孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  タリバン“春の大攻勢” 米・NATO軍による民間人犠牲者増加への批判

2011-05-31 22:09:24 | 国際情勢

(5月24日、ヘルマンド州のMarjehで現地子供と遊ぶISAF英軍兵士 5月28日、近郊のNawzadでISAFの戦闘機が民間人家屋2軒を空爆し、子ども10人、女性2人、男性2人の計14人が死亡しました。 “flickr”より By U.S. Department of Defense Current Photos http://www.flickr.com/photos/39955793@N07/5765218076/

春の大攻勢
アフガニスタンでの戦局は、米軍増派や、カンダハルやヘルマンドなどタリバン本拠地での大規模作戦によって、ひところに比べると米・NATO軍に有利に展開しているようにも報じられていますが、このところアフガニスタンからのテロ攻撃などのニュースが増加しています。
タリバンによる春の大攻勢の一環のようです。

****アフガニスタン NATO作戦への抗議デモで12人死亡、東部では自爆攻撃****
アフガニスタン北東部のタハール州タロカンで18日、前日の北大西洋条約機構(NATO)軍による急襲作戦に抗議するデモが暴徒化し、12人が死亡した。一方、同国東部では13人が死亡する自爆攻撃があり、1日に25人が死亡するという、ここ数週間でもっとも犠牲者の多い日となった。

NATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)は17日深夜、「ウズベキスタン・イスラム運動」の拠点を急襲し、女性2人を含む4人が死亡した。
しかし、欧米寄りとされるハミド・カルザイ大統領は、死亡した4人は武装勢力のメンバーではなかったと主張し、デービッド・ペトレアスアフガニスタン駐留米軍司令官に説明を要求。
普段は静かなタロカンでは急襲作戦に抗議する2000人規模のデモがあり、国際部隊の基地に投石するなどして一部が暴徒化。鎮圧に乗り出した警察が発砲し、地元政府によると12人が死亡、80人が負傷した。

同日午後、東部ジャララバード郊外の空港付近では、自動車による自爆攻撃で13人が死亡、20人が負傷した。警察の研修生らを乗せたバスを狙ったもので、すでに旧支配勢力タリバンが犯行声明を発表している。
人員が増強されつつある警察や軍は、タリバンなどの武装勢力の標的となっている。(後略)【5月19日 AFP】
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その後も毎日のようにテロによる犠牲者が続いています。
****タリバンが建設会社襲撃、35人死亡 アフガニスタン東部****
アフガニスタン東部パクティア州で19日未明、旧支配勢力タリバンが道路建設会社を襲撃した。州政府によると、数時間の銃撃戦の末に同社従業員ら35人が殺害され、20人が負傷した。(中略)

タリバンはハミド・カルザイ政権の権威を失墜させるために、政府の復興プロジェクトを襲撃の最重要ターゲットとしており、これまでにも道路の復興工事に従事する外国人労働者を繰り返し拉致している。
タリバンは4月末、毎年春に行っている大規模攻撃の開始を宣言している。【5月20日 AFP】
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****アフガニスタン:軍病院で自爆テロ6人死亡 カブール*****
アフガニスタンの首都カブール中心部にある国軍病院で21日、自爆テロがあり、国防省によると、病院関係者少なくとも6人が死亡、23人が負傷した。(後略)【5月22日 毎日】
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****アフガンでタリバンの襲撃相次ぐ*****
アフガニスタン東部ホスト州で22日、交通警察の入った建物が武装勢力の襲撃を受け、AP通信によると少なくとも警官3人を含む6人が死亡した。現場は治安関係が集まる地域という。イスラム原理主義勢力タリバンが同通信に犯行を認めた。(後略)【5月23日 産経】
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****アフガンで爆発、米兵8人死亡 タリバーンが攻撃認める****
アフガニスタン南部カンダハル州で26日、仕掛け爆弾が爆発し、AP通信によると、米兵8人が死亡した。反政府武装勢力タリバーンが攻撃を認めた。(後略)【5月27日 朝日】
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*****アフガニスタン自爆攻撃で元「北部同盟」司令官ら6人が死亡*****
アフガニスタンのタハール州の州知事公舎で28日、自爆攻撃が発生し、同国北部を管轄する警察司令官とドイツ軍兵士2人を含む6人が死亡した。旧支配勢力タリバンが犯行声明を発表している。(後略)【5月29日 AFP】
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****アフガニスタンの州知事公舎でテロ、7人死亡****
アフガニスタン北部タハール州の知事公舎内で28日、アフガン警察の制服を着た男が、身に着けていた爆弾を爆発させ、知事の広報官などによると、アフガン警察のダウド北部方面司令官やドイツ軍兵士2人を含む計7人が死亡、知事やドイツ軍司令官ら10人が負傷した。旧支配勢力タリバンが犯行を認めた。(中略)
事件は、南部を拠点とするタリバンが北部へも浸透している実態をうかがわせるものと言える。【5月29日 読売】
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【「一方的な作戦がアフガン人をうんざりさせている」】
こうしたタリバン側の攻勢とともに、最近一段と厳しくなっているのが、NATOが指揮する国際治安支援部隊(ISAF)による空爆・夜間の民家急襲作戦による民間人被害の増加に対する批判です。
冒頭の記事も、ISAFによるタロカンでの夜間急襲作戦(カルザイ大統領は、死亡した4人は武装勢力のメンバーではなかったと主張)に抗議するデモが暴徒化し、治安当局の発砲により12人が死亡したというものでした。

NATO軍が行っている反政府武装組織の拠点せん滅や関係者摘発を目的に行う夜間の民家急襲作戦について、カルザイ大統領は、今後はアフガン軍の統制下に置き、外国部隊の独断による実施を禁じると表明しています。

****アフガン:夜間の民家急襲、軍統制化に 外国部隊独断禁止*****
アフガニスタンのカルザイ大統領は28日、同国駐留の北大西洋条約機構(NATO)軍部隊が反政府武装組織の拠点せん滅や関係者摘発を目的に行う夜間の民家急襲作戦について、今後はアフガン軍の統制下に置き、外国部隊の独断による実施を禁じると表明した。市民の犠牲も指摘されるなど強引な作戦にはアフガン人の間で不満が募っており、市民感情に配慮した格好だ。
カルザイ大統領は国防省に対し、アフガン軍による夜間急襲作戦の指揮を命じた。

AP通信によると、NATOはすべての夜間急襲作戦についてアフガン軍と合同で実施しているとの立場で、「アフガン軍参加の夜間作戦から、アフガン軍指揮の作戦へと移行すべきだと理解している」との声明を出し、大統領の表明に一定の理解は示した。
しかし、NATO側は夜間急襲について武装組織の弱体化に有効で、作戦として不可欠との立場を貫いており、今後作戦実施を巡って、アフガン軍と米軍主導のNATO軍側との対立が深刻化する恐れがある。(中略)

大統領はNATOの急襲を「一方的な作戦がアフガン人をうんざりさせている」などと強く批判し、対応が注目されていた。【5月29日 毎日】
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【「勝手であるうえに不必要」な作戦が、罪のない子どもや女性たちを殺害している
空爆による民間人犠牲も後を絶ちません。

****アフガン:ISAF空爆の死者52人に 大半は民間人****
アフガニスタンの当局者は29日、AFP通信に対し、北大西洋条約機構(NATO)が指揮する国際治安支援部隊(ISAF)の空爆による死者が最近数週間で52人に上ったと明らかにした。犠牲者の大半は子供や女性を含む民間人という。

南部ヘルマンド州の米軍基地が28日、小火器で武装した集団に襲われたとして航空支援を要請。しかし、民家2軒が爆撃され、少年7人、少女5人、成人女性2人の計14人が死亡、6人の負傷者のうち子供が3人だった。北東部ヌリスタン州でも25日、アフガン治安部隊の20人と市民18人が爆撃で殺された。
ISAF報道官は「被害事実を調べる調査チームを派遣した」と語った。【5月29日 毎日】
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特に問題となっているのが、上記記事にもあるヘルマンド州における28日の空爆によって少年7人、少女5人、成人女性2人の計14人が死亡した事件です。
カルザイ大統領は29日、アメリカやISAFを主導するNATO軍に対し、民間人が犠牲になるような空爆をやめるよう「最後の警告」を突きつけています。

****ISAF誤爆で民間人14人死亡、アフガン大統領が激しく非難****
アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は29日、駐留米軍を支援する北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)の空爆で民間人14人が死亡した事件で、駐留米軍を激しく非難する声明を発表した。

南部ヘルマンド州当局によると、同州内の米軍基地が28日、小規模な攻撃をうけたため、米海兵隊がISAFに援軍を要請。これを受けて出動したISAFの戦闘機が民間人家屋2軒を空爆し、子ども10人、女性2人、男性2人の計14人が死亡した。このほかにも6人が負傷したという。

この報道を受けたカルザイ大統領は、このような「勝手であるうえに不必要」な作戦が、アフガニスタンの罪のない子どもや女性たちを殺害していると米軍を非難し、誤爆問題については、これが最後の警告だと米国側に通告した。また、大統領府も今回の空爆を「重大な誤爆」と強く非難している。
一方、ISAFは、誤爆については現在、調査中だと発表している。【5月30日 AFP】
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ISAF側は30日、謝罪声明を出し、「市民の犠牲者を出さないことがわれわれの最優先事項だ」として、空爆の精度向上などに努める考えを示しています。

****国際治安支援部隊、アフガンでの誤爆を謝罪*****
アフガニスタンで展開する国際治安支援部隊(ISAF)は30日、声明を発表し、南部ヘルマンド州で誤爆により民間人9人が死亡したことを認め、遺族らに謝罪した。
声明によると、同州で28日、ISAF軍のパトロール隊が武装勢力の攻撃を受け、支援するISAFの軍用機が出動。武装勢力が潜む建物を爆撃したところ、「後で民間人の家屋だったと判明した」という。
同州政府は29日、誤爆により子ども12人を含む民間人14人が死亡したと発表した。ISAF側は、この違いについて言及していない。【5月30日 読売】
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米軍の早期撤退を求める声
01年に米軍がアフガンに侵攻して以降、誤爆などによる民間人の犠牲は増加し続け、反米感情の高まりを背景に旧支配勢力タリバンは勢力を拡大。アフガニスタン国民の間にも米軍の早期撤退を求める声が高まっています。

もっとも、自分たちの腐敗や非効率を棚に上げて、反米世論向けに米軍・NATO軍の“誤爆”を盛んに批判するカルザイ大統領に対しては、アメリカも正直なところうんざりしている感もあります。

アメリカとしては、アフガニスタンでの戦闘はあくまでも9.11を起こしたアルカイダと、それをかくまうタリバン政権への報復であり、別にアフガニスタンに恒久的な民主国家を樹立することではありません。
その意味では、タリバン政権を崩壊に追いやり、先日ウサマ・ビンラディン容疑者を殺害したことで、一応の目的は達成できたとも言えます。

アルカイダメンバーは残存していますが、百人単位の規模であり、潜伏地も多くはパキスタンの北西部国境地帯ともみられます。そうなると、多数の兵士の命を犠牲にし、国家財政を傾ける巨額の戦費を投入してアフガニスタンでの戦いを続けることには疑問も出てきて当然でしょう。
撤退スケジュールに沿う形で、“後は野となれ山となれ”と引き上げることも予想されます。
そのとき、真っ先に危機にひんするのはカルザイ政権でしょう。

【「オマル師はアフガン国内でジハード(聖戦)を指揮している」】
ところで、ウサマ・ビンラディン容疑者が周知のようにパキスタンで殺害されましたが、依然消息不明なのが、アメリカがその首に1000万ドル(約8億2000万円)の懸賞金をかけているタリバン指導者のオマル師です。
先日、オマル師死亡のニュースがながれましたが、真偽は不明です。
オマル師については、ウサマ・ビンラディン容疑者同様に、パキスタン情報機関ISIの保護下にあるとも言われています。

****オマル師殺害とアフガンで報道…タリバンは否定****
アフガニスタンで、旧支配勢力タリバンの最高指導者オマル師がパキスタン国内で殺害されたとのテレビ報道があった。
アフガンの地元テレビが23日に報じたのは、オマル師が21日、パキスタン南西部クエッタから部族地域北ワジリスタンへ移動中に射殺されたという内容。しかし、タリバンはAP通信などに対し、「オマル師はアフガン国内でジハード(聖戦)を指揮している」と即座に否定。アフガンの情報機関も23日、「死亡したかどうかは確認できない」との見方を示した。
一方、アフガン情報機関の報道官は同日、「オマル師は約10年前からクエッタで生活しているようだが、ここ4、5日間、消息不明だ」と述べ、この情報が死亡説につながった可能性を示唆した。【5月24日 読売】
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今回報道の真偽は別にして、ここ数年全く生存を確認するものがないこと、そのことが原因でタリバン側の組織混乱も伝えられる状況を考えると、すでに死亡しているのでは・・・という推測もなされます。

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内モンゴル  ひき逃げ事件を契機に中国政府への不満噴出 一部に戒厳令の情報も

2011-05-30 21:14:56 | 国際情勢

(内モンゴルで住民の抗議行動を阻止する治安当局 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/5771858418/

【「我々の土地と権利を守れ」】
内モンゴル自治区中部の中心都市シリンホト周辺の鉱山地区で、11日、遊牧民が石炭を運ぶトラックにひき逃げされ死亡する事件がありました。
同自治区東部のシリンゴルの草原部では、一帯を走り抜けるトラックによる騒音や粉じん被害が出ていました。通行を阻止しようとした遊牧民にトラックが突っ込み、住民の中心的存在だったメルゲンさんを約150メートル引きずってひき殺したというものです。

同自治区では、炭鉱開発による大気や水質汚染の深刻化に遊牧民が反発。
更に、炭鉱開発によって地域に流入した多数の労働者が遊牧民を追放し、牧草地を破壊した上、家畜を殺すなどしたため、遊牧民の間では怒りが渦巻いていました。
住民は業者や政府に対応を求めていたことから、事故を装った殺害を疑う声も上がっています。
また、その4日後にも遊牧民1人が車の衝突で死亡しています。

この事件をきっかけにモンゴル族の住民の間で鬱積していた中国による抑圧に対する不満が噴出し、住民らは23日ごろから、死亡原因の究明やモンゴル族の人権尊重などを求めてデモを開始。
石炭やレアアースなど鉱山開発による草原破壊や、鉱山開発の恩恵が及ばないことに不満を募らせる住民にモンゴル族学生らが同調し、口コミや電子メールなどで抗議デモの呼びかけが広がりました。

****中国:内モンゴルでデモ拡大 当局が警戒強化******
中国の内モンゴル自治区で、地元政府に対するモンゴル族住民の抗議デモが拡大の様相を見せている。「我々の土地と権利を守れ」などと訴え、区都フフホト市中心部では30日に大規模デモが事前に呼び掛けられており、当局は警戒を強めている。
モンゴル族の大規模な抗議行動は異例で、他の少数民族のチベット族やウイグル族と並んで中国の「火種」となる可能性もある。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルや米国に拠点がある「南モンゴル人権情報センター」などによると、最初の抗議行動は23日、自治区北東部のシリンゴル地区にある地元政府庁舎前で発生し、25日には学生ら2000人がデモ行進した。さらに27日、数百人の市民と約300人の警察官が衝突、多数の負傷者が出て、40人以上が拘束されたとの情報もある。

30日に大規模デモが予測されるフフホト市は、シリンゴル地区の中心都市シリンホトから南西に約500キロの距離にある。市内のすべての高校や大学が警察の監視下に置かれ、インターネットが通じにくくなっており、中国当局がデモの封じ込めを図っているようだ。
29日夜、記者がフフホト市内のホテルに入ると、ホテルのスタッフから訪問の目的などを詰問された。市内の主要通りには多数の警察官が配置され、通行人や若者たちの動きに目を光らせている。

同自治区は中国最大規模の石炭産地でレアアース(希土類)も豊富で、開発ラッシュが続いている。一連のデモのきっかけは、今月10日にシリンゴル地区での炭鉱開発に伴う環境破壊に対し、住宅や牧場を守るよう地元政府に対応を求めていたリーダーの男性が、石炭を積載したトラックにはねられ死亡したことだ。
ネット上には「事故は故意だったのでは」「運転手が『モンゴル族の命は軽い』と言った」などの書き込みがあり、住民が立ち上がったという。【5月30日 毎日】
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新たな“火種”に当局は警戒強める
当局はメディアやインターネットを規制してデモを抑え込む他、一部地域に戒厳令が敷かれたとの情報もあります。
その一方で、少数民族への支援策に資金を投入することを発表することで、住民の不満を懐柔する策にも出ています。

****内モンゴル戒厳令か 中国9800億円“懐柔策”も****
中国内モンゴル自治区で、炭鉱開発に反対していたモンゴル族遊牧民2人の事故死をきっかけに反政府抗議行動が拡大している。国際人権団体、アムネスティ・インターナショナルなどによると、中国当局は29日までに、同自治区の一部に戒厳令を敷いたもようだ。(中略)

チベット族やウイグル族による抗議活動が多発する中、モンゴル族居住地での衝突は、中国当局にとって新たな“火薬庫”となりかねないだけに、7月1日に共産党創立90周年を控える当局は、治安部隊動員やインターネット規制などを通じて、抗議行動の飛び火を押さえ込もうとしている。

一方、中国共産党機関紙、人民日報は29日、内モンゴル自治区の地方政府が、少数民族への支援策に788億元(約9800億円)以上の資金を年内に投入すると報じた。住民への“懐柔策”とみられる。【5月30日 産経】
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沙漠化が進む内モンゴル
今回事件の背景にもなっている内モンゴル自治区の環境破壊問題に目を向けると、近年同地域の水不足、砂漠化が報じられています

****<砂漠化>ダム建設で加速した水不足、8年内に水不足で多数の工場が生産停止へ―内モンゴル自治区*****
2010年10月14日、中国内モンゴル自治区の砂漠化について、香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが伝えた。

北京市から北に1000km弱のところに広がる烏拉蓋湿地。ここに住む遊牧民によると、02年、川の上流に工業用水確保のためのダムを建設したことによって、3年もたたないうちに湿地が枯渇してしまい、今では砂嵐発生源のひとつとなってしまった。水獲得のために建設したダムのために砂漠化が進む皮肉。水不足によってこの遊牧民は所有していた牛全頭を失い、北部のモンゴル国境付近にまで移動しているが、もしここにも工場群が建ち並んだら「もう越境せざるを得ないな」とつぶやいた。

中国の急速な発展に伴い、内モンゴル自治区でも多くの採掘場や工場が次々と建設され,これらの間を鉄道や道路が走り、人口が密集する街が現れた。水資源はこれらの産業に使われ、牧場消滅の勢いはたった数年で一気に北部の国境付近にまで広がった。一部の環境保護の研究スタッフらは、内モンゴルの工業乱開発が人類史上最大規模の人為的干ばつを引き起こしたと考えている。

内モンゴル自治区と比べ、その北側に位置するモンゴル国の気候はさらに寒冷で乾燥しており、環境も脆弱だ。もし砂漠化の原因が地球温暖化であることが事実なら、モンゴル国も内モンゴルと同様の結果になるだろう。しかし内モンゴルの牧場が消失し続けているのに対し、国境を隔てた北側には依然、牧場が存在している。小山の上のゲルに住むある遊牧民は、眼下の牧場が数年で多くの採掘場や工場に占拠される過程を見てきている。これらの工場が排出する粉じんや煙により、彼の牧羊も大量に死亡し、死んだ羊の内臓は真っ黒になっていたという。

専門家によると、地表水が枯渇しつつある内モンゴルでは、一部の採掘場や工場が非合法で井戸を掘り、地下水をくみ上げている。しかし一定の深さ以上の地下水は循環せず、100万年以上をかけて蓄積された地下水が一旦消失すれば再生することはない。向こう8年以内に、内モンゴルの多くの工場は水不足により生産停止に追い込まれるだろうと言われている。【10年10月19日 Record China】
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なお、草原破壊・砂漠化は、必ずしも工場や採掘場だけでなく、地域住民自らが招いている側面もあります。
“阿拉善SEE生態協会の李鶴(リー・ホー)氏によると、草原の破壊は大きく2回の契機があったという。最初の契機は建国後の社会主義経済への移行時。植物の多くが伐採され、燃料とされた。2回目の契機は1990年代後半。草原請負制が導入され、遊牧民は定住するようになった。利益を上げようと放牧数が増え、草の根まで食べ尽くすことによって砂漠化が進行した。” 【10年3月28日 Record China】

行方不明の活動家ハダ氏
当局は、チベット族やウイグル族による抗議活動のような形で緊張がたかまることを警戒していますが、そうした内モンゴル独立運動関連で言えば、南モンゴル民主連盟代表を務めるモンゴル族人権活動家ハダ氏の問題があります。

ハダ氏は、1995年、南モンゴル民主連盟を率いてモンゴル族の権利の実現を要求してデモを行ったことについて、「分離活動を行なう非合法組織」として当局に逮捕されました。
その後、国家分裂罪と間諜罪により計15年の判決を受け収監されました。
“収監中、刑務所の官吏や同室の漢族囚人による虐待を繰り返し受け続け、神経炎や心臓疾患に苦しんだが、度重なる家族の要請にも関わらず刑務所側は治療を拒絶した。それにもかかわらず毎日10時間以上の強制労働が科された”【ウィキペディア】

2010年12月10日に刑期満了により釈放される予定でしたが、12月4日に妻のシンナと息子のウィレスが中国政府に拘束され、現在も家族全員が行方不明のままとなっています。
アムネスティもハダ氏とその家族の所在を明らかにするよう求めています。

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タイとペルー  奮戦する身内女性候補 タクシン元首相の末妹とフジモリ大統領の長女

2011-05-29 20:20:02 | 世相

(海外亡命中の兄タクシン元首相に代わって野党首相候補となったインラック・シナワット候補(43) 以前バンコクで初めてアピシット首相のポスターを目にした際には、てっきり映画スターかモデルのポスターと思いました。アピシット現首相とのエリート美男美女対決となっています。“flickr”より By Godfather008 http://www.flickr.com/photos/way008/5741684317/

【「インラック効果」で単独過半数も視野に
タクシン元首相派と反タクシン派の対立で政治の機能マヒが続くタイでは、7月3日に総選挙が行われます。
タクシン元首相派のタイ貢献党が第1党になっても単独過半数はとれず、アピシット現首相率いる民主党を軸とした反タクシン派連立政権を維持できる・・・・というのが、総選挙に踏み切ったアピシット首相の読みだと報じられています。

しかし、海外亡命中のタクシン元首相に代わって、末妹のインラック・シナワット候補(43)がタイ貢献党の首相候補となったことで、タイ貢献党が支持を広げ、単独過半数を獲得する可能性も出てきたとか。
ただし、シナワット候補が前面に出ることで、タクシン元首相をめぐる代理戦争の色合いは鮮明となり、いずれが勝利しても国民和解への道は遠くなったとも言えます。

****タイ総選挙:タクシン元首相の妹、台風の目に*****
7月3日投票のタイ総選挙で、同国初の女性首相候補となったタクシン元首相の実妹、インラック・シナワット候補(43)=タイ貢献党=が人気を集め、選挙戦序盤の台風の目となっている。元首相への反感が根強いとされた首都バンコクでも「インラック効果」で貢献党が支持を広げ、このまま人気が続けば、困難と見られていた単独過半数を同党が獲得する可能性も出てきた。

貢献党は28日、最大の票田バンコクで初めて選挙集会を開催。会場のルンピニ公園には約1万人が集まった。夫とともに訪れたバンコク市内の会社員の女性(56)は「政治には関心はなかったが、08年にタクシン派政党が裁判所から解党処分を受けた時から、この国には不公平があると思うようになった。同じ女性として、女性の首相が生まれればうれしい」と語った。

強いカリスマ性が売り物の兄タクシン氏とは対照的に、政治経験のないインラック氏は初々しい雰囲気をアピール。自身の経験不足を認めたうえで「女性として国民に尽くせる道がある」と訴える。「美男のエリート」アピシット現首相(46)に対抗できる「美貌」で人気を集める一方、女性の政界進出を望む高学歴層からも好感を得ているようだ。

タイでは北部、東北部がタクシン派、南部が反タクシン派の地盤とされるが、選挙を大きく左右するのは中部の大票田バンコクを中心とする首都圏だ。比較的裕福な住民の多いバンコクでは、地方の貧困層を優遇したタクシン氏への反感は強い。
だが地元紙が大学と共同で今月23~25日に実施した世論調査では、バンコクの33の小選挙区のうち19選挙区で貢献党の候補がリード。反タクシンの民主党候補が優勢なのは5選挙区のみだった。党派別の支持率でも貢献党47%、民主党41%と差が付いている。

07年の前回総選挙では、タクシン派政党は第1党となったものの、過半数にはわずかに足りなかった。今回も貢献党は第1党を確保するものの過半数は獲得できず、第2党となる民主党が少数政党と連立して政権を維持するとの見方が根強い。少数政党にとってタクシン色の強い貢献党との連立は困難と見られるためだが、貢献党がインラック人気に乗ってさらに勢いをつけ、過半数を確保すれば、連立なしでの単独政権樹立が可能になる。【5月28日 毎日】
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【「半分の民主主義」】
従来、タイの政治には軍と国王が大きな影響力を有していました。
軍はこれまでもたびたびクーデターを決行して権力を手中にしてきましたが、既存勢力を排除しようとするタクシン元首相とは対立がありました。特に、昨年のタクシン元首相派抗議行動を軍が武力で強制排除し、多数の犠牲者が出たことで、その責任を巡っても溝が深まっています。
もし、タイ貢献党による政権奪取ということになれば、再度のクーデーターの可能性も囁かれています。

国民から深く敬愛されるプミポン国王は、政治対立の危機的状況で、その調整役としての役割を果たしてきましたが、近年は高齢で体調がすぐれず表舞台には出なくなっています。
タイの政治混乱が容易に収束しないのは、これまで国王に頼っていた調整がなされなくなったことも大きな原因で、タイ民主主義の新たな再生が求められています。

なお、反タクシン派には「タクシン氏は王制転覆を狙っている」と強い警戒感があります。
タクシン元首相が、既存勢力の枢密院など王室側近と対峙していることは事実ですが、“王制転覆”云々はどうでしょうか?

****タイ総選挙 続く「タクシン時代****
・・・・貢献党の比例代表候補には、タクシン派で「赤シャツ」と呼ばれる反独裁民主統一戦線(UDD)の25人以上も、顔をそろえた。そのUDDは19日、バンコク市内のラチャプラソン交差点で、数万人を集めての大規模集会を開いた。ステージの裏で、リーダーのナタウット・サイクア氏(比例名簿9位)が口を開いた。
「貢献党のみが、民衆が主役の民主主義を建設できる。タイには民衆を押さえつける者がおり、それから民衆を解放することが必要だ。民衆が選ぶ政権が誕生すれば、(民主化の)問題は解決できる」

「押さえつける者」とは、ほかならぬ軍である。昨年、バンコクでは「タクシン大統領」と書かれたビラがまかれた。その意味は「タクシン派の王室軽視」だと解釈されている。

 ■国王ありき
20日、反タクシン派で、かつてはアピシット政権の“後ろ盾”だった「黄シャツ」、民主市民連合(PAD)の集会。国連ビルの目の前の公道を占拠し続け、国王崇拝の歌が流れる。
PADは、アピシット氏の国境紛争などへの対応を不満とし、総選挙では事実上の棄権に回る。アピシット氏には痛手だ。
リーダーのチャムロン元バンコク都知事らは「プレアビヒア寺院遺跡がある4・6平方キロメートルの国境未画定地域から、カンボジアの軍も住民も退去すべきだ。それが地域へのインドネシア監視団派遣受け入れの前提だ」と言う。
メンバーのひとりは「PADは国王ありき。クーデターであれ、国王のためであるならば支持する。UDDは『民主主義』と言うが、タクシンを帰国させたいだけだ」と言い切る。

 ■割れる評価
国王は政変のたびに強い政治的影響力を発揮し、国王、王室を批判すれば不敬罪で逮捕される。今回の選挙戦でも、批判は“ご法度”となった。「最大の政治勢力」ともいえる軍のクーデター→政権交代→憲法改正というサイクルも、幾度となく繰り返されてきた。
この2つの要素こそが、「タイ式民主主義」「半分の民主主義」と称されるゆえんである。

2006年9月のクーデターで倒れたタクシン政権とは、何だったのか。国家を企業、首相を最高経営責任者(CEO)と位置づけ、上からの経済成長政策、政治・行政改革、農村の底上げなどを推し進めた。同時に、権威主義的で、自身の企業を優遇する恣意(しい)的な政治運営は、軍や官僚の強い反発を買う。国王も苦言を呈した。
タクシン時代の評価は割れている。選挙戦を貫く基本的な対立軸も、なお「タクシン」という1本の線だ。その意味で、タクシン時代は終わってはいない。【5月27日 産経】
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(こちらは、ぐっと庶民的なケイコ・フジモリ氏 大統領の座が手に届くところまできています。「父親の恩赦しか政策がない」との批判もありますが・・・ “flickr”より By periodismope http://www.flickr.com/photos/periodismope/5743206972/

ケイコ氏、僅差の激戦
一方、南米ペルーでは6月5日に大統領選挙の決選投票が行われます。
こちらで注目されるのは、服役中のフジモリ元大統領の長女、ケイコ・フジモリ氏が大統領の座を射止めることができるかどうかということです。
5月8日に発表された世論調査では、ケイコ・フジモリ候補の支持率が41%で、左派民族主義者のオジャンタ・ウマラ候補の39%を上回っていました。
なお、4月10日の第1回投票では、ウマラ氏の得票が31.69%で1位となり、ケイコ氏は23.55%で2位でした。

****ペルー大統領選、決選投票まであと1週間****
1週間後に迫ったペルー大統領選の決選投票(6月5日)は激戦が続いている。
27日発表の世論調査の支持率は、中道右派の国会議員、ケイコ・フジモリ氏(36)が50・3%、左派の元軍人、オジャンタ・ウマラ氏(48)が49・7%で、僅差で競り合っている。

ケイコ氏は4月10日の第1回投票で2位だったが、5月上旬の世論調査で初めて首位に立った。一時は5ポイントまでリードを広げたが、ウマラ氏も巻き返し、互角の状態に戻った。
ケイコ氏は地盤の首都圏貧困層などに加え、好景気の持続を望む富裕層にも支持を拡大している。ウマラ氏は、急進左派イメージの払拭に努め、中間層などへの浸透を図っている。【5月28日 読売】
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全く予断を許さない激戦の様相です。

【「最も拒否感の強い2候補」】
「反フジモリ」勢力は、「(ケイコ氏は)父親の恩赦しか政策がない」と攻撃していますが、ケイコ氏は「私が大統領になりたいのは、国家全体のための決断をするためであり、家族の便宜を図るためではない」と語り、有罪判決を下された父フジモリ元大統領(72)を当選後に恩赦する可能性について、「その考えはない」と明確に否定しています。
もっとも、“恩赦”はなくても、裁判のやり直しとか、他にいろいろあるかもしれませんが。
いずれにしても、ケイコ氏は選挙戦中は「貧困対策」を前面に押し出し、恩赦問題への深入りを避け、国民の幅広い支持を取り付けたい考えとみられています。【5月8日 読売より】

ともに貧困層を支持基盤とする形で競合する両候補ですが、政治姿勢的にはケイコ氏は中道右派とみられ、急進左派のイメージが強いウマラ氏よりは支持層の幅を広げやすい点はあります。

もっとも、強権政治を敷いた元大統領の娘、急進左派的な元軍人という両候補の背景から、
“ケイコ氏とウマラ氏は「われわれは過去の圧政に戻るか、空白に飛び込む自殺行為に身を委ねるか」(トレド前大統領)と批判の的にされることも多かった。ただ、熱狂的とも言える支持基盤を共に固めた結果、一部の国民にとっては「最も拒否感の強い2候補」(地元政治評論家)が勝ち残る形となり、有権者は6月5日の決選投票まで難しい選択を迫られる”【4月12日 時事】との指摘もあります。

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EU加盟にかけるセルビアの苦悩 欧州経済で拡大する南北格差の危機

2011-05-28 22:06:51 | 国際情勢

(ムラディッチ被告が拘束されたラザレボ村で、同被告を支持して拘束に抗議するセルビア人 “flickr”より By kgbbristol http://www.flickr.com/photos/kgbbristol/5763373606/

【“セルビア人は戦犯引き渡しを求めるEUの要求を恐喝と見ている”】
昨日ブログで取り上げた、“スレブレニツァ虐殺”など、ボスニア内戦でムスリム虐殺を指揮したムラディッチ被告がセルビアで拘束された件について、彼を英雄視する民族的感情も強いセルビア国内の反応です。

****戦犯ムラディッチ拘束に怒るセルビア人****
旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷から戦争犯罪などの罪で起訴され、逃亡していたセルビア人武装勢力指導者ラトコ・ムラディッチが拘束された。このニュースを受けて、セルビアの首都ベオグラードの中心部では若者が集まり、ムラディッチの拘束に怒りの声を上げた。

ボスニア内戦の終結から15年以上、NATO(北大西洋条約機構)軍による空爆でコソボ紛争が終結してから10年以上が経つが、バルカン半島の緊迫はまだ続いている。ムラディッチの拘束に対する市民の反応から、多くのセルビア人がまだ内戦の傷を抱えていること、そしてEU(欧州連合)加盟のために戦犯を引き渡すという条件に疑念を持っていることがうかがえる。

EU統合セルビア事務所のミリカ・デレビッチ所長によると、現在EU加盟を望んでいるセルビア国民は57%で、02年以来最低の割合だ。セルビア人は戦犯引き渡しを求めるEUの要求を恐喝と見ている。さらに国外旅行をするセルビア人が増えるにつれて、実際に見るEUが政治家が喧伝するような「バラ色の社会」とは異なると実感し始めた。

ムラディッチ拘束を受けて、セルビア語のネット上には怒りの声も書き込まれている。「セルビアは何も得られない」「セルビア人はこれから、特にボスニアで大きな圧力にさらされるだろう」(中略)

戦犯法廷はムラディッチを虐殺や人道に反する罪、戦争犯罪で起訴している。ボスニア東部スレブレニツァでイスラム系住民8000人余りの殺害を指示したとされている。
ムラディッチが拘束されたのは、ベオグラードから北へ約65キロのラザレボ村。テレビで拘束を知り怒った住民たちが、ムラディッチが住んでいたとされる家の外に集まり、テレビ局のクルーが使っていたケーブルを抜いたり記者たちを襲ったという。村には愛国心を鼓舞する曲が響き渡り、地元のセルビア正教会では司祭がムラディッチの無事を祈った。
 
ベオグラードでも街の中心部で若者のグループが愛国的な歌を歌うなどの現象がみられたため、セルビア警察は組織的な集会を禁止し、警備を強化した。
ある世論調査によれば、セルビア人の51%がムラディッチの身柄引き渡しに反対だった。フェースブックのセルビア国防相のページには、あるユーザーが「まるで自分が拘束されたようだ」と書き込んだ。「われわれは誰しも神の前では小さな存在だ」【5月27日 Newsweek】
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ムラディッチ被告及びセルビア人勢力が重大な人道に反する行為を行ったのは事実です。
ただ、問題行為は必ずしもセルビア側だけでなかったにもかかわらず、“民族浄化”“収容所”といった言葉に代表されるメディア対策の結果もあって国際社会から“悪玉”と決めつけられ、ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦に続くコソボ紛争ではNATOによる空爆で国土は荒廃し、コソボも失いました。
いまだ敗戦の傷が癒えないセルビア国民のなかには、内戦指導者を戦犯として引き渡し、敗者として裁かれることでEU加盟にすがるという選択を受け入れがたく思う者も少なくないことは想像に難くありません。

セルビア・タディチ政権が進めるEU加盟が、セルビア復興にとってどれだけのものをもたらすのか、セルビアにとって不可欠のものかどうかについては、正直なところよくわかりません。
大筋としては、EU諸国との関係改善をはかることは、今後のセルビア復興にとって正しいとは思いますが。

色あせる「バラ色の社会」】
しかしながら、上記記事にもあるように、近年の欧州経済危機に揺らぐEU・ユーロ圏の内情が明るみに出るにつれ、セルビアだけでなく、EU加盟・ユーロ導入を検討している国々の間で、EU加盟・ユーロ導入で必ずしも「バラ色の社会」になる訳ではないとの認識は大きくなっています。

その欧州経済危機は一向に収まる気配はなく、ここ数日でもギリシャやスペインなど問題国の動揺が報じられています。

****ギリシャ:国債、利回り最高を更新 売り注文殺到*****
20日の欧州市場で、財政危機が深刻化しているギリシャ国債への売り注文が膨らみ、指標となる10年債の利回りが一時年16%台後半まで急上昇し、最高を更新した。ギリシャ国債の償還期限延長などが検討されていることが表面化して以降、同国がデフォルト(債務不履行)に陥るとの懸念が強まっていることを映した。

欧州中央銀行(ECB)は、ギリシャ国債の償還期限が延長された場合、同国債をECBの資金供給の担保として認めない構え。期限延長を支持する欧州連合(EU)の一部加盟国との対立で、先行き不透明感が強まっていることも投資家の動揺を誘った。

一方、欧州系格付け会社フィッチ・レーティングスは20日、ギリシャ国債の長期信用格付けを従来の「BBプラス」から「Bプラス」に3段階引き下げたと発表。Bプラスは「非常に投機的」な状態を示す。【5月21日 毎日】
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****スペイン:経済危機、抗議の若者、各地で座り込み****
スペイン政府の経済政策などに抗議する同国の若者が、全国で数万人規模の座り込み運動を続けている。経済危機にあえぐ同国の25歳以下の失業率は45%に達しており、若年労働者の不満は爆発寸前だ。
22日の地方選を前にネットを通じて呼び掛けられたもので、首都マドリードの広場には21日夜、約3万人が集結した。雇用や住居の確保▽緊縮財政策の撤廃▽選挙制度改革などを要求。地方選では既存の大政党に投票しないよう求めた参加者も多くいた。
一方、サパテロ首相は19日「彼らの声を聞くべきだ」と理解を示したが、座り込みは第2の都市バルセロナのほか、セビリア、バレンシアなど10都市以上に飛び火した。【5月22日 毎日】
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年16%台後半の金利とか、25歳以下の失業率は45%といった数字は深刻なものがあります。
政府の財政緊縮策に対し国民の不満が噴き出したスペインでは、22日の統一地方選で、サパテロ首相率いる左派の社会労働党は右派の最大野党の国民党に大敗しました。
更に、先頭に立って欧州経済危機への対処にあたることが期待されていた国際通貨基金(IMF)のドミニク・ストロスカーン専務理事が、宿泊先の米国内のホテルで女性従業員に性的暴行を働いたとされ逮捕されるという衝撃的な事件まで起きています。

【「『ユーロ圏から出て行け』と言うしかない」】
こうした問題国の苦境もさることながら、一番の問題はEU・ユーロ圏内部で問題国支援への反発が拡大しており、一体性が維持できるかという懸念が出ていることです。

****南北格差拡大でヨーロッパ分裂の危機*****
「放漫国家」への財政支援に対する嫌悪感と移民の押し付け合いがユーロ圏の結束を揺さぶっている

ギリシャは債務危機で1年前、EU(欧州連合)と国際通貨基金(IMF)から総額1100億ユーロの緊急融資を受けることが決まった。だが今週、それでも足りなくて追加支援が必要かもしれないという話が浮上して、ユーロ相場は荒れに荒れた。しかも先週は、ポルトガルに対する780億ユーロの支援が合意されたばかり。
借りる方も決して楽ではない。ポルトガルは5%の金利をつけてきちんとお金を返さなければならないし、返済を実行するためには極めて厳しい緊縮を求められ、2013年までマイナス成長が続く可能性が高い。

だがこれほど厳しい条件が付いた支援であるにも関わらず、ヨーロッパ北部の豊かな国々の間では、EU加盟国への度重なる支援を疑問視する声が日増しに強まっている。自分たちの税金がギリシャとアイルランドに投入される様を目撃してきたEU市民は、「放蕩財政の非主要国」へのさらなる支援にうんざりしている。
「ギリシャとポルトガルを助けたいなら、『ユーロ圏から出て行け』と言うしかない」と、独メルケル政権と連立を組む保守派のキリスト教社会同盟(CSU)のペーター・ガウヴァイラー議員は言う。

オランダの極右政治家ヘールト・ウィルダースも昨年、こんな発言をしている。「(ギリシャは)卒業パーティーが終わったらすぐに引退生活に入るような国だ。彼らがスブラキ(ギリシャの肉料理)を食べ、(蒸留酒の)ウーゾを飲んでいる間に我々は働いている。ギリシャ人にやる金は1セントもない。スペイン人とポルトガル人も同じだ」

反EUの極右政党が各国で躍進
ユーロ加盟国で相次ぐ財政危機は、支援金の大半を負担する財政健全国のEU懐疑派に大きな恩恵をもたらしている。オランダでは、ヴィルダス率いる極右政党「自由党」が昨年の国政選挙で得票数を3倍近くに伸ばした。過半数に満たない中道右派の政権党は、自由党の協力がなければ政権を運営できない状態だ。

先月、総選挙が行われたフィンランドでも、対ポルトガル支援への反対を含む反ユーロ政策を掲げる民族主義政党「真正フィン人党」が突然、第3党に躍進。「パーティーはおしまいだ」と、同党のティモ・ソイニ党首は言う。「なぜフィンランド人が外国人を助ける必要があるんだ? フィンランドから搾取するのは許さない」
ファンランド議会でEUへの拒否権発動に必要な票を集められれば、真正フィン党がEUのポルトガル救済計画を台無しにすることも理論的には可能だ(現実には、EU支持派である与党の賛成を取り付けないかぎり、無理な話だが)。

だが、ドイツなどで主流政党からも救済反対の声があがっていることに加えて、真正フィン人党やオランダの自由党、フランスの国民戦線などの極右政党が台頭している現状は、ユーロ圏の結束を揺るがしかねない。域内の富裕国と貧しい国の連携こそ、EUの長年の命綱だったのだが。【5月12日 Newsweek】
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【「なぜ他国の財政赤字をドイツ国民が負担しなければならないのか」】
しかも、EU・ユーロ圏の中心国ドイツで問題国支援への批判が高まっており、今後の対応に大きく影響しそうです。

****欧州拡大の断面】(6)堅調ドイツ、重い負担 ユーロ不安にマルク回帰論****
・・・・欧州は、財政規律に厳しいドイツなど“北部”と財政悪化国のギリシャ、ポルトガルなど“南部”の溝がはっきりとしてきた。
ドイツ産業連盟元会長で現バンク・オブ・アメリカ上級顧問のハンス=オラフ・ヘンケル氏は昨年11月、新著『私たちのお金を救え!』を出版した。
この中で氏はユーロ圏からドイツやオランダ、フィンランド、オーストリアが離脱、ユーロに参加していないスウェーデンやデンマーク、旧東欧のチェコ、ポーランドを加えて新たな通貨同盟“北部ユーロ”を創設することを提唱して反響を呼んだ。(中略)

ドイツは財政悪化国の救済でユーロ圏の3割近い負担を強いられるため、「なぜ他国の財政赤字をドイツ国民が負担しなければならないのか」とユーロ懐疑論と旧自国通貨マルクへの郷愁が強まっている。
「私はユーロ創設に賛成だった。導入国は財政赤字を国内総生産(GDP)の3%、政府債務残高を60%以内に抑え、欧州中央銀行(ECB)は政治から完全に独立しているはずだったが、すべてなし崩しになった」とヘンケル氏は嘆く。(中略)

独テュービンゲン大のヨアキム・スタアバッティ名誉教授は「どの政治家に会っても“ユーロを救う”とうわごとのように繰り返すばかりで、経済的な説明に耳を貸そうとはしない」と嘆いてこう続けた。「山登りを想像しよう。リュックサックにギリシャやアイルランドという荷物が入り、ポルトガルも入った。いつか限界がくる。音をあげるのがEUかフランスかドイツかは分からないが…」
ヘンケル氏も「これはEUの中央集権化なのに、EU加盟国の政治家は誰一人として有権者に問おうとはしない」と吐き捨てた。
好調なドイツ経済が息切れするとき、ユーロと欧州に真の危機が訪れる。【5月23日 産経】
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EUは25日、中東民主化運動の拡大を受け、近隣諸国の政治・経済改革を支援する「欧州近隣諸国政策」を強化すると発表しました。
****EU:民主化進める国に資金援助の近隣諸国政策****
・・・・公正な選挙や表現の自由の保障など民主化を進める国には資金援助し、EUへの市場参入などを認める。エジプトなど独裁的な国に支援してきた過去を反省したもので、民主化と支援を連動させる。(中略)
近隣諸国政策は中東諸国だけでなく、ベラルーシなど旧ソ連諸国も対象。報道の自由の保障、公正な司法制度の確立、汚職の撲滅など民主化を達成した国には貿易関係の強化、学生などの受け入れ、安全保障協力などで応える。アシュトン外務・安全保障政策上級代表(外相)は「改革を早く進める国は、支援に早く近づくことができる」と述べた。【5月26日 毎日】
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近隣諸国の民主化支援も結構ですが、内部の足元で燃えあがる火の手をどうするのでしょうか?

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セルビア  スレブレニツァ虐殺の責任者、ムラディッチ被告を拘束

2011-05-27 21:46:47 | 国際情勢

(1993年8月にサラエボ空港で撮影されたラトコ・ムラディッチ被告(中央)  93年ということは、95年の“スレブレニツァ虐殺”が起きる以前になります。 軍人としては勇猛果敢と言うか、情け容赦のない人物だったようです。 “flickr”より By cvrcak1 http://www.flickr.com/photos/29320956@N03/4621549282/)

【「人道に対する罪、大量虐殺を犯した者は裁きから逃れることはない」】
セルビアでボスニア・ヘルツェゴビナ内戦における戦犯として、その行方が問われていたラトコ・ムラディッチ被告(当時のセルビア人武装勢力の司令官)が、ついに拘束されました。

****ボスニア内戦:「民族浄化」指揮のムラディッチ被告拘束*****
セルビアのタディチ大統領は26日、首都ベオグラードで緊急記者会見を開き、十数万人以上の死者を出したボスニア・ヘルツェゴビナ内戦(1992~95年)当時のセルビア人武装勢力の司令官で、戦争犯罪などに問われているラトコ・ムラディッチ被告を警察当局が拘束したと発表した。ムラディッチ被告は95年以来、逃亡していた。

ムラディッチ被告はボスニア東部のスレブレニツァで95年、イスラム教徒約8000人が虐殺された事件を指揮したとして、オランダ・ハーグの旧ユーゴスラビア戦犯法廷から虐殺、戦争犯罪、人道に対する罪で起訴された。ムラディッチ被告は、近日中に旧ユーゴ戦犯法廷に移送される見通し。
AFP通信によると、ムラディッチ被告は「ミロラド・コマディッチ」と名乗っていたという。身体的な特徴が被告と酷似しており、当局がDNA鑑定を進めているという。

同法廷は91年からの旧ユーゴ解体に伴う内戦などの戦犯を裁くため93年に設置され、これまでに56人に判決を言い渡した。カラジッチ被告の公判では(1)スレブレニツァ虐殺(2)死者約1万2000人を出したサラエボ包囲作戦--などへの関与が問われている。

旧ユーゴスラビアの戦犯としてはミロシェビッチ元大統領が公判中の06年に死亡。元セルビア人勢力政治指導者のカラジッチ被告が08年夏に拘束され、公判が続いている。ムラディッチ被告は残る逃亡戦犯2人のうちの1人で、セルビア当局が行方を追っていた。【5月26日 毎日】
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別報道によれば、拘束された人物はDNA鑑定などでムラディッチ被告本人と確認されたそうです。
オバマ米大統領も、「ムラディッチ被告は、犠牲者や世界に対し、法廷で説明していかなければならない」との声明を発表しています。

****セルビア:ムラディッチ被告拘束 米大統領が声明****
オバマ米大統領は26日、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)から戦争犯罪などの罪で起訴され、逃亡していたセルビア人武装勢力指導者、ラトコ・ムラディッチ被告(69)が拘束されたことを受け、訪問先のドービルで声明を発表。「犠牲者の家族にとって今日は大切な日だ。ムラディッチ被告は、犠牲者や世界に対し、法廷で説明していかなければならない」と語った。オバマ大統領は「人道に対する罪、大量虐殺を犯した者は裁きから逃れることはない」とも強調した。【5月27日 毎日】
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ムラディッチ被告がその責任を問われている“スレブレニツァ虐殺”とは、ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦中にボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァで1995年7月に発生した大量虐殺事件です。
今回拘束されたラトコ・ムラディッチに率いられたセルビア人勢力のスルプスカ共和国軍によって、推計8000人のボシュニャク人(ムスリム人)が殺害され、「第二次大戦後最悪の虐殺」とされています。
当時、スレブレニツァは国連の「安全地帯」に指定されPKOオランダ部隊が展開しており、ボシュニャク人を保護する立場にあったオランダにとっても、セルビア勢力の武力に屈する形でボシュニャク人を引き渡さざるを得ず、虐殺を防止できなかったということで、同事件は深い傷跡を残しています。

EU加盟を果たすため、欧州の論理にあらがえないセルビア人の葛藤
セルビアでは08年5月の総選挙を受けて、EUが懸念する極右・セルビア急進党の政権参加を排除、タディッチ大統領率いる民主党中心の親欧州派政権が発足し、EU加盟を進める方向で動いています。
09年12月22日には、タディッチ大統領がストックホルムを訪問、EU議長国スウェーデンのラインフェルト首相にEU加盟申請書を手渡しました。

しかし、戦犯であるムラディッチ被告はセルビア内の民族主義者にとっては“英雄”であり、彼がそうした民族主義者にかくまわれて拘束されておらず、裁判にもかけられていないことが、EU加盟の障害のひとつとなっていました。
セルビア政府は、ムラディッチ被告の情報提供に対して、1000万ユーロ(約11億2000万円)もの懸賞金を示してその行方を追っていました。

****EU加盟へ、戦犯を逮捕せよ*****
・・・・・旧ユーゴは6つの国に分裂し、2008年にはセルビアの自治州だったコソボが独立を宣言した。旧ユーゴからはスロベニアが04年に欧州連合(EU)に加盟。11年にクロアチア、12年にはマケドニアが加盟するとみられている。
旧ユーゴ紛争で欧米から“悪玉”の烙印(らくいん)を押され、EU加盟の動きから取り残されたセルビアのタディッチ大統領は周辺国との和解を進め、09年12月、EU加盟を正式に申請した。

しかし、加盟には高いハードルが待ち受ける。カラジッチ被告と同様、セルビア民族主義者から英雄視される大物戦犯、ボスニア・ヘルツェゴビナのセルビア人共和国軍司令官ラトコ・ムラジッチ被告らの拘束だ。
EUの要請に応え、セルビア政府は昨年10月、ムラジッチ被告の逮捕につながる情報提供に関し、懸賞金を10倍の1千万ユーロに増額した。

しかし、トホリ氏は「ムラジッチ被告は間違いなく域外に逃亡した」と語る。同被告のシンパの表情がある日を境に和らいだという。逃亡先はロシアとみられている。
紛争の後遺症を引きずり街全体がくすんだ印象を受けるベオグラード市内の露店ではカラジッチ、ムラジッチ両被告のキーホルダーが警官の目を盗んで販売されていた。EU加盟を果たすため欧州の論理にあらがえないセルビア人の葛藤を物語っているようだった。

1993年のEU発足を機に欧州の統合は急速に進んだ。しかし、金融危機で欧州単一通貨ユーロ圏で勝ち組・負け組の二極化が顕著になり、イスラム系移民排斥の動きが目立つなど、あちこちからきしみが聞こえる。拡大する欧州の断面を、まずはEU加盟に腐心するバルカン半島のセルビアから報告する。(ベオグラード 木村正人)【2月21日 産経】
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このあたりの経緯については、2010年11月12日ブログ「EU加盟準備を進めるセルビア ムラディッチ被告拘束とコソボとの関係が障害」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101112)にも書いたところですので、そちらを参照してください。

コソボとの和解は未解決
ムラディッチ被告拘束によって、“欧州諸国が「重要戦犯」と見なす同被告の逮捕は、セルビアの欧州連合(EU)加盟の条件とされており、同国のEU加盟に弾みがつく可能性が高い”【5月26日 読売】と見られていますが、上記10年11月12日ブログでも取り上げたように、もうひとつの難題“コソボとの和解”が残っています。
EUは(1)セルビアが独立を認めていないコソボとの対話進展(2)旧ユーゴ国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)に対する「完全な協力」--を候補国入りの条件にしています。

こちらの、より難しい課題については、前回2010年11月12日ブログ以降、特に新しい情報は目にしていません。
なお、低迷する経済状態のため、中東民主化運動に連動する形でセルビア国内でも政府への批判が高まっているとの報道が2月にありました。

****セルビア:反政府集会に7万人、総選挙前倒しを要求****
セルビアからの報道によると、同国の首都ベオグラードで5日、野党のセルビア進歩党支持者らによる過去数年で最大規模の反政府集会が開かれ、約7万人が総選挙の前倒し実施などを訴えた。
同党は、エジプトでも民衆が政府に呼び掛けを行っているとして、セルビア政府に対して自らの要求をのむよう求めた。一方、政府は静観の構えで、集会で目立った混乱はなかったという。

集会はセルビア議会前で開かれ、ニコリッチ党首が「エジプトやチュニジアの蜂起で人々は、自分たちの声を聞くよう政府にメッセージを送った」と強調した。
セルビアでは08年、欧州連合(EU)加盟を目指す親西欧のタディッチ大統領が再選された。だが、金融危機などの影響で経済は低迷し、警察官や教員らが待遇改善を求めてストライキを行う事態になっている。【2月6日 毎日】
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コメント

イスラエル  オバマ米大統領提案の「67年境界線」を拒否

2011-05-26 23:00:32 | 国際情勢

(24日、米議会で演説するネタニヤフ・イスラエル首相 後ろはバイデン副大統領とベイナー下院議長 “flickr”より By urbancn http://www.flickr.com/photos/urbancn/5757947820/

イスラエルの反発を覚悟しつつも、アラブ諸国が賛同する「67年案」を持ち出す
中東諸国での民主化運動が高揚する状況下で、停滞する中東和平交渉に積極姿勢を見せることでアラブ諸国での反米感情が高まることを防ぐ意味合いもあって、オバマ米大統領は19日の演説でイスラエル・パレスチナ和平交渉について「(イスラエルがヨルダン川西岸を占領する第3次中東戦争以前の)1967年の境界線に基づき双方の境界を定めるべきだ」と主張、イスラエルに領土面での譲歩を求めました。

****中東和平:米大統領新政策…「アラブの春」反米化懸念*****
・・・・・背景にはムバラク政権の崩壊や、同様に和平を支持してきたヨルダンの不安定化といった事情がある。アラブ諸国での民主化のうねりがいつ何時、反米、反イスラエルへ向かうか分からないとの懸念もありそうだ。米主要調査機関のアラブ・イスラム諸国に対する最新世論調査でも反米感情は根強く、オバマ大統領への支持も軒並み低迷していることが明らかになっている。

イスラエルが東エルサレムとヨルダン川西岸、ガザ地区を占領した67年の第3次中東戦争以前の国境に立ち戻るべきだとの主張は、国際社会では一般化していたが、歴代米大統領の口からは直接聞かれなかった。
オバマ大統領も就任以来、和平達成の理念は説いても、同盟国イスラエルに配慮し、具体的な指針を示さずにいた。だがイスラエルの入植地拡大による交渉停滞状況にしびれを切らし、イスラエルの反発を覚悟しつつも、アラブ諸国が賛同する「67年案」を持ち出したとも言えそうだ。

一方で大統領はパレスチナに対し、今年9月の国連総会で国家承認決議採択を求めることを「イスラエルを孤立化させる」と戒めた。「67年案」の提案は、和平交渉の破綻を決定づけるこうした動きをやめさせ、パレスチナ側を交渉テーブルに引き戻すという現実的な狙いもあった。
また大統領は、双方の合意があれば領土交換は可能との付帯条件を付けた。イスラエルが大規模入植地などを維持する代わりに、パレスチナに別の土地を提供できると示唆した。さらに交渉の難題であるエルサレムの帰属、パレスチナ難民の帰還権に関しては指針を示さなかった。【5月20日 毎日】
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【「67年の境界線では(イスラエルの)安全を保てない」】
オバマ大統領の中東演説の翌日20日には、イスラエルのネタニヤフ首相が訪米し、オバマ米大統領とホワイトハウスで会談。当然のごとくネタニヤフ首相は、「1967年以前の境界線まで戻ることは、(国の安全を)守ることができない」として、オバマ提案を拒否する姿勢を見せています。

****イスラエル:首相「67年境界線戻れぬ」 米大統領に反発****
訪米中のネタニヤフ・イスラエル首相は20日、オバマ米大統領とホワイトハウスで会談した。大統領が前日の中東政策演説で示した第3次中東戦争(1967年)直前の境界線を前提にしたパレスチナとの交渉再開を求めたのに対し、ネタニヤフ首相は「67年の境界線に戻ることはできない」と述べ、大統領提案を明確に拒否した。

ネタニヤフ首相は会談後、報道陣に「67年の境界線では(イスラエルの)安全を保てない」と明言。67年の同戦争で占領したヨルダン川西岸地区に多数のユダヤ人入植者が居住している現実が「考慮されていない」と大統領の提案に反発し、ヨルダン川西岸地区東部のヨルダンとの境界付近に軍を展開し続ける考えを強調した。

首相はまた、パレスチナの穏健派組織ファタハと統一政府樹立に合意したイスラム原理主義組織ハマスを「イスラエルを破壊するテロ組織」と非難し、ハマスが加わった統一政府とは交渉しない考えを改めて強調。ファタハを率いるパレスチナ自治政府のアッバス議長に向けて「ハマスと関係し続けるかイスラエルとの平和を選ぶかを決めなければならない」とし、統一政府樹立を解消するよう求めた。

【オバマ大統領、占領地からの完全撤退を求める意図ではないと釈明】
オバマ大統領は19日の演説で、67年の戦争直前の境界線を基準に、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地の一部をイスラエルに併合する代わりに、イスラエル領土をパレスチナに編入する土地交換を行い、国境問題を決着させるよう促した。【5月21日 毎日】
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オバマ大統領の中東演説でも、イスラエル・パレスチナ双方の合意があれば領土交換は可能との付帯条件が付いていましたが、反発するするイスラエル側をなだめるため、その後はこの点が強調されています。

****イスラエル境界線、完全撤退求める意図は否定 米大統領*****
オバマ米大統領は22日、ワシントンの親イスラエルのロビー団体の会合で演説し、中東和平交渉でイスラエルによる占領が始まる前の1967年の境界線を基本に交渉するよう提案したことについて、占領地からの完全撤退を求める意図ではないと説明した。

オバマ氏は「米国・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」の会合で、提案について「67年6月4日に存在したのとは異なる境界線を、イスラエルとパレスチナ自身が交渉するという意味だ」と述べ、第3次中東戦争開戦前の境界線に戻る必要は必ずしもないとの考えを表明。「新たな人口統計の現実と双方のニーズを考慮することもできる」と説明した。
オバマ氏は「イスラエルの安全を守る米国の決意は鉄壁だ」と強調。提案は「過去の米政権を含む関係者が長い間、議論の土台としてきた基本的枠組み」で、「取り立てて新しいものではない」と訴えた。【5月23日 朝日】
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ユダヤ人入植地との土地交換は以前から現実的方策として検討されているものですが、交渉の最初から、占領地からの完全撤退を求める意図ではない旨をしきりに強調するというのは、いささか弱腰な感がします。こうした対応でイスラエル側に譲歩を促すことができるのでしょうか?

ネタニヤフ首相の米議会演説に、議場内でたびたび拍手
一方、ネタニヤフ首相は24日、米連邦議会の上下両院合同会議で演説し、パレスチナとの和平交渉をめぐり「入植地のいくつかはイスラエル国境の外に置かれるだろう」と述べ、入植地からの部分的な撤退には応じる考えを示したものの、「67年境界線」案を拒絶する姿勢を改めて明確にしています。

*****イスラエル首相、米議会演説で「67年境界線」拒否を強調*****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は24日、米連邦議会の上下両院合同会議で演説し、パレスチナとの中東和平交渉に関して、ユダヤ人入植地を一部撤退させる方針を示しつつも、国際社会が提案している「67年境界線」案を拒絶する姿勢を改めて強調した。

バラク・オバマ大統領と国際社会は、暗礁に乗り上げている中東和平交渉を再開させるため、イスラエルとパレスチナの境界線を1967年の第3次中東戦争前の状態に戻すことを交渉の前提とするよう提案しているが、ネタニヤフ首相はこれを断固拒否している。

ネタニヤフ首相はまた、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長と、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが統一政府の樹立で合意している限り、イスラエルが和平交渉の席に戻ることはないと断言。交渉の真の障害は、パレスチナ側がユダヤ国家としてイスラエルを認めることを拒否しているせいだと主張した。

ネタニヤフ首相は、イスラエル国民に「正直」であらねばならないとし、「この衝突を終わらせるいかなる和平協定においても、イスラエル側の国境を越えて入植地は残るだろう」と述べる一方、「将来のパレスチナ国家の大きさについては、わが国は非常に寛容でありたい」とも語った。

しかし、「67年境界線案」やエルサレム分割案については、これまでと同様に却下した。パレスチナ側は将来、パレスチナ国家を樹立した際には東エルサレムを首都することを望んでいるが、ネタニヤフ首相は「エルサレムを再び分かたれることがあってはならない。エルサレムは1つのままイスラエルの首都であらねばならない」と述べた。

ネタニヤフ首相の演説に対しては、議場内でたびたび拍手が起こり、少なくとも20人の米議員が終了後に起立して喝采した。【5月25日AFP】
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イスラエル世論には容認の声も
ネタニヤフ首相がオバマ提案を拒否する姿勢を見せる背景には、右派主導の連立政権を維持するため、アメリカと対立してでも国境問題で強硬姿勢を示す必要があったと見られています。

****イスラエル、全面撤退拒否…オバマ方針に抵抗****
・・・・右派主導の連立政権を維持するため、米国と対立してでも国境問題で強硬姿勢を示す必要があった。
オバマ大統領は19日、「67年以前の境界」を基に、イスラエルとパレスチナが「土地の交換」によって国境交渉を進めるよう促した。地元メディアによると、事前の打診はなく、ネタニヤフ首相は演説直前に猛抗議したという。

オバマ大統領は西岸へのユダヤ人入植停止を求めた経緯があり、イスラエル右派は同境界が交渉の土台となる事態を警戒。交渉が始まっても、パレスチナ側が大幅な土地交換に応じる見通しは立たない。首相が西岸からの全面撤退を拒否したのを受け、大統領は22日、「双方が67年以前とは異なる国境を交渉するという意味だ」と“補足説明”して事態を収拾した。【5月26日 読売】
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しかしながら、イスラエル国内の世論には、「67年境界線案」を容認する声も思いのほか多いようです。
****67年境界線案、受け入れるべき」イスラエル世論調査で約6割*****
イスラエルとパレスチナの中東和平交渉の再開を目指し、1967年の第3次中東戦争以前に戻した境界線を交渉の前提とするというバラク・オバマ米大統領の提案と、これを拒絶したイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相について、イスラエル紙マーリブが25日に発表した世論調査の結果、国民の約6割が「首相はオバマ大統領の提案を受け入れるべきだった」と考えていることが明らかになった。

同紙の調査結果によると「ネタニヤフ首相は、(オバマ)大統領提案に無条件で支持を表明すべきだった」と考えている人が全体の10%、「条件付きで」支持すべきだったと考える人が46.8%で、合わせて56.8%の人が「オバマ提案を受け入れるべきだ」と考えていた。
一方、オバマ提案に対し、ネタニヤフ首相は反対を表明すべきだったとした人は36.7%だった。
調査はマーリブ紙のためにイスラエルの調査機関Telesekerが450人を対象に実施した。【5月26日 AFP】
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小規模な調査ではありますが、一部の右派強硬論者を除けば、一般国民は意外と冷静な判断をしているようにも見えます。もっとも、ネタニヤフ政権はその右派との連立政権ではありますが。

エジプト:ラファ検問所開放
イスラエルを巡る情勢は、イスラエルにとって“逆風”が強まっていることは、5月20日ブログ「パレスチナ  オバマ米大統領、占領地で入植活動を続けるイスラエルに譲歩を迫る」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110520)でも取り上げたところです。

なかでも、これまで親イスラエル政策をとってきたエジプトが、ムバラク政権崩壊で方針転換を示しつつあることが注目されます。
****エジプト:ガザ入り口のラファ検問所開放 07年以来初****
エジプト政府は28日から、パレスチナ自治区ガザ地区との唯一の出入り口であるエジプト境界のラファ検問所を常時開放し、地区の封鎖を緩和する。国営の中東通信が25日報じた。常時開放は、イスラム原理主義組織ハマスが07年にガザを実効支配して以来初めて。

エジプトでは、イスラエルの後ろ盾である米国の意向を受けてパレスチナ人のラファ通過を厳しく制限してきたムバラク前政権が2月に民衆蜂起で崩壊しており、軍最高評議会が後を引き継いで以来、今回の措置はエジプトの対外政策の大きな変化の一つだ。イスラエルが反発を強めるとみられる。

中東通信によると、検問所は休日である金曜日と祝日を除く毎日午前9時から午後5時まで。女性は誰でも、男性は18歳未満と40歳以上なら、パスポートを所持していれば事前にビザを取得せずに出入りできる。エジプトの大学在学者や医療を受ける患者も対象。

エジプトは4月27日、イスラエルがテロ組織と見なすハマスと、パレスチナ自治政府を率いるアッバス議長の出身母体である穏健派ファタハの和解を仲介することに成功。ラファ検問所の常時開放についてもアラビ外相が実施方針を表明していた。(後略)【5月26日 毎日】
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イスラエルもこうした国際社会の流れに一定に配慮して、孤立への道を避けることが、最終的に自国の安全保障にもつながるとは思うのですが。
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スーダン  南北境界アビエイ地区へ、北部政府軍侵攻

2011-05-25 21:10:25 | 国際情勢

(アビエイを含む南部スーダンに展開する国連PKOの国際連合スーダン派遣団(UNMIS) 日本からも司令部に陸上自衛官2名が6ヶ月交替で派遣されています。 今回アビエイでの南北衝突でUNMIS隊員にも負傷者が出ています。 “flickr”より By unpeacekeeping  http://www.flickr.com/photos/unpeacekeeping/5515312490/ 

【“火種”が発火
南北間の内戦が続いたスーダン南部地域については、2005年の「南北包括和平合意(CPA)」に基づき今年1月に実施された住民投票によって、98.83%という圧倒的多数で、その独立が支持されました。
北部政府・バシル政権の対応が注目されていましたが、CPAを南部独立と言う形で完結させたいアメリカの後押しもあって、バシル大統領も住民投票結果受け入れを表明、今年7月に独立の予定となっています。

しかし、南北の境界付近にあって南北内戦の激戦地であった石油資源が豊富なアビエイ地区は、05年の包括和平合意では、同地区の帰属を決める住民投票を、南部独立を問う住民投票と同時に実施すると規定していましたが、南北間の調整がつかず、棚上げされた形となっていました。

このため、このアビエイ地区が南北衝突の“火種”となるのでは・・・との危惧は、すべてのメディアが以前から報じていたところですが、その危惧が現実のものとなりつつあります。

****スーダン、北部政府軍が係争地に進攻 南部独立直前*****
7月に南部が独立するスーダンで、北部政府軍が21日、南北の係争地アビエイ(Abyei)に進攻し、南部のスーダン人民解放軍(SPLA)との激しい戦闘の末、同地を掌握した。南部の自治政府は「侵略だ」と強く反発、国連安全保障理事会も22日、北部政府軍の即時撤退を求める声明を出した。

スーダンでは、22年間続いた南北間の対立が「南北包括和平合意(CPA)」によって終わり、1月に行われた国民投票の結果、7月に南部が独立することが決まっている。
南北の境界付近にあり石油資源が豊富なアビエイでも住民投票が行われる予定だったが、投票の有資格者の範囲をめぐって南北が対立し、投票は無期限延期された。アビエイは、CPAでは特別地域とされ、南北双方の軍の侵入が禁じられている。

スーダン首都ハルツームで会見した北部政府のアミン・ハサン・オメル大統領府担当相は、「アビエイと河岸北部一帯を掌握した」と発表。「SPLAがアビエイで存在感を誇示しようとしており、CPAの下で許容できない」ことが進攻理由だと説明した。
これに対し南部自治政府は、北部政府の発表は「完全な虚偽」だと非難。北部政府がアビエイを「侵略」し「不法占拠」したことによって、南北間の衝突が再燃する恐れがあると警告した。

一連の動きを受け、スーダンの首都ハルツームを訪問中の国連安保理の訪問団は22日、「急速に悪化するアビエイ情勢について非常に深く懸念している」との声明を発表し、北部政府軍に対して部隊の撤退を正式に要求した。【5月23日 AFP】
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その後の報道では、「武装集団による略奪や放火」が報じられています。
****制圧の町で「略奪や放火」 スーダンの南北係争地*****
国連平和維持活動(PKO)部隊の国連スーダン派遣団(UNMIS)は23日、スーダン北部政府軍が21日までに制圧した南部との係争地アビエイ地区の町で「武装集団による略奪や放火が行われている」と発表した。
現地からは市民ら数千人が脱出したとされ、UNMISは「スーダン政府軍は制圧した地域で法と秩序を守る責任がある」としている。(後略)【5月24日 産経】
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【「アビエイを新国家の領域内に含める試みがあれば、我々は新国家を認めない」】
アビエイ地区の定住民は南部系ディンカのンゴック氏族ですが、年周期でこの地を利用する北部系遊牧民ミッセリアを帰属決定住民投票の対象とするかどうかで南北が対立、住民投票が実施できませんでした。
今回の北部政府軍侵攻に先立っては、南部自治政府が4月まとめた暫定憲法の草案に、アビエイが南部の一部だと書かれていると報じられたことから、北部・バシル大統領側がこれに激しく反発して緊張が高まっていました。

南部スーダンの憲法草案では、「南部スーダン共和国の国境は、1956年1月1日の境界線に基づくエクアトリア州、バフル・アル=ガザール州、上ナイル州の領土および領空と、ディンカ族ンゴック氏族の9首長国の領域を境界とするアビエイ地区である。同地区の帰属は1905年にバフル・アル=ガザール州からコルドファン州に改組され、2009年7月に発表された常設仲裁裁判所の判決でも確認されている」と記されているそうです。

****独立間近のスーダン南部、やまぬ戦闘 産油地の帰属火種*****
7月に独立を控えたスーダン南部で、戦闘が頻発している。産油地帯の帰属をめぐって争う、北部を拠点とする中央政府が介在しているとの見方が出ている。財政を支える石油生産も滞り、南部の今後に影を落としている。

現地からの報道によると、スーダン南部自治政府軍の報道官は29日、北部に隣接するユニティ州とジョングレイ州で19日以降、南部軍と武装勢力の戦闘が続き、巻き添えの住民を含む計266人が死亡したと発表した。
南部では、1月の住民投票で北部からの分離・独立が決まって以降、戦闘が増えている。国連の推計では、今回の衝突とは別に、800人が犠牲になり、10万人が家を追われた。

南部自治政府に反発する武装勢力は七つあり、南部側は、中央政府が支援していると批判している。南部が北部に疑いを抱くのは、南北間で未解決の問題が山積し、対立感情が消えていないうえ、境界エリアの産油地帯アビエイの帰属問題がくすぶっているためだ。

中央政府のバシル大統領は28日、政治集会で「アビエイを新国家の領域内に含める試みがあれば、我々は新国家を認めない」と演説した。南部自治政府が4月まとめた暫定憲法の草案に、アビエイが南部の一部だと書かれていると、報じられたためだ。

アビエイには南部の主流民族ディンカが定住するが、年に数カ月間、家畜の遊牧でアビエイを通る北部系遊牧民も住民としての権利を主張している。そこへ埋蔵石油をめぐる南北の利害対立が絡む。
南北どちらの領土なのかは、アビエイ住民を対象にした住民投票で1月に決めるはずだった。ところが、有権者の定義をめぐって紛糾し投票は実施されないまま。南部の独立後も火種として残りそうだ。

戦闘の影響で、日量8万4千バレルの石油を産出するユニティ州では4月、油田で働く北部出身の労働者百数十人が北部へ避難、産油量が減少している。2005年までほぼ20年続いた内戦のせいで、南部は技術者が不足し、石油精製も北部側に依存している。南部自治政府予算のほとんどを賄う石油収入は北部頼みだという現実を、戦闘は突き付けている。

加えて、近年の干ばつや北部からの帰還者の急増で、南部は食糧不足にも直面している。治安の悪化で、ジョングレイ州とレーク州では27日、世界食糧計画(WFP)の23万5千人を対象にした食糧援助活動が止まってしまった。(ナイロビ=古谷祐伸)
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北部政府の与党・国民会議党(NCP)は4月27日、「今年7月9日に樹立宣言が行われる見通しの南部スーダン国家が、南北間で係争が起こっているアビエイ地区を併合した場合には同国家を承認しない」と発表しています。

即時撤退を求める国際社会
一方、アメリカや国連安保理など国際社会は北部政府軍のアビエイ侵攻を非難、即時撤退を要求しています。
****米、スーダンを非難 アビエイ地区進攻で****
カーニー米大統領報道官は21日声明を出し、スーダン政府軍によるアビエイ地区進攻を非難、「作戦の即時停止と同地区からの撤退」を求めた。
声明で報道官は、要求に従わない場合は「米国とスーダンの国交正常化のプロセスが後退する」と警告した。
米国は1993年からスーダンを「テロ支援国家」に指定している。【5月22日 産経】
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****スーダン北部政府軍に撤退要求 安保理、南部係争地で*****
スーダン北部政府軍が、分離独立が決まった南部との係争地アビエイ地区に進攻、中心の町を21日までに制圧したことについて、国連安全保障理事会は22日、情勢の急速な悪化に「強い懸念」を示し、北部政府軍に軍事行動の停止と即時撤退を求める声明を出した。

一方、声明は、南部軍が19日、北部軍部隊を護送中の国連平和維持活動(PKO)部隊に攻撃を加えたとして、南部を強く非難した。
安保理メンバー国の大使らは現在、アフリカ訪問の一部としてスーダンに滞在中。訪問団はアビエイも訪問する予定だったが、AP通信によると、中止された。

また、国連の潘基文事務総長も22日、声明で「政府と南部の間の重火器などによる交戦を強く非難」した。声明によると、国連施設が迫撃弾による攻撃を受け、PKO部隊の国連スーダン派遣団(UNMIS)隊員2人が負傷した。【5月23日 日経】
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北部政府に対してはアメリカなどの働きかけが期待されますが、南部スーダンについて言えば、これといった産業基盤もなく、石油資源についても北部が所持する関連施設を利用する必要がある南部スーダンにとっては、北部との関係を維持することが必要です。
独立に向けた高揚感が、いたずらな北部との対立・衝突に向かわないように願うところです。
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南シナ海  領有権主張を強める中国 難しいASEAN諸国の対応

2011-05-24 20:40:19 | 国際情勢

(南シナ海で、アメリカの強襲揚陸艦エセックス、ドック型輸送揚陸艦デンバーと共に作戦行動するフィリピン海軍艦艇 “flickr”より By Former Navy Gallery - New One is USNavy URL http://www.flickr.com/photos/usnavynvns/4440265617/

核心的利益
南沙(スプラトリー)諸島は、中国、台湾、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、フィリピンの6力国がそれぞれ、全体あるいは一部の領有権を主張しています。
周辺海域には天然ガスや石油などの資源が豊富で、漁業資源も多いこと、また、海上交通や軍事上の要衝でもあることから、領有権を巡る対立が続いています。
同様に西沙諸島でも、中国とベトナムが領有権で対立しています。

特に、中国は近年これら南シナ海での領有権主張を強めており、2010年3月戴秉国(タイ・ピンクオ)国務委員が訪中した米政府高官に、南シナ海が台湾やチベットと同列の「核心的利益」にあたると伝えとされています。

「核心的利益」という表現については、その後アメリカや東南アジア諸国連合(ASEAN)の関係国が強く反発したことから、中国国内で強硬姿勢を続けることは外交全体の柔軟性を損なうとの議論もあって、「南シナ海を『核心的利益』とは言っていない」と、アメリカ政府に核心的利益とする立場を事実上取り下げる姿勢を示したとの報道もあります。【10年10月22日 共同より】

ベトナムの南沙諸島での選挙に中国反発
ただ、どういう表現を使用するにせよ、今後空母を同海域に展開させるとも思われ、現実的には南シナ海での強硬な姿勢は変えておらず、関係国との軋轢が強まっています。

昨日のブログで扱ったベトナムの国会議員選挙について、ベトナム側がスプラトリー(南沙)諸島でも実施することに関し、中国は強く反発しています。
****南沙諸島での選挙めぐり応酬 中国「非合法」/越「内政問題*****
ベトナムは22日の国会議員選挙を、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島でも実施する。これに南シナ海のほぼ全海域の領有権を主張する中国が反発、ベトナムも反論するなど応酬が繰り広げられている。
(中略)ベトナムが実効支配する南沙諸島の一部は、中南部カインホア省の一郡と位置づけられ、「有権者」は駐屯する軍兵士らだ。

これに対し、中国外務省は10日、「選挙は中国の主権の侵害であり、非合法、無効だ」と非難。ベトナム外務省も12日、南沙諸島での選挙は「ベトナムの内政問題だ」と反発した。
中国は先月、南沙諸島などの領有権を主張する文書を、国連事務総長に送付。ベトナムも今月、「ベトナムの不可分の領土だ」と反論する文書を事務総長に送った。

南沙諸島はフィリピン、マレーシアなども領有権を主張しており、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は2002年に平和的解決をうたった「行動宣言」に署名している。ASEANは宣言を法的拘束力のある「行動規範」に格上げすることを目指しているが、中国は消極的だ。

温家宝首相は先月末、ASEAN議長国のインドネシアと、マレーシアを歴訪。インドネシアへの約90億ドルの融資、マレーシアとの経済協力拡大で合意する一方、「領有権問題は2国間で解決すべきだ」とクギを刺している。【5月15日 産経】
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フィリピン資源探査船を中国艦艇が「妨害」】
また、中国・フィリピンの間でも摩擦が強まっています。
****比、南シナ海防衛強化 中国との摩擦に対応****
南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島の領有権を巡り、中国などと対立しているフィリピンが同諸島付近での防衛力強化を急いでいる。エネルギー開発を進める同諸島近海で、中国との摩擦が起きているためだ。
「緊張を緩和するか、終わらせなければ(軍事)衝突になってしまう」。フィリピンを訪間中の梁光烈・中国国防相との会談を23日に控え、アキノ大統領は22日、南シナ海問題を平和的に解決する行動規範策定への協力を梁国防相に改めて求める考えを示した。

 資源眠る海域舞台
両国間の摩擦の舞台となったのは、豊富な石油とガスの埋蔵が期待される南シナ海のリード礁だ。フィリピン国防省によると3月2日、リード礁の資源探査をしていたエネルギー省のチャーター船が、中国艦艇2隻に停船を命じられた。フィリピン側が哨戒機を飛ばすと中国艦は去ったが、両国間でこうした事件が起きたのは初めてという。
フィリピン側の抗議に対し、中国は「南沙諸島は我が国の領土」と反論。4月に入り、両国は「中国の領土主張は根拠がない」(フィリピン)、「南沙諸島はフィリピンに侵略・占領された中国の領土」(中国)などと、さらに言葉を強めた文書をそれぞれ国連に提出し、非難の応酬をヒートアップさせた。
さらに、フィリピン国軍は5月21日、国籍不明の戦闘機2機が11日にリード礁付近を「領空侵犯」していたことを明らかにした。

 かけ離れた海軍カ
フィリピン側が身構える背景には、エネルギー開発がある。アルメンドラス・エネルギー相は4月末、リード礁に同国最大のマランパヤ天然ガス田を上回る埋蔵量のガスが眠る可能性が高いことを明らかにし。
「新しいガス田開発は我が国の最優先課題。開発投資を守るためにレーダー基地、艦艇、ヘリなどが必要だ」と、国軍による防衛力強化の必要性を訴えた。

アキノ氏も、9機の航空機と3隻の海軍用艦艇取得のために119億ペソ(約226億円)の追加予算支出を国軍に認めた。オバン国軍参謀長は19日、これらの装備を「南シナ海での中国の軍事力強化に対応するため」と説明。将来的には初の潜水艦導入も検討することを示唆した。
それでも、中国の海軍力とは比較にならない。フィリピン海軍の旗艦は、米国が第2次世界大戦中に建造した旧式駆逐艦。米沿岸警備隊から購入した1960年代建造の大型巡視船が8月に届く予定だが、空母の建造も進める中国には太刀打ちできない。

 日米に支援求める
圧倒的な軍事力の差を前に、アキノ氏は4月9日の演説で「日本と米国以上の友人はいない。我が国の安全と主権が脅かされた時、日米は必ず我々の側に立ってくれる」と演説し、日米に支援をを求めるとともに中国を牽制した。【5月23日 朝日】 
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フィリピン訪問中の梁光烈・中国国防相とアキノ大統領の会談では、3月に起きたフィリピン資源探査船の中国艦艇による「妨害」など特定の事件には触れず、南シナ海問題については緊張緩和に向けて対話を続けることとし、今秋にも計画されているアキノ大統領の初訪中に向け、問題を棚上げした形となっています。

【「行動規範」目指すASEAN
一方、関係国が多く加盟するASEANは、19日の国防相会議で、圧倒的な軍事力格差のある中国に対し、南シナ海問題での協力強化を合意しています。

****ASEAN:南シナ海問題で協力強化…国防相会議****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は19日、インドネシアのジャカルタで国防相会議を開き、一部加盟国と中国が領有権を争う南シナ海問題や防衛面での協力強化を盛り込んだ共同宣言を採択した。
06年のASEAN国防相会議開始以来、共同宣言で南シナ海問題に言及するのは初。同海域での「航行や上空飛行の自由」の重要性を再確認する文章などを盛り込み、2国間交渉での解決を主張する中国をけん制した。(後略)【5月19日 毎日】
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ASEAN側は、2002年の「南シナ海行動宣言」を効果的に実施し、法的拘束力のある「南シナ海行動規範」へと発展させることを主張していますが、中国はこれに消極的な姿勢で、「領有権問題は2国間で解決すべきだ」との立場です。

****南シナ海:中台やASEAN諸国 領有権の主張強まる****
南シナ海の領有権を巡り、経済力と軍備増強で実効支配を強化する中国、共同戦線を敷くフィリピンとベトナム、防衛強化を打ち出す台湾など、関係各国・地域の動きが活発化している。今後、シンガポールで6月3日から始まるアジア安全保障会議やインドネシアで7月に開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)でもせめぎ合いが続きそうだ。

南シナ海は交通の要衝で海洋資源も豊富。中国、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾が一部もしくは全部の領有権を主張する。今月8日のASEAN首脳会議では議長声明で、領有権の平和的解決に向け法的拘束力の伴う「行動規範」制定のための協議開始を明記。19日のASEAN国防相会議共同宣言でも各国の協力が再確認された。

しかし、中国は多国間問題に発展することで米国の関与が強まることを警戒する。温家宝首相は先月下旬、マレーシアとASEAN議長国のインドネシアを訪問し、「領有権や海洋権益の争いは2国間で適切に解決すべきだ。問題の拡大や複雑化には賛成しない」とクギを刺した。中国国家海洋局は8日、南シナ海を担当する南海総隊に最新鋭の大型監視船「海監84」(排水量1740トン)を配備。海軍航空兵団は先月下旬、南シナ海で低空爆撃訓練を実施した。

一方、フィリピンは中国への対抗色を強め、米国からヘリを搭載できる大型巡視船(同3250トン)を購入。フィリピン海軍では最大の艦船で8月にも南シナ海に配備される。潜水艦の購入も検討し始めた。このほか実効支配する南沙諸島のパガサ島の滑走路を、大型輸送機が発着できるよう改修する方針も発表している。

領有権問題でフィリピンとの協力を確認したベトナムは22日に、実効支配する南沙諸島の一部で国会議員選挙を実施すると発表し、中国から反発を受けた。

台湾は南沙諸島最大の太平島と東沙諸島を実効支配。14年までに1000~3000トン級の大型巡視船計8隻を順次配備する方針で、先月末からは防衛強化のため常駐する海岸巡防署(海上保安庁)隊員に海軍の訓練を義務付けた。だが主要国との外交関係がなく、活発化する議論に参加できず焦りを見せる。【5月23日 毎日】
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当然ながら、南シナ海における中国の対応は、尖閣諸島を巡る日中の対立にも重なります。
中国の拡張路線に歯止めがかけられるかが注目されますが、アメリカすら手を焼く状況で、なかなか困難なものがあります。

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ベトナム  「ドイモイ」継続で経済成長  政治改革は“緩やか” 一党支配体制は堅持

2011-05-23 20:58:11 | 世相

(ハノイ 国会議員選挙への投票を呼び掛けるポスターが掲げられた街角 “flickr”より By Rachel Black http://www.flickr.com/photos/ameliaoil/542690199/
今回総選挙では、定数500に827人が立候補したそうですから、それなりの国民の選択がなされる・・・ということでしょうか。そのあたりの実態はよくわかりません。
なお、2007年5月29日現在では、定数500のうち、ベトナム共産党が450名、非共産党員(共産党推薦)が 42名、独立系(非共産党員かつ共産党の推薦を受けない者)が1名、欠員7名ということで、07年選挙の投票率は99.64%(!)とか。【ウィキペディアより】 どうも“国民の選択”とは異なるもののようにも思えます。)

【「ドイモイ」による成長の陰で格差も
ベトナムは1986年に改革開放路線の「ドイモイ(刷新)政策」を導入してから25年が経過、今後もドイモイ政策に大きな変更はないとみられています。

今年1月、ハノイで開かれていたベトナム共産党第11回党大会は、引退する序列トップのノン・ドク・マイン党書記長(70)の後任に、グエン・フー・チョン国会議長(66)を充てる新たな政治局人事を発表して閉幕しました。チョン新書記長は25年前に導入された「ドイモイ」政策がうたう「社会主義市場経済」の理論的支柱とされ、ベトナムは「2020年の工業国入り」との目標へ向け、改革・開放のドイモイ路線を継続するとされています。【1月19日 毎日より】

****改革開放 農民潤う****
ベトナム 輸出大国へ急成長
ベトナム最大の商業都市ホーチミン市から、昨年間通したばかりの高速道路で南西へ約1時間半。明るい色の屋根と壁が映える新興住宅街の地域を披けると、メコンデルタの青々とした水田風景が広がってきた。
4月中旬、カマを手にした農民たちは収穫に忙しい。コンバインを使っている人も見かける。

ティエンザン省ミーチェン村。舗装道路に面したコンクリート建ての一軒の家で、農家の男性グエン・バン・タンさん(55)は、テレビ、DVDデッキ、冷蔵庫などを満足そうに眺めた。軒先には日本メーカーのオートバイも。「昔は生きるのがやっとだった。みんなドイモイ以降に買ったんだ」

かつてベトナムはコメの輸入国だった。特にベトナム戦争の始まった1960年代からはコメ不足が深刻になった。戦後、共産主義の北ベトナムによって統一された南部のメコンデルタでも農業集団化が進められて農民の意欲が低下し、生産効率が上がらなかった。

そのベトナムが89年、いきなり世界3位のコメ輸出国として国際市場に躍り出た。86年にベトナム共産党が改革開放にかじを切ったドイモイ政策を決定すると、農業にも市場原理が導入された効果だとされる。
農民が自分の農地を増やし、作物を売る相手を選べるようになった。タンさんも水田を倍の2ヘクタールに増やした。肥料や農機具も、民間業者から好きな種類を自由に選べる。91年から、年に3回収穫する三期作が可能になり、収極量は年10トンから16トンに増えた。
その年に初めてテレビを買った。木と竹の家をコンクリートで建て替えたのは95年。97年には長男にパソコンを買い与えた。「だいぶ自由で楽になった。おかけで子どもたちも大学へやれたよ」(中略)

割り当て農地減少、地域格差も
米国農務省などによると、90年に167万トンだったベトナムのコメ輸出は2009年に600万トンを超え、輸出世界主位のタイに約200万トン差に迫る。タイが品質向上のために生産抑制に動いているため、近くベトナムが最大の輸出国となるとの見方もある。

ベトナムは、国際競争に勝てる高品質米を増やすことに力を入れている。コメ生産・取引業者の大半が加盟するベトナム食糧協会(VFA)によると、標準米よりIトン当たり100ドル(約8200円)高く売れる高品質米の全体に占める割合は、5年前の5%から近年15~20%に増えた。15年には30%を目指す。

だが、成長の陰で、格差も生まれている。
「コメ作りなんて苦しくなる一方で、何もいいことがない」。メコンデルタに次ぐ穀倉、北部の紅河デルタのナムディン省トルタン村の女性グエン・ティ・トリンさん(41)は嘆く。
この地方では農民人口に対し農地が狭く、農民は自治体による割り当て以上の農地を持つことができない。トリンさんの5人家族の田は0.3ヘクタールだけ。稲作から得られる月収はわずか60万ドン(約2400円)。豚を飼い、建築労働者の夫の収入を合わせても3人の子どもを養うのは厳しい。
ドイモイ政策が始まって間もない88年ごろ、トリンさんは村から家族1人当たり1080平方メートルの田を割り当てられていた。だが、村の人□増につれ割り当ては減り、今は612平方メートル。近く540平方メートルに減らされるとのうわさにおびえる。

輸出米の多くはメコンデルタ産。北部では二期作しかできず、稲作だけでは生活できない兼業農家が大半だ。メコンデルタでも、土地を買って豊かになる農家がいる一方、土地を売って他の農家の田を耕す農業労働者が増えている。
VFAのワイン・ミン・フエ事務局長はこうした現状について「それこそ市場原理だ。農家の1軒当たりの耕作面積が小さく、生産、効率が低いのが我が国の弱点。意欲のある農家が農地を集めることは悪いことではない」と言い切る。「コメ大国」の農民たちは、社会主義体制下にありながら地主と小作人に分かれ始めている。【5月9日 朝日】
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ベトナムが「ドイモイ」政策のもとで、中国にも似た、経済成長を実現していることは周知のところです。
個人的にも、何回かのベトナム観光で、そのエネルギッシュな経済状況は実感しています。

ただ、“社会主義体制下にありながら地主と小作人に分かれ始めている”現状について、「それこそ市場原理だ。意欲のある農家が農地を集めることは悪いことではない」と言い切るあたりには、中国で感じるのと同様の「この国の“社会主義”とは一体何なんだろうか?」という疑問も感じます。
「市場原理」が多くの社会的制約で制限されている日本などに比べると、中国やベトナムの方が「市場原理」に忠実と言うか、その副作用に無頓着のようにも見えることがあります。
国民の生活を豊かにしたいという指導部の熱意は是としますが、毛沢東やホーチミンが目指したものとは、相当に異なるものになりつつあります。

共産党が「労働者階級の党」から脱皮
なお、1月の第11回党大会では、私企業経営者の入党解禁の措置も決定されています。
****ベトナム共産党、脱・労働者色 経営者の入党解禁へ****
ベトナム共産党がハノイで開催中の第11回党大会で、私企業経営者の入党解禁を提案した。大会中に採択される見通しだ。ベトナムでは1986年に始まったドイモイ(刷新)政策で市場経済システムの導入が進んでおり、先に改革開放路線を歩んだ中国に続き、共産党が「労働者階級の党」から脱皮する形となる。

大会冒頭、最高指導者のノン・ドク・マイン書記長が、今後5年間の政治方針をまとめた「政治報告」案の説明の中で、私企業経営者の新規入党について「試験的に認める」と表明した。これまでは「労働者階級ではない」ことを理由に入党は認められていなかった。ただ、2006年の前回大会では、現役の共産党員が企業を経営することを認めており、門戸は徐々に広がっていた。

ベトナムの10年の国内総生産(GDP)に占める民間部門の割合は48%で、上昇を続けている。ハノイの外交筋は「経済発展の中、政治よりもビジネスの世界の方が人気が高い。共産党もすそ野を広げなければいけないという危機意識があった」と指摘する。(後略)【1月14日 朝日】
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【“緩やか”に進む政治改革
一方、チョン新書記長は共産党が主導するドイモイ路線を堅持する一方で、複数政党制の導入など政治体制の変革につながる党内改革には消極的とみられるそうです。
ただ、緩やかながら党内民主化など政治体制面の改革も進むとみられています。

“しかし前回第10回の党大会以降、党の指導下にある国会は機能強化が図られ、昨年6月には政府が提案した国土を南北に貫く新幹線建設決議を否決するなど、国会の独自性も生じ始めている。今回の党大会ではこれまで認められなかった民間企業家の入党を認める方針も確認され、今後も緩やかながら党内民主化など政治体制面の改革も進むとみられる。”【1月19日 毎日】

1月の党大会に先立つ、ベトナム共産党の中央委員会総会では、人事案決定が難航しました。
“これまで政治局の決定に中央委のメンバーが異論を挟むことはまれだったが、党関係者によると、今回は委員が自由に発言し、党幹部らの業績などを批判する場面も見られたという。世論も意識したこうした発言を無視しにくくなっていることが、人事をめぐる混乱にもつながったとの見方が出ている。”【1月11日 朝日】というように、こうした議論の表面化も“政治改革”の一環でしょう。

昨年7月には、“書記長を党大会代議員の投票による選挙で決める方式の導入を検討”とも報じられていました。
****越共産党、書記長人事に選挙導入 「民主化」要求受け検討****
ベトナム共産党が来年1月の党大会で党規約を改正し、最高指導者である書記長を党大会代議員の投票による選挙で決める方式の導入を検討していることが31日、分かった。党内の「民主化」要求の高まりを受けた動きだという。同国のトップ人事はこれまで、実質的には党政治局などの密室討議で決まってきた。書記長選挙は政治面でのドイモイ(刷新)を内外に示す狙いがあるとみられる。【10年7月31日 共同】
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この“書記長選挙”が、その後どのように検討されたのかは知りません。

ベトナムは共産党による一党独裁体制を維持していますが、党書記長とそれに次ぐ国家主席、首相を中心とした集団指導体制が確立されています。党書記長以外のポストは、総選挙を経て7月に開かれる新国会で正式決定されます。
その総選挙が実施されましたが、共産党一党支配という枠組みは堅持されています。

****ベトナムで総選挙実施 結果は6月上旬に判明****
 ベトナムで22日、第13回国会議員選挙(定数500)の投票が行われた。183の中選挙区に827人が立候補しており、選挙結果は6月上旬に判明する見通し。任期は5年。共産党員でない候補や党傘下組織などの推薦を受けていない候補は前回よりも減り、共産党の一党支配の下で有権者の選択はさらに狭まった。【5月22日 朝日】
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経済面の急速な進展と比べると、政治面の改革は、やはり“緩やか”なようです。

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イエメン  GCC収拾案に野党側が署名 権限移譲プロセス始動か?

2011-05-22 20:25:35 | 国際情勢

(イエメンでの反政府行動 “flickr”より By Mid-East Wiki http://www.flickr.com/photos/62721807@N03/5708806937/

【“断念”から一転、署名へ
反政府デモが続き、治安当局の発砲による死者も増加しているアラビア半島のアラブ最貧国・イエメンでは、湾岸協力会議(GCC)が提案していた大統領辞任を含む政治危機収拾案をサレハ大統領が受け入れたとの報道が以前もありましたが、4月30日、大統領は土壇場で署名を拒否して暗礁に乗り上げていました。

その後も、アメリカが後押しするGCCによる仲介交渉は難航、GCCはサレハ大統領説得を断念したとの報道がなされたのが19日でした。

****イエメン:大統領退陣説得を断念…湾岸協力会議*****
反政府勢力デモが続くイエメンで、サレハ大統領に対し、「1カ月以内の退陣」などを求める与野党の合意書への署名を要請していた湾岸協力会議(GCC、サウジアラビアなど6カ国)のザヤニ事務局長は18日、説得を断念し、出国した。GCCによる調停がまとまる見通しは、極めて厳しくなった。

大統領は先月、一度は合意を表明したが、調印式の直前に拒否。AP通信によると、今回はザヤニ事務局長がイエメンに5日間滞在し、調停案の内容を調整しつつ大統領に署名への同意を求めた。

一方、米ホワイトハウスによると、ブレナン米大統領補佐官は18日朝、サレハ大統領に電話で署名を促していた。サレハ政権は、イエメンに本拠を置く「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の掃討作戦で、米国と協力関係にある。米政権の退陣要求を拒否したことで、国際社会でさらに孤立を深める可能性がある。【5月19日 毎日】
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しかし、情況はまた一転、大統領はGCC収拾案署名を再度表明、即時辞任でないことや刑事免責を含む収拾案に難色を示す向きもあった野党側も署名して、権限移譲プロセスが始動することになったようです。

****イエメン野党勢力、湾岸協力会議の調停案に署名 反政府デモの混乱収束へ****
イエメンの野党勢力は21日、アリ・アブドラ・サレハ大統領の権力移譲などを内容とする湾岸協力会議(GCC)の調停案に署名した。
多くの野党勢力指導者は、22日に発表があるとして、調停案に署名した事実の確認を避けた。ある匿名の野党関係者は、複数の野党指導者が21日に湾岸協力会議のトップおよび米国、英国、EU、アラブ首長国連邦(UAE)の大使と面会したと述べた。

反政府デモは国際テロ組織アルカイダを助けるクーデターだと野党勢力を非難していたサレハ大統領だが、国家のために調停案を受け入れると表明していた。サレハ大統領が率いる与党・国民全体会議(GPC)の報道官は、サレハ大統領は22日に調停案に署名すると発表した。

調停案によればサレハ大統領は署名の30日後に副大統領に権限を移譲する。野党側から選ばれた首相が挙国一致内閣を組閣し、サレハ氏の辞任から60日後に大統領選挙が行われる。議会はサレハ氏とその側近を刑事免責する。

イエメンでは1月下旬から反体制デモが続き、活動家や医療関係者の報告を総合すると、これまでに治安部隊によるデモ鎮圧によって少なくとも80人が死亡した。
21日にも首都サヌアの西にあるホデイダで反政府デモを行ったホデイラ大学の学生らが治安部隊と衝突し、目撃者と医療関係者によると、学生3人が銃で撃たれて死亡した。【5月22日 AFP】
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今後には不透明感も
“多くの野党勢力指導者は、22日に発表があるとして、調停案に署名した事実の確認を避けた”ことや、21日にも衝突による犠牲者が出ていること、何よりもこれまでも土壇場でのキャンセルがあったりしたことから、今回の報道のとおり事が運ぶのかは、いまだ不透明な感はあります。
“政権与党の報道官も「サレハ氏は22日に署名する」と述べている。ただ、中東の衛星テレビ局アルジャジーラは22日朝、署名に反対するサレハ氏の支持者らがサヌア市内の道路を占拠したと報道。署名をめぐり新たな混乱も予想される”【5月22日 朝日】

仮に、今回の署名がAFP報道のとおりなされたとしても、30日後の大統領辞任・副大統領への権限移譲、辞任から60日以内の大統領選挙までには、まだ不測の事態もおこる懸念もぬぐえません。

この形で収拾が図られれば、反政府デモを受けて強権指導者が政権の座を降りたチュニジア・エジプトに続く、3番目の“アラブ民主化”の実現となります。
また、国外勢力の仲介による、大統領とその側近を刑事免責する形での収拾は初めてとなります。

治安悪化で国家財政悪化
サレハ政権は、イエメンに本拠を置く「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の掃討でアメリカに協力してきた経緯から、アメリカがサレハ辞任を要求したことについて、大統領は裏切られたと怒っているとのことです。
ただ、従来から、北部のザイド派の活動、南部の分離運動、そしてアルカイダと三重苦に悩んできたイエメンは、長引く反政府デモで経済的にも相当追い詰められているようです。

****イエメン:経済危機深刻…反政府側パイプライン爆破などで****
反政府勢力によるデモが続くイエメンで、原油パイプラインの爆破や外国人労働者の出国が相次ぎ、主要産業の石油・天然ガス関連業の生産が半減、国家財政の悪化を招いている。
サレハ大統領は13日、首都サヌアで開いた集会で「破壊者が破壊行為をやめない限り、治安当局が対応せざるをえない」と演説、取り締まりの強化を宣言した。反政府勢力の反発をさらに強める結果を招いており、混乱収拾の見通しが立たなくなっている。

国営サバ通信によると、アイダルス石油・鉱物資源相は12日、国会で財政状況を説明した。イエメンでは石油や天然ガス関連事業が歳入の7割を占める。だが国内外への主要な供給源である中部マリブの原油パイプラインが反政府組織の爆破攻撃を受け、3月半ば以降、供給をほぼ中止。治安の悪化で修理も困難な状況にあるという。
また、南部アデンにある同国唯一の石油精製所も、マリブからの原油の供給減と外国人労働者の国外退避で、約1週間前から閉鎖されている。アイダルス氏は、反政府勢力が電線など電力網の一部を破壊したと訴えている。

電力不足は物価の高騰も招き、市民生活を直撃している。ロイター通信によると、首都サヌアでは連日数時間の停電があり、地方では水を運ぶトラックの燃料不足で飲料水が不足している。南部イブなどデモが続く都市では、少数の商店を除き経済活動が止まった状態だという。

大統領は13日の演説で、公共インフラの破壊や占拠は、野党連合による「挑発行為」と断言。政府軍は同日、反政府デモ隊に発砲し、参加者3人が死亡した。今年1月下旬以降のデモに伴う死者は170人以上に上る。
 一方、アブドラ通産相は12日、1月下旬からの経済損失は50億ドル(約4000億円)に達すると発表した。09年の国内総生産(GDP)の17%に相当する。(後略)【5月14日 毎日】
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サウジアラビアの思惑、アメリカの懸念
仲介した湾岸協力会議(GCC)、特にイエメンの隣国サウジアラビアにとっては、イエメンの不安定化は自国の安全保障に直結します。対立が長期化して内戦状態ともなれば、自国への影響が出てきます。特に、シーア派イランからの支援を受けるイエメン北部のザイド派(シーア派の一派)の活動には神経をとがらせています。
このため、サレハ大統領が納得できる形で退陣を促し、権力移行期の混乱を最小限に抑えたいという思惑がありました。

アメリカとしては、民主化支援の原則からサレハ大統領を見限った形ですが、国際テロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」など多くの不安定要素があり、権限移譲後の政治体制がどうなるのか見えないこともあって、これまでアルカイダ掃討に協力的だったサレハ氏が退陣によって、アルカイダ等の動きがさらに活発化することへの懸念もあります。

いずれにしても、もうしばらく成り行きを見守る必要はありそうです。
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