孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  新憲法最終案発表 1月当初案より更に強まる軍部の影響 タクシン派は国民に拒否を呼びかけ

2016-03-31 21:16:39 | 東南アジア

(有機野菜を外国メディアに見せるインラック前首相=2月12日、バンコク、ウィラワン・ジャイティアン撮影 【2月12日 朝日】)

国民和解の名目でタクシン派潰しを推進する軍事政権
クーデターによって権力を掌握した軍事政権が続くタイで、民政移管に向けた新憲法制定作業が行われているものの、軍部等に大きな権限を残すなど、その内容には問題が多いこと、また、憲法制定作業の遅れで結果的に民政移管がズルズルと先延ばしされる懸念もあることなどについて、1月30日ブログ“タイ 新憲法案の「第2次案」発表 タクシン派などの批判は強く、民政移管に向けた先行きは不透明”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160130で取り上げました。

タクシン派と反タクシン派の対立・混乱、混乱収拾を名目にした軍事クーデターなど、ここ数年のタイの政治情勢を簡単にまとめると、以下のようになります。

****タクシン派vs反タクシン派****
タイでは2006年以降、東北部と北部の住民、バンコクの中低所得者層の支持を集めるタクシン派と、特権階級、南部住民とバンコクの中間層を中心とする反タクシン派の抗争が続き、政治・社会が混乱している。

反タクシン派はタクシン氏を反王室の腐敗政治家と糾弾し、2006年の軍事クーデターでタクシン政権(2001―2006年)を打倒した。

タクシン派は2007年の民政移管選挙で勝利したものの、2008年に「司法クーデター」と呼ばれた裁判所によるタクシン派与党解党で反タクシン派に政権を奪われた。

反タクシン派政権下の2009年、2010年、タクシン派は、特権階級が軍官財界を動かし民主主義や法治をねじまげているとして、政権打倒を目指すデモを行い、2010年のデモでは治安部隊との衝突で、市民、兵士ら91人が死亡、1400人以上が負傷した。

タクシン派は2011年の下院総選挙で再度勝利し、タクシン元首相の妹のインラク氏が首相に就任した。しかし、2013年10月から、民主党が主導する反タクシン派市民のデモがバンコクなどで拡大。

2014年1、2月には数万人がバンコクの主要交差点を長期間占拠した。5月に入り、軍が治安回復を理由に戒厳令を発令、クーデターでタクシン派政権を倒し、全権を掌握した。

軍は当初、両派の和解を目指すとしていたが、タクシン派の官僚、軍・警察幹部のほとんどを左遷し、地方のタクシン派団体を解散に追い込むなど、タクシン派潰しを推進。

2015年1月には、軍政が設立した非民選の暫定国会「立法議会」が、「コメ担保融資制度をめぐる職務怠慢」でインラク前首相を弾劾にかけ、前首相の参政権を5年間停止した。

軍政は当初、2016年に総選挙を実施するとしていたが、2015年に軍政傘下の憲法起草委員会が取りまとめた新憲法案を自ら否決。新たに起草作業に入り、選挙時期を先送りした。

タイではクーデターなどで度々憲法が廃止され、その度に新しい憲法が制定されてきた。1997年には、選挙で選ばれた憲法議会を通じて作成された新憲法が施行され、初の国民参加型で最も民主的な憲法との評価を受けた。

この1997年憲法は、2006年の軍事クーデターで破棄された。軍政下の2007年に制定された新憲法は、議会上院のほぼ半数を非民選とするなど、特権階級の政治介入を制度化し、政党の力を殺ぐ内容となった。

この憲法も2014年のクーデターで破棄され、現在は軍部が実質的に全権を握る暫定憲法が施行されている。【3月30日 newsclip】
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選挙後5年間は軍部が上院を支配する「経過規定」】
今月29日に憲法起草委員会は新憲法の最終案を発表しましたが、選挙後5年間は上院が完全に軍政による任命制になる形で、1月公表案に比べても、政移管後も軍部が影響力を温存する仕組みが更に強化された内容となっています。

****タイ新憲法案、軍が上院支配****
2年前に軍事クーデターが起きたタイで29日、民政移管後の政治のあり方を左右する新憲法案がまとまった。来年から5年間を「移行期間」として、軍部が上院(定数250)を事実上、支配する内容が盛り込まれた。国民投票で可決されれば来年後半に総選挙の見込みだが、真の民政復帰は大きくずれ込む。

憲法案は、クーデター体制の最高機関、国家平和秩序評議会(NCPO)が任命した憲法起草委員会がつくった。

(1)議員でない人物が首相になれる(2)上院議員を20の職能分野ごとに間接選挙で選ぶ(3)選挙によらない憲法裁判所などの機関に強い政府監視権限を与える――といった民主化に逆行する制度のほか、選挙に強いタクシン元首相派の封じ込めを狙ったとみられる、単独政党が過半数をとりにくい小選挙区比例代表併用制の導入などが柱だ。

加えて、NCPOは最終段階で起草委に注文をつけ、選挙後5年間は軍部が明確に影響力を残す「経過規定」を盛り込ませた。

移行期間は上院の構成を変え、250人のうち194人をNCPOが任命した選考委員会が、50人を職能分野ごとに提出された候補者名簿からNCPOがそれぞれ選任。残る6人を陸・海・空軍司令官、国軍最高司令官、国防省次官、国家警察庁長官に割り当てる。

上院の権限は、法案の審議だけでなく、憲法裁判事などの任命、憲法改正や非議員の首相任命などへの同意など広範に及ぶ。

 ■タクシン派封じ込め狙う
タイでは近年、主に都市部を支持基盤とする軍や官僚などの既得権益層と、有権者数の多い農村を地盤とする新興政治勢力のタクシン派の対立が続いてきた。

憲法案については、軍部が支配体制を守るために、タクシン派が総選挙で第1党になっても国政をコントロールできる制度をつくるしかないと判断した、との見方がある。

政治混乱を収拾する役割を担ってきたプミポン国王も高齢になり、「国体」を安定させるためにも軍が長く実権を握りたがっている、との指摘も出る。

8月に見込まれる国民投票を前に、NCPOは反対運動を厳しく制限する姿勢を見せている。

一方、タクシン派政権で教育相だったチャトロン氏は「憲法案の問題点が伝わらず、可決される可能性もある」とみる。

否決された場合の対応は明確になっておらず、民主化の道筋がさらに混沌(こんとん)とする恐れもある。【3月30日 朝日】
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下院と憲法裁判所については、下記のようにも。

****<タイ>新憲法の最終案 修正で軍部影響力温存、さらに強化****
・・・・下院(定数500)は、一つの政党が圧倒的多数を獲得しにくい選挙制度にされた。巨大政党を率いて軍、官僚らによる伝統的統治体制を脅かしたタクシン派の弱体化を狙ったものだ。

中小政党による連立政権になれば、上院に影響力を持つ軍部が意向を反映しやすい。首相は国会議員以外からも選出可能で、軍人首相の擁立にも道が開かれている。

一方、憲法裁判所の権限は草案より限定された。草案では政治危機に独自の判断で介入できるとされたが、最終案では、首相や国会、最高裁などとも協議することとされた。

ただ協議は憲法裁が主導するため、反タクシン派の「牙城」とされる憲法裁の権限は依然として大きい。【3月29日 毎日】
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【「起草委は国民によってではなく、軍によって設置された機関だ」】
また、“憲法起草委員会メンバーの一人は毎日新聞の取材に「政治家が国民の意見を代弁しているとは思わない」と強弁した。ただ、最終案に軍部の意向が反映された点については「起草委は国民によってではなく、軍によって設置された機関だ」と漏らした。”【同上】とも。

「政治家が国民の意見を代弁しているとは思わない」「起草委は国民によってではなく、軍によって設置された機関だ」・・・・今回新憲法案の性格をよく表した言葉です。

政党政治を信用せず、政治を軍部の監視下におき、いつでもその流れを是正できる体制を構築したいということでしょう。

そして、目指すのは、国王を頂点とした既存の権力層(軍部、枢密院、裁判所など)の権限が維持された、無知な民衆の意向などに惑わされないタイ固有の“秩序ある社会”ということでしょう。

タクシン派の拒否運動に「国民を誤った方向に導こうとしている疑いがあり、調査している」】
タクシン派は新憲法案を起草に民意が反映されず非民主的な内容だと批判。国民に対し、国民投票での反対を呼びかけています。

****タクシン派・タイ貢献党が新憲法草案を批判****
タクシン派・タイ貢献党は3月30日、新憲法最終草案の内容が29日に公表されたことを受け、同案の内容が非民主的であり問題をはらんでいるとして有権者に対し同案を受け入れないよう呼びかけた。

さらに同党は、8月7日の国民投票実施の前に現行の暫定憲法を改正して1997年憲法を暫定的に採用できるようにし、国民投票で新憲法草案が否決された場合は6カ月以内に総選挙を実施することなどを求めた。

このような同党の動きについて、現プラユット政権の後ろ盾的存在である国家平和秩序評議会(NCPO)のピヤポン広報担当は、「国民を誤った方向に導こうとしている疑いがあり、調査している」と述べ、違法と判断した場合は法的措置をとる考えを明らかにした。

なお、タクシン派のタイ貢献党は、タクシン派・インラック政権が14年5月に軍事クーデターで倒されたことから軍政に否定的、反抗的姿勢をとり続けている。【3月31日 バンコク週報】
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なお、“反タクシン派の民主党は29日、オンアート副党首が記者会見し、新憲法案の内容を精査した上、対応を決めると述べた”【3月30日 newsclip】とのことです。

「国民を誤った方向に導こうとしている疑いがあり、調査している」・・・・タクシン派が新憲法案反対運動を強めると、ひと波乱ありそうです。

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(今回新憲法案は)軍・特権階級が軍事力と司法、傘下の上院を通じ、連立政権で不安定な下院と政府を間接的に支配することを狙った内容で、プレム政権(1980―1988年)の政治体制をほうふつとさせる。

軍政は8月に新憲法案の国民投票を実施し、来年7月に下院総選挙を実施する方針。

新憲法案が否決された場合の対応は明らかにしていないが、新憲法案に批判的なタクシン派の政治家や市民を相次いで「態度矯正」のため拘束するなど、国民投票での可決を力ずくでもぎ取る姿勢を鮮明にしている。【3月30日 newsclip】
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新憲法案が認められれば、軍部主導のもとで実質的に民主政治は5年間先送りされ、否決されたら・・・よくわからないといった状況です。

インラック前首相 久しぶりのメディア登場
ところで、先月、珍しくインラック前首相がメディアに登場しました。

****タイのインラック前首相、家庭菜園紹介名目で会見****
2014年のクーデターで政権を追われたインラック前首相が12日、バンコクの自宅で外国メディアを招き、タイの民主化の行方などについて語った。クーデター後、政治活動は禁止されているため、家庭菜園を紹介する名目で事実上の会見を初めて開いた。

インラック氏は軍事独裁体制下で起草中の新憲法案について「憲法はタイ国民の意思を反映したものでなければならない」と、懸念を表明した。また、現体制の最高機関である国家平和秩序評議会に対し「民政移管へのロードマップを守ってほしい」と述べた。【2月12日 朝日】
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ただ、インラック前首相には常に軍部の監視がついているようです。

****前首相、美人だろ」 タイ軍政幹部****
タクシン元首相の妹のインラク前首相が「どこへ行くにも軍の監視がついて回る。人権侵害ではないか」と不満を訴えたとされる件で、プラウィット副首相兼国防相は2月29日、「問題が起きないよう警護しているもので人権侵害にはあたらない」とコメントした。

また、兵士が前首相の写真を撮影したとされる件についても、「美人なので写真をとりたくなっただけだろう。オーバーに考える必要はない」とコメント。さらに「監視役の軍服が気にいらないのであれば、私服を着用させてもよい」と付け加えた。

この発言について、タクシン元首相派プアタイ党のワタナー元商務相は「セクハラ」だと批判。軍事政権はこうした発言を受け、ワタナー元商務相を軍施設に連行した。

プラウィット副首相はこの件について、3月2日、「100回批判したら、100回出頭を求める」「話し合いのため、(拘束)期間は3日から最長1週間になる」となどと警告した。【3月3日 newsclip】
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家父長的姿勢のプラユット暫定首相 タイ政治にも影響
なお、前回ブログでも紹介したように、プラユット暫定首相は、「タイに幸福を取り戻す」に次いで2曲目「あなたがタイだから」を作詞して、愛国心を鼓舞する歌として国民にお披露目していますが、今月17日、遠く離れた架空の国で平和維持活動を展開するために送り込まれた軍人が人々の命を救う人気韓流ドラマ「太陽の末裔」を称賛し、国民にも視聴するよう呼びかけたそうです。

「こういったドラマをつくりたい人がいるなら、国民が清廉な政府高官を愛し、国民が相互に愛し合えるようにするため、私が資金面でスポンサーになる」【3月18日 AFP】とも。

このあたりの家父長的な姿勢、相当にずれた現実認識がこの人の特徴でもありますが、それは個人の問題にとどまらず、今後のタイ政治全般に影響してくるものでもあります。
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キューバ  オバマ大統領訪問を批判するカストロ前議長 しかし、国民の多くが望む関係改善・生活向上

2016-03-30 21:34:42 | ラテンアメリカ

(ハバナ上空を飛ぶ、オバマ大統領一行を乗せたエアフォースワン それを見上げるキューバ市民 【mail online http://www.dailymail.co.uk/news/article-3501651/Destination-Havana-Obama-Michelle-girls-historic-trip-make-President-visit-Cuba-90-YEARS.html】)

オバマ大統領「我々は、友人、隣人、家族として、共に旅をすることが可能だ」】
退任まで残すところ9カ月となったオバマ大統領の“レガシー”のひとつ、キューバとの歴史的関係改善は、まだ今後の道のりは長いものの、これまでのところは概ね順調に進んでいるようです。
オバマ大統領は22日、現職大統領としては88年ぶりの「敵国」訪問を終えました。

****<米大統領キューバ訪問>「歴史的な旅」に好意的も成果半ば****
オバマ米大統領は22日、2日半のキューバ訪問を終えた。現職大統領として88年ぶりにかつての「敵国」を訪れ、キューバ国民に経済、政治上の変革を直接呼びかけるとの主目的は果たした。

「歴史的な旅」の受け止めはおおむね好意的だったが、人権問題で根本的な差異も露呈。1959年のキューバ革命後、半世紀を超えた断交から関与への大転換の成否は、今後に持ち越された形だ。

「我々は、友人、隣人、家族として、共に旅をすることが可能だ」。オバマ氏は22日、首都ハバナの国立劇場でそう語りかけた。両国の歴史的、地理的な「近さ」を強調し、キューバ人の選択による改革を支持する方針を示したものだ。

米国との関係正常化により、投資や貿易を通じた経済の発展や、政治的自由の拡大が見込める。そうした「明るい未来」を提示し、一党支配の社会主義体制から多党制資本主義への移行を求める意識を国民の間に醸成する。

米国社会の人種や格差の問題に対するラウル・カストロ国家評議会議長の批判にも、謙虚な姿勢を見せてキューバ側のプライドをくすぐる。

オバマ氏が取ったのは、そんなソフトな方法論だった。会場にはカストロ氏も姿を見せた。

オバマ氏は22日、反体制派や人権活動家とハバナの米大使館で会談し、キューバの民主化や政治的自由を拡大する取り組みを支援すると明言。米大リーグ「タンパベイ・レイズ」とキューバ代表チームの野球親善試合をカストロ氏と並んで観戦するなど、硬軟両様の交流外交を展開した。

オバマ氏の演説を聞いたハバナ市民は毎日新聞の取材に「真剣だった」「世界への扉を開いた」と前向きに評価した。一方、国営テレビが流した国民の声には「米国に助けられる必要はない」「米国は信用できない」という否定的なものが目立った。

不信は米国側にもある。野党共和党の大統領候補指名レースを先導する実業家のトランプ氏は、オバマ氏の到着時にカストロ氏が出迎えなかったことを批判。22日の演説も「おかしい」とけなした。カストロ政権に批判的な有力候補クルーズ上院議員も「敵と味方の区別がついていない」と指弾した。

だが、キューバ側が強く求める禁輸措置の解除は「米上院で共和党にも前向きな議員がいる」(米アメリカン大のフィリップ・ブレナー教授)状況で、実現の難易度は下がりつつある。オバマ氏は「人権問題で差異を埋められるかが鍵」と指摘し改善を促した。【3月23日 毎日】
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人権問題については、未だ溝は深いようです。

****<米キューバ首脳>人権巡り激しい応酬 共同記者会見でも****
オバマ米大統領とキューバのラウル・カストロ国家評議会議長による21日の共同記者会見では、人権問題を巡り激しい応酬があった。

最初に発言したカストロ氏が米国社会の格差や人種問題などを皮肉る一方、オバマ氏はキューバでの人権侵害を改めて問題視するなど、この問題を巡る両国の溝の深さを改めて露呈した。

カストロ氏はキューバの人権状況に関し、医療や教育も人権の一部であり、社会主義国のキューバでは無料で提供していると胸を張った。

「政府がこうした権利を守らないのは、私には考えられない」と指摘。学生が高額の学費を払うためローン返済に苦しみ、国民皆保険も実現していない米国の現状を批判した形だ。

オバマ氏はこうした批判を評価し、キューバと半世紀以上の断交状態から関係正常化に踏み出したことで、「方針の違いを直接話し合えるようになった」と前向きに受け止める姿勢を見せた。

一方でオバマ氏は、キューバだけでなく中国やベトナム、ミャンマーとの関係でも人権侵害の批判は行っていると説明。人権擁護は米国の外交政策の要であると強調した。

共同会見では、カストロ氏が米国人記者から「政治犯をいつ釈放するのか」と尋ねられる一幕も。カストロ氏は「名前を示してくれれば、今晩中にでも釈放する」と答え、オバマ政権が批判するような政治犯はいないとの立場を強調。米国側が継続して人権問題を取り上げることへの強いいら立ちを示した。

カストロ氏が会見で記者の質問に答えるかどうかは、会見開始直前まで確定していなかった。米国人記者の質問に答えるよう、オバマ氏が促す場面もあった。【3月22日】
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姿を見せなかったカストロ前議長 「帝国からの贈り物など必要としていない」】
ラウル・カストロ現議長の兄でもあり、キューバを象徴する人物でもあるフィデル・カストロ前議長は今回のオバマ大統領訪問において姿を見せず、オバマ訪問に関し、“「帝国からの贈り物」など必要としていない”“甘言による幻想”“口先だけ”と辛辣な評価を示しています。

****帝国の贈り物いらない」 カストロ前議長、オバマ氏訪問を批判****
キューバのフィデル・カストロ(Fidel Castro)前国家評議会議長(89)は、28日に公開された書簡でバラク・オバマ米大統領の歴史的なキューバ訪問を痛烈に批判し、キューバは米国という「帝国からの贈り物」など必要としていないと述べた。

キューバ革命を率いたフィデル氏が、オバマ大統領のキューバ訪問についてコメントを公表したのは初めて。フィデル氏はこれまでも米キューバ関係の改善に冷ややかな反応を示している。

フィデル氏は、オバマ大統領が東西冷戦時代から50年以上続く敵対関係を許し合い、水に流そうと呼び掛けたことを一笑に付し、「あの米大統領の言葉を聞いていると、みんな心臓発作を起こしかねない」「少し提案させてもらうなら、オバマ氏は頭を働かせて、キューバ政治の理論化など試みないことだ」などと書簡に記した。

オバマ大統領は先週、現職米大統領として88年ぶりのキューバ訪問でラウル・カストロ国家評議会議長と会談したが、兄のフィデル氏とは会わなかった。

訪問に際しキューバ政府からは内政干渉しないよう警告があったものの、オバマ氏はこれを無視。反カストロ派と面会したほか、民主主義や自由の拡大を呼び掛ける演説を行った。

3日間のオバマ氏訪問中、公の場に姿を見せなかったフィデル氏は、この演説を「甘言」だと一蹴。「高潔で無私無欲なわが国の人々が、教育・科学・文化に培われた栄光と権利と精神的な豊かさを放棄するという幻想など、誰も抱いてはいない」「われわれは、国民の労働と知性によって、必要な食料や物質的な富を生み出すことができる。(米国という)帝国からの贈り物など必要としていない」と述べた。【3月29日 AFP】
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アメリカとの関係改善に大きく舵をきったことへの、バランス調整としての国内向け発言の側面もあるでしょうが、キューバそのものでもあった“あの”カストロが口を極めて批判しても、流れは変わらないという点で、逆に、キューバの政治も大きな変化をとげつつある、カストロの時代は終わったということが実感されます。

生涯をキューバ革命と東西冷戦のなかで大国アメリカに立ち向かうことに捧げた89歳のフィデル・カストロ氏には、もはや新しい時代に即応していくことは難しいでしょう。

関係改善に期待する生活苦の市民
カストロ氏は、アメリカの助けがなくてもキューバは食料や物資を自給できるとし、「帝国から施されるものなど何もない」とも述べていますが、キューバ市民の思いとは大きなギャップがあります。

****オバマ演説、好反応 「キューバの人に響いた****
米国のオバマ大統領が、現職大統領としては88年ぶりとなるキューバ訪問を終えた。国立劇場での演説など、キューバ国民に直接訴えかけることを重視したオバマ氏。その言葉は、多くの人々に好意的に受け止められたようだ。

演説はテレビで中継された。ハバナの自宅で演説を聴いたリリア・マルセルさん(70)は、オバマ氏が締めくくりに「やれば出来る」とスペイン語で言ったのが胸に響いた。

日々の暮らしは楽ではないが、子供や孫の世代には、少しでもいい未来が待っているかもしれない、と感じたという。「頑張ったら暮らしもよくなるという希望を感じた」と語る。

マイアミ在住のキューバ系米国人ウゴ・カンシオさんは招かれて劇場で演説を聴いた。演説でオバマ氏が「革命をしたキューバ人の子孫と、亡命したキューバ人の子孫の和解が、キューバの未来に必要だ」と語った時、涙が止まらなかった。

自分自身、15歳でボートで米国に亡命。祖国を捨てた人々や引き裂かれた家族の痛みを感じてきたからだ。海を隔て対立してきたキューバ人に和解を呼びかけた言葉がしっくりきた。「キューバの人々の心に響いた」と話す。

だが、米国が何を言っても、キューバで実権を握る人々の考えが変わらなければ、物価高や物不足など日々直面する問題が解決されることはない、という冷めた見方もある。

テレビで演説を聴いた自営業のエリスマル・タビオさん(29)は、「オバマの話はよかったが、キューバで物事を決めるのは、70歳以上の連中だ。何も変わらないのではないか」と語った。【3月24日 朝日】
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****カストロよりオバマを議長に」とハバナ市民はラブコール オバマ人気の影に生活不安・・・****
現職の米大統領として今月下旬、88年ぶりにキューバを訪れたオバマ大統領をキューバ国民は熱狂的に歓迎した。
半世紀に及ぶ敵対関係に終止符を打ち、制裁緩和などを通じてキューバ国民の生活向上に貢献しようとしているためだ。

ただ、国交回復の恩恵を受けているのは一部の国民で、大半の生活は苦しいまま。カストロ政権の政治姿勢にも変化の兆しはみられず、キューバ社会には国交回復の「明暗」が交錯している。

「ジョージ・ブッシュ(前米大統領)よりオバマの方が断然、好きだ」。オバマ氏がラウル・カストロ国家評議会議長と会談した革命宮殿近くで、自営業のホアン・リベロさん(48)はこう強調した。

キューバ独立系機関の昨年春の調査によれば、キューバでオバマ氏の人気は高く、好感を持たない国民は17%と、ラウル氏(48%)や兄フィデル前議長(50%)を大きく下回る。

外交筋によれば、実はオバマ氏はブッシュ前政権時代より50近く新たな制裁を科してきた。最近の緩和策が注目されるため、オバマ政権の「寛容さ」ばかりが目立つが、実情は異なる。

それでも、キューバの貧困解消実現に向け、米議会に制裁の全面解除を訴えるオバマ氏の姿勢は魅力的に映る。女性のミレニアさん(28)は「オバマ氏をキューバのトップ(議長)に迎えたいほどだ」とラブコールを送る。
 ■    ■
オバマ氏が決断した国交回復以降、キューバに多数の観光客が流入し、多額のカネが落ちているのは事実だ。2015年の観光客は過去最高の350万人を記録。日本人観光客は約1万3千人と、増加率(81%)では世界一だ。1959年のキューバ革命に関心を抱く60代の人々が多いという。

キューバが注目されることで、マヤ文明の遺跡が散在するメキシコ、カリブ海に浮かぶ米プエルトリコなどの観光地は悲鳴を上げている。

高齢のラウル氏が宣言通り2018年に引退した場合、カストロ兄弟の政権への影響力が激減するため、「国が劇的に変化する前に共産主義体制を見ておきたいという人が増える一方だ」(観光業者)という。

米・キューバ経済評議会によれば、ビジネスチャンスを狙ってキューバ入りした経済団体は14年末以降、500に上る。オバマ氏訪問に合わせ、キューバを訪れた米系ホテルも商談をまとめるなど、経済向上への下地は整えられつつある。
 ■    ■
レストランや観光業が歓迎の声を上げる一方で、大半の国民は国交回復の恩恵を実感できないでいる。

国民の月額平均給与は25ドル(約2500円)。20代の女性は「ラウルは600ドルもするスペイン産ワインを飲み、庶民の“夢”である牛肉を口にする。国民第一なら私たちにも与えるべきだ」と口をとがらせる。

政権が国民に与える配給品は毎月1人あたり、卵7個▽豆1キロ▽米2キロ−など。1週間で底を突き、残りはわずかな給与で買うしかない。

独立系ジャーナリストのサンティアゴ氏(38)は「腹をすかせた国民は多い。食糧を買うカネがなければ、残念ながら夕食はない」と窮状を訴える。

ハバナはデコボコの道が多く、移動手段のバスも不足気味。国民のインターネットのアクセス率も5%以下と「鎖国」状態にある。他国民並みの暮らしは「夢のまた夢」でしかない。
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国交回復後、カストロ政権の強権体質にも変化の兆しは見られない。オバマ氏の訪問に合わせ、世界中から押し寄せた報道陣をハバナのホテルに宿泊させるため、カストロ政権は先約の人々を車で東に約2時間のバラデロに強制移動させた。民主国家ではあり得ない手法に不満が渦巻く。

中米外交筋は「キューバの憲法には『国民主権』と書かれているが、実際は『政権主権』でしかない」と述べ、米国がキューバの民主化もにらんで決断した国交回復が同国社会に大きな影響を及ぼすのはかなり先との見方を示した。【3月30日 産経】
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【「敵」を失ったキューバ政権の今後は?】
フィデル・カストロ氏が何と言おうが、国民の生活改善の期待に後押しされる形で、両国の関係改善は今後も続くのではないでしょうか。

ただ、アメリカという「敵」を失ったキューバ政権が今後どのように求心力を維持できるのか・・・は不透明でもあります。

国外の「敵」を糾弾することで国内求心力を保ち、自らの失政の責任を「敵」のせいにするというのは、古今東西の強権支配政権が行う常套手段ですが、その「敵」がいなくなると・・・・。

****オバマ訪問で「敵」を失うキューバ政権の焦り****
「ヤンキー帝国主義」と、キューバの前国家評議会議長フィデル・カストロが批判し続けたアメリカ。その現職大統領としては88年ぶりとなるキューバ訪問を、オバマが先週実現した。

家族と共にエアフォースワンで首都ハバナに降り立ったオバマはラウル・カストロ国家評議会議長と首脳会談を行
い、共同会見に臨んだ。

2人は人権問題をめぐって応酬し、息の合わない握手を披露する一方で、両国が新たな関係構築への道を歩み始めたことを宣言した。

だが、カストロは内心穏やかでないだろう。カストロ兄弟が半世紀にわたり独裁を続けられたのは、アメリカという敵がいたからこそ。経済の停滞も民主主義の欠如も、すべては隣国のせいだと政権は吹聴し続けた。

アメリカもそれを助長した面は否めない。59年のキューバ革命以降、歴代の米政権は厳しい貿易制限や経済制裁を科してきた。キューバの人権問題を批判し続けてきたアメリカだが、懲罰的な政策は人権抑圧への制裁ではない。

むしろ、在米の亡命キューバ人を優遇するためであり、キューバ政府による資産接収に反発した米企業の要請に応
えるためのものだった。
 
こうした因縁の歴史からキューバ国民は反米で結束し、強力なカストロに頼るしかないと、独裁を支持してきた。

「敵国アメリカ」という強力なよりどころを手放そうとしているカストロは近年、民主化を進めるどころか反体制派への抑圧を強めている。

国民が経済改革の進展を望み、もはや敵国でなくなったアメリカの大統領がその期待をかき立てるのを、必死
で阻止しようとしているようだ。

だがカストロの矛盾した政策は限界を迎えている。両国が新たな関係を進めれば、「われわれに従うか、ヤンキー帝国主義者に屈するか」という常套句は使えなくなるだろう。【4月5日号 日本版Newsweek】
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“国際人権NGO(非政府組織)のアムネスティ・インターナショナルなどによると、キューバでは昨年11月だけで人権活動家約1500人が逮捕・拘留されている。これは2014年の月平均の2倍以上で、昨年12月10日にも約200人が逮捕・拘留され、拘置所で殴られるなどした。”【2月19日 産経】
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ミャンマー  スー・チー氏4閣僚兼任でスタート 課題への姿勢 国軍との関係 求められる透明性

2016-03-29 21:10:46 | 東南アジア

(15日、ミャンマー・ネピドーの議会でアウン・サン・スー・チー氏(右)と並んで歩くティン・チョー次期大統領(AP=共同)【3月29日 共同】)

外相、大統領府相、教育相、電力・エネルギー相の4閣僚ポストを兼務
憲法上の制約により大統領を当面断念したミャンマーのスー・チー氏ですが、閣僚ポストについてはいろいろ報じられていたように、結局、外相、大統領府相、教育相、電力・エネルギー相の4閣僚ポスト兼任する形で「大統領よりも上に立つ」存在として、明日30日に新政権をスタートさせるようです。

****スー・チー氏主導の新政権発足へ=30日大統領就任式―ミャンマー****
昨年11月のミャンマー総選挙で圧勝した国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首(70)の側近、ティン・チョー氏(69)の大統領就任式が30日、首都ネピドーの国会で行われ、NLD主導の新政権が発足する。

息子2人が外国籍のため憲法の規定で大統領になれないスー・チー氏は新政権で、外相、大統領府相、教育相、電力・エネルギー相の4閣僚ポストを兼務。事実上の最高指導者として政権を指揮する。

30日は大統領と2人の副大統領、スー・チー氏ら18人の閣僚の就任式が行われ、ティン・チョー氏が国会で演説する予定。【3月29日 時事】 
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大統領や国軍総司令官らで構成する国防治安評議会のメンバーにもなれる外相、重視する福祉や教育に影響力を持ち、首脳会談で大統領と同席する大統領府相に加え、内政の要となる電力供給・教育を抑えた形ですが、教育、電力エネルギー相ポストについては、適任者が見つかるまでの一時的なものとの見方もあるようです。

なお、国防、内務、国境の3閣僚については、ミンアウンフライン国軍最高司令官が指名した者となります。

****<ミャンマー>スーチー氏、4閣僚兼務か 内政・外交で実権****
・・・・外国籍の息子を持つスーチー氏は憲法上、大統領資格がない。外相は国家の最高意思決定機関「国防治安評議会」にスーチー氏が参画できる唯一のポストで、当初から有力視されていた。

政権運営には絶大な政治権限を保持する国軍の協力が欠かせない。評議会は大統領以下11人で構成されるが、最高司令官など国軍関係者が過半数の6人を占める。スーチー氏は「民主化」改革に向け、評議会などの場を通じ、国軍と連携する道を選択した。

スーチー氏は、入閣すれば議員を失職する。だが国会内で先に、任意グループ「国会調整チーム」(議員5人、官僚3人の計8人)を結成し代表に就任。こうしたグループを通じ国会にも足場を確保し、国政運営とつなぐ意向のようだ。

スーチー氏は既に、法案の妥当性を検証する国会の重要委員会のトップに盟友のシュエマン前下院議長を任命した。議席の4分の1を国軍最高司令官指名の軍人議員が占める中、スーチー氏が「民主化への核心」として位置づける憲法の改正には全議員の4分の3超の賛成が必要で、最高司令官が事実上の拒否権を握る。

スーチー氏は国軍に一定の影響力を持つシュエマン氏を据えることで、改憲への方策を模索したい考えのようだ。

スーチー氏は入閣に伴い、NLD議長として党務を指揮できなくなる。このため、入閣せずに文字通り大統領を超越した立場で国政と党務の全般に臨むのでは、との見方もあった。

 ◇モラル低下、教育を重視
また国会は21日、新大統領に就任するティンチョー氏が提案した省庁の再編案を可決した。現在の31に対し、民族問題省を新設して計21に統合する。6人いた大統領府相も1人に集約。スーチー氏が大統領府相を兼務すれば、首脳会談などでティンチョー氏と同席することが可能だ。

スーチー氏は以前から「教育レベル向上がこの国の発展に不可欠だ」と強調してきた。1962年のクーデター以降、半世紀に及んだ事実上の軍政下、教育やモラルの著しい低下を招き、構造的な汚職体質につながったと認識しているからだ。教育相として大胆な教育改革は必至だろう。

電力エネルギー相ポスト兼務も事実なら、サプライズとみられる。ただ、テインセイン政権下で停止された中国主導の水力発電用の大規模ダム開発「ミッソン計画」をどうするか、新政権は待ったなしで決断を迫られる。

計画停止は「民主化」改革に向けたテインセイン大統領の英断とも称された。だがミャンマーの最重要国でもある隣国・中国との関係や、経済発展に欠かせない電力の慢性的な不足という事情を考慮しつつ、スーチー氏が問題の矢面に立つ覚悟かもしれない。

教育、電力エネルギー相ポストについては、適任者が見つかるまでの一時的なものとの見方もある。

一方、地元メディアによると、先の総選挙で野党に転落した「連邦団結発展党(USDP)」に対し、二つの閣僚ポストを与えたとみられる。労働・移民相と宗教・文化相だ。この国の最難関問題の一つ、少数派イスラム教徒(ロヒンギャ)問題と向き合うポストである。

民政移管以降、反イスラムと仏教至上主義の機運が高まる中、スーチー氏はこの難しい問題については静観してきた。一歩距離を置きたい、との思惑もほの見える。【3月22日 毎日】
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イスラム教徒問題は敬遠? 少数民族問題には意欲
労働・移民相と宗教・文化相をUSPDに割り振った思惑が、上記のように、少数派イスラム教徒(ロヒンギャ)問題という「難問」から“一歩距離を置きたい”ということであれば、敢えて火中の栗は拾わないという現実的と言えば現実的ではありますが、やや残念な感もあります。

この「難問」を前進させられるのはスー・チー氏しかいないのですが・・・・・まあ、真意はわかりませんが。

もうひとつの課題、少数民族問題については、スー・チー氏は1月の独立記念日に「新政権の最優先の責務は和平の実現だ」と明言し、イニシャティブをとる意欲を見せています。

ただ、単に政府と少数民族の対立というだけでなく、少数民間での対立などもあって、事態は複雑です。
また、少数民族と和平には国軍の協力が不可欠です。

****少数民族、絶えぬ衝突 武装組織の戦闘、避難民生む****
仏像が並ぶお堂で、生徒ら約50人が英語の授業を受けている。ミャンマー北東部シャン州チャウメー。町を一望できる丘の上の僧院で、戦火の村を逃れてきた少数民族のシャンとパラウンの人たちが避難生活を送っていた。

2月7日、村にいたシャンの武装組織シャン州復興評議会(RCSS)の部隊に、パラウンのタアン民族解放軍(TNLA)が攻撃を仕掛けた。村はシャンが大半だが、パラウンの集落と隣接する。RCSSが昨年12月に部隊を村に駐屯させたことに、TNLAが反発したとみられている。(中略)

1948年に英国から独立以来、ミャンマーでは民族をめぐり内戦が続いてきたが、戦闘は自治拡大や権利擁護を訴える少数民族の武装組織と政府軍の間で主に起きてきた。RCSSとTNLAも対政府軍で共闘してきたが、昨年12月に初めて衝突。2月に戦火が広がり、5千人以上が避難した。

TNLAは「政府軍がRCSSを支援している」と主張する。TNLAは昨年2月、同じシャン州の少数民族コーカンの武装勢力に加勢して政府軍を攻撃した。このとき、少なくとも数百人の犠牲を出した政府軍は、TNLAに妥協しない姿勢を崩さない。(中略)

2011年に就任したテインセイン現大統領は、全少数民族との全国停戦をめざした。だが、シャン州では、RCSSは昨年10月に全国停戦協定の署名に応じ、合法組織と認められた一方、TNLAは排除された。全土で協定に加わったのは、政府が呼びかけた15組織のうち8組織にとどまった。

 ■和平、軍の協力不可欠
今月末に新政権を発足させる国民民主連盟(NLD)のアウンサンスーチー党首は1月の独立記念日に「新政権の最優先の責務は和平の実現だ」と明言。すべての武装組織を停戦協定に加える意向を示した。

ティンチョー次期大統領は、和平や辺境地域の開発を担う「民族省」の新設を決めた。スーチー氏は中央政府に権限が集まる現在の体制を改め、少数民族も求める「真の連邦制」を早期に実現したい考えも示す。

和平には、軍の協力が不可欠だ。だが、軍にTNLAのような敵対する組織との停戦交渉を認めさせることは、容易ではない。

軍は国会の4分の1の議席を持つなど政治介入の手段を持つが、続く紛争がそれを正当化している側面も否めない。ミンアウンフライン最高司令官は、恒久和平が実現するまでは軍の政治関与が必要との立場だ。

さらに、今回のような武装組織間の戦闘が問題を複雑にする。「シャン対パラウンという少数民族同士の対立に結びつきかねない」(シャン州のサイトゥンウィン州議会議員)からだ。

 ■国勢調査、今後火種に?
少数派をめぐっては、31年ぶりに行われた国勢調査の結果も、新政権下で対立の火種になる心配がある。

テインセイン政権は14年に調査を実施。人口がそれまでの推計より約1千万少ない約5100万人だったことは明らかにした。だが、民族と宗教に関するデータの公表は先送りにしたまま、政権を明け渡す。

今年1月、少数民族クキを自称する人たちがヤンゴンで記者会見し、公表を求めた。クキは政府が認める135の民族に含まれていない。指導者のネーコーラルさん(42)は「5万人はいると思う。政府に認めてもらうためにも正確な人口を知りたい」と訴える。

だが、政府の担当者は2月、地元メディアに「慎重に検討すべきだ。平和と安定に影響を及ぼしかねない」と説明。公表の時期を明確にしなかった。

ミャンマーでは12年以降、民族や宗教に絡む衝突が起き、多数派の仏教徒の間で反イスラム感情が高まる。急進的な仏教僧らのグループは「ミャンマーがイスラム化するおそれがある」と不安をあおる。

イスラム教徒は前回(83年)の国勢調査をもとに4%と推計されるが、「もっと多い可能性がある」(NGO「国際危機グループ」)。

結果次第では、人口の9割とされてきた仏教徒が危機感を強め、少数派を排除する動きに出かねない。新政権は難しい対応を迫られる。【3月24日 朝日】
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国軍は協調と牽制の両睨み
国軍の協力が不可欠ということですが、スー・チー新政権に対する国軍のミン・アウン・フライン総司令官の発言は、牽制と協調の両側面があります。
どちらを重視するかで報道見出しも変わってきます。現段階では両睨みで事態を静観するということでしょう。

****政治で指導的役割」=国軍総司令官が演説―ミャンマー****
ミャンマー国軍のミン・アウン・フライン総司令官は27日、首都ネピドーで開かれた国軍記念日の式典で演説し、「国軍は国政の指導的役割に参画しなければならない」と述べ、アウン・サン・スー・チー党首の国民民主連盟(NLD)主導の新政権発足後も、国軍が引き続き政治に関与する必要があると強調した。

総司令官はまた、「民主化における二つの主たる障害は、法の支配に従わないことと武力紛争だ。これらは混乱した民主主義につながりかねない」と語った。スー・チー氏の大統領就任を阻んでいる憲法条項の改正などをめぐってNLDをけん制する狙いがあるとみられる。

この日の式典にはスー・チー氏もティン・チョー次期大統領も出席しなかった。【3月27日 時事】 
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****ミャンマー国軍最高司令官、新政権と協調姿勢示す****
ミャンマーのミンアウンフライン国軍最高司令官は27日、首都ネピドーであった国軍記念日の式典で、「軍は国の平和と発展のために政府と協力しなければならない」と述べた。アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)による新政権とも協調する姿勢を示したとみられる。

ミンアウンフライン氏は、少数民族武装組織の活動などが「民主主義を混乱に陥れかねない」と指摘。「軍が国の治安を維持しなければならない」と述べ、その存在意義も強調した。

昨年の演説では「改革は急すぎると動揺を生む」などと、軍政下で制定された憲法の改正によるさらなる民主化を求めるスーチー氏らを牽制(けんせい)する発言が目立った。だが、今回は間近に迫った政権交代を意識した模様だ。【3月27日 朝日】
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人材の面での不安は?】
新政権は、これまで政務を担当した経験がない者が閣僚に起用されていますので、やや不安を残すところもあります。

****ミャンマー次期財務相、自身の「博士号」が偽物と判明****
ミャンマーの新内閣で財務相に指名されたチョー・ウィン氏(68)は23日、自らの「博士号」が偽物であり、インターネットユーザーらにパキスタンを拠点とした詐欺グループの被害者の一人であると指摘されたことを受け、「衝撃を受けている」と語った。

チョー・ウィン氏は、アウン・サン・スー・チー氏が党首を務める与党・国民民主連盟(NLD)の内閣の閣僚として22日に指名された18人のうちの1人で、NLDから選ばれた6人の閣僚のうちの1人。同内閣は今月末に発足する。
 
閣僚の正式発表は今週後半になる見通しだが、地元メディアは流出した閣僚名簿を大々的に報じており、キャリア官僚でNLDの経済委員会の顧問を務めるチョー・ウィン氏の財務相指名が明らかになった。指名直後にNLDが公表したチョー・ウィン氏の履歴書によると、同氏は米国にあるとされた「ブルックリン・パーク大学(Brooklyn Park University)」で博士号を取得したことになっている。
 
だが、このブルックリンパーク大学は、パキスタンを拠点とする詐欺グループがつくった大量の偽のオンライン組織のうちの1つだった。この事実にソーシャルメディアのユーザーがすぐに気付き、指摘した。
 
チョー・ウィン氏はAFPの取材に「私は、年を取ってからこの偽のオンライン大学で勉強したことを率直に認める」と語った一方、財務相職を辞退する考えはないと述べた。
 
博士号が偽造だったことに気付いたのは、22日の指名後にフェイスブック(Facebook)上でこの話題が広まった後だったという。「本当につらい」と今の気持ちを語った。【3月23日 AFP】
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最終的にウィン氏がどうなったのかは知りません。

スー・チー氏に求められる透明性
今後「大統領よりも上に立つ」存在として政権を牽引するスー・チー氏ですが、そういう公式な立場を超えた権力を行使するだけに「透明性」が問題となります。

****<ミャンマー>スーチー氏、メディアと摩擦 短い声明を時々****
 ◇会見にも取材にも応じず
ミャンマーで与党・国民民主連盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏(70)が昨年11月の総選挙以降、「メディア規制」を強めている。短い声明を時々出すだけで、会見にも取材にも応じない。

「政権移行の微妙な時期だ」(党幹部)と釈明するが「透明性」の重要さを訴えてきたスーチー氏の姿勢に、メディアは困惑しつつも「(4月に)新政権が発足すれば変わるのか」と注視する。

「政権や政策になぜ透明性が重要か。透明性が高まれば何が正しく、何が間違っているかが分かるからです」。地元紙ミャンマー・タイムズは今年1月、スーチー氏のそんな発言を引き合いに、メディアへの「口を閉ざして距離を置く政策」を批判した。

この政策はスーチー氏の側近ティンチョー氏が15日に新大統領に選出されても変わらない。なぜ彼なのか、スーチー氏はNLD国会議員に「忠誠心」などと理由を説明しても、国民やメディアには語らない。

スーチー氏が「情報の一元化」を目指していることは明らかだ。
スーチー氏は2月の国会開会を前に、NLD重鎮で報道官の一人だったニャンウィン氏がメディアに議長人事をリークしたことに激怒。NLDは声明で「情報漏えいは容赦しない」とし「スーチー氏だけが(政策や政権移行についてメディアに)語る権限がある」と表明した。

その後、スーチー氏は大統領選出プロセスが始まるのを前に年下の党幹部を自分以外の「唯一の報道官」に任命。なおも個別取材に応じる党重鎮たちの口封じを図った。

大統領選を巡っては臆測報道が続いた。ティンチョー氏当選後には、同名の別人の写真が報じられるなど誤報も相次いだ。当初伝えられた「スーチー氏の運転手」という経歴は「運転したことがある」に修正されたが、NLDの反発に一部メディアは「基本的な情報さえ公表しないからだ」と応酬する始末だ。(中略)

「重要なことは全て私が決める」と公言するスーチー氏。それは選挙で示された「国民の意思」だと言うが、メディアは「国民の代表」として情報の公開と透明性を迫る。両者のせめぎ合いが続く。【3月22日 毎日】
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重要なことが、彼女の胸のうちと、密室での国軍との協議で決まるとしたら、やはり「民主的」とは言い難いでしょう。
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パキスタン  テロに狙われる「ソフトターゲット」 掃討作戦への報復 不満の受け皿となる宗教

2016-03-28 22:48:54 | アフガン・パキスタン

(27日、パキスタン東部パンジャブ州ラホールで、爆発に巻き込まれ負傷した子どもを病院へ運ぶ女性(AFP=時事)【3月28日 メディカルjiji】)

過激派テロに苦しむイスラム教国
ベルギー・ブリュッセルでの同時多発テロが世界的な関心を集めていますが、イスラム過激派によるテロということで言えば、ブリュッセルと同規模、あるいはそれ以上のテロが不断に各地で起きています。「またか・・・」ということで、たいした話題にもなりませんが。

また、ブリュッセルのような事件が起きるとイスラム教徒が憎悪の標的ともなったりしますが、不断にテロの脅威にさらされているのは、そうしたイスラム教徒が暮らす国々です。

テロの背景は地域ごとに様々な事情がありますが、犠牲者の悲劇、遺族の悲しみはブリュッセルと同じです。

****サッカー場で男が自爆、95人死傷 ISが犯行声明 イラク****
イラクの首都バグダッドの南約40キロのイスカンダリーヤ近郊の村にあるサッカースタジアムで25日、地元チームの試合終了後に行われていた表彰式の最中に1人の男が自爆し、イスカンダリーヤ市長を含む少なくとも30人が死亡し、65人以上が負傷した。警察当局と医療関係者が明らかにした。

多数の死傷者が出た同事件についてイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」はソーシャルメディアを通じて犯行声明を出し、実行犯とみられる男の写真を投稿した。写真には、頭に黒いスカーフをかぶり、右手の人さし指を立てた10代に見える男が写っている。(後略)【3月26日 AFP】
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****イエメンで自爆攻撃3件、市民含む22人死亡 ISが犯行声明****
イエメン南部アデンの軍の検問所で25日、3度の自爆攻撃が起き、民間人10人を含む22人が死亡した。治安当局者が明らかにした。イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出した。

アデン西郊のシャアブ地区の検問所2か所で同時に2度の爆発が起き、その後、近くにあるサウジアラビア主導の連合軍の基地が銃撃を受けた。襲撃犯らは基地に向かって前進を試みたが、連合軍所属の攻撃ヘリコプターが周辺にいた襲撃犯らに向かって攻撃した。

当局関係者によれば、3発目の爆破装置は救急車に仕掛けられ、アデン中心部のマンスーラ付近の検問所で爆発したという。

IS系メディアのAmaqはネットで事件を報じ、「ISの戦闘員らが3つの殉教作戦とアデンの連合軍基地への攻撃を開始した」と述べた。(後略)【3月26日 AFP】
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公園でイースターを祝う子供たちが・・・・
こうしたテロが最も頻発している国のひとつがパキスタンです。
昨年は比較的落ち着いていたようですが、今年に入って再びテロが活発化しています。

*****パキスタン公園で自爆攻撃、65人死亡 復活祭祝う人々犠牲に****
パキスタン東部ラホールの公園で27日、自爆攻撃が起き、地元当局によると少なくとも65人が死亡、子ども50人以上を含む340人が負傷した。

公園は当時、キリスト教の祭日「イースター(Easter、復活祭)」を祝う信者らで混み合っていた。

事件が起きたのは市中心部近くにあるグルシャン・イ・イクバル公園。当局によると、ブランコなどがある子どもの遊び場の近くで自爆犯が金属の球を詰めた爆発物を爆発させた。

目撃者らによると、現場では子どもたちの叫び声が響き渡り、人々が負傷者を抱えて運び出したり、家族を必死で探したりする悪夢のような光景が繰り広げられた。

公園の向かいに住む男性は、爆発の衝撃で自宅の窓ガラスが吹き飛ばされたと語った。「10分後に外に出たら、家の壁には人間の肉片がついていた。人々は泣き叫び、救急車の音も聞こえた」。爆発前の公園はイースターを祝うキリスト教徒らでごった返しており、男性は自分の家族には公園に行かないよう伝えていたという。

死者数は今年起きた攻撃の中で最多となっており、その数はさらに増える恐れがあると当局はみている。犯行の主体は不明。

パキスタンでは2014年、北西部ペシャワルの学校がイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」に襲撃され、生徒を主とする150人以上が死亡する事件が起きており、子どもを標的とした攻撃は特別な意味合いを持っている。

TTPは警備などが手薄な「ソフトターゲット」に対する攻撃を続けており、今年1月にはペシャワル近郊のチャルサダで大学を襲撃し、21人を殺害した。この事件を受け、教師の銃所持を求める声や、子どもたちの身の安全を懸念する保護者らの懸念が高まっていた。【3月28日 AFP】
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地元テレビは、死者が少なくとも72人、負傷者が300人を超えたと伝えています。

これまでも少数派キリスト教徒(人口の約2%)の施設がテロの標的とされてきましたが、今回はイースターを祝う子供らが狙われました。

そうしたことで、被害者の大半はキリスト教徒の女性や子供とみられるとの報道もありますが、“ラホール警察幹部のハイデル・アシュラフ氏は28日、死者数が72人になったと発表するとともに、死者の大半はイスラム教徒だとして「キリスト教徒が特定の攻撃対象となったわけではない」「この公園は誰もが訪れる場所だ」と述べた。”【3月28日 AFP】とも。

爆発は宗教・人種を選びません。間違いないのは犠牲者の多くが女性や子供だったことでしょう。

掃討強化と報復テロ
国内最大のイスラム武装組織「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の分派組織「ジャマート・ウル・アハラル」が「われわれは(ラホールのある)パンジャブ州に到着した。われわれを止めることはできない。自爆テロを続ける」と犯行声明を出しています。

東部パンジャブ州・ラホールはシャリフ首相の出身地であり、2014年、北西部ペシャワルの学校がTTPに襲撃され、生徒を主とする150人以上が死亡する事件が起きたことを契機に、国軍の過激派掃討作戦に同調する姿勢に転じたシャリフ首相への挑戦とも見られています。

シャリフ首相は27日夜、治安維持を担う関係閣僚を集めた緊急の会議を招集、国軍とともにイスラム過激派掃討を今後更に強化するものと思われます。

****テロ掃討、東部にも拡大へ=公園での自爆事件受け―パキスタン*****
パキスタン軍は28日、東部パンジャブ州の州都ラホールの公園で起きた自爆テロ事件を受け、同州でテロ組織壊滅に向けた軍事作戦を開始する方針を固めた。武装組織やその拠点、協力者を一掃するのが狙いという。

軍は事件直後から武装勢力の拠点とみられる数カ所を捜索し、大量の銃や弾薬などを押収。また、公園の爆発現場に残されていた身分証から自爆テロ犯とみられる男(28)を特定し、その親族数人の身柄を拘束した。【3月28日 時事】
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個人的な話で言えば、ラホールやラワルピンディなどを2014年4月に観光で旅行したことがありますが、街中の金融機関やホテルなどは自動小銃を構えた兵士(警備員?)が警戒にあたっていました。

大きなホテルは高い壁をめぐらし、敷地内に監視塔があるなど、要塞のようでもありました。

しかし、今回のような公園とか人混みの市場や繁華街など、いわゆる「ソフトターゲット」を狙われると、これを阻止するのは難しいものがあります。
なお、「ソフトターゲット」が狙われる背景として、「軍の対テロ作戦で武装組織は軍施設などを攻撃する能力がなくなっている」といった指摘もあるようです。【3月28日 毎日より】

また、国軍が掃討作戦を強めれば、少なくとも一時的には報復テロも増加します。

そうした事情で、今後しばらくは、イスラム過激派が拠点とする北西部だけでなく、東部ラホールなどパキスタン全土がテロの脅威にさらされることになります。

宗教的な方向に向かう人々の不満
パキスタンでイスラム過激派の活動が止まないのは、過激派が決して一部のグループに留まらず、その土壌となるイスラム原理主義が国民の多くに支持されていることにあるように思われます。

****パキスタン首都で数万人暴徒化 イスラム法の厳格化要求*****
パキスタンの首都イスラマバードで27日夜、イスラム法の厳格な施行を求める数万人の群衆が議会前を占拠し、一部が暴徒化。警官隊に投石し、近くの駅や建物を壊したほか、駐車中の車にも放火した。

地元テレビによると、警察と群衆の計約70人以上が負傷した。シャリフ政権の要請で軍部隊が展開した。

パキスタン司法当局は今年2月、イスラム教に対する冒瀆(ぼうとく)罪が「厳しすぎる」と批判していた州知事を射殺した護衛の男の死刑を執行した。

27日は男を英雄視する宗教関係者らが追悼行事を開き、そのまま首都中枢部になだれ込んだ。28日朝になっても、イスラム法による支配のほか、冒瀆罪で死刑判決を受けた他の死刑囚の刑執行を要求し、座り込みを続けている。

群衆は、政府の要請で追悼行事を一切報じない報道機関も問題視。南部カラチでも地元記者協会の建物に群衆が乱入し、テレビ局の車やカメラを壊した。【3月28日 朝日】
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人々がこうした宗教的な方向に走るのは、宗教的に敬虔であるというよりは、経済的な発展からも取り残され、一部の特権階層の腐敗・汚職を目にする多くの人々が、貧困・格差に対する不満のはけ口、批判の具体的方策として宗教的なものに傾斜する・・・といった事情があるのではないでしょうか。

そうした社会・政治への不満で増幅された原理主義的土壌がテロに走る過激派を生み出し続けるとすれば、パキスタンが「テロ地獄」から抜け出すのはなかなか困難にも思えます。

まずは、隣国アフガニスタンの内戦を安定化させ、両国の間で共振する過激派の活動を封じ込めること、また、国内貧困層の生活を改善・安定化させる長期的な取り組みなどが必要でしょう。
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欧州難民問題  「トルコ-ギリシャ」ルートの流れは取りあえずは止まったものの・・・

2016-03-27 21:45:53 | 難民・移民

(ギリシャのイドメニ難民キャンプ 夫と4人の子供と一緒に難民キャンプで暮らす女性は「シリアにいたら死ぬのはあっという間。でもここではじわじわと死んで行く」と。キャンプ近くにある柱に「悲しい。疲れたよ」と落書きして去る子供も 【3月23日 The Huffington Post  http://www.huffingtonpost.jp/2016/03/22/inside-the-horrid-camp-on-greeces-border_n_9527866.html】 )

難民らが消えたトルコ沿岸
EUとトルコは密航してきた難民・移民を全員トルコへ送還すること、シリア難民については送還者と同数を同国内の難民キャンプなどから受け入れることで合意し、3月20日午前0時から発効しています。

この合意によって、トルコからギリシャへの難民らの流れは、現時点ではほぼ完全に止まったようです。

****トルコ経由難民流出の停止****
トルコを経由してギリシャに向かうシリア等からの難民の流出を止めるためのトルコとEUとの合意が19日から実施に移されたようですが、トルコ紙ネットのhurryiet net は、現地特派員の報告として、その結果は劇的で、これまでギリシャにわたる難民であふれていた、ギリシャのレスボス島の対岸等のトルコのリゾートからは、シリア難民等の姿が忽然と消えたと報じています。

それによると、レスボスの対岸のKucukkuyuからChios島の対岸のChiosにかけて、シリア、イラク難民が突然消えてしまい、それまでは難民と密輸人が値段の交渉をしていた、海岸のカフェも人影が消えたとのことです。

トルコの海岸からギリシャの島までの密輸題は、1200ドルが相場だったとのことですが、トルコとEUとの合意後は、それだけの金を払い、危険を冒して、ギリシャにたどり着いても、そのままトルコに送り返されるということで、このルートをとるものがいなくなった由。

因みに、ギリシャ当局によれば、19日には1498名がギリシャにたどり着いたが、22日には600名となり、24日にはゼロとなった由。

しかし、密輸に携わっていたものは、トルコーEU合意は、密輸の商売に悪影響を与えているが、商売が縮小しても、完全に止まることはないと主張している由。(後略)【3月26日 野口雅昭氏 中東の窓 http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/5027405.html 】
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20日までの“駆け込み”が懸念されていたトルコ側については、以下のようにも。

****移民が消えた、ギリシャ密航拠点のトルコ沿岸*****
・・・・沿岸警備隊のレーダーによれば、ディキリからは18日に約500人のシリア人らが出航した。だが、それから24時間というもの移民は1人も現れていない。近くの未舗装道路には救命具やゴムボートを膨らませるポンプ、紙おむつ、子供用せき止め薬、靴片方、カエルのおもちゃなどが散乱し、移民たちが慌ただしく出航していった痕跡がうかがえた。

ディキリからやや南方、やはり密航船の主な出航地となっていたチェシュメ(Cesme)も、合意が発効する数時間前から静まりかえっていた。【3月21日 AFP】
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今後に残る問題 シリア難民受け入れ拒否の動きも
ただ、今回合意については、シリア難民まで含めて一律に強制送還することについて国際法違反の疑義があること、
難民らがより危険な「リビア―地中海―イタリア」ルートに押し寄せる懸念があることなどの問題をはらんでおり、今後も継続できるかは不透明なことは、3月16日ブログ“欧州難民問題 「バルカンルート」閉鎖の混乱 EU・トルコの合意をめぐる問題”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160316でも取り上げました。

問題のひとつには、中東欧諸国がシリア難民の受入に同意していないこともあります。
特に、先日のブリュッセルでのテロなどが起きると、イスラム系難民受け入れに対する抵抗がこれまで以上に強まります。すでにポーランド首相は「移民を受け入れることはできない」ことを表明しています。

****ベルギー連続テロ ポーランド首相「当面移民受け入れず****
ベルギーで起きた連続テロ事件を受けて、ポーランドのシドゥウォ首相は23日、地元テレビに対して「難民や移民の中にはテロリストもいる。当面、移民を受け入れることはできない。国民の安全が最優先だ」と述べ、中東などからの難民や移民の受け入れを拒否する考えを明らかにしました。

ポーランドの政権は、当初は難民の受け入れに否定的でしたが、EU=ヨーロッパ連合の方針に従って、一定数の難民については受け入れる姿勢を示していました。

シドゥウォ首相は、この一定数の難民の受け入れも拒む考えを明らかにしたもので、EU加盟国の首脳がベルギーで起きたテロ事件を受けて、受け入れを拒否する姿勢を示したのは初めてとみられます。【3月24日 NHK】
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また、欧州における「反移民」の流れは加速しそうな状況です。

****スロバキア、民族主義政党と連立合意 「反移民」掲げる****
東欧の欧州連合(EU)加盟国スロバキアで、フィツォ首相の中道左派「スメル」(道標)が22日、民族主義政党のスロバキア国民党など少数派3政党と連立政権を組むことで合意した。

スメルは、5日の総選挙で定員150の議会で49議席と過半数を失った。フィツォ政権はEUの難民受け入れに強く反対。

スメルは、国内には難民がほとんど来ていないにもかかわらず、「反移民」を掲げて「スロバキアを守る」をスローガンに選挙戦を戦った。

だが、ほかにも難民受け入れに反対する政党が多く、票が拡散。極右政党も初めて議会入りし、14議席を獲得した。【3月24日 朝日】
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ギリシャ 環境悪化で、マケドニア国境の難民を他施設へ移送 現場は混乱も
更に、すでにギリシャなどへ渡ってきている難民らをどうするのか・・・という問題もあります。

バルカン半島の国々は難民たちの通過を制限しており、ヨーロッパへの玄関口になっているギリシャでは、島々を含めておよそ4万5000人の難民たちが足止めされた状態で、特に、マケドニアが南側の国境を封鎖したことからギリシャの国境付近では、およそ1万2000人が足止めされています。

これらの足止めされている難民らの居住環境は極めて劣悪な状態に置かれています。

****難民滞留のギリシヤ国境で最悪の感染症が****
マケドニア国境を閉鎖され、行き場を失った難民が足止めされるギリシャ北部のイドメニ。
当局はついに、彼らを国内のほかの収容施設に移動させる対策に動きだした。難民キャンプでA型肝炎が発生したためだ。

イドメニには、欧州の国々へ向かおうとする難民1万2000人近くがテント村で待機している。だが経由地となる西バルカン半島の国々は国境を閉鎖している。

そのためテント村は過密化し、環境は急激に悪化。食料や水は不足し、頻繁に雨が降るなか大勢が外で寝起きする。
衛生状態の悪化で感染症も広がっている。

当局によれば、先週9歳のシリア人少女ら2人がA型肝炎と診断されたという。
A型肝炎は、性行為や汚染された飲食物の摂取によるウイルス感染で起こる肝臓疾患。劇症化すると死に至る可能性もある。

地元当局はこれまでも、衛生知識の啓発やトイレの殺菌、飲料水の提供など対策を続けてきた。だが深刻な感染症の発生を受け、ついに当局は難民にチラシを配り、ギリシャ各地の施設に移動するよう呼び掛けだした。

「イドメニのキャンプは解体したい。各地に収容施設があるのに、なぜ泥の中で寝る必要があるのか」と、政府当局者は話す。

先週末にはEU首脳会議で、ギリシャに密入国した移民すべてをトルコに送還する案が合意された。不衛生なテント村で待つ難民の行き場はますます失われつつある。【3月29日号 Newsweek日本版】
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しかし、収容所に送られれるのでは・・・との難民らの不信感が強く、現場は混乱しています。

****政府への不信感で移動拒む、ギリシャ難民キャンプ****
ギリシャ北部イドメニ付近の対マケドニア国境にある難民キャンプでは、劣悪な環境下にある移民や難民に対し、ギリシャ当局が新たな滞在場所への移動を提案をしている。

一部の難民はこの提案を受け入れ、バスで出発した。行き先は収容所ではなく環境もよいとして、政府は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)から確約を得ているが、政府に不信感を抱きキャンプにとどまっている人々もいる。25日撮影。【3月26日 AFP】
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ギリシャ当局は「週明けから引受先を倍増させる」と作業を強化する方針とのことです。

なかなか出口が見えない欧州難民問題です。
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ラオスでの中国人襲撃事件 経済進出著しい中国への不満が背景に?

2016-03-26 21:09:13 | 東南アジア

(中国銀行も入る大型ショッピングモール「ビエンチャンセンター」【2015年9月26日 東スポ】)

各地で問題を惹起する中国の経済進出の在り様
ラオスで中国人が襲われたという事件が報じられています。

****中国人狙った可能性、国際長距離バスに銃撃で死傷者 背景にはラオス人強制労働事件も****
中国・新華社によると、同国雲南省を出発し、ラオスの首都、ビエンチャン市に向けて運行していた国際長距離バスが23日夜、ラオス領内で銃撃され、死傷者が出た。中国人は6人が負傷したという。

ラオスでは1月に中国人が襲撃され2人が死亡、1人が負傷した。2月には武装した中国人がバナナ農園でラオス人を強制労働させていた事件が発覚した。

バスが襲撃されたのはビエンチャン県内。同県は、ビエンチャン市があるビエンチャン都の隣の行政区画。タイとも国境を接している。新華社は、中国の駐ラオス大使館も襲撃は事実として、乗っていた中国人6人が負傷し、うち2人は重体と伝えた。

銃撃により死者も出たとされるが、今のところ中国人の死亡は伝えられていない。

ラオスでは1月24日、自動車に乗っていた中国人が襲撃され、爆弾の爆発で2人が死亡、1人が負傷した。中国国際放送は襲撃したのは「正体不明の暴力組織」と伝えた。

2月13日には、ラオス北部のバナナ農園で、中国人がライフルなどで武装し、ラオス人を不当に安い賃金で強制的に労働させていたと報じられた。ラオスでは外国人の武器所持が認められていない。同農園は、農薬で周囲の土壌を汚染しているとも伝えられた。

ラオスは内陸国で、中国と国境を接している。人口は約690万人で、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で、シンガポールとブルネイを除き、人口が最も少ない。現在も社会主義体制で、1979年に中国と国交を断絶したが、89年に回復。最近では経済面で中国の進出が著しい。【3月24日 Searchina】
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ラオスは東南アジア諸国のなかにあっても一番情報が少ない国ですが、近年は中国の経済進出が進んでおり、そうした中国との関係強化を背景にASEANなどの会議においても、南シナ海問題などで批判の矢面に立たされがちな中国の利益を代弁するような言動も指摘されています。

****ラオスと中国は関係を強化****
ラオスへのODA(政府開発援助)は、日本が長年トップの座を維持しているが、近年は中国政府がラオスとの関係を強化し様々なODAを実施している事からも、中国は日本のトップの座を脅かす状況となっている。

ラオス政府は、このラオス・中国の友好関係を更に強化し、今後も更なるODAを受け取る方針であることを発表した。

このラオス政府の発表によると、6月末に中国の外務副大臣がラオスのビエンチャンに訪問しており、その際にラオス政府高官と実施した会談において、両国関係の更なる強化および中国から各種支援が行われる事が決定した。

中国の外務副大臣からは、両国の関係は包括的戦略パートナーシップであり、中国はラオスの発展および人々の生活改善のために様々な支援を継続して実施する方針であることが伝えられた。

ラオス政府からは、今までの支援に感謝の意を伝え、今までの伝統的に築かれた友好関係に感謝するとともに、両国関係を強化するために様々な施策を実施する方針であることを伝えた。

また、ラオスと中国は来年に外交関係樹立55周年を迎えるため、これを祝うために様々な式典などを実施することを約束した。今後も両国の首脳は相互に訪問し合い、更なる友好関係を築く事に同意した。【2015年7月1日 ASEAN PORTAL】
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****中国とラオスが鉄道建設で調印、「中国からシンガポールまで結ぶ鉄道の一部になる」=中国メディア****
中国メディアの中国経済導報は14日、中国とラオスが13日に両国を結ぶ鉄道の建設で正式に調印したことを伝え、「中国が主に投資、建設、営業を行い、中国国内の鉄道網と直接連結する」と伝え、全線にわたって中国の技術および設備が用いられると紹介した。

さらに、総工費は約400億元(約7721億円)に達し、中国側が大部分を負担することを紹介。また、中国とラオスの両国の企業が出資して共同事業体を設立することになると伝えたうえで、鉄道の総延長は418キロメートル、最高速度は時速160キロだと紹介している。

中国とラオスが鉄道建設で正式に調印したことで、両国は鉄道で結ばれることになるが、中国はラオスだけでなくタイやマレーシアなどを相互に連結させることを視野に入れ、鉄道インフラ建設を目論んでいる。

鉄道インフラは閉鎖的であるよりも、各国間で相互に乗り入れができるほうが旅客にとっても物流面においても利便性が高いのは言うまでもない。中国は自国の鉄道技術で各国の鉄道インフラを整備することで商業的な利益だけでなく、地域における影響力を拡大させたい考えだ。

中国メディアの参考消息は、中国とラオスの鉄道計画について、「中国雲南省昆明からラオス、タイ、マレーシア、そしてシンガポールまでを結ぶ全長3000キロメートルにわたる鉄道計画の一部になる」と期待を示している。【2015年11月20日 Searchina】
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そうした中国の経済進出、関係強化の一方で、ラオス国内では、必ずしも中国の進出がラオス住民の利益となっていないとの指摘や、中国が乱開発を起こしているなどと訴える声も増えています。

****中国資本に食い散らかされラオスが空洞化****
ラオスの首都ビエンチャンは今、猛烈な勢いで「中国化」が進んでいる。あちこち建設ラッシュだが、その現場のほとんどには中国語の看板が。中国企業が開発を進めているのだが、ラオスにとって利益は少ない。現地駐在員が明かす。

「下働きの作業員まで中国から連れてくるから、ラオスに金は落ちない。彼らの宿舎も中国企業がつくり、食事も中国人経営の中華料理店。そうして建設された高級マンションも中国人が買っていく。それも住むのではなく投資目的。だからビエンチャンには今、人のいないがらんどうの高級物件が増えていて不気味。こうして不動産市場に中国マネーが流れ込み、実体経済とは不釣り合いなくらい地価が上がってる。バブルだよ」

ラオスを舞台に中国人同士で金を回し合うシステムができてしまっているわけだ。そのきっかけは、2009年にビエンチャンで開催されたSEAゲーム(東南アジア競技大会)だといわれる。ラオスに詳しいジャーナリストはこう解説する。

「国力に乏しいラオスは、国際大会の開催が決まっても、スタジアム建設がなかなかはかどらなかった。そこに助け舟を出したのが中国で、巨大なスタジアムと体育館を無償で建設した。3年前にもビエンチャンでASEM(アジア欧州会議)が開かれたが、この時も中国は各国首脳が泊まる迎賓館、コンベンションセンターを無償で建設。その見返りとして中国が、首都中心部の開発権を得たといわれている」

今年に入ると、大型ショッピングモール「ビエンチャンセンター」がオープン。これも中国資本だ。高級ブランド店が軒を連ねるさまは壮観だが、客はかなり少ない。伝統的な市場で買い物をする人が多いラオスでは、高級モールはまだ需要が少ないからだ。

「値段が高すぎる。ラオスも経済成長はしているが、高級ブランド品に手が届く層はほとんどいない。誰のためのショッピングセンターなのか疑問」(前出ジャーナリスト)。大型施設をつくるだけつくって利益を得たら、あとは放置――。まるで日本のバブル時代のハコモノ行政のようなことが、ラオスで行われている。ビエンチャンだけでなく、中国・雲南省と国境を接する北部でも盛んだ。

「国境地帯に、カジノが売りのテーマパークをつくったこともある。中国国内では賭博が禁止されてるため大人気となり、中国人が殺到。それを見て売春と薬物を扱うマフィアも流入し、治安が一気に悪化した。ラオス政府もさすがにカジノの閉鎖を要請。街はゴーストタウンとなり、今でもカジノやホテルの廃虚が立ち並んでいる」と同ジャーナリスト。

インフラ整備やダム建設も、多くの案件で中国が関わっているが、果たしてどれだけ地元民のためになるのか。同じ構図はアフリカ諸国でも見受けられる。【2015年9月26日 東スポ】
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2010年タイ北部を旅行した際に、タイ・ミャンマー・ラオスが接する、いわゆる「ゴールデン・トライアングル」
を訪れ、ライス領内にある派手なカジノを眺めたこともありますが、あのカジノは今どうなっているのでしょうか?

中国の経済進出があまり地元に利益をもたらしていないこと、賄賂などの様々な悪弊を持ち込んでいること、環境破壊が進んでいることなどはラオスだけでなく、やはり中国の経済進出が著しいミャンマーなどでも報じられています。

中国のアジア諸国との関係に対する姿勢に根源的な問題がありそうです。
今回ラオスでの襲撃事件の詳細はわかりませんが、そうした中国の姿勢が惹起した事件のようにも思えます。

ラオス人民革命党書記長交代で変化は?】
ラオスの国内政治については、3月20日に総選挙が行われていますが、ラオスはラオス人民革命党による一党独裁体制ですから、選挙で体制が変わる云々の話はありません。

****ラオスで総選挙=来月にも新政権****
ラオス人民革命党による一党独裁体制が続くラオスで20日、5年に1度の国民議会(国会、一院制)選挙が実施された。選挙を受けて4月下旬にも招集される新国会で、ブンニャン国家副主席の国家主席就任が承認され、新政権が発足する見通しだ。

国営メディアによると、国民議会選には定数149に211人が立候補した。候補者のほとんどが人民革命党員。

同党は1月の党大会で、チュンマリ党書記長兼国家主席に代わる党書記長にブンニャン氏を選出した。新国会でブンニャン氏の国家主席就任のほか、トンルン副首相兼外相の首相昇格が承認されるとの見方が強い。新政権も従来の経済改革路線を踏襲する見込み。【3月20日 時事】
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一党独裁体制ということで、“新政権も従来の経済改革路線を踏襲する見込み”ということにもなりますが、チュンマリ前党書記長兼国家主席とブンニャン新党書記長については、親中派のチュンマリ氏、親ベトナム派のブンニャン氏という若干の色合いの違いも指摘されています。【2月27日 産経より】

ベトナムが南沙諸島・西沙諸島問題で中国と利害対立を抱えていることは、3月3日ブログ“ベトナム 南シナ海での中国の強硬姿勢に「中国との微妙な関係への配慮」も変化が”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160303でも取り上げたところですが、ラオス新指導部の色合いの違いがどの程度の意味を持つものなのかはよくわかりません。
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シリア問題  米ロ協調で進められる和平協議 ただし、アサド大統領処遇は未だ手つかず

2016-03-25 22:16:27 | 中東情勢

【3月25日 AFP】

シリア問題で米ロ協調路線
最初に他愛もない話から。

****プーチン大統領、ケリー米国務長官のかばんの中身に興味津々****
ウラジーミル・プーチン露大統領は24日、モスクワの大統領府でジョン・ケリー米国務長官とシリア問題について会談した際、ケリー長官の書類かばんに並々ならぬ関心を示した。

ケリー長官にとって今回の会談の狙いは、シリアのバッシャール・アサド大統領の処遇をめぐりプーチン大統領を説得することだった。

そんなケリー長官に対しプーチン大統領は、「飛行機から降りてきたあなたが荷物を自分で持っていらっしゃるのを見て、ちょっと驚きましたね」と切り出し、含み笑いとともに「国務長官には、かばん持ちはいらっしゃらないのかな」と続けた。

さらに「米経済は絶好調なのだから、スタッフを大勢解雇したというわけでもないだろう。ならば、あの書類かばんの中には何か、他人に任せられない大切なものが入っているんじゃないかと思い至りました」とプーチン大統領。「きっと、現金に違いない。われわれとの大事な交渉を有利に運ぶために持参したんでしょう」と冗談を飛ばし、テーブル越しにケリー長官にほほ笑んだ。

すると、ケリー長官は次のように応じた。「2人きりになったら、かばんの中身をお見せしましょう。たぶん、びっくりして、愉快な気分になりますよ」

会談後の記者会見でもケリー長官は、かばんの中身について露国営テレビの記者から質問された。だが、一般には公開しない方針だと釘を刺し、「プーチン大統領とわたしだけの秘密なんでね」とかわした。【3月25日 AFP】
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単なる「かばん」の話でしょうか?それとも、「かばん」の中のアメリカの最終案・本音を示唆した話でしょうか?

いずれにしても他愛もない話ではありますが、シリア問題における最近の米ロ両国の協調的な雰囲気を窺わせるような話にも思えます。ピリピリした雰囲気であれば、こんな話も出てこないでしょう。

更に米ロ両首脳は、お互いに褒めあっているとか。もちろん、相手をできるだけ自分の方に手繰り寄せようという思惑もあってのことでしょうが。

****シリア停戦互いに評価 プーチン大統領・米国務長官会談****
モスクワを訪問中のケリー米国務長官は24日、ロシアのプーチン大統領と会談した。シリアからのロシア軍の主力部隊の撤収について、ケリー氏は「重大な決定をした」と評価。米ロが協力してシリア内戦の和平協議を加速させる考えを示した。プーチン氏も「互いの立場が近づくことを期待している」と応えた。

ケリー氏は、米ロの呼びかけで実現したシリア内戦の停戦について、「多くの人が不可能と考えていた停戦が実現した」と両国の協力の成果を強調。

プーチン氏も「成功したのはオバマ米大統領のおかげだ」と米側を持ち上げ、「共通点を見つけ、国際問題を前進させたい」と述べた。

ケリー氏は会談後の記者会見で、「8月までにシリアの政権移行の土台と、新憲法の草案をつくることで合意した」と話した。

内戦が続くシリアでは、米ロの呼びかけで2月27日に停戦が発効。内戦終結を目指す和平協議が今月、ジュネーブで再開された。だがアサド大統領の退陣を求める反体制派と政権側の溝は深く、米ロは協力して協議の進展を目指す考えとみられる。【3月25日 朝日】
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ロシアの民間人犠牲を厭わない容赦ない空爆の結果でもありますが、政府軍有利に戦局が動き、その後の突然のロシア軍撤退発表もあって、まがりなりにも戦闘状況が制限的になっていること自体は大い評価すべきことでしょう。

ロシア・プーチン大統領は、いつまでもシリアに深入りすることは避けたい思いがあります。財政的にも、軍事的にもシリアでの作戦継続はロシアにとって大きな負担です。

アメリカ・オバマ大統領も、イラク・アフガニスタンからの撤退をレガシーとするうえで、その結果ISが台頭してシリアが内戦状態となっているというのは困りますので、なんとか鎮静化へ向けた道筋をつけたいところです。

米ロ両国は、この機をとらえて和平の枠組みを構築するところまで持っていきたいところで、そのためには両国の協調が不可欠であるという認識があって、上記のような協調的な雰囲気になっています。

****シリア情勢】米政府がロシアと協調優先 少数派保護へアサド退陣は棚上げ****
ケリー米国務長官は24日、ロシアのラブロフ外相との会談で米露関係の改善に期待を示した。

「人権外交」を展開してきたオバマ米政権にとり、自国民に「たる爆弾」などの残虐な攻撃を繰り返すシリアのアサド大統領の退陣は不可欠だが、アサド政権の後ろ盾のロシアが主導しなければ外交解決は困難。同国との協力のため退陣要求を一時、棚上げにしている。

ケリー氏は会談後のラブロフ氏との共同記者会見で「アサド氏に正しい決断をさせるため、ロシアは何を選択するかを明確にしなければならない」と述べた。

また、ケリー氏は「(国民の)全体が参加し、宗派性がなくマイノリティー(少数派)が保護されるシリアにし、国民が平和と安定の下で暮らせる」ようにすることでラブロフ氏と合意したと説明した。

8月までの樹立で合意した移行政権からアサド氏を排除することが念頭にあるとみられる。しかし、ラブロフ氏は記者会見で政権の移行を目指すことは明確にしたものの、アサド政権に具体的に何を働きかけるかを明確にしなかった。

オバマ氏は来年1月の退任をにらみ、イラン核合意、キューバ国交回復などに取り組んでいるが、「最優先課題」であるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討の成否は自ら下した米軍のイラク撤退の判断にかかわる。シリア国民の人権保護にはウクライナで人権抑圧を行ったロシアとも協力せざるを得ないのが実情だ。【3月25日 産経】
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アサド大統領処遇をめぐる綱引き
和平協議の方は、もとよりそう簡単な話ではありませんので、8月までの移行政権樹立で合意はしたものの、肝心のアサド大統領の処遇をめぐる問題は4月中旬に再開される予定の協議へ先送りされています。

****<シリア>新統治機構合意も・・・・和平進展は厳しく****
米国のケリー国務長官は24日、内戦が続くシリアで今年8月までに新統治機構の発足と新憲法草案の策定を目指すことでロシア側と合意したことを明らかにした。

アサド政権と反体制派の和平協議がこう着する中、大国主導で和平を推進したい思惑があるとみられるが、最大の焦点であるアサド大統領の処遇を巡る対立が足かせとなっており、目標の実現は困難な状況だ。

ケリー氏は24日、訪問先のモスクワで、ロシアのプーチン大統領やラブロフ外相と会談した。会談後、ケリー氏はラブロフ氏との共同記者会見で、和平進展を急ぐ考えを強調。政治プロセスの第1段階となる新統治機構の発足時期について「8月」という目標を初めて明示した。

米国とロシアは、過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダを共通の脅威とみなしており、政権と反体制派を和解させ、連携してISやアルカイダに対抗させたい思惑では一致している。

ただ、新統治機構の具体案を巡って、当事者であるアサド政権と反体制派の立場は大きく異なる。反体制派は新統治機構発足時点でアサド氏が退任するよう要求しているが、政権側はアサド氏の処遇を議論することを拒絶している。

反体制派が新統治機構をアサド政権に代わる最高意思決定機関と位置付けているのに対して、政権側は現体制に一部の反体制派を取り込んだ形を志向している模様だ。

今月14〜24日に開かれた和平協議では、仲介役の国連特使が双方の交渉団と個別に交渉していたが、最後まで直接協議は実現せず、新統治機構の構成など具体論にも入れなかった。

反体制派や米国には、ロシアに対して、アサド政権の譲歩を促す役割を期待する声もある。ロシアが14日にシリアからの空軍主要部隊の撤収を発表したのも、アサド政権への圧力の一環だとの見方があった。

ただ、ロシアは一部部隊をシリアに残すなど、表向きはアサド政権と連携する姿勢を変えていない。アサド政権は3月中旬以降、ISが支配する中部パルミラの奪還作戦を続けているが、この作戦にもロシア軍が関与している。軍事的に優位に立つアサド政権が、政治的に妥協する動機は乏しい。

ラブロフ外相は24日の会見で「反体制派が(和平協議に)前提条件を設けているせいで、ロシアと米国による和平イニシアチブが完全には実行されていない」と主張。和平が進展しない責任は反体制派にあるとの考えをにじませた。

政権と反体制派の和平協議は4月中旬にも再開される見通しだ。米露は、双方による囚人の釈放、人道支援拡充などで信頼醸成を進め、直接協議の実現を働きかける構えだ。【3月25日 毎日】
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簡単にまとまる話ではありませんから、先送り自体は悲観する話でもないでしょう。

ロシア軍撤退はロシア・プーチン大統領のアサド政権への圧力であるとの見方があるように、アメリカとしてはロシアのアサド政権への影響力に期待しているようです。

ロシア・プーチン大統領は、ロシアの影響力さえ保持できれば、アサド大統領自身の処遇にはこだわらない・・・との見方もありますが、アサド退陣をどういう形で和平協議の道筋に組み込むかはよくわかりません。

いきなり移行政権でのアサド退陣というのは、アサド大統領はもちろん、ロシアとしてもなかなか難しいのではないでしょうか。

3月15日ブログ「シリアからのロシア軍撤退発表 和平協議に向けてプーチン大統領のアサド大統領への強い圧力か?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160315でも触れた、昨年10月段階でのロシア案ともされる“新統治機構(移行政権)にはアサド氏は大統領として残るが、権限は大幅に制限する。大統領選挙にはアサド氏本人は出ない”といったあたりが、落としどころとして妥当なように個人的には思えるのですが。

軍事的にはIS退潮の流れ
戦局の方は、シリアではIS支配の象徴でもあり、また、戦略的にも重要な古代都市パルミラ奪還に向けて政府軍がロシア支援のもとで進んでいます。

また北部では、クルド人勢力のISへの攻勢も続いています。

イラクでは、シラク政府軍がモスル奪還に向けた作戦に入ったようです。

****シリア・イラク各政府軍、IS掌握都市の奪還へ前進****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が掌握しているシリア中部の古代都市パルミラに24日、シリアの親政府派部隊が進行した一方で、イラク軍は同国北部モスルへの攻撃を開始した。両都市はISが主要拠点としてきた都市で、ISに対する圧力が強まっている。

在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」によると、今月初めから砂漠地帯での作戦を開始していたシリアの親政府派部隊は、空からはロシア軍戦闘機、陸上では同盟関係にある民兵部隊の支援を受け、パルミラへ進行した。

露国防省は、露軍戦闘機が20~23日にかけてパルミラ周辺の「テロリスト関連の標的」に対し、計146回の空爆を実施し、320人の「テロリスト」を殺害、司令拠点6か所、弾薬庫2か所を破壊したと発表した。

一方、イラクでは同国内のISの主要拠点と化している第2の都市モスルに対し、攻撃を開始したことをイラク軍が発表。イラク軍はこれまでに、ISが掌握しているケイヤラと、米国の支援を受けるイラク部隊が集結しているマフムル間にある4つの村を奪還したとしている。【3月25日 AFP】
******************

“(シリア)政府軍は従来、対IS攻撃には消極的だったが、2月下旬に反体制派との一時停戦が発効したのを受けて、部隊をIS攻撃に振り向けている模様だ。”【3月25日 毎日】ということで、「停戦」の効果が一定に出ているとも言えます。

政権軍は「近日中にパルミラを解放できる」と述べたとのことですが、“近日中”がどの程度かはともかく、ここまでの流れを見ると、パルミラ奪還が視野に入ってきたと言えるでしょう。

イラク政府軍のモスル奪還は、これまでの流れからは逆に「どうだろうか・・・」という懸念もありますが、ISがシリアでの政府軍・クルド人勢力の攻勢で身動きがとれない状況となれば、一定に奏功することも期待はされます。

こうした軍事的な情勢からすると、IS退潮の流れが今後加速しそうにも思え、そのことは和平協議の進展を後押しすることも期待されます。

欧州ではテロの危険も
もっとも、仮にISがシリア・イラクでの支配領域を狭めたとしても、逆にベルギー同時テロのようなテロ活動が活発化する危険があります。

****ベルギー同時テロ】「テロは素早い、欧州は遅い」と伊内相 EUの対策はISに追いつけず 次の標的へ着々と****
ベルギー同時テロを受けて24日に開催された欧州連合(EU)の緊急内相・法相会合は、従来の対テロ措置の加速化を確認するにとどまり、EU諸国のテロ対策の遅れぶりを改めて露呈した。対するイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)は、欧州諸国を標的とする次なる攻撃に向け、テロ遂行能力を着々と強化している。

「ときに政治的意思や協力が欠如するが、最も重大なのは信頼の欠如だ」
EUのアブラモプロス欧州委員(内務・移民担当)は緊急会合後の記者会見で強調した。委員の言葉には遅々として進まないテロ対応への不満がにじむ。

その最たる例が、テロ犯の動きを把握するため旅客機の搭乗者記録を収集する新制度。パリ同時多発テロ後も実現を急ぐことが確認されたが、市民のプライバシー侵害の懸念で欧州議会での採決が遅れている。

1月には加盟国の情報交換の強化のため欧州警察機関(ユーロポール)にテロ対策センターが創設されたが、加盟国は自国の情報が第三者に漏れるのを恐れ、情報共有は進んでいない。

EU諸国、特にベルギーの治安能力の低さに、域外国の治安当局は不満を募らせている。米政府は今回のテロの実行犯の兄弟を以前から監視対象とし、トルコも兄を昨年7月に自国からオランダに退去させてベルギーにも情報を提供した。しかし、ベルギー当局は一連の情報を全く活用できずテロ発生を許した。

一方、テロリストは力を増大。パリのテロに続き、今回も高性能爆薬「TATP」が使われたが、取り扱いの難しい爆薬をパリのような胴衣ではなく、カバンなどに大量に詰めて破壊力を増大させたことに専門家は注目する。テロ後、ベルギー国内の関係先への捜索ではTATP15キロ分に相当する原料が見つかった。

AP通信はイラクなどの治安当局者の話として、ISが欧州を標的に400〜600人の戦闘員を訓練中と伝えた。パリのテロの実行犯、サラ・アブデスラム容疑者が逃亡後にネットワークを築き、テロを準備したことを踏まえれば、同時テロで逃走中の容疑者が同様に動く恐れもある。

西洋文明を敵視するISが欧州を狙うのは米国に比べ警備が緩いためでもある。イタリアのアルファノ内相は「テロ(の動き)は素早い。だが欧州は遅い」と述べ、深い懸念を示した。【3月25日 産経】
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今後IS退潮がはっきりしてくれば、ISは矛先を欧州でのテロに向けることも考えられ、一時的にはその分、欧州はテロの脅威にさらされることも懸念されます。

ただ、テロ対策重視のあまり個人の権利が大きく制約されることになれば、結果的に欧州社会がテロに屈したことにもなり、難しいところです。パニックとならない対応が必要です。
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日本からアメリカへプルトニウム搬送 しかし、行き詰まる核燃料サイクルで残存する大量のプルトニウム

2016-03-24 21:26:53 | 原発

(完成が延期され続ける青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場【2015年11月16日 Global Energy Policy Research】)

プルトニウム受け入れ先の米南部サウスカロライナ州が輸送停止か行き先変更を要請
核兵器は保有していない日本ですが、その原料となるプルトニウムは大量(48トン)に保有しています。

プルトニウムは核兵器に転用しやすいことから、2014年の核セキュリティーサミットでの日米の合意に基づいて、核兵器にできないように処理するためにアメリカに向けて搬送されています。

ただし全部ではなく、ごく一部、331キロ(原爆40発分に相当するとも)ですが。

危険物の処理に適した広大な無人の荒野を有し、核大国でもある受け入れ先アメリカは、こうしたプルトニウムについてあまり抵抗はないのか・・・と思ったら、やはり事情は日本とあまり変わらないようです。

受入地元には、なんだかんだ言いつつ、一度受け入れるとそのまま最終処分場にされてしまうのでは・・・という懸念があるようです。

****<プルトニウム船>輸送停止か行き先変更を 米州知事****
日本から米国に返還される研究用プルトニウムを積んだ輸送船が茨城県東海村から出港したことに絡み、受け入れ先となる米南部サウスカロライナ州のニッキー・ヘイリー知事は23日、連邦政府に対し、同州がプルトニウムの最終処分場になることに懸念を表明し、輸送停止か行き先を変更するよう要請した。

核兵器保有国で広大な国土を持つ米国でさえ、核物質処分には困難を抱える実態が浮き彫りになった。

毎日新聞が州政府から入手した米エネルギー長官宛ての書簡によると、知事は日本から331キロのプルトニウムが同州に向け輸送中だと指摘し、「同州が核物質の恒久的な廃棄場になるリスクがある」と警戒感を表明。そうした事態は「市民や環境の安全のため、容認できない」とし、「輸送を停止、または行き先を変更」するよう求めた。

輸送中のプルトニウムは純度が極めて高く、核兵器への転用が可能。日米両政府は2014年、核拡散の脅威を減らすため返還で合意していた。

プルトニウムは同州にある米エネルギー省の「サバンナリバー核施設」に搬入され、希釈した後、処分されるとみられる。

オバマ米大統領は今月末からワシントンで開く核安全保障サミットで成果として訴える見通しだ。

ただ、同州はプルトニウムが同施設内に置き去りにされないかを懸念。同省には州外の別の施設に移して処分する計画もあるものの、安全性への配慮から実現できるかが疑問視されている。

サバンナリバー施設には、冷戦終結後の核軍縮で核ミサイルから取り出されたプルトニウムが運び込まれており、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料に加工する工場が建設中。

しかし、同省が費用高騰などを理由に建設中止を打ち出し、同施設がプルトニウムの最終処分場にされる恐れが強まったことにも、同州政府や住民らが反発している。

同州政府は今年2月に連邦政府を相手取り、建設継続と核物質の搬入停止を求める訴訟を起こすなど、連邦政府との対立が深まっている。【3月24日 毎日】
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余剰プルトニウムについて高まる国際的懸念
地元反対はあっても、すでに動き出している話ですし、政府間で合意した案件ですから、331キロが宙に浮くようなことはないでしょう。

問題は、日本に残っている大量のプルトニウムです。

****国内外に48トン 日本への国際的懸念なお****
近く米国へ返還 輸送専用船が東海村の港に
核兵器への転用が可能なプルトニウムが近く米国へ返還されることは、日本政府が使い道のない余剰プルトニウムの削減に向け、やっと一歩を踏み出したことを意味する。

しかし返還されるのは331キロ。国内外には約48トンのプルトニウムが残っており、「核武装」を懸念する国際的な批判は依然残りそうだ。

日本の核燃料サイクル政策は、原発から出た使用済み核燃料を再処理し、取り出したプルトニウムをウランと混ぜた混合酸化物(MOX)燃料を原発で使うプルサーマル計画によって、プルトニウムを消費する計画だった。

しかし、原発の再稼働は進んでいない。国内で現在稼働しているのは、プルサーマル発電ではない九州電力川内原発の2基だけ。プルサーマルの予定だった関西電力高浜3、4号機は、今月9日の大津地裁の運転差し止め命令を受けて停止した。同じくプルサーマルの四国電力伊方原発も、再稼働は今夏ごろになる見通しだ。

余剰プルトニウムについては国際的な批判が高まっている。トーマス・カントリーマン米国務次官補は17日の議会公聴会で「すべての国がプルトニウムの再処理から撤退すれば喜ばしいことだ」と指摘した。

オバマ政権内には、日本の核燃料サイクル政策が「核拡散への懸念を強める」として、反対する意見が根強く残る。【3月21日 毎日】
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プルトニウムを含めて、使用済み核燃料をどうするのか?・・・・日本が抱える大きな問題となっており、日本政府のやり方への批判が多々あります。

****田原総一朗:「使用済み核燃料」問題を議論しない原発再稼動は無責任だ****
使用済み核燃料の最終処分をどうするのか
使用済み核燃料とは、原発を燃やした後に残るウラン燃料のことで、プルトニウムを含む。使用済み核燃料は、すでに国内で1万7000トンまで溜まっている。これをどう処理するのか、全く見当がついていない。

小泉純一郎元首相は原発反対を主張していたが、その理由もここにある。彼は2013年8月にフィンランドのオルキルオト島にある使用済み核燃料の最終処分場「オンカロ」を視察した。

オンカロでは、地下400メートルに使用済み核燃料を長期保存する。ただ、これが無害化するのに10万年もの月日を要するという。だが、10万年という長い期間、地層が安定し続けるという保証はない。

そもそも日本には、オンカロのような最終処分場がないが、仮に長期保存できたとしても無害化には気の遠くなる年月が必要だ。小泉さんはこの話を聞いて、「原発は危険だ」と考え、原発反対を主張しだした。

国が打ち出している「核燃料サイクル」という政策に従えば、使用済み核燃料は青森県六ケ所村の核燃料再処理工場で再処理され、燃料として再利用できるはずだった。

だが、日本原燃は昨年11月、使用済み核燃料再処理工場の完成時期を2016年3月から18年度上期に延期することを決めた。これは22回目となる延期だ。ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料工場については、2017年10月予定を19年度上期に延期した。

相次ぐ延期で「核燃料サイクル」のメドが立っていないというのが実情だ。【3月3日 日経Biz COLLEGE】
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外交カードとしての「プルトニウム」 行き詰まる核燃料サイクル
問題が微妙なのは、日本の「核燃料サイクル」が行き詰っているという現実問題だけでなく、中国などが批判するように「日本は将来の核保有のために余剰プルトニウムを大量に保持している」ということも、あながち完全には否定しきれないものがある・・・という話が絡んでくるためです。

****日本が核武装? 世界が警戒するプルトニウム問題****
「日本が保有する核物質は核弾頭1000発以上に相当する。安全保障と兵器拡散の観点から深刻なリスクを生んでいる」
「日本の原発再稼働と使用済み核燃料再処理工場計画は、世界を安心させるのではなく事態を悪化させる行動だ」
「核兵器を保有すべきだと日本の一部の政治勢力が主張し、核兵器開発を要求している。世界は日本を注意すべきだ」

中国の傅聡軍縮大使は10月20日、国連総会第一委員会(軍縮)で演説し、日本の原子力政策を批判した。

中国の核弾頭の保有数は14年のストックホルム国際研究所の報告によれば、約250発と世界第4位(1位露8000発、2位米7300発、3位仏300発)。そしてアジアの安全保障に脅威を与えている。彼らが日本の原子力政策を批判する資格はない。

しかし言うことにも一理ある。日本の保有する核物質プルトニウムの先行きが、不透明になっている。日本は48トンのプルトニウム(所有名義は各原子力事業者)を保有。

プルトニウムは数キロで核弾頭が作れる。この消費のめどが立たず、世界の安全保障とエネルギーの一部専門家の間で懸念を持って注目されている。

世界は日本を「潜在的核保有国」とみる
そして2018年には、余剰プルトニウムを日本は持たないことを定めた日米原子力協定の期限が切れる。

米国は核兵器を拡散させないために、他国にプルトニウムを持たせない政策を行っている。しかし米国は、日本が同盟国であり高度な核技術を持つため、発電や研究に使うプルトニウムの使用を認めてきた。

ところが日本がプルトニウムを減らせない。米議会や安全保障の研究者の間には、それを懸念する声が出ている。

この協定は一般にそれほど知られていないが、日米の原子力での協力を約束した重要な外交上の取り決めだ。中国が日本のプルトニウムを公の場で責め立てることは、この協定の交渉に揺さぶりをかけ、日米同盟にくさびを打ち込もうとしているのだろう。外交巧者の中国政府は、日本の痛いところを突いてきた。

「日本が核武装する」。日本人の大半はこうした話を荒唐無稽と思うかもしれない。ところが、世界では「日本は潜在的な核保有国だ」と性悪説で見ている。

日本原燃(青森県六ヶ所村)の再処理工場では、ウラン燃料の濃縮施設が稼働し、使用済み核燃料の再処理施設がほぼ完成している。(中略)

原子力の〝裏〟の顔、平和利用
原子力の利用は、〝表〟の原子力発電という平和利用の側面だけではない。軍事利用という〝裏〟と密接に絡み合っている。

日本原燃は民間の株式会社だが、世界の安全保障にも、日本の国策とも関係している。この施設にはIAEA(国際原子力機関)の査察官が常駐している。そして濃縮、再処理の双方で、要求があればいつでも原燃は施設を公開する取り決めだ。
 
濃縮とは、発電用の核燃料のために、高度な技術を使って核分裂反応を起こしやすいウラン(U235)を製錬されたウランの中から集めること。しかし、過度に濃縮するとウラン型原爆の材料になってしまう。そのために、国際機関が監視している。

そして再処理の施設も重要だ。日本は約40年前、「核燃料サイクル」を打ち出した。

使用済み核燃料は、使用後に変成する物質はわずか全体の5%程度だ。その大半を再利用して核燃料として再利用する。そしてプルトニウム、使えない物質を分離する。

取り出したプルトニウムは高速増殖炉の核燃料で使う。高速増殖炉では、使うと化学反応で核物質が増える。その増分を使いさらに発電をすれば、永遠にエネルギー源に困ることはない。無資源国日本のエネルギー問題が解決すると期待された。

こうした核燃料サイクルを持つのは核保有国のみだ。しかし日本は米国や各国との交渉で、平和利用に徹することを宣言して、これを行うことを認められた。

プルトニウムは核兵器の材料になるため、国際的に抑制が求められている。しかし日本はそれを高速炉で使うこと、情報をすべて公開することを前提に、抽出を許されている。

40年前の政府広報や、新聞記事を見ると核燃料サイクルは、「夢のエネルギーシステム」などと、日本中から期待されていた技術体系だった

行き詰まった核燃料サイクル
ところが核燃料サイクルをめぐる状況は暗転する。高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)は複雑な構造から運用がうまくいかず、再開はかなり難しい。しかし、ここにつぎ込まれた国費は1兆円とされ、やめるとなれば責任問題が浮上する。

また六ヶ所の再処理工場も停まっている。計画が遅れたが、稼動のメドがついたところで、東日本大震災と福島原発事故が発生した。原子力規制の体制が大幅に見直され、今はその基準作りで竣工は延期された。ここにも、主に電力会社の負担だがすでに約1兆円、建設費用がかかっている。

再処理をすることは、日本の原子力の活用にとってプラスの面がある。ウラン調達の必要は減る。また使用済み核燃料の再加工によって最終的に処分する核のゴミは7分の1以下に小さくなる。量を減らすことは、その最終処分を多少は容易にするだろう。

増えてしまう日本のプルトニウム
ところが、この六ヶ所村の再処理工場が稼働し始めると、年数トンのプルトニウムが抽出されてしまう。それを減らすめどが立っていない。

国は、MOX燃料(ウラン・プルトニウム混合燃料)として既存の原発でプルトニウムを使う予定だ。またMOX燃料を専門に使うJパワーの大間原発(青森県大間町)が、国の支援を一部受けて建設中だ。

しかし、これらの手段を使ったとしても最大限でプルトニウムを年6トン前後しか減らせないという。今ある48トンのプルトニウムはなかなか減らせない。

筆者は六ヶ所村の核燃料再処理工場のほぼ完成した巨大な工場を見て、これを動かさないという選択肢はありえないと、思った。この施設をつぶすと、原燃、また支援者の各電力会社に巨額の負担がのしかかり、結局、金銭的な損害が増えてしまう。

核燃料サイクルをめぐる問題で、対外関係、費用、実効性などの論点すべてを、即座に満足させる答えは、今のところ見当たらない。

外交カード「プルトニウム」の危険な発想
自民党のエネルギー政策に詳しいある国会議員に、核燃料サイクルの行く末を、聞いたことがある。

「六ヶ所再処理工場はできてしまった以上、稼働するべきです。そして情報を公開して核武装の野心はないと世界に示し、プルトニウムを使う高速炉研究を進め、軽水炉でMOX燃料を使って、常識的な先延ばし政策しかないでしょう」と、困っていた。

そして気になることを言った。「現時点で核武装を本気で考える人は自民党内にはなく、政界にも、石原慎太郎さんなど限られた人しかいません。しかし私は反対ですが、本音では『プルトニウムを一定量持ち続け、将来の外交カードとして残しておきたい』という考えを持つ政治家は党内にいるようです。国防の観点から、将来、自衛のための核兵器保有に動ける選択肢を残すということです」。

日本の核武装論は、中国からの安全保障上の脅威が高まる中で、「力には力で」という外交論の上ではありえる考えかもしれない。しかし、原子力の平和利用を誓い、唯一の被爆国である日本の核兵器廃絶の目標に反する。その議論は国際的な懸念も深めてしまう。

筆者は、核燃料サイクルとプルトニウム問題について、国民が関心を向け議論をするべきであると考えている。重要な問題なのに、日常から離れすぎているためか、それほど関心が深まらない。

そしてプルトニウムでは、MOX燃料として既存の原発で使うことを前提に、その削減計画を早急につくることが必要だ。

「李下に冠をたださず」とことわざにいう。日本がこのままでは核兵器の保有の問題で、国際的に「痛くもない腹を探られかねない」のだ。【2015年11月24日 石井孝明氏 Newsweek】
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おそらく、『プルトニウムを一定量持ち続け、将来の外交カードとして残しておきたい』というのは、歴代政権に根強くある考えでしょう。

昨今の東アジアの情勢を考えると、安全保障対策としてあながち否定できない考えではあります。
ただ、それにしても48トンものプルトニウムは必要ないでしょう。国際社会の警戒心を高めるだけです。

『プルトニウムを一定量持ち続け、将来の外交カードとして残しておきたい』という話はさておいても、国際社会が懸念を深めるなかで、余剰プルトニウム削減に道筋をつける必要があります。

しかし「高速増殖炉もんじゅ」は実用化がほぼ断念されており、MOX燃料(ウラン・プルトニウム混合燃料の使用も目途がたたない。
六ヶ所村の再処理工場が稼働し始めると、プルトニウムは更に増えてしまう・・・ということで、有効な策が見いだせないのが現実です。
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アルゼンチンによる中国漁船撃沈事件 双方の思惑もあって大きな外交問題にはならない・・・との指摘

2016-03-23 21:07:02 | ラテンアメリカ

アルゼンチン沿岸警備隊の砲撃によって沈没する中国漁船【https://www.youtube.com/watch?v=TdeMZVbman8】)

ベトナムは撃沈措置を歓迎
アルゼンチン沿岸警備隊は14日、同国の首都ブエノスアイレスの南1300キロにあるプエルトマドリンの沖合で中国漁船を発見し、停船を求めましたが、漁船側はこれを無視して逃走。沿岸警備隊の船舶に繰り返し体当たりしてきたため、沿岸警備隊は発砲し中国漁船を撃沈しました。

通常、排他的経済水域(EEZ)内での漁業は、その沿岸国の許可を必要としますが、問題の中国漁船は許可を取っていないばかりか、アルゼンチン政府が漁業禁止とした海域でイカ漁の操業をしていたとも報じられています。

日頃、傍若無人な行動が批判されることが多い中国漁船を撃沈させたということで、アルゼンチン側の砲撃を支持する、あるいは好意的に捉える向きが多いようです。

尖閣諸島水域での日本の“弱腰”対応を批判する声も。

****アルゼンチンが中国漁船を撃沈、拍手喝采した国は****
違法操業の中国船に軍事力行使、世界はどう伝えたのか

・・・・自国の領海に中国船が侵入を重ねてもなんの実効措置もとらない日本とは対照的な対応である。日本人から見ると、アルゼンチンの対応は性急で強硬に映るかもしれない。

だが、国際社会ではアルゼンチンの軍事力行使を非難する声はあがらなかった。逆にベトナムでは拍手や歓声が起きたほどだという。

アルゼンチン側を支持する国際世論が多いため、中国政府もなかなか強硬な報復策をとることができないようである。米国のオバマ大統領が3月23日にアルゼンチンを公式訪問することも、中国の姿勢に微妙な影響を与えそうだ。

「ベトナムもアルゼンチンを見習うべき」
(中略)アルゼンチン政府は撃沈措置をすぐに中国政府に通報した。中国側はそれに対して懸念を表明し、中国漁船に違法行為はなかったと主張して、アルゼンチン政府に事件の徹底した解明を求めた。

この事件は世界で報道された。米国のニュースメディアも一斉に取り上げたが、アルゼンチンによる撃沈措置を批判的に取り上げる報道は皆無だった。CNNなどは、中国の漁船が世界中で違法な操業を行っていることを強調して伝えていた。

アジアを見ると、中国との間で海洋紛争を抱えるベトナムの漁業関係者がこのアルゼンチンの措置に「拍手喝さいした」と報じられた。

東南アジアのニュースを主体に報道するネット新聞「グローバル・ニュース・アジア」(3月15日)によると、ベトナムの漁業関係者が次のように語ったという。

「ベトナムの漁船が自国の水域で合法的に操業していても、中国は攻撃してくる。一方、自分たちの違法操業は違法だと認めない。今回も中国側に落ち度があるとは認めないだろう。ベトナムもアルゼンチンのように武力を整え、きちんと対峙しなければならない」(後略)【3月23日 古森 義久氏 JB Press】
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親中国政権から親米政権へ交代したアルゼンチン
アルゼンチンでは昨年11月、フェルナンデス大統領の任期満了に伴う大統領選挙の決選投票が行われ、暫定政権も含め14年間続く中道左派政権の打倒を目指す中道右派の野党連合「カンビエモス(変えよう)」のブエノスアイレス市長、マウリシオ・マクリ氏が勝利しています。

今回事件は、反米・親中国的な前政権から親米的なマクリ新大統領への政権交代を象徴するような出来事というとらえ方もあります。

昨年の大統領選選挙については、下記のように“米中の覇権争いとなった”とも指摘されていました。

****米中の覇権争いとなったアルゼンチン大統領選。同国の将来はいかに!?****
・・・・この選挙は単なる「次期大統領選」ではない。これまで12年間続いた中国そしてロシアへの依存外交を国民が選ぶのか、或いは欧米に重要度を置く外交に軌道修正するかという判断を問う外交選挙であり、結果次第ではアルゼンチン及び同国でビジネスを行う外国企業にとっても今後の方向性を問うという意味合いがあるのだ。(中略)

どん底のとき手を差し伸べた中ロとの関係
アルゼンチンの過去を振り返れば、19世紀後半から20世紀初頭において穀物のヨーロッパへの輸出で発展し、世界でトップ経済の一国を担っていた国だった。その影響で、首都のブエノスアイレスは南米のパリと称されるほどにあらゆる文化が発展した。

一方で、現在のアルゼンチンは経済面で中国とロシアに依存した国になっている。この両国への依存度が如何に強いか? 

それは、2期8年を勤めるクリスティーナ・フェルナンデス大統領が、中国とロシアへは数度訪問しているにもかかわらず、米国へは任期中に一度も訪問していないということからも明らかだろう。

特に、中国への依存度が高いことは国民レベルでも感じているようで、彼らの間で自国名をスペイン語で「アルヘンティーナ」という代わりに「アルヘンチナ」と皮肉る者もいるという(「チナ」=スペイン語で中国のこと)。

アルゼンチンから中国へは大豆など穀物を輸出し、中国からはその輸出を促進させる為だとして、インフラ整備などで中国資金がアルゼンチンに流入して来た。そして、中国製品で同国の市場は溢れている。

アルゼンチンが中国に傾斜した背景には、フェルナンデス大統領がベネズエラのチャベス前大統領やブラジルのルラ前大統領の反米意識に共鳴したからだ。

しかも、2001年にデフォルトを経験し、その後経済は回復したものの、インフレ率は常に高く輸出の伸展を妨げて来た。しかも、2014年には米国の「ハゲタカ」ファンドとの問題から再度デフォルトを経験した。

その為、アルゼンチンにとって外貨の獲得は容易ではない。そういった事情の中で、中国は容易にアルゼンチンに資金を提供する国として両国は関係をより深めたのである。

ロシアもそれに追随して、武器の供給や原子炉の建設などで協力している。この二国の支持もあって、現在アルゼンチンのBRICSへの加盟も間近に迫っているという。

アルゼンチンを舞台にした米中覇権争い
しかし、ここで留意されるべきことがひとつあるのだ。それは、「コンドル作戦」についてだ。コンドル作戦とは、CIAが70-80年代に南米の左派勢力を一掃するべく当時の右派政権や現地の諜報組織に資金支援をし賄賂などを行わせ、時には人体に損傷を加えたりして左派系のリーダーを失脚させるべく行っていた工作活動のことだ。

その対象になった国はブラジル、アルゼンチン、ボリビア、チリ、パラグアイ、ペルーといった国で、さまざまなスピンを流すことで対象国の左派系リーダーを政治の表舞台から失脚させていた。

そして今、米国は「第2のコンドル作戦」を展開しているとして「RT」などのロシア系メディアなどが報じ始めているのだ。

かつてのコンドル作戦ではブラジルのルラ前大統領、ベネズエラのチャベス前大統領、エクアドルのコレア大統領、ボリビアのモラレス大統領そしてアルゼンチンのキルチネール前大統領らの失脚を狙っていたという。
何れも、チャベス前大統領が提唱したボリバール革命に共鳴したリーダーたちである。

そして今、現職のマドゥロ、コレア、モラレスらの失脚を第2コンドル作戦は狙っているという。この中に、アルゼンチン大統領選挙の行方が対象にされているというのである。即ち、米国が直接的間接的にマクリ候補を支援する活動を行っているというのだ。

マクリ候補はこの選挙キャンペーンで中国とのこれまでの契約内容などを検証し直すと表明している。そして、米国とヨーロッパとの関係の強化を計ると言明しているのである。

日本にしても他人事ではなく、マクリ氏が大統領に当選すれば、親中路線から方向転換するということで、これまでの疎遠だった関係にも変化が現れるはずだ。ちなみに、マクリ候補はトヨタのカムリV6を所有しているそうだ。

一方のシオリ候補はキルチネール前大統領の時に副大統領を勤めた人物で、彼は中国とロシアとの外交路線を踏襲するというボリバール革命の共鳴者であり、こちらは中ロが支援を行っていると思われる。

ただ、どちらが大統領に選ばれるにせよ、フェルナンデス大統領政権下の負の遺産に取り組まねばならない。アルゼンチン経済紙『iProfesional』によると、来年のインフレ34%、GDPはマイナス0.3%、貨幣の切下げ38%まで進む、財政赤字4.1%、失業率8.4%と予測されており、どの点においても非常に厳しい経済状況が控えているということである。【2015年11月15日 白石和幸氏 HARBOR BUSINESS Online】
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如何に上手く外交関係を維持するかを考えている両国
ただ、“親中路線から方向転換する”とは言いつつも、対中国依存が強い現実経済を考えると、やはり対中関係は重視せざるを得ないところもあるようです。

また、中国としても、上記のようなアメリカとの綱引き状態にあって、あまり強硬な対応をとるとアルゼンチンを更にアメリカ側に追いやってしまいかねない・・・との警戒感もあります。

16日、中国外交部は、「極めて強い関心を持っている。アルゼンチンに、ただちに徹底的に調査して中国側に詳細を伝えること、中国人船員の安全と合法的権益をしっかりと保証すること、同様の事件の再発を根絶するため、有効な措置を取ることを要求する」と表明していますが、上記のようなアルゼンチン・中国双方の思惑もあって、前出の白石和幸氏など、外交問題としてそうもつれることはなそうだ・・・とも指摘しています。

****アルゼンチン沿岸の中国漁船撃沈は両国の外交問題に発展するか****
中国漁船撃沈が亜中関係に与える影響
結論からいうと、この事件はアルゼンチンと中国の外交問題に発展する可能性はというと薄いのではないかと思われる。

中国にとってラテンアメリカへの投資で、アルゼンチンはベネズエラとブラジルに次ぐ3番目に重要な国なのである。

昨年12月に誕生したマクリ大統領の新政権は、それまでの12年間に及ぶ中国とロシアを軸にした外交から、欧米との外交強化に軸を移している。そのように外交政策が変化している時に中国がアルゼンチンに対して今回の事件の抗議をすることは、マクリ政権がそれに反発して欧米指向の外交姿勢を更に強める可能性があるからである。

マクリ新政権以前の12年間に両国間の貿易は劇的に発展した。〈2014年には150億ドル(1兆7100億円)の貿易取引が実施され、その内の50億ドル(5700億円)が農牧畜産品と自然資源を主要品目としたアルゼンチンから中国への輸出総額〉であった。

また、〈2014年には両国で20項目以上の協定が交されており、47億ドル(5360億円)の2つの火力発電所の建設や25億ドル2850億円)の鉄道建設〉なども協定に含まれている。更に、〈中国人民銀行とアルゼンチン中央銀行との間で人民元とペソの110億ドル(1兆2540億円)相当のスワップ協定〉も交されている。

マクリ政権も選挙前より対中姿勢が融和傾向
マクリ大統領も、大統領選挙前は中国との協定は見直しが必要だとしてそれまでの両国の関係に懐疑の念を抱いていた。しかし、大統領に就任するや、中国のアルゼンチン経済における重要度に気がついたようで、今では中国への批判は一切避けているという。

ただ、依然としてマクリ大統領は欧米主体の外交姿勢をアルゼンチン外交の柱にするとしており、アルゼンチンが加盟しているメルコスール(南米南部共同市場)とEUとの貿易拡大に彼も動き始めている。

それに供応するかのように、2月にはイタリアのレンツィー首相がイタリアの首相として18年振りにアルゼンチンを訪問し、その1週間後にフランスのオランド大統領も19年振りに同国を訪問した。

そして3月23日にはオバマ大統領が米国大統領として19年振りの訪問となる。

このような外交事情がある中で、今回の事件を契機に敢えてアルゼンチンとの関係を疎遠にさせるような挙動を中国が取るとは筆者には思えない。寧ろ、中国はマクリ政権とこれまでのように如何に上手く外交関係を維持するかということを考えているはずだ。【3月20日 白石和幸氏 HARBOR BUSINESS Online】
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上記のように、オバマ大統領は“歴史的”なキューバ訪問を終えて、アルゼンチンを訪問しています。

略奪式漁業・環境破壊で遠洋漁業へ
なお、なぜ中国漁船がアルゼンチンで操業しているのかについては、略奪式漁業・環境破壊で中国近海で魚が消えてしまった実情が指摘されています。

****中国漁船がなぜ、アルゼンチン沖に行くのか 「略奪式漁業・環境破壊で近海で魚が消えた」=中国メディア****
中国メディアの第一財経日報はこのほど、「撃沈された中国漁船はなぜ、万里も遠しとせずアルゼンチンで漁獲したのか?」と題する記事を掲載した。
同記事は、環境破壊と略奪式漁業のために中国近海の水産資源が枯渇したと紹介した。(中略)

第一財経日報は、中国の近海では水産資源の減少が深刻と紹介。河北省在住の漁業関係者は「10年、20年前と比べて、捕れる魚やエビは、比較にならないほど少なくなった。しかも小さくて「肥料にしかならない」ものが多いという。  

近海漁業を駄目にした理由が、海岸地域の開発だ。抑制のない埋め立てで海洋生物は産卵場所を失い、食物連鎖も断絶した。そのため、「水産資源の生き残り」も困難になったという。  

加えて、大規模な「略奪式漁業」だ。中国の漁業が大きく発展したとされるのは1960年代だ。しかし漁船数は60年代末でも、1万隻余りに過ぎなかった。ところが1990年代半ばまでには20万隻を超えた。船の数が増えただけでなく、漁船が大型化し、漁具も現代化した。水産資源を「根こそぎ」という状態になった。  

さらに、河川の汚染が極端化した。渤海湾の中の「三大湾」のひとつとされる莱州湾は、海洋生物の重要な産卵場所であり漁場でもあったが、2006年以降は、莱州湾に流れ込む主要河川の多くで、水質が「劣5類」と、最低ランクになった。莱州湾の30%の海域が、「劣5類」の水の影響を受けており、海洋生物の産卵数は減りつづけているという。  

そのため、漁業関係者は「新天地」を探さざるをえない状態になったという。  

中国の遠洋漁業が「大躍進」期を迎えたのは2011年以降で、2015年までに遠洋漁船は2500隻、総トン数は205万とに達した。  

中国はすでに、40の国と地域と排他的経済圏(EEZ)内での漁獲について協定を結んでおり、太平洋、インド洋、大西洋、南極海域のすべてで、中国漁船が操業しているという。

遠洋漁業の発展が最も目覚ましいのは山東省で、2015年6月末現在で、遠洋漁業の資格を持つ企業は31社、保有する遠洋漁船は434隻、総トン数は25万9000トンに達した。  

撃沈された「魯煙遠漁010」も山東省企業の煙台海洋漁業有限公司に所属する遠洋漁船だ。 【3月18日 Searchina】
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まあ、日本漁業も世界中で漁獲していますので、事情は大差ないでしょう。
日本と中国で世界の魚をとりまくっていると、やがて大きな問題にもなります。
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香港  学生運動リーダーらの政治参加、過激な「本土派」への予想外の支持などあるものの、厳しい現実

2016-03-22 23:07:52 | 東アジア

(政治団体立ち上げを発表する学生運動リーダー【3月20日 NHK】 “あの”中国を相手にするには「大丈夫だろうか・・・」という感もありますが、力量は見た目ではわかりませんから。もっとも、相手は中国ではなく香港当局ということでしょうか。ただ、それはそれで「(当事者能力を欠いた香港当局相手で)効果があるのだろうか・・・」という感も。)

【「雨傘運動」の反省から、政治舞台への直接参加が必要と判断
中国本土での禁書を扱う香港の書店関係者が中国当局に拉致拘束された事件が示すように、「一国二制度」の形骸化が進む香港で、政長官選挙の民主化を求めた「雨傘運動」の中心になった学生団体が解散し、一部メンバーは9月の立法会(議会)選挙に向けて政治団体を立ち上げるといのことです。

****雨傘運動」の中心になった学生団体が解散 香港****
2014年秋に香港行政長官選挙の民主化を訴え、路上を占拠したデモ「雨傘運動」の中心になった学生団体の一つ、「学民思潮」が20日、解散を発表した。

学生組織として活動を続けたい人と、政界進出を目指す人で路線の違いが出てきたため、それぞれ別の組織をつくることにした。リーダーの黄之鋒さんらは来月、9月の立法会(議会)選挙に向けて政治団体を立ち上げるという。

会見した黄さんらは「やるべきことはやった。学民思潮としては活動をやめるが、今後は各メンバーが運動の精神を受け継いで、それぞれの立場で活動を続けていく」と話した。

学民思潮は11年、中国への愛国心を育てる「国民教育科」の導入に反対し、当時の中高生が中心になって結成。雨傘運動でも大学生の団体「学連」とともにデモの先頭に立った。【3月21日 朝日】
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香港での民主派若者のこうした動きに中国側は警戒を強めるのでは・・・と思われます。

****民主派の香港学生グループが議会選に向け候補擁立へ 「一国二制度」形骸化狙う中国共産党ピリピリ****
香港で9月4日に投票される立法会(議会、定数70)選に向け、民主派の学生グループが政党を立ち上げ、候補者を擁立する方向で動き出した。

香港トップの行政長官選を来年3月に控え、香港の「一国二制度」をめぐる親中派と民主派の論争が激化する中、学生ら新党の動向に中国共産党政権側が神経をとがらせそうだ。(中略)

行政長官選から民主派候補が事実上排除されるという、中国側が決めた制度の撤回を求めた街頭占拠デモは、14年12月、香港警察に強制排除され、学生らの要求は何ひとつ実現しなかった。このため黄氏ら幹部は政治舞台への直接参加が必要と判断したという。

9月の立法会選は直接選挙枠(比例代表制、5選挙区)で35人、業界別の間接選挙枠で35人を選出する仕組み。7月に立候補を受け付ける。立法会選の結果は来年の行政長官選や「一国二制度」の形骸化を狙う中国との関係に影響する。

黄氏らが高校生だった11年に作った学民思潮は、香港の教育に中国人としての愛国心を植え付けようとした「道徳・国民教育」導入への反発がきっかけ。12年にデモで香港政府に導入を撤回させた経緯がある。【3月21日 産経】
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成果を出せずに終わった「雨傘運動」は民主派若者に無力感を与え、民主化運動も漂流することが懸念されていましたが、そうした中からのひとつの答えが、「立法会」という政治舞台への直接参加の選択です。

前回2012年9月の立法会選挙では、選挙前は民主派への期待の低下などで、民主派の議席は重要法案を否決できる3分の1を割るのではないかと予想されていました。

しかし、9月の新学期からの導入が決まっていた「中国国民としての愛国心」を高めるための愛国教育科目「道徳・国民教育科」への抗議運動が拡大して選挙への関心が高まり、民主派の支持離れを食い止め、強いとされてきた直接選挙枠では18議席にとどまったものの、親中派が有利な職能代表枠で9議席を取り、3分の1を超える27議席確保にこぎつけました。【2012年09月10日 毎日より】

このように、立法会における民主派の勢力はきわどいところにあるとも言えます。
今回の民主派学生グループの参加が、こうした状況にどう影響するのか注目されます。

もうひとつの「雨傘運動」反省が過激な「本土派」 補選で一定支持獲得
一方、成果を出せずに終わった「雨傘運動」へのもうひとつの答えが、香港を中国の一部ととらえず、香港こそが「本土」だとして、時に暴力的な手段も辞さない「本土派」と呼ばれる過激な「反中派」若者たちです。

2月8日の夜、彼らが引きおこした「魚蛋革命」、あるいは「旺角騒乱」について、「暴徒」と呼ばれるようなその過激な姿勢への世論・メディアの反感が強く、民主化運動の足を引っ張る形になるのでは・・・・というような内容を、2月13日ブログ「香港 中国による出版関係者拘束でイギリスが中国批判  急進派の騒乱で民主化運動に更なる逆風」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160213で取り上げました。

****旺角の騒乱事件****
繁華街・旺角(モンコック)で春節(旧正月、2月8日)の夜、当局が無免許の屋台を取り締まったことに端を発し、集まった本土派の市民らと警察が翌朝にかけて激しく衝突。暴徒化した一部の市民が投石や放火を繰り返し、警官ら130人以上が負傷、約80人が逮捕された。春節の屋台は市民に親しまれていて、本土派は「香港の伝統を守れ」と抵抗したとされる。【3月1日 朝日】
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しかし、2月末に行われた立法会補選では、「本土派」候補が予想以上の善戦を示し、一定の支持があることを明らかにしています。

****過激な反中「本土派」勢い 香港議会補選、得票15%超****
香港で「本土派」と呼ばれる反中国の過激なグループが勢いを伸ばしている。

香港を中国の一部ととらえず、香港こそが「本土」だとして、香港人の利益や文化を守ろうと訴える人たちだ。時に暴力的な手段も辞さない姿勢に批判も根強いが、「香港人」意識を高める若者を中心に支持を広げている。

28日にあった立法会(議会)の補選。民主派が約16万票を獲得して約15万票の親中派を破ったが、香港メディアの関心は、本土派のグループ「本土民主前線」の大学生候補、梁天キ氏(24)に集中した。

約6万6千票で3位。支持層が重なる民主派の票を崩せば、結果に影響を及ぼしかねない票数だ。梁氏は29日、「満足はできないが、悪くない結果だ。香港の政治は今後、親中派、民主派、本土派の3派で争いたい」と語った。

補選は当初、従来通り民主派と親中派が争うとみられたが、春節に旺角で起きた騒乱事件で逮捕された本土派の梁氏への支持がネット上で急速に広がった。

本土派の主張は、中国政府を批判し、民主を求める点では従来の民主派と重なる。だが、目的達成のためなら一定の実力行使も許されるとの主張が異なる点だ。

梁氏は選挙期間中も「弾圧に対抗するにはあらゆる手段が必要」「極悪な政府と戦うには、(非暴力という)限界をもうけてはいけない」などと語り、旺角事件での投石や放火行為を否定しなかった。

これに対し、中国・香港両政府や政党、主要メディアは暴力行為を否定し、本土派を「暴徒」などと批判してきた。それだけに15%を超す得票には驚きが広がる。

梁氏は「『暴徒』が6万6千人の支持を得た。我々は主流派でないが、絶対に支持する人はいる」と自信を見せた。

 ■高まる香港人意識、暴力辞さず
中国・香港政府や民主派政党から批判されながらも支持を広げる本土派。背景には、「雨傘運動」と呼ばれた民主化デモの挫折や中国との関係改善が見通せない現状がある。

行政長官選挙の民主化を求め、2カ月半続いた2014年の路上占拠デモは非暴力の対話路線を採った。だが、改革案を示した中国側が一歩も譲らず、要求は実現できなかった。

デモ参加者の間では中国への反発に加え、「対話路線で民主化は達成できない」と従来の民主派への不満が広まった。梁氏らの組織も、雨傘運動後に結成された組織の一つだ。

最近では、共産党を批判する本を出版していた書店関係者5人が失踪し、中国当局の関与が疑われている。言論の自由や高度な自治を保障した「一国二制度」が脅かされているという危機感が強まり、「香港人」意識が高まっている。

梁氏の選挙を支援した求職中の男性(26)は「返還後の19年間、民主派はデモをするだけで、結局何も勝ち取れなかった。対話で目標を達成できず、他に手段がなければ一定の暴力もやむを得ない」と話した。【同上】
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決定権を有する中国の厚い壁
中国側は当然にこうした過激な「本土派」を警戒し、香港への姿勢も厳しいものとなりつつあります。

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(中国の李克強首相は5日に行った全人代政府活動報告で)香港とマカオについては「1国2制度、高度な自治という方針を全面的かつ正確に貫徹する」と確認。

ただ2年連続で使われた「民主の推進、和諧(調和)の促進」との表現は消えた。香港では、香港を中国の一部とは考えない「本土派」が台頭しており、警戒感を示した可能性がある。【3月5日 毎日】
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民主派学生主流派の政治参加、過激な「本土派」への一定の支持・・・といったことはあるものの、最終決定権が香港側でなく中国側にある以上、香港側の運動で目に見える成果をだせるか・・・・あまり期待はできません。

反中国的な行動が一定限度を超えれば、「天安門事件」のような事態も考えられます。
仮に、「天安門事件」のような悲劇が起きたとしても、中国の行為を諌める力は国際社会にはないのでは・・・とも危惧されます。

「天安門事件」はすでに過去のものともなり、当時中国を厳しく批判した国々も、中国の圧倒的な経済的・政治的影響力を許容するに至っています。
アメリカでは、「天安門事件」を「暴動」とみなす者が大統領候補になろうとしています。

当時と比較すると、中国の影響力は比較にならないほど強まっています。

中国本土における体制変化がないかぎり、香港の運命も変わらないのでは・・・と悲観的にもなります。
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