孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中央アジア諸国  米中ロの草刈り場でもなく、「旧ソ連圏」でもなく、独自の国家建設への取り組み

2018-11-30 23:18:19 | 中央アジア


【「文明の十字路」中央アジア】
日頃、東南アジアや中国・インド方面へ観光旅行に行くことが多いのですが、さすがに4回目・5回目となると新鮮味という点では薄れてきます。

なるべく近場で、少し訪問先を広げて(フライト時間が10時間を超えるような遠方はちょっとしんどいので)・・・となると、中央アジアのいわゆる「スタン系」があります。

観光的に一番ポピュラーなのは、サマルカンドやブハラ、ヒワなどがあるウズベキスタンでしょう。ツアーも多数あります。逆に言えば、一般的ツアーではウズベキスタン以外はぐんと少なくなります。

ウズベキスタン観光などは、これまでもしばしば検討したことはあるのですが、イスラムのモスクみたいなものがメインになりがちなこと、乾燥した地域で東南アジアのような潤いには欠けることなどで、見送ってきました。

ただ、そういうのは偏見・独断・無知であり、中央アジアの観光資源としてはイスラム関係以外にも遺跡や風光明媚な山岳地帯とか、あるいは温泉があったりと、探せばいろいろと興味深いものがあるようです。なにせ、かつてのシルクロードにおける「文明の十字路」です。

来年あたりは、「スタン系」のどこかに足を運んでみようか・・・とも考えたのですが、3月末にパキスタンの北部フンザに行く予定で手配済みですので、中央アジアの「スタン系」と方面・イメージ的にかぶってしまうところが難点です。(行くとしたら、冬は寒いので夏ですが、そうなるとパキスタンと連続します)再来年かな・・・・。

【画一的イメージ、あるいは、米中ロといった大国の影響下の国というイメージで見られがちな中央アジア諸国】
国際ニュースで中央アジア関係のものを目にすることは、あまりありません。
最近では、タジキスタンの巨大ダムの話ぐらいでしょうか。

****世界最大級となる巨大ダムで発電開始 タジキスタン****
高さ7000メートル級の山々に囲まれた中央アジアのタジキスタンで、世界最大級になると見込まれる巨大なダムを利用した水力発電が始まり、周辺諸国を含めて安定した電力供給につながることが期待されています。

タジキスタン政府が建設を進めているログンダムは、完成すれば、ダムの底から堤防までの高さが335メートルと、世界最大級になることが見込まれています。

ダムに併設された水力発電所では16日、最初の発電機の稼働を祝う式典が開かれ、ラフモン大統領は「歴史的な出来事だ。ここで生み出された電力が国の隅々に届けられるだろう」と演説しました。

ログンダムは1970年代に建設が始まり、ソビエト崩壊に伴う混乱で中断していましたが、その後、2万人を超す労働者と3600台の建機を投入して建設が進められてきました。

タジキスタン政府は10年後の完成を目指すとともに、巨大なダムが生み出す余剰電力をウズベキスタンやアフガニスタンといった隣国に輸出したい考えで、周辺諸国を含め、安定した電力供給につながることが期待されています。【11月17日 NHK】
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タジキスタンには現在も、304mの堤防が高さにおいて世界最大であるヌレークダム(ソ連時代の1961年完成)がありますので、ログンダムが完成すれば高さでは1位、2位独占ということにもなります。

資金の出所は、「ロシアだろうか、それとも、また中国だろうか・・・?」と考えてしまうのですが、“ログンダム発電 所(発電設備能力3,600メガワット)の建設について、 14年6月に第三者機関である世界銀行から評価報告書が発表され、タジキスタン政府は16年7月、イタリアの建設大手サリーニ・イムプレジロと発電所建設に関する包括契約を締結。同年10月には起工式が行われた。”【JETRO エリアリポート 芝元英一氏】ということからすると、ロシア・中国ではなさそうです。

中央アジア諸国については、日本における情報が不足していることもあって、とかく「旧ソ連」とか、近年中国の進出が著しい地域といった画一的イメージ、あるいは、米中ロといった大国の影響に翻弄される国々というイメージで見てしまい、「スタン系」各国の独自の取り組み・動き、主体性といったものを見落としてしまいがちです。

【中央アジアを大国の草刈り場と見るのは誤りだ】
そうした傾向を戒めるような記事がたまたま2本ありましたので、並べて紹介します。

****イスラム勢力と中国が衝突?****
「世界を制する要衝」は米中ロの草刈り場にはならない

「地政学」なる怪しげな響きを持つ学問の大家にハルフォード・ジョン・マッキンダーというイギリスの学者がいた。

彼は20世紀初頭、「中央アジアを制する者がユーラシアを制し、ユーラシアを制する者が世界を制する」と提唱した。当時、中央アジアではインド洋を目指して南下を策すロシア帝国と、それに抵抗する大英帝国の問で「グレ
ートゲーム」と呼ばれる勢力争いが繰り広げられていた。
 
そして今、ソ連時代の勢力圏維持を図るロシア、世界のどこにでも割り込むアメリカ、「一帯一路」経済圏構想を掲げる中国の3大国間で、中央アジアを舞台にしたグレートゲームが再来・・・・との議論が定説化した。

かつて中央アジアに外交官として勤務した筆者には、大げさな話に思える。中央アジア5力国には十分な統治能力がある。特にウズベキスタンは十分な人口(3212万人)と経済力(GDP672億ドル)を持ち、カザフスタンは国家・官僚機構を整備して国際的なイニシアチブも取っている。

中央アジアを大国の草刈り場と見るのは誤りだ。
 
ロシアは二言目には、「アメリカが中央アジア進出を狙っている」と言う。確かに91年にソ連が崩壊して独立した中央アジア諸国に対して、アメリカは素早く連携を図ろうとした。

01年に9.11同時多発テロ事件が起きると、アメリカはアフガニスタンに進軍。補給のために中央アジアの数力所に基地を置き、積極的に経済援助を行った。
 
その後アフガン駐留米軍の縮小に伴い、14年までに中央アジアからも米軍は撤退した。筆者が接触する現地の米大使などアメリカ人専門家は皆「アメリカは中央アジアに死活的な関心がない」と言う。

石油・ガス資源はあるが、人目と経済力の面で巨大市場ではない。しかも中央アジアは内陸国で、軍事的な補給のためにはロシア、インド、中国などの領土を通らなければならない。

中国を警戒するカザフスタン
むしろ野心的なのはロシアのほうだ。19世紀に中央アジアを征服して以来、宗主国気分が抜けず、今も相互の経済関係は緊密だ。また、タジキスタンにロシア兵が5000人、キルギスには中隊規模の航空兵力が常駐するなど、ロシアは唯一の軍事的パートナーだ。
 
米ロに比べて、中国が中央アジアに積極的な進出をしたのはこの15年程度。タジキスタンではインフラ投資を一手に担い、首都ドゥシャンベに建築・建設ブームを起こした。

カザフスタンでは石油企業に大々的な資本参加をしている。中国はトルクメニスタンの輸出天然ガスもほぼ独占する。

ただカザフスタンでは中国警戒論が強まっており、トルクメニスタンは金払いが悪い中国に代わって、ロシアなどに天然ガス輸出を振り替えようとする動きがある。 

中国は一帯一路の旗印の下、中央アジアを横切る鉄道を現状の1路線に加えて何本も新設すると豪語していたが、まだ経路も確定していない。中国・ヨーロッパ間の鉄道輸送は運賃が海路の2倍かかる。大風呂敷を広げてみたが、採算面で二の足を踏んでいるようだ。
 
今、中央アジアでは地域大国のウズキスタンとカザフスタン主導で、ASEANのような諸国の団結強化の動きがある。

この2か国が自立姿勢を見せるたびにロシアは不快感を示し、なぜか両国でテロが起きる。またカザフスタン北部の工業地域に集住するロシア人の扱いをめぐって、ロシアが政治的・経済的圧力を強めるかもしれない。
 
ウズベキスタンでは16年に死去したイスラム・カリモフ大統領の後継者シヤフカト・ミルジョエフ大統領がいまだ権力確立の途上にある。

カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は78歳と高齢だが後継者の用意ができていない。

中央アジア南方に接するアフガニスタンからは、イスラム原理主義勢力タリバンの脅威が忍び寄る。 

こうした地域内の不安定が大規模紛争に発展するかどうかのカギは、大国の介入だ。その点で要注意なのが東方に隣接する中国新疆ウイグル自治区の動向。

対米貿易戦争で中国経済や統治能力が不安定化する可能性は否定できない。そうなればウイグル住民が多数流出し、中央アジアのイスラム勢力との連携を強めかねない。中国がウイグル人の後を追う形で軍事介入すれば、ユーラシアに激震が走るだろう。【河東哲夫氏 11月13日号 Newsweek日本語版】
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【もはや「旧ソ連圏」ではない 独自の国家建設に取り組む中央アジア各国】
“この2か国が自立姿勢を見せるたびにロシアは不快感を示し、なぜか両国でテロが起きる”・・・・表立っての言動はともかく、中央アジアでロシアに対する反感が強まっていることは想像に難くないところです。

****中央アジアの国々はもはや「旧ソ連圏」ではない****
時間が止まったイメージとは裏腹に、ソ連離れと独自の国家建設は着実に進んでいる

ソ連崩壊から30年近くたつのに、かつて植民地だった国々に対して「旧ソ連」という言葉を使うのは変だI。10月29日、ウクライナのジヤーナリストがツイッター上でそう批判した。
「私たちの現在のアイデンティティーを決めるのは植民地だった過去ではない」
 
91年のソ連崩壊から今年で27年。一部のジャーナリストや著述家はいまだに旧ソ連圏の国々とソ連の歴史をなかなか切り離せずにいる。

中央アジアについて論じる場合は特に顕著だ。カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5力国は、旧ソ連圏の他の国々とは違う。
 
第1に、バルト3国などではキリスト教徒とヨーロッパ系住民が多数派だが、中央アジアの国々ではイスラム教徒とテュルク語系住民(タジキスタンは除く)が圧倒的多数を占める。
 
第2に、中央アジアの国々は独立後の経緯も他の旧ソ連圏諸国とは比較的異なっている。他の国々が徐々に民主主義とリベラリズムを受け入れてきたのに対し、中央アジアの5力国は実質的には今も権威主義だ。
 
第3に、中央アジア各国は海のない内陸国。そのためロシア、インド、中国など大国の陰でかすみがちだ。

民主主義や安定が課題
それでも「旧ソ連」という呼称は私たちの目を曇らせ誤解を生む。中央アジアは決して変化していないわけではない。特に国家建設に関しては、ゆっくりとだが変化してきた。

ソ連崩壊以降、中央アジア各国はそれぞれ独自のアイデンティティーづくりに取り組んできた。
 
中央アジア最大の国カザフスタンは「ユーラシア国家」を自負している。地理的にアジアとヨーロッパの中間にあることから、94年にナザルバエフ大統領が提唱した考えだ。

ナザルバエフは14年の演説で、カザフスタンは「ソ連の旧弊」からはるか遠くまで前進したと語り、ソ連的なアイデンティティーに逆戻りする可能性を一蹴。民主化はお粗末な状態とはいえ、自由貿易を受け入れ、市場経済に分類されている。
 
一方キルギスは「中央アジアにおける民主主義の孤島」と広く見なされ、10年4月のバキエフ政権崩壊後、中央アジアで初めて民主的な議会選挙を実現。
民主主義の質はまだ安定しているとは言えないが、ソ連時代の古い中央集権制度から大きく様変わりし、周辺国よりオープンになっている。
 
タジキスタンやトルクメニスタンでは文化面で「旧ソ連」離れが進む。中央アジアで唯一ペルシヤ語系住民が多数派を占めるタジキスタンは16年、タジク語式の姓を復活させるべくロシア語式の姓を法律で禁止。

一方トルクメニスタンではニヤゾフ初代大統領が自らを「トルクメニスタンの父」と称し、その威光によるアイデンティティー再建を目指した。ニヤゾフは06年に死去したが、個人崇拝モデルは今も健在だ。
 
中央アジア最大の人口を有するウズベキスタンでは、独立以降、政治的安定と民族間の融和が最大の懸案だ。そのため91年に初代大統領に就任したカリモフは野党と宗教団体に対し強硬策を取ったが16年に死去。ミルジョエフ現政権は相変わらず独裁体制とはいえ、経済の自由化に取り組んでおり、外交面でも開放的だ。
 
中央アジアをソ連時代の遺物扱いするのはもうやめよう。独自のアイデンティティーを持つ新興国家群と考えるべきだ。【12月4日号 Newsweek日本語版】
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中央アジア各国において、(大国から支援を引き出しながら)それぞれ独自の国家建設の歩みがあり、また、独自の問題を抱えている(独裁・権威主義的という共通性はありますが)という、「当たり前」の話です。

中央アジア諸国が画一的なイメージで見られる原因として、「スタン」という国名の類似性も大きいように思われます。

周知のように「スタン」は、ペルシア語由来の言葉で、一般的に、その地方の多数派を占める民族の名称の語尾に接続して、地名を形成する語尾です。

当該国においても、この「スタン」イメージからの脱却の動きもあり、キルギスは93年にキルギスタンから国名を変更しています。

カザフスタンのナザルバエフ大統領も、「スタンの付く国が多い地域でカザフの知名度が埋没している」との認識で、国名を変更する考えを2014年に表明したことがありますが、その後は?

もちろん名前より中身が重要(特に、ソ連時代やロシアとは異なる民主主義を確立することが重要)・・・ではありますが、意気込みを名前で示すという考えもあります。
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フランス 強気なマクロン大統領を揺るがす「目に見えないフランス」の非組織的抵抗「黄色いベスト運動」

2018-11-29 22:50:15 | 欧州情勢

(24日、パリのシャンゼリゼ大通りで黄色いベストを着用し、信号機によじ登るデモ参加者(ロイター)【11月27日 産経】)

【一部暴徒化もした「黄色いベスト運動」】
フランスでは、マクロン政権のガソリンなど燃料税の引上げ方針に対する、ガソリン車、ディーゼル車が生活に不可欠な地方住民や農民などを中心とした、非組織的・自然発生的な抗議行動(道路封鎖など)が「黄色いベスト運動」として燃え盛っています。

17日から始まった抗議行動は、パリ・シャンゼリゼ通りでの一部暴徒化などもありましたが、いまだ収束していません。

概要については以下のとおり。

****フランス 続く燃料増税への抗議デモ 大統領の支持離れが加速****
日産自動車と仏ルノーの問題に直面するマクロン仏大統領が、内政でも「自動車」をめぐる混乱に頭をかかえている。

「温暖化防止策としてガソリンなど燃料税を来年1月から引き上げる」とする政府の方針への抗議デモが全国的に広がった。
 
デモは17日から続き、24日にはパリ観光の中心地シャンゼリゼ通りで、バリケードを張るデモ隊と警官隊が衝突。政府報道官は26日に「まるで戦場だ」と暴力を非難。

クリスマス商戦シーズンを迎える中、ルメール経済・財務相も記者会見で、「国家経済に深刻な影響が出ている」と訴え、デモ収拾に懸命になった。
 
政府は「2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を停止する」方針で、燃料税アップをテコに電気自動車へのシフトを急ぐ。フィリップ首相は今月半ば、「買い替えには所得に応じ、新たに4千ユーロ(約52万円)の補助金制度を設ける」と理解を求めた。
 
だが、地方都市や農村は公共交通の整備が遅れ、自動車は不可欠。ガソリンの高騰のみならず、増税されれば生活苦に直結する。
 
電気自動車は安くても2万ユーロ(約260万円)。補助金があっても簡単に手は届かない。抗議運動は、路上作業用の黄色い安全ベストがシンボルで、労働組合や政党に依存しない国民運動として広がっている。
 
シャンゼリゼ通りのデモ隊にいた工務店経営の男性(36)は「手取り収入は月1500ユーロ(約20万円)で子供3人。生活だけで大変なのに、どうして車の買い替えができる」と訴えた。
 
マクロン氏は「ガソリン高騰は原油価格上昇のためだ」と釈明し、増税は変えない方針だ。背景には苦しい台所事情もある。経済協力開発機構(OECD)は来年の仏財政赤字が予算案を上回り、国内総生産(GDP)比で2・9%に膨らむ見通しだと予測した。
 
23日に発表された世論調査で、マクロン氏の支持率は26%。別の調査で「大統領は独裁的」との回答は79%にのぼった。今夏、コロン内相ら大物閣僚が相次いで辞任し、内閣が大統領の側近や、専門家ばかりとなったことも、大統領の「孤立」を印象付けている。
 
フランスには国会が大統領を不信任で下野させる制度がない。マクロン氏は22年の任期まで安泰だが、昨年の大統領選で、「中道の広い結集」を実現した面影はもはや薄れ、求心力の低下も著しいのが実情だ。【11月27日 産経】
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パリ・シャンゼリゼでの暴徒化については、以下のように報じられています。

****美しいパリが炎に包まれる...。 デモ隊が暴徒化、警察と衝突****
フランス全土で130人が逮捕された。

フランスで11月24日、政府による燃料税の増税に反対するデモが各地で行われ、パリのシャンゼリゼ通りでは暴徒化したデモ隊と警察が激しく衝突する事態に発展した。

デモは、燃料価格の高騰に抗議する「黄色いベスト運動」の一環として始まった。参加者は、道路工事で作業する際などに使用する黄色い安全ベストを着用しており、17日にはフランス全土で28万人以上が道路を遮断する大規模なデモが起きていた。

クリストフ・カスタネール内相によると、24日のデモにはフランス国内で約2万3000人、シャンゼリゼ通りでは約5000人が参加。治安部隊に物を投げつけたり、車に火をつけるなどデモ隊の一部が暴徒化し、治安部隊は催涙ガスなどを使って対抗した。フランス全土で130人、パリ市内では42人が逮捕されたという。(後略)【11月25日 ハフポスト日本版編集部】
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【強気の姿勢を崩さないマクロン大統領】

(【11月28日 ロイター】)

このような暴動に対し、マクロン大統領は“Twitterで「警察を攻撃した者や、市民や記者を罵った者、公職者を威圧しようとした者たちは、恥を知るべきだ」と怒りをあらわにした。”【同上】と怒っているとか。

これまでも労働市場改革などで、激しい抵抗運動に対し強気の姿勢で臨んできたマクロン大統領は、今回も“「暴徒」に屈して政策を変更するつもりはない”と譲歩しない姿勢を見せています。

****「暴徒」には屈しない=燃料増税抗議デモ受け仏大統領****
フランスのマクロン大統領は27日、燃料価格が家計を圧迫していることに対する地方有権者の怒りに理解を示しながらも、「暴徒」に屈して政策を変更するつもりはないと述べた。

フランスではここ1週間余り、政府の燃料税増税に反対する抗議デモが各地で行われており、「黄色いベスト」を着用したデモの参加者が道路を封鎖したり、一部のガソリンスタンドやショッピングセンター、工場などへのアクセスを妨げたりしている。

大統領は、1時間にわたってクリーンエネルギーへの転換計画について演説し、「われわれは方針を変えるべきでない。なぜなら、政策の方向性は正しく、必要なものだからだ」と訴えた。

その一方で地方有権者の怒りをなだめようと大統領は共感や謙虚な態度も示し、地方の労働者が取り残され、都市部のエリートへの不満をますます募らせる「フランスの二極化」を避けるため、もっと賢明な政策決定が必要と指摘。

ただ、危機は、寛大な福祉国家であることを享受する半面、税金でそれを賄うことには消極的という「矛盾」を映し出していると述べ、減税と保育所・学校の増設を同時に要求することはできないと主張した。

過去11日間の抗議デモでは2人が死亡し、600人以上が負傷した。

大統領は「市民と市民の要求を、暴徒らと混同することはない」とし、「破壊を望み、混乱をもたらそうとする者たちに屈することはない」と述べた。【11月28日 ロイター】
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【一部暴徒化でも、運動への国民支持率はむしろ増加して8割超】
シャンゼリゼでの騒動は、今週末も再び繰り返されそうな状況です。
こうした暴徒化もあって、「黄色いベストい運動」への国民支持・共感もさすがに低下したのでは・・・とも思ったのですが、今朝(昨日?)のフランス公共放送F2などを観ると、どうもそうではないようです。

もちろん暴徒に店舗を破壊された店主や、騒動で客足が遠のいた商店関係者などは、「警察・軍隊を動員して取り締まるべきだ!」と息巻いていますが、「黄色いベスト運動」への支持率は80数%(正確な数字は忘れました)にものぼっており、しかも暴徒化以前より10ポイントほど増加しているそうです。

フランスは市民生活に犠牲を強いる労組のストライキなどには従来から比較的寛容な社会風土がありますが、それでも労働市場改革に対する労組のストライキにはこんなに高い支持はありませんでしたし、ストが長引くと「いいかげんにして・・・」といった雰囲気も出てきました。

しかし、今回は様相が異なります。マクロン大統領の強引でエリート的な施策への反発として、国民の強い共感を得ているようです。

【政治・メディアに無視されてきた「目に見えないフランス」の傲慢なマクロン大統領への抵抗運動】
フランス文化研究家、翻訳家、作家である飛幡 祐規(たかはた ゆうき)氏(女性)は、これまで政治・メディアに無視されてきた「目に見えないフランス」の傲慢なマクロン大統領への抵抗運動として、以下のように評しています。

なお、記事冒頭の「べナラ事件」とは、マクロン仏大統領の側近ボディーガードが、5月1日(メーデー)デモ参加者に暴力を加えていたとされる事件で、大統領支持率を大きく下げた事件です。

****「目に見えないフランス」の大行動~「黄色いベスト運動」****
圧倒的多数の与党をバックに、ネオリベラルな経済改革を強権的に急ピッチで進めるマクロン政権の「大統領君主制」を揺るがした「ベナラ事件」の後、この秋、マクロン大統領の支持率は下がりつづけた(10月末21%を切る)。

11月4~11日、第一次世界大戦終戦100周年を期に各地を訪れたマクロンには、一般市民から厳しい批判やときに罵言も浴びせられた。

富裕税(不動産以外)の廃止や有価証券譲渡税の一律化(30%)など、最も豊かな層を優遇する一方、住宅援助を削減し年金に増税し、最低賃金の増額は雀の涙・・・「金持ちのための大統領」に対する庶民の不満が募ったのである。

そんな中、「炭素税」と呼ばれる環境対策を名うった軽油・ガソリン税の値上げに抗議する声が、ビデオや署名などソーシャルメディアを通して火がつくように広まり、「11月17日に反射安全ベストをつけて道路を封鎖しよう」という呼びかけが各地で生まれた。メディアはこれを「黄色いベスト運動」と名づけた。
 
化石燃料に課される「炭素税」は環境政策としてオランド政権下の2014年に導入され、安かった軽油の値段をガソリン並に徐々に引き上げることも定められた。マクロン政権は「脱ディーゼル」のための増税率をさらに上げた。

フランスでは軽油・ガソリン価格の約6割が税金だが、原油の高騰と相まって2016年6月以来、ガソリンは14,2%、軽油は26,5%値上がりした(ガソリン価格も円とユーロの換算関係も流動的だが、 10月にガソリン・軽油ともリットル1,53€以上、200円近くになった)。
 
公共交通機関がほとんどない農村部や都市周辺では、通勤、子どもの送り迎え、買い物をはじめ、車がなければ生活できない。来年から、さらにリットルあたり軽油6.5セント、ガソリン2.9セント上がるとなると、出費はますますかさむ。(中略)

低所得者層にとってはとりわけ、ガソリン代がかさめば食費、暖房費、医療費などを切り詰めなければならない。

車中心の生活様式はたしかに気候温暖化に影響を与えるが、これまで「経済的な効率性」のために鉄道のローカル線を廃止し、農村部の学校、病院、郵便局を閉鎖し、町はずれの巨大ハイパーマーケットを優遇して町村内の弱小商店を廃業させ、車を生活必需品にしたのは国の経済政策である。

そのツケをまず庶民に払わせるのは不公平だ、と人々は怒った。ネット署名は86万集まり、無名の女性がfacebookに投稿した増税反対のビデオは600万以上視聴された。
 
「増税反対」は国粋的なポピュリズム運動を思わせる要素があるため、「黄色いベスト運動」はルペンの国民連合(国民戦線から党名を変更)に政治的にとりこまれる怖れがある、と左派の一部や緑の党は反発した。

しかし、労働組合、政党、市民団体が組織するのではなく、ふだんデモや政治活動に参加しない民衆、とりわけ農村部・都市周辺の人々が政府に反対し、自発的にアクションをよびかけた運動は前例がなく、新しい形の民衆運動と見ることもできる。

ラ・フランス・アンスミーズ(LFI屈服しないフランス)の多くの議員はこれを、不公平な税制と政治に対する民衆の怒りの爆発ととらえて支持した。保守、極右、左派の各党はみな党としてではなく、個人的に支持や抗議者への理解を表明して政府を批判した。
 
「マクロン以下政府が言うこと、やることに欠けているのは公平という概念だ。富裕層に巨額を与える一方、貧しい層からとりたてる政権に庶民はうんざりしている。エネルギー移行政策は社会的な公平にもとづいたものであるべき」と言うLFIのフランソワ・リュファンは、「何よりまず(免税にした)富裕税を返せ」と国会で訴えた。(中略)

さて、11月17日のアクションは、全国で内務省発表では2034か所で道路やスーパーの入口などの封鎖、集会・デモが行なわれ、29万人近く(おそらくもっと多かった)が参加した。

封鎖を破ろうとした車に轢かれて参加者の1人が死亡、警察との衝突も含めて409人の負傷者と157人の逮捕者が出たが(その後数字は増え、11月21日現在で死者2人、負傷者585人、逮捕者数百名以上)、圧倒的多数は平和的に行動した。

組合や政党などがオーガナイズせずに、これだけの人数が自主的に行動を起こしたこと自体、注目に値する。それを可能にしたのはソーシャルメディアだが、ふだんデモなどで意思表示しない人々を路上に繰り出させたほど、マクロン政権と国民との溝は深いといえるだろう。
 
17日のアクション直前の世論調査では74%が「黄色いベスト」運動を支持し、低所得層ほど支持率が高かった。実際、参加者の声からは「共稼ぎだが生活は苦しい」、「年金だけでは月末の食費を削らなくてはやっていけないのに、増税された」など、ガソリン・軽油増税による購買力の低下だけにとどまらない、日常の苦悩が語られた。

フランス語に「その一滴が器を溢れさせた」という言い回しがあるが、この増税をきっかけに、これまで蓄積された不満と怒りが堰を切って放出したのである。(中略)

この大規模な抗議に対して大統領は今のところ何も答えず、フィリップ首相は11月18日夜のテレビ・ニュース番組で、「怒りと苦悩の声を聞いた」が政策は変えないと述べた。

ずっと沈黙していた大統領は21日にようやく「対話が必要」とおざなりに答え、レユニオン島を例に暴力には「情け容赦なく対応する」と治安面だけ強調した。

リーダーがいない「自主オーガナイズ」の運動のため、そのうちおさまると期待しているのだろうが、事の重大さを理解していないようだ。

マクロンは、それまで政権交替してきた保守・社会党をはじめ、既成政治家に対する市民の幻滅が生んだ「失せろ!(デガージュ)」現象の利を得て、大統領に選出された。

過半数が棄権した昨年6月の総選挙(国民議会選挙において前代未聞)では、マクロンの新党「共和国前進!LREM」が圧倒的多数をとったが、そこには新しい政治への期待があっただろう。

その後1年半で既に、大勢の市民が新しい政権に幻滅し、抗議を表明しているのである。さらに、参加者の声からは、マクロンの数々の侮蔑的な発言(「とるにたらない人たち」など)に、庶民がいかに傷ついたかが表れている。軽視・軽蔑されていると感じる人々の気持ちが、マクロン政権にはわからないようだ。
 
政治家やメディアから無視され、その存在が忘れられている人々(低所得者、非正規労働者、労災事故の被害者…)は「目に見えないフランス」と呼ばれるが、ふだん物を言わない「目に見えない」人々が可視化が目的の黄色い安全ベストをまとって行動したのは、特筆に値する。

中にはたしかに極右に票を投じた者や差別的な者もいるだろうが、(中略)「目に見えない」差別主義者の存在に「黄色いベスト運動」を絞るのは、これまた「見えない人々」に対する上からの目線ではないだろうか。

自主オーガナイズによって共に行動する中から、怒りの感情を超えた政治意識が育つかもしれない。混乱と混沌をはらみ、統率がない運動に、フランス革命的な要素を見る政治評論家もいる。

今後、どんな展開になるかわからないが、マクロン政権のみならず、疲弊した民主主義が新たな局面を迎えたことはたしかだろう。【11月22日 飛幡祐規氏 】
*******************

ふだん物を言わない「目に見えない」人々の切実な抵抗運動であるだけに、都市住民や比較的裕福な人々の間でも一定に共感を得ている(あるいは、否定できない雰囲気がある)ように思われます。

“自主オーガナイズによって共に行動する中から、怒りの感情を超えた政治意識が育つかもしれない”というのは、やや期待しすぎのように思いますが、「上から目線」が批判されがちなマクロン大統領は難しい対応を迫られそうです。

既成政治・メディアに無視されがちな「目に見えないアメリカ」は“トランプ大統領”を生み出しましたが、「目に見えないフランス」は何を生み出すのか?

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地球温暖化  気温上昇抑制の目標達成が遠のく現況 トランプ、「ブラジルのトランプ」という政治要因も

2018-11-28 22:47:41 | 環境

(米ジョージア州の石炭火力発電所【11月28日 共同】)

【トランプ大統領 地球温暖化にる経済的損失について「信じない」】
アメリカ・トランプ大統領はパリ協定離脱を表明するなど、温暖化防止には否定的な立場をとっていますが、アメリカ政府(NASA=航空宇宙局やNOAA=海洋大気局など13の省庁)は、逆に温暖化に伴う巨大な経済的損失に関して警鐘を鳴ら報告書をまとめています。

****米政府報告書、気候変動に警鐘 トランプ氏主張と矛盾****
米政府は23日、気候変動とその影響に関する報告書「第4次全米気候評価」を発表した。気候変動に伴う米経済の損失は今世紀末までに数千億ドルに達し、最悪のシナリオでは国内総生産(GDP)の10%以上を失う可能性があるとしている。(中略)

米海洋大気局(NOAA)環境情報センターの技術サポート部門責任者、デービッド・イースターリング氏は、(中略)「世界の平均気温は近代文明が経験したことのない高さと上昇ペースになっている」と指摘。こうした温暖化傾向は人間の活動によってしか説明できないと述べた。

温室効果ガスの大きな削減が実現しない場合、産業革命以前と比べて気温が今世紀末までに5度以上上がるという。

報告書は13の連邦機関から集めたチームがまとめた。代表的な科学者300人を含む1000人の支援を受けそのうち約半数は政府外からの支援だった。

報告書の内容は、気候変動をでっち上げだとするトランプ大統領の主張と食い違っている。トランプ氏は21日、一部の国民にとってこの100年で最も寒い感謝祭になるとの見通しに触れ、「地球温暖化はどうなったんだ?」ツイートしていた。

報告書によると、気候変動に伴うコストは年間数千億ドルに上る可能性がある。米南東部だけでも、異常な暑さで2100年までに5億時間の労働時間が失われるとみられている。

農家に対する影響は特に大きく、高温化や干ばつ、洪水により全米で作物の量や質が落ちるという。熱ストレスによる生産性の低下、海洋の酸性化に伴う貝類の死滅での経済損失も指摘されている。

健康面では、高温化による死者が増加する見通しで、中西部では2090年までに早死にする人が年間2000人増えるとしている。蚊やダニを媒介する病気の増加、ぜんそくやアレルギーの悪化、食品や水由来の疾病リスクも挙げられている。特に夏の高温は、子どもや高齢者、経済的困窮者などの病気や死亡を招く恐れがあるという。

自然への影響では、山火事で年間焼失する面積が2050年までに現在の6倍に増え、ハワイやカリブ海では高温により安全な飲み水が脅かされると指摘。海面上昇や高潮も発生し、華氏100度(摂氏約37.8度)を超える日が増加する。

今世紀中頃には北極の海氷が夏の終わりに全て解け、永久凍土の融解を誘発。さらに多くの二酸化炭素やメタンガスが放出される結果となり、温暖化を加速させる可能性があるという。

報告書は政策担当者に情報提供する目的で作成され、対応策に関する具体的な提言は記載されていない。ただ、米国が直ちに化石燃料の使用や温室効果ガスの排出を削減すれば、多くの人命を救い経済的に巨額の利益を得られる可能性を示唆している。【11月24日 CNN】
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この米政府報告書に対し大統領は「信じない」とのことです。

****“温暖化で深刻な経済的影響” トランプ大統領「信じない」****
アメリカのトランプ大統領は、政府がまとめた報告書で地球温暖化によって経済的に深刻な影響が出る可能性があると指摘されたことについて、「信じない」と述べ、地球温暖化対策に否定的な立場を改めて鮮明にしました。(中略)

トランプ大統領はホワイトハウスで26日、これについて記者団から問われ、報告書の一部を読んだとしたうえで、経済的な影響については「私は信じない」と述べました。

そのうえで報告書について「アメリカについて言及したものだが、中国や日本などアジアの国も含めるべきだ。われわれはかつてないほど環境にやさしいが、地球のほかの場所もやさしくなければならない」などと持論を展開しました。(後略)【11月27日 NHK】
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どうして、この場面で中国と並んで日本の名前があげられるのかよくわかりません。
それにしても、13省庁がまとめた報告書を「信じない」で一蹴するというアメリカ大統領制という政治体制(トランプ大統領個人の問題か?)も日本的感覚でよく理解できなものがあります。

「信じない」理由はなんでしょうか?

トランプ大統領は27日、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ等の金融政策を「間違っている」として、「FRBは間違いを犯している。なぜなら自分には直感がある。自分の直感は時として、誰かが頭で考えて話すことよりも多くのことを教えてくれる」【11月28日 ロイター】と述べています。

温暖化を「信じない」理由も“直観”でしょうか?今年の感謝祭が寒かったからでしょうか?
確かに温暖化については、異論もありますが、多くの科学者・専門家が支持する説を否定するなら、せめてその根拠を示してもらわないと困ります。トランプ氏個人の“直感”で、地球全体の将来を決めてもらっても困ります。

【より厳しい対応が求められるなかで、CO2総排出量が4年ぶりに増加】
トランプ大統領の“直観”はともかく、国連はパリ協定目標達成に向けて以下のように発表しています。

****温室ガス30年に25%減必要 パリ協定目標達成で分析****
今世紀末までの気温上昇を2度未満に抑えるパリ協定の目標達成には、2030年の世界の温室効果ガス排出量を17年と比べ25%削減する必要があるとの報告書を国連環境計画が27日、公表した。

横ばいだった世界の排出量が17年は増加に転じたとみられ、このままではパリ協定の目標達成は極めて難しいと指摘している。
 
12月2日からポーランドで開かれる国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議で排出削減目標の引き上げも議論される予定で、各国に地球温暖化対策の強化を呼び掛けた。
 
20年に始まるパリ協定は産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることを目指す。【11月28日 共同】
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気温上昇を1.5度未満に抑えるためには、2030年の世界の温室効果ガス排出量を、現在よりも55%削減しなければならないそうです。

しかし、現実には上記記事にもあるように、“世界の排出量が17年は増加に転じた”とのことで、目標達成は非常に困難にも思われます。

****世界のCO2総排出量、4年ぶりに増加=国連****
環境問題に取り組む国連総会の補助機関、国連環境計画(UNEP)は27日、2018年度版の「排出ギャップ報告書」を発表した。

UNEPは報告書で、世界の二酸化炭素(CO2)総排出量が4年ぶりに増加したと説明。気候変動に対する国際的な取り組みが、目標とする水準に達していないと指摘した。

報告書は、2017年の排出量増加について、経済成長が要因と説明。一方で、各国による炭素排出量の削減努力は行き詰まっているとの見方を示した。

2015年に採択された、気候変動に関する「パリ協定」が定めた目標を達成するには、世界のCO2排出量を2020年までに減少へと転じさせるのが重要となると、報告書は書いている。

しかし専門家は、2030年までに減少傾向に変えることさえ、現時点では難しいと指摘する。(後略)【11月28日 BBC】
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気温上昇抑制に関する目標達成のためには、より厳しい温室効果ガス排出抑制に取り組む必要があるとされています。

****地球温暖化、対策上回る速度で進行 国連報告書が警告****
国連環境計画は27日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」で定められた目標達成に向けた進捗に関する年次報告書を発表し、現状の温室効果ガス排出量と目標達成に必要な水準との間の差は広がり続けており、人類は気候変動対策でますます遅れをとっていると警告した。
 
これまでの気温上昇幅はわずか1度だが、世界各地では大規模な森林火災や熱波、ハリケーンが増加の一途をたどっている。

このままのペースで行けば気温上昇幅は今世紀末までにおよそ4度に達するとの予測もあり、科学者らは文明の基盤を揺るがす事態になると警鐘を鳴らしている。
 
今年で9回目の公表となる「排出ギャップ報告書」によると、産業革命以前からの気温上昇幅を2度に抑えるためには、2015年のパリ協定で定められた炭素削減量を2030年までに全体で3倍に、1.5度の上昇幅を目指すなら5倍に増やす必要がある。
 
同報告書は、国家レベルでの取り組みが最も不足していると指摘。UNEPの同報告書担当者、フィリップ・ドロスト氏はAFPに対し、「各政府は、自国が決定する貢献を見直し、目標を引き上げる必要がある」と語った。【11月28日 AFP】AFPBB News
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気温が4度上昇したら、日本・アメリカを含む多くの地域で破壊的な変化がおきるでしょう。そうなると、氷河・氷床・凍土の融解や森林の枯渇などを伴って、事態は加速度的に、かつ、手が付けられないペースで悪化していくようにも想像されます。(いつも言うように、そのとき私はもう生きていませんので・・・・、怖いもの見たさで、どんな世界になるのか見てみたい気も・・・)

【止まらないアマゾン森林破壊 「ブラジルのトランプ」就任でさらに加速か】

(ブラジル北部のアマゾンで違法に火が放たれ、燃え広がる熱帯雨林(2009年9月15日)【8月13日 GLOBE+
】)

さらに、懸念される情報も報じられています。
以前から指摘されているところですが、アマゾンの熱帯雨林破壊が止まらないようです。

新たな問題は、そのブラジルの大統領に「ブラジルのトランプ」と呼ばれるボウソナロ氏が就任することです。
ボウソナロ氏は環境対策においても「ブラジルのトランプ」のようです。

****「サッカー場100万面」相当の森林、1年で消失 ブラジル****
ブラジルの森林破壊が空前の規模に達しており、たった1年間でサッカー場100万面に相当する面積の森林が失われた。環境保護団体グリーンピース(Greenpeace)が明らかにした。

ブラジル政府の特別調査機関によると、森林破壊は2017年8月~2018年7月に前年同期比で14%近く拡大し、7900平方キロの面積の森林が消失したという。

グリーンピースのブラジル支部で公共政策コーディネーターを務めるマルシオ・アストリーニ(Marcio Astrini)氏は、AFPの取材に「たった1年でサッカー場およそ100万面に相当する森林が破壊されたことになる」と語った。「森林が違法に伐採されているという知らせが伝えられるのは、毎年のことだ」

ブラジルのジャイル・ボウソナロ次期大統領が環境保護規制を緩和するという公約を実行に移せば、事態はさらに悪化する可能性があると、アストリーニ氏は指摘する。

さらに、ボウソナロ次期大統領がテレサ・クリスチーナ氏を農牧・食料供給相に指名したことも、懸念材料となっている。農業関連産業による国会でのロビー活動の先頭に立っているクリスチーナ氏は、牧草地や農地を増やすために、森林伐採の拡大を支持しているからだ。

■アマゾン森林破壊「想像絶する事態に発展する恐れ」も
地球上に残る熱帯雨林の半分以上を占めるアマゾンの熱帯雨林は550万平方キロの範囲に及んでおり、そのうちの約60%がブラジルにある。

だが、アマゾン熱帯雨林は違法伐採および農業、特に大豆のプランテーション(大農園)や牛の牧草地などによる脅威にさらされている。

2004年~2012年には、官民双方で規制を課したことにより、ブラジルの森林破壊のペースは減速していた。だが、ボウソナロ次期大統領は「自然保護地域、先住民保護区を廃止し、環境犯罪を捜査して罰するための権力を弱める」意向を表明していたと、アストリーニ氏は指摘する。

「ボウソナロ次期大統領がこれらすべてを実行し、罪を罰する力を弱めるとすれば、アマゾン森林破壊は想像を絶する事態に発展する恐れがある」と、アストリーニ氏は続けた。【11月28日 AFP】
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植物は光合成によって二酸化炭素を吸収し、酸素を排出します。同様に呼吸によって二酸化炭素を排出します。その差分が炭素として固定され木が成長していきます。

木が枯れることで固定された炭素は大気中に放出されますが、通常の森林では新しい木々が育つことでその放出分は再吸収されていきます。しかし、森林破壊によって森林面積が減少すると、伐採(最終的には製品に使用した木材の焼却)による炭素放出だけが進行するということになります。

なお、いつもやり玉にあげられるブラジルのために付加すれば、アマゾンの森林が減少しているのはブラジルだけでなくペルーも同様です(ペルーは“サッカー場20万面分”)。だから構わないという話にもなりませんが。

****ペルーのアマゾン、森林破壊が加速度的に進行中 環境当局****
南米ペルーのアマゾン地域では、2001年から2016年までの間に200万ヘクタール近くの森林が消失し、年間12万3000ヘクタール以上のペースで森林が減少していることが、同国環境省が8日に公表した統計データで明らかになった。
 
環境省の森林保全計画を統括するセサル・カルメット氏はAFPの取材に対し、農業、畜産、違法伐採、鉱物違法採掘、麻薬密売などが森林破壊の主な原因となっていると語った。(中略)

環境情報サイト「モンガベイ」によると、2017年にも急速な森林破壊が続いており、「サッカー場20万面分に相当する」14万3000ヘクタールに及ぶアマゾンの森林がペルーの地図から消え去ったことが衛星画像で明らかになっているという。(後略)【5月9日 AFP】
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フィリピン  民族主義に走らず、中国との南シナ海共同資源探査を進めるドゥテルテ大統領

2018-11-27 23:14:02 | 東南アジア

(「習氏を「くまのプーさん」、ドゥテルテ比大統領を親友の子ぶた「ピグレット」に見立てた画像が#XiJinPoohのハッシュタグをつけて拡散され、ソーシャルメディアをにぎわせている。」【11月21日 朝日】ということで、ドゥテルテ大統領の対中国協調姿勢には批判も多いようですが・・・)

【健康不安説が絶えないドゥテルテ大統領】
最近、フィリピン・ドゥテルテ大統領が推し進める麻薬絡みの「超法規的殺人」の話に関するニュースは目にしませんが、単にメディアがこの話題に飽きてしまっただけなのか、実態としてひと頃よりペースが落ちているのか・・・よく知りません。

代わりに目にするのは、ドゥテルテ大統領の健康不安に関するもの。

****フィリピン大統領、検査でがん見つからず=内務相代理****
10月9日、フィリピンのアノ内務相代理は、ドゥテルテ大統領(73)が病院で検査を受けたことに関して、がんは見つからなかったと明らかにした。

大統領が前週に公式行事を2回欠席したため、健康状態について懸念が広がっていた。(後略)【10月9日 ロイター】
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****ドゥテルテ比大統領に健康不安説 73歳、支持に影響も****
フィリピンのドゥテルテ大統領(73)に健康不安説が浮上している。過去にも複数の持病があると明かしていたが、がん検査を受けたことを今月公表し、臆測が強まった。


世論調査では高齢のドゥテルテ氏の健康状態を懸念する人の割合が半数を超え、盤石な国内支持にも影響を与えかねない。
 
「3週間前、内視鏡検査を受けた。結果を待っているが、がんならがんとはっきり言う」。ドゥテルテ氏は今月4日の演説で突然こう明かし、「苦痛を長引かせたくない」としてがんが進行していれば治療しないと述べた。【10月25日 共同】
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ガンかどうかはともかく、お疲れのようではあります。

****ドゥテルテ比大統領、「仮眠」でASEAN会議欠席 記者質問に「何が悪い?」****
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は14日、シンガポールで行われた東南アジア諸国連合関連首脳会議において自身が出席を予定していた会議のいくつかを欠席し、フィリピン大統領府は「仮眠」が原因だったと釈明した。

ドゥテルテ大統領が出席しているASEAN関連首脳会議には安倍晋三首相のほかロシアのウラジーミル・プーチン大統領、中国の李克強首相、米国のマイク・ペンス副大統領らも参加。

しかしドゥテルテ氏は14日、出席予定だった11会議中4会議と、シンガポールのリー・シェンロン首相主催の夕食会を欠席した。

ドゥテルテ氏は15日朝、会議の会場に到着すると記者の質問に対し、「仮眠の何が悪い?」と反論。十分に休めたかと問われると、「まだ足りないが、残りの日程を耐えるには十分」と答えた。

フィリピン大統領府はドゥテルテ氏がいくつかの会議に出ていないことが明らかになるやいなや声明を発表し、同氏が前夜3時間しか寝ていなかったと釈明。

同大統領府のサルバドール・パネロ報道官は、「大統領は睡眠不足解消のため仮眠を取った」と述べ、「大統領がいくつかの会議を欠席したことで、大騒ぎとなっている場所もある」と認めた。ただ、欠席は「臆測を生んでいる健康問題とは一切関係がないと国民に保証する」と強調した。【11月15日 AFP】AFPBB News
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「仮眠の何が悪い?」・・・・私も夜の睡眠時間が短めな分を昼寝で補っていますが、大事な会議を「仮眠」で欠席したら、やはり問題でしょう。

73歳・・・まだ、そんなに老け込む歳ではないようにも。93歳のマレーシア・マハティール首相は別格としても、フィリピンでもイメルダ夫人などお元気そうです。

****89歳イメルダ夫人、知事選出馬へ 故マルコス氏の妻***
独裁で知られたフィリピンの故マルコス元大統領の妻で、下院議員のイメルダ・マルコス氏(89)が16日、来年5月の中間選挙(上院の半数と下院、地方選)で、北部ルソン島の北イロコス州知事選に立候補を表明した。
 
イメルダ氏は、1986年の市民革命でマルコス氏とともに追放され、大量の靴のコレクションが「独裁者の搾取の象徴」として世界に知られた。今回の州知事選への出馬は、マルコス家の影響力の健在ぶりを示しているといえそうだ。
 
中間選挙は、大統領の6年の任期折り返しの年に実施される。北イロコス州はマルコス元大統領の出身地で、州知事は2010年から長女のアイミー・マルコス氏が務めている。

16日には、母親に知事職を譲る代わりに、自らは上院選にくら替えして立候補すると表明。地元メディアに、「地方政治のベテランとして、地方の声を中央に届ける」と意気込みを述べた。
 
マルコス家では、長男のフェルディナンド(通称ボンボン)氏が上院議員で、16年には副大統領選に出馬した。今回の北イロコス州の副知事選には、地方議員を務める孫のマシュー氏も立候補する。当選すれば、元大統領の妻、娘と息子、孫が3世代にわたって政界に進出する形となる。
 
マルコス政権下の戒厳令では多くの国民が弾圧され、国内では今も反マルコスの感情が残る一方、フェルディナンド氏の大統領待望論もあるほど、根強い支持がある。

南部ミンダナオ島が地盤のドゥテルテ大統領は、北部ルソン島での支持を集める思惑からマルコス家と緊密な関係にあるとされ、これがマルコス家の「復権」の背景にあるとも指摘されている。【10月18日 朝日】
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元気なイメルダ夫人がフィリピンにとっていいことかどうかはわかりませんが・・・・。

ドゥテルテ大統領は、過去にオートバイの事故で脊髄を痛めたために、がんや慢性疾患の患者に処方されることが多いフェンタニル(合成オピオイド)の貼り薬をよく使用していたことを公表しており、医師の処方量を超えて「乱用」していたことも知られています。まあ、見るからに不健康そうな表情・動きではあります。

【最近の支持率は?“就任以来最大の落ち込み”とも】
でもって、強硬な麻薬対策は国民受けはよく、高い支持率を誇ったドゥテルテ大統領の最近の支持率はどうなっているのか?・・・検索すると、ここ数か月の調査で「就任以来最低」とか「最大の落ち込み」といった記事がある一方で、「政権発足いら最高を記録」といった記事もあり、よくわかりません。

しかも、同時期に真逆の調査結果が出たりすることもあるようです。

****ドゥテルテ大統領の支持率 異なる調査会社で真逆の結果に****
フィリピンの民間調査会社SWSが7月に公表したドゥテルテ大統領に関する支持率調査では、就任以来最低の支持率であったことが明らかになったが、同調査会社と競う『パルス・エイシア(PAR)』社が7月13日に発表した同様調査では全く反対の数字が出て、この種の調査の信頼性が疑われる結果となった。

SWSの大統領支持率では5ポイント下がった65%であったが、PRAの大統領支持率は8ポイントも上昇する88%となった。
   
SWSもPRAも同時期にほぼ同じ人数を対象に調査をしているが、この真逆の結果は政権側の世論調査誘導があったのではないかと問題になっている。
   
フィリピンは世論調査の好きな国で、特に政治動向は頻繁に各種の調査が行われるが、自陣営に有利な結果を出すために依頼をする例もあって、金次第でどうにもなるとも指摘されている。
    
またフィリピンの世論調査方法は、無作為に選んだ人間を対象に対面で調査しているが、選ぶ段階で何らかの手が加えられ、しかも設問が依頼した側に有利なように誘導されているとの指摘もある。
   
実際、調査員と称する人物によると、調査対象者の答えと反対の書き換えをしたり、最初から調査員が設問に書き込んで調査対象者のサインだけをもらうことあったとの証言もある。(中略)

今回のフィリピンの2大調査会社の相反する結果について、大統領側はSWS調査に付いては批判を重ねたが、PASについては至極もっとも、満足するコメントを出している。(後略)【7月17日 DIGIMA NEWS】
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“フィリピンのように何でもありの国では信頼性が低い”【同上】という前提で、ここのところはインフレで支持率は落ち込んでいるとも報じられています。

****比大統領支持率が就任以来最大の落ち込み、インフレ原因か=世論調査****
民間調査機関パルス・アジアが今月実施した世論調査で、フィリピンのドゥテルテ大統領支持率が第3・四半期に就任以来最大の落ち込みを記録した。

調査は25日に発表されたもので、投票可能な年齢に達したフィリピン人1800人を対象に実施。その結果、ドゥテルテ大統領を評価するとの回答の割合は13ポイント低下して75%となった。
大統領の人格への「信頼感」は15ポイント低下し、72%となった。

ロケ大統領報道官は定例記者会見で、大統領は支持率に動揺しておらず、仕事に集中していると説明。「われわれは(支持率)には影響されない。これでも大変な高支持率だと思う」と述べた。

支持率低下の原因について同報道官は、コメの価格上昇により、他の分野における政府への評価が相殺されたとし、インフレ加速が原因になった可能性があると指摘した。【9月26日 ロイター】
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確かに“これでも大変な高支持率”ではあります。

【国際的司法判断という強力なカードを持ちながらも、中国との共同資源探査へ】
そうしたなかで、ドゥテルテ大統領は中国との協調姿勢を続けており、南シナ海でも中国との共同資源探査を行うとしています。

****中国 習主席 フィリピン訪問 南シナ海での共同資源探査で覚書****
中国の習近平国家主席は、フィリピンを訪問してドゥテルテ大統領と会談し、両首脳は、中国がフィリピンのインフラ整備を支援することで合意したほか、以前は領有権争いを繰り広げた南シナ海での共同資源探査に関する覚書を交わしました。(中略)

この中で両首脳は、マニラとルソン島南部を結ぶフィリピン国有鉄道の再建や、マニラ首都圏に水を供給するダムの建設など、インフラ整備を中心に、29件の経済支援に関する合意文書に署名しました。

さらに、これまで領有権を争ってきた南シナ海で、石油や天然ガスを共同で探査することに関する覚書を交わしました。ただ、この覚書の詳しい内容は明らかになっておらず、また法的な拘束力はないということです。

フィリピンはおととし、南シナ海をめぐって中国が主張する管轄権を全面的に否定する国際的な仲裁裁判の判断を勝ち取っています。

しかし、ドゥテルテ大統領はこの判断を棚上げすることで、中国から経済支援を引き出して資源開発やインフラ整備を進めたい考えです。

一方の中国も、南シナ海問題で最も強硬姿勢だったフィリピンを取り込みたい立場で、双方の利害が一致した形です。(後略)【11月20日 NHK】
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もともと、中国との共同資源探査は2005年当時、アロヨ元大統領が胡錦涛主席との間で進めていた路線ですが、アキノ前大統領時代に否定されました。

中国企業からの収賄疑惑がつきまとうアロヨ氏は大統領在任中の選挙法違反や汚職で逮捕されましたが、ドゥテルテ政権となった2016年年に約4年ぶりに釈放され、その後、公式訪中するなどし、今年7月に下院議長に就任して復権しています。【10月21日 産経より】

今回も、中国側はこの親中アロヨ氏の人脈を活用したようです。

ただ、このドゥテルテ大統領の対中国協調路線は、国内的には不評なようです。

****中国寄り政策に非難集中、フィリピンのドゥテルテ大統領****
(中略)そうした意味で、今回の中国の習国家主席のフィリピン訪問は双方の利害を一致させただけでなく、今月末にアルゼンチンで開催されるG20での米中首脳会談前に、南シナ海での中国のプレゼンスを強調できる大きな成果と、「中国は大歓迎」している。
 
しかし、その期待通り、事態は進みそうにない。
 
「フィリピンは、中国に騙された」
フィリピンの外交問題研究家、ヘーダリアン氏は、習国家主席の訪問前に、そう中国を非難し、ドゥテルテ大統領の対中政策を批判した。
 
2016年10月、同大統領は北京訪問時、中国の習国家主席と会談し、27件の協定に署名。
中国は港湾、鉄道、採鉱、エネルギーなどのインフラ整備などに対する150億ドルに上る直接投資、さらに90億ドルの低利融資など、支援規模総額240億ドルを約束した。
 
しかし、2年が過ぎた今でも、投資プロジェクトは殆ど、実施されていない。(中略)

そうしたなかドゥテルテ氏は、中国による軍事拠点化を批判することも、中国に中国の主権主張を退けた仲裁裁判所判決を受諾するよう圧力をかけることも拒み、結局、中国の軍事拠点である人工島の建設を“後押し”する結果を招いてしまった。
 
さらに、中国が爆撃機をフィリピンが領有権を主張する場所に着陸させ、南沙諸島のサンディ・ケイで存在感を誇示した時も、ドゥテルテ氏は強硬な対応を示さなかった。
 
この軟弱な姿勢に、中国に服従していると国内で批判の声が高まり、ドゥテルテ氏に対し、南シナ海問題で強硬姿勢で臨むよう圧力がかかっている。
 
今回の習国家主席の歴史的なフィリピン訪問でも、国内のメディアも、国民もドゥテルテの対中政策に疑問を呈し、非難した。(中略)
 
習国家主席訪問直前に実施された世論調査では、「南シナ海での中国のインフラや軍事拠点開発に反対」が84%、「中国が違法占拠する領土を奪回すべき」が87%で、そのため「海軍を中心としたフィリピンの軍事力拡大が不可欠」が86%にも達した。(中略)
 
さらに、フィリピン人の中国に対する信頼度は、ドゥテルテ氏の大統領就任前の最低水準を更新し、一方、米国への信頼度は高まっている。
 
ドゥテルテ氏は、中国からの経済財政援助によるインフラ開発で高い支持率を維持したいところだが、このままでは中国からの援助は、現実どころか「虚構」の泡と化し、南シナ海の深海に消えてなくなるだろうう。
 
米国の戦略国際問題研究所のポーリング研究員は、フィリピンと中国の関係改善に伴う恩恵は、両国政府が目指す「大きな規模からは程遠い」と強調。
 
中国が表明する融資や支援は、プロジェクト実施には結びつかず、貿易や投資パートナーとしても中国は、他国に大きく出遅れると分析している。(後略)【11月26日 末永 恵氏 JP Press】
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もっとも、“国内のメディアも、国民もドゥテルテの対中政策に疑問を呈し、非難した”とは言っても、国民大多数はそうしたことには殆ど関心はなく、ようするに国内の景気がよくなれば歓迎、そうでなければ反対・・・といったところではないでしょうか。

そうであるにしても、国内的に批判が多いなかで、しかも、国際的司法判断という強力なカードを持ちながらも、あえて対中国批判に走らず、共同資源探査を進めるドゥテルテ大統領の政治姿勢は評価すべきことであるのかも。(単にアメリカ嫌いの隠れ共産主義シンパというだけかもしれませんが)

民族主義を鼓舞することで政権求心力を高めようとする政治家が多い中では稀有の存在かも。

ただ、日中の東シナ海における共同探査の経緯を見ると、中国の共同探査への姿勢を信用していいのか・・・という話はありますが。

中国が本当に“共同”姿勢を守るのであれば、互いに権利を主張しあってぶつかるよりは、共同で・・・というのは賢明な方策です。
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ウクライナ艦船へロシアの攻撃・拿捕  対外的危機は好都合な面もある両国大統領の事情

2018-11-26 23:10:29 | 欧州情勢

(画像は【11月26日 産経】より 攻撃を受けたのは、上記のような小型艦船のようです。
ウクライナ海軍の発表では、「装甲カッター2隻『ベルジャンシク』、『ニコポリ』が敵から攻撃を受け、操縦不能となった。急襲用タグボート『ヤニ・カプ』も、停止をせざる得なくなった」【11月26日 ukrinform】とのこと。)

【「クリミア橋」開通に伴い緊張が高まっていた海域での事件】
ウクライナ東部の紛争を抱えるウクライナとロシアの間で、ウクライナ海軍の艦船がロシア側から発砲を受けて拿捕される(負傷者も出ている)という、危うい動きが報じられています。

****ロシア、ウクライナ海軍に発砲か クリミアめぐり緊張****
ウクライナ南部クリミア半島とロシアのクラスノダール地方にはさまれたケルチ海峡付近で25日、ウクライナ海軍の哨戒艇など3隻にロシア連邦保安局(FSB)の監視船が発砲し、複数の乗組員が負傷したと、ウクライナ海軍が同日発表した。

一方、ロシア側は「挑発行為があった」としてウクライナを批判し海峡を封鎖、両国の緊張が高まっている。
 
ケルチ海峡は、黒海からウクライナとロシアの両方に接するアゾフ海への入り口にあたる。ロシアは2014年3月にウクライナのクリミア半島を一方的に併合。今年5月には同半島とクラスノダール地方を結ぶ全長19キロの「クリミア橋」を開通させたため、ウクライナ船の通行が制限され、欧州連合(EU)などが懸念を表明していた。
 
3隻は黒海沿岸のウクライナの港湾都市オデッサを出発し、アゾフ海沿いのマリウポリに向かっていた。しかし25日朝、ロシア側の監視船が「領海に侵入した」として3隻のうちのタグボートに体当たりして通行を阻止。

ロシア・メディアによると、ロシア軍はケルチ海峡上空に攻撃ヘリを出動させた。ウクライナ海軍は、3隻が発砲を受けたのは海峡通過を断念し、オデッサ港に戻ろうとしたときだったとしている。3隻は拿捕(だほ)された。
 
アゾフ海沿いのウクライナ東部では一部地域を占拠する親ロシア派武装勢力とウクライナ軍のにらみ合いが続いており、海峡での緊張の高まりが飛び火することも懸念されている。
 
同国のポロシェンコ大統領は同深夜、急きょ防衛、治安関係閣僚を集めて対策を協議した。外務省はロシア側の行為を「国連憲章と国際法に違反する」とし、国際社会の対応を求める声明を出した。(モスクワ=喜田尚)
********************

今回事件は唐突に起きた訳でもなく、「クリミア橋」開通に伴うロシア側による船舶臨検実施といった緊張状態が背景にあったようです。

****ウクライナの首都キエフで抗議行動 ロシアに海軍艦拿捕され****
(中略)
背景は
アゾフ海はクリミア半島の東にある浅海域。クリミア半島はウクライナ南部に位置するが、一部は親ロ派分離主義者に支配されている。

アゾフ海北岸にあるウクライナの2港、ベルジャンスクとマウリポリは、穀物輸出や鉄鋼生産、石炭輸入においてウクライナに重要な役割を担っている。

ウクライナとロシアが2003年に結んだ協定は、両国の船団による自由航行を保証していた。

しかしロシアは最近、ウクライナの港に出入りする船舶の臨検を始めた。EUは今月前半、問題に対処するため「的を絞った対策」を実施すると通告した。

ロシアによる臨検は、ウクライナ側が3月にクリミア半島で漁船を拿捕した後すぐに始まった。ロシア政府は、ケルチ海峡にかかる橋に対する、ウクライナ過激派による潜在的危機を指摘。安全保障上の理由で検査が必要だと述べている。(後略)【11月26日 BBC】
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【ウクライナ・ポロシェンコ大統領は「戦争状態」導入へ 支持率挽回・野党メディア封じには好都合?】
今回事件を受けて、東部ウクライナの状況も悪化しているようです。
“ウクライナ軍は25日夜、同国東部で親露派武装勢力が一方的に建国を宣言した「ドネツク人民共和国」に大規模砲撃を実施。発砲・拿捕への報復とみられる。”【11月26日 産経】

また、ウクライナ政府は事実上の加戒厳令体制導入を決定しています。

****ウクライナ艦船をロシアが銃撃 数人負傷、政府が戒厳令を導入へ****
(中略)ウクライナ政府は26日未明に国家安全保障防衛会議を開き、全土に60日間「戦時状態」を導入することを決定した。事実上の戒厳令に相当し、同国の最高会議の承認を経て導入される。

戦時状態下では政府と軍の権限が強化され、政党やメディアの活動は大幅に制限される。来年春に予定されるウクライナ大統領選を前に、支持率低迷に苦しむポロシェンコ大統領が政権延命策に動いた可能性がある。【11月26日 共同】
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ウクライナでは来年3月に大統領選挙が行われますが、東部の状況が進展しないなかで、汚職が蔓延し、経済問題でも活路が見いだせないポロシェンコ大統領の人気は落ち込んでいます。

そうした状況で、ティモシェンコ元首相が支持率を伸ばしている・・・という件は、9月2日ブログ“ウクライナ  謀略渦巻くなかで和平に進展なし 大統領選への好位置につけるティモシェンコ氏”でも取り上げました。

最新の数字は把握していませんが、9月段階での支持率では、やはりティモシェンコ元首相がトップで、ポロシェンコ大統領は一桁となっています。

****大統領選世論調査:決戦投票候補は、ポロシェンコとティモシェンコ****
仮にウクライナ大統領選挙が次の日曜日にあるとしたら、決戦投票に勝ち上がるのはペトロ・ポロシェンコ現大統領とユリヤ・ティモシェンコ祖国党党首となる。

3つの分析センター(キーウ(キエフ)国際社会学研究所、ラズムコフ・センター、ソツィス)が2018年8月30日から9月9日にかけて共同で実施した世論調査の結果でわかった。

調査の結果、ティモシェンコは回答者の11%の指示を、ポロシェンコは7.1%の支持を得た。次点は、人気タレントのヴォロディミール・ゼレンシキーで6.7%であり、人気歌手のスヴャトスラウ・ヴァカルチューク(6.5%)とアナトーリー・フリツェンコ「国民の立場」党党首(6.3%)が続く。

なお、23.4%は、回答が困難だと答え、15%は投票に参加しないつもりだと答えた。(後略)【9月14日 ukrinform】
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こうした政治状況にあっては、一定に対外的危機がおき、その対応で強い姿勢をアピールすることは、(ロシアとの本格的衝突にならない限り)現職大統領にとっては好都合な面があります。

また、事実上の戒厳令で、野党勢力・メディアの政府への批判的活動を封じることもできます。
もちろん、いかに“謀略渦巻く”ウクライナであっても、今回事件を画策した訳でもないでしょうが・・・・。

【「小さな戦争」を望むプーチン大統領】
支持率が急落しているロシア・プーチン大統領についても同じような状況があります。

****支持率低下のプーチン、「小さな戦争」画策か?****
ロシアの独立系テレビネットワークRTVIのジャーナリストTihon Dzyadko が、Project Syndicateのサイトに「不人気なプーチンの危険」という論説を10月31日付けで寄せ、プーチンの人気に陰りが見えること、およびプーチンは人気回復のために何かをやりかねないことに警告を発している。論旨は、次の通り。

7か月前、プーチンは77%の得票率で4期目の再選を果たした。しかしロシア世論調査センターによると、今大統領選が行われたとすると、プーチンは47%しか得票できず、決選投票を余儀なくさせられるという。これはロシアと世界にとり危険である。

プーチンは2000年生活水準を上げ、ロシアを世界的強国とするとの約束で選ばれた。幸運にも石油価格が急騰した。彼は名前を変えたソ連の復活のために働き始めた。米国の世界的指導力と西側の民主化に対抗しようとした。

最初からプーチンはメディア検閲で権威を強めようとし、石油価格上昇を含め、すべての成功を自分の成果と称した。

失敗は、プーチンのせいではない。2007年、経済成長が鈍くなり、社会的格差が広がったとき、プーチンはミュンヘン安保会議で米国による世界経済の支配を非難し、バルト諸国へのNATO拡大はロシアに向けられていると示唆した。

突然、すべてのロシアの問題は西側が始めた新冷戦のせいにされた。2008年のコソボ独立、ロシアのジョージア戦争はプーチンの「包囲された要塞」の物語を強化した。

しかし2013年、プーチン支持率は記録的低さになった。そこでプーチンは大砲を持ち出した。ロシアはウクライナに侵攻し、クリミアを併合した。プーチンの支持率は85%にもなり、ロシア人の大多数にとり、プーチンの権威は絶対的になり、彼の決定は受け入れられるようになった。

プーチンは、ニコライ2世の内務大臣プレーブの助言、「革命を避けるには、小さな勝利の戦争が必要である」に従っている。

プーチンの「小さな戦争」は、彼の立場を強め、反対派を黙らせたが、クリミア併合に対し課された厳しい制裁のため、長期的な結果は深刻である。

この制裁のため、ルーブルはドルに対し半分に減価し、物価は上がり、生活水準は落ちている。財政難からロシア政府は定年退職年齢を引きあげたが、90%がそれに反対し、プーチンの緊急アピールも幅広い支持の獲得につながっていない。

プーチンの18年の統治が何かを教えてくれたとすれば、彼の支持率の低下は誰にとっても良いニュースではないということである。

ロシア人は疲れているかもしれないが、プーチンはそうではない。もし彼が彼の権威が弱まっていると感じれば、彼は他人の犠牲において勝利を収める時だと決定するかもしれない。

出典:Tihon Dzyadko,‘The Danger of an Unpopular Putin’(Project Syndicate, October 31, 2018)
 
この論説は、プーチンの人気が低迷し始めていることを指摘している。正しい観察である。

ロシアでは、生活水準が低くなってきており、国民の不満は高まってきている。その上、平均寿命66歳のロシア人男性の年金開始年齢を65歳にするとのメドヴェージェフ首相の提案は、政府への信頼感を著しく傷つけた。

ロシア人は「生活第一」である。国威が発揚されているので、生活上の不満は我慢する、ということにならない。プーチンの「西側が悪いのだ」という宣伝にもロシア人はあまり納得していない。

特に、サッカー・ワールド・カップで多くの西側の人々がロシアを訪問したが、彼らは、ロシアを包囲し困らせようとしている敵のイメージからはほど遠い人々であり、政権の「西側に包囲されたロシア」との宣伝は有効性がなくなっている。(中略)

Dzyadkoが予想する「小さな戦争」をプーチンが画策することはあろうが、バルト諸国はすでにNATO加盟国であるから、「小さな戦争」では済まなくなる。

モルドバ、ジョージアで何かやっても、ロシア人の熱狂的支持を得るのは難しい。あまりいい「小さな戦争」の候補は見当たらない。

ただ、プーチンはそういうことを画策する人であるとの指摘は的確であるので、注意しておく必要はある。【11月20日 Wedge】
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ポロシェンコ大統領が国内世論・支持率アップを重視してウクライナ東部での戦闘をエスカレートさせると、プーチン大統領が“喰いつく”かも・・・という危険性もあります。

なお、ヘイリー米国連大使がツイッターで明らかにしたところによれば、国連安保理は今回事件を受けて26日午前11時(日本時間27日午前1時)、緊急会合を開くことになっているようです。

【暗礁に乗り上げているウクライナ東部問題】
4年以上にわたり衝突が続くウクライナ東部の状況については、以下のようにも。

****ウクライナ、東部の苦難 政府軍と親ロシア派、武力衝突4****
(中略)
15年2月の停戦合意はロシア、ウクライナと仲介役のドイツ、フランスの4カ国首脳によるものだ。東部に特別な自治を認めるなど正常化への道のりも示した。

だが、ロシアとウクライナ双方が相手の不履行を批判し、実施は暗礁に乗り上げている。打開策の国連平和維持軍導入案も権限をめぐる両国の対立で進まない。

背景には、独仏など当初ロシアに強い姿勢をとった欧州の主要政権の足元が難民危機で揺らいだこともある。各国で親ロシア路線の右翼政党が躍進。エネルギーをロシアに依存する現実があり、EU加盟国の対ロ政策も一枚岩ではない。

ウクライナでは国民の失望でポロシェンコ大統領の支持率が低迷し、自ら打開に動く余地はなくなった。

合意履行を話し合う4カ国の首脳会談は16年10月を最後に開かれていない。【9月12日 朝日】
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シリア 復興に向かうなかでの光と影、勝者と敗者 シリア・イラク外で活発化するIS勢力

2018-11-25 22:50:26 | 中東情勢

(日常を取り戻しつつある市民生活 ダマスカス中心部 【10月26日 ロイター】)

【対ISの戦いはシリア国内では終息の方向】
シリアでは、先月末に関係するロシア・トルコ・ドイツ・フランス4か国の間で、今後への一定の道筋を合意しました。

合意どおりに進むかどうかは別問題ですし、そもそも当事者のシリア政府や反体制派が合意に参加していないというのも、普通に考えると奇妙な話です。

****シリアに憲法委、年内設置で合意 4カ国首脳 内戦後の改正議論****
ロシアとトルコが進めてきたシリア内戦の和平協議にドイツとフランスが加わった首脳会談が27日、トルコ・イスタンブールで開かれた。

4カ国の首脳は、内戦後の憲法改正を議論する憲法委員会について、年内に設置し初会合を開くことで合意した。
 
憲法委の設立は、ロシアがトルコとともに主導した「シリア国民対話会議」で1月に提案された。アサド政権側と反体制派側のメンバーで構成され、国連主導で協議を進めることになったが、実現していない。
 
緊張が高まるシリア北西部イドリブ県をめぐっては、アサド政権軍が総攻撃をかければ多くの難民が欧州に押し寄せる可能性がある。独仏首脳が今回の会談に加わった背景には、「反移民」勢力が伸長する自国の事情がありそうだ。(後略)【10月29日 朝日】
*******************

11月前半は旅行に出ており、その間の動きに関する情報は定かではありませんが、シリア関連ではあまり大きな話題もなかったように思います。

最近のシリア関連のニュースとしては、1週間前に以下のようなものも。

****シリア政府軍、南部最後のIS拠点を奪回****
シリア政府軍は17日、イスラム過激派組織「イスラム国」の同国南部最後の拠点を奪回した。
 
在英NGO「シリア人権監視団」によると、政府軍は17日、数か月に及んだ戦闘の末にISを砂漠地帯に退却させ、シリア南部のトゥルル・アッサファを奪回した。
 
同監視団のラミ・アブドル・ラフマン代表によると、ISは数週間続いた包囲攻撃と空爆の末に政府軍と交渉して退却したとみられる。同監視団によると、トゥルル・アッサファではこの数週間IS拠点への空爆が増え、政府軍が数百人の増援を送っていた。
 
国営シリア・アラブ通信は、政府軍が「トゥルル・アッサファで大きく前進」し、周辺地域でISの掃討を進めていると伝えた。内戦勃発から7年以上が経過したシリアでは、複数の勢力がIS掃討を続けている。

■デリゾールで空爆 9月以降最多の死者
シリア人権監視団によると、シリア東部デリゾール県で17日、IS拠点への空爆があり、IS戦闘員の家族36人を含む43人が死亡した。
 
同監視団のアブドル・ラフマン代表は、米国が支援するクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」がこのIS拠点への攻撃を始めた今年9月以降の空爆としては最も多い死者が出たと述べた。死者のうち17人は子供だったという。【11月18日 AFP】AFPBB News
***************

いかにもシリアでのISとの戦いの“大詰め”を思わせるような記事ですが、記事後半の東部デリゾールではIS側の反撃もあったようです。

****ISがシリア東部で反撃、米国の支援受けた戦闘員47人死亡****
シリア東部で抵抗を続けるイスラム過激派組織「イスラム国」が反撃に乗り出し、2日間でクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」の戦闘員少なくとも47人を殺害した。在英NGO「シリア人権監視団」が24日、明らかにした。
 
米国が主導する有志連合から支援を受けるSDFは、イラクと国境を接するシリア東部デリゾール県で、ISの残党の掃討作戦を展開している。(中略)

シリアでは、ISの戦闘員の大半がデリゾール県の一角で包囲されているが、対イラク国境に広がるバディア砂漠にも一定の勢力が存在している。【11月25日 AFP】AFPBB News
****************

今後もこうした戦闘は続くものの、シリアにおけるIS敗退の流れ自体は変わらないでしょう。

【世界各地でテロ活動を活性化させるIS勢力】
ただ、シリアにはまだ政府軍と反体制派の戦闘、北部クルド人勢力とトルコの対立という大きな火種は残っています。

それと、ISはシリアでは敗退したとしても、シリア・イラク以外の各地でISに共鳴する勢力が活発に動いており、そうした世界レベルでのIS勢力との戦いは今後も続きます。ここ数日は、パキスタン・アフガニスタン・リビア・ナイジェリアでのIS勢力のテロ・攻撃が相次いでいます。

****パキスタンの市場で自爆攻撃、31人死亡 情勢不安定な部族地域****
パキスタン北西部にある情勢の不安定な部族地域で23日、混雑した市場で自爆攻撃があり、地元当局によると少なくとも31人が死亡、50人が負傷した。

地元当局者がAFPに語ったところでは、攻撃があったのはシーア派イスラム教徒が多数を占める部族地区オラクザイの町カラヤで、定例の金曜のバザール(市場)が開かれていた最中だった。(中略)

オラクザイはアフガニスタンと国境を接する、情勢の不安定な7つの半自治・部族地域の一つ。この地域一帯は長い間、世界的な対テロ戦争の主戦場となっており、バラク・オバマ米前大統領が「世界一危険な場所」と呼んだことで知られている。【11月24日 AFP】AFPBB News
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“ISのアアマーク通信は、ISが犯行声明を出したと報じています”【11月25日 「中東の窓」】とのことですが、どこまでISが関与しているのかは知りません。(なお、パキスタンでは23日には、南部カラチで「一帯一路」を進める中国総領事館が襲撃される事件も起きています)

****アフガン軍基地内モスクの自爆攻撃、ISが犯行声明 死者27人に****
イスラム過激派組織「イスラム国」は24日、アフガニスタン東部ホスト州の政府軍基地にあるモスクで23日に起きた自爆攻撃で犯行声明を出した。
 
現場のモスクはアフガン陸軍第203軍団第1旅団の基地にあり、攻撃当時は多くの人が金曜礼拝に出ていた。この攻撃でこれまでに少なくとも27人の兵士が死亡したほか、公立・私立の医療機関の発表を総合すると少なくとも79人の軍関係者が負傷した。
 
ISは、アフガン支部組織がこの攻撃で50人を殺害、110人を負傷させたと傘下の通信社アマックのウェブサイトで発表し、「より壊滅的で悲惨な攻撃」が続くと警告した。【11月25日 AFP】
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****リビア南部の警察署襲撃、ISが犯行声明 この1か月足らずで2件目****
イスラム過激派組織「イスラム国」は24日、リビア南部のオアシスの町テザルボで23日に警察署が襲撃され少なくとも9人が死亡、11人が拉致された事件で犯行声明を出した。
 
この襲撃は、元国軍将校の実力者ハリファ・ハフタル氏率いる民兵組織「リビア国民軍」に忠誠を誓った治安要員が標的とされた。
 
ISは傘下の通信社アマックを通じて犯行声明を出し、ハフタル氏率いる民兵組織との戦闘で多数の「幹部」を捕らえたほか、戦闘員29人を死傷させたと発表した。(中略)

ISがハフタル氏に忠誠を誓った勢力を襲撃して犯行声明を出したのは、先月リビアのクフラ県で少なくとも5人が殺害されたのに続き、この1か月足らずの間で2件目。【11月25日 AFP】AFPBB News
******************

****IS、「西アフリカ州」で118人殺害と発表 勢力増強 サヘル全体に拡大?****
イスラム過激派組織「イスラム国」は22日夜、同組織が「西アフリカ州」と呼ぶナイジェリア北東部で先週、118人を殺害したと発表した。

同地域では軍事基地に対する攻撃が相次いでおり、再び勢力を強めるイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」への懸念が高まっている。(後略)【11月24日 AFP】
***************

【内戦の傷跡と内戦がもたらした歪・変化】

(ダマスカス中心部でナイトライフを楽しむ人々 【10月26日 ロイター】)

(ダマスカス中心部から10キロ程度しか離れていない東グータの中心街ドゥマ カートにトウモロコシを積み、倒壊した建物の間を売り歩く少年 【同上】)

(シリア中部にあるホムス中心部のカリディア地区 廃墟でサッカーを楽しむ少年たち 【同上】)

話をシリアに戻すと、全体的には落ち着きを取り戻しつつありますが、激しい内戦の影響は社会に大きな傷跡を残すと同時に、歪や変化をもたらしています。

****シリア内戦長期化で“思いがけない変化”も****
内戦が続く中東シリアにNNNの取材班が入った。アサド政権が内戦で圧倒的優位に立つ中、長期化した内戦は、シリア国内に思いがけない変化をもたらしていた。

シリアの首都ダマスカス。街はにぎわいを見せ“内戦下の首都”という暗いイメージはない。しかし、数キロしか離れていない近郊の東グータ地区に行くと、建物は破壊し尽くされ、無人の荒野が広がっていた。

東グータ地区は反体制派の支配地域だったが、アサド政権側が半年ほど前に制圧。激しい戦闘に加え、食料なども不足し、“地上の地獄”と言われた。(中略)

戦死した兵士の母親「今日は息子の誕生日なんです。『誕生日おめでとう』の代わりに、毎年『忘れないからね』と言うんです」

残された家族の悲しみは消えない。

36万人以上が死亡したシリアの内戦。西部のタルトゥースの墓地には内戦で命を落とした軍の兵士が眠っている。(中略)

タルトゥースは、内戦で一貫してアサド政権を支持してきた。そのため、多くの若者が軍に加わり、命を落とした。その結果、思いがけない事態も起きている。市内のマーケットで目に付くのは、女性ばかり。

未婚女性(17)「軍隊に入った若い男性がたくさん死んで、女性が多くなってしまった」

若い男性が多数戦死したため、女性たちは結婚もままならない。
未婚女性(33)「生活のために、すでに妻がいる男性と結婚する女性もいます」

イスラム教は一夫多妻を認めているが、トラブルも絶えないという。

一方、失ったものもあれば、手に入れたものもある。私たちが訪れたのは石けん工場。アサド大統領の大きなポスターに見守られながら、従業員が働いていた。

実は、石けんはもともとシリア北部アレッポの名産品。アレッポはかつて反体制派の一大拠点だったため、戦闘に巻き込まれるのを恐れ、工場を移したという。

必要な資金を融資するなど、後押ししたのはアサド政権。工場の移転先となったタルトゥースは政権を支持したことで、その恩恵を受けた形だ。

石けん工場の経営者アンマール・ナジャールさん「シリア政府、アサド大統領に感謝しています」

内戦が終わりに近づく中、シリア国内では内戦の勝者と敗者がより鮮明になりつつある。【11月16日 日テレNEWS24】
***************

【シリア政府はいち早く外国人観光客誘致に】
シリア政府は、早くも観光客誘致を始めているようです。

****観光復興を目指すシリアの光と影****
<アサド政権が経済再建の足掛かりとして外国人観光客の誘致を始めたが専門家は戦火のリスクがまだまだ高いと警告>

10月28日にシリアの首都ダマスカスで、休館していた国立博物館が6年ぶりに一部再オープンした。戦闘が続くなか、正常を取り戻しつつあることをアピールするアサド政権の思惑がちらついている。

政府は内戦の勃発から1年後の12年に、国中に広がる戦火から文化財を守るために博物館を閉鎖。収蔵品の大半は秘密の場所で保管されていた。

博物館の再開は、シリアの豊かな文化遺産が「テロリズム」に破壊されていないという「真のメッセージ」であると、ムハンマド・アフマド文化相は語っている。

7年に及ぶ内戦で35万人以上が命を落とし、1100万人以上が国内外に避難した。政府軍は今春、ダマスカスを制圧。国内では戦闘が続き、アサド政権は反政府軍の最後のとりでを攻撃しているが、その一方で観光と投資の促進に乗り出している。

シリア観光省は、国際展示会やソーシャルメディアで宣伝を始めている。観光省のフェイスブックのページは頻繁に更新され、アラビア語だけでなく英語でも、イベントの告知や観光業の求人情報などを掲載。戦争で破壊された観光地を、洗練された動画で紹介している。

10月末にもシリア西部のホムスを紹介する動画が投稿された。息をのむような美しい景色が左右に広がり、緑に覆われた山や谷の壮大な眺めが続く。戦争という現実が、はるか遠い世界のことに思える。

観光省のマーケティング部門責任者バッサム・バルシクは今年1月、スペインの首都マドリードで開催された国際観光見本市(FITUR)に参加した際に、年内に少なくとも200万人の観光客を呼びたいと語った。内戦が始まる前年の10年は観光客が850万人だったことを考えれば、ささやかな目標だ。

FITURのシリアのブースでは、北部アレッポや中部パルミラといった古代遺跡都市を宣伝していた。いずれも最近までテロ組織ISIS(自称イスラム国)の支配下にあり、数多くの遺跡が破壊された。

バルシクによれば、昨年は130万人の外国人がシリアを訪れている。「今年はシリアの国と経済の再建が始まる」

活気が戻ったダマスカス
レバノン出身のランド・エル・ゼイン(27)はヨーロッパの大学の博士課程で学んでいる。彼女は今年9月、レバノンに帰省して家族に会った後、ダマスカスを訪れた。

活気あふれるにぎやかな雰囲気に感銘を受け、生まれ育った首都ベイルートより暮らしやすそうに思えたほどだ。「ダマスカスがあんなに自転車に優しい街だとは、本当に驚いた」(中略)

31歳のレバノン女性カウサルは5〜6月のラマダン(断食月)中にダマスカスに遊びに行ったと、本誌に語った。それまではシリアに旅する友人を「頭がおかしい」と思っていたが、情勢が落ち着いてきたと判断。友人たちの誘いに乗って小旅行に出掛けることにしたという。

日没後の飲食が許される時間帯になると「旧市街は買い物やそぞろ歩きを楽しむ地元の人たちでにぎわっていて、平穏な光景だった」。一方で、短い滞在の間にも多くの国内難民を目にしたのも事実だ。

今度はもっと時間をかけてシリア各地を訪れたいかと聞くと、「もちろん」と、彼女は答えた。「多くの都市が破壊されたのは知っているけれど、復興のプロセスを自分の目で見てみたい」

とはいえ反政府派の支配下にある地域もまだかなり残っている。シリア政府軍側の攻撃に加え、米軍主導の有志連合による空爆も一部地域で続いている。

ダマスカスや北西部ラタキア県の沿岸部など比較的安定した地域でも、テロや爆発事件は後を絶たない。国外に避難したシリア人の一部は比較的安全な地域に戻り始めたが、帰国をためらっている難民のほうがはるかに多いと、アナリストは指摘する。

「シリア観光を検討している人には警告したい。戦火が収まってきたようにみえても、今はまだ非常に危険だ」と、オランダのコンサルティング会社カタリスタスのシリア専門家、アビバ・スタインは本誌に語った。

「外国人観光客を誘致できれば経済は上向くだろうが、シリアは全体としてはまだ不安定。予測不能の大規模攻撃や爆発のリスクが常にある」(後略)【11月21日 Newsweek】
*****************

内戦の大きな犠牲を考えると、“観光”を楽しむというのは憚られる感もありますが、シリア方面は多くの観光資源があるのも事実であり、また、復興に向かうシリアを見てみたいという思いもあります。

ただ、安田氏への異様なバッシングを考えると、万が一の事態のリスクも懸念されるところで、しばらくは様子見でしょう。


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スペイン  ジブラルタル フランコ総統 カタルーニャ

2018-11-24 22:59:05 | 欧州情勢

(【11月24日 読売】)

【ジブラルタル問題の扱いで、英EU離脱交渉に待ったをかけたスペイン】
イギリスのEU離脱については、11月22日にイギリスとEUが離脱後の関係の大枠を定める「政治宣言」の草案で大筋合意したものの、イギリス国内において議会承認が得られるのか、メイ首相は非常に厳しい局面にある・・・ということは周知のところです。

最大の問題となっているのは、地続きの国境線を有するものの、物・人の流れで一体化が進んでいる、また、激しいテロを伴う対立の傷が未だ癒えていない、アイルランドと英領北アイルランドの間の国境管理をどうするのか・・・という問題です。

通常の国境管理を復活させれば、沈静化している紛争を再燃させる危険性がありますが、では他にどういう方法で管理するのか・・・という話です。

ただ、ここにきて、もうひとつの問題も表面化しています。英領ジブラルタルの領有権をかねてより主張しているスペインの反発です。

冒頭記述で「大筋合意」と書きましたが、漁業問題と、このジブラルタル問題がまだ詰めの協議を必要としています。

****スペイン、英領ジブラルタルは個別に対応と主張 EU離脱合意案で****
スペインのボレル外相は19日、英国の欧州連合(EU)離脱合意案で英領ジブラルタルの扱いについて、スペイン政府による個別の合意が必要と明記されていない場合は合意協定を支持できないと表明した。

EU閣僚会合に出席するためブリュッセルに到着したボレル氏は、離脱後の英・EU関係に関する今後の協議ではジブラルタル問題を取り上げないと協定に明記することをスペインは求めていると説明。

スペイン南海岸の半島にあるジブラルタルは1713年に英領となったが、スペインはかねてより領有権を主張している。

ボレル氏は「英・EU間の交渉は領土面ではジブラルタルを含まず、ジブラルタルの将来に関する交渉は切り離して行われる」と述べた。

「これを明確にする必要があり、離脱協定や(英・EUの)将来関係に関する政治宣言で明記されない限り、協定を支持することはできない」と言明した。

ジブラルタルは英国とともに来年3月にEUを離脱する予定。ただ、2016年の国民投票では、住民の96%がEU残留を支持している。【11月20日 ロイター】
******************

離脱協定案に「英EUは将来の関係を巡る協議を迅速に行っていく」などと盛り込まれたことに対し、「将来の関係を巡る協議」からジブラルタル問題が除外されることを明文化するようスペインが求めているということのようです。

少なくとも今のところは、スペイン政府の姿勢は強硬です。

****ジブラルタル合意なければ首脳会議「なくなる」 英離脱協定めぐりスペイン首相****
スペインのペドロ・サンチェス首相は23日、英国の欧州連合離脱(ブレグジット)に関し、スペイン領に囲まれた英国の飛び地ジブラルタルをめぐる問題がまず解決されない限り、離脱協定案署名のためのEU首脳会議は「ほぼ確実になくなる」と警告した。

スペイン政府はブレグジット以降のEU・ジブラルタル関係をめぐる合意への拒否権を保証するよう求めており、それが認められなければ離脱協定を破談にすると警告している。

同首相は訪問先のキューバで行った記者会見で、「合意がなければ、欧州理事会(EU首脳会議)はほぼ確実になくなる」と述べた。

スペインは、ジブラルタルに適用される英・EU間の今後のあらゆる合意について、最初に英・スペインによる2国間交渉を行ってからでなければ署名できないとする公約を要求。これが実現すれば、EU・ジブラルタル関係をめぐる実質的な拒否権がスペインに与えられることになる。

スペイン当局者らはサンチェス首相の発言に先立ち、ベルギーのブリュッセルで、要求が受け入れられなければ同首相は首脳会議に出席しない可能性があると述べていた。

首相自身は会議の欠席について言明を避けたが、現在の「保証は十分ではないため、スペインが離脱協定を拒否する可能性は残っている」とした。【11月24日 AFP】AFPBB News
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ジブラルタルのイギリス領有は、1713年、スペイン継承戦争ならびにアン女王戦争の講和条約としてフランス・スペインとイギリス、オランダ、プロイセン、サヴォイア公国とのあいだで成立した「ユトレヒト条約」にさかのぼる・・・ということで、「世界史教科書」的な話でもあります。
(2013年8月13日ブログ“ジブラルタルを巡り、イギリス・スペインの対立がエスカレート”)

かねてより領有権を主張しながらもイギリスから相手にされないスペインとしては、EU離脱というイギリスにとっての一大事を人質に取る形で、何らかの前進を図りたいところのようです。

これまで、ジブラルタル住民はイギリス帰属を望んできましたが、EU離脱については残留を希望している(離脱したら、ジブラルタルの“孤島化”はますます強まります)ということで、住民意識レベルでも若干の変化があるかも。

まあ、交渉事ですから、どういう形で落ち着くのかはわかりませんが、前回ジブラルタルについて取り上げたのがもう5年前になる(つい1,2年前のようにも思ったのですが・・・)ということで、月日が経つのは早いものだ・・・という個人的思いを感じた次第です。

そんなつまらないことはともかく、日本も隣国との間で領土問題を抱えており、この種の問題では“熱く”なりがちではありますが、ジブラルタル問題は、「領土問題は多くの国が、途上国であれ、先進国であれ、独裁国であれ、民主主義国であれ、抱えているもので、“ごく普通にみられるもの”だとの認識は、過度に“熱く”なることを防ぐ一助になるかも」・・・との思いを抱かせてくれます。

(追記:ジブラルタル問題は合意がなされたとのことです。「直前にEU加盟国のスペインが合意案での英領ジブラルタルの扱いを巡って強硬に反発するなどEU内で足並みの乱れが表面化し、首脳会議の開催が危ぶまれたが、24日午後の英国、EUとスペインの間の協議で妥結した。」【11月24日 23:10 毎日】)

【今更の「過去の問題」か、明日に向けての重要な一歩か】
「ユトレヒト条約」は「世界史教科書」の中の出来事ですが、スペイン内戦となると、今も市民の間に傷跡を残している問題です。

そのスペイン内戦の中心人物であるフランコ総統の墓も問題は、9月14日ブログ“スペイン 独裁者フランコ総統の墓移転を決定 「民主化時代」の一歩か、「古傷」を広げる行為か”でも取り上げました。

最近、その問題に関する記事を目にしました。内容的には前回ブログからの変化はありません。

****フランコの墓移設、埋まらぬ溝 スペイン、首相方針に賛否二分****
36年にわたりスペインで独裁を敷いたフランコ総統の墓の扱いが波紋を広げている。首相が墓の移設を決めたところ、議論が噴出。同じ施設に眠る内戦犠牲者の扱いも未解決だ。自国の歴史に向き合うスペイン社会の苦悩が垣間見える。

 ■「古傷開くだけ」との批判も
深い緑の山の中腹に、高さ150メートルの巨大な白い十字架がそびえている。マドリードから北西に50キロ。1959年に完成した慰霊施設「戦没者の谷」だ。岩山をくりぬいた奥行き260メートルの聖堂がある。

内戦に勝利したフランコ総統の命令で造られた。内戦犠牲者3万人以上が眠るが、中心にあるのはフランコ自身の墓だ。兵士の巨像、聖書を題材にした巨大絵画などの装飾があふれている。
 
サンチェス首相は8月、「未来を志向する国は過去とも和解しなければならない」として、この施設からフランコの墓を移す方針を決めた。全市民がわだかまりなく訪れられるようにする狙いだ。
 
世論は割れた。スペイン紙の調査では移設賛成が41%、反対が39%。施設周辺で尋ねると、高校生のアルバロ・マルティンさん(16)は「フランコは偉大な人物。スペインを大国にしたんだから。墓を移すなんておかしい」。

ハイキングで立ち寄ったフェリックスさん(56)は「独裁は過去の話。今さら問題にしても古傷を開くだけ。年金や失業問題など、他にやることがたくさんあるはず」。
 
10月31日、芸術家の男がフランコの墓に赤いペンキのようなもので「自由のために」と書く事件があった。「親、祖父母の世代が奪われた自由に対する行動」だったと報じられた。
 
政府は混乱を避けるため、墓を移す日を明らかにせず、移設先も未定だ。フランコの遺族がマドリードの大聖堂を希望したが、10月末に「犯罪者を聖堂にまつるな」と反対する1千人規模のデモが起きた。(後略)【11月22日 朝日】
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日本にも靖国神社の問題がありますが、自らの歴史と向き合うのは、立場によって意見も分かれるため、どこの国でも難しいものです。

【独立“騒動”で経済的には減速するカタルーニャ 多様な人々の平和的共存を壊す独立幻想・・・との批判も】
スペインというと、ひと頃国際ニュースで話題になっていたのがカタルーニャ独立問題。(カタルーニャ弾圧を厳しく行ったのが上記フランコ総統でもあります)最近はあまり目にしません。

カタルーニャは独立“騒動”を受けて、経済的には大きなマイナス影響があったようです。

****カタルーニャ州経済に陰り 独立機運で企業が二の足  27日に自治権停止から1年 ****
スペイン北東部で独立機運の高いカタルーニャ州の景気が鈍っている。同州政府によると、4~6月期の同州の域内成長率は実質で前年同期比3.1%となり、17年4~6月期の同3.3%から減速した。四半期ベースでは3年半ぶりの低水準。

独自の住民投票を中央政府に否定され、自治権を停止されてから(10月)27日で1年。同州の独立機運はなお旺盛で、混乱を嫌い州内への投資に二の足を踏む企業が目立つようだ。

カタルーニャ州政府によると、スペイン国外から同州への投資は1~6月に前年同期比で4割減った。この1年間で4千社以上が登記上の拠点を同州から外に移した。

同州の面積はスペイン全体の6%ほどにすぎないが、自動車、IT(情報技術)などの産業が集積し経済規模はポルトガル全体を上回る。同州の不振はスペイン経済全体にも影を落としている。

カタルーニャ州の住民の多くが独立を望む理由は文化の独自性だけでない。同州で支払う税金の多くがほかの州のために使われていると考え、不満を持っているからだ。

10月2日にはキム・トラ州首相が、月内をメドに、独立の是非を問う住民投票の実施を中央政府のサンチェス政権が認めなければ、同政権の支持をやめると迫った。

サンチェス首相を支える社会労働党の下院議席は4分の1に届かず、少数与党として基盤は脆弱だ。この弱みを突くが、サンチェス政権はトラ氏の要求を明確に拒否している。

カタルーニャ州は2017年10月の住民投票を経て独立を一方的に宣言したが、この投票は違憲とされ、中央政府は同州の自治権を停止した。

独立派が過半数を占める州議会を背景に18年5月、州首相に就任したトラ氏は、中央政府のお墨付きを得たうえで住民投票を実施する考え。

だが9月に同州で地元紙が実施した世論調査では、独立反対が48%で、賛成は44%。すぐに州議会選がある場合、独立派は過半数を割り込むと予想される結果になった。【10月26日 日経】
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カタルーニャ経済が減速した結果、“マドリード州のGDP19.1%がカタルーニャ州18.9%を上回ったことを指摘した。これまで、カタルーニャがマドリードをいつも上回っていた。”【10月30日 白石 和幸氏 アゴラ】ということいにも。

白石氏は“スペインで民主政治を施行されてから実施されたカタルーニャでの選挙で独立反対派が得た票数は独立支持派の票数を常に上回っている。それが逆になったことは一度もない。ところが、現行の選挙制度では独立支持派政党に有利な議席の割り振りになっていることから独立支持派が常に議席総数において独立反対政党の議席数を上回っている。”【同上】とも指摘しています。

「反逆」などの容疑で逮捕状が出ており、海外に逃れているプチデモン前州首相は独立への姿勢を崩していません。

****プチデモン氏、新党設立=カタルーニャ独立宣言1年―スペイン***
スペイン北東部カタルーニャ自治州の一方的な独立宣言からちょうど1年にあたる27日、プチデモン前州首相が新党「呼び掛け」を設立した。
 
ベルギーに滞在中のプチデモン氏は、カタルーニャ州中部マンレザで行われた結党大会に中継映像を通じて参加。「1年前、われわれは何があっても戦い続けると決意した」と語り、結束強化を呼び掛けた。【10月28日 時事】
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こうしたプチデモン前州首相など独立派の主張に対する反論で、独立反対派の学者、法律家ら63人が署名しているのが下記記事です。

****カタルーニャ独立派は「2つの重大な嘘をついている」****
<分離独立ではなくスペインの民主主義に参加するべき──独立反対派の学者、法律家らによる問題解決への提言>

スペインは1978年憲法により民主主義国となって以来、40年にわたり経済的繁栄と完全な政治的自由を享受してきた。この憲法は国民投票によって承認された。カタルーニャの投票率は67.9%で、その90%以上が賛成だった(マドリード地方の賛成率よりも高かった)。

この憲法を改正して、特定の地域が独立できるようにするためには(現行では独立は認められていない)、新たなスペイン全体の国民投票が必要だ。

ところが調査会社GESOPの最近の調査によると、カタルーニャでは法的拘束力を持つ国民投票の実施に賛成する人は半分以下(約42%)のようだ。

スペイン警察が出動しなければならない事態は、そもそもカタルーニャ州政府によって引き起こされた。独立の是非を問う17年10月1日の住民投票は違憲であり、その結果は認められないにもかかわらず、州政府はそれを偽り、住民に投票に行くよう促した。

しかもこの住民投票は、カタルーニャの全住民の見解を正確に反映していない。この投票が違憲であることを認識している人たちは、投票に行かなかったからだ。

現在、スペイン法に基づき予防拘禁されているカタルーニャの政治家たち、そして刑事責任を回避するために国外に逃れた人々がそのような境遇にあるのは、スペイン憲法とカタルーニャ自治法に自ら違反して、2017年10月27日にカタルーニャ共和国の独立宣言をしたためだ。その責任追及を逃れられると期待するのは不当だ。

独立派の活動家も、その理念ゆえに拘束されているのではなく、大衆に抗議行動をあおり、法執行官の職務遂行を妨害させて、スペイン刑法が定める重罪(反乱または治安妨害)を犯した容疑をかけられているからだ。

これがアメリカでも、同様の結果が示されるだろう。米連邦最高裁は1869年、合衆国憲法は州が一方的に離脱することを認めていないと判示した。

2013年にテキサス州民10万人が独立を求める署名を提出したとき、オバマ大統領(当時)は、このことを改めて明確にした。ホワイトハウス報道官は、合衆国憲法は「(連邦から)去る権利を定めていない」とし、独立ではなく「政府に参加し、関与することが民主主義の基礎」であると述べたのだ。

私たちも、スペインの地方ごとの意見の相違は、独立ではなく、自治州としての市民的関与によって解決されるべきだと考える。スペインの地方自治制度は、ヨーロッパでも最高の自治を認めている。カタルーニャの場合は特にそうだ。

友人、家族が深く分裂
なお、この機会に独立派の主張の基礎を成す2つの重大な嘘を明確にしておきたい。

1つは、「独立は双方にとって利益になる」という主張だ。独立派は、「カタルーニャは進歩主義的で豊かなのに、時代遅れのスペインに搾取されている」という流説を広めた。

また、独立カタルーニャはより豊かで公正な国となり、EUにも簡単に加盟できると主張する。こうした約束は精査に堪えるものではなく、事実の裏付けもない。

2つ目は、「カタルーニャは1つの民族、1つの文化、1つの言語である」という主張だ。

確かにカタルーニャには独自の歴史と文化、言語がある。しかしその社会は多様で、他の地方にルーツを持つ住民も大勢いる。

「独立事業」が始まるまで、カタルーニャの多様な人々は平和的に共存してきた。独立派指導者の幻想は、その貴重な共存を打ち壊した。彼らの政治的冒険のために、友人であり家族であり隣人であるカタルーニャ人は深く激しく分裂している。

私たちは彼らの責任感に訴え、手遅れになる前に現状が是正されることを切に願っている。【11月19日 Newsweek】
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イエメン内戦  国連仲介の和平協議 サウジ人記者カショギ氏殺害事件がサウジ・アメリカに影響か

2018-11-23 22:18:43 | 中東情勢

(イエメン・タイズの病院で横になる、体重8キロという10歳の少年(2018年11月19日撮影)【11月21日 AFP】)

【最大8万5000人の子どもが餓死・病死 虚弱すぎて泣くことすらできない子も】
中東最貧国イエメンでは、イランが支援していると言われる反政府勢力フーシ派と、大規模空爆でサウジアラビアやUAEが支援する暫定政府の間で内戦が続いており、イラン・サウジの代理戦争とも見られています。

シリアなどに比べると国際社会からはあまり注目されていませんが、長引く内戦と飢餓・疫病によって住民犠牲が拡大し続けていることは、これまでも取り上げてきたところです。
(9月21日ブログ“イエメン 再開した重要港湾ホデイダをめぐる攻防 深刻化する飢餓の脅威”など)

戦闘による直接被害もさることながら、混乱状態で深刻化する飢餓や、重要港湾封鎖で援助活動もままならない状況の影響が大きいようです。

****内戦下のイエメン、最大8万5000人の子どもが餓死・病死****
子どもの支援を専門とする国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」は21日、内戦が続くイエメンで2015年以降、8万5000人もの5歳未満の子どもが、飢餓や病気で死亡した可能性があると明らかにした。この推計は国連が収集したデータを基にしたもの。

イエメンではサウジアラビア主導の連合軍が支援する暫定政権と、イランが支援するイスラム教シーア派系の反政府武装組織フーシ派が戦闘を続けており、国連は最大1400万人が飢餓に陥る恐れがあると警鐘を鳴らしている。
 
セーブ・ザ・チルドレンのイエメン統括責任者は「爆弾や銃弾で命を落とした子ども1人に対し、数十人の割合で餓死している。(餓死は)完全に防ぐことができるのにだ」と述べ、「こうした死に方をする子どもたちは、生命維持に不可欠な臓器の機能が衰え、最終的に停止するまでひどく苦しむ」と語った。
 
さらに「子どもたちの免疫システムは非常に弱いため、いっそう感染しやすく、中には虚弱すぎて泣くことすらできない子もいる。親たちは痩せ細っていく子どもを目の当たりにしなければならず、それでも何もしてやることができない」と述べた。
 
イエメンのホデイダ港には、同国への輸入食料と支援物資の約80%が入ってくるが、港は昨年から暫定政権に封鎖されている。
 
セーブ・ザ・チルドレンによると、イエメン北部への供給も南部アデンの港を使わなければならず、支援物資の配送は著しく遅れているという。【11月21日 AFP】AFPBB News
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“「セーブ・ザ・チルドレン」によると、サウジ主導の有志連合がホデイダの港を封鎖してから、食料の輸入は1カ月当たり5万5000トン余り減少した。これは、子ども220万人を含む440万人分の食料に相当する。
ホデイダの港が使えなくなり、物資を南部アデンから運び込むようになった結果、最も必要とされる場所へ届けるまでに3倍の時間がかかるようになったという。“【11月21日 CNN】

【膠着状態のホデイダ攻防】
軍事的には、上記にもある、今後の帰趨に大きく影響する重要港湾ホデイダ(現在はフーシ派の支配下)の攻防が焦点となっていますが、政府軍による奪還作戦が本格化した6月以降、サウジ・UAEの大規模支援を受けながらもあまり大きな進展はない(政府軍側が攻めあぐねている)ようです。

al jazeera net (カタール系)は、戦況について以下のように伝えています。

****イエメン情勢****
(中略)これに対して、al jazeera net (カタール系)は、これが政府軍等がホデイダを落せない理由だと題して、ホデイダの衛星写真を入手して検討したところ
・政府軍は未だホデイダ市内には入っていない
・戦闘は東部の入り口だけで行われている
・これに対してhothy軍はホデイダ全域に渡って、要塞化をし、塹壕を掘り、市の周辺40㎞に防衛体制を築いている
・このため政府軍がホデイダ港に入るには市の中心部を通る必要がある
・この写真について、hothy軍は、これまでも戦闘がホデイダ周辺の砂漠地帯で続いてきたとの主張を裏付けるものとしている。【11月22日 「中東の窓」】
*******************

国連仲介の和平協議がスタート
イエメン内戦については、先述のように国際社会の関心はあまり高くないものの、深刻化する住民犠牲に対し国連・人権団体からの批判は強まっています。

****イエメン戦争が作り出す人道的危機****
(中略)戦争は、重大な人道的危機を引き起こしている。

国連の報告書によれば、サウジの空爆は文民目標を繰り返し攻撃しているという。米国製の爆弾も文民殺害に用いられている。

最近のHuman Rights Watchの報告書は、「サウジなどの連合の行う調査が不十分で、戦争犯罪の隠蔽になっている」と非難するとともに、「サウジに武器を売却している米英仏は違法行為への加担のリスクを負う」と警告する。
”【9月24日 WEDGE】
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こうした批判に加え、サウジ・政府軍側が“攻めあぐねている”状況(フーシ派側の被害も甚大だと思われます)もあって、国連仲介で和平の模索も始まっています。

****フーシ派、サウジ攻撃の停止表明 イエメン武装組織****
内戦が続き人道危機が深刻化したイエメンで、イランの支援を受ける武装組織フーシ派は19日、敵対するサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)へのミサイル攻撃などを停止すると発表した。国連の仲介を受け入れた。ロイター通信が報じた。

サウジ主導の連合軍も、激戦が続く西部の港湾都市ホデイダでの地上作戦停止を決めたと伝えられている。国連主導の和平協議開催に向けた一歩だが、双方の不信感は強く、停戦の実現と継続には困難が伴いそうだ。

フーシ派は声明で「国連特使の要請を受け、侵略国へのミサイル攻撃と無人機攻撃の停止を宣言する」と述べた。【11月19日 共同】
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****国連特使がイエメン入りへ、和平協議準備で****
イエメン内戦の終結を求める国際社会の声が高まる中、スウェーデンでの開催が予定されている和平協議の準備のため、近く国連特使がイエメン入りすることが20日、分かった。(中略)

9月にスイス・ジュネーブで予定されていた和平協議は実現せず、国連のマーチン・グリフィスイエメン担当特使は年内の協議開催を目指している。グリフィス氏は21日、イエメンの首都サヌアでフーシ派の幹部と会談する予定。

暫定政権とフーシ派は共に先週、国連の仲介によるスウェーデンでの和平協議に前向きな姿勢を示したものの、一方で13日には港湾都市ホデイダでの両者の戦闘が激化。暫定政権軍はその後攻撃を中止したが、19日にもホデイダ東部を中心に新たな戦闘が発生し、予断を許さない状況だ。

ホデイダは人道支援を含むほぼすべての輸入品が荷揚げされる港湾都市。英国は19日、国連安全保障理事会にホデイダの即時停戦を求める決議案を提出した。【11月21日 AFP】AFPBB News
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【サウジアラビア人記者カショギ氏の殺害事件がサウジ・アメリカの対応に大きく影響】
国連のイエメン特別代表との協議のなかででフーシ派は、“和平に対し真剣であること、捕虜問題等の人道問題、ホデイダ港等の経済問題その他あらゆる問題につき、議論の用意があるとした由。しかし、停戦に関する米のイニシアティブは、kahsshoggi事件でサウディについて危機感を抱いた米国が考えたもので、イエメンの人道問題に対する憂慮から出たものではなく、米等が真剣とは考えられないと不信感を示した由”【11月22日 「中東の窓」】と語っているとのことです。

今回の和平協議の行方には、上記にもあるように、サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏の殺害事件が大きく影響しています。

まず、これまでイエメン内戦を主導してきたサウジアラビアの実力者、ムハンマド皇太子にすれば、国際世論からの批判の集中砲火を浴びている状況で、イエメン内戦を和平の方向に導くことは、批判緩和に役立つと思われます。

****イエメン武装組織、攻撃停止発表 サウジ皇太子の停戦決断が焦点****
(中略)サウジ主導の連合軍も、激戦が続く西部の港湾都市ホデイダでの地上作戦停止を決めたと伝えられている。

国連主導の和平協議に向けた一歩だが、双方の不信感は強い。実現に向けては、事実上のサウジ最高権力者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が停戦を決断できるか否かが焦点となる。【11月21日 共同】
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サウジアラビア擁護姿勢を批判されているアメリカ・トランプ大統領としても、支援するサウジアラビアがイエメン大規模介入を続けて住民被害が拡大する状況は、トランプ批判を強めることになり望んでいないでしょう。

フーシ派は、このあたりのことに不満を表明しているようですが、理由は何であれ、和平が実現するなら“良いこと”です。

さらに一歩踏み込んで、フーシ派に強い影響力を持つイランをも巻き込んで、中東全体の緊張緩和に寄与する協議がなされるなら、トランプ大統領の“ディール”も高く評価されるところでしょうが、そこまでは難しいかも。

トランプ大統領に極めて批判的なパレスチナ系メディアは、トランプ大統領の対イラン制裁を失敗と断じたうえで、以下のように論じているそうです。

*****対イラン制裁の失敗(アラビア語紙の解説)*****
(中略)トランプにとって選択肢は2つしかない
一つは戦争であるが、これは大惨事に陥る可能性が強い

もう一つはイエメンで、イランを巻き込んでの和平を探求することで、イランに対しても一定の役割を認めれば、イランもhothyグループに圧力を加える等、協力してくる可能性も強い【11月23日 「中東の窓」】
****************

イランを巻き込んだ和平協議が“中東全体の緊張緩和に寄与する”とは書きましたが、もともとトランプ氏自身が火をつけて煽り立てている緊張であり、その火の手を幾分抑えるだけの話です。

和平協議のスケジュールについては、以下のように。

****イエメン和平協議、12月初めにスウェーデンで開催か=米国防長官****
マティス米国防長官は21日、イエメン内戦当事者間の和平協議が12月初めにスウェーデンで行われる公算が大きいとの認識を示した。

イスラム教シーア派武装組織フーシ派と政府関係者が出席するとの見通しを示した。記者団に語った。

マティス氏は、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)がイエメンの主要港湾都市ホデイダ付近で攻撃活動を中止し、一部で戦闘はあったものの、前線の状況は少なくとも72時間変化がないと指摘した。【11月22日 ロイター】
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アメリカ・トランプ大統領  各方面との確執を乗り越えて、なお揺るがない権力

2018-11-22 23:04:04 | アメリカ

(【11月27日号 Newsweek日本語版】矢面に立たされる軍としては、望まない事態でしょう)

【ムハンマド皇太子の関与の有無に関わらずサウジとの関係維持を重視 議会には批判も】
トランプ大統領と野党・民主党の間で激し対立があるのは当然のこととして、政権発足当初から、共和党内部、司法、本来大統領の意を受けて政策遂行にあたる国防総省・国務省・CIAなどの各種機関、主要メディアと“個性的”な大統領の間で深刻な確執が取りざたされています。

ホワイトハウス内部の確執も多々ありますが、いささか食傷気味で、今日はパスします。

こうしたことは今更の話ではありますし、言っても詮無いところもありますが、さすがにこれだけそろうと面白いと言うか、なんと言うか・・・。

サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏殺害事件では、トランプ大統領がムハンマド皇太子関与を明確にせず、サウジ擁護姿勢を続けているのに対し、CIAがムハンマド皇太子関与を結論付けたという情報が報じられています。

CIAの判断が報じられた背景は、サウジアラビア寄りの大統領が強引に皇太子関与を否定する方向で幕引きを図ることを懸念したCIAが、敢えて情報をリークしたとも言われています。

共和党を含む議会にも、皇太子の殺害関与を無視した大統領のサウジ擁護姿勢には批判があります。

****記者殺害「幕引き」図る 超党派で反発の動き****
トランプ米大統領は20日、サウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏殺害事件について、サウジ政府の実質的な最高実力者、ムハンマド皇太子の関与の有無に関わらずサウジとの関係維持を重視するという声明を発表した。

巨額の武器販売など経済的な利益が「米国第一主義」につながると強調し、事件の幕引きを図った形だが、米議会では超党派でサウジへの武器禁輸の法制化を目指す動きが出るなど、反発が広がっている。
 
ムハンマド皇太子の関与について、トランプ氏は20日、ホワイトハウスで記者団に「彼がやったかもしれない。やっていないかもしれない。米中央情報局(CIA)はまだ何も結論を出していない」と述べた。

米メディアは16日、CIAが、皇太子が殺害を指示したと結論付けたと報じ、20日にトランプ氏はCIAから包括的な報告を受けるとしていた。
 
また、トランプ氏は皇太子が今月末からアルゼンチンで開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議に出席すれば「会談する」とした。実現すれば、トランプ氏と皇太子の事件後初めての接触となる。

真相究明よりも、対イランなど中東戦略の柱であるサウジとの関係維持を優先する姿勢は、国際社会から批判を浴びそうだ。
 
◇「サウジが武器購入や投資で50兆円の商談を約束」
記者団への発言に先立ちトランプ氏が20日に発表した声明は冒頭に「米国第一!」と表記。サウジが米国からの武器購入や投資など4500億ドル(約50兆円)の商談を約束しているとし「米国にたくさんの仕事と素晴らしい経済発展をもたらす。キャンセルすれば、ロシアや中国がビジネスチャンスを奪い、とてつもない利益を得るだけだ」と主張した。
 
また、サウジが原油価格の安定に貢献しているとし、「合理的な水準にしてほしいという私の要求によく応えてくれている。世界にとっても重要なことだ」と訴えた。(中略)

一方で、米議会からはトランプ氏の声明に批判の声が相次いだ。AP通信によると、民主党のシフ下院議員は「疑惑に沈黙して武器を売却することは、人権擁護の第一人者としての米国の立場を傷つける」とコメントした。

事件に関与した王室関係者や当局者に対する制裁措置や武器禁輸の法制化を目指す超党派の動きには、トランプ氏と近い共和党のグラム上院議員も賛同しており、「米国は国際社会で道徳心を失うべきではない」と主張している。【11月21日 毎日】
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自国の雇用・経済に都合がよければ、殺人者でも弾圧者でもかまわない・・・ということであれば、これまで欧米・日本が対峙してきたロシア・中国、あるいは多くの独裁国家の論理と大差がありません。

なお、皇太子関与については明確な情報は公表されていませんが、下記のようにも報じられています。

****サウジ皇太子、「カショギを黙らせろ」 CIAが録音保有=報道****
トルコのニュースサイト、ヒュリエットは22日、サウジアラビアのムハンマド皇太子が「できる限り早くジャマル・カショギを黙らせろ」と電話で命令しており、米中央情報局(CIA)がその音声記録を保有していると報じた。

ハスペル長官が先月アンカラを訪問した際、録音した記録の存在を「示唆」したと、トルコの著名コラムニストが明らかにしたという。(中略)

トルコ政府高官はロイターの取材に対し、そうした音声記録に関する情報は持っていないと述べた。【11月22日 ロイター】
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トルコも正式なサウジ批判は控え目に制御しながらも、サウジに不利な情報を小出しにリークする形で、アメリカ・サウジアラビアとの関係で自国に有利な状況を引き寄せようとしています。

【「オバマ判事」発言に最高裁長官反論】
司法との関係でも、トランプ大統領の「オバマ判事」といった露骨な司法批判に対し、最高裁長官が反論するという異例の展開になっています。

****トランプ氏に異例の反論声明=「オバマ判事」発言に苦言―米最高裁長官****
トランプ米大統領が政府の難民政策に差し止め命令を出した連邦地裁判事を「オバマ(前大統領)判事」とやゆし、波紋を広げている。

ロバーツ連邦最高裁長官は21日、「オバマ判事もトランプ判事もいない」と反論する異例の声明を出し、司法判断に介入するトランプ氏に苦言を呈した。
 
トランプ氏は9日、中米から北上する「キャラバン」と呼ばれる移民集団の米国入りを阻止するため、関連規則を変更し、不法入国者による難民申請を事実上拒否すると発表。これを違法と主張する人権団体の提訴を受け、西部サンフランシスコの連邦地裁は19日、新規則の適用を1カ月間差し止める暫定命令を出した。
 
トランプ氏は20日、記者団に、地裁命令を「恥さらしだ」と非難。同地裁や上級審のサンフランシスコ連邦高裁の判事を「オバマ判事だ。もう(今回のような決定は)やらせない」などと語った。
 
ロバーツ長官は米メディアへの声明で「独立した司法は、われわれすべてが感謝すべきものだ」と訴え、トランプ氏の姿勢を批判した。

ブッシュ(子)元大統領に指名されたロバーツ氏は、9人で構成する連邦最高裁判事の中で、保守派と位置付けられている。【11月22日 時事】 
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ロバーツ長官の“感謝”云々は、サンクスギビング・デー(感謝祭の祝日)の前日という時期を意識したものです。

ロバーツ長官の苦言に対し、“トランプ氏は21日にこれに反論。ツイッターで「ジョン・ロバーツ長官、残念だが『オバマの判事』は実際にいるし、彼らは我々の国の安全を守っている人たちとはかなり違うものの見方をしている。第9巡回(連邦控訴裁判所)が本当に『独立した司法』だったらすばらしかったが、もしそうなら、なぜこんなにたくさんの真逆の(国境と安全についての)案件があるんだ。なぜこうした案件の大半が却下されているんだ。数字を見てくれ、ショッキングだから。保護と安全保障が必要なのに、裁判所の決定はこの国の治安を悪くしている! とても危険で愚かだ!」と述べた。”【11月22日 BBC】とのことで、ひるむ様子はありません。

“案件の大半が却下”される理由は、司法の「オバマ判事」のせいではなく、自身の判断のゆがみにある・・・という発想は大統領にないようです。

【移民キャラバンをめぐる対応で国防総省と温度差】
メキシコ国境に集結しつつある“移民キャラバン”をめぐる対応でも、支持者受けを狙って、軍を派遣しての強硬な対応を主張する大統領と矢面に立たされる国防総省の“温度差”が目立ちます。

****米軍、国境から順次縮小か トランプ氏と温度差****
中米諸国からの移民集団の北上を受け、トランプ米政権が国境地帯に派遣した米軍が所定の任務を終えたとして「数日以内にも」態勢を順次縮小する予定であることが20日までに分かった。米政治専門サイト「ポリティコ」が現地で指揮を執る軍高官の話として伝えた。

米国と国境を接するメキシコ北西部ティフアナなどには移民らが続々と到着。トランプ大統領は17日、米兵派遣を「必要な限り続ける」と強調しており、国防総省と温度差が顕在化した格好。

派遣された5千人以上の米兵には警察権行使が認められておらず、国境への有刺鉄線やフェンスの設置など後方支援が任務だった。【11月21日 共同】
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トランプ大統領の強硬姿勢は相変わらずです。

****米、不法移民に武器使用も=トランプ氏が軍に権限付与****
米CNNテレビは21日、トランプ米大統領が中米諸国からの不法移民取り締まりの一環として、メキシコ国境に派遣された米軍部隊に一定の条件下で武器使用権限を与えたと報じた。
 
ホワイトハウスが国防総省に宛てた通達によると、メキシコ国境に派遣された軍部隊には「群衆整理や一時的な身柄拘束」を実行できる権限が認められた。

また、群衆が暴徒化した場合、税関・国境警備局要員を保護するなどの目的で、「必要であれば殺傷力の高い武器」の使用も承認した。【11月22日 時事】
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大統領は、「兵士に向かって石が投げられれば、それは銃器と見なすとし、石と銃弾にはほとんど差がない」と発言したり、翌日には「発砲するとは言っていない」と後退するなど、これまでも迷走しています。

****トランプ米大統領、不法移民への発砲否定=「火器使用検討」から後退****
トランプ米大統領は2日、中米から米入国を目指し集団で北上する不法移民の取り締まりで、米治安要員が火器を使用する可能性について「発砲する必要はない」と述べた。

トランプ氏は1日、不法移民が投石するなどした場合は「火器使用も検討する」と発言したが、トーンダウンさせた。
 
トランプ氏は前日の発言に関し「『発砲する』とは言っていない」と釈明した。一方で、不法移民が米要員を襲撃した場合は「逮捕して長期間拘束する」と明言した。【11月3日 時事】
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軍としては、大統領の人気取りのために移民・難民に発砲するといった事態は勘弁して欲しいところでしょう。

****メキシコ国境の米兵、移民には警棒のみで対応 米国防長官****
米国を目指す中米からの移民集団(キャラバン)の到着に供えて対メキシコ国境に配備された米軍兵士について、ジェームズ・マティス米国防長官は21日、暴動を鎮圧するための介入はできるが、装備は警棒のみになると述べた。
 
マティス長官によると、ホワイトハウスは米兵約5800人を国境に派遣し、米税関国境警備局の職員が攻撃された際に支援を提供できるよう備えている。
 
ただ、移民たちが国境検問所を強行突破しようとした場合でも、対応するのは盾と警棒を持った憲兵のみで、「武装要員は介入しない」可能性が高いとマティス長官は説明した。
 
メキシコ内務省によると、現在同国内を北上中の移民は約8000人に上る。その多くは、ギャングの暴力が横行し世界でも殺人事件の発生件数が特に高い「北部三角地帯」と呼ばれるエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの3か国から、貧困と社会不安を逃れてきた人々だ。
 
ドナルド・トランプ米大統領はキャラバンの米入国を阻止するため軍の投入を命じたが、今月7日の中間選挙を見据えたカネのかかる政治的パフォーマンスだと批判されている。【11月22日 AFP】
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肝心の移民キャラバンの問題は、長くなるので別機会に。
日本でも、朝鮮半島有事の際に大量難民が押し寄せたらどのように対応するのか・・・という議論がありますので、ながち日本と無縁のものでもないのかも。

【“トランプ”を生む社会】
これだけ各方面と衝突しながらも、その支持基盤は大きく揺らぐこともなく、弾劾が非現実的なことはおろか、次期再選の話すら出てくる・・・・というのは“すごい”としか言いようがありません。

ただ、既存の政党政治・三権分立・行政制度・メディアによるチェックなどを超越した権力者として存在するということでもあり、これまでとは異質な政治権力のもたらすものを熟慮する必要があります。

一番の問題は、トランプ大統領の言動というよりは、移民を蹴散らせば人気が上がる社会、様々なスキャンダル・問題発言をも許容する社会、“トランプ”なるものを生み出した社会の在り様の問題でしょう。

そして、アメリカに限らず、各地で“ミニトランプ”が生まれ続ける事態を阻止できない既存政治の問題でしょう。

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深夜の牛丼チェーン店で、外国人スタッフと客の外国人が日本語でやりとりする社会

2018-11-21 23:32:45 | 世相

(【6月22日 唐鎌 大輔氏 東洋経済ONLINE】 日本の労働者の50人に1人が外国人労働者で、過去5年間に増加した労働者の5人に1人が外国人という状況にあって、すでに外国人労働者なしでは回らない現実があります。)

【「眠らぬ国」支える留学生】
下記記事にもあるように、深夜の牛丼チェーン店で、外国人スタッフと客の外国人が日本語でやりとりする・・・といった光景も、そんなに珍しくはない状況になっています。

先日東京を訪れた際に、そのような光景を実際に目にして「なるほどね・・・」という感慨もありました。

****「眠らぬ国」支える留学生 深夜の牛丼屋にベトナム人、休憩時は漢字勉強…バイト先巡り見えたニッポンの今****
24時間営業のコンビニや牛丼屋。実は、留学生に人気のアルバイト先なんです。そういえば最近、アジア系の店員が増えている気がしませんか?(中略)

深夜勤務者、日本人はゼロだった
多くの留学生にとって、アルバイトは貴重な収入源。(牛丼屋でバイトする、都内の日本語学校に通うベトナム人留学生)ランさんも半年分の授業料だけは親に用意してもらい、残りはすべて自分でまかないます。

留学生は、日本の法律で週28時間までのアルバイトが認められています。上限まで働いて、収入は月12万円ほど。ここから学費や家賃、生活費を支払えばほとんどお金は残りません。

牛丼屋の時給は1200円。夜10時以降になれば、1500円。少しでも高い時給がもらいたい。深夜帯に留学生が多いのは、そんな理由があるからです。

この日、ランさんの勤務は午後11時から翌朝5時まで。もう1人のアルバイトも、ベトナム人の男子大学生。日本人のスタッフはゼロでした。

やがて店内に1人の若者がやってきました。コールセンターで夜勤をしているというモンゴル人の男性(27)。休憩中に腹ごしらえに来たそうです。

「お水、もらえますか」 「少々お待ち下さい」

外国人同士が日本語でやりとりをする……。こんな光景は、もはや珍しくない時代になってきています。

留学生アルバイトは「紹介制」
取材を続けようと、再び夜の街へ。次に入ったのはコンビニです。

客のいない店内。黙々と商品を棚に補充していたのはウズベキスタン人のベクさん(22)。昨年4月から都内の日本語学校に通う学生です。

かつては中国人や韓国人などが多かった留学生。しかし近年、ベトナム人を中心に広くアジア圏の学生が急増しています。中国などの経済発展が進んだ一方、東南アジアなど発展途上の国からの留学生が増えているのです。

ベトナムやネパールを筆頭に、スリランカやバングラデシュ、ミャンマー、モンゴルなど夜の東京では多様な顔ぶれに出会います。

この10年でベトナム人留学生は19倍、ネパール人は13倍に増加。ウズベキスタン人も6倍以上になっています。

 「ベクさんはなぜこの店に?」 「お兄さんたちが働いていたので、紹介してもらいました」

よく聞くと、「お兄さん」というのは同郷の先輩のこと。(中略)

実は外国人アルバイトはよく職場で「重宝」されています。理由は、働きぶりもよく、仲間のアルバイトを連れてきてくれるから。日本の若者が減るなかで、「友達を紹介して」と店長に頼まれる留学生も多いといいます。(中略)

外国人がつくる「不夜城」

この国が、いかに「アルバイト留学生」に支えられているか……。夜の東京を歩くと、それを思い知らされます。

いま、日本は深刻な労働力不足に直面しています。留学生なくしては、コンビニも牛丼屋も24時間営業を維持できないのは確実でしょう。

安い弁当を食べられるのも、新聞が毎朝自宅に届くのも、留学生たちのおかげです。日本語がまだ上達していない学生たちは、倉庫などで単純作業のアルバイトに励んでいます。

日本の制度では、「外国人労働者」を受け入れられる職種は限られます。だから、各業界は「アルバイト」に目をつけました。

本来は勉学のために来日した留学生をアルバイトとして雇うのは、「抜け道」だとの批判もあります。勉強よりアルバイトが優先になる本末転倒な留学生も生んでいるからです。

「世界に向けてより開かれた国」を目指し、日本は留学生受け入れを進めてきました。その結果、留学生数は30万人を突破しました。しかし同時に、「労働力」としての留学生に依存する社会をつくり出すことにもなったのです。【11月21日 withnews】
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【現状の問題点を隠蔽するかのような「ミス」の不思議】
現在、外国人労働者の受け入れ拡大を目指す法案が国会で審議されているのは周知のところですが、議論の重要な資料となる失踪外国人技能実習生への聞き取り調査結果に誤りがあったことも問題となっています。

****国の失踪実習生の調査に誤り 理由が賃金87%→67%****
(中略)政府が16日の同委理事懇談会で明らかにした誤りは、失踪した外国人技能実習生への2017年の聞き取り調査結果。7日の参院予算委で山下貴司法相は「より高い賃金を求めた失踪が約87%」と答弁していた。

だが、法務省の実際の調査結果は「低賃金」による失踪が「約67%」で、山下氏の答弁は項目名も数値も違っていた。(中略)

政府が修正した外国人技能実習生の失踪理由
【項目名も数値も違う】
×「より高い賃金を求めて」86.9% → ○「低賃金」67.2%
     
【数値が違う】
「指導が厳しい」×5.4% → ○12.6%      【11月16日 朝日】
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「より高い賃金を求めて」と言うと、失踪外国人の身勝手な理由で・・・というイメージになりますが、実際は“「低賃金」が1929人と約67%を占めた。このうち、法令違反に当たる「低賃金(契約賃金以下)」は144人、「低賃金(最低賃金以下)」は22人だった。”【11月20日 朝日】と、契約違反・法令違反の低賃金も多く含まれているようです。

間違いは誰でも犯すものとは言いつつも、どうしてこのような間違いが起きるるのか不思議です。
しかも、現状の問題点を覆い隠そうとする方向のバイアスがかかった誤りが・・・

現状の問題点を洗い出し、その改善を図ったうえで拡大する・・・というのが正論でしょう。
そうしないと、外国人労働者にとっては苛酷な、また、日本にとっても不名誉な「奴隷労働」を拡大し、結果的に「失踪」などが増加し、犯罪などへ関係する外国人も増えるといったことにもなりかねません。

そして、そのような流れは、国民の外国人への反感を高め、社会の深刻な変質をもたらすことにもなります。

****月給数万円、借金100万円…失踪した技能実習生の実態****
外国人労働者の受け入れ拡大のための出入国管理法の改正案に関連し、法務省は19日、受け入れ先の企業などから逃げ出した外国人技能実習生2870人への聞き取り調査の詳細を衆院法務委員会の理事らに示した。

実習生の多くが月給を「10万円以下」、母国の送り出し機関に支払った額は「100万円以上」と回答しており、「国際貢献」をうたいながら「安価な労働力」として酷使されている実態の一端が浮かんだ。(中略)
 
失踪理由では(「低賃金」の)他に「実習終了後も稼働したい」が510人、「指導が厳しい」が362人、「労働時間が長い」が203人、「暴力を受けた」が142人だった。(中略)
 
実習生は違法な長時間労働などの不正が社会問題となり、昨秋に施行された技能実習適正化法で受け入れ先への監督を強化するなどしている。

だが、今年上半期(1~6月)にも4279人と過去最高のペースで失踪が起きており、効果は見えていない。野党側は技能実習制度に問題があるとして、国会でも追及する方針だ。
 
技能実習制度に詳しい川上資人弁護士は「本来は失踪者に限らず、全ての技能実習生から聞き取り、制度改善につなげるべきだ。多額の保証金や手数料を課す、悪質な仲介業者の排除が必要だ」と指摘する。【11月20日 朝日】
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単に低賃金だけでなく、本人に説明なく「除染」などの危険な仕事を行わせる・・・といったこともあるようです。

****「誰でもできる」教えられた技能は「除染」だった ベトナム人実習生が見た日本の地獄****
「外国人技能実習制度」が問題になっています。本来の目的は日本で働きながら技能を身につける「途上国への技術移転」。

けれどその実態は、農業や漁業、建設など人手不足の現場で、日本社会を支えるために働いています。一方で「実習先」によっては、地獄を見る実習生もいます。働ける3年の間、日本での実習の明暗を見た、とあるベトナム人青年の思いをたどりました。(中略)

(ベトナム人実習生)カインさんに割り当てられたのは、放射性物質が付いた可能性があるものを取り除く「除染」と呼ばれる作業でした。

実習生の受け入れ窓口である監理団体の代表からは「仕事は簡単。だれでもできる」としか説明されませんでした。「私は日本語はできなかったし、通訳もいなかった」。もちろん「除染」の話は出ませんでした。

その後、岩手県釜石市に移り、住宅解体工事などをしました。16年9月には再び福島県に。避難指示区域だった同県川俣町で、国直轄の建物解体工事に従事しました。

スコップで落ち葉などを集めました。このとき心が騒いだと言います。住民の姿が見えない町。マスクをつけないと仕事場に近づけない。

「特別手当」を渡されたとき、さすがに「親方、これは何ですか」と聞いたら「危険手当だ」と返されました。驚き、「どんな危険があるんですか」と食い下がると、「嫌なら帰れ」の一言で話を打ち切られたそうです。
 
「何かおかしい」。不安が膨らむ中で、それでも約4カ月、働き続けたと言います。

「分かっていたら、絶対日本に来なかった」

手取りは12万円程度でした。でも、働かざるを得ない理由がありました。日本に来るため、銀行から借りた100万円超。ベトナムの平均年収で、数年分を返済しなければならなかったからです。それに、実習生は自由に勤務先を変えることもできません。与えられた仕事をこなすしか道はなかったのです。

17年に入り、福島県飯舘村、山形県東根市、仙台市と転々とした後、3月にまた川俣町で約2カ月間、建物解体作業をしました。直後に、知りあったジャーナリストから「除染は危ない」と忠告され、初めて放射能のリスクを知りました。11月22日、寮を飛び出し、支援者が運営する郡山市の保護施設に身を寄せました。

「危険な作業だと分かっていたら絶対に日本に来なかった」。そう私に悔しがったカインさん。インタビューを受けた18年3月、上野公園で外国人労働者の支援集会に参加し、ステージ上で「告発文」を読み上げました。

「郡山で除染の仕事をしました」「自分の体がどうなってしまうのか、とても心配です」(中略)

事態が動いたのは、カインさんが3月に東京・上野公園で告白のスピーチをして間もなくでした。新聞やテレビが「除染実習生」と大々的に報じ、国も重い腰を上げました。

「除染作業は技能実習の趣旨にそぐわない。これからは除染作業を含む実習計画は認めない」と発表しました。(後略)【11月18日 withnews】
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【日本は「選ばれる国」か?】
こうした外国人労働者の置かれている「使い捨て」状態を改善していかないと、政府・産業界が期待する人材を日本に呼び集めることも難しくなります。

****(多民社会)日本は「選ばれる国」か 人手補う外国人、五輪工事も****
人口減少と高齢化、そして現役世代の減少にさいなまれている国は、日本だけではない。世界的規模での人材争奪競争は、すでに始まっている。日本は「選ばれる国」なのか。(中略)
 
 ■ベトナム出稼ぎ、人気は台湾
ひなびた農村とは似合わぬ立派な家が通りに並ぶ。ベトナムの首都ハノイから車で2時間弱。フートー省ビンライは、外国への「出稼ぎ村」だ。豪華な家屋と裏腹に人通りは少ない。人口の3分の1の2900人、特に35歳以下の若者の多くが外国で働く。
 
「うちは台湾、隣は韓国。あっちは日本だ」と住民が近所の家々を指さした。それぞれ、建設費を稼いだ場所だという。村では20年前からドイツやロシアへの出稼ぎが始まった。近年人気なのは台湾。日本や韓国も続く。

(中略)今は「出稼ぎブーム」に沸いているようにみえるベトナムだが、梅田大使は「5年、10年経てばベトナムでも高齢化が進み、介護職などの需要が増える。いつまでも今のようにはいかないだろう」と言う。(中略)

 ■人材争奪戦、次はミャンマー
競争が激しいベトナムに見切りを付け、ほかの国に人手を見いだそうという動きも出ている。
ミャンマーの古都バゴー。今月、日本の介護の技術などを紹介するセミナーが開かれた。地元の介護職員ら約50人が参加し、実演に身を乗り出して見入る。(中略)

 ■日本は囲い込み
ミャンマー政府とセミナーを共催した日系の人材紹介派遣会社ジェイサットの狙いは、日本へ送り出す人材の「囲い込み」だ。西垣充代表は「日本の介護はやはり違うとわかってもらえた」と笑みを見せた。
 
日本政府は昨年、技能実習制度に介護を追加したが、人材供給を期待していたベトナムには、介護・看護人材の獲得を進めるドイツが食い込んでいる。労働条件や賃金などで、日本はドイツに太刀打ちできないと西垣さんは考える。「ドイツは早晩ミャンマーにも手を伸ばすだろう。台湾やシンガポールも。その前に日本ファンを作るのが大切」

 ■待遇改善、韓国が先行
韓国は04年、単純労働を認める雇用許可制(EPS)を導入した。
 
以前は日本の技能実習制度を参考に「産業研修生制度」を導入していた。だが不法滞在や賃金の未払いが相次ぎ、EPSに切り替えた。「移民は受け入れない」という点は日本と同じだが、労働者を送り出すベトナムやフィリピンなど計16カ国と国同士で協定を結ぶ。
 
外国人労働者は韓国政府が運営する就労支援センターに登録。政府が各企業に割り当てる。悪質な企業は排除され、法外な手数料をとる「ブローカー」が暗躍する余地もない。(中略)
 
EPSの申請手続きを代行する「中小企業中央会」外国人労働者支援部のチョ・ジュノ副部長は自負する。「たとえ、国際的な人材獲得競争が激化しても、外国人はこの国に集まる」
 
 ■<視点>「使い捨て」しない国に
「外国人に選ばれる国をめざす」と菅義偉・官房長官はいう。他国との人材獲得競争には何が必要か?

 移民を分析する時、国際機関などは二つの視点から見る。フロー(流入)とストック(滞在)。どんな人をどれだけ入れるか。そして、どう社会の一員として受け入れ、統合するか。
 
日本政府に欠けているのはストックへの視線だ。
2001年の米同時多発テロの直後、パリ郊外にイスラム過激派を礼賛する若者たちの姿があった。フランスに生まれ育った移民の2世、3世だ。進学も就職もうまくいかない――。取材で浮かび上がったのは「社会の一員になりたいのに拒まれている」という切ない思いだった。
 
英国で移民系の若者がテロに走った時は「多文化主義」への批判が出た。
移民の文化に干渉しないという「寛容」の実態は、無関心と没交渉だった、だから狂信者の接近を見逃したのではないかという反省だ。
 
移民受け入れで先行してきた欧州の試練も、やはりストック面にある。日本政府はその負担を極力避けるため、外国人をいずれ帰国する「出稼ぎ」と位置づける。「移民政策はとらない」と繰り返す。フローの視点のみで乗り切ればよいという考えだろう。
 
だが、それは非人道的なばかりか非現実的だ。
 
英国で移民の境遇を調べた時、日本の非正規雇用の人と重なると感じた。将来が不安定で、家族とも暮らせない雇用の調整弁。日本は「移民は不要」といいながら同胞を「疑似移民」にしてきたのではないか。
 
日本人でも外国人でも、人を労働力としてだけ見て「使い捨て」する国は「選ばれる国」にはなれない。
 
日本の危機は単なる人手不足ではなく、深刻な少子高齢化だ。この国の生活や仕事になじんだ人を手放す余裕などない。【10月29日 朝日】
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【外国人従業員が約3千人加入する企業内労働組合】
本来、外国人労働者の境遇に最も関心を払うべきなのは同じ労働者の組合であるはずですが、日本の労組は日本人正規雇用労働者という「恵まれた境遇の労働者」の権益を守る組織という色合いが強くあります。

そうしたなかにあっても、外国人労働者を多く組織した組合も出てきているようです。

****3分の1が外国人、「日高屋」労組結成 組合員9000人、大半が非正社員***
中華料理店「日高屋」を首都圏で約400店展開する「ハイデイ日高」(本社・さいたま市)で、外国人従業員が約3千人加入する企業内労働組合が結成されたことが分かった。

組合員の約3分の1を占めるといい、これだけ多くの外国人が入る労組は極めて異例だ。政府が外国人労働者の受け入れ拡大を進める中、外国人の待遇改善をめざす新たな動きとして注目を集めそうだ。(中略)

国内の労組は、組合員の大半が日本人の正社員で占められてきた。厚生労働省の調査によると、国内の約1千万人の組合員のうち9割が正社員。外国人の数を示すデータはない。

一方、人手不足が深刻な外食や流通業界などで、急増する非正社員を労組に迎え入れる動きが加速している。正社員だけの労組では組織が尻すぼみになりかねないためだ。

外国人の労働事情に詳しい日本国際交流センターの毛受(めんじゅ)敏浩執行理事は「日本の労働市場に、すでに外国人が相当入り込んでいることの表れだ」とみる。

一方で「要求のとりまとめは日本人以上に難しい」(外国人の労働相談を受ける地域労組の代表)との指摘があり、言葉や文化の壁があるなかで組合員の要求をどう集約し、実現していけるかが課題になりそうだ。【11月21日 朝日】
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