孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ 4~6月期の実質GDP32.9%減 戦後最悪水準 今日で期限切れの失業給付金上乗せの扱い

2020-07-31 23:16:27 | アメリカ

(アーカンソー州フォートスミスで失業保険申請に並ぶ市民ら。4月撮影【7月31日 ロイター】)

 

【4~6月期実質GDP 年率換算前期比でアメリカ32.9%、ユーロ圏40%減の記録的悪化】

4~6月期の実質国内総生産(GDP)が各地で発表されていますが、当然のことながら新型コロナ感染拡大に伴うロックダウン・経済活動の停止によって、記録的な大幅減少となっています。

 

それにしても、アメリカで年率換算で前期比32.9%減、欧州ユーロ圏は更に厳しく40.3%減・・・この深手の傷をこれからどのように癒していけるか・・・と言うところですが、コロナ禍自体がいまだ拡大、あるいは一部で再燃の兆しをみせるなど不安定な状況、さらに冬場は感染状況がもっと厳しくなる可能性もあり、一気にV字回復という訳にはいかず、先行き不透明です。

 

****米GDP、前期比32.9%減 コロナで戦後最悪水準****

商務省が30日発表した2020年4~6月期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)の速報値は、年率換算で前期比32・9%減となった。

 

新型コロナウイルスの感染拡大で、統計が残る1947年以降で最大の落ち込みを記録した。経済活動の再開で今後は持ち直す見込みだが、足元では感染の拡大が止まらず、力強い急回復には程遠い状況だ。

 

マイナス幅はほぼ市場予想(約34%減)並み。リーマン・ショック後(08年10~12月期の8・4%減)などの低迷期を大きく上回る急減となった。(中略)

 

米経済は2月まで堅調だたが、1~3月期はリーマン以降で最悪の5・0%減(確定値)と暗転した。4月の失業率は戦後最悪の14・7%を記録。5~6月に経済活動が徐々に再開したことに伴い、小売りや製造業などの指標で改善がみられていた。

 

だが、経済活動の再開は感染の再拡大を招いている。7月下旬には新規感染者数が1日あたり7万人規模と過去最悪の水準に達し、死者数も連日1千人を超えた。累計の感染者数は440万人超と世界の4分の1を占め、夏を迎えても感染拡大に歯止めがかからなかったことが、消費者心理を冷え込ませている。

 

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は29日の記者会見で、クレジットカードの使用額やホテルの予約状況など直近のデータを踏まえ、「6月の感染急増以来、米経済の回復ペースは遅くなったようだ」と指摘。これに先立つ連邦公開市場委員会(FOMC)では、「ゼロ金利」など危機対応の金融政策の維持を決めた。

 

4~6月期の落ち込みが激しいだけに、10月29日に発表される7~9月期の米GDPはプラスに転じることが確実だ。ただ、FOMC後の声明では「経済の軌道はウイルスの動向に大きく依存する」と新たに明記し、見通しの不確実さを強調した。【7月30日 朝日】

******************

 

****ユーロ圏4〜6月期GDP、年40%減 過去最大の下落****

欧州連合(EU)統計局が7月31日発表した、ユーロ圏19カ国の2020年4〜6月期の実質域内総生産(GDP、速報値)は、前期比で12・1%減となった。年率換算では40・3%減で、前期(13・6%減)に記録した過去最大の落ち込みからさらに悪化した。

 

新型コロナウイルスの感染対策で、各国が3月から実施したロックダウン措置が大きく響いた。ユーロ圏は、米国、中国に次ぐ経済規模を持つ。前日発表された米国の4〜6月期GDPは年率で前期比32・9%減で、ユーロ圏はさらなる深手を負った格好だ。

 

足元では、ロックダウンの効果で感染は以前より抑制されている。感染者数が24万人を超えるイタリアでは、一日の新規感染者数が数百人ほど。各国は5月半ばから徐々に制限を解除し、飲食店や製造業などが再開している。

 

欧州委員会が30日に発表した景況感指数は、市場予測を上回る回復を示した。オランダの大手金融大手INGは、7〜9月期は前期比10・0%増を見込む。

 

ただ、7月の消費者の購買意欲を示す指数は前月からやや減少した。スペインなどは第2波が懸念される感染増に見舞われており、夏場の観光産業にどう響くかが注目されている。国際通貨基金(IMF)は6月、20年のユーロ圏の成長率は前年比10・2%減と予想している。【7月31日 朝日】

********************

 

【日本は20%台の減少か 今後のV字回復は期待薄】

日本の場合は、欧米ほどの厳しい対応をとらなかったので、落ち込みもやや少なめの20%台の予測が多いようです。

ただ、連日の新規感染者増加の報道もあるように、今後どのように回復軌道に乗せるかは非常に難しい状況です。

 

“実質GDP、4~6月23%減 民間予測”【7月10日 日経】

 

****2020年4~6月期GDP予測 ~前期比年率▲27.9%と過去最大のマイナス成長~****

2020年4~6月期の実質GDPは前期比年率▲27.9%(前期比▲7.8%)と、3四半期連続のマイナス成長となった見込み。新型コロナの影響拡大で内外需要が急減し、現行基準で比較可能な1994年以降で最大の落ち込みに。(中略)

7~9月期を展望すると、内外の活動制限緩和を受けて持ち直しに転じるものの、V字回復は期待薄。

 

7月入り後の感染再拡大を受けて、国内の小売・娯楽施設への人出の回復が頭打ちとなるなど、消費の回復力は脆弱。

 

入国制限の緩和は当面、一部の国からのビジネス目的に限られるとみられるなか、インバウンドも実質ゼロの状況が続く見通し。さらに、進捗ベースで計上される住宅や建設などは、今後一段と悪化する見込み。【7月31日 日本総研】

*******************

 

【アメリカ 低迷する消費支出 鈍い雇用情勢の回復 「不況の影響これから」の指摘も】

アメリカ経済についてみると、個人消費の落ち込みがGDP減少幅の4分の3余りを占めています。

刺激策の給付金は消費に回らず、貯蓄が大幅に増加する傾向にあるようです。

 

****米GDPが大穴に転落、掘ったのは消費者****

米国内総生産(GDP)は4-6月期(第2四半期)に過去最悪の大幅減となった。政府が新型コロナウイルス危機対策の刺激措置を講じていなければ、さらに悪化していたことだろう。(中略)

 

米経済のけん引役は個人消費だ。個人消費の落ち込みは、GDP減少幅の4分の3余りを占めた。支出項目で最大のサービス支出は年率43.5%減少し、歯科医院に行ったりレストランで食事したりといった多様な支出行動が、米国人にとって単純に不可能になったことを反映している。衣服や食料品などを含む非耐久消費財の落ち込みはそれより小さく、15.9%減となった。

 

対照的に、自動車や洗濯機など長持ちする耐久消費財は、わずか1.4%の減少にとどまった。小幅な減少となったのは恐らく、政府の刺激策で給付された現金を、いずれ買おうと計画していた高額品の購入に充てたためだろう。刺激策がなければ、そうした購入に踏み切った可能性ははるかに低い。

 

一方、失業者に支払われた毎週600ドルの緊急手当ては、あらゆる類いの消費を支えた。

 

だが、刺激策の給付金は消費に回らなかった部分も大きい。税引き後所得の貯蓄の割合を示す個人貯蓄率は、4-6月期に25.7%に膨らんだ。

 

これは7-9月期の消費を支えるはずだが、新型コロナへの懸念と景気不安が相まって、この現金を手放す意欲は引き続き抑えられるだろう。

 

これに加え、何百万人もの失業者にとっては、その多くが既に給付金を使い果たしている上、失業保険の緊急手当ても31日で期限を迎える中、消費も貯蓄も苦しくなるだろう。【7月31日 WSJ】

********************

 

失業者については、感染が再拡大する中、一時解雇の増加が続いており、労働市場は回復ペースが鈍っています。

 

****米失業保険申請143.4万件、前週から増加 コロナ再拡大受け****

米労働省が30日発表した25日までの1週間の新規失業保険申請件数(季節調整済み)は143万4000件と、前週から1万2000件増加した。国内で新型コロナウイルス感染が再拡大する中、一時解雇の増加が続いている。(中略)

 

18日までの1週間の失業保険受給総数は1701万8000件で、予想の1620万件を上回った。

また、11日までの1週間で何らかの失業手当を受けていた人は3020万人に上った。

 

PNCフィナンシャル(ピッツバーグ)のチーフエコノミスト、ガス・フォシャー氏は「過去数カ月で数千万人もの人が職を失い、今なお仕事に就いていない。労働市場は回復ペースが鈍っている」と指摘した。

 

さらに「(今月末で失効する)週600ドルの失業給付上乗せは、月750億ドルもの所得を家計にもたらしていた。こうした巨額の失業手当が短期的になくなれば、個人消費には相当な打撃になる」と述べた。【7月31日 ロイター】

********************

 

消費が低迷し、雇用の回復が鈍いなか、「不況の影響を目にするのはこれからだ」との厳しい見方も。

 

****よぎる大恐慌、食料求め列 米雇用に陰り「影響これから」****

新型コロナウイルスの感染拡大で、米国は約90年前の世界恐慌以来となる不況に見舞われた。経済活動の再開を急いだ米南部や西部などでは、6月以降、感染の再拡大とともに消費が冷え込んでおり、夏以降の「V字回復」のシナリオは遠のいている。

 

7月9日、米サウスダコタ州スーフォールズの駐車場に、100台を超える車が並んでいた。NPO「フィーディング・サウスダコタ」が、生活困窮者に食料を配る順番を待つ車列だ。

 

車内で順番待ちをしていたフランク・ベーカーさん(62)は「いまも多少の大工仕事はしているが、娘や孫と暮らしているためとてもやっていけない」。昨年末までは食肉処理工場で働いていた。工場内の感染拡大で4月に操業を停止し、5月の再開後は従業員を募集しているが、「年齢を考えれば(感染リスクを恐れて)戻って働く気にはなれない」。

 

NPO責任者のマット・ガッセンさん(65)は2008年のリーマン・ショックも経験した。「今回際立つのは、初めて食料の寄付を受ける人の多さではないか」。

 

配布量は最悪期の4月で例年の3倍、7月に入っても2・5倍ほどという。ニューヨーク市でも、無料の食料を配る各地のフードバンクに長い行列ができた。

 

GDPの落ち込みの大半は飲食や娯楽、コロナ以外の受診が減った医療などサービス消費の急減によってもたらされており、打撃はこうした産業に従事する低賃金の若年層や非白人などに偏る。

 

懸念は、予想を上回るペースで回復してきた雇用情勢に陰りが出てきたことだ。7月18日までの1週間の失業保険申請は、16週ぶりに増加に転じた。

 

米破産協会によると、6月に連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)を申請した米企業は609社に上り、前年同月から44%増えた。米銀最大手JPモルガン・チェースのダイモンCEOは「当局の刺激策のせいで見えづらくなっているが、不況の影響を目にするのはこれからだ」と警戒する。

 

 ■続く感染、消えたV字回復

(中略)大恐慌も教訓に、米政府は積極的に経済に介入し、ショックを和らげた。GDPの1割を超える計3兆ドル(約320兆円)規模の財政出動で、家計に直接お金を配ったほか、中小企業の給与支払いを政府が肩代わりし、失業保険も週600ドル(約6万3千円)を増額。経済の底割れをなんとか防いできた。

 

ただ、これらの対策は、コロナ危機が夏には小康状態になっている想定で打ち出されていた。現実には、経済の早期再開は、感染の爆発的な拡大をもたらした。米国での累計の感染者数は440万人を超え、世界の4分の1を占める。米ゴールドマン・サックスは年率33%と見込んでいた7~9月期の米経済成長率を25%に下方修正した。

 

失業保険の増額は7月末で期限が切れる。与党共和党は27日、1兆ドル規模の追加対策をまとめ、失業保険の増額幅は200ドルに抑える方針。600ドル増額の継続を主張する野党民主党と調整が続く。

 

ただ、感染が抑えられなければ「付け焼き刃」になる。政府債務を膨らませながら、ずるずると続く長期不況に陥りかねない。【7月31日 朝日】

*****************

 

【焦点となっている失業給付上乗せ 今日で期限切れ】

各記事で触れられているのが、今月末で終了する週600ドルの失業給付上乗せ。

これは、就業時より収入が多くなるほど“大盤振る舞い”ですが、これを来月からどうするのか・・・個人消費の動向を大きく左右します。

 

****米失業保険、月50万円も 異例の厚遇、働く意欲に影響****

新型コロナウイルス世界恐慌以来の雇用危機に陥った米国で、失業保険が過去に例のない「大盤振る舞い」となっている。従来の支払額に毎週600ドル(約6万5千円)が一律に加算され、平均的な働き手は就業時よりも収入が増えることになった。

 

ただ、手厚い補償が「経済再開」の足かせになりかねないとの心配も出ている。

 

ニューヨーク(NY)州中部ユティカでギリシャ料理店を営むシメオン・ツペリスさんは3月、従業員のうち55人の一時帰休に踏み切った。(中略)ツペリスさんもレストラン部分の再開を計画する。しかし、思わぬ壁が立ちはだかった。従業員たちが職場復帰をためらっているのだ。大きな理由は、コロナ対策で手厚くなった失業保険だ。

 

米議会とトランプ政権が3月末に決めた計2兆ドル(約220兆円)超の経済対策は、失業保険の受給期間を13週間延ばしたり、単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」も対象にしたりしたほか、各州が支給する額に一律600ドルを7月末まで積み増すことにした。

 

この上乗せ分だけでNY州の最低賃金(週給換算で472ドル)を上回る。NY州の元の支給額(最大約500ドル)と合わせると、最大で週約1100ドル(約12万円)を受け取れる。月収換算では約50万円に迫る。

 

給料が最低賃金に近いことが多い飲食業の従業員にとっては、失業保険を受ければ多くの州で収入が就労時のほぼ2倍になる。(中略)

 

寛大な失業保険により、企業や自治体が人を減らしやすくなったり、働き手が一時帰休を求めたりして、逆に雇用の縮小を加速させているとの指摘もある。

 

働く意欲を損なわないよう、失業保険は賃金より低く抑えるのが常道だ。米国の各州は賃金のおおむね4割しか出してこなかった。加算するにしても一律ではなく、元の賃金水準に応じて差をつける手もあった。

 

ただ、米国の4月の失業率は14・7%と戦後最悪で、近く20%を超すおそれがある。コロナ危機が始まってから3300万人超が失業保険を申請。各州のシステムの処理能力が追いつかず、申請すらできなかった人がさらに1千万人規模にのぼる可能性がある。

 

社会不安や経済危機の深刻化を避けるには、制度をシンプルにし、失職者に現金をできるだけ早く届ける必要があった。失業保険の一律加算は、働く意欲がそがれる「モラルハザード」の懸念よりも、人々の当面の生活水準の維持を優先した結果といえそうだ。

 

収入を得るために無理に働きに出て感染リスクが高まるのを防ぐ効果もあり、リベラル系識者の多くは歓迎する。

 

経済政策研究所(EPI)のシニアエコノミスト、ハイジ・シェルホルツ氏は「600ドル加算はこれまでのコロナ危機対応ではベストの策だ。失業率が劇的に改善するまで延長し、危機後も制度を手厚く見直すべきだ」と話す。

 

米国では物流や小売りの現場が「必要不可欠」な仕事とされ、いまも雇用を増やしている。しかし、大半は低賃金のままで感染リスクにもさらされ、拡充された失業保険との落差が際立つ。米ダートマス大のパトリシア・アンダーソン教授らは「現場で働いている人の就労意欲を維持するためにも、失業保険に見合った上乗せ賃金を政府が負担すべきだ」と提唱する。

 

下院民主党は12日に提案した計3兆ドル超の追加経済対策案に、失業保険の600ドル加算を来年1月まで延長することや、現場の労働者に「危険手当」を支給することを盛り込んだ。

 

米ハーバード大のカレン・ディナン教授(元米財務省チーフエコノミスト)の話 

失業率が高止まりした状態では就業機会も限られるため、失業保険への手厚い加算を続けるべきだ。感染リスクが高い今はなおさらだ。

 

しかし、経済が持ち直して求人が活発になったら、就労を妨げないよう減額するのがよい。失業状態が長引けば職業能力が衰え、本人のためにもならないからだ。失業率などに一定の基準を設けて、失業保険への加算額を決めるなどの方法も考えられる。【5月13日 朝日】

*******************

 

共和党指導部は週600ドルの失業給付上乗せを200ドルに減額する案を出していますが、共和党内部からは批判も。

 

****米コロナ追加対策、共和案に早くも党内から異論噴出****

米与党・共和党の議会指導部が27日に提示した1兆ドル規模の新型コロナウイルス追加対策法案を巡って、早くも党内から異論が噴出している。

 

党の上院議員らからは法案の規模が大きすぎるとの声が相次いだ。ランド・ポール議員は「さらに1兆ドルの借金を増やすことには反対だ」と表明した。(中略)

 

共和案では、(中略)焦点となる失業給付は、特例加算額を現行の週600ドルから200ドルに減額して2カ月延長し、その後は州政府が失業前の給与の70%を給付するとしている。

 

党内では、従来の給与以上の額を給付として支払えば、労働者は職場に戻りたがらないとの声が根強い。

 

これに対し野党・民主党は、200ドルの失業給付上乗せでは経済に支障をきたすと批判。民主上院トップのシューマー院内総務は「働きたくても仕事がないというのが現状で、このような法案を通して人々を飢え死させてはならない」と訴えた。(後略)【7月29日 ロイター】

*******************

 

トランプ政権は、復職を阻んでいるとして失業給付上乗せの延長に否定的です。

今日で期限が切れますが、どうするのでしょうか? 一時的に失効するのでしょうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サウジアラビア  大巡礼、大幅縮小で実施 聖地守護者のサウジ王室にとって苦渋の決断

2020-07-30 23:10:31 | 中東情勢

(サウジアラビア・メッカで、イスラム教で最も神聖とされるカーバ神殿の周りを回る巡礼者ら(7月29日撮影)【7月29日 AFP】 しっかりソーシャルディスタンスが保たれています。下は去年の様子【7月29日 朝日】)

【大幅縮小のハッジ ソーシャルディスタンスを取ってマスク着用】

新型コロナは日本でも、世界でも、人々の生活における様々な面に大きな変容を迫っていますが、そのひとつがイスラム世界の一大イベントであるメッカ「大巡礼(ハッジ)」。

 

“ハッジはイスラム教徒が果たすべき五行(信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼)の一つで、財力や体力がある信徒は、一生に一度は巡礼することを課されている。毎年、世界各地から200万人以上が訪れる。”【7月29日 朝日】ということですが、毎年報じられる写真で見れば、「密集」の極致。

 

新型コロナが蔓延しているこの時期に行えば、感染“大爆発”は必至。

 

ただ、メッカ・メジナの聖地の守護者を自任してきたサウジラビア王室にとっては、中止は自らの存在意義を否定するようなことにもなり、また、必ずしも実権を握るムハンマド・ビン・サルマン皇太子の強硬な改革路線が国内的に安定している訳でもないこともあって、ハッジを全面的に中止すれば、国内外の宗教保守派などから非難にさらされる可能性があるということで、その成り行きが世界的にも注目されていました。

 

結局、国内にいる外国人を含め数千人程度に限定する形で、大幅に規模を縮小して始まりました。

 

****サウジのメッカでまばらな「大巡礼」 コロナで大幅縮小****

サウジアラビア西部のイスラム教聖地メッカで29日、毎年恒例の「大巡礼」(ハッジ)が始まった。今年は新型コロナウイルスの影響で規模が大幅に縮小され、参加者は国内居住の外国人らに限定された。AP通信によると、外国からのハッジ参加が禁止されたのは1932年のサウジ建国以来初めて。

 

ハッジといえばメッカにあるカーバ神殿の周囲をすし詰めの巡礼者が歩いて回る光景が有名だが、29日の巡礼者はまばらで、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を取って等間隔で歩く姿がみられた。当局は参加者を千人前後にとどめる方針を発表していた。

 

参加者はコロナ感染検査を受けるほか、巡礼の前後には自己隔離を行うよう求められている。高齢者は参加できない。巡礼者は携帯電話と連動したリストバンドを着用し、当局がこれで居場所を追跡している。

 

ハッジには毎年250万人が訪れ、サウジに年間120億ドル(約1兆2600億円)の収入をもたらしてきた。今年はコロナ禍による需要の低迷で原油売却益も急落する見通しで、国際通貨基金(IMF)は同国の国内総生産(GDP)が前年比6・8%減に落ち込むと予測している。

 

次期国王と目されるムハンマド・ビン・サルマン皇太子が主導する大規模な社会・経済改革「ビジョン2030」の停滞も確実視されている。

 

海外からの巡礼禁止の余波はサウジ一国にとどまらない。英BBC放送(電子版)によると、毎年ハッジの時期に大量の牛をサウジに輸出しているケニアでは農民が売り先に困っているほか、昨年に最も多くの巡礼者を送り込んだパキスタンでは、旅行代理店が「商売にならない」と悲鳴を上げている。

 

ハッジは礼拝や断食などと並ぶイスラム教徒の5つの義務の一つ。体力や財力に余裕がある信徒は一生に一度は行うよう求められる。米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、サウジのコロナ感染者は累計27万人を超え、2800人以上が死亡した。【7月30日 産経】

**********************

 

【規制緩和で感染増加、その後は減少傾向】

サウジアラビアのコロナ感染状況については、3月からの外出禁止が6月に全面解除されています。

 

****サウジで3カ月ぶりに外出禁止令が全面解除、涼夜の外出楽しむ****

サウジアラビアでは21日、新型コロナウイルス感染拡大抑制策として発令されていた外出禁止令が完全に解除され、人々は3カ月ぶりに外食やバイクのツーリング、ペットの散歩など、涼しい日没後の外出を楽しんだ。

3月から行われていた厳しい感染抑制策で、大半の都市では24時間の外出禁止令が発令され、大半の住民が必需品の買い物と緊急の医療受診目的以外の外出を禁止されていた。5月に移動と経済活動の段階的な規制緩和が始まり、6月21日に外出禁止令が全面解除された。

同国でこれまでに確認されている感染者は15万7000人超、死者は1267人。

首都に戻ったハーレー・ダビッドソンのライダーグループのメンバーは、「外出禁止令解除と聞いてすぐに仲間に連絡した」と話し、「生活が戻ってきた」と語った。

解除記念の音楽パフォーマンスを企画するレストランもあり、あるレストランのウェイターは、「心の底から嬉しかった。客たちと歌って楽しみ、日常の再来を祝った」と述べた。

一方、50人以上の集会禁止などの規制は継続している。また、国境はまだ封鎖されているほか、イスラム教の巡礼は依然中止されている。【6月23日 ロイター】

********************

 

しかし、制限を解除した多くの国同様に、段階的な制限緩和とともに感染が再び増加し、6月中旬には1日4900人超の新規感染者を出すまでになりましたが、7月に入ってからはおおむね減少傾向にあるようです。

 

7月29日は新規感染者1795人 (日本の4分の1程度の人口を考えると)大騒ぎしている日本よりははるかに高いレベルですが。

 

【問題を抱えるサウジ王室にとっては苦渋の決断】

今回のハッジの大規模縮小は、前述のようにサウジ王室にとっては苦渋の決断です。

 

****サウジ政府が新型コロナでメッカ大巡礼を制限 国王の権威失墜で宮廷革命の動き****

サウジアラビア政府が、新型コロナウイルスのパンデミックで苦境に陥っている。

 

新型コロナウイルス感染者は22万人を超え(7月9日時点)、人口当たりの感染者数は中東地域で最大となっている。6月21日に全国規模の外出禁止令を解除したことが裏目に出て、その後感染者が急増してしまったからである。

 

新型コロナウイルス対策費用がうなぎ登りに上昇する一方、歳入の8割を占めるとされる原油収入が激減している。原油収入が大幅に減少したのは、サウジアラビア自身が引き起こした原油価格の下落のせいである。

 

パンデミックで世界の原油需要の3割(日量約3000万バレル)が減少したと懸念されていた3月上旬、ロシアとの減産協議が決裂するやいなや、世界市場のシェア確保のため、サウジアラビアは大増産に転じた。

 

これにより原油価格は急落し、4月下旬に米WTI原油先物価格が1バレル当たりマイナス40ドルになるという異常事態が生じた。

 

激怒したトランプ大統領に電話協議で米軍のサウジアラビアからの撤退を示唆されると、サウジアラビアはわずか1ヶ月で協調減産に逆戻りしたが、自らが仕掛けた価格戦争により、国庫は極端なカネ不足に陥ってしまったのである。

 

焦った財政当局が採った手段は大増税と歳出削減である。

 

2018年の付加価値税導入時に実施された貧困層への生活支援金は6月に廃止され、ガソリン価格などが高騰した。7月には付加価値税が5%から15%へと大幅に引き上げられたことから、「庶民の実質所得は3分の1も減少した」との嘆きの声が聞こえてくる(7月1日付アルジャジーラ)」

 

国庫が「火の車」となっても、軍事費は一向に削減されない。2019年の軍事費はGDPの8%を占め、世界ランキングは第5位である。金食い虫となっているイエメンへの空爆作戦も続いている。

 

次期国王と目されるムハンマド皇太子は、2016年に「ビジョン2030」を策定し、「脱石油国家」という建国以来の大改革に乗り出していることから、保守的な社会を解放し、経済を多角化してくれるとして、若い世代は強く支持しているとされている。

 

しかし、成果は一向に挙がらず、国民が感じる「痛み」は募るばかりである。

 

サウジアラビアなど湾岸産油国は「レンテイア国家」と呼ばれている。石油など天然資源から得られる収入に依存し、国民は選挙権を求めない代わりに、その恩恵の一部を享受するという「国のかたち」を指している。

 

2011年に「アラブの春」が勃発した際、サウジアラビア政府は公務員や軍人の給料を2倍にするなどの措置を講ずることで国内の治安を維持してきたが、「無い袖は振れない」。国民に対する施しを大幅に削減しているにもかかわらず、政治的権利を認めようとする動きがないのが心配である。

 

さらにサウジアラビア政府の正統性を揺るがす事態が生じようとしている。

 

サウジアラビア政府は6月24日、7月後半から始まるメッカ大巡礼(ハッジ)の参加者をサウジアラビアに居住するイスラム教徒(2900万人)のうちわずか1000人に限るとの決定を下した。

 

ハッジ参加者を大幅に制限するのは、1932年のサウジアラビア建国以来初めてのことである。19世紀にはハッジに参加した何万人もの巡礼者がコレラによって命を落としており、過去の教訓からやむを得ない措置だったかもしれないが、イスラム教徒にとってハッジの意義はとてつもなく大きい。(中略)

 

ハッジ参加者数を制限することは、経済にも大きな影響を与える。1週間の巡礼にかかる食事、ビザ、宿泊費用は1人当たり数千〜数万ドルに達する。ロイターによれば、ハッジ関連収入は120億ドルに上り、石油関連を除いたサウジアラビアのGDPの2割に相当する。ハッジ関連収入に課税しているサウジアラビアの国庫にも大きな痛手となるが、本当の問題は別にある。

 

「賢明な決断だが、サウジアラビアの自尊心は傷つくだろう。ハッジの(実質的な)中断は秩序を揺るがす出来事である」(6月26日付ナショナルジオグラフィック)。

 

このような懸念が専門家から出ているのは、サウジアラビア政府、いや、サウド家がこれまで国内はもちろん、中東地域で君臨してこられたのは、イスラム教の二大聖地であるメッカとメデイナの守護者という役割を担ってきたからである。

 

しかし今回の措置はその役割を果たせなかったことを意味するのではないだろうか。国内外のイスラム教徒がこのように判断すれば、サウド家自身の正統性が大きく揺らぐことになりかねない。

 

ムハンマド皇太子は王位継承のためライバルを次々と蹴落としてきたことから、サウジ王族内で不満が高まっており、5月末には王族3人を含む18人のメンバーによりムハンマド皇太子打倒を目指す反対派連携評議会が結成された(5月31日付アルジャジーラ)。

 

ムハンマド皇太子に代えて、3月に拘束されたサルマン国王の弟であるアハメド元内相を皇太子に据えることを目指しているとしているが、宮廷革命の動きに政府の失政に怒る民衆が同調すれば、サウジアラビアで大量の血が流れないとの保証はない。

 

原油輸入の4割をサウジアラビアに依存している日本は、サウジアラビア情勢への警戒をもっと強めるべきではないだろうか。【7月14日 デイリー新潮】

**********************

 

「レンテイア国家」とは聞きなれない言葉ですが、「レント収入(ランティエ、すなわち、土地による天然資源収入等の非稼得性から見出され国家に直接的に流入する利益)に依存する国」という意味合いのようです。

 

【コロナは減少、原油価格は横ばい推移 イエメンは相変わらず】

サウジ王室、ムハンマド皇太子にとって好都合なのは、新型コロナ感染が、このところは減少傾向にあることでしょうか。もし、今後再び増加に転じることがあれば、政治基盤を揺るがすことにも。

 

原油価格も、5月・6月は持ち直し、7月に入ってWTIで1バレル40ドル前後で安定していますので、まずまずでしょうか。

 

金食い虫のイエメン情勢は相変わらず。

 

****サウジ主導連合、フーシ派発射の弾道ロケットなど迎撃=国営通信社****

サウジアラビアが主導する連合軍は13日、イエメンの親イラン武装組織フーシ派がサウジに向けて発射した弾道ロケット2発とドローン6機を迎撃した。サウジの国営通信社が、連合軍報道官の話として伝えた。

サウジ国営テレビは7月初め、フーシ派によるサウジへの攻撃激化を受け、連合軍がフーシ派への軍事行動を開始したと報じている。【7月13日 ロイター】

********************

 

サウジが支援する暫定政府と南部分離独立派との関係が修復したはサウジにとってはいいニュースでしょう。

 

****イエメン南部分離独立派、自治宣言を撤回 和平合意に前進****

イエメンの南部分離独立派「南部暫定評議会」は29日、同国南部における自治宣言を撤回し、頓挫していたサウジアラビア仲介の和平合意を履行すると発表した。反政府武装勢力フーシ派との紛争で共闘関係にあった暫定政府との亀裂修復を目指す動きとなった。

 

STCは4月、暫定政府がその義務を履行せず南部の大義に対して「陰謀」を企て、紛争で荒廃したイエメン情勢を悪化させていると非難し、自治を宣言していた。

 

かつては同盟関係にあったSTCと暫定政府が決裂したことで、サウジ主導の連合軍とイランが支持するフーシ派による長期紛争はさらに混迷。フーシ派は、首都サヌアを含むイエメン北部の大部分を支配している。

 

STCの報道官は、「リヤド合意」と呼ばれる権力分担協定を履行していけるよう、「自治宣言を撤回する」とツイッターで表明した。

 

同報道官は、サウジとアラブ首長国連邦から自治宣言を撤回するよう圧力を受けたことを認めている。

STCの発表に先立ち国営サウジ通信は、サウジ政府がリヤド合意の履行を「促進する」計画を提案したと報じていた。

 

この計画は、イエメン首相が30日以内に新政府を発足させることと、暫定政府が拠点としていた同国第2の都市アデンに新たに知事と警察署長を任命することを求める内容となっている。

 

実現すれば、サウジ主導の連合軍とその共闘勢力は、共通の敵であるフーシ派との戦いに再び集中することが可能になる。

 

フーシ派は現在、政府勢力に対して再び攻勢を強めており、長引くイエメン紛争には終わりが見えない。

同国では、国連が「世界最悪の人道危機」とみなすこの内戦で、民間人を中心に数万もの人が犠牲となり、数百万人が避難を余儀なくされている。 【7月30日 AFP】AFPBB News

*********************

 

【今後の不安定要素は国王の健康問題】

ムハンマド皇太子にとって、不安定要素は高齢(84歳)サルマン国王の健康状態かも。

 

****サウジ国王の手術成功 胆のう摘出、入院は継続****

サウジアラビアの国営通信は23日、胆のう炎検査のため入院していたサルマン国王(84)の手術が首都リヤドで同日行われ成功したと伝えた。医療団の助言に従ってしばらくの期間、入院を続けるとしている。

 

国営通信によると、行われたのは腹腔(ふくくう)鏡を用いた胆のう摘出手術で、国王はサウジ国民や見舞いを寄せたアラブ諸国や友好国の指導者らに謝意を表明したという。

 

国王は20日に入院した。広がった健康不安を払拭する狙いからか、国営メディアは国王が病院からテレビ会議による閣議を主宰したなどと伝えていた。

 

サルマン国王は2015年に即位。これまでも体調不良説があり、息子のムハンマド皇太子(34)がサウジの事実上の最高権力者となっている。米紙は今年4月、サウジでの新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、国王が西部ジッダに近い島の宮殿に退避したと報じていた。【7月24日 日経】

********************

 

今回の腹腔鏡を用いた胆のう摘出手術自体はごく普通に行う施術ですが、年齢が年齢だけに今後の健康問題が気になるところです。

 

国王に万一のことがあれば、これまで国王の権威を背景に強引な改革路線を強行してきたムハンマド皇太子は“敵”も多く、王室内の権力闘争が一気に表面化することになります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インド  封鎖の緩和で増加する感染 高い抗体保有率、低い致死率をどう考えたらいいのか?

2020-07-29 23:19:26 | 南アジア(インド)

(インド・ムンバイのスラム街ダラビで、戸別訪問しながらスクリーニング検査を行う医療関係者(2020年6月24日撮影)【7月5日 AFP】 コロナはともかく、インドの暑さでは、防護服の医療関係者が熱中症で死んでしまうかも)

 

【厳しい対策の長期化に苦しむ新興・途上国

新型コロナの感染は欧米先進国から途上国へと拡大していきましたが、先進国とほぼ同時期にロックダウンに踏み切った途上国ではその後に感染拡大が続き、緩和するタイミングを失いながら、ロックダウンによる負担に耐えかねる状況になっています。

 

****途上国、長すぎるロックダウン****

新型コロナウイルス対策で新興・途上国が苦境に陥っている。

 

欧米の先進国とほとんど同時に外出規制などで厳しい措置を始めたものの、すでにピークを過ぎた欧州などに比べ、感染が後から拡大。規制の緩和に踏み切れず、経済的な困難は我慢の限界に達している。(中略)

 

 ■規制4カ月、欧州で進む緩和の裏で 耐えきれず感染拡大の国も

新型コロナウイルスの感染は、地域ごとに順を追って世界中に広がってきた。

 

ウイルスの遺伝子型の分析によれば、中国から拡散したウイルスのうち、特に欧州に渡って変異した「欧州型」が感染拡大を引き起こし、その後に南米やアフリカなど各国に広がったとされる。

 

感染者数の推移をみても、国境をまたいだ移動が盛んな欧米を中心とした先進国で先行して3~4月に感染が拡大。その後、現在は米国のほか、南米や南アジア、アフリカなどの新興・途上国を中心に感染が増え続けている。

 

一方で、各国は感染拡大に合わせて順々に規制を強めていったわけではない。英オックスフォード大ブラバトニック公共政策大学院は、各国政府の規制の厳しさを数値化して分析している。同大学院のデータによると、各国は感染状況にかかわらず、3月中旬にほぼ一斉に渡航禁止や外出制限などの対策に動いたことがわかる。

 

その結果、いま起きている問題が新興・途上国での厳しい対策の長期化だ。地域ごとに比較すると、欧州では規制の緩和が進んでいる一方、南米や南アジア、アフリカなどの新興・途上国では対策強化から4カ月たってもなお厳しい規制が続いている。

 

同大学院で研究チームを率いるトーマス・へール准教授は「早期に厳しい規制を敷いた国々では、感染拡大を遅らせることができた側面はある。しかし、ロックダウンは経済負担が大きく、長続きは難しい。耐えきれずに規制を緩めた結果、感染拡大を許してしまったケースがみられる。インドや南アフリカなどが典型例だ」と指摘する。

 

ロックダウンは万能薬ではなく、せいぜい時間稼ぎ。その間にどんな準備ができたかが重要だ。途上国の中でも、いち早く検査・追跡の態勢を整えたベトナムなどの成功例もある」と話している。【7月29日 朝日】

*********************

 

ロックダウンは経済負担が大きく、長続きは難しい。耐えきれずに規制を緩めた結果、感染拡大を許してしまったケース”とされるのが、いち早くロックダウンに踏み切ったインド。

 

****感染対策の「優等生」、苦境に インド失業1.2億人/アルゼンチン財政破綻****

新興国途上国に遅れて広がった新型コロナウイルスの流行は「経済より命」を優先し、いち早くロックダウンに踏み切った感染対策の「優等生」の国々を苦しめることになった。経済も命も救う方策はあるのか、難問を突きつけられている。

 

インド政府は、感染者が657人だった3月下旬、13億人超の全国民を対象にしたロックダウンに踏み切った。食料など必需品の買い物以外の外出を厳禁し、守らない人には禁錮刑を科す厳しい措置をとった。

 

当時、モディ首相は「コロナとの闘いに21日間(の封鎖)で勝利する」と発言していた。だが、4カ月たった今、感染者は約150万人となり、そのペースは衰えをみせない。その間、あらゆる経済指標が危機的な水準に陥った。

 

個人消費は低迷し、4月の新車販売台数は多くの企業がゼロ。民間調査機関は5月、約1億2千万人が職を失ったと推計した。

 

モディ政権は「命も経済も」として、6月には方針を転換。レストランや工場を再開させた。ポンディシェリ大学のモハンティ教授(社会学)は「感染の抑え込みにどれだけ時間がかかるかわからず、経済をいつまでも人質にはできないと判断したのだろう」と指摘する。(後略)【7月29日 朝日】

**********************

 

【インド 規制緩和で拡大した感染】

規制に「痛み」に耐えかね、6月に規制を緩和すると感染はさらに拡大。

連日の見出しを見るだけでインドにおける感染拡大のハイペースがわかります。

 

“インド、感染者70万人超え=死者2万人、まん延続く”【7月7日 時事】

“インドの感染80万人超える=保健相「市中感染なし」―新型コロナ”【7月11日 時事】

 

そして17日には100万人越え。多数の出稼ぎ労働者の移動が、感染の拡散をまねいています。

 

****新型コロナ感染者が100万人超え 地方で感染拡大****

インドの新型コロナウイルス感染者が17日、100万人を超えた。感染者数は、米国、ブラジルに次ぐ3位。地方で感染が拡大している。

保健省によると、17日に新たに3万4956人の感染が確認され、累計で100万3832人となった。死者は2万5602人。

専門家は、人口が約13億人ということを考えると100万人は相対的に少ないと指摘するが、検査を強化するに伴い今後数カ月で感染者数が大幅に増加すると予想される。

当局は3月に感染防止のためのロックダウン(都市封鎖)を導入し、6月から封鎖を緩和していた。封鎖緩和とともに、都市にとどまっていた数百万人の出稼ぎ労働者が里帰りしたため、地方で感染が拡大。今週、出稼ぎの多い東部ビハール州や、IT(情報技術)企業が集積するベンガルールなどが封鎖措置を導入した。

野党・国民会議派のラフル・ガンジー総裁は、今のペースでいくと8月10日までに感染者は2倍の200万人になるとツイッターに投稿し、モディ首相に有効な感染対策を講じるよう求めた。【7月17日 ロイター】

*******************

 

ペースは加速し、29日には150万人を超えていますが、モディ首相はインドの新型コロナ対策は「(インドの感染爆発を恐れる)世界の予想を(いい意味で)裏切った」と、回復率の高さなどをあげて自身の政策を正当化しています。

 

これは首都圏でのピーク越えもあっての発言でしょうが、地方に拡散した感染が、労働者の移動によって再び首都圏に持ち込まれる可能性もあります。

 

****インド、新型コロナ感染者150万人超え=モディ首相「対策奏功」主張****

インド政府は29日、新型コロナウイルスの累計感染者数が153万1669人になったと発表した。150万人を超えるのは米国、ブラジルに次いで3カ国目。死者数は3万4000人を上回った。

 

24時間の新規感染者数は4万8000人以上、死者は768人。人口が13億人を超えるインドで、感染拡大が続いている。

 

モディ首相は26日のラジオ演説で、厳しい外出禁止を伴う全土封鎖といったインドの新型コロナ対策は「(インドの感染爆発を恐れる)世界の予想を(いい意味で)裏切った」と自身の政策を正当化。

 

累計感染者のうち約65%は既に回復しており、この数字も「他国を上回っている」と述べ、政府の対策は奏功していると強調した。

 

政府発表によれば、これまで感染者の多かった西部マハラシュトラ州や首都ニューデリーで新規感染者が減少傾向にある。ニューデリーでは、最大で4000人近かった24時間の新規感染者が、28日は613人にとどまった。

 

一方、感染は医療機関や検査態勢の整っていない地方に飛び火している。大都市で働いていた地方からの出稼ぎ労働者が、全土封鎖の影響で職を失い、故郷に戻った影響とみられている。

 

政府は5月に入り、大都市周辺で3月末から足止めされていた出稼ぎ労働者を帰郷させる臨時列車の運行を開始。既に600万人以上が列車を使って地元に帰ったと報じられている。

 

政府は6月上旬、経済活動への規制を大幅に緩和した。これを受け、職を求める出稼ぎ労働者が大都市周辺に戻ってくる可能性も高く、一度は感染者が減った都市部でも再び感染拡大が進む恐れがある。【7月29日 時事】 

*********************

 

【首都圏住民の4人に1人、スラム地域の57%が抗体保有 多い無症状感染 低い致死率】

ただ、新型コロナは無症状の感染者も多いことが大きな特徴でもあり、首都圏住民の4人に1人が感染履歴を示す抗体を有しているとも。

 

****都住民の4人に1人が感染の恐れ、被害急加速のインド****

 インドの国家疾病対策センターなどは25日までに、首都ニューデリーの住民4人に1人が新型コロナウイルスに感染している可能性があるとの調査報告書を公表した。

 

同センターが約2週間前、首都各地で無作為に選んだ住民を対象に実施した抗体検査に基づく。2万1387人が血液検査を受け、過去の感染歴を示唆する抗体が23.48%で見つかったという。

 

センターは今回の調査結果を踏まえ、首都内の感染は確認された症例件数よりはるかに多く広がっている事態も考えられるとした。

 

インド保健省は報道発表文で、調査結果に触れ、大半の住民は無症状にとどまっていることがうかがわれるとも指摘。新型コロナの感染拡大が始まって半年となり、人口過密な地区が複数ある首都圏内で23.48%の数字は政府の活発な感染阻止策の効果を示すとも主張した。

 

ニューデリーの首都圏で発生した感染者数は今月22日の時点で、12万5096人だった。同国の2011年の国勢調査によると、首都圏の総人口は1678万人。(後略)【7月25日 CNN】

*********************

 

首都圏住民の4人に1人が感染ということは、約400万人。とてつもない数字です。

 

無症状・軽症の者が多いということの意味合いは微妙。

 

感染のリスクをそれほど恐れることもない・・・とも言えます。

一方で、多数の無症状感染者がウイルスを拡散させることで、完全な封じ込めは極めて困難とも言えます。

 

こうした高い抗体保有率は海外ではときおり耳にしますが、日本では1%未満の非常に低い数値が報告されており、このあたりが、最近の死者数の少なさともに、よくわからないところです。

 

(本来は、感染率・死者数等の現状分析によるリスクの評価は、今後の予防対策の大前提であるべきものですが、日本の場合は、そのあたりが曖昧にされたまま、「とにかくマスク着用で、三密を避け・・・」ばかり繰り返されています。 極論すれば(あくまでも極論ですが)感染しても殆ど死なないなら、何百人、何千人感染者がでようが「それがどうした?」という対応もあり得る話になります。)

 

インドに話を戻すと、とりわけ懸念されているのが、貧困層が密集して暮らし、極度に衛生環境が悪いスラムでの感染爆発です。

 

今までのところ、「スラム地域で悲惨な死体の山が・・・巨大な墓場と化している・・・」といった類の報道は目にしません。

一方、抗体検査すると、上記のように首都圏では約23%でしたが、スラムでは57%にものぼるとのこと。

 

殆どが無症状感染で、致死率が非常に低いということでしょうか。

 

****ムンバイのスラム街住民、半数以上が新型コロナ感染か****

 インド西部の都市ムンバイのスラム街で、住民の半数以上が新型コロナウイルスに感染しているとの研究結果が明らかになった。地元当局と医療機関による共同研究の結果が28日に発表された。

 

今月前半、市内3つの区から無作為に抽出した計6900人以上を対象に抗体検査を実施したところ、スラム街では住民の57%、それ以外の地区では16%が陽性反応を示したという。

 

抗体検査では過去に感染したかどうかがが分かる。研究チームはスラム街で特に陽性率が高かった要因として、人口密度の高さやトイレなどを共用する生活環境を挙げた。

 

スラム街以外の地区でも陽性率が比較的高かったのは、清掃係や庭師、運転手としてスラム街の住民を雇っているケースが多いためと考えられる。

 

今回対象となった3地区以外でも検査が完了すれば、同様の結果が出ることが予想される。

 

ただし陽性者の多くは無症状とみられ、感染者の致死率は0.05%にとどまっている。研究チームは、症状のある患者を隔離する市当局の対策が効果を挙げているとの見方を示す。

 

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によれば、インド全体でも新型ウイルスによる人口10万人当たりの死者は2.47人と、米国の45.24人、英国の68.95人と比べてはるかに少ない。インドの人口構成は欧米に比べ、重症化率の低い若者が多いためという見方が強い。

 

モディ首相は同国の検査件数や回復率の高さ、死亡率の低さを強調するが、今回発表された結果からは、これまでの検査で見つかっていなかった感染者も多いことが判明したといえる。

 

首都ニューデリーでの抗体検査でも先週、住民の4人に1人が感染していたとする報告書が公表された。【7月29日 CNN】

******************

 

ムンバイのスラム街は、一度走る車の中から道路わきに連なるスラムを見たことがあるだけですが、とんでもないところです。日本人の感覚からすれば、とても人間が住める環境とは思えません。

 

そういう場所ですから、57%という数字には驚きませんが、インドの異常に低い致死率はどう理解すればいいのか?

“症状のある患者を隔離する市当局の対策が効果を挙げている”というのは当局の手前みそでしょうし、“インドの人口構成は欧米に比べ、重症化率の低い若者が多いため”とうのも・・・。

 

多少は影響するでしょうが、インドにだって高齢者はいますので、それだけでこんない大きな欧米との差がでるとも思えませんが・・・・。医療環境を考えれば、インドははるかに不利な状況にあるはずです。

 

インドの死者の少なさは、(高齢者も多い)日本の死者数の少なさにも共通するもので、やはりこのあたりの解明が今後の対策には不可欠です。

 

【一部スラム地域での積極的な取り組みも】

よくわからないことが多いなかで、ムンバイのスラム地域における積極的な取り組みに関する記事を紹介しておきます。

 

****インドの巨大スラム街に希望の光、積極策でコロナへの勝利目前に****

インド・ムンバイにあるアジア最大規模のスラム街ダラビでは、新型コロナウイルスによる初の犠牲者が確認された際、対人距離の確保や接触者の追跡がほぼ不可能だとして、狭く密集した通りが墓場と化すのではないかと多くの人々が懸念した。

 

だがそれから3か月を経て、ダラビには珍しく、希望の光が差し込んでいる。市当局者のキラン・ディガブカール氏によると、「災難を待ち構えるのではなく、ウイルスを追いかける」ことに焦点を当てた積極的な戦略が功を奏し、新規感染者が減少しているという。

 

無秩序に広がるこのスラム街は、インド経済の中心都市ムンバイにおける厳しい所得格差の象徴する。推計100万人の住民たちは、工場で働いたり、裕福な市民の下でメイドや運転手として働いたりしながら辛うじて生計を立てている。

 

十数人が一つの部屋で眠るのが当たり前で、数百人が同じ公衆トイレを使う現状の中、標準的な感染対策がほとんど役に立たないことに当局は早々に気付いた。

 

「対人距離の確保は実現不可能で、自宅隔離は選択肢になり得ない。しかも、大勢が同じトイレを使う現状では、接触者の追跡はとてつもなく大きな問題だった」と、ディガブカール氏はAFPの取材でそう振り返った。

 

戸別訪問でスクリーニング検査を行うという当初の計画は、ムンバイの焼けつくような暑さと湿気の中、防護服を何枚も重ね着し、感染者を探して狭い路地を歩き回る医療関係者が息苦しさを訴えたことから取りやめになった。

 

だが感染者が急速に増え、検査を受けた人が5万人に満たない現状を踏まえ、当局は迅速かつ独創的な対応をする必要に迫られた。

 

彼らが編み出した方法は、その名も「ミッション・ダラビ」。医療関係者は毎日、スラム街の異なる場所に簡易検査施設を設置し、住民らがスクリーニング検査や、必要ならばウイルス検査を受けられるようにした。

 

学校や結婚式場、スポーツ施設は隔離施設として代用され、無料の食事やビタミン剤が提供された他、「ラフターヨガ(笑いヨガ)」のクラスも開催された。

 

12万5000人が暮らすウイルスのホットスポット(局地的流行地)では、ドローンも駆使して人々の移動を監視し警察に通報するなど、厳格な封鎖措置が取られた。その一方、住民らが空腹とならないよう、大勢のボランティアが食料を配給するなど、迅速な対応に当たった。

 

また、ボリウッドスターや経済界の大物らが医療装備の購入用に資金を提供し、建設作業員らはダラビ内の公園に病床数200の野外病院をあっという間に建設した。

 

こうして6月下旬までに、スラム街の人口の半数超がスクリーニング検査を受け、約1万2000人がウイルス検査を受けた。

 

ダラビでこれまでに報告された死者数はわずか82人で、4500人超を数えるムンバイ全体の死者数のほんの一部を占めるにすぎない。

 

コロナ危機のピーク時に自身の小さな診療所で毎日約100人の患者を診察していたアブヘイ・タワレ医師は、「われわれは勝利を目の前にしている。私はとても誇りに思う」と話した。(後略)【7月5日 AFP】

************************

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マレーシア  1MDB疑惑でナジブ元首相有罪に しかし、全体としては「幕引き」が進む動き

2020-07-28 22:36:03 | 東南アジア

(支援者とともにマスク姿で裁判所に到着したマレーシアのナジブ元首相(中央)=クアラルンプールで2020年7月28日【7月28日 毎日】)

 

【マレーシア政治の韓流ドラマのような流れ】

マレーシアのマハティール氏が、かつては後継者とも目されたものの、その後は政敵として蹴落とす形にもなったアンワル元副首相と手を組んで、自身の弟子筋にあたるナジブ首相(当時)を2018年の総選挙で追い落とし、92歳で15年ぶりに「元首相」から「現首相」に復帰したのはよく知られているところです。

 

その後、与党内のアンワル元首相支持派との調整がうまくいかず、今年2月、首相辞任のカードを切ることによって政局をリードしようとしたものの、腹心のムヒディン氏に足元をすくわれる政変劇(マハティール政権の政敵であったナジブ氏の勢力と手を組んで、マハティール氏の首相復帰を阻止)で政権を手放すことにもなっています。ですから現在は「前首相」です。策士、策に溺れた感も。

 

このあたりの一連の政局の動きは、政治理念による離合というよりは、韓流ドラマのようにドロドロした感があります。

 

【ナジブ政権を崩壊に追い込んだ「1MDB」を巡る汚職疑惑】

マハティール氏を「元首相」から「現首相」に復帰させることになった大きな要因が、ナジブ政権の腐敗・汚職に対する国民の怒りであり、その最たるものが政府系ファンド「1MDB」を巡る汚職疑惑でした。

 

“1MDBは、2009年にナジブ首相が主導して創設された投資会社であり、創設以来、同首相自身が顧問会議のトップとして経営に関与していた。マレーシアを先進国入りさせるプロジェクトの一環として期待されたこの投資会社は、14年3月末時点で約420億リンギットに上る巨額(GDPの3.9%、国家予算の16%に相当する金額)の負債を抱え込む状況に陥った。さらに、不正経理の疑惑も指摘されている。”【2016年6月1日 石井順也氏 読売】

疑惑は、巨額負債のほか、マネーロンダリング、首相親族の関与、更には,ナジブ首相の個人口座に約7億ドル(約800億円)の不透明な資金が振り込まれた・・・という首相自身への資金還流など多岐にわたっています。

 

*****1MDB疑惑****

1マレーシア・デベロップメント・ブルハドとは、2008年マレーシアで設立されたソブリン・ウエルス・ファンド。略称は1MDB。エネルギー・不動産・観光・アグリビジネス銘柄を保有する。

 

国内産業の振興・多角化を建前とする資金洗浄が行われた。2015年7月2日ウォール・ストリート・ジャーナルが、ファンドからナジブ・ラザク(マレーシア第6代首相)の個人口座へおよそ7億ドルが振り込まれた公文書記録を報じた。

 

本国当局だけでなくオフショア市場のある各国の金融当局までもが、翌8月のパナマ文書を利用してファンド資金の行方をグローバルに捜査した。欧米言語による媒体が次々と不正を追及していった。

 

事件の規模は年内にたちまち拡大し、国際金融市場においてクリアストリーム事件以来の醜聞となった(1MDB scandal)。1MDBは創設と運営から債務不履行と政治的解決に至るまで、一貫してマレーシア経済を機関化する道具であった。【ウィキペディア】

**********************

 

【政治の動きと表裏の「1MDB」疑惑追及】

このマレーシア最大の汚職疑惑「1MDB」をめぐる捜査は、疑惑がナジブ氏失脚、マハティール政権誕生の基盤となったように、マレーシア政治と表裏の関係にあります。

 

マハティール政権のもとでナジブ元首相は逮捕され、裁判が進行していましたが、マハティール前首相の辞任、ムヒディン現首相のナジブ氏勢力との連立によって先行き不透明に。

 

****「1MDB」疑惑捜査とマレーシア政治****

ナジブ氏と1MDBを巡る疑惑は2015年ごろに持ち上がったが、当時のナジブ政権の意向を受け、司法当局が捜査を終結させた。

 

その後、18年5月の連邦下院総選挙を経て、マハティール氏が首相に就任し、ナジブ氏が政権を追われたことから、当局は追及を再開し訴追に至った。

 

ところが今年2月に政変が起こり、マハティール氏が首相を辞任し、後任にムヒディン氏が就任した。

 

同氏はナジブ氏が所属する政党から支持されて政権奪取したことから、ナジブ陣営の協力がなければ政権維持は難しい。そのため今回の公判前には、現政権が裁判所に圧力をかけるのではないかとの懸念も出ていたが、ナジブ氏にとって厳しい司法判断となった。【7月28日 毎日】

**********************

 

【ナジブ元首相は有罪 しかし、全体的には「幕引き」が進む構図も】

結局、ナジブ元首相には有罪の判決が。

 

****マレーシア元首相に有罪判決 政府系ファンドめぐる巨額汚職で****

マレーシアの政府系ファンド「ワン・マレーシア・デベロップメント」をめぐる巨額汚職事件をめぐる裁判で、クアラルンプール高等裁判所(一審)は28日、ナジブ・ラザク元首相に対し、全ての罪状で有罪を言い渡した。

 

公判開始から16か月、ナジブ被告は1MDBの元子会社「SRCインターナショナル」から4200万リンギ(約10億4000万円)を不正に自身の口座に送金した罪などで有罪を言い渡された。

 

2年前に発覚した1MDBの資金流用をめぐる汚職疑惑によって、長期政権を率いていたナジブ被告は失脚した。

 

ナジブ被告は数十件の罪で起訴されているが、違法行為を強く否定している。全罪状で有罪が確定した場合、同被告には数十年の禁錮刑が科される可能性がある。

 

政府系ファンドの資金数十億ドルが、高級不動産から高額な美術品にまで流用された事実が発覚する中、米金融大手ゴールドマン・サックスもこの汚職スキャンダルに巻き込まれた。

 

ナジブ被告に向けられた国民の怒りは、2018年の総選挙で被告が率いた長期連立政権の敗北を招く主な原因となり、同年、ナジブ被告は逮捕された。 【7月28日 AFP】

*********************

 

マレーシア司法の独立が貫かれたと言うべきか、あるいは、現政権としてもさすがにナジブ氏無罪にまで無理押しすると国民批判を招くとの危機感からでしょうか。

 

“ナジブ被告の公判はマレーシアの汚職撲滅の取り組みの試金石として注目されている。ナジブ被告が属する統一マレー国民組織(UMNO)は3月に就任したムヒディン首相が率いる与党連合の一角として権力の座に復活している。

有罪判決によって国民のムヒディン首相への信頼感が強まる一方でUMNOが中核政党である与党連合の結束は弱まる可能性がある。”【7月28日 ロイター】と言われていますが、UMNOとの関係はそう単純ではないかも。

 

ムヒディン現政権およびUMNOを含めた与党連合としては、次の総選挙に向けて、なるべく早期に「1MDB」疑惑の幕引きを図りたい本音もあります。

 

ナジブ氏の裁判をどうこうすることは無理があるものの、ナジブ氏以外への波及は極力抑えたい・・・との思惑も。

そのあたりで、ナジブ被告が属する統一マレー国民組織(UMNO)との間で一定の了解があるのかも。

 

マハティール前首相が辞任してから、ナジブ氏以外の関係者については起訴取り下げが続いています。

 

****マレーシア政治 汚職体質続くか ジェームズ・チン氏****
豪タスマニア大学アジア研究所ディレクター

 

マレーシアでは6月、マハティール前首相が首相復帰を目指す考えを取り下げると表明した。アンワル元副首相との確執が再び深まり、ムヒディン首相を倒閣に追い込む戦略が行き詰まったためだ。今後のマレーシア政治への影響は必至だろう。

 

マレーシア政治が安定しない象徴の一つが、(マハティール氏が捜査を進めた)政府系ファンド「1MDB」から多額の資金が流出した汚職事件だ。1MDB事件に関連し、ナジブ元首相は40を超える罪で起訴されているが、うち7つの罪に関する最初の判決が28日に下されることになっている。

 

ナジブ氏の義理の息子であるリザ・アジズ氏への起訴は5月、取り下げられた。リザ氏は米ハリウッドで映画プロデューサーとして活動し、映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の制作にも関わった。1MDBから流用された資金を不正に受け取った疑いで、マネーロンダリング(資金洗浄)の罪で起訴されていた。

 

起訴取り下げの背景には、3月に首相に就いたムヒディン氏がナジブ氏の属する与党連合の中核政党である統一マレー国民組織(UMNO)に貸しをつくり、与党連合内での求心力を高める思惑もあるようだ。

 

マレーシア検察は6月、(与党連合に近い)ムサ・アマン前サバ州首相の別の資金洗浄などについても、証拠が不十分で公判を維持できなくなったと発表した。

 

1MDB事件でナジブ氏に違法性はないという捜査結果を発表した当時の司法長官、アパンディ・アリ氏は6月、公判の主任検事がナジブ氏に「明確な偏見」を持っているとする宣誓供述書を提出した。

 

UMNOは、1MDB事件が法的に解決されなければ、次の総選挙に影響が出ることを知っているだろう。与党連合は、評判回復のため必死の努力をしているようにみえる。

 

現在のUMNO指導部の間では、2018年に同党が政権を失ったのは、1MDB事件が原因だという点で意見が一致しているようだ。問題を早期に解決できれば、UMNOはブランドの信頼回復に乗り出すことができる。解決できなければ、有権者は今後も、UMNOと聞けば1MDB事件を連想するだろう。

 

UMNO関係者の中には、裁判のせいで閣僚ポストを得られなかった者もいるとみられる。ナジブ氏は1MDB事件で痛手を被ったにもかかわらず、UMNOに依然として強い影響力を持つ。UMNO内部には、ナジブ氏を総裁に復帰させようという声もあったという。ナジブ氏は、自らの政治生命が、裁判で無罪を勝ち取ることにかかっているのを誰よりもよく知っている。

 

新型コロナウイルスの感染拡大により、1MDB事件に対するマレーシアの国民の関心は薄れている。国民は、雇用など経済の再始動のほうをずっと気にかけている。人々は新たな働き方に対応し、生計を立てていくことで精いっぱいだ。

 

1MDB事件は既に、マレーシアに巨額の損害をもたらし、他国の金融機関なども巻き込む国際的な騒動になっている。今後は、マレーシアが、こうした事件を解決しなければ先進国になれないという事実のほうが重要になりそうだ。

 

ナジブ氏が権力の座に戻れば、1MDBを巡る汚職を可能にした政治がすぐに復活するだろう。汚職が政治の致命傷にならず、疑惑を抱えた政治家が、権力の座に復帰した例はいくらでもある。ナジブ氏は終わったどころか、返り咲く一人になるかもしれない。

 

民主化の「前進」過大評価

総額45億ドル(約4800億円)以上の1MDBの不正流用疑惑を巡り、ナジブ氏は背任や職権乱用の罪で起訴されている。首相が政府系ファンドを「財布代わり」にした疑惑の解明は、UMNOを総選挙で破ったマハティール前政権下で進むはずだったが、2月に同氏が首相を辞任してUMNOが与党に返り咲くと、雲行きが怪しくなった。

 

ナジブ氏の首相在任時、司法当局はお手盛りの捜査で「違法性はない」と結論づけた。マハティール氏の辞任後、今度はナジブ氏に近い要人の不正疑惑の起訴取り下げが相次ぎ、立法、行政、司法の三権分立を確立できていないことが露呈した。2年前の初の政権交代はマレーシア民主化の前進を印象づけたが、それは過大評価だったと言わざるを得ない。【7月13日 日経】

***********************

 

「1MDB」の問題はナジブ氏個人の問題ではなく、「1MDB」からの利益を享受した関係者は多く、その構造はマレーシア政治の腐敗の構造そのものであったはずです。

 

逃れようのないナジブ氏一人に責任を負わせて国民向けに“一応の責任”を見せ、ほかの関係者は延命をはかり、「1MDB」を“過去の事件”として幕引きを図るのが現政権の戦略・・・と言ったら言い過ぎでしょうか。

 

米ゴールドマン・サックスとの間でも、幕引きにむけた“手打ち”が進んでいるようにも。

 

****ゴールドマン、1MDB問題でマレーシアと合意 和解金39億ドル****

米ゴールドマン・サックスは24日、マレーシア政府系ファンド「1MDB」の巨額汚職を巡り、マレーシア政府と和解金39億ドルの支払いで合意したと発表した。ゴールドマンに対する刑事訴追はすべて取り下げられるという。

ゴールドマンが現金25億ドルを支払うほか、1MDB関連資産からの収益のうち、少なくとも14億ドルの回収を保証する。

マレーシアのアジズ財務相は声明で「予想をはるかに下回っていた従来の取り組みよりも多額の和解金をゴールドマン・サックスから確保した」と指摘。また「多くの時間、費用、資源を要したであろう法定制度を用いずに和解できたことを嬉しく思う」とし、ゴールドマンに対する訴訟などはすべて取り下げられるとした。

マレーシアと米国の捜査当局は、1MDBから約45億ドルの資金が不正流用され、マレーシアのナジブ前首相やゴールドマンなどが関与したと指摘。

またマレーシアの検察当局は2018年12月、1MDBの総額65億ドルの起債を巡り、投資家を誤解させたとして、ゴールドマンの子会社3社を起訴。米司法省によると、ゴールドマンは債券引き受けで約6億ドルの手数料を得ていた。【7月24日 ロイター】

***********************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドイツ  高評価のコロナ対策の陰で外国人労働者が集団感染 日本におけるコロナ禍の外国人労働者

2020-07-27 23:13:50 | 難民・移民

(九番団地内で食料などを受け取るアンディさん(右)(名古屋市港区)【6月5日 日経】)

 

【ドイツ 劣悪環境の外国人労働者にクラスター発生】

充実した医療態勢を背景に周辺国より死者を大幅に抑え、感染対策が評価されているドイツですが、「外国人労働者」という影の部分はあるようです。

 

****ドイツ農場で174人にコロナ陽性反応 地元住民に無料検査実施へ****

ドイツ当局は26日、バイエルン州にある大規模農場で174人に新型コロナウイルスの陽性反応が確認され、労働者ら480人が隔離中であると明らかにした。不安を抱く地元住民に無料検査を実施するという。

 

同州ディンゴルフィング・ランダウ郡当局は記者会見で、24日からこれまでに出稼ぎ労働者ら計174人が検査で陽性反応を示したと述べた。

 

出稼ぎ労働者の多くはハンガリーやルーマニア、ブルガリア、ウクライナの出身で、農場で密接してキュウリの収穫を行っていたという。

 

当局によると、集団感染は「一集団の人々」に限られているとみられ、より広範囲での感染拡大はまだ起きていない。労働者や経営者ら480人全員が農場内で隔離されており、検査で陰性だった人は感染者とは別の建物に滞在しているという。

 

バイエルン州保健当局によると、農場があるマンミングの住民は希望すれば無料で検査を受けることができるという。休暇に出掛ける予定のある人には、検査が非常に重要になってくると強く呼び掛けている。 【7月27日 AFP】*********************

 

外国人労働者におけるクラスター発生はこれまでも報じられています。

その背景には劣悪な生活環境が指摘されています。

 

****コロナ「優等生」ドイツの陰、1500人集団感染 出稼ぎ外国人、劣悪な生活浮き彫りに****

ドイツの大手食肉処理工場で6月、従業員ら1500人以上の新型コロナウイルス感染が判明した。安価な労働力として雇用される東欧からの出稼ぎ外国人が多く、国内最大規模の集団感染となった。

 

充実した医療態勢を背景に周辺国より死者を大幅に抑え、感染対策が称賛されたドイツ。だが、現地ではコロナ流行下でも多数の外国人労働者が狭い宿舎に詰め込まれ、劣悪な生活を送ってきた。

 

集団感染でその実態が浮き彫りになり、支援団体は大企業の「搾取の象徴」と改善を訴えている。

 

 ▽金属柵に囲まれて

ドイツ西部ノルトライン・ウェストファーレン州の人口約2万5千人のフェアル市。現地を訪れた6月末、麦畑に面する古い4階建ての住宅4棟が隔離用の金属柵で取り囲まれていた。(中略)

 

柵は高さ約2メートルで、隔離から抜け出そうとした人が相次ぎ、地元当局が設けた。外には警備員が24時間態勢で見張りに立ち、内側ではこの住宅を宿舎として使う外国人のグループが所在なくたたずむ。多くは欧州連合(EU)域内で経済水準の低いルーマニアやブルガリアの出身者だ。

 

「稼ぐためにドイツに来た。同僚はルーマニア人ばかり。1日10時間、働く。ドイツ人のやらないきつい仕事だ」。柵の中からルーマニア人男性が話す。住宅の入居者は頻繁に入れ替わり、別のルーマニア人男性は「10人近くが暮らす部屋もある」と打ち明けた。

 

現場を見回るミヒャエル・エスケン市長(54)は「(800人のうち)70人が陽性だった。当初は誰がどの部屋に住んでいるか分からなかった」。柵越しに宅配業者が食品を届け、市民有志が生活必需品を差し入れる。

 

 ▽がんじがらめ

工場を調査した専門家はろ過設備のない空気の循環システムが集団感染の要因と指摘するとともに、宿舎の居住条件にも問題があったとの見方を示した。

 

同時に食肉会社が仲介業者と契約し、業者が人材募集から給与支給、宿舎の用意などを一手に引き受ける仕組みにも、搾取の構造だとして国内の注目が集まった。

 

地域で長年、外国人労働者を支援する慈善団体のフォルカー・ブリュッゲンユルゲンさん(56)は6月末、食肉業界で働く外国人の宿舎を訪れた。15平方メートルの部屋にブルガリア人男性3人が暮らし、粗末なベッドがあるだけだった。

 

仲介業者が3人から天引きする家賃は月に計960ユーロ(約11万7千円)。法外な額で、他の部屋に暮らす労働者と合わせて11人が小さな台所を共有していた。

 

仲介業者も多くの場合、ルーマニアやブルガリアなど労働者と同じ国の人間で、食肉の解体など重労働に就く人々に最低レベルの賃金しか支払わない上、通常の2〜3倍に上乗せした家賃を通じてさらに収奪する仕組みという。

 

 ▽人々の欲

「労働者の多くは十分な教育を受けていない貧しい人々だ。自国で職に就けずにこの国へ来たが、ドイツ語も不十分で最低賃金しか得られず、2級労働者の扱いを受けている」とブリュッゲンユルゲンさん。

 

ドイツがコロナ危機を乗り越えたことを誇りに思うが、でもだからこそ今回の集団感染にやるせない気持ちでいる。

 

国内では5月以降、複数の食肉処理工場で集団感染が発生し、労働者を取り巻く環境に問題があることは分かっていた。だが、地元の食肉処理工場ではその後も安全軽視がまかり通り、その結果、多数が感染したからだ。 

 

地元のタクシー運転手フランク・ルドルフさん(55)は「あの会社は外国人労働者に依存している。彼らが良い扱いを受けていないことを地元の誰もが知っていたが、大企業に対して何も言えなかった」と語った。

 

7月に入り、労働者が金属柵で隔離された地域では規制が解除され、工場も段階的に操業を再開した。

 

ハイル労働相は集団感染を受け、食肉業界で仲介業者が絡む契約を禁じる法を整備すると述べた。ただ、外国人労働者の存在と店頭の食肉価格の関係は密接だ。「安い肉を求める私たちの欲がこの仕組みを後押ししている」。ブリュッゲンユルゲンさんがうなずくように話した。【7月23日 47NEWS】

**********************

 

外国人労働者の安い労働力に依存しながら、劣悪な生活・職場環境に放置してきたことではシンガポールも同じで、そのシンガポールは外国人労働者からの感染拡大というしっぺ返しを受け、その環境整備見直しを迫られています。

 

【日本 コロナ禍の「雇用調整弁」としての外国人労働者】

「コロナ禍」という緊急事態において、そのしわ寄せは弱者に集中しますが、その弱者の最たるものが外国人労働者です。そうした事情は大なり小なり、ドイツでもシンガポールでも、そして日本でも同じです。

 

****コロナで失業外国人、職探し難しく困窮 支援の動きも****

新型コロナウイルスによる雇用情勢の悪化が、非正規で働く外国人を直撃している。

 

製造業を筆頭に働き先が豊富な中部地方は外国人労働者が多く集まるが、仕事を失うケースが相次ぎ、日本語に不慣れなことから再就職や公的給付の手続きでも苦労しがちだ。民間団体や自治体がさまざまな形で生活や再就職の支援を進めている。

 

「先が見えない。どうすればいいのか……」。インドネシア出身で名古屋市港区に住むアンディ・アブドゥル・ハリック・シュクルさん(31)は勤め先の自動車部品関連工場が4月から休業になり、月8万円ほどあった収入が途絶えた。上司からは「操業が再開すれば声をかける」と告げられたが、いまだに連絡がない。

 

アンディさんは2019年9月、日本で通訳の仕事をする妻とともに来日した。住民の約3割を外国人が占める「九番団地」(港区)に暮らし、8月に妻の出産を控える。

 

日本語の勉強を続けているが複雑な会話はまだ難しく、探せる仕事が少ない。「子どもの服やおむつなども買えていない。妻も今月から産休だ。早く復職して妻を支えたい」と焦りがにじむ。

 

この団地に住む外国人の支援を続ける民間団体「まなびや@KYUBAN」が4月末にアンケート調査をしたところ、9割を超える外国人住民が「新型コロナの影響で仕事が減った」と答えた。同月初旬の調査(約6割)から大幅に増えており、外国人労働者の雇用状況の悪化がうかがえる。

 

代表の川口祐有子さん(44)は「外国人は非正規雇用が多く、景気悪化の影響を受けやすい。団地内には日本語が不自由な人も多い。雇用環境はこれからさらに悪化していくだろう」とみる。

 

失業した外国人の生活を助けるため、川口さんらは4月以降、定期的に団地内の公園で卵や缶詰などを配布している。当初は5月で終える予定だったが、企業や個人などから食料や資金の寄付があり、当面は続ける。(中略)

 

言葉の壁も大きく、公的支援を受けるのも容易ではない。同県豊田市の保見団地で5月末に相談会を開いたNPO法人「トルシーダ」によると、団地に住む外国人からは「記入方法が分からず(1人10万円の)特別定額給付金を申し込めない」などの声が上がる。

 

相談会にはポルトガル語やスペイン語の通訳が立ち会い、申請書の記入などを手伝った。同法人の担当者は「家賃も払えないほど生活に困窮する人が出てきている。

 

コロナの世界的な流行による渡航制限で、(08年の)リーマン・ショックのときのように母国に戻ることもできない。食料や就業などさまざまな支援が必要だ」と話している。(後略)【6月5日 日経】
***********************

 

****日系人、「雇用の調整弁」今も ブラジルから定住化、30年 コロナ禍、職も住も同時に失う****

新型コロナウイルスの影響で失職し、住まいまで失う日系ブラジル人らが増えている。経済危機のたびに繰り返される苦境は、日本が定住者として日系人を迎え入れて30年たってもなお、多くが「雇用の調整弁」として不安定な立場に置かれている現実を映し出している。

 

「助かった」。先月まで神奈川県で働いていた日系ブラジル人の男性(41)は最近、身を寄せた知人の事務所で約1カ月ぶりに布団で寝た。新型コロナ禍で仕事と家を失い、車やカフェで寝泊まりしてきたからだ。

 

2018年に来日して電気関連の資格を取り、建設現場で仕事を請け負ってきた。しかし、コロナで現場がなくなり、3月に30万円あった収入は月10万円ほどに。たまらず家賃6万5千円のアパートを出たため、政府の10万円の給付金の申請書も受け取れていない。

 

静岡県牧之原市で自動車部品工場に勤めていた40代の日系ブラジル人夫婦は5月に派遣切りにあい、寮を退去させられた。小学生の長女は、休校中だったため級友にお別れもできないまま、家族で親戚のいる千葉県に移り住んだ。いま夫婦はアルバイトで働く。

 

日系人が困窮しやすい背景には、多くが派遣社員など非正規雇用に就いている実情がある。複数の派遣会社幹部は「先にクビをきられるのは外国人」と口をそろえる。

 

派遣会社などが用意したアパートで暮らす日系人も多く、職と同時に住まいも失いやすい。人口の約2割が日系人ら外国人の群馬県大泉町では、職と住まいを失った人が1カ月だけ無料で泊まれて食事もとれる一時保護所づくりを有志が進めている。

 

日系人の事情に詳しい武蔵大のアンジェロ・イシ教授によると、ブラジルで出される日本の求人は派遣会社のものが多く、渡航後も派遣会社の生活支援を受けて働く人が多い。日本で触れるポルトガル語メディアなどの求人広告は「ほぼ100%非正規」で、日本語が十分にできないことが多いため、自力で正規の仕事に就くことも難しいという。(中略)

 

NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平代表理事は「政府は日系人を使い捨ての労働力とみており、長期的視点の政策がなかった。日本社会を担う人々として自ら労働市場にアクセスできるよう、もっと職業訓練日本語教育が必要だ」と指摘する。【6月30日 朝日】

********************

 

シンガポールの場合ははっきりしていると言うか、ドライと言うか・・・・

“シンガポールのリー・シェンロン首相は、外国人労働者は雇用調整弁であると言及し、好景気期は需要が大きく、不況期には外国人労働者を減少させ、国内雇用を優先できると緩衝的な役割を果たしているとの見解を示しています。”【2018年11月22日 外国人総研HP】

 

ただ、そうした外国人労働者を雇用調整弁とみなす考え方は、社会の格差、二重構造を容認することにもなります。

現実的には、外国人労働者の子供たちの教育の問題、日本語しか話せない母国を見たこともない彼らをどう扱うのかといった問題などを惹起し、社会の不安定化要因ともなります。

 

****教育不足「非正規の再生産」****

日本は1990年、出入国管理法の改正で、かつて開拓移民などとして南米などに渡った人の子や孫は、「定住者」などの在留資格で来日して就労制限なく働けるようにした。文字通り定住する人も増えたが、実際は経済情勢によって生活が翻弄(ほんろう)され続けてきた。

 

08年のリーマン・ショック時は派遣切りが相次ぎ、政府は日系人に帰国費を一部支給する代わりに再入国を制限。今回のコロナ禍でも、政府は日系人ら定住者の入国を、外国人一般と同様に制限した。

 

イシ教授は「日系人は30年も頑張ってきたが、(日本人などと差をつけられて)そういう存在か、と感じた」と話す。

 

「非正規の再生産」(イシ教授)も課題だ。群馬県伊勢崎市の日系ブラジル人3世の女性(19)は日本で生まれ育ったが、日本の公立校でいじめにあい、主にブラジル人学校に通った。日本の高校には進まず工場でアルバイトを始めたが、コロナで職を失った。

 

ブラジル人学校は、現状では日本語が十分学べず、進学や正規雇用の機会が限られる課題も指摘されている。浜松市ブラジル人学校「イーエーエス浜松」は大半の保護者が派遣社員で、コロナで少なくとも5家族ほどが派遣切りに遭い、数人の子どもが学校をやめたという。

 

政府は昨年、特定技能の在留資格をつくり、本格的に外国人受け入れ拡大にかじを切った。日系人の受け入れはその試金石ともいえるが、30年たっても不安定な立場に置かれたままだ。

 

NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平代表理事は「政府は日系人を使い捨ての労働力とみており、長期的視点の政策がなかった。日本社会を担う人々として自ら労働市場にアクセスできるよう、もっと職業訓練日本語教育が必要だ」と指摘する。【同上】

********************

 

そうした第二世代を考え、家族の同行を認めないということになると、人権的な問題ともなります。

 

最終的には「人間として」そういう状況をどう考えるのかという問題でしょう。

いろんな問題を考慮すれば、日本国籍の者と同様に扱うというのが、ある意味一番安全・簡単な方法でしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ大統領選挙  コロナで増える「郵便投票」を逆手にとって、トランプ居座りの最悪シナリオも

2020-07-26 23:25:25 | アメリカ

(オハイオ州クリーブランドで選管事務所前の投票箱に投票用紙を入れる有権者(4月28日)【5月25日 WSJ】)

 

【世論調査では劣勢なトランプ大統領だが・・・】

アメリカの・・・と言うより、世界の政治・社会・経済を大きく左右するアメリカ大統領選挙がいよいよ迫ってきました。

 

先ほど観たTVニュースでも、アメリカの経済制裁に加え、新型コロナ、さらには最近の不審な火災などに苦しむイランの苦境を取り上げていましたが、露骨なイラン敵視政策をとるトランプ大統領がいる限り好転はおそらくのぞめません。日々の生活に苦しむイラン国民はかたずをのんでアメリカ大統領選挙の行方を注視しているでしょう。

 

アメリカとの対立を深める中国指導部も同様でしょう。

逆にイスラエル・ネタニヤフ首相は再選を期待していることでしょう。

独仏など欧州首脳はトランプ氏に早く退陣して欲しいというのが本音でしょう。

 

****米大統領選まであと100日 激動の国内、窮地に立つトランプ氏****

2020年米大統領選挙は26日、11月3日の投票日まであと100日となった。

 

ドナルド・トランプ大統領は世論調査での支持率が落ち込み、目玉イベントである共和党大会中止を強いられた上、対立候補に打撃を与えられずにおり、再選の雲行きは怪しい。

 

トランプ氏は23日夜、南部フロリダ州で来月予定していた共和党全国大会を、新型コロナウイルス感染拡大への懸念から中止すると発表した。

 

だが米国の新型ウイルス流行は、トランプ氏から派手なパフォーマンスの場を奪ったのみならず、経済への深刻な打撃と、14万人を超えて増え続ける死者、政府に対する国民の信頼喪失ももたらしている。

 

これに、人種差別や警察の暴力に抗議し爆発的に広がったデモ、極左グループ主導の暴動、右翼の陰謀論活発化、ロシアによる選挙干渉の恐れも重なり、米国は今や、激動の1960年代以降で最も深刻な社会不安に見舞われている。

 

「勝つこと」には飽きないと豪語するトランプ氏はここにきて、大統領選で民主党候補のジョー・バイデン前副大統領に敗北する屈辱を味わう可能性に直面している。

 

トランプ氏はバイデン氏を「寝ぼけている」だとか、知能がないとこき下ろしているが、複数の世論調査ではそのバイデン氏に支持率で10ポイント以上引き離されている。

 

米国で人種差別と性差別に対する歴史的な抗議運動が巻き起こった2020年に、74歳のトランプ氏と77歳のバイデン氏が対戦することは時宜にかなっていないようにも思える。

 

トランプ氏は極端に恵まれた環境に生まれた大富豪であり、対するバイデン氏は上院議員を約30年、バラク・オバマ前政権で副大統領を2期務めた典型的な職業政治家だ。

 

だがトランプ氏とバイデン氏の戦いはそれでも、混乱と怒りを抱えた米有権者が耐えうる限りの動乱をもたらすだろう。

 

■支持率低迷も望みは消えず

トランプ氏は、新型ウイルスの流行に伴う経済活動の停止による雇用の大量喪失、人種問題をめぐる情勢不安、政府に対する信用低下への対応を迫られている。

 

目下最大の問題である新型ウイルス流行については、米国人の3人に2人がトランプ氏の指導力を信頼していないことが世論調査で示されている。

 

おまけに、トランプ氏は弾劾訴追された後に再選を目指す初の米国大統領でもあり、支持率は一貫して40%前半にとどまっている。

 

しかし、再選の望みが絶たれたと考える人はいない。

 

笑いものにされていた2016年の大統領選では、共和党の主流派候補らをやすやすと抑え、同党の候補指名を獲得。本選では当初、遅れを取ったものの、民主党の経験豊富なヒラリー・クリントン候補を打ち負かした。

 

トランプ氏は今回の選挙戦についても自信を見せる。先週末、米FOXニュースに出演した際「私は負けない。世論調査はフェイク(偽)だからだ」と発言。「世論調査は2016年もフェイクだったし、今はもっとフェイクだ」と述べた。

 

■2つの「見えない敵」

トランプ氏が「見えない敵」と呼ぶ新型コロナウイルスは、高層ビルなどの大きく形あるものの扱いに慣れている不動産王の同氏にとって、やっかいな問題だ。

 

しかしトランプ氏は、対立候補のバイデン氏の扱いにも同じように苦戦している。

 

バイデン氏は東部デラウェア州の自宅を離れることのないユニークな選挙戦を展開。選挙集会は開かず、インタビューもほとんど受けず、記者会見の開催はさらに少ない。

 

当初は新型ウイルス対策でのソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)措置として始まったこの手法は、失言で有名なバイデン氏に図らずも有利に働き、今では「地下壕(ごう)戦法」とやゆされるまでになった。

 

バイデン氏はこの戦法により、リスクを冒すことなく、「#HidenBiden(隠れるバイデン)」のハッシュタグを使った嘲笑の声を無視しながら、トランプ氏が墓穴を掘る様子を傍観していられる。

 

■恐怖をあおり再選狙う

新型ウイルスの懸念により、トランプ氏の政治的アイデンティティーの要である大規模な選挙集会が立ち消えになると同時に、同氏のトレードマークである虚勢や他人への中傷も、死者の増加や経済危機に直面する国民には以前のように受けなくなっている。

 

追い詰められたトランプ氏は恐怖をあおる策に出ており、暴力犯罪が多発する混沌とした未来像を描き、ツイッターへの投稿でバイデン氏が「米国人の生き方を破壊」しようとしていると主張した。

 

11月の選挙では、新型ウイルスの感染予防策や郵送投票により投票が複雑化し、集計が遅れる見通しだ。先週、FOXニュースに出演したトランプ氏は「選挙を不正操作する」試みが続いていると改めて主張。

 

さらには、歴代大統領全員がしてきたように選挙結果を受け入れるかとの問いに対し「結果を見る必要がある」と答えた。 【7月26日 AFP】AFPBB News

*********************

 

個人的には、個々の政策云々以前の問題で、ウソを平気で並べ立てるような人格が破綻している人物にこれ以上世界で最も影響力が大きい地位にいてほしくないと思っています。

 

上記記事にもあるように、最近の世論調査の数字は、そういう意味では期待できるものにはなっていますが、「隠れトランプ支持者」も多いとされますので、どうなるのか不安も。

 

****米世論調査、バイデン氏が2桁リード 新型コロナも争点に****

11月に行われる米大統領選でジョー・バイデン前副大統領の支持率が52%とドナルド・トランプ大統領の40%を12ポイントリードしていることがわかった。CNNが直近に行われた登録有権者の見方を計測した全米規模の電話による世論調査5つを集計した。

 

世論調査は米国で新型コロナウイルスの感染件数が上昇しているなかで行われた。トランプ氏は状況はコントロール下にあるとしており、経済活動や学校などの完全な再開を求めている。

 

新型コロナウイルスの感染拡大はバイデン氏にとって追い風となっている。世論調査では有権者は新型コロナウイルスでバイデン氏の対応のほうを好んでいる。

 

FOXニュースの世論調査では、米国が直面している最も重要な問題について新型コロナウイルスと答えた有権者の割合は29%だった。最も重要な問題は経済と答えた人の割合は15%、人種や警察に関連した問題と答えた人の割合は10%だった。

 

新型コロナウイルスへの対応では過半数がトランプ氏よりバイデン氏を支持した。ワシントン・ポスト紙とABCニュースの世論調査によれば、バイデン氏を信頼すると答えた人の割合は54%、トランプ氏を信頼すると答えた人の割合は34%。

 

トランプ氏の新型コロナウイルスへの対応を評価する人の割合が下がっている。NBCニュースとウォールストリート・ジャーナル紙が先週発表した世論調査では、支持する人の割合は37%、支持しない人の割合は59%だった。6月の調査では支持する人の割合は43%、支持しない人の割合は55%だった。【7月22日 CNN】

***********************

 

調査によって数字にはバラつきがありますが、バイデン氏有利はどの調査も同じです。

トランプ氏がセールスポイントとしてきた経済でも、コロナ禍の問題もあって、トランプ氏に翳りが見えます。

 

非常に不謹慎ではありますが、11月の選挙まではトランプ氏の足を引っ張るアメリカのコロナ情勢がこのまま続いてもらえないか・・・と思ったりも。もちろん良くない考えです。一日も早い改善を期待すべきです。

 

【負けても居座りのシナリオも カギになりそうな「郵便投票」】

そのコロナ絡みで大きな問題になりそうなのが「郵便投票」の問題。

一般的には、郵便投票で投票率が上がればバイデン氏に有利とされており、トランプ大統領は郵便投票拡大に反対しています。

 

もっとも、どちらに有利になるかには異論も。

 

****トランプ大統領の危険な賭け****

・・・・スタンフォード大学の研究グループがことし4月に発表した論文には、郵便投票によって投票率は上がるものの、共和党・民主党のどちらかの党にとって有利に働くことはないという研究成果がまとめられている。

 

長年、共和党の選挙戦略に携わってきた政治コンサルタントのジョン・パドナー氏は、郵便投票は、むしろ共和党に有利に働くと分析している。

 

「都市部に多い民主党の支持者よりも、遠くの投票所までわざわざ足を運ばなければならない共和党の支持者のほうが、郵便投票のメリットを受けることになる」

 

そのうえで、パドナー氏は、トランプ大統領の言動は、結果的に自身の支持者の投票の機会を減らし、自身の首を絞めることにもなりかねないと指摘している。

 

「投票日よりも前にみずからの陣営に投票をしてもらうというのは、選挙戦略の定石だ。トランプ大統領が『郵便投票は不正の温床』だと訴え続けることは、郵便投票は不正だと共和党の支持者にも投票を控えさせる効果があり、非常に危険なことだ」(後略)【7月3日 NHK】

**********************

 

トランプ大統領がもし敗れた場合、その結果を認めるのか?という問題が出ています。

トランプ大統領は現時点で、選挙結果を認めるかどうかを明確にしていません。

 

****米民主主義の危機 大統領選で敗北してもトランプは辞めない****

<大統領選挙で負けたら辞めるか、という質問に「単純にイエスとは言えない」「不正が行われるかもしれない」と、このまま居座る気満々。コロナ対策の郵便投票を不正の温床と批判しているのも、辞めないための狡猾な伏線だ>

ドナルド・トランプ大統領が11月の大統領選で負けても辞めない可能性を考えて、米国民は備えをしておかなければならない――反トランプを掲げる非営利団体「スタンドアップ・アメリカ」はこう訴えている。

 

トランプは7月19日に放送されたFOXニュースのインタビューの中で、選挙に敗れたらどうするかという度重なる質問に、はっきりと答えなかった。

草の根運動を展開する同団体はこれを受け、トランプは「アメリカの民主主義を脅かす」存在だと非難している。

 

トランプは選挙結果を受け入れるかという問いに対し、単純にイエスとは言えない」と答えた。「選挙で不正が行われれば辞めない」などと最後まで言い逃れを続けた。

 

スタンドアップ・アメリカはトランプのこうした発言について、票が投じられる前から、有権者の間に投票結果に対する疑念を植えつける「狡猾な」やり方だと批判している。

 

11月の大統領選に関する各種世論調査では現在、民主党の指名獲得を確実にしているジョー・バイデンが優勢となっている。

 

トランプは(コロナ禍の影響で)急増している郵便投票について、本選の結果の正当性を損なうことになると証拠もなく繰り返し主張。「外国政府が数百万枚の郵便投票用紙を偽造して、一大スキャンダルになる!」などと根拠のない主張を行ってきた。

 

<2024年以降も居座る>

トランプは2016年の大統領選についても、自分が一般投票で(クリントンに)負けたのは「何百万もの」不正投票があったせいだと主張したが、実際に不正投票があったことを示唆する証拠は出ていない。

 

また米大統領は2期までという任期制限があるが、トランプは2期を超えて大統領の座にとどまる可能性も示唆しており、ツイッターに(2期目が終わる)2024年以降の4年毎の選挙スローガンを掲げる映像や、「トランプ2188」「トランプ9000」「トランプ4Eva(フォーエバー)」などの言葉を投稿している。

 

スタンドアップ・アメリカのショーン・エルドリッジ創業者兼社長は声明を発表し、トランプが選挙結果を受け入れるかどうか明言を拒んだことは、彼が「法の秩序をまったく尊重していない」ことを示していると批判した。

 

「トランプはこの5年間、外国政府に干渉をそそのかしたり、有権者の不正について根拠のない主張をしたり、2016年の選挙結果について嘘をついたりして、この国の選挙を台無しにしようとしてきた。アメリカ国民は、トランプが負けを認めることを拒んだ場合に備えるべきだ。我々はそれに立ち向かう備えをしておくつもりだ」(後略)【7月21日 Newsweek】

********************

 

更に困惑させるのは、「郵便投票」の問題を逆手にとって、自身に不利な結果が出そうな場合は、国家安全保障上の非常事態を宣言して大統領職に居座ることも・・・という指摘も。その具体的シナリオも想定されているようです。

 

****トランプは負けても大統領を続投する****

一般投票で負けても居座るためにトランプが「予言」している巧妙なシナリオとは

 

(中略)勝敗のカギを握る激戦州でも、トランプの形勢は不利になりつつある。

それでもトランプが大統領の座を維持する方法は、大きく分けて2つある。

 

第1の方法は投票抑圧だ。

有権者登録を難しくしたり、郵便投票(新型コロナウイルス感染症が流行中の今は特に必要とされている)の採用を阻止したり、有権者の市民権に疑いをかけたり、投票所に大行列ができるよう仕組むといった、既に実行に移されつつある戦略だ。

 

第2の方法は、もっとひどい。こちらは選挙後に起こる可能性のあるシナリオだが、私たちは今からそれを警戒し

なければならない。

 

トランプは既に、自分が一般投票に敗北し、十分な数の選挙人の確保にも失敗した場合でも、大統領の座にとどまる仕組みづくりに着手しているのだ。(中略)

 

激戦4州に捜査が入る?

具体的なシナリオはこうだ。

 

バイデンが一般投票で勝利し、選挙人を過半数確保する上でカギとなる激戦州アリゾナ、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアでも、それなりの(しかし圧倒的ではない)得票差で勝利する。

 

するとトランプは、選挙に不正があったと声を上げる。バイデンが勝利した激戦州では、中国が郵便投票に細工をして選挙に不正介入したと言うのだ(実際、トランプは6月22日のツイードで、郵便投票には外国政府が印刷した投票用紙が大量に交ざり込むと「予言」している)。

 

これは国家安全保障上の非常事態だと、トランプは宣言する。そして司法省に、激戦4州における「不正」を捜査するよう命じる。この4州の州議会は、いずれも共和党が多数派を握っているため、「国家安全保障に関する捜査」が終了するまで、選挙人の任命を行わないと決定する。

 

民主党は裁判を起こして、4州でのバイデンの勝利を確認する判決を求める。連邦最高裁は票の再集計こそ認めないが、大統領には国家緊急権に基づき捜査を命じる権限があると認定する。その一方で、選挙入団による投票は予定どおり12月14日に行われなくてはならないと判示する。

 

だが、激戦4州では司法省の捜査が終了していないため、これらの州の選挙人は投票に参加しない。このためバイデンもトランプも、勝利に必要な「選挙入団の過半数」を獲得することができない。

 

この場合、合衆国憲法は、大統領の選出を下院に委ねることを定めている。ただし、1人1票ではなく、各州に1票が与えられる。つまり民主党の下院議員が多い州はバイデンに、共和党のド院議員が多い州はトランプに投票する

ことになる。

 

現在、共和党の下院議員が過半数を占める州は26で、民主党のほうが多い州は23。ペンシルベニアは同数だ。従っ

て、たとえペンシルベニアがバイデンに投票することにしたとしても、トランプが26票、ハイテンが24票を獲得して、トランプが大統領選の勝利を手にする。(後略)【7月28日号 Newsweek日本語版】

*********************

 

なんとも滅茶苦茶な話ですが、トランプ大統領だったら・・・と思わざるを得ないところが、この人の最大の欠陥です。

 

まるでアフリカの独裁国家の選挙のようですが、アメリカにおいてそういうシナリオを心配しなければいけないことがすでに大問題です。もっともアフリカからは「失礼な。トランプと一緒にするな」と怒られるかも。

 

これまでもアメリカ大統領選挙では集計をめぐって「もう少し考えたら?」と言いたくなる様々な問題が起きています。

 

トランプ陣営による“中国が郵便投票に細工をして選挙に不正介入”云々の問題は別にしても、郵便投票の場合、署名ミス、到着期限、活動家の投票回収など、様々な問題を惹起しますので、僅差の場合、相当に混乱することも予想されます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブラジル  感染爆発のなかでコロナ軽視のボルソナロ大統領の支持率上昇 キーワード「働くこと」

2020-07-25 23:04:07 | ラテンアメリカ

(【7月20日 TBS NEWS】 マスクを外して(一定の距離が保たれていた)支持者に語りかけるコロナ陽性のボルソナロ大統領 記者会見中にもマスクを外し報道協会が提訴する方針を発表・・・・といった騒ぎにも。このときは記者団から2メートルほど離れた際、マスクを外し、彼なりに気を使ったのでは・・・との声も)

 

【世界第2位、200万人超の感染拡大のなかで“通常の生活を少しずつ取り戻しつつある”】

ブラジルやアルゼンチンなど中南米で新型コロナが猛威を振るっているのは周知のところです。

 

その中南米でも、アメリカに次ぐ世界第2位の感染者を出しているのが地域大国ブラジル。

“ブラジルの保健省によりますと、22日までの感染者は222万7514人、死者は8万2771人に上っています。また、一日の新たな感染者は6万7860人と過去最多を更新しました。”【7月24日 テレ朝news】

 

感染拡大は続いていますが、インドなど貧困を抱える諸国同様に、失業や貧困の深刻化に耐え切れず経済再開を進めており、それがまた感染拡大を招くという状況にもなっています。

 

*****ブラジル、感染者200万人=経済再開の流れは止まらず―新型コロナ****

ブラジル保健省は16日、新型コロナウイルスの累計感染者が201万2151人、死者が7万6688人になったと発表した。ともに米国に次いで世界で2番目に多い。(中略)

 

感染確認は1日4万人前後で推移しており、1カ月足らずで100万人増加した。人口10万人当たりの感染者数は日本の約53倍に当たる957.5人。感染者には新型コロナを軽視してきたボルソナロ大統領(65)も含まれている。

 

ブラジルでは、感染者が急増した3月下旬から各州・市が商業施設閉鎖などの対策を実施。しかし、失業や貧困の深刻化に耐え切れず、6月に入ってから経済を回し始め、一部の州ではプロサッカーも再開している。市民は収まる気配のないコロナ禍におびえながらも、通常の生活を少しずつ取り戻しつつある。

 

感染者が最も多い最大都市サンパウロは、市民68人に1人が感染した計算になる。同市在住の日系3世の大学生トシロウ・トクヨシさん(31)は「他の国と異なり、最も深刻な時期に経済が再開している。政治家は確かに無責任で怠慢だが、人道危機に対応する社会的態勢が整っていないという現実もある」と嘆く。【7月17日 時事】 

*******************

 

人口1200万人のサンパウロでは累計感染者が20万人、死者が9000人に上っており、市民60人に1人が感染した計算となります。【7月25日 時事より】

 

1日4万人の新規感染者で、累計では200万人を超える感染拡大のなかで“通常の生活を少しずつ取り戻しつつある”・・・・1日数百人の感染者で大騒ぎしている日本からはなかなか想像できませんが、その一端を示す風俗業の現状に関するレポートが↓。

 

****昼間に営業されても…」 時短営業で“閑古鳥”の風俗の現状を丸山ゴンザレスが解説****
■明暗わかれる風俗業界

コロナ禍で世界中がパニックに陥っている。なかでも異様な状況なのがブラジルだ。ボルソナロ大統領が新型コロナウイルスを軽視する発言を続けており、会見の最中にあえてマスクを外すパフォーマンスを見せるなど、徹底的な「コロナ軽視」の姿勢である。

だが、言うまでもなくブラジル国内は深刻な状況だ。いまや感染者の累計は215万人を超え、米国に次いで感染者数第2位(7月22日現在)である。ブラジルの一般市民たちはどう思っているのだろうか。サンパウロ在住の友人は「みんな食うのに必死だから、今も普通に働いている」と話す。

しかし、経済が順調に回っているかといえば、そうではない。友人によれば、「失業者が目に見えて増えている」といい、経済的なダメージは大きいようだ。

それは“風俗業界”についても同様である。ブラジルの風俗にはいくつかの種類があるが、代表的なのが「ボアッチ」である。

 

ボアッチとは、大きなホールで食事や酒を楽しみながら、店内にいる女性を交渉次第でホテルへ連れ出せるというものだ。これはブラジルの風俗としては伝統的なスタイルである。だがボアッチの場合、店内で大勢の人が密集してしまうこともあり、いまだに多くの店が夜間営業を休止しているという。

「昼から夕方までは営業しているけど、風俗店がその時間に開いていてもね…」
友人が指摘するように、多くの店では閑古鳥が鳴いているという。

一方で、『丸山ゴンザレスが香港の“風俗マンション”に潜入してみたら…』(1月16日配信)で紹介した「置屋」のように、一対一で対面する風俗であれば“密”になることもなく、新型コロナウイルスを気にしない人が行くこともあるようだ。

「ブラジル人はあまり気にしないで出歩いています。出歩かないほうが少数派ですよ」

歓楽街のヴィラミモザで働いている女性たちの多くは低所得者層とされており、今後、経済的に困窮する人が出てくるかもしれない。感染のリスクがあっても、彼女たちは働かざるを得ないのである。【7月23日 丸山ゴンザレス氏 AERAdot.】

*******************

 

【奇異な言動で批判も多いボルソナロ大統領 支持率上昇で再選も可能な状況】

こうした感染拡大が続く状況で、日本のメディアに大きく取り上げられているのは、極右政治家ボルソナロ大統領の「コロナは風邪のようなもの」といった新型コロナを軽視した“奇行”ともいえる言動で、本人も感染して隔離されているのは周知のところです。

 

「それみたことか」とも言われそうですが、大統領本人は相変わらずで、“ボルソナロ大統領は、3度目のPCR検査でも陽性反応が確認されましたが、支持者の前に姿を現すなど自主隔離を軽視しています。” 【7月24日 テレ朝news】とのこと。

 

そのボルソナロ大統領、国際的にはボロクソですし、国内的にも感染防止対策を重視する州政府と激しく対立し、国民の間でも批判が高まっていました。

 

私個人は、ボルソナロ大統領の極右的、差別容認的言動は大嫌いですが、ただ、新型コロナに関しては「国民の多くは働かないと生きていけない」とする彼の主張には一定に共感する部分もあります。

 

ブラジルのような社会で、ソーシャルディスタンスを保つとか、自宅で自粛するというのは、それが可能な中産階級の価値観であり、どうしても生きるために外で働かなければいけない、自宅そのものが三密状態の貧困層の利害を反映していないのでは・・・という感じも。

 

実際、州政府の外出規制に対し、働くことを求めて抗議するデモなども起きていました。

 

そして今、大統領の支持率は・・・・コロナ以前よりは落ちてはいるものの一定の水準を維持しており、むしろ最近は上昇気味で、再選も可能なレベルにあるようです。

 

****ブラジル大統領、コロナ対応で批判浴びるも支持率上昇 世論調査****

ブラジルで今週発表された3社の世論調査で、同国のジャイル・ボルソナロ大統領の支持率が上昇し、新型コロナウイルス危機への対処をめぐって物議を醸しているにもかかわらず、2022年の大統領選で再選する可能性が高いことが分かった。

 

「熱帯のトランプ」とも称される極右のボルソナロ大統領は、国内で新型ウイルスが爆発的に広がっているにもかかわらず、感染拡大を軽視する発言をして現在、自身も感染している。同国は感染者数・死者数ともに米国に次いで世界で2番目に多い。

 

しかし、24日に発表された世論調査の結果によると、ボルソナロ氏は危機を比較的うまく切り抜けているようだ。

 

ニュース週刊誌ベジャに24日に掲載された最新の世論調査結果では、ボルソナロ氏は次期大統領選において、対立候補次第で得票率27.5〜30.7%を獲得し、第1回目の投票でリードする可能性が高い。

 

多くの支持を集めている強敵のセルジオ・モロ元法務・公安相や、左派のルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ元大統領らが相手でも、決選投票で圧勝するとみられている。

 

一方、ニュースサイト「Poder360」が23日に発表した世論調査結果では、ボルソナロ氏の支持率は2週間前の40%から43%に上昇。不支持率は1ポイント減り、46%だった。

 

同サイトによると、新型コロナウイルスの緊急援助金の受給者の間では、ボルソナロ氏の支持率は52%に上った。この援助金は、外出制限措置で経済的影響を受けている貧困層を支援する目的で、一人当たり月600レアル(約1万2000円)が支払われている。

 

証券会社のXPインベスティメントスが20日に発表した世論調査では、ボルソナロ氏の支持率は5月の25%から30%に上昇した一方、不支持率は同50%より下がり45%だった。 【7月25日 AFP】

********************

 

【貧困層から白人富裕層 多彩な支持層のキーワードは「働くこと」】

ボルソナロ大統領の支持者は、自粛できずに働くことを求める、あるいは緊急援助金に期待する貧困層かといえば、それだけでもなく、むしろ積極的な支持層は極右体質に共鳴する白人富裕層とか。

 

****ボルソナーロ大統領でブラジルはカオス状態 コロナ感染者は今後も激増、軍事政権復活をのぞむ声****

(中略)これでは大統領の支持者も離れていくような気もするが……。

 

「大統領の支持率は今年初めに50%近くありましたが、コロナの感染拡大の影響で30%くらいに落ちています。ただ、大統領の支持は依然として根強くあります。支持しているのは白人の富裕層で、彼らは今年の3月から6月にかけて反民主主義デモを行っています。“反連邦議会・反最高裁”を主張し、ブラジルの軍事政権(1964〜1985年)の復活を訴えています」(同)

 

いまさら軍事政権とは……。

「ブラジルの民主主義では汚職が蔓延している。軍事政権時代は統率されていて汚職が少なかったというのが、軍事政権復活を望む理由です。ブラジルでは、今も国民の2割が軍事政権のほうが良かったと考えています。

 

反民主主義デモには、大統領派の下院議員4人の議員割当金から約15万レアル(約300万円)が使われています。このデモには、大統領も時々参加し、閣僚に軍の経験者を次々に送り込んだことも、反民主主義デモを勢いづかせています」(同)

 

これに対して司法当局は、民主主義は憲法で規定されているので、反民主主義は憲法違反になると主張。さらに、デモに大統領派の下院議員の割当金が使われていたこともメディアに報じられ、デモは6月下旬に中止に追い込まれた。(中略)

 

ボウソナーロ大統領は現在、新党「ブラジル同盟」を結成準備中という。まさか本気で軍事政権の復活を目指すつもりではあるまい。【7月14日 デイリー新潮】

********************

 

貧困層と白人富裕層・・・・そこに共通するキーワードは「働くこと」であるとの指摘も。

 

****ボルソナーロ大統領の新型コロナ対応を探る(ブラジル)****

ブラジルは4月から、新型コロナの急速な感染拡大期に入った。そうした中、ジャイール・ボルソナーロ大統領が新型コロナウイルスを「単なる風邪だ」と発言し、パン屋を訪問して支持者と写真撮影する姿がメディアで放映された。

 

一見して人命軽視や危機感のなさに映る大統領の行動は、当初、国民から批判を浴びメディアの格好の標的となった。しかし、毎週末に行う商店への訪問を一向にやめようとしない。一体なぜ、大統領は批判を受けても止めようとしないのか。

 

その背景には、ブラジル社会を二分する大きな意見対立がある。ブラジル全土では現在、ロックダウンは行っておらず、制限措置の内容は各州知事の判断にゆだねられている。ブラジル保健省は、自宅に待機して外部との距離を取るよう要請している。(中略)

 

対して、ボルソナーロ大統領は柔軟な措置を推奨している。重症化リスクの高い高齢者などだけに限定して、行動を制限する措置を主張しているのだ。(中略)

 

ボルソナーロ大統領の真意は

主要州の知事や保健相と対立しながらも、ボルソナーロ大統領が主張したいことはなんだろうか。ブラジル国営メディア(EBC)によると、大統領は4月12日に以下のメッセージを発信している。(中略)

 

ブラジルは国民1人1人が現実に備えるためパニックにならず、「本当に起こっていること」を把握する必要がある。

新型コロナ感染が流行する中でも、国民は自由を必要とする。

多くの商業施設閉鎖といった社会活動制限措置に伴う経済的損失を懸念する。とりわけ観光業やレストラン部門などは甚大な損失を被っている。

州政府・各都市が現在実施している社会活動制限措置を終了して、高齢者や慢性疾患などのリスクがある人に限定した外出禁止措置を講ずる。40歳未満の若者や健康な成人は、通常通り仕事をする。

 

財政出動による経済対策だけでは限界

また、ボルソナーロ大統領は、財政赤字の大幅な増加を覚悟で、経済対策を講じている。連邦政府は、新型コロナの感染拡大防止措置の導入に伴い、以下を発表している。

 

中小零細企業への融資や課税停止などによる雇用維持 弱者への資金提供・救済 医療資材調達や体制の強化

 

観光、航空など影響の大きい特定産業へのつなぎ融資などを目的とした緊急経済対策実施

中でも、目玉は中小零細企業への融資や企業の雇用維持と、低所得者への資金提供・救済だ。低所得者救済策は、3カ月間にわたり1人当たり月額600レアル(約1万2,000円、1レアル=約20円)を支給するもの。(中略)

 

連邦政府としては財政悪化を覚悟で打つべき手は打っており、これ以上の財政支出は厳しい。これが、ボルソナーロ大統領が制限措置の緩和を主張する理由の1つだ。

 

ボルソナーロ大統領は2020年4月9日、「国家の活動が3〜4カ月以内に正常化しないと経済シナリオは混乱する」と述べている。新型コロナとの闘いで多額の財政出動をしており、「川にかかる橋が崩壊寸前だ」とも強調した。

 

ボルソナーロへの投票を後悔した人は全体の17%に過ぎず

ブラジル国民は当初、支持者などと積極的に握手を交わしセルフィ―写真を撮影するボルソナーロ大統領の行動を批判し、夕食時に鍋をたたいて抗議する姿勢を示す「パネラッソ」を行っていた。(中略)

 

しかし、州政府による厳格な措置に反対するデモが4月11日、12日、18日に発生。デモ参加者は「我々は働きたい」と訴え、逆に、制限措置を継続し、場合によってはより厳格な措置を辞さない構えのドリア・サンパウロ州知事の辞任を求めている。

 

4月1~3日に実施された世論調査ダータ・フォーリャによると、2018年の大統領選挙の決選投票でボルソナーロ大統領に投票した有権者を対象とした問い「ボルソナーロ氏への投票を後悔しているか」に「はい」と答えた人は、17%に過ぎなかった。これに対し、「いいえ」が83%に及ぶ。(中略)

 

働く自由と私有財産は「守るべき神聖なもの」

そもそも、ボルソナーロ大統領は2018年大統領選で有権者に何を公約していたのか。(中略)

 

ブラジル国家を真の所有者であるブラジル人に戻す政府 そして、最も大事な選挙公約として、「人生の果実は神聖なもの!」と題して以下を訴えている。

 

ブラジルは多様な意見、多様な肌の色、多様な志向を持つ国。人々は自由に自分の人生を選択し、その選択で果実を生まなければならない。

 

国は他人の生活の本質的な側面に干渉しないことを条件とする。(中略)

 

働く自由を奪われた有権者の悲痛な叫び

このボルソナーロ大統領の公約を、2018年の大統領選で支持した有権者は誰か。それは、過去の労働者党左派政権の支持母体である労働組合組織でも、過去の政権と癒着した企業家でもなく、露天商、職人、商店主、個人運送業、家政婦、家族経営農家、農園主、農家、企業家、実業家らだ。

 

ファベーラと呼ばれる貧民街に住む人から富を築いた人までさまざまで、共通したキーワードは「働くこと」。

ハングリー精神を有し、さまざまな人生の夢の実現、家族を養うために働く人々である。

 

その歴史的な原点は、多くがキリスト教を信仰する移民開拓者(エバンジェリカと呼ばれるキリスト教福音派の人々も、その一部)に求められる。

 

ボルソナーロ政権の主要閣僚は、(1)キリスト教福音派、(2)軍人、(3)自由主義経済を唱える知識人、(4)汚職撲滅・治安専門家、(5)族議員で構成されており、大統領の中心的な支持基盤はキリスト教福音派と自由主義政治思想によるイデオロギーグループとなっている。

 

新型コロナ感染拡大防止のために自治体が課している措置は、国民の働く権利、人生の夢、生活を奪ってしまうという側面がある。(中略)

 

ボルソナーロ大統領は諦めない

大統領は、2019年のクリスマス前と2020年4月の第2週に演説を行った。2018年の大統選挙遊説中に腹部を刺される事件に巻き込まれながらも当選を果たしたわけだが、大統領選で公約した国民の働く権利、生活を守る活動をやめてはいない。大統領の年齢は65歳。商店への訪問は、死のリスクを覚悟した訪問とも言えるだろう。

 

大統領が提案するのは、高齢者や慢性疾患などのリスクがある人に限定した措置だ。新型コロナ感染が拡大する中でも国民の働く権利、そして人生の夢と暮らしを守るというのが、その狙いなのである。(中略)

 

大統領の行動が正しいか否かは今後、証明されることになるだろうが、大統領の行動は、有権者と約束した働く自由と生活を守るためのものであり、国民の一定の理解を得ていることを強調したい。【5月13日 大久保 敦氏(ジェトロ・サンパウロ事務所長) JETRO】

*****************

 

上記レポートが書かれてから2か月以上が経過し、状況は変化しています。

また、ややボルソナロ大統領に好意的に過ぎるような感も。

 

ただ、世界第2位の深刻な感染拡大に見舞われながらも、これを軽視する大統領の支持率が落ちない、むしろ上昇する動きも・・・という現状を理解するうえで一助となりそうです。

 

【追加】“ブラジルのボルソナロ大統領は25日、PCR検査で陰性となったとツイッターで明らかにした。”【7月25日 共同】

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マレーシアとインドネシア コロナ禍のもと、同じイスラム国の異なるロヒンギャ難民への対応

2020-07-24 22:58:19 | 東南アジア

(バングラデシュ沖で救助されたイスラム教徒少数民族ロヒンギャの集団(4月16日)【4月18日 日経】)

 

【マレーシア 難民船は沖合に押し返す 上陸した者は不法入国者としてむち打ち刑】

東南アジアのイスラム国で“むち打ち刑”と言えば、イイスラム原理主義的なンドネシア・アチェ州の公開むち打ち刑を連想しますが、(東海岸の一部地域を除いて)宗教的には穏健とも思われるマレーシアでも行われているようです。しかもロヒンギャ難民に対して。

 

****不法入国のロヒンギャ難民をむち打ち刑へ 人権団体、マレーシアに廃止要求****

ミャンマーからの非常に危険な船旅を生き延びてマレーシアにたどり着いたイスラム系少数民族ロヒンギャの難民集団に対し、マレーシアに不法入国したとしてむち打ち刑が執行される予定であることが分かった。人権団体が21日、明らかにした。

 

むち打ちは「野蛮な」刑罰だと非難し、こうした処罰を廃止するよう求めている。

 

近年数十万人のロヒンギャの人々が、仏教徒が多数を占めるミャンマーでの迫害と暴力から逃れるため、隣国バングラデシュや、船でマレーシアに向かっている。

 

だが新型コロナウイルスの大流行発生以降、これまでロヒンギャ難民船の上陸を受け入れてきたマレーシアなどの東南アジア諸国は、難民の中に感染者がいる可能性を危惧して着岸を拒否するようになった。

 

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、4月にロヒンギャ難民202人を乗せた船がマレーシア北西部に上陸したが、この一団からは少なくとも男性20人に禁錮刑とむち打ち刑が言い渡されたという。

 

当局にコメントを求めたが、これまでに回答はなかった。

 

新型コロナウイルスの流行が始まって以来、マレーシアは海上パトロールを強化しており、同国への入国を試みる船を幾度となく押し返している。

 

しかし先月にも、ロヒンギャ難民260人超を乗せた船が同国に着岸している。 【7月21日 AFP】

********************

 

むち打ち刑も問題ですが、“同国への入国を試みる船を幾度となく押し返している”というのも、押し返された難民船がその後どうなるのか・・・・。

 

****漂流のロヒンギャ32人死亡 マレーシアなど上陸拒否****

ロイター通信は17日までに、バングラデシュ当局が15日、同国沖合で約2カ月間漂流していた船を救助したと報じた。

 

船にはイスラム教徒少数民族ロヒンギャが約400人乗っており、マレーシアとタイで難民と認められず上陸を拒否され、保護されるまでに少なくとも32人が死亡していた。新型コロナウイルス予防を理由に上陸を拒まれた可能性があるとみられる。

 

一方マレーシア軍は17日、約200人のロヒンギャが乗った船を16日に同国北部ランカウイ沖合で発見したが、新型コロナの感染拡大を防ぐため入国を拒否し追い返したと発表した。船の行方は明らかにしていない。

 

マレーシア政府は感染拡大を受け、先月18日から外国人の入国を原則禁止している。これまで多くのロヒンギャがバングラデシュの難民キャンプなどから、密航船でマレーシアに逃れてきたが、今後こうしたルートが閉ざされる可能性がある。

 

マレーシア軍は声明で「不法移民の新たなクラスター(感染者集団)の発生を防ぐためだ」と説明。フェイスブックに公開した船の写真には、子どもを含む多数の人々が窮屈そうに乗り合わせている姿が写っている。【4月18日 日経】

*****************

 

【状況を変えた新型コロナ】

マレーシアの対応が厳しくなったのは、上記にもあるように新型コロナ感染の関係。

 

****マレーシア首相、これ以上のロヒンギャ難民受け入れは不可能と表明****

マレーシアのムヒディン首相は26日、今後ミャンマーからのロヒンギャ難民を受け入れるのは不可能と表明した。新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済の困難と資金減少を理由に挙げた。

イスラム教徒が国民の多数を占めるマレーシアは長らく、ミャンマー軍による掃討やバングラデシュのキャンプから逃れてくるロヒンギャ難民にとって好ましい避難先となっていた。

しかしマレーシアは難民認定を行なっていないほか、国内では外国人が新型コロナを持ち込んで乏しい国家資金を消費しているとの怒りが噴出しており、同国は最近、難民船を拒否したり、数百人のロヒンギャ難民を拘束したりしている。

首相は、ミャンマーを含む東南アジア諸国連合(ASEAN)指導者との電話会議で、「新型コロナにより我が国の資金と対応能力はすでに限界を超えている。これ以上の難民は受け入れられない」と述べた。

また「にもかかわらず、マレーシアはより多くの難民受け入れを不当に期待されている」と付け加えた。

ロヒンギャ族の扱いについてはASEAN内で意見が分かれており、イスラム教国のマレーシアとインドネシアが仏教国のミャンマーを批判するとともに、ロヒンギャ難民が人身売買船で到着していると不満を強めている。【6月29日 ロイター】

*********************

 

【インドネシア 地元民の要望もあって、積極的ではないが庇護方針】

一方、インドネシアでは・・・

 

****海上のロヒンギャ船を漁師らが救助、上陸拒否した当局に憤慨し インドネシア****

インドネシア・スマトラ島沖で立ち往生していた100人近いイスラム系少数民族ロヒンギャが25日、海岸へと無事たどり着いたのは、新型コロナウイルスを懸念して収容を拒否する当局の判断に憤慨した地元住民の力添えによるものだった。

 

ミャンマーで迫害を受けて逃れて来た、子ども30人を含むロヒンギャ難民94人前後は今週、壊れかけた木造船から漁師たちによって助け出された。

 

だがその後、スマトラ島最北端に位置するアチェ州の管海官庁が介入。同島北部沿岸に位置するロスマウェ市当局は、新型ウイルスへの懸念からロヒンギャの人々の上陸を拒否したという。

 

その対応に憤った地元の人々は25日、自分たちで何とかしようと船に乗り込み、ロヒンギャの人々を上陸させた。現場にいたAFP記者によると、海岸に集まった住民たちからは声援が上がったという。

 

「全くの人道的な理由からだ」と、漁師の一人は動機を説明。「子どもたちや、おなかの大きい女性たちが海上に取り残されている様子を目にしてつらかった」と話した。

 

地元の警察トップは25日、ロヒンギャの人々を仮設の避難所に移送するのではなく、海上へ戻したいとしていたが、当局は住民らの意向を受けて態度を軟化させたとみられ、現在は人々を一時的に民間住宅に収容している。

 

アチェ州の救急当局によれば、ロヒンギャの人々が新型ウイルスに感染していないか、医療従事者が検査を行うことになっている。 【6月27日 AFP】

*********************

 

同じイスラムの国インドネシアも事情は同じですが、マレーシアに比べるとやや緩やかな面も。これは単に難民に対してというより、万事につけ・・・というお国柄かも。

 

*****ロヒンギャ族難民受け入れで明暗****

(中略) 

■ 状況に劇的変化を与えたコロナ

イスラム教徒であるロヒンギャ族にとって、イスラム教国であるマレーシア、イスラム教国(イスラム教を国教と定める国)ではないものの世界最大のイスラム教人口を擁するインドネシアの両国は地理的位置、海流の関係なども加えて「宗教的」にロヒンギャ族にとってはこれまで「海路による避難先」として有力候補地だった。

 

ところが状況が一変した。理由は新型コロナウイルスで、東南アジア各国は自国での感染者拡大をどう防止するかで手一杯の状況にあり、国内での蔓延とともに海外から帰国する自国民や外国人によるコロナ流入を極度に警戒して厳しい入国制限を実施している。

 

そんな状況でロヒンギャ難民をこれまでのように無条件に受け入れることはコロナ対策という保健衛生上からも、それに伴う財政困難という観点からも極めて困難になっているという状況が生まれているのだ。

 

■ 不法入国で禁固、むち打ち マレーシア

(中略)こうしたことからマレーシアは領海内などで航行中のロヒンギャ族の船舶を発見した場合は必要な援助を与えるものの「着岸、入国を拒否して領海外に誘導」する方針を取っている一方で、発見時にすでに着岸していた場合はやむなく上陸保護するものの、例外措置はあるものの「不法入国者」として扱っている実態が明らかになっている。

 

■ 積極的ではないが庇護方針 インドネシア

こうしたマレーシアの対応に対してインドネシア政府は積極的ではないもののあくまで「人道的見地」を強調した対応を取っている。

 

6月24日にインドネシア・スマトラ島最北部アチェ州の沖で故障して漂流中の船舶を周辺海域で操業中のインドネシア漁船が発見し治安当局などに通報、保護を要請した。(中略)

 

報道では地元当局は当初コロナ感染の危険性があるとして上陸拒否を示していたが、地元漁民の要請で最終的に受け入れを決め、ロヒンギャ族全員にコロナ感染の検査を実施、全員の陰性が確認されたとしている。

 

その後インドネシア外務省は「人道的見地から」として当該ロヒンギャ族難民の保護方針を示し、第3国への移送を含めて今後対応することとなった。

 

インドネシア政府は1951年の「難民条約」には加盟していないため、今後の手続きには時間がかかるものの、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と連絡を取り合って進めるとしている。

 

ジョコ・ウィドド大統領は以前から「同じイスラム教徒」という立場もありロヒンギャ族の支援には前向きで、4月にはロヒンギャ族難民問題を仲介すべくレトノ・マルスディ外相をミャンマーやバングラデシュに派遣している。

 

その後、インドネシアでのコロナ禍が深刻化する状況を受けてもジョコ・ウィドド政権は「以前のように積極的ではないまでもロヒンギャ族難民を庇護し支援するという姿勢には基本的に変化がない」(外務省関係者)との立場を取り続けている。

 

マラッカ海峡を挟んだマレーシアとインドネシアのこうした海路避難してくるロヒンギャ族難民への対応の違いが浮き彫りになる中、ロヒンギャ族の脱出は今も続いている。

必死の航海で追い返されたり、上陸しても不法入国者として訴追されたりするケースのあるマレーシアではなくて、

 

ロヒンギャ族難民たちはなんとしてもインドネシアを目指したいところだろう。

しかし、ロヒンギャ族が命を託す船は老朽化した小型船でエンジンの故障も多く、その航路は風任せ、海流任せ、そして神任せ、運任せというのが現状だ。【7月23日 大塚智彦氏 Japan In-depth】

***************

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

トランプ大統領の独裁国家的発想 民主党市長の都市への連邦政府要員派遣で「法と秩序」をアピール

2020-07-23 22:57:45 | アメリカ

(ポートランド市でのデモ参加者と対峙する連邦の職員たち【7月22日 Newsweek】

 

【オレゴン州のブラウン知事「この国は民主主義であり、独裁主義ではない」」】

私はアメリカの地理には疎いので、オレゴン州と言われてもピンときませんが、西海岸の太平洋に沿って北にワシントン州、南にカリフォルニア州と接する州です。そのオレゴン州で最大の都市がポートランド。

 

黒人男性が白人警官によって殺害された事件に端を発する人種差別への抗議行動はポートランドでも続いていましたが、一部過激化する行動に対し、「法と秩序」をアピールするトランプ大統領が連邦政府による介入を行ったことで、民主党系の地元知事・市長とトランプ政権の対立が激化しています。

 

****デモ激化で警察組合のビルに放火、「暴動」発生を宣言 米ポートランド市****

人種差別への抗議デモが続く米オレゴン州ポートランドで18日夜、警官組合のビルが放火され、当局が「暴動」発生を宣言した。

 

同市内ではデモ参加者らが身分を明示しない連邦当局のチームに拘束されるケースが相次ぎ、ウィーラー市長らが抗議している。

 

ポートランド警察が19日朝までに投稿したツイートによると、市北部でデモ隊が暴徒化し、ペンキ入りの風船や石などを投げ付けられた警官数人が負傷した。市中心部でも連邦裁判所付近に集まった参加者らが周囲のフェンスを撤去するなどの行動に出た。

 

同市では少なくとも50日にわたり、人種差別や警官の暴力に抗議するデモが続いている。平和的なデモが大半を占める一方で、暴力も散発している。

 

警官組合ビルの前では19日、地域社会のリーダーや活動家らが記者会見を開き、暴力や破壊行為をやめるよう呼び掛けた。

 

市内では、国土安全保障省(DHS)のチームが所属表示のない迷彩服姿でデモ参加者らを拘束し、一般車両に乗せて走り去る場面が繰り返し目撃されている。

 

ウィーラー氏は19日、CNNとのインタビューで、こうした拘束は相当の理由や適正手続きという要件を満たしていないと主張。連邦チームの存在がかえって状況を悪化させていると非難した。

 

オレゴン州のブラウン知事も連邦当局者の撤退を求めている。州司法長官は先週、DHSを相手取り、拘束する側の身分表示などを求める訴訟を起こした。

 

これに対してトランプ大統領は同日、「我々はポートランドに害を及ぼそうとしているのではなく、助けようとしているのだ」とツイートした。【7月20日 CNN】

*******************

 

トランプ大統領はツイッターに「ポートランドを助けようとしている。同市の指導者は何カ月にもわたり、無政府主義者や扇動者をコントロールできずにいる。連邦の財産と国民を守る必要がある」と書き込んでいます。

 

ウィーラー市長(民主党)は、連邦当局が事態を急速に悪化させていると主張。「彼らの存在が暴力や破壊行為の拡大につながっている」とし、撤収を求めています。

 

7月20日には、全米各地で人種差別への抗議ストが実施されました。

 

****米国で差別撤廃求め大規模スト 160都市、黒人暴行死事件受け****

米中西部ミネソタ州の黒人男性暴行死事件を受けて反差別の機運が高まる米国の各地で20日、人種差別撤廃や経済格差の是正を求める大規模なストライキが実施された。

 

医療関係者や食料品店の従業員らエッセンシャルワーカーが多数参加し、待遇改善を訴えるデモも行った。

 

米メディアによると、ストは労働組合や市民団体が共同で企画。ニューヨークやデトロイトなど、約160都市で実施された。

 

新型コロナ対応で最前線に立つエッセンシャルワーカーは、黒人やヒスパニックなど非白人の割合が高い。スト参加者は、差別撤廃とともに最低賃金の引き上げや医療保障の充実を求めた。【7月21日 共同】

********************

 

【トランプ大統領 「リベラルな民主党員市長は行動を取るのを恐れている」「やつら(暴徒)は無政府主義者だ」】

一方、トランプ大統領は収まらない抗議行動に対し「力」で対処する姿勢を強めています。

****トランプ氏、デモ続く都市に連邦職員を送り込むと威嚇****

ドナルド・トランプ米大統領は20日、同国で続く人種差別などへの抗議行動を抑えるためとして、主要都市に連邦の法執行職員らを派遣すると威嚇した。

 

トランプ氏はホワイトハウスで記者団に、法と秩序が大事だと強調。「法執行職員を派遣する」、「都市でこうしたことが起きるのを放っておくわけにはいかない」と述べた。

 

また、ニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィア、デトロイト、ボルティモア、オークランドの各都市を挙げ、「私たちの国でこうしたことが起こるのは認められない。どの都市もリベラルな民主党員が市長を務めている」と述べた。

 

それらの市長について、行動を取るのを恐れていると批判した。

 

【解説】 トランプ大統領は軍を出動できる? アメリカの騒乱で

一方、オレゴン州ポートランドに2週間前、抗議行動を沈静化させるために連邦職員を派遣したことについて、職員らは「素晴らしい仕事」をし、治安を回復したと賞賛した。(中略)

 

現地の当局者は、連邦職員らによって事態は悪化していると話している。

職員の一部は所属の明示がない車両を使い、軍人用の迷彩服を着用しており、民主党や活動家らが非難している。先週以降、デモ参加者とこれら職員との間で緊張が高まっており、地元指導者らは連邦職員の退去を求めている。

 

また、トランプ氏が大統領選挙を前に政治的に目立つ行動を取り、状況を悪化させているとの批判も出ている。

 

「無政府主義者だ」

トランプ氏は、オレゴン州のケイト・ブラウン州知事、ポートランド市のテッド・ウィーラー市長、同州議会議員たちについて、「アナキスト(無政府主義者)」に恐れをなしていると述べた。

「みんなデモ参加者たちを怖がっている」、「それが私たちの助けを望まない理由だ」。

 

さらに、「(連邦職員らは)3日間現地にいて、短期間に素晴らしい仕事をしており、まったく問題がない。数多くの人を逮捕し、リーダーを収監した。やつらは無政府主義者だ」と述べた。

 

派遣された職員は、国土安全保障省(DHS)の新設部隊の一部。連邦保安局や税関・国境警備局のスタッフらで構成されている。

 

国内の歴史的記念碑を守ることを目的とし、トランプ氏が先月署名した大統領令の下、デモの取り締まりに乗り出した。この大統領令は、州の許可なしに連邦職員を派遣できるとしている。

 

シカゴに派遣か

米紙シカゴ・トリビューンは20日、DHSが今週、シカゴに150人規模の職員を派遣する予定だと報じた。犯罪を取り締まる他の連邦職員や地元警察を支援するという。

 

トランプ氏はしばらく前から、シカゴでは暴力的な犯罪が抑制されていないとして、同市の指導者層を非難している。警察によると、先週末だけで同市では64人が銃撃され、うち11人が死亡した。

 

シカゴ市のロリ・ライトフット市長は、トランプ氏による連邦職員の派遣に懸念を表明している。

「バッジを着けず、通りから人を違法に連行し拘束する連邦職員は必要ない」

 

ポートランド市のウィーラー市長は19日、米放送局CNNで、「連邦職員の存在がさらなる暴力と破壊行為を招いている」、「ここでは求められていない。来るよう頼んでもいない。出て行ってほしい」と述べた。

 

オレゴン州司法長官は、連邦政府を相手に訴訟を提起。連邦職員が違法に抗議デモ参加者らを拘束し、集会の権利を侵害し、適正な手続きを守らなかったとしている。【7月21日 BBC】

*******************

 

トランプ大統領が連邦政府要員のさらなる派遣・介入を示しているのに対し、介入を示唆された都市も法廷闘争を辞さない考えを示すなど反発を強めています。

 

****連邦要員派遣なら法廷闘争へ、NY市長などトランプ氏発言に反発****

米ニューヨーク市のデブラジオ市長は21日、トランプ大統領が人種差別に対する抗議デモ対応でニューヨーク市などに連邦政府要員を派遣する考えを示したことに関して、強行すれば法廷闘争を辞さない考えを示した。

トランプ大統領は前日、抗議デモが続くニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィア、デトロイトなどの主要都市に連邦要員を派遣する計画を明かし、こうした都市の市長は「リベラルの民主党だ」と述べた。市長と州知事が民主党のオレゴン州ポートランドでは先週、連邦職員が抗議デモの取り締まりを開始し、反発が広がっている。

デブラジオ市長は、単なる脅しである可能性があるとしつつも、実行されれば、ニューヨーク市は法廷で闘うと表明。その上で「この大統領は虚勢を張り、実行すると表明しつつも、実行されないのが日常だ。発言は真実でないことも多く、過大評価すべきでない」と述べた。

シカゴのライトフット市長も法廷闘争を辞さない構えを示しつつも、「現時点でトランプ政権がシカゴに不特定の連邦職員を実際に派遣することはないと理解している」と語った。

同市長は、代わりに、米連邦捜査局(FBI)、麻薬取締局、アルコールたばこ火器爆発物取締局からの派遣があり、既に犯罪対策で市当局と協力している連邦機関と統合するとの見方を示した。

フィラデルフィアのケニー市長は、連邦要員投入は裏目に出ると指摘。「ホワイトハウスは新型コロナウイルス対応で、何カ月も連邦政府としての責任を回避してきた。このような形で連邦介入することは、皮肉で不快だ」と批判した。

ミシガン州のウィットマー知事(民主党)は、トランプ大統領がデトロイトへの連邦要員派遣の可能性を示唆したことを受け、「政治的動機に基づく脅し」と述べた。

マクナニー大統領報道官は、要員派遣について、国土安全保障長官が連邦政府の所有地保護などを目的に連邦職員を代理に任命することを可能とする連邦法によって正当化されると主張した。

オレゴン州司法長官は先週、国土安全保障省を提訴し、連邦要員を阻止する命令を連邦判事に求めている。【6月22日 ロイター】

********************

 

【「法と秩序」を守る指導者をアピール】

トランプ大統領の姿勢は新型コロナ対応への批判が強まるなか、「法と秩序」を守る指導者をアピールするという再選戦略によりものですが、共和党内部にも懸念の声があるようです。

 

****共和党議員も懸念****

連邦職員の派遣は、トランプ氏の肝いりによるものだ。

 

デモが各地に広がるなか、トランプ氏はデモ隊と対峙(たいじ)する姿勢を強め、6月には自身の写真撮影のために、ホワイトハウス前の平和的な集会を催涙ガスで強制排除する場面もあった。さらに、民主党の知事や市長らの対応を「弱腰」と批判。地元当局が強硬姿勢を取るように迫っていた。

 

「(連邦政府の法執行機関は)本当にファンタスティックな仕事をしている。たくさんの連中を刑務所に入れた。彼らはデモ隊じゃない。無政府主義者だ」

 

トランプ氏は20日、米ホワイトハウスで記者団にこうまくし立てた。ニューヨークやシカゴなど民主党の市長の都市を挙げ、「極左が運営している」と批判。「我々はもっと多くの法執行機関を送るつもりだ」と述べ、ポートランド以外にも武装した連邦職員を派遣する考えを示した。

 

トランプ氏の狙いは米大統領選の再選戦略に深く結びついており、「『法と秩序』の共和党VS.無政府主義者を野放しにする民主党」というイメージを作りあげることにある。

 

特にやり玉に挙げていたのが、知事と市長が共に民主党であるオレゴン州ポートランドでのデモの長期化だ。「(民主党の地元政治指導者たちは)無政府主義者、扇動家たちをコントロールできなくなった」と攻撃した。

 

しかし、地元政府の頭ごしにデモ隊を鎮圧する手法は、州政府との関係で連邦政府の権限を厳しく限定した「連邦制」の仕組みを壊しかねない。オレゴン州の司法長官は17日、連邦職員の行為が米国憲法違反だとして、差し止めを求めて米連邦地裁に提訴した。

 

民主党は「悪質な権力乱用だ」(ペロシ下院議長)と激しく反発。共和党の一部からも「連邦軍であれ所属不明の連邦職員であれ人々を意のままに追い立てることは許されない」(ランド・ポール上院議員)と懸念の声が上がっている。【7月23日 朝日】

*******************

 

【各都市への連邦政府要員派遣は、“国内各地の暴力対策強化”として「典型的な犯罪取り締まり」を強化するものとして行う】

こうした反発・批判を考慮したのか、22日、トランプ大統領は“国内各地の暴力対策強化”として、連邦政府の法執行職員を「大量」に派遣すると表明しています。

 

これは「典型的な犯罪取り締まり」を強化するもので、ポートランドに派遣されている国土安全保障省の職員が「暴動や暴徒による暴力から守る」ことを目的としているのとは、性質が異なるといのことです。

 

****トランプ米大統領、「大量の」連邦職員を派遣方針 都市の犯罪対策強化に****

ドナルド・トランプ米大統領は22日、国内各地の暴力対策強化として、連邦政府の法執行職員を「大量」に派遣するとホワイトハウスで表明した。

 

イリノイ州シカゴやニューメキシコ州アルバカーキーなどで、警察暴力への抗議を機に激化するデモ行動について、トランプ氏は「この暴力の横行はこの国の良心に衝撃を与える」と述べた。シカゴとアルバカーキーの市長は共に、野党・民主党所属。

 

トランプ氏はウイリアム・バー司法長官と共にホワイトハウスで記者団を前に、暴力犯罪対策強化の「レジェンド作戦」を発表。6月にミズーリ州カンザスシティーの自宅で眠っていたところを撃たれて死亡した4歳のレジェンド・タリフェロちゃんの名前にちなんでいる。記者発表には、レジェンドさんの母親も同席した。カンザスシティーの市長も民主党所属。

 

司法省によると、「レジェンド作戦」では連邦捜査局(FBI)や連邦保安官局などの連邦機関が、各地の地元捜査機関と連携して、犯罪急増に取り組む。

 

トランプ氏は、自分と対立する野党・民主党が犯罪に弱腰だと批判。「このところ、警察組織を解体させようとする過激な運動」が全米各地で相次ぎ、それが「銃撃、殺害、凶悪暴力事件のショッキングなほどの急増」につながったと述べた。

 

「この流血は終わらせなくてはならない。この流血は終わる」と、トランプ氏は強調した。

「地域や街の安全確保に必要な対策を政治家が実施しようとしなかったという、ただそれだけのために、母親が死んだ子供を自分の手に抱くなどということがあってはならない」

 

記者発表でバー司法長官は、カンザスシティーに連邦政府職員約200人を派遣したと発表。さらに「同程度」の人数をシカゴに、35人をアルバカーキーに派遣すると述べた。

暴力事件の相次ぐ都市で警察官を増員するため、連邦予算約6000万ドルを地方都市への補助金に充てる方針という。

 

バー長官は、法執行権限をもつ連邦政府職員を増員し、「典型的な犯罪取り締まり」を強化する方針だと話した。これは、西海岸オレゴン州ポートランドに派遣されている国土安全保障省の職員が「暴動や暴徒による暴力から守る」ことを目的としているのとは、性質が異なるという。

 

司法長官は昨年12月にも同様に、7都市での犯罪急増に対して連邦職員の増派で対応すると発表している。

警察暴力や人権侵害への抗議を機にデモが5月下旬以来続くポートランドでは、派遣された国土安全保障省の職員がデモ参加者を拘束している。こうした動きは市民や市当局、州政府から強い反発を呼び、むしろ緊迫する現地の状況悪化につながったと批判されている。

 

トランプ氏に批判的な人たちは、コロナ禍でアメリカの死者が14万2000人を超え、大統領支持率が低迷する渦中で、11月の再選を意識した動きだと警戒している。(後略)【7月23日 BBC】

**********************

 

実際、名前が挙がっているシカゴ、アルバカーキー、カンザスシティーでは、殺人事件などの凶悪犯罪が増加しています。

 

なぜ犯罪が増加したかについては、刑務所での新型ウイルス集団感染を防ぐため、受刑者を早期釈放したこと、重大事件の被告でも裁判所は審理開始前に仮釈放しなくてはならないとした保釈制度改革法、警察への抗議が続く状況での犯罪者側の増長、警察批判の高まりにいらだつ警官が犯罪取り締まりに消極的になっている可能性・・・等々が挙げられています。当然、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う大量失業も影響しているでしょう。

 

いずれにせよ、“トランプ氏は今回の発表により、民主党は犯罪に弱腰で、地元住民の安全を守ることができない党だと位置付ける試みを一段と強化した。”【7月23日 CNN】

 

「典型的な犯罪取り締まり」強化ということであれば、“無政府主義者”暴徒の鎮圧行動よりは穏当でしょう。

ただ、トランプ大統領が今回対応で見せた、抗議行動へのいら立ち、力による封じ込めの姿勢は、まるで中国やロシアなど独裁国家で起きているようなことのようにも思えます。この人の民主主義とは異質な性向を感じます。

 

法律の抜け穴ばかり狙って生きてきた人間が「法と秩序」をアピールというのも笑える話です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフガニスタン  やまないタリバンの攻撃 先行き不透明な和平協議

2020-07-22 22:53:32 | アフガン・パキスタン

(アフガンの10代少女、タリバン戦闘員2人を射殺 両親を殺害され【7月21日 AFP】)

 

【地方政府 バーミヤン遺跡破壊して道路建設】

今日目にしたアフガニスタン関連のニュースを2件。

最初は、かつてタリバンによって大仏が破壊されたバーミヤン遺跡に関するもの。

 

****道路建設でバーミヤン遺跡を破壊 世界遺産、登録抹消も****

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されているアフガニスタン中部バーミヤン遺跡で、地元政府が無許可で舗装道路を建設し、遺跡の一部を破壊していたことが22日までに共同通信の取材で分かった。

 

事態を把握したユネスコは「極めて遺憾」と表明。今後、登録が抹消されるとの懸念も出ている。

 

情報・文化省などによると、2016年にバーミヤン中心部と新市街を結ぶ全長約1.4キロの道路建設が始まり、昨年末に完成した。現場の丘にはタペ・アルマスと呼ばれる遺跡があったが、道路は一帯を切り崩す形で建設されたため、跡形もなくなった。【7月22日 共同】

*******************

 

これまでも何回も紹介してきましたが、かつてタリバンが大仏を破壊した際に、あるタリバンが次のように語ったとか。

 

「今、世界は、我々が大仏を壊す言ったとたんに大騒ぎを始めている。だが、わが国が旱魃で苦しんでいたとき、彼らは何をしたか。我々を助けたか。彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ。そんな国際社会の言うことなど、聞いてはならない」【高木徹氏著「大仏破壊」】

 

高木徹氏も指摘していますが、国際社会が「何もしていない」というのは事実ではありませんが、高木徹氏同様、私も少なからずこの発言に共感するものがあります。

 

今回の遺跡破壊(故意なのかミスなのかを含めて、事情は全く知りません)はタリバンではなく、地方政府ですが、「遺跡保護なんかより、住民の生活を少しでもよくしてくれる道路の方がずっと大切だ。」という思いがあったのかも。

 

【両親を殺害したタリバンを自ら自動小銃で射殺した10代少女】

もう1件は、ある少女の“勇敢な”行為。

“勇敢”では済まされない、アフガニスタンの悲劇でもあるのですが・・・

 

****アフガン少女、両親殺害したタリバン戦闘員2人を射殺****

アフガニスタンで、旧支配勢力タリバン戦闘員らに両親を殺害された少女が、戦闘員2人を射殺し、複数人を負傷させた。当局が明らかにした。

 

事件は先週、中部ゴール州のある村に住む10代の少女、カマル・グールさんの自宅に、戦闘員らが押し入った際に起きた。

 

地元警察署長はAFPの取材に対し、戦闘員らは村長であるグールさんの父親を捜していたと明かした。

 

戦闘員らは、少女の両親が政府を支持しているとして家から引きずり出し、母親が抵抗すると、2人を家のそばで殺害したという。

 

同警察署長は、「家の中にいたグールさんは家族が所有していた自動小銃AK47を手に取り、まず両親を殺したタリバン戦闘員2人を射殺し、さらに数人を負傷させた」と話した。

 

他の当局者らの話では、グールさんの年齢は14~16歳。アフガニスタンでは、自分の正確な年齢を知らないことは珍しくない。

 

事件の後、タリバンの他の戦闘員らがグールさんの家を再び襲撃しようとしたが、村人や親政府の民兵らが応戦し、銃撃戦の末に撃退した。

 

州知事報道官によると、グールさんとその弟は治安部隊によって安全な場所に移されたという。

 

事件を受けてソーシャルメディア上には、グールさんの「勇敢な行為」をたたえる声が多く寄せられた。

 

タリバンは、政府や治安部隊の情報提供者になっていると疑いをかけた村人らを襲っては、殺害している。ここ数か月は、アフガン政府との和平交渉に合意したにもかかわらず、治安部隊への攻撃を強めている。【7月21日 AFP】

***********************

 

平和な社会にあっては、自分の手で報復というのは許されない行為でしょうが、アフガニスタンは戦場ですから・・・

 

女性の権利を軽んじるタリバンに、一人の少女が自動小銃で報復・・・というのも、無責任な言い様ですが、痛快な感じも。

 

“グールさんとその弟は治安部隊によって安全な場所に移された”とのことですが、こうした保護がいつまで続くのか・・・今後の少女の身の安全が気がかりです。

 

【やまないタリバンの攻撃 アメリカは圧力を強めていく方針表明】

肝心の和平協議の方は、タリバンの攻勢がやまず、今後が懸念されています。

 

****タリバンが情報機関襲撃、11人死亡 アフガン北部****

アフガニスタン北部サマンガン州アイバクで13日、情報機関・国家保安局の事務所が襲撃を受け、治安要員少なくとも11人が死亡した。当局が明らかにした。同国の旧支配勢力タリバンが犯行声明を出した。

 

タリバンは声明で、車に乗った自爆犯が事務所近くで装置を爆発させ、同時に武装集団が建物に侵入したとしている。

 

同州のアブドゥル・ラティフ・イブラヒミ知事がAFPに語ったところによると、爆発と銃撃で11人が死亡、63人が負傷。負傷者の大半は民間人だった。同知事の報道官によれば、襲撃は4時間近くにわたり、治安部隊が襲撃犯3人を射殺し収束した。

 

アフガン政府は現在、タリバンとの和平会談に向け準備を進めている。アシュラフ・ガニ大統領は事件を「テロ攻撃」と呼び非難し、タリバンに暴力行為の停止を要求。大統領府の出した文書の中で「交渉で譲歩を得るために暴力に訴え人々を殺害することは、タリバンがとってきた中で最悪の方法だ」と明言した。

 

タリバンは長年の紛争終結に向けた政府との協議に合意したものの、ここ数か月にわたりほぼ連日アフガン部隊に対する攻撃を行っている。 【7月14日 AFP】AFPBB News

*********************

 

和平に道筋をつけて、アフガニスタンから撤退したいアメリカは和平プロセスの前進に向けてタリバンへの圧力を強めていく意向を示しています。

 

****アフガン和平実現に圧力強化=タリバン合意、第1段階完了―米代表****

米国のハリルザド・アフガニスタン和平担当特別代表は13日、米国が2月末にアフガンの反政府勢力タリバンと締結した和平合意で駐留米軍削減の期限としていた135日が経過したと述べ、米国側は合意を履行したと強調した。

 

一方、タリバンはアフガン政府軍に対する攻撃を続けているとし、和平プロセスの前進に向けて圧力を強めていく意向を示した。

 

ハリルザド氏はツイッターで「米国は和平合意における第1段階の約束を履行するために懸命に努力した」と主張。アフガン政府とタリバンが互いに拘束者を解放すると定めた合意事項については「遅いながらも大きな進展がある」と評価した。

 

ただ、「(タリバンによる)暴力行為はここ最近高い水準にある」と批判。米軍の全面撤収に向けて和平合意の履行が次の段階に移る中、拘束者の解放や暴力削減、アフガン政府との対話開始などの実現を要求していくと語った。【7月14日 時事】

*******************

 

【完全撤退を選挙戦で“成果”としてアピールしたいトランプ政権】

11月の大統領選挙前に完全撤退を実現して、“成果”をアピールしたいというのがトランプ政権の目論見ですが、そのように事が運ぶかは不透明です。

 

****暗雲たちこめる米国の悲願「アフガン和平」****

アフガニスタンではタリバンの活動が活発化しており、アフガン和平プロセスに暗雲が立ち込めている。

 

7月7日付けのForeign Policy(電子版)の解説記事‘Resurgent Taliban Bode Ill for Afghan Peace’は、以下の諸点を指摘している。

 

・最近アフガニスタンでは予算不足のため警察官に給料が払えず、タリバンに参加する警察官が増えている。

・2月29日の米・タリバン合意でタリバンはアルカイダと手を切る約束をしたが、国連の最近の報告書は両者の関係が緊密であると述べ、米国防省の報告はアルカイダがタリバンの下層のメンバーとの共闘を続けていると言っている。

・3月に始まることになっていたアフガン政府とタリバンの話し合いはまだ行われていない。1つの障害は捕虜の交換で、政府が5000人のタリバンの捕虜を釈放する一方で、タリバンが1000人の政府軍兵士の捕虜を釈放することが合意されたが、まだ実現していない。

・アフガン政府とタリバンが交渉のテーブルについても、なんらかの永続的平和や安定を達成するのは大分先のことになるだろう。

    *     *     *     *     *     *  

そもそもアフガン和平プロセスは複雑で、当初からスムーズにいくとは予想されていなかった。まず枠組みが複雑である。アフガンの和平合意は米国政府とタリバンの間で行われ、アフガン政府は蚊帳の外に置かれた。

 

アフガン和平合意に基づく和平の話し合いはタリバンとアフガン政府の間で行われる。本来はアフガン政府の後ろ盾として米国政府があるはずであるが、米国および米国民は2001年以来の米国のアフガン関与にうんざりしており、トランプの最大の関心は米軍の撤退となっている。

 

アフガン政府とタリバンの話し合いで重要な要素である捕虜の交換は、タリバンと米国政府の間で合意された。アフガン政府が不満なのは当然で、当初ガニ大統領は「捕虜5000人を釈放すると約束していない」と述べ、3月11日にタリバンの捕虜1500人を釈放するように命じたことを明らかにした。しかし今はタリバンの捕虜5000人の釈放はやむを得ないと考えているようである。

 

米軍の撤退については2月29日の米国政府とタリバンの和平合意で、合意から135日以内(7月半ば)に米兵1万3千人を約8,600人に減らすことが決まった。

 

これはタリバンがアフガン国土をテロ攻撃の拠点としないとの約束と引き換えに米国が約束したものである。そしてタリバンが合意事項を遵守すれば、和平合意から14か月以内(21年春ごろ)にアフガンから完全撤退すると明記された。

 

トランプ大統領が11月の大統領選挙を控え、完全撤退したいと考えているのは明らかである。米メリーランド大学が2019年秋に行った世論調査では、米国民の62%がアフガンでの米軍縮小を支持すると答えたとのことである。

 

このように世論がアフガンからの米軍の撤退を望んでいることを踏まえ、トランプは完全撤退が選挙民にアピールすると判断しているものと思われる。

 

米軍のアフガンからの完全徹底には「タリバンが合意事項を遵守すれば」という条件が付されているが、これは当初の米軍撤退の条件とされた「アフガン国土をテロ攻撃の拠点としない」とのタリバンの約束と解釈できるわけであり、トランプはタリバンとアフガン政府の和平の話し合いが合意に達しなくても完全撤退を考えているものと推測される。

 

アフガンの和平は米国政府の悲願であり、米国政府はタリバンとアフガン政府の和平プロセスの進展を望み、双方に交渉の促進を要請するだろうが、本来ならタリバンに対する重要な交渉の切り札となるべき米軍の撤退は、米国の国内事情で決められるという皮肉な結果になりそうである。【7月22日 WEDGE】

********************

 

“トランプはタリバンとアフガン政府の和平の話し合いが合意に達しなくても完全撤退を考えているものと推測される。”・・・・撤退の名目さえ得られれば、あとは野となれ山となれということでしょう。

 

腐敗と非効率のアフガニスタン政府、和平について内部的にどこまで意思統一されているのか疑問なタリバン、アフガニスタンの民主化に関心を失ったアメリカ・・・これら三者でどのような和平が構築されるのか・・・はなはだ疑問です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする