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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カンボジア  存在感を増す中国 リアム海軍基地や「フナン・テチョ運河」建設 米・ベトナムの懸念

2025-05-02 22:46:32 | 東南アジア

(【2024年4月29日 INDO PACIFIC DEFENS EFORUM】)

【政治・経済・軍事・文化など多岐にわたる中国との深い関係】
カンボジアはフン・セン前首相の人権・民主主義の面での問題がある統治によって欧米との関係がギクシャクする一方で、ASEANにあって「中国の代理人」とも言われるほどに中国との関係が強まり、中国の影響が次第に色濃くなっているという話は常々聞いていますが、昨年2月の春節時期にカンボジア・シェムリアップでアンコールワット遺跡群などを観光した際には、「街の雰囲気は、言われているほどには中国色は強くないかも・・・」という印象でした。

ただ、カンボジアのなかでもとりわけ中国の影響を感じられると言われている南部ビーチのシアヌークビル(中国資本によって開発された経済特区もあります)を最近訪れた知人の話では、街は中国色で溢れているとのこと。

最初に、カンボジアと中国の関係をAI(チャットGPT)の情報で簡単に整理しておくと、以下のようにも。

****カンボジアの貿易に占める中国の割合****
カンボジアの貿易における中国の割合は、近年増加傾向にあります。2024年には、中国との二国間貿易総額が過去最高の151.9億ドルに達し、カンボジアの年間総貿易額約547.4億ドルのうち約27.8%を占めました。

これは前年の26.06%からの増加を示しており、中国がカンボジアの最大の貿易相手国であることを再確認するものです。

この貿易関係の強化は、カンボジアと中国の強固な外交関係や、両国間の自由貿易協定(CCFTA)および地域的な包括的経済連携(RCEP)などの協定によって支えられています。これらの要因が、貿易の拡大と多様化を促進しています。

カンボジアから中国への主な輸出品目には、農産物、家具、宝飾品、衣料品などが含まれます。一方、中国からの輸入品目は、工場向けの原材料、日用品、食品・飲料、車両、機械、建設資材、電子機器、医薬品、農業製品など多岐にわたります。

このように、中国はカンボジアの貿易において重要な役割を果たしており、今後も両国間の経済関係はさらに深化していくと予想されます。【ChatGPT】
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****カンボジアと中国のつながりの深さを示す代表的事例****
カンボジアと中国のつながりの深さを示す事柄は、政治・経済・軍事・文化など多岐にわたります。以下に代表的な事例を挙げます。

1. 経済的関係
最大の貿易相手国:先述のとおり、中国はカンボジアにとって最大の貿易相手国であり、貿易総額の約28%を占めています。

直接投資の最大供給国:中国はカンボジアへの外国直接投資(FDI)の中で最大の供給国であり、インフラ、工業団地、観光開発など多くの分野に資金を投下。

一帯一路構想(BRI)への参加:カンボジアは中国の「一帯一路」構想に積極的に参加しており、鉄道・道路・港湾などの大規模インフラ開発が進行中。

2. 政治的関係
「鉄の友人」関係:両国は「鉄の友人」と称されるほど親密で、ハン・セン前首相と中国の指導者との関係は特に緊密でした。高官同士の頻繁な交流:首脳会談や高官訪問が定期的に行われており、信頼関係が構築されています。

3. 軍事協力
合同軍事演習:カンボジアと中国は定期的に合同軍事演習「ゴールデン・ドラゴン」を実施しており、防衛協力を強化中。

武器供与と軍事支援:中国はカンボジア軍に武器や装備の提供、兵士の訓練を行っており、軍事インフラ整備にも関与しています。

4. 人的・文化交流
中国人観光客:中国からの観光客はカンボジアにとって最も多く、観光業にとって非常に重要な存在。
中国語教育支援:中国政府は孔子学院の設立や、中国語教師派遣を通じて教育支援を行っています。
奨学金制度:カンボジアの学生が中国の大学へ留学できるよう、政府間での奨学金制度も整備されています。

5. 特別経済区と経済特区
シアヌークビル経済特区(SSEZ):中国資本によって開発されたこの経済特区は、製造業の中心地であり、数百の企業が稼働しています。【ChatGPT】
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こうした中国・カンボジア関係の一端を示す今日のニュース

****中国企業が建設したカンボジアの国道3本開通**** 
中国の交通インフラ大手、中国路橋工程が建設を請け負ったカンボジアの国道31、33、41号のアップグレード・改造事業の竣工と開通を祝う式典が4月29日、タケオ州で行われた。

同国のフン・マネット首相、中国の汪文斌(おう・ぶんひん)駐カンボジア大使ら両国政府、関係者の代表と現地の人々8千人近くが参加した。【5月2日 新華社】
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単に貿易・インフラ整備や後述の安全保障などに限らず、人々の生活においても中国の存在感が増しています。

****中国スタイルのミルクティーがカンボジアで人気に、産業発展にも貢献****
蜜雪氷城(ミーシュエ)や氷淳茶飲(BING CHUN)といった中国の新スタイルのティードリンクブランドが近年、次々とカンボジアに進出し、人気を集めている。中でも「蜜雪氷城」はカンボジアですでに60店舗を展開し、うち30店舗は首都のプノンペンにある。人民日報が伝えた。(中略)

「蜜雪氷城」カンボジア運営会社の最高財務責任者であるハット・ソチェアタさん(32)は、「会社には中国人スタッフもカンボジア人スタッフもいる。中国人スタッフの多くはカンボジア語を勉強している。僕も独学で中国語をマスターした。みんな和やかに、楽しく交流できている」と話す。(中略)

中国とカンボジアの協力と交流が深化するにつれて、蜜雪氷城のように、カンボジアに進出して根を下ろし、発展する中国企業が増えており、同国の人にさらに多くの消費の選択肢を提供すると同時に、雇用を創出し、産業の発展を促進している。

(「蜜雪氷城」のカンボジアにおける業務提携先責任者の)ケオさんは「1店舗当たり4〜5人のカンボジア人スタッフを雇っているので、200人以上の雇用が創出されている。今後は200店舗以上オープンさせる計画だ」と話す。(中略)

中国とカンボジアの近年の交流、協力、相互サポートについて、ハットさん、「十数年前、僕が住んでいた地域はインフラ整備があまり進んでおらず、断水や停電が起きることもあった。交通アクセスも不便で、プノンペンからシアヌークビルに行くのに5時間以上かかっていた。

近年は中国の企業が次々と進出し、水力発電所や発電所、高速道路などを建設してくれているので、都市がどんどん美しくなり、交通もどんどん便利になっている」としみじみと語り、身近な変化について「『蜜雪氷城』を含む中国企業がカンボジアでの投資を拡大しており、自分の仕事の未来は明るいと感じている。ここで引き続き一生懸命仕事をして、さらに多くのことを成し遂げたいと思っている。両国の友好がさらに深まり、暮らしがより豊かになることを、心から願っている」と語った。【4月21日 レコードチャイナ】
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【米トランプ大統領の対外支援凍結の空白を埋める中国】
また、アメリカ・トランプ大統領の対外支援凍結がカンボジアのような支援を必要としている国と中国の関係を更に深めることにも。

“カンボジアは1970年代の戦争で壊滅的な被害を受けた。ベトナム戦争から波及したアメリカの空爆と、中国の後ろ盾で権力を掌握し、大量虐殺を行ったポル・ポト派(クメール・ルージュ)の支配によるものだ。
現在も数百万個の地雷が国中の地中に残っている。

1979年のポル・ポト政権崩壊以来、1万8800人以上が地雷によって死亡し、さらに4万5000人が負傷したという。
在カンボジア米大使館は昨年、2025年にカンボジアで地雷除去やその他の不発弾除去に1200万ドルを費やす見込みだと述べていた。”【後出 Newsweek】

****世界のパートナーはアメリカから中国に?...USAID凍結直後のカンボジアで何が起きたのか****
<トランプの対外支援凍結は「中国が世界中で選ばれるパートナーになる道を開いた」──支援停止の数日後にすぐさまカンボジアに働きかけた中国の作戦>

米国際開発庁(USAID)による支援先への支払い凍結で、カンボジアの地雷・不発弾除去プロジェクトが作業の中断を余儀なくされたことを発表した。だが、その数日後に中国が資金を提供したことを同プロジェクトの代表が明らかにしている。(中略)

ドナルド・トランプ大統領は、USAIDを通じた対外援助を90日間停止するという決定を下したが、これに対しては、中国が世界中に影響力を拡大する道を開くことになると批判の声があがっていた。

東南アジアに位置するカンボジアは、すでに中国の最も親密な同盟国のひとつであり、近年は人権侵害や民主主義の欠如を批判するアメリカとぎくしゃくした関係にあった。

USAIDが支援先への支払いを凍結したため、カンボジア地雷対策センター(CMAC)の運営が一時的に停止されたことが発表された数日後の2月5日、ヘン・ラタナ事務局長はフェイスブックで、2025年3月1日から1年間、中国からカンボジア地雷廃絶プロジェクトに440万ドルの助成金が提供されることを明かした。(中略)

カンボジア王立アカデミーの政策アナリスト セウン・サムは、カンボジアのニュースサイト「キリポスト」の記事で「中国が支援しなければ、CMACはカンボジアで地雷除去を続けるための十分な資金を確保できない。だから中国からの支援は進行中の地雷除去の取り組みにとって特に重要だ」と述べている。(後略)【2月10日 Newsweek】
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このあたりの中国の対応は、素早いものがあります。

【中国が支援したリアム海軍基地の拡張工事 米、中国の軍事利用を懸念】
中国が対カンボジア関係を重視するのは、中国の対外戦略にとってカンボジアが重要な位置を占めていることによる部分が大きく、その象徴がマラッカ海峡からインド洋につながる要衝であるカンボジア南西部のリアム港です。

中国支援の拡張工事の見返りに中国が軍事利用を進めるのではとの懸念がアメリカにはあります。

****海外活動の足がかりか 中国軍、カンボジアに共同拠点を開設****
中国国防省は5日、カンボジア南西部のリアム港に中国、カンボジア両軍の共同支援・訓練センターを設置したと発表した。合同訓練やテロ対策、人道支援活動の拠点として活用し、中国軍の兵員も常駐する。中国軍の海外活動の足がかりとなる可能性がある。

センター設置について、中国側は「関連する国際法に合致し、第三者を標的にするものではない。両軍の実務的な協力をさらに強化し、国際的な義務をよりよく果たすことに資する」と主張した。中国軍は既にアフリカ東部のジブチに海外基地を持つが、兵員を配置する新たな海外拠点を公表するのは異例だ。

同じ5日には、現地で中国が支援したリアム海軍基地の拡張工事の落成式典も開かれ、フン・マネット首相や中国軍高官が出席したと、AFP通信が伝えた。

この工事は2022年に着工され、基地は南シナ海に近いタイ湾に面し、マラッカ海峡からインド洋につながる要衝に位置する。このため、米国などからは、支援の見返りとして中国が軍事利用を進めるのではとの懸念が出ていた。

カンボジアは東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の中でも、代表的な「親中国」とされる。一方、トランプ米政権は世界各国への「相互関税」の一環としてカンボジアに49%の高い税率を課すなど、米中対立の影響を受けやすい立場に置かれている。

香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは、習近平国家主席が今年初めての外遊として、4月中旬にベトナム、マレーシア、カンボジアを歴訪する予定だと報道。実現すれば、中国がトランプ政権に対する途上国の不満を集約し、国際社会での影響力を誇示する機会となりそうだ。【4月5日 毎日】
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カンボジアの小国は大国の間でバランスをとることが重要ですので、フン・マネット首相は中国の支援に謝意を示す一方、アメリカの懸念を払拭すべく「基地は中国の支配下にないことを明確にしておきたい。私たちはすべての国々を歓迎する」と述べています。

そうした西側向けパフォーマンスの一環とも見られるのが海上自衛隊の艦艇の寄港でした。

****中国支援のカンボジア海軍基地に海上自衛隊の艦艇が寄港****
中国の支援によって拡張工事が完了したカンボジア南部の海軍基地に、海上自衛隊の艦艇2隻が外国の艦船として初めて寄港しました。

カンボジア南西部にあるリアム海軍基地に19日、海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」と掃海艦「えたじま」が寄港し、歓迎式典が開かれました。

現地の日本大使館は、海上自衛隊の寄港が「地域と国際社会の平和と安定につながる」との声明を発表しています。

リアム海軍基地は中国の支援によって、今月、拡張工事が完了しましたが、アメリカなどは中国の軍事拠点になるのではとの懸念を示しています。

工事終了後、リアム海軍基地に外国の艦船が寄港するのは今回が初めてです。

海洋進出の動きを強める中国を念頭に日本がカンボジアとの連携の強化を図る一方、カンボジアとしては日本からの寄港を受け入れることでバランスをとる狙いがありそうです。【4月19日 TBS NEWS DIG】
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【中国支援の「フナン・テチョ運河」建設 ベトナム、稲作への影響、中国艦船の航行を懸念】
一方中国は習近平国家主席が4月17日から2日間の日程で、ベトナムとマレーシアを含めた東南アジア3カ国歴訪の最後の訪問国であるカンボジアを訪れ、両国関係の更なる緊密化を図っています。

****中国首席がカンボジア訪問、友好関係を確認****
中国の習近平国家主席は17日から2日間の日程で、東南アジア3カ国歴訪の最後の訪問国であるカンボジアを訪れた。滞在期間中は、両国の強固な友好関係を確認し、協力の強化に向けて協議した。  

中国外務省によると、習氏は首都プノンペン到着後、シハモニ国王、フン・セン上院議長(前首相)、フン・マネット首相、モニク王太后と相次いで会談した。  

習氏はフン・セン氏との会談では、グローバル化の流れは止められないと指摘し、単独行動主義、覇権主義は人の心をつかむことはできず、貿易戦争は多国間貿易体制を疲弊させ、世界経済の秩序に影響を及ぼすとして、各国は協調する必要があると主張した。フン・セン氏は、中国政府の方針を支持する考えを示した。  

フン・マネット氏との会談では、さまざまな分野における協力の強化や、2025年を「中国・カンボジア観光年」にすることで一致した。

会談後は、工業・サプライチェーン、人工知能(AI)、開発援助、通関・検疫、公衆衛生、メディアなどの30余りの分野で協力する旨の覚書の調印に立ち会った。  

また、両国は、新時代の全天候型の運命共同体を創設し、中国が提唱する国際的な開発協力の枠組みである「グローバル開発イニシアチブ」「グローバル安全保障イニシアチブ」「グローバル文明イニシアチブ」を推進する旨の共同声明を出した。【4月21日 NNA】
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この習近平国家主席訪問で「フナン・テチョ運河」建設への中国支援も合意されています。

“両国は、カンボジアの経済発展につながると期待される「フナン・テチョ運河」の建設に関する協定にも署名した。

カンボジア政府の声明によると、運河は151.6キロで事業規模は11億6000万ドル。ただ、カンボジアの国内総生産(GDP)の約4%にあたる17億ドルとされていた従来計画と比べ、規模や投資額は縮小した。

資金は官民パートナーシップによって調達され、カンボジア側が51%、中国側が49%出資する。”【4月19日 ロイター】

「フナン・テチョ運河」はカンボジア政府によると、プノンペン近郊から南の沿岸州ケップまでを4年かけて貫く計画で、2024年8月に工事が始まっています。

カンボジアは物流ルートの短縮などを目的に挙げていますが、運河が水を取り込むメコン川の下流にある隣国ベトナムが建設に反発し、両国の摩擦の種となっています。メコン川流域に暮らすベトナムの稲作農家は作物の心配をしています。

予備調査では運河がメコン川下流域に与える影響は最小限であることを保証したとのことで、マネット首相は「この運河は農作物に水を供給し、雨季の水管理を改善し、淡水漁業を促進する、などの効果がある」と述べたていますが・・・

ベトナム側のもうひとつの懸念は、中国軍の艦艇がカンボジア内陸部やカンボジアとベトナムの国境を航行できるようになるのでは・・・という点。

運河のタイ湾側終着点であるケップは、シアヌークビルにあるカンボジアのリーム海軍基地から約100kmの距離にあり、同基地は最近、中国の資金で改修工事が行われたばかりです。

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カンボジアのフン・マネット首相が「この運河が中国軍艦の内陸部へのアクセスを可能にすることを否定し、カンボジアは他国が自国の領土を他国に対する軍事基地として使用することを認めていない」と述べたことを、シンガポールの放送局CNAは2024年4月に報じている。 首相はまた、「この運河は軍艦にとっては浅すぎる」とも述べている。【2024年4月29日 INDO PACIFIC DEFENS EFORUM】
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メコン川にはラオス南部に大きな滝がありますので、中国からベトナムまで船舶で航行することはできませんが、タイ湾側から運河に入った軍用艦船がベトナム国境まで至るのは可能かも。

また“2024年4月、ストレーツ・タイムズ(The Straits Times)紙が報じたところによると、国営の中国架橋・道路公社(China Bridge and Road Corp)が運河建設に資金を提供し、50年間にわたり運営を管理し、利益を得るという。”【同上】
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トランプ関税に苦慮する世界各国 ベトナムと日本の場合

2025-03-04 21:39:14 | 東南アジア

(相互関税の検討を指示する大統領令に署名したトランプ大統領【2月26日 JBpress】)

【ベトナム 米中とバランスをとり、欧州とも】
明日から14日までベトナムに行ってきます。もちろん単なるお遊び・観光です。
そのためブログは「更新できるときは更新する」といった感じで、ゆるゆると。

2月12日ブログ「ベトナム  米中対立の“漁夫の利” 巨額の対米貿易黒字は関税“標的”に 今後も米中間でバランス」で取り上げたように、ベトナムはこれまでの米中対立ではチャイナリスクを警戒する企業がベトナムに拠点を移すなどで“漁夫の利”を得て、経済は急成長してきました。

しかし、対米貿易黒字で第4位という巨額の黒字はトランプ関税の絶好の標的になる・・・ということで、これまでのようにいくかどうかはわからない状況になっています。(トランプ大統領の施策で先が見えないのはベトナムだけでなく、日本を含めた世界全体が同じように困っていますが)

いずれにしても経済的に大きな比重を占めるアメリカ、南シナ海で対立があるとは言え、同じ社会主義国として政治体制維持のためにはやはり緊密な関係が重要な中国・・・その間でバランスをとる必要があります。

トランプ関税については、予防策を。

****ベトナム、米国からの農産物輸入拡大の用意 米関税のリスク拡大****
ベトナムのグエン・ホン・ジエン商工相は米国からの農産物輸入を拡大する用意があると述べた。政府が14日明らかにした。

トランプ米大統領は13日、米国の輸入品に関税を課している全ての国に「相互関税」を課すと発表している。

ベトナムはアップルやサムスンなど多国籍企業の製造・輸出拠点となっており、米国の関税で大きな打撃を受ける可能性がある。昨年の対米貿易黒字は過去最高の1235億ドルで、中国、欧州連合(EU)、メキシコに次いで多かった。

同相は今週の会合でマーク・ナッパー駐ベトナム米国大使に「市場を開放し、米国からの農産物輸入を増やす用意がある」と伝えた。

米政府のデータによると、昨年の米国の対ベトナム輸出の4分の1以上は農産物。大半が綿花、大豆、ナッツ類だった。

ベトナムは米国の主要貿易相手国の中で特に関税差が大きく、米国よりも高い輸入関税を課している。世界貿易機関(WTO)によると、ベトナムは輸入関税率は平均9.4%。【2月14日 ロイター】
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中国とも緊密な関係を維持。

****ベトナム国会が中国へ通じる鉄道建設を承認、総額80億ドル超―独メディア****
2025年2月19日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、ベトナム国会が中国につながる鉄道路線の建設計画を承認したと報じた。

記事は、ベトナム国会が19日、同国最大の北部港湾都市ハイフォンから西へ向かい、首都ハノイを経由して中国雲南省と接するラオカイまで延びる鉄道計画を承認したと紹介。幹線は全長約390.9キロメートル、3本の支線の長さは計約27.9キロメートル、総建設費は現在のところ83億ドル(約1兆2500億円)と見積もられており、今年着工して2030年の完工を目指すと伝えた。

ベトナム北部にはサムスンやフォックスコン、ペガトロンなどの大手国際電子企業の生産拠点が多数存在し、特に中国からの原材料供給に依存している一方で、フランス植民地時代に建設された1世紀以上前の鉄道など、老朽化した交通インフラが同国のさらなる経済成長の大きな障害になっていると指摘。

現在、中国への輸送の多くが低速な上に国境での遅延が発生しやすいトラックに依存している状況であり、運行時速が在来鉄道の50キロから3倍以上の160キロへと引き上げられる新鉄道は、貨物輸送と旅客輸送の両方で大きな役割を担うことが期待されていると伝えた。

また、新鉄道は中国の「一帯一路」構想、2004年にベトナムが中国に提唱して合意した「両廊一圏(中越間の2本の経済回廊と、トンキン湾経済圏)」構想における両国のパートナーシップを強化すると考えられており、中国が一部の資金を融資する予定だと紹介。

現時点でどの企業が建設を担当するかは決まっていないものの、昨年末にベトナムのファム・ミン・チン首相が雲南省を訪問した際、中国鉄建(CRCC)がプロジェクト参加を希望したという中国メディアの情報を伝えた。

記事はさらに、19日のベトナム国会では今年の経済成長目標を従来の6.5〜7%から8%に引き上げること、31年の完成を目指す同国初の原子力発電所の建設、イーロン・マスク氏率いるスペースXが国内でスターリンクの衛星インターネットサービスを提供することも承認されたと伝えている。【2月20日 レコードチャイナ】
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更に、ベトナム同様にトランプ関税の標的となる欧州も、ベトナムとの関係強化・販路拡大を目指しているようです。

****欧州首脳、ベトナム訪問を計画 米関税リスク受け****
複数の関係筋によると、欧州の首脳がベトナムとの関係強化のため、同国を訪問することを計画している。米国のトランプ政権が欧州とベトナムに関税を発動する可能性があり、緊張が高まっていることが背景だ。

米国がベトナムに関税を課せば、両国関係が悪化する可能性がある。

欧州の当局者や外交筋によると、フランスのマクロン大統領はベトナムとの関係強化のため、5月下旬に同国を訪問する可能性がある。欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長もベトナムとの関係を正式に格上げするため、マクロン氏よりも先にベトナムを訪れる可能性がある。訪問はともに以前から計画されていたもので、まだ最終決定には至っていないという。

また、欧州委のシェフチョビチ委員(通商担当)も4月にベトナムを訪問する可能性がある。

フォンデアライエン委員長は先週、ベトナムで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)の会合にビデオメッセージを送り「関税と輸出規制の流れが強まりつつある。われわれは信頼できるパートナーと貿易・投資の新しい機会を作りたい」と述べた

EUは昨年、ベトナムから520億ドル相当の財を輸入。輸入額は米国の半分以下だが、EUはベトナムにとって第3の輸出市場となっている。

ベトナムに進出している米国のメーカーは、欧州よりも米国に対する輸出依存度が高いが、トランプ政権がベトナムに関税を発動した場合、ベトナムからEUへの輸出が増え、欧州企業による対ベトナム投資が進む可能性もある。【3月4日 ロイター】
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【日本への影響は? トランプ大統領、円安批判からの関税への言及も】
日本がこれまでのベトナムのように米中対立から“漁夫の利”を得られるかどうかは・・・

****トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?****
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和

サマリー
◆米トランプ政権は10%の対中追加関税に続き、メキシコとカナダに対する25%の関税などを課す可能性がある。厳しい関税措置は、米国を含む各国経済の減速などを通じて日本経済に悪影響を及ぼし得る。

半面、関税を課された国の価格競争力が低下して日本が代替需要を取り込む(いわゆる「漁夫の利」を得る)可能性もある。そこで本稿では、第2次トランプ政権下で日本が「漁夫の利」を得る条件を検討する。

◆第1次トランプ政権下では、対中追加関税の影響で中国の対米輸出シェアが低下し、ベトナムなどのシェアが上昇した。

同時期に日本のシェアは低下しており、「漁夫の利」は得られなかった。対中追加関税の対象品目では日本の国際競争力が低かったことに加え、日本と中国の輸出財の代替性が低かったことも影響したとみられる。

◆第2次トランプ政権下では、より広範な関税措置による日本経済への悪影響が懸念される。関税措置の対象はほぼ全品目に及ぶほか、中国以外の国も対象となる可能性がある。

もっとも、全品目ベースで見た日本の輸出財の競争力は他国に見劣りせず、韓国やドイツなどとの輸出財の代替性が高い。関税措置の対象が幅広い品目やこれらの国に及んで日本の輸出競争力が相対的に向上した場合、日本経済への悪影響は「漁夫の利」で一定程度緩和されるだろう。【3月3日 大和総研】
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ただ、現実にはなかなか大変。

****トランプ関税で日本株はどうなる?自動車25%関税表明で輸出株は総崩れになったが…最も厄介なシナリオとは****
トランプ政権が関税をディールの武器にして諸外国に揺さぶりをかけています。輸入車に25%の関税をかけると表明すると、日本でも自動車など輸出関連株が大きく下落しました。トランプ関税は今後、マーケットにどんな影響を及ぼしていくのでしょうか。三井住友DSアセットマネジメント・市川雅浩チーフマーケットストラテジストに話を聞きました。 

(中略)
■ 日本には厳しい要求はしてこない?   
(中略)結局のところ、トランプ関税の真の狙いは、米国内への生産回帰と雇用増、海外からの投資増、海外への輸出増と思われます。ここに関してはすでに石破総理が「対米投資の1兆ドルまでの引き上げ」「液化天然ガス(LNG)の輸入拡大」を日米首脳会談の手土産にしました。  

日本はトランプ氏の狙いに応えているほか、中国や北朝鮮を見据えた時に安全保障面でも重要な位置にあることから、日本に対しては厳しい要求はしてこないだろうと見ています。  

現状日本は、米国に対して相互関税や鉄鋼・アルミニウム、自動車への関税適用除外を申し入れています。今後は日本政府の交渉力が試されるところです。

■ 関税による米国のインフレ再燃リスクは大きくない 
 ——日本株にとって一番厄介なシナリオは。  市川氏:トランプ氏が選挙期間中に発言していた、すべての国の製品に一律10〜20%の追加関税を課すということを実際にされると、日本だけでなく世界経済にも大きな影響が出てきます。これが日本株のトランプ関税リスクとしては最も大きなものと考えます。  

ただこれは米国への影響も大きいので、発動のハードルはかなり高いとみています。仮に一律10%の追加関税が発動された場合、米国の物価上昇率を1%ポイント程度、押し上げるインパクトがあると考えています。  

現状、トランプ政権は「一律関税」ではなく「相互関税」の導入を検討しており、個別の国と個別の商品について話し合う形となる公算が大きくなっています。

日本は米国からの自動車輸入に対する関税はゼロとしていますが、トランプ政権は日本の車検制度や安全基準、補助金などを「非関税障壁」とし、関税以外に米国車の販売に妨げになっていると指摘することも想定されます。  

非関税障壁を口実に、日本車に追加関税が課せられるリスクはあり、警戒感が残ります。関税政策については具体的な内容がほとんど固まっていないので、投資家は詳細が明らかになるのを待っている状況です。  

一方、トランプ氏は「インフレ非難」で選挙に勝った経緯があります。米国では2026年に中間選挙もあるので、インフレを招くような無茶な関税引き上げ政策は難しいと考えています。 

関税の引き上げは、中国を除いた各国との、あくまで交渉材料であり、個別に交渉が行われる限り、関税による米国のインフレ再燃リスクは大きくないと思います。【2月26日 JBpress】
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上記記事は“日本に対しては厳しい要求はしてこないだろう”と楽観的ですが、すでに円安批判ができています。

****トランプ氏、円安で日本批判 関税引き上げちらつかせ是正要求へ****
トランプ米大統領は3日、円安・ドル高で米製造業が不利な立場に置かれたとして日本を名指しで批判した。今後は日本に円安是正を求める代わりに、関税引き上げを通告するという。中国通貨の人民元安も同様に批判した。ホワイトハウスで記者団に述べた。

トランプ氏は「日本であれ中国であれ、ドルに対する通貨安で私たちは極めて不利な立場に置かれる」と主張。「日本や中国が自国通貨を切り下げている時に(米メーカーの)キャタピラーがトラクターを作るのは困難だ」とも述べ、日本や中国の製造業がドルに対する通貨安で不当に競争力を高めていたと不満を示した。

トランプ氏は「以前は日中の首脳に電話をかけ、『不公平な通貨切り下げを続けることはできない』と伝えてきた。だが、私がすべきなのは『関税を少し上げる必要がある』と伝えることだけだ」と述べた。今後は関税引き上げを交渉材料に通貨安の是正を促していく考えを示した。

トランプ政権は、米国に高率の関税を課す相手国に同程度の関税を発動する「相互関税」の導入を計画する。政府高官は、新たな関税率を算定する際にドルに対する不当な通貨安も考慮するとしている。

一方、加藤勝信財務相は4日の閣議後記者会見でトランプ氏の発言について「通貨安政策は取っていない。先般の為替介入を見てもらえば理解してもらえる」と反論した。林芳正官房長官も同様の見解を示し、「(日米間で)引き続き緊密に議論していく」と語った。

政府・日銀は昨年、過度な円安の是正に向け、円買い・ドル売りの為替介入を複数回実施している。

トランプ氏は2017~21年の1次政権時代に日中の通貨安を問題視。安倍晋三首相(当時)や中国の習近平国家主席に通貨安の是正を直接求めたと語っていた。【3月4日 毎日】
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ベトナムも欧州も日本も、トランプ関税対策には苦慮。
もちろん、すでに標的となっているカナダや中国は激しく反発、報復関税をかける姿勢です。 経済へのアメリカの影響が死活的に大きいメキシコは日本と同じように、なるべく事を荒立てず穏便に・・・といった姿勢ですが、穏便ですむかどうかはわかりません。
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タイ  ウイグル人難民の強制送還と長期拘留

2025-01-15 23:04:24 | 東南アジア

2015年の中国への強制送還時、トルコ・アンカラのタイ領事館の前で抗議するデモ隊【2015年7月10日 WSJ】)

【ウイグル人43人を10年間拘束 中国への強制送還検討】
中国が新疆ウイグル自治区でウイグル族などの弾圧をおこなっているとの国際批判をうけているのは周知のところですが、中国との関係を重視するタイはウイグル人難民43人を中国に強制送還しようとしているとも報じられています。

****タイで拘束中のウイグル人43人、中国に強制送還の危機 「手遅れになる前に助けを」****
タイ・バンコクの移民収容センターに拘禁されている中国・新疆ウイグル自治区出身のウイグル人ら43人が中国への強制送還の危機に直面している。米AP通信やドイツの国際公共放送ドイチェ・ヴェレ(DW)などが15日までに報じた。

ウイグル人らは書簡で「投獄され、命を失う恐れがある。手遅れになる前に悲惨な運命から救い出してほしい」などと国際社会の介入を訴えている。

DWなどによれば、タイ政府筋などの情報として中国への強制送還はタイ政府内で議論されているが、現在、結論は出ていないという。タイ政府は今年、中国との国交正常化50年を迎える上、米国政府は政権移行期にあるため強制送還したとしても強く反応しないだろうの見方も報じている。

タイの移民官は今月8日、拘束されているウイグル人に対し、中国に強制送還を希望する書類への署名を求めた。過去10年に送還されたウイグル人も同様の署名をしていたといい、「ウイグル人らは恐怖を覚え拒否した」と報じられる。

タイ政府を巡っては2014年にマレーシアとの国境付近で300人以上のウイグル人を拘束し、15年に109人を中国で迫害を受ける恐れがあるにも関わらず送還し、国際社会の批判を浴びた経緯がある。

当時、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「国際法の明確な違反」とし、米国や国際人権団体などが非難していた。トルコ・イスタンブールのタイ領事館はデモ隊に襲撃される事態に至った。【1月15日 産経】
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上記記事でははっきりとは書かれてはいませんが、今回強制送還が検討されているのは“2014年にマレーシアとの国境付近で300人以上のウイグル人を拘束”という人々の一部です。

ということはすでに10年拘束が続いているということでもあり、それ自体が重大な人権侵害とも思えます。なかには拘束中に死亡した者も。(日本でも入管施設での長期拘留が問題視されています)

****ウイグル族48人を10年間拘束 子供含む5人死亡、早期解放求める声―タイ****
タイで、中国・新疆ウイグル自治区を脱出し不法入国したウイグル族の男性48人が、10年にわたり拘束されている。

タイ政府は国際社会からの批判を招いた中国への強制送還を停止しているが、第三国への出国も認めておらず、中国に配慮したとの見方が出ている。

拘束下で子供を含む5人が死亡しており、人権団体は早期の解放を訴えている。

タイ南部ソンクラー県などで2014年、トルコへの亡命を目指すウイグル族300人以上が不法入国で拘束された。

タイ政府は15年、170人余りをトルコに移送する一方、109人を中国へ強制送還。「(迫害を受ける恐れのある国への送還を禁止した)ノン・ルフールマン原則に違反している」と国際的に批判を浴びた。

拘束直後の14年には新生児と3歳の子供が結核などで命を落とし、18年と23年にも20~40代の計3人が病死した。現在は43人がバンコクの入管施設に収容中で、脱走を図った5人は刑務所に収監されている。

人権団体「ピープルズエンパワーメント財団」のチャリダー理事長は「入管施設の医療体制は不十分だ。早急に対応していれば救えた命もあった」と強調。処遇改善と早期解放を求めた。

国連の恣意(しい)的拘禁に関する作業部会などは今年2月、ウイグル族拘束への懸念を記した書簡をタイ政府に送付。バーンプリー副首相兼外相(当時)は3月、報道陣に「不法な移民は法律に従って対処するが、いつ手続きが終わるかは分からない」と述べた。

チャリダー氏は「ウイグル族が求めるトルコへの移送が実現しないのは、政府が中国に配慮しているからだ」と指摘。同氏が国会で政府の対応を批判したところ、安全保障の担当者は「中国とは良好な関係を維持する必要がある」と弁明したという。
 
元国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)職員で野党・公正党のガンナウィー下院議員は「中国から逃れたウイグル族は難民で、尊厳が守られるべきだ」と主張。「タイにはミャンマーからも含めて15万人以上の難民がいるが、受け入れに関する法律がなく、制定を急ぐ必要がある」と訴えた。【2024年9月24日 時事】
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日本ウイグル協会の声明によれば、“タイ政府は2015年、命の危険に晒されることを知りながら国際法に違反し109人のウイグル人難民を中国へ強制送還したが、その後の彼らの一切の消息が不明となっている。”とのこと。

中国によるウイグル人らへの弾圧に関しては、“これまでに、アメリカ政府、欧州議会、イギリス議会、フランス議会、カナダ議会等11の議会が、ウイグルジェノサイド(或いはその深刻なリスク)を認める決議を採択している。2022年8月、OHCHRも「人道に対する罪を含む、国際犯罪の遂行」に当たる可能性があると公式に認めました。”【日本ウイグル協会の声明】とも。

【中国との関係を重視するトルコ】
「ウイグル族が求めるトルコへの移送が実現しないのは、政府が中国に配慮しているからだ」との指摘については、もちろん、タイ政府が中国との関係を考慮しているのは間違いないですが、トルコも中国との関係を考えると受入れに消極的になっているのでは・・・というのは私の個人的想像です。

トルコ世論は同じイスラム教徒ウイグル人の境遇に同情的ですが、トルコ・エルドアン政権としては中国との関係改善を重視しており、波風を立てたくないというのが本音ではないでしょうか。

****トルコ大統領、中国との関係改善継続望む 習主席と会談****
トルコのエルドアン大統領は4日、カザフスタンの首都アスタナで開幕した地域協力組織「上海協力機構(SCO)」の首脳会議に合わせ、中国の習近平国家主席と会談し、あらゆる分野での両国の関係改善に向けた取り組み継続を望み、これが双方に恩恵をもたらすと習氏に伝えた。(後略)【2024年7月5日 ロイター】
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下記は政府ではなくメディア関係者についてのものですが、多分に自国政府の立場を反映したものでしょう。

****中央アジアとトルコのメディア関係者、中国新疆の発展を称賛****
カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルコのメディア関係者がこのほど、設立70周年を迎えた中国新疆ウイグル自治区イリ・カザフ自治州を4日間の日程で訪問し、イリの社会と経済の発展、人々の生活の改善、生態系の保護、文化の継承、対外開放などの状況について理解を深めた。

現地で開かれた中国メディアと海外メディアの交流座談会では、カザフスタン紙「シルクロード・トゥデイ」のフセイン・ダウロフ社長が、今回の訪問を通じて、新疆の多民族地域に住む全ての人々、全ての民族を気に配慮し、その文化と伝統を守ろうとする中国政府の姿勢を目にしたと振り返った。

また、中国とカザフスタンは友好的な隣国、戦略的パートナーとして、「一帯一路」共同建設の枠組み内で、両国の企業による協力プロジェクトを数千件実施しており、これは両国の人々に進歩と繁栄をもたらすとの見方を示した。

キルギスのロシア語日刊紙「イブニング・ビシュケク(The Evening Bishkek)」のバクト・バサルベク編集長は「訪問中、中国政府が地方の発展を重視していることが見て取れた。中国の国家的貧困者扶助計画が地元の村でどのように実施されているかを目の当たりにした。また、中国政府が少数民族の文化や言語を保護するために手を尽くしているのもうれしい驚きだった」と述べた。

ウズベキスタン紙「ザラフシャン(Zarafshon)」のファルモン・トシェフ編集長は「私はここの観光センターや街路がとても好きだ。伊寧(グルジャ)県の天山花海風景区で見たイリのエコツーリズムの発展も素晴らしかった。風景区の平坦で、清潔で、緑豊かな街路はとても良かった。風景区の節水技術も称賛に値する」とイリの観光業を絶賛した。

トルコ「アイドゥンルク(AYDINLIK)」紙対外連絡部のオズグル・オトバス部長は訪問中、「新疆に来たのもイリに来たのも初めてだ。ここで多くの民族が平和に暮らし、互いの言語や文化を尊重し、互いに融合し、交流しているところを見た。これこそが本当の新疆だ。トルコに戻ったら、今回見聞きしたことを記事やドキュメンタリーにしてより多くの人に伝えたい」と語った。【2024年9月19日 新華社】
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“ここで多くの民族が平和に暮らし、互いの言語や文化を尊重し、互いに融合し、交流しているところを見た”と言ってる国が、中国に強制送還すると命の危険があるから自国で受け入れる・・・とはならないでしょう。

西側諸国はトランプ氏に気を使い、トルコ・中央アジアの国々は中国の意向を忖度する・・・というのが国際社会の現実です。

【2015年のバンコク爆発事件】
なお、タイでは2015年のウイグル人109人の強制送還の直後に、ウイグル人によるとされる爆弾テロが起きています。

****バンコク爆発事件のウイグル人被告、「私は人間」と法廷で訴え****
昨年(2015年)8月、タイの首都バンコクで20人が死亡した爆発事件で、爆発物を仕掛けたとして起訴された中国少数民族ウイグル人の被告が17日、収監中に不当な扱いを受けていると主張し、出廷する途上で「私は人間だ」と繰り返し叫んだ。

バンコク中心部の「エラワン廟(びょう)」で起きた爆発事件では、中国人観光客を中心に20人が死亡した。

爆発の直前にエラワン廟に荷物を置くところを監視カメラに捉えられた黄色いシャツの男として、中国国籍でウイグル人のビラル・モハメド被告(31)が起訴されたが、共犯とされる同じウイグル人のユスフ・ミエライリ被告(26)ともども爆破事件の犯行を否認している。

この日、丸刈りの頭で出廷したモハメド被告は苦しそうな表情を見せながら、報道陣にウイグル語と英語で不満を叫び始めた。法廷内でのドラマは続き、モホメド被告はウイグル語の通訳を介しながら「食べることもできないし、私が祈ると笑われる」と述べるとともに、タイ人の看守に殴打されたり、イスラム教の戒律に則ったハラルフードを与えられなかったりすると訴えた。

モハメド被告の弁護人はこれまでに、タイの警察が被告に自白を強要していると非難しており、被告による当初の自白は後に撤回されている。一方、警察側は拷問疑惑はばかげていると一蹴している。

事件に関連する容疑者はいまだ多くが逃走中で、主犯格も含め大半は国外にいると考えられている。動機に関する確証はまだないが、事件の約1か月前にウイグル人移民109人がタイから中国へ強制送還されたこととの関連を疑う声が根強い。しかしタイ当局はこの説を否定し、人身売買組織に対する取り締まりへの報復とみている。【2016年5月17日 AFP】
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【タイ深南部で繰り返されるテロ】
ついでに言えば、日本ではあまり報じられていませんが、マレーシア国境が近く住民の多くがイスラム教徒であるタイ深南部と呼ばれるパタニー、ヤラー、ナラーティワートの3県と隣接するソンクラー県3郡では、以前からタイ人警官や教師・仏教僧侶などへのテロが続いていいます。その背景等については今回は立ち入りません。

2022年末の記事で、“2004年以降、これまでに7400人以上が死亡している”とのことです。

今年に入っても
“タイ深南部パッタニー県でバイク爆弾が爆発、警察官6名とマレーシア人1名が負傷”【1月13日 タイランド ハイパーリンクス】
“タイ深南部テロで警官親子が死亡 国境警備警察学校の校長と教師”【1月14日 newsclip.be】

そうした事情もあって、タイではイスラム教徒に対する警察の対応も厳しくなりがちなのかも・・・。
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マレーシア  とかく厄介な領有権問題 政治指導者間の因縁の関係が重なると・・・

2024-12-15 22:31:49 | 東南アジア

(マル印で囲んだあたりがペドラ・ブランカ島 実際は地図にも表記できない小さな島です)

【無人島「ペドラ・ブランカ島」 2008年5月 シンガポール領とする国際司法裁判所(ICJ)判断】
日本の尖閣諸島・竹島問題に限らず、多くの国が隣国と領有権を争う問題を抱えており、合理的判断の有無にかかわらず、その解決・譲歩はナショナリズムと絡んで非常に困難です。ときに国内の政争とも絡んでくることも。

マレーシアは隣国シンガポールと無人島「ペドラ・ブランカ島」(面積はサッカー場の半分ほどと極めて小さく、地図にも表示できないぐらい)をめぐって争ってきました。「過去形」なのは、領有権についてはシンガポールの主張が認められる形で国際司法裁判所(ICJ)の判断が確定しているからです。

しかし、ここにきて今度はマレーシア国内の「アンワル首相vs.マハティール元首相」という因縁の対決の形で再燃しています。

*****ペドラ・ブランカ島*****
ペドラ・ブランカ島は、マレー半島南部ジョホールの7.7カイリ沖、南シナ海から半島東岸に沿ってシンガポール海峡に入る位置にある花こう岩性の無人島。面積はサッカー場の半分ほどと小さいが、その位置から戦略的に重要な意味を持ち、領海問題にも影響を及ぼすとみなされてきた。【2008年5月23日 AFP】
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****マレー半島の小島、領有権はシンガポールに 28年間の論争に終止符****
オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)は(2008年5月)23日、シンガポールとマレーシアが領有権を争っていたペドラ・ブランカ島(Pedra Branca、マレーシア名はバトゥプテ島、Pulau Batu Puteh)について、シンガポールに帰属するとの判断を下し、28年間にわたる論争に終止符を打った。(中略)

ペドラ・ブランカ島の領有権はそもそもマレーシア側が主張していた。しかし、シンガポール側は130年前から同島のホースバー灯台を管理しており、それに対してマレーシアは何の申し立てもしていなかったことから、暗黙のうちに領有権がシンガポールに移転していたと反論していた。

ICJのAwn Shawkat Al-Khasawneh裁判官は「当法廷は12対4で、1980年までにペドラ・ブランカ島の領有権はシンガポールに移転されていたとみなし、同国に帰属すると判断するに至った」と述べた。

またICJは、島周辺に2つある岩場のうちMiddle Rocksについてはマレーシアに領有権があることを認めた。もう1つの岩場South Ledgeはちょうど領海が重なるところに位置することから、あらためていずれの国に帰属するか判断するとした。

論争の発端は1980年、ペドラ・ブランカ島を自国領土として記載したマレーシアの新しい地図にシンガポールが異議を唱えたことにある。以後、両国間で数年にわたり協議が行われてきたが解決には至らず、国連(UN)の最高司法機関であるICJに判断を委ねることになった。

1965年にマレーシアからシンガポールが分離独立して以来、両国関係は領有権争い以外でもしばしば悪化している。1965年当時には、島の領有権は定められていなかった。

23日のICJの判断について、マレーシア、シンガポールともに2国間関係に影響を及ぼすものではないとコメントしている。【同上】
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【かつてはマレーシアを追放されたシンガポール その後世界的金融・港湾都市に変貌】
もとより(マレー人優遇政策をとる)マレーシアと(華人主体の)シンガポールの関係は微妙。1965年にマレーシアから「追放」される形で「不本意」な分離独立はするも、小さく天然資源の不足に悩み、生き残れないと言われていました。“独立を国民に伝えるテレビ演説で(シンガポール指導者)リー・クアンユーは涙を流した”【ウィキペディア】とも

*****シンガポール マレーシアから「追放」される形での分離独立*****
マレーシアを結成
1957年にマラヤ連邦が(イギリス植民地支配から)独立し、トゥンク・アブドゥル・ラーマンが首相に就任する。その後の1959年6月にシンガポールはイギリスの自治領となり、1963年にマラヤ連邦、ボルネオ島のサバ・サラワク両州とともに、マレーシアを結成する。

しかし、マレー人優遇政策を採ろうとするマレーシア中央政府と、イギリス植民地時代に流入した華人が人口の大半を占め、マレー人と華人の平等政策を進めようとするシンガポール人民行動党(PAP)の間で軋轢が激化。

1964年7月21日には憲法で保障されているマレー系住民への優遇政策を求めるマレー系のデモ隊と、中国系住民が衝突し、シンガポール人種暴動 (1964年)が発生、死傷者が出た。

シンガポール共和国として分離独立
軋轢の激化に加え、1963年の選挙において、マレーシア政府与党の統一マレー国民組織(UMNO)とシンガポールの人民行動党(PAP)の間で、相互の地盤を奪い合う選挙戦が展開されていたことにより、関係が悪化してしまう。

ラーマン首相は両者の融和は不可能と判断し、ラーマンとPAPのリー・クアンユー(李光耀)の両首脳の合意の上、1965年8月9日にマレーシアの連邦から追放される形で都市国家として分離独立した。独立を国民に伝えるテレビ演説でリー・クアンユーは涙を流した。【ウィキペディア】
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それが今では・・・・世界有数の金融・港湾都市国家へ変貌。

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シンガポールは、教育、娯楽、金融、ヘルスケア、人的資本、イノベーション、物流、製造・技術、観光、貿易・輸送の世界的な中心である。多くの国際ランキングで上位に格付けされており、最も「テクノロジー対応」国家(WEF)、国際会議のトップ都市(UIA)、世界で最もスマートな都市である「投資の可能性が最も高い」都市(BERI)、世界で最も安全な国、世界で最も競争力のある経済、3番目に腐敗の少ない国、3番目に大きい外国為替市場、3番目に大きい金融センター、3番目に大きい石油精製貿易センター、5番目に革新的な国、2番目に混雑するコンテナ港湾。

2013年以来『エコノミスト』は、シンガポールを「最も住みやすい都市」として格付けしている。経済平和研究所によると、シンガポールは世界平和度指数で9位、汚職の少ない国として12位にランクインしている(共に2022年時点)【ウィキペディア】
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リー・クアンユーの手腕によるところが大きいものの、その強権的政治には批判も。

【2018年 復権したマハティール首相 前年に行ったICJへの控訴を取下げ】
話をペドラ・ブランカ島に戻すと、前期のICJ判断で結着したはずですが、2017年マレーシアは新たな証拠が見つかったとして判決見直しを要求。

しかし、当時のマハティール首相は翌年(2018年)、この控訴を取下げました。これで、ペドラ・ブランカ島はシンガポールが領有することで改めて結着しました。

****ペドラ・ブランカ島帰属問題が決着、マレーシアが控訴取り下げ****
マレーシアとシンガポールとの間で領有権が争われたペドラ・ブランカ島(マレーシア名バトゥ・プテ島)の帰属問題が決着し、シンガポールに領有権のあることが確定した。

マレーシアは1979年、シンガポールが実効支配する同島はマレーシアに属すると主張。ハーグの国際司法裁判所(ICJ)に提訴したが、ICJは2008年5月23日、島はシンガポールに属するとの判決を示した。

しかし判決を覆す可能性のある決定的証拠が英国のアーカイブで発見されたとしてマレーシアは昨年2月、判決の見直しをICJに要求。別に判決内容の解釈を求める請求も行った。

マレーシアは2件の請求とも取り下げをICJに要請し、またシンガポールの法務総裁にも通知。シンガポール側も同意を表明した。(中略)

ラジャラトナム国際研究学院のヤン・ラザリ特別研究員によれば、マレーシアのマハティール首相は、財政健全化など、より重要な課題に取り組むことを優先したと考えられるという。【2018年5月31日 Asia X】
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合理的なマハティール首相にすれば、そんな小さな岩島に拘っても仕方ない・・・という考えでしょうか。

【アンワル政権 ペドラ・ブランカ島に関連する訴訟を審査する王立委員会を設置 マハティール氏が独断で控訴を取り下げたことが不正行為に当たると勧告 因縁のマハティール・アンワル両氏】
それから数年の時が流れ、2024年1月、ロイター通信はマレーシアがペドラ・ブランカ島に関連する訴訟を審査する王立委員会を設置すると報じました。

改めて王立委員会を設置するということは、アンワル首相としては上記2018年のマハティール元首相による幕引きを了承できないということでしょう。

アンワル首相とマハティール元首相・・・・非常に興味深い関係
アンワル氏はかつてはマハティール政権の副首相として後継者と目されていましたが、経済政策をめぐって対立。
アンワル氏は政権からも、与党からも追放され、同性愛の罪(マレーシアはイスラム教を国教とする国家で同性愛は犯罪に該当します。このアンワル氏への嫌疑は政治的なものとも見られています)で投獄されることに。

アンワル氏は2004年に釈放されるものの、2014年に司法の無罪判決取り消しで再び収監されることに。

2018年に首相に復帰したマハティール政権のもとで国王恩赦により釈放され、アンワル・マハティール両者は和解(したことになってはいます)。

アンワル氏はその後2022年に念願の首相の座に。

なお、マハティール氏はザヒド副首相との間でも名誉毀損を巡る裁判を抱えているようです。

そうした個人的な確執がペドラ・ブランカ島をめぐるマハティール氏の対応への不満の背景にあるのか、ないのか・・・

一般論で言えば、アンワル氏の長年の収監に関して加害者側のマハティール氏は「過去の話。水に流して・・・」というところでしょうが、実際に収監されていたアンワル氏の思いはそう簡単ではないでしょう。(もし政治的冤罪だとしたら)

もっとも、マハティール氏にすれば、あれは政治的冤罪ではなく、実際にアンワル氏が罪を犯したから・・・という話でしょうが。

****マレーシア元首相のマハティール氏、捜査対象に? 島の領有権問題で****
マレーシアのマハティール元首相(99)が在任中の政治判断を巡り、捜査対象になる可能性が浮上している。

シンガポールと争っていた小島の領有権に関する国際司法裁判所(ICJ)の判断への異議申し立てについて、マハティール氏が独断で取り下げたことが不正行為に当たるとして、王立調査委員会が捜査を勧告した。マハティール氏は、独断ではなかったなどと否定し、対決の構えを見せている。

現地メディアによると、問題となっているのは、南シナ海とシンガポール海峡を結ぶ要衝にあるぺドラブランカ島などの領有権に関する対応だ。ICJは2008年、同島がシンガポールに帰属するとの判断を下したが、マレーシア政府は17年に異議を申し立てた。

ところが、18年5月の下院選挙を経てマハティール氏が首相に就任した直後に異議申し立ては取り下げられた。

アンワル首相が当時の経緯の見直しを指示したとされ、調査委が今年に入って調査に乗り出していた。今月5日に議会に提出された報告書は、マハティール氏が内閣の承認を受けないまま不当に領有権を放棄したとして問題視した。

これに対し、マハティール氏は自身のX(ツイッター)に45項目にわたる反論を投稿。異議申し立ての取り下げは閣議で合意された▽異議申し立てがうまく進む可能性は低いとする国際法の専門家らの見解を考慮し、国益を優先した――などと主張した。10日に記者団の取材に応じた際には、調査の背景に政治的動機があるとして現政権を非難したという。

(中略)(マハティール氏は)今年1月と10月には感染症の治療のために入院し、裁判は延期されていた。【12月15日 毎日】
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TVでチラ見した現地ニュースでは、マハティール派の野党議員が「不当に責任を押し付けるものだ」と批難。

政府側は王立調査委員会の報告書を検討・議論してくれという立場のようですが、同報告書の多くのページが真っ黒に塗られれており野党議員は「これでは検討もしようもない」と政府を追求していました。

ただでさえ厄介な領有権交渉に、長年のアンワル・マハティール両氏の確執(一応表面的には和解したことにはなっていますが)が加わって、すっきりしない展開に。

なお、アンワル首相については、長年の政治的迫害を経て政権の座についたこれまでとは異なる価値観の政治家と欧米からは期待もされていましたが、その実像は欧米の期待したものとは異なるのではないか・・との指摘もあります。
(“【期待を裏切ったマレーシア首相】西側諸国が間違ったアジアの指導者を支持する背景【10月25日 WEDGE】)

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フィリピン  国内ではドゥテルテ家と、国外では中国との対立激化

2024-11-23 23:51:38 | 東南アジア
(フィリピンのマルコス大統領(右)とサラ・ドゥテルテ副大統領=マニラで2022年6月、ロイター【11月23日 毎日】  蜜月時代の写真です。 サラ氏がおとなしくマルコス氏に従うとは思っていませんでしたが・・・)

【次期大統領とドゥテルテ前大統領の麻薬問題に絡む超法規的殺人及びICC逮捕状をめぐるドゥテルテ家とマルコス大統領の争い】
フィリピンでは国の内と外で争い・対立がヒートアップしています。

国内の方は、いささか週刊誌ネタ的ですが、ドゥテルテ前大統領とその娘サラ副大統領のドゥテルテ家と名門マルコス家のマルコス大統領の争い、国外では以前からの中国との領有権をめぐる争いです。

では「殺し屋を雇った」云々の週刊誌ネタの方から

ドゥテルテ家とマルコス大統領の間にはふたつの争いの種があります。ひとつは次期大統領をめぐる確執。

“マルコス氏が今年初め、公職の任期を制限している憲法の規定の見直しに言及したことから、ドゥテルテ一家が「大統領任期の延長を模索している」と猛反発。両家の間に亀裂が生じ、サラ氏は6月には兼務していた教育相などの辞任を表明した。下院は現在、サラ氏の公金不正使用疑惑に関する公聴会を開いている。”【11月23日 時事】

ドゥテルテ家としてはマルコス大統領誕生にサラ氏が協力してやったのだから、次はサラ氏に・・・という思惑(合意?)がありますが、マルコス大統領側にそれを無視するような動きがあるとの不満があるようです。

これだけであれば「水面下」の争いになりますが、争いを表沙汰にしているのがもう一つの火種、ドゥテルテ前大統領の任期中の麻薬問題取締りに関する超法規的な殺人、それに対する国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状の扱い。

ドゥテルテ前大統領は2016年の就任後、麻薬犯罪の撲滅を掲げ、強硬な取り締まりを主導。警官による容疑者の殺害を事実上容認しました。フィリピン政府によると死者は6千人超、国連人権高等弁務官事務所は20年の報告書で8663人が死亡したとしています。人権団体調査では2万人を超えるとも。なかには無関係の者を殺害とか、麻薬を名目にした警官による殺人とか・・・いろんなケースも。また、警官でもない謎の集団が麻薬関係者と思われる者を殺害してまわったとも。

ICCの検察局は2018年、フィリピン人弁護士の告発を受けて予備調査を開始。21年9月に正式な捜査を承認しましたが、フィリピン側が「すでに捜査している」などと主張したため、21年末に中断していました。

しかし、ICCの検事が、2022年6月に発足したマルコス政権が徹底した調査を実施している証拠を示していないとし、調査の再開を求めました。それを受け、ICCは調査の再開を承認。2023年1月26日の声明で、フィリピンが十分な捜査を行っていないと指摘しました。

ドゥテルテ・マルコス両者の間には大統領選挙で協力するにあたり、前大統領の麻薬取締り問題の責任を問わない・・・といった合意の類があったようにも見受けらますが、ここにきてマルコス大統領がICCに協力する姿勢を見せていることに、ドゥテルテ側が反発を強めています。マルコス大統領の対応は、前述の次期大統領をめぐる争いも絡んのことでしょう。

****フィリピン、ドゥテルテ前大統領に逮捕状なら国際刑事裁に協力へ****
フィリピン政府は13日、ドゥテルテ前大統領が進めた違法薬物の取り締まりで数千人が死亡した問題について、ドゥテルテ氏が国際刑事裁判所(ICC)への自首を望むのであれば阻止しないと表明、同氏に逮捕状が出れば従わざるを得ないと述べた。

ドゥテルテ氏は同日、議会の公聴会でICCを恐れてはいないと発言。ICCに対し人道の罪を巡る捜査を「急ぐ」よう求めた。

マルコス大統領の事務所は数時間後に声明を発表し、国際刑事警察機構(インターポール)から要請があればドゥテルテ氏の身柄引き渡しを検討すると表明。

ベルサミン官房長官は「政府は国際逮捕手配書が出れば、応じる必要のある要請だと感じるだろう。その場合、国内の法執行機関は全面的な協力しなければならない」と述べた。

フィリピン政府がICCに協力する意向を示唆したのは初めて。

ドゥテルテ氏はICCが違法薬物の取り締まりを巡る予備調査を開始したことを受けて、2019年3月にフィリピンのICC脱退を決めた。【11月13日 ロイター】
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ドゥテルテ前大統領は公聴会で「(ダバオ市長時代に自らが)少なくとも6人を殺害した」と挑発的な発言も

****ドゥテルテ前大統領 違法薬物取り締まりで「少なくとも6人殺害した」ICCを挑発…“麻薬戦争”めぐる捜査にフィリピン政府は協力姿勢を表明****
フィリピンで「麻薬戦争」と呼ばれる強硬な取り締まりを行ったドゥテルテ前大統領が、自らも容疑者などを殺害したことがあると明らかにしました。フィリピン政府は、国際刑事裁判所の捜査に協力する姿勢を見せていて、逮捕の可能性も浮上しています。

「麻薬犯罪の撲滅」を掲げていたドゥテルテ前大統領は、容疑者の殺害もいとわない強硬な取り締まりを行い、人権団体によりますと、死者は2万人を超えるとされています。

現地メディアによりますと、ドゥテルテ氏は13日、2回目となるフィリピン議会の公聴会に出席し、自身も大統領就任前に「少なくとも6人を殺害した」と明らかにしました。

そのうえで、ドゥテルテ氏を人道に対する罪で捜査しているICC=国際刑事裁判所に対し、「ここに来てあすにでも捜査をはじめてほしい。私は怖くない」と述べ、挑発しました。

こうした発言を受け、フィリピンのベルサミン官房長官は、ドゥテルテ氏の逮捕が要請された場合、司法当局には協力する義務があると表明。現在のマルコス政権がICCに協力する姿勢を見せたのは初めてで、今後の捜査の行方が注目されます。【11月14日 TBS NEWS DIG】
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就任前の南部ダバオ市長時代には、ギャングで組織する「殺人部隊」を麻薬対策に当たらせていたとも証言しています。

「やれるものならやってみろ。逮捕? 上等じゃないか。どうぞ逮捕してくれ」とったようにも聞こえます。
ドゥテルテ前大統領の強気の背景には、国民的支持があります。麻薬問題に関しても、前大統領の強硬な取締りのおかげで治安が回復したとの評価があります。

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(ICCがドゥテルテ氏の逮捕を要請した場合、身柄拘束に協力する意向を表明した)マルコス氏の発言の背景には、ドゥテルテ家との対立がある。

ドゥテルテ氏の長女であるサラ副大統領は、28年の次期大統領選挙への出馬をにらみ、現政権を支えるべき立場でありながら政権批判を繰り返している。

ドゥテルテ氏も、25年5月の中間選挙(上下両院選、地方選)にあわせ、ダバオ市長選出馬を表明しており、当選すればサラ氏を勢いづけることになる。

根強い支持
ただし、ドゥテルテ氏への支持は国民の間でいまだに根強い。マルコス政権がドゥテルテ氏の包囲網をさらに狭める姿勢をとれば、「逆に同情票という形でドゥテルテ家を利する」(フィリピン政治専門家)との見方があり、ドゥテルテ氏もこうした効果を狙って一連の証言をしている可能性も指摘されている。

政権は選挙を前に、ICCや世論の動向を見ながら、慎重に対応を検討するとみられる。【11月16日 読売】
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両家の対立はヒートアップ、(こわもてで知られる父親の前大統領以上に強気とも評される)サラ副大統領からは「殺し屋(ヒットマン)」云々の発言も。

****フィリピン副大統領、対立するマルコス大統領夫妻に「殺し屋雇った」****
フィリピンのマルコス大統領夫妻らに対し、ドゥテルテ前大統領の長女サラ副大統領が「殺し屋を雇った」と発言し物議を醸している。大統領府は23日、これを「脅迫」とし、早急な措置を取ると発表した。

サラ氏は、機密費の不正使用を指摘され、下院などによる調査が続く。地元メディアによると、サラ氏は23日未明、疑惑に関する記者会見の中で、自身の命が狙われているとし、「もし私が殺されたら(殺し屋が)大統領らを殺す。ジョークではない。すでに指示を出した」と述べた。

これに対し大統領府は声明で「大統領の生命に関するいかなる脅迫も深刻に受け止められる。今回は、公の場で明確に行われており、なおさらだ」とし、大統領の身辺警護を強化する方針を示した。

マルコス氏とサラ氏は、2022年の正副大統領選で共闘してそれぞれ当選したが、その後、関係が悪化。ドゥテルテ氏が大統領在任中に進めた超法規的な麻薬撲滅作戦についても、上院などの調査が続いており、マルコス氏とドゥテルテ家の対立が高まっている。【11月23日 毎日】
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“サラ氏は会見で「マルコス氏の妻といとこの下院議長も対象だ。これは冗談ではない」と言明。「ヒットマンには最後までやり抜けと命じた」と語気を強めた。

サラ氏はこれまで、マルコス氏について「首を切り落としたいぐらい無能だ」と指摘。「私たち家族に対する攻撃をやめなければ、マルコス氏の父、マルコス元大統領の墓を掘り起こして遺骨を南シナ海に捨てる」などと述べていた。【11月23日 時事】”

まあ、サラ副大統領も“もし私が殺されたら”という条件付きの殺害指令ではありますが・・・

全体のイメージとしては、こわもて揃いのドゥテルテ側は、当初は名門マルコス家の世間知らずの御曹司などいかようにも操れるという思いがあったのでは・・・しかし、実際にはマルコス大統領は独自に動き回るようになって、ドゥテルテ側では怒りを募らせている・・・というようにも見えます。あくまでも個人的な感想です。

【フィリピンは南シナ海での自国の権利を明確化する法律 中国は領海の基線を設定】
マルコス大統領が政策面で“独自色”を出しているのが、ドゥテルテ時代の宥和的な対応から変わった対中国強硬姿勢です。

フィリピンと中国の南シナ海での領有権をめぐるこれまでの争いは周知のところですので省きます。

****比、南シナ海での権利明確化…法律施行へ 中国側は反発****
フィリピンのマルコス大統領は8日、南シナ海での自国の権利を明確化する法律に署名しました。近く施行される見通しで、中国側は反発しています。

南シナ海ではフィリピンと中国が互いに領有権を主張し両国の船が衝突を繰り返しています。

地元メディアなどによりますとフィリピンのマルコス大統領は8日、国際法に基づいた南シナ海での主権や権益を明確化した法律に署名しました。

新たな法律では漁業権や船の航行などについて、フィリピンの権限を明確化していて、海域内で権利侵害があった場合、罰則を科す場合もあるということです。この法律は近く施行される見通しです。

一方で、中国側は今年6月、中国が主張する領海内に違法に侵入した外国人を最長で60日間拘束できるとする法令を施行しています。

フィリピンの新たな法律を巡って、中国側は8日、厳粛な申し入れを行うためとして中国のフィリピン大使を呼び出したということで、フィリピンと中国の間でさらに緊張が高まる恐れがあります。【11月8日 日テレNEWS】
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今回署名された法律は、南シナ海での自国の権利が及ぶ範囲を明確化する海域法などです。

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新たな海域法では、領海や排他的経済水域(EEZ)を定めた国連海洋法条約などを基に、南シナ海でのフィリピンの海域と権限を改めて規定した。

中国は南シナ海のほぼ全域に自らの主権や権益が及ぶと主張しているが、これを否定した2016年のオランダ・ハーグ仲裁裁判所の判決も根拠とした。

外国に対して、国際法に基づく権利と義務に配慮するとしつつ、比海域内で権利侵害があった場合には刑法を適用するとした。60万ドル以上100万ドル以下の罰金を科す場合もあるとしている。官報に掲載後、15日後に施行される。【11月8日 毎日】
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これに対し中国は・・・

****中国「黄岩島」に領海基線 南シナ海、実効支配強化****
中国政府は10日、フィリピンと領有権を争う南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)を巡り、領海の基線を定めたと発表した。国営通信新華社が伝えた。

同礁はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるが、中国は領有権を主張している。基線制定は自国領との主張を改めて強調し、実効支配を一段と強める狙いとみられる。
 
基線は領海やEEZの範囲を測定する際の基準となるもので、干潮時の海岸線を基本とする。フィリピンは8日、南シナ海の権益を守るため、国際法に基づき領海やEEZを定める海域法を成立させており、中国は基線制定で対抗する考えだ。【11月10日 共同】
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こうした中国の対応に、当然ながらフィリピン側は反発を強めています。

****フィリピンは「中国の侵略の犠牲者」、南シナ海巡る圧力に反発****
フィリピンのテオドロ国防相は12日、キャンベラでマールズ豪国防相と会談した後、南シナ海での主権的権利を譲るよう迫る中国からこれまで以上に圧力を受けていると述べた。フィリピンは「中国の侵略の犠牲者」とも語り、こうした圧力に反発した。

両国防相の会談は2023年8月以来5度目。南シナ海での中国の活動に懸念を表明している豪比は安全保障上の関係を強化している。

テオドロ氏は、中国の主張と行動は国際法に反しており、オーストラリアのようなパートナーとの安保協力は中国の侵略を抑止する重要な手段だと述べた。

「彼ら(中国)は国際法の下で行動していると主張するが、彼らのやっていることが国際法の基本的な考えに反していることは誰もが知っている」と指摘。「その最大の証拠は誰も彼らの行動や活動を実際に支持していないことだ」と語った。(後略)【11月12日 ロイター】
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フィリピン外務省は13日、中国が実効支配する南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)の領海基線を発表したことを巡り、中国大使を呼び「中国の基線はフィリピンの主権を侵害し、国際法に違反している」と抗議しています。

こうした状況で、両国の争いの中心に位置する問題でもある仁愛礁(フィリピン名アユンギン礁、英語名セカンド・トーマス礁)に座礁している艦船「シエラマドレ号」にフィリピンが補給物資を送ったと明らかにしたましたが・・・・

****フィリピンが南シナ海座礁艦船に物資補給、中国は「許可」と主張****
中国は15日、南シナ海にある係争中の仁愛礁(フィリピン名アユンギン礁、英語名セカンド・トーマス礁)に座礁している艦船「シエラマドレ号」にフィリピンが補給物資を送ったと明らかにした。

フィリピン沿岸警備隊は声明で、シエラマドレ号の人員を交代させ、同艦に物資を送ったと説明した。

中国は南シナ海のほぼ全域の領有権を主張しており、シエラマドレ号は「違法に」座礁したと見なしている。海警局は同艦への物資輸送について「許可を得て」行われたと説明した。

フィリピン沿岸警備隊はこの主張に反応を示していない【11月15日 ロイター】
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この件での中国側報道では・・・

****中国海警局報道官、比「座礁」軍艦への物資補給で談話****
中国海警局の劉徳軍(りゅう・とくぐん)報道官は15日、フィリピンが南沙群島の仁愛礁に座礁させた軍艦に補給物資を送ったことについて談話を発表した。

劉氏は次のように述べた。フィリピンは14日、中国の許可を得て民間船を派遣し、仁愛礁に不法に「座礁」させた軍艦に生活物資を搬送した。中国海警はこれを確認するとともに全過程を監督管理した。

フィリピンが約束を誠実に守り、中国と共に歩み寄り、海上情勢を共同でしっかりと管理することを希望する。中国海警は引き続き法に基づいて仁愛礁を含む南沙群島およびその周辺海域で権益擁護・法執行活動を行う。【11月15日 新華社】
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“中国の許可を得て民間船を派遣し、・・・・中国海警はこれを確認するとともに全過程を監督管理した”
完全に中国側の支配権をフィリピン側が認めたような表現です。

真相はわかりません・・・が、これまで再三衝突が起きているシエラマドレ号への物資補給ですから、フィリピン側から中国への何らかのコンタクトがあっても不思議ではありません。あくまでも想像です。真相はわかりません。

【フィリピン  アメリカ・日本と協調して中国に対抗する戦略 米の政権交代で?】
フィリピンはアメリカ、更には日本とも協調して中国に対抗する構えです。

****米比、軍事情報協定に署名 日本とも交渉、連携強化を目指す***
オースティン米国防長官とフィリピンのテオドロ国防相は18日、マニラで、トランプ米次期政権の発足を前に軍事機密情報を共有する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に署名した。

テオドロ氏は今年5月、共同通信に対し、米国との締結後、日本ともGSOMIA交渉に入る方針を示しており、日米比で一層の連携強化を目指す。

南シナ海で威圧を強める中国に対抗し、国際法に基づく海洋秩序を唱える米比は、GSOMIAの年内締結を目指して交渉を続けてきた。

オースティン氏は、相互防衛条約を結ぶフィリピンとの連帯は「揺るぎない」とし、「同盟関係を超えた家族だ」と指摘した。

テオドロ氏は、インド太平洋地域の平和維持には米国が必要だとのマルコス政権の立場を強調。「(政権を担う)人が代わっても自由という価値観は変わらない」と述べ、米政権交代後の協力維持への期待感を示した。

中国外務省の林剣副報道局長は、米比がGSOMIAに署名したことに「いかなる軍事協定も第三国の利益を損ねてはならない」と述べてけん制した。【11月18日 共同】
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「(政権を担う)人が代わっても自由という価値観は変わらない」・・・そうでしょうか? トランプ氏にそういう価値観はないように思えますが。
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フィリピン・ミンダナオ島  イスラム教徒の多い地域で自治政府樹立に向けて来年5月に議会選挙

2024-09-25 22:52:07 | 東南アジア

(バンサモロ自治地域【ウィキペディア】)

【ミンダナオ島のバンサモロ自治政府樹立への動き】
フィリピンに関しては、南シナ海で続く中国との緊張が注目されていますが、その件はまた別機会に。

フィリピンの内政問題に目を転じると、南部ミンダナオ島に多いイスラム教徒の分離独立運動が長年フィリピンの問題としてあり、歴代政権が対応に苦慮してきました。

モロ・イスラム解放戦線(MILF)などの武装勢力との軍事的衝突も続きましたが和平合意になんとか漕ぎつけ、紆余曲折はあったものの、自治政府樹立へと動いています。

****バンサモロ自治地域*****
イスラムミンダナオ・バンサモロ自治地域(BARMM)は、フィリピンのミンダナオ島西部からスールー諸島にかけて広がるムスリム(イスラム教徒)の多い地域である「バンサモロ」に2019年に成立した自治地域。

1990年に成立したイスラム教徒ミンダナオ自治地域(ARMM)に代えて、「バンサモロ自治地域」を作るという提案は、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線の間で2012年に調印された和平合意準備である、バンサモロ枠組み合意に基づくものであった。

この地方は、フィリピンの地方の中では唯一、独自の「政府」を持つ。またキリスト教国のフィリピンの中では独特の歴史・文化を持っているが、経済的には最も貧しく、治安も安定していない。バンサモロに相当する地域の人口は、2015年国勢調査で約378万人。(中略)6州とコタバト州の一部から構成される。(中略)

第二次世界大戦前のミンダナオ島
フィリピンの歴史において、ミンダナオ島、特に西部地区は他の地域とは異なった国家を長年にわたり構えており、独自の文化とアイデンティティを育んできた。(中略)

アメリカ植民地政府やフィリピン・コモンウェルスの下で、ミンダナオ島全体にルソン島やビサヤ諸島のキリスト教徒が入植し、ムスリムはミンダナオでも少数派となっていった。

イスラム教徒と政府の衝突、ARMMの創立
第二次世界大戦後フィリピンが独立すると、フィリピン政府は国民を統合し単一国家を作ることを目指したが、慣習的なムスリム法のもとで暮らしてきたこの地のモロ人たちはこれを同化政策と見て反発した。(中略)

1970年代からはフィリピンからの分離独立を求めるモロ民族解放戦線(MNLF)とフィリピン国軍との間の武力衝突が続発した。

1986年のエドゥサ革命で、ミンダナオへのキリスト教徒の移民を推進しMNLFとの内戦を行ったマルコス政権が倒れた後、フィリピン政府はムスリム共同体との話し合いやMNLFとの和平協議を進め、1989年に「自治基本法」が成立しミンダナオにムスリム自治区を設ける憲法上の根拠ができた。

政治的対立や混乱の中、ミンダナオ島西部・南部一帯の州と市で、新設される「イスラム教徒ミンダナオ自治地域」(ARMM)への加入に賛成するかどうかの住民投票が行われた。(中略)

しかしARMMへの加入に賛成多数だったのはラナオ・デル・スル州、マギンダナオ州、スールー州、タウィタウィ州の4州だけであった。不完全な自治にすぎないというMNLFによる反発の中、ARMMはこの4州だけで1990年11月6日に発足した。式典は自治地域の首都とされたコタバト市で行われた。

フィデル・ラモス大統領のフィリピン政府と、ヌル・ミスアリ率いるモロ民族解放戦線(MNLF)の間では、1997年7月に和平協定が成立し、和平工程が開始された。

和平に反対するモロ・イスラム解放戦線(MILF)の勢力の増大、2000年のジョセフ・エストラーダ大統領による和平協定破棄、フィリピン国軍とMILFの武力衝突など、和平に逆行する動きが続いた。

2001年、以前の住民投票でARMM入りを否決した州や市へARMMを拡大するための新法が成立したが、マラウィ市とバシラン州(イサベラ市を除く)だけがARMM入りを希望した。

イスラム教徒との和平プロセスと、バンサモロ自治地域の創立
(中略)
2014年3月27日、政府側のアキノ大統領とMILFのムラド議長に加え、仲介役を務めたマレーシア首相ナジブ・ラザクなどの立会いの下、マラカニアンでバンサモロ包括合意が調印された。この中で、バンサモロの法的地位を定めるバンサモロ基本法(英語版)の制定などが目指されている(中略)

バンサモロの成立
2018年7月26日、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が「バンサモロ基本法」に調印、2019年1月21日にARMM住民に対してバンサモロ基本法の成立を問う住民投票が行われ(中略)、投票の結果、バンサモロ自治地域を成立させるバンサモロ基本法は批准され、同時にコタバト州の西部の町村に属する63のバランガイがコタバト州に属したままバンサモロ自治地域に編入されることが決まった。

2月22日にはバンサモロ暫定自治政府(バンサモロ暫定移行機関)が発足、2月26日にイスラム教徒ミンダナオ自治地域はバンサモロ自治地域へと移行した。【ウィキペディア】
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まっすぐに事態が進んできた訳でなく、多くの反発、逆行する動き、中断などもありましたが、そのあたりの話は煩雑になるので省略しました。

上記の動きについては、このブログでも断片的に取り上げてきましたが、バンサモロ基本法の成立を問う住民投票の頃については、2019年1月22日ブログ“フィリピン・ミンダナオ島 イスラム自治政府発足に向けた住民投票 重要な課題も”などでも取り上げたところです。

対応にあたったドゥテルテ大統領はミンダナオ島出身で、イスラム教徒住民の事情、合意の必要性を熟知していることもあって、ドゥテルテ大統領主導で自治政府樹立の実現に向けて前進しました。このあたりはこれまでのルソン島出身大統領とは違います。

【来年5月の議会選挙で議院内閣制の自治政府を樹立】
暫定とはいえ、自治政府の誕生は、長年にわたり紛争の絶えなかった同地域の和平の実現の大きな一歩となります。
正式なバンサモロ政府は、2022年の選挙を経て樹立されるとされていました。

当初は2022年ということでしたが、選挙に関する経緯は把握していませんが、議院内閣制の自治政府を樹立する議会選挙は来年5月に行われることになっています。

長年政府と武装闘争を展開し、和平合意に向けても主導的な役割を果たしたモロ・イスラム解放戦線(MILF)は、選挙を通じて自治政府の実権を握ることを当然としてしてきましたが、選挙情勢はそうしたMILFの思いとはやや異なり、劣勢も予想されていす。

ただ、ここにきて少し“追い風”も。

****イスラム勢力が劣勢挽回も フィリピン最高裁決定、選挙影響****
フィリピン最高裁が11日までに南部ミンダナオ島の和平合意に基づくイスラム自治政府の領域からスールー州を除外すると決めた。

議院内閣制の自治政府を樹立する来年5月の議会選挙で、かつて政府軍と戦ったモロ・イスラム解放戦線(MILF)の政党は苦戦が予想されていたが、ライバル弱体化で追い風を受けそうだ。

選挙に参加する政党のうち優勢とみられていたのは、各地の有力な氏族が集まりスールー州のタン知事を首相候補に推す「大連合」。最高裁決定により、大連合は同州の票田を失い、タン氏も出馬できなくなった。「政治的な決定」との見方も出ている。

マルコス大統領は和平プロセスが順調に進んでいると強調してきた。だがMILFは最終段階の武装解除に応じておらず、選挙で大敗すれば治安悪化を招く恐れがある。

自治・統治研究所のバカニ所長は「大連合は過半数を取る可能性が高かった」が、同州除外で「選挙戦は互角になった」と分析。「大統領が(和平の)成功を宣言しており、波風を立ててはいけないが政府の立場だ」と解説する。【9月11日 共同】
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イスラム自治政府の領域からスールー州を除外するという最高裁判断は今後に大きな問題を生じさせる可能性があります。

****「スールーを除外」 BARMMから、最高裁が判断****
最高裁がスールー州をMARMMから除外する決定を下す。関係者からはバンサモロ分断の懸念も
 
最高裁は9日、2019年のバンサモロ基本法(BOL)承認の可否を問う住民投票を経て発足したバンサモロイスラム自治地域(BARMM)から、スールー州を除外する決定を下した。同決定は直ちに法的効力を持つ。

スールー州は19年のBARMMへの参加に関する住民投票で反対票が上回っていたが、同州が属していた旧ムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)全体として賛成多数だったためBARMMの構成州に編入されていた。

判断文を書いたのは、2012年の政府・モロイスラム解放戦線(MILF)の枠組み合意で政府首席交渉官を務めたマービック・レオネン首席陪席裁判官。この判断には関係者からは当惑の声が上がるとともに、来年に自治政府発足に向けた選挙を控えるなかバンサモロの分断につながる懸念も表明されている。

最高裁は、スールー州をBARMMから除外する理由を、「ARMMの構成州・市を一つの地理的まとまりとして取り扱えるというBOLの解釈は、憲法10条18条の『住民投票に賛成した州、市、および地理区域のみが自治地域に含まれる』という条文に反する」と説明。
 
一方で、BOLとBARMMの設置自体については合憲と判断。「同地域をフィリピンから切り離すものではなく、外交権や主権を与えるものでもない」と指摘し、「より大きな自治権が与えられていることは、中央政府からの分離を意味しない」とした。

BOLに対する違憲審査請求は、スールー州のアブドゥサクル・タン知事が「ARMMを廃止するためには改憲が必要だ」などとして2018年に提出していた。

▽BARMM解体の懸念
BARMMのナギブ・シナリンボ前自治大臣は「この判断は、BOLに明示されていない脱退の選択肢を導入したのと同じ。他の州や市がスールー州に続く可能性もある」と懸念を表明。「あらゆる植民地主義に抵抗してきた13のイスラム教民族・言語グループの結束というバンサモロ概念の『死』につながる恐れもある」とした。

バシラン州選出のムジフ・ハタマン下院議員は、BOLの合憲判決については歓迎しながら、「バンサモロはスールー州なしでは完成しない。この地域の結束と包摂を促進するわれわれの努力に対する手痛い一撃だ」とした。(後略)【9月11日 日刊まにら新聞】
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イスラム勢力に対抗して「大連合」を率いてきたスールー州のアブドゥサクル・タン知事が自治政府に関してどのような立場なのかは把握していません。

【長年政府との闘争、和平合意を主導してきたモロ・イスラム解放戦線(MILF)の気になる対応】
一方、モロ・イスラム解放戦線(MILF)は選挙前の武装解除に応じていません。

****比、和平合意の武装解除拒否 イスラム勢力の元交渉団長****
フィリピン南部ミンダナオ島で、モロ・イスラム解放戦線(MILF)の交渉団長として政府と和平合意をまとめたモハゲル・イクバル氏(77)が24日、共同通信と単独会見した。

議院内閣制の自治政府を樹立する議会選を来年5月に控え、現状では元戦闘員の最終的な武装解除に応じられないと説明。対抗勢力との間で武器を保持したままの選挙戦になると指摘した。

政府軍と戦闘を続けてきたMILFは2014年、中央政府と包括和平合意を結び、武装解除に同意した。日本政府も和平を仲介してきた。

議会選ではMILFの政党は、各地の有力氏族の政治家らが結集した「大連合」に苦戦しそうな情勢だ。【9月25日 共同】
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議会選でMILFの政党が負けた場合、ひと波乱ありそうな雰囲気も。
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フィリピン  南シナ海における中国との緊張 反中国世論を刺激するスパイ疑惑も

2024-09-09 23:38:18 | 東南アジア

(【6月1日 NHK】マニラの公立高校で行われた中国の威圧的な行動に関する講演会)

【相次ぐ中比両国艦船の衝突】
南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)海域で互いに領有権を主張するフィリピンと中国が激しく争い、現場での衝突を繰り返していることは、これまでも何回か取り上げてきました。

両国艦船がぶつかったとき・・・と言われても、「そんなの何回もあるので、いつの衝突の話?」と確認が必要な状況です。

****中国・フィリピン、南シナ海での船舶衝突めぐり応酬****
中国とフィリピンは8月31日、係争中の南シナ海のサビナ礁近くの海域で、相手の沿岸警備船が故意に衝突したと非難し合った。両国間ではここ数週間、同様の衝突が相次いでいる。

中国中央テレビによると、中国海警局の報道官は、31日正午すぎにサビナ礁付近でフィリピンの船が中国の船に「意図的に衝突した」と発表。「中国は(この海域で)議論の余地のない主権を行使している」として、フィリピン船の「素人同然の危険な」行動を非難した。

一方、フィリピン沿岸警備隊のジェイ・タリエラ報道官は、中国海警局の船艇5205がフィリピンの巡視船「テレサ・マグバヌア」に「直接的かつ意図的に衝突した」と述べた。

この巡視船はフィリピンの領有権を主張するため、4月からサビナ礁に停泊している。

タリエラ氏は、巡視船は3回衝突されたと明らかにした。衝突時に負傷した乗組員はいなかったが、船体が損傷し、穴も1カ所見つかった。

タリエラ氏によると、フィリピンの船舶が8月に中国の嫌がらせを受けたのはこれで5回目。 【9月1日 AFP】
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【米中の批難応酬】
フィリピンの後ろ盾となっているアメリカと中国の批難応酬も。

****米、比船への衝突を強く非難 中国の領有権主張は「違法」****
米国務省のミラー報道官は31日、南シナ海のサビナ礁でフィリピンの巡視船と中国海警船が衝突したことを受け、「中国による危険で過激な行動を非難する」との声明を発表し、危険行為をやめるよう求めた。フィリピン側の行動は「法によって認められている」とし、中国の南シナ海における領有権の主張は「違法だ」と批判した。

ミラー氏は「中国海警局船はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内でフィリピンの巡視船に意図的に衝突した」と指摘。8月になって「中国はフィリピンの海洋活動などを攻撃的に妨害している」と非難し、緊張を高めていることを強く批判した。

米国による防衛義務を定めた米比相互防衛条約に関し「南シナ海のどこにおいても、フィリピンの軍や公船、航空機に対する攻撃に適用される」と述べ、中国を牽制(けんせい)した。【9月1日 産経】
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*****「米軍機が妨害」と主張=中国、比船舶との衝突で批判強める****
南シナ海の南沙(英語名・スプラトリー)諸島にあるサビナ礁で8月31日に発生した中国とフィリピンの船舶衝突を巡り、現場上空を米軍機が飛行していたとして、中国側が「妨害行為だ」と批判を強めている。

同礁近海では先月中旬から中比船舶の小競り合いが頻発。習近平政権は、比側を擁護する日米の言動に神経をとがらせている。

中国国営中央テレビ系のSNSアカウント「玉淵譚天」は31日、サビナ礁の現場付近上空を飛行していたとする米軍のP8A哨戒機1機の画像を公開。「米軍が海警局の法執行を邪魔立てした」などと報じた。米国から関連する発表は出ていないもようだ。【9月2日 時事】 
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【衝突した比艦船は日本供与の巡視船 日本も比支援の立場で中比対立に深く関与】
日本もフィリピン側を後押ししています。

*****日本、中国主張の法的根拠否定 南シナ海問題で反論****
在フィリピン日本大使館は31日までに、南シナ海に関する中国の主権主張は国連海洋法条約の規定に基づいておらず、同条約に基づく仲裁裁判所が中国の主権主張を否定した2016年の判断も中国は受け入れていないと批判する声明を出した。

南シナ海のサビナ礁に向かうフィリピン船が中国海警局の船に衝突され、放水砲を浴びたことを巡り「緊張を高める嫌がらせは容認できない」と投稿した遠藤和也大使に対する中国大使館の抗議に反論した。

日本大使館の声明は、日本は海上輸送で資源やエネルギーの大半を調達しており、南シナ海の利害関係国だと強調した。【8月31日 共同】
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中国からすれば、「関係ないくせ、口はさむな!」というところでしょうが、日本側は「日本は海上輸送で資源やエネルギーの大半を調達しており、南シナ海の利害関係国だ」という立場です。

実際のところ、日本は深く中比対立に関わっており、“口”だけでなく艦船をフィリピンに供与しています。
冒頭で取り上げた8月31日の中比両国艦船の衝突におけるフィリピン巡視船は日本が供与したものです。

【中国 「中比関係は岐路に立たされている」 妥協の意思はなし】
こうした事態に、中国共産党機関紙・人民日報は「中比関係は岐路に立たされている」との認識を示しています。

****中比関係「岐路に」、南シナ海巡り人民日報が論説*****
中国共産党機関紙・人民日報は9日の論説で、南シナ海で緊張が高まっているフィリピンとの関係が「岐路に立たされている」との認識を示した。

どちらに進むべきかの選択を迫られているとした上で「衝突と対抗に出口はなく、対話と協議が正しい道だ」と指摘。フィリピンに対し「両国関係の将来を真剣に考え、2国間関係を正しい軌道に戻すために中国と協力すべきだ」と訴えた。【9月9日 ロイター】
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“岐路”・・・・・日米の支援を後ろ盾にフィリピンが更に緊張を高めて、武力衝突に至るか、あるいは、フィリピンが中国主張を認めて穏やかな海を取り戻すか・・・ということでしょうが、中国が妥協するという選択肢は含まれていないでしょう。

【硬化する比の対中国感情】
当然ながら、フィリピン世論の中国への風当たりは険悪なものになっています。中国との衝突はフィリピンにとって軍事的にも経済的にもハイリスクではありますが、マルコス大統領としても強硬な国内世論がある以上、中国に対して“弱腰”はとれないという事情もあります。

****フィリピン大統領 南シナ海情勢で中国に警告 背景は****
シンガポールで31日開幕した「アジア安全保障会議」で、フィリピンのマルコス大統領が南シナ海の情勢などをテーマに講演し、中国による妨害行為でフィリピン側に死者が出るような事態になれば、同盟国アメリカとともに、軍事的な対応をとる可能性を示唆し、中国側に警告しました。

フィリピンでは国民の間で中国への強い反発が広がっていて、専門家は「マルコス政権は、中国と国内世論の両方に対応するという難しい課題に直面している」と分析しています。(中略)

広がる強い反発「私たちは中国がしてきたことに怒っている」
南シナ海で威圧的な行動を続ける中国に対して、フィリピンでは各地で抗議活動が行われるなど国民の間で中国への強い反発が広がっています。

先月15日には、2012年から中国が実効支配する南シナ海のスカボロー礁に近いルソン島西部の港に、中国に抗議する団体のメンバーらが乗ったおよそ100隻の船が集まり、海上で大規模な抗議活動を行いました。

活動には、中国当局によって周辺の豊かな漁場から追い出された地元の漁師たちも加わり、船団を組んで南シナ海を航行し、中国への抗議を示しました。

首都マニラでも先月、市民およそ300人が南シナ海におけるフィリピンの主権を訴えながら、市街地の通りを練り歩きました。

参加者が通り沿いの住宅を訪ね、国旗を掲揚してともに抗議の意思を示すよう呼びかけると、多くの住民が家の軒先などに国旗を掲げていました。

参加した76歳の男性は、「私たちは、中国がしてきたことに怒っている。フィリピンのために闘おう」と話していました。

教育現場で中国の威圧的な行動を解説する講演も
フィリピンの教育現場では、中国の威圧的な行動について知ってもらおうという取り組みも行われています。

マニラの公立高校では、中国に対する抗議活動を行っている団体が、南シナ海の問題に関する講演会を開きました。

団体のメンバーは、中国当局の船がフィリピンの船に対して放水銃を使用してけが人も出ていることや、中国の船によって貴重なサンゴ礁が破壊されている実態などを写真や資料を交えて解説しました。

また、中国がSNSなどを通じて偽の情報を拡散し、フィリピン国内の世論の分断を図ろうとしているという指摘もあることを紹介し、生徒たちに注意を呼びかけていました。

生徒の1人は、「中国がこんなことをしているとは知りませんでした。私たちは勇敢になるべきだし、中国の抑圧を許してはいけません」と話していました。

団体によりますと、講演の依頼は国内各地の学校から寄せられているということです。

中国への反発が急速に拡大 背景に政権の情報公開
中国に反発する動きが急速に広がっている背景には、マルコス政権が南シナ海での中国の威圧的な行動を積極的に公開するようになったことがあります。

フィリピンでは、前のドゥテルテ政権が中国との経済的な関係を重視する一方、南シナ海での中国船の活動はほとんど公表しませんでした。

おととし(2022年)就任したマルコス大統領も当初は抑制的に対応していましたが、去年、フィリピンの巡視船が中国海警局の船からレーザー光線の照射を受けたことをきっかけに、方針を大きく転換。

照射を否定する中国側に反論するため、現場で撮影したとする映像を公開するとともに、国内外のメディアに沿岸警備隊の巡視船などへの同行取材を認め、威圧的な行動を繰り返す中国船の実態を積極的に公開するようになりました。

その結果、民間の世論調査会社がことし3月に実施した調査では、フィリピンの主権を守るため南シナ海で軍のパトロールなどを増やすべきだと回答した人が7割以上を占めるようになりました。(後略)【6月1日 NHK】
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【比の反中感情を更に悪化させる“市長が中国籍で中国のスパイだった”という疑惑】
そうしたフィリピン世論を逆撫でするような事件も。
中国系犯罪組織に関与した疑いなどでフィリピン北部バンバン市長(「町長」とするメディアもあります)を解任されたアリス・グオ氏が実は中国国籍で「中国のスパイ」ではないかとの疑惑が出ています。

****出生や通学の記録なし…「中国のスパイ」疑惑の市長事件が波紋 フィリピンの反中感情に火****
フィリピン北部のバンバン市長を解任され、不法出国後に逮捕された中国系のアリス・グオ容疑者(34)を巡る事件が、比国内で波紋を広げている。

グオ容疑者は詐欺組織の運営に関与していただけではなく、実際は中国人で、比国籍を偽装していた疑いが浮上。中国による南シナ海での圧力を巡って比国内で反発が広がる中、市長が「中国共産党のスパイ」だったとの疑念が強まり、市民の反中感情は悪化している。

組織から殺害すると脅されていた
比当局は6日、中国系詐欺組織の運営に関与したとして、収賄容疑などでグオ容疑者を逮捕した。警察とともに共同記者会見に臨んだグオ容疑者は、「(組織から)殺害すると脅されていた」と述べた。

事件の端緒は3月、バンバン市内の「POGO」と呼ばれるオンラインカジノ施設への強制捜査だった。POGOはドゥテルテ前政権下の2016年に導入された制度で、比当局が認可したオンラインカジノ事業者を指す。

だが、近年は犯罪の温床になっていることが問題視され、恋愛感情を抱かせて金をだまし取るロマンス詐欺や、マネーロンダリング(資金洗浄)の拠点となっていた。

比捜査当局はバンバン市内のPOGOを巡り、運営側の中国人ら9人を逮捕した。その関連捜査で、組織の拠点がグオ容疑者の関連企業の土地にあったことから、グオ容疑者の事件への関与が浮上した。

一連の調べで浮かんだのは、グオ氏の経歴を巡る不審な点だ。病院での出生記録や学校への通学記録がなく、捜査当局が指紋を調べると、中国福建省出身で2003年にフィリピンに入国した「郭華萍」という中国人女性のものと一致、グオ容疑者の国籍に疑義が生じていた。

グオ容疑者はこれまで疑惑について、「私は生まれながらのフィリピン人。中国のスパイではない。悪意のある攻撃だ」と否定。だがフィリピン上院の公聴会を欠席したことで、上院が逮捕命令を出していた。

グオ容疑者は7月以降に船で不法出国。出国を受けて市長職を解任された。その後、マレーシアやシンガポールに滞在していたとみられるが、今月4日にインドネシアで拘束後に強制送還されていた。

中国系フィリピン人は動揺
事件を受け、比国内の交流サイト(SNS)などでは、「中国のスパイに派手な浸透工作を許した」「市長をさせたのは国の恥」などと、怒りの声が飛び交う。インドネシアからの送還時、グオ容疑者が比当局者と笑顔で楽しそうに過ごす画像も流出し、「国民への冒涜(ぼうとく)だ」と怒りに拍車をかけた。

8月には南シナ海のサビナ礁付近で、中国海警局の船がフィリピンの巡視船などに衝突する事案が相次いで発生。グオ容疑者の事件も相まって、フィリピンでは反中感情「中比関係は岐路に立たされている」が急速に高まっている。

この状況に対し、推定120万人前後とされる中国系フィリピン人は恐怖感を強めている。シンガポール紙ストレーツ・タイムズは識者の話として、既に中国系フィリピン人が「戦争が起きたら中比どちらを支持するのか」「POGOと関係はないのか」とからかわれる事案が起きたと報じた。記事では、グオ容疑者を巡る事件が、現地に根付いた華人らへの「敵対的行動」につながる恐れがあるとしている。

事件ではグオ容疑者を手助けしたフィリピン当局の協力者がいたとされ、マルコス大統領は「国民の信頼を損ねる腐敗だ」として徹底捜査を指示。現地メディアによると、グオ容疑者は資金洗浄など87の罪で刑事告発され、最長で1200年超の実刑となる可能性がある。【9月9日 産経】
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中国系フィリピン人への暴力といった事態になれば、習近平政権の対応は危険なレベルになる恐れもあります。

【名門マルコス家vs.剛腕ドゥテルテ家】
フィリピン・マルコス政権は対外的には中国との対立を抱えていますが、国内的にはドゥテルテ前大統領や長女サラ・ドゥテルテ副大統領などのドゥテルテ家との対立があります。名門マルコス家vs.剛腕ドゥテルテ家といったところ。

ドゥテルテ前大統領の麻薬犯罪絡みの超法規的殺人の扱いや、次期大統領選挙をめぐる思惑などが絡んでいます。
サラ氏の国民的人気を取り込んで大統領選挙に勝利したマルコス大統領に対し、サラ氏側には「一体誰のおかげで大統領になれたと思っているのか!」という怒りも。

****前大統領の「側近」逮捕=人身売買容疑など―フィリピン****
フィリピンのドゥテルテ前大統領の「側近」と言われる新興宗教団体の指導者アポロ・キボロイ容疑者が8日、児童虐待や人身売買などの疑いで捜査当局に逮捕された。同容疑者は、米連邦捜査局(FBI)からも児童を含む人身売買や女性への強制わいせつ容疑などで手配されていた。

ドゥテルテ氏はダバオ市長や大統領当時、頻繁にキボロイ容疑者のテレビ番組に出演し、麻薬密売人を違法に殺害したとされる「麻薬戦争」について自説を展開していた。

ドゥテルテ氏の長女サラ・ドゥテルテ副大統領は捜査当局の動きを「行き過ぎだ」と批判、1日には宗教団体の設立記念式典に出席した。【9月9日 時事】 
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名門マルコス家の老獪さに対し、新興ドゥテルテ家は粗っぽさも・・・。ただし、超法規的殺人も厭わない剛腕です。ただ、独裁者マルコス元大統領時代から考えるとマルコス家の方がもっと暴力的かも。
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タイ  改革勢力、タクシン派、軍・保守派の三つ巴で続く政治混乱

2024-08-16 23:07:09 | 東南アジア

(【8月16日 日経】 タクシン元首相と新首相に就任した次女ペートンタン氏)

【改革を掲げる「前進党」の解党 受け皿新党結成で活動は引き継ぐ】
周知のように、8月に入ってタイでは軍部など保守派の意向を反映した二つの憲法裁判所の政治判断がなされました。

一つ目は8月7日、議会での最大政党である民主派「前進党」への解党命令。「不敬罪」改正を選挙公約に掲げたことを「国王を元首とする国家を転覆させようとした」と判断されました。

「前進党」の前身である「新未来党」も2020年に解党命令を受けています。

****民主派最大勢力タイ前進党に解党命令…「不敬罪」改正選挙公約、憲法裁「国家転覆させようとした」****
タイの憲法裁判所は7日、民主派最大勢力「前進党」に対し同日付で解党を命じた。昨年5月の下院選で第1党になった同党が解党されたことに対する国民の反発は必至だ。

憲法裁は、同党が昨年の下院選時に王室への侮辱を罰する「不敬罪」を定めた刑法112条の改正を選挙公約に掲げたことを「国王を元首とする国家を転覆させようとした」と指摘した。ピター・リムジャラーンラット前党首を含む昨年下院選時の幹部を10年間の公民権停止とした。

幹部を務めた下院議員6人は失職し、その他前進党所属議員は60日以内に他党に移籍しないと失職する。

判決後、ピター前党首らはバンコク市内の党本部で記者会見し、「我々は希望を捨てていない。仲間が新党で意思を引き継いでくれる」と話した。前進党は解党命令を見越して後継政党の設立準備を進めてきた。前進党は現在、下院(定数500)で148議席を占めており、円滑な新党移籍で勢力の維持を図る構えだ。

憲法裁は今年1月、同党が昨年の下院選で王室を侮辱する公約を掲げたとして違憲判断を示した。これを受け前進党と対立する親軍派の元上院議員らが選挙管理委員会に同党の解党請求を申し立て、選管が3月、憲法裁に解党命令を出すよう求めた。

憲法裁判事は軍政下で選ばれ、軍の強い影響下にある。憲法裁が政党を解党処分にする例は多発しており、2020年には前進党の前身「新未来党」が、07年、08年、19年にはタクシン元首相派の政党が解党された。

タイでは国王の権威が絶対的で、王室を護衛する軍など保守派が国を支配し王室に近い財閥など既得権益層を守ってきた。貧困層などはデモで対抗したが、軍は1932年の立憲革命以降、未遂も含め19回のクーデターで権力を握ってきた。

前進党はこうした国の構造を変えようと、王室や軍の改革を訴え若年層を中心に幅広い支持を得て下院選で躍進した。しかし、軍が事実上指名した当時の上院議員がピター氏の首相選出を阻み、親軍派政党とタクシン元首相派政党「タイ貢献党」などの連立政権が発足した。

前進党本部には7日、多くの支持者が詰めかけモニター越しで判決を見守った。解党命令が出ると「この国は民主主義国家ではないのか」と声を上げ、中には泣き叫ぶ人もいた。【8月8日 読売】
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ピター党首の10年間公民権停止という痛手はあるものの、想定された事態であったため「前進党」も後継政党「国民党」を準備しており、新たな政党に議員は移って活動を続けることになります。

****解党命令受けたタイの最大野党、新党結成 「単独政権が最大の目標」****
タイ憲法裁による解党命令が出た最大野党「前進党」の所属議員らは9日、後継政党「国民党」を結成すると発表した。近く政党登録し、前進党の議員だった143人全員が所属する予定。党首は、下院議員、ナタポーン・ルアンパンヤウット氏(37)が務める。

前進党の前身である「新未来党」も2020年に解党されており、国民党は、新未来党の流れをくむ第3世代となる。ナタポーン氏は9日の記者会見で「最多議席を維持し、27年の選挙で単独政権を取ることが最大の目標だ」と語った。

タイでタブー視される王室や軍の改革を訴えた前進党は若者や都市部の住民から支持を集め、昨年の下院選で第1党となった。しかし、親軍派や保守派の反発は強く、政権を獲得できなかった。

憲法裁は7日、前進党が昨年の下院総選挙で王室批判を禁じる不敬罪の見直しを公約に掲げた【8月9日 毎日】
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【セター首相解任 タクシン元首相への警告 新首相はタクシン氏次女のペートンタン氏】
そして、8月14日には、閣僚人事を巡り、閣僚資格のない者を閣僚に任命した任命責任を問うセター首相への解職請求を憲法裁判所が認め、タクシン派「タイ貢献党」のセター首相が失職しました。

軍部など保守派の狙いはセター首相ではなく、その背後にいるタクシン元首相であるとされています。

****セター首相解職 専門家「タイ保守派の狙いはタクシン派への警告」****
タイの憲法裁判所は14日、閣僚人事を巡り倫理上の問題があったとしてセター首相に対する解職請求を認めた。国軍に近い元上院議員らがセター氏の任命責任を追及していた。軍をはじめとする保守派の意向が影響した判断とみられ、政治的な混乱が深まりそうだ。

憲法裁の裁判官9人のうち5人が、解職が妥当とした。4月の内閣改造で首相府相に就任したピチット氏は2008年に法廷侮辱罪で実刑判決を受けており、憲法が定める閣僚資格に反すると判断。その上で、任命したセター氏には倫理的な責任があるとした。

地元メディアによると、ピチット氏はタクシン元首相の汚職を巡る裁判で弁護人を務めた際、最高裁職員に賄賂を渡そうとしたとして短期間服役した。閣僚職は既に辞任している。

セター氏は昨年8月、タクシン派の「タイ貢献党」から首相に選ばれた。06年の軍事クーデターで失脚し、国外逃亡していたタクシン氏も帰国。タクシン派は対立関係にあった親軍政党や保守政党と大連立を組んで政権を発足させたが、人事や政策などを巡って権力争いが続いている。

失職したセター氏は判決後、「憲法裁の判断を受け入れる」と述べる一方、「これまで最善を尽くし、誠実に仕事をしてきた」と悔しさをにじませた。新首相が決まるまで、プンタン副首相兼商務相が職務を代行する。

法政大学の浅見靖仁教授(タイ政治)は「依然として保守派の政治的な影響力が残ることを示した」と指摘。保守派の最大の狙いはセター氏ではなく、本格的な政治活動を再開させたタクシン氏へのけん制であり、タクシン派への警告だったとみている。

憲法裁は今月7日、王室への中傷を禁じる不敬罪の見直しを訴えた最大野党「前進党」に解党を命じたばかりだった。タクシン氏も過去の発言が不敬罪にあたるとして起訴されており、近く審理が行われる予定だ。【8月14日 毎日】
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“2020年には前進党の前身「新未来党」が、07年、08年、19年にはタクシン元首相派の政党が解党された”【前出 】、“00年以降、首相の資格を巡って憲法裁に提訴された歴代首相は5人。このうちセター氏を含め3人が失職した”【8月14日 毎日】ということで、保守派の意向を受けた憲法裁判所の解党命令や首相失職はタイでは珍しいことではありません。

2014年には、政府高官人事に不当介入したとしてタクシン元首相の妹インラック首相も失職しましたが、一番「そこまでやるか・・・・」という感があったのは、2008年のサマック首相の失職。

タクシン派と反タクシン派の対立で政治・社会が混乱していた当時、タクシン派ではないもののタクシン派に担がれる形で首相になったサマック氏は料理が趣味で、TVの料理番組に出演した際に謝礼として5000バーツ(約1万6000円)を受け取ったのが、首相の兼業禁止に反するとして失職しました。

まあ、そんなこともあるタイ政治ですから、今回の一連の憲法裁判所判断には驚きはしませんし、想定はしていましたが、「まだ、そんなことやってるのかね・・・」という感も。

失職したセター首相の後任には、タクシン元首相の次女である「タイ貢献党」のペートンタン党首が就くことになりました。

****タイ新首相のペートンタン氏 史上最年少の37歳、政治経験乏しく****
タイの下院は16日、新たな首相にタクシン元首相の次女で、最大与党「タイ貢献党」のペートンタン党首(37)を選んだ。タイ首相としては史上最年少となる。

14日に現職の首相だったセター氏が憲法裁判所の解職命令を受け、失職したことに伴う交代で、連立政権を担う親軍政党などが支持した。今後、タクシン氏の政治への関与が強まることになりそうだ。

下院(定数500)で首相指名の投票が行われ、ペートンタン氏が319人の賛成を得た。女性の首相は、タクシン氏の妹で2014年に失職したインラック氏以来となる。

セター氏は閣僚人事を巡り、倫理上の違反があったとして憲法裁に解職を命じられたが、わずか2日で同じ政党から後継者が選ばれた形だ。

憲法裁の判断には国軍など保守派の意向が影響したとされ、長年対立してきたタクシン氏をけん制する狙いがあったとみられる。ただ、下院では野党の国民党が最多議席を有しており、保守派が政権にとどまるためには、貢献党と連立を維持する必要があった。

各政党は23年5月の下院選で、それぞれの首相候補を選挙管理委員会に届け出ており、首相はこのリストから選ぶ必要がある。

貢献党はセター氏とペートンタン氏のほか、元法相のチャイカセム氏を挙げていた。当初は経験豊富なチャイカセム氏が有力とみられていたが、75歳で健康不安があり、ペートンタン氏しか候補者は残されていなかった。タクシン氏の意向も働いたとみられる。

ペートンタン氏と親軍政党などは15日、投票に先立って合同記者会見を開き、笑顔で写真撮影に応じるなど「和解」を演出した。今後の組閣を巡っても、政党間の駆け引きが行われているとみられる。

ペートンタン氏はホテル業界などで勤務し、23年の下院選から政治活動を本格化させた。巧みな演説で党の「顔」として活躍。選挙中に第2子を出産し、直後に病院で会見を開いたこともある。

選挙後に貢献党党首に就任してからは、主要産業の観光施策に力を入れてきた。ただ国会議員ではなく、政治経験は乏しい。

ペートンタン氏は16日、地元メディアの取材に対し、経験不足を認めながらも「いいチームがいればうまくいく」と前向きな姿勢を見せた。タクシン氏からは「最善を尽くすように」と助言を受けたという。【バンコク武内彩】
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保守派にすれば、タクシン元首相を牽制するためにセター首相を追い落とした結果、タクシン首相の分身ともいえる次女ペートンタン氏が次期首相になった・・・という形ですが、“タイ政治の専門家は「保守派はタクシン氏を信用しておらず、憲法裁判決は警告だ。ペートンタン氏は『人質』で、タクシン氏の言動次第では再び政治的に混乱する恐れがある」と分析している。”【8月16日 時事】とも。

タクシン元首相がおとなしくしないと、次女ペートンタン新首相が痛い目にあうぞ・・・という「人質」でしょうか?

【6月にはタクシン氏自身も不敬罪で起訴】
軍部など保守派にしても、既存秩序の改革を掲げる議会で最大勢力の「国民党」(旧「前進党」)を抑えるためには、仇敵タクシン派と手を組むしかないという状況ですが、それにしても帰国後のタクシン元首相の行動を目に余る・・・といったところでしょうか。

そのタクシン元首相自身も、6月に不敬罪で起訴されています。

****タクシン元首相を不敬罪で起訴 保守派の「警告」か―タイ****
タイ最高検は18日、王室への不敬罪でタクシン元首相(74)を起訴したと発表した。タイのメディアは、2月の仮釈放後、活発な政治活動を展開するタクシン氏に対する軍など保守派の「警告」だと報じている。

刑事裁判所は18日、高齢で逃亡の恐れがないなどとして、タクシン氏の保釈を認めた。タイの不敬罪は、有罪となれば3年以上15年以下の禁錮が科される。

最高検によると、タクシン氏は国外逃亡中の2015年5月、韓国でのインタビューで、タクシン派政権が倒された14年のクーデターに関連して王室を侮辱する発言をしたとされる。タクシン氏側は無罪を主張している。(後略)
【6月18日 時事】
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タクシン元首相はその後も政治活動を行う姿勢を見せています。

****タクシン元首相が「8月から本格的に仕事を始める」と宣言 具体的内容には言及せず****
仮釈放中のタクシン元首相はこのほど、訪問先の東北部スリン県で、「国民に具体的成果をもたらすべく8月から仕事を始める」と宣言した。だが、仕事の具体的内容には言及しなかった。(後略)【7月16日 バンコク週報】
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ただ、起訴されたことで同氏への圧力は強まっています。

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翌6月に検察当局はタクシン元首相を起訴し、旅券の提出と無断出国の禁止が命じられる一方、タクシン氏は保釈保証金50万バーツを納付して即日保釈が認められたものの、先月末にタクシン氏側が病気治療を理由にドバイへの渡航を申請するも裁判所は却下するなど事実上同国内に留まらざるを得ない状況にある。

タクシン氏は昨年のセター政権発足直前に17年に及んだ海外逃亡から帰国するとともに、その後の恩赦を経て政界復帰に向けた道筋を再び描きだしていたものの、そうした流れは早くも見通しが立ちにくくなった格好である。【8月15日 西濱徹氏 第一生命経済研究所】
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【改革を掲げる「国民党」(旧「前進党」)、タクシン派「タイ貢献党」、軍部及び親軍保守派の三つ巴で混乱が続くタイ政治】
今後もタイ政治は、改革を掲げる「国民党」(旧「前進党」)、タクシン派「タイ貢献党」、軍部及び親軍保守派の三つ巴で混乱が続きそうです。

****【保守派と軍部による弾圧】混迷するタイ民主化の鍵を握るタクシン元首相が起訴された理由****
タイのタクシン元首相が起訴されたことにつき、Economist誌6月22日号のコラム要旨

王室に近い保守派と軍部は敵と見なした相手に不敬罪を用いることで悪名高いが、6月18日、タクシン元首相(2006年のクーデターで追放)は、王室を侮辱した容疑で正式に起訴された。タイ貢献党を率いた同元首相は長期間国外に亡命していた間も彼らの最大の敵だった。しかし、今回の起訴は23年5月の選挙の後、同元首相と保守派・軍部が裏取引をしたことを考えると、驚くべき出来事である。

23年の選挙で将軍達はうまく凌いでタイを支配し続けることを望んでいたが、タイ貢献党よりもリベラルで、徴兵制と不敬罪の廃止を主張する前進党が圧勝し、タイ貢献党は第2党、軍が後援する政党は第3党となった。

結局、軍部が支配する上院が前進党の党首であるピタ氏の組閣を阻止し、代わりにタイ貢献党のセター氏が首相になった。

同氏は、実業家でタクシン元首相一族に近い。そして、23年8月にはタクシン元首相自身が亡命から帰国し、熱狂的な歓迎を受けたばかりでなく、汚職で長期間、刑務所に収監される代わりに豪華なバンコク病院に入院することが許され、数カ月後に退院した。こうして不倶戴天の敵だった既得権層(保守派と軍部)は彼の同盟者となったはずだった。

タクシン元首相がどのような取引をしたのかは明らかにされていない。しかし、元首相が起訴されたということは、彼がレッド・ラインを越えたことを意味する。

恐らく、既得権層は、彼が政治活動に復帰しようとしていると考えたのであろう。実際、元首相は、まるで選挙活動をしているかのようにタイ国内を回っていた。

他方、同じ6月18日、憲法裁判所は、タクシン元首相の盟友のセター首相に対する保守派の上院議員達による解任要求の訴えを受理した。とりあえず、タクシン元首相は保釈され、セター首相への尋問は延期されたことにより、直近の政治的危機は回避されたが、この出来事は、タクシン元首相とその支持者達に対して政治活動が許されていると思わないようにとの警告だった。(中略)

*   *   *
複雑化する既得権益と民主化の戦い
Economist誌は、既得権益層(旧貴族等の保守派と軍部)は、タクシン元首相が政治活動を再開しようとしていると見なして元首相を不敬罪で起訴し、盟友のセター首相の罷免要求の訴えを憲法裁判所が受理することで、元首相に政治活動を行わない様に釘を刺したとしている。恐らくこの見立ては正しい。

昨年の選挙で、不敬罪と徴兵制の廃止を訴えて圧勝したピタ党首の前進党の組閣を阻止するために既得権益層がタクシン元首相と裏取引をしたのは間違い無い。その結果、元首相の帰国と引き換えにタイ貢献党が前進党他の民主化を求める政党を裏切って保守派・軍部に味方して、ピタ党首の前進党の組閣を阻止した。

近年、前進党やその前身である新未来党のような民主化勢力が政治舞台に出てくる前までは、タクシン元首相が率いるタイ貢献党が王室、保守派、軍部にとり最大の脅威であったことから、裏取引には同元首相が帰国して政治活動に復帰しないという条件が付けられていたと思われる。

しかし、野心家のタクシン元首相がおとなしく約束を守るとは思えないのでこういう事態が起きることは驚くべきことではなく、保守派・軍部もそれを分かっていたはずである。

この裏約束は、都市部を中心とした若い世代のタイ人に人気の高い前進党が既得権益層が拠って立つタイの王制と軍部のあり方(不敬罪と徴兵制の廃止)を根本的に変えようとする「今、そこにある危機」を排除するための、時間稼ぎだったのだろう。

タクシン元首相の野心は、王制を廃止して自らが大統領となってタイを支配することだと言われている。しかし、第2次世界大戦以来、タイの政治経済を牛耳って来た既得権益層は、彼らの権力の源泉である王制を倒そうとするタクシン元首相の脅威よりも民主化を求めるタイの若い世代からの挑戦をより深刻な脅威と捉えているようだ。

タクシン元首相が王制を廃止して大統領(独裁者)になっても、元首相となら何らかの妥協が可能だと考えているのではないか。というのは、タクシン元首相はタイの貧困層をターゲットにばらまき政策を行って来たが、本質的に自分の権力・財産に関心はあっても民主主義には関心がないとみられるからだ。

若い世代の民主化要求に対応するか
(中略)今や既得権益層は学生のみならずより広範囲な若い世代の民主化要求というこれまでにない挑戦に直面している。恐らく、前進党の解党をきっかけに再度、民主化要求デモが起こり、既得権益層は軍を動員して潰すであろうが、今後ともより広範に広がりつつある民主化要求を永遠に潰し続けることは不可能であり、タイは徐々に変化せざるを得なくなるだろう。

そして、地方の貧困層を握るタクシン元首相は、その混乱の中でキャスティング・ボードを握ろうとしているのかも知れない。【7月15日 WEDGE】
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インドネシア  ジョコ大統領がレガシーとすべく進める首都移転 移転計画には暗雲も

2024-08-13 23:04:55 | 東南アジア

(新首都「ヌサンタラ」【8月11日 毎日】)

【人気が高いジョコ大統領 強引な政権運営で民主主義後退の批判も】
国民的人気が高いジョコ大統領の後任を決めるインドネシア大統領選挙は2月14日に行われ、ジョコ大統領のかつての政敵であったものの、現在はジョコ政治の後継者をアピールするプラボウォ氏が当選、ジョコ大統領の長男が副大統領としてプラボウォ氏とペアを組むことになっています。

大統領選挙は2月でしたので、とっくにプラボウォ新体制になっているかと思っていましたが、同氏の就任は10月、現在のインドネシアの政治は約8カ月の長い政権移行期の最中にあります。

庶民派大統領として人気の高いジョコ大統領ですが、政権・大統領批判者が逮捕されるとか、自身の長男(35歳)を強引な形で副大統領に押し込むなど、強引な政治姿勢も目立ちます。

また、軍人として東ティモールの独立運動を弾圧したプラボウォ次期大統領には人権侵害が指摘される過去がありますが、2月の大統領選挙ではそのあたりがうまく“隠蔽”されたような感もあります。

****政治YouTuberの台頭とインドネシアの民主主義****
インドネシアにおける民主主義の後退と市民社会
ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領の2期10年が任期満了を迎えようとしている。2014年に「初の庶民出身」として大統領に就任したジョコウィは、経済開発の成果や頻繁な現場視察などによる国民へのアピールによって、高い支持率を維持し続けた。

他方で、情報および電子取引法(ITE法)の濫用によって、ソーシャルメディア上で政府や大統領を批判した人物が逮捕されるケースが頻発するなど、自由な言論空間たる市民社会の活動が制限された。

とくに大統領の側近であるルフット・パンジャイタン海事・投資担当調整大臣の資源ビジネスへの関与を批判した2人のNGO活動家が、2021年にITE法違反で刑事告訴された事件は象徴的だった(2024年1月8日に無罪判決)。

アムネスティ・インターナショナルによれば、この事件を含め、2021年1月から12月の間に人権活動家に対する367件の起訴や逮捕、暴力、脅迫があり、そのうち100人以上がITE法違反で告訴されたという。こうしたことから、ジョコウィ政権の2期目には多くの研究者がインドネシアの民主主義は後退しているとみなすようになった。

ジョコウィ大統領の権限濫用は、民主主義を支える最も重要な手続きである選挙の正統性までを揺るがした。2024年2月の大統領選挙を前に、ジョコウィは過去2度の大統領選で対決したプラボウォ・スビアント国防相を自らの後継者と位置付け、さまざまな手段でその当選を支援した。

最大の問題は、プラボウォの副大統領候補に弱冠35歳だった長男ギブラン・ラカブミン・ラカを据えるため、大統領が憲法裁判所の審議に事実上介入したことだった。選挙法では、40歳未満の者は正副大統領への立候補が認められていなかったにもかかわらず、大統領の義弟が長官を務める憲法裁判所の裁定でこれが覆った。その結果、ギブランの立候補が認められることになったのである。

さらに、プラボウォの選挙対策チームによるソーシャルメディアの活用は、候補者をめぐる諸問題を覆い隠した。過去の大統領選でも問題視されてきた、プラボウォの国軍特殊部隊隊長時代の人権侵害への関与は、「フェイクニュース」だとされた。

代わりにプラボウォのチームは彼の大統領候補者としてのイメージを向上させるため、彼自身が舞台上で踊る様子のほか、それを加工してアニメ化した「かわいい」「踊る好々爺」の動画を大量にティックトック(TikTok)などのソーシャルメディアで流した。この戦略は効果的で、若い世代ほどプラボウォ組を支持することになった。

他方で、ユーチューブ(YouTube)上では新たな形態での政治的議論がさかんになった。YouTubeは、少人数による親密な雰囲気のなかで、テレビでは扱いにくいテーマを長時間にわたって議論することができるソーシャルメディアである。

簡単な機材さえあれば誰でも番組を始めることもできる。そのため、テレビ司会者や政治コメンテーター、元国会議員、NGO活動家などによる新設のYouTubeチャンネルが多数現れ、既存のテレビ局を凌駕する人気の番組を提供するようになった。

第二次ジョコウィ政権下において自由な言論空間が狭まったことは、代替的なメディアの需要を高めさせた。さらに、2020年3月以降の新型コロナウイルス流行も、こうした傾向を後押しする大きなきっかけとなった。

こうした背景から、選挙期間中にはYouTubeでさまざまな議論が展開されるようになった。(中略)すなわち2024年の大統領選をめぐるYouTube上の批判的議論の盛り上がりは、インドネシアの市民社会の活発さを再確認する機会ともなったのである。(後略)【7月 見市建氏 アジア経済研究所】
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【ジョコ大統領がレガシーとすべく進める首都移転】
ジョコ大統領が自らの政治のレガシーとすべく推し進めているのが首都移転。

インドネシア首都ジャカルタは交通渋滞・大気汚染・地下水くみ上げによる地盤沈下で限界状態にもあり、首都をカリマンタン島(ボルネオ島)のジャングルの中に新たに建設する「ヌサンタラ」に移転しようという計画です。

私事ですが、6月にバリ島を観光しましたが、交通渋滞、駐車場の未整備には苦労しました。その経験からすればジャカルタの困難な状況は少し想像はできます。

ただ、この首都移転問題でもジョコ大統領は十分な議会審議を行わないなかで強引に法律を通して進めているとの批判があります。世論にも懐疑的な空気があります。

膨大な費用を必要とする事業ですので、カネの使い道として適切かどうか、どうやって工面するのか・・・という話にもなります。

政権内部でも、移転作業を加速させたいジョコ大統領と対立する動きもある・・・との噂も。

****インドネシア首都移転、担当トップが辞任 計画に懐疑的な見方広がる****
インドネシアの首都をジャカルタからカリマンタン島(ボルネオ島)東部に移転して新首都「ヌサンタラ」を建設する計画で、担当する新首都庁のバンバン・スサントノ長官とドニー・ラハジョエ副長官が突然辞任した。

プラティクノ国家官房長官は3日、大統領が暫定的にバスキ・ハディムルヨノ公共事業・国民住宅相と農務副大臣を後任に任命したと発表した。

政府は公務員移動の第1陣として9月に1万2000人を移動させる計画で、インフラ建設を急ピッチで進めている。ただ、計画は既に2度延期された。

ジョコ大統領が掲げる約32億ドルの看板プロジェクトだが、民間資金不足に直面しており、スサントノ長官らの辞任観測は以前からあった。これが現実化したことでプロジェクトの先行きに懐疑的な見方が強まった。

インドネシア戦略国際問題研究所のアナリスト、アリア・フェルナンデス氏は「問題は、投資家をどのように納得させるかだ」と話した。

公共事業・国民住宅相は3日に記者会見し、新首都計画地の土地所有権で障害があると述べた。ただ、早期解決の見通しを表明し「売却するにせよ、賃貸するにせよ、政府と企業が協力するにせよ、投資家が疑念を抱かないようにスピードアップして対処する」と話した。

インドネシア次期大統領のプラボウォ国防相は首都移転計画の継続を公約に掲げている。【6月4日 ロイター】
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ジョコ大統領は計画を貫徹する姿勢で、新首都「ヌサンタラ」での執務も始めています。

(新首都「ヌサンタラ」での初執務後、報道陣の取材をうけるジョコ大統領 7月29日 【8月11日 毎日】)

****ジョコ大統領、新首都で初執務 インドネシア「ヌサンタラ」****
インドネシアのジョコ大統領は29日、ジャカルタから移転を進めるカリマンタン島(ボルネオ島)東部の新首都「ヌサンタラ」で執務を始めた。大統領府が明らかにした。

土地収用や外国資本からの資金不足で、新首都は建設の遅れが指摘されている。10月に退任するジョコ氏は移転計画を政治的遺産としたい考えで、内外に進展をアピールする狙いがあるとみられる。

ジョコ氏は新しい大統領宮殿で地元メディアの取材に応じ「水は豊富で電気も大丈夫だ」と話した。
ジョコ政権は8月17日の独立記念式典をヌサンタラで実施するほか、中央官庁など首都機能の一部を年内に移転する見通し。【7月29日 共同】
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【移転計画には暗雲も】
上記記事にもあるように、大統領は今月17日の独立記念式典をヌサンタラで実施してその進捗をアピールする構えです。ただ、首都を変更する大統領令布告の見通しは立っていません。

****インドネシア「ヌサンタラ」 新首都に漂う暗雲 総工費4.4兆円、どう調達 完成や公式宣言、いつ****
インドネシア政府は17日の独立記念式典を初めて、カリマンタン島東部に建設している新首都「ヌサンタラ」で開催する。

ジョコ大統領の号令の下、ここにきて関連施設の工事が急ピッチで進み、式典には何とか間に合う運びとなった。ただ、公式に首都を変更する大統領令布告の見通しは立たず、移転計画には暗雲も漂う。 

「よく眠れなかった」。7月末、現在の首都ジャカルタから約1200キロ離れたヌサンタラで初めて執務を行ったジョコ氏。地元メディアによると、新しい大統領宮殿で過ごした一夜をこう振り返った。

「多分、初日だったから」「水も電気もインターネットも問題ない」と釈明したが、眠りが浅かったのは新首都にまつわる心配の種が尽きないからではないか、ともささやかれた。 

2019年に発表された新首都建設はジョコ氏の肝煎り事業だ。約3000万人が暮らすジャカルタ首都圏は、世界最悪レベルの交通渋滞や深刻な大気汚染、地下水のくみ上げによる地盤沈下など数々の問題を抱える。

このため人口が集中するジャワ島ではなく、外島にある約25万ヘクタールの森林地帯にスマートシティーを建設して政府機能を段階的に移転させ、将来的には200万人規模の都市とする計画だ。移転は独立100周年となる45年に完了させるとしている。

首都移転は歴代大統領が検討しながらも立ち消えになってきた経緯があり、10月に退任するジョコ氏は自らの「レガシー(政治的遺産)」として歴史に名を刻むつもりだとも言われる。

政府は新首都の総工費を466兆ルピア(約4兆4000億円)と見込む。国家予算からの支出は2割で、残りは官民連携プロジェクトや外国からの投資などでまかなう算段だが、巨額の費用をどうやって調達するかが課題となっている。

昨年の式典でジョコ氏が「来年はヌサンタラで開く」と宣言した後も、建設の遅れが指摘されてきたが、ここにきてペースアップ。7月末には8000人を収容する式典会場が完成し、最寄りの空港があるバリクパパンまでの高速道路も開通のめどが立った。年内には中央省庁の機能の一部を移転させる予定だ。

2月の大統領選でジョコ氏の路線継承を掲げるプラボウォ国防相が当選し、政権交代によって首都移転が暗礁に乗り上げる可能性は低くなった。

政府関係者らが各国を訪れて関連事業への投資を呼びかけ、外国資本の不足解消を図っている。ただ、地元メディアによると、商業都市ではなく、政府機能の中心地として設計されていることなどから、まだ様子見の空気が強いという。

また、プラボウォ新政権の目玉公約である給食費無償化は、高校までの約8300万人が対象で、年間4兆円の予算が必要となる。首都移転の総費用と同程度のコストが毎年かかる計算だ。実現にこだわれば財政難に直面し、移転費用をまかなえなくなるのではとも危惧される。

6月には移転事業を担当する「ヌサンタラ首都庁」の長官と副長官が突然辞任し、混乱が生じた。早急に移転を進めたいジョコ政権との間で対立があったのではとの臆測が飛び交った。

ジョコ氏は建設を加速するため、出資者に最大190年の借地権を認めるなどてこ入れを図っているが、独立記念日までに完成するのは全体の15%程度にとどまる。実際の首都機能は整っておらず、大統領令で公式な移転を宣言するのは、後任のプラボウォ氏に譲る可能性も示唆する。 

インドネシアのシンクタンク「戦略国際問題研究所」のニッキー・ファフリザル氏は「自身の功績を国内外に示してさらなる投資を呼び込むため、ジョコ氏は何としてもヌサンタラで式典を開きたいのだろう」と指摘。しかし、本格的なインフラ整備はまだこれからだとし、「首都として本当の機能を果たすのは10年以上先ではないか」との見方を示した。【8月11日 毎日】
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首都移転も費用を要しますが、プラボウォ新政権の目玉公約である給食費無償化の方も、首都移転の総費用と同程度のコストが毎年かかる・・・・完全実施は無理なようにも思えます。日本でも小・中学校について無償化している自治体は約3割にとどまっています。

一部無償化であっても巨額の費用が必要でしょう。首都移転とバッティングしそう・・・・。

12日には新首都「ヌサンタラ」で、現内閣の国防相でもあるプラボウォ次期大統領も出席して初閣議が開催されています。

****インドネシア、新首都ヌサンタラで初の閣議****
インドネシアのジョコ大統領は12日、新首都「ヌサンタラ」で初の閣議を開いた。10月の退任を前に、自身の看板プロジェクトである新首都建設(総工費320億ドル)が順調に進んでいることを投資家にアピールする狙いがある。

同プロジェクトは建設の遅れや外国投資の不足など、複数の問題に直面してきた。
ジョコ氏は新首都がインドネシアにとって歴史的な新しい章になると閣僚らに語った。

「新首都ヌサンタラは、われわれが未来を切り開くキャンバスだ。全ての国がゼロから新しい首都を建設する機会や能力を持っているわけではない」と述べた。

ヌサンタラは現在の首都ジャカルタから約1200キロ離れたボルネオ島の森林地帯に建設されている。

12日の閣議は10月に次期大統領に就任するプラボウォ国防相を含む閣僚34人のほぼ全員が出席。ヌサンタラの開発や次期政権への移行について協議した。

プラボウォ氏は閣議前に記者団に「少なくとも私はこのプロジェクトを継続し、可能であれば完成させる」と述べた。【8月12日 ロイター】
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プラボウォ氏の「可能であれば・・・・」 何が何でもという訳でもなさそう・・・というのは下衆の勘繰りでしょうか。
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フィリピン  南シナ海の緊張緩和で中国と暫定合意も、主張は異なる 緊張緩和は進むのか?

2024-08-12 23:08:47 | 東南アジア

(フィリピンのマナロ外相(左)と握手する中国の王毅外相=26日、ビエンチャン(中国外務省のホームページから、共同)【7月27日 共同】)

【暫定合意も、補給活動事前通告について中比両国で異なる主張】
中国とフィリピンは南シナ海のアユンギン礁(中国名・仁愛礁)に駐留するフィリピン軍部隊への補給活動を巡って、小競り合いでフィリピン側に負傷者がでるなど対立が先鋭化していました。

7月21日、そうした緊張を緩和すべく両国で暫定的な“合意”がなされたことが発表されました。
ただ、両国の解釈・主張には違いもあるようです。

****緊張高まる南シナ海・アユンギン礁、補給活動巡りフィリピン・中国が暫定合意…主張に食い違いも****
フィリピン外務省は21日、実効支配する南シナ海のアユンギン礁(中国名・仁愛礁)に駐留する部隊への補給活動を巡って、領有権を主張する中国側と暫定的な取り決めに合意したと発表した。

フィリピン外務省は合意の詳細を明らかにしないまま「緊張状態を緩和し、対話と協議で違いを管理する。この合意は互いの立場を損なわない」と説明した。両国が領有権を争うアユンギン礁では、補給活動中の比船に中国海警局の船舶が放水や衝突を繰り返し、緊張が高まっている。

中国外務省の報道官は22日に談話を発表し、比軍の補給は「中国への事前通告を経て、現場で調査した上で補給を許可する」とした。毛寧マオニン副報道局長も22日の記者会見で「対応を取り決めたことは中国側の善意の現れ」と主張した。

これに対し、比外務省は22日、「中国側の発言は不正確だ」と反論し、食い違いが浮き彫りになった。比側は今後も事前通告をしない姿勢を示しており、合意の実効性が疑問視されている。【7月22日 読売】
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フィリピン側の中国への事前通告は中国側のこの海域における主権を容認したことにも繋がる重要な部分です。
お互いが勝手に都合よく解釈出来る形で“合意”が成立するのは外交交渉の常ですが、事前通告するのかしないのか、次回の行動ですぐにわかることでもあります。

事前通告については、これまでフィリピン側に“揺らぎ”“迷い”もありました。

****フィリピン、軍補給の予定公表へ 中国との対立回避図る****
フィリピンのマルコス大統領は21日、南シナ海のアユンギン礁の軍拠点に対する補給船の派遣予定を事前に公表する方針を決めた。ベルサミン官房長官が同日、記者会見で明らかにした。軍拠点への補給に際して事前通知を求めている中国との対立回避を図った形。

補給を予告することで中国が妨害を控えるかどうかが次の焦点となる。【6月21日 共同】
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****比、軍補給予告の方針撤回 南シナ海、中国妨害継続も****
フィリピンのテオドロ国防相らは24日、記者会見し、南シナ海のアユンギン礁の軍拠点に対する補給予定を公表しないことをマルコス大統領が最終決断したと発表した。21日に発表した補給の予告方針を撤回した。補給に際して事前通知を求めている中国が今後も妨害を続ける可能性がある。

フィリピン側によると、同礁では17日、補給任務中のフィリピン軍のゴムボートを中国側が刃物で突き刺してパンクさせ、ボートの衝突で兵士1人が指を切断する重傷を負った。

ベルサミン官房長官は21日、補給任務を予告する提案をまとめ、マルコス氏が了承したと発表していた。【6月24日 共同】
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中国側が合意の成果をアピールするのに対し、フィリピン側はその影響を打ち消すような姿勢が目立ちます。
両者の交渉が中国ペースで進んだということでしょう。

****南シナ海で「屈服せず」 比大統領、緊張緩和模索も****
フィリピンのマルコス大統領は22日に施政方針演説を行い、中国が権益を主張する南シナ海は「私たちのもの」だとし、「フィリピンは屈服できない」と強調した。「私たちの立場と原則について妥協することなく、紛争地域での緊張緩和の道を模索し続ける」と宣言した。

同志国と連携して自国の防衛力を強化する方針を示す一方、紛争解決のためには法に基づく国際秩序の下で外交的に対応するしかないと訴えた。【7月22日 共同】
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中比外相は7月26日、ラオスの首都ビエンチャンで会談。暫定合意の順守も確認したと中国側は発表しています。

***中国とフィリピン外相、協議継続 緊張緩和へ一致、暫定合意も順守****
中国の王毅外相は26日、訪問先のラオスの首都ビエンチャンでフィリピンのマナロ外相と会談し、南シナ海の緊張緩和に向け協議を継続していく考えで一致した。アユンギン礁にあるフィリピン軍拠点への補給活動を巡り、両国が今月発表した暫定合意の順守も確認した。中国外務省が27日発表した。

ただ双方は、南シナ海での領有権主張を崩していない。暫定合意の詳しい内容も公表されておらず、緊張緩和につながるかどうかは見通せていない。

会談で王氏は「フィリピンが約束を履行し、ほごにしないことが重要だ」と指摘。両国関係の安定化に向け「対話と協議が正しい道だ」と強調した。【7月27日 共同】
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****「うまくいった」中国外相がフィリピンとの会談成果を強調 南シナ海問題で暫定合意も立場の溝浮き彫りに…****
(中略)会談後に取材に応じた王毅外相は「両国間には緊張緩和に向けた暫定的取り決めが成立している」と改めて強調した上で、会談の成果を次のようにアピールしました。

中国 王毅外相
「フィリピンとの(緊張)関係は緩和された。二度と繰り返してはいけない。きょうの会談はうまくいったはずだ」

ただ、中国政府がフィリピン側の事前通知などを条件に補給活動を認めると発表したことについて、フィリピンのマナロ外相は…

フィリピン マナロ外相 「事前通知のことは合意に含まれていません。なぜなのかは分からない」(後略)【7月27日 TBS NEWS DIG】
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【暫定合意の背景にフィリピンのアメリカへの落胆?】
解釈の違いはともかく、フィリピンが中国との緊張緩和を求めたことは事実で、その背景には一連の中国側の攻撃的対応に対し行動をとらなかった支援国アメリカへの落胆があるとの指摘があります。

****<アメリカへの信頼の揺らぎ?>フィリピンが中国と南シナ海での緊張緩和へ動いた背景****
(中略)
フィリピンが取り決めへ動いた背景
内容次第ではあるが、大局的に見れば、中比間で現在の緊張を緩和する取り決めが合意されたのは良かったと言うべきだろう。ここ数週間、国際的には(特に米国では)、インド太平洋地域では、南シナ海の本件事象が台湾海峡問題や北朝鮮問題にも増して、一番の懸念事項だった。

まず、フィリピン側が今回の取り決め形成に動いた背景は何だろうか。米国は、米比安保条約が第二トーマス礁にも適用される(つまり、同礁に対する武力攻撃は同条約に基づく米国のフィリピン防衛義務の引き金を引く)ことを明確にした。

尖閣諸島に比べ第二トーマス礁が防衛対象だと表明するのはそれなりに勇気のいることだっただろうが、中国との関係で一定の抑止になることを意図したのだろう。

しかし、中国側の挑発はほとんど収まらなかった。これは典型的なグレーゾーン事態であり、そもそも、中国の海警は軍隊では無く、体当たりや放水銃自体は武力攻撃では無いので、米国は対抗行動を取らなかったし、それを正当化する理由も無い。

それでも、フィリピン側には米国の抑止の実効性と信頼性への信頼に揺らぎが生じただろうことは、想像に難くない。
米側が対応しないことへの落胆に加えて、中国側が米側の足元を見ていると感じただろう。今回の中比の暫定合意成立には米国もホッとしているだろうが、フィリピン側から見れば、やはり自助努力をしないと状況は変わらない(米国は頼りにならない)という冷徹な現状認識があったのだろう。

マルコスの「バランス」外交
第二に、マルコス政権の対中・対米政策をどのように見るべきなのだろうか。実際、前任のドゥテルテ大統領と異なり、米軍の展開場所の拡大や日米比首脳会談、日本との円滑化協定締結、豪州やベトナムとの関係強化など、日米に相当近い立ち位置を取っているとように見える。

しかし、フィリピンも、平時には米中のどちらともことを構えたくないという、他の東南アジア諸国と同様の立場が基本だと理解すべきであるように思われる。

マルコス大統領が22年6月30日に就任した後、初めての二国間訪問の先は23年1月の中国だった。同年2月には訪日、5月に訪米という順番だ。

マルコスは、習近平に対して、南シナ海の緊張緩和に向けた対応を要請してきたのだと思われるが、中国側の圧力は逆に強まった。

それを受けてマルコスとしても、主権について安易な妥協はできず、結局、前任者と異なり第二トーマス礁の状況をプレスに公開し、日米への接近を強め、それが中国側の一層の反発を招く、という悪循環に陥ったという流れのように見える。

今後中国側の対応が大きく変わらない限り(実際変わらないだろう)、現在のフィリピン側の日米側への接近という方向性は変わらないが、それはマルコス大統領が「親米」だからではなく、中国とのバランスでそうなっているということは十分踏まえておく必要があるということだ。これは、台湾危機を巡るフィリピンの役割への期待値を奈辺に置くかにも関わる問題だ。【8月8日 WEDGE】
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中国側はこれを機にフィリピンとの溝を埋めようとするような動きも。
フィリピンで中国人が拉致される事件があったようで、その救出作戦にあたったフィリピン警察側に殉職者がでたようです。

****中国人救出でフィリピン人警察官殉職 中国大使館が哀悼の意****
在フィリピン中国大使館は6日、フィリピン国家警察(PNP)誘拐対策班と協力し、同国で拉致された中国人2人の救出に成功したが、救出行動でフィリピン人警察官1人が殉職、もう1人も重傷を負ったと発表した。

中国大使館は発表で、亡くなった警察官に深い哀悼と高い敬意を表し、遺族と負傷者に心からのお見舞いを申し上げるとともに、フィリピン国家警察による中国人救出に深く感謝するとした。

事件は2日に発生。中国大使館はこれを非常に重視し、直ちにフィリピンの法執行部門と連絡し、救出のための行動を取った。拉致された2人は3日、無事に救出され、体調は良好だという。【8月6日 新華社】
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【中国の威圧的行動は変わらず】
しかし、南シナ海における中国の対応は今までと変わらず威圧的だという現実も。

****中国空軍機2機、フィリピン空軍機の進路上に照明弾を投下…南シナ海空域で異例の挑発行為****
フィリピン軍は10日、中国と領有権を争う南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)上空で8日、中国空軍機2機がパトロール中の比空軍機の進路上に照明弾を投下したと発表した。南シナ海空域で中国側が挑発行為を行うのは異例だ。

中国機は照明弾の投下に先立ち、危険な飛行も行ったという。比軍機は8日午前10時、北部ルソン島のクラーク空軍基地に帰還し、乗員にけがはなかった。

比軍トップのロメオ・ブラウナー参謀総長は声明で「比側の主権の及ぶ空域での合法的な飛行を妨害し、国際法に違反した」と強調した。フェルディナンド・マルコス比大統領も11日、非難声明を出した。スカボロー礁は中国が2012年にフィリピンから奪い、実効支配を続けている。

南シナ海を担当する中国軍の「南部戦区」は10日の声明で「再三の警告にもかかわらず比軍機は黄岩島の空域に不法に侵入し、中国軍の訓練活動を妨害した」などと中国の主権を主張し「活動は合法的」と訴えた。【8月11日 読売】
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上記記事では“照明弾”とありますが、別記事では“フィリピン軍は、中国軍機2機がミサイルをかわすためのおとり「フレア」を放射したとして、「危険で挑発的な行動だ」と非難”【8月12日 RBS NEWS DIG】

“マルコス大統領も、両国が対話によって「緊張を緩和させ始めたばかりなのに、空域も不安定になることが懸念される」との声明を出しました”【同上】とも。

そのフィリピンは、同じく中国と対立を続けるベトナムと共同訓練を実施。中国を牽制しています。

****フィリピンとベトナムが初の共同訓練 南シナ海問題で中国けん制か****
南シナ海の領有権をそれぞれ主張するフィリピンとベトナムの沿岸警備隊が9日、マニラ湾近海で初の共同訓練を実施した。両国の権益主張海域は一部重なるが、協力することで、同海で覇権的な動きを強める中国をけん制するねらいがあるとみられる。

両国は1月、フィリピンのマルコス大統領がベトナムを訪問した際に、沿岸警備隊の協力強化で一致。今回は、ベトナム側から約80人が捜索救助・防火の共同訓練に参加した。

共同訓練の意義について、比沿岸警備隊のバリロ報道官は5日の歓迎式典で、「(領有権を争う)ライバルでも協力しあえるということを示せる」と強調。ベトナム海上警察のホアン・クオック・ダット第2管区副司令官は、国際法に沿った海上法執行の重要性に触れた上で、「相互利益のための協力関係を強めることになる」と説明した。【8月10日 毎日】
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今後、アユンギン礁での補給活動についてフィリピン側が中国に事前通告するのか、しない場合、中国がどのように反応するのかが注目されます。

そもそもの話で言えば、中国が南シナ海ほぼ全域で領有権を主張し、威圧的な行動に出ているのは、中国にとって良い結果となっているのか疑問です。

すでに東南アジアは経済的に中国と深い関係で結ばれています。中国が南シナ海における威圧的な行動・主張を控えて一歩引いた対応をとれば、中国に対する恐怖感も薄れ、東南アジア世界における中国の盟主的な立場は更に強まるのでは・・・。中国にとっては、その方がずっと戦略的にメリットが大きいようにも。

力で相手をねじ伏せても、リスペクトされることはありません。

何がなんでも自己主張を押し通さないと気が済まない、「大国」としての面子が立たない・・・というのはあまり賢い対応ではないとも思うのですが、中国・習近平政権の考えは異なるようです。
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