少数民族ロヒンギャの大半を隣国バングラデシュへと追いやった軍は目下、武装ヘリコプターや戦闘機、重火器などを使い、中国との国境に近い北部山岳地帯でカチン族の武装勢力に攻撃を加えている。
 
カチン族はキリスト教徒の多い少数民族。ミャンマー政府と軍は、主に国境沿いに暮らす様々な少数民族との間で停戦協定の締結を目指しており、カチン族への攻撃は、協定締結を拒む武装勢力に対して、軍が弾圧を強めていることを映し出している。
 
攻撃のパターンからは見えるのは、カチン族などの少数民族の武装勢力が資金源としている翡翠(ひすい)や琥珀(こはく)鉱山へのアクセスを軍が断とうとしていることだ。米国と中国はともに、紛争の即時停止を求めている。

ミャンマー軍は過去およそ5年、反政府組織に対して全面対決よりも話し合いを優先した経緯がある。軍が攻撃を強めていることは、従来の方針から転換したことを意味する。

カチン州北部に配備されたミャンマー軍の一部部隊は、ロヒンギャに対して残虐行為を行ったとして人権団体から批判されている組織だ。

だがミャンマー軍に対抗できる戦闘部隊を持たないロヒンギャとは異なり、カチン族は百戦錬磨の戦闘員1万人程度を抱えており、過去数十年にわたりゲリラ戦術を展開してきた。ミャンマー軍にとって最も手ごわい勢力の1つだ。
 
ミャンマー軍はカチン州の戦闘地帯への報道陣や国際監視団の立ち入りを制限しており、紛争の正確な状況を把握することは困難だ。犠牲者の数も分かっていない。

だが退避を余儀なくされた住民、現地の支援団体や政治勢力への取材からは、戦闘が激化し、人道危機が深刻化している実態が浮き彫りとなっている。
 
戦火を逃れようと数千人の一般市民がジャングルへと逃避。ゾウの背中に乗って逃げる者もあれば、国境を越えて中国へと入るグループもあったという。市民に食料や物資を提供している赤十字国際委員会(ICRC)は、4月初旬以降、7500人のカチン族が住む家を追われたと推測している。
 
軍幹部は先週メディアに対し、戦闘は反政府勢力によって引き起こされたものだとし、政府軍が現地集落に火を放ったとの報道を否定した。(中略)

非営利の国際人権組織、ヒューマン・ライツ・ウォッチのリチャード・ウィアー氏は、「ミャンマー軍は攻撃性を増している」と指摘する。

国連は軍によるロヒンギャ弾圧を民族浄化として批判しているが、これまで制裁発動には至っていない。ウィアー氏は、国際社会がミャンマー軍を罰しなかったことで、他の民族への攻撃を強める事態を招いてしまったと述べる。

(中略)ノーベル平和賞を受賞したアウン・サン・スー・チー氏は歴史的な選挙勝利で政権交代を成し遂げた後、2016年に実質的な同国指導者に就任すると、少数民族との和平実現が最優先課題だと表明した。

だがスー・チー氏が政権を掌握して以降も、政府と軍は和平合意の締結で反政府勢力を説得できずにいる。
 
一部の専門家は今回のカチン族への攻撃について、和平プロセスを阻害し、スー・チー氏と同氏が率いる国民民主連盟(NLD)の邪魔をする軍幹部の策略ではないかと指摘している。NLDはこれを否定、軍はコメントを差し控えた。
 
安全保障関連のアナリスト、 アンソニー・デービス氏は「戦闘を激化させることで、NLDの看板政策は完全な失敗だったと結論づけることになる」と指摘。「選挙は2年後に迫っているが、NLDは何を有権者に訴えることができるだろうか」と述べた。

スー・チー氏のオフィスの報道官は、兵士26人が殺害された 4月初旬のカチン族の襲撃が引き金となって、最近の戦闘激化を招いたとした上で、「軍は状況に適切に対処している」とコメントした。一方、カチン族は政府軍による侵攻が紛争を招いたと主張している。
 
今年開催を予定されていた国家和平会議はすでに2度延期となっており、関係者の多くは再び先送りされると予想する。
 
ミャンマー平和センターのシニアプログラムオフィサー、アマラ・ティハ氏は「和平プロセスは完全に暗礁に乗り上げた」と話す。同センターは、軍と反政府勢力との交渉を支援する組織だ。
 
北部山岳地帯の戦闘は通常、6月半ばには下火になる。激しい雨で道路が通行不可能になるためだ。だがミャンマーは近年、空軍の戦闘能力を著しく高めている。前出のデービス氏らアナリストは、天候にかかわらず、軍によるカチン族への攻撃が続くとみている。【5月29日 WSJ】
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国軍が実権を握る安全保障面で影が薄いスー・チー氏
国軍が、少数民族側の襲撃をもって掃討作戦の正当性を主張し、集落への放火などの行為は否定しているというのは、ロヒンギャのケースと同じです。

上記【WSJ】記事では、国軍側には、戦闘を激化させることでスー・チー氏と同氏が率いる国民民主連盟(NLD)が進める和平プロセスを阻害する狙いがあるのでは・・・との指摘があります。

ただ、“ロヒンギャへの注目を政府軍は利用しながら、「平和交渉のテーブルに」つかせるためにKIAを攻撃した”との指摘もあるようです。【5月29日 AFPより】

“ロヒンギャへの注目を政府軍は利用しながら”というのは、「抵抗を続けると、ロヒンギャのように殺し・焼き尽くしてしまうぞ!」とのメッセージでしょうか?

また、カチン独立軍側の思惑として“現地の政治情勢に詳しい専門家は「KIAは政府との全土停戦協定の締結を模索している。戦線が固定化される前に互いに少しでも優位な情勢を獲得しようとしている」と分析する。”【5月9日 日経】】との指摘もあります。

もしそういうことであれば、衝突は戦略的なものであり、全面的に拡大することはない・・・・とも推測されます。

いずれにしても、“民主化運動の指導者であるアウン・サン・スー・チー氏は、2年前に同氏が党首を務める政党が政権を握って以後、国全体の平和構築が最優先課題だと述べていた。だが安全保障問題をめぐっては、軍が今も主導権を握っている。”【5月29日 AFP】というのが実態で、スー・チー氏の影が薄いのは否めません。
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アイルランド 国民投票で中絶合法化へ アルゼンチンも来月法案採決 アメリカでは禁止法制定の州も

2018-05-28 22:48:18 | 女性問題

(人工妊娠中絶の合法化の是非を問うアイルランドの国民投票で、勝利を喜ぶ賛成派の人たち=26日、ダブリン【5月26日 共同】)

アイルランド 同性婚に続く「静かな革命」】
カトリック国・アイルランドで1983年の住民投票で成立した憲法修正第8条は、まだ生まれていない者の生存権を認め、女性と胎児の生存権は同等としています。

中絶は出産で母親に生命の危険がある場合に限って認められ、性的暴行や胎児の異常が理由であれば違法となります。罰則は最高で禁錮14年。

このために毎年何千人ものアイルランド女性が中絶手術のために英国へ行ったり、中絶ピルを入手したりしているという現実が生じています。(1992年の国民投票で、国外で妊娠中絶の手術を受ける権利や、海外の中絶サービスに関する情報を受け取る権利があることが認められています。)

周知のように、この憲法修正第8条を廃止するかどうかが問われた5月25日の国民投票では、投票直前には反対派の追い上げも報じられ、接戦も予想されていましたが、北部ドニゴール州を除く全ての選挙区で賛成派が勝利。ほとんどの州で性別や年齢に関わらず改正を望む形となりました。

最終集計では賛成が66.4%、反対が33.6%だと、ほぼダブルスコアとなっています。【5月28日 BBCより】

****アイルランドが国民投票で中絶合法化、同性婚に続く「静かな革命」が進行中****
<世界で最も中絶に厳しい国のひとつだった保守的なアイルランド社会が、急速に変わろうとしている>

5月26日に行われたアイルランドの国民投票で、人工妊娠中絶を禁止する憲法修正第8条の撤廃が決まった。カトリック教徒が人口の8割を占め、世界でも最も中絶に厳しかったアイルランドのこの歴史的な国民投票には、数多くの在外有権者も帰国して参加した。

憲法修正第8条は、胎児の生きる権利と母親の生存権を同列に並べ、レイプ被害者の場合や母体に危険がある場合の多くも含め事実上中絶を禁止してきた。その是非は、2015年に同性婚を認め、やはり歴史的と言われた国民投票よりも世論の対立が激しい問題だった。

だが結果は誰も予想しないものだった。

26日午後に発表された開票結果では、中絶合法化に賛成が66.4%、反対が33.6%で、賛成は同性婚賛成の62.1%を上回った。投票率は有権者の64.13%にのぼり、これも同性婚に関する国民投票の投票率(60%)を上回った。

昨年、同国史上で初めて同性愛者であることを公にして首相になったレオ・バラッカー首相は、この結果を賞賛した。「私たちが目にしたのは、過去20年間にわたってアイルランドで起きている静かな革命の最高点だ」(後略)【5月28日 Newsweek】
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“出口調査によると女性投票者の7割が賛成。年齢低下と共に賛成支持が高まる傾向にあり18〜34歳の80%以上が賛成を選んだ。”【5月26日 共同】“年齢別で合法化を支持しなかったのは65歳以上の層だけだった”【5月27日 CNN】ということで、ほぼ国民の総意という結果です。

なお、“国民投票は、中絶を禁じた憲法規定を廃止し、妊娠12週未満の中絶を認めることの賛否を問う。法律で中絶が認められるのは日本では妊娠22週未満、英国は24週未満。”【5月26日 産経】とのこと。

北アイルランドの対応にはメイ首相苦慮
アイルランドの「革命」により取り残された形になったのが、中絶を厳しく禁じる法律が現在も残るイギリスの北アイルランド。中絶支持派の次の標的ともなっています。

イギリス・メイ首相は、中絶反対派の地域政党との閣外協力で政権を維持しており、対応に苦慮しそうです。

****北アイルランドはどうなる?****
今回の憲法廃止により、英国とアイルランドで中絶をほぼ全面禁止しているのは北アイルランドだけとなり、テリーザ・メイ英首相は行動を迫られている。

シン・フェイン党のメアリー・ルー・マクドナルド党首とミシェル・オニール副党首は26日、ダブリン城の上で「次は北」と書かれたプラカードを掲げ、北アイルランドでの改革を求めた。
オニール氏は27日、国民投票の結果が「アイルランド全体が変化を本当に求めている」ことの表れだと話した。

しかし、メイ首相と閣外協力する北アイルランドの民主統一党(DUP)は中絶禁止の改正に強く反対しており、メイ首相は厳しい状況に立たされている。【5月28日 BBC】
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アルゼンチン 世論調査では大半の国民が合法化法案を支持
アイルランド同様にカトリック教徒が多い南米でも中絶合法化が求められています。

****継父にレイプされ10歳少女が妊娠、中絶合法化の議論白熱 アルゼンチン****
妊娠中絶を合法化する法案の採決を来月に控えて議論が白熱しているアルゼンチンで、10歳の少女が母親の再婚相手にレイプされ妊娠したことが明らかになり、国内に衝撃が走っている。
 
この少女は、腹痛を訴えて受診した病院で妊娠21週と診断された。
 
アルゼンチンの現行法では、レイプによる妊娠や母体の健康に危険がある場合に限って中絶を認めているが、少女の住むサルタ州は保守的な傾向が強く、レイプ被害者については妊娠12週までしか中絶を認めていない。
 
サルタ州当局によると、少女と母親は書面で中絶を拒否したという。しかし、女性の権利活動家でジェンダーに基づく暴力に反対する運動「NiUnaMenos」の創設者でもあるマリアナ・カルバハル氏は、当局の説明には疑いの余地があると指摘している。

「少女の家族はおびえている。当局が母親に妊娠中絶は非常に危険だと告げたからだ。少女自身がどう考えているかは分からない。妊娠中絶はまだ可能だ」とカルバハル氏はAFPに語った。
 
カルバハル氏によると、少女は妊娠12週以内だった2月に病院を受診したが、そのときは便秘と診断されていたという。
 
少女が母親の再婚相手から日常的にレイプされていたことが発覚したのは、2度目の受診のときだった。
 
国連児童基金(ユニセフ)によると、アルゼンチンでは年に2700人もの10〜14歳の少女が出産している。
 
アルゼンチン議会では6月13日に妊娠中絶合法化法案の採決が行われる予定。ローマ・カトリック教会の反対にもかかわらず、世論調査では大半の国民が法案を支持している。【5月22日 AFP】
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中絶禁止に向けて、1973年の最高裁判決を覆すことを目指す大統領・与党
一方、宗教保守派が大きな力を持つアメリカでは中絶合法化は非常に先鋭な政治問題化します。
共和党知事のアイオワ州では、憲法で中絶の権利が認められているにもかかわらず、国内で最も厳しいとされる中絶禁止法が成立しています。

****アイオワ州で中絶禁止法成立****
米中西部アイオワ州のレイノルズ知事(共和党)は4日、胎児の心音が聞こえた時点で人工妊娠中絶を禁止する州法に署名し、法律が成立した。

全米で最も厳しい妊娠中絶規制法となるが、女性団体が「違憲」として提訴する構えで、妊娠中絶をめぐって擁護派(プロチョイス)と反対派(プロライフ)の新たな法廷闘争が始まるとみられる。

中絶反対派の議員が多い共和党は妊娠中絶を合法化した1973年の最高裁判決を覆すことを目指し、法廷闘争に持ち込む構えだ。【5月6日 朝日】
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“「胎児の心音法」とも呼ばれるこの法律は、レイプや近親相姦による妊娠は対象外としているが、胎児の心音が確認できるのは一般的に妊娠6週目ごろとされ、反対派は多くの女性が自身の妊娠に気付いてすらいない段階での中絶を禁じる内容だと批判している。”【5月5日 AFP】

アメリカでは中絶合法化(あるいは移民問題・人種差別・LGBT)のような国論を二分するような問題が司法の場に持ち込まれ、最終的には最高裁の判決で決着します。

大統領の任期は最長で2期8年ですが、最高裁判事は終身制で、自らが引退、もしくは死去するまで判事として務めることができます。

そのため大統領の最も大きな仕事のひとつが、最高裁判事に自らと考えを同じくする人物を送り込むことになっています。(大統領が指名し、上院の過半数で承認されます)

定員9人の最高裁では、2016年2月に保守派だったアントニン・スカリア判事が急死して以来、保守派とリベラル派が4人ずつの拮抗した状態になっていましたが(オバマ前大統領の指名した候補は上院共和党の反対で実現しませんでした)、トランプ大統領は保守色の強いゴーサッチ氏を最高裁判事に据えることに成功し、大きな成果をあげています。

現在のところ、中絶合法化に関してはリベラル5、保守4となっていますが、最高齢のギンズバーグ氏が死去あるいは引退し、トランプ大統領によって保守派判事が任命されれば逆転することにもなります。【2017年03月16日 ハフポスト“大統領より怖い? 9人目の最高裁判事任命”より】
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米トランプ政権、中国ZTEへの制裁緩和検討 トランプ流「取引」か、安全保障を売り渡す行為か

2018-05-27 21:12:24 | アメリカ

(【5月14日 BBC】 約8万人を雇用するZTEの経営危機は、中国にとって大きな問題となっています)

収束の方向へ向かう米中貿易戦争 その中で注目されたZTEへの制裁の対応
ひと頃よく目にした“米中貿易戦争”という言葉は、19日に発表された米中の共同声明もあって、最近は見ることが少なくなったように思えます。

****<米中協議>「対米黒字を大幅減」声明 数値目標盛らず*****
米中両政府は19日、ワシントンで17、18日に開いた閣僚級貿易協議の共同声明を発表した。

中国が農産物や資源など米国産品の輸入を増やし、対米貿易黒字を「大幅に減少させる」ことで一致したが、数値目標など具体策は盛りこまれなかった。

知的財産権保護などもあいまいな表現にとどまっており、米中間でなお隔たりがあることを示した。両国は今後も協議を継続する。
 
中国国営新華社通信によると、中国側代表を務めた劉鶴副首相は「両国は貿易戦争をせず、互いに関税上乗せ措置を停止する共通認識に達した」と述べた。米中が打ち出した制裁関税について停止に向けた進展があった可能性もあるが、声明では触れられていない。
 
両国は声明で、貿易不均衡の「大幅な改善に向け効果的な方策をとる」と表明。中国が農産物などの輸入を増やすほか、工業製品の貿易拡大でも合意した。ただし、輸入増加は「成長する中国の消費需要を満たすため」とし、中国が無理な輸入促進策を取るわけではないことも示唆した。
 
貿易以外の分野については、中国が知的財産権の保護強化に向けて法改正に取り組むことや、相互の投資拡大で一致した。
 
米国は中国に対し2000億ドル(約22兆円)規模の黒字削減を求めている。米メディアによると、閣僚級協議終了後、徹夜で声明の文言調整が行われたが、米国が主張した数値目標の設定を中国が最後まで拒否したという。
 
米国は貿易黒字とともに、中国の産業戦略「中国製造2025」も問題視しているが、声明では言及がなかった。米国による制裁で必要な部品が入手できず、経営危機に陥っている中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)への対応策にも触れていない。
 
5月上旬の初会合が平行線だったのに比べれば、米中の「貿易戦争」に発展する懸念は後退したものの、双方の対立が根深い問題については対応を軒並み先送りした形で、依然として火種が残っている。【5月20日 毎日】
****************

“依然として火種が残っている”とは言うものの、これ以上摩擦を大きくしないという収束の方向で米中が合意したということでしょう。

中国の公式メディアはそれまでの対米批判から態度を一転させ、国営通信社・新華社は、「共通の利益」や「大義」の観点から、貿易戦争回避や懲罰的関税の棚上げなど協議で得られた成果を高く評価しています。

そうしたなかで注目されていたのが、中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)の扱いでした。ZTEはイランや北朝鮮への制裁に違反したとして、米企業からの製品購入を7年間禁止する措置が科されています。

****米国の中国・ZTEの制裁緩和は農産物関税撤回が交換条件****
米国のトランプ大統領が米企業との商取引を禁止された中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)について、制裁を緩和する可能性を示した。米有力紙は「中国が米農産物に関税を課した報復措置の撤回が交換条件」と報道。トランプ流の「ディール(取引)」が本領を発揮しつつあるようだ

中国に貿易戦争を仕掛けたトランプ政権は3月、中国を主な標的に鉄鋼とアルミニウムの輸入制限措置を打ち出した。

これとは別にトランプ大統領は通商法301条に基づき、中国の知的財産権侵害への貿易制裁発動を命じる文書に署名した。最大で年間600億ドル(約6兆3000億円)相当の中国製品に25%の関税が課される。

そうした流れの中で、米商務省は4月、米企業がZTEに部品などを輸出することを禁じる制裁を発動した。

ZTEは昨年3月、米国の経済制裁に違反する形で米企業の技術を使った製品をイランと北朝鮮に出荷していたとして、11億ドル(約1200億円)の罰金処分を受けた。しかし、経済制裁に違反する行為にかかわった社員の処分に関してZTEが虚偽の説明を米側にしたとの理由だった。

ロイター通信などによると、ZTEは自社製品に使用する全部品の少なくとも4分の1を米企業からの供給に頼る。ZTEが昨年、約200社の米企業から輸入した額は23億ドル(約2500億円)以上に上った。

トランプ米大統領は14日のツイッターへの投稿で、「ZTEは大部分の部品を米企業から購入している」と強調。ZTEに対する部品供給を禁じた米制裁措置の停止や緩和が「中国の習近平国家主席と協議しているより大きな通商取引」の一環だと述べた。

ロス米商務長官もZTE対する制裁について「極めて速やかに代替策を探る」と語り、緩和を検討していることを示唆した。

こうした方針転換について、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「米国がZTEに対する制裁を緩和する一方で、中国は米国産農産品に課している報復関税の撤回や大豆の輸入規制を見直す方向で調整が進んでいる」と報じた。

トランプ氏の投稿はZTEへの制裁緩和をちらつかせて、最大の懸案である対中貿易赤字削減で譲歩を迫る狙いもあるとみられる。

トランプ大統領は米国の貿易相手国に脅しをちらつかせ、交渉で譲歩を迫る手法を用いる傾向が目立つ。英誌エコノミストによると、「Make threats,strike deals,declare victory(脅かして、取引まとめて、勝ち名乗り)」とされる。

それを承知の上かどうか中国メディアによると、外交部の陸慷報道官はZTE問題をめぐる米側の発言を高く評価。「現在米側と具体的細部の実施について緊密なコミュニケーションを取っている。米側の注視する幾つかの具体的問題についても、中米双方は緊密なコミュニケーションを取っている」としている。【5月19日 レコードチャイナ】
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上記【レコードチャイナ】記事は、ZTEへの制裁緩和を、“トランプ流の「ディール(取引)」が本領を発揮”と評価していますが、アメリカ国内の受け止め方は必ずしもそうでもないようです。

安全保障上の嫌疑がかけられているZTE製品
トランプ大統領は、中国との貿易問題を安全保障と一体化させる形で進めてきました。

****中国台頭、変わる貿易摩擦 米、安保と同一視/知的財産を重視****
(中略)一方、日米、米中で最も違うのは、米国にとっての安全保障上の位置づけだ。

米国は中国と緊密な経済関係を持つとはいえ、ロシアと並ぶ脅威とみなす。トランプ政権は「経済の安全保障が国家の安全保障だ」(ナバロ大統領補佐官)との発想に立ち、軍事上の目標を通商交渉を通じて達成しようとする。

米政権は、外交・安全保障政策の指針として昨年末に発表した「国家安全保障戦略」で、「敵対国はサイバー手段による経済戦の一環として、洗練された手法で米企業や経済を弱めてきた」と指摘。今年3月以降、中国の知的財産侵害を理由とした関税案を示し、対中交渉を本格化させた。(後略)【5月18日 朝日】
*******************

ZTEについては、かねてより、その機器やソフトにバックドアが仕込まれており、情報が中国側に流されていると言われてきました。

また、華為技術(ファーウェイ)のスマートフォンにも同様のバックドアが仕組まれていると言われており、アメリカのCIAやFBI、国家安全保障局(NSA)などは、アメリカ国民に対して、ZTEやファーウェイのスマートフォンを使用すべきではないと警告してきました。【5月17日 MAG2NEWS】

更に、米国防総省は、「許容不可能」なセキュリティー上の危険をもたらすとして、米軍基地での販売を禁じています。

****中国2社の携帯電話、米軍基地で販売禁止に****
米国防総省は、中国の華為技術(ファーウェイ)と中興通訊が製造した携帯電話などの製品について、「許容不可能」なセキュリティー上の危険をもたらすとして、米軍基地での販売を禁じた。
 
同省では、一般消費者向けの電子機器が軍人の通信を傍受したり、その位置を追跡したりするため使われることへの懸念が高まっている。
 
同省のデイブ・イーストバーン報道官は4日、「ファーウェイ、ZTEの機器は(軍の)人員、情報、任務に対して許容不可能なリスクをもたらす」と指摘。世界各地の米軍基地で軍が経営する店舗で両社製品の販売を続けることは「賢明ではない」と述べた。
 
同報道官によると、先月25日にファーウェイ製品の販売中止が指示され、さらにZTE製の携帯電話やその関連製品も基地内の店舗から撤去された。
 
同報道官は潜在的な脅威に関する技術的な説明を避けたが、米紙ウォールストリート・ジャーナルによれば、国防総省は、両社の機器を使う兵士の位置情報が中国政府に追跡されることを懸念している。
 
ファーウェイの広報は、同社の機器は米国を含め同社が事業を展開するすべての国で、セキュリティー、プライバシー、技術の各面で最高の基準を満たしていると主張。さらに「われわれのネットワークや機器のセキュリティーや健全性を損なうような要請は、いかなる政府からも受けていない」と説明した。
 
ZTEは現時点でコメントの求めに応じていない。【5月5日 AFP】
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ZTEへの制裁緩和の大統領方針 議会は反発
このように、ZTEの問題は安全保障そのものでもありましたが、今回罰金を科す形で“手をうつ”ことを、トランプ大統領は検討しています。

****中国通信機器大手への制裁、米政権が緩和方針****
米政権による制裁の影響で経営危機に陥った中国の通信機器大手・中興通訊(ZTE)について、米側が、制裁を緩める方向に転じた。

制裁は、対中通商交渉で圧力をかける米政権の切り札的な存在で、緩和すれば米中通商摩擦で高まった緊張感は沈静化に向かう。ただ、米議会は反発しており、流動的な要素も残る。
 
トランプ大統領は25日、ツイッターで「高いレベルの安全を守らせた上で経営陣を刷新し、13億ドルの罰金を支払い、米国製部品を買うことを条件に事業を再開させてやった」と述べた。
 
ZTEは、中国政府による米国内でのスパイ活動への関与が疑われており、米議会は、安全保障上の懸念から与野党を超えて反発を強めている。

野党民主党上院トップのシューマー院内総務は25日、ツイッターで制裁緩和に反対し、「トランプ氏がしているのは『中国を再び偉大にする』ことだ」と批判。与党共和党のマルコ・ルビオ上院議員も「議会が行動を起こさなければいけない」と述べた。
 
反発の背景には、憲法上、通商問題の権限を握る議会へのトランプ氏の根回し不足がある。トランプ氏は13日、制裁緩和をツイッターで示唆。突然の動きに議会側は強く反発。議会の委員会が大統領の制裁緩和を禁じる法案修正を施し、有力議員が超党派で制裁維持を求めている。【5月27日 朝日】
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罰金の金額については、トランプ大統領と習近平国家主席の間で、バナナの叩き売り(今や死語ですが)のようなやりとりもあったようです。

****トランプ米大統領と中国・習主席、ZTE問題の罰金で激しい駆け引き****
2018年5月26日、米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(中国語電子版)は、トランプ米大統領の中国通信機器大手・中興通訊(ZTE)に対する制裁見直し発表について「中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とトランプ氏との電話会談で激しい駆け引きがあった」と伝えた。

トランプ大統領は25日、米誌フォーブスに対し「習氏に電話をして『ZTEの業務再開に向けて助言がほしい』と要請した。同社の関係事業には数万人が関わっており、自分の故郷でもZTEは多くの人々を雇用しているからだ」と述べたことを明かしていた。(原文のまま)

会談で習主席は、制裁緩和の代わりに5億ドル(約547億円)の罰金支払いを提案。トランプ大統領は15億ドル(約1670億円)を主張した。さらにZTE経営陣の刷新や、安全保障上の懸念の解消、米製品の購入を要求したという。協議の結果、罰金は13億ドル(約1422億円)に落ち着いた。【5月27日 レコードチャイナ】
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(要請したのは習近平氏ではないでしょうか?)

ただ、野党・民主党と一部の共和党議員から「北京に頭を下げるものだ」「米国の安全保障に重大な脅威となると米情報機関が警告した企業に対する寛大な処置だ」などの批判が出ているのは前出【朝日】のとおり。

通商問題と安全保障を一体化して「取引」を行った結果、安全保障をなおざりにした形で経済的なレベルで合意することへの反発ともいえます。(根底には、議会の大統領への不信感もあっての話ですが)

表に出ない話として、北朝鮮問題への対応なども絡めて「取引」されたのかどうかは、わかりません。

【“痛みに対する忍耐度は低い”トランプ大統領?】
一連の交渉・「取引」に関しての評価は、前出【レコードチャイナ】のようなトランプ大統領の「取引」評価がある一方で、中国側の戦略が勝ったとの評価もあるようです。

****米中貿易戦争、中国が上手 トランプ氏の急所突く****
ドナルド・トランプ米大統領が通商政策を巡り仕掛けたけんかの中でも、中国に対するけんかでは、トランプ氏は最も強力な交渉カードを有している。

この対中貿易摩擦には、カナダやメキシコ、西欧諸国や日本との対立にはない、経済的、戦略的、そして政治的な言い分があるのだ。
 
しかしながら、驚くべきことに、中国は勝利を収めようとしているようだ。まだ戦いは始まったばかりだが、中国はこれまで、米国による関税の脅威のほぼ大半を免れる一方で、大きな譲歩はほとんど行っていない。
 
トランプ氏は当初、歴代の米大統領よりも、中国との対立を厭わないかのように見えた。だが、中国はトランプ氏の弱みをまんまと突いてきた。

その弱みとは、中国が支援している北朝鮮の問題を巡り、トランプ氏が事態打開を望んでいること、とりわけ共和党地盤の農業州など、政治的痛みに対しトランプ氏が反応しやすいこと、さらに交渉の取引材料に法的な手続きを持ち込むという中国の戦術を活用することにトランプ氏も前向きであるという点だ。
 
米国は週末、中国の輸入品1500億ドル(約16兆6000億円)相当に対する関税の導入を当分見送ることを決定。中国はその見返りとして、米国からエネルギーや農産物の輸入を拡大することで合意した。

これは状況を一変させるものでは全くない。エネルギー、農産物は両方とも国際市場で取引されることから、中国による米国からの輸入拡大は、いずれにしても輸入するものについて、調達先の一部を単に米国に振り向けるだけの可能性が高い。

この合意によって、米国の農家は今後、一段と優位な価格設定を求め、中国の需要に応じて、ソルガムなど、生産する農産物の配分を変えていくことになるだろう。だが、米国の総生産量は常に、国際市況によってほぼ決定される。
 
同様に、米シェール生産業者が中国への輸出を拡大すれば、他国への販売は減少するだろう。(中略)

中国が表明した米国からの輸入拡大により、米国の対中貿易赤字はある程度削減されるだろうが、圧縮幅は、トランプ氏が求める2000億ドルの規模には到底及ばない。

さらに重要なことに、強制的なライセンス供与や合弁設立、盗難などを通じた外国企業の知的財産権の取得や、中国に進出する外国企業の事業運営制限など、中国当局が様々な手段を使って自国企業を支援し、海外の競合相手から市場シェアを奪うことに比べれば、貿易赤字はそれほど問題ではないのだ。(中略)
 
米外交評議会(CFR)の通商問題専門家、ブラッド・セッツァー氏は、中国がこれまで行った最大の確約は「今後どのような状況になっても、輸入を拡大する公算が大きい品目の輸入を増やす」というものだと指摘する。

一方で、「製品輸入の少なさ、そして今以上に製品輸入の縮小を目指すといった中国の世界的な通商パターンについて、構造的問題は解決されなままだ」という。
 
米当局者は今後の中国との協議で、さらに大きな譲歩を引き出すかもしれない。(中略)だが米当局者から、中国に対するレバレッジ(交渉上の相対的優位性)を行使しようとする意欲はほとんど見られない。
 
中国は長らく、海外の企業や政府との交渉材料として、衛生管理や反トラストに関する法律を自国の都合のいいように執行してきた。

今回の米中通商摩擦問題でも、米国産の車両や大豆に対する税関検査を強化したり、米企業によるオランダ半導体買収計画への反トラスト審査を遅らせたりするなど、同じような戦略を行使している。

トランプ氏も事実上、同じことをやった。商務省は、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)が米国の制裁法に違反したとして、米企業によるZTEへの部品供給を禁じた。
 
中国が通商協議の一環として、ZTEへの制裁緩和を要求すると、トランプ氏はこれに応じてしまった。米国のある元通商当局者は、ZTEを交換条件としたことは「極めて異例だ」と指摘する。

「これは米国の安全保障は取引可能だとの立場を示すことになる」という。ムニューシン長官は、ZTEの問題は「全く別だ」と主張する。
 
トランプ氏が先月、中国に対する大規模な制裁措置を発表した際、この戦いは「多少の痛み」を伴うかもしれないと述べた。

だが痛みに対するトランプ氏自身の忍耐度は低いようだ。米国の対中輸出への依存度は、中国の対米輸出への依存度に比べて低いが、中国は11月の米中間選挙に重要な影響を及ぼす、共和党のお膝元である州の農産品輸出を標的にした。米当局者が対中報復措置の回避を優先することも、これでうなずける。

中国はこの貿易摩擦問題でなお弱い立場にある。だが、中国が手持ちのカードを米国よりもはるかに上手く使っていることは確かだ。【5月23日 WSJ】
******************

“痛みに対する忍耐度は低い”というか、目先の成果をアピール(主に支持者向けに)するためには、長期的・総合的影響は無視する・・・イラン核合意でも、移民対策でも、そんな傾向があるようにも見えます。
北朝鮮問題ではどうでしょうか?
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中国がひた走る「デジタル・レーニン主義」は、新たな社会モデルとなるのか?

2018-05-26 22:24:49 | 中国

(中国の「超監視社会」にあっては、本文で扱うようなIT技術だけでなく、人間の目も活用されています。
“中国の北京では、公認の赤いベストや腕章を着用した85万人を超す高齢のボランティアが街角で目を光らせる。休日には大挙して出動し、交通整理や道案内などに精を出すが、彼らの最もよく知られた活動は、近所で不審な行動が見られないか監視することだ。「世界で5番目に大きな情報機関」と呼ばれることもある。”【NATIONAL GEOGRAPHIC  2018年4月号】

また、“中国国家安全省はこのほど、国の安全に危害を与える情報を募る専用サイトの運用を始めた。スパイやテロのほか、政権転覆、国家分裂を扇動する組織など共産党・政府に反対する動きを密告するよう奨励している。”【4月17日 時事】)

有効活用が可能なIT技術も、情報の国家管理が進むと・・・・
中国が顔認証システムなどAIを駆使したIT技術を活用して、様々な個人情報の一元的に国家管理し、個人の信用度も格付けされるような、近未来社会のひとつのモデルを構築しつつあることは、これまでも再三とりあげてきました。

2017年10月18日“中国・習近平政権 IT技術によるビッグデータ活用で目指す「デジタル・レーニン主義」”
2017年11月12日“中国 権力集中とIT技術活用で懸念される監視・密告社会 現実となる「ビッグ・ブラザー」の恐怖
2018年1月23日“ 中国 ビッグデータ解析・ネット規制でめざす「神の見えざる手」によらない「特色ある社会主義」”
2018年5月5日“中国 AI活用で14億人を国家が格付けする「ランク社会」の現実味

これまでのブログ表題にもあるように、その社会の特徴は、個人を国家が格付けする「ランク社会」であり、すべての犯罪行為・反社会行為を監視される究極の「超監視社会」であり、「見えざる手」によらない「特色ある社会主義」を管理しようという「デジタル・レーニン主義」とも称されるものです。

小説では、ジョージ・オーウェルによる“ビッグ・ブラザーがあなたを見ている”という「1984年」の世界であり、TVドラマで言えば、「ブラックミラー」の「ランク社会」の描き出す世界です。

ジョージ・オーウェルの時代、「1984年」のような監視社会を可能にする技術はまだ存在していませんでしたが、いまや技術的に可能なになり、中国が先陣を切って実現しようとしています。

下記のような顔認証システムの“成功例”などは、そうした社会への一歩を示すものとも言えます。

****観客2万人から容疑者拘束”中国の顔認識システムが話題****
中国で、コンサート会場に設置された監視カメラがおよそ2万人の観客の中から顔を識別して犯罪の容疑者の拘束に結びつけ、中国の画像認識システムの技術の高さを示すものだなどとして話題となっています。

警察の発表によりますと、20日夜、浙江省嘉興で開かれた香港の有名歌手のコンサート会場で、詐欺の容疑で指名手配されていた男が警察に拘束されました。

この男は、コンサート会場を訪れたところを監視カメラに捉えられ画像認識システムで手配中の容疑者の顔と特定されたあと、警察に通報されたということです。

当時、コンサート会場には、およそ2万人の観客がいたということで、今回の容疑者拘束は、中国の画像認識システムの技術力の高さを示すものだなどとしてインターネット上で、話題となっています。

中国では、国をあげてAI=人工知能による画像認識技術の開発を進めていて、警察などが捜査に積極的に活用しています。【5月22日 NHK】
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“ただし、顔認識システムで容疑者の現在位置まで追跡できるわけではなく、捜査員が携帯しているスマートフォンに送られた写真と容疑者の顔を何度も見比べて確認したとのこと。
「天網」「天眼」などと呼ばれる顔認識システムを利用した容疑者逮捕は今回が初めてではなく、昨年8月には山東省青島市で開催されたビールフェスティバル会場では25人を逮捕するなど、人の集まる場所での逮捕に成果を上げているとのことだ。”【https://yro.srad.jp/story/18/04/14/206221/】とも。

あるいは、以下のような“高齢化社会にふさわしい”技術も。

****湖南省衡陽市、QRコード付きリストバンドを高齢者に無料配布****
中国人口福利基金会が主催する「愛の黄色いリストバンド」イベントが9日、湖南省衡陽市で行われ、イベント会場では黄色いリストバンド300本以上が無料配布された。

中国人口福利基金会が主催する「愛の黄色いリストバンド」イベントが9日、湖南省衡陽市で行われ、イベント会場では黄色いリストバンド300本以上が無料配布された。新華網が伝えた。

同イベントの規定に基づき、70歳以上、もしくはアルツハイマーと診断された70歳未満の患者を対象に、QRコードが印刷された黄色いリストバンドが無料配布され、このリストバンドをつけた高齢者に道端で出会った人はQRコードをスキャンすることで、その高齢者に関する情報を得ることができ、すぐに彼らの家族と連絡を取ることができる。【5月14日 Record china】
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認知症対策としては有効のようにも思えます。
“道端で出会った人はQRコードをスキャンすることで、その高齢者に関する情報を得ることができる”というのは「どうだろか・・・」という感もありますが、名前・住所を書いた名札を身に着けるようなものと思えば・・・・。

ただ、こうした手法が拡大すると、そのうち認知症高齢者だけでなく、全国民がこうしたリストバンド着用を義務付けられ(TVドラマ的には、“チップを埋め込まれ”)、現在の性犯罪者GPS監視のように国民全員のリアルタイムの情報がすべて把握される社会もやってくるのかも。

また、情報の国家管理だけでなく、国民同士の情報共有にも。初対面の人物でも、スマホを向ければその者の信用情報がわかる・・・ということにもなるのかも。

中国が目指す「デジタル・レーニン主義」 「「これからの中国は14億人のデータを使って計画経済を管理する」】
少し、「超監視社会」「ランク社会」「デジタル・レーニン主義」から離れて、まったく別の中国社会の話題をひとつ。

****離婚するのにテストが必要?中国の地方政府が正式導入****
2018年5月22日、観察者網は、江蘇省連雲港市東海県で19日から、離婚テストが正式に導入されたと伝えた。

記事によると、この「離婚テスト」は離婚を考えている夫婦を対象としたもので、お互いの感情を考察するためのものだという。テスト結果が60点以上の場合は考え直す余地があることを示しており、60点以下だと婚姻関係は破綻するとみられるとのことだ。

この「離婚テスト」を受けた最初の夫婦は、息子と娘の2人の子どもがいる80年代生まれの夫婦で、テストの結果は妻が100点だったが、夫は0点だった。担当者は、女性の方は夫や家庭に対して深い感情があるため、男性によく考えるよう勧めたという。

連雲港政府は21日、「離婚テスト」の問題を全て公表した。設問は穴埋め問題が10問で40点、簡単な記述式が4問で40点、もう一つの記述式が1問で20点となっている。

穴埋め問題は、結婚記念日、配偶者の誕生日、子どもの誕生日、配偶者が一番好きな食べ物、子どもが一番好きなお菓子、夫婦間で最近コミュニケーションをとったのはいつか、配偶者の両親の誕生日、家族旅行の回数、配偶者との恋愛期間、家事の分担割合について質問している。

簡単な記述問題では、「夫婦で最も幸せだったことは何か」、「今の夫婦間で最も大きな問題とは何か」、「家庭の責任において自分がよくできていることとできていないことは何か」、「家庭の責任において配偶者がよくできていることとできていないことは何か」の4問で、最後の問題は「婚姻関係や家庭に対する今の見方、離婚する理由と今後の計画」について質問している。

これに対し、中国のネットユーザーから「大人なのだから離婚するかしないかは本人たちの自由だ」との意見や、「結婚する際にテストを受けるべき」という意見が寄せられていると記事は紹介した。

こうした反響に東海民政部門は、「このテストは任意であって強制ではない」と強調。20日には結婚テストも準備したことを紹介し、「主な目的は夫婦に愛情や婚姻、家庭について真剣に考えてもらうことだ」と回答している。【5月23日 Record china】
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「余計なお世話だ」という感もありますが、基本的に中国社会は“国民管理”がお好きなようです。

その点で先ほどからの“超監視社会”と相性がいいのでしょう。そうした個人情報が国家管理される社会になれば、離婚も、そして結婚も、一元管理された情報で“判断”されることにも。

当初は、二人の相性データが参考データとして示されるだけですが、やがては、結婚・離婚もそうした情報にてらして基準に合うもののみが(つまりAIが認めるもののみが)容認される・・・・という社会も。
そんなドラマも「ブラックミラー」にあったような気もします。

****デジタル・レーニン主義、中国で構築進む壮大な社会管理システム****
中国でビッグデータやAI(人工知能)を活用した社会管理システムづくりが着々と進んでいる。システムは個人や企業の信用情報などに活用される一方、ブラックリスト入りすると、航空券の購入が制限されたりする。日本や欧米の研究者は中国の壮大な取り組みを「デジタル・レーニン主義」と名付けている。

習近平政権は1期目の2014年に「社会信用システム構築計画網要」を決定。20年までに個人・企業の行政事務、商業的活動、社会的行為、司法制度の4分野を重点に全社会をカバーする信用システムの構築に着手している。

中国では個人や企業に日本のマイナンバーに似た18桁の識別番号を付与。すでに稼働している「信用中国(Credit China)」サイトでは、行政許認可と行政処罰の開示情報を対象者の氏名・名称や識別番号で検索することが可能となり、違法駐車歴も見られる。

借金不払いで強制執行を受けても返済しない人物のブラックリストも公開。

債権者が裁判所に申請すれば飛行機や高速鉄道に乗れなくする措置も可能で、中国メディアによると、今年4月末時点で、裁判所による全国の信用失墜被執行者は1054万人、航空券購入制限者は累計1114万人、高速鉄道乗車券購入制限者は425万人に上る。

市場監管総局によると、営業許可が取り消された企業は1848万社、経営異常企業457万社、厳重違法企業は33万社という。

顔写真、指紋などの「生体認証情報」を識別番号で個人にひも付けする「アドハー・システム」も完成。その上に住所や銀行の取引明細、職務経歴や病院での診察、納税状況などあらゆる個人データを組み合わせて一元管理する「インディアスタック・システム」もある。

中国の「インターネット安全法」はネット事業者に政府への協力を義務付けており、これらの技術を駆使すれば人口14億人のどの人でも、それが誰であるか3秒以内に突き止められるデータベースづくりも可能とされる。

社会管理システムに中国政府が最も期待しているのは、国を支える経済への貢献。電子商取引などを手掛ける阿里巴巴(アリババ)集団の創始者・馬雲(ジャック・マー)会長は「旧ソ連が崩壊したのは計画経済ができなかったから」と指摘する。信頼できる正確なデータが取れず、間違った情報などを基に経済を運営してしまったとの趣旨だ。

馬氏の発言は「これからの中国は14億人のデータを使って計画経済を管理する。市場経済の見えざる手ではなく、計画経済の見える手で優位に立つ」ことを意味する。中国が目指すシステムが「デジタル・レーニン主義」と呼ばれる由縁でもある。【5月26日 Record china】
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トランプ氏のような人物に投票する“民主主義” 「中国のシステムが世界秩序の未来だとは思わないが・・・・」】
監視カメラやドローンによる監視社会という点では、別に中国だけでなく、日本を含めて多くの国家が積極的に拡充しています。例えば、民主主義国イギリスのロンドンなどは、監視カメラの数では世界有数とか。

ロンドンの監視カメラはIRAテロを契機に導入されたものですが、イギリスが大きな議論もなく現在の監視社会を受け入れているのは、過去にファシズム政権などの歴史がなく、“国家は善良である”と思われていること、「007」に象徴されるように、諜報活動を美化する心理があることなどによるとか。【NATIONAL GEOGRAPHIC  2018年4月号より】(ちなみに、監視カメラというと、コンビニ店に設置されているような解像度の低いものを連想してしまいますが、ロンドンの街頭に設置された高解像度カメラは400m(!)離れた場所にいる人物の姿・顔を鮮明に映し出すことができます。)

日本も、東京オリンピックに向けて、一段と拡充されるのでしょう。

ただ、欧米の多くの国では個人情報の国家管理には抵抗もありますが、独立した個人による市民社会を経ずに一気に近未来社会にカエル跳びしようとしている中国では、そうした面での抵抗感が少なく、「デジタル・レーニン主義」だか「超監視社会」だかも実現しやすいのでしょう。

「デジタル・レーニン主義」に支えられた一党支配の中国モデルは、これまでの欧米的民主主義に代わる、あらたな国家・社会の在り方を提示することにもなっており、その“有効性”に引き寄せられる国家・指導者も。

****チャイナスタンダード)独自の統治モデルを意識 「Gゼロ」世界、中国の好機 識者に聞く****
民主主義か独裁か、自由か統制か、多国間協調か自国第一か。
中国の台頭と米国の変化で、世界が岐路にさしかかっている。両大国を見つめてきた日米の識者に、不確実性を増す時代を読み解いてもらった。

 ■独自の統治モデルを意識 人権や自由、受容するか焦点 早稲田大学名誉教授・天児慧(あまこさとし)氏
 ――中国では習近平(シーチンピン)国家主席への権力集中が強まっています。
「国家主席の任期制限撤廃など、習氏による『独裁』を巡る議論は、人類共通の歴史的な政治課題と捉えた方がいい。
ドイツでヒトラーが台頭したように、政治システムは民主主義が問題を解決できなくなると独裁に、独裁が強まると民主主義に振れる。
冷戦の終結はリベラルデモクラシーの勝利ととらえられたが、いま民主主義は世界が直面する課題を解決していない」
 「中国共産党は文化大革命の後、経済の近代化と政治の近代化を目指した。政治の近代化とは、つまり民主化だ。経済発展のために権威主義的統治が必要であるにしても、いずれ政治が徐々に民主化していくとトウ小平を含む指導者たちも考えていた」

 ――今はどうでしょう。
 「今は違う。西側の民主主義は行き詰まったと指導者が認識している。習氏が国家主席に就任した2013年ごろから共産党は、経済と政治を含む概念として新たな『中国モデル』を意識し始めた」
 「昨年の共産党大会などを見ると、50年ごろには米国を超えるという目標を立てているようだ。理念やシステムで世界的な影響力を持つという戦略が出てきているのではないか」

 ――あなたは習氏が目指すのは「賢人政治」に近いとおっしゃっています。
 「行政、立法、司法の上に賢人が担う『政治』がある。王滬寧(ワンフーニン)氏や国家副主席の王岐山(ワンチーシャン)氏、経済ブレーンの劉鶴(リウホー)氏、腹心の栗戦書(リーチャンシュー)氏らが賢人集団をつくっている」
 「これは民主主義か独裁か、という問題への一つの答えだが、中国の文脈では儒教の伝統という面がある。修身によって聖人をつくり、その聖人による統治を理想とする考えが、中華帝国の中心的イデオロギーとしてあった。近代以降、儒教は遅れた思想とされ、共産党も否定したのだが、最近は復活しつつある」

 ――中国式の統治は他国に広がるでしょうか。
 「経済発展が遅れた地域ではある程度広がりそうにみえる。ただ、中国自身、経済発展を遂げて民意を担う主体も登場しているのに、なぜ今の体制が受け入れられているのか、という問題がある。やはり民主主義の混迷に加えて治者と被治者を区別する儒教的政治文化が要因として大きいのではないか」
 「明確な方向性を提起するには賢人政治の方が優れた面もある。中国を『あいつらは独裁だ』と批判するだけでは低質な議論にしかならない。民主主義を鍛える努力を抜きにして、独裁と比べるべきではない」
 「一方、習氏は『賢人政治』に必要な、優れた指導者を選ぶ仕組みを作っていない。民主主義と中国式統治は、どちらも試されている」

 ――中国はかつての英米のように基準をつくり、世界をデザインする意欲を持っているでしょうか。
 「意欲があっても、一番の障害は中国の政治文化がトップダウン型だということ。欧米はボトムアップであり、そこから民主主義も生まれた。中国が善政を敷くといっても抵抗があるはずだ」
 「中国は『特色ある』という言葉を好んで使う。欧米とは同じようにはできないという意味だ。しかし世界が受け入れるのは普遍性であって、特殊なものではない。『パックスシニカ(中国による平和)』の実現は、やはり人権や自由といった普遍的価値を中国自身が受容するかどうかにかかっているのではないか」(聞き手・平井良和)

 ■「Gゼロ」世界、中国の好機 米の政治、深刻に壊れている ユーラシアグループ社長、イアン・ブレマー氏
(中略)
 ――あなたは2016年の大統領選の直後、将来世界史の本には『パックスアメリカーナ(米国による平和)』は45年に始まり、16年に終わったと記される――と言いましたね。
 「間違いなくそう言える。米国人はトランプ氏のツイートばかり気にし、世界秩序の変化に関心を持っていない。だが10年後に振り返れば、習氏の演説こそパックスアメリカーナの終わりに向けた転換点だったとわかるだろう」
 「人々は5年前ですら、世界の未来は自由民主主義にあり、中国は政治改革をしなければ崩壊すると思っていた。だが中国は改革もせず崩壊もしていない。米国のモデルも受け入れていない。実際、自分たちのモデルが本当に機能するのかと迷うようになっているのは米国人のほうだ」
 「中国は、ビッグデータ、人工知能など世界で最も重要な技術革新で米国に挑んでいる。米国は、中国のモデルがいかに自分のものと違い、新しいかということを過小評価してきた。第3次世界大戦が起きるとは思わないが、米中間のテクノロジーの冷戦となる可能性はかなり高い」

 ――長期的にみて、民主主義の押し返しはあるのでしょうか。
 「それはわからない。我々が認識すべきなのは、米国の政治システムは本当に改革が必要だということだ。自由民主主義や多国間主義、歴史に培われた米国の価値観に無関心なトランプ氏のような人物に投票するという米国人の考え方自体、米国の政治システムの何かが深刻に壊れていることを示している」
 「第2次大戦後、米国は世界で最もうまく統治されたシステムだったかもしれない。だが、世界が七十数年で変わり、米国のシステムが変わらなければ、どこかの時点で壊れる。中国のシステムが世界秩序の未来だとは思わないが、米国のシステムであるようにもみえなくなってきている」

 ――見通しが全く不透明ですね。
 「米国が主導した世界は、中国が主導しそうな世界より個人の権利に関心を払ってきたと言える。米国がそうした関心や能力を持たなくなれば、我々は重要なものを失う。価値を築くのは長い時間がかかり、再建するのはとても難しい」【5月1日 朝日】
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アメリカ国境に到達するも野宿を強いられる「キャラバン」参加者の一部 移民・難民拒否の背景にあるもの

2018-05-25 21:41:06 | アメリカ

(【5月1日 AFP】 米国境・ティファナに到達した「キャラバン」の一部)

トランプ大統領、中米からの移民・難民「キャラバン」を阻止する構え
トランプ大統領は公約であるメキシコ国境での“壁”建設を、何としてでも実現させるつもりのようです。
背景には、メキシコ側が国境管理で十分に努力していないとの不信感があります。

****トランプ米大統領、「壁」建設の費用全額を近く要請へ****
トランプ米大統領は16日、公約に掲げているメキシコ国境沿いの壁建設を巡り、建設費全額を手当てする資金を近く議会に要請する考えを明らかにした。議会で予算を巡る攻防が再度展開される可能性が出てきた。(中略)

「メキシコは米国に何もしていない。メキシコは意見を述べても、とりわけ国境問題では米国のために何もしていない。貿易に関しては米国が得るものはさほどない」と語った。(中略)

大統領は先月、議会が国境の壁建設費用を増額しなければ、9月に連邦政府機関を閉鎖することも辞さないとの考えを明らかにしている。【5月17日 ロイター】
*******************

メキシコとの国境を越えてアメリカに流入する移民・難民は、メキシコ人はあまり多くなく(最近では、アメリカからメキシコに戻る人数の方が多いとも)、ホンジュラスやエクアドルなど中米が主流となっています。

その流れを象徴するのが、4月初めに話題になった「キャラバン」です。
中米からの移民・難民が集団でメキシコ領内を通過してアメリカ国境に至るもので、“「移民による十字架の道行き」運動”という毎年行われているものです。

“「移民による十字架の道行き」運動を進めているのは、国境なき人々を意味する「Pueblo Sin Frontera」と呼ばれる団体。米国境を目指す中米諸国からの移民が、犯罪組織や当局の阻止を回避する手助けを行っている。”【4月2日 AFP】

今年は規模が大きく膨れ上がったこと、この動きを取り上げる保守系メディアにトランプ大統領が同調したことで、大きくクローズアップされました。

トランプ大統領は「キャラバン」の通過を許容するメキシコ政府を「メキシコ政府の努力は、皆無とは言わないがそれに等しい。わが国の生ぬるい移民法をあざ笑っている」と批判し、「麻薬と人間の大きな流れを止めなければならない。さもなければ、私が同国のドル箱であるNAFTAを止める。壁が必要だ!」【同上】とも。

更に、メキシコとの国境地帯に州兵を配備するよう指示して、実力で阻止する構えを示していました。

****米国夢見る「移民キャラバン」、トランプ氏睨まれ立ち往生****
「キャラバン」と呼ばれる中米移民の一団は先週、貧困や暴力問題など、本国で置かれた窮状を訴えるため、メキシコ南部からデモ行進を開始した。
 
その多くは、米国までたどり着き、新しい人生を始めたいと語る。だが、このキャラバンが今、米国とメキシコの間で深刻化する危機の焦点に浮上した。そしてツイッター上では、ドナルド・トランプ米大統領がほぼ毎日のように、キャラバン批判を展開する。
 
こうした状況下で、一団は米国との国境から数百マイル離れた小さなメキシコ南部の集落で、大部分が歩みを止めた。居心地の悪い視線にさらされながら、今後どうなるのか懸念している。
 
ホンジュラス出身者を中心とする約1200人の移民は、地元の公共スポーツセンターで4日目を迎えた。丸めたマットレスや空き缶などが詰まったゴミ袋に囲まれて、センターの外で横たわっていた男性は「宙ぶらりんの状況だよ」と話す。
 
キャラバンによるデモ行進は2010年以降、定期的に開催されていたが、主催者は今年のキャラバンの規模、そして注目度の高さに驚いていると認める。また当初目指していた米国国境への到達は、変更を迫られる公算が大きいとの見方も示す。
 
キャラバンの指導者の1人、イリネオ・ムジカさんは、「1000人もの集団で国境にたどりつくことはできない。グループが大き過ぎる。これだけ多くの人が参加するのは見たことがない」と述べる。前回のキャラバンは約300人規模だったという。
 
トランプ大統領は、キャラバンの行進を阻止せず、移民を本国に送還していないとして、メキシコを激しく非難する。大統領はこの問題を巡り、北米自由貿易協定(NAFTA)離脱の構えを見せるほか、国境沿いに米軍を派遣する考えも示している。
 
メキシコにとっても、キャラバンがここまで大きな騒ぎになったことは想定外で、不意を突かれた格好だ。メキシコ当局者は不法移民は認めておらず、過去数年に急増する中米からの移民を送還したと主張する。
 
メキシコ移民局は現在、大半のキャラバン移民に対し、期間20日のメキシコ通過ビザか、メキシコで難民申請するための期間30日の人道ビザを提供している。
 
メキシコ当局者は、移民が難民申請に流れ、キャラバン危機が収束することを願っていると密かに明かす。メキシコのルイス・ビデガライ外相は3日遅く、ツイッターへの投稿で、キャラバンは「解散した」と述べたが、4日朝時点で、キャラバンは総じて継続しているもようだ。
 
ワシントンのシンクタンク、移民研究センターのディレクター、マーク・カーコリアン氏は、メキシコ経由で米国を目指すホンジュラスからの移民は、亡命との主張を放棄すべきだと指摘する。

同センターは移民制限を支持する立場だ。カーコリアン氏は「難民制度が機能しているメキシコを1000マイル(約1600キロメートル)も通過して、米国にやって来るのであれば、迫害からの亡命を求めているとは言えない」と述べる。
 
キャラバンの主催者である前出のムジカ氏は、移民の70%程度は、メキシコ滞在の正式な手続きが行われ、働くことができれば、喜んでメキシコに残ると話す。多くはメキシコに兄弟姉妹がいるという。(中略)
 
だが、米国行きを諦めない人もきる。3日遅く、キャラバンの大きな集団は、ホンジュラスの国旗を振りながら町中を行進し、トランプ大統領の反移民政策への抗議活動を展開していた。
 
犯罪組織による暴力や政治不安が悪化する中、ホンジュラスから米国への難民申請は過去10年に劇的に増えた。司法省の最新データによると、2010〜2016年にエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスからの難民申請は800%急増した。
 
一方、メキシコはホンジュラス移民への取り締まりを強化している。移民動向を調査する左派寄りの非営利組織ワシントン・オフィス・オン・ラテン・アメリカによると、メキシコで取り押さえられたホンジュラス移民は2月に5000人超に達し、総じて月2000〜3000人程度だった2017年から急増した。
 
今回のキャラバンは米国内でいつになく注目を集めているが、抗議活動は本来、メキシコを通過する移民の苦境について人々の関心を高めることが目的だった。

最初のキャラバンは2010年、米テキサス州と国境を接するメキシコ・タマウリパス州で中米からの不法移民70人以上が麻薬カルテル「セタス」に誘拐、殺害されたことを受けて開催された。

犯罪組織や腐敗した治安当局者がメキシコを通過しようとする不法移民を食い物にする中、キャラバンとして一緒に進むことで結束が増し、一段と安全になると、事情を知る関係者は語る。
 
だが、移民と共に取り組む別の組織からは、設備の整っていない避難場所で大量の移民を保護するなど、実施面での難しさから、参加者の心身を害するような行為だとの批判も上がっている。【4月5日 WSJ】
*******************

トランプ大統領の厳しい姿勢を受けて、「キャラバン」参加者の多くはアメリカ行きをあきらめました。

***国境に現れなかった「移民キャラバン****
貧しい中米移民を侵略軍に仕立てる必要はない

国境を警備する計画がうまくいっているのか、あるいは差し迫った国家的危機なのか、ドナルド・トランプ米大統領は決められないようだ。
 
トランプ氏はつい最近まで米南西部の国境付近で逮捕件数が減っていることを称賛していた。ところが「キャラバン」と呼ばれる中米移民の一団がメキシコを経由して国境のリオグランデ川を目指していると新興ネットニュースメディアのバズフィードやFOXニュースが伝えると、トランプ氏はそのニュースに飛びついた。

当初「米軍」を国境に送り込むと話し、その後は州兵を現地に派遣する命令に署名するなど、まるでロシアが侵略してきたかのような対応を見せた。
 
その必要はなかったようだ。侵略するとされた大勢の人は、メキシコシティーにすらたどり着くことなく、そのほとんどが散り散りになった。

彼らの多くが米国を目指していたかどうかも、そもそも明らかではない。トランプ氏は「キャラバンはほとんど解散した」とツイッター上で認め、日頃はあざけることが多い「メキシコの強力な移民法」の成果だと続けた。
 
その後の同氏は再び国境警備の成果に触れ、「トランプ政権による行動のおかげで不法入国は46年ぶりの低水準だが、まだ容認できない」とツイートした。
 
国境付近での逮捕は2017会計年度に31万0531件となり、少なくとも2000年以降で最も低くなっている。だが2月と3月は前年同月比で増加した。米国経済が好調なことで、仕事を求める移民を引きつけていることが背景にあると推測できる。
 
これはトランプ氏の経済政策の矛盾を色濃く映し出している。税制改革や規制緩和によって経済拡大が進めば労働市場の逼迫(ひっぱく)も進み、より多くの移民を引きつけるからだ。

トランプ氏にとっては国境警備ではなく、経済成長のために必要な合法的移民を増やす改革に乗り出す方が賢い選択だろう。そうすれば貧しい移民たちを侵略軍に仕立てる必要もなくなる。【4月6日 WSJ】
*****************

【「キャラバン」の一部はアメリカへ難民申請を希望 アメリカ側のサボタージュで野宿を
「キャラバン」の多くは解散しましたが、一部はアメリカ国境に到達し、アメリカへの難民申請を希望しています。

****私たちは犯罪者ではない」 移民キャラバン150人、対米国境に到着****
米入国を目指していた中南米出身の移民から成る「キャラバン(旅の一団)」のうち、少なくとも150人が29日、メキシコ北部の対米国境の町にたどり着いた。移民らは米国での難民認定申請を強く求めている。
 
3月25日以降、中米出身者ら1000人以上が「キャラバン」を組んでメキシコ南部の国境から米国境に向かって移動しており、今回、メキシコ・ティフアナ(Tijuana)にたどり着いたのはその一部。4月29日には米国側から国境警備隊が移民を監視している姿も確認できた。
 
エルサルバドルから2人の孫を連れてやって来たという女性(52)はAFPの取材に対し、「私たちは今も、難民だと認めてもらう必要があるんです。米政府に門戸を開いてもらいたい」と話し、「一番心配なのは孫たち。2人と引き離されるのは嫌です」と続けた。
 
中にはホンジュラス国歌を歌っている人々もおり、そのうち約30人が国境の壁をよじ登り、移民の苦しみについてシュプレヒコールを上げていた。
 
キャラバンのまとめ役を務める活動家団体「Pueblo Sin Frontera(国境なき人々)」のイリネオ・ムヒカ氏は、「私たちは米国の大統領に言いたい。私たちは犯罪者でもテロリストでもない。私たちが安心して生きていける機会を与えてほしい」と話した。【4月30日 AFP】
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しかし、アメリカ側は「通関地での処理は限界だ」という理由で、これらの難民申請を門前払いし、一行は一時しのぎの野営地での野宿を強いられています。

****亡命”審査厳しく・・・・キャラバンたちの実情****
アメリカのトランプ大統領が公約に掲げる国境警備の強化。そのメキシコ側の町では、行き場を失った人たちが一時、野宿を余儀なくされていた。いったい何があったのか――その背景を取材した。

■「まん延する犯罪から逃げてきた」
(中略)ホンジュラスから来た男性はこう話す。
「国にまん延する犯罪から逃げてきました」殺人事件が多発するなど治安が悪化した母国を脱出し、メキシコを北上。ティフアナまでの4000キロの道のりを、約1か月かけて列車などで移動した。

■厳しくなった“亡命”審査
そんな彼らが求めるのは、アメリカへの亡命だ。しかし、キャラバンの支援者は現状をこう話す。
「残念なことですが、野宿は初めてのケースです。今年は(アメリカの)国境警備担当者がキャラバンに対し、国際法を犯してまで拒否している状況です」

同じような亡命申請は毎年のように行われているが、2018年はアメリカの審査が厳しくなったという。

■夫が殺されキャラバンに
広場で出会ったイルマさんは、幼い子ども2人とホンジュラスから逃れてきた。家族は、突然の事件に巻き込まれた。イルマさんは、どんな事件があったかを語ってくれた。

「私の夫は7か月前に殺されました。死体が投げ捨ててあったんです。誰の仕業か分かりません」
夫を失った悲しみを抱えながら野宿を続けていたイルマさん。亡命が認められるのを信じて待つしかなかった。

■「子どもたちにはアメリカにいてほしい」
不法移民への対策強化に力を入れるトランプ大統領は、キャラバンを威圧するように国境付近の警備兵を増やした。
審査が厳しくなったとの訴えに、アメリカ当局は「施設の受け入れが限界に達しているため」と説明。キャラバンが野宿を始めてからしばらくして、少しずつ審査が行われるようになった。(中略)

■いまだ続くテント生活
国境の町で野宿を余儀なくされた人たち。約230人が亡命申請し、野宿での待機は1週間ほどで解消されたが、ティフアナに設置されたシェルターでは、亡命申請ができない人たちなどがテントでの生活を続けている。
彼らが、落ち着いた日常を手に入れるまでの見通しは立っていない。【5月25日 日テレNEWS24】
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雇用状況、人口動態的には移民を必要としているアメリカ 「彼らは人間ではない、けだものだ」 文化的な感情に根ざした反移民ムード
経済的な情勢からすると、現在のアメリカは移民労働力を必要としている状況にあります。

****移民巡る議論、米経済の現実と明らかなズレ****
共和党の対立や米国民に深く根ざす感情が背景に

最近ニュースになった話題を挙げよう。
米国の出生率が劇的に低下しており、昨年生まれた新生児の数は30年ぶりの低水準だった。
アラスカ州の漁業関係者、ニューハンプシャー州の外食産業、メリーランド州のかに加工業者は、働き手が決定的に足りないと口をそろえる。

農業関係者は労働者を数千人増やす必要があると話し、人手不足で海外に農業生産の一部が移っていると訴える。米国の職場全体では660万人の欠員が生じている。つまり歴史上初めて、失業者全員に職を提供するだけの求人数があるということだ。
 
一方で、米議会下院では18日、実質的に審議がストップした。共和党の一部議員が合法的な――不法移民ではなく、あくまでも合法的な――移民の制限を旨とする法案の採決を求めているからだ。
 
もし読者がこれに違和感を覚えるならば、2018年の移民を巡る議論が、経済の現実と全く切り離されて進んでいるように思えることが原因だ。
 
成長と繁栄を続ける米国経済は、かつてないほど移民の労働力を必要としている十分な根拠がある。今や失業率は3.9%にまで低下し、約17年ぶりの低水準にある。全米独立起業連盟(NFIB)によると、求人募集しても採用枠が埋まらない中小企業は3分の1を超えるという。(中略)
 
これが目下の状況だ。そして長期的な人口動態学上の傾向も、移民が害を及ぼすよりも有益であることを示している。
 
(中略)出生率の低下が意味するのは、移民を受け入れない限り、米国では長期的に人口高齢化が進むということだ。(中略)実際、人口統計学者は向こう30年以内に米国で歴史的な逆転現象が起き、65歳以上の高齢者の割合が18歳以下の未成年者を上回ると予想する。
 
これらを勘案すると一つの国の姿が浮かび上がる。すなわち移民を受け入れても問題ないばかりか、むしろそれを望むべきであり、実際に必要とするだろう国の姿だ。ただし、移民を取り巻く環境は近年で最も敵対的である。
 
この異常な状況を見て取れるのが移民関連法案を巡って激しい攻防に明け暮れる米下院だ。こうした対立は何よりも、共和党内の亀裂に起因している。

共和党は長年、理念上も経済的な理由からも、米国の血流に常に新たな活力源を取り込む手段として、移民におおむね好意的な姿勢を示してきた。

だがドナルド・トランプ大統領の就任を機に(2016年の同氏の選挙運動がその流れを先導したのだが)、共和党の中で明らかに移民のマイナス面を強調するグループが次第に主流となり始めた。

米下院の一角を占める共和党の穏健派は、幼少時に親に連れられて米国に不法入国した若者「ドリーマー」の恒久的な在留資格を認める法案の成立を目指している。

もう一方の共和党保守派は、より強硬な移民規制策を支持している。ドリーマーに恒久的な資格を認めず、3年ごとに一時的許可を与えるというものだ。
 
より重要なのは、この法案がさらに踏み込んだ内容を含むことだ。不法移民を取り締まるだけでなく、合法移民の数をも減少させる一連の措置を提案している。

同法案の支持者は年間26万人(25%に相当)の移民削減につながると主張。移民を支持する立場のリバタリアン(自由至上主義者)系シンクタンク、ケイトー研究所は、実際には40%近く減少するだろうとの見方を示す。

「政策主導で合法移民を削減する措置としては、人種差別的な恐ろしい法律が導入された1920年代以降で最大の減少幅になるだろう」と同研究所は述べた。
 
移民規制派は、移民を取り締まることで、雇用主は米国生まれの従業員の賃金を引き上げざるを得なくなると主張する。

だが現在の反移民ムードは、職に対する不安感に根ざしているのと同じくらい、文化的な感情に根ざしていると思われる。つまり多くの米国人が、米国が自分たちのものではなくなり、その伝統が奪われつつあると感じているのだ。米国の国境を守ろうとする​動きが、はるかに広範な感情に形を変えて表出しているのだ。【5月22日 WSJ】
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移民・難民への厳しい対応は、経済合理性ではなく、“文化的な感情に根ざしている”ということです。
問題は、そうした感情が、人間として肯定すべきものかどうか?というところでしょう。

暴言・過激発言・嘘・デタラメは今更珍しくもないトランプ大統領ですが、不法にアメリカに入ろうとする移民について「こういった人々がどれだけ邪悪か、信じられないだろう。彼らは人間ではない、けだものだ」と発言。

この発言について、大統領は犯罪組織を指したものだと釈明しましたが、メキシコ政府は許容できない発言だとして非難しています。【5月18日 ロイターより】
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トランプ大統領の一方的イラン核合意離脱 その独善と愚行がもたらすもの

2018-05-24 22:40:45 | イラン

(イラン・イスファハンの「エマーム広場」 スカーフから前髪を出した女性も、しっかりとスカーフを被った女性も、夕暮れのひと時を思い思いに楽しんでいました。【昨年7月旅行時に撮影】)

米「我々の努力が、長く苦しむイラン国民のためになることを願う」 イラン「米は何様のつもり」】
去年、イランを旅行して目にしたのは、“神権政治”といったおどろおどろしいイメージとはかけはなれた、欧米・日本同様に自由な社会を望む人々の生活でした。(もちろん、わずか数日の観光旅行者の目でみて・・・という話ですが)

しかし、一方で、人々が集まるチャイハネ(茶店)が当局の指示で姿を消すなど、自由を求める市民の動きと、保守的勢力の微妙なバランスの上にイラン社会が成立しているようにも見えました。

8日にイラン核合意離脱を表明したアメリカ・トランプ政権は21日、ポンペオ米国務長官が核合意に代わる「新たなディール(取引)」の用意があると、新たな包括的な対イラン戦略を表明しています。

新合意の内容については、▽核計画の完全開示と永続的な放棄▽ウラン濃縮の停止とプルトニウム生産の完全な断念▽核弾頭が搭載できるミサイルの打ち上げ、拡散の停止▽テロ組織支援の停止▽シリアからすべての部隊の撤退▽近隣諸国への脅迫行動の停止など12項目の要求を挙げています。

そして、イランが要求に従わない場合は、「歴史上最強の制裁を科す」とも断言しています。

また、イランが行動で重大な変化を示した場合の「見返り」として、(1)あらゆる制裁の解除(2)外交・通商関係の完全な回復(3)先端技術へのアクセス(4)イラン経済の国際経済システムへの再統合を支援するとも表明しています。【5月22日 朝日より】

ポンペオ米国務長官は、アメリカが最終的に(イラン国民のために)イランの体制転換を求めていることを何度も示唆しています。

****対イラン強硬策、実効性は 核放棄・シリア撤退・・・米12項目要求****
トランプ米政権が21日に公表した包括的な対イラン戦略は、イランに高い要求を突きつけ、体制転換を求めていることも示唆する厳しい内容だった。

米国はイランの核開発やミサイル開発を大幅に規制する新たな国際合意を目指すが、イランは猛反発し、欧州も懐疑的で、実現は不透明だ。
 
「最後は、イラン国民が指導者を選択する」
21日に戦略を発表したポンペオ米国務長官は、米国がイランの体制転換を求めていることを何度も示唆した。

イラン国民を思いやる言葉も重ね、「我々の努力が、長く苦しむイラン国民のためになることを願う」と強調した。
 
トランプ大統領は8日、オバマ前政権下で米英仏独ロ中6カ国とイランが2015年に結んだ核合意から離脱すると表明。核合意で解除されていた制裁は8月と11月に再発動される。
 
対イラン強硬派をそろえるトランプ政権が打ち出した今回の戦略は、イランを追い込み、体制転換も排除しないものだ。

ポンペオ氏はイランに「史上最強の制裁を科す」と断言した。背景には、オバマ前政権の政治的遺産である核合意が「崩壊寸前のイランを救った」とするトランプ氏の持論がある。
 
ポンペオ氏が提示したイランへの12項目の要求には、核開発の放棄や弾道ミサイルの開発中止のほか、シリアからの兵力撤退など中東でイランの影響力を消滅させる項目が並ぶ。米国はイランにディール(取引)を迫り、見返りとして国交回復などを挙げる。
 
米国が再発動する経済制裁は、イランと取引がある他国の企業にも影響が及ぶ。だが、ポンペオ氏は「各国は(イランで)経済活動を停止しなければならない」と訴え、「米国第一」で圧力を強化する姿勢を明らかにした。【5月23日 朝日】
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こうした「イラン国民のために史上最強の制裁を科す」というアトランプ政権の姿勢に、当然ながら、イランは「何様のつもりか」と強く反発しています。

****世界は米による代理決断受け入れず」イラン大統領、米に猛反発****
(中略)ロウハニ大統領はこれに強く反発。

複数のイランメディアが報じたところによると、同大統領は文書で「イランと世界に代わって決断を下すとは何様のつもりだ」と問い、「世界は今や、米国が世界のために決断することを受け入れはしない。国にはそれぞれの独立性がある」と述べた。
 
さらにドナルド・トランプ米大統領について、ジョージ・W・ブッシュ元大統領の時代まで「15年逆行する動き」であり、「2003年と同じ文言の繰り返し」だとその政権運営を批判した。【5月22日 AFP】
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今回のアメリカの要求は、イランにとってはのめないものであり、また、穏健派と保守強硬派の微妙なバランスの上に立つイラン政治にあっては、アメリカへの歩み寄りは保守強硬派からの“弱腰批判”に直結します。

***イラン、対決姿勢鮮明「米は何様のつもり****
(中略)核開発の完全断念やウラン濃縮の停止といった米国の要求は、核合意の修正が必要となる。だが、ロハニ師は「核合意の再交渉は一切しない」立場だ。
 
核・弾道ミサイル開発関連以外の要求も、イランにとって受け入れがたいものばかりだ。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの支援は、敵対するイスラエル牽制(けんせい)に不可欠だ。ヒズボラへの支援を続けるためにも、シリアに駐留する部隊を撤退させることはできない。
 
イランでは反米を基調とする保守強硬派が「米国の要求に屈するな」と訴えている。ロハニ師は対外融和路線を掲げる保守穏健派で、保守強硬派と対立している。米国に歩み寄る姿勢を少しでも見せれば、弱腰批判を避けられない。(後略)【5月23日 朝日】
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穏健派ロウハニ大統領としては、アメリカ抜きの核合意を欧州と維持することで、経済への打撃を食い止めたいところで、(トランプ大統領の方針が中東における核ドミノなどをもたらしかねない危険性があることに加え)イランとの現在・将来の経済関係を無にしたくない欧州側も思いは同じです。

しかし、イランと取引をした第三国の企業も対象とするアメリカの制裁措置によって、欧州がイランとの関係を続けることは困難と思われています。

フランスのエネルギー大手トタルがイランと交わしたガス田開発プロジェクトから手を引くと発表したように、すでにアメリカ市場へのアクセスを断たれるのを恐れるイラン進出欧州企業が続々とイランからの撤退をはじめています。(撤退する欧州企業の空白を埋めるのは中国だとも推測されています)

【「アメリカはこの合意を守ると信じた私たちがバカだった」 イラン国内にいら立ち、怒り、裏切られたという思い
国民感情レベルでみても、トランプ大統領の一方的合意破棄によってイラン国内には「アメリカに裏切られた」という思いが強く存在しており、今後経済の悪化ともに、アメリカへの反感、ひいては経済制裁解除を求めてアメリカ・欧州との核合意を進めた穏健派ロウハニ政権への失望、イラン独自路線を主張する保守強硬派的な政治雰囲気がますます強まることが予想されます。

****イランはアメリカを二度と信用しない****
<新時代の対米関係を夢見た革命防衛隊隊員は、今やアメリカの核合意離脱を悔やむ>

「アメリカはイランとの約束を守るはずだと、信じた私たちがバカだった」。そう語ったハサンは80年代の対イラク戦争に参加した、イラン革命防衛隊の元軍人。今の職業は映画監督だ。

「79年のイラン革命からもう十分な歳月が流れた。またアメリカといい関係になれると思っていたのだが」。首都テヘランの国営映画会社にある自室の電話口で、ハサンはそう言って深いため息をついた。(中略)

アメリカとの関係を変えることは可能だし、それは正しいことだと思えた稀有な時期が、こんなふうに終わってしまうのか。彼らの口調には、そもそも甘い期待を抱いたことへの後悔の念がにじみ出ていた。

今から4年前、彼らはハサン・ロウハニ大統領とジャバド・ザリフ外相の路線をめぐって熱い議論を重ねていた。核合意の交渉に欧州諸国とロシア、中国だけでなくアメリカも加えることの是非についてだ。

当時の彼らは、昼食時に集まって意見を交わしていた。ハサンはアメリカとの対話を支持していて、「この合意ができたら、ザリフはモサデクの再来だな」と興奮して語ったこともある。1951~53年にイランの首相だったモハンマド・モサデクは、英米に搾取されていた石油産業の国有化を推進した人物。ただし親米派のクーデターで首相の座を追われている。

あのとき、ガセムはハサンに反論して、こう言っていた。「そして結局は、同じようにアメリカに捨てられるのか」
ガセムは戦争で兄弟2人を失っていた。長兄はイラク軍の爆撃で死亡、末弟は毒ガス攻撃の後遺症で05年に死亡した。(中略)

「アメリカは中東で痛い目に遭ってきた。あんな乱暴なまねはもうできない」。ガセムにそう反論した同僚のアリは、期待を込めてこうも言った。「それに、彼らも学んだはずだ。この地域で政権転覆を目指すのは無駄だという教訓をね。ロウハニとオバマ(米政権)なら、何とか話をまとめるだろう」

筆者は14年に、革命防衛隊の隊員20人以上による議論の場に何度も同席した。当時は慎重ながらも楽観的な見方が多かった。革命防衛隊が核合意を阻止するという欧米メディアの観測に反して、実際に私の接した隊員たちは交渉に期待していた。

改革の一歩という期待
ガセムのような慎重派がいたのは事実だが、筆者の会った人の半数以上は、ハサンの「両国とも過去の遺恨を忘れるときだ」という発言に賛同していた。

年齢40代後半から50代前半の彼らは、これからは自分たちが国を背負っていくのだと自負。欧米諸国に積極的に関与し、宗教的な縛りを減らし、経済を開放する意欲に燃えていた。

筆者の目にした隊員たちは狂信的な過激派ではなく、自分の意見を自由にぶつけ合っていた。政治家や官僚の無能さを鋭く指摘し、革命以来この国を牛耳っている聖職者への批判も口にしていた。 

もちろん、全員が核合意に賛成していたわけではない。しかし80年代にイラン・イスラム共和国を守るために命懸けで戦った彼らは、革命の理想を失わずに内部から改革を進める必要性を感じていた。つまり彼らは現実主義者だった。

ハサンをはじめ、筆者が何年も対話してきた元隊員らは、イデオロギーにこだわり過ぎることのリスクを承知していた。(中略)

核合意は15年7月に成立。しかしハサンたちは、手放しでは喜べなかった。それは待望の変化への重要な一歩だったが、あいにくアメリカ側に不気味な予兆があった。

16年の大統領選挙だ。当選したドナルド・トランプは核合意の破棄を唱えていた。そしてイラン嫌いのジョン・ボルトンが国家安全保障担当の大統領補佐官となり、マイク・ポンペオが国務長官になり、ついに5月8日、核合意からの離脱を発表した。

対米関係が徐々に改善されていくことに期待していた隊員たちは、落胆するしかなかった。

大使館人質事件が遺恨
「ガセムが正しかったな。アメリカ人を信じるべきじゃなかった」とハサンは言った。

当初から核合意の先行きを危惧していたガセムも、それ見たことかと喜ぶ代わりに、こう指摘した。「仲間たちがイランの核合意を支持したときに見落としていたのは、革命でイランから追い出されたことを根に持つ勢力が米政界の主流にいる事実だ。革命直後の在イラン米大使館人質事件は、彼らにとって飼い犬に手をかまれたようなものだった。アメリカが望んでいるのは、われわれの全面降伏だ」

「どちらの国にも、新たな関係を築こうとする人はいる」とガセムは続けた。「しかしアメリカのオバマ派もイランのロウハニ派も、所詮は政界の一勢力にすぎない」

いら立ち、怒り、裏切られたという思い。14年に会い、この数週間に電話で話した彼らの口ぶりからは、そんな気持ちが痛いほど伝わってきた。そして彼らは異口同音に「自分はバカだった」と漏らした。

「イランは核合意を守ってきたが、アメリカは約束を破った。それだけでなく、イランについて嘘を広めようとしている」。ハサンは、イランが秘密裏に核兵器の開発を続けているとのアメリカとイスラエルの主張に怒りを表した。

「アメリカはこの合意を守ると信じた私たちがバカだった。でも米国民や国際社会も、また(アメリカとイスラエルの)同じ嘘にだまされるほどバカなのか」

トランプのアメリカが今後どう出ようと、イランは欧州諸国との協調を維持すべきだ。筆者が接触してきた元革命防衛隊員たちは全員、本気でそう願っている。「しかしアメリカとの関係では、私たちは二度とバカなまねはしない」。そう言ったのは元幹部のメフディだ。

「この国の頂点に立つ老師たちは、もともと一度としてアメリカを信用したことがない。彼らは今頃、私たちを物笑いの種にしているだろうな」【5月18日 Newsweek】
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トラウマにとらわれたアメリカのタカ派が長年追求し続けている「体制転換」という現実無視の夢想
イランに圧力をかけることで体制転換が実現する・・・という発想がどこから出てくるのか?
トランプ大統領のかける圧力は、イラン国内にひろく存在した常識的・現実主義的な市民感情を押しつぶし、アメリカが夢想する神権政治的な体制へとイランを追いやるだけにすぎないように思われます。

トランプ大統領とその支持者たちのイランへのイメージは、大使館占拠事件のときのまま時が止まっているようにも思えます。そのトラウマにとらわれたイラン憎しで凝り固まっているようにも。

もちろん、イランが周辺地域にその影響力を拡大しようとしているのは事実です。ただ、それはアメリカも、ロシアも、中国も・・・どこの大国・地域大国でも行っている行為であり、イランだけのことではありません。

アメリカの圧力の結果、反米・保守強硬派の強まるイランも核合意を離脱し、核開発に乗り出すことに。
そうなればパキスタンの核開発パトロンであるサウジアラビアは核兵器の移転を求めることにもなります。(両国の間には、そのような密約があると言われています)

サウジが核兵器を保有すると、アラブ首長国連邦、クウェートなどもパキスタンから核兵器を購入し、エジプトは自力で核開発を行う・・・・中東の核ドミノが始まります。【5月20日 佐藤優氏 産経】

イランの核開発を警戒するイスラエルは、イランの核開発が成果を出す前に軍事行動に出る可能性も。
中東大乱の幕開けです。トランプ大統領の望みがそうした戦争でイランを叩きつぶすことであるなら、大成功かも。
ただ、イラン・イラク戦争を耐えたイランは空爆などでは屈服しません。イスラエル・アメリカもイランの泥沼にはまることになるかも。

****イラン核合意離脱を欲した米強硬派が夢見る愚かなシナリオ****
<イランに核兵器を持たせたくないなら、核合意を維持強化するのがベストの選択肢だった。世紀の失策をやらかしたトランプ一味の考えとその恐るべき影響は>

以前から予想されていたように、ドナルド・トランプはイランとの核合意(包括的共同作業計画:JCPOA)からの離脱を決定した。これはトランプ自身のエゴやバラク・オバマに対する嫉妬、強硬派の支持者やタカ派の大統領顧問たち、何より彼自身の無知に屈した結果だ。

今回のトランプの決定は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱と共に、彼の最悪の外交失策となる可能性が高い。

なぜこんなことになったのか。トランプの心の内を理解することが重要だ。

トランプは、イランが核兵器を保有するのを阻止しようとしたわけではない。もしそれが狙いならむしろ合意の維持にこだわり、最終的には合意を恒久化するために交渉する方が、はるかに筋が通っている。

そもそも、イランの核関連施設を監視し査察する国際原子力機関(IAEA)と米情報機関は、核合意に署名して以来、イランはこれを完全に遵守していると保証している。政治ジャーナリストのピーター・ベイナートが指摘するように、約束を守っていないのはアメリカのほうだ。

アメリカは信用を失った
トランプは、シリアのバシャル・アサド政権やレバノンのシーア派武装組織ヒズボラを支援するイランに対抗しようとしたわけでもない。もしそれが狙いなら、イランの核兵器保有を妨げる合意を維持し、他の国々をアメリカの陣営に引き入れて、イランに圧力をかけることこそ合理的だったはずだ。

だが、核合意を成立させた多国間の連合を新たにまとめることは不可能であるばかりか、イランはアメリカと交渉する気を失くしてしまった。トランプはいずれそのことを思い知るだろう。

信用を犠牲にしてまで核合意を離脱したトランプの真意は単純だ。イランをペナルティボックスに入れて、外界との接触を断とうとしたのだ。

この点、イスラエルと米イスラエル・ロビーの強硬派、ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官、マイク・ポンペオ国務長官らタカ派の思惑は一致している。

彼らの最大の懸念は、アメリカと中東の同盟国がイランを正当な中東の大国と認めざるを得なくなること、イランが中東である程度の影響力をもつのを認めなければならなくなることだった。

イランが中東を支配しようとしている、という話ではない。イランはおそらくそんなことをめざしていないし、達成できる見込みもない。問題は、中東におけるイランの権益を認めなければならないことであり、その結果、地域の問題について話し合うときには、イランの意向も考慮せざるを得なくなるということだ。

これは、イランが国際社会から孤立した「のけ者」であり続けることを望むアメリカのタカ派にとって、受け入れがたい事態だ。

アメリカのタカ派やイランの反政府勢力が長年追求し続けているのは「体制転換」という甘い夢だ。(中略)

タカ派は、体制転換には2つのルートがありうるとみている。

第1のアプローチは、経済的圧力を強めてイランの一般国民の不満を煽り、現在のイスラム共和制が崩壊するのを期待する。第2は、イランを挑発して核兵器開発計画を再開させ、アメリカが予防的に戦争を仕掛ける口実にすることだ。

制裁による体制転換は望めない
これらの選択肢をもう少しくわしく見てみよう。(後略)【5月9日 Newsweek】
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トランプ大統領の独善と愚行は、イラン国内の自由・民主化を求める市民感情を押しつぶし、イランを反米強硬派へと走らせ、中東に核拡散の危機を招き、イスラエルを巻き込んだ戦争を惹起するだけにすぎないように思います。
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ミャンマー  ロヒンギャによるヒンズー教徒住民虐殺 被害者が加害者となるとき

2018-05-23 22:58:20 | ミャンマー

(ミャンマー西部ラカイン州マウンドーで、発掘された家族の遺体のそばで泣くヒンズー教徒の女性たち(2017年9月27日撮影)【5月23日 AFP】)

少数派イスラム教徒ロヒンギャの武装勢力によるヒンズー教徒住民虐殺
ミャンマー西部のラカイン州におけるイスラム系少数民族ロヒンギャに対する、過激派掃討を名目にした国軍等による暴力的“民族浄化”の問題は再三取り上げてきたところです。

このロヒンギャの問題は、イスラム系少数民族ロヒンギャとミャンマーにおける多数派仏教徒の対立という構図で語られる場合が多いのですが、この地域にはロヒンギャ以上に少数派であるヒンズー教徒も暮らしており、イスラム系ロヒンギャによるヒンズー教徒虐殺という問題も指摘されています。

****ロヒンギャ危機】武装勢力、ヒンドゥー教徒100人近くを大量虐殺か=人権団体****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは22日、ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの武装勢力「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)が、昨年8月の襲撃で何十人ものヒンドゥー教徒の民間人を殺害していたとする報告書を公開した。

報告によると、ARSAは1回もしくは2回にわたる虐殺行為で、最大99人のヒンドゥー教徒を殺害したとされる。ARSAは関連を否定している。

虐殺は、ロヒンギャの武装集団がミャンマー軍に対して行った攻撃の初期に行われた。ミャンマー軍も、ロヒンギャに対する残虐行為で批判を浴びている。

昨年8月以降、ロヒンギャなど70万人近くの人々が暴力から逃れた。
この紛争では、ミャンマー人の多数を占める仏教徒や、ヒンドゥー教の人々も住む場所を追われた。

アムネスティ・インターナショナルは、闘争の起きたミャンマー西部ラカイン州や避難先のバンクラデシュで難民に聞き取り調査を行った結果、昨年8月末にARSAが警察の詰め所を襲撃した際、バングラデシュ国境近くのマウンドーのいくつかの村で大量殺人を行ったことが明らかになったとしている。

またARSAは、他の地域でも小規模ではあるものの、市民に対して暴力行為を働いていたことが分かった。

報告書では、8月26日にヒンドゥー教徒の村が襲われた際、「この残虐で無意味な行為で、ARSAの戦闘員は多くのヒンドゥー教の女性や男性、子供を捕らえて弾圧した後、村の外で殺害した」と詳しく説明している。

生き延びたヒンドゥー教徒はアムネスティ・インターナショナルに対し、親族が殺されるのを目撃したり、その叫び声を聞いたと語った。

この村出身の女性は、「(ARSA戦闘員は村の)男たちを殺した。私たちは、その姿を見るなと言われた(中略)ナイフやくわ、鉄棒を持っていた(中略)私たちは生け垣に隠れていたので少しだけ見えた(中略)叔父や父、兄弟、みんな殺された」と話した。

ARSAの戦闘員はこの村で、男性20人、女性10人、子供23人を殺害したと言われている。子供のうち14人は8歳以下だったという。

アムネスティ・インターナショナルは、この村の住民45人の遺体が昨年9月、4カ所の集団墓地で発見されたとしている。残りの犠牲者や、隣村で殺害された46人の遺体は発見されていない。

調査では、この隣村での大量殺人も同じ日に行われた。合計の死者は推定99人に上るという。

アムネスティ・インターナショナルはまた、「ミャンマー軍による非合法で一方的な暴力活動」も批判している。
「ARSAの非道な行為の後、ミャンマー軍はロヒンギャに対する民族浄化を行った」

一連の調査結果は、「ラカイン州やバングラデシュ国境で行われたインタビューに加え、司法病理学者による証拠写真の鑑定」に基づいているという。

アムネスティ・インターナショナルのティラナ・ハッサン氏は、この調査が「最近のラカイン州北部の言語道断なほど暗い歴史において、ほとんど報道されてこなかったARSAによる人権侵害に、必要な光を当てた」と話した。

「ARSAの行為はあまりに残虐で、無視するのは難しい。証言してくれた生存者たちに、ぬぐいがたい強烈な印象を残していた。ARSAの責任を問いただすことは、ミャンマー軍がラカイン州北部で行った人道に対する罪と同じくらい重要だ」

昨年8月以降、70万人近いロヒンギャの人たちがバングラデシュへ避難した ARSAはこれまで、虐殺行為の疑いを否定しており、戦闘員が村民を殺したなどの主張は「うそ」だと反論している。

ロヒンギャは独自の国家を持たないイスラム教徒の少数民族で、ミャンマーでは広く差別の対象となっている。実際には何世代も前からミャンマーに住んでいるものの、同国はロヒンギャをバングラデシュからの不法移民とみなしており、政府はロヒンギャに市民権を与えていない。

バングラデシュも、ロヒンギャに市民権を認めていない。【5月23日 BBC】
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このロヒンギャによるヒンズー教徒虐殺は、以前から(国際社会からロヒンギャ虐殺で非難されている)ミャンマー国軍によって強くアピールされています。

下記記事は、ヒンズー教徒の集団墓地が発見された昨年9月のものです。

****ミャンマー軍、ヒンズー教徒の集団墓地発見 「ロヒンギャの仕業****
ミャンマー軍は24日、暴力の連鎖で荒廃した同国西部ラカイン州で、女性と子どもを含むヒンズー教徒28人の集団墓地を発見したと発表した。

その上で、殺害に及んだのはイスラム系少数民族ロヒンギャの武装集団だと断定した。
 
ラカイン州では先月25日にロヒンギャ武装集団による襲撃が発生して以来、宗教間の暴力紛争に発展し、以前はイスラム教徒と同じ村内に暮らしていたヒンズー教徒も、ロヒンギャ武装集団の標的にされていると訴えて数千人が避難している。
 
同域ではミャンマー軍が立ち入りを厳しく規制しているため、発表の真偽の第三者的立場からの確認は取れていない。(中略)

ラカイン州からは1か月足らずで43万人以上のロヒンギャがバングラデシュに避難。避難者らはミャンマー軍の兵士らが自警団員と結託して民間人を殺害し、村全体を焼き払ったと訴えている。
 
また同州内のヒンズー教徒と仏教徒の合わせて約3万人も、暴力行為のため避難を余儀なくされている。いずれもAFPの取材に対し、ロヒンギャ武装集団に恐ろしい思いをさせられたと語っている。【2017年9月25日 AFP】
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バングラデシュ側における仏教徒迫害も
更に、ロヒンギャ難民が大量流入したバングラデシュ側には少数派仏教徒が暮らしており、この地では多数派であるイスラム系ロヒンギャから迫害を受けているとの訴えもあります。

****ロヒンギャが直面する想像以上に深刻な対立****
ヒンドゥー教徒・仏教徒も命の危険に怯える

(中略)宗教がからむ形での住民殺戮は、バングラデシュにある別の難民キャンプでも聞かされた。迫害されているはずのロヒンギャたちは、別の宗教を攻撃しているのだ。

「イスラムに改宗しろ、さもなくばヒンドゥー教徒は殺すと脅された。行方不明になった人たちだってたくさんいる」

そう話すのは、夫を失い、必死にミャンマーから出国した女性。彼女が身を寄せているのはクトゥパロン・キャンプからほんの数キロ離れた、「ヒンドゥパラ」と呼ばれる難民キャンプ。

人数は約500人と小規模で、全員がヒンドゥー教徒だという。幹線道路にまで人があふれるイスラム教徒のキャンプとは異なり、そこは奥まった場所にひっそりとあった。

ロヒンギャから迫害される人たち
「われわれを襲ったのはロヒンギャです。ここに来てからもイスラムのロヒンギャから暴力を受けて安心できない」
ヒンドゥー教徒が「ロヒンギャに暴行された」と傷跡を見せてくれた

多くのヒンドゥー教徒難民が、ミャンマーで経験したロヒンギャからの迫害と被害を口にする。中には「ARSA(アラカン・ロヒンギャ救世軍)」と武装勢力の名前を挙げ訴える者もいたが、他方、ミャンマー軍に追い出されたと話す難民もいて情報は錯綜していた。

ミャンマー軍は最近になって国内で虐殺されたヒンドゥー教徒の集団墓地をたびたび発見し、そこに埋葬された人々の殺害を「ロヒンギャの仕業だ」と報告している。

対してバングラデシュに避難したロヒンギャ難民は、ヒンドゥー教徒の虐殺は仏教徒、すなわちミャンマー軍が行ったと主張する。ミャンマー軍の言い分に同意し協力するヒンドゥー教徒を非難する声も、ロヒンギャたちからは聞こえた。

こうなると本当はなにが起こっているのか分からなくなってくる。確かなことは、ミャンマー国内においてもっとも少数派であるヒンドゥー教徒が、自分たちより多数派の“何か”に迫害され、難民化したということだ。

今回の難民の大量流出は、ロヒンギャの武装勢力とミャンマーの軍治安部隊の衝突がきっかけだった。背景にあるのはミャンマー南部ラカイン州に住むイスラム教徒ロヒンギャへの、長年にわたる仏教徒たちからの迫害とされる。

政府はロヒンギャを「ベンガル人の移民」などと呼び、少数民族として認めてもいない。

そもそもロヒンギャとはどんな人たちなのか。歴史的、民族的な特長で括られる存在なのか。イスラム教でつながる彼らの宗教的エスニシティ(ひとつの共通な文化をわかち合い、その出自によって定義される社会集団)を指すのか。実は明確には定まってない。

この地域を研究する専門家たちに実際に聞いても、意見は分かれる。さらにロヒンギャが暮らしていたラカイン州には、ロヒンギャと同じベンガル系住民のヒンドゥー教徒が隣り合って暮らす。

バングラデシュの難民キャンプで彼らは、「ヒンドゥー・ロヒンギャ」という名称で難民登録さえされていた。ロヒンギャ問題の解決の難しさは、この地域の人々が形成するアイデンティティの複雑さにも一因があるのだろう。

国家間での難民の押し付け合いが始まっている
ミャンマーとバングラデシュ両国は11月、ロヒンギャ難民の帰還を進める合意書に署名をした。しかし、具体的な帰還手続きや期限は盛り込まれてはいない。

難民化したロヒンギャという“厄介者”を早期返還したいバングラデシュ側と、追い払った異分子はもう受け入れたくないミャンマー側。

合意からは問題解決の意思よりも、難民を押し付け合う両国の思惑がいっそう透けて見えてしまう。

バングラデシュの中で、今回の事態をもっとも危惧しているのは国内の仏教徒たちだ。ミャンマーとは逆に、バングラデシュでは仏教徒は少数派であり、イスラム教徒から迫害を受ける立場だとされる。

コックスバザール郊外に約3万人の仏教徒が住む「ラモ」という町があるが、ここでは5年前、イスラム教徒によって12の仏教寺院などが襲撃され焼失した。

「当時、イスラムの暴徒にはロヒンギャも混ざっていました。彼らは難民キャンプからやって来た。ロヒンギャはとても好戦的で、再び大量流入している現状を私たちはとても心配しています」(シマビハール寺院のシラピリャ僧侶)

そう言われたロヒンギャ難民にしても、なにも望んでバングラデシュにやって来たわけではない。彼らだってできることなら一刻も早く故郷に戻りたいのである。

しかし、迫害が続くミャンマーへの帰還を巡っては、難民の間でも揺れる気持ちがあるようだ。

ロヒンギャ難民のノルさん夫妻に新しい家族が誕生した。子どもはイスラム教徒が多数のバングラデシュで育てたいと話す

難民キャンプで生まれた子の未来は
バングラデシュ最大の難民収容所、クトゥパロン・キャンプでの礼拝後、モスクから足早に自宅へと向かうロヒンギャの男の姿があった。彼、ノルさんにはその朝、ひとりの男の子が生まれた。身重のまま国境の川を越えた妻コリーさんが、出産を終えたのだ。キャンプでは、コリーさんが近所の人たちに祝福されながら、ようやく目が開きかけた赤子を抱いて待っていた。

「幸せです。この子のためにもう危険なミャンマーには戻りたくない。イスラム教徒がいるバングラデシュで教育を受けさせたい」

ミャンマーからの難民流入は60万人を超えた。その半数以上は子どもたちだとされる
ミャンマーで教師をしていたというノルさん。彼の願いが叶えば、生まれた子にとってはバングラデシュの難民キャンプこそが“故郷”になる。

難民として異国のイスラムコミュニティーで育つこの子の未来は、はたしてどんな世界が待っているのだろうか。名前はまだなかった。イマーム(イスラムの指導者)に相談していい名を付けたいと、若い父親は語ってくれた。【1月1日 木村 聡氏 東洋経済online】
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ミャンマー国軍がロヒンギャ虐殺を認めていないように、ロヒンギャ側もヒンズー教徒虐殺を認めておらず、国軍等による陰謀だとの主張もあります。

そのあたりの真相はよくわかりませんが、今回アムネスティ・インターナショナルがロヒンギャによる暴力を認定したということは、それなりの証拠があるということでしょう。(ミャンマー政府はラカイン州での独立した調査を妨害しており、アムネスティ・インターナショナルもARSAが行ったとされる虐殺現場を訪れることができていませんが)

虐げられる立場にある者が、自分たちよりさらに厳しい立場にある者に対して暴力をふるう・・・というのは、ロヒンギャに限らず、あるいは民族間の問題に限らず、しばしばみられる構図ではあります。
非常に悲しい人間の性(さが)とも・・・・。
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タイ  総選挙先延ばしで“時間稼ぎ”する軍事政権 いつまでそうした対応が通用するのか?

2018-05-22 22:20:36 | 東南アジア

(【5月22日 時事】総選挙早期実施を求めるデモ隊と阻止する警察との間で混乱もあったようです。)

プラユット暫定首相「平和と秩序が必要だ。総選挙の実施は彼ら次第だ」】
タイの軍事政権は22日で4年を迎えました。
プラユット暫定首相は総選挙実施による民政復帰をズルズルと先延ばしにしており、現在は一応“来年2月までに実施する”とされてはいますが、これも軍事政権の判断次第というところでしょう。

軍事政権によって5人以上の政治集会は禁止されていますが、こうした状況に総選挙の早期実施を求める運動も散発的に起きています。

****タイ軍政、抗議のデモ行進を阻止 クーデターから4年、総選挙要求****
タイ軍事政権が発足して4年を迎えた22日、長期化する軍政に抗議して市民約200人が首都バンコクのタマサート大に集結、約3キロ離れた首相府に向けてデモ行進を開始した。

しかし数百メートル行進した地点で警察がデモ隊の前進を阻止。デモ続行の可否に関し、警察とデモ隊リーダーの交渉が続いている。衝突は起きていない。
 
警察によると周辺には警察官約3千人が配置された。大学を出発したデモ隊は活動家らが車で先導し、タイの国旗などを手にした市民らが続いた。だが警察に行く手を阻まれ、道路上に座り込むなどした。
 
首相府周辺は集会が禁止されている区域となっている。【5月22日 共同】
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活動家らは総選挙の年内実施を強く要求し、6月までに回答がなければ、抗議行動を強化すると警告していますが、結局、今回行動は警官隊によって強制排除され、活動家数名が拘束されたようです。

19日夕方にも、2010年にタクシン元首相派のデモを軍治安部隊が強制排除し、多数が死傷してから8年の追悼集会が行われ、「ティーニーミー コン ターイ(ここで人が死んだ)」と群衆が連呼したとか。
学生リーダーは「とにかく民主主義の第一歩である選挙の早期実施を求めたい」とも。【5月20日 毎日より】

政権・当局側は、抗議行動に対しあまりに強固な姿勢をとると市民の間で反軍政感情が高まる可能性があるとの懸念もありますが、さりとて放置もできないというところです。

こうした総選挙早期実施を求める動きに対し、プラユット氏は「平和と秩序が必要だ。総選挙の実施は彼ら次第だ」と、治安悪化を理由に延期をちらつかせてけん制しており、実際、政権側が選挙での勝利を確実にできなければ、来年2月がさらに先送りされる可能性も大いにあり得ます。

現在のところ、22日の抗議行動参加者が“200人”と小規模であることに示されるように、国民、特に混乱を嫌い、農村・貧困層を支持基盤とするタクシン派への嫌悪感もある都市部中間層の間では、総選挙実施への関心はあまり高くないとも。

そのことが、軍事政権側の総選挙先延ばしを可能しているとも言えます。

****<タイ>反軍政デモ阻止される 総選挙延期の可能性も****
タイで軍がクーデターで実権を握ってから22日で4年を迎えた。民政復帰に必要な総選挙の早期実施を求める人々が、首都バンコク中心部で抗議デモを試みたが、軍事政権は5人以上の政治集会禁止令を盾に許可せず、警官隊に阻止された。軍政は総選挙を来年2月までに実施するとしているが、延期の可能性も指摘されている。(中略)

参加者のパサート・ユーサワイさん(78)は「タイには市民が民主主義を勝ち取った歴史があるのに、後退してしまった。軍政は何度も総選挙を延期しており、今度も信じられない」と話した。
 
この4年間について、チュラロンコン大のスラチャート・バムルンスック教授は「国民の権利と自由が後退する一方、軍はさまざまな分野で、かつてないほど影響力を拡大させた」と指摘する。
軍政は支配の長期化も視野に入れ、今後20年にわたる国の経済、社会の長期戦略も策定した。
 
現時点でデモへの参加者は限定的で、総選挙を早期に実施することへの国民の関心は高いとは言えない。スコタイ・タマティラート・オープン大のユタポン・イサラチャイ准教授は「早期の総選挙が実現しても、かえって混乱が拡大するだけと懸念する人が都市部の中間層に多い」と分析。

選挙関連法が全て施行されていないことも踏まえ、ユタポン氏は「実施は早くても来年中旬だ。最悪の場合は1、2年遅れることもありうる」と指摘する。
 
軍政は、総選挙に踏み切ったとしても、プラユット暫定首相の続投を目指すとみられる。ただ、選挙では、軍政と対立するタクシン元首相派のタイ貢献党が第1党になることも有力視される。貢献党と並ぶ大政党の民主党が、軍政と貢献党のどちらに歩み寄るかも今後のかぎを握りそうだ。【5月22日 毎日】
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依然として高い支持を得ているタクシン派政党 親軍勢力はプラユット氏続投の受け皿づくりへ
こうしたタイの情勢については、これまでも何度か取り上げてきました。
3月3日ブログ“タイ 先延ばしにされる総選挙 来年2月には・・・・ 注目される国王・タクシン元首相の動向
2月13日ブログ“タイ 軍政は総選挙先送り 広がる抗議 見えない国王の姿勢 不敬罪が阻む体制に関する議論

当時と情勢はほとんど変わっていません。

政党支持率で見ると、軍事政権が排除を狙うタクシン派政党が相変わらずもっとも大きな支持を維持しているようで、軍事政権がなかなか選挙に踏み出せない背景となっています。

政権側は、軍部支持の新党を組織するなど、民政復帰後も軍部が主導権を維持できる(あるいは、プラユット氏自身が非議員として続投できる)体制への受け皿づくりを行っています。

****タイ、総選挙へ動き加速=軍政首相、続投視野か-クーデターから4年****
(中略)タイでは01年以降、軍と敵対するタクシン元首相派の政党が総選挙で圧勝を続けてきた。

国立開発行政大学院の世論調査では、同派のタイ貢献党の支持率は32.2%でトップ。次回総選挙でも、低所得者層の支持を受けるタイ貢献党の第1党確保が有力視されている。

党幹部のチャトゥロン元副首相は「改革や国民和解が進まない一方で、汚職がまん延し、貧富の格差が広がった」と軍政の4年間を総括。対決姿勢を鮮明にする。
 
クーデター前まで野党第1党だった民主党のアピシット元首相は「クーデターは国にとって最善の解決策ではない」と述べ、法の支配の重要性を説く。(中略)

一方、新党・新未来党を立ち上げた若手実業家のタナトーン氏は「クーデターの理由が腐敗阻止なら、クーデターが繰り返されるタイは最も透明性が高い国のはず」と軍政を批判。舌鋒(ぜっぽう)の鋭さと39歳という若さで人気を集め、政治経験がないにもかかわらず、世論調査では次期首相にふさわしい人物として、プラユット首相らに続いて4番手につけている。
 
昨年4月に施行された新憲法は非議員の首相就任に道を開き、プラユット首相の続投が可能になった。
政府スポークスマンは「腐敗防止や代替エネルギーの利用促進など4年間で大きな成果を挙げた」と実績を強調。首相は自分の考えを明確にしていないが、総選挙を何度も延期したのは続投への準備を整えるためとの観測もある。
 
新党登録では、続投を支持する親軍政党が次々と名乗りを上げた。有力な親軍政党の党首を務めるパイブーン元上院議員は「他党と協力すれば首相を再任できる」と自信を示している。【5月20日 時事】
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****タイで軍政首相続投論 総選挙後、軍の影響力温存狙う ****
軍事政権下のタイで、2019年2月とされる総選挙後も軍出身のプラユット暫定首相が続投するのを支持する動きが出てきた。

支持を公言する「親軍政党」が発足、文民閣僚からも待望論が上がる。軍の影響力を温存し、軍が敵対するタクシン元首相派など既存の政党・政治家への権力委譲を後退させる狙い。首相再任の是非は総選挙の大きな争点となりそうだ。
 
プラユット氏はタクシン派政権を倒した14年5月のクーデターを主導。今月22日でそのクーデターから4年となる。

タイが経済発展した1980年代以降では、軍出身の首相としてプレム元首相の8年半に次ぐ在職期間だ。軍出身の首相が本人は出馬しないまま総選挙を挟んで続投したのは、プレム政権期の86年以降、例がない。
 
今世紀に入りタクシン派が台頭してから、タイは選挙とクーデターを繰り返した。軍の影響力を温存する動きが出ていることは、民主政治の未成熟ぶりを改めて示す。
 
続投支持をいち早く公言した政党は、総選挙に向けて発足した人民改革党だ。パイブーン・ニティタワン党首は「プラユット氏は(首相に必要な)すべての資質、能力、高潔さを持ち合わせている」と持ち上げた。
 
その2日前に口火を切ったのは、軍政の経済政策の司令塔で文民閣僚の1人でもあるソムキット副首相だった。ソムキット氏は「私はプラユット氏(の続投)を支持する」と表明。治安を安定させた功績を評価した。
 
ソムキット氏または同氏の右腕として知られるウッタマ工業相が別の親軍政党を率い、プラユット氏の続投を直接後押しするとの観測もある。
 
プラユット氏は明言しないが、続投の意思を持っているとの見方が支配的だ。4月17日には、バンコク南東のチョンブリ県を地盤とする地方政党の党首とその弟を首相顧問などに任命した。有力政治家を味方に付ける戦術とみられている。
 
ただし首相続投への支持がどこまで広がるかは不透明だ。軍政にとって誤算だったのは、昨年末に発覚したプラウィット副首相の資産隠し疑惑だった。副首相をかばったプラユット氏は不評を買った。幻滅した国民の軍政離れが広がった。(中略)

軍政は政治活動を禁じ言論統制も続けている。6月説もある政治活動の解禁後は、軍政やタクシン派の功罪を巡る舌戦が活発になる見通し。30年前の統治体制への逆戻りを受け入れるかどうかが議論の的になる。【5月7日 日経】
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“プラウィット副首相の資産隠し疑惑”とは、“プラウィット副首相の疑惑は、再改造内閣の記念撮影時に発覚した。まぶしい太陽光を遮った右手に輝くスイス製高級腕時計。副首相は「友人から借りたもの」と弁明したが、閣僚の資産報告書への未記載も次々と判明し、国家汚職防止取締委員会が調査に乗り出す事態となった。”【4月3日 Sankei Biz】というものです。

プラユット暫定首相・軍事政権の既成秩序を重視する権威主義的体質
疑惑の副首相をかばうプラユット暫定首相の感覚は、市民感覚から少しずれているようにも思われます。
プラユット氏の趣味は作詞ですが、その内容も・・・・。

****タイ軍政首相の新曲「国のために戦う」 ネットで散々の評価****
タイ軍事政権のプラユット首相(元陸軍司令官)が作詞した新曲「国のために戦う」が9日、インターネットの動画投稿サイト、ユーチューブで公開された。

歌詞は「私は国のために戦うと決意している」「毎日疲れ果てているが、耐え抜く。なぜなら、国のためだと心が告げるから」「明日はきっと良くなるという希望をまだ持っている」といった内容で、17世紀のアユタヤ王朝時代を舞台にした大ヒット中のテレビドラマ「ブペーサンニワート」のテーマ曲を担当した作曲家が作曲した。

首相は10日の記者会見で、新曲について、「国家のために働く決意を示したものだ」と説明。「国民全員が国のために助け合おう」と呼びかけた。

ユーチューブでの「国のために戦う」の評価は「低評価」が圧倒的で、「作詞する暇があったら仕事しろ」「どんだけ暇なの? それで首相は疲れるって?」といった批判的なコメントが目立つ。

プラユット首相作詞の曲は2014年のクーデターで軍事政権が発足して以来6曲目。2014年6月に発表された1曲目「タイに幸せを取り戻す」はユーチューブでの再生回数が数百万回に上るなど話題を呼んだ。【4月11日 newsclip.be】
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趣味の作詞内容がずれているのはまだしも、「持続可能なタイ主義」と称するその政治理念も民主主義とは相いれないものがあります。

****持続可能なタイ主義」 タイ軍政が新政策****
タイ軍事政権のプラユット首相は9日、バンコク北郊のコンベンションセンター、インパクトに、全省の事務次官、軍司令官、内務省幹部、タイの全77都県の知事ら約2800人を集め、「持続可能なタイ主義」とうたった新政策を説明した。

「助け合い」、「幸福な共同体」、「権利と義務と法律を知る」、「足るを知る」、「タイ的民主主義を知る」、「麻薬問題の解決」といった10の目標を掲げ、公務員が全国の津々浦々に入って国民の要望を聞き、解決策を立案、実行に移すというもので、予算総額1500億バーツ。

首相は新政策について、国民の生活水準の向上、貧富の差の縮小が狙いで、自身が常々批判してきたバラマキ政策ではなく、2019年の実施が予想される議会下院総選挙に向けた人気取りでもないと主張した。【2月12日 newsclip.be】
*********************

“タイ的民主主義”とは、民政を前提にしながらも、政治対立・混乱が深まる際には、国王がその最終調停役をなす体制を指すとされています。そこでは、軍部・枢密院・官僚組織・有力者などの既存の秩序が重視されます。

****************
昨年の前国王の葬儀前後から、軍政は移動閣議や地方視察を盛んに開催している。9月半ばには中部スパンブリー県で1995~96年にかけて内閣を率いたバンハーン元首相の親族や後継者らを集め、ミャンマー南部ダウェー経済特区に隣接する土地の早期入札を約束した。

昨年11月には南部ソンクラー県でも移動閣議を開催し、地元商工会議所は総額5000億バーツの開発支援を要請、都市間高速道路の建設や港湾施設の開発が了承された。今年になってからも精力的に協議が続けられている。
 
有力政治家グループに働きかける一方で、首相府と内務省を通じた地方への引き締めも着実に進められている。

今年1月下旬には首相府令として「国家発展推進会議」の設置を通達。県や郡(日本の市に相当)の幹部職員を直接配下に従える体制を構築した。

軍政の決定事項を全国津々浦々の村に浸透させるための仕組みづくりが目的だ。軍政は今後、現政権の妥当性と総選挙実施に伴う問題点を繰り返し説明していくとみられる。【4月3日 Sankei Biz】
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公務員を地方に派遣して、不満・要望を吸い上げるような取り組みも行っているようです。

ただ、それらは“お上”が下々の声を聞いてやる・・・・ということであり、あくまでも決定するのは“お上”であり、決定されたことに下々のものは従うのが当然という、権威主義的な体制でもあり、民意でものごとを決めるいわゆる民主主義とは異なるものです。

選挙での勝算と国民の不満のジレンマに直面する軍事政権
親軍勢力は「他党と協力すれば首相を再任できる」としていますが、どうでしょうか?

****タイ軍政に迫る「退陣」包囲網****
(中略)プラユット政権を見限る動きが静かに進んでいる。その背景にはタイ国内でふたつの大きな流れがある。
 
第一は、プラユット政権に対する国民の信任低下だ。バンコク大学が一月中旬、十八歳以上のタイ人に実施した世論調査では「プラユット氏を首相に選ぶか」という質問に、「はい」と答えた人は三六・八%、「いいえ」が三四・八%と支持と不支持が拮抗した。

昨年五月の調査では同じ質問に「はい」と答えた人が五二・八%もおり、支持が急落していることがわかる。別の世論調査でも政権不支持が支持を上回ったものが出ている。
 
政治混乱に嫌気が差し、安定政権としての軍政を一時は支持した国民も、四年近くたっても公約の民政移管を一切行わず、軍政長期化のための憲法改正、民主派弾圧、言論封殺を続けるプラユット首相への反発が強まっているのだ。【「選択」3月号】
******************

上記記事が指摘する“もう一つの大きな流れ”は、タクシン元首相と近いとされるワチラロンコン国王の意向です。
こちらの方は、実際のところどう動くのか、軍事政権を担う軍部主流派と決定的に対立する“タクシン恩赦”に踏み切るのか・・・よくわかりません。

総選挙先延ばしで“時間稼ぎ”をしているとも言われる軍事政権ですが、“「軍政は選挙に勝てる確信が持てないので実施を先延ばししてきたが、逆に国民の不満が高まるジレンマに直面している。来年後半がタイムリミットではないか」(浅見靖仁法政大教授(タイ政治))”【5月20日 毎日】とも。
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