(パラグイア相手に奮戦する日本チーム “flickr”より By AJAY B2010
http://www.flickr.com/photos/48989890@N04/4747474984/)
【「アフリカ人であることを祝おう」】
サッカー・ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会は、世界各地で熱狂と興奮を巻き起こしていますが、日本でも岡田ジャパンの“予想外”の健闘で大盛り上がりでした。
大会前の岡田監督に対するぼろくその評価も様変わりで、世間は現金なものです。
個人的には若い人たちが“日本!日本!”と大騒ぎするのはあまり好きではないところもあって、TVのどのチャンネルもW杯で大騒ぎといった“猫も杓子も状態”には、ちょっと引いてしまう感もありましたが。
開催国・南アフリカでは、こうしたビッグイベントにつきものの、関連施設・インフラ整備のために立ち退きを迫られる貧しい人々が大勢いるといった問題もありますが、スタジアムで、南アフリカ人が、白人も黒人も一緒になって立ち上がり、国歌「Nkosi Sikelel' iAfrika(神よ、アフリカに祝福を)」を一斉に歌うといった高揚感もありました。
****南アW杯:開幕1週間 アフリカに一体感も不満も高まる*****
サッカー・ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会は18日で開幕から1週間が過ぎた。アフリカ勢唯一となるガーナの勝利を南アとガーナのファンがともに祝うなど、スローガン「アフリカ人であることを祝おう」を体現する一体感が徐々に築かれている。一方、ストが相次ぎ試合が遅れるなど、貧富の格差への不満もW杯を機に噴き出している。散発する強盗など犯罪に対しては特別法廷で厳罰を下すなど、南アは治安面の不安を払拭(ふっしょく)するのに躍起だ。(中略)
ただ、W杯でもアフリカ内の移民を排斥する雰囲気は変わらない。南アはサハラ砂漠以南のアフリカでの“経済大国”で多数の移民が働き、学んでいる。コンゴ民主共和国から留学に来て、07年に詐欺容疑で逮捕された後、裁判も開始されない男性(27)の支援集会が18日、ヨハネスブルクで開かれた。支援者の男性は「W杯で『アフリカ』とうたうなら、アフリカ内の移民への尊敬も持ってほしい」と話す。(中略)
また、南アに囲まれたレソトや隣国のジンバブエでは、南アとの間を一時滞在許可証で往復してきた地元市民が、安全対策強化を理由に出入国を制限されるなど日常生活に支障をきたしている。【6月19日 毎日】
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光もあれば、影もあるといったところでしょう。
【心に余裕を持って、冷静に日本の試合を観戦】
一時のサッカーの興奮だけでは現実は改善しないことは事実です。
ただ、その熱狂の中に現実世界の変化の兆しを垣間見ることもあります。
過去の歴史から日本とは難しい問題を抱える、国民感情も良好とは言い難い面もある中国・韓国ですが、今回の岡田ジャパンの健闘に対する評価・国民の反応はそこそこ良好だったようです。
****「日本は嫌い、でも祝福」中国、客観的に技術評価****
日本がデンマークを下した直後の25日朝、中国のインターネット上では、「素晴らしい試合だった。日本が好きでない私も心から祝福したい」などと、日本の勝利を祝福するサッカーファンの声が大勢を占めた。
「自らのスタイルを貫いた日本の長年の努力が報われた」「日本の守備は完ぺきだ」「遠藤選手のフリーキックは芸術的」といった賛辞が続く。メディアでも称賛があふれ、勝利の原動力となった本田圭佑選手を「本田発動機」と表現する新聞もあった。
国を背負って対決するサッカーの試合は、ファンの愛国心を燃え立たせる。日中戦は反日行動の導火線となってきた。
今回も、グループリーグ第1戦、第2戦では、日本の勝利に落胆したり、敗北に安堵したりする反日的な声はあった。だが、今回は明らかに、日本代表の技術を客観的に評価する声が増えている。
中国の代表チームが今大会に出場しておらず、「ファンが心に余裕を持って、冷静に日本の試合を観戦している」(日中関係筋)という事情はあるものの、かつてのように、「日本」と聞けば集団でブーイングを浴びせ、日本擁護論には「売国奴」の罵声をたたきつけていたような状況とは違う。
より大きな背景としては、中国人が、自国に対する自信を付け始めたことがあるようだ。中国は急速な経済成長とともに国際社会で存在感を強め、今年中に国内総生産(GDP)で日本を抜いて世界2位の経済大国となる見通しだ。日本のサッカーを、純粋な「スポーツ」として楽しむ余裕が出てきたともいえる。
ネット上の日本声援に関しては、「ファンの反日行動を警戒する当局が、反日感情をあおる書き込みを削除している」との見方がある。W杯で日中戦が実現すれば、「日本たたき」が燃え上がるのも間違いない。
サッカーでの反日行動 2004年夏に中国で開催されたアジアカップで、中国人観客が日本チームにブーイングを浴びせたり、ペットボトルを投げつけたりする行為が頻発。日中対決となった北京での決勝戦では、中国の敗北に腹を立てた観客が暴徒化し、日本大使館の公使らを乗せた公用車が襲われる事件となった。愛国教育の影響を受けた中国の若者の強い反日感情が背景にある。その後も、日中戦では治安当局は厳戒態勢を敷いている。【6月25日 読売】
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同様の報告は、韓国からも寄せられています。
*****今回は「反日」なし、韓国・中国もサムライ絶賛******
韓国、中国では25日、サッカー・ワールドカップ(W杯)で16強入りを決めた日本を絶賛する声が相次いだ。
歴史的要因から反日感情が根強い両国にあって、民族感情がほとばしるサッカーはこれまで、一種の「反日イベント」でもあった。「反日」を超えたエールは、急速に国力を伸ばす中韓に表れ始めた対日観の変化の兆しを反映しているようだ。(中略)
韓国マスコミも、日本戦を大々的に報道。25日朝には、韓国紙・朝鮮日報(電子版)が、「韓国と日本がアジアサッカーのプライドを保った」と報道したほか、聯合ニュースも、「『永遠の好敵手』韓国と日本がアジアサッカーの歴史を書き換えた」と伝えた。
韓国では1998年に金大中大統領が就任し、日本の大衆文化を段階的に開放。日韓の草の根交流が定着する契機となった。しかし、日韓外交筋によると、2002年のW杯日韓共催大会の当時でもまだ、韓国では表だって日本を応援出来ない空気が支配していた。同筋は、「日本の好プレーにはブーイングが起き、対戦国の得点や好プレーに拍手がわくほどだった」と振り返る。
しかし韓国は、同大会でアジア勢初の4強進出を果たしたのを手始めに、06年のトリノ冬季、08年の北京夏季、10年のバンクーバー冬季と3大会連続の五輪で、獲得メダル数において日本を凌駕。経済も好調であることに加え、今年11月の主要20か国・地域(G20)首脳会議や、再来年の「核安全サミット」の開催国となるなど、韓国民の自尊心を満足させてきた。外交筋は、「経済や国際社会における『克日』により、韓国人が余裕を持って、日本を冷静に見られるようになってきている」と分析する。
ただし、領土問題や歴史問題をめぐり、韓国世論が反日的になる可能性は依然ある。日韓関係の詳しい李勉雨・世宗研究所首席研究委員は、「韓国人の日本を見る目は複眼的になってきている。良い点を客観的に認めることと、歴史問題への反発は、韓国人にとって全く別のことだ」と指摘する。【6月25日 読売】
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昨夜の日本・パラグアイ戦についても、好意的な報道が多いようです。
****日本代表「尊敬に値する」中国各紙が称賛*****
中国各紙は30日、W杯南ア大会の日本―パラグアイ戦を紹介し、日本に賛辞を贈る論調が目立った。
京華時報は別刷り特集で日本戦を3ページにわたって詳報。「最も残酷、悲壮な形でアウトになった」としたが、「日本チームの活躍は尊敬に値する」と称賛した。また、「日本や韓国、豪州などのアジアチームの旅は終わったが、(戦績は)アフリカや欧州にも負けていない」と評価。北京青年報も「日本は胸を張って帰国できる」と賛辞を贈り、「W杯の洗礼を受け、さらに強くなるだろう」と予想した。【6月30日 読売】
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****岡田監督「日本サッカー史に名残す」韓国メディア*****
韓国メディアは30日、日本がパラグアイに「惜敗」したと報じ、「120分間の大接戦を演じた」と伝えた。
聯合ニュースは日本代表チームを「サムライ・ブルー」と表現し、「血を流すような戦いの末、PK戦で涙を流した」と報道。松井大輔選手が22分に放ったミドルシュートがクロスバーを直撃したことなどをとらえ、「決定的チャンスが目立った」と戦いぶりを詳報した。
公共放送KBSも、「南米の強豪と対等に戦った」と評価した。好セーブを見せたGK川島永嗣選手を取り上げ、「波状攻撃をよく防ぎ、ゴールを堅守した」とたたえた。
岡田武史監督が退任を示唆したことにも触れ、国外開催のW杯で初めて16強入りに導いたことで、「日本サッカー史に名を残した」と指摘した。【6月30日 読売】
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中国・韓国ともに、自国に対する自信を深めていることが、反日的な感情の噴出をおさえているようです。
もちろん、話はW杯に関する動きではありますが、今後の中国・韓国との関係構築において、明るい期待も抱かせてくれます。まあ、そんなことを言うと、加害者としての歴史を忘れてもらっては困る。それとW杯は別物だ・・・と叱られるのでしょうが。
【「狂った男たちが跳びはねているのを見ても何の得にもならない」】
その他、世界での話題を拾うと、バングラデシュでは12日夜、テレビ放送されていたアルゼンチン対ナイジェリアの試合中に停電が発生し、試合を見ることができなくなったサッカーファンたちが暴動を起こす騒ぎとなりました。
アフリカ・ソマリアではW杯TV観戦も命がけです。
****W杯観戦は命がけ 殺害事件発生 テレビ見たらむち打ち刑に****
アフリカ東部ソマリアで暫定政府などと戦闘を続けるイスラム過激派組織がサッカー・ワールドカップ(W杯)のテレビ観戦を「非イスラム的」だとして禁じ、観戦すればむち打ち刑にすると宣言、殺害事件も起きるなど、サッカーファンは命懸けでテレビ観戦を続けている。英BBC放送(電子版)などが16日までに伝えた。
これらの過激派は支配地域に厳格なシャリア(イスラム法)を敷き、スポーツや西洋風の衣服着用を禁止している。過激派組織の一つ、ヒズブル・イスラムの広報担当者は「ソマリアの若者にW杯を見ないよう警告する。狂った男たちが跳びはねているのを見ても何の得にもならない」と語った。
ヒズブル・イスラムは13、14両日、首都モガディシオ近郊でW杯をテレビ観戦していた市民らを襲い、2人を殺害、30人以上を拘束した。
国際テロ組織アルカイダに忠誠を誓う別のイスラム過激派組織アッシャバーブもW杯観戦を禁じている。【6月16日 スポニチ】
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内紛のすえ1次リーグで敗退したフランスでは、最近高まっている反移民感情とも連動した動きが。
“現在の代表チームの主流も非白人選手。移民国家フランスの社会の下層で多くの移民、その子孫が貧困にあえぐ中、その「夢」をつなぎ留めてきたのがサッカーだった。しかし、バソール氏は「(移民を含む一部選手による)買春や薬物使用、マフィアとの接触など多くの問題が表面に出てきた」と、「夢」の効果に限界が見え始めた、とみる。
「恥知らず」な一部選手に敗因を求める声も後を絶たない。評論家らは「愛国心を持たず、国歌も知らない」「大金を得られないW杯では手を抜き、フランスに所得税を納めないと吹聴する」「他人への敬意を持たない」と散々だ。”【6月24日 読売】