孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北朝鮮  中国との関係冷え込み続く一方で、ロシアとの関係強化

2015-03-31 22:39:22 | 東アジア

(北朝鮮・高麗航空のCA制服は、金正恩第1書記が平壌の空港を視察したさい「客室乗務員の服装も時代の要求に基づくべきだ」などとコメントしたこともあって、2013年に写真左からミニスカートの写真右に変更されました。
ただ、1月に発表された英スカイトラックスによる世界の約600の航空会社を対象にした満足度調査で、高麗航空は4年連続で最下位となったとか。改革はなかなか難しいようです。 写真はhttp://history.n.yam.com/gamme/otaku/20131113/20131113892193.html より) 

食糧・経済事情改善で制裁は効きにくくなっている
“不思議の国”北朝鮮の食糧事情については、はっきりしたところはわかりませんが、餓死なども取りざたされていたひところに比べれば改善しているのでは・・・との見方があります。

****北朝鮮の食糧事情は改善しているのか****
スコット・スナイダー外交問題評議会上級研究員は、2月18日付ナショナル・インタレスト誌に「北朝鮮はもはや飢えていない」と題する論説を掲載し、最近のFAO(国連食糧農業機関)報告等を紹介しつつ、北朝鮮の食糧事情が改善しているようだと論評しています。

すなわち、最近の報告では、北朝鮮の食糧事情が安定していることが示されている。北朝鮮指導部も事態は改善していると考えているだろう。

2月3日、FAOは北朝鮮食糧事情報告を発表した。今回の報告は、従来の報告と違って、現地調査なしで、北朝鮮提供の統計のみによって評価が行われた。(中略)

今年のFAO報告の結論は、2014年の北朝鮮の食糧生産は、594万トンで、「低水準のままだ」としている。更に同報告は、冬の麦収穫は芳しくないだろうと述べ、このため、40.7万トンの穀物輸入が必要になるとしている。

2013-14年度に、北朝鮮は、約31.4万トンの穀物を輸入した。同時期の北朝鮮向け国際食糧援助は、約6.5万トンとなり、従来の水準から激減した。

今年の報告で興味深いことは、2013-14年度に、ロシアが、中国を凌駕し、最大の2国間食糧支援国になったことだ。多国間支援は、約3.6万トンだった。

約100万トンの支援が必要だった2000年代半ばと比べると、北朝鮮の輸入必要量は30万トン台に激減している。更に、北朝鮮は、食糧不足を、国際支援ではなく、商業的な調達で賄い始めていることが分かる。

以上のことは、北朝鮮経済が、近年、生産性の改善を見せ、成長しているとは言えないが、安定していることを示している。

金正恩の農業改革は、経済面で一定の成果を出しつつあるようだ。他方で、問題は、ミサイル・核開発が何の歯止めもなく進んでいるということだ。 

北朝鮮の経済がうまく行っているように見えることは、制裁強化論にとっては、制裁が効きにくくなるので、悪いニュースである。そうなると、北朝鮮の経済と核開発を止めることができるものは何もない、と論評しています。(後略)【3月25日 岡崎研究所 WEDGE Infinity】
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細かい数字はともかく、北朝鮮の食糧生産は低水準ながらも安定しており不足は減少している、不足分は支援ではなく商業的に輸入する資力ができている、支援についてはロシアが中国を凌駕している・・・といったことのようです。


北朝鮮の農業改革により、農民は、収穫の3割程度を市場で売ることができるようになり、生産のインセンティブがあがっているとの見方もあるようです。

食糧・経済状態の改善は、脱北者が減少していることでも推察されています。

****金正恩体制移行後に脱北者半減 昨年1396人=韓国****
韓国統一部は9日、昨年1年間に韓国に定住した北朝鮮脱出住民(脱北者)が1396人(暫定集計)で、2011年の2706人から半減したと発表した。

1990年代以降、増加を続けていた脱北者数は2009年の2914人をピークに減少に転じた。特に2011年12月の金正日(キム・ジョンイル)総書記死去に伴う金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の権力継承後は急減し、12、13年にはそれぞれ1500人程度まで落ち込んだ。

脱北者減少の背景について中国外務省が主管する外交専門誌「世界知識」最新号は、市場経済の拡大により経済事情が以前よりは相対的に改善し、生活苦による脱北が減ったためと分析する。

その一方、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは先月発表した報告書で、北朝鮮が国境の監視を強化したため脱北者が急減したとの見方を示している。【2月9日 聯合ニュース】
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地方の不満が高まり、監視が厳しくなっており、結果的に脱北が難しくなっているとの見方も。

****平壌発展、格差は拡大 暮らし上向き/「地方では餓死者****
・・・・韓国政府関係者は「全体として住民生活は多少、上向いたかもしれないが、都市と地方、個人間の格差はむしろ拡大した。ショーウィンドーである平壌の発展は、地方の犠牲の上に成り立っている側面もある」と指摘する。

「地方では今年すでに餓死者が出た。不安でいっぱいだ」。先月、商売のため訪中した北朝鮮北部の40代女性は顔を曇らせた。これまでは、慢性的に足りない食糧を主に中国からの輸入で補ってきたが、対中貿易の停滞や、密輸の取り締まり強化が食糧事情に影を落としているという。

また、これまで万単位の北朝鮮労働者を受け入れていた中国は2月以降、単純労働者への就労ビザ発給を制限している。遼寧省の北朝鮮貿易商は「特に若い女性の就職先を見つけられない」と頭を抱える。

北朝鮮高官の側近によると、正恩氏はこうした地方の不満増大を把握し、11月に各地の軍幹部に「国民の監視を強化」するよう指示。中朝の国境管理が強化され、通過するための賄賂の額も跳ね上がり、脱北も難しくなっているという。(後略)【2014年12月17日 朝日】
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実態はよくわかりません。
国連の人道支援予算も近年減少していますが、5歳未満の子どもの28%が慢性的な栄養失調だとも言われています。

****対北朝鮮人道支援 今年132億円が必要=国連****
国連は11日、対北朝鮮人道支援予算として今年は1億1100万ドル(約132億円)が必要だと明らかにした。米国の海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)が12日報じた。(中略)

国連の北朝鮮支援事業予算は2011年に2億1900万ドル、12年に1億9800万ドル、13年は1億4000万ドル、昨年は1億1500万ドルと年々減っている。

また、12年に寄付金として集まったのは予算の60%、13、14年は42%と年々減少している。
昨年は予算不足で、600万人の子どもを含む730万人の北朝鮮住民に十分な支援ができなかったとしている。

国連によると、現在1800万人の北朝鮮住民が必要な栄養を摂取できていない状態で、5歳未満の子どもの28%が慢性的な栄養失調だという。

国連は毎年、対北朝鮮支援予算の60~70%を食糧支援に、残りを飲料水、衛生、保健、教育事業に割り当てている。【2月12日 聯合ニュース】
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金正恩第1書記は国民の生活向上を重視する姿勢もアピールしています。

****国民の生活向上優先=党会議で金第1書記―北朝鮮****
19日の朝鮮中央通信によると、北朝鮮の平壌で18日、労働党政治局拡大会議が開かれ、金正恩第1書記が「金日成主席と金正日総書記の遺訓のうち、人民の食の問題、着る問題と関連したものをまず執行すべきだ」と演説した。19日の旧正月に合わせ、国民の生活向上を重視する姿勢をアピールした。
金第1書記は「経済指導機関などの少なくない幹部の責任感が足りない」と批判した。(後略)【2月19日 聯合ニュース】 
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冷え込む中朝関係
前出の“ロシアが、中国を凌駕し、最大の2国間食糧支援国になった”というように、北朝鮮の中国の関係が冷え込み、一方で北朝鮮はロシアへ接近する姿勢を見せています。

そんな中国との関係を如実に物語るニュースも。本当であれば・・・の話ですが。

****中国 北朝鮮のAIIB参加を拒否「金融水準低い*****
北朝鮮が中国主導の国際金融機関「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)への参加を表明したが中国に拒否されたと、米政府系放送局のラジオ自由アジア(RFA)が31日、英メディアを引用して伝えた。

それによると、北朝鮮は2月に特使を派遣し、AIIB臨時事務局の金立群事務局長にAIIBへの参加を表明したが、中国側が拒否した。英インターネットメディアのエマージングマーケットが中国外交筋を引用して報じた。

同筋は「北朝鮮の金融・経済体制が国際機構に参加できる水準に達していないため、拒否された。北朝鮮は中国の拒否に衝撃を受けた」と伝えたという。【3月31日 聯合ニュース】
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本当でしょうか?
ただ、両国関係が依然としてギクシャクしているのは確かなようです。

****北朝鮮 中国大使赴任を短く報道=関係冷え込み続く****
2013年12月の張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長の処刑以降、中国との関係が冷え込んでいる北朝鮮が、駐北朝鮮中国大使の交代を31日、短く報じた。

朝鮮中央通信は同日、「李進軍・中国特命全権大使が30日、平壌の万寿台議事堂で金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長に信任状を奉呈した」と伝えた。

北朝鮮は通常、新たに赴任した外国大使の信任状提出のニュースを伝える際、金永南委員長との会談の様子も伝えるが、今回は一切これに言及しなかった。(中略)

13年2月に北朝鮮が3回目の核実験を実施し、同12月に張氏を処刑して以降、冷え込んでいる中朝関係が改善していないことを示している。

北朝鮮メディアは中国に対しては冷ややかな反応を見せる一方、協力強化を進めるロシアについては親密さをアピールするなど、対照的な姿勢を取っている。

北朝鮮は前中国大使が離任する際には沈黙を続け、駐北朝鮮ロシア大使だったアレクサンドル・チモニン氏が昨年末に離任したときはこれを大きく報じた。(後略)【3月31日 聯合ニュース】
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北朝鮮と中国の関係が決定的に悪化したのは、中国とのパイプ役だった張成沢氏の処刑と、それに伴う親中派粛清によりますが、張成沢氏の件については下記のような情報もあります。
ただ、これも本当かどうかはわかりません。

****北朝鮮・張成沢氏処刑は失脚した中国の周永康前政治局常務委員の“密告”?****
「北朝鮮の実力者、張成沢氏が2013年末に処刑された原因は、中国共産党の周永康・前政治局常務委員による北朝鮮への“密告”だった」-。

米国を拠点とする中国語情報サイト、博訊が最近、中朝両国で相次いで失脚した2人の大物政治家の関係を示唆する記事を載せ、中国国内で大きな波紋を広げている。北京の朝鮮半島専門家は「本当であれば中朝関係の修復はほぼ不可能だ」と指摘している。

同サイトが22日に掲載した記事によれば、2012年8月17日、訪中した張氏は、中国の胡錦濤国家主席(当時)と密談した際、北朝鮮の最高指導者、金正恩氏を下ろし正恩氏の兄でマカオなどに住む金正男氏を擁立する可能性などについて約1時間話したが、胡氏は態度を明らかにしなかったという。

2人のやりとりの内容を知った当時の中国最高指導部メンバーの周永康氏が一部始終を北朝鮮側に密告したため正恩氏が激怒し、張氏は処刑され北朝鮮の親中派も一掃された。「血で固められた友誼(ゆうぎ)」といわれた中朝両国の関係はその後、“没交渉”の状態となったとしている。

周氏は14年夏、中国国内の反腐敗一掃キャンペーンの中で失脚した。同記事によれば「周氏は北朝鮮への亡命を一時企てたが失敗した」という。

中国共産党の規律部門が発表した周氏の6つの容疑の中に「党と国家の機密を漏らした」との項目があった。張氏と胡氏の会談内容を北朝鮮に漏らしたことを指している可能性がある。

博訊は、中国の民主化を求める米国在住の中国人団体が運営するサイト。中国政府を批判する記事が多く、中国当局高官のリークで、汚職情報や新しい政策など党内の秘密を暴露することもある。【2月24日 産経】
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“面白すぎる”内容ですが、「本当であれば中朝関係の修復はほぼ不可能だ」ということでしょう。
中国が北朝鮮との関係を見直しているのは、張成沢氏処刑以外にも、北朝鮮が中国の要請を無視して核開発を継続していることもあります。

****北朝鮮の核兵器、2020年までに100発保有も 米専門家****
北朝鮮の核開発は今後5年にわたり拡大を続ける見込みで、同国は2020年までに最多で100発の核爆弾を保有する可能性があるとの分析結果が、米国の専門家チームによって24日、公表された。(後略)【2月25日 AFP】
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中国より先にロシアを訪問?】
一方、金正恩第1書記は、中国より先に、関係を深めているロシアを訪問すると報じられています。

****ロシア「金正恩、5月の勝戦70周年記念式に出席****
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が5月9日にロシア・モスクワで開催される第2次世界大戦勝戦70周年記念式に出席すると、ロシア側が17日(現地時間)明らかにした。

この日、勝戦70周年記念行事組織委員会の会議に出席したラブロフ露外相は国内外メディアのインタビューで、「北朝鮮の最高指導者もモスクワ訪問を受け入れた世界の26人の指導者の一人」と明らかにした。ラブロフ外相は中国・キューバ・インド・モンゴル・南アフリカ・ベトナムの指導者に言及し、金第1書記の出席を確認した。


金第1書記がロシアを訪問する場合、2011年の政権継承後初めて国際舞台にデビューすることになる。(中略)

政府の関係者は「伝統的に北の最高指導者が中国を最初に訪問してきた点を考えれば、金第1書記がロシア訪問前に中国訪問が可能かどうか打診する可能性がある」とし「金第1書記の動き自体が極秘事案であり、できるだけ遅く公式立場を明らかにする可能性が高い」と述べた。(後略) 【3月19日 中央日報】
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北朝鮮との関係を強めるロシアの意図については、“ウクライナ危機で大きな圧力に直面しているロシアのプーチン大統領も北朝鮮との関係強化を希望している。これは米国の「重心をアジアに移す戦略」に対応するためだ。”【3月4日 新華ニュース】とも。
コメント

ギリシャ  資金が底をつきかけているギリシャの選択は・・・ 実質的「ユーロとドラクマ」併用案も

2015-03-30 22:08:31 | 欧州情勢

(23日 メルケル首相とチプラス首相との会談後の共同記者会見 友好ムードの演出に努めましたが・・・ “flickr”より By Bundesregierung https://www.flickr.com/photos/bundesregierung/16917602265/in/photolist-rLX8KF-qPXeUJ-runh8Q-rsCviZ-qPXeJo-qPiezG-rrYxog-rsCuvr-qPXeQf-rungpL-rsCvpR-rsCuNa-rLX9EM-rLbK6Y-rLi4HD-rtJwXW-rHZBiG-rJg9eE-rtJqL7-rLsM1r-rLsLSk-qPYFrd-rL7m2P-rLhCzH-qPujBT-rLaW4b-rJ16o9-rrXXHa-rHZD5s-rrXDLi-rLakpm-rtQdvT-rHZxsA-rrXW1c-rrXBGZ-rtJ6du-rLb89s-rtGpuw-rtJ7UL-rJ14Ku-rLcRLD-rtJmA3-rrXA1H-rtPqVp-rtPrSz-qPtTYV-rtPmW2-rtFR6y-rtQcCv-rHZT5w)

金融支援を数週間以内に受けられなければ4月末までに財政破綻に陥る恐れ
ギリシャへの金融支援の問題、うまく進まなければユーロ離脱も・・・・という話は、いささか聞き飽きた感もあります。

しかし、ギリシャがEUから金融支援を受ける条件である財政改革を巡って、ギリシャとEUの協議が難航しており、一方でギリシャの資金も底をつきかけています。

****<ギリシャ>資金繰り緊迫 改革案で「72億ユーロ」正念場****
ギリシャが欧州連合(EU)から金融支援を受ける条件である財政改革を巡って、ギリシャとEUの協議が難航している。EUはギリシャに対し緊縮財政を実行する改革案策定を求めているが、「緊縮策放棄」を掲げるギリシャが踏み込んだ対応を示さず、EUが不信感を募らせているためだ

ギリシャとEUは19日、ギリシャが改革案の詳細を数日中にEUに提出することで合意したが、EUの求める改革を提示する保証は無く、問題打開のめどは立っていない。

EUは2月末、ギリシャが財政緊縮策を実行することを条件に金融支援を4カ月間延長することを決めた。EUなどが4月末までにギリシャの改革案を承認すれば、72億ユーロ(約9250億円)の融資が実施される運びだ。

だが、改革案を巡るギリシャとEUの実務者レベルの協議で、ギリシャは財政状況の詳細な説明を拒んできた。

ギリシャ議会は17日、貧困世帯の電気代無料化などを盛り込んだ法案を可決。「財政再建目標を損なう一方的な措置を取らない」と定めた2月の延長合意を無視するようなチプラス政権の行為に、ドイツなど支援側はいらだちを募らせてきた。

EUとギリシャ、ドイツ、フランスの首脳は19日、ブリュッセルで会談し、会合後の声明で「(支援延長決定時の)合意を順守する」と確認。記者会見でドイツのメルケル首相は「合意から我々(の立場)はみじんも変わっていない」と強調した。だが、チプラス首相は「不況を生む政策を行うつもりはない」と明言し、隔たりを浮き彫りにした。

ギリシャの資金繰りは緊迫度を増している。欧州メディアによると、ギリシャの政府部門の手持ちの現金は20億ユーロ程度だが、3~4月に国際通貨基金(IMF)への20億ユーロ近い借金返済を抱える。

チプラス首相は19日の会談で支援融資の一部前倒しを求めた模様だが、改革案提示を先決とするEU側は認めなかった。

ギリシャ政府は政府支出を切り詰めたりして当面の資金不足を乗り切る方針だが、金融市場では借金を返せなくなる債務不履行(デフォルト)を懸念してギリシャ国債利回りが急騰するなど、不安感が高まっている。【3月20日 毎日】
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ギリシャのチプラス首相は23日、最大の支援国ドイツを訪問し、キーマンであるメルケル首相と会談しました。
「犬猿の仲」とみられてきた両者は極力友好ムードの演出に努めましたが、互いの不信感は簡単には克服できておらず、両者の溝は残ったままです。

****破綻警告・歴史カード…ギリシャが独に揺さぶり でも「債務」進展なし****
ギリシャのチプラス首相は23日、就任後初めてベルリンを公式訪問し、ドイツのメルケル首相と会談した。

ギリシャ側は首脳会談直前まで第二次大戦の損害賠償問題を持ち出したり財政の破綻を警告したりし揺さぶりをかけたが、債務問題で進展はなかった。

ロイター通信によると、チプラス氏は23日、会談後に「過去の影は過去のものにしよう」と述べ、未来志向の両国関係構築を呼びかけた。

これに先立つ22日、ドイツは、ギリシャが求めたナチス・ドイツによる占領の損害賠償を議論する場の設置について、「法的にも政治的にも解決済みだ」との立場を伝えていた。それでもチプラス氏は24日、ホロコースト記念館訪問を日程に入れ、“歴史カード”をちらつかせた。

メルケル氏は債務問題について会談で、ドイツ一国で決められる問題ではないと指摘し、資金繰りに苦しむギリシャが構造改革で経済成長を回復させ、高い失業率を克服することが重要だと述べるにとどまった。

英紙フィナンシャル・タイムズによると、チプラス氏は会談に先立ち、欧州連合(EU)からの金融支援を数週間以内に受けられなければ4月末までに財政破綻に陥る恐れがあると訴える手紙をメルケル氏に送っていた。譲歩を引き出す狙いがあったという。

ギリシャは2月に延長された金融支援で融資を受けるため、4月末をめどに財政改革の内容でEU側と合意する必要がある。【3月24日 産経】
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ギリシャはこれまでに、学生や観光客らに録音機やビデオを持たせて脱税業者の摘発に生かすといった具体策を提案してはいますが、EU側は「真剣さが足りない」と不信感を強めており、20日のEU首脳会議で、2月に合意した4カ月の金融支援延長の条件である経済改革について、ギリシャ側が詳細なリストを数日中にEU側に提出することを約束しています。【3月25日 朝日より】

その財政改革案はすでにEUに送られていますが、EU側が求めている抜本的な支出削減がどうなっているかは明らかにされていません。ただ、ギリシャ側は「景気後退につながる措置は含まない」とも発言しています。

4月末までに承認されないと、EUからの金融支援が受けられず、ギリシャの資金繰りが破たんすることも考えられます。

****ギリシャが新財政改革案 30億ユーロ歳入増が柱 ****
ギリシャ政府は27日、金融支援の継続に必要な財政構造改革案を欧州連合(EU)などに送付した。

2015年の歳入30億ユーロ(約3900億円)底上げを柱とするが、年金削減などの詳細は明らかになっていない。債権者のEUや国際通貨基金(IMF)と28日にも協議に入る。ロイター通信などが報じた。

独メディアによると、新たな改革案は徴税システムの電子化による脱税防止、オンライン賭博の免許発行、付加価値税の引き上げなど18項目からなる。国民の反発の大きい年金削減や公務員の賃下げなど「景気後退につながる措置は含まない」との高官発言も伝わっている。

同年の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字幅を国内総生産(GDP)比で現在義務付けられている値から半減の1.5%、経済成長率が1.4%となる見通しも示した。

税収の落ち込みによりギリシャの資金繰りは悪化している。4月にも債務返済や行政運営に必要な資金が底をつく恐れが生じている。

これまでに、脱税防止など7項目の改革案を提出済みだが、EU側はより詳細で包括的な計画の提出を融資実行の条件としている。

EU側は30日以降、臨時のユーロ圏財務相会合を開いて対応を話し合う可能性がある。

チプラス首相は23日にドイツのメルケル首相と会談した際、「必要な構造改革を遂行する」と発言した。従来の反緊縮路線から債権者側に歩み寄る現実路線に転じざるを得ない状況に追い込まれている。【3月28日 日経】
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なお、ギリシャは現在、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字幅を国内総生産(GDP)比3.0%とするように義務付けられていますが、その足元の達成も困難と見られています。

****ギリシャ、今年の財政収支目標は達成困難 トロイカが予想=独誌****
独週刊誌シュピーゲルによると、ギリシャ向けの支援策を仕切っている国際支援機関の欧州連合(EU)・欧州中央銀行(ECB)・国際通貨基金(IMF)から成る「トロイカ」は、ギリシャは今年、基礎的財政収支(プライマリーバランス)目標を達成できないと予想している。(後略)【3月30日 ロイター】
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今後予想されるギリシャの選択肢
2月に緊縮策の基本継続と引き換えにEUとの4カ月の支援延長で合意した時点で、チプラス政権はすでに非常に困難な立場にあります。

“チプラス首相の与党・急進左派連合は「緊縮策の放棄」を掲げて1月25日の総選挙で勝利し、反緊縮派の保守政党「独立ギリシャ人」と“反緊縮政権”を発足させた。チプラス政権は緊縮策を伴う現行の支援策を「諸悪の根源」と位置づけ、撤廃を画策した。だが、支援打ち切りによる財政破綻の危機が迫る中、民営化の一部実施や労働市場改革などの緊縮策の継続をのまざるを得なかった。”【2月27日 毎日】

与党内強硬派は、緊縮策の継続を含む合意を「労働者階級に対する裏切り」「債権者に対する降伏」と批判していますし、今回の財政構造改革案次第では連立相手の組換えも迫られるかも。

何より、すでに疲弊している国民が年金削減や公務員の賃下げといった、これ以上の痛みに耐えられるのか?
国民からはチプラス政権の公約違反への批判もさることながら、「苦しむギリシャがいくらお願いしても、一歩も譲らない」と、EUへの批判が強まっています。

今後予想されるギリシャの選択肢については、ギリシャがEUに譲歩して支援を受け、ユーロにもとどまる(ただし、国内政治は調整も)、根本的な合意には至らないがすぐには離脱せず、なし崩し的に事態が進む、デフォルトを起こしてユーロ離脱し大混乱・・・といったものが想定されます。

****ギリシャがユーロ離脱なら、実はこんな展開も-混乱のプロセス****
A:ギリシャの離脱(GREXIT)回避
チプラス首相が降参して債権団の要求に従う。ユーロ離脱か緊縮かの選択を迫られた首相は後者を選んでギリシャは現金を手にし、ECBも同国の金融システムを支え続ける。この場合、チプラス政権への反発が国内で強まり、首相は欧州寄りの政党と新たな連立を組んで政権を存続させるか総選挙実施となる。

B:ホテルカリフォルニア
ギリシャのバルファキス財務相はユーロという通貨同盟への参加を、いつでもチェックアウトはできるが決して去ることができないと歌う米ロックバンド、イーグルスの1976年のヒット曲「ホテルカリフォルニア」に例えたことがある。

チプラス首相がドイツ政府や自身の急進左派連合(SYRIZA)内の強硬派を含め全当事者が受け入れられるような妥協策を見つけられない場合、このシナリオは現実となる可能性がある。

つまり、救済融資は引き続き実行されず、政治指導者も行動を渋るので、ECBはギリシャの銀行の頼みの綱である緊急流動性支援(ELA)を制限。資金は十分ではないので、資本統制が必要になる。銀行の実質閉鎖もあるだろう。

さて、このシナリオBはここからB1「どんでん返し」とB2「チェックアウト」に別れる。

B1:どんでん返し
預金の引き出しや送金を制限する資本統制が、チプラス首相に妥協を余儀なくさせるという劇的な結果につながる。首相は欧州寄りの野党議員らと新たな連立を組み、資本統制と銀行閉鎖の環境下で国民投票を実施する。国民は首相に方向転換へのお墨付きを与え、挙国一致内閣ができる。ギリシャはユーロ圏にとどまるが、まずリセッション(景気後退)に陥る。

B2:チェックアウト
銀行閉鎖で政治情勢は悪化し市民の抗議行動が強まる。ドイツを標的とした反感が強まり、世論はユーロ離脱へと傾く。

政府は資本統制を敷いている間に、国内の決済のための新紙幣または借用証書を印刷する。ユーロ圏諸国はギリシャ経済の完全崩壊を避けるために融資を提供する。

公的部門へのギリシャの債務は再編され、国際通貨基金(IMF)の融資は返済される。新通貨とユーロが並行して流通し、ギリシャはユーロ圏を正式に離脱したわけではないので戻る道は残されるが、国内の金融は混乱を極める。

C:大惨事
ギリシャが無秩序なデフォルト(債務不履行)を起こしてユーロ圏を離脱する。
デモが発生し、国民の多くはますます困窮、政府は全てをドイツのせいにする。新通貨を支えたり国債やIMF融資の利払いや返済をするための支援は得られない。政府と銀行が破綻し、新たな枠組みができるまで何年もかかる。

ギリシャは大恐慌に陥り、資本主義始まって以来の大規模デフォルトの打撃で欧州もリセッションに逆戻り。ギリシャはEUも離脱する羽目になる。

国内では極右ないし極左勢力が政権を握り、逃げられる者は国を後にする。北大西洋条約機構(NATO)加盟継続にも疑問符が付き、不安定な新ギリシャはロシアに頼って、プーチン大統領に地中海への足場を提供する。【3月27日 ブルームバーグ】
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実質的に「ユーロとドラクマを併用」する苦肉の策
“B2:チェックアウト”の“借用証書を印刷”という選択は、実質的に“借用証書”が自国通貨のように流通し、「ユーロとドラクマ(自国通貨)を併用」する形態になります。

****焦点:ユーロとドラクマ併用論浮上、資金難のギリシャで苦肉の策****
ギリシャ政府は支援の見返りに実施する改革案を債権団に提出したが、合意までにはまだ時間がかかりそうだ。

こうしたなか、資金枯渇の可能性に直面するギリシャでは、IOU(借用証書)を発行して国内の支払いに充て、その分節約したユーロで対外債務を返済するという、実質的に「ユーロとドラクマを併用」する苦肉の策が現実味を帯びてきた。

ギリシャは現在、債券市場での資金調達ができず、国際支援機関は改革案の実施開始を見届けるまでは、追加支援には及び腰だ。関係筋が今週、ロイターに明かしたところでは、新たな融資が受けられなければ、ギリシャは4月20日までに資金が枯渇する可能性が高い。

ユーロ圏当局のある関係者は、ロイターに対して「公務員の給与など国内向けの支払いに充てるユーロがなくなった場合には、IOUの発行を開始するという手がある。つまり、将来のある時点に、いくらいくらのユーロをIOUの保有者に支払う、と約束した証書だ」と述べた。

関係者は「そのようにして発行されたIOUは、本物のユーロに対して大幅にディスカウントされた水準で流通、実質的には『通貨』と同じような位置付けになり、ユーロと共存する」と述べた。

<IOUで当座しのぎ>
ギリシャ政府が給与や年金など国内向けの支払いを行うためのユーロに窮するような事態に陥った場合には、ユーロが国外に大量に流出するリスクが高くなる。

これを回避するには、資本規制の導入が必要とみられる。2013年のキプロスのように、現金の引き出しや、海外送金が制限される可能性も否定できない。

そこで登場するのがIOUだ。ギリシャ政府は国内向けの支払いをIOU発行でしのぎ、同時に税収で上がってくるユーロを貯めておいて、債務を返済。デフォルト(債務不履行)を回避するという寸法だ。

ユーロ圏の別の関係筋は、IOUについて「債権者との協議がまとまって追加支援が受けられるまでの間の暫定的な措置」と述べた。

ギリシャ政府はこれまでにも、国内向けの支払いを遅らせて債務返済に必要なユーロを確保することに前向きな姿勢を示したことがある。

ギリシャ政府は、ロイターの取材に対して、こうした二重通貨制度に関する質問に回答することを拒否。追加融資に関する国際債権団との合意は、近いうちにまとまる、との見方をあくまでも繰り返した。【3月30日 ロイター】
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ナチス・ドイツによる占領の損害賠償
ところで、ギリシャ側がドイツを揺さぶるために持ち出したナチス・ドイツによる占領の損害賠償ですが、賠償金の請求それ自体はいい加減なものではありません。ギリシャ政府の言い分にも一理あると考える法律家はドイツにも存在するとも言われています。

ただ、今のギリシャ金融支援という問題と絡めて論じるものではなく、ドイツの国民感情を逆撫でするだけで、ギリシャにとってメリットはないでしょう。

“ギリシャの要求は次の3つに分けられる。第1は、ナチス侵攻の犠牲となった国の政府に当然支払うべきと考えられる一般的な賠償金の問題。第2が、犠牲者1人ひとりに対してドイツが負うべき精神的なもしくは法的な責務。そして第3は、占領時代にギリシャがドイツに強要された融資である。この融資はアフリカでの戦争の戦費として使われた。”【3月26日 日経ビジネス】とのことです。

中国や韓国との間の戦後処理を抱える日本(“もう終わった”というのが日本の立場ですが)としても関心があるとこですが、詳しくは上記【3月26日 日経ビジネス 「ナチスの歴史を巡るドイツとギリシャの確執」】http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150324/279097/?rt=nocnt をご覧ください。
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中国主導のアジアインフラ投資銀行への“参加ドミノ” 日米の意向にかかわらず「世界は止まらない」 

2015-03-29 22:39:39 | 中国

(AIIBをてこにして中国が目指す「一帯一路」 中国の思惑、実効性、日本への影響等々は別にして、壮大な戦略です。地図から日本がはみ出していることをどのように考えるべきか・・・ 【3月12日 Nikkei Asian Review】)

参加表明、すでに41か国
中国が設立を主導する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に関しては、これまで日米とともに国際金融秩序を支えてきたイギリスが参加表明したのを受けて、3月16日ブログ「中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への相次ぐ参加表明」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150316で取り上げました。

すでに前回ブログの時点で予想されたことではありますが、その後、3月31日の「創設メンバー」になるための申請期限を控えて、まさに堰を切ったような参加表明ラッシュが起きています。その状況は“参加ドミノ”とも評されています。

****アジア投資銀行、参加ドミノ ブラジル・ロシアに豪州も****
中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)へ参加する動きが28日、有力新興国に広がった。ブラジルとロシアが相次ぎ参加を表明、オーストラリアも続く見通しとなった。アジアの成長力の魅力や米国優位の国際金融秩序への反感も追い風に、中国の構想に加わる国々が増えている。(後略)【3月28日 朝日】
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ロシアの事情については、“ロシアは、中国が旧ソ連の中央アジア諸国で経済的影響力を強めていることを警戒し、1月にカザフスタンなどと「ユーラシア経済連合」を発足させたばかり。「連合」の投資機関と競合するAIIBにも慎重な立場だった。
しかし、中央アジア諸国が相次いでAIIBへの参加を表明し、ロシアの経済力低下も鮮明になる中で、新たな枠組みとの連携が得策と判断したもようだ。”【3月28日 産経】とも。

すでに、ドイツ、フランス、イタリア、そしてアメリカの強い制止を振り切って韓国も参加を決めています。
トルコ、台湾、香港なども。

AIIBの資金を利用して今後行われる建設、通信、交通などのインフラ事業に自国企業が関与していくうえで、AIIB参加は避けて通れない、また、世界第2の経済大国である中国との結びつきを強めたいという思いが各国にはあります。

29日時点で、日米を除く主要国、新興国、アジア諸国の相当部分の国、合計41か国が参加を表明しています。

****アジアインフラ投資銀 参加表明41か国に****
中国が設立を提唱するアジアインフラ投資銀行を巡り、先進国やアジア域外の国の間で参加の動きが広がっていて、参加の意向を表明した国の数は合わせて41か国となりました。

アジアインフラ投資銀行は、アジアの発展途上国のインフラ整備を金融面から支援するとして中国が設立を提唱しているもので、去年10月に設立に向けた覚書を交わしたときは、東南アジアなどの21か国が参加を表明していました。

その後、参加の動きが広がり、今月に入ってからはイギリスをはじめ、ヨーロッパの先進各国が相次いで参加の意向を表明したほか、先週、韓国やロシア、ブラジルなどが、さらに29日はオーストラリアが、新たに参加の意向を表明しました。

これにより、銀行への参加の意向を正式に表明した国の数は、合わせて41か国となりました。

一方、日本とアメリカは、銀行の運営に不透明な点が残るなどとして、依然、参加に慎重な姿勢を崩していません。

中国政府は、31日までにアジアインフラ投資銀行への参加を表明した国については、創設メンバーとして銀行の枠組み作りの交渉に加われるとしていて、習近平国家主席も28日の演説で、「銀行は開放的なものだ」として各国に参加を呼びかけています。

各国には、世界第2の経済大国である中国との結びつきを強めたいという思惑もあり、節目の31日を間近に控え、参加に向けた動きがどこまで広がるかが焦点です。【3月29日 NHK】
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AIIBの問題点として、ビジョン・理念、ガバナンス、融資政策・条件、ドナー間の協調の4点が挙げられることは前回ブログで取り上げました。

こうした“銀行の運営に不透明な点が残る”ことを理由に日米は参加に慎重姿勢を崩していませんが、要はライバル中国主導の枠組みを認めることができないということでしょう。

関与できないからと言って、世界は止まらない。気に入らないなら自分を責めるしかない。】
今の流れを決定づけたイギリスですが、下記記事はそうしたイギリスの立場・考えを示しています。

****中国主導のインフラ銀行を拒絶する愚****
英国は中国版世界銀行の一部になるとも指摘される金融機関の創設メンバーになることを選び、米国を苛立たせた。しかし、だからと言って、英国が不適切な決断を下したことにはならない。確かにリスクがないわけではないが、これはむしろ賢明な決断だ。(中略)

AIIBは貴重な貸し手になる可能性を秘めている。アジアの発展途上国は、このようなインフラ投資を切に必要としている。リスクがあって期間も長いプロジェクトとなれば、そこに投じられる民間の資金は存在しないか金利が高いかのどちらかである場合が多い。

また、世界銀行とアジア開発銀行の資源は、途上国のそうしたニーズに比べればかなり不足している。

AIIBの創設は朗報
従って、中国が3兆8000億ドルに上る外貨準備高のごく一部をAIIBに投じたいと思っていることは良いニュースだ。

しかもその投資を、中国がどれほど強い発言力を持つとしても、多くの参加国の1つになる多国間機関で行いたいと言っていることは、なお良いニュースである。

AIIBはグローバルな運営スタッフを抱えることになり、その結果、中国が資金を全額拠出する場合よりも政治色の薄い金融機関になるだろう。

こうした理由から、AIIBには米国も参加すべきだ。ホワイトハウスはこれに対し、参加したいのはやまやまだが、現在の連邦議会から承認を得られる見込みはないという答えを返してくるかもしれない。確かに、そうかもしれない。しかし、それは、他国の参加に反対する根拠にはならない。

それでも、不可解なものだとはいえ、米国には主張がある。西側諸国は外側にいることでもっと大きな影響力を行使できるという。米国のある政府高官は、「中国が拒否権を保有しないことに確信が持てない段階で参加する」よりは外側にいた方がいいと述べている。

しかし、外部の資金を必要としない金融機関に外部の者が影響力を及ぼすことはない。影響力を行使したいなら、内側に入り込むしかない。確かに、参加の条件に欧州勢が事前に同意していればもっと良かっただろうが、今さらそれを言っても始まらない。

米国のジャック・ルー財務長官は、AIIBは組織の統治や融資に関する「最も厳しい国際標準」に従わないのではないかという米国の懸念を表明している。

かつて世界銀行のスタッフだった筆者としては、苦笑せざるを得ない。世銀が関与したぞっとする事例は少なくないが、例えばザイールのモブツ・セセ・セコへの資金提供で世銀がどんな役割を果たしたか、一度調べてみることをルー長官にはお勧めしたい。

確かに、中国の主導する銀行が清廉潔白な金融機関であればそれに越したことはない。しかし、この世界はもう汚れてしまっている。少なくとも、多くの国々が参加する方が、そうでない場合よりもましだ。

米国は、既存の機関との競争が始まることに確かな根拠を掲げて反対することもできない。確かに、貸し付け基準の切り下げ競争になるリスクはある。しかし、面倒な上に不必要な手続きが一掃される可能性もある。

米国の真の懸念に対する4つの答え
世界経済に対する米国の影響力を弱める機関を中国が立ち上げるのではないかという懸念が、米国の本音だ。以下では、この懸念に4つの答えを提示しよう。

第1に、米国、欧州諸国、そして日本は、グローバルな金融機関に対する一定の影響力を大事にしているが、その影響力と、世界におけるこれらの国々の地位とのギャップは次第に大きくなってきている。

さらに、これらの国は国際機関の運営において、やるべきことをきちんとやってこなかった。特に、リーダーを指名する権利にこだわってきたが、そうしたリーダーが常に素晴らしい実績を上げてきたとはとても言えない。

第2に、国際通貨基金(IMF)で一部の国々が過大な影響力を持っている状態を緩和するために出資割当の仕組みを改革することについて、20カ国・地域(G20)が合意してから5年になる。世界はまだ、米国連邦議会がこの改革を批准するのを待っている。これは責任の放棄である。

第3に、途上国に長期資金が大量に流入すれば、世界経済は恩恵を享受するだろう。また、資本流入の「急停止」に見舞われた国々にIMFよりも大きな保険を提供する機関ができることも、世界経済の利益になるだろう。(中略)

最後に、米国は台頭する超大国たる中国への「絶え間ない配慮」について英国を批判している。だが、配慮に代わるものは対立だ。中国の経済発展は有益であり、不可避だ。そのため、必要なのは賢明な配慮だ。

中国が中国自身と世界にとって理にかなうことを提案する場合、傍からケチをつけるよりも関与する方が賢明だ。昔の米国の政策立案者はある時、中国に「責任あるステークホルダー(利害関係者)」になるよう求めた。中国はAIIBの創設で、まさにそれをやっている。

英国の決断の効用
(中略)
第2次世界大戦後の数年間、ふと冷静さを取り戻した時に、米国は現代世界の制度機構を築いた。だが、世界は先へ進んだ。

世界は新しい機関を必要としている。新たな大国の台頭に適応しなければならない。ただ単に、米国がもう関与できないからと言って、世界は止まらない。

もし米国がその結果を気に入らないのだとすれば、米国は自分を責めるしかない。【3月26日 Financial Times 】
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最後のアメリカへのメッセージはかなり辛辣です。
アメリカがもう関与できないからと言って、世界は止まらない・・・・

****孤立する米国、中国主導のAIIBで変わる世界構図****
・・・・いずれにせよ、AIIBをめぐる一連の動きによって、世界の構図には変化が生じている。

中国は、自国が主導するプロジェクトに多数の参加国を集めることで「成熟の最終段階」に入ったことを証明し、国際社会で「建設的なリーダーシップ」を発揮できることを示したと、プラサド氏(元IMF幹部 中国担当)は説明。「中国が世界に及ぼす影響力の拡大に、米国が対抗するのは一層、困難になる」との見方を示した。【3月27日 AFP】
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アジアの一組織は国際的影響力を競う場に格上げされ、しかもアメリカはその戦いに敗れつつある
少なくとも、アメリカが抑え込もうとしたAIIBに日本以外の各国がこぞって参加を表明する今の事態は、アメリカ外交の非常にわかりやすい“失策”だったと言えます。

****中国主導のAIIB構想とアメリカの手痛い失策****
アジア投資銀行加盟に踏み切る同盟国が続出、孤立するアメリカに残された選択肢とは

・・・・本来なら、(各国のAIIBへの参加表明という)これらのニュースはさほど注目度の高い話題ではない。だがアメリカがAIIBの設立に猛反発してきたせいで、AIIB構想への各国の対応は今や世界的な大ニュースだ。

同盟国に不参加を呼び掛けてきたアメリカは、イギリスの加盟表明を中国への融和政策だと強く非難した。だが、イギリス批判はアメリカの無力さをかえって際立たせるだけだ。

皮肉なことに、アメリカが警戒心をあらわにしたせいで、AIIBは米中の対立を象徴する存在となってしまった。

アメリカは、AIIBが米主導の世界銀行やアジア開発銀行の存在意義を脅かす事態を恐れていた。だが同盟国に不参加を呼び掛けることで、アジアの一組織は国際的影響力を競う場に格上げされてしまった。

しかもアメリカはその戦いに敗れつつある。

AIIBを無条件で受け入れるべきだったという意味ではない。(中略)それでも、AIIBが完全に中国の支配下に置かれる事態を回避するには、アジアにおけるアメリカの同盟国をAIIBに参加させるのが最善だろう。そのほうが、中国が権限を独占する場合よりもずっと厳格な統治体制を整備できるからだ。

世界銀行とIMF(国際通貨基金)の変革が進まないことへの各国の不満を、アメリカが過小評価していた問題もある。

「IMFの穏やかで合理的な改革案をアメリカが実行しないことに途上国は不満を募らせていた。彼らが他の機関に目を向けたのは偶然ではない」と、ルー米財務長官は言う。

現時点ではもはや米政府に好ましい選択肢は残されていない。

加盟を拒み続ければ、アジア諸国が前向きに評価している中国主導の試みへの参加を断固拒否する頑固者という印象が強まる。一方、今になってAIIBに参加しても、友好国の協力を得られなかったせいでやむなく方針転換したことは明白だ。

米政府にとって最良の道は、AIIB加盟を見送る一方、同盟国に不参加の圧力をかけるのをやめることかもしれない。米外交問題評議会のエリザベス・エコノミーが言うように「成功するにせよ失敗するにせよ、AIIBに任せておく」のだ。

過去を変えられない以上、アメリカは今回の失策を将来の教訓にするしかない。中国は海路と陸路で現代版シルクロード経済圏を構築する「一帯一路」構想を進めており、アメリカは近い将来、対応を迫られる。

アメリカが中国の影響力拡大を懸念するのは当然だが、異を唱える際には同盟国に圧力をかけるよりもましな方法を模索すべきだ。

さらに米政府は、中国主導の構想に自ら加わることも本気で検討すべきだろう。最も重要なのは、「一帯一路」構想を米中双方のメリットになる形に落とし込むことなのだから。【3月31日号 Newsweek日本版】
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当面、アメリカは、中国主導のAIIBとアメリカ主導の世界銀行やアジア開発銀行(ADB)との共同事業という形で関与して方針を示しています。

****オバマ米政権が中国主導投資銀との共同事業を提案****
米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は22日、中国主導で創設されるアジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐり、オバマ米政権が米国主導の世界銀行やアジア開発銀行(ADB)との共同出資事業を提案したと報じた。

オバマ政権は、AIIBの融資に際しての環境や労働条件に関する基準が既存の国際金融機関に比べて低くなる可能性などに懸念を表明してきた。シーツ財務次官(国際問題担当)は同紙に対して、「世銀やADBとの共同出資事業は、歴史的に有効性が証明された高い基準を確保することに役立つ」と話した。(中略)

オバマ政権は共同事業によってAIIB外部から影響力を及ぼす方法を模索しているとみられる。【3月23日 産経】
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中国は余裕の対応です。

****習国家主席「既存の国際金融を補完****
中国が提唱するアジアインフラ投資銀行について、習近平国家主席は「既存の国際金融を補完するものだ」と述べて、中国は新たな銀行でアメリカなどが主導する既存の国際金融機関に対抗しようとしているのではないかという警戒感を払拭(ふっしょく)するねらいがあるものとみられます。(後略)【3月29日 NHK】
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“習主席は「中国が強大になれば覇権を求めて脅威になるという人がいるが、中国の古くからの精神をみればそんなことを言う必要は全くない。万里の長城は自分自身の安全を守るためのもので、長城を越えてほかの国のものを奪おうと考えたことはない」と述べ、中国を脅威に感じる必要はないと強調しました。”【同上】とのことですが、まあ、そこは異論のあるところでしょう。

中国への対抗意識にいたずらにこだわらず・・・
安倍首相は27日、参議院予算委員会の集中審議でAIIBについて、参加には慎重な検討が必要だとして、公正な統治の確立などを明確に説明するよう、引き続き中国側に働きかけていく考えを示しています。

ただ、世界は動いています。日米が気にいる、いらないにかかわらず。日本も新しい世界に適応する必要があります。

中国が資金をアジアに流してくれるなら基本的には歓迎すべきことでしょう。問題点については、外で文句を言うより、中で主張した方が実効があります。

アジアのインフラ建設に日本が関与しないというのはあってはならないことです。
中国への対抗意識にいたずらにこだわらず、AIIBに参加してアジアのために日本が果たせる役割を考えるべきでしょう。

今更参加するのはみっともない・・・と言われるかもしれませんが、メンツや対抗意識にとらわれた姿勢の方がはるかに見苦しく情けないものがあります。
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イスラエル  ネタニヤフ首相の“勝利の代償” 今後のアメリカの対応は?

2015-03-28 21:38:38 | パレスチナ

(イスラエルのリブリン大統領(右)から組閣要請を受け、握手をするネタニヤフ首相=エルサレムで3月25日、AP【3月26日 毎日】 3月20日、ハフポストUS版のインタビューで、オバマ大統領は、パレスチナが国連を通じて国家の樹立をするのをアメリカが拒否し続けるかどうかについては明言を避けました。【3月24日 The Huffington Postより】)

米国との架け橋を焼き払った
3月20日ブログ「イスラエル・ネタニヤフ首相の「2国家共存」否定にアメリカが強い不快感 アラブ系政党が第3党へ」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150320 でも取り上げたように、イスラエルのネタニヤフ首相は17日に行われた総選挙において、選挙直前の予想を覆して大勝をおさめました。

しかし、極右票取り込みを狙って、これまでのパレスチナ和平交渉の基本枠組みである「2国家共存」を否定、更には、投票日に「右派政権は危機に直面している。アラブ系の投票者らが群れをなして投票所に向かっている!」とアラブ系住民を貶め、緊張を煽るような発言をフェイスブックに投稿するという“なりふり構わぬ戦術”は、頑なな姿勢を続けるイスラエルに対しこれまでも強まっていた国際的な逆風を、今後一層強めることが予想されます。

ネタニヤフ首相の発言には、イスラエルの後ろ盾となってきたアメリカのオバマ政権も不快感を隠していません。
ネタニヤフ首相が得た勝利の代償は高いものになりそうです。

“ネタニヤフ氏がイスラエルと国際社会を結ぶ橋、特にイスラエルにとって一番欠かせない同盟国であり、後援者である米国との架け橋を焼き払った”【3月27日 JB Press】

****イスラエル首相再選の大きな代償 「焦土作戦」で勝利したネタニヤフ首相、国際的な孤立に拍車****
激しい戦いとなったイスラエルの総選挙は、不人気な首相が連続3期目の任期を獲得するうえで不安を煽る政治がそれなりに奏功することを裏付けたように見える。だが、ベンヤミン・ネタニヤフ氏の勝利は大きな代償を伴う。

今回の勝利はすでに、明らかに焦土作戦の勝利だ。ネタニヤフ氏はこの作戦において、イスラエルと外国をつなぐ橋を次々と燃やし、極右の仲間を出し抜いてきた。

さらに、イスラエルがその領土を占領しているパレスチナ人と解決策を交渉するかもしれないという残された希望を打ち砕き、すでに疎外されているイスラエル国内の少数派アラブ人にイスラエル市民以下の存在という汚名を着せた。

選挙前の最後の世論調査でアイザック・ヘルツォグ氏率いる労働党主導の野党連合の後塵を拝していたネタニヤフ氏は、終盤戦で扇動的な戦いに着手。自身が率いる右派「リクード」党の支持基盤を刺激し、超国家主義者と宗教右派のライバルから票を吸い上げた。実に驚くべきパフォーマンスだった。

扇動的な戦い
ネタニヤフ氏は、3月3日に共和党が多数を占める米議会で行った挑発的な演説を選挙戦の柱に据えた。演説はバラク・オバマ米大統領を激怒させ、概ねイスラエルに好意的な民主党議員約60人のボイコットを招きながら、ネタニヤフ氏を称賛する共和党議員に対し、イランの核開発計画が核兵器を生まないことを目的とした微妙な核協議を阻止するよう呼びかけた。

共和党上院議員らは期待通りに、イランの最高指導者ハメネイ師に書簡を送り、オバマ大統領と行うどんな取引も「ペンの一筆で」覆せると断じた。

さらに、パレスチナ国家がイスラエルと併存する可能性――2009年以降、ネタニヤフ氏が口先で支持してきた国際的な政策――を一切否定し、パレスチナの占領地へのユダヤ人入植をいっそう加速させると誓った。(中略)

選挙当日には、ソーシャルメディアを使い、裏切り者の左派にバスで投票所に運ばれる「アラブ人」が「大挙して投票」していると警鐘を鳴らした。

オバマ大統領との関係悪化、EUとの対立も不可避
しかし、恐らく領土回復主義者の右派を中心に形成されるこの4期目のネタニヤフ政権は、イスラエルが国際的孤立に向かう傾向を加速させる恐れがある。(中略)

同氏の対イラン作戦は、ただでさえ対立的だったオバマ大統領との関係をいっそう悪化させることになった。

一度として信憑性を持たなかったパレスチナ国家への約束をネタニヤフ氏があからさまに放棄することで、パレスチナ領土の占領を巡り、すでにイスラエルと小競り合いを繰り広げてきた欧州連合(EU)との対立が不可避になった。

パレスチナが国際的認知に向けた多国間の取り組みを推し進める中、この先も、ネタニヤフ氏と交渉した方が得策だという議論は成立するのだろうか? 

また、加盟国のうち9カ国がすでにパレスチナ国家を承認しているEUがもし国連安全保障理事会で国家承認に向けた動議を準備したら、米国は拒否権を発動するのだろうか?

国際刑事裁判所にイスラエルの戦争犯罪を問う可能性も出てきたパレスチナの外交攻勢が、ついにパレスチナ自治政府の崩壊を招く恐れもある。

ネタニヤフ政権はすでにパレスチナ自治政府の存続に欠かせない税収の送金を保留している。
一方でパレスチナのマフムード・アッバス議長はヨルダン川西岸でのイスラエルとの治安協力から手を引く可能性をちらつかせている。まさに焦土である。【3月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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【「私の意図するところではなかった」】
さすがに保守強硬派ネタニヤフ首相もまずいと思ったのか、選挙後に発言の修正を行っています。

****パレスチナ国家を「認めぬ」発言、修正 イスラエル首相「2国家で解決を****
イスラエルのネタニヤフ首相は19日放送の米テレビ局MSNBCのインタビューで「持続可能で平和的な2国家による解決を望む」と述べ、総選挙前にパレスチナの国家樹立を認めないとした発言を事実上修正した。

ネタニヤフ氏は、パレスチナの国家を認める条件として「環境が変わらなければいけない」と発言。パレスチナがイスラエルをユダヤ人国家と認め、安全を保障することを挙げた。(後略)【3月21日 朝日】
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****イスラエル首相、アラブ系国民に謝罪 「群れで投票」発言で****
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は23日、今月の総選挙でアラブ系国民らが「群れをなして」投票していると発言したことを謝罪した。この発言に対しては、米国からの非難も招いている。(中略)

この発言についてネタニヤフ氏は、テレビ放映されたアラブ系市民らとの会談中に、「前週の私の発言が一部のイスラエル市民とアラブ系の人々の気分を害したことを認識している。それは私の意図するところではなかった。お詫び申し上げる」と語った。(後略)【3月24日 AFP】
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【「首相の新たな立場と発言を受け、わが国の選択肢を再検討する必要がある」】
しかし、一般人の世界でもこういう姑息とも思える対応は信用されませんが、それは国際政治の世界でも同様です。
かねてより右派ネタニヤフ首相とそりが合わなかったアメリカ・オバマ政権は、イスラエルとの関係「見直し」にも言及しています。

****イスラエル、米と亀裂深まる=首相発言に「報い」―関係修復は不透明****
イスラエル総選挙で続投をほぼ確実にしたネタニヤフ首相が、同盟国・米国との関係改善を見込めない状況になっている。

首相が米議会でイラン核協議に関する演説をしたことをめぐって既に両国間の亀裂が深まっていた上、選挙戦中に首相が「パレスチナ国家は認めない」との立場を表明したことなどを受け、イスラエルとパレスチナの和平交渉を仲介してきた米国側はイスラエルとの関係「見直し」にも言及した。(中略)

 ◇拭えぬ不信感
一連の(ネタニヤフ首相の選挙後の)釈明にもかかわらず、米政権のネタニヤフ首相への不信感は拭えないもようだ。

オバマ大統領は選挙後、首相との電話会談で、「2国家共存による解決」を支持する米国の方針に変わりがないことを伝えた上で、「首相の新たな立場と発言を受け、わが国の選択肢を再検討する必要がある」と警告。国連安全保障理事会でイスラエルのために行使してきた拒否権の発動を今後控える可能性も示唆した。

マクドノー大統領首席補佐官も23日、「約50年間に及ぶ(イスラエルによる)占領を終わらせなければいけない」と訴え、パレスチナ人に主権国家を持つ権利があると強調。「私たちは(首相の)発言がなかったように振る舞うことはできない」と語った。

イスラエル国内では、かつてないほど悪化した対米関係に危機感が強まっている。ヘブライ大のギデオン・ラハト教授(政治学)は「首相が最初にオバマ大統領を怒らせ、われわれは今その報いを受けている」と話した。【3月25日 時事】 
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アラブ系住民をめぐる発言に関しても、オバマ米大統領は「この種の発言は、イスラエルの伝統の最も優れた内容に反するものだ」とコメントしています。

また、国内的にも、“イスラエルの主なアラブ系政党連合で、選挙で13議席を獲得したアラブ統一会派の副代表を務めるアイマン・オデ氏はこの謝罪の受け入れを拒否。「ネタニヤフ氏の言い訳は受け入れられない。なぜなら、同氏は差別的な法律を持ち込もうとしているだけでなく、氏の発言はアラブ系国民の投票権そのものを脅かした」と指摘している。”【3月24日 AFP】とも。

イスラエルのリブリン大統領は25日夜、総選挙で第1党(30議席)となった右派リクード党首のネタニヤフ首相に新政権の組閣を要請していますが、“首相が選挙期間中、右派票固めのためオバマ米政権が推進するパレスチナ国家の樹立やイスラエルとの2国家共存を否定する趣旨の発言をしたことなどを踏まえ、「分断の修復を始める時だ」と強調。悪化した米国やパレスチナとの関係改善を急ぐべきだと訴えた。”【3月26日 毎日】

組閣要請を受けたネタニヤフ首相は会見で「分断修復に努める」と述べ、大統領の呼びかけに応じる姿勢を見せてはいます。

パレスチナ自治政府への送金再開という具体的な動きも見せています。

****パレスチナへの送金再開へ=国際刑事裁加盟申請受け凍結―イスラエル****
イスラエル首相府は27日、パレスチナが国際刑事裁判所(ICC)に加盟申請したことへの報復措置として凍結していたパレスチナ自治政府への税金の送金を再開すると発表した。「人道的配慮と、現時点におけるイスラエルの利益を全体的に考慮した」という。

イスラエルは関税など自治政府の税金の一部を代理徴収している。今年1月、パレスチナがイスラエルを「戦争犯罪」で訴えるため、ICCへの加盟文書を提出したことに反発し、送金を停止した。

自治政府の予算の3分の2を占める月約5億シェケル(約150億円)の送金が凍結されたことで、自治政府は財政破綻の危機に陥り、米国などがイスラエルに送金を再開するよう圧力をかけていた。【3月28日 時事】 
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ただ、「綸言汗の如し」という言葉もあります。発言内容がネタニヤフ首相の本音だろうと思われるだけに・・・。
ネタニヤフ首相が今回選挙で国際社会に与えた不信感は大きなものがあります。

留意する必要があるのは、ネタニヤフ首相の一連の発言が奏功して、実際にリクードが勝利したということです。
一連の発言はネタニヤフ首相の本音であるだけでなく、イスラエルの多くの国民の思いでもあると言えます。
首相が謝罪して済む話でもありません。

安保理協議を通じイスラエルへの圧力が高まる可能性 そのときアメリカは?】
いずれにせよ、国際社会には対イスラエル「見直し」の機運が強まっています。

****中東和平:仏が新決議案提案へ 安保理、イスラエル圧力も****
フランスのファビウス外相は27日、イスラエルとパレスチナの中東和平交渉を促進させるため、国連安全保障理事会で決議案の協議を数週間以内に始める意向を示した。国連本部で記者団に語った。

イスラエルのネタニヤフ首相がパレスチナ国家樹立を拒否する発言をしたことへの反発が国連内で広がっており、安保理協議を通じイスラエルへの圧力が高まる可能性がある。

ファビウス外相は「フランスはこれまで交渉の指針を定義したり、交渉を促進したりする決議案には賛成してきた」と指摘。今後、関係国との協議を踏まえて「決議案の提案に参加する」と語った。

前日には、国連のセリー中東和平担当特別調整官がネタニヤフ発言を踏まえ、パレスチナとの2国家共存実現に向けたイスラエルの本気度に「深刻な疑念が生じた」と非難。安保理が交渉の新たな枠組みを示すことが「目標を維持する唯一の方法かもしれない」と述べた。

決議案の安保理協議で鍵を握るのは、常任理事国の米国だ。

米国はこれまで、反イスラエル的な決議案については、常任理事国の拒否権を行使し、廃案に追い込んできた。また、和平交渉は安保理決議という「外圧」ではなく、イスラエルとパレスチナの直接交渉で実現すべきだと主張し、イスラエルを擁護してきた。

だが、ネタニヤフ発言を受けて、オバマ政権はこうした方針を見直す意向を表明。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、アーネスト米大統領報道官は27日、ファビウス外相の発言に反対はしなかった。

安保理は昨年末、和平交渉の1年以内の合意と、イスラエルには2017年末までの占領地からの撤退を求めるパレスチナ主導の決議案を採決。15カ国中、賛成はフランスなど8カ国で、採択に必要な9カ国には届かず否決された。米国は反対した。【3月28日 毎日】
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オバマ大統領の“選択肢の再検討”がどういう形となるのか注目されます。
その結果次第では、パレスチナ問題の流れが大きく変わることもありえます。

ただ、アメリカにあっても共和党右派はネタニヤフ首相を強く支持しています。
23日に次期大統領選予備選への立候補を表明した、保守派の市民運動「ティーパーティー」からの支持を受け共和党のクルーズ上院議員は、出馬演説で「何も弁解せずにイスラエルを支持する大統領を想像してほしい」と訴え、大きな拍手をあびたそうです。

オバマ大統領がフリーハンドで臨める訳でもありません。それはどんな問題でも同じですが。
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イエメン  イラン・サウジアラビアの宗派間代理戦争の様相 対岸ジブチには自衛隊拠点

2015-03-27 23:05:21 | 中東情勢

“安倍政権は現在、海外派遣を個別の時限立法でなく恒久法で行うことを目指している。ジブチの海賊対処拠点は、それを先取りするかのように事実上の「期限なき海外派遣拠点」となっている。”【2月25日 毎日】

イランの支援を受け、南部へ攻勢をかけるザイド派武装勢力フーシ
中東アラビア半島の先端に位置するイエメンにおいて、実権を掌握しつつある反政府勢力フーシ(イスラム教シーア派の一派であるザイド派)、これを支援するシーア派の地域大国イラン、イランと核開発問題で交渉しながらシリア・イラクにおける対IS関与を一定に黙認しているアメリカ、イランのイエメン、シリア・イラクでの影響力拡大を警戒するスンニ派地域大国のサウジアラビア・・・といった関係については、3月3日ブログ「イエメン・イラクで影響を強めるイラン 核開発問題交渉ではサウジアラビアなどの反発も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150303)でも取り上げました。

イエメンでは「アラブの春」の一連の動きのなかで、2011年サレハ前大統領が退陣し、ハディ副大統領が2012年2月の暫定大統領選挙で当選し、大統領に就任しました。

しかし、その後も混乱はおさまらず、当初新体制作りに参加したザイド派武装勢力がハディ大統領と対立し、武力闘争を再開。ザイド派武装勢力はシーア派国家イランの支援を受けているとされています。

1月下旬に北部を基盤とするザイド派武装勢力フーシが首都サヌアを制圧し、ハディ大統領(スンニ派)を軟禁状態におき、2月6日にはクーデターを宣言して支配体制の構築を進めています。

軟禁状態で一旦は辞意を表明したハディ大統領ですが、首都サヌアを脱出し、出身地の南部アデンで2月21日に辞意を撤回する意向を表明・・・・といったところが、前回ブログの頃までの話です。

周知のように、事態はその後急展開しています。

3月19日、イエメン南部アデンで所属不明の戦闘機がハディ大統領の大統領宮殿を狙った攻撃を行いました。
おそらくザイド派に加わった空軍ではないでしょうか。

****モスクで自爆テロ、142人死亡=「イスラム国」犯行認める―イエメン****
イエメンの首都サヌアで20日、モスク(イスラム礼拝所)2カ所で自爆テロがあり、AFP通信によると、142人が死亡した。過激派組織「イスラム国」が犯行を認めた。

モスクではイスラム教シーア派系ザイド派の戦闘員が、イスラム教の金曜礼拝に参加していたもようだ。(後略)【3月21日 時事】
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もともとイエメンは、北部の反政府ザイド派、南部の分離独立派、そしてアルカイダ系イスラム過激派という三つの問題を抱えている国でしたが混乱に乗じる形で、従来からのアルカイダ系「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)に加えて、ISも勢力拡大を狙っていることも考えられます。

アルカイダ系武装勢力への掃討作戦を行ってきた米軍も、この混乱に巻き込まれるのを嫌い完全撤退しました。

****イエメンの米軍部隊ゼロに 特殊部隊含む100人撤退 対テロ無人機攻撃に影響も****
米国務省のラスキー報道部長は21日、連続自爆テロが発生したイエメンから米軍要員の撤退を完了させたと発表した。

AP通信によると、撤退したのはイエメン南部にあるアナド空軍基地に駐留していた特殊部隊を含む米軍部隊約100人。今後、現地の国際テロ組織アルカーイダ系武装勢力に対する無人機攻撃に影響が出るのは確実だ。(後略)【3月22日 産経】
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イランを除く国際社会は、南部アデンに逃れたハディ大統領を支持しています。
イエメン担当のベノマール国連事務総長特別顧問は、ザイド派(シーア派)とスンニ派の宗派対立や南北分断、イスラム過激派への懸念が急激に高まっていると指摘、事態の政治的決着を急がなければ「さらなる暴力的な衝突と(国家)崩壊に陥る」と強い危機感を示しています。

****安保理、イエメン大統領の正統性確認=国連総長顧問、「国家分裂」を警告****
国連安全保障理事会は22日、イエメン情勢で緊急会合を開き、1月に首都サヌアを制圧したイスラム教シーア派系のザイド派武装勢力を非難し、ハディ大統領の正統性を支持する議長声明を全会一致で採択した。(後略)【3月23日 時事】 
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ベノマール国連事務総長特別顧問は、「内戦の瀬戸際に立っている」と危機感を表明しています。また、「イラクやリビア、シリアのようなシナリオを招きかねない」と警告し、すべての当事者に対し、戦闘行為を自制し対話により解決策を模索するよう求めています。

しかし、ザイド派武装勢力フーシは攻勢を強めています。

****イエメン民兵、南部要衝の空港を掌握 国民に動員呼び掛け****
イエメンのイスラム教シーア派の民兵組織「フーシ」は22日、同国南部の要衝タイズの空港を掌握した。(中略)

フーシの指導者アブドゥルマリク・フーシ氏はテレビ放映で「イエメンの偉大な国民」に対し、南部でISなどのイスラム過激派に対する戦闘に加わるよう呼び掛けるとともに、ハディ大統領を「米国に導かれた悪魔の勢力の操り人形」と批判。国連(UN)が仲介している、イエメンの各対立勢力による対話への参加拒否も辞さない構えを見せた。

イエメンでは、イランからの支援を受けているとされるフーシが支配する北部と、ハディ大統領の支持勢力が支配する南部との分断が深刻化している。フーシが空港を掌握したタイズは、アデンの北180キロ、同市とサヌアとの中間に位置し、ハディ大統領が逃れたアデンへの戦略的入口とされている。【3月23日 AFP】
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****大統領標的に空爆か=ザイド派が南部へ攻勢―イエメン****
イエメンからの報道によると、南部アデンにあるハディ大統領の滞在先の敷地一帯が25日、所属不明の軍用機による空爆を受けた。

2月上旬の事実上のクーデターで首都サヌアを奪取したイスラム教シーア派系のザイド派武装勢力が、大統領を標的に攻撃を加えた可能性が高い。

大統領は空爆を前に安全な場所に避難したとされ、無事とみられる。空爆を受け、アデンの空港は操業停止を余儀なくされた。【3月25日 時事】
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なお、ザイド派フーシには、政権を追われたサレハ前大統領の勢力も加担していると見られています。

サウジアラビアが介入 湾岸諸国とともに空爆
イランからの支援を受けるザイド派フーシの攻勢に、スンニ派サウジアラビアがついに介入し、25日、湾岸諸国とともに空爆を実施しました。

サウジアラビアには、イエメン国境に近い南部にシーア派系の住民を抱えており、イエメンの混乱が国内に波及する恐れがあるという国内事情もあります。

これによりイエメンの混乱は、シーア派イランとスンニ派サウジアラビアの代理戦争の様相が明確になってきました。また、サウジアラビア側は広範なスンニ派諸国連合を形成しています。

****サウジ、イエメンに軍事介入=米が後方支援―湾岸5カ国「ハディ大統領守る****
サウジアラビアは26日、イスラム教シーア派系ザイド派武装勢力が攻勢を強めるイエメンに対し軍事介入を開始した。

アルジュベール駐米大使が米時間25日、在ワシントンの主要メディアに対し、サウジ軍が米東部時間同日午後7時(日本時間26日午前8時)に空爆を始めたと発表した。

AFP通信によると、イエメン軍筋は、ザイド派が掌握する基地、空港、首都サヌアの大統領府施設が空爆されたと語った。

ザイド派に対し劣勢のイエメンのハディ大統領は、サウジなどに軍事介入を要請していた。ザイド派の攻勢が続けば大統領が海外亡命を余儀なくされると関係国の危機感は強かった。

サウジ、カタール、クウェート、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)の湾岸5カ国は26日、共同で「ハディ大統領を守る」と宣言。エジプトは湾岸諸国の軍事作戦を後方支援する方針を示した。アルジュベール大使は「10カ国連合のメンバーとして空爆を行っている」と語った。

ザイド派は2月上旬、サヌアを掌握、事実上のクーデターで政権を奪った。背後でイランの暗躍も疑われ、米欧やアラブ諸国は容認していない。アルジュベール大使は「軍事作戦はイエメンの正統な(ハディ)政権を守るものだ」と主張した。

米国家安全保障会議(NSC)のミーハン報道官も米時間25日、声明を出し、サウジなどと緊密に事前調整を行っていたと述べた上で「軍事作戦への後方支援や情報提供を行う」と表明した。ただ、米軍は作戦に参加しない。ザイド派を強く非難し「軍事行動を即時停止し(政権側との)政治交渉に戻るよう促す」と要求した。

イエメンからの報道によると、ザイド派と協調する軍部隊は25日、サヌアを追われたハディ大統領が拠点とする南部アデンの空港を制圧。ザイド派寄りの空軍とみられる部隊も、アデンにある大統領の滞在先一帯に空爆を加えた。【3月25日 時事】
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“サウジ主導の連合軍にはアラブ首長国連邦(UAE)やヨルダンなどスンニ派主導の10カ国が参加。フーシ側は徹底抗戦の構えで、後ろ盾とみられるシーア派国家イランは同日、軍事介入を非難した。イエメン情勢は国内の権力闘争の枠を超え、周辺国を巻き込んだスンニ、シーア両派による宗派間抗争の様相を急速に深めている。”【3月26日 毎日】

‟衛星テレビ局アルアラビアによると、サウジは戦闘機100機、アラブ首長国連邦(UAE)は30機、クウェート、バーレーン、カタール、ヨルダン、モロッコ、スーダンは各3~10機を投入。エジプトとパキスタンも戦艦の配備など準備を進めている。サウジは同国南部やイエメン領空での民間機を含む飛行の禁止を宣言。地上部隊15万人も待機しているという。”【3月27日 朝日】

スンニ派諸国ないでは、エジプトのムスリム同胞団を巡って意見の対立がありますが、イランが影響力を強めるイエメンに関しては広範な合意が成立したようです。

****<サウジアラビア>スンニ派連合軍 新国王の根回し外交成果****
イエメンのイスラム教シーア派武装組織フーシに対する軍事作戦を始めたサウジアラビアに対し、サウジ王家と同じイスラム教スンニ派が支配的な国からは支持表明が相次いだ。

サルマン国王は今年1月の即位以来、スンニ派諸国の首脳と精力的に会談。シーア派国家イランやイスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)の脅威を挙げて、スンニ派の団結を訴える「根回し」の成果が出た格好だ。

「サウジアラビアの介入を支持する。状況の進展によっては、物資援助も検討する」。トルコのエルドアン大統領は26日、フランスのテレビ局とのインタビューで、サウジ支持を表明。さらにイランがフーシを後援しているとして「イランは(イエメンから)撤退しなければならない」と強い調子で非難した。トルコはイランと良好な外交関係を築いており、名指しでの批判は異例だ。

さらにサウジのようなスンニ派の君主制国家だけでなく、地域大国のエジプトやパキスタンも軍事作戦への協力を表明し、フーシに対する「スンニ派連合軍」が構築された。

各国の素早い反応の裏には、サウジの周到な準備がうかがえる。サルマン国王は即位後の2カ月間で、ペルシャ湾岸諸国やエジプト、トルコ、パキスタン、アフガニスタンなどの首脳とハイペースで会談を重ねてきた。その間、イエメンではフーシが権力奪取を進めており、各国から軍事介入への同意を得ていた可能性がある。

2011年の民主化要求運動「アラブの春」以降、スンニ派諸国には大きな溝が生じていた。各国で台頭するイスラム組織ムスリム同胞団について、「体制への脅威」とみなすサウジやアラブ首長国連邦(UAE)と、「新興のパートナー」とみるカタールやトルコの間で意見の隔たりが生まれたのだ。13年7月にエジプトの軍事クーデターで同胞団主体の政権が倒れると、対立が深刻化した。

この対立は今も尾を引いており、エルドアン大統領は3月2日にサルマン国王と会談した後、トルコ紙ヒュリエトに「対エジプト関係が唯一の不一致点だった」と意見の相違を認めた。しかしイエメン情勢を巡っては、「共通の脅威」であるシーア派の影響力拡大を前に対立が棚上げされた。【3月27日 毎日】
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サウジアラビアは空爆によってイエメン上空の制空権を掌握した模様で、15万人を国境周辺に準備しているとも言われる地上作戦については「現時点で計画はない」と表明しています。

また、南部アデンから脱出したハディ大統領は、サウジアラビアの首都リヤドを経由し、28日からのアラブ連盟首脳会議に出席するため、開催地のエジプト東部シャルムエルシェイクに向かうと報じられています。

イエメンではサウジアラビアを支持するアメリカとイランの微妙な関係
アメリカはイエメンにおけるサウジアラビアの行動を支持していますが、サウジアラビアが敵対するイランとの関係は微妙・複雑です。

イランとの核開発問題の交渉は大詰めの山場を迎えており、イランとの関係悪化は避けたいところです。

なお、アメリカが黙認するなかでイランが支援して展開されていたイラクの要衝ティクリート奪還作戦については、イランの支援を受けるシーア派民兵やイランの革命防衛隊は関与を停止し、代ってアメリカが主導する有志連合が空爆を開始したと発表されています。

****シーア派民兵、参加せず=イラク要衝奪還戦―米軍高官****
有志連合による過激派組織「イスラム国」掃討作戦を統括する米中央軍のオースティン司令官は26日、イラク北部の要衝ティクリート奪還作戦について、イランの支援を受けるイスラム教シーア派民兵やイランの革命防衛隊は関与を停止したと語った。上院軍事委員会で証言した。

司令官は、ティクリートでの有志連合の空爆に関し、イラク政府軍が奪還戦を主導することが実施の条件だったと表明。「(イラン革命防衛隊幹部は)もはや現地にいない」と述べ、シーア派民兵も現在、奪還戦に加わっていないと指摘した。

米国は同組織掃討に当たり、イランとの軍事面での連携を否定。ティクリートの住民の大半はイスラム教スンニ派で、奪還戦へのシーア派民兵の参加により、宗派間抗争が激化するとの懸念が高まっていた。【3月27日 時事】
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対岸ジブチで活動する自衛隊
イエメンの混乱は、国家崩壊によってイスラム過激派の温床となることや、地域の不安定化で原油価格が上昇すること、また海上輸送にも影響が出る可能性があるという点で、日本を含む世界全体に影響があります。

イエメン南西部とアフリカ大陸を隔てるバブルマンデブ海峡は海運の要衝で、日本から欧州やアフリカに輸出される工業製品の大半がここを通ります。【3月27日 朝日より】

そういう事情もあって、イエメン対岸のジブチには日本の自衛隊が設けたソマリア海賊対処拠点があります。イエメンが面するアデン湾も活動範囲です。

そのジブチの自衛隊は、他国との連携を深めていると報じられています。

****ジブチ自衛隊、他国と緊密 海賊対策拠点、広がる活動・訓練****
自衛隊がアフリカ東部・ジブチに設けた海賊対処拠点が、仏軍やイタリア軍など、米軍以外の国々とも軍事交流を深める「最前線」になっている。

5月には訓練以外で初めて、多国籍部隊の司令官に自衛官を送る。テロ事件での邦人救出や多国籍軍への支援強化といった海外任務の拡大を先取りするような動きもある。(中略)

自衛隊がジブチに拠点を置いて、ソマリア沖アデン湾での海賊対処に乗り出したのは2009年。以来、海自の護衛艦2隻と哨戒機2機が商船や客船を警護したり、不審船を監視したりしてきた。

当初は自衛隊単独での活動だったが、第2次安倍政権下の13年からは米英を中心とする多国籍部隊「CTF151」(本部・バーレーン)に参加。海域や時間帯を分担して、国際航路の警戒にあたる。(中略)

現地では新たな訓練にも取り組む。
北大西洋条約機構(NATO)軍との間では昨年9月、初の共同訓練をアデン湾で実施。自衛隊からは護衛艦と哨戒機が、NATO軍からはデンマーク海軍艦が参加し、通信や船舶への立ち入り検査の訓練をした。イタリア、独、トルコ、オランダの各国海軍ともその後、訓練を続けている。

10月には、仏軍の訓練に自衛官8人を参加させた。自然災害との前提ではあるが、仏国民を国外に脱出させるとの想定。担当者は「オブザーバーとして参加した」として多くを説明しなかったが、安全保障法制の論議で焦点になっている邦人救出に接した内容だ。

一方、CTFへの自衛官派遣には、多国間の作戦をまとめ上げるという従来の自衛隊になかったノウハウを得る狙いがあるという。

今月3日に計画の詳細を発表した防衛省幹部は「司令官は海賊対処に関する連絡調整が役割。各国の部隊がそれぞれの責任で行う活動を指揮する立場になく、集団的自衛権の行使ではない」と強調した。【2月6日 朝日】
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現在、国際紛争時に他国を後方支援するための自衛隊派遣の恒久法が議論されていますが、国連安保理が支持するハディ前大統領を支援するための軍事行動を行うスンニ派連合軍(アメリカも支持)の後方支援(燃料・弾薬輸送)にジブチから自衛隊も参加する・・・・というケースもカバーされるのでしょうか。
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フランス  右翼・国民戦線(FN)台頭がもたらしかねない“EUの終焉”

2015-03-26 22:47:36 | 欧州情勢

(選挙集会でのマリーヌ・ルペン氏 “flickrより By Vincent Jarousseau https://www.flickr.com/photos/jarousseau/16562580636/in/photolist-rezyc7-qw8JgC-quThxV-quKEhA-qMiZm2-quS62x-quJPzU-qEHrrn-rKdyun-qovqni-rqwKvR-qJ5HBg-qFq4T5-qMiLjk-qM9rCM-rfMTyY-quJDsE-quJCLE-qtGjDZ-quTavD-qMiSGv-qM9EXn-qM9wbe-qK1XFL-qMiNJF-qMeHsy-quT8pp-quKAuW-quJFfh-qK214b-pQiPUL-pQwJ5n-pQwGWk-qK2aAs-quS216-qMeBpb-quJKeu-quKzu9-qM9tVT-qrHt28-dYGvcx-rmVgQZ-qJshpk-rCXaWJ-roMJW8-qJeXhh-rFeL5Z-rFeLfi-roMJSv-rFeNJB)

否定しきれない“ルペン大統領”の可能性
欧州において、国民の経済状況への不満や移民問題への不安に乗じる形で、従来の欧州統合を掲げる主流派に批判的な、右翼勢力、あるいは左翼勢力など、反EU・反移民などを掲げる政治勢力が各地で台頭していることはこれまでもしばしば取り上げてきたところです。

その中核に位置するのがフランスで躍進を続けるマリーヌ・ルペン氏率いる右翼政党・国民戦線(FN)です。
週刊紙シャルリエブドでの殺害事件後の反イスラム感情を受けて、更に支持を広げていると見られます。
(2月11日ブログ「フランス 襲撃事件以降、高まる社会的緊張 「追い風」を受ける右翼政党・国民戦線」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150211

****与党・社会党が劣勢 仏地方選、右翼FN得票25%****
フランスの統一地方選(県議選)の第1回投票が22日にあった。23日昼時点で、最大野党・民衆運動連合(UMP)が友党分とあわせて約29%の得票でトップにたち、右翼・国民戦線(FN)が25%で続いている。与党・社会党は22%。

選挙は海外領土を含めて98の県で実施され、計2054の選挙区で争う。各選挙区で過半数を得た候補がいない場合は29日に決選投票がある。

オランド政権は1月の連続テロ直後、支持率がいったん急上昇したが、経済の停滞や高止まりする失業率、治安などに国民の不満は根強い。UMPのサルコジ党首は「左派(社会党)に多くの人が背を向けたのは、国民を裏切ってきたからだ」と語った。

ただし、国民の批判はUMPも含めた既存の政治勢力全体にも向けられている。FNは、事前に予想された3割の得票には届かない見通しだが、それでも昨年春の欧州議会選と同じ25%の支持を得て、98県のうち4割超の43県で首位にたったという。

苦手とされてきた地方選で結果を出したことで、ルペン党首は仏メディアに「われわれが地域にも根を張っていることを示した」と語った。【3月24日 朝日】
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“現在、娘のマリーヌが率いているFNは、昨年の欧州議会選挙でフランス第1党に躍り出た。3月22日に行われる地方選挙の第1回投票でも、FNは恐らく30%程度の票を獲得し、第1党になると見られている。”【英エコノミスト誌 3月14日号】という選挙前の予測、あるいは不安に比べれば、25%にとどまったとも言えますが、“フランスでは、先週末に行われた統一地方選挙で極右政党の国民戦線(FN)が約25%の得票率を記録し、昨年の欧州議会選挙で見せた強さが本物であることを裏付けた。”【3月25日 Financial Times 】と、その勢いは依然として保たれていると見るべきでしょう。

ひょっとしたら、次期フランス大統領にマリー・ルペン氏が・・・という憶測も、あながち否定できない現状です。
以前は、仮に決選投票に残っても、極右政党への警戒から過半数を制することはできないと思われていましたが、現在は、そうとも言い切れないというところまできています。

****フランスの政治:マリーヌ・ルペンの台頭を阻止せよ****
フランスの主流派政党は極右政党・国民戦線に対抗するために、もっと多くのことをしなければならない。

フランスの極右政党・国民戦線(FN)の当時の党首、ジャン・マリー・ルペンが2002年の大統領選挙で決選投票に進み、世界に衝撃を与えてから、ほぼ13年経った。(中略)

2002年当時、父親のルペン氏はあまりに広く嫌われていたため、左派と右派がジャック・シラクの下に結集し、同氏が決選投票を楽に制した。

対照的に、現在、そのような共同戦線は存在しない。それどころか、主流派の政治家は公然と、マリーヌ・ルペン氏が2017年の大統領選挙で決選投票に進むこと――そして、ひょっとしたら勝利すること――について憶測を飛ばしている。

マリーヌ・ルペン氏は父親よりも魅力のある政治指導者だ。FNのブランドから毒素を取り除くために、かつてFNが具現化していたネオファシズム、人種差別主義、反ユダヤ主義をかなり払拭した。

党の基盤強化に熱心に取り組んでおり、その結果、FNはより多くの有権者を取り込んでいるだけでなく、より多くの党員と政治的な経験を積み上げている。

FNは1500人の地方議員を抱え、国民議会(フランス議会下院)に2人の代議士を送り込んでいる。

FNのイメージ刷新は目覚ましい。若者の間でさえ、FNの支持者であることはもはやタブーではなくなった。実際、FNに投票することは、半ばまともな行為になった。

フランスの憂鬱
これは極めて憂慮すべきことだ。どれほどイメージを和らげても、FNは今なお過激主義政党だ。FNは猛烈な反移民政党だ。

あからさまな反ユダヤ主義はトーンダウンされたが、党の排外主義はイスラム主義への警告というテーマの下で続いている。これが今年1月に起きた週刊紙シャルリエブドでの殺害事件の後にFNが勢力を伸ばし続けている理由の1つだ。

FNの間違った経済政策は今も同党の極右の原点を彷彿させる。この党は反移民なだけでなく、反グローバル化も掲げている。自由貿易と自由市場に反対し、強烈な保護主義の性質を見せている。

ルペン氏はフランスのユーロ参加を痛烈に批判し、欧州単一市場の中核を成すモノ、サービス、資本、労働者の移動の自由に敵意を示している。

ルペン氏は反米で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を賞賛し、プーチン氏によるクリミア併合とウクライナ国内での行動を支持している。FNがクレムリンと関係のあるロシアの銀行から多額の融資を受けたのは、偶然ではない。

ルペン氏がFNを保守の主流派へと動かす気でいることも、あり得ないことではない。だが、それに賭けるのは早計だ。

フランスの主流派の政治家は、ルペン氏がエリゼ宮の主になる可能性について憶測を巡らせる代わりに、同氏とFNを阻止するために今よりはるかに懸命に努力する必要がある。

最善の解決策は、主流派の政治家がフランスの不機嫌な有権者の多くを襲っている病に対処することだ。ほとんど成長せず、失業率が16年ぶりの高水準である10.4%に達し、若年失業率が25%に迫る経済は、FNに格好の土壌を与える。(中略)

世界第6位の製品輸出国であり、外国直接投資(FDI)残高で世界第4位の規模を誇る国は、自由貿易、自由市場、外国人に背を向ける余裕はない。

どれほど可能性が低かろうが、ルペン氏が大統領に就くことは、フランス、欧州、世界にとって大惨事となる。
これは主流派のフランスの政治家が何度繰り返してもいいほど重要なメッセージだ。【英エコノミスト誌 3月14日号】
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【“ルペン大統領”は“EUの終わり”を意味する
欧州は現在多くの問題を抱えています。
喫緊の課題としては、ギリシャの問題があります。悪くすればギリシャのユーロ離脱という可能性もなくはない状況です。

イギリスも5月総選挙でキャメロン保守政権が勝利すれば、EU離脱を問う国民投票が厄介な課題として浮上します。

あるいは、ウクライナを巡るロシアとの対立で、安全保障上の不安の高まり、あるいは対ロシア経済制裁をめぐるEU内部の不協和音などの問題もあります。

仮にギリシャがユーロを離脱しても、あるいはイギリスがEUを離脱しても、欧州統合のシステムはなんとか維持可能ですが、もし中核国フランスの大統領にルペン氏が・・・ということになれば、現行体制は終わります。その後の世界は想像ができません。

****ルペン氏がフランス大統領に選ばれたらEUの終わり****
5月に行われる英国の総選挙では、第2次世界大戦後の政治を牛耳ってきた政党――保守党と労働党――の得票率が記録的な低水準に落ち込み、スコットランドとイングランドではナショナリストの政党が躍進する公算が大きい。

英国の政治問題は、多くの近隣諸国のそれに比べればマイルドだ。イタリアでは主な野党がすべて、イタリアのユーロ離脱に賛成している。イタリアがこの欧州プロジェクトにこれまで熱心にかかわってきたことを考えれば、これは驚くべきトレンドだ。

ハンガリーではやや専制的な政権が君臨しており、人種差別を公然と主張する「ヨッビク」という政党が台頭している。

しかし、最も重要なのはフランスだ。
仮に英国がEUを離れたりギリシャがユーロから抜けたりしても、欧州プロジェクトはぐらつきながらも続くだろう。

しかし、もしルペン氏がフランスの大統領に選ばれれば、それはEUの終わりを事実上意味することになるだろう。

フランス国内の政治的緊張が強まっていく事態を避けようと、EUは先日、財政赤字に関するEUのルールをフランス政府が破ることを再度容認した。

FNが週末の選挙で決定的な躍進を遂げなかったことから、景気回復という援軍はなんとか間に合う、きっとフランスを安定に導いてくれるという期待が今後膨らむことになろう。

しかし最終的には、フランスでもそのほかのEU加盟国でも、多少の経済成長が実現するだけでは政治システムの健全さを取り戻すには至らない。

これらの国は、楽観的で説得力のある将来像を描くことができる、主流派の政治家を必要としている。今のところ、そういう兆しはあまり見えない。【3月25日 Financial Times 】
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過激な政治思想を生む若年層の高失業率
欧州経済はギリシャ問題を抱えながらも、明るい兆しも見えます。
しかし、経済の回復が必ずしもすぐには極端な政治思想の台頭抑制にはつながらないことを、上記【3月25日 Financial Times 】は指摘しています。

****成長だけでは欧州を極端な政治思想から救えない****
欧州は時間との闘いを余儀なくされている。経済危機から6年が経ち、極端な政治思想を掲げる政党があちこちで地歩を固めている。

これに対し、足元の欧州経済はここ数年よりも良くなっている。問題は、経済についての楽観論が早々に戻ってきて、欧州の政治がおかしくなるのを防いでくれるかどうか、だ。

政治が腐っている兆しは誰の目にも明らかだ。(中略)
マニュエル・バルス首相は、FNのマリーヌ・ルペン党首が2017年の大統領選挙で勝利を収めかねないと警告を発している。

同じ2017年には、英国が国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決める可能性もある。その頃には単一通貨ユーロも、ギリシャが離脱したりイタリアが離脱に向かったりすることで解体の方向に向かっているかもしれない。

経済には明るい兆しが見えるが・・・
しかし、政治の世界のシグナルはまだ芳しくないが、経済の世界には希望が持てる材料もある。

まず、債務危機とその後の緊縮財政でひどく苦しんだスペインとアイルランドの経済がようやく回復しつつある。スペインは今年、2%の経済成長を達成すると見られている。アイルランドの失業率は程なく10%を割り込むだろう。

ギリシャでさえ、危機が新たな展開を迎える前には経済成長率がプラスに戻っていた。全体的に見れば、原油の値下がりやユーロ安、欧州中央銀行(ECB)の金融緩和などが重なって今年のEU経済は大いに刺激されそうだ。

経済がプラス成長に戻れば、欧州は一息つくことができ、政治の災厄を防げるかもしれない。

難しいのは、経済の不振と極端な政治思想の台頭との間には明らかにつながりがあるものの、どんな関係なのかは明確でないということだ。

政治の中道の崩壊は、経済の不振に対する一拍遅れの反応である可能性があり、景気が回復軌道に乗っているまさにその時に加速する可能性もある。

特に不吉な事例を挙げるとするなら、ナチスが政権を握ったのは1933年、ドイツの不況が最悪期を脱した後のことだった。

恐慌、あるいはかなりの長期に及ぶ景気後退は、経済の苦境をもたらすだけでは終わらない。主流派の思想への疑念を増大させたり、政治のエリート層に対する怒りをかき立てたりする作用があるうえに、その効果は、経済指標がいくぶん改善した後も長らく残ることがあるのだ。

移民への恐怖心とエリートの腐敗への怒り
さらに言うなら、経済が危機に陥っているという認識は、極端な政治思想がフランスで支持される理由の1つに過ぎない。

FNを躍進させたのは、そしてイタリアやドイツ、英国で過激な政治運動が台頭する原動力になっているのは、移民への恐怖心とエリートの腐敗への怒りだ。

また、EUの経済が再び成長しても、景気がぱっとしないという感覚を完全に払拭することにはならないだろう。欧州の人々の間には、自分の住む国全体が実力以上の生活をしているのではないか、生活水準が長期にわたって下がっていくことを受け入れなければならないのではないかという懸念がある。

ギリシャやポルトガル、アイルランドといった国々では金融危機のためにその調整がかなり速く、かつ荒々しく実行され、名目賃金や年金支給額がカットされることとなった。

しかし今日では、最悪の危機を免れた国々でさえ生活水準の調整を経験しており、若い世代がとりわけ大きな打撃を被っている。

一部の国々では、若年層の失業率が恐ろしいほど高くなっている。スペインでは50%を超えており、イタリアでは40%近い。フランスは23%、英国は17%だ。

これらの国々はすべて、若い世代はその親の世代ほどには安定した生活を送れないのではないかとの懸念に覆われている。

その結果、比較的高い経済成長率を記録できたと政府が胸を張って言える時でも、政界のエスタブリッシュメントには失望したという空気が国民の間に漂うことになる。【3月25日 Financial Times 】
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一般論として、すでに何かしらかの生活基盤を築いている中高年層と異なり、失うものもない代わりに将来への不安を抱える若年層は過激な思想に走りやすい傾向があります。
まして、失業率が50%とか40%といった状況では、現行体制を支持しろと言うほうが無理でしょう。

若年層の高失業率は、欧州にあっては過激な政治勢力の台頭を招き、イスラム社会にあってはイスラム過激思想の台頭を招いています。

社会の安定のためには、若年層に希望を抱かせる施策が不可欠です。
ただ、この問題は、限られた資金の世代間の奪い合いともなって、非常に難しい問題です。
全体のパイが多少なりとも大きくなりつつあれば、まだ痛みを和らげる方策もあるでしょうが。
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ナイジェリア  28日に大統領選挙 ボコ・ハラムによる拉致の記憶を乗り越えて、夢に向かう少女も

2015-03-25 23:16:52 | アフリカ

(****マララさん「早期救出を」 ボコ・ハラム誘拐、鈍い対応を批判****
ナイジェリア北東部でイスラム過激派「ボコ・ハラム」が昨年4月、200人以上の女子生徒を誘拐した事件から300日が経過したことを受けて、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさん(17)が7日、同国の指導者らに向けて事件の早期解決を強く求めるメッセージをブログで発表した。

「300日は長すぎる」と題したブログで、マララさんは、「もし女の子たちが政治的、経済的に力のある親を持っていれば、解放に向けてもっと多くのことがなされたでしょう」と、ナイジェリアの指導者や国際社会のこれまでの鈍い対応を批判。

「若い女性たちは教育を受けるために、すべてを危険にさらしていた」として、「この危機解決のために、もっと多くのことができるし、しなければいけない」と訴えた。

また、ボコ・ハラムによるテロや誘拐の影響で3月に延期されたナイジェリア大統領選を念頭に、「立候補する政治家たちは共感を示すだけでなく、責任をとるべきだ」と求め、「リーダーたちは協力し、女子生徒の解放を就任当初100日間の最優先課題にするべきだ」と訴えた。【2月10日 朝日】
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【「彼らの支配地域の奪還には1カ月もかからないだろう」・・・?
ナイジェリアを中心に周辺国カメルーン、チャド、ニジェールでもテロ活動を行っているイスラム過激派ボコ・ハラムは昨年7月にISへの支持を表明し、IS類似の面的な支配も行ってきました。

両者の間で直接的な関係があると言うよりは、イスラム過激派としての旧ブランドであるアルカイダを見限り、新興ブランドISとの関係を打ち出すことで、自身の権威づけや影響拡大の効果を狙ったものでしょう。

確かに、残忍さにおいてはアルカイダよりISに近い(あるいは、IS以上)と言えますが、ISほどの戦略性も持ち合わせてはいないように見えます。

そのボコ・ハラムは、改めてISへの忠誠を表明しています。

****ボコ・ハラムがISに忠誠を表明、直前に3件の自爆攻撃で58人死亡****
ナイジェリアのイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」は7日、過激派組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓う音声メッセージを公開した。

これに先立ちナイジェリア北東部では同日、女による自爆攻撃を含む3件の爆発が起き、少なくとも58人が死亡、139人が負傷している。

8分間の音声メッセージでは、ボコ・ハラム指導者のアブバカル・シェカウ容疑者が、ISの最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者を「イスラム教のカリフ(預言者ムハンマドの後継者)」と呼び「われわれの忠誠を発表する」と述べている。【3月8日 AFP】
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ボコ・ハラムに対する軍事的圧力も強まっているので、そうした苦境にあってのひとつの対応でしょうか。

西アフリカ・ナイジェリアのボコ・ハラムに関しては、人権問題などでのナイジェリア政府への不信感もあって欧米諸国は関与に消極姿勢で、アフリカのローカル対応に任せる形になっています。
(2月18日ブログ「ナイジェリア 大統領選挙を延期して「ボコ・ハラム」掃討に・・・・とは言うものの」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150218

****1万人の多国籍部隊創設承認=対ボコ・ハラムでアフリカ連合****
AFP通信によると、アフリカ連合(AU)の外交筋は6日、AUが今週の会合で、ナイジェリア北東部や周辺諸国でテロを繰り返すイスラム過激組織ボコ・ハラム掃討のため、最大で1万人から成る多国籍部隊の創設を承認したと明らかにした。

会合では、ボコ・ハラムの活動を阻止し、壊滅させることを部隊の任務とすることで合意。チャド、ナイジェリア、カメルーン、ニジェール、ベナンの5カ国が参加する。チャドの首都ヌジャメナが本拠となる。

AU外交筋によれば、ナイジェリアは自国内での外国部隊の活動に難色を示したという。ただ、チャド軍は既にナイジェリア国内でボコ・ハラム掃討作戦を行っている。【3月7日 時事】 
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ただ、AUとしての新たに統一的な行動を起こすというよりは、すでにチャド軍を中心として行われている軍事的対応を追認するようなものになるのではないでしょうか。

内戦・紛争が多発するアフリカにあって、ソマリアでもそうであったように、掛け声だけでなかなかAUとしての軍事的統一行動が機能しない現実があります。
加盟国の多くが財政的に余裕がなく、自国が紛争を抱えており、人権や政治弾圧についても自国内にも問題がある・・・と言う状況で、他国へ軍を派遣して平和維持にあたるというのはなかなか・・・という現状です。

それはともかく、これまでもボコ・ハラム対応で周辺国への介入を行ってきたチャド軍は、3月8日からニジェール軍ともにニジェールのナイジェリア国境付近で空と地上からの大規模掃討に乗り出し、すでにナイジェリア国内に侵攻しています。

ナイジェリア・ジョナサン大統領は周辺国とともに、ボコ・ハラムの本拠地であるナイジェリア北部ボルノ州などで掃討作戦を展開し、今月28日に延期された大統領選挙までにボコ・ハラム支配下の地域をすべて奪還することを目指してきました。

****ボコ・ハラム「1カ月で掃討」=ナイジェリア大統領が見通し****
ナイジェリアのジョナサン大統領は20日放映の英BBCとのインタビューで、ナイジェリアで活動するイスラム過激派「ボコ・ハラム」について、1カ月以内に掃討できるとの見通しを語った。

大統領は、ボコ・ハラムの勢力が「日に日に弱まっている」と主張。「彼らの支配地域の奪還には1カ月もかからないだろう」と述べた。

ナイジェリア軍は装備が貧弱で、これまでボコ・ハラム掃討は不可能とみられていたが、装備などを増強し、2月以降に数十の地域を奪還したと主張している。

軍などは、掃討作戦が間もなく終了すると予測しているが、識者からは「時期尚早」との声も上がっている。【3月20日 時事】
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チャド軍の介入などもあってボコ・ハラムへの軍事圧力が強まっているのは事実でしょうが、ジョナサン大統領の発言は多分に選挙を意識したところもあって額面どおりに受け取ることもできません。

いずれにしても、28日総選挙までの完全掃討はすでに無理でしょうが、ボコ・ハラム対応を理由に28日に延期した大統領選挙はきちんと行えるのでしょうか?

一定に掃討作戦は進んでいるものの、爆破テロや襲撃事件が止まない現状を国民がどのように評価するのか、

女性などの「弱者」を標的とした事件が劇的に増加
前述のチャドとニジェールの合同軍はナイジェリア北東部の都市ダマサクを奪還しましたが、悲惨な状況が報じられています。

****子どもや女性400人以上連れ去り****
アフリカのナイジェリアを拠点とするイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」が新たに400人以上の子どもや女性を連れ去っていたことが明らかになり、戦闘やテロに利用しようというねらいがあるものとみられます。

ナイジェリア北東部の都市ダマサクでは、去年11月以降、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」が街を支配してきましたが、今月に入って周辺国のチャドとニジェールの合同軍が進攻し、街を奪回しました。

現地からの報道によりますと、「ボコ・ハラム」が撤退したあと合同軍が街の状況を確認したところ、「ボコ・ハラム」に殺害されたとみられる70人以上の住民の遺体が見つかったということです。

さらに、生き残った住民の証言で、ボコ・ハラムの戦闘員が逃げる際に、400人以上の子どもや若い女性を連れ去っていたことも明らかになりました。

合同軍によって激しい攻撃を受け、軍事的に劣勢に立たされているボコ・ハラムが、子どもたちを少年兵にしたり、少女や女性に自爆テロを強いたりするなど、戦闘やテロに利用しようというねらいがあるものとみられています。

ナイジェリアでは今月28日に行われる予定の大統領選挙に向けて、「ボコ・ハラム」が選挙の妨害を狙ってテロを仕掛けるのではないかと懸念されています。【3月25日 NHK】
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見つかった遺体に関しては、以下のようにも報じられています。
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(チャド陸軍)報道官よると、兵士たちがダマサクの郊外にある橋の下で遺体を発見したという。

ニジェール国境付近の遺体発見現場を自分自身で実際に訪れたという同報道官は「町のすぐ外にある橋の下に約100人の遺体が散らばっていた」と述べるとともに、遺体には斬首されたものや銃撃されたものもあり、「ここに頭部、あそこに胴体が投げ捨てられているという状態で、まるでシロアリの巣のようだった」と話した。

同報道官は2か月ほど前に虐殺があったのだろうという見方を示して「ボコ・ハラムによる犯行に間違いない」と述べたが、この発言の真偽を証明する他の筋からの情報はない。【3月21日 AFP】
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ボコ・ハラムは昨年4月14日、ナイジェリア北東部チボクの学校を襲撃し、276人の女子生徒を拉致して少女たちを「奴隷」として売り飛ばすと公言したことで、その悪評が一躍世界中に知れ渡りました。しかしこの事件は、6年前から続いているボコ・ハラムの女性や少女に対する残虐行為のごく一部にすぎません。

この事件では、女子生徒のうち57人は脱出したものの、その他の生徒らの行方はいまだに分かっていません。
その後も拉致事件は頻発しており、上記のようにダマサクでもまた400人・・・・イスラム過激派と言うよりは、誘拐集団のような所業でもあります。

“国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチなどの専門家らによると、ボコ・ハラムに対する軍事的圧力が強まり始めた13年以降、女性などの「弱者」を標的とした事件が劇的に増えた。・・・・ボコ・ハラムはここ10か月、少女を含む女性を使って北部で自爆攻撃を行うようになっており、この戦術は他のイスラム過激派からも厳しい批判が相次いでいる”【3月22日 AFP】

ボコ・ハラムが勢力を拡大し、女性を拉致して自爆攻撃に使うといった行為に及んでいる背景には、イスラム教地域であるナイジェリア北部の貧困、教育の遅れ、女性の社会的地位の低さがあると指摘されています。

****求められる格差克服への取り組み****
09年以来1万3000人余りの死者が出たナイジェリア北部のボコ・ハラムの襲撃は、貧困地域における深刻なジェンダー格差などの社会的危機も浮き彫りにした。

ナイジェリアの人口1億7300万人の約半数は、イスラム教徒が多数派の北部に集中している。

英機関ブリティシュ・カウンシルの12年の調査リポートによれば、ナイジェリア北部で中等教育を修了した女性の割合は、ボコ・ハラムの襲撃で北東部各地の学校が閉鎖に追い込まれる前の時点で3%にとどまっていた。

15~19歳の少女の非識字率についても、キリスト教徒が多数派の南部では10%未満だったのに対し、北部では3分の2に上った。

専門家の多くは、ナイジェリアが軍事力でボコ・ハラムを封じ込めるばかりではなく、北部の発展を促進し、ボコ・ハラムの過激で暴力的な思想を拒否する力を男女を問わず身に付けさせる方向で、積極的に対策に取り組むことも必要との意見で一致している。(後略)【3月22日 AFP】
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【「人々は私の力を必要としている。私が学校へ行くことが変革につながる」】
幸いにも逃げ出せたり、解放されたりした女性も、この過酷な経験を乗り越えて生きていかねばなりません。

****拉致事件乗り越え大学へ ナイジェリアの少女たち****
ナイジェリアのイスラム過激派「ボコ・ハラム」による学校襲撃事件で辛くも脱出した少女たちが、ナイジェリア・アメリカン大学(AUN)に通い始めた。つらい記憶を乗り越えて、夢に向かうその姿を取材した。

学内の控え室でおしゃべりに興じる4人の女子学生たち。取材班はその中の1人に見覚えがあった。昨年4月、北東部の村チボクの学校から300人近い女子生徒が連れ去られた事件で、友人たちとともにトラックから飛び降り、幸運にも助かった少女だ。

あの日から学校には怖くて行けなくなった、と少女は振り返る。しかし今、再び教室に戻った彼女は、将来も教師としてここにとどまり、自分が受けているような教育を子どもたちに授けたいと願っている。

AUNではこの少女のほかにも、チボクの事件で助かった学生21人が学んでいる。あの夜、「学校に通っていた」というだけの理由で狙われた少女たちにとって、学び続けることはそのまま自分たちの勇気と決意の表明でもある。教育を受け、社会を変えようとする決意だ。

「人々は私の力を必要としている。私が学校へ行くことが変革につながる」と、1人の学生が語った。事件のこん跡をみじんも感じさせない毅然(きぜん)とした表情で、「外科医になる」と将来を描く。

そんな彼女たちに尋ねてはいけない質問もある。事件の夜のこと、今も行方が分からない学友たちのことは、つらすぎて答えられないという。

奨学金を得て大学に通う自分は幸運だと、彼女たちも自覚している。チボクには、同じように脱出した少女たちがほかにも46人いる。全員がAUNで学ぶには資金が足りなかったのだ。

AUN副総長のエンサイン博士は、大学の基金を通じてさらに資金を集め、これを実現したいと願っている。同博士は昨年、チボクの少女たちがAUNへの進学を希望していると聞いて資金集めに奔走した。入学前には警備責任者とたった2人で危険を冒し、少女たちを迎えに行ったという。

AUNのキャンパス自体も非常事態宣言下のナイジェリア北東部にあり、決して安心できる環境ではない。ボコ・ハラムの影を警戒して厳しいパトロールなどが実施されている。

苦難や恐怖をどのように克服しているのかという質問に、1人の少女はかすかにほほ笑んでこう答えた。「私はとても勇敢で意志が強いから」――確かにその通りだ。しかし彼女もほかの少女たちも、勇気を奮い起こす必要などなくなる日が来ることを、何よりも願っているのだ。【3月25日 CNN】
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つらい記憶を乗り越えて、明日に向かって踏み出している女性も少なくないことが、いくらかの救いに思えます。
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アフガニスタン  非道が正される社会の構築に向けて  タリバンとの和平交渉、アメリカとの協議

2015-03-24 22:08:52 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタンの首都カブールで、イスラム教の聖典コーランを燃やしたとして集団暴行されて死亡した女性の葬儀で、ひつぎをかつぐ市民活動家の女性たち 【3月23日 AFP】)

【「コーラン焼却」の女性殺害に強い抗議 立ち上がる女性たち
イスラム社会にあっては、しばしば“コーランへの冒涜”というイスラム教徒にとっては決定的な重罪を言い立てることで、邪魔な相手を抹殺することが行われるようです。

2012年9月にもパキスタンで、コーランを燃やしたということで知的障害もあるキリスト教徒少女が逮捕拘留されましたが、その後、少女を訴えていたイマーム(礼拝の導師)の証拠ねつ造であったとされる事件が報じられたことがありました。
「ここからキリスト教徒を追い出すにはこうするしかない」と、このイマームは語っていました。

今回の事件はアフガニスタン。
証拠ねつ造であることが判明し20日ほどで保釈されたパキスタンのケースとは違い、今回は女性が群衆から暴行を受け、焼き殺されました。

****コーラン焼却」の女性を集団で暴行、殺害か アフガン****
アフガニスタンの首都カブールで、精神疾患を持つとされる女性がイスラム教の聖典「コーラン」を焼却したとして男たちの集団から暴行を受けた。女性は焼き殺され、遺体を川に投げ捨てられたとの情報もある。

アフガン内務省の報道官は、女性の死に関連して21日までに11人が逮捕されたと発表。捜査は現在も続いていると語った。

目撃者の話によると、カブール市内の寺院前で19日、被害者の女性がほかの女性たちから「コーランを焼いた」と非難されて言い争いになった。これを聞きつけた男たちの集団が、女性に襲い掛かったという。

男たちは女性を屋根の上に引きずり上げ、足で蹴ったり石や板で殴ったりする暴行を加えた。
この目撃者は、何者かが女性に燃料をかけて火をつけ、遺体をカブール川に投げ捨てたと話した。

現場を撮影したビデオには、女性が血まみれの顔で立つ姿や、押し倒され殴られる姿、炎に包まれる姿が映っている。ただ、その時点で女性が死亡していたかどうかは確認されていない。

国連は20日、「精神疾患を持つ27歳の女性が無残に焼き殺された」との声明を発表した。女性の両親は地元テレビ局に、娘は16年前から精神的な問題を抱えていたと話した。

女性がコーランを焼却したことを示す証拠は今のところ見つかっていない。アフガンの巡礼・宗教問題省も、そのような証拠はみられないと述べている。

ガニ大統領はこの女性の暴行、殺害と、宗教を巡る私刑の問題の両面で徹底調査を指示した。【3月22日 CNN】
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精神疾患云々はよくわかりません。
“被害女性の父親は報道陣に対し、娘はイスラム学の学位を持ちコーランも暗唱できたと話し、そもそもコーランを燃やしてはいないと疑いを否定している。”【3月23日 AFP】

暴行は数人の警察官が見ている前で行われており、捜査当局は、警察官8人を含む21人(続報では26人)を逮捕したと発表。また、内務省は警察官13人に停職処分を下したことを明らかにしています。

ガニ大統領も事件を「凶悪」と非難し、捜査委員会の設置を命じています。

イスラム過激派によるテロが頻発するイスラム社会パキスタンにあっても、この事件への強い批判が起こり、女性の葬儀には数百人の女性が参加し、葬列では女性たちがひつぎをかつぐなど、男性支配社会の同国では異例の行動で強い抗議の意を示したそうです。【3月23日 AFPより】

****コーラン焼却」の女性殺害に抗議広がる アフガン****
アフガニスタンの首都カブールで先週、女性がイスラム教の聖典「コーラン」を焼却したとして群衆に暴行、殺害された事件に対し、抗議の声が広がっている。

殺害されたのは27歳のファルクフンダさん。22日の葬儀は、伝統的に男性がかつぐことになっているひつぎを女性たちが肩に載せるという異例の形で行われ、政府当局者や閣僚、報道陣、市民団体のメンバーら数千人が参列した。(中略)

両親の話によると、暴力を扇動したのは市中心部にあるモスク(イスラム教礼拝所)の指導者だという。この指導者が配っていた魔除けのペンダントを、ファルクフンダさんが「偽物だ」と指摘した。

指導者は保身を図ろうと、ファルクフンダさんがコーランを焼いたと叫び出し、これを聞いた群衆が暴行を始めたという。群衆はファルクフンダさんに殴る蹴るの暴行を加え、体に火をつけて殺害したとされる。(中略)

人権団体からは、警察がファルクフンダさんを救えなかったことに対しても非難が集中している。

24日にはカブールの最高裁判所前で大規模な抗議集会が予定されている。【3月24日 CNN】
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タリバンとの交渉に動くパキスタンと中国
事件自体は悲惨としか言いようがありませんが、事件への抗議の声が社会からおこったこと、特に、男性優位の社会にあって女性たちが抗議を意思表示したことは、せめてもの救いです。

旧タリバン政権時代であれば、「コーランを焼いた」不信心者が裁かれた・・・ということでおしまいでしょう。

こうした事件がうやむやにされることなく、厳しく糾弾さる社会が今後も維持されるのであれば、多大な犠牲を払ったアメリカのアフガニスタンへの介入も無駄ではなかったとも思えます。

“今後も維持される”のかどうか?は、アメリカの完全撤退、タリバンとの和平交渉など、不透明です。

タリバンとの和平交渉については、タリバンに強い影響力を持つ隣国パキスタンが、パキスタン国内で過激派との対決姿勢を強めていることもあって、交渉に前向きと言われており、その点では現実性もあるようです。

ただし、これまでもこの手の話題でも触れてきたように、タリバン内部がどこまで意思統一されているかは疑問もあります。

****<アフガニスタン>タリバン 政府と和平交渉始める意向****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンがアフガン政府との和平交渉を始める意向であることが、タリバン幹部らへの取材で分かった。

タリバンは和平交渉を始めるかどうかを公式には明らかにしていないが、タリバンの政治部門は交渉開始に向けて内部で協議を進めているという。

ただ、取材に応じたタリバン幹部は「和平交渉に入っても停戦には応じない。戦争を終えるのは外国軍が完全撤退してからだ」と述べ、当面は戦闘を継続する方針を示した。

この幹部は、アフガニスタンとパキスタンの国境地帯から、イスラム過激派に詳しい地元ジャーナリストを通じて毎日新聞の電話取材に答えた。

タリバンは2013年にも、米国との和平交渉に前向きな姿勢を示したことがあるが、今回は「(アフガンに関与している)米国や北大西洋条約機構(NATO)ではなく、アフガン政府と交渉する用意がある」という。

これまで「異教徒(米国)のかいらい」としてアフガン政府の正統性を認めてこなかったタリバンとして大きな方向転換だ。

タリバンへの影響力を持つとされるパキスタン軍・政府が最近、タリバンとアフガン政府の間で和平交渉開始へ向けた働き掛けを活発化させており、タリバン側がこれに応じた可能性がある。

タリバン情勢に詳しいカブール在住のタリバンの元司令官は、毎日新聞の電話取材に対し、水面下で交渉開始に向けた努力が続いていることを認めた。

アフガニスタンのガニ大統領は22日から訪米しており、24日のオバマ米大統領との会談では駐留米軍の撤退ペースを遅らせるよう求める見通しだ。

タリバンは「外国軍の完全撤退」を重要視しているため、撤退計画の見直しが決まれば交渉開始に影響する可能性もある。

また、ロイター通信によると、タリバン内部には和平に反対する強硬派もおり、交渉開始には時間がかかるとの見方もある。

アフガンでは昨年末で米軍が戦闘任務を終え、現在は約1万人規模の部隊がアフガン軍の訓練を行っている。来年には駐留規模を半減し、16年末までに事実上、完全撤退する計画だが、アフガンではタリバンなどによるテロ攻撃が相次いでいるうえ、イスラム過激派組織「イスラム国(IS=Islamic State)」の影響力が強まっていることなどから、治安悪化が懸念されている。【3月24日 毎日】
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パキスタンは国内のイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)掃討作戦に踏み切っていますが、アフガニスタンが混乱したままでは、TPPがアフガニスタンに逃げ込んでしまうだけで実効があがりません。

また、パキスタンと関係が深い中国も、アフガニスタン国内での経済利権の問題だけでなく、中国国内ウイグル族のイスラム過激派の動きを刺激しないためにもアフガニスタンの安定化を望んでいると思われます。

****<アフガン和平>「パキスタンが交渉支援」首相特別補佐官****
アフガニスタン政府と旧支配勢力タリバンとの和平交渉について、隣国パキスタンが「和平への努力を支援する」とアフガンのガニ大統領に伝え、交渉開始を後押ししていたことが分かった。

来日中のパキスタンのファティミ首相特別補佐官(外交担当)が13日、毎日新聞の取材に応じ、明らかにした。

パキスタンは国内の武装勢力を掃討するため、国境を接するアフガニスタンの安定に迫られたとみられる。

ファティミ氏は、パキスタンの友好国である中国も和平交渉に関与し始めたことを明らかにした。今後、両国の仲介による交渉が進めば、アフガン戦争を主導した米国は存在感を弱めそうだ。

和平交渉を巡っては、アフガンのアブドラ行政長官が先月下旬、「近い将来、タリバンとの交渉が始まる」との見通しを表明している。

ファティミ氏によると、パキスタンは昨年6月からパキスタン北西部・北ワジリスタン管区などで国内最大の武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の掃討作戦を開始。約2000人の戦闘員を殺害したが、数千人が国境を越えてアフガン側などに逃げたという。

昨年9月にガニ大統領が就任後、パキスタンはアフガンとの連携を強化。アフガン軍や情報機関と連携を取り、武装組織の情報を共有し、軍事作戦でも連携を深めていることを明らかにした。

一方で、ファティミ氏はTTPが忠誠を誓うアフガニスタンのタリバンについては「現在の幹部が死亡しても、また新しい人物が出てくる。軍事作戦には限界がある」との認識を示した。アフガン政府とタリバンを和平に持ち込み、TTPなどパキスタンの武装勢力と切り離す作戦とみられる。

ファティミ氏によると、中国も和平交渉の仲介を始めた。
中国は首都カブール近郊のアイナク銅山などの資源開発に投資しており、アフガニスタンの安定を望んでいる。

ファティミ氏は中国政府関係者がアフガニスタンとパキスタンを訪れていることを明らかにし、「仲介はまだ初期段階だが、歓迎すべき動きだ。交渉が進み、中国のアフガンへの投資が増えれば雇用が生まれ、若者は(タリバンなどの)戦闘員にならなくなる」と述べた。

一方で、今後の和平交渉については、「タリバンは現在、中央集権的な権力構造になっていない」と、交渉相手選定の難しさを指摘。「不確実な要素が多い」として、交渉が長期化する可能性を示唆した。【3月14日 毎日】
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改善するアメリカ・アフガニスタン関係 撤退スケジュール見直しについては訪米協議中
交渉については、タリバン側はアメリカ軍などの完全撤退を条件としていますが、前出記事にもあるように、アフガニスタン政府は撤退ペースを遅らせることを望んでいるとされ、この点で交渉が進展するのかどうか懸念されます。

現在、ガニ大統領とアブドラ行政長官の両首脳が訪米してアメリカ側と対応を協議中です。

****アフガン大統領が米国務・国防長官と会談 米軍撤退の進捗見直し焦点****
訪米中のアフガニスタンのガニ大統領は23日、ワシントン近郊の東部メリーランド州にある大統領山荘キャンプデービッドで、ケリー国務長官、カーター国防長官と会談した。

アフガン駐留米軍の撤退をめぐり進捗を遅らせる問題が協議の中心で、24日にはオバマ、ガニ両大統領がホワイトハウスで会談し、方向性が示されるとみられる。

会談に先立ち、ガニ大統領は「テロは脅威、悪だ。われわれ打ち負かされることなく、テロを克服する。米国との協力関係は、(アフガンの)挙国一致政権の基盤だ」と強調した。

駐留米軍は昨年末に戦闘任務を終え、残留した9800人の部隊がが訓練などに当たっている。これを今年末には5500人にまで削減し、来年末までに完全撤退させる計画。

これに対し、ガニ氏はこれまで撤退計画の見直しを求めており、オバマ政権も「最終期限を保持しつつ、部隊撤退と基地閉鎖の進捗を緩めることを検討している」(アーネスト大統領報道官)としている。

23日の会談では、戦略的関係を協議する外務、国防担当の閣僚級会合を再開することで合意する見通し。【3月24日 産経】
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会談ではアメリカの経済支援も約束されています。

****<アフガン大統領>資金援助継続で合意…米国務長官と協議****
・・・・ケリー氏は協議後の共同記者会見で「両国の友好関係が永続的であることが明確になった」と語り、今年後半にカブールを訪問して13年から中断している外相協議を開くと発表。

米政府が最大8億ドル(約950億円)を拠出し、アフガン政府の改革を後押しすることも明らかにした。

また、カーター氏は「アフガン政府軍35万2000人を維持するため、17年まで資金援助するよう議会に予算を求める」と述べた。【3月24日 毎日】
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現実問題として、国際支援がなければ“アフガン政府軍35万2000人”という体制は維持できず、軍事的バランスが大きく変化します。

オバマ米政権はアフガニスタン駐留米軍の撤収計画について、現在の約1万人の兵力を年内に半減させる目標を断念する方向で最終調整しているとも報じられています。
そこらあたりは、ガニ・オバマ会談で協議される予定です。

撤退スケジュールや経済支援の話もさることながら、カルザイ前大統領時代に相互不信感から悪化していたアフガニスタン・アメリカ関係が改善したことは間違いないようです。軍事介入しながら外務、国防担当による閣僚級会合がこれまで中断しているというのも異常なことです。

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ケリー長官は終了後の共同記者会見で、「会合で両国の友好関係が永続的なものであることが裏付けられた」と強調した。

アフガン側も「永続的なパートナー同士として議論を交わした」(ガニ氏)「対米関係の新たな章を開いたと言える」(アブドラ氏)と評価した。【3月24日 時事】 
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まだまだ不確定要素が多い和平・安定への道のりですが、何も動きがないよりはましでしょう。
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シンガポール  リー・クアンユー元首相が死去 “並外れた努力”の結果としての実績と課題

2015-03-23 22:43:40 | 東南アジア

(若き日のリー氏 リー氏は35歳の若さで英連邦自治州の首相に就任し、その後マレーシア連邦に加盟しますが、「華人勢力が強まり、連邦の結成を乱す」とされ、シンガポールのみでの独立を強いられました。写真は【3月23日 東洋経済online】)

個人的には管理社会のイメージも
アジアの国々を物見遊山することが好きですが、シンガポールは1回行っただけ。ちょっと苦手。

小さな都市国家で、感動するような自然とか、興味を引くような文化遺産とかがある訳でもありませんし、きれいで近代的な街並みにはあまりアジア的異国情緒も感じませんので。

それと、何かと規制がうるさく息苦しい管理社会のイメージも。

****シンガポール「夜間の飲酒禁止」8割歓迎 外国人観光客にも適用へ****
シンガポールは夜間の飲酒禁止など、酒類に対する規制を強化する。現地紙トゥデイなどによると、同国議会は先月、午後10時30分から翌午前7時まで公共の場における酒類販売と飲酒を禁止する酒類規制法案を可決した。外国人観光客や外国人労働者に対しても適用される同法案は、4月1日から発効となる予定だ。

同国政府は、昨年1年間で飲酒が原因の暴動が47件、傷害事件が115件あり、うち9割が午後10時30分以降に発生したと主張。住民の安全のために思い切った措置が必要としていた。

同法案の発効後、シンガポール国内で禁止時間帯に飲酒が可能となるのは原則として自宅や宿泊施設の自室、酒類提供の許可を取得したバーやコーヒーショップ店内などに限られ、違反者には1000シンガポールドル(約8万6790円)以上の罰金または最長3カ月の禁錮刑が科されるという。

観光業への影響や、警察の取り締まりなどに対する懸念の声もあるものの、現地紙ストレーツ・タイムズによると、政府系機関が実施した電話調査では、1145人のうち81%が同法案に賛成しており、シンガポール世論は成立を歓迎している。【2月4日 SankeiBiz】
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個人的には殆どアルコールは飲みませんし、酔っ払いが騒ぐのは大嫌いです。
ですから、上記のような規制は歓迎すべきことなのでしょうが、旅行するとなると、小汚い屋台が道端に立ち並び、そこらで飲み食いしているような街に足が向きます。住むとなると、また別の話になるかもしれませんが。

【「生き残るために、シンガポールは並外れた努力をする必要があったのです」】
周知のように、マレー半島先端の小島にすぎなかったシンガポールを「世界の貿易港」「アジアの金融センター」に変貌させて、一人当たりGDPで日本を大きく上回るアジア随一の繁栄の礎を築き、「シンガポール建国の父」と呼ばれたリー・クアンユー元首相が死去しました。

(一人当たり名目GDP 2013年 シンガポール55,182ドル(世界第8位) 日本:38,467ドル(第24位) IMF集計)

****<リー元首相死去>繁栄築いた強権*****
シンガポール繁栄の礎を築いたリー・クアンユー元首相が23日、死去した。

1965年の独立当初は存続すら危ぶまれた資源小国だったが、リー氏の厳格な指導の下、シンガポールは東南アジアで最も豊かな国となった。

だが最近は、国民の間から権威主義的な開発独裁体制に不満の声が上がり、建国以来続く与党支配にも陰りが見えている。

 ◇建国半世紀「豊かさ」転換点に
「私にとって苦悩のときです」。65年8月9日、リー氏はマレーシアからの分離独立を宣言する記者会見で、涙を流した。

資源に乏しく、土地や人口も限られるシンガポール。人口の大半を中国系住民が占める都市国家は、マレー人優遇策を掲げるマレーシアから、半ば追い出される格好で独立した。

国家存続の危機を前に、リー氏は経済を最優先させ、政権と国営、民間企業を一体化した経済開発を進めた。
太平洋とインド洋をつなぐ地理的条件も生かし、積極的に外資を導入。シンガポールは金融や情報通信の一大拠点となり、今や1人あたり国内総生産(GDP)で日本をしのぐ。

こうした繁栄は、政治対立を抑え込む強権下の「安定」に支えられた。リー氏は自ら率いる人民行動党による一党支配を確立。治安維持法などで政権批判を封じた。公衆道徳に至るまで法律で規制し、経済効率性を重視した管理社会を築いた。

欧米からは人権侵害と批判されたが、リー氏は「自由というものは、秩序ある社会にしか存在しえない」と語り、東アジアには儒教に根付く独自の価値観があると反論。人民行動党の支配体制を維持してきた。

だが、近年はほころびが目立つ。
前回2011年の総選挙では、国民の生活に介入する政権の権威主義や、急激な経済成長に伴う所得格差の拡大への批判が高まり、87議席のうち野党が過去最多の6議席を獲得。現職閣僚2人が落選し、リー氏は顧問相を辞任した。

インターネット上では、政府の厳しい言論統制に反発する動きも出始めている。また、13年には外国人労働者の流入が雇用不安を招いているとして、政府の移民受け入れ拡大に反対する異例のデモが起きた。

「東南アジアの都市国家として生き残るために、シンガポールは並外れた努力をする必要があったのです」。リー氏はかつて、こう強調していた。

建国から50年。驚異的なスピードで豊かさを実現したシンガポールは、その「努力」が実った今、さまざまな点で曲がり角を迎えている。【3月23日 毎日】
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リー・クアンユー元首相を評価する場合、必ず触れられるのが
・経済的繁栄を実現した卓越した指導力
・批判を許さない開発独裁の代表例とも言える強権的手法
・最近シンガポール国内で大きくなっている不満
といった点でしょう。

とにもかくにも、経済的実績については世界にも類をみない成功例と言っていいでしょう。

****押しつけられた“独立”に直面****
・・・・「私には苦悶の瞬間だ」。1965年8月、シンガポール独立を宣言する記者会見で、リー氏は人目をはばからず涙を流した。

「シンガポールのため」と邁進してきたマレーシア連邦編入が、そのマレーシア側から追放される。前途を閉ざされたと感じたリー氏にとっては相当な衝撃だったのだろう。

リー氏が人前で涙を流したのはこの時と、1980年に母親が泣いた時のみと言う。だが、この涙は「シンガポール存亡の危機」と言われた状態への決別を意味する涙だったのかもしれない。

リー氏がその後、シンガポールを現在のような先進国レベルにまで成長させたことに、詳しい説明は不要だろう。

手厚いインフラ設備で外資を誘致し産業を興し、住民には雇用を増やして生活を安定させた。東南アジアで最も清潔で整備された街並みを見ても、豊かな国であることがわかる。

「シンガポールを東南アジアのオアシスにすること」がリー氏の戦略の一端だったと述べたことがあるが、まさにそれを実現させたのである。(後略)【3月23日 東洋経済online】
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外交的にも、小国シンガポールのかじ取りを巧みに行ったと言えます。

****ミスター・シンガポール」、自国を存続・経済発展せる一方で強権体制貫く****
・・・・小国で自然資源に欠けるシンガポールは独立当初から、「国民の生活」のためにマレーシアに依存せざるをえない面があった。

例えば、マレーシアに水道水の供給を止められれば、シンガポールは国民のための飲み水すら確保できなくなる状態だった。

一方で、独立までの経緯もありマレーシアとは潜在的/顕在的対立関係を続けざるをえなかった(80年代に登場したマレーシア・マハティール政権との間で、両国関係は大幅に改善)。

そこでシンガポールはマレーシアの“ライバル”であるインドネシアと親密な関係を構築。ところがインドネシアと中華人民共和国の関係は1960年代半ばまでに極端に悪化。67年には断交した。

そのためシンガポールは独立当初からの「中華民国との外交関係」を保ち続けた。インドネシアと中国が国交を回復したのは1990年7月。シンガポールは直後の10月に外交関係を樹立した。

シンガポールは長年にわたって中華人民共和国と外交関係をもたなかったが、住民の75%程度は中国系であり、中国との「疎遠政策」を続ければ、国内政治に問題が出る恐れもあった。そのため「心情面では中国を疎んじているわけではない」とのアピールも必要だった。

中国への“共感”を示す政策の1つに、「漢字の略字化」がある。制定作業に着手したのは1968年だった。シンガポールの簡体字(略字体)は「中国大陸のものと基本的に一致するが、若干の漢字では異なる」特徴がある。中国への「同調」を示しつつ、独自性も残すなど、背景に政治的意図もあると考えられる。【3月23日 Searchina】
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内外からの批判を許さない政治姿勢 「西洋的な民主主義ではうまくいかない」】
これだけの実績があれば、その強権的・権威主義的政治手法についてはやむを得ないとする向きも多いでしょう。

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その一方で、徹底して政敵を排除しPAPの独裁体制は現在も続く。野党には選挙制度や選挙区の改編で攻撃し、野党候補を当選させた地区には政府支援などで不利益を被るようにしたこともある。

徹底した能力主義で国を発展させたことは間違いないが、住民に失敗・敗者復活を許さない教育制度などのエリート至上主義の政策には、人権上からの批判が相次いだ。

それでも「現実的に自分は正しい」というリー氏は信念を持って反論、内外からの批判を許さなかった。そして、シンガポールもそれを受け入れてきたのは確かだ。【同上】
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フィリピンのマルコス、インドネシアのスハルトといった開発独裁に比べれば、血なまぐさいものは少ないですし、腐敗・汚職にまみれることもありませんでした。
開発独裁の成功例とも言えるのでしょうが、やはり個人的には“苦手”です。

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リー元首相は統制と団結を政治における信条としている。

1989年に北京で天安門事件が発生した際には、中国共産党の武力鎮圧について、「私でも同じことをしたであろう」と述べた。

また、シンガポール社会は上流階級に中国系が多く、貧困層にマレー系が多いが、リー元首相は「多民族社会では、ある民族の知能指数が他よりも低い現実がある」などと発言したことがある。【同上】
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また、北京オリンピック開催時の欧米からの中国批判に対しは、
“「一部の国の指導者が中国の人権問題とチベット問題を理由に、北京オリンピックの開幕式をボイコットすると圧力をかけているが、何の根拠もないものだ」と欧米各国の行動に対して批判的な態度を示しており、さらにリーは「チベットに抱く西側の人々のイメージは『ロマンチックな理想郷』であり、『ヒマラヤとダライ・ラマ』の地だ。しかし、中国にとってのチベットは『封建社会』であり、『後進地域』なのだ。中国はチベットを支配して以来、インド的な身分制度や農奴を廃止し、医療施設、学校、道路、鉄道、空港などを作り、少なくともチベットの生活水準を上げてきた」と語ることによって西側メディアの中国批判を牽制した。”【ウィキペディア】とも。

驚異的な経済成長、経済発展を優先し、人権・自由が制約されるのはやむを得ないとする姿勢は、中国共産党の姿勢に重なるものもあります。

****カリスマなきシンガポール」こそ彼の成果****
リー氏はすべてが完璧だったわけではない。建国の父として賞賛されるに十分な成果を残したことは事実だが、限界があった。

たとえば、シンガポールにおける芸術や文学といった文化を軽視したこと。経済発展には無関係と見なし、国民の間の心の発展には無頓着だったとも言えるだろう。
そして、普通の国民の気持ちや能力を理解し、評価しなかったことだ。

彼は民主主義を唱えていた。だが、シンガポールの現実を考えると、西洋的な民主主義ではうまくいかないと言い続けてきた。

その主張の影で、一般の国民が政治や社会についてどう考え、どう希望しているかという声をくみ上げることはなかった。その結果、2011年の選挙結果につながったことを、彼は理解していただろうか。

「たとえ病床にあっても、墓に入れられようとしていても、何かが悪い方向へ進んでいると感じたら、私は起き上がるだろう」。リー氏は、シンガポールの将来を問う質問にはこのように発言してきた。

だが、すでにポスト・リー・クアンユー時代は深化し、彼のようなカリスマをシンガポールは必要としていない。将来を予測するのは難しいが、シンガポールの将来をそれほど悲観することもない。
リー氏が再び、「起き上がる」ような国ではない。

それこそ、彼が残した最大の成果なのかもしれない。【3月23日 東洋経済online】
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シンガポール政府は国民に対する公共サービスという観念がはっきりしている
最後に、リー・クアンユー氏が残したシンガポール社会の優秀さについても。

シンガポールは教育・医療などの各種施設が整備され、治安もいい、経済活動にも有利だということで、日本からの海外移住先としても人気があります。

ただ、家賃や物価が高く、生活費がかなりの負担になります。

そこで、物価が格段に安い隣接するマレーシア・ジョホールバルに巨大都市(シンガポールの国土面積の約3倍)を建設し、そこからシンガポールに通うこともできるようにしようという「イスカンダル開発計画」が進行中です。

今後の展開に向けてのカギとなる大量高速鉄道輸送システムの建設は、これまでマレーシア側の対応が遅いこともあって遅延していましたが、ようやく開発主体も本腰を入れるようになったとも報じられています。

この計画においても、シンガポール側の手際の良さが明らかなようです。

****垣間見えるシンガポールとマレーシア両政府の力量の差*****
2つの国を結ぶ高速鉄道建設プロジェクトの経緯を振り返ると、マレーシアとシンガポールの政府方針やプロジェクト遂行力に相当な違いを感じざるを得ない。

ジョホールバルで近所のマレーシア人らにRTSはいつ開通するのかと聞くと、誰もが政府プロジェクトが予定通り進むものとは期待していない。過度に期待するとがっかりすると、経験上、悟っているかのようだ。

一方、シンガポール側は、政府決定に基づいて着々と工事が進捗している。シンガポール政府は国民に対する公共サービスという観念がはっきりしているのだ。

例えば、シンガポールでは不動産価格が高騰している中、政府補助の手厚いHDB団地(公共住宅団地)が普及しているが、主要なHDB団地にはHDBハブと呼ばれるセンターが中心に配置され、そこに地下鉄の駅が作られる。

比較的小さいHDB団地には地下鉄駅がないこともあるが、バスルートだけは確保されている。しかも、バスや地下鉄の交通公共は政府が管理しており、どこへ行くにも片道約1シンガポールドル(約88円)以下だ。

したがって、シンガポール政府にとってRTS(高速輸送システム)の建設・運営は慣れたものだ。
運輸省が基本政策の策定し、陸上運輸庁(LTA)がライセンス付与、新規開業計画作りおよび運営会社管理を行い、事業者に対する入札方式により質の高い公共交通システムを構築している。(後略)【3月23日  大場 由幸氏  JBPress】
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インドの性犯罪 「必要なのは固定観念の変革、法律の厳格化、そして迅速な司法制度だ」

2015-03-22 22:41:58 | 南アジア(インド)

(相次ぐ女性への性的暴行事件に抗議する人々 【http://www.helloworldmedia.tv/news/documentary-on-2012-delhi-gang-rape-banned-in-india/】)

依然として憂うべき状況
インドでは、2012年12月16日夜にニューデリーのバス車内で起きた女子大生レイプ事件をきっかけにして、頻発する性犯罪に対する抗議が全国的に広がっています。

インド政府は相次ぐレイプ事件を受けて、2013年に性犯罪を厳罰化したが、女性を狙った性犯罪は後を絶たず、外国人観光客が被害に遭うケースも多発しています。

今年1月には、インドを旅行中の日本人女性を監禁して現金を奪い、強姦したなどとして、男5人が逮捕されました。また2月にも、日本人女性が地元の観光ガイドに強姦されたとジャイプールの警察に訴え出ています。

首都ニューデリーにおける2014年のレイプ件数は前年比で3割も増加していますが、問題が表面化していることで名乗り出る女性が増えた結果だと当局は認識しています。
多分それは正しいとは思いますが、依然として性犯罪が多発していることも事実です。

****インド首都のレイプ件数、2014年は3割強の増加****
インドの首都ニューデリーの警察は2日、2014年に同市で起きたレイプ被害の届け出件数が前年から30%以上も増加したことを明らかにした。ニューデリーにおける女性への暴力が、依然として憂うべき状況にあることが浮き彫りになった。

デリー警察のビム・サイン・バッシ本部長は報道陣に対し、2014年年始から12月15日までに報告されたレイプの件数は2069件で、前年の1571件から31.6%増加したと語った。

ニューデリーでは2年前、バスに乗り込んだ女子医大生が集団レイプされて死亡。これを機にインド全土に抗議行動が広がった。これを受け、ニューデリー市は「レイプの首都」との汚名を返上すべく、警備の強化や法制度改革に取り組んできた。

それでもレイプ件数が増加したことについてバッシ本部長は、ニューデリーが女性にとって、より危険な街となったのではなく、レイプ被害にあって名乗り出る女性が増えた結果だとの認識を示した。【1月3日 AFP】
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レイプの危険にさらされている低カースト女性 女性被害に動かない警察
インドの性犯罪の背景には、カースト制や女性蔑視の風潮があると指摘されています。

****インド社会が抱える闇 カースト制度、男尊女卑がもたらした恐るべき因習****
・・・このように、インドでは今、急激に凶悪なレイプ犯罪が問題となっている。しかし、これは過去から黙殺されていたものが明るみに出たに過ぎない。

実は、インドでのレイプ犯罪は日常茶飯事。夜中に複数の男に家に侵入され、抵抗したら硫酸をかけられ顔を破壊された女性。レイプ被害を警察に訴えても相手にされず、挙句の果てに犯人との婚姻を勧められて自殺した少女など。

しかも、加害者の男はお咎めなしで釈放される……。

これには、宗教的な思想が少なからず影響しているはずだ。
インドでは、国民の約7割がヒンズー教である。ヒンズー教にはカースト制度という世界的にも有名な身分差別がある。(中略)

昨年11月には、小さな村に住む最下層のダリット(不可触賎民 アンタッチャブル)の16歳の少女が3時間近くにわたり7人の男にレイプされた。男たちの1人がレイプの様子を携帯で撮影。その映像を村中に流され、それを見た被害者の父親は絶望し殺虫剤を飲んで自殺した。

また、別の村の16歳のダリットの少女が、昼食を取ろうと畑から自宅に向かっていたところ、2人の男たちに別の家屋に連れ込まれ、レイプされた。叫び声を聞いた父親が現場に駆けつけたときには、男たちの姿はなかった。少女はその後、灯油をかぶり焼身自殺した。

そのほかにも、ダリットの女性はレイプされたうえに、手足を切断されたり、火あぶりにされたり、人糞を食べさせられることを余儀なくされたり、悲惨な事件が後を絶たない。

低カーストやダリットの女性に対するレイプは上位カースト男性の力を示すものであり、彼女らは常にレイプの危険にさらされているのだ。

しかし、このカースト制度がもたらした影響だけが、レイプ犯罪を誘発しているわけではない。昨年12月にバス車内で起きた集団レイプ事件の被害者女性は中流階級のカーストだったといわれている。

インドには、カースト制度がもたらすレイプ事件誘発以外に、強烈な男尊女卑が残っているのだ。

未亡人殉死の恐るべき因習「サティ」。夫が死んで火葬されるとき、妻も火に身を投げて自殺することを強要させるというもの。これは近年まで続いてきた。

さらに、女性が結婚する時に持参金を持ってくる「ダウリー」という制度。法的には禁止されているものの、まだまだ健在である。嫁から持参金を搾り取るために、虐待したり、充分でないと火をつけて焼き殺したりする場合もある。ダウリー殺人と言われる。

こうした女性に対する暴力はインドで繰り返され、犠牲になる女性たちがどんなに多いことか。女性が危害を加えられたところで警察が動くこともなければ、裁かれることもない。

女性に対して罪を犯しても罰せられないことがまかり通っているインド社会では、「女性に対していくらでも酷い虐待をしてもいい」という認識に繋がっている。【2013年3月1日 白神じゅりこ氏 ハピズム 】
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【「辛い現実」を全員が見るべきだ
女性蔑視の社会的風潮を反映したものか、2012年12月のニューデリー・バス車内集団暴行事件で死刑判決を受けた男らのうちの1人が、「まともな女性なら夜には出歩かない」「彼女は黙ってレイプを許しておけばよかったんだ。事が済めば(バスから)降ろしていただろう」などと、被害者に責任転嫁する発言をしているそうです。

この発言を含んだドキュメンタリー番組の放映を、インド当局は公衆の怒りをあおる恐れがあるとして禁止しましたが、その放映禁止への批判も起きています。

****集団レイプ殺人事件、番組の放送禁止に静止画面で抗議 インド****
2012年にインドの首都ニューデリーで女子学生が複数の男に性的暴行を受け死亡した事件のドキュメンタリー番組の放送が禁止されたことに抗議し、インドのニュース専門チャンネルNDTVは8日夜、放送が予定されていた時間帯に1時間にわたって放送を中止し、静止画を映した。

NDTVでは「国際女性デー」の8日、午後9~10時に、英国放送協会(BBC)が制作した、2012年12月にニューデリーでバスに乗っていた女子学生(当時23歳)が6人の男に性的暴行を受け死亡した事件に関するドキュメンタリー番組「India's Daughter(インドの娘)」を放送する予定だった。

放送禁止措置について同局では公式コメントは発表していないが、編集ディレクターのソニア・シン氏が今回の抗議に先立ち、マイクロブログのツイッターに「私たちは叫ぶつもりではない、聞いてほしいのだ」と書き込んでいた。

このドキュメンタリー番組には犯人の1人で、強姦(ごうかん)と殺人罪で死刑判決を受けたムケシュ・シン死刑囚のインタビューが含まれていた。

インド当局は今月3日、公衆の怒りをあおる恐れがあるとして番組の放送を禁じる裁判所命令を獲得していた。

このインタビューの中でシン死刑囚は「まともな女性なら夜には出歩かない」などと、被害者に責任転嫁する発言をしている。

シン死刑囚の発言について、ラジナート・シン内相は「女性の尊厳を傷つける、極めて軽視した発言」だと強く批判した。

放送禁止に対する抗議はインド全土に広がり、多くの人々はNDTVの対応に賛同している。
また被害者女性の父親は、インドの女性たちに向けられる態度の「辛い現実」を示しているこのドキュメンタリーを全員が見るべきだと述べた。【3月9日 AFP】
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当局としては、“公衆の怒り”が政府へ当局・政府に向けられることを嫌ったというところでしょう。
ただ、“公衆の怒り”が行き過ぎた行動に及ぶ事例も実際に起きてはいますので、当局の懸念も全く根拠のない話ではありません。

****怒った群衆がレイプ容疑者を引きずり出し撲殺、インド****
インド北東部ナガランド州で5日、女性を複数回にわたって強姦した容疑で逮捕・拘留されていた男を、住民らが拘置所から引きずり出して撲殺する事件があった。インドでは相次ぐ女性への性的暴行事件に国民の怒りが高まっている。

事件が起きたのは、ナガランド州の商業中心地ディマプール。インドPTI通信など現地からの報道によると、同地ではこの日、女性に対する暴力に抗議する大規模デモが行われたが、参加した群衆がデモ後に約7キロ離れた拘置所まで行進。女性1人を複数回レイプした疑いで先月24日に逮捕され拘留されていた男を引きずり出したという。

インド紙ヒンドゥスタン・タイムズによれば、群衆は拘置所の2つの門を倒して内部に押し入り、容疑者の男をとらえると市中心部の時計台の前まで引きずっていった。そこで男を裸にして殴るなどの暴行を加え、死亡させた後、男の遺体を時計台に吊るしたという。

地元警察は、現地の状況について「非常に緊張している」と同紙に述べ、秩序の回復に努めていると説明している。【3月6日 AFP】
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警察官の3分の1に女性を起用
性犯罪減少を目指す政府も、罰則強化の法律改正だけでなく、女性警官の増員なども決定しています。

****インド直轄領、警官3割に女性起用へ****
インド政府は20日、デリー首都圏を含む7つの連邦直轄領で、警察官の3分の1に女性を起用する法案を承認した。

首都ニューデリーなどで衝撃的な性的暴行事件が相次ぐ中、ここ数か月の法律の強化による対策の一環として閣議で採択された。

政府は声明で「デリーを含む全直轄領で、警察官のポストの33%を女性に割り当てることを承認した」と発表した。この決定により、警察が性についていっそう配慮するようになることを期待するとしている。【3月21日 AFP】
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こうした改革で、これまで性犯罪をまともに取り扱ってこなかったと言われている警察全体の意識改革が進めばなによりです。
実際に女性警官起用が進むかどうかは、これからの話ですが。

一方で、護身用に女性用拳銃が販売されているそうですが、その実態は・・・。

****レイプ多発のインドで女性用拳銃が人気、ただし購入者は男性****
インドの首都ニューデリーで女子学生が集団レイプされ死亡した2012年の事件を受け、インドで初めて女性向けに開発された軽量の回転式拳銃が、好調な売り上げを記録している。だが購入者のほとんどは男性だ。

ヒンズー語で「怖いもの知らず」を意味する「ニルビーク」と名付けられた拳銃は、相次ぐレイプ事件に不安を募らせる女性たちの護身用に国営の武器製造会社が開発した。だが、これまでのところ約450件の注文中、女性からのものはわずか28件だという。

大半の女性にとって14万ルピー(約27万円)という価格は高すぎると、女性権利活動家らは指摘する。

また活動家の1人、ループ・レカー・ベルマ氏はAFPの取材に「レイプは基本的に法と秩序の問題ではなく、女性が拳銃を所持しても回避できない」と述べ、「必要なのは固定観念の変革、法律の厳格化、そして迅速な司法制度だ」と語った。【3月21日 AFP】
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銃社会の弊害は、アメリカの事例でも明らかです。「必要なのは固定観念の変革、法律の厳格化、そして迅速な司法制度だ」というのが正論です。

【「国は牛だけでなく、我々、すべての人間に対して責任がある」】
先述のように、インドにおける性犯罪の背景にカースト制や伝統的な女性蔑視の風潮があるとすれば、ヒンズー的価値観を重視するモディ首相のもとでの抜本的改革は難しいかもしれません。

****牛肉所持で禁錮刑に、インドの州で新法施行****
インド西部マハラシュトラ州でこのほど、牛の食肉処理さらには牛肉を所持することを禁止する法律が施行された。新たな法律は非常に厳格な内容となっており、牛肉を所持していただけで禁錮5年が科せられる可能性がある。同州首相らが3日、発表した。

ヒンズー教徒が大半を占めるインドでは牛は神聖なものとされており、すでに複数の州で食肉処理を禁じる法律が導入されている。

しかし、商業都市ムンバイがあるマハラシュトラ州で施行された法律は他州に比べても罰則が厳しく、牛肉の販売と所持を禁止し、違反した場合には禁錮5年または1万ルピー(約2万円)の罰金が科せられる。

同国紙インディアン・エクスプレスによると、プラナブ・ムカジー大統領の承認を受けて発効した法律は、約20年前にマハラシュトラ州議会で可決されていたものの、大統領の承認が得られなかったため施行には至っていなかった。

法律の施行を受け、ソーシャルメディア上では多くの人たちが個人の自由や宗教的信条、歴史、環境、さらには動物愛護など、さまざま観点から意見を闘わせている。【3月4日 AFP】
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****マハラーシュトラ、牛肉消費が飲酒運転より重罪に****
・・・同法は1995年、当時のマハラーシュトラ州知事に提出され、マハラーシュトラ州で最も長い19年近く保留されていた法案。右翼グループの長年に及ぶ強い後押しなどもあり、同法律が施行されることになり、牛肉の違法販売に阻止効果が期待されている。一方で、右翼グループの沈静化や政治的な票集めが目的という見方もある。

イスラム教徒が大半を占め、牛肉流通の大半を取り仕切るムンバイ牛肉販売業者組合は、同法により牛肉の販売業者や末端にいる何千もの酪農家が職を失うことや、マトン肉、鶏肉など牛以外の肉の価格高騰を懸念している。2月にはマハラーシュトラ州全域の牛肉販売業者が1週間のストライキを行った。

ヒンドゥー教徒が80%を占めるインドは、州ごとに独自の牛肉規制が行われている。(中略)

商業都市ムンバイではヒンドゥー教徒であっても牛肉を食べる人や、食事に宗教的制限のないキリスト教徒も多いため、今後飲食業などに影響が及ぶ可能性が高いという。【3月6日 みんなの経済新聞】
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牛肉はキリスト教徒とイスラム教徒によってだけでなく一部の貧しいおよび下のカースト制度ヒンズー教徒によって食べられています。
モディ政権のヒンズー至上主義の側面です。

今月、修道女がレイプされた事件を受けて、インド・カトリック教会は「国は牛だけでなく、我々、すべての人間に対して責任がある」と批判しています。
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