孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  米軍が都市部から撤退 今後の治安は?

2009-06-30 21:15:54 | 国際情勢

(6月21日 バグダッド メロン片手に“civil improvement projects”の進行状況をチェックする米兵
“civil improvement projects”というのはよくわかりませんが、市場・道路舗装・下水道などの改善を含むものだそうです。
7月以降は、こうした光景もなくなるのでしょう。
“flickr”より By larryzou@
http://www.flickr.com/photos/httpblogsinacomcnhomeofbeijingpeople/3655693771/)

【一つの節目】
今日6月30日、イラク駐留米軍の戦闘部隊が都市部からの撤退を完了させて都市周辺の基地に移り、今後は武装勢力の掃討作戦やパトロールなどはイラク側の軍・警察が責任を持つことになります。
ただ、一部の米軍部隊がイラク治安部隊の訓練などを目的に都市部に残るほか、イラク側の要請があった場合に治安活動に協力することになっています。

イラク駐留米軍のオディエルノ司令官が28日明らかにしたところによると、都市部からの撤退は8カ月間かけて徐々に行われ、「最後の部隊がここ数週間で引き揚げた」とのことで、都市部撤退は30日の期限を待たずに前倒しで完了したようです。【6月29日 毎日】
なお、アメリカ側は一部の前線基地での残留をイラク政府に打診したようですが、残留はイラクの主権拡大を国民にアピールしたいマリキ首相の政治的基盤を弱めると最終的に判断したとのことです。【6月29日 時事】

いずれにしても、11年末までの米軍完全撤退を盛り込んだイラン・アメリカの間の地位協定に基づく措置で、米軍は出口戦略の一つの節目を迎えたと言えます。
現在のイラク駐留米軍は約13万1000人。
撤退のスケジュールは以下のようになっています。

(1) 今年6月末までにイラクの都市部から戦闘部隊を撤収、郊外の基地に再配置
(2) 9月末までに1万2千人の戦闘部隊をイラクから撤収
(3) 10年8月末までにイラクでの戦闘任務を終了
(4) イラク治安部隊の訓練などにあたる残存部隊も含めて、11年末までにイラクから完全撤退
オバマ政権は、イラクから撤退する一方で、アルカイダとの戦いの「主戦場」と位置づけるアフガニスタンへ兵力をシフトしていく方針です。

多くのイラク国民は、この主権回復の節目を歓迎しています。
****「米兵いない。うれしくて」バグダッド市民、撤収祝う****
米軍がイラクの都市部からの撤収を完了したのを受け、バグダッド中心部のザウラ公園で29日夜、政府と市共催の祝賀行事が開かれた。多くの市民が、サッカーの応援などに使われる人気曲「勝利のバグダッド」に合わせて踊り、6年余にわたった「占領」からの解放を祝った。
06~07年ごろの激しい宗派対立でバグダッドの街は宗派ごとの住み分けが進んだが、最近の治安改善を受け、ザウラ公園は宗派を問わず市民らが集う場所となっている。
イスラム教シーア派の医師ムハンマド・アドナンさん(33)は「朝起きて、米兵がいないと思うと、うれしくてたまらない。テロで傷ついた患者がこれ以上、病院に運ばれてこないよう願っている」。スンニ派のアフマド・アブドゥルカドルさん(42)は「米軍のイラク占領が完全に終わってほしい。シーア派主導の政府には、スンニ派らとの国民融和に努めてほしい」と話した。【6月30日 朝日】
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【相次いだテロ事件】
もちろん、周知のように、米軍都市部撤退に併せて揺さぶりをかけるような大規模テロ事件が相次いでおきており、イラク軍・警察の治安維持能力については大きな懸念があります。

10日には、シーア派地域の南部ナーシリヤ近郊の市場で爆弾テロがあり、19人が死亡。
12日には、バグダッド西部のモスクで銃撃や爆弾攻撃があり、スンニ派最大会派「イラク合意戦線」代表のハリス・ウバイディ議員ら5人が死亡、12人が負傷。
20日には、イラク北部の産油拠点キルクーク南郊タザで、大量の爆弾を仕掛けたトラックがシーア派のモスク近くで爆発し、82人が死亡、200人以上が負傷。一度の爆弾テロによる死者としては、昨年3月、首都バグダッドで起きた、死者68人を出した爆弾テロを上回る最悪の事件となりました。
22日には、バグダッド西郊のスンニ派居住区のアブグレイブ、バグダッド郊外のシーア派地区サドル・シティ、ディヤラ州の州都バクバ、バグダッド北東部のシャアブ、バグダッドの商業施設が集まるカラダ地区、北部の都市モスルで爆弾攻撃・銃撃が相次ぎ、合計で31人が死亡、96人が負傷。攻撃対象は軍・警察・民間人など様々です。
24日には、バグダッドのシーア派地区サドル・シティの市場で、荷車に仕掛けられていた爆弾が爆発、少なくとも72人が死亡、127人が負傷。この地区の治安権限は20日、米軍からイラク側に移譲されたばかりでした。
25日にも、バグダッドのバスターミナルでの爆発で2人が死亡。

4月に急増したテロ事件は5月には一旦収まりを見せ、5月の民間人の死者数は、2003年のイラク戦争開始以降最少の134人でした。
バグダッドやイラク北部で爆弾攻撃が相次いだ4月の290人からすると半分以下の数字です。
6月末の都市部からの米軍撤退をにらんでテロが増加するのでは・・・という懸念が6月当初ありましたが、こうした5月の実績を踏まえて、ボラニ内相は「テロリストの攻撃は限られており、治安部隊で対応できる」と述べていました。【6月1日 ロイター】
しかし、結果は上記のとおりで、6月は宗派対立の再燃を狙ったとみられるテロが相次ぎました。
20日以降の1週間だけで約200人が犠牲になっています。
市民の間では、イラク治安部隊の能力への懸念も聞かれるそうで、巻き込まれることを恐れ「外出を控えよう」と話し合う住民もいるとか。【6月28日 毎日】

【望まれるマリキ首相の政治手腕】
オバマ大統領は、こうした一連のテロについては“一時的なもの”と表明しています。
これまでも“節目”にはテロ活動が増加しており、恐らくオバマ大統領の言うように“一時的なもの”なのでしょう。
流れとしては、イラク全体で治安改善の方向にありますので、何よりも平和で穏やかな暮らしを手にした大多数のイラク国民が、その平和の大切さを実感していることかと思います。
そうした中で、テロ活動を行うアルカイダ等の活動は多くの支持・協力を得ることは困難で、テロは散発的なものとなるでしょう。また、テロがあったからといって、すぐに宗派対立再燃・武力衝突ということにはならないかと思います。

ただ、そのあたりはマリキ首相の今後の政治次第という面もあります。
最近“自信を深めた”マリキ首相は、強引な政治手法も目立つようになっているとの批判もあります。
宗派間の対立、クルド問題などでバランスがとれた政治運営を期待したいものです。
“マリキ首相は27日、「我々は今や、治安を維持できるようになった」と強調したが、同時に武装勢力に対抗するには国内の統一も必要だと発言。宗派間や民族間の対立による紛争の再燃を避けるよう国民に呼びかけた。”【6月28日 毎日】
まさに、そのように願います。

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アフガニスタン  手製爆弾(IED) PRT 大統領選挙

2009-06-29 21:06:35 | 国際情勢

(村の長老達と話し合うPRTチーム 文具や衣類の提供と併せて、村の状況について話し合われます。民生支援は軍事的作戦行動・情報収集と表裏一体となっています。 “flickr”より By Army.mil
http://www.flickr.com/photos/soldiersmediacenter/3150680106/

【手製爆弾に振り回されるハイテク米軍】
昨日のブログで、今年にはいり急増していたアフガニスタンにおける米軍の空爆について、民間人犠牲者の発生によって地元住民の支持を失い、国民の反米感情を刺激して、この地域での戦闘を更に困難にすることから、空爆制限の方向が出されたことを取り上げました。

米軍が空爆に頼るようになっていたのは、兵員不足のほか、武装勢力タリバンによる手製爆弾(IED=即席爆発装置)攻撃の激化や厳しい天候や起伏の激しい地形により米軍やISAFの地上での活動が制限されていることがあります。

手製爆弾(IED)については、【6月28日 毎日】の報告がその状況の一端を伝えています。

***アフガン:装甲車の真下で爆音…記者は宙に浮いた****
「ドン」。記者が乗り込んだ大型装甲車の真下で、武装勢力の仕掛けた手製爆弾(IED=即席爆破装置)が爆発した。アフガニスタン駐留米軍の同行(エンベッド)取材で、パキスタンとの国境沿いの南東部パクティカ州を移動中だった。記者を含め乗員5人は無事だったが、装甲車の後部車輪(直径1メートル)は30メートル以上吹き飛ばされ、車体後部は破壊された。仕掛け爆弾の脅威を体感することになった。

今月15日、クシュマン米軍前線基地から車列を組み、北東へ約10キロの村に入る直前のことだった。爆音とともに、車両の下から巨大な金づちで一撃されたような衝撃を受けた。重さ15キロの防弾チョッキを身に着け、シートベルトで固定した記者の体が軽々と宙に浮き、次の瞬間、座席にたたきつけられた。白い砂煙が車内に充満する。「大丈夫か」。兵士の叫ぶ声が聞こえた。
「このへんは昨日5回も通ったのに」。運転手のスミス上等兵(21)が悔しそうにつぶやいた。爆弾は夜間に仕掛けられたらしい。
アーサー軍曹(24)が後方の車両から近づく衛生兵に気づき、「戻らせろ」と無線で叫んだ。ウルフ特務曹長(44)が声を張り上げた。「来るな。第2の爆弾にやられるぞ」。緊急避難のため車両から降りる足が震えた。

ハイテクを駆使した米軍が、武装勢力の単純な手製爆弾に手を焼いている。今年で9年目を迎えた対テロ戦争で、世界最大の米軍に、アフガニスタンの武装勢力タリバンなどはゲリラ戦術で挑んでいる。同乗していた大型装甲車がIED攻撃に遭い、対テロ戦争が生んだ「非対称の戦闘」の一端を、見ることになった。
「車両の重みに反応する爆弾だ」。爆発跡を見た米兵が断言した。イラク戦争では、武装勢力は米軍車両を確認して携帯電話などの電波で起爆させる爆弾を多用。米軍は電波を妨害する装置を開発した。だがアフガンでは、「イラクより技術レベルは低い」(米軍)ものの、無差別型が多く、対策は確立されていない。現場の脇には子供たちが通うマドラサ(イスラム神学校)や民家があった。武装勢力は、住民の犠牲をもいとわない無差別攻撃を繰り返している。【6月28日 毎日】
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基地から10kmですが、爆弾を警戒しながら迂回して来た爆発物処理班が到着したのは2時間半後。
リモコン操作の小型ロボットを現場に走らせ、別の爆弾がないことを確認。壊れた装甲車をレッカー車につないで基地に戻ったのは、爆発から7時間後。
“1個の手製爆弾にハイテク米軍が振り回された。前線基地で司令に当たっていたコナー大尉は「武装勢力との戦いは、どこが前線で誰が敵なのかさえはっきりしない。この戦争は、難しい」と語った。”【6月28日 毎日】

【PRTで民生支援】
一方、地元住民の支持を取り付けるべく行っている米軍病院での地元住民治療のルポ。
場所はアフガニスタンにある米軍最大の医療施設、バグラム病院。入院患者の8割が地元住民。

****アフガニスタン:終わり見えない生への戦い…米軍病院ルポ****
集中治療室のベッドに、ひときわ小さな体が横たわっていた。無数のチューブがつながれている。武装勢力の爆弾で腹部に多数の金属片を受けたが、命を取り留めた。「名前は確認できていません」と看護師が言った。
車椅子を押しながら、リハビリに励む少年がいた。アジズ・ラハ君(10)。バグラム米空軍基地東方の自宅前で、武装勢力タリバンとアフガン軍の戦闘に巻き込まれ手足に銃弾を受けた。「アメリカ人は優しいよ」と笑顔で話す。だが、兄(22)は「治療はしてもらったが、米国を好きになったわけではない。タリバンも子供たちの遊び場に地雷を埋めるから嫌いだ」と語った。(中略)
病院関係者の一人は「地元の人々の治療は親米感情を促し、武装勢力に関する情報収集にもつながる」と語る。
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「武装勢力との戦いは、どこが前線で誰が敵なのかさえはっきりしない。この戦争は難しい」という状況にあって、より積極的に住民の支持を得て、経済・社会の復興によってタリバン支配拡大に対抗していこうという取組みが軍と文民の共同チームによるPRT。
地域ごとに拠点を設け、軍が治安維持や警察支援などを担い、文民が教育や保健分野の復興支援に当たります。

日本は自衛隊派遣の見通しが立たない中、アフガニスタン政策について、オバマ米政権が軍事だけでなく民生支援も重視する方向に転換したのを受け、文民派遣で米国を後押しするかたちで、政府職員四人を派遣することを決めています。

リトアニア軍と協力して日本が行う初のPRT事業は女子小中学校の建設です。
村には「青空教室」しかなく、「女の子だけでも屋根の下で授業を受けさせたい」と村が8年前から州政府に陳情していたものです。

****アフガニスタン、日本文民チームが復興支援開始****
迷彩服の兵士が銃を携える姿に、(PRTに派遣された)官沢さんは「兵士と行動することが、住民への圧迫になっていないかという心配はある」と話すが、村の期待は大きい。村民の多くは日本を「裕福な国」として知っていたが、日本人を見るのは初めてという。村民のザイ・フセインさん(45)は「学校建設は村の悲願。日本人が来てやっとかなえてもらえる」と言う。(中略)

石崎さんらは、高さ約10メートルの土のうに囲まれる基地で、リトアニア軍の指揮下に入り、兵士約200人と寝食をともにする。食事などは軍が提供し、日本は文民1人当たり1日約50ドルをリトアニアに支払う。
兵士は2人部屋だが、文民には1人1部屋が与えられる。トイレ、シャワーなどは共用だ。石崎さんらは、ここで約2年間にわたって、このような活動を繰り返す。

日米など7か国の国旗や国際治安支援部隊(ISAF)の旗が基地にはためいていた。ISAF兵らの死亡を意味する「半旗」だった。比較的安定しているゴール州だが、住民の襲撃事件や路上爆弾で軍車両が破壊される事件も起きている。日の丸を見上げ、官沢さんは「旗が普通に揚がったのは1日しかありません」とつぶやいた。【6月26日 読売】
********************

PRTについては、これまでアフガニスタンで独自の活動を行ってきたNGOなどからは、軍と共同で行うPRTによって、NGOの活動も軍の宣伝活動の一環と見なされ、これまでのような活動ができなくなるという懸念・批判があります。
一方で、軍の協力なしには入れないような地域での活動も大規模・広範囲に可能になるメリットもあります。(批判する側からすれば、軍と無関係であることをはっきりさせれば、軍の協力などなくても活動できるということになるのでしょうが)
広い国土の復興を早急に進めるためには、PRTのような方法が現実的であるようには思えます。

【汚職度176位】
そのアフガニスタンでは、大統領選挙が8月20日に行われます。
選挙管理委員会は13日、候補者要件などを審査した結果、現職のカルザイ大統領ら41人の立候補を承認したと発表しています。

汚職・不正が横行する政府(各国政府の汚職度を示す指数でアフガニスタンは180カ国中176位)、成果のあがらない復興、更に空爆などでのアメリカ批判などで、アメリカは現在のカルザイ大統領に見切りをつけたいところのようですが、代わりがいないのが現実で、選挙戦も知名度に勝るカルザイ大統領が圧倒的に有利な展開とも言われています。

選挙戦に立候補している前財務相のガーニ氏は痛烈にカルザイ大統領を批判しています。
「カルザイ政権の陣容を見ると、タリバンの台頭を許した時代に戻ってしまったようだ。高潔さのかけらもなければ、行政能力もない連中を起用している。」
「(閣僚・知事等のポストをばら撒いており)選挙に勝つために政府を競売にかけたようなもの。」
「この国にとっての最大の脅威は弱者をむさぼる現政権だ。タリバンが巻き返したのはなぜか。正義と経済発展を期待した国民が、裏切られたと感じているからだ。」【7月1日号 Newsweek日本語版】

いくら米軍や日本が民生支援で住民の支持を得ようとしても、現地政府が国民を裏切るような状況では戦闘も復興もありません。
ガーニ氏が大統領になればこうした状況が大きく変わるのかどうかはわかりませんが、タリバンとの戦闘も、経済復興も、政治状況も、それぞれの要素が悪循環的に絡み合ってなかなか明るい兆しが見えない現状です。

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アフガニスタン  増加した空爆と民間人犠牲 米軍、空爆制限の方向へ

2009-06-28 15:11:37 | 国際情勢

(5月の空爆事件が起きた直前の4月23日 アフガニスタン西部ファラー州Bakwaを定期パトロールするアメリカ海兵隊 その任務は地元民との交流を深めて地域の治安維持をはかり、地元治安部隊育成によって対テロ戦闘を遂行すること・・・とのことですが、なかなか思惑のようには展開していません。
“flickr”より By larryzou@
http://www.flickr.com/photos/httpblogsinacomcnhomeofbeijingpeople/3547738502/)

【オバマ政権で急増した空爆】
アフガニスタンでの空爆は、民間人犠牲者を多く出すことでアフガニスタン地元の批判を強めることも指摘されていますが、オバマ政権になって以来この空爆が急増していました。

****アフガン空爆:過去最多…1~4月投下数、07年比3割増****
オバマ米大統領が対テロ戦争の主戦場に掲げるアフガニスタンで、米軍と国際治安支援部隊(ISAF)による空爆が急増。オバマ政権が誕生した今年1月から4月末までに投下された爆弾の数は1000個を超え、年間を通して過去最多だった07年の同時期より3割増えていることが分かった。オバマ大統領は昨年の大統領選で米軍の空爆による民間人被害を問題視したが、ブッシュ前政権時代より事態が深刻化する可能性が指摘されている。(中略)

アフガンでは07年から、武装勢力による手製爆弾(IED=即席爆発装置)攻撃が激化。厳しい天候や起伏の激しい地形により米軍やISAFの地上での活動が制限され、これを補う形で空爆の頻度が高まっている。
国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によると、昨年の戦闘で死亡した民間人は過去最悪の2118人。55%がタリバンなど反政府勢力による攻撃が原因だが、39%は米軍などによるものとしている。【5月31日 毎日】
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米軍が空爆に依存する背景には、戦闘の長期化に伴う駐留軍の兵員不足もあると言われています。
ゲーツ米国防長官も今年4月、アフガニスタンのテレビに「もっと駐留軍が増えれば、空爆の必要性は少なくなる」と語っています。今後の米軍の増派により、今夏は戦闘のさらなる激化が予想されています。【5月31日 毎日】

【「双方とも市民の命に関心を払っていない」】
私がボルネオ島でGWの観光旅行を楽しんでいた頃にも、アフガニスタン西部のファラー州で米軍主体の部隊による空爆があり、民間人を含む多数の死者が出ました。

****アフガニスタン:NATO軍空爆でタリバンら約30人死亡*****
アフガニスタン西部ファラ州当局は5日、4日夜の北大西洋条約機構(NATO)軍による空爆で、市民や武装勢力タリバンのメンバーら計約30人が死亡した模様だと発表した。空爆はタリバンと交戦したアフガン軍を支援するためで、民家も爆撃されたという。戦闘は続いており、ロイター通信によると住民の1人は「双方とも市民の命に関心を払っていない。カルザイ大統領は我々を助けてほしい」と訴えた。【5月5日 毎日】
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直後の米軍発表によると、「この地区での戦闘は、アフガニスタン人以外の戦闘員を含む多数のタリバン戦闘員が引き起こしたもので、タリバンは2つの村に集結し、村人に金を払うよう要求した。またタリバンは警察の検問所も攻撃し、数人の負傷者が出た。州政府はANSFと外国部隊に支援を求めた。激しい戦闘が数時間続いたため、外国部隊が航空機による戦闘支援を要請した。」とのことです。

上記第1報では30人とされた犠牲者の数ははっきりせず、直後のAFP報道では、死者は100人とも報じられていました。
非戦闘員の死者数については、167人とする報告もありましたが、米国防総省は最大で50人とするなど、発表者によって大きく異なる数字が出されていました。
米軍とアフガン国家治安部隊の共同調査チームは、全ての死亡者は集団墓地などに埋葬されたため死亡者の正確な人数や、死亡者のうちタリバン戦闘員と民間人の内訳を出すことは不可能だと報告しています。
カルザイ大統領は訪米中の8日、米CNNテレビに女性と子どもを含む125人から130人が死亡したと語り、空爆は容認できないとアメリカを非難しました。【5月10日 AFP】

この事件を受けて、アフガニスタン下院は11日、政府に対し、外国軍の空爆を規制する法案の作成を求める決議を全会一致で採択しました。
また、10日には首都カブールで空爆に抗議する大規模な反米デモが行われ、デモ参加者の学生らが「米軍の虐殺は許容できない」と訴えたとのこと。【5月11日 読売】

【アメリカの方針転換 空爆制限】
一方、ジョーンズ米大統領補佐官(国家安全保障担当)は10日の米ABCテレビのインタビューで、民間人犠牲者の増加で問題になっているアフガンでの空爆について、「民間人が犠牲にならないように一層の努力をする」としながらも、「空爆を行わないと言うのは、軽率なことだ。司令官らが手を縛られて作戦を行うようなものだ」と述べ、継続する方針を示しました。【5月11日 毎日】

こうした事態に関係するのかはわかりませんが、ゲーツ米国防長官は11日、アフガニスタン駐留米軍のデビッド・マキャナン司令官を解任し、後任に統合参謀本部筆頭部長のスタンリー・マクリスタル中将を充てる人事を発表しました。
戦争中に司令官が事実上、解任されたのは、朝鮮戦争の際の1951年に、当時のトルーマン大統領と対立したマッカーサー連合国軍最高司令官以来という異例の措置とも報じられています。
解任理由については、“アフガンでの対テロ戦の勝利には、米軍内部に巣くう、過去の軍事常識にとらわれた発想を一掃し、軍事作戦と民生支援を両輪とするテロ対策を展開すべきだとする、長官やマレン統合参謀本部議長の強い意向が働いたとの見方もある” とも報じられています。
解任されたマキャナン司令官のもとでは地元治安部隊の育成が進まず、また、駐留米軍の規模拡大にこだわる一方で、地元治安部隊や民間人と連携を強めてイスラム武装勢力の締め出しを図る方針に消極的だったとも。【5月12日 読売】

6月20日、米軍は、5月4日におきたファラー州での空爆による民間人犠牲について、「駐留米軍と地上部隊は戦闘規定に従って行動していた。だが米軍のB-1爆撃機による3回の空爆が戦闘規定の一部を順守していなかったために少なくとも26人の民間人の犠牲者が出た。」とする調査結果を発表しました。
調査報告は、アフガニスタン駐留米軍が民間人の犠牲者を出さないことを最優先する戦術の採用が不可欠だとしています。
また民間人に犠牲者が出る可能性のある状況で空爆を実施する場合はもちろん、そのほかのすべてのケースでの戦闘規定の見直しと、アフガニスタンの関係省庁と協調した広報活動の強化、各地域のNGOとの綿密な協力関係の確立、民間人の犠牲者が出た恐れがある場合に速やかに対応する調査チームが必要だとしています。【6月20日 AFP】

これを受ける形で、新任のアフガニスタン駐留米軍トップ・マクリスタル陸軍大将はアフガニスタンでの空爆を制限する方針だと報じられています。

****アフガンでの空爆制限=米軍****
22日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、アフガニスタン駐留米軍トップで国際治安支援部隊(ISAF)の司令官に着任したマクリスタル陸軍大将が、一般市民への被害を抑えるため、同国での空爆作戦の実施を限定する方針を固めたと伝えた。
それによれば、マクリスタル大将は米軍などが敗走の危機にひんした場合に限り、空爆を容認するとの意向を表明。反政府勢力タリバンとの交戦でも、戦闘が人口集中地域で起きている場合、限定的な空爆にとどめるという。【6月22日 時事】
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【地元住民の支持を求めて】
米軍を主体とする、そして日本を含めた世界の多くの国々が参加・支援する、アフガニスタンでのタリバンとの戦闘が思うように進まず、逆にタリバン支配が拡大する背景には、空爆等による民間人犠牲者が増大する現実に対するアフガニスタン地元民の反発があるとも言われています。
(一般市民の犠牲を顧みないという点では、タリバンは米軍以上ですが。)
また、アフガニスタン国民の間での反米感情が激化は、戦闘遂行を危うくします。

そこで、アフガニスタン地元住民の支持を獲得するものとして行われているのが、軍と文民が一体となった地方復興チーム(PRT)の取組みです。
賛否両論あるPRTですが、日本からも文民4人が派遣され、リトアニア軍との共同作業が始まっています。
長くなってきたので、PRTの取組み等については、明日以降に。

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ロシア  「ロシア最強の男」プーチン首相 労働争議解決 スーパー値下げ指示

2009-06-27 19:38:27 | 世相

(6月25日 サンクトペテルブルクでの海軍によるデモンストレーション 「強いロシア」を望む人々に「強い男」をアピールするプーチン首相は表裏一体にも思えます。
“flickr”より By Current News Stories
http://www.flickr.com/photos/currentnews/3660363063/)

【20キロの袋33個】
ロシア経済は、経済危機の影響で5月のGDPが前年同期比マイナス11%と厳しい状況が続いており、労働争議も多発しています。
そんなロシアの労働争議で笑えるトピック。

****重すぎ!労使紛争の10万円を硬貨で支払い、ロシア****
ロシア極東ウラジオストクの会社に解雇された女性従業員2人が、労使紛争で要求していた10万円相当の解決金を、全て硬貨で支払われ困惑している。
26日付の露コムソモリスカヤ・プラウダ紙によると、世界金融危機の影響による業績不振を理由に解雇された2人は、残っていた有給休暇を、現金3万6000ルーブル(約10万円)で買い取るよう会社に求めていた。
当初は支払いを渋っていた会社側も、最終的には2人の要求に応じた。
だが、2人が受け取ったのは、3万6000ルーブル分の硬貨が入った袋33個で、その大部分が、現在はほとんど流通していない5コペイカ硬貨(日本の銭に相当)だったという。1袋の重さは20キロもあり、2人は硬貨を持ち帰るため、友人に助けを求めなければならなかった。
コムソモリスカヤ紙が、要求額を硬貨で支払った理由を会社側に尋ねたところ、「彼女らは大金を求め、それを得た。貨幣が何であろうと、その事実に変わりはない」と話したという。【6月26日 AFP】
*************************

労働争議と言うと経営者側が“悪役”扱いされることが多くなりますが、硬貨の入った20キロの袋33個(660キロ)で支払ったこの経緯者、その納まりきらない憤懣がちょっとユーモラスな感じも。

【プーチン首相 財閥社長を一喝】
“悪役”としてさらし者にされた経営者の代表が、新興財閥ロシア・アルミニウムのオレグ・デリパスカ。
「ロシア最強の男 プーチン」に一喝されたとして今月始め話題になった例の一件です。

プーチン政権下、プーチン大統領(当時)と密接な関係を維持し、有力な新興財閥として成長してきたデリパスカのロシア・アルミニウム(ルサル)は、ロシアのアルミニウム生産の約70パーセント、世界生産の約8分の1を占めるとされ、デリパスカは2008年の世界長者番付では資産280億ドルで10位となっています。

ロシア・サンクトペテルブルク郊外の企業城下町ピカリョボでは、デリバスカの工場を含む3つの工場が経済危機のなか操業停止に追い込まれ、解雇された労働者らが付近の主要高速道を数時間にわたって封鎖する事態に陥っていました。そこへ乗り込んできたのが「ロシア最強の男 プーチン」

****プーチン首相、ペン放り出して財閥社長を震え上がらせる*****
「オレグ君、この合意文書に署名をしたかね?君のサインが見あたらないのだが。今すぐここに来てサインしなさい」
ウラジーミル・プーチン首相は、ペンをテーブルに放り出すと、自分の元へ来るよう手招きした。
約300億ドル(約3兆円)の資産を持ち、前年までロシアで最も裕福な人物として知られたロシア・アルミニウムのオレグ・デリパスカ社長は、席から立ち上がり、首相に冷徹ににらみつけられる中、頭を垂れたまま、給与の不払いが続く工場の操業再開を約束する合意文書に署名した。

今週テレビで、多数の主要企業をたばねるデリバスカ氏にとって屈辱的な映像が放送されたことは、一時は全権を担るほどの力を持っていたオリガルヒ(新興財閥)の実業家らが、数年でその権勢を弱体化させたことを象徴するものだった。
ボリス・エリツィン大統領時代のロシアの混乱期に、ソ連崩壊後に私有化した資産を元手にばく大な財を築いた新興財閥の実業家らは、かつてないほどの政治権力を獲得した。しかし、2000-08年のプーチン政権は、これに終止符を打った。そして今、金融危機が、新興財閥の財産を減少させるとともに、多額の債務を明るみに出している。

合意文書に署名をしたデリパスカ氏に、プーチン首相はうなずく以外の返答をしなかった。そして、デリバスカ氏が首相のボールペンを持ったまま席に戻ろうとすると、「ペンを返せ」としかりつけた。【6月8日 AFP】
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デリバスカや地元指導者、労働組合代表らを小さな会議室に集め、「君たちは自らの野心や未熟さ、強欲で数千人の住民を人質に取った。私が来る前にゴキブリのように走り回りながら、なぜだれも問題を解決できないのだ」と一喝。
政府が4000万ルーブル(約1億2千万円)を支援するとして、操業再開の合意書に署名するよう命じ(自分のペンを放り投げて)、問題を収束させました。
主要テレビ局がこのやり取りの一部始終を放映しており、国営テレビで放映されたこの映像は、プーチン首相が労働者らをねぎらうために工場から出てきて、労働者らが「ありがとうございます」と涙する場面で終わった・・・・そうです。

【“危険な賭け”】
昨年来の経済危機・資源価格急落で、ロシアの多くの企業がダメージを受けており、政府の融資を受ける形で生き残りを図っています。
その政府融資対象企業のリスト(プーチンのリスト)に入れてもらうための企業の奮闘振りが、以前NHKでも放映されていました。
ただ、政府融資を受けることは、政府の管理下に入ることを意味します。
ルサルもロシア政府から4500億ドルの融資を受ける代わりに政府の人間を役員に入れており、すでにルサルは政府のコントロール下に置かれるようになっています。

ピカリョボの労使争議は政府の特別融資で“解決”しましたが、1つの産業に依存する「企業城下町」が数百あり、金融危機以降、政府の公式統計でも失業者が200万人を突破、デモやストライキが頻発しているロシアでは、各地の問題すべてにこうした特例措置を取るのはほぼ不可能で、政府が“危険な賭け”に出たとの論評も出ています。【6月10日 産経】

【「高すぎるな」】
そうした問題などは気にしていないのか、プーチン首相、今度はスーパーに乗り込んで「高すぎる!」と値引きを指示したそうです。

****「ロシア最強の男」プーチン首相、スーパー電撃視察で値引き指示****
ロシアのウラジーミル・プーチン首相が、モスクワのスーパーマーケットを電撃視察し、驚く店長らに対し商品の値段を下げるよう指示した。
ロシア最強の男、プーチン首相は最近、メディア受けする行動で、緩和の兆しがない経済危機を政府がしっかり管理していることを国民にアピールしているが、このスーパー訪問もそうした一幕となった。
25日の露コメルサン紙によると前日、プーチン首相は官邸で行っていた小売業界の状況に関する会議を中断し、出席者を連れて近くにあるロシア最大の小売チェーン、ペレクリョーストックの1店舗を訪れた。

■「高すぎる」と一喝
ペレクリョーストックの幹部や生産業者らを引き連れ、商品棚の間を練り歩いたプーチン首相は、多くの商品の売値が生産者価格よりもずっと高いのはなぜかと尋ねた。
(首相)「このソーセージはなぜ240ルーブル(約740円)もするんだ?これが当たり前か?」
(責任者)「こちらのソーセージは高品質だからです。ご覧になってください、こちらのソーセージなら49ルーブル(約150円)です」
(首相)「高すぎるな」
(責任者)「いや、そんなことは・・・」
(首相)「その値段のつけ方を見せてあげよう」(紙切れを取り出し)「このソーセージだったら、ほら、52%も上乗せじゃないか」

(豚肉製品のコーナーで)プーチン首相は、スーパーが原価の倍以上の価格をつけていると言い出した。
(首相)「これなんて2倍だ。おかしくないか?」
(責任者)「明日値下げします」

インタファクス通信によると、官邸に戻ってから再開した会議で、プーチン首相は生産者と小売業者、消費者の間の価格バランスを改善しなければならないと切り出し、「そうすることでしか、社会的公正は達成できない」と力説した。【6月25日 AFPより】
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【「ロシア最強の男」演出では解決しない経済問題】
いかにも「ロシア最強の男」プーチンらしい演出ですが、ピカリョボの労使争議の件にしても、今回のスーパーの件にしても、市場経済的な発想とはかなり異なるものに思えます。
市場経済だろうが、旧ソ連型計画経済であろうが、生産設備が旧式で生産効率が悪いといった問題、あるいは流通の問題という根本的な問題にメスを入れずに、表面的問題だけを強権的に押さえ込もうとするのは無理があり、こうしたことをやっていると、経済の根幹が揺らいできます。

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イラン  街頭行動ほぼ収束か 神権政治の変質

2009-06-26 22:21:17 | 国際情勢

(17日 テヘランの街頭を埋め尽くした人々
“flickr”より By .faramarz
http://www.flickr.com/photos/fhashemi/3636326778/in/set-72157619758530748/)

イランにおける大統領選挙の不正を糾弾する街頭でのデモ行動は、ほぼ収束したようです。

****イランのデモ行動ほぼ収束、聖職者間で割れる立場****
イラン大統領選の結果をめぐる混乱で、当局は大規模な抗議活動の鎮圧を進めている。26日で選挙から2週間が経過し、当局の取り締まり強化は徐々に効果を表している。
テヘラン市内では、20日を最後に大規模な抗議デモは見られていない。警察当局による警告や抗議者の逮捕などが功を奏した格好で、現在は小規模な集会が見られるのみとなった。
改革派ムサビ元首相のウェブサイトやファルス通信によると、25日にはムサビ氏と面会した大学教授ら70人が当局に一時拘束され、選挙責任者が逮捕されたという。
ムサビ氏は、選挙結果に異議を唱えないようにとの圧力を受けているとウェブサイトで明かし、一部新聞が発行停止となり、スタッフが逮捕されていることを非難している。
そのムサビ氏は、改革派のラフサンジャニ元大統領やハタミ前大統領のほか、体制に批判的な高位聖職者モンタゼリ師の支援を受ける。
これに対し、アハマディネジャド大統領を支援する最高指導者のハメネイ師は選挙結果を正当とし、護憲評議会が選挙のやり直しを拒否した決定も支持。今回の混乱をめぐっては、聖職者間でも立場が2分している。【6月26日 ロイター】
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【「イラン革命以来最も健全に行われた選挙」】
最高指導者ハメネイ師は24日、「体制指導部も国家も、いかなる犠牲を払ったとしても圧力に屈することはない」と述べ、やり直し選挙などムサビ氏らの要求を拒否する意向を改めて示しています。
また、選挙結果を最終的に承認する権限を持つ護憲評議会のスポークスマンは、「評議会は、落選した候補者が申し立てていた選挙結果に対する不服の訴えの検証をほぼ終えた。その結果、今回の選挙はイラン革命以来最も健全に行われた選挙であったことが判明した。選挙における大きな不正行為はなかった」と発表しています。【6月26日 ロイターより】

【苦慮するムサビ元首相】
今回抗議行動の中核となっているムサビ元首相は25日、自身のウェブサイトで「選挙無効の訴えを取り下げるよう圧力を受けている。重大な不正が行われた。こうした不正の背後にいる人々がこの流血の惨事に責任があることを証明する用意がある。合法的で冷静な抗議によりわれわれの目的の達成が可能になる」と語り、選挙の「重大な」不正に対し戦い続ける考えを表明していますが、ここ数日、国民の前に姿を見せておらず、運動が次第に「反体制」色を帯びる中、運動の方向性を見定められずにいる可能性があるとも報じられています。

****イラン:ムサビ氏、運動「変質」に苦慮****
ムサビ氏は抗議行動を体制内の「世直し」と位置付ける。「不正やうそは国家と国民を対立させ、体制を揺るがす」と主張、「手遅れになる前に修正を」と訴えてきた。
選挙戦で出馬の動機をこう語った。「イスラム革命(79年)を起こしたのは、イランが中東一の大国になり、地域の模範として影響力を行使するためだ。だが、今の政権は非現実的な外交で国家の威信とメンツをつぶしてしまった」
体制の将来への危機感が駆り立てたというわけだ。そこに噴き出た「大規模で組織的な開票不正」。ムサビ氏は「体制を守るには、不正で権力を得る者には従わない。これが革命のメッセージだ」と強調。「殉教」も辞さない覚悟を示す。
最高指導者ハメネイ師は、ムサビ氏らの異議を追い払うことで逆に体制の威信を保とうとしており、両者の対決は、革命体制の存亡を懸けた究極の路線対立とも言えそうだ。

だが、ここ数日のデモは反体制運動の性格を強めている。テヘランで毎晩の恒例になった、屋上などでの抗議スローガンの唱和には「ハメネイに死を」という言葉も交じり、15日のデモ行進当時に比べ、運動は確かに変質した。
ムサビ氏には、「敵(反体制派や外国勢力)に利用されることを本意としない」との思いがあるようだ。「革命体制の本流を歩んだ」との自負が強いとみられるからだ。
革命の指導者ホメイニ師の「秘蔵っ子」として体制基盤構築に重要な役割を担い、イラン・イラク戦争中の混乱期と重なる81~89年にハメネイ大統領(現・最高指導者)の下で首相を務めた。
ハメネイ大統領と経済運営などを巡り深刻な路線対立に陥ったが、89年にホメイニ師が死去するまで、同師の庇護(ひご)を受けた。革命原理回帰を訴えながら、体制崩壊への水門を自らが開けることになれば自己否定につながりかねないのだ。【6月25日 毎日】
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また、政府系の「プレスTV」は、ムサビ氏および選挙で同氏を支援したラフサンジャニ元大統領が24日、国会国家安全・外交委員会のメンバーと会談し、事態収拾に向けて協力する用意を表明したと伝えており、ムサビ氏の真意を測りかねる支持者も出始めているとも。【6月25日 読売】

治安部隊や民兵組織「バシジ」によってデモ行動を鎮圧する現体制の“力”は、多少の抗議行動で揺らぐほど弱くはなく、運動の中核にいるムサビ元首相等も、あくまでイスラム支配体制維持を前提にした不正追求というところに留まっていることから、これ以上の展開は困難な情勢です。
今回のテヘランは、ビロード革命で民主化を実現したチェコスロバキアのバーツラフ広場になることはなかったようです。
ただ、民主化運動が武力鎮圧されて多くの犠牲者が出た中国の天安門広場のような悲劇は見ずにすんだようです。

【指導層内部での確執】
街頭での人々の抗議行動は押さえ込まれた形になっていますが、宗教界・政界の指導層内部での権力闘争的なせめぎあいは続いているようです。

****イラン騒乱 宗教界支持、奪い合い ハメネイ師vsラフサンジャニ師****
イラン大統領選後の混迷をめぐり、強硬保守派に傾く最高指導者ハメネイ師と、これに対抗する穏健保守派の実力者ラフサンジャニ師が、イスラム教シーア派聖地コムの高位法学者たちの支持を取り付けようと舞台裏でつばぜり合いを展開しているもようだ。ベラヤティファギ(イスラム法学者による統治)体制を取るイランでは、有力法学者の支持を得ることは、自らの立場の正当性を訴える「裏付け」となるからだ。

24日付の汎アラブ紙アッシャルクルアウサト(ロンドン発行)は、複数の消息筋の情報として、大統領選の結果を審査している護憲評議会が、コムのアヤトラ(高位法学者)らに代表を送り、選挙が「正しく行われた」と公に支持を表明するよう説得に動いていると報じた。
だが、同紙によると、多くの法学者たちは慎重な姿勢を示し、約50人の法学者は、最高指導者に対して、ムサビ元首相ら改革派の訴えを真剣に検討するよう求める書簡を出した。とりわけ、1980年代の革命初期に護憲評議会議長を務めた大アヤトラ、ゴルパエガニ師は護憲評議会のジャンナティ現議長からの密使に対し、「政治から超越し、特定勢力に加担せず、公平な判断者に徹せよ」と諭したという。(中略)
最高指導者ハメネイ師(アヤトラ)にとって、こうしたコムの宗教界の大勢から明確な支持を得られれば、今回の危機で、改革派鎮圧に向けた「正当性」を宗教的にも得ることになる。

しかし、22日付の同紙によると、改革派のムサビ元首相を支援する穏健保守派の重鎮、ラフサンジャニ元大統領もコムを訪れ、革命防衛隊など強硬保守派で周囲を固めたハメネイ師のやり方に批判的な有力法学者らと会談、ハメネイ師に再投票を受け入れるよう圧力を加えるよう協議したという。
ラフサンジャニ師は最高指導者の監督・罷免権を持つ専門家評議会の議長を務めているが、同評議会は同師を支持する議員が過半数を占めたとの見方もあり、ラフサンジャニ師は専門家評議会招集の可能性もちらつかせながら、ハメネイ師に水面下の圧力を加える狙いのようだ。体制側は、改革派デモに参加したラフサンジャニ師の娘ら親族計5人を一時拘束したが、同師の動きを察知した警告だった可能性がある。【6月25日 産経】
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最高指導者ハメネイ師と穏健保守派の実力者ラフサンジャニ師は若い頃は神学生仲間で、ともに故ホメイニ師の弟子として王制抵抗運動を闘った関係にあります。
ホメイニ師死後、ハメネイ師が最高指導者として選ばれたのは、ラフサンジャニ師による宗教指導者の説得などの“政治的手腕”によるものだったようです。
ラフサンジャニ師がハメイニ師を最高指導者に仕立て上げたのは、彼ならコントロールできると思ったからだ・・・とも言われています。【7月1日 Newsweek日本語版より】

その後、ラフサンジャニ師は大統領に就任しましたが、経済活動を重視し、自らも“金権”の噂が絶えないラフサンジャニ師とハメイニ師とは目指す方向が違ってきたようです。

また、保守派議員のなかでも確執があるようです。

****イラン大統領再選パーティー、過半数の議員が欠席****
イラン改革派系新聞エタマデメリは25日、マフムード・アフマディネジャド大統領の再選祝賀夕食会に、国会議員290人中100人以上が出席をボイコットしたと報じた。
同紙によると、大統領支持派の70人のほか、保守派の30人程度が出席しただけで、保守派有力者のアリ・ラリジャニ国会議長も欠席したと、保守派系議員が明かしたという。
290人全員が夕食会に招待されたかどうかは不明だが、イラン国会は保守派が圧倒的に多く、改革派とその他議員は合計で90議席のみ。
エタマデメリは、大統領選で敗れた改革派のメフディ・カルビ元国会議長が所有している。【6月26日 AFP】
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【神権政治の変質】
こうした宗教界や政界での確執は、自分達の存立基盤を危うくするようなところにはいたりませんので、しかるべき妥協がはかられるようにも思えます。
ただ、最高指導者の指示を無視して続けられた一連の抗議活動、宗教界・政界での争い・・・これらは最高指導者の権威の失墜を示すものであり、イランにおける神権政治・ベラヤティファギ(イスラム法学者による統治)体制は治安当局による力に支えられた強権支配体制へと変質したと言えます。

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グルジア、南オセチア・アブハジア、そしてロシア北カフカス地方の近況

2009-06-25 22:05:15 | 国際情勢

(グルジアの首都トビリシ 4月に行われたサーカシビリ大統領の辞任を求める反政府集会で、ヒマワリの種を売る老女 “flickr”より By gipajournos
http://www.flickr.com/photos/37237190@N07/3435459900/)

【グルジア:国際監視団の活動停止】
次々に紛争・政変が起こるなかで、国際的関心が薄れたのか最近あまりニュースを見ないグルジアですが、よく似た記事が二つありました。
ひとつは国連監視団の活動がロシアの反対で終了することになったというもの。

****ロシア拒否権で活動終了へ=国連グルジア監視団-安保理*****
国連安保理は15日、グルジア政府軍とアブハジア独立勢力の停戦監視に当たる国連監視団の任期延長を定めた決議案の採決を行った。採決ではロシアが拒否権を行使。同案は廃案になった。これにより監視団は同日、任期切れを迎え、活動終了に向け作業に入ることになった。
決議案は米欧が提出。2週間の任期延長を定めており、米欧はこの間にグルジアでの国連の役割見直しについてロシアと合意したい意向だった。しかし、アブハジアの独立を承認しているロシアは、グルジアの領土の一体性をうたった既存決議を「想起する」との表現に反発。中国など4カ国も棄権に回った。
監視団は1993年に設置された。【6月16日 時事】
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もうひとつは、やはり停戦監視団に関するもので、これまたやはりロシアの反対で活動ができなくなるというもの。
最初に見たとき、同じニュースかとも錯覚しそうになりましたが、こちらは全欧安保協力機構(OSCE)の停戦監視団の話でした。

****グルジア:停戦監視団、撤退へ…任期延長に露外相が反対*****
今月末に任期切れとなる全欧安保協力機構(OSCE)のグルジア停戦監視団について、ロシアのラブロフ外相は23日、ウィーンでのOSCE会合で記者会見し、「交渉に応じるためには、関係国が南オセチアとアブハジアの中立な地位を認めることが必要だ」と語り、任期延長に反対する立場を明らかにした。
このため、OSCEのグルジア監視団は任期を延長できず、撤退は避けられない情勢となった。
この問題では、シンクタンク「国際危機グループ」(本部ブリュッセル)が22日、「南オセチアとアブハジアの軍事境界ゾーンから安全保障の枠組みが消えると、再び武力衝突がぼっ発しかねない」と警告した。
OSCE監視団は昨夏のグルジア紛争後に増派されたが、ロシアは、監視団が南オセチアとアブハジアに立ち入ることは認められないなどとして、監視団の任期延長に反対していた。【6月23日 毎日】
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いずれも、ロシアの反対でグルジアでの国際監視活動ができなくなるというもので、ロシアによる実力行使が既成事実となっていく状況です。
昨年10月、駐留ロシア軍が撤退した南オセチア・アブハジア周辺の「緩衝地帯」では、非武装の欧州連合(EU)監視団がロシア軍に変わって展開していますが、こちらはまだ活動を続けています。

【NATO軍事演習とクーデター未遂事件】
先月6日から1ヶ月間、グルジアでは北大西洋条約機構(NATO)の軍事演習が行われましたが、ロシア側は、メドベージェフ大統領が「露骨な挑発だ」と怒りをあらわにし、緊張が高まる場面もありました。
このNATO軍事演習直前には、ロシアが関与したクーデター未遂事件があったとグルジア側は発表しています。

****グルジアでクーデター未遂か、内務省「大統領の暗殺計画も」*****
グルジア内務省は5日、ロシアが支援するクーデター計画の立案者らが、ミハイル・サーカシビリ大統領の暗殺を計画していたと述べた。
グルジア内務省のShota Utiashvili報道官は、AFPに対し「反乱の立案者らは、大統領暗殺を計画していた」と語った。
ダビド・シハルリゼ国防相は、ルスタビ2テレビに対し、首都トビリシ近郊の軍基地の部隊が、グルジアで今週行われる北大西洋条約機構(NATO)の軍事演習を前に「反乱」を起こしたと述べ、反乱の目的は、「NATO軍事演習を妨害し、政府当局の軍事力を転覆させることだ」と語った。
Utiashvili報道官によると、内務省が「武装蜂起」の計画を察知したという。「計画はロシアが準備した。最低でもNATO軍事演習を妨害し、最大ではグルジアで大規模な軍の反乱を起こす計画だった」
また、軍兵士1人を拘束したと述べ、「反乱部隊がロシアと直接連絡を取り、ロシアから直接指令を受け、ロシアから金銭を受け取っていたという情報を入手している」と語った。【5月5日 AFP】
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当然、ロシアはこれを認めておらず、露外務省の高官は「内政問題の責任をロシアに転嫁しようとする試みだ」などとサーカシビリ大統領を非難しています。

グルジア国内では、4月にサーカシビリ大統領の辞任を求める、主要野党による6万人を超える大規模な反政府集会が首都トビリシで開かれました。
ロシア侵攻当時の反ロシア感情の高まりで一時強まっていた大統領の求心力は、今では政権存続が危ぶまれるほどに弱まってきています。
辞任要求の高まりの背景には、大統領への権力集中への批判のほか、ロシアとの軍事衝突を回避できなかった責任を追及する声があると言われています。【4月9日 時事より】

グルジア経済はロシア侵攻とその後の世界経済危機によって大きなダメージを受けていますが、サーカシビリ政権の民営化政策に乗じ、すでに紛争前からロシアに近い資本の流入が活発化しており、「グルジア経済の3~4割をロシアが握る」(在グルジア専門家)とも言われています。【3月30日 産経】
こうしたなかで、サーカシビリ大統領の求心力低下を見計らって、ロシア側も影響力強化の好機と考えていることと思われます。

先のクーデター未遂事件も、苦しくなったサーカシビリ政権による「内政問題の責任をロシアに転嫁しようとする試み」なのか、ロシア側のなんらかの関与があったのか・・・藪の中です。

【“独立国”南オセチア 与党勝利】
“独立”を手にした南オセチアとアブハジアですが、戦闘もなく、14年冬季五輪の開催地ソチに近いという好条件に恵まれているアブハジアに対し、南オセチアは戦闘によるダメージが大きく、また、北のロシアと結ぶ命綱は渓谷沿いの細い一本道だけという厳しい状況にあります。

ただ、南オセチアでも今のところは“独立”を歓迎する方向は変わっていないようで、5月31日に行われた南オセチアの議会選挙では、ロシアの支援を受けたココイティ大統領の与党「統一」が約46%の得票率で勝利しました。
「統一」以外に議席を獲得した「国民党」「共産党」も親大統領勢力で、ココイティ大統領は31日、「選挙で我々は誇りある独立国であることを証明した」と表明しています。
なお、ロシアが派遣した「選挙監視団」も1日、「国際基準に合致した自由で開かれた選挙だった」と結果を追認する声明を発表したとか。【6月1日 毎日】

【北カフカス 治安悪化】
大筋、ロシアの思惑に沿って事態は推移しているようですが、グルジアや南オセチア・アブハジアに隣接するロシア南部の北カフカス地方の状況には、穏やかでないものもあります。
ひと頃の「火薬庫」チェチェンは、強権支配体制を敷くカディロフ大統領のもとで収まっていますが、その分、周辺地域で要人暗殺などの治安悪化が進んでいます。

****北カフカス地方:相次ぐ要人暗殺 ロシアの治安強化も不調****
ロシア南部の北カフカス地方で治安・司法当局幹部の暗殺が相次いでいる。同地方は2度にわたるチェチェン紛争を引き起こした「火薬庫」で、メドベージェフ大統領が現地を緊急視察するなど安定化に取り組んでいるが、治安悪化を防ぐ有効策は見つかっていない。

ダゲスタン共和国の首都マハチカラで5日、マゴメドタギロフ共和国内相が射殺された。その後も警官らの暗殺が続いている。イングーシ共和国の主要都市ナズランでは10日、共和国最高裁のガスゲレエバ副長官が狙撃され死亡した。副長官が04年に起きたチェチェン武装勢力による襲撃事件を捜査していたことから襲われた模様だ。
メドベージェフ大統領は9日、内相が暗殺されたダゲスタンを急きょ訪問。北カフカス地方で今年、112人のテロリストを殺害したと指摘し、「テロせん滅に向けた活動を継続する」と訴えたが、その直後にイングーシで暗殺事件が起き、政権内に衝撃が広がった。
北カフカスでは今年に入って民間人含め100人以上が殺害されている。テロが頻発する背景には、経済発展が進まず、汚職がまん延するうえ、民族主義者やイスラム教過激勢力が存在するためとみられている。政府は昨秋、治安強化のためイングーシ共和国の大統領を交代させたが、成果を上げていない。

一方、チェチェン共和国では4月、99年から敷かれていた「対テロ作戦体制」が解除され、表面的な安定が強調されているが、共和国のカディロフ大統領が強権体制を敷いていることに懸念の声が上がる。ロイター通信は、ダゲスタンやイングーシが安定化しない理由について、連邦政府がカディロフ氏のような強権者の出現を警戒し、両共和国の指導部に十分な権限を与えていないため、と分析している。【6月12日 毎日】
********************

ロシアはチェチェンに関しては“領土保全”を前面に掲げて独立を認めず武力行使しましたが、グルジアに属する南オセチア自治州とアブハジア自治共和国には独立を認めました。
この二重基準が将来、ロシア人とは異なる宗教や文化、言語を有する北カフカス地方の住民の不満をより強める可能性があるとの指摘もあります。【08年10月30日 産経】
南オセチアとアブハジアをロシアに吸収してしまえば、一応形の上では矛盾は収まるのでしょうが、国際的には新たな火種になります。
ダブル・スタンダードの矛盾は別にロシアだけの話ではなく、どこの国でも見られる話ではあります。

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イスラエル  アメリカの入植地凍結要求を改めて拒否

2009-06-24 21:04:53 | 国際情勢

イスラエル入植地のひとつケドゥミム。
ケドゥミムは75年以来一帯の丘の頂上に次々と建て増しされた中小12の住宅地群で、人口は約5000人。エチオピアやロシアから移住した比較的低所得のユダヤ人も多く、住宅不足であぶれた人々は移動式の仮設住宅を借りて待機しています。隣接する別の丘では入植者が勝手に住み着き、新たに簡素な住宅地を形成しています。【6月23日 毎日】

こうした入植地拡大によって、パレスチナ住民のオリーブ畑と入植地が接近し、パレスチナ住民は国際機関などの立会いなしには安全に収穫ができない事態も起こっています。
“flickr”より By michaelramallah
http://www.flickr.com/photos/michaelimage/2857754054/)

ちょっと“?”と感じたニュース。
イスラエルがハマスの「大物」を釈放したそうです。
ハマスとの間でなんらかの交渉があったのでしょうか。

****イスラエル:ハマスの「大物」を釈放****
イスラエルは23日、刑務所に約3年間収監されていたイスラム原理主義組織ハマスのメンバーで、パレスチナ評議会(国会に相当)議長のアジズ・ドゥエイク氏を釈放した。
イスラエルは06年6月下旬に兵士1人がパレスチナ自治区ガザの武装勢力に拉致された後、ハマス所属の評議会議員を大量に拘束。ドゥエイク氏はその中で最も「大物」の一人だった。
イスラエルにとって同氏は、拉致された兵士の解放交渉の「カード」とみられていた。だが、ハマス側は同氏釈放と解放交渉の関連を否定している。【6月23日 毎日】
*******************

【「完全な入植中止は受け入れられない」】
そのイスラエルのネタニヤフ首相は14日の外交演説で、これまで拒み続けてきた将来のパレスチナ国家樹立に初めて言及しました。
ただし、この国家が非武装化され、イスラエルを「ユダヤ人国家」と認めることが樹立合意の必要条件だと、パレスチナ側が受け入れられない東国原知事並みの高いハードルを突きつけた形になっています。
併せて、パレスチナが求める聖都エルサレムの分割や、難民のイスラエル領内への帰還には応じないと言明、更に、
オバマ大統領が求める入植地建設の全面中止については表明せず、新しい入植地の建設とパレスチナ領土の収用については今後行わないとだけ述べるなど、殆どゼロ回答に近い内容でした。
アラブ諸国から一斉に反発の声が上がっていますが、アメリカは、パレスチナ国家樹立に言及しただけでも今後の交渉の糸口がつかめたと評価しています。

入植地については、イスラエルは、人口の「自然増」を理由に拡充しています。
この入植地問題について、クリントン米国務長官とリーベルマン・イスラエル外相の会談が行われましたが、パレスチナの西岸地区での入植地凍結を求めるアメリカに対し、イスラエルはこれを拒否しています。

****米イスラエル外相会談、入植地建設の凍結めぐり物別れ*****
米国務省での会談後の共同記者会見で、クリントン長官は「入植を中止してほしい」と明確に述べた。また、入植地建設の中止は包括合意によるパレスチナ国家建設と二国家共存にとって、重要不可欠な条件だと米国側の主張を再度強調した。
しかし、ネタニヤフ連立政権の一翼を担う極右政党「わが家イスラエル」党首でもあるリーバーマン外相は、イスラエルは現在のヨルダン川西岸の「人口比を変える意図はない」と逆の主張を明言した。
同外相は「人の自然な生死、人口の自然増加を認めるべきで、完全な入植中止は受け入れられない」と米国側の要求をかわし、「われわれの姿勢は非常に明快だし、米国のジョージ・W・ブッシュ前政権からも一定の理解を得て、わが国はこの方向性を維持しようとしている」と主張した。
これにクリントン長官は同意せず「ブッシュ政権下では、非公式なものにしても口頭のものにしても、拘束力のある合意はひとつも交わしていない」と反論した。【6月18日 AFP】
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極右政党のリーベルマン党首が外相に就任した段階で、容易に和平交渉に関する問題が前進しないであろうことは想像されていましたが、実際そのような流れです。

【04年のブッシュ書簡】
リーベルマン・イスラエル外相が言う“米国のジョージ・W・ブッシュ前政権からも一定の理解を得て”云々は、04年のブッシュ前大統領から当時のシャロン・イスラエル首相に送られた書簡を指しています。
この書簡は、大規模な入植地建設に伴う「現実」を考慮するという内容だったとされ、イスラエル政府が入植地人口の自然増に伴う拡張を容認する根拠の一つとなっています。
クリントン米国務長官は今月5日、ブッシュ前政権からの引き継ぎに「(人口の自然増による建設拡大を認める)いかなる非公式、口頭の合意もない」と断言、前大統領が書簡で認めたとするイスラエル側の主張を退けています。
また、クリントン長官は「前政権からは(中東和平の)交渉の公式記録を引き継いだ」として、仮に非公式の合意があったとしても、オバマ政権としては認めないことを強調しています。【6月6日 毎日】
イスラエルに“甘かった”ブッシュ前政権のツケが回ってきているようです。

【入植拡大の実態】
イスラエルは「自然増」を理由に入植地を拡充していますが、実際は入植地の格安住宅を求めてイスラエル領内から移り住む「社会増」も多いようです。

****イスラエル:ヨルダン川西岸「人口自然増」 入植拡大、薄れる根拠 移住も一因****
中東和平の最大の障害の一つである、イスラエル占領下ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地問題。入植活動の完全凍結を求める仲介役の米国に対し、イスラエルは人口の「自然増」を理由に入植地を拡充している。だが、実際には入植地の格安住宅を求めてイスラエル領内から移り住むケースも多く、こうした「社会増」も手伝って人口は増加の一途をたどっている。(中略)
 
イスラエルは入植者人口の増加の理由を「自然増」と説明する。通常「自然増」とは出生数が死亡数を上回ることだが、イスラエルが言う「自然増」には、同国領から入植地へ移住する「社会増」も含まれているのが実態だ。
イスラエルの最大紙イディオト・アハロノトによると、06年の入植者人口増の約4割は「社会増」で、07年もほぼ同様の傾向だった。イスラエルはこうした人口増によって生活水準が落ちる恐れがあるとして、入植活動の凍結を拒否している。

イスラエルは第3次中東戦争(67年)で西岸とガザ地区を占領。西岸での入植活動は70年代半ばごろから本格化した。神に与えられた「約束の地」への帰還を掲げる右派・宗教系のユダヤ人が先導し、政府はこれを「追認」。入植地に通じる道路を整備したり、入植者向けに好条件の住宅ローンを提供したりして、事実上、入植を「促進」してきた。このため、入植者の中には自らを政府の「代弁者」と標榜(ひょうぼう)する人も少なくない。
西岸とガザ地区を将来の「パレスチナ独立国家」の領土と位置付けるパレスチナ人と米欧諸国などにとって、入植地の拡充を認めることはパレスチナ国家建設による「2国家共存」構想を否定することにつながる。

イスラエル紙ハーレツのアキバ・エルダー論説委員は入植地問題の背景について、「イスラエルは西岸を占領地でなく『係争地』と考えている」と指摘する。国際法上、占領地への入植は違法だ。だが、イスラエルは自国と西岸の境界(国境)を「今後の交渉課題」と解釈し、自国政府が承認していない入植地のみを「違法」とみなしている。
和平交渉の積極仲介に乗り出したオバマ米大統領は入植活動を完全凍結し、交渉進展の起爆剤にしたい意向。パレスチナ自治政府も和平機運を再喚起する好機ととらえ、オバマ大統領と歩調をそろえている。

イスラエルが占領地に建設したユダヤ人居住区。ヨルダン川西岸には約120カ所ある。このほか、政府未承認の入植地も多数あり、過去10年で入植者人口は10万人以上も増えた。米露、欧州連合、国連が03年に提示した「新中東和平案」(ロードマップ)はイスラエルに対し、「自然増」を含む入植活動の完全凍結を求めている。ガザ地区の入植地は05年にすべて撤去された。【6月23日 毎日】
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【厳しい前途】
入植地問題ひとつをとっても、上記のようにイスラエルとの交渉は困難な状況です。
更に、「2国家共存」に向けての条件整備となると・・・道はるかというのが実態です。
ただ、思いがけない方向へ事態が進展・・・といったこともなくはないでしょうから、粘り強い交渉は必要です。

中東をめぐる枠組みとしては、アメリカが4年ぶりに駐シリア大使を復帰させることを明らかにしており、関係正常化が進みそうです。
一方で、イランの混乱によって、イランとの対話路線は頓挫しそうです。
イランとの対話が進めば、孤立を恐れるイスラエルに圧力をかけることもできたのでしょうが。

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アメリカ  米上院の人種差別謝罪と白人至上主義団体の活動活発化

2009-06-23 21:08:36 | 世相

(この昨年11月4日の風刺漫画は、オバマ大統領誕生を聞いてアメリカから逃げ出すKKKや極右団体の人間を描いていますが、現実はむしろ逆で、非白人大統領誕生は彼等の活動を活性化させているようです。
“flickr”より By Bearman2007
http://www.flickr.com/photos/bearmancartoons/3003954309/)

【「米国民を代表してアフリカ系米国人に謝罪する」】
アメリカでは6月19日は「奴隷解放の日」ですが、その前日18日に、米上院はアフリカ系米国人(黒人)に対して公式に謝罪する決議を全会一致で採択したそうです。

****米国:人種差別、上院が謝罪…黒人奴隷解放から144年*****
米上院は18日、奴隷制度(1865年廃止)と人種差別の象徴となったジム・クロウ法(1964年廃止)で苦痛を味わったアフリカ系米国人(黒人)に対し、公式に謝罪する決議を全会一致で採択した。下院では昨年、同様の決議を採択しているが、黒人初のオバマ大統領が誕生したことを受け、上院でも採択した形だ。
決議では「奴隷制度や人種差別の根本的な不法、残虐さ、残忍さや残酷さ」を認め、「米国民を代表してアフリカ系米国人に謝罪する」としている。昨年の下院決議も同様の内容で、下院は近く改めて決議を採択する。
米国では1865年の南北戦争終結後の黒人解放にちなみ、6月19日は「奴隷解放の日」と呼ばれ、上院決議はその前日に採択された。ただ、拘束力はなく、連邦政府の法的補償なども避けている。【6月21日 毎日】
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アメリカという国を外から眺めていると、その国民性の長所や首を傾げたくなるところなどいろいろありますが、こうした決議に見られる率直さは美徳のひとつではないかと思われます。
それが、アメリカ社会のダイナミズムの背景にあるようにも思えます。

【支持基盤拡大の好機】
今回決議は、黒人初のオバマ大統領が誕生したことがきっかけのようですが、当然ながらアメリカ社会全体が黒人大統領誕生を喜んでいる訳でもなく、アメリカ社会が人種差別を捨て去っている訳でもありません。
むしろ、黒人大統領誕生の衝撃と、多くの人が家や職を失う経済危機は、人種差別的な極右団体の活動を活気づかせているそうです。

人種保護団体の南部貧困法律センター(SPLC)によると、08年の人種差別団体数は926で、07年比で4%増、00年比では54%増になっています。
また、極右団体のサイトは大統領選挙投票日翌日にはアクセスが殺到し、サーバーがダウンする状況だったとか。
そうした白人至上主義的な極右団体サイトのひとつ“ストームファーム”は、オバマ勝利から24時間以内に2800の新規ユーザー登録があったそうです。【5月20日号 Newsweek日本語版より】

極右団体は、現在の状況を支持基盤拡大の好機ととらえており、インターネットを通じて宣伝活動を強めています。
表面的には白人至上主義をあまり過激にださないようにする傾向もあるとか。
「大型テレビも車も持っていたのに失業し、転職しようにも不法移民に先を越された普通の男たち」を集めるために。
ある極右団体幹部のスカウト担当者への言葉・・・「慎重にやれ。いきなり核心を突くと彼等はショックを受ける」
「移民や経済・非白人大統領だけを取り上げても関心はあつまらない。世間の関心を集めるためには、いろいろな要素を組み合わせる必要がある。」
「今は黒人の糾弾より、白人の尊厳と文化を強調する。」【5月20日号 Newsweek日本語版より】

【噴出す憎しみ】
こうした人種差別的な団体が一定に存在し、その活動を活発化させるなかで、突発的な事件が噴出すこともあります。

****ホロコースト博物館で黒人警備員射殺 米社会、なお根深い人種偏見****
米首都ワシントンのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)博物館で10日午後、「白人至上主義」を信奉する88歳の男が、黒人警備員をライフル銃で射殺した。男はこれまでもユダヤ人虐殺を否定し、黒人やユダヤ人への憎悪を露骨に語るなど、凶行は確信犯的な色彩が強い。オバマ米大統領は同日、「反ユダヤ主義と偏見への警戒」を国民に訴えたが、事件は黒人大統領が登場する時代を迎えてなお、米社会がひきずる人種差別の根深さを示すものとなった。(中略)

連邦捜査局(FBI)などが犯行の背景を調べているが、単独犯とみられている。容疑者は1981年、高金利政策への不満から連邦準備制度理事会(FRB)ビルに銃やナイフを持って押し入り、6年間服役した前科を持つ。
容疑者は米国の代表的な反ユダヤ主義者、ウイリス・カート氏の影響を受けたとみられ、「ユダヤ人が米国の金融を支配している」という狂信的な考え方を抱いていたとされる。自身が運営するウエブサイトなどでは、ホロコーストを否定するとともに、ユダヤ人を「西欧文明の破壊者」と非難していた。

人種差別を掲げる米国の結社では、奇怪な白衣姿で黒人襲撃を繰り返した「KKK」(クー・クラックス・クラン)が有名だが、差別問題を監視する非政府組織(NGO)の調査では、KKKの残党だけで186組織が確認されている。ネオナチ団体も196を数えるなど、CNNテレビによれば、FBIが把握する人種差別団体は、全米で900以上に上る。
事件を受け、米メディアは約30年前に離婚した元妻まで探し出し、容疑者の「過激な思想傾向」をあぶり出している。同時に、歴史的な景気後退の中で、差別主義に基づく独善的な犯罪が増える可能性にも言及している。【6月12日 産経】
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6月5日ブログ「不機嫌な時代 ヨーロッパ・オーストラリアで広がる移民への不寛容 」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090605)では、ヨーロッパ社会における移民排斥の動きや極右団体の勢力拡大をとりあげましたが、人間というものは、自分自身を含めて、とかく差別をしたがる生き物です。
特に、うまくいかないことがあると、それを差別対象集団のせいにして憎しみ・敵意をぶつける傾向があります。
ひとの心から差別を消し去ることは至難の業ですが、対症療法としては、1日も早い経済回復でしょう。

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グリーンランド  自治権拡大 温暖化で完全独立へ?

2009-06-22 21:32:50 | 国際情勢

(グリーンランドでは、氷が解けた地域が急速に拡大しています。
“flickr”より By onthetower
http://www.flickr.com/photos/onthetower/218536145/)

【“氷の島”もしくは“宝の島”】
ご存知のように、グリーンランドはデンマーク領です。
子供の頃から世界地図を眺めるのが好きでしたが、“グリーンランド”という馬鹿でかい島をどうしてデンマークなんて“小国”が持っているのか不思議でした。
(メルカトル図法だかミラー図法だかの地図では、高緯度のグリーンランドは実際以上に大きく描かれていましたので、余計にそんな感じを強く持ちました。)
また、氷の島らしいのに“グリーンランド”という名前も奇異に感じていました。

ウィキペディアによると、島の81%を氷床が覆い、氷の重さで島の中央部の地面は海面より300mも低いとか。
また、もしグリーンランドの氷床が全て融けたならば、現在よりも7.2mほど海面が上昇するそうです。
巨大な氷の塊ですが、分厚い氷の下に多くのお宝が眠る島でもあります。
亜鉛、銅、鉄、氷晶石、石炭、モリブデン、金、プラチナ、ウランなどの鉱物資源が存在し、特に、石油の埋蔵量は中東地域に匹敵する量だとか。【ウィキペディア】

ただ、これまでは厚い氷のために採掘は不可能でしたが、温暖化のせでしょうか、北極圏の氷は急速に溶け出しており、グリーンランドを含めた北極圏の資源は採掘可能性とういう点では、次第に利用可能な資源となりつつあります。
そのため、北極圏はロシア・カナダ・デンマーク、アメリカなどの思惑がぶつかり合う地域ともなっています。

【独立への第一歩】
で、話をグリーンランドに戻すと、この巨大な“氷の島”もしくは“宝の島”に住む人口は、56,385人。
79年に自治政府が発足していますが、昨年11月の住民投票の結果、自治権の大幅な拡大が支持され、今般その自治権拡大の法律が施行されました。

****グリーンランドの自治権拡大、完全独立への鍵を握る天然資源*****
デンマーク領グリーンランドで21日、08年11月に行われた住民投票で賛成75%の圧倒的多数で承認された自治権拡大に関する法律が施行された。これにより、グリーンランドはデンマークによる300年にわたる統治から、新たな自治の時代に入った。
今回の自治権拡大で石油などの豊富な天然資源の権利もグリーンランド側が握ることになり、デンマークからの独立へさらに一歩近づいたと言える。(中略)

デンマークは1979年にグリーンランドの自治権を認め、限定的な自治を認めていた。だが今回、数年間にわたる交渉の結果認められた新たな自治権の下では、グリーンランドに天然ガスや金、ダイヤモンドなどの天然資源に関するより広い権利が認められることとなった。
米科学者らによると、グリーンランドの北端には、特に石油や天然ガスが豊富に埋蔵されているとされ、地球温暖化によって厚い氷に覆われている未開発の天然資源へのアクセスが可能になり、自立経済に向けた確固たる基礎を築くことが可能になると見られている。
デンマークのオーフス大学の歴史学者Lars Hovbakke Soerensenによると、こうした天然資源がグリーンランド経済を支えるだけの規模であることが確認されれば、グリーンランドはデンマークからの完全独立へ進むことになるとの見方を示している。

世界の淡水資源の10%が存在する人口5万7000人のグリーンランドは、地球温暖化の脅威に最もさらされている地域の1つである。地球温暖化により、主力産業である漁業が大きな影響を受けるものと見られている。
こうしたことから、グリーンランドの政治指導者たちは、経済の多様化とデンマーク依存からの脱却に向け、天然資源に目を向けざる得ない状況になってくるだろう。【6月22日 AFP】
******************************

今回の措置で、天然資源管理や司法、警察活動など、これまでデンマーク政府に依存していた分野にも自治権が拡大されます。
また、外交においても一定の部分が自治政府に託されることになります。また、グリーンランド語が島の公用語として承認されます。

現在は、グリーンランド経済はデンマークからの補助金に頼っており、政府補助金は域内総生産の3分の2に相当する32億クローネに上っています。
また、地下資源開発も期待通りには進んでいません。

地下の“お宝”開発が軌道にのってくれば、経済的自立も可能で、将来的な“独立”という方向も見えてきます。
自治政府のエノクセン首相は昨年の住民投票に関し、「そう遠くない将来に完全独立が実現するよう望んでいる」と語っていました。
デンマーク本国も、ある程度そうした方向は織り込んでいることでしょう。

ただ、デンマークも今回の自治権拡大でこの“お宝”を手放す訳ではなく、これまで自治政府とデンマーク側と二分していた地下資源収入について、7500万デンマーク・クローネ(約12億円)までを自治政府の取り分として、残りの超過分をデンマーク側と折半することになっているようです。【08年11月25日 毎日】
地下資源収入を自治政府に今まで以上にまわす代わりに補助金は削減して本国負担を軽減し、将来的な資源採掘についてはその権利を維持している・・・とも見受けられます。
何分人口57000人程度ですから、自治だ独立だとは言っても、本国デンマークの支援なしには何も始まらない・・・というところでしょう。

【温暖化の行方は?】
もっとも、グリーンランドや北極圏の地下資源が本格的に利用可能になる頃には、この地域の氷の溶解によって、全地球的規模の影響が出ているかと思われますし、どこよりもグリーンランドが一番強い影響を受けることになるでしょう。
それが、グリーンランドにとって、吉と出るか凶と出るか・・・。

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マケドニア  アレキサンダー大王も困惑 国名問題

2009-06-21 12:56:00 | 国際情勢

(こちらはギリシャ・中央マケドニア地方の首府テッサロニキにあるアレキサンダー大王像。
テッサロニキはアレキサンダー大王によって創建された都市。ギリシャにとってもアレキサンダーは“おらが国の偉人”でもあります。
“flickr”より By macropoulos
http://www.flickr.com/photos/markop/359293162/)

【マケドニアの大王像にギリシャ怒る】“マケドニア”と聞いて連想するのはやはりアレキサンダー大王でしょう。
古代ギリシアが終わる時代を風のごとく駆け抜けた英雄として、ロマンを掻き立てるものがあります。
現代においては、ユーゴスラビア解体で生まれた“マケドニア共和国”があって、コソボ独立問題とも関連して名前があがります。

ただ、この“マケドニア共和国”という名称は、非常にもつれた国際問題をも引き起こしており、アレキサンダー大王をも巻き込んでの騒動となっています。

****アレキサンダー大王像めぐるマケドニアとギリシャの攻防*****
マケドニアが首都スコピエのマケドニア広場に設置を予定しているアレキサンダー大王像の建設計画が、ギリシャの怒りを買っている。
ウマの背にまたがり右腕を掲げた高さ22メートルの大理石像の建設は、決して裕福とはいえないバルカン半島の小国、マケドニアが、1000万ドル(約9億8000万円)を超える予算をつぎ込んだ1大プロジェクトだ。
同国の基礎自治体ツェンタルのウラジーミル・トドロビッチ知事によると、建設作業は現在、最後の仕上げ段階にあるという。

しかしアレキサンダー大王の生誕地、古代マケドニアの首都ペラは、現在のギリシャ内にあることから、マケドニアとギリシャの双方が、同大王は自国の英雄だと主張して譲らない事態となっている。
トドロビッチ知事は、先に放送されたテレビインタビューのなかで、「アレキサンダー大王をめぐる話し合いは、ギリシャ側からは何の譲歩もないまま2年間もこう着状態にある。銅像の建設計画は、こうした状況の打開を目指したものだ」と語っている。

自国内のマケドニア地方の正当性を主張するギリシャは、マケドニアという国名さえも、認知を拒否している。
1991年のユーゴスラビア解体に伴いマケドニアが独立してから18年間におよぶ両国の確執は、国連の仲介努力も及ばず、ギリシャは前年、国名論争を理由にマケドニアの北大西洋条約機構(NATO)加盟を拒否。マケドニアの欧州連合(EU)加盟の行方にも暗雲が漂う。
当然ながら、ギリシャは、マケドニア広場を囲む建物も圧倒する巨大なアレキサンダー大王の建設についても、マケドニア政府に激しい非難を浴びせている。【6月12日 AFP】
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【「領土的野心の表れ」】
“マケドニア共和国は、地理的にはマケドニアと呼ばれてきた地域の北西部にあり、マケドニア共和国はマケドニア地域全体の約4割を占めている。残りの約5割はギリシャに、約1割はブルガリアに属している。また歴史的には、マケドニア共和国の多数民族はマケドニア人と自称・他称されるが、彼らはスラヴ語の話し手で南スラヴ人の一派であり、ギリシャ系の言語を話していたと考えられる古代マケドニア王国の人々と直接の連続性はない。これらの理由から、ギリシャがマケドニアという国名を拒否し、同国との間で激しい国名論争が生じている。”【ウィキペディア】
マケドニア共和国、ギリシャ、ブルガリアだけでなく、細かく見るアルバニア、コソボ、セルビアにもマケドニアの一部と見なされる領域が含まれているようです。

バルカン戦争(1912~13)までオスマン・トルコ支配下にあったマケドニア地域は戦後、大きくはギリシャとブルガリア、旧セルビアに分割され、セルビア側の領土だけが91年に独立してマケドニア共和国となっています。
ギリシャが“マケドニア”の名称にこだわるのには、“マケドニア” の国名が「わが国(ギリシャ)のマケドニア地方への領土的野心の表れ」という懸念を抱いていることが根底にあります。

確かに、“火薬庫”バルカン半島は民族が入り乱れており、アルバニア系住民を主体とするコソボ独立で“大アルバニア主義”の動き活発化したように、もし隣国が“マケドニア”を名乗り、古代マケドニア王国の旗である「ヴェルギナの星」を国旗とすれば、ギリシャ・ブルガリア領内のマケドニアを含めたマケドニア統一運動的なものにその裏づけを与えることにもなって、将来的な混乱を呼び起こす・・・ということも考えられなくはありません。

【NATO加盟見送り】
こうした政治的問題や文化的アイデンティティーの問題から、マケドニア共和国とギリシャは長く論争を続けており、93年のマケドニア共和国の国連加盟時には、両国は「マケドニア旧ユーゴスラビア共和国」の暫定名称を使うことで妥協しましたが、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)へのマケドニア共和国の加盟について、ギリシャは“マケドニア”の使用に強く抵抗しています。

昨年4月ルーマニアの首都ブカレストで開催されたNATO首脳会議を前に、国連ニーミッツ事務総長特別代表は仲介案として、国名を「マケドニア(スコピエ)共和国」と変更することを提示しましたが、ギリシャがそれを認める保証が得られず、マケドニア政府はこの案の議会提出を見送っています。
なお、スコピエはマケドニア共和国の首都であり、“中華台北”みたいなものでしょう。
結局、NATO首脳会議ではアルバニア・クロアチアの新規加盟が承認されましたが、“マケドニア”の国名を認めないギリシャの反対があって、マケドニアの加盟は見送られています。

なお、このNATO加盟見送りで、もともと国内に少数派アルバニア人問題を抱えるマケドニア共和国の内政も大きく混乱し、議会解散に至りました。
****マケドニア議会が解散 NATO加盟先送りで内政混乱****
マケドニア議会は12日、賛成多数で解散を決めた。2カ月以内に前倒し総選挙が行われる。解散は国家統一民主党のグルエフスキ首相率いる連立与党が求めた。
マケドニアは多数派のマケドニア人と人口の約4分の1のアルバニア人などからなる多民族国家。隣国コソボの独立に伴って権利拡大を求めるアルバニア人系政党と、国家統一民主党などとの亀裂が広がっていたが、北大西洋条約機構(NATO)加盟を目標に何とか連立を維持してきた。しかし、その加盟が今月初めのNATO首脳会議で先送りになり、連立政権が解散に踏み切った。【08年4月12日 朝日】
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ギリシャのマケドニア新規加盟反対はマケドニア側の怒りを増幅させ、昨年11月には国際司法裁判所にギリシャを提訴しています。

****マケドニア:国名論争でギリシャを国際司法裁に提訴*****
マケドニアからの報道によると、同国のミロショスキ外相は17日、国名論争で対立を続ける隣国のギリシャがマケドニアの北大西洋条約機構(NATO)加盟を妨害しているとして、国際司法裁判所に提訴したことを明らかにした。
同外相によると、両国は95年にマケドニアの国際機関での正式名称を暫定的に「マケドニア旧ユーゴスラビア共和国」とするとともに、ギリシャがマケドニアの欧州連合(EU)やNATO加盟を妨げないことで合意した。
しかし今年4月のNATO首脳会議でギリシャが国名論争を理由にマケドニアの加盟を拒否し、加盟実現が先送りになったことから今回提訴に踏み切ったという。【08年11月19日 毎日】
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【中華台北】
国名・名称では台湾も中国との間で長年もめています。
最近の中台接近の流れのなかで、中国側が台湾の世界保健機関(WHO)年次総会オブザーバー参加を容認し、今年5月、台湾は38年ぶりに国連関係機関参加を果たしました。
このときも参加名称が問題となりましたが、「中華民国」「台湾」ではなく、主権問題を棚上げする形の「中華台北」で決着しました。
この名称問題について、馬総統は「妥協の結果であり、最善の選択ではない」とする一方、「今回は貴重な機会だ。参加しなければ(国際社会から)排除され続ける」と指摘しています。

アレキサンダー大王はギリシャ文化とオリエント文化を融合してヘレニズム文化を生みましたが、その偉業のスケールに比べると、名称問題などは瑣末なことにも思えます。
ただ、アレキサンダーの帝国が死後に瓦解したように、現実政治はなかなか厄介です。

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