孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  対中国では、親中派大統領と世論には乖離もあるなか、中国漁船「当て逃げ」事件

2019-06-15 23:12:29 | 東南アジア

(フィリピンの首都マニラの中国領事館前で抗議する活動家ら(2019年6月12日撮影)【6月15日 AFP】)

 

【親中国のドゥテルテ大統領、中国に厳しい国民世論を刺激する中国側対応に苛立ちを示す場面も】

米中間の貿易や5G・ファーウェイなどの新技術をめぐる争いやイラン周辺でのキナ臭い動きなどがあって、最近はニュースで目にする機会が少なくなった南シナ海での中国の領有権主張をめぐる争い。

 

南シナ海での“もめ事”に関する報道を目にする機会が少なった理由は、他のホットな問題の陰に隠れていることのほか、中国に対しかつてはもっとも厳しい姿勢を示していたフィリピンが、ドゥテルテ大統領に代わって以降、中国との協調路線に転じたことが大きな理由となっています。

 

ただ、フィリピン周辺海域で我が物顔にふるまう中国漁船、海域の軍事拠点化を進める中国に対し、フィリピン世論は不満を強めており、国民ベースでの対中国感情が良い訳でもありません。

 

特に、今年4月ごろ、フィリピンの中間選挙直前の頃は両国間の不協和音が目立ちました。

 

****フィリピンで反中デモ、「侵略に等しい」と市民が反発****

フィリピンの首都マニラにある中国大使館前で9日、フィリピン国内で強まる中国の影響力に対する抗議行動が行われ、1000人ほどが参加した。係争地域となっている南シナ海での中国の存在感をめぐり、緊張が高まっている。

 

フィリピン国旗を振るデモ隊は、「中国は出て行け」とシュプレヒコールを上げたり、「わが国の主権を守れ」と書かれた横断幕を掲げたりして、海底資源豊かな南シナ海での中国の領有権拡大に抗議した。

 

デモに参加した男性教師は、「ロドリゴ・ドゥテルテ政権は対応が甘い。中国の行為は侵略に等しい」と不満をもらした。

 

ドゥテルテ大統領はこれまで、中国との争いは無益であり、貿易や投資を求めてきた中国と事を構える意図はないと繰り返し述べるなど、一時過熱した南シナ海の領有権問題に目をつぶる姿勢を示していたが、フィリピンが実効支配するパグアサ島(中国名:中業島)付近でこの数か月間に中国船数百隻の航行が確認されたことを受けて緊張が再燃。

 

政府は中国船の存在は「違法」と断じ、ドゥテルテ氏はパグアサ島に立ち入ろうものなら軍事行動も辞さないと警告している。 【49日 AFP

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中国船は単なる漁船でもないような指摘も。“フィリピン軍幹部は船舶に軍事訓練を受けた民兵が乗船している可能性に触れ、「船舶は釣りをせず、停泊していることもある」とも指摘した。”【47日 産経】

 

国内の中国に対する反発を受けて、選挙直前ということもあって、親中国的なドゥテルテ大統領の口からも以下のような発言もありました。

 

“ドゥテルテ氏は演説で中国に対し、「友人同士でいよう」と呼びかけながらも「パグアサ島やその他の島に手を出してはならない」と強調。「それらの島々に向けてことを起こすなら、話は変わってくる。わが軍の兵士たちに『自爆任務の準備をせよ』と命じることになるだろう」と語った。

そのうえで自身の言葉について、警告ではなく「友人への忠告だ」と付け加えた。”【45日 CNN

 

“自爆任務”云々は、他の指導者が発言すれば国際的大問題になりますが、ドゥテルテ大統領だと、「ああ、またなんか派手なことを言っているね・・・」で終わってしまいます。

 

****南シナ海に中国漁船、一日で87隻 フィリピン反発****

領有権をめぐる国際的な争いのある南シナ海で、中国船が多数確認されているとして、近隣のフィリピンベトナムが反発を強めている。中国と東南アジア諸国連合ASEAN)の関係改善などにともない「安定」していた情勢が、再び緊張している。

 

フィリピン国軍によると、南シナ海南沙(スプラトリー)諸島で同国が実効支配するパグアサ島周辺では1月から3カ月間、中国漁船が600隻以上確認された。2月には1日で87隻が集まった日もあった。沿岸自治体は「中国船に漁師が操業を妨害されている」と訴える。

 

ドゥテルテ大統領は今月4日の演説で「パグアサ島は我々のものだ。手を触れるな」と中国を批判。軍による自爆作戦を辞さないともほのめかした。

 

2016年6月に就任したドゥテルテ氏はこれまで、南シナ海の軍事拠点化を進める中国に対し、批判を封印してきた。急務とされるインフラ整備などへの支援が必要だからだ。

 

議長国を務めた17年のASEAN首脳会議の議長声明では、中国を念頭に14年から続いた「懸念」という表現も外すなど、融和ムードを演出してきた。

 

一転して中国に厳しい態度を見せたのは、国民の反中感情の高まりからだ。公共工事のために中国から多額の借金をしているのに加え、多数の中国人労働者が工事現場で働くために流入していることが、問題視されている。

 

中国船問題は、火に油を注いだ。今月9日には、国旗を掲げた市民ら約900人がマニラの中国大使館前で「中国は出て行け」と叫び、政権の弱腰姿勢も批判した。

 

フィリピンでは、5月13日に中間選挙(上院の半数と下院、地方選)がある。任期折り返しの年にあたる「通信簿」と位置づけられ、ドゥテルテ氏も無視できなくなったとみられる。

 

一方、中国外務省の陸慷報道局長は今月11日の記者会見で「昔から中国の漁民が漁をしており、その権利への挑戦は許されない」と述べ、南シナ海での自国の立場を改めて正当化した。

 

中国船をめぐるトラブルは、ベトナム海域でも起きている。3月には西沙(パラセル)諸島でベトナム漁船が中国船によって沈没させられ、ベトナム外務省が中国側に抗議。今月7日、ベトナム海域で違法操業をした中国漁船が警告に従わず、ベトナム側が高圧放水で追い払う騒動があった。

 

ベトナムでは14年、中国による南シナ海での石油掘削活動に抗議する大規模デモが発生。18年にも、経済特区で中国などの投資家に99年間の土地租借を認める案に反対するデモが起きている。【413日 朝日】

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苛立ちを強めたドゥテルテ大統領は、習近平主席との会談で、2016年の仲裁裁判所の判断を議題に取り上げたとも報じられています。

 

****比、南シナ海問題「いらいら」 大統領が中国主席に不満示す****

フィリピンのパネロ大統領報道官は29日記者会見し、ドゥテルテ大統領が25日の中比首脳会談で、南シナ海での中国の主権主張を退けた2016年の仲裁裁判所の判断を議題にしたと認め、ドゥテルテ氏が判断を受け入れない中国の習近平国家主席に対し、南シナ海で「いらいらさせられることが起きている」と不満を示したことを明らかにした。

 

仲裁判断があるにもかかわらず、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のうち、フィリピンが実効支配するパグアサ(同ティトゥ)島周辺に多数の中国船が出没していることに不快感をあらわにしたもようだ。【429日 共同】

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しかし、中間選挙に圧勝したのちは、ドゥテルテ大統領は再び親中国路線を前面に押し出しています。

 

****ドゥテルテ大統領、中国人の働きぶりを称賛―中国メディア****

2019512日、中国メディアの観察者網は、フィリピンの不完全就業率がここ十数年で最低となる中、同国のドゥテルテ大統領が中国の経済発展と中国人の働きぶりを称賛し、国民に学ぶよう奨励したと報じた。

フィリピンメディアの報道を引用して伝えたところによると、ドゥテルテ大統領は10日、ダバオでの選挙運動で「中国をよく見てほしい。われわれは彼らの進歩にかなり遅れている。中国人を見てほしい。彼らの仕事の効率はプレートが飛ぶほど速く、仕事の時は本当によく働く」と述べた。

さらにドゥテルテ大統領が「彼らは雷雨でも働き続ける。それに比べて私たちは、こぬか雨でも肺炎にかかる」と述べると、会場は大きな笑いに包まれたという。(中略)

記事はさらに、ドゥテルテ氏就任以来、大量の中国人がマニラに流入し、その多くは中国人ユーザーを対象とした複数のオンラインゲーム企業に雇用されていることをめぐり、一部政治家から中国人流入が地価上昇を招き、フィリピン人の職を奪い、税収にも影響しているとの懸念の声が上がっていることについて、ベリョ労働雇用相が「外国人がフィリピン人の職を奪うという状況は起きてないない」と述べたことも伝えている。【514日 レコードチャイナ】

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****「私は中国が好きだ」ドゥテルテ大統領、親中派アピール****

フィリピンのドゥテルテ大統領は31日、東京都内で開かれたシンポジウムで講演し、南シナ海で領有権を争う中国について「私は中国が好きだ」と話し、親密な関係ぶりをアピールした。

 

5月中旬にフィリピンであった中間選挙の前に、南シナ海問題をめぐって中国への態度を硬化させたが、「親中派」に戻った。

 

ドゥテルテ氏は2016年の就任以来、中国との関係を重視して南シナ海問題での中国批判を抑制してきた。だが、フィリピンが実効支配している島周辺に多数の中国漁船が現れたことなどで国民の対中感情が悪化。今年4月、「島は我々のものだ。手を触れるな」と中国を牽制(けんせい)するようになった。

 

この日の講演でも「海全体が自分たちのものだと主張するのは正しいことだろうか」と指摘したが、全体的なトーンは一転させた。4月に会談したばかりの習近平(シーチンピン)国家主席について「機会があればぜひ南シナ海問題も話してみたい」と秋波を送り、閣僚レベルでの対話の可能性にも言及。「国際法を使いながら緊張を緩和することができるかもしれない」などと話した。【61日 朝日】

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そのときどきの政治事情で対応に変化はあるものの、基本的にはドゥテルテ大統領は中国へのシンパシーが非常に強いようです。

 

【中国漁船“当て逃げ”事件で更に硬化しそうな世論】

しかし、大統領の中国への好意的共感にもかかわらず、中国船の“傍若無人”な対応は改まらないようです。

 

****南シナ海 フィリピンの漁船が中国漁船に衝突され沈没****

(中略)フィリピン国防省は、中国とフィリピンが領有権を争う南シナ海のリード礁付近で、今月9日夜、停泊していたフィリピンの漁船が中国の漁船に衝突され沈没したと発表しました。

この際、フィリピン人の乗組員22人が海に投げ出されましたが、衝突した中国の漁船は救助活動を行うことなく、その場を離れたということです。

乗組員たちは、近くを航行していたベトナムの漁船に全員救助され、命に別状はないということです。

フィリピン国防省は、中国の漁船が救助活動を行わなかったとして、「中国の漁船の卑劣な行動を最も強い表現で非難する。これは友好関係がある国の行うことではない」と強く非難しました。

また、フィリピン外務省も、外交ルートを通じて中国政府に対し、正式に抗議したことを明らかにしました。

衝突のあったリード礁周辺はフィリピンの排他的経済水域内ですが、南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張する中国は多数の漁船を操業させているほか、2012年にも中国の貨物船がフィリピンの漁船に衝突して沈没させたあと、そのまま立ち去る事故があり、今回も両国の緊張が高まりそうです。【613日 NHK】

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中国側は“衝突”は認めているものの、“当て逃げ”は否定しています。

 

****中国政府、フィリピン漁船への衝突認める 「当て逃げ」は否定****

中国政府は15日、領有権問題で周辺国と係争中の南シナ海のリード堆(フィリピン名:レクト環礁)近海に停泊していたフィリピン漁船に9日に衝突したのは中国のトロール船だったことを認めた。ただし、フィリピン当局が批判する「当て逃げ」行為については否定している。

 

中国のトロール船は9日、リード堆近海で起きた衝突事故の後に逃走。フィリピンの当局やメディアからは怒りの声が上がっていた。

 

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、豊富な資源を有する南シナ海をめぐって対立する中国への批判を一時期よりはトーンダウンさせているが、フィリピン国民の多くは同海域における中国政府の動きにいら立ちを募らせている。

 

フィリピンの首都マニラにある中国領事館は、中国のトロール船「粤茂浜漁42212」がフィリピン漁船に衝突したことを認めたが、安全性を懸念してその場を離れたとして、「中国人の船長は、フィリピン漁船の乗組員たちを救助しようとしたが、他のフィリピン漁船から包囲されることを恐れた」と主張。

 

フィリピン当局から「当て逃げ」と批判を受けたことについて、問題のトロール船は「フィリピン漁船の乗組員たちが救出されたことを確認した」として、当て逃げを否定した。だが、フィリピン側の乗組員22人は海の中で数時間、救助を待っていたと主張しており、言い分に食い違いをみせている。

 

乗組員らはその後、ベトナム漁船に救助され、14日にフィリピン海軍の船で帰国した。

 

ドゥテルテ大統領の報道官はこの事故について、漁船の乗組員を見捨てるとは「あってはならない、残忍な」行為だと非難。フィリピンの沿岸警備隊は、事故に関する調査を進めている。 【615日 AFP】

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ドゥテルテ大統領はともかく、中国に対するフィリピン世論の方はこの事件でまた硬化しそうです。

 

【批判を封じる強権体質 中間選挙圧勝で体制を固め、次期大統領戦略も】

国民からの高い支持率を維持するドゥテルテ大統領ですが、“フィリピン大統領「私も同性愛者だったが『治した』」”【63日 Newsweek】といった「なんじゃ、そりゃ?」という話題など多々あります。

 

大統領の強硬な麻薬対策は国民世論の支持を得ていますが、一方で、その強権的体質はやはり大きな問題をはらんでいます。

 

****フィリピン民放最大手、大統領に批判的報道で閉鎖危機****

フィリピンドゥテルテ大統領に批判的な報道を続けてきた民放最大手ABSCBNが閉鎖の危機にある。議会下院は11日、同局の営業認可更新に関わる法案審議を凍結。7月に法案が再提出されなければ、来年3月20日に認可が切れる見通しだ。

 

同局はアキノ前大統領に近いロペス家が経営。現地報道によると、ドゥテルテ氏は2016年の大統領選の際に自分に好意的な宣伝の放送を断られ、抵抗勢力のCMが流されたことへの怒りをたびたび口にしてきた。同局は多くの死者が出ている麻薬犯罪撲滅キャンペーンにも批判的で、凍結はこうした内容への圧力とみられている。

 

一方、同局所属の人気アーティストや国民の反発も想定され、閉鎖には至らないとの見方もある。同局作品は世界50の国・地域で放送され、最近も中国、トルコ、インドネシアでの放送が決まったばかりだ。

 

フィリピンではドゥテルテ氏就任以来、政権に批判的なメディアの閉鎖を示唆する動きが頻発している。【612日 朝日】

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中間選挙圧勝で現体制を強固なものとした大統領は、後任に自分の娘を考えているとか。

 

****フィリピン中間選挙でドゥテルテ派圧勝、勢い増す強権体制****

フィリピンで5月13日に中間選挙が行われ、上下両院でドゥテルテ大統領(74)を支持する勢力が圧勝した。2016年6月末に発足以来、7〜8割という高支持率を維持してきた現政権に対する国民の信任が裏付けられた形だ。

 

今回の勝利は政権内で「ドゥテルテマジック」と呼ばれ、任期が終了する22年まで強権体制が続く見通し。大統領が公約に掲げていた死刑制度の復活や連邦制導入に向けた憲法改正の審議が前進しそうだ。(中略)

 

外交では、大統領がこれまで進めてきた親中路線の行方が注目される。南沙諸島の領有権問題では、中国から経済援助を引き出す見返りに軍事拠点化を黙認してきた。

 

しかし、中間選挙の1カ月前には中国への態度を硬化させる発言が飛び出し、5月下旬の訪日時にも「海全体を一国が主張するのは正しいのか」と疑問を呈するなど、中国に対する不信感を示す場面も出てきた。一方でこうした姿勢は、選挙を踏まえたリップサービスとの見方もある。

 

憲法では大統領の再選は禁じられている。ドゥテルテ大統領は22年に任期を終えることになるが、次期大統領選で反ドゥテルテ派が巻き返しを図れば、麻薬撲滅戦争による超法規的殺人や隠し資産疑惑などで逮捕、訴追される可能性がある。歴代政権では、エストラダ(任期19982001)、アロヨ(同0110)両大統領が汚職に関与したとして政権交代後に逮捕された。

 

次期大統領選の候補者には早くも、ドゥテルテ大統領の娘で、サラ・ダバオ市長の名前が上がっており、今回の中間選挙でも改革党を立ち上げて勝利に貢献した。大統領は任期終了後に自身が逮捕されることを阻止するためにも、サラ市長を次期候補に見据えた政権運営を行うとみられる。【614日 WEDGE】

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超法規的殺人に手を染めていますので、反対派による政権奪取となれば、逮捕は間違いないでしょう。

なんとしても、信頼できる者に後を託す必要があります。

 

コメント

マレーシア 政権交代から1年 「新しいマレーシア」に立ちはだかる民族・宗教の壁

2019-05-11 23:20:27 | 東南アジア

(クアラルンプールであった反政府集会にはイスラム教徒が大半を占めるマレー系住民が参加し、街を練り歩いた【511日 朝日】)

 

【政権交代から1年 前政権の腐敗追及を実績にあげるものの、経済状況は改善せず国民不満も高まる】

マレーシアでは周知のように、昨年59日に投開票された総選挙の結果、史上初の政権交代が起こりました。

しかも、92歳のマハティール元首相(現在は93歳)がかつて自らが追い落としたアンワル元副首相と手を結び、自らの弟子にもあたるようなナジブ前首相との争いに勝利するという、かなり劇的な勝利でした。

 

あれから1年が経過したということで、いくつかの記事が。

 

****マレーシア首相、最大の成果は汚職摘発=政権交代1年****

建国以来初の政権交代から10日で1年を迎えるマレーシアのマハティール首相(93)が9日、クアラルンプール近郊の新行政首都プトラジャヤで海外メディア向けに記者会見を開き「ナジブ前政権下で横行していた汚職を減少させたことが、新政権の最大の成果だ」と強調した。

 

マハティール政権は昨年5月から、政府系ファンド「1MDB」をめぐる巨額資金流用事件に切り込んだ。関与が取り沙汰されていたナジブ前首相とその側近への捜査に着手。ナジブ氏は背任など42件の罪状で起訴されている。【59日 時事】

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****アンワル元副首相への禅譲「約束守る」 マハティール首相 ****

マレーシアのマハティール首相は9日、1年前の首相就任時から公言しているアンワル元副首相への禅譲について「私は約束は守る」と明言した。ただ、「私は少なくともあと1年、首相を続けることができると思う」と述べ、就任から2年以内をメドと説明していた交代時期がずれ込む可能性を示唆した。

 

マハティール氏は歴史的な政権交代から10日で1年を迎えるのを機に、外国メディアの取材に応じ、明らかにした。

 

93歳のマハティール氏は「私は(与党連合が選んだ)暫定的な首相であり、(次の選挙までの5年間の)全ての任期を務めるつもりはない」と強調した。

 

アンワル氏の名前を自ら口にしなかったものの「与党連合内で既に後継者は指名してある」と禅譲シナリオは変わっていないと説明した。

 

「次の1年間で前政権の過ちの大半は解決する」とも述べ、禅譲前にナジブ前政権の負の遺産を一掃する決意を示した。(中略)

 

マハティール氏はこれまでの1年について「前政権の過ちをただすのに多くの時間が割かれた」と釈明し、実現していない多くの政権公約の達成に全力をあげる考えを示した。【59日 日経】

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マハティール首相率いる「希望連盟」は昨年5月の総選挙では、物品・サービス税(消費税)廃止を筆頭とする国民の物価上昇などに対する経済的不満を解消するための(ばらまき)経済政策、およびナジブ前政権の腐敗追及を掲げて戦い勝利しましたので、その公約は果たしていると言えます。

 

しかし、物品・サービス税(消費税)廃止によって財政的には厳しい状況ともなっています。

 

また、政権交代を実現した国民不満の根底にある経済状況は改善しておらず、マハティール首相が前政権の腐敗追及を最大実績として挙げているのは、経済状況改善をアピールできないということの裏返しでもあります。

 

更に、政権の先行きについては、前期記事も問題にしているアンワル元副首相への禅譲時期が不透明になっているという問題もあります。(マハティール首相は、政治活動ができないアンワル元副首相に代わって野党連合を率いて戦った経緯があり、2年以内にアンワル元副首相に禅譲する“約束”となっています)

 

****財政再建路線が後退 マレーシア、政権交代から1年 ****

1957年の独立以来初の政権交代から10日で1年となったマレーシアのマハティール首相の支持率が下降線をたどっている。

 

腐敗の象徴だったナジブ前首相を起訴し、消費税を廃止するなど国民の関心が高い政策に注力してきたが、財政再建路線は後退が目立つ。成長戦略も具体化には遠く、2年目の政権運営は厳しさを増す。

 

(中略)腐敗した国の再生を掲げて政権交代を果たしたマハティール氏にとって、政府系ファンド「1MDB」を巡る汚職の捜査は最優先課題だった。多額の資金を自らの懐に入れたなどとしてナジブ氏を42の罪で逮捕・起訴し、汚職を隠蔽していた前司法長官や、関与した元財務次官らを次々と更迭した。代わりに実力主義に基づいて非マレー系や女性を要職に登用した。

 

ただ前政権時代の負の遺産を掘り起こした結果、負担が増えるというジレンマも生んだ。4月には前政権の支持基盤と密接に結びついていた連邦土地開発公団(フェルダ)の救済のため、約60億リンギ(約1600億円)の資金注入を決めた。

 

従来7千億リンギ弱と公表していた国の債務は政府保証なども含めて1兆リンギを超え、歳出の削減が急務だ。しかしマハティール政権は4月中旬、前政権が中断したクアラルンプールの大型再開発計画を再開すると発表した。その1週間前には、中国と建設費用が440億リンギに上る大型鉄道計画の再開で合意した。

 

税収の4分の1を占めていた消費税を政権公約通り廃止したため、安定収入源は細っている。ナジブ前政権時代に一時約15%まで縮小していた石油関連収入への依存度は約30%に逆戻りした。

 

1人あたりの国内総生産(GDP)が1万ドルを超えるマレーシアにとって、先進国入り後を見据えた中長期の成長戦略づくりが急務だ。マハティール氏は「2年目は経済政策に注力する」と訴えるが、これまで目立つのは「第3の国民車構想」や「インダストリー4.0」戦略といったスローガンばかり。将来の成長を支える新産業育成の道筋は見えてこない。

 

東南アジア研究所(ISEAS)のケイシー・リー上級研究員は「マレーシアの製造業は日本や韓国の水準に達するはるか前に、ピークを過ぎようとしている」と指摘。先進国入り前に成長率が鈍る「中所得国のわな」に陥っていると警鐘を鳴らす。

 

政権交代前は5%を超えていた成長率が4%台に落ち込むなど、経済は伸び悩んでいる。生活水準が改善しないことへの国民の不満も高まっている。世論調査機関ムルデカ・センターの最新の調査では、マハティール首相の支持率は就任以来、初めて5割を切った。

 

93歳と高齢のマハティール氏は、首相就任から2年以内をメドにアンワル元副首相に禅譲すると公言してきた。9日には「私は少なくともあと1年首相を続けることができる」と述べたが、禅譲時期は明示しなかった。

 

2人は1年前の総選挙の際、政権交代という共通の目的で手を結んだものの、かつては激しく敵対していた。2人の関係が再びこじれれば、マレーシア政治は混乱状態に陥りかねない。【510日 日経】

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【「新しいマレーシア」への期待と多数派マレー系住民の警戒感】

特に、経済状況が改善しないことへの国民不満の高まりは、政権支持率に直結する問題であり、そうした不満にマレーシア固有の民族問題(多数派マレー系の不満)が絡むと、政権の求心力は急速に低下することにもなります。

 

もともと総選挙に勝利した「希望連盟」は、華人やインド人を中心とした非マレー人の間で支持者が多い民主行動党(DAP)を主要勢力に含んでおり、民族主義や宗教重視、あるいは“何とか”第一主義がもてはやされる昨今にあっては珍しく「共存」を実現した政権でもあります。

 

前政権の腐敗追及という民族・宗教にかかわらない問題を前面にだしつつ、非マレー系、非イスラム系勢力が政治の中核に立つことへの(特に地方の)多数派マレー系の警戒感を、マレー系政治家としての実績と人気を有するマハティール氏の存在が一定になだめる形で実現した政権です。

 

****政権交代から100日を迎えたマレーシア――希望連盟政権下での民主化に向けた実績と課題****

「新しいマレーシア」の行方 

今後の希望連盟政権の行方に影響を与えるのは、公約の達成、制度改革の進捗、政府・与党のガバナンスの問題だけではない。民族、宗教、セクシュアリティなどのアイデンティティをめぐる政治の動向も大きく影響する。

 

5月の総選挙は従来の選挙とは異なり、民族や宗教をめぐるアジェンダがほとんど表面化しなかったまれな選挙であった。このため、総選挙直後には、民族や宗教などの違いを超えて国民が団結する「新しいマレーシア」が誕生したとの言説がメディアを中心に広がった。

 

政権交代から100日が経過した今でも「新しいマレーシア」を信じて期待を寄せる人々は主に都市中間層の間で多いものの、それに反する現実も表面化しつつある。

 

まず、2018年総選挙の結果をみれば、そもそも新たに政権についた希望連盟は、国民の各層からまんべんなく支持を得たのではないとの研究者の選挙分析が登場してきた。

 

総選挙で希望連盟は、華人やインド人などの非マレー人からの圧倒的支持を得たものの、全人口の6割程度を占めるマレー人の間の支持は、(マハティール氏率いる)希望連盟、(前与党の)国民戦線(とその中核政党のUMNO)、(イスラム主義の)PAS3政党(連合)の間で分裂したままである。

 

5月の2018年総選挙で希望連盟は、生活コスト上昇やナジブ前首相の関与が疑われる1MDBスキャンダルなど、民族や宗教などとは直接的には関係ないアジェンダを前面に掲げて政権交代を実現した。

 

そのため、マレー人の間ではUMNOPASから希望戦線の構成政党に鞍替えしたものも少なくなかったが、依然としてマレー民族主義やイスラーム主義に基づいてUMNOPASを支持し続けているマレー人の存在も無視できない。

 

5月の総選挙で敗れて政権から転落した国民戦線では、連合から離脱する政党が相次いだ。(中略)

 

そこで、もともとマレー人の民族政党であって、国民戦線の他の構成政党を考慮する必要がほとんどなくなったUMNOが、今後ますますマレー人を対象としたイデオロギーや主張に接近していく可能性は十分ある。

 

実際に、84日にスランゴール州のスンガイ・カンディス州選挙区において、希望連盟所属のPKR候補と国民戦線所属のUMNO候補との間で争われた補選で、そのような傾向がみられている。

 

UMNOはマレー人有権者にターゲットを定め、マレー人の権利が希望連盟政権下で失われつつあるとして、民族的な危機意識を煽る選挙戦術をとったのだ。

 

加えて、補選では長年UMNOとマレー人票をめぐって対立してきたイスラーム主義政党のPASが、UMNOと事実上、共闘する姿勢をみせた。

 

補選結果は、投票率が49%と、マレーシアでは異例の低投票率(注2)のために、PKRUMNOの双方とも5月の総選挙と比べて大幅に獲得票数を減らしたものの、PKRが勝利した。

 

補選結果について様々な分析は可能だが、ここで重要なのは、UMNOPASが将来のさらなる連携の可能性をみせつつ、ともにマレー民族主義やイスラームのアイデンティティに沿った自党のブランディングを強めていることにある。

 

野党のUMNOPASが人口の多数を占めるマレー人へのアピールのために、民族や宗教に基づく政治へのシフトを今まで以上に強めるならば、希望連盟側もマレー人に向けて特別な対応を迫られる可能性が少なくない。(後略)【2018829日 伊賀司氏 SYNODOS

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【マレー系住民への優遇政策の維持を求め、民族重視で攻勢に出る野党勢力】

野党側がイスラム主義を強めて攻勢に出るというのは、先のインドネシア大統領選挙でも見られた傾向です。

マレーシアの場合は、宗教だけでなく民族も絡みますので、対立はより先鋭化する可能性があります。

 

更に、マレーシアはマレー系優遇策(ブミプトラ政策)を採用してきましたが、マハティール政権がこのマレー系優遇策を変更しようとしたことで、マレー系住民の不満は民族主義・宗教重視の流れを加速させる形にもなっています。

 

****マレーシア野党「反マハティール」デモ開催へ ****
8
日、2党共闘で数十万人規模に

マレーシアの有力野党2党は8日、マレー系住民への優遇政策の維持を訴える数十万人規模のデモを開催する。5月の政権交代後では最大級のデモとなる見通しで、優遇政策への対応でぶれをみせたマハティール首相を揺さぶりたい考えだ。

 

5月の政権交代以降、民族を問わず高い支持を得てきたマハティール氏だが、民族問題でのかじ取りを誤れば求心力の低下につながる可能性がある。

 

今回のデモはマハティール政権が国連の人種差別撤廃条約の批准方針を示したことがきっかけ。同条約の批准は、マレー系住民を優遇する「ブミプトラ(土地の子)」政策を脅かしかねないと人口の7割を占めるマレー系市民が強く反発。マハティール政権は11月下旬に一転、国連条約の批准見送りを決めた。

 

ただ、今春まで与党だった統一マレー国民組織(UMNO)はマレー系市民の支持を現政権から引き離す好機と捉え、批准の見送りによる問題の幕引きに反対する考えを表明。急進的なイスラム主義を掲げる全マレーシア・イスラム党(PAS)とも現政権の打倒で一致し、デモの共同開催を決めた。

 

一方、マハティール氏ら与党側は野党が民族問題を政治利用していると批判し、事態の早期収拾をはかる考えだ。【2018127日 日経】

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実際、今年に入ってからの選挙では、与党側は3連敗と苦境にあります。

 

****マレーシア与党連合が3連敗、州議会補選****

マレーシア中部のヌグリスンビラン州議会ランタウ選挙区の補欠選挙が13日投開票され、与党連合の候補が野党連合の候補に敗れた。

 

与党連合候補の敗北は1月の下院補選、3月のスランゴール州議会補選に続き3回連続。政権交代から1年を前にして、マハティール政権の支持率低下が続いていることを浮き彫りにした。(後略)【414日 日経】

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国際的には、東海岸鉄道計画をめぐり「大国」中国の足元をみすかしたようなマハティール首相の「老練な」駆け引きに高い評価が寄せられていますが、国内的な支持率は急速に低下しているようです。

 

****マハティール首相、苦境 多数派マレー系優遇、見直そうとして支持率激減****

昨年政権トップに返り咲いたマレーシアのマハティール首相が苦境に立っている。多数派マレー系住民の優遇策を変える動きを見せたことがきっかけだ。

 

7月で94歳になる「世界最高齢首相」は海外での評価は高いが、就任から1年で国内の支持率は激減し、足元がゆらいでいる。

 

「ともに闘おう」。4日、首都クアラルンプールで数千人規模の反政府デモがあり、参加者らはこう訴えた。大半は国民の7割弱を占めるマレー系の人たち。ファイサルさん(47)は「マレー人のマレーシアではなくなっていくのが心配だ」と話す。

 

 怒りの原因

怒りの原因は、マハティール氏がブミプトラ(土地の子)政策の見直しの動きを見せたことだ。

 

ブミプトラ政策は、経済的に優位な中華系やインド系に対抗し、先住民であるマレー系の教育・就職面などでの優遇策で、1971年に始まった。マハティール氏もマレー系で、81~2003年に首相を務めた時は政策を推進した。

 

だが、マハティール氏は昨年5月の総選挙で、政策の見直しを訴えてきた中華系政党などと選挙協力をした。当時は野党で、政権奪回のために必要な多数派工作の戦略でもあったが、マレー系には考えを変えたと受け止められた。

 

実際、首相に就くと、これまでマレー系が占めていた財務相や司法長官など、主要ポストに非マレー系を任命。昨年9月には、同政策との矛盾が指摘される人種差別撤廃条約を批准すると発表した。

 

これにマレー系は猛反発。政府は条約の批准の断念やブミプトラ政策の維持を発表したが、不満は収まっていない。

 

今年実施された下院議員や州議会議員の補選で与党は3連敗。民間調査機関ムルデカ・センターによると、就任直後に79%あった政権支持率は、3月に39%まで落ちた。

 

 海外は高評価

マハティール氏は中国が巨大経済圏構想「一帯一路」の事業に位置づける東海岸鉄道の建設について財政難を理由に中止を決めたが、中国との交渉の末、事業費の3割削減に成功して事業を復活させた。米フォーチュン誌に「世界の最も偉大な指導者50人」の一人にも選ばれるなど海外では評価が高い。

 

だが、ブミプトラ政策以外にも、汚職事件で逮捕されたナジブ前首相の時代にできたとされる1兆リンギ(約26兆円)の債務など課題は山積。

 

連立を組む人民正義党のアンワル元副首相との関係も微妙になっている。都市中間層から一定の支持を集めるアンワル氏に「2年以内に首相の座を譲る」と就任前から公言してきたが、最近は明言を避けるようになり、与党内に波紋を広げている。

 

マハティール氏は9日、記者会見で支持率について「何かをやろうとすれば反発はある」と受け流した。退任時期についても「あと3年か2年かもわからない」と言葉を濁した。

 

日本貿易振興機構アジア経済研究所の熊谷聡研究員は、「支持を急速に回復する政策は見込めないが、マハティール氏以外が首相になれば政権はさらにもろくなる」と指摘する。【511日 朝日】

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民族・宗教を超えた「新しいマレーシア」の実現ははなはだ困難な情勢です。

「マハティール氏以外が首相になれば政権はさらにもろくなる」というのも恐らく事実でしょう。

 

マハティール首相が禅譲を明確にしないのも、単に政権への色気が出たというだけでなく、自分以外ではこの難局は乗り越えられないという自負心があってのことでしょう。

 

マハティール首相の“老獪さ”で求心力を維持できるか、あるいは、“マレー系・イスラム”第一主義がマレーシアを覆うことになるのか・・・難しい情勢です。

 

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カンボジア 独裁色を強めるフン・セン政権への支援を中国と争う日本

2019-04-23 21:51:17 | 東南アジア

(中国支援の橋の隣で、再開通した「日本カンボジア友好橋」【43日 共同】)

 

【フン・セン首相とタイのプラユット暫定首相の「歴史的」旅】

日本と韓国のように、隣り合う国同士というのは、いろんな歴史的経緯や現在の領土問題・経済問題、あるいはライバル心等々によって、あまり仲が良くないということはごく普通に見られることです。

 

隣国であるだけでなく、言語的にも非常に近いタイとカンボジアの関係も、カンボジア側からすれば圧倒的なタイの経済力に対する屈折した思いもあって、芳しくありません。

 

2008に始まったプレアビヒア寺院の帰属をめぐるタイカンボジア国境紛争も、そうした関係を背景としてのものであり、また結果的に、複雑な関係を更に複雑化させるものでもありました。

 

そうしたカンボジア・タイ関係ですが、独裁色を強めるカンボジアのフン・セン政権と、タイの軍事政権・プラユット政権という似た者同士ということもあってか、最近は順調なようです。

 

****カンボジアとタイを結ぶ鉄道、45年ぶりに開通****

カンボジアとタイを結ぶ鉄道が22日、45年ぶりに正式に開通した。隣り合う両国間の移動時間の縮小と貿易の促進が狙いだ。

 

カンボジアのフン・セン首相とタイのプラユット・チャンオーチャー首相は、タイ側の国境で開かれた調印式に出席した。両首相はその後、タイ政府が寄付した車両に乗りカンボジアのポイペトへ移動。列車から降りた2人は、固く握り合った手を掲げ、両国旗を振る群衆の歓声を受けた。

 

フン・セン首相は、今回の2人の旅を「歴史的」と評し、タイ政府による、両国を結ぶ鉄道復旧の取り組みに感謝の意を表した。さらに、この鉄道がカンボジアと他の隣国との関係を深め、経済と貿易を拡大させることに期待も寄せた。

 

カンボジア政府は昨年、首都プノンペンからタイ国境へ向かう全長370キロの鉄道の、最終区間の運行を再開していた。 【423日 AFP】

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両国間の経済関係を強化・発展させるものとなるように期待しますが、個人的にもこの地域の観光の際に利用してみたいという思いも。

 

【急速に拡大する中国の影響力 「利益を得るのは富裕層と権力者だけだ」】

最近のカンボジアは従前からのタイとの関係に加えて、中国との関係が深まっていることは周知のところで、ASEAN内にあっては“中国の代弁者”的な立ち位置にもなっています。

 

****中国系投資で「第2のマカオ」目指す街、カンボジア・シアヌークビル****

(中略)シアヌークビルは今、急速に中国人の賭博師や投資家らを呼び寄せる街へと変化している。そのスピードは、置き去りにされている地元住民らを不安にさせるほどだ。(中略)

 

カンボジアで崇拝されている故国王にちなんで名付けられたシアヌークビル州の州都シアヌークビルは、かつてのどかな漁師町だった。だが、最初は欧米のバックパッカー、次いでロシア人富裕層らに注目され、現在は中国系の投資によって、中国本土からの観光客のための巨大なカジノスポットに姿を変えつつある。

 

カジノは中国では禁止されているが、アジアのラスベガスと称されることもある中国特別行政区のマカオには、大規模なギャンブルビジネスを認める特別な法律がある。

 

そのマカオに代わる新たな人気カジノスポットとなりつつあるのが、シアヌークビルだ。目下、中国系カジノ約50軒とホテル複合施設数十軒が建設されている。(中略)

 

共産主義国である隣国・中国との親密な関係が意味するものは、かつて貧困国だったこの東南アジアの国に対する巨額投資だ。多額の資金がカンボジア経済に流入したが、中国のこれまでの劣悪な人権侵害についてはほとんど問題視されたことがない。

 

■一帯一路構想の要衝都市

中国からの投資が最も顕著なのが、同国が推進する広域経済圏構想「一帯一路」の要衝となるシアヌークビルだ。この構想には、シアヌークビルと首都プノンペンとを結ぶ高速道路の建設計画も含まれている。

 

ユン・ミン州知事によると、201618年の中国官民によるカンボジアへの投資額は10億ドル(約1100億円)に上る。シアヌークビルの現在の人口の約30%は中国人が占めており、その数はここ2年間で急増したという。

 

中国はまた大々的な軍事交流も模索しており、周辺国と領有権を争う南シナ海へのアクセスが容易なシアヌークビルの北のココン州沿岸沖に、海軍基地の建設を目指しているのではないかとの臆測に拍車をかけている。

 

シアヌークビルの港では最近、中国の巨大な軍艦3隻がドック入りしたが、カンボジアのフン・セン首相は港湾建設の可能性を強く否定した。

 

また同首相は最近、北京を訪問した際に、中国からの58800万ドル(約640億円)の経済支援、および2023年までに両国間の貿易額を100億ドル(約11000億円)に引き上げるという約束を携えて帰国した。

 

不動産サービス大手CBREによると、同市の不動産価格は過去2年間に高騰し、1平方メートル当たり500ドル(約54000円)程度だった海岸近くの物件価格は5倍にも値上がりしているという。州知事は「彼らは、われわれの潜在能力を見込んで投資をしている」と話す。

 

だが新たな土地開発は、土地の所有権をめぐる昔からの争いを鎮めることをより困難にしている。カンボジアでは富や影響力が法律に勝り、政府とつながりをもつ富豪や実業家が土地を手に入れてきた歴史がある。

 

スピアン・チア地区のスン・ソファト代表は、「中国によるシアヌークビル州への巨額投資は、貧困層には何の恩恵もない」「利益を得るのは富裕層と権力者だけだ」と語った。 【217日 AFP】

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【中国とインフラ支援を競争する日本】

こうしたカンボジアの中国への傾斜で面白くないのが、従来からカンボジアを含む東南アジアで大きな影響力を有してきた日本。

 

中国に対抗するようにカンボジアへの支援も行ってはいます。

 

****カンボジアで大きな橋が開通して渋滞解消へ・・・そこには日本の支援があった!=中国メディア****

中国メディア・東方網は9日、日本の支援によりカンボジアで進んでいた「カンボジア―日本友好大橋」の建設プロジェクトがほぼ完了し、現地の新年を前に開通する見込みであると報じた。

記事は、カンボジアメディアの報道として、今月6日までにプノンペンにある「日本・カンボジア友好橋」の全体修繕工事がすでに97%完成しており、同国の公共工事・交通担当大臣が現場の工事状況を視察に訪れたと伝えた。

全長971メートルのこの橋はもともと「チュルイ・チョンバー橋」という名前で1960年年代に完成したものの、70年に内戦の影響で爆破されてそのままになっていたという。その後92年に日本による無償援助で橋の修復が進められ、95年には再び通れるようになった。

記事は、最初の完成から50年以上、再開通から20年以上が経過して老朽化した橋を補修すべく、日本政府が「日本・カンボジア友好大橋」修繕プロジェクトとして、国際協力機構(JICA)を通じて工事費用を無償提供したと紹介。

 

修繕工事は2017年9月15日に着工し、今年6月に竣工する予定だったが、作業がスムーズに進んだことで、4月に迎える現地の正月であるクメール正月前に開通できる見込みだと伝えている。

そして、経済の急速な発展に伴って自動車の数が増え続けていることで橋の補修が急務とされてきたため、今回の開通により現地道路の渋滞状況が大きく改善されることになると紹介した。

この橋はプノンペン北部を流れるトンレサップ川に架かっているもので、その隣には中国の借款により建設された「第2チュルイ・チョンバー橋」が通っている。

 

まさに東南アジア地域における日本と中国のインフラ支援競争を象徴する場所であり、このために中国メディアも今回の「日本橋」の開通に注目したようである。【311日 Searchina

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【独裁色を強めるフン・セン政権 厳しい対応の欧米】

ただ、“体力勝負”となるようなインフラ支援競争を中国とやっても、日本に勝ち目があるのか・・・?

 

その問題以前に、フン・セン首相が独裁色を強める現在のカンボジアの状況を考えるとき、中国と争うような支援をしていていいのか?という問題も。

 

その点では、人権問題に敏感なEUはカンボジアに厳しい姿勢をとっています。(もちろん、EUも単に人権を問題にしているだけでなく、最終的にはカンボジアにおけるEUの利益を見据えてのことでしょうが)

 

****EU、カンボジアへの特恵関税見直し手続き開始 人権問題理由に****

欧州連合(EU)の政策執行機関である欧州委員会は11日、カンボジアの人権や民主主義を巡る問題を理由に、同国産品の輸入の際に現在適用している特恵関税制度について、停止すべきかどうかを決定する手続きに入った。

欧州委は今後12カ月をかけて同制度の適用継続・停止を決定、適用停止が決まった場合には決定の6カ月後から実施する。

EUには、武器や弾薬を除く貧困国からのすべての輸入品について関税を免除する「武器以外すべて(EBA)」と呼ばれる貿易協定があり、カンボジアも適用対象になっている。

 

EUはカンボジアの最大の貿易相手で、2018年はカンボジアの輸出の45%がEU向けだった。【212日 ロイター】

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“カンボジアの国会は(201812月)13日、フン・セン政権により昨年、解党に追い込まれた旧最大野党、救国党の幹部118人の政治活動復帰に道を開く法案を可決した。「民主主義の危機」だと厳しく政権を批判する欧米などからの圧力をかわす狙いとみられる。”【20181213日 毎日】というように、フン・セン政権独裁化の歯止めとして圧力が一定に奏功している面もあるようです。

 

もっとも、上記措置に関して言えば、118人の政治活動復帰が認められたわけではなく(あくまでも“道を開く”ということです)、実際に政治復帰できるかは政権の意向次第ということで、むしろ政権側はそのあたりを政治的に利用する動きもあるようです。

 

****政治活動禁止の2人政界復帰へ カンボジア、野党分断の懸念****

カンボジアのシハモニ国王は15日、政治活動が禁じられた旧最大野党カンボジア救国党の関係者2人の政界復帰を認める決定をした。地元メディアが16日伝えた。

 

救国党を解党に追い込んだフン・セン政権が設けた救済手続きに沿った措置。2人が復帰を求めていた。政治活動が禁じられた118人中、政界復帰が認められたのは初めてとみられる。

 

救国党の一部有力者は「活動再開を認める権限は事実上、政権が握る。復帰の申請は政権の正当性を認めることになる」と救済に応じないよう求めていた。2人の政界復帰で救国党側が分断され、政権の批判勢力が弱体化する懸念がある。【116日 共同】

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【人権問題を無視する日本の伝統的“内政不干渉主義”】

いずれにしても日本など国際社会は、与党・政権を脅かすまでになった最大野党を解散に追い込むという強硬手段で政権維持に走るフン・セン政権にどのように向き合うのかという問題があります。

 

****「民主化と逆行」。独裁化するカンボジアに「NO」と言わない日本政府****

’93523日、カンボジア。数十年に渡る内戦を経て、当時の国連事務総長特別代表であった明石康氏率いる国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の下、初めての民主的選挙が行われた。

 

残念ながら、この日に至るまでに、国連ボランティアの中田厚仁氏や文民警察官の高田晴行氏を含む多くの方々が命を落とされたが、少なからず日本はカンボジアの民主化に多大な貢献をしたのであった。

 

フン・セン首相による弾圧

それから25年の歳月が経過した’1872日、日本。明石氏は、学者や専門家と共に、日本政府の政府開発援助(ODA)についての提言書を河野太郎外務大臣宛てに提出した。

 

「カンボジアでは、民主化と逆行する政策が加速している」という内容だ。つまり、カンボジアの民主化を率いた当本人が、同国の政治情勢やそれに対する日本政府の外交政策に懸念を示したのだ。

 

今、カンボジアでは何が起きているのか? そこには、国家の様々な側面において「独裁的」と判断せざるを得ない現実がある。

 

’93年の選挙後、「第二首相」という異例の役職についたフン・セン氏。’97年に第一首相に対して仕掛けた武力クーデターが成功し、以来30年以上に渡り権力を握っている。

 

フン・セン首相の政治手法は主に強権的であり、’187月の総選挙前にはその問題点が著しく表面化することとなる。

 

たとえば’1711月には、議席数を大きく伸ばしていた最大野党であるカンボジア救国党を最高裁が解党した。さらには党員たちを議会から追放し、118人もの幹部たちに5年間の政治活動禁止を科した。

 

フン・セン首相は救国党が「カラー・レボリューション」を試みたという根拠なき主張の上、救国党解散要求に基づく訴訟を起こしていた。しかし、これに対して違法性を示す証拠は一切提出されなかった。(参照:REUTERS

 

メディアだけでなく一般市民も被害に

調査報道などに力を入れていた現地の独立系メディアもまたフン・セン首相の標的となった。

 

カンボジア政府により不可解な630万米ドルもの追加税を課されたカンボジア・デイリー紙は、’17年に廃刊。プノンペン・ポスト紙は’18年にフン・セン首相と繋がりがあるとされるマレーシアの投資家によって買収され、また、ラジオ・フリー・アジア(RFA)とボイス・オブ・アメリカ(VOA)などクメール語放送を再放送するFMラジオ局も当局によって強制的に閉鎖された。(参照:AFP日本経済新聞The Cambodia Daily

 

非政府組織(NGO)や一般市民も例外ではなく危機にさらされている。’15年以降、カンボジア政府は表現の自由や結社の自由をがんじがらめにするような法改正を次々に実行している。

 

たとえば、’15年に採択された「結社及び非政府組織に関する法律」の不当な解釈を根拠に、当局はNGOが開催するイベントなどを監視や干渉したり、時には組織として登録を試みている団体に対して「政治的中立性」など曖昧な理由でこの申請を拒否したりしている。

 

また、’182月にはカンボジア国王に対する不敬罪が成立し、フェイスブックの投稿を根拠に小学校の校長先生や床屋さんが不敬容疑で逮捕された。(参照:毎日新聞The Phnom Penh Post毎日新聞

 

支持を集めていた最大野党は解党され、独立系メディアが口封じされ、市民社会は弾圧。「公平で自由」な選挙を行えるはずがない環境でも、’187月の総選挙は開催された。

 

フン・セン首相率いる与党のカンボジア人民党(CPP)が全125議席を獲得し、カンボジアはベトナムや中国と並び、事実上の独裁国家になった。(参照:日経新聞

 

欧米諸国は厳しい対応

近年、国際社会はカンボジアの悪化する政治情勢に懸念を示し始めている。長きに渡って援助国だったスウェーデンは、教育と研究分野を除き、カンボジア政府への援助を終了することを発表。また米国政府は、カンボジア国民に対する援助を除き、軍事的援助などを停止した。

 

さらに欧州連合(EU)は、総選挙の資金援助を全面停止したうえ、「主要野党が恣意的に排除された選挙プロセスを正当なものとみなすことはできない」と批判。

 

国連人権理事会ではニュージーランドが、ドイツやイギリスを含む45か国を代表して、解党されたカンボジア救国党の復活を呼び掛けた。(参照:REUTERSホワイトハウス公式HPREUTERSREUTERS

 

一方で日本政府は、カンボジア政府に対する明確な批判は避ける姿勢を取り、選挙監視団の派遣こそ直前に見送ったものの、カンボジア総選挙に約8億円の無賞資金協力として日本製選挙箱・ピックアップトラックなどを提供した。

 

また、カンボジア人民党が全125議席獲得し事実上の独裁国家が生まれたのにも関わらず、自民党の二階俊博幹事長は書簡で祝辞を述べた。’194月には、河野太郎外務大臣が政治的中立性に欠けているカンボジア選挙管理委員会の関係者などと日本で地方統一選の開票状況を視察した。(参照:外務省公式HPKHMER TIMES


中国の脅威に対抗を試みる日本政府

なぜ日本政府はこれほど強権的なフン・セン首相を支持しているのか?

 

その背景には、カンボジアでプレゼンスを増す中国政府の存在がある。日本は何十年もの間、カンボジアにとって最大と言って過言ではないほどの開発協力国であり、投資国であった。しかし、’10年頃には中国がそれに取って代わり、カンボジア最大の援助国となった。(中略)

 

つまり、フン・セン首相を中国に取られまいと、日本政府は民主主義的な価値観を犠牲にしてまで、カンボジア政府の機嫌取りをおこなっているのだ。

 

しかし、これは明らかに負け戦である。中国は一党支配体制であるため、独裁国家の支援をめぐって世論を検討したり、財源の支出について透明性を保つ必要に乏しい。日本政府が中国を援助額で負かすことはもちろん、より良い条件で提案することも非現実的だ。

 

日本政府の定める開発協力大綱は、「普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現」の項で、こう謳っている――『我が国はそうした発展の前提となる基盤を強化する観点から、自由、民主主義、基本的人権の尊重、 法の支配といった普遍的価値の共有や、平和で安定し、安全な社会の実現のための支援を行う』。(参照:外務省公式HP

 

それならば日本政府は、矛盾を作り出している中国との競争ではなく、民主的及び人権的価値観こそをカンボジアとの外交関係の中心に置き、いかにしてカンボジアの人々の幸福や健康に貢献できるかを検討すべきだ。【423日 笠井哲平氏 ハーバービジネスオンライン】

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なお、日本政府の援助国内の人権弾圧に目を向けない内政不干渉主義は、カンボジアだけのことではなく、ミャンマーでもスリランカでも、いつも見られる行動です。その点では、国際的に評判が悪い中国と“似た者同士”です。

 

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タイ総選挙結果を受けて  「なぜ議会で闘わないのか」というのは誰に対して言うべき言葉か?

2019-04-06 22:33:13 | 東南アジア

(タイの首都バンコクの警察署に到着し、支持者に囲まれる革新政党「新未来党」のタナトーン党首=6日【46日 共同】)

 

【「不正選挙」の疑惑がかかる選挙管理員会への批判】

324日から42日まで、パキスタンを旅行していた関係で、日々のニュースをフォローすることが難しく、時折ニュースサイトで垣間見る程度。

 

そうした中で気になったのは、民政移管に向けてのタイの総選挙。“気になった”というのは、特別関心があるという意味ではなく、目にする記事によって選挙結果の印象が異なるという意味です。

 

“タイ総選挙:タクシン派政党が勝利を主張、公式結果は5月9日までに”【325日 bloomberg

“タイ総選挙、軍主導の政権が優勢 予想外の結果に疑いの声も”【325日 ロイター】

 

端的に言えば、タクシン派が勝ったのか、親軍政勢力が勝ったのか・・・どうも判然としませんでした。

 

帰国後改めて確認すると、“判然としなかった”理由は、単に私の情報量がごく限られていたということだけでなく、選挙管理員会からの詳細な公式発表がなく、そもそも開票集計過程自体になにやら“不明瞭なもの”が漂っていたためのようです。

 

****タイ総選挙「公平に実施されず」市民らから選管への批判高まる****

タイの民政復帰に向けた324日の総選挙で、選挙管理委員会に対する批判が強まっている。

 

市民団体や学生らが「公平に選挙が実施されなかった」と抗議活動を始めると同時に、タクシン元首相派の中核政党「タイ貢献党」は疑惑の解明を求める声明を発表。

 

一方、アピラット陸軍司令官が記者会見で「タイの人々が街頭で戦わないことを望む」と述べ、こうした動きへのけん制を強めている。

 

貢献党の1日の声明によると、選管が選挙当日の24日と、その4日後に発表した投票総数には、約449万票もの差があった。

 

また選管の不手際も目立ち、25日に小選挙区当選者のリストを非公式に発表したが、これに間違いがあり貢献党の獲得議席数が一つ減った。一方、白票などの無効票の合計は約273万票と多い。

 

こうしたことから「票が不正に操作されたのではないか」との疑惑が指摘されている。バンコクでは市民団体などが「選管はいらない」「不正選挙」などと叫んでデモ行進。主催者の一人は「国民の意思は選挙で示された。選管は正しく発表しなければならない」と話した。

 

一方、アピラット司令官は2日の会見で、民主主義が「ゆがめられる」事態が起きていると指摘。59日に予定される選管の公式発表を待つべきだとの考えを示した。【43日 毎日】

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****選挙管理委員の辞任求める署名広がる タイ総選挙****

タイで3月24日に実施された総選挙で票の取り扱いなどに不透明、不公正な点があるとして、民主活動家や学生らが、選挙管理委員の辞任や罷免(ひめん)を求める運動を続けている。

 

インターネット上の署名はすでに80万を超え、街頭での署名の呼びかけも広まっている。

 

署名活動は31日夕もバンコクの繁華街であり、民主活動家や学生らが「我々の投票を尊重しろ」「不正をやめろ」などと書かれたプラカードを掲げ、「選管は出て行け」などと、シュプレヒコールを上げた。

 

主催者らは親軍政政党に有利になる様々な不正があった疑いがあると指摘。投票に関するあらゆる情報の開示を選管に要求するとともに、選管委員が速やかに辞任するよう求めた。

 

開票をめぐっては、選挙当日と4日後の発表に整合性がないとの指摘や、いくつかの投票所で票数が投票者の数より多かったとの指摘が出るなど、選管による開票作業に様々な疑問の声が寄せられている。

 

選管は政党別の得票数や各小選挙区の暫定結果は発表したが、比例代表を含めた各政党の議席数や、細かいデータは公表していない。

 

31日の署名活動に参加した学生(25)は「今回の選挙の不透明さに気づいているということを示したかった。様々な方法で不正をしようとしたことは明らかだと思う」と話した。

 

総選挙では、反軍政のタクシン元首相派のタイ貢献党が第1党になる見通しだが、親軍政の国民国家の力党も事前の予想を上回る伸びを見せ、第2党になる見込みだ。政党としての得票数では国民国家の力党がタイ貢献党を上回り、最多となっている。【41日 朝日】

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【アピラット司令官は「なぜ議会で闘わないのか」と言うものの・・・】

【毎日】記事にもある、アピラット司令官の発言については、以下のようにも。

 

****「なぜ議会で闘わないのか」タイ司令官、抗議デモに警告****

タイのアピラット陸軍司令官は2日、先月24日の総選挙後、選挙管理委員会による不正などを訴える抗議デモが相次いでいることを念頭に、「なぜルールに従って議会で闘わないのか」と述べ、街頭での抗議行動に警告した。

 

総選挙をめぐっては、票数が投票者の数より多かった投票所があるとの報告が寄せられるなど、選管の票の取り扱いに様々な疑問の声が寄せられている。民主活動家らは、親軍政政党を利する不正があった疑いがあると指摘。情報開示や選管委員の辞任を求める活動を続けている。

 

地元メディアによるとアピラット氏は、各政党は選管の決定に従うべきだとし、「サッカーの試合のようにもしチームが負けたら、ファンもそれを受け入れなければならない」と述べた。

 

選管は選挙の公式結果を発表していないが、軍政のプラユット暫定首相の続投を目指す親軍政勢力と、タクシン元首相派を中心とする反軍政勢力が多数派工作でしのぎを削っている。

 

アピラット氏は軍の政治的中立を強調したが、一方で汚職防止法違反で有罪判決を受け、国外逃亡生活を受けているタクシン氏を念頭に「法の裁きを受け入れず、国外で動き回っている人がいる」と批判した。【44日 朝日】

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アピラット司令官の発言は「正論」ではあります。特に、タクシン派と反タクシン派が互いに街頭行動で政権を揺さぶり、収拾不能な社会混乱を招いた経緯があるタイでは。

 

「正論」ではありますが、そもそも軍事政権によって軍部等に都合のいいような議会・選挙制度を含む新憲法体制がつくられ、野党・メディアによる政府批判は厳しく弾圧され、しかも選挙自体に“不明瞭なものが漂う”・・・・という状況にあっては、“結果を受け入れ、議会で戦う”ことの意味合いは、日本のような社会と同等に語ることは難しいとも言えます。

 

【圧力のもとでタクシン派善戦 新興勢力・新未来党躍進・・・・か?(今後の選管発表次第ですが)】

でもって、選挙結果は判然としませんが、いろんな形で軍政から圧力・制約を受け、選挙戦途中で王女の首相候補擁立問題で片輪をもがれた状態ともなったタクシン派が、「善戦」したとの評価が。

 

****タクシン派の善戦に終わったタイ総選挙****

「タクシン派」が取り組む政策の起源を考える

 

2019324日、タイの総選挙が終わった。326日付の日本貿易振興機構(ジェトロ)の「ビジネス短信」は、タイの公共放送PBSの報じた選挙結果を伝えており、それによれば、タイ貢献党が135議席で第1党、国民国家の力党が119議席、新未来党が87議席、民主党が55議席となっている。

 

ただし、2017年憲法によれば、首相の選出にあたっては、今回公選された500議席の下院に加えて250議席の上院にも投票権がある。そして、上院は事実上軍政の任命議員によって占められている。

 

その結果、首相選出に必要な議席数は、750議席の過半を超える376議席以上となる。PBSの速報通りであれば、軍政側は、既に369議席獲得しており、52議席を獲得したタイ誇り党との連立や、その他の未定を含む52議席のうちから、7議席を切り崩せば首相を指名することができる。

 

また、そもそも軍政寄りの民主党がどのように最終的な判断をするかは予断を許さない。

 

軍政寄りの民主党は惨敗

以上の情勢を踏まえた上でも、やはりタクシン派の善戦というのが今回の選挙結果の一つの総括であることに変わりないだろう。

 

今回の選挙は、小選挙区で選出される議席を減らしており、小選挙区制の特性を活用してきたタクシン派のタイ貢献党には厳しい選挙制度となっていた。

 

また、民主党が惨敗したことも今回の選挙の一つの総括であろう。同党はタイ貢献党と対立し、一時は親軍政党、タイ貢献党との三つどもえを演じるとも思われた。そもそも、政党でありながら軍政との距離を測りかねていた民主党は、新興政党である新未来党に惨敗したともいえる。

 

現職の強みを生かして軍政支持政党である国民国家の力党が政権を発足させるとしても、やはり国会運営や、次の選挙(?)でタクシン派の動向を無視することはできないだろう。ところで、タクシン派とはそもそもどのような人々なのだろうか。(後略) 44日  高木佑輔氏 日経ビジネス】

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上記高木氏の記事は、タクシン派の人気の根源となった「30バーツ医療制度」がどのように実現されたのかが詳述されており興味深いものですが、本旨とは少し離れますので割愛しました。

 

タクシン派というと米の買取り制度のような“ばらまき”的な施策がイメージされますが、そういう面だけではないようです。(“ばらまき”はタクシン派でも軍事政権でも似たり寄ったりですし、誰を対象に“ばらまく”かに、その政権の目指すものがうかがえます)

 

【未来新党党首への卑劣な圧力 「なぜ議会で闘わないのか」】

選挙結果の話にもどると、“タイの公共放送PBSの報じた選挙結果を伝えており、それによれば、タイ貢献党が135議席で第1党、国民国家の力党が119議席、新未来党が87議席、民主党が55議席となっている。”という数字が現実のものになるなら(“不明瞭なものが漂う”選挙管理員会がどのような公式発表をするのかは定かではありませんが)、タクシン派の善戦とともに、新興勢力である新未来党の躍進が目立ちます。

 

完全に老舗政党・民主党を蹴落としたようです。

 

ただ、先ほどの「なぜ議会で闘わないのか」というアピラット司令官への反論にもなりますが、躍進した、かつ、反軍政を明らかにしている新未来党に対し、軍政当局による“議会の外での”不当な圧力がかけられています。

 

****タイ、人気の新党党首に扇動容疑 「政治的動機」と批判噴出****

タイ警察は6日、3月の下院総選挙で大躍進して第3党となるのが確実となっている革新政党「新未来党」のタナトーン党首(40)を首都バンコクの警察署に呼び出し、扇動などの容疑が掛けられていることを告知した。

 

新未来党は、軍政と対立するタクシン元首相派陣営に加わることを表明しており、タナトーン氏に対する訴追に向けた動きは「政治的動機に基づくもの」との批判が噴出している。

 

タナトーン氏は、5人以上の集会が禁止されていたにもかかわらず、20156月に反軍政を訴える集会を開催した活動家らを支援するなどした疑い。タナトーン氏は容疑を否認している。【46日 共同】

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****タイ新未来党党首が出頭、反軍政デモ幹部の逃走手助け容疑を否定****

タイの民政復帰に向けた3月24日の総選挙で、下院第3党になるとみられる新未来党のタナトーン党首が6日、バンコクの警察署に出頭した。2015年に実施された反軍事政権デモにかかわったとして、国家平和秩序評議会(軍政)から扇動罪など三つの容疑で告訴されたため。タナトーン氏は否認した。

 

14年5月のクーデター後、戒厳令が敷かれ5人以上の政治集会が禁止された。タナトーン氏はデモ幹部の逃走を手助けしたなどの疑いが持たれている。

 

「タナトーンを救え」。警察署を取り囲む支持者数百人がシュプレヒコールを上げるなか、タナトーン氏はこの日午前10時に出頭。2時間半後に建物を出て記者団に改めて「無実」を主張した。5月15日までに弁明書を提出するという。

 

支持者の男性(67)は「今ごろ告訴だなんておかしい。タナトーン氏は軍政に攻撃的なので圧力をかける狙いだろう」と話した。

 

新未来党はタクシン元首相派政党「タイ貢献党」と反軍政勢力の中核を担っている。【46日 毎日】

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このような卑劣かつ露骨な圧力を辞さない軍政当局に対してこそ、アピラット司令官は「なぜ議会で闘わないのか」と言うべきでしょう。

 

 

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タイ総選挙 勢いをそがれたタクシン派 立場を利用する政権側 “生きのいい”新党も

2019-03-19 23:16:36 | 東南アジア

(「若者は強権的な古い政治から、民主主義の新しい政治への変化を求めている」と語る「新未来党」タナトーン党首【3月17日 西日本】)

【タクシン派 「奇策」失敗で苦しい展開に】
24日に実施されるタイの民政復帰に向けた総選挙については、2月8日ブログ“タイ総選挙に衝撃 タクシン派政党がウボンラット王女を首相候補擁立 にわかに波乱含みの展開に”で扱ったタクシン派政党の奇策で流れは一気にタクシン派側に傾くのか・・・とも思ったのですが、周知のようにその夜の国王の反対を受けて王女擁立断念、政党自体も解党に追い込まれ、逆にタクシン派は窮地に追い込まれるという目まぐるしい展開をみせました。

****タクシン派政党に解党命令 王女擁立「中立脅かす」 タイ憲法裁****
タイの憲法裁判所は7日、24日に実施されるタイの総選挙に向け、ウボンラット王女を首相候補に擁立しようとしたタクシン元首相派のタイ国家維持党の解党を命じた。同党の候補者は立候補資格を失う。タクシン派はタイ貢献党という主要政党が残るものの、厳しい選挙戦を余儀なくされることになった。
 
「この決定に非常に当惑している」「我々は純粋な意図で国のためになることをしようとした」。法廷から硬い表情で出てきた国家維持党のプリチャーポン党首は、報道陣に囲まれながらこう話した。
 
発端は2月8日、国家維持党がワチラロンコン国王の姉のウボンラット王女を、党の首相候補として選挙管理委員会に届け出たことだ。2014年のクーデターで自派の政権を覆されたタクシン派にとり、王女の擁立は政権奪還に向けた「妙手」のはずだった。
 
だが、その日の夜に国王が王女の政治関与を「非常に不適切」とする声明を発表。選管も王女を候補として認めず、逆に憲法裁に同党の解党を申し立てた。
 
同党は「擁立には王女の同意があった」と反論したが、憲法裁はこの日、王女の擁立は王室の政治的な中立性を脅かし、政党法が禁じる立憲君主制に敵対する行為だったとして、解党を命令した。幹部らの選挙への立候補や政党設立などを10年間禁じることも言い渡した。
 
ウボンラット王女は解党について、自身のインスタグラムに「悲しいことだ」と投稿した。
 
■軍政からの政権奪還に逆風
民政移管に向けた今回の総選挙は、軍事政権のプラユット暫定首相を首相候補に据え、軍主導の政権の継続を目指す国民国家の力党などの親軍政勢力とタクシン派などの反軍政派、双方と距離を置く民主党などが争う構図となっている。
 
世論調査の政党支持率で首位を走っているのは、農村や都市の貧困層から根強い支持を受けるタイ貢献党だ。だが、軍政下で導入された小選挙区と比例代表制による今回の選挙制度は特定政党が大勝できない仕組みになっており、タクシン派は国家維持党に勢力を分散し、双方で議席を確保する戦略をとっていた。
 
貢献党は350の小選挙区のうち250選挙区にしか候補を立てておらず、174選挙区に擁立した国家維持党の解党で、タクシン派候補がいなくなる選挙区が出る。反軍政を掲げる別の党に票が流れるとの見方があるが、タクシン派を目の敵にしてきた親軍政派にプラスに働くのは確かだ。
 
また、総選挙後の首相指名選挙では、事実上軍政が任命する250人の上院議員が、総選挙で選ばれる下院の500人とともに投票に加わる。

上下両院合計の過半数は376人。上院議員が親軍政派に同調する可能性が高いことを考えると、親軍政派はプラユット氏を首相に就けるために総選挙で126議席を取ればよいことになる。
 
専門家は「タクシン派は下院では第1党になるだろうが、政権奪還という意味では解党が逆風であることは間違いない」と話す。【3月8日 朝日】
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ウボンラット王女が首相候補を受諾するにあたって、兄のワチラロンコン国王に何も伝えていなかった・・・・というのは、考えにくいようにも思うのですが・・・・。(二人は別に疎遠という訳でもなく、親密な関係にあるとも言われていますので)

それはともかく、タクシン派の方でもある程度はこういう事態を想定したうえでの、主力政党ではない分派政党での擁立だった・・・・ということでしょうか?

いずれにしても、流れは再び親軍政党・軍部側に。
タクシン派の貢献党は第1党となっても、首相選出などでは苦しい状況にも。

****タイ総選挙 連立視野に3勢力が主導権争い “軍政延命”焦点****
タイの民政復帰に向けた総選挙(下院、定数500)は24日の投票日まであと4日。総選挙は約8年ぶりで、2014年から続く軍事政権の事実上の延命を許すかどうかが最大の焦点だ。

プラユット暫定首相の続投を目指す「国民国家の力党」などの親軍政派と「タイ貢献党」などタクシン元首相派とが対抗。これに両派と距離を置く民主党などが絡み、選挙後の連立を視野に主導権を争う。
 
18日、バンコクで開かれたタイ工業連盟の討論会に各党の首相候補らが顔をそろえた。
 
タイでも所得格差は問題となっているが、国民国家の力党は14日、1日の最低賃金を一気に約30%引き上げ、最高425バーツ(約1495円)にするとの公約を発表。タクシン派政党の支持者が多い農民ら低所得層の切り崩しを狙ったようだ。(中略)
 
一議席でも上積みし、選挙後の連立工作で主導権を握りたい各党は、実現性や持続可能性に疑問を投げかける報道を意に介せず、減税策や子供手当など、庶民受けする公約を並べる。
 
各種調査では、第1党は貢献党だが、過半数の確保は難しいとみられている。第2党は民主党だとみる調査が多いが、タイの政治専門家は「国民国家の力党だと分析する人もおり、競っているようだ」と語る。
 
選挙後の連立工作には「反軍政」と、「反タクシン派」という複雑な感情が交錯する。民主党は基本的には反軍政の立場だが、タクシン派も長年のライバルだ。

民主党党首で首相候補のアピシット元首相は、毎日新聞の取材に貢献党との連携の可能性を否定し、「国民国家の力党が我々との連立を検討する可能性がある」と指摘した。

一方、アピシット氏は別の場でプラユット氏の続投には反対だとも明言。貢献党が第1党となった場合、反タクシン派では共通する国民国家の力党と民主党のうち第2党になった方が政局の主導権を握る可能性があり、選挙前から相手に揺さぶりをかけている。
 
また、「軍の支配を終わらせる」ことが党の使命だと強調するタナトーン党首の新未来党は、政策や方針を共有できる政党と柔軟に連携する姿勢を示しており、総選挙で党勢が伸びれば重要な役割を果たす可能性もある。(後略)【3月19日 毎日】
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【「それは安定とは言わない。圧政だ」 “生きがいい”「新未来党」 どこまで議席にむすびつか】
旧態依然のタクシン派、軍事政権維持勢力、民主党がバラマキ政策の人気取り公約で争うという構図の中では、どこまで議席をのばせるかはわかりませんが、タナトーン党首の新未来党が新鮮味があります。

****タイ「新未来党」が存在感 総選挙、700万人新有権者に注目****
24日に予定されるタイ総選挙では、初めて投票する18〜25歳の新有権者が約700万人にのぼる。総選挙の実施が約8年ぶりとなるためで、全有権者の1割を超える。

2014年から続く軍事政権下で育った若者の票の行方が注目される中、軍政批判と変革を訴えて存在感を増しているのがタナトーン党首(40)率いる「新未来党」だ。

タナトーン氏は毎日新聞の取材に「タイに民主主義を取り戻す」と意気込んだ。
 
タナトーン氏は、タイ自動車部品製造大手の創業者一族出身で、副社長だった昨年、新未来党を結成。党の世論調査での支持率は、タクシン元首相派の中核政党「タイ貢献党」や親軍政政党「国民国家の力党」などに次ぐ4位だが、若者の間での人気は高い。
 
選挙戦終盤の14日、新未来党は提唱する次世代交通システム「ハイパーループ」の調査結果を発表。ハイパーループは、減圧されたチューブ内を列車が高速移動する。軍政には高速鉄道計画はあるが、タナトーン氏は「高速鉄道は15年もすれば時代遅れになる。最初から次世代のシステムを目指すべきだ」と語った。
 
こうした「変革」を志向する姿勢は選挙戦での主張にも表れる。タナトーン氏は「軍の支配を終わらせ、軍政下で制定された憲法を改正する」のが党の使命だと強調。国防費の大幅削減も提言する。
 
そのうえで「どの政党も下院(定数500)で過半数を確保できない」との見通しを語り、新未来党の方針を共有できる政党とは、連携が可能だとの認識を示した。
 
軍政下でタイは安定を取り戻したとの意見もあるが、タナトーン氏は「それは安定とは言わない。圧政だ」と一蹴。政権批判をしたことで自身が刑事訴追される可能性があることを例に出して反論した。【3月17日】
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「それは安定とは言わない。圧政だ」・・・・生きがいいですね。

タナトーン氏は軍政を批判し、クーデターを禁じる憲法改正や軍の人員半減などの公約を打ち出しており、「基本的人権を尊重し、東南アジアの希望でもあった以前のタイを取り戻したい」と語っています。【3月17日 西日本より】

政権からの圧力もあるようで、“タイ選挙管理委員会は14日、若者に人気の革新政党「新未来党」のタナトーン党首(40)に関する経歴詐称の調査を終了したと発表した。選挙関連法に違反する証拠が見つからなかったとし、不問に付した。”【3月15日 NNA ASIA】とも。

“人気が高まる半面、タナトーン氏が過去にインターネット上で行った軍政批判の違法性を指摘する告発も相次ぐ。解党されるリスクをはらむが、タナトーン氏はこうした圧力について「全く恐れていない。むしろ批判する側が私たちを恐れている」と一蹴した。” 【3月17日 西日本より】・・・・やっぱ生きがいいですね。

この生きのよさがどこまで議席にむすびつか・・・ですが、“進歩的な考えに対して特に若年層を中心に人気を集め、軍政の警戒心を買っている。ただし政党としては新しいため、候補者の多くは政治家としての地方での活動経験がなく、小選挙区での大政党のような議席獲得は見込めない。その代わりこのような政党への票は、今回の制度の下で比例区の議席となる可能性がある。”【3月15日 真辺 祐子氏 NIDS コメンタリー】とのこと。

主要政党の潰し合いの結果、キャスティングボードを握る立ち位置に立つ可能性もありえます。

【政権側の“不公平な選挙キャンペーン” 野党側に跳ね返す力・勢いは?】
プラユット暫定首相は、その立場を利用した「選挙活動」で親軍政党をてこ入れしています。

****タイ軍政の暫定首相、反対派の地盤を視察 念頭に選挙か****
タイ軍事政権のプラユット暫定首相が13日、東北部のコンケンとナコンラチャシマを訪れた。週末には北部のチェンライを訪問する予定だ。

いずれも公務による視察という名目だが、東北部と北部は24日の総選挙で親軍政派が対立するタクシン元首相派の地盤。選挙戦最終盤での親軍政派への「てこ入れ」との見方がもっぱらだ。
 
プラユット氏は親軍政派の国民国家の力党の首相候補だが、現職の首相が政党の集会などで演説をすれば選挙法関連法に違反する恐れがあると指摘され、党の選挙運動への参加を見送っている。
 
一方で、国民国家の力党はタクシン派の地盤では苦戦を強いられているとの見方が強く、選挙最終盤で東北部と北部での運動に力を入れている。

プラユット氏の視察先は党が最近、選挙集会などを実施した県とほぼ一致しており、「視察という形で有権者に姿を見せることで、党を支援する目的があるのは明らか」と政界筋はみる。
 
プラユット氏は13日、コンケンで鉄道施設などを視察した後、ナコンラチャシマの大学構内で演説。5年近くにわたる自らの政権下での成果を強調し、「(選挙で)決めるのはあなたたちだ」などと述べた。
 
プラユット氏は、週明けには南部のナコンシータマラートも訪れる予定。南部はタクシン派や親軍政派とも距離を置く民主党の地盤で、南部でもてこ入れを図るとみられる。【3月14日 朝日】
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これまでも、政権側はその立場を利用して“不公平な選挙キャンペーン”を展開してきました。

****不公平な選挙キャンペーン****
2014 年 5 月 22 日クーデター以降、政治活動や 5 人以上の集会は禁じられてきた。選挙に向けて徐々に政党の活動が解禁されてきたものの、反軍政的な言論は処罰の対象となり、政党によるオンラインでの政治活動にも厳しい監視の目が向けられている。

軍政は、これまで「コンピューター関連犯罪法」を解釈し、オンラインでの不敬及び反軍政的言論を抑える手段としてきたが、選挙活動においても反軍政的性格の強い新未来党党首らのフェイスブック投稿や同党ウェブサイトなどに同法を適用した訴えを度々起こしている。

反軍政的性格の政党は、限られた言論の自由と共に、主要プラットフォームであるソーシャルメディアを監視された上に、解党のリスクと背中合わせの選挙戦を強いられている。

なお、 今回の選挙で初めて投票をする有権者は約 700 万 人おり、新未来党の主要支持層であるソーシャルメディアを積極的に使用する若年層が多く含まれる との分析もある9。

一方で、軍政の元閣僚が組織し、プラユット現首相を首相候補と掲げる国民国家の力党は、新年の低 所得者への 500 バーツ支給などの多くのバラマキ 政策や、地方遊説、SNS のオフィシャルページで の広報など、現役首相として政治活動が禁止されていた他政党に先駆けて事実上の選挙キャンペーンを行ってきた。

これに関して、選管は、(下院議員 選挙法 78 条で国家公務員の地位や職権の使用を禁 じているが)首相候補であるプラユット現首相が選挙キャンペーンに関与することは問題ないとの見 解を示している。

国民国家の力党は、昨年末には 6 億バーツを集めたとされる政治資金パーティーを開催したが、これも問題ないとしている。

現役首相 であるプラユットは、5 年近い政権運営で知名度は 抜群な上、治安維持を名目に多くの権限を有し、5 年近い政権運営で選挙後も拘束力のある長期戦略を持つため、現政権や首相自身への賛否が選挙の争点となっている面がある。【3月15日 真辺 祐子氏 NIDS コメンタリー】
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やりたい放題ではありますが、このあたりはタイに限らず多くの国でも見られることです。
野党側には、こうした“不公平”を跳ね返すだけの力・勢いが求められます。

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フィリピン  中国寄り姿勢、麻薬問題対  “我が道”を行くドゥテルテ大統領

2019-03-18 23:03:57 | 東南アジア

(フィリピンの首都マニラで、給水車と消防車による給水の順番を待つ市民ら(2019年3月15日撮影)【3月17日 AFP】)

【アメリカは中国からフィリピンを防衛とは言うものの、ドゥテルテ大統領の心中は・・・】
下記の記事を目にして、ちょっと奇異な感じもうけました。

****南シナ海でフィリピンに攻撃あれば米が防衛、ポンペオ氏 中国けん制****
マイク・ポンペオ米国務長官は1日、南シナ海の大半の領有権を主張する中国を念頭に、同海域でフィリピンに対する武力攻撃が行われた場合には相互防衛条約に基づいて同国を防衛すると明言した。
 
ポンペオ氏はフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領との会談後、記者会見を行い、その中でフィリピンなどが領有権を主張する南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)で中国が推し進めている人工島建設について、米比両国にとっての潜在的脅威だとの認識を示した。
 
ポンペオ氏は「南シナ海における中国の人工島建設や軍事活動はフィリピンのみならず、米国の主権や安全保障、ひいては経済活動をも脅かしている」「南シナ海は太平洋の一部であり、フィリピン軍や航空機、公船に対する武力攻撃が行われた場合には米比相互防衛条約の第4条に基づき、相互防衛義務を発動する」と明言した。
 
米政府高官が南シナ海における同盟国防衛について公式に発言したのは今回が初めて。 【3月1日 AFP】****************

アメリカが南シナ海で中国と覇権を争っているのは今更の話ですし、そのアメリカとフィリピンが同盟関係にあるのも事実ですから、本来は“奇異”でもない、当たり前の話のはずです。

にもかかわらず奇異な感じがぬぐえないのは、ドゥテルテ大統領は就任以来の反米的発言を繰り返し、中国と領有権を争う南シナ海問題について、2016年7月、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が中国主張を退ける判決を出したにもかかわらず、この自国有利の判決を棚上げするかのように中国との“蜜月”を進めているからです。

ドゥテルテ政権の「中国寄り姿勢」を示すものとしては、最近では以下のようなものも。

****米国務長官「ファーウェイは脅威」、比国防相「心配する理由ない」****
2019年3月2日、観察者網は、米国のポンペオ国務長官が訪問先のフィリピンで、ファーウェイの脅威について伝えたところ、同国のロレンザーナ国防相から否定されたと伝えた。

記事は、比メディアの報道を引用。「1日にポンペオ国務長官は、ファーウェイが透明性に欠けており、フィリピンに対してリスクとなるため、ファーウェイと合意や契約をしないよう勧め、米国企業こそ最良のパートナーだと語った」と伝えた。

これに対し、ロレンザーナ国防相は、ファーウェイを心配する理由はないとの見方を示し、「(何の問題も)見当たらない。われわれはとてもオープンであり、彼ら(ファーウェイ)はフィリピン全土に行くことができるのではないだろうか」と答えたという。

ロレンザーナ国防相は、「私たちには何の秘密もない。米国人に対してであっても、私たちに何か隠せるものなどあるだろうか」とも述べ、「情報と通信技術部の役人は、その職責を全うしている。彼らは私に、きちんと審査をしており、私たちの安全が損害を受けることはないと保証した」とも語った。【3月4日 レコードチャイナ】
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****フィリピンは中国への借金に溺れている?比財務相「なぜ日本のことは言わない?」****
2019年3月10日、中国メディアの観察者網は、フィリピンのカルロス・ドミンゲス財務相がこのほど、同国が中国への借金に溺れているとする主張に反論したと報じた。

記事は、フィリピン華字紙・世界日報が7日、「ドミンゲス財務相は、フィリピンが中国への借金に溺れているとする可能性を却下した」と報じたことを紹介した。

それによると、ドミンゲス財務相は「ドゥテルテ大統領の任期が終わる頃には、フィリピンは依然として中国以外の国々に多くの債務を負っているだろう」と指摘した。

その上で、ドミンゲス財務相は「22年末までに、中国から資金提供されたすべてのプロジェクトにおける債務額が、国の債務総額に占める割合は4.5%になるとみられる。一方、日本への借金が債務総額に占める割合は9.5%になるとみられるが、私はなぜ人々が『フィリピンが日本への借金に溺れている』とは言わないのか分からない」と述べたという。【3月10日 レコードチャイナ】
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日本からの借金ならよくて、どうして中国からの借金は問題視されるのか?・・・との主張です。

中国からの借金については、「債務のわな」云々の議論はありますが、今回はその点はパスします。

こうした政権の中国寄り姿勢はドゥテルテ大統領の意向を反映したものでしょう。

さすがにドゥテルテ大統領も最近では露骨な反米発言は耳にしなくなりました。(ウマが合うトランプ大統領登場のせいでしょうか)

ただ、就任以来の言動を考えると、オバマ前大統領当時の人権問題批判もあるでしょうが、要するに“アメリカが嫌い”ということなのでしょう。そこには、植民地支配していたアメリカとフィリピンの歴史問題もあるでしょう。

冒頭のポンペオ米国務長官のフィリピン防衛義務発言にしても、フィリピンにとって中国・アメリカの間でバランスをとるというのは、極めて重要な安全保障戦略ですからドゥテルテ大統領も何も言いませんが、おそらくドゥテルテ大統領は心中“誰がアメリカに防衛を頼むか!いつまでも主人面するんじゃねえよ!”といったところではないでしょうか。もちろん私の勝手な妄想です。

【フィリピン世論はアメリカに高い信頼】
ドゥテルテ大統領の“アメリカ嫌い”“中国寄り”にもかかわらず、フィリピン世論はアメリカへの信頼が高いようです。

****フィリピン世論 中国に警戒感****
(中略)
フィリピンのドゥテルテ政権が進める「米国離れ中国寄り政策」にも関わらず、フィリピン人が最も信用し頼りにしている国は米国で、中国に対しては「過度の信用は禁物」と警戒感を抱いていることが世論調査の結果から浮き彫りとなった。

世論調査は、フィリピンの民間調査会社「パルス・アジア」が2018年12月14日から21日にかけてフィリピンで1800人の成人を対象に実施したもので、1月15日のフィリピン紙「フィリピン・スター」などが伝えた。

その結果によると、フィリピンが今後さらに関係を強化するべき信頼する国として84%の人が米国を挙げた。これは2017年3月の同様の調査での回答79%を上回るもので、フィリピン人の米国への信頼度がさらに高まっていることを反映している。

米国に次いで信頼する国として日本が75%、オーストラリアが72%と続いており、日本に対するフィリピン国民の信頼度も高いことを示している。

一方、南シナ海でフィリピンと領有権争いをしている当事者でもある中国については信頼できるとしたのは60%で前回の63%より微減している。そして40%が「中国を過度に信用すべきではない」と回答し、警戒感を抱いていることも分かった。【1月19日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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****中国人留学生による「豆腐花ぶっかけ事件」、フィリピンに反中感情か****
2019/02/15 15:10
2019年2月14日、米華字メディア・多維新聞によると、フィリピンに留学中の中国人の女が起こした「豆腐花ぶっかけ事件」が現地の反中感情に火をつけたもようだ。

この事件は、液体の持ち込みが禁止されている地下鉄に女が豆乳デザートの「豆腐花(豆花)」を持って乗ろうとしたことが発端となった。女は「食べ終わってから乗るように」という警備員の指示を拒否し、通報を受けて現場に来た警察官に豆腐花を浴びせかけ、逮捕された。

記事が英BBCの報道を引用し伝えたところによると、同国のロブレド副大統領は「全てのフィリピン人を侮辱した」と女を非難。ある大学教授は「フィリピンの人々の強烈な反応は多くのフィリピン人の中国に対する態度を明確に示している」と話し、「近年、大勢の中国人がフィリピンに流れ込み、オンラインカジノの仕事に関わっている。多くの中国人旅行者がフィリピンを訪れていることもフィリピン人にネガティブな対中感情を持たせている」と指摘したという。

ドゥテルテ大統領はこれまでのところ、事件についてコメントしていないが、大統領報道官は「個別的な事件であり、あおり立てるべきではない」と強調している。【2月15日 レコードチャイナ】
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【強硬な麻薬問題対策への批判は受け入れず】
一方、超法規的殺人を含む麻薬対策はおおむね国内的には好評なようで、大統領支持率も高いレベルを維持しています。

*****ドゥテルテ大統領はフィリピンの救世主である****
(中略)
先日、ビサヤ諸島出身でバルセロナに叔母のいる、スペインの血筋を引く女性と食事をする機会があった。彼女はこういった。
 
「少し前にもマカティのナイトクラブが閉鎖されたわ。薄暗くてそこでドラッグが売買されていたの。ドラックにかかわるお店が閉められるのはいいことよ。大統領、もちろんドゥテルテがいいわ。(中略)」
 
ドゥテルテが3期25年も知事として君臨したダバオはまれにあるイスラム過激派のテロを除けば、東京と同じほど治安のいい街である。(中略)

「心配なのは、もし大統領がドゥテルテから他の人に変わったら、元のフィリピンに戻ってしまうんじゃないかってことね」 彼女はやや不安気にいった。
 
数々の暴言があっても、ドゥテルテ大統領の支持率は76%である(2019年1月14日付け 日刊まにら新聞)。(後略)【2月9日 WEDGE】
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ドゥテルテ大統領は、麻薬問題での国際的人権批判に歩み寄る姿勢は全くないようです。

****フィリピン、国際刑事裁判所から正式脱退 麻薬戦争めぐる予備調査に反発****
フィリピンは17日、国際刑事裁判所から正式に脱退した。ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の推進する麻薬撲滅戦争をめぐってICCが予備調査を開始したことを受けての対応だ。ただ、ICCは違法な殺人が横行している疑惑の調査を続行する方針を示している。
 
フィリピンのICC脱退は、ICCの設立条約「ローマ規程」に基づき、昨年3月にドゥテルテ大統領が国連に脱退を通告してからちょうど1年後の17日に発効した。(中略)
 
戦争犯罪を裁く世界唯一の常設裁判所であるICCは、ドゥテルテ大統領の麻薬撲滅戦争で多数の死者が出ており、国際的な批判が高まったことを受け、昨年2月に予備調査を開始。フィリピン政府はこれに反発し、脱退を表明していた。
 
ただし、ICCは麻薬撲滅戦争において「人道に対する罪」があったかどうかをめぐるファトゥ・ベンスダICC主任検察官の予備調査は続行されると表明している。ローマ規程では、締約国の脱退発効前にICCで審議されていた問題は全て、脱退後もICCが司法権を有する。

 一方、フィリピン大統領府のサルバドール・パネロ報道官は17日、「フィリピンがローマ規程の締約国だったことはない」と述べ、批准過程を完了していなかったとの立場を強調。ICCは「実在しない法廷であり、その行動は無益だ」と主張した。ドゥテルテ大統領はすでに、ICCの調査には一切協力しない姿勢を明らかにしている。

ICCをめぐっては近年、脱退の動きが広がっているほか、予想外の無罪評決・判決が下されるなど、逆風が吹いている。

2017年にアフリカ中部ブルンジが世界で初めてICCから脱退した後、ザンビアや南アフリカ、ケニア、ガンビアなどアフリカ諸国が、アフリカ人への偏見があるとして脱退の意向を表明している。 【3月18日 AFP】
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ドゥテルテ大統領の看板政策である麻薬取り締まりを巡り、すでに数千人(5000人とも)の容疑者が警察や謎の組織によって殺害されています。その中には根拠のないもの、警察不正の口封じも含まれています。

この強硬姿勢によって治安が回復したのは事実でしょうが、だからといって、超法規的に“社会に害をなす者”を殺していいということにはなりません。

その暴力は、麻薬犯罪者だけに向けられる保証もありません。いつの日か“政府にたてつく者”に向けられることも。

****政権批判のメディア経営者逮捕、中傷容疑で フィリピン****
フィリピン国家捜査局は13日、ネットメディア「ラップラー」の最高経営責任者マリア・レッサ氏を、インターネットを使った中傷の容疑で逮捕した。ラップラーはドゥテルテ政権批判を恐れない姿勢で知られ、政権によるメディアへの圧力を懸念する声が上がっている。
 
問題とされたのは2012年5月の記事。麻薬密輸などへの関わりがあると指摘された男性が「悪意をもって私をおとしめようとしている」として、17年になって被害を申し立て、フィリピン法務省が「サイバー犯罪法」に違反するとしてレッサ氏を告発していた。
 
ラップラーは、ドゥテルテ大統領支持のネット世論が偽アカウントから拡散していることや、政府による麻薬犯罪取り締まりで、犯罪に関わったとされる市民が殺されていることなどを批判してきた。
 
これに対し、ドゥテルテ氏は「フェイク(偽)ニュースの媒体」とラップラーを批判している。昨年1月には、ラップラーが米国の投資家に預託証券を発行して資金調達したことが、外資によるメディア経営を禁じる憲法に違反するとみなされ、フィリピンの証券取引委員会から企業認可取り消しを命じられた。同2月からは同社記者の大統領府取材が禁じられている。
 
ラップラーは13日、「我々はジャーナリストとしての仕事を続け、私たちが見聞きした真実を報じ続ける。脅しには屈しない」との声明を出した。【2月13日 朝日】
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以下の体罰に対する考えも、麻薬問題への実力行使路線に沿うものでしょう。

****子どもへの体罰禁止法案、ドゥテルテ大統領が署名を拒否 フィリピン****
フィリピン上下院が可決した子どもへの体罰を禁止する法案について、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が拒否権を発動したことが分かった。フィリピン大統領府が2月28日、明らかにした。
 
法案は、親や教師が仕置きやしつけ目的で子どもに体罰、精神的な暴力、人格をおとしめる行為を加えることを禁ずる内容。常習者に対しては、怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」のカウンセリング受診を義務付けている。
 
だがドゥテルテ氏は2月28日に出した声明の中で、「欧米諸国で、子どもに対するあらゆる種類の体罰を時代遅れなしつけとみなす傾向が高まっていることは認識している」とした上で、「わが国はこうした流れにあらがうべきだと、私は固く信じている」と法案に署名しない理由を説明。親は子に体罰を与えても構わないとの見解を示した。
 
ドゥテルテ氏は、現在は15歳となっている刑事責任年齢についても引き下げを主張している。自身が進める「麻薬撲滅戦争」へのてこ入れが狙いとみられるが、これまでに密売容疑者とされた5000人以上が殺害されている。 【3月3日 AFP】
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下記の記事などは、ドゥテルテ大統領の歴史認識にかかわるものでしょう。

****フィリピン国名、マハルリカに? 大統領、植民地由来に嫌悪****
フィリピンの国名が「マハルリカ」になるかも―。ドゥテルテ大統領が演説で植民地由来の国名を変更する考えに言及し、国内で論議を呼んでいる。
 
「マルコスは正しかった。彼は『マハルリカ共和国』に変えたかったのだ」。ドゥテルテ氏は2月11日の演説で、長期独裁政権を敷いた故マルコス元大統領を持ち出し、改名に前向きな意向を明らかにした。
 
フィリピンという国名は、16世紀に宗主国だったスペインのフェリペ皇太子(後の国王フェリペ2世)にちなんでいる。
 
マハルリカの意味は、マレー語の「自由」の派生語やサンスクリット語の「気高く誕生した」など、複数の説がある。【3月9日 共同】
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ドゥテルテ大統領の独自路線は当分続きそうです。

【対応が遅れる首都マニラの水不足】
なお、フィリピンには麻薬以外にも緊急を要する問題もあるようです。

*****フィリピン首都で「最悪」の水不足、輪番断水で給水車には長蛇の列*****
フィリピンの首都マニラが、ここ数年来で最悪の水不足に見舞われている。給水車の前にはバケツを手にした市民が一家総出で数時間待ちの大行列をつくっているほか、複数の病院が重篤患者以外の受け入れを取りやめた。
 
マニラでは少雨に加え、水道インフラの不備により水不足が発生。人口約1300万のうち、およそ半分の世帯が1日4時間から20時間におよぶ輪番断水の対象となり、10日ほど前から市民生活への影響が表れ始めた。(中略)

マニラでは、1985年から人口が倍増し大都市となった首都の成長速度に追い付かないまま、水道水供給網やダムの老朽化が進んでいる。政府も、水需要の急増による問題はかなり前から存在すると認識してきた。

だが、水道水供給能力の拡大プロジェクトは遅滞しており、こうした問題に対応できていない。 【3月17日 AFP】
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インドネシア・パプア州  襲撃事件、国軍の掃討作戦で混乱も ミャンマー“ロヒンギャ”のミニ版

2019-02-25 22:21:31 | 東南アジア

(インドネシア東部パプア州ワメナで、仮設の避難所で授業を受ける子どもたち(2019年2月12日撮影)【2月24日 AFP】)

【蛇で尋問 背景に少数民族への差別・優越意識、独立運動の存在、軍・警察の強権体質】
ニューギニア島は日本の国土の約2倍、世界の島の中ではグリーンランドに次ぐ面積第2位という大きな島です。

西半分は独立国家のパプアニューギニアで、東半分はインドネシア領のパプア州・西パプア州となっています。

2週間ほど前、そのインドネシアのパプア州で警察による蛇を使った尋問(“拷問”と呼ぶべきでしょう)が話題になりました。

****蛇で尋問 動画拡散 警察が謝罪 インドネシア・パプア州****
インドネシア東部パプア州の警察署で、警察官が巨大な蛇を使ってパプア人男性を「尋問」する様子を撮影した動画がネット上に拡散。

人権団体などからの抗議を受け、警察署長が「ふさわしくない方法だった」と謝罪した。ロイター通信が伝えた。
 
映像では後ろ手に縛られ、首に蛇を巻き付けられた男性に対し、捜査員が蛇の顔を押しつけながら、携帯電話の盗難について質問。「何回盗んだ」との質問に「2回だけ」と答える様子などが記録されている。
 
同州ジャヤウィジャヤ警察のスワダヤ署長は謝罪文を発表し、「蛇は毒のない種類で人に慣れていた」と釈明した。
 
パプア地方ではインドネシアからの分離独立を求める小規模な武力闘争や非暴力の住民運動が続き、治安部隊による人権侵害が繰り返し報告されている。パプア問題に詳しい弁護士は「パプアでの蛇を使った『拷問』は初めてではない」としている。【2月11日 毎日】
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蛇嫌いの私としては、ニュースを読んだだけで気分が悪くなりますが、「蛇は毒のない種類で人に慣れていた」云々は「そんな問題じゃないだろう!」といったところです。

この種の蛮行がまかり通る背景には、上記記事も指摘しているように、パプア地方で続くインドネシアからの分離独立運動の存在があります。

更に言えば、インドネシア多数派のパプア地方住民ら少数民族への蔑視があるとの指摘も。

****インドネシア警察、ヘビ押し付けて容疑者取り調べ 背景に少数民族への差別・優越意識****
<警察の尋問が行き過ぎた背景には、インドネシアが抱える少数民族への差別があったのか?>
インドネシアの東端、ニューギニア島の西に位置するパプア州の山間部にあるジャヤウィジャヤ県で、地元警察が窃盗の容疑で逮捕したパプア人男性の尋問に生きたヘビを使って脅している様子が2月8日にインターネット上の「ツイッター」にアップされ炎上。2月10日に地元警察の責任者が謝罪し、州警察のトップも事実関係の調査に乗り出す事態となっている。

インドネシアでは国家警察や国軍という治安組織による一般市民への人権侵害事件は後を絶たず、少数民族、宗教的少数派のキリスト教徒、さらにLGBTなどの性的少数者に対する行き過ぎた暴力がたびたび明らかになっている。

こうした背景には世界最大のイスラム人口を擁する国という宗教的理由や少数者への「非寛容性」が顕在化している現状、そして多数派の心中に潜在する差別感、優越感があるといわれている。

ヘビの頭を容疑者の顔や口に近づけ尋問
インドネシア各紙などの報道によると、インターネット上に動画が流出、拡散したのはパプア州中心部の山間部にあるジャヤウィジャヤ県警察の取り調べの様子。

窃盗容疑で逮捕された男性(名前、年齢不詳)が床に座らされ、両手を後ろ手に縛られた状態で首や身体に全長約2メートルのヘビが巻きつけられている。

動画をみると恐怖のために叫んでヘビから逃れようとする容疑者の男性に対して、警察官とみられる私服男性がヘビの頭部を近づけている。

容疑者の怖がる様子に対して周囲からは笑い声とともに、「(ヘビに)キスしろ」「口を開けろ」などの声が飛び、私服の警察官がインドネシア語で「携帯電話を盗んだのは何回だ」と問い詰め、男性が「2回だけだ」と「自供する」様子が収められている。

この虐待された男性は肌の色や頭髪などからパプア人とみられ、私服の男は男性のズボンの裾からヘビを中に潜り込ませようとしている様子も撮影され、すでに8万回近く再生されている。

これは警察官による容疑者の尋問の様子で、パプア州ではこうしたヘビを使った尋問がこれまでも行われていると人権活動家などが指摘していることも地元マスコミは伝えている。

謝罪したものの警察の調査は動画流出の"犯人探し"か

ジャワウィジャヤ県警察のトニー・アナンダ・スワダヤ署長はロイター通信に対し「容疑者の自供を得るための行為だったが適正な方法ではなかった」と謝罪の意を表明する一方、「使用されたヘビは毒のない種類のヘビで、人にも慣れているヘビだった」と弁解、男性に危害を加えるつもりでのヘビ使用ではないことを強調した。

さらに同県警察の上部組織に当たるパプア州警察のアハマッド・ムストファ・カマル報道官は「現在警察の監察部署による内部調査が行われている。もし違法行為が見つかれば相応の措置を取る」と話している。

インドネシア人記者は警察が表向き謝罪して警察官の人権侵害を立件しようとしていることに関し「問題は誰がこうした違法な尋問をしたかではなく、誰がこうした動画を外部に流出させたかであり、その"犯人探し"に躍起となっているのが実状」と警察組織内部の実態を打ち明ける。

パプア州の抱える特殊事情
パプア州は隣接の西パプア州とともに1998年に崩壊するスハルト長期独裁政権時代は、西端のアチェ、南東の東ティモールと並んでインドネシアからの武装独立運動が盛んで国軍は3地域を「軍事作戦地域(DOM)」に指定して内外のマスコミの現地入りを制限していた。

その一方で現地に精鋭部隊を派遣して武力鎮圧を続けた結果、「略奪、暴行、拷問、虐殺」などの人権侵害事件が多発、その大半が国際社会の指弾を受けながらも依然未解決あるいは迷宮入りとなっている。

アチェは2004年12月のスマトラ沖地震と津波を経てイスラム法(シャリア)が適用される特別な州としてインドネシアにとどまることを選択、東ティモールは2002年5月に住民投票を経てインドネシアからの独立を果たしている。

結果として旧DOMでパプアだけが細々ではあるものの依然として独立組織「自由パプア運動(OPM)」による独立武装闘争が継続しているという実情がある。

2018年12月2日にはジャヤウィジャヤ県に近いンドゥガ県でインフラ整備の道路建設現場で働くスラウェシ島などからの建設作業員が正体不明の武装集団に襲撃されて19人が殺害される事件も起きている。

増援部隊を派遣した国軍による武装集団の鎮圧作戦が展開中だが、国軍は「武装した犯罪集団」による犯行としているが、実際にはOPMの分派による犯行とみられており、依然として同州山間部の治安が不安定な状態であることが浮き彫りとなった。

根深いパプア人へ差別、偏見、優越感
こうした歴史的背景も今回のような治安組織によるパプア人への人権侵害の根底にあるとの見方は強い。

そうした差別意識、偏見、優越感は治安組織に限らず、中央政府などジャワ人主体のインドネシア全体に言えることでもある。

8月17日の独立記念日に最近はジョコ・ウィドド大統領以下閣僚、国軍・警察の首脳が各民族の伝統衣装で着飾って参列することが好例化している。その際にほぼ裸体に近く、野獣の牙や角、鳥の羽などでパプア人の格好をして喝采を浴びる人が必ずいる。

実際のパプアでは裸体に男性は「コテカ」と呼ばれるペニスケースだけという伝統的装束は相当な山間部に行くか、観光客向けでしか実際はないのだが、そうした衣装を身に付けることをパプア人は「未開民族みたいに馬鹿にされている」と感じていることを大半のインドネシア人は気づかない、あるいは気づかない振りをしているとの指摘がある。

今回のヘビを使った尋問のケーズは、たまたま動画が流出して大きな話題になっているが、こうした背景を考える時、インドネシアが掲げ、ジョコ・ウィドド大統領も主張する「多様性の中の統一」や「寛容性」という国是が所詮、少数派には無縁のものであるとの印象をどうしても拭えなくなる。【2月12日 大塚智彦氏 Newsweek】
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警察が、形ばかりの謝罪(あまり謝罪にもなっていませんが)の一方で、動画流出の“犯人探し”に躍起となっているであろうことは容易に想像できます。

パプア地方が受けている差別・貧困、「自由パプア運動(OPM)」による独立運動などについては、約1年前の2018年1月26日ブログ“インドネシア領ニューギニア  開発の遅れ、差別的処遇が生む貧困と独立運動”でも取り上げたことがあります。

インドネシア国軍の独立運動に対する人権無視・苛烈な弾圧は東ティモールでも明らかにされたところで、パプア地方における軍・警察の苛酷さもまた、容易に想像されるところです。

【建設作業員襲撃事件で拡大する混乱 軍は関与否定】
そうした状況で、上記記事にもある昨年12月の建設作業員襲撃事件が起きています。
犠牲となった作業員らは、国営建設会社イスタカ・カルヤの下、パプア州ンドゥガ県でインフラ設備を増強するために橋や道路の建設に当たっていたとされています。

****「殺すか、殺されるか」と犯行組織が主張 インドネシア大量虐殺****
インドネシア東部パプア州のジャングルで多数の建設作業員が殺害された事件で、犯行に及んだとする反政府武装組織は7日、殺害したのは作業員の姿を装ったインドネシア軍兵士であり、正当な軍事標的だと主張した。
 
この事件では少なくとも16人が殺害されており、現在も遺体の捜索が行われている。
 
パプア独立派の反政府武装組織、西パプア民族解放軍は、先週国営建設会社に雇われ働いていた約20人を殺害したと犯行声明を出している。
 
同組織で広報を担当する人物は「彼ら(作業員)は変装したインドネシア軍兵士であり、われわれの敵だ」「これは戦争だ。殺すか、殺されるかだ」と語った。また「われわれも(隣国)パプアニューギニアのように独立を希望する」と訴えた。
 
目撃者や軍の発表によると、作業員らの多くは後ろ手に縛られ、処刑されるかのように射殺された。逃げようとした作業員らは喉をかき切られ、ほぼ斬首された状態で発見された遺体もあったという。また事件の調査に携わっていたインドネシア軍兵士1人も殺害された。
 
当局によると、武装勢力40〜50人がジャングルへ逃げ込んでおり、軍が行方を追っている。
 
パプアニューギニアとの国境沿いにある同州で暮らすパプア人の多くはインドネシアを、土地を占領している植民者だとみなしており、貧困にあえぐ同州のインフラ強化はインドネシア政府が支配を強めるための手段だと受け止めている。
 
またインドネシアの治安部隊に対しては以前から、軍事力を乱用し、パプアの先住民であるメラネシア人の活動家や平和的な抗議行動の参加者らを超法規的に殺害している疑惑が持たれている。【2018年12月10日 AFP】
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貧困に取り残されたパプア地方住民の生活向上を可能とするインフラ強化を“インドネシア政府が支配を強めるための手段”とみなすことはどうでしょうか?

独立ありきの前提で言えば、インドネシア政府の行うことはすべて悪ということにもなるのでしょう。

なお、インドネシア政府の支配強化という線での話で言えば、20世紀初頭まではインドネシア政府にとってパプアは「使い道のない島」でしたが、現在は「インドネシア政府は資源が豊富なパプア地方を確固として掌握し続けるため、兵士や警察官を多数配置している。」【2016年12月1日 AFP】とのことです。

独立を目指す武装組織の主張の妥当性への疑問はありますが、体質的に人権などへの配慮に欠くインドネシア国軍の報復が峻烈だろうということもまた想像できます。

実際、現地では混乱が拡大しているようです。

****子ども数百人が戦闘逃れ避難か、インドネシア・パプア州****
情勢不安が続くインドネシア東部パプア州で、児童・生徒数百人が戦闘を逃れて避難したと、地元の非政府組織が明らかにした。

同地では、独立派ゲリラによって民間人の建設作業員が殺害された事件を受け、軍事的な報復措置が取られたとの報告があるものの、今のところ確認されていない。
 
パプア州では昨年12月、人里離れた森林地帯にあるキャンプで、政府の関連事業に携わる作業員16人が独立派ゲリラに殺害された。これを受け、装備が貧弱かつ組織化されていないゲリラと、強力なインドネシア軍との、散発的ながらも数十年にわたって続く衝突が一気にエスカレートした。
 
NGOや地元の教育当局者によると、この事件後に衝突が相次いだことを受け、同州ンドゥガ県当局は400人を超える児童・生徒を、隣接するジャヤウィジャヤ県の中心地ワメナに避難させたという。
 
NGO「ンドゥガのための人道ボランティア」の関係者はAFPに対して、「一部の子どもたちはトラウマ(精神的外傷)を負っている」と述べ、「軍服姿の兵士らが学校にやって来た際、(恐怖で)逃げ出した子どももいた」と明かした。
 
兵士らが放火や嫌がらせをしたり、家畜ばかりか民間人を殺したりしているとの訴えもある中、地元住民や活動家らによると、他にも多くの住民が隣接県に避難したか、森林地帯に逃げ込んだとみられるという。
 
地元の軍司令官は、子どもたちが避難した事実を認める一方、理由は軍の存在ではなく、域内の教員不足だと説明している。
 
NGO関係者によると、授業はテントの中で行われており、子どもたちは親族の家に滞在。児童・生徒と一緒に教員約80人も避難したという。
 
パプア州の教会指導者や活動家らと連絡を取り合っているという、弁護士のベロニカ・コマン氏は、ンドゥガの軍事作戦で避難を余儀なくされた人々は少なくとも1000人に上ると指摘。「インドネシア政府は軍事作戦を命令したものの、国内避難民への支援は全く行っていない」と語った。 【2月24日 AFP】
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【軍の報復による混乱、社会全体で強まる不寛容、制御できない指導者・・・・ミャンマー・ロヒンギャに共通する面も】
襲撃事件を契機に“装備が貧弱かつ組織化されていないゲリラと、強力なインドネシア軍との、散発的ながらも数十年にわたって続く衝突が一気にエスカレート”・・・・ミャンマーのロヒンギャ武装組織に対する国軍の民族浄化的弾圧を想起させます。

“兵士らが放火や嫌がらせをしたり、家畜ばかりか民間人を殺したりしている”とも言われる状況や、混乱・残虐行為への軍の責任を認めないあたりもそっくりです。

もちろん、ロヒンギャの方は70万人を超える難民ということで、弾圧の規模ははるかに大きいものになっていますが。パプアはロヒンギャ弾圧の“ミニ版”のようにも。

インドネシアにしても、ミャンマーにしても、民族的・宗教的少数派(パプア州住民の4分の3がキリスト教徒)への不寛容が根底にあって、国軍の強権的体質が弾圧を引き起こしているように見えます。

インドネシア全体についてのイスラム重視・宗教的不寛容の高まりについては、1月27日ブログ“インドネシア  世界最大の華人社会 大統領選挙に絡んで高まるイスラム重視の宗教的不寛容 ”でも取り上げました。

インドネシアのジョコ大統領もミャンマーのスー・チー氏も国民的人気は高い、比較的民主化には理解のある指導者ですが、多様性・寛容さを重視するとしていたジョコ大統領も大統領選挙に向けて、不寛容の流れに逆らえない・・・といったあたりは、ミャンマー国軍の弾圧を制御できない“かつての民主化運動の旗手”スー・チー氏にダブるところがあります。

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タイ総選挙に衝撃 タクシン派政党がウボンラット王女を首相候補擁立 にわかに波乱含みの展開に

2019-02-08 23:38:01 | 東南アジア

(ウボンラット王女 タイ王室の公式フェイスブックから【2月8日 newsclip.be】

【MITで理学士号(数学)、UCLAで教鞭、カンヌ映画祭に自作映画で参加、恋チュンで話題にも】
3月24日に予定されている民政復帰の出発点ともなるタイ総選挙ですが、今日午後、各メディアが一斉に報じている驚きのニュースが“ウボンラット王女”の話題です。

****タイ総選挙 “タクシン派”首相候補に王女 選挙戦に波乱**** 
3月24日に予定されるタイの総選挙で、軍事政権に対抗するタクシン元首相派政党の一つ「タイ国家維持党」は8日、ワチラロンコン国王の姉ウボンラット王女(67)を党の首相候補として選挙管理委員会に届け出た。

ウボンラット氏は米国人と結婚し王籍を離れたが、離婚後タイに戻り王族同様の扱いを受けている。国王のきょうだいが首相候補となるのは極めて異例。国民が王室を重視するなかで、ウボンラット氏の擁立は選挙戦に波乱を起こしそうだ。
 
ウボンラット氏は故プミポン前国王の長女としてスイスで生まれ、米国暮らしが長かった。昨年タイで大ヒットした「恋するフォーチュンクッキー」を音楽イベントで踊りながら歌うなど、親しみやすい人柄で知られる。

タクシン氏と関係が近いとされ、海外で共にサッカー観戦する写真がインターネット上に広まったこともあった。
 
国家維持党はタクシン派政党「タイ貢献党」から昨年分党した姉妹政党の一つ。貢献党も首相候補はいるが、選挙後はタクシン派政党などが連立し、ウボンラット氏を擁立して首相選出に臨むとみられる。
 
一方、親軍政政党「国民国家の力党」もプラユット暫定首相がこの日、首相候補になることを了承したため選管に届け出た。選管は各党候補の資格を審査し、15日に発表する。【2月8日 毎日】
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タイ王室に関しては、皇太子時代の素行の評判が芳しくなかったワチラロンコン国王はもともと軍主流派とはそりが合わず、軍主流派はできれば国民的人気が高いシリントーン王女(国王の妹)を即位させたかった・・・とも言われていたように、“シリントーン王女”については、プミポン前国王逝去時にいろいろ話題になりました。

ただ、ウボンラット王女(国王の姉)は上記記事にもあるように王籍を離れていることもあって、話題になることはありませんでした。

とりあえず、ウィキペディアで調べると、ウボンラット王女は単に現国王の姉というだけでなく、また、上記記事にもある「恋するフォーチュンクッキー」絡みで紹介される親しみやすい人柄だけでもなく、アメリカUCLAで教鞭をとるような知性を有する方のようです。

****ウボンラット王女****
タイ王国君主ラーマ9世とシリキット王妃の長女。外国人と結婚したため、王族籍は消滅したが、離婚したため、王族籍は戻っていないものの王族的な扱いを受けている。(中略)

略歴
ウボンラッタナはラーマ9世の長女としてスイス、ローザンヌで誕生。少女時代には父親と共にヨットレースに出場するなどスポーツ好きであった。姉弟妹の中でも特に成績優秀でマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学している。

MIT在学中に知り合ったピーター・ラッド・ジェンセン(アメリカ人)と結婚したことにより王族籍が剥奪される(王室典範によるもの)。

MITで理学士号(数学)を取得後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で公衆衛生学の修士号を取得し、同校で数年間教鞭をとる。ピーターとの間には3人の子供をもうけた。

1998年には離婚しタイへ帰国。現在では、ラーマ9世の外戚として王族に準じた扱いを受けている。

2018年5月に若者向けの音楽ライブで「恋するフォーチュンクッキー」のタイ語カバー曲を歌を披露した。(後略)
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また、検索すると、自著をもとに脚本も手掛け、出演もしている映画『Where The Miracle Happens』の宣伝のため、2008年のカンヌ国際映画祭に出席したとか。

スポーツ好きで、MITで理学士号(数学)を取得、UCLAで公衆衛生学を学び教鞭もとる、映画もつくれば、若者向け音楽を歌い踊る、しかも全国民から敬愛された前国王の長女で、現国王の姉・・・・これ以上の人物はタイ中探しても見当たらないでしょう。(もちろん、表記された事柄以上のことは、王女についてはまったく知りませんが)

上記の略歴からすると、欧米的価値観にもなじんでおり、軍事政権の価値観(女性についていえば、伝統的“良妻賢母”のイメージでしょうか)とはやはり異なる人生観・世界観の持主のようにも推測されます。

その意味では、軍事政権に対抗するタクシン派政党の首相候補というのも納得がいくところです。

【奇策が続くタクシン派「国家維持党」】
それにしても国家維持党も、とんでもない“隠し玉”を用意していたようです。
そもそも、この国家維持党という政党も、(つい最近の下記記事以外では)今まで聞くことのなかった政党です。

軍事政権と政権をめぐって総選挙で激しく争うタクシン派政党というと、「タイ貢献党」ですが、国外居住のタクシン前首相に支配されているとして解党を命じられるリスクを背負っています。

****タイ、タクシン派解党の恐れ 選管が調査開始****
タイのプラウィット副首相兼国防相は22日、タクシン元首相を支持するタイ貢献党に対するタクシン氏の影響力を調査するよう選挙管理委員会に要請した。

国外に住む者がタイ政党を支配することを禁じた政党法に触れる可能性があるとの理由。選管は23日、調査を開始した。

違反が認定されれば、来年に予定される総選挙を前にタイ貢献党は解党される恐れがある。英字紙バンコク・ポストなどが伝えた。
 
タクシン氏は18日、香港での共同通信とのインタビューで多くの政治的発言をした。プラウィット氏はこれらの発言を根拠に、タクシン氏がタイ貢献党を実質的に支配しているとみている。【2018年10月23日 共同】
********************

そこで、解党を命じられた場合の対策として、タイ貢献党から分党の形で作られたのが「国家維持党」とのことです。(「タイ貢献党」に解党命令がでたら、所属党員は「国家維持党」の方に一斉に乗り移るのでしょう。これまでも同様手法は取られてきました)

そういう新規の“別動隊”という身軽さもあってか、つい最近も国家維持党は“ある奇策”というか“裏技”で話題になりました。

****タクシン元首相が続々立候補!? タイ総選挙、当選狙う候補が裏技 民政移管は実現するか?****
(中略)
「タクシン」「インラック」候補が続々と登場
これまでの立候補者届け出で、「タイ貢献党」から分派して結成された「タイ国家維持党(タイ国家貢献党とも)」からは男性のタクシン候補者が10人、女性のインラック候補者が4人立候補を届け出た。

これは投票で農村部や貧困層での両者の高い人気、支持にあやかった「便乗戦略」で、姓はそのままで名を改名して届けたものという。

タイでは比較的容易に改名が行われており、選挙立候補に際しての改名も「改名は候補者の判断であり法律違反ではない」(タイ国家貢献党関係者)としており、軍政のアヌポン内相も「(改名は)違法ではないが、適切かどうかの判断に関してはコメントしない」との立場を明らかにしている。

地元「バンコク・ポスト」紙に対し、「タクシン候補者」の1人は「有権者に自分の名前を覚えてもらうために(タクシンという名前を)選んだ」と話しており、タクシン支持者からの票を期待した結果であることを明らかにしている。(後略)【2月6日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【軍事政権ペースで進んできた選挙戦に波乱】
総選挙の全体図については、大塚氏は以下のようにも。(首相候補に関しては、冒頭ニュースが報じられる前の記事ですので、今後は様変わりするかも)

****民政移管は実現するか?****
総選挙にはタイ北部や東北部の農村地帯、貧困層に依然として高い人気を誇るタクシン元首相と妹のインラック前首相を支持する「タイ貢献党」と2018年9月に結党された親軍政政党「国民国家の力党」、反軍政でタクシン派とも距離を置くアピシット元首相率いる「民主党」、さらに元実業家のタナトーン党首の「新未来党」などによる激しい選挙戦が予想され、どの政党も単独での過半数獲得は困難とみられている。(中略)

世論調査では3党による激戦か
軍政を支持する「国民国家の力党」の党首ウッタワ前工業相は地元メディアに対して「人気の根強いタクシン派との対立を解消してタイ政治の新たな選択肢となる」との意気込みを示しているが、軍政側にはタクシン派の人気への警戒感から低所得者層に対して一時金を支給するなどして、タクシン支持層の取り込みに懸命となっている。

1月20日に発表されたタイのシンクタンク「国家開発管理研究所(NIDA)」の世論調査では「タイ貢献党」の支持率が32.7%とトップで続いて「国民国家の力党」の24.2%、「民主党」の14.9%、「新未来党」の11.0%と続いている。

また次期首相候補としてはプラユット首相が26.2%と高く、続いてタクシン派「タイ貢献党」のスダラット元保健相が22.4%、「民主党」党首のアピシット元首相が11.6%、「新未来党」のタナトーン党首の9.6%となっている。

東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも成熟した民主主義国家としてかつては指導的地位を占めていたこともあるタイだが、クーデターで政権を奪取した軍政による経済的な停滞やタイ南部でのイスラム教過激組織によるテロの頻発など軍事力を背景にした政治で停滞してきたといわれている。

総選挙を通じてタイ国民がどこまで民政移管を実現させて、民主国家として「微笑みの国」を再生させることができるのか、3月24日の総選挙はその大きな試金石となる。【同上】
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人気が今なお高いタクシン派が選挙では強い・・・というのは以前から指摘されてきたことですが(それゆえ、軍事政権も何かと理由をつけて総選挙を先延ばしして、親軍政党の党勢拡大に努めてきたところです)、ただ、プラユット暫定首相の個人的人気に加え、タクシン派のお株を奪うような軍政側のバラマキ政策もあって、選挙情勢は微妙との指摘もあります。

それだけに、今回のウボンラット王女の首相候補擁立は、タクシン派にとっては、これ以上はない“巻き返し策”ともなり、今後の選挙情勢を大きく左右しそうです。(親軍政党側もプラユット暫定首相を首相候補に担ぎ出したのですが、ウボンラット王女の話題で吹き飛んでしまいました。)

****タイ王女が首相候補の波紋、劣勢タクシン派巻き返しへ****
タイの国民の間に衝撃が走った。(中略)
 
背景には現政権を握る軍とタクシン派、そして王室それぞれの思惑が交差しており、軍に有利に進んでいるとされる選挙戦でタクシン派が逆転するために打った一手であるとみる向きが多い。
 
汚職罪に問われ国外に逃亡しているタクシン元首相は、地方の農民から支持を受けて2001年と05年の選挙で圧勝したが、06年に勃発したクーデターで失脚。その後2011年の選挙では妹のインラック氏が首相に選出されたが、2014年のクーデターで国を追われている。

以来、タイは軍が政治の実権を握ってきた。軍政は度々総選挙の実施を延期し、ようやく今年3月に実現する見通しが立った。
 
とはいえ、軍政は実質的に8年ぶりとなる総選挙の仕組みを親軍政党である国家維持党(パラン・プラッチャーラット)に有利に定めた。

たとえば首相の指名には下院500議席、上院250議席の両院で過半数の指名が必要だが、うち上院議員は軍政が任命することになっている。投票の仕組みや区割りもタクシン派に不利に作られているという指摘がある。
 
タクシン派は地方の農民や低所所得者層から根強い支持を受けており、支持者数の多さから選挙に強いといわれる。伝統的なエリート層やバンコクの中間層を支持基盤とする軍政が政権の維持と「タクシン派潰し」を狙ってこうした制度を導入したことは明らかだ。
 
タクシン派にとって厳しいのは、訴える政策自体が国家維持党などと大きく違いは見られないことだ。どの政党も異口同音に貧困や格差対策、経済の高度化などを主張するが、いずれもこれまで4年に渡って軍政が重視してきた施策でもあった。こうした背景から、タクシン派は苦戦するとの見方が出ていた。
 
だが「人気勝負」の選挙戦で人気のあるウボンラット王女が登場したことで、その行方はわからなくなった。

加えて、タイでは王室への批判は「不敬罪」に当たり処罰の対象となる。つまり他の政党からすれば王女を候補として要するタクシン派を表立って批判できなくなる恐れもある。タクシン派は選挙中の論戦を有利に進められるだろう。
 
タイでは王室関連の話題はタブーとされているため、王室と軍、タクシン派との関係は見えづらい。だが16年のプミポン国王の崩御を受けて即位したワチラロンコン国王と軍との関係が良好でないことを不安視する見方は出ていた。
 
一方で、ウボンラット王女とタクシン氏は家族ぐるみで親しい間柄にあると見られ、タクシン氏やその息子とウボンラット王女とがともにサッカー観戦を楽しむ様子などが目撃されている。

「王室も一枚岩でない。これまではプミポン国王が複雑な利害関係をコントロールしてきたが、新国王のもとでは統制が効きづらくなっている」。ある研究者はこう指摘する。

一方で、軍が総選挙後も実権を握り続けることや、若年層を中心に、王室に対する意識が薄れていることをけることを王室が不安視しているのではないかとの見方もある。
 
いずれにせよ、今回の選挙でタクシン派が完全な勝利をおさめウボンラット女王が首相に就任した場合、「国外逃亡中のタクシン氏が特例によってタイに戻る道が開ける」(同研究者)。
 
タイでは選挙のたびにタクシン派、反タクシン派の対立が再び激化し、混乱を引き起こしてきた。4年ぶりの民政移管選挙となる今回もまた、タクシン派の復権でこれまでと同じ混乱に陥る恐れが高まってきた。【2月8日 飯山 辰之介氏 日経ビジネス】
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現行憲法下では軍政が上院の全議員(250名)を任命しますので、親軍政派は下院(500名)でわずか126議席を取れば、上院と協力してプラユット氏を首相にすることができるという、極めて有利な枠組みを軍事政権は作り上げてきました。

そうした枠組みのなかで、これまでは決定権を持つ軍事政権側のペースで“選挙に強いタクシン派”の切り崩しが進行していましたが、強権で反対勢力を封じ込める軍事政権の唯一の弱点が、かねてよりワチラロンコン国王とそりが合わないとも言われてきた王室との関係。王室に対しては軍事政権といえども強権は行使できません。

その弱点を一気につくタクシン派の起死回生の一手にも見受けられます。

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タイ北部にあるナレスアン大学のASEAN研究所の講師、ポール・チェンバース氏は「これはタイにとって前例のないことだ。他の政党が王女と争うのは難しいだろう。王女に対抗する選挙戦を仕掛けるのは誰にとっても容易ではない。タイのイデオロギーは王室ファーストであり、有権者は王女を擁立する政党以外の候補者を選びにくいと感じるだろう」と語った。【2月8日 Bloomberg】
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タクシン派がウボンラット王女を首相候補にしたことで、選挙の構図は一変しそうだ。タイでは王室は批判してはならない対象とされ、選挙でもタクシン派への批判や攻撃がしにくくなる。有権者の票が一気にウボンラット王女を立てた勢力に流れる可能性がある。ウボンラット王女はかねてタクシン氏と個人的に親しいとみられていた。【2月8日 朝日】
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【今後の展開は? 総選挙勝利でタクシン復権は?】
そもそも、軍事政権が先延ばしにしてきた総選挙が3月24日に確定した背景には、国王の意向があるのではとの指摘もあります。

****国王の意向強く****
浅見靖仁・法政大教授(タイ政治)の話 

タイ軍政は勝利に確信が持てず総選挙を先延ばししてきたが、プミポン前国王より政治に関与する姿勢を示すワチラロンコン国王の意向が強く働いたのではないか。

冷戦時代の一時期を除けばクーデター後にこれほど長期間、総選挙が実施されなかったことはなかった。選挙後も軍は大きな影響力を持ち続けるだろうが、民政復帰への最初のステップとなる。どの政党も過半数を取れそうになく、選挙後は不安定な連立政権となることが予想される。【1月23日 毎日】 
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今回の件について、ウボンラット王女が弟のワチラロンコン国王と連絡をとっていたとしても不思議ではありません。王女は王族籍を離れた現在もワチラロンコン国王と親しいとされています。

全くの、根拠もない憶測ですが、国王が軍事政権に総選挙実施を迫り、決定したところで王女がタクシン派側から首相候補として出る・・・・という構図も。全くの憶測です。

タクシン派が選挙に勝てば、海外逃亡中のタクシン前首相が帰国し、国王が恩赦を与える・・・という、タクシン復権の青写真もかねてよりささやかれていました。

今回のタクシン派によるウボンラット王女擁立で、そうした青写真の現実味も増してきた・・・とも思えますが、そうしたタクシン派一辺倒ではなく、国王と協力してタクシン派・反タクシン派の和解を模索するということかも。

また、軍事政権側にも対抗策があるのかも。

にわかに目が離せなくなったタイ総選挙です。
コメント

インドネシア  世界最大の華人社会 大統領選挙に絡んで高まるイスラム重視の宗教的不寛容 

2019-01-27 22:40:01 | 東南アジア

(ジャカルタで開かれたイスラム強硬派による集会で「大統領交代を!」と声を上げる市民たち=2018年12月2日【2018年12月2日 朝日】 上記の画像だけなら、よくある政治集会にも見えますが、首都を埋め尽くす人々の下記画像でその規模がわかります。80万~100万人が一堂に会し、インドネシア史上最大の集会だったようです。)


【過去の政権・イスラム社会と緊張関係をはらんだ世界最大の華人社会】
2.64億人の人口大国インドネシアが世界最多のイスラム教徒を抱える国家であることは周知のところですが、インドネシアは中国圏以外では世界で最大数の華人を抱える世界有数の“華人国家”でもあります。

他のASEAN諸国同様に、華人は強い経済力を有していますが、親米・反共のスハルト独裁政権下の華人社会に対する厳しい抑圧政策の歴史が示すように、常に圧倒的多数派マレー系との緊張関係をはらんでいます。

****インドネシア、ついに世界最大の華人国家に****
「恭喜発財(コンシー・ファッ・ツァイ)!」
2月5日の春節が迫り、インドネシアの首都・ジャカルタにあるチャイナタウン、パサールグロッドックでは、「お金持ちになりますように!」と新年のかけ声が日に日に大きく響き渡っている。(中略)

インドネシア語で春節は「イムレック」。インドネシアに居住する華人にとっては、1年で最大の行事の一つだ。
 
世界最大のイスラム国家、インドネシアは、国民の9割がイスラム教徒。しかし、2月5日の春節は、国民の祝祭日で、華人の新年をともに祝う。
 
スハルト政権下の20年前までは、中国文化の表現が禁止されていた。
しかし、民主化に伴い自由化され、「寛容なイスラム国家」のイスラム教徒の従業員が真っ赤なチャイナドレスで、「恭喜発財!」と春節商戦最前線で活気を呼ぶ光景が普通に見られるようになった。(中略)

日本では知られていないが、イスラム圏のインドネシアは、中国圏以外では世界で最大数の華人を抱える世界有数の“華人国家”だ。
 
昨年、中国の人気ポータルサイト「今日頭条」が華人系(現地国籍取得)が多い国家のトップ10を発表。
これによると、(中略)トップ3は、1位がインドネシア(767万人)、2位がタイ(706万人)、3位がマレーシア(639万人)。
 
しかし、1位のインドネシアの華人系は、IMF(国際通貨基金)が昨年末発表した人口統計によると、人口約2億6200万人のうち、約3.3%の約860万人に上るとされる。
 
華人のインドネシア移住は、中国唐王朝の晩期、紀元879年に始まったと伝えられる。
今では、インドネシア国内に広東会館があるが、その祖先は1000年の月日を超え、東南アジアのイスラム諸国に移民として海を渡り、定着したというわけだ。(中略)

しかし、こうした伝統的な春節の原風景も、20年前の民主化前は到底、考えられなかった。

「インドネシア華人」の歴史は複雑だ。
1966年、カジュアル誕生後、華人系インドネシア人に対する同化政策が導入され、中国語教育機関、中国語メディア、華人系組織団体等が、禁止となった。(中略)スハルト大統領は翌年、「華人文化禁止令」も発布。中国名からインドネシア名への改名が決められ、プリブミ(土着のインドネシア人)社会での華人系への差別化を進めた。

今でこそ華人はどこにでも住めるが、当時は例えば首都ジャカルタの場合、北西地区以外は居住が禁止されていた。(中略)

さらに、1997年に起きたアジア通貨危機に伴いインドネシア経済が破滅的な影響を受け、政治腐敗への国民の怒りがスハルトの独裁政権に向けられると、今度はジャカルタで経済的に裕福な華人を標的にした暴動が起きる。
 
結局、アジア通貨危機を契機に、30年以上続いたスハルト政権は崩壊。殺人、放火、略奪や華人女性へのレイプも勃発し、インドネシア華人の30万人以上が海外へ脱出。
 
「華人資本の多くが国外流失した」とされ、インドネシア経済にも重く暗い影を落とした結果となった。
 
一方、スハルト政権末期に副大統領を務めたハビビ氏が、スハルト辞任後インドネシアの第3代大統領に就任。(中略)ハビビ大統領は、「リフォマシ」(「改革」=インドネシア語)の潮流に押され、華人系社会を徐々に受け入れる民主化政策を図った。
 
インドネシア華人に対する差別用語「ノン・プリブミ」も廃止された。
 
暫定的なハビビ大統領の就任後、1999年10月、民主的選挙で大統領となったワヒド氏は、低迷する経済復活にはインドネシア華人、華人系実業家の協力なしでは困難と判断し、中国を初の公式訪問先に選んだ。
 
ワヒド大統領の祖先は、中国福建省からの移民で、客家人だった。こうした自らのルーツも踏まえ、中国語や中国伝統の文化、宗教、そして慣習が解禁された。
 
2002年には、メガワティ大統領(当時)が中国の春節(旧暦の正月)を祝祭日とし、以来、(中国圏を除く)世界最大の華人国家の「復権」が図られたというわけだ。
 
さらに2014年には、ユドヨノ前大統領がスハルト時代から半世紀近く使用されてきた「Tjina(チナ)」を廃止した上、新たに「Tionghoa(中華)」を採用し、中国と華人系インドネシア人を指す公用語を変更した。
 
背景には、台頭する中国経済への対中政策や民主党党首を務めたユドヨノ大統領(当時)の総選挙前の華人系支持獲得があった。
 
ジャカルタ特別州知事に華人系キリスト信者のバスキ・プルナマ(通称アホック)氏が就任する(2017年宗教冒涜罪で、禁固2年の有罪判決)など、(宗教的不寛容が高まる一方)インドネシア華人の社会経済復権はスハルト以降、少なからず進められてきた。
 
一例を挙げれば、インドネシアなどASEAN(東南アジア諸国連合)域内での日系企業の合弁・提携先のパートナーも、現地の有力企業である華人系企業が極めて多い。(中略)
 日系大手コンビニ業界の華人系企業グループとの合弁・提携事例だけでも次に挙げるほどだ。

ASEANの華人系は人口比で少数派でも、インドネシアに代表されるように華人の経済力が、各国経済を牛耳っている。
 
「中国回避 東南アジア回帰」の今、日本にとって東南アジアといっても、そこは伝統的に「華人力」が押さえる経済圏だということを肝に銘じておくべきだ。【1月21日 末永 恵氏 JB Press】
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【イスラム重視・宗教的不寛容の高まり 転換点ともなった「アホック事件」】
上記記事では、スハルト政権崩壊後のインドネシア華人の社会経済復権を紹介していますが、記事にもあるように、インドネシア社会ではイスラム重視・宗教的不寛容が高まっていることは、これまでも再三取り上げてきたところです。

ジョコ大統領とそのライバルの争いに巻き込まれる形で、ジョコ大統領の盟友でジャカルタ特別州知事、次期副大統領候補あるいはジョコ氏の後任候補とも言われていた、華人系キリスト信者のバスキ・プルナマ(通称アホック)氏が宗教冒涜罪で禁固2年の有罪判決を受けた件は、そうした宗教的不寛容の高まりを示すものです。

隣国マレーシアも華人が25%ほどを占める多民族国家ですが、多数派マレー系を優遇する「ブミプトラ政策」がとられていることは、これも再三取り上げてきたところです。

ブミプトラ政策は、経済的に劣後するマレー系住民の不満を和らげるための制度的安全弁でもありますが、インドネシアではそうした明確なシステムがないだけに、華人への不満が宗教の名を借りて爆発する危険性があるようにも見えます。

****インドネシア、揺らぐ多宗教 イスラム以外に不寛容、少数派へテロや襲撃****
東南アジアの主要国でも特にイスラム教徒の割合が大きいインドネシアで、ほかの宗教への不寛容が広がっている。

キリスト教やヒンドゥー教、仏教の信者らが被害に遭う事件が続発。背景には来年の大統領選を前にイスラム勢力が政治的影響力を強めている事情があり、少数派の声が置き去りにされることへの懸念が深まっている。
 
イスラム教徒が9割近くを占めるインドネシアでも、クリスマスは祝日で首都ジャカルタなどではショッピングモールやホテルが飾り付けられる。

しかし、政府は今年、総勢7万2千人の警官を全国のキリスト教会に配置。首都中心部のジャカルタ大聖堂は25日、警官が特殊車両から目を光らせるなど物々しい雰囲気に包まれた。
 
背景には、国内でイスラム教とほかの宗教の摩擦が高まっていることがある。
 
5月、第2の都市スラバヤでイスラム過激派の一家が三つのキリスト教会で自爆テロを起こした。スマトラ島では8月、イスラムの礼拝を呼びかけるスピーカーの音が大きいと苦情を言った仏教徒の女性に地裁が宗教冒涜(ぼうとく)罪で禁錮1年6カ月の判決を下し、仏教寺院が襲撃される事件も起きた。ジャワ島などのヒンドゥー教寺院も今年、何者かに相次いで破壊された。
 
過激派が先鋭化させる対立の高まりが、市民の心にも影響を及ぼしつつある。
 
今月中旬、ジョクジャカルタ特別州プルバヤンで、運転手アルベルトゥス・スギハルディさんの埋葬が公共墓地で行われた。スギハルディさんはカトリック教徒で、家族は故人の名前などを記した木製の十字架を持ち込んだ。
 
だが、イスラム教徒の住民らが「キリスト教のシンボルを持ち込んではならない」と十字架をT字形に切断。写真がSNSで拡散し、大きな議論を呼んだ。
 
地元のカトリック大司教区は声明で、異なる宗教を尊重して多様で寛容な社会を目指すというインドネシアの国是「パンチャシラ」(建国五原則)や憲法に反するとし、少数派の人権を守るよう政府に求めた。

 ■強硬派伸長が背景
パンチャシラは初代スカルノ大統領が1945年の独立時、国是として憲法で定めた理念。多民族国家で様々な宗教を持つ国民が共存するため、特定の宗教を国教とせず、異なる宗教も尊重し合うよう求めた。
 
少数派宗教への不寛容が広がった伏線は、2016年の出来事だ。イスラム強硬派がジョコ大統領の盟友だったジャカルタ州知事を「イスラムを冒涜した」と攻撃し、知事は翌年の選挙で敗北に追い込まれた。

イスラム勢力は98年に退陣したスハルト政権下で抑え込まれてきたが、この事件を機に政治を左右する存在として存在感を高めた。
 
来年4月の大統領選で再選を狙うジョコ氏は世俗派イスラムで、パンチャシラを推進し少数派に配慮する政治を進めてきた。しかし、今年6月の統一地方選でイスラム勢力に支持基盤を崩され、副大統領候補に国内最大のイスラム組織の前総裁を指名した。
 
ジョコ氏と一騎打ちするプラボウォ氏もイスラム強硬派が頼みの綱。どちらが当選してもイスラム勢力に配慮した政権運営をせざるを得ない状況で、専門家は「少数派の声が置き去りにされている」と指摘する。【2018年12月26日 朝日】
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アホック氏逮捕はイスラム重視勢力拡大の転換点とも目される事件ですが、服役していたアホック氏が刑期を終えて出所して注目されています。

****「イスラム侮辱」の罪 今も人気の前知事、注目の出所****
インドネシアで国民の9割弱が信奉するイスラム教を「侮辱」したとして宗教冒瀆(ぼうとく)罪に問われたバスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)前ジャカルタ特別州知事(52)が24日、刑期を終えて出所した。

事件はイスラム強硬派が勢いづくインドネシア現代政治史の転換点とされ、政界復帰を求める声が強いなか、動向に注目が集まっている。
 
「拘置所で手続きを終えて、自由です!」。アホック氏はこの日朝、自身のSNSに笑顔の写真とともにこんな投稿をした。

1週間前には直筆の手紙を公開。反省を述べる一方で、4月の大統領選と国会議員選挙を指して、異なる宗教や多様性を尊重する国是「パンチャシラ」(建国5原則)の大事さを説き、それを重んじる政党に投票するよう支持者らに呼びかけた。
 
人気は今も根強い。出所姿を一目見ようと、ジャカルタ郊外の拘置所前には早朝から大勢の支持者が詰めかけた。(中略)

ジャカルタでは歓迎の集会が開かれる一方、アホック氏は家族らと過ごし、人目を避けた。今後は、テレビへの出演がうわさされたり、国会与党が復帰に向け秋波を送ったりしている。(中略)
 
一連の「アホック事件」は、イスラム強硬派が政治への影響力を持つとの認識を社会に広めた。かつてアホック氏の盟友で、パンチャシラを推進してきたジョコ大統領が、再選を目指す4月の大統領選で、イスラム指導者を副大統領候補に選ぶなど、影響は尾を引いている。【1月25日 朝日】
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【大統領選挙に向けて拡大するイスラム重視勢力を利用する対立候補】
イスラム重視勢力(それを利用する反ジョコ大統領派)からすれば、「アホック事件」は輝かしい勝利でもあり、今年の大統領選挙に向けて更に活動を活発化させています。

****【ジャカルタレター】ジョコ大統領の対抗勢力が支持層拡大****
日本ではほぼ報道されなかったが、昨年12月2日に「212再結集」と呼ばれる大規模集会がジャカルタで行われた。独立記念塔を中心に周辺道路が参加者で埋め尽くされ、80万~100万人が一堂に会し、インドネシア史上最大の集会だったといわれている。
 
現政権批判の場
2年前、当時のジャカルタ特別州知事バスキ・プルナマ氏(通称アホック)に対する大規模抗議集会が12月2日に行われたことを受け、同じ日の12月2日を意味する212をスローガンに再結集が呼びかけられた。

現政権によるイスラム団体に対する数々の不公正に対抗し、宗教的なモラルを取り戻そうという趣旨で集まったのがこの決起集会であるという。
 
しかし、212再結集の主催者は今年の大統領選候補者プラボウォ氏の選挙対策組織の幹部であり、集会参加者を動員したのは、プラボウォ氏率いるグリンドラ党や、プラボウォ陣営を応援する福祉正義党のほか、さまざまなイスラム団体であることから、大統領選挙に向けたプラボウォ陣営の選挙運動の一つであることは明らかである。
 
今年3月まで大規模な選挙運動は禁止されているため、名目上はモラル運動ということになっているが、プラボウォ陣営の動員力を見せつけ、現政権を批判する格好の場となった。(中略)

接戦の予想
また、プラボウォ陣営は、副大統領候補であるサンティアガ氏が精力的に活動し、若者を中心に支持を広げているようだ。

同氏は若い起業家を集めたネットワークの中心人物であったこともあり、若者層へのアピールもある。また若くてフレッシュな顔つきに多くの「ママ」つまり女性の支援グループもできている。
 
現職大統領のジョコ陣営に近い「LSI Denny JA」による調べでは、212再結集の後、ジョコ陣営が54.2%、プラボウォ陣営は30.6%の支持を獲得し両陣営の差が広がっているという。

一方で、サンティアガ氏の内部調査ではプラボウォ陣営の支持が40%に達したと発表するなど、調査結果もさまざまである。
 
いずれにせよ、ジョコ陣営が優勢であることは間違いないものの、今年の大統領選も接戦が予想されている。(後略)
【1月16日 SankeiBiz】
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こうした状況では、出所したアホック氏はしばらく露出を控えた方がよさそうです。

大統領選挙の方は、すでに過熱気味のようです。

****大統領選、インドネシア分断 現職と野党候補、汚職めぐり中傷合戦 初の討論会****
インドネシアで4月に投開票される大統領選で、再選を目指すジョコ大統領と、一騎打ちに臨む最大野党党首のプラボウォ氏が17日、初の討論会を行った。テレビ中継されるなか中傷しあう場面も目立ち、インドネシア社会で深まる分断を象徴する格好となった。

(中略)全国中継されるなか、開始前にはジョコ氏がプラボウォ氏に歩み寄って抱き合い、融和ムードを演出してみせた。ただ、開始40分すぎ、議題が「法と人権」に移ると2人は中傷を始めた。

仕掛けたのはプラボウォ氏だ。現政権下では野党議員が汚職容疑で次々に逮捕されており、「これは人権侵害だ」と訴えた。

ジョコ氏は「(ここは)法治国家。証拠があるなら出せばいい」と応戦。大統領選とともに行われる国会議員選に立候補したプラボウォ氏の野党候補者について、「汚職の前歴がある候補者が多い」と指摘。

プラボウォ氏が、強権的だったと評価されるスハルト元大統領の娘の元夫で、その政権下で軍幹部として人権侵害に関与したとされる過去を示唆して、「我々は過去に汚職も人権問題も抱えていない。独裁者にもみえない」と締めくくった。(中略)

インドネシア情勢に詳しいアジア経済研究所の川村晃一研究員は、多民族社会のインドネシアは、大統領選を通じて社会の統合を保ってきたと指摘。「近年は選挙戦が進むほど分断が深まっている。政治家の自制に期待したいが、当選のためなりふり構っていられない現状だ」とみている。【1月19日 朝日】
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分断を深める政治状況はインドネシアだけではなく、アメリカを筆頭に各地で見られる現象です。
ジョコ大統領の個人的人気が、欧米の右派ポピュリズムにも相当するイスラム重視勢力を押しとどめることができるか・・・注目される選挙です。

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フィリピン・ミンダナオ島  イスラム自治政府発足に向けた住民投票 重要な課題も

2019-01-22 23:24:33 | 東南アジア

(「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」の兵士【1月22日 FNN PRIME)】)

【ミンダナオ島出身のドゥテルテ大統領の下で実現に向け進展】
フィリピン南部ミンダナオ島では40年以上にわたり、フィリピン全体では圧倒的多数派のキリスト教徒とミンダナオ島に多く暮らす分離独立を目指すイスラム教徒による紛争が続いてきました。

イスラム教徒側の武装勢力は複数あり、また、変遷もありましたが、近年その中核となっているのが「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」です。

フィリピン政府とMILFは、分離独立ではなく、イスラム自治区を認める代わりにMILFは段階的に武装解除を行うことで、2014年に包括和平案に合意しました。

合意後も曲折がありましたが、ミンダナオ島出身で、その実情・必要性を熟知するドゥテルテ大統領の主導で実現に向けて前進。(このあたりは、これまでのルソン島出身大統領とは違います)
21日から、自治区に自治体が参加するか否かを決める住民投票が行われています。

****フィリピン・ミンダナオ島で住民投票 イスラム自治政府の設立に向け****
半世紀近くにわたり、分離・独立を求めるイスラム勢力と政府による武力闘争が続いてきたフィリピン南部ミンダナオ島で21日、イスラム自治政府の設立に向けた住民投票が行われた。

自治政府に参加するかを住民に問う投票で、過半数の賛成を得た自治体は自治政府に編入される。和平進展につながると期待がかかる。
 
投票は同島西部のイスラム教徒自治区(ARMM)に属するバシラン州など7自治体で行われた。結果は26日までに判明の見込み。

7自治体のうち多数の自治体で過半数の賛成を得た場合、他の自治体でも2月6日に投票が行われる。対象有権者は約280万人。
 
自治政府は、予算編成やイスラム法に基づく司法制度など高度な権限を持つことになる。住民投票後、ドゥテルテ大統領の承認を経て、暫定政府が発足する。
 
フィリピンは国民の9割がキリスト教徒だが、同島西部はイスラム教徒が多数を占め、1970年代以降に分離独立運動が活発化した。

政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)が2014年に包括和平に合意した後も武力衝突が発生し、和平プロセスは停滞。

同島ダバオ市の市長を長年務めたドゥテルテ氏が18年7月、自治政府樹立に向けた「バンサモロ基本法」に署名し、事態が進展した。【1月21日 毎日】
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【今後の課題の一つはキリスト教徒との共存】
MILFのムラド・エブラヒム議長は20日、自治政府参加に「圧倒的な支持を得ている」と述べ、理解が広がっていると強調していますが、キリスト教徒側には不安もあります。暴力的に自治区参加への賛成を強要されているとの声もあるようです。

****イスラム自治政府、キリスト教系に反発も 比ミンダナオ****
フィリピン南部ミンダナオ島で21日、2022年にも樹立される「イスラム自治政府」に参加する自治体を決める住民投票が実施された。

長年対立してきた国内最大の武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)とフィリピン政府の和平合意の成果で、地域に安定をもたらすと期待されるが、一部都市では反対意見も根強くある。(中略)
 
自治政府は、ミンダナオで紛争を続けてきた武装勢力とフィリピン政府が、交渉でこぎ着けた答えだ。ドゥテルテ大統領も公約に掲げてきた。独自の議会や予算の権限が付与されるほか、域内のイスラム教徒にはコーランにもとづくイスラム法(シャリア)が適用される。
 
MILFのムラド議長は21日会見し、「投票は和平合意を実行に移す重要な節目。大変な支持を得てうれしい」と述べた。

一方、ムラド氏は、自治政府の首都になると期待されるコタバト市が自治政府に加わらない可能性があることに懸念を示した。人口約30万人の同市はキリスト教徒が人口の55%を占め、自治政府に反対する市民も多い。

市内の60代男性は「MILFの幹部たちが利を得るだけで暮らしがよくなるとは思えない」と話す。
 
コタバトでは、こうした反対意見を封じ込める動きもある。反対意見を主張してきたコタバト市長のシンシア・ギアニ・サヤディ氏(50)は、殺害をほのめかす脅迫を受けたといい、「脅しを使う人が支持する自治政府が市民を守れるとは思えない」と懸念する。(後略)【1月22日 朝日】
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イスラム自治政府が発足した場合、域内に暮らすキリスト教徒といかに共存できるかが重要な課題となります。

【あくまで分離独立を目指すイスラム武装勢力も】
イスラム教徒側にも、あくまでも分離独立を目指して戦うべきとする「イスラム国(IS)」の影響を受ける過激なグループもあって、必ずしもことが平穏に運んでいる訳でもありません。

****“ミンダナオ島で「イスラム国家樹立」を狙う”  夜間外出禁止令の町で見た過激派の脅威****
フィリピン南部ミンダナオ島では2017年5月以降、戒厳令が発令されている。イスラム過激派による爆弾テロや攻撃が止まらないためだ。

主要都市コタバトでフィリピン軍の活動に密着取材すると、見えない敵と戦う難しさが見えてきた。

夜10時以降は外出禁止
夜9時半過ぎ。フィリピン軍第6歩兵師団に属する兵士たちが、とある場所に次々と集まってきた。コタバト市では夜10時から外出禁止令が敷かれ、一般人は外出することが禁止されている。

この間にテロリストが町に入りこまないようフィリピン軍は警察と協力し、町の警備にあたっている。夜10時をすぎると、賑やかだった街の表情は一変し、車が1台も通らないゴーストタウンのような様相を見せる。

侵入を試みる「過激派」
町の入り口には軍の装甲車が配置され、特に厳しい警備が敷かれる。武装したテロリストや、爆弾を運び込もうとするテロリストが頻繁に町への侵入を試みるからである。(中略)

イスラム過激派の爆弾作戦
コタバト市はミンダナオ島の中では比較的安全とされる。しかしこの町でも、新年を迎える直前の12月31日、ショッピングモールの外に仕掛けられていた手製爆弾が爆発し2人死亡、30人以上が負傷するテロが起きた。(中略)

頻発する爆弾テロを繰り返しているのは「イスラム国」に忠誠を誓う地元武装勢力だ。ミンダナオ島では去年5月、中部の都市マラウィが「イスラム国」戦闘員らに占拠され、フィリピン軍は奪還するのに5ヶ月も要した。「イスラム国」戦闘員らは、「第二のマラウィ」実現を目指して、武装闘争を続けている。

「イスラム国」戦闘員が目指すものは?
我々は武装闘争を続ける「イスラム国」系武装勢力BIFF(バンサモロ・イスラム戦士)の元メンバーに話を聞くことができた。部隊の元副司令官だったという46歳の男は去年10月、フィリピン軍によって拘束された。

武装闘争の目的について男は「我々はコーランとハディース(ムハンマドの言行録)のみに従っている。ジハードに従うよう言われてきた」と述べ、フィリピン政府からの分離独立をこえた「イスラム国家樹立」が目的だと明言した。(中略)

「イスラム国」系の過激派はフィリピン政府との対話を拒み、あくまでイスラム国家の樹立を目指して武装闘争を続けている。過激派の多くはMILFから分派した組織で、彼にとってMILFはイスラム国家樹立を断念しフィリピン政府と妥協した敵として映っている。

外国人戦闘員流入が後を絶たず
さらにミンダナオの武装闘争は外国人戦闘員の流入により大きく変容してきている。「イスラム国家樹立」という理想に惹かれ、ミンダナオ島には外国人戦闘員の流入が後を絶たない。

去年7月にはミンダナオ西部のバシラン島で、「イスラム国」戦闘員のモロッコ人が自爆テロを起こし軍検問所で自爆し、軍人10人以上が死亡。このニュースはフィリピン国内に衝撃をもたらした。(中略)

フィリピンは日本にとって近い国であり、多くの外国人労働者を受け入れる日本にとってさらに近い国になるのは間違いない。この地でイスラム過激派を封じ込めることは、日本にとっても死活的に重要な課題であることは間違いない。【1月22日 FNN PRIME)】
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【MILFの武装解除・社会参加が進まないと、不満を抱えるメンバーの過激派への合流も】
過激派への流入は外国からだけではありません。
MILFの武装解除=社会参加がうまく進まないと、行き場を失ったMILFのメンバーが過激派に参加することも予想されます。

****日本から一番近い紛争地帯でイスラム過激派の脅威拡大 和平のカギは兵士4万人の「武装解除」****
1月14日朝、我々取材班はミンダナオ島・コタバト市にあるMILF=「モロ・イスラム解放戦線」の本拠地キャンプ・ダラパナンを訪れた。(中略)

フィリピン南部ミンダナオ島では40年以上にわたり、キリスト教徒とイスラム教徒による紛争が続いてきたが、フィリピン政府とMILFは2014年に包括和平案に合意、自治区を認める代わりにMILFは段階的に武装解除を行うことが決まった。

今後この「武装解除」がうまくいくかどうかが、和平実現の鍵を握っている。

MILFは常備軍4万人

MILFには現在、3〜4万人の常備軍がおり、民兵を含めると12万人いる。キャンプ内で出会った兵士はカラシニコフで武装し、一見すると国の軍隊と何ら変わりないがない。軍事訓練を受け、重火器や爆発物などの扱いにも長けている。

こうした兵士を「武装解除」させるためには、兵士以外の仕事で生活できるように道筋を付ける必要がある。

ミンダナオ島は気候がよく台風もほとんど通過しないため、農業や漁業に適した土地である。日本のJICAは、兵士らに対して農業技術研修などを行っており、武器を手放した後も、安定した生活をおくることができるようサポートを続けている。MILFのムラド議長も、こうした日本の支援を高く評価している。

虎視眈々と狙う過激派
一方で、こうした和平の動きに水を差す動きが現地では起きている。イスラム過激派の台頭である。ミンダナオ島では、MILFが分離独立を断念したことに反発し、MILF本体から分派した過激派組織が各地で爆弾などによるテロ攻撃を繰り返している(中略)

こうしたイスラム過激派が目指すのはイスラム国家の樹立であり、MILFが目指してきた分離独立とはそもそも根本的に異なる。

「武装解除」の過程でMILF元兵士らの生活が苦しくなった場合、元兵士らが資金力のある過激派に流入してもおかしくはない。

過激派側も虎視眈々と勢力拡大を狙っており、戦闘経験があるMILF兵士は魅力的にも映る。MILFの「武装解除」は、一歩間違えれば過激派伸長のリスクをはらんでいるともいえる。(後略)【1月22日 FNN PRIME)】
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