孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

メコン川水資源をめぐる流域国の争い 日本も関与している流域開発

2018-09-30 22:19:47 | 東南アジア

(ラオスではまだまだ河とともに生きる昔ながらの暮らしが残っている【室橋裕和氏「ラオス 中国のダム建設で環境破壊も」】)

韓国企業の手抜き工事の可能性も指摘されているセピアン・セナムノイ・ダム決壊
今日午前中、台風24号が鹿児島本土の南方を通り過ぎて行きました。
すでに、フィリピン東には次の台風25号が控えており、これも1週間後ぐらいには24号と同じようなコースをたどる可能性も。

このところの日本は台風、豪雨、地震と災害が続いており、なんだか落ち着かない感も。

インドネシアの地震・津波も、今は死者832人とのことですが、被害が最も大きかった都市の被害状況がよく把握できていない段階での数字ですから、今後、数千人規模に拡大することもありえる状況です。

そんな国内外で災害・事故が相次ぐなかでは、2か月も前のラオスの事故などは印象が薄くもなりますが、ラオスでは7月23日にカンボジア国境も近い南部アッタプーで建設中だったダムが崩壊する事故が発生して話題にもなりました。

周辺の村々が濁流に飲み込まれ、これまでに39人が死亡、97人が行方不明となっています。また6000人以上が避難生活を余儀なくされており、下流域のカンボジアでも5000人あまりが家を失ったそうです。

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建設を請け負っていたのはPNPC(セピアン・セナムノイ電力)という3か国による合弁企業だ。ラオスの国営企業、タイのエネルギー大手であるラチャブリー電力、そして事業主体を担っていたのは韓国のSK建設と韓国西部発電である。

インドシナ半島を貫く「母なる大河」ともいわれるメコン河の支流で建設が進んでいたセピアン・セナムノイ・ダムだったが、工事がおよそ90%ほどまで進んでいたところで決壊。50億立方メートルの水が土砂とともに流出したと見られている。

そのとき、インドシナ半島には台風9号(ソンティン)が襲来、ベトナムで多量の雨を降らせ、首都ハノイでは各地で洪水が発生するなど大きな被害をもたらしていた。

日本と同様、毎年この時期には台風が多く、東からインドシナ半島に侵入してくる。そして半島の背骨のように南北に続くラオスの山岳部で停滞し、周辺は大雨となる。

ダムは7月20日に一部の損壊が発見され、住民の避難がはじまったものの、豪雨のために修復工事ができず決壊に至った。事故の原因については韓国企業の手抜き工事の可能性も指摘されており、今後の調査が待たれるところだ。【後出 室橋裕和氏「ラオス 中国のダム建設で環境破壊も」】
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工事が適正に行われていたのかも問題になるなかで、ラオス政府は新規ダム建設を全面中止し、日本を含む海外の専門家を招いて決壊原因の解明を進め、建設企業などの責任を追及する構えを見せています。

【「東南アジアのバッテリー」として成長を目指すラオス
多くの国が経済的に成長する東南アジアにあって、資源が乏しい内陸国であるラオスはこれまで成長の波から取り残されてきました。

そんなラオスが経済成長の基軸として期待している資源が、大河メコン川の水力を活用した「電力」で、相次ぐダム建設で「東南アジアのバッテリー」ともいわるまでになっています。

****ラオス 中国のダム建設で環境破壊も****
(中略)そんなラオスで好調な産業が「売電」なのである。メコン河やその支流などを利用した水力発電ダムを次々に建設、電力を周辺諸国(おもにタイ)に輸出している。その発電量は6390.9MW(2016年)に達しており、「東南アジアのバッテリー」ともいわれている。

2016年には中国によって、北部ルアンパバン県にナムカン3ダムが建設されるなど、新たに4つのダムが稼動をはじめた。国内には42か所の発電施設があり、さらに各地で建造が続く。

中部のボリカムサイ県では、関西電力によってナムニアップ1水力プロジェクトが進む。やはりメコン河の支流であるナムニアップ河に、発電容量計29万kwの発電所を2基、建設する。電力はこちらもタイへと輸出される。

大林組やIHIインフラシステムなどが計画に参加し、運転開始は2019年1月の予定。このダムの総貯水容量は約22億立方メートルで、日本最大級である黒部ダムの10倍以上という規模になる。

莫大な発電量を持つラオスでは電気料金は安価で、家庭用の場合1kw/hあたり0.05〜0.08米ドルだ。東京0.16〜0.25米ドル、プノンペン0.15米ドルと比べてみるとその安さがわかる。
工業用の電力も同様で、1kw/hあたり0.078米ドル。東京0.12米ドル、プノンペン0.21米ドルよりはるかに安い。

大電力を必要とする工場にとっては大きな差となり、これを「売り」にして外資の製造業を誘致する動きもある。日系企業はいまのところ、首都ビエンチャン郊外のビタ・パーク経済特区、南部サワンナケートのサワンセノ経済特区などに少数が進出するに留まっている。

しかし今後は、タイやベトナム工場との分業体制が進むと見られ、ラオスの役目も大きくなるかもしれない。発電を軸にしたラオス経済は、この3年間の平均GDP成長率が7%を超えた。まだまだ後発国ながら、山地に刻まれた川筋はこの国の未来でもあるのだ。【9月30日 室橋裕和氏 Japan In-depth】
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開発モデルの原型を提示したのは日本
ラオスが電力開発に傾注するようになったきっかけは、数多くの日系企業が関わり、日本のODA(政府開発援助)のもと、世界銀行などの融資によって1968年から建設が進められたナムグム・ダムだそうです。

ラオスに現在の開発モデルを提供したのは日本ということにもなります。

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(中略)この発電ビジネスに旨味を見出したラオス政府は、諸外国の支援によるダム建設を次々に進めるようになった。事故を起こしたセピアン・セナムノイ・ダムもそのひとつだ。

そしていま、ラオスに対して大きな影響力を持っているのは中国である。発展が続いているとはいえ国力の弱いラオスは、国際会議やスポーツの大会などの会場建設も難しい状態で、そこへ中国が手を貸した。

例えば2009年にビエンチャンで開催されたSEA GAMES(東南アジア競技大会)のスタジアムは中国が建設したものだ。2012年のASEM(アジア欧州会合)で使われた迎賓館とコンベンションセンターも同様だ。

その見返りに、中国はビエンチャン中心部の開発権を得たといわれる。こうした手法でラオス経済に深く食いこんでいるのだ。

北部のタイ・ミャンマー国境に位置するメコン河沿いの一帯は、99年間の予定で中国に租借され、ジャングルを切り開いてカジノやコンドミニアムが建設されるなど乱開発が続いている。「国土の切り売り」と国内外からの批判も強い。

そして中国は、メコン河とその支流域で、複数のダム建設計画を進めている。中国国内の電力需要をまかなう目的と、「一帯一路」構想により周辺国への影響をより強めるためだ。

しかし急激な開発によって、環境破壊を引き起こしている。水質汚濁だけでなく、大量の水を人為的にコントロールすることで、河に生息する魚たちは産卵場所を見失い、漁獲高が減るといわれている。

すでに「メコンの主」でもあったメコンオオナマズはその数を大きく減少させ、ワシントン条約の保護リストに入っている。カワゴンドウ(イラワジイルカ)も絶滅の危機にあるといわれる。このまま計画が進めば、2040年までに流域の漁獲高は半減するという試算もある。

中国は自国の領内、雲南省やチベットを流れるメコン河にもダムを多数建設しており、さらに増やす計画だ。これにより下流で起きているのが、大規模な「水不足」なのである。

ラオスからメコンを下っていくとカンボジアに至るが、近年ではメコンから引きこむ農業用水の減少に悩まされている。雨季の季節にはメコンが氾濫し、これが栄養分たっぷりの農地をもたらしてくれるのだが、水量は年々減っている。

さらに深刻なのはベトナムだ。メコンが無数の支流に分かれて南シナ海に注ぐベトナム南部のデルタ地帯では、塩害が発生している。河の水量が減り、水位が低下したことで、海水が流れ込んできてしまっているのだ。

メコンデルタは世界有数の農業地帯として知られている。(中略)このメコンデルタが塩害や水不足によって不作となれば、問題はことベトナム一国の経済不振に留まらない。世界的な食料不足を引き起こす可能性もある。

上流の中国がダムを開閉するたびに、下流に悪影響を及ぼす。これからラオスに建造されようとするダムもそれを拍車をかけるだろう。

ラオスでは、2020年までには水力をメインとした発電所の総数は75を 数えるといわれ、総発電量は1万MWを突破する。発展を続けるASEAN(東南アジア諸国連合)の電力需要を満たす規模になるという が、その代償は大きなものになるかもしれない。【同上】
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メコン水資源をめぐる中国・流域国の争い
このメコン川の水資源をめぐる流域国の対立は以前からある話で、このブログでも何回か取り上げたことがあります。(2012年11月11日ブログ“ラオス メコン川本流でのダム建設を強行 強まる中国の影響力 対中依存軽減の取り組みも” 2012年5月16日ブログ“ラオス メコン川ダム建設を延期 東南アジア国際関係の縮図”など)

****メコン川上流を支配する中国、下流域諸国の生命線を握る****
カンボジアの漁師、スレス・ヒエトさんはメコン川の恵みで生活している。大勢の人の暮らしを支えているメコン川だが、中国が東南アジア諸国への物理的・外交的支配力強化のために利用するダムの脅威にさらされている。
 
ヒエトさんはイスラム教を信仰するチャム族の一員で、カンダル州を流れる川に浮かぶぼろぼろのボートハウスに住んでいる。ヒエトさんの1日の漁獲量は年々減少しているという。(中略)

こうした嘆きがチベット高原からミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを通過し南シナ海に流れ込むメコン川流域の村々から聞こえてくる。
 
全長約4800キロのメコン川は世界最大の淡水漁場で、アマゾン川に次ぐ生物多様性を誇り、流域に暮らす約6000万人の胃袋を支えている。
 
しかし、源流の管理は上流の中国に委ねられている。

■中国に抵抗できない下流域諸国
米環境団体インターナショナルリバーズによると、中国政府はすでにメコン川上流に6基のダムを設置し、南部に建設が予定されている11基のダムの半数以上に出資している。
 
複数の環境団体はダムによる川のせき止めによって、大勢の人が洪水の被害を受け避難を余儀なくされるのはもちろん、魚類や重要な栄養素、堆積物の移動が妨げられることで魚の生息環境に深刻な脅威をもたらすと警鐘を鳴らしている。
 
メコン川下流域の国々では近年魚類資源の激減が報告されており、その原因はこうしたダムにあるとする批判もある。専門家らはメコン川の生態系の基本データが欠如していることやその複雑さから、確定的な結論を出すのは時期尚早だと指摘している。
 
しかし下流域の貧しい国々の経済の生命線を中国が握っているという点で専門家の意見は一致している。(中略)
 
現地で瀾滄江と呼ばれる源流を支配する中国政府はメコン川の一部をせき止めることができるほか水位の調整も可能で、下流がその影響を受ける。
 
2016年に中国側のダムの水門を開き、ベトナムの深刻な干ばつの緩和に一役買ったことで示されたように、交渉における強力な切り札となっている。【2月11日 AFP】
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ベトナムも単に「被害者」というだけでなく、もともとラオスはベトナムの影響力が強い国ですから、ラオスでのダム建設にはベトナムもかかわっています。

****ベトナム、ラオスのメコン川流域に巨大水力発電ダム建設計画****
急速な産業発展に伴いエネルギー不足に悩むベトナムが、隣国ラオスに20億ドル(約2300億円)規模の巨大水力発電ダムを建設するプロジェクトを立ち上げる。

今年度8.4%の経済成長率を遂げたベトナムは、電力需要が毎年倍増する勢いだ。しかし、水力発電の供給元となる水源が国内には乏しいことから、水源豊富な隣国ラオスに目をつけた。

ダム建設予定地は、ラオス北部の古都ルアンプラバン近郊のメコン川(流域。ベトナム電力大手ペトロベトナム電力総公社(PVパワー)は、翌年4月をめどに事前調査をまとめるとしている。完成すれば、現在ラオスで稼働中の既存ダムを超える最大規模のダムとなる。(後略)【2007年12月26日 AFP】
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無秩序な砂採掘によるメコンデルタ消滅の危機も
さらに言えば、メコンデルタの環境を危機においやっているのは中国・ラオスのダム建設だけでなく、ベトナム自身の無秩序な砂採掘も大きく影響しています。

****無秩序な砂の採掘でメコンデルタが危機、ベトナム****
2017年のある午後、ベトナム、ティエン川のほとりで小さなコーヒーショップを営む67歳の女性ハ・ティ・ベさんは、息子とともに川がのんびりと流れるのを眺めていた。その時だ。突然、すぐ下の地面が水中へと崩れ落ちた。(中略)

崩壊の主な原因は、浚渫(しゅんせつ)船だ。メコン川の主な支流の1つであるティエン川では、濁った水面にいくつもの浚渫船が浮かび、やかましいポンプを使って膨大な量の砂を川底から集めている。

コンクリートの原料である砂は、急成長するベトナムの都市で、建築材料として欠かせない。その需要は急増しており、ベトナムの河川だけでなく、極めて重要な穀倉地帯メコンデルタにも大きな混乱を起こしている。
 
メコン川を始めとするベトナムの川沿いの町や村では、浚渫によって川岸が崩され、田畑や魚の養殖池、商店、民家が水中に消えている。ここ数年で数十平方キロの稲作地が失われ、少なくとも1200世帯が移住を余儀なくされている。政府当局は、こうした崩落地帯から移動が必要な人口を、メコンデルタ地域だけで約50万人と推定している。
 
浚渫の被害を受けているのは人間だけではない。一帯にすむ魚や植物などの命を奪っている。「子どものころ、魚やカタツムリを捕まえて食べたものですが」と、ハ・ティ・ベさんは振り返る。「浚渫船が来るようになって、魚もカタツムリもいなくなりました」(中略)

ベトナムでは、砂の採掘がさらなる危険をもたらしている。貴重なメコンデルタを緩やかに消滅させつつあるのだ。2000万人が暮らし、ベトナムの全食糧の半分を生産し、他の東南アジア諸国が消費する米の大部分を供給する土地が、危うい状況にある。
 
メコンデルタでは毎日、サッカー場1.5個に相当する土地が失われている。気候変動による海面上昇もその原因の1つではあるが、もう1つの大きな原因はデルタからの砂の採掘だと、専門家らは考えている。
 
昔からメコン川は、中央アジアの山々にある土砂を下流のデルタ地帯に運び、補充する役割を担ってきた。しかし近年は、メコン川流域の国々がこぞって大量の砂を採取している。(中略)

一方で近年、メコン川に5基の大型ダムが建設され、加えて中国、ラオス、カンボジアでもメコン川に12基のダムが建設予定だ。ダムができれば、デルタに流れ下る土砂はさらに減る。
 
言い換えれば、デルタ地帯の浸食は続いているのに、自然の作用による堆積は途絶えているということだ。「土砂の流れは半減しています」と、世界自然保護基金(WWF)のメコン川保全プログラム研究員マルク・ゴワショ氏は話す。「このペースだと、今世紀の終わりにはデルタの半分近くが消えているでしょう」と、氏は危惧している。(後略)【3月20日 ナショナル ジオグラフィック】
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砂の違法採掘が賄賂によって当局の規制をすり抜けているという国内問題もあります。

10月東京で日メコン首脳会議 「質の高いインフラ」整備などで「人間中心の社会」の実現
国際的にみると、メコン川流域の開発は、中国と日本のこの地域への影響力をめぐる競争の舞台ともなっています。

****メコン流域6カ国が首脳会議 開発に7兆円****
コン川流域の中国、タイ、ベトナムなど6カ国が参加する「メコン川流域開発計画(GMS)」の首脳会議が31日、ベトナム・ハノイで開かれた。域内のインフラ整備などに向け、2022年までに総額660億ドル(約7兆円)規模に上る200以上の開発プロジェクトを推進することを盛り込んだ協力文書を採択した。
 
採択した「ハノイ行動計画」は、流域各国の連結性を強化するため、各国を結ぶ「経済回廊」を拡充することを呼び掛けた。
 
GMSは、日本などが主導するアジア開発銀行(ADB)が旗振り役となり1992年に発足した枠組み。【3月31日 共同】
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来月、東京でも。

****日メコン首脳、連結強化で協力へ 10月の東京会議で戦略採択****
メコン川流域のタイ、ミャンマー、ベトナムなど5カ国と日本が10月に東京で開く「日本・メコン地域諸国首脳会議」で採択する「東京戦略2018」の草案内容が28日、判明した。

日本とメコン各国の協力分野の新たな3本柱として(1)インフラ整備を通じた域内各国の結びつきの強化(2)格差や貧困のない「人間中心の社会」の実現(3)「緑のメコン地域」の実現―を挙げ、インフラ整備や人材育成、気候変動対策などで共に取り組むとしている。
 
外交筋によると、「質の高いインフラ」整備などを進めるほか、情報通信技術などソフト面の結びつきの強化でも協力する。【9月28日 共同】
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コメント

ロヒンギャ  ミャンマー国軍の「ジェノサイド」責任を問う国際批判 沈黙するスー・チー氏

2018-09-29 23:18:49 | ミャンマー

【9月4日 COURRIER JAPON】

ミャンマー国軍による「ジェノサイド」の責任を問う国連の動き】
ミャンマー西部ラカイン州のロヒンギャについては、ミャンマーにおける安全が保障されないこと、帰還した場合の国籍付与が認められていないことなどから、バングラデシュに逃れた70万人超のロヒンギャ難民の帰還は全く進まない状況ですが、ロヒンギャ追放・虐殺を主導したミャンマー国軍の責任を問う国際的な動きが強まっています。

国連人権理事会が設置した国際調査団は18日、ミャンマー国軍指導層に「特定集団を抹殺する意図があったと判断できる」とする報告書を理事会に提出しています。

****ロヒンギャ問題、刑事責任追及 国連調査団が報告書 ミャンマーに包囲網 国際刑事裁も管轄権認定****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害問題で、国連人権理事会が設置した国際調査団は18日、「深刻な国際法違反に加え、一貫した人権侵害のパターンを立証した」とする報告書を同理事会に提出した。

国軍幹部を名指しして刑事訴追を求める内容で、ミャンマーへの圧力は一段と強まり、同国への投資などに悪影響が及ぶのは必至だ。

報告書は、アウン・サン・スー・チー国家顧問と並ぶ権力者であるミン・アウン・フライン最高司令官ら幹部6人を名指しし、ロヒンギャ殺傷などの行為が民族虐殺に相当すると論じている。

ロヒンギャの存在を否定する発言を繰り返したことを挙げ「特定集団を抹殺する意図があったと判断できる」と指摘。

20世紀末のルワンダや旧ユーゴスラビアの紛争指導者と同様に、国際法廷に訴追すべき容疑者だと指弾した。

難民発生の契機となったのは2017年8月に発生したロヒンギャ系武装集団の襲撃への治安部隊の掃討作戦だが、報告書は「ミャンマー国軍や治安部隊は一般人を無差別に攻撃しており、正当化できない」と指摘。「子供を含め一般人が標的となった」として国際人道法に反すると結論づけた。

ロヒンギャ難民ら875人への面談記録や、焼失した村の衛星画像などを盛り込み、報告書は444ページに及ぶ。8月27日に公表した内容に加え、ロヒンギャの人々が住んでいた村ごとに被害の証言を詳細にまとめた。

国際調査団は名指しした6人に加え、迫害に関わった治安部隊関係者の非公開リストを「関係機関と共有する用意がある」としている。こうした情報を根拠に、欧米各国による制裁が強化される可能性が高まった。(後略)【9月18日 日経】
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調査団は安全保障理事会に対し、ミャンマー国軍がジェノサイド(民族大量虐殺)を意図していた可能性もあるとして、人道犯罪などで訴追権限を持つ国際刑事裁判所(ICC)へ問題を付託するよう勧告。
迫害の実行者に渡航禁止や資産凍結などの制裁を科すことや、ミャンマーへの武器禁輸も求めています。

この動きに並行して、国際刑事裁判所(ICC)は国軍による基本的権利の剥奪や殺害、性的暴行、強制失踪、破壊、略奪などの罪について予備調査を開始しています。

****ロヒンギャ迫害、国際刑事裁が予備調査を開始 虐殺や性的暴行の疑い****
国際刑事裁判所の検察官は18日、ミャンマー国軍がイスラム系少数民族ロヒンギャに対して犯した疑いがある虐殺や性的暴行、強制移住などの罪について予備調査を開始した。
 
(中略)予備調査では、ICCのファトゥ・ベンスダ主任検察官が正式な捜査を正当化するのに十分な証拠があるかどうかを調べる。
 
予備調査の結果次第でICCは正式な捜査を行い、さらに捜査の結果次第では起訴に至る可能性もある。
 
ミャンマーはICC非締約国だが、ICCは約2週間前、バングラデシュが締約国であることを理由に、ロヒンギャ迫害について管轄権を行使できると判断した。(後略)【9月19日 AFP】
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現実には、ICC付託には安保理の決議が必要で、中国の反対も予想されることから実現は難しいとも。

国軍のによる「ジェノサイド(大量虐殺」に対する責任を問う国連での動きに対し、ミャンマー国軍のミン・アウン・フライン総司令官は、国連にミャンマーの主権に干渉する権利はないと反発しています。

****ロヒンギャ問題、「国連に干渉の権利なし」とミャンマー軍司令官****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ問題で、国連の調査団が先週、ミャンマー国軍の高官らを「ジェノサイド(大量虐殺)」の罪で訴追するよう求めたことを受け、同軍のミン・アウン・フライン総司令官は、国連にミャンマーの主権に干渉する権利はないとはねつけた。
 
調査団は国連安全保障理事会に対し、軍高官らの関与をめぐり国際刑事裁判所への付託を要請。またミャンマーは2011年に民政移管したとはいえ、軍が依然強い影響力を握っており、軍は政治から手を引くべきだと訴えた。
 
軍機関紙ミャワディによると、総司令官は23日に軍向けの演説の中で、いかなる国、組織、団体にも「一国の主権について干渉したり決定を下したりする権利」はないと指摘。さらに、「内政に介入する協議は誤解を招く」と警鐘を鳴らしたという。

国連調査団による提言以降、総司令官が自身の見解を公に示したのはこれが初めて。(中略)

軍はほぼ全ての残虐行為を否定し、ロヒンギャに対する取り締まりは過激派を一掃するための合法的な手段だと主張している。【9月24日 AFP】
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アメリカ国務省も迫害に関与した関係者の責任明確化を要求
人権問題には関心がないように見えるアメリカ・トランプ政権も、(かつての軍事政権に制裁を科した経緯もあってか)ミャンマー・ロヒンギャ問題については例外的に強い姿勢で臨んでいます。

ただ、「集団虐殺」や「民族浄化」といった刺激的な用語は使用していないとも。

****米国務省、ミャンマー軍がロヒンギャを組織的に迫害と報告****
米国務省は24日、ミャンマーのラカイン州で政府軍がイスラム系少数民族ロヒンギャを標的に大量殺人やレイプなど組織的な迫害を行っていたと結論付ける報告書を発表した。
 
(中略)米国務省の報告書は、隣国のバングラデシュへ逃れたロヒンギャ難民の成人1024人を対象に4月に実施した聞き取り調査を基にしたもの。既に複数の人権団体が公表している調査結果と内容は一致しているが、個々の事例の説明は個人的感情を抑制した記述となっている。

特筆すべき点は、ラカイン州でのミャンマー軍によるロヒンギャ大量殺人について「集団虐殺」や「民族浄化」といった表現を用いていないことだ。
 
報告書によると、調査対象となったロヒンギャ難民の82%が殺人を目撃し、51%が性的暴行が行われていたと証言した。

目撃者は複数の村に及ぶが、皆一様に、ミャンマー兵らが村の女性全員に家の外へ出るよう強要し、4〜5人を選び出して野原や森、家屋、学校の校舎、モスク(イスラム礼拝所)、仮設トイレなどに連行して集団レイプしたと語っている。

連行された女性の数を20人とするものや、兵士らは家々を回り「魅力的な」少女たちを選んで集団レイプしていたとの証言もある。全てではないが、レイプされた女性の多くはその後、殺害されたという。
 
報告書は「ミャンマー軍の攻撃の範囲と規模からみて、作戦は綿密に計画された組織的なものだったと考えられる」と結論付けている。
 
ロヒンギャ問題をめぐっては、国連も24日、ロヒンギャ難民支援に1億8500万ドル(約210億円)を拠出すると発表した。【9月25日 AFP】
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ミャンマー国軍とランボーの戦いを描いたエンタテイメント映画「ランボー 最後の戦場」の世界が現実に繰り広げられていたようにも思えます。

****ロヒンギャ迫害で徹底調査要求 米国務長官、ミャンマーに****
米国務省は28日、ポンペオ国務長官がミャンマーのチョー・ティン・スエ国家顧問府相と27日にニューヨークで会談し、イスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害について徹底調査と関係者の責任追及を求めたと発表した。

国務省は、ロヒンギャ迫害はミャンマー国軍によって「事前に計画、調整された動きだった」と非難する報告書をまとめ、近く公表するとみられている。

ポンペオ氏は会談でミャンマーの民主化を支援する立場を強調した上で、米国や国連が指摘するロヒンギャへの人権侵害について具体的な調査を進め、迫害に関与した関係者の責任を明確にすべきだと伝えたという。【9月29日 共同】
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国連人権理事会、ジェノサイドの疑いとの非難決議 反発するミャンマー国内世論
国連人権理事会は前出の調査団報告を受けて、特定の民族や宗教に属する集団を殺害する「ジェノサイド」という最も重い人道犯罪の疑いに言及する形で非難決議を採択しています。

****ミャンマー非難、決議 国連「ロヒンギャ集団殺害疑い****
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャへの迫害などをめぐり、国連人権理事会は27日、非難決議を採択した。

決議は、特定の民族や宗教に属する集団を殺害する「ジェノサイド」という最も重い人道犯罪の疑いに言及した。国際社会の視線は厳しさを増すが、責任追及や70万人超の難民の帰還は進んでいない。
 
今回の決議は、欧州連合(EU)とイスラム協力機構(OIC)が中心となり、共同提案国は100超に上ったという。定例の理事会の審議で投票にかけられ、47理事国のうち賛成35、反対3、棄権7で採択された。中国などが反対した。

日本はミャンマー政府が設けた独立調査委員会の活動を重視する立場を表明し、投票を棄権した。
 
決議は、ミャンマー国軍幹部が少数民族の迫害を主導したとして、西部ラカイン州でのロヒンギャ迫害でジェノサイドの疑い、北部カチン、シャン両州での迫害で人道に対する罪の疑いを指摘。組織的な人権侵害はアパルトヘイト(人種隔離)に匹敵すると言及した。
 
ミャンマーでの人権侵害をめぐっては、国連の場で何度も是正を促す決議がされてきた。

ただ、今回は人権理事会が設置した調査団が今月、440ページにわたる報告を公表し、特に昨年8月下旬以降のロヒンギャへの大規模襲撃について、村の焼き打ち、村人をより分けて男性を殺して女性をレイプするといった目撃証言を記した。

決議は調査団の報告を踏まえた内容となっており、重みが違う。
 
ミャンマー政府は「外からの干渉は問題を複雑化させる」として調査団に一切の協力を拒み、人権理事会で批判を浴びてきた。

決議は調査団の活動延長に加え、証拠集めなどに当たる独立機関の設置を決め、ミャンマーはさらに窮地に立たされることになった。
 
一方で、調査団は国際刑事裁判所(ICC)での責任追及を勧告したが、実現には国連安全保障理事会の決議が必要で、中国が反対する現状では実現は難しい。

また、EUなどはミャンマー政府を批判しつつ、アウンサンスーチー国家顧問が率いる政権自体を制裁対象にしない方針で、結果として圧力を弱めている。

 ■スーチー氏沈黙、軍に配慮か
国際的な批判が集まるミャンマー国軍に対し、スーチー氏の与党・国民民主連盟(NLD)政権は表立った批判を控えている。NLDが目指す憲法改正や少数民族和平問題で軍の協力が欠かせず、関係を重視せざるを得ないからだ。
 
さらに、ロヒンギャ擁護に回れば、仏教徒が多数を占める国内世論の反発も予想される。ラカイン州の仏教徒団体の幹部は「NLD政権は外国の言うことばかりきいて、我々の声に耳を傾けない」と憤る。

州議会では政府が進めようとしている帰還に反対する決議も可決された。仏教徒による地域政党の幹部は「(ロヒンギャを)擁護するなら徹底して反発する」と話す。
 
政権が解決へ効果的な手を打てないなか、人権問題は経済にも影を落とす。ミャンマー政府によると、今年1~7月の観光客数は前年同期比で独・仏から約3割、英国からは約2割減った。人権問題に敏感な欧州の人々がミャンマー旅行を避けたとみられる。
 
外国企業からの直接投資にも影響が見える。2012年度の約14億ドルから15年度に約95億ドルまで増えたが、16年度に約67億ドル、17年度は約57億ドルに減った。
 
こうした状況が続けば、2年後の総選挙にも影響しそうだ。ラカイン州の旧軍政系の連邦団結発展党(USDP)幹部は「政府への批判が、我々の支持につながっている」と笑みを浮かべた。【9月28日 朝日】
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ミャンマー政府支援を促す日本外交
“日本はミャンマー政府が設けた独立調査委員会の活動を重視する立場を表明し、投票を棄権した”というように、日本はミャンマー批判を強める欧米とは一線を画した対応です。

同じアジアにあって、利害が強く絡むこともありますし、特にミャンマーに関しては、歴史的な関係の深さもあります。

軍事政権時代にも制裁を科す欧米とは異なる対応で、一定に軍事政権との関係も維持はしたものの、やはり関係を薄めたことで、結果的に中国のミャンマーへの影響力拡大を許したという思いもあるのかも。

****河野氏、対ミャンマー支援促す ロヒンギャ問題 ****
河野太郎外相は24日午後(日本時間25日未明)、イスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題に関する英仏外相主催のワーキングランチに出席した。

ミャンマーへのロヒンギャ難民の帰還と再定住を促すミャンマー政府の取り組みへの国際社会の支援を訴えた。「スタートしたばかりの民主政府が逆行しないようにアウン・サン・スー・チー政権を支えるべきだ」と語った。【9月25日 日経】
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内政不干渉という点では、人権・民主化への配慮がないと批判の多い中国外交と、ことを荒立てない日本外交は結果的によく似ています。表向きの対応はいろいろあるでしょうが、やはりレッドラインを超えた問題に対する強い意思表示は水面下等であってしかるべきでしょう。

沈黙するスー・チー氏へ高まる批判 10月に来日予定
一方、先述のような国軍の責任問う動きは、国軍の責任やロヒンギャ帰還で沈黙するノーベル平和賞受賞者スー・チー氏への批判にもなっています。

****バングラデシュ首相・スーチー“問題提起できたはず*****
国連総会でミャンマーのイスラム教徒ロヒンギャの人たちが迫害を受けている問題が取り上げられた。
バングラデシュのシェイクハシナ首相はミャンマーでは実権は軍部にあるが“スーチーも世界に向けて問題提起できたはず”と述べ、ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問が問題解決に本腰を入れないことに失望の意を示した。(シンガポール・CNA報道)【9月28日 BS1】
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****カナダ、スー・チー氏の名誉市民号を剥奪 ロヒンギャ危機めぐり****
カナダ議会は27日、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問に与えていたカナダの名誉市民号を実質的に剥奪することを全会一致で決めた。ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの危機を受けた動き。
 
カナダ政府は2007年、長期の軟禁を経験したミャンマーの民主活動家で、ノーベル平和賞受賞者でもあるスー・チー氏に対し、名誉市民号を授与した。カナダ名誉市民号はこれまでスー・チー氏のほか5人にしか与えられていない。
 
しかし、スー・チー氏がロヒンギャに対するミャンマー軍の残虐行為を非難することを拒むと、同氏の国際的な名声は失墜。カナダ政府は先週、同軍の行為は「ジェノサイド(大量虐殺)」であると宣言していた。【9月28日 AFP】
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スー・チー氏が沈黙しているのは、軍や世論に配慮した政治的判断もありますが、彼女自身も大方の世論同様、、ロヒンギャへの共感は薄いこともあるように見えます。(今年1月までロヒンギャ危機でミャンマー政府を支援する国際諮問機関のメンバーだったビル・リチャードソン氏によれば、スー・チー氏は逮捕拘束されたロイター記者を「裏切り者」と呼んでいたとか【9月5日 WSJより】)

そのスー・チー氏が会議で来日した際に、福島の農村を視察するそうです。

****スー・チー氏が福島訪問へ 農村視察、自国のモデルに****
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が、10月上旬に東京で開かれる「日本・メコン地域諸国首脳会議」での訪日に合わせ、福島県の農村を訪問することが29日、分かった。日本政府関係者が明らかにした。
 
ミャンマーの農村は人手不足が深刻で、農業の担い手不足に直面する日本の取り組みを視察し、自国の農村の発展モデルにしたい考えとみられる。
 
スー・チー氏が訪れるのは福島県南部の泉崎村。高齢化や耕作放棄地の問題で人手不足に直面する農業と、働く場が不足している障害者の福祉施設などが連携する「農福連携」に取り組む現場を視察する。【9月29日 共同】
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「農福連携」もいいですが、ミャンマー・日本の間には、もっと時間をかけて話し合うべき問題があるようにも・・・・。
コメント

インド  変化への模索 社会的弱者の権利擁護、性犯罪者登録制度、公的医療保険制度“モディケア”

2018-09-28 22:08:33 | 南アジア(インド)

(“モディケア”制度導入の記念式典で医療カードを渡すモディ首相【9月25日 The Times of India】

宗教的不寛容が強まる社会にあって、相次ぐ同性愛・女性の権利に関する最高裁判決
インドにおいて、イギリス植民地時代に制定された古い法律によって制約されていた同性愛者と女性の権利について、これを見直す司法判断がインド最高裁から2件連続して出されています。

****同性間の性行為禁じる法律は違憲無効、インド最高裁が画期的判断****
インドの最高裁判所は6日、同性間の性交渉を違法と定めた刑法第377条について、違憲無効とする画期的な判断を下した。英植民地時代の1861年に制定されたこの法律をめぐっては、長年にわたり法廷闘争が続いていた。

ディパック・ミスラ最高裁判所長官は、「この法律はLGBT(性的少数者)のコミュニティーへの嫌がらせの手段となってきた」と指摘した。
 
インド刑法第377条では、「自然の秩序に反した性交」を禁じている。活動家らは1990年代からこの条文の廃止を求めて法廷闘争を繰り広げてきた。今回の最高裁判断を受け、インド全土のLGBTコミュニティーは祝賀ムードに包まれている。

「言葉では言い表せない!」と、虹色のスカーフを巻いた大学生は叫んだ。「ここまで来るのに長い時間がかかったけれど、ようやく私は自由だ、皆と同じ権利があるんだと言える」
 
保守的なインドでは同性間の性交渉がタブー視されてきた。特に地方部では、同性愛を嫌悪する風潮が根強く残っている。【9月6日 AFP】
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****夫は妻の主人ではない」、婚外関係禁じた法律に違憲判決 インド****
インド最高裁は27日、男性が既婚女性と性的関係を持つことを刑法で禁じた158年前の法律について、違憲とする判決を言い渡した。女性の権利を訴える側からは、画期的な勝訴と受け止められている。

「セクション497」と呼ばれるこの法律では、相手の女性の夫の許可なく既婚女性と性的関係を持った男性に対し、5年以下の禁錮を定めていた。

最高裁の判決ではこの法律について、時代に逆行し女性差別に当たると判断。裁判長は判決文の中で、「夫は妻の主人ではない」「一方の性がもう一方の性に対して法的支配権を持つことは間違っている」と認定した。

判決は裁判官5人の全員一致で言い渡され、同法は憲法で規定された基本的人権の侵害に当たると指摘している。
同法では、自分の妻と性的関係を持った相手の男性を夫が告訴することが可能だった。一方で、自分の夫と関係を持った女性を妻が告訴することはできなかった。

原告側の弁護士はこの判決を、「結婚と家庭における女性の地位にとって大きな勝利」と位置付ける。問題の法律は主に、既に関係が破綻(はたん)している夫婦の間で、夫が妻を脅す目的で利用されていたという。

同法については社会の安定を保つために必要だとする意見もあり、インド政府は廃止ではなく改正して、両性にとって平等な刑罰を定める方針を打ち出していた。

しかし最高裁判決では、同法がなくなれば不倫が増えるという主張を退け、「夫婦のいずれにも平等に、結婚の尊厳を守る責任がある」と指摘した。【9月28日 CNN】
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“最高裁判事は「夫は妻の所有者ではない」と述べ、姦通を罰する法律は男女の家庭での役割に対する「偏見」に基づくものだと批判。「婚姻関係の破綻」に際し、妻が夫以外と性的関係を持つことについて、法で処罰すべきでないと強調した。一方、姦通行為について、引き続き離婚の理由にはなり得るとの判断を示した。”【9月28日 時事】

インドでは、カースト制による社会的束縛に加え、女性の権利が大きく制約されていることから、いわゆる名誉殺人など、多くの深刻な問題を抱えています。

今回の最高裁判断は、社会的弱者の立場にある少数者や女性の権利を回復することで、インド社会の改善に資するものであるといえます。

ただ、いつも取り上げているように、現実の社会情勢はモディ首相のもとでヒンズー至上主義が強まり、保守化・不寛容の風潮が強まる流れにあり、どこまで今回判決がインド社会実態に影響できるかは不透明です。

保守化・不寛容の風潮が強まる現状にあるからこそ、今回判断がそうした流れへの歯止めとしての意味があると言えば、そのようにも言えますが。

後を絶たない性暴力事件に性犯罪者登録制度
社会的弱者の権利に関係する話で、インドでは女性や女児に対する性暴力が以前から大きな問題となっています。

****帰宅中の印女子大生が拉致され集団レイプされる、顔見知りの犯行****
インド北部ハリヤナ州で、講義を終えて帰宅中の女子大生が3人の男に拉致され、レイプされる事件が起きた。警察が14日、明らかにした。
 
警察によると、この女子大生は停留所でバスを待っている際に拉致され、薬を飲まされてレイプされたとみられている。
 
現地警察関係者によると、容疑者3人は女子大生と同じ村の出身で、顔見知りだという。
 
大半を農村地帯が占めるハリヤナ州は保守的な土地柄とされ、ナレンドラ・モディ首相率いる右派与党・人民党が議会の多数派を占めている。
 
女子大生の母親は14日、報道陣とのやり取りで、モディ首相が2015年にハリヤナ州で立ち上げた運動「娘を守れ、娘に教育を」に言及し、「わが国の首相は、娘を守れ、娘に教育をと言うが、どうすればそうすることができるのか?」と問いかけた。
 
母親は「告訴を受理されるまで、たらい回しにされた」と明かし、「私たちの望みは、娘のために正義が果たされることだけだ」と訴えた。【9月15日 AFP】
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性暴力自体も当然問題ですが、「告訴を受理されるまで、たらい回しにされた」とあるように、この種の性犯罪に対する警察当局の反応が非常に鈍いことも大きな問題です。

もし、被害者が低カーストの女性だったりすると、警察に相手にされないといったことも起こります。

****7歳女児がレイプされ重体、性的暴行多発のインド****
女性らに対する性的暴行事件の多発が社会問題となっているインドの首都ニューデリーの警察は19日、市内で7歳女児がレイプされ、病院で手術を受けたものの重体となっていると報告した。

21歳の男が逮捕された。暴行の凶器には金属製の水道管が使われたという。

ニューデリーの女性問題担当当局の責任者によると、女児は貧困家庭の出身で公園に誘い出されて被害を受けた。襲われた後、激痛を訴え、出血が激しかったという。

インドの国家犯罪統計局によると、同国内で2016年に発生したレイプ事件は前年比で12%増の3万9000件。13.5分ごとに1件起きている計算となった。

インド政府は今年4月、未成年者の強姦(ごうかん)や集団レイプの加担行為に死刑判決を下す暫定法案を提出。ただ、ニューデリーではまだ、発効していないという。

年少の女児への暴行も今回が初めてではない。ヒマラヤ山脈に近い遠隔地のカトゥア地区では今年1月、強姦後に殺されたイスラム教徒の8歳女児の遺体が見付かる事件が発覚。地元では怒りが広がり、宗教的な抗争への懸念も深まっていた。

少女は薬を飲まされた後、集団暴行を受け、絞殺されていた。警官3人に元政府役人1人を含むヒンドゥー教徒の8人が逮捕されていた。

また、ビハール州では今年7月、15歳の女子生徒が学校の校長、教師2人と少年16人に半年間にわたって再三レイプされたとの被害を告発していた。【9月20日 CNN】
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性暴力は日本を含め、世界中のどの国でもある話ですが(もちろん、その発生率などは差異がありますが)、上記のような女児に対する性暴力が相次ぐとなると、インド社会固有の要因もあるのでは・・・とも思えます。

身分制度や宗教的戒律などで社会的束縛が強いなかで、社会の底辺にある者がそのストレスのはけ口として最も弱い立場の女児への性暴力に走る・・・という構図もあるのでは。

そこには、身分制度や宗教のほか、貧困、格差、教育といった問題も絡んでおり、インド社会の抱える深くて暗い闇の一端がこうした猟奇的ともいえるような事件の形で噴出しているのでは・・・とも思えます。

性犯罪の多発を批判する世論に押されて、性犯罪者登
制度もスタートしているようです。

****インドで初の性犯罪者登録制度、該当者は44万人に****
2018年9月22日、インドで初の試みとなる性犯罪者の登録制度について、北青網は「該当者44万人を登録」とする記事を掲載した。

記事によると、同制度は女性を狙った犯罪の防止を目的とするもので、データベースを閲覧できるのは法執行機関に限られる。

16年にインドでは毎日100件を超える犯罪が報告されており、今年6月に発表されたある調査結果では、「インドは女性にとって最も危険な国」との評価が専門家から出たことが示された。【9月24日 レコードチャイナ】
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運用にあたっては、根拠・証拠もなく疑念だけで登録者がリンチ的処罰を受けるようなことがないよう留意してもらいたいとも思います。

貧困者の公的医療保険を拡充する“モディケア”】
インドの医療事情については、特段の知識・情報はなくとも、インド社会が抱える絶対的貧困の問題を考えれば、多くの人々が十分な医療を受けられない状況に置かれているであろうことは容易に想像されます。

インドの医療技術自体は、それなりのものがあり、医療事情も大きく改善はされているようです。

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(5歳未満の)乳幼児死亡率(出生1000対)を見ると、インドは47.7(2015年)と、日本の2.7(2015年)に比べて非常に高い。

しかしながら、インドはMDGsの基準年である1990年の125.9と比べると、大きく改善していることが分かる。

これを国際比較してみると、後発の新興国であるインドの乳幼児死亡率は世界平均の42.5を上回っているが、同じ所得水準の国・地域のなかでは低めに位置している。

次に妊産婦死亡率(出産10万対)を見ると、インドは174(2015年)と、やはり日本の5と比べて非常に高いが、1990年の556からは大幅に減少している。

乳幼児死亡率と同様に国際比較してみると、インドの妊産婦死亡率は世界平均の216を下回っており、また低中所得国のなかでも低めに位置している。

これら2つの指標だけを見れば、インドの保健医療の水準は大きく変貌を遂げ、低中所得国のなかでは健闘していると言えよう。もっとも先進国レベルには程遠く、インドの保健医療の改善余地は依然として大きい様子も窺える。 【後出 斉藤 誠氏「インド医療事情と医療保険制度~モディケアとは何か」】
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医療保険制度に関しては、以下のようにも。

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インドの医療制度の最大の特徴は、公的医療機関では無料で受診できる点だが、実際には公的医療機関の供給は限られ、民間医療機関で受診する国民は多い。

また公的医療保険制度の対象範囲は狭く、民間医療保険も浸透していないため、医療費に占める自己負担割合は7割弱もの高水準にある。【同上】
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全ての人々が公的医療機関で診療を受けることができれば、自己負担はほとんどなくなるはずですが、公的医療機関の供給が限られており、医師や設備も不足しているため、不衛生な環境下で長時間の診察待ちを強いられることになります。従って、有料でも設備が整っており、アクセスの良い民間医療機関を選択する国民は多いとのこと。

しかし、医療保険制度が不十分・・・・。

こうした状況を改善すべく、モディ首相が“オバマケア”ならぬ“モディケア”を推し進めています。

****印、世界最大の健保制度「モディケア」導入 最貧の5億人対象****
インドのナレンドラ・モディ首相は23日、同国の最貧層5億人を対象に、保険料無料の世界最大の健康保険制度、通称「モディケア」を始動させた。来年に総選挙を控えての導入となった。
 
今年に入り連邦予算で発表されたこの制度は、インドの人口12億5000万人のうち、最貧の40%が対象となる。
 
最低所得の1億世帯には、重病の治療を受ける際の医療費として、インドでは大金とみなされる年間50万ルピー(約78万円)が支給される。
 
モディ首相は同国東部ジャルカンド州の州都ランチーで開かれた制度導入の記念式典で医療カードの手渡しを行い、インドにとって歴史的な日だと強調した。
 
制度の運用にあたり、中央政府と29州政府の負担総額は年間約1800億円になる見通し。予算は需要に応じて段階的に増額される。
 
過重負担がのしかかる公的医療制度では、施設と医師が慢性的に不足しており、大半の人は金銭的余裕さえあれば民間医療機関を利用している。ただ診察料は1000ルピー(約1560円)で、1日の生活費が250円に満たない数百万人にとっては高額だ。
 
政府の推算によると、平均世帯支出の60%以上が薬代や治療費に充てられており、最貧家庭の多くは医療サービスを一切利用していない。
 
英医学誌ランセットに今月掲載された報告書によると、インドで低水準の医療に起因する死者数は推計で年間160万人に上るとされ、世界最多となっている。【9月24日 AFP】AFPBB News
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非常に結構な話ですが、財源はどうなっているのだろうか?・・・というのが最初の感想。
そのあたりを含め、“モディケア”については、以下のようにも。

****インド医療事情と医療保険制度~モディケアとは何か*****
(中略)現在、全国的に導入されている医療保険制度は、公務員を対象とした中央政府医療制度(CGHS)と、一部の民間企業の従業員を対象とした従業員州保険制度(ESIS)、そして貧困層が政府支援を受けて民間保険に加入できる国家健康保険制度(RSBY)がある。(中略)

NHPS(モディ首相が進める貧困層を対象とした国家健康保護計画、通称モディケア)は貧困層にかかる医療費の自己負担を軽減することを目的とした制度であり、現行のRSBYを拡張したものだ。来年度以降、RSBYはNHPSに改名される。制度変更のポイントとしては、主に以下の2つが挙げられる。

1つは制度が適用される対象者の拡大だ。現行のRSBYで対象となる貧困層は約6千万世帯(1世帯の人数制限は5人)だが、NHPSでは更に拡大して約1億世帯(人数制限なし)が制度の恩恵を受けることができるようになる。

(中略)新たに対象となるのは最大で3.5億人程度になりそうだ。これは全国民の4分の1程度であり、うまくいけば医療保険制度のカバー率は25%程度上昇することになる。

もう1つは1世帯当たりの医療費上限が50万ルピーまで引き上げられることだ。これは現行のRSBYの3万ルピーの約17倍であり、貧困層がより手厚い恩恵を享受することができるようになることを意味する。

一方、政府の費用負担は重くなる。公費負担は現行のRSBYの187.5億ルピー(2016年度予算)から、NHPSでは500-600億ルピーまで拡大すると見込まれている。

またNHPSの政府の負担割合は、一部の州を除いて中央政府60%、州政府40%とされ、RBSY(中央政府75%、州政府25%)と比べて州政府の負担がより大きくなる仕組みになっている。州毎に財政余力が異なるため、モディケア導入に消極的な州政府もあるようだ。

政府はNHPSをオバマケアになぞらえて「モディケア」と称した。確かにNHPSは政府の補助を受けて民間医療保険に加入できるようになる点ではオバマケア同様の制度であると言えるが、既にRSBYが存在していることを踏まえれば、NHPSに目新しさはない。

しかしながら、従来に比べて最大3.5億人が新たに医療保険制度の恩恵を受けられるようになる影響は大きい。NHPS導入により、医療保険制度の国民カバー率は現行の2割強から5割程度にまで達すると予想され、野心的な医療保険制度の改革と評価できる。

インドの医療保険制度は着実に拡がっているとはいえ、制度の対象から外れる国民は多く、NHPSの給付金額には世帯ごとに上限もある。

NHPS導入により、インドの自己負担の割合は今後低下するとはいえ、世界的に見て大きい水準であることには変わりないだろう。インドは、全国民が容易に医療へのアクセスが可能となるユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現を目指している。今後、目標達成に向けて政府は更なる取組みが求められる。【3月20日 斉藤 誠氏 ニッセイ基礎研究所HP】
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パレスチナ問題  豹変トランプ大統領の「2国家解決」支持発言 その背景は?

2018-09-27 21:45:50 | パレスチナ

(米ホワイトハウスで握手を交わすイスラエルのイツハク・ラビン首相(当時、左)とパレスチナのヤセル・アラファト議長(当時、右)、仲介役を務めたビル・クリントン米大統領(当時、1993年9月13日撮影)【9月13日 AFP】

(ガザ地区のイスラエル境界で今も続く「祖国への帰還の権利」デモ【9月15日 Pars Today】 写真右上でしっかり撮影しているのはハマスの宣伝部でしょうか?)

【「2国家共存」崩れゆく25年
1993年のオスロ合意で、イスラエルが占領したガザとヨルダン川西岸にパレスチナ国家を樹立し、イスラエルとの「2国家共存」へ道が開かれました。

その後の経緯は省略しますが、ヨルダン川西岸や東エルサレムではユダヤ人入植地が拡大して、オスロ合意が調印された当時の入植者数は約20万人だったが、現在は60万人以上に増加しているという現在のパレスチナの状況を見れば、挫折の歴史であったことは明確です。

ただ、それでもパレスチナ問題をなんとか解決するためには、オスロ合意の道筋に沿って「2国家共存」を実現するしかない・・・というのが国際的共通認識で、アメリカもオバマ前政権まではその線で動いてきました。

しかし、トランプ政権になって以来、アメリカの対応が明らかに変わり、エルサレム首都宣言にみられるように、パレスチナの主張を切り捨て、イスラエルの主張に沿った形で強引に推し進める方針となったことは、これまでもたびたび取り上げてきたところです。(9月9日ブログ“中東パレスチナで踊る荒ぶる破壊神トランプ”など)

トランプ流「世紀のディール」なるものが世間に流布されてもいます。中身はわかりませんが、これまでも触れてきたように、ほぼイスラエルの言い分を丸呑みし、パレスチナ側に力ずくで無理やりのませる類のものでしょう。

つい2週間ほど前は、オスロ合意から25年が経過したということで、上記のような情勢を受けて、オスロ合意や「2国家共存」の将来に悲観的な記事が各紙に並びました。

「2国家共存」崩れゆく25年 イスラエルとパレスチナのオスロ合意【9月13日 朝日】
オスロ合意から25年、希望を見いだせないパレスチナの若者たち【9月13日 AFP】
<オスロ合意25年>中東和平遠く 米、イスラエル寄り鮮明【9月13日 毎日】
米政権、パレスチナに圧力攻勢 「2国家共存」風前のともしび【9月14日 産経】

****和平実現、あきらめムード=米政権がパレスチナに圧力―オスロ合意25年****
中東和平への道筋を定めた「パレスチナ暫定自治宣言」(オスロ合意)の調印から13日で25年。

トランプ米政権は「世紀のディール」として和平実現に意欲を示しているが、聖地エルサレムをイスラエルの首都と認定するなどし、パレスチナは「オスロ合意は崩壊した」(アッバス自治政府議長)と宣言した。市民の間でも和平実現への期待値は低く、あきらめムードがまん延している。
 
歴代米政権はイスラエルと将来のパレスチナ国家の「2国家共存」による解決を目指してきたが、トランプ大統領は昨年12月、エルサレム首都宣言を出し、エルサレムの帰属問題を和平交渉の「議題から外した」と主張。

米政府はパレスチナ支援中止を次々と打ち出して圧力をかけているが、「米国は公平な仲介者ではなくなった」と断じたパレスチナは米側との接触を拒否したままだ。
 
イスラエルの占領地ヨルダン川西岸や東エルサレムではユダヤ人入植地が拡大している。オスロ合意が調印された当時の入植者数は約20万人だったが、現在は60万人以上に増加した。
 
パレスチナでは、アッバス議長が率いる主流派ファタハと、自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの対立が続き、統一政権づくりも危うい。
 
双方の市民も和平に懐疑的だ。8月中旬に公表されたイスラエルとパレスチナの合同世論調査結果によれば、「2国家解決策」を支持するイスラエル人は約49%、パレスチナ人は約43%と、過去約20年で最低となった。【9月12日 時事】 
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トランプ政権によるパレスチナへの圧力の最たるものが国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出停止です。

“背景には「UNRWAの存在がパレスチナ難民の帰還権問題を生き永らえさせている」とするイスラエル右派の考え方があると指摘し、「トランプ政権はUNRWAを解体し、難民の認定数を減らそうと狙っているのだろう」と危惧する。”【9月13日 毎日】

エルサレム首都宣言・米大使館移転でエルサレムの帰属問題を和平交渉の議題から外し、UNRWAを締め上げることで難民帰還問題をまた議題から外そう・・・との思惑のようです。

過去にこれほど人道支援を政治的に利用したケースはない
その思惑の是非は別にしても、そうした交渉を有利に運ぶために、500万人もの難民の生活を支え、50万人もの児童の学校教育を担ってきた資金を停止に追い込むことが許されるのか?という疑問があります。

交渉のためなら何をやってもいいというものでもないでしょう。

2010年に尖閣諸島(中国名:釣魚島)近海での漁船衝突事故をめぐって日中関係が緊張した際に、中国は日本の経済産業に不可欠なレアアースの輸出制限を行いました。そして、中国のそうした手法に日本では激しい批判が起きました。

難民から生活を、児童から学校を奪うトランプ政権の手法は?

****トランプ政権は人道支援を政治利用」国連機関トップが批判****
(中略)530万人に上るパレスチナ難民に食糧や教育などの人道支援をしているUNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関は、イスラエル寄りの立場を取るアメリカのトランプ政権が先月、今後、一切資金を拠出しないと表明したため、活動停止に追い込まれる懸念が高まっています。

これについてUNRWAを率いるクレヘンビュール事務局長が26日、ニューヨークでNHKの単独インタビューに応じ、「人道支援の打ち切りはパレスチナに圧力をかけるためだ。過去にこれほど人道支援を政治的に利用したケースはないだろう」と述べて、トランプ政権を強く批判しました。

一方、27日に開かれる日本を含む支援国による緊急の閣僚会合について、クレヘンビュール事務局長は、「数か国が追加の資金拠出を表明してくれることになったので、来月も活動を続けられるだろう」と述べ、活動停止に追い込まれる事態は当面、回避できるという見通しを明らかにするとともに、国際社会にさらなる支援を呼びかけました。【9月27日 NHK】
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しかし、トランプ政権のパレスチナへの圧力は続いており、ワシントンにあるパレスチナ総代表部(大使館に相当)も閉鎖に追い込まれています。

****パレスチナ大使家族のビザ無効=米政権、総代表部閉鎖で****
パレスチナ解放機構(PLO)は16日、トランプ米政権がPLOのゾムロット駐米代表(大使に相当)の家族の米国ビザ(査証)を無効にしたと明らかにした。

ワシントンにあるパレスチナ総代表部(大使館に相当)の閉鎖に続く動きで、パレスチナ側は「懲罰的措置」と強く反発している。
 
PLO幹部のハナン・アシュラウィ氏は声明で「米国はパレスチナ人への圧力や脅迫の試みを新たなレベルに引き上げた」と指摘。「米政権は和平の機会を壊し、自らの信頼を傷つけている」と批判した。家族は2020年まで有効のビザを持っていたが、今回の措置を受けて既に米国を離れたという。
 
トランプ政権は10日、中東和平をめぐり、パレスチナ指導部が「イスラエルとの直接かつ意味のある交渉に踏み出していない」ことを理由に、総代表部の閉鎖を発表。PLOによれば、職員は10月13日までに立ち退くよう命じられたという。
 
パレスチナ自治政府のアッバス議長は5月、米国が在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転したことに抗議し、ゾムロット氏を召還。同氏はそれ以降ワシントンに戻っていなかったが、夫人と2人の子供はワシントンに残っていた。【9月17日 時事】
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【「2国家解決が一番うまくいくと思っている」】
ただ、突然にこれまでとは全く違うことを平然と言い放つのが“トランプ流”(性格破綻か一種の病気ではないか・・・との見方もありますが)でもあります。

****トランプ氏、中東「2国家解決」を初めて支持 年内に和平計画提示へ****
ドナルド・トランプ米大統領は26日、国連総会に合わせ米ニューヨークでイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談し、中東和平に向けた計画を年内に提示すると明言するとともに、イスラエルとパレスチナの「2国家解決」への支持を初めて表明した。

同大統領は引き続きイスラエル側を支持する一方で、パレスチナ側の和平交渉復帰に自信を見せた。
 
トランプ大統領は計画を提示する日程について、「今後2、3か月の間だろう」と語った。また、同大統領はこの会談で初めて「2国家解決」への支持を明言し、「それが一番うまくいくと思っている」と発言。

「本当に何かが起こると信じている。それを1期目の任期終了(2021年1月)までに達成することが私の夢だ」と続けた。
 
中東和平プロセスは昨年、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都として認定し、それに抗議したパレスチナ側がトランプ政権との接触を遮断したことを受け、実質的に停止。

さらに、米・パレスチナ関係はここ数週、米政府がパレスチナ難民向けの資金援助を削減したことを受けて悪化している。
 
しかしトランプ大統領は会談で、「彼らは絶対に交渉に戻ってくる」「絶対に、100%だ」と述べ、パレスチナ側が近く交渉に復帰することへの確信を示した。
 
また、同大統領は「良いことがたくさん起きている」と述べる一方、「イスラエルは何か相手側にとって良いことをしなければならない」と語り、イスラエル側の譲歩を促した。【9月27日 AFP】
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強引に一方的に物事を進める“トランプ流”への関係国の消極姿勢も関係している?】
「良いことがたくさん起きている」・・・なんのことでしょうか?

ここにきて、突然「2国家解決が一番うまくいくと思っている」というのは、どういう思惑でしょうか?

トランプ大統領の頭の中など、だれも知るすべはありませんが、関連する状況などについて下記のようにも。

****トランプの2国方式解決支持発言****
(中略)haaretz net などが、トランプが2国間方式支持を言明するのは初めてのことだと評していますが、確かにトラン政権、特に彼の発言を見てくると、彼が2国間方式は歴代米大統領が支持してきた、実現性のない非現実的でパレスチナを甘やかす方式だと非難し、ユダヤ人の国家を追及するネタニアフ政権を全面的に支持してきたことは明らかです。

米報道などでしょっちゅう出てくる所謂「世紀の取引」という言葉も中身は不明なるも、一国方式による解決方式ではないかと理解されてきたかと思います。

それがここにきて、一転して、明確に各国の記者の前で、2国間方式を支持する(もっとも、記事によれば、彼は2国間方式でも2国方式(原文のまま)でも、当事者が合意すれば、それでいいが、どうやら2国間方式の方が実現性がありそうで、これを支持すると言った模様)と明言した背景には何があったのでしょうか?

基本的にはこのようなトランプの政策にパレスチナ人自身が激しく反対し、米代表との会談さえ拒否しているために、交渉なるものが全く進んでいないことがあるでしょう。

しかし、報道等からは、トランプとしては、このようなパレスチナを切り捨てることとし、米大使館のエルサレム移転、UNRWAやその他のパレスチナ人支援を削減または中止することとし、PLOの事務所を追放する等、パレスチナ人抜きで、サウディやUAEなどと組んで、強引に一方的に物事を進める方向で動いていたように思われます。

然るに、このような動きに対しては、中東和平では常に大きな影響力を有しているヨルダンが明国に反対の姿勢を示し、その様な解決はハシミート王国の崩壊を招くと反発しました。

また地理的にも隣接し、ロルダン以上にパレスチナ問題に深く関係してきたエジプトも、トランプ方式に対しては低姿勢を貫いてきたうえに、エジプトは2国間方式を支持しているとの立場をとっていたように思います。

更に、アラビア語の報道などでは出ていませんが、おそらくはサウディやUAEでさえ、王族や一部の為政者を除いては、パレスチナ人切り捨てのトランプ方式に対する支持は、極めて少なく、両国政府なども次第にこの解決方式に対する熱意が冷めて、と言うか、その結末が自分たちの権力に対する脅威となり得ることを薄す薄す感じて、熱意が冷めていったように思われます。

特にサウディでは皇太子の内政外交に対する独断専行に対する根強い反発があり、皇太子としてもこの問題で強力な指導力を発揮できる立場にはなくなってきたのではないでしょうか?

このためか「世紀の取引」の内容は固まらないままに今日まで来ましたが、トランプは記者会見で、「世紀の取引」は2~3月の間に発表されるとして、パレスチナ人は100%交渉に帰ってくると語ったとのことです。

そして、トランプはパレスチナ問題は、彼の第1期目の大統領職の間に解決したいと述べた由!

しかし、物事がこれだけこじれてくると、トランプ流で、上手くいかない物事はそ知らぬふりをして、別の問題を提起して、逃げ切りを図ることになる可能性が強くなってきた感じがします。

他方、トランプとの間でどのようなやり取りがあったかはもちろん不明ですが、ネタニアフは記者会見では(haaretz net などによると外交的な顔を見せて)、彼も2国間方式を支持するとした由。

但し、彼はそのためにはイスラエルがパレスチナ全土(表現を使えばヨルダンの西から地中海まで)に完全な安全保障の権限と責任を有することが条件であるとした由

(ということは、要するにパレスチナ国家ができても、その権限はいわば地方自治的なものに限られる…要するにパレスチナ自治区にすぎない・・・ということで、問題の解決にならないことは自明の理かと思います)

またネタニアフ政権の連立政党の反応としては、彼らが政権にある限りは、2国間方式など実現させないという意見表明がある良由。(後略)【9月27日 「中東の窓」】
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交渉の停滞は、「武器を持って闘わなければ、最後には何も得られない」との考えを助長
まあ、明日になれば、また違ったことを言い出すかもしれませんおで、あまりまともにとりあっても仕方がないかも・・・・とは言いつつも、やはりアメリカ大統領の発言となると一定の重みがあります。

エルサレム問題や国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への対応を見る限り、トランプ大統領が「2国家解決」といっても、それはパレスチナ側の権利はほとんど認めない形だけの2国家共存であり、パレスチナ側が了承できるようなものではないでしょう。

****オスロ合意から25年、希望を見いだせないパレスチナの若者たち****
(中略)政府統計によると、ガザ地区およびヨルダン川西岸に住むパレスチナ人の約30%は15歳から29歳だ。
 
オスロ合意の頃に生まれた若者の間では、自らの世代が最も恵まれない環境に置かれているとの考えも根強く、反故(ほご)にされる約束に疲れ果て、政治への関心が低い人もいる。
 
一方、オスロ合意に希望を見る若者もいる。アッバス議長率いるファタハ派の活動家、ジハード・マナスラさんもその一人だ。
 
ヨルダン川西岸ラマラ近くのビルゼイト大学の学生であるマナスラさんは、オスロ合意が失敗だったのなら、それはイスラエル側が合意に違反し続けているからだと語る。
 
マナスラさんは「2国家解決」の実現に希望を持っている。だが、彼は少数派だ。
 
ただ、パレスチナでの最近の世論調査では、「2国家解決」を支持すると回答した人は43%で、パレスチナ国家実現のために武装抵抗が必要との意見は34%だった。
 
これについて、オスロ合意に批判的なズガイエさんは、「もしわれわれが黙って交渉したとしても、占領は続く」と述べ、「武器を持って闘わなければ、最後には何も得られない」と主張した。
 
他方で、パレスチナ国家の実現を今では信じていないという意見もある。28歳女性のマジドさんは、「わたしにとって唯一の選択肢は教育だ。教育を通じて、パレスチナと呼ばれる国があること、その土地がわれわれのものであるということを忘れないよう、世代から世代へと引き継ぐことだ」と語った。【9月13日 AFP】
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“唯一の選択肢は教育だ”・・・・その教育もアメリカのUNRWA拠出金停止で奪われようとしています。
残る道は「武器を持って闘わなければ、最後には何も得られない」ということにもなりかねません。
コメント

メキシコ、ブラジルなど中南米に世界の殺人件数の約3分の1が集中 その闇の背景にあるもの

2018-09-26 22:06:22 | ラテンアメリカ

(アカプルコの住民が朝食をとる横では、メキシコ軍兵士と警察が路上にある遺体の一部を監視している【9月25日 WSJ】)

【「ここは昔、理想の楽園だった。だがわれわれがそれを地獄に変えてしまったのだ」】
“麻薬戦争”で知られるメキシコは世界的な殺人事件多発国家ですが、観光地としても有名なアカプルコはメキシコでも殺人が多い都市としても知られています。

****死があまりにも日常の風景に溶け込んだ街 アカプルコ****
太平洋に面したメキシコのリゾート地、アカプルコは世界で最も殺人が多発する場所の1つだ
 
クリスチャン・サビノさん(22)はある朝早く、中央市場のそばでプラスチック製の椅子に座っていた。そこへ銃を持った男が近づき、5回発砲した。地面に倒れ込んだサビノさんの頭に男は最後の1発を撃ち込み、その場を立ち去った。
 
この日、アカプルコでは他にも6人が殺害された。被害者の1人であるタクシー運転手の遺体はバラバラに切り刻まれていた。

死はあまりにも日常の風景に溶け込んでおり、ローストチキンを出す近くのレストランの一部常連客は、警察がサビノさん殺害の現場周囲を封鎖したのを見届け、そのまま最後まで食事を続けた。
 
ハリウッドスターも訪れる華やかな高級ビーチリゾートとしてアカプルコが人気を誇ったのは昔のことに思われる。人口80万人の同市では昨年、953人が暴力によって殺された。これはイタリア、スペイン、スイス、ポルトガル、オランダを合わせた数よりも多い。(中略)

中央市場でサビノさんが殺害された数時間後、ワニ皮のベルトと黒いサングラスを着用した地元の刑事が姿を現した。刑事は目撃者に何も質問しなかった。検視チームによって遺体が運ばれると、刑事もその場を去った。(中略)

アカプルコ生まれのハビエル・モルレットさんはこの街を誰よりもよく知っている。父親は1960年代に市長を務めていた。モルレットさん本人は市内の空港や港湾の運営会社を経営していたことがある。

2012年、メキシコ市にある同国有数の公立大学に通っていた21歳の娘が誘拐された。必死で行方を捜し続けた末、2年後に娘の遺骨を発見した。事件は未解決のままで終わったという。

モルレットさんは暴力を「自分たちで解決できるとは思えない」と話す。「ここは昔、理想の楽園だった。だがわれわれがそれを地獄に変えてしまったのだ」【後出 WSJ「殺人危機に陥った中南米、犠牲者1日400人 」】
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そのアカプルコでは、連邦警察等による“地元市警察組織に対する”捜査の手が入ったそうです。

****メキシコ当局、アカプルコ市警を掌握 犯罪集団「浸透」で****
メキシコ南部ゲレロ州アカプルコの警察が25日、連邦、州当局の合同チームに掌握された。チームは記者会見で、市警の組織に犯罪集団が浸透している疑いがあると述べた。

同国の国防相、海兵隊、連邦警察や、ゲレロ州の検察、警察で構成するチームが市警全体を掌握し、警官らの武器や防弾ベスト、通信機器を押収した。

警察署長2人が殺人容疑で逮捕され、そのほかの警官らも取り調べを受ける見通しだという。

アカプルコには暴力がまん延している。政府が今年1月に出した統計によると、ゲレロ州では昨年、2316件の殺人事件が発生した。【9月26日 CNN】
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警察組織が犯罪組織と癒着している、あるいは、牛耳られているというのは、メキシコなどではごく普通に耳にする話であり、アカプルコ警察に限った話ではありません。

もっと言えば、今回地元警察を掌握したとされる連邦警察や検事にしても、地元市警察が癒着する犯罪組織と対立する別の犯罪組織と癒着していると聞いても、驚きでも何でもありません。(別に、そうした事実があるとは言いいませんが)

メキシコの治安問題に関係する話題としては、以下のような記事も。

****遺体満載で異臭騒ぎのトレーラー、メキシコ各地から行方不明者家族集まる****
メキシコ西部ハリスコ州の州都グアダラハラで、遺体安置所が飽和状態となったために身元不明の遺体が冷凍トレーラーに積載され、行く先々で異臭がすると住民から苦情を受けているニュースが報じられたことを受け、同国各地から今週、行方不明者の家族が集まって来ている。
 
メキシコは麻薬カルテル絡みの暴力事件が後を絶たず、3万6000人超が行方不明になっており、「失踪者」の家族は数か月、さらには数年にわたり、実りのない捜索を続けている。

国内第2の都市グアダラハラは、国内有数の巨大麻薬組織「ハリスコ新世代」の拠点があり、とりわけ暴力事件が多発している。
 
この問題では、同市内の遺体安置所が飽和状態であるため、市は代わりに大型冷凍トレーラーを借りて犯罪の犠牲者の遺体278体を載せ、市郊外の貧困地区に駐車させていた。

しかし、悪臭やハエの問題、公衆衛生上の懸念を理由に住民から相次いで抗議の声が上がったため、トレーラーを市中心部にある検察の保管施設に移動させるとともに、知事が州の検察官や検視官を解任する事態に発展していた。(後略)【9月22日 AFP】
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問題は、異臭に対する住民苦情云々ではなく、遺体安置所が飽和状態となって冷凍トレーラーを使用しなければならない・・・・という現実です。

わがもの顔にふるまう犯罪組織の活動にメスを入れようとするジャーナリストは“消されます”。

****メキシコで記者が銃撃され死亡、今年9人目****
メキシコ南部チアパス州で、出勤するため自宅を出た記者が銃撃され死亡する事件があった。記者が所属する新聞社が21日、明らかにした。

メキシコで今年、取材活動に関連して殺害されたとみられるジャーナリストは少なくとも9人となった。(中略)

メキシコで巨額の資金が動く麻薬取引、政府の汚職、そしてそれらの間の関係について調べるのは命懸けの仕事だ。(中略)
メキシコではジャーナリストに対する暴力が絶えず、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」は同国をシリアに次いで2番目に危険な国と位置付けている。【9月22日 AFP】
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このような犯罪多発はメキシコに限った話ではなく、中南米に共通した現象です。
殺人事件の絶対数ではメキシコ、ブラジル、コロンビアといった国が世界ランキングの上位に並びますし、人口に対する発生率で見ると、中米やカリブ海の小さな国々が上位に並びます。

****殺人被害最悪、1日175人死亡=治安悪化歯止めかからず―ブラジル****
ブラジルの昨年の殺人(警察による射殺含む)被害者が過去最悪の6万3880人に達したことが9日、NGO「ブラジル治安フォーラム」の調査で分かった。1日平均で175人が命を奪われた計算になる。
 
NGOによると、被害者数は昨年に比べ2.9%増加。人口10万人当たりの殺人発生率は30.8人に上昇した。

州別では北部や北東部が高く、日本企業が集中するサンパウロ州は最低の10.7人だった。警察側の発砲による死者は昨年比20%増の5144人。一方、殉職警官は同4.9%減の367人となった。
 
ブラジルではファベーラ(貧民街)などで違法な銃器がまん延しており、麻薬密売組織同士の抗争や強盗殺人が頻発。

政府はリオデジャネイロ州に軍を展開するなどして治安回復に努めているが、悪化に歯止めはかかっていない。【8月10日 時事】
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リオデジャネイロ郊外では“病院で診察を受けていた女性患者の顔に流れ弾が命中した”【8月12日 AFP】という事件も。どこにいても安全とは言えないようです。

また、武装集団が仲間を連れだすために刑務所を襲うといった映画の中のような事件も。

****厳重警備の刑務所を武装集団が襲撃、受刑者92人脱獄 ブラジル****
ブラジル北東部パライバ州で10日未明、凶悪犯が収監され最高度の警備態勢が敷かれている刑務所を武装集団が襲撃し、銃撃戦で警察官1人が死亡、受刑者92人が脱獄した。(後略)【9月11日 AFP】
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中南米に暴力をまん延させた多くの要因
1950年代にはシンガポールと(コロンビア)カラカスの殺人発生率は同程度だったそうです。その後の両者は全く別の道を。

南米でもチリの殺人発生率はアメリカを下回るそうです。また、メキシコなどでも、事件は特定地域に集中しているようです。

中南米の治安状況が極度に悪いのは、別に血の気の多いラテン気質によるものではなく、“社会の不平等や、急速かつ無計画な都市化、教育や警察といった公的制度の不備、深く根ざした汚職、法律に触れても何とかなるという態度”などの要因が複合して生み出した結果のようです。

****殺人危機に陥った中南米、犠牲者1日400人 ****
世界人口の8%を占める地域が殺人件数では世界の約3分の1を占める

(中略)中南米・カリブ海諸国の多くが世界で最も暴力のまん延する「殺人危機地域」となっている。毎日約400人が殺害され、年間の犠牲者は14万5000人に達する。
 
この地域は世界人口の8%を占めるにすぎないが、殺人件数では世界の約3分の1を占める。また国連の統計によると、2000年以降、致死的な暴力が増え続けているのは世界でこの地域だけだ。

世界の殺人の25%が集中
世界中で発生する殺人のほぼ4分の1が、ブラジル、ベネズエラ、メキシコ、コロンビアの4カ国に集中している。ブラジルでは昨年、過去最悪の6万3808人が殺害された。メキシコも過去最悪の3万1174人を記録し、今年これまでの殺人件数はさらに20%増えている。

ちなみに国連の集計によれば、2016年の殺人事件被害者数は中国が8634人、欧州連合(EU)は5351人、米国は1万7250人だった。

凶悪犯罪は経済発展を遅らせ、米国への移住に拍車をかける。

米州開発銀行(IDB)の2016年の調査によると、中南米諸国の国内総生産(GDP)は暴力によって平均3%押し下げられており、それは先進国の2倍の水準だ。(中略)

ここ数年、恐ろしい暴力から逃れるため、中米諸国から米国へと渡る家族(女性・子供を含む)が増えている。「マラ・サルバトルチャ(MS-13)」、「バリオ18」といったギャング集団が恐怖政治を敷き、住民はどの学校や医療機関に通うかさえ影響を受けている。(中略)
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現在の殺人発生率のまま70年間アカプルコ(またはベネズエラの首都カラカス、エルサルバドルの首都サンサルバドル)に住み続ければ、あなたが殺される確率は約10分の1だ。

2000~2017年に中南米・カリブ海諸国では約250万人が殺害された。シカゴがまるごと消えたようなものだ。これに対し、シリア、イラク、アフガニスタンの武力衝突での死者は合計約90万人だ(国連の集計および「イラク・ボディー・カウント」など民間団体の推計)。(中略)
 
メキシコの殺人件数は実際より少なく報告されているかもしれない。墓標のない墓に放り込まれたり、焼かれたり、サトウキビ圧搾機にかけられたりする遺体も多いからだ。

ティフアナではかつて、地元犯罪組織のために300人以上の遺体を酸に溶かしたと告白した男もいた。かつて凶暴な麻薬犯罪組織「ロス・セタス」が支配していたコアウイラ州には10万3000もの身元不明の骨片があるという。

世界の大半の地域では殺人発生率が低下しているにもかかわらず、中南米では2000年以降、殺人件数が毎年約3.7%増加。人口の伸びの3倍のペースだ(イガラッペ研究所調べ)。

現在の殺人発生率は人口10万人あたり約24人だが、この流れが反転しない限り、2030年には10万人あたり35人となる見通しだ。

闇の背景には何が?
中南米は、暴力的に植民地化され、血なまぐさい戦争によって独立した。
この地域は貧富の差が世界で最も大きく、不満が鬱積(うっせき)している。
経済の大きな部分は、政府の目が行き届かない露天市場や家族経営の商売など「非公式」ビジネスで構成され、それが法をすり抜ける文化を生み出している。
メキシコの麻薬カルテルのような強力な犯罪組織があるほか、弱体化した行政組織には汚職がまん延している。

人口動態にも一因がある。中南米は世界のどの地域より若年層が多く、数少ない有望な仕事を若い男性が奪い合う状況となっている。

それに加えて教育制度の弱さもある。ブラジル政府の統計によると、同国の25歳以上のうち高校を卒業した者は27%しかいない。

中南米では学校や警察といった公共サービスが整備されないまま、急速な都市化を遂げたところが多い。それによって都市周辺部には、社会的に締め出された層が多く住む地区が生まれた。都市部への人口流入が状況をさらに悪化させたようだ。(中略)

中南米には銃もあふれている。大抵は非合法に所持しているものだ。イガラッペ研究所によると、2000~2015年に中米で起きた殺人の約78%は銃によるものだ。これに対し、世界平均は32%にとどまる(米国では約73%)。

これら要因がからみ合って悪循環が生まれている。

世界銀行のローラ・チオダ氏が行った調査によると、ホンジュラスの若者の実に40%が暴力を原因とする何らかの抑うつ症状を示している。(中略)

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中南米は常に世界最悪の殺人多発地域だったわけではない。英ケンブリッジ大学暴力研究センターのマニュエル・アイズナー氏によると、1950年代にはシンガポールとカラカスの殺人発生率が人口10万人あたり6~10人でほぼ並んでいた。

当時、シンガポールにはギャングや売春、麻薬密売、汚職などがはびこっていた。だが1960年代前半の独立後、権威主義的指導者となったリ・クアンユー初代首相は、法の支配を徹底し、教育に力を入れ、勤勉な文化を作り出し、それによって社会の統合を進めた。「抑圧一辺倒ではない。そこには思いやりの要素があった」とアイズナー氏は言う。

現在、シンガポールの殺人発生率は人口10万人あたり0.4人まで低下。

一方でベネズエラ政府はカラカスの殺人件数を集計していない。非政府組織(NGO)ベネズエラ暴力監視団の推計では、同国の殺人発生率は10万人あたりおよそ110人で、年間約3万4000人が殺害されるとみられる。

根付かない法の支配
中南米全ての国がこの問題を抱えるわけではない。チリの殺人発生率は10万人あたり3.6人と、米国を大きく下回る。

メキシコのユカタン州は同様に殺人発生率が低い。都市内部でも犯罪は特定の場所に集中する。コロンビアの首都ボゴタでは全犯罪の半数が、市内のわずか2%の場所で起きている。そう考えると、暴力を減らすためには警察による効率的な取り締まりが不可欠となる。

だがチリや、状況が徐々に改善するコロンビアなどの例外を除き、中南米諸国はおおむね強力な法制度を構築できていない。

同地域で解決される殺人事件の割合は20%に満たない。メキシコではこの数字が10%を下回る。

米連邦捜査局(FBI)に相当するメキシコの検事総長事務所は、過去8年間に組織犯罪に結びつく600件余りの殺人事件を捜査した。しかし有罪の評決を勝ち取ったのは2件しかない。処罰される例がここまで少なければ、殺人を犯しても不問に付されるのと実質的には変わらない。

その結果、人々は自分たちの手で裁くようになる。メキシコ南部の町ミラバルの住民は5月半ば、年配女性を襲って強奪したとして男3人を捕まえ、火あぶりにした。当局者によると、この事件で逮捕者は出ていない。

1990年代に中南米に民主主義が広まったことは、予想に反する影響をもたらした。独裁国家であれば、組織犯罪や暴力をコントロールするのは比較的容易だ。(中略)社会主義国家キューバでは、殺人発生率が人口10万人あたり約4人と推定される。

さまざまな意味で、アカプルコは中南米の機能不全を完璧に表す象徴的存在といえる。魅力的な美しい場所にもかかわらず、中南米に暴力をまん延させた多くの要因がそれを台無しにしている。

すなわち、社会の不平等や、急速かつ無計画な都市化、教育や警察といった公的制度の不備、深く根ざした汚職、法律に触れても何とかなるという態度だ。(後略)【9月25日 WSJ】
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もう一つ“暴力をまん延させた要因”を付け加えれば、暴力の最大の当事者である麻薬組織を支える最大消費国であり、かつ銃の最大供給国であるアメリカがすぐ近くにあるということでしょう。
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スウェーデン  こじれる「中国人観光客のホテルトラブル」 背景には「スウェーデンの排外的感情」も

2018-09-25 23:34:14 | 欧州情勢

(【9月18日 CNN】ホテルの外に連れ出されて、泣き叫ぶ(ようなアピールをする)中国人観光客 相当にオーバーアクション気味です)

中国人観光客のホテルでのトラブル 中国人側に落ち度もあって、中国国内でも当該観光客への批判が
今や全世界に大挙して進出している中国人観光客が訪問先でいろんなトラブルを起こす、トラブルに巻き込まれる、あるいは差別的な扱いを受ける・・・・という話は枚挙にいとまがありませんが、その類のひとつがスウェーデンで起きた「事件」

その第一報は以下のような記事でした。

****中国人観光客にスウェーデン警察がひどい扱い、墓地に置き捨てにする****
(中略)環球網によると、中国人の曽(ズン)さんと両親の3人は今月2日未明、ストックホルム市内の宿泊施設に到着した。チェックインが可能になるまでまだ時間があったため、両親の体調を心配してロビーの椅子で休憩したいと伝えたところ、「すぐに出て行け」と言われ、警察に通報されたという。

曽さんは警察官に両親が服用している薬について説明し、両親だけでもホテルのロビーに留まらせてほしいと訴えた。だが警察官は曽さんの父親を椅子の上から抱えあげてホテルの外に放り投げるなどし、最終的には3人を警察車両に載せ、数十キロ離れた墓地に置き捨てにしたという。

曽さんから連絡を受けた現地の中国大使館と中国外交部は、スウェーデン側に厳正な申し入れを行った。曽さん一家はすでに中国に帰国したという。中国大使館はスウェーデンへの旅行者に対し注意を喚起している。【9月16日 レコードチャイナ】
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この記事を読む限りは、ホテル・警察の対応に“悪意”のようなものすら感じる、ひどい対応のように思えます。

もっとも、私個人の経験からすると、「未明のチェックインというのは(時間にもよりますが)何かとトラブルのもとになることもあるよね・・・」というのが第一印象。

例えば、夜中の12時頃にチェックイン予定だったのが、フライトが遅延して朝の5時頃になって、「3~4時間でもいいから部屋で休もう」とすると、当日の宿泊と誤解されて“予約がない”とか“チェックインは昼過ぎでないとできない”とか言われたりすることも。

単純な誤解ですが、お互いに言葉が十分に通じない状況では、「いや、そうじゃなくて・・・」と、話がこじれたりもします。“未明”だとホテル側も状況を把握している者がいなかったりも。(私が使う安宿の場合ですが)

今回の「事件」も、そんな誤解とか言葉の問題が関係しているのでは・・・とも思ったのですが、すぐに中国人宿泊客側の落ち度が報じられました。

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この一件について、スウェーデンにある中国大使館は「当該中国人とその家族はもともと、9月1日に現地ホテルにチェックインするつもりだった。しかし、中国人は予約を取り間違えており、実際には2日のチェックインとなっていた」と説明。1日深夜にホテルに到着したものの部屋は予約でいっぱいだったため、中国人は「使用料は払うので、1階のバーにあるソファで時間を過ごさせて欲しい」と頼むも、ホテル側は同意しなかったと伝えている。【9月18日 レコードチャイナ】
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1日の夜に宿泊するつもりだったのに、間違って2日で予約したため、2日未明(1日深夜)に到着しても「今夜は空きがない。予約の入っている2日のチェックインは昼過ぎからだ」・・・といった話のようです。

最近、外国でマナー違反などでトラブルを起こす観光客が多いので、中国国内でも「またかよ・・・」といった、問題を起こした中国人観光客への批判も多くあるようです。

****海外で問題起こす中国人、「ビッグベビー」とやゆ―中国メディア****
(中略)(網易の)記事は「中国人観光客一家3人がスウェーデンで粗暴な扱いを受け、ネットユーザーから激しい憤慨の声が出た。しかし、その後拡散した動画によって『ホテルで一泊追加するのにお金を払おうとせず、狭いロビーに居座ってホテルの営業に大きな影響を与えた』と伝えられると、中国国内のネットユーザーはほぼ一辺倒にこの中国人観光客について『ビッグベビー』『中国人の恥さらし』などと非難し始めた」とした。(中略)

また同大使館領事部の関係者によると、トラブル時に中国人一家とホテルとの間で掴み合いのケンカには至っておらず、過激な威嚇するような言葉も使われなかったという。

一方で、中国人客がその場で感情を高ぶらせて大声で交渉した可能性は排除しなかったとのことだ。(後略)【9月18日 レコードチャイナ】
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“感情を高ぶらせて大声で交渉した可能性は排除しなかった”とのことですが、“中国人客がルールに反してホテルのロビーに滞留し、警察との交渉に失敗すると転倒したふりをして大声で泣き叫ぶ”【9月19日 レコードチャイナ】といった騒動もあったようです。(CNN動画で見ると、中国人側に相当なオーバーアクションが感じられます)

そこらを含めて、当初の報道を行った政府系メディアでもある環球網の報道の在り方にも批判が向けられています。

****スウェーデンで「侮辱」の真相、中国メディアの3つの過ち―米華字メディア****
(中略)その後、中国外交部や駐スウェーデン中国大使館もスウェーデン政府に対し警察官の「非人道的扱い」への抗議、中国人客への謝罪要求といった圧力をかけた。

しかし、当時の現場の動画が数多く公開され、現地メディアの報道が出てくると、世論は当初の中国メディアによる報道内容の客観性に疑問を持ち始めた。

主な情報源であり、世論の先導者でもある中国政府系メディアが報道の手法や理念上で大きなミスを犯し、客観的に世論をミスリードしたことは残念であり、一部ネットユーザーからは激しい非難が出ている。

まず、当初の報道で環球時報は全面的な裏取りをすることなく、一方的に中国人観光客の話を信用した。これは明らかに報道の原則を逸脱するものだ。

次に、報道や評論に特定の立場を設け、民意を煽った嫌いがある。最初の報道ではタイトルから本文に至るまで事実の一面性のみを伝え、センセーショナルな表現を連ねた。しかも、事件本体から逸脱して、単純な民事紛争を両国の外交問題にまで昇華させた。

最後に、中国政府系メディアは「人道」と「規則」の境界をあいまいにし、スウェーデン側の「無礼」や「粗暴」を再三強調する一方、中国人客がルールに反してホテルのロビーに滞留し、警察との交渉に失敗すると転倒したふりをして大声で泣き叫ぶといった行為に出たことを「理性を失った中での挙動」で片づけた。

このような報道では、トラブル発生の原因を探る助けにはならない。

より重要なのは、世論からの批判を浴びた中国政府系メディアが自らの問題を反省することなくトラブルを煽り立て続け、自己弁護に走ったことだ。

これは一部中国政府系メディアが本来持つべき慎重な姿勢に欠け、基本的なニュース報道のルールに反していることを示している。

同時に、報道者は中国の世論環境の複雑性を見くびっている。彼らは、このような明らかに欠陥のある報道がひとたび公衆の目に触れたらどんな反応が起こるのか、そしてメディアの威信にどれほどのダメージが及ぶかを予想できないのかもしれない。【9月19日 レコードチャイナ】
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スウェーデンへの抗議をやめない中国 ヘイト的TV番組の問題で怒りもヒートアップ
中国人観光客にも落ち度があったようですし、報道にも偏りがあったとのことで、中国国内世論も懐疑的に見るようになっている・・・・ということで、この件は“済み”かと思ったのですが、中国外交当局のスウェーデンに対する抗議はおさまりませんでした。

中国側からすれば、事情がどうであれ、警官が“父親を椅子の上から抱えあげてホテルの外に放り投げる(あるいは“運び出す”)”という対応が適切だったのか・・・ということにもなるのでしょう。(もっとも、ホテル外でのオーバーアクションを見ると、ホテル内でも相当に厄介な客だったのでは・・・と思われますが)

「事件」は単なる観光客のトラブルを超えて、中国対スウェーデンの外交問題ともなりました。
そうしたなかで、スウェーデンTV番組による「第2幕」とも言える展開に。

****大使館も激怒した「中国人侮辱」のスウェーデン番組の内容とは****
中国の駐スウェーデン大使館は22日、現地で21日夜に放送されたテレビ番組で中国と中国人を侮辱攻撃する内容があったとして、テレビ局に対して強烈な抗議を行ったと発表した。

大使館は、番組は中国と中国系の住民に対する憎しみと対立を公然とあおったなどと主張した。同番組の一部は動画サイトのユーチューブに投稿された。

大使館は、番組中で紹介された中国地図にチベットと台湾がなかったことも問題視し、「中国の主権と領土の完全性を著しく侵害した。関連番組は人類の道徳の最低ラインを超え、人の良知に対する重大な挑戦であり、メディアの職業道徳に対する重大な違反だ」と表明。

さらに、「番組責任者からは、これは娯楽番組だとの説明を受けたが、われわれは絶対に受け入れない」として、納得できる謝罪などがなければ「さらに一歩進んで措置をとる権利を留保する」と説明した。

問題の発端は、スウェーデンのホテルを中国人客3人が予約より前に到着し、ロビーで待つことを求めたがホテル側が受け入れられず、警察に通報して3人を強制的に排除したことだった。

21日放送の問題の番組は、時事問題を扱う番組のパロディーだ。問題の発端になった中国人がホテルから強制排除された様子を撮影した動画を放送する。

警察官2人に両手両足を持ち上げられた中国人が「This is killing(これは殺人だ)」と何度も叫ぶシーンでは、キャスター役がその、口真似をする。そのシーンには笑い声がかぶせられる。

同番組は、現地リポートに見立てたコーナーも放送した。女性リポーターが中国人に話しかける設定で、音声は中国語で現地語は字幕で出る。女性リポーター役は、中国人がスウェーデンを訪れることを歓迎すると述べた上で、「注意するようお勧め」することがあると発言。

リポーター役はまず、「歴史的建物の周囲で大便をしてはいけません」と述べる。画面には、「大便禁止」のパロディー標識が写る。リポーター役は次に「それから、トイレで手に少し大便がついたりしたら、私たちスウェーデン人は手を洗います」と説明。暗に「中国人はそのような場合でも、手を洗わない」と言っているようだ。

リポーター役はさらに、「あなたが犬を散歩に連れて出ている人を見つけたとしても、彼は昼ごはんを買ってきたのではありません」と発言。中国の一部に犬を食べる習慣があることを茶化したとみられる。

リポーター役は次に「私たちはナイフとフォークを使って食事をします。そして食事中には大便をしません」と述べた上で、「私たちとあなた方には、それ以外にも違いがあります」と述べた上で、「あなたたち中国人は人種差別主義者ですが、スウェーデンでは、黒人も大人もアラブ人も同性愛者も暮らしています。なぜならスウェーデン人は、ひとりひとりの平等な権利という原則を支持しているからです。でも、この原則はあなたたち中国人には適用されません。中国の皆さんがスウェーデンに遊びに来ることを熱烈に歓迎します。でも、あなたたちのお行儀が悪ければ、お尻を叩きますからね」と述べた。(後略)【9月23日 レコードチャイナ】
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台湾はともかくチベットも地図にないということになると、中国に挑戦的な“確信犯”的番組のようです。

内容も、“平等な権利”云々はともかく、大便云々はあきらかにヘイト的な表現です。

中国が激怒するのも当然で、中国側の抗議に対しテレビ局側は謝罪はしましたが、中国は納得していません。

****スウェーデンのテレビ局が“謝罪声明”、中国大使館「謝罪になってない」と突っぱねる****
2018年9月24日、観察者網によると、中国を侮辱する内容の番組を放送したとして非難を浴びたスウェーデンのテレビ局が「謝罪声明」を発表したが、中国大使館が声明の受け入れを拒む姿勢を見せた。

(中略)スウェーデンにある中国大使館は22日、(テレビ局の)SVTに対して謝罪を求める抗議声明を発表した。

SVTは24日、公式サイト上に番組チーフディレクターの名前による声明を出したが、これについて観察者網は「番組が表現しようとした内容に至らぬ点があったことは認めたものの、人種差別との指摘や非難に対してはなおも言い逃れをして、謝罪しなかった」と伝えている。

中国大使館は25日朝、改めて今回の件についてSNS上で声明を発表。「STVの番組責任者が24日に出した声明を注視したが、その言論は番組中における人種差別的言動についての言及を故意に回避し、詭弁を弄して責任逃れをしようとしている。このような『謝罪』は決して受け入れない。われわれは改めてSVTの番組スタッフに深い反省と、即時の誠意ある謝罪を求める」とした。

中国外交部の耿爽(グン・シュアン)報道官も24日にSNS上で「完全にメディアとしての職業道徳に乖離(かいり)しており、強く非難する」としてすでに同部としてもスウェーデン側に抗議を行ったことを明かした。

直ちに悪影響を排除する措置を取ることを求めるともに、中国政府としてさらなる措置を取る権利を留保するとの姿勢を示している。【9月25日 レコードチャイナ】
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背景には「スウェーデン国内の排外的感情」も 極右勢力台頭で政権運営も困難に
事態がこじれている背景に「ダライ・ラマ14世」の問題と、「スウェーデン国内の排外的感情」があるとの指摘が。

****スウェーデンの「中国への侮辱」が外交問題に発展した2つの理由****
(中略)(米華字メディア・多維新聞の)記事は「スウェーデンは西側諸国の中で真っ先に中国を承認した国であり、中国がWTOに加入した直後の2000年には華為(ファーウェイ)の現地進出を認めた。
中国による投資に対しても寛容で、EU域内における中国の投資額が最も多い国となっている。

こうして見ると、両国の関係は決して悪くないのだが、どうして今回の件では互いに突っ張り合っているのか」とした上で、その謎を解く2つのヒントを提示している。

1つめは、中国政府が分裂主義者と敵視してるチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が12日にスウェーデンを訪問し、公開演説に出席したことを挙げた。

「中国外交部は『断固』という表現を複数回用いてスウェーデン政府を非難した」とし、「今回の中国人観光客事件とは必然的な関係はないが、確かに事件への中国の反応を激化させた要因だろう」と論じた。

2つめは、スウェーデン国内の排外的感情が関係していると指摘。「外交的には悪い関係ではないが、国内の反中感情は決して小さくない。難民が急増する中で国内の排外感情はますます際立っており、『危険なエリア』も拡大している。市民は不安感とともに排外的な感情を強めている」ことが背景にあるとしている。【9月25日 レコードチャイナ】
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ダライ・ラマ14世が訪問した国では、その後に中国とのトラブルが起きる・・・というのは、これまでも多々見られるところです。

看過できないのは、2番目の「スウェーデン国内の排外的感情」です。

スウェーデンでは9日に総選挙が行われ、与野党いずれの陣営も過半数を獲得できませんでした。一方、「反移民」を掲げて支持を集める極右「スウェーデン民主党」は、選挙前に「第1党になる可能性も・・・」懸念されていましたが、第3党にとどまったものの、勢力は大きく伸長しました。

結果、左派にしろ、右派にしろ、極右「スウェーデン民主党」を排除した形での政権運営が困難な情勢にもなっているようです。

****スウェーデン議会、ロベーン首相の不信任決議 政局不透明に****
スウェーデン議会は25日、ロベーン首相の不信任を決議し、ロベーン首相は退陣することになった。

同国議会は、9月9日の総選挙の結果、単独過半数議席を有する政党がない「ハングパーラメント(宙づり議会)」となっており、誰が次期政権を担うかは不透明だ。

現在、議会は、ロベーン首相が率いる社会民主労働党などの中道左派ブロックが144議席で、野党の中道右派連合のアライアンスが1議席少ない143議席。

不信任投票では、反移民を掲げるスウェーデン民主党(62議席)が野党・アライアンスの支持に回った。

アナリストは、議会議長が新政権樹立をアライアンスの最大政党、穏健党のクリステルソン党首に託すと予想している。ただ、穏健党も過半数議席を持たないため、白人至上主義のスウェーデン民主党か中道左派の支持を必要とする。

ロベーン首相は「アライアンスが最少数会派として政権運営することを選択すれば、スウェーデン民主党に完全に依存することになる」と述べた。

スウェーデン民主党のオーケソン党首は25日、新政権を支持するのと引き換えに政策に同党の主張が反映されるよう改めて要求した。

しかし、アライアンスを構成する穏健党、中央党、自由党、キリスト教民主党は、スウェーデン民主党とは交渉しない方針をすでに示している。ロベーン首相は、アライアンスを支持する可能性を否定しており、政局は流動的になっている。

議長は4回まで新政権樹立交渉を付託することができ、それでも事態が打開しなければ3カ月以内に再選挙を実施することになる。【9月25日 ロイター】
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デンマークはすでに、閣外協力する極右政党の意向で政策が決まるような状況になっています。

ドイツも、メルケル首相の与党の支持率は28%で過去約20年で最低に下落。新興の極右「ドイツのための選択肢(AfD)」は18%で社民党を抜いて初めて2位になっている状況で、連邦憲法擁護庁のマーセン長官の極右擁護発言で迷走していることは周知のところです。

これらの国々では、排外的極右政党は政権を担うところまではいかなくても、政権の方向を左右する影響力を発揮する段階に至っています。「排外的極右政党が」というより、「国民の排外的感情が」というべきでしょう。
コメント

ロシア  年金改革への国民批判、地方選挙で与党敗北も 落ち込むプーチン人気を救う方策は?

2018-09-24 21:47:08 | ロシア

(モスクワの刑務所を出たところで警察官に身柄を拘束された野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏【9月24日 AFP】)

年金問題で盤石のプーチン支配体制に“ほころび”も
ロシアで行われた首長選で、盤石を誇ってきたプーチン政権の与党「統一ロシア」候補が敗れるという事態が注目されています。

****プーチン与党に“ほころび”の兆し ロシア統一地方選で相次ぐ敗北****
ロシア統一地方選(9日実施)をめぐり、2つの連邦構成体(自治体)で23日、首長選の決選投票が行われた。

極東ハバロフスク地方と西部ウラジーミル州でプーチン政権の与党「統一ロシア」の候補が敗北。
また16日に決選投票が行われた極東の沿海地方では、統一ロシア候補が対立候補を僅差で上回ったものの、集計に不正があったとして結果が取り消された。

統一ロシアは昨年や一昨年の首長選では全勝しており、一部の地方では権力基盤に“ほころび”が生じている可能性もある。

4構成体で決選投票
今年の統一地方選では、22の構成体で首長選が実施され、統一ロシアは19の構成体に候補を擁立。15の構成体で勝利した。

ただ、4つの構成体(ハバロフスク▽ウラジーミル▽沿海地方▽南部ハカシア共和国)では過半数を獲得できず、決選投票に進んでいた。
 
決選投票で統一ロシア候補が相次ぎ敗れたことで、長引く経済低迷や国民の反発を招いている年金制度改革、言論の自由の制限などによりプーチン政権の支持率が低下している現状が改めて裏打ちされた。
 
ハバロフスクでは、統一ロシアの現職候補の得票率は約28%にとどまり、ロシア自由民主党候補に敗北。ウラジーミルでも統一ロシアの現職候補の得票率は約37%で、ロシア自民党候補に敗れた。
 
ハカシアでは、9日の首長選でロシア共産党候補を下回っていた統一ロシアの現職候補が決選投票を辞退。統一ロシアを除いた3党の候補で、10月7日に決選投票が行われる見通し。

不正?で取り消し
16日に決選投票が行われた沿海地方では、統一ロシア候補で現職のタラセンコ氏と共産党のイシェンコ候補が接戦に。開票率98%の段階で劣勢だったタラセンコ氏は、同99%の段階で突如として2万8千票を上積みし、逆転した。
 
イシェンコ氏陣営は「地方選管により不正集計が行われた」と抗議。調査に乗り出した中央選管のパムフィロワ委員長は19日、「2万4千の投票用紙が紛失していることが判明した。結果は無効とすべきだ」と勧告した。これを受け、地方選管は3カ月以内に決選投票をやり直すという。
 
プーチン政権は、沿海地方や今回敗北したハバロフスク地方など東部地域に対し、投資を通じた発展をたびたび約束してきた。しかし「目に見える成果は出ておらず、住民らの不満が現れた」と敗因を分析する現地メディアもある。
 
「選挙で圧勝するシナリオを描いていた統一ロシアにとって思いがけない結果となった」(ロシア紙ノーバヤ・ガゼータ)との論評もあり、今回の結果がロシアの政治情勢に与える影響に注目が集まっている。【9月24日 産経】
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“長引く経済低迷や国民の反発を招いている年金制度改革、言論の自由の制限などによりプーチン政権の支持率が低下している現状が改めて裏打ちされた”とありますが、今回の“波乱”の直接のきっかえとなっているのは年金問題であることは間違いないでしょう。

****年金の支給開始年齢引き上げに反対、モスクワで3000人がデモ****
ロシアの首都モスクワで22日、国民の反発が強い年金改革案に反対するデモが行われた。共産党が企画し当局の許可を得て実施されたもので、約3000人が参加した。(後略)【9月23日 AFP】
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年金問題を引き金として、他の経済問題や表現の自由などに関する不満にも火がつきかけています。

****プーチンは去れ!」…ロシアで大規模反政府集会、150人以上拘束 国民の不満高まり反映か****
ロシアの数十の都市で9日、政府による年金支給年齢引き上げ政策に反発する国民らによる集会が一斉に行われた。モスクワ中心部での集会には約数千人が参加したとみられる。ロイター通信によると、日本時間午後9時半時点で、ロシア全国で少なくとも150人以上が治安当局に拘束された。

プーチン政権は反体制勢力への弾圧を強めているが、強権的な政治手法や長引く経済低迷、政権長期化などへの不満が国内に募っている実態が改めて浮きぼりとなった。
 
集会は露統一地方選の実施日に合わせ、反体制派の野党指導者、ナワリヌイ氏がインターネット上などで参加を呼びかけていた。

しかし当局は8月25日、3月の大統領選へのボイコットを呼びかける集会を無許可で組織したとする容疑で同氏を拘束。拘束は現在も続き、同氏の広報担当者は「集会を防ぐための不当逮捕だ」と反発していた。
 
参加者には20〜30代とみられる若者も多く、警察車両から「社会秩序を乱す行為には公権力行使も辞さない」との警告が続く中、「プーチンは去れ」「ロシアを自由に!」などとシュプレヒコールを上げた。

年金制度改革と直接的には関係のない若者らが多く参加した背景には、政府によるネット上の情報統制などへの反発があるとみられる。
 
年金改革をめぐっては、財政難に悩む政府が6月、支給開始年齢を段階的に引き上げる法案を下院に提出。国民の猛反発を招き、支持率が低下した。

プーチン氏は8月29日、法案内容の一部を緩和修正することを表明したが、支持率の劇的回復には至っていない。
 
ナワリヌイ氏は元弁護士で、政権幹部らをめぐる不正蓄財疑惑などを告発。2013年のモスクワ市長選でも健闘したが、刑事罰を受け、3月の大統領選への出馬は認められなかった。5月にも反政府集会を組織し、同氏や参加者ら1000人以上が一時拘束された。【9月9日 産経】
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人口構成の変化で不可避な年金改革
プーチン大統領としても年金受給開始年齢引き上げが国民の反発をまねくこと(それはロシアに限らず、どの国でも同じですが)は百も承知ですが、少子高齢化はロシアも同じで、ロシア財政がもはや避けてとおれないところに来ているのでしょう。

高支持率を維持している間になんとか・・・と考えているのでしょう。
あるいは、女性について「国民不満に配慮して63歳を60歳に変更する」という“見直し”で、“良き皇帝”としての地位を保てると考えたのでしょう。(7月29日ブログ“ロシア 年金受給年齢の大幅引き上げに高まる国民批判 プーチン支持率も急降下

もともと長期政権に対する倦みから一時プーチン人気は陰りをみせたことがありましたが、それを立て直したのはクリミア併合への熱狂的国民支持でした。

しかし、その“クリミア併合人気”も、次第に“賞味期限切れ”にもなりつつあるのでしょうか。

初期のプーチン人気を支えていた、ソ連崩壊後の混乱を収めて経済を再建し、社会に安定をもたらしたという実績(プーチン大統領の力量だけでなく、原油価格高騰という環境に恵まれたことも大きな要因ですが)は、当時を知らない若者が増えたこともあって、こちらも“賞味期限切れ”になっています。若者たちの目の前にあるのは、経済制裁で疲弊したロシア経済だけです。

****ロシアの年金制度改革がプーチン人気を潰す****
<少子高齢化と長引く経済の低迷でロシアの年金制度は破綻寸前。しかし改革を実行すれば餓死者も出かねない>

2005年秋のこと。前年の選挙で再選を果たしたロシアのウラジーミル・プーチン大統領は国民から寄せられるさまざまな質問に答えるテレビ番組に出演した。番組の終わり近く、中年女性が切実な問いを投げ掛けた。政府は年金の受給開始年齢の引き上げを検討しているというが、大統領はどうお考えか。

これは重要な質問だった。プーチンが00年の就任以来、一貫して高い支持率を誇ってきたのも、1つには退職者にきちんと年金を支給し、老後の生活に対する国民の不安を払拭してきたからだ。前任者のボリス・エリツィンの時代には年金の支給が滞ることは珍しくなかった。

プーチンはテレビカメラを真っすぐ見据えた。「私は退職年齢の引き上げには反対だ」。人さし指を左右に振って、そう言い放つ。「私が大統領である限り、そんな決定は下されない」

それから13年。今も大統領の座にあるプーチンはかつての約束に苦しめられている。プーチン率いる与党「統一ロシア」は6月14日、年金制度の抜本的な改革案を発表した。

ロシアの年金受給開始年齢は世界でも例外的に低く、男性は60歳、女性は55歳だが、改革案ではそれぞれ65歳と63歳に段階的に引き上げることになっている。ただし、兵士や警察官など一部の職業は現状のままとする。

ロシア各地で抗議デモが相次ぐなか、プーチンは8月29日、女性の受給開始年齢を当初案の63歳から60歳にする修正案を発表した。世論の猛反発に譲歩した格好だが、この程度の修正で国民の怒りは収まりそうにない。

盤石に見えたプーチン体制も、年金制度改革で最大のピンチを迎えた。これまではロシアと欧米の亀裂が深まることで、かえって国民は一丸となってプーチン体制を支えてきた。だが、そんな「強い指導者」マジックも老後の不安には勝てないようだ。

現行の受給開始年齢はスターリン時代の1930年代に設定され、以後一度も引き上げられていない。年金制度改革は待ったなしだとエコノミストは以前から警告していたが、世論の反発を恐れて、政府はなかなか手を付けようとしなかった。

現行の制度も「手厚い」とは言い難い。平均で月額200ドル相当。年金頼みの高齢者はかつかつの暮らししかできない。

年金事務所の爆破テロ
庶民の怒りに拍車を掛けたのは、改革案発表のタイミングだ。6月14日はサッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会の開幕日。ロシア中がお祭り騒ぎに沸くなか、まずいニュースをこっそりと発表したのではないかとの臆測も流れた。

それが本当なら、姑息なやり方は裏目に出た。改革案にはすぐさま抗議の声が上がり、わずか2週間でプーチンの支持率は77%から63%に低下した。欧米の指導者に比べればまだ高い水準にあるとはいえ、国営メディアを完全に支配している指導者にしては危機的な数字だ。

受給年齢の引き上げが猛反発を食らうのは、ロシア人の平均寿命が短いからでもある。改善傾向にあるとはいえ、男性の平均寿命は66歳。10人に1人は65歳以前に亡くなる。

女性の平均寿命は77歳だが、年齢差別のために、多くの女性は中高年になると働きたくても雇ってもらえない。年金の受給年齢が引き上げられたら、「飢え死にするしかないかも」と、モスクワ在住の40歳のシングルマザーは言う。

政府は年金改革がプーチンの公約に反することは認めながらも、人口構成の変化で改革に踏み切らざるを得ないと主張している。

ロシアでは高齢化が急速に進み、政府の推計によれば、44年には高齢者の数が労働人口に追い付いて国家予算を多大に圧迫する恐れがある。

6月、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「どの国の政府も自由気ままに動けるわけではない」と発言。ドミトリー・メドベージェフ首相も改革は「不可避かつ長年の懸案」だと主張した。

プーチンは改革案発表から1カ月余り過ぎた7月20日、ようやく口を開いた。改革案は気に入らないとしつつ、廃案をちらつかせることはなかった。「国民の大部分にとってデリケートな問題なのは確かだが、情に基づいて決定すべきではない」

国民は納得していない。モスクワの独立系調査機関レバダセンターが7月に発表した世論調査によれば、有権者の約90%が年金改革に反対、改革撤回を求める抗議デモも辞さないという人は40%近くに達した。「社会の激しい怒りを示すものだ」と同センターのレフ・グドコフ所長は言う。

庶民の怒りは一触即発の状態だ。8月3日、ロシア西部カルガの年金基金事務所前で爆弾が爆発、ビル入り口の一部が破壊された。爆発について国営メディアは報道せず、地元テレビ局のウェブサイトからは破壊されたドアの映像が削除された。

絶対的指導者に致命傷が
ロシア各地で共産党支持者や労働組合員や民主化活動家ら大勢の人々が年金改革に抗議する集会を開いている。人々が休暇から戻る秋には規模が拡大する可能性が高い。

反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイは「支給開始年齢引き上げは純然たる犯罪。必要な改革を装った強盗にすぎない」として、統一地方選のある9月9日に全国規模の年金改革反対デモを実施するよう呼び掛けた。そのナワリヌイが8月25日、治安当局に拘束されたことも火に油を注ぎかねない。

抗議をよそにロシア議会下院は7月19日、改革案を賛成多数で可決。だが不満の声は与党内にもあり、賛成票を投じるよう党が指示しなければならなかったほどだ。それでも離反者は出た。ナタリヤ・ポクロンスカヤ下院議員が党の指示に逆らって反対票を投じたほか、与党の下院議員8人が投票を欠席した。(中略)

一部修正案程度では焼け石に水だろう。今さら年金改革を中止しても「退却を余儀なくされた」との印象を有権者に与えるだけだと、政府のスピーチライターを務めたこともある政治アナリストのアバス・ガリャモフは指摘する。
そうなれば完全無欠の絶対的指導者というプーチン像には致命傷だ。

「もはやプーチン人気を確実に救う方法はない」【9月11日号 Newsweek】
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相変わらずの強権的な批判封じ込め
上記記事を含め、しばしば出てくるのが反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏ですが、今日釈放されたのですが、すぐに再拘束されたようです。

****ロシア野党指導者ナワリヌイ氏、刑務所出た直後に再拘束****
ロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が24日、無許可のデモを計画した罪で言い渡された30日間の禁錮刑を追えて刑務所を出てきたところを再び身柄拘束された。同氏の広報担当者キラ・ヤルミシュ氏がツイッターへの投稿で明らかにした。
 
ヤルミシュ氏によるとナワリヌイ氏は、刑務所を出たところで拘束され、モスクワ中心部の警察署に連行されたという。【9月24日 AFP】
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年金問題の火の手が上がっている今、ナワリヌイ氏の言動でさらに燃え盛る事態になるのを避けたい当局の思惑でしょうか?

プーチン大統領自身がどこまで関与しているのかは定かではありませんが(“知らなかった”では済まされない問題ですが)、プーチン政権を支える勢力には批判者は抹殺してでも・・・という危険な体質があります。

****ロシア大統領批判のバンド・メンバーに毒物か ドイツで治療、命に別状なし****
ロシアのプーチン大統領への批判で知られる同国のパンクバンド「プッシー・ライオット」の男性メンバーが食事後、体調を崩す事件があり、治療を行ったドイツ・ベルリンの病院の医師らは18日、毒物が使用された可能性が高いとの見解を明らかにした。
 
男性メンバーはピョートル・ベルジロフさん。関係者の話によると、今月11日にモスクワの裁判所を訪れて食事をした後、急に会話や歩行が困難な状態になった。(中略)

ベルジロフさんを含むバンドの男女メンバー4人は7月、サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会決勝の試合中、政府への抗議のためピッチに乱入。拘束され、15日間の拘留が決定した。【9月19日 産経】
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ただ、こうした強権的な手法も国民的には不評を買うことにつながるかも。

****英神経罪襲撃、容疑者らの「観光目的」主張をロシアメディアも疑問視****
英南部ソールズベリーで起きたロシア人元二重スパイの暗殺未遂事件で、英政府が容疑者と断定したロシア人2人が現場を訪れたのは観光目的だったと説明し、事件への関与を否定している問題をめぐり、14日、普段は愛国的なロシアメディアまでもが疑問の声を上げた。(中略)

ロシアの日刊紙コメルサントは、2人が身分証明書を提示できなかった点や、仕事や私生活について詳細に語れなかった点に疑問を呈した。
 
2人は職業をフィットネス業界とサプリメント業界の企業家と名乗ったが、経済紙RBKの調査によると、ロシア国内に2人の名前で登録された企業は存在しない。RBKはさらに、2人は英国観光の目玉と述べたソールズベリー大聖堂を訪れた証拠も示していないと指摘している。【9月15日 AFP】
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アメリカの制裁「第2弾」はプーチン大統領にとって吉か凶か?】
この問題では、アメリカ議会は8月22日に制裁「第1弾」を発動していますが、ロシアが、今後化学兵器、生物兵器を使用しないことを「証明」しなければ、貿易・金融の停止、外交関係を凍結することを含む、異常に厳しい「第2弾」を11月22日に発動することになっています。

いくらなんでも、そんなに厳しい対応がなされたら米ロ関係は冷戦どころかホットな衝突になりかねません。

いずれにしても、そうした対外的危機が国内問題で苦しむプーチン大統領にとって、さらに足を引っ張ることになるのか、不満から国民の目をそらし、“プーチン人気を救う”格好の機会となるのか・・・。
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日本、世界第4位の移民大国へ 「新たな在留資格」で拡大する外国人労働者 「共生」に向けた課題も

2018-09-23 22:06:30 | 難民・移民

(ベトナムから来日したばかりの実習生。日本語などの研修会の合間に、友だちと持ち寄った弁当を囲む=大阪市中央区【9月2日 朝日】 日本が国際社会・アジア世界で重きをなそうというのであれば、日本に期待して来日した彼らの笑顔が消えることのないような社会環境を作ることが不可欠な第一歩でしょう)

外国人急増で日本社会の風景を変える大きな政策転換となる可能性も 拙速だとの指摘も
日本で働く外国人労働者や日本を訪れる外国人観光客が急増しているというのは今更の話ですが、私のように鹿児島の田舎町に住んでいると、さほど実感する機会も少ないのが実情です。

せいぜい、鹿児島市に出かけた際に、「ああ、なるほど中国系観光客が多いね・・・」と感じるぐらいです。

ただ、たまに東京などに出かけると、ファストフード店では働いているのも外国人なら客も外国人・・・・といった光景を目にして、「そういうことね・・・」とも思ったりもします。

そういう状況にあっても、日本は“外国人に門を閉ざしている”という従来からのイメージ(それは現在でもある面では事実ですが)がありますので、下記のような“日本は世界第4位の移民大国だ”という記事を見ると、ちょっと驚きます。

****日本で暮らす外国人が増加、移民流入4位に上昇****
2018年9月5日、華字紙・日本新華僑報は、「日本は世界4位の移民国家に上昇した」とする記事を掲載した。以下はその概要。

外国人の優秀な人材パワーの助けを借りて日本の技術面の起業力を上げ、国際競争力を強化しようと、日本政府は近年、外国人留学生枠を拡大し、外国人の在留資格の制限を緩和している。さらに、日本に定住する外国人への優待措置を立法化し、多文化を尊重した活力ある共生社会を目指している。

経済協力開発機構(OECD)の外国人移住者統計によると、2015年の日本への流入者は約39万人で、世界で4番目の移民大国へと上昇している。

日本への移住者は「有効なビザを保有し、90日以上在留予定の外国人」を計上しているという。トップ10は、ドイツ(約201万6000人)、米国(約105万1000人)、英国(約47万9000人)、日本(約39万1000人)、韓国(約37万3000人)、スペイン(約29万1000人)、カナダ(約27万2000人)、フランス(約25万3000人)、イタリア(約25万人)、オーストラリア(約22万4000人)となっている。

日本は10、11年の7位から12〜14年に5位、15年は4位と徐々に上昇している。15年の日本への移住者を国・地域別で見ると、最も多いのが中国で、以下、ベトナム、フィリピン、韓国、米国、タイ、インドネシア、ネパールと続く。(後略)【9月6日 レコードチャイナ】
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上記は2015年の数字ですから、現在ではイギリスを抜いて第3位にも上昇しているかも。(イギリスはEU離脱騒動で、むしろ減少傾向ではないでしょうか)

6月に安倍首相が外国人労働者の受け入れを拡大していく意向を示し、外国人労働者の増加を見据え、法務省も入国在留管理庁の設置に向けて動いている・・・という状況で、この外国人労働者の増加傾向はさらに加速することが予測されています。

****<外国人労働者の新在留資格>****
政権が想定している在留資格は、一定の技術水準と日本語能力を身につけた外国人を対象に、最長で5年の在留を認める内容。

業種を所管する省庁が定めた試験で一定の知識や技術を確かめるほか、必要な日本語能力も調べる。技能実習生の場合は3年の経験があれば試験を免除する。

新たな在留資格では家族は帯同できないが、滞在中により高い専門性が確認されれば、長期滞在や、家族帯同も認められる可能性がある。【8月14日 朝日】
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****働く外国人、拡大へ一気 「移民はだめだが」最長5年の在留資格****
外国人労働者の受け入れ拡大に向け、安倍政権が新たな在留資格の創設へ動き出した。人手不足に悩む業界や中小企業からの要望が、受け入れ拡大に消極的だった政権の背中を押した。

働く外国人が急増し、日本社会の風景を変える大きな政策転換となる可能性がある。期待感が広がる一方、対象拡大は拙速だとの指摘も多い。

 ■菅長官が主導
政権の方針転換を主導したのは、急激に進む人手不足に危機感を抱いた菅義偉官房長官だった。
「介護施設を開設しても介護福祉士不足で使えない。なんとかしてほしい」
 
昨秋、菅氏の元に民間の介護事業者からこんな声が寄せられた。調査を指示すると、介護施設が人材不足で定員の8割程度までしか受け入れられないという結果が出た。厚生労働省の需給推計では、2025年度には、介護人材は約34万人不足すると見込む。
 
少子高齢化も踏まえ、早期に対策を講じた方がいい――。菅氏が安倍晋三首相に掛け合うと、首相は「移民政策はだめだけど」と釘を刺しつつ、「必要なものはやっていこう」と応じた。

 ■政権やむなく
(中略)内閣支持率を底支えする経済を腰折れさせないためには、外国人労働者の受け入れ拡大はやむを得ないとして政権は一気に推し進め、6月の「骨太の方針」には新たな在留資格を設ける構想が入った。
 
政権は来年4月の制度開始を目指し、秋の臨時国会に関連法案を出す方針。新たな在留資格の対象業種は建設業や農業など、単純労働を含む分野にも広がる見通しだ。

厚労省は単純労働への外国人受け入れに消極的だったが、同省幹部は「大きな流れの中で異論が言える状況ではなかった」と振り返る。

 ■すでに不可欠
一方、日本社会は既に、外国人労働者なしでは成り立たなくなっている。厚労省の統計では、17年に日本で働く外国人は過去最高の約127万9千人。5年間で約60万人増え、日本の就業者の約2%にあたる。

もっとも、正式に労働者として受け入れられたのは高度な専門人材とされる約24万人のみ。その他は留学生のアルバイト(約26万人)や「国際貢献」を名目にした技能実習生(約26万人)らが多くを占める。
 
特に技能実習制度は格安な労働力の確保策になっているとの指摘が絶えず、違法な長時間労働などの不正が社会問題化している。16年に成立し、昨秋施行された技能実習適正化法では制度の期間や対象職種を拡大し、受け入れ先への監督を強化させたばかりだ。

 ■課題置き去り
その課題の検証もできないまま、新しい在留資格は「導入ありき」で進む。

政権は外国人人口の増加に伴って在留管理を強化するため、法務省の入国管理局を「庁」に格上げすることや、外国人支援策の強化も検討しているが、来春までの準備期間は半年余りしかない。(中略)

 ■業界も動き急 製造・小売り・外食
(中略)「骨太の方針」は、生産性向上や国内人材の確保の取り組みをしてもなお、外国人材の受け入れが必要と認められる業種が新たな在留資格の対象になるとの「考え方」は示しているが、具体的な対象業種は明記していない。

 ■説明あいまい
「外国人技能実習制度とどう違うのか」「求められる技術レベルや日本語能力の水準は」。説明会では、制度の仕組みの説明を求める質問が出た。

経産省の担当者は「法務省から中身の説明がまだない」「(骨太に)書いてある以上のことは分からない」などとあいまいな答えに終始する一方、「要件さえ満たせば製造業も対象になる」と力説した。前のめりな経産省にせかされるように、人手不足に悩む業界は対象業種に加えてもらおうと慌ただしく動き出している。(中略)
 
 ■拡大ありきで
外国人なしでは営業が難しい小売り・外食業界の関心も高い。コンビニ各社が加盟する日本フランチャイズチェーン協会は、技能実習制度の対象職種にコンビニの運営業務を加えるよう求める申請を検討してきた。

ローソンの竹増貞信社長は「人手不足なので、きちんとしたルールができ、受け入れ側も順守する形で新たな制度を活用できればいい」と新たな在留資格に期待をにじませる。

外食企業でつくる日本フードサービス協会も、新たな在留資格の対象に加えるよう政府に要請していく方針だ。受け入れ拡大ありきの動きが広がっている。【同上】
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コンビニや外食産業が新たな在留資格に期待しているのは上記のとおり。

****コンビニも対象業種に? 外国人受け入れ拡大、新たな在留資格 業界団体、国に要望検討****
(中略)日本のコンビニで働く外国人労働者は、大手3社だけで5万人を超える。大手3社の従業員全体の6%強にあたり、全国のチェーン店の運営に不可欠な存在になっているが、「大半が留学生」(大手コンビニ関係者)で、原則として週28時間までしか働けない。(中略)
 
(日本フランチャイズチェーン協会会長の)中山氏は会見で「外国人留学生が働きやすい環境整備が必要。フランチャイズシステムは研修の場所として優れた経験を積める」とも述べ、留学生がより柔軟にコンビニで働けるよう要望していく考えも示した。
 
政権が想定している新たな在留資格は、一定の技術水準と日本語能力を身につけた外国人を対象に最長で5年の在留を認める内容。人手不足に悩む業界や中小企業からの要望が、外国人労働者の受け入れ拡大に消極的だった政権の背中を押した。

今秋の臨時国会に関連法案が提出され、対象業種は省令で定めることになりそうで、建設業や農業など、単純労働を含む分野にも広がる見通しだ。

 ■「不景気、考えているか」
ただ、格安な労働力の確保策になっているとの批判が絶えない技能実習制度の課題の検証も十分にできないまま、新たな在留資格は「創設ありき」で進んでおり、拙速な外国人の受け入れ拡大を懸念する声も出ている。

BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「外国人労働者が増えると賃金は上がらないだろう。企業にとっては安い労働力が入るメリットがあるが、景気が悪くなった時のことも考えているのか。人手不足を理由に拙速に物事を決めているのではないか」と指摘する。(後略)【9月20日 朝日】
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「技能」という建前と「単純労働力」という実態の乖離がもたらしている、“奴隷労働”とか“逃亡、その後の違法在留・犯罪”といった技能実習制度の問題はここではパスします。

“「技能」に縛られた実習生という立場は、人手不足の業界にとっては助かるが、出稼ぎ労働者に近いのが実態の実習生たちは職場に不満があっても働くしかない。そこにトラブルが起きやすい構図が生まれる。”【9月2日 朝日】

同じ過ちを繰り返すことがないように期待します。

また、外国人労働者の増加にともなって「見えない子供たち」の問題も生じています。

“政府の統計をみると、国内には、学校に通っていない外国籍の6~17歳の子どもが最大で約7万人いる。どこで何をしているのか、実態は知られていない。”【9月4日 朝日】

いつも言うように、受け入れる以上は「共生」に向けた本腰を入れた取り組み・対応がないと、「外国人が増えたせいで・・・」といった排外的感情を増長させることになったり、受け入れた外国人に惨めな思いをさせたり、日本社会・外国人の双方に悪い結果をもたらします。

産業界が外国人労働力を求めているのは欧米も同じです。
難民問題で大きく揺れるドイツでも・・・

****政府、難民申請者認める新法検討****
「少子化と労働者不足に対応するために新たな移民法の制定を要求する」
 
独アウトドア用品大手「ファウデ」のアンツィエ・フォンデービッツ社長は昨年9月、メルケル首相あてに、こんな手紙をしたためた。求めたのは、すでに就労した難民希望者に滞在許可を与えることだ。
 
同社でも12人の難民希望者が縫製作業に従事しているが、6人が認定されなかった。住居を探したり、ドイツ語を教えたりと生活基盤のために様々な投資をしてきた。「人道的な理由だけでなく、経済的にも彼らを失うのは大きな損失だ」と同社のリザ・フィードラーさん(31)は話す。
 
同社発の運動の輪は瞬く間に広がり、110社が名を連ねて有力政治家への働きかけを強めている。そこで労働社会省は、就労意思のある難民申請者に広く滞在を認める新法の検討を始めた。内務省が反対していて予断を許さないが、年内にも結論を出す予定だ。
 
ドイツは戦後の高度成長期、トルコなどと二国間協定を結び、多くの労働者を受け入れた。移民系と呼ばれる人々の割合は全人口の約24%に達する。【9月6日 朝日】
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アメリカでも産業界は移民労働力を求めていますが、トランプ大統領がまったく別の視点から受け入れを拒んでいるのは周知のところです。

増加する不法滞在者の長期収容 全く許可が出なくなった在留許可
日本も労働力は欲しいけど移民はダメ・・・という立場で、その点では難民・移民への門戸は依然として厳しいものがあります。

そうしたなかで、不法滞在者の扱いが問題にもなっています。

****不法滞在の外国人、収容が長期化 半年以上が700人超****
ビザの有効期限を過ぎても日本にとどまるなどして不法滞在となり、法務省の施設に長期収容される外国人が増えている。

母国への強制送還が困難な人がいることや、法務省が施設外での生活を認める「仮放免」の審査を厳しくしたことなどが理由で、今年7月末の時点では収容期間が6カ月以上の人が700人を超えた。

収容者の自殺や自殺未遂も起きているが、法務省は抜本的な解決策を見いだせずにいる。

「インド戻れば殺される」入管に長期収容、命絶った男性
法務省によると、在留資格を持たない不法滞在者の収容施設は全国に17カ所あり、2017年は1万8633人が新たに収容された。本人が同意すれば送還の手続きが進むが、拒否をしたり、母国が旅券の発給を拒んだりすると出口が見えなくなる。
 
16年末に収容されていた1133人中、6カ月以上の「長期収容者」は313人(約28%)だったが、17年末は1351人中576人(約43%)と人数、割合がともに増加。今年に入ってからも急増し、7月末時点で1309人中709人(約54%)だった。収容が5年を超える人もいる。
 
同省入国管理局の君塚宏警備課長によると、収容の長期化が進んだきっかけのひとつは、東京入国管理局が10年に強制送還しようとしたガーナ国籍の男性(当時45)が飛行機の中で死亡したこと。

男性を「猿ぐつわ」や結束バンドで拘束し、前かがみの姿勢を取らせていたことが問題となり、3年弱は強制送還がなされず、再開後は帰国を拒否する収容者が増えたという。また、難民申請中は強制送還されないことが知られ、申請する収容者も多くなった。
 
人道的な理由から施設外での生活を認める仮放免の対象者の減少も影響している。人数が増え、刑事事件に関与する仮放免者も出たことなどから、法務省は15年から審査を厳格化。同年末は3606人に認めていたが、17年末は3106人にとどまった。
 
収容の長期化に伴い、自殺者も出ている。茨城県牛久市郊外にある東日本入国管理センターでは今年4月、約9カ月間収容されていたインド人男性(当時31)がシャワー室で首をつって自殺。5月にも自殺未遂者が相次いだ。
 
君塚課長は「長期収容を減らす最も効果的な対応策は強制送還だ」と語るが、すぐに収容の長期化を解消する手段はないという。「現状を変えるのであれば、国民的な議論を進め、在留資格を拡大するしかないのではないか」と話す。【9月23日 朝日】
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****得られない在留許可「異常な事態****
現在、長期収容者の6割以上は難民申請中だ。難民は条約で「人種や宗教、政治的意見などを理由に迫害を受ける恐れがある人」と定義されている。

日本も条約に加入しているが、運用は厳格で、昨年は1万9628人が難民申請をしたのに対し、認められたのは20人だけだった。「人道的な配慮」で特別に在留が許可されたのも45人だった。
 
難民とは別に、家族状況や素行などを考慮し、法相が裁量で決める「在留特別許可」もある。外国人問題に詳しい指宿昭一弁護士は、長期収容者の状況を精査すれば、この対象になる人が多い可能性があると指摘する。

ただ、ここ数年は日本人の配偶者や子どもがいても、許可が出ないケースが相次いでいるという。
 
法務省の担当者は「在留特別許可はガイドラインにのっとっており、厳しくも甘くもしていない」と話すが、17年に許可を得たのは1255人で、12年の2割程度。現在、在留資格のない約50人を担当しているという指宿弁護士は「多くが従前なら認められていたが、全く許可が出なくなっている。異常な事態だ」と語った。【9月23日 朝日】
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相手は同じ人間です。法律を正しく運用しているだけ・・・では済まない問題もあります。
この話に関しては論じるべき問題は多々ありますが、それはまた別機会に。
コメント

マレーシア  高支持率のマハティール首相 アンワル氏への禅譲約束は? マレー系優遇政策の転換は?

2018-09-22 22:41:09 | 東南アジア

(ランドリーが「希望基金」に取引の2%を寄付すると宣言する掲示。政権交代後、新政権は前政権が巨額の債務を残したことを発表したが、国民の一部からは政府債務削減のために寄付を集めようとする運動が自発的に起こった。政府はこの自発的な運動を「希望基金」として組織して寄付を集めている。【8月29日 伊賀司氏 SYNODOS】
上段中央がマハティール氏、左はアンワル氏、右はアンワル氏の妻でもあるワン・アジザ副首相)

国民的にも、国際的にも高い評価のマハティール氏 精力的な政治活動
マレーシアでは今年5月、独立以来政権を維持してきた与党のナジブ首相に対し、その師匠筋にもあたる92歳のマハティール元首相が、かつて自らが権力から追い落とした旧敵アンワル元副首相(政治的陰謀とも言われる同性愛の罪で服役中)に代わって野党勢力を束ねて選挙戦を戦い、見事に勝利・政権を手中にしたことは、5月11日ブログ“マレーシア  独立後初の政権交代 マハティール氏、異例の高齢再登板 難しいかじ取りも”でも取り上げました。

マハティール首相はマレーシアの首相として1981~2003年の22年間、日本や韓国の勤勉さに学ぶ「ルックイースト(東方)政策」を掲げ、工業化や経済発展を推し進め、新興国マレーシアの基礎を築いて人物ですが、1998年、後継者と目されていた当時のアンワル副首相と対立し同氏を解任するなど、強権的手法にも批判があった政治家です。

就任以来のマハティール首相は高齢とは思えない精力的な活動を続けていますが、国際的に注目されるのは、「一帯一路」の重要事業を中止するなど、中国依存を強めていた前政権の姿勢を改めていることです。

****マレーシア首相の中国を恐れない姿勢が注目集める*****
2018年8月28日、仏RFIの中国語版サイトは「マレーシアのマハティール首相の中国を恐れない姿勢が注目集める」とする記事を掲載した。

記事によると、マハティール首相は27日、中国の不動産開発会社が手掛ける1000億ドル(約11兆1200億円)規模のプロジェクトについて、外国人に物件購入を認めず、居住目的でのビザ(査証)発給も行わないと述べた。

また地元メディアの取材では、マレーシア企業と中国企業が共同開発した工業団地「MCKIP」について、「工業団地は外国の領土ではない」とし、MCKIP周辺の壁を解体しなければならないとした。

マハティール首相は20日、訪問先の中国で李克強(リー・カーチアン)首相と会談した際にも、「われわれは新たな植民地主義が生じる状況を望んでいない」とし、中国の指導者の前で、シルクロード経済圏構想「一帯一路」の重要事業として中国が関わる東海岸鉄道計画と二つのパイプライン事業計画を当面中止することを宣言している。(後略) 【8月29日 レコードチャイナ】
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国内的にも、選挙戦での盛り上がりそのままに高い支持率を維持しています。

****マハティール首相、支持率70%も財政難の壁 マレーシア****
 ■初の政権交代から4カ月
マレーシアで初の政権交代を果たしたマハティール首相(93)の就任から4カ月が過ぎた。

選挙公約に掲げた消費税廃止やナジブ前首相の汚職疑惑の追及を着実に進め、約70%の高支持率を維持。
一方、1兆リンギット(約27兆円)もの債務を抱え、財政再建や経済回復などの壁にも直面する。

いわゆる「ハネムーン期間」が既に終わり、世界最高齢の首相の正念場はこれからだ。

 ◆消費税廃止
国民は5月9日の総選挙で、政府系ファンドをめぐる巨額の資金流用疑惑を抱えたナジブ氏に「ノー」を突き付けた。物価上昇で生活が困窮する中、ナジブ氏は汚職で私腹を肥やしていたとの反発が色濃く反映された。
 
マハティール陣営はナジブ前政権が2015年に導入した6%の消費税廃止を公約の目玉に掲げ、政権交代直後の6月1日に早速実行した。
 
マレーシアの世論調査機関「独立センター」の調査(8月7~14日実施)ではマハティール氏の支持率は71%に上り、82%が選挙結果に満足していると回答した。
 
ただ、消費税に代わって9月から導入した売上税とサービス税では財源不足を賄えず、財政悪化が懸念される。調査では55%が政府の生活費負担軽減策に不満も示した。(後略)【9月18日 SankeiBiz】
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なお、マレーシアの捜査当局は9月19日、政府系ファンド「1MDB」をめぐる巨額の資金流用事件で、ナジブ前首相(65)を再逮捕、両指導者の明暗がはっきりとわかれています。

“「就寝は夜中の3時ごろ。朝7時には起床する」と話すマハティール氏は、政権交代以来、ごく最近まで土日返上で政務に明け暮れている。”

“「22年間首相を務めた老練な宰相政治家のマハティール首相だからできたこと」と実績を示すマハティール氏を高く評価する国民の声は大きく、支持率も80%前後を維持している。”

“ポンペオ(米国務)長官は、自身のツイッターでも「マレーシアよ、よくやった!」と政権交代の偉業を祝福した。”【9月14日 末永 恵氏 JB Press】

波に乗り、精力的に政務をこなすマハティール首相、国民的にも、国際的にも高い評価・・・・こうなると、アンワル元副首相への禅譲がどうなるのか・・・という問題も出てきます。

アンワル氏への禅譲約束は?アンワル氏に“焦り”も
マハティール氏は野党を長年率いた宿敵のアンワル元副首相と手を組み、政権交代が実現すれば1~2年で首相職を引き継ぐと約束しています。アンワル元首相(マハティール首相が進めた国王恩赦により、5月16日に釈放)からすれば、マハティール首相は自分が活動できない間の“代打”ですあり、本来は自分が首相に就くべき・・・ということになります。

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・・・・ただ、(マハティール首相は)就任後は「必要とされる限り務める」と交代時期を明言しなくなった。日本や中国、インドネシアを飛び回り、年齢を感じさせない過密なスケジュールもこなす。脳や体を「活発に動かし続けること」が若さの秘訣(ひけつ)という。
 
「最期まで首相を続けるだろう」(シンガポール外交筋)との観測もあり、手腕次第ではそれも現実味を帯びる。【9月18日 SankeiBiz】
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政治家の“禅譲”約束はあまりあてになりません。
政権への“色気”が強まったのでしょうか? あるいは、そのあたりは最初から念頭にあったことでしょうか?

アンワル元首相としては、非常に気になるところです。政権復帰のためには、まず議員に復帰する必要があります。
                  
****アンワル元副首相が出馬=次期首相候補、来月の補選に―マレーシア****
マレーシアの与党・人民正義党(PKR)は21日、記者会見し、10月13日に行われる連邦議会下院の補欠選挙にアンワル元副首相(71)が出馬すると発表した。
 
アンワル氏はかつてマハティール首相(93)と対立したが、現在は和解し、次期首相候補と認められている。当選して下院議員になれば、首相就任が可能となる。
 
アンワル氏が立候補するのは、首都クアラルンプール南方の港町ポートディクソンでの補選。同地の選挙区で当選していたPKR所属議員の辞職を受け、実施される。アンワル氏は会見で「政府の力に頼らず自力で選挙を戦う」と訴えた。【9月21日 時事】 
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自分の党の議員を辞職させて補欠選挙を行わせ、そこに自分が立候補するということで、アンワル元副首相には“焦り”もあるのでは・・・との指摘もあります。

マハティール氏が重用する“若きライバル”(11月の党代表選挙でアンワル氏の右腕となるナンバー2のポジションを争う党副総裁のポストを目指すアズミン氏)も存在するようです。

****根強いマハティール人気に焦り? アンワル元副首相****
(中略)マハティール氏は、国会議員でもないアンワル氏に代わって、新内閣の要職の経済大臣に若いアズミン氏を抜擢。
 
マハティール氏は筆者との単独インタビューで「自分の後継者は、本当は若い政治家がいい。アズミンは有能だ」と言っていたほど、高い評価を与えてきた。

アンワル氏の憂鬱は、ここにある。
カリスマ指導者として仰がれてはいても、現在は国会議員でも内閣の一員でもない。かつては部下だったアズミン氏の方が内外で政治的にも権力や政治力を発揮、アピールしているのだ。(中略)

「アンワル氏を全面支持する」と、アズミン氏は表面的には言うものの、実績がそうはさせない可能性がある。
アンワル氏は、もし党代表選の副総裁選でアズミン氏が敗北した場合、党員の多くを引き連れ、マハティール氏の政党に鞍替えするかもしれない、と心配する。
 
東南アジア専門の政治アナリストは「マハティール氏がそれを目論んでアズミン氏を経済大臣に抜擢した可能性がある」とさえ言う。(中略)

マハティール氏とアンワル氏はかつての古傷を癒し、共闘したと互いに傷を嘗め合う。しかし、両者をよく知る政界の重鎮は筆者に対して、「2人が、過去を本当に水に流したとは思えない」とも言う。(中略)

マレーシアの首相禅譲が円滑に進むか。「内憂外患」のアンワル氏の憂鬱は計り知れない。【9月14日 末永 恵氏 JB Press】
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割れる多数派マレー系の支持 アンワル氏が目指すマレー系住民優遇政策からの転換は可能か?】
アンワル元副首相は多数派のマレー系住民を優遇する「ブミプトラ(土地の子)政策」の変更を表明しています。
マハティール対アンワルの争いという下世話な関心はともかく、マレーシアの国内政治的にはこの問題が一番重要でしょう。

****マレーシア・アンワル元副首相 首相就任へ「年内出馬****
マレーシアのマハティール首相(93)から首相職の禅譲を約束されているアンワル元副首相(71)は28日、日本経済新聞のインタビューに応じ、首相就任の前提となる国会議員資格を得るため「10月か11月までには補選に出馬する」と初めて明言した。

マハティール氏が中止を決めた中国主導のインフラ開発に関して対中関係の改善を訴えたほか、マレー系住民を優先する政策を見直す考えも示した。(中略)

ただ「政権交代からまだ約4カ月しかたっておらず、マハティール氏が自由に改革を実行できるようにしたい」と指摘。自らは司法・選挙制度改革などを主導し、役割分担を明確にする考えを明らかにした。ナジブ前政権下で旧与党寄りにゆがめられた司法や選挙制度の改革に優先的に取り組むと話した。
 
かつて自らを解任、逮捕に追い込んだマハティール氏との共闘は「簡単ではなく苦渋の決断だった」と明かした。ただ現在は「疑うことなく彼を信頼している」と一枚岩を強調した。
 
マハティール政権に注文を付けたのは対中国政策だ。マハティール氏は中国主導のインフラ開発の中止を決めたが、アンワル氏は「政府の方針は尊重するが、友好的な解決方法を見いだしてほしい」と呼びかけた。(中略)

多数派のマレー系住民を優遇する「ブミプトラ(土地の子)政策」にも触れ「特定の民族や、仲間内、富裕層を優遇する政策は廃止する必要がある」と指摘。マレー系のみを優遇する政策から、貧困層や発展から取り残された層を対象とした優遇策に変えていくべきだと説明した。
 
「同性愛行為」などを理由に2度服役したアンワル氏。「性的少数者(LGBT)を尊重すべきだ」と語ったほか「いかなる宗教やイデオロギーの名の下でも、暴力を振るうものを容認はできない」と、イスラム過激派には断固とした対応を取ると強調した。リベラルな側面をのぞかせたが、同性婚の許容については否定的な考えを示した。【8月28日 日経】
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多民族国家マレーシアですが、いうまでもなく多数派はマレー系です。
前回選挙の投票動向、マハティール政権への支持に関して、その多数派マレー系と華人・インド系では差があります。

****政権交代から100日を迎えたマレーシア――希望連盟政権下での民主化に向けた実績と課題 - 伊賀司 / 政治社会学・マレーシア研究****
(中略)とはいえ、この首相と政権支持率を民族別にみてみると、希望連盟政権の課題もみえてくる。8月時点の首相支持率はインド人が93%、華人が83%であるのに対し、マレー人が62%と、マレー人からの支持が低くなっている。

政権支持率も同様の傾向を示し、インド人89%、華人79%、マレー人58%である。つまり、希望連盟政権は非マレー人からの高い支持を獲得しているものの、全人口の6割程度を占めるマレー人からの支持が相対的に低い。

このマレー人からの相対的に低い支持率の原因として考えられるのは、後述するように、選挙前からの政党間でのマレー人支持の分裂や、野党となった国民戦線の中核政党UMNOおよび、汎マレーシア・イスラーム党(PAS)によるマレー人支持者へのはたらきかけが指摘できる。

加えて、希望連盟政権が公には特定の民族に偏らないマルチ・エスニックな政治を語り、1970年代以降では初の非マレー人の法務長官を任命したこと、さらには、華人向けの中等教育の分野で新政権が従来よりも華人寄りの政策を発表したことで、一部のマレー人団体から批判が起こったことも影響しているとみられる。

希望連盟の公約が実際に達成されなくても、民主化の進展にプラスとなる実質的変化も起こっている。具体的には、政権交代によって、言論や表現の自由はナジブ前政権期と比べて明らかに拡大した。メディアの報道や個人のSNSを通じた意見の表出が格段に自由になる中で、市民社会組織の活動が活性化している。(中略)

新政権が政権交代を通じて生まれた改革の機運の高まりを着実に制度化していくという課題は、メディアや市民社会の分野だけでなく、警察、司法、選挙制度、反汚職対策など、様々な分野において求められていることでもある。

危うさをはらむ希望連盟のガバナンス
希望連盟政権は2018年8月時点で、国民からの依然として高い支持を誇っているものの、ガバナンスの観点から今後の安定的で民主的な政権運営にとってマイナスとなりかねない兆候もみられる。

ここでは2点ほど指摘しよう。
その1つが政権交代から現在までのところ、新政権がマハティール首相の個人的リーダーシップに大きく依存しすぎていることにある。新たに与党となった希望連盟所属の議員は、その大多数が、過去に州政権を運営した経験はあっても連邦政府を運営した経験がない(中略)

問題なのはこうして矢継ぎ早に発表される政策の多くが、マハティール首相の個人的リーダーシップに依存しすぎている点にある。

政府内での適切なチェックアンドバランスの制度を確立するうえで、強力な個人的リーダーシップを必要とするマレーシア政治の現状が、民主化定着に向けた移行期特有の問題に留まるのか、あるいは、強力なリーダーシップの遺産が今後の民主化に向けての悪影響としてあらわれてくるのかは、今後の展開をみなければならない。

ガバナンスの観点からの新政権のもう1つの不安材料は、希望連盟を構成する政党間の問題である。希望連盟政権には、大臣ポストと、連立を組む政党の勢力との間に見過ごせないギャップがある。(中略)

前政権とは異なり、希望連盟政権では現在のところ、(前与党から分派したマハティール氏率いる)PPBMと(イスラム主義政党PASから分派した)Amanahという少数党が優遇されていることが、連立内の各党が対等な立場でコンセンサスを形成していることを示しているといえるだろう。

しかし、(アンワル氏率いる)多数党のPKRの一部からは、議席数とポスト数の不釣り合いに不満の声も漏れている。

現在のところは希望連盟各党が政権交代を協力して成し遂げた達成感とマハティールの強いリーダーシップによって、多数党からの不満は最小限に抑えられている。

しかし、希望連盟内で明確に多数を占める政党が存在せず、少数党がポスト配分で優遇される現状は、今後の対立を生む火種となる可能性が高い。(中略)

「新しいマレーシア」の行方
今後の希望連盟政権の行方に影響を与えるのは、公約の達成、制度改革の進捗、政府・与党のガバナンスの問題だけではない。民族、宗教、セクシュアリティなどのアイデンティティをめぐる政治の動向も大きく影響する。(中略)

総選挙で希望連盟は、華人やインド人などの非マレー人からの圧倒的支持を得たものの、全人口の6割程度を占めるマレー人の間の支持は、(与党の)希望連盟、(前政権与党の)国民戦線(とその中核政党のUMNO)、(イスラム主義)PASの3政党(連合)の間で分裂したままである。(中略)

もともとマレー人の民族政党であって、国民戦線の他の構成政党を考慮する必要がほとんどなくなったUMNOが、今後ますますマレー人を対象としたイデオロギーや主張に接近していく可能性は十分ある。(中略)

野党のUMNOやPASが人口の多数を占めるマレー人へのアピールのために、民族や宗教に基づく政治へのシフトを今まで以上に強めるならば、希望連盟側もマレー人に向けて特別な対応を迫られる可能性が少なくない。(後略)【8月29日 SYNODOS】
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大幅に省略したためわかりにくくなっていますが、もともと支持が割れているマレー系、マレー人重視の姿勢を今後強める野党勢力、選挙対策を考えると野党に対抗して多数派マレー系にアピールする必要がある与党。

かりにアンワル氏が首相の座についたとしても、こうした政治情勢のなかで、前出の多数派のマレー系住民を優遇する「ブミプトラ(土地の子)政策」からの転換し、多民族を統合していくことができるか・・・非常に厳しい状況とも言えます。


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イエメン  再開した重要港湾ホデイダをめぐる攻防 深刻化する飢餓の脅威

2018-09-21 22:30:48 | 民主主義・社会問題

(イエメン北西部ハッジャ県の病院で体重測定をする栄養失調の子ども(2018年8月18日撮影)。【9月19日 AFP】)

再開したホデイダ攻防戦 サウジ主導のアラブ連合軍“前例のない激しい攻撃”】
内戦が続くイエメンの状況に関しては、情報があまり多くはありません。

反政府勢力フーシ派が支配する重要港湾ホデイダに対する、サウジアラビア・UAEなどのアラブ連合軍の支援を受けたイエメン暫定政権軍による奪還作戦が始まり、今後の戦局の重要な転換点となるかも・・・という件は、6月16日ブログ“イエメン 重要港湾ホデイダ奪還作戦 人道危機深刻化の懸念も UAE・サウジの思惑は?”で取り上げました。

しかし、その重要作戦であるホデイダ奪還がどうなったのか・・・情報が途絶えていました。(サウジアラビアによる空爆(誤爆)によって犠牲になった多数の子供などの報道はありますが)

戦闘状況はよくわかりませんが、ホデイダが人道支援物資搬入の拠点となる港湾で、ここが戦闘状態となることで、これまでも深刻だった飢餓の危機がさらに危険度を増す・・・という懸念の方は、着実に現実のものとなっています。

****イエメンの港湾都市ホデイダ、人道支援が危機に WFPが警鐘****
世界食糧計画は14日、イエメンの反体制派が支配する同国西部の港湾都市ホデイダで人道支援活動家やインフラを狙った砲撃と空爆が行われており、350万人の「非常に飢えた人々」に対する食糧支援が脅かされていると警告した。
 
WFPは「ホデイダでここ数日、イエメンの人道支援にとって重要な非戦闘地域の内外で安全上の問題が起きていることに強い懸念を持っている」と発表。「警戒すべき」状況だとした。
 
さらに、「紛争が、同国で最も支援が必要な地域の一つであるホデイダと周辺地域への継続的な人道支援を脅かしている」と警鐘を鳴らした。
 
ホデイダ付近ではここ数日、戦闘が激化している。ホデイダは支援物資輸送の重要拠点だが、サウジアラビア主導の連合軍は、同市はイランが支援する反政府武装組織「フーシ派」の武器調達の主要経路にもなっていると主張している。
 
国連によれば、ホデイダの市民は戦闘の脅威に加え、食料と水、医薬品の深刻な不足に直面している。
 
イエメンの紛争では、サウジアラビア主導の連合軍がイエメン政府を支持して介入した2015年以降、1万人近くが死亡している。【9月15日 AFP】
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上記記事で“ホデイダ付近ではここ数日、戦闘が激化している”とあるように、一時小康状態(?)だった戦闘は再び激化しているようです。

****ホデイダ攻略戦の再開****
アラビア語メディアはいずれも、サウディ等アラブ連合軍が政府軍を支援して、ホデイダ攻略戦を再開したと報じています。

それによると、アラブ連合軍は、海軍学校を含むホデイダの複数個所、特に要塞化された拠点を激しく空爆しているとのことで、政府軍等は、複数方面からホデイダの攻略を進めていて、またアラブ連合軍の海上部隊も攻撃に参加(艦砲射撃か?)している由。

一部の報道は、アラブ連合軍のホデイダ地域司令官が、今回の攻撃は前例のない激しいものだと語ったと報じています。(後略)【9月18日 「中東の窓」】
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海上からの攻撃も激化しているようですが、“(al jazeera net の)記事によると、18名の乗った小舟艇(漁船)が、ホデイダの近くの海で、アラブ連合により攻撃され、彼らが死亡したとのことです。”【9月19日 「中東の窓」】ということで、相変わらず民間人犠牲者が絶えないようです。

フーシ派の抵抗を支えるイラン
サウジアラビアが資金・物量に物を言わせる攻撃を続けながら、ホデイダも、イエメン全土も、戦闘状況が大きな進展を見せないほどにフーシ派の抵抗が頑強なのは(抵抗を続けるだけでなく、サウジアラビアにミサイルを撃ち込む攻撃も)、よく言われているように背後にイランの支援があるからでしょう。(イランは支援を否定しています)

****米、自動小銃2500丁押収=イランからイエメンに輸送か****
米軍は6日、イエメン沖合のアデン湾で国籍不明の小型船を臨検し、2521丁の自動小銃AK47を押収したと発表した。ボートがどこからどこに向かっていたかは不明。

ただ、米軍は過去にもイランからイエメンのイスラム教シーア派系武装組織フーシ派に送られた自動小銃や対戦車砲などを押収している。
 
米第5艦隊によると、中東に展開するイージス駆逐艦「ジェイソン・ダンハム」が先月28日、アデン湾の国際海域で不審な小型船を見つけ、乗船検査で武器を発見した。同艦隊は声明で「米軍は違法な武器密輸の取り締まりに積極的に関与している」と強調した。【9月7日 時事】
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米軍は過去にもイランからフーシ派への武器支援を摘発しているとのことですが、逆に言えば、発覚するのは極めて例外的なケースです。

素人考えでは、フーシ派がこれだけ抵抗を続けられるほどの大量の武器・弾薬の支援をイランがどのように行っているのか不思議でもあります。(制空・制海権はサウジアラビアなどが有していると思うのですが)

深刻化する飢餓の脅威
こうした状況のなかで、先述のように飢餓はますます深刻化しています。

****内戦続くイエメン、子ども500万人以上が飢餓に直面****
子どもの支援を専門とする国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」は19日、内戦が続くイエメンで食料や燃料の価格が高騰し、500万人以上の子どもが飢餓の脅威にさらされていると明らかにした。
 
セーブ・ザ・チルドレンは最新の報告書で、戦闘の激化により同国西部の港湾都市ホデイダへの支援物資輸送が滞っており、かつてない規模の飢饉に発展する恐れがあると指摘。
 
同NGOによると、輸送費の高騰などにより新たに100万人の子どもが飢餓に陥る危険がある状態となり、飢餓に直面する子どもは合わせて520万人に達したという。
 
イエメンでは2014年以降、サウジアラビア主導の連合軍が支援するアブドラボ・マンスール・ハディ暫定政権とイスラム教シーア派系反政府武装組織「フーシ派」の対立による内戦が泥沼化している。【9月19日 AFP】
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もちろん、飢餓の脅威にさらされているのは子供だけではありません。

****イエメン飢餓の警告(WFP事務局長****
イエメンに関しては、これまでも国連諸機関(特にUNCEF等)が、飢餓、特に児童の飢餓の問題について警鐘を鳴らしてきましたが、al jazeera net はWFP世界食糧計画の事務局長が20日、内戦の継続と食糧援助を必要なところに届けることが困難なために、イエメンは現在深刻な飢餓の危険に直面していると警告したと報じています。

事務局長はWFPは2017年、毎月深刻な食料不足に悩む人々600~700万人に食料を提供してきたが、今年は状況がさらに厳しくなったので、800万から、更には1200万人に援助をしなければならないとしています。

さらにこの中で、事務局長は、(誰が、特定はせずに)紛争当事者が、戦争目的で、WFPの食糧貯蔵庫を襲ったり、食料輸送を邪魔したㇼ、職員の活動を邪魔したりしていることは遺憾であるとし、また(ホデイダ攻撃との関係と思われるが)食糧の新しい輸入港を見つける必要があるとした由

他方NGOのsave children も19日、サウディ―UAEのホデイダ攻撃が、500万の児童を飢餓にさらしていると非難した由(後略)【9月21日 「中東の窓」】
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「中東の窓」では、al qods al arabi net が掲載している2019年のイエメンの飢餓地図なるもの(ソースはNGO)を紹介していますが、それによると、ホデイダに物資搬入を依存する北部サヌア(首都)周辺だけでなく、重要港湾アデンを擁する南部の人口密集地機でも「緊急事態」レベルの飢餓が広がることが予想されています。【9月21日 「中東の窓」より】

比較的明快な対立の構図 和平を妨げるものは?】
多数の民兵組織・武装勢力が跋扈するリビアやコンゴ、宗教などの違いによって住民同士が殺しあう中央アフリカなどに比べれば、イエメンの対立は当事者も支援国もはっきりしており、比較的単純(あるいは明快)な構図であるとも言えます。

端的に言えば、サウジアラビアとイランさえ手を引けば、暫定政権とフーシ派による和平協議も可能になります。

もっと言えば、トランプ米大統領が、「イラン核合意に戻り、サウジアラビアに手を引かせる。そのかわりイランもイエメンから手を引け」と言えば、戦闘は止み、飢餓の脅威への対応も軌道に乗ります。

(それによって、トランプ大統領は常日頃欲しがっているオバマ前大統領を超える国際的称賛も手にすることもできます。イラン核合意破棄の最大理由であるイランの影響力拡大にも一定に歯止めをかけることができます。サウジもイランもイエメンの“重荷”から解放されます。)

それを妨げるものが何なのか?それが何百万、1千数百万人もの人々を飢餓の脅威にさらすほどのものなのか?
素人にはよく理解できません。
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