孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジンバブエ  インフレとコレラ ようやく連立成立か

2009-01-31 11:24:05 | 世相

(不足する水、劣悪な衛生環境がコレラ感染を拡大させています。
“flickr”より By Sokwanele - Zimbabwe
http://www.flickr.com/photos/sokwanele/3092812606/)

【ツァンギライ議長 首相就任へ】
経済崩壊とコレラ禍が深刻化するアフリカ・ジンバブエで大統領選挙が行われたのは去年3月のことですが、1年近くの空転を経て、ようやく収束の動きが出てきたようです。

****ジンバブエ野党、連立への参加を表明 野党議長が首相に就任へ*****
ジンバブエの野党・民主変革運動(MDC)のモーガン・ツァンギライ議長は30日、ロバート・ムガベ大統領との連立政権に参加すると発表した。同国では、約1年前の大統領選に端を発する混乱によって危機的な状況が続いていた。
ツァンギライ議長はMDCの会合後、記者団に対し、南部アフリカ開発共同体の求めに応じ、自らが2月11日に首相に就任すると語った。
ムガベ大統領率いる政府側も、MDCは「外部勢力から転換しつつある」との声が上がるなど、この決定を歓迎する姿勢を示した。【1月31日 AFP】
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【不毛の政治対立】
去年3月に行われた大統領選挙で、野党「民主変革運動」(MDC)のツァンギライ議長は与党「ジンバブエ・アフリカ国民同盟-愛国者戦線」(ZANU-PF)のムガベ大統領を上回りました。
しかし、過半数を取ることができなかったために決選投票に持ち込まれました。

決選投票に向けて、与党・政権側のMDC関係者に対する暴力行為は激しさを増し、結局ツァンギライ議長は選挙のボイコットを決めました。
MDC不在の中行われた6月27日の決選投票では、ムガベ氏が85%の票を得ましたが、投票率はわずかに42%でした。

MDCはこの決選投票を無効であると認めず、多くの欧米諸国もムガベ批判を強めていました。
アフリカ連合(AU)の選挙監視団も、決選投票はAUの民主的な基準に達していないと批判、南アフリカのネルソン・マンデラ氏も、選挙は不当なものであり、ムガベ政権は人権を守るべきだと訴えていました。
ただ、多くのアフリカ諸国は、ムガベ政権と似かよった強権的体質を持っていることもあって、ムガベ批判はそれほどきつくはなかったようです。【08年7月9日 IPS】

その後、昨年9月には、新たに首相ポストを設けて、ムガベ大統領・ツァンギライ首相という形での与野党大連立(いわゆるケニア方式)がまとまりかけましたが、10月に入り、具体的な閣僚ポスト配分において与党・ムガベ大統領側が国防、内務、外務、司法、地方政府、通信など有力ポストを独占することが明らかになり、この大連立案は暗礁に乗り上げていました。

この間にジンバブエでは、かねてよりのハイパー・インフレーションが更に加速、8月頃からはじまったコレラ感染が蔓延し大勢の犠牲者がでるなか有効な対策がうてず、南アフリカなど隣国への難民流失が外国人排斥の運動を刺激するなど、惨憺たる状況が続いてきました。

【インフレ 年897垓(がい)%】
****100000000000000ドル紙幣が登場、異常なインフレ下のジンバブエ*****
ジンバブエの中央銀行は16日、同国の厳しい経済情勢に対応するため、新100兆ジンバブエ・ドル紙幣を発表した。
100兆ジンバブエ・ドルは、15日の闇レートで約300ドル(約2万7000円)だという。ほぼすべての外貨取引はこの闇レートで行われているが、現地通貨の価値は毎日、急激に下落している。
ジンバブエではわずか数日前に500億ジンバブエ・ドル紙幣の流通が始まったばかりだが、すでにこの紙幣の価値は暴落し、一般の労働者が月給を銀行から引き出すにも足りないほどだという。
ジンバブエの公式インフレ率は、最新のデータである前年7月の時点で年2億3100万%だったが、米シンクタンク、ケイトー研究所の試算では、年897垓(がい)%に上るという。垓は10の20乗であり、数字に直すと897の後ろに0が20個つくことになる。【1月17日 AFP】
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年2億3100万%とか年897垓(がい)%とか、全く理解できない状況です。
毎日のように価格が上昇する、朝と夕方で価格が違うという事態です。
多くの取引・売買は現地通貨ではなく、米ドルは南アランドを使用しているとも報じられています。
首都ハラレの商店でも「外貨のみ使用可」の店舗が増加しているそうです。
これでは経済がまともに機能するはずもありません。

【コレラ 過去14年間で世界最悪の水準】
****ジンバブエのコレラ流行、感染者6万人以上に WHO****
コレラ感染が拡大しているジンバブエで、感染者数が6万人を超えた。世界保健機関(WHO)が30日、明らかにした。
29日付けのWHOの最新統計によると、2008年8月のコレラ発生以降の感染者数は6万401人で、このうち3161人が死亡している。【1月30日 AFP】
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過去14年間で世界最悪の水準とされ、泥沼化する政治・経済危機のなかで有効な対策がとられず、過去15日間だけで死者は1000人を超えたと報じられています。【1月29日 AFP】
コレラによる犠牲者の数も、残念なことに、インフレ率同様に報じられるごとにその数字が膨らんでいきます。

【懸念される先行き】
こうしたなかで、ムガベ大統領一家はバカンスで東アジアを訪れ、大統領夫人が1月9日、宿泊先である香港の五つ星ホテルで、写真を撮ろうとしたカメラマンをボディガードに押さえつけさせ、その顔面を殴打するという大立ち回りも報じられています。

昨年問題になった閣僚ポスト配分がどのようになったのかについては、まだ報じられていません。
本当に連立が成立するのか疑わしくも思えますし、仮に成立しても“遅きに失した”と言うほかありませんが、とにもかくにも、一刻も早く、インフレとコレラに呑み込まれている状況に正面から向き合う必要があります。

もっとも、現実に政府が何か動こうとすると既得権益者の利害を侵害することになり、政治的摩擦を激しくすることが想像されます。
ムガベ大統領がそんな軋轢を抑えるように働いてくれればいいのですが、これまでの言動を見る限りは全く期待できません。

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フランス  景気悪化、「雇用を守れ」との大規模スト・デモ

2009-01-30 21:31:23 | 世相

(フランス 29日のデモに集まった大勢の人々 “flickr”より By Nicolas DARQUÉ
http://www.flickr.com/photos/darque/3237895170/)

国際的な金融危機の影響で深刻な景気後退に陥っているフランスで29日、ゼネストが実施されました。
政府の経済政策に反発している労働総同盟(CGT)など主要労組が呼び掛けたものです。

主要労組は経済危機下の雇用維持や賃上げなどを要求の柱に据えており、民主労働連盟(CFDT)のシェレク委員長は「仏労働者は自分たちに責任のない経済危機のために賃金や雇用の不安の犠牲を払わされていると感じている」として、ストとデモにより「政府が現実的な解決策を示すよう求める」と主張しています。【1月29日 毎日】

ストには国鉄や地下鉄、バスなど公共交通機関のほか、電気、ガス、通信、郵政、教職員などの公共部門が参加。
仏国鉄の遠距離を結ぶ高速路線は4割が運休し、都市周辺の郊外電車やパリ地下鉄なども間引き運転され、29日の通勤は混乱しましたが、パリのオルリ空港ではキャンセル便は発着便の約3割で、地下鉄の75%、バス、路面電車、空港行きの交通機関も85%が通常通りに運行している・・・とのことでそれほど大きな混乱にはならなかったようです。

しかし、世論調査によると有権者の約7割が今回のストを支持しており、パリやマルセイユなど全国の主要都市で行われたデモ行進には、最大労組「フランス労働総同盟」の発表で計250万人(別の記事では100万人とも)が参加したとか。
官公労の組合員に加え、金融など民間企業の労働者も「雇用の安定」を求めて多数参加したそうです。
なお、パリ市内では、100人規模の参加者が警官隊と衝突し、1人が負傷、13人が逮捕されるような混乱もあったようです。

“パリの税務署員ジャンピエールさん(40)は「カネがないと言って人減らしをしながら、銀行救済に巨費を投じるのはおかしい」と批判。市の女性公務員マイケさん(60)は「学校で児童の心のケアを担当していた職員らまで減らされている」と危機感を募らせている。”【1月30日 時事】

このあたりの経済状況の悪化、雇用不安、公共サービスの低下はフランスだけでなく、日本も同様です。
同様ですが、日本では“抗議のゼネスト”といった事態は想像できません。
自己主張の強さという国民性の違い、社会党・労働組合の影響力が強いという政治的・社会的状況の違いもありますが、政治に対する国民のかかわり方の違いもあるようにも思えます。

日本の場合、もちろん政府への批判はありますが、デモやストをやったからといって問題が解決する訳でもない・・・という“物分りの良さ”があります。
別の見方をすると、政治は政治家が行うものといった“お上にまかせる”ような発想が強く、自分達一人ひとりが政治を動かしていくという発想に欠けるきらいもある・・・そのようにも思えます。


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ロシア  「サハリン2」記念式典で日ロ首脳外交か 人道支援中止

2009-01-29 22:03:20 | 世相

(サハリン 倒れたままになっている“遠征軍上陸記念碑” “flickr”より By shinyai
http://www.flickr.com/photos/shinyai/274523863/)

【日本との関係強化の姿勢】
日本の商社も出資してロシア極東サハリン州沖で進められている石油・天然ガス開発事業「サハリン2」から、日本へ液化天然ガス(LNG)の輸出を開始する積み出し式が2月18日に行われますが、この式典にメドベージェフ大統領も出席します。
更に、大統領は麻生首相との電話会談で、首相を招待する考えを伝えた上で「2国間のすべての問題について話し合いたい」と述べ、日ロ首脳会談の開催を提案していました。
“大統領の(式典への)立ち会いは、ロシアの同事業に対する期待の大きさとともに、日本との関係強化の姿勢を示している。”とも報じられていました。【1月23日 共同】

このロシア側の呼びかけに対し、麻生首相は「検討の上、回答したい」と返答したそうですが、河村建夫官房長官は29日午前の記者会見で、この式典に麻生首相が出席する方向で調整に入ったことを明らかにしています。
実現すれば、現職首相が戦後サハリンを訪れるのは初めてだそうです。

日本の商社が参画する「サハリン2」は、「ロシアの資源はロシアのもの」との資源ナショナリズムが強まるロシア側の対応によって、06 年9月、「環境破壊」を理由に事業停止を命じられ、経営権をロシアに奪取された経緯があります。

【起死回生の一手?】
それはともかく、このLNG輸出を契機に日ロの話し合いが進み、懸案事項である北方領土問題が少しでも前進するのであれば結構なことです。
支持率が2割を切る麻生総理にとっても、結果がさせれば起死回生の一手となりえます。

麻生総理は昨年12月9日、訪日したロシアのナルイシキン大統領府長官と首相官邸で会談し、領土問題の解決と平和条約締結問題について「来年のプーチン首相の訪日の際、また次回以降のメドベージェフ大統領との首脳会談で具体化していきたい」と述べ、早期打開に強い意欲を示していました。

なお、日本政府も出資するロシア極東の石油・天然ガス開発 事業「サハリン1」のほうは、2009年予算をめぐり、事業を主導する外資とロシア政府の交渉が難航し、ロシアが予算を承認しない場合はサハリン1の操業が新年から“違法”ととられかねない・・・と昨年末に報じられていました。【12月31日 産経】

その後どうなったのかは知りません。
サハリン1は開発契約に基づいて毎年、予算・事業内容の承認をロシア政府から受ける必要がありますが、昨年末の12月29日段階では交渉はまとまっていませんでした、なお、過去にも予算交渉が越年したケースはあるようです。
こうした交渉難航もロシアの資源ナショナリズム高揚の一環と見られています。

【出入国カード】
今回のLNG輸出を機に、両国間関係が改善する・・・そんな期待も少ししたのですが、そんなに状況は甘くないようです。
昨日は、北方4島に対する日本側の人道支援による物資供給、いわゆる「ビザなし交流」について、ロシア側の頑なな対応(まあ、ロシアの立場にたてば、そういうこともありなのでしょうが)によって、中止に追い込まれました。

****外務省、北方四島の人道支援中止 ロシア、出入国証要求で****
外務省職員らが、北方4島のロシア人住民に対する人道支援のため国後島に上陸しようとしてこれまでなかった出入国カードの提出を要求された問題は、ロシア側との交渉が決裂し、職員らは上陸を断念し根室港に帰還することになった。同省が28日、発表した。これに伴い、2008年度の人道支援は中止することを決めた。日本側は外交ルートを通じ遺憾の意を表明。今後あらためてロシア側と協議することにした。【1月28日 共同】
*******************

この問題に関し、ロシア外務省は28日、声明を発表し、「問題を政治化しようとする非生産的な試み」と、領土主権を理由に記入を拒否した日本側の対応を批判しています。
“「政治的な理由で人道支援を中止するのなら、支援の真の狙いは何だったのかとの疑問が生じる」とも主張した。
声明は、「出入国カードの記入が、国境画定を含む2国間平和条約締結交渉における日本の立場を変えてしまうとの見方はとらない」との解釈を示し、日本側の懸念を打ち消した。”【1月29日 読売】
ロシアの経済発展で、北方4島の経済も日本に頼る部分が次第に少なくなっている・・・という話も聞きますが、そのあたりも関係しているのでしょうか。

27日には、鳥取県境港市の水産加工会社「日吉水産」所有のカニかご漁船「第38吉丸」がロシア当局に拿捕されるという事件も起きています。

2月18日の式典への麻生総理招待と、ここ数日のロシア側の強硬な姿勢というのをどのように考えたらいいのか。
意図的にハードルを高くしているのか、たまたま重なっただけなのか、中央と地方で意思疎通が欠けているのか・・・
いずれにしても、相変わらず付き合いが難しい国ではあります。


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アメリカ・ロシア  ミサイル防衛(MD)計画で歩み寄りの姿勢

2009-01-28 21:04:35 | 国際情勢

(アラスカのFort Greelyに地上配備されているミサイル迎撃用ミサイル “flickr”より By Army.mil
http://www.flickr.com/photos/soldiersmediacenter/1276059371/)

昨年は、アメリカが進めるミサイル防衛(MD)計画に対し、ロシアが強い警戒感を示し、グルジア問題での対立も絡んで“新冷戦”といったことも懸念されていました。
ロシアのメドベージェフ大統領は、アメリカがポーランドとチェコで進めるミサイル防衛システムの配備計画への対抗措置として、ポーランドに隣接する飛び地(カリーニングラード)にミサイルを配備する方針を発表するなど、緊張が高まっていました。
こうした緊張状態はオバマ新政権成立によって、緩和の兆しが見えます。

****ロシアがカリーニングラードへのミサイル配備停止****
ロシアは、米国がミサイル防衛(MD)計画を見直す方針であることを理由にカリーニングラードへのミサイル配備を中断した。インタファクス通信がロシア軍幹部の話として伝えた。
それによると、この幹部は「米新政権がMD計画の実行を急がないという事実に関連し、ミサイル配備計画の実行は停止された」と述べた。【1月28日 ロイター】
************************

オバマ次期米大統領の外交政策顧問は昨年11月8日、オバマ氏がポーランドのカチンスキ大統領と7日に電話会談し、ブッシュ政権が進めていた同国へのミサイル防衛(MD)施設建設計画の推進を確約せず、慎重姿勢を示したことを明らかにしました。
もっとも、ポーランド大統領府は、オバマ氏が電話会談で“ロシアの反発を受けても東欧防衛のためのミサイル配備計画を進めると述べたことを明らかにした”と発表しており、両者の解釈には隔たりがあります。

また、オバマ政権発足に先立ち今月15日に開かれた新閣僚らの承認のための上院公聴会において、国防次官(政策担当)に指名された米シンクタンク新米国安全保障研究所(CNAS)のミシェル・フロノイ所長は、ブッシュ政権が進めた東欧へのミサイル防衛(MD)配備計画の見直しを検討すると明言しています。
フロノイ氏はロシアとの関係も含めた幅広い安全保障の観点から、「4年ごとの国防計画見直し」(QDR)の検討項目に含めると説明しています。

今月26日には、オバマ新大統領はロシアのメドベージェフ大統領と電話協議を行いましたが、その電話会談において、オバマ大統領はメドベージェフ大統領に対し「米ロ両国は核兵器削減と拡散防止へ重要な役割を果たさなければならない」と述べ、核兵器削減交渉の仕切り直しに強い意欲を表明。ミサイル防衛の東欧配備計画やグルジア問題などで冷却化した米ロ関係の改善に向け、両首脳は早期の会談を目指すことで一致したと報じられています。【1月27日 時事】

ロシア側も、ロシア軍戦略ミサイル部隊司令官のニコライ・ソロフツォフ大将が、アメリカが欧州におけるミサイル防衛(MD)計画を破棄すれば、ロシアは一部戦略兵器の開発を停止するとの方針を示し、歩み寄りの姿勢を見せていました。【12月19日 ロイター】

今回のロシア側のカリーニングラードへのミサイル配備中断は、こうした一連の動きを受けてのものです。

アメリカとロシアの間には戦略兵器削減条約の問題もあります。
冷戦崩壊を受けて成立した第1次戦略兵器削減条約(START I)は、今年12月5日に失効することになっています。
START Iは、失効1年前までに条約延長の是非などについて協議を始めることが取り決められており、この規定を踏まえて、昨年11月中旬から米ロの政府間協議も行われています。

もちろんこうした問題の裏側にはそれぞれの思惑があるのでしょうが、なんといっても二大核保有国である米ロ間の緊張が和らぐというのは、何はともあれ歓迎すべき方向でしょう。

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イギリス  神は多分いない・・・かどうか?

2009-01-27 21:03:17 | 世相

(無神論キャンペーン広告を付けたバス “flickr”より By ejbaurdo
http://www.flickr.com/photos/ejbaurdo/3210251748/)

ロンドンを走るバスが話題になっています。

****神は多分いない…英国で走る「無神論バス」*****
神は多分いない。くよくよするのはやめて人生を楽しもう――。こんな広告を付けた路線バスが英国各地で走っている。無神論者のグループが市民から寄金を募って始めた。
発端は同じようにバスを使ったキリスト教団体の広告。劇作家アリアン・シェリンさんがその広告主のサイトを見たら「キリスト教徒でなければ永遠に地獄で苦しむ」。
カチンと来て反撃広告のアイデアを新聞のコラムに書いたところ無神論者のグループなどが同調。1人5ポンド(約670円)の募金活動で、予想を超える約14万ポンド(約1900万円)が集まった。「無神論バス」は計800台。6日から4週間の予定で運行を続けている。
「多分」とあるのは、断定すると広告規制に引っかかる恐れがあるため。ビール会社が「多分世界一うまい」とやってクリアしたのにならった。神に限らず何かが存在しないことを証明するのは基本的に無理という事情もある。
それでも宗教団体は「消費者を欺く広告」と批判。信心深い運転手の乗車拒否も起き、神の有無がバスの運行に影響し始めている。【1月24日 朝日】
**********************

There’s probably no God.
Now stop worrying and enjoy your life.

この件については昨年10月末に、こうしたキャンペーン広告が登場するかも・・・という記事がありました。
その記事によると、“一部のロンドンバスの横腹に掲載されている「神を拒む者は地獄で永遠に苦しむことになる」とのキリスト教の一連の警告メッセージに対抗するもの。”と紹介されています。

英国国教会の広報担当者は、「いかなる宗教団体、思想団体も、適切な手段を用いた言論の権利は擁護されるべき」と前置きした上で、「キリスト教は、人々を不安がらせたりするものではなく、人生を楽しんではならないとも言っていない。むしろその逆で、私たちを解放し、この世を正しく見させてくれるものだ」と反論しているそうです。【1月30日 AFP】

私はアジアの国々を旅行している最中は仏教のお寺だけでなく、ヒンズー寺院やイスラムモスクにも頻繁に足を運びます。
もちろん物見遊山ですが、そうしたお寺などでは素直に仏様や八百万の神々に手を合わせます。
ただ、普段の国内の生活では、お寺に行くのは葬式のときだけ、神社に行くのは正月だけといった、宗教とは全く縁のない生活をしています。

こうした海外の話題を扱うブログを書いていると、目にする記事の大半は戦争や貧困、迫害や差別・・・そういった人間性の暗い部分を示すものです。
神がいるのかどうか・・・といった神学論争はまったくわかりませんが、不信心者の立場からすると、極めて常識的・通俗的な意味で、“この世には神はいないのか・・・”という感じを持ちます。
“もし神がいるとしたら、こうした現実に救いの手を差し伸べない神というのは、私たちが思い描くような神ではないのかも・・・”とも恨みがましく思ったりもします。

少なくとも、「キリスト教徒でなければ永遠に地獄で苦しむ」とか「神を拒む者は地獄で永遠に苦しむことになる」といった、人々を脅迫して信仰を強いるやり方には違和感をおぼえます。
もっとも、“神なんていないから、人生を楽しもう”という気分にもなりません。
“救いの手を差し伸べてくれる神がいてほしいのに・・・”というところです。

ある牧師さんのサイトでもこのキャンペーン広告をとりあげていました。
“本当は「神さまはいる。くよくよするのはやめて、人生を楽しもう。」なんだと思います。”(牧師さんのちょっといい話 http://nobu.bokushi.jp/2008/10/311658.php
とありました。

英国国教会の広報担当者の言うところでもありますが、「神さまはいる。くよくよするのはやめて、人生を楽しもう。」と思えれば、人生随分楽になるようにも思います。

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イタリア  移民問題・人種差別を越えられるか

2009-01-26 20:58:25 | 世相

(ローマの街角で “flickr”より By e://Dantes
http://www.flickr.com/photos/dantes102/2084540933/)

【不法移民収容所】
イタリアで不法移民の集団脱走するという事件がありました。

****不法入国者1300人脱走 伊南部の小島の収容所****
ANSA通信によると、地中海の小島、イタリア南部のランペドゥーザ島で24日、不法入国者収容所から1300人以上が集団脱走した。脱走に伴う死傷者は伝えられていない。脱走したのは北アフリカなどからの不法入国者で、「われわれに自由を」と叫びながら行政施設がある島の中心部の広場に向かった。収容所にはチュニジアやリビアなどから船で欧州を目指して難破した不法入国者らが多数収容されていた。【1月24日 共同】
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この施設はアフリカからの不法入国者ら約2000人を収容していますが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は今月23日、収容者数が定員の約850人を大幅に上回り、「人道上、劣悪な環境にある」と懸念を表明していました。
なお、脱走者の大半が24日夜までに施設に戻り、大きな混乱は起きていないとも報じられています。

大量の移民を抱えるヨーロッパ社会では、移民をめぐる様々な問題に悩んでおり、不法移民もそのひとつです。
同じように大量の移民を抱え、暴動なども経験しているフランスと比べても、「パリには医者までアフリカ系がいるが、イタリアではまず見ない。」【後述 毎日記事】といった声もあるように、イタリアにおける移民問題は深刻な亀裂を社会にもたらしています。
昨年4月の総選挙で誕生したベルルスコーニ政権は治安強化を公約としており、昨年8月には、不法移民による犯罪対策などのために陸海空軍の兵士3000人を全土に展開することを決めています。

【ラチズモ(人種差別)】
****イタリア:外国人襲撃相次ぐ 噴出する「人種差別」論****
イタリアで9月以降、アフリカ人や中国人が被害に遭う殺人、傷害事件が連続して発生している。激しやすい加害者による衝動的な暴力という面もあるが、経済悪化も重なり「ラチズモ(人種差別)」という言葉がマスコミで多用され、人種差別に反対するデモが各地で起きている。【中略】
加害者がイタリア人、被害者が外見の違う外国系という構図から、国内メディアは一斉に「人種差別」と結論づけた。しかし、事件には、商売上のトラブルや縄張り争い、少年の非行という側面もあり、憎悪や恐怖が絡む「人種差別」と結論づけるのはそう簡単ではない。【08年10月17日 毎日】
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上記記事で、 カルロ・モンガルディーニ・ローマ大サピエンツァ校教授(政治科学)はイタリアの「人種差別」問題について次のように語っています。
“イタリアでは人種絡みの事件の裏で、ファシズムを見直す声が聞かれる。アレマノ・ローマ市長が「ファシズムには良い面もあった」と発言するなど、ムッソリーニ政権を再評価する言動が目立つ。
これは、現状をまともに語れない政治家がファシズムを持ち出し、大衆の関心を引いているだけだ。ファシズムや人種差別についての軽はずみな議論が、国民に将来への不安や脅威をもたらし、差別的な事件を起こさせている。
イタリア人は内向的な性格で、すぐによそ者を恐れる。統率力のあるドイツ的な強い文化ではなく、外国人と融和する包容力を持たない弱い文化だ。
「人種差別」は今後、経済悪化でますますひどくなる。中国やインド、東欧などの成長が、イタリア経済を低迷させ、この国のモラルなど文化面を壊し、デカダンス(退廃)の時代に入る。西欧で最も力の弱いイタリアで真っ先に差別的な事件が増長していくだろう。”

ベルルスコーニ首相はオバマ大統領について「若く、ハンサムで、よく日焼けしている」と形容し、国内外からひんしゅくを買ったことがあります。
「現状をまともに語れない政治家がファシズムを持ち出し、大衆の関心を引いているだけ」・・・イタリアも日本同様、政治家にはあまり恵まれていないようです。
内向的な性格で、すぐによそ者を恐れる。外国人と融和する包容力を持たない・・・このあたりも日本にもあてはまりそうです。

こうした深刻な移民、人種差別問題を抱える一方で、昨年11月には、アフリカ系移民の生き様を描いた実話映画「ビッロ」が話題を呼んでいることが報じられていました。

【親しみやすく、すぐ友達になれる】
****イタリア:話題、アフリカ系移民の実話映画「ビッロ」****
イタリアはいずれ移民を心から受け入れる--「ビッロ」は見る者を前向きにさせる。自分自身を演じたセネガル俳優らローマに暮らす若者の気分を、そのまま映し出しているからだ。
映画の主人公は西アフリカ・セネガル出身の青年ビッロ。ファッション業界を夢見て違法入国するが、ローマでの職は海賊版CDの販売。拘置中にためた金を盗まれる。それでも運よく仕立ての仕事にありつき、気立てのいいイタリア女性と出会い、結婚する。

90年にセネガルから密入国した主演俳優、ティエルノ・ティアムさん(35)も(首相のオバマ氏に関する冗談について)「まあ、からかわれるけど」と言う。だが「一切気にせずに来た。自分の心が強ければ、誰が何と言おうと腹は立たない」と話す。映画を明るくしているのは、この人のキャラクターが大きい。アフリカ系などの死傷事件についてティアムさんは「差別というより、よその世界を知らない人の無知だと思う」と語る。 イタリア在住の外国人は9年前の4倍に増え440万人。人口の7%強に達した。
【中略】
「ローマ人は昔からよそ者を一族に抱き込んできた。ビッロのように家族になった者は認める。だから人種差別は騒がれているほど緊急課題ではない」とボニーニさんはみる。
「パリには医者までアフリカ系がいるが、イタリアではまず見ない。多文化社会になるには時間がかかる。でも、この国の良さは人が親しみやすく、すぐ友達になれるところだ」とティアムさんは言う。【08年11月14日】
**************************

「内向的な性格で、すぐによそ者を恐れる。外国人と融和する包容力を持たない」社会か、「人が親しみやすく、すぐ友達になれる」社会か・・・移民問題の今後の推移で、そのあたりは検証されます。


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イギリス  結婚を選ばない人が増加  日本の結婚・家族感は?

2009-01-25 13:01:31 | 世相

(フランス 辞任することになったダチ法相 父親の名を明かさずシングルマザーとなり、出産5日で職務復帰 “flickr”より By phnk
http://www.flickr.com/photos/phnk/3055781101/)

1月15日ブログ「フランス 出生率が2を越える その背景にあるものは」でも触れたように、人々の結婚観・家族観は時代とともに変化しますので、少子化対策などはそうした意識変化を踏まえてなされるべきものです。

【帝王切開出産からわずか5日で職場に復帰・・・で辞任】
ところで、いささかゴシップ話になりますが、そのフランスで最も有名なシングルマザーになったダチ法相が辞任することになりました。
独身で、私生活上のパートナーも明らかにしなかったため、世間のうわさになっていたフランスのラシダ・ダチ法相(43)、昨年9月、妊娠が公になった際に「マスコミに話すことができるのは、わたしの私生活は込み入っているということだけ」と表明し、その後も職務を続けていました。

問題になったのは、シングルマザーになったことや、父親の名前を明かさなかったことよりも、その早すぎる職務復帰にあったとか。
帝王切開による出産からわずか5日で職場に復帰したダチ法相ですが、出産休暇を守らなかったことに対し、女性団体や人権運動団体などでは、「ダチはワンダーウーマンか。今後、企業主らが女性の出産休暇の使用を圧迫するとき、法相の事例が用いられる可能性が高い」との批判が高まっていました。

伝統的価値観を擁護する側からも、女性権利を擁護する側からも支持を失い・・・ということでしょうか?
まあ、政治家の人事問題ですから、他にもいろんな要素が絡んでいることも想像されます。
いずれにしても、日本なら、独身で妊娠し父親の名前を明かさない・・・その段階でアウトでしょう。

【イギリス 非婚増加】
フランスでは新生児の52%が婚外子”ですが、対岸のイギリスでも似たような動向が見られています。

****英国の既婚者、1年以内に少数派に 景気悪化の影響も****
英国では、結婚を選ばない人が増えており、結婚しているカップルは2010年までに少数派になってしまう――。英メディアが23日、英統計局(ONS)による世帯調査の結果を基に報じた。

ONSによると、結婚の登録をしている人の割合は、1998年は59%だったのに対し、2007年は51%だったという。
英デーリー・テレグラフ紙は、結婚が減少傾向になっている背景の1つとして、景気の減速があるとしている。同紙は、カップルたちは経済的に厳しい状況におかれ、一般的には多額の費用を必要とする結婚式を延期していると指摘している。
世帯調査からは、カップルたちが結婚せずに同居することを選ぶことが多い傾向にあることも明らかになった。交際相手の男性と一緒に暮らしている未婚女性の割合は、1979-2007年の間で3倍に拡大したという。また、結婚していない女性のうち約半数に子どもがいるという。【1月24日 AFP
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【日本 意識にゆらぎ】
日本は・・・と言うと、少し事情が異なるかもしれません。
大筋としては、伝統的な結婚感・家族観が変化してきていましたが、最近は結婚・家庭を重視する伝統的価値観への回帰みたいな動きも若い人達の間に見られます。

世相を見ていてもそんな感じを受けますが、以前もとりあげた「第13回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)にその傾向があらわれています。

前回調査まで減少していた「生涯独身という生き方」をよくないと考える割合は、13回調査では増加しています。
前回までみられた「同棲より結婚」の支持割合の減少も、「婚前の性交渉はかまわない」の支持割合の増加も、13回調査ではみられません。
「離婚をよくない」と考える割合は1992~97年の間で大きく減少しました、その後は変化がみられません。
「結婚しても自分の目標を持つべき」への支持は前回まで増加していましたが、13回調査ではそれがみられません。
「結婚したら自分の生き方を犠牲にするのは当然だ」という考え方は、1992年から1997年の間に減った後、増加に転じています。【07年6月8日ブログより再録】

この調査は05年6月に実施されたものです。
昨今の経済状況等を反映して、人々の意識がどのように変わったのか、変わらないのか、興味が持たれます。


 
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政治指導者の動向  金総書記 カストロ前議長 チャベス大統領 ヌクンダ将軍

2009-01-24 12:47:41 | 国際情勢

(かつてのカストロ そのカストロを熱く見つめるのが生涯のパートナーとも呼ぶべきセリア・サンチェス(1980年死亡)
“flickr”より By Wisconsin Historical Society
http://www.flickr.com/photos/whsimages/977271002/)

【金総書記 健在アピール】
中国国営新華社通信は23日、北朝鮮を訪問中の王家瑞中国共産党対外連絡部長が、金正日総書記と平壌で会談したと報じ、同日、中朝双方のメディアが会談の写真を公開しました。
金総書記が外国高官と会談するのは昨年6月に訪朝した習近平・中国国家副主席以来で、前年8月に金総書記が脳卒中で倒れたとの報道があってからは初めてです。
一部には“頭髪が薄くなり、力のない表情の写真もあった”【1月24日 朝日】ようですが、とりあえずは健康悪化説を払拭し、金総書記が現在も北朝鮮の実権を握っており核開発問題で決断を下す立場にあることを示す証拠と考えられています。

【カストロ 「誰もわたしの健康状態や死に束縛されるべきでない」】
同時期、もう一人の健康悪化が懸念されていたリーダーの動向が報じられました。

****カストロ前議長、2か月ぶりに写真公開 アルゼンチン大統領と*****
キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長がアルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領と会談した際の写真が23日、アルゼンチンのC5Nテレビで公開された。
アルゼンチンの国営通信TELAMによると、この写真は21日に行われた正式会談で撮影されたもの。カストロ前議長の最新写真が公開されるのは、前年11月18日以来約2か月ぶり。フェルナンデス大統領によると、カストロ前議長は元気そうで、国際情勢について意見を交わしたという。【1月23日 AFP】
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カストロ健康悪化の風評が広がるきっかけは、盟友であるベネズエラのチャベス大統領が「前議長は二度と公衆の面前に現れないだろう」と発言したことでした。
今回発表された写真では長いあごひげと鋭い眼光は相変わらずで、容体異変説はこちらも一応打ち消されました。
もっとも、政府系ウェブサイトに寄せたコラムで「(世界のさまざまな)出来事についての情報を得る特権を享受できることは期待しない」と、遠くない死を覚悟している様子を窺わせているとか。

北朝鮮の金総書記とは異なり、カストロの場合はすでに権限を弟のラウル・カストロに譲っており、キューバ社会の変革も進められていますので、カストロ前議長の動向は直接的な政治的影響というよりは、一時代の象徴としての意味合いが強いと思われます。
もっとも、“キューバ社会の変革”へのいろんな影響はあるでしょう。
カストロはコラムで「わたしは元気だが、誰もわたしの健康状態や死に束縛されるべきでない」と語っています。

【チャベス大統領の正念場】
一方、その動向による直接的な政治的影響が考えられるのは、カストロ健康悪化説のきっかけとなったベネズエラ・チャベス大統領のほうです。
ベネズエラ全国選挙評議会のルセナ委員長は16日、反米急進左派チャベス大統領が求める大統領再選規定撤廃のための憲法改正案の是非を問う国民投票を2月15日に実施すると言明しました。

****敗北なら任期末で退陣=多選容認の国民投票-ベネズエラ大統領****
南米ベネズエラのチャベス大統領は22日、再選制限撤廃を目指した憲法改正案の是非を問う2月の国民投票について、否決されれば任期満了の2013年に退任する意向を示した。
反米左派のチャベス氏は07年12月にも、再選規定の撤廃や任期延長を盛り込んだ改憲案を掲げ国民投票を実施したが、小差で否決された。「21世紀の社会主義」実現に向け、なりふり構わず長期政権への意欲を見せるが、事前の世論調査では今回の国民投票でも苦戦が予想されている。【1月23日 時事】
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石油収入を背景とした広範な財政支援で貧困層など一部国民に人気がある大統領ですが、その強権的政治手法、極端な反米姿勢など、疎まれている向きもあり、今回の投票結果が注目されます。
前回国民投票での敗北までは、選挙での絶対的強さを誇ってきたチャベス大統領ですが、今回のリターンマッチはどうでしょうか?
かつて、選挙において反チャベスに投票した者に対する“報復”もあったようですが、国民の自由な意思表示が担保される選挙となるでしょうか。

結果次第では、アメリカ・オバマ政権誕生と相まって、反米・左傾化が進んできたラテンアメリカの国際関係が大きく変わる可能性があります。

【注目されるヌクンダ将軍の処遇】
話は全く変わりますが、昨日のブログ「ルワンダの虐殺から十余年、隣国コンゴで続くフツ・ツチの抗争」で、コンゴの反政府勢力「人民防衛国民会議(CNDP)」、その指導者ヌクンダ将軍の動向について“今現在、どういう状況になっているのか、私はよく把握していません。”と書きましたが、アップして数時間後にヌクンダ将軍が拘束されたとの記事が入りました。

****コンゴ反政府勢力のヌクンダ司令官、隣国ルワンダで拘束****
コンゴ(旧ザイール)の反政府勢力「人民防衛国民会議(CNDP)」を率いるローラン・ヌクンダ司令官が23日、隣国ルワンダで拘束された。現在は、戦争犯罪の容疑でコンゴ側への引き渡しが待たれている状態だという。
コンゴ、ルワンダ両国の当局者によると、ヌクンダ司令官は、かつて共闘したツチ系同盟勢力に離反され国境地帯に逃亡したところを、コンゴとルワンダの兵士によって拘束されたという。
匿名のルワンダ軍関係者はAFPに対し、ヌクンダ司令官はルワンダ国内の「秘密の場所」で拘束されていると語った。一方、反政府勢力の関係者によると、同司令官の拘束場所はコンゴとの国境に近いギセニーにある民家だとしている。【1月24日 AFP】
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かつて、ルワンダ・カガメ大統領は、「ヌクンダのような男は,たとえ彼でなくても,(ジェノサイドに対する)政治的な恨みを有しているのはもっともなことである.しかしながら,犯した過ちはヌクンダであろうと誰であろうと説明する義務がある」という見解を示しています。
一方で、かつてジェノサイドを起こしたとされるフツ族勢力に敵対するヌクング将軍の活動に同情的で、これを支援しているとも言われていました。
カガメ大統領が拘束したヌクング将軍をどう扱うのか関心が持たれます。

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ルワンダの虐殺から十余年、隣国コンゴで続くフツ・ツチの抗争

2009-01-23 20:51:16 | 国際情勢

(隣国ルワンダから流入したFDLR、これに敵対するるヌクンダ将軍の勢力、そして自国コンゴ政府軍の残虐行為に苦しむコンゴの人々 政府要人の説明にも、家を終われ暴行に苦しむ人々の怒りは消えません。
“flickr”より By Julien Harneis
http://www.flickr.com/photos/julien_harneis/434822504/)

ルワンダにおいて、約100日間で国民の10人に1人、少なくとも80万 - 100万人が殺害されたというジェノサイドが起きたのが1994年。
その殺し合いが、それまで隣人として暮らしていた人々の間で行われたということが、心を重くします。

もちろん今のルワンダはカガメ大統領のもとで、復興・国民融和を進めていますが、当時虐殺を行ったとされるフツ族勢力の一部は隣国コンゴに逃れ、今も紛争・対立が続いています。
ルワンダの混乱は完全に終わった訳ではありません。

【ルワンダ・フツ族勢力 FDLR】
****コンゴ北部でルワンダ虐殺の主導勢力掃討、国連・メディアの立ち入り不可*****
コンゴ民主共和国(旧ザイール)東部の北キブ州で、同州を拠点とするルワンダ解放民主軍(FDLR)に対するコンゴ軍とルワンダ軍の共同掃討作戦が本格化する中、コンゴ軍は21日、国連コンゴ監視団(MONUC)や援助団体、報道機関の現地立ち入りを禁じた。

MONUCによると、ルワンダの多数派フツ人で構成されるFDLRが拠点を置く同州には20日以後、4000人程度のルワンダ兵たちが流入しているという。
コンゴ・ルワンダ両政府が20日に発表した共同作戦をめぐっては、ルワンダ軍が1990年代にコンゴで虐殺を行ったと主張するコンゴの市民や議員などから、怒りや不安が噴出している。一方、国連や援助機関は、作戦で市民の犠牲が出ることに懸念を表明している。

FDLRは、ツチ人およびフツ人穏健派80万人が犠牲になったとされる1994年のルワンダ大虐殺で中心的な役割を果たした。FDLRの兵士たちはその後、隣国コンゴに脱出し、北キブ州に拠点を築いた。これが10年以上にわたり、同州の政情不安を招いている。【1月22日 AFP】
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【FDLRと敵対するツチ族・ヌクンダ将軍の勢力CNDP】
コンゴ東部の北キブ州と言うと、昨年末、元コンゴ軍の将軍、ローラン・ヌクンダ氏が率いる「人民防衛国民会議(CNDP)」と政府軍との抗争が世界的懸念を集めていた地域です。
CNDPと政府軍の戦闘は昨年8月下旬から東部の中心都市ゴマの北で起き、10月下旬に激化しました。
政府軍は10月下旬に退却を始め、かわりに国連のPKOである国連コンゴ監視団(MONUC)が反政府勢力の矢面に立つ形となりました。
そして、この間の戦闘・混乱で住民被害(殺害・暴行・レイプなど)が拡大したと言われています。

国連安保理は昨年12月22日、国連コンゴ監視団(MONUC)の任期を来年末まで1年間延長し、人道支援要員ら文民の防護を最優先任務にするとの決議案を全会一致で採択しました。
“決議はMONUCに情勢悪化の著しい同国東部での活動強化を要請したほか、武装勢力との交戦に関しより広い裁量権を与える表現を盛り込んだ。安保理は先月、MONUCの約3100人増員を承認している。”【12月23日 時事】
今現在、どういう状況になっているのか、私はよく把握していません。

【FDLR、CNDP、コンゴ政府、ルワンダの抗争】
CNDPは、94年のルワンダ虐殺で犠牲になったツチ族を、コンゴ政府軍の支援を受けるフツ族民兵の襲撃から守ることを名目としており、ルワンダ政府の支援があると指摘されています。
この“フツ族民兵”というのが、上記AFP記事にあるルワンダ解放民主軍(FDLR)です。
ですから、94年のルワンダの虐殺、冒頭記事にあるフツ族・ルワンダ解放民主軍(FDLR)へのコンゴ・ルワンダの共同作戦、そして昨年末のヌクンダ将軍のツチ族・人民防衛国民会議(CNDP)と政府軍の闘い・・・これらはすべて繋がっています。

ルワンダのカガメ大統領は,コンゴのカビラ大統領に対してコンゴ国内のFDLRを解散させ追い払うべきであると圧力をかけ続けてきました。
一方ヌクンダ将軍は,カビラ政権こそがFDLRが起こす反乱を直接支援しているのだと批判してきました。

ルワンダ・カガメ大統領はヌクンダ将軍が行ったとされる虐殺行為については、これを批判していますが、ツチ族を守る形で、かつてジェノサイドを起こしたFDLRと争う活動については同情的で、CNDPを支援しているとも言われます。

ただ、コンゴ政府軍と対立するCNDPの反政府活動をルワンダが支援しているという話の一方で、冒頭記事にあるように、CNDPが敵対するFDLRにたいしては、コンゴ政府とルワンダ政府が共同作戦を行う・・・このあたりの関係は、よくわかりません。

カガメ大統領はルワンダ国内においては、フツ・ツチの区分を禁止して融和策を勧めていますが、隣国コンゴにおいては、ジェノサイドを思い起こさせるフツ・ツチの抗争が未だ続いています。

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パレスチナ  イスラエル軍の白リン弾使用  強硬作戦はハマスを利しただけでは?

2009-01-22 21:11:39 | 国際情勢

(ガザ市街地上空に白く尾を引く白リン弾 “flickr”より By illuminating9_11
http://www.flickr.com/photos/illuminating9_11/3172722402/)

【イスラエルの“過剰”な攻撃】
イスラエルは17日夜、1200人以上の死者を出したガザでの一方的停戦を発表し、20日のオバマ新大統領就任に併せてガザからの撤退を行いました。

今回のガザでの戦闘は、執拗なハマス側のロケット弾攻撃が直接の契機となったということはありますが、イスラエル側の攻撃も“過剰”の批判がなされるものでした。

イスラエル軍の地上作戦開始翌日の4日朝には、イスラエル歩兵部隊が周辺に暮らすパレスチナ人の一族110人に対し、安全確保のためとして建築中の倉庫に移るよう指示、その24時間後にその建物に攻撃が行われ30人が死亡しました。
イスラエル軍報道官は9日、「特定の建物に誘導した事実はない」と否定しています。
ピレイ国連人権高等弁務官は「戦争犯罪の構成要素がある」と述べ、ジュネーブの人権委員会特別会合で、イスラエル軍のパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃が国際人道法に抵触する可能性があり、独立調査が必要だと訴えました。

6日には、ガザ北部ジャバリヤ難民キャンプで国連が運営する学校付近をイスラエル軍が砲撃し、約40人の死者が出ました。
(イスラエル国防省は“誤射”を認め、“ロケット弾を発射したハマス戦闘員に、イスラエル軍が3発の迫撃砲弾を発射。2発は標的に当たったが、1発が約30メートル外れて着弾し、学校付近にいた民間人に被害を与えた”と説明しています。)

イスラエルの人権団体ベツェレムは、13日ガザ南部で白旗を掲げて自宅から避難しようとした50歳の女性ら複数の住民が、イスラエル軍の銃撃を受け、死亡したとする報告書を発表しました。
イスラエル軍は、「イスラム原理主義組織ハマスは住民を盾にして攻撃を続けている」と述べ、ハマスに責任があると主張しています。

【白リン弾問題】
いったん“戦闘”状態になってしまえば、こうした“人道上の問題”も、戦場での常識になってしまいます。
ここ数日問題にされているのは、イスラエル軍による“白リン弾”使用についてです。

白リン弾は国際条約で明示的に禁止された兵器ではなく、化学兵器ともみなされておらず、煙幕を張ったり、敵兵を潜伏場所からいぶり出したりするのに用いられるそうです。
しかし、消火困難で、皮膚に触れると骨を溶かすほど激しく燃焼し続けて“骨まで焼き尽くす”深刻な被害をもたらすため、故意に市街地に投下するなどの使用方法によっては「民間人を焼夷兵器の攻撃目標」とすることを禁じた特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)第3議定書に違反するとの考えもあります。

イスラエル軍は06年夏の第2次レバノン戦争での白リン弾使用を認めています。
米軍も04年11月にイラク西部のファルージャ攻撃で白リン弾を使用、多数の市民に被害が出ました。
イスラエル、米国ともCCW第3議定書を批准していません。

イスラエル軍は当初「白リン弾は使用していない。使用した兵器の種類については答えられない」【1月11日 毎日】と否定していましたが、イスラエル有力紙のハアレツ紙によると、“イスラエル軍の内部調査で、白リンを主成分とする砲弾計200発が使われたことが分かった。うち180発はパレスチナ側の戦闘員が占拠した農地に向けて使われたが、残り20発はガザ北部ベイトラヒヤの市街地で使われたという。”【1月22日 朝日】とのことです。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)ガザ本部事務所のジョン・ギング所長も、15日のUNRWA現地本部への攻撃にも白リン弾が使われたとして、「イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの双方に戦争犯罪を犯した多くの疑惑がある」と指摘、独立した調査官による徹底した捜査を行うよう求めています。
15日の白リン弾攻撃で大きな火災が発生し、倉庫内にあった人道支援物資すべてを失い、物資輸送用トラックの補修部品や消耗品の備蓄もすべて焼失したとのことです。

白リン弾が非人道的云々の議論には釈然としない部分が(というより問題の本質でしょうが)あります。
つまり、核兵器や白リン弾が非人道的だとして、では通常の銃や爆弾ならいいのか・・・という点です。
ただ、どっちも大差ないじゃないかとすべてを認める考えには組することはできませんし、全ての殺人の道具は認めないと言ってしまっては、あまりにも現実から遊離します。
ですから、釈然としないままどこかで線を引かざるを得ないところです。

【ハマスの政治基盤を強化】
今回のイスラエルの強硬な作戦の評価については、下記の記事のようなところではないでしょうか。

****イスラエル ガザ無差別攻撃、逆効果 排除戦略空振り ハマスに利****
イスラエルのオルメルト首相は軍事作戦が当初の目標以上の成果を上げたと強調したものの、イスラム原理主義組織ハマスがいずれ、戦闘員補充などで戦力を回復するのは間違いないとみられ、ハマスのガザ支配を崩そうというイスラエルの狙いは今回も空振りに終わった。
 ≪成果を強調≫
イスラエル側は「一方的停戦」に踏み切った理由として、(1)ガザ地区とエジプトを結ぶ多数のトンネルを通じて行われているとされる武器輸出阻止について米政府と合意し、初めて「了解覚書」を取り交わした(2)イスラエル領にロケット弾を発射するハマスの軍事力に深刻な打撃を与えた-などの成果を強調する。
だが、エジプトは頭越しに結ばれた「武器密輸阻止」というイスラエルと米国の合意に反発。そもそもエジプト政府は、国内の反政府団体である穏健イスラム原理主義組織、ムスリム同胞団と強い関係をもつハマスを警戒しており、エジプト治安機関が裏でハマスへの武器密輸を黙認しているとは考えにくいこともあり、米・イスラエル合意が今後どういう枠組みを取り得るのか、その実効性は不透明だ。

一方、今回の攻撃でガザの人道状況は過去最悪となった。国際社会はいち早く、ガザ復興支援に向けた協議に動き始めたが、ここにもジレンマは潜んでいる。
 ≪ファタハ主導の虚構≫
パレスチナ解放機構(PLO)主流派ファタハと自治政府の主導権を争ったハマスが2007年6月にガザ地区を武力制圧した後、イスラエルと米国は経済封鎖を通じてハマスを締め上げることで民心の離反を図ろうとし、欧州連合(EU)や日本なども、それに乗った。イスラエル承認を拒む“ハマス自治政府”を崩壊させ、ヨルダン川西岸に辛うじて力を残すファタハに再びガザの主導権を握らせたいとの思惑からだった。
だが、今回のイスラエルの無差別な大攻撃は住民のハマスからの離反を促すどころか、強烈なイスラエルへの怨嗟(えんさ)の念がハマスへの不満などかき消してしまい、むしろイスラエルに“断固たる姿勢”をとれないファタハの基盤はさらに浸食された。

ハマスが一時的に戦闘力を低下させたとしても、そのガザ支配が揺らぐ気配はなく、国際社会の復興支援が「ファタハのガザ統治復活」を暗黙の前提とするならば、それは“虚構”であることが明らかだ。国際社会がかけ声だけでなくガザ復興に取り組むことになれば、ガザを支配するハマスにどう対応するのかという難問を避けて通ることはできなくなるだろう。
イスラエルの今回の攻撃は、国際世論から「戦争犯罪ではないか」(国連機関や国際赤十字)という厳しい声が出た。イスラエルの「やり過ぎ」は、政治的には、ハマスを利したといえるだろう。【1月19日 産経】
**********************

一番の問題は、パレスチナ住民のイスラエルへの怨嗟・憎しみを増幅させ、結果的に穏健派ファタハの地盤であったヨルダン川西岸地区でもハマス支持を拡大したことです。
イスラエルとの共存を認めないハマスが前面に出る限りパレスチナ和平は困難ですが、今回作戦は一時的な軍事的ダメージと引き換えに、ハマスに“大義”を与え、その政治的基盤を逆に強めるだけだったのではと懸念されます。

アッバス・パレスチナ自治政府議長は19日、アラブ連盟首脳会議で、ハマスに対してファタハとの連立政府の樹立を呼びかけました。連立政府樹立後に、議長選挙と評議会選挙を同時に実施するとしています。
しかし、ハマスはアッバス氏の議長の任期は1月8日に切れており、もはや議長として認めないと主張しています。
ハマスの最高幹部ハレド・メシャル氏は21日、シリアの首都ダマスカスでテレビ演説し、イスラエル軍がガザ撤退を完了したことについて、「(イスラエルへの)抵抗運動が勝利した」と述べたそうです。

今後、ハマスを和平合意の枠組みに取り込んでいくことが、更に必要になったように思われますが、非常に困難な道でもあります。



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