孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エボラ出血熱  アメリカでの西アフリカ帰国者をめぐる騒動 西アフリカの隔離地域では?

2014-10-31 22:41:04 | 疾病・保健衛生

(サイクリングを終え自宅に戻り、メディアに囲まれるヒコックスさん 【10月31日 毎日】)

明るい兆しも・・・
西アフリカを中心に感染が拡大しているエボラ出血熱の死者数は計4920人、感染者数は計1万3703人と、依然として危機的な状況が続いていますが、若干希望が持てる話としては、感染中心国リベリアで感染拡大の減速の兆しが見え始めたと報じられています。

****リベリアのエボラ熱、感染拡大に減速の兆し WHO****
西アフリカ諸国で猛威をふるうエボラ出血熱の問題で世界保健機関(WHO)は29日、感染が最も深刻なリベリアで新たな感染件数が減速するなど終息に向けて望みを抱かせる兆候が見え始めたと報告した。

リベリアでは犠牲者の埋葬件数や病院などでの検査件数も減り始めているとも述べた。ただ、これらの兆候について早急な結論を下すことには慎重な姿勢を示している。

WHOによると、今月29日時点での死者数は計4920人で、感染者数は計1万3703人。
今月25日の報告では疑い例を含む感染者数は1万141人で、今回発表で3500人以上増えたことになる。前回発表での死者は4922人と今回より2人多かった。

エボラ熱の死者の大半はリベリアやギニア、シエラレオネの3カ国となっている。【10月30日 CNN】
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“赤十字の発表によると、モンロビアを含むモンセラード郡でスタッフが収容した1週間当たりの遺体の数は、最も多かった先月15~21日で315人だったのに対し、先週は117人と3分の1余りに減った。これは、エボラ熱の感染拡大が収まりつつあることを示唆しているという。”【10月29日 AFP】とのことです。

また、予防策についてもワクチン実用化に向けた動きが報じられています。
医療経済学的に、企業利益が期待できない“数が限定されたアフリカ・貧困者の疾患”対策がこれまで放置されてきたという点で、遅きに失したことは間違いありませんが・・・・。

****<エボラ出血熱>ワクチン20万人分、来年上半期までに****
 ◇WHO見通し
エボラ出血熱について世界保健機関(WHO)のキーニー事務局長補は24日、ジュネーブで記者会見し、「来年上半期までに20万人分前後のワクチンが使用できるようになる」と述べた。

現在、英製薬大手グラクソ・スミスクラインなどが開発したワクチンと、カナダ政府開発のワクチンの2種類が臨床試験中で、12月にも結果が判明する見通し。新たに5種類のワクチンも開発中で、来年早々にも臨床試験が行われるという。

キーニー氏は「ワクチンは(感染拡大防止の)特効薬ではないが、使用できるようになればエボラ熱流行の潮目を変える材料になる」と話した。【10月24日 毎日】
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エボラウイルス発見者の一人で、国連エイズ計画(UNAIDS)事務局長としてエイズ対策を主導したロンドン大学衛生熱帯医学大学院学長のピーター・ピオット博士は、警戒の必要性と併せて、明るい可能性にも言及しています。

****エボラ熱「人道の危機*****
エボラ出血熱は、1人の感染者からでも大規模感染につながる。「感染が減少に向かっていたギニアで1人の葬儀に集まった人たちから再び拡大したことがわかっている。最後の1人まで気が抜けない」としながら、各国の支援や、現地で死者の埋葬方法を見直す動きが出てリベリアでは感染拡大がにぶっているとした。
「クリスマスまでにすべての地域で感染が減少に転ずる可能性がある」と楽観的な見方を示した。(後略)【10月31日 朝日】
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なおピオット博士が「人道の危機」と警告するのは、各国が自国のことだけを考えて、感染国との国境を閉ざすなど、感染国を孤立化させるような対応です。

“国境封鎖などで感染地を孤立化させれば、支援を困難にし、感染克服を阻害すると指摘する。「経済活動は止まり、貧困は拡大し、国が普通の機能を失ってしまう。保健衛生の問題ではなく、もはや人道危機だ」”【同上】

公衆衛生の維持か、個人の人権の問題か
そうした中で、アメリカなど西アフリカ以外の先進国でも、感染者の流入、看護者の二次感染などで、エボラ出血熱に対する社会不安が高まっています。

特に、ここ数日関心を集めているのは、西アフリカからの帰国者を隔離すべきかどうか・・・ということです。

西アフリカでエボラ出血熱患者の治療にあたり、帰国後に隔離されているアメリカ人の看護師が25日、まるで「犯罪者」のように扱われたとして、自身に対する空港などの対応を厳しく批判。

エボラ出血熱と戦った「英雄」に最低限の敬意を払うべきだとの批判が噴出して、帰国した医療関係者を一時的に強制隔離していたアメリカの2州が、強硬策の緩和を余儀なくされました。

オバマ大統領も26日、「エボラ熱を発生源で封じ込め、終息させるには医療従事者が必要だ」と述べ、医療従事者のやる気をそがない帰国受け入れ策を検討するよう指示しました。

国連のパン・ギムン(潘基文)事務総長も、科学的な根拠がなく最前線で対策に当たる医療関係者に心理的な負担を与えるものだとして懸念を表明しています。

前出ピオット博士も、感染地に赴く医師らの熱意をくじくとして知事に撤回を申し入れています。

こうして、帰国した医療関係者については。隔離ではなく自宅での外出禁止に緩和されたのですが、話は収まっていません。

****帰国後の外出巡り看護師と州政府が対立****
アメリカでは、西アフリカから帰国した看護師に対して自宅にとどまるよう求める地元政府と、症状がないとして外出する看護師が対立していて、エボラ出血熱を巡る混乱が続いています。

エボラ出血熱の流行が続く西アフリカのシエラレオネでの医療支援活動を終えて24日に帰国した女性の看護師は、東部ニュージャージー州の空港に到着したあと、27日まで病院に強制的に隔離されました。

その後、「症状がない」として解放されて東部メーン州にある自宅に戻りましたが、メーン州政府から自主的に自宅から外出しないよう求められ、看護師は「健康なのでその必要はない。科学的根拠がなく従えない」などとして反発しています。

こうした対立に全米のメディアが注目し、看護師の自宅周辺には大勢のメディアが押し寄せていて、30日朝には自転車で散策に出かけた看護師を追いかけるなど騒ぎになっています。

地元政府が強制的に看護師に外出を禁止する手段を探る一方、看護師は法的手段に訴える構えを見せて対立していて、アメリカでエボラ出血熱を巡る混乱が続いています。【10月31日 NHK】
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“知事の声明によれば、州側は外出は可能でも、公共の場所を訪れたり、人と約1メートル以内の距離に近づいたりしないよう要請。だがヒコックスさんの同意は得られなかった”【10月31日 時事】とも。

州側は公衆衛生の維持のため、法的措置も辞さない考えを示しており、強制的な自宅待機令などを裁判所に求める可能性があるとのことですが、看護師側も「人権侵害」として提訴を辞さない構えとか。

一般的には、感染者であっても症状が出ていない時期については他人に感染しないと言われています。
それ以上の正確なところは知りませんので、判断も難しいところです。

ただ、州側の懸念も理解できます。
実際に外出中に症状が出始めた場合どうなるのか?
これからますます多くの者が帰国して、その者が街を出歩くことへの社会的不安が混乱を引き起こさないか?本当に全員について自己管理を信用していいのか?

基本的には、西アフリカという“戦地”で実際に“戦ってきた”者と、未だ戦火の及ばない地で生活する者の意識の差でしょう。

砲弾の中で戦う者は、何が危険で、どこまでなら安全かを十分にわきまえて行動します。そうでなければ自らの命を危険にさらすか、あるいは一歩も身動きがとれない状態になります。

爆弾の危険性は十分に理解していますし、一方で、どのようなことさえしなければ爆発はしないということもわかっています。

そのような者からすれば、平和な国にあって、単に爆弾というだけで怖がり遠ざかる人々の心理が苛立たしくも思えることでしょう。

そうであるにしても、個人的には、未だ戦火の及ばない国の人々の不安にも配慮して、“自宅謹慎”あたりで妥協していいのでは・・・と思うのですが。

自宅からの外出を禁止となると、経済的問題も生じます。
アメリカ・ニューヨーク州は、西アフリカから帰国した医療従事者に対して、前の仕事を保障されるよう病院側に働きかけるほか、外出を禁止されて働けない期間の賃金を補償するなどとした新たな支援策を打ち出しました。【10月31日 NHKより】

中国・北京市は、西アフリカからの帰国者に対し、最長潜伏期間の21日間、自宅待機するよう勧めるとしています。中国で“勧める”というのは、実質“強制”でしょう。

オーストラリア政府は27日、流行地域である西アフリカ諸国からの入国を見合わせていると発表しています。
原則として入国査証(ビザ)発行を一時停止するという、かなり思い切った措置です。

もっと徹底しているのは北朝鮮です。
西アフリカだけでなく、すべての国からの入国者を隔離してしまう方針です。

****北朝鮮、エボラ熱対策で全外国人の隔離命令****
北朝鮮が、エボラ出血熱の感染拡大に対する予防措置として、入国する全ての外国人を出身国にかかわらず21日間隔離する方針を発表した。

(中略)エボラ熱の影響を受けていると北朝鮮政府が考える国と地域からの渡航者は、「政府指定のホテルで医療関係者の監視の下」21日間隔離される。それ以外の国と地域からの渡航者も、受け入れ先の機関により指定されたホテルに隔離されるという。

北朝鮮ではこれまでのところ、エボラ出血熱への感染が疑われる患者は報告されていないが、感染拡大への懸念から先週、外国人観光客の入国を拒否する方針を発表している。【10月31日 AFP】
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個々人の人権に関する発想が異なりますので、対応も異なります。

西アフリカの隔離地域の住民の人権は?】
アメリカの問題の看護師の恋人とサイクリングする権利はともかく、世界が本来もっと心配すべき人権は、西アフリカの人々の人権でしょう。

治療法がない現状で“生きる権利”の問題はさておいても、“隔離”についても、西アフリカでは感染者が多い地域は地区ごと隔離され、その中の住民の生活・生命がどうなるのか・・・という基本的問題が生じています。

****ギニアなど3か国、エボラ出血熱の流行中心地を隔離へ****
ギニア、リベリア、シエラレオネの3か国は1日、700人以上の犠牲者を出し史上最悪の流行となっているエボラ出血熱について、関係国の首脳らが出席した緊急会議で、流行の中心となっている同3か国の国境が接する地域を封鎖して隔離すると宣言した。(後略)【8月2日 AFP】
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****エボラ流行で隔離の地区、住民に「飢餓」の危機 リベリア****
致死率の高いエボラ出血熱が猛威を振るい、数か月前から人々が危機的な状態に置かれてきたリベリア北部で今、感染拡大の阻止を目的に隔離された地区の住民たちが、飢餓という新たな脅威に直面している。

西アフリカ全体で1000人近くの命を奪ったエボラ出血熱を封じ込めるための取り組みとして、リベリア政府は先ごろ、最も多くの患者が確認された北部地域を隔離。軍の車両が道路を封鎖し、人の移動を制限している。

しかし、隔離措置によって業者が食料品を仕入れることがきなくなり、農家も作物の収穫ができなくなっていることから、地域では商品が不足。価格が急騰している。

(中略)「住民は餓死するのではないかと恐れ、パニックに陥っている」
(中略)「感染拡大を封じ込めるための隔離には賛成だが、私たちが餓死する必要はない。診療所も閉鎖されている上、食べ物もなくなったら、どうやって生き残れというのか。エボラウイルスの犠牲者以上の人が死ぬことになる」(後略)【8月10日 AFP】
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****リベリア、住民隔離で軍部隊と衝突****
エボラ出血熱の勢いは止まらず、西アフリカでこれまでに1350人以上の死者を出す史上最悪の事態となっている。大流行を食い止めるべく大規模な取り組みが行われているが、その結果、リベリアでは異様な事態が起きている。

リベリア政府は19日、首都モンロビアにあるスラム地域の隔離に踏み切り、その結果、怒った住民と当局の衝突が起きた。(後略)【8月21日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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こうした隔離策がとられてすでに2~3か月が経過します。
隔離地域の住民の暮らしがどうなっているのか・・・心配されます。

自己主張に関する社会的差異
アメリカの看護師の問題に戻ると、エボラ出血熱の問題としてよりは、自己主張の在り方に関する違いに、個人的には興味を感じました。

日本では、何か問題があると、「世間をお騒がせして・・・」「皆様にご迷惑をおかけし・・・」という謝罪になりますが、世間が騒ごうがどうしようが、とにかく自分の正しいと思うことは主張する・・・というあたりは、日本とはやはり異質な社会だな・・・と感じた次第です。

別にアメリカのような社会が好きだとか言うつもりもありませんし、それぞれに一長一短あるところでしょうが、日本社会のあまりに世間云々に気を使う風潮には、やや辟易するところもあります。
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エジプト  ガザ地区境界を「緩衝地帯」に 更に進むガザ封鎖

2014-10-30 22:45:28 | パレスチナ

(「緩衝地帯」設置のための家屋爆破作業 “取り壊される家屋は約800棟に上る。イブラヒム・メフレブ首相は29日、中東通信を通じて緩衝地帯設置令を布告。「対象地域の住民が自主的に立ち退かない場合、家財は没収する」と宣言した。【10月30日 AFP】)

ガザ地区からのイスラム武装勢力の侵入を阻止
エジプトでは昨年7月の軍事クーデターでイスラム組織ムスリム同胞団主導のモルシ政権が崩壊した後、ムスリム同胞団を徹底して取り締まる強硬姿勢のシシ政権に対し、イスラム過激派による軍・警察へのテロが頻発しており、特に、シナイ半島では複数のイスラム過激派組織が軍や治安部隊への攻撃を繰り返しています。

****治安部隊33人死亡=武装勢力が攻撃か―エジプト****
エジプト・シナイ半島のエルアリシュ付近で24日、自動車爆弾などによる2件の攻撃があり、治安部隊の兵士33人が死亡した。ロイター通信が伝えた。

治安部隊を狙った攻撃としては、2013年7月にモルシ政権が事実上のクーデターで崩壊後、最悪規模の犠牲者数となる。(中略)

シナイ半島では、イスラム組織ムスリム同胞団出身のモルシ元大統領が失脚して以降、イスラム急進組織「アンサル・アル・シャリア」などの武装勢力の動きが活発化。治安部隊を標的にした攻撃を続けている。【10月25日 時事】 
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シナイ半島で活動するイスラム過激派組織は隣接するパレスチナ・ガザ地区のイスラム過激派組織とのつながりも指摘されており、また、シリアやイラクで活動するイスラム過激派組織「イスラム国」に同調する勢力もあります。

エジプト・シシ政権は、こうしたシナイ半島の治安悪化を防止するため、ガザ
地区との境界地域を「緩衝地帯」とする作業に着手しています。

****ガザ境界に「緩衝地帯」=武装勢力の侵入防止―エジプト****
エジプト治安当局は29日、エジプトのシナイ半島とパレスチナ自治区ガザの境界沿いに、ガザからの武装勢力侵入を防ぐ「緩衝地帯」を設置する作業に着手した。エジプト側の境界隣接地域に暮らす住民に、立ち退きを要求している。

シナイ半島北部のアリーシュ付近では24日、兵士30人以上が死亡する自動車爆弾事件が発生しており、緩衝地帯設置はこれを受けた措置。当局は、シナイ半島を拠点とするイスラム過激派「アンサル・ベイト・アル・マクディス(エルサレムの支援者)」が、ガザの武装勢力の支援を受けて犯行に及んだとみている。

緩衝地帯となるのは、ガザ境界に沿った長さ10キロ前後、エジプト側へ幅約500メートルの細長い地域。当局は監視態勢の強化を図るという。【10月29日 時事】
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ガザ地区との境界地域を「緩衝地帯」として監視態勢を強化することで、ガザ地区からのイスラム武装勢力の侵入と、エジプトからガザ地区への武器密輸を防ごうというものです。

地下トンネルが支えた“密輸”経済
今回措置をパレスチナ・ガザ地区側から見ると、ガザ地区の封鎖が更に強化されたことを意味します。

周知のように、イスラエルはハマスがガザ地区を制圧した2007年以降、ガザの封鎖政策を実施しています。

従来よりイスラエルはエジプト・ガザ国境線に幅数百メートル帯状の非武装地帯を作って占領し、ガザとエジプトが直接国境を接しないようにしていますが、ガザの人々は国境地下にトンネルをいくつも掘り、イスラエルの目を盗んでエジプトからガザに武器や弾薬、食料や日用品などを運び込んできました。

こうした“密輸”が、封鎖されているガザ経済を一定に支えてきたとも言えます。
一方、ハマスはトンネルで武器を運び込むほか、密輸トンネルに「通過税」を設けて資金源としてきました。

ムスリム同胞団出身のモルシ元大統領の頃までは、こうしたハマス・ガザ地区の地下トンネルを使った“密輸”はある程度黙認されてもおり、ガザ地区ではケンタッキー・フライド・チキンをエジプトから取り寄せる配達サービスは人気を集めていたそうです。

****トンネルを通ってフライドチキン配達、ガザ地区で人気の新サービス****
国際的なファストフード店が存在しないパレスチナ自治区ガザ地区では今、ジャンクフードに飢えた人々のためにケンタッキー・フライド・チキン(KFC)をエジプトから密輸するサービスが、人気を集めている。

だが、配達まで数時間を要するため、これを「ファスト(速い)フード」と呼ぶのは難しい。さらに、エジプトからの輸送費やガソリン代が上乗せされるため、価格は約2倍と割高だ。

このサービスを行っているのは、ガザ市内にオフィスを構える配送会社「ヤママ」。交流サイトのフェイスブック)に作られた公式ページには、「木曜午後6時の配達をご希望の方は、水曜夜までにご注文を」と書かれている。

ヤママは1回当たり30人前ほどの注文を、ガザ地区から約40キロ離れたエジプト北部の街アリシュにあるKFC店舗に発注する。

商品は車でガザ地区との国境まで運送された後、ガザ地区南部のラファに通じる地下トンネルを通って運ばれ、そこから再び車に乗せられてガザ市内の本社に届けられる。その後、オートバイで注文客に配達するため、所要時間は3、4時間かかる。

2007年にイスラエルがガザ地区を封鎖して以降、同地区では入手困難な品物の密輸が横行しており、ファストフードの密輸はその流れの一環だ。

ヤママが販売する20ピース入りのフライドチキンの料金は、130シケル(約3500円)と、エジプト・アリシュの料金の2倍だが、3週間前のサービス開始以来、注文は順調に増え続けているという。【2013年5月17日 AFP】
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“イスラエルによるガザ地区封鎖”という言葉からは想像が難しい現実です。

しかし、このような“密輸”をめぐる状況は、昨年夏のエジプト政変で急変しました。
ムスリム同胞団主体でハマスと協調関係にあったモルシ政権に代わった現在のシシ政権は反ハマス路線に転換。ガザ側からエジプトに向けて掘削された数百本の密輸用トンネルを破壊し、境界のラファ検問所も封鎖しました。

今年夏のイスラエルとハマスの戦闘は、エジプトからの“密輸”を断たれて財政的に追い詰められたハマスの選択でもありました。

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ハマス側では危機感が高まっていた。ガザで働く4万人超の公務員に給料を支払えず、イスラエル政府とエジプト政府により、徐々に息の根を止められつつあった。

しかも、6月にハマスがパレスチナ自治政府との間で成立させた統一政府は、何の役にも立たなかった。

失うものは何もない状況に追い込まれたハマスは、再度イスラエルと戦うことが、現状打破の唯一の手段と判断した。【10月12日 東洋経済online】
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ハマスが得たもの、ガザ地区住民が失ったもの
結果的に、ハマスは秘密トンネル網だけでなく多数の軍事部門幹部を失い、軍事力の要であるロケット弾の保有数も大きく減らしたものの、地下トンネルを使ったイスラエルへの侵入攻撃、イスラエル人口密集地域を狙った長距離ミサイルを発射などにより50日間も持ちこたえ、政治的には一定の成果を得たとも言えます。

****パレスチナ ハマス支持広がる****
50日間にわたったイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの戦闘について、パレスチナ人の間ではハマスが勝ったと考える人が79%に上ることが住民の聞き取り調査で分かり、ハマスの武力闘争が支持されている実態が明らかになりました。(中略)

また、戦闘期間中のパレスチナ暫定自治政府のアッバス議長の働きに満足していると回答した人は39%にとどまったのに対し、ハマスの事実上の最高指導者マシャル氏の働きに満足していると回答した人は78%に上りました。(中略)
パレスチナの人々の間でハマスの武力闘争が支持されている背景には、アッバス議長の対話路線に成果を見いだせず、イスラエルとの和平交渉が決裂状態となっていることへの無力感があるものとみられます。【9月4日 NHK】
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しかし、この戦闘により、2100人を超えるパレスチナ人が死亡し、負傷者は1万1000人を超えました。
ガザ地区の多くが廃墟と化しました。

膨大なガザ地区住民の犠牲者が出てても、意に介さず戦闘をやめなかったハマスですが、イスラエル軍によってハマス幹部が殺害されると、停戦を受け入れました。

戦闘中にイスラエル軍はイスラエル国境の地下トンネルを徹底して破壊しましたので、エジプト側のトンネル破壊・「緩衝地帯」の形成と併せて、ガザ封鎖は従来に増して堅固なものになると思われます。

停戦合意では、双方の間で隔たりが大きかったハマス側の武装解除や、包括的なガザ地区の封鎖解除など主要課題については約1カ月をめどに協議を進めると“先送り”されました。

その再交渉は9月末に開かれました。

****ガザ停戦交渉、10月末再開=イスラエルとパレスチナ****
イスラエルとパレスチナは23日、カイロで協議し、パレスチナ自治区ガザでの本格停戦に向けた交渉を10月最終週に再開することで合意した。AFP通信などが伝えた。

エジプトの仲介の下、双方が協議を行ったのは、8月26日に停戦で合意して以降初めて。この時の合意では、1カ月以内に再び交渉を始めることになっていた。【9月24日 時事】 
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“10月最終週に再開”とのことですが、現時点ではその関係のニュースは目にしていないように思うのですが・・・・。

【“54億ドル(約5800億円)の支援策”とは言うものの・・・
一方、家屋6万戸以上が損壊するなどの打撃を受けたガザ地区復興に向けた国際支援の取り組みも始まってはいます。
アッバス・パレスチナ自治政府議長は、復興支援会議で「復興には40億ドル(約4300億円)が必要だ」と主張しています。

****パレスチナ支援54億ドル=半分はガザ再建に―国際会議****
ノルウェーのブレンデ外相は12日、エジプトの首都カイロで行われたパレスチナ自治区ガザ復興に関する国際会議で、参加各国・機関から合計約54億ドル(約5800億円)の支援策が示されたと発表した。AFP通信などが伝えた。

ブレンデ外相は、半分の約27億ドルが、イスラエルとの戦闘で荒廃したガザの再建に、残り半分はパレスチナ自治政府の予算支援やヨルダン川西岸の開発に充てられると説明。アッバス自治政府議長は、ガザ復興に「40億ドルが必要だ」と訴えていた。

会議はエジプトとノルウェーの共催で、日本を含む50以上の国・機関の代表が出席した。

パレスチナのメディアによると、カタールの10億ドルをはじめ、欧州連合(EU)が約5億7000万ドル、サウジアラビアが5億ドル、米国が2億1200万ドルの拠出を約束した。【10月13日 時事】 
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“54億ドル(約5800億円)の支援策”とのことですが、カタール、EU、サウジアラビア、アメリカといった拠出国の数字を足したものとかなり差があります。どういう仕組みになっているのでしょうか?

****水増し? ガザ復興支援で得をするのはだれか****
超豪華ホテルで発表した巨額支援は「見せ掛け」。実際に資金が使われるかどうかは不透明だ

エジプトの首都カイロの郊外にあるJWマリオットは1泊210〜600ドルもする最高級ホテル。普段は静かなロビーが、この日ばかりは大混雑だった。(中略)。

この時、豪華過ぎるこのホテルでは、イスラエル軍の50日間に及んだ猛攻撃で破壊されたパレスチナ自治区ガザの復興費用を調達するため、70以上の国・地域や国際機関が参加する国際会議が開かれていた。

会議は先々週末、総額54億ドルの拠出を発表。パレスチナ自治政府が要請していた40億ドルを大幅に上回る金額だ。

だが数字にだまされてはいけない。よくあることだが、会議で決まった金額は巧みな算術によって積み上げられた見せ掛けの数字にすぎない。

そもそも、54億ドルのすべてがガザ復興に投じられるわけではない。この金額には、多くの国が毎年拠出しているパレスチナ支援金も含まれている。

「注意深く(会議の)名称を読むといい」とエジプト駐在ノルウェー大使トール・ウェンスランドは言う。「パレスチナに関するカイロ会議・ガザ復興」という包括的な名称は、パレスチナの他の地区のために既に約束済みの資金を紛れ込ませるのに好都合。

発表された54億ドルのうちガザ復興費は24億〜27億ドル程度。しかも、そのうちどれだけが新規の援助かも分からない。

例えば、アメリカが発表したパレスチナへの援助金は4億1400万ドルだが、夏以降で少なくとも1億1800万ドルが既に使われており、ガザ復興に充てる新規の援助は7500万ドルしかない。

国際社会は約束を破る
たとえ拠出が約束されても、それを実行させるのがまたひと苦労だ。例えば10年のハイチ地震の後には53億ドルの援助が約束された。だが半年過ぎても2%しか支払われていなかった。

昨年のシリア人道支援会議もそうだ。4カ月後の時点で拠出実績を調べたら、1億ドルを約束したカタールは270万ドル、7800万ドルを約束したサウジアラビアは2160万ドルだったという。今年1月の時点でも、会議で決まった総額15億ドルの約7割しか実行されていない。

ガザにはほかにも特有の問題がある。09年に同じような復興支援会議があったときは、イスラエル政府が復興事業の承認を2年以上も引き延ばした。

今回は、パレスチナ自治政府のアッバス議長とイスラム原理主義組織ハマスが6月に発足させたパレスチナ暫定統一政府が復興事業を監督することが条件とされている。しかしハマスがガザを実効支配する現状は当分変わりそうにない。

今夏の猛攻撃で、わずか365平方キロのガザに40億トンもの瓦礫が残され、6万5000人以上が住む家もなく冬を迎える。復興が急務であることは明白だし、たとえ金額が半分でも必ず何かの役には立つ。

だが、支援を実際より水増しして見せて得をするのは誰なのだろうか。

ガザの復興に手を貸すことで最も点数を稼げるのはアメリカだ。イスラエルに毎年30億ドルもの軍事援助をし、今回の攻撃に使われた砲弾や手榴弾を提供したことなどへの罪滅ぼしになる。

開催国のエジプトも得をした。ガザへの攻撃を意図的に長引かせ、難民の入国も拒んでいるのに、中東和平への貢献を称賛され、国内の劣悪な人権状況もおとがめなし。

一番救われないのは、支援対象のはずのガザかもしれない。【10月23日 Newsweek】
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仮に資金が集まっても、イスラエルの復興事業の承認に関する対応に加え、米欧など国際社会はハマスのガザ統治を認めておらず、復興資金や資材が軍事拠点再建に利用されることへの警戒もあり、資金が円滑に流れないことも想定されます。

****停戦は「命が脅かされなくなる」だけ “巨大な監獄”ガザに残された人々****
・・・・「普通の親なら、子どもには将来のことを考えさせるだろう。でも占領され、いつも理由なく暮らしを壊されるガザに、一体どんな将来があるのか」

イスラエルによる封鎖でガザでは産業は壊滅、PFLP(パレスチナ解放人民戦線)によると、失業率は実質80%を超える。“巨大な監獄”ガザを出ていく自由も、人々にはない。

「援助とたまの日雇いで食いつなぐだけの暮らし。将来の夢などかなうわけがないガザで、小遣いひとつやれない父親は、子どもたちに何を言ってやればいい?」【10月18日 dot】
*********************

エジプトによる「緩衝地帯」設置により、“巨大な監獄”はより堅固なものになりそうです。
“監獄”内の復興も、急速な進展はあまり期待できません。
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ミャンマー  “恒久的隔離と無国籍化”に向かう政府のロヒンギャ対応

2014-10-29 22:24:10 | ミャンマー

(焼き払われるロヒンギャの村 “flickr”より By Rahamat ullah Rahamat https://www.flickr.com/photos/127994454@N04/15302877555/in/photolist-pjgfmt-pjgfm8-oXXu75-p8MFRr-pw5YdB-pnDk99-pjgfoH-pjgfox-pjgfnk-pkiq1R-oWwbWZ-pCeuMZ-pnyzqG-pArrmA-pAccqX-pAtkgD-oPtMVD-pAtkoc-piYEzf-pAtkjK-piXnGv-piYEio-piYEsb-piYnzq-piZ3Xa-pcAQ7j-pug682-piY2QX-pLw9Nz-p2KSgq-pjkgCT-oLazP5-pgtYeL-pdrvv6-pPTXDP-oJCx4b)

【「世界で最も迫害を受けている少数民族」】
民主化・経済成長において顕著な前進を見せるミャンマーですが、西部ラカイン州のロヒンギャや国内各地のイスラム教徒と多数派仏教徒の対立・衝突、少数民族との停戦交渉が大きな課題として存在することは、これまでもたびたび取り上げてきました。

少数民族反政府武装組織との停戦交渉については、10月24日ブログ“ミャンマー 「アジア最後のフロンティア」 経済成長を実現するための課題”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141024)など
ロヒンギャ・イスラム教徒問題については、8月31日ブログ“ミャンマー 31年ぶりの国勢調査 ロヒンギャ問題・宗教対立に波紋も”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140831)など

西部ラカイン州に暮らすロヒンギャの多くが数世代前にバングラディッシュなどの近隣国からミャンマーへ来ており、そのほとんどがミャンマー国籍を与えられていません。人数は100万人を超すと見られています。

「彼らは外国からの不法移民であり、ミャンマー人ではない」として、また、イスラム教徒ということもあって、仏教徒や地方政府当局によって暴行を受けたり、家を焼き払われるなど、場合によっては殺害されるなどの迫害が続いています。

ロヒンギャはミャンマーから他国へ脱出したとしても、その行き先で同様の迫害を受けており、国連のキンタナ特別報告者は「世界で最も迫害を受けている少数民族」と報告、ミャンマー政府に改善を求めています。

しかし、国連や国際的人権活動NGOなどのこうした批判がある一方で、国内の多数派仏教徒にはロヒンギャへの嫌悪感・拒否感が強く、民主化を求める野党指導者スー・チー氏もこうした国民感情を背景に、ロヒンギャ問題については多くを語っていません。

なお、2012年11月には、テイン・セイン大統領は国連の潘基文事務総長に書簡を送り、ロヒンギャに対し、市民権を付与するなど社会的地位の向上に努める考えを表明しましたが、その後の改善は明らかにされていません。

前回8月31日ブログでは、30年ぶりに行われた国勢調査において、仏教徒側のボイコット運動の結果、政府が「(終身民族の調査項目について)ロヒンギャ族との回答は認めない」と約束したこと、「国連や国際NGOは少数派のロヒンギャ族寄りだ」との仏教徒側の不満を背景に、ラカイン州の国際機関事務所が仏教徒によって襲撃を受けたことなどを取り上げました。

急増する脱出
ロヒンギャに関しては、その後あまり国際ニュースで目にすることはありませんでしたが、今日、気になる記事がありました。

****ロヒンギャ族「大量脱出」か=当局の迫害恐れ―ミャンマー****
ミャンマー西部ラカイン州から船で脱出した少数民族イスラム教徒ロヒンギャ族の数が、過去2週間で1万人近くに上っていることが分かった。

ロヒンギャ族の人権問題を調査しているNGO「アラカン・プロジェクト」の責任者クリス・レワ氏が29日までに取材に明らかにした。「前例のない」大量脱出という。

レワ氏によると、ラカイン州では過去2、3カ月、当局によるロヒンギャ族の恣意(しい)的な逮捕が増加しており、うち3人が拷問を受けて死亡した。

また、ミャンマー政府が市民権取得の要件に適合しないロヒンギャ族を拘束する計画を立案したとされ、ロヒンギャ族の間にパニックが広がっているという。【10月29日 時事】 
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先述のように他国へ脱出しようにも、近隣のタイ、バングラデシュ、インドネシアなどはロヒンギャの正規受け入れを拒否しており、難民船を沖に曳航して置き去りにするなどの扱いをうけているロヒンギャですが、“過去2週間で1万人近くに上る”船による脱出者が一体どこへ行って、どのような対応を受けているのか懸念されます。

船が着いた場所で強制送還に直面したり、人身売買の犠牲になることもあります。

10月11日にタイに船で密入国したヒンギャ族とみられる男女51人がゴム園で逮捕されたことも報じられています。【10月14日 newsclipより】

彼らはマレーシアに向かうところだったとみられています。マレーシアはタイなどに比べればロヒンギャに寛容な対応をとっています。

また船による脱出だけでなく、インド、ネパール、バングラディシュへ向け、陸路を移動しているロヒンギャもいます。しかし、どこへ行っても状況は悲惨です。

****ミャンマーのイスラム教徒難民、インドで劣悪な生活****
プレスTVによりますと、ミャンマーでの暴力行為を受けて住む家を捨てた、数万人のロヒンギャ族のイスラム教徒は、インドの首都ニューデリーの難民キャンプで、基本的な便宜のない中で苦しい生活を送っています。

これらのイスラム教徒の多くは仕事がないため、基本的な生活費や毎日の食費を慈善団体から受け取っています。(後略)【8月27日 Iran Japanese Radio】
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差別的かつ人権侵害的な政策を拡大・強化する「ラカイン州行動計画」】
今回の騒動の背景には、ミャンマー政府が進めているロヒンギャの扱いに関する「ラカイン州行動計画」があるようです。

****ビルマ:政府がロヒンギャ民族の隔離を計画****
強制移住と国籍差別により生じる危険
ヒンギャ民族ムスリムに国籍を認めない差別的な政策を固定化し、すでに住む場所を追われた13万人以上を閉鎖型のキャンプに強制移住させるものだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。

ビルマの国際ドナー、国連、その他影響力のあるアクターは、ビルマ政府に対し「ラカイン州行動計画」の大幅な変更あるいは撤回を強く求めるべきだ。

本計画は2013年4月のラカイン調査委員会の勧告に従うものだ。委員会はテインセイン大統領により、同州で2012年に起きたロヒンギャ民族への広範な殺害と暴力行為を受けて設置された。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはこの「行動計画」の写しを入手した。

文書は「ロヒンギャ」という呼称を認めず、一貫して「ベンガリ(ベンガル人)」と記している。これはビルマ当局や民族主義的な仏教徒が広く用いる不正確で軽蔑的な呼び名だ。ムスリムへの言及は宗教学校に関する部分だけになっている。

「ようやく発表された『ラカイン州行動計画』だが、過去数十年のロヒンギャ民族への迫害を根拠づける、ビルマ政府の差別的かつ人権侵害的な政策を拡大・強化するものだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理フィル・ロバートソンは述べた。

「この計画はロヒンギャ民族から希望を奪い、自国からの出国を迫ることをおそらく目的とした、これらの人びとの恒久的隔離と無国籍化の詳細な設計図にほかならない。」

この計画は、同州の開発と紛争後の再建策を全体として定めたものとなる予定だ。草案は6セクションに分かれ、細かく箇条書きされている。

セクションのタイトルは「治安・安定・法の統治、復旧と再建、恒久的移住、ベンガル人の国籍資格評価、社会経済開発、平和的共存」だ。

「恒久的移住」セクションでは、既存の避難民キャンプで暮らす133,023人を移動させ、同州内のキャンプに住まわせる手順が示されている。キャンプは州都シットウェー周辺と州内の複数の郡に存在する。移動先の場所は、はっきり特定されていない。

この計画は、2012年の暴力事件で住む場所を奪われたロヒンギャ民族について、元の場所への帰還が認められるかどうかに触れていない。仏教徒も住む元の地域への再統合が認められるという、ロヒンギャ民族側の期待を否定するものだ。

計画では2015年4月から5月にかけて、ロヒンギャ民族の避難民全員が移住することとされているが、この時期はモンスーンの季節の直前だ。なお準備として、住居、学校、地域住民用施設、必要な道路、および電気・水道・衛生関係のインフラが来年4月までに整備される。

2012年6月に勃発し、10月に再発した宗派間暴力により、ロヒンギャ民族を主とする推定約14万人がアラカン州一帯のキャンプで今も暮らしている。生活を全面的に支えるのは、国際的な人道支援だ。
このほかにも4万人がキャンプの外で暮らすが、外部からの支援はほとんどない。

政府はロヒンギャ民族への暴力事件に責任のある者、とくに2012年10月のロヒンギャ民族への「民族浄化」を組織した者を逮捕または訴追していない。ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、10月の事件は人道に対する罪に該当するほど深刻なものだ。

ロヒンギャ民族は実質的にビルマ国籍が認められておらず、2014年3月~4月の国勢調査からも除外された。また移動の自由、雇用、生計手段の確保、医療へのアクセス、信教の自由を厳しく規制されている。

避難民キャンプの環境はきわめて劣悪だ。ロヒンギャ民族はキャンプ敷地外に出ることが許されず、長期的な監禁状態に置かれている。

行動計画草案が想定する恒久再定住地の設定は、ロヒンギャ民族の孤立化と周辺化を加速し、また移動の自由など諸権利を侵害すると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「ビルマ政府の計画は、過激派が主張する隔離措置の提案だ」と、前出のロバートソン局長代理は述べた。「ロヒンギャ民族を、都市部から人里離れた地方のキャンプに移動させることは、基本的権利の侵害にあたる。これらの人びとを外部の支援なしでは生活できない状態に置くとともに、所有地の接収を正式なものとすることになる。」(後略)【10月03日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
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国籍付与問題については、「ベンガル人」という侮辱的な呼称を拒否するロヒンギャ民族は国籍取得の権利を否定されており、また、「ベンガル人」の呼称を受け入れ、ミャンマー政府の法律に従う者については国籍資格審査が2015年1月から2016年10月のあいだに行われます。

“国籍取得要件に該当しないロヒンギャ民族について、当局は「登録を拒まれた者および十分な書類を持たない者を、必要な人数だけ収容する一時的なキャンプを設置」し、こうした人びとを外界から隔離されたキャンプに閉じ込める予定だ。これは送還可能性のある恣意的で無期限な拘禁にあたる。”【同上】

要するに、住んでいた土地への帰還は認めず劣悪なキャンプに隔離し、国籍付与も厳しく制限し、「この計画はロヒンギャ民族から希望を奪い、自国からの出国を迫ることをおそらく目的とした、これらの人びとの恒久的隔離と無国籍化の詳細な設計図にほかならない。」ということのようです。

****ロヒンギャの問題解決がミャンマー民主化への最重要課題****
改善されないロヒンギャを取り巻く環境
AP通信が接触したロヒンギャによると、当局によるミャンマー国籍の確認作業を妨害したとして、数週間村に閉じ込められたり暴力を受けたりしている人がいるようだ。

加えて、武装過激派ロヒンギャ連帯組織との関係に疑惑を持たれた数十人が拘留され、少なくとも1人が尋問中に死亡したとのこと。しかしライカン州は、何も起こっていないし、逮捕などの事実もないと全面的に否定している。

これらの事例は氷山の一角に過ぎず、表に出てこない事例もたくさんあることが推察できる。ロヒンギャを取り巻く環境は、改善されているどころか悪化の道をたどっているといえるだろう。

“国家としての新しい観念”の構築が必要
国際危機グループ(International Crisis Group:ICG)は10月22日、ロヒンギャの法的地位を明確にし、また、文化・民族・宗教の多様性を受け入れる“国家としての新しい観念”を構築するための方法を見出すレポートを添えて、ミャンマー政府に改善を促した。(後略)【10月27日 Myanmar News】
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【「働きたいけど働けないのだ」】
難民キャンプでのロヒンギャの生活については、下記のようにレポートされれています。

****働きたい」という根源的な欲求 ミャンマー西部、ロヒンギャ避難民キャンプより****
・・・・避難民キャンプで出会った男性は言った。「私達は生きている。生きているから働きたいのだ」

ミャンマーの西部、ラカイン州には、ロヒンギャと呼ばれるイスラム系の少数民族が、多数派の仏教徒から迫害されて暮らしている。彼らは移動の自由を奪われ、周辺の街を訪ねることができない。9万人近いロヒンギャが避難民キャンプとその周りに暮らしている。

キャンプに避難しているロヒンギャの中には、もともと街で暮らしていた者も多い。商店を開いていた人、交易に関わっていた人、大学に通っていた人、多くのロヒンギャが以前は街に住んでいた。

2012年に少数派のロヒンギャと多数派の仏教徒との間で大規模な紛争が起き、それ以来、彼らは避難民キャンプで生活している。

仏教徒の暴徒は、市街地にあるロヒンギャの家を燃やしてしまった。市場にあったロヒンギャの店も、今ではすべて閉まっている。ロヒンギャは土地や財産を奪われ、移動の自由までも制限されている。

政府は彼らを保護するという名目で、避難民キャンプからの出入りを禁止し、多くのロヒンギャは自分の家に帰ることができない。

街で商店を営んでいた男性は言った。「仏教徒の暴徒が襲ってきたから、私達家族は着の身着のまま家を飛び出したんだ。自分の家が今どうなっているかわからない。噂では、私が住んでいた地域はすべて燃やされてしまったと聞いた」

彼はいま仕事がなく、国際機関からの支援に頼って暮らしている。仕事のできない多くのロヒンギャを代表して、彼は言う。「働きたいけど働けないのだ。財産を失ったのに政府からの保証はない。商売をしたくても避難民キャンプから出ることができない」

「それでも」彼は続けた。「私は、何かしたいのだ。だからこうして、お前としゃべっている。私は英語ができるから、お前みたいな外国人にロヒンギャの現状を伝える仕事をしているんだ」

避難民キャンプには、国際機関からの支援に頼って暮らしながらも、懸命に働こうとするロヒンギャが多くいた。支援物資を使った喫茶店を開く人、物資の配給を手伝う人、どこからか手に入れた三輪自転車で、自転車タクシーをする人。

お金にならなくても、何かのために働こうとする人たち。彼らの中に、人間の持つ「働きたい」という根源的な欲求を見た気がした。
彼は笑いながら言った。「まあしかし、この仕事は一銭にもならないんだけどな」【10月24日 須田 英太郎氏 http://www.nikkeibp.co.jp/article/miraigaku/20141024/421337/
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日本の天然ガス輸入に影響する北米産シェールガスとロシア産ガスの動向

2014-10-28 22:57:14 | ロシア

(東京電力富津火力発電所 http://www.tepco.co.jp/cc/pressroom/futtsu-j.html )

北米産シェールガス供給が始動 輸入額抑制と安定確保に期待
周知のように、2011年3月の福島原発事故以降の原発停止を受けて、日本の発電用天然ガス需要が急増しています。

全世界のLNG(液化天然ガス)出荷量の約3分の1を日本が購入しているとのことで、日本は世界最大のLNG輸入国となっています。

急増した需要に対応するため、日本の電力会社などによるLNG購入可価格は世界相場に比べかなり割高となっていると言われ、昨年の日本のLNG購入額は過去最高の7兆円にのぼり、これは震災前の2010年に比べ、2倍以上になっているとのです。

こうした事態を改善する切り札として期待されているのが、安価な北米産シェールガス(地下の頁岩(けつがん)層を水圧で破砕する技術により産出)の輸入です。

最大のシェールガス生産国であるアメリカはエネルギー輸出については制約を設けており、また、LNGに加工する設備も必要となりますので、安いからすぐに調達する・・・という訳にもいきませんが、次第に環境も整ってきて事業化が進展しているようです。

****米 日本へのシェールガス輸出基地が着工****
アメリカの天然ガスを日本に輸出するための輸出基地の建設が南部ルイジアナ州で始まり、中東などよりも割安になると見込まれるシェールガスの輸入に向けた具体的な動きとして期待されています。

アメリカ南部のルイジアナ州で23日に開かれたLNG=液化天然ガスのプラントの起工式には、日本の大手商社三井物産と三菱商事の幹部らも出席し、鏡開きを行いました。

アメリカでは、シェールガスの開発によって天然ガスの生産が飛躍的に伸びたことから、エネルギー省は輸出の解禁を決めており、今回が日本向けとして初めて最終承認を受けたプロジェクトになります。

プラントの総事業費は1兆円で、輸出されるLNGは合わせて1200万トンと日本の年間の総需要のおよそ14%に相当します。

このうち日本向けには、すでに東京ガスや東京電力など4社が購入契約を結んでおり、2018年に輸出が始まる予定です。

シェールガスは、輸送費を加えても、日本が現在輸入している中東やアジアのガスより割安になると見込まれるため、貿易赤字の要因になっているLNGの輸入額の抑制とエネルギーの安定確保につながる具体的な動きとして期待されています。

三井物産エネルギー第二本部長の吉海泰至さんは「日本にとって調達の選択肢が広がることに大きな意義がある。かなりの量を確保したので立派なエネルギーの基盤になると思う」と話しています。【10月24日 NHK】
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アメリカでシェールガス生産が急増したことで、これまでアメリカにガス輸出していたカナダが、代替輸出先として日本向けのLNG輸出を拡大する動きもあるようです。

****対日輸出計画、年内にも始動=割安なカナダ産天然ガス―シェール革命が進展****
カナダ産液化天然ガス(LNG)を日本に輸出する計画が、年内にも始動する見通しだ。

カナダ産天然ガスは割安で、日本にとって調達コスト低減につながる可能性がある。2年後に始まる米国産の輸出に追随する動きで、北米で進展する「シェール革命」の恩恵が消費国にも拡大しようとしている。

カナダで日本企業が絡むLNGの輸出事業は4件。日本勢が確保にめどを付けたLNGは年間約900万トン。米国産と合わせて日本の輸入量の3割が北米から調達できることになる。

このうち、石油資源開発が参加する事業は、年内に最終的な投資判断が行われる予定。投資が実現すれば、シェールガスをパイプラインで港に輸送してLNGに加工する事業が2018年にスタートし、19年には対日輸出が開始される。LNGは福島県相馬港に建設される基地で受け入れる。

また、出光興産が参加する事業は既存のパイプラインを活用する。投資が決まれば17年に輸出が始まる可能性がある。

カナダは世界第5位の天然ガス生産国。米国向けに生産量の約6割を輸出していたが、同国で天然ガスの生産が急増した影響で、13年の米国向け輸出はピーク時の07年から約25%減少した。

米国に代わる輸出先の確保が課題となっており、カナダのリックフォード天然資源相は「日本や他のアジアには大きな可能性がある」と意欲を示している。【10月27日 時事】 
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すでにこれまでも、アメリカのシェールガス増産は、競合する石炭がアメリカ国内で需要が減り、その分が欧州向けに輸出され、欧州のロシア産天然ガス需要が減少、ロシアは中国・日本などアジア向け輸出に目を向け始める・・・といった、“玉突き”現象を起こしていますが、今後北米のシェールガス輸出が本格化すれば、更にこうした需給関係の国際的転換が加速されることと思われます。

ロシア産ガス:政治的要因に左右されるリスクも
日本政府はLNG調達価格を引き下げようと調達先の多角化に取り組んでおり、北米産シェールガスと並ぶもうひとつの「重要なカード」がロシア産天然ガスです。
すでに、昨年日本が輸入したLNGのうち、約1割をロシアからのガスが占めています。

ただ、ロシアの場合、ロシア側の政治的判断で計画・事業が急変するリスクがあります。

ロシアは現在、先述の北米産シェールガスの影響に加え、ウクライナ情勢に伴う欧米の制裁を受けて、中国との接近を図っており、ロシア・ガスプロムと中国石油天然ガス集団(CNPC)は今年5月、中国向けに天然ガスを2019年から30年間にわたり輸出する契約に調印しています。

****ロシア:天然ガス 中国への供給パイプライン起工式****
ロシア東シベリアの天然ガスを極東経由で中国に供給するパイプライン「シベリアの力」の起工式が1日、サハ共和国の首都ヤクーツクであった。

式典にはプーチン大統領が出席。ウクライナ危機で欧州がエネルギー資源のロシア依存脱却を進める中、ロシアとしてガス輸出先の「東方シフト」を推進する姿勢を鮮明にした。

プーチン氏は式典で「世界最大の建設プロジェクトは、ハイレベルな中露関係のおかげで可能になった」とあいさつ。中国からは張高麗副首相が参加した。

「シベリアの力」はチャヤンダ(サハ共和国)、コビクタ(イルクーツク州)で産出するガスを極東に運ぶもので、総延長は3968キロに及ぶ。総工費は7700億ルーブル(約2兆1400億円)。

ロシア国営ガス企業ガスプロムによると、ヤクーツクから国境のブラゴベシチェンスクまでの区間を2018年末までに完成させ、翌19年から中国へガス輸出を開始する。

ロシア産ガスの対中輸出は価格交渉が長年難航していたが、今年5月にプーチン氏が訪中した際、年380億立方メートルのガスを30年間にわたって供給する総額4000億ドルの大型契約で合意した。ウクライナ危機で欧米などの制裁を受けるロシアが、対中輸出に活路を見いだすため決着を急いだとされる。

「シベリアの力」は将来ハバロフスクまで延伸し、サハリン産ガスを極東に運ぶ既存パイプラインと接続する。プーチン政権が掲げる極東・シベリアの発展につなげるほか、ウラジオストクでLNG(液化天然ガス)化してアジア太平洋諸国に輸出する計画だ。【9月1日 毎日】
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上記の“ウラジオストクでLNG(液化天然ガス)化”については、ガスプロムのミレル社長が13日、「撤回する可能性がある」と発言しています。ミレル社長は、ガスを液化せずにウラジオストクから中国向けに直接パイプラインで供給する計画を検討するとも述べています。

****LNG 日本、調達先多角化にリスク****
ガスプロムの首脳が、日本が参画を検討する極東のLNG開発の一部計画を撤回する可能性を示唆したことは、国際政治が色濃く影を落とすロシアとの共同事業の難しさを浮き彫りにした。

政府はLNG調達価格を引き下げようと調達先の多角化に取り組む。ロシアはその「重要なカードの一つ」(政府筋)だけに、ロシア相手の“資源外交”のリスクが際立つ。

ガスプロムはロシアの政府系天然ガス独占企業で、ロシア政府の強い影響下にあるとされる。同社首脳が極東ウラジオストク郊外のLNGプラント建設計画の撤回をにおわせたことは、「ウクライナ情勢をめぐる経済制裁で欧米と共同歩調をとる日本への揺さぶり」(外交筋)の意図が見え隠れする。

もっとも、計画参画を検討する日本企業では、こうしたロシア政府系企業の特徴は織り込み済みだ。
ロシアは経済制裁を受けて、中国への供給シフトを強めている。ある日本の大手商社の幹部は「プロジェクトが白紙になったわけではない」と冷静に受け止めており、今後の動きを注視する構えだ。

資源エネルギー庁によると、日本の天然ガス調達に占めるロシアの割合は、9・8%。最大のオーストラリアが20・5%を占め、これにカタール(18・4%)とマレーシア(17・1%)が続く。ロシアとの開発計画の凍結が、日本の調達に与える直接の影響は小さい。

ただ、日本は東日本大震災後に増えたLNGの調達価格の高止まりを打開するため、一部の資源国への調達依存度を下げ、調達交渉を有利に進めようとしている。

ロシアは地理的に日本と近く、輸送コストが低く抑えられる利点もある。ロシア側の出方によっては資源調達戦略の再考を迫られる可能性もある。【10月15日 産経】
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また、ガスプロムメドベージェフ副社長は、東シベリアの天然ガスを中国に供給するため建設中のパイプライン「シベリアの力」について、日本などアジア向け輸出のための延伸は現状では必要ないとの見通しを明らかにしています。【10月18日 毎日】

一方で、ロシアからは、サハリンと北海道をつなぐ天然ガスパイプラインの建設が提案されています。

****ロシア、日ロ間にガス管建設提案 宗谷海峡経由で ****
ロシア政府がサハリンと北海道をつなぐ天然ガスパイプラインの建設を日本側に提案していることが明らかになった。

欧米の対ロ制裁が強まる中、日本との経済関係の拡大を目指すプーチン政権のアジア戦略の一環だ。実現すれば日本と他国を結ぶ初のパイプラインとなる。日本政府は外交面の影響も見極めて対応を決める方針だ。(中略)

ロシアがパイプライン建設を提案した背景には日本に安価なガス供給をちらつかせ、ウクライナ問題を巡る先進7カ国(G7)の対ロ包囲網を切り崩す狙いがある。

ただ日本側にはウクライナ問題で米国とロシアの関係が悪化する中、新規のエネルギー協力に乗り出すことに慎重論もある。外務省幹部は「実施の可否はウクライナ問題や北方領土交渉の進展に左右される」と語る。【10月15日 日経】
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ロシアとの関係が政治情勢で急変することは今に始まった話ではありませんが、天然ガスに関しても、今後のウクライナ情勢を受けて更に変化することもあり得ます。

また影響するファクターとして、ロシアは人口も希薄なシベリアに中国が経済的影響力を拡大することに潜在的脅威を感じているという基本的な問題もあります。
日本のロシアへの対応に北方領土問題が絡んでくることも言うまでもないところです。

上記のように、今後の日本の天然ガス輸入については、北米産シェールガスやロシア産ガスの動向が大きく影響してきますが、日本側の要因としては、原発再稼働が今後進めば、そもそも天然ガス需要自体が現在の水準から大きく低下するということもあります。

また、これまでの中東・東南アジアからの日本の天然ガス輸入契約は原油価格に連動して決められていることもあって高値になっていると言われていますが、原油価格がここのところ急落しており、この先2~3年は安値が続くことも予想されています。原油の価格動向は、日本の天然ガス調達コストにも影響すると思われます。

更に、原油価格が安値で推移することになれば、資源輸出に依存するロシアは今以上に追い込まれる形になり、日本へのガス・原油の供給アプローチも変化することも考えられます。
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チュニジアで新憲法下の議会選挙  中東民主化の最後の希望  今後の課題は治安と経済

2014-10-27 23:09:51 | 北アフリカ


最終的には大連立に向かうとの見方が強い
北アフリカのチュニジアで26日、新たに制定された民主的な憲法に基づいて議会選挙が行われ、217の議席に対し、1300を超える政治会派から1万人以上が立候補しました。

そのなかでも、制憲議会で第1党だったイスラム政党アンナハダと世俗政党ニダチュニスの2大勢力の争いが中心で、現段階では世俗政党優勢の予測が報じられています。

ただ、いずれにしても過半数を制する政党はなく、世俗政党とイスラム政党との大連立が模索されているようです。

****<チュニジア議会選>世俗政党が優勢 大連立形成が焦点に****
チュニジア議会選挙(定数217)が26日行われた。暫定集計の結果、世俗政党ニダチュニス(チュニジアの呼びかけ)が第1党となる公算が大きくなった。ロイター通信などが報じた。

憲法制定を担う制憲議会で第1党だったイスラム政党アンナハダ(再生)は第2党に転落。過半数に達する政党はない見通しで、主要2党による大連立が形成されるかが焦点となる。

議会選は、2011年の民主化要求運動「アラブの春」によるベンアリ政権崩壊後に制定された新憲法下で初めて実施。

新憲法は大統領権限を国防・外交に限り、行政権は議会多数派が組閣する内閣に付与しており、議会選が実質的な政権選択の機会となる。

ロイター通信などによると、ニダチュニスは約80議席、アンナハダは約65議席の見通し。比例代表制で行われ、100前後の政党が参加したが、他党は20議席に及ばない模様だ。投票率は60%に達し、3年前の制憲議会選を上回る可能性がある。

ニダチュニスは、11月の大統領選で有力視されるセブシ元首相(87)が率いる。制憲議会選で世俗派が小政党に分裂し、アンナハダの躍進を許した経緯を踏まえ、「世俗派の結集」を呼びかける戦略が奏功した。

革命後のアンナハダ中心の政権下で、イスラム過激派が活動を強め、治安や経済が不安定化したことに不満を抱く有権者の支持も取り込んだ。

選挙戦中、ニダチュニスはアンナハダとの大連立には否定的だったが、一定の支持層を持つイスラム勢力を排除すれば、治安や社会の混乱につながる可能性もある。そのため、最終的には大連立に向かうとの見方が強く、アンナハダは世俗派との連立に前向きだ。【10月27日 毎日】
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イスラム過激派のテロを乗り越えて、憲法制定・選挙実施
北アフリカの小国チュニジアの選挙が世界的にも注目されているのは、チュニジアは2011年、中東の民主化運動「アラブの春」の発端となった国であること、そしてチュニジアの運動を機に各地で始まった民主国家への移行がエジプト、リビア、シリアなど次々と失敗に終わるなか、なんとか民主化への試みを維持しているチュニジアに中東民主化の最後の望みがかかっているという事情があります。

****アラブの春」の発端に****
チュニジアでは、2010年12月に、失業していた若者が体に火をつけて自殺したことをきっかけに独裁政権に抗議するデモが広がり、翌年の1月におよそ23年間続いたベンアリ政権が崩壊しました。

2011年10月に行われた憲法を制定する議会の選挙を経て、イスラム政党の「ナハダ党」が主導する暫定政権が発足しましたが、去年、世俗派の野党の党首が暗殺されたことを受けて、与野党の対立が深まりました。

民主化プロセスが大幅に遅れるなか、すべての政党が参加して協議を続けた結果、ことし1月に信仰や表現の自由を認め、男女平等を保障する新しい憲法を制定しました。【10月27日 NHK】
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“男女平等を保障する新しい憲法”を受けて、新選挙法は政党が男女同数の候補者を擁立することを義務付けています。
これだけでも、アラブ・イスラム世界にあっては画期的に思えます。

****チュニジアで新選挙法成立、政党に男女同数の擁立義務付け****
「アラブの春」の発端となった民衆蜂起「ジャスミン革命」から3年、チュニジアの制憲議会(定数217)は1日、2014年内の大統領選と総選挙の実施を定めた選挙法を賛成132、反対11、棄権9の賛成多数で承認した。

最大の争点となったのは、ジャスミン革命で追放されたジン・アビディン・ベンアリ元大統領の独裁政権で高官を務めた政治家らの出馬を禁止する条項だったが、1票の差で盛り込まれなかった。

一方、選挙法には、政党が男女同数の候補者を擁立することを義務付ける条項が盛り込まれた。

2011年のジャスミン革命後、政治危機や社会的対立、過激派勢力の台頭などに悩まされてきたチュニジアは、大統領選と総選挙によって正式な政権と議会の成立を目指している。(後略)【5月2日 AFP】
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もちろん、ここまでの道のりは平たんではなく、チュニジアにおいてもイスラム過激派の台頭によって、昨年には野党「民主愛国主義者運動」のベライード党首と野党「人民運動」のブラヒミ制憲国民議会議員が相次いで暗殺され、チュニジア政治は一時は麻痺状態に陥いりました。

シリアやイラクに渡ったとされる外国人戦闘員約1万5千人のうち、チュニジア出身者は約3千人で、国別では最多となっています。

****アラブの若者、「聖戦」へ続々 「イスラム国」巧みに接近・宣伝****
過激派組織「イスラム国」が台頭したシリアやイラクへ向かう若者たち。その半数以上は中東・北アフリカ出身だ。

2011年には強権政権が次々と倒れた民主化運動「アラブの春」があった。その後も続く経済低迷への失望や、宗教心に訴える主張が、若者を「聖戦」へと駆り立てる。

 ■チュニジア 革命後、高失業率に失望
・・・・人民議会は、ベンアリ政権が倒れた11年の革命後の正式な立法府となる。「アラブの春」の混乱が続く国もあるなか、チュニジアの民主化は比較的順調に進んでいる。

しかし、シリアやイラクに渡ったとされる外国人戦闘員約1万5千人のうち、チュニジア出身者は約3千人。国別では最多だ。

失業率は15%前後と革命前より高水準が続く。
政権づくりではイスラム系と世俗派の対立が続いた。

失望した若者に過激派は近づき、アサド政権の残忍さを印象づける映像を見せた。弾圧される人々への同情心と義憤をあおり、「聖戦」へと勧誘した。

元チュニジア国防省広報官で治安情勢に詳しいモクタル・ナスルさん(61)は「治安当局も大きなミスを犯した」と指摘する。旧政権の抑圧組織として批判されたため、革命後の1年間、監視を緩めた結果、過激派をのさばらせた。

リビアの存在も大きい。両国の過激派組織は協力関係にあり、チュニジアで勧誘された若者はリビアで2週間程度の戦闘訓練を受け、シリアに密航する。

チュニジア当局は、紛争地に向かう恐れがある9千人を渡航禁止にし、過激派掃討に力を入れる。【10月26日 朝日】
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今回選挙もテロの脅威に備え、7万人を超える規模の治安部隊が出動し、重装備のトラックが主要道路を巡回する厳戒態勢のなかで行われました。

また、チュニジアは地理的にイタリアに近いため、欧州行きを希望するアフリカ・中東難民の出発基地にもなっていますが、経済情勢が悪いチュニジアからも多くの難民が命がけの旅に出ています。

そうした混乱状態のなかにあっても、マルズーキ大統領らは独裁体制への逆戻りを許さない歴史的な新憲法の署名にこぎつけ、今回選挙に至りました。

そうした努力を称えるとともに、今後の民主化が着実に進むようにとの後押しの意味もあってか、ノーベル平和賞の予想では定評があるノルウェーの公共放送局NRKは、2014年の平和賞受賞者候補として、チュニジアのマルズーキ大統領と政局混乱を仲介した労働組合を本命視する記事をウェブサイトに掲載しています。(周知のように平和賞は結局マララさんに決まりました)

とにもかくにも、ここまで漕ぎつけたチュニジアですが、イスラム過激派によるテロや政党間の対立などによる治安悪化を防ぎ、経済を立て直していけるかが、今後の民主化プロセスが順調に進むかどうかのカギになります。
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高速鉄道  アジアでの計画の総延長は約1万キロ 激しさを増す日中受注競争

2014-10-26 22:38:17 | 中国

(新幹線唯一の海外輸出実績である台湾高速鉄道 実績が豊富な欧州勢、低価格の中国との厳しい受注競争にさらされています。  “flickr”より By 黃 基峰  https://www.flickr.com/photos/goldentime/2110427918/in/photolist-4duuGf-xQKZP-ky6wKP-6ACmJc-85kgSc-861RDF-pnHJFg-ag7SCX-BwRfA-nDFi4o-f5zmos-8xdhnE-xRrZy-4fUxbX-ag7TiV-xEyQF-xCHYh-JfRPx-85oq6G-nzimqy-atA7gj-85opQ5-sAiuh-sAiv4-sAivg-sAivG-sAiuv-dhtULg-kvnXoR-PBk7C-wQqKi-kvpzyA-dNz7Vz-jw1Ubc-sAiww-sAiuQ-sAiwk-sAiw2-jvZBXe-wQsw6-BoetW-Bomub-DbGpX-dhqSYs-dhssyt-dhsrXk-2RkGeo-BvpK9-dhtWsz-864X9C

インド:先行する日本 追い上げる中国
新幹線開業50周年という節目の年にあたり、国内でも記念行事や特集TV番組など新幹線関連の話題を最近よく目にしますが、国際ニュースにおいても、世界各地で高速鉄道が計画されていることから、高速鉄道の話題をよく目にします。

背景には、日本にとって新幹線技術が数少ない海外輸出可能なビッグプロジェクトであり、景気の不透明感が増す日本経済打開の突破口になって欲しいという国内の希望があります。

ただ、当然に競合相手は多く、特に高速鉄道輸出に力を入れる中国との競合がいつも話題となっています。
安全性などの技術には自信を持つ日本の新幹線ですが、建設費の安さや国家をあげての取り組みを展開する中国は日本にとって強力なライバルとなっています。

まずはインド。

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インド国鉄はインド市民の足として重要な役割を果たすと同時に、物流手段としても重要なインフラとなっています。インド国鉄の1日当たりの輸送人員は2500万人以上、年間では72億人です。・・・・これまでインド国鉄が抱える数多くの問題の中でも、最大のものが近代化の遅れ。延伸も進んでいません。・・・・現在の鉄道はもはやパンク寸前で、経済を迅速に発展させるには不十分です。地形的な問題から鉄道が延びていない地域もまだあるため、こうした地域にも経済発展の恩恵を平等に受けられるよう、モディ政権は鉄道の敷設を進めていく予定です。・・・・【7月17日 東洋経済online】
***************

インド政府は、広大な国土の主要都市を7つの路線からなる高速鉄道で結ぶ計画を進めており、モディ政権は手始めに、最大の商業都市・ムンバイと西部の工業都市・アーメダバードを結ぶおよそ500kmの区間から整備を始める方針です。

****印の高速鉄道を受注せよ 日中が争奪戦****
インド初の高速鉄道計画をめぐり、日本と中国の間で受注争奪戦が繰り広げられている。新幹線の売り込みで先行する日本に対し、建設費の安さに加えて人材育成や技術移転などもセットにして働きかける中国が追い上げている。

勝敗の結果は、東南アジアなどインド以外の新興国での受注争いにも影響しかねない。政府が成長戦略で重視するインフラ輸出を軌道に乗せるため、官民一体となった「オールジャパン」の総合力が問われそうだ。
                   ◇
 ■日本…事業化調査請け負い先行
インドの高速鉄道計画は7路線あり、ルートは未確定ながらも総延長は4700キロ近くと、東海道新幹線・東京-新大阪間(約515キロ)の4往復半あまりに相当する。

さらに既存の鉄道も高速化して、首都ニューデリーから西部の工業都市アーメダバード、インドの最大都市ムンバイをめぐり、南部のチェンナイと東部のコルカタを経てニューデリーに戻り、高速環状網で全土をつなぐ構想だ。

このうちJR東日本などが受注を目指しているのが、アーメダバードとムンバイを結ぶ約500キロの路線。JR東を含む鉄道事業者が出資するコンサルタント会社などの日本勢が昨年12月に事業化調査を請け負い、インド側と共同で需要予測や基本計画の策定を進めており、来年7月ごろをめどに結果をまとめる。(中略)

官民が連携して早くから新幹線の導入をインドに働きかけてきた日本勢は事業化調査も手掛け、通常なら建設工事の受注も有利な立場にある。

ただ、日印共同の調査では日本の新幹線が最適という結論になるとはかぎらず、国際入札となる可能性も排除できない。
                   ◇
 ■中国…建設コストは新幹線の半
ライバルとなるのはフランスなど欧州勢だけでなく、日本や欧州勢のノウハウを土台に改良したと主張する「独自技術」で急速に力をつけてきた中国だ。

ニューデリーで9月18日、インドのモディ首相と会談した中国の習近平国家主席は、今後5年間で200億ドル(約2兆1600億円)の投資に加え、インドの既存鉄道の高速化や新設の高速鉄道への協力を約束。モディ首相は「中国の参加を歓迎する」と表明した。

中国側は日本を強く意識しており、中国共産党系のウェブサイト「人民網日本語版」は今月13日付の記事で「価格と戦略面で中国が優位だ」と伝えた。

(1)走行距離や信頼性で日本に劣らない(2)材料費や人件費が割安で建設費が安い(3)広大な中国で建設と運営に成功し、技術の成熟度と安全性が高い-とアピールした。

3年前に浙江省温州市で起きた高速鉄道事故で多数の死傷者を出しており「成熟度と安全性」には疑問符がつくものの、費用が安いのは事実。建設コストは新幹線の半分程度ともされ、開業後の「運賃を低く抑えたい」(インド連邦議会のシン名誉議員)というインド側には魅力的だ。

さらに中国は運行技術や車両製造のノウハウを移転する「鉄道大学」をインドに設け、将来的には製造・開発拠点の現地化にも協力する構えをみせており、国内製造業の振興を掲げるモディ首相の心をくすぐる。

それでもJR東の冨田社長は「30~40年間のメンテナンスを含めると新幹線は高くなく、優れたオペレーションや、メンテナンスを切り札に勝ち抜きたい」と自信をみせる。

日本は運行実績や安全性で強みを持つが、インド以外への売り込みも見据えて「廉価版」の新幹線を用意するといった対抗策が必要かもしれない。

インドで日本勢が受注に成功すれば、三菱重工業や川崎重工業などの企業連合が請け負い、2007年に開業した台湾の高速鉄道以来、2例目の新幹線輸出となる。【10月26日 産経】
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なお、日本とインドが取り組んでいる大型プロジェクトとしてはデリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)もあります。

デリー(人口1,256万)とムンバイ(人口1,383万)とを結ぶ地域を日本における東京大阪間の「太平洋ベルト地帯」と見なし、物流インフラを整備した上で、周辺地域の諸都市で重点的な開発を進めていくというもので、デリー・ムンバイ間に貨物専用鉄道も建設します。

日本がすでに事業化調査を行っていることや、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)を進めていること、更には親日的と言われるモディ首相のこれまでも“前向き発言”などはありますが、新幹線はコスト的に高いこともあって、こればかりはふたを開けてみないと・・・という感もあります。

成長するアジアで日中のさやあて
インドの他、マレーシアとシンガポールを結ぶ路線も来年にも入札が予定されており、日本・中国・欧州勢の熾烈な競争が行われています。

2020年の開業を目指すクアラルンプールとシンガポール間の高速鉄道計画は、約350キロを1時間半で結び、総事業費は400億リンギ(約1兆3千億円)と見込まれています。
今後、開発が進む東南アジア地域の高速鉄道の先駆けともなります。

****アジア高速鉄道1万キロ計画始動 日中、売り込みに熱****
アジアで高速鉄道計画が実現へ動き始めた。マレーシアとシンガポールを結ぶ路線は来年にも入札を予定。インドやタイなど、構想段階も含めると計画の総延長は約1万キロに上る。

成長するアジアを舞台に、日本や中国などからの売り込み合戦が熱を帯びている。(中略)

計画には、中国やフランス、スペインなども関心を寄せる。
日本勢はJR東日本、住友商事、三菱重工業などが連携。(中略)

アジアでは、タイ軍事政権が国内2路線の事業を承認。ベトナムではハノイとホーチミン間の一部で部分着工する案が議論されている。インドでも西部のアーメダバードとムンバイ間で着工に向けた調査が進む。

米国やブラジルなどにも計画や構想はあるが、経済成長と人口増を背景にアジアに計画が最も集中。各国が売り込みに乗り出す。

ただ、日本は07年に開業した台湾に新幹線車両を輸出した以外の実績に乏しい。受注競争を優位に進めるために、車両だけでなく、運行支援や保守・点検も含めてアピールする。

アジアの高速鉄道計画をめぐって、攻勢を強めるのが中国だ。今年7月に完成したトルコの高速鉄道の建設に中国企業が参加。雲南省・昆明からラオス、タイを抜けてシンガポールに縦断する総延長3千キロの高速鉄道網を自国主導で建設する構想まで描く。

その足がかりとして、財政難のラオスに、7千億円の建設費の融資を検討しているとされる。7月にあったタイ軍事政権との戦略対話でも、タイ国内の高速鉄道網に強い関心を示した。

中国企業の建設費は日本の半分ほどとみられ、工期も短い。09年には武漢―広州間(1069キロ)を着工から4年半で開業させた。マレーシアの展示会でJR東日本よりも大きなブースを構えた大手鉄道車両メーカー、中国南車集団の関係者は「価格だけでなく、安全性でも負けない」と話した。

■カギ握る規格争い
鉄道インフラの輸出で、カギを握るのが、事業の実現可能性などを調べる鉄道コンサルタントだ。
日本や中国、欧州では信号や運行管理システムなどの規格が違う。欧州に多いコンサルタントは、欧州の規格に沿った調査をして事業計画を作りあげるため、「その規格で製品を提供する欧州メーカーが有利になる」(鉄道関係者)。

先行する欧州勢に対抗して、JR東日本なども鉄道コンサルタント会社を設立。インドやインドネシアの高速鉄道計画で調査業務を受託した。

東南アジア諸国連合(ASEAN)は15年に経済共同体の実現を目指す。国境をまたぐ鉄道整備も加速するとみられる。オーストラリア国立大のジェフリー・ウェイド客員研究員は「鉄道網が結ばれれば、規格や運行主体も各国間で統一される可能性がある。受注には各国の総合力が試される」と指摘する。【9月15日 朝日】
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成長するアジアを舞台に、日本や中国などからの売り込み合戦が熱を帯びています。

中国の海外建設で最初の高速鉄道路線となるトルコのアンカラ~イスタンブール高速線は今年7月25日に開業しましたが、中国企業が安価で落札する背景には、付帯事業トータルで利益を出していく方針があるようです。

****競争が過熱化すれば双方共倒れも****
トルコ以外でも、近年、中国中鉄や中国鉄建など中国の鉄道インフラ建設企業は海外で比較的大きなプロジェクトを受注している。

しかし、中国のメディアの報道によれば、赤字のケースが多い。その典型的な例が、41.53億元の赤字を出したサウジアラビアのメッカ巡礼鉄道である。

しかしながら、ある中国鉄建の事情に詳しい人によると、2009年2月に獲得できたこのサウジアラビアのプロジェクトでは、巡礼線周辺の付帯工事を請け負うことでトータルでは赤字から黒字への転換を実現できたという。

高速鉄道の敷設とともに、沿線周辺の土地開発、資源調査、港湾建設など付加価値の高い業務を請け負ったり、中国製車両を売ったりすることは、高速鉄道ビジネスを海外で展開する時の中国企業のビジネスモデルになりつつある。運営サービスを提供する中国企業も現れている。

中国高速鉄道ビジネスに関わっている中国企業にとって潤沢な外貨準備を利用できるのも強みのひとつである。

その意味では、海外での高速鉄道事業の展開にますます力を入れる中国企業は、海外を舞台にして日本企業との競争を過熱化させることが十分、考えられる。加熱化した競争で双方共倒れになる危険性も十分ある。

日中の高速鉄道会社同士がどのようにともに利益が確保できるというウィン・ウィン関係を樹立するのか、これからの大きな課題の一つになっている。【9月18日 DIAMOND online】
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なお、クアラルンプール―シンガポール間の高速鉄道については、シンガポール側からは“前向き発言”も出ているようではありますが、日本で開催された会議での発言ですから・・・・。

****シンガポール、日本の新幹線採用に前向きな姿勢****
新幹線やリニアなど日本の高速鉄道技術の普及に向けて議論する高速鉄道国際会議(読売新聞社など後援)が22日、都内で開かれた。

席上、シンガポール陸上交通庁のチュア・チョン・ヘン副長官が、マレーシア政府とクアラルンプール―シンガポール間(約300キロ・メートル)で検討している高速鉄道計画について「新幹線は我々が求めている高速鉄道システムに該当すると思っている」と述べ、新幹線システムの採用に前向きな姿勢を示した。

マレーシア陸上公共交通委員会の開発責任者、アズミ・アブドゥル・アジズ氏も「日本の姿勢を評価している」と述べた。(後略)【10月22日 読売】
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中国、アメリカの計画にも攻勢
アジア以外では、アメリカの高速鉄道計画にも日本・中国ともに意欲を見せています。

****中国の高速鉄道輸出、米国に攻勢かける=中国メディア****
中国メディア・第一財経済日報は23日、中国の鉄道車両メーカー・中国南車が米国カリフォルニア州の高速鉄道建設への入札意向書を提出したと報じた。(中略)

同州では1980年代からサンフランシスコとロサンゼルスを結ぶ高速鉄道構想を持っていたが、資金難により約30年間棚上げ状態となっていた。

それが動き出したのは2006年以降のことで、当時同州知事だったシュワルツェネッガー氏がプロジェクトの支援者を探すべく中国、日本、韓国の高速鉄道に試乗したこともある。

10年には中国南車がGEと高速列車を含む交通車両製造の合弁企業設立で合意したが、高速鉄道が環境破壊を招くという懸念があったため計画は今月15日に現地の裁判所が許可を下すまでまでとん挫していた。

高速鉄道建設プロジェクトはサクラメントからサンフランシスコ、シリコンバレーを通ってロサンゼルス、サンディエゴへと続く。全24駅が設けられる予定で、2029年の開通後にはサンフランシスコ―ロサンゼルス間が現行の9時間よりはるかに短い3時間足らずで結ばれることになる。

記事は、このプロジェクトには日本や欧州からも関連メーカーが競争に参加することになると予測した。

また、中国南車を含む中国の企業連合体が先日、メキシコの高速鉄道プロジェクトで唯一の入札者となったことも紹介、実際に受注すれば時速300キロメートルの中国製高速鉄道列車が初めて国外に出ることになると併せて伝えた。【10月26日 Searchina】
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昔から計画はあるのですが、アメリカも連邦政府・カリフォルニア州ともに財政事情が厳しいので、実現はどうでしょうか?
基本的に車社会であるアメリカで鉄道に関する合意を得る難しさもあります。

北京-モスクワ間が2日間
最近の中国とロシアの接近という国際情勢を反映した計画もあります。

****ロシアの「高速鉄道プロジェクト」に中国企業が参加=中国メディア****
中国の李克強首相はこのほどロシアを訪問し、中ロ両国はロシアの高速鉄道プロジェクトに中国企業が参加することで合意した。中国メディアの京華時報は17日、ロシアの首都モスクワとカザンを結ぶ高速鉄道が、国境を超えて中国の北京市とも結ばれる可能性があると伝えた。

記事は、モスクワ-カザン間の高速鉄道が開通した場合、両都市間の所要時間は11時間30分から3時間30分まで短縮される見通しと伝えたほか、北京市まで延伸するとなれば、北京-モスクワ間の鉄道による所要時間は従来の片道6日間から2日間にまで短縮されると報じた。

北京-モスクワ間はすでに空路が存在することについて、「鉄道は大量の旅客だけでなく、大量の貨物も輸送できる」として北京-モスクワ間が高速鉄道で結ばれることの意義を強調。さらに、西アジアや欧州に向けての貨物輸送も可能になるとし、中国の輸出産業にとっても有益だと主張した。(後略)【10月21日 Searchina】
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北京-モスクワ間はやはり飛行機を使ったほうがいい距離に思われますが、寝台高速鉄道になるのでしょうか?座ったままで2日間というのも大変です。

とにかく話題花盛りの高速鉄道です。
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イギリス  EU追徴にキャメロン首相激怒 国内で支持を急速に拡大する反EU・反移民政党

2014-10-25 23:04:15 | 欧州情勢

(イギリス政治の台風の目になりつつある反EU・反移民の英国独立党(UKIP)を率いるナイジェル・ファラージュ党首 “flickr”より By Derek Bennett https://www.flickr.com/photos/127522638@N07/15222941009/in/photolist-pccy1a-pcF3LF-pcDL96-5yiLSg-du2jyn-du2iYP-du81LC-du2kfi-du7TB7-du2hnK-du2gNR-bAFxma-5LdXmg-5yincK-oRKo7P-du2q6R-du2oVi-du7T25-6gtNc6-ngKBFf-8yUzkr-8yUz8V-8yXErU-8yUzwc-cyGqAf-nXAdN4-5GhitL-bnLFz3-bnLAxJ-bnLEBY-e9mVRF-e9sHZ1-e9sHXh-e9sJ1f-e9sHVU-e9sJ31-e9sJ4j-e9mVPB-g75N8k-g75Pi7-g75Ngg-g77fEt-g76Kcb-dpYjyc-ddqVVf-ddqRQ1-ddqPku-ddr75q-635UXw-nsRsZs)

【「わたしは怒っている。支払うつもりはない」】
“欧州連合(EU)は24日、ブリュッセルで首脳会議(サミット)を開き、経済成長と雇用拡大に向けた対策を話し合った。デフレの瀬戸際にあるユーロ圏のサミットも急きょ開かれ、景気低迷にあえぐフランスやイタリアが財政出動による景気対策を訴えた。国際的な圧力も高まり、財政規律を重視するドイツへの包囲網は狭まっている。”【10月25日 朝日】

ゼロ成長に沈み、失業率は10%超で高止まりしているフランスのオランド大統領が「財政規律のルールは守る。ただし最大限の柔軟性のもとに」と柔軟対応を求めたのに対し、“EUの優等生で、財政の健全化に先んじたドイツ。メルケル首相は、財政赤字が積み上がり、成長もしないこれまでの欧州の歩みを振り返り、「過去から学ぶべきだ」と語った。”【同上】とのこと。

このあたりの綱引きは以前から繰り返されているところですが、興味を引いたのはイギリス・キャメロン首相が机を叩いて激怒したという話です。

****EUの巨額追徴に怒り爆発=不払いを宣言―英首相****
「突然の巨額追徴にわたしは怒っている。支払うつもりはない」。キャメロン英首相が24日、ブリュッセルで開催された欧州連合(EU)首脳会議で、EUへの財政負担として、21億ユーロ(約2800億円)を追加で支払うよう通告されたことに怒りを爆発させる場面があった。

EUは各国の富裕度などに基づいて加盟国の負担金を算出しているが、英国の富裕度が従来見込みよりも大きかったことが判明。こうした調整はこれまでも実施されてきたが、EU統計局が国内総生産(GDP)などの経済指標の算出に新たな基準を採用したため、追徴額が大幅に膨らむ形となった。【10月25日 時事】
********************

欧州委員会のバローゾ委員長は、各国が同意したルールにしたがって手続きを行ったと強調していますが、キャメロン英首相は断固拒否する姿勢です。

来年5月の総選挙での躍進を狙う反EU政党
キャメロン首相が激怒する背景には、イギリス国内で高まるEUへの不信感があります。

EUからの離脱と移民受け入れの凍結を主張する英国独立党(UKIP)が急速に支持を拡大しており、UKIPの人気上昇に危機感を抱く保守党議員は政府への圧力を強め、キャメロン首相は昨年1月、2015年総選挙で勝利した場合、2017年半ばまでにEU離脱の是非を問う国民投票を実施すると公約しました。

統合深化のなかでEUによる国家主家を制約するような傾向に不満を持つキャメロン首相ですが、キャメロン首相自身はさすがにEU離脱は非現実的と考えていると思われます。

英国民をなだめるためにもイギリス主権を尊重する方向でのEU改革を求めていく状況にあるのに、21億ユーロの追徴など受け入れたら国内世論は更にEU離脱に傾き、流れが止められなく恐れもあります。

英国独立党(UKIP)台頭を明確に示したのは、5月に行われた欧州議会選挙でした。
この選挙で、UKIPは保守、労働の2大政党を抑え議席数トップに躍り出ました。

****第一党に独立党 英の離脱論勢い****
英国のキャメロン首相は26日、欧州議会選でEUからの離脱を主張する英国独立党が第一党となったことを受け、「国民はEUに変化を求めている。英国はEU改革を求めていく」と述べた。

台風の目となった脱EU派が、EU残留・離脱を問う英国での国民投票にも影響を及ぼすことは避けられない情勢だ。

英国での投票では、独立党が前回比約11ポイント増の27.5%を得票、同じく約10ポイント増の野党・労働党の25.4%、約4ポイント減の与党・保守党の23.9%を引き離す形で、「歴史的勝利」(英BBC放送)を収めた。

独立党のナイジェル・ファラージュ党首は25日夜、勝利宣言し、「夢は現実のものとなった」と述べ、保守党、労働党に次ぐ「第3の勢力」として来年の総選挙での勝利に向けて勢力を傾注していく姿勢を示した。

独立党は、保守党と連立与党を組む自由民主党(約7ポイント減の6.9%)の凋落(ちょうらく)につけ込み、政権参画を狙うものとみられる。

今回の連立与党大敗の背景にあるのはロンドンなど中央と地方の格差が拡大する現状への不満であり、来年の総選挙では脱EUが最大の争点にはならないという見方が根強い。

だが、キャメロン首相が2017年末までに実施すると約束したEU残留・離脱を問う国民投票の前倒しを含め、不満勢力への対策が急務だとの声は保守党内にも強い。英政権は、EUの欧州統合政策とは距離を置くとみられる。【5月27日 産経】
********************

イギリス下院は完全小選挙区制で、しかも選挙区は日本に比べかなり小規模です。(10月9日に補欠選挙が行われた2選挙区の場合、有権者数は7万人弱~8万人弱程度)

従って、政党の地方支部の強弱が結果を決めるとも言われ、強固な地方支部を有する2大政党に勝利するには高いハードルがあります。
また、EU対応のみが争点となる欧州議会選挙と異なり、総選挙となると争点は経済問題など多岐にわたり、EU対応が投票を左右する訳でもありません。

そうしたことから、国民の支持を拡大する英国独立党(UKIP)ですが、総選挙での大量の議席獲得は困難とみられています。

もっとも、流れはUKIP拡大の方向にあります。

10月9日に、保守党からUKIPに鞍替えした議員に係る補欠選挙が行われましたが、この選挙でUKIPに鞍替え・再出馬した議員が圧勝し、初議席を獲得しました。

****反EU政党が初議席=英下院補選****
英南部クラクトン選挙区で9日、与党・保守党の下院議員ダグラス・カーズウェル氏が反欧州連合(EU)を掲げる英独立党(UKIP)にくら替えして議員辞職したことに伴う補欠選挙が行われ、即日開票の結果、UKIPから再出馬したカーズウェル氏が、保守党や最大野党・労働党などの候補を大差で抑えて当選した。

UKIPが下院で議席を得るのは初めてで、来年5月の総選挙を控え、保守党を率いるキャメロン首相にとっては大きな痛手だ。【10月10日 時事】 
*****************

この議員は保守党時代からの地方で活動してきた人物で、個人的なネットワークをすでに築いていますから、先述ような小選挙区で有利な戦いをすることは想定されていたところです。

UKIPの与えた衝撃としては、この日行われたもうひとつの補欠選挙の方が大きいと思われます。

****イギリス政治を転換させるUKIP****
・・・・もう1つの補欠選挙は、労働党の現職下院議員が死去したために行われた。そのため、労働党が余裕をもって当選すると見られていた。

通常、補欠選挙では、政権政党を批判して野党に支持が集まる。実際、この補欠選の前の週に行われた2つの世論調査では、その見込みを裏付ける結果が出ていた。

ところが、投票では、当選した労働党候補と次点のUKIP候補の差がわずか600票余りで、政界に大きなショックを与えた。

なお、この世論調査の結果と実際の投票結果の差は、投票日の直前に有権者の支持が大きく変化したためではないかという見方がある。UKIP関係者は、もう数日選挙運動の期間があれば、労働党を破っていたと言っているそうだ。

いずれにしても、補欠選挙の結果のわかった後に行われた世論調査で、UKIPの支持が大きく伸びており、保守党31%、労働党31%、自民党7%、そしてUKIP25%だった。

UKIPはこれまでの常識を覆して有権者の支持を集めており、来年5月に行われる予定の総選挙でUKIPが台風の目となるのは確実である。(中略)

この有権者の不満を引き起こしているのは、既成政党への不信と失望であるといえる。ところが、既成政党は、小手先の政策論争で有権者の支持を得ようとしている。既成政党に「夢」が感じられない。この問題を解決することなしには、UKIP現象はまだまだ発展しそうだ。

地方組織の強くないUKIPは2010年の総選挙で議席を獲得できなかったが、次期総選挙では、25議席獲得するかもしれないという見方もある。

大手世論調査会社YouGovの社長は、10-12議席がより現実的だとするが、少し前まで1議席の獲得も疑問視されていた政党である。イギリスの政治が大きな転換期に来ているといえる。
【菊川智文氏「British Politics Today」10月12日】http://kikugawa.co.uk/?cat=27
********************

このUKIP躍進の要素を現状程度とすれば、保守党・労働党の支持率は30%台で拮抗していますが、接戦区で優勢にある労働党が2015年総選挙を制すると見られているようです。

上記菊川智文氏のサイトによれば、“イギリスの賭け屋では、最多の議席を獲得するのは労働党という見方が優勢で、保守党との差を徐々に広げている。”とのことです。

ただ、これまで保守党支持層を奪ってきたUKIPは労働党支持層をも浸食しつつあるとのことで、今後更にその支持を広げる可能性もあります。

英国独立党(UKIP)の政策
UKIPは“EUから離脱すれば、EU内の移動の自由の原則を守る必要がなく、移民の流入を自由に制限できる”という議論で有権者を惹きつけています。

UKIPの国内政策については、以下のようにも紹介されています。

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UKIP は、次期総選挙に向けて国内政策を整え始めた。その手始めは、税制である。最低賃金(現在の時給£6.31(1,080 円))で働いている人たちの所得税をゼロとし、しかも最高税率の45%を40%に下げる方針を明らかにした。

前者も後者もかなりの税収減となると見られているが、それぞれ労働党支持層と保守党支持層の票の獲得を目指したものである。

さらにこの税制案の財源を確保するため、財政緊縮の中でもキャメロン首相が毎年大きく増加させている海外援助費を削減することを考えている。

海外援助費は 2015 年度には122 億ポンド(2 兆円)になる予定である。

賃金が上がらないのに物価が上がり、国民が生活費危機で苦しんでいるにもかかわらず、海外援助を大きく増やすことに批判的な人々を惹きつけることができる。【菊川智文氏「British Politics Today」6月3日】
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労働党支持層と保守党支持層双方に利益をばらまく政策で、いささか現実性を疑う感もあります。
何より、グローバル化に逆行してEUから離脱し、海外援助費を削減し、内向き・孤立を強める政策で、イギリスが政治・経済的にどうやっていくのか・・・賢明な選択とは思えません。

それでも、生活苦がのしかかり、移民増加への反感を強める国民には、現状とは全く異なる出口を提示してくれる単純明快な主張が受け入れられやすいのでしょう。

2015年総選挙の結果およびその後の政権の形次第で、2017年のEU離脱を問う国民投票が行われるかどうかも決まってきます。

先のイングランド独立を問う住民投票はかろうじて乗り切ったイギリスですが、実際にEU離脱を問う国民投票を行うという話になると、また大荒れの展開になります。
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ミャンマー  「アジア最後のフロンティア」 経済成長を実現するための課題

2014-10-24 23:03:14 | ミャンマー

(ヤンゴンの通りを覆う電線 “flickr”より By Petri  https://www.flickr.com/photos/petharti/13563702073/in/photolist-i6SPtX-mHVFf4-dMMuDm-mEzw5i-mFKTPg-6Jmsuj-deupN5-drdN5j-dHkCV5-cmSRvs-cmSPnW-5EGUUM-5EMcQL-5EMd3W-od7iyt/

インフラ整備の遅れ 不動産価格の高騰など新たな問題も
ミャンマーは20年以上続いた軍事政権による“鎖国状態”から、民主化を進めるテイン・セイン政権のもとで開放路線へと転じ、急激な変容を見せています。

「アジア最後のフロンティア」とも称され、日本企業もバスに乗り遅れないように進出を図っていますが、他の途上国同様に道路・電力供給といったインフラ、経済活動を支える法整備など、問題は山積しています。

電気について言えば、12年前のミャンマー旅行のときは、停電で明かりが消えた街なみ、暗いレストランでの食事・・・そういうものに旅情を感じたものです。

7年前に中部マンダレーを旅行した際は、電気が使える時間帯より、計画停電による停電時間の方が長いといった状態で、「次に電気が使えるのは明後日だね」という感じでした。

今年正月に最大都市ヤンゴンを旅行した際には、あまり停電の影響は感じませんでしたが、当然ホテルは自家発電で対応しています。

このときの旅行で痛感したのはホテル料金の高騰でした。“トイレ・バス共同・窓なし・テレビなし”という、以前だったら1泊2000円もしないような安宿でも3400円と、いい値段になっていました。

****市場開放進むミャンマー=商業都市ヤンゴン急発展―地価高騰、インフラに課題****
ミャンマーが同国最大の商業都市ヤンゴンを中心に急速に経済発展している。

2011年3月に軍政から民政への移管が実現して以降、同国では着実に民主化が進展。

外国投資法など各種法制度が整備される中、外国企業が地元企業との合弁や提携などを通じて一段と進出しており、同市では外国人向け分譲マンションやオフィスビル、ショッピングセンターなどの建設ラッシュが相次いでいる。

ただ、あまりに開発が急ピッチであるため、ヤンゴン市内では電力不足や交通渋滞などインフラ整備の遅れが際立っているほか、不動産価格の高騰など新たな問題も浮上しており、行政当局は対応に苦慮している。

ミャンマー電力省などによれば、実際に稼働できる発電量は水力を中心に約150万キロワットで、電力ピーク需要の75%程度しか賄えておらず、停電も多い。

しかも、ピーク需要は今後も年15%のペースで増加する見通しで、「電力不足が最重要課題」(政府筋)となっている。【10年12月 時事】 
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これもミャンマーだけでなく他の途上国でも同様ですが、蜘蛛の巣状態というか、鳥の巣状態というか、もつれた糸のような引き込み電線には、「漏電火災とか起きないのろうか?電力会社がきちんと管理・把握しているのだろうか?それとも勝手に盗電しているのだろうか?」と驚かされます。

****ヤンゴンの感電死、年間100人超 電線老朽化、切れて直撃も****
ミャンマーの最大都市ヤンゴンとその近郊では、切れた電線に触れるなどして年間100人超が感電死している――。ヤンゴン管区警察が11日、2011年の民政移管後に初めて開いた定例会見でそんなデータを明らかにした。

警察によると、昨年は109人、今年はこれまで102人が犠牲になった。地元紙によると、6月にはヤンゴン市内の市場近くの電線が切れて路面に落ち、路上で野菜を売っていた女性ら2人が感電死するなど、事故が相次いでいる。

頻発する感電死は、電線など配電設備の更新が軍政下で十分になされず、40~50年前の設備も残っていることや、電線が絶縁体を巻いていない「裸電線」であることが原因という。

昨年まで停電が頻発したヤンゴンでは、電力供給は改善しつつあるが、感電死については地元メディアが批判を強め、電力省も対策に力を入れ始めた。【10月12日 朝日】
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道路に洪水のようにあふれる車、ところどころ敷石がはがれ、深い穴があいている歩道・・・更に、電線にも気をつけないといけないとなると、ヤンゴンの街歩きは結構大変です。

ミャンマーはタイのようになる前に、まずバングラデシュのようにならなければならない
インフラや社会環境・法整備も不十分なところへ、最先端技術が一気に流れ込んでいるミャンマー・ヤンゴンは、今後の成長に熱い期待が寄せられる“沸騰都市”のひとつともなっていますが、最先端のものに飛びつくだけでは社会構造がいびつなものになってしまう危険もあります。

成長の基本は、国民の半数近くが従事する農業の生産力を上げることで、国民全体の所得・購買力の底上げをはかり、教育の拡充で労働力の質を高め、豊富な労働力を生かした軽工業の育成を図る・・・・という地道なところにあるのではないでしょうか。

****ミャンマーの未来:百万の工場を立ち上げよ****
ミャンマーはタイのようになる前に、まずバングラデシュのようにならなければならない。

ミャンマーのティラワ経済特別区(SEZ)の開発第1期には、400ヘクタール近い土地の整備と近くの港へ至る道路の建設が含まれていた。工業団地は来年半ばにオープンする予定で、入居を予定する企業22社の一部が今月末までに工場の建設に着手する。(中略)

準備が進むティラワとあと2つの経済特区の入居企業はミャンマーの未来に対する賭けだ。

3つの特区の中で最も開発が進んでいるティラワは、全面開業した時には7万人の労働者を雇い、国内向けの食料品、消費財、建設資材のほか、靴、自動車部品、衣料品などの輸出志向の商品を生産する。

テイン・セイン大統領は2011年に、ミャンマーを再び世界経済とつなげることを約束して政権の座を獲得した。以来、楽観的な向きはあらゆる通りにスーパーマーケットとファストフード店が並び、モバイル技術のおかげで同国が発展段階をいくつも「飛び越え」、タイ、あるいはシンガポールにさえ肩を並べることを夢見てきた。

だが、ミャンマーの経済的な未来は、未熟練労働者が輸出向けの労働集約財を大量生産することにかかっている。タイの水準の産業開発を切望する前に、西側の隣国であるバングラデシュのように低コスト製造の拠点になることを目指すべきなのだ。(中略)

何度か出だしでつまずいた後、政府は新しいビジネスが繁栄できるような市場経済を創造することに尽力しているようだ。

ミャンマーがほぼ20年ぶりの総選挙を実施した2010年から2013年にかけて、外国直接投資(FDI)はほぼ3倍に膨らみ、9億100万ドルから26億ドルに増加した。外国銀行数行が限られた規模で事業を行うことを許可された。だが、大掛かりな金融自由化の準備が進められている。

経済は今年と来年、7.8%成長すると予想されている。コモディティー(商品)輸出は増加しており、石油とガスの生産も増えている。

中央銀行は今、財務省から正式に独立しており、スタッフを増員し、金融政策を実行する能力を高めている。

やるべきことは、まだたくさんある。ビジネスのしやすさを測った世界銀行の年次報告書の最新版は、ミャンマーを189カ国・地域中182位にランク付けしていた。

規制の不確実性は大きな問題だが、旧態依然とした法律にようやく目が向けられるようになった。企業活動の規則を定めたミャンマーの企業法は、1914年に英国によって制定され、手つかずのまま放置されていたが、今年、アジア開発銀行が政府に手を貸して法改正に着手した。(中略)

訓練された労働力を生み出すまでの長い道のり
極めて活発な規制の刷新と改革された中央銀行でさえ、よく訓練された労働力を生み出すことはできない。それには何年もかけて教育に莫大な投資を行う必要がある。

平均的なミャンマー人は4年間しか学校に通わない。教師と生徒の比率は、マレーシアの1対13に対し、ミャンマーは1対30だ。

他のアジア諸国の労働力人口が生産性と多様性を高める一方で、ミャンマーの労働力人口は反対方向に向かった。1965年から2010年にかけて、大陸の大半の国で農業従事者の割合が低下したにもかかわらず、ミャンマーでは35%から44%に上昇した。

だが、この巨大な農業労働人口は有効活用できる。ミャンマーには1230万ヘクタールの農地がある。タイよりほんのわずかに少ないだけだ。

ミャンマーはかつてアジア最大のコメ輸出国だったが、農業セクターは依然として、嘆かわしいほど非生産的だ。
大半の農家は、多くの場合は機械や肥料を使わず、小さな稲田を耕している。(中略)

近代的な農法を少し導入しただけでも、農家とミャンマーの労働生産性全体に大きな影響をもたらすだろう。(後略)【英エコノミスト誌 2014年10月18日号】
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経済環境の整備のひとつとして、外国銀行の営業も先日許可されました。

営業許可申請した12カ国・地域の25行のうち、6カ国9行が許可されましたが、日本は免許申請した三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクがそろって許可され、日本銀行への厚遇が目立つ結果ともなりました。

邦銀の自助努力はもちろんですが、“日本政府は、「アジアのラストフロンティア(最後の未開拓地)」とされるミャンマーとの関係を築こうと、延滞債務の解消や多額の円借款供与の方針を表明している。最大都市ヤンゴン近郊では、官民で工業団地も造成。安倍晋三首相も親書を送った。邦銀にはこうした追い風があったようだ。”【10月22日 産経ニュース】と、「官民一体のトップセールスが功を奏した」(麻生財務相)ということのようです。

年内の「全国停戦協定」は難しい状況も
経済成長を可能とするためには社会の安定が不可欠ですが、ミャンマーが抱える大きな問題は、これまでも何回も取り上げたように、少数民族及び宗教的少数派イスラム教徒との融和にあります。

少数民族問題に関しては、政府は少数民族武装勢力16組織との「全国停戦協定」をめぐる交渉を行ってきましたが。9月26日に合意に至らず、年内の協定署名が不確実な状況となっています。

少数民族側によると、政府側が一転して強硬な姿勢を見せたとも言われています。

10月に入ってからは、カレン族と間で戦闘が再燃しています。

****軍と少数民族が戦闘 ミャンマー南東部****
日本が支援に力を入れているミャンマー南東部のタイ国境付近で、政府軍と少数民族武装勢力との戦闘が再燃している。民間人の犠牲も出ており、全国規模の停戦交渉にも影を落としている。

タイ国境の町カレン州ミャワディ近郊で11日、食堂に止まっていたバスにロケット弾が着弾。地元病院によると12歳の少年を含む乗客男性ら4人が死亡した。

付近では少数民族カレンの武装組織、民主カレン慈善軍(DKBA)と政府軍の戦闘が激化。地元メディアによると、10日にも州内の2カ所で衝突があった。(中略)

主に北部で戦闘が続いていたが、南東部のカレン州や隣のモン州ではDKBAが2011年11月に政府と停戦。地域最大勢力のカレン民族同盟(KNU)が翌年1月に政府と停戦後、情勢は落ち着いていた。

ところが、9月に入って戦闘が再開。KNUと政府軍との間でも衝突が起き、戦死者が出た。政府軍はカレンの各武装組織にミャワディでの武装解除を要求。武装組織側が反発するなど緊張が高まっている。

政府がカレン州で計画するダム建設予定地から、武装勢力を一掃しようと軍が圧力をかけていることが背景にあるとの見方もある。

ミャンマー南東部は日本企業の一大生産拠点でもあるタイとの交易ルート。
日本は国際協力機構(JICA)がカレン、モン両州の中長期開発計画立案を支援するなど援助に乗りだし、NGOも活動を始めている。日本のNGO関係者によると、移動が制限されるなどの影響が出ている。(後略)【10月19日 朝日】
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軍部・政権与党の改革への根強い抵抗
一方、政治的枠組み、民主化の取り組みについては、既得権を有する軍部や政権与党による抵抗も大きいようです。

****ミャンマー国会、比例代表制導入の審議開始 15年秋に総選挙 ****
ミャンマー国会は21日、国政選挙への比例代表制の導入を巡る審議を始めた。

現在ミャンマーでは小選挙区制が採用されているが、国会の特別委員会が同日、比例代表制を盛り込んだ複数の選挙制度案を提出した。比例代表制は旧軍事政権の流れをくむ与党に有利とみられ、審議の行方は来年秋の総選挙の結果を大きく左右する。(中略)

アウン・サン・スー・チー氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)や少数民族政党は「与党だけを利する」として比例代表制に反対している。

ミャンマーでは軍事政権時代の2010年に前回総選挙が実施されたがNLDは憲法の非民主性を理由にボイコットし、USDPが圧勝した。NLDも参加した12年の補欠選挙では、改選45議席中43議席をNLDが獲得した。

選挙管理委員会によれば次回総選挙は来年10~11月に行われる見通し。スー・チー氏の国民的人気は高く、NLDが優勢とみられている。【10月21日 日経】
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そのスー・チー氏については、大統領を目指すためには憲法改正が必要になりますが、やはりハードルは高そうです。

軍事政権時代の2008年に制定された憲法は、家族が外国籍を持つ者の大統領就任を禁じています。死別した夫が英国人で、子供も英国籍を持つスー・チー氏は不適格とされます。

スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)は、大統領資格に関する条項の撤廃を求めていましたが、大胆な改憲を望まない軍系の与党、連邦団結発展党(USDP)の反対で道は開けていません。

****大統領資格「現行通り」 ミャンマー憲法改正委****
ミャンマー国会の憲法改正実現委員会(31議員で構成)は22日、改憲をめぐる報告書を本会議に示した。野党党首アウンサンスーチー氏の大統領就任を阻む資格要件など大半の条項について、「現行通りにとどめるべきだ」と提言。来年の総選挙後にスーチー氏が大統領になるのは極めて困難な情勢だ。【10月23日 朝日】
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アフガニスタン  復興・自立に向けての課題と展望  資源開発状況など

2014-10-23 22:44:01 | アフガン・パキスタン

(10月22日、アフガニスタン・バーミヤン近郊に日本の支援で建設された小学校が完成し、テープカットをする高橋博史駐アフガン大使(中央左)とワルダク教育相(同右)ら【10月22日 産経ニュース】)

自立へ向けて山積する課題
アフガニスタンでは9月29日、今年6月の大統領選決選投票に勝利したアシュラフ・ガニ元財務相(65)が新大統領に就任しました。

大統領選挙はこのブログでも何回か取り上げたように、一時は二重政権・民族間の衝突も懸念されるもつれた展開となりましたが、ガニ氏が決選で敗れたアブドラ・アブドラ元外相(54)を首相職に相当する新設の「行政長官」に任命する形で、「挙国一致政府」が成立しました。

“大統領は、国家元首であり、軍の最高指揮権を持つ、国事の最高権力者として位置づけられています。これに対して、行政長官は、実質的な首相職にあたり、政府の運営を担当します。そして、2年を目処に、その機能と実績に対する評価を行い、憲法改正手続きに則り、民族大会議「ロヤ・ジルガ」を開催したうえで、正式な首相職を設ける運びです。”【10月16日 NHK】

ガニ新大統領は就任直後の9月30日、カルザイ前大統領が署名を拒んでいたアメリカとの二国間安全保障協定と、NATOとの地位協定の双方に署名しました。

これにより、外国軍が戦闘部隊を撤退させる今年末以降も、米軍をはじめとする外国軍の一部駐留が保証されることとなり、今後の治安維持・タリバンとの戦闘を担うアフガニスタン国軍をバックアップする態勢も一応整いました。

挙国一致政府と外国軍の一部残存という基本的な枠組みはできましたが、当然ながら難問が山積しています。

タリバンとの戦いをアフガニスタン国軍が本当に担っていけるのか?
国際支援に頼る財政が、国軍・警察を今後も維持できるのか?

****<アフガン>撤収を急ぐ欧米 治安回復、道筋見えず****
・・・・駐留米軍と北大西洋条約機構(NATO)軍は今年末にアフガニスタンでの任務を終了し、来年からはアフガン軍の教育・訓練・支援にあたる1万2000人規模の部隊だけが残る。

オバマ米大統領は今年5月、駐留軍の中核となる9800人の米軍を15年末までに半減、16年末には「通常の大使館警護」レベルにし事実上、完全撤退する案を発表した。

撤退を急ぐオバマ政権の姿勢に他のNATO加盟国も同調する構えだ。NATO加盟国などは計3000人以上の兵士をアフガンで失っており、アフガン派兵への世論の支持は低く、地上軍を一日も早くアフガンから出したいのが本音だ。

カギとなるのがアフガン軍や警察の治安維持能力だが、最近はタリバンだけでなく、アフガン軍兵士が自国の軍や駐留外国軍を狙うテロ事件も多発している。

またNATOの支援で計35万人にまで増やしたアフガン軍・警察の規模を維持できるかも不透明だ。35万人態勢の維持には約60億ドル(約6600億円)が必要とみられるが、米国など国際社会は年41億ドル(約4500億円)を17年ごろまで拠出することしか合意できていない。35万人を23万人規模まで縮小する必要があり、大量の解雇は避けられない。

イラクでは、03年の米軍の攻撃後、職を失ったイラク軍兵がテロ集団に転じ、一部は現在、過激派「イスラム国」の中核を担っているとされる。オバマ政権は今年、空爆の実施や約1600人の米兵派遣を余儀なくされたが、アフガンが二の舞いになる可能性は否定できない。【9月29日 毎日】
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国軍・警察の規模縮小・大量解雇は治安を不安定化させることが懸念されます。
治安維持能力が低下するだけでなく、解雇された兵士・警官が生活のために反政府勢力側に加わるようなことも容易に想像できます。

社会にはびこる汚職・腐敗と麻薬の一掃はカルザイ前政権で実現できなかった課題です。新政権はこの問題をクリアしないと、アフガニスタンの再建は不可能です。

こじれた大統領選挙の後遺症もありそうです。
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統一政府を作ったことで、大統領が指名できる閣僚ポストは、当初の思惑よりも、減ってしまいました。支援に対する交換条件であったはずの約束が果たせず、空手形を切る格好になったのは、アブドラ行政長官も同じです。両陣営に不満が渦巻くこの状況は、合意の維持を危うくし、さらには、人材の有効活用を妨げます。【10月16日 NHK】
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またガニ大統領は、選挙戦でアブドラ氏の支持基盤である北部タジク人票を切り崩すため、かつての内戦での悪名も高いウズベク人のドスタム将軍を副大統領としました。
新政権での発言力を得たこうした旧軍閥勢力をコントロールできるのかも今後の課題です。

新大統領 初めての訪問先は中国
新大統領が就任後の初めての訪問先にどの国を選ぶのかは、どの国もでも注目されるところですが、ガニ新大統領は中国を選択しました。

****アフガン新大統領、訪中へ 初の外国公式訪問 ****
中国外務省の華春瑩副報道局長は22日、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領が28~31日の日程で中国を公式訪問すると発表した。華氏によると、ガニ氏が9月29日に大統領就任後、公式に外国を訪問するのは初めて。

ガニ氏は習近平国家主席らとの会談を予定。中国は経済面での協力強化を通じ、アフガンへの影響力拡大を図る構え。

滞在期間中、新疆ウイグル自治区の分離独立派が、アフガンで軍事訓練を受けているとされる問題についても意見交換するとみられる。【10月22日 日経】
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中国は、他の周辺国同様、アフガニスタンとの経済関係を強化しており、後述のように鉱物資源にも大きな関心を持っています。
アメリカには、多大な犠牲を出しながらタリバンと戦っている間に、中国がその成果をかすめとっている・・・という不満もあります。

なお、アフガニスタンの治安回復は新疆ウイグル族の問題を抱える中国にとっては、単にアフガニスタン国内の経済活動の面だけでなく、中国国内のイスラム勢力を刺激・強化しないという意味で非常に重要な問題です。

「アフガニスタンの平和と安定は中国西部の治安に直接影響する」(王毅(ワン・イー)外相)
米軍がアフガニスタンに残存することになって、中国は本音ではほっとしていることでしょう。

中国との関係が強くなっているとは言っても、アフガニスタンを支えているのやはりアメリカです。
そのアメリカを初めての訪問先にしなかったのは、国内の反米感情に配慮して、アメリカの傀儡ではないということを示すためでしょうか。

もっとも、アメリカは早期の訪米を要請しています。

****アフガン大統領に訪米要請=オバマ氏****
オバマ米大統領は22日、先月就任したアフガニスタンのガニ大統領、アブドラ行政長官とビデオ回線を通じて会談した。3人は、アフガン治安部隊の強化や反政府勢力タリバンとの和平、アフガンの財政再建などについて協議。オバマ大統領は、来年初めに米国を訪問するようガニ、アブドラ両氏に要請した。【10月23日 時事】 
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期待が寄せられている地下資源
麻薬以外に産業らしい産業もなく、国際支援に頼るアフガニスタン財政ですが、アフガニスタンには膨大な“お宝”が眠っているという話があります。

****戦争の火種か!? アフガニスタンで100兆円相当の稀少鉱物発見****
アフガニスタンは、過去20年以上に渡る侵略や内戦が続いている最貧国として知られ、国民の平均寿命も48歳と短い。(中略)

そんなアフガニスタンに、およそ100兆円に相当する世界最大級の鉱脈が眠っているという。

2004年、米軍によってタリバンが掃討された後にアメリカ地質調査所が鉱物に関する調査を開始したところ、旧ソ連の手による地質調査地図が発見され、埋蔵量50年以上分もの金鉱脈の所在が明らかとなった。

2006年にアフガニスタン上空から磁気調査、重力調査、ハイパースペクトル調査をしたところ、さらなる鉱物資源が次々に発見されたのだ。

これまでに発見された鉱物は、銅 6000万トン、鉄 22億トン、レアアース 140万トン(ランタン、セリウム、ネオジムなど)のほか、膨大な量のアルミニウム、金、銀、亜鉛、水銀、リチウムである。

これらの総額をアフガニスタン政府は約90兆円と見積もっており、既に同政府は中国の国営企業、中国治金科グループと銅の発掘権に関する30年間3000億円規模の契約を締結している。

こうした豊富な鉱物資源が、混迷するアフガニスタンにとって「平和・安定」の礎になる可能性は高い。利権を巡ってさらなる争いが起こらないことを祈りたい。【9月21日 日刊大衆】
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旧ソ連の手による地質調査地図云々は、まるで埋蔵金伝説かインディー・ジョーンズの世界のような感もありますが、2010年にアメリカ国防総省が米国地質調査所の調査結果を引用する形でアフガニスタンの埋蔵鉱物資源の価値を1兆ドルと発表したのは事実です。

アフガニスタンへの米軍関与の重要性をアメリカ国内でアピールするためのもののようにも思えますが・・・・。

ただ、アフガニスタンの地質は、ユーラシアプレート、アフリカプレート、インドプレートという3大陸の衝突によって形成されたため、極めて複雑な構造となっており、その結果、銅、金、鉄鉱石、レアアース、大理石、宝石、石炭、石油、ガスなど、種類豊富な鉱物資源があっても不思議ではありません。

実際、近隣のカザフスタンやウズベキスタンも地下資源が豊富な国として知られています。
同様のプレート・テクトニクスの事情によるものなのでしょう。

アフガニスタン政府は、何の根拠あってかは知りませんが、アメリカ国防総省をさらに上回る3兆ドルと推計しているそうです。ちなみにアフガニスタンのGDP は205億ドル(2012年)です。

しかし、現段階で事業化されているものは限定されており、そこへ中国とインドが進出していますが、やはりアフガニスタンの治安が不透明なこともあって難航しているようです。

****中国とインドが狙うアフガニスタンの鉱物資源 ****
国際通貨研究所 開発経済調査部 主任研究員 福田幸正  2014年5月21日

・・・・しかし、1~3兆ドルといっても地下に埋まった資源の推計価値であり、短期的に収益が期待できるものは、北部のアムダリヤ推積盆(Amu Darya Basin)の石油、首都カブールの南東約40キロに位置するアイナック(Aynak)の銅鉱石、中部バーミヤンのハジガク(Hajigak)の鉄鉱石の3つに限定されるといわれている。

アイナック銅鉱山とハジガク鉄鉱山は世界最大規模の埋蔵量が推定されており、鉱山開発には、それぞれ20~30億ドル、関連インフラ整備にさらに同額、ないしはそれ以上の費用がかかるものと見込まれている。

生産が始まっているのは中国企業によって採掘が行われているアムダリヤの石油があり、アフガニスタン政府のここからの税収は、2013年に6,400万ドル、2014年には9,000万ドルにのぼると見込まれている。

2007年、中国企業はアイナック銅鉱山開発のため30年のコンセッションを獲得したが、プロジェクトの周辺には考古学上重要な仏教遺跡群も埋まっており、遺跡調査と遺跡保護のために関係者間で調整が進められることになった。

さらに、2014年末の治安権限の国際軍からアフガニスタン政府への移管や、2014年4月の大統領選挙実施を控えて政治・治安情勢が不安定化する中、最近、中国企業側から事業実施の見直し要求が出された模様であり、なかなか一筋縄ではいかないようだ。

ハジガクの鉄鉱山開発は、インド企業が開発を手掛けることになったが、ここでもアイナック銅鉱山と同様、インド企業から事業実施の見直しの要求が出されているとのことである。

このように、タリバンなどの武装勢力がアフガニスタンの治安を脅かしているにもかかわらず、アムダリヤ油田、アイナック銅鉱山、ハジガク鉄鉱山に実際に外国企業が開発投資に乗り出してきたことを捉えて、基本的にこれら3プロジェクトを軸とした「アフガニスタン資源回廊戦略」(Afghanistan Resource Corridor Strategy)と称する国土総合開発計画が世界銀行の後押しで構想されている。

その内容は、これら3プロジェクト用の道路や、電力、水などのインフラ整備を行いつつ、同時にプロジェクト周辺地域のインフラも整備し、加えて、周辺の農業開発や農産物加工業などの下流産業の開発も促し、雇用の促進も図るというものである。

さらに、この構想に関連付けて、土地収用制度を含めた各種制度の整備や人材の育成も進め、また、地元住民の意思をくみ上げる仕組みも組み込むという、盛り沢山なものとなっている。

長期的には、これら3地点を起点として開発対象地域を拡大していくことも構想している。今後、外国援助が先細りになっていくことを想定し、豊富にある国内鉱物資源を経済自立の核にしていこうという目論見だ。

ところが、前述のように、最近の政治・治安情勢の不安定化によって、アイナック銅鉱山、ハジガク鉄鉱山とも開発は足踏み状態であり、アムダリヤ油田も、操業が滞っている模様である。

いずれのプロジェクトもただでさえハイリスクなプロジェクトだが、中国、インドは戦略上の重要性から、それこそ石にかじりついてでも踏みとどまるだろう。

とにかく、何事も今後の治安情勢次第だ。「アフガニスタン資源回廊戦略」にしても、いくら素晴らしい構想であっても、治安の安定がなければ絵に描いた餅になりかねない。

このように、現在足踏み状態とはいえ、新興国の双璧、中国とインドが実際にアフガニスタンのようなハイリスクな国で、これまたハイリスクな大型資源開発事業に実際に投資していることが重要だ。

つまり、アフガニスタンの治安の安定が両国の切実な共通利害となったということに注目すべきだ。(中略)

アフガニスタンは歴史的に周囲の大国に大きく影響されてきた。アイナック銅鉱山、ハジガク鉄鉱山の開発を通して、関係国がアフガニスタンの安定という共通の利益の実現に向けて協調していくことを期待したい。

その中から、インド・パキスタンの和解、米・イランの和解という歴史的な和解にダブルで結びついていけば、西アジア、中東地域全域に明るい展望が開けるだろう。

そのように見ると、国際軍の撤収と大統領選挙が重なる2014年はアフガニスタンのみならず、世界にとっても極めて重要な年となるかもしれない。(http://www.iima.or.jp/Docs/topics/2014/258_j.pdf
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【「この国の将来は皆さん次第」】
ただ、“資源の呪い”という言葉もあるように、安易に資源に頼る構造は、利権絡みの腐敗・汚職、ひいては利権をめぐる内戦などを引き起こすことにもなりかねません。

資源開発も重要ではありますが、アフガニスタンの復興にとって一番大切な資源は人材であり、それを可能にするのは教育です。

****アフガニスタン 日本の支援で小学校完成 「しっかり勉強して****
アフガニスタンの最貧困地域の一つ、中部バーミヤン近郊に日本の支援で建設されたシェベルトゥ小学校が完成し、22日、高橋博史駐アフガン大使やワルダク教育相らが出席して式典が行われた。

建てられた地域はアクセスが困難な山間部。アフガン政府や国際社会からの開発支援が十分ではないが、治安が比較的安定しており就学率が高く、住民から教育支援を求める声が強かった。

アフガン政府と国連児童基金(ユニセフ)は来年末までに、バーミヤン県と隣接する2県で、計約5万人が就学できる計70の学校建設を計画。日本政府は無償支援で19億円を供与した。

シェベルトゥ小学校に通う予定の子どもたち約100人を前に、高橋大使は式典で「この国の将来は皆さん次第。しっかり勉強してください」と述べた。【10月22日 産経ニュース】
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タイ  “国民に幸せを取り戻す”という軍事政権の家父長・エリート主義

2014-10-22 22:59:27 | 東南アジア

(タイ軍政のプラユット暫定首相、安倍首相と初の首脳会談 【10月17日 newsclip】http://www.newsclip.be/article/img/2014/10/17/23512/8142.html)

【「私は依然不満だ。国民がまだ幸せではないからだ」】
インラック前首相のタクシン派政権と反タクシン派の対立による社会混乱を収めるとして、プラユット陸軍司令官(当時)が主導する軍事クーデターで軍部が権力を掌握したタイでは、プラユット氏が暫定首相に就いて軍事政権のもとで政治改革を進められていますが、民政移管スケジュールのずれ込みも報じられています。

****総選挙、16年にずれ込みも=タイ暫定首相が示唆****
タイ軍事政権のプラユット暫定首相は15日、民政移管に向けて2015年中に実施する意向を示していた総選挙が16年にずれ込む可能性を示唆した。【10月15日 時事】
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もっとも、プラユット暫定首相はその後、軍事政権長期化の意思はないとしています。

****政権長期化を否定=「毎日辞めたい」―タイ暫定首相****
「辞める用意はある。毎日辞めたいと思っている」。タイ軍事政権のプラユット暫定首相は15日、アジア欧州会議(ASEM)首脳会議出席のため訪れているイタリア・ミラノでタイの経済関係者らと行った夕食会でこう述べ、政権の長期化に否定的な姿勢を示した。タイのメディアが16日伝えた。

プラユット氏は席上、「(計画より)1日も長く(首相の)職にとどまりたいとは全く思わない」とし、「毎日けんかしている。家に帰ると妻ともけんかだ」と述べた。

その上で「私は依然不満だ。国民がまだ幸せではないからだ。国民に幸せを取り戻す必要がある」とも語ったという。

プラユット氏は先に、民政移管に向けて総選挙を2015年中に実施する意向を示す一方、新憲法制定のタイミングや改革の進展次第では総選挙が16年にずれ込む可能性も示唆していた。【10月16日 時事】 
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プラユット暫定首相が考える“国民が幸せを取り戻す”社会については、10月7日ブログ“タイ プラユット暫定首相(前陸軍司令官) 「よきタイ人」を育てる「12の価値」を提唱”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141007)でも取り上げたところです。

簡単に言えば、「王室を頂点とするタイ社会」という国体を護持し、国が決めたことには逆らわず、社会混乱をもたらすような政治批判は行わない・・・そういう「よきタイ人」をつくりたい意向のようです。

なお、前回ブログの冒頭写真に、タイ人年配女性にしては長身でスレンダーなプラユット暫定首相夫人(タイ有数の名門チュラロンコン大学の准教授だそうです)も写っていますが、プラユット夫妻の間でどいうやりとりがなされているかは知りません。

なお、タイ軍事政権は欧米からは援助停止や制裁措置を受けています。
ASEM首脳会議が開催されたミラノでは、安倍首相が欧米首脳に先んじてプラユット暫定首相との会談を行っていますが、早期の民政復帰を促す狙いも一応あったとされています。

“クーデターが発生した今年5月以降、米国は軍事演習や援助を停止し、欧州連合(EU)も交流延期の制裁措置を取っている。こうした中で安倍首相が会談に応じたのは、民主主義への早期復帰を促すとともに、対タイ最大投資国として関係維持を図る狙いもある。”【10月16日 産経】

【「タイ流の民主主義」】
英エコノミスト誌は、軍事政権が目論む「タイ流の民主主義」を揶揄するように伝えています。

****クーデター後のタイの現状と問題点****
9月13-19日号の英エコノミスト誌は、クーデター後のタイについて、軍事政権は「タイ流の民主主義」導入に努めている、と揶揄しつつ報じています。

すなわち、タイ軍事政権は、仲間内で議会を構成し、やはり仲間内で成る内閣を樹立し、さらに、選挙委員会に、新憲法の起草者の指名を命じるなど、彼らの言う「真の民主主義」確立に力を入れている。

バンコク市内も平静が保たれ、多くの市民は、軍の介入でインラック政府と反政府派の対立が終わったことに安堵している。

しかし、戒厳令は解除されず、2006年のタクシン追放に関わった軍関係者が返り咲いて、副首相、内務相、外相等の要職に就いている。

専門家の間では、今回の軍政も前回と同様、すぐ終わるというのが一致した見方であり、体制寄りの各新聞も、軍政の期間を1年と報じている。
しかし、将軍たちが選挙による民主主義を廃し、「有徳な人々」による長期支配を目指す可能性もなくはない。

軍事政権の基盤にあるのは厳格な家父長主義であり、そのため、現在、不法就労、密輸、売春、麻薬取引等、非公式経済の一掃が進められているが、将軍たちはタクシン流の人気取り政策を行う必要も感じている。

そのため、財政を破綻させかねないコメ補助金政策は維持、予定されていた消費税の引き上げも凍結し、燃料価格も大幅に引き下げた。

さらに、富裕な既得権層の擁護者であるにも拘らず、土地税や相続税の導入も検討している。

軍事政権は、多くの問題に直面している。輸出不振で経済は成長せず、消費も低迷、投資や観光も下降線を辿っている。バンコクの空港はアジアで唯一、利用客が減っている。

安定した電力供給、工業基盤、教育を受けた労働力を擁し、ビジネスに最適とされていたタイだが、その魔力の一部が失われていることは否めない。

タイが今後どうなるかは、プミポン国王の健康にかかるところが大きい。国王が死去すれば、軍事政権は守りの姿勢に追い込まれ、反自由主義が長引く可能性は十分ある。

既に、軍事政権は、国王の言う「十分な経済」という考えに飛びつき、生活水準を測る物差しは所得ではなく、幸福だと言っている。

将軍たちは迷信にも弱い。亡命したタクシンの動きを粉砕しようとしているが、その進め方には慎重だ。裁判所もコメ補助金問題でインラックに有罪判決を下すのを引き延ばしている。軍事政権に自信がつけば、タクシンやインラックへの対処はもっと厳しくなるだろう。

一方、人権団体は、イスラム反体制運動が燻るタイ南部で1970年代にあったような軍事法廷が設けられることを恐れている。

また、クーデター反対派への対処は概して穏やかだが、一部活動家の消息不明や拷問の話は聞かれる。

新憲法の詳細が明らかになれば、今後の方向性が多少見えて来るだろうが、新憲法の中身に関する公開議論はまだない、と報じています。(後略)【10月16日 WEDGE】
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“国民に幸せを取り戻す”まで軍政で“改革”を進める・・・・という話になると、長期化の可能性も出てきます。

一院制で全議員を任命制とする選挙のない制度も選択肢
国民を幸せにすべく軍政が目指す新憲法の一端が見えてきました。

****タイ政治改革、非民主的選択肢も 国家評議会が初会合****
軍事クーデターが起きたタイで、民政復帰に向けた諸改革や新憲法起草に取り組む国家改革評議会(NRC、250人)が21日、初会合を開いた。

メンバーにはタクシン元首相派やクーデターに批判的とされる人物は極めて少ない。議論が民主主義と逆行し、タクシン派の抑え込みの方向に流れる心配も出ている。

NRCは同日、ティエンチャイ元チュラロンコン大学学長を議長に選ぶなど正副議長を選任。

今後、改革の議論を本格化させる。「たたき台」になるのは、クーデターで権力を奪取した国家平和秩序評議会が、各界識者の意見などをまとめたとするガイドライン(指針)だ。NRCメンバーに事前に配られていた。

指針は政治、経済、地方行政など11分野に及ぶ。最も重要なのが政治改革だが、その内容が物議を醸している。

クーデターで崩壊したタクシン氏の実妹のインラック政権の状況を批判。議会制民主主義の理念に沿った様々な選択肢を列挙しつつも、民主主義と相いれない制度がどの項目にも併記されているためだ。

例えば、議会については「上院による下院のチェック機能が働かず、議席数にものを言わせて政府が『議会独裁』とも言えることをしてきたことが問題だ」と指摘。選択肢に一院制で全議員を任命制とする選挙のない制度も含めている。

政党については「一部の政党が政治ビジネスに走ったり、背後に資本家がいたりする」と指摘し、タクシン氏が資金面で支えてきたこれまでの与党を暗に批判。

国会議員も「買収や不正で正しく有能な人物が選ばれていない」と言及。「王制に批判的な人物は議員になれない」「議員は政党に所属できない」といった極端な選択肢も示す。

さらに内閣については、首相を議員でない人物からの任命制にすることを選択肢の一つに含めている。

反タクシン派の一部には「タイでは、票の買収が常態化し、選挙を通じた民主主義の原理は通用しない」(NRCメンバーのソムバット前国立開発行政研究院学長)といった主張が根強く、議論が非民主的な政治制度へ傾く可能性がある。

スコータイ・タマティラート大学政治学部長のユタポーン准教授は「この改革は新憲法の土台となる。憲法は国民の権利や自由などを定めるもので、ある政治勢力の排除を目的としてはならない」と心配する。

軍部が改革の方向に影響を与えようとしているのではないかとの懸念に、前陸軍司令官のプラユット暫定首相は10日のテレビ演説で「(NRCのために)情報を用意し、問いかけをしただけだ。解釈はNRCに委ねている」と否定した。【10月22日 朝日】
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発想の根底には、教養もなくカネでつられる農民など低所得層に政治をゆだねる訳にはいかない・・・というエリート主義があります。

民主的な普通選挙を求める学生らの抗議行動が続いている香港でも、梁長官は行政長官選挙について「全て数の論理に基づくならば、香港市民の半数にあたる月収1800米ドル(約19万円)未満の人々に向かって話しかけることになるのは明らかだ」と語り、低所得層に左右される政治への嫌悪感を示していますが、それと同様な発想です。

極めつけは“一院制で全議員を任命制とする選挙のない制度”という、民主主義の全否定です。
もちろん“選択肢”のひとつのようですが、たとえ選択肢にしても、こうしたものが挙げられることからして、今後の方向が推察されます。

権力者が「よきタイ人」「国民の幸せ」を規定し、その考えにそぐわないものは排除するという自由と人権が制約された不幸な社会に陥ることを懸念します。

なお、最近の世論調査では、プラユット軍事政権について57.3%の人が 「満足」、36.3%の人が 「不満」 と答えているそうで、軍事政権は国民的に支持されています。

国民が望んでいる道であれば、よそ者がとやかく言うのは、上から目線の“おせっかい”というものでしょうが、おせっかいついでに言えば、戦前の日本でもドイツでも、国民が支持しながら大きく道を間違えることにもなりました。
また、現在も、中国では共産党政権は基本的に国民に支持されていますし、北朝鮮ですら世論調査のようなものがあれば、それなりの数字が出るでしょう。

ただ、世論というのは、そういったものだ・・・・と言ってしまうと、軍事政権的な民主主義の否定、「有徳な人々」による支配の肯定にもなります。
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