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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トランプ関税のアジア世界への波紋 寄り添う姿勢をアピールする中国 ミャンマー軍政の統治を初認知

2025-07-12 20:59:26 | 東南アジア
(東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国の外相会議で、マレーシアのモハマド外相(中央右)と手をつなぐ中国の王毅外相(同左)=クアラルンプールで2025年7月10日【7月11日 毎日】)

【中国 ASEANに寄り添う姿勢をアピール】
東南アジア各国は、トランプ米大統領による大規模関税措置(8月1日発動予定、最大40%超)に対して、強い懸念と反発、そして緊急対応を強いられています。以下、主要国別のリアクションです。

****東南アジア各国のトランプ関税へのリアクション****
ベトナム
当初、11%程度で交渉合意と見られていたが、トランプ氏が一転して20%(再輸出品は40%)に引き上げたことが判明し、ハノイでの交渉を混乱させました。
信頼性低下を批判し、追加交渉が継続中です 。

インドネシア
農産物やエネルギーなど約190億ドル分の米輸入を提案。財務相は36%の関税に「驚きつつも前向き」と発言 。
首席交渉官がワシントンへ出向き、買いオファーや交渉努力を継続中 。

タイ
36%の関税込みの警告に直面しつつも、米財務省へ積極的に交渉を継続 。

マレーシア
関税25%(少し上昇)の見込み。アンワル首相が「これは一時的な嵐ではない」と警鐘を鳴らし、ASEAN内で協力強化を訴えました 。
中銀は利下げ対応、また交渉継続の姿勢を示しています 。

カンボジア
ガーメント・靴などに対する関税が36%→減少した模様で、一部産業にとって救いになっています 。

ミャンマー
40%の新関税警告書に対し、政権トップが「米国からの初の公式接触」と歓迎し、支持を表明。制裁緩和や関税引き下げを条件に尋常ならざる外交姿勢を見せています 。【ChatGPT】
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この東南アジア諸国の混乱・戸惑い・反発を利用して、寄り添うソフトな姿勢をアピールして好感度上昇・取り込みを狙うのが中国。

****トランプ関税は“好都合” ASEANに寄り添う中国の思惑****
トランプ米大統領が東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国などに対する新たな関税率を発表し、域内で動揺が広がる中、中国は「取り込み」の好機と見てASEANへの働きかけを強めている。

マレーシアの首都クアラルンプールで8日から開かれ、11日に閉幕したASEANの一連の外相会議で、中国の王毅外相兼共産党政治局員は米国の関税政策を繰り返し強く批判し、ASEAN各国に寄り添う姿勢を見せた。

「王毅だ!」。10日午前、中国とASEANの外相会議が行われる会議室前。会場入りするマレーシアのモハマド外相を報道陣が撮影していたところ、突如王氏が後方から現れ、報道陣から驚きの声が上がった。

国際会議では、主催国が招待国を出迎えるのが通例だ。しかし王氏はこの日、モハマド氏が来る前に会場入りしたうえで、カメラの前で手を上げて主催者を歓迎。満面の笑みを浮かべて親密さをアピールした。

さらに同日行われたモハマド氏との会談で王氏は、「米国は紙一枚をASEAN各国に送りつけ高関税を徴収しようとしている。典型的で一方的ないじめ行為だ。中国は自国のためだけではなく、ASEAN各国との共同利益を守るためにも立ち上がって抵抗する」と、米国を激しく非難してみせた。

米国と対立しながら経済を維持する必要がある中国にとって、ASEANとの良好な関係は不可欠だ。東南アジアに工場を移転したり、東南アジア向けの輸出品を多くしたりすれば、米国の高関税政策による打撃を緩和できるともみている。

中国税関総署によると、2025年1~5月、中国の対ASEAN輸出入額は3兆200億元(約60兆4000億円)に上り、前年同期比で9・1%増加した。トランプ政権は中国製品がASEAN各国を迂回(うかい)して米国に輸出されることを警戒している。
また中国は、フィリピンやベトナム、マレーシアなどと南シナ海の領有権を巡って対立を抱える。この問題への米国の介入をけん制するためには、トランプ政権の高関税政策は中国にとって「好都合」な面もあった。

王氏は今回、南シナ海を巡る問題について表面上は強硬な主張を控えた。10日のASEANとの会議では、南シナ海について「地域諸国の共通の故郷であり、大国同士の駆け引きの『闘技場』ではない」と指摘し、ASEAN側と「南シナ海行動規範(COC)」の協議を進めていく考えを示した。南シナ海問題で中国と激しく対立するフィリピンのラザロ外相と会場で握手する場面もあった。

一方、米国のルビオ国務長官もASEAN外相との会合で、「インド太平洋地域は米国の外交政策の中心だ」と述べ、高関税政策にかかわらず、米国はASEANを重視していると訴えた。

また南シナ海問題でのフィリピンなどとの連携も強調。日米比外相会談が終了した10日夜、報道陣の取材に応じたルビオ氏は「我々は日本、フィリピンと良好な関係を築いており、海上での安全保障や領土の一体性について緊密に協力している。今後もパートナーシップを強化しつづける」と語った。
 
一連の会議を終え、ASEAN外相会議は11日、トランプ政権の関税政策を念頭に「世界的な貿易摩擦や国際経済情勢の不確実性の高まり、特に関税に関する一方的な行動」に懸念を表明する共同声明を発表した。

中国とASEANの関係について青山瑠妙・早稲田大大学院教授(現代中国外交)は「中国は、領土問題で対立しながらも関係は前進できると考えている。ASEANは米中いずれにも偏らない外交を続けるが、中国がこの域内で指導力を強化する流れは今後も続いていくだろう」と語っている。【7月11日 毎日】
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アメリカは対中国を今後の外交戦略の基軸とする・・・としながらも、実際にやっていることは周辺諸国を中国の側に押しやっているだけ・・・みたいな戦略性の欠如を感じます。

【英国に続き2例目。アジアでは初めてとなったベトナムの“20%合意”・・・ベトナム指導部には“寝耳に水” 今も交渉中
個別にみると興味深いことも。

アメリカが巨額の貿易赤字を抱えるベトナムは他国に先駆けて合意し、その後の他国の交渉において「基準」となるとされています。

****トランプ氏、ベトナムとの関税交渉で合意と発表 アジアで初****
トランプ米大統領は2日、ベトナムとの関税交渉で合意したと明らかにした。自らのソーシャルメディアに投稿した。トランプ政権が大規模関税を発動した後に合意するのは、英国に続き2例目。アジアでは初めてとなる。

トランプ政権はベトナムに対し、46%の相互関税率を課していた。トランプ氏はソーシャルメディアで、ベトナム最高指導者のトー・ラム共産党書記長と会談した上で、▽ベトナムからの全ての輸入品に対し20%の関税を課す▽ベトナムは米国からの輸入品を無関税にする――ことで合意したと公表した。

トランプ氏は「相互関税」の上乗せ分の停止期限である7月9日までに多くの国との交渉をまとめたい考えを示していた。

米商務省によると、2024年の米国の対ベトナムの貿易赤字は1235億ドル(約17・7兆円)で、中国、メキシコに次ぎ3番目に大きかった。【7月3日 毎日】
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しかし、この「20%関税で合意」は“ベトナムの指導部にとって寝耳に水”だったようです。

****トランプ政権20%関税、ベトナムにとって寝耳に水-税率引き下げ探る****
トランプ米大統領がベトナムからの輸入品に対して20%の関税で合意したと先週発表したことは、ベトナムの指導部にとって寝耳に水だった。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。ベトナム側は関税率の引き下げを目指しているという。

非公開の交渉だとして匿名を条件に話した関係者によると、ベトナムのトー・ラム共産党書記長は2日遅くにトランプ氏と電話会談を行った直後、交渉チームに対し、引き続き関税率の引き下げに向けて取り組むよう指示した。ベトナム側はより有利な関税レンジを確保したと考えていたため、20%という数字は予想外だったという。

ベトナムは電話会談前、10-15%の関税水準を求めて交渉を進めていた。

ベトナムの国営メディアでは、今回の20%関税に関する言及はほとんどない。ブルームバーグ・ニュースが確認した地元メディア宛ての政府文書では、ベトナムと米国の間でコンセンサスがない内容や、曖昧な情報あるいは臆測に関して掲載しないよう当局が地元メディアに指示した。

ベトナム外務省にコメントを求めたが、現時点で返答はなかった。

トランプ大統領が貿易合意を発表したのは英国に次いでベトナムが2例目だった。その後、トランプ氏は8月1日から最大50%の関税を課すと通知する書簡を対象の貿易相手国に次々と出している。

トランプ氏が自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」でベトナムに関して投稿した翌日、ベトナム外務省は合意の詳細を詰めるため、米側となお調整していると説明していた。

それ以降、ベトナム指導部は公式コメントでこの問題への言及を避けており、ファム・ミン・チン首相は輸出先やサプライチェーンの分散を進め、新たな関税政策への適応を図る姿勢を強調した。

トランプ氏が今回の合意を発表してから1週間以上が経過したものの、ベトナムと米国はいずれも20%関税や迂回輸出と見なされる製品に課される40%関税について、具体的な内容や適用方法などをほとんど明らかにしていない。

ホワイトハウスに通常業務時間外にコメントを求めたが、すぐには回答がなかった。【7月11日 Bloomberg】
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ベトナム側の合意が得られていない段階で、トランプ大統領が「合意」を発表したということでしょうか?

ベトナム政府は具体的な合意文書を出しておらず、20%関税を正式に受け入れたわけではない状況で、“トー・ラム共産党書記長は2日遅くにトランプ氏と電話会談を行った直後、交渉チームに対し、引き続き関税率の引き下げに向けて取り組むよう指示した。”と、引き下げ交渉を継続しています。

この「寝耳に水」的な展開は、トランプ政権の一連の通商政策の突発性や曖昧さを象徴する事案として、大きな注目を浴びています。

同時に、ASEAN諸国にとっても米国との通商不安要因として、今後の交渉の行方が極めて重要になっています。

【ミャンマー トランプ氏からの関税通知が米国が軍政によるミャンマー統治を認めた初の事例 ミャンマー軍政は関税40%ながらもトランプ大統領に感謝】
変わったところではミャンマー。 関税40%ながらもトランプ大統領に感謝しているとか。

****ミャンマー軍政、関税40%でもトランプ氏に感謝 通知による「承認」で****
ミャンマー軍政は11日、軍政トップのミンアウンフライン国軍総司令官がドナルド・トランプ米大統領を称賛し、制裁解除を求めたと明らかにした。トランプ氏からの関税通知を受けたもので、これは米国が軍政によるミャンマー統治を認めた初の事例とみられている。

ミンアウンフライン氏は、2020年米大統領選が「盗まれた」とするトランプ氏の虚偽の主張を支持するとともに、紛争で荒廃したミャンマーについて独立報道を行う報道機関への資金提供を停止したことに感謝の意を表した。

国軍は2021年、クーデターを実行しアウンサンスーチー氏の民主政権を転覆した。以来、ミャンマーは内戦状態にある。

米国務省は、ミャンマー国民を「暴力とテロを用いて抑圧し」「彼らが自らの指導者を自由に選ぶ権利を否定した」として、ミンアウンフライン氏らに制裁を科した。

米国は軍政と正式な外交交渉を持っていないが、トランプ氏は7日、ミンアウンフライン氏宛てに書簡を送り、ミャンマーからの輸入品に対して8月1日から40%の関税を課すと通告した。

シンクタンク「国際危機グループ」のリチャード・ホーシー氏はAFPの取材に対し、「米国がミンアウンフライン氏と軍政を認める兆候を公にしたのは、今回が初めてだ」と述べた。

それ以前の非公式なやり取りは「当然ながら、トランプ氏からのものではないことはほぼ確実だ」と語った。
ミンアウンフライン氏はこの機を逃さず、軍政の情報チームが11日、ビルマ語と英語で公開した複数ページに及ぶ書簡で返答。

トランプ氏の書簡に「心からの感謝」を表明するとともに、トランプ氏の「米国を繁栄に導く強力なリーダーシップ」を称賛した。

また、国軍による権力掌握の正当化も試み、「トランプ氏が2020年米大統領選で直面した困難と同様、ミャンマーでも大規模な選挙不正などの重大な不正行為が起きた」と述べた。

自由なメディアのない国々にニュースを届けることを使命として米国によって設立されたボイス・オブ・アメリカとラジオ・フリー・アジアは、トランプ政権による資金提供停止を受けて、ビルマ語放送を停止した。
ミンアウンフライン氏は、こうしたトランプ氏の措置に「心から感謝する」と述べた。

軍政は、経済と軍事において、同盟国である中国とロシアからの支援への依存を強めている。
ミンアウンフライン氏はトランプ氏に対し、「ミャンマーに対する経済制裁の緩和と解除について再検討」を求めるとともに、関税率についても10〜20%に引き下げるよう要求。

トランプ氏が「世界一の市場である米国の特別な経済に引き続き参加するという心強い招待」をしてくれたことにも感謝した。

トランプ氏の懲罰的関税通知を受け、来月の発動を前に多くの国が米国と土壇場での合意締結に追われている。 【7月12日 AFP】
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“トランプ氏からの関税通知を受けたもので、これは米国が軍政によるミャンマー統治を認めた初の事例” 
外交的にこれが的確な選択だったのか・・・それともトランプ政権側は、ミャンマー軍政のリアクションを見越して敢えてそうした対応をとったのか?
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タイ  ペートンタン首相とカンボジアの元指導者の通話内容が流出し政治危機へ 国境封鎖、貿易制限も

2025-06-26 23:50:53 | 東南アジア
(【6月26日 Poste】閉鎖されたタイ・カンボジア国境)

【再燃したカンボジア・タイの国境問題】
タイとカンボジアの間で国境紛争が以前からあること、その問題が最近また悪化していることなどは、6月6日ブログ“タイ 再燃するカンボジアとの国境紛争 安定的な大連立ペートンタン政権 解党命令の前進党の今後”でも取り上げました。

****2025年カンボジア・タイ国境危機****
2025年5月28日から、国境紛争地域をめぐるカンボジアとタイの危機が、短い小競り合いの後に始まった。国境の一部は、長い間、双方によって争われており、以前の小競り合いや緊張の対象となってきた。(中略)

国境地域をめぐる緊張は2025年初頭に高まった。2月13日、タイ軍は、係争中のプラサート・タ・ムエン・トム寺院でカンボジア人観光客がカンボジア国歌を歌うのを阻止し、さらなる緊張を引き起こした。

5月28日、カンボジアとタイの兵士は、両国とラオスが共有するエメラルドトライアングルの三国国境地帯で短時間銃撃戦を繰り広げ、カンボジア兵1人が死亡した。両国は、小競り合いを扇動したとしてお互いを非難した。

カンボジアのフン・マネット首相は、この事件に対して、タイとの紛争を見たくなかったとして、ICJに裁定を求める計画を開始した。

 タイのプムタム・ウェチャヤチャイ国防相は、どちらの側も紛争をエスカレートさせたくはなく、紛争は解決したと述べた。カンボジア軍とタイ軍の間で協議が5月29日に行われた。【ウィキペディア】
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【大連立ペートンタン政権崩壊の危機】
6月6日時点では、大連立ペートンタン政権は不信任案を否決して安定性を示していましたが、上記カンボジアとの国境問題も絡んで連立崩壊の危機にも瀕しています。

2024年8月に就任したペートンタン首相はタクシン元首相の次女で、タクシン派のタイ貢献党党首。現政権の枠組みは、23年の総選挙で第2党となったタクシン派と、親軍保守派の複数の小政党が手を結んで成立した「大連立」です。

両派は当時、革新系の前進党を政権から排除することで思惑が一致。政権を追われ、15年間国外逃亡していたタクシン元首相(ペートンタン首相の父)も帰国を果たしています。

仇敵同士でもある両者の間では、大連立成立後も軋轢が続き、政治プロセスは遅延してきました。
それでも、前述のように不信任案を否決するなど「大連立」の安定性も示してはいました。

しかし、カンボジア国境紛争でペートンタン首相がカンボジアの実力者フン・セン元首相に“媚びる”ような、また、カンボジアに強硬姿勢をとるタイ有力将軍をタイ首相が“opponent(敵、反対者)”と呼ぶ電話内容がリークされ、政局は一気に流動化しています。

【ペートンタン首相とカンボジアの元指導者フン・セン氏との電話会話が流出 フン・セン氏をuncle、自国有力将軍を“opponent(敵、反対者)”と呼ぶ。】

****政権転覆の危機に瀕する中、タイ首相、フン・セン首相との通話内容が流出した件で謝罪****
ペートンタン・シナワット首相は、カンボジアの元指導者と電話会談を行い、国境紛争について協議し、彼を「おじさん」と呼んだ。

タイのペートンタン・シナワット首相は、カンボジアの元指導者フン・セン氏との電話会話が流出し、国民の怒りを招き、政権崩壊の危機に瀕したことを受け、謝罪した。

流出した通話記録の中で、ポピュリストのタクシン元指導者の娘であるペートンタン氏は、家族の友人として知られるフン・セン氏と、現在進行中の国境紛争について話し合っている。

録音には、タイ軍の高官を「ただ強気な態度を取りたかっただけ」と批判する声が収録されている。彼女はフン・セン氏を「おじさん」と呼び、「何かあれば言ってくれれば、私が対応する」と付け加えた。

ペートンタン首相は木曜日の記者会見で、「カンボジアの指導者との会話の音声が流出し、国民の憤りを招いたことについて、お詫び申し上げます」と述べた。

カンボジアを40年近く統治したフン・セン首相は、2023年に息子で現首相のフン・マネ氏に後を継がれたが、依然として政治的な影響力を保っている。

ペートンタン氏は、自身の発言は交渉戦術だったと述べたが、国民の怒りを鎮める効果はほとんどなかった。

タイ外務省は木曜日、カンボジア大使を召喚し、通話内容の漏洩に対する抗議文を届けさせた。最初の音声クリップが漏洩した後、フン・セン首相が全文を公開した。

この通話はパトンターン政権を混乱に陥れ、彼女の家族と軍部内のかつてのライバル関係との間に築かれた不安定な関係を崩壊させる恐れがあった。

連立政権で第2位の保守系政党であるブムジャイタイ党が連立政権から離脱したため、ペートンタン政権は僅差で過半数を獲得した。チャータイパタナ党、統一タイ国民党、民主党の党首は木曜日午後、この危機に関する緊急協議を行ったが、離脱はしていない。

もし連立政権の他のパートナーが離脱すれば、ペートンタンン政権の立場は維持できなくなり、総選挙を迫られるか、あるいは他の政党が新たな連立政権を組もうとする動きに発展する可能性がある。

野党人民党のナタポン・ルーンパニャウット党首は、ペートンタン首相に対し、状況を利用して「民主主義を損なうような事件を扇動する」集団を阻止するため、議会を解散するよう求め、軍事クーデターを警告した。

タイ政府は1932年の絶対王政終焉以来、12回のクーデターに見舞われており、過去20年間、国の政治は軍とペートンタンペートンタンペートンタン首相の家族であるシナワット家との権力闘争に支配されてきた。彼女の父、タクシン・シナワットは2006年のクーデターで追放され、叔母のインラックは裁判所の判決とそれに続く2014年のクーデターによって権力の座から追われた。

木曜日、数百人の反政府デモ参加者(中には2000年代後半の王党派・反タクシン派「黄シャツ運動」のベテランも含まれる)が政府庁舎前でデモを行い、ペートンタン首相の辞任を要求した。

タイの政治アナリスト、ケン・ロハテパノン氏は、「クーデターはもはや全く考えられないわけではない」としながらも、まだ可能性は低いと述べ、「民主化プロセスはまだ行き詰まりに陥っていない」と付け加えた。 

タイ軍は声明で、パナ・クラーウプロットゥーク陸軍司令官が「民主主義の原則と国家主権の擁護へのコミットメントを表明する」と述べた。 「陸軍司令官は、『タイ国民が団結して国家主権を集団的に守る』ことが最優先事項であると強調した」と軍は述べている。

就任から1年も経っていないペートンタン首相は、法的脅威にも直面している。漏洩された電話会議をめぐり、国家汚職対策委員会(倫理違反と憲法違反を告発)と中央捜査局(国家安全保障違反を告発)を含む少なくとも3件の申し立てが首相に対して提出されている。選挙管理委員会にも調査が求められている。

この危機は、中国人観光客の減少が観光産業に打撃を与え、米国による36%の関税導入の脅威が迫るなど、タイ経済が苦境に立たされている時期に発生した。

ペートンタン首相は辞任を求める声には応じていないが、カンボジアとの紛争に対処するにあたり、政府は軍と一体であることを国民に納得させようとしている。

「今、我々には争っている暇はありません。我々は主権を守らなければなりません。政府はあらゆる手段を用いて軍を支援する用意があります。我々は共に協力していきます」と彼女は述べた。

ペートンタン氏は金曜日、衝突が発生したタイ北東部を訪れ、タイ北東部の軍司令官であるブンシン・パドクラン中将と会談する予定だ。彼女は電話会談で同氏を批判した。【6月20日 The Guardian】
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“彼女はフン・セン氏を「おじさん」と呼び、「何かあれば言ってくれれば、私が対応する」と付け加えた。”

タイ女性の日本語ガイドと一緒に観光していると、妙に馴れ馴れしい雰囲気を感じることもあります。このちょっと媚びるような感じはタイ女性にときどき見られるものなのかも・・・・ただし、首相と相手国最有力者の間の国境紛争を語る場面で見せてはいけないものです。

また、「(カンボジアと)戦う準備ができている」と発言していたタイ軍の第2軍管区の司令官をタイ首相が“opponent(敵、反対者)”と呼び、「彼の言うことは聞かないで」などと批判してもいます。

****タイの連立政権が崩壊の危機-電話協議の内容流出で首相に辞任圧力****
タイの連立政権が崩壊の危機に直面している。ペートンタン首相の電話協議の内容が流出し政治的混乱が深まったためだ。政権第2党「タイの誇り党」が離脱を決め、同首相の辞任を求める声が強まっている。
  
ペートンタン首相はさらなる打撃を受ける可能性もある。連立政権に参加する政党のうち、少なくともさらに3党が19日に協議を行い、「タイの誇り党」に追随して離脱するかどうかを決める予定だ。
  
「タイの誇り党」は連立離脱について、カンボジアのフン・セン前首相との電話の内容が流出し、政府と軍部の間の緊張が示唆され首相への信頼が損なわれたとしている。
  
電話協議の中で、ペートンタン首相は国境紛争におけるタイ軍の役割を批判したように受け取られる発言をしていた。その後、同首相は緊張緩和を図る交渉戦略の一環だったと説明している。
  
ノースカロライナ大学チャペルヒル校のアジア研究の名誉教授ケビン・ヒューイソン氏は「深刻な危機に直面している」とし、フン・セン氏によって「首相の立場は極めて厳しくなっている」と指摘した。
  
今回の政治混乱は海外投資家にも影響を与える見通しだ。タイの主要株価指数は19日、一時2.4%下落。このままいけば、約5年ぶりの安値で取引を終えることになる。通貨バーツは対ドルで5営業日連続で売られ、4月28日以降で最長の下げ局面となっている。
  
「タイの誇り党」の離脱で脆弱(ぜいじゃく)な連立政権が揺らいでいる。同党を失えば、連立政権は辛うじて過半数を維持する状態となり、重要法案の可決が困難になる可能性もある。【6月19日 Bloomberg】
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それにしても、フン・セン元首相も、電話内容を録音してリークするというのは、明らかに外交ルールに反します。

【全ての国境検問所を閉鎖 貿易上の規制・制限も】
上記のような自ら招いた政治危機のなかにあって、ペートンタン首相としてはカンボジア側に対する“弱腰”は見せられない・・・という事情もあってのことでしょう、タイ軍はタイとカンボジア間の全ての国境検問所を閉鎖したことを発表しています。

****タイ王国軍がカンボジア間の国境を全面閉鎖、貿易制限措置の応報も****
タイ王国軍は6月23日、タイとカンボジア間の全ての国境検問所を閉鎖したことを発表した。国境閉鎖は同日の発表時から有効な措置となっている。

タイ国営放送PBS(6月23日付)によると、サケオ県の国境通過を監督する第1軍管区の命令により、すべての種類の車両、タイ人および外国人旅行者、あらゆる種類の貿易が禁止される。ただし、緊急の患者や学生の移動、日常生活に必要な活動など、人道的な目的による国境通過は例外となる。

スリン県、シーサケート県、ブリラム県の国境通過を担当する第2軍管区や、チャンタブリー県、トラート県を管轄する海軍国境防衛司令部も、同様の命令を出している。

タイ王国軍は、今回の措置について、カンボジアによるタイ領土への侵入の脅威(無許可の巡回、軍隊の増強、地形の改変など)や国境を越えた犯罪、コールセンター詐欺などの広範な影響に対応するために発令したもの、と説明している。

同軍は6月7日以降、カンボジアとの国境紛争に対して、段階的な国境管理を実行していた。

貿易上も制限措置の応酬
カンボジア側では、フン・マネット首相が6月22日、タイからの石油・ガスの輸入を停止すると発表している。フン・マネット首相は、国内のエネルギー会社が他国から十分に輸入調達することで国内需要を満たすことが可能と説明している。

タイ側でも、ピチャイ・ナリプタパン商務相が6月21日、商務省・外国貿易局(DFT)に対して、カンボジア産キャッサバ製品の輸入管理強化を指示。輸入者は事前登録・通知が必要で、カンボジア産キャッサバは国内産と分けて保管し、品質基準に満たない輸入を行った場合は登録資格が停止される。(後略)【6月24日 JETRO】
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****今後どうなる?****
交渉・国際対応:カンボジアはICJにまた持ち込みを検討中。一方タイはICJの管轄を認めず、まずはASEAN内協議あるいは両国間の二国間協議を志向しています。

ASEANの停滞:ASEANの慎重姿勢が目立ち、実効的な調停の声があるものの、域内合意が必要な同機構では進展が遅い現状です。

地域・経済への波及:物流網の再構築、価格高騰、観光業の低迷、地域住民の生活への影響が広がり、事態長期化のリスクも。【ChatGPT】
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タイとカンボジア間の国境貿易が壊滅的打撃を受け、現地企業は物流迂回(ラオス経由・海上輸送)など対応を迫られています。輸送距離は500 kmから最大1,500 kmへと延び、コストが3倍にもなります。

SNS等で情報発信ができる現代社会では、この種の民族間の問題はポピュリズム的に煽られて、政権が柔軟な対応をとることが困難になりがちです。
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インドネシア  プラボウォ大統領にとって悩ましいジョコ前大統領親子との関係 昔から良好なロシア

2025-06-20 23:32:15 | 東南アジア
(インドネシアのプラボウォ大統領は19日、国際経済会議が開かれているロシア第2の都市サンクトペテルブルクでプーチン大統領と会談しました。【6月20日 NHK】

昨年2月に行われたインドネシア大統領選挙で、プラボウォ氏はそれまでの「こわもて」右派軍人のイメージから一転して、「カワイイおじさん」を演じ、また、過去2回大統領選挙を戦った「政敵」でもある、人気が高いジョコ前大統領の息子を副大統領候補に取り込むことで、勝利を確実にしました。

****「カワイイおじさん」インドネシア新大統領プラボウォの黒すぎる過去とその正体****
<ソフトなイメージ戦略で大統領選に勝利したプラボウォ国防相。しかし、かつての独裁体制と深いつながりを持つ元国軍幹部には残虐な素顔と本音があった...>

(中略)約2億人の有権者(その52%は40歳以下だ)は、他の候補者に大差をつけて、かつての独裁体制と深いつながりを持つ元国軍幹部を次期大統領に選んだ。その得票率は50%を超えたとみられ、決選投票を実施する必要はなさそうだ。

とはいえ、今回の選挙戦で、現政権がプラボウォ陣営に肩入れしていたことは明らかで、インドネシアの民主主義の行く末を不安視する声もある。

今期で引退するジョコ・ウィドド大統領は、これまで2回の大統領選でプラボウォと戦ってきたが、今回は明らかにプラボウォの支持に回った。それはジョコの長男であるギブラン・ラカブミン・ラカ(36)が、プラボウォの副大統領候補として選挙戦を戦ったことからも明らかだ。

大学卒業後は商売をしていたギブランが、ジャワ島中部スラカルタ市の市長に就任したのは3年前のこと。
たったそれだけの政治経験で、憲法が定める年齢制限(40歳以上)の例外扱いを勝ち取り、副大統領候補に抜擢された(ちなみにスラカルタは、ジョコが政治家としてのキャリアをスタートさせた街)。

「ジョコは、インドネシアを独裁者スハルトの時代に逆戻りさせる扉を開いた」と、人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのジャカルタ支部に所属するアンドレアス・ハルソノは厳しく批判する。

ジョコ政権は、さまざまな領域でプラボウォ陣営を応援した。汚職捜査の対象になった有力政治家らは、プラボウォ支持を表明すると捜査の対象から外された。対立候補は警察の嫌がらせを受けた。選挙前に社会保障給付が急に増えただけでなく、プラボウォ陣営の関係者が直接配ったという報道もある。

「法律家の多くは、スハルト時代以降のインドネシアで最も汚い選挙だったと言っている」とハルソノは語る。

残虐な元特殊部隊員?
プラボウォの名前が知られるようになったのは、インドネシアが1970年代に、ポルトガルの植民地支配から脱した東ティモールに侵攻したときだ。

特殊部隊の一員だったプラボウォは、東ティモールの英雄ニコラウ・ロバトの殺害に関与したとされる。さらに西パプアでも独立派の虐殺に関わったとされるが、本人は一貫して否定している。

その後、プラボウォはスハルトの娘と結婚して政界でも知られる存在となり、一部ではスハルトの後継者と見なされるようにもなった。

98年にスハルトの独裁体制が崩壊したとき、プラボウォは民主活動家23人の拉致に関与したとされており、自ら権力を掌握しようとした可能性がある。

その後、インドネシアに民主主義体制が確立すると、プラボウォは一時国外生活を強いられたが、やがて政界に復帰。

2004年には大統領候補指名を目指し、09年には副大統領候補となり、14年と19年に大統領候補としてジョコと戦った。その2回ともジョコに敗れたが、特に19年選挙では選挙不正を主張して敗北を認めず、死者を出す暴動を引き起こした。

このときジョコが、プラボウォを国防相に登用することで事態の収拾を図ったことは、多くを驚かせた。
これを機に、プラボウォは「ジョコの後継者」へとキャリアチェンジを図り、多くの若い有権者にとっては「カワイイおじさん」へとイメージチェンジを果たした。

それまでのプラボウォは、馬にまたがって選挙集会に登場するなど、強面(こわもて)のナショナリストのイメージを前面に押し出していた。選挙演説も、外国の破壊勢力について警告するといった内容が多かった。

イメージ変更が大成功
ところが今回、プラボウォはしつこいくらいジョコに対する忠誠を示し、ジョコの政策継続を約束した。
かつてはジョコのことを、隠れ共産主義者で中国系で無神論者でキリスト教徒だと中傷していたから、相当な日和見主義者と言っていい(インドネシアではジョコ含め国民の大多数がイスラム教スンニ派)。

もちろん今回も、遊説中に外国人がインドネシアの富を盗み、駄目にしようとしていると主張するなど、ナショナリスト的な側面をのぞかせたときもあった。

だが、今回の選挙でプラボウォ陣営が何よりも強調したのは、「グモイ(かわいい)」イメージだ。
ソーシャルメディアでは、プラボウォがぎこちなく踊ったり、ネコをなでたりする画像や、ピクサー映画に出てくるようなソフトなおじさんのイラストが大量に拡散された。

これが過去を知らない若い有権者に大いにウケた。(中略)
過去の人権侵害やスハルトとの関係についてプラボウォ支持の若者に聞いても、「生まれる前のことだからよく知らない」と言葉を濁すだけだった。

では、インドネシアではこれから何が起きるのか。
国際的には、中立を守る伝統的な外交姿勢に大きな変化はないだろう。
だが、内政面では、民主主義が衰退している懸念のほか、プラボウォとジョコの同盟がいつまで続くかという不安もある。
選挙期間中こそインフラ整備や天然資源の輸出制限、そして首都移転計画の維持など、ジョコ路線の踏襲を声高に約束したプラボウォだが、基本的に移り気なことで知られる。

しかも、何十年にもわたり権力を握る強い野心を持ち続け、何度選挙に負けても挑戦を続けてきた。そんな男が、いつまでも前任者の陰に隠れていることに満足するだろうか。

高齢のプラボウォには、健康不安説もある。
万が一のことがあったら、ビジネスでまあまあの成功を収めた経験はあるが、政治的には何もかもお膳立てされた仕事しかしたことのない若者(の手に、人口が世界第3位の民主主義国の運命が託されることになる。
プラボウォとジョコの息子のどちらの政治のほうが不安が大きいか、インドネシアのベテラン官僚たちも考えあぐねているようだ。【2024年2月19日 Newsweek】
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素行の悪い児童・生徒を新兵訓練施設送りにして“鍛えなおす”という施策は、いかにも従前の「こわもて」右派軍人らしいな・・・と単純に思ってしまったのですが、実際に大統領の意向が多少なりとも反映されたものなのかは知りません。

****素行の悪い児童・生徒を新兵訓練施設送り、全国展開も視野 インドネシア****
インドネシア・西ジャワ州で今月、授業をサボったり、テレビゲームをやり過ぎたりするなど、素行の悪い児童・生徒を軍の新兵訓練施設に送る試験的なプロジェクトが始まった。ナタリウス・ピガイ人権相は9日、プロジェクトが成功すれば、全国展開が可能になると述べた。

現地メディアによると、西ジャワ州ではデディ・ムリヤディ知事が今月、同プロジェクトを開始して以来、これまでに問題児と見なされた10代の児童・生徒270人以上が新兵訓練施設に送られた。

ピガイ人権相はこのプロジェクトを称賛。全国展開への支持を表明している。
同氏は9日、AFPの取材に応じ、全国展開への支持を改めて表明。「人権の観点から成功すれば、つまり教育が適切かつ正しく行われ、精神力、技能、規律、責任感が著しく向上すれば、全国展開が可能になる」と述べた。

ムリヤディ知事は8日、多くの児童・生徒が夜更かししてテレビゲームをしたり、学校をサボったり、口論に巻き込まれたりしていると指摘し、このプログラムは州内の児童・生徒の生活様式の変化を促すことを目的としていると述べた。

軍が関与しているのは、人格形成の経験があるからだと説明し、児童・生徒は兵舎に滞在しながら教育を受けていると付け加えた。プログラムは西ジャワ州全体で段階的に導入されるが、新兵訓練施設に送られるのは保護者の同意を得た児童・生徒のみだという。

インドネシアの人権団体「行方不明者および暴力被害者のための委員会」の副コーディネーターを務めるアンドリー・ユヌス氏は、新兵訓練施設は教育施設ではないとして、このプログラムを「誤った政策」だと批判。

「児童・生徒を新兵訓練施設に送るのは懲罰のためだ。これは明らかに間違っている。児童に対する刑法上の手続きに基づいていないからだ」「このプログラムに効果があるのか疑問だ」とAFPに語った。
さらに、このプログラムは民間人、特に学生への「『軍国主義的』な侵略」の一種だと訴えた。 【5月10日 AFP】
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軍の権限を拡大する改正「国軍法」は軍出身であるプラボウォ大統領の意向があったようです。

****インドネシアで改正国軍法が成立 軍の権限を拡大 “民主主義の後退”懸念広がる****
インドネシアの国会は民主化移行期の2004年に制定された国軍法について、現役軍人を政府機関に幅広く登用できる改正法案を可決しました。民主主義が後退するとの懸念が広がっています。

インドネシア国会で20日、国軍法の改正案についての採決が行われ、すべての政党が賛成して可決・成立しました。

現地メディアによりますと、改正法では、現役軍人がこれまで兼務することができた省庁や政府機関に加え、新たに最高検察庁など5つの機関への出向が可能になるということです。

国軍法は、1998年まで続いたスハルト独裁政権の崩壊後、民主化に向け、軍の権限を抑える目的で制定されました。

今回の法改正の背景には、軍出身であるプラボウォ大統領の意向があったとみられていますが、人権団体は「民主主義の後退や人権侵害のリスクが高まっている」と強権化に警鐘を鳴らしています。【3月20日 TBS NEWS DIG】
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ジョコ親子とタッグを組んで大統領に登りつめたプラボウォ氏ですが、当然のことながら今後に向けてその関係がいつまで続くのか懸念・潜在的な緊張関係があり、今後のインドネシア政治にとって大きな影響があります。

****プラボウォ氏とジョコ親子の現在はうまくいっているのですか?****
とても重要な視点です。プラボウォ大統領とジョコ・ウィドド(ジョコウィ)前大統領、そしてその長男ギブラン副大統領との関係は、一見すると協調的に見えますが、内実は緊張や駆け引きがある可能性が高いと見られています。

■ 大統領選における「政治的取引」
プラボウォ氏が2024年の大統領選挙でギブラン氏を副大統領候補に指名した背景には、以下のような思惑がありました:
ジョコウィの高い支持率(任期末でも70%超)を政治的に取り込むため
ジョコウィの地方組織や実務官僚ネットワークを取り込むため
ギブラン氏自身の若さ・将来性による若年層の票獲得
この「プラボウォ=ジョコウィ連合」によって、対立候補アニス・バスウェダンに対して大きな優位を築くことに成功しました。

■ 現在の関係:表面上の協調、しかし裏にある警戒感
◉ 表面上:
プラボウォは大統領就任前後の記者会見や演説で、ジョコウィ前大統領への感謝を繰り返し述べています。
ギブラン副大統領も就任式などでプラボウォを立てる発言をしています。

◉ しかし裏では:
ジョコウィ側(特に長期政権を築いた与党PDIP=闘争民主党)とは、プラボウォの支持基盤が異なり、政権運営の主導権をめぐって緊張が生じる可能性があります。
ジョコウィの影響力が強くなりすぎると、プラボウォにとっては「副大統領が自分の後継として前に出過ぎる」という構図になりかねません。
→ 実際、ギブラン副大統領はまだ30代ながら、既に「将来の大統領候補」と目されており、プラボウォ政権内での存在感は極めて大きい。

◉ インドネシア国内でも:「ギブランはジョコウィの操り人形か?」「プラボウォ政権はジョコウィの延長か?」という疑問がメディアや学者の間で繰り返し論じられています。

一方で、プラボウォがいずれ「独自色」を強めてジョコウィ色を排除していくとの見方もあります。

■ 結論:現在は「共存」、今後は「主導権争い」へ?
現時点では、プラボウォとジョコ親子の関係は「協力関係を装いながらも、互いに牽制し合っている」状況。
今後(2026〜2027年ごろ)、プラボウォ政権が安定すればするほど、ジョコウィやギブランとの主導権争いが表面化していく可能性が高いです。

インドネシアでは「副大統領が政権後継者として自然に浮上する」傾向も強いため、ギブランの存在は、プラボウォにとっては「盟友」でありながら「潜在的ライバル」でもあります。【ChatGPT】
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外交的には、プラボウォ政権は中ロ主導のBRICSへの参加など、ロシアとの関係強化が目立ちます。大統領は今回のG7に招待されながら、それを断って訪ロしています。

****インドネシア、ロシアとパートナー宣言 東南アジアの大国がG7参加見送りプーチン氏選ぶ****
ロシアのプーチン大統領は19日、北西部サンクトペテルブルクでインドネシアのプラボウォ大統領と会談した。両首脳は「戦略的パートナーシップ宣言」に署名し、ロシア側はインドネシアへのエネルギー資源の供給拡大の用意があると表明した。

人口世界4位で東南アジア最大の経済大国であるインドネシアは今年1月、中国やロシアなど主要新興国でつくる「BRICS」に加盟。プラボウォ氏はカナダで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)に招かれたが訪露を理由に参加を見送り、ロシアとの関係強化を重視する姿勢を示した。【6月20日 産経】
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****インドネシア ロシア首脳会談 幅広い分野で協力深める姿勢示す****
インドネシアのプラボウォ大統領は、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアを訪れ、プーチン大統領と会談し、ロシアと幅広い分野で協力を深めていく姿勢を示しました。

インドネシアのプラボウォ大統領は19日、国際経済会議が開かれているロシア第2の都市サンクトペテルブルクでプーチン大統領と会談しました。

会談の冒頭、まずプーチン大統領が「両国の関係は着実に発展している。農業や宇宙、エネルギー、軍事技術など多くの分野で協力拡大の見通しは明るい」と述べました。

これに対しプラボウォ大統領は、インドネシアがことし、新興国で作るBRICSに加盟した際、ロシアが支援してくれたと感謝したうえで「われわれの関係はますますよくなっている。経済関係などさまざまな分野で進展がある」と評価しました。

プラボウォ大統領はG7サミット=主要7か国首脳会議に招待されていましたが、すでにロシア訪問が決まっていたとして出席を見送りました。

サミットへの出席より、ロシアへの訪問が国益に沿うと判断したとみられます。

全方位外交を掲げるインドネシアはロシアとの間で去年、初めて海軍の合同演習を行うなど幅広い分野で協力を深める姿勢を示していて、ロシアに制裁を科す欧米とは一線を画す対応をとっています。【6月20日 NHK】
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****G7への参加見送りプーチン氏と会談、インドネシア大統領「国が貧しい時代の支援忘れない」****
(中略)プーチン氏は会談後の記者発表で「インドネシアはアジア太平洋地域のカギとなるパートナーの一つだ」と訴え、関係を重視する考えを強調した。プラボウォ氏も「国が貧しい時代にソ連やロシアから受けた支援は忘れない」と述べた。(後略)【6月20日 読売】
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****「国が貧しい時代にソ連やロシアから受けた支援は忘れない」・・・・プラボウォ大統領のこの言葉は外交上の儀礼的な言葉なのか? それともインドネシアの歴史を反映したものか?****

「ソ連やロシアからの支援は忘れない」というプラボウォ大統領の発言は、外交的なリップサービスの側面もあるものの、一定の歴史的事実に根ざした発言であり、インドネシアと旧ソ連(現在のロシア)との関係には、過去において具体的な支援や協力の実績が存在します。

■ 歴史的背景:スカルノ時代の関係
特に注目すべきは、スカルノ初代大統領(1945〜1967)時代のインドネシアとソ連の関係です。
1950年代〜1960年代、冷戦期においてインドネシアは非同盟中立を掲げつつも、スカルノはソ連・中国寄りの姿勢を示すことが多く、ソ連からの軍事・経済支援を受けていました。

ソ連はインドネシアに対して以下のような支援を提供しました:
軍事支援:ミグ戦闘機、潜水艦、駆逐艦などの供与
経済支援・技術協力:工場の建設、教育・医療施設の提供
インフラ整備:ジャカルタの「ゲロラ・ブン・カルノ・スタジアム」は、ソ連の支援で建設された象徴的プロジェクト(1962年アジア競技大会のため)

このように、インドネシアが経済的に貧しく、国際的にも不安定だった時代に、ソ連は「反植民地主義の同志」として相当な便宜と支援を与えていました。

■ 現代における文脈と外交的含意
プラボウォ大統領はスハルト時代の軍人であり、本来は反共的傾向の強い背景を持つ人物ですが、その彼があえて「ソ連やロシアの支援に感謝」と述べたのは、現在のロシアとの関係強化を正当化する歴史的枠組みとして、過去の友好関係を利用している側面もあります。

一方で、現在のロシアは西側との関係が悪化しており、インドネシアのような中立国・新興国とのパートナーシップを重視しています。プラボウォ発言は、そうしたロシアへの「シンパシー」を象徴的に示す意図も含んでいます。

■ 結論
したがって、プラボウォ大統領の発言は単なる外交辞令ではなく、冷戦期のソ連との歴史的関係を意識した真っ当な評価であり、現在のロシアとの戦略的関係強化のための「歴史の再確認」という政治的意味も含んでいると理解できます。これは典型的な「過去を語って現在を語る」地政学的な言辞です。【ChatGPT】
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“プラボウォ大統領はスハルト時代の軍人であり、本来は反共的傾向の強い背景を持つ人物”ということと、ソ連・ロシアへの賛辞が結びつかなかったのですが、非同盟中立のスカルノ時代まで遡れば、いろいろな関係があるでしょう。 個人的な反共思想を抑えて、敢えてそんな過去の話を持ち出すあたり、なかなかの策士のようです。

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タイ  再燃するカンボジアとの国境紛争 安定的な大連立ペートンタン政権 解党命令の前進党の今後

2025-06-06 23:34:00 | 東南アジア
(タイで2023年に行われた総選挙で第1党となりながらも2024年8月7日、憲法裁判所に解党を命じられた民主派の最大野党「前進党」の議員らが9日、後継となる新党(人民党、あるいは民衆党)を結成したと発表し、タイの民主化に向けた活動を続けていく方針を示しました。【2024年8月9日 NHK】)

【カンボジアとの国境紛争再燃】
最近、あまりタイ政治に関する記事は目にしなかったのですが、今日、下記の記事が。

****タイ国軍、カンボジアとの国境紛争で「高レベルの作戦」準備****
タイ国軍は5日、カンボジアとの国境紛争で先週死傷者が出たことを受けて声明を発表し、タイの主権に対する侵害に対抗するために「高レベルの作戦」を開始する用意があると表明した。

カンボジアが国境で軍の態勢を強化している情報があるとし、「懸念すべき事態だ」と指摘した。

タイのペートンタン首相は6日、国家安全保障会議を招集し、「軍はあらゆるシナリオに対応できる態勢を整えている」と強調した。「しかし、いかなる衝突も被害をもたらすため、われわれは平和的な手段を追求する」とも述べた。

5月28日にタイとカンボジアの未画定の国境地帯で小競り合いが発生し、カンボジア兵1人が死亡した。

タイ国軍は「報復が必要となった場合に備え、高レベルの軍事作戦を実行する準備を整えている」と表明した。「国境部隊は双方の損害を防ぐため、情勢を把握した上で慎重かつ冷静に作戦を進めている。しかし同時に、必要なら国家の主権を最大限に守る用意もある」と強調した。【6月6日 ロイター】
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タイとカンボジアの間には以前からプレアビヒア寺院の帰属をめぐる国境紛争がありますが、また、この問題が再燃したようです。

****タイとカンボジアの国境紛争****
タイとカンボジアの国境紛争は、2008年に始まったプレアビヒア寺院の帰属をめぐるタイとカンボジアの国境紛争である。

歴史の背景
両国の国境問題は、1863年フランスがカンボジアを植民地化した後、20世紀初頭にタイ(当時はシャム)の領土であった現在のカンボジア北部がフランス領に割譲されたことに始まった。

その際、ダンレック山地の分水嶺が国境線と定められたが、フランスが定めた国境線とタイの主張するダンレック山地の分水嶺が一致しない事態が生じ、プレア・ビヒア寺院は正に帰属がはっきりしなかった。

第二次世界大戦後は、タイが自国の警備兵をプレア・ビヒアに常駐させて実効支配していたが、独立後のカンボジアが同寺院の領有権の確認を求めて国際司法裁判所に提訴、1962年の判決で寺院周辺におけるカンボジア側の主権が認められている。タイ側は不満を示しながらも、つい最近まで同判決に従ってきた。

軍事衝突
2008年初、カンボジアがプレアビヒア寺院遺跡を世界遺産に登録するように、ユネスコの世界遺産委員会に申請した。ユネスコの世界遺産委員会が、プレアビヒア寺院遺跡をカンボジアの世界遺産に登録することにした。それに対して、タイ国内の政治団体や市民団体がこの合意に激しく反発した。

同年7月、タイ軍兵士が国境を越えてカンボジア領に侵入し集結した。同時に、カンボジア軍もタイとの国境地帯に数百人規模の部隊を配備した。

同年10月、両軍間はプレアビヒア寺院から数キロしか離れていない国境地帯で銃撃戦を進め、カンボジア兵2人が死亡、タイ兵7人が負傷した。

撤兵
2011年4月、カンボジアは国際司法裁判所にプレアビヒア周辺の国境未画定地域の領有権に関する判断を求めた。同年7月、国際司法裁判所は紛争地域に非武装地帯を設定し、両国に即時撤兵するよう命じた。

2012年7月、両軍は国境の紛争地域から撤兵した。2013年11月、カンボジアの提訴を受けた国際司法裁判所は寺院周辺の土地もカンボジアに帰属すると判断し、懸案の領有権問題は一旦終結した。【ウィキペディア】
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いったんは落ち着いていた紛争が再燃した経緯は以下のとおり

****2025年カンボジア・タイ国境危機****
2025年5月28日から、国境紛争地域をめぐるカンボジアとタイの危機が、短い小競り合いの後に始まった。国境の一部は、長い間、双方によって争われており、以前の小競り合いや緊張の対象となってきた。(中略)

国境地域をめぐる緊張は2025年初頭に高まった。2月13日、タイ軍は、係争中のプラサート・タ・ムエン・トム寺院でカンボジア人観光客がカンボジア国歌を歌うのを阻止し、さらなる緊張を引き起こした。

5月28日、カンボジアとタイの兵士は、両国とラオスが共有するエメラルドトライアングルの三国国境地帯で短時間銃撃戦を繰り広げ、カンボジア兵1人が死亡した。両国は、小競り合いを扇動したとしてお互いを非難した。

カンボジアのフン・マネット首相は、この事件に対して、タイとの紛争を見たくなかったとして、ICJに裁定を求める計画を開始した。

 タイのプムタム・ウェチャヤチャイ国防相は、どちらの側も紛争をエスカレートさせたくはなく、紛争は解決したと述べた。カンボジア軍とタイ軍の間で協議が5月29日に行われた。【ウィキペディア】
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****カンボジアが国際司法裁判所への提訴を示唆したことを受け、タイは積極的な関与を促した。****
タイは5日、カンボジアに対し、長年の国境紛争の解決に向けた努力に積極的に取り組むよう呼びかけ、隣国カンボジアが国際司法裁判所(ICJ)への付託を表明したことを受け、国際司法裁判所の管轄権を認めないと強調した。

両国は、5月28日に国境で発生した部隊間の衝突でカンボジア兵士1人が死亡したことを受け、数日間にわたり対話へのコミットメントを表明するとともに、主権を守ることを誓約している。【6月5日 ロイター 自動翻訳】
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両国政府は紛争拡大を望んではいないと思いますが、“係争中のプラサート・タ・ムエン・トム寺院でカンボジア人観光客がカンボジア国歌を歌う”といった国民の民族主義高揚が背景にあるので、国内的に弱腰は見せられないということで事態がエスカレートしやすいとも言えます。

【不信任案も否決して安定感を示す大連立ペートンタン政権】
タイ側を主導するのがタクシン元首相の次女でもあるペートンタン首相。

2024年8月14日、閣僚人事を巡る問題でセター首相がタイ憲法裁判所の判決により失職。16日、タイ国会下院の首相指名投票で過半数の支持を得てペートンタンが後継の首相に選出されました。

“タクシン元首相派「タイ貢献党」が主導し、親軍派政党など保守勢力と協調する大連立政権の大枠を維持。野党で反タクシン派として知られた「民主党」も新たに連立に加わった。”【2024年9月4日 共同】というタクシン派と反タクシン・親軍勢力の11党「大連立維持」政権で、数の上では下院定数500のうち300議席以上を占めています。

ただし、“ただ、前政権に参加していた元陸軍司令官のプラウィット氏が党首の「国民国家の力党」が連立から排除された。タクシン派との対立が再燃したためで、同党側は既にペートンタン氏に関する複数の不正疑惑を選挙管理委員会に訴えるなど対決姿勢を鮮明にしている。”【2024年9月4日 時事】という不安定要素も抱えてのスタートでした。

冒頭に“最近、あまりタイ政治に関する記事は目にしなかった”と書きましたが、そのことはペートンタン政権が安定的に政権運営しているということです。今年3月には不信任案を否決して安定感を示しました。

*****タイ首相への不信任案否決、連立政権の安定示す****
タイ国会は26日、ペートンタン首相に対する初の不信任決議案を否決した。出席した議員488人のうち319人が反対票を投じ、連立政権の安定性を示す結果となった。

最大野党の人民党はペートンタン氏と父親であるタクシン元首相の関係の近さを主に追及した。タクシン氏は利益相反と職権乱用で有罪判決を受け、公職に就くことを禁じられている。

ペートンタン氏の首相としての資質や経済に関する知識を疑問視する声や、脱税疑惑などの指摘も上がった。

しかし決議案が否決されたことで、11党による連立政権が依然として堅固であることが示され、政局が不安定化するとの懸念は後退した。

ペートンタン氏は「支持、反対にかかわらず、一票一票が私と内閣にとって国民のための仕事を続ける力となる」とXに投稿し、与党連合の支援に感謝を表明した【3月26日 ロイター】
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【先の総選挙で若者世代の支持を集めて第1党に躍進するも、既存政治の壁にはばまれた前進党の後継政党を取り巻く状況】
このときペートンタン首相に対するの不信任決議案を主導したのが最大野党の人民党です。(国民国家の力党(PPRP)など一部保守勢力も反ペートンタン首相に回った様子)

人民党は総選挙で若者らの絶大な支持を集めて第1党になりながらも既存政治の壁に阻まれて政権獲得できず、更に2024年8月に憲法裁判所による解党命令を受けたピタ氏率いる前進党の後継政党です。

****後継政党「人民党」の設立と現状****
設立時期:2024年8月9日、前進党の解党直後に新党「人民党」を正式に結成しました 。

中心メンバー:前進党に所属していた約143名の下院議員が新党に移籍。党首にはナッタポン・ルアンパンヤーウット氏が就任し、実質的に前進党の理念と基盤を受け継いでいます。

理念・目標:「不敬罪(刑法112条)の改正」など、前進党時代の進歩的政策を継承し、2027年の次回総選挙で第一党を目指す方針を表明しています。【ChatGPT】
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このピタ氏率いる前進党、その後継政党である人民党は“依然として高い政治熱を維持”とのこと。

****前進党 / 新党(人民党)(ピタ氏率いる民主改革派)と次回選挙での若者支持****
若者・都市部に根強い人気
前進党(Move Forward Party)は特に若く教養のある都市部の有権者、特にバンコク周辺で強い支持基盤を持っています。その政策は民主化、旧体制(軍・王室)からの脱却、LGBTQや婚姻平等など多様性尊重を掲げ、若者に訴求力が高いです。

解党後の新党再編と関係性
2024年8月に憲法裁で解党命令を受けた後も、ピタ氏らは主要メンバーを中核に新党を結成し、改革継続の旗印としています。若者の関心も移行し、依然として高い政治熱を維持しています。

情報発信の重要性
若者世代が情報を得る手段としてTikTokやSNSが大きな役割を果たしており、前進党/新党はこれらを活用した広報戦略が評価されています。【ChatGPT】
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ただ、前進党が解党命令を受けた際には支持者によるさほどの政治混乱はなく、前進党の前身政党である新未来党が同様の措置を受けたときとは状況が変わってきてはいます。

ただし、そのような状況変化は次回選挙での再躍進を否定するものでもありません。

****前進党の解散はタイで新たな若者主導の抗議運動の波を引き起こすか?****
進歩的な若者たちは、先週の前進党の解散を受けて、目立たない態度を貫いている。しかし、それは彼らが永久に沈黙させられたことを意味するわけではない。

2024年8月7日、タイ憲法裁判所は前進党(MFP)の解党を全会一致で決定した。2020年に国民に支持された進歩政党が解党された際には、若者が主導する大規模な民主化運動が数ヶ月にわたって展開された。しかし、今回も同様の反応は期待できない。

MFPは2023年5月の総選挙で得票数と議席数の両方で勝利した。しかし、この勝利にもかかわらず、同党は政権樹立を阻まれた。

選挙から1年後、憲法裁判所は、タイの不敬罪法改正を目指すMFPの選挙政策は、政治的利益のために王室を弱体化させると解釈される可能性があり、違憲であるとの判決を下した。

これにより、同党の解党と幹部の10年間の政治活動禁止が正当化される。(中略)

タイの若者の反応が比較的静かだったことは、いくつかの理由から注目に値する。MFPと、2023年の選挙で同党を勝利に導いたピタ・リムジャルーンラット前党首は、特にタイの若者の間で人気があった。

さらに重要なのは、MFPの解散は、2020年のタイ政治におけるもう一つの転換点となった出来事の再現に近いということだ。MFPの前身である未来前進党(新未来党)は、予想外の好成績を収めた選挙結果を受けて解散し、執行部のメンバーは政治活動から追放された。未来前進党出身の国会議員の大半は、未来前進党の進歩的な政策を引き継いだMFPに移籍した。

しかし、未来前進党の解散がもたらすより重大な影響は、政党政治の枠を超えたところにある。未来前進党とその党首タナトーン・ジュアンルーンルアンキットは若者の間で絶大な人気を誇っていたため、その解散は2020年の学生主導の民主化運動の引き金の一つとしばしば指摘されてきた。実際、未来前進党が解散した夜、様々な大学のキャンパスで「フラッシュ」集会が開催され、後に大規模な抗議活動へと発展した。

では、もしこれが本当に再来だとしたら、2020年のような熱狂と激しいレトリックを伴う、再び全国的な抗議活動が起こると予想すべきだろうか?それはまずあり得ないだろう。(中略)

2度の解散に対する即時の反応を比較すると、今回ははるかに控えめな反応が見られます。学生たちは、憲法裁判所判事の授業を法学生がストライキで退席するなど、街頭に繰り出すよりも、キャンパス内での象徴的な行動を選択する傾向にあります。

タマサート、チュラロンコーン、チェンマイなどのキャンパスでは、複数の学生団体が「フラッシュ・プロテスト」を宣言しましたが、その規模は2020年のものと比べるとはるかに小規模でした。

同様に、MFPは判決当日に支持者を本部に招待しましたが、集まった人数は「少人数」と評されました。タイの若者の間では、抗議活動への意欲は概ね下火になっているようです。これにはいくつかの要因が考えられます。

よく挙げられる理由は、MFPを解散させたのと同じ司法制度によって、学生運動が骨抜きにされたことです。2020年の抗議活動から生まれた指導者たちは、起訴され、投獄され、国外逃亡したように見えたり、あるいは拘留中に悲劇的な死を遂げたりしています。

このような損失により、運動の勢いを維持することは困難でした。2021年、プラユット・チャンオチャ政権がますます暴力的な措置で対応した際に、運動の勢いの一部はすでに失われていたことを忘れてはなりません。抗議活動参加者1名が死亡し、数名が重傷を負った後、政府は多くの人々が集会に参加することを思いとどまらせることに成功しました。

もう一つの理由は、単にこれが「再放送」だったからかもしれない。使い古されたストーリーは視聴者にとって衝撃が少ないからだ。

タイの憲法裁判所は政党を解散させる傾向があるものの、未来前進党の解散は多くの支持者にとって衝撃的だっただろう。対照的に、未来前進党の解散は、2024年1月に不敬罪法改正案は王室転覆の試みに相当するとの判決が出ており、既にある程度予想されていた。

判決がそれほど驚くべきものではなかったため、様々な抗議活動に参加する人々や学生の数はそれほど多くなかった。

その他の理由は、2023年の選挙にまで遡ることができる。MFPが政権を樹立できなかったため、多くの若者が結果に幻滅した可能性が高い。

あまり議論されていないもう1つの要因は、タイ貢献党の支持者を含む2020年の民主化連合が2023年に多少崩壊したことである。

タイ貢献党自体は解散した2つの政党の後継者であり、2020年には未来前進党に同情する声明を発表した。2020年の抗議活動には、タイ貢献党と関係のある著名人が頻繁に参加していた。

2023年の選挙後、タイ貢献党は第二党となった。しかし、タイ貢献党はMFPとの連立を解消し、親体制政党との政府を樹立したとして非難されている。

これは、2つの党の支持者の間に修復不可能な亀裂を引き起こした。2020年の民主化抗議活動におけるタイ貢献派は、政治的目的が相違した今や、MFPを支持する集会には現れない可能性が高い。したがって、2020 年の現象が再び起こる可能性は低いと思われます。

タイの政権は、若者の街頭デモへの意欲を潰すことに成功したと言えるかもしれないが、MFPの1,400万人の有権者(その多くは若者)の不満を鎮めることはできていない。

彼らが今、抗議活動を行っていないことは、必ずしも無関心や倦怠感を意味するわけではない。彼らは、暴力や投獄のリスクが少ない投票箱やその他の正式な手段を通じて、戦略的に政治的な不満を表明することを選択するかもしれない。

実際、未来前進党が解散した際に、MFPの支持基盤は2倍以上に増加した。後継政党である人民党は既に結成されており、わずか1週間足らずで4万6,000人以上の党員を擁し、2,300万バーツ(約65万米ドル)以上の寄付金を集めている。

より多くの若者が投票権を持つ次回の選挙で、新党がMFPの成功を再現できるかどうかは、まだ分からない。【2024年8月13日 FLUCRUM】
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カンボジア  存在感を増す中国 リアム海軍基地や「フナン・テチョ運河」建設 米・ベトナムの懸念

2025-05-02 22:46:32 | 東南アジア

(【2024年4月29日 INDO PACIFIC DEFENS EFORUM】)

【政治・経済・軍事・文化など多岐にわたる中国との深い関係】
カンボジアはフン・セン前首相の人権・民主主義の面での問題がある統治によって欧米との関係がギクシャクする一方で、ASEANにあって「中国の代理人」とも言われるほどに中国との関係が強まり、中国の影響が次第に色濃くなっているという話は常々聞いていますが、昨年2月の春節時期にカンボジア・シェムリアップでアンコールワット遺跡群などを観光した際には、「街の雰囲気は、言われているほどには中国色は強くないかも・・・」という印象でした。

ただ、カンボジアのなかでもとりわけ中国の影響を感じられると言われている南部ビーチのシアヌークビル(中国資本によって開発された経済特区もあります)を最近訪れた知人の話では、街は中国色で溢れているとのこと。

最初に、カンボジアと中国の関係をAI(チャットGPT)の情報で簡単に整理しておくと、以下のようにも。

****カンボジアの貿易に占める中国の割合****
カンボジアの貿易における中国の割合は、近年増加傾向にあります。2024年には、中国との二国間貿易総額が過去最高の151.9億ドルに達し、カンボジアの年間総貿易額約547.4億ドルのうち約27.8%を占めました。

これは前年の26.06%からの増加を示しており、中国がカンボジアの最大の貿易相手国であることを再確認するものです。

この貿易関係の強化は、カンボジアと中国の強固な外交関係や、両国間の自由貿易協定(CCFTA)および地域的な包括的経済連携(RCEP)などの協定によって支えられています。これらの要因が、貿易の拡大と多様化を促進しています。

カンボジアから中国への主な輸出品目には、農産物、家具、宝飾品、衣料品などが含まれます。一方、中国からの輸入品目は、工場向けの原材料、日用品、食品・飲料、車両、機械、建設資材、電子機器、医薬品、農業製品など多岐にわたります。

このように、中国はカンボジアの貿易において重要な役割を果たしており、今後も両国間の経済関係はさらに深化していくと予想されます。【ChatGPT】
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****カンボジアと中国のつながりの深さを示す代表的事例****
カンボジアと中国のつながりの深さを示す事柄は、政治・経済・軍事・文化など多岐にわたります。以下に代表的な事例を挙げます。

1. 経済的関係
最大の貿易相手国:先述のとおり、中国はカンボジアにとって最大の貿易相手国であり、貿易総額の約28%を占めています。

直接投資の最大供給国:中国はカンボジアへの外国直接投資(FDI)の中で最大の供給国であり、インフラ、工業団地、観光開発など多くの分野に資金を投下。

一帯一路構想(BRI)への参加:カンボジアは中国の「一帯一路」構想に積極的に参加しており、鉄道・道路・港湾などの大規模インフラ開発が進行中。

2. 政治的関係
「鉄の友人」関係:両国は「鉄の友人」と称されるほど親密で、ハン・セン前首相と中国の指導者との関係は特に緊密でした。高官同士の頻繁な交流:首脳会談や高官訪問が定期的に行われており、信頼関係が構築されています。

3. 軍事協力
合同軍事演習:カンボジアと中国は定期的に合同軍事演習「ゴールデン・ドラゴン」を実施しており、防衛協力を強化中。

武器供与と軍事支援:中国はカンボジア軍に武器や装備の提供、兵士の訓練を行っており、軍事インフラ整備にも関与しています。

4. 人的・文化交流
中国人観光客:中国からの観光客はカンボジアにとって最も多く、観光業にとって非常に重要な存在。
中国語教育支援:中国政府は孔子学院の設立や、中国語教師派遣を通じて教育支援を行っています。
奨学金制度:カンボジアの学生が中国の大学へ留学できるよう、政府間での奨学金制度も整備されています。

5. 特別経済区と経済特区
シアヌークビル経済特区(SSEZ):中国資本によって開発されたこの経済特区は、製造業の中心地であり、数百の企業が稼働しています。【ChatGPT】
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こうした中国・カンボジア関係の一端を示す今日のニュース

****中国企業が建設したカンボジアの国道3本開通**** 
中国の交通インフラ大手、中国路橋工程が建設を請け負ったカンボジアの国道31、33、41号のアップグレード・改造事業の竣工と開通を祝う式典が4月29日、タケオ州で行われた。

同国のフン・マネット首相、中国の汪文斌(おう・ぶんひん)駐カンボジア大使ら両国政府、関係者の代表と現地の人々8千人近くが参加した。【5月2日 新華社】
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単に貿易・インフラ整備や後述の安全保障などに限らず、人々の生活においても中国の存在感が増しています。

****中国スタイルのミルクティーがカンボジアで人気に、産業発展にも貢献****
蜜雪氷城(ミーシュエ)や氷淳茶飲(BING CHUN)といった中国の新スタイルのティードリンクブランドが近年、次々とカンボジアに進出し、人気を集めている。中でも「蜜雪氷城」はカンボジアですでに60店舗を展開し、うち30店舗は首都のプノンペンにある。人民日報が伝えた。(中略)

「蜜雪氷城」カンボジア運営会社の最高財務責任者であるハット・ソチェアタさん(32)は、「会社には中国人スタッフもカンボジア人スタッフもいる。中国人スタッフの多くはカンボジア語を勉強している。僕も独学で中国語をマスターした。みんな和やかに、楽しく交流できている」と話す。(中略)

中国とカンボジアの協力と交流が深化するにつれて、蜜雪氷城のように、カンボジアに進出して根を下ろし、発展する中国企業が増えており、同国の人にさらに多くの消費の選択肢を提供すると同時に、雇用を創出し、産業の発展を促進している。

(「蜜雪氷城」のカンボジアにおける業務提携先責任者の)ケオさんは「1店舗当たり4〜5人のカンボジア人スタッフを雇っているので、200人以上の雇用が創出されている。今後は200店舗以上オープンさせる計画だ」と話す。(中略)

中国とカンボジアの近年の交流、協力、相互サポートについて、ハットさん、「十数年前、僕が住んでいた地域はインフラ整備があまり進んでおらず、断水や停電が起きることもあった。交通アクセスも不便で、プノンペンからシアヌークビルに行くのに5時間以上かかっていた。

近年は中国の企業が次々と進出し、水力発電所や発電所、高速道路などを建設してくれているので、都市がどんどん美しくなり、交通もどんどん便利になっている」としみじみと語り、身近な変化について「『蜜雪氷城』を含む中国企業がカンボジアでの投資を拡大しており、自分の仕事の未来は明るいと感じている。ここで引き続き一生懸命仕事をして、さらに多くのことを成し遂げたいと思っている。両国の友好がさらに深まり、暮らしがより豊かになることを、心から願っている」と語った。【4月21日 レコードチャイナ】
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【米トランプ大統領の対外支援凍結の空白を埋める中国】
また、アメリカ・トランプ大統領の対外支援凍結がカンボジアのような支援を必要としている国と中国の関係を更に深めることにも。

“カンボジアは1970年代の戦争で壊滅的な被害を受けた。ベトナム戦争から波及したアメリカの空爆と、中国の後ろ盾で権力を掌握し、大量虐殺を行ったポル・ポト派(クメール・ルージュ)の支配によるものだ。
現在も数百万個の地雷が国中の地中に残っている。

1979年のポル・ポト政権崩壊以来、1万8800人以上が地雷によって死亡し、さらに4万5000人が負傷したという。
在カンボジア米大使館は昨年、2025年にカンボジアで地雷除去やその他の不発弾除去に1200万ドルを費やす見込みだと述べていた。”【後出 Newsweek】

****世界のパートナーはアメリカから中国に?...USAID凍結直後のカンボジアで何が起きたのか****
<トランプの対外支援凍結は「中国が世界中で選ばれるパートナーになる道を開いた」──支援停止の数日後にすぐさまカンボジアに働きかけた中国の作戦>

米国際開発庁(USAID)による支援先への支払い凍結で、カンボジアの地雷・不発弾除去プロジェクトが作業の中断を余儀なくされたことを発表した。だが、その数日後に中国が資金を提供したことを同プロジェクトの代表が明らかにしている。(中略)

ドナルド・トランプ大統領は、USAIDを通じた対外援助を90日間停止するという決定を下したが、これに対しては、中国が世界中に影響力を拡大する道を開くことになると批判の声があがっていた。

東南アジアに位置するカンボジアは、すでに中国の最も親密な同盟国のひとつであり、近年は人権侵害や民主主義の欠如を批判するアメリカとぎくしゃくした関係にあった。

USAIDが支援先への支払いを凍結したため、カンボジア地雷対策センター(CMAC)の運営が一時的に停止されたことが発表された数日後の2月5日、ヘン・ラタナ事務局長はフェイスブックで、2025年3月1日から1年間、中国からカンボジア地雷廃絶プロジェクトに440万ドルの助成金が提供されることを明かした。(中略)

カンボジア王立アカデミーの政策アナリスト セウン・サムは、カンボジアのニュースサイト「キリポスト」の記事で「中国が支援しなければ、CMACはカンボジアで地雷除去を続けるための十分な資金を確保できない。だから中国からの支援は進行中の地雷除去の取り組みにとって特に重要だ」と述べている。(後略)【2月10日 Newsweek】
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このあたりの中国の対応は、素早いものがあります。

【中国が支援したリアム海軍基地の拡張工事 米、中国の軍事利用を懸念】
中国が対カンボジア関係を重視するのは、中国の対外戦略にとってカンボジアが重要な位置を占めていることによる部分が大きく、その象徴がマラッカ海峡からインド洋につながる要衝であるカンボジア南西部のリアム港です。

中国支援の拡張工事の見返りに中国が軍事利用を進めるのではとの懸念がアメリカにはあります。

****海外活動の足がかりか 中国軍、カンボジアに共同拠点を開設****
中国国防省は5日、カンボジア南西部のリアム港に中国、カンボジア両軍の共同支援・訓練センターを設置したと発表した。合同訓練やテロ対策、人道支援活動の拠点として活用し、中国軍の兵員も常駐する。中国軍の海外活動の足がかりとなる可能性がある。

センター設置について、中国側は「関連する国際法に合致し、第三者を標的にするものではない。両軍の実務的な協力をさらに強化し、国際的な義務をよりよく果たすことに資する」と主張した。中国軍は既にアフリカ東部のジブチに海外基地を持つが、兵員を配置する新たな海外拠点を公表するのは異例だ。

同じ5日には、現地で中国が支援したリアム海軍基地の拡張工事の落成式典も開かれ、フン・マネット首相や中国軍高官が出席したと、AFP通信が伝えた。

この工事は2022年に着工され、基地は南シナ海に近いタイ湾に面し、マラッカ海峡からインド洋につながる要衝に位置する。このため、米国などからは、支援の見返りとして中国が軍事利用を進めるのではとの懸念が出ていた。

カンボジアは東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の中でも、代表的な「親中国」とされる。一方、トランプ米政権は世界各国への「相互関税」の一環としてカンボジアに49%の高い税率を課すなど、米中対立の影響を受けやすい立場に置かれている。

香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは、習近平国家主席が今年初めての外遊として、4月中旬にベトナム、マレーシア、カンボジアを歴訪する予定だと報道。実現すれば、中国がトランプ政権に対する途上国の不満を集約し、国際社会での影響力を誇示する機会となりそうだ。【4月5日 毎日】
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カンボジアの小国は大国の間でバランスをとることが重要ですので、フン・マネット首相は中国の支援に謝意を示す一方、アメリカの懸念を払拭すべく「基地は中国の支配下にないことを明確にしておきたい。私たちはすべての国々を歓迎する」と述べています。

そうした西側向けパフォーマンスの一環とも見られるのが海上自衛隊の艦艇の寄港でした。

****中国支援のカンボジア海軍基地に海上自衛隊の艦艇が寄港****
中国の支援によって拡張工事が完了したカンボジア南部の海軍基地に、海上自衛隊の艦艇2隻が外国の艦船として初めて寄港しました。

カンボジア南西部にあるリアム海軍基地に19日、海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」と掃海艦「えたじま」が寄港し、歓迎式典が開かれました。

現地の日本大使館は、海上自衛隊の寄港が「地域と国際社会の平和と安定につながる」との声明を発表しています。

リアム海軍基地は中国の支援によって、今月、拡張工事が完了しましたが、アメリカなどは中国の軍事拠点になるのではとの懸念を示しています。

工事終了後、リアム海軍基地に外国の艦船が寄港するのは今回が初めてです。

海洋進出の動きを強める中国を念頭に日本がカンボジアとの連携の強化を図る一方、カンボジアとしては日本からの寄港を受け入れることでバランスをとる狙いがありそうです。【4月19日 TBS NEWS DIG】
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【中国支援の「フナン・テチョ運河」建設 ベトナム、稲作への影響、中国艦船の航行を懸念】
一方中国は習近平国家主席が4月17日から2日間の日程で、ベトナムとマレーシアを含めた東南アジア3カ国歴訪の最後の訪問国であるカンボジアを訪れ、両国関係の更なる緊密化を図っています。

****中国首席がカンボジア訪問、友好関係を確認****
中国の習近平国家主席は17日から2日間の日程で、東南アジア3カ国歴訪の最後の訪問国であるカンボジアを訪れた。滞在期間中は、両国の強固な友好関係を確認し、協力の強化に向けて協議した。  

中国外務省によると、習氏は首都プノンペン到着後、シハモニ国王、フン・セン上院議長(前首相)、フン・マネット首相、モニク王太后と相次いで会談した。  

習氏はフン・セン氏との会談では、グローバル化の流れは止められないと指摘し、単独行動主義、覇権主義は人の心をつかむことはできず、貿易戦争は多国間貿易体制を疲弊させ、世界経済の秩序に影響を及ぼすとして、各国は協調する必要があると主張した。フン・セン氏は、中国政府の方針を支持する考えを示した。  

フン・マネット氏との会談では、さまざまな分野における協力の強化や、2025年を「中国・カンボジア観光年」にすることで一致した。

会談後は、工業・サプライチェーン、人工知能(AI)、開発援助、通関・検疫、公衆衛生、メディアなどの30余りの分野で協力する旨の覚書の調印に立ち会った。  

また、両国は、新時代の全天候型の運命共同体を創設し、中国が提唱する国際的な開発協力の枠組みである「グローバル開発イニシアチブ」「グローバル安全保障イニシアチブ」「グローバル文明イニシアチブ」を推進する旨の共同声明を出した。【4月21日 NNA】
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この習近平国家主席訪問で「フナン・テチョ運河」建設への中国支援も合意されています。

“両国は、カンボジアの経済発展につながると期待される「フナン・テチョ運河」の建設に関する協定にも署名した。

カンボジア政府の声明によると、運河は151.6キロで事業規模は11億6000万ドル。ただ、カンボジアの国内総生産(GDP)の約4%にあたる17億ドルとされていた従来計画と比べ、規模や投資額は縮小した。

資金は官民パートナーシップによって調達され、カンボジア側が51%、中国側が49%出資する。”【4月19日 ロイター】

「フナン・テチョ運河」はカンボジア政府によると、プノンペン近郊から南の沿岸州ケップまでを4年かけて貫く計画で、2024年8月に工事が始まっています。

カンボジアは物流ルートの短縮などを目的に挙げていますが、運河が水を取り込むメコン川の下流にある隣国ベトナムが建設に反発し、両国の摩擦の種となっています。メコン川流域に暮らすベトナムの稲作農家は作物の心配をしています。

予備調査では運河がメコン川下流域に与える影響は最小限であることを保証したとのことで、マネット首相は「この運河は農作物に水を供給し、雨季の水管理を改善し、淡水漁業を促進する、などの効果がある」と述べたていますが・・・

ベトナム側のもうひとつの懸念は、中国軍の艦艇がカンボジア内陸部やカンボジアとベトナムの国境を航行できるようになるのでは・・・という点。

運河のタイ湾側終着点であるケップは、シアヌークビルにあるカンボジアのリーム海軍基地から約100kmの距離にあり、同基地は最近、中国の資金で改修工事が行われたばかりです。

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カンボジアのフン・マネット首相が「この運河が中国軍艦の内陸部へのアクセスを可能にすることを否定し、カンボジアは他国が自国の領土を他国に対する軍事基地として使用することを認めていない」と述べたことを、シンガポールの放送局CNAは2024年4月に報じている。 首相はまた、「この運河は軍艦にとっては浅すぎる」とも述べている。【2024年4月29日 INDO PACIFIC DEFENS EFORUM】
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メコン川にはラオス南部に大きな滝がありますので、中国からベトナムまで船舶で航行することはできませんが、タイ湾側から運河に入った軍用艦船がベトナム国境まで至るのは可能かも。

また“2024年4月、ストレーツ・タイムズ(The Straits Times)紙が報じたところによると、国営の中国架橋・道路公社(China Bridge and Road Corp)が運河建設に資金を提供し、50年間にわたり運営を管理し、利益を得るという。”【同上】
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トランプ関税に苦慮する世界各国 ベトナムと日本の場合

2025-03-04 21:39:14 | 東南アジア

(相互関税の検討を指示する大統領令に署名したトランプ大統領【2月26日 JBpress】)

【ベトナム 米中とバランスをとり、欧州とも】
明日から14日までベトナムに行ってきます。もちろん単なるお遊び・観光です。
そのためブログは「更新できるときは更新する」といった感じで、ゆるゆると。

2月12日ブログ「ベトナム  米中対立の“漁夫の利” 巨額の対米貿易黒字は関税“標的”に 今後も米中間でバランス」で取り上げたように、ベトナムはこれまでの米中対立ではチャイナリスクを警戒する企業がベトナムに拠点を移すなどで“漁夫の利”を得て、経済は急成長してきました。

しかし、対米貿易黒字で第4位という巨額の黒字はトランプ関税の絶好の標的になる・・・ということで、これまでのようにいくかどうかはわからない状況になっています。(トランプ大統領の施策で先が見えないのはベトナムだけでなく、日本を含めた世界全体が同じように困っていますが)

いずれにしても経済的に大きな比重を占めるアメリカ、南シナ海で対立があるとは言え、同じ社会主義国として政治体制維持のためにはやはり緊密な関係が重要な中国・・・その間でバランスをとる必要があります。

トランプ関税については、予防策を。

****ベトナム、米国からの農産物輸入拡大の用意 米関税のリスク拡大****
ベトナムのグエン・ホン・ジエン商工相は米国からの農産物輸入を拡大する用意があると述べた。政府が14日明らかにした。

トランプ米大統領は13日、米国の輸入品に関税を課している全ての国に「相互関税」を課すと発表している。

ベトナムはアップルやサムスンなど多国籍企業の製造・輸出拠点となっており、米国の関税で大きな打撃を受ける可能性がある。昨年の対米貿易黒字は過去最高の1235億ドルで、中国、欧州連合(EU)、メキシコに次いで多かった。

同相は今週の会合でマーク・ナッパー駐ベトナム米国大使に「市場を開放し、米国からの農産物輸入を増やす用意がある」と伝えた。

米政府のデータによると、昨年の米国の対ベトナム輸出の4分の1以上は農産物。大半が綿花、大豆、ナッツ類だった。

ベトナムは米国の主要貿易相手国の中で特に関税差が大きく、米国よりも高い輸入関税を課している。世界貿易機関(WTO)によると、ベトナムは輸入関税率は平均9.4%。【2月14日 ロイター】
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中国とも緊密な関係を維持。

****ベトナム国会が中国へ通じる鉄道建設を承認、総額80億ドル超―独メディア****
2025年2月19日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、ベトナム国会が中国につながる鉄道路線の建設計画を承認したと報じた。

記事は、ベトナム国会が19日、同国最大の北部港湾都市ハイフォンから西へ向かい、首都ハノイを経由して中国雲南省と接するラオカイまで延びる鉄道計画を承認したと紹介。幹線は全長約390.9キロメートル、3本の支線の長さは計約27.9キロメートル、総建設費は現在のところ83億ドル(約1兆2500億円)と見積もられており、今年着工して2030年の完工を目指すと伝えた。

ベトナム北部にはサムスンやフォックスコン、ペガトロンなどの大手国際電子企業の生産拠点が多数存在し、特に中国からの原材料供給に依存している一方で、フランス植民地時代に建設された1世紀以上前の鉄道など、老朽化した交通インフラが同国のさらなる経済成長の大きな障害になっていると指摘。

現在、中国への輸送の多くが低速な上に国境での遅延が発生しやすいトラックに依存している状況であり、運行時速が在来鉄道の50キロから3倍以上の160キロへと引き上げられる新鉄道は、貨物輸送と旅客輸送の両方で大きな役割を担うことが期待されていると伝えた。

また、新鉄道は中国の「一帯一路」構想、2004年にベトナムが中国に提唱して合意した「両廊一圏(中越間の2本の経済回廊と、トンキン湾経済圏)」構想における両国のパートナーシップを強化すると考えられており、中国が一部の資金を融資する予定だと紹介。

現時点でどの企業が建設を担当するかは決まっていないものの、昨年末にベトナムのファム・ミン・チン首相が雲南省を訪問した際、中国鉄建(CRCC)がプロジェクト参加を希望したという中国メディアの情報を伝えた。

記事はさらに、19日のベトナム国会では今年の経済成長目標を従来の6.5〜7%から8%に引き上げること、31年の完成を目指す同国初の原子力発電所の建設、イーロン・マスク氏率いるスペースXが国内でスターリンクの衛星インターネットサービスを提供することも承認されたと伝えている。【2月20日 レコードチャイナ】
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更に、ベトナム同様にトランプ関税の標的となる欧州も、ベトナムとの関係強化・販路拡大を目指しているようです。

****欧州首脳、ベトナム訪問を計画 米関税リスク受け****
複数の関係筋によると、欧州の首脳がベトナムとの関係強化のため、同国を訪問することを計画している。米国のトランプ政権が欧州とベトナムに関税を発動する可能性があり、緊張が高まっていることが背景だ。

米国がベトナムに関税を課せば、両国関係が悪化する可能性がある。

欧州の当局者や外交筋によると、フランスのマクロン大統領はベトナムとの関係強化のため、5月下旬に同国を訪問する可能性がある。欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長もベトナムとの関係を正式に格上げするため、マクロン氏よりも先にベトナムを訪れる可能性がある。訪問はともに以前から計画されていたもので、まだ最終決定には至っていないという。

また、欧州委のシェフチョビチ委員(通商担当)も4月にベトナムを訪問する可能性がある。

フォンデアライエン委員長は先週、ベトナムで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)の会合にビデオメッセージを送り「関税と輸出規制の流れが強まりつつある。われわれは信頼できるパートナーと貿易・投資の新しい機会を作りたい」と述べた

EUは昨年、ベトナムから520億ドル相当の財を輸入。輸入額は米国の半分以下だが、EUはベトナムにとって第3の輸出市場となっている。

ベトナムに進出している米国のメーカーは、欧州よりも米国に対する輸出依存度が高いが、トランプ政権がベトナムに関税を発動した場合、ベトナムからEUへの輸出が増え、欧州企業による対ベトナム投資が進む可能性もある。【3月4日 ロイター】
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【日本への影響は? トランプ大統領、円安批判からの関税への言及も】
日本がこれまでのベトナムのように米中対立から“漁夫の利”を得られるかどうかは・・・

****トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?****
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和

サマリー
◆米トランプ政権は10%の対中追加関税に続き、メキシコとカナダに対する25%の関税などを課す可能性がある。厳しい関税措置は、米国を含む各国経済の減速などを通じて日本経済に悪影響を及ぼし得る。

半面、関税を課された国の価格競争力が低下して日本が代替需要を取り込む(いわゆる「漁夫の利」を得る)可能性もある。そこで本稿では、第2次トランプ政権下で日本が「漁夫の利」を得る条件を検討する。

◆第1次トランプ政権下では、対中追加関税の影響で中国の対米輸出シェアが低下し、ベトナムなどのシェアが上昇した。

同時期に日本のシェアは低下しており、「漁夫の利」は得られなかった。対中追加関税の対象品目では日本の国際競争力が低かったことに加え、日本と中国の輸出財の代替性が低かったことも影響したとみられる。

◆第2次トランプ政権下では、より広範な関税措置による日本経済への悪影響が懸念される。関税措置の対象はほぼ全品目に及ぶほか、中国以外の国も対象となる可能性がある。

もっとも、全品目ベースで見た日本の輸出財の競争力は他国に見劣りせず、韓国やドイツなどとの輸出財の代替性が高い。関税措置の対象が幅広い品目やこれらの国に及んで日本の輸出競争力が相対的に向上した場合、日本経済への悪影響は「漁夫の利」で一定程度緩和されるだろう。【3月3日 大和総研】
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ただ、現実にはなかなか大変。

****トランプ関税で日本株はどうなる?自動車25%関税表明で輸出株は総崩れになったが…最も厄介なシナリオとは****
トランプ政権が関税をディールの武器にして諸外国に揺さぶりをかけています。輸入車に25%の関税をかけると表明すると、日本でも自動車など輸出関連株が大きく下落しました。トランプ関税は今後、マーケットにどんな影響を及ぼしていくのでしょうか。三井住友DSアセットマネジメント・市川雅浩チーフマーケットストラテジストに話を聞きました。 

(中略)
■ 日本には厳しい要求はしてこない?   
(中略)結局のところ、トランプ関税の真の狙いは、米国内への生産回帰と雇用増、海外からの投資増、海外への輸出増と思われます。ここに関してはすでに石破総理が「対米投資の1兆ドルまでの引き上げ」「液化天然ガス(LNG)の輸入拡大」を日米首脳会談の手土産にしました。  

日本はトランプ氏の狙いに応えているほか、中国や北朝鮮を見据えた時に安全保障面でも重要な位置にあることから、日本に対しては厳しい要求はしてこないだろうと見ています。  

現状日本は、米国に対して相互関税や鉄鋼・アルミニウム、自動車への関税適用除外を申し入れています。今後は日本政府の交渉力が試されるところです。

■ 関税による米国のインフレ再燃リスクは大きくない 
 ——日本株にとって一番厄介なシナリオは。  市川氏:トランプ氏が選挙期間中に発言していた、すべての国の製品に一律10〜20%の追加関税を課すということを実際にされると、日本だけでなく世界経済にも大きな影響が出てきます。これが日本株のトランプ関税リスクとしては最も大きなものと考えます。  

ただこれは米国への影響も大きいので、発動のハードルはかなり高いとみています。仮に一律10%の追加関税が発動された場合、米国の物価上昇率を1%ポイント程度、押し上げるインパクトがあると考えています。  

現状、トランプ政権は「一律関税」ではなく「相互関税」の導入を検討しており、個別の国と個別の商品について話し合う形となる公算が大きくなっています。

日本は米国からの自動車輸入に対する関税はゼロとしていますが、トランプ政権は日本の車検制度や安全基準、補助金などを「非関税障壁」とし、関税以外に米国車の販売に妨げになっていると指摘することも想定されます。  

非関税障壁を口実に、日本車に追加関税が課せられるリスクはあり、警戒感が残ります。関税政策については具体的な内容がほとんど固まっていないので、投資家は詳細が明らかになるのを待っている状況です。  

一方、トランプ氏は「インフレ非難」で選挙に勝った経緯があります。米国では2026年に中間選挙もあるので、インフレを招くような無茶な関税引き上げ政策は難しいと考えています。 

関税の引き上げは、中国を除いた各国との、あくまで交渉材料であり、個別に交渉が行われる限り、関税による米国のインフレ再燃リスクは大きくないと思います。【2月26日 JBpress】
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上記記事は“日本に対しては厳しい要求はしてこないだろう”と楽観的ですが、すでに円安批判ができています。

****トランプ氏、円安で日本批判 関税引き上げちらつかせ是正要求へ****
トランプ米大統領は3日、円安・ドル高で米製造業が不利な立場に置かれたとして日本を名指しで批判した。今後は日本に円安是正を求める代わりに、関税引き上げを通告するという。中国通貨の人民元安も同様に批判した。ホワイトハウスで記者団に述べた。

トランプ氏は「日本であれ中国であれ、ドルに対する通貨安で私たちは極めて不利な立場に置かれる」と主張。「日本や中国が自国通貨を切り下げている時に(米メーカーの)キャタピラーがトラクターを作るのは困難だ」とも述べ、日本や中国の製造業がドルに対する通貨安で不当に競争力を高めていたと不満を示した。

トランプ氏は「以前は日中の首脳に電話をかけ、『不公平な通貨切り下げを続けることはできない』と伝えてきた。だが、私がすべきなのは『関税を少し上げる必要がある』と伝えることだけだ」と述べた。今後は関税引き上げを交渉材料に通貨安の是正を促していく考えを示した。

トランプ政権は、米国に高率の関税を課す相手国に同程度の関税を発動する「相互関税」の導入を計画する。政府高官は、新たな関税率を算定する際にドルに対する不当な通貨安も考慮するとしている。

一方、加藤勝信財務相は4日の閣議後記者会見でトランプ氏の発言について「通貨安政策は取っていない。先般の為替介入を見てもらえば理解してもらえる」と反論した。林芳正官房長官も同様の見解を示し、「(日米間で)引き続き緊密に議論していく」と語った。

政府・日銀は昨年、過度な円安の是正に向け、円買い・ドル売りの為替介入を複数回実施している。

トランプ氏は2017~21年の1次政権時代に日中の通貨安を問題視。安倍晋三首相(当時)や中国の習近平国家主席に通貨安の是正を直接求めたと語っていた。【3月4日 毎日】
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ベトナムも欧州も日本も、トランプ関税対策には苦慮。
もちろん、すでに標的となっているカナダや中国は激しく反発、報復関税をかける姿勢です。 経済へのアメリカの影響が死活的に大きいメキシコは日本と同じように、なるべく事を荒立てず穏便に・・・といった姿勢ですが、穏便ですむかどうかはわかりません。
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タイ  ウイグル人難民の強制送還と長期拘留

2025-01-15 23:04:24 | 東南アジア

2015年の中国への強制送還時、トルコ・アンカラのタイ領事館の前で抗議するデモ隊【2015年7月10日 WSJ】)

【ウイグル人43人を10年間拘束 中国への強制送還検討】
中国が新疆ウイグル自治区でウイグル族などの弾圧をおこなっているとの国際批判をうけているのは周知のところですが、中国との関係を重視するタイはウイグル人難民43人を中国に強制送還しようとしているとも報じられています。

****タイで拘束中のウイグル人43人、中国に強制送還の危機 「手遅れになる前に助けを」****
タイ・バンコクの移民収容センターに拘禁されている中国・新疆ウイグル自治区出身のウイグル人ら43人が中国への強制送還の危機に直面している。米AP通信やドイツの国際公共放送ドイチェ・ヴェレ(DW)などが15日までに報じた。

ウイグル人らは書簡で「投獄され、命を失う恐れがある。手遅れになる前に悲惨な運命から救い出してほしい」などと国際社会の介入を訴えている。

DWなどによれば、タイ政府筋などの情報として中国への強制送還はタイ政府内で議論されているが、現在、結論は出ていないという。タイ政府は今年、中国との国交正常化50年を迎える上、米国政府は政権移行期にあるため強制送還したとしても強く反応しないだろうの見方も報じている。

タイの移民官は今月8日、拘束されているウイグル人に対し、中国に強制送還を希望する書類への署名を求めた。過去10年に送還されたウイグル人も同様の署名をしていたといい、「ウイグル人らは恐怖を覚え拒否した」と報じられる。

タイ政府を巡っては2014年にマレーシアとの国境付近で300人以上のウイグル人を拘束し、15年に109人を中国で迫害を受ける恐れがあるにも関わらず送還し、国際社会の批判を浴びた経緯がある。

当時、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「国際法の明確な違反」とし、米国や国際人権団体などが非難していた。トルコ・イスタンブールのタイ領事館はデモ隊に襲撃される事態に至った。【1月15日 産経】
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上記記事でははっきりとは書かれてはいませんが、今回強制送還が検討されているのは“2014年にマレーシアとの国境付近で300人以上のウイグル人を拘束”という人々の一部です。

ということはすでに10年拘束が続いているということでもあり、それ自体が重大な人権侵害とも思えます。なかには拘束中に死亡した者も。(日本でも入管施設での長期拘留が問題視されています)

****ウイグル族48人を10年間拘束 子供含む5人死亡、早期解放求める声―タイ****
タイで、中国・新疆ウイグル自治区を脱出し不法入国したウイグル族の男性48人が、10年にわたり拘束されている。

タイ政府は国際社会からの批判を招いた中国への強制送還を停止しているが、第三国への出国も認めておらず、中国に配慮したとの見方が出ている。

拘束下で子供を含む5人が死亡しており、人権団体は早期の解放を訴えている。

タイ南部ソンクラー県などで2014年、トルコへの亡命を目指すウイグル族300人以上が不法入国で拘束された。

タイ政府は15年、170人余りをトルコに移送する一方、109人を中国へ強制送還。「(迫害を受ける恐れのある国への送還を禁止した)ノン・ルフールマン原則に違反している」と国際的に批判を浴びた。

拘束直後の14年には新生児と3歳の子供が結核などで命を落とし、18年と23年にも20~40代の計3人が病死した。現在は43人がバンコクの入管施設に収容中で、脱走を図った5人は刑務所に収監されている。

人権団体「ピープルズエンパワーメント財団」のチャリダー理事長は「入管施設の医療体制は不十分だ。早急に対応していれば救えた命もあった」と強調。処遇改善と早期解放を求めた。

国連の恣意(しい)的拘禁に関する作業部会などは今年2月、ウイグル族拘束への懸念を記した書簡をタイ政府に送付。バーンプリー副首相兼外相(当時)は3月、報道陣に「不法な移民は法律に従って対処するが、いつ手続きが終わるかは分からない」と述べた。

チャリダー氏は「ウイグル族が求めるトルコへの移送が実現しないのは、政府が中国に配慮しているからだ」と指摘。同氏が国会で政府の対応を批判したところ、安全保障の担当者は「中国とは良好な関係を維持する必要がある」と弁明したという。
 
元国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)職員で野党・公正党のガンナウィー下院議員は「中国から逃れたウイグル族は難民で、尊厳が守られるべきだ」と主張。「タイにはミャンマーからも含めて15万人以上の難民がいるが、受け入れに関する法律がなく、制定を急ぐ必要がある」と訴えた。【2024年9月24日 時事】
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日本ウイグル協会の声明によれば、“タイ政府は2015年、命の危険に晒されることを知りながら国際法に違反し109人のウイグル人難民を中国へ強制送還したが、その後の彼らの一切の消息が不明となっている。”とのこと。

中国によるウイグル人らへの弾圧に関しては、“これまでに、アメリカ政府、欧州議会、イギリス議会、フランス議会、カナダ議会等11の議会が、ウイグルジェノサイド(或いはその深刻なリスク)を認める決議を採択している。2022年8月、OHCHRも「人道に対する罪を含む、国際犯罪の遂行」に当たる可能性があると公式に認めました。”【日本ウイグル協会の声明】とも。

【中国との関係を重視するトルコ】
「ウイグル族が求めるトルコへの移送が実現しないのは、政府が中国に配慮しているからだ」との指摘については、もちろん、タイ政府が中国との関係を考慮しているのは間違いないですが、トルコも中国との関係を考えると受入れに消極的になっているのでは・・・というのは私の個人的想像です。

トルコ世論は同じイスラム教徒ウイグル人の境遇に同情的ですが、トルコ・エルドアン政権としては中国との関係改善を重視しており、波風を立てたくないというのが本音ではないでしょうか。

****トルコ大統領、中国との関係改善継続望む 習主席と会談****
トルコのエルドアン大統領は4日、カザフスタンの首都アスタナで開幕した地域協力組織「上海協力機構(SCO)」の首脳会議に合わせ、中国の習近平国家主席と会談し、あらゆる分野での両国の関係改善に向けた取り組み継続を望み、これが双方に恩恵をもたらすと習氏に伝えた。(後略)【2024年7月5日 ロイター】
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下記は政府ではなくメディア関係者についてのものですが、多分に自国政府の立場を反映したものでしょう。

****中央アジアとトルコのメディア関係者、中国新疆の発展を称賛****
カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルコのメディア関係者がこのほど、設立70周年を迎えた中国新疆ウイグル自治区イリ・カザフ自治州を4日間の日程で訪問し、イリの社会と経済の発展、人々の生活の改善、生態系の保護、文化の継承、対外開放などの状況について理解を深めた。

現地で開かれた中国メディアと海外メディアの交流座談会では、カザフスタン紙「シルクロード・トゥデイ」のフセイン・ダウロフ社長が、今回の訪問を通じて、新疆の多民族地域に住む全ての人々、全ての民族を気に配慮し、その文化と伝統を守ろうとする中国政府の姿勢を目にしたと振り返った。

また、中国とカザフスタンは友好的な隣国、戦略的パートナーとして、「一帯一路」共同建設の枠組み内で、両国の企業による協力プロジェクトを数千件実施しており、これは両国の人々に進歩と繁栄をもたらすとの見方を示した。

キルギスのロシア語日刊紙「イブニング・ビシュケク(The Evening Bishkek)」のバクト・バサルベク編集長は「訪問中、中国政府が地方の発展を重視していることが見て取れた。中国の国家的貧困者扶助計画が地元の村でどのように実施されているかを目の当たりにした。また、中国政府が少数民族の文化や言語を保護するために手を尽くしているのもうれしい驚きだった」と述べた。

ウズベキスタン紙「ザラフシャン(Zarafshon)」のファルモン・トシェフ編集長は「私はここの観光センターや街路がとても好きだ。伊寧(グルジャ)県の天山花海風景区で見たイリのエコツーリズムの発展も素晴らしかった。風景区の平坦で、清潔で、緑豊かな街路はとても良かった。風景区の節水技術も称賛に値する」とイリの観光業を絶賛した。

トルコ「アイドゥンルク(AYDINLIK)」紙対外連絡部のオズグル・オトバス部長は訪問中、「新疆に来たのもイリに来たのも初めてだ。ここで多くの民族が平和に暮らし、互いの言語や文化を尊重し、互いに融合し、交流しているところを見た。これこそが本当の新疆だ。トルコに戻ったら、今回見聞きしたことを記事やドキュメンタリーにしてより多くの人に伝えたい」と語った。【2024年9月19日 新華社】
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“ここで多くの民族が平和に暮らし、互いの言語や文化を尊重し、互いに融合し、交流しているところを見た”と言ってる国が、中国に強制送還すると命の危険があるから自国で受け入れる・・・とはならないでしょう。

西側諸国はトランプ氏に気を使い、トルコ・中央アジアの国々は中国の意向を忖度する・・・というのが国際社会の現実です。

【2015年のバンコク爆発事件】
なお、タイでは2015年のウイグル人109人の強制送還の直後に、ウイグル人によるとされる爆弾テロが起きています。

****バンコク爆発事件のウイグル人被告、「私は人間」と法廷で訴え****
昨年(2015年)8月、タイの首都バンコクで20人が死亡した爆発事件で、爆発物を仕掛けたとして起訴された中国少数民族ウイグル人の被告が17日、収監中に不当な扱いを受けていると主張し、出廷する途上で「私は人間だ」と繰り返し叫んだ。

バンコク中心部の「エラワン廟(びょう)」で起きた爆発事件では、中国人観光客を中心に20人が死亡した。

爆発の直前にエラワン廟に荷物を置くところを監視カメラに捉えられた黄色いシャツの男として、中国国籍でウイグル人のビラル・モハメド被告(31)が起訴されたが、共犯とされる同じウイグル人のユスフ・ミエライリ被告(26)ともども爆破事件の犯行を否認している。

この日、丸刈りの頭で出廷したモハメド被告は苦しそうな表情を見せながら、報道陣にウイグル語と英語で不満を叫び始めた。法廷内でのドラマは続き、モホメド被告はウイグル語の通訳を介しながら「食べることもできないし、私が祈ると笑われる」と述べるとともに、タイ人の看守に殴打されたり、イスラム教の戒律に則ったハラルフードを与えられなかったりすると訴えた。

モハメド被告の弁護人はこれまでに、タイの警察が被告に自白を強要していると非難しており、被告による当初の自白は後に撤回されている。一方、警察側は拷問疑惑はばかげていると一蹴している。

事件に関連する容疑者はいまだ多くが逃走中で、主犯格も含め大半は国外にいると考えられている。動機に関する確証はまだないが、事件の約1か月前にウイグル人移民109人がタイから中国へ強制送還されたこととの関連を疑う声が根強い。しかしタイ当局はこの説を否定し、人身売買組織に対する取り締まりへの報復とみている。【2016年5月17日 AFP】
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【タイ深南部で繰り返されるテロ】
ついでに言えば、日本ではあまり報じられていませんが、マレーシア国境が近く住民の多くがイスラム教徒であるタイ深南部と呼ばれるパタニー、ヤラー、ナラーティワートの3県と隣接するソンクラー県3郡では、以前からタイ人警官や教師・仏教僧侶などへのテロが続いていいます。その背景等については今回は立ち入りません。

2022年末の記事で、“2004年以降、これまでに7400人以上が死亡している”とのことです。

今年に入っても
“タイ深南部パッタニー県でバイク爆弾が爆発、警察官6名とマレーシア人1名が負傷”【1月13日 タイランド ハイパーリンクス】
“タイ深南部テロで警官親子が死亡 国境警備警察学校の校長と教師”【1月14日 newsclip.be】

そうした事情もあって、タイではイスラム教徒に対する警察の対応も厳しくなりがちなのかも・・・。
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マレーシア  とかく厄介な領有権問題 政治指導者間の因縁の関係が重なると・・・

2024-12-15 22:31:49 | 東南アジア

(マル印で囲んだあたりがペドラ・ブランカ島 実際は地図にも表記できない小さな島です)

【無人島「ペドラ・ブランカ島」 2008年5月 シンガポール領とする国際司法裁判所(ICJ)判断】
日本の尖閣諸島・竹島問題に限らず、多くの国が隣国と領有権を争う問題を抱えており、合理的判断の有無にかかわらず、その解決・譲歩はナショナリズムと絡んで非常に困難です。ときに国内の政争とも絡んでくることも。

マレーシアは隣国シンガポールと無人島「ペドラ・ブランカ島」(面積はサッカー場の半分ほどと極めて小さく、地図にも表示できないぐらい)をめぐって争ってきました。「過去形」なのは、領有権についてはシンガポールの主張が認められる形で国際司法裁判所(ICJ)の判断が確定しているからです。

しかし、ここにきて今度はマレーシア国内の「アンワル首相vs.マハティール元首相」という因縁の対決の形で再燃しています。

*****ペドラ・ブランカ島*****
ペドラ・ブランカ島は、マレー半島南部ジョホールの7.7カイリ沖、南シナ海から半島東岸に沿ってシンガポール海峡に入る位置にある花こう岩性の無人島。面積はサッカー場の半分ほどと小さいが、その位置から戦略的に重要な意味を持ち、領海問題にも影響を及ぼすとみなされてきた。【2008年5月23日 AFP】
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****マレー半島の小島、領有権はシンガポールに 28年間の論争に終止符****
オランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)は(2008年5月)23日、シンガポールとマレーシアが領有権を争っていたペドラ・ブランカ島(Pedra Branca、マレーシア名はバトゥプテ島、Pulau Batu Puteh)について、シンガポールに帰属するとの判断を下し、28年間にわたる論争に終止符を打った。(中略)

ペドラ・ブランカ島の領有権はそもそもマレーシア側が主張していた。しかし、シンガポール側は130年前から同島のホースバー灯台を管理しており、それに対してマレーシアは何の申し立てもしていなかったことから、暗黙のうちに領有権がシンガポールに移転していたと反論していた。

ICJのAwn Shawkat Al-Khasawneh裁判官は「当法廷は12対4で、1980年までにペドラ・ブランカ島の領有権はシンガポールに移転されていたとみなし、同国に帰属すると判断するに至った」と述べた。

またICJは、島周辺に2つある岩場のうちMiddle Rocksについてはマレーシアに領有権があることを認めた。もう1つの岩場South Ledgeはちょうど領海が重なるところに位置することから、あらためていずれの国に帰属するか判断するとした。

論争の発端は1980年、ペドラ・ブランカ島を自国領土として記載したマレーシアの新しい地図にシンガポールが異議を唱えたことにある。以後、両国間で数年にわたり協議が行われてきたが解決には至らず、国連(UN)の最高司法機関であるICJに判断を委ねることになった。

1965年にマレーシアからシンガポールが分離独立して以来、両国関係は領有権争い以外でもしばしば悪化している。1965年当時には、島の領有権は定められていなかった。

23日のICJの判断について、マレーシア、シンガポールともに2国間関係に影響を及ぼすものではないとコメントしている。【同上】
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【かつてはマレーシアを追放されたシンガポール その後世界的金融・港湾都市に変貌】
もとより(マレー人優遇政策をとる)マレーシアと(華人主体の)シンガポールの関係は微妙。1965年にマレーシアから「追放」される形で「不本意」な分離独立はするも、小さく天然資源の不足に悩み、生き残れないと言われていました。“独立を国民に伝えるテレビ演説で(シンガポール指導者)リー・クアンユーは涙を流した”【ウィキペディア】とも

*****シンガポール マレーシアから「追放」される形での分離独立*****
マレーシアを結成
1957年にマラヤ連邦が(イギリス植民地支配から)独立し、トゥンク・アブドゥル・ラーマンが首相に就任する。その後の1959年6月にシンガポールはイギリスの自治領となり、1963年にマラヤ連邦、ボルネオ島のサバ・サラワク両州とともに、マレーシアを結成する。

しかし、マレー人優遇政策を採ろうとするマレーシア中央政府と、イギリス植民地時代に流入した華人が人口の大半を占め、マレー人と華人の平等政策を進めようとするシンガポール人民行動党(PAP)の間で軋轢が激化。

1964年7月21日には憲法で保障されているマレー系住民への優遇政策を求めるマレー系のデモ隊と、中国系住民が衝突し、シンガポール人種暴動 (1964年)が発生、死傷者が出た。

シンガポール共和国として分離独立
軋轢の激化に加え、1963年の選挙において、マレーシア政府与党の統一マレー国民組織(UMNO)とシンガポールの人民行動党(PAP)の間で、相互の地盤を奪い合う選挙戦が展開されていたことにより、関係が悪化してしまう。

ラーマン首相は両者の融和は不可能と判断し、ラーマンとPAPのリー・クアンユー(李光耀)の両首脳の合意の上、1965年8月9日にマレーシアの連邦から追放される形で都市国家として分離独立した。独立を国民に伝えるテレビ演説でリー・クアンユーは涙を流した。【ウィキペディア】
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それが今では・・・・世界有数の金融・港湾都市国家へ変貌。

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シンガポールは、教育、娯楽、金融、ヘルスケア、人的資本、イノベーション、物流、製造・技術、観光、貿易・輸送の世界的な中心である。多くの国際ランキングで上位に格付けされており、最も「テクノロジー対応」国家(WEF)、国際会議のトップ都市(UIA)、世界で最もスマートな都市である「投資の可能性が最も高い」都市(BERI)、世界で最も安全な国、世界で最も競争力のある経済、3番目に腐敗の少ない国、3番目に大きい外国為替市場、3番目に大きい金融センター、3番目に大きい石油精製貿易センター、5番目に革新的な国、2番目に混雑するコンテナ港湾。

2013年以来『エコノミスト』は、シンガポールを「最も住みやすい都市」として格付けしている。経済平和研究所によると、シンガポールは世界平和度指数で9位、汚職の少ない国として12位にランクインしている(共に2022年時点)【ウィキペディア】
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リー・クアンユーの手腕によるところが大きいものの、その強権的政治には批判も。

【2018年 復権したマハティール首相 前年に行ったICJへの控訴を取下げ】
話をペドラ・ブランカ島に戻すと、前期のICJ判断で結着したはずですが、2017年マレーシアは新たな証拠が見つかったとして判決見直しを要求。

しかし、当時のマハティール首相は翌年(2018年)、この控訴を取下げました。これで、ペドラ・ブランカ島はシンガポールが領有することで改めて結着しました。

****ペドラ・ブランカ島帰属問題が決着、マレーシアが控訴取り下げ****
マレーシアとシンガポールとの間で領有権が争われたペドラ・ブランカ島(マレーシア名バトゥ・プテ島)の帰属問題が決着し、シンガポールに領有権のあることが確定した。

マレーシアは1979年、シンガポールが実効支配する同島はマレーシアに属すると主張。ハーグの国際司法裁判所(ICJ)に提訴したが、ICJは2008年5月23日、島はシンガポールに属するとの判決を示した。

しかし判決を覆す可能性のある決定的証拠が英国のアーカイブで発見されたとしてマレーシアは昨年2月、判決の見直しをICJに要求。別に判決内容の解釈を求める請求も行った。

マレーシアは2件の請求とも取り下げをICJに要請し、またシンガポールの法務総裁にも通知。シンガポール側も同意を表明した。(中略)

ラジャラトナム国際研究学院のヤン・ラザリ特別研究員によれば、マレーシアのマハティール首相は、財政健全化など、より重要な課題に取り組むことを優先したと考えられるという。【2018年5月31日 Asia X】
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合理的なマハティール首相にすれば、そんな小さな岩島に拘っても仕方ない・・・という考えでしょうか。

【アンワル政権 ペドラ・ブランカ島に関連する訴訟を審査する王立委員会を設置 マハティール氏が独断で控訴を取り下げたことが不正行為に当たると勧告 因縁のマハティール・アンワル両氏】
それから数年の時が流れ、2024年1月、ロイター通信はマレーシアがペドラ・ブランカ島に関連する訴訟を審査する王立委員会を設置すると報じました。

改めて王立委員会を設置するということは、アンワル首相としては上記2018年のマハティール元首相による幕引きを了承できないということでしょう。

アンワル首相とマハティール元首相・・・・非常に興味深い関係
アンワル氏はかつてはマハティール政権の副首相として後継者と目されていましたが、経済政策をめぐって対立。
アンワル氏は政権からも、与党からも追放され、同性愛の罪(マレーシアはイスラム教を国教とする国家で同性愛は犯罪に該当します。このアンワル氏への嫌疑は政治的なものとも見られています)で投獄されることに。

アンワル氏は2004年に釈放されるものの、2014年に司法の無罪判決取り消しで再び収監されることに。

2018年に首相に復帰したマハティール政権のもとで国王恩赦により釈放され、アンワル・マハティール両者は和解(したことになってはいます)。

アンワル氏はその後2022年に念願の首相の座に。

なお、マハティール氏はザヒド副首相との間でも名誉毀損を巡る裁判を抱えているようです。

そうした個人的な確執がペドラ・ブランカ島をめぐるマハティール氏の対応への不満の背景にあるのか、ないのか・・・

一般論で言えば、アンワル氏の長年の収監に関して加害者側のマハティール氏は「過去の話。水に流して・・・」というところでしょうが、実際に収監されていたアンワル氏の思いはそう簡単ではないでしょう。(もし政治的冤罪だとしたら)

もっとも、マハティール氏にすれば、あれは政治的冤罪ではなく、実際にアンワル氏が罪を犯したから・・・という話でしょうが。

****マレーシア元首相のマハティール氏、捜査対象に? 島の領有権問題で****
マレーシアのマハティール元首相(99)が在任中の政治判断を巡り、捜査対象になる可能性が浮上している。

シンガポールと争っていた小島の領有権に関する国際司法裁判所(ICJ)の判断への異議申し立てについて、マハティール氏が独断で取り下げたことが不正行為に当たるとして、王立調査委員会が捜査を勧告した。マハティール氏は、独断ではなかったなどと否定し、対決の構えを見せている。

現地メディアによると、問題となっているのは、南シナ海とシンガポール海峡を結ぶ要衝にあるぺドラブランカ島などの領有権に関する対応だ。ICJは2008年、同島がシンガポールに帰属するとの判断を下したが、マレーシア政府は17年に異議を申し立てた。

ところが、18年5月の下院選挙を経てマハティール氏が首相に就任した直後に異議申し立ては取り下げられた。

アンワル首相が当時の経緯の見直しを指示したとされ、調査委が今年に入って調査に乗り出していた。今月5日に議会に提出された報告書は、マハティール氏が内閣の承認を受けないまま不当に領有権を放棄したとして問題視した。

これに対し、マハティール氏は自身のX(ツイッター)に45項目にわたる反論を投稿。異議申し立ての取り下げは閣議で合意された▽異議申し立てがうまく進む可能性は低いとする国際法の専門家らの見解を考慮し、国益を優先した――などと主張した。10日に記者団の取材に応じた際には、調査の背景に政治的動機があるとして現政権を非難したという。

(中略)(マハティール氏は)今年1月と10月には感染症の治療のために入院し、裁判は延期されていた。【12月15日 毎日】
*******************

TVでチラ見した現地ニュースでは、マハティール派の野党議員が「不当に責任を押し付けるものだ」と批難。

政府側は王立調査委員会の報告書を検討・議論してくれという立場のようですが、同報告書の多くのページが真っ黒に塗られれており野党議員は「これでは検討もしようもない」と政府を追求していました。

ただでさえ厄介な領有権交渉に、長年のアンワル・マハティール両氏の確執(一応表面的には和解したことにはなっていますが)が加わって、すっきりしない展開に。

なお、アンワル首相については、長年の政治的迫害を経て政権の座についたこれまでとは異なる価値観の政治家と欧米からは期待もされていましたが、その実像は欧米の期待したものとは異なるのではないか・・との指摘もあります。
(“【期待を裏切ったマレーシア首相】西側諸国が間違ったアジアの指導者を支持する背景【10月25日 WEDGE】)

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フィリピン  国内ではドゥテルテ家と、国外では中国との対立激化

2024-11-23 23:51:38 | 東南アジア
(フィリピンのマルコス大統領(右)とサラ・ドゥテルテ副大統領=マニラで2022年6月、ロイター【11月23日 毎日】  蜜月時代の写真です。 サラ氏がおとなしくマルコス氏に従うとは思っていませんでしたが・・・)

【次期大統領とドゥテルテ前大統領の麻薬問題に絡む超法規的殺人及びICC逮捕状をめぐるドゥテルテ家とマルコス大統領の争い】
フィリピンでは国の内と外で争い・対立がヒートアップしています。

国内の方は、いささか週刊誌ネタ的ですが、ドゥテルテ前大統領とその娘サラ副大統領のドゥテルテ家と名門マルコス家のマルコス大統領の争い、国外では以前からの中国との領有権をめぐる争いです。

では「殺し屋を雇った」云々の週刊誌ネタの方から

ドゥテルテ家とマルコス大統領の間にはふたつの争いの種があります。ひとつは次期大統領をめぐる確執。

“マルコス氏が今年初め、公職の任期を制限している憲法の規定の見直しに言及したことから、ドゥテルテ一家が「大統領任期の延長を模索している」と猛反発。両家の間に亀裂が生じ、サラ氏は6月には兼務していた教育相などの辞任を表明した。下院は現在、サラ氏の公金不正使用疑惑に関する公聴会を開いている。”【11月23日 時事】

ドゥテルテ家としてはマルコス大統領誕生にサラ氏が協力してやったのだから、次はサラ氏に・・・という思惑(合意?)がありますが、マルコス大統領側にそれを無視するような動きがあるとの不満があるようです。

これだけであれば「水面下」の争いになりますが、争いを表沙汰にしているのがもう一つの火種、ドゥテルテ前大統領の任期中の麻薬問題取締りに関する超法規的な殺人、それに対する国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状の扱い。

ドゥテルテ前大統領は2016年の就任後、麻薬犯罪の撲滅を掲げ、強硬な取り締まりを主導。警官による容疑者の殺害を事実上容認しました。フィリピン政府によると死者は6千人超、国連人権高等弁務官事務所は20年の報告書で8663人が死亡したとしています。人権団体調査では2万人を超えるとも。なかには無関係の者を殺害とか、麻薬を名目にした警官による殺人とか・・・いろんなケースも。また、警官でもない謎の集団が麻薬関係者と思われる者を殺害してまわったとも。

ICCの検察局は2018年、フィリピン人弁護士の告発を受けて予備調査を開始。21年9月に正式な捜査を承認しましたが、フィリピン側が「すでに捜査している」などと主張したため、21年末に中断していました。

しかし、ICCの検事が、2022年6月に発足したマルコス政権が徹底した調査を実施している証拠を示していないとし、調査の再開を求めました。それを受け、ICCは調査の再開を承認。2023年1月26日の声明で、フィリピンが十分な捜査を行っていないと指摘しました。

ドゥテルテ・マルコス両者の間には大統領選挙で協力するにあたり、前大統領の麻薬取締り問題の責任を問わない・・・といった合意の類があったようにも見受けらますが、ここにきてマルコス大統領がICCに協力する姿勢を見せていることに、ドゥテルテ側が反発を強めています。マルコス大統領の対応は、前述の次期大統領をめぐる争いも絡んのことでしょう。

****フィリピン、ドゥテルテ前大統領に逮捕状なら国際刑事裁に協力へ****
フィリピン政府は13日、ドゥテルテ前大統領が進めた違法薬物の取り締まりで数千人が死亡した問題について、ドゥテルテ氏が国際刑事裁判所(ICC)への自首を望むのであれば阻止しないと表明、同氏に逮捕状が出れば従わざるを得ないと述べた。

ドゥテルテ氏は同日、議会の公聴会でICCを恐れてはいないと発言。ICCに対し人道の罪を巡る捜査を「急ぐ」よう求めた。

マルコス大統領の事務所は数時間後に声明を発表し、国際刑事警察機構(インターポール)から要請があればドゥテルテ氏の身柄引き渡しを検討すると表明。

ベルサミン官房長官は「政府は国際逮捕手配書が出れば、応じる必要のある要請だと感じるだろう。その場合、国内の法執行機関は全面的な協力しなければならない」と述べた。

フィリピン政府がICCに協力する意向を示唆したのは初めて。

ドゥテルテ氏はICCが違法薬物の取り締まりを巡る予備調査を開始したことを受けて、2019年3月にフィリピンのICC脱退を決めた。【11月13日 ロイター】
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ドゥテルテ前大統領は公聴会で「(ダバオ市長時代に自らが)少なくとも6人を殺害した」と挑発的な発言も

****ドゥテルテ前大統領 違法薬物取り締まりで「少なくとも6人殺害した」ICCを挑発…“麻薬戦争”めぐる捜査にフィリピン政府は協力姿勢を表明****
フィリピンで「麻薬戦争」と呼ばれる強硬な取り締まりを行ったドゥテルテ前大統領が、自らも容疑者などを殺害したことがあると明らかにしました。フィリピン政府は、国際刑事裁判所の捜査に協力する姿勢を見せていて、逮捕の可能性も浮上しています。

「麻薬犯罪の撲滅」を掲げていたドゥテルテ前大統領は、容疑者の殺害もいとわない強硬な取り締まりを行い、人権団体によりますと、死者は2万人を超えるとされています。

現地メディアによりますと、ドゥテルテ氏は13日、2回目となるフィリピン議会の公聴会に出席し、自身も大統領就任前に「少なくとも6人を殺害した」と明らかにしました。

そのうえで、ドゥテルテ氏を人道に対する罪で捜査しているICC=国際刑事裁判所に対し、「ここに来てあすにでも捜査をはじめてほしい。私は怖くない」と述べ、挑発しました。

こうした発言を受け、フィリピンのベルサミン官房長官は、ドゥテルテ氏の逮捕が要請された場合、司法当局には協力する義務があると表明。現在のマルコス政権がICCに協力する姿勢を見せたのは初めてで、今後の捜査の行方が注目されます。【11月14日 TBS NEWS DIG】
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就任前の南部ダバオ市長時代には、ギャングで組織する「殺人部隊」を麻薬対策に当たらせていたとも証言しています。

「やれるものならやってみろ。逮捕? 上等じゃないか。どうぞ逮捕してくれ」とったようにも聞こえます。
ドゥテルテ前大統領の強気の背景には、国民的支持があります。麻薬問題に関しても、前大統領の強硬な取締りのおかげで治安が回復したとの評価があります。

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(ICCがドゥテルテ氏の逮捕を要請した場合、身柄拘束に協力する意向を表明した)マルコス氏の発言の背景には、ドゥテルテ家との対立がある。

ドゥテルテ氏の長女であるサラ副大統領は、28年の次期大統領選挙への出馬をにらみ、現政権を支えるべき立場でありながら政権批判を繰り返している。

ドゥテルテ氏も、25年5月の中間選挙(上下両院選、地方選)にあわせ、ダバオ市長選出馬を表明しており、当選すればサラ氏を勢いづけることになる。

根強い支持
ただし、ドゥテルテ氏への支持は国民の間でいまだに根強い。マルコス政権がドゥテルテ氏の包囲網をさらに狭める姿勢をとれば、「逆に同情票という形でドゥテルテ家を利する」(フィリピン政治専門家)との見方があり、ドゥテルテ氏もこうした効果を狙って一連の証言をしている可能性も指摘されている。

政権は選挙を前に、ICCや世論の動向を見ながら、慎重に対応を検討するとみられる。【11月16日 読売】
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両家の対立はヒートアップ、(こわもてで知られる父親の前大統領以上に強気とも評される)サラ副大統領からは「殺し屋(ヒットマン)」云々の発言も。

****フィリピン副大統領、対立するマルコス大統領夫妻に「殺し屋雇った」****
フィリピンのマルコス大統領夫妻らに対し、ドゥテルテ前大統領の長女サラ副大統領が「殺し屋を雇った」と発言し物議を醸している。大統領府は23日、これを「脅迫」とし、早急な措置を取ると発表した。

サラ氏は、機密費の不正使用を指摘され、下院などによる調査が続く。地元メディアによると、サラ氏は23日未明、疑惑に関する記者会見の中で、自身の命が狙われているとし、「もし私が殺されたら(殺し屋が)大統領らを殺す。ジョークではない。すでに指示を出した」と述べた。

これに対し大統領府は声明で「大統領の生命に関するいかなる脅迫も深刻に受け止められる。今回は、公の場で明確に行われており、なおさらだ」とし、大統領の身辺警護を強化する方針を示した。

マルコス氏とサラ氏は、2022年の正副大統領選で共闘してそれぞれ当選したが、その後、関係が悪化。ドゥテルテ氏が大統領在任中に進めた超法規的な麻薬撲滅作戦についても、上院などの調査が続いており、マルコス氏とドゥテルテ家の対立が高まっている。【11月23日 毎日】
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“サラ氏は会見で「マルコス氏の妻といとこの下院議長も対象だ。これは冗談ではない」と言明。「ヒットマンには最後までやり抜けと命じた」と語気を強めた。

サラ氏はこれまで、マルコス氏について「首を切り落としたいぐらい無能だ」と指摘。「私たち家族に対する攻撃をやめなければ、マルコス氏の父、マルコス元大統領の墓を掘り起こして遺骨を南シナ海に捨てる」などと述べていた。【11月23日 時事】”

まあ、サラ副大統領も“もし私が殺されたら”という条件付きの殺害指令ではありますが・・・

全体のイメージとしては、こわもて揃いのドゥテルテ側は、当初は名門マルコス家の世間知らずの御曹司などいかようにも操れるという思いがあったのでは・・・しかし、実際にはマルコス大統領は独自に動き回るようになって、ドゥテルテ側では怒りを募らせている・・・というようにも見えます。あくまでも個人的な感想です。

【フィリピンは南シナ海での自国の権利を明確化する法律 中国は領海の基線を設定】
マルコス大統領が政策面で“独自色”を出しているのが、ドゥテルテ時代の宥和的な対応から変わった対中国強硬姿勢です。

フィリピンと中国の南シナ海での領有権をめぐるこれまでの争いは周知のところですので省きます。

****比、南シナ海での権利明確化…法律施行へ 中国側は反発****
フィリピンのマルコス大統領は8日、南シナ海での自国の権利を明確化する法律に署名しました。近く施行される見通しで、中国側は反発しています。

南シナ海ではフィリピンと中国が互いに領有権を主張し両国の船が衝突を繰り返しています。

地元メディアなどによりますとフィリピンのマルコス大統領は8日、国際法に基づいた南シナ海での主権や権益を明確化した法律に署名しました。

新たな法律では漁業権や船の航行などについて、フィリピンの権限を明確化していて、海域内で権利侵害があった場合、罰則を科す場合もあるということです。この法律は近く施行される見通しです。

一方で、中国側は今年6月、中国が主張する領海内に違法に侵入した外国人を最長で60日間拘束できるとする法令を施行しています。

フィリピンの新たな法律を巡って、中国側は8日、厳粛な申し入れを行うためとして中国のフィリピン大使を呼び出したということで、フィリピンと中国の間でさらに緊張が高まる恐れがあります。【11月8日 日テレNEWS】
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今回署名された法律は、南シナ海での自国の権利が及ぶ範囲を明確化する海域法などです。

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新たな海域法では、領海や排他的経済水域(EEZ)を定めた国連海洋法条約などを基に、南シナ海でのフィリピンの海域と権限を改めて規定した。

中国は南シナ海のほぼ全域に自らの主権や権益が及ぶと主張しているが、これを否定した2016年のオランダ・ハーグ仲裁裁判所の判決も根拠とした。

外国に対して、国際法に基づく権利と義務に配慮するとしつつ、比海域内で権利侵害があった場合には刑法を適用するとした。60万ドル以上100万ドル以下の罰金を科す場合もあるとしている。官報に掲載後、15日後に施行される。【11月8日 毎日】
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これに対し中国は・・・

****中国「黄岩島」に領海基線 南シナ海、実効支配強化****
中国政府は10日、フィリピンと領有権を争う南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)を巡り、領海の基線を定めたと発表した。国営通信新華社が伝えた。

同礁はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるが、中国は領有権を主張している。基線制定は自国領との主張を改めて強調し、実効支配を一段と強める狙いとみられる。
 
基線は領海やEEZの範囲を測定する際の基準となるもので、干潮時の海岸線を基本とする。フィリピンは8日、南シナ海の権益を守るため、国際法に基づき領海やEEZを定める海域法を成立させており、中国は基線制定で対抗する考えだ。【11月10日 共同】
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こうした中国の対応に、当然ながらフィリピン側は反発を強めています。

****フィリピンは「中国の侵略の犠牲者」、南シナ海巡る圧力に反発****
フィリピンのテオドロ国防相は12日、キャンベラでマールズ豪国防相と会談した後、南シナ海での主権的権利を譲るよう迫る中国からこれまで以上に圧力を受けていると述べた。フィリピンは「中国の侵略の犠牲者」とも語り、こうした圧力に反発した。

両国防相の会談は2023年8月以来5度目。南シナ海での中国の活動に懸念を表明している豪比は安全保障上の関係を強化している。

テオドロ氏は、中国の主張と行動は国際法に反しており、オーストラリアのようなパートナーとの安保協力は中国の侵略を抑止する重要な手段だと述べた。

「彼ら(中国)は国際法の下で行動していると主張するが、彼らのやっていることが国際法の基本的な考えに反していることは誰もが知っている」と指摘。「その最大の証拠は誰も彼らの行動や活動を実際に支持していないことだ」と語った。(後略)【11月12日 ロイター】
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フィリピン外務省は13日、中国が実効支配する南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)の領海基線を発表したことを巡り、中国大使を呼び「中国の基線はフィリピンの主権を侵害し、国際法に違反している」と抗議しています。

こうした状況で、両国の争いの中心に位置する問題でもある仁愛礁(フィリピン名アユンギン礁、英語名セカンド・トーマス礁)に座礁している艦船「シエラマドレ号」にフィリピンが補給物資を送ったと明らかにしたましたが・・・・

****フィリピンが南シナ海座礁艦船に物資補給、中国は「許可」と主張****
中国は15日、南シナ海にある係争中の仁愛礁(フィリピン名アユンギン礁、英語名セカンド・トーマス礁)に座礁している艦船「シエラマドレ号」にフィリピンが補給物資を送ったと明らかにした。

フィリピン沿岸警備隊は声明で、シエラマドレ号の人員を交代させ、同艦に物資を送ったと説明した。

中国は南シナ海のほぼ全域の領有権を主張しており、シエラマドレ号は「違法に」座礁したと見なしている。海警局は同艦への物資輸送について「許可を得て」行われたと説明した。

フィリピン沿岸警備隊はこの主張に反応を示していない【11月15日 ロイター】
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この件での中国側報道では・・・

****中国海警局報道官、比「座礁」軍艦への物資補給で談話****
中国海警局の劉徳軍(りゅう・とくぐん)報道官は15日、フィリピンが南沙群島の仁愛礁に座礁させた軍艦に補給物資を送ったことについて談話を発表した。

劉氏は次のように述べた。フィリピンは14日、中国の許可を得て民間船を派遣し、仁愛礁に不法に「座礁」させた軍艦に生活物資を搬送した。中国海警はこれを確認するとともに全過程を監督管理した。

フィリピンが約束を誠実に守り、中国と共に歩み寄り、海上情勢を共同でしっかりと管理することを希望する。中国海警は引き続き法に基づいて仁愛礁を含む南沙群島およびその周辺海域で権益擁護・法執行活動を行う。【11月15日 新華社】
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“中国の許可を得て民間船を派遣し、・・・・中国海警はこれを確認するとともに全過程を監督管理した”
完全に中国側の支配権をフィリピン側が認めたような表現です。

真相はわかりません・・・が、これまで再三衝突が起きているシエラマドレ号への物資補給ですから、フィリピン側から中国への何らかのコンタクトがあっても不思議ではありません。あくまでも想像です。真相はわかりません。

【フィリピン  アメリカ・日本と協調して中国に対抗する戦略 米の政権交代で?】
フィリピンはアメリカ、更には日本とも協調して中国に対抗する構えです。

****米比、軍事情報協定に署名 日本とも交渉、連携強化を目指す***
オースティン米国防長官とフィリピンのテオドロ国防相は18日、マニラで、トランプ米次期政権の発足を前に軍事機密情報を共有する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に署名した。

テオドロ氏は今年5月、共同通信に対し、米国との締結後、日本ともGSOMIA交渉に入る方針を示しており、日米比で一層の連携強化を目指す。

南シナ海で威圧を強める中国に対抗し、国際法に基づく海洋秩序を唱える米比は、GSOMIAの年内締結を目指して交渉を続けてきた。

オースティン氏は、相互防衛条約を結ぶフィリピンとの連帯は「揺るぎない」とし、「同盟関係を超えた家族だ」と指摘した。

テオドロ氏は、インド太平洋地域の平和維持には米国が必要だとのマルコス政権の立場を強調。「(政権を担う)人が代わっても自由という価値観は変わらない」と述べ、米政権交代後の協力維持への期待感を示した。

中国外務省の林剣副報道局長は、米比がGSOMIAに署名したことに「いかなる軍事協定も第三国の利益を損ねてはならない」と述べてけん制した。【11月18日 共同】
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「(政権を担う)人が代わっても自由という価値観は変わらない」・・・そうでしょうか? トランプ氏にそういう価値観はないように思えますが。
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フィリピン・ミンダナオ島  イスラム教徒の多い地域で自治政府樹立に向けて来年5月に議会選挙

2024-09-25 22:52:07 | 東南アジア

(バンサモロ自治地域【ウィキペディア】)

【ミンダナオ島のバンサモロ自治政府樹立への動き】
フィリピンに関しては、南シナ海で続く中国との緊張が注目されていますが、その件はまた別機会に。

フィリピンの内政問題に目を転じると、南部ミンダナオ島に多いイスラム教徒の分離独立運動が長年フィリピンの問題としてあり、歴代政権が対応に苦慮してきました。

モロ・イスラム解放戦線(MILF)などの武装勢力との軍事的衝突も続きましたが和平合意になんとか漕ぎつけ、紆余曲折はあったものの、自治政府樹立へと動いています。

****バンサモロ自治地域*****
イスラムミンダナオ・バンサモロ自治地域(BARMM)は、フィリピンのミンダナオ島西部からスールー諸島にかけて広がるムスリム(イスラム教徒)の多い地域である「バンサモロ」に2019年に成立した自治地域。

1990年に成立したイスラム教徒ミンダナオ自治地域(ARMM)に代えて、「バンサモロ自治地域」を作るという提案は、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線の間で2012年に調印された和平合意準備である、バンサモロ枠組み合意に基づくものであった。

この地方は、フィリピンの地方の中では唯一、独自の「政府」を持つ。またキリスト教国のフィリピンの中では独特の歴史・文化を持っているが、経済的には最も貧しく、治安も安定していない。バンサモロに相当する地域の人口は、2015年国勢調査で約378万人。(中略)6州とコタバト州の一部から構成される。(中略)

第二次世界大戦前のミンダナオ島
フィリピンの歴史において、ミンダナオ島、特に西部地区は他の地域とは異なった国家を長年にわたり構えており、独自の文化とアイデンティティを育んできた。(中略)

アメリカ植民地政府やフィリピン・コモンウェルスの下で、ミンダナオ島全体にルソン島やビサヤ諸島のキリスト教徒が入植し、ムスリムはミンダナオでも少数派となっていった。

イスラム教徒と政府の衝突、ARMMの創立
第二次世界大戦後フィリピンが独立すると、フィリピン政府は国民を統合し単一国家を作ることを目指したが、慣習的なムスリム法のもとで暮らしてきたこの地のモロ人たちはこれを同化政策と見て反発した。(中略)

1970年代からはフィリピンからの分離独立を求めるモロ民族解放戦線(MNLF)とフィリピン国軍との間の武力衝突が続発した。

1986年のエドゥサ革命で、ミンダナオへのキリスト教徒の移民を推進しMNLFとの内戦を行ったマルコス政権が倒れた後、フィリピン政府はムスリム共同体との話し合いやMNLFとの和平協議を進め、1989年に「自治基本法」が成立しミンダナオにムスリム自治区を設ける憲法上の根拠ができた。

政治的対立や混乱の中、ミンダナオ島西部・南部一帯の州と市で、新設される「イスラム教徒ミンダナオ自治地域」(ARMM)への加入に賛成するかどうかの住民投票が行われた。(中略)

しかしARMMへの加入に賛成多数だったのはラナオ・デル・スル州、マギンダナオ州、スールー州、タウィタウィ州の4州だけであった。不完全な自治にすぎないというMNLFによる反発の中、ARMMはこの4州だけで1990年11月6日に発足した。式典は自治地域の首都とされたコタバト市で行われた。

フィデル・ラモス大統領のフィリピン政府と、ヌル・ミスアリ率いるモロ民族解放戦線(MNLF)の間では、1997年7月に和平協定が成立し、和平工程が開始された。

和平に反対するモロ・イスラム解放戦線(MILF)の勢力の増大、2000年のジョセフ・エストラーダ大統領による和平協定破棄、フィリピン国軍とMILFの武力衝突など、和平に逆行する動きが続いた。

2001年、以前の住民投票でARMM入りを否決した州や市へARMMを拡大するための新法が成立したが、マラウィ市とバシラン州(イサベラ市を除く)だけがARMM入りを希望した。

イスラム教徒との和平プロセスと、バンサモロ自治地域の創立
(中略)
2014年3月27日、政府側のアキノ大統領とMILFのムラド議長に加え、仲介役を務めたマレーシア首相ナジブ・ラザクなどの立会いの下、マラカニアンでバンサモロ包括合意が調印された。この中で、バンサモロの法的地位を定めるバンサモロ基本法(英語版)の制定などが目指されている(中略)

バンサモロの成立
2018年7月26日、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が「バンサモロ基本法」に調印、2019年1月21日にARMM住民に対してバンサモロ基本法の成立を問う住民投票が行われ(中略)、投票の結果、バンサモロ自治地域を成立させるバンサモロ基本法は批准され、同時にコタバト州の西部の町村に属する63のバランガイがコタバト州に属したままバンサモロ自治地域に編入されることが決まった。

2月22日にはバンサモロ暫定自治政府(バンサモロ暫定移行機関)が発足、2月26日にイスラム教徒ミンダナオ自治地域はバンサモロ自治地域へと移行した。【ウィキペディア】
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まっすぐに事態が進んできた訳でなく、多くの反発、逆行する動き、中断などもありましたが、そのあたりの話は煩雑になるので省略しました。

上記の動きについては、このブログでも断片的に取り上げてきましたが、バンサモロ基本法の成立を問う住民投票の頃については、2019年1月22日ブログ“フィリピン・ミンダナオ島 イスラム自治政府発足に向けた住民投票 重要な課題も”などでも取り上げたところです。

対応にあたったドゥテルテ大統領はミンダナオ島出身で、イスラム教徒住民の事情、合意の必要性を熟知していることもあって、ドゥテルテ大統領主導で自治政府樹立の実現に向けて前進しました。このあたりはこれまでのルソン島出身大統領とは違います。

【来年5月の議会選挙で議院内閣制の自治政府を樹立】
暫定とはいえ、自治政府の誕生は、長年にわたり紛争の絶えなかった同地域の和平の実現の大きな一歩となります。
正式なバンサモロ政府は、2022年の選挙を経て樹立されるとされていました。

当初は2022年ということでしたが、選挙に関する経緯は把握していませんが、議院内閣制の自治政府を樹立する議会選挙は来年5月に行われることになっています。

長年政府と武装闘争を展開し、和平合意に向けても主導的な役割を果たしたモロ・イスラム解放戦線(MILF)は、選挙を通じて自治政府の実権を握ることを当然としてしてきましたが、選挙情勢はそうしたMILFの思いとはやや異なり、劣勢も予想されていす。

ただ、ここにきて少し“追い風”も。

****イスラム勢力が劣勢挽回も フィリピン最高裁決定、選挙影響****
フィリピン最高裁が11日までに南部ミンダナオ島の和平合意に基づくイスラム自治政府の領域からスールー州を除外すると決めた。

議院内閣制の自治政府を樹立する来年5月の議会選挙で、かつて政府軍と戦ったモロ・イスラム解放戦線(MILF)の政党は苦戦が予想されていたが、ライバル弱体化で追い風を受けそうだ。

選挙に参加する政党のうち優勢とみられていたのは、各地の有力な氏族が集まりスールー州のタン知事を首相候補に推す「大連合」。最高裁決定により、大連合は同州の票田を失い、タン氏も出馬できなくなった。「政治的な決定」との見方も出ている。

マルコス大統領は和平プロセスが順調に進んでいると強調してきた。だがMILFは最終段階の武装解除に応じておらず、選挙で大敗すれば治安悪化を招く恐れがある。

自治・統治研究所のバカニ所長は「大連合は過半数を取る可能性が高かった」が、同州除外で「選挙戦は互角になった」と分析。「大統領が(和平の)成功を宣言しており、波風を立ててはいけないが政府の立場だ」と解説する。【9月11日 共同】
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イスラム自治政府の領域からスールー州を除外するという最高裁判断は今後に大きな問題を生じさせる可能性があります。

****「スールーを除外」 BARMMから、最高裁が判断****
最高裁がスールー州をMARMMから除外する決定を下す。関係者からはバンサモロ分断の懸念も
 
最高裁は9日、2019年のバンサモロ基本法(BOL)承認の可否を問う住民投票を経て発足したバンサモロイスラム自治地域(BARMM)から、スールー州を除外する決定を下した。同決定は直ちに法的効力を持つ。

スールー州は19年のBARMMへの参加に関する住民投票で反対票が上回っていたが、同州が属していた旧ムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)全体として賛成多数だったためBARMMの構成州に編入されていた。

判断文を書いたのは、2012年の政府・モロイスラム解放戦線(MILF)の枠組み合意で政府首席交渉官を務めたマービック・レオネン首席陪席裁判官。この判断には関係者からは当惑の声が上がるとともに、来年に自治政府発足に向けた選挙を控えるなかバンサモロの分断につながる懸念も表明されている。

最高裁は、スールー州をBARMMから除外する理由を、「ARMMの構成州・市を一つの地理的まとまりとして取り扱えるというBOLの解釈は、憲法10条18条の『住民投票に賛成した州、市、および地理区域のみが自治地域に含まれる』という条文に反する」と説明。
 
一方で、BOLとBARMMの設置自体については合憲と判断。「同地域をフィリピンから切り離すものではなく、外交権や主権を与えるものでもない」と指摘し、「より大きな自治権が与えられていることは、中央政府からの分離を意味しない」とした。

BOLに対する違憲審査請求は、スールー州のアブドゥサクル・タン知事が「ARMMを廃止するためには改憲が必要だ」などとして2018年に提出していた。

▽BARMM解体の懸念
BARMMのナギブ・シナリンボ前自治大臣は「この判断は、BOLに明示されていない脱退の選択肢を導入したのと同じ。他の州や市がスールー州に続く可能性もある」と懸念を表明。「あらゆる植民地主義に抵抗してきた13のイスラム教民族・言語グループの結束というバンサモロ概念の『死』につながる恐れもある」とした。

バシラン州選出のムジフ・ハタマン下院議員は、BOLの合憲判決については歓迎しながら、「バンサモロはスールー州なしでは完成しない。この地域の結束と包摂を促進するわれわれの努力に対する手痛い一撃だ」とした。(後略)【9月11日 日刊まにら新聞】
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イスラム勢力に対抗して「大連合」を率いてきたスールー州のアブドゥサクル・タン知事が自治政府に関してどのような立場なのかは把握していません。

【長年政府との闘争、和平合意を主導してきたモロ・イスラム解放戦線(MILF)の気になる対応】
一方、モロ・イスラム解放戦線(MILF)は選挙前の武装解除に応じていません。

****比、和平合意の武装解除拒否 イスラム勢力の元交渉団長****
フィリピン南部ミンダナオ島で、モロ・イスラム解放戦線(MILF)の交渉団長として政府と和平合意をまとめたモハゲル・イクバル氏(77)が24日、共同通信と単独会見した。

議院内閣制の自治政府を樹立する議会選を来年5月に控え、現状では元戦闘員の最終的な武装解除に応じられないと説明。対抗勢力との間で武器を保持したままの選挙戦になると指摘した。

政府軍と戦闘を続けてきたMILFは2014年、中央政府と包括和平合意を結び、武装解除に同意した。日本政府も和平を仲介してきた。

議会選ではMILFの政党は、各地の有力氏族の政治家らが結集した「大連合」に苦戦しそうな情勢だ。【9月25日 共同】
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議会選でMILFの政党が負けた場合、ひと波乱ありそうな雰囲気も。
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