孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スイス  国民投票で、外国人犯罪者の強制送還を厳格化

2010-11-30 20:37:40 | 世相

(07年選挙時のスイス国民党のポスター 実に簡潔明瞭なメッセージです 今回の国民投票はこのメッセージの具体化です “flickr”より By rytc http://www.flickr.com/photos/rytc/984576791/

【09年に起きた殺人罪の59%は外国人の犯行】
欧州各国における移民、あるいはフランスやイタリアにおけるロマへの排外的な動きの拡大、それと同時に進行する極右政党の躍進については、これまでも何回か取り上げてきました。
今日の話題もその一環ですが、スイスで28日、強盗など重犯罪を犯した外国人を一律に国外追放することの是非を問う国民投票が行われ、政府の反対にもかかわらず、賛成52.9%で承認されました。

今回提案は右派の国民党によるものですが、スイスでは昨年11月にも、同じ国民党が提案した国民投票で、イスラム教寺院モスクの塔「ミナレット」の新規建設禁止が可決され、欧州各国からの批判を受けています。

****スイス:外国人犯罪者を強制送還 国民投票で法厳格化承認*****
スイスの国民投票で28日、外国人犯罪者は罪の程度に関係なく、自動的に本国へ強制送還するよう法律を厳しくする提案が、53%対47%の賛成多数で可決された。現行法では重犯罪者の強制送還は個別判断していたが、殺人、性犯罪、強盗、麻薬・人身売買などの外国人犯罪者は例外なく国外に追放し、生活保護など社会福祉を乱用した外国人も滞在許可証を自動的に取り消すとしており、欧州で最も厳しい内容になる。

連邦移民局によると、可決内容がそのまま適用された場合、例えば労働許可を得ている家政婦が、夜も内職で申告せずに働いたことが見つかれば送還されることになるという。
欧州各国で行われている外国人の強制送還は、対象が深刻な犯罪に限られ、死刑や拷問などを受ける恐れがある国への送還はできないケースが多い。
今回の国民投票で、反対派は「強制送還の対象と犯罪の深刻さが釣り合っていない。受け入れ国の人権状況を考慮せず、自動的に送還するのは問題だ」と主張。政府は、現行法を強化するにしても、犯罪の程度に応じた配慮などが必要だとして対案を示していたが、否決された。

投票は右派・国民党が提案。投票実施に必要な署名は、期間内に規定の10万人の2倍も集まり、スイス国民の外国人犯罪への関心の高さが示された。
スイスは住民の21%が外国籍で、欧州でも比率が高い。伝統的に南欧諸国の外国人労働者を多く受け入れてきたが、近年は旧ユーゴ諸国など東欧からの移民が増えている。
連邦統計局によると、09年に起きた殺人罪の59%は外国人の犯行だったという。現在スイスの刑務所はすべて定員を上回っており、囚人の70%は外国人とのデータもある。
治安悪化と外国人の増加を結びつける国民の不安が、投票に反映されたようだ。

国民投票は、可決されると憲法の条項改正が発議される決まりだが、国際法学者の間では、内容が欧州人権憲章や欧州連合(EU)と結んでいる「域内の移動の自由」協定などに反するため、そのまま執行するのは難しいとの意見もある。【11月29日 毎日】
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国民投票結果を受け、スイスのシモネッタ・ソマルガ司法相は、国際法に違反せずに改正法を実施する道を政府で検討すると述べています。

犯罪にはいろんな事情が絡んでおり、また、生活保護など社会福祉を乱用したケースまで含めて、一律的な処置というのは厳しすぎる感があります。
また外国籍住民の二世・三世は国籍的にはどうなっているのでしょうか?やはり外国籍で今回規制の対象となるのであれば、スイスの社会しかしらない二世・三世を“他国”へ強制送還ということでしょうか?
そもそも問題提起の根底にある外国人排斥的な考えにも同意しかねるものがあります。

外国人犯罪者の強制送還は右派国民党のかねてよりの主張であり、07年10月の総選挙では、白い(自国民を示す)羊の群れから黒い(外国人を示す)羊が追い出されるデザインのポスターを掲げて物議を醸したことがあります。国民党の主張は人種差別やナチスを連想させる内容であるとの激しい反発も受けましたが、結果的には同党は議席を伸ばしています。【ウィキペディアより】

【「スイスは人道問題で壊滅的なサインを世界に発した」】
一方、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは今回の国民投票結果について、「スイスの人権にとって暗い日」と批判、欧州各国でも批判が広がっています。
ただ、ロマ問題で類似の対応をとっているフランス・イタリアでは厳しい批判はないとか。

****「EU平手打ち」「人権違反」=外国人犯罪者「追放」に批判―欧メディア*****
スイスで28日、強盗や強姦(ごうかん)など重罪を犯した外国人犯罪者を例外なく国外追放する憲法改正案が国民投票で承認されたことに対し、欧州主要メディアは29日、「国際人権法違反」(南ドイツ新聞)などと、批判的な論調を相次いで展開した。
ベルギーのルソワール紙(電子版)は「スイスが欧州連合(EU)に平手打ち」と強調。スイスとEUが出入国審査の撤廃を取り決めた協定を締結していることを指摘し、「人の自由な移動を認める協定に完全に抵触している」と批判した。
南ドイツ新聞(同)は「スイスは(人道問題で)壊滅的なサインを世界に発した」と指摘。独有力紙ターゲスツァイトゥングも「スイスとEUで外国人恐怖症が一段と広がりを見せている」と論評し、今回の投票結果が外国人への差別助長につながるとの強い懸念を示した。
一方で、フランスやイタリアでは辛辣(しんらつ)な批判は比較的少なく、少数民族ロマの国外送還に肯定的な両国とドイツなどの反応は対照的となっている。【11月30日 時事】
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【2050年には移民は倍層】
世界的に見るとグローバリゼーションの進行は人の移動にも及んでおり、今後更に移民は増加することが予想されています。

****国外移住者、4億人に倍増=本格対策が急務―国際機関予測*****
人の移動にかかわる世界的な問題を扱う国際移住機関(IOM)は29日、安定した生活環境や就労などを求めて出身国外に流れた移住者の人口が、現在の2億1400万人から2050年には4億500万人と、ほぼ倍増するとの報告書をまとめた。移住人口の急増を踏まえ、各国が本格的な対策に乗り出すことが必要だとしている。
それによると、10年時点で他国からの移住者が最も多いのは米国の4280万人。次いでロシア(1227万人)、ドイツ(1076万人)の順で、日本は218万人だった。
報告書は、労働力人口が先進国で今後、増えない一方、途上国で急激に膨らむことが移住人口の増加要因だと分析。適切な移住者対策は「受け入れ国の経済成長力、出身国の貧困削減と開発につながる」と利点を強調している。【11月29日 時事】
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移民増加の背景には、労働人口の構成が世界的に不均衡になっているほか、地球温暖化も影響していると指摘されています。

現在の欧州における外国人排斥的な動きは、こうした移民増加への対応の困難さを示しています。
受け入れ先になかなか同化しない移民の増加がもたらす文化的軋轢の高まり、疎外された移民が結果的に犯罪に手を染めることも多いことなど、移民問題は非常に難し問題です。

ただ、“外国人恐怖症”的な反応は、理念的に好ましいものとは思えません。
また、蜘蛛の糸を独占しようとするカンダタように、国家・国境が隔てる富の差があるなかで、その富を他国民に分け与えることを拒むような行動も、出来れば避けたいところです。
現実的な問題にも目を向けながら、理性的・冷静な対応で困難な道筋を探していく必要があります。

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ブラジル・リオデジャネイロ 麻薬組織掃討の“市街戦”

2010-11-29 20:32:26 | 世相

(リオで麻薬組織撲滅に乗り出した治安当局の装甲車 “flickr”より By Blog Sem Destino
http://www.flickr.com/photos/blogsemdestino/5208377648/ )

【「対麻薬組織のDデー」】
麻薬組織と治安当局の麻薬戦争と言えばメキシコですが、同じ南米のブラジル・リオデジャネイロでも、陸軍パラシュート部隊まで動員した激しい“市街戦”が繰り広げられました。
経済成長著しい新興国の雄、ブラジルですが、まだ陰の部分も大きいようです。
“市街戦”自体は、28日に警察が制圧しています。

****リオ、犯罪組織の拠点制圧=警察が掃討作戦、45人死亡―ブラジル****
ブラジルのリオデジャネイロで21日から続いていた「ファベーラ」と呼ばれるスラム街を舞台とした麻薬組織に対する警察の掃討作戦で、警察側が28日、組織のメンバーらが立てこもっていた北部のファベーラを制圧した。一連の衝突ではメンバー45人が死亡。市民にも流れ弾による死傷者が出る事態となった。
警察側は特殊部隊や装甲車、応援の軍兵士ら約2500人規模で掃討作戦を強行。28日も散発的な銃撃戦が起き、地元メディアによれば3人が死亡した。制圧後のファベーラ捜索で、大麻40トン、コカイン200キロなどを押収したという。【11月29日 時事】
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地元テレビは軍事作戦をライブ中継し「対麻薬組織のDデー」と報じたそうですが、地元メディアが麻薬組織の報復を恐れて麻薬組織絡みの抗争を一切報道しないと言われているメキシコに比べると、随分と症状は軽いようです。

【貧困によって生まれる犯罪】
スラム街「ファベーラ」を拠点とする麻薬組織は、もとからの麻薬カルテルではなく、1964~85年の独裁政権時代に反対勢力を沈黙させるために動いていた準軍組織の暗殺部隊を起源とする「民兵」と呼ばれる新マフィア勢力だそうで、そのあたりの事情は以下の【11月26日 AFP】が詳しく報じています。

****ブラジル・リオで麻薬組織掃討作戦が激化、都市機能まひ****
■貧困地区に台頭する新マフィア、W杯・五輪控え対決姿勢
リオでは総人口の3分の1に当たる約200万人が、市内に1000か所以上存在する「ファベーラ」と呼ばれるスラムに住んでいる。
住民たちは今回の作戦の規模の大きさに驚いているが、長い間放置されていた麻薬組織にようやくメスが入ったと安堵する声が多い。「麻薬組織と対決するにはこれしかない」「大勢の人間が死ぬだろう。しかし、この町を変えるために必要なことだ」などの反応が聞かれる。

当局の対策を一層難しくしているのは、リオの組織犯罪に生じた変化だ。警察によると相手は2つの麻薬組織の連合体で、2014年のサッカーW杯と2016年の五輪開催へ向けてブラジル政府が本腰を入れている「浄化政策」への対抗姿勢を鮮明にしている。
リオの組織犯罪といえば、以前は麻薬カルテルによって支配されていた。それが2000年以降、「民兵」と呼ばれるグループが台頭し、「今の組織犯罪は『民兵』によるものだけだ」とマルセロ・フレイソ州議員は言う。

「民兵」らの由来は、1964~85年の独裁政権時代に反対勢力を沈黙させるために動いていた準軍組織の暗殺部隊にさかのぼる。その後は非番の消防隊員や警官、看守などが「民兵」を構成するようになり、ストリートキッズなどを取り締まってきたが、長年、麻薬カルテルよりは「悪質でない」とみなされていた。
しかしこの「民兵」が、最近になってリオで広く支配力を強め、新マフィア勢力に成長した。2006年には、西部の数か所のスラムに浸透してカルテルを追放し、頭角を現してきた。
今月発表された報告によると、リオのスラムでも規模の大きい上位250か所のうち100か所以上を「民兵」が支配している。一方、リオ最大の麻薬カルテルが現在支配下に置くスラムは、わずか55か所だ。

■政治にも浸透・・・掃討作戦は根本の解決にならない
フレイソ州議員いわく「『民兵』たちは街を守ると言って住民からいわゆる『みかじめ料』を徴収しつつ、実際にはガスの供給やミニバス・サービス、ケーブルTVなどを乗っ取った。州当局の手が回っていないあらゆる分野に浸透していった」。最近では麻薬取引よりも、こうしたビジネスのほうが実入りがいいのだという。
さらに「『民兵』たちは政治にも手を染めている」とフレイソ氏は警戒する。同氏がまとめた報告書によると、自治体の選挙に関与している「民兵」たちは約200人にも上る。報告書の発表後にリーダー数人が逮捕されたが、その中にはリオ市議会議員と自治体の副首長も含まれていた。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「民兵」グループの成長について以前から、「何十年にもわたって怠慢、人権侵害、犯罪者の免責に基づいた治安政策を展開してきたツケだ」と批判し、早急な対策が必要だと警告してきた。
今回の衝突が激化した22日夜、セルヒオ・カブラル州知事は連邦政府に応援を要請し、以降、リオのスラム20か所に治安部隊が展開している。

しかし長年、地元警察の手法に批判的なフレイソ氏は、今回の作戦で達成できることはほとんどないだろうと語る。「警察はヴィラ・クルゼイロに入って、また何百人か殺すことはできるだろう。けれどもリオの問題はそれでは解決しない。銃の引き金を引いている人間と、札束を勘定している人間は別だからだ。スラムの麻薬取引は、貧困によって生まれる犯罪の代表格だ。歯が抜けた、無教養なマフィア像など実際には見たことがない」【11月26日 AFP】
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【「ボルサ・ファミリア」】
ブラジルに限らず、麻薬問題に揺れる南米諸国の問題の根底に「貧困」があることは当然の指摘です。
ブラジルについて言えば、急速な経済成長、貧困層を支持層とするルラ大統領の貧困対策の成果もあって、貧困の問題は大きく改善されてきたと言われています。
ルラ政権は、家族1人当たりの所得が140レアル(約7千円)以下の人が受けられる「ボルサ・ファミリア」と呼ばれる貧困救済資金(家族手当)を実施しており、この施策が効果をあげていると報じられています。

****ブラジルの貧困層対策、『ボルサファミリア』の成果****
中南米では、ファヴェーラに象徴される貧困問題が「宿痾(しゅくあ)」のように社会に巣くってきました。ブラジルでは、2003年1月に貧困層出身で労働運動の指導者であったルーラが大統領に就任してから、この問題に改めて焦点が当たり、改善に向けて大きく前進しています。ルーラ大統領は就任式で、「勇気を持って、混乱と軽率を避けて変革を進めよう。すべての国民が三度の食事ができるようにするのが,私に与えられた使命である.この全国的な助け合い運動へ国民を動員する」と述べ、実際、就任直後に貧困層への支援を行う「飢え追放」プロジェクトを発表、11月には40万の貧困農家に財政支援をするプログラムとして「ボルサファミリア」を発表しています。その後、貧困家庭向けの支援プログラムに拡充された「ボルサファミリア」は、世界的な貧困撲滅運動を展開する国連などの国際機関が注目するところとなり、世界銀行は初期段階から資金支援を行っています。
世銀の報告によれば、このプログラムが支援した貧困家庭は現在までに11百万世帯に及び、46百万人以上が恩恵を受けたとされています。典型的な例としては、子供を持つ貧困家庭に平均で月70レアル(約3,600円)が支給されますが、支援を受けた親には子供を就学させ、定期的な健康診断を受けさせることを義務としています。このプログラムの優れた点は、貧困家庭を飢餓から救うだけでなく、子供の教育を継続させることにより、貧困が次の世代に受け継がれる悪循環を断ち切ることにあります。実際、このプログラムの結果、800万人が貧困から脱却したと伝えられています。また、ブラジル国土地理院の統計データでは、全人口に占める貧困層の比率が1992年に35%、ルーラ大統領が誕生した2003年でも28.1%と低所得国並であったものが、2008年には16.0%にまで減少しています。
大きく改善してきたとは言え、依然、ブラジルの貧困問題は先進国に比べ深刻です。ルーラ大統領は、「ボルサファミリア」の継続と共に、2009年3月には低所得者向けの住宅100万戸を、340億レアル(約1兆7,300億円)を投じて建設する計画を発表しました。これは、1960年代後半の米国で、ジョンソン大統領の「グレート・ソサエティ」構想に基づき実行されたニューヨークのハーレム地区(黒人が多く住むスラム街)再開発を思い起こさせます。ブラジルは既に中進国となっていますが、これから先進国の仲間入りを果たすには貧困問題の改善が大きな課題と言えるでしょう。
【1月6日 マネックスラウンジ http://lounge.monex.co.jp/pro/hsbc/2010/01/06.html
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“大きく改善した”とも言えますし、“まだまだ大勢の貧困層が残っている”とも言えます。
市場経済における貧困問題、格差問題は日本を含めた多くの先進国でも近年表面化している問題でもあります。
今後のブラジルにおける貧困問題解決は、ルラ大統領の支援で次期女性大統領に決まったルセフ氏の手腕に託されることになります。
なお、ルラ政権における貧困対策については、中間層からは「税金は高く、貧困層が受ける恩恵もない」「政府がばらまく金のおかけで貧困層は働かなくてもいいが、中間層は押しつぶされている」との不満も強いようです。
経済成長でパイが大きく拡大しているブラジルにしても、国民各層をあまねく・・・というのは、なかなか困難です。

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タイ  明日29日、与党解党にもつながる判決 政治混乱の可能性も

2010-11-28 19:56:11 | 国際情勢

(5月のUDD占拠強制排除時の混乱 “flickr”より By ReportageEditor
http://www.flickr.com/photos/reportageonline/4766761214/ )

【小康状態】
タクシン元首相を支持する勢力と反タクシン派が相互に街頭行動を行い、5月にはタクシン元首相派の「反独裁民主戦線」(UDD)によるバンコク都心部占拠を軍治安部隊が強制排除し、日本人カメラマン村本博之さんを含む多くの犠牲者を出したタイですが、その後は小康状態とも言うべき状況が続いています。

もっとも、基本的な対立の構図が解消された訳ではありませんので、散発的に事件や抗議行動も行われています。
9月には、24日バンコクでごみ箱が爆発し通行中の女子学生2人が負傷、26日には首相府近くにある競馬場前で爆発がありました。

11月19日は、4月以来の非常事態宣言が解除されない中で、UDDが以前占拠していた都心部で、犠牲者を追悼する1万人規模の集会を開催しました。

****タイ:タクシン派が1万人集会 犠牲者の追悼で****
タイのタクシン元首相派組織「反独裁民主戦線」(UDD)によるバンコク都心部占拠が、軍治安部隊による強制排除で終結した5月19日から半年が過ぎた。4月以来の非常事態宣言が解除されない中で、UDDは19日、占拠していた都心部で犠牲者を追悼する1万人規模の集会を開催。当局側は阻止せず、集会は平穏に終了した。

非常事態宣言下での政治集会は禁止されているが、アピシット政権は一般市民が中心の平和的な集会は容認し、元首相支持者の不満のガス抜きを図っているとみられる。5月の都心部占拠終結時、一部が暴徒化し多数のビルへの放火に及んだタクシン派も、世論の反発を和らげる狙いからそれ以降は暴力的な行動を自制。双方が力による衝突を避け、対立は小康状態を保っている。
バンコクでは7月から、両派対立を背景にしたとみられる爆破事件が相次いだ。爆発物の威力は大きくなく、治安の不安定さを印象付ける狙いとみられる。10月には郊外のマンションで製造中の爆発物を誤って爆破させたとみられる事件が起き4人が死亡したが、その後は政府が市内に兵士を配備するなど警戒を強化し、爆破事件は起きていない。

アピシット政権はテロ容疑で拘束したUDD幹部に対しては釈放を認めない強硬姿勢だが、市民中心の抗議集会は禁止せず硬軟の対応を使い分けている。5月以降行われた下院補選やバンコク都議会選で政権与党の民主党が圧勝するなど、バンコクに騒乱状態をもたらしたタクシン派への支持は弱まる傾向を示している。首相は同派封じ込めに自信を深め、年内にもバンコクの非常事態宣言を解除する方針だ。(後略)【11月19日 毎日】
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【与党解党・首相失職の可能性】
しかし、この「小康状態」から一気に再び混乱へ転じるかもしれない、与党・民主党に対する政党交付金不正流用疑惑の判決が明日出される予定です。

****タイ政局緊迫化か 与党交付金流用、あすにも判決****
タイのアピシット首相率いる与党・民主党が、政党交付金を不正流用したなどとして公職選挙法違反に問われた裁判で、タイの憲法裁判所は29日にも判決を言い渡す。有罪なら同党は解党、首相ら党幹部は5年間の公職停止となり現政権は崩壊する可能性が高い。逆に無罪ならばタクシン元首相支持派が憲法裁の判断を不服として、大規模な抗議行動を展開することも予想される。政治情勢は再び緊迫化しそうだ。

裁判は、民主党が政党交付金2900万バーツ(約8060万円)を不正流用したとして、選挙管理委員会が4月に提訴、憲法裁が審理していた。
アピシット首相は、裁判での決定は尊重するとしており、有罪なら、1946年創設の同国最古の政党である民主党は解党、首相らも失職することになる。その場合、民主党の残る議員は新たな政党に移り、政権維持のために連立を組む各党と協議に入るとの見方が有力だ。

一方、憲法裁判所の判事9人のうち3人が26日までに今回の裁判の審理を辞退し、6人で審理が行われる。3人は同裁職員の採用で便宜を図ったとして、その証拠ビデオが動画サイトに投稿されている。
与党側からはビデオは、民主党解党という厳しい判決を求めるタクシン元首相支持者が投稿したもので、判決への圧力だとする声があがる。
また、民主党議員が判事らに審理を有利に進めるよう働きかけたとする疑惑も浮上し、裁判をめぐって与野党の駆け引きが活発化している。【11月28日 産経】
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違憲判決による与党解党はタイではこれまでも見られたことで、解党命令が出ても、新しい政党を受け皿にして政権を実質的に維持することは可能とも思われます。
ただ、そうは言っても、与党解党、首相失職という事態になれば、タクシン元首相派と反タクシン元首相派の対立に再度火がつく危険が十分に考えられます。

【再度の軍事クーデターも・・・】
更に、そうした混乱状態になれば、タイ国軍の動きが注目されます。
****アジアに広がる軍拡中毒****
・・・・多くのタイ政府当局者によれば、いまタイの政治ではアピシット・ウェチャチワ首相よりも保守強硬派のプラユット・チャンオーチャー陸軍司令官の影響力が強い。
プラユットは、軍が再びタイの政治で大きな役割を果たしていることを認めており、最近の発言でも軍事クーデターを起こす可能性を否定していない。
「政治に介入することは極力避けたい……と考えているが、国に秩序が取り戻されなければ、軍が統治のメカニズムとしての役割を担い、まず秩序回復の手助けをする必要がある」【12月1日号 Newsweek日本版】
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これまでも再三軍事クーデターを繰り返してきたタイ国軍ですが、前陸軍司令官は前回クーデターによるタクシン派一掃が失敗に終わり、政治介入には消極的でした。
しかし、現在のプラユット陸軍司令官は“強硬派”と見られています。政治混乱状態になれば、再度の軍事クーデターという事態も否定できません。

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アイルランド、ポルトガル、スペイン 破綻ドミノ防止に躍起の欧州経済

2010-11-27 19:47:56 | 国際情勢

(11月3日 アイルランド・ダブリン 学費値上げに抗議する学生 “flickr”より By endarowan
http://www.flickr.com/photos/_enda/5144118122/ )

【優等生・「ユーロ圏内のお手本」だったアイルランド】
5月にEUなどから1100億ユーロ(約12兆円)の支援を受けたギリシャに続いて、注目されていた財政危機に苦しむアイルランドが11月21日、EUとIMFに金融支援を要請し、とりあえずの危機をしのいだ欧州経済ですが、そのアイルランドの再建策の行方も不透明で、更にポルトガル・スペインへの警戒感が市場には広がっており、「破綻ドミノ」への大きな火種を残した状態が続いています。

アイルランドは法人税引き下げで外資を集め成功しましたがバブルで破綻、しかしその後の再建でも歳出削減や増税を実施し一時は財政再建の見本とも見られていましたが、景気が回復せず、金融支援に追い込まれました。

****破綻ドミノ EU厳戒 アイルランドに10兆円支援*****
財政難のアイルランドは21日夜、欧州連合(EU)に対し、金融支援を要請した。欧州メディアによると、支援は国際通貨基金(IMF)とあわせ800億~900億ユーロ(9兆2千億~10兆4千億円)にのぼる見通し。ギリシャに続いて2カ国目の救済となり、EUは財政危機の封じ込めに必死だ。(中略)アイルランドを早い段階で救済することで、財政危機がポルトガルやスペインなど他国に広がることを防ぎたい考えだ。
(中略)
ギリシャ支援から、わずか半年の救済劇。しかし、慢性的財政赤字で、共通通貨ユーロを使う通貨同盟のなかでも「劣等生」だったギリシャと、アイルランドの歩みはまったく異なる。
1980年代のアイルランドは、インフレや財政赤字に苦しむ存在だった。それが、1990年代後半からは一転して、「ケルトの虎」と呼ばれるようになった。
武器は、税制優遇だ。法人税を思い切って引き下げたことに、柔軟な労働市場、さらに英語を話す人材などの強みが加味された。IBM、インテル、さらにマイクロソフトなどの米国企業がアイルランドに進出した。いまや働く人の1割が外資関係だ。
そこまでは成功物語だった。しかし、2000年代に入ってバブルの芽が出てきた。オフィスや民間住宅の不
動産開発が進み、金融機関がそこに貸し込んだ。ユーロ圈に入ったことで、金利が欧州中央銀行で決められるようになり、個人も企業も、実力以上の低金利を享受した。肥大化した金融産業に、監督当局も十分な手を打てなかった。(中略)
アイルランドは財政再建でも優等生だった。借金してでも景気を刺激しようとする他国と違って、09年にはすでに国内総生産(GDP)の5%にあたる80億ユーロ(約9200億円)分の歳出削減や増税を実施し、一時、「ユーロ圏内のお手本」とまでいわれた。しかし、景気回復にはつながらなかった。(中略)

危機を早めたのは、ドイツの姿勢だ。
10月中旬、フランス北部ドービル。サルコジ大統領とメルケル独首相の首脳会談が開かれ、過剰な財政赤字を抱えるユーロ圏の国を今後どう扱うかが話し合われた。サルコジ氏は会談後の記者会見で「ユーロ圈の金融安定のための制度を永続させる」と語った。
このときは目立たなかったが、合意には市場を震え上がらせる内容が含まれていた。将来の加盟国救済をする場合には、債務繰り延べなどを通じて国債の投資家にも負担してもらう、というもので、メルケル氏が主張した。国だけで負担することにドイツ国内世論の反発は強く、配慮せざるを得なかった。
この合意は10月末のEU首脳会議も通った。合意はあくまで2013年以降の制度づくりについてだったが、市場は過剰に反応した。EUはギリシャ危機以来、「加盟国は救済しない」との方針を撒回し、「なんでも救済」に走った過去がある。
そして今度は、「投資家が損をすることはない」とのかねての文言がほごにされた。EUの判断の揺れが、国債の売りを誘った。
最大の標的が、今年の対GDP比の財政赤字が32%にふくらむアイルランドだったが、ほかにも及んだ。同じく財政再建が迫られるポルトガルの国債が売られ、10年物国債の金利が一時は7%に達した。(中略)
後手に回ったギリシャ支援に比べれば、アイルランド救済の決定は早かった。しかし、ユーロ体制の問題を根本からただす制度設計はまだこれからだ。【11月23日 朝日】
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【不透明な財政再建計画・予算案の行方】
アイルランドは24日、2014年までの大規模な財政再建計画を発表、12月の来年度予算案通過後の年明けにも議会を解散する考えを明らかにしています。
*****アイルランド、大規模な財政再建計画を発表 法人税は維持*****
財政難に陥っているアイルランドは24日、150億ユーロ(約1兆6700億円)規模の財政再建計画を発表した。2014年までの4年間で公共部門および年金の支出を削減するが、法人税率は維持する。
欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)から最大850億ユーロ(約9兆5000億円)の支援を受ける上で、再建計画の提示が求められていた。財政赤字をGDP比32%からEU規則に沿った3%以下に削減することを目指し、付加価値税(VAT)の税率を21%から23%へ段階的に引き上げる。ただし法人税は、外資系企業の誘致に有利な現行税率12.5%を維持する。最低賃金(時給)は1ユーロ引き下げて7.65ユーロ(約850円)とする。
ブライアン・カウエン(Brian Cowen)首相は再建計画について、「粉々になったわが国への信用を回復し、復活への道しるべとなるものだ」と述べた。【11月25日 AFP】
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しかし、野党はこの大きな痛みを伴う再建策に反対しており、アイルランド議会の与野党の議席差が僅かしかない状況から、厳しい緊縮財政措置を盛り込んだ2011年予算案が採択されるかどうかは不透明な情勢です。
26日に行われた下院補欠選挙でも与党は敗北。今後は、対応を明らかにしていない野党統一アイルランド党の動向、予算案賛成に消極的と見られている無所属議員の支持を与党が得られるかが焦点となっています。
予算案が否決されれば、アイルランド救済策も破綻、危機が拡大する恐れがあります。

金融支援については、予想より高めの金利も報道されており、予算案採択にも影響しそうです。
****アイルランド向け金融支援、金利は6─7%=RTEテレビ*****
イルランドが国際通貨基金(IMF)、欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)と協議している金融支援について、同国の公共放送RTEテレビは26日、融資の金利が予想を大幅に上回る6─7%となる公算が大きいと報じた。
RTEの記者は「6.7%が平均金利となるようだ。これは予想されていたよりもかなり高い」と述べた。また、一部の関係筋は6.4%、別の関係筋は6.7%としているという。
RTEによると、融資は9年間かけて返済され、アイルランドが支払う金利は年間85億ユーロと、政府の歳入の20%に達する。 
野党統一アイルランド党は6%を超える金利は受け入れられないとの認識を示した。同党のスポークスマンは「仮に金利がその水準なら高過ぎる。IMFの金利を上回る。ギリシャが支払う金利よりも高い」と述べた。
アイルランド財務省のコメントは得られていない。【11月27日 ロイター】
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もうひとつの焦点は、アイルランドが法人税引き上げに応じるかどうかという問題です。
アイルランド経済の根幹をなす低い法人税については、財政再建計画でも維持される形になっていますが、外資を呼び込みたい欧州各国からは、引き上げを求める声が強くあります。
フランスのサルコジ大統領は20日、財政難のアイルランドが欧州最低水準の法人税率(12.5%)を引き上げないことは「想像できない」と語り、財政再建には法人税増税が必要だとの考えを示しています。
外資に頼る経済構造になっているアイルランドは、法人税引き上げで外資が流失すると更に経済が悪化することも考えられます。

【防戦に必死のポルトガル・スペイン】
現在、市場の関心はポルトガル・スペインが支援に追い込まれるかどうかに注がれており、両国の国債は売り込まれています。
両国の首相・財務相やEU関係者は、支援の必要はないとの発表を相次いで行い、火消に躍起となっています。
ここ数日の記事見出しだけあげると、以下のような状況です。

ポルトガルとスペインの債務状況を懸念=カナダ財務相【11月26日 ロイター】
ポルトガル、欧州諸国から救済要請圧力との報道を否定【11月26日 ロイター】
ポルトガルは市場からの資金調達を継続=首相【11月27日 ロイター】
ポルトガル支援、協議する必要ない=スペイン経済・財務相【11月27日 ロイター】
バローゾ欧州委員長、ポルトガル支援めぐる報道を全面否定【11月27日 ロイター】
スペイン首相、外部支援の必要性を完全に否定【11月26日 ロイター】
年内のスペイン国債入札は中止せず=経済・財務相【11月27日 ロイター】

逆に言えば、両国首脳がこうした発言をせざるを得ないほど追い込まれているというようにも見えます。
スペインのサパテロ首相は「スペインにショートポジションをとっている人たちは過ちを犯すだろう」と述べ、スペインに否定的な投資家に警告していますが・・・。
こうしたなか、ポルトガル議会は歳出削減を盛り込んだ2011年予算を可決しました

****ポルトガル議会が2011年予算を可決****
ポルトガル議会は26日、財政赤字を大幅に削減するための歳出削減、付加価値税(VAT)増税を盛り込んだ2011年予算を可決した。
最大野党の社会民主党(PSD)が政府との合意に基づき投票を棄権するなか、少数与党の社会党政権のみが賛成票を投じた。
2011年予算では、公務員の給与を含む公的支出を削減し、VAT税率を2%ポイント引き上げ最高23%とする。
政府はこれらの緊縮財政措置により、2011年の財政赤字を対国内総生産(GDP)比で4.6%に削減することを目指す。10年の財政赤字は同7.3%となる見込み。(後略)【11月27日 ロイター】
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【困難な財政再建】
金融支援で一時的に急場をしのいでも、財政再建に成功するかは別問題です。
****アイルランド:財政危機 ユーロ危機、火種なお*****
ギリシャの09年の財政赤字は、国内総生産(GDP)比で13・6%だったが、EU統計局の精査の結果、15・4%に悪化した。この結果、10年の財政赤字は9・4%と、目標の8・1%を大幅に上回ることが確実となり、ギリシャ政府は追加的な歳出削減策を決める事態に追い込まれた。歳出へ大幅に切り込めば、成長が阻害され、GDP比の財政赤字がなかなか減らないジレンマを抱える。
アイルランドも同様の事態に陥る可能性が高い。政府は、14年までに財政赤字をEUの基準であるGDP比3%に減らす計画を策定中だが、4年間の平均成長率は1・75%に設定した。不動産価格が下げ止まらない中で、予定通りの再建達成は困難が予想される。

欧州各国に「支援疲れ」が出始めているのも気がかりだ。IMFのストロスカーン専務理事は19日、「欧州危機は終わっていない」と指摘した上で、「(欧州各国が)協力した動きがあまりに遅い。政策当局関係者に、汎欧州の視点が欠けている」と、欧州諸国の対応を厳しく批判した。
99年のユーロ発足以来、最大の危機を迎えた欧州諸国の知恵と実行力が問われている。【11月23日 毎日】
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【支援する側の懸念】
支援する側としては、もし返済ができなくなれば自国の税金で問題国を助けることになり、今後そうした事態を想定した不満が出てくることも予想されます。
****ギリシャ:支援金支払い、オーストリアが停止も 12月分、財務相が意向****
オーストリアのプレル財務相は16日、ギリシャの財政再建策が予定通り進んでいないことを理由に、12月に払い込むギリシャへの支援金支払いを一時停止する考えを示した。ロイター通信などによると、同財務相は同日のウィーンでの会合で「現時点では、支援金を承認する理由が見あたらない」と述べた。(後略)【11月17日 毎日】
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支援を受けるかどうか、受けても再建ができるか、支援する側の反発・・・欧州経済は問題山積です。
巨額の債務を抱える日本も他人事ではありません。

コメント

北朝鮮による延坪島砲撃  対応に苦慮する中国

2010-11-26 22:27:19 | 国際情勢

(延坪島への砲撃 “flickr”より By xiaohe1120
http://www.flickr.com/photos/55551735@N07/5200826351/ )

【北朝鮮の真意は?】
46人韓国兵が死亡した3月の韓国海軍哨戒艦「天安」の沈没事件に続いて起きた北朝鮮による韓国・延坪島への砲撃は、改めてこの国の無法ぶりを世界に印象付けています。
また先週末には、北朝鮮で2つ目のウラン濃縮施設が建設されていることが明らかになっており、多くの専門家は北朝鮮軍による3度目の核実験がいつ行われてもおかしくないと考えている状況です。

こうした北朝鮮の行動の真意については、いろんなことが言われています。
北朝鮮がこれまでアメリカや韓国の注意を引くために行ってきた威嚇と同じ「瀬戸際外交」・・・・、金正日から金正恩への後継体制を強固なものにするため、金正日は軍幹部への依存を強めており、その結果軍の強硬派が政権内で力を伸ばしている・・・、金正恩氏の軍に対する統制力強化のための行為・・・、国際社会に自国を「核大国」と認知させた上で、核兵器・技術の不拡散などを約束し、その見返りとして米国と平和条約を結ぶ「C計画」の一環・・・・、南北間の緊張を再び極度に高めることは、飢餓に苦しむ北朝鮮国民を引き締める効果もある・・・等々。
いずれにしても、大胆で理解困難な行動です。これだけのことを行っても、現在の北朝鮮・韓国・中国・アメリカの基本的枠組みは崩れないとの自信でしょうか。

【経済優先の韓国、冷静な対応】
当然韓国側には北朝鮮の挑発に激しく反発する声はありますし、李明博(イ・ミョンバク)大統領も砲撃の直後にテレビ電話会議で将軍たちを召集し、武力報復を検討したとも報じられています。李明博大統領は「何倍でもやり返せ」と指示したとも。
しかし結局は、大統領は戦闘が拡大しないよう指示しており(国内の弱腰批判から、その後「そんな指示はしていない」としています)、韓国社会も、反日問題などでは激高しやすい国民性にもかかわらず、基本的には非常に冷静な対応を維持しています。
北朝鮮内の開城(ケソン)工業団地に764人、金剛山に14人の韓国人が在留しており、南北の緊張がさらに高まれば、事実上の「人質」ともなりかねないという問題もありますが、基本的には紛争拡大が現在の経済成長の足かせになるのを嫌っているということでしょう。

【中国:「血で固めた友誼(ゆうぎ)」と本音】
注目されるのは、公式には朝鮮戦争を共に戦った「血で固めた友誼(ゆうぎ)」の関係として、また、実質的にはエネルギー問題で北朝鮮の生命線を握っており、北朝鮮の後ろ盾、後見人的立場とみなされている中国の対応です。
事件当日の中国外務省報道官は「(南北双方が)平和に貢献するためにさらに行動すべきだ」と事態の鎮静化を期待するコメントを出していますが、本音では核兵器を保有したうえに、暴挙を繰り返す北朝鮮に相当苛立ちがあるのではないでしょうか。

北朝鮮に影響力を持つ唯一の国という立場は「北朝鮮カード」として、アメリカなどとの交渉に生かせますが、それも実際に北朝鮮をコントロールできればの話です。実際のところは、北朝鮮はやりたい放題で、その度に国際社会から中国へは「北朝鮮を何とかしろ」との圧力がかかります。
なかなか中国のコントロールにも従順とは言い難い北朝鮮ですが、当然ながら中国としては北朝鮮の崩壊は困ります。難民が中国に押し寄せたり、アメリカの影響力を受ける韓国主導の統一政権と国境を接するようになるのは是非とも避けたいところです。
結果的に北朝鮮の行動を支持したり、容認することになると、国際社会からは北朝鮮と同一視されたり、その北への影響力の不足をさらすことにもなり、国際社会で名誉ある地位を占めたいと願う中国にとっては、北朝鮮は「お荷物」的な存在ではないでしょうか。最近、強硬姿勢の目立つ中国ですが、さすがに北朝鮮と比べるとまだ随分穏健に見えます。

今回事件ではアメリカで中国への批判が高まっています
****強まる中国批判=対北対応で米議会****
北朝鮮が韓国の延坪島に砲撃を加えるなど、挑発行為を強めていることに対し、米議会では北朝鮮だけでなく、同国を支援している中国を批判する声が強まっている。
共和党の重鎮、マケイン上院議員は23日の声明で、砲撃事件は韓国哨戒艦沈没事件などとともに「北朝鮮の長年にわたる敵対行為の一環だ」と指摘。同国に最も強い影響力を持つ中国が、地域の安全と安定のために「北朝鮮の無謀な行為を変えさせるため、より直接的かつ責任ある役割」を果たすよう求めている。【11月24日 時事】
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中国はこうした国際批判に苦慮しつつ、南北対立に巻き込まれて厳しい立場に追い込まれることを警戒し、何とか穏便に済ませたい意向です。
中国の楊潔チ外相が、26~27日に予定していた韓国訪問を突然延期しましたが、北朝鮮を非難することも、支持することもできない中国としては深入りを避けたい・・・というところでしょう。

****中国、外圧に苦悩=北への影響力に世界の期待―北朝鮮砲撃****
韓国領土を攻撃した北朝鮮を抑えるため、日米韓首脳は24日、中国に対し「北朝鮮への働き掛けを強めるべきだ」と口をそろえて迫った。しかし、中国には「中朝関係安定が基本」(外交関係者)という大原則がある。国際社会の期待に応えられないジレンマを抱え、しばらく外圧に苦しみそうだ。
共産党機関紙・人民日報系の国際問題紙・環球時報は24日、社説で「今回の砲撃は朝鮮と韓国のいずれにもメリットはない。双方が敗者だ」と主張。「けんか両成敗」で幕引きにしたい焦りもにじむ。
3月の哨戒艦事件と同様、北朝鮮非難は慎重に避ける社説は、朝鮮半島有事の際には「難民の第1陣は中国に押し寄せる」とし、「半島安定に関心を寄せる立場は韓国と同じで、半島から(比較的)離れた日米とは違う」と指摘した。【11月24日 時事】
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****北、韓国を砲撃 中国、不快感と不信感 遠のいた「6カ国」再開****
北朝鮮が韓国の延坪島に砲撃、死傷者が出た事件について、中国政府は重大な関心を寄せ、事態の推移を見守っているとみられる。ウラン濃縮施設の公開に続く北朝鮮の軍事的挑発によって、朝鮮半島の緊張が激化、6カ国協議の再開に影響することを中国は警戒しており、北朝鮮、韓国双方に自制を求めていく方針だ。(中略)

北朝鮮の相次ぐ軍事挑発に中国が不快感と不信感を募らせているのは疑いない。ウラン濃縮施設の公開に続く今回の事件で、朝鮮半島の緊張が増し、6カ国協議の早期再開は極めて困難になったからだ。
中国の専門家筋はかねて、「先軍政治」を体制維持の要にしている北朝鮮が核を放棄することはないとし、6カ国協議に懐疑的な見方をしてきた。同筋はさらに、北朝鮮が金正日氏の三男、正恩氏への権力移行期にあるため、軍の発言力が増し、核開発を加速する可能性を指摘していた。
先の中朝首脳会談で、中国側は北朝鮮の後継体制への支持と支援を表明。さらに10月下旬の中国義勇軍の朝鮮戦争参戦60周年では、次期共産党総書記の地位を確定的にした習近平中央軍事委副主席が、手を携え「正義の戦争」に勝利した中朝の「血で固めた友誼(ゆうぎ)」を称賛する演説をした。
北朝鮮は最大の支援国である中国との関係緊密化をバックに、体制維持に自信を持っているかに見える。しかし、それが核開発の加速など軍事挑発を生んでいるとすれば、中国にとっては歓迎すべき事態ではない。中国には北の「暴走」を阻止する国際的な期待があり、それにこたえる責任もあるからだ。【11月24日 産経】
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中朝の微妙な関係については、以下のフィナンシャル・タイムズの記事がよく説明しています。
****中国と北朝鮮、ぎこちない同盟関係をつなぐもの*****
バラク・オバマがアジアを歴訪していた今月初め、米大統領が各国で次から次へと歓迎されているのを見て、ある中国政府関係者は寂し気にこう語った。「世界中を見まわせば、アメリカは強固な同盟関係をいくつも築いている。うちには一つしかない」。
しかもそのたった一つの同盟関係は、何てぎこちないものか。中国政府は数日前から、北朝鮮との緊密な関係に関してまたしても矢面に立たされている。北朝鮮の独裁体制は中国の援助と政治的庇護によって保たれているのだと、あちこちから批判されているのだ。

北朝鮮は23日、韓国の島を砲撃した。北朝鮮が高度なウラン濃縮施設を開発したようだという情報と合わせて、世界各国が声高に中国の対応を求めている。中国は北朝鮮にもっと圧力をかけるよう、世界中が求めているのだ。
北朝鮮が何か挑発行為に出るたびに、中国政府の無力ぶりが強調されるようだ。北朝鮮は本当に、実に特異な国だ。しょっちゅう中国に恥をかかせているのに中国から叱られずに済む、唯一の国と言える。

中国の対北朝鮮政策は各方面から不快に思われている。中国国内でも評判が悪いのはある意味で当然かもしれない。中国の北朝鮮政策は、中国国民の間でも国家エリートの間でも、よく思われていないのだ。やや保守的なブログでさえ、24日には北朝鮮の動きをさかんに非難し見下していた。軍事問題を主に扱うサイト「鉄血(Tiexue)」でも、「こんな無謀な行動をいつまで容認し続けるのか」という書き込みがあった。別のウエブサイトでも「北朝鮮が、今度も中国に助けてもらおうと思ってないといいのだが。まるで門のところに居座る狂犬だ。気の休まる時もない」という投稿があった。

中国の外交専門家たちも、北朝鮮との緊密な関係がいかに問題だらけか、競うようにして次々と並べ立てている。専門家たちは、中国が北朝鮮と同盟関係にあるせいで、中国は責任感ある世界市民だとアピールしてもなかなかうまくいかないのだと指摘。来年1月に予定される胡錦濤国家主席の訪米を前に、対米関係を改善しておくのがますます難しくなったとも主張している。
外交専門家たちはさらに言う。中国と韓国の経済的なつながりは深まっているのに、中国と北朝鮮の同盟関係のせいで、中韓関係にヒビが入ってしまっていると。北朝鮮の行動は加えて、日本の軍備強化や核保有さえ主張する日本国内の勢力を勢いづけているとも。
北京外国語大学のシェ・タオ氏は「北朝鮮が予測可能な行動をとるという保障がないなら、同盟を続ける意味がない」と言う。

北朝鮮との関係を懸念する声は高まっているが、中国政府が北朝鮮政府への支援を減らすとはほとんど誰も思っていない。金正日体制が崩壊すれば大量の難民が大挙して中国に流れ込むし、独立国・北朝鮮は駐韓米軍と中国との間の緩衝地帯になっているというのが、中国政府における主流意見だ。(中略)

中国政府は対北政策を見直すよりも、現状をうまく乗り切ろうとしているようだ。今年夏と違って中国は、韓国を怒らせないように、米韓合同演習にさほど反対していない。しかしその一方で中国政府はこれまでのところ、北朝鮮による暴力行為をはっきりと非難はしていないし、2006年の核実験を受けて実施したエネルギー資源輸出制限のような制裁を検討している様子はない。

もし北朝鮮が再び核実験を行えば、中国国内でも再び制裁措置の再検討が求められるだろう。しかし中国は今のところは、金正日から息子への権力継承を裏書きすることに決めたのだ。
金正恩が平壌の軍事パレードで国全体にお披露目された先月、ひな壇で父・金正日の隣に立ってニコニコ笑っていたのは、中国共産党の最高幹部のひとり、周永康だった。ぎこちない同盟相手であろうとなかろうと、中国政府が金王朝の側に付いているのは間違いない。【フィナンシャル・タイムズ 11月24日】
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なお、北朝鮮の金正日総書記も中国を嫌っているそうです。上から目線で何かと注文をつけられれば当然でしょう。

アメリカ原子力空母も参加しての米韓両国による黄海での海軍合同演習に、前回激しく反発して計画を変更させた中国ですが、今回は「関係各国は情勢の緩和と朝鮮半島の平和と安定に役立つことを多くなすべきだ」と牽制するにとどめています。26日の中国外務省も、「中国の排他的経済水域(EEZ)内での軍事演習に反対する」と発表。これまで黄海での演習に一貫して反対してきましたが、EEZ内での演習に反対することで国内強硬派に配慮しつつ、事実上、演習を容認したとみられています。

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イラン  ウラン濃縮施設への「サイバー攻撃」?

2010-11-24 19:57:01 | 国際情勢

(猫も杓子もサイバー攻撃 “flickr”より By Glo Stick
http://www.flickr.com/photos/glo_stick/3885104679/ )

【「スタックスネット」】
「サイバー攻撃」「サイバーテロ」という言葉は最近よく目にしますが、素人にはその実態はよくわかりません。
今日の「イランのウラン濃縮施設のすべての遠心分離機がコンピュータウイルスによって停止した可能性も」という話題も、恐るべき真実なのか、それとも眉唾ものの話なのか・・・?

****イラン:遠心分離機が一時停止…IAEA報告書****
核兵器開発の疑いが持たれているイランで今月中旬、ウラン濃縮施設のすべての遠心分離機が一時的に停止していたことが23日、国際原子力機関(IAEA)の報告書で明らかになった。原因などは明らかにされていないが、専門家の間では、新種のコンピュータウイルスによる「サイバー攻撃」説も浮上している。
 ◇「サイバー攻撃」説も
毎日新聞が入手したイラン核問題に関する天野之弥IAEA事務局長の報告書によると、イラン中部ナタンツのウラン濃縮施設で今月16日、約8400台の遠心分離機がすべて停止していることが確認された。イランは22日、同日までに約4600台が再稼働したとIAEAに報告した。報告書は停止期間や原因には触れていない。
同施設では近年、遠心分離機の稼働率の低下が目立っていた。09年2月は約7割だったが、今年8月末までに約4割に低迷。今月5日に6割弱の稼働が確認された後、一時停止し、再稼働した模様だ。
イランの遠心分離機の主力は「P1(IR1)型」と呼ばれる旧型機。超高速の回転軸はわずかなズレなどで故障しやすく、国連安保理制裁下の同国にとって必要部品の調達や開発は困難だ。

だが、こうした技術的な問題だけでなく、「スタックスネット」と呼ばれるウイルスの標的になっている疑いが浮上。特定の産業制御システムに狙いを定めることができるウイルスにより、遠心分離機の回転速度が操られ、故障に追い込まれているとの見方だ。極めて高度なプログラムや標的を限定した特殊性から、国家レベルの関与も疑われる。
しかし、イランのサレヒ原子力庁長官は23日、ウイルス被害で濃縮施設が停止したとの報道を全面否定。今年9月にも、イラン南部のブシェール原発にウイルス被害が出たとの報道があったが、この際も否定している。(後略)【11月24日 毎日】
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【イスラエル当局者は最近、関与などについて尋ねられると、笑顔を見せているという】
イランの原子力施設と言えば、イスラエルが空爆・破壊したがっていますが、今回「サイバー攻撃?」にもイスラエルの関与を疑う向きもあるとか。

****ウイルス、イラン核施設標的説に現実味 米社明らかに*****
産業制御システムを乗っ取るウイルス「スタクスネット」が、ウラン濃縮などに使われる遠心分離器を誤作動させるのに最適な設計になっていることがわかった。スタクスネットの感染は、イランに集中しており、同国内の核施設が標的との説が現実味を帯びることになる。
米セキュリティーソフト大手シマンテックが公式ブログで明らかにした。同社によると、スタクスネットは、超高速回転するモーターの回転数を制御する装置の回転数を急に変動させることで、遠心分離器を誤作動させる設計になっていた。
この種の制御装置の用途は、核燃料や核兵器の製造のためのウラン濃縮装置などに限られる。また、スタクスネットは、フィンランドまたはイランに本社があるメーカー2社の製品だけに影響することもわかった。

スタクスネットの感染はイランなどに集中しており、プログラムにはイランへの警告とも受け取れる旧約聖書の登場人物を暗示する単語が書き込まれていることも判明。イランの核開発を恐れるイスラエルの関与を疑う見方があるが、19日付米紙ニューヨーク・タイムズによると、イスラエル当局者は最近、関与などについて尋ねられると、笑顔を見せているという。【11月20日 朝日】
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【少なくとも5か国が「サイバー兵器」を所持】
まあ、本当のところはよくわからない話です。
今回は北朝鮮はオーソドックスに砲弾を撃ち込んでいますが、今や世界では「サイバー軍拡競争」が進行しているそうです。

****「サイバー軍拡競争」が加熱、米マカフィーCEOが警告****
世界20か国余りが「サイバー軍拡競争」に参加していて、インターネット上での「戦闘」ぼっ発の懸念が高まりつつある――。
米コンピューター・セキュリティ企業マカフィーのデイブ・デウォルト最高経営責任者(CEO)兼社長が、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)出席のため訪れているスイス・ダボスで、AFPの取材に応じた。

■5か国が「サイバー兵器」装備か
デウォルトCEOによると、各国政府はコンピューター・システム上では伝統的に守備的な立場を取りがちだったが、最近は姿勢を転換しているという。「より攻撃的な態度に移行しつつあることは明らかだ」
サイバースペースで展開されている「サイバー軍拡競争」の参加国のうち、マカフィーの調査で少なくとも5か国が「サイバー兵器」を所持していることが確認された。米国、中国、ロシア、イスラエル、フランスだとしている。
「現在、20か国以上の政府がサイバー戦争やサイバー諜報などに備え、武装している。サイバースペースで軍拡競争が起きている」

■急増する攻撃、損失は1日5億円超
マカフィーが過去1年で新たに発見したスパイウエア、ウイルスソフトといった悪意のあるソフトウエアは、前年に比べ5倍も増えたという。これは、過去5年間に発見された数より多いとデウォルトCEOは話す。
マカフィーが企業のIT・セキュリティー責任者約600人を対象に行った最新調査では、自社のネットインフラが受けたサイバー攻撃に他国政府が関与していると考えているとの回答は60%に上った。最も大きな脅威としては36%が米国、33%が中国を挙げた。
また、世界中でサイバー攻撃による損失は日額630万ドル(約5億7000万円)、年にして17億5000万ドル(約1573億円)に上るとの試算も明らかになった。
サイバースパイの攻撃先としては、コンピューター管理が進んでいる発電所や石油精製所などが上位に入ったという。

サイバー戦争について警鐘を鳴らすのは、デウォルトCEOが初めてではない。前年10月には、国連の専門機関、国際電気通信連合(ITU)のハマドゥーン・トゥレ事務総局長が、次の世界大戦はサイバースペースで起きるかもしれないと警告している。【1月29日 AFP】
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【米中:サイバー司令部創設】
アメリカ、中国などはサイバー司令部を立ち上げて「サイバー攻撃」に対する防衛(あるいは、「サイバー攻撃」能力の拡充)に努めています。

****米国:サイバー司令部が始動 政府機関のネット空間守る*****
米国防総省は5月21日、敵国やハッカーのコンピューター侵入に対抗する「サイバー司令部」を同日から始動すると発表した。司令部は東部メリーランド州のフォートミード陸軍基地に置かれ、各軍を束ねて米政府機関のネット空間を守るのが主任務となる。
米戦略軍(ネブラスカ州)の傘下に置かれ、約1000人が所属。これまで各軍がばらばらに実施してきたサイバー対策を統合して対策強化を図る。米政府はサイバー攻撃対策を安全保障上の課題と位置付けている。
ゲーツ国防長官は「サイバー空間への依存が高まる中、この新しい司令部はサイバー攻撃に対する脆弱(ぜいじゃく)さを改善し、拡大する脅威に対応するのが狙いだ」と強調した。【5月23日 毎日】
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****中国もサイバー司令部 総参謀部直属、ネット対応強化*****
政府や軍事機関へのサイバーテロ攻撃などに備えるため、中国人民解放軍が7月中旬に発足させた「情報保障基地」が国内外で話題になっている。軍全体の作戦を担当する総参謀部に直属するこの特殊部隊は、軍内のインターネット戦略を統一して管理、指揮する中国版サイバー司令部的な存在といえる。軍のネット対応強化は国内世論から根強い支持を受けているが「産業秘密がこれまで以上に狙われるのでは」と心配する外国企業も出てきそうだ。

中国軍の機関紙、「解放軍報」によると、「軍の情報管理を強化し、国防建設の近代化に寄与する」ことを目的とする「情報保障基地」の創設式が7月19日に北京で行われ、陳炳徳総参謀長ら軍首脳が出席した。中国の官製メディアが軍の特殊部隊の設立を公表することは珍しく、米国が昨年6月に創設したサイバー司令部を意識し、ネット強化の方針を国内外にアピールする狙いがあるとみられる。米国のサイバー司令部が発足した際、米軍高官が「中国のハッカーの脅威が理由」と明言したため、中国のネットユーザーが猛反発。国際情報紙「環球時報」がその直後に行った世論調査では、「中国軍も対抗するネット部門を作るべきだ」と主張した人は約94%にも達した。

また、香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」によると、同基地の発足に先立ち、中国軍は6月中旬からネットにおける情報発信を全面禁止する新たな規則を導入した。軍事情報の漏洩(ろうえい)を防ぐため、230万の全軍人を対象に、休日や一時帰省中を含め、ホームページの開設や、ブログ、チャットの使用を禁止し、海外サイトへのアクセスも原則的に認めないという厳しい内容だ。中国軍の初の空母建設に関する情報が数年前からネットに流出し、複数の現役軍幹部がネットでの空母建設に関する討論に参加したことなどが問題視されたとみられる。
しかし、今回のサイバー司令部の設立で、「外国へのサイバー攻撃の手口がますます巧妙になるのでは」と心配する声も外国企業などからあがる可能性が出ている。【7月31日 産経】
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非公開ビデオが簡単に流失してしまう日本とは、情報管理に対する認識に大分差があるようです。

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カンボジア  水祭りの惨事 進まないカンボジア特別法廷

2010-11-23 12:35:52 | 災害

(プノンペン 橋の上でパニック状態になり押し合う群衆 “flickr”より By NotiZulia
http://www.flickr.com/photos/notizulia/5199160531/ )

【「ポル・ポト派時代以来の最悪の悲劇だ」】
カンボジアから大きな事故のニュース。
****見物客ら345人死亡=「水祭り」でパニック―カンボジア****
AFP通信によると、カンボジアの首都プノンペンで22日夜、年中行事「水祭り」に集まった見物客がメコン川に架かる橋の上で折り重なるように倒れ、少なくとも345人が死亡、400人以上が負傷した。外国人が巻き込まれたとの情報はまだない。
フン・セン首相がテレビを通じて発表、「(人口の4分の1が死亡した)ポル・ポト派時代以来の最悪の悲劇だ」と述べ、25日を追悼の日にするとした。事故の原因究明のための委員会も立ち上げる。
詳しい事故原因は不明だが、AFPは政府報道官の話として、犠牲者のほとんどは窒息と内臓の損傷が死因だと伝えた。報道官は、見物客の間に橋が壊れそうだとのうわさが広まり、逃げ場のない混雑した場所でパニックになったとの見方を示した。
目撃者によると、市街地と川の中州ダイヤモンド島を結ぶ狭い橋の上で、見物客の中で押し合いが始まった。川に飛び込む人も多かったという。【11月23日 時事】 
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プノンペンはトンレサップ湖からのトンレサップ川とメコン本流が合流する地点にあり、水祭りは元来、メコンの与えてくれる恩恵に感謝を込め、陰暦の満月に合わせて開催されます。
トンレサップ川沿いのウォーターフロントは、外国人観光客を相手にするレストラン、バー、ホテル、マッサージ店などが立ち並び、普段は欧米人が溢れているエリアですが、水祭りの期間にはカンボジア全土から300万人もの人々がプノンペンに集まり、このエリアも人々で埋め尽くされます。

昼間はトンレサップ川でカラフルなドラゴンボートのレースが行われ、夜になると王国の紋章やハヌマン、ナーガなどを無数の電球で形どった大きな浮船が色鮮やかに人々の目を楽しませてくれる祭りです。


(救助される犠牲者 “flickr”より By NotiZulia
http://www.flickr.com/photos/notizulia/5199754760/ )

【カンボジア特別法廷の幕引き】
今回事故は確かに大惨事ではありますが、人口の4分の1が死亡したポル・ポト派時代の大虐殺には比べようもありません。
そのポル・ポト時代の責任者を裁くカンボジア特別法廷の審議については、7月、ツールスレン政治犯収容所での犯罪を問われたカン・ケク・イウ元収容所長(67)(通称ドッチ)に実刑判決が言い渡されました。
ただ、彼は一応罪を認めていますが、立場的には政権の末端にあった人物です。
政権中枢にあった政権ナンバー2だったヌオン・チア元人民代表議会議長(84)、イエン・サリ元副首相(84)、キュー・サムファン元幹部会議長(79)、元副首相の妻イエン・チリト元社会問題相(78)については、本人らが虐殺への関与を否定し、裁判には非協力的な姿勢を貫いており、審議は進展していません。
ポル・ポト自身は死亡している現在、彼ら4名の最高幹部の審議は、なぜあのような惨劇が起こったのかを明らかにするうえでどうしても必要です。

本来であれば、ポル・ポト時代の惨劇の責任者は当然ながら彼らに限定されるはなしではなく、その周辺にいた多くの者が関与しています。
責任者の範囲を広げるべきとの意見は国際的には強くありますが、フン・セン首相は現在拘束している5名で幕引きを図りたい意向と伝えられています。

****首相がポル・ポト裁判の幕引きを急ぐ訳****
もうこれ以上、ポル・ポト派は裁かない----カンボジアのフン・セン首相は10月末、同国を訪れた国連の浦基文事務総長に対し、元ポル・ポト派の裁判を来年で終わらせると告げた。
カンボジアでは、ポル・ポト政権時代の75~79年に国民200万人が虐殺された。国連とカンボジア政府が裁判権を共有する特別法廷が設置され、政権元幹部らが裁かれている。今年7月には政治犯収容所の元所長に実刑判決が下された。ほかに起訴されている元最高幹部4人の公判は来年始まる予定だ。
この5人以外の元ポル・ポト派も起訴すべきだという動きが高まっているが、フン・センは否定的だ。告発される恐れがある者の多くは、彼の友人や元同志。フン・センは保身に走る仲間に自分の過去を暴かれるのが心配なのだろう。
裁判はテレビ中継されているが、家に電気が通っていなかったり関心がなかったりで見ている人は少ない。国民にとっては、自分が生まれる前の政権に正義を下すことより、口々の生活のほうが大事なのだろう。だが、あの「暗黒の時代」から目を背けていてはカンボジアの未来は開けない。【11月17日号 Newsweek】
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フン・セン首相自身がもとはクメール・ルージュに属していた過去がありますので、あまり過去に触れたくないという気持ちはあるのでしょう。かつてのポル・ポト派兵士がまだ力を温存している地域もありますので、それを刺激したくない事情もあるでしょう。
それだけでなく、“「暗黒の時代」から目を背けていてはカンボジアの未来は開けない”との考えの一方で、一定年齢以上の国民の殆んどが惨劇に巻き込まれ、家族に多くの犠牲者を抱えているなかで、あまりこの問題にかかわっていては社会全体が不安定化し、先に進めない・・・との事情も分からなくはありません。生き残った人間には今日と明日が問題です。
どうするかは、カンボジア国民が決定するべき問題ですが、現在のカンボジアの政治事情からすれば、フン・セン首相の意向が大きく影響しそうです。


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中国で急速に進む先端技術とその問題点

2010-11-22 20:15:48 | 国際情勢

(こういうシーンを目にするのも、そんな遠くはないかも・・・ 問題も多々ありますが、その「勢い」が驚異的なのも事実です。 “flickr”より By mcgill112886
http://www.flickr.com/photos/30401414@N04/2909364745/ )

【「中国が科学研究分野で世界レベルに達する日は我々の想像よりも早く訪れるだろう」】
スーパーコンピューターの性能番付を年2回発表している「TOP500」が公開した最新のランキングで、中国・天津スパコンセンターの「天河1A」がトップの座を獲得したことが話題になりました。
第3位に中国曙光公司開発の「星雲」もはいっており、中国製のスパコンは500位圏内に41台。その総数でアメリカ(275台)に次ぐ2位となっています。

一昔前の中国と言えば、低賃金労働を武器にした低コスト生産のイメージでしたが、着実に技術的に進歩をとげ、先端技術の分野でもハイスピードで欧米・日本に迫りつつあります。
ただ、一部の核心となる技術や部品は依然として輸入に頼っており、「創造性」などの面でまだ問題があることも指摘されています。

****中国の科学技術は米・日・欧に追いつきつつある―ユネスコ*****
2010年11月19日、ユネスコはこのほど発表したレポートで、中国は過去5~10年の間に学術研究、工業発展、イノベーション、科学研究などの分野で米国、日本、EU(欧州連合)の「3強」に追いつきつつあると評した。シンガポール紙・聯合早報が伝えた。

同レポートでは、「中国は過去10年間に研究開発費、論文発表数、人材育成のいずれの分野においても著しい進歩を示している」と高く評価。ただし、研究者の人数、論文の質、特許申請などの分野においては欧米の先進国とはまだ一定の距離が存在すると指摘した。
レポートの作者、オランダ・マーストリヒト大学のリュック・ソエテ(Luc Soete)国際経済学教授は、「中国の科学研究分野には創造性と影響力が足りない。大量のハイテク製品は生産できるが、一部の核心となる技術や部品は依然として輸入に頼っている」と指摘。「大部分の中国企業はまだ技術の最先端レベルに達していないだけでなく、関連の知的財産権も獲得しておらず、この距離を埋めるためにはまだ時間がかかるだろう」との見方を示した。
一方で、ソエテ教授は「中国の研究者とエンジニアの人数は1~2年のうちに米国を抜いて世界一になり、中国が科学研究分野で世界レベルに達する日は我々の想像よりも早く訪れるだろう」と予測している。(後略)【11月21日 Record China】
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【宇宙ステーション、大型旅客機、戦闘機、高速鉄道】スーパーコンピューター以外でも、最近、中国技術に関する話題は多く目にします。
*****中国:宇宙ステーション実験機11年打ち上げ*****
中国初の国産有人宇宙ステーションの実験機「天宮1号」が来年中ごろに打ち上げられる。珠海で開催中の航空・宇宙ショーで担当者が明らかにした。中国は20年までに長期滞在可能な宇宙ステーションを完成させ、将来は月面着陸を目指している。米露に続く有人宇宙プロジェクトを国威発揚につなげていく思惑がありそうだ。(中略)
中国は03年に初の国産有人宇宙船「神舟5号」の打ち上げと回収に成功。来年中ごろに天宮1号を、同年後半に神舟8号を無人で打ち上げ、宇宙空間でドッキングさせる。さらに12年には神舟9号(無人)、同10号(有人)を打ち上げ、ドッキング技術の完成を目指すという。(後略)【11月17日 毎日】
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****エアバス、ボーイングに続け 中国、大型旅客機に本腰*****
エアバスの「A」、ボーイングの「B」、そしてチャイナの「C」――。中国は悲願の大型旅客機で、いつの日か三つどもえを夢みる。
中国が自主開発中の旅客機「C919」(約160人乗り)。14年に初飛行、16年に運航を目指す。16日から広東省珠海で始まった航空ショーで前半分の試作機が展示され、中国の航空会社数社から計100機を早々と受注した。
手がけたのは「中国商用飛行機」。米マグドネル・ダグラスと協力して旅客機を生産していた上海飛行機製造を前身とし、国をあげて旅客機産業に乗り出すために設立された国策会社だ。「国産機の購入優遇策を検討する」(中国民間航空局)方針で、今後20年以内に世界で累計2千機の販売を見込む。
中国共産党・政府は大型旅客機の開発を「重大な戦略」(胡錦濤〈フー・チンタオ〉国家主席)と位置づける。ハイテク技術の塊であり、軍用技術とも一体だからだ。部品は米ゼネラル・エレクトリック(GE)など多くの外資系企業が供給しており、国産化率向上を目指す。(後略)【11月17日 朝日】
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*****中国:新多用途戦闘機「梟竜」が登場 珠海航空ショーで*****
北東アジア最大の航空ショー「中国国際航空宇宙博覧会」が16日、広東省珠海市で開幕。中国がパキスタンと共同開発し、アフリカ諸国などに売り込む多用途戦闘機「梟竜(きょうりゅう)」が中国国内で初登場した。
「梟竜」は03年に初飛行に成功。パキスタンが中国から150機を購入することを決めた。価格は1機約1500万米ドル(約12億円)とほぼ同性能の米戦闘機F16の約3分の1。中国は低価格を武器にしてスーダンやジンバブエ、タンザニア、アゼルバイジャンなどと契約、または交渉中とされる。(中略)
中国は、世界の戦闘機輸出国の中で米露に次ぐ世界3位に浮上。しかし、梟竜にはロシア製戦闘機ミグ29の技術とロシア製エンジンが使われており、技術を供与して追い上げられるロシア側の反発を引き起こしている。【11月16日 毎日】
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****時速500キロ列車、中国が開発着手 実現なら世界最速*****
新華社通信によると、中国が時速500キロ以上のスピードで走る超高速列車の研究開発を始めた。実際に乗客を運ぶ列車が実現すれば、営業運転で中国の高速鉄道がもつ世界最高の同350キロを大幅に上回るスーパー列車が登場することになる。
中国鉄道省の何華武・首席エンジニアが18日、湖北省であった国際フォーラムで明らかにした。今年9月、中国が独自開発したとしている次世代高速列車が、上海―杭州(浙江省)間の試運転で時速416.6キロを達成。同氏によると、さらに性能を高めた時速400~500キロで走る超高速列車の開発がすでに始まっており、500キロ以上で走った際の振動制御の研究などが進んでいる。
中国の高速列車は、もともと日本や欧州の技術移転を受けて開発された。9月末現在で同国内の高速鉄道網は7千キロを超え、2020年までに日本の新幹線網の8倍近い1万6千キロを整備する計画がある。海外輸出にも力を入れており、超高速列車の開発で中国の鉄道技術の高さをアピールする狙いもありそうだ。【10月21日 朝日】
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【「中国がイノベーションの問題に直面している」】
「創造性」に欠ける、他国技術の模倣云々は、ある程度はどこの国も発展段階でたどる過程であり、日本も同様の批判を過去受けてきました。(現在それが克服されているのかはわかりませんが)
ただ、中国の場合、戦闘機や高速鉄道にしても、また、社会に溢れるコピー商品にしても、手っ取り早く他人の技術を安易に利用する風潮が強く、知的財産権が軽視され、結果的に技術革新の障害になる傾向も窺えます。

教育体制においても、創造的な業績を残す人材育成につながっていないとの指摘があります。
****中国、教育体制が超大国としての成長スピードに追いついていない―米メディア*****
2010年11月16日、米ABCニュースは「中国の教育体制は超大国としての成長スピードに追いつけるか?」と題した記事を掲載した。中国政府は革新型の人材を求めているが、現行の教育体制の下では優秀な人材が生まれておらず、教育体制の転換に迫られていると報じた。17日付けで環球網が伝えた。
中国では今年約950万人が大学入試に参加した。毎年成績の優秀な学生が話題になるが、成績優秀な学生がその後ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグ(Facebookの創始者)になることはほとんどない。

1977年から2008年までの中国の大学入試で特に優秀な成績を上げた約1000人に対し、中国メディアが追跡調査を行ったところ、学術・経済あるいは政治分野で突出した業績を残した人物は1人もいなかったという結果が出た。専門家は「中国がイノベーションの問題に直面していることを証明している」と評している。
また、米ミシガン州立大学で中国教育体制を研究する専門家ジャオ・ヨン氏は、「中国政府はイノベーションのセンスを備えた多種多様の人材を求めているが、教育体制がこうした人材の誕生を制約している」と分析する。
中国の学生は、優秀な成績を上げさえすれば良い大学に入れる。しかし、その後、経済活動の中で成功するためには試験の優秀な成績以外の何かが必要とされる。ジャオ氏は「中国のような新興国家では、経済活動においては高級人材ではなく、安い労働力が求められる。しかし今後は、人口大国からマンパワーの資源大国に転換しなければならない」と指摘する。(後略)【11月21日 Record China】
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問題は中国だけではありません。日本は高度な技術力を誇ってきましたが、今や上記のような中国、更には韓国の激しい追い上げを受けて、その地位が大きく揺らいでいるのは周知のところです。

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アフガニスタン  NATO首脳会議で出口戦略「行程表」とロシアの協力 戦車と夜間民家急襲

2010-11-21 18:38:24 | 国際情勢

(旧ソ連軍が残していった戦車で遊ぶアフガニスタンの子供 “flickr”より By Robert W. Kranz
http://www.flickr.com/photos/21273796@N05/2069863544/ )

【「予定された時期よりも治安状況に基づく」】
リスボンで開催されたNATO首脳会議は、アフガニスタン問題の出口戦略について、14年末までにアフガニスタン政府への治安維持権限移譲を行う「行程表」で合意しました。

****14年末までのアフガン治安権限移譲で合意、NATO首脳会議*****
ポルトガル・リスボンで行われた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議は20日、アフガニスタンに駐留する国際治安支援部隊(ISAF)からアフガニスタン政府への治安維持権限移譲を2011年に開始し、2014年末までにISAFが担う役割を、訓練など支援的なものにすることで合意した。
ただし米国は「今後も厳しい戦闘があるだろう」として、2014年以降もアフガニスタンで戦闘が続く可能性を排除しなかった。
これに対しアフガニスタンの旧支配勢力タリバンは電子メールで声明を発表し、「侵略者たちは9年の占領を経て過去の侵略者たちと同じ轍を踏んでいる」として、NATOの決定に冷笑的な姿勢を示した。【11月21日 AFP】
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権限移譲の可否は「予定された時期よりも治安状況に基づく」とし、反政府勢力タリバンとの戦闘の状況などを見極めて、慎重に進める意向を示されています。状況次第では「14年」に縛られないということです。
また、アフガニスタン側への権限移譲とISAF部隊の撤退は別物で、ISAF部隊は15年以降も一定数残留し、治安部隊の支援に当たるとしています。

一方で、「軍事的な手段だけでは成功できない」と、民生支援との協調を重視する方針を表明。カルザイ政権がタリバン側と進める和解プロセスや、元武装勢力の社会復帰などを評価し、支援を続ける考えも示しています。
会見したカルザイ大統領は「権限移譲と同時に、政治対話を進める方向性で合意した」と強調。NATOが戦闘任務よりもアフガン軍や警察の訓練に重点を移すことへの期待をにじませています。【11月20日 朝日より】

【NATO ロシアとの関係をリセット】
今回NATO首脳会議のもうひとつの主なテーマは、旧ソ連の脅威に対抗する軍事機構として作られたNATOにとっては旧敵であり、グルジア侵攻で関係が悪化したロシアとの関係を「リセット」し、アフガニスタン安定化を促進し、ミサイル拡散などの「新たな脅威」に立ち向かうため協力を進める方針の決定です。

“NATO側がロシアとの関係改善を急いだ背景には、パキスタン経由のアフガンへの物資輸送がイスラム原理主義勢力タリバンにより危険にさらされ、ロシアの領域通過が必要になってきた事情がある。
露シンクタンク、現代発展研究所によると、ロシアやカザフスタンなど旧ソ連圏経由のアフガンへのコンテナ輸送量は昨年6月に月100個程度だったが、現在では月3千個を超えた。”【11月21日 産経】
アフガニスタン問題がけでなく、イラン対策にもロシアの協力が必要です。
ロシア側はアフガニスタンへの物資輸送やヘリコプターの提供、麻薬密輸対策などで協力していくことが協議されています。
ただ、当然ながらNATO、ロシアそれぞれに思惑がありますので、ロシア内部にもNATO進めるミサイル防衛に対して冷やかな見方もあるように、今後の協力がスムーズに進むかは定かでない部分もあります。

【欧州の国防費削減にアメリカ苛立ち】
NATO側内部においても、一枚岩とは言い難い情勢があります。
****NATO首脳会議 揺らぐ米欧の協調 国防費めぐり亀裂 結束確認焦点に****
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が19日、2日間の日程でリスボンで始まった。第二次大戦後、冷戦を勝ち抜いた米欧は加盟国を当初の12カ国から28カ国に拡大。しかし、イラク戦争では亀裂が生じ、9年にわたる戦闘を続けているアフガニスタンでも利害の不一致が鮮明になっている。金融危機で国防費を大幅に削る欧州に米国が「武装解除だ」(ゲーツ米国防長官)と不満をあらわにする中、米欧が結束を再確認できるのか注目される。

NATOのラスムセン事務総長は旧ソ連圏に対峙(たいじ)した冷戦下の役割を「バージョン1」、冷戦後、バルカン半島の危機や米中枢同時テロへの対応を「バージョン2」と位置づけた上で、「今日、加盟国9億人の安全を守るバージョン3が必要だ」と強調する。
NATO設立の目的は「米国を引き込み、ソ連を締めだし、ドイツを押さえ込む」(イズメイ初代事務総長)ことだった。冷戦終結でその目的を達したNATOはバルカン半島やアフガンでの域外活動に活路を見いだすが、イラク戦争に仏独が反対したことでNATOの終焉(しゅうえん)もささやかれた。

今年に入ってNATO側で最悪の計650人超の犠牲者を出したアフガンをめぐっては、クリントン米国務長官がNATO首脳会議に先立つ17日、ヘイグ英外相と会談し、NATO主体の国際治安支援部隊(ISAF)からアフガン側への治安権限移譲を2014年末までに完了することを目指す方針を確認した。
しかし、戦況好転の兆しは見えないままで、米英に寄り添ってきたオランダでは、政権が崩壊して今年8月に撤退を開始、仏独も激戦地への転戦を渋っている。
アフガン民主化どころか対テロ戦争の最前線での敗色が濃くなる中、米国は欧州の軍事能力の低さに落胆し、欧州は明確な計画を持たないまま派遣兵員を計14万人にまで拡大させた米国への不信感を募らせる。
それに加え、欧州の国防費は2000~09年に毎年2%近く減少したが、米国はイラク戦争やアフガンでの出費で約1・7倍に拡大した(米シンクタンク調べ)。
さらに、金融危機の影響で英国は15年までに国防費を8%、スペインも11年だけで7%削減する。独自の核抑止力と空母の前方展開能力を保つため英仏は未曾有の軍事協力を行うほどだ。
オバマ米大統領は米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で「われわれは互いに最も緊密なパートナーだ」と米欧関係の未来を強調したが、米欧間の溝は新たにミサイル防衛(MD)計画を一体化させることなどでは埋め難くなっているのが現実だ。【11月20日 産経】
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【戦車:「衝撃と畏怖を与える」】
いずれにしても、今回承認された出口戦略はNATO側の「希望」であり、戦略どおりいくかは状況次第です。
ところで、11月13日ブログ「アフガニスタン情勢:カブール陥落から9年  米軍のGPS誘導移動式ロケット、ロシアの復帰(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101113)」で、GPS誘導で誤差1m以内に着弾する
誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)がタリバン側に恐怖を与えていることをとりあげましたが、今日は「戦車」の話題。
私は知りませんでしたが、これまで米軍はアフガニスタンには「戦車」は投入していなかったそうですが、その戦車が投入されることになったそうです。

****アフガンに戦車初投入=タリバン牙城、掃討強化―米紙****
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は19日、米軍がアフガニスタンに初めて戦車を投入すると報じた。反政府武装勢力タリバンの牙城となっているアフガン南部の戦線で使用される。
オバマ米大統領が来年7月の駐留米軍撤退開始を目指す中で、国防総省は南部制圧に全力を挙げ、空爆やタリバン幹部を狙った夜襲を強化している。
米軍当局者は、武装勢力掃討のための攻撃力が増すとともに、タリバンに「衝撃と畏怖(いふ)を与える」と語っている。イラク戦争でも使われた、戦車「M1エイブラムス」を16両、海兵隊が展開する南部ヘルマンド州に投入する計画。【11月19日 時事】 
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“アフガンでは、戦車は1979年に同国に侵攻した旧ソ連軍の象徴でもあり、米軍が「侵略者」とみなされ住民の反感を招く恐れもある。同省は「現場の指揮官が地域の指導者や地元評議会(シューラ)に、戦車投入の目的や役割を説明する」としている”【11月20日 時事】とのことです。
米国防総省のラパン副報道官は「旧ソ連軍はアフガン国民を威圧するために使用したが、われわれはアフガン国民を守るために使う」と強調したとも。

ただ、戦車に「威圧用」と「国民を守るため」の色分けがあるわけでもありませんので、どうでしょうか・・・。
「衝撃と畏怖を与える」のがタリバンだけでなく、アフガニスタン住民にならなければいいのですが。

【民家夜襲に対するアフガン国民の反発】
【11月19日 時事】記事にある“タリバン幹部を狙った夜襲”についても、アフガニスタン住民に強い恐怖を与えています。

****タリバン掃討「夜間の民家急襲に国民反発」 米・アフガン不協和音****
米国とアフガニスタンの関係に新たな不協和音が生じている。アフガンのカルザイ大統領が米紙とのインタビューで、国民感情の悪化を理由に米軍が夜間に実施する民家急襲作戦をやめるよう要求。これに対し、駐留米軍トップのペトレイアス国際治安支援部隊(ISAF)司令官が大統領発言への強い懸念をアフガン側に伝えたことも明らかにされた。
19日からは北大西洋条約機構(NATO)首脳会議がリスボンで始まり、アフガン政府への治安権限の移譲などが議論されるが、その直前に判明した両国の不協和音が協議の進展を阻むのではないかとの懸念も浮上している。

カルザイ大統領は14日付の米紙ワシントン・ポストのインタビューで、イスラム原理主義勢力タリバン掃討作戦の一環で米軍の特殊部隊が実施する夜間の民家急襲作戦が、アフガン国民を恐怖に陥れ、国民感情を悪化させていると懸念を表明。「アフガンでの軍事作戦を減らすときが来た」と述べた。
タリバンの残党が隠れる民家への夜間急襲作戦はペトレイアス司令官がもっとも力を注ぐ軍事作戦。AP通信によると、過去3カ月だけでも武装勢力の関係者300人以上を殺害・拘束する成果を挙げたとされる。
しかし、民家急襲に対するアフガン国民の反発も強く、カルザイ大統領はインタビューで「夜間に民家へと押し入り、アフガン人を逮捕するのは外国の軍隊の仕事ではない」と語った。

一方、15日付のポスト紙によると、ペトレイアス司令官はカルザイ大統領の発言に「驚きと落胆」を表明し、戦況の進展に悪影響を及ぼしかねないとの懸念をアフガン側に表明したと報じた。司令官は14日に予定されていたカルザイ大統領との会談も欠席した。
オバマ政権はアフガン戦略の再検証に関する報告書を来月中旬にも作成する方針。19日からのNATO首脳会議では、カルザイ大統領が目指す2014年末までのアフガン政府への治安権限移譲を踏まえ、将来的な駐留規模などが関係国で議論される。【11月17日 産経】
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治安権限の移譲の議論は予定どおり行われたようですが、アフガニスタン・カルザイ政権とアメリカの関係も不安定です。更に言えば、今回NATO首脳会議でロシアの協力が進められることになりましたが、アフガニスタン側にはかつての侵攻国旧ソ連に対する反発も根強くあるようです。

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エジプト  ムバラク後への思惑で与党内に対立か  後退するアメリカの民主化圧力

2010-11-20 20:58:47 | 国際情勢

(9月21日、カイロ、ムバラク親子の権力世襲に反対する抗議者と警官隊の衝突 当然こうした抗議活動の背後には黒幕が存在するのでしょう。 “flickr”より By Nasser Nouri
http://www.flickr.com/photos/nassernouri/5043653741/ )

【権力世襲に軍部から反発】
来年に大統領選挙を控えたエジプトでは、今月28日、人民議会選挙(総選挙)が行われます。
議会では、5期29年にわたり大統領の座にあるムバラク大統領の率いる与党「国民民主党(NDP)」が絶対的多数を占めていますが、今回総選挙においては、小選挙区制にもかかわらず与党NDPから複数の候補が立候補する選挙区が多数存在します。

当初は予備選挙で一本化すると言われていましたが、それが出来なかった結果ですが、与党NDP内の内部対立から調整に失敗したものと見られています。
その与党内部対立は、来年大統領選挙におけるムバラク親子の世襲を認めるかどうかにあるようです。【11月17日 朝日より】

****ムバラク後への思惑 改革派政策に反発も*****
要因としてささやかれているのが、大統領選を来年に控えた、「ポスト・ムバラク」を巡る動きだ。 
81年に暗殺されたサダト前大統領の後を継いだムバラク氏は、5期29年にわたり大統領の座にある。現在82郷これまで何度も重病説が流れた。今年3月にはドイツで「炎症による胆嚢の摘出手術」(政府発表)を受けている。仮にムバラク氏が続投したとしても、高齢ゆえ早晩、後継問題に直面せざるを得ない。
取りざたされるのが、次男ガマル氏の動向だ。米系銀行のロンドン支店幹部だったガマル氏は2002年、党ナンバー3の政策委員長の座に座った。世襲をにらんだ動きと受け止められた。
ビジネスマンとしての経験から、ガマル氏は「改革派」のイメージを打ち出し、法人税減税や国営企業の民営化推進、規制緩和などに取り組んだ。経済界や都市部富裕層の支持を集め、「ムバラク王朝の継承」は既定路線との受け止めも一部に出た。

だが、これにムバラク氏と同じ軍出身の有力者らから猛反発が出たとされる。52年の革命で生まれたエジプトの体制を築き、支えたナセル、サダト両氏も軍人で、ムバラク氏も空軍出身。だがガマル氏には軍歴がない。さらに、ガマル氏の打ち出すNDPの改革政策は、軍や官僚機構をのし上がった地方出身者が多い古参幹部らの既得権益を脅かしているとされる。

ガマル氏は大統領ポストについて「個人的に野心はない」と語る。だが、「推されれば出るのでは」との見方は根強い。ムバラク氏自身は後継について一切の発言を避けている。
親子があいまいな態度を続ける中、複数のアナリストは「ムバラク氏はガマル氏への継承で軍を説得できておらず、親子ともに様子見を続けている」とみる。
そのため、大統領選の前哨戦として、議会選を前にポスト・ムバラクを巡る思惑と不協和音がNDP内部に生じたとの見方がもっぱらだ。【11月17日 朝日】
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与党幹部からは、「次期大統領選のNDP候補はムバラク大統領だ。これが党指導部の意思だ」と、ムバラク大統領の6選出馬が表明されていますが、大統領自身は進退について明言していません。【10月22日 時事より】 

エジプト大統領選挙については、国際原子力機関(IAEA)事務局長を務め、ノーベル平和賞を受賞したエルバラダイ氏が出馬の可能性を示し話題になったことがあります。若年層を中心に変革への待望論もあります。
しかし、エジプト憲法は大統領候補の要件として、5年以上存続する政党の幹部経験1年以上か、無所属の場合は人民議会(国会)や地方議会の議員250人の支持が必要--と定めており、こうした規定が緩和されない限り、エルバラダイ氏の立候補は困難とされています。

【成長に取り残された一般庶民】
与党内部の思惑・対立とは別に、成長するエジプト経済から取り残された多数の一般庶民の政治への期待は薄いようです。あきらめとも言える雰囲気があります。
****貧しさ ビルに隠されて*****
ムバラク政権が進めた減税や規制緩和、国営企業の民営化など、経済自由化政策の結果、経済成長率は2004年以降、年率4~7%台の伸びを示している。国際通貨基金(IMF)は08年の報告で、ムバラク政権の経済政策を「大胆で印象的」とたたえた。(中略)

だが、経済発展に取り残された人は少なくない。(中略)
経済成長にかかわらず、1目2ドル(約160円)で暮らす貧困層の割合は2割前後を占め、失業率も10%前後で高止まりしている。物価上昇率は年10%を超える。08年には補助金で価格が1枚5ピアストル(約1円)に抑えられているアエ-シュ(エジプトのパン)が品不足となり市民が殺到、暴動に発展した。エジプト投貴庁は09年の報告書で「エジプト人労働者の9割は、投資増などによる恩恵を受けていない」と認めた。

だが、イブラヒムさんのような庶民の不満は、選挙の投票につながらない。
前回05年の人民議会選の投票率は28%。同年の大統領選も23%だった。実際の有権者数に対する投票率はさらに低いとみられている。1982年生まれ以前の世代は、自分で有権者登録をしないと投票ができず、登録を済ませていない人も多いとされるためだ。また、与党候補の得票や投票率を政府が水増ししているという疑惑が、選挙のたびに浮上する。
民主化運動の活動家ジョージ・イスハーク氏(70)は「政治活動が制限されているため野党勢力が極端に弱く、有権者の選択肢が乏しい。そのうえ、政府による不正の横行で、投票しても意見はまともに反映されないと多くの人々が思っている」と指摘。民意が反映されない政治の現状を嘆いた。【11月18日 朝日】
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最近では、トマトが高騰して騒ぎにもなっています。
****トマトの怒り…エジプト、不作で価格が10倍に*****
エジプトが今、「トマト危機」に見舞われている。猛暑による不作で価格が約10倍に高騰しているのだ。エジプト料理にトマトは欠かせないだけに、人口の大部分を占める低所得層には大打撃だ。事態悪化を防げなかった政府への抗議デモも頻発している。(後略)【10月29日 産経】
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【民主化とイスラム勢力台頭 アメリカのジレンマ】
こうした政治・経済状況で国民から大きな支持を集める組織が、比較的穏健と見られているイスラム原理主義の「ムスリム同胞団」ですが、政治活動は非合法化されており、選挙には無所属として出馬する形をとっています。

****米方針、野党盛衰を左右****
もし、エジプトで自由で民主的な選挙が行われたら、与党・国民民主党(NDP)に代わって、第1党になるかもしれないとみられている組織がある。ムスリム同胞団だ。
イスラム組織として1928年に創設された。歴代政権によって、厳しい弾圧にさらされたが、貧しい人々への福祉活動などを通じて、大衆の中に根を張る。
宗教政党の結成や選挙での宗教的スローガンの使用を禁止されているにもかかわらず、メンバーを「無所属」として立候補させ、2005年の前回選挙では88議席を獲得し、野党第1党となった。
「我々は、やろうと思えば議会の過半数を取る能力がある」。カイロで10月、エジプト人民議会選挙への参加を発表した同胞団のカトタニ議員団長はそう豪語した。

だが、ムバラク政権との対決を避けるため、今回は候補者を公選議席508の3割に絞り込むという戦術をとる。同胞団の盛衰は、政権の「さじ加減」にゆだねられているからだ。
前回の選挙で同胞団が議席を増やした背景には、米国のブッシュ前政権が掲げた「中東民主化」政策の影響が指摘されている。民主化を求める米国の圧力で、ムバラク政権が選挙への干渉を弱めた。その結果、比較的自由な選挙が実施され、同胞団が伸長したとの見方だ。
オバマ政権になって、エジプトヘの民主化圧力は弱まったとされる。「民主化が進めば、伸長するのは同胞団」。前回の選挙結果を受け、方針転換を図ったとの見方がもっぱらだ。同胞団は、パレスチナでイスラエルに対して抵抗運動を続ける強硬派ハマスなど世界各地のイスラム組織に影響を与えており、米国はその動向に警戒を解かない。

エジプト人口の1割を占めるとされるキリスト教系コプト教徒の人々も「早急な民主化を行えば同胞団が伸び、混乱が生まれる」と懸念する。「同胞団が07年に発表した憲章草案を見ればいい。彼らの本性が現れた。イスラム法を適用し、大統領と首相はイスラム教徒の男性に限るとしている。そうなれば、女性や我々は2級市民扱いだ」コプト系の新聞「ワタニ」のユーセフ・シドム編集長はそう訴える。
コプト教徒は、教会を自由に建設できなかったり、公務員採用を断られる差別にあったりする。ムバラク政権の腐敗ぶりや、強権的な政治手法にも厳しい批判を向ける。だが、「同胞団が政権を取るよりはまし」とシドム編集長は断言する。
イスラム教、キリスト教を問わず、多くのエジプト国民が宗教に深く根付いて暮らす。民主的な選挙が宗教に基づく争いにつながることを少数派は恐れる。一筋縄ではいかない民主化の現実が、エジプトにはある。【11月19日 朝日】
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そのムスリム同胞団もムバラク政権の厳しい弾圧で幹部の多数が逮捕され、組織的にも政治参加路線から保守的な組織強化や社会奉仕の重視にかじを切っているとの見方があります。
今年1月に最高指導者に選ばれたモハメド・バディ氏もそうした保守派で、「平和で憲法にのっとった漸進的改革」を進める意向を表明。「暴力はいかなる形でも拒否する」と述べています。
6月に行われた諮問評議会選挙では、無所属で立候補した「ムスリム同胞団」系候補は全員落選しています。

比較的穏健とか保守派とは言っても、イスラム原理主義勢力の台頭はアメリカにとっては望ましくない結果です。
民主的選挙を行うように圧力を強めると、結果、原理主義勢力が増大するという事態に、オバマ政権は民主化圧力を弱めていると言われています。

****中東諸国:オバマ路線の限界 対話が裏目、民主化停滞*****
 ◇変わらぬ中東の強権政治、エジプト反政府デモ影響少なく
強権的政治体制で長年批判を受けている中東諸国の民主化が停滞している。25日にはムバラク大統領の独裁的な支配が続くエジプトで数千人が参加する反政府デモが起きたが、“民主化”に結び付くにはなお時間がかかりそうだ。停滞の要因の一つは米国の「外圧低下」だ。ブッシュ前政権からの「変革」を掲げたオバマ米政権だが、中東諸国への民主化要求を低下させたと受け取られる皮肉な状況に陥っており、「ソフトパワー」の限界が露呈している。(中略)
ブッシュ前政権は対テロ戦争の一環で「中東民主化構想」を掲げ、エジプトやサウジアラビアなど親米国に強い民主化圧力を加え、イラクではフセイン政権を排除した。しかしイラクで内戦状態の泥沼に転落、中東での対米評価も地に落ちた。
反省からオバマ大統領は昨年、「イスラム世界との対話」を打ち出した。民主化は支持しながら「他国に特定の統治形態を強いてはならない」とも発言。中東の強権的政権に強硬に改善を求める姿勢は実質的に後退した。その後、中東民主化や中東和平で大きな進展はなく「期待はずれ」(アラブ外交筋)との声が強い。
中東では、サウジ、シリア、リビアなど多くの国で自由な言論や政治活動が認められない強権的な政治が行われており、平和的な反政府デモは珍しい。【6月27日 東京】
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アメリカが望む「民主化」と、現地の人々が望むものに乖離があるようです。
06年1月のパレスチナ評議会選挙でも同様のことがおこり、アメリカが選挙を行うように圧力をかけた結果、急進派のハマスが台頭しました。
アメリカの「国益」としては、民主化による混乱よりは、親米的なら強権的支配による安定の方がベターということでしょう。
現実的選択としては理解できないことはありませんが、問題の根幹は残ります。

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