孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ハンガリー・オルバン首相  ロシア制裁・ウクライナ武器供与に反対する独自路線

2023-04-30 23:12:52 | 欧州情勢

(28日、ハンガリーのブダペストでオルバン首相(右)と会談するローマ教皇フランシスコ【4月28日 共同】
教皇はオルバン首相にウクライナをめぐる「欧州の結束」、難民・移民への寛容さを求めたようですが・・・)

【EU・NATO加盟国ながら欧米型の民主主義に背を背け、対ロシア制裁・ウクライナへの武器供与へ反対】
ハンガリー・オルバン政権がEU内にありながら、西欧的民主主義価値観と一線を画し、メディアへの介入を強化し、“反移民・難民”の姿勢をとっており、“非自由民主主義”を掲げてロシア・中国的な強権政治を目指し、EU内部での対立を生んでいること。

またNATO加盟国ながら、ロシア・プーチン大統領と緊密な関係にあって、ロシアのウクライナ侵攻後もロシア制裁、ウクライナへの武器供与に反対していること・・・・などは、これまでも折に触れ取り上げてきました。

EU内にあっては、あるいは欧米世界にあっては、評判の悪いオルバン政権ですが、ハンガリー国内では強い支持を受けています。

****オルバン首相 再選の背景に迫る****
ロシアによるウクライナ侵攻から1か月余りが経った4月上旬。“ロシア非難”で結束していた欧州を揺るがす出来事が起きた。EU(ヨーロッパ連合)加盟国の首脳の中でも、プーチン大統領と“最も親しい”といわれる、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相が、議会選挙で圧勝し、再選を果たした。

プーチン大統領との親密な関係が逆風になるのではないかという当初の予想を覆し、その強さを見せつけたのだ。

2月24日以降も、軍事侵攻には反対の姿勢を示すものの、ロシア産の石油や天然ガスの禁輸制裁措置には反対するなど、“独自路線”をとるオルバン首相。(中略)

オルバン首相の“独自路線”を支持する声
こうした中、オルバン首相の“独自路線”を支持する声が広がっている。いったいなぜなのか。
私たちは、4月の議会選挙でオルバン首相率いる与党「フィデス」に投票したという市民に話を聞くことにした。(中略)

トート・マーリアさん 「オルバン政権のエネルギー政策のおかげで、これまで通りの料金で済んでいます。野党が勝っていたら、値上がりどころではなかったかもしれません」
トートさんが期待をかけているのが、オルバン政権が打ち出している独自のエネルギー政策だ。
実は、今年(2022年)2月、各国がロシアの動きを警戒する中、モスクワを訪問し、プーチン大統領と会談を行っていたオルバン首相。この時、合意を取りつけていたのが、2035年までの天然ガスの安定的な供給についてだった。

現在、EU加盟国の多くが、ロシアから石油や天然ガスの供給を大幅に減らされ、価格の高騰に喘いでいるが、ハンガリーは、いまも変わらず供給を受けられているという。(中略)

強権化を進めるオルバン首相
自国第一主義を掲げて、国民の支持を集めるオルバン首相。しかし、その影では強権化を進めているといわれている。その一つが、メディアへの介入だ。

訪ねたのは、ハンガリー最大の独立系オンラインメディア「インデックス」の元編集長ドゥル・サボルチさん。
政権批判を恐れず、オルバン首相とも対峙してきたが、おととし、突如解任に追い込まれた。

ドゥル・サボルチさん「(中略)現在、オルバン政権は、戦略的に政権寄りのメディアの数を増やしています。この国の報道の自由は、急速に失われつつあります」

メディアの実態を調査するNGOの分析では、いまや報道機関の約8割がオルバン首相に近い実業家などに経営資本を押さえられているという。(中略)

独自路線の背景にあるEUへの失望
なぜ、自由や民主主義を掲げるEU加盟国でありながら、メディアへの締め付けや、“反移民・難民”の姿勢を打ち出すなど、EUの価値観に挑戦するのか?その背景に何があるのか?

長年、オルバン首相を支持しているという市民への取材から、その一端が見えてきた。
ぶどう農家のセチュクー・フェレンツさんが話し始めたのは、ハンガリーがまだ社会主義政権下にあった1980年代のこと。民主化し、西側諸国の一員になれば、同じ豊かさを享受できると信じていたという。(中略)1989年に悲願の民主化を果たしたハンガリーは、2004年にEUにも加盟。

しかし、現実は思い描いていたようなものではなかった。それまで経験したことがなかった市場の競争にさらされ、自分たちのぶどうが安く買い叩かれるようになったという。(中略)

EUに加盟しても、経済格差が埋まらない現実。
市民への取材を続けると、フェレンツさんのように、かつて抱いたEUへの憧れが、失望へと変わった人が少なくないことが分かってきた。

そうした人々の多くが、EUが掲げる価値観に挑戦し、“国益”を重視した独自路線を打ち出しているオルバン首相に期待を寄せているのだと感じた。

世界の潮流を理解するために
(中略)かつては、自由と平等を求め、旧ソビエトなど大国の支配からの脱却を目指していたハンガリーの人々。

その彼らが、いま「自由よりも毎日の生活だ」と口にし、独自路線をとるオルバン首相を支持する姿を見て、この数十年の間に彼らに何が起きたのかを、もっと知りたいと強く感じるようになった。

それを知ることこそが、現在、世界各地で、欧米型の民主主義に背を背ける国が増えている背景を少しでも理解することにつながると考えたからだ。(後略)【2022年7月22日 NHKスペシャル】
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オルバン首相の“非自由民主主義”の話は今回はパスして、主に親ロシア、反ウクライナの話。

ロシアとの関係を続ける理由は、上記記事にもあるようにエネルギー面での“国益”重視でしょう。(ただ、躊躇なく“国益第一”を掲げる背景には、西欧民主主義への反感、ウクライナとの確執、ロシアとの近しい関係などがあってのことです)

****ロシア、ハンガリーにガス追加供給可能に****
ハンガリーのシーヤールトー外務貿易相は11日、ロシア国営天然ガス独占企業ガスプロムからのガス供給について、長期契約をした分のほかに追加供給も受けられることで合意したと明らかにした。

ハンガリーのオルバン首相は過去10年にわたりロシアと緊密な関係を築いており、ウクライナ侵攻にもかかわらずプーチン大統領への批判を避けている。(中略)

欧州諸国がロシア産ガス離脱に向けて努力する中、ハンガリーは2021年に締結した15年契約の下、ロシアから年間45億立方メートルのガスの供給を受けている。(中略)

シーヤールトー氏はまた、ロシア国営原子力企業ロスアトムが14年に交わした契約の修正に同意し、ハンガリーのパクシュ原発を拡張すると述べた。(後略)【4月12日 ロイター】
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【オルバン政権とウクライナの確執】
こうしたロシアとの関係を続けるオルバン政権の姿勢にアメリカが苛立っていることは間違いなく、オルバン首相とアメリカの関係も険悪です。そのあたりは、例の流出した米機密文書でも明らかにされています。

***ハンガリー、米国を三大敵の一つと名指し 流出文書で判明****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は米国を、自身が率いる右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」にとって三大敵の一つと名指しした。中央情報局(CIA)から流出したとされる評価書で明らかになった。(後略)【4月12日 WSJ】
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台湾問題での独自路線を主張したフランス・マクロン大統領にも賛同し、「アメリカの同盟国はアメリカの「属国」ではない」との発言も。

オルバン首相にとって「三大敵の一つ」がアメリカ・・・残る二つはどこでしょうか? ロシアでないことは確か。
“非自由民主主義”強権政治を批判するドイツでしょうか? あるいは、後述するように反感が強いウクライナでしょうか?

NATO加盟国ながらロシアとの関係を続け、ウクライナへの武器供与に反対する・・・ウクライナ・ゼレンスキー大統領は29日までに、北欧4カ国のメディアに応じたインタビューの中で「NATO加盟国がロシアに賛成し、NATOに反対することができるのか」「不合理なふるまいだ」と、オルバン首相を改めて批判しています。

一方、オルバン首相はNATOのストルテンベルグ事務総長が今月20日に将来的なウクライナのNATO加盟を示唆した際には、SNSで不快感を示しています。

ハンガリー・オルバン首相とウクライナ・ゼレンスキー大統領の確執は以前からのものです。

****ウクライナ、ハンガリー首相の発言「容認できず」 大使呼び出しへ****
ウクライナ外務省は27日、ハンガリーのオルバン首相のウクライナに関する発言は「全く容認できない」として、ハンガリー大使を呼んで協議すると明らかにした。

ウクライナ外務省のニコレンコ報道官によると、オルバン首相は記者団に対し、ウクライナをアフガニスタンと比較した上で、ウクライナは無人地帯だと述べた。

ニコレンコ報道官は「こうした発言は全く容認できない。ハンガリーはウクライナとの関係を意図的に破壊しようとしている」とし、「ハンガリー大使を外務省に呼び、率直に話し合いたい。ウクライナはこの他の措置を取る権利も留保している」と述べた。

ハンガリーはこれまでも欧州連合(EU)の対ロシア制裁について、欧州経済を破壊する恐れがあると非難。ハンガリーにはロシア製の原子力発電所があり、オルバン首相はこの日、原子力分野に影響が及ぶ可能性のあるEUの制裁措置を拒否する姿勢を示している。【1月28日 ロイター】
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****対ロシア制裁は「戦争への一歩」 ハンガリー首相****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は(2022年11月)18日、欧州連合によるロシアへの制裁は「戦争への一歩」だと述べ、EUの対ロシア政策は危険との考えを示した。

オルバン氏はラジオのインタビューで、「もし軍事衝突に対して経済的に介入するなら、戦争への一歩になる」と述べた上で、介入により「立場を明確にする」ことが、たちまち「実際に交戦国になる」ことにつながる恐れがあると指摘した。

また、強力な兵器を供与したり、ウクライナ軍を訓練したりしているほか、ロシア産の天然資源に制裁を科すことにより、EUは自らを危険な状態にさらしていると主張した。

オルバン氏は、ロシアが2月にウクライナに侵攻して以降、中立的な立場を維持するよう努め、ウクライナに対する軍事支援を拒んでいる。 【2022年11月18日 AFP】
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【背景には歴史的事情とそこに拘る政治的事情が ウクライナに住むハンガリー系住民を支援するオルバン首相】
オルバン首相のウクライナへの反感の背景には、単にロシアとの緊密な関係、エネルギー政策での国益第一主義だけでなく、ハンガリーの歴史的事情もあるようです。

****ウクライナとは絶対に手を組まない…「ハンガリーのトランプ」がロシアに同調する“したたかな理由” 「親ロシア」を掲げるオルバン首相の狙い****

東欧・ハンガリーは「親ロシア」の姿勢を取る。オルバン首相はウクライナへの支援に消極的だが、多くの国民はそれを支持している。毎日新聞の三木幸治記者は「オルバン首相はウクライナに住むハンガリー系住民を支援してきた。ウクライナに冷たい理由はここにある」という。(中略)

欧米から叩かれるハンガリー首相が国民から支持されるワケ
オルバン氏が国際的に脚光を浴びたのは2015年だった。シリア紛争などで混迷する中東、アフリカから約100万人の難民・移民が欧州に流入し、「欧州難民危機」が発生した。オルバン氏は難民らを受け入れたドイツなど西欧諸国に反旗を翻ひるがえし、欧州で最も早く国境に壁を設置し、難民らを排除した。そして、「キリスト教文化の欧州に、イスラム教徒は必要ない」と声高に主張し、「反移民」を掲げた。

ポーランド、チェコ、スロバキアなど、難民らを受け入れる経済的余裕がない国々はオルバン氏に強く賛同。難民問題を巡って、EUは「西欧」と「東欧」で鋭く対立した。EUは東欧の経済力を引き上げるために巨額の支援を続けており、東欧からEUに反旗を翻すのは、異例のことだった。

オルバン氏は「自分たちの権利を主張できる強いリーダー」として、国内外で評価を高めた。オルバン氏は2010年以降、4回の選挙で圧勝。オルバン氏の統治が長くなるにつれ、ハンガリーはEUの中でも特異な国家に変わっていった。欧州よりロシアに近い強権国家になりつつあるのだ。

ハンガリーの歴史を少し、振り返ってみる。ハンガリー人(マジャール人)は東方からやってきた遊牧民族が祖先とされる。他の東欧諸国はスラブ民族が多いが、ハンガリーは異なる。言語もフィンランド語に比較的近い独特の言語で、隣国の国民とは意思疎通できない。

ハンガリー人は、西暦1000年にキリスト教を受容し、ハンガリー王国を成立させた。だが、16世紀にオスマン・トルコ帝国、17世紀にはウィーンを首都とするハプスブルク帝国の支配を受けた。民族主義の高まりを受け、帝国内で自治権を獲得すると、第一次大戦後にハンガリー王国を復活させた。

300万人の国民が離れ離れになった
(中略)(ソ連崩壊後)オルバン氏が政権を取る2010年までは、ポーランドとともに「東欧の優等生」と呼ばれていた。

オルバン氏は政権奪取後、真っ先に他国に住むハンガリー系住民の支援に取り組んだ。ハンガリーは、オスマン・トルコなどに支配されながら数百年間、広大な領土を維持してきたが、第一次大戦後に独立する際、1920年のトリアノン条約で、領土の3分の2を失っている。

ハプスブルク帝国の崩壊後、ハンガリーが強国になることを恐れた西欧諸国による決定だった。国境線が引き直され、当時のハンガリー系住民約1500万人のうち、約300万人がウクライナ、ルーマニア、セルビア、スロバキアなどの隣国に所属することを余儀なくされた。

隣国との摩擦を生むため、ハンガリー政府が隣国のハンガリー系住民に関与することは、これまでタブーだった。だが、オルバン氏はこの問題に果敢に切り込んだ。

オルバン氏は2011年に憲法改正を実施し、新憲法にこう書き込んだ。「ハンガリー政府は国境を越えてハンガリー系住民の運命に責任を持たなければならない」。(中略)

ハンガリー系住民の保護にこだわる数少ない政治家
ハンガリーは1989年の民主化後、自らの国を立て直すことに精いっぱいで、隣国に住む同胞に目を向ける余裕はなかった。だがオルバン氏は政権を取る前から、ハンガリー系住民の保護にこだわる数少ない政治家だった。

(中略)政権奪取後、オルバン氏の動きは早かった。祖先が1920年以前にハンガリー王国内に住んでおり、一定程度のハンガリー語を話せる住民に対し、市民権を与える法律を制定したのだ。他国のハンガリー系住民はハンガリー政府に税金を支払っていないにもかかわらず、選挙権などを得られるようになった。

さらに、オルバン氏はハンガリー系住民の居住地域に財政支援を始めた。幼稚園、小学校などに資金援助して現地のハンガリー語教育を充実させ、ハンガリー語のメディアにも補助金を支出した。中小企業や工場、レストランにも出資し、現地の雇用確保に貢献した。

ウクライナでは他国政府による政党への支援が禁止されているが、オルバン政権は「(裏で)ハンガリー民族政党も手厚く支援している」(ベレホベのペトルシュカ市長)という。(中略)

権力維持のための票田
なぜ、オルバン氏はハンガリー系住民の支援に、こだわるのだろうか。
「目的は大きく分けて二つある」。ハンガリー社会科学センターのバールディ・ナーンドル主任研究員は語る。

一つは、国民の民族意識を高揚させることだ。(中略)(リーマン)危機の際にハンガリーを見捨てた西欧を、ハンガリー人は容易に信頼できなくなったのだ。

「オルバン氏は、『ハンガリー人の連帯』を訴えることで、『西欧化』という目標を失った国民のアイデンティティーを刺激し、政権の求心力を高めようとした」(ナーンドル氏)という。

もう一つは、他国のハンガリー系住民を自らの「票田」にすることだった。先述したカタリン・バルナさんのように、選挙権を得た他国のハンガリー系住民はオルバン氏を救世主とあがめる。2018年の選挙では、ハンガリー系住民の96%がオルバン氏率いる与党に投票した。

特にオルバン氏に喝采を送ったのが、EUに未加盟で、1人あたりの国民総所得(GNI)が、隣国で最も低いウクライナのハンガリー系住民だった。

ウクライナに取り残された自国民
(複雑な歴史を持つ)ザカルパチア州では、約14万人のハンガリー系住民が国境沿いに集中する。(中略)

オルバン氏は2014年5月10日、議会でこう発言している。「ウクライナに住むハンガリー人には自治権を持つ資格がある。我々は国際政治の場で、彼らの権利を追求し続ける」。オルバン氏は、ハンガリー人が自治権を獲得することを後押しし、事実上ハンガリーの支配下に置く意欲を示したのだ。

ウクライナの親米政権成立の余波
(中略)2014年6月に就任したウクライナのポロシェンコ大統領はロシア側との紛争に危機感を強め、国民の連帯を促した。だが、その呼びかけはハンガリー系住民にも意外な形で波及する。ハンガリー民族政党「ハンガリー文化同盟」のブレンゾビッチ党首は言う。

「2014年以降、ポロシェンコ氏はメディアを使い、外国人を敵とするプロパガンダを流し始めた。最初は国内にいるロシア系住民だけが対象だったが、続いてハンガリー系住民も攻撃対象になった」。

極右団体は「ロシアだけでなく、ハンガリーもウクライナの領土を奪おうとしている」と主張。ザカルパチア州では、ハンガリー人の「処刑」を訴えるデモが繰り返されるようになった。2018年、ハンガリー文化同盟が入る建物は2度も放火された。

さらにウクライナ政府は2017年、小学5年生以上の子供に対し、ウクライナ語の学習を義務づける法律を制定した。多くのハンガリー系住民はハンガリー語の学校に通っていたため、オルバン氏は強く反発した。

ウクライナ政府に対抗するため、クリミアの編入を理由にEUから制裁を受けているロシアのプーチン大統領と手を組んだのだ。

ロシアに同調する歴史問題の根深さ
ウクライナは欧州諸国の一員となるため、NATO、EUへの加盟を宿願としている。だが、両組織への加盟は全加盟国の同意が必要だ。NATO、EUの加盟国であるハンガリーは、ウクライナの加盟に強く反対し始めた。ウクライナが両組織に入った場合、自国への脅威が高まると考えていたロシアに同調したのだ。
三木幸治『迷える東欧 ウクライナの民が向かった国々』(毎日新聞出版)(後略)
【2022年12月13日 PRESIDENT Online三木幸治毎日新聞記者】
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アメリカ  LGBTQをめぐる「文化戦争」

2023-04-29 22:33:58 | アメリカ

(【INSTAGRAM/@DYLANMULVANEY】トランスジェンダー女性ディラン・マルバニーさんのビール広告)

【攻撃的となる「文化戦争」】
アメリカにおいて内戦の危機すら言及されるような深刻な「分断」を招いている(銃規制、中絶、LGBTQなどにおける)価値観の対立は「文化戦争」という言葉でも語られます。

****文化戦争****
文化戦争とは、伝統主義者・保守主義者と進歩主義者・自由主義者の間における、価値観の衝突である。アメリカ合衆国では1990年代以降、公立学校の歴史および科学のカリキュラムをめぐる議論など多くの問題に、文化戦争が影響している。

アメリカ合衆国の政治に「文化戦争」という表現が使われるようになったのは、1991年にジェームズ・デイビッド・ハンターの『文化戦争: アメリカを定義するための争い』(Culture Wars: The Struggle to Define America)が出版されたことがきっかけだった。

ハンターはこの本で、妊娠中絶、銃規制、地球温暖化、移民、政教分離、プライバシー、娯楽薬、同性愛、検閲などの問題をめぐり、アメリカ合衆国の政治と文化が分裂し、再編され、劇的に変容していると論じた。【ウィキペディア】
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上記のように、「文化戦争」と呼ばれる価値観の対立は今に始まったことではありませんが、特に深刻化したのはこの対立を煽ることで政権奪取・維持の原動力にしたトランプ政治以降のように見えます。

価値観の対立は、「好きにすれば?」といった単に考え方が違うというだけでなく、かつての白人社会に一般的であった従来の価値観を重視する人々が、新しい価値観の蔓延によって、自分たちの存在が脅かされているという「格下げ」の不安を感じているからでしょう。そのため、異なる価値観に対しては、自分たちを脅かすものとして過度に攻撃的ともなります。

****2024年に「アメリカで内戦」が発生しかねない理由「格下げ」された人々の癒やしがたい怨嗟や憎悪****
(中略)格下げとはある階層の政治社会的地位が、何の合理的理由もなく喪失される状態を指します。

長い年月その土地に暮らしてきて、しかるべき地位や尊敬、権威のようなものを培ってきたのに、気づけば国外から異なる民族や宗教の人々が徐々に流入し、やがて人口比が逆転して孤立し、二級市民に甘んじるようになっていく。簡単に言えばそのようなことです。

その状態が、内戦の発火点になる可能性がきわめて高いというのです。そのような人々を著者は「土着の民」と呼んでいます。

このような、内戦パターンにおける急所が、アメリカにおいても著しく見られるようになった。この点が著者の危惧の際たるポイントだと思います。

実は、民主主義先進国においても、「土着の民」は多数存在しています。この観点からすれば、トランプがなぜあれほどまでに熱狂的支持を集めたのかが見えてきます。「格下げ」された人々の癒やしがたい怨嗟や憎悪は容易に暴力に転ずるからです。(後略)【3月25日 井坂康志氏 東洋経済オンライン】
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【「ゲイと言っていけない法案」からの、デサンティス・フロリダ州知事vs.ディズニー】
そして今、2024年大統領選挙に向けて、トランプ氏以上にこの「文化戦争」を仕掛けているのが(まだ正式な立候補表明はしていませんが、すでに「失速気味」とも評されている)「ミニ・トランプ」ことデサンティス・フロリダ州知事です。

その「文化戦争の相手」はウォルト・ディズニー。内容は性的マイノリティーLGBTQに関するもの。発端は、デサントス知事がフロリダ州で昨年制定した、通称「Don't Say Gay(ゲイと言っていけない)法案」、そしてこの法案にディズニーが反対したこと。

****ミッキーマウスから反撃されたフロリダ州知事、泣きっ面に蜂の出来事****
共和党と民主党の代理戦争
米娯楽・メディア大手、ウォルト・ディズニーのロバート・アイガー最高経営責任者(CEO)が4月27日、「ミニ・トランプ」ことロン・デサンティス・フロリダ州知事を相手どって、連邦南フロリダ地区地裁に訴訟を起こした。

デサンティス氏は、ドナルド・トランプ前大統領の共和党指名を阻む最有力候補と目されてきた。フロリダ州議会閉幕を待って5月に正式立候補宣言するものと見られている。

大統領候補としての箔つけのために今月中旬には日本、韓国、イスラエル、英国を歴訪、日本では岸田文雄首相と会談した。

デサンティス氏に挑戦状を突きつけたアイガー氏は、15年間ディズニー経営者として君臨、2020年にいったん退いたが、「御家の大事」とあって2022年11月、CEOに復帰している。

アイガー氏には「経営者としての顔」のほかに「もう一つの顔」がある。「政治家としての顔」だ。現在は無党派だが、2016年まではれっきとした民主党員。同年の大統領選の際にはヒラリー・クリントン氏の共同選対委員長を務め、ドナルド・トランプ氏と対峙したこともあった。

2020年の大統領選の時には自分自身、立候補することすら真剣に考えていたのだ。

政治理念は穏健派リベラル。地球温暖化やLGBTQ問題には関心が強く、その点ではジョー・バイデン大統領と同じスタンスだ。

今回訴訟を起こした理由はこうだ。
ディズニーはこれまで56年間、フロリダ州中央部の土地を州から税制上の優遇措置を含む特別自治区(Dependent Special District)として「譲渡」され、そこにディズニー・ワールドを建設し、膨大な収益と雇用を同州にもたらしてきた。

それを共和党が支配するフロリダ州議会が廃止する法律を成立させ、デサンティス氏が署名制定してしまったのだ。

ことの起こりは、2021年、フロリダ州がLGBTQ(性的少数派)について児童(幼稚園児から小学校3年生まで)に教えることを州法で禁じたことにディズニーが反発したことから。

ディズニー傘下のテレビ局はLGBTQを扱った子供向けアニメを放映しており、同社社員や関係者の中にはLGBTQが少なくない。ディズニーにとってはフロリダ州のこの法案は、ビジネス的にも労使関係からも到底受け入れられるものではなかった。

当時の経営最高幹部が同法案に反対したことからデサンティス氏はディズニー・ワールドに譲与していた「特別自治区」の特権剥奪を決めてしまった。発効は2023年6月。

一方、拳を挙げたデサンティス氏にとって、ディズニー・ワールドはかけがえのない「金の卵を産む鶏」だ。
ディズニー・ワールドには、世界中から年間2100万人の観光客が訪れ、関連企業も含めると7万人の雇用を創出している。年間の収益は170億ドル、7億8000万ドルの税金を州に納めている。

元々、この見返りとして、同州はディズニー・ワールドに特別社債発行特権を与え、警察、消防、ガス・電気・水道サービスも隣接するオレンジ郡やオスセオラ郡からは独立させた「自治体」にしてきた。

ディズニー・ワールドから特権を剥奪すれば、年間7億8000ドルの税収が減り、これまでディズニーが賄ってきた行政サービスは郡が請け負うことになる。周辺住民には巨額の納税義務が生じる。住民とっては割に合わぬデサンティス行政ということになる。

州議会がディズニーの特権を剥奪する法案を成立させたときから反対する声があった。それだけにデサンティス氏にとってはギャンブルだった。

ディズニーはフロリダから撤退するぞと警告
訴状には以下の点が明記されている。
●我々が反LGBTQ法に異議を申し立てること自体、米憲法修正第一条に明記されている「宗教の自由、表現の自由、報道の自由、集会の自由」条項で保障されている。
●これを無視して、フロリダ州がディズニーとの間で取り交わされてきた法的取り決めを一方的に破棄、特権を剥奪することは憲法違反である。

今回の訴訟について民主党だけでなく、共和党からも「デサンティス氏に勝ち目はないのではないか」といった声が出ている。

トランプ氏は早速SNSに投稿した。
「ディズニーの次なる手は、もうフロリダ州には投資はしないという決定だろう」「ディズニーはフロリダ州にある所有財産を段階的に売却し、撤退するに違いない」「これはキラー(Killer=決定的な打撃)だ。すべては知事の不必要な政治的スタント(人目を引くための行動)にすぎない」

すでに立候補しているニッキー・ヘイリー元サウスカロライナ州知事(元国連大使)は「ディズニー・ワールドをサウスカロライナ州に招致したい」と提案した。

立候補に意欲を見せているクリス・クリスティ元ニュージャージー州知事は、ライブストリームのインタビューでこう言ってのけた。
「こうしたことを言い出す人物(デサンティス氏のこと)が、世界の舞台で中国の習近平国家主席やロシアのウラジーミル・プーチン大統領とウクライナ戦争の停戦について話し合うのを見たくはない」「(凄腕の)アイガー氏を相手にどうするのか。土台、(こんなことを言い出す人間は)コンサーバティブ(保守主義者)ではないね」

LBGTQの合法化に反対してきたのは共和党だ。保守派にとってはリベラル派と対決する「カルチャー・ウォー」の対立軸の一つであるはずだ。

少なくともデサンティス氏はそう思って、ディズニーに挑戦したのだろう。それにしてはトランプ氏以下の反応は期待外れだったに違いない。(中略)

デサンティス訪日の旅費、誰が支払ったのか
ディズニーによる訴えは、立候補宣言を控えたデサンティス氏にとっては出鼻をくじかれた格好だが、さらに「泣きっ面に蜂」のような事態が起こっている。(中略)今回のデサンティス氏の4か国歴訪を機に、この費用がどこから出ているのか、疑問の声が上がっている。

というのも、同氏が2019年に100人の同行者を引き連れてイスラエルに訪問した時の旅費、宿泊費、同行の州職員や護衛の経費、締めて44万2504ドルの大半が州内の12企業から支払われたという事実が明らかになったからだ。残りの額は税収入、つまり州の予算で賄われていた。(後略)4月29日 高濱 賛氏 JBpress】
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なお、ディズニーの起こした訴訟については、「フロリダ州がディズニー・ワールドに与えてきた特権を剥奪する理由が反LGBTQ法に直接的関係しているかどうか、立証できるかどうか。見えない部分が多すぎる」(ースイースタン大学のクラウディア・ハウプ准教授)とのこと。

【炎上するトランスジェンダー女性起用広告】
LGBTQをめぐる「文化戦争」その2は有名ビールの広告へのトランスジェンダー女性の起用が惹起している騒動。

****ビール宣伝にトランスジェンダー起用 不買呼びかけ広がり幹部休職****
米国の大手ビールメーカーが、定番商品のプロモーションにトランスジェンダー女性のインフルエンサーを起用したところ、保守派による不買の呼びかけが広がり、同社の幹部が休職に追い込まれた。分断が進む米国で左右の価値観がぶつかる「文化戦争」の根深さが改めて浮き彫りになっている。

米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルは今月23日、ビール大手アンハイザー・ブッシュで主力商品「バドライト」のマーケティングを担当した幹部2人が休職したと特報した。同紙は関係者の話として、休職は「自発的なものではない」とし、1人には後任も指名されたとした。同社は休職の事実を認め、他メディアも一斉に後追いで報じた。

この人事情報が注目されたのは、バドライトのプロモーションが大きな波紋を広げていたためだ。

きっかけとなったのは、俳優でインフルエンサーのディラン・マルバニーさん(26)の起用だった。マルバニーさんは昨年3月に自身がトランスジェンダーであることを公表し、動画投稿アプリ「TikTok」(ティックトック)では1080万人ものフォロワーを抱えるなどネット上で大きな影響力がある。昨年秋にはメディアの企画で、性的少数者の権利についてバイデン米大統領とも対談した。

マルバニーさんは今年4月初め、バドライトとのコラボレーション動画を自身のSNSに投稿した。本人の顔がデザインされた非売品のバドライトのビール缶の画像なども披露した。

米国では日本同様に消費者のビール離れが進み、とりわけ健康意識の高い若い層でその傾向は顕著とされる。マルバニーさんの起用は、多様性と包摂を志向する若い層にアピールする狙いもあった。

しかし、政治的な分極化が進む米国において、性的少数者をめぐる社会的な課題は「文化戦争」と呼ばれるイデオロギー対立の火種となる。

マルバニーさんの起用を受け、有名ロック歌手のキッド・ロックさんは、バドライトに向けて銃を乱射し、中指を立てながら同社をののしる動画をSNSに投稿した。ロックさんは、トランプ前大統領の支持者で、一緒にゴルフを楽しむなど個人的な親交があることでも知られる。各地のレストランやバーでもメニューからバドライトを削除した例もあったと報じられた。

米メディアによれば、バドライトの4月半ばの1週間の売り上げは前年比で17%低下したという。同社のブレンダン・ホイットワースCEO(最高経営責任者)は14日に発表した声明で、「私たちは、人々を分断するような議論に参加するつもりはない」と釈明に追われた。

スポーツ用品大手ナイキも、女性用アパレルの広告にマルバニーさんを起用している。しかし、バドライトのような反発の動きは広がっておらず、商品の顧客層やブランドイメージの違いが影響しているとみられる。

バドライトはこれまでも、LGBTQなど性的少数者の権利や文化、コミュニティーを支持するイベントなどを支援してきた経緯がある。米NBCは、「少数の反LGBTQ活動家がソーシャルメディアで騒ぐからといって、企業が広告やマーケティングに多様な人々を含めるというビジネスの標準的な慣行が終わることはない」とする支援団体の声明を伝えた。

マルバニーさんは沈黙を保っていたが、27日におよそ3週間ぶりにSNSを更新。フォロワーに向けて「私は大丈夫」と語りかけ、「私は保守的な家庭で育ち、家族は私をとても愛してくれている。そこは非常に恵まれており、最も苦しんでいる点だ」と打ち明けた。その上で、「(自身について)完全に理解したり、うまく付き合ったりすること」ができなくても、「人間性をみてくれる人に感謝する」と語った。【4月29日 毎日】
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ビールはトランプ支持層とイメージがダブるところも。そのあたりの騒動が大きくなった背景でしょう。

なお、上記記事ではスポーツ用品大手ナイキのケースではバドライトのような反発の動きは広がっていないとしていますが、ナイキも相当に「炎上」しています。時系列的にはバドライトの方が先、ナイキが後のようです。

“スポーツブラのモデルに「トランス女性を起用」で大論争に...ビール広告に続いて”【4月7日 Newsweek】

【公立学校や図書館で増える“禁書”】
こうした保守層からの激しい「文化戦争」の動き、それを背景としたフロリダ州の「Don't Say Gay(ゲイと言っていけない)法案」のような政治的動きを受けて、アメリカの公立学校や図書館で多くの本が“禁書”となっています。

****アメリカの学校からLGBTQ・黒人差別の本が消える!? いま急速に広がる“禁書”とは****
去年、アメリカの公立学校や図書館で計1648冊の本が“禁書”となった。規制された本の多くはLGBTQや黒人差別などのテーマを扱っていて、大きな議論を呼んでいる。差別を助長する可能性もあるこの“禁書”の動き。急速に拡大した背景には何があるのか。<国際部・福井桜子>
 ◇◇◇
■教育現場で広がる“禁書”とは
(中略)ここで言う禁書とは公立学校や図書館で規制対象の本が読めなくなることで、書店などで購入すれば読むことができる。ただ子供たちにとって毎回本を買うことは金銭的にも難しく、規制された本を気軽に手に取ることができない現状がある。

■どういった本が“禁書”に?
「All Boys Aren’t Blue」黒人であり性的マイノリティーでもある作者自身の人生をつづったこの本も、規制の対象となった。「性的な描写」や「LGBTQの内容を含む」ことなどが規制の理由だ。

さらに絵本も規制の対象に。その一つが、「and tango makes three」オスのペンギンカップルが子供を育てるという、ニューヨークの動物園で実際にあった話を描いた絵本だ。こちらは「幼い子供には不適切」「ホモセクシュアルな内容が含まれている」などの理由で規制された。

去年、禁書に指定された本のテーマを見てみると、最も多かったのは、主要な登場人物やテーマがLGBTQのもの。そして、主要な登場人物が有色人種の本が続く。こうした本の多くが「性的な描写がある」、「過剰な暴力表現がある」ことを理由に規制されている。

■LGBTQや黒人が標的にされるワケ
このようにLGBTQや黒人をテーマにした本が規制を受ける背景には「保守派」の存在がある。
アメリカの保守派の多くは伝統的なキリスト教的価値観を重んじていて、LGBTQなどに対しては否定的な考えを持っている。

そのため子供たちにLGBTQについて教育をすべきでない、もしくは幼少期から性自認について教えるべきではないという意見を持つ人が多い。

また、黒人差別などを描いた本が規制の対象とされる背景には、学校の授業で人種差別や奴隷制の歴史について取り上げすぎると白人に対する逆差別につながるという考えがある。(中略)

■後押しする保守派の政治家
例えばフロリダ州では、次の大統領選に向けた共和党候補レースで有力視されているデサンティス知事が動いた。
「超保守的」な政策で支持を集めてきたことで知られ、中でも「教育」に力を入れていて去年、「教育における親の権利法」という法案に署名し成立させた。

これはLGBTQなど性の多様性について子どもに教えることを制限する法律で、別名「ゲイと言ってはいけない法」とも呼ばれている。

法律の対象は当初は小学校3年生以下だったが先週、適用範囲を高校3年生まで拡大することが決まった。
こうした法律は全米各地で制定され、学校や図書館は規制された本を排除せざるを得ない状況に陥っている。(中略)

本来、図書館とは、子どもたちが多様な価値観に出会える場所だったはずだが、今アメリカでは禁書によって子供たちが性や人種にまつわる多様性に触れる機会が奪われてしまっている。こうしたテーマの本を規制することが、子供たちの生きづらさにつながったり、偏見や差別を助長してしまう可能性があることを改めて考えてみる必要がある。【4月27日 日テレNEWS】
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台湾  軍事面、情報戦、外交で圧力をかけて内部から揺さぶる中国

2023-04-28 23:43:06 | 東アジア

(台湾北部・新竹市で27日、化学物質の輸送中に無人機の攻撃を受けた想定で実施された訓練=鈴木隆弘撮影【4月28日 読売】)

【中国 軍事的圧力の「やり過ぎ」は避ける 来年1月の総統選を控え情報戦で内部から揺さぶる戦略も】
あくまでも中国から見たら・・・という話ですが、台湾の存在は「国家統一」に欠けている最後のピースであり、「中華民族の偉大なる復興」を「中国の夢」とする習近平国家主席は、自らの任期中になんとしても台湾統一を成し遂げてレガシーを作りたい、鄧小平を超えて、毛沢東と並び立つ存在になりたい・・・それが自分の「使命」であると考えているのでしょう。

習近平国家主席は4月6日、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長に対し、「台湾問題は中国の核心的利益中の核心だ」と、中国にとって最大の関心事であることを明確にしています。

中国の台湾侵攻があるのか、それはいつなのか・・・いろいろと取り沙汰されてはいますが、当然ながら誰もわかりません。おそらく習近平主席自身も明確な計画を定めている訳でもないでしょう。状況次第で・・・・といったところ。

もちろん、軍事的にも成否が不透明で、アメリカとの瀬戸際の対立を惹起し、厳しい国際的制裁が課されることが明らかな軍事作戦を行うことなく、台湾に親中国政権が誕生して平和的に中台統一ができれば、それに越したことはないでしょう。

先ずは来年1月に行われる台湾総統選挙で、中国への距離感を明確にする民進党ではなく、中国との関係を重視する国民党の勝利を画策しているところ。

そのためにも、いつでも軍事進攻ができる態勢を整え、それを台湾側に見せつけることで圧力をかける姿勢をとっています。 ただし、これも「やり過ぎる」と台湾世論を硬化させて逆効果となりますので、さじ加減が必要。

****中国軍機71機が台湾周辺で活動 「報復措置」どこまで***
中国人民解放軍は8日、台湾周辺で軍事演習を始めた。台湾の蔡英文総統が米国を訪問してマッカーシー米下院議長と会談したことへの報復措置。

中国軍東部戦区の施毅(し・き)報道官は8日、「『台湾独立』の分裂勢力と外部勢力による挑発に対する重大な警告であり、国家主権と領土の一体性を守り抜くために必要な行動だ」と主張した。(中略)

8日の演習の重点は、制海権や制空権の奪取や情報戦に関する統合作戦能力を検証し、台湾を「全方向で囲む」ものだとした。(中略)

昨年8月にペロシ米下院議長(当時)が訪台した際にも、中国軍は台湾を包囲する形で大規模な軍事演習を行った。演習は7日間にわたり続き、弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)にも着弾して地域の緊張が高まった。今回、弾道ミサイルの発射は現時点で確認されていない。
(中略)一方で、緊張を過度にエスカレートさせないよう報復の程度を調整している様子もうかがわれる。

中国外務省は7日、蔡氏が訪米した際に非公開会合を開いた米シンクタンクなど2団体への制裁を発表。ペロシ米下院議長(当時)が昨年訪台した際には、米国との軍事対話の停止などを表明したが、今回はそこまでは踏み込んでいない。

演習開始の時期も、マクロン仏大統領が7日に訪中を終えて帰国するのを待った可能性がある。

台湾世論に配慮し、昨年よりも抑制的な反応にとどめているとの見方もある。来年1月の総統選を前に、圧力を強化し過ぎれば中国脅威論に火がつき、中国側が敵視する与党、民主進歩党に有利になりかねないからだ。

習政権は、最大野党、中国国民党の馬英九前総統を7日まで中国に招いており、総統選をにらんで硬軟両様の構えで台湾に揺さぶりをかけている。【4月8日 産経】
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軍事演習終了後も軍事的圧力の常態化を狙っているような行動が続いています。

****中国軍機が演習終了後も台湾海峡中間線越え 軍事的圧力常態化狙いか****
台湾国防部(国防省)は11日、同日午前6〜11時に延べ26機の中国軍機が台湾周辺で活動し、うち延べ14機が台湾海峡の中間線を越えたり、台湾の防空識別圏に入ったりしたと発表した。

中国は蔡英文総統とマッカーシー米下院議長の5日の会談に反発して8〜10日に台湾周辺の海空域で軍事演習を行った。演習終了後も台湾に対する軍事的圧力を常態化させることを狙っているとみられる。

(中略)蔡氏は演習期間中に誤った情報を故意に拡散する動きがあったとした上で、「軍民が一致して、誤情報に惑わされることなく、民主主義の台湾を守ることが最も大事だ」と述べた。【4月11日 毎日】
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“誤った情報を故意に拡散する動き”・・・誤情報かどうかはともかく、情報戦略で台湾社会を内部から揺さぶることも中国の重要な戦略となっています。

****「台湾内部から揺さぶる」戦法に変更した中国****
(中略)
神保謙氏(国際政治学者で慶應義塾大学教授))そのなかで台湾の世論がどう分断されるか。「ずっと緊張ではないでしょう。いま財政を使うべきは、社会福祉や台湾のなかに使うべきでしょう」というような情報戦を仕掛けて、「なぜこんなに緊張してアメリカに付き合っているのだろう?」というイメージを増やそうとしているのだと思います。(中略)
現政権の国内政策への責任を追及し、支持率を落としていけば、先の統一選で民進党が敗北したのと同じような形で総統選に挑める。そのために中国はいろいろと工作しているのだと思います。

「軍事的なプレッシャーを掛け続けて民進党を勝たせてしまった」という反省から、内部から揺さぶりをかける(中略)

台湾内のSNSやメディアも含めて、中国にシンパシーを持つ人たちや中国本土から入り込んだ人たちによる工作は、間違いなく行われていると思います。(中略)

それがどれぐらい奏功するかはわかりませんが、これまで「軍事的なプレッシャーを掛け続けて民進党を勝たせてしまった」という反省が中国国内にあるのであれば、やはり内部から揺さぶりをかけることの有効性に、現在は賭けているのではないかと思います。【4月13日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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【台湾 昨年から戦災対応が中心となった災害訓練】
一方の台湾側では・・・

****「25年に中国軍が台湾に武力侵攻」想定、住民ら1000人が訓練参加…有毒物質漏えいも想定****
台湾北部の新竹市で27日、中国軍の攻撃を想定した住民動員訓練が行われた。中国の軍事的圧力が強まる中、有事の住民対応を確認した。

訓練は「2025年に中国軍が台湾に武力侵攻した」という想定で行われた。市政府や企業の職員、住民ら約1000人が参加し、高層ビルからの救助や住民避難、救援物資の配布などの手順を確かめた。

新竹市には半導体工場が多く、工場で使う有毒な化学物質が無人機の攻撃で漏えいした事態も想定し、半導体企業の消防隊が参加して対応した。

台湾各地で行われてきた恒例の災害訓練は、昨年から戦災対応が中心となった。【4月28日 読売】
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当初、こういう戦災対応の訓練は文字通りの「訓練」の意味合いの他に、中国の脅威を改めて住民(有権者)に認識させる効果を狙ったものかも・・・と邪推したのですが、新竹市の政治状況を考えると、やはり「邪推」かも。

新竹市は、昨年11月に野党・台湾民衆党の高虹安(こうこうあん)氏が、与党・民進党と最大野党・国民党の候補を退け、38歳の台湾最年少、かつ女性市長が誕生した都市。

台湾第3政党「台湾民衆党」は2024年1月の次期総統選に立候補を予定している柯文哲(かぶんてつ)氏が立ち上げた政党で、「今の民主進歩党(民進党)の台湾独立志向も、中台統一志向の国民党もどちらも非現実的」と指摘、「現状維持こそ台湾唯一の選択肢だ」というスタンスです。 ただ、「現状維持」と言いつつも、柯文哲氏は中国に友好的な言動が目立ちます。

「現状維持」ということでは、民進党支持者にしても、国民党支持者にしても、同じでしょう。本当に(中国との関係を危機的なものにする)「独立」や「統一」を支持しているのは一部でしょう。 問題は「現状維持」のために、具体的に中国とどのように向き合うか・・・です。

中国の軍事進攻が実際に行われた場合・・・・SNSに流出した米機密文書によれば、台湾の防空能力が不足しているとのこと。まあ・・・常識的にもそうでしょう。

****台湾、対中国で防空能力不足 米分析、制空阻止も困難****
米紙ワシントン・ポスト電子版は15日、交流サイト(SNS)に流出した米機密文書を基に、台湾の防空能力が不足しており、台湾有事の際に中国軍の制空権掌握を阻止することも困難との米国防総省の分析を伝えた。ミサイル攻撃に対処できない可能性を指摘した。

今回報じられた国防総省の分析は、台湾軍の航空機のうち任務遂行可能な状態なのは辛うじて半数以上で、航空機を分散させる前に攻撃を受ければ大きな問題になると指摘。

ミサイル1発に対して防空ミサイル2発で迎撃を図る台湾の戦略も、中国軍が複数の移動式発射台から大量に発射すれば機能しない可能性があると懸念を示した。【4月16日 共同】
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やはり、戦災対応の訓練が必要です。

【中国 中台以外の「内政」への口出しに反発】
中台の当事者以外の国の台湾に関する発言では、フランス・マクロン大統領の「欧州は台湾問題で米中に追従すべきでない」「われわれのものではない危機にとらわれれば、ワナに陥る」との発言が話題になりましたが(4月11日ブログ“フランス・マクロン大統領 台湾問題についてアメリカ追随を否定し、「われわれの危機ではない」”)、これに反論したのがポーランド首相。

****ポーランド首相、「近視眼的な」中国迎合を非難 マクロン氏念頭か****
訪米中のポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相は13日、エマニュエル・マクロン仏大統領を念頭に、欧州人が中国との関係強化を目指せば、歴史的な過ちを犯す可能性があると非難した。

モラウィエツキ氏は首都ワシントンのシンクタンク「大西洋評議会」で、「(一部の欧州諸国が)中国での欧州連合製品の販売を促進しようと、地政学的に大きな犠牲を払って近視眼的に中国に目を向け、対中依存を強めている」「ロシアを相手に犯したのと同じ、非常に大きな過ちを中国相手に犯そうとしている」と訴えた。

また、マクロン氏の名前こそ挙げなかったがその発言に言及して、「台湾は関係ないと言っていては、ウクライナのきょう、あしたを守ることはできない」「ウクライナが陥落し、征服されれば、翌日にも中国が台湾を攻撃してもおかしくない」と述べた。

さらに「欧州の自立というと聞こえはいいが、それは欧州が重心を中国に移し、米国との関係を断ち切ることを意味する」「戦略的自立という概念が、判断を誤り自ら災難を招くということを意味するのであれば、まったく理解できない」と語った。 【4月14日 AFP】
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中国は、このポーランド・モラウィエツキ首相発言に反発しています。

****中国、台湾巡るポーランド首相発言を内政干渉と非難****
中国は14日、ロシアのウクライナ侵攻と中国の台湾攻撃の可能性を結び付けたポーランド首相の発言を内政干渉として非難した。

ポーランドのモラウィエツキ首相は13日、ワシントンのシンクタンクでの講演で、ウクライナが敗北すればその後すぐに中国が台湾攻撃を決意するかもしれないと発言した。

これについてワルシャワの中国大使館は「13日にポーランド政府の高官が台湾とウクライナの問題を公然と比較し、ウクライナが戦争に負ければ中国が翌日台湾を攻撃すると根拠のない主張をした」と反発。

「ウクライナ問題を口実に台湾問題との関係をほのめかす試みは下心を持った政治工作であり、国家主権と領土保全の尊重という原則を踏みにじり、中国の内政に対する明白な干渉だ」と主張した。

これに対しポーランドの安全保障当局の報道官は、中国は台湾に関する中国の主張を強制しようとしていると非難。

ツイッターに「ポーランド首相に対する中国側のプロパガンダ、ワルシャワの中国大使館の運営スタイル、中国政府の政策遂行のやり方は、中ロの戦術同盟がますます多くの領域をカバーしていることを示している」と投稿した。【4月17日 ロイター】
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また、韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が、台湾海峡の緊張について「(中国による)力による現状変更の試みのために緊張が生じたが、われわれは国際社会とともに、このような変化には絶対反対する」などと発言したことで、「中国の内政問題だ。他人が口出しすることではない」(中国外務省)、「中国の国家としての格を疑わせる深刻な外交的欠礼だ」(韓国外務省)と批判合戦になっていることは、4月24日ブログでも取り上げました。

中国は、ポーランドや韓国のような台湾問題への第三国の干渉を嫌っています。

****台湾問題での非難は「危険な結末」招く 中国外相****
中国の秦剛外相は21日、このところ台湾問題をめぐり中国を非難する言論が相次いでいると指摘し、対中批判は「危険な結末」を招くと警告した。

秦氏は上海で開催されたフォーラムで講演し、「最近、軍事力や強制により台湾海峡の現状を一方的に変更しようとし、海峡の平和と安定を脅かしているとの中国非難の奇怪な言論がみられる」と述べた。

その上で「こうした主張は国際関係や歴史的な公正さに関する基本的な共通認識に反している」とし、「その論理は荒唐無稽であり、危険な結末を招く」と警告した。

さらに秦氏は「台湾問題は中国の核心的利益の中でも核心にある」と強調。「中国の主権や安全保障を脅かす、いかなる行動に直面しても後退することはない」と言明した。 【4月21日 AFP】
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【進む台湾との外交関係切り崩し 次は南米パラグアイか 米中の綱引きも】
一方、中国は台湾と外交関係を維持する国の切り崩しで、台湾への圧力を強めています。
中米ホンジュラスが3月に台湾と断交したことで、台湾が外交関係の残るのは13カ国のみ。

「われわれには(中国と外交競争を繰り広げられるほどの)十分な資金力はない」(台湾高官)というのが現実。

特に、アメリカの「裏庭」でもある中南米における中国の攻勢が目だち、ホンジュラスの次は今月30日に大統領選挙を控える南米パラグアイではないかと推測されています。

野党候補エフライン・アレグレ氏は、勝利すれば台湾と国交を断絶し、中国と国交を結ぶと語っています。重要な大豆と牛肉の輸出拡大が期待できるとも。

もっとも、“一部のアナリストは、アレグレ氏が勝った場合でも、台湾との国交断絶に議会の承認が得られるかは疑問だとしている”【4月6日 ロイター】という指摘もあります。

****中国市場を求める「緑の黄金」 農業国パラグアイ、米中対立の渦中****
広大な大地のはるか先まで、緑一色の大豆畑が広がっていた。南米ブラジルと国境を接するパラグアイ東部ペドロ・フアン・カバジェロ。「面積は680ヘクタールで、収穫量は2400トンを軽く超えるよ」。ファビアン・ダバロスさん(41)が、畑を見渡しながら言った。収穫された大豆は家畜用の飼料などとして、隣国ウルグアイやアルゼンチンを経由して、欧米に輸出している。

「緑の黄金」。日本人移住者が1950年代に栽培したのが始まりとされる大豆は、今ではパラグアイでこう呼ばれる。穀物類の有力業界団体「パラグアイ穀物・油糧作物輸出業者協会(CAPECO)」によると、2022年の大豆の輸出量は世界6位。農業国であるパラグアイの経済をけん引する。ダバロスさんは言う。「良い買い手がいるなら、もっと畑を拡大したい」

ダバロスさんら農家が見据えるのは、巨大な中国市場だ。CAPECOのウーゴ・パストレ幹部も「大豆を大量に買う中国は魅力だ」と大豆の輸入依存度が高い中国市場に期待感を示す。同様の思いを、牛肉輸出量で世界9位の畜産業界も抱く。(中略)

主要産業である大豆と牛肉の業界からのこうした要求は、中道右派ベニテス大統領(51)の任期満了に伴い30日に投開票される大統領選にも影響を及ぼしている。

パラグアイは南米で唯一、台湾と外交関係を維持している。与党コロラド党のサンティアゴ・ペニャ元財務相(44)が台湾との関係維持を主張するのに対し、農業票の取り込みを図る野党連合のエフライン・アレグレ元公共事業・通信相(60)は、当選すれば中国と国交を樹立すると示唆している。選挙は両氏による事実上の一騎打ちの構図で、両氏の支持率は激しく競り合っている。

中国は、台湾との断交を国交樹立の条件にするが、パラグアイでは断交に慎重論も強い。背景にあるのは、中国と対立し台湾との連携を深める米国の存在だ。

中南米は米国の「裏庭」とも呼ばれるが、中国が外交攻勢を強めて影響力の拡大を図り、台湾と断交して中国と国交を結ぶ国が相次いでおり、米国は警戒を強めている。

パラグアイにとって、米国は政府開発援助(ODA)の主要国の一つで、貿易額でも上位に名を連ねる。台湾と断交して中国との関係を強化することは、対米関係を難しくするリスクを伴う。

パラグアイ政治の分析などを行うシンクタンク「民主主義発展研究所(DENDE)」のアルベルト・アコスタ所長は今回の大統領選についてこう指摘する。「パラグアイは今、激しさを増す米中の対立に巻き込まれており、次期政権には外交面で重い課題がのしかかる」【4月27日 毎日】
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ここでも米中の“綱引き”の様相のようです。
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トルコ  5月14日の大統領選挙 エルドアン大統領、野党統一候補にリードを許す苦戦

2023-04-27 23:37:10 | 中東情勢

(生放送の共同インタビューに応じていたエルドアン大統領(右)(25日、アンカラ)【4月27日 Bloomberg】 この後、エルドアン大統領の体調不良で放送事故状態に)

【“疲れを知らないタフな男”エルドアン氏も生放送中にダウン】
あと半月あまりと迫った5月14日は、国際的に注目される二つの選挙が行われます。

ひとつはタイの総選挙。
こちらは海外逃亡中のタクシン元首相の次女ペートンタン氏が前面に立って牽引する最大野党「タイ貢献党」が政権奪還できるかが焦点。

タクシン元首相支持勢力の厚い基盤、ペートンタン氏の人気、親軍政党が分裂選挙になっていることから、「タイ貢献党」が第1党になるのは間違いないですが、上院を親軍派が占めるという政治体制にあって、上下院合わせて行われる首相指名選挙で勝利できるほどの“地滑り的圧勝”となるかどうかが注目されます。

選挙結果次第では、いろんな組み合わせの政党間の連携も模索される状況です。

5月14日に行われるもう一つの選挙が、トルコの大統領選挙と議会選挙。
こちらは、エルドアン大統領の再選がなるかどうか・・・。

野党統一候補クルチダルオール氏との厳しい戦いとなっている選挙直前になって、思いがけないアクシデントも。

****トルコ大統領26、27両日のイベント中止-体調不良でTV出演中断の後****
トルコのエルドアン大統領は26日、投開票まで1カ月を切った大統領選挙の関連イベントを3つ中止した。前日夜に行われたテレビインタビューの最中には体調不良に見舞われ、放送が数分間中断。同氏はウイルス性胃腸炎だと説明していた。

また、事情に詳しいトルコ高官が匿名を条件に語ったところでは、大統領は27日に予定されていた地中海沿岸の都市メルスィン訪問を取りやめ、オンラインでのイベント参加に切り替えることにした。大統領府はコメントを控えた。

最高権力者となってからの20年間、エルドアン氏(69)は疲れを知らないタフな男としての評価を築き、予定を中止することはほとんどなかった。それだけに、生放送のインタビュー中という公の場での突然の事態に視聴者は衝撃を受けた。

放送中断直前にカメラはエルドアン氏を捉えず、質問者の方を映していたが、同じ部屋にいた人が「なんと言うことだ」と心配して叫ぶ声をマイクが拾っていた。

エルドアン氏は2003年に権力を掌握して以来、最も厳しい選挙を闘っている。トルコ市民が生活費のやりくりの面で、過去20年間で最悪の危機に苦しむ中、野党6党はエルドアン氏を権力の座から引きずり下ろそうと共闘している。
野党連合は5月14日に行われる大統領選挙の統一候補として、共和人民党(CHP)のクルチダルオール党首(74)を選んだ。クルチダルオール氏はエルドアン氏の速やかな回復を祈ると、ツイッターに投稿した。【4月27日 Bloomberg】
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【接戦ながら僅かに野党統一候補がリードする選挙戦の展開】
“今回の選挙にかけるエルドアン氏の意気込みは半端ではない。2023年10月29日はトルコ共和国建国100周年となる記念日であり、この時に大統領職に就いていることがエルドアン氏の悲願である。”【4月26日 今井宏平氏 Foresight】とのことですが、選挙戦は野党統一候補が支持率でリードする展開となっています。

****接戦予想のトルコ大統領選まで1カ月 エルドアン長期政権のカギを握るクルド票、地震対応には批判も****
5月14日投票のトルコ大統領選まで1カ月を切った。4人が立候補しているが、イスラム系与党「公正発展党(AKP)」を率いるエルドアン大統領(69)と、野党6党の統一候補で中道左派「共和人民党(CHP)」党首のクルチダルオール氏(74)の事実上の一騎打ちの構図。世論調査では、わずかにクルチダルオール氏リードだが、接戦が予想される。同時に議会選(定数600)も行われる。

「災害による傷を完全に癒やす」。エルドアン氏は首都アンカラで11日、2月の大地震からの復興などに焦点を当てた23項目のマニフェスト(政権公約)を発表し、被災地に住宅65万戸を新設すると約束。3月末の選挙戦初日には被災地の南部ガジアンテプで演説し、被災者に寄り添う姿勢を強調した。

野党6党は20年にわたるエルドアン長期政権の打倒を掲げる。クルチダルオール氏はソーシャルメディアなどを駆使して選挙戦を展開し、政府の経済施策や震災対応などを批判。若者層への支持拡大を狙う。

主な争点の一つが経済危機対策だ。トルコ統計機構によると、政権は外資を呼び込むなどの目的で、2021年に大幅な政策金利の引き下げを行い、22年の年間インフレ率は64.27%と深刻化。失業率や生活費の高騰も国民を苦しめている。

世論調査会社メトロポール社によると、今月の調査で、42.6%がクルチダルオール氏に投票すると答え、エルドアン氏の41.1%を上回った。

巻き返しを図るエルドアン氏は、失業補償の拡充や公務員給与の増額、低所得者層への補助拡大などの施策を次々に打ち出している。だが、メトロポールによると、同氏の支持率は1月の45.9%から下落している。

選挙のカギを握るとされるのは、国内に1000万人以上いるクルド人の票だ。被災地11県に約1400万人が居住し、約半数の県でクルド人が過半数を占める。被災地への初動対応の遅さや、建物倒壊を招いた耐震基準の甘さに対し、クルド人の政府批判が集中している。

クルド系政党「国民民主主義党(HDP)」のイブレン・チェビキ氏は本紙の取材に、「エルドアン氏へ反対票を投じるクルド人は多いのではないか。今回の選挙ではクルド票が結果を左右しうる」と話している。【4月16日 東京】
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接戦のなかで、僅かながらリードを許している・・・普通の人間なら“胃が痛くなっても”当然の状況ですが、“疲れを知らないタフな男”エルドアン大統領もさすがに・・・というところでしょうか。(インフルエンザによるウイルス性胃腸炎とのことです)

【苦戦の原因 経済失政によるインフレ、巨大地震被害への責任】
エルドアン大統領はこれまでも接戦を勝ち抜いてきました。
2014年の大統領選挙の得票率は51.79%、圧倒的優勢と言われていた2018年大統領選挙の得票率も52.59%にすぎませんでした。相手はいずれも最大野党の共和人民党(CHP)の候補。

政権側がメディアを支配していますので、これから投票日にむけてエルドアン陣営はメディアを動員した攻勢をかけていくと思われます。バラマキ政策も。

そうしたことで、下記記事表題の“赤信号”はやや言いすぎかも。“黄色信号”といったところでしょうか。

長期政権のエルドアン大統領が苦戦しているのは、何と言ってもインフレが進行して市民生活が困窮していること、それに対し有効な対策をとってこなかった(経済学的には全く逆の対応をしてきた)ことです。

それに加えて、上記記事にもあるように地震対策への国民の不満も。

****トルコのエルドアン氏、5月の大統領選に赤信号****
トルコでは5月14日に大統領選と議会選挙が実施される。2003年に首相に就任して以来、選挙に連戦連勝して20年以上にわたってトップの座にあるエルドアン大統領にとって、もっとも試練に満ちた選挙になりそうである。

エルドアン大統領は首相として10年在任した後、2013年に憲法を改正してトルコの政治を専制大統領制に変更、自ら首相を退いて大統領に就任した。しかし、その長年の専制政治に対する反発が次第に強まり、民主政治の復活に対する期待が高まってきていた。  

さらにエルドアン氏が選挙で強みを発揮してきた最大の理由であったトルコの経済発展、人々の暮らし向きの向上がピタリと止まってしまった。それどころか、80%にも達した超インフレに直面して大衆の「生活苦」にあえぐ怨嗟の声が高まっている。  

追い打ちとなったのは、2月のトルコ大地震での救援活動の不手際、復興支援の立ち遅れも支持率低下につながっている。  

経済面では22年には一時前年比85%に達して現在でも50%を越えるインフレ高騰に政治への批判が高まっている。経常収支は既往最高の赤字を更新しており、トルコリラも昨年3月から1年間で60%も下落している。  

中央銀行はこういう時には本来インフレ抑制と国際収支赤字の縮小を狙って金利水準を引き上げるのが普通だ。しかし、トルコではエルドアン大統領が「利上げはインフレを高進させる」という独特の哲学から中央銀行総裁を何人も更迭して利下げをのむ総裁に代えた。  

いまでは政策金利は20%台から8.5%にまで引き下げられている。最近の大地震からの復興を支えるためにも低金利が必要とのスタンスも加わった。

しかし、これではインフレの高進が止まらないのも当然だ。なによりも実質所得の大幅低下にあえぐ一般国民の「生活苦」がエルドアン批判に直結している。  

大地震に対する対応のまずさも批判の対象だ。2月6日にトルコ南東部でマグニチュード7を越える大地震が2回発生、多くの建物が崩壊して隣国シリアと併せて5万5千人の死者を出している。  

エルドアン大統領は「救助が遅れたのは余震や悪天候のせい」と理解を求めているが、国民の批判は強い。さらには土建業者を支持基盤とするエルドアンが耐震構造の弱いビルの建築を許してきたと野党からの批判も募っている。  

(中略)エルドアン氏は2018年6月に大統領として再任されて今年6月で任期5年を迎える。政権が長期に及ぶとともに、汚職腐敗やクロニズムが蔓延して政界のごく少数のトップ層が大きな富を得て君臨する一方で、何百万人のトルコ国民は貧困にあえぐ生活を強いられてきた、との批判も根強い。  

これに対して野党は長年エルドアン氏の独裁を許してきた。現状でも、一院制議会(600議席)で、エルドアン氏率いる公正発展党(AKP)が286議席とシェア43%、連合する民族主義者行動党(MHP)と合わせて与党連合が54%を占める。

野党は最大野党の共和人民党(CHP)が134議席、シェア23%でその他を合わせた野党連合でシェア34%となっている。  

しかし、野党の主要6党が漸く結束を示してエルドアン打倒の声を上げるに至った。すなわち、最大野党である共和人民党(CHP)の党首であるクチダルオール党首(74歳)が大統領選における野党6党の共通候補となった。

クチダルオール氏は大統領に当選すれば、エルドアン氏が専制色を強めた大統領制を憲法改正によって民主的な大統領制に戻すことを公約している。  

なお、野党6党とは、共和人民党(CHP)のほか、優良党(IYI)、至福党(SP)、民主党(DP)、さらに2019年7月に与党AKPを離党した国際的にも有名な政策マンであるババジャン元副首相が率いる民主主義社会党(DEVA)、2019年9月にやはりAKPを離脱したダウトオール元首相が率いる未来党をさす。  

エルドアン大統領は「トルコの田中角栄」と称されるほど、大衆人気が高かったものの、長年の専制政治に対する反感と何よりも経済の悪化が響いて2021年8月以降、不支持が支持を10~15%ほど上回る不人気が続いた。

いったん、同年11月には支持・不支持が拮抗したものの、大地震への対応のまずさもあって再び不支持が支持を上回った。  

エルドアン氏も選挙戦前には恒例となっている公務員給与や年金支給額の引き上げなどの「実利」をばらまき劣勢挽回に躍起となっている。両者が第一回投票で過半数を得られなければ、5月28日に第二回目の投票が行われる。 
 
クチダルオール大統領候補が率いるCHPは人気の高いイスタンブールのイマモール市長とアンカラのヤバシュ市長を副大統領候補に充てることで得票アップを狙っている。

ただそれ以上に重要なのは野党6党共闘には加わっていないものの、親クルドで野党第二党の人民民主党(HDP)が大統領選で野党統一候補のクチダルオール氏に票を投じてくれるかどうかだ。  

エルドアン政権は2015年にクルド人武装勢力(PKK)との和平協定が瓦解して以来、クルド人の弾圧を繰り返してきた。政府軍と完全自治を求める武装勢力の衝突で4万人におよぶ犠牲者が出ている。  

HDPでは、クルド人を圧迫してきたエルドアン氏の圧政を打倒する好機としてクチダルオール氏に票を投じる方針を打ち出そうとしている。HDPの支持率は12%と高く人口8500万人を擁するクルド人勢力を代表する政党である。ただ、クチダルオール氏支援にまわれば党勢が弱まるため、自党候補を担ぐべきだという反対論も根強い。  

トルコの特殊事情としてトルコ独立の英雄であるアタテュルクが定めた宗教色を政治に持ち込まないという建前がある。クチダルオール氏率いるCHPはアタテュルクが創設した非宗教色の強いいわゆる「世俗派」の代表である。 

これに対してエルドアン氏が率いるAKPはイスラム穏健派で女性のスカーフ着用に対する保守的な考え方に賛同する有権者が多い。

最後の瞬間には保守的な土地柄である地方では、宗教的な要因が失政の追求を凌駕してエルドアン支持に投票が流れる公算もある、と指摘されている。現に足元ではエルドアン氏の支持率がアナトリア地方など地方で上昇しており、選挙戦は予断を許さなくなってきた。  

トルコの議会選挙、大統領選に世界の注目が集まるのは、ここでエルドアン氏が勝利すればエルドアンの専制政治が5年後の2028年まで続くことになり(首相就任以来四半世紀に亘ってエルドアン支配が続くことになる)、人権弾圧がますます強まるとみられることだ。  

さらに同じ専制主義国家であるロシア、中国、サウジアラビアがエルドアン氏の政治活動を外交面ならびに金銭面も含めて陰に陽に支援している。グローバルには西側陣営対専制国家体制の対決ともいえる。

5月14日の大統領選、議会選挙はトルコの運命だけでなく、トルコが国境を越えて外交、軍事面でどういう対応をするか、さらには世界の民主主義への将来にも影響を及ぼすことになる。【4月24日 俵一郎氏 (国際金融専門家) NEWS SOCRA】
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エルドアン氏が率いる与党公正発展党(AKP)は、物価上昇率を1桁台に下げ、成長を上向かせることを選挙公約の目玉として掲げています。

しかし、もしエルドアン氏が勝利して“経済学の理論に反するような低金利政策”経済学の理論に反するような続く場合、トルコリラは大幅安となることも予測されています。

****トルコリラ、5月大統領・議会選後に急落も=JPモルガン****
JPモルガンのアナリストチームは、トルコで5月14日に行われる大統領・議会選挙について、結果を受けて現行の非伝統的経済政策にわずかな変更しか期待できないと見なされた場合、トルコリラが現在の1ドル=約19リラから30リラ近くに急落する可能性があると予想した。(後略)【4月17日 ロイター】
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です。

なお、エルドアン大統領が“経済学の理論に反するような低金利政策”に固執するのは、低金利による投資・成長重視(その利益はエルドアン氏と関係が深い取り巻き層に・・・という話も)ということだけでなく、イスラム教の聖典コーランが金利を取ることを禁止していることがイスラム主義者のエルドアン氏に影響したとも言われています。


地震被害の問題では、“エルドアン氏は多くの建物が崩れたのは違法建築が原因として、建設業者に責任を転嫁する姿勢をみせている。だが世論調査会社「メトロポール」が2月に実施した調査では、地震被害について責任があるのは「政府」と答えた人が34・4%で最多となり、「建設業者」と答えた人は26・9%にとどまった。”【4月14日 毎日】と、エルドアン大統領には分が悪いようです。

【勝敗を決するクルド人票の行方】
選挙戦はクルド人票の行方が勝敗を決するというのが大方の見方ですが、エルドアン政権のクルド人勢力への圧力を強めています。

****「テロ関与」で110人拘束=選挙控えクルド人記者ら―トルコ****
トルコ警察は25日、南東部ディヤルバクルなど21県で一斉取り締まりを行い、当局がテロ集団と見なす反政府武装組織クルド労働者党(PKK)の活動に「関与した疑い」で計110人の身柄を拘束した。現地メディアが伝えた。この中には国内少数派クルド人の記者や法律家らが含まれているという。

トルコでは5月14日、大統領・議会選挙が予定されている。野党のクルド系政党の議員はツイッターで、エルドアン政権が「(選挙で)権力を失うことを恐れ、改めて拘束作戦を行った」と主張した。【4月25日 時事】 
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こうした強硬な姿勢はクルド人の離反を強めるのでは・・・とも思われますが、ただ、クルド人一般とPKKなど過激派はまた別物ということもありますので。その影響はよくわかりません。

以前の話で言えば、エルドアン氏はクルド人への融和政策を行い、エルドアン・公正発展党にとってクルド人は「票田」でもありました。ただ、近年はクルド系政党・人民民主党(HDP)が台頭していますので、また事情が違うかも。

3月末段階の報道ではHDPは独自候補を擁立しない方針を表明し、“HDPのペルビン・ブルダン共同党首はクルチダルオール氏支持を明言しなかったが、元共同党首で16年から投獄されているセラハティン・デミルタシュ氏はクルチダルオール氏を応援する姿勢を示している。”【3月23日 ロイター】ということで、野党統一候補のクチダルオール氏に有利な展開とされています。

エルドアン政権は、テロ組織とみなす反政府武装組織のクルド労働者党(PKK)とHDPがつながっていると主張して活動禁止を求めており、トルコの憲法裁判所は、検察庁からのHDPの解党の申し立てについて現在審議中です。

【選挙結果は国際政治にも大きな影響】
エルドアン大統領は、良くも悪くも、国際政治でその存在感をアピールしてきました。
ウクライナ穀物輸出での仲介、シリアにおける反体制派支援とクルド人勢力への軍事作戦、難民の欧州流入問題でのEUとの関係、スウェーデンのNATO加盟への反対・・・等々。

仮にエルドアン退陣となると、そうした国際面への影響は小さくないでしょう。

国内的には、イスラム主義強化・強権支配的な政治の流れは停止すると思われますが、ただ、野党統一候補のクチダルオール氏は6党の“反エルドアン”連携の上に立っていますので、勝利後の連携維持はなかなか難しいのでは・・・というのは常識的な見方でしょう。(イスラエルの“反ネタニヤフ”連合とおなじような感じか)
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アメリカ  「バイデンvs.トランプ」再対決で深まる「分断」 「分断」「内戦」回避のカギと“禁じ手”

2023-04-26 23:40:14 | アメリカ

(2021年1月6日午後3時46分、米ワシントンDCの連邦議会議事堂 Photo by Masuo Yokota【2022年11月2日 DIAMONDonline】)

【結局「バイデンvs.トランプ」再対決か】
米国のバイデン大統領が25日、ビデオ動画を公開し、2024年大統領選への再選出馬を正式に表明しました。

バイデン大統領の再選出馬は既定路線で、民主党内に有力な対抗馬がなく特に急ぐ必要もないのの、あまり遅くなると資金集め等の選挙戦準備に支障も出る・・・といったことでタイミングを見計らっていました。

聴衆を集めてのスピーチではなく、“ビデオ動画”という形をとったのは、高齢のためか、かねてより“言い間違いが多い”とされていることから、そうしたミスが出ない形式を選んだと言われています。

****バイデン米大統領、再選出馬を正式表明 「民主主義を守る」****
バイデン米大統領(80)は25日、2024年の大統領選への再選出馬を正式に表明した。ネット上に動画を公開した。

バイデン氏は歴代の米大統領ですでに最高齢。2期目の任期終了時の年齢は86歳と、米国男性の平均寿命を約10年上回っており、有権者がさらに4年の任期を託すかが問われることになる。

同氏は動画で米国の民主主義を守ることが自らの仕事だと表明。動画は、トランプ前大統領の支持者が2021年1月6日に連邦議会議事堂に突入した際の映像で始まっている。

バイデン氏は「4年前に出馬した時、私は私たちが米国の魂を懸けた闘いの中にいると言った。私たちはまだ闘いの中にいる」とし「この仕事を終わらせよう。私たちにはそれができる」と訴えた。

同氏は共和党の綱領は米国の自由の脅威だと主張、女性の医療制限や公的年金の削減に反対する意向を示した。トランプ氏のスローガン「米国を再び偉大に(MAGA)」を掲げる「MAGA過激派」も非難した。

昨年11月に次期大統領選への出馬を表明したトランプ氏は、バイデン氏の再出馬表明を受け、自身のソーシャルメディア上で「米国の家庭は半世紀ぶりに最悪のインフレによって壊滅的な打撃を受けている。銀行も破綻している」とバイデン氏の手腕を批判。アフガニスタンからの米軍撤収に言及し、「アフガンで降伏したように、エネルギーの独立を放棄した」と非難した。

民主党内にはバイデン氏の有力対抗馬はいないとみられている。
副大統領候補には、ハリス副大統領が再出馬する。

ロイター/イプソスの世論調査によると、80歳のバイデン米大統領は高齢のため来年の大統領選に出馬すべきでないとの回答が民主党支持者の約半分を占めた。

バイデン氏が再選出馬を表明する動画を公開したのに合わせ、共和党全国委員会(RNC)は2期目のバイデン政権でもたらされるとする「ディストピア的」な動画を公開。

台湾が中国の「侵略」を受け、台北の高層ビルが倒壊する様子や、数万人の移民が米国に不法入国する様子などの合成された映像が映し出され、「これまでで最も弱い大統領がもし再選されたらどうなるか?」と問いかけている。【4月25日 ロイター】
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バイデン大統領の“高齢”は多くが意識するところですし、民主党内には左右の対立もありますが、“バイデン氏は就任から2年余りで、インフラ投資法や対中国を意識した半導体補助金法、銃規制強化法など重要な法整備を超党派で実現。昨年の中間選挙で上院の多数派を維持し、下院でも議席減を最小限にとどめたことで、民主党内の「バイデン降ろし」は影を潜めた。”【4月25日 時事】とのこと。

特に、中間選挙を乗り切ったことで、本人も自信を深めたのでしょう。

こうした“実績”からしても、また、共和党・トランプ氏と闘うためにもバイデン氏が最適ということですが、他の有力候補がいないというのも実情。

おそらく民主党内の可能性のある者は、次の次を狙っているのでしょう。
ただ、“高齢”を考えると、再選しても“任期途中でハリス副大統領に交代“という可能性も、これまで以上に強くなります。思いがけない形で初の女性大統領・・・というのは、話が先走り過ぎ。

一方の共和党では、トランプ氏が訴追によって「弾圧の被害者」として支持を集め、対抗馬と見られていたフロリダ州のデサンティス知事は「失速」気味。

****2024米大統領選、共和党はデサンティスが早々に失速 反トランプ派に危機感****
米国では、共和党員や元共和党員でありながらドナルド・トランプ前大統領を絶対に支持しない「ネバー・トランパーズ」の間に危機感が広がっている。

2016年にトランプ氏が大統領に就任して以来、この一派は一貫して同氏の政治生命を終わらせる活動をしてきた。それにもかかわらず、24年の次回大統領選が始まった今、トランプ氏の勢いが非常に強く、このままでは共和党の大統領候補指名を勝ち取ってしまうのではないかとみられているからだ。

懸念を誘っているのは、トランプ氏の有力な対抗馬になると目されてきたフロリダ州のデサンティス知事の人気が失速気味であることだ。

デサンティス氏は、保守的な価値観を堅持するためのいわゆる「文化戦争」に夢中になっている間に、政治資金調達や支持率、党候補指名のための味方議員獲得といった面でトランプ氏に圧倒されるリスクが出てきている。

4月上旬の共和党員と無党派層を対象としたロイター/イプソス調査では、トランプ氏支持率は58%とデサンティス氏の21%を大きく引き離した。共和党員のみに対する別の幾つかの調査でも、ここ数週間でトランプ氏のデサンティス氏に対する優位が強まった。

このためネバー・トランパーズのデサンティス氏への期待感は弱まりつつあり、中には実質的に白旗を挙げた向きもいる。(中略)

訴追問題が転機
昨年11月の議会中間選挙で、トランプ氏の推薦した共和党議員が何人も敗北し、同氏の求心力に陰りが見えた以上、次の大統領候補は別の誰かを探そうとの機運が党内に生まれた。

そこで格好の人物とみなされたのが、保守的な政策実現を約束してフロリダ州知事再選を果たしたデサンティス氏だ。

ところが今年4月、トランプ氏が不倫相手とされる女性に口止め料を支払ったことを巡る業務記録改ざんなどの疑いで起訴されると、共和党は一致結束して同氏を擁護。ワシントンの連邦議員だけでなく、デサンティス氏の地元フロリダ州議会でもトランプ氏支持者が急増した。(中略)

トランプ氏側近によると、同氏の選挙資金調達にも弾みが付き、今年第1・四半期の調達額は1900万ドル近くに達した。その大半は同氏訴追後に調達されている。多くの共和党員は訴追が政治的動機に基づいていると考えている。

これに対してデサンティス氏は、学校で性的少数者について教えることを制限したり、この政策を批判したウォルト・ディズニーに対して州が長年付与してきた特別待遇を奪う取り組みを進めたりして、トランプ氏の中核的な支持層にアピールを試みているが、成功していないように見える。

ディズニーとの対立を巡ってはトランプ氏が今週、デサンティス氏を「敗者」だとこき下ろしたのに、デサンティス氏は言い返さないばかりか、訴追問題でトランプ氏の援護に回った。

共和党ストラテジストでずっとトランプ氏に批判的なサラ・ロングウェル氏は「デサンティス氏は訴追問題でトランプ氏側に立ったことで、『トランプ劇場』における助演俳優になってしまっている。つまり(トランプ氏に比べて)弱々しく見える」と解説する。(後略)【4月25日 Newsweek】
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【有権者が望んでいない再対決組み合わせ 「疲労」と「恐怖」】
かくして、2024年大統領選挙は再び「バイデンvs.トランプ」となりそうですが、以前も書いたように、バイデン・民主党サイドとしては、この再対決の構図は“トランプ阻止”で党内をまとめ、トランプ氏に否定的な中間層も広く取り込める“望ましい構図”でしょう。今後、トランプ氏の訴追が相次ぐであろうことも“本選”ではバイデン氏に有利となるでしょう。

ただ、有権者の立場で言えば、「他に誰かいないのか?」と言いたくなる組み合わせです。

****バイデン氏もトランプ氏も再出馬望まず、米世論調査****
 ロイター/イプソスの世論調査によると、80歳のバイデン米大統領は高齢のため来年の大統領選に出馬すべきでないとの回答が民主党支持者の約半分を占めた。

また国民の約3分の2がバイデン氏もトランプ前大統領も再出馬すべきでないと考えていることが明らかになった。

民主党支持者の44%がバイデン氏は再選を目指すべきではないとし、共和党支持者の34%はトランプ氏の再出馬に否定的だった。

バイデン氏を大統領として評価するとの割合は41%で、民主党支持者の間では74%だが共和党支持者では10%にとどまった。

バイデン氏は大統領として過去最高齢で、再選されれれば2期目の任期終了時には86歳になっている。世論調査では民主党支持者の61%が同氏は大統領としては年を取りすぎていると答えた。

これに対し共和党支持者の35%が76歳のトランプ氏は高齢すぎると回答した。

トランプ氏は共和党の候補指名争いでトップを走り、支持率が50%と24%のデサンティス・フロリダ州知事を引き離している。

本選でバイデン氏とトランプ氏の対決となった場合の支持率は、バイデン氏が43%、トランプ氏は38%となっている。無党派層の支持ではバイデン氏がリードしている。

バイデン氏対デサンティス氏の勝負となった場合、バイデン氏の43%に対し、デサンティス氏は34%とさらに差が広がった。(後略)【4月25日 ロイター】
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****バイデン氏とトランプ氏が再戦なら…「疲弊」「恐怖」 米世論調査****
2024年の米大統領選に向けて、民主党のバイデン大統領(80)と共和党のトランプ前大統領(76)との「再戦」を考えた場合の気持ちを問う世論調査(複数回答可)があり、38%が「疲弊」と答えた。

上位には「恐怖」(29%)、「悲しみ」(23%)、「怒り」(23%)などマイナスな回答が並んだ。バイデン氏は近く再選に向けて出馬表明すると報じられ、トランプ氏も党候補指名レースのトップを走っているが、世論は「再戦」を望んでいないことが浮き彫りになった。(後略)【4月24日 毎日】
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【「分断」の深刻化、それを煽る「仕掛け人」で現実味を増す「内戦」の危険】
「疲弊」「恐怖」の再対決の結果がどうなるのかは私が知る由もありませんが、おそらく今でも深刻な「分断」が更に深まることは予想されます。

「分断」が行きつく先は・・・「内戦」

****国の分断を回避するために今、アメリカが考えていること 世論調査で浮き彫りになる米国人の変化****
(経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」をめぐり)米国で人工妊娠中絶の是非を巡る対立がさらに深まっている。(中略)

今回の対立も最終的には連邦最高裁判所(最高裁)に持ち込まれる可能性が高く、その判断に注目が集まっている。最高裁は昨年6月、49年ぶりに中絶の権利の合憲性を否定する判決を下しているからだ。

この判決が出るとリベラル陣営は激怒し、米国社会は大混乱に陥ったことは記憶に新しい。ニューヨーク・タイムズは当時「(アメリカ合衆国ではなく)アメリカ分裂国になってしまった」と評したほどだ。直後にビジネスインサイダーが実施した世論調査でも43%が「10年以内に内戦が発生するだろう」と回答した。

トランプ氏の起訴をめぐっても
残念ながら、最近の米国には頭痛の種が尽きない。 トランプ前大統領の起訴も国を2分する前代未聞の出来事だ。

4月3日に公表されたCNNの世論調査によれば、民主党支持層の94%が「よくやった」と回答したのに対し、共和党支持層の79%が「間違った起訴」との判断を下した。(中略)

米国で愛国心の低下が顕著になっているのも気になるところだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が3月22日に公表した世論調査によれば、「愛国心は極めて重要」と回答した割合は38%にとどまった。同様の調査を実施した1998年に70%が「極めて重要」と回答しており、その落差は際立っている。(中略)

多様な人種、移民、宗教からなる米国で愛国心は国を1つにつなぎとめる唯一の精神的なよりどころとされてきた。だが、個人主義が浸透した結果、米国人としての共通の価値観よりも、それぞれが持つ異なる人種的、文化的バックグラウンドに関心が集まる傾向が強まったと言われている。(後略)【4月21日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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もちろん、アメリカが現実に内戦状態になるとは私は今でも思っていません。
ただ、以前なら内戦に関する記事は読む気にもならなかったのが、今では何が書かれているのか気になるところも。

巷では、バーバラ・ウオルター・カリフォルニア大学教授の著書『アメリカは内戦に向かうのか』がベストセラーになっているとか。

****「白人の地位格下げ」で10年以内に勃発する「アメリカ民族内戦」のおぞましすぎる末路【米国一流政治学者が予言】****
「10年以内に内戦勃発」
「トランプ起訴」の是非は、民主党支持層と共和党支持層で激しい意見対立を生んだ。さらに対立を深めかねない人工妊娠中絶をめぐる問題がアメリカで浮上している。

すでに「10年以内に米国で内戦が発生するだろう」とする意見が4割にも上っているが、本当に内戦状態に突入するのか。(中略)

「格下げ」される白人の怒り
日本でも「米国で内戦が起きるのでは」との懸念が高まる中、このほど『アメリカは内戦に向かうのか(日本語版)』(東洋経済新報社・2023年3月)という物騒なタイトルの書籍が出版された。アメリカではすでにベストセラーになっている。

アメリカを代表する政治学者による憂国の書だ。
著者のバーバラ・ウオルター・カリフォルニア大学教授(政治学)は、世界の内戦に共通する要因を見つけ出し、米国が内戦の危機の瀬戸際にあることを論じている。

ウオルター氏が見つけ出した最初の要因は“アノクラシー”という政治形態だ。アノクラシーとは「部分的民主主義」と訳されるが、民主政が専制政に移行する過程などを指す。

ウオルター氏によれば、2021年1月に発生した連邦議会襲撃事件により米国はアノクラシーの状態に陥ったという。
アノクラシーとともに内戦を引き起こす共通の要因は「格下げ」だ。

格下げとは、社会の支配的階層にあった人々(土着の民)がその地位を失い、二級市民に転落していく現象のことだ。

米国では今でも白人がマジョリテイーだが、2012年に新生児に占める非白人の比率が5割を超え、全人口ベースでも2045年に非白人の比率が過半数になると予測されている。

内戦の「仕掛け人」の正体
それだけではない。 1989年以降、非大卒の白人労働者の生活の質を示すほぼすべての指標(所得、持ち家、結婚比率など)が低下しているのだ。

ウオルター氏によれば、人々を政治的暴力に駆り立てるのは「失う」ことの痛みだ。
名誉毀損防止同盟によれば、昨年、全米で白人至上主義に絡む事件が6751件発生した。前年に比べ約40%急増し、過去最多を記録した。

内戦勃発のリスクが高まる状況下でウオルター氏が最も危険視するのは「民族主義仕掛け人」の存在だ。
その典型がトランプ氏であることは言うまでもない。

「黒人はみな貧しくて暴力的、メキシコ人はみな犯罪者だ」と決めつけるトランプ氏のやり方はアイデンテイー・ポリテイクス(人種や民族、宗派などの利益を代弁する政治)の典型だ。

現在の共和党は白人のための政党になったと言っても過言ではない。(中略)

だが、いま米国が奇しくも(スンニ派なのか、シーア派なのかが、極めて敏感に意識されるようになり、内戦となった)20年前のイラクと同様の状態となり、白人なのか、非白人なのかという意識が敏感になり「アイデンティティ・ポリティクス」が鮮明になる状況は、「イラク戦争の呪い」ではないかと思いたくもなる。

予言どおりに事態は進んでいる… ウオルター氏は、『アメリカは内戦に向かうのか』(英語版)を2022年1月に上梓しているが、その中で「内戦前夜に過激派は国の混乱を加速させるために公共施設(交通、電力などの設備)に攻撃を繰り返す」と警告を発している。

それを裏付けるように、今年2月にアメリカ各州で国家転覆を狙う「加速主義者」による電力インフラへの執拗な攻撃が相次いだ。

「米国で内戦が勃発する」と考えたくもないが、考えたくないことがしばしば起きることは歴史が証明するところだ。(後略)【4月25日 藤和彦氏 現代ビジネス】
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【「分断」克服・「内戦」回避のカギと“禁じ手”】
ウオルター氏は内戦を克服した事例として、南アフリカのアパルトヘイト廃止をあげ、黒人側の「英雄」マンデラ氏と協力してことにあたった、地位を失いつつあった白人側のデクラーク大統領(当時)を高く評価しているようです。(両者は共同でノーベル平和賞を受賞しています)

アメリカの2024年大統領選挙後、ポピュリズム的に「怒り」を扇動するのではなく、南アのデクラーク元大統領に相当するような「分断」克服、「内戦」回避に本気で尽力できる指導者が、地位を失いつつある白人の政党・共和党側に出現するか・・・・が、事態収拾のカギになりそうです。

ただ、「分断」克服・「内戦」回避の“禁じ手”は、共通の敵を外につくること。
“1930年代の米国も社会の分断にあえいでいたが、皮肉なことに、起死回生の機会を提供したのは第二次世界大戦だった。日独伊という「強大な敵」が登場したことで、米国社会は一致団結することができたという経緯がある。”【4月21日 藤和彦氏 デイリー新潮】

そして今、アメリカ議会・世論が一致できるのは「中国の脅威」

この“禁じ手”は、アメリカ内戦以上に恐ろしい。
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イギリス  10%超の上昇が続く物価水準 王室に対する国民世論動向

2023-04-25 23:36:03 | 欧州情勢

(イギリス消費者物価指数【4月20日 千葉秀一氏 note】)

【依然続く10%超の物価上昇 40年ぶりの高水準 食品は19%】
日本を含め、多くの国がインフレに悩んでいますが、イギリスでは10%超の物価上昇が続き(食品は19%)、他の先進国と比べても厳しい状況となっています。

****英の消費者物価指数 前年同月比10%超上昇 厳しいインフレ続く****
イギリスの先月の消費者物価指数の伸び率は2か月ぶりに縮小しましたが、前の年の同じ月と比べて10%を超える上昇となり、依然として厳しいインフレが続いています。

イギリスの統計局が19日発表した先月の消費者物価指数は、前の年の同じ月と比べて10.1%の上昇となりました。
上げ幅は、前の月の10.4%を下回り、2か月ぶりに縮小しました。

ただ、伸び率がふた桁となるのは7か月連続で、アメリカやユーロ圏と比べても依然として高い伸びとなっていて、記録的な水準のインフレが続いています。

伸び率の縮小は、ガソリンなどを含む「輸送」の項目が前の年の同じ月より0.8%の上昇と前の月の2.9%から大きく下がったことが主な要因です。

一方、食料品や飲料を含む項目は19.1%の上昇で前の月の18.0%から拡大し、生活に身近な品目で物価が高止まりしていることがうかがえます。

イギリスの中央銀行、イングランド銀行はインフレを抑え込むため、これまで11回連続で利上げを決めていますが、物価高の動向に加え欧米で広がった金融不安を受けて今後、どのような政策判断をするのか注目されます。【4月19日 NHK】
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こうしたインフレ状況は“約40年ぶりの高水準”【4月19日 テレ朝news】とのことで、食品については“過去45年で最も高い水準”【同上】とのこと。

市民生活にも大きな影響が出ています。

****「ちょっとパブに」すら贅沢... 春なのに天気の話もできないイギリス****
<イギリスに気候の良い4月が訪れると例年は天気の話をするはずのイギリス人たちが、今年は急激な物価上昇の話題で持ちきり>

4月は大抵、気候が穏やかになり始め、イギリスの人々が天候に対して好意的な気持ちを抱く月だ。でも今年は一気に押し寄せた値上げ(多くの分野で同日に行われた)もまた顕著な月だった。

僕たちは皆、いつもの話題(つまり天候)よりもむしろ値上げについて話していた。

ファーストクラス(翌日配達)郵便の値段は約16%上昇。地方税は5%増額。水道代は全国平均で7.5%上がった(僕の住む地域では10.5%値上げ)。国民保健サービス(NHS)の薬代は30ペンス値上がりし、ほんの3.2%の上昇ではあるが、医師の診察を受けるのに3週間も待たされて、ちょうど値上げされた日に処方箋を受け取る羽目になった僕は腹立たしい思いをした。総合して、これらは家計に結構な打撃を与えている。

イギリスではここ数十年ほど大規模なインフレが起こらなかったから、僕たちは比較的安定した価格に慣れてしまっていた。値上がりがあっても、何年かかけてこの製品やらあのサービスやらの価格が少々上がっていく、という程度だった。

それが今では、2桁のインフレに襲われているから、一部の商品の値段は劇的なほどに上昇している。常に買っているような製品は特に値上がりに気付きやすい。例えば少し前に4パイント(約2.2リットル)当たり1.1ポンド(183円)だった牛乳は今年になって1.65ポンド(275円)に急騰した。

安かったはずのパブも床屋も
僕が心底驚いたのは、ロンドンのパブでのビール1パイントの価格だ。インフレの始まる前ですら、既にかつてなら考えられないレベルの5ポンド(約830円)になっていたのは知っていたが、それが今や多くの店で7ポンド(約1160円)近い値段になっている(8ポンド〔約1330円〕を超えたところもあるらしい)。

昨年12月に僕は学生時代の古い友人たちとクリスマス飲みで金融街のしゃれたパブを訪れた。(レストランでもナイトクラブでもなく)「ちょっとパブで会う」のは以前なら安く済む選択肢だったはずが、その日はすっかり高くついた夜になってしまった。(後略)【4月25日 Newsweek】
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****英国で平均寿命が伸びない理由...「集団自決」などなくても長生きできない厳しい現実とは?****
<ロンドンの高級住宅街ケンジントンからニュークロスゲートまで、わずか10キロ離れただけで男性の平均寿命は92歳から74歳へと18年も短くなる>

(中略)最新の世論・社会動向調査によると、成人の半数以上(51%)が食品の買い物をする時、購入量を減らしている。成人の約4人に1人(26%)が過去2週間に食料必需品の不足を経験、ちょうど1年前の16%を大きく上回った。

食費節約のために53%の成人が「より安い食品を買う」、26%が「缶詰や賞味期限の長い食品を多く買う」、21%が「賞味期限の過ぎた食品を食べる」と回答。16%が食事の量を減らしたり、食事を抜いたりしており、中等度から重度の抑うつ症状を持つ人で42%、リタイア前の非就業・非求職者で35%、イングランドで最貧困地域に住む人で31%に達していた。

英紙ガーディアンによると、英国の定番食品チェダーチーズ、白パン、ポークソーセージの価格はこの1年で80%も高騰。

著しく値上がりしたのは(1)砂糖 42.1%(2)ソース、調味料、塩、スパイス、料理用ハーブ33.7%(3)牛乳、チーズ、卵 29.7%。エネルギーや肥料の高騰とインフレによるコスト増、悪天候による不作が原因だ。トマトも不足している。

がん患者の最高待ち時間は671日
60歳を超え、年金生活に備える英国暮らしの筆者はスーパーで買い物をするたび、レシートを見て「本当に高くなった」とため息をつく。早く買い物に行かないと卵も品切れで、翌日買い足しに行く羽目になる。

欧州単一通貨ユーロ圏では年間インフレ率は8.5%に下がっている。今更ながらモノの流れを停滞させた英国の欧州連合(EU)離脱が恨めしい。

(中略)英国の公共医療サービス(NHS)は原則無償がセールスポイントなのだが、かかりつけ医(GP)の緊急紹介から2カ月以内に治療を受けられるはずのがん患者の最高待ち時間は671日(英大衆紙デーリー・ミラー)。住む地域によって医療サービスには大きな格差がある。

筆者の友人、知人には心疾患で手術を受けた50代、60代、70代の男性が多い。民間健康保険によるプライベート医療を受けた男性はカテーテル治療の費用が3万5000ポンド(584万円)と算定され、毎月の保険料が600ポンド(10万円)に値上げされたとぼやく。別の男性はNHSの順番待ちに音を上げて自費で治療を受け、2万ポンド(334万円)を支払った。

米イェール大学・成田悠輔助教は、日本の65歳以上が全人口の3割に達したことに関連して、ネットTVで「僕はもう唯一の解決策ははっきりしていると思っていて結局、高齢者の集団自決、集団切腹みたいなのしかないんじゃないかなと。人間って引き際が重要」と持論を展開したことが米紙ニューヨーク・タイムズなど海外メディアで問題視された。(後略)【4月21日 Newsweek】
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上記記事は、大きな経済格差の存在、その格差によって平均寿命が極端に異なる・・・という話につながって行きますが、今回はパス。

いずれにしても、現在のインフレは、経済的に恵まれない層に対し、経済的にも、健康面でも、大きな負担を更に課すことになっています。

【23年はマイナス成長の予測 G20で最低】
インフレだけでなく、イギリス経済全体が芳しくありません。

****イギリスの成長率見通し、G20で最低に=IMF****
国際通貨基金(IMF)は11日、最新の世界経済見通しを公表し、2023年の世界経済の成長率が昨年の3.4%から2.8%に鈍化する見通しを示した。

イギリスの国内総生産(GDP)は0.3%のマイナス成長で、1月のマイナス0.6%から改善を見込むものの、ウクライナ侵攻をめぐり制裁を受けるロシアを含む主要20カ国・地域(G20)の中で最悪の落ち込み幅になるとした。(中略)

IMFは1月の時点で、イギリスのGDPが今年、0.6%縮小し、主要7カ国(G7)の中で唯一マイナス成長となると予測していた。イギリスは前年に、新型コロナウイルスのパンデミックからの回復を見せ、G7で一番の成長をみせていた。

IMFの研究者たちはこれまで、英経済のパフォーマンス低迷の理由に、同国がガス価格の高騰や金利の上昇、貿易実績の低迷に直面していることをあげていた。

最新のIMFの予測について、ジェレミー・ハント財務相は、(中略)「IMFは、経済成長に向けて私たちが正しい道を歩んでいると示している。計画に沿って行動することで今年のインフレを半分以上抑え、みなさんが受けるプレッシャーを和らげていく」

一方、野党・労働党のレイチェル・リーヴス影の財務相は、この試算は「私たちが国際舞台でどれほど遅れをとり続けているか」を示していると述べた。

「これは13年間にわたる保守党政権下での低成長がこの国の経済を弱体化させている点だけでなく、保守党による住宅ローン違約金に直面し、統計開始以来最も速いペースで生活水準が低下し、家庭の経済状況が悪化しているという点からも重要なことだ」

野党・自由民主党の財務担当スポークスマンのサラ・オルニー氏は、IMFの予測は「保守党政権の経済記録に対する、新たな痛烈な非難」だとした。(後略)【4月12日 BBC】
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前年にパンデミックからの回復によってG7で一番の成長を達成していたとのことですから、その反動減の側面もあるのかも。

ただ、EU離脱による経済環境を考えると、イギリス経済の今後が厳しいことは予想されます。

【頻発するストライキ チャールズ国王の戴冠式にも影響が】
こうしたインフレ・経済状況にあって、以前も取り上げたように、賃上げを求めるストライキも頻発しています。

“イングランドでは今月、若手の医師らが賃上げを求めて4日間のストライキを行いました。地元メディアによりますと、この影響で手術や診療など少なくとも19万6000件がキャンセルされたということです。”【4月19日 テレ朝news】

****英ヒースロー空港職員がストへ チャールズ国王の戴冠式への影響懸念****
イギリスの玄関口、ロンドン・ヒースロー空港の職員が来月、ストライキを計画していて、チャールズ国王の戴冠(たいかん)式に影響が及ぶ可能性があります。

イギリスの労働組合ユナイトは19日、ヒースロー空港で働くセキュリティースタッフが来月、8日間のストライキを実施する計画を発表しました。

特に4日から6日のストライキは、6日のチャールズ国王の戴冠式のために集まる要人や見物客の移動に影響が出る可能性があります。(後略)【4月20日 テレ朝news】
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【英王室に対する世論 若者層に多いネガティブな声 今後も君主制は続くものの・・・】
厳しい経済状況もあってか、チャールズ国王の戴冠式への風当たりも強いようです。

****国王戴冠式、税金投入に過半数が反対 英世論調査****
英国民の51%が、来月6日に行われるチャールズ国王の戴冠式に税金を投入すべきではないと考えていることが、18日公表の世論調査で分かった。

世論調査会社「ユーガブ」が成人4246人を対象に実施したもので、回答者の51%が、戴冠式の費用を政府が「負担すべきではない」と答えた。「負担すべきだ」との回答は32%、「分からない」が約18%だった。

年代別では、生活費高騰の影響を特に受けている若者に反対が多く、18〜24歳の約62%が「負担すべきではない」と回答した。肯定派は15%にとどまった。一方、65歳以上では「負担すべきだ」が44%、「すべきではない」が43%と拮抗(きっこう)している。

政府は、戴冠式と関連イベントの経費をまだ明らかにしていない。大規模な警備費用などを含め、総額数千万ポンドに上るとみられている。

1953年のエリザベス女王の戴冠式の費用は、現在の価値で2050万ポンド(約34億円)。エリザベス女王の父、ジョージ6世の戴冠式(1937年)には同2480万ポンド(約41億円)が費やされた。 【4月19日 AFP】
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ただ、この“風当たり”の原因は生活費高騰だけでなく、基本的にはチャールズ国王の信頼度、更に言えば、英王室・君主制に対する揺らぎを反映したもののように思えます。「負担すべきではない」という声が強い若者層では特に英王室存続へのネガティブな意見が目立ちます。

****英女王死去で世論に変化か、共和制支持派が活動本格化****
英国では70年に及ぶエリザベス女王の在位中、共和制移行を訴える人々から不満が噴出する場面が幾度かあった。しかし国民の女王に対する敬愛が強かったため、王室廃止の機運が長続きすることはなかった。

しかし女王が死去し、女王に比べて人気の劣る息子のチャールズ国王が即位したことで、共和制支持者らは1000年の歴史を持つ王室が廃止に一歩近づいたかもしれないと考えている。

共和制支持の活動団体「リパブリック」のグレアム・スミス代表は今年、「ほとんどの国民にとって女王こそが王室だ。彼女が死去した後、この制度の将来は深刻な危機に直面する」と語っていた。「チャールズ皇太子は王位を継承するかもしれないが、女王が享受していた敬意を引き継ぐことはないだろう」との見方だった。

近代民主主義の中に王室の居場所は存在せず、王室の維持費は目をむくほど高いというのが、スミス氏ら反王室論者の主張だ。

王室当局者らは、維持費は国民1人当たり年間1ポンド(約166円)にも満たないと言う。しかし共和制支持者らは、本当の経費は年間約3億5000万ポンドに達するとしている。

王室の全財産も把握するのが難しい。財務が不透明で、直接所有している資産もはっきりしないからだ。ロイターが2015年に行った分析では、当時の名目資産は推計230億ポンド相当だった。

世論調査では、英国民の大半が王室を支持していることが一貫して示されている。女王自身への支持率も同等か、それ以上だ。共和制支持者らも、女王の存命中に王室制度を変えるのは無理だと認めていた。

しかし調査では、支持率が徐々に低下しており、特に若者の間で下がっていることも分かっている。また女王に比べてチャールズ国王の人気が劣ることも示されている。

73歳のチャールズ国王が即位することへの支持も揺らいでおり、一部の調査では、多くの人々が長男のウィリアム皇太子が王位を継ぐべきだと考えていることが示された。(後略)【2022年9月12日 ロイター】
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****日本の天皇家とは事情が違う…若者の4割強に不支持が広がる英チャールズ新国王の憂鬱****
(中略)
国民の67%が君主制を支持
この調査(2022年9月中旬)では、イギリス国民の67%が、イギリスは今後も君主制を続けるべきだと答えている。過去の他の調査を見ても、君主制の支持率は70%前後で比較的安定しており、1997年にダイアナ妃が亡くなり王室の対応に批判が集まった時でも、この支持率にそれほど影響はなかったほどだ。

しかし、君主制に対する考え方も、世代間で大きな差がある。65歳以上の86%が「君主制を続けるべき」と答えているのに対し、18〜24歳では47%にとどまっている。

よほどロイヤルファミリーが国民の信頼を失わない限り、今後も君主制を支持する傾向は続くとみられるが、チャールズ新国王率いる新しい王室が、若者の支持をいかに得られるかが課題になりそうだ。(後略)【2022年10月4日 PRESIDENT Online】
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王室廃止を訴える団体は、戴冠式当日に大規模な活動を予定しています。

****君主制は「反民主主義」=国王戴冠式で大規模デモも―英廃止派****
来月6日のチャールズ英国王の戴冠式を控え、王室廃止を訴える圧力団体「リパブリック(共和制)」のグレアム・スミス代表が24日、ロンドン市内で記者会見した。君主制は「民主主義に反する」と主張し、国民の間で「君主制廃止と共和制移行に向けた機運」が高まっていると強調。戴冠式でもデモを行い、「英国が王政主義の国ではなく、反対派が増えていることを世界に示したい」と述べた。

スミス氏は、戴冠式に「非常に関心がある」と答えた割合が1桁台だった最近の世論調査を挙げ、「国民の多くは民主主義的価値観を信じており、封建的価値観と階級制度の原則の上に築かれた君主制はこれに反する」と指摘。物価高による生活費危機に人々が苦しむ中、「(戴冠式で行われる)1回のパレードに巨額の税金を費やす」のは誤りだと訴えた。

戴冠式当日は少なくとも1000人のメンバーが、国王を乗せた馬車などが通るパレードの沿道に陣取り、反君主制のポスターを掲げたりスローガンを叫んだりする運動を展開する計画という。【4月25日 時事】 
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前出【PRESIDENT Online】にもあるように、イギリス国内では“今後も君主制を支持する傾向は続く”のでしょうが、英国王を国家元首とする英連邦(コモンウェルス、旧植民地諸国などで構成)加盟国にあっては、「変化」があるのかも。
“英連邦、進む「王室離れ」 君主制廃止模索「自国のトップ、自ら決める」 新国王、問われる求心力”【2022年9月21日 毎日】
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韓国・尹大統領  日本との関係改善を急ぐ 国内評価は不透明 台湾めぐり中国と批判合戦も

2023-04-24 23:37:31 | 東アジア

(韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は24日午後、米国を国賓として訪問するため、ソウル南方、京畿道・城南のソウル空港(軍用空港)から大統領専用機でワシントンへ出発した。出発前にあいさつする尹大統領夫妻。5泊7日の訪米で、26日(現地時間)にバイデン米大統領と韓米首脳会談を行い、27日には米上下両院合同会議で演説を行う。【4月24日 聯合ニュース】)

【韓国大統領の12年ぶりの「国賓」訪米】
韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は24~29日の日程で、アメリカを国賓として訪問します。韓国大統領の「国賓」訪米は2011年の李明博(イ・ミョンバク)大統領以来、12年ぶりとなります。

外交的には(あるいは、格式を重視する立場からは)この「国賓待遇」ということが重視されるようです。

****「反日」をやめた韓国大統領をアメリカが“国賓”待遇…!「米韓首脳会談」実現でも韓国大統領の支持率が下がり続ける特殊事情【元駐韓大使が解説】****

「国賓訪米」を勝ち取った韓国外交
尹錫悦大統領の訪米が迫っている。  
米国のホワイトハウスが「尹錫悦大統領の米国国賓訪問日程が来月(4月)26日に予定された」「日程に国賓晩餐が含まれる」と発表したのは3月7日のことだった。これは尹錫悦政権が日韓の元徴用工問題解決案を発表した翌日である。 

米大統領は、任期中に数回の国賓招待を行うが、バイデン大統領になってから、国賓訪問はフランスのマクロン大統領に次いで2人目である。実際に米国を訪問し、尹大統領が厚遇を受ければ、韓国人の自尊心をくすぐり尹大統領への評価につながるだろう。  

しかし、韓国国民は訪日の際、尹大統領が一方的に譲歩し、日本からの見返りが少なかったのではないかと不満を抱いており、尹大統領の支持層である保守系も訪日を評価することに躊躇しているようである。  

尹大統領が訪米で外交への信頼を取り戻し、日米韓の結束に支持を取り付けられるかが訪米の大きな課題である。  
さらに、懸念材料が浮上している。韓国の大統領室に対する諜報活動を行っていた米国政府の機密文書が流出した。 これによれば、米国政府の圧力を懸念して、韓国大統領室の国家安保室長と外交秘書官が、ウクライナへの殺傷武器支援を不可とする原則をかいくぐり、ひそかに許与する策を検討していたことが記されている。  

そのため、米国が同盟国・韓国に行っていた諜報活動に対する追及を韓国政府が幕引きしようとしていることへの不満も高まった。  

その結果、韓国ギャラップの世論調査によれば、尹大統領への支持率はさらに下がり27%になった。  

尹大統領が訪米するだけで評価されるとの期待は既に持てなくなった。尹大統領訪米で外交への信頼を取り戻し、日米韓の結束に支持を取り付けるためには韓国の立場を会談でより明確に反映させる必要があるだろう。(後略)【4月18日 現代ビジネス】
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なお、21日発表の韓国ギャラップの世論調査による大統領支持率は、国賓訪米が一定に評価され、4ポイント改善して31%となっています。もっとも、24日発表の別調査によれば、前週から1ポイント下落した32.6%でした。

【尹大統領 北朝鮮への強い警戒感から日本との関係改善を急ぐ 韓国国内で受け入れられるか?】
韓国ギャラップの世論調査の数字で見ると、2月末の37%からジリジリと数字を下げていました。
数字が伸び悩む、あるいは低下する大きな理由のひとつは、尹大統領が進める日本との関係改善に対し、やはり韓国国内に批判・戸惑いが根強くあるためでしょう。

韓国の尹大統領は、訪米を前に米紙ワシントン・ポストと行ったインタビューで「(日本が)100年前の(植民地支配の)歴史のためひざまずかなければならないという考えは受け入れられない」と述べています。

****尹大統領 日本に「100年前のことでひざまずけ」とは言えない****
韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は24日に報じられた米紙ワシントン・ポストとのインタビューで、韓日関係の正常化に絡み「今、欧州では残酷な戦争を経験しても未来のために当事国が協力している」とし、「100年前のことで(日本に対し)『無条件にだめ』だとか『無条件にひざまずけ』というのは受け入れられない」と述べた。大統領室が伝えた。

ワシントン・ポストによると、尹大統領は約90分にわたり行われたインタビューで、日本に関する決定について詳しく説明し、大統領選の期間中に自身の考えについて透明に伝えたと話したという。

同紙はまた、尹大統領が「韓国の安全保障上の不安があまりにも緊急な事案であるため、日本政府との協力を先送りすることはできなかった」とし、「これに対して批判的な人々は絶対に納得しないだろう」と述べたとも伝えた。

(中略)大統領室によると尹大統領は韓日関係の改善と関連し「わが国の憲法の自由民主主義という精神に照らしてみれば必ずしなければならないこと」とし、「価値を共有する国家同士は歴史問題であれ懸案問題であれ意思疎通を通じて解決できる」と述べた。 また「私は(大統領)選挙の時、国民にこれを公約として掲げた」と強調したという。

大統領室は尹大統領の発言を紹介したほか、別途の資料を配布し、尹大統領が「100年前のこと」と発言した背景について「このようなアプローチは未来の韓日関係に役立たないという趣旨だった」と説明した。

大統領室は「韓日関係の正常化は必ずしなければならず、遅らせることができないこと」とし、「欧州では残酷な戦争を経験しても未来のために戦争当事国が協力するように、韓日関係の改善は未来に向けて進むべき道」と繰り返し強調した。

また1998年に当時の金大中(キム・デジュン)大統領が日本の国会で行った演説で、「50年にも満たない不幸な歴史のために、1500年にわたる交流と協力の歴史全体を無意味なものにするということは、実に愚かなこと」と述べたと紹介し、尹大統領の発言はこれと同様の意味と伝えた。【4月24日 聯合ニュース】
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尹大統領は3月21日の閣議でも「日本は数十回にわたって歴史問題で反省と謝罪を表明している」と約20分にわたって熱弁を振るい、物議を醸したことがあります。

日本からすれば発言内容は、いずれも「当然」であり、やっと正常に戻りつつあるというところですが、「韓国国内で、これが受け入れられるのだろうか?」という不安も。

対日政策が批判を浴びて政権が求心力を失えば、せっかく動き始めた日韓関係改善も振り出しに戻ってしまいかねません。尹大統領が日本との関係改善を急ぐ背景には、北朝鮮への強い警戒感があります。

“野党はこうした大統領の姿勢を「国を売り飛ばす大統領だ」と批判している”【4月24日 読売】とのこと。尹大統領は信念を貫くタイプのようですが、それが吉と出るか、凶と出るか・・・。

政府レベルの日韓関係正常化の方は、着実に進んでいます。

****日本を「ホワイト国」に復帰 韓国政府 経済協力正常化すすむ****
韓国政府はきょう、輸出手続きを簡略化できるいわゆる「ホワイト国」に日本を復帰させました。

日韓両国は、いわゆる元徴用工を巡る問題などで関係が悪化していた2019年、互いを輸出管理の優遇対象である「ホワイト国」から外していました。

先月の日韓首脳会談を受け韓国側が経済協力の正常化に向けて具体的な措置を取ったもので、日本の復帰に関する改正案がきょう官報に掲載されました。

韓国政府は先月も日本の輸出管理厳格化を受けたWTO=世界貿易機関への提訴を取り下げていました。

両国は今週も、輸出管理に関する政策対話を実施する予定で、今後は韓国をホワイト国に復帰させる日本側の手続きが進むとみられます。【4月24日 FNNプライムオンライン】
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【日本に対する以上に中国・北朝鮮への好感度が低い韓国若年層】
かねてより言われているように、韓国の特に若い層は日本文化を好意的に受入れており、日本への好感度もそんなに悪くありません。むしろ中国への嫌悪感が目だっています。また、北朝鮮との統一についてもネガティブです。

****20〜30代6割「南北統一必要でない」 北より中国の好感度低く=韓国****
韓国市民団体「正しい言論市民行動」が23日発表した20〜30代を対象にした調査の結果によると、北朝鮮との統一について「必ず必要というわけではない」と回答した人が61%に上った。「必ず必要」は24%、「分からない」は14%だった。

朝鮮半島情勢に影響を与える主要国に対する好感度では、中国に対する好感度が最も低く、北朝鮮も下回った。中国に対し91%が「好感を持っていない」と回答。北朝鮮に対しては88%、米国には67%。日本には63%が「好感を持っていない」と答えた。

北朝鮮について「脅威だ」と答えたのは83%、中国が脅威だとの回答は77%に上った。米国が「安全保障で助けになる」との回答は74%だった。日本の場合は「脅威だ」との回答が53%で、「安全保障で助けになる」は37%だった。

 また、韓国社会について82%が「対立が深刻だ」と答えた。保守と進歩(革新)の対立を上げたのは83%で、与野党の対立、貧富の差による階層の対立はそれぞれ84%に上った。

 労働組合の活動に対する評価は「否定的」が42%で、「肯定的」(34%)を上回った。韓国社会の公正性については「不公正だ」が69%で。「公正だ」(20%)を大きく上回った。

 調査は韓国世論評判研究所が13〜18日に20〜39歳の男女1001人を対象に実施した。【4月23日 聯合ニュース】
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「好感を持っていない」が“米国には67%。日本には63%”・・・アメリカより日本の好感度が高い!? びっくりしたのですが、これは「誤記」ではないでしょうか。

YAHOO!ニュース(コリア・レポート編集長 辺真一氏)の記事“韓国人の対日イメージが好転 北朝鮮と中国を上回り、米国に次いで2位に浮上”では“周辺諸国に対する好感度は1位が相も変わらず米国(67%)で、2位が日本(37%)となっていた。以下、北朝鮮(12%)、中国(9%)と続いている。”ということです。

こちらが正しいとすれば、【聯合ニュース】記事は、アメリカの「好感を持っていない」と「好感を持っている」の数字が逆になっています。
(どういう訳か、この調査結果の報道は「誤記」が多く、【レコードチャイナ】記事では、日本の数字が逆になっています。)

それにしても、日本の好感度37%という数字は「反日」全盛期からすれば驚異的な数字です。

【台湾情勢に関する尹大統領の発言めぐり中韓の批判合戦】
韓国世論の中国への反感はキムチ起源論争や米軍のミサイル防衛システムTHAAD配備をめぐる中国の強圧的対応などがあってのことですが、日本との関係改善を進める伊大統領も中国に対して厳しい姿勢を見せており、台湾をめぐる「力による現状変更の試みのために緊張が生じた」との発言は中国・韓国の批判合戦の様相を呈しています。

****尹大統領の発言めぐり中国と韓国が批判合戦 台湾問題に言及で***
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が海外メディアのインタビューで台湾問題に言及したことをめぐり、中国と韓国が20日、批判合戦を展開した。

中国外務省の汪文斌副報道局長が定例記者会見で「中国の内政問題だ。他人が口出しすることではない」と強くけん制したのに対して、韓国外務省は「中国の国家としての格を疑わせる深刻な外交的欠礼だ」と激しく反発した。

尹氏の発言があったのはロイター通信が19日に配信したインタビュー。尹氏は台湾海峡の緊張について「(中国による)力による現状変更の試みのために緊張が生じたが、われわれは国際社会とともに、このような変化には絶対反対する」などと述べた。

韓国外務省は「韓国首脳が国際社会の普遍的な原則に言及したのに対し、中国外務省の報道官は口にしてはならない発言をした」とも批判。韓国メディアは「国家の格という単語を使いながら、韓国政府が中国の外交当局を批判したのは最近では例がない」(保守系の朝鮮日報)などと報じている。

検事総長経験者の尹氏は自由と民主主義、法の支配を重視する。安全保障面で日米韓による連携を目指す姿勢が鮮明だ。26日には米首都ワシントンで、バイデン米大統領との首脳会談を控える。【4月21日 毎日】
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更に21日は・・・
“台湾問題での非難は「危険な結末」招く 中国外相”【4月21日 AFP】

****韓国「言動を慎重に」 中国と台湾情勢巡り再び応酬****
韓国外交部の当局者は21日、中国の秦剛国務委員兼外相が同日開かれたフォーラムで「台湾問題で火遊びする者は必ず身を焦がす」などと発言したことを巡り、「韓国政府は韓中両国の国の品格を守り礼儀正しく相互尊重、互恵、共通の利益に基づいて相互協力を推進していくという立場を一貫して堅持する」とし「中国側もこれに応じて言動に慎重を期すことを願う」と述べた。(後略)【4月21日 聯合ニュース】
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これでも終わらず・・・

****中国外務次官、韓国大統領の台湾問題巡る発言に厳重抗議****
中国の孫衛東外務次官が韓国の尹錫悦大統領の台湾問題を巡る発言に対して厳重な抗議を申し入れた、と中国外務省が23日発表した。

尹氏はロイターのインタビューで、力による現状変更の試みによって台湾周辺の緊張が高まっており、そうした試みには絶対反対すると表明。さらに「台湾問題は中台間だけでなく、北朝鮮と同じような国際問題だ」と語った。

これに対して孫氏は「全く容認できない」と反論し、「南北朝鮮はそれぞれが国連に加盟する主権国家であり、朝鮮半島問題と台湾問題は本質的に完全な別物で、比較の対象にならないことは周知の事実だ」と強調した。

尹氏の発言を巡っては先週も中国外務省が韓国は台湾に関する問題に関して「賢明に」対処するべきだとの見解を示し、韓国側が中国大使を呼んで抗議するなど、両国間で応酬が続いている。【4月24日 ロイター】
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お互い、国民世論・面子もあって、後に退かない構えのようです。伊大統領の訪米中の発言次第では更にヒートアップする可能性も。
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民主主義の現状  「民主主義サミット」、侵食される自由主義(リベラリズム) 中国の「民主集中制」

2023-04-23 23:03:34 | 民主主義・社会問題

(米ワシントンのホワイトハウスで3月29日、民主主義サミットでバイデン米大統領が演説する中、オンライン参加する各国首脳=AP 【3月31日 東京】)

【トークショーに終わった感もある米主導「民主主義サミット」】
あまり大きな話題にもなりませんでしたが、3月29日、30日の二日間にわたり、アメリカ・バイデン大統領が主導し、約120カ国・地域の首脳らが民主主義の強化について議論する「民主主義サミット」なる国際会議がオンライン形式で開催されました。

ロシア・中国といった「専制主義国家」に対抗して「民主主義国家」の団結・強化を図る狙いとされています。

****米主導の民主主義サミットが開幕 「時代の課題に対応のため結集」****
米国主導で約120カ国・地域の首脳らが民主主義の強化について議論する第2回民主主義サミットが29日、2日間の日程で開幕した。

バイデン米大統領は世界で民主主義再生の取り組みを支援するとして、最大6億9000万ドル(約903億円)を拠出する方針を表明。国際社会で存在感を増す中国や、ウクライナに侵攻するロシアといった専制主義国家に対する危機感も共有したい考えだ。

サミット開催は、米国が主催した2021年12月以来で2回目。今回は米国、オランダ、韓国、コスタリカ、ザンビアが共催し、オンラインを中心に各地で会合が開かれる。

初日の全体会合では、バイデン氏やオランダのルッテ首相、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領らが冒頭でサミットの意義を強調。交互に発言する形で「時代の課題に対応するために我々は結集した」「民主的国家が協力すれば達成できないことはない」と訴えた。

その後、共催国の首脳らが交代で司会役を務め、「経済成長と繁栄の共有」「多様性の受け入れと平等」などをテーマに各国が自国の取り組みを紹介。バイデン氏が担当の「地球規模の課題」では、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで演説する予定になっている。

米政府は世界各国の「報道の自由と独立」「汚職の撲滅」「自由で公正な選挙」などを支援するために資金を拠出する意向を表明。また、先端技術が民主主義促進のために使用されるようにする措置も公表した。

米韓首脳は29日、共同声明を出し、第3回の民主主義サミットは韓国が主催すると発表した。【3月29日 毎日】
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“米国が「専制主義」と批判する中国やロシアに対抗して民主主義を掲げる友好国との結束強化を狙ったものの、民主主義が後退しているケースもあり、共同宣言への賛同は73カ国・地域にとどまるなど手詰まり感が漂う。”【3月31日 東京】

こうした試みに対しては、“グローバル・サウスの取り込みが重要な時に、非民主的とされて呼ばれなかった国々をアメリカ主導の“民主主義陣営”から遠ざけてしまう” “参加の基準が不透明で、民主主義に逆行している参加国がある” “世界の分断を深めるものだ” といった批判もあります。

****「民主主義サミット」の評価は? 求められる柔軟性****
 英フィナンシャル・タイムズ紙の米国エディターのエドワード・ルースが、3月29日付の論説‘Biden’s awkward democracy summit’で、バイデンの民主主義サミットの目的は崇高であるが、成功させるためにはその手法に問題があると論じている。主要点は次の通りである。

・民主主義サミットには、インド、イスラエル、メキシコなど、疑問のある国々が数多く参加する。他方、ハンガリーもトルコも招待されていないことは注目される。

・バイデンの意図は崇高であるが、バイデンの手法には疑問の余地がある。

・民主主義を広めることが米国の国益だと考えることは合理的だが、問題は、米国はこのことにあまり得意ではないことだ。

・米国の民主化推進で文句なしの成功を収めたのは、戦後の欧州に対する「マーシャルプラン」だけである。民主主義の運命は、いわゆるグローバル・サウス(西側でも中露枢軸でもない世界の一部)で概ね決着することになる。彼らの考えを聞いてみるのが現実的であろう。

・国連での投票記録から判断するに、グローバル・サウスの多くはウクライナの運命にほとんど関心がない。彼らの言い分は、西側諸国は自分たちの紛争にあまり関心がないではないかというものだ。

・西側が耳を傾けると、グローバル・サウスは一貫して、クリーンエネルギーへの移行、より良いインフラ、近代的な医療のための資金支援を要望する。中国と米国、2つの大国のうち、どちらの助けが多いかで彼らの政治的将来や外交的な同盟関係が決まることになる。

・バイデン政権は、グローバル・サウスに米国の一貫したアプローチを打ち出そうとしているが、それがまだ作業中だ。中国はこれまで、西側諸国を全て合わせたよりも多くの資金を開発途上国に投入しており、良い結果も悪い結果も出ている。

・マリ、カンボジア、ボリビアといったグローバル・サウスの国々が民主国家になるか否かは彼らが決めることだ。その道を歩ませる最善の方法は、説教を減らし、傾聴を増やすことだ。

*   *   *
(中略)バイデンは、21世紀を民主主義と権威主義の対立の世紀と位置付けており、このサミットは、民主主義国の結束と中国の封じ込めを狙ったイニシアティブであるが、内外からは様々な批判がある。

中露の枢軸に対抗する地政学的観点からは、非民主主義国の協力を必要とする時、あるいは、グローバル・サウスの取り込みが重要な時に、これらの国々を米国から遠ざけてしまうという批判がある。

人権派の観点からは、民主主義に逆行している参加国があり、参加の基準が不透明で恣意的だとの批判がある。

また、融和主義者からは、このサミットは世界の分断を深めるものだとの批判がある。ただ、これは中国の主張でもある。

上記のルースの論説は、人権派の立場からバイデンの狙いは評価しつつも、参加国の選択に一貫性がないことに苦言を呈すると共に、その手法に問題があるとして、むしろグローバル・サウスの主張や要望に耳を傾け、そのニーズに沿った支援をすることが結局はこれらの国々が民主主義を選ぶことに繋がると言いたいようである。

そして、これらの批判派が一致するのは、このサミットはトークショーに過ぎず意味ある成果は生まないだろうという点であろう。

しかし、このバイデン・イニシアティブは、もう少し肯定的に評価しても良いように思われる。ルースの主張にも一理あるが、やはり民主主義国が結束を示すことは必要であり、このサミット・イニシアティブとルースの提唱する手法とは両立可能であろう。(後略)【4月20日 WEDGE】
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【劣化する民主主義 社会の多様性を前提にした自由主義(リベラリズム)の変質】
上記記事は、最初にあげた“批判”に対する反論や対応策も論じていますが、省略しました。

省略したのはスペースの都合だけでなく、国際政治のパワーゲームとしては「専制主義国家」に対抗して「民主主義国家」の団結・強化を図るというのは意味のあることですが、もっと重要なのは、欧米や日本が掲げる「民主主義」が劣化して“極端な岩盤勢力の対立”やポピュリズム的政治手法がまかり通り、偽情報の拡散などでそうした事態が更に深刻化しているのでは・・・という「民主主義の現状」の方のように思われるからです。

冷戦後の世界については、“自由で開放的な国際秩序が望ましい基本原理とされ、その下での具体的な方向性として、国際的にはグローバル化、国内的には民主化が追求されてきた。根底にあった理念は、自由主義(リベラリズム)であった。”と言えますが、その根底にあった自由主義(リベラリズム)が侵食され、変質しつつあるとの指摘が。

****現代における中庸の大切さと困難さを考える――フランシス・フクヤマ『リベラリズムへの不満』(新潮社)****
フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』が、冷戦を終えた世界に大ベストセラーとして迎えられ30年が過ぎた。そこで示された自由民主主義が恒久的な平和と安定を実現する「ポスト冷戦」の世界像は、しかし、いまやロシア・ウクライナ戦争やキャンセル・カルチャーなど混乱の中で完全に否定されたようにも見える。

かつてフクヤマが見たのは幻想なのか。それともこの混乱は、やはり歴史が“終わりつつある”過程の光景なのか。フクヤマの最新刊『リベラリズムへの不満』を待鳥聡史氏が読み解く。
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「ポスト冷戦」の後に
2016年のブレグジット(イギリスのEU脱退)決定、ドナルド・トランプのアメリカ大統領当選、2020年に始まる新型コロナウイルス感染症のパンデミック、米中対立のさらなる深刻化、そして2022年からのロシア・ウクライナ戦争――私たちは近年、明らかに世界の様相が変化し、何らかの意味で新しい時代に入りつつあることを実感しているのではないだろうか。

次の時代がどのような特徴を持つのか、それがいつ頃に明確な輪郭を示すようになるのかはまだ分からないが、一つの時代が終わったという印象は拭いがたい。

終わったと思われる時代は、(中略)それ以前の冷戦期に比べると明瞭な対立軸はなかったかもしれないが、特徴を欠いていたわけではない。

自由で開放的な国際秩序が望ましい基本原理とされ、その下での具体的な方向性として、国際的にはグローバル化、国内的には民主化が追求されてきた。根底にあった理念は、自由主義(リベラリズム)であった。(中略)

リベラリズムの内なる課題とは
ポスト冷戦期の世界において、間違いなく指導理念であったリベラリズムには、現在どのような課題があるのだろうか。

フクヤマは、17世紀半ばのヨーロッパにおける宗教戦争終結の時期に起源を持ち、フランス革命・アメリカ独立革命・産業革命の経験、共産主義・ファシズムなどとの対決を通じて形成された「古典的リベラリズム」に対して、今日大きく3つの方向からの侵食が生じていることを指摘する。

1つはネオリベラリズムによるものである。
古典的リベラリズムの主要な構成要素であった経済的自由や個人主義に基づく自己責任原則が過剰に重視され、政府による社会経済的介入を拒絶するようになると、リベラリズムに立脚した社会には不平等が広がり、連帯は失われてしまう。

フクヤマは、『リベラリズムへの不満』第1章でイギリスの政治哲学者ジョン・グレイを引用しつつ、古典的リベラリズムは個人主義的ではあるが、平等主義、普遍主義、改革主義の要素も持つこと、社会の多様性や複雑性を前提にしていることに注意を促す。

もう1つはアイデンティティ政治によるものである。
すべての人が平等な扱いを受け、尊重されるべきであるという考え方は、宗教戦争や革命などを契機に発展してきた古典的リベラリズムにとって、もともと中核的な要素だといえる。

ところが、平等や尊厳の単位が個人ではなく人種・宗教・ジェンダーなどの属性で括られる集団へと変わり、さらにはそれらの集団が持つアイデンティティを重視しない他の人々を排除(キャンセル)する傾向や、特定集団を不利に扱う構造がリベラリズムに基づく政治制度に存在すると主張されるようになると、古典的リベラリズムの基盤となる寛容は弱まり、多様性は損なわれる。

さらに、第3の侵食は情報技術の進展によって生じている。
インターネットを駆使した言論の自由への監視やフェイクニュースなどの情報操作は、主に権威主義国家をはじめとしたリベラリズムが対抗する勢力によって行われてきた。

しかし今日、リベラリズムの申し子ともいえる民間企業によって、人々は整序されない情報洪水に巻き込まれて、左右のポピュリズムに動員され、さらには自らのプライヴァシーも守られない状況に置かれている。

それが上に述べた2つの侵食と結びつくとき、古典的リベラリズムの原則からは守られるべき個々人の自由が商品化されたり、私的な失言によってキャンセルされてしまうといった事態につながる。

私たちにできることは何か
リベラリズムにとって、現状は極めて苦しいものといわねばならない。今日直面する課題は、従来の共産主義や権威主義との対抗とは性質が大きく異なるためである。

共産主義や権威主義、さらに遡れば宗教権力による支配などは、いずれもリベラリズムとは異なる要素からもっぱら成り立っており、リベラリズムの側は自らの優位性を主張することで対抗できた。

だが、ネオリベラリズム、アイデンティティ政治、そして情報技術の進展に伴う個々人の自由の侵害は、リベラリズムの主要な構成要素の一部が過剰に強まったことによって生じており、いずれもリベラリズムにとっては獅子身中の虫なのである。

この状況を打開する方策はないのだろうか。フクヤマが提唱するのは、古典的リベラリズムへの回帰、より具体的には、古典的リベラリズムを構成する諸要素のバランスをとることである。

彼は『リベラリズムへの不満』の末尾において、古代ギリシア哲学の用語を引きつつ「中庸」の必要性を説く。先にふれたグレイによる定義は、リベラリズムが個人主義、平等主義、普遍主義、改革主義という特徴を持つとしていたが、これらのバランスを巧みにとり、特定の要素が突出しないようにすることが、最も大切になるというわけである。中庸あるいは適切なバランスが確保されれば、確かにその効果は大きいであろう。(後略)【4月22日 フォーサイト】
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【中国における「民主集中制」 その帰結】
一方、話を「専制主義国家」vs.「民主主義国家」というところに引き戻すと、日本では「非民主的」で「専制主義」とみなされる中国においては、中国にこそ本当の「民主」が存在し、欧米の言うところの「民主」はまやかしであると考えられています。

中国共産党は、複数政党が選挙で政権を競い合う西側の民主主義を、一部の勝者しか代表できない「少数の民主」と批判し、幅広い国民の利益をすくい取る共産党が国家のかじを取ることが、中国の「民主」のあり方だとしています。

共産党は「人民の前衛」と位置づけられ、人々にさきがけ、導く存在だとされています。党は決定の過程で様々な意見をすくい取るものの、一度決めた党の決定には服従を求める・・・「民主集中制」という体制です。

党が「社会の安定のため」として決定したことには、異論のある少数者も従わなければならない・・・「西側が重視するのは個人の権利、中国が重視するのは大多数の権利だ。個人のために社会の利益が損なわれるべきではない」という考えで、社会の安定のためには少数の犠牲をいとわないということにもなります。

こうした政治システムはコロナ禍のような危機的状況にあって、初期段階の封じ込め成功のような成果を極めて効率的に生むことがありますが、感染拡大期にあったような無慈悲な隔離措置のような、西側から見ると甚だしい人権侵害をも惹起します。

中国共産党の掲げる思想や政策を支持する人たちが「人民」であり、それを支持しないで批判や反対する国民は人民ではなく「人民の敵」とみなされます。

こうした政治システムがもたらすものは・・・

****コロナ対応批判で実刑判決 武漢の市民記者、秘密裁判****
新型コロナウイルスの大規模感染が初めて確認された中国湖北省武漢で、流行初期の実態を発信した市民記者、方斌氏が秘密裁判により実刑判決を受けていたことが分かった。懲役3年程度とみられる。

当局に連行され、消息不明となっていた。近く刑期を終えて出所するという。罪名は不明。米政府系のラジオ自由アジア(RFA)が20日までに伝えた。

方氏は2020年2月、都市封鎖(ロックダウン)された武漢で医療現場の混乱や死者が急増する様子を取材し、動画で発信。政府の対応を「人災」と批判していた。

RFAによると家族が最近、今月30日に出所するとの通知を当局から受けた。【4月20日 共同】
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****中国、デモ参加者「集団リンチ」 コロナ白紙運動の拘束者が証言****
中国上海市で昨年11月、新型コロナウイルス対策に白い紙を掲げて抗議する「白紙運動」に参加し、一時拘束された男性が23日までに、留学先のドイツから共同通信のオンライン取材に実名で応じた。

警察がデモ参加者を無差別に連行し、集団リンチのような形で排除したと証言。拘束中の参加者全員の釈放へ向け中国に圧力をかけるよう、国際社会に訴えた。(後略)【4月23日 共同】
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「民主主義」か否かは「民主」という言葉の定義にもよりますが、中国の現状は日本的常識からすれば、受け入れがたい政治システムです。

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キルギス  ロシア支配の象徴「キリル文字」を捨てきれない背景は? くすぶるタジキスタンとの紛争

2023-04-22 23:44:26 | 中央アジア

(【2022年12月13日 NHK】)

【ロシアとの絆を切るのは難しい? キリル文字からラテン文字への移行は「時期尚早」】
4月17日ブログでは、旧ソ連構成国アルメニアのロシア離れについて取り上げました。

アルメニアとアゼルバイジャンの紛争は、ロシアの対応が注目されることもあって、それなりにニュースなどでも取り上げられましたが、今日は更にマイナーな旧ソ連構成国でもある中央アジア・キルギスの話。

旧ソ連構成国からなる中央アジアは、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、そしてキルギス。(以前はキルギスタンと表記されていましたが、国名変更で日本語表記もキルギスに。なお、「~スタン」とは、ペルシア語で「~が多い場所」を意味する言葉だとか)

一般に中央アジア諸国は「権威主義体制」でロシアの影響力が強い・・・とされていますが、そういう中央アジア諸国の中にあっては、キルギスは“比較的”民主化が進んだ国とも評価されてきました。

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英Economist Intelligence Unitの民主化指数(Democracy Index) 2016年版では総合順位98位(全167国中。前年度93位)。他の中央アジア諸国は「権威主義体制」とされる中,唯一「混合体制」に分類されている。【在キルギス共和国日本国大使館】
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また、ロシアとの関係は維持しつつも、ロシア一辺倒ではなく“バランス外交”的側面も。

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ロシアと密接な関係を保ちつつ、中国や欧米、日本などともバランス外交を展開している。ロシア主導のユーラシア経済連合と集団安全保障条約に加盟している。

上海協力機構の加盟国でもあり、中国はキルギスを「一帯一路」の対象国の一つに位置付けている[22]。一方で、経済の過度な対中依存や中国人の流入などへの不満から反中デモも起きている。【ウィキペディア】
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中央アジア地域で中国の影響力が強まっているという話は、また別機会に。
アメリカとの関係で言えば、以前はキルギス国内に米軍が駐留していたこともありました。

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マナス国際空港内には、2001年12月に国際連合の承認に基づきアフガニスタンにおける対テロ戦争支援の拠点としてマナス米空軍基地が設置され、約千人の米軍部隊が駐留している。

キルギスの議会は2009年2月に今後米軍によるマナス空軍基地の使用を認めないことを可決したが、2009年6月に継続使用に合意した。しかしその後2014年に使用が停止され、米軍は撤退した。【ウィキペディア】
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そうしたキルギスに関する(ほとんど目立たない)ニュースを昨日目にしました。

****キリル文字からラテン文字への移行は「時期尚早」 キルギス大統領****
キルギスのサディル・ジャパロフ大統領は20日、キルギス語表記の(ロシアが使用する)キリル文字からラテン文字への変更について、時期尚早との見解を示した。背景には、トルコがテュルク語圏諸国で共通の言語空間を創ることを推進していることがある。

キルギスは旧ソ連構成国で、ロシアの同盟国でもある。

キルギス語はテュルク諸語の一つだが、旧ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンが強制したキリル文字を現在も使っている。

ラテン文字表記への変更はこれまでも繰り返し議論されてきたが、ロシアが昨年、ロシア語話者の保護を主張しウクライナに侵攻したことから、早急な議論が求められている。

ジャパロフ大統領は国語政策委員会の委員長に対して、「キルギス語のラテン文字への移行を議論するのは時期尚早」だとし、キリル文字の使用を継続すべきだと述べた。

ラテン文字を使用しているトルコは、テュルク語圏である中央アジアの旧ソ連構成国と共通の言語空間を創ろうとしている。

カザフスタンなど中央アジアの複数国は、すでにラテン文字表記への移行を進めている。ロシアによる支配の象徴と言える絆を断ち切ろうとしている国がある一方、移行に難航している国もある。 【4月21日 AFP】
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トルコは中央アジアのテュルク語圏諸国のリーダー的地位を目指していますが、「それだったら、中国・ウイグル族の問題に関して、中国に対してもっと毅然とした対応をとったら?」という話は、これも別機会に。

前述のようなキルギスの政治体制・バランス外交を考慮すれば、他の中央アジア諸国以上に“ロシア離れ”が進んでもよさそうに思えますが、「(ロシア離れを明確にする)ラテン文字への移行を議論するのは時期尚早」という大統領判断の背景に何があるのか?

【中央アジアで進む“ロシア離れ” ウクライナ侵攻で加速】
中央アジア諸国はこれまでも、“ロシア離れ”の独自性強調が進んでいましたが、特にロシアのウクライナ侵攻以降はその流れが加速していることは、2022年10月15日ブログ“旧ソ連諸国のロシア離れ プーチン大統領への苦言が相次いだロシアと中央アジア5カ国の首脳会議”でも取り上げました。

タジキスタンのラフモン大統領は昨年10月、カザフスタンの首都アスタナで開かれたロシアと中央アジア5カ国の首脳会議で、プーチン露大統領に対し、「旧ソ連時代のように中央アジア諸国を(属国のように)扱わないでほしい」と述べたと報じられています。

そうしたなかで、旧ソ連構成国ウクライナの状況は、中央アジア諸国の目には“明日は我が身”とも映ります。

****プーチン氏目算に狂い、中央アジア諸国冷ややか****
ウクライナ侵攻で対ロ関係見直し、米国などに接近

ロシアは今年初め、反政府デモが暴徒化していたカザフスタンに対して、2000人余りの部隊を派遣し鎮圧に当たらせた。その6週間後、ロシアがウクライナへの侵攻を開始すると、カザフには侵攻への支持を表明してロシアに恩返しする機会が訪れた。 だが、カザフはそうしなかった。

カザフをはじめ、ロシア南部と国境を接する中央アジア諸国は、侵攻に対して中立な立場を維持。旧ソ連圏諸国でロシアへの全面的な支持を表明しているのはベラルーシのみだ。

カザフは西側の対ロシア制裁を履行すると確約。ロシアを迂回(うかい)したルート経由で欧州への石油輸出を拡大するとし、国防費の増強にも動いた。これに加え、カザフを自国の勢力圏に引き込みたい米国からの訪問団を受け入れた。

カザフがロシアと距離を置き始めたことは、ウラジーミル・プーチン露大統領にとって想定外の展開だ。(中略)

だが、カザフと共通点も多い旧ソ連のウクライナをロシアが侵攻したことで、その関係は変わりつつある。カザフは外交政策におけるロシア重視の姿勢を見直すとともに、米国やトルコ、中国などに接近している。現・旧カザフ当局者や議員、アナリストらへの取材で分かった。

こうした動向が鮮明になったのが、プーチン氏がサンクトペテルブルクで6月に開催した年次経済フォーラムだ。カザフのカシムジョマルト・トカエフ大統領はプーチン氏と共に出席した壇上で、親ロ派武装勢力が一方的に独立を宣言したウクライナ東部ドンバス地方の2地域を国家として認識しなかった。(中略)

カザフはロシアの怒りを買いかねない反戦デモを禁止する一方で、ロシアで戦争への支持を表明するシンボルとなった「Z」のサインを掲げることは違法とした。

カザフのサヤサト・ヌルベク国会議員は、友人同士であるシマリスとクマに関する童話を引き合いに出して、自国の立場を説明した。童話は、クマは機嫌が良い時にシマリスの背中をやさしくなでたが、爪で擦り傷が残り、それがシマリスのしま模様となって残ったという内容だ。

ヌルベク氏は「クマを友人に持つ場合、たとえ親友であっても、クマが上機嫌であっても、常に背後に注意せよというのがこの童話の教訓だ」と話す。(中略)

カザフとロシアの溝が深まりつつある最初の兆候が顕在化したのが、ロシアに侵攻の即時停止を求める3月初旬の国連決議案の採決だ。カザフは反対こそしなかったが、棄権した。その数日後には、ボーイング767型機でウクライナに28トン余りの医療支援物資を輸送するなど、何度か支援物資をウクライナに届けている。

中央アジア諸国で唯一、ロシアと国境を接するカザフでは、侵攻後にこうした脅しへの警戒がにわかに高まった。キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンはすべてカザフの南に位置する。そのいずれも侵攻を支持しておらず、ウズベキスタンは公の場で、親ロ派勢力が独立を宣言したドンバス地方の共和国は認めないと表明した。(中略)

西側諸国では、ウクライナ侵攻でロシア軍が「張り子の虎」であることが露呈したとの指摘も聞かれる。しかし、中央アジアのある国の高官は、ロシアの野心に対する恐怖は深まる一方だと明かす。

「ロシアが多くの国に対処し、東欧諸国やウクライナをいじめているうちは別だ」とした上で、その人物はこう語った。「虐待の相手としてウクライナが消えたらどうなるか想像してほしい。次はわれわれの番だろうか?」【2022年7月26日 WSJ】
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【繰り返すキルギス・タジキスタンの国境紛争 明らかになったロシアの影響力の限界】
こうした“ロシア離れ”の加速のなかで、キルギスにとってロシアとの関係が特に注目されたのは、アルメニア・アゼルバイジャンの紛争があった同時期、中央アジアでもキルギスとタジキスタンという旧ソ連構成国同士の紛争があったことによります。

****なぜ中国もロシアも手を出せない? 世界が知らぬうちに激化した中央アジア「戦争」の戦況****
<知られざるキルギスとタジキスタンの衝突。ソ連崩壊後の中央アジアで最大規模となった軍事衝突を止める方法は?>

中央アジアのキルギスとタジキスタンの国境地帯で9月半ば、両国の治安当局による武力衝突が起きた。一旦は停戦合意らしきものが結ばれたが、すぐに戦闘は再開した。

タジキスタン軍はキルギス南部のオシ州まで入り込み、橋や住宅地を爆撃したとされる。さらに隣のバトケン州にも踏み込み、地元の小学校を占拠し、タジキスタンの国旗を掲揚したとされる。バトケン州はキルギスの西端に位置し、北・西・南の三方をタジキスタンに囲まれている。

この衝突は、1991年のソ連崩壊で中央アジア諸国が独立を果たして以来、この地域で起きた最も大規模な国家間の武力衝突となった。キルギスでは市民を含む62人以上が死亡し、198人が負傷し、約13万6000人が避難する事態となった。タジキスタン側も、市民を含む41人の死亡が確認されたという。

キルギス側は、これはタジキスタンによる計画的な戦争行為だと非難し、タジキスタン側はキルギスによる侵略と人権侵害を主張している。

この衝突が起きたとき、バトケンから320キロ北西に位置するウズベキスタンの古都サマルカンドでは、中国とロシア主導の地域協力組織である上海協力機構(SCO)の首脳会議が開かれていた。

つまり、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領はもちろん、タジキスタンのエモマリ・ラフモン大統領と、キルギスのサディル・ジャパロフ大統領も同じ会議に出席していたのだ。

だがそこで両国の国境紛争が話題になることはなかった(ラフモンとジャパロフは別席で話し合いをしたとされる)。

SCOにもCSTOにも紛争解決の能力なし
なぜか。それはSCOの目的が、中央アジアにおける中国の安全保障上の利益(と一帯一路構想)を促進することであって、この地域諸国の対立を解決することではないからだ。

キルギスとタジキスタンは、ロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)にも参加しているが、CSTOも基本的には、加盟国間の紛争には介入しない。唯一、今年1月に燃料費高騰をきっかけとするデモ鎮圧を支援するため、カザフスタンにCSTOの平和維持部隊が派遣された。

今回のキルギスとタジキスタンの衝突を受け、CSTOは外交的仲介を申し出た。ロシアとしては、中央アジア諸国がロシアの庇護抜きで結束するのも困るが、お互いのいがみ合いが行きすぎて不安定の源泉になるのも困る。

タジキスタンのラフモンはロシア政府と親しい関係にあるから、CSTOはラフモンのキルギス侵攻に待ったをかけられない、との見方がキルギスでは強い。実際、プーチンはウクライナ侵攻後初の外遊先としてタジキスタンを選び、ラフモンと会談した。(中略)

キルギスでは、ロシアのウクライナ侵攻を明確に支持せず、中立の立場を維持してきたために、プーチンは助けてくれないのではないかと悲観する声もある。

キルギスとタジキスタンの国境地帯での緊張拡大は今に始まったことではない。小競り合いは日常的で、昨年4月には民間人40人余りが死亡、200人以上が負傷した。

こうした状況には多くの要因が働いている。ソ連時代、フェルガナ盆地(ウズベキスタン東部を中心にキルギスとタジキスタンにまたがる)の国境が未画定だった結果、地理が複雑に。タジキスタンとキルギスは約970キロにわたって国境を接しているが、画定しているのはその半分のみ。タジキスタンの飛び地2つがキルギスにあって両国間の緊張要因となっている。

国境問題を人気取りに利用する両国政府
だが真の問題は近代政治に起因する。キルギスでもタジキスタンでも政権が国境問題を内政に利用しているのだ。

タジキスタンは独裁政権、キルギスはポピュリスト政権と政治体制は大きく異なるが、どちらも国境問題に対しては交渉による平和共存を模索するのではなく、ポピュリスト的アプローチを取ってきた。

キルギスのジャパロフは昨年の大統領選に先立って支持を固めるために国境問題の解決を約束。一方タジキスタンのラフモンは政権を中心に国を結束させるために拡張主義のレトリックを用いている。(中略)

ラフモンは90年代の内戦以降30年近くタジキスタンを統治してきた。投獄や国外追放、殺害という形で反対勢力を一掃。近い将来、息子に権力を移譲する意向とも伝えられている。国境とタジク人を守るという名目でキルギスとの紛争をエスカレートさせれば、世襲に備えて軍と官僚に対する支配を強化するのに役立つ。
地域の不安定化は中ロとも望まない
一方、キルギスの政権は確立されたばかりでタジキスタンに比べ独裁色は薄い。ジャパロフ陣営はポピュリスト的政策を掲げて昨年の選挙で勝利。領土主権と国境警備を優先課題とし、トルコの軍用ドローンとロシアの装甲兵員輸送車を購入して軍事力のてこ入れを図った。

当事国が小国であっても、中央アジア情勢が不安定さを増すことはロシアも中国も望んでいない。だが強い経済的影響力を持つ両国でも中央アジアでの紛争は阻止できない。それどころか、キルギスとタジキスタンの衝突はSCOもCSTOも加盟国間の緊張を阻止できないことを露呈した。(中略)。【2022年10月12日Newsweek】
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【ロシアの力への期待も捨てきれない?】
キルギスもロシアに対する警戒はありますが、この地域の安定装置としてのロシアの力への期待もあります。
ロシアは、キルギスに空軍基地を、タジキスタンには数千人規模の部隊を置いています。

****キルギス、ロシアに支援要請 タジクとの国境紛争で****
中央アジア・キルギスのサディル・ジャパロフ大統領が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対し、隣国タジキスタンとの国境紛争解決に向け支援を要請した。キルギスの国営ラジオが17日、伝えた。

国家安全保障会議のマラット・イマンクロフ副議長は、キルギス、タジキスタン両国間での問題解決は難しいと説明。「大統領はプーチン氏に支援を訴えた」と語った。

両国ともに旧ソ連構成国で、970キロにわたって国境を接している。ソ連崩壊以降、その一部をめぐり係争が続いており、軍事衝突も頻発している。

先月にも国境沿いのキルギス南部バトケン州で衝突があり、両国の治安当局によると100人近くが死亡した。

イマンクロフ氏は、旧ソ連崩壊時に国境が画定されなかったことが原因だと指摘。「ソ連の継承国はロシアであり、当時の文書や地図はモスクワで保管されている」と述べた。

タジキスタンとキルギスは共に、ロシアが主導する集団安全保障条約機構に加盟している。プーチン氏は13日に行われたCSTO会合の際、両国首脳と会談。ロシアは「仲介の役割を果たすふりはしない」とした上で、文書や地図を見て解決策を探りたいと語っていた。 【2022年10月18日 AFP】
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衝突はその後は小康状態にありますが、特別事情が好転した訳でもなく“(キルギス)バトケン州内のタジキスタンの飛び地付近では、2022年4月、6月、9月と同州北部地域を中心に両国において激しい銃撃戦が発生しました。現在は小康状態を保っていますが、いつ再発するか予想がつきません。”【外務省 海外安全情報】といった状況。

最初に取り上げた、キルギス大統領の「キリル文字からラテン文字への移行は時期尚早」という認識は、ロシアに“介入”の口実を与えると同時に、タジキスタンとの不安定な状況にあって、ロシアの支援はあまり期待はできないものの、それでも今“ロシア離れ”を明確にするのは得策ではない・・・との考えではないかと思った次第です。

いずれにしても、ロシアがかつて「勢力圏」としていた地域において、地域紛争をコントロールできない現実、そのことが“ロシア離れ”を加速させていることは、アルメニアもキルギスも同様でしょう。

ただ、ロシアのこの地域における安全保障・軍事面での圧倒的な影響力、貿易・出稼ぎ労働者という経済面でのロシア依存を考えると、中央アジア諸国にとって“ロシア離れ”というのは単純・容易な話でもありません。
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スーダン  戦闘が収まらず、日本を含めた各国の自国民保護も困難 ジブチで待機の状況

2023-04-21 23:30:39 | スーダン

(【4月21日 NHK】)

【エジプトやサウジなど周辺国、米中露など関係国の利害・思惑が錯綜】
自国民の保護などで日本を含めて各国が状況を見守っているスーダンの内戦は未だ収拾の目途がたっていません。

正規軍と(かつて西部ダルフールでの紛争で、黒人住民を虐殺したアラブ系民兵組織が前身とされる)民兵組織「即応支援部隊」(RSF)が主導権を争っているとのこと。

****スーダン 軍統治トップ2人の争い 長期化懸念****
アフリカ北東部スーダンで起きた軍事衝突は、正規軍と民兵組織「即応支援部隊」(RSF)が表明した19日夕からの停戦が守られず、20日も首都ハルツームなどで戦闘が続いた。

中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると15日の戦闘開始以来、300人近くが死亡、3千人以上が負傷したが、収束の兆しはみえない。

今回の衝突で正規軍とRSFのどちらが戦端を開いたかなど詳細は不明だ。ただ、スーダンでは2019年に約30年間に及んだバシル独裁政権が軍のクーデターで崩壊し、民政移管が進められていた。衝突の背景には、民政移管を巡る軍とRSFの主導権争いがあるとの見方が強まっている。

軍を主導するブルハン氏とRSFを率いるダガロ司令官はバシル政権打倒で共闘し、21年に民主派を排除して権力を掌握したクーデターでも協力した間柄だ。軍主導の統治組織でブルハン氏はトップ、ダガロ氏がナンバー2の座に就く。

だが、英BBC放送(電子版)によると、2人はその後対立。ブルハン氏がバシル政権を支えた人の復権を計画し、ダガロ氏は自らの権力縮小につながるとして不信感を募らせた。

軍と民主派は昨年12月、移行政権の樹立で大枠合意したが、4月1日に予定された合意文書への署名は実現しなかった。RSFの軍への統合を巡り、時期や権力移譲などの点で折り合えなかったもようだ。

ダガロ氏は金採掘などの事業を展開し、豊富な資金をもとに各地に総勢10万人の兵力を有するとされる。正規軍に劣らぬ勢力でサウジアラビアなどの要請でイエメン内戦にも派兵した。

RSFは衝突直前、各地の民兵を動員し軍の警戒心を招いたともされる。ダガロ氏はブルハン氏について「どこにいようと見つけて責任を取らせる」と非難しており、衝突は長期化することが懸念されている。
■スーダン 
人口約4690万人(2020年推定)。1980年代に南部のキリスト教徒主体の反政府勢力と内戦になり、南部は2011年に南スーダンとして独立した。

19年のクーデターで約30年続いたバシル独裁政権が崩壊。民政移管に向けた取り組みが続いていた。

今回、政府軍と衝突している民兵組織「即応支援部隊(RSF)」は03年から続く西部ダルフールでの紛争で、黒人住民を虐殺したアラブ系民兵組織が前身。

自衛隊は08〜11年にスーダンの国連平和維持活動(PKO)に司令部要員を派遣した。【4月20日 産経】
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RSFに関しては、国連が「世界最悪の人道危機」と呼んだダルフールでの黒人住民虐殺を行ったアラブ系民兵組織が前身ということで、非常にイメージが悪いですが、現在の組織の性格などは知りません。

スーダン情勢と周辺国・関係国の関りについては、下記のように各国の思惑が交錯しています。
エジプトは軍を支援し、サウジ・UAEはRSFに肩入れしているとも。
また、ロシア民間軍事会社ワグネルがリビアやシリアを経由し、RSFに武器を供給しているとの情報もあるようです。

****軍事衝突のスーダン 米中露の利害錯綜****
正規軍と準軍事組織の軍事衝突が起きたアフリカ北東部スーダンは、地下資源が豊富な戦略上の要衝だ。周辺国のほか米中露3カ国も浸透を図ってきたが利害は錯綜(さくそう)しており、混迷が深まる一因になりかねない。

割れる中東の大国
スーダンでは15日、ブルハン氏が主導する軍と、ダガロ司令官率いる準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の戦闘が始まった。

軍を支援するのはシーシー大統領が統治する北隣のエジプトだ。シーシー氏自身も軍出身で、エジプト、スーダン両軍はしばしば演習を行うなど関係が深い。

ロイター通信は20日、スーダンにいたエジプト軍兵士約180人が空路で本国に脱出し、RSFが拘束した兵士27人の身柄を在スーダンのエジプト大使館に引き渡したと報じた。エジプト軍が水面下で活動していた可能性をうかがわせる。

これに対し、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)はRSFに肩入れしているようだ。両国が介入したイエメン内戦にRSFは兵を送って支援し、関係を深めた。

スーダンでは、バシル独裁政権が支配した約30年間でイスラム色が強まり、軍関係者に、その傾向が残っているとされる。一方のRSFは、イスラム過激派を敵視するサウジなどと立場が近いという側面がある。

親米のサウジとエジプトはともに反米のイランと関係改善を図るなど、中東で広がる融和の機運を担ってきたが、スーダンでは利害が割れたとの見方が多い。

露の侵略の資金源か
スーダンをめぐっては大国の思惑も絡み合い、過去に米露が火花を散らした経緯もある。

米国は1993年、バシル政権が国際テロ組織アルカーイダのビンラーディン容疑者らをかくまったとして、テロ支援国家に指定した。この機に乗じて政権と蜜月関係を築いたのがロシアだった。

しかし、軍とRSFによる2019年のクーデターでバシル政権が崩壊し、情勢が一変。米国は20年、スーダンに対するテロ支援国指定を解除し、関係改善を模索していた。

一方のロシアは巻き返しに躍起だ。RSFと親密な関係を築き、昨年2月にはダガロ氏が訪露したほか、今年2月にはスーダンの紅海沿岸に海軍基地を建設する合意を結んだ。紅海はインド洋と地中海を結ぶ海上輸送の大動脈で、米中も沿岸のジブチに基地を有する。アフリカへの影響力強化を目指すロシアの意欲が透けてみえる。

米CNNテレビは20日、露民間軍事会社ワグネルがリビアやシリアを経由し、RSFに武器を供給していると報じた。ワグネルはRSFが採掘利権を握る金を獲得し、ウクライナ侵略の資金を捻出しているともささやかれている。

中国も権益死守に腐心
アフリカに巨額の投資を行ってきた中国はスーダンとも関係を深めてきたが、最近は意欲が衰えていたといわれる。
香港の英字紙、サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)は18日付で、11年に南部スーダンが「南スーダン」として独立したことに伴い、油田地帯の採掘権も移ったことが主な理由だと指摘した。

同紙は中国・アフリカ関係に詳しい米ジョージ・ワシントン大のデビッド・シン教授が「中国はビジネスと商圏を守る上で(軍事衝突を)懸念している」と述べたとし、アフリカの紛争の調停役を務めようと計画していた中国にとり、「スーダン情勢は明らかに(状況を)複雑にした」との見方を示したと伝えた。【4月21日 産経】
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【3回目の停戦も機能していない様子で、自国民退避のための活動は困難な状況 日本を含め各国がジブチで待機】
日本との関りでは、在留邦人は約60名と言われていますが、進出企業は4社のみ。
日本とアフリカの関係の“薄さ”、アフリカ外交の弱さを反映しているとも言えます。(今回の戦乱からの避難ということでは、好都合ではありますが)

在留邦人保護の活動拠点となるのが、自衛隊がソマリア海賊対応以来、唯一の海外拠点を持つジブチです。

****戦闘激化のスーダン 進出の日本企業は4社 「影響は限定的」****
戦闘が激化しているアフリカ北東部スーダンの在留邦人を退避させるため、自衛隊機1機が21日、周辺国のジブチに向けて航空自衛隊小牧基地(愛知県)を出発した。ジブチに到着後、スーダンの情勢を見極めて現地入りのタイミングなどを判断する。

帝国データバンクによると、スーダンに進出している日本企業は2023年3月末時点で4社。スーダンと直接、輸出入をしている企業は21年時点で6社ある。帝国データバンクは「日本とスーダンの貿易規模は元々大きくなく、現地にいる邦人の数も限られている。情勢不安による日本への影響は限定的だろう」としている。

スーダンには医療サービスや、資源開発支援の日本企業が進出。日本からの輸出は自動車など機械類が中心となっており、スーダンからの輸入はガムの原料となるアラビアガムなど天然資源が多いという。【加藤美穂子】
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海外に滞在している日本人の自衛隊機による輸送が行われれば6回目となります。最近ではアフガニスタン・カブールで邦人1名と現地住民を運んだ事例が。

日本を含めて各国とも自国民保護に向けて動いてはいますが、現地の戦闘が収まらないとスーダンに入ることもできません。
しかし、3回目の停戦合意も、これまで同様に機能していないようです。

ジブチには、日本の自衛隊の他、アメリカ・中国も拠点を構えていますので、各国がジブチで待機している状況です。

****スーダンの激しい戦闘続く、停戦設定時刻を過ぎても首都ハルツームなどで激しい銃撃音****
アフリカ北東部スーダンでは21日も、国軍と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)が激しい戦闘を続けた。

RSFは21日、イスラム教のラマダン(断食月)明けの祝祭に合わせた3日間の停戦に応じるとSNSで表明したが、開始時刻として一方的に設定した同日午前6時を過ぎても、首都ハルツームなどで激しい銃撃音が確認された。

国軍側は国連による停戦の呼びかけに反応していなかった。国軍トップのアブドルファタハ・ブルハン主権評議会議長は21日、戦闘が始まった15日以降初めて国民向けに演説。「我々は試練を克服し、国の安全と団結を守る」とRSFの壊滅を目指す姿勢を強調した。

各国でも自国民らの国外退避の準備を進めている。米国防総省は20日、米大使館員の退避に備え、近隣国に部隊を追加配備すると明らかにした。韓国の尹錫悦ユンソンニョル大統領も21日、軍輸送機派遣などの対策を迅速に進めるよう指示した。

世界保健機関(WHO)は21日、戦闘による死者は413人、負傷者は3551人に上ると明らかにした。【4月21日 読売】
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米紙ニューヨーク・タイムズは、米軍関係者の話として、最初の数百人の米兵がジブチに到着し始めたと報じています。

韓国の輸送機もジブチの米軍基地に待機しています。

日本では午後2時45分ごろ、C-130輸送機が、愛知・小牧基地からジブチ共和国に向け出発。
浜田防衛相はさらに、別の輸送機や空中給油輸送機も、準備が整い次第出発させると明らかにしています。

ただ、前述のように戦闘が収まらない状況では救出も困難です。
「アメリカが動く時に彼らがどう動くか、どう判断するかを見て、場合によっては自衛隊で足りない部分はアメリカにお願いすることも必要に」(軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏)【4月21日 テレ朝news】と、米軍の動向を見ながら、協調して・・・ということになるのでしょう。

****スーダン内戦激化…自衛隊が輸送機派遣へ 日本人60人救出どうなる? 風間解説委員「陸路の脱出はなかなか厳しい」****
武力衝突が起き、内戦状態にあるスーダン。首都ハルツームでは、軍と民兵組織の激しい戦闘が続いています。邦人の退避を政府が表明しましたが、どの国もスーダンに入ることすらできていないといいます。(中略)

風間解説委員「陸路の脱出はなかなか厳しい」
風間晋 フジテレビ解説委員:
とにかく今は危険すぎるということがあるんですけども、各国がスーダン国内に入るときは救出するために入るわけで、救出できるという見込みがないと入れないし入らないことなんだと思います。

陸路と空路という問題もありますが、陸路の場合は、そこそこ距離があるわけです。63人を何台かの車に分けて走らせる。その間も護衛しなくてはいけない。というようなことを考えると、陸路の脱出はなかなか厳しいものがあると思われます。

あともうひとつ言われているのは、首都の国際空港というのは、かなり壊されていて、使い物にならないんじゃないかっていうのは、目で見ても分かるんですけど、一方で首都の北方20㎞あまり行ったところに、政府の空軍基地があると。

その空軍基地から、実は今週エジプト軍機が離陸しているという情報があるんですね。
だから空軍基地の方は、もしかしたら国軍がとにかく全力で確保をしている可能性が考えられるので、だからまだ使える可能性が考えられるので、やはりそういうところを使わせてもらう。

でも現実問題として日本は単独で話をまとめる力はありません。
やはりそこは、アメリカだったり、ヨーロッパの国々がまとまって交渉したりとか、日本はその交渉に乗っからせてもらうということだと思うんですよね。

でもそのためには、やはり交渉の過程で日本もいなきゃいけない、いまどういうことになっているという情報をもらいながら、どうするっていう作戦を考えなきゃいけない。

そのためには、ジブチが今各国の集まっている場所ですから、ジブチにとにかく、自衛隊も早く入って、そういう話し合いとか、情報の中に自分たちもいなきゃいけないというのが今の現状だと思います。【4月21日 FNNプライムオンライン】
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仮に空軍基地が使える状況になったとしても、現地の日本人が自力で空港までたどり着けない可能性もある・・・ということで、自衛隊機が発着する空港まで、自衛隊の車両で運ぶ案も浮上しています。

地雷などが爆発しても走り続けられるブッシュマスターと呼ばれる輸送防護車などを派遣し、陸上輸送することが検討されています。

しかし、地雷には耐えても、攻撃を受けた場合どうするのか。安全の問題と、自衛隊の“応戦”をどうするのかという問題にもなります。

「(ブッシュマスターが)敵として見られる可能性がある。だから、攻撃を受ける可能性がある。ブッシュマスターは基本的には銃弾が飛んでいない所で使うのが前提」(軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏)【4月21日 テレ朝news】 これまでも、アメリカ外交官の車列が銃撃された事実もあります。

目下の在留邦人退避の問題の他に、スーダン自身の問題として、昨年12月5日に、10月にクーデターを主導したスーダンの軍事政権トップのブルハン統治評議会議長が民政移管に向けた枠組みで主要な民主派勢力と合意したと発表していましたが、この民政移管がどうなるのか? という問題があります。

ただ、その件は現在の混乱が収まらないことにはどうにもなりません。どういう結果になったとしても、軍事政権が残存し、民政移管は遠のくことが懸念されます。

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