孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  ワクチン接種に懐疑的 しかし、最近は希望者が急増 日本は依然として慎重姿勢

2021-01-31 22:52:00 | 疾病・保健衛生

(【1月29日 FNNプライムオンライン】)

 

【夜間外出・入国規制が強化されたフランス “フランスらしい”抵抗・反発も】

フランスの新型コロナ感染状況は、1月30日時点で感染者累計317万人、死者は7万5千人と厳しい状況にありますが、一時期は1日あたり6万人ほどにも達した新規感染者は現在は2万人前後と、少なくはなっています。(日本に比べるとはるかに高いレベルですが)

 

また、感染力が強い変異型ウイルスへの不安も高まっています。

 

こうした状況を受けて、全土で夜間外出制限が行われています。

 

****フランス全土で夜間外出制限強化=「ウイルス、活発に拡大」―新型コロナ****

フランスのカステックス首相は14日、記者会見し、新型コロナウイルス感染防止対策として全土で実施している夜間外出禁止令について、16日以降、開始時間を現行の午後8時から同6時に繰り上げると発表した。同様の措置は既に一部地域で行われていたが、今回の規制強化でパリも対象となった。

 

カステックス氏は「ウイルスは活発に拡大している」と強調。夜間外出禁止令の強化は「少なくとも約2週間」継続すると述べた。また、感染状況が深刻化した場合、再度ロックダウン(都市封鎖)に踏み切ると明らかにした。

 

スーパーマーケットを含む全商店は午後6時に閉店となり、飲食店は夜間は宅配のみ営業可能。一方、休校措置は取らない。【1月15日 時事】 

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フランス政府は29日、新型コロナウイルス感染抑制に向け3回目となるロックダウン(都市封鎖)は行わないと決定、代わりに入国管理と抑制措置違反の取り締まりを厳格化して対応することとしています。

 

****フランス、EU域外からの入国禁止 感染歯止めかからず****

フランスのカステックス首相は29日、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えることを目的に、欧州連合(EU)域外からの入国を31日から原則として禁じると発表した。

 

フランスでは連日2万人超の新規感染者を記録。英国などで猛威を振るう感染力の強い変異ウイルスも連日2千件以上確認され、拡大を続けている。

 

カステックス氏は、今月から全土で導入している午後6時からの外出禁止令について、「効果はあったが不十分だ」と指摘。入国を厳しく規制するとともに、夜間の外出禁止を守らない市民への検挙を強化すると明らかにした。

 

フランスに入国できるのは「絶対的な理由」がある場合に限られるとしたが、具体例には触れなかった。

 

昨年春と秋に課した24時間の外出禁止令については、「あらゆる面で影響が重大だ。避けられるチャンスがまだ残されている」として見送った。

 

フランスは今月から、全世界からの入国者に新型コロナ検査の陰性証明の提示を義務づけ、EU域外から入国した場合は1週間の自主隔離を求めている。【1月30日 朝日】

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フランスの場合、日本とは異なり自己主張が強く、政府の言うことを素直にきくような国民性ではない・・・というイメージがありますが、新型コロナに関しては、これまでのところ、そうした国民性にもかかわらず比較的従順にマスク着用や外出制限に従っているようにも見えます。それだけコロナへの不安が強いということでもあるのでしょう。

 

ただ、これだけ規制が続くと、やはり綻びや反発・不満も出てきます。

 

****仏、年末年始に外出禁止令で600人以上拘束 警官13万人動員**** 

フランスのダルマナン内相は1日、12月31日から元旦にかけて新型コロナウイルス対策の夜間外出禁止令に違反したとして、全国で662人を身柄拘束したと発表した。

 

政府は31日の夜から禁止令徹底のため、警察官約13万人を動員。西部レンヌでは、約2500人が集まった違法パーティが摘発された。現在は感染対策で午後8時から午前6時までの外出は禁じられ、室内の集まりは「6人まで」と定められている。

 

フランスで新年は、パーティを開いて祝うのが習わし。毎年、パリのシャンゼリゼ通りは祝杯をあげる人でにぎわうが、内相は「パリで禁止令は、おおむね守られていた」と述べた。(後略)【1月2日 産経】

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****警察署で歌って踊る送別会、コロナ対策を公然と無視か フランス****

フランスで新型コロナウイルス対策のソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)を公然と無視するかのように踊る警察官らの動画が流出したことを受けて、当局が28日、捜査を開始した。

 

ニュースサイト「ループサイダー」に流出した映像には、パリ北郊オーベルビリエの警察署で今月22日、同僚の送別会に参加する警察官が映っていた。

 

レクリエーション室と見られる場所で、少なくとも12人がマスクなしで、ソーシャル・ディスタンシングも守らずに歌ったり、踊ったりしていた。(後略)【1月29日 AFP】

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****仏ニースの料理店、コロナ規制に抵抗し100人招いて昼食会 一時拘束****

地中海に面した南仏ニースのレストラン経営者が、新型コロナウイルス対策で政府がカフェや料理店に出している閉鎖命令に背き、約100人の客を招いてランチ営業をしたとして28日、警察に拘束された。

 

フランスでは新規感染者数の急増を受けて、10月30日から飲食店に閉鎖命令が出ている。だが、クリストフ・ウィルソン氏は27日、経営するレストラン「ポピーズ」を開店。集まった約100人はマスクを取り、テラスに陣取ったバンドの演奏を聞きながらプロバンスシチューなどの料理を楽しんだ。

 

ウィルソン氏は集まった報道陣に対し、大手スーパーチェーンがほぼ通常通りに営業している点に触れ、「カルフールやプリマなどの多国籍企業(の店舗)に多くの人が集まっているのを見たら、もう(営業禁止は)受け入れられない」と訴えた。「私は従業員に給与を支払い、家族を養い、客を歓迎しなければならない」(中略)

 

政府は、集会による感染拡大を阻止するため、少なくとも2月中旬までは飲食店の営業禁止を継続する方針を示している。だが、仏東部で活動するシェフのステファン・チュリヨン氏は、2月1日に一斉に店を開くよう全国のレストランに呼び掛けており、すでにシェフ数人や一般の数千人が賛同を表明している。【1月29日 AFP】

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まあ、こういう話の方が「フランスらしい」とも思えますが・・・

 

【ワクチン接種に懐疑的 ただ、ここにきて接種希望者が増加】

そのフランスでも、他の欧州諸国同様にワクチン接種は始まっていますが、そのペースは遅いことが報じられています。

 

****欧州で接種ペースに格差 進む英、遅れる仏 コロナワクチン****

(中略)一方、EUでは今月6日、米バイオ企業モデルナのワクチン販売が許可された。ファイザーのワクチンに続き2件目となるが、フランスではドイツなどに比べ「接種ペースが遅すぎる」との批判が出ている。

 

フランスは昨年12月27日、他のEU諸国とともに、ワクチン接種を開始した。第1段階は、対象を高齢者施設の入所者と職員に限定した。

 

ベラン保健相は7日、「これまでの5日間で4万5千人に接種した」と述べたが、接種を受けた人はドイツで37万人、イタリアは30万人を超え、大きな差がある。施設ごとのワクチン配分で混乱があったうえ、接種対象者への説明に時間がかかったためとみられている。

 

フランス政府は新たな接種計画を発表し、今月末までに100万人の接種を目指すため、接種対象を50歳以上の医療関係者や訪問介護員に拡大する方針を示した。【1月8日 産経】

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フランスで他国よりワクチン接種が遅れている背景には、運用上の問題のほか、ワクチン接種を不安視して抵抗感を持つ国民が少なくないことも指摘されています。

 

****仏、ワクチン接種進まず 政府の慎重姿勢に批判****

新型コロナウイルスのワクチン接種が始まっているフランスで、そのペースが遅いとして、研究者らや野党から政府を批判する声が上がっている。ワクチン接種に懐疑的な国民が多いことも、遅れの一因となっている。(中略)

 

世論調査会社イプソスが世界経済フォーラムと共に行った世論調査では、ワクチン接種を希望するフランス国民の割合はわずか40%で、英国(77%)や米国(69%)などの他の先進国に比べて著しく低いことが明らかになっている。(後略)【12月31日 AFP】

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そういう事情もあって、フランスのワクチン接種の遅れはますますひどくなっています。

 

****各国のワクチン接種率 最高はイスラエルの30% フランスは1.8%にとどまる****

いよいよ日本でも新型コロナウイルスのワクチン接種が2月下旬にも始まる予定。 世界各国のワクチン接種回数を見てみると、ファイザー社やモデルナ社のお膝元、アメリカでは2,169万回。 また、世界で最初に接種が始まったイギリスでも700万回を超えている。 

 

これが「接種率」となると、世界で最も高いのはイスラエルで30%。 これに対してアメリカはおよそ6%、イギリスも11.1%と低く、当初の想定より接種のペースが遅れている。 

 

そして、今回FNNが取材したフランスは接種回数が124万回余り、接種率は1.8%にとどまっている。【1月29日 FNNプライムオンライン】

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もっとも、ワクチンに懐疑的だったフランスでも、ここのところワクチン接種に肯定的な声が増えているとか。

 

“ワクチン嫌い”だったフランス人 ワクチン「希望」なぜ増えた?”【1月29日 1月29日 FNNプライムオンライン】

 

TV放映内容を要約すると、ワクチン接種開始前は、「接種を希望する42%、希望しない58%」だったのが、接種開始2週間後には「接種を希望する56%、希望しない43%」と逆転したとか。

 

身近で実際に始まって不安感が薄れたのと、変異ウイルスという新たな脅威の前で不安がってはいられないという事情もあってのことのようです。

 

現在は接種者は100万人を越え、フランス政府は8月末までには7000万人を目指すとか。(フランスの人口は6900万人。2回目接種もカウントして・・・ということでしょうか)

 

【ワクチン接種懐疑論が世界的に後退するなかで、日本は依然として・・・】

ワクチンへの懐疑的な見方が減少して、より積極的になっているのはフランスだけではなく世界的傾向のようですが、そうした中で、日本だけが懐疑論が根強く、政府・専門家は「出口」を示すことなく、ひたすら自粛を国民に強要し、国民もこれを受け入れる不思議な状況が続いています。

 

****ワクチン懐疑論、世界で後退=接種希望急増、日本は停滞―国際調査・新型コロナ***

新型コロナウイルスワクチンに対する懐疑論が、世界的に大きく後退している。英調査会社イプソス・モリが主要15カ国で実施した国際比較調査によると、すべての国で昨年12月から今年1月にかけて接種希望者が増加した。ただ、日本は調査対象の中では強く希望する人の割合が最も低かった。

 

コロナワクチンをめぐっては、各地で接種が始まる中、争奪戦の様相を呈している。同社は「人々の当初のためらいは、すぐに接種したいという姿勢に急速に変化している」と指摘した。

 

調査は日米中など15カ国で16〜74歳の約1万3000人を対象に、1月14〜17日に実施。「もしワクチンを接種できるなら、接種しますか」との質問に対する回答を昨年12月時点と比較した。

 

それによると、「ぜひしたい」と回答した人の割合はすべての国で増加。特に接種が始まったイタリア、スペイン、英国などでは20ポイント以上の大幅な伸びを記録した。

 

「ぜひしたい」の割合はブラジル(68%)、英国(66%)などが高かった。感染者、死者が世界最多の米国は42%。日本は17%と調査対象の中で最低で、「ややしたい」の人を合わせると64%だった。

 

ワクチンの副反応については、日本で62%から懸念の声が上がり、米英中独もほぼ同じ水準だった。同社は「日本人が接種を最もためらっている。これは過去の調査でも見られた傾向だ」と述べた。【1月30日 時事】 

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ワクチン供給に問題が生じ、EUと製薬会社が揉めているのは周知のところ。

世界中で接種が進み、日本が「じゃ、そろそろ日本も・・・オリンピックもあるし・・・」と重い腰を上げる頃に、十分なワクチンが入手できるのか?

 

****日本へのワクチン供給不透明 新型コロナ、承認申請はファイザーのみ****

新型コロナウイルスのワクチンをめぐり、政府は2月下旬から医療従事者に接種を始め、重症化リスクを考慮して高齢者や基礎疾患のある人らに対象を拡大していく方針だ。だが、承認手続きが先行している米製薬大手ファイザー社からの供給量や日本に届く時期の詳細は不明で、国民に円滑に行き渡らせることができるのかは見通せない。

 

政府は医療従事者に続き、3月下旬に高齢者、4月以降に基礎疾患のある人や高齢者施設の従事者らに接種することを想定している。「今年前半までに全国民に提供できる数量の確保を目指す」のが政府方針だが、一般の人への接種スケジュールは未定だ。

 

ファイザー、英アストラゼネカ、米モデルナの3社から計3億1400万回分(1億5700万人分)の供給を受ける契約をしているが、厚生労働省に承認申請したのは現段階ではファイザー社だけだ。

 

そのファイザー社とは、6月末までに1億2千万回分(6千万人分)の供給を受けることで基本合意していたが、契約では年内に1億4400万回分(7200万人分)に変わった。同社の増産に向けた製造工程の変更が伝えられる中、先行きは不透明といえる。【1月28日 SankeiBiz】

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「6月末まで」が「年内」に先延ばしされたというところが重要です。

1~3月に3000万回分を供給するとされているアストラゼネカは、今欧州で供給の遅れから炎上しています。日本国内生産することで安定供給を目指す方針とのことですが、供給には時間を要するのでは?

 

“河野太郎行政改革担当相は27日、新型コロナウイルスワクチンについて、65歳以上の高齢者への接種は早くても4月1日以降になると全国知事会などに伝達したことを明らかにした。政府は3月下旬の開始を想定していたが、ずれ込んだ格好だ。”【1月27日 共同】

 

大丈夫なのでしょうか?

 

【国民のワクチン理解に重要なメディアの報道姿勢】

国民のワクチン接種への懐疑論はメディア報道の姿勢が大きく影響します。

 

****ワクチン不安を煽る報道の問題****

米ファイザーと独ビオンテックが開発した新型コロナウイルスワクチンの接種が世界各地で開始されてからひと月以上経った。そのなか多くの国でワクチンへの不安を煽る報道が止まない。

 

もちろん、副反応の事実については透明性のある報道としっかりとした検証が必要だが、因果関係を示さず、ただ不安を煽るだけの記事には注意が必要だ。(中略)

 

◆メディアの役割、読者の役割
日本ではオリコンニュースが20日、新型コロナワクチンについて、女子高生100名を対象に行ったアンケート結果を発表。6割超が「受けたくない」と返答したという内容を、毎日新聞や朝日新聞、中日新聞などの全国紙や大手地方紙がこぞって転載したことに批判が集まった。

 

これに関しては、産婦人科医の宋美玄さんのツイート「コロナワクチンについて充分な情報提供もなしに取ったアンケートをニュースにすることに何の意味があるのか。 目先のページビューは稼げるかも知れないが、世界中で日本だけコロナを克服できない未来にしたいのだろうか」が代表するように、メディアがまず果たすべき役割はワクチンに関する正しい情報をわかりやすく伝えることではないのか、と感じた人も多かったはずだ。

 

メディアはセンセーショナルなタイトルで人の目を集め、早合点し拡散する読者を作り出しているのではないか。

 

一方でセンセーショナルなタイトルに頼るだけのメディアを作り出しているのはそういう読者でもある。良質な記事よりもデマのほうが拡散しやすいネット時代において、賢く情報を取捨選択することは、メディアを育てることにもつながることを覚えておきたい。【1月29日 NewSphere】

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接種が始まれば、必ず副反応事例は生じます。副作用のない薬など存在しません。すべてはリスクとベネフィットの比較です。

 

そのときセンセーショナルに煽るのか、冷静・客観的に報じるのか・・・そこらが非常に重要になります。

 

 

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ミャンマー  民意は軍とのバランス、穏健な段階的改革か けん制圧力を強める軍の動向

2021-01-30 22:44:25 | ミャンマー

(ヤンゴン市内では武装した車両の姿も目撃された(28日)=ロイター【1月29日 日経】)

 

【民主主義と軍政が共存したバランスの取れた独自の体制という選択も】

昨年11月、ミャンマーのスー・チー政権は、新型コロナ禍で野党勢力が十分な選挙活動が行えない状況で半ば強引に総選挙を実施し、十分とは言い難いこれまでの実績から議席を減らすのでは・・・との予想を覆し、圧倒的地滑り的勝利を収めました。

 

しかしながら、「さすが、民主化を牽引するスー・チー、この勢いで軍部を抑えて憲法改正を実現し・・・」といった、かつてのようなスー・チー氏へ期待感・熱気は、ミャンマー国内にも、国際世論にもあまり見られません。

 

****ミャンマー政治で相対化されつつある民主主義と軍の対立軸****

(2020年)11月8日にミャンマーでは、2015年のアウン・サン・スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)の勝利以来、5年ぶりの議会選挙が行われた。

 

11月13日の連邦選挙管理委員会の発表によれば、NLDが上下両院(定数646)の384議席を獲得、過半数を大きく上回る地滑り的勝利となった。したがって、スー・チーが引き続き政権を担当することになる。

 

今回の選挙はスー・チーとNLDの過去5年の統治と実績を国民に問うレファレンダムだったと位置づけられよう。

 

2015年に比して選挙が公正とは言い難い状況で行われたことも注意を引いた。少数民族との和平のプロセスが停滞し、約束された自由と人権の擁護が進展したとも言い難い状況であったが、結果としてはNLDが信任を得たことになる。

 

軍政に対する抵抗の歴史と草の根レベルでの動員力のある唯一の全国政党であることが、勝利するに十分だったことになるのであろう。ただし、NLDが圧勝の勢いを駆って軍の力を削ぐための憲法改正に再び挑むのかどうかは分からない。

 

エコノミスト誌の11月7日付けの記事‘Aung San Suu Kyi was supposed to set Burmese democracy free’は、スー・チーに厳しい目を向ける。

 

記事によれば、スー・チーは、NLDを鉄拳で運営しており、「党に民主主義はない」との声がある。シビル・ソサイエティーとの関係でも同様である。彼女は批判者を黙らせることを何度も企てた。

 

2017年にはロヒンギャに対する暴力を調査したロイターの記者2人が投獄された。報道の自由は軍政の末期よりも制限されているとの指摘もあるらしい。

 

スー・チーは少数民族が託した希望にも応えていない。彼女は軍と戦う少数民族に彼等の権利を守ると約束したが、非中央集権的な連邦国家のビジョンは何もなく、少数民族との和平プロセスは停滞している。

 

経済成長も軍政末期より落ちている。記事によれば、こうした中、経済の運営について国を外に向かって開き始めた前大統領のテイン・セイン将軍の方がスー・チーよりも優れていたとして、民主主義と軍政とは互いに対立するものでなく共存し得るガバナンスのシステムだと見る国民が少数派ではあるが増えつつあることが示唆されるという。

 

この記事を読むと、果たしてNLDと軍の対立がミャンマーの基本的問題というだけの構図でミャンマーという国を観察することが妥当なのかとの疑問も生ずる。

 

スー・チーは変身し、民主主義を解き放つどころかその翼を切り取ったらしい。ロヒンギャ問題では国際司法裁判所での弁論を引き受けるなど、軍と協調する姿勢が目立った。

 

上記記事が指摘するように、民主主義と軍政が共存し得るガバナンスのシステムだと見る国民が増えつつあるとすれば、現在のように軍が圧倒的な権力を握ったままという訳には行くまいが、ミャンマーの国情(ムスリムの脅威や少数民族問題の存在)が軍の一定の政治的役割を必要とし、国民がそれを許容するのであれば、ミャンマーが何等かのバランスの取れた独自の体制を模索することを諸外国が嫌悪するには当たらないということになろう。【2020年11月26日 WEDGE】

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“民主主義の翼を切り取ったスー・チー”“軍の一定の政治的役割を容認する政治体制”といった、スー・チー氏に対し、いささかさめた、あるいは“突き放した”ような見方です。

 

(個人的には、軍出身のテイン・セイン前大統領は、軍に睨みが効く軍人という立場を利用して軍部の要求を一定に抑えつつ、経済・社会の民主化への道筋を切り開いた・・・ということで、高い評価に値すると思っています。 期待したスー・チー政権が迷走するなかで、「これだったら、テイン・セイン政権の方がまだうまくやったのでは・・・」と思うことも)

 

【昨年総選挙での与党圧勝の意味合いは、軍とも一定に妥協しつつ、国民生活の向上へ向けた穏健で段階的な改革を望む民意か】

期待された憲法改正も少数民族との和解も進まないなかで、スー・チー与党・国民民主連盟(NLD)圧勝の要因は、GDPなどには明示されていない地方の経済成長や所得水準の向上であったとの指摘が。

 

****2020年ミャンマー総選挙:スーチー勝利と2008年憲法****

2020年11月に実施されたミャンマー総選挙では、アウンサンスーチー氏が率いる与党・国民民主連盟(NLD)が国軍系野党・連邦団結発展党(USDP)を圧倒し、大勝した。

 

しかし、国軍は選挙に不正があったとして、NLDをけん制している。総選挙での圧勝を受け、スーチー氏が国軍の国政関与を保障する2008年憲法の改正を急げば、両者の関係が緊張する可能性も出てきた。

 

予想を覆しNLD圧勝

2020年11月8日にミャンマーで実施された総選挙は、アウンサンスーチー氏が率いる与党・国民民主連盟(NLD)が全体の8割を超える議席を獲得して圧勝した。

 

これにより国軍最高司令官が選挙を経ずに任命する軍人議員を含めても、NLDが連邦議会において単独過半数を占めることになった。順調にいけば、2021年3月に第2次スーチー政権が誕生する。 

 

事前にはNLDの苦戦が予想され、特に7州においては少数民族政党の優勢が伝えられていた。前回15年の総選挙で大勝し、半世紀ぶりの民主政権を樹立したNLDであったが、最重要公約の少数民族武装勢力との和平や憲法改正を実現できず、経済成長も減速したといわれていたからである。それではNLDの勝因はなんだったのだろうか。

 

国民生活の向上が与党の追い風に

NLD勝利の最大の要因が、スーチー氏の国民人気にあることは間違いない。

 

選挙監視を実施しているNGO「信頼できる選挙のための人民同盟」(PACE)が2020年8月上旬に行った調査によると、国家顧問(スーチー氏)を信頼すると回答した人の割合はビルマ族が多い7管区において84%、少数民族が多い7州においても60%であり、この数字は他のいずれの政治制度(連邦議会、管区・州議会、国軍、裁判所など)に対するものよりも高い。(中略)

 

しかし、スーチー氏の人気だけで前回を上回る議席を獲得することはできない。半世紀ぶりの民主政権の誕生を賭けた前回総選挙におけるスーチー支持の熱気は、今回を上回るものであったからである。

 

筆者は今回NLD政権が根強い支持を受けたのは、経済成長を背景にした地元住民の生活水準の向上があったためと考えている。 

 

一般に、スーチー政権下でミャンマー経済は減速したといわれる。しかし、別稿でも論じたように、土地バブルがはじけたヤンゴンやマンダレーでの景況感の悪化に比べて、地方都市や農村部での景気の悪化はそれほど大きなものではなかった。

 

例えば、スーチー政権下での経済減速の証拠としてしばしば外国投資の認可額の減少が指摘されるが、そもそも地方に外国投資は来ていなかった。 

 

われわれは国内総生産(GDP)成長率やヤンゴンの実業家・外資企業へのインタビューをみて経済動向を判断するが、多くの国民は身の回りの生活環境・水準を軍政時代と比較して判断する。

 

軍政時代、電気は電線で来るものではなく、バッテリーを持って市場へ買いに行くものであった。 したがって、バッテリーで動く電化製品しか利用できなかった。今では農村でも電化率は55%になっているし、オフ・グリッドの電源もある。

 

当時、携帯電話やオートバイは村人の手の届くものではなかったが、今やそうしたものも頑張ればローンで買える。

 

少数民族村では軍政当局に農地の存在を知られるのを嫌がったが、今は農業銀行から営農資金を借りるために、政府に農地を登記してもらいたがっている。 

 

先のPACE(選挙監視を実施しているNGO「信頼できる選挙のための人民同盟」)の調査によれば「郡(タウンシップ)の状況は良くなっている」と回答した人の割合は、19 年の44%から20 年には56%に上昇している。

 

(中略)良くなっていると答えた理由は、政府サービスの改善が58%、経済と所得の向上が40%、インフラ整備が26%であった。

 

しばしば話題になる連邦制の実現を理由に挙げる人は6%しかいなかった。一般の人々にとっては、連邦制の実現のような政治課題よりも、身近な生活水準の向上の方が重要であった。

 

スーチー政権下において、少数民族州は徐々にではあるが発展していたと考えられる。成長をもたらすのがNLDであれば、政権を担わない少数民族政党に投票するよりも、勝ち馬に乗ったほうが得策であると考える有権者がでてくるのは当然であろう。

 

国軍は国政関与を諦めない

しかし、大敗した国軍系の野党・連邦団結発展党(USDP)は選挙に不正があったとして、国軍の協力の下で選挙をやり直すべきであると訴えた。

 

ここで注目すべきはUSDPがわざわざ「国軍の協力の下で」と付け加えている点である。米国の大統領選挙でも明らかになったように、民主主義においては選挙結果に基づいた新政府の樹立を誰が保障するのかが問題となる。

 

ミャンマーにおいてそれを保障するのは、事実上国軍である。国軍が選挙結果を認めることではじめて、それに基づいた政府が樹立される。

 

実際、国軍はNLDが最初に大勝した1990年総選挙を認めなかったという前歴がある。 

 

2020年総選挙の当日、ミンアウンフライン国軍最高司令官は選挙結果を尊重すると発言した。しかし、NLDの大勝が明らかになるにつれ、選挙不正があった可能性があるとして、NLDや選挙管理委員会をけん制する発言をするようになった。

 

これはUSDPの2回の大敗を受け、国軍がUSDPを頼りにできないことがはっきりしたことが背景にある。(中略)

 

こうなると、国軍が頼りにできるのは、国軍の自律と国政関与を規定する2008年憲法しかない。国軍の国政関与のロジックは政党政治(party politics)が混乱したとき、国軍が国民全体の利益を代表する国民政治(national politics)を行うというものである。 

 

多くの国民は国軍が国民全体の利益を代表するとは思っていないが、ミャンマーを独立に導き、ナショナリズムを体現するとの使命感を抱く国軍が国政関与を諦めることはないだろう。

 

また、経済権益を守り、過去の不当行為への責任追及を逃れるためにも、国軍の自律を認める2008年憲法は必須である。国軍が1990年総選挙の時NLDへの政権移譲ができなかったのは、2008年憲法がなかったからである。 

 

もちろん、スーチー氏は心の底では2008年憲法を認めていない。スーチー氏は2012年の補欠選挙で当選した際、議員に任命されるために必要な「2008年憲法を順守する」という議会での宣誓を拒もうとしたことがある。この時は珍しく国民からの批判を浴び、結局は宣誓することになった。

 

スーチー氏とNLDが2008年憲法の政治体制に組み込まれた瞬間であった。スーチー氏が憲法改正に執念を抱く原点でもある。 

 

今後、国軍はますます自らの国政関与を保障し、組織としての自律性を担保する2008年憲法を堅持しようとするだろう。

 

しかし、逆説的ながら、国軍がNLD大勝という選挙結果を認めることができるのも2008年憲法があるからなのである。

 

2回の総選挙の大勝により勢いづくスーチー氏が改憲を巡って国軍との対立姿勢を強めれば、ミャンマー政治が緊張することもあり得る。最近のミンアウンフライン国軍最高司令官の発言は、スーチー氏に対してこのことを忘れないようにというけん制なのである。

 

国民が求めるのは「穏健な改革」

5年前にスーチー氏は「変化の時が来た」というスローガンで選挙戦を戦い、勝利した。しかし、現実にはテインセイン大統領の多くの政策を継承した。

 

スーチー政権は民族和平や憲法改正を掲げて登場したが、国民から評価されたのはむしろ経済成長や所得水準の向上であった。

 

そして、国軍系のUSDPの2度目の大敗にもかかわらず、国軍が第2次スーチー政権の発足を認めると期待されるのは、皮肉なことに第1次スーチー政権が2008年憲法の改正に失敗し、この憲法が引き続き国軍の国政関与を保障するからである。 

 

こうした5年間の経緯と今回の総選挙の結果は、大方の人々の予測を裏切るものであった。もしかすると、スーチー氏やNLDにとっても意外な展開であったかもしれない。

 

しかし、今回の総選挙を通じて国民の希望は明確に聞こえたのではないかと思う。すなわち、スーチー氏とNLDは国軍との決定的な対立を避け、むしろ協力の方策を模索しつつ、国民生活の向上へ向けた穏健で段階的な改革を続けてほしいというものである。

 

半世紀にわたる軍政時代、薄暗い裸電球の下で、国民は「自由」と「豊かさ」の双方を求めてきた。どちらか一方を優先することで、もう片方を失うことはできない。スーチー氏と国軍の協力と一定の妥協がなければ、国民の希望をかなえることはできない。【1月13日 工藤 年博氏 nippon.com】

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“スーチー氏とNLDは国軍との決定的な対立を避け、むしろ協力の方策を模索しつつ、国民生活の向上へ向けた穏健で段階的な改革を続けてほしい”との“国民の希望”は、前出【WEDGE】の“軍の一定の政治的役割を認めたバランスの取れた独自の体制”にも共通するもののように思えます。

 

【スー・チー政権への圧力を強める最近の軍の動向】

一方、軍の方は、選挙直後よりも最近になってむしろ選挙結果を否定するような発言が目だっています。

 

****総選挙の「不正」主張 ミャンマー国軍が与党に圧力 クーデターの可能性否定せず****

改選後初となるミャンマー連邦議会(国会)が2月初旬に開会するのを前に、国軍が与党側への圧力を強めている。

 

昨年11月の総選挙で「不正があった」と繰り返し主張しているほか、クーデターの可能性も否定しておらず、国内で緊張が高まっている。

 

総選挙では、アウンサンスーチー国家顧問兼外相が率いる与党・国民民主連盟(NLD)が改選476議席の8割を占める396議席を獲得。最大野党の国軍系・連邦団結発展党(USDP)は33議席にとどまった。

 

国軍のゾーミントゥン報道官は1月26日の記者会見で、有権者名簿860万人分に不備があり、重複投票などの不正があった可能性があると主張、選挙管理委員会に調査を求めた。また、今後「クーデターの可能性がないといえるのか」との質問に「イエスともノーとも言えない」と明言を避けた。地元ジャーナリストによると、最大都市ヤンゴンなどでは28日、街中を走行する装甲車の姿が見られたという。

 

国連などは、選挙は公正に行われたとの見解だ。国連のグテレス事務総長は28日、「民主主義の規範を順守し、総選挙の結果を尊重するように要請する」との声明を発表。ミャンマー駐在の欧米外交団も29日、同様の共同声明を出し、国軍に自制を促した。

 

議会は下院が2月1日、上院が同2日に開会する予定で、新大統領の選出が焦点となる。スーチー氏は親族が英国籍のため憲法上、大統領資格がなく、国家顧問に留任する見通し。【1月30日 毎日】

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この軍による緊張の高まりが、前出【nippon.com】にある“スー・チー氏へのけん制”なのか、あるいは、それ以上のものを含んでいるのか・・・。

 

常識的には、軍としても今更、(おそらく中国をのぞいて)国際的に容認されないクーデター云々という手荒い手段は“得策ではない”と考えているとは思いますので、いわゆる“けん制”なのでしょう。

 

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スリランカ  高まる宗教間の緊張 仏教徒過激派のイスラム教徒への攻撃・嫌がらせも

2021-01-29 23:07:26 | 南アジア(インド)

(暴徒に襲われて破壊されたイスラム教徒が営む商店=19年5月、スリランカ西部ミヌワンゴダ、奈良部健撮影【1月29日 朝日】)

 

【2019年のイスラム過激派テロ事件後、イスラム教徒への攻撃が続く】

ニュースが溢れている新型コロナ関係、あるいはアメリカや中国関係「以外」の話題・・・ということで、最近は取り上げる機会も少ないスリランカ。(例外的に国際問題で名前があがるのは、中国の一帯一路政策による「債務の罠」の代表例として)

 

“最近は少ない”というのは、“以前は、タミル人勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」との内戦があり、国際的にも大きな関心が払われていましたが・・・”という意味合いです。

 

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スリランカの最新国勢調査によると、国内では上座部(テーラワーダ)仏教の信徒が国民の70.2%を占め、ヒンドゥー教徒は12.6%、イスラム教徒は9.7%。キリスト教徒は約150万人で、そのほとんどはカトリック教徒だ。

 

独立を求める少数派のヒンドゥー教徒タミル人の「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」と、多数派の仏教徒シンハラ人との間で内戦が26年間続いた。2009年にLTTEが敗れ内戦が終結するまでに、7万~8万人の死者が出たとされる。【2019年4月22日 BBC】

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多数派の仏教徒シンハラ人系の政府が、少数派タミル人LTTEを力でねじ伏せる形で内戦が終結(その過程での政府軍によるタミル人住民への人権侵害については、欧米からは強い批判もあります)した後、再び世界の注目を集めたのが、2019年4月に起きた、イスラム過激派によるカトリック教会襲撃事件でした。

 

****テロの背後に謎の過激派、スリランカで207人死亡、邦人も****

スリランカ最大都市コロンボの教会や高級ホテルなど8カ所で21日、連続自爆テロが発生、これまでに邦人1人ら207人が死亡(その後の報道では359人とも)、450人以上が負傷した。邦人の負傷者は4人。

 

犯行声明は出されていないが、13人が拘束された。10日前に警察からテロ警戒情報が流されていた。謎のイスラム過激派組織がテロの背後にいるとの見方が出ている。

 

復活祭と外国人が標的

テロが相次いだのは午前8時45分から9時45分ごろまでの間の1時間で、3つの教会と3つのホテルが攻撃を受けた。その後、午後2時台にも2件の爆発が起きた。(中略)教会ではこの日、イースター(復活祭)の行事が行われ、信者が多数詰めかけていた。警察はキリスト教徒と外国人を狙った組織テロと見ている。(中略)

 

「タミル・イーラム解放のトラ」

スリランカでは70年代以降、ヒンズー教徒中心のタミル人の分離独立運動が活発化。その後、イスラム教徒とも結び付き「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)という組織に発展。同組織が北部と東部の分離独立運動の武装闘争を開始し、多数派の仏教徒中心のシンハラ人との間で内戦になった。

 

その後、停戦と戦闘再開を繰り返したが、2009年5月、LTTEが敗北宣言を出し、指導者も殺害されて組織が消滅、内戦が終結した。この間、LTTEは駅や空港、繁華街、ホテル、銀行などで自爆テロを繰り返した。96年の中央銀行へのテロでは、約100人が死亡する大惨事となった。

 

しかし、内戦終結後は治安が回復して平穏が戻り、日本や欧米からの観光客が年間200万人も訪れるまでになっていた。特に同国周辺の海はダイビングスポットと知られ、多くの人を魅了してきた。在留邦人は1000人弱。

 

平和が回復した一方で、宗教的な対立が深刻化。少数派キリスト教徒に対する差別や嫌がらせ、暴力などが増え、米メディアによると、今年だけでそうした事案が26件も報告されている。また仏教徒の過激派がイスラムのモスクなどを襲撃する事件も起きている。(後略)【2019年4月22日 WEDGE】

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事件については、過激派組織「イスラム国(IS)」がその後犯行声明を発表、スリランカ政府高官は、同年3月にニュージーランドのモスクで発生した銃乱射事件の「報復」との認識を示しています。

 

以前から宗教間の緊張関係もあったスリランカですが、4月にキリスト教徒を狙ったイスラム過激派による連速大規模テロがあった後、今度はイスラム教徒を狙ったテロが相次いで起きました。

 

****スリランカのテロ1カ月 後絶たぬイスラム教徒襲撃**** 

スリランカの最大都市コロンボなどで(2019年)4月21日に発生した連続テロから1カ月余りが経過した。国内では少数派のイスラム教徒への警戒感と敵意が拡大し、キリスト教徒らによる襲撃事件が相次ぐ。

 

ザフラン・ハシム容疑者が率いた犯行グループの全容もいまだ不明で、再度のテロ発生への懸念もぬぐえない。

 

スリランカ国内ではテロ事件後、イスラム教徒が経営する店舗やモスク(礼拝施設)への襲撃事件が頻発。一部は暴徒化しており、北西部プッタラムでは13日、イスラム教徒の男性(45)が刃物を持った集団に襲われて死亡した。

 

政府は夜間外出禁止令発出やSNSの遮断で事態の拡大を防ぎたい方針だ。(後略)【2019年5月23日 産経】

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ハシム容疑者らによるテロへの報復というよりは、もともとイスラム教徒への不満・憎悪が社会にあった状況で、テロ事件によって(多数派仏教徒を中心とする、イスラム教徒への憎悪を抱く人々の間で)イスラム教徒への攻撃が正当化されたというように見えます。

 

【仏教徒過激派の影響力が増大】

政治的には、2019年11月、シンハラ人・仏教徒第一主義でLTTEとの内戦を強硬策で終結させたラジャパクサ前大統領の実弟ゴタバヤ・ラジャパクサ氏が大統領に当選しています。ラジャパクサ前大統領は首相に就任。

 

2020年8月の議会選挙でも圧勝した与党内では、隣国インド・モディ政権のヒンドゥー至上主義に対抗するかのように、過激な主張を行う仏教徒の影響力が拡大しています。

 

下記の「牛の食肉処理禁止」も、仏教徒過激派が要望していた事案でした。

 

****スリランカ、牛の食肉処理禁止へ****

スリランカ政府は9月29日、牛の食肉処理を禁止する計画を発表した。今回の決定は、与党内の仏教徒の影響力が高まっていることが背景にあるとみられている。

 

牛の食肉処理の禁止は、年老いて田畑を耕せなくなった牛の世話をする制度の整備後、すぐに実施されるという。

 

隣国インドでは、ヒンズー至上主義を掲げる政権が牛の食肉処理を制限したため、年老いた牛が道路をうろつき、交通渋滞を引き起こすことが増えている。

 

スリランカでは近年、仏教徒とヒンズー教徒が宗教的な理由から牛肉を食べることを避けるようになっており、牛肉の消費量が減少している。

 

産業自体も縮小しており、10年前には3万8700トンだった牛肉の生産量は、昨年にはわずか2万9870トンとなった。

 

食肉処理部門の労働者は、人口2100万人の10%を占めるイスラム教徒が大半だ。スリランカでは仏教徒が約70%、ヒンズー教徒が12.5%となっている。

 

昨年、スリランカの牛肉の輸入量は116トンにとどまっているが、当局は引き続き輸入は許可するとしている。

 

ヒンズー教徒は牛を神聖なものとしている他、仏教徒は不殺生の教えから牛肉を食べない人もいる。【2020年10月1日 AFP】

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【新型コロナ禍 イスラム教徒への火葬強制】

こうした宗教的な緊張があるなかでの新型コロナ禍・・・その影響はイスラム教徒への火葬強制という問題にもなっています。

 

****スリランカ、火葬強制の闇 イスラム教徒ら反発****

インド洋の島国スリランカで、政府が新型コロナウイルスによる死者の土葬を禁じて火葬を強制し、イスラム教徒らが猛反発している。スリランカ政府は「火葬は感染拡大を防ぐため」と言うのだが――。

 

 ■「コロナ感染」息子を勝手に

「息子の顔を見ることもできず、勝手に火葬されてしまった。私と妻の合意すらなかった。胸が引き裂かれるようだ」

 

スリランカの最大都市コロンボに住む運転手のモハメド・ファヒムさん(38)は昨年12月、生後わずか20日で息子を亡くした。検査で新型コロナウイルスの陽性結果が出た、と病院は伝えてきたが、自身も妻のファティマさん(33)も陰性で、生まれてからずっと一緒に過ごしていたのに息子だけが陽性だとは、信じられなかった。

 

息子が火葬されてしまうことを恐れたファヒムさんは、別の病院を探し回って改めて検査しようと必死だった。しかし、病院は息子の再検査のための血液提供を拒んだ。しばらくして、病院の担当者から「共同墓地に来てほしい」と突然電話があり、同意のないまま火葬されたことを知った。

 

ファヒムさんは朝日新聞の取材に「最愛の息子との最後の別れを奪われたばかりか、信仰に反することをされた。二度とこんなことは起きてほしくない」と憤った。火葬やひつぎの費用4万5千スリランカルピー(約2万5千円)も請求されたという。

 

ファヒムさんの信仰するイスラム教は火葬を禁じている。死者は土にかえって骨になった後、終末の時に元の身体でよみがえると信じられているからだ。

 

しかし、スリランカ政府はコロナ感染による死者について、火葬しか認めていない。「土葬すると遺体からウイルスが地下水に混じり、感染拡大を引き起こす可能性がある。火でウイルスを消滅させなければならない」という説明だ。

 

だが、それは表向きの理由にすぎず、「イスラム教徒への嫌がらせ」(地元記者)ではないかとの見方が広がる。報道によると、コロナの感染拡大を理由に火葬を強制している国は、スリランカ以外にはほとんどないとされる。

 

世界保健機関(WHO)は昨年9月、「土葬によって感染が広がるという根拠はない。死者やその家族、宗教上の尊厳は守られなければならない」と指摘。イスラム諸国でつくる「イスラム協力機構(OIC)」も「(火葬強制は)人権の侵害に当たる」として、スリランカ政府に撤回を求めるなど、批判が広がる。

 

イスラム教徒が多数を占める隣国モルディブ政府は、スリランカのイスラム教徒の土葬をモルディブ国内で受け入れる案まで表明した。

 

 ■「仏教の国」政権が憎悪利用

人口約2200万人のスリランカ仏教徒が約7割を占め、イスラム教徒は約1割の少数派だ。憲法は仏教に「第一の地位」を与える一方、信教の自由を保障する。

 

だが、元国防次官で仏教を重んじるゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の政権下でイスラム教徒の受難が続いている。

 

昨年9月、ゴタバヤ氏の兄で首相のマヒンダ・ラジャパクサ元大統領は、牛の食肉処理の禁止策を打ち出した。牛の殺生を嫌う過激派仏教組織が要望してきたものだ。輸入した牛肉の販売は続ける。牛肉処理や牛肉の販売は、主にイスラム教徒がなりわいとする。

 

マヒンダ氏が大統領を務めていた2013年にも、過激派仏教組織はイスラム教のハラル食品について「イスラム教徒は仏教国のスリランカの人々に宗教色を強制しようとしている」などと主張し、ハラル認証制度の廃止を主張。政権は受け入れた。

 

アジア経済研究所の荒井悦代研究員は「仏教は不殺生を説くが、実際には魚や肉を食べている。不都合を解消するために、食肉処理の工程をイスラム教徒に委ねてきた。政権は、選挙で協力してくれた仏教徒に報いることを考えているのだろう」と指摘する。

 

スリランカでは、19年4月に起きたイスラム過激派による連続爆破テロ事件以降、イスラム教徒が多く住む地区で民家や商店が放火されたり、石を投げられたりする事件が相次いだ。

 

イスラム教への憎悪感情の根底にあるのが、「スリランカ仏教徒の国で、非仏教徒仏教徒の好意によってスリランカに暮らせる」という意識だ。

 

同年の大統領選で、テロを念頭に「イスラム過激派の脅威と戦うのが急務」と治安強化を訴えて勝利したゴタバヤ氏。就任式の場所に仏教寺院を選び、「私はシンハラ人仏教徒の支持だけで当選できることは知っていた」と公言した。

 

多数派の支持を背景に、昨年10月には憲法を改正して大統領権限を強化。議会の早期解散も可能になった。

 

スリランカ政治に詳しいインド防衛研究所のアショク・ベフリア氏は「多数派のシンハラ人仏教徒の優位性を示すのが、政権の目的だ」とした上でこう言う。「米国のトランプ大統領が白人至上主義と指摘されたのと同様、スリランカも多数派の仏教至上主義に陥った。少数派の排除が止まらないだろう」【1月29日 朝日】

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アメリカではトランプ前大統領が退場したものの、世界ではまだ融和・協調より〇〇至上主義が幅を利かす国が少なくありません。

 

ややうしろめたさもつきまとっていた〇〇至上主義はトランプ政治によって正当化されることにも。

 

なお、イスラム教徒の火葬・土葬の問題は日本でも起きています。

 

****日本もひとごとではないイスラム教徒の土葬問題****

(中略)

<日本でも現在進行形の対立が>

日本でも1994年5月、山梨県石和町で身元不明の自殺者を火葬したところ後にそれがイラン人イスラム教徒だったと判明し、イラン大使館が抗議する事件が発生した。

 

現在も大分県日出町で別府ムスリム協会が土葬用墓地建設のため土地を購入したものの、住民がその下方にあるため池への排水流入など衛生面での懸念を主な理由として建設に反対。意見の対立が続いている。 

 

人はいつか必ず死ぬ。死ねば埋葬しなくてはならない。在日イスラム教徒は既に20万人を超えたとされる。日本では死者の99%以上が火葬されるが、イスラム教徒は火葬を拒否する。一方、土葬に抵抗感を覚える日本人も少なくない。 

 

スリランカではテロ、疫病、火葬といったさまざまな問題が仏教徒とイスラム教徒の間の敵意を増幅させ、社会の分断が進んでいる。イスラム教徒の人口が急増している日本に、これを人ごとだと軽んずる余裕はもうない。 【2020年12月24日 飯山 陽氏 Newsweek】

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新型コロナワクチン 欧州で白熱する「ワクチン戦争」 早期実施の声が出ない日本の不思議

2021-01-28 23:25:33 | 疾病・保健衛生

(英国で4日、英製薬大手アストラゼネカと英オックスフォード大が開発した新型コロナワクチンの接種を受ける高齢者【1月28日 朝日】)

 

【白熱する「欧州ワクチン戦争」】

各国が新型コロナワクチンの接種をコロナ禍からの「出口」として急ぐなかで、感染状況が厳しいEUでは予定していたワクチンの供給が行われていないと、製薬会社との間で法的手段も辞さないとの激しい議論になっています。

 

なお、EUのワクチンは欧州委員会が一括購入し、人口比に基づき加盟国に配分しています。

 

****【新型コロナ】ワクチン足りない! EU、供給削減に怒る**** 

欧州で新型コロナウイルスのワクチン供給が逼迫(ひっぱく)してきた。大手製薬会社ファイザー、英製薬大手アストラゼネカが相次いで、欧州連合(EU)への供給削減を発表した。

 

接種計画の見直しを迫られる国もあり、ミシェルEU大統領は24日、仏ラジオで製造元に契約順守を求め、「法的措置も辞さない」構えを示した。

 

ファイザーは15日、欧州での供給の一時削減を発表。ワクチン増産に向けて、ベルギー工場の生産ラインを見直すための措置だとしており、供給正常化は25日以降になるとした。

 

アストラゼネカについては23日、欧州委員会が通告を受けたと発表し、「不満」を表明した。

 

同社のワクチンは今月末、EUで販売が認可される予定で、欧州委が各国に配分計画を示していた。3月までのEUへの納入分は計画の4割程度になる見込みという。

 

イタリアのコンテ首相は「アストラゼネカのワクチンは国内に800万回分が納入されるはずだったのに、340万回分になる」とフェイスブックに見通しを示し、接種計画に影響が出ると懸念を表明。「重大な契約違反。国民の生命がかかっている」として、同社に法的措置をとる構えを示した。

 

イタリアは、ファイザーについても提訴する方針を示している。ポーランド政府報道官も地元ラジオで、来月にも製造元への提訴を検討すると述べた。

 

一方、ハンガリー政府はEUを通じたワクチン購入では遅すぎるとして、国内に限ってロシア製ワクチン使用を暫定認可することを決めた。ペーテル外務貿易相がこのほど訪ロし、購入をめぐる合意を交わした。

 

ドイツではシュパーン保健相が、「受動的ワクチンとしての効果が確認された」として、モノクローナル抗体を使った治療薬を20万回分購入すると表明した。

 

この治療薬は昨年、トランプ米前大統領が新型コロナに感染した際に使われた。症状悪化を食い止める効果があるとされ、ドイツでは当面、大学病院での使用を想定しているという。

 

EUでは昨年末、ファイザーのワクチンが承認の「第1号」となり、域内各国で接種が始まった。現在は米バイオ企業モデルナのワクチンとあわせて2種が承認され、各国で接種キャンペーンが展開されている。

 

欧州委は「夏までに成人人口の7割」を目標に掲げ、製造元の各社と計23回分のワクチン購入に合意していた。

 このうち、ファイザーは6億回分、モデルナは1億5千万回分、アストラゼネカは4億回分を占める。EUのワクチンは欧州委が一括購入し、加盟国に配分している。【1月25日 産経】

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EUにとって“苛立たしい”のは、先行する(EUを離脱した)イギリスへのワクチン供給が比較的順調に進んでいるのに対し、EUが劣後しているという点です。

 

EUでワクチン接種が始まったのは12月末で、イギリスの3週間近く後だったこともあり、本来ならこの遅れを取り戻したいところなのに、先に契約したイギリスへの供給が優先されている・・・という“焦り”も。

 

“英オックスフォード大などの集計では、英国では100人あたり11回超の接種がなされたのに対し、EUでは2・5回にも届いておらず、ワクチン接種への焦燥感が高まっている。”【1月28日 朝日】

 

****EUが「英国優先?」に怒り 白熱「欧州ワクチン戦争」 スペインでは接種停止も**** 

欧州連合(EU)のキリアキデス欧州委員(保健衛生担当)は27日、新型コロナウイルスのワクチンで、英製薬大手アストラゼネカがEUへの供給削減を通告したことを批判し、「約束を守るべき」と迫った。同社が英国への供給を優先したとの見方も浮上し、欧州で「ワクチン戦争」が白熱している。

 

キリアキデス氏は27日の記者会見で、昨年8月に欧州委が同社と事前合意を交わしたことを強調し、「生産能力に達しなかった、というのは文書に反する」と述べた。さらに、「先に決めたところに先に供給するという理屈は拒否する」として、EUより早く合意を交わした国に供給を優先するのは不当だと主張した。

 

キリアキデス氏の発言は、アストラゼネカ幹部が今週、欧州メディアで行った発言を受けたもの。この幹部は「英国は、EUより3カ月早くワクチンを契約した。このため(英国向けは)供給ラインを改善する余裕があった」と述べ、供給体制は英国とEUで格差があると認めた。

 

さらに、EUとの事前合意について、「われわれは最善を尽くすと言ったが、将来の成功を約束したわけではない」と欧州委に反論した。同社は英国やオランダ、ベルギーに生産拠点を持つ。

 

EUでワクチンが逼迫(ひっぱく)する中、英国のジョンソン首相は27日、下院で「すでに680万人にワクチンを接種した。欧州で、どの国よりも多い」と述べ、国内の接種計画が順調に進んでいると強調した。

 

EU域内では今月、米製薬大手ファイザーも、ベルギー工場の改変のために一時供給を削減すると発表。スペインのマドリード州政府は27日、2度目の接種ができなくなる恐れがあるとして、ワクチン接種を2週間、停止することを決めた。

 

欧州委はワクチンの域外流出の歯止めとして、輸出を規制する方針を表明している。フランス製薬大手サノフィは27日、自社ワクチンの開発が遅れる中、ドイツ工場でファイザーのワクチン生産を支援すると発表した。

 

EUでは現在、ファイザー、米バイオ企業モデルナの2種のワクチンが接種されている。アストラゼネカのワクチンは今月末に域内での販売が認可される予定で、欧州委は最大4億回分を調達する事前合意を交わしている。【1月28日 産経】

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「われわれは最善を尽くすと言ったが、将来の成功を約束したわけではない」・・・・そのあたりが契約書でどのように記されているのか・・・契約におけるもっとも基本的な事項のはずですが、どうしてそこで「見解の相違」が生じるのでしょうか?

 

EUも製薬会社も前のめりで契約を急ぎ、そうした重要な部分が互いに都合よく解釈できる“玉虫色”ななっていたのでしょうか。

 

EU側は域内での製造品の流出に歯止めをかける「輸出規制」を行う方針も示しています。

一方、こうした措置により供給が制限される可能性があるイギリスは、EUの動きをけん制しています。

 

****EUがワクチン囲い込みへ 欧州委員長、「輸出規制」で供給削減に対抗****

欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は26日、世界経済フォーラム(WEF)のオンライン会議で、新型コロナウイルスのワクチンでEUが輸出を規制する方針を示した。ワクチン供給がひっ迫する中、域内での製造品の流出に歯止めをかける構えだ。

 

フォンデアライエン氏は「EUは最初のワクチン製造のために、巨額の投資をした。企業は責務を果たさねばならない」として、ワクチン輸出を透明化するシステムを設けると述べた。

 

米製薬大手ファイザー、英製薬大手アストラゼネカはベルギーにワクチン生産拠点を持っており、輸出を届け出制とすることで、EUが契約分のワクチンを確保する狙いがある。

 

アストラゼネカが先週、3月までのEUへの供給量を当初予定の4割程度にすると通告したのを受け、対抗措置に出たものだ。

 

ドイツのシュパーン保健相も「輸出を認可制にするのはよいこと。EU内での製造後、どのワクチンが輸出されるのかを監視できる」とフォンデアライエン氏の提案を支持した。

 

これに対し、英国のジョンソン首相は記者会見で「疫病禍では、国際的協力が必要。国境に制限を設けるべきではない」と述べ、EUの動きをけん制した。英国は、ファイザーのベルギー工場からワクチンを輸入しており、EUが輸出管理を発動すれば、影響を受ける恐れがあるためだ。(後略)【1月27日 産経】

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****英、ワクチン供給混乱回避へEUと協力へ 保護主義をけん制****

英国のハンコック保健相は26日、新型コロナウイルスワクチンの供給に混乱が生じないよう欧州連合(EU)と協力できるとの見方を示し、パンデミック(世界的大流行)の最中で保護主義は正しい姿勢ではないと強調した。(後略)【1月27日 ロイター】

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EU側の怒りはおさまりません。「輸出規制」にとどまらず、EU内の工場の生産が遅れるなら、イギリスの工場で生産したワクチンをEUに供給するようにアストラゼネカに要求しています。

 

****EU、アストラゼネカに英工場製のワクチン供給を要求 域内での不足うけ****

欧州連合(EU)は27日、英製薬大手アストラゼネカに対し、イギリスの工場で生産している新型コロナウイルスワクチンをEU加盟国に供給するよう強く求めた。

 

アストラゼネカは先に、EUには今年第1四半期(1〜3月)に約束した供給分のごく一部しか提供できないと発表。欧州工場における生産問題が原因としている。

 

これに対してEUは激しく反発。EU域外の工場で生産した分で不足を補うべきだと主張している。

 

両者は27日に問題解決に向けて協議した。欧州委員会のステラ・キリアキデス保健担当委員はツイッターで、「配達スケジュールが不透明な状態が続いている」ことを残念に思うと述べた。

また、「解決策を見いだし、EU市民に迅速にワクチンを届けるため、今後もアストラゼネカと協議していく」とした。【1月28日 BBC】

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【ワクチンを急げとの声が出ない日本の不思議】

ワクチン供給の遅れは、自国民の生命に多大な影響を及ぼしますし、そのことは各国政権への信頼にも関わってきますので、EUが怒るのは当然とも言えます。

 

むしろ不思議なのは、まだワクチン接種が始まってもおらず、開始が1か月ほど先になりそうな日本で「早くしろ!」「どうして遅いのか!」という議論が全く表面化しないことです。

 

昨日取り上げた、大統領がワクチン・コロナを軽視していた“あの”ブラジルでさえ、ワクチン接種が始まっています。 アジアでは・・・

 

タイのプラユット首相は、2月14日に開始する新型コロナウイルスワクチン接種の第1段階では1900万人への接種を目指すと表明したていますが、同国では政府のワクチン配布ペースが遅いとの批判が出ている【1月28日 ロイターより】とのこと。 2月14日で“遅い”なら、日本はどうなるのか?

 

日本よりワクチン確保が遅れていると国内批判も出ていた韓国でも“ワクチン接種 2月に首都圏の医療従事者から=韓国政府が計画発表”【1月28日 聯合ニュース

 

インドネシアで1月13日、ワクチンの接種キャンペーンが始まり、ジョコ大統領が最初に接種を受けています。

インドも1月16日、ワクチンの世界最大級の接種計画を開始しています。

中国、インドの「ワクチン外交」がぶつかるミャンマーでは、1月27日からインド製のワクチンの接種が始まりました。

東南アジア・南アジア各国は、中国とインドの「ワクチン外交」競争の結果、多くの国がどちらかから、あるいは両方からワクチン供給を受ける計画になっています。

 

そんななか、日本は2月下旬から医療従事者への接種がスタートするようですが、早くも“遅れ”が。

 

****高齢者ワクチン接種は4月以降に 3月下旬がずれ込み、河野氏表明****

河野太郎行政改革担当相は27日、新型コロナウイルスワクチンについて、65歳以上の高齢者への接種は早くても4月1日以降になると全国知事会などに伝達したことを明らかにした。

 

政府は3月下旬の開始を想定していたが、ずれ込んだ格好だ。最も早い想定では6月第3週までに2回目の接種を終える日程を描いている。都内で記者団に語った。

 

河野氏は「自治体には、この日程で準備してもらいたい。3月中に高齢者接種が始まることはない」と説明。理由を「医療従事者の数やファイザー社とのやりとりをしている状況に鑑みた」と語った。

 

実際の接種日程が確定するのは供給日程次第だとも強調した。【1月27日 共同】

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実際の接種日程が確定するのは供給日程次第・・・・冒頭のEU「ワクチン戦争」に見られるように、供給は非常にタイトになっています。

 

そうしたことから、供給予定外国製薬会社の日本国内での生産を進める動きも。

 

****ワクチン、アストラゼネカが9000万回分以上を国内生産へ=官房長官****

加藤勝信官房長官は28日午前の記者会見で、アストラゼネカからのコロナワクチンの供給について、「厚生労働省における生産設備の強化のための補助金を活用しながら国内生産の準備をしていると承知している」と述べ、「昨日、厚労省に国内で9000万回以上の生産を目指すとの報告があった」と明らかにした。その上で、「ワクチンを国内で生産できる態勢を整えることは極めて重要だ」との認識を示した。

日米首脳会談において、新型コロナウイルスの治療薬やワクチン開発について日米で緊密に連携していくことで一致したと明らかにした。

 

ワクチン供給に関しては、全世界共通の課題であり、日本が調達を予定しているファイザーやモデルナといった企業が米企業であることも踏まえ、供給全体の問題について日米での連携・協力を確認したところだとした。(後略)【1月28日 ロイター】

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アメリカも他国以上にワクチンを必要としており、日本への供給がスムーズに行くのか?

 

個人的印象としては、世界中でワクチン接種が急がれるなかで、日本の対応は極めて「悠長」に思えてしまいます。

 

もちろん、安全性・有効性の確認など、必要とされる検証を急いで行っているのでしょうが、他国より1周遅れ・2週遅れで遅いというのは、他国は「必要な確認」を行わずに接種を行っている、日本の対応が本来のやり方で他国のやり方が間違っているということでしょうか?

日本はワクチン接種を急ぐ必要がない、他国感染が軽視できる状況にあるのでしょうか?

 

ワクチン接種開始が遅れれば、それだけ犠牲者も増えますし、自粛を強要される状況で事業に行き詰まったり、仕事を失い、生活できなくなる者も増加します。

 

他国より1周遅れ・2週遅れになるのであれば、その理由をきちんと説明してほしいものです。

 

政府が、あまり急がないのは、わかります。急いだ結果、副作用やトラブルが多発すれば、批判の矛先は政府に向かいますので、国民の生命がどうなろうが、生活がどうなろうが、とにかく時間をかけてしっかりとやりたい・・・という発想は、わからないではありません。

 

政府の対応以上に不思議なのは、メディアや国民世論からも「ワクチンを急いで!」という声がほとんど出ないことです。

 

メディアが取り上げる“街の声”は「ワクチンは本当に大丈夫なのかしら・・・怖い」といった類がほとんど。

私には、これまでの薬害に過剰反応しているように思えるのですが・・・。

 

結局のところ、多くの国民は、なんだかんだ言いつつ、今の“リスクをとることなく、タコつぼのなかで嵐が過ぎるのを待つような”「自粛」社会で満足しているようにも。

 

そのあたりは、下記のような指摘にも共通する国民性のようにも思えます。

 

****「失われた20年」で、日本が本当に失ったのは「勇気」だ!****

中国のポータルサイト・百度に22日、「失われた20年で日本が失ったものは、いったい何だったのか」とする記事が掲載された。

記事は、1985年のプラザ合意、そして、90年代初めのバブル崩壊により日本は「失われた20年」を経験することになったと紹介。経済での世界一を目指した当時の日本としては「一時的な退避」のつもりだったかもしれないが、結果的に「退避」が常態化することになり、反転攻勢に出る機会が生まれることはなかったと伝えた。

その上で、日本が「失われた20年」の中で本当に失ったものについて「それは勇気だ。日本企業は二度と世界一になろうとする勇気を持つことはなかったのだ」としている。

記事は、かつてソニーやパナソニック、東芝といった日本の大手メーカーは綺羅星のような存在であり、到底追いつけるような存在ではなかったとする一方で、今やこれらの「綺羅星」は商品を選ぶうえでの単なる選択肢の一つとなり、もはや「到底手の届かない神聖さ」も失われてしまったとの考えを示した。

また、多くのハイエンド技術分野において日本はなおも大きな強みを持っており、ほぼライバルがいない分野も少なくないと指摘する一方で、「日本のイノベーション環境を見てみると、まるで時間が止まってしまったようであり、若い人たちの活躍も、新たなブランドも見えてこない」と評した。

そして、保守的な高齢者が増え、若い世代に「闘志」が不足する中で、将来の日本に残された立ち位置は頑固な「職人」しかないと主張。「失われた20年の中で失った勇気を取り戻そうとする人はいないのだろうか」としている。

記事は最後に、「向上する勇気を失った日本は、もはや世界で競い合う資格を放棄してしまったのである」と結んだ。【1月23日 Searchina】

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ブラジル  「あの」ボルソナロ大統領も中国に感謝 中国ワクチン外交の勝利

2021-01-27 23:45:39 | ラテンアメリカ

(1月8日、ブラジリアの大統領府でボルソナロ大統領(左)とあいさつを交わす茂木敏充外相【1月9日 時事】)

 

【ブラジルでもワクチン接種開始 対応が遅れたボルソナロ大統領の支持率低下】

新型コロナの感染拡大に苦しむ世界各国で続々とワクチン接種が始まっていますが、これまで新型コロナやワクチンを軽視するルソナロ大統領の発言がたびたび話題になってきたブラジルでも、いよいよ。

 

*****ブラジルでワクチン接種開始=先住民・医療従事者を優先―新型コロナ****

ブラジル各地で18日、中国で開発された新型コロナウイルスワクチンの接種が始まった。当面は医療従事者や、免疫力が弱いとされるアマゾンなどの遠隔地に暮らす先住民族らが対象となる。

 

ブラジルは累計感染者数が世界で3番目に多い約850万人、死者は2番目の約21万人を数える。モウラン副大統領は「今年中に国民の7割に接種できる分のワクチン購入契約を結んでおり、年末までにパンデミック(世界的流行)対策から解放されるだろう」と述べた。

 

ブラジル衛生監督庁(ANVISA)は17日、中国で開発されたワクチンと、英製薬大手アストラゼネカがオックスフォード大と共同開発したワクチンの緊急使用を承認していた。【1月19日 時事】 

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ただ、大統領のコロナ無視・対応の遅れに不満を募らせる国民も多く、退陣を求める声も出ています。

 

****ボルソナロ氏の退陣要求、ブラジルでデモ コロナ対応めぐり****

ブラジルの複数の都市で23日、新型コロナウイルス流行への対応をめぐりジャイル・ボルソナロ大統領の退陣を求めるデモが行われ、大勢の人が車で参加した。

 

左派の政党や団体が主催したこの抗議デモでは、自動車約500台がクラクションを鳴らしながら首都ブラジリアの官庁街を走行。車の窓ガラスには、「ボルソナロは出て行け」「今すぐ弾劾を」「全国民にワクチンを」などのスローガンが書かれていた。

 

同様のデモはリオデジャネイロやサンパウロなど他の都市でも行われ、多くの車が列をつくった。

 

ブラジルでの新型コロナウイルスによる死者数は世界で2番目に多く、21万5000人を超えている。ボルソナロ氏が長きにわたり流行の深刻さを軽視したことから、同国のワクチン接種プログラムは他国に比べて遅れ、ようやく今週不安定ながらもスタートを切った。

 

デモ参加者らはまた、コロナ流行の多大な影響に対応する緊急支援金制度が昨年12月に終了したことにも抗議。同国人口の3分の1近くに上る約6800万人がこの制度を利用していた。 【1月24日 AFP】

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“同国のワクチン接種プログラムは他国に比べて遅れ、ようやく今週不安定ながらもスタートを切った”・・・日本はまだ当分先のようですガ・・・という話は余裕があれば後程。

 

ボルソナロ大統領のコロナ軽視発言は多々あって取り上げきれませんが、ひとつだけ。

 

****「ホモの国」みたいな対応やめろ ブラジル大統領、コロナでまた問題発言****

ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領が(2020年11月)10日、新型コロナウイルスに対し「ホモ(セクシャル)の国」のような対応をするなと発言し、批判を浴びている。

 

ブラジルは、新型ウイルスによる死者が16万3000人と、米国に次いで世界で2番目に多い。だが、極右政治家のボルソナロ氏は一貫して新型ウイルスを軽視し、物議を醸す発言を繰り返している。

 

10日に大統領府で行った演説は、観光業に関するものだった。だが、ボルソナロ氏はその中で、最近では誰もかれもが新型ウイルス流行の話をしているとし、「そんなのはもうやめなければならない」と述べた。

 

さらに「亡くなった方については気の毒に思う。本当にそう思う。だが、われわれはみんないつか死ぬ。現実から逃げても仕方がない。ホモの国みたいなことはやめなければならない。(中略)顔を上げて闘わなければいけない。ホモみたいなのは大嫌いだ」と続けた。

 

新型ウイルスを「ちょっとしたインフルエンザ」と呼んだり、一部の州の予防措置を「ヒステリー」と呼んで非難したり、新型ウイルスに関するボルソナロ氏の発言は、これまでにいくつも問題になっている。ブラジル人は下水を泳いでも「何にもかからない」ほど免疫システムが強いとも述べている。 【2020年11月11日 AFP】

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こうした発言は国内の野党勢力から、あるいは国際世論的には、批判・嘲笑を浴びていますが、大統領の国内での支持率はそんなには悪くなかった・・・というのが、これまでの現実です。

 

大統領の発言は、失業者への現金給付策も奏功して、自粛できない貧困層などの共感を一定に得ていました。

 

****ブラジル、コロナ拡大も大統領の支持率上昇****

新型コロナウイルスの感染拡大が深刻なブラジルで、ボルソナロ大統領の支持率が向上している。最新の世論調査によると支持率は37%で、不支持率の34%を上回った。経済が低迷する中、経済活動の再開を唱えるボルソナロ氏の主張に理解を示す声が集まった。

 

調査会社ダタフォリャが13日夜に発表した。支持率は6月の前回調査の32%から5ポイント上昇し、不支持率は44%から10ポイント低下した。新型コロナの感染拡大が始まって以来、支持率が不支持率を上回るのははじめて。

 

ボルソナロ氏を評価する声が高まる背景にあるのが、深刻な経済低迷だ。3月以来、外出制限は必要ないと主張するボルソナロ氏の意向を無視する形でほとんどの州で外出自粛令や飲食店の営業規制が敷かれたが、感染拡大を抑えることができていない。一方、失業者は増加が止まらず、足元の失業率は13%を超える。

 

効果が見えない感染症対策よりも経済を優先するボルソナロ氏の姿勢は徐々に見直されつつある。政府は低所得者や失業者向けの現金給付も実施しており、こうした施策も支持率の上昇に寄与したとみられる。

 

新型コロナを「ただの風邪」と軽視するボルソナロ氏は自らも感染したが、結果的に軽症で済んだことも追い風となっている。

 

ブラジルの新型コロナ累計感染者数は330万人強、死者数は10万7千人。ともに米国に次ぐ規模で、収束の兆しは見えない。【2020年8月15日  日経】

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ただ、一向に収まらないコロナ禍、ワクチン接種の遅れという現実を受けて、さすがに最近は支持率が低下しています。

 

****ブラジル大統領の支持率急落、弾劾には過半数が反対=調査****

調査会社ダッタフォリャが22日に発表した世論調査によると、ブラジルのボルソナロ大統領の支持率が下落しているものの、同日発表された別のダッタフォリャ調査では、大統領の弾劾には過半数が反対の考えだった。

 

ブラジルは新型コロナウイルス感染第2波が拡大している一方、ワクチン調達が不足、政権への評価が急落している。

 

調査では、ボルソナロ政権を「悪い」または「ひどい」と評価した回答者の割合が全体の40%と昨年12月初めに行われた前回調査の32%から上昇した。「良い」または「素晴らしい」と回答した割合は3分の1弱。前回調査は37%だった。

 

フォリャ・ジ・サンパウロ紙によると、今回の支持率下落は2019年の政権発足時以来最も大幅となった。【1月25日 ロイター】

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【大統領と野党側州知事との間の「政争」ともなったワクチン対応】

コロナ対応・ワクチン対応は、大統領と野党側州知事との間の「政争」ともなってきました。

 

***ブラジル、ワクチン巡り政争 ボルソナーロ氏、ドリア氏****

新型コロナウイルスの感染者が520万人を超えたブラジルで、ワクチンをめぐる政治対立が表面化している。

 

2年後の選挙での対決が予想されるボルソナーロ大統領とサンパウロ州のドリア知事が、それぞれ異なるワクチンを推薦。コロナ禍克服の切り札と期待されるワクチンが、政争の具になる危うさも見え隠れする。

 

 ■早期導入へ、中国企業と契約 ドリア氏/大統領再選狙い、一転「安全性」 ボルソナーロ氏

「サンパウロはワクチン接種を義務化するだろう」

ドリア氏は16日の記者会見でこう述べた。念頭にあるのは中国のバイオ企業シノバック社のワクチンだ。

 

ドリア氏は9月、シノバック社からワクチン4600万回分の提供を受ける契約を結んだと発表。契約額は9千万ドル(約95億円)で、このほど連邦政府への承認申請手続きも始めた。12月にも接種を始めたいとしている。

 

2022年大統領選の有力候補と目されるドリア氏は、ブラジルで感染が拡大し始めた3月、外出自粛などの規制を断行。経済活動を優先させるボルソナーロ氏を「ブラジル新型コロナとボルソナーロという二つのウイルスと闘っている」と批判した。

 

ワクチンの早期導入を目指す背景には、世論の変化がある。当初、ドリア氏の対応は市民に支持されたが、自粛期間が長引くにつれ「経済を冷え込ませている」と不評を買った。いち早くワクチンを確保し、批判を払拭(ふっしょく)したいとの思惑が透ける。

 

一方、ボルソナーロ氏は、「科学的に証拠のないワクチンに無責任ではいられない。米国や日本のような国が作ったものでも政府の承認が必要だ」と、安全性を重視する姿勢を示す。

 

再選を目指すボルソナーロ氏の支持率は新型コロナの感染拡大で下がったが、失業者らへの現金給付などで再び上昇。英国のオックスフォード大とアストラゼネカ社のワクチン1億回分にあたる19億レアル(約350億円)の予算を確保する大統領令に署名し、承認申請手続きも始めた。

 

これまで安全性に疑問のある抗マラリア薬を新型コロナ患者に投与するよう主張してきたボルソナーロ氏がワクチンの信頼性にこだわるのは、ドリア氏への対抗意識がありそうだ。

 

ドリア氏はシノバック社のワクチンに重大な副作用はないと強調。「ワクチンの政治化やワクチン戦争はしない」と述べ、国がワクチンの承認を遅らせないよう釘を刺す。(後略)【2020年10月19日  朝日】

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【大統領 ボロクソにけなしていた中国製ワクチンに、一転、感謝】

ボルソナロ大統領は、野党有力者が推す中国製ワクチンについてはボロクソにけなしていました。

 

昨年11月に、中国の製薬大手、シノバック・バイオテックが開発する新型コロナウイルスのワクチン治験を巡り、ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)が「深刻な事態」があったとしてブラジル国内治験を中断することがありました。

 

このときも、この臨床試験を批判してきたボルソナロ大統領は、ANVISAの決定は「自分の勝利」だと述べています。

 

なお、この被験者が死亡する「深刻な事態」は被験者の自殺と判明し、治験は継続されました。

 

ワクチン自体に対しても否定的な見解を、つい先月明らかにしていました。

 

****コロナ収束へ、ワクチンに走る世界は正当化できず=ブラジル大統領****

ブラジルのボルソナロ大統領は19日、自身の見解として、新型コロナウイルス感染の世界的流行(パンデミック)は収束しつつあり、世界がワクチンに走るのは正当化できないとの考えを述べた。大統領は、ワクチン接種を拒否している。(後略)【12月21日 ロイター】

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そんな中国嫌い・ワクチン嫌い(だったはず)のボルソナロ大統領ですが、先述のようなワクチンの遅れへの不満の高まり・支持率低下を受けてのものでしょうか、対応を一変させています。(ボルソナロ大統領は、トランプ前大統領と同じようなタイプですから、自分の都合で発言はコロコロ変わります。)

 

****「中国のワクチンは買わない」はずが…ブラジル大統領が中国に感謝、現地ネット民「彼らは天使」―中国紙****

中国紙・環球時報は27日、新型コロナウイルスの感染状況が深刻なブラジルで、大統領や多くのネットユーザーから中国に感謝する声が上がったと報じた。

記事によると、ボルソナロ大統領は25日、「中国政府の心遣いに感謝する」などと投稿してワクチンの有効成分の同国への輸出を迅速に承認した中国政府に謝意を示した。

 

ブラジル政府はこれまで中国のワクチンに懐疑的な立場を取って「購入しない」との考えを表明していたが、ロイターの同日の報道によると「新型コロナの打撃を強く受けたブラジルはほぼ完全に中国・科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が研究開発したワクチン『コロナバック』に依存している」状況という。

「中国大使館から連絡を受けた」とする同大統領の投稿は、シノバックのワクチン生産に用いる有効成分5400リットルが数日のうちにブラジルに届くという内容で、シノバックとワクチンを共同研究する同国のブタンタン研究所は「当研究所が約850万回分のコロナバックを生産するのを保証する量だ」と表明。

 

大統領はまた、「オックスフォード大学・アストラゼネカ開発のワクチン生産に使われる有効成分のブラジルへの供給についても中国は迅速に同意している」と明らかにしており、ワクチン生産でアストラゼネカと合意した同国のオズワルド・クルス財団は「中国は来月8日頃にブラジルに向けて発送するだろう」との見通しを示した。

大統領の投稿を受け、閣僚からは「中国の今回の動きはブラジルと中国との関係が非常に建設性を備えていることを示すものだ」などと両国関係を積極的に評価する声が寄せられた。

 

ネットユーザーの間でも強烈な反響を呼び、中には「中国政府の思いやりに泣きたくなる。彼らは天使。常に思いやりに満ちている」という声を上げた人もいたという。

記事は「ブラジルはすでにワクチン接種作業を展開しているが、製品と原材料の不足が各界の懸念を引き起こしている」とした他、現地メディアの報道として「ボルソナロ大統領は中国への態度を変えるよう外交当局に要求。外相は中国との対話再開を試みている」などと伝えている。【1月27日 レコードチャイナ】

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中国ワクチン外交は東南アジアなどで多くの成果をあげつつありますが、ブラジルもまた、その成功事例のひとつのようです。

 

ブラジル以上にワクチン対応に「悠長」に構えている日本の話は、長くなるので別機会に。

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キューバ 米前政権によるテロ支援国家再指定 今後は米新政権の政策と国内経済改革の結果次第

2021-01-26 22:47:44 | ラテンアメリカ

(ハバナで2020年12月29日、「CUC(兌換ペソ)は受け付けません」と書かれた紙を貼って、スパイスを売る女性【1月26日 朝日】)

 

【トランプ前政権によるテロ支援国家再指定の置き土産】

アメリカは1982年、キューバをテロ支援国家に指定し、オバマ前政権が2015年5月に解除。同7月には54年ぶりに国交を回復させ、キューバ革命以来、半世紀以上対立した両国関係は大きく改善しました。

 

しかし、トランプ政権のもとでは再び制裁を強化し、バイデン新政権への交代を直前にした今年1月には、テロ支援国家の再指定も。

 

****トランプ米政権、キューバをテロ支援国家に再指定****

トランプ米政権は11日、キューバをテロ支援国家に再指定したと発表した。バイデン次期大統領がオバマ政権時代の融和路線に復帰する際の障害になる可能性がある。

ポンペオ米国務長官はキューバが米国からの亡命者やコロンビアの反乱勢力の指導者を受け入れることで「国際テロ行為に繰り返し支援を提供している」と批判。また、ベネズエラのマドゥロ政権を安全保障面で支援することで同氏の権力維持を可能にし、ベネズエラ国内で国際的なテロリストが勢力を拡大する土壌をつくっているとした。

キューバの「カストロ政権は国際テロや米国の司法を破壊する活動への支援を終わらせる必要がある」と強調した。

オバマ前大統領は2015年にキューバのテロ支援国家指定を解除し、同年の国交回復につなげた。

バイデン次期大統領は選挙戦で、「キューバの人々に打撃を与え、民主主義と人権の向上で全く役に立たない」トランプ氏の対キューバ政策を早期に転換すると公約していた。

ただ、政権交代直前のテロ支援国家再指定は、バイデン氏の政策転換に悪影響を与える可能性がある。他に指定されているのはシリア、イラン、北朝鮮。

キューバのロドリゲス外相はツイッターに「米国による偽善的で不誠実なキューバのテロ支援国家指定を非難する」と投稿した。

トランプ氏は20日の大統領退任が迫る中で矢継ぎ早にキューバやベネズエラ、イランなどへの制裁やその他の強硬措置を発表している。その一部はバイデン氏の手を縛る狙いがあると同氏の側近らは指摘している。

バイデン氏に近い関係者はこういった「土壇場の動き」について、「政権移行チームは一つずつ検証している」と述べた。【1月12日 ロイター】

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トランプ大統領はもともとキューバに対してはイデオロギー的な反発などは持っていなかったようですが、トランプ政権の選挙前のキューバ敵視政策は、フロリダ州などに多い亡命キューバ人の支持を得るためという側面もありました。

 

****中南米に介入するトランプ氏 理由はフロリダ州にあり?****

トランプ米政権が持ち出した約200年前に起源を持つ外交原則がある。かつて中南米を「裏庭」とみなし、介入を正当化した「モンロー主義」だ。

 

「私の政権は、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアで自由のために戦うすべての市民とともにある」。(2020年)9月23日、ホワイトハウスで開かれた式典で、トランプ大統領は新たな対キューバ制裁を発表した。「自由な半球は目前だ」と述べると、大きな拍手に包まれた。

 

式典は、米国の支援を受けた亡命キューバ人の部隊が1961年、革命政府の転覆をめざしてキューバに侵攻した「ピッグス湾事件」を記念したものだ。集まったキューバ系米国人らを前にトランプ氏は「(キューバと国交を回復した)オバマ・バイデン政権はキューバ国民を裏切って、カストロ独裁政権と一方的な取引をした」と非難した。

 

だが、キューバ封じ込めが元々の本心だったわけでもなさそうだ。オバマ政権の国家安全保障会議(NSC)で中南米を管轄する西半球担当上級部長だったマーク・フェアシュタイン氏は「大統領引き継ぎ時、トランプ氏は、キューバとの国交回復を『いいことをした』と言っていた」と証言。「ビジネスマンとしての考えだったのだろう」と指摘した。

 

米マイアミ・ヘラルド紙によると、トランプ氏の会社は2008年、キューバでゴルフ場やホテルなどに使うために、自社ブランドの商標登録手続きをしていた。再び米国人のリゾート地になると当時は考えていた可能性がある。(中略)

 

軽視から介入へ

政権の中南米軽視はあからさまだったが、その後、前のめりな介入へと急転回する。ベネズエラ危機が始まりだった。

 

19年1月、独裁的な支配体制を固めた反米左派のマドゥロ大統領が2期目の就任を宣言すると、野党のグアイド国会議長が「不正な選挙は無効で大統領は不在だ」として自ら暫定大統領への就任を宣言。トランプ政権はすぐさまグアイド氏を承認した。

 

「モンロー主義はしっかり生きている」。同年4月、ボルトン大統領補佐官(当時)はこう述べ、介入を深める方針を示した。

 

かつて中南米では、経済的にも軍事的にも強大な米国が政治経済を牛耳った。その支えとされた外交方針がモンロー主義だ。冷戦期には各国でクーデターを後押しし、親米政権を誕生させた。

 

だが、01年の米同時多発テロ後、米国の主な関心は中東へ向かう。その間、中南米では左派政権が相次いで生まれ、中国やロシアと関係を強めた。

 

これに対し、ボルトン氏は「(米大陸がある)西半球から社会主義勢力を駆逐しなければならない」と主張。中ロと関係の深いキューバ、ベネズエラ、ニカラグアを「暴政のトロイカ」と呼び、3カ国に対する新たな制裁も発表した。

 

しかし、介入は成功していない。ベネズエラに対しては、事実上の石油禁輸措置を取ったが、マドゥロ政権による経済失政で人道危機に直面していた同国民をさらに追い込んだ。「諸悪の根源は米国」というマドゥロ政権側の主張に説得力を与えた。(中略)

 

大統領選を意識か

トランプ氏の真意について、フェアシュタイン氏は「そもそも中南米に関心がなかった。(介入が)大統領選で有利に働くと考えたのだろう」と語った。

 

大統領選で重要なフロリダ州では、人口の多い中南米系の票が勝敗を左右すると言われる。中でもキューバ系やベネズエラ系は、社会主義政権を嫌って亡命した人たちが少なくなく、影響力も大きい。(後略)【2020年10月11日 朝日】

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交代直前の土壇場での対応は“バイデン次期大統領が、オバマ前政権が試みたキューバとの関係修復路線に戻るのを妨害する狙いがあるとみられる”【1月12日 時事】とのこと。

 

もちろん、まったく理由なく再指定した訳でもなく、テロ支援国家と判断した一応の「理由」は以下の二つとのことです。

 

****トランプがこうも「キューバ」を痛めつける理由****

(中略)

1つは、2019年1月17日にコロンビアの首都ボゴタで起きた事件である。警察士官学校の生徒22人が死亡し、負傷者も68人というテロ事件で、犯行は民族解放軍(ELN)によるものであった。(中略)

 

この犯行に加わった10人がキューバに逃亡。コロンビアとアメリカの両政府がキューバに彼らの送還を要求しているが、これまでのところ却下されている。

 

2つ目は、アメリカの黒人解放軍のメンバーだったジョアン・チェシマード氏が、1973年にニュージャージー州で州警官を殺害し、収監先の刑務所から脱獄しキューバに逃亡した事件。彼女および同様に逃亡しているアメリカ人の送還を要求しているがキューバ政府はこれを拒否している。(後略)【1月20日 白石 和幸氏 東洋経済online】

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【急がれる経済再建 最低賃金引上げ・二重通貨制の廃止 悪質なインフレの懸念も】

今後のキューバについては、バイデン新政権のキューバ対応、ラウル・カストロ党第一書記(故フィデル・カストロ氏の弟)の完全引退に伴う国内改革によります。

 

****米新政権の対ベネズエラ、キューバ政策に注目【2021年を占う!】中南米****

(中略)

キューバに対しバイデン次期大統領がトランプ政権の強硬方針から転換するとの見方が有力だが、ベネズエラ情勢やキューバの人権問題などからみて、そう簡単にコトは進まないだろう。

 

キューバでは4月に第8回共産党大会が開催され、実質的に最高権力を握る共産党トップのラウル・カストロ党第一書記(故フィデル・カストロ氏の弟)が完全引退する見通し。

 

後任になると予想されるディアスカネル氏(大統領)の下で政治・経済改革が進められるかどうかも、今後の米・キューバ関係の行方を占う重要なカギになろう。(後略)【12月30日 山崎真二氏 Japan In-depth】

*********************

 

キューバ国内の経済政策に関しては、昨年末から、制裁で疲弊した経済の再建が図られています。

 

****キューバ、最低賃金月額を5倍に引き上げへ****

キューバのミゲル・ディアスカネル大統領が10日、来年1月1日に施行される改革の一環として最低賃金月額を現行の5倍に引き上げる方針を発表したと機関紙が11日に報じた。これにより、最低賃金は現在の400ペソ(約1600円)から2100ペソ(約8700円)になる。

 

改革では1994年に導入された米ドルと等価に固定された兌換(だかん)ペソを今後6か月かけて廃止し、通常のペソのみを残す。ペソの価値は兌換ペソの約24分の1。

 

この試みの目的は、キューバ経済を効率化して簡明化を図り、外国から投資を呼び込むことにある。同国は現在、ドナルド・トランプ米政権に制裁を強化され、経済的に困窮している。

 

改定後の最低賃金の給与体系は職種に応じて32段階に分かれ、最高で9510ペソ(約4万円)となる。キューバの統計当局によると、現在の平均最低賃金はわずか879ペソ(約3700円)。

 

キューバの今年の経済成長率はマイナス8%と予測されている。 【12月12日 AFP】

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社会主義を標榜する国家は多くありますが、故カストロが率いたキューバは、おそらく良くも悪くも「平等」を重視する社会主義の理念に最も忠実な国家でしょう。

 

****教師とライオン使い、研修医を同一賃金に キューバ経済改革****

キューバは12月31日、経済改革の一環として、今年から教師、ジャーナリスト、ライオン使い、初期臨床研修医の賃金を同額にすると発表した。

 

この改革によって、最低賃金が従来の5倍となる月給87ドル(約9000円)相当に引き上げられ、物価は大幅に上がる。

 

また、一般市民が使う通貨ペソと、外国人向けとされる兌換(だかん)ペソが流通する26年間続いてきた二重通貨制を終わり、両通貨が統合される。(中略)

 

改革では、1994年に導入された米ドルと等価に固定された兌換ペソを今後6か月かけて廃止し、通常のペソのみを残す。ペソの価値は兌換ペソの約24分の1。

 

改革には、キューバ経済を効率化するとともに、外国人投資家にとって理解しやすくする狙いがある。【1月1日 AFP】

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二重通貨制の廃止については、以下のようにも。(二重通貨制については、個人的には以前の中国を想起します。以前は中国でも、一般人民が使用する人民幣 (RMB) とは別に、外国人が使用し、輸入品が購入できる外貨兌換券 (FEC=Foreign Exchange Certificate) が流通していました。 街中でFECを使おうとすると「見たことない。偽札ではないか」と大騒ぎになったことも)

 

****物不足キューバ、二重通貨廃止 兌換ペソ、入手できるかで格差****

カリブ海の社会主義国キューバで今月から、「通貨統合」が実施された。外貨交換用と国内流通用の二つの通貨を使い分け、配給と価格統制という社会主義体制の根幹を守ろうとしてきたが、格差拡大などの弊害が目立っていた。経済立て直しにつながるのだろうか。

 

首都ハバナのスーパーの前では連日、人々が行列を作っている。物不足は深刻で、昨年12月、ハバナ市民の男性は話した。「店に売り物はほとんどない。あっても、棚に並ぶのは、同じ品物ばかりだ」

 

キューバでは、人民ペソ(CUP)が基本となる通貨で、24人民ペソが1米ドルに相当する。国民の多くが働く公団などの最低賃金は12月までは月額400人民ペソ(16ドル相当)に過ぎなかったが、人民ペソ支払いの店では政府が価格を調整し、米や砂糖、卵などは配給価格で格安だった。バスや乗り合いタクシーの料金などもとても安かった。

 

ただ、人民ペソは原則として国内流通だけ。貿易決済などに使われていたのは米ドルと交換できる兌換(だかん)ペソ(CUC)だ。1兌換ペソ=1米ドルに固定され、購買力は人民ペソの24倍。国内ではアルコール類や輸入品などの売買、ホテルやレストランの支払いに使われてきた。外国人観光客になじみがあったのもこちらだ。

 

今回の通貨統合は兌換ペソを廃し、人民ペソに一本化する形で実施された。

 

「人民」と「兌換」の二重通貨は、キューバ政府がソ連崩壊後の経済危機に直面していた1994年に始まった。国内に米ドルの流通を防いで政府が外貨を管理できるようにしつつ、米ドルと等価とした兌換ペソにより、輸出入でのドル決済を認めていない米国の規制をかわす思惑もあった。

 

しかし、その後導入された市場経済と相まって、結果的に兌換ペソを持つかで生活に格差が生まれた。米国などに移住した家族からの送金があったり、外国人観光客や企業を相手に仕事したりする人なら兌換ペソを入手できるが、そうでない人の方が多い。

 

「架空の米ドルだった兌換ペソは、誰もが手に入れられたわけではない。排除する必要があった」と、ハバナの年金生活者のフェリペ・チョンゴさん(77)は言う。人民ペソの店には売り物はほとんどなく、時々兌換ペソに両替して暮らしてきた。ただ、毎月の年金額は242人民ペソで、両替しても10兌換ペソにしかならない。

 

二重通貨の副作用はほかにもあった。配給品の価格を安く抑えるため、キューバ政府が米などを輸入する際は1人民ペソ=1兌換ペソという特別レートを適用した。人民ペソの価値を過剰に高く計算した結果、輸入するほど、政府は為替差損を抱えた。

 

また、複数のレートを使い分けたため、経済の実態把握が難しくなった。輸出入の際の計算も煩雑で外国投資が敬遠される一因ともなり、通貨統合は13年から議論されてきた。

 

追い打ちとなったのは深刻な物不足だ。人民ペソの店は品不足となり、政府による配給が滞った。国民はシャンプーや食料品なども、輸入品を扱う兌換ペソの店で買うようになり、兌換ペソの必要性はさらに高まったが、最近は兌換ペソの店でさえ物が少ない。

 

 ■革命世代の引退を見すえて?

米国による「経済封鎖」で物不足が続いてきたキューバはこの数年、トランプ米政権が制裁を強化したほか、反米同盟国のベネズエラが政治危機に陥り、石油による支援が細っている。昨年は新型コロナウイルスの感染拡大で観光業も打撃を受け、経済が急速に悪化した。輸入に必要な外貨が不足したとみられている。

 

こうした状況を受け、政府も国民に禁じてきた米ドルによる物品購入を解禁した。ただし、国民は米ドル用の銀行口座を開設し、デビットカードで支払わねばならない。銀行を通じて市中の外貨を政府が吸い上げる仕組みができ、兌換ペソは意味を失った。

 

ディアスカネル大統領は昨年12月、国営放送で、1月1日から通貨を人民ペソに統合すると発表した。横にはラウル・カストロ党第1書記の姿もあった。ハバナ市内の民間経営の店では「兌換ペソは受け付けません」との貼り紙も出された。

 

このタイミングでの発表は、4月に予定されている5年ぶりの共産党大会も意識している。革命を率いた故フィデル・カストロの弟のラウル氏ら、革命世代の引退が予定されており、長年の問題を解決した上で、党幹部の世代交代を進める意向があるとみられる。

 

一方、国民生活が改善するかは、まだ見通せない。政府は通貨統合にともない米1キロを1・8人民ペソから14人民ペソに値上げし、交通費も5倍近く値上がりした。配給品を輸入価格に近づける努力とみられる。

 

政府は「インフレは調整可能だ」として、1月からは最低賃金を2100人民ペソ(87ドル相当)、年金の最低受給額を1500人民ペソ(62ドル相当)に引き上げた。

 

だが、すでに闇価格で食料品が売買されているという。物不足が解消しなければ価格統制がさらに難しくなりかねない。物不足が続けば、結局、ドルなど外貨の有無が庶民の生活を左右することになる。【1月26日 朝日】

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上記の通過・物価調整と前出の最低賃金引上げで想像される結果は、激しいインフレですが・・・当然、政策当局は抑え込めるということで実施するのでしょう。

 

ただ、無理な価格統制は結局生産・供給を阻害し、悪質なハイパーインフレーションに陥りやすいことは、友好国ベネズエラが示しています。

 

経済運営が軌道に乗るかどうかは、アメリカとの経済取引復活が早期に実現するかどうかにかかっているようにも思えます。

 

 

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台湾  台湾重視を継続するアメリカ・バイデン新政権の「本音」を探る中国・台湾

2021-01-25 23:32:19 | 東アジア

(西太平洋で行われた中国人民解放軍海軍の軍事演習に参加した空母遼寧(2018年4月)【1月20日 Newsweek】)

 

【バイデン新政権 台湾重視の対中国強硬路線継続を打ち出す】

米中対立のなかで、アメリカが台湾重視の姿勢を見せているのは周知のところ。

トランプ前政権のもとでの台湾への武器供与のほか、以下のような動きも。

 

****米国連大使、台湾の国連加盟を支持****

クラフト米国連大使は29日、台湾政府などが主催したオンライン会合に出席し、「世界は台湾が国連に完全加盟することを必要としている」と述べ、台湾の国連復帰を支持する考えを示した。台湾は中国の国連加盟を受け、1971年に国連を脱退している。

 

これを受け、中国の国連代表部は「中国の主権と領土保全を損なう発言で、強い憤りと反対を表明する」と声明を発表。台湾との接触をやめるよう米国に要求した。トランプ米政権は中国に対抗し、台湾を支援する姿勢を強めている。

 

クラフト氏は、台湾の民主主義を称賛し、「世界のための良い力だ」と指摘。その上で「特に公衆衛生と経済発展に影響を与える問題に関して、世界は、国連システムへの台湾の完全な参加を必要としている」と述べ、台湾が参加しない国連は「世界を欺いている」とも訴えた。(後略)【2020年9月30日 産経】

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****台湾代表、米大統領就任式に出席 正式招待は79年断交後初****

20日に行われたジョー・バイデン米新大統領の就任式に、台湾の駐米大使に相当する駐米台北経済文化代表処の蕭美琴代表が正式に招待され、出席した。

 

台湾政府は21日、米中国交正常化により1979年に米台が断交して以来初の正式招待で、今後の先例になるとの見方を示した。

 

蕭代表は、就任式会場で撮影した自身の動画をインターネットに投稿。「台湾の人々と政府を代表して、バイデン大統領と(カマラ)ハリス副大統領の就任式に出席することを光栄に思う」と語り、「民主主義はわれわれの共通言語であり、自由はわれわれの共通目標だ」と続けた。

 

台湾外交部は、台湾の駐米代表が米大統領就任式の実行委員会から「正式な招待を受けた」のは数十年ぶりだと発表。与党・民主進歩党は「42年ぶりの新たな進展」だと評価した。

 

蔡英文総統は、バイデン大統領の就任宣誓後にツイッターを更新し、「より良い方向を目指すための国際的な力として、共に取り組んでいく準備はできている」とバイデン氏に呼び掛けた。 【1月21日 AFP】

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これに対し、中国はけん制圧力を強めています。

バイデン新政権の出方を確かめる意味合いもあるのでしょう。

 

****中国戦闘機など、2日連続10機以上で台湾の防空識別圏に進入****

台湾国防部(国防省)によると、中国軍の戦闘機、対潜哨戒機など計15機が24日、台湾南西部の防空識別圏に入った。10機以上の進入は2日連続だ。

 

爆撃機が主体となった前日と違い、この日は15機のうち、「殲(J)10」「殲16」など戦闘機が12機を占めた。

 

中国は、軍事的威嚇を強めることで、バイデン米政権と台湾に、米台接近は許さないとのメッセージを送っているとみられる。【1月24日 読売】

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アメリカ・バイデン新政権は、こうした中国の軍事的圧力を批判、これまでのトランプ前政権からの台湾支援を継続する姿勢を明らかにしています。

 

****米、中国に台湾への圧力停止要求 バイデン政権、強硬路線を維持****

米国務省のプライス報道官は23日、台湾に対する中国の軍事的圧力が地域の安定を脅かしているとして、軍事、外交、経済的な圧力を停止するよう中国に求める声明を発表した。台湾との関係強化も表明した。20日に発足したバイデン政権が台湾支持の継続を打ち出した形で、中国の反発は必至だ。

 

対中強硬路線を取ったトランプ前政権は台湾との関係を強化。バイデン政権の国務長官候補ブリンケン元国務副長官は19日、人事承認に向けた上院公聴会で強硬路線を維持する考えを示し、台湾について「より世界に関与することを望む」と述べていた。【1月24日 共同】

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アメリカの台湾重視、対中国強硬路線の背景には“「オバマ政権の後半から始まった中国の南シナ海への拡張政策、そして最近の香港問題と新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)、すべてが中国政権に対する不信感を生み出している」「20年前の中国の脅威理論が今や現実となった」(台北の国防安全研究院(INDSR)の蘇紫雲氏)”【1月20日 Newsweek】という、“アメリカの政策決定と学界における「目覚め」”【同上】があるとも。

 

当然ながら、中国の立場からすれば台湾問題は「内政問題」であり、アメリカから「圧力」だ、なんだと言われる筋合いはない・・・ということにもなります。

 

【台湾・蔡英文政権 バイデン新政権の「本音」に気を揉む】

台湾・蔡英文政権は、アメリカの台湾重視の姿勢を歓迎し、バイデン新政権がこの流れを引き継ぐことを期待はしていますが、「いざというとき、本当にアメリカは台湾を最後まで守ってくれるのか?」という疑念もつきまといます。

 

対中交渉のカードとして使われ、中国を刺激したあげく、最後は見捨てられるということになれば、台湾としても泣くに泣けません。

 

過度のアメリカ依存は危うい・・・・別に台湾ならずとも考えることでしょう。

 

****【再起動 バイデンと世界】台湾、見えぬ米政権の本音 自力外交も欠かず****

台湾をめぐる米中の攻防がバイデン米政権の発足直後から激しさを増した。中国軍機は23、24日、台湾の防空識別圏に進入。米政府は中国側を批判し、台湾支援の継続を表明した。

 

だが、バイデン政権は実際に毅然とした行動をとるのだろうか−。台湾側はまだ確信を得られていない。

 

爆撃機8機、戦闘機4機、哨戒機1機。計13機の中国軍機が台湾の南西部の防空識別圏に入ったのは23日。3日前に発足したばかりのバイデン政権の出方を試そうとの狙いがうかがえる。

 

「米国の台湾への関与は盤石だ」。米国務省が中国の動きへの「懸念」と台湾支援を表明すると、台湾の外交部(外務省に相当)は24日、迅速に応じた。「米国の姿勢を歓迎し感謝する。バイデン政権と密接に協力し、台米の友好関係をさらに強化したい」(中略)

トランプ米前政権は軍事面で台湾支持を鮮明にしていた。台湾への武器売却決定は4年間で11回に上り、米台合同軍事訓練を実施。米インド太平洋軍の情報担当トップを訪台させるなど台湾との軍事交流を通じて中国を牽制した。中国の脅威にさらされる台湾には大きな安心材料となった。

 

だが、バイデン氏は大統領就任演説でもほとんどを内政問題に割き、外交や安全保障への言及は少なかった。バイデン陣営の幹部らはこれまでに「台湾支持」を表明しているが、「政権の本音なのか」を見極めるのは難しく、台湾の外交関係者らは気を揉んでいる。

 

与党、民進党の関係者は「歴代米政権はみな台湾重視の姿勢を口では強調するが、具体的な行動が伴う政権と伴わない政権がある。言葉に一喜一憂せず、バイデン政権のこれからの動きを見極めたい」と語る。

 

大統領就任式には駐米台北経済文化代表処代表(駐米大使)の蕭(しょう)美琴(びきん)氏が1979年の米台断交以来、初めて正式招待され、台湾メディアは「歴史的な快挙」「外交上の大勝利」と大きく報じた。

 

しかし、米国政治に詳しい外交評論家の宋承恩氏は「招待したのは超党派で構成する大統領就任式実行委員会だ。バイデン政権の意向を反映していると限らない」と過剰な反応をいさめた。蔡英文総統は4年前、トランプ氏と大統領就任前に電話会談した。だが、バイデン氏との電話会談はまだ実現していない。

台湾側が最も強く米国に求めるのは自由貿易協定(FTA)の早期締結だ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や地域的な包括的経済連携(RCEP)など多国間のFTAから排除されている台湾は、対米FTAで孤立回避を目指す。

 

昨年夏、蔡政権が野党の猛反対を押し切って成長促進剤「ラクトパミン」を使用した米国産豚肉の輸入解禁を決断したのは、米国とのFTAを前進させるためだった。だが、米国の政権交代でFTAは宙に浮いた形となっている。

 

民進党に近いシンクタンク「台湾智庫」の諮問委員、張国城氏は「バイデン氏は当面、内政に専念するとみられ、台湾問題で積極的な行動を取らない可能性が大きい」とし、「台湾は自分の力で外交を切り開かなければならない」と強調した。

 

台湾も米国の動きを待つのでなく、国際組織への加盟問題などで日本や欧州への働きかけを独自に強めることが必要となる。【1月25日 産経】

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【台湾、最新兵器を並べるだけでは・・・ 有事の際の米軍行動を制約する中国の「空母キラー」】

軍事的な面で言えば、台湾が建造を開始した潜水艦は、中国に対する大きな力を発揮する可能性があるとも言われています。

 

****台湾が建造開始した潜水艦隊、「中国の侵攻阻止できる可能性も」と米メディア****

台湾が防衛力の強化を目指し、最新鋭の潜水艦隊の建造に着手した。台湾への軍事的圧力を強める中国が本土と隔てる台湾海峡を越えて侵攻してくる事態に備えるためだ。米CNNは「潜水艦は隠密性を誇る兵器プラットフォーム。中国の侵攻を阻止できる可能性もある」と伝えた。

台湾が計画している新造潜水艦8隻は現有4隻の後継。最初の艦の建造は昨年11月、南部の港湾都市・高雄の施設で開始された。同艦の試験航行は2025年に始まるとみられている。台湾の蔡英文総統は着工式で、建造計画を「台湾の強い意思を世界に示す歴史的な節目」と呼んだ。

潜水艦について、CNNは「今なお世界屈指の隠密性を誇る兵器プラットフォームで、相手がどのような艦隊であっても大打撃を与えることができる」と言及。「台湾の潜水艦にはディーゼル・エレクトリック方式が採用される見通し。水上ではディーゼルエンジンを動力源とする一方、潜航中は寿命の長いリチウムイオン電池で駆動する超静粛な電気モーターを使用するという」と報じた。

米海軍や中国が配備を進める原子力潜水艦ではなく、ディーゼル・エレクトリック艦を選んだのは、台湾政府にとって簡単な選択だった。ディーゼル・エレクトリック艦は建造がより容易で、コストも低い。潜航時の騒音も電気モーターのほうが原子炉より少ない。

専門家はこうした静かな潜水艦なら中国軍の対潜戦(ASW)部隊による探知が難しいとの見方を示す。台湾海峡の海底付近にひそみ、台湾に向かう中国の兵員輸送艦を狙い撃ちにできる可能性もある。新造艦にどんな技術が搭載されるのか正確なところはまだ不明だが、米国政府は昨年、台湾にMk48魚雷の取得を許可した。

元米海軍大佐で、現在はハワイ太平洋大学のアナリストを務めるカール・シュスター氏は「大型の兵員輸送艦に魚雷が命中した場合、特にそれが米国のMk48のような現代型の魚雷であれば、侵攻する軍は1個大隊を失うことになる。従って潜水艦がいないことを確信できるまでは、いかなる国も台湾海峡に強襲揚陸艦を派遣しないだろう」と指摘した。

一方でCNNによると、中台間のパワーバランスでは中国が依然有利。紛争になった場合、中国は潜水艦や水上艦、地上発射型ミサイル、空軍の爆撃機および攻撃機を大量投入できる。台湾の潜水艦計画が高雄で始動したわずか1週間後、中国は対抗手段を誇示した。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は「人民解放軍の対潜戦用航空機が爆雷攻撃演習を実施、台湾分離主義者への抑止力になるとの見方」と報道。Y8対潜哨戒機が演習中に爆雷を投下する写真も掲載した。中国の対潜戦能力について報道が出るのは「異例」という。【1月24日 レコードチャイナ】

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ただ、台湾がいくら「新兵器」「最新兵器」を並べても(その多くはアメリカから供与されたもの)、実際にそれらを運用する態勢があるのか・・・と言えば、厳しいものがあるということは、昨年2020年9月30日ブログ“台湾  米中対立激化で強まる中国の軍事的脅威 一方、戦える状況にないとの指摘もある台湾軍”でも取り上げました。

 

一方、アメリカの台湾支援の軍事的側面・・・・有事の場合の台湾海峡絵の米軍展開にとって大きな脅威となるのが中国の「空母キラー」

 

****中国の「空母キラー」ミサイル、航行中の船へ発射実験…2発が命中か****

中国軍が南シナ海で2020年8月に行った対艦弾道ミサイルの発射実験の際、航行中の船を標的にしていたことを、中国軍の内情を知りうる関係筋が明らかにした。米軍高官もこの事実を認めている。「

 

空母キラー」とも呼ばれるミサイル2発が船に命中したとの複数の証言もあり、事実とすれば、中国周辺に空母を展開する米軍の脅威となる。(中略)

 

中国軍が南シナ海で動く標的に発射実験を行ったのは初めてとみられる。船の位置を捕捉する偵察衛星などの監視体制、ミサイルの精密度が着実に向上していることを示す。

 

米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官は11月下旬、オンライン形式で開かれた安全保障関連の公開フォーラムで「中国軍は動く標的に向けて対艦弾道ミサイルをテストした」と認めた。実際に船に命中させたかどうかについては明言しなかった。【1月13日 読売】

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かつては、圧倒的に米軍の軍事力が上回っていましたので、中国としても引き下がるしかなかったという「屈辱」がありましたが、おそらく現在、そして将来は全く異なる展開となるでしょう。

 

****台湾海峡ミサイル危機****

1996年に行われた台湾総統選挙李登輝優勢の観測が流れると、中国軍は選挙への恫喝として軍事演習を強行した。基隆沖海域にミサイルを撃ち込むなどの威嚇行為を行ない、台湾周辺では、一気に緊張が高まった。

 

人民解放軍副総参謀長の熊光楷中将は、アメリカ国防総省チャールズ・フリーマン国防次官補に「台湾問題にアメリカ軍が介入した場合には、中国はアメリカ西海岸核兵器を撃ち込む。アメリカ台北よりもロサンゼルスの方を心配するはずだ。」と述べ、アメリカ軍の介入を強く牽制した。

 

アメリカ海軍は、これに対して、台湾海峡太平洋艦隊の通常動力空母「インデペンデンス」とイージス巡洋艦バンカー・ヒル」等からなる空母戦闘群(現:空母打撃群)、さらにペルシャ湾に展開していた原子力空母ニミッツ」とその護衛艦隊を派遣した。

 

その後米中の水面下の協議により、軍事演習の延長を中国は見送り、米国は部隊を海峡から撤退させた。その後中国軍(1996年当時、主力戦闘機はSu-27J-8J-8II)は軍の近代化を加速させている。

 

この時の総統選挙は結果、台湾独立志向の李登輝が台湾人特に本省人の大陸への反感に後押しされ地滑り的な当選を果たした。【ウィキペディア】

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もっとも、台湾の最新鋭潜水艦隊や中国の空母キラーがその実力を発揮するような事態は、台湾にとっては最悪で、そうならための外交努力なり対応が必要とされています。

 

国内政治にあっては、“台湾は中国とは正反対の、西側と共通の価値観を抱く存在であるがゆえに「尊敬と支援」に値する国として浮上している”【1月20日 Newsweek】という側面を重視・アピールする必要があります。

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インド  中国との緊張関係 ワクチン外交、国境地帯、「ヒマラヤの水爆弾」そしてマッラカ海峡封鎖

2021-01-24 22:45:32 | 南アジア(インド)

(【2020年11月18日 NHK】 昨年11月、これまでのインド・アメリカ・日本にオーストラリアも加えて行われた共同演習「マラバール」)

 

【ワクチン外交で中印が火花】

インドと中国が領有権問題を抱えて、ときに緊張が高まるような関係にあることは周知のところ。

 

そうした関係を受けて、インドの対中国感情は刺々しいものがあるようで、下記の話などはそのひとつでしょうか。

 

****印グジャラート州、中国を連想させるとしてドラゴンフルーツ改名―中国メディア****

インドの西部にあるグジャラート州はこのほど、サボテン科の果物「ドラゴンフルーツ」を「カマラム(kamalam)」と改名することにしたという。

 

中国・環球時報のニュースサイトが20日、インドの通信社ANIの報道を引用する形で伝えたところによると、グジャラート州のルパニ首相は19日、「ドラゴンフルーツという名前は中国を連想させる。そのため改名する」と述べた。

 

「カマラム」とする理由については、「ハスの花に似ているからだ。kamalamはサンスクリット語でハスを意味する」と説明したという。

 

環球時報は、この発表を受け、ツイッター上では、「私たちの国では、私たちは非常に多くの問題を経験しているが、彼ら(州政府)はそれらを懸念せず、彼らにとって一番の問題は果物の名前を変更することのようだ」などと州政府に対する皮肉を含む激しい反応を引き起こしていると伝えている。【1月22日 レコードチャイナ】

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両国は国境での衝突だけでなく、南アジアにおける影響力でも競い合ってあいます。

南アジアはもともとインドの影響力が強い地域ですが、他の地域同様、近年はネパールやスリランカなどで中国の影響力が強まっています。

 

その中国が今展開しているのが「ワクチン外交」 

インドの新型コロナの累計感染者数は1000万人を超え、世界で2番目に多いというように、国内感染が厳しい状況で、とても「余裕」があるとは思えないインドですが、中国に対抗する構えのようです。

 

****インド、近隣6カ国へのワクチン無償提供を開始****

インド政府は20日、近隣6カ国に対し、国内で生産する新型コロナウイルスワクチンの無償提供を開始した。まずブータンに初回分のワクチンが輸送された。

インド政府は無償援助プログラムの下、ブータン、モルディブ、バングラデシュ、ネパール、ミャンマー、インド洋の島国セーシェルにワクチンを提供する計画。スリランカ、アフガニスタン、モーリシャスも当局の認可後に提供を始める。パキスタンに提供する計画はない。

インドでは、既に2つのワクチンの国内緊急使用が認可されているおり、共に国内で生産している。

ひとつは、英製薬大手アストラゼネカと英オックスフォード大学が共同開発し、国内のセラム・インスティチュート・オブ・インディアが製造する「コビシールド」。もうひとつは、インド企業バーラト・バイオテックがインド政府系機関と共同開発した純国産の「コバクシン」。数カ月以内には別の2つのワクチンの使用も認可される見通し。

ジャイシャンカル外相はツイッターへの投稿で「世界の薬局として新型コロナに打ち勝つため(ワクチンを)供給する」と述べ、ブータンとモルディブに初回分のワクチンが到着したと明らかにした。

政府は6カ国に対してまずコビシールドを提供する計画。バングラデシュには21日に200万回分のコビシールドが到着する予定。人口約1億6000万人の同国ではまだワクチン接種が始まっておらず、追加で3000万回分のワクチンを調達する計画。

ネパールは、インドから100万回分のワクチンの無償提供が確約されているとしている。

インドでは16日からコロナの予防接種が始まり、当局によると医療従事者などを中心に既に78万6842人がワクチン接種を受けた。

20日に確認された新規感染者は1万3823人。感染者の累計は1090万人に達し、米国に次ぎ世界で2番目に多い。死者は162人増え、15万2718人となっている。【1月21日 ロイター】

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国内が火を噴いている状況で、いささか「背伸び」しすぎの感もありますが、ワクチン生産に関してはインドは世界一の生産量を誇る「ワクチン大国」ですから、対応できるとの目算なのでしょう。

 

さすがに宿敵パキスタンには送らないようで“インドの提供対象から外れたパキスタンに中国が手を差し伸べ、インドから購入方針だったミャンマーではプレゼント合戦の様相を呈している。”【1月24日 共同】とも。

 

もっとも、こんなときこそ「敵に塩を送る」対応が効果があると思うのですが、インドにとっては論外なのでしょう。

 

【緊張続く国境地帯 中国の「既成事実化」も】

国境地帯の状況は「相変わらず」といったところ。緊張は続いています。

 

****インド軍、国境地帯で中国兵を拘束****

インド軍は、中国との事実上の国境に当たる実効支配線(LAC)のインド側で、8日に中国の兵士1人を拘束したと発表した。

 

発表によると、中国兵はパンゴン湖の南側でLACを越えてインドのラダック地域に入り、インドの部隊に拘束された。中国兵がLACを越えた理由については調査中としている。

 

パンゴン湖はインドと中国、パキスタンが国境を争うカシミール地方の海抜約4267メートルの地点にあり、インドのラダックと中国のチベット自治区にまたがっている。

 

昨年6月にはインド軍と中国軍の間で衝突が起き、インド兵少なくとも20人が死亡。これを受けて双方がLAC周辺に部隊を配備していた。

 

対立がエスカレートする中で、中国とインドは9月、同地へのそれ以上の部隊派遣を停止することで合意した。

共同声明によると、誤解や事態を複雑化する行動を避けるため現場レベルのコミュニケーションを強化することや、現状を変更するような一方的な行為をしないことで合意に至った。

 

ンドと中国はヒマラヤ地域で3379キロにわたり国境を接し、境界付近の土地を互いの領土として主張している。LACは1962年の中印国境紛争以降に地図上に現れたが、両国はその正確な位置で一致を見ず、また互いに越境や領土拡張の試みを行ったとして非難する状況が続く。

 

両国は1996年に危険な軍事行動を避けるため、LACから2キロ以内では発砲しないとの合意に署名している。【1月11日 CNN】

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ただ、インドとしても事態を悪化させたくないとの配慮でしょう、“中国人民解放軍機関紙の解放軍報は11日、兵士が中国側に引き渡されたことを明らかにした”【1月12日 レコードチャイナ】とのこと。早期の収拾を図ったようです。

 

しかし、南シナ海を想起させるような中国側の「既成事実化」の行動も報じられています。

 

****中国がインド北東部の州内に集落建設、付近には軍駐屯地も…支配の既成事実化図る****

インドの民放NDTVは18日、中国が領有権を主張する印北東部アルナチャルプラデシュ州で約100戸の集落を建設したと報じた。係争地に施設を建設し、支配の既成事実化を図る中国の動きが改めて明らかになった。

 

アルナチャルプラデシュ州はインドが実効支配し、中国のチベット自治区に面している。NDTVが根拠とした米衛星会社の複数の画像では、2019年8月には見当たらなかった建物が、20年11月には整然と立ち並ぶ様子が確認できる。

 

報道は、インドの地図を基に、集落が4・5キロ同州に入った場所にあるとしており、集落から約1キロ南の地点には中国軍駐屯地もあるという。集落は居住区として建設された可能性がある。

 

中国は同じような集落をインドとブータンの国境が入り組んだ地域にも建てた。米メディアが昨年11月、衛星写真とともに伝えた。集落は、中国軍の拠点が近くにあることで共通する。民間人用の集落を保護するとの名目で、中国軍が進出を拡大する口実にもなる。

 

中国の習近平シージンピン国家主席は19年10月に訪印し、ナレンドラ・モディ首相と地域の安定が重要との認識で一致したが、アルナチャルプラデシュ州の集落はその後建設された可能性がある。

 

(中略)印外務省は18日、報道は否定せず、「インドの安全保障に関する全ての開発を常に監視し、主権と領土を守るため必要な全ての措置を取っている」とのコメントを出した。

 

中国は、南シナ海や中印国境付近で拡張主義的な動きを強めている。国境が未画定のカシミール地方では中印両軍が20年6月に衝突し、1975年以来の死者が出た。夏には印側支配地域内で中国軍の拠点を建設したことが確認されるなど、中印関係は「45年間で最悪」(ジャイシャンカル氏)の状態に陥っている。

 

中国はネパールでも軍施設を建設したことが昨年、相次いで報じられた。

 

インドの安全保障の専門家ブランマ・チャラニ氏は18日、SNSで、中国が南シナ海で拠点を設けて一方的に現状変更した手法と同じだと投稿し、「国際法に裏付けられた中国の土地ではないが、中国は戦略的に重要な地域に村を建設し、国際法の対象にしようとしている」と指摘した。【1月20日 読売】

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【インドが警戒する「ヒマラヤの水爆弾」】

インドが警戒するのは、こういう国境地帯における中国軍の動きだけでなく、中国がダムを「武器」として利用するのではないかとの懸念もあるようです。

 

****インド、中国によるダムの「武器化」を懸念―仏メディア****

2020年12月2日、仏国際放送局RFIの中国語版サイトは、中国によるチベット高原でのダム建設に向けた動きに対して、インド国内から憂慮の声が出ていると報じた。

記事は、中国メディアの報道として、中国電力建設集団の董事長が11月26日に中国水力発電工程学会40周年記念総会にて、以前中国政府が「第14次五か年計画および2035年のビジョン」で打ち出していたヤルンツァンポ川下流の水力発電開発計画について「実施以外にない」と強調したことを伝え、ダム建設工事が近い将来始まる可能性があるとした。

その上で、チベット高原にあるヤルンツァンポ川が南アジア地域の重要な水源であり、中国からインドへと注ぐ河川であると紹介。

 

このため、この川の水力発電開発は両国間においてセンシティブな話題であり続けたとし、2008年ごろに中国が「南水北調」プロジェクトの一環としてダム建設を計画しているとの情報が流れ、当時のインド首相だったシン氏が訪中時にこの件について言及したと伝えている。

 

この時は、09年に当時の中国水利部長が「ヤルンツァンポ川から黄河に水を入れる計画はない」と明確に否定したという。

記事は、中国側のダム計画について、インドの政治学専門家が数日前にインド紙インディアン・エクスプレスに「ヒマラヤの水爆弾」と題した文章を掲載、下流の田畑が痩せること、生物の多様性が破壊されること、地震リスクが高いことから「沿岸各国に対し、ヤルンツァンポ川へのダム建設反対を呼び掛けるべきだ」と主張したことを紹介した。

また、ヒンディスタン・タイムズもこの問題に触れ「現在、中印両国が国境地域で衝突を起こしている状況を鑑み、インドは中国がどのようにしてヤルンツァンポ川を『武器化』するか評価しなければならない。中国にこの川を支配されれば、インド経済は首を絞められることになる」と報じたことを伝えている。

さらに、シンガポール華字紙・聯合早報が、下流地域で乾季でも水が使えるようになるなど、ダム建設はインドにも恩恵を与えるという専門家の見方を伝える一方で、ダム建設がインドにとって恩恵になりうるかの前提条件は「良好な中印関係にある」と指摘したことを報じた。【12月6日 レコードチャイナ】

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ヤルンツァンポ川・・・聞きなれない名前ですが、これは中国名で、インドではブラマプトラ川。これならわかります。

****日本にとっても対岸の火事ではない…中印の深刻対立でインド軍の起死回生策*****

(中略)インドは最近になって「中国は有事の際、大河の『水』を兵器に利用する可能性がある」との心配も持ち始めている(11月9日付サウスチャイナ・モーニング・ポスト)。

 

上流のダムに大量に貯蔵された水を一気に放流すれば、下流地域が甚大な被害を受けることになるから、インドの国防専門家の間で「中国のダムプロジェクトには大河の下流域への影響力を行使するための戦略的な意図がある」との見方が広まっている。

 

1959年にチベットの反乱が起こり、ダライ=ラマ14世がインドに亡命したことで中印間の緊張が高まりつつあった1962年10月、中国は宣戦布告のないまま、突然インドに侵攻した。これに対しインドはなすすべがなく、翌11月に中国軍が一方的に軍事活動を終了したことで停戦となった。

 

「非同盟主義」を掲げていたインド初代首相ネルーは、国中がパニックに陥ったことから米国の支援を求める事態に追い込まれ、その後汚名を雪ぐことなく1964年5月に死亡した。

 

この敗北は現在に至るまでインド人にとっての「最大の屈辱」であり、二度と同じ過ちを繰り返してはならないとされている。日本ではあまり知られていないが、インドが原子爆弾を開発した目的は「打倒中国」なのである。

 

劣勢にたたされたインド軍の起死回生策は、中国経済の大動脈に打撃を与えることを目的とする「マラッカ海峡の封鎖」とされているが、もしこれが実行されれば、日本のシーレーンも甚大な被害を蒙ることになる。(後略)【12月1日 デイリー新潮】

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「ヒマラヤの水爆弾」というのは、上記のような一気の放流を指しての表現なのでしょう。まあ、そこまでの状況になったら、核兵器使用も懸念されるような事態ですが。

 

【インド軍の起死回生策「マラッカ海峡の封鎖」】

なお、最後のインドによる「マラッカ海峡の封鎖」・・・・「インドネシアやマレーシアといった海峡沿岸国でもないインドがどうやって?」ということについては、マラッカ海峡入口に壁のように点在するアンダマン諸島およびニコバル諸島(下記地図の丸印)で海運を阻止するということのようです。

こうした中国対抗策には日本も1枚かんでいます。

 

****日米豪印4か国が大規模演習 中国の軍事的影響力拡大をけん制か****

アメリカ、インド、オーストラリアの海軍と日本の海上自衛隊はインド近海での共同訓練で、アメリカ、インドの空母を中心とする大規模な演習を開始し、アジア太平洋での中国の軍事的な影響力の拡大に4か国で対抗する姿勢を示すねらいもあるとみられます。

 

アメリカ、インドの海軍と日本の海上自衛隊は例年、共同訓練「マラバール」を実施していて、ことしはオーストラリアの海軍も参加しています。(中略)

訓練海域のアラビア海はアジアと中東を結ぶ海上交通路=シーレーンに近く、中国が巨大経済圏構想「一帯一路」のもと活動を活発化させていて、近年は中国海軍の潜水艦の展開も確認されているということです。

参加各国としては「自由で開かれたインド太平洋」のもとでの結束を強調するとともに、中国の軍事的な影響力の拡大に4か国で対抗する姿勢を示すねらいもあるとみられます。【2020年11月18日 NHK】

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イラン包囲網とイランの対抗姿勢 最近の動きと米政権交代の影響

2021-01-23 22:38:49 | 中東情勢

(【12月27日 週刊エコノミストOnline】

なかなか複雑な関係図ですが、それだけいろんな関係が絡み合っているということでしょう)

 

【サウジ・カタール国交回復でイラン包囲網強化】

トランプ前政権のもとでの中東政策は、イスラエル・サウジアラビアを基軸にしたイラン包囲網でした。

 

トランプ政権末期になって、イスラエルと湾岸諸国との国交回復、さらにサウジアラビアとカタールの国交回復といった動きが相次ぎ、米政権交代前の“駆け込み”的なイラン包囲網強化の動きが見られました。

 

****サウジなど4か国、カタールと国交回復で合意…イラン包囲網を強化****

サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハン外相は5日、湾岸協力会議(GCC)首脳会合後の記者会見で、サウジなど4か国がカタールと国交を回復することで合意したと表明した。サウジは、3年半にわたる断交状態の解消を契機に、対立するイランへの包囲網を強化する考えだ。

 

サウジで開かれた首脳会合で、サウジやアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプト、カタールの首脳や外相らが、和解の合意文書に署名した。サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は5日、合意について、「湾岸諸国やアラブ諸国の結束を示すものだ」と強調した。

 

サウジなど4か国は2017年6月、カタールがイスラム主義組織などを支援しているとして断交し、国境を封鎖した。サウジは今月4日になって、カタールとの国境開放を決定した。他の3か国も追随する可能性がある。

 

ただ、関係国は合意文書の内容を公表しなかった。ロイター通信によると、UAEのアンワル・ガルガーシュ外務担当国務相は5日、「和解を進めるには工程がある」と慎重な姿勢を示しており、合意が迅速に進むかは不透明だ。【1月6日 読売】

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【イラン シリア・ハマスの関係改善で包囲網に対抗】

一方、イランはアメリカの制裁によって経済・国力が疲弊し苦しい状況が続いていますが、「アラブの春」以来関係が悪化していたシリア・アサド政権とパレスチナ・ハマスの関係改善をイランの意を受けたヒズボラが仲介する形で、包囲網に対抗する動きが。

 

****ハマスとシリア政権、和解へ接近 「イラン包囲網」に対抗鮮明****

シリア内戦発生後に関係を断っていた同国のアサド政権とパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスが、再び手を結ぶとの観測が強まっている。

 

イランの影響下にあるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者、ハサン・ナスララ師が昨年末、和解への仲介を進めていると明かした。

 

トランプ米政権が構築を進めた「イラン包囲網」に対抗する狙いがあることは明白で、和解が実現すれば、中東情勢はもう一段、緊張の度合いを増すことなる。(前中東支局長 大内清)

 

ナスララ師は昨年12月27日に放映された親ヒズボラ系テレビのインタビューで、ここ数カ月間に首都ベイルート付近でハマス政治局トップ、イスマイル・ハニヤ氏と複数回、会談したと言明。ハマスとアサド政権の和解の可能性や、反イラン勢力の最近の動向、一部のアラブ諸国がイスラエルとの国交正常化に踏み切ったことについて協議したという。

 

パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するハマスはもともと、シリアの首都ダマスカスに政治局の拠点を置くなど、アサド政権とはおおむね良好な関係にあった。それが一変した契機は、2011年からのシリア内戦だった。ハマスが12年、政権打倒を目指す反体制派への支持を表明したのだ。

 

中東では反政府運動が広がり、政権崩壊の連鎖が起きていた。いわゆる「アラブの春」だ。シリア反体制派は湾岸アラブ諸国や欧米の支持を得て、政権側を追い詰める勢いをみせていた。その中でハマスもアサド政権に見切りをつけたわけだ。

 

シリアでは1980年代、バッシャール・アサド現大統領の父、ハーフェズ・アサド前大統領が、ハマスと源流が同じイスラム勢力の武装蜂起を徹底制圧した。歴史的な遺恨がハマスの判断を後押しした可能性もある。

 

ところが、アサド政権軍はその後、イランやロシアの後押しを受けて勢力を盛り返し、反体制派を逆に圧倒した。ハマスとしては大誤算だった。

 

一方、「アラブの春」は中東の対立構図を大きく変化させた。アラブ諸国が動揺する中でシーア派大国イランが影響力を増し、これを封じるため、イラン包囲網の形成が進んだ。ともにイランを脅威とみる一部のアラブ諸国とイスラエルが、米政権の働きかけで急接近したのもその表れだ。

 

イランは、アサド政権やヒズボラなどのシーア派系勢力を支援し、手駒とすることを安全保障戦略の柱としている。イスラエルと敵対するハマスもまた、スンニ派ではあるが、イランの支援対象となってきた。

 

イランにとり、アサド政権とハマスが再び結びつけば、イスラエルへの牽制(けんせい)効果が高まることになる。今回のヒズボラの動きについて、中東ニュースサイト、アルモニターは「両者の関係修復は正しい方向に向かっている」とするイラン国会議員の発言を紹介した。ヒズボラの仲介努力には、イランの意向が反映しているとみるのが自然だ。

 

イラン包囲網の形成にも、これに対抗する側にも作用する「敵の敵は味方」の論理が、対立の構図を先鋭化させている。【1月23日 産経】

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【バイデン新政権のもとでの変化は? アメリカ・サウジの関係はこれまでより冷却か】

こうした「イラン包囲網」あるいは、それへの対抗策が、バイデン新政権のもとでどのようになるのか・・・

 

イランとバイデン政権は核合意をめぐって水面下での交渉が行われるのでしょう。イランとの関係を一定に改善したいバイデン大統領ではありますが、アメリカ国内のイランへの抵抗感は根深く(個人的には、1979年の在テヘランの米大使館人質事件のトラウマではないか・・・とも思いますが)、難航も予想されます。

 

一方、イラン包囲網の中核に位置するサウジアラビアへのバイデン政権の対応は、トランプ時代とは異なり厳しくなることが想像されます。

 

基本的に、アメリカにとって中東の価値は石油でしたが、アメリカの石油自給に伴ってその価値は低下し、「中東離れ」の流れが根底にあります。

 

更に、9.11の多くの関係者がサウジアラビア人だったことからも、アメリカ国内のサウジに対する目は厳しく、特に、実力者ムハンマド皇太子には「カショギ氏殺害事件」がつきまといますので、人権を重視するバイデン新政権のもとでは、その関係も難しいものになりそうです。

 

*****影響力増す中国、「イラン包囲網」瓦解も 米国の政権交代で中東はどうなるのか*****

(中略)

 ▽米・サウジの関係は悪化か

中東地域の安全保障に関わる重要な動きもあった。カタールのタミム首長は5日、サウジアラビアを訪れ、湾岸協力会議(GCC)首脳会議に出席した。両国は4日、3年半にわたって封鎖していた国境の開放などで合意しており、2017年の国交断絶以来の関係改善に踏み出した。

 

「イラン包囲網」でペルシャ湾岸のアラブ諸国の結束を促すトランプ政権の仲介に応えた形だが、相互不信は根深いままである。

 

トランプ大統領がホワイトハウスから去る日が迫っているのにもかかわらず、ムハンマド皇太子のトランプ大統領への忠誠心は高まるばかりだが、この遺産(レガシー)がバイデン次期政権に引き継がれるのだろうか。

 

昨年12月の最終週、米国によるサウジアラビア産原油の輸入が週間ベースで35年ぶりにゼロとなった。米国とサウジアラビアとの同盟関係は、サウジアラビアが米国への原油の安定供給を約束する代わりに、米国がサウジアラビアの安全保障を担うというものだったが、原油輸入ゼロという状態が続くことになれば、米国にとってのサウジアラビアの価値が大幅に低下することだろう。

 

国民の半数が大統領選の結果を非合法と見なしている状況で就任するバイデン氏は早くも「歴史上最も弱い大統領」と揶揄されはじめており、トランプ大統領のように中東情勢に積極的に介入することはできない。

 

バイデン政権誕生で影響力を増すとされる民主党左派にとって、シェールオイルは目の敵であり、サウジアラビアが原油価格の下支えを行ったとしても、米国の歓心を得られないかもしれない。それどころか、世界最大の原油需要国である米国で「脱石油」の動きが進めば、原油価格は再び低迷してしまう。

 

さらにトランプ政権下で高まっていたサウジアラビアへの批判が、一気に表面化するのではないだろうか。2018年のサウジアラビア人ジャーリストのカショギ氏暗殺事件や世界最悪の人道危機となっているイエメンへのサウジアラビアの軍事介入に対する非難から、米国とサウジアラビアの関係はオバマ政権の時以上に悪化する可能性がある。

 

 ▽原油安でイラクに近づく中国

バイデン新政権は「ムスリム同胞団」を民主化を担う主体と位置づけるとされていることから、ムハンマド皇太子の失政のせいで国内での不満が高まっているサウジアラビアで「第2のアラブの春」が起きるとの不安が頭をもたげつつある。

 

米調査会社ユーラシア・グループの2021年の世界の10大リスクの第8位に「原油安の打撃を受ける中東」がランクインしたが、筆者が心配しているのはサウジアラビアとともにイラク(OPEC第2位の生産国)である。

 

昨年のイラクの経済成長率はマイナス12%と見込まれており、市場での通貨デイナール売りが激化し、すべての輸入品の価格が高騰している。財政緊縮先として政府職員の給与が20%削減されたことから、「国民の不満は全土に広まっている」と現地メデイアは報じている。

 

イラク政府は逼迫(ひっぱく)した財政状況を緩和するため、長期の原油供給契約を結ぶ代わりに支払いの前払いを要求していた。この申し出に手を上げたのが中国企業である。

 

中国国有軍需企業傘下の石油企業が20年末、1年分の原油供給(4800万バレル)の前払い金として20億ドルをイラク側に支払う契約を成立させた(1月4日付フィナンシャル・タイムズ)。中国はイランとの間でも積極的に石油取引を行っており、中国は米国の間隙を縫って中東での影響力を着々と増大させている。

 

前述の10大リスクの第4位は「米中の緊張拡大」だが、日本にとっての原油供給先である中東地域でも、せめぎ合いのリスクが高まるのではないだろうか。【1月12日 47NEWS】

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【イラクはイランの影響力排除の動き】

上記記事の最後に取り上げられているイラクは、シーア派が政権を主導しているということで、従来はイランの影響力が強い国でしたが、最近はイラクをアメリカ攻撃の舞台にしようとするイランに対し、カディミ首相はその影響力を抑えようとする姿勢を強めています。

 

****カディミ首相、シーア派民兵に警告「直接対決の用意がある」****

イラクのムスタファ・カディミ首相が、シーア派民兵を指しつつ、「必要となれば彼らと対決する用意がある」と伝えた。

 

カディミ首相は、ソーシャルメディア上で発言し、「国民の治安部隊と軍に対し違法な活動をする者のせいで揺るいだ安全を取り戻すために、我々は静かに取り組んできた。イラクがくだらない災難に陥らないようにすべく、平静になるように呼びかけた。しかし、必要となれば対決する用意がある」と警告した。

 

カディミ首相の発言を受け、政府と近い匿名希望の情報筋が次のように伝えた。

「親イランのシーア派民兵のアサイブ・アフル・ハックが、バグダッド空港に向けて実行されたロケット弾攻撃の犯人であるメンバーを政府が逮捕したため、政府を脅迫し始めた。この組織は、逮捕された民兵の釈放を要求した。さもないと今夜または明朝に政府の建物を攻撃すると脅迫した。この組織は、内務大臣をも直接脅迫した」

 

情報筋は、これらの出来事を受けて国家安全次官のカシム・アル・アラジ氏が介入して事件を抑えたものの、カディミ首相は逮捕された民兵を釈放しないと断言していると述べた。

 

シーア派民兵に属する武装組織が、バグダッドのリサファ地区付近の一部地域に展開しているとの主張が上がっている。【2020年12月26日 TRT】 

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「敵の敵は味方」というのが常識の中東世界ですから、今後も複雑な動きをみせるものと思われます。

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ロシア  帰国した反体制派ナワリヌイ氏を即時拘束 同氏はプーチン大統領本人の不正蓄財疑惑告発

2021-01-22 23:34:00 | ロシア

(【1月21日 TBS NEWS】 ドローン空撮された「プーチン氏の豪華宮殿」)

 

【下院選への影響を懸念するロシア 帰国ナワリヌイ氏を即時拘束】

毒殺未遂事件の渦中にあるロシア反体制活動家ナワリヌイ氏の帰国については、1月15日ブログ“ロシア 反政権活動家ナバリヌイ氏の帰国 対応に苦慮するプーチン政権”でも取り上げました。

 

プーチン政権としては、同氏を野放しにすることで反政府活動がこれまで以上に拡大するのは困る、ただ、拘束することで反政府活動を更にヒートアップさせ、欧米からの批判を招くのも困る・・・ということでしたが、この期に及んでは拘束しないという選択はなかったようです。

 

****露政権、帰国した反体制派ナワリヌイ氏を即時拘束 収監も 欧米諸国から批判****

何者かに毒物で襲撃され、ドイツで治療を受けていたロシアの反体制派指導者、ナワリヌイ氏は17日夜(日本時間18日未明)、航空便でロシアに帰国した。

 

露司法当局は同日、過去の事件で執行猶予中だったナワリヌイ氏が定期的な出頭義務を無視したとして、到着したモスクワ郊外の空港で同氏を拘束。当局は同氏の執行猶予を取り消して実刑に切り替える手続きも進めており、同氏はこのまま収監される可能性がある。

 

ロシアは今年9月に5年に1度の下院選を予定。ナワリヌイ氏は帰国して反体制派勢力を応援する意思を表明していた。露国内外では、支持率が低迷するプーチン政権が毒物襲撃事件から生還して存在感を高めたナワリヌイ氏の本格的排除に動いたとの見方が強い。

 

ナワリヌイ氏の乗った航空機は当初、モスクワ郊外のブヌコボ空港に到着する予定だったが、着陸直前に同じ郊外のシェレメチボ空港に変更された。空港側は「別の旅客機が滑走路からはみ出したため」と説明したが、ブヌコボ空港では多くのナワリヌイ氏の支持者らが出迎えのために集まっていた。

 

露人権監視団体によると、当局側の指示に従わなかったなどとして支持者ら60人以上がブヌコボ空港などで一時拘束された。

 

ナワリヌイ氏は離陸前、機内で妻のユリアさんと座る映像とともに「家に帰る」とインスタグラムに投稿。到着後、入国審査カウンターでユリアさんと抱き合った後、待ち構えていた当局側に連行された。

 

ナワリヌイ氏をめぐっては、執行猶予を実刑に切り替えるかを決める審理が近く予定されている。イタル・タス通信によると、司法当局は「裁判所の決定まで勾留する」と発表した。

 

ロイター通信によると、米国や欧州連合(EU)、EU各国はロシアを非難し、即時釈放を求める声明を相次いで発表した。

 

ナワリヌイ氏は「17日に帰国する」と13日に表明。露司法当局は14日、執行猶予中の出頭義務違反を理由に昨年末に同氏を指名手配したと公表した。捜査当局も昨年末、同氏が自身の団体「汚職との戦い基金」などへの寄付金5億8800万ルーブル(約8億3千万円)の一部を私的流用したとする詐欺罪で刑事訴追した。

 

ナワリヌイ氏は昨年8月、露国内線の旅客機内で意識不明となり、露病院を経て独病院に移送。欧米側の調査機関は、同氏が旧ソ連開発の神経剤「ノビチョク」系の毒物で襲撃されたとの分析結果を公表した。英調査報道団体は12月、「露連邦保安局(FSB)が事件を実行した」とする独自調査結果を発表した。

 

露政権は「欧米側の反露情報工作だ」とし、事件への関与を否定している。【1月18日 産経】

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政権側としては、与党支持率が低迷するなかで、下院選へのこれ以上の悪影響を避けたいとの考えです。

 

****支持率低下のプーチン政権、「英雄」帰国に危機感****

ロシアのプーチン政権が国際的にも知名度の高い反体制派指導者、ナワリヌイ氏を帰国直後に拘束したのは、同氏がそれだけ政権の脅威となっていることの裏返しにほかならない。

 

今年秋に下院選を控える中でプーチン大統領や与党「統一ロシア」の支持率は低下しており、政権が反体制派の抑圧をいっそう強めるのは確実だ。同時に、このことがさらに国民の反発を招く可能性も指摘されている。

 

欧米諸国が相次いでロシアを非難する声明を出したことについて、露外務省のザハロワ報道官は「各国はロシアの国内法を尊重すべきだ」と反発した。米次期政権で大統領補佐官(国家安全保障問題担当)となるサリバン氏の非難に対しては「自国の問題に専念すべきだ」と当てこすった。

 

執行猶予中の出頭義務違反を理由にナワリヌイ氏を拘束した露司法当局も「違反者に対する一般的な手続きだ」と主張した。

 

だが、ナワリヌイ氏はこれまで政権高官らの不正蓄財や汚職をたびたび暴き、それが大規模な反政権デモにもつながってきた。2019年のモスクワ市議会選や昨年秋の露統一地方選では、最も当選の可能性が高い野党系候補に票を集中させる「賢い投票」運動を展開し、一部の地方議会選で野党や独立系候補の躍進を導いた。これに対し、政権側はナワリヌイ氏に刑事捜査や巨額の賠償請求を行い、圧力をかけてきた。

 

このため、露独立系メディアでは、政権は毒物襲撃事件から生還して英雄的存在となったナワリヌイ氏を拘束・収監し、社会的・政治的に抹殺しようとしている−との見方が支配的だ。

 

露独立系機関「レバダ・センター」の世論調査によると、長引く経済低迷や強権統治への反発を背景に、プーチン大統領の支持率は過去最低水準の6割前後まで下がっている。17年12月に37%だった統一ロシアの支持率も20年11月には29%まで低下しており、今年9月の下院選では統一ロシアの苦戦と政権基盤の弱体化が予想されている。

 

こうした情勢を受け、露政権は反体制派の締め付けをいっそう強めている。昨年末には集会の規制やインターネット統制を強化する法改正をあわただしく行った。スパイと同義である「外国の代理人」の指定範囲も拡大した。欧米の批判をいとわず、反政権機運を力で押さえ込む姿勢が鮮明になっている。【1月18日 産経】

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【ナワリヌシ氏 プーチン氏本人の不正蓄財疑惑を告発】

ただ、ナワリヌシ氏はこれまでも、拘束逮捕を繰り返すことで、反政府活動家としてのカリスマ性を高めてきた経緯もあり、今回拘束で同氏支持者の活動は更にヒートアップする懸念があります。

 

****ナワリヌイ氏、抗議行動呼び掛け 支持者、ロシア全土で準備****

毒殺未遂に遭い、療養先のドイツからロシアに帰国後に拘束、逮捕された反体制派ナワリヌイ氏は18日、支持者に対し街頭に出て抗議行動を行うよう呼び掛けた。同氏の関係者は、23日にロシア全土で抗議行動する準備を進めていると明らかにした。

 

プーチン政権は抗議行動を厳しく弾圧するとみられ、米欧がロシアへの態度をさらに硬化させるのは必至だ。

 

ナワリヌイ氏は18日、モスクワ郊外の内務省施設での審理前に支持者への呼び掛けを録画し、動画がユーチューブを通じて流された。同氏は「沈黙せずに抵抗しよう。街頭に出よう。私のためでなく、あなた自身のために」と訴えた。【1月19日 共同】

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拘留中も動画発信ができるのでしょうか?

 

更に、これまではプーチン氏側近、例えばメドベージェフ前首相らの不正蓄財追求でしたが、いよいよプーチン氏本人の疑惑追求に乗り出しています。

 

****1400億円豪邸の主は…ナバリヌイ氏側、動画公開「汚職の実態」****

ドイツからの帰国直後にモスクワの空港で拘束されたロシアの反政権活動家、アレクセイ・ナバリヌイ氏の陣営がプーチン大統領の「汚職の実態を暴露した」とする動画を19日、インターネットに公開、再生回数は半日で1千万回を突破した。

 

政権打倒を市民に呼びかける同氏の陣営は23日、全国規模の反政権集会も計画しており、政権との激しい対立に発展する可能性もある。

 

動画は19日夕方、ナバリヌイ氏の陣営が公開した。ロシア南部クラスノダール地方の黒海沿岸にあるとされるプーチン氏の私邸の建設のため、側近や親族を通じて国営企業などの利益を吸い上げる汚職の構図を明らかにしたとしている。撮影はナバリヌイ氏の帰国前で、拘束されることも予測し、事前に用意していたとみられる。

 

動画を制作したのはナバリヌイ氏が設立した「反汚職基金」。治安機関の追跡をかわしてドローンを飛ばし、劇場や畳敷きのトレーニングルーム、専用の港に通じる地下通路もあるという宮殿のような私邸を上空から撮影したとされる。

 

隣接するブドウ畑やワイン工場などを含めた敷地の総面積は「モナコ公国の約39倍の7800ヘクタール」、建設費は「少なくとも1千億ルーブル(約1400億円)」としている。

 

汚職の真偽は不明だが、建設作業員から入手したという設計図や登記書類などを示し、建設に関わった関係者の証言も紹介している。【1月20日 朝日】

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CG再現された「プーチン氏の豪華宮殿」は、文字どおり豪華な宮殿を思わせるものです。

本当に「「プーチン氏の豪華宮殿」なのか?

本当なら、プーチン大統領にとっては大きな痛手になりますが、ガセならナワリヌシ氏の命運は尽きます。

 

“ナワリヌイ氏は建設資金について、国営企業トップを務めるプーチン氏の側近らが賄ったと主張し、「世界最大の賄賂」と非難した。一方、インタファクス通信によれば、ペスコフ大統領報道官は「大統領は(黒海沿岸に)宮殿を所有していない」とプーチン氏との関わりを否定した。”【1月20日 時事】

 

政権側は、同氏勢力への圧力を強めています。

 

****ロシア反体制派幹部らを一斉拘束 プーチン政権、抗議デモを警戒****

ロシア当局は21日、ドイツから帰国直後に逮捕された反体制派ナワリヌイ氏の陣営幹部らを「違法デモを呼び掛けた」として一斉に拘束した。同氏陣営は逮捕に抗議して23日にロシア全土で抗議行動を計画しており、恐れるプーチン政権が弾圧に乗り出したようだ。ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」などが伝えた。

 

ロシア警察は21日、ナワリヌイ氏陣営の女性幹部で、2019年のモスクワ市議選の不正疑惑に対する抗議行動を主導したソボリ氏、プーチン政権の不正を暴く調査チームを率いるアルブロフ氏、報道担当ヤルムイシ氏ら主要幹部らを次々と拘束した。【1月22日 共同】

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【ノルドストリーム2へ飛火】

一方、ネワリヌシ氏拘束を批判する欧州議会は、ロシアからドイツへ天然ガスを特設移送する「ノルドストリーム2」の工事中止を求める決議を採択しています。

 

同プロジェクトは、不安定なウクライナなどを経ずに天然ガスを入手したいドイツ・メルケル首相が国策として推進してきたものです。

 

****欧州議会がノルドストリーム2工事中止求める決議採択、ナワリヌイ氏逮捕で****

欧州連合(EU)欧州議会は21日、ロシア産天然ガスをドイツに直接輸送するパイプライン「ノルドストリーム2」の完成工事中止を求める決議を採択した。ロシア反体制派のナワリヌイ氏がドイツから帰国後逮捕されたことを受けた動きだ。(中略)

 

ノルドストリーム2建設プロジェクトを一貫して支持してきたドイツのメルケル首相は21日、ナワリヌイ氏の件があっても自身のプロジェクトに対する考えは変わらないと明言した。

 

しかし欧州議会は賛成581、反対50、棄権44と圧倒的多数が建設の阻止を含め、EUがロシアとのさまざまな関係を見直すことを要求する決議を承認した。【1月22日 ロイター】 

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「ノルドストリーム2」については、アメリカ・トランプ前政権も、アメリカ産天然ガスの欧州売り込みを進めたい立場から制裁圧力をかけています。

 

****米、ノルドストリーム2巡り欧州企業に制裁リスク警告=関係筋****

関係筋が12日に明らかにしたところによると、米国務省は今月、ロシア産天然ガスをドイツへ直送する海底パイプライン「ノルドストリーム2」の建設作業に関わっているとみられる欧州企業に対し、制裁のリスクがあると警告した。

米政府筋は匿名を条件に「リスクがあることを企業に通知し、手遅れになる前に手を引くよう促している」と述べた。

同筋によると、国務省は14日か15日にも、ノルドストリーム2の建設作業に関わっているとみられる企業のリストを公表する予定。同事業に保険サービスを提供している企業や、建設機械の検証作業などに関わっている企業なども対象になるという。

作業を中止しない企業は現行法の下で米国の制裁対象となるリスクがあるとしている。

関係筋によると、スイスの保険大手チューリッヒ・インシュアランス・グループもリストに掲載される可能性がある。同社のコメントは取れていない。

ノルドストリーム2側のコメントも取れていない。

米国のトランプ政権は、ノルドストリーム2が完成すれば、ロシア産天然ガスに対する依存度が高まり、ロシアが政治・経済面で欧州に大きな影響力を行使することになると主張。米国産液化天然ガス(LNG)の欧州への輸出を増やしたい意向も示している。

ロシア大統領府はノルドストリーム2は商業プロジェクトだと反論。

ドイツ政府も、ノルドストリーム2は商業プロジェクトであり、環境対策や安全面への配慮で石炭火力発電所や原子力発電所の閉鎖が進む中、天然ガスが必要になっていると主張している。

バイデン次期米大統領は、副大統領時代にノルドストリーム2に反対する意向を示したが、今月20日の新政権発足後にこの問題で妥協するかは不透明だ。【1月13日 ロイター】

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完成を目前にして、「ノルドストリーム2」は足踏みを強いられています。

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