孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サッカー・ワールドカップ  中国・韓国で日本に好意的な世論・報道も

2010-06-30 21:55:08 | 世相

(パラグイア相手に奮戦する日本チーム “flickr”より By AJAY B2010
http://www.flickr.com/photos/48989890@N04/4747474984/)

【「アフリカ人であることを祝おう」】
サッカー・ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会は、世界各地で熱狂と興奮を巻き起こしていますが、日本でも岡田ジャパンの“予想外”の健闘で大盛り上がりでした。
大会前の岡田監督に対するぼろくその評価も様変わりで、世間は現金なものです。
個人的には若い人たちが“日本!日本!”と大騒ぎするのはあまり好きではないところもあって、TVのどのチャンネルもW杯で大騒ぎといった“猫も杓子も状態”には、ちょっと引いてしまう感もありましたが。

開催国・南アフリカでは、こうしたビッグイベントにつきものの、関連施設・インフラ整備のために立ち退きを迫られる貧しい人々が大勢いるといった問題もありますが、スタジアムで、南アフリカ人が、白人も黒人も一緒になって立ち上がり、国歌「Nkosi Sikelel' iAfrika(神よ、アフリカに祝福を)」を一斉に歌うといった高揚感もありました。

****南アW杯:開幕1週間 アフリカに一体感も不満も高まる*****
サッカー・ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会は18日で開幕から1週間が過ぎた。アフリカ勢唯一となるガーナの勝利を南アとガーナのファンがともに祝うなど、スローガン「アフリカ人であることを祝おう」を体現する一体感が徐々に築かれている。一方、ストが相次ぎ試合が遅れるなど、貧富の格差への不満もW杯を機に噴き出している。散発する強盗など犯罪に対しては特別法廷で厳罰を下すなど、南アは治安面の不安を払拭(ふっしょく)するのに躍起だ。(中略)

ただ、W杯でもアフリカ内の移民を排斥する雰囲気は変わらない。南アはサハラ砂漠以南のアフリカでの“経済大国”で多数の移民が働き、学んでいる。コンゴ民主共和国から留学に来て、07年に詐欺容疑で逮捕された後、裁判も開始されない男性(27)の支援集会が18日、ヨハネスブルクで開かれた。支援者の男性は「W杯で『アフリカ』とうたうなら、アフリカ内の移民への尊敬も持ってほしい」と話す。(中略)
また、南アに囲まれたレソトや隣国のジンバブエでは、南アとの間を一時滞在許可証で往復してきた地元市民が、安全対策強化を理由に出入国を制限されるなど日常生活に支障をきたしている。【6月19日 毎日】
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光もあれば、影もあるといったところでしょう。

【心に余裕を持って、冷静に日本の試合を観戦】
一時のサッカーの興奮だけでは現実は改善しないことは事実です。
ただ、その熱狂の中に現実世界の変化の兆しを垣間見ることもあります。
過去の歴史から日本とは難しい問題を抱える、国民感情も良好とは言い難い面もある中国・韓国ですが、今回の岡田ジャパンの健闘に対する評価・国民の反応はそこそこ良好だったようです。

****「日本は嫌い、でも祝福」中国、客観的に技術評価****
日本がデンマークを下した直後の25日朝、中国のインターネット上では、「素晴らしい試合だった。日本が好きでない私も心から祝福したい」などと、日本の勝利を祝福するサッカーファンの声が大勢を占めた。
「自らのスタイルを貫いた日本の長年の努力が報われた」「日本の守備は完ぺきだ」「遠藤選手のフリーキックは芸術的」といった賛辞が続く。メディアでも称賛があふれ、勝利の原動力となった本田圭佑選手を「本田発動機」と表現する新聞もあった。

国を背負って対決するサッカーの試合は、ファンの愛国心を燃え立たせる。日中戦は反日行動の導火線となってきた。
今回も、グループリーグ第1戦、第2戦では、日本の勝利に落胆したり、敗北に安堵したりする反日的な声はあった。だが、今回は明らかに、日本代表の技術を客観的に評価する声が増えている。
中国の代表チームが今大会に出場しておらず、「ファンが心に余裕を持って、冷静に日本の試合を観戦している」(日中関係筋)という事情はあるものの、かつてのように、「日本」と聞けば集団でブーイングを浴びせ、日本擁護論には「売国奴」の罵声をたたきつけていたような状況とは違う。
より大きな背景としては、中国人が、自国に対する自信を付け始めたことがあるようだ。中国は急速な経済成長とともに国際社会で存在感を強め、今年中に国内総生産(GDP)で日本を抜いて世界2位の経済大国となる見通しだ。日本のサッカーを、純粋な「スポーツ」として楽しむ余裕が出てきたともいえる。

ネット上の日本声援に関しては、「ファンの反日行動を警戒する当局が、反日感情をあおる書き込みを削除している」との見方がある。W杯で日中戦が実現すれば、「日本たたき」が燃え上がるのも間違いない。
サッカーでの反日行動 2004年夏に中国で開催されたアジアカップで、中国人観客が日本チームにブーイングを浴びせたり、ペットボトルを投げつけたりする行為が頻発。日中対決となった北京での決勝戦では、中国の敗北に腹を立てた観客が暴徒化し、日本大使館の公使らを乗せた公用車が襲われる事件となった。愛国教育の影響を受けた中国の若者の強い反日感情が背景にある。その後も、日中戦では治安当局は厳戒態勢を敷いている。【6月25日 読売】
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同様の報告は、韓国からも寄せられています。
*****今回は「反日」なし、韓国・中国もサムライ絶賛******
韓国、中国では25日、サッカー・ワールドカップ(W杯)で16強入りを決めた日本を絶賛する声が相次いだ。
歴史的要因から反日感情が根強い両国にあって、民族感情がほとばしるサッカーはこれまで、一種の「反日イベント」でもあった。「反日」を超えたエールは、急速に国力を伸ばす中韓に表れ始めた対日観の変化の兆しを反映しているようだ。(中略)
韓国マスコミも、日本戦を大々的に報道。25日朝には、韓国紙・朝鮮日報(電子版)が、「韓国と日本がアジアサッカーのプライドを保った」と報道したほか、聯合ニュースも、「『永遠の好敵手』韓国と日本がアジアサッカーの歴史を書き換えた」と伝えた。

韓国では1998年に金大中大統領が就任し、日本の大衆文化を段階的に開放。日韓の草の根交流が定着する契機となった。しかし、日韓外交筋によると、2002年のW杯日韓共催大会の当時でもまだ、韓国では表だって日本を応援出来ない空気が支配していた。同筋は、「日本の好プレーにはブーイングが起き、対戦国の得点や好プレーに拍手がわくほどだった」と振り返る。
しかし韓国は、同大会でアジア勢初の4強進出を果たしたのを手始めに、06年のトリノ冬季、08年の北京夏季、10年のバンクーバー冬季と3大会連続の五輪で、獲得メダル数において日本を凌駕。経済も好調であることに加え、今年11月の主要20か国・地域(G20)首脳会議や、再来年の「核安全サミット」の開催国となるなど、韓国民の自尊心を満足させてきた。外交筋は、「経済や国際社会における『克日』により、韓国人が余裕を持って、日本を冷静に見られるようになってきている」と分析する。
ただし、領土問題や歴史問題をめぐり、韓国世論が反日的になる可能性は依然ある。日韓関係の詳しい李勉雨・世宗研究所首席研究委員は、「韓国人の日本を見る目は複眼的になってきている。良い点を客観的に認めることと、歴史問題への反発は、韓国人にとって全く別のことだ」と指摘する。【6月25日 読売】
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昨夜の日本・パラグアイ戦についても、好意的な報道が多いようです。
****日本代表「尊敬に値する」中国各紙が称賛*****
中国各紙は30日、W杯南ア大会の日本―パラグアイ戦を紹介し、日本に賛辞を贈る論調が目立った。
京華時報は別刷り特集で日本戦を3ページにわたって詳報。「最も残酷、悲壮な形でアウトになった」としたが、「日本チームの活躍は尊敬に値する」と称賛した。また、「日本や韓国、豪州などのアジアチームの旅は終わったが、(戦績は)アフリカや欧州にも負けていない」と評価。北京青年報も「日本は胸を張って帰国できる」と賛辞を贈り、「W杯の洗礼を受け、さらに強くなるだろう」と予想した。【6月30日 読売】
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****岡田監督「日本サッカー史に名残す」韓国メディア*****
韓国メディアは30日、日本がパラグアイに「惜敗」したと報じ、「120分間の大接戦を演じた」と伝えた。
聯合ニュースは日本代表チームを「サムライ・ブルー」と表現し、「血を流すような戦いの末、PK戦で涙を流した」と報道。松井大輔選手が22分に放ったミドルシュートがクロスバーを直撃したことなどをとらえ、「決定的チャンスが目立った」と戦いぶりを詳報した。
公共放送KBSも、「南米の強豪と対等に戦った」と評価した。好セーブを見せたGK川島永嗣選手を取り上げ、「波状攻撃をよく防ぎ、ゴールを堅守した」とたたえた。
岡田武史監督が退任を示唆したことにも触れ、国外開催のW杯で初めて16強入りに導いたことで、「日本サッカー史に名を残した」と指摘した。【6月30日 読売】
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中国・韓国ともに、自国に対する自信を深めていることが、反日的な感情の噴出をおさえているようです。
もちろん、話はW杯に関する動きではありますが、今後の中国・韓国との関係構築において、明るい期待も抱かせてくれます。まあ、そんなことを言うと、加害者としての歴史を忘れてもらっては困る。それとW杯は別物だ・・・と叱られるのでしょうが。

【「狂った男たちが跳びはねているのを見ても何の得にもならない」】
その他、世界での話題を拾うと、バングラデシュでは12日夜、テレビ放送されていたアルゼンチン対ナイジェリアの試合中に停電が発生し、試合を見ることができなくなったサッカーファンたちが暴動を起こす騒ぎとなりました。

アフリカ・ソマリアではW杯TV観戦も命がけです。
****W杯観戦は命がけ 殺害事件発生 テレビ見たらむち打ち刑に****
アフリカ東部ソマリアで暫定政府などと戦闘を続けるイスラム過激派組織がサッカー・ワールドカップ(W杯)のテレビ観戦を「非イスラム的」だとして禁じ、観戦すればむち打ち刑にすると宣言、殺害事件も起きるなど、サッカーファンは命懸けでテレビ観戦を続けている。英BBC放送(電子版)などが16日までに伝えた。
これらの過激派は支配地域に厳格なシャリア(イスラム法)を敷き、スポーツや西洋風の衣服着用を禁止している。過激派組織の一つ、ヒズブル・イスラムの広報担当者は「ソマリアの若者にW杯を見ないよう警告する。狂った男たちが跳びはねているのを見ても何の得にもならない」と語った。
ヒズブル・イスラムは13、14両日、首都モガディシオ近郊でW杯をテレビ観戦していた市民らを襲い、2人を殺害、30人以上を拘束した。
国際テロ組織アルカイダに忠誠を誓う別のイスラム過激派組織アッシャバーブもW杯観戦を禁じている。【6月16日 スポニチ】
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内紛のすえ1次リーグで敗退したフランスでは、最近高まっている反移民感情とも連動した動きが。
“現在の代表チームの主流も非白人選手。移民国家フランスの社会の下層で多くの移民、その子孫が貧困にあえぐ中、その「夢」をつなぎ留めてきたのがサッカーだった。しかし、バソール氏は「(移民を含む一部選手による)買春や薬物使用、マフィアとの接触など多くの問題が表面に出てきた」と、「夢」の効果に限界が見え始めた、とみる。
「恥知らず」な一部選手に敗因を求める声も後を絶たない。評論家らは「愛国心を持たず、国歌も知らない」「大金を得られないW杯では手を抜き、フランスに所得税を納めないと吹聴する」「他人への敬意を持たない」と散々だ。”【6月24日 読売】

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中国・人民元問題  弾力化されたものの、アメリカ側期待とはまだ隔たり

2010-06-29 23:26:32 | 国際情勢

(G20出席のためカナダ・トロントに到着した中国・胡錦濤国家主席 “flickr”より By dfait.maeci
http://www.flickr.com/photos/dfait-maeci/4733571437/)

【G20直前の人民元相場弾力化】
中国人民銀行(中央銀行)が19日に人民元相場の弾力化を発表するまで、人民元相場は08年夏から1ドル=6.8元台でほぼ固定されており、対中国貿易で大幅な赤字となっているアメリカには、“中国が不当に為替相場を低く抑えているためアメリカの赤字が膨らみ、結果としてアメリカ国内の雇用が奪われている”との不満が強くありました。(今でも不満は強いので、“あります”と現在形で言うべきでしょうが)

それまで、中国批判を控えてきたオバマ米大統領は1月に「輸出倍増計画を打ち出し、「世界経済の不均衡是正のためには、市場実勢に基づいた人民元相場の形成が不可欠」と強い調子で人民元切り上げを要求。
これを契機に、米上院で民主、共和両党の議員団が中国を対象とした制裁法案を発表するなど、米議会の対中強硬論は激しさを増し、中国を16年ぶりに「為替操作国」に認定し、強く人民元切り上げを迫るよう米政府に要求するところとなりました。
しかし、外圧に屈する形ではかえって身動きがとれないとする中国側の立場に配慮してか、アメリカ政府は4月、為替操作国の認定作業を延期。以後も表立って人民元切り上げを強く求める行動を控えてきました。
こうした動きは、核開発を進めるイラン追加制裁への中国の協力を取り付けるため・・・とも見られていました。

イラン追加制裁問題が一段落したこともあってか、オバマ米大統領が、26日からカナダ・トロントで開かれた金融サミットを前に、参加する20カ国・地域(G20)の首脳に書簡を送り、中国人民元を念頭に為替改革を求めたことが明らかにされました。
また、バートン大統領副報道官はアメリカ財務省が4月から延期していた外国為替報告書の議会提出をサミット後に行うと述べています。これは、サミットまでに改革を実行しなければ「為替操作国」認定もあり得ると中国に警告したものと見られています。

こうした経緯を受けて、19日、中国人民銀行(中央銀行)が人民元相場の弾力化を発表しました。
発表後1週間が経過した25日の対ドル相場の終値は1ドル=6.7900元と05年7月の人民元改革後の最高値を更新しました。

****人民元:緩やかな上昇、米反発も 弾力化1週間****
・・・主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を控え、人民元高の実績をアピールし、批判を封印する一方で、大幅な切り上げは容認しない姿勢も示した格好。だが、緩やかな相場上昇に米議会が反発を強める可能性も指摘されており、中国を輸出拠点とする日本企業は「急激な元高は避けてほしい」と警戒感を強めている。(中略)
ただ米国は満足していない。オバマ米大統領は24日、人民元相場の弾力化を「初期の動きとしては評価できる」としつつ、「不均衡是正に十分か、評価を下すのは時期尚早だ」と中国にクギを刺した。背景には、「米国の経常赤字が縮小する水準まで元が切り上がらなければ成果とは言えない」(みずほコーポレート銀行の唐鎌大輔氏)との声が根強いほか、今回の切り上げを「アリバイ作り」と見る強硬論があるためだ。
ただ、こうした見方に対して、中国外務省の報道局長はG20で人民元問題を取り上げ、「政治問題化すべきではない」とけん制。さらに、「人民元が(米中の)貿易不均衡の主因ではない」と強調した。(中略)
 
人民元相場の切り上げが小幅にとどまっているため、市場では「世界経済に与える影響は、今のところ限定的」(アナリスト)との見方が多い。ユーロ危機に加え、米国経済の先行きにも警戒感が強まる中、中国では労働者の賃上げ要求が相次ぎ、輸出主導の中国経済を取り巻く環境は次第に厳しくなっている。このため、「(基準値比0.44%高となった)初日のような人民元の大幅上昇が続けば、自国の輸出企業から悲鳴が上がる。上げ幅は年率2~3%程度にとどまる」(みずほ証券の上野泰也氏)との見方も出ている。
ただ、今後、人民元相場が大幅に上昇する可能性もある。その場合、「中国国民の購買力が高まり、世界経済に好影響が出る。日本にとっては中国人観光客の消費が増える一方で、中国からの輸入品価格が上がり、デフレ対策にもなる」(JPモルガン証券の菅野雅明氏)と日本にもメリットが及びそうだ。
しかし、中国を輸出拠点とする日本企業の間では、急激な元高への警戒感が強い。(中略)
「世界の工場」とされてきた中国は、富裕層の拡大もあり、人民元高を機に一気に「世界の市場」になる可能性もある。【6月25日 毎日】
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【米中首脳会談は協調ムード】
事実上の期限と位置づけられたG20の約1週間前という「最後のタイミング」(中国関係筋)を狙った弾力化発表によって、サミットで人民元問題はほとんど議論にならなかったようです。
首脳宣言は「いくつかの新興市場の為替相場の一層の柔軟化」を明記したものの、中国の名指しは控えています。
これは、中国政府の弾力化声明をひとまず歓迎し、今後の相場切り上げ努力に期待する意味があるとされていますが、人民元相場は対ドルで「最大40%過小評価されている」という見方が強いアメリカ側との隔たりはまだ大きなものがあります。

****米中首脳会談:人民元相場弾力化 米、「成果見極め」強調****
オバマ米大統領と中国の胡錦濤国家主席が26日、カナダ・トロントで会談した。中国が19日に人民元相場の弾力化を表明してから初のトップ会談だったが、オバマ大統領が一段の上昇を促したのに対し、胡主席は慎重な姿勢を示し、今後に火種を残した。韓国の哨戒艦沈没事件を受けた国連安全保障理事会の北朝鮮非難決議案をめぐっても、オバマ大統領が協力を求めたが、胡主席は慎重な姿勢を崩さず、米中の溝は埋まらなかった。

「具体的に(人民元改革が)どう実行されるかが重要だ」。会談でオバマ大統領は人民元の弾力化方針を歓迎しつつも、今後の相場の動きを見極める姿勢を強調。「世界経済の安定成長に向けて中国の果たすべき役割は多い」と一層の内需拡大などを求めた。
会談は冒頭、両首脳が米中関係の発展を確認し、胡主席がオバマ大統領から出された国賓としての訪米要請を受け入れるなど協調ムードを演出した。主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)直前に発表した人民元弾力化の「実績」を手に会談に臨んだ胡主席の狙い通りの展開だったとも言えるが、オバマ大統領が要求を緩めたわけではなかった。
米国では失業率が高止まりし、米議会などでは「安価な中国製品が大量に流入し、雇用を奪っている」との批判が強い。25日の人民元の対ドル相場は前週末比0.53%高と、緩やかな上昇にとどまっている。秋に中間選挙を控え、雇用に神経をとがらせる米議会では「(弾力化の)効果が出なければ断固行動する」(レビン下院歳入委員長)と対中制裁もちらつかせている。
だが、新華社通信によると、胡主席は会談で「対米貿易黒字を追求するつもりはなく、中国は以前から米国からの輸入を拡大する措置をとっている」と主張し、人民元の切り上げ圧力をけん制する立場を示した。中国側は「輸出依存から内需拡大に向けて経済成長モデルの転換を図っており、今回の為替レートの変化はこれを反映したものだ」(馬欣・国家発展改革委員会外事局長)と自らのペースで相場弾力化を進める姿勢を崩していない。【6月27日 毎日】
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この米中首脳会談では、人民元問題をめぐる激しい応酬はなかった模様です。
中国の弾力化実施で、“正面からの対立はひとまず避けられた。しかし対立の火種はくすぶったままだ。”【6月27日 朝日】といったところです。
“ガイトナー米財務長官は今年4月、中国を「為替操作国」と認定するかどうかが焦点だった外国為替報告書の提出を延期。今回のサミットまでの3カ月間を「猶予期間」とし、中国側の自発的な行動を待った。
実際に中国がサミット直前の19日に人民元の弾力化を発表したことに、米国側は自信を深めた。
米政府高官は朝日新聞の取材に「ガイトナー長官が意図した通りになった。長官にとっての勝利だ」と語る。ただ「あうん」の呼吸で中国の行動を引き出す戦略が奏功しただけに、米政府はいまも中国への配慮をにじませる。”【同上】

【オバマ大統領「容認できない」】
人民元問題は、サミット、米中首脳会談では比較的穏やかだったような報道でしたが、27日のオバマ大統領の発言は、中国を為替操作国に指定することも辞さない構えを示し、中国に一段の切り上げを強く求めるもので、中国に対しこれまでになく厳しい姿勢を見せています。

****オバマ大統領「人民元まだ割安」…中国反発必至****
オバマ米大統領は27日のG20サミット後の記者会見で、「G20が合意した原則と一致しておらず、(割安な人民元を)容認出来ない」と述べ、人民元問題をめぐる中国の対応を厳しく批判した。
そのうえで、10月に公表予定の為替政策報告書で中国を為替操作国に指定する可能性を示唆し、「3か月後」という期間を明示して対応を求めた。外圧を嫌う中国の反発は必至だ。
中国はG20直前に相場の弾力化を公表したが、1週間の切り上げ幅は0・53%にとどまり、米議会のいらだちが高まっている。11月には中間選挙を控えている。人民元問題を放置しておけば、大統領が、選挙を控えた議員たちから厳しい追及を受けるのは避けられない状況だった。
カナダのハーパー首相によると、G20の首脳宣言に人民元相場の弾力化を「歓迎する」との文言は、中国側の意向で盛り込まれなかったとされる。中国は、人民元問題がG20で議題となること自体に不満が強く、さらなる元高を求める要求に応じる可能性は小さい。
切り上げのペースは、オバマ大統領が「1~2年程度で20%程度の切り上げが望ましい」と考えている可能性がある。これに対し、中国側は、輸出企業への配慮から「1年で3~5%」(政府系シンクタンク研究者)との予想が多く、米中の溝は簡単に埋まりそうもない。【6月28日 読売】
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また、オバマ大統領は、韓国の哨戒艦沈没事件についても、“中国は隣国を見て見ぬふりをするのはやめるべきだ”と、その姿勢を批判しています。
当然、中国は反発しています。
****オバマ大統領に反論=韓国哨戒艦事件の対応で―中国*****
中国外務省の秦剛副報道局長は29日の定例会見で、韓国哨戒艦沈没事件をめぐる中国の対応について、オバマ米大統領が「自制するのと見て見ぬふりをするのは違う」と指摘したことに対し、「中国の立場や(外交)努力は非難しようがなく公正だ」と反論した。
秦副報道局長は、中国が関係国に自制を呼び掛けるのは「朝鮮半島情勢の緊迫化や衝突発生を避けるためだ。火に油を注いだりしない」と主張。さらに「中国は半島に近接しており、この問題に対する感覚は遠く離れた国家とは違う」と述べ、大統領の発言に不快感をあらわにした。【6月29日 時事】
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交渉事は往々にして、交渉相手よりは、身内の強硬派をどうやって納得させるかが問題となります。
アメリカも国内の議会に対中強硬論を抱えています。
中国も、“外圧に屈した”ととられることは、指導層内部の保守派からの批判を浴びます。
オバマ大統領の厳しい発言も、国内世論を意識してのものでしょう。
そして、そうした国内対策で厳しいもの言いをするということも、首脳間では了解ができているのでは・・・とも思えますが、どうでしょうか。

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空洞化が進む核拡散防止条約(NPT)体制

2010-06-28 23:21:30 | 国際情勢

(インドのシン首相(左)とパキスタンのギラニ首相(右)は4月29日、南アジア地域協力連合(SAARC)首脳会議が開催されたブータンで会談。両首相は、08年11月のムンバイ同時テロ以降、冷却化した両国関係を改善する必要があるとの認識で一致し、中断している包括対話の再開に向けて努力していくことで合意しました。この両国関係が安定しないと、NPTの枠外での核開発競争が止まりません。もっとも、インドが最も意識しているのは中国・・・ということで、歯止めは更に難しそうです。“flickr”より By LovelyBhutan
http://www.flickr.com/photos/lovelybhutan/4564020997/)

【インドの次はパキスタン】
原子力関連技術の輸出管理にあたる原子力供給国グループ(NSG)は08年9月6日に、核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドを例外として扱い、原子炉や核燃料の対印輸出を解禁することを、日本など加盟45か国の全会一致で承認しました。
台頭する中国を牽制すべく、インドとの関係を重視し、インドの経済成長を支援するアメリカ・ブッシュ政権がインドと締結した民生用原子力協定を実現するため、インドのみを例外とする「二重基準」に反対する国々を押し切っての承認でした。
米印民生用原子力協定は、対中抑制の他、イラン・パキスタン・インドで計画されていた天然ガス輸送計画からインドを離反させ、イランの孤立化を維持する効果もありました。

その結果、アメリカは中国のライバル・インドとの関係を強化し、イランからインドを引き離すことにもなりましたが、核拡散防止条約(NPT)体制の空洞化が進行しています。
今度は、中国がやはりNPT未加盟国であるパキスタンへの原発輸出計画の承認を求めてアメリカと対立しています。

****パキスタンへの原発輸出計画巡り米中が対立******
原子力供給国グループ(NSG)の年次会合がニュージーランドで開かれ、「NSG非加盟諸国の情勢」を巡る協議を継続するとの方針で合意し、閉幕した。
非加盟国パキスタンへの中国の原発輸出計画を巡り米中が対立し、結論を先送りしたものとみられる。パキスタンと緊張関係にあるインドにのみ例外的に核協力を認める米国とNSGの「二重基準」が露呈し、核拡散防止条約(NPT)体制のほころびが浮き彫りになった形だ。

協議継続の方針は最終日25日の公式声明に記された。中国が輸出を検討するのはパキスタン東部の原発2基。同地には、中国が2004年のNSG加盟前に建設した稼働中の別の1基と、加盟前に計画した建設中の1基があるが、今回の計画は加盟後に表面化した。
NSGのガイドラインは、国際原子力機関(IAEA)の包括的保障措置の適用を輸入国に求めているが、パキスタンはNPT非加盟で同措置の適用も受けていない。このため中国の今回の輸出計画はガイドライン違反の可能性があり、米メディアによると、米国は年次会合前に反対方針を決めた。

ただ、米国自身、ガイドラインの適用が「差別的」(パキスタン紙)との批判を浴びている。対中抑止などのため、NPT非加盟国のインドと原子力協定を結び、08年のNSG会合では対印輸出の解禁を例外的に認めさせたためだ。
インドへの核協力は民生分野に限られているが、インドにとっては核物質の輸入で自国産ウラン全量を軍事用に回せる利点がある。保有核弾頭70~90基とみられるパキスタンと同60~80基とされるインドの軍事均衡を崩す恐れがある。
原発ビジネス拡大を狙うフランスやロシア、カナダなどは続々と対印協力を進めており、日本も25日、対印協定の締結方針を発表した。こうした姿勢は、NPT脱退を宣言した北朝鮮や、IAEAの保障措置協定に違反するイランの核開発にも正当性を与えかねない。【6月27日 読売】
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インドとアメリカの原子力協定が認められ、パキスタンへの中国の原発輸出が認められない・・・というのは、理屈上は説明困難です。「二重基準」の批判が当然起こります。

【NPTとNSG】
現在の核管理体制の根幹をなす核拡散防止条約(NPT)は、68年の締結時に核兵器の保有を5カ国(米英仏露中)に限り、それ以外の国には核兵器保有を禁止する代わりに、原子力の民生利用を認め、核兵器開発を防ぐため国際原子力機関(IAEA)による核施設査察を受け入れることを義務づけました。
しかし、インド、パキスタン、イスラエルの3カ国はNPTに加入せず、北朝鮮は85年にNPTに加入したものの03年1月に脱退を宣言しています。
そして、これらの国は独自の核開発を続行しています。

1974年のインドの核実験によって、原子力発電技術は、簡単に核兵器への技術転用が可能であることが分かりました。
このため、核不拡散条約(NPT)を批准した国家間で、原子力技術およびそれに関連した設備の輸出には何らかの制限が必要であるという認識から原子力供給国グループ(NSG)が生まれ、NPT非加盟国に核技術などを移転しないことで核兵器開発阻止を目指しました。
さらに、02年のイランの秘密核開発計画発覚を機に、IAEAの抜き打ち査察を認める追加議定書を締結しない国には原子力技術などの輸出を認めない強化策も模索されました。
しかし、そのNSGにおいて「二重基準」が問題となっているのが、上記のインド・アメリカ、パキスタン・中国の問題です。

【「核のアパルトヘイト(差別政策)」】
核に関する「二重基準」としては、NPT加盟国でIAEAの査察も受け入れているイランの核開発が国際社会から厳しく批判されているのに、NPT未加盟のイスラエルの核保有をアメリカなどが黙認しているという問題もあります。
5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議、国際原子力機関(IAEA)の6月理事会で、「中東非核化構想」として、この問題がクローズアップされています。

****IAEA理事会:イスラエル「核」で応酬…アラブVS米欧****
国際原子力機関(IAEA)の10日の定例理事会で、イスラエルの「核能力」が91年以来19年ぶりに議題になった。核問題で防戦一方だったイランや、アラブ諸国は「イスラエルの核こそ国際社会の深刻な懸念」などと非難。一方、米欧はイランの核問題など「喫緊の課題から目をそらさせるのが狙いだ」などとして議題自体に反対した。議論は「入り口論」に終始し、核問題を巡る対立の根深さを改めて浮き彫りにした。

イランやアラブ諸国は、昨年9月のIAEA総会決議や、今年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書などを論拠に、核保有国とみられているイスラエルにNPTへの加入やIAEAの包括的保障措置(査察)への参加を迫った。特に、NPT加盟国でIAEAの査察も受け入れているイランは、米欧の「二重基準」に不満を表明。IAEAがイスラエルへ調査団を派遣するよう改めて要請した。
これに対し米国は「イスラエルはIAEAの義務に従っている」と擁護。イスラエルの核問題を取り上げることが「(反対勢力による)IAEAの政治利用」につながると主張した。欧州連合(EU)も、米欧の反対を押し切る形でイスラエルの核問題が議題になったことに遺憾の意を表明。イスラエルは、イランなどの核問題が焦点になる中で「イスラエルのみを名指しした決議は適当ではない」として、昨年の総会決議自体を改めて拒否した。
【6月11日 毎日】
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5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議においては、“イスラエルの核問題は再検討会議でも最大の難問だった。アラブ諸国など非同盟諸国は中東非核化会議の開催を求め、親イスラエルの米国は2012年開催を受け入れた。最終文書には、非核化会議に対するIAEAの協力を求める条項も盛り込まれた。一方で米国は、同会議を交渉の場と明示しないとの条件を非同盟諸国にのませた。イスラエルの会議参加の道筋も不透明なまま残された。”とのことでしたが、玉虫色の妥協は早くも壁に直面しています。
スンニ派対シーア派という関係で必ずしも利害がイランとは一致しないアラブ世界の地域大国エジプトも、今回はイラン支持に回っています。
中東カタールの衛星テレビ「アル・ジャジーラ」(12日付、電子版)は、イスラエルとイランに対する米欧の核政策の違いを、「核のアパルトヘイト(差別政策)」と批判しています。

もとより、核拡散防止条約(NPT)自体が一部の国に核保有を認める「二重基準」そのものでもある訳ですが、“現実を考えると、そうは言っても・・・”というところで存在する、核拡散へのかろうじての歯止めとしてのNPT体制も、インドやイスラエルへの「二重基準」で空洞化が懸念される状況です。

【「日本だけが違う判断を行うことは困難」】
唯一の被爆国として核軍縮を進める立場にある日本も、現実とのかねあいで微妙です。
菅内閣は25日、インドへ原子力発電の技術や機材を輸出するために必要な「日印原子力協定」の締結交渉入りを決めました。
核不拡散条約(NPT)非加盟で核を保有するインドとの原子力協力にはNPT体制を弱めるとの懸念があり、日本政府は慎重姿勢でしたが、インドに原発を輸出したい産業界などの要請を受け、方針を転換したものです。

****日印原子力協定、受注競争乗り遅れに危機感*****
日本政府がインドと原子力協定を締結する見通しとなったのは、米国などが次々と同協定を締結する中、日本企業がインドでの原子力発電所建設の受注競争に乗り遅れることへの危機感が強まったことが一因だ。
日本政府は、核兵器を保有するインドに核拡散防止条約(NPT)に加盟するよう求めてきた。
岡田外相は25日の記者会見で、「国際社会の方向性が固まった時、日本だけが違う判断を行うことは困難になってきた。非常に苦しい判断だ」と述べた。

政府は日本が持つ原発関連の高い技術力を生かし、海外での日本企業の受注獲得に前向きだ。特にインドは電力需要の増加が見込まれ、最重点国の一つだった。インドの温室効果ガス排出を抑え、地球温暖化対策に貢献できるとの読みに加え、対中国をにらみ、インドとの一層の関係強化が不可欠との判断も後押しした。
他方、インドへの原発関連の技術協力をめぐっては「北朝鮮やイランに核開発を進める口実を与える」といった慎重論も根強い。
民主党も野党時代には「NPT体制の形がい化を招く」と反対してきた経緯もあり、整合性を問われる可能性もある。【6月26日 読売】
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核軍縮の理念と現実の間で、“現実”が優先した形です。
しかし、こうした対応は、インド、更にはイラン・北朝鮮など強引に核開発を進める国を利することにもなり、将来的には別の現実を日本につきつけることにもなります。

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中国社会の「拝金主義」  「向銭看」に「拝金女」

2010-06-27 12:57:19 | 世相

(過激な拝金主義的発言でTVから締め出された馬諾さん “flickr”より By Wonderful Beauty Girl
http://www.flickr.com/photos/wonderful_beauty_girl/4734463740/)

【「向前看」から「向銭看」へ】
経済成長著しい中国について、そのスピード・迫力に圧倒される思いも含めて、「拝金主義」の批判・評価がよくなされます。

確かに、秋葉原などに押し寄せて高額な商品を買いまくる中国人観光客の姿(今後の日本経済を支える重要な柱のひとつがそうした中国人の購買力である訳ですが)、TVで観る上海など大都市での不動産投資に群がる人々・・・そうした「欲しいものなら何でも買うよ。カネならあるよ」といった、カネを振りかざした“あからさま”な言動には、眉をひそめる思いも禁じえません。

実際に中国を観光旅行したなかでは、カネに関して特別何かを感じることはありませんでしたが、列に並ばないとか、あたりにゴミを捨てるとか、中国社会の人目を気にせず自分の利益を追求する、いわゆる「公衆道徳や社会マナーの低さ」は感じます。そうした印象と最近の経済成長が結びついて、成金的「拝金主義」のイメージが膨らむところもあります。

「拝金主義」云々は今に始まった指摘ではなく、私が中国語をほんの少しだけ勉強する機会があった20年ほど前にも「向銭看」という言葉が、中国人の間で世相を風刺する意味で使われていました。
70年代、80年代の毛沢東時代の革命精神高揚スローガン「向前看」(前向きに シャン・チェン・カン)と同じ発音であるところから、90年代に当時の社会風潮を揶揄する「向銭看」(お金第一)という言葉が使われたものです。

【「私は自転車に乗って笑うより、ベンツで泣いた方が良い」】
最近流行りの言葉では「拝金女」でしょうか。
****貧乏男は結婚できない=中国は「拝金女」の時代に****
米紙ロサンゼルス・タイムズは記事「ボーイフレンドたちにトラブルをもたらす中国住宅ブーム」を掲載した。中国人女性の多くは住宅を持たない男とは結婚しないと決めており、不動産価格の上昇に伴って中国にはつらく切ない新世代の独身男たちが誕生しているという。23日、銭江晩報が伝えた。

マイク・チャンさんは今年28歳。こじゃれたイタリアンレストランでの注文もそつなくこなし、彼女のバッグはいつも持つなど、彼氏としての資格は十分にあると自覚。しかしガイドと翻訳という仕事では、地価が急騰している北京でマンションを買うことはおぼつかない。もう時間を無駄にできないと言って、2年間つきあった彼女に振られてしまった。
チャンさんの不幸は彼だけの問題ではない。中国のお見合いサイトを見ると、女性側は必ず「住宅を所有していること、車を持っていること」との条件を挙げている。例えば、「私は今年25歳、彼氏を探しています。住宅と車を持っている人を希望します。住宅は2000年以降に建設されたもの、車は軽ワゴンよりもいい車が条件です」といった具合だ。
かつての中国はみなが貧しく、結婚にあたりパートナーの経済状況を問題にすることはなかった。ある専門家によると、住宅こそが男性の成功であり、家庭を持つだけの経済力の証明だという。昨年、あるサイトが実施した調査によると、73%が「住宅は結婚の必需品」と回答した。そして同程度の比率で「住宅を買うのは難しい」との回答が得られた。

こうした時代性を背景に生まれた新たな女性のイメージが「拝金女」。その象徴とも言えるのが人気お見合いテレビ番組「非誠勿擾」に出演していた馬諾(マー・ヌオ)。あっけらかんと「お金を持っているの?」と質問し、「私は自転車に乗って笑うより、ベンツで泣いた方が良い」と言い放つ姿は象徴的だった。
北京市の不動産仲介機構に勤める王海軍(ワン・ハイジュン)さんになると、絶望的になった独身男は一目で分かるという。「収入が少ないのに、すぐにでも家を購入しようとします。住宅ローンは最長期間、しかも最高利率でも気にしません。結婚するには他に選択肢がないのですから。本当に同情します」と話す。
前述のチャンさんは言う。「『愛している。僕に家がなくてもいいのならば結婚しよう。』彼女にそう言いました。でも答えはノーでした」。チャンさんは今、自分の魅力ゆえに愛してくれる女性を、住宅があろうとなかろうと愛してくれる女性を探しているという。【6月26日 Record China】
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【日本でも同じようなことは】
「カネのことを人前であからさまにするのは“あさましい”」とする風潮、建前、あるいは“文化”がある昨今の日本からすると、いかにも「拝金主義」を思わせる最近の中国社会ではあります。
ただ、その多くはかつて日本がたどってきた姿とも重なるものであり、今でも日本で普段に見られる姿でもあります。

かつて札束を握りしめ、ヨーロッパの有名店などの押し寄せた日本人観光客の群れを、現地の人は同じような目で眺めていたのでしょう。
北京出身のモデルでカネに縁のない男性には「毒舌」を浴びせる馬諾さん(22歳)と同じような発言をする女性は、日本のTV番組でもよく見かけます。(目立つための発言でもあるでしょうが) 「私は自転車に乗って笑うより、ベンツで泣いた方が良い」などより露骨な発言も別に珍しくもありません。

なお、馬諾さんのような発言は中国でもさすがに顰蹙を買ったようで、中国政府のラジオ・テレビ総局は人気がある一方で「内容が低俗」などと批判も出ているテレビのお見合い番組に対する規制強化をテレビ各局に通達しました。そして、馬諾さんは番組から降板させられるなど締め出されているようです。
一般世論も、「拝金女」批判に向かっているようです。

“ズバズバ辛口で物を言う姿勢が人気の「電波怒漢」こと司会者の万峰(ワン・フォン)氏が「拝金女」(拝金主義の女性)を痛烈に批判し、視聴者の喝采を浴びている。ネット上で行われた支持率調査では90%を獲得した。最近、一部の地方衛星テレビのお見合い番組で拝金主義の若者が目立つようになり、マスコミや視聴者は強い不快感を示していた。当局もマスコミの影響力は侮れないと感じたのか、こうした風潮を粛正する動きに出た。”【6月9日 Record China】
「拝金主義」云々より、当局の報道規制で馬諾さんが締め出されてしまうという方が中国社会の重大な問題でもありますが、その件は今回は触れません。

【「まじめに働くだけではお金持ちにはなれない」】
「拝金女」に象徴されるような「拝金主義」の風潮の蔓延のなかで、若者は投機による一攫千金を目指す傾向が強まっているそうです。
****青年の7割「マジメに働いても金持ちになれない」、3割「先物などに手出している」****
2010年6月22日付の中国青年報によれば、「まじめに働くだけではお金持ちになれない」と考える人が7割を超えることがわかった。中国青年報社会調査センターが1万1557人を対象に行った調査の結果から判明した。

調査の対象は1980年代生まれの人が59.3%、70年代生まれの人が25.4%。株や不動産、美術品や外貨、先物取引やファンドなどで蓄財する「炒銭族(投機家)」が目立って増えていることについて質問を投げかけた。結果、30.6%の人が「自分は炒銭族である」としているという。また、「身近に炒銭族がいる」と答えた人は88.1%、そのうち36.1%の人が「炒銭族はわりと多い」と答え、13.7%の人が「非常に多い」と答えた。
また、調査対象の76.8%が「まじめに働くだけではお金持ちにはなれない」と考えており、大多数の人が「長年働き続けても数十万元の貯蓄をつくるのがせいぜいで、本当に財をなすには仕事などせず、投資をするしかない」と考えており、こうした考えに否定的な人はわずか14.8%でしかないことも判明した。(中略)

こうした社会趨勢について専門家からは、「金が金を生み、投資がさらなる富を築く時代に、労働の意義を忘れ、社会貢献に関心を向けない若者が増えることは大きな問題」「投機で簡単に富を得るという安易な発想は危険。どんなベテランでも最終的に運も関わってくる世界」「長期的かつ安定した仕事を、生活の主軸に据えるべき」「流行に乗らず、自分自身がどんな生活を送りたいかという人生設計が必要」との意見が出ている。【6月24日 Record China】
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これは、若者だけでなく、中国人一般に見られる「バクチ好き」の風潮の反映でもあるでしょう。

【「人としての尊厳」が守られた生活】
中国の「拝金主義」に関する中国自身の分析がありました。
****69%が「お金は成功の証」、中国人はなぜここまで拝金主義なのか?*****
2010年6月22日、中国の大手ポータルサイト「騰訊網」は中国人の69%が「お金は成功の証」と考えている現状について、中国は古くから「金=権力=地位」だったことが原因の1つだと論じた。以下はその概略。

ロイターと調査会社Ipsosが2月に発表した意識調査によると、調査対象となった世界23か国、計2万4000人のうち、「お金は成功の証」と考える割合は中国が69%で最も多かった。一方、かつて義憤に満ちた中国人から金満国家と蔑まれた米国はわずか33%だった。これを受けて人民日報系のニュースサイト「環球網」が実施したオンライン調査でも、60%が「自分は拝金主義だ」と認め、95%が「中国人の拝金ぶりは深刻」と答えた。

中国人はなぜここまで拝金主義なのだろうか?それは古くから「金=権力=地位」という構図が成り立っていたことと関係が深い。要するにお金があれば、全てを手に入れることが出来た。例えば裁判があっても、お金がある方が必ず勝つ。そこに正義など存在しないのだ。最近の中国では「拝金女」(拝金主義の女性)に対する風当たりが強いが、彼女たちは「人としての尊厳」が守られた生活を送りたいと願っているだけなのかも知れない。

自由な社会には拝金主義など必要ない。世界で最も自由な国の1つである米国にも「拝金女」がいないわけではないが、中国ほど激しくはない。少なくともテレビのお見合い番組で、「持ち家」や「札束」ばかり気にするような発言はしないだろう。自由な社会は多元的で人々は思い思いの方法で幸せを追い求めることができる。価値観が多様なため、必ずしもお金に走る必要はないのだ。

中国当局はテレビ番組で平然と「拝金主義」を主張するタレントの締め出しを始めた。だが、臭いものにフタをすれば、中国社会から「拝金主義」が一掃されるのだろうか。【6月25日 Record China】
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一部は、革命前の社会、あるいは「大躍進政策」の時代という生き残ることが難しかった時代から急速に経済成長してきた中国においては、成長の過程でみられる一般的な歪がより強く出ているだけで、やがて時間とともに解消するのかも。
ただ、一部は、儒教・仏教文化、あるいはキリスト教文化といった精神的基盤を欠いた社会のもたらすものなのかも。

もちろん、中国と日本では「カネの使い方」に差があること、「中国人」と言っても、カネの苦労を知らない若い世代、カネより権力に興味を持つ北京人に対しカネに合理的な上海人など、中身は多様です。
そのあたりは、李 年古氏のサイト「中国人の金銭観」
http://www.bizchina.jp/modules/story/?op=viewserial&serial_id=1&serial_count=1)にわかりやすく紹介されています。

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貧困に苦しむサブサハラ サハラ砂漠に「緑の壁」

2010-06-26 13:11:22 | 世相

(“flickr”より By NPJB http://www.flickr.com/photos/npjb/2296043606/)

【依然厳しいサブサハラ各国の状況】
世界の貧困は、総じて言えば、急速に改善しつつあるということのようです。
****国連報告書:「貧困半減」は達成可能*****
国連は23日、貧困人口半減など8項目の目標を設定したミレニアム開発目標(00年採択)に関する報告書を発表した。2015年の期限までに貧困の半減は達成可能だが、金融危機後の不況で改善の速度は鈍り、職に就きながら貧困に苦しむ「ワーキングプア」は増加した。
国連の潘基文(バンキムン)事務総長は報告書で「目標の達成は万人の務めだ」と指摘し、各国にさらなる努力を訴えた。9月の国連総会で、残り5年間の取り組み方針を確認する見通しだ。

報告書によると、1日1.25ドル未満(00年時は1ドル未満に設定)で暮らす「貧困人口」の数は、18億人(90年)から14億人(05年)に減少し、総人口に対する割合も46%から27%に。15年には推定15%、人口で9億2000万人に減る。中国やインドで貧困層が解消されつつあるためで、アフリカのサハラ砂漠以南(サブサハラ)の各国は依然、厳しい状況にある。
08年発生の金融危機後、職がありながらも1日1.25ドル未満で暮らすワーキングプアの割合は発展途上国で26%(08年)から31%(09年)に増加するとみられる。やはり途上国で飢餓に苦しむ人も、経済危機と食料価格高騰のため、総数は1300万人増の8億3000万人となった。
初等教育への就学率は発展途上国全体で89%(08年)に改善したが、サブサハラは76%と低率。男女間の教育機会均等でもサブサハラや南アジアでは格差が依然残っている。【6月24日 毎日】
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大規模な戦乱がなく、経済活動が活発化すれば、所得水準は向上していくものと思われます。
中国で起きている外資系企業を狙い撃ちにした労働争議による賃金上などは、一例でもあるのでしょう。
もちろん、所得水準向上の過程で、“格差”という厄介な問題も生まれますので、あまり楽観的になるのも禁物ですが。
地域的にみると、上記記事にあるようにアフリカのサハラ砂漠以南(サブサハラ)が依然として厳しい状況にあります。

【サハラ砂漠は拡大? 緑化?】
サブサハラ、特にサハラ砂漠南縁のサヘル地域の現状及び今後を左右するのが“サハラ砂漠”の存在です。
常識的には、世界で進行している砂漠化のなかで、サハラ砂漠も周辺地域を砂に飲み込みながら拡大していると思われています。そして、そのことが周辺地域の農耕・牧畜に打撃を与え、貧困を生みだしているとも。

例えば、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、サハラ砂漠周辺に位置するアフリカ中部・西部では、気候変動の影響により大多数の国で降水量が激減していると言われています。作物は枯れ果て、土壌侵食が進み、各地の農業は甚大な被害を受けており、砂漠化が今後も続くと、アフリカの農地の3分の2が2025年までにサハラの砂に飲み込まれる可能性があると国連では予測しています。

ただ、広範囲・長期間にわたる観測を必要とする気象現象には、いつも異論が存在します。
サハラ南縁部についても、地球温暖化による気候変動によって再び植生が変化しつつあり、緑化の兆候もあるという報告もあるようです。

****サハラ砂漠、気候変動で緑化が進行か****
地球温暖化はアフリカ大陸に砂漠化、干ばつ、そして絶望をもたらすといわれているが、実際の筋書きは大きく異なるのかもしれない。気温上昇によって、同大陸の最も乾燥した地域に住む人々の暮らしが豊かになるという研究結果が出たのだ。
サハラ砂漠とその周辺地域は現在、降雨量の増加で緑化していることが確認されている。これが一時的な傾向でなければ、干ばつで苦しめられてきた地域に農村が復活することも考えられる。
サハラ砂漠は約1万2000年前にも緑豊かなサバンナに変化したことがあるが、研究モデルではそのときの気候が再来し、砂漠が減少するという予測が立てられている。
衛星画像によって、サハラ砂漠南縁部を3860キロにわたって東西に広がるサヘルという半乾燥地域に、緑化の兆しが見られることが確認された。
「Biogeosciences」誌に掲載された新しい研究論文によると、1982年から2002年に撮影された画像から、サヘル全域で緑化が進んでいることが確認できるという。また、チャド中央部やスーダン西部などでも植生が非常に豊かになっている。

ドイツにあるマックス・プランク気象研究所のマルティン・クラウセン氏は、「気温が上がれば大気の保水性も上がり、結果として雨が多くなる。取りざたされている変化は、結局はそういうことなのではないか。主な要因は大気の保水力ということだ」と第三者の立場でコメントしている。 (中略)

しかし、気候変動が今後サヘルにどのような影響を与えるかについては、すべての気象学者の意見が一致しているわけではない。一部では降雨量が減少するという研究結果も出ているのである。ハーズマ氏も、「まだ確かなことが言える段階ではない」と認めている。
前出のマックス・プランク気象研究所のクラウセン氏は次のように解説する。「北アフリカはとにかく気候変動の予測が難しい。面積が広大な上、モンスーン雨を引き起こす高高度の風も予測が困難だからだ。発表された気候モデルの半分は湿潤化を示しているが、半分は乾燥化を示している」。【09年8月3日 National Geographic News】
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サハラの砂漠化は進行・拡大しているのか?それとも湿潤化・緑化が進行しているのか?
“一体どっちなんだよ!”と言いたくもなります。
ただ、気象的に緑化傾向が進行しているとしても、人間の側の要因もあります。サハラ地域を含めアフリカでは人口爆発が続いています。食料増産・生活のため、焼畑農業・過放牧・灌木の過度の伐採が行なわれ、結果的に状況が改善しないということも考えられます。

【数世代にわたる息の長い仕事】
砂漠化が進行しているという立場にたてば、その進行を食い止めることが急務となります。
そうした試みのひとつが、「緑の壁」あるいは「緑の長城」と呼ばれる壮大な計画です。

****砂漠化防ぐアフリカの「緑の壁」計画に、100億円超の支援*****
地球環境ファシリティー(GEF)は17日、チャドの首都ヌジャメナでアフリカの砂漠化を食い止めるための「緑の壁プロジェクト(Great Green Wall)」に関する初の首脳会議を開き、計1億1900万ドル(約108億円)を支援すると発表した。
プロジェクトは、西はセネガルから東はジブチまで7100キロ以上に渡って樹を植え、平均して幅15キロほどの森林を作っていくというもので、07年にアフリカ連合(AU)により採択された。砂漠化防止のほかにも、土壌の劣化を防ぎ、サハラ砂漠南縁のサヘル地域の貧困を解消するといった目的もあるという。

会議には、プロジェクトに参加するブルキナファソ、チャド、ジブチ、エリトリア、エチオピア、マリ、モーリタニア、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、スーダンの11か国の首脳が出席した。(中略)
地球環境ファシリティーは、今回発表した支援額を、11か国に相応に配分するとした。同組織は地球規模の環境問題に取り組む国際的資金メカニズムで、182か国の政府のほか、国際機関、NGO、民間企業なども参加している。【6月19日 AFP】
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「緑の壁」の予定全長7100キロのうち、現在までに植林が進んでいるのはセネガル国内だけというのが現状です。
アブドゥラエ・ワッド大統領のもと孤軍奮闘するセネガルの状況、砂漠化進行の問題については、08年11月4日ブログ「砂漠化防止対策  “数百年後”のセネガルの「緑の壁」完成を待つだけではなく・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081104)でも取り上げたことがあります。
セネガルでは2005年からゴムの木とナツメヤシを植林していますが、そのセネガルの取り組みも“今後数世代にわたる息の長い仕事”という状況です。

“当面は資金面での課題が残るが、今後少なくとも25年間、毎年2万5000ヘクタールを植林していく必要があるという。ゴムの木が成長すると、新たな収入源が生まれるとの期待もあるが、関係当局者は「辛抱が肝心だ」と言う。「543キロにもおよぶ植林は、数世代後にようやく完了するという息の長い仕事なのです」”【08年11月3日 AFP】

【先進国支援】
壮大な「緑の壁」は砂漠拡大・農地の浸食を食い止めるだけでなく、雇用創出の経済効果も、また、大気中の二酸化炭素を吸収する温暖化防止効果も期待できます。

25日、カナダ・ムスコカで開幕した主要8カ国首脳会議(G8サミット)において、途上国の開発支援については、アフリカ、中南米9カ国を交えて議論し、母子保健対策の強化で妊産婦や乳幼児の死亡率低下を図るため、先進各国が総額73億ドル(約6500億円)を拠出する「ムスコカ・イニシアチブ」の採択を決めています。菅首相も今後5年間で5億ドルの新たな支援を実施する方針を表明したとか。

「植林だけでは、サハラ砂漠の拡大を食い止めることはできないだろう」という見方もあるようですが、「それでも、時にはそういった壮大な話が、問題に関心を引きつける上で必要な場合もある」とも。
アフリカの「緑の壁」事業を先進国が資金的・技術的に支援していくというのもひとつの方向かと思われます。

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香港  中国政府と民主派最大政党が協議、選挙制度改革案可決 民主派は分裂

2010-06-25 22:30:22 | 国際情勢

(香港2010年1月1日 主催者の発表で約3万人、警察の推計で約9000人が参加し、行政長官・立法会(議会)全面直接選挙の早期実施や中国の反体制作家、劉暁波氏の釈放などを求める民主派のデモが行われました。た。 劉氏が年末に中国の裁判所で懲役11年の有罪判決を受けたことから、香港返還記念日(7月1日)以外のデモとしては比較的大きな規模となりました。しかし、最近の情勢は民主派には厳しい流れがあるようにも見えます。“flickr”より By Charles Mok http://www.flickr.com/photos/charlesmok/4233608419/

【直接選挙枠増加へ】
中国から「高度な自治権」を認められている香港では親中派と民主派の主導権を争っていますが、今回、民主派の要求を一部容れる形で、直接選挙を拡大する選挙制度改革が行われました。

****選挙制度の改革案 香港議会で可決****
香港立法会(議会)は24日、香港特区政府が提出した12年の行政長官と立法会の両選挙制度改革案を可決した。行政長官を選ぶ選挙委員を増員し、立法会の直接選挙枠を条件付きで10議席増やす。
05年には選挙制度改革案が民主派の反対で廃案となった。中央政府は先月末から、天安門事件(89年)以来初めて民主派との直接対話を行い、改革案への理解を求めていた。【6月25日 毎日】
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香港は1997年に中国に主権移譲されましたが、「一国二制度」の採用で2047年まで50年間、自治権の付与と中国本土と異なる行政・法・経済制度の維持が認められており、資本主義のシステムをとり続けることとなっています。
“しかし、香港は「高度な自治権」を享受しているが、「完全な自治権」を認められているわけではない。首長である行政長官は職域組織や業界団体の代表による間接選挙で選出されることになっており、その任命は中央政府(国務院)が行う。
現在、行政長官ならびに立法会議員の「直接選挙(普通選挙)による選出を何時からにするか」が議論の焦点になっており、民主派は2012年からを、親中派は2024年からを主張している。長官選については、2007年12月29日に全国人民代表大会(全人代)常務委員会が2017年に実施される選挙において「直接選挙を先行実施してよい」と容認姿勢を表明、一方で立法会議員の直接選挙については時期は定めていない。”【ウィキペディア】

【捨て身の議員辞職・補欠選挙作戦“失敗”】
立法会議員については、定数60のうち半分の30議席は直接選挙で選ばれますが、残り半分30議席は職能代表に割り振られています。
08年9月の選挙では、民主派は直接選挙枠で30議席中の19議席、親中派に有利な職能代表枠で4議席、合計23議席でした。残り37議席が親中派となっています。
世論調査でみると、香港市民の多くが直接選挙の早期実施を支持していますが、最近、北京との良好な関係を望む声が高まり、民主化や直接選挙への社会的関心が低下していることも指摘されています。

行政長官ならびに立法会議員の12年選挙からの直接選挙を求める民主派は、世論動向への危惧もあり、5名の立法会議員が辞職することで補欠選挙を行わせ、その補欠選挙を事実上の直接選挙実施を求める住民投票にしようという捨て身の作戦にでました。
しかし、5月に行われた補欠選挙に親中派は敢えて候補者を立てず、民主派の思惑を封じ込めました。
また、投票率は17・1%と97年の中国返還以来、最低となったことで、民主派の作戦は“不発”というより“失敗”に近いものでした。

【中国 穏健民主派に接近】
そんな状況で、民主派と中国政府との交渉が報じられていました。
****天安門事件後初の公式会談=香港民主派と中国当局*****
香港民主派最大の政党・民主党の何俊仁主席ら幹部3人は24日、当地で中国政府の出先機関である連絡弁公室の李剛副主任(次官級)と公式に会談し、香港の選挙制度改革について話し合った。
香港民主派が全面支援した本土の民主化運動が武力弾圧された天安門事件(1989年)で同派と中国当局が決定的に対立して以来、両者の公式接触は初めて。
中国はこれまで、本土の社会主義体制に批判的な香港民主派全体を敵視してきた。しかし、香港政府が進める立法会(議会)と行政長官の選挙制度改革を後押しするため、民主党などの穏健民主派に接近する方針に転換したとみられる。【5月24日 時事】
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この接触を受ける形で、香港の曽蔭権行政長官は6月21日、政府の選挙制度改革案に対して民主派最大の政党・民主党が提示した修正案を受け入れると発表しました。
香港両政府は当初民主党案を拒否していましたが、中国政府が容認の姿勢に転じたことから、香港政府もこれに従ったものです。そしてその結果が、冒頭記事にある選挙制度改革案可決という訳です。

【「裏切り者」批判】
一連の流れ、特に、民主派の補欠選挙作戦の“失敗”という状況で、敢えて中国が民主派に一部歩み寄ったとも見える動きについては、その意図がよくわかりませんでした。
しかし、下記記事で、中国による民主派切り崩しの実態が観て取れます。

****選挙制度改革案を表決へ=民主派は分裂―香港立法会****
香港立法会(議会)は23日、本会議を開き、政府が提出した選挙制度改革案の審議を開始した。同案は親中・親政府派全員と民主党など穏健民主派の賛成で可決される見込みだが、まず多くの議員がそれぞれ意見を表明するため、表決は24日に持ち越される可能性もある。
社会民主連線(社民連)などの急進民主派は、民主党案を取り入れて修正した政府案にも反対し、同党を「裏切り者」と非難。民主派は完全に分裂状態となっている。【6月23日 時事】
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先の議員辞職・補欠選挙作戦についても、辞職届を提出したのは公民党と社会民主連線(社民連)の議員で、民主派の最大政党・民主党はこの動きに同調していませんでした。
これで香港民主派の分裂が鮮明になり、中国が主導権を持ってリードする形が見えてきたようです。

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イラン・パキスタン 2014年から天然ガス供給開始で合意 実現には問題山積 

2010-06-24 23:26:22 | 国際情勢


(パキスタン 圧縮天然ガス(CNG)の金曜から土曜の販売停止を伝えるガソリンスタンドの掲示
厳しいエネルギー事情で、パキスタン政府はCNG販売についても規制を行っています。
なお、パキスタンではCNGを利用した自動車の数が約155万台に上りますが、これは総台数の18パーセントにあたります。この保有台数は世界一です。
“flickr”より By Raja Islam
http://www.flickr.com/photos/rajaislam/4588025449/)

【イラン包囲網に穴をあけるパイプライン】
世界第2位の埋蔵天然ガスを持つイランから、パイプラインでパキスタンへ天然ガスを供給する契約が正式に調印されたことが報じられています。
イランは天然ガス埋蔵量でロシアに次ぐ世界第2位ですが、経済制裁などで輸出先はトルコに限定されており、新たな輸出先の開拓が急務となっています。対テロ戦の長期化によって深刻なエネルギー不足に陥っているパキスタンは、主に発電用にガスを利用するとのことです。

****2014年から天然ガス供給開始 イラン・パキスタン、パイプライン合意****
イラン国営プレスTV(電子版)によると、同国の天然ガスをパキスタンへ運ぶパイプライン建設計画で、両国政府は13日、2014年から天然ガスの供給を開始するとの契約に正式調印した。国連安全保障理事会で追加制裁決議が採択され国際的な孤立が深まる中、イランとしては外貨収入源を確保する狙いがある。イランの核兵器開発を警戒する米国の反発が強まるのは必至だ。
計画は1990年代にイランが提案。当初はインドも加わったが、米国の圧力を受けて昨年、当面の参加を断念していた。計画ではパキスタン経由で周辺国への輸送も可能としており、資源獲得を進める中国が強い関心を示している。
供給される天然ガスは日量2150万立方メートル。パイプラインはイラン南部サウスパースガス田とパキスタン各都市を結ぶ全長約2100キロで、イラン側はすでに約900キロを完成、残りの約400キロについても近く着工する。ただ、パキスタン側では工事が十分に進んでいない上、契約調印後も1年間は建設予定地の調査に費やすなどとしており、計画が予定通りに進むかは不透明だ。【6月14日 産経】
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【離脱したインド 復帰も模索】
90年代の当初計画では、イラン・パキスタン・インド3国の頭文字を取って「IPI計画」と呼ばれていました。その後、イランを利する計画に反対するアメリカは、インドと特別待遇的な民生用原子力協定を06年締結し、インドの計画からの離脱を促しています。
イランとパキスタンは、もしインドが離脱するならライバル新興国・中国を加えるという“中国カード”を使ってインドをつなぎ留めようとしましたが、結局、インドは計画から離脱しました。【09年7月1日 産経より】

もっとも、インドはやはり「イランのガスは必要」ということで、復帰への道を模索しているとも報じられています。
****復帰への道探るインド****
インドは、イランとパキスタンの最終合意に神経をとがらせている。高度成長によるエネルギー需要の増大から「イランのガスは必要」(クリシュナ外相)だが、米から民生用原子力協定の“見返り”としてIPI計画を断念するよう圧力を受ける一方、パイプラインが通過するパキスタンとの関係も冷え切ったままだ。
「(8日の最終合意は)インドにとって何の問題もない。(イランとの)交渉は続いている」。インド政府高官は7日、そう楽観してみせた。しかし、3日に米ワシントンであった初の米印戦略対話で、米側はイランからのパイプライン計画に懸念を示したとされる。このためインドでは、同国を特例扱いにした米印民生用原子力協定を背景に、米の意向を無視できないとの見方が改めて浮上した。
また、パキスタンとの長年の確執から、インドはパキスタンがパイプラインを“人質”にする可能性と、インドを敵視する武装勢力による攻撃への懸念を抱く。08年のムンバイ同時テロ後、その懸念に拍車がかかり、パキスタンとの通過料交渉も難航。インドはイランにパキスタン領内を通過しない海底ルートを打診したが、工費が3倍以上にかさむため実現の見通しはない。クリシュナ外相は7月、パキスタンを訪問し、包括的対話再開に向けて協議する。米もアフガニスタンの安定化を巡って印パ間の対話を求めており、インドはパキスタンとの関係改善を通してパイプライン復帰への道を探る考えだ。【6月8日 毎日】
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【イランのガス供給能力に疑問】
パイプラインの建設自体は、上記記事にもあるように、すでにイラン側で進行しています。
しかし、イラン最大とされるペルシャ湾のサウスパルス・ガス田は、外国投資の足踏みで開発が進まず、近年の国内の天然ガス消費量は生産量を上回るのが実態とされています。イランに天然ガスの十分な国外供給能力があるかは疑問とする見方もあります。【6月8日 毎日より】
当然、資金的な問題もあります。

【パキスタン アメリカの要求を拒否】
パキスタン側についても問題は山積しています。
インド同様に、イラン包囲網を崩したくないアメリカの圧力があります。
アフガニスタンでの対タリバンの戦闘にとって、パキスタン北西部でのイスラム過激派対策が決定的に重要となるため、アメリカはパキスタンに対テロ対策、あるいは難民支援対策として巨額の資金援助を行いつつ、パキスタンの協力を求めてきました。
しかし、パキスタンにしてみると、アメリカに協力したことで国内のイスラム過激派が反発し、社会が不安定化し、国内にテロが蔓延する結果ともなっています。
そうしたアメリカへの反発もあって、今回、パキスタンのギラニ首相はアメリカからの見直し要求を拒絶し計画を予定通り進める意向を表明しています。

****パキスタン:ガスパイプライン計画の見直し要求を拒否*****
パキスタンのギラニ首相は22日、イランと今月8日に最終合意したイランからの天然ガス輸入パイプライン計画に米国が見直しを求めたことについて、要求を拒絶し計画を予定通り進める意向を表明した。核開発問題に絡む国連安全保障理事会の追加制裁決議を受け、イランに対する国際社会の圧力を強めたい米国にとって、同盟国であるパキスタンの反発は頭痛の種となりそうだ。

ギラニ首相はイスラマバードで記者団に「パキスタンは(9日の)国連安保理の対イラン追加制裁決議は考慮するだろうが、米の独自制裁に従ういわれはない」と述べ、不快感をあらわにした。
発言は、ホルブルック米特別代表が19、20両日に訪問してパイプライン計画への懸念と、経済制裁を主とした独自制裁に協力するよう求めたことに対し、政府の姿勢を初めて明確にしたもの。パキスタンは、アフガニスタンで約9年続く米の「対テロ」戦争の重要な同盟国だが、ギラニ首相の発言は、「戦争よりもインフラ整備」で地域の安定化を目指したいパキスタンの本音を示す狙いがある。
米はカナダで25日から開かれる主要8カ国首脳会議(G8サミット)で安保理の追加制裁決議を確認し、対イラン包囲網を強めたい方針。だが、パキスタンは元々「制裁よりも外交的解決を求めていた」(同国外務省幹部)とされ、パイプライン計画遂行を妨げかねない安保理制裁にも反感を持っている。

パキスタンは対テロ戦の長期化を背景に、深刻なエネルギー不足に陥った。この2年間は、首都を除く全国各地で1日の半分は停電し、相次ぐ工場の閉鎖で失業者が増加。家庭用ガスや自動車燃料も不足し、物価の高騰で市民生活は破綻(はたん)寸前だ。このため反政府感情は高まり、内政を不安定化させている。
政府はパイプラインの早期実現を緊急課題に位置づける一方、パキスタン軍は米が強く求める武装勢力掃討作戦の戦線拡大に難色を示し、米との距離は広がっている。一方で、政府は友好関係にあるトルコに、イランとのパイプライン計画に関する価格交渉などの「調整役」を依頼。追加制裁に反対したトルコとの緊密化も図ってきた。【6月23日 毎日】
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「戦争よりもインフラ整備」というパキスタンの立場は理解できます。
アメリカの不興をかったとしても何とかしないといけないほど、パキスタンのエネルギー事情は逼迫しているようです。パキスタンにアフガニスタンでの協力の強要するアメリカの方針が、パキスタンをイランに頼るしかない状況に追い込んだとも言えます。

もっとも、パキスタンはこれまでアメリカからのテロ対策資金援助を核開発や、大統領選挙不正工作などに流用していた疑惑が指摘されています。
今回パイプラインのもうひとつの問題点はパキスタンの資金負担能力です。総建設費は約70億ドル(約6400億円)とも言われています。
アメリカからの資金援助がイランの外貨獲得を可能とするパイプライン建設に流用されるといったことも想像されます。アメリカもそんなことが起きないように締め付けを強めることでしょう。

治安上の問題もあります。
“パイプラインが通過するバルチスタン情勢だ。イランと国境を接するパキスタン南西部バルチスタン州には、両政府に抵抗する武装組織が複数あり、既存の別のガスパイプラインや送電設備などへの攻撃を繰り返している。
武装組織のうち、パキスタンを拠点にイラン国内でテロ活動を行うイスラム武装組織「ジュンドュラ」(神の兵士)は、最近もイスラム教礼拝所で自爆テロを起こした。イランは、同組織のネットワークを一掃しなければパイプライン計画にも影響を及ぼすと、パキスタンに警告している。”【09年7月1日 産経】

【中国 そしてロシア】
当初はインドから年約10億ドルの通過料収入を当て込んだパキスタンは、インド離脱を受けて、パイプラインの中国延伸による通過料に期待。中国も、パキスタンからパイプラインを延長させ自国へ引き込むことに関心を寄せています。
“パイプラインのルートの周辺にある(パキスタンの)グワダルでは、中国の資金援助で大規模な港湾施設が建設されており、中国へのガスの海上輸送も可能となる。”【09年7月1日 産経】
更に、ロシアの国営天然ガス企業「ガスプロム」もパキスタン国内でのパイプライン建設に加わると言われています。

イラン、パキスタン、インド、アメリカ、中国、ロシア・・・資源をめぐる関係国・大国の駆け引きが続いています。

コメント

“麻薬大国”アフガニスタン  社会を蝕む麻薬の害

2010-06-23 23:01:29 | 国際情勢

(ISAF側提供の写真 小麦栽培などに転換するため、村民の協力のもとケシ畑をつぶしている様子
実際には、欧米軍は農民の反発を避けるため、ケシ栽培には目をつぶっている・・・との指摘もあります。
“flickr”より By isafmedia
http://www.flickr.com/photos/isafmedia/4602935853/)

【世界の9割】
アフガニスタンが世界の麻薬生産の9割を占めていこと、そして麻薬取引がタリバンの資金源となっていることは周知のところです。
アフガニスタンでは、90年代の内戦で各軍閥勢力が資金源としてケシ栽培に関与。タリバン政権が成立すると、最高指導者オマル師の禁止令で一時的に急減しましたが、アメリカの軍事攻撃後にタリバンが麻薬を資金源とする形でケシ栽培が再び拡散しています。この間、アフガニスタン国内にはヘロイン精製工場が増え、アフガニスタンはケシ輸出からヘロイン輸出国に転換しています。【4月16日 毎日より】

なお、今年について言えば、アフガニスタンのケシ栽培は“不作”で、アヘン生産は大幅に減少する見通しだとか。
****今年のアヘン出荷量は減少の見通し、病気が原因か アフガニスタン****
アフガニスタン南部のケシ畑がピンク色に染まり収穫の時期が近づいているが、農家や関係者によると、世界のアヘンの90%を供給する同国の今年のアヘン生産量は大幅に減少する見込みだという。
麻薬取引市場の撲滅という観点では良いニュースだが、旧支配勢力タリバンや麻薬ギャング団との戦いが激化するアフガニスタンで、家族を養おうと農業を営むアフガニスタンの農家にとっては深刻な事態になりかねない。
農家や専門家によるとケシ収穫量減少の理由としては、一部地域で降雨量が多く、別の地域で干ばつが起きたことや、小麦などの作物の種子の無償提供、食用作物の価格が良かったこと、そして、一部地域でケシを襲った謎の病気などがあるという。
この謎の病気については、一部の農家が米国と英国による化学薬品の散布によるものだと批判しているとの報告もあるが、国連薬物犯罪事務所(UNODC)は真菌類による植物の病気である可能性が高いと述べた。【5月15日 AFP】
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“小麦などの作物の種子の無償提供”で、ケシ栽培から他のまっとうな農業への転換が図られれば結構なことですが、カルザイ政権の統治能力の欠如でそれがうまく運んでいない結果、アフガニスタンは麻薬大国となっています。
他作物への転換を誘導する政府の施策がない限り、もともと不十分な灌漑施設が戦乱で荒れ果てたアフガニスタンにおいて栽培可能な作物はケシぐらいしかなく、ケシ栽培がアフガニスタン農民の生活を支えるところとなっています。

【増加する中毒患者】
広範なケシ栽培の当然の帰結として、国民に麻薬中毒者も増え、社会不安が広がっています。
****アフガン、100万人麻薬中毒*****
アフガニスタンで、15~64歳の約100万人が麻薬中毒者であることが21日、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が公表した調査で明らかになった。中毒者数は全人口の8%に上り、世界平均の2・65%を大幅に上回っている。
アフガンはアヘンの材料となるケシの約9割を生産する“麻薬大国”だが、中毒者数でも“大国化”しつつあることから、UNODCは「非常に憂慮すべき状態」と懸念を強めている。
UNODCが、紛争後のアフガンで薬物使用に関する本格的な調査を行ったのは今回が初めて。しかし、2005年に行われた同様の調査と比較すると、アヘン中毒者の数は15万人から23万人と53%増。ヘロイン中毒者は5万人から12万人へと140%増加した。
アフガンは麻薬を入手しやすい環境であるほか、麻薬中毒者の治療・更生施設が不足していることが、中毒者増に拍車をかける大きな要因になっているようだ。【6月22日 産経】
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【ケシ栽培を黙認する欧米 ロシアは批判】
アフガニスタン国内だけでなく、アフガニスタンからの麻薬流入はイランやロシアなど周辺国でも大きな問題となっています。
麻薬流入が社会問題となっているロシアは、欧米の“手ぬるい”麻薬栽培摘発を批判しています。

****アフガニスタン:ロシアと欧米対立激化 麻薬栽培摘発巡り*****
泥沼化するアフガニスタン情勢で、駐留する欧米軍が麻薬栽培の摘発に乗り出すか否かをめぐり、ロシアと欧米の論争が激化している。米国や北大西洋条約機構(NATO)は、アフガン農民の反発を憂慮し、積極的に摘発していないが、ロシアは欧米の姿勢が麻薬流出に拍車をかけていると批判し、方針転換を迫っている。

ロシア政府は今月9~10日にモスクワで、アフガンの麻薬問題に関する閣僚級国際会議を開き、50カ国以上が参加した。メドベージェフ露大統領は世界各地で約100万人の若者がアフガン産麻薬の摂取で死亡したとし、「ロシアや近隣諸国だけでなく、欧州、米国、カナダへ相当な衝撃となっている」と警告。ラブロフ露外相も国連安保理で同問題に関する決議を採択すべきだと主張した。
一方、モスクワの会議に出席したNATO現地司令官の一人は、NATO軍がアフガン警察による摘発作業を補佐しているが「我々は直接に摘発する義務を負っていない」と発言し、積極摘発にはやや距離を置く姿勢を示した。アフガンのムクビル麻薬対策相も欧米を配慮して、ロシアの要求に同意しない考えを示し、ロシアと米欧・アフガン間の姿勢の違いが鮮明になった。

ロシア国内では麻薬汚染が深刻だ。麻薬統制局によると、同国ではソ連崩壊後の20年間で麻薬消費量が20倍となり、麻薬常用者は200万人を超え、毎年8万人が新たに麻薬に手を出しているという。消費される麻薬の9割は、アフガン産ヘロインとみられている。
ロシアはソ連時代のアフガン侵攻で、ソ連兵1万5000人が死亡した経験から、同地への軍事関与を避けている。一方でロシアは麻薬の脅威と欧米の消極姿勢を結びつけることで、自らの存在感をアピールする狙いもあるようだ。現代アフガン研究所のセレンコ研究員は、麻薬問題を大々的に取り上げて、アフガン情勢への「関与」を図っているとの見方を示す。【6月12日 毎日】
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先述のように、ケシ栽培がアフガニスタン農民の生活を支えている現状にあっては、むやみに摘発するだけでは農民の反感を高め、ひいてはタリバン対策にマイナスになることから、欧米はケシ栽培摘発には消極的な対応をとっています。
2月に南部ヘルマンド州にある世界最大級のケシ生産地、マルジャでアメリカ主導の大規模なタリバン掃討作戦が実施されましたが、このときも結局ケシ栽培には目をつぶったようです。
“米国が「タリバンの資金源」と指摘するケシだが、アフガン政府によると、米英軍は今回の軍事作戦でケシ畑に目をつぶった。オバマ米政権は米軍増派に合わせ、南部カンダハルで次の作戦を予定している。現地では反米感情の悪化が作戦の障害となるのを避けるためケシ栽培が黙認されたと解釈されている。”【4月16日 毎日】

【跋扈する麻薬密輸組織】
内陸国アフガニスタンは、六つの国と接する国境線の長さが計5530キロもあって、麻薬取引摘発には周辺国の協力が必要ですが、アフガニスタン政府は「周辺国はアフガンとの共同取り締まりに消極的だ」と訴えています。国境地域での共同取り締まりはイランと2月に始まったばかりで、最も国境線が長いパキスタンは「まったく話が進まず、協力的でない」(ムクバル麻薬対策相)とのこと。

アフガンからの密輸ルートは大きく三つあるそうで、(1)カザフスタンからロシアを経由して欧州、英国にいたる「ヨーロッパ・北部ルート」(2)タジキスタンやウズベキスタンなどを通り、ロシアへ流れる「中央アジア・北部ルート」(3)パキスタン南部やイラン、トルコを経由して英国にいたる「バルカンルート」だそうです。

“アフガニスタンの闇市場ではヘロインが1キロ当たり約800ドルで売られており、それが密輸先のロシアで5万ドル、西欧では30万ドルの高値で取引される”【6月5日 毎日】ということですので、タリバンならずとも、その甘い汁に手を出したくなります。
アフガニスタンでは多くの密輸組織が暗躍しており、「中央アジア経由の麻薬密輸は、複数の地元マフィアが仕切っている。戦争で忙しいタリバンが関与する余地はない」【4月17日 毎日】といった指摘もあります。

隣国タジキスタンでの麻薬取締について、
“タジク南西部の国境の町ニジノピャンジ。強い日差しが照りつける中、税関係官がアフガンから入国するトラックを検問していた。部品を一つずつ外して入念に調べているものの、麻薬を検知できる最新のスキャナー機器はなく、「抜け穴」は多い。タジク独立後、アフガンとの国境を警備していたロシア軍は05年までに撤退した。
アフガンからの密輸手段はさまざまだ。ヘロインをボタンの内側に埋め込んだり、監視が甘くなる女性や子どもの着衣に隠し込んだりする。国境のピャンジ川を深夜にゴムボートで渡る運び屋も後を絶たない。”【6月5日 毎日】と、報じられています。

【政府高官、警察、地方有力者も関与】
アフガニスタンは周辺国の非協力を非難していますが、タジキスタン側は「密輸の8割は政府高官が絡んでいるはずだ」「アフガンで法と秩序が回復されない限り、タジクの麻薬問題は改善できない。すべてはアフガン次第だ」と、アフガニスタンの姿勢に問題があるとしています。
カルザイ大統領の弟、ワリ・カルザイ氏が麻薬取引に関与しているとの話は以前からあります。
また、警察や地方有力者の麻薬ビジネスへの関与も指摘されています。
麻薬患者の増大だけでなく、アフガニスタンの政治・社会システムが麻薬に汚染されているようです。

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トルコ  増加するクルド人反政府武装組織PKKと軍の衝突

2010-06-22 23:01:19 | 国際情勢

(クルド系政党「民主社会党(DTP)」の地方支部開設を祝いダンスに興じるクルド女性
そのDTPも昨年末、解党命令を受けています。 “flickr”より By petit1ze
http://www.flickr.com/photos/petit1ze/3325987185/)

【トルコにおけるクルド問題】
クルド人はイラク北部・トルコ・イラン北西部などに分布し、人口は2500万~3000万人。
独自の国家を持たない世界最大の民族とも言われています。

クルド人の人口が最も多いのはトルコで、1200万~1500万人がトルコ南東部を中心に居住していますが、南東部だけでなく、地域により格差はあるもののトルコ国内全域に分布しているとも言われています。
トルコの人口が約7500万人ですから、少数派とはいっても、かなりの割合、5分の1近くを占めています。
その多くが所得水準の低い宗教的にも敬虔なイスラム教徒であるといわれています。

トルコでは、長らくクルド語の放送・教育を許されないなど、クルド人は差別・迫害を受けてきました。
これがクルド人としての統一したアイデンティティを覚醒させることとなり、クルド人独立を掲げるクルド労働者党(クルディスタン労働者党)(PKK)はトルコ政府に対する抵抗運動を行ってきました。
トルコ政府は、PKKが武装蜂起した1984年以降、4万5000人以上が犠牲になったとして、PKKを「テロ組織」としています。国内世論・保守派・軍のPKK批判を受けて、エルドアン首相はPKK掃討に力をいれています。

その一方で、公共の場でのクルド語使用を認めたり、クルド語による教育・放送を認める法整備を進めるとか、国内的には人口の5分の1を占めるクルド人の擁護者の立場をとってもきました。
イスラム主義政党である与党・公正発展党(AKP)とっては、貧しい敬虔なイスラム教徒であるクルド人は選挙対策として無視できないものがあるのでしょう。また、欧米からの人権批判をかわしてEU加盟への道筋をつけたいという狙いもあるのかも。

【相次ぐテロ・衝突】
そのクルド人武装組織PKKの活動が最近また活発化しています。
****トルコ:バス爆発で兵士ら4人死亡、12人負傷****
トルコ・イスタンブール西部ハルカリ地区で22日午前(日本時間同午後)、同国軍関係者を乗せたシャトルバスを狙ったとみられる路肩爆弾が爆発し、乗っていた兵士3人を含む4人が死亡、12人が負傷した。国営アナトリア通信によると犯行声明は出ていない。今春以降、トルコ南東部を中心に反政府武装組織クルド労働者党(PKK)と軍との武力衝突が激しさを増しており、当局は関連を調べている。
同通信によると、現場は軍の居住施設近く。バスには約30人が乗っていた。死亡者には、軍関係者の17歳の娘も含まれる。負傷者のうち2人が重体。

ロイター通信によると、非合法のPKKは武力闘争を強化することを今年3月に宣言した。関係政党の民主社会党(DTP)に解党命令判決が昨年12月に出たことや、トルコ国境に接するイラク北部のPKK拠点へ空爆が続いていることが主な理由。・・・・【6月22日 毎日】
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上記記事にもあるように、昨年12月に、PKKとのつながりも指摘されるクルド系政党「民主社会党(DTP)」が解党命令を受けています。
****トルコ憲法裁、クルド系政党に解散命令 EUが批判声明*****
トルコの憲法裁判所は11日、国内少数派クルド系の民主社会党(DTP)に対し解散を命じる判決を出した。トルコが目指す欧州連合(EU)加盟には、少数民族の保護が求められており、今回の解散命令が、EU加盟への新たな障害になる可能性がある。
検察は2007年11月、クルド人が多く住む同国南東部での自治拡大をめざすDTPの活動が、同国憲法が国是とする「国家の不可分」に違反するとして、解散訴訟を提起した。判決は政党解散の要件とされる「国家原則に反する活動の中核的存在」に該当したとして、裁判官11人全員が解散を支持した。
判決により、同党の政治家37人は5年間政治活動を禁じられ、トゥルク代表を含む国会議員2人は失職する。DTPは、定数550の国会で21議席を持つ。
判決はまた、テロ組織と見なされるクルド労働者党(PKK)とDTPのつながりも指摘した。
この判決に、EU議長国スウェーデンは「暴力とテロは強く非難するが、政党の解散は厳しく自制されるべき例外的手段だ」とする声明を発表した。
人口約7千万のうち2割前後とされるクルド人への対応をめぐって、トルコはEUなどから人権抑圧を指摘されてきたが、親イスラムのエルドアン現政権は徐々にクルド人の権利拡大に努めている。【09年12月12日 朝日】
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PKKの拠点は国境を越えてイラク(クルド自治区)側にあるため、トルコ軍はイラク領内のPKK拠点への越境攻撃を行っており、国境を挟んでトルコ軍とPKKの衝突が報じられていました。
****トルコ軍がクルド自治区に進入、衝突拡大に懸念****
イラク北部クルド自治区に拠点を持つクルド人武装組織「クルド労働者党(PKK)」は19日、トルコ南東部の国境近くでトルコ軍を襲撃した。
トルコ軍は、この襲撃でトルコ兵11人が死亡したが、反撃してPKK戦闘員12人を殺害したと発表した。また、トルコ軍機がPKKの標的とみられる場所を空爆したと、双方が発表している。

19日の襲撃はトルコ軍にとって過去2年で最悪の事態となった。トルコ軍は、同日夜から20日朝にかけて国境を越えてイラク側に10キロほど進入し、この際に3人が死亡したと発表した。しかし当局は、死亡したのがPKKの戦闘員なのか、民間人なのかは明らかにしていない。
トルコ軍は5日前の16日にも、トルコ南東部シルナク県からイラク北部ドホーク州に進入していた。PKKの報道官は18日にイラク・クルド自治区の区都アルビルでAFPの取材に応じ、16日に起きた武力衝突でPKKの戦闘員2人が死亡したと語った。
この報道官は武力衝突の激化を受け19日、トルコ軍が軍事的圧力を強めれば、PKKはトルコ全土の都市に攻撃を加えるだろうと警告した。【6月20日 AFP】
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【地域不安定化の懸念も】
イスタンブールでのバス爆破事件は、こうした民主社会党(DTP)解党命令、国境を挟んでの衝突の激化のなかで起きた事件です。
おそらくトルコ軍は、今後PKKへの圧力を更に強めるものと思われますが、クルド問題が厄介なのはトルコだけでなく、イラク・イランにもその影響が波及して、この地域全体を不安定化させかねないという点です。

イラク側への“越境攻撃”は、イラクのクルド自治区を刺激することになります。
イラクのクルド自治区は油田地帯のキルクークの自治区編入問題を抱えており、この微妙な問題がこじれると分離・独立の動きもでてきかねない危うさがあります。
イラクでのクルド自治区が分離・独立の動きを見せると、トルコ・イラン領内のクルド系武装組織の活動が更に刺激されます。それを防ぐために、トルコ・イランはイラクへの介入も・・・といった具合に、混乱が拡大することもあり得る問題です。

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ベトナム「南北高速鉄道」 国会が政府計画を否決

2010-06-21 22:56:42 | 世相

(夜行列車の出発を待つハノイ駅 北部サパを旅行した際、ハノイ・ラオカイ間の夜行列車を利用しました。
ハノイでも、ラオカイでもいろいろ大変でしたし、時間もかかりました。でも、それはそれでいい思い出です。
旅行という観点からは、時間さえ許せば、別に速いことだけがすべてではありません。
“flickr”より By Juan Nosé
http://www.flickr.com/photos/ilo_oli/4136742370/)

【30時間→5時間半】
8月の末頃にベトナム中部の古都ホイアン・フエを旅行したいと計画中です。
ベトナムは旧サイゴンのホーチミン市、首都ハノイ、北部山岳地帯のサパに続いて4回目になります。
ルートは、国際線の便数の多いホーチミン市から入る形になるかと思いますが、南北に細長いベトナムですので、ホーチミン市からホイアン・フエの中部へ移動するのに列車を使うと、約17時間(ホーチミン・ハノイ間だと最速で約30時間)かかります。とてもそんな時間的余裕はないので飛行機を利用することになるでしょう。
最近話題になっている新幹線「南北高速鉄道」が完成すれば、中部までなら恐らく3時間ぐらいに短縮されるのでは。(ホーチミン・ハノイ間は5時間半で結ぶとか)

【GDPの6割】
その「南北高速鉄道」については、ベトナム政府が日本の新幹線方式の採用を決定していましたが、資金的に無理があるとの理由でベトナム議会が政府案を否定したことが報じられています。

****新幹線に黄信号 ベトナム国会、整備計画を否決*****
ベトナム国会は19日午後、「南北高速鉄道」計画を推進するとした政府案を反対多数で否決した。同鉄道は新幹線方式での整備が閣議決定されていたが、議会では560億ドルの巨額投資と鉄道事業の採算性の低さを懸念する声が相次いだ。政府が推進する事業が承認されなかったのは極めて異例で「現政権にとって打撃となる可能性もある」(外交筋)。
南北高速鉄道は同国の三大国家プロジェクトの一つ。国会は同鉄道の整備を推進するとした政府案について採決を取り、同案は賛成37%、反対42%で否決された。政府は先月から反対派に配慮して妥協案を提示。着工時期を遅らせたり、先行して整備する区間を当初案の半分に減らしたりしたが、議員の半数以上の支持を得られなかった。
国会は高速鉄道問題の今後の取り扱いを協議しないまま、同日夕、閉会した。ただチョン国会議長が閉会式で「政府はプロジェクトについてさらに検討してほしい」と指摘したことから、次期以降の国会で継続審議となる可能性もある。

今国会では南北高速鉄道について、ベトナムの国内総生産(GDP)の6割程度に達する巨額の事業費が財政を圧迫するといった意見が出た。工期が遅れ、コストが膨らむことへの懸念も多かった。採算性への懸念も根強かった。同国では首都ハノイと南部の商都ホーチミンを除けば都市機能が未整備で、中期的には途中駅の利用が見込みにくいとされる。
国会承認が得られなかったことで、事業化調査など日本政府による支援策の検討作業に影響が出るとみられる。
南北高速鉄道はハノイ―ホーチミンの1570キロメートルを5時間半で結ぶ。最高速度は時速300キロメートル。在来線では30時間以上かかる。政府案では2020年までに部分着工する予定だった。川崎重工業、三菱重工業、三菱商事、住友商事などが強い関心を示し、ベトナム側に売り込んでいた。【6月19日 日経】
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【日本側も懸念】
北部のハノイ~ビン(約280キロ)、南部のホーチミン~ニャチャン(約380キロ)の2区間を20年までに優先して開通させ、全区間を35年までに完成させるという政府計画に資金面・採算面で問題があることは、以前から指摘されていたところであり、日本側も前原国交大臣がベトナム政府の計画に懸念を示していました。

****前原国交相、現実的な計画求める ベトナム高速鉄道、課題はリスク管理 ****
ベトナム訪問中の前原誠司国土交通相は4日、同国のホアン・チュン・ハイ副首相らとの会談後に記者会見し、ベトナム政府が日本の新幹線方式の採用を決定した「南北高速鉄道」(約1600キロ)について「2020年までに優先区間を完成させるのは厳しい」と指摘した。高速鉄道建設には多額の投資が必要で、日本政府はより現実的な計画を求めている。
「(日本)政府として新幹線方式を採用していただいたことは感謝したい。ただ、完成期間や区間の短縮を柔軟に考えるべきではないか」。前原国交相は会見でこう語り、遠回しに現在のベトナムの計画には無理があるとの認識を示した。
 ベトナム政府は南北高速鉄道のうち北部のハノイ~ビン(約280キロ)、南部のホーチミン~ニャチャン(約380キロ)の2区間を20年までに優先して開通させる考えで、日本側に早期の事業化調査を求めた。だが、日本は段階的な整備と引き換えに円借款について政府内で検討を具体化させる考えを表明。ベトナム側も理解を示したという。
ベトナム側の試算によると、鉄道計画の総事業費は総額560億ドル(約5兆円)。同国の08年国内総生産(GDP)の約874億ドルの6割に当たる額だ。一方で、ハノイ~ホーチミン間は毎日頻繁に航空機が飛び、すでに多くのビジネス需要を取り込んでいる。専門家からは「採算がとれるのか」との声も上がる。
5兆円もの事業費を工面するためにベトナム側が当て込むのは、円借款や企業の投資など日本からの支援だ。前原国交相は支援に応じると表明したが、事業そのものが失敗すれば、日本側が損失をこうむる懸念がつきまとう。

そうしたリスクを背負う現実があるとはいえ、ベトナムの経済成長は目を見張るものがある。ベトナムへの投資を狙う各国に先立ち、日本方式をベトナムに根付かせれば、将来大きな果実を得る期待は大きい。
今回の外遊で前原国交相が国際空港があるノイバイとハノイを結ぶ「空港連絡線」(約50キロ)の整備について事業化調査の実施を表明したのも、そんな狙いがあるからだ。
将来の果実を得るためにどう布石を打つのか。高速道路から下水道までインフラ関連ビジネスをめぐる各国との競争に日本が勝ち抜くには、戦略と判断力が問われ続けることになる。【5月4日 産経】
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【社会主義国ベトナムでの意外な否決】
資金・採算面でストップがかかったこと自体は不思議ではありませんが、非常に意外に思えたのは、ベトナムという共産党による事実上の一党独裁体制の国で、政府案が国会で否決されたということです。
ベトナムの政治事情にはなんらの知識もありませんが、なんとなく議会は大政翼賛的な存在だろうとの思い込みがありました。ちゃんと議会としてのチェック機能を果たしているようです。それとも、指導部内部の権力闘争か何かの反映でしょうか。

【東南アジア全体の交通網整備の試金石】
いずれにしても、どのような形でゴーサインが出るかは今後の話となります。
日本としては、新幹線方式採用が実現すれば喜ぶべきところでしょうが、この南北高速鉄道の成功は、やがては東南アジアと中国をつなぐ、より大きな地域ネットワークの実現に道を開くことになるとの指摘があります。

****ベトナム 南北高速鉄道2012年着工 民間資本や援助活用の試金石*****
・・・・総工費は日本の標準的な建設費に基づき、560億ドル(約5兆1000億円)と見積もられている。これはベトナムの国内総生産(GDP)の3分の2に相当するが、同国の国会に提出された報告書によると、今後25年間、平均6.4%で経済成長を続ければ返済可能であるという。確かにこれは高い数値だが、同国が市場経済を導入した1991年以降の平均成長率よりも低い。
同国は、ベトナム戦争以前も南北に別の王朝が成立するなど、分断の歴史を経験した。北部の紅河デルタと南部のメコンデルタを結ぶ高速鉄道は、国家統合に資するだけでなく、南北の2大都市からの分権化を促し、中部の経済発展に必要な条件を生み出すだろう。

ベトナムは、南北高速鉄道のほかに、北方の中国、西方のカンボジアと鉄道網を接続する計画がある。ホーチミンとカンボジアの首都プノンペンを結ぶ鉄道にはアジア開発銀行(ADB)が、一部融資している。中国南部、雲南省の省都・昆明や、広西チワン族自治区の首府、南寧とベトナム北部を結ぶ鉄道計画も進められている。国内だが、ホーチミンとメコンデルタ地帯のカントーを結ぶ鉄道建設は韓国が支援している。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、中国からシンガポールに至る鉄道網の建設を長い間、話し合ってきた。タイは90年代、野心的な高速鉄道を計画したが97年のアジア通貨危機で中止した。中国は、ミャンマー、ラオス、ベトナムを通る高速鉄道開発を推進するなど、ASEANの長年の夢が少しずつ現実になろうとしている。

ベトナムの南北高速鉄道やその他の交通インフラ計画は民間資本や援助を活用する同国の能力を測る試金石だ。これらが実現すれば、国家の発展における制約も緩和されるだろう。南北高速鉄道計画は、東南アジアと中国を結ぶ、より大きな地域ネットワークの鍵を握っている。【5月29日 Oxford Analytica】
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東南アジアの幹線道路において、中国が支援する「南北回廊」、日本の進める「東西回廊」「第2東西回廊」が競合していることは以前も取り上げたところですが、鉄道においても日本、中国、さらに韓国も入っての支援競争があるようです。

前出【産経】にあるように、“将来の果実を得るためにどう布石を打つのか。高速道路から下水道までインフラ関連ビジネスをめぐる各国との競争に日本が勝ち抜くには、戦略と判断力が問われ続けることになる。”ということなのでしょうが、東南アジアと地理的につながっている中国が交通網において核になるのは当然の流れでもあります。日本の新幹線技術など、各国が持ち味を生かした支援を行うことで、全体として東南アジア地域のインフラ整備が進めば、それはそれで結構なことではないか・・・というのは悠長に過ぎるでしょうか。

蛇足ながら、GWに台湾新幹線を利用した感想で言えば、新幹線駅は市街地の中、できれば在来線と同じ構内に作らないと、非常に不便で利用者も増えません。

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