
(【2024年4月29日 INDO PACIFIC DEFENS EFORUM】)
【政治・経済・軍事・文化など多岐にわたる中国との深い関係】
カンボジアはフン・セン前首相の人権・民主主義の面での問題がある統治によって欧米との関係がギクシャクする一方で、ASEANにあって「中国の代理人」とも言われるほどに中国との関係が強まり、中国の影響が次第に色濃くなっているという話は常々聞いていますが、昨年2月の春節時期にカンボジア・シェムリアップでアンコールワット遺跡群などを観光した際には、「街の雰囲気は、言われているほどには中国色は強くないかも・・・」という印象でした。
ただ、カンボジアのなかでもとりわけ中国の影響を感じられると言われている南部ビーチのシアヌークビル(中国資本によって開発された経済特区もあります)を最近訪れた知人の話では、街は中国色で溢れているとのこと。
最初に、カンボジアと中国の関係をAI(チャットGPT)の情報で簡単に整理しておくと、以下のようにも。
****カンボジアの貿易に占める中国の割合****
カンボジアの貿易における中国の割合は、近年増加傾向にあります。2024年には、中国との二国間貿易総額が過去最高の151.9億ドルに達し、カンボジアの年間総貿易額約547.4億ドルのうち約27.8%を占めました。
これは前年の26.06%からの増加を示しており、中国がカンボジアの最大の貿易相手国であることを再確認するものです。
この貿易関係の強化は、カンボジアと中国の強固な外交関係や、両国間の自由貿易協定(CCFTA)および地域的な包括的経済連携(RCEP)などの協定によって支えられています。これらの要因が、貿易の拡大と多様化を促進しています。
カンボジアから中国への主な輸出品目には、農産物、家具、宝飾品、衣料品などが含まれます。一方、中国からの輸入品目は、工場向けの原材料、日用品、食品・飲料、車両、機械、建設資材、電子機器、医薬品、農業製品など多岐にわたります。
このように、中国はカンボジアの貿易において重要な役割を果たしており、今後も両国間の経済関係はさらに深化していくと予想されます。【ChatGPT】
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****カンボジアと中国のつながりの深さを示す代表的事例****
カンボジアと中国のつながりの深さを示す事柄は、政治・経済・軍事・文化など多岐にわたります。以下に代表的な事例を挙げます。
1. 経済的関係
最大の貿易相手国:先述のとおり、中国はカンボジアにとって最大の貿易相手国であり、貿易総額の約28%を占めています。
直接投資の最大供給国:中国はカンボジアへの外国直接投資(FDI)の中で最大の供給国であり、インフラ、工業団地、観光開発など多くの分野に資金を投下。
一帯一路構想(BRI)への参加:カンボジアは中国の「一帯一路」構想に積極的に参加しており、鉄道・道路・港湾などの大規模インフラ開発が進行中。
2. 政治的関係
「鉄の友人」関係:両国は「鉄の友人」と称されるほど親密で、ハン・セン前首相と中国の指導者との関係は特に緊密でした。高官同士の頻繁な交流:首脳会談や高官訪問が定期的に行われており、信頼関係が構築されています。
3. 軍事協力
合同軍事演習:カンボジアと中国は定期的に合同軍事演習「ゴールデン・ドラゴン」を実施しており、防衛協力を強化中。
武器供与と軍事支援:中国はカンボジア軍に武器や装備の提供、兵士の訓練を行っており、軍事インフラ整備にも関与しています。
4. 人的・文化交流
中国人観光客:中国からの観光客はカンボジアにとって最も多く、観光業にとって非常に重要な存在。
中国語教育支援:中国政府は孔子学院の設立や、中国語教師派遣を通じて教育支援を行っています。
奨学金制度:カンボジアの学生が中国の大学へ留学できるよう、政府間での奨学金制度も整備されています。
5. 特別経済区と経済特区
シアヌークビル経済特区(SSEZ):中国資本によって開発されたこの経済特区は、製造業の中心地であり、数百の企業が稼働しています。【ChatGPT】
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こうした中国・カンボジア関係の一端を示す今日のニュース
****中国企業が建設したカンボジアの国道3本開通****
中国の交通インフラ大手、中国路橋工程が建設を請け負ったカンボジアの国道31、33、41号のアップグレード・改造事業の竣工と開通を祝う式典が4月29日、タケオ州で行われた。
同国のフン・マネット首相、中国の汪文斌(おう・ぶんひん)駐カンボジア大使ら両国政府、関係者の代表と現地の人々8千人近くが参加した。【5月2日 新華社】
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単に貿易・インフラ整備や後述の安全保障などに限らず、人々の生活においても中国の存在感が増しています。
****中国スタイルのミルクティーがカンボジアで人気に、産業発展にも貢献****
蜜雪氷城(ミーシュエ)や氷淳茶飲(BING CHUN)といった中国の新スタイルのティードリンクブランドが近年、次々とカンボジアに進出し、人気を集めている。中でも「蜜雪氷城」はカンボジアですでに60店舗を展開し、うち30店舗は首都のプノンペンにある。人民日報が伝えた。(中略)
「蜜雪氷城」カンボジア運営会社の最高財務責任者であるハット・ソチェアタさん(32)は、「会社には中国人スタッフもカンボジア人スタッフもいる。中国人スタッフの多くはカンボジア語を勉強している。僕も独学で中国語をマスターした。みんな和やかに、楽しく交流できている」と話す。(中略)
中国とカンボジアの協力と交流が深化するにつれて、蜜雪氷城のように、カンボジアに進出して根を下ろし、発展する中国企業が増えており、同国の人にさらに多くの消費の選択肢を提供すると同時に、雇用を創出し、産業の発展を促進している。
(「蜜雪氷城」のカンボジアにおける業務提携先責任者の)ケオさんは「1店舗当たり4〜5人のカンボジア人スタッフを雇っているので、200人以上の雇用が創出されている。今後は200店舗以上オープンさせる計画だ」と話す。(中略)
中国とカンボジアの近年の交流、協力、相互サポートについて、ハットさん、「十数年前、僕が住んでいた地域はインフラ整備があまり進んでおらず、断水や停電が起きることもあった。交通アクセスも不便で、プノンペンからシアヌークビルに行くのに5時間以上かかっていた。
近年は中国の企業が次々と進出し、水力発電所や発電所、高速道路などを建設してくれているので、都市がどんどん美しくなり、交通もどんどん便利になっている」としみじみと語り、身近な変化について「『蜜雪氷城』を含む中国企業がカンボジアでの投資を拡大しており、自分の仕事の未来は明るいと感じている。ここで引き続き一生懸命仕事をして、さらに多くのことを成し遂げたいと思っている。両国の友好がさらに深まり、暮らしがより豊かになることを、心から願っている」と語った。【4月21日 レコードチャイナ】
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【米トランプ大統領の対外支援凍結の空白を埋める中国】
また、アメリカ・トランプ大統領の対外支援凍結がカンボジアのような支援を必要としている国と中国の関係を更に深めることにも。
“カンボジアは1970年代の戦争で壊滅的な被害を受けた。ベトナム戦争から波及したアメリカの空爆と、中国の後ろ盾で権力を掌握し、大量虐殺を行ったポル・ポト派(クメール・ルージュ)の支配によるものだ。
現在も数百万個の地雷が国中の地中に残っている。
1979年のポル・ポト政権崩壊以来、1万8800人以上が地雷によって死亡し、さらに4万5000人が負傷したという。
在カンボジア米大使館は昨年、2025年にカンボジアで地雷除去やその他の不発弾除去に1200万ドルを費やす見込みだと述べていた。”【後出 Newsweek】
****世界のパートナーはアメリカから中国に?...USAID凍結直後のカンボジアで何が起きたのか****
<トランプの対外支援凍結は「中国が世界中で選ばれるパートナーになる道を開いた」──支援停止の数日後にすぐさまカンボジアに働きかけた中国の作戦>
米国際開発庁(USAID)による支援先への支払い凍結で、カンボジアの地雷・不発弾除去プロジェクトが作業の中断を余儀なくされたことを発表した。だが、その数日後に中国が資金を提供したことを同プロジェクトの代表が明らかにしている。(中略)
ドナルド・トランプ大統領は、USAIDを通じた対外援助を90日間停止するという決定を下したが、これに対しては、中国が世界中に影響力を拡大する道を開くことになると批判の声があがっていた。
東南アジアに位置するカンボジアは、すでに中国の最も親密な同盟国のひとつであり、近年は人権侵害や民主主義の欠如を批判するアメリカとぎくしゃくした関係にあった。
USAIDが支援先への支払いを凍結したため、カンボジア地雷対策センター(CMAC)の運営が一時的に停止されたことが発表された数日後の2月5日、ヘン・ラタナ事務局長はフェイスブックで、2025年3月1日から1年間、中国からカンボジア地雷廃絶プロジェクトに440万ドルの助成金が提供されることを明かした。(中略)
カンボジア王立アカデミーの政策アナリスト セウン・サムは、カンボジアのニュースサイト「キリポスト」の記事で「中国が支援しなければ、CMACはカンボジアで地雷除去を続けるための十分な資金を確保できない。だから中国からの支援は進行中の地雷除去の取り組みにとって特に重要だ」と述べている。(後略)【2月10日 Newsweek】
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このあたりの中国の対応は、素早いものがあります。
【中国が支援したリアム海軍基地の拡張工事 米、中国の軍事利用を懸念】
中国が対カンボジア関係を重視するのは、中国の対外戦略にとってカンボジアが重要な位置を占めていることによる部分が大きく、その象徴がマラッカ海峡からインド洋につながる要衝であるカンボジア南西部のリアム港です。
中国支援の拡張工事の見返りに中国が軍事利用を進めるのではとの懸念がアメリカにはあります。
****海外活動の足がかりか 中国軍、カンボジアに共同拠点を開設****
中国国防省は5日、カンボジア南西部のリアム港に中国、カンボジア両軍の共同支援・訓練センターを設置したと発表した。合同訓練やテロ対策、人道支援活動の拠点として活用し、中国軍の兵員も常駐する。中国軍の海外活動の足がかりとなる可能性がある。
センター設置について、中国側は「関連する国際法に合致し、第三者を標的にするものではない。両軍の実務的な協力をさらに強化し、国際的な義務をよりよく果たすことに資する」と主張した。中国軍は既にアフリカ東部のジブチに海外基地を持つが、兵員を配置する新たな海外拠点を公表するのは異例だ。
同じ5日には、現地で中国が支援したリアム海軍基地の拡張工事の落成式典も開かれ、フン・マネット首相や中国軍高官が出席したと、AFP通信が伝えた。
この工事は2022年に着工され、基地は南シナ海に近いタイ湾に面し、マラッカ海峡からインド洋につながる要衝に位置する。このため、米国などからは、支援の見返りとして中国が軍事利用を進めるのではとの懸念が出ていた。
カンボジアは東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の中でも、代表的な「親中国」とされる。一方、トランプ米政権は世界各国への「相互関税」の一環としてカンボジアに49%の高い税率を課すなど、米中対立の影響を受けやすい立場に置かれている。
香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは、習近平国家主席が今年初めての外遊として、4月中旬にベトナム、マレーシア、カンボジアを歴訪する予定だと報道。実現すれば、中国がトランプ政権に対する途上国の不満を集約し、国際社会での影響力を誇示する機会となりそうだ。【4月5日 毎日】
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カンボジアの小国は大国の間でバランスをとることが重要ですので、フン・マネット首相は中国の支援に謝意を示す一方、アメリカの懸念を払拭すべく「基地は中国の支配下にないことを明確にしておきたい。私たちはすべての国々を歓迎する」と述べています。
そうした西側向けパフォーマンスの一環とも見られるのが海上自衛隊の艦艇の寄港でした。
****中国支援のカンボジア海軍基地に海上自衛隊の艦艇が寄港****
中国の支援によって拡張工事が完了したカンボジア南部の海軍基地に、海上自衛隊の艦艇2隻が外国の艦船として初めて寄港しました。
カンボジア南西部にあるリアム海軍基地に19日、海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」と掃海艦「えたじま」が寄港し、歓迎式典が開かれました。
現地の日本大使館は、海上自衛隊の寄港が「地域と国際社会の平和と安定につながる」との声明を発表しています。
リアム海軍基地は中国の支援によって、今月、拡張工事が完了しましたが、アメリカなどは中国の軍事拠点になるのではとの懸念を示しています。
工事終了後、リアム海軍基地に外国の艦船が寄港するのは今回が初めてです。
海洋進出の動きを強める中国を念頭に日本がカンボジアとの連携の強化を図る一方、カンボジアとしては日本からの寄港を受け入れることでバランスをとる狙いがありそうです。【4月19日 TBS NEWS DIG】
カンボジア南西部にあるリアム海軍基地に19日、海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」と掃海艦「えたじま」が寄港し、歓迎式典が開かれました。
現地の日本大使館は、海上自衛隊の寄港が「地域と国際社会の平和と安定につながる」との声明を発表しています。
リアム海軍基地は中国の支援によって、今月、拡張工事が完了しましたが、アメリカなどは中国の軍事拠点になるのではとの懸念を示しています。
工事終了後、リアム海軍基地に外国の艦船が寄港するのは今回が初めてです。
海洋進出の動きを強める中国を念頭に日本がカンボジアとの連携の強化を図る一方、カンボジアとしては日本からの寄港を受け入れることでバランスをとる狙いがありそうです。【4月19日 TBS NEWS DIG】
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【中国支援の「フナン・テチョ運河」建設 ベトナム、稲作への影響、中国艦船の航行を懸念】
一方中国は習近平国家主席が4月17日から2日間の日程で、ベトナムとマレーシアを含めた東南アジア3カ国歴訪の最後の訪問国であるカンボジアを訪れ、両国関係の更なる緊密化を図っています。
****中国首席がカンボジア訪問、友好関係を確認****
中国の習近平国家主席は17日から2日間の日程で、東南アジア3カ国歴訪の最後の訪問国であるカンボジアを訪れた。滞在期間中は、両国の強固な友好関係を確認し、協力の強化に向けて協議した。
中国外務省によると、習氏は首都プノンペン到着後、シハモニ国王、フン・セン上院議長(前首相)、フン・マネット首相、モニク王太后と相次いで会談した。
習氏はフン・セン氏との会談では、グローバル化の流れは止められないと指摘し、単独行動主義、覇権主義は人の心をつかむことはできず、貿易戦争は多国間貿易体制を疲弊させ、世界経済の秩序に影響を及ぼすとして、各国は協調する必要があると主張した。フン・セン氏は、中国政府の方針を支持する考えを示した。
フン・マネット氏との会談では、さまざまな分野における協力の強化や、2025年を「中国・カンボジア観光年」にすることで一致した。
会談後は、工業・サプライチェーン、人工知能(AI)、開発援助、通関・検疫、公衆衛生、メディアなどの30余りの分野で協力する旨の覚書の調印に立ち会った。
また、両国は、新時代の全天候型の運命共同体を創設し、中国が提唱する国際的な開発協力の枠組みである「グローバル開発イニシアチブ」「グローバル安全保障イニシアチブ」「グローバル文明イニシアチブ」を推進する旨の共同声明を出した。【4月21日 NNA】
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この習近平国家主席訪問で「フナン・テチョ運河」建設への中国支援も合意されています。
“両国は、カンボジアの経済発展につながると期待される「フナン・テチョ運河」の建設に関する協定にも署名した。
カンボジア政府の声明によると、運河は151.6キロで事業規模は11億6000万ドル。ただ、カンボジアの国内総生産(GDP)の約4%にあたる17億ドルとされていた従来計画と比べ、規模や投資額は縮小した。
資金は官民パートナーシップによって調達され、カンボジア側が51%、中国側が49%出資する。”【4月19日 ロイター】
「フナン・テチョ運河」はカンボジア政府によると、プノンペン近郊から南の沿岸州ケップまでを4年かけて貫く計画で、2024年8月に工事が始まっています。
カンボジアは物流ルートの短縮などを目的に挙げていますが、運河が水を取り込むメコン川の下流にある隣国ベトナムが建設に反発し、両国の摩擦の種となっています。メコン川流域に暮らすベトナムの稲作農家は作物の心配をしています。
予備調査では運河がメコン川下流域に与える影響は最小限であることを保証したとのことで、マネット首相は「この運河は農作物に水を供給し、雨季の水管理を改善し、淡水漁業を促進する、などの効果がある」と述べたていますが・・・
ベトナム側のもうひとつの懸念は、中国軍の艦艇がカンボジア内陸部やカンボジアとベトナムの国境を航行できるようになるのでは・・・という点。
運河のタイ湾側終着点であるケップは、シアヌークビルにあるカンボジアのリーム海軍基地から約100kmの距離にあり、同基地は最近、中国の資金で改修工事が行われたばかりです。
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カンボジアのフン・マネット首相が「この運河が中国軍艦の内陸部へのアクセスを可能にすることを否定し、カンボジアは他国が自国の領土を他国に対する軍事基地として使用することを認めていない」と述べたことを、シンガポールの放送局CNAは2024年4月に報じている。 首相はまた、「この運河は軍艦にとっては浅すぎる」とも述べている。【2024年4月29日 INDO PACIFIC DEFENS EFORUM】
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メコン川にはラオス南部に大きな滝がありますので、中国からベトナムまで船舶で航行することはできませんが、タイ湾側から運河に入った軍用艦船がベトナム国境まで至るのは可能かも。
また“2024年4月、ストレーツ・タイムズ(The Straits Times)紙が報じたところによると、国営の中国架橋・道路公社(China Bridge and Road Corp)が運河建設に資金を提供し、50年間にわたり運営を管理し、利益を得るという。”【同上】