孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  “政治素人”ゼレンスキー大統領 ウクライナ東部をめぐるロシアとの交渉に着手

2019-09-19 22:50:48 | 欧州情勢

(ウクライナ首都キエフの街角に掲げられた公共広告は、「愛・協調・一体性」を呼び掛ける(撮影:服部倫卓)【9月10日 GLOBE+】)

 

【ゼレンスキー大統領 電撃解散総選挙に勝利し、新内閣でロシアとの交渉に着手】

ウクライナでは、国民の変化を求める声を追い風に、一介の歴史教師がふとした事から素人政治家として大統領に当選し、権謀術数が渦巻く政界と対決する姿をユーモアを交えながら描いた政治風刺ドラマ「国民の僕」に主演していた政治には完全素人のゼレンスキー氏が4月の大統領選挙で、まさにドラマを地で行く形で大統領として躍り出ることになりました。

 

ただ、議会内に全く足場がないことが危ぶまれていましたが、(自身の人気が陰らないうちにということで)議会選挙を7月に前倒し実施し、自身が率いる新党「国民の奉仕者」が単独過半数を制する圧勝したことで、この問題をクリアしています。

 

****ウクライナ新内閣が発足 ロシアとの対話模索へ****

先月(7月)の総選挙で選出されたウクライナ最高会議(議会、定数450)が29日、首都キエフで初招集された。

 

ゼレンスキー大統領は、弁護士出身で大統領府副長官のホンチャルク氏(35)の首相就任をはじめとした新内閣人事案を議会に提出。議会も承認した。新内閣が発足し、ゼレンスキー氏は今後、本格的な政権運営に入る。

 

喜劇俳優出身のゼレンスキー氏は5月に大統領に就任したものの、当時は議会はポロシェンコ前大統領らの支持勢力が多数派を占め、ゼレンスキー氏は思い通りの人事や法案審議ができない状況だった。

 

しかし7月に行われた前倒し議会選で、それまで議席を持たなかったゼレンスキー氏の与党「国民のしもべ」が単独過半数の254議席を獲得。ゼレンスキー氏の意向に沿った新内閣を組織できる基盤が整っていた。

 

新内閣の成立を受け、ゼレンスキー氏は今後、事実上の戦争状態が続く隣国ロシアとウクライナが実質的な「人質」として互いに拘束し合っている刑事被告人らの交換や、ウクライナ東部で続く親露派武装勢力との紛争の収束に向け、ロシアとの対話を本格的に模索するとみられている。【8月30日 産経】

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とは言え、問題が山積するウクライナにあって、いかに成果を示していくか、特に、最大の外交課題であるウクライナ東部の問題で百戦錬磨で老獪なプーチン大統領に対しコメディアン出身の政治素人ゼレンスキー大統領が太刀打ちできるのか・・・国際社会はやや懐疑的な目で見ている感もあります。

 

ウクライナ東部の問題、ロシアとの関係について言えば、対決姿勢を前面に出したポロシェンコ前大統領に対し、ゼレンスキー大統領は対話路線を掲げており、実際、今月に入りロシアとの間で収監者の交換を実施して、ロシアとの緊張緩和に向けて動き始めています。

 

****ロシアとウクライナ、収監者交換か 和平協議再開に弾み****

ロシアの複数のメディアによると、ロシアとウクライナが7日、互いに「テロ活動」などを理由に拘束していた収監者の交換を始めた。

 

ウクライナ南部クリミア半島近くで昨秋、ロシア側に銃撃・拿捕(だほ)されたウクライナ艦船の乗組員24人も含まれるという。

 

両国の緊張緩和と、ウクライナ東部紛争をめぐる和平協議の再開に向け大きな弾みとなる可能性がある。(中略)

 

両国は、2014年にロシアが一方的にウクライナのクリミア半島を併合して以来、互いに相手国の情報機関職員やジャーナリストなどを逮捕、収監してきた。

 

昨年11月のウクライナ艦船の銃撃・拿捕事件などで両国の対立はさらに先鋭化。

 

ロシアのプーチン大統領ウクライナのポロシェンコ前大統領との対話を拒否するなど歩み寄りの兆しはなかったが、今年5月に就任したウクライナのゼレンスキー大統領がプーチン氏との対話に乗り出す考えを表明。収監者の交換や、ウクライナ政府軍と親ロシア勢力の間で紛争が続くウクライナ東部の和平協議について話し合っていた。

 

フランスのマクロン大統領は8月、同国で開かれた主要7カ国(G7)首脳会議で、2016年以来開かれていない仏独を交えた4カ国の和平協議を数週間で再開すると言及。収監者の交換は、協議の実現に向けた環境整備の一環とみられる。【9月7日 朝日】

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こうした流れは、ロシアとしても欧米との関係改善を図る狙いがあると見られています。

アメリカのトランプ大統領も「和平に向けた大きな1歩だ」と評価し、流れを後押ししていく姿勢です。

 

【4カ国首脳会談の実現に向けたロシアとの協議は難航】

次のステップは、10月にも実現するとの観測もあるロシアとウクライナ、仲介役のドイツとフランスの4カ国の枠組みによる首脳会談ですが、ロシアとの事前交渉において「暗雲」も出ています。

 

****露・ウクライナ和平協議、物別れ 首脳会談に暗雲****

ウクライナ東部で続く同国軍と親ロシア派武装勢力との紛争収束に向けたロシアとウクライナ、欧州安全保障機構(OSCE)の3者による協議が18日、ベラルーシの首都ミンスクで開かれた。

 

ウクライナは紛争収束に関わる合意文書への署名を拒否し、協議は物別れに終わった。インタファクス通信が伝えた。

 

文書は(1)親露派とウクライナは紛争地帯から戦力を撤収させる(2)親露派の実効支配地域で民主選挙を行う(3)ウクライナは親露派支配地域に強い自治権を認めた「特別な地位」を与える−などとするもの。

 

ロシアは、文書へのウクライナの署名がプーチン露大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談実現の条件だとする立場を示しており、10月にも実現するとの観測が出ていたロシアとウクライナ、仲介役のドイツとフランスの4カ国の枠組みによる首脳会談の見通しは不透明となった。

 

協議後、グリズロフ露代表はウクライナを「4カ国首脳会談の実現を危機にさらした」と批判。一方、ウクライナ側は、選挙の実施方法などをめぐり署名できるほどの条件が整っていないとの認識を示した。【9月19日 産経】

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ウクライナ東部における選挙実施に関するウクライナ側主張は以下のようにも。

 

****ウクライナ、ミンスク協議にて、シュタインマイヤー・フォーミュラの履行条件を提示****

(中略)(ウクライナの)オリフェル報道官は、「TCGウクライナ代表は、ウクライナは地方選挙に関する通称『シュタインマイヤー・フォーミュラ』の本質面には原則的な反対はないことを伝えた。

 

しかしながら、同フォーミュラの実現が可能となるのは、次の条件が履行された場合のみである。すなわち、

 

完全な停戦、欧州安全保障協力機構ウクライナ特別監視団(OSCE/SMM)のウクライナ全土での効果的監視の保障、

ウクライナ領からの外国軍部隊・兵器の撤収、

衝突ライン沿い全域での兵力・機器の引き離し、

ウクライナ中央選挙管理委員会、ウクライナの政党・マスメディア、国際監視員の活動保障、

現在ウクライナがコントロールできていないウクライナ・ロシア間国境地点のコントロール確立、

ウクライナ国内法、国際法、ミンスク諸合意が定めるその他の事項の履行である」と伝えた。(中略)

 

これに先立ち、9月13日、プリスタイコ外相は、ウクライナ政権はドネツィク・ルハンシク両州一部地域(編集注:被占領地域)を含めたウクライナ全域における地方選挙実施の可能性について作業を行っていると発言した。

 

また、ヴォロディーミル・ゼレンシキー大統領は、ノルマンディ4国の首脳会合開催の際には、「シュタインマイヤー・フォーミュラ」とミンスク諸合意のその他全ての項目について審議されると発言していた。

 

これに関連して、ユーリー・ウシャコフ・ロシア連邦大統領補佐官は、ノルマンディ首脳会合では、スタニツャ・ルハンシカ、ゾロテー、ペトリウシケの3地点での兵力引き離し、ドンバス地方の特別地位、「シュタインマイヤー・フォーミュラ」に関する合意を文書化しなければならないとし、本件に関しては首脳会談まえに事前に合意しなければならないと述べていた。【9月18日 UKRINFORM】

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要するに、親露派武装勢力の実効支配を既成事実化したいロシアとしては、現状での親露派武装勢力が強く関与する形での選挙実施を目指し、4カ国首脳会談に先立ち、前提条件を付けない形での選挙実施の確約を得たいとしているのに対し、ウクライナ側は、ウクライナ政府のコントロールが及ぶ状態に戻した形での「自由な条件かつウクライナ国内法にのっとった選挙」を求めており、そのための条件が存在していない現段階での選挙実施の確約を拒んだ・・・というところのようです。

 

ウクライナ側だけでなく、交渉に参加している欧州安全保障協力機構(OSCE)の議長である、ミロスラフ・ライチャーク・スロバキア外相も、ウクライナ東部ドンバス地方の非政府管理地域における地方選挙は自由かつウクライナ国内法にもとづいて実施されなければならないが、現時点では、そのための前提条件は整っていないと指摘しています。【9月17日 UKRINFORMより】

 

おそらくこの件は、しばらくウクライナとロシアの綱引きが続くのでしょう。

 

政治的に完全素人のゼレンスキー大統領の外交手腕云々は別にして、ロシア側に実効支配を許した状況における何らかの現状変更を求める交渉が非常に困難なことは、北方領土を抱える日本も十二分に理解できるところです。

 

ウクライナ東部に「特別な地位」を認めるにしても、ウクライナ政府のコントロールが一定に及ぶ枠組みを構築するためには、ひとりウクライナだけでなく、仏独、国際社会の後押しが不可欠でしょう。

 

【「カミカゼ内閣」で短期決戦を志向】

ゼレンスキー大統領の国内統治全般については、以下のようにも。

とにかく自分の人気のあるうちに、改革と国家再建の道筋をつけておきたい・・・というところのようです。

 

****ゼレンスキー・ウクライナ新大統領が仕掛けた電撃戦****

解散総選挙に打って出たゼレンスキー

(中略)ゼレンスキーは、5月20日に大統領就任式を挙行すると、就任演説の中で、現在の議会を解散し前倒し選挙を実施することを、不意に宣言しました。

 

大統領は、議会が国民の信任を得ていないこと、憲法で定められた連立多数派が成立していないことを解散理由に挙げましたが、自らの大統領選勝利の余勢を駆って、自前の新党「公僕党」の躍進を果たしたいとの本音は明白でした。

 

ゼレンスキーによる議会解散は違憲との指摘もありましたが、結局7月21日に議会選挙の投票が実施され、公僕党は予想以上の大勝を収めました。定数450議席のところ、公僕党は254議席を獲得し、ウクライナの歴史上初めて、一つの党による単独過半数が成立したのです。

 

ゼレンスキーが地滑り的勝利を収めた3月、4月の大統領選は、国民が既存の政治体制、とりわけポロシェンコ前政権に対し駄目出しをしたものでした。7月の議会選も、「実質的に大統領選の第3回投票だった」との論評があるとおり、大統領選の延長上で、国民がエスタブリッシュメント全体にノーを突き付ける結果となりました。

 

ちなみに、公僕党の候補者名簿には、議員経験のある候補者は一人もいなかったということです。議会全体でも、約3分の2が新人議員になったと言います。(中略)

 

弱冠35歳の新首相

新たに選出された議会の最初の本会議が8月29日に召集され、公僕党の主導によりホンチャルーク(ゴンチャルーク)新内閣が発足しました。

 

ホンチャルーク首相は1985年生まれの35歳。大学で法学を専攻し、主に民間企業で法務関係の仕事をしてきた人物です。ゼレンスキー大統領は事前には、実績のあるエコノミストを首相に据えたいというようなことを発言していたので、法律畑で政治経験もほとんどないホンチャルーク氏の起用は予想外であり、直前まで誰もマークしていませんでした。

 

当然のことながら、ホンチャルーク氏はウクライナ史上最も若い首相です。おそらく、世界的に見ても、記録的な若さのはずです。(中略)

 

首相が若いだけでなく、内閣全体の平均年齢もわずか39歳。2018年10月に発足した我が国の第4次安倍改造内閣では63歳だったということですので、ずいぶんと差がありますね。

 

ホンチャルーク内閣では、諸事情ゆえに内相と蔵相だけは前内閣から留任したものの、それ以外はすべて初入閣です。女性閣僚も6人と、積極的に起用されています。

 

かくして、大統領・議会・内閣がすべて、ゼレンスキー率いる公僕党によって押さえられ、一元的な権力が確立されました。世代交代も一気に進みました。大統領選~議会選~組閣と続いた今回の政権交代劇は、独立ウクライナ史上、最も深甚な政治体制の刷新となったと言えそうです。

 

短期決戦を志向するゼレンスキー政権

旧ソ連圏の政治評論には、「カミカゼ」という言葉がしばしば登場します。むろん、かつての日本の神風特別攻撃隊に由来する表現であり、ある内閣が「一年で倒れてもいい」というような決死の覚悟で改革に取り組もうとする時に、「カミカゼ内閣だ」というような表現が使われます。

 

そして、今般ウクライナで成立したホンチャルーク内閣についても、「カミカゼ内閣」だとする論評が散見されました。ゼレンスキー大統領は、国民に不人気な改革の実施を若きホンチャルーク首相に委ね、一年程度で首相交代となってもやむなしと考えている、というのです。

 

もう一つ興味深いのは、議会が招集された8月29日にゼレンスキー大統領が議員たちに呼びかけた内容です。大統領は、「今回の議会が歴史に名を残すことは、確実だ。唯一の問題は、具体的にどんな形でか?ということである。諸君は、過去28年間できなったことをすべて実現した奇跡の議会として教科書に載るかもしれない。あるいは、存続期間が一番短い、一年しかもたなかった議会として、歴史に残るかもしれない」と述べたのです。

 

つまり、議員たちのお手並みを一年拝見して、働きが悪ければ、またも議会解散という伝家の宝刀を抜くと警告しているわけです。

 

大統領も議会も任期は5年なのに、ゼレンスキー大統領は何を焦っているのでしょうか? おそらく、ゼレンスキー大統領は自分の人気がそう長くは続かないということを、自覚しているのではないでしょうか。

 

元々、組織的な基盤などは何もなく(公僕党にしても、むしろ大統領人気にあやかって躍進した)、突然吹いた「風」によって最高指導者の地位に押し上げられたに過ぎません。

 

今後、風が止んだり、あるいは逆風が吹く可能性があるということを、ゼレンスキーは分かっているのでしょう。だからこそ、自分の人気のあるうちに、改革と国家再建の道筋をつけておきたいのだと思います。

 

困難な政策課題

ゼレンスキー政権はいよいよこれから本格的に政策運営に取り組んでいくことになりますが、具体的な政策課題を考えるにつけ、困難な舵取りになると予想せざるをえません。

 

とりわけ気になるのは、経済政策路線です。所得水準の低いウクライナでは、国民の多くは福祉国家的な方向を望んでいます。しかし、ゼレンスキー政権は新自由主義的な政策を推進すると見られており、ホンチャルーク内閣が民営化、規制緩和といった措置を実行に移すことが予想されています。

 

財政面での命綱となっている国際通貨基金(IMF)との関係を考えても、新政権が「国民に優しい」政策を採る余地は限られており、果たして国民の忍耐がどれだけもつのか、気がかりです。

 

ゼレンスキー政権は、ポロシェンコ前政権とは異なり、反ロシア・ナショナリズム一辺倒に陥り、ロシアとのあらゆる関係を断ち切るようなことはしないと思います。

 

実際、ここに来てウクライナ・ロシア間で捕虜交換の問題が前進するなど、分野によっては関係の改善も進むかもしれません。

 

しかし、ゼレンスキー政権が最重視しているドンバス紛争の全面解決は、あまりに大きな難題です。ゼレンスキー政権は、「ドンバス紛争には今年中に決着をつけたい」として、ここでも非常に前のめりになっているのですが、筆者などはその性急さにやや危うさを感じてしまいます。【9月10日 GLOBE+】

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「ドンバス(ウクライナ東部)紛争には今年中に決着をつけたい」・・・・もちろん困難な話ですが、大統領の人気がそう長くは続かないという想定のもとでは、時間をかけるほどに国内コンセンサスを得ることがむつかしくなりますので、短期決戦を志向するのも無理からぬところではあります。

 

「決着」はともかく、なんとか「道筋」でもつけられたら・・・・。

 

逆にロシア・プーチン大統領としては、時間をかければ・・・というところですが、一方で、国内でプーチン離れも進む状況では、ウクライナを支援する欧州との関係を早期に改善して国内経済を上向かせたい思惑もあるでしょう。

 

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ドイツ  大量移民で揺れる政治・社会 一方で、抵抗感が和らぐ兆しも 将来的には独経済を支える基盤

2019-08-30 22:20:02 | 欧州情勢

(写真は移民のための就職説明会。1月にベルリンで撮影【8月30日 ロイター】

8月29日、独ベルテルスマン財団が行った調査では、ドイツ国民が移民に対しておおむね好意的で、国の利益になると考えるなど、移民への意識が改善する傾向にあることが明らかになった。)

 

【危ういメルケル後継禅譲】

これまでEUを牽引してきたドイツ・メルケル政権に関しては、このところはあまり“いいニュース”は見聞きしません。

 

メルケル首相の求心力低下、与党キリスト教民主同盟(CDU)の支持率低下や後継者問題、連立埋没で低迷する社会民主党の連立離脱の動き、極右勢力の台頭など、あまり芳しくない話題が多くなっています。

 

****メルケル独首相、後継禅譲へ「危険な賭け」*****

ドイツのメルケル首相の有力後継候補である保守系与党、キリスト教民主同盟(CDU)の女性党首、アンネグレート・クランプカレンバウアー氏が試練に直面している。

 

指導力の弱さや失言で国民の支持が低下。巻き返しのため兼務することになった国防相は、不祥事の多い“鬼門”ポストとされる。メルケル氏が描く円滑な禅譲には「危険な賭け」(メディア)となりそうだ。

 

(中略)国防相を兼務することになったのは、前任のフォンデアライエン氏が欧州連合(EU)の次期欧州委員長に決まり、後任が必要になったからだ。それまでクランプカレンバウアー氏は入閣をきっぱり否定していため、この人選に国内では大きな驚きが広がった。

 

■「前方への逃避」

「状況が変わった」。自身は方針転換の理由をこう語る。政権は今、連立相手の中道左派、社会民主党が離脱する懸念が高まり、大きく揺れる。このためCDUとして、党首入閣で政権維持への意思を明確するのが適切との判断に「メルケル氏と私は至った」のだという。

 

だが、理由はそればかりでなさそうだ。独メディアはこの決断をクランプカレンバウアー氏の「前方への逃走」(経済紙ハンデルスブラット)だと指摘する。

 

クランプカレンバウアー氏は昨年2月、メルケル氏が意中に置く後継候補として地方の州首相から党幹事長に大抜擢。昨年12月には寛容な難民政策など「メルケル路線」に反対する保守派の対抗候補と大接戦の末、党首選を制した。

 

その後、党内の分断克服と党勢回復を担ったが、5月のEU欧州議会選で党は過去最低の結果に低迷。選挙前に若者がCDUの気候変動対策を批判したネットの投稿動画について、「世論操作」と反論して大きな批判を浴びるなど、誤解を招く発言でしばしば物議も醸した。

 

この結果、独メディアの政治家人気ランキングでクランプカレンバウアー氏は党首就任当時の2位(支持率58%)から、6月には12位(同33%)に転落。首相に「ふさわしくない」との回答が71%に上る世論調査の結果も報じられた。

 

「このままでは首相への野心にサヨナラすることになると気づいた」。CDU幹部はメルケル氏とクランプカレンバウアー氏の判断についてこう語る。重職の国防相として政府の経験を積みながら、新たなスポットを浴びることで支持回復を図る−との狙いだ。

 

■国防省は「地雷原」

だが、この人事には「冒険」(独紙フランクフルター・アルゲマイネ)との見方がもっぱら。国防省は連邦軍も含め、かねて不祥事が多く、歴代国防相が政治家としての将来を傷つけられた事例が少なくない。首相に上り詰めた国防相経験者は戦後1人だけだ。(中略)

 

党首としても修羅場が続く。9月1日には東部2州の議会選挙が行われるが、世論調査では移民・難民危機で台頭した右派ポピュリズム(大衆迎合主義)政党「ドイツのための選択肢」(AfD)にCDUが敗北する可能性もあり、その場合、今後の首相候補を決める党内議論で保守派のライバルらに追い落とされる懸念も否定しきれない。【8月26日 産経】

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【反移民右派政党の台頭と極右暴力の横行】

記事最後に触れられている東部2州の議会選挙における反移民を掲げるAfD台頭の可能性については、以下のようにも。

 

****右派ポピュリズム政党、首位うかがう 独東部2州で1日議会選挙****

ドイツの東部2州で9月1日に実施される州議会選挙で、右派ポピュリズム(大衆迎合主義)政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が首位をうかがうなど大躍進する勢いを見せている。

 

メルケル首相の保守系政党、キリスト教民主同盟(CDU)、国政で連立を組む中道左派の社会民主党はともに苦戦。結果が連立政権の行方に影響を及ぼす可能性がある。

 

選挙が行われるのはブランデンブルクとザクセンの2州。公共放送ARDの最新の政党支持率によると、AfDはブランデンブルクで22%となり、第1党の社民党と同率トップ。ザクセンでは24%で、前回選の得票率9・7%を大きく上回り、CDU(30%)に次ぐ第2党になる可能性が高い。

 

排外主義的な主張を掲げるAfDはメルケル氏の寛容な難民・移民受け入れ策への批判票を集め、これまで支持を拡大してきた。国内16州・特別市ですでに議会進出を果たしているが、第1党になれば初めて。

 

AfDは特に旧東独地域の東部州で強く、5月に行われた欧州連合(EU)欧州議会選では今回選挙のある両州ともに首位だった。

 

旧東独地域ではドイツ統一から29年を迎える現在も、旧西独地域との経済格差が残り、既存政治に不満を抱える市民がAfDに引き寄せられている形だ。

 

一方、CDU、社民党ともに両州で得票を多く減少させると予測される。特に党勢低迷が深刻な社民党は10月に新党首を選出後、年内に連立政権の成果を中間評価する予定。今回選挙で大敗すれば党内の連立懐疑派が勢いを増し、政局が不安定化する可能性がある。

 

社民党が政権を離脱すれば、2021年の任期終了まで首相続投を目指すメルケル氏の方針も危うくなる。CDUではクランプカレンバウアー党首が国防相を兼務しながら選挙戦を展開するが、結果次第ではメルケル氏の有力後継候補としての手腕に党内で疑問が強まる可能性もある。【8月30日 産経】

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メルケル首相・政権がこのような苦境に陥っている原因は、寛容な難民・移民受け入れ策によって洪水のような大量の難民・移民がおしよせたことへの国民不満にあるとされています。

 

その不満の受け皿として上記の反移民政党AfDの台頭もある訳ですが、より過激な暴力的極右勢力の動きにも懸念が深まっています。

 

****ドイツ、極右過激化へ懸念深まる 政治家殺害や脅迫行為****

ドイツの極右勢力が難民や移民の大量流入への抗議をエスカレートさせている。

難民支援を訴えた政治家が殺害されたほか、政界や言論界を標的にした脅迫行為が横行している。

 

排他主義的な動機による銃乱射事件が米国で相次いだこともあり、ドイツでも憎悪犯罪が誘発されることに、警戒感が広がっている。

 

ドイツではメルケル首相が2015年から、難民や移民に寛容な受け入れ策を進めているが、一方で反移民感情も高まっていた。

 

今年6月には、メルケル氏の政策を支持した中部ヘッセン州の政治家、ワルター・リュプケ氏(65)が、自宅で極右活動家に射殺される事件が起きた。

戦後ドイツで、政治家が極右に殺害されたのは初めてとされ、衝撃が走った。

 

当局は、かつて極右活動に参加していた地元の男(45)を逮捕。政治的動機による犯行として、捜査中だ。男は欧州で相次いだイスラム過激派テロも背景に、憎悪の矛先をリュプケ氏に向けたようだ。

 

「民主主義を破壊しようとする風潮に立ちはだかるのはわれわれの義務だ」

メルケル首相は7月中旬、第2次世界大戦末期のナチス・ドイツで起きたヒトラー暗殺未遂事件の75周年式典でこう述べた。さらにリュプケ氏の殺害事件にも触れ、極右勢力の過激化に強い警鐘を鳴らした。

 

ドイツ内務省が6月に公表した報告書では、国内の「極右過激派」は近年増加傾向にあり、総数は2万4100人に上るとしている。このうち暴力的な行為を志向する者が、半分以上を占めるという。

 

捜査当局はイスラム過激派への対応に追われ、極右勢力の抗議活動を甘く見ていたとの批判も強い。

 

さらに、リュプケ氏の殺害事件に対する一部の「反応」も懸念材料だ。

容疑者の逮捕後、難民支援に積極的な西部ケルンの市長ら自治体関係者、大手企業トップ、公共放送のジャーナリストといった難民支援に積極的な人物も標的となり、「第2のリュプケにする」などとした殺害脅迫が届き始めた。

 

難民や移民に反発する反イスラム団体のデモ参加者は、「(殺害は)人道的反応だ」などとテレビのインタビューで発言してい。

 

こうした動きに対し、シュタインマイヤー大統領は「危険は極右の暴力だけではなく、その行為を正当化する雰囲気だ」と戒めている。【8月26日 産経】

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【移民受け入れによる労働人口増大】

大量の移民・難民はこうした深刻な問題を惹起し、メルケル政権を揺さぶる形になっていますが、一面では移民増加によってドイツの人口は増大し、人口減少による国力低下が懸念される日本とは異なる可能性も見せています。

 

****2018年のドイツの人口が過去最高、東欧などの移民が押し上げ****

ドイツ連邦統計庁の16日発表によると、ドイツの人口が昨年、東欧を中心とする諸国からの移民により、過去最高の8300万人超を記録した。

 

移民の純流入数は前年の41万6000から40万人に減少。主な出身国は依然欧州連合(EU)域内で、合わせて20万2000人だった。内訳はルーマニアの6万8000人を筆頭に、クロアチアの2万9000人、ブルガリアの2万7000人、ポーランドの2万人などとなった。

 

ドイツでは、高齢化と出生率低下で今後数十年に労働力が縮小する公算が大きいことから、増加する定年退職者を年金で支えていく企業にとって、移民は人材確保に不可欠な存在とみなされている。

 

一方、戦争で荒廃した国からの移民は減少しているもようで、純流入数はシリアが2017年の6万人から18年には3万4000人に、アフリカは同3万5000人から3万4000人に減少した。【7月17日 ロイター】

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【大量移民への拒否感を示したドイツ社会にも変化の兆し】

いくら労働人口が移民によって補充されても、そのことによって社会が不安定化しては元も子もありませんが、大量移民に拒否感を示したドイツ社会も、ここにきてようやく流入した移民をうまく“のみ込める”ようになっている・・・そんな気配もあります。

 

****ドイツ国民、移民への意識が改善、経済に貢献と評価=調査****

独ベルテルスマン財団が行った調査では、ドイツ国民が移民に対しておおむね好意的で、国の利益になると考えていることが明らかになった。2015年の大規模な移民流入で高まった反移民感情が和らいでいることが示された。

調査では、移民受け入れに比較的積極的な旧西ドイツ出身者と、より消極的な旧東ドイツ出身者の間の溝が埋まりつつあることも明らかになった。ただ、経済への影響については、依然見解の相違がみられる。

移民がドイツ経済に貢献するとの回答は3分の2近くに達した。また、生活や人生が移民の人達によって興味深いものになると考えている人は67%だった。若い人達の間で特に移民対する肯定的な意見が目立った。

同財団の理事会メンバー、Joerg Draeger氏は「ドイツは移民が大量に流入した2015年のストレステストに合格し、実質的な移民受け入れ国としての立場を安定させた」と指摘した。

移民の受け入れ負担を訴える人は49%で、2017年の54%から低下した。

移民を歓迎するとした西ドイツ出身者の割合は59%で、2017年の65%から低下。東ドイツ出身者ではこの割合は33%から42%に上昇し、双方の差が縮小した。

一方、東部では、移民が社会保障制度などの負担になるとの回答は83%に達した。【8月30日 ロイター】

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今回の東部2州の選挙結果はともかく、将来的には、上記のような東独地域での反移民感情緩和の傾向が全国的に進めば、移民に関する諸問題の解消にも道筋が開け、労働人口増大による果実も手にすることが可能となります。

 

現在は移民受け入れに失敗した・・・との評価が大きいメルケル政権ですが、社会の移民受入れが進めば、30年後には「あれがドイツの沈下を救う契機となった」という異なる評価に変わるかも。

  

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イギリス  議会閉会で離脱実現を図るジョンソン首相 「政治的中立」を守るエリザベス女王

2019-08-29 23:14:49 | 欧州情勢

(バッキンガム宮殿で(7月)24日、ジョンソン氏(左)と握手するエリザベス女王。その後、英国の首相に任命した=ロイター【7月25日 朝日】)

 

【「非民主主義的」「独裁者」の批判も】

EU離脱期限の10月31日が目前に迫るイギリス。

ボリス・ジョンソン首相は持論の「合意なき離脱」に向けて、反対の多い議会を期限直前まで閉会して議論を封じ込めることで強行突破しようとの構えです。

 

****ブレグジットと英議会の閉会 ― 何が起きた?****

28日朝、イギリスでは劇的な展開を迎えた。

 

7月24日に首相に就任したボリス・ジョンソン氏が、議会を1カ月間、閉会することを決めた。つまり下院議員は、さらに限られた時間の中でブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)を協議することとなる。

 

議会は、EU離脱期限の10月31日が目前に迫る中、5週間にわたって閉会される。ジョンソン首相は、新たな会期を10月14日に始めたい考えだ。

 

例年、各党が党大会を開催することから、議会は9月から10月にかけて約3週間の休会に入る。しかし今秋は、9月10日ごろに議会が閉会することとなる。

 

時間がほとんど残されない中、議員にとって、合意なしのEU離脱を食い止めることは難しくなるだろう。

今回の決定について、EU残留派はクーデターだと反発しているほか、一部の離脱派も批判している。

 

ちょっと待って、何があった?

今回、議会を開かないのは、通常の休会ではない。ジョンソン氏は、EU離脱期限まで約9週間しか残されていない肝心なこの時期に、今会期を切り上げるというのだ。

 

イギリスは3月29日にEUを離脱する予定だったが、議会が離脱協定を3度にわたり否決したため、EUは離脱期限を10月31日まで延長した。

 

ジョンソン氏は「やるか死ぬか」だと述べ、合意ありなしに関わらず、ブレグジットを実現すると誓っている。

 

一方、残留派の下院議員のほとんどや、与党・保守党議員の多くは、合意なしの離脱を望んでいない。物価上昇など、イギリス経済へ打撃を与えるかもしれないと恐れているからだ。

 

彼らは合意なし離脱の回避を求めているが、それが失敗に終わった場合、内閣不信任案を提出する可能性がある。

 

議会閉会は合法なのか?

議会の閉会は合法だ。通常、会期末と次の会期までの間に起こるものだ。しかし、今回は状況が異例だった。

 

政府は法律を破っているわけではないため、異議申し立てを行うことは難しいだろう。議会手続きにのっとり、ジョンソン氏は、EUからイギリスを離脱させるという、自身の選挙公約を実現しようとしている。

 

下院議員は、この閉会に従い、合意なしブレグジットのリスクを負うこともできるし、内閣不信任案を提出することもできる。

 

ジョン・バーコウ下院議長は、今回の閉会決定は、議員にブレグジットを協議させないことを狙った「憲法侵害」行為だとしている。(後略)【8月29日 BBC】

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政治制度についてイギリスに範をとった日本でも、与野党間で妥協が見込めない議論については、審議日程をどうするかが現実的な駆け引きの場となることが日常的に見られます。

 

ただ、常識的には、極めて重要な国家の進むべき道の選択にあたって、民意を反映する議会を無視するような議会運営は「憲政の常道」に反するという話になるでしょう。

 

議会審議に委ねていてはいつまでたっても離脱はできない・・・と考えるジョンソン首相ですが、「合意なき離脱」に反対する議会を封じて離脱を強行する権限が首相にあるのかという問題にもなります。

 

形式的には合法な議会運営であっても、実質的にそうした議会無視の意図が明らかであれば、憲法上の疑義が生じるでしょう。

 

****ジョンソン英首相、EU離脱前に議会を閉会 各地で抗議デモ****

イギリスのボリス・ジョンソン首相は28日、9月第2週から5週間にわたって議会を閉会すると発表した。

 

英議会は現在夏休み中で、9月3日に再開される。イギリスは10月31日に欧州連合(EU)離脱を予定しており、9月と10月は離脱をめぐる重要な審議の期間と目されていた。

 

こうした中でのジョンソン政権による「閉会」発表に、ブレグジット(イギリスのEU離脱)反対派や合意なしブレグジットに反対する与党は、十分な審議の余地を与えない「非民主主義的」な方策だとして反発を強めている。

 

「議論の時間は十分ある」

また、イギリス各地で抗議デモが開かれており、閉会の取り止めを求める署名にこれまで100万人以上が参加した。

 

ジョンソン政権は、5週間の閉会後もEU離脱について議論する時間は十分にあるとしている。

ジョンソン首相はかねて、EUとの合意のあるなしに関わらず10月31日にブレグジットを決行すると述べている。

 

議会の閉会は通常、会期の初めなどに審議や投票の予定がない場合に行われ、期間も短い。閉会にはエリザベス女王の承認が必要で、女王は28日に今回の閉会を承認した。

 

これにより、議会は9月9〜12日のいずれかの日に閉会となり、10月14日に再開される。議員は閉会を阻止することはできないという。

 

10月17日には、ブレグジットをめぐる最後のEU首脳会議が予定されている。

 

ジョンソン首相は議員への書簡で、現在の議会は340日以上にわたって続いており、過去400年で最も長い部類に入ると説明。閉会の必要があると訴えた。

 

その上で、議会再開の際には「ブレグジットに関する重要な法的プログラム」を用意するとし、政府がEUと「新たな協定を結ぶ機会を」得るため、議会には「一致と決心」をしてほしいと伝えた。

 

また、マイケル・ゴーヴ内相はBBCの取材で、閉会について、合意なしブレグジットに反対する勢力を妨害する政治的動きでは「もちろんあり得ない」と強調した。

 

政界の反応は? 米大統領は支持

最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、閉会は議員に法案を審議する十分な時間を与えず、合意なし離脱を強行するもので、「イギリスの民主主義を強奪」していると批判。閉会をやめさせるよう働きかけると約束した。(中略)

 

閉会支持の声も

一方、閉会を支持する政治家もいる。

保守党のEU離脱派、ピーター・ボーン議員は、閉会は「まったくもって標準の手続き」だと発言。ブレグジット以降まで閉会すると言わない限りは支持すると話した。(中略)

 

また、アメリカのドナルド・トランプ大統領はツイッターでジョンソン首相の判断を支持すると表明。首相が「イギリスがまさに求めていることを行っているという事実」をみれば、コービン氏が不信任案を議会で通すのは「非常に難しいだろう」と語った。

 

ウェストミンスターで抗議デモ

28日夜には議会のあるロンドン・ウェストミンスターに市民が集まり、「クーデターをやめろ」と声を合わせた。ブレグジットに反対するプラカードや、EU旗を掲げるデモ参加者もいた。

議会前で始まったデモはその後、首相官邸のあるダウニング・ストリートまで広がった。(中略)

 

一方、政府ウェブサイトに開設された、閉会をやめるよう求めるインターネット署名では、1日足らずで100万筆以上が集まった。

 

提訴は可能なのか

ジョン・メージャー元首相など政界の重要人物はかねて、ジョンソン首相が合意なし離脱のために議会を停止させた場合は提訴に踏み切ると話していた。

 

28日の発表を受けてメージャー氏は、ジョンソン氏は「自分のブレグジット政策に反対する議会を無視する」ために閉会に踏み切ったことは「明白」だとして、法的手段を模索すると話した。

 

スコットランドではすでに、スコットランド国民党(SNP)の主導で提訴の手続きが進んでいる。

 

イギリスでは、閉会を含む女王の特権行使について、法的に争うことはできない。

しかし、反EU離脱活動家のジーナ・ミラー氏によると、「閉会が議会の主権を制限する意図で行われ、そうした効果を持つなら、それは違法かつ違憲だと思う」と指摘した。【8月29日 BBC】

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ジョンソン首相は閉会したとしても、議会で離脱について議論する時間的余裕は「たっぷりとある」と主張していますが、10月17〜18日にEU首脳会議も控えており、現実的に10月末まで時間はほとんど残されていません。

 

そうしたことから「離脱の審議を妨害しており、民主主義と国民の代表である議会への攻撃だ」(バーカウ下院議長)など、野党議員からは「ジョンソン氏は独裁者だ」との声が上がっています。

 

ただ、法廷闘争とはいっても、判決が速やかにでないと意味がありません。そうした速やかな判決が可能なのかは不透明です。

 

もし閉会するまでの9月10日以前に内閣不信任決議が可決されれば、10月に解散総選挙となる可能性もあります。

総選挙が行われた場合の予想は・・・わかりません。

 

“保守党は、先週の世論調査での支持率が約31%となり、野党を上回っている。最大野党・労働党は前回調査から2ポイント上げて、21%だった。(中略)

しかし、保守党の勝利が、必ずしも確実というわけではない。中道左派・自由民主党やスコットランド国民党といったほかの党は、いかなる条件のブレグジットにも、かたくなに反対している。” 【8月29日 BBC】

 

【「政治的中立」を遵守するエリザベス女王 ただ、政界の混迷には失望】

エリザベス女王にも飛び火しています。

 

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今回の問題は、政治的中立を保つエリザベス女王にも飛び火している。

 

議会の停会を決める権限は首相ではなく、国家元首の女王にある。ただ、女王は今回、王室が首相の助言に従う英国の慣習により、ジョンソン氏の停会の要求を認めたとみられている。

 

労働党のコービン党首は、認可した女王に抗議するために、女王との面会を求めているという。【8月29日 産経】

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形式上、政府は議会閉会の承認を求める必要がありましたが、これは形式的なものにすぎません。

女王は、政治とは切り離された立場にあり、仮に承認を拒否したとしたら前代未聞でしたが、女王は拒否しませんでした。【8月29日 BBCより】

 

ただ、日本でも天皇の「お言葉」の真意をめぐっていろんな議論がかわされるように、イギリスにあっても「政治的に中立」とはいうものの、女王陛下の真意に関心が集まります。

 

イギリス政治の混迷について女王が失望していることは最近報じられたばまりです。

 

****エリザベス女王が政界失望、EU離脱混迷で英紙報道****

英国が欧州連合(EU)からの離脱を選んだ2016年の国民投票以降、英国政治の混迷が続く中、エリザベス女王が政界の統治能力の欠如に対して非公式に失望を示していたと、11日付サンデー・タイムズ紙が伝えた。

 

国民投票で離脱が決まり、当時のキャメロン首相が辞任した直後の非公式行事で、女王が失望を表明したとされる。政界はEU離脱派と残留派などの間で対立が深まり、王室筋によると、政治家のリーダーシップに対する女王の「怒りや失望」はその後も一段と強まっているという。

 

女王は政治的に中立とされ、公の場で見解を示すことはない。【8月11日 共同】

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更に一歩踏み込んで、離脱に関しどのように考えているのか、残留派なのか離脱派なのか・・・さすがに、そのあたりは明かしていません。

 

****エリザベス英女王、国民に「共通点」を見つけるよう求める ブレグジット懸念か****

エリザベス女王は(1月)24日、イギリス婦人会のサンドリンガム支部を訪問した際の発言で、国民に「共通点」を見出すよう求めた。さらに、互いに「異なる視点」を尊重するよう呼びかけた。

 

エリザベス女王は国家元首だが、政治問題については中立の立場を保っている。しかし、このメッセージはイギリスの欧州連合(EU)離脱をめぐる下院の紛糾に言及したものだとの見方が強い。(中略)

 

今回の発言は2018年12月のクリスマスにTV放送したあいさつとも関連するとみられる。

 

クリスマスのあいさつで女王は「どれほど深刻な違いがあっても、相手を尊重し、同じ人間として接することは常に、より良い理解への有効な一歩です」と語った。【2019年01月25日 BBC】

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この趣旨からすれば、今回のジョンソン首相の強引な手法にはエリザベス女王も納得はされていないようにも想像しますが・・・。

 

もっとも、2016年には、「エリザベス女王が離脱を支持している」との報道がなされ、王室がこれに抗議する異例の展開もありました。

 

****英王室、「女王がEU離脱支持」報道に抗議****

英王室は9日、英大衆紙サンが「英国の欧州連合(EU)離脱をエリザベス女王が支持している」と報道したことに抗議し、新聞業界の自主規制審査機関「独立新聞基準組織」(IPSO)に不服を申し立てた。

 

サン紙は9日付一面で、「女王はブレグジットを支持」という見出しを掲載。

EU支持派のニック・クレッグ前副首相と女王が2011年に昼食をとりながら「大ゲンカ」するのを目撃したという、

匿名の消息筋の話を報道した。(中略)

 

こうした報道内容に対して王室は女王が「政治的に中立だ」と反論。クレッグ氏も「まったくのでたらめだ」と一蹴したが、サン紙は報道内容に自信があると強く主張している。

 

サン紙は記事で、クレッグ氏と「口論」する様子から「欧州に対して女王がどういう思いを強く抱いているか、もはや疑いようがない」と書き、女王はクレッグ氏を「長々と叱責し、他の客を茫然とさせた」と続けた。

 

また「数年前」の別の機会にもバッキンガム宮殿で複数の議員に対し、「私はヨーロッパが分からない」と「憎々しげに思いを込めて」告げたと書いている。(後略)【2016年03月10日 BBC】

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この2016年の件はさておいても、スコットランド独立をめぐる住民投票のときも、エリザベス女王の「お言葉」がスコットランドのイギリス残留支持する発言と受け止められたことがあります。

 

****「将来を慎重に考えて」 英女王が異例発言****
イギリス北部のスコットランド独立の賛否を問う住民投票を前に、エリザベス女王が「人々は将来のことを慎重に考えてほしい」という発言をし、ふだんは政治的な問題には関わらない女王による異例の発言として注目されています。

 

この発言は、エリザベス女王が14日、スコットランド北東部の教会で日曜の礼拝に出席したあと、訪れていた人々に対して述べたものです。この中でエリザベス女王は、スコットランドで行われる住民投票に関連して、「人々は将来のことをとても慎重に考えてほしいと思います」と発言しました。

エリザベス女王は中立の立場を取らなければならないため、政治的な問題に関する発言をするのは極めて異例で、15日付のイギリスの新聞各紙は「女王がスコットランド独立の議論に介入した」などと伝えています。

 

このうち、有力紙デーリーテレグラフは「女王は独立に反対であるというサインだ」と伝えるなど、王室の政治的な中立性を損ねることなく反対派の支持を暗に表明する発言だという受け止めが広がっています。【2014年9月16日 NHK】

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このスコットランド独立の賛否を問う住民投票の際の発言をめぐる騒動もあって、今回のEU離脱に関しては、エリザベス女王も一層慎重になっているものと推察されます。

 

ちなみに、ジョンソン首相の方はエリザベス女王とは違って慣例にはとらわれず、7月24日にエリザベス女王に謁見して首相に就任した際、君主との会話は終生、外部に漏らしてはならないとの掟を簡単に破り、「どうしてその仕事をしたいと欲する人がいるのか理解できない」という女王の言葉をメディアに披露しています。

 

このあたりの奔放さが、多くの人に愛される理由でもありますが、今回の強引な手法がどうなるのか・・・・?

コメント

フランス  食品ロス削減に向けての法規制、アプリも活用

2019-08-23 22:08:00 | 欧州情勢

(【20160229日 BLOGOS20162月に、デンマーク・コペンハーゲンにオープンした、賞味期限切れの食品を専門に扱うスーパーマーケット「WeFood」 ホームレスを支援する団体が運営しています)

 

【関心が高まる食品ロス削減】

「世界は増大する人口に対応する食糧を確保できるのか?」という問題については、88日ブログ“食糧供給  人口増大、温暖化の影響に世界はどう対応するのか?”でも取り上げました。

 

食糧供給の増大、多様化とともに重要なのは、「無駄にしない」という発想の徹底でしょう。

膨大な食品廃棄物の問題は世界共通の課題です。

 

日本について個人的な経験を言えば、もう十年以上前でしょうか、深夜街を歩いているとドーナツの全国的チェーン店に灯りがついていて、店内では大きなゴミ袋に余った商品をザザーッと流し込む閉店作業が行われていました。

 

もちろん店側にはいろんな理由があってのことですが、「これはアカンやろ・・・」と、基本的なところが間違っているような印象を強く感じました。

 

****食品ロス削減へ官民一体の取り組み加速 賞味期限、1/3ルールにもメス****

超党派の議員連盟による「食品ロスの削減の推進に関する法律案(食品ロス削減推進法案)」が今国会で成立する見通しとなっている。

 

年間約646t(平成27年度推計)とされる国内の食品ロスの削減に向け国民運動として展開する狙い。

 

こうした動きに呼応するように、農水省は賞味期限年月表示への取り組み拡大に向けた動きを見せる一方、小売大手のヤオコー4月から、専用センターでのドライグロサリー(コメをのぞく)の入荷許容期限の緩和を明らかにするなど、食品ロス削減に向けた官民の取り組みが加速してきた。

「食品ロス」とは本来食べられるのに捨てられる食品646tの内訳は、事業系廃棄物由来(規格外品、返品、売れ残り、食べ残し等)が約357t、家庭系廃棄物由来(食べ残し、直接廃棄等)約289t646tという数字は、日々10tトラック1770台分の食糧を廃棄している計算だ。

「食品ロス削減推進法案」では、政府、事業者、消費者ごとに取り組むべき役割を整理した。まず政府が食品削減の基本方針を策定。

 

同方針を踏まえ、都道府県や市町村が削減推進計画を策定し、対策を実施するとともに、消費者や事業者に対する普及啓発を行うほか、食品ロス削減に貢献した事業者等の表彰、フードバンク活動の支援。

 

事業者に対しては、商慣習の見直しなど、製配販三層で生じる食品ロス削減のための事業の取り組みを支援するとともに、政府や自治体に協力し、食品ロス削減に積極的に取り組むことを求めた。

また、食品ロスの約半分が家庭から排出されていることから、消費者には食品の購入や調理方法の改善などによる自主的な食品ロス削減への取り組みを呼びかけていく。

商慣習については、小売店などが設定するメーカーからの納品期限と店頭での販売期限が製造日から賞味期限までの期間を3等分して設定する“3分の1ルールの見直しに加え、賞味期限の年月表示化や賞味期限延長も併せて推進していく。(中略)

小売による“3分の1ルールの見直しは、東日本大震災(20113月)直後、一時的に緩和されたが、現在はほとんどが元に戻っている。

 

背景には消費者の過度の鮮度志向や、賞味期限そのものに対する理解不足があるものと見られるため、賞味期限の理解促進に向けた啓発活動も課題となりそうだ。【327日 食品新聞】

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3分の1ルールとは、製造日から賞味期限までの合計日数の3分の1を経過した日程までを納品可能な日とし、3分の2を経過した日程までを販売可能な日(販売期限)とする商慣習的なルールで、近年はこのルールが「期限に合理的根拠はなく、食品や資源のムダにつながる」という理由から見直しが検討されています。

 

****米国の食品廃棄物、1日に約15万トン 研究****

米国では1日に15万トン近くの食品廃棄物が発生しているとの調査結果が(4月)18日、発表された。国民1人当たり約422グラムの食品を毎日廃棄している計算になる。廃棄される量が最も多いのは青果物だった。

 

米科学誌「プロスワン」に掲載された研究論文によると、最終的に廃棄される食用植物を栽培するために毎年使用される土地の総面積は約12万平方キロで、これは米国内の農作物栽培好適地の約7%に及ぶという。また、無駄に費やされているかんがい用水は16兆リットルに上るとされた。

 

青果物は構成比で食品廃棄物全体の39%を占めており、次いで乳製品17%、肉類14%、穀類12%となっている。一方、廃棄処分されることが少ないのは、塩気の強いスナック菓子、食卓油、卵料理、砂糖菓子、清涼飲料水などだ。

 

2007年〜2014年の食品廃棄物に関する政府の調査データに基づく今回の研究では、廃棄される食品の総量が全米国人の1日の平均カロリー摂取量の約30%に相当することが明らかになった。

 

こうした結果を受け、論文は環境と農業従事者にかかる負担は「重大だ」と指摘しており、また食品廃棄物が「年間約35万トンの農薬と約82万トンの窒素肥料を用いて生産される収穫物に相当する」ことも記された。

 

解決策としては、果物や野菜のより適切な下ごしらえと保存の方法について消費者を教育する、食品の賞味期限を見直す、訳ありの生鮮食品を購入するよう消費者に勧める、食品廃棄物を抑制する取り組みを政府の持続可能性計画に組み入れるなどが考えられる。

 

論文の主執筆者で、米農務省農業研究局のザック・コンラッド氏は「食品廃棄物の問題は、さまざまなレベルで表面化している」と話す。

 

「増加を続ける世界人口の要求を満たす持続可能な方法を模索する上で、これらを総体的に検討することがますます重要になる」 【419日 AFP】

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【フランス 法律で「賞味期限切れ食品」の廃棄を禁止 貧困対策団体へ寄付】

事情はフランスでも同様ですが、2016年から大手スーパーに対して「賞味期限切れ食品」の廃棄を禁止する法律が施行されています。

 

****フランスで「食品廃棄禁止法」が成立、日本でも導入すべき意外な理由 ****

フランスで20162月初めに「賞味期限切れ食品」の廃棄を禁止する法律が成立したのをご存じだろうか。類を見ない画期的な施策であると世界各地のメディアで取り上げられ話題になっている。(中略)

 

そもそもこの法律は、貧困対策やチャリティーなどを支持する人権派の議員らが中心となって活動し、成立にこぎつけた。

 

フランスのスーパーマーケットは、賞味期限切れ、または賞味期限に近づいている食品を廃棄すること(「食品ロス」と呼ばれる)はできなくなり、その代わりに、普通なら廃棄する食品をボランティア組織やチャリティー団体に寄付することが求められる。現物の寄付を受け取った団体は、貧しい人々のために食品を分配することになる。

 

比較的多くの廃棄食品が出る大規模店(法律によると400平方メートル以上の店)は必ず、貧困対策を行っているようなチャリティー団体と契約を結ぶ必要がある。さもないと罰則を受けることになり、最大で約84000ドル(約970万円)の罰金または最大2年の禁固刑を課される可能性がある。

 

「食品廃棄禁止法」の波紋

またスーパーマーケット側には、廃棄食品を「破壊」してはいけないという義務も課される。どういうことかというと、これまでスーパーマーケットは、賞味期限切れの食品を人々がゴミ箱から奪っていくのを防ぐために、廃棄処分の食品を意図的に化学薬品などで「破壊」して捨てていた。店側は、廃棄食品を拾って食べることで腐った食品を口にしてしまうこともあるとして食べられないように「破壊」していると主張していた。

 

だがそれは表向きの理由であり、現実には廃棄処分の食品を拾われたら商売あがったりだと考えた店側の対応策だと言われている。ゆえに、フランス政府は破壊を違法にし、再分配するよう規定した。

 

今フランスでは年間710万トンの食料が廃棄処分されている。その内訳は、67%が一般から、15%はレストランから、そして11%はスーパーマーケットなどから廃棄される。

 

チャリティー関係者らによれば、寄付される食料が15%増加すれば、年間1000万食を追加で提供できるという。スーパーマーケットからの寄付が増えればそれだけ提供できる食品も必然的に増える。

 

いいことづくめの話に見えるが、もちろん課題も多い。

この法律によれば、慈善団体などと契約を交わさないことで罰則が適応されるのは、大店(400平方メートル以上の店)のみであり、中小規模のスーパーマーケットにその義務はない。

 

というのも、個々の店による食品ロスが比較的少ないということもあるが、財政的にも体力の劣ることが多い中小規模の店にはこの法律は大きな負担となるからだ。例えば廃棄処分の食料を仕分けし、無償で提供するのにはさらなる時間と労力が必要になる。

 

この点についてフランスの商業流通連盟は、「この法律はターゲットも目的も間違っている。大手の店が出すのは廃棄食品全体のたった5%に過ぎない」と、今回の法律を痛烈に批判している。

 

さらに「大手のうち4500店以上は以前から援助団体と食料寄付の契約をしており、食料寄付者としてはすでに突出している」とも述べている。つまり大手を法律で縛るだけではあまり効果がないということらしい。

 

フランス国内では「必要ない」との意見も

また法律によれば、寄付される廃棄食品の仕分けをするのはスーパーマーケット側だ。腐ったものやつぶれた食品などを排除するのは店側の責任になり、食べられないゴミが寄付に紛れ込まないようになっている。

 

だが逆に、必要以上の食品が慈善団体などにどんどん流れて溢れ返り、「体のいいゴミ箱」に化す可能性も指摘されている。

 

さらには、廃棄処分にしない食品を誰が集めて、分配するのにいくらかかるのか、という問題もある。明らかにフランスのチャリティー団体などはさらなる人手が必要になるし、法律では、チャリティー側が食品を保管する冷蔵庫やスペースを確保する必要があるとしている。

 

フランスでも、これまで何も対策が行われていなかったわけではない。さまざまな食品関連業者から、困窮者に食料を配給する民間の組織やチャリティーに対して、これまでをまとめると10万トンの寄付が行なわれている。そのうち、35000トンがスーパーマーケットからの寄付食品である。(中略)

 

以上のように、フランス国内では「必要ない」との意見も出ているのである。

 

フランスの取り組みは参考になるのか

だが先に述べた通り、そもそもこの法律が可決された背景には貧困問題があり、貧困問題を解決するために食品ロスを活用しようとする試みだった。

 

フランスでは最近、無職の人々やホームレス、貧乏学生などがスーパーのゴミ箱から破棄された食品を漁って生活している実態が報じられたり、ゴミ箱を漁って窃盗罪で捕まった人のニュースもあった。ちなみにフランスでは、失業率が10.6%に達し、若者にいたっては26%にもなる。欧州加盟国の中でも失業率は高い部類に入る。

 

そんな状況を見かねたフランス・クールブボアの地方議員アラシュ・デアランバルシュ氏が、20151月に反貧困の草の根運動として、オンライン署名サイトで活動を開始。賞味期限切れ食品の廃棄禁止を訴えるキャンペーンを始めたのだ。そしてすぐに21万人以上の署名を得たことで勢いづき、デアランバルシュ氏は国会議員にも働きかけを行った。そして5月には下院が廃棄禁止の法案を一旦可決するに至った、という経緯がある。(後略)【20160212日  山田敏弘氏 ITmedia

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フランスでは、売れ残り品の廃棄禁止は食品以外にも拡大しています。

 

****フランス、売れ残り品の廃棄禁止へ****

フランスで、在庫や売れ残り品の廃棄を禁止する法案の準備が進められている。環境保護や循環経済の実現を目指したものだが、施行された場合はラグジュアリーブランドにも影響があると見られている。(中略)

 

仏政府は以前から循環経済への移行を掲げており、2018年にはエドゥアール・フィリップ仏首相が、再利用可能な製品に対して21年までにロゴをつけるなどのロードマップを発表している。ポワルソン仏環境連帯移行副大臣が主導する今回の法案準備は、そうした枠組みにも合致する。なお、これは今夏の議会提出が予定されているが、広く国民の意見を募るため、正式な期日は設定されていない。

 

フランスでは162月に食品廃棄禁止法が施行され、(中略)食品廃棄に関する意識が高まったが、それが衣料やその他の分野にも広がってきているのだという。

 

セールをしない多くのラグジュアリーブランドは、ブランド価値を毀損しないため、売れ残り商品を処分している。「バーバリー(BURBERRY)」は、売れ残り商品を毎シーズン焼却処分していたことを批判され、189月にこれを廃止した。

 

「バーバリー」は現在、そうした商品の再利用やリサイクル、寄付などを行っているほか、193月には英慈善団体スマートワークスと提携し、従来の寄付に加えて困窮している女性が仕事の面接に行けるようにスタイリングアドバイスも提供している。(後略)【423日 WWD】

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【食品ロス削減にアプリ活用】

食品ロスを減らす取り組みの一環として、「TooGoodToGO」(捨てるにはまだ早い)というアプリが活用されているとか。期限切れ間近商品の「福袋」販売みたいなもののようです。

 

****フランス発のアプリで「食品ロス」から世界を救う**** 

(中略)

TooGoodToGO」アプリが貢献

フランスでの食品ロス法の可決を受け、あるベンチャー企業が食品ロスを無くすべくアプリを開発。その名も「TooGoodToGO」(捨てるにはまだ早い)。

 

2016年にフランスで登場してからわずか3年で、11ヵ国でサービスを拡大し、今では1200万回のダウンロードを突破した人気急上昇のアプリだ。

 

利用者は安く食品を購入でき、店側は廃棄するはずの物を販売できる「WinWin」なコンセプトだ。

アプリを開くと、位置情報を元に近場で賞味期限間際の売れ残りを1/3の値段で提供している店のリストが表示される。

 

「簡単で気楽に使えるのがこのアプリの強み」と話してくれた利用者の一人、クリストフさんは「何が出てくるかわからないのも一つの楽しみ」と話す。

 

ワンクリックで予約したのち、回収時間が提示され、「びっくり箱」(Paquet surprise)としてあらかじめ中身が分からない仕組みとなっている。

 

普段買わない食品も含まれることから、発見や楽しみも味わえるのが特徴で、環境問題に関心のない人々でも安く買うことができ、結果的に食品ロス対策に貢献できるのだ。クリストフさんは「環境問題に関心を持っていなくても、利用したい気持ちにするこのアプリはいいコンセプトだ」と話してくれた。

 

青果店やパン屋も、アプリのおかげで食品ロス削減に貢献をしている。これまで、法律上で廃棄することが決められていた食品を売ることができ、しかも歓迎される。(中略)

「モンブラン」で有名なパリのパティスリー「アンジェリーナ」が、実はアプリを活用している。「お持ち帰り用で」850円のケーキが、アプリを使うと250円で買うことができ、かなりお得になる。

 

「食品ロス」だけでなく「製品ロス」も禁止へ

アプリの認知度が高まる一方、果たして十分に成果はでているのか?

 

アプリの開発者は「3年で1700万食を救うことができた。今後より多くの食品ロスを防げる」と期待感を示した。重要なのは、店側が正直に、まだ食べられる食品を明らかにすることだという。

 

そのため、もし腐ったものが販売されている場合は、管理者が利用者の報告をいち早く察知し、店側に問い合わせることが可能なシステムになっている。

 

利用者が安全に食べられてこそ、食品ロスへの継続的な貢献が可能なのだ。

 

フランス政府はさらに、「食品ロス」だけではなく、食べ物以外の「製品ロス」を2年から4年以内に禁止する方針を発表した。売れ残りを廃棄することを禁止し、寄付またはリサイクルを義務付ける内容だ。

 

果たして、先進国フランスが、無駄の削減に成功するのか今後を見守りたい。【822日 FNN Prime

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このアプリ「TooGoodToGO」については、フランス在住の方のブログなどで紹介もされています。

https://ameblo.jp/latablequotidienne/entry-12430968972.html

http://ma-douce-france.net/2019/06/17/toogoodtogo/

 

「福袋」的な要素がありますので、面白いのですが、素材を使いきる調理技術も必要になります。(購入した商品を余らせ、捨てることになっては元の木阿弥ですから)

 

ちなみに、私はスーパーには閉店も近い時間帯に行って、期限切れが近い3割引き・半額商品をよく買います。

単に「格安品」を買いたいというだけのことですが、結果的には食品ロス削減に貢献もしています・・・ってね。

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イタリア  EU懐疑派の極右「同盟」サルビーニ副首相、総選挙実施で政権主導を狙う 市場は警戒

2019-08-16 22:58:52 | 欧州情勢

(支持者と写真に収まるサルビーニ氏(中央 髭の男性)【812日 WSJ】)

 

【支持率で優位に立つサルビーニ副首相、連立解消で総選挙を目指す】

欧州・EUでは反グローバリズム・反EUの動きが大きなうねりとなっていますが、その代表がEU離脱を目指すジョンソン首相のイギリスです。

 

ここにきて、もうひとつ、EU離脱の方向を目指しそうな動きを示しているのがイタリア。

 

イタリアでは昨年の総選挙で、過半数を占める政党はなかったものの、ポピュリズム政党「五つ星運動」が第1党、経済的に豊かな北部を地盤としてきた移民排斥・極右の「同盟」が第2党となりました。

 

いずれも従来のイタリア政治の枠外にあった政党で、両者はともにEUに対して懐疑的ということでは一致しますが、その他の政策ではあまり類似性がありません。

 

いろいろ紆余曲折はありましたが、大学教授のコンテ氏を首相とすることで、この両党の連立政権が成立しました。

 

基本的な政策で差異の大きい「五つ星運動」と「同盟」ですが、ここのところ「同盟」の支持率が急速に上昇。昨年総選挙時は15%程度だったものが今では40%程度にも。一方の「五つ星運動」は昨年の30%程度から現在は15%程度へ下降。

 

こうした政治事情を背景に、「同盟」党首であるサルビーニ副首相は「今なら選挙に勝てる。過半数確保も・・・たとえ過半数は無理でも、右派政権を主導できる」という思惑で、連立を解消して総選挙に打って出る動きを示しています。

 

ルイジ・ディマイオ副首相率いる「五つ星運動」とコンテ首相は、こうしたサルビーニ副首相の党利党略的とも言える政治的な動きを批判しています。

 

****伊連立政権が危機に、副首相が解散総選挙を要求****

イタリア連立政権で副首相兼内相を務める極右のマッテオ・サルビーニ氏が8日、連立への支持を撤回し、解散総選挙を要求した。同政権は危機にひんしている。

 

右派政党「同盟」を率いるサルビーニ氏は、もう一人の副首相で反既成勢力を掲げる「五つ星運動」の党首であるルイジ・ディマイオ氏と、さまざまな政策をめぐって衝突を繰り返してきた。

 

サルビーニ氏は同日さらに圧力を強め、政権維持に必要な議会での過半数はすでに失われたと述べ、選挙の実施を要求した。

 

サルビーニ氏に加え、セルジョ・マッタレッラ大統領と個別に協議したジュセッペ・コンテ首相は、議会を招集するのはサルビーニ内相ではないと突き放した。

 

その上で同氏に対し、政府の活動を「突如妨害する理由」について、「変化の可能性を信じた国民、有権者に説明し、正当性を示す」よう訴えた。

 

同盟は世論調査で優位に立っており、選挙が前倒しされればサルビーニ氏に有利に働くことが考えられ、同党より小規模で同じく右派の「フォルツァ・イタリア」との連立政権樹立の可能性も出てくる。

 

現地通信社は8日、早ければ20日にも上院が開会され、政権の退陣表明が行われる可能性があると報じた。その後数日のうちに議会解散もあり得るとしている。

 

同国憲法では、議会解散後5070日以内に選挙を実施しなければならないと定められている。 【89日 AFP】

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サルビーニ副首相兼内相は14日にも内閣不信任案を採決に持ち込もうとしていましたが、一応20日以降に先延ばしする形で、ややブレーキがかかりました。

 

****選挙急ぐサルビーニ内相に逆風 イタリア、不信任案採決先延ばし**** 

イタリアで総選挙の前倒し実施を目指すサルビーニ副首相兼内相が13日、「逆風」で譲歩を迫られた。上院でコンテ政権に対する不信任案の14日採決を要求したが、第1与党「五つ星運動」や最大野党「民主党」の抵抗で、審議は来週に先延ばしが決まった。

 

不信任案は9日、サルビーニ氏が提出した。同氏が率いる第2与党「同盟」が不法移民排除で人気を集め、支持率が37%に高まる中、総選挙実施で同盟主導の右派政権発足を狙った。

 

同盟と五つ星の連立政権は昨年6月に発足したが、税制や公共事業など基幹政策で対立してきた。コンテ首相は両党に属していないが、五つ星に近い。

 

上院では13日、不信任案の早期採決に、同盟のほかベルルスコーニ元首相の中道右派「フォルツァ・イタリア」と極右政党が賛成したが、過半数に満たなかった。

 

採決は20日以降に行われることになったが、民主党が五つ星に同調する方針を示したことで、不信任案の成立に不透明感が出てきた。

 

五つ星のディマイオ副首相兼経済発展・労働相は、総選挙について「用意はできているが、決めるのは大統領だ」と述べ、実施には慎重な構え。五つ星の支持率は18%に低迷する。

 

一方、民主党のレンツィ元首相は13日、「上院の決定は、新たな多数派形成の可能性を示した」と発言。コンテ政権が崩壊した場合、五つ星との組閣交渉に前向きな姿勢を示した。

 

上院で不信任案が成立した場合、マッタレッラ大統領は新たな連立政権を模索するか、今秋に総選挙を実施するかの選択を迫られる。【814日 産経】

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このところイタイリア政治は、サルビーニ副首相兼内相の「同盟」とディマイオ副首相兼経済発展・労働相の「五つ星運動」が表舞台にありましたが、ここにきて極右「同盟」と近いベルルスコーニ元首相の中道右派「フォルツァ・イタリア」、「五つ星運動」と連携する動きを見せているレンツィ元首相の「民主党」といった、かつてのイタリア政治を動かしていた勢力の存在も再びクローズアップされてきています。

 

このように目まぐるしい政権交代が起きるというのは、戦後62回の政権交代を経験してきたイタリア政治の「伝統」でもあります。

 

10月にイタリア総選挙、イギリス「合意なき離脱」となると・・・・「リーマンショック」再来か】

「同盟」サルビーニ副首相は10月の総選挙実施を目指しており、そこで過半数確保を狙っています。

総選挙後に「同盟」政権が樹立できれば、目指すところはEU離脱とも言われています。

 

ただ、イギリスと異なり、イタリアは共通通貨ユーロを使用しており、EU離脱のためにはユーロ離脱も必要になります。

 

また、GDP比率で見たとき、イタリアは先進国では日本に次いで高い公的債務を抱えている国です。いわば爆弾を抱えた状態にもあります。

 

こうしたこともあって、EU離脱で迷走するイギリス以上に、イタリアのEU離脱は難しいと思われます。

 

ただ、離脱しないまでも、「同盟」単独政権となると減税などで財政規律が緩むことを市場は警戒しています。

 

****イタリアもEU懐疑派台頭、欧州経済は波乱含み ****

欧州は南北双方で政治の混乱期に突入している。

 

英国とイタリアのカリスマ的な右派政治指導者は、欧州連合(EU)との衝突をもたらす危険な権力拡大を目指している。こうした動きは両国経済を混乱に陥れ、すでに停滞している欧州の成長も阻害する恐れがある。

 

英国のEU離脱(ブレグジット)期限は10月末に設定されている。離脱が混迷を極めるリスクが影を落とす中、世界5位の規模を誇る英経済は既にマイナス成長に転じた。9日発表された4-6月期(第2四半期)の英国内総生産(GDP)は年率0.8%減少。企業信頼感の落ち込みが響いた。

 

英国のマイナス成長は2012年以来だ。

ボリス・ジョンソン首相が1031日に断固としてEUを離脱すると表明したことで政局も揺れる中、弱い統計発表を受けてポンドは一時、数年ぶりの安値に沈んだ。

 

一方、イタリアでは反移民を訴えるマッテオ・サルビーニ副首相が10月の解散総選挙を要求している。世論調査によると、サルビーニ氏は選挙で勝利を収める可能性が極めて高い。

 

サルビーニ氏は9日、連立政権への支持を撤回し、議会に内閣不信任案を提出した。同氏は大型減税を約束しているが、実行に移せばEUの財政規律に違反し、イタリアの重債務を懸念する債券投資家に動揺が広がる恐れがある。

 

政治リスクコンサルティング会社ユーラシア・グループの欧州責任者、ムジュタバ・ラフマン氏は「理由は異なるが、EUが英国とイタリアに約束通りの恩恵をもたらしていないとの考えが強まっている」と指摘。「ジョンソン氏とサルビーニ氏はいずれも、EUに対する交渉力を強めるために国内の過半数を束ねようとしており、似た戦略をとっている」と述べた。

 

両国に迫る異変は、冷戦後の政治体制を巡る揺り戻し現象だ。欧州のみならず世界の多くの有権者が、グローバリゼーションや国際協定、テクノクラート(実務官僚)による政治支配に反旗を翻している。

 

サルビーニ氏が党首として率いる「同盟」のような反体制的な運動や、英保守党のように既存政党でもぜい弱な党に属する政治家の一部は、こうした不満を取り込んでいる。今や2つの欧州主要国で、政治の変化を求める人々が、大きな経済混乱を招くリスクを冒している。

 

ただ、ローマ社会科学国際自由大学(JUISS)のジョバンニ・オルシナ教授は、「両国の大きな違いとして、イタリアは多額の債務と通貨ユーロを持つために複数の面で英国より不利な位置付けにある」と述べている。

 

オルシナ氏は「EU離脱は英国にとって困難ではあるが、実行可能だ」と指摘。「だがイタリアでは、欧州経済と自国経済の統合が深化したため、離脱の代償が高すぎる」と語った。

 

EUはここ10年で、さまざまな危機を切り抜ける力があることを証明してきた。調査によると、欧州有権者の大半は引き続きEUを支持し、しばしば自国政治家よりEUの方に高い信頼を寄せている。

 

2019年終わりにかけての動きは、EUの危機管理能力を再び試すことになるかもしれない。111日には欧州中央銀行(ECB)とEU執行機関である欧州委員会で新たな指導部が誕生する。

 

ジョンソン英首相のEU離脱計画は、今秋のいつかの時点で解散総選挙が起こる原因となる可能性がある。それはジョンソン氏自身の選択かもしれないし、あるいは合意なきEU離脱を阻止するために議員らが強いるからかもしれない。

 

イタリアでサルビーニ氏が指導者の座に就けば、ドナルド・トランプ米大統領やブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領のような、政治の非主流派から台頭した世界のリーダーと肩を並べることになる。

 

大方のエコノミストは、サルビーニ氏が約束している景気刺激策はイタリア経済にとって持続可能な解決策ではないとみている。

 

だが、痛みを伴う構造改革と厳格な財政政策にうんざりしているイタリアの有権者たちは、サルビーニ氏の「代替療法」にチャンスを与えそうだ。

 

金融市場は既に、イタリアの多額の債務が及ぼす影響に不安を募らせている。

 

イタリア政府は2018年の一時期、財政赤字を拡大する案を検討したが、程なく撤回した経緯がある。投資家がイタリア国債に売りを浴びせて国内銀行が打撃を被り、一時リセッション(景気後退)に陥ったためだ。

 

サルビーニ氏のレトリックには、金融市場の懸念の声を押し切り、徹底した減税を実施したい考えが垣間見える。【812日 WSJ】

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サルビーニ副首相は10月の総選挙実施を目論んでいます。

10月にはボリス・ジョンソン首相の「合意なき離脱」も予定されています。

 

双方実現すれば、欧州発の「リーマンショック」再来にもなりかねないと懸念もされています。

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イギリス  ジョンソン首相が旗を振る「合意なきEU離脱」で揺らぐ連合王国の団結

2019-08-13 22:30:51 | 欧州情勢

731日 ジョンソン首相は北アイルランドを訪問して地域政党指導者と会談 「合意なきEU離脱」に反対する北アイルランドのカトリック系地域政党「シン・フェイン党」党首(中央女性)【https://www.youtube.com/watch?v=EXpaKicuQ_g

 

【流れに乗るのがうまいだけの日和見主義者?】

「期限の10月末までに必ず離脱を実現する。〈たら〉〈れば〉はない」と言うボリス・ジョンソン首相の実現で、イギリスの「合意なきEU離脱」がどうなるのか・・・・わかりません。

 

なにしろ、あのトランプ大統領以上に、ジョンソン首相は言うことが時、相手でころころ変わることで昔から有名な人物ですから・・・・。

 

ジョンソン首相が、決して“信念を貫く”ようなタイプ、あるいは“真実を重んじる”タイプの政治家では「ない」ことは、下記の2016年国民投票時のエピソードや、新聞記者としてスタートした際のエピソードで明らかです。

 

****ハードな新英首相に備えよ!****

ボリス・ジョンソンは若い頃からEUの天敵として知られていた。英デイリー・テレグラフ紙の記者としてブリュッセルに駐在していたときは、欧州官僚の悪口をせっせと書き送っていた。

 

しかし、英政府が2016年のEU離脱の是非を問う国民投票を決めたときには心が乱れた。有力政治家として新聞に寄稿するに当たって自分の立ち位置を決めかね、2種類の原稿を用意した。

 

残留支持のバージョンと、断固離脱のバージョン。迷った末に彼が選んだのは後者、EUによる「植民地化」を終わらせろと叫ぶ激烈な一文だった。

 

この選択で彼の政治家人生が、そしてイギリスとヨーロッパの未来が書き換えられることになった。あの国民投票では、反EU派の僅差の勝利に、ジョンソンのカリスマ性が大いに役立った。

 

その後は不運なテリーザーメイ首相(当時)がまとめた離脱合意案を葬り去るのに奮闘した。そして今は保守党内の党首選挙を制して首相となり、世界第5位の経済大国をEU圏外の未知なる領域へ導こうとしている。

 

こういう流れだから、イギリス国民はダウニング街10番地(首相官邸)の新たな住人を信用できない。もちろんジョンソンは今も昔も、与党・保守党の多数派を形成するEU懐疑派のアイドルだ。(中略)

 

しかし、それでも彼の本心(そんなものがあるとすればの話だが)には疑問符が付く。この人物は本当にEU離脱が正しいと信じているのか、それとも流れに乗るのがうまいだけの日和見主義者なのか。

 

彼を嫌いな大にとっては、言うまでもなく答えは後者。興味があるのは権力だけで(5歳の頃には家族に「世界

の王」になりたいと言っていたそうだ)、勝つためなら平気で主義を曲げる。

 

EU離脱をあおるために、イギリスのEUへの拠出金は週に3億5000万ポンド(約470億円)もかかっているという誇大な数字を触れ回った。

 

彼を好きな人たちも、彼が信用できるとは思っていない。(後略)【86日号 Newsweek日本語版】

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****だからボリスは憎まれ、愛される****

1988年、英タイムズ紙の若い見習い記者が、でっち上げの引用をしてクビになった。なぜばれたかと言うと、「引用」に事実の誤りがあり、発言の主とされた著名な歴史家に恥をかかせたからだ。

 

ジャーナリストにとって、でっち上げは最悪の罪。普通ならそこでキャリアが絶たれるが、ボリス・ジョンソンは違った。

 

彼はすぐにデイリー・テレグラフ紙の記者に採用され、外国特派員になり、高給のコラムニストに昇格した。そしてジャーナリズムの世界で得た名声を基に政治家デビューを果たし、ついに首相の座にまで上り詰めた。

 

23歳だった新人記者時代のエピソードは、ジョンソンのキャリアについて重要な2つの点を示している。

1つは性格に難があること。もう1つは、普通なら足をすくわれるはずの失敗を、乗り越える力があることだ。(後略)【86日号 Newsweek日本語版】
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まあ、あえてジョンソン首相をかばって言えば、世の中の政治家の多くが“信念を貫く” “真実を重んじる”タイプではなく、恐らくそうしたことは政治家として役立つ特質なのでしょう。

 

【風は「合意なき離脱も可とする」方に吹いている?】

いずれにしても、彼の本心(そんなものがあるとすればの話ですが)はともかく、離脱に向けた強気の姿勢をアピールすることが、現在の自分の政治的立場にとって必要だという認識はあるでしょう。

 

私だけでなく、今後の展開は誰も(おそらくジョンソン首相自身も)定かではないところですが、総選挙と密接に絡んでくるようです。

 

****政権発足直後に早くも不信任の動き ジョンソン英首相 総選挙実施も*****

7月24日に就任した英国のジョンソン首相に対し、早くも内閣不信任決議案を提出する動きが出ている。

 

保守党など与党勢力は下院で、わずか1議席差でかろうじて過半数を維持しているにすぎず、1人が造反すれば不信任決議案は可決し、総選挙が実施される公算が大きい。

 

そうなれば、ジョンソン氏が「いかなることがあっても実現する」と公約した10月末までの欧州連合(EU)からの離脱に関し、「合意なき離脱」が現実味を帯びる。

 

「経済を混乱させる合意なき離脱を阻止する」

最大野党・労働党のコービン党首は5日、英中部ダービーシャーで記者団にこう訴え、ジョンソン氏がEUとの合意なき離脱を辞さない構えをみせていることを理由に不信任決議案を提出する意向を表明した。

 

不信任決議案提出のタイミングは、夏季休会中の議会が再開する9月3日以降、「かなり早い適切な時期」に設定するという。

 

与党勢力の基盤が不安定なため、不信任決議案が可決する可能性は高い。(中略)

 

コービン氏が狙うのは、不信任決議案の可決でジョンソン内閣を総辞職に追い込むことだ。しかし、政権交代を狙うコービン氏らが首相に就くために必要な下院の過半数を得る保証はない。

 

また、ジョンソン氏は下院解散の時期を遅らせることで、離脱期限の10月末以降の総選挙実施をもくろんでいるとされる。混乱の中、自動的に合意なき離脱を実現する方策だ。

 

総選挙を意識してか、ジョンソン氏は首相就任後、国内向けの政策を相次いで発表している。7月末には合意なき離脱に備えた医薬品の確保などのため、21億ポンド(約2700億円)の追加予算を表明。5日には、英国内の病院の病床数の拡大や病棟の増築を行うため、18億ポンド(約2310億円)を拠出すると明らかにした。

 

野党議員の一人は「ジョンソン氏は国内向けの政策を充実させて国民の支持を急いで集めようとしている。総選挙に備えている証拠だ」と指摘する。

 

保守党のクレバリー幹事長は4日、英スカイニューズ・テレビに対し「保守党は総選挙を始めるつもりはない」とした上で、労働党の不信任決議案提出が「総選挙実施の引き金になる可能性がある」と認めた。【89日 産経】

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ジョンソン首相の心中を推察すれば・・・

 

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新首相の立場で考えてみよう。2016年の国民投票の結果から見ても、今次の保守党党首選挙の結果から見ても、風は明らかに「合意なき離脱も可とする」方に吹いているではないか。

 

優柔不断の誹りを免れ得なかったメイ前首相と違い、自分は不退転のリーダーなのだとアピールしつつ、ブレグジット党(旧・英国独立党が、保守党を離れた強硬離脱派を糾合して、新たに旗揚げした)とも連携して総選挙に臨んだならば、勝機はある。

 

これが(本稿の〈上〉で述べた通り)、事実上、再度の国民投票になったとしても、またしても離脱派が勝つのではないか。【87日 林信吾氏 Japan In-depth

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実際、世論調査結果でも・・・。

 

****何としてでもEU離脱実現すべき、英国民の過半数支持=世論調査****

英紙デイリー・テレグラフがまとめた世論調査によると、ジョンソン英首相は、議会を休会させてでも欧州連合(EU)からの離脱を断行すべきだと英国民の過半数が回答した。ジョンソン氏は、EUと合意できなくても10月31日に離脱すると表明している。

調査では「ジョンソン氏は、議会がEU離脱を阻止しようとすることを防ぐために必要なら議会を休会させるなど、あらゆる手段を使って離脱を実現すべきだ」との考えについて、54%が支持する、46%が支持しないと回答した。

どちらか分からないと回答した人を含まず、1645人の回答をまとめた。

1783人の回答を基にすると、保守党の支持率は6%ポイント上昇して31%。野党労働党は27%だった。【813日 ロイター】

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本当かね・・・・上記結果で意外です。

メイ首相の頃までは、残留派が離脱派を上回っているという調査結果が出ていたように思うのですが・・・

まあ、2016年も大外れでしたから、あまり細かい数字を詮索しても仕方ないのかもしれませんが。

 

直近の選挙結果はジョンソン首相には手痛いものでした。

 

****下院補欠選で敗北 ジョンソン首相に打撃****

英国で、ボリス・ジョンソン首相が就任後初めて迎えた下院補欠選挙の投票が1日に行われ、ジョンソン氏率いる与党・保守党の候補が欧州連合残留派の野党候補に敗れた。

 

これにより、下院での与党側と野党側の議席数の差はわずか1議席となり、ジョンソン氏に打撃を与えた。

 

英西部ウェールズのブレコン・アンド・ラドノーシャー選挙区で行われた今回の補欠選は、EU離脱(ブレグジット)派で保守党員の現職と、残留派の自由民主党候補という分かりやすい二択となった。

 

定数650の下院は、ブレグジットをめぐり党派を超えて分裂。命運を分ける投票時にも、造反や棄権が間々ある。

 

今回の敗北により、ジョンソン首相は夏季休暇明けの来月3日に開会する議会で、難しい運営を迫られることになり、第2次世界大戦後の英国史上最も重大な局面の一つを、数人の議員の気分に委ねざるを得ない状況に置かれた。 【82日 AFP】

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“数人の議員の気分に委ねざるを得ない状況”は、この補欠選挙で勝とうが負けようが同じですが、離脱・残留の二択で敗北したということが影響が大きいようにも思えます。

 

【強硬離脱を選べば連合王国の団結が揺らぎかねない】

ここまでの話は(長くなりすぎましたが)前置きで、今日の本題は「合意なきEU離脱」となったときに焦点となる北アイルランド問題の話です。

 

****合意なきEU離脱はアイルランド島統一につながる、アイルランド首相が見解****

アイルランドのレオ・バラッカー首相は26日、英国の欧州連合離脱(ブレグジット)について、英国が合意なき離脱に踏み切れば、北アイルランドでは英領に残ることを疑問視する住民が増え、ひいてはアイルランド島の統一につながる可能性があるとの見解を示した。(中略)

 

離脱協定案の争点となっているのは、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドとの境界で離脱後に必要になる厳格な国境管理を回避するための「バックストップ」条項だ。バックストップ条項によれば、英国は離脱後もEU単一市場にとどまることになる。

 

日刊紙アイリッシュ・インディペンデントなど各メディアが報じたところによると、バラッカー氏はアイルランド北部ドニゴール州のサマースクールで、英国が合意なき離脱に突き進めば北アイルランドの住民たちはイングランド、スコットランド、ウェールズと共に連合王国(英国)の一員であることに疑問を持つようになるとの見解を示し、「北アイルランドで穏健派ナショナリストや穏健派カトリックを自認し、おおむね現状に満足していた住民たちの関心はアイルランドとの統一に向かうだろう」と述べた。 

 

バラッカー氏は離脱協定が成立するためにはバックストップ条項が必要との考えだが、1031日の期限までのEU離脱に威信をかけるジョンソン氏はバックストップ条項の破棄を公言。EUが新たな交渉を拒絶すれば、英国は合意なき離脱に踏み切ることになる。 【728日 AFP】

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一方、ジョンソン首相は・・・

 

****英首相、「アイルランドを救う」ためEUが譲歩と予想=サン紙****

ジョンソン英首相は、欧州連合(EU)離脱を巡る協議でEU側が土壇場で譲歩し、「アイルランドを救う」ため合意に応じると考えている。英紙サンが12日、関係筋の話として報じた。

同紙によると、合意なき離脱で最大の打撃を受けるのはアイルランドであり、ジョンソン首相はアイルランド国境問題を巡るバックストップ(安全策)でEU側が譲歩すると確信しているという。

EUはこれまでに、メイ前英首相と合意した離脱協定案を再交渉する用意はないとの立場を示している。【813日 ロイター】

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これは、ションソン首相お得意の、根拠もない、都合のいいホラ話の類のようにも思えます。

 

****イギリスが強硬離脱すれば、南北アイルランドは統合へ向かう****

<北アイルランド紛争が終結して20年余り、EU離脱で国境が復活すれば南北統合の機運は高まる>

(中略)北アイルランドの平和(と、それなりの繁栄)は多くの血であがなわれた。しかし今、それが新たな脅威にさらされようとしている。

「ブレグジット(イギリスのEU離脱)のせいだ」と、英クイーンズ大学ベルファスト校教授のコリン・ハーベイは言う。「イギリスがEU離脱を決めてから状況は急激に悪化した」

アイルランドの寛容化
北アイルランドとの「連合王国」を形成するイギリスが10月末に合意なき離脱に踏み切れば、この国境線はその日から、再び越えられないものとなる。北アイルランドは連合王国の一部としてEUを離脱することになるが、南のアイルランド共和国はEUの忠実な加盟国だ。この分断は経済から政治、治安の問題まで深刻な影響を及ぼす。

それだけではない。いざEU離脱となれば、北アイルランドの人たちは「自分はどこの国の人間か」という深刻な問いを突き付けられることになる。この島は南北に分断されているよりも、統合されたほうが幸せなのではないか。和平成立後は忘れられていたそんな疑問が、再び頭をもたげている。

こうした論争は、今や親英派か親アイルランド派かという従来の対立軸を超えて広がっている。穏健な親英派を代表するアルスター統一党(UUP)の前党首マイク・ネスビットでさえ「親英派住民の多くが、南北統合でEUに残るべきか、EUを離脱してイギリスに残るべきかで悩んでいる」と語る。

アイルランドの南北統合というテーマは、ブレグジットをめぐる大混乱がもたらした予期せぬ副産物と言えそうだ。

(中略)英リバプール大学教授で両国関係に詳しいジョン・トンジによれば、今年に入ってからの世論調査では「北アイルランド住民の50%前後が、自分は親英でも親アイルランドでもないと答えている」。この数字は1998年の和平合意時点では約33%だったし、紛争の続いていた時期にはもっと低かった。

一方、南北アイルランドが統合されたら厳格なカトリック教会の支配下に置かれるというプロテスタント系住民の昔ながらの懸念は、南の社会の劇的な変化によって薄らいでいる。

 

カトリックのアイルランドは2015年に同性婚を合法化、昨年には中絶も自由化し、今や北よりも寛容な社会になっている。「今のアイルランドは近代的な多元主義の民主国家だ」とトンジは言う。

北の世論は「EU残留」
(中略)ブレグジットが決まった時点で、1998年の和平合意の理念は破棄されたに等しい。マキューエンは言う。「北アイルランドの詩人ジョン・ヒューイットの言葉を借りるなら、『私はアルスターの男でアイルランド人でイギリス人、そしてヨーロッパ人だ。どれか1つでも欠ければ私は否定される』のだ。ところがブレグジットは、私たちのこうしたアイデンティティーを突き崩す。おまえはアイルランド人でもヨーロッパ人でもあり得ないと宣告されるに等しい」

そして経済の問題がある。北アイルランド経済省の7月の報告によれば、イギリスの合意なきEU離脱は「直ちに極めて深刻な影響」をもたらす。人口180万人の北アイルランドで約4万人分の雇用が失われかねないという。

「あらゆる経済指標が既に下降している。どこまで下がるか分からない」と、ベルファストにあるネビン経済研究所のポール・マクフリンも言う。(中略)


南北の統合を求める声
(中略)4月段階の調査によると、南側では有権者の62%前後が南北統合を支持。一方、北では3月の調査で45%が統合に反対し、賛成は32%にとどまった。ただし「分からない」という回答も23%あった。

「『分からない』派の多くが支持に転じたら僅差の勝負になる」とリバプール大学のトンジは言う。「離脱後に国境管理が厳しくなればなるほど、統合への支持が増えるだろう」

イギリスのボリス・ジョンソン首相は「合意なき離脱」に舵を切っているから、リアルな国境が復活する可能性は高い。それを見越して、アイルランドのレオ・バラッカー首相は726日の演説でこう言ったものだ。「皮肉なもので、強硬離脱を選べば(大ブリテンと北アイルランドの)連合王国の団結が揺らぎかねない」と。

そのとおり。トンジも言う。強硬離脱のシナリオは「連合王国の一体性に対する前例のない挑戦を招いている。北アイルランドだけでない。スコットランドやウェールズにも反発がある。30年後も連合王国が今の形で存続しているかと問われれば、極めて難しい問題だとしか答えようがない」。【81320日号 Newsweek
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ちなみに、スコットランドでの世論調査によると、スコットランドの独立の是非を問う投票が実施された場合、賛成票を投じるとの回答が過去2年あまりで初めて多数派を占めたとも。【85日 ロイターより】

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欧州  揺らぐドイツ連立政権 躍進した「緑の党」 極右への対抗軸へ 今後もEUを牽引する独仏

2019-06-16 22:22:38 | 欧州情勢

(欧州議会選の速報を聞いて喜ぶ緑の党のアンナレーナ・ベーアボック代表(前列右から2人目女性)ら=ベルリンで526日 【615日 毎日】)

 

【ドイツ 中道二大政党の低迷 連立維持も危うい状況】

ドイツでは20113年以降、メルケル首相のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)の連立政権が続いていましたが、5月下旬の欧州議会選でこの二大政党の著しい退潮が明確になり、党首の責任が問われる状況ともなって、連立政権の維持も危うい情勢になっています。

 

****ドイツ社会民主党の党首が辞任へ 連立解消の動き加速か****

ドイツの連立与党の一角、社会民主党(SPD)のナーレス党首(48)は2日、党首と連邦議会議員団長をともに辞める意向を示した。

 

5月下旬の欧州議会選で大きく議席を減らし、責任を問う声が強まっていた。辞任によって連立解消に向けた動きが加速する可能性がある。

 

SPDは、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)との連立を続け、メルケル政権を支えている。今回の欧州議会選では、得票率が15・8%と、前回2014年の選挙より11ポイント以上も下落。緑の党に抜かれ3位に後退した。

 

17年の総選挙でも戦後最低の得票率を記録し、党勢は落ち込む一方だった。党内からは、連立を解消して独自色を打ち出すべきだとの声が根強くある。(後略)【62日 朝日】

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****メルケル独首相後継者にも辞任論、政権ピンチ****

メルケル独首相の後継と目される、中道右派・キリスト教民主同盟(CDU)のクランプカレンバウアー党首が失言により危うい立場に置かれている。辞任すれば党内の保守色が強まる可能性が高く、大連立を組む中道左派・社会民主党(SPD)の離脱とメルケル政権崩壊を早めかねない。

 

辞任論の引き金となったのは5月末の欧州議会選挙だ。投票の1週間前、若者に人気の男性ユーチューバー「レゾ」が、「CDUの破壊」という動画をインターネット上にアップした。55分間にわたり、気候変動対策の遅れなどを批判した。動画は1週間で約1000万回視聴された。

 

CDUは投票日前に文書で反論したが、国政会派キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の選挙結果は前回比6・4ポイント減の得票率28・9%と低迷。

 

クランプカレンバウアー氏は選挙後、「仮に新聞社が投票の2日前にCDUとSPDに投票しないように呼び掛けたら、世論操作になる。世論操作に対してデジタル分野ではどのような規制が有効なのかが問題だ」と述べ、ネット上の発言を規制する可能性に言及した。

 

この発言に批判が殺到。ユーチューバーらによるネット上の抗議の署名は8万3000人(10日時点)を超え、党幹部からも「基本法(憲法)はすべてのメディアに表現の自由を保障している」などと批判が噴出した。(中略)公共放送ARDは、メルケル氏がクランプカレンバウアー氏を次期首相に適任ではないとの判断に至ったと報じた。

 

クランプカレンバウアー氏は昨年12月、保守色の強いメルツ元党連邦議会会派代表を破って新党首に選出された。辞任すれば、後任次第でメルケル氏の穏健な中道路線から、保守色を強く打ち出す方向へと転換。大連立を組むSPDとの路線対立が決定的となり、大連立政権が立ちゆかなくなる可能性が高い。

 

大連立を巡っては、大連立の継続を主張していたナーレスSPD党首が3日に辞任したばかり。国政第1党・CDUと第2党・SPDの近年の党勢低迷はともに、大連立により政策の違いが見えなくなった中道路線が一因とされる。【611日 毎日】

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これまでの政治を主導してきた中道・穏健路線が有権者から見放され、ポピュリズム的な政党を含む左右の過激な勢力が台頭する形で国内で分断が進む・・・というのはドイツに限らず欧州やアメリカでも見られる最近の政治の流れです。

 

【「緑の党」ドイツでは支持率1位に 欧州全体でも「緑の波」】

そうした流れを受けて、左右の中道政党に代わって台頭してきた極右・ポピュリズム政党、ドイツで言えば「ドイツのための選択肢(AfD)」が注目を集めていますが、ドイツではAfD以上に躍進したのが「緑の党」です。

 

今や、社会民主党(SPD)はおろか、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)さえ凌ぎ、第1位の支持率になっています。

 

****独与党連合支持率が過去最低、緑の党との差が拡大=世論調査****

8日に発表された調査機関フォルサの世論調査で、ドイツのメルケル首相率いる保守系与党連合の支持率が過去最低に落ち込むとともに、再び伸びてきた緑の党との差が拡大している。

連立政権に対する幻滅感の強まりが反映された格好。主に連立与党の一角である社会民主党(SPD)内部の混乱から、2021年の任期満了まで連立が維持できるか疑念が高まっており、いまや多くの専門家が来年に連邦議会選挙が実施される可能性が高まりつつあるとみている。

調査では、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の保守連合支持率が24%で、前週から2ポイント低下。SPDの支持率は過去最低水準の12%と、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と同水準にとどまった。

欧州全域にわたる気候変動への懸念の高まりを追い風に欧州議会選で第2党に躍進した緑の党の支持率は、トップの27%だった。【610日 ロイター】

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欧州全体で見ても、「緑の波」とも称される「緑の党」系環境政党の躍進が見られ、その存在は移民排斥を掲げる右派ポピュリズム勢力に対する「防波堤」ともなっています。

 

****欧州政治に「緑の波」 欧州議会選挙で4番目に躍進****

欧州政治で「緑の党」系環境政党が存在感を強めている。5月下旬に実施された欧州連合(EU)の欧州議会選挙で4番目に大きな会派に躍進し、分極化が進んだ欧州議会で多数派形成のカギを握る存在となった。地球温暖化対策を求める若者たちのデモの拡大が、「緑の波」をもたらしたと指摘されている。

 

欧州議会選で、「緑の党」系会派は定数751のうち75議席を獲得(11日現在)、改選前の52議席から大きく勢力を伸ばした。左右の中道勢力が初めて過半数を割るなか、EUの気候変動対策や環境規制で一定の影響力を及ぼしそうだ。

 

「緑の党」系会派の政党は西欧や北欧の加盟各国で支持を伸ばしたが、特に顕著だったのがドイツだ。得票率は20.5%で前回から倍増し、政党別で2位になった。出口調査によると29歳以下で3人に1人から支持を受けた。

 

選挙後の複数の世論調査では、初めてメルケル首相率いる与党を上回り、支持率首位に躍り出た。ルーバン・カトリック大学(ベルギー)のバージニー・バン・インゲルゴム特任准教授(政治学)は「気候変動のような地球規模の問題は、(加盟国レベルよりも)欧州レベルで取り組むべきだとの考えが有権者に広がっている」と指摘する。

 

緑の党の躍進を報じた複数の欧州メディアは「グレタ効果」と呼んだ。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(16)が契機になった気候変動の危機を訴える若者たちによる抗議活動が、支持拡大に影響したとの見方だ。

 

各地に広がった抗議活動は学生が主体だったが、支持層は親の世代などにも拡大。域内の市民を対象に実施したEUの世論調査では、気候変動対策を選挙の主要な争点と考える人の割合は、この半年間で若者と高学歴層を中心に上昇した。

 

「緑の党」の伸長は、移民排斥を掲げる右派ポピュリズム勢力の「防波堤」としても働いた。今回の選挙では、中道2大会派の合計議席は過半数を割ったが、リベラル系と緑の党を合わせた親EU4会派で3分の2を確保。

 

緑の党は、社会的少数者の権利保護を訴えて右派ポピュリズム政党への対抗軸となり、排外主義の広がりに危機感を持つEU支持層の受け皿となった。

 

環境政策を巡るEUの当面の焦点は、温室効果ガスの長期削減目標だ。「緑の波」に後押しされ、欧州委員会やフランスなどはEU全域で2050年までに温室効果ガスを「実質ゼロ」とする目標の合意を目指す。エネルギー分野への投資を含めて従来の取り組みの延長では実現が難しい意欲的な目標で、加盟国の姿勢にはまだ開きが大きい。【615日 毎日】

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【既成政党への幻滅 極右勢力への対抗軸として支持を集める「緑の党」】

もちろん、「緑の党」躍進の背景には気候変動など環境政策への関心の高まりがあり、「グレタ効果」も一定にあったでしょうが、それだけではないようにも見えます。

 

これまで政治を担ってきた左右の中道政党にはもはや期待できない、一方で、極右勢力の拡大が予想されるという状況で、極右勢力への対抗軸として「緑の党」への支持が集まったようにも思われます。

 

****欧州議会選で「緑の党」が大躍進した理由は環境だけじゃない****

<欧州議会選挙でグリーン派が第4勢力に――極右勢力への対抗軸として支持が広がっている>

気候変動が地球環境にもたらすであろう衝撃に比べれば、先の欧州議会選挙における勢力図の変化などは取るに足りないことかもしれない。しかしそこに、欧州政治の静かだが歴史的な変化を予感させるものを読み取ることもできる。グリーン(緑の党)と総称される環境保護勢力の躍進だ。

メディアの関心は極右政党がどこまで躍進するかに集まっていたから、グリーンの台頭に気付くには時間がかかった。しかし今回の選挙で、各国のグリーン派は既成政党に挑戦状を突き付ける一方、各国の政治をむしばむポピュリストの脅威への対抗軸を示したのではないか。

ドイツでは、緑の党がアンゲラ・メルケル首相の率いる中道右派・キリスト教民主同盟(CDU)に次ぐ議席を獲得。フランスでも左右の既成政党を押しのけて3位を確保。イギリスではテリーザ・メイ首相率いる保守党を破り、ジェレミー・コービン率いる最大野党・労働党を脅かすまでの健闘を見せた。

国境を超えた会派で構成される欧州議会の議席数で見ると、グリーン派は今回の選挙で22議席増の74議席を獲得、ついに4番目に大きな勢力となった。

 

単独過半数の会派はないから、EU首脳人事での発言権は増すし、二酸化炭素(CO2)の排出削減はもちろん、寛容で人道的な移民・難民政策の推進も主張しやすくなるだろう。

グリーン派が躍進したのはなぜか。最もシンプルな答えは地球温暖化に対する懸念の広がりだが、それだけではない。

左右対立の構図は古い
英シンクタンク「欧州改革センター」のソフィア・ベッシュに言わせれば、20世紀後半以降の欧州各国および欧州全体の政治を支配してきた中道右派と中道左派の二大潮流に「ヨーロッパの未来は任せられないという思いが有権者にはあった」。

 

右ポピュリズムの台頭でEUの根幹が揺らぎそうな今だからこそ、EUの統合深化を明確に支持するグリーン派が極右の対抗軸になり得たという事情もありそうだ。

EU
離脱に揺れるイギリスでグリーン派が議席を伸ばしたのは、有権者に既成政党、とりわけ中道左派への幻滅があるからだ。

 

イングランドとウェールズの緑の党を率いるジョナサン・バートリーは言う。「1%の超富裕層からの富の再分配を求める私たちを左派と決め付ける人もいるが、実際は労働党だけでなく、保守党からも私たちに票が流れている。もはや昔のような左派と右派の対立という構図は崩壊している」

その崩壊の恩恵を受けたのはグリーン派だけではない。いわゆる自由主義派(欧州では企業寄りで市場の自由を尊重する中道右派を指す)も議席を増やしたし、環境保護政策に反対する極右勢力も台頭した。

それでも、若い世代の間でグリーン派への支持が広がっているのは朗報と言えるだろう。ドイツ緑の党のスベン・ギーゴルドによれば、2年前の国政選挙で極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」になびいた若者たちも、今回は温暖化対策に後ろ向きなAfDに背を向けたという。

 

ただし「この傾向がずっと続く保証はない」とギーゴルドは言う。今後は極右や既存の主要政党も、環境政策重視に舵を切ると考えられるからだ。

そうなると、既成政党との連立協議などでグリーン派の環境政策が薄められる恐れもある。それに耐える余力が、今の地球にあればいいが。【613日 Newsweek
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【足元が揺らぐ独仏だが、EUを牽引するのはやはり両国】

上記のような「緑の党」躍進はあるものの、当面の現実論としては、イギリス離脱後のEUを牽引していくのは、国で見るとやはりドイツであり、フランスです。

 

ドイツ・メルケル政権の内情は前述のとおりですが、フランス・マクロン大統領も極右ルペン氏の勢力に敗北し、芳しい状況にはありません。さはさりながら・・・・というところです。

 

****ヨーロッパを率いるのは誰か?揺らぐ2大大国****

ヨーロッパをけん引してきた2つの大国、ドイツとフランス。しかし、ドイツのメルケル政権、フランスのマクロン政権ともに国内での支持離れが進み、足元が揺らいでいます。混迷するヨーロッパの未来、一体誰が率いていくのでしょうか。

 

メルケル政権崩壊の危機

(中略)

 

仏の希望の星にも逆風

一方のフランス。さっそうと現れた希望の星、マクロン大統領も、強い逆風に直面しています。

就任当初、「フランスとドイツは改革の機運を作ることができる」とドイツに協力を求めました。

メルケル首相は「強いフランスがなければ、ヨーロッパもドイツもうまくいかない」と連携に積極的な姿勢を歓迎。多くのドイツ国民も、マクロン大統領が掲げるヨーロッパの将来像に共感し、大きな期待を寄せました。

それから2年。事実上の信任投票となったヨーロッパ議会選挙で、マクロン大統領の政党はEU懐疑派のルペン党首が率いる極右政党・国民連合を下回る結果となりました。去年11月の燃料税引き上げをきっかけに反政権デモが全国に拡大し、逆風をまともに受けた形です。

 

独仏間のすきま風

中小規模の国々がひしめくヨーロッパ。超大国アメリカや中国と対抗していくためには個々の国々では歯が立たず、EUのもとに団結する強いヨーロッパが必要だーードイツやフランスはヨーロッパの統合が欠かせないと考えてきました。

しかしどこまで統合を進めるのかをめぐって、独仏間には深い溝があります。

マクロン大統領が提唱するEU改革の柱は財政面での統合強化です。具体的には通貨ユーロに加盟する国々の間で共通の予算をつくり、豊かなドイツなどの北部の国々が持つお金を財政難が続くギリシャやイタリアといった南部の国々に振り分けよう、という考え方です。

しかしドイツ国民の間では「自分たちの支払った税金が放漫財政の国々の穴埋めに使われることになるのではないか」との警戒感がぬぐえません。メルケル首相もマクロン大統領の提案には冷ややかです。

さらにドイツとフランスの溝はEUの人事をめぐっても表面化しています。(中略)

 

誰がヨーロッパを率いるのか?

ユーロ危機やウクライナ問題で指導力を発揮し、「ヨーロッパの盟主」と呼ばれるようになったドイツ。しかしその間、ユーロ危機で緊縮財政を主張し続け、南ヨーロッパ諸国から反発を生んだほか、中東などからの難民受け入れも、EUに懐疑的な感情を高めるきっかけとなりました。

さらにギリシャ政府がドイツ政府に対し、第2次世界大戦中のナチス・ドイツによる占領などに対する賠償金の請求を行う考えを示すなど、歴史問題も再燃しています。

「強すぎるドイツ」に対する警戒感を抑え、ヨーロッパ内のバランスをとる意味で、ドイツはフランスというパートナーが必要です。

一方、フランスにとっても、ヨーロッパで突出する経済力を持つドイツの後ろ盾が欠かせません。過去に繰り返し戦火を交えてきたかつての宿敵との友好関係はEU発足の原動力となり、その理念は今も失われていません。

 

EUは現在、28もの国々の集合体になりました。しかし今年10月にイギリスが離脱すれば、ドイツとフランスの2か国だけでEUのGDPの40%強を占めることになります。政治的にも経済的にも、この2か国が協力してEUを引っ張っていくしか道がないのが現状です。

世界では今、アメリカのトランプ大統領が国際協調から背を向け、ロシアや中国がEUの周辺国にも影響力を強めようとしています。

EUが国際社会の重要なプレーヤーとして存在感を保っていけるのか。ヨーロッパ統合の軸となってきたドイツとフランスはEU創設以来の正念場を迎えています。【614日 NHK

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ドイツ  反ユダヤ主義の拡大・顕在化 キッパ着用でユダヤ教徒への連帯を呼びかける

2019-05-28 22:33:46 | 欧州情勢

(エルサレムのホロコースト記念館で201810月4日、犠牲になったユダヤ人を追悼し、献花するドイツのメルケル首相=ロイター【2018105日 朝日】)

 

【キッパ着用を控えなければいけないのら「我々は歴史と向き合うことに失敗したのだ」】

およそ人間というものは、異質な他者を差別することで安心感や優越感を得る生き物のようで、どのような社会にも“差別”が存在します。差別は、貧困や格差に対する不満の“はけ口”になりやすいようにも思われます。

 

欧州であれば、差別の対象になりやすいのが、歴史的・宗教的にユダヤ人であったり、ロマ(ジプシー)であったりします。

 

そうした、いわれき差別は、教育の拡充や社会の成熟とともに本来薄れていくのでは・・・との期待もありますが、現実問題としては、ここ数年、むしろ差別が顕在化する流れにあります。

 

かつてホロコーストを生み、厳しい反省のうえに成り立っているはずのドイツ社会にあっても、ユダヤ人差別が現実の脅威となるような事態が起きています。

 

反ユダヤ主義の脅威の高まりに対し、ドイツ政府が「(ユダヤ人への暴力を未然に防止するため)ユダヤ教徒がキッパ(信者の男性がかぶる伝統的な帽子)を着用することは勧められない」としたことが、大きな反発を招きました。

 

批判を受けて、一転、キッパ着用でユダヤ教徒への「連帯」を示すことを呼びかけることに。

 

****ドイツ政府、ユダヤ教徒の帽子着用で「連帯」を呼び掛け****

反ユダヤ主義が勢いを増すドイツで、恒例のイスラエルへの抗議デモを今週末に控え、政府はユダヤ教徒に連帯を示す手段として、信者の男性がかぶる伝統的な帽子「キッパ」の着用を市民に呼び掛けている。同政府は、キッパをかぶることは危険だとした警告を撤回した形だ。

 

ドイツ政府内で反ユダヤ主義対策を率いるフェリクス・クライン氏は先週末のインタビューで、ドイツ国内のあらゆるところで常にユダヤ教徒がキッパを着用することは勧められないと述べ、騒動となった。

 

イスラエルのレウベン・リブリン大統領はクライン氏の発言にショックをあらわにし、ドイツに暮らすユダヤ教徒は安全でないことが示されたと述べた。

 

だが27日になり、クライン氏はシュテフェン・ザイベルト首相報道官による介入を受け、前言を撤回。「61日のアルクッズ(エルサレムの意)の日にベルリンで、イスラエルやユダヤ教徒に対する容認し難い攻撃があった場合、ベルリンと全国の市民に対し、キッパを着用することを呼び掛ける」と発表した。アルクッズはイスラエルのエルサレム支配に抗議する毎年恒例の行事で、来月1日に予定されている。

 

ザイベルト首相報道官は記者会見で「自由な信仰が全ての人々にとって可能であるように、政府は配慮しなければならない。そしてキッパを着用した人が十分安全に、わが国のどこにでも行けるよう取り計らう義務がある」と述べていた。(中略)

 

他の西欧諸国同様、ドイツでも近年、反ユダヤ主義や人種差別に基づくヘイトスピーチや暴力が増加しており警戒されている。ドイツ内務省の統計によると、昨年は反ユダヤ主義の犯罪が20%増加。こうした犯罪の90%が極右勢力によるものだという。 【528日 AFP】

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反ユダヤ主義対策を統括する責任者が「キッパを着用することは勧められない」と発言したことは、現実対応的なものではありますが、ホロコーストなどの歴史に向き合い、克服しようとのドイツの試みが“失敗”したことを認め、そうした現状を追認するものとも考えられ、大きな批判を受けています。

 

****独紙、1面に「切り取り用」のユダヤ帽 着用呼び掛け****

 独紙ビルトは27日付の1面に、「キッパ」と呼ばれるユダヤ帽の切り取り用イラストを掲載した。政府高官がユダヤ人らにキッパ着用を控えるよう勧告したのに対し、読者が連帯を示すために切り取って使おうと呼び掛けた。

ビルトは公式サイトに掲載した動画で、イラストを切り取って帽子にする方法も紹介している。

 

同紙のユリアン・ライヒェルト編集局長は「着用して友人や近所の人たちに見せてください。子どもたちにキッパのことを説明してください」「キッパをかぶった写真をフェイスブックやインスタグラム、ツイッターに投稿してください。これを着けて街に出てください」と書いている。

 

独政府の反ユダヤ主義対策を統括する責任者が最近、ユダヤ人を狙った襲撃事件などの増加を受け、公共の場でのキッパ着用は勧められないと発言したことに対し、ライヒェルト氏は強く反論。「もしそうならば、そして今後もそうあり続けるなら、我々は歴史と向き合うことに失敗したのだ」と主張した。

 

そのうえで読者に対し、「自分の身を危険にさらさずにキッパを着けることができない、という人が国内に1人でもいるなら、答えはただひとつ。みんなでキッパをかぶろう」と呼び掛けた。【528日 CNN】

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【反ユダヤ主義者が増えたというより、「かつてはタブーとされていた意見を口に出せる雰囲気になったため」】

ドイツを含めた欧州における反ユダヤ主義の拡大は、220日ブログ“フランス、そして欧州全土で「毒のように広がる」反ユダヤ主義 コービン英労働党党首は反ユダヤ?”でも取り上げました。

 

****欧州に根強い反ユダヤ主義、新たな広がりも CNN調査****

 欧州で長年の歴史を持つ反ユダヤ主義が、現在も各地に根強く残り、さまざまな形で新たに顕在化していることが、CNNの調査で明らかになった。

 

CNNはこのほど、欧州7カ国の成人7000人以上を対象に実施した調査などを基に、反ユダヤ主義の現状をまとめた。

 

その結果、ユダヤ人に対する古くからの固定観念が欧州全体に残っていることが分かった。

 

調査対象者のうち、ビジネス・金融分野については4人に1人以上、メディア・政治分野については5人に1人が、ユダヤ人の影響力は強すぎると感じていた。特にハンガリーでは42%が、ユダヤ人は世界のビジネス・金融に過大な影響力を持っていると答えた。

 

反ユダヤ主義の問題が深刻化しているとの認識を示す人は44%を占める一方、自国での反感は主にユダヤ人自身の日常的な行動が原因だと考える人も18%に上った。

 

ポーランドでは50%の人が、ユダヤ人はホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺)を利用してのし上がろうとしているとの見方を示した。ハンガリーでは、ユダヤ人に不快感を抱いたことがあるとの回答が19%に達した。

 

ポーランドのラビ(ユダヤ教指導者)を代表するマイケル・シュードリッヒ氏はこの現状について、反ユダヤ主義者が増えたというより、「かつてはタブーとされていた意見を口に出せる雰囲気になったため」と分析する。

 

ドイツでは難民の大量流入に反発して極右勢力が台頭し、難民だけでなくユダヤ人の排斥も堂々と主張するようになったという背景がある。

 

首都ベルリンで取材した右翼団体の集会には、刑法で禁止されたナチス式の敬礼をしてみせる男性や、ユダヤ人の秘密結社が世界を支配しているとの説を唱える参加者がいた。

 

ユダヤ人の間では、欧州で増え続けるイスラム系移民や、パレスチナ紛争をめぐりイスラエルに強い反感を持つ左翼からの反ユダヤ感情を恐れる声も強かった。

 

全体として、反ユダヤ主義が顕在化してきた背景にはいくつもの要因が複雑に絡み合い、特効薬となる解決策はないことがうかがえる。

 

反ユダヤ主義を抑えるために、ホロコーストを記憶にとどめる教育が有効だという意見は全体の半数を占めた。

 

だが一方で、ホロコーストの知識が全く、またはほとんどないと答えた人が3分の1を超えている。フランスでは若年層の20%が、ホロコーストを「聞いたこともない」と答えた。

 

シュードリッヒ氏にこの統計への感想を尋ねると、一瞬の沈黙に続き、「私にはまだやるべき仕事があるという気持ちにさせられる」との答えが返ってきた。【20181127日 CNN】

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「かつてはタブーとされていた意見を口に出せる雰囲気になったため」・・・・非常に重要な論点だと思われます。

 

SNSなどで、フェイクニュースを含む無責任な発信が溢れている現状、政治的にはトランプ大統領の登場以来、ポリティカルコレクトネスを気にせず(差別的傾向を含む)“本音”を語ることが日常化している現状、同じく差別的な移民排斥が大ぴらに主張されるようになった現状・・・そうしたものが背景にあるように思われます。

 

ドイツ、欧州の場合、反イスラエル・ユダヤ人のアラブ系移民の大量流入も大きく影響したと指摘されています。

 

****欧州で反ユダヤ主義の拡大を懸念****

(中略)

ドイツでは反ユダヤ主義の言動で告訴された件数は年平均1200件から1800件だ。

 

これまでその90%は極右派グループやネオナチたちの仕業だったが、「過去2年間でイスラム系住民の反ユダヤ主義の言動が増えてきた」という。

 

2年前といえば、2015年、100万人を超える中東・北アフリカ諸国からのイスラム系難民がドイツに殺到した時期と重なる。

 

だから「イスラム系難民の収容は反ユダヤ主義を輸入したことになった」という見解が出てくるわけだ。

 

多くの難民は反ユダヤ主義が社会に深く刻み込まれたアラブ諸国から来た人たちだ。彼らは母国で「ユダヤ人は悪魔だ。世界の悪はユダヤ民族の仕業だ」といった教育を小さな時から受けてきている。

 

ドイツ治安関係者は「アラブ系住民のユダヤ人憎悪は深刻なテーマだ」と主張しているほどだ。(後略)【20181212日  長谷川氏 アゴラ】

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確かにそういう側面はありますが、それだけにとどまるならアラブ系住民の反ユダヤ人感情という昔からある話です。

 

アラブ系住民以外においても、前述のようなSNS・ネット社会、トランプ政治、移民排斥などネガティブスローガンの顕在化といった現状が差別を拡大・顕在化させているところが深刻な問題です。

 

【反ユダヤ主義とイスラエル批判は別物】

当然ながら、反ユダヤ主義と、国家としてのイスラエルの施策を批判することは全くの別物です。

 

エルサレムのホロコースト記念館を訪問したメルケル首相は「反ユダヤ主義と対決」を明言すると同時に、イスラエルの入植地拡大や「ユダヤ人国家法」などは明確に批判しています。

 

****独首相「反ユダヤ主義と対決」 ホロコースト館で決意***

イスラエルを訪問したドイツメルケル首相は4日、エルサレムホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺)記念館で、犠牲になったとされる約600万人のユダヤ人を追悼した。

 

ロイター通信によると、メルケル氏は「ドイツはこの犯罪を永遠に記憶し、反ユダヤ主義や外国人嫌悪、憎悪や暴力と対決する責任がある」と述べた。

 

ドイツでは多くの難民を受け入れたメルケル氏に批判も多く、反難民を掲げる極右勢力も台頭している。

 

(中略)メルケル氏はまた、イスラエルと将来の独立したパレスチナの「2国家共存」を支持するとし、イスラエルによる入植地拡大はその障害になっているとした。

 

イスラエル国会が可決した「ユダヤ人国家法」についても「民主主義国家においては、マイノリティーの権利は守られるべきだ」と懸念を示した。

 

同法は、イスラエルユダヤ人の民族的郷土とし、自決権はユダヤ人にのみ認め、公用語はユダヤ人の使うヘブライ語に限るとしている。(後略)【2018105日 朝日】

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イギリス  離脱に関する曖昧な妥協が有権者から拒否された欧州議会選挙 今後のブレグジットは?

2019-05-27 22:41:38 | 欧州情勢

(画像は【527日 BBC】再び表舞台に返り咲いたブレグジット党のファラージ党首(右) 「我々はチームの一員となるべきだ」と、離脱を巡る交渉への参加を認めるよう求めています。そうした要求が入れられることはないと思いますが、保守党を離脱強行に突き動かすことで、今後の流れに大きく影響することにも。

それはともかく、どうしてこの人の写真はいつも大口を開けているのもばかりなのでしょうか?)

 

【予想されたほどは伸びなかったEU懐疑派】

今後の欧州情勢に影響する選挙として注目され、23日から26日にかけて欧州各国で実施された欧州議会選挙の結果が明らかになりました。

 

EU懐疑派の極右・ポピュリズム勢力の勢力拡大が予想されていましたが、実際に拡大はしたものの、予想されたほどの伸びはなく、親EU派が数は小幅に減らしながらも全体の3分の2を維持する結果となったようです。

 

****親EUで多数派維持=投票率、25年ぶり5割超―欧州議会選****

23〜26日に実施された欧州議会選挙では、投票率(暫定)が50.95%となり、過去最低だった5年前の前回(42.61%)を上回った。1979年の直接選挙導入以来、初めての上昇で25年ぶりに5割を超えた。

 

親EU勢力とEU懐疑派の対決構図となり、市民の関心が高まったとみられる。選挙結果は親EU全体では多数派を維持する見込みとなり、懐疑派は伸長したものの、限定的となった。

 

27日未明時点の開票集計では、定数751のうち親EUの主流である第1会派の中道右派「欧州人民党(EPP)」が179(現有216)、第2会派の中道左派「欧州社会・進歩連盟(S&D)」は150(同185)と大幅減となった。

 

ただ、EUの統合深化を掲げるフランスのマクロン大統領の与党「共和国前進」やリベラル会派「欧州自由民主連盟(ALDE)」の連合は107(同69)、環境系の「緑の党・欧州自由連盟」は70(同52)と躍進。これら親EU会派合計では506と全議席の約67%を占め、現有522からの減少は小幅となった。

 

EU懐疑派では、イタリアの極右「同盟」が国内で33.6%、フランスの「国民連合」が23.5%の票を獲得しそれぞれ第1党となったほか、ドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」も得票率を伸ばした。

 

しかし、汚職スキャンダルが発覚したオーストリアの極右・自由党は議席を一つ減らしたほか、オランダのウィルダース党首率いる自由党は現有4議席を全て失うなど、懐疑派内でも明暗が分かれた。【527日 時事】

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親EU勢力とEU懐疑派の対決構図、EU懐疑派拡大の予測のなかで、EU支持傾向は強いものの従来は国内選挙とは異なる欧州議会選挙には関心が低かった若者らの投票率も高まるなど、危機感を強めた親EU派の“バネ”が、一定に働いたようです。

 

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それでもなお、EPP(議会第1会派の中道右派・欧州人民党)とS&D(中道左派の欧州社会・進歩連盟)の大連立が過半数割れとなったことで、議会の一部プロセスが複雑化する可能性がある。

 

100議席超の勢力となったリベラル会派と70議席前後を掌握した緑の党は発言権拡大を求めるとみられる。

そうなれば、次期EU指導部は環境規制や多国籍企業への課税、貿易相手国への環境面での協力要請などを強化する可能性がある。【527日 ロイター】
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一方、EU懐疑派のイタリアの「同盟」、フランスの「国民連合」が、予想どおりの勝利を実現しましたが、全体としてはもくろみがやや外れた格好にも。

 

EUとしては、ひとまず安堵の結果というところでしょう。

 

*****欧州議会選、親EU勢力内で明暗分かれる 懐疑派は伸び悩む*****

(中略)ブリュッセルに本部を置くシンクタンク、ブリューゲルの責任者、グントラム・ウルフ氏は「重要なのは、極端な政策を掲げる勢力はそれほど議席を伸ばさなかったということだ」と指摘した。

ルクセンブルクのベッテル首相はツイッターに「欧州の勝利だ。投票率は非常に高く、親EU政党が最も強い」と投稿した。(後略)【527日 ロイター】
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【イギリス 離脱か残留か「有権者は明快さを求めた」】

EU離脱の迷走からメイ首相が辞任に追い込まれたイギリスでは、国民投票時の離脱の旗振り役だったファラージ氏のブレグジット党が予想どおりに勝利、二大政党は埋没という結果でしたが、残留支持派の自由民主党なども勢力を拡大し、「有権者は明快さを求めた」という結果に。

 

**** 英でブレグジット党が圧勝 2大政党は大敗****

欧州連合(EU)の加盟26カ国で投票された欧州議会選挙の開票が26日始まり、イギリスではEUからの離脱(ブレグジット)を掲げるブレグジット党が最多議席を獲得し、EUへの残留を主張する自由民主党がそれに次ぐ見通しとなっている。

 

国内2大政党の与党・保守党と最大野党・労働党は、共に大きく議席を減らす見込み。特に落ち込みが深刻なのが保守党で、得票率は10%に満たないと予測されている。

 

ブレグジット党のナイジェル・ファラージ党首は、今回の結果から2大政党は「多くのことを学べるだろう」と述べた。

 

ブレグジット党が28議席以上を確保

欧州議会でイギリスに割り振られている73議席のうち、これまでに64議席が確定している。内訳は、ブレグジット党28議席、自由民主党15席、労働党10議席、緑の党7議席、保守党3議席、ウェールズ地方の地域政党プライド・カムリ党1議席。(中略)

 

選挙分析を専門とするサー・ジョン・カーティスは、EUからの合意なし離脱を支持するイギリス独立党とブレグジット党の合計得票率が約35%、ブレグジットの是非を問う国民投票のやり直しを求める複数政党の合計得票率が約40%となる見通しだと指摘。これはイギリスがいかに分断しているかを示す結果だと説明した。(中略)


 

<分析>有権者は明快さを求めた――ローラ・クンズバーグ政治編集長

ブレグジットをめぐる議会の溶解を受けて、2大政党がともに厳しい罰を受ける結果となった。

反対に少数政党にとってはどうだったか? 自由民主党が浮揚し、もちろん、復讐心に燃えるナイジェル・ファラージ氏が復活した。

 

欧州議会選挙はイギリス総選挙の直接的な代理選挙ではないかもしれないが、それでも今夜以降、全国の何百万もの有権者は2大政党以外の政党の政治家を自分たちの代表として掲げることになる。

 

今回の結果、政治では妥協が勝利するという考え方にも疑問符がついた。そして、ことブレグジットについては、国民は明快な姿勢(残留か離脱かを問わず)を求めているようだ。

 

離脱派は離脱を求め、残留派は残留を求める。中間で折り合おうと説得する努力は失敗に終わった。

 

選挙結果から国民は、何はともあれEUを出たがっているのが分かるのだろうか? それとも逆にこれは、国民がブレグジット中止のための国民投票を求めているという結果なのだろうか?

 

この結果について色々な人が色々なことを言うだろうが、実は結果はそこまで白黒はっきりしていない。

 

ブレグジット党は大勝した。ファラージ氏の新党は、単独の政党としては最大の勝ちをおさめた。

しかし、ブレグジットに反対する自由民主党も緑の党もプライド・カムリもスコットランド国民党も、いずれも勝ったのだ。

 

はっきりしているのは、ブレグジットで迷走し下院でひどいどたばたを演じた二大政党が有権者に場せられ、明快な選択肢を提供した政党に敗れたということだ。二大政党は、玉虫色ながらバランスの取れた解決策を見出そうとしたが、それが有権者にそっぽを向かれた。

 

そうなると、保守党も労働党も今後は、中道派のために戦うのを諦めてしまうかもしれない。【527日 BBC】

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【今後のブレグジットの行方は?】

メイ首相辞任、欧州議会選挙での大敗を受けて、次期政権を担う保守党は、「合意なき離脱」をもいとわない離脱強硬派ボリス・ジョンソン前外相などを軸にした首相争いになると見られていますが、それで事態打開が図られるとは思えません。

 

****欧州議会選で敗北の英二大政党、EU離脱問題の打開目指す****

英国の欧州議会選でブレグジット党に敗れた二大政党の与党・保守党と最大野党・労働党は、欧州連合(EU)離脱問題の打開を目指す方針を示した。

保守党は、今回の選挙結果で有権者がEU離脱を望んでいることが明らかになったと指摘。

労働党は、総選挙や2度目の国民投票など、国民の投票が必要だと訴えた。

欧州議会選では、EU離脱を目指すブレグジット党が圧勝。EU残留を掲げる勢力も躍進しており、二大政党はEU離脱を巡る方針を明確にする必要に迫られていた。

保守党の党首候補の1人であるジャビド内相は、今回の保守党の選挙結果に「大きく失望した」と表明。「有権者は(EU離脱の)推進を我々に求めている」とツイッターに投稿した。

労働党の「影の財務相」を務めるジョン・マクドネル氏もツイッターで、一致団結すべき時だと表明。国民の投票が必要だとし、労働党の最優先課題は総選挙の実施だと主張した。【527日 ロイター】

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“労働党の最優先課題は総選挙の実施”とのことですが、問題は、その総選挙で何を掲げて戦うのか?というところです。

 

残留を明示するのか、あるいは、EUとの緊密な関係を維持する「ソフトブレグジット」に向けた妥協策を掲げるのか?

 

今回の欧州議会選挙を見ると、シロクロをはっきりさせないと有権者の支持は得られないようにも。

 

****最大野党の戦略も裏目に****
方針がはっきりしないのは最大野党の労働党だ。支持者の大半は残留派だが、党指導部はこの問題で態度を鮮明にすることを避けている。

コービン党首は「おいしいところ取り」をしようとしていると、ブレア元首相の側近だった人物は指摘する。どっちつかずの態度を取ることで離脱派と残留派の両方から支持を得たいともくろんでいるらしい。

コービンと側近たちの作戦は裏目に出たようだ。労働党は、離脱派からも残留派からもそっぽを向かれ始めている。支持者の中でも離脱派はブレグジット党に、残留派は自由民主党に流出している。

 

5月初めの統一地方選で自由民主党と緑の党が躍進したことからも明らかなように、ブレグジット問題は保守党だけでなく、労働党の未来にも暗い影を落としているのだ。

「労働党が次の総選挙で勝ちたければ、反ブレグジットの姿勢を強く打ち出すしかない」と、この人物は言う。「コービンは、党員と有権者の多数派の声に従うべきだ」【527日 Newsweek
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上記は欧州議会選挙大敗前に書かれた記事ですが、大敗を受けて、ますます「労働党が次の総選挙で勝ちたければ、反ブレグジットの姿勢を強く打ち出すしかない」という状況にもなっています。

 

そうした保守党新政権の離脱強硬路線、労働党の残留明示という構図になれば、議論は壁にぶつかり、やはり再度の国民投票か総選挙は避けられないのでは・・・とも思えます。

 

“少なくとも最近の1年間の世論調査を見る限り、イギリスの世論全体はEU残留に傾いているようだ。残留支持が離脱支持を一貫して上回っている。”【同上】という状況で再度の国民投票か総選挙となると、ブレグジットの中止という結論に至る可能性が高いようにも思えますが・・・どうでしょうか。

 

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欧州議会選挙  台頭が予測されている極右EU懐疑派 流動的要素も 各国国内政治への影響

2019-05-24 23:01:33 | 欧州情勢

(【5月23日 WSJ】 あくまでも「予想」です。)

【これまでになく注目される欧州議会選挙 躍進が予想されるEU懐疑派は内からの改革を目指す】

周知のように欧州では23日~26日に欧州議会選挙が加盟各国ごとに行われています。

 

従来は親EU的な中道右派と中道左派のグループで過半数を占めていたため、欧州理事会の決定の追認機関として、その存在はあまり注目されることはありませんでしたが、今回の選挙では(親EU勢力全体では多数を維持するものの)中道両グループだけでは過半数を割り、EUに懐疑的な極右やポピュリズム勢力が3分の1程度の議席を獲得するのでは・・・との予測から、例年になくその行方が注目されています。

 

****【欧州議会選】Q&A 民意反映へ権限拡大 欧州議会、影響力増す****

(中略)

 Q 欧州議会とは?

 A EU機関の一つで、EUの立法を担う独自の議会だ。定数は751(英国離脱後は705)で、任期は5年。加盟国の有権者は、各国内の議会とは別に、欧州議会議員を直接選挙で選出する。本会議は原則年12回、フランス・ストラスブールで開かれる。

 

 Q 役割は?

 A EUでは加盟国首脳が集う「欧州理事会」(通称・EU首脳会議)が政治レベルの最高機関で、各国担当閣僚の「閣僚理事会」が実際の政策を決定する。そのための予算、法律、政策の立案・執行を担うのが「欧州委員会」。欧州議会は予算案や法案を閣僚理事会と共同で承認する。

 

 Q どれほど重要か

 A 欧州議会はかつて欧州委の政策を事実上追認するだけだったが、1979年に直接選挙を導入。EUの運営に民意を反映させるため権限が拡大され、今ではほとんどの政策分野の法案に欧州議会の承認が必要だ。法案提出権はないが、修正要求など大きな影響力がある。欧州委の人事にも関与し、制度上は総辞職させることも可能だ。(後略)【521日 産経】

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EU懐疑派は、イギリスのEU離脱の混迷を目の当たりにして、従来のようなEU離脱ではなく、(リスクが少なく、EU不満層に受け入れられやすい)EU内にとどまってEUを内側から(EU統合を弱め、各国主権を強める方向で)改革するとの戦略に転じています。

 

それだけに、EU懐疑派の勢力が拡大することで、今後のEU運営は大きく影響される可能性がでてきています。

 

****EU懐疑派が台頭へ、欧州議会選が映す内憂 ブレグジットより深刻か*****

域内にとどまりながらEUに抵抗する路線

 

英国が欧州連合(EU)離脱に向けた対応でつまずく中、EUにとってより深刻な混乱をもたらしかねない状況が生まれつつある。他のEU懐疑派が域内にとどまりながらEUと戦う構えを見せているのだ。

 

EUの諸機関内でのこうした政党の台頭は今週の欧州議会選挙で確認されるだろう。議会選の結果は、欧州政治の既成勢力が反乱勢力との共存の道を探らざるを得ない時代の幕開けを告げることになりそうだ。

 

「過激主義者とは、ブリュッセルで欧州を20年間支配してきた人々のことだ」。イタリアの極右政党「同盟」のマッテオ・サルビーニ党首は18日、ミラノ中心部のドゥオモ広場で大勢の聴衆を前にこう述べた。「われわれは過去しか見ていない官僚抜きで未来をつくりたい」と語り、EUの変革を約束した。

 

サルビーニ氏は最近、イタリアの内相として、地中海で難民の救助に当たるEU艦船の行動を骨抜きにすることで、自らの移民排斥の姿勢を強く打ち出した。EUの当局者らは、この出来事が共通政策を損なう前例となることを恐れている。

 

内部から抵抗するというEU懐疑派の戦略には、ブレグジット方式の実験はしないことを示すことで、リスクを避けがちな欧州の有権者を安心させると同時に、EUの方向性に不満を持つ人々にアピールする狙いがある。

 

EUにとっては、統合の深化に向けたいかなる動きも、EU機関内およびローマ・ブダペスト・ワルシャワなどにある加盟国政府から強硬な抵抗に遭うことを意味する。共通の政策で合意したり一部の既存規則を維持したりすることが一層困難になりかねない。

 

こうした衝突は欧州大陸における政治的な分裂現象の一部であり、急速に変化する米中主導の世界で欧州が適切な対応を取るのを妨げる恐れがある。

 

アムステルダム自由大学の政治学者キャサリン・デフリース氏は「EUは今後かなりの間、行き詰まり状態になるだろう。EU予算やユーロ圏の改革、気候変動について大きく前進することは難しくなる」と述べる。

 

欧州の統合は、かつては何十年にもわたりエリートによる政治プロジェクトであり続け、党派を超えた幅広い同意を得ていたため、選挙の争点になるほど有権者の関心を高めることはまれだった。

 

だが欧州が経済や難民を巡るさまざまな危機に直面した10年間で状況が変わった。EUを有益とみなすか、少なくともEUがない欧州よりは好ましいと考える有権者と、EUが各国の問題の原因になっていると批判する有権者とに二分されてきたのだ。

 

とはいえ今週の欧州議会選では、英国以外の約45000万人のEU市民の中でブレグジットへの追随を望む人はほとんどいないことが示されるだろう。これは膠着(こうちゃく)状態のブレグジットの主要な「遺産」といえる。

 

このため既成政治に反対する政党は、新たな形でのEU懐疑主義を生み出さざるを得なくなった。EU加盟国としてとどまりながら、EUを支配するエリートやその主要政策の一部を攻撃するという路線である。

 

仏極右政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首は2326日に行われる欧州議会選前の遊説で、「われわれは今、欧州を内部から徹底的に変革する機会を手にしている」と述べた。

 

EU派の既成政党は、定員751議席の欧州議会で明らかな過半数を維持しつつも議席数を減らすと予想されている。

 

かつてEU加盟諸国において優勢を占め、欧州規模の「欧州人民党(EPP)」などを形成していた中道右派と中道左派の各党は勢いを失い、親EU派のリベラル政党や新興のグリーン政党のほか、右派や左派の反既成政党グループに票を奪われつつある。

 

世論調査会社のカンターの予測によれば、選挙後の欧州議会ではEU懐疑派の政党が最大3分の1の議席を占める可能性がある。

 

この結果、中道派グループは3党か4党で連合を形成することを余儀なくされ、EUの複雑な意思決定過程がさらに混乱する恐れがある。【523日 WSJ】

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【EU懐疑派躍進には未だ流動的要素も オランダでは親EU勝利 オーストリア極右政党のロシア疑惑は影響するのか?】

もっとも、選挙はふたを開けてみないとわからないものでもあり、「欧州の有権者の殆どは現状に不満なのであり、それがすべてポピュリズムに向かうとは限らない、リベラル派の支持に行く場合もあり、まだ有権者の7割は態度を決めていないので、事態は極めて流動的である」(在ウィーン人間科学研究所のイヴァン・クラステフ氏)といった見方もあります。

 

実際、すでに選挙が行われたオランダでは予想を覆す結果も出ています。

 

****欧州議会選、オランダは親EU政党が予想外の勝利へ=出口調査****

欧州議会選の投票が23日にオランダで実施された。出口調査によると、欧州委員会のティメルマンス第1副委員長の労働党が欧州連合(EU)懐疑派を下し、予想外の勝利を収める見通しだ。

出口調査によると、親EUの労働党は得票率18%で首位。世論調査でルッテ首相率いる中道右派と首位を争っていた極右の新興政党「民主主義フォーラム」は投票率11%で3位となる見通しだ。

世論調査では、労働党は善戦しても3位に終わるとみられていた。

次期欧州委員長のポストを巡り欧州議会の中道左派系の有力候補でもあるティメルマンス氏は出口調査の結果について、「欧州の他の中道左派に追い風となることを望む」と述べた。(後略)【524日 ロイター】

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ポーランドでは、「親EU」の中道右派「欧州人民党」(EPP)に所属しながらも、極右・ポピュリズム勢力と並んで「反EU」のもうひとつの核ともなっている与党「法と正義」が教会スキャンダルで急速に支持率を落としているとか。

 

****聖職者の子供虐待で、ポーランド右派の支持率急落****

23〜26日に投開票される欧州連合(EU)の欧州議会選挙で、反EUを主張するポーランドの右派与党「法と正義」(PiS)の支持率が急落している。

 

カトリック司祭による子供への性的虐待を追ったドキュメンタリーが話題となり、同国カトリック界と密接な関係にあるPiSのイメージダウンにつながったためとみられる。

 

このドキュメンタリーは今月11日に動画サイト「YouTube」に投稿された無料動画で、タイトルは「誰にも言うな」。1週間余りで再生回数が2000万回を超えた。複数の被害者が登場し、8歳の時に被害にあった女性(39)が当時の司祭に会って事実関係を問いただす場面などが映されている。

 

ドキュメンタリーの公開後、PiSの支持率は急激にダウン。4月23〜26日の調査では約40%だったが、今月14〜16日の調査で約33%にまで下落。親EUの野党連合(約44%)に大きく差をつけられている。

 

ポーランドは国民の9割がカトリックだが、司祭の多くは右派のPiSを支持する。そのためドキュメンタリーによる「告発」は、PiSへの反感につながったようだ。

 

PiSは今月16日、子供に対する性的虐待を厳罰化する法案を下院で可決させるなど支持回復に躍起だが、欧州議会選への影響は避けられないとみられる。欧州議会選は、ポーランドでは26日に投開票される。

 

聖職者による子供への性的虐待は世界各国で発覚。ポーランドのカトリック教会は今年3月、1990〜2018年の間に625人の子供から被害報告があったと発表した。【524日 毎日】

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また、オーストリアで発覚した極右政党とロシアのつながり(上記のポーランド「法と正義」が西欧的民主主義とは相いれない反EU的立場ながら、それでも極右勢力と一線を画しているのは、ロシアに強硬姿勢をとるポーランドと、ロシアの影がちらつく極右政党の違いを反映したものです)は、欧州議会選挙での極右勢力全体へ影響する可能性もあります。

 

****欧州を震撼させた極右の汚職スキャンダルとその「黒幕」*****

オーストリアの極右政党、自由党を巻き込むスキャンダルが発覚しヨーロッパを震撼させている。

 

オーストリアでは、スキャンダルの張本人ハインツ=クリスティアン・シュトラーヒエ副首相兼自由党党首が辞任、与党を組んでいた自由党と国民党の連立が崩壊した。

 

衝撃はヨーロッパ中に広がり、ポピュリスト政党とロシアの不透明な関係が改めて指摘され、23日から始まった欧州議会選挙への影響が懸念されている。

更に、そもそも誰が、何の目的でビデオを隠し撮りしたのか、事実は依然闇の中だ。

 

ロシアが持ちかけた「黒い取引」

シュピーゲル誌と南ドイツ新聞が518日明らかにしたビデオ録画は、2017724日夕刻に撮影された。地中海の保養地イビサにある別荘で、シュトラーヒエ氏(当時、野党自由党党首)、ヨハン・グデヌス氏(現、自由党議員団長)が、プーチン大統領に近いとされるロシア新興財閥イゴール・マカロワ氏の「姪」アレーナ・マカロワ氏と6時間にわたり密談した様子を隠し撮りしたものだ。

 

ビデオの中で、新興財閥の「姪」は、出所を明らかにできない資金約2億ユーロをオーストリアに投資する予定である旨、同国の有力紙クローネン・ツァイトゥング紙の株式50%を取得する意向であり、そこで自由党に有利なキャンペーンを展開すれば同党が3週間後の総選挙で有利になる旨を述べつつ、その見返りを期待したいとした。

 

これに対しシュトラーヒエ氏は、「姪」がクローネン・ツァイトゥング紙を買収し、「選挙で自由党を一位にしようとでもいうのなら話に応じたい」としつつ、公益法人を設立しそれを通し資金提供を行えば所管官庁への申告はいらない旨、現在シュトラバークという建設会社が受注している公共事業は、自由党が政権に参加すれば、それ以上の受注が認められることはなく、その分を「姪」に廻すことが可能である旨を伝えた。

 

但し、会談では何らかの具体的な約束を交わすまでには至らなかった。

 

欧州全土に広がった「疑惑」の眼

ビデオの公表を受け、シュトラーヒエ副首相は18日、直ちに副首相及び自由党党首を辞任した。セバスティアン・クルツ首相は翌19日、ファン・デア・ベレン大統領と善後策を協議、大統領は今秋にも総選挙を行うべきであると主張した。

 

続いて20日、クルツ首相は捜査及び情報機関を管轄するヘルベルト・キックル内相を更迭したが、自由党はこれに反発、同日、同党の全閣僚引上げで対抗し、ここに、国民党と自由党による連立が、発足以来1年半足らずで崩壊することとなった。

 

衝撃は直ちにヨーロッパ中に走った。ポピュリスト政党とロシアの不透明な関係はかねてから噂されていたが、ここに、資金供与と公共事業の見返りという生々しい形で明らかになったのだ。更に、衝撃的だったのは、ロシアが欧州の報道機関に手を回そうとしていたことだ。

 

早速、欧州議会のCDUCSUグループ代表ダニエル・カスパリー氏は、同様の事例は「ドイツのための選択肢(AfD)」にもある、AfDは出所不明な選挙資金を受け取っている、と糾弾した。これに対しAfDの共同代表ジェルク・モイテン氏は、今回の事件は自由党が犯した大きな間違いであり、自由党の個別の問題だ、と反論した。

 

危険を嗅ぎ取っていた欧米諸国

シュトラーヒエ氏とロシアとの関係は、古く同氏が自由党党首に就任した2005年頃まで遡る。その後、同氏はロシアとの緊密な関係を維持してきたが、2016年、自由党とプーチン大統領の党である「唯一のロシア」との間に友党関係を締結するに至った。党運営、立法の仕方等に関し情報交換することが謳われた。

 

2018年、カリン・クナイスル外相の結婚式にわざわざプーチン大統領が出席、花嫁(クナイスル外相)とダンスを踊った写真が公開されたことは記憶に新しい。

 

クルツ首相は、自由党とロシアのそういう緊密な関係を承知で、同党に内相や国防相といった国の安全にかかわるポストを提供した。秘密情報機関も当然、自由党が握った。当時、クルツ首相のこういう対応に批判が集中したが、同首相は自由党との関係を優先し押し切った。

 

しかし、20182月、内務省が憲法擁護テロ対策庁の捜索を強行したことを受け、欧米の情報機関はオーストリアとの情報共有見直しに踏み切った。当時、同庁は、ロシアによるオーストリア内政への関与を調査していた。欧米諸国は自由党とロシアのただならぬ関係を嗅ぎ取ったのだ。

 

「欧州議会選挙」への影響は?

欧州議会選挙の直前にビデオが公表されたことは、選挙に何らかの影響が出ること必至である。欧州議会選挙は通常あまり関心をひかないが、今回に限っては欧州全域に猛威を振るうポピュリスト政党がどこまで票を伸ばすか、全世界がかたずをのんで見つめている。(後略)【524日 WEDGE】

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この「極右・ロシアコネクション」がどの程度選挙に影響するかについては意見が分かれるところのようです。

 

 

なお、一体誰が、どういう思惑でこの時期にビデオを暴露したのか、自由党シュトラーヒエ副首相は罠にはめられたのか・・・は、今のところ謎です。

 

【各国国内政治に影響する選挙結果 イタリア・フランス・ドイツ・イギリスの場合】

今回選挙は、各国政治事情と連動して、各国の国内政治にもいろいろな影響をあたえそうです。

 

詳しく取り上げてきるとキリがないので、注目点のみいくつか。

 

イタリアでは、第2与党の右派「同盟」(党首は各国極右勢力統合の中心的存在となっているサルビーニ副首相)が、第1与党の左派「五つ星運動」に対し支持率で大きくリードしており、与党両党の確執が深まっています。

 

サルビーニ副首相は否定していますが、選挙後の連立崩壊、右派政権を目指して解散・総選挙に向かう可能性も取り沙汰されています。

 

フランスでは、欧州統合を主導するマクロン大統領の与党「共和国前進」と、反EU極右勢力のルペン氏の「国民連合」の激しい接戦となっています。

 

マクロン大統領は勝てば、各地でEUに懐疑的な勢力の躍進が見込まれる中、「防波堤」として存在感を発揮し、今後のEU統合を主導する形にもなります。

 

負ければ、国内的だけでなく、EU内においても権威を失墜することにもなります。

 

これまで歴代大統領は欧州議会選挙には関与してこなかったとのことですが、マクロン大統領は全面的なテコ入れに動いています。一方、ルペン氏側にはアメリカでトランプ政権を誕生させたバノン氏が応援に駆け付けています。

 

ドイツでは、EU懐疑派で国内最大野党「ドイツのための選択肢」(AfD)躍進が予測されるなか、メルケル与党が惨敗すれば、このところ求心力を失ってきたメルケル首相の処遇に発展する可能性があります。(ドイツ首相を辞して、EU大統領に・・・という話も出ていますが、本人は否定)

 

また、社民党の負けっぷり如何では、連立離脱・大連立瓦解の可能性も。

 

イギリスでは、メイ首相は辞任に追い込まれたようですが、EU離脱運動を主導したファラージ氏率いるブレグジット党が勝利することが予想されています。そうなると、ブレグジットをめぐって(これまでももたつくイギリスに批判的だった)フランスの対応が「さっさと出ていけ!」と更に硬化する可能性も。

 

いずれにしても、今回欧州議会選挙は、EUおよび欧州各国の情勢に大きな影響を与える注目すべき選挙となっています。

 

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