孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ナイジェリア  「ボコ・ハラム」にチャド介入 アフリカ連合も対応を合意 大統領選挙の行方は?

2015-01-31 21:51:43 | アフリカ

(ナイジェリア政治の「変革」を訴える大統領選挙候補ブハリ氏の選挙キャンペーン 本文でも触れているようにブハリ氏の“実績”を考えると、彼にも「変革」が必要に思えます。 “flickr”より By Heinrich-Böll-Stiftung https://www.flickr.com/photos/boellstiftung/16215951040/in/photolist-qGWZhL-qXdmus-q3HAXn-q3vb4j-pXUkUV-qDDxc1-qW42cP-pZ4eUA-qW1q5u-qW4rnM-qW8gaS-qVUy34-qVYQty-pZd97V-qDyVDx-qDq3HS-qDxfRB-pZiuMx-qDEihH-qW4rBp-qDwCQu-qW8gHA-qBsSwM-qDrjoQ-qVV59N-qTL4cM-qDCgSd-qDCgZs-qDMbJP-qBsRUe-qBkCCs-pWUXp9-qTV1Fa-qTyZRw-qTL2zP-qW8gxA-qDCgD7-pZqkY6-qDxzzg-qVPo7T-qF86Mu-qYMN9X-qXCm3c-qWdBiN-qDksKk-pYGaE5-qC52jq-qStygd-qDZvgC-pYuwxG)

面的支配、カメルーンへの拡大、女性・子供の拉致、人間爆弾・・・・エスカレートする「ボコ・ハラム」】
世界の注目を集める「イスラム国」(“ISIL”と呼んだ方がいいのでしょうか)ですが、それと同等、あるいはそれ以上の残虐行為を繰り返している西アフリカ・ナイジェリアのイスラム過激派「ボコ・ハラム」にはナイジェリア政府・軍も有効に対処できておらず、国際的にも放置された状態にあります。

そのことについては、1月15日ブログ“ナイジェリア 「ボコ・ハラム」による虐殺に無力な政府・国際社会”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150115)でも取り上げたところです。

「ボコ・ハラム」は、共鳴する「イスラム国」にならって、面的な支配地域拡大を狙っています。
活動範囲もナイジェリアだけでなく、隣国カメルーン北部にも拡大し、殺戮・暴行の他、女性や子供の拉致も繰り返しています。

拉致した女性や子供を「奴隷」として扱い、戦闘員との結婚を強要したり、少年兵として戦闘に参加させたりしていますが、当局から疑われにくい女性や子供を「人間爆弾」として利用する非道な自爆テロも行っているとも指摘されています。

****ボコ・ハラム襲撃、200人超死亡 ナイジェリア州都で政府軍と戦闘****
ナイジェリアからの報道によると、同国北東部ボルノ州の州都マイドゥグリなどで25日、イスラム過激派ボコ・ハラムとみられる武装集団と政府軍の激しい戦闘があり、200人以上が死亡した。武装集団はマイドゥグリから撤退したが、マイドゥグリとほぼ同時に襲撃された同州の別の町モングノは武装集団に制圧された。

ボコ・ハラムは北東部を中心に襲撃やテロ、誘拐などを繰り返しているが、今回の攻勢では都市部を支配下に置くことを狙った可能性がある。ロイター通信によると政府軍はモングノへ空爆を実施したもようだ。

ナイジェリアでは2月に大統領選が予定されており、政治混乱が広がればボコ・ハラムを利する恐れがある。
25日に同国の最大都市ラゴスを訪問したケリー米国務長官はジョナサン大統領らと会談し、平和的に選挙を行うよう求めた。【1月27日 産経】
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****子供ら80人拉致、うち24人を保護  ボコ・ハラム、女性や子供「奴隷」扱い****
カメルーン北部で18日、隣国ナイジェリアを拠点とするイスラム過激派「ボコ・ハラム」とみられる武装集団が複数の村を襲撃し、住民約80人を連れ去った。10~15歳の子供約50人が含まれるという。ロイター通信が報じた。

カメルーン軍は19日、ナイジェリアに戻ろうとする武装グループを追跡する中、被害者のうち24人を保護したと明らかにした。

ボコ・ハラムは昨年4月、ナイジェリア北東部で女子生徒200人以上を拉致。今月中旬にはナイジェリア北東部の2都市で、ボコ・ハラムに送り込まれたとみられる10歳前後の女児が、市場で自爆する連続テロが発生した。(後略)【1月20日 産経】
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「ボコ・ハラム」の度重なる襲撃で難民が増大、地域の不安定化が進んでいます。

【「アフリカ全体が連帯してボコ・ハラムの脅威と戦わなければならない」】
こうした状況で、カメルーン政府の支援要請に応じる形で、戦闘経験が豊富と見られている隣国のチャドが18日までに軍の部隊をカメルーンに派遣しました。
国連安全保障理事会もチャドの介入を歓迎し、周辺国の軍による支援介入を認めています。

****ボコ・ハラム、チャド軍派遣部隊を攻撃 双方で126人死亡****
チャド軍は30日、国営テレビで声明を発表し、ナイジェリアのイスラム過激派組織「ボコ・ハラム)」に対抗するため派遣していた部隊が29日と30日に隣国カメルーンの北部の町フォトコルでボコ・ハラムの攻撃を受け、チャド兵3人が死亡、12人が負傷し、ボコ・ハラム側の123人が死亡したと明らかにした。
死亡したチャド兵はボコ・ハラムが使用した手製爆弾で命を落としたという。

ボコ・ハラムがナイジェリアの周辺国に与える脅威が増大していることを受けてチャド政府は今月17日、カメルーンに軍の部隊と軍用車両を派遣していた。(中略)

チャドはボコ・ハラムとの戦いで近隣各国に広範な連携を呼び掛けており、ナイジェリアとの国境周辺に自国軍を展開しているほか、カメルーンにも増派しようとしている。【1月31日 AFP】
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チャドのデビ大統領は部隊の派遣に先立って、「アフリカ全体が連帯してボコ・ハラムの脅威と戦わなければならない」と述べ、アフリカ各国にも軍事支援を呼びかけました。

もはやナイジェリア一国に任せておけない状況下で、アフリカ連合の取り組みも報じられています。

****アフリカ連合、ボコ・ハラム対策で7500人の部隊結成へ****
アフリカ連合(AU)は30日、ナイジェリアのイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」の恐るべき台頭を打破するため、周辺5か国の軍で構成する計7500人の部隊の結成を呼びかけた。
AUの執行機関にあたるAU委員会のヌコサザナ・ドラミニ・ズマ委員長が明らかにした。

「ボコ・ハラムの残虐な行為、言語を絶する残酷さ、徹底的な人命無視、財産の理不尽な破壊は比類ないもの」と同委員長は、30日のAU首脳会議に先立って前日に行われた「平和安全保障委員会」会議後に声明で述べた。

ボコ・ハラムの勢力拡大は周辺地域の危機となっており、これまでに直接被害を受けたカメルーン、チャド、ニジェール、ナイジェリアの4か国はベナンとともに、ボコ・ハラムの脅威を封じ込め、多国籍統合機動部隊を結成するため協力を強化することで合意した。【1月30日 AFP】
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ナイジェリアに内在する問題
ただ、これまでもスーダン・ダルフールでのアフリカ連合の軍事的取り組みは、資金不足などもあって十分な成果をおさめていない現実があります。

なによりも、地元ナイジェリアの確固たる対応が求められます。

****不運なナイジェリア****
・・・・このような脅威に対処するためのより協調的なアプローチが出てくる一時的な兆しはある。国連安保理は1月19日、地域の国々にイスラム主義勢力に対する取り組みで力を合わせるよう要請した。その翌日、西アフリカ諸国の高官らはニジェールで会合を開き、多国間の特別部隊の創設について話し合った。

そうした動きは心強いが、ナイジェリアが自国の問題に立ち向かう覚悟を決めない限り、統合軍は効果的ではないだろう。

決意を固めたナイジェリア政府にできることはたくさんある。第一に、ナイジェリアは十分な資金と装備を持つ、より順法精神の高い治安部隊を必要としている。

ナイジェリアは年間60億ドルを防衛と治安維持に費やしているが、上官が装具用資金をかすめ取ったり、下級兵の賃金を着服したりすることもあって、兵士は反抗したり、脱走したりすることがよくある。多くの市民は、ボコ・ハラムとほとんど同じくらい、規律のない軍や警察を恐れている。

組織的な汚職や悪政は、貧しい北部から連邦石油収入の取り分を奪ったり、北部の発展を妨げたりといった形でも、イスラム主義の急進化や民族対立を助長している。

ジョナサン氏か同氏の後継者が反乱とその原因に対処し始めなければ、政府は自分たちが統治すべき国がないことに気づくかもしれない。【英エコノミスト誌 2015年1月24日号 JP Pressより】
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「ボコ・ハラム」の活動がおさえきれない背景には、腐敗・汚職が蔓延するナイジェリア軍の装備不足・士気低下、もっと基本的には、「ボコ・ハラム」が活動する北部イスラム圏が経済成長の恩恵にあずかっておらず、貧困が解消しないという政治的問題があります。

また、「ボコ・ハラム」同様に、ナイジェリア軍の残虐行為も住民から恐れられており、住民の支持を得ていないという問題もあります。

2月に大統領選挙 ナイジェリア再建の契機となるか?あるいは一層の混乱か?】
ナイジェリアでは2月14日に大統領選挙が行われます。
南部・キリスト教圏を地盤とする現職ジョナサン大統領と、北部出身元最高軍事評議会議長、ムハンマド・ブハリ氏の争いとなっています。

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・・・・皮肉なことに、ボコ・ハラムの成功はジョナサン氏の再選の可能性を高める。大統領の政治基盤は主にキリスト教徒の多い南部で、北部の反乱に悩まされずに好景気を享受しているためだ。

一方、ジョナサン氏の主要対立候補である北部出身の屈強な元最高軍事評議会議長、ムハンマド・ブハリ氏の勝算は、ボコ・ハラムが同氏の潜在的支持者の多くを追い出したことで打撃を受けている。【同上】
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経済成長を謳歌する南部にとって、連日報じられる北部辺境地域での虐殺・拉致事件は他人事なのでしょうか。

もっとも、選挙戦に見通しについては、原油価格下落の影響など異なる見方もあるようで、ふたを開けてみないとわからないところでもあります。

****ナイジェリアの大統領選:原油安ショックで接戦に****
落選し続けたブハリ氏に追い風か
ナイジェリアが民政に移行した1999年以降、ブハリ氏は権力の奪回を目指して大統領選挙に3度出馬し、落選している。

だが、この2003年、2007年、2011年の選挙はいずれも、世界の石油価格が急回復しつつあるかピークに近づいている状況下で行われたものだった。

今回は違う。アフリカ最大の経済大国・ナイジェリアは輸出の90%以上、および国家の歳入の70%を石油に頼っているため今年の見通しは厳しく、今回の大統領選はこれまでよりもはるかに拮抗した争いになる公算がある。

銀行業やサービス業、消費関連産業などが好況に沸き、経済が6~7%というペースで安定的に成長していた時期には、ブハリ氏の禁欲主義的だという評価や、無駄遣いと汚職を一掃しようという主張は票につながらなかった。

今回は景気が下り坂であるため、政治家という階層の行き過ぎに歯止めをかけるべきだという主張――72歳の痩身の候補者ブハリ氏は今回、この点を訴えの中心に据えている――には、急を要することだという印象が以前よりも強く感じられる。

投票結果にはこれ以外に民族、宗教、当選者が選挙後に支持者に配分する恩恵といった要因が大きく影響するとしても、だ。

選挙管理委員会は、有権者証の配布が遅れているものの、投票は予定通り2月14日に実施できるとしている。

また、ブハリ氏は軍を建て直し、同国北部で勢力を伸ばしているテロ集団「ボコ・ハラム」に対抗すると公約しているが、こちらも急を要することであるように聞こえる。

「自分の懐に打撃が及ぶと、人はそれまでよりも合理的になり、感情を抑えて決断するようになる。石油価格の下落は政府を、企業を、そして個人を直撃している。今の状況はブハリ氏に有利に作用する」。ナイジェリアの大都市ラゴスの投資会社、ファイナンシャル・デリバティブズのビスマルク・ルウェイン最高経営責任者(CEO)はこう指摘する。

現職のグッドラック・ジョナサン大統領にはこれと正反対のことが当てはまる、とルウェイン氏は言う。現職としての優位性は通貨ナイラの急落とともに衰えている。ナイラは先週月曜日、1ドル=190.45ナイラという史上最安値を付けた。

同氏はまた、ナイラ安はブハリ氏の地盤である貧しい北部だけでなく、ジョナサン氏にとって最も頼りになる南東部の支持者の一部にも影響を及ぼすと述べている。南東部の支持者には商業で生計を立てている人が多い。

「(ジョナサン大統領が)原油価格を引き下げたわけではない。彼は原油安の犠牲者であり、これについて彼にできることはあまりない。政府はこれまでの上昇局面で浪費をした。下降局面から身を守るためのものはあまり残していない」とルウェイン氏は言う。(後略)【1月26日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 JB Pressより】
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これまで石油収入を“浪費”してきたナイジェリアでは、原油価格下落によって、連邦政府や地方政府は、公務員に予定通り給与を支給するのに苦労している状況にあります。

原油安の影響は、これまでの無駄を切り詰めて、財政引き締めに転じる好機となるという意味で、ナイジェリアにとって長期的にはプラスに作用するという見方もあるようです。

もっとも、それは財政問題や「ボコ・ハラム」による治安問題を真摯に受け止める、まともな政府が樹立されればの話です。

現在のジョナサン大統領の統治にも問題がありますが、対立候補のブハリ氏はかつて軍を背景にクーデターで権力を掌握し、綱紀粛正の名のもとに報道の自由を弾圧し、緊縮財政によって経済悪化を招いた“実績”もあります。

いずれにしても、まずは大統領選挙を平和裏に行うことです。選挙による混乱が生じれば、ケリー米国務長官も懸念するように、「ボコ・ハラム」の活動はますます拡大するばかりになります。

前回大統領選挙でブハリ候補がジョナサン現大統領に敗れた際には、開票結果が発表された後、ブハリ支持者の多い北部を中心に暴動が勃発し、500人以上が死亡したとのことです。
コメント

ギリシャ  「反緊縮」チプラス新首相とEUの両者とも譲れない「チキンレース」

2015-01-30 22:41:24 | 欧州情勢

(チプラス新首相にとって厄介なのは交渉相手のEUではなく、反EU感情に熱狂する支持者ではないでしょうか。
“flickr”より By Epoca Libera https://www.flickr.com/photos/epocalibera/16186995888/in/photolist-qEozW1-pYqk7T-jvFRoE-nHzff4-qVo4f5-prBMaL-cfXnis-fQx2ts-nLCvyj-pYdKoA-qG5n2A-qeooCR-qWPoR2-cgrFpw-pZY5JL-pQKpuw-qvbrnA-qMAivT-qvcfom-qvcfbh-pQKr3m-pQKqRu-pQKq8W-qKsELb-qMAhAB-qMAhnF-qviCda-qKsDP1-qvceEh-pQKrpo-pQKqXm-qviB7n-qMKyGk-qvcfCE-qMKxax-qMFjsd-qvbqYE-qvcf9y-qvbqr7-qWP4nB-bUF1Cr---dbwWML-qEoA1E-qE4LZJ-pYdKso-pg4Zsr-6XBvgn-qBU9CH)

【「先行きの不透明感が高まっている」】
ギリシャでは予想されたように「反緊縮財政」を掲げる急進左翼進歩連合(SYRIZA〈シリザ〉)が圧勝し、チプラス新首相(40)が誕生しまし。

****<ギリシャ>新政権 財政緊縮策の見直しに着手****
ギリシャのチプラス新首相(40)が就任早々、ユーロ圏などからの金融支援の条件となっている財政緊縮策の見直しに着手している。

27日に発足した新政権は、サマラス前政権時代に決まっていた電力・交通部門などの民営化計画の一部凍結を相次いで発表し、解雇された公務員を再雇用する方針を打ち出した。

チプラス首相は28日の初閣議で「(25日の総選挙で)国民から我々は尊厳を取り戻すよう委任を受けた」と強調。(1)緊縮策がもたらした「人道危機」の軽減(2)経済の再生(3)債務問題の解決(4)汚職摘発--を新政権の優先目標に据えた。

新政権は、サマラス前政権下で財政再建のために予定されていた主要港湾の民営化や、電力会社や原油精製施設の政府保有株の売却、高速道路や空港などの資産の売却といった計画を凍結すると発表。また、「不当解雇」された公務員を再雇用し、最低賃金を引き上げる方針を示した。

一方、ギリシャに緊縮策の実施を求めてきたユーロ圏と国際通貨基金(IMF)との関係についてチプラス首相は「衝突するつもりはない」と述べ、債務削減要求では「現実的な提案」を行う用意があると強調した。

チプラス首相は30日にアテネを訪れるユーロ圏財務相会議のデイセルブルム議長(オランダ財務相)と会談し、チプラス政権が求める支援交渉の「仕切り直し」について話し合う。バルファキス財務相は、成長・雇用重視路線を取るフランスとイタリアの財務相と近く会談する。

一方、米格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は28日、チプラス政権の政策方針を受け、ギリシャの信用格付けを引き下げる方向で見直すと発表した。

理由について「新政権の政策が、ユーロ圏と前政権との(緊縮策の)合意に反している。支援交渉が頓挫すれば信用力が一段と弱まる」と説明している。

金融市場でも、今週に入ってからギリシャの主要株価指数が銀行を中心に15%も急落しており、「先行きの不透明感が高まっている」(英バークレイズ)状況だ。【1月29日 毎日】
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チプラス首相が緊縮財政をどの程度緩和・放棄するのか、国内総生産(GDP)比175%に上るギリシャの公的債務の減免・返済条件変更などをどこまでユーロ圏に求めるのか、その結果、債務不履行(デフォルト)やユーロ圏離脱という最悪のシナリオが現実のものとなるのか・・・これからの交渉次第です。

****新政権、EUと支援交渉へ 「進むも退くも地獄****
・・・そうした経済の苦境に国民の不満は高まり、25日の総選挙では「反緊縮」を掲げる急進左翼進歩連合の大勝につながった。急進左翼は政権につき、EUなどとの交渉で支援条件の変更を求める方針だ。

ドイツなど支援する側からすれば、税金を使って救済しているだけに、簡単には受け入れられない。ギリシャを特別扱いすれば、他の支援を受けた国にも影響が及ぶ。交渉が決裂すれば、債務不履行(デフォルト)やユーロ圏離脱に追い込まれるおそれもある。

公務員の労働組合「ADEDY」のスタブロス・コウチュベリス理事は「緊縮財政をやめ、EUなどからの借金の削減と返済期間の延期をすべきだ。ただ、国民の75%はユーロ圏残留を望んでいる。ギリシャは進むも地獄、退くも地獄という状況だ」と語る。

危機が続いているのはギリシャだけではない。ユーロ圏全体の昨年12月のインフレ率は09年10月以来のマイナスだった。デフレを防ごうと欧州中央銀行(ECB)は今月22日、国債などの資産を買って市場に大量のお金を流す量的金融緩和の導入を決めた。ユーロ圏各国の国債を買い始めるのは3月からだが、支援を受けている国には、財政再建の条件をつける方針だ。

ギリシャの銀行はECBからの資金供給で成り立っているだけに、「交渉で緊縮策を守るようギリシャに圧力をかけた」と市場では見られている。このままではギリシャ経済はじり貧だが、EUなどの支援がなければ破綻(はたん)しかねない。

アテネ商工会議所のコンスタンティン・ミハロス会頭は「ユーロ圏離脱に追い込まれれば、エネルギーや食料を輸入に頼るギリシャは大混乱に陥る。EUとの約束を守るしかない。これは、政党にとってではなく国全体の危機だ」と語る。

とはいえ、反緊縮で選挙に勝った急進左翼も、引けば国民の失望を買う。交渉は、両者とも譲れない「チキンレース」の様相だ。【1月28日 朝日】
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欧州がギリシャの債務減免に応じられない三つの理由
チプラス政権は欧州債務危機が起きて以来、ユーロ圏で初の反緊縮派政権です。
ユーロ圏との債務減免などの交渉に当たる重要ポストの財務相には反緊縮派経済学者のヤニス・バルファキス・アテネ大教授(53)が登用され、「反緊縮」路線を色濃く映し出した布陣となっています。

“チプラス首相は閣議の冒頭、EUとの交渉について、「公平で、互いの利益となる解決を求める。ギリシャの尊厳を回復するため、血を流す覚悟がある」と述べ、厳しい姿勢で交渉に臨む考えを示した。”【1月29日 朝日】

ただ、同じ発言は「ギリシャの尊厳回復へ心血を注ぐ覚悟だ」【1月28日 時事】とも。

“心血を注ぐ覚悟”ならまだ穏当ですが、“血を流す覚悟”となるとユーロ離脱も辞さず・・・といった話にもつながりかねない表現です。翻訳・通訳はときに非常に微妙な問題を惹起します。

それはともかく、【1月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】は、欧州がギリシャの債務減免に応じられない理由として3点をあげています。

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第1に、債務減免は欧州北部で政治的な反発を招き、極右政党と国家主義政党を強めることになる。

第2に、極左政党と反資本主義政党が欧州南部で信用を獲得し、ギリシャと同じような債務削減と社会支出の大幅拡大を強く求めるだろう。支出拡大は市場の信頼崩壊につながるものだ。

第3に、それがたとえ交渉によるデフォルト(債務不履行)だったとしても、ギリシャがデフォルトした場合に生じる欧州連合(EU)加盟国間の信頼の崩壊は、EUの結束を維持するのを難しくする。
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ドイツなど北部を中心に、欧州各国には自国の血税をギリシャ救済につぎ込むことには強い抵抗があります。
まして融資した資金の減免などという話になると、EUによる支援体制に反対してきたフランスの国民戦線(FN)やオランダの自由党など右翼・国家主義政党への国民の支持が一気に拡大することも考えられます。

****欧州北部での政治的反発*****
スウェーデン元首相のカール・ビルト氏は次のようにツイートして、欧州北部の反応がどんなものかを垣間見せた。「ギリシャのSYRIZAは、他のユーロ圏諸国の納税者がもっと多くのお金を払ってくれると約束することで選挙に勝った。いい根性だ」

EUの礎であるドイツの政治に対する影響も有害なものになるだろう。ここへ来て反ユーロの姿勢に移民への怒りを付け加えた「ドイツのための選択肢(AfD)」は間違いなく利益を得る。

アンゲラ・メルケル首相の最大の功績の1つは、フランスやオーストリア、オランダに存在するような極右政党がドイツで台頭するのを防いだことだった。その功績が今、危うくなっている。【1月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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一方、ギリシャ同様に緊縮財政・債務返済に苦しむ国が多い南欧では、もしギリシャ債務の減免が認められることになれば、極左勢力などがSYRIZAを成功例として賞賛し、自分たちも同様に・・・との思惑が広がります。

****南欧などで極左政党が台頭する恐れ*****
欧州の極左もSYRIZAに声援を送っている。債務の返済を拒み、緊縮を終わらせる簡単な方法があるという考えは、スペインやポルトガル、アイルランド、イタリアといった苦境にある国にとって極めて魅惑的に違いない。

もしSYRIZAがギリシャ債務の削減に成功したら、スペインのポデモス党やアイルランドのシン・フェイン党、イタリアの「5つ星運動」などの政党が支持を獲得するだろう。【同上】
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また、ギリシャ債務の減免措置はEU内部の信頼関係を著しく傷つけることになります。

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極端な政治思想への漂流や金融パニックが起きなかったとしても、ギリシャのデフォルトは深刻なダメージをもたらすだろう。EUは、すべての加盟国が他国も互いに対する支払い責任を尊重し、欧州の法律を順守すると確信して初めて本当の意味で機能する。その考えが決定的に損なわれたら、将来の取り決めを交渉するのはほぼ不可能になる。【同上】
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今のところは、EUなどの支援がなければ破綻しかねないギリシャにとってユーロ離脱はあり得ない(チプラス首相も最近は「離脱はしない」と言っています)、ギリシャ経済が混乱しても対応策が整備された欧州経済・金融へのインパクトは以前ほどではない・・・という見方が一般的なようですが、“両者とも譲れない「チキンレース」”は思わぬ方向に走る可能性もあります。

ロシア制裁を“人質”?】
そんな厳しい交渉のひとつでしょうか、チプラス新首相はEUのロシア制裁に異論を唱え、EUへの揺さぶりをかけているようです。

****<ギリシャ>EU対露制裁警告に親露発言「同意していない****
ギリシャのチプラス新首相(40)は27日、欧州連合(EU)加盟国首脳名で同日に出され、ロシアに追加制裁を警告した共同声明について「内容に同意していない」と述べた。政権はアテネにあるEUの出先機関に抗議した。

チプラス政権は親ロシア色を見せており、今後、制裁の維持に異議を唱える可能性もある。

EUでは、外交などEUの一般政策に異論を唱えることで、ギリシャが債務削減交渉を有利に運ぼうとするのではとの懸念も出ている。(中略)

EUは来月12日の首脳会議でロシア制裁を討議する予定。追加制裁には全会一致が必要で、ギリシャが反対に回れば実現しない。

EU外交筋は「債務削減交渉は厳しいため、ギリシャが他の政策に反対して“人質”に取るのではないか」と憂慮を示した。【1月28日 毎日】
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ロシア制裁については、ロシア禁輸措置で返り血を浴びる中東欧諸国には不満がありますので、EUを揺さぶる方策としては有効かも。

ロシアになびく欧州極右勢力
ギリシャ問題をはなれても、欧州各国の極右勢力などの「反主流」勢力とロシア・プーチン政権には緊密なつながりがり、これら勢力の今後の動向次第ではEUの意思決定にも影響してきます。

****ロシアと欧州極右の蜜月****
ヨーロッパの極右政党が次々とロシアを訪問 彼らと緊密な関係を結ぶプーチンの狙いは

昨年11月、ドイツの新興極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の幹部2人が駐独ロシア大使館に招かれた。地元メディアの報道によれば、ロシアのウラジーミル・グリニン大使が2人に戦略的助言を与えたとされる。(中略)

この数力月前にも、グリニンはAfDの政治家2人と会談していた。昨秋にはロシア系のファースト・チェコ・ロシア銀行がフランスの極右政党「国民戦線」に940万ユーロの融資を提供。同党のマリーヌ・ルペン党首はモスクワを訪問し、ロシア政府高官と協議を行っている。

オーストリア自由党のハインツクリスティアン・シュトラッヘ党首も「信頼醸成のため」と称してモスクワを訪問。昨年10月にはイタリアの極右政党「北部同盟」のマッテオ・サルビニ党首がクリミアとモスクワを訪れ、「ロシアは対話を望んでいる」と発言している。

ハンガリーの第3党である「ヨッビク」はロシア政府と特に緊密な関係を維持している。同党を率いるガボール・ボナは昨年5月にモスクワで行った演説で、アメリカを「ヨーロッパの奇形の子孫」と呼んだ。また同党の外交政策を仕切るベラ・コバクスは「ロシアのスパイ」とされている。

そのコバクスは欧州議会議員(MEP)だ。ヨッビクからはほかに2人がMEPに選ばれている。またイタリアの北部同盟は5人、オーストリア自由党は4人、ギリシヤの「黄金の夜明け」は3人、スウェーデン民主党は2人、ベルギーの「フラームス・ベラング」は1人、そしてフランスの国民戦線は24人を欧州議会に送り込んでいる。

彼らに加えて、現在の欧州議会にはロシアに対して柔軟な姿勢を示すポーランドの「ノワ・プラウィカ」やイギリス独立党の議員もいる。今の欧州議会ほど「ロシアの友人」が集まる場所はほかにない。

欧州を内側から揺さぶる
「今ではMEPの5人に1人が急進的で少数派、非主流の政党に属している」と言うのは、政治資本研究所(ブダペスト)所長で欧州における急進派勢力とロシアのつながりに詳しいぺーター・クレコだ。「これらの政党と緊密なつながりを維持することで、ロシアはヨーロッパを内側から不安定化させることができる」

両者の「友情」は、聞き心地のいい言葉だけではない。昨春には主として急進的政党に属するMEPや政治家たちがクリミアに招かれ、ロシア編入をめぐる住民投票の監視に当たり、投票は「自由で公平」に実施されたと宣言している。(中略)

クリミアの監視団にはヨッビクのコバクスやフランス国民戦線のエイメリック・ショープレード、オーストリアのエワルト・スタッドラー、さらにはドイツ左翼党やオーストリア自由党のメンバー、北部同盟その他の極右・極左政党の複数のメンバーも含まれていた。(中略)

欧州議会の5分のIといえば、過半数には程遠いが、支持者を増やす急進政党は各国の世論を動かしている。「私たち主流派は動きが取れなくなっている」とエストニアのMEPで大統領候補になったこともあるインドレク・タラントは言う。(中略)

欧州議会や欧州会議における親ロシア派の増加がヨーロッパの結束を揺るがす一方、各国レベルではさらに明白に親ロシアの立場を取る急進政党もある。

ブルガリアの極右政党アタカ国民連合は、政府がロシアヘの制裁を支持するなら政府を転覆させると誓っている。今年行われた世論調査では、国民の40%がEUを支持したのに対し、22%がロシア主導のユーラシア連合支持を表明している。

ヨーロッパ各国の極右政党はどこも東欧からの移民を嫌っているから、ブルガリアがユーラシア連合に接近するのも不思議ではない。EU加盟を申請しながら受け入れられないセルビアもロシアの友情を求めている。(中略) 

プーチンは「反主流の星
各国の急進政党の中には、戦略的にモスクワに接近する党もある。ヨーロッパ統合の夢がぼろぼろになる一方で、ロシアの多岐にわたる友好戦略は一定の成功を収めている。

違法な方法でない限り、反主流の弱小政党がロシアと友好を築くことに問題はない。外国の政治勢力に影響力を行使するのは、アメリカや中国もやっていることだ。(中略)

フランス国民戦線のルペンも、ロシアから資金を借りたのはフランスの銀行が貸してくれないからだと言う。

AfDのルーズは、同党はロシアから資金も助言も受けていないと断言する。「私たちは国民戦線ほど過激ではないし、資金援助も不要だ」

それでも彼らがロシアになびくのは、プーチンのロシアが「反主流の星」に見えるからか。【2月3日号 Newsweek日本版】
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極右勢力とロシア・・・・単に欧州主流のEU路線と共に対立しているというだけでなく、個人の権利・利益が保証されるのであれば国家主権を制約しても統合深化を目指すEUに対し、あくまでも国家主権を重視するという点で共通した価値観を有しているように思えます。

****インタビュー)フランス社会の混迷 マリーヌ・ルペンさん****
「現代の世界を二分するのは、国家かグローバル主義かです。繁栄と治安とアイデンティティーを守るために国家を重視する考えと、国家など消え去ってしまえという考えとの対立です。ただ、グローバル主義とグローバル化は別の概念。(国家が世界と交流して繁栄を追求していくような)幸福をもたらすグローバル化は、もっと進めなければなりません」

「ソ連崩壊後の苦しい時期を経たロシアが、経済復興を成し遂げた姿には、頭が下がります。米国とは異なる国家モデルをつくり上げたロシアは、戦略的関係を結ぶのに値する偉大な国家です。にもかかわらず、(制裁を求める)米国の指示に従うから、欧州連合(EU)はロシアと冷戦状態のような関係しか持てないのです」

「日本はすばらしい。フランスが失った通貨政策も維持している。日本は(国民が自国の経済をしっかりコントロールする)愛国経済に基づいたモデルを示しています」【1月27日 朝日より】
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シリア  アサド大統領「すべての戦争は、世界のどこで行われようと、政治的解決をもって終わる」

2015-01-29 22:09:31 | 中東情勢

(1月20日 ダマスカス インタビューに応じるアサド大統領 http://www.foreignaffairs.com/discussions/interviews/syrias-president-speaks
 
ロシア アサド政権と反政府勢力の代表をモスクワに招いて和平協議
5年目を迎えようとしている今も終わりが見えないシリアの内戦。

シリア情勢に関しては、連日のように「イスラム国」に関する情報が報じられており、特にここ数日は日本人人質の安否に関する情報が溢れています。

一方で、最近のアサド政権の政治的・軍事的動向に関しては殆ど報じられることがありません。
アサド大統領は今何をしているのか?

おそらく、国際的な批判が「イスラム国」に集中する状況で、せっせと反体制派やイスラム過激派との戦闘に精を出しているのでしょう。

こうした状況で、ロシアが仲介するアサド政権と反体制派の和平協議が26日、モスクワで始まりました。
複数の反体制派から約30人が参加し、アサド政権代表者も28日頃から合流するとのこと。

しかし、欧米が支援する反体制派「シリア国民連合」は参加していないため、成果が得られるかは不透明とされ、欧米メディアもあまり大きく取り上げていないようです。

アサド政権の後ろ盾となっているロシアのラブロフ外相は26日の記者会見で、和平協議について「国連主導の対話プロセス開始に向けた条件をつくり出すものだ」と述べ、仲介努力をアピールしています。【1月26日 時事より】

****ロシア 対「イスラム国」で連携呼びかけ****
ロシア政府は、シリアのアサド政権と反政府勢力の代表をモスクワに招いて和平協議を始め、ロシアのラブロフ外相は双方にイスラム過激派組織「イスラム国」との戦闘で連携するよう呼びかけました。

シリアではアサド政権と反政府勢力、それにイスラム過激派組織「イスラム国」の三つどもえの内戦が続いていて、混乱が始まった2011年からの犠牲者は20万人以上にたっしたとみられています。

こうしたなか、ロシア政府は、内戦の平和的な解決を目指すとしてアサド政権と反政府勢力の代表をモスクワに招いて28日から和平協議を始めました。

協議に出席したロシアのラブロフ外相は、「テロの脅威と戦うために力を結集することが不可欠だと認識することが、シリア国民の再統合に向けて重要だ」と述べ、双方に「イスラム国」との戦闘で連携するよう呼びかけました。

アサド政権の後ろ盾となっているロシアとしては、対「イスラム国」で政権側と反政府勢力が力を合わせれば、結果的に反政府勢力のアサド大統領に対する退陣要求が弱まるという期待もあるものとみられます。

ただ、今回の協議には欧米などからの支援を受ける反政府勢力の統一組織「シリア国民連合」は参加しておらず、対「イスラム国」で本格的な共同戦線が実現するかは不透明です。【1月29日 NHK】
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シリア情勢の改善・安定にとって、アサド大統領が最重要キーマンのひとりであることは言うまでもないことですが、そのアサド大統領は米『フォーリン・アフェアーズ』誌の単独インタビューに応じています。(http://www.foreignaffairs.com/discussions/interviews/syrias-president-speaks

かなりの長文ですので、私を含め英語が苦手な人間には、上記インタビューの日本語訳を掲載している青山弘之氏のサイト「シリア・アラブの春 顛末記:最新シリア情勢 」(http://syriaarabspring.info/wp/?p=17094)が助かります。

上記青山弘之氏のサイトによれば、アサド大統領は今回のロシア仲介和平協議について、次のように語っています。

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「モスクワで行われているのは、解決策に関する交渉ではない。それは(和平)会議の準備だ…。どのように対話を準備するかを交渉する。

会議について話し始める場合、その原則となるものは何か?… 一部のグループは、先ほど述べた通り、他国の操り人形だ…。

フランスをはじめとする多くの国は、会議が成功することには関心がない。
だから、彼らはこうしたグループに会議を失敗させようと命令を出している。

自分たちしか代表していない者、シリアの誰も代表していない者もいる…。

反体制派を一つの勢力だとして話す場合、誰が誰に影響力を及ぼしているのか? これが問題だ。

こうしたことはまったく明らかでない。だから楽観というのは大げさだ。ただ、私は悲観しているとは言いたくない。希望があると言いたい」。【青山弘之 氏 「シリア・アラブの春 顛末記:最新シリア情勢 」】(http://syriaarabspring.info/wp/?p=17094
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アサド大統領インタビュー 「穏健な反体制派」は“幻想”】
欧米が支援する「反体制派」について“誰も代表していない”と切り捨て、次のようにも語っています。

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反体制派とは国民的(愛国的)であるもので、シリア国民の利益のために活動することを意味する。

もしカタールやサウジアラビア、さらには米国をはじめとする西欧諸国の操り人形だとしたら、それは反体制派ではない…。

反体制派はシリアの反体制派でなければならない。

我々には国民的(愛国的)な反体制派がいる。私はこうした反体制派を排除しない。

すべての反体制派が合法的なわけではないが、国民的(愛国的)な反体制派と操り人形は区別されなければならない」【同上】
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“国民的(愛国的)な反体制派”が具体的にどのような勢力を意味するのかは定かではありませんが、決して反対者の声に耳を貸さないという訳ではない・・・とのことのようです。そのような“国民的(愛国的)な反体制派”であれば、毒ガスで虐殺したりもしないということでしょう。

また、欧米の支援する「穏健な反体制派」を“幻想”と揶揄もしています。

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「なぜあなたが言うところの「穏健な反体制派」、つまり我々が言うところの「反乱分子」がますます弱体化していのか? シリア危機の進捗がそうしているからだ。

5,000人を(米国が)外国からシリアに潜入させたが、そのほとんどは離反し、一部はイスラーム国に合流してしまう、こうしたことが去年実際に起こっている。だから幻想的だと言っているのだ。

5,000という数が幻想なのではなく、発想そのものが幻想なのだ」。【同上】
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アサド大統領が“幻想”という言葉を持ち出したのは、昨年6月段階でオバマ大統領自身が、同様ともとれるような発言をしているからです。

オバマ大統領はカナダのCBS(6月21日付)のインタビューで、シリア情勢に関してアサド政権を倒すことができる既存の「穏健な反体制派」が存在するという考えは誤りであるとしたうえで、これまでアサド政権の脅威に戦ってこなかった市民にアメリカが武器を供与したからといって、彼らがアサド政権やイスラム過激派と戦う姿勢に転じるだろうと考えるのは“幻想”(fantasy)に過ぎないと断じています。
http://www.cbsnews.com/news/obama-notion-that-syrian-opposition-could-overthrow-assad-a-fantasy/ より】

短い要約記事で不明確ではありますが、おそらくオバマ大統領が言いたかったのは、単に武器を供与しただけではどうにもならない、軍事訓練などを含めて行う必要があるということだったのではないでしょうか。

実際、この発言の直後の2014年6月26日、訓練や装備の提供などでシリアの穏健な反体制武装勢力を軍事的に支援するため、オバマ米大統領は5億ドル(約508億円)の拠出をアメリカ議会に対して求めています。

このオバマ発言を引き合いにして、アサド大統領は「穏健な反体制派」という考え自体を“幻想”と断じています。
少なくとも、今のままの反体制派ではどうにもならない・・・という点では両者は共通していますし、穏健派と過激派の線引きなどないとのアサド大統領の指摘も否定できません。

焦眉の急を要する案件である「イスラム国」による人質事件に関しても、下記のような報道があります。

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現地取材は困難を極め、どの反体制派と接触するか注意が必要となる。最も穏健な勢力ですら、アルカーイダ系とは言わないまでも過激派と関係を持ち、安易に信頼するのは危険だ。  

米中央情報局(CIA)は最近、穏健な勢力に送っていた活動費を削減した。この勢力が別の穏健派勢力への協力を拒絶したためとみられる。CIAですら信頼しない勢力を、記者たちが信頼するのは危険なことだ。【1月29日 産経】
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アサド大統領はアメリカに対しては、協調の可能性を探っているようにも見えます。

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「(米国による)さらなる関与とは軍事的な面に限られない。政治的なものが求められている。米国がどの程度トルコに影響力を行使できるかということだ…。

米国は、アル=カーイダを支援しないようトルコに圧力をかけているだろうか? 彼らは圧力はかけていない…。つまり軍事的な関与しかしていないのだ…。

また、第2に、軍事的関与について話すのであれば、米国高官は現場に部隊がいなければ、具体的な成果を得られないことを公に認めるべきだ。

現場でいったいどの部隊に依存しているのか?… シリア軍に依存しなければならないのは当然のことだ。ここは我々の領土であり、我々の国だ。我々が責任を負っている。我々は米軍に何も要請しない」。【青山弘之 氏 「シリア・アラブの春 顛末記:最新シリア情勢 」】(http://syriaarabspring.info/wp/?p=17094
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一方、トルコ、サウジアラビア、カタールに対しては、ヌスラ戦線やイスラム国への軍事面、財政面、兵站面での支援を行っていると厳しく批判しています。特にトルコへの批判は強いものになっています。

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「彼(トルコのレジェプ・タイイプ・エルドーアン大統領)は、アル=カーイダの基礎となっているムスリム同胞団のイデオロギーに属している…。彼は非常に狂信的だ。だから彼はイスラーム国さえも支援しちえる。今起きていることの責任は彼個人にある」。【同上】
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【「戦争は政治のツールの一つ」】
「イスラム国」やイスラム過激派は狂信的で協議の対象ともならず、「穏健な反体制派」の実態も“幻想”に近いとすれば、シリアの安定を協議する相手はやはりアサド政権でしょう。

アサド政権がこれまで行ってきたとされる虐殺・弾圧を考えると受け入れがたいようにも思えますが、少なくとも統治体制の実態を持ち、協議の対象となりえる思慮もあるようにも見えます。

仮に「穏健な反体制派」が勝利をおさめたとしても、その後のシリアに出現するすのは、イスラム過激派台頭を含む混乱でしかないでしょう。

「すべての戦争は、世界のどこで行われようと、政治的解決をもって終わる。なぜなら戦争それ自体は解決策ではなく、戦争は政治のツールの一つだからだ」。【同上】

まずは協力して「イスラム国」などの過激派を抑え、しかるのちに停戦を実現するという、シリア・アメリカなど関係国・反体制派など関係勢力の“政治的解決”が望まれるところですが、アサド政権との戦闘行為に存在理由をかけている反体制派、それを支援し、不都合な真実に向き合わないアメリカ国内保守派の存在を考えると、それもまた“幻想”のようでもあります。
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タイ  インラック前首相弾劾・訴追  軍・官僚主導のタクシン以前体制への回帰の動き

2015-01-28 22:07:18 | 東南アジア

(1月22日 自身の弾劾審議のために立法議会に到着したインラック前首相 【1月23日 AFP】

【「タイの民主主義はすでに死んでしまっているが、その破壊行為はいまも続いている」】
タイでは、軍部による昨年5月のクーデター直前に、国家安全保障会議事務局長の人事問題について憲法に違反して縁故採用のために不当介入したと憲法裁判所が認定したことで失職したインラック前首相が、事実上のコメ買い取り制度であるコメ担保融資制度で在任中に巨額の損失を出すなどしたとして暫定議会で弾劾を受け、更に、検察により刑事訴追されることになりました。

弾劾により民政移管後の選挙の出馬もできず、刑事訴追が有罪の場合、最高10年の禁固刑となります。

****タイ前首相を弾劾 来年の選挙、出馬できず****
軍事クーデター後のタイの暫定議会(定数220)は23日、在任中に職務怠慢があったとして、インラック前首相(47)の弾劾(だんがい)を賛成多数で決めた。

インラック氏は今後5年間、被選挙権が剥奪(はくだつ)され、来年に予定される民政復帰の総選挙には出られなくなった。

検察当局も同日、職務怠慢の罪でインラック氏を刑事訴追する方針を決定。有罪の場合、最高で禁錮10年となる。

インラック氏は昨年5月、クーデター直前に別の事件で憲法裁判所の命令を受けて失職した。今回の弾劾や起訴の動きは、同氏を政治の表舞台に戻さないようにするのが狙い、との見方がある。

軍が進める「改革」は、民主主義の回復や国民間の和解といった本来の目的から、タクシン元首相派排除へと逸脱する印象を強めている。タクシン派の強い反発は必至だ。

インラック氏は、国家財政に大きな損失を与えたコメの実質的な買い上げ政策を廃止しなかったとして、国家汚職防止委員会がクーデター前の上院に弾劾を求めていた。

クーデターで上院もなくなったが、暫定議会は上院の権能を引き継いでいるとして審議を進めた。この日の投票では弾劾への賛成は190票で、規定(定数の5分の3以上)を大きく上回った。

暫定議会は、軍部の統治機関、国家平和秩序評議会が議員を選び、半数以上を現役・退役軍人らが占める。弾劾の成立も、軍部が「ゴーサイン」を出したとの見方が多い。

インラック氏は23日午後、フェイスブックを通じて声明を発表し、「タイの民主主義は法の支配とともにすでに死んでしまっているが、私が直面しているケースのように、その破壊行為はいまも続いている」と弾劾成立を批判した。【1月24日 朝日】
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インラック政権は2011年の発足直後、事実上コメを市場価格より高値で買い取るコメ担保融資制度を始めました。しかし、大量の在庫と1兆円以上の損失が生じ、数々の汚職疑惑も浮上し、反タクシン派の反政府デモを激化させる一因となりました。

反タクシン派からは、同制度はタクシン派・インラック前首相の支持基盤である農民を抱き込むための国家予算を使ったバラマキ政策と見なされていました。

首相在任時、国家汚職防止委員会や国家会計検査院から国家予算や財政規律に多大な影響を与えると再三警告を受けていたのに融資制度を中止しなかったインラック前首相の行動は「職務怠慢」にあたると弾劾されたものです。

これに対し、インラック前首相は、融資制度導入で農家の収入が増え貧困率が低下する効果があったと反論。弾劾請求には「隠された政治的思惑」があると批判していました。

農家優遇政策は日本を含め多くの国で取られている政策であり、国家財政に巨額の損失云々も、低所得農家への所得再分配政策とみることもできます。(もちろん、農民層が政治的支持基盤であることを意識しての政策であることは間違いありませんが)

そうした政策の妥当性については、本来は選挙において民意を問うべき性格の問題であり、「職務怠慢」云々での弾劾に相当するものかは疑問があります。

もともと失職の直接原因となった人事問題についても、タイだけでなく多くの国で縁故採用は蔓延している問題でもあり(だから構わないとは言いませんが)、それをもって失職に追い込むというのは「司法クーデター」の感もあります。

もとよりタイ司法は、タクシン派に担がれたサマック元首相について、テレビの料理番組に出演し報酬を得たことは、憲法で定められた「首相の副業禁止条項」に抵触したと違憲判断を下し失職に追い込んだ前科もあるとおり、そうした反タクシン派的司法クーデターを厭わない存在でもあります。

プラユット暫定首相が率いる軍事政権や司法当局が、選挙ではなく司法によってことを進めるのは、選挙による民意は本来あるべきものを正しく反映しないとの基本認識があり、民意を左右する農民・貧困層の政治参加を否定するところに根差しています。

根強いインラック人気を軍政が警戒
国際的にはクーデターによる軍事政権には、その出自や強権的な性格に対し批判的な見方が多い中で、タイ国内では、現在の軍主導の体制は、長く続いたタクシン派・反タクシン派対立の混乱を収めて安定をもたらしたと評価する声が多いと報じられています。

****世論調査、「9割がNCPOの仕事ぶりを評価****
ラチャパットスアンドゥシット大学の世論調査センター「スアンドゥシット・ポール」は1月25日、「約9割が国家平和秩序評議会(NCPO)の仕事ぶりに満足している」との調査結果を明らかにした。
同調査は20日-23日に実施されたもので、全国の1840人が回答した。

昨年5月の軍事クーデターから現在まで8カ月間のNCPOの働きぶりをどのように評価するか」との質問では、「どちらかといえば満足」「満足」「非常に満足」が90%を超えた。(中略)

なお、現政権の後ろ盾的存在であるNCPOは、軍首脳などで構成されており、プラユット首相が委員長を務めている。【1月26日 バンコク週報】
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それでもインラック前首相に対して厳しい措置でのぞむ背景には、インラック前首相の根強い人気やタクシン派の動向への警戒感があると思われます。

****インラック前首相に実刑判決の可能性、根強い人気を軍事政権が警戒****
5月のクーデターによる軍事政権が続くタイで、インラック前首相の動向に再び注目が集まっている。

軍政は新憲法制定などを経て、早ければ来年中にも総選挙を実施して民政に移管する方針だが、軍政に抑圧されるタクシン元首相派では、インラック氏を再び首相候補にかついで巻き返しを画策する動きもある。

タイの英字紙バンコク・ポストは11月「インラック氏はクーデターを予見していた」とする記事を掲載。インラック氏はこの中で、「(政権の)ハンドルを握ったときから銃を頭に突きつけられていた」など、軍事政権を批判した。

同紙は後日、記事は、インラック氏が親しくしているジャーナリストが“プライベート”で交わした会話内容だったとしてこれを取り消した。

ただ、前首相による軍政批判ともとられる発言に、暫定政権のプラユット首相(前陸軍司令官)は「誰が銃を突きつけたというのだ」と反発。インラック氏に認めていた海外渡航の禁止を検討するなどの方針も示された。

軍政がインラック氏を警戒する背景には、その人気の高さもある。バンコク大学がクーデターから半年を機会に行った世論調査では、次期首相への支持率はインラック氏が26・6%で、インラック前政権と対立した民主党党首のアピシット元首相の25・1%を上回った。

こうした中、タイ国家立法議会は、コメ買い取り政策をめぐり職務怠慢があったとして告発されたインラック氏の弾劾決議案の審議を来年1月に行う予定を示した。同月中に採決が行われ、弾劾が決まった場合、インラック氏は5年間の政治活動が禁止となる。

インラック氏は、一連の手続きが「公平性を欠いている」と主張しているが、軍政が一手に権力を握る現状で、どこまで抵抗できるかは不透明だ。【12月30日 産経】
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インラック前首相の根強い人気と、前出の国家平和秩序評議会への高い評価がどのように両立しうるのか・・・そのあたりはよくわかりません。

米高官、インラック弾劾を批判「民主主義が回復されるまでタイとの関係は正常化できない」】
こうしたなかで、タイ訪問中のアメリカ高官の軍政批判発言が政権の怒りを買っています。

****米政府高官、インラック前首相弾劾に「好ましくない****
タイ訪問中のダニエル・ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は1月26日、国立チュラロンコン大学で開催された会議の席上、「国民に選ばれたリーダーがその座を追われ、クーデターを起こした勢力によって弾劾され、また、刑事訴追されようとしている。国際社会はこれを政治的なものとみている」などと述べ、インラック前首相が弾劾によって過去に遡って首相罷免、公民権5年停止となったのは政争の結果であり、望ましくないとの見解を明らかにした。

このほか、次官補は、「米国はタイのどの政治勢力にも与しないが、言論の自由や集会の自由が制限されており、これを懸念している」と述べ、戒厳令は解除すべきであると提言した。

なお、昨年5月にタイで起きた軍事クーデターに対し、米国を含む諸外国は当初、厳しい反応を示すことになったが、そのせいもあってクーデター後に米政府の高官がタイを公式訪問したのはダニエル氏が初めてとなっている。【1月27日 バンコク週報】
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****米高官発言に猛反発=「失望」表明―タイ軍政****
昨年5月のクーデターで実権を掌握したタイの軍事政権が米政府高官の批判的な発言に猛反発している。ドーン外務副大臣は28日、外務省にマーフィー米臨時代理大使を呼び、「懸念と失望」を表明した。

ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は26日、バンコクでの講演で、インラック前首相の弾劾について「政治的に駆り立てられたものではないかとの印象を国際社会は抱いてしまう」と発言。同日のタナサック外相との会談では「民主主義が回復されるまでタイとの関係は正常化できない」と強調した。

タイのメディアによると、プラユット暫定首相は27日、戒厳令の解除を求めたラッセル氏にタナサック外相が「米国が同様の状況に直面した場合、政治的暴力や混乱にどう対処するのか」と尋ねたが、「(ラッセル氏は)答えられなかった」と記者団に述べ、米側の解除要求を突っぱねた。【1月28日 時事】 
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ラッセル米国務次官補も随分とはっきりとものを言ったものです。
このあたりが、世界における民主主義をリードすると自負するアメリカの信念でもあるでしょうし、別の立場からすれば、自らの価値観を押し付ける傲慢さということにもなります。

日本の安倍首相も、昨年11月に、ブラユット暫定首相に対して早期の民政移管を穏やかに申し入れています。

****ASEAN首脳会議、プラユット首相と安倍首相が意見交換****
ASEAN首脳会議が開催されたミャンマーの首都ネピドーで11月13日、安倍首相はプラユット首相に対し、日本政府が高速鉄道なども含めさらに多くのタイのインフラ計画に関心を示していることを伝えるとともに、民政への移管を求める考えを明らかにした。

これに対し、プラユット首相は、民政移管に向けて努力中であること、2国間の経済協力のさらなる拡大を望んでいることなどを説明した。(後略)【2014年11月14日 バンコク週報】
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新憲法草案「タクシン氏の登場以前に引き戻そうという印象」】
“民政移管に向けて努力中”とのことですが、戒厳令を解かない軍事政権は報道・表現の自由に厳しい制約を課すなど、強権的な性格も強めています。

****タイ暫定首相、批判報道に警告「獄死するかも****
タイのプラユット暫定首相は25日、首相府で演説し、暫定政権に対し同国内で批判的な報道が続いていることについて、「獄死することになる(報道機関の)オーナーもいるかもしれない」と述べるなど、露骨な表現で「警告」した。

プラユット氏は最近、報道へのいらだちをあらわにする場面が増えている。

この日の演説でも、「毎ページが批判だらけの新聞がある。私は読む度に怒っている」とまくしたてたほか、「私は(報道機関を)閉鎖することも辞さない。そうでなければ(批判は)ひどくなる一方だ。それでは何のための戒厳令だ」と述べ、布告中の戒厳令を根拠にした発行停止などの処分もちらつかせた。【12月26日 読売】
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民政復帰に向けた新憲法も、タクシン派の復活を阻止して、タクシン登場以前の国王を頂点に仰ぐ軍・官僚を中心とする“伝統的”な政治・社会体制に復帰しようという軍事政権の価値観を色濃く反映したものになりそうです。

****タイ新憲法案に不安の声 首相、非議員も/上院は選挙なし****
クーデター後の軍事独裁体制下にあるタイで、民政復帰に向けた新憲法案の起草作業が本格化し、新しい政治制度の骨格が見えてきた。

ただ、首相を国会議員でない人物から選ぶことも可能にし、上院をすべて非民選議員にする案が有力視され、民主化の行方を不安視する声が上がっている。

憲法起草委員会は今月半ばから逐条審議に入った。同委がすでに合意したいくつかの原則が物議を醸している。首相は必ず下院議員から選ぶとする規定を設けないこと▽小選挙区比例代表併用制の導入▽上院の構成を任命議員と各職業団体から選出された者とし、事実上公選をなくす、などだ。

非議員の首相は議院内閣制に反するが、タイ現代史では内閣が全員民選議員だった時期は長くない。選挙を通じた「強い首相」はタクシン元首相が最初と言え、反タクシン派に拒絶感がある。

「軍・官僚を中心とする伝統的支配層の意に沿う人物を首相にする余地を残す狙いでは」(アッサダーン・パーニッカブット元ラムカムヘン大学政治学部長)との指摘がある。

小選挙区比例代表併用制は、比例代表の得票率で議席数を各政党に割り当てる。単独政党が過半数をとるのが難しく、タクシン派政党の復活を防ぐ効果があるとみられている。

タマサート大学講師のプラチャーク・コンキラティ氏(政治学)は「タクシン政権は、政党が多数派の大衆の支持を基盤に強い指導者・政権として国を運営する形だったが、タクシン氏の登場以前に引き戻そうという印象だ」と話す。

憲法案起草などの一方で、暫定議会は先週、在任中に職務怠慢があったとしてタクシン氏の実妹のインラック前首相を弾劾(だんがい)。検察当局も訴追方針を決め、インラック氏は政治生命を失いつつある。(後略)【1月28日 朝日】
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選挙運営についても、政権の意向が反映しやすい仕組みになりそうです。

****憲法起草委、中央選管に代わる選挙監督のための機関設置で合意****
憲法起草委員会(CDC)はこのほど、選挙管理委員会に代わって選挙を指揮監督する機関を新たに設置することで意見が一致した。この新機関は、「選挙組織委員会(EOC)」と呼ばれるもので、政府関係者7人、民間人1人ないし2人で構成されることになっている。

当初の案では、選挙は内務省、教育省、保健省が実施するとされていた。だが、CDC委員の一部から、「内務省が主導的役割を果たせば、えこひいきが横行する時代に逆戻りしてしまう」といった懸念の声が出たため、専門の機関を設置することで意見がまとまったものという。

なお、従来の選挙管理委員会は選挙運営のための事務局の地位に実質格下げされる。【1月28日 バンコク週報】
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こうした動きを見ると、やはりラッセル米国務次官補の指摘は当を得たものに思えます。
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アルゼンチン  大統領の密約を議会で証言しようとした検察官が死亡 口封じ? 情報機関の陰謀?

2015-01-27 22:17:39 | ラテンアメリカ

(1月26日 国民向けテレビ演説をするフェルナンデス大統領  大統領は2013年10月に脳内出血の除去手術を受けて公務に復帰したのち、デフォルト騒ぎの13年末から14年の年初にかけて姿が見られず「健康不安」説も流れたことがあります。 写真で見ると車椅子のようなものに座っているようで、左足に何かトラブルがあったのでしょうか? 写真は【1月27日 AFP】)

検察官、議会証言前日に自宅でこめかみを拳銃で
1994年にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスでユダヤ系施設が入った7階建てビルが全壊し、85人が死亡するという大規模テロがあり、この事件の黒幕が当時のイラン政府で、実行犯はシーア派武装組織ヒズボラだったとされています。

この事件に関連して、“2012年、テロ事件の黒幕とされるイランと真相究明委員会の設置交渉をした際、フェルナンデス大統領らが逃亡中のイラン人容疑者を処罰しない代わりに、アルゼンチンから肉や穀物を輸出し、イランから安く石油を輸入する取り決めをしていた”という疑惑が持ち上がり、検察が大統領らの捜査を行っているという話は、1月16日ブログ「イラン 94年のテロ事件がアルゼンチンで政治問題化 18日から核問題交渉再開 決断する段階」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150116で取り上げたところです。

検察側は通信傍受で得た情報をもとに、「反論が不可能な堅い証拠がある」としていました。

その後、議会で“大統領の密約”を証言する予定だった検察官が、その前日に自宅で拳銃で撃たれて(あるいは、自ら撃って)死亡するという、映画かTVドラマのような展開を見せています。

****アルゼンチン大統領の「密約」疑惑 追及の検事が銃で撃たれ死亡 自殺の可能性も・・・****
南米アルゼンチンで1994年に起きたユダヤ系施設への爆弾テロに関連して、フェルナンデス大統領がイラン政府と密約を交わした疑いがあるとして、捜査していた検察官が自宅で死亡していたことが19日、分かった。

地元紙などが報じた。捜査当局は自殺の可能性にも言及しているが、大統領の疑惑追及の最中の死に注目が集まっている。

死亡したのは、アルベルト・ニスマン氏。アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの自宅浴室で18日、頭部を銃で撃たれた状態で見つかった。

銃はそばに落ちていた。地元紙によると、捜査関係者は現場の状況などから「自殺の可能性もある」としている。

ユダヤ系施設への爆弾テロでは85人が死亡、検察当局は6人のイラン人らを容疑者として国際手配した。だが、フェルナンデス大統領はその後、容疑者らを処罰しない見返りに、安く石油を輸入できるなどとする密約をイラン政府と結んだ疑いがあるとして、ニスマン氏は大統領らの事情聴取や財産の差し押さえを求めていた。

19日には議会で疑惑について証言する予定だったという。大統領側は「ばかげている」と疑惑を全面否定している。【1月20日 産経】
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なお、自宅は内側から鍵がかけられていたとも。

大統領 「政府をスキャンダルに陥れるために殺された」】
当然ながら、誰しも考えるのは、議会証言されては困る大統領らが検察官の「口封じ」をしたので・・・ということです。

大統領は当然真っ向から否定していますが、その内容は自殺説ではなく、自分らに疑惑の目を向けさせるために誰かが謀殺したというものです。

“誰が”ということに関しては、自国の情報機関を想定しているようです。

****アルゼンチン大統領、検事は反政権の陰謀で「殺された」と主張****
アルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領は22日、1994年に首都ブエノスアイレスで発生したユダヤ人センター爆破事件の主任検察官が議会証言の前日に謎の死を遂げたことについて、キルチネル政権が事件の真相の隠蔽(いんぺい)に関わったように見せかける陰謀に巻き込まれて殺害されたという考えを示した。

約20年前のユダヤ人センター爆破事件の主任検察官を務めてきたアルベルト・ニスマン検事は18日、自宅でこめかみに銃弾を受けて死亡しているのが見つかった。

翌19日には議会の公聴会で多数の死傷者を出したユダヤ人センター爆破事件への関与が取り沙汰されているイラン人当局者らをキルチネル大統領がかばっていると証言する予定だった。

ニスマン氏死亡事件の捜査担当者らは、自殺とみられるとしながらも、殺害された、あるいは「自殺させられた」可能性も排除していないと発表していた。

キルチネル大統領は突如自らのフェイスブックページに、ニスマン氏は同大統領らが事件の真相の隠蔽に関わったことを公然と非難するために「利用された」後に、政府をスキャンダルに陥れるために殺されたと主張し、「自殺ではなかったと確信している」と訴えた。

さらに、「ニスマン検事の告発は政府に対する真の陰謀ではなかった。それはずっと以前に破綻していた。ニスマン氏はそのことに気付いておらず、恐らく最後まで知らなかっただろう。政府に対する真の陰謀は、ユダヤ人センター爆破事件に関与した嫌疑をかけられているイラン当局者らを保護するため大統領、外相、(大統領が率いる党派の)幹事長が事件の真相を隠そうとしたと糾弾した検事が死亡したことなのだ」という見解を示した。

キルチネル大統領は自説を裏付ける根拠を示しておらず、ニスマン検事の死の背景にいた人物は誰なのかも明らかにしていない。

しかし同大統領の側近らはここ数日、最近解雇された複数の情報当局者の関与を示唆する発言を行っており、ニスマン検事に近かったとされる情報機関の長だったアントニオ・エスティウッソ氏の名前も挙がっている。【1月23日 AFP】
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フェルナンデス大統領は、情報機関による陰謀説に沿う形で、情報機関の解体を発表しています。

****検事の死で渦中のアルゼンチン大統領、情報機関の解体を発表****
南米アルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領は26日、同国の情報機関を解体し、新たな連邦情報機関を設立すると発表した。

同国では先週、1994年に起きたユダヤ人センター爆破事件の真相の隠蔽(いんぺい)にキルチネル大統領が関与していたとの証言を議会で行う予定だったアルベルト・ニスマン(Alberto Nisman)検事が、証言の直前に遺体で発見され、大統領は自身に疑いの目を向けさせることを狙った陰謀だとの見解を示していた。

キルチネル大統領の発表によると、新たに設立される連邦情報機関のトップは大統領が指名するが、上院の承認を得る必要がある。【1月27日 AFP】
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事件を報じたジャーナリスト 「脅迫を受け尾行されている」】
一方、死亡したニスマン検事の事件を報じたジャーナリストは「脅迫を受け尾行されている」として、イスラエルへ脱出したそうです。

****アルゼンチン検事死亡で脅迫受け、ジャーナリストが国外へ脱出****
アルゼンチンで1994年に起きたユダヤ人センター爆破事件の真相の隠蔽(いんぺい)に、現職のクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領が関与していたとの証言を議会で行う予定だった検察官が、証言前日の今月18日、自宅で遺体で見つかったことについて、これを報じたジャーナリストが脅迫を受けたとして25日、アルゼンチンから出国した。

アルゼンチンとイスラエルの二重国籍を持つジャーナリストのダミアン・パクター氏はマイクロブログのツイッターに「無事テルアビブにいる。皆さんに感謝したい。また話そう」と投稿した。

パクター氏はアルゼンチンの英字紙ブエノスアイレス・ヘラルドに勤務していたが、同僚や他のメディアに対し、脅迫を受け尾行されていると語っていた。

またイスラエルの日刊紙ハーレツにも寄稿していたパクター氏は同僚に、アルゼンチン国内の自分の電話は盗聴されていると語っていた。

パクター氏はブエノスアイレス・ヘラルド紙に「私の情報源が、状況が変わった、と言えば戻る。(しかし)現政権下ではそれが起こるとは思えない」と伝えたという。(後略)【1月26日 AFP】
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【“敵”が多いフェルナンデス大統領
まさに、そのまま映画かTVドラマになりそうな展開ですが、イランと大統領の密約はあったのか?検察官を殺害したのは大統領を陥れようとする情報機関なのか、それとも大統領側の口封じなのか?あるいは自殺なのか?・・・今後明らかになる・・・でしょうか?

アルゼンチンといえば、1976年から1983年にかけて、左派ゲリラの取締を名目として労働組合員、政治活動家、学生、ジャーナリストなどが逮捕、監禁、拷問され、3万人が死亡または行方不明となった軍事政権による国家テロ「汚い戦争」が起こった国ですから、この程度の陰謀はあっても不思議ではない・・・と言うとアルゼンチンに失礼でしょうか。

フェルナンデス大統領は陰謀の種には事欠かないようで、昨年10月には、アメリカの「ハゲタカ」ヘッジファンド絡みのデフォルトの渦中で、「もしも私の身に何かがあれば、目を向けるべきは中東ではなく(アメリカのある)北の方角だ」との発言をしています。

****アルゼンチン大統領、米国に「政権倒され、殺されかねない****
アルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領は9月30日に行った演説の中で、自国と米国の実業界に政権を倒され、自分も殺されかねないと発言した。

キルチネル大統領は、アルゼンチンの実業界が「国際的な(米国の)助けを借りて、わが政権を倒そうとしている」と述べた。

キルチネル大統領は最近、同国出身のローマ・カトリック教会のフランシスコ法王の元を訪れた際に警察から、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国(IS)」の標的になっていると思われる計画があると警告を受けたと説明した上で「もしも私の身に何かがあれば、目を向けるべきは中東ではなく(米国のある)北の方角だ」と述べた。

米政府は同日、在アルゼンチン大使館を通じて自国民に、アルゼンチンに滞在する際の特別な安全対策を警告していた。その数時間後の演説でキルチネル氏は「在外公館の発表を見れば、彼らはアルゼンチンに来て、私を殺すためにイスラム国が追っているなどといった出まかせを言うべきではなかった」といら立った様子で語った。

さらにアルゼンチン国債がSD(選択的デフォルト、一部債務不履行)に格下げされたことで、アルゼンチン・ペソが下落すると利益を得るアルゼンチン国内の大豆生産者や輸出業界、自動車企業幹部なども一味だと言い放った。

アルゼンチンは2001年の1000億ドル近いデフォルト(債務不履行)以来、国際金融市場から閉め出されており依然、デフォルトの余波と苦闘する中で米系ヘッジファンドと米国で裁判状態にある。

デフォルト以降、アルゼンチンは債務返済を再び軌道に乗せるために、9割以上の債権者から債務減額の同意を得たが、デフォルト時にアルゼンチン国債を安値で買い上げた米系ヘッジファンド、NMLキャピタルとアウレリウス・キャピタル・マネジメントの2社は減額に応じず、米連邦地裁に訴訟を起こした。

最大1600%の利益をもたらすこうした戦略を指して、アルゼンチン政府は米系ヘッジファンドを「ハゲタカ」と呼んでいる。

7月30日には、5億3900万ドル(約590億円)の再編債務の利払い猶予期限を過ぎたために、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)がアルゼンチン国債の格付けを「選択的デフォルト」に引き下げ、同国債は13年間で2度目のデフォルト認定を受けた。【2014年10月1日 AFP】
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アメリカと自国の輸出業界や自動車企業幹部、自国の情報機関・・・なにかと敵が多い大統領です。あるいは、“敵”の存在を演出することが多いというべきでしょうか。
コメント

アフリカ社会に根深い呪術  アルビノ殺害・遺体売買 「魔女」との糾弾

2015-01-26 22:45:56 | アフリカ

(その異なる外見から、呪術で用いるために体の一部や生命が狙われるアルビノの人々 “flickr”より By STham882 https://www.flickr.com/photos/59703305@N04/6324388462/in/photolist-3381J8-8BihP7-8afZ78-7AgzDr-oiG2S-3te6AA-3t9yE6-4tuSB5-gZ6HoA-a5AoBd-2n3pBb-6rnsMq-5wCjP9-9RSnAz-9RSoui-SqpCW-4S2hvb-btcZaY-mQB976-9RVg7q-9RVgz3-9RVgLh-CjoZZ-dQCrLt-9Sb7iU-9S81xR-9SbgDG-9Sb2W5-9S81ok-9Sb4VC-9S815Z-9SaURU-9RVgqo-73TUuc-AQRqe-q1hM1t-7NCeN5-gZ8m9g-Y33kK-a4tLmB-fDNNDv-2tCoHW-8szz68-hF2hAY-f2h84f-pQQEQ-GYc3h-aCS9mo-9gso8C-9gt4Mo)

【「野生の思考」 現代の先進国でも日常的に存在
まじない、呪い、お祓い、祈祷、占い・・・「呪術」とは何か? 未開社会に特有の荒唐無稽なものか?
昔、文化人類学で学んだ記憶があります。

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人類学者サー・ジェームズ・ジョージ・フレイザーは、『金枝篇』において、文化進化主義の観点から、呪術と宗教を切り分け、呪術には行為と結果の因果関係や観念の合理的体系が存在し、呪術を宗教ではなく科学の前段階として捉えた。(中略)

レヴィ=ストロースは、思考様式の比較という観点から、呪術をひとつの思考様式としてみなした。

科学のような学術的・明確な概念によって対象を分析するような思考方式に対して、そのような条件が揃っていない環境では、思考する人は、とりあえず知っている記号・言葉・シンボルを組み立ててゆき、ものごとの理解を探るものであり、そのように探らざるを得ない、とした。

そして、仮に前者(科学的な思考)を「栽培種の思考」と呼ぶとすれば、後者は「野生の思考」と呼ぶことができる、とした。

「野生の思考」は、素人が「あり合わせの材料でする工作」(ブリコラージュ)のようなものであり、このような思考方式は、いわゆる"未開社会"だけに見られるものでもなく、現代の先進国でも日常的にはそのような思考方法を採っていることを指摘し、それまでの自文化中心主義的な説明を根底から批判した。【ウィキペディア】
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少なくとも、現代の先進国でも日常的に見られる類のものであることは間違いなく、人間の思考・行動に深く根ざすものであるようには思えます。

アルビノの遺体が880万円
ただ、その影響には社会によって大きな差があります。
なかにはおぞましいものも存在します。

これまでも何回か取り上げてきたアフリカで広く見られる、アルビノ(先天性色素欠乏症)の体を用いた呪術は、そのためにアルビノの人々を殺害し、その遺体を売買するという事態をもたしています。

2013年6月7日ブログ「パプア・ニューギニア 頻発する「魔女狩り」 近年強まる魔術信仰」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130607
2011年8月24日ブログ「アフリカ “まじない”“魔女”など呪術的なものに関する暴力」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110824 など

タンザニア政府は、こうしたアルビノ殺害・遺体売買を根絶するため、呪術師を禁止したそうです。

****タンザニア政府、呪術師を禁止 急増するアルビノ殺害の抑止に****
タンザニア当局は、アルビノ(先天性色素欠乏症)の人々が殺害される事件の急増を抑えるため、呪術師を禁止した。当局者が14日、述べた。

アルビノの人々の体の一部は呪術で用いられるために同国などで売買されている。(中略)

国連の専門家によると、東アフリカの国々では2000年以降、少なくとも74人のアルビノの人々が殺害されている。2009年に殺害事件が急増したことを受けて、政府当局はアルビノの子どもたちを児童養護施設に入所させる措置をとった。

タンザニアでは、アルビノの人々の体の一部は約600ドル(約7万円)で売買される。全身の遺体であれば7万5000ドル(約880万円)という。貧困にあえぐタンザニアでは破格の高値で取引されている。

タンザニア政府は、呪術師の禁止措置と合わせ、殺害をなくすための教育キャンペーンも開始した。この禁止措置には、ハーブなどを使って病気を治療する伝統的な治療師は含まれていない。【1月15日 AFP】
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遺体が880万円という、アフリカ社会にあっては法外な価格で取引されるような「需要」があるなかでは、なかなか難しいところがあるようにも思えます。

【「魔女」と糾弾し、その財産を奪う
アルビノと並んで「呪術」の犠牲になりやすいのが「魔女」です。

****魔女と呪術の殺人、タンザニアに根深い迷信****
少年を殺したのはハイエナだった。だが、それは年老いた4人の女性たちの仕業とされた。村人たちは山刀で女性たちに斬りつけ、遺体に火を放った──野獣に呪文をかけたと糾弾して。(中略)

タンザニアでは、「魔女」だと糾弾されて殺害される人々が毎年数百人に上る。シャドラックさんの母親がそうだったように、多くの犠牲者は高齢で、弱く、のけ者にされた女性たちだ。

一方で、財産を所有する女性たちも、財産目当ての親族たちに魔女だと糾弾されて殺害されることがある。

黒魔術を使ったと責められて殺される人たちがいる一方で、逆に「呪術師」たちに殺害される人々もいる──大勢のアルビノ(先天性色素欠乏症)の人々が殺害され、切断された体の一部が呪文をかける際に使われている。

国連(UN)による非難を受け、タンザニア政府は今月、アルビノの人々の殺害を抑止するための取り締まりを約束した。

だが人権活動家らは、ただの口約束に終わる可能性も高いと懸念している。というのも、過去に政府が行ってきた対策はどれも、深く根付いた迷信に対してほとんど効果がなかったからだ。

「年を取るのが不安だ」と、50歳になったシャドラックさんは語る。
母の墓に行くにはいつも、母が住んでいた、黒焦げのがれきになった家の前を通らなければならない。「私の母を殺した人々が、私のことをどう思っているのか、私は分からない」とシャドラックさんは述べた。「もしかしたら私も殺されるかもしれない」

■国民の93%が呪術信じる
タンザニアの人権団体によると、2013年に報告された「魔女」絡みの殺人は765件だった。だが実際には、はるかに多くの人が殺害されているだろうと警告する。

法と人権センターのポール・ミコンゴティ氏は「死者数は報告された件数しか集計していない」と語る。「我々が把握できていない人数が非常に多い」

目が充血していただけで「呪術」を使うしるしとみなされることさえある。だが、煙の上がるたき火で何十年間も調理をしていれば、目の充血はごくありふれたことだ。

一方、国連の専門家によると、2000年以降に殺害されたアルビノの人々は、少なくとも74人に上る。アルビノの人の遺体は7万5000ドル(約900万円)もの値段で売買されることがある。これは貧しいタンザニアの人々にとって大変な金額だ。

観測筋によると、10月の総選挙を前にアルビノの人々に対する攻撃が増えている。政治家や支援者たちが幸運を求めて呪術師たちのもとへ通うからだという。

タンザニア国民4900万人の宗教は、イスラム教、キリスト教、伝統宗教でほぼ均等に分かれている。だが一方で、米調査機関ピュー・リサーチ・センターの2010年の調査によると、呪術を信じる人は国民の93%に上り、調査したアフリカ19か国の中で抜きんでた割合だった。

■「私の財産を奪うためだった」
タンザニアの法律は女性にも平等に相続権を認めているが、これに反対している人も多い。活動家らによると、財産を奪い取ろうとする親族から魔女だと糾弾されることもあるという。

「男性は独占することを好む。そして姉妹たちが抵抗し始めると、彼女たちの財産──ウシや農地など──を得る唯一の手段は、『この女は魔女だ』と糾弾することだと考えるようになる」と、高齢者の権利擁護団体ヘルプエージのフラビアン・ビファンディム氏は説明する。「それで姉妹たちの死は正当化され、財産は自動的に男性のものとなる」

小さな村マグに住む女性、マゲ・ベンゲさんは5年前、両親を殺害するために呪文を唱えたと糾弾され、襲撃された。男たちはベンゲさんを山刀で斬り、放置して死なせようとした。「それは私の相続財産、ウシ、農地のためだった」と語るベンゲさんは、もしも自分が呪術を使えたのなら、自分の身を守ったはずだと言い添えた。

ベンゲさんの顔は傷だらけになった。今でもベンゲさんを襲った男たちの何人かが、自由の身で村を歩いているのを見かけるという。「男たちは私を痛めつけ、私の財産を奪った。かつては自分で農地を耕作できたのに今、私は物乞いだ」

■治療師の役割
政府による呪術の禁止には、薬草などを使って病気の治療をする伝統的な治療師(ヒーラー)は含まれていない。政府の調査によれば、国民の3分の2が治療師を利用しているという。

小さな小屋の中、伝統的なヒーラーのハナ・マゾヤさんは呪術師のふりをする悪質な人々がいると警告を発した。「もしも(呪術師が)患者に対して『あなたは誰かに呪術をかけられた』と言えば、2人の間の衝突を作り出すことになる。そこから殺人が起きる」と、黒く長い羽の冠をかぶったマゾヤさんは語った。

マゾヤさんは未来を予知することができるという。だが、自分を導く精霊たちは魔女を糾弾するという危険な行為には手を出さないと語る。「私の精霊たちは、魔女たちのことは知らない」とマゾヤさんは述べた。【1月24日 AFP】
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『この女は魔女だ』と糾弾することで、その財産を奪う・・・呪術を欲望実現のために都合よく利用している実態もあるようです。

ケニアでも 死者の蘇生 「真実の薬」】
あまり日本と馴染みがないタンザニアとか、未開のジャングルのイメージがあるコンゴや中央アフリカなどであれば、そういうこともあるかも・・・という感もありますが、タンザニアの北に位置するケニアでも事情はあまり変わらないようです。

ケニアは経済的には“工業化は他のアフリカ諸国と比べると比較的進んでおり、特に製造業の発展が著しい”“独立以来資本主義体制を堅持し、東アフリカではもっとも経済の発達した国となった”という国で、政治的にも、2007年12月の大統領選挙に伴う大混乱で評価を下げたものの、それまではアフリカにあって民主主義を実現した数少ない国のひとつと見られていました。

最近では、ソマリアのイスラム過激派「アルシャバブ」によるテロへの対策が喫緊の課題となっています。

****テロ対策法巡り議会大混乱 ケニア****
イスラム過激派のテロが続く東アフリカのケニアでは、テロの取締りを強化するためだとして議会で与党側が治安維持関連法の改正案を採決しようとしたところ、野党側が「人権侵害を引き起こす」として猛反発し議場が一時、大混乱となりました。

ケニアの国民議会では18日、テロの取締りを強化するため容疑者を起訴しないまま長期間、拘束することを認める治安維持関連法の改正案の採決が行われました。

この際、野党側は十分な審議を求めましたが与党側はそれを振り切って採決を行おうとしたため、野党側が猛反発して副議長の女性に水をかけたり本や文書を投げたりしたほか、議員どうしによる乱闘も起きて議場が一時、大混乱となりました。

結局、法案は可決されましたが、野党側は「政府による人権侵害を引き起こす」として反発しています。(後略)【12月19日 NHK】
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テロ取締まりと人権侵害の問題・・・日本でも、欧米でもありそうな議論です。
しかし、その一方で、呪術を巡る殺人や事件も報じられる社会でもあり、上記のような人権を巡る審議との落差を感じます。

****ケニアの呪術師、死者蘇生に失敗 村人ら激怒****
ケニアの村で8日、呪術師が死者の蘇生に失敗し、その理由として「疲れたから」と言ったことから待ちわびていた村人たちが1日を無駄したと激怒した。

9日のケニア紙スターによると、同国南東部クワレ地区の村人たちは8日、死者蘇生が行われると知り、「奇跡」を目撃すべく歌を歌いダンスをしながら呪術師のサミュエル・カヌンドゥさんのもとへ向かった。

呪術師が儀式を始める前、村の長老ヌダロ・コトタさんは、「死者蘇生など今まで見たこともなかったから、直接見てみたかった」と話した。

呪術師は集まった村人たちに対して、これまでに5人の死者を蘇生させたと自慢し、2013年10月に死亡した男性をその日の日没までによみがえらせると約束した。

しかし死者はよみがえらず、呪術師は「疲れたから」と言って村人たちに待つよう要請。同紙によると村人たちは激怒し「本当のことを言え。私たちの1日を無駄にするべきではなかった」と呪術師に詰め寄ったという。

しかし、同紙によると死亡した男性の遺族は、男性が「魔術師に殺され、バナナの木の下に遺体を隠されたため」、蘇生が難しくなったのだと思うと話しているという。【1月11日 AFP】
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****疑い晴らすため「呪術師」の薬飲んで死亡、ケニア****
ケニアのある村で、本を盗んだとされるスクールバスの運転手が、疑いを晴らすために「呪術師」と称する女性が醸造して作った「真実の薬」を飲んだところ死亡したことから、村人の間で激しい抗議が起きている。

20日の報道によると、事件はケニア南西部のキシイで起きた。同地の学校で教科書が盗まれたことをうけ、学校側が盗んだ人物を探し出すために「呪術師」を呼んだ。

地元の警察署長は地元紙デーリー・ネーションに「33歳の運転手は無実を証明するために、『混合物』を飲むことをあえて自ら申し出た。飲んだ途端に意識を失い死亡した」と語った。

この事件に激怒起した村人たちは学校運営側に報復しようと、スクールバスや副校長の家に放火した。【1月20日 AFP】
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冒頭で触れたように、呪術を未開社会に特有のものと考えることは誤りでしょう。
ただ、経済成長著しいとされるアフリカ社会の上記のような一端は、現代日本に暮らす人間からするとなかなか理解しがたいものがあるのも正直な感想です。
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エボラ出血熱、終息までもう一息  人類と病原体との攻防 根絶できないポリオ・はしか

2015-01-25 22:15:40 | 疾病・保健衛生

(パキスタン 車が入れなければロバの背にのせてでもワクチンを運ぶことはできますが、迷信やイスラム過激派の妨害といった壁を超えることは難しいものがあります。 “flickr”より By UNICEF Pakistan https://www.flickr.com/photos/unicefpakistan/7155655777/in/photolist-bUjBat-9bVdPG-dgTXtE-psArvF-dgTXVf-cbFPpL-ajQcsr-dgTXgp-dgTXbg-gRvprk-bUjC7F-dgTXMS-dgTXQo-9pmbft-cbFP5d-dgTXva-dgTXi4-dgTXEU-9p9eyS-nwzHNH-8iTRCd-9w36Ag-dF9hCq-auux9Z-dgTXo2-cbFNW1-dgTXm6-cbFP8N-oBEkud-9wDo2k-oNWq7E-dz5uQb-9BB6wK-auuxQT-auxc57-9e3haw-dejLVM-9uXTat-qrw5JE-beGooB-kG3Jqi-ci6dDW-bCtYqH-5DJWor-5DPdjd-5DPd9G-5DJWgK-dfMjsc-edtfrv-avbv4n)

リベリアにおけるエボラ出血熱の患者は現時点で5人
昨年から西アフリカで猛威をふるっているエボラ出血熱は、ようやく沈静化の方向がはっきりしてきました。

****エボラ出血熱の感染者大幅減も警戒を****
西アフリカのリベリアなど3か国で猛威を振るってきたエボラ出血熱について、WHO=世界保健機関は、ここ3週間で感染者数が大幅に減ってきているものの、依然として警戒が必要だと強調しました。

WHOのエイルワード事務局長補は23日、ジュネーブで記者会見を行い、エボラ出血熱の最新の状況について説明を行いました。

この中でエイルワード事務局長補は、去年からエボラ出血熱が猛威を振るってきた西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネの3か国で、いずれも過去3週間に感染者数が大幅に減少し、ここ3、4か月の間では最低水準になっていることを明らかにしました。

その一方で、WHOが対策を続けていくための資金が不足しているうえ、5月以降、雨期の季節に入り、医療スタッフの移動が困難になって迅速に対応できなくなるおそれがあることなどから、引き続き警戒を緩めるべきでないと強調しました。

また、現地では学校の閉鎖や移動制限など、感染予防を最優先に講じていた措置を解除する動きなども出ており、今後は社会や経済基盤の復興に向けた国際的な支援の強化も求められそうです。

WHOの最新の発表では、西アフリカの3か国でエボラ出血熱に感染したか、または感染の疑いがある人は2万1797人で、このうち死者は8675人となっています。【1月24日 NHK】
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特に、3600名を超える最多の死亡者を出してきたリベリアでの状況は著しく改善しているようです。

****リベリアのエボラ出血熱患者5人に、国連発表****
国連エボラ緊急対応ミッション(UNMEER)は25日、西アフリカのリベリアにおけるエボラ出血熱の患者は現時点で5人しかいないと発表した。同国でのエボラ出血の流行が終局を迎えつつあることが改めて示された。

世界保健機関(WHO)がまとめた統計によると、リベリアで感染が確認された患者は現在5人だが、先週は一時1人にまで減っていたという。(後略)【1月25日 AFP】
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リベリアでは学校再開も2月から予定されています。

****エボラ熱で休校、2月に全学校再開へ…リベリア****
AFP通信によると、西アフリカ・リベリアの教育省が5日、エボラ出血熱の感染対策のため休校としていた全学校を、2月に再開する方針を示した。

同省は声明で、各校が消毒液や体温計を用意することや、同省が推奨する感染防止策を実施するよう求めた。

リベリアの新学期は9月に始まるが、政府は昨年8月、感染拡大を防ぐため、全ての学校を休校とする措置を取っていた。(後略)【1月6日 読売】
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1月18日までの7日間に、ギニアで20人、リベリアで8人、シエラレオネで117人の新たな患者発生が報告されたとのことで、シエラレオネがもう少し・・・という状況です。

エボラ出血熱を封じ込めつつある原因は、安全な埋蔵、患者の隔離、接触者の健康監視という対策が軌道に乗ってきたことにあります。

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●流行3か国は患者を隔離し治療するために、確定患者と可能性の高い患者に2床以上のベッドを充てられるだけの十分な収容能力を備えました。それぞれの国において、ベッドの計画数は患者発生数の減少にともない、減らしていく状況です。

●同様に、各国はエボラウイルス病で死亡した全ての患者を埋葬する対応能力を整えました。

●流行3か国では、多くの地域で患者に対する接触者数が予想されるよりも少人数にとどまるものの、登録された接触者の89%から99%が健康監視下におかれていると報告されています。
出典 WHO. Situation reports: Ebola response roadmap-Situation report. 21 January 2015.【厚生労働省検疫所サイトFORTH】
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なお、去年10月から11月にかけて6人の死者が出た西アフリカのマリでは、それ以降、新たな感染者は報告されておらず、マリ政府は1月18日、感染の終息宣言を行い、対応に当たってきた医療スタッフや国際的な支援に感謝の意を表明しています。

マラリアは半減 それでも年間58万人が死亡
一方、13年の感染者は世界全体の概算で約1億9800万人で、約58万4000人が死亡(死者の9割がアフリカに集中)というエボラ出血熱とは桁違いの犠牲者を出しているマラリア(病原体はマラリア原虫)ですが、こちらも改善の方向にあるようです。

****マラリアによる死者、13年間でほぼ半減 WHO****
世界保健機関(WHO)は(昨年12月)8日、マラリアに関する最新報告書を発表し、マラリアによる死者数が2000年からほぼ半減したことを明らかにした。

その一方で、エボラ出血熱が流行する西アフリカでは、死者数が増加に転じる恐れがあると指摘した。

WHOによると2000~13年、全世界でマラリアによる死亡率は47%、5歳未満では53%低下した。

マラリアによる死者の90%はサハラ以南のアフリカでの犠牲者だが、ここでも死亡率は54%低下している。

5歳未満に限れば死亡率は58%低下し、およそ390万人の子どもたちがマラリアによる死を回避できたことになる。

同時にWHOは、蚊帳が入手できなかったり、予防医療を受けるられなかったりする人たちもまだ多いと指摘するとともに、一般的な殺虫剤に抵抗力を持つ蚊の存在に懸念を示した。【12月9日 AFP】
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半減したことを喜ぶべきか、未だ“感染者は世界全体の概算で約1億9800万人で、約58万4000人が死亡”という状況にあることを憂うべきかは迷うところですが。

WHOのチャン事務局長は「われわれはマラリアとの闘いに勝利できる」と強調しているそうです。

パキスタンから拡散するポリオ 「予防接種はイスラム教徒に対する謀略だ」】
また、本来であれば封じ込めるはずのウイルスが、人間の浅はかさのために猛威をふるうケースもあります。
パキスタンでのポリオ(小児まひ)です。

ポリオはウイルスが主に乳幼児の中枢神経に感染し、足や腕にまひが残ったり、命を奪ったりする疾患です。
かつて世界中で猛威をふるいましたが、国際的な撲滅キャンペーンによって世界的に激減し、日本では1980年を最後に自然感染はなくなっています。

****ポリオ猛威、陰に銃火 パキスタン、発症者3倍****
主に乳幼児に感染するポリオ(小児まひ)がパキスタンで猛威をふるっている。発症者数は今年、260人を超え、昨年の3倍近い。

武装勢力が予防接種を妨害して感染源となっていた地域で軍が掃討作戦を始め、避難民とともにウイルスが全土に広がっている。

 ■武装勢力、予防接種を妨害
アフガニスタン国境に近い北西部の中心都市ペシャワル。南郊にあるバダベル地区の農家、ザイヌラさん(26)の生後10カ月の息子ファヒムラちゃんは今年9月末、突然高熱を出し、数日後にポリオと診断された。

「熱は下がったが、両足が動かなくなった。何度か予防接種を受けていたのに、接種を拒否している家庭から感染した」。ザイヌラさんが説明した。

地元州政府の資料によると、今年に入ってペシャワルでポリオ発症が確認された22例のうち8例はこの地区に集中。

抑え込むには、医療チームが各家庭を訪問して、感染の可能性がある5歳以下の子供全員に予防接種を徹底することが欠かせない。

だが、住民によると、この地区では3割近い家庭が協力していない。

住民を予防接種から遠ざけるきっかけは昨年6月、接種チームの女性2人が射殺されたテロだった。犠牲者の1人、ソンバル・カーンさん(当時18)の父親グル・カーンさん(58)は「娘は学費の足しにと、接種のアルバイトをしていた。帰りのバスを待っていて首を撃たれた」と話す。

犯行声明を出したのは、反政府勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)。

「接種を受けた子供が将来、不妊になる」という迷信に加え、米政府が国際テロ組織アルカイダのオサマ・ビンラディン容疑者の潜伏先を、偽の予防接種チームを使って確認しようとして以来、接種チームをスパイと疑うようになった。

射殺事件後、警察は疑わしい男たちを手当たり次第拘束したが、事件はうやむやなままだ。予防接種チームには重武装の警護がつくようになったが、TTPは住民に「予防接種はイスラム教徒に対する謀略だ」と触れて回り、拒否するよう脅迫を強めているという。

 ■住民避難で全土に拡散
世界保健機関(WHO)の在パキスタン・ポリオ対策緊急調整官エリアス・ドュリー氏によると、感染は昨年まで、TTPの拠点だった部族地域の北ワジリスタン地区周辺に集中していた。

TTPはビンラディン容疑者殺害後の2012年、接種の禁止を宣言。支配下に住む約40万人の子どもへの接種は2年近く途絶え、ウイルスの温床になっていた。

しかし、今年6月、軍がTTPの掃討作戦を始めると、100万人近い住民が地区外に避難。「蛇口を開いたようにウイルスが全土に拡散した」(ドュリー氏)。

政府は避難民が通る検問所で、一斉接種をした。だが、「衛生状態が悪く、接種したワクチンが体内の他のウイルスと競合して免疫がつきにくい。先進国で3~4回ですむ接種が、10回近く必要」(ドゥリー氏)とされ、対応が追いつかない。

ペシャワルのバダベル地区にある難民キャンプにも、北ワジリスタン地区からの避難民の一部が身を寄せているようだ。最大都市カラチなど大都市部でも、部族地域出身者が多い地区を中心に多数の感染例が確認されている。

脅威は隣接するアフガンやインド、中国にも及ぶ。武装勢力が渡ったとみられるシリアやイラクでもパキスタン起源のウイルスによる発症が確認されている。

WHOは今年5月、パキスタン政府に対し、出国者に予防接種証明書の携行を義務づけるよう要請。だが、空港などでは徹底されなかった。国際監視委員会は10月、各国に接種証明を持たないパキスタンからの渡航者の入国拒否を求める厳しい勧告を出した。

無策ぶりを批判されたシャリフ首相は11月5日、関係機関を集め、「対ポリオ戦で負けるわけにはいかない」と述べ、対策を対テロ戦になぞらえて号令をかけた。(ペシャワル=武石英史郎)

 ■ワクチン拒否の家も 迷信・脅迫恐れ?「子いない」
首都近郊ラワルピンディで接種チームに同行した。

地方教育局と保健局の職員2人1組で、一軒一軒くまなく回る。5歳以下の子どもがいれば、クーラーボックスから生ワクチンを取り出し、口に1滴垂らす。「投与済み」を示す青インクを子どもの指につける。

協力してくれる家庭ばかりではない。ある家では、戸口で遊んでいる子を見つけ、呼び鈴を鳴らして待つこと10分。出てきた大人の男性は「この家に小さな子はいない」と言い張った。

チームの統括役のタイヤブ・カマルさん(25)は「断られても3、4回は訪ねるが、無理強いできない。迷信や脅迫のせいで10~15%は接種の網から漏れているのではないか」と話す。

行政の機能不全や腐敗も問題を難しくしている。接種チームの男性は「1日の手当はたったの200ルピー(約200円)。交通費程度なのに、何カ月も未払いのままだ」と言った。【12月2日 朝日】
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根絶できない「はしか」 1国対応の限界
身近なイメージがある「はしか(麻疹)」も、近年は封じ込めが進んではいますが、依然としてウイルスと人類の一進一退の攻防が続いています。

特に、ひとの移動が増加している現代社会にあっては、一国だけの対応では限界があります。

****米ディズニーランド周辺のはしか、米6州とメキシコにも拡大****
米疾病対策センター(CDC)は23日、米カリフォルニア州のテーマパーク「ディズニーランド」を中心に急増しているはしかの感染例が、新たに米国内の6州とメキシコで確認されたことを明らかにした。感染源はディズニーランドの外国人入園者である可能性が高いとしている。

CDCの発表によると、昨年12月下旬からこれまでにはしかに感染したと確認されたのは51人。このうち42人はカリフォルニア州に集中しているが、ユタ州(3人)、ワシントン州(2人)、オレゴン州とコロラド州、ネブラスカ州、アリゾナ州(各1人)でも確認されている。

米国に加えて、メキシコでも子ども1人の感染が報告された。この子どもはワクチン接種歴がなく、昨年12月17~20日にディズニーランドに入園していた。

感染者の年齢は生後10か月から57歳まで幅広いが、はしかワクチンの接種を避ける傾向が北米で出てきたのは近年のことであるにもかかわらず、接種歴を有していた人々は一握りにとどまった。

はしかやおたふくかぜ、風疹(ふうしん)を予防する新三種混合(MMR)ワクチンをめぐっては、自閉症の原因になるとの懸念から接種に反対する意見が見られるものの、多くの研究で自閉症との関連は否定されている。

CDCは感染源について、まだ特定していないと述べた上で、昨年12月の感染期間中にディズニーランドを構成する2つのパークの両方またはいずれかに入園した1人ないし複数の外国人の公算が大きいとの認識を示した。

はしかは感染性が高く、身体接触がなくても空気感染で広がる可能性がある。感染するとまず発熱があり、その後せきや鼻水、結膜炎、発疹といった症状が現れる。失明や難聴、肺炎といった合併症が出たり、死に至ったりする場合もある。感染した子どもの死亡率について、CDCは1000人に1~2人と説明している。

米国では2000年以降、はしかは公式に根絶されたとされてきた。その一方で、欧州やアフリカ、アジアなど他の地域では、現在も感染が広がっている。

ただ現実には、2014年の米国のはしか患者は644人と2013年の173人から急増した。

米紙ロサンゼルス・タイムズが昨年実施した調査では、カリフォルニア州オレンジ郡のある学区では、幼稚園児の9.5%が個人的な信条を理由にワクチン接種を免除されたことが明らかになっている。【1月25日 AFP】
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ウイルスと人類の攻防は、もともと変異が早いウイルスに分がありますが、更に迷信、脅迫、あるいは過度の副作用への警戒などでワクチン投与もままならないとあっては、人類に勝ち目はありません。
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キューバ・アメリカ 初交渉を終える 今後も交渉を継続 カストロ政権の“賭け”の行方は? 

2015-01-24 21:59:14 | ラテンアメリカ

(ハバナで行われた国交正常化交渉  右側がキューバ、左側がアメリカ 双方とも女性(白い服がキューバ外務省のビダル北米局長、オレンジの服がジェイコブソン米国務次官補)をリーダーとする交渉団です。 “flickr”より By Cubadebate https://www.flickr.com/photos/cubadebate/16154927487/in/photolist-qUxNKt-qUxNbn-qCh5sV-qC8eHY-qC8evo-qC9qEh-qUxGLp-qCfpaa-qUC9Gq-pXotTG-qCH6Hv-qCy84B-qCjrRL-qUDawP-qUGK8K-pXKmVk-qUnQhv-qBLDtB-qU5H8b-pY9edG-qCs9mY-qCeaQN-qCbh6N-pXYkpP-qUJQta-pXyNn5-pXu3Uv-qU4nAr-pXpNgR-qRU7j9-qBEJHB-pX7QgY-qTXXhX-qBGcg2-qBEJ6e-qU3r7Y-qBxt81-qU1NgL-qTPXW8-qTPXLD-pXcExP-qTYUaX-qBpvbL-qBye7x-qC9wFA-qUGKkP-qC8iVf-qC8izW-qSpJG1-qTG4T4)

50年以上の断絶状態に終止符を打つ第一歩を踏み出した両国
オバマ米大統領が昨年12月に打ち出したキューバとの半世紀ぶりの国交再開方針に沿って、キューバ政府は1月12日までに、アメリカ政府から釈放を求められていた政治犯53人全員の釈放を完了。

また、アメリカ政府は16日、キューバへの米国人の渡航や送金に関して科されていた制裁を緩和しました。

こうした順調な流れのなかで、アメリカとキューバの国交正常化交渉が21日ハバナで始まり、その成果も期待されましたが、大使館の再開にまでは至りませんでした。

****米国交正常化交渉、大使館再開合意できず キューバ、「内政不干渉」の原則論****
米国とキューバによる国交正常化交渉は最終日の22日、1961年の断交後閉鎖された双方の大使館の再開などを協議して終了した。だが、大使館再開は合意には至らず継続協議となった。

米側が言論・集会の自由を含む人権状況の改善を求めたのに対し、キューバ側は国交正常化の原則として「内政不干渉」などを挙げて出ばなをくじいた格好だ。交渉は入り口から思惑の相違が露呈し、条件闘争ともいえる展開となった。

両国政府は「数カ月以内の大使館開設」を目標としているが、具体的な時期などについて合意できず、ジェーコブソン米国務次官補は記者会見で「現時点で(時期)はわからない」と述べた。「国交回復には克服すべき課題が多くある。(双方には)複雑かつ深い相違がある」とも語った。

キューバ側が前面に押し出したのが、国交正常化への原則と前提だった。

原則については「外交関係は国際法と国連憲章を基礎とすべきだ」とし、具体的には(1)主権平等(2)平等の権利(3)民族自決(4)内政不干渉-などを主張した。

記者会見でもキューバ外務省のビダル米国担当局長は「両国が互いの主権を尊重し、内政干渉することなく、対等な立場で臨むことが原則だ」と強調した。

オバマ米大統領は国交正常化と経済制裁の段階的な緩和、解除により、キューバへのヒト、モノ、カネ、情報の流入を図ることによって、社会主義体制の内部からの変革を誘発させる青写真を描いている。

キューバ側の原則論は、こうした思惑を見透かして予防線を張るもので、人権改善要求などで「口出しするな」「社会主義体制を維持する」とのメッセージを送ったのに等しい。

また、キューバ側は、経済制裁とテロ支援国指定の解除を要求し、ビダル局長はそれが「国交正常化と関係改善に必要だ」と主張した。つまり、2つの要件を国交正常化の前提として米側に突きつけたわけだ。

一方、一部の制裁緩和措置を履行済みで、テロ支援国家指定の解除も視野に見直し作業を進めている米政府は次に、大使館の再開などによる国交正常化に持ち込むことを優先している。

初期段階の緩和措置でさえ、野党・共和党が「キューバを利するだけだ」と反発している現状では、オバマ氏としても要求の「丸のみ」はし難い。双方は今後、数週間で次回の協議日程や場所などを決めるが、紆余(うよ)曲折が予想される。【1月24日 産経】
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アメリカ国内の共和党などの慎重論・反対論はともかく、半世紀にわたって敵対関係を続けてきた両国ですから、当然に紆余曲折はあるでしょう。

内政不干渉を前提とし、経済制裁解除を求めるキューバ側、人権問題の改善を強く求めているアメリカ側、それぞれの立場があります。

ただ、関係正常化に向けて大きな1歩を踏み出したことも間違いありません。
協議を継続させることで、信頼関係を醸成していくことが重要でしょう。

****国交回復へ、パイプ作り優先 制裁解除や人権問題では隔たり 米・キューバ、初の交渉終える****
キューバの首都ハバナで開かれた米国とキューバの初の国交正常化交渉は22日、2日間の全日程を終えた。

米国による経済制裁やキューバ国内の人権問題といった障壁を乗り越えるため、両国は今後も交渉を継続することで合意。50年以上の断絶状態に終止符を打つ第一歩を踏み出した。

オバマ米大統領とキューバのラウル国家評議会議長が関係改善への意欲を明言してから1カ月余り。今回の交渉は、このテーマで公式に両国の代表が顔を合わせる初の協議で、38年ぶりに米国の次官補級高官がキューバを訪問した。

両国間には、米国による経済制裁やキューバ国内の人権問題をめぐる主張の対立が以前からあるが、今回の協議では、国交を回復させ、話し合いのパイプを作ることを優先した。

米国による対キューバ経済制裁の解除には米議会の承認が必要。キューバに強硬姿勢を取る共和党が多数を占める現状では、解除の可能性は低い。

一方のキューバは、米国からの「人権問題を改善し言論の自由を保障するべきだ」といった要求に対し、内政干渉は受け入れられないとの立場だ。

こうした問題の解決を待っていては協議が先に進まないため、国交の回復を優先した上で、両国関係の「正常化」に向けた課題を話し合う方法を取った。

ただ、国交回復のためにも、双方の最低限の主張を満たすには様々な手続きが必要となる。

中でもキューバ側は、経済制裁のために、在ワシントン利益代表部の銀行口座が使えず業務が出来ないと主張。大使館設置のためには、この措置の解除が不可欠だと求めており、さらにキューバを「テロ支援国家」のリストから外すことを訴えている。

国交回復と大使館の設置は、こうした条件が満たされた段階で実現する見通しだ。両国は22日、国交が回復するには長い時間がかかるとの認識で一致。当初は2月中にも大使館が設置されるとの見方もあったが、実現にはなお時間がかかりそうだ。

地元ジャーナリストは「2016年の大統領選をにらみ、対キューバ政策の成果を早期に示したいオバマ政権に対し、キューバ側に急ぐ理由はない。米国をじらしながら条件交渉をしている」とみる。

今回の協議では、麻薬取引やテロ、疫病対策などの分野での協力拡大も明らかにされた。特にエボラ出血熱対策では、どんな形で協力できるかの話し合いをキューバ側が申し出た。また、地震への対応や環境保護、防災分野などの分野でも協力をするという。【1月24日 朝日】
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キューバ側の期待と切実さ
“キューバ側に急ぐ理由はない”・・・・カストロ政権としてはそうかもしれませんが、キューバ国民の期待はアメリカ以上に高まっており、生活改善の要求は切実です。
カストロ政権としても、もはや後戻りもできませんし、早期に成果を示す必要もあるのではないでしょうか。

****キューバ、生活改善へ期待 米から医薬・食料品輸入、容易に****
米国との国交正常化に動き出したキューバで、対米関係修復は暮らしの改善につながるとの期待が高まっている。

米国の制裁緩和で、長年の生活物資不足が解消され、米国のキューバ系移民からの送金も増えると期待されるためだ。21日には、キューバと米国との交渉がハバナで始まる。

「ほっとして、これで死んでもいいとさえ思いました」。ハバナ市内の「国立がん専門病院」で、がんと闘う子どもたちを治療する医師のヘスス・デロスサントスさん(56)は、昨年12月半ばに米国との国交正常化交渉のニュースを聞いた時の気持ちを、こう振り返った。同僚の医師の中には、喜んで泣く人もいたという。

デロスサントスさんが勤める病棟には、様々ながんや白血病を治療する0歳から18歳までの患者が、毎年50人ほど新たに入院してくる。だが、米国の経済制裁の影響で、米国などの最新の治療薬や医療器具の入手が難しく、医師たちは治療に苦心してきた。

あるがん治療薬は、以前はメキシコの製薬会社から買っていたが、その会社が米国企業に買収され入手出来なくなった。別のインドの会社を探して買っていたが、その企業も米国企業に買収され、それ以来10年間、手に入っていない。欧州製の医療器具は購入できるが、米国製の部品が壊れたら、修理が難しい。

正常化交渉に伴って、米国の制裁緩和が進めば、米国から医療器具や最新の治療薬が輸入できるようになる見通しだ。15歳の娘に付き添っていた母親(39)は、「制裁をなくし、娘がより良い治療を受けられるようにしてほしい」と話した。

 ■経済改革に追い風
キューバ政府は、米国の制裁による損害額が、2014年の時点で累計1兆1120億ドル(約130兆1040億円)に上る、としている。

キューバは食料自給率が約3割にとどまる。米国からはいまでも一部の食料品は輸入できるが、制裁が緩和されればより安く大量に輸入できるようになり、物価が安定するという期待がキューバ側にはある。(中略)

米国からキューバへの送金額は3カ月で500ドルという制限があった。だが、米政府は15日、キューバが政治犯53人を釈放したことを受け、米国からの送金額の上限を従来の4倍の2千ドルに引き上げると発表。

送金額が大幅に増えることが予想される。米国人のキューバへの渡航制限も緩和されるため、米国人の訪問も増えると期待されている。

米国製のコンピューターや通信関連機器、民家の修理に必要な建設資材や農機具なども、米国からの輸入が可能になる。

キューバのラウル・カストロ現政権は、外国からの投資を呼び込むなどして経済改革を進めており、これらの措置はそうした政策を後押しする形になる。

米国は、キューバ国民の生活水準向上につながるこれらの措置で、国交正常化への支持をキューバ国民全体に広げる狙いもあるようだ。(後略)【1月19日 朝日】
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****<キューバ>平均月給20ドル 経済制裁解除はキューバの命****
21、22日の交渉で、キューバは米国に対し、国交正常化には「経済封鎖の解除が不可欠だ」と明確に条件化し、米国が1962年から続ける経済制裁を一刻も早く終わらせるよう強く求めた。背景にはキューバの深刻な台所事情がある。

長年の経済制裁でキューバが受けた損失は累計1兆ドル(約118兆円)に上ると推計される。国内総生産502億ドルという経済規模にとって影響は甚大で、キューバ政府は国民の生活困窮の原因の一つとして批判してきた。

「経済発展がなければ革命は崩壊する」。2008年に兄のフィデル・カストロ氏から国家評議会議長のポストを引き継いだラウル氏は市場原理の導入を加速し、国営企業の民営化と自営業の認可を増やした。

これにより全人口1100万人のうち民間労働者が10年の15万6000人から13年には44万人へ急増した。

しかし、現在でも労働者の約75%は公務員。最低月給は約9ドル、平均でも約20ドルだ。配給物資は年々少なくなり、収入の大部分が食費で消えてしまう。

一方、外国人観光客を相手にするタクシー運転手たちは1日で最低月給を上回る額を稼ぐ。
外国に住む親族から援助を受けることができる家族や、外国人向け高級レストランなど観光業を中心に富裕層も生まれている。格差は広がり、社会主義の平等原則は崩壊している。

かつて主要産業だった砂糖の生産量は90年の840万トンから14年は160万トンまで減少。ハバナ沖の海底油田の開発も進展していない。

現在、経済は、海外に移住したキューバ人からの送金▽観光収入▽ベネズエラから格安で輸入される石油--などに支えられている。

キューバは、経済封鎖が解除されれば、米国からの旅行者が増え、これまでキューバとの貿易や投資を控えていた第三国の政府や企業も動きだし、外貨収入が見込めるとみている。【1月23日 毎日】
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“キューバ側に急ぐ理由はない”とは言っていられないのではないでしょうか。

意外なところでは、交渉開始によって、キューバからアメリカへの「駆け込み亡命」が急増しているという話もあります。

****キューバ 米国への駆け込み亡命急増****
アメリカとキューバが国交正常化に向けた交渉を始めることで合意したことを受けて、キューバ人の亡命を認めたアメリカの優遇策が今後撤廃されるとの懸念から船でアメリカを目指すキューバ人難民が急増していることが分かりました。

半世紀以上にわたって対立してきたアメリカとキューバは、先月国交正常化に向けた交渉を始めることで合意し、アメリカの政府高官が今月21日からキューバの首都ハバナを訪れ、交渉を始めることにしています。

ところが、国交正常化交渉の発表以降、キューバから船でアメリカを目指す難民が急増し、アメリカの沿岸警備隊によりますと、先月12月の1か月間では481人と、前の年に比べて2倍以上に増えたということです。

これは、国交正常化交渉に伴って、現在アメリカが実施している、アメリカの国土にたどり着けば滞在を認めるという亡命受け入れの優遇策が撤廃されるといううわさが広がっていることなどが背景にあるとみられます。

アメリカの沿岸警備隊はキューバの首都ハバナと近いフロリダ周辺の監視を強める方針で、アメリカとキューバが関係改善へと向かうなか、急増するキューバ人の「駆け込み亡命」の取り扱いが新たな課題となっています。【1月17日 NHK】
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アメリカとの国交正常化は一世一代の大ばくち
アメリカにとってはキューバとの関係改善の具体的メリットは、経済取引の増大と観光でしょうか。

****<キューバ>近くて遠かった「最後の楽園」米国人旅行者急増****
米国との国交正常化に動き出したキューバで、昨年末から米国人旅行者が急増し、冷戦の雪解け効果が早くも表れ始めている。

米国人にとってキューバは目と鼻の先にあるカリブ海有数の避寒地でありながら、半世紀にわたって自由な往来が許されなかった最後の楽園。今後さらに押し寄せて来るであろう隣人に、キューバ観光業界の期待が集まる。(中略)

「米国人は気前よくチップを弾んでくれるし、この手のタクシーを好んでくれるからありがたい」。旧市街で客待ちをしていたバイクタクシーの運転手ヨニエスキ・プラセレスさん(36)も年末以降、米国人旅行者の急増で特需を実感している。しかし「マイ、イングリッシュ、イズ、バッド」。この商機を逃さないため、英会話教室に通うことを決めた。【1月21日 毎日】
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アメリカとの関係が深まるにつれ、フィデロ・カストロ前議長のもとで維持されてきた“平等な社会”は大きく変質していくことも想像されます。

経済事情が変われば、政治状況にも変化が及びます。
アメリカの狙いは、そうした“民主化促進”にあるのでしょうが、キューバ・カストロ政権にとっては体制維持ができるか、大きな“賭け”でもあります。

経済が活性化すれば、所得格差も拡大します。
これまでは、キューバでうまくいかないことはすべて、腐敗した資本主義帝国アメリカのせいにすることができましたが、これからはそうもいきません。

“キューバの現政権に、アメリカとの人的・経済的交流を一挙に増やしつつ、国民を怯えさせ、従順でいさせ続けるなどという芸当ができるだろうか。カストロ体制にとって、アメリカとの国交正常化は一世一代の大ばくちだ。”【1月14日 Newsweek】
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ギリシャ  25日総選挙で予想される「反緊縮」野党の勝利 緊縮財政の継続は?

2015-01-23 22:28:24 | 欧州情勢

(首相の座が近づいている急進左翼進歩連合(SYRIZA)ツィプラス党首(40) “flickr”より By Josef Zisyadis https://www.flickr.com/photos/zisyadis/16155970178/in/photolist-qBHZvC-qU8ihD-qBGF61-qUcju1-qBQtqF-qBGEkA-qRXUsA-pXfHUJ-qANSMc-pHxdd9-qTWgWK-qSVjc8-qAsZbe-qQ5zGs-qC7VwB-pVVbwN-qAuA22-qAmV4Q-qAuzXp-pW964g-qAmV7W-qAuA46-qRW4AQ-qS2aEo-qBDz4Y-qTY1ZM-qS5jCd-pXrHvK-qBDtrf-qRXHxE-qTV4HZ-qJZHUW-qBjxXh-qBjxMs-qBtgXT-qSJoFk-qAa2Au-qpNHe1-qKuWGe-qByF57-qAuA1R-qAkXfo-qSVj7i-qSQT1b-qBvJry-pXtnZg-qBPZBV-qt9KRe-qsrT5g-qGB4XJ)

【“賭け”は失敗 総選挙へ
ギリシャの政治動向については、昨年12月14日ブログ“ギリシャ 大統領選出前倒しという「危険な賭け」に出たサマラス首相”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141214で取り上げたところです。

ギリシャ経済の先行き不安が拭えないユーロ圏財務相会合は12月8日、サマラス首相が目指していた年末での支援終了について、2カ月間の延長を決定しました。

これでは首相は財政再建に道筋をつけたと胸を張ることができず、緊縮策に疲弊した国民の反発が政権に向かいかねない・・・・ということで、サマラス首相は大統領選出を前倒しして、早期の支援終了を目指す方針をアピールする方が得策だと判断しました。

しかし、議会内に十分な議席を有していない状況では、議会における大統領選出に必要な賛成票確保の目途はたっておらず、もし選出できなければ総選挙になってしまいます。
このため、大統領選出に打って出ることは政治的“賭け”でもありました。

結果、“賭け”は失敗。3回の投票でも大統領を選出できず、議会は解散。総選挙が今月25日実施されます。

【「反緊縮」を掲げる急進左翼が第1党へ
そして、総選挙の情勢は予想されていたように、これまでギリシャがEUなどと協力して進めてきた緊縮財政に批判的な野党が有利な戦いを進めています。

“ギリシャ経済は緊縮策の影響で景気が大きく落ち込み、政府債務危機後はマイナス成長が続いている。失業率は約25%で高止まりし、賃金は下がり、2年近くデフレが続く。アテネ経済大学のジョージ・パグラトス教授は「激しい景気後退で、多くの中流家庭が貧困層に転落し、何万もの中小零細企業が倒産した。国民の怒りが政府に向かい、急進左翼が不満をすくい取っている」と説明する。”【1月25日 朝日】

****ギリシャ、緊縮か転換か 25日総選挙****
世界が注目するギリシャの総選挙が25日に行われる。

増税の一方で公共サービスが削減され、国民の不満は高まっている。欧州連合(EU)主導のこうした緊縮策に反対する野党が第1党に躍り出る勢いだ。

ギリシャ経済が混乱すれば欧州危機が再燃しかねず、金融市場の緊張が高まっている。

 ■急進左翼が優位
「欧州諸国と衝突して金が得られるわけがない。急進左翼はうそつきだ。国をおぼれさせる危険な存在だ」。サマラス首相は18日の演説会で、第1党をうかがう勢いの最大野党・急進左翼進歩連合(SYRIZA)の名前を10回以上繰り返し、弁舌鋭く批判した。

ギリシャでは2009年、政府による債務隠しが明らかになり、国債価格が急落。欧州の債務(借金)危機の震源地となった。サマラス政権はEUなどの監視の下で緊縮策をとり、財政再建を進めてきた。

だが、消費増税の一方で、年金や給与のカットなど厳しい生活を強いられている国民の不満は大きい。地元紙の世論調査では、EU主導の緊縮策に反対する急進左翼が33%前後の支持率で、与党・新民主主義党の27%前後をリード。

地元メディアによると、急進左翼のチプラス党首は21日、南部パトラでの演説で「強い急進左翼はギリシャの自治を意味する。屈辱は終わりだ。破滅的な緊縮策は終わりだ」と述べ、単独過半数を獲得すれば経済危機を脱することができると訴えた。

野党に人気が集まるのは国民のいら立ちが背景だ。
アテネの市場で魚屋を営むルカス・ドゥカスさん(56)は「経済危機で売り上げは60%落ちた。市民を窒息させた政治家を一掃するため、急進左翼に投票する」と話す。

一方、失業中のスタブルラ・パパドプルさん(30)は「国と経済のためには、ユーロ圏にとどまるべきだ。急進左翼にはリスクがある」。現政権に不満はあるが、どこに投票するか決めかねている。

今回、第1党と予測される急進左翼も単独過半数は難しいとみられ、選挙後の連立交渉の行方は不透明だ。いずれの党も組閣に失敗すれば、総選挙が繰り返され、さらなる政治の不安定化を招く恐れもある。【1月25日 朝日】
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現在の支持率は、上記のようにEU主導の緊縮策に反対する急進左翼が33%前後で、与党・新民主主義党の27%前後を上回っています。

第1党は50議席の「ボーナス議席」を得られる制度のため、急進左翼進歩連合(SYRIZA)による単独政権の可能性もありますが、現状ではSYRIZAが中道政党と連立を組むケースの可能性が高いとされています。

ツィプラス党首 “現実路線”に軌道修正も
首相の座が現実味を増すなかで、SYRIZAのツィプラス党首(40)も、政権獲得後を見据えて“現実路線”に軌道修正しつつあるとも言われています。

“ツィプラス氏はかつて、ギリシャのユーロ参加を激しく批判したが、現在はこれを撤回し、自らの公約の中でも行き過ぎたものについてはトーンダウンしている。
しかしその一方で、2度にわたる救済策と引き替えに債権国から押しつけられた条件については、破棄が可能だと今でも考えている。”【英エコノミスト誌 2015年1月2日号】

****<ギリシャ総選挙>急進左派、現実路線に 投票まで1週間****
・・・・「欧州連合(EU)と約束した(経済的な)目標があるが、どのように達成するかは私たちの裁量だ」。ツィプラス党首は16日、アテネの集会でそう語り、あからさまな反EU姿勢は「封印」した。

同党は財政出動による景気回復などを掲げ、サマラス政権が進めてきた緊縮路線との決別を訴えて支持を集めてきた。

だが、ツィプラス氏は、13日の独紙インタビューで「我々の目標は、対立でも、新たな赤字の許可を得ることでもない」と、財政悪化を回避する姿勢を示唆。

2012年の前回選挙で掲げた「銀行国有化」や「北大西洋条約機構(NATO)脱退」など過激な政策も撤回し、ユーロ圏への残留も繰り返し明言している。

金融市場では、こうした歩み寄りを勘案し「最終的には妥協して緊縮策を継続するだろう」(大手証券)との見方も出ている。

EUでギリシャ支援を担ったレーン元欧州委員(現欧州議会副議長)は15日、米メディアに「ギリシャは債務返済期限の延長を検討するのが望ましい」と発言。国内総生産(GDP)の180%近くに達する債務の返済繰り延べによって、負担を軽減することが妥協点になりうるとの見方を示した。

ただ、EUは現在、ギリシャの支援継続を巡る審査のため融資を凍結しており、2月末までに交渉が始まらなければ支援の一部凍結や中断の可能性がある。ギリシャのハルドゥベリス財務相は米メディアの取材に「(債務不履行などの)不測の事態が生じ得る」と危機感を表明。不測の事態を嫌った預金流出で、16日にはギリシャの大手2銀行が中央銀行に緊急支援を要請した。

シンクタンク「ギリシャ欧州外交政策財団」のディミトリ・ソティロプロス研究員は、EUが債務危機後にユーロ防衛の仕組みを整えてきたことから「ギリシャ危機が起きても、ユーロ危機にはつながらない」と指摘するが、欧州全体が選挙結果を注視している。【1月19日 毎日】
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急進左翼進歩連合(SYRIZA)・ツィプラス党首の緊縮財政批判に対しては、緊縮財政による財政健全化を強く求めている、また、2009年のギリシャ危機以来、税金を投入してのギリシャ支援にうんざりしているドイツなどでは、「ユーロから出て行きたければ、どうぞ」「影響は大したことない」との脱ユーロ容認論も聞こえてきます。

ツィプラス党首もユーロ圏への残留を明言していますので、脱ユーロという破局はないと見られています。

****脱ユーロ圏、観測も****
最大の支援国ドイツでは3日、有力誌シュピーゲルが政府筋の話として「必要ならギリシャのユーロ圏離脱を独政府は容認する方針だ」と報道。メルケル首相やショイブレ財務相も、離脱の影響を「限定的」との見方で一致していると伝え、波紋が広がった。

メルケル首相は15日、独紙のインタビューに「ギリシャにユーロ圏にとどまってほしい」と語り、ユーロ圏の結束維持に全力を挙げる考えを強調した。

しかし、水面下で離脱に向けた準備が進んでいるという見方や、政府がメディアを使ってギリシャを牽制(けんせい)したといった観測が飛び交う。

背景には、09年からの欧州債務危機に比べ、それほど事態が切迫していないとの見方がある。債務危機を教訓に、EUを中心に財政難に陥ったユーロ加盟国を支える仕組みを整備。危機が広がる恐れのあったイタリア、スペイン、ポルトガルなども緊縮策を進め、立ち直りつつあるとされる。

独ハンブルク大学のカールウェルナー・ハンスマン教授は「ギリシャのユーロ圏離脱は自殺行為。独政府も本気では考えていないだろう。問題は総選挙で急進左翼が勝って債務削減を要求した時だ」と指摘。

ギリシャ救済に多額の税金が使われたドイツなどで国民の不満が高まり、反ユーロを掲げる右翼政党などが勢いづくとみる。【1月25日 朝日】
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ギリシャとドイツ 交渉はチキンレースに
ギリシャのユーロ離脱はすぐにはないものの、今後の交渉には不安は尽きません。
もし、総選挙結果がSYRIZAと中道政党と連立に収まれば、ツィプラス党首もそう極端な施策はとらないでしょう。

ただ、SYRIZAが“勝ち過ぎて”単独政権となった場合、歯止めが効かなくなる事態もあり得ます。
ツィプラス党首としても、現実路線をとるための“言い訳”がなくなり、公約に沿ってEUに強く出ざるを得なくなります。

連立政権になったとしても、厳しい交渉が待ち受けています。

****金融市場へ影響懸念***
金融市場は、ギリシャの総選挙の行方に神経をとがらせている。もし急進左翼が政権をとり、EUなどとの支援交渉が暗礁に乗り上げれば、債務不履行(デフォルト)やユーロ圏離脱に追い込まれるおそれがあるからだ。

欧州危機が再発しかねず、仮にそうなれば世界経済への悪影響は避けられない。

ギリシャは今年、巨額の国債の返済期限を迎えるため、EUなどの支援を引き続き受ける必要がある。いまの支援の枠組みは2月末に期限を迎えるため、新政権はそれまでに支援延長交渉を早期に決着させる必要がある。

ただ、「反緊縮」の急進左翼が第1党になれば、EUなどとの交渉が難航するのは必至だ。(中略)

一方、ドイツなどユーロ圏各国は、ギリシャ救済に自国民の税金をつぎ込んでいるため、緊縮策の継続は必要不可欠だ。

アテネ大学のアリスティディス・ハジス准教授は「交渉はチキンレースになるが、ドイツの車は優れている。衝突のダメージはギリシャの方が大きい」。ギリシャはデフォルトやユーロ離脱を避けるため、支援条件を受け入れざるを得ないとの見方だ。【1月25日 朝日】
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ツィプラス氏はギリシャをユーロ圏に留まらせたいとしているものの、現在の救済策に付帯している条件の大半を反故にする意向を示しています。

緊縮財政を終わらせ、最低賃金の切り下げや公的支出の削減方針を撤回し、資産売却も取りやめて、債務のほとんどについて支払いを拒否するという内容です。

巨額の債務がギリシャ経済の重しになっているのは間違いありません。デフレともなれば更にその負担は大きくなります。

ツィプラス氏が債務の再編を希望するのは無理からぬところもあります。が、債権国は受け入れがたい策です。

ギリシャをめぐる今後の交渉は、具体的には、緊縮財政維持を強く求めるドイツ・メルケル首相との綱引きになりそうです。

ギリシャの次期首相が現行政策を放棄するなら、メルケル首相はギリシャのユーロ圏離脱のリスクを取ってもいい、「どうしても債務支払いを拒否するならユーロを出ていってからにしろ。やれるものなら、やってみろ」というところでしょう。

「交渉はチキンレースになるが、ドイツの車は優れている。衝突のダメージはギリシャの方が大きい」・・・・確かにそうですが、ただ、ドイツの内情もそう楽ではありません。

一昨年2月に発足した新興右派「ドイツのための選択肢(AfD)」は昨年5月の欧州議会選で議席を獲得。その後の旧東独3州の議会選では、10%前後の得票率で州議会にも進出しています。

AfDの特徴は、不満の矛先を外部に向ける主張です。欧州議会選では、EUを批判し、ドイツのユーロ圏離脱を訴えました。州議会選では、移民増加による治安悪化を問題にしています。

フランスなどでのイスラム過激派テロによって、反イスラム感情、移民排斥の動きがドイツでも大きくなっており、「西洋のイスラム教化に反対する愛国主義欧州人(PEGIDA)」の勢力拡大なども見られます。

そうした状況で、更にギリシャ支援を続けるという選択はドイツ国内でのAfDなどの勢力を更に強めることにもなり、メルケル首相の選択の幅を狭めることも考えられます。

欧州中央銀行(ECB)は22日、国債買い入れ型の量的緩和(QE)実施を決定しましたが、ここでもドイツは、ギリシャ国債のような「不良債権」を買入れることは「財政赤字の穴埋めにつながる」し、デフォルトによって損失をこうむる可能性があるとして最後まで抵抗しています。

“ECBの金融緩和だけではデフレ懸念を払拭するのは難しい、との見方も金融市場では根強い。ドラギ総裁も最近、財政出動の必要性を訴えている。”【1月23日 朝日】と、欧州の経済事情も変わってきています。

****回復し始めた時が危ない****
2015年が近づく中、欧州の首脳の大半は、ユーロ危機の最悪の時期はもう過ぎたと思い込んでいた。ギリシャの解散総選挙により、こうした期待は早計だったことが露呈した。

明言しているかどうかはともかく、ユーロに反対の立場を取る左右両翼のポピュリスト政党が、多くの国で支持を集め続けている。

スペインでは世論調査でトップに立つ政党、ポデモスの党首が、12月最終週に入り、現政権を総選挙に追い込んだツィプラス氏の成功に歓迎の意を表明した。

皮肉なことに、ある国の経済が回復し始める時期は、国民の不満が頂点に達する時期でもある。この点は今、アテネだけでなくベルリンでも心に留められるべきメッセージと言えるだろう。【英エコノミスト誌 2015年1月2日号】
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コメント

台湾と中国の難しい距離感  再検討を迫られる与党・国民党、野党・民進党、そして中国

2015-01-22 22:24:06 | 東アジア

(1日 ワシントンの台北経済文化代表処に掲げられた「青天白日満地紅旗」 
中台関係が悩ましいのは、「台湾は中国の一部である」との中国の主張を認知 (acknowledgeであり、承認recognizeではありません)するアメリカも同様です。

台湾「国旗」掲揚に失望=米
台湾の在米大使館に相当するワシントンの台北経済文化代表処が1日、ワシントン市内にある旧中華民国大使公邸で「国旗」である「青天白日満地紅旗」の掲揚式を行ったことが6日、分かった。米国務省のサキ報道官は6日の記者会見で、台湾と米国の間で了解されていた行動規範を逸脱しており、失望していると表明した。【1月7日 時事】) 

国民党:新主席「2016年の総統選には出ない」】
昨年11月29日に行われた台湾・統一地方選で与党・国民党が惨敗した責任を取り、馬英九総統は12月3日、兼任する党主席を辞任しました。

これを受けて今月17日に行われた国民党主席(党首)選挙で、新北市長の朱立倫氏(53)が次期主席に当選しました。

53歳の朱氏は、先月の統一地方選挙で再選を果たし、6つの主要な市の中で唯一、国民党のポストを守り、次の世代のホープとされています。

****朱立倫氏、国民党主席に当選=総統選へ党勢回復が課題―台湾****
台湾の与党・国民党は17日、主席(党首)選挙を実施し、新北市長の朱立倫氏(53)が初当選を果たした。立候補は朱氏のみで事実上の信任投票だった。19日に正式に就任する。

任期は4年。朱氏は約1年後に迫った次期総統選に向け、低迷する党勢の立て直しを図る。

主席選は、昨年11月の統一地方選の大敗を受け、馬英九総統が兼任する党主席を引責辞任したことに伴い実施された。得票率は党員の直接投票導入後最高となる99.61%だった。

朱氏は統一地方選で新北市長に再選され、同党で唯一の直轄市長となった。次期総統選の最有力候補とみられていたが、主席選への出馬表明と同時に「2016年の総統選には出ない」と断言した。

党内基盤を固めた上で20年か24年の総統選に挑むのではといった観測が出ている。【1月17日 時事】 
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党首は引き受けるが次期総統選には出ない・・・・国民党の現状では次期総統選は戦えない、対中政策の再検討が必要という判断ではないでしょうか。

“北京に駐在する台湾人記者によれば、統一地方選で国民党が敗北した背景としては、サービス分野の市場開放を定めた中台の「サービス貿易協定」の批准を強引に進めようとしたことや、習政権が香港の民主化デモに対し強硬姿勢を示したことで、台湾民衆の間で「反中感情」が高まったことが挙げられる。”【12月3日 産経】

対中国接近を推進してきた与党・国民党は、中国との距離をどのようにとるのか、再検討を迫れています。

民進党:独立を明記した党綱領の「凍結」が議論に
中国との関係の整理を迫られているのは、統一地方選で地滑り的な大勝をおさめた野党・民進党も同様です。

民進党は党の綱領に「独立」を明記しています。
しかし、中国との経済関係なしに現在・今後の台湾経済はありえず、安全保障問題も含めて中国との関係を荒立てることは非現実的とも言える状況にあります。

そうした現状から、党綱領に明記されている「独立」について、はっきりと「凍結」すべきとの議論がありますが、一方で、独立の旗を降ろすのは・・・というところもあって、曖昧な形で処理されています。

この問題は昨年7月の党大会でも問題となっています。

****台湾独立の綱領凍結、議論棚上げ 民進党****
台湾の最大野党、民進党で、台湾独立をうたった党綱領の扱いをめぐる議論が起きた。

台湾統一を悲願とする中国との交流を進めるために凍結すべきだとの提案が20日の党大会であったが、蔡英文(ツァイインウェン)主席は議論の棚上げを決めた。

独立にこだわる支持者も多く、ないがしろにできない事情がある。

民進党は1991年に党綱領を修正し、主権が独立した「台湾共和国」の建国を掲げた。

その後、台湾を「すでに独立している」と位置づけ、台湾の前途は台湾市民で決めるとする決議文を採択。現在はこれを踏まえ、「改めて独立を唱える必要はない」との考えが主流になっている。

ただ、「台独(台湾独立)党綱」と呼ばれる条文自体は変えておらず、中国は強く警戒。中台の経済関係が緊密になる中、台湾社会には民進党が政権につけば中台関係が不安定になるとの懸念もあり、対中関係を重視する党員らが「凍結」を主張していた。

一方、同党内には「独立」の旗を降ろすことへの抵抗感も根強い。党大会では独立への行程表を求める提案もあり、議論に深入りすれば激しく対立する可能性もあった。

若い世代で「台湾は中国の一部ではない」との考えが強まっていることもあり、蔡氏は「審議時間が取れない」として執行部で議論を引き取り、事実上棚上げした。

これに対し、中国国務院台湾事務弁公室の報道官は21日、「台湾独立に活路はない」と批判。独立の主張を放棄するよう求めた。【2014年7月23日 朝日】
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「審議時間が取れない」という“棚上げ”で逃げただけですので、今後もことあるごとに議論が再燃することも考えられます。

****台湾野党が対中政策検討 独立掲げた党綱領の「凍結」が議題化の可能性も****
台湾の野党、民主進歩党は21日、台北市内の党本部で対中政策を検討する「中国事務委員会」を開いた。蔡英文主席が昨年5月に主席(党首)に就任してから初めて。

来年の総統選での中間票の取り込みに向け、今後は台湾独立を掲げた党綱領の「凍結」が再び議題に上る可能性がある。

この日は昨年11月末の統一地方選での躍進を受け、地方レベルでの中国との交流拡大の方針を決めた。

民進党は2012年の総統選で蔡氏が敗れた後に同委員会を設置し、敗因とされた対中政策の見直しに着手した。これまでの議論では、党綱領の凍結を求める意見も出た。ただ昨年1月の報告書では、独立を棚上げした1999年の決議文が「党の基本的な立場だ」と記述。綱領凍結問題は、昨年7月の党大会でも中央執行委員会の「預かり」となっている。

一方、中国当局は地方選で民進党が大勝した後も、綱領を問題視する姿勢を崩していない。

民進党は陳水扁政権下の2007年には独立色の強い決議文を採択している。識者からは、矛盾する内容を調整する新たな決議が必要だとの指摘も出ている。【1月21日 産経】
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中国:民進党の政権奪回もシナリオに
一方の中国も、従来は国民党・馬英九政権との関係を重視して中台接近を進めてきましたが、統一地方選での国民党大敗、次期総統選挙での民進党勝利の可能性から、台湾との関係の再検討を迫られています。

****中国、台湾野党も“両にらみ” 政権交代リスク視野に・・・****
台湾の与党、中国国民党と関係を拡大してきた中国共産党は、朱立倫新主席による対中政策の変化や、来年1月の総統選で国民党が敗北するリスクも警戒しながら、統一工作の指針として、最大野党の民主進歩党との関係にも配慮する“両にらみ”の戦術を進めている。

国営新華社通信の日刊紙、参考消息は19日付1面トップで「国民党の首脳交代は両岸関係に波及する」と評した。朱氏が昨年11月の統一地方選挙の大敗を受け、国民党の対中政策に今後、変更を加える可能性への懸念をにじませた。

中国からみれば、国民党政権による対中融和策の継続が台湾への工作のベースだった。だが、台湾の有権者の動向によっては国民党の中国離れや、民進党の政権奪回もシナリオに加えねばならなくなった。

朱氏の党運営を見極めながら、中国は今後、民進党など国民党以外の勢力をどう取り込んでいくかに関心を移す。

中国は手も打ってきた。2013年6月には国務院台湾事務弁公室の張志軍主任(閣僚級)が香港で、民進党の謝長廷元行政院長(首相)と会談。水面下では野党勢力とのパイプ作りも進めてきている。

中国の台湾問題研究者によると、08年に国民党が政権を奪還してから、共産党側は(1)台湾に貿易面でまず譲歩し、次に政治で統一工作を進める(2)アフリカや中南米などの国で台湾と外交関係の奪い合いを一時的に凍結する-といった政策をとってきた。朱氏が対中政策を変えれば、この政策も見直さざるを得ない。【1月20日 産経】
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メンツを潰された中国としては「つけあがるんじゃないぞ!」と言いたいところですが、中国が強硬な姿勢をとればとるほど、台湾の人心は中国から離れていくというのがこれまでの中台関係の歴史でもあります。

部外者的には、現在の政治情勢での中台統一なんてそもそもあり得ない・・・とも思うのですが、それは中国としては絶対に認められない考えです。
台湾としても、いたずらに中国を刺激することは避けたいところです。

はっきりさせると何かと角が立つので、曖昧な形での現状維持を・・・という立場に対し、原則を重視する左右両方が明確化を迫るというのは、中台関係に限らず、いろんな問題でも見られるところです。

与党・国民党、野党・民進党、中国・・・三者それぞれが中台の距離感について模索していますが、クリアにするのはなかなか難しい問題です。
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