孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ問題でも垣間見えるドイツとロシアの強固なつながり

2014-04-30 22:15:01 | 欧州情勢

(メルケル首相とプーチン大統領 サンクトペテルブルク近郊で2013年9月撮影 【3月13日 ロイター】
東ドイツ出身のメルケル首相はロシア語が話せ、KGB時代には東ドイツで活動していたプーチン大統領はドイツが話せる・・・ということで、二人はコミュニケーションも取りやすいのではないでしょうか。)

追加制裁発表の日 独前首相、露大統領と抱擁
ウクライナをめぐる欧米とロシアの対立は、アメリカの追加制裁を受けて、ロシアがウクライナ国境での軍事演習を中止し、部隊を撤収させることを明らかにし(撤収規模は不明)、また、ウクライナ東部スラビャンスク市で拘束されている全欧安保協力機構(OSCE)の監視団員7人について親ロシア派住民の代表が「即時釈放は可能」と発表する(解放時期は不明)など、これまでの「一触即発」とは少し異なる情勢も生まれてきています。

しかし、依然としてウクライナ東部の情勢が緊張状態にあることには違いはありませんが、そうしたなかで、ドイツの前首相シュレーダー氏とロシア・プーチン大統領の親密ぶりが話題となっています。

****独前首相の誕生日祝う プーチン大統領****
ドイツメディアによると、プーチン露大統領は29日、露西部サンクトペテルブルクで開かれたシュレーダー独前首相の70歳の誕生会に出席し、ともに祝った。ウクライナ情勢でドイツを含む欧米と対立を深めるなか、プーチン氏はかねて親交の深い前首相との友情を確認した形だ。

誕生会はバルト海を通じて独露間を結ぶ天然ガスのパイプライン運営会社が企画したもよう。シュレーダー氏は首相時代にパイプライン計画を推進し、退任後に露国営企業ガスプロムの子会社である運営会社の幹部に就任している。

独メディアは、会場前で出迎えたシュレーダー氏が車で到着したプーチン氏と笑顔で抱き合う写真も合わせて報じた。誕生会にはガスプロムのミレル社長も加わったという。

シュレーダー氏はクリミア併合問題で、かつてのユーゴ空爆を引き合いに欧米も国際法に違反したなどとロシアに擁護的な発言をし物議を醸している。

独政府高官は会合の報道を受け、「シュレーダー氏は政府を代表していない」とロイター通信に強調した。【4月30日 産経】
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シュレーダー前首相は、ドイツの脱原発を進めていくためにロシアからの天然ガスの安定供給を重視し、ウクライナなど“問題国”を経由せず、ロシアからバルト海を通って直接にドイツにもってくるパイプライン“ノルド・ストリーム”建設を推し進め、政界を退いた後は、ノルド・ストリームにかかわるロシアのガス供給会社ガスプロムの子会社の経営陣として迎えられています。

また、プーチン大統領の個人的な信頼関係に基づく良好な独露関係も築きました。

そうした経歴からみて、また、これまでのウクライナ問題に関するロシア擁護姿勢からしても、今回の誕生会は特別驚くべき話でもありません。

ただ、ドイツ国内にはこうしたシュレーダー前首相の行動への批判もあるようです。

“前首相が政界から離れたとはいえ、こうした行為が「無神経」だとの批判が炎上した。また、シュレーダー氏と距離を置くと表明した独政府関係者も相次いでいると報じられた。ある独政府高官は、シュレーダー氏が独政府を代表しないと発言。また、別のドイツメディアは、シュレーダー氏が方向を見失っているとも批判した。”【4月30日 Kabutan】

もともと、シュレーダー氏がガスプロムの子会社の経営陣に就任したことについても、“選挙で敗れて政界を引退したばかりの元首相が利益相反を疑われる外国企業にかかわるという節操の無い姿勢がドイツでは非難の対象となった”【3月26日 SYNODOS】ということもあります。

そういう批判はあるにせよ、今回の話はドイツとロシアの結びつきの深さを示すエピソードでもあります。

ロシアとの強い経済・資源関係 歴史的親近感も
今後の対ロシア制裁については、アメリカ・オバマ政権は(国内からの“弱腰批判”も意識して)場合によっては本格的な経済制裁をも念頭に置いた強気の姿勢を見せていますが、欧州で大きな影響力を有するドイツ・メルケル首相は、天然ガスや貿易などのロシアとの関係を考慮して慎重な姿勢を崩していません。

****独首相 対ロシア経済制裁に慎重姿勢****
ウクライナ情勢を巡ってドイツのメルケル首相は、状況がさらに悪化した場合、ロシアに対する制裁を強化すべきだとする一方、直ちに本格的な経済制裁を科すことには慎重な姿勢を示しました。

ドイツのメルケル首相は25日、ベルリンの首相府でポーランドのトゥスク首相と会談するのに合わせて声明を発表しました。

この中でメルケル首相はウクライナ情勢を巡り、「事態に進展が見られない。われわれは追加の制裁について検討するだけでなく、決定を下さなければならない」と述べ、状況がさらに悪化した場合、ロシアに対する制裁を強化すべきだという考えを示しました。

その一方で、制裁は資産凍結や渡航禁止といった現状の枠内で行われるべきだとして、直ちに本格的な経済制裁を科すことには慎重な姿勢を示しました。

ロシアへの制裁を巡っては近くEUの外相が会合を開き、対応を検討するということです。

ドイツは国内で導入している天然ガスの40%近くをロシアに依存するなど資源や経済の面でロシアとの結びつきが強く、産業界を中心にロシアに対して厳しい制裁を科すことに慎重な意見が広がっています。【4月26日 NHK】
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ロシアへの融和的、あるいは慎重な姿勢はシュレーダー氏やメルケル首相だけのことではなく、ドイツ社会全般にそうした傾向があるようです。

****独国民 露クリミア併合を容認? 世論調査「認めるべきだ」54%****
 ■「英仏より歴史的親近感
ウクライナ情勢をめぐるドイツ国内の世論で、クリミア自治共和国の併合を強行したロシアに理解を示す意見が目立っている。

ドイツと経済関係が深いロシアが米欧の経済制裁への対抗措置をとった場合の影響を懸念しているためとみられるが、独露間の歴史に根差す複雑な国民感情も背景にあると指摘されている。

4月中旬、独東部ポツダム市内での集会。「ロシアに全責任があるようにいわれるが、米欧の行為も挑発だ」。野党左派党の議員が訴えると、数十人の聴衆から拍手が上がった。参加者からは、「クリミアも元は旧ソ連が(ウクライナに)贈った」との声も聞かれた。

独誌シュピーゲルが3月報じた世論調査によると、「クリミア併合を認めるべきだ」との回答者は54%に上った。公共放送ARDの今月の調査では、ドイツがとるべき姿勢として「欧米と露の中間的立場」(49%)が「欧米との団結」(45%)を上回り、驚きをもって伝えられた。

シュミット元首相も「プーチン露大統領の立場なら(誰もが)似た対応をとるのではないか」と語り、コール、シュレーダー両首相経験者も過度の対立を回避するよう促した。

メディアはこうした傾向について、「(独露は)心の友」(シュピーゲル誌)などと、過去の経緯も踏まえながら分析を試みている。

ドイツの露専門家、ハンス=ヘニング・シュレーダー氏が指摘するのは、東西ドイツ統一を認めた旧ソ連への「感謝」だ。

また、第二次大戦でナチスが対ソ戦を人種差別に基づく「絶滅戦争」と位置付け、膨大な犠牲を生んだことへの「責任感」もあるとみる。

同氏は、ドイツでは露近代文学の影響で大戦時まで「精神的に英仏よりロシアに近いと感じられていた」とも語り、そうした背景が「同情的」な世論の土壌にあるとの見方を示した。

ただ、ウクライナ情勢をめぐっては、メルケル独首相は欧米との協調を重視しているだけに、融和姿勢は「欧米同盟からの半分離脱だ」(独紙ウェルト)と警鐘が鳴らされている。【4月28日 産経】
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ドイツとロシアの関係はさまざまに難しい状況にあっても、常に対話は継続してきた
このドイツとロシアとの関係については、現在のウクライナ問題への対応も含めて、森井裕一氏が「強行するロシアを前に、ドイツは何ができるのか――ウクライナ政策の展望」(http://synodos.jp/international/7616)【3月26日 SYNODOS】で詳しく論じています。

その中から、東西ドイツ統一前後のドイツ・ロシア関係に関する部分を抜粋します。

****戦後ドイツにとってのソ連・ロシア****
・・・・キューバ危機後の東西緊張緩和の状況の下で、西ドイツも次第に東ドイツと東欧諸国との関係の再構築を模索するようになっていった。
1970年代に入ると、ブラント首相による社会主義諸国との関係を回復させるいわゆる「東方政策」によって、東欧諸国と次々と国交が回復され、東ドイツとも基本条約を締結して東西ドイツ間にも実質的な関係が復活することとなった。

この「東方政策」の成果をアメリカとソ連も含む全ヨーロッパの国々が制度としてまとめ上げたものが1975年にフィンランドのヘルシンキで開催された全欧州安全保障協力会議(CSCE)であった。
今日ウクライナへの監視ミッションを派遣している全欧州安全保障協力機構(OSCE)はこのCSCEが冷戦の終焉後に国際機構として発展したものである。

CSCEは、軍事的な対立状況にあった東西陣営が、第二次世界大戦後のヨーロッパの国境線を軍事力によっては変更しないという国境不可侵の原則で合意し、当時の現状を固定することによって安定を築いた。
CSCEの枠組みによって、敵でありながらも相手に軍事演習などを公開することによって偶発的な軍事的衝突を防ぐための信頼醸成措置(CBM)などが構築されるようになっていった。

ここで重要なことは、西ドイツにとってソ連や東ドイツ、東欧諸国は、たとえ体制の異なる安全保障上の敵であっても、関係を構築し外交的な手段によって緊張を緩和し、つきあい続けてゆかなければならない存在であり続けたということである。

そしてソ連の存在が再び強く印象づけられたのがドイツ再統一のプロセスであった。ドイツ統一が可能になったのは、ソ連が冷戦時代のブレジネフドクトリン(社会主義圏のためには衛星国の国家主権は制限されるというソ連が東欧諸国をコントロールする原則)を放棄し、東ドイツの民主化と体制移行を認め、最終的に統一ドイツのNATO帰属までソ連が承認したためであった。

戦勝国ソ連の承認無しには東西ドイツの統一は実現し得ないものであった。最終的に当時のゴルバチョフ大統領が1990年7月にコール西独首相とコーカサス会談でドイツ統一の最終的な条件について合意したことによって、東西ドイツの統一が可能となった。
その後、ソ連が崩壊したことから、旧ソ連の地域ではソ連成立以前に存在していたバルト諸国やウクライナなど多くの国々が独立を回復した。

ソ連崩壊後もドイツとロシアは良好な関係が続いた。ドイツ統一を達成したコール独首相は旧ソ連の指導者に対して恩義を感じ常に敬意を示していたし、ソ連崩壊後にはエリツィン露大統領と個人的な友好関係を築いた。

その後1998年末に保守中道のコール政権を終わらせ独首相となった社会民主党(SPD)のシュレーダー前首相もプーチン露大統領と個人的な信頼関係に基づく良好な関係を築き上げていった。
プーチン大統領は、ソ連時代にはKGBの一員として旧東ドイツに滞在していたこともあり、非常にドイツ語が堪能である。現実主義的なシュレーダー前首相とは特に個人的にも波長が合ったようで、両者の信頼関係に基づく独露経済関係の緊密化が進んでいった。

もっとも、現在のメルケル首相も主要な政治家も、歴史的な経緯があるからといって、ロシアに特別な配慮をしているわけではない。
プーチン大統領は3月18日のクリミアのロシアへの帰属を認める演説でドイツ統一の過程でソ連がドイツを支援したことを引き合いに出し、ドイツ人はロシアが歴史的なロシアの範囲を再統一することに理解を示してくれるはずだと訴えたが、これに応えるものはいなかった。

この歴史的な経緯の議論を紹介して強調したかったことは、ドイツとロシアの関係はさまざまに難しい状況にあっても、常に対話は継続してきたことである。外交的な対話と関与はどのような状況の下でもドイツの対ロシア外交の基軸であり、今回のクリミア危機に際しても両国間のやりとりは極めて密なのである。【3月26日 森井裕一 SYNODOS】
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“ドイツ外交は決して19世紀的な外交を標榜していない。いかにEU全体をまとめながら、国際法の原則と現実的な選択肢、経済的利益のバランスをとりつつ、ロシアやウクライナと関わっていくかに腐心している。またそうであるがゆえに19世紀的な軍事力を背景としたような外交はあり得ない。それゆえにロシアに足下を見られるような状況にもなっている。”

“ドイツとロシアの関係はさまざまに難しい状況にあっても、常に対話は継続してきた”という関係を基にして、“ドイツのウクライナ情勢をめぐる外交のオプションは限られている。しかし、ウクライナが旧ユーゴスラビアのように混乱することはなんとしても避けなければならない。政策オプションは限られているが、ドイツ外交にはこれまでのEUやOSCEも重層的に利用した徹底的な外交的関与の政策を継続し続ける以外に道は無いようである。”と森井氏は論じています。
コメント

中国  拡大するキリスト教 宗教を管理しようとする共産党

2014-04-29 21:41:02 | 中国

(教会を守るために集まった三江教会の信徒たち。しかし結局、教会は取り壊されました。 【4月24日 CHRISTIAN TODAY】)


当局は目立った十字架を掲げている教会をターゲットにしている
先ほど観たTVニュースで実に興味深い話題を取り上げていました。
中国でキリスト教徒が急増しており、その勢力拡大を恐れたのか、当局が完成目前の教会を違法建築として取り壊したというものです。

****完成目前キリスト教会堂、当局が取り壊し 中国温州、影響力増大懸念し圧力か****
キリスト教徒が比較的多いことで知られる中国浙江省温州市で29日、完成目前だった教会堂が「違法建築」を理由に当局により強制的に取り壊された。信者の増加で存在感を高めるキリスト教会に対し、地元政府が圧力を強めているようだ。

取り壊されたのは同市の三江教会堂。28日から重機複数台が作業を始め、29日には建物の原形が見えなくなった。

信者によると、三江教会堂は約2千人の収容が可能で、温州でも有数の規模となるはずだった。
工事が内装を残すだけとなっていた3月、地元当局が突然、建築面積が当局の認可より大幅に増えているとの理由で超過部分の取り壊しを命令。

これに反発した信者が21日ごろから当局による取り壊しを阻止しようと教会堂に泊まり込んだり、周辺で千人規模のデモを行ったりしたという。【4月29日 msn産経】
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中国のキリスト教には政府公認のものと、公認されていない地下教会がありますが、取り壊された三江教会堂は政府公認の教会です。

この三江教会堂の取り壊し前の、当局の対応と信者の抵抗を伝えるのが下記記事です。

****十字架が目立ち過ぎ」 強制撤去命令に中国のキリスト教会が抗議行動****
中国浙江省の三江教会が地元当局から建物の強制撤去を命じられ、多数の信徒たちが教会の前に座り込んで抗議している。米ニューヨーク・タイムズ紙や英テレグラフ紙などが電子版で伝えた。

三江教会は浙江省温州市にある中国政府公認のキリスト教会。温州市とその周辺にキリスト教徒は数千人規模でいると見られ、大きな会堂のある同市を「東のエルサレム」と呼ぶ人もいる。

報道によると、通りかかった同省の政府高官が、教会建物の上に掲げられている十字架を見て「目立ち過ぎ」であるとし、当局は「違法建築」の理由で強制撤去を命じたという。

今月3日、当局は「この教会は安全性に重大な瑕疵がある違法な建築物」と表明し、「15日以内の強制撤去」を発令。多数の信徒たちが教会の前に集まって徹夜で座り込みをして教会を守ろうとしている。

当局と警察は多くの警察官や私服警察官を派遣して、関係者らを「説得」しているという。
5日には祈りの集会が持たれ、牧師の一人は「我々は暴力を求めていない。平和的な座り込みをして神の助けを祈っている」と語った。

信徒の一人は「私たちは老後の貯えを、お年寄りは自分の棺のお金も捧げて、この会堂を建てました。ここは私たちの家なのです」と話す。

中国では、政府に認められていない、いわゆる「地下教会」は取り締まりの対象とされるが、三江教会は当局公認の会堂として建てられた。

地元信徒たちの献金による建築費は3千万元(約5億円)で、温州政府は昨年9月に公式サイトで三江教会の建築を「模範的プロジェクト」として称えていた。

浙江省のほかに、泰順、文城、瑞安にある教会も、強制撤去の通知を受けたと伝えられている。
教会関係者の話によれば、当局は「目立った十字架を掲げている教会をターゲットにしている。教会の強制撤去命令は安全上の問題からではなく、教会の土地を使いほかのプロジェクトを開発して利益を生むためだ」と話している。【4月15日 CHRISTIAN TODAY】
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“昨年9月に公式サイトで三江教会の建築を「模範的プロジェクト」として称えていた”ものを何故急に?
記事にあるように政府高官の不興を買ったのか、地上げ絡みのものなのか、共産党の威信を低下させかねない宗教への恐れがあったのか・・・なにぶん、中国のことですので真相はわかりません。

中国国内のキリスト教徒の数は、今後15年以内に米国やブラジルなどを抜いて世界最多に
中国の宗教的イメージはあまり強くありませんが、強いてあげれば道教か仏教、それも現世利益的な宗教・・・というイメージです。

しかし、現在“精神的な平安を求める”目的で、キリスト教が拡大しており、2030年には世界最大の信者を抱えることになるとの予測があるそうです。

****2030年には中国が世界最大のクリスチャン国に*****
13億の人口を擁する中国が、精神的な平安を求めて急速に変わりつつある。
専門家の分析によると、中国国内のキリスト教徒の数は、今後15年以内に米国やブラジルなどを抜いて世界最多になるとされる。英テレグラフ紙などが電子版で伝えた。

共産主義や無神論の国とみなされやすい中国だが、人々が言葉通りにそれらを信じているかはわからない。
政府公認の教会だけでなく、いわゆる「地下教会」も含めると、教会に通う人たちの数は着実に増え続けており、2030年までには米国よりもクリスチャン人口が多くなるとの予測がある。

米パデュー大学の社会学教授で、『中国の宗教』などの著書がある楊鳳崗(ヤン・フェンガン)氏は、「もうすぐ中国は世界最大のクリスチャンの国になる」と分析し、「この劇的な変化を多くの人が受け入れられないでいる」と話す。

米調査会社のピュー研究所によれば、中国のクリスチャン人口は1949年に100万人だったが、2010年には5800万人まで急増し、4000万人のブラジル、3600万人の南アフリカを超えたとされる。

楊教授は、中国のプロテスタントは2025年までに1億6000万人に達し、米国の1億5000万人を抜いて世界最多のクリスチャンを抱える国になると予測。また、カトリックを含めたすべてのキリスト教徒は2030年には2億4700万人に上るとしている。

中国では政府が認可した教会施設でなければ、礼拝などを行うことが許されない。宗教活動に対する当局の取り締まりは厳しくなっているが、中国最大のキリスト教コミュニティーが育っている浙江省温州では、人口700万人のうちおよそ15%が教会に通っているという。

温州楽清市にある柳市教会は、昨年1月に建堂されたメガチャーチで5000人を収容する。今週のイースター(復活祭)礼拝には数千人が訪れたという。
40歳代の女性信者は「もしすべての中国人がイエスを信じたら警察署はいらなくなる。悪い人はいなくなって犯罪は消える」と話す。

しかし、牧師と信徒は当局から監視の対象とされており、同教会の天井にはカメラが設置されている。「牧師が共産主義的な方向で説教するように、当局が圧力をかけている」と、「家の教会」(地下教会)のリーダーは説明する。
「クリスチャンの数が増えているので、当局は戦いを望んではいない。7000万もの信徒を敵にしたいとは思わないでしょう」

一方、楊教授は「潜在的な脅威」を指摘。当局がキリスト教を抑圧しようとして、今後「より強烈な」闘争に入る可能性を懸念。「教会をコントロールしようとする政府関係者たちがいて、最後の試みをしている」と語る。

同じく浙江省温州にある三江教会は、今月初めに強制撤去の危機に直面した。その際、多くのクリスチャンが教会の前に集まって教会の取り壊しを阻止している。【4月24日 CHRISTIAN TODAY】
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何かと中華思想的、自己中心的、拝金主義的行動が目につく中国ですが、“精神的な平安を求めて”信仰を持つ人が増えれば、そうした行動にも変化が出る・・・・のでしょうか?
それはそれ、これはこれ、まったく別の話でしょうか。

近代市民社会の基盤となる、いわば“個の発見”が始まったのではないか
以前、NHKで中国におけるキリスト教徒の増加の背景を特集していました。

****中国で拡大するキリスト教****
尾「習近平体制発足から1年。これまでのような高い経済成長が難しくなる中、中国は今、“宗教”という新たな課題に向き合わざるをえなくなっています。」
黒木「物質的に豊かになる一方で、激しい競争社会に疲れ、宗教に心のよりどころを求める人々が増えています。最も信者を増やしているのが、キリスト教です。中国には、以前から政府の管理下にある公認の教会がありましたが、今、急増しているのは、政府の公認を受けない“家庭教会”と呼ばれる教会です。 現地で取材しました。」

家庭教会 急増の背景
今、温州では、人口の7分の1がキリスト教徒と言われるほど、信者が膨れ上がっています。中でも急増しているのが、“家庭教会”と呼ばれる無許可の教会です。(中略)

教会の中には、政府公認のものもありますが、共産党の政策の学習や名簿の提出などを求められることもあるため、家庭教会の中には、政府の介入を嫌って、公認を受けようとしないところも多くあります。

ただ、信者や指導者に政府への反発の意思はなく、純粋に信仰と向き合いたいと考える人がほとんどです。(中略)
政府が本来行うべき、セーフティネットの役割を担っていることもあって、家庭教会の信者の数は増え続けています。

宗教への対応 迫害から支援へ
建国以来、無神論を唱えてきた共産党。 文化大革命の時代には、宗教を徹底して迫害しました。改革開放で宗教の自由を保障しましたが、その後も警戒の対象にしてきました。

しかし、宗教に心のよりどころを求める人が急増する中で、姿勢を大きく変化。政府の管理を受け入れるかぎり、支援していく方針を示しました。

胡錦涛総書記(当時):「宗教界の人々にも、経済や社会を発展させる役割を果たしてもらう。」

この夏、地元政府の支援で、真新しい巨大な教会が完成しました。現代風の設計で、5,000人を収容できます。建設費は、日本円で15億円。
3分の1の5億円を政府が負担したほか、敷地となっている時価70億円分の土地も、政府が提供しました。

最近では、経済発展の陰で、厳しい競争に疲れた都市部の若い世代も多く通うようになりました。(中略)

家庭教会への取締りも
しかし、政府の公認を受けない家庭教会に対しては、厳しい取締りを行う場合もあります。北京では一昨年(2011年)、政府の管理を拒否し、屋外で礼拝を開こうとした家庭教会が摘発を受けました。「社会の秩序を乱す」として、その指導者は今も軟禁状態で、24時間、当局の監視下に置かれています。(中略)

キリスト教 なぜ人々をひきつけるか
尾「ここからは、取材にあたった、上海支局の奥谷支局長に聞きます。中国の宗教というと、われわれはまず仏教とか、儒教ということを思い浮かべるんですけれども、今、なぜ、キリスト教に人々はひきつけられているのでしょうか?」

奥谷支局長「中国では、仏教や儒教も急速に広まっていまして、仏教の信者は、2億人とも言われています。ただ、取材した若者は、中国の仏教のお寺などでは、お金儲けや無病息災など、現実的なものを求めて参拝するイメージがあるのに対して、キリスト教は自分の内面と向き合うことになり、教会の雰囲気も厳かな感じがすると話していました。

小さいころから、映画や音楽などで、欧米文化に触れて影響を受けているほか、海外旅行や留学でキリスト教に触れる、という事情もあると見られます。

キリスト教の中でも、プロテスタントは増え方が急で、公認教会の信者数だけで見ましても、カトリックが30年前の2倍なのに対して、プロテスタントは8倍の2,300万人、さらに、これに加えて、非公認の家庭教会は、これは公式統計がありませんが、7,000万人を超えると言われるほどにもなっています。

カトリックがローマ法王と中国政府の対立を抱えているのに対して、プロテスタントは中国に入りやすく、またカトリックに比べて、聖書さえあれば、小規模な礼拝ができてしまうという事情もあると見られています。」

宗教支援の背景は
黒木「中国政府は、宗教を支援するよう方針を転換していますが、その背景には何があるのでしょうか?」

奥谷支局長「中国共産党は、これまで宗教の広がりには、ずっと警戒感を持ってきました。中国の長い歴史の中で、王朝が倒れる前には、必ずと言っていいほど、宗教を掲げた集団が内乱を起こした歴史があるためです。

また中国共産党は、党員に宗教を信じることを禁じていますが、これは共産主義の前提にある無神論と相反するほか、党員が宗教的な権威を認めてしまえば、党の求心力を保てなくなることを警戒しているためと見られます。

しかし、2007年の共産党大会を境に、共産党は、宗教を取り込もうという政策にかじを切りました。

これについて専門家は、宗教を信じる人があまりにも多くなり、宗教を軽視した政策は非現実的だと認識し始めたこと、さらに宗教によって人々の心が安定するのであれば、それが社会の安定にもつながる、と考えていることが背景にあると見られる、と話しています。

中国政府には、公認の宗教を支援することで、宗教を管理下に置こうという狙いがあるようと見られます。」

“信仰のコントロール”可能か
尾「社会主義と宗教ということは、ずっと永遠の課題と言いますか、難しい歴史的な背景もあるわけですけれども、中国政府には、公認の宗教を支援することで、宗教を管理下に置こうという狙いがあるように透けて感じるんですけれども、人の信仰をコントロールするということは、中国でも難しい側面があるのではないしょうか?」

奥谷支局長「そのとおりです。中国政府は、政府の管理を受け入れる教会や宗教団体のみを公認して、それ以外に対しては、今でも大規模な集会を開くことを取締りの対象としています。

政府が各地で巨大教会の建設を支援するというのは、私たちの感覚で考えますと、不思議なことなんですけれども、これは信仰を持つようになった人々を、管理の手の届かない非公認の教会ではなくて、公認の教会に招き入れたいという思惑もあると見られます。

しかし、こういう思惑どおり、公認教会に今後、多くの人が集まるのか、家庭教会がさらに広がっていくのかは分かりません。

ただ、確かに言えることは、多くの人々が政府に指示によってではなく、自分の意思で内面に向き合いたいと考えているということです。

官僚の汚職や環境汚染などの社会問題に対する不満、競争社会のストレスや不安感など、さまざまな問題に中国が直面する中で、中国には、もっと宗教が必要だという人さえ増えています。

専門家の1人は、人々が豊かになるにつれて、安心して暮らしたいという権利意識に目覚めるとともに、個人として自由に物事を判断したいという、近代市民社会の基盤となる、いわば“個の発見”が始まったのではないかとも話しています。

中国共産党が宗教を取り込んでいくのか、宗教がその思惑を超えて広がっていくのか、中国の今後を占う大きな曲がり角に来ていると言えます。」【2013年10月21日 NHKonline】
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共産党にとっては潜在的脅威
三国時代のさきがけになる黄巾の乱、元朝の衰退と共に江南地方で勃発した白蓮教徒の乱、清朝末期の太平天国の乱・・・・といった過去の歴史、そして経済格差の拡大、官僚の腐敗・汚職、軽視される人権、悪化する環境・・・といった現状を考えれば、宗教が拡大するのも当然のように思えますし、中国共産党が宗教の拡大に脅威を感じるのも当然のように思えます。

中国の宗教弾圧と言えば「法輪功」があります。
法輪功は道教・仏教の影響を受けた気功で、内面の向上を重視した新興宗教です。

1999年以前は「健康の為に良いから」という理由で、中国政府側も法輪功を推奨していた時期があったそうですが、1999年4月に「1万人を超える法輪功学習者が、中国政府に抗議するため、組織的に集結して中南海を包囲し、座り込みなどの示威運動をおこなった」とされる“中南海事件”をきっかけとして、江沢民が信者の拘束・拷問といった激しい弾圧を加えることになります。【ウィキペディアなどより】

中国共産党の迫害により死亡した人数が、3397人に達したとする調査結果もあるようです。

キリスト教が第2の法輪功にならないことを願います。
しかし、中国社会のゆがみ・矛盾がこのまま拡大すれば、心のよりどころを宗教に求める人々は更に増え、“個の発見”が広がれば、いつかは中国共産党・政府と衝突することも想像されます。
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イラク  イスラム過激派による混乱が続くなか、30日に国民議会選挙実施

2014-04-28 21:58:49 | 中東情勢

(25日 首都バグダッドのテロ現場から逃げる人々 【4月26日 TBS Newsi】)

ISIL、首都バグダッド近郊をもうかがう勢い
イラクでは今月30日、米軍の撤退後初めての国民議会選挙が行われますが、イラク国内でイスラム過激派が勢力を拡大してテロが頻発、かつての宗派間の内戦当時のような混乱が再現しつつあることは以前も取り上げたことがあります。
(1月6日ブログ「シリア・イラク・レバノンで拡大するアルカイダ系ISILの勢力」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140106 
2013年8月29日ブログ「イラク 社会不満を解消できないマリキ政権 激化する宗派対立 」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130829 など)

宗派間内戦を象徴する都市ファルージャを抑えたイスラム過激派は、更に首都への影響を強めています。

****イラクの武装勢力、首都迫る 議会選控え スンニ派の不満吸収****
イラク中部の要衝ファルージャを占拠しているイスラム武装勢力「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」が、首都バグダッド近郊をもうかがう勢いを見せている。

同国の軍・治安機関は、今月30日の議会選を前に、ISILの伸長阻止に全力を挙げているが、実際にはファルージャ制圧もままならない状況で、戦闘の激しい地域では選挙実施に影響が出る恐れもある。

ISILは昨年末以降、協力関係にある部族の民兵などとともに、ファルージャやラマディなどがあるアンバール県での武装闘争を激化させ、今年初めには両都市を占拠した。政府側はその後、ラマディを奪還したが、ファルージャではISILに決定的な打撃を与えられずにいる。

さらに、汎アラブ紙アッシャルクルアウサトなどによると、今月に入ってからは、バグダッド近郊のアブグレイブなどでISILの戦闘部隊がしばしば確認され、ISILがバグダッドに向けて勢力を伸ばしているとの警戒が強まった。

イラクではスンニ派武装勢力によるとみられるテロも後を絶たず、今年に入って、二千数百人が死亡した。

シリアやヨルダンに続く街道上に位置するアンバール県は、イラクでは少数派のイスラム教スンニ派住民が多く、シーア派主導のマリキ政権から冷遇されているとの不満が強い地域。
昨年には大規模な反政府デモも発生しており、同じスンニ派に属するISILは、その混乱に乗じて勢力を伸ばした形だ。

ISILは現在、国際テロ組織アルカーイダから“破門”状態にあるが、アルカーイダが唱える他宗派・宗教への「ジハード(聖戦)」を掲げていることも、シーア派を敵視する地元民らの賛同を得る要因になっているとみられる。

戦闘は、議会選を控えた中央政界の駆け引き激化にもつながっている。
スンニ派のヌジャイフィ国会議長は5日の声明で、政権と結託したシーア派勢力が戦闘を理由に住民を追い出して「スンニ派を選挙から排除しようとしている」などとして、政権側への強い不信感をあらわにした。戦闘が長期化すれば、同県での投票実施そのものが難しくなるとの指摘もある。

選挙は人口で上回るシーア派が優勢とみられているだけに、選挙後にスンニ派の不満が解消に向かうとは考えにくく、政治的安定はなおも遠いのが実情だ。【4月12日 産経】
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25日には選挙集会を狙った大規模テロも首都バグダッドで起きています。

****国民議会選挙控えたイラクで爆弾テロ、死者30人以上****
アメリカ軍の撤退後、初めてとなる国民議会の選挙を来週に控えたイラクで、選挙集会の会場を狙ったとみられる爆発テロがあり、少なくとも31人が死亡しました。AP通信によりますと、テロがあったのはイラクの首都バグダッドで、25日、少なくとも3度の爆発が相次いで起き、少なくとも31人が死亡、38人がけがをしました。

イラクでは来週にアメリカ軍の撤退後初めてとなる国民議会の選挙が行われる予定で、当時、現場には、イスラム教シーア派の政党を支持する人々およそ1万人が集まっていたということです。国連によると、イラクでは、去年1年間で8868人がテロなどで死亡していますが、今年は2月までで1400人以上が死亡しており、テロなどによる死者数はアメリカ軍の撤退後、最悪の水準になっています。イラク政府は、投票日を前に警戒を強めていますが、治安が悪化する中、全国で選挙が安全に実施できるか、懸念が広がっています。【4月26日 TBS Newsi】
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国際社会はアサドを支援してアルカイダを倒し、同時にアサドに政治的譲歩をさせるべきだ
イラクにおける情勢悪化はシリア内戦におけるイスラム過激派の台頭に連動していることが指摘されていますが、下記は、そのあたりに関するイラク要人のインタビュー記事です。

****イラクの安定はシリア次第****
インタビュー:フセイン時代の反政府運動の旗手が語るイラク戦争とアメリカの功罪、そしてシリア内戦の影響

モワファク・アルルバイエは、70年代にイラクのバース党政権に拷問され、その後サダム・フセイン大統領時代に欠席裁判で死刑を宣告された活動家だった。
昨年、米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院に招聘され、講義を行う彼の洗練された姿に当時の面影はうかがえない。

イラク国外で何年も過ごし、03年4月のフセイン政権崩壊後に帰国。イラク統治評議会の一員となり、09年4月までイラク暫定政府、イラク移行政府、マリキ現政権の国家安全保障担当顧問を務めた。

今月末に行われるイラク連邦議会選挙に立候補しているアルルバイエに、イラクの重要課題などについてヘザー・ホーンが話を聞いた。

-6月でイラク駐留米軍撤退開始から5年だ。いま振り返ってみてイラク戦争とは?

自国民に化学兵器を使用するなど、多くの犯罪行為に手を染めた冷酷な怪物を倒すという当初の計画は立派だった。だが(フセイン政権が崩壊した)03年4月9日以降の出来事も犯罪だ。重大な怠慢だと思う。
 
イラクという国は35年間、あの男を中心に回っていた。すべての国民が彼に隷属させられた。アメリカがあの男を排除した後、国民はどうしたらいいか分からず、国はまったくの空っぽになってしまった。政府も経済も食料も、何もかもなくなった。

あれほど洗練され、多様性に満ちた国がなぜこんなことになったのか。私か気になるのは少なくとも将来ほかの国で同じことが起きないようにきちんと調査すべきなのに、それがされていないことだ。
(中略)
-アメリカは、今年初めにイスラム教スンニ派の武装組織「イラク・レバントのイスラム国」が中部の都市ファルージャを制圧した件を注意深く見守っている。イラク人はどうか。

イラク人から見れば、これは宗派対立だ。過激なスンニ派のテロ集団が自分たちにとって象徴的な地であるファルージャを占拠した。(シーア派中心の)政府にはファルージャ奪回計画があるが、動くのは選挙後になるだろう。

-選挙に何を期待し、何を懸念しているか。

心配なのは選挙前に暴力事件が増えることだ。そうなればいくつかの町や村で投票ができなくなる。最悪の事態は、ファルージャが選挙から除外されること。われわれは大半のファルージヤ市民を選挙前に退避させる予定だ。避難民13万人は他の都市から投票できるようにする。

-シリア内戦をイラク国内の動きとどう切り離すのか。

それは切り離せない。イラク西部とシリア東部は一続きの戦場だ。武器と人間とカネが動く2車線道路と、私は呼ぶ。だから私はアメリカの行為が理解できない。アルカイダと戦うイラクを助けながら、アサド(大統領)と戦うアルカイダを間接的に助けるとは矛盾している。

-アサド政権と戦う勢力に、イスラム過激派が含まれていることが許せないのか。
 
そうだ。

-国際社会にできることは? 
シンポジウムや会議での議論を聞いても、何の計画も提案もない。完全な破壊、奪われた命、900万人の難民-議題に上がるのはいつもこの3つ。だが、それらを止める計画はどこに?
いつだってそうだ! これからだって同じことが起きる。破壊がもたらされ、人命が奪われ、難民が生まれる。

国際社会はアサドを支援してアルカイダを倒し、同時にアサドに政治的譲歩をさせるべきだ。

―どんな譲歩が必要か。

内戦の調停、国外の反体制派を平和裏に迎え入れること、新政府の樹立、総選挙、憲法、人権、人道援助、そのほかあらゆること。これらはイランを通じてなら合意できるだろう。イランとアメリカの合意は、その一部に含めればいい。

アメリカはアサドを悪者扱いしたため、彼と取引できなくなっている。このことについてイランと協議すべきだと思う。イランは重要な存在で、シリアに対して大きな影響力がある。

-アサドを排除し、過激派にも対抗できるほど安定したシリアの政権を樹立する方法は?

正直言って、ないと思う。

―もしシリアを安定させることができたらどうなるか。

イラクに相当いい影響を与えるだろう。国境を越えて流人する勢力を食い止められる。

-国際社会がイラクのためにできる最善のことは、シリア情勢を安定させることか。

そのとおり。いや、違う。第1に情報共有、情報収集能力の強化、戦闘部隊の訓練、対テロ目的の軍備獲得といった面でわれわれを支援してほしい。ただしこれはイラクでできることだ。
第2としては、シリアにおけるアルカイダ打倒作戦を加速させることだ。

シリア内戦前からイラクは苦しんでいる。アサドはかつてイラクに過激派を送り込み、自動車爆弾で人々を殺害していた。

アサド配下の情報機関は世界中からやって来る過激派を訓練し、彼らがイラク国境を越えてバグダッドで自爆テロを行う手助けをした。多くのイラク人が殺された。私たちが相手にしているアサドとはそういう人間だ。
 
われわれは勇気を出してこの苦しみを止めなくてはならない。シリアの反体制派は「アサドを正当化するのか」と言うだろう。だが、時にはそれも必要だ。私だって彼を認めたくはない。けだもののバース党員だ。

-それでも現実的にならなければならない?

そのとおりだ。【4月29日号 Newsweek日本版】
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マリキ首相のスンニ派軽視も混乱の原因 クルド人の動向も注意が必要
モワファク・アルルバイエという人物は上記記事によればマリキ政権の要職にあった(ある?)人物のようですが、現在のマリキ首相との関係はよくわかりません。

彼はイラクの現在の混乱の原因を、アメリカが国家再建計画を持っていなかったこと、シリアと連動するイスラム過激派(スンニ派)の浸透に求めています。

確かに、その2点は大きなポイントではありますが、イラク混乱の原因として国際的に常に指摘されているのは、マリキ政権がその政治基盤とするシーア派を重視し、少数派スンニ派との和解をないがしろにしてきたこと、および、マリキ首相の強権的な政治手法です。

その点に関しては上記では全く触れられていません。

また、アサド政権のみがシリアを安定化できるという判断、イランの役割を重視する立場は、シーア派という宗教的立場を同じくするところから来る面も多いように思えます。

ただ、シリアに関していえば、アサド政権を支援してイスラム過激派を排除し、その過程でアサド政権に譲歩を迫るという方向性は、これまでアサド政権が行ってきた非人道的行為を考えると苦渋の判断ではありますが、犠牲者のみが増加している現状を打開するためにの現実的方策だと同意します。

なお、冒頭産経記事では“政権と結託したシーア派勢力が戦闘を理由に住民を追い出して「スンニ派を選挙から排除しようとしている」”というスンニ派側の政権批判がありますが、アルルバイエ氏によれば、“われわれは大半のファルージヤ市民を選挙前に退避させる予定だ。避難民13万人は他の都市から投票できるようにする”とのことのようです。

なお、“(シーア派中心の)政府にはファルージャ奪回計画があるが、動くのは選挙後になるだろう”とも語っていますが、有効な奪回計画があるなら選挙前に行っているはず・・・という感があります。
現実は、対応し切れていないというだけでしょう。

シリアからの過激派流入を止めるという点では、先日新たな動きがありました。

****シリアに越境攻撃=武装勢力8人殺害―イラク軍****
イラク軍は27日、隣国シリア東部のワディスワブで、対イラク国境に向かっていた武装勢力の車列をヘリコプターから攻撃し、8人を殺害した。AFP通信がイラク内務省スポークスマンの話として伝えた。

イラクは30日の議会選を控え、過激派の掃討作戦を強化している。シリアが2011年の民主化要求運動をきっかけに内戦に陥って以降、イラク軍が本格的な越境攻撃を仕掛けたのは初めてとみられる。【4月27日 時事】 
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あと、イラクの混乱要因としてアルルバイエ氏が全く触れていない要素がもうひとつあります。
自治政府を形成するクルド人の動向です。

イラク中央政府と距離を置いた動きを示すクルド自治政府が、今後独自性を強める方向で動けば、イラクはシーア派、スンニ派、そしてクルド人の三つどもえの混乱状態ともなりかねません。

そして、このクルド人問題においても、シリアにおけるクルド人勢力が今後どのような動きを見せるのかということが大きく影響してきます。
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ウクライナ  プーチン大統領も無視できない緊迫するウクライナ情勢のロシア経済への影響

2014-04-27 22:48:49 | 欧州情勢

(ウクライナ東部のスラビャンスクで、放置された親ロシア派のバリケード付近で配置に就くウクライナ特殊部隊(4月24日)【4月24日 AFP】)

一触即発の状況
ウクライナ東部において親ロシア派による行政施設占拠が続くなかで、欧米とロシアは双方を非難して対立が厳しくなっているのは周知のところです。

“ウクライナ情勢では、ジュネーブ合意に盛り込まれた「武装集団の武装解除」や「違法占拠の明け渡し」の解釈を巡り、欧米とロシアの見解が衝突。親露派武装勢力の武装解除などを求める欧米に対し、ロシア側はウクライナ極右勢力の武装解除を求めるなど非難合戦を繰り広げている。”【4月26日 毎日】

ロシアはウクライナ国境に4万人規模とも言われる軍を集結させており、24日にウクライナ軍が親ロシア派の強制排除に着手したことを受け、軍事演習を開始して圧力を強めています。

“(ロシアのショイグ)国防相は「(ウクライナでロシア系)住民に対する武器使用にゴーサインが出された。きょう中に(この)軍事行動を停止しなければ、死傷者が増大する」と指摘。国境付近で、南部軍管区(司令部ロストフナドヌー)と西部軍管区(同サンクトペテルブルク)の部隊が既に演習を始め、航空機も任務に当たると述べた”【4月25日 時事】

****ウクライナ:国防相「ロシア軍、国境1キロに接近****
ウクライナ暫定政権のコワリ国防相は25日、ウクライナ国境付近で軍事演習をしているロシア軍が国境まで1キロの地点まで接近していたことを明らかにした。インタファクス通信が伝えた。

また、暫定政権のヤツェニュク首相は25日の閣議で、「ロシアは第三次世界大戦を始めようとしている。我々は自国をあらゆる手段で防衛する」と、ロシア軍侵攻の際には徹底抗戦する考えを示すなど、緊張が高まっている。暫定政権はロシアが国境地帯に24日、軍を集結させたと指摘し、集結の理由を48時間以内に説明するようロシア側に求めた。ヤツェニュク首相によると、25日時点で返答はないという。(後略)【4月25日 毎日】
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一方のウクライナ軍も、親ロシア派による武装占拠が続くスラビャンスク市郊外に兵士約1万5000人を配置し、同市攻略の構えを見せています。

****ウクライナが東部に兵力1万5千人集結か ロシア国防省****
親ロシア勢力と暫定政権のにらみ合いが続くウクライナ東部情勢で、ロシア国防省は26日、ウクライナ政府がスラビャンスク市郊外に兵士約1万5000人を配置し、同市攻略の構えを見せていると発表した。
国営ロシア通信が国防省筋の情報と伝えた。

ウクライナ軍の集結は衛星写真で判明したとしている。スラビャンスク市では親ロシア勢力が行政機関庁舎などの占拠を続けており、ウクライナ軍は「第2段階の反テロ作戦」の着手を宣言した。
同軍による最初の制圧作戦では親ロシア派の戦闘員5人を殺害したとも発表していた。

ロシア通信によると、スラビャンスク市近郊のウクライナ軍は戦車約160両、歩兵戦闘車両230台、装甲兵員輸送車、迫撃砲や多連装ロケット弾発射装置などを動員している。

ロシア国防省筋は、少量の短銃や散弾銃などで武装する同市の親ロシア勢力を圧倒する戦力と指摘した。ウクライナ東部にはロシア系住民が多い。ロシアのプーチン大統領はロシア系住民の迫害を非難、情勢次第では軍事介入に踏み切ることも警告している。

ロシア軍はウクライナ東部と国境を接する領内に4万人規模の兵力を待機させているといわれる。スラビャンスク市で親ロシア派の戦闘員5人が死亡した後、新たな軍事演習の開始も宣言し、揺さぶりをかけている。

ウクライナのヤツェニュク首相は26日、ロシア軍機が25日夜から翌日にかけウクライナ領空を数度にわたって侵犯したことを明かしてもいた。【4月27日 CNN】
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こうした緊迫した情勢のなかで、25日には、全欧安保協力機構(OSCE)のドイツやチェコなど一部加盟国で構成される軍事監視団がウクライナ東部ドネツク州で親ロシア派武装集団に「スパイ」として拘束されるところともなっています。

週明けに追加制裁
武装占拠集団への対応を取らず、むしろ国境での軍事演習と言う形で対決姿勢を強めるロシアに対し、欧米側は、明日28日には、これまでの制裁措置を追加発動してロシアへの圧力を強める構えです。

****ウクライナ:G7、対露追加制裁合意 28日にも発動****
日米欧とカナダなど先進7カ国(G7)と欧州連合(EU)は26日、ウクライナ情勢の緩和に向けた今月17日のジュネーブ合意を履行していないとして、対ロシア追加制裁を速やかに発動することで合意したと発表した。

制裁は28日にも発動される見通し。
ウクライナ暫定政権側の「合意不履行」を批判し、東部国境付近で軍事演習を行っているロシアが反発を強めるのは必至で、緊張緩和に向けた国際的な協調態勢は危機的状態に陥る可能性がある。

G7首脳などは声明で、ジュネーブ合意について「ロシアが(ウクライナ東部の)親露派武装勢力に対し、武装解除を呼びかけるなど具体的な緊張緩和策をとっておらず、逆にウクライナ国境付近で軍事演習をするなど緊張状態を強めている」と非難した。

また、「経済や貿易、金融分野を含め、実際的な報いをロシアにもたらすために行動する」としている。

声明に先立ち、ケリー米国務長官はEUのアシュトン外務・安全保障政策上級代表(外相)や英国、イタリア、カナダの外相と電話協議を行い、意思統一を図った。ロイター通信は追加制裁の時期について「28日発動」との関係筋情報を伝えた。

親露派がウクライナ東部で州政府庁舎などの占拠をやめず、ジュネーブ合意に違反していることから、EUは15人程度を対象に個人制裁を実施する方針を固めた。米国も個人制裁を拡大する。

ただ、EUは経済制裁はロシアの軍事侵攻がない限り検討しない方針で、当面は個人制裁にとどめる。EUはこれまでウクライナ南部クリミア半島のロシア編入に関与したプーチン政権関係者ら33人の制裁を行っている。

一方、全欧安保協力機構(OSCE)加盟国から成る非武装の軍事監視団が親露派武装勢力に拘束されたとの情報について、米国務省のサキ報道官は「深い懸念」を表明。拘束は「抑圧的で臆病な戦術だ」と非難し、解放を求めた。(後略)【4月26日 毎日】
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以上のようにこれまでのところは、親ロシア派武装勢力、ウクライナ軍、ロシア、欧米・・・それぞれが一歩も引かない姿勢で互いに圧力をかけあう“一触即発”の展開となっています。

****引かぬ米ロ、深まる危機 制裁効かず、駆け引き続く****
ロシアがウクライナ東部の親ロシア派をあおっているとして、欧米が経済制裁強化に踏み出す方針だ。
ロシアは米国とウクライナの責任を主張し、一歩も引かない構え。
危機は深まる一方で、ロシアがウクライナに軍事介入する事態さえ起きかねない状況だ。

ロシアの脅威に対し、米国は軍事行動を否定する一方で、経済制裁で対処する方針を明確にしてきた。ケリー米国務長官は「この過ちは高くつく」とロシアに繰り返し警告してきた。

これに対し、ロシアは、制裁強化の動きを表向きは冷静に受け止めている。プーチン・ロシア大統領は24日、「現代の社会で経済制裁は効果的ではない。政治的な性格のものだ」と述べた。欧州は天然ガスの3割をロシアに依存し、思い切った制裁には踏み切れないという読みがあるからだ。

実際に、経済制裁はロシア経済にどんな影響をもたらしているのか。

米国はこれまで、プーチン大統領側近のロゴジン副首相やスルコフ大統領補佐官らを対象に、米国内の資産凍結や渡航を制限。ロシア政府高官の資産を管理しているとされる「バンクロシア」も制裁対象にした。

欧州連合(EU)も、ロシア政府や軍関係者らの資産を凍結している。米国が週明けにも発動する追加制裁は、プーチン氏に近い企業関係者や会社を対象に加える公算が大きい。

ただ、こうした制裁は、一部の個人の資産を凍結しているにすぎない。ロシア経済全体への直接的な影響は小さいのが実情だ。

むしろ、ロシアにとって厳しいのは、混乱が続いていることで外国人投資家がお金を引き揚げていることだ。今年に入ってからロシアの通貨ルーブルは10%弱下がり、株価指数は20%超の大幅下落になっている。

こうした動きを背景に、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は25日、ロシアの外貨建て信用格付けを1段階引き下げ、「BBB(トリプルB)マイナス」にすると発表した。「投資適格」とされる格付けでは最低の水準となった。

ロシアからのお金の流出は今年1~3月末に、ふつうの1年分に匹敵する約640億ドル(約6兆5千億円)にのぼったためだ。格下げは、さらなるお金の流出をよび、悪循環に拍車がかかるおそれがある。
ロシアにとっては頭の痛い状況だ。

 ■軍事介入、高まる緊張
ウクライナやそれを支持する米国と、ロシアとの対立が深まるばかりのなかで今後の情勢はどう動くのか。
焦点の一つは、ロシアが国境を越えて、ウクライナ東部に軍事介入するかどうかだ。
(中略)
米政府高官は26日、「もしロシア軍がウクライナ国境を越えて侵略したら、基幹産業へ制裁を加える」と明言した。ロシアがウクライナに侵攻すれば、これまでのような限定的な制裁ではなく、天然ガスの禁輸なども念頭においた本格的な経済制裁に踏み込む可能性があるのだ。

ロシアにとっては「ウクライナ国内でのロシア系住民への攻撃の阻止」が、米国にとっては「ロシアによるウクライナ東部への侵攻を食い止める」ことが互いに譲れない一線になっている。

その一線をどちらかが越えればウクライナ情勢は軍事的に大きく混乱し、ロシアに対する経済制裁は本格化する可能性がある。その場合、世界経済全体にも大きなダメージが広がるおそれがある。【4月27日 朝日】
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資金流出が続くロシア経済
制裁措置の効果はともかく、記事にもあるように、ウクライナ情勢の通貨・株価への影響はすでに大きくなっており、ロシア・プーチン大統領としても決して無視できない状況です。

****ロシア 資金流出深刻 ウクライナ危機 株・通貨大幅下****
ウクライナ危機で欧米との関係が悪化したことにより、ロシア経済が急減速している。

不安心理からロシア市場から資金流出が相次ぎ、株価や通貨ルーブルは大きく下落。ウクライナ東部の情勢がさらに悪化し、欧米が追加の経済制裁に踏み切れば、さらなる景気悪化は必至だ。

ウリュカエフ経済発展相は16日、議会への報告で2014年1~3月期の国内総生産(GDP)成長率が当初見込みを大幅に下回る0・8%だったと報告。通年の経済成長率を当初見込みより、2%低い0・5%へと大幅に下方修正した。

失速の理由をウリュカエフ氏は、ウクライナ危機をめぐる「過去二カ月間の緊迫した国際情勢」や「深刻な資金流出」のためと説明。資金流出は1~3月だけで630億ドル(約六兆四千億円)に上り、13年の1年分に匹敵する。

ロシアの株価と通貨ルーブルは13年11月下旬にウクライナで反政権デモが始まって以来、下落傾向にある。特にロシアがクリミア半島の併合を決めたり、欧米の経済制裁が発動された際には急落。過去五カ月間でモスクワ市場の指数であるRTS株価指数は、2割、ルーブルは対ドルで1割も下がった。

米国や欧州連合(EU)が追加の経済制裁に踏み切れば資金流出がさらに進み西側企業がロシアへの新規投資を見合わせる動きが広がるのは確実。世界銀行は3月、危機が深刻化する最悪ケースでロシア経済が1・8%のマイナス成長に陥る可能性を指摘した。

ロシアは2000年代の原油価格の急激な上昇で年5~10%の高い経済成長を続けたが、2008年のリーマン・ショックをはさんで10年代に入り成長は鈍化。

追い打ちをかけたウクライナ危機で、0・5%に下方修正した14年の成長見込みすら「楽観的だ」(シルアノフ財務相)と政権内にも厳しい見方がある。

景気動向がプーチン大統領の対ウクライナ戦略に影響を及ぼす可能性もある。【4月21日 東京】
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市場は事態が起こってからではなく、事態が起こる前の不安感から、先取りする形で動き始めます。

****市場は待ってくれない****
・・・アナリストは、ロシア経済には既に制裁の影響の兆候が見られると指摘。その一因は、ロシア経済に対するボイコットの見通しを受けて、投資家が遠のいていることだと分析する。

「アメリカもEUも、全面的な経済戦争は宣言していない」と、(元駐ウクライナ米大使、ブルッキングズ研究所上級研究員)パイファーは言う。「だが市場は、何か動きがあるまで待つことはない」

ロシア政府の最近の柔軟な姿勢も、それが理由かもしれない。
「プーチンは国民に政治を動かす余地はあまり与えないが、経済的安定は提供してきた」と、パイファーは言う。「経済制裁でそのバランスが崩れて自分の支持率が下がれば、彼も不安を感じ始める可能性はある」

ストイックなことで知られるロシア国民はウクライナ国民よりずっと多くを耐え忍ぶ覚悟があるが、彼らにも限界はあるかもしれない。そしてプーチンは、2月にウクライナ政権が倒れたような混乱を嫌っている。

それこそが、ロシアに外交政策を考え直させる要素になる可能性があると、パイファーは言う。「プーチンは、キエフの独立広場で起きたような民衆デモを恐れている」【4月29日号 Newsweek日本版】
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プーチン大統領は24日、欧米の制裁措置について、「(信用)格付けの見直しが行なわれ、借り入れコストが上昇する可能性があるなど、全般的に見ると損害は出ている。ただ、こうしたことは重大な性質を持つものではない」と、ロシア経済は阻害されているが、大きな打撃は受けていないとの見方を示しています。

しかし、ロシア経済の内情はそれほど楽観できるものではないでしょう。
ましてや、本格的経済制裁ということになると、欧州・ロシア双方大きなダメージを蒙ります。

クリミアとは異なる住民感情
また、ロシア系住民が多数派で、ロシアの侵攻を歓迎したクリミアと、現在焦点となっているウクライナ東部では住民感情に大きな差があります。

****ウクライナ:7割がロシア編入反対…東部・南部の世論調査****
不安定な情勢が続くウクライナ東部・南部で、住民の7割がロシア編入に反対しているとの世論調査結果が発表された。

地元メディアによると、親露派活動家による政府系庁舎の占拠が拡大している東部ドネツク州でも編入賛成は27.5%にとどまる。大多数がロシア編入に賛成した南部クリミア半島とは大きく異なることが明らかとなった。

暫定政権は世論のつなぎ留めを狙い、地方分権など懐柔策を打ち出している。

民間調査機関「キエフ国際社会学研究所」が10日から15日に実施し、八つの州の18歳以上の3232人から回答を得た。
全体では、編入反対は69.7%、賛成は15.4%だった。親露派の活動が活発なドネツク州でも反対は52.2%に上る。

一方、ロシアとウクライナの関係については、74.5%が「査証不要など行き来しやすい友好関係が望ましい」と回答。ロシア語を母語とする住民が圧倒的に多く、経済的にもロシアとの関係が強い東部・南部の地域的特徴が表れている。

暫定政権は18日、トゥルチノフ大統領代行とヤツェニュク首相が共同声明を発表。憲法改正によって地方分権を進め、ロシア語話者が多数を占める地域ではロシア語を公用語化すると表明した。【4月21日 毎日】
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住民多数がロシア編入を希望していない地域に侵攻しても、そのあとどうするのか?という問題に直面します。

こうした経済への影響、侵攻した場合の現実的問題を考えると、ロシア・プーチン大統領がこれ以上事態を悪化させることは“理屈の上では”考えにくいところです。振り上げたこぶしの降ろしどころを探していると思われます。

ただ、民族感情が絡むと理屈抜きの不測の事態が起こる、あるいは“後には引けない”状況となる可能性はあります。
ウクライナ軍も、ロシアを過度に刺激しないような慎重な対応が求められます。
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香港  “おしっこ騒動”の背景にある本土との溝 今後香港はどうなるのか?

2014-04-26 21:26:55 | 東アジア

(“おしっこ騒動”のトラブル現場写真 背中を見せている子供を抱いた男女が問題となった中国人観光客 【4月23日 Record China】)

脅かされる「言論の自由」】
香港における「一国二制度の形骸化が急速に進み、香港が“中国化”してきた」(香港紙記者)という状況については、3月8日ブログ“香港 「一国二制度」の幻想」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140308で取り上げたところです。

特に、「言論の自由」における制約・圧力が強まっています。

****香港「言論の自由」に危機感 記者の解雇・襲撃相次ぐ****
 ■「一国二制度」きしみ象徴
香港で、1997年の中国返還後も保障されていた「言論の自由」をめぐる危機感が強まっている。

中国や香港の政府に批判的な香港メディアの記者らが解雇されたり暴漢に襲われたりする事件が相次ぎ、反発した香港記者協会は先月まで2回にわたり、「言論の自由」を訴えてデモを行った。

事件に政府側が関与した証拠はないが、香港終審法院の李国能・前首席法官(最高裁長官に相当)は先月、「言論の自由への懸念」を表明するなど、事件の背後関係への疑念をにじませた。

香港では今年に入り、民主派寄りテレビ局の新規免許申請を拒否した政府を批判した有力紙、明報の劉進図氏が1月、編集長の職を追われた上、2月に2人組に刺されて重傷を負った。

また、民放の商業ラジオに出演していた民主派ジャーナリストの李慧玲氏が2月に突然解雇された。李氏は「香港政府が解雇するよう圧力をかけた」と主張している。

英国から中国に主権が移った後も、言論の自由を含む高度な自治による民主主義社会が保障されていた香港。だが、今年7月で返還から17年となる中で、「一国二制度の形骸化が急速に進み、香港が“中国化”してきた」(香港紙記者)という指摘がある。

香港政府は「干渉はあり得ない」と否定するが、テレビ局への免許発給拒否をめぐっては昨年10月、2万人以上が参加したデモが起きるなど、政府批判は強まっている。

民主派寄りの香港メディアは、香港政府トップを選ぶ行政長官選で、中国政府寄りの人物だけが候補者として間接的に選ばれる現行制度を批判。2017年の次期選挙から普通選挙に移行するよう論陣を張っている。

中国共産党を美化した教科書の使用や中国国旗の掲揚を求める「愛国教育」への反発も強まっている。
香港記者協会は3日、産経新聞の取材に、「今後は香港の中学校で『言論の自由』を生徒に教える講座を拡大する」と強調し、「愛国教育」に対抗して民主主義社会の価値を教育する活動も行っていく方針を明らかにした。【4月6日 産経】
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【“そもそも社会主義と資本主義制度のもとで育った人間の考え方は根本的に違う”】
また、中国との人・カネの繋がりが強まるにつれて、粉ミルク買占め問題、家賃などの不動産上昇といった市民生活を圧迫する問題も出てきています。
本土から主産のために香港へやってくる妊婦も多く、市民のための病院サービスが低下するという問題もおきています。

更に、本土からの旅行客の増大につれて、マナーの悪さ、“「成り金」たちの「洗練されていない」社会的習慣”といった文化的軋轢も強まっています。

こうした“本土の中国人への「否定的な」感情”を背景に、様々なところで問題が噴出します。
以前は、電車内での飲食が騒動なったことがありますが、今回は子供のおしっこです。

****2歳男児のおしっこが発端 中国と香港のユーザーが激突****
4月下旬、2歳の中国人男児が香港の街頭でおしっこをしたことをきっかけに中国人と香港人の衝突事件が発生、インターネットで大きな波紋を広げた。

香港人は「中国人のマナーが悪い」と批判し、中国人は「香港人は小さなことで騒ぎすぎ」などと反論し、双方の感情的な対立まで発展した。

中国メディアの報道によると、4月21日、観光目的で香港を訪れた中国人夫婦が、市中心部の街頭で、2歳の男児を抱えておしっこをさせていたところ、通りかかった香港市民の男女に注意されたうえ、その様子を撮影された。

夫婦が激高し、父親はカメラとメモリーカードを奪いとり、母親は注意した香港市民の足にベビーカーをぶつけるなど暴れだした。その後、警察が駆けつけ、父親は釈放されたものの母親は暴行の容疑で一時拘束された。

夫婦の主張によると、子供が「おしっこしたい」と言い出し慌ててトイレに連れて行ったが、長蛇の列だった。子供が尿意をがまんできなくなり仕方なく街中でおしっこをさせたが、母親がわざわざ紙おむつで受け止めており、地面を濡らしていないという。

騒動の一部始終を撮影した映像がインターネットに出回ったことで、中国と香港で物議を醸した。
中国と香港の各ポータルサイトには十万件以上の書き込みが寄せられた。

些細なことから大騒ぎとなった背景には、近年、中国人の観光客が香港へ大量流入したことに伴い、街の秩序が乱れ、香港市民の生活に影響が及んだことがある。

一方、中国人たちは、「中国の観光客によって香港経済が潤い、私たちのおかげで香港人が良い生活を続けられている」と思い込んでいる。

中国国内のネットユーザーには夫婦を支持する声が圧倒的に多い。「香港にトイレが少ないことが原因だ」「香港人のわれわれに対する偏見が根底にある」といった意見が多かった。

特に香港市民が無断で子供がおしっこしている姿を撮影したことに対する不満が大きく、「香港人こそマナーが悪い」といった意見もある。

一方で、香港のインターネットでは夫婦を批判する書き込みがほとんどを占める。
「中国人が増えてから香港が住みにくい街になった」「中国人は香港から出て行け」といった過激な意見も多かった。

香港人にとって最もショックだったのが、当事者の中国人夫婦も、中国の一般ユーザーも、子供に街頭でおしっこをさせたことを当たり前と思っており、カメラを奪ったなどの違法行為に対しても全く反省していないことだ。

ある香港人記者は「今回の事件は今の中国と香港の関係を象徴する出来事だ。1997年の香港返還以降、一国二制度が採用されたが、そもそも社会主義と資本主義制度のもとで育った人間の考え方は根本的に違う。今後、香港を訪れる中国人の観光客の増加にともない、こうしたトラブルはますます増えるだろう」と話している。【4月26日 産経】
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“当事者の中国人夫婦も、中国の一般ユーザーも、子供に街頭でおしっこをさせたことを当たり前と思っており”という表現はどうでしょうか?
当事者も中国ネットユーザーも「子供の話であり、仕方がないじゃないか」と言っているだけではないでしょうか。

香港側の反応にはやや過剰なところはありますが、互いの言い分はともかく、日本でもありそうなささいな出来事が大きな騒動に拡大する背景にある不満・鬱屈・不信感・・・そういう両者の溝が問題なのでしょう。

中国は何回か旅行していますが、23年前、シルクロードを汽車で旅行した際、満員で車内に入ることもできず、車両を連結するデッキ部分で十数時間すごしたことがあります。

トイレからは汚水があふれてくる、子供を連れた母親が目の前でデッキの隙間からおしっこをさせる・・・大変な旅でした。

それを思うと、“母親がわざわざ紙おむつで受け止めており、地面を濡らしていない”というのは驚異的な変化であり、にわかには信じ難いほどです。(行為中の写真で見ると確かにオムツのようなもので受けています)

なんだかんだ言われつつも、中国の人の意識も変わってきているのだろうか・・・と、問題の本筋とは関係のないところで感心してしまいました。

1997年に返還された香港は、返還後50年間は一定の自治権の付与と本土(中国大陸)と異なる行政・法律・経済制度の維持が認められていますが、そのあとは中国側としては本土制度へ一体化していくつもりなのでしょう。

「今後、香港を訪れる中国人の観光客の増加にともない、こうしたトラブルはますます増えるだろう」というのは仕方ないにしても、本土側が一体化を迫るときまでにこうした意識の溝が埋められるのか?香港は共産党一党支配を受け入れるのか?というのは深刻な問題です。

本土側が香港的な民主化を受け入れル形に変化していく・・・というのも、今後10年後、20年後に中国共産党を揺るがす政治的大変動が起きればありえますが、現在のところはなかなか想像しがたいところです。

少なくとも現在は、本土でタブーとなっている天安門事件についても香港では批判することもできます。

****六四記念館、香港で開設=中国・天安門事件25年****
中国民主化運動が武力弾圧された天安門事件(1989年6月4日)25年を前に、香港で26日、事件の犠牲者を追悼する「六四記念館」がオープンした。

記念館は民主派団体「香港市民愛国民主運動支援連合会」(支連会)が九竜地区の繁華街にある雑居ビル内に開設した。

支連会の李卓人主席は「25年間準備してきた記念館の開設は、われわれが(中国本土の)民主化と天安門事件の評価見直しを主張する立場を堅持していることを示す」と強調。「記念館を通じて、89年の民主化運動の精神を継承していきたい」と述べた。【4月26日 時事】
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いつまでこういう共産党批判が許されるのか・・・心配です。
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南スーダン  民族浄化、食糧危機 アフリカの現実の一側面  問われる日本のPKO対応

2014-04-25 22:28:28 | スーダン

(南スーダンのナシルでの集会に参加する反政府の民兵組織「白い軍隊(White Army)」のメンバーら(4月14日撮影)【4月22日 AFP】)

民族浄化
2011年7月にスーダンからの分離独立を果たした、もっとも新しい国家である南スーダンで、昨年末に起きた政府軍と反乱軍の内戦状態が民族紛争という最悪の形で今も続いています。

****南スーダン:大規模戦闘再燃も…安保理、市民保護を協議****
アフリカ東部の南スーダンで政府軍と反乱軍の大規模な戦闘が再燃する恐れが高まっていることを受け、国連安全保障理事会が23日、非公式協議を開催した。

日本の自衛隊が参加する国連平和維持活動(PKO)部隊が展開しており、主な任務を国造り支援から市民保護や人権監視に変更することや、紛争当事者に対する制裁の必要性などが議論され、国際社会の危機感が浮き彫りになった。

国連南スーダン派遣団(UNMISS)は21日、ヌエル人主体の反乱軍が北部ベンチウで特定の民族などを標的にして市民数百人を殺害したとして、非難声明を出した。

声明によると、ヌエル人主体の反乱軍は15日、ベンチウのモスクに避難していたヌエル人以外の住民を選別して殺害。モスクでの死者数は200人以上で400人以上が負傷したという。

国連はさらに、ベンチウ市内の病院で、ヌエル人以外の南スーダン人などが殺され、反乱軍のベンチウ制圧を喜ぶ群衆に加わらなかったヌエル人も殺されたと指摘。

反乱軍と関係のある者が、特定グループの女性に対する性暴力を勧めるような内容の「ヘイトスピーチ」がラジオ放送されたと、強く批判している。

17日には、東部ジョングレイ州の州都ボルのUNMISS施設で、武装集団が避難していた市民に向かって銃を乱射。計58人が死亡する事態も起きた。

2011年に独立した南スーダンだが、昨年12月、マシャール前副大統領を支持する軍の一部が政府軍と衝突。その後、戦闘が各地に拡大し、キール大統領の出身民族ディンカ人と、マシャール氏が出身のヌエル人との民族対立の様相にも発展し、事実上の内戦状態に陥った。

難民・避難民は100万人以上となった。両陣営は1月に停戦合意し和平交渉を行ってきたが、進展していない。【4月24日 毎日】
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国連南スーダン派遣団(UNMISS)の声明によれば、“反政府勢力は先週、北部の油田地帯ユニティ州の州都ベンティウを占領した際、病院や教会などを捜索。15日にはモスク(イスラム礼拝所)に押し入り、避難していた人々を民族や出身国別にグループ分けし、一部グループの200人以上を殺害、400人以上を負傷させた”【4月22日 時事】ということで、民族浄化に他なりません。

更に、ウガンダやスーダンなど周辺国が国連PKOとは別に独自の介入を行う動きも報じられています。

迫る食糧危機
戦闘および“難民・避難民は100万人以上”という状況の必然的結果として、食糧危機が懸念されています。

****南スーダン、深刻な食糧不足危機****
世界で最も新しい国、南スーダンがいま、極めて深刻な食糧不足の危機に瀕している。

国連の推定では、大雨季が始まる5月までに作物の植え付けが終わらなければ、国内人口の約3分の1にあたる 1100万人が飢餓に見舞われ、5万人近くの子どもが犠牲になるとみられている。
これは、過去30年間の食糧不足 の中でも最も深刻な事態である。

2013年12月のクーデター未遂事件発生以来、南スーダンでは政治勢力が分裂状態に陥り、国中に暴力が蔓延している。
殺害された住民は1万人を超え、数十万人が国外への脱出を余儀なくされた。

これでは、作付け時期が到来しても植え付けができる状態ではない。「われわれは現在、多くの問題に取り組んでいる」。そう話すのは、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)事務総長特別副代表のトビー・ランザー氏。
「事態の規模、深刻さ、残忍さが、海辺に襲いかかる津波のようにこの国を圧倒してしまった」。

ランザー氏によると、食糧不足が現実になるかどうかは、5月末までの情勢次第だという。
「まさに試練の時だ」。

◆武力抗争が引き起こす食糧不足
南スーダンでは、国内に流通する食糧の大半が、最も激しい戦闘地域であるジョングレイ、上ナイル、ユニテ ィの3州で生産されている。特に穀倉地帯の上ナイル州は、アフリカで広く栽培されている乾燥に強い穀物モロコシ(ソルガム)の主要産 地だ。

同州では、戦闘を逃れた各地からの難民がナイル川の両岸に殺到している。現在は、周辺での狩りや漁、湿地帯に自生するスイレンの球根を採集して何とか飢えを凌いでいる状態だ。
だが、5月の雨期に川が氾濫すれば暮らしが成り立たず、また別の土地への移動を迫られる。

一方、暴力から逃れるため、土地を見捨てる農民も少なくない。踏みとどまっている農家もあるが、多くはいつ戦闘に巻き込まれるかわからないという恐れから、なかなか作物の植え付けをする心境にはならないようだ。
「作付けを行わなければ、収穫はゼロになる。飢餓状態一歩手前の300万~400万人を救うために、国際社会は一刻も早く行動を起こすべきだ」とランザー氏は語る。

国連世界食糧計画(WFP)は食糧の空中投下を計画中で、ユニセフ(UNICEF:国際連合児童基金)も、水を運ぶプラスチック製バケツや蚊帳、浄水錠剤など生活必需品を詰め込んだパッケージの準備を検討している。

さらに世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)は、到達困難地域の中でも特に深刻な状況な地域に対して、6~8名程度の小編成チームの空路派遣を既に開始している。

◆事態の行方は依然不透明
実際の食糧不足の影響は、作物の収穫が滞る冬以降の深刻化が予想されている。
対応を迫られている国連は、まず作付けが順調に行われている地域を6月に評価する計画だ。

一方、戦火の被害が3州より少なかった西エクアトリア州などでは、作物の植え付けが既に行われているようだ。しかし、その恩恵にあずかるのは周辺地域のみで、国全体への波及効果は期待できないだろう。
「市場が未発達で、他の州に出荷する手段がない」とランザー氏は現状を嘆く。

食糧不足の回避に向けて緊急支援が求められる中、政府勢力と反政府勢力はともに活動中の国連、NPOに対し、さらなる暴力と非難で応じる始末だ。
UNMISSの報道官ジョゼフ・コントレーラス氏は、「われわれは随分ひどい目にあっている。拳銃を突きつけられるような事態も希ではない」と語る。

暴力的な行為は収まりつつあるが、深刻な事態が かえって両勢力を問題解決から遠ざける結果を招いているのは不幸としか言いようがない。
コントレーラス氏によれば、UNMISSのスタッフは現在、両者の話し合いを見守りながら妥協点を見出すよう促しているという。
「武力抗争は依然として続いている。両勢力が交渉の席に着くかどうかは今もって不透明な状況だ」。【4月22日 ナショナルジオグラフィック】
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なぜ殺すのか?】
4月21日ブログ「ナイジェリア アフリカのイメージを払拭する経済成長 それでも“アフリカ的な”テロの横行」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140421)で、サハラ以南のアフリカについて

“紛争や貧困、病気というイメージばかりが強調されたため、観光客は恐れをなして近づかず、企業も本腰を入れて進出しようとしなかった。しかし、実像は異なっている。民主主義が広がり、経済は急成長している。毎晩、空腹を抱えながら眠りにつく人より太りすぎの人のほうが多いのがサハラ以南のアフリカの現状なのである。”【4月21日 ウォール・ストリート・ジャーナル】

との指摘があることを紹介しましたが、やはり上記の南スーダンやコンゴ、中央アフリカの状況を見ると、“紛争や貧困”というネガティブなアフリカのイメージそのままの現実が残存していることも認めざるを得ません。

特に感じるのは、どこの国・地域でも政治対立は存在しますが、どうしてアフリカではこんなにストレートに“殺し合い”という暴力に発展するのか?という疑問です。

****南アフリカ:総選挙目前 頻発する「政治殺人****
南アフリカで5月7日に総選挙(下院、定数400)が実施される。与党「アフリカ民族会議(ANC)」の優位は変わらないが、党派間対立や党内抗争で政党関係者が殺害されるケースが頻発している。

最も事件が多発している東部クワズールー・ナタール州では、過去4年で60人以上が殺害されたとの推計もある。総選挙を前にさらなる「政治殺人」への懸念が高まっている。(中略)

さまざまな要因や動機があるにせよ、なぜ殺すのか。
デハース氏は、南アの凶悪犯罪や未解決事件の多さに言及し「犯罪者が罰を受けないという状況や、犯罪が文化のようになり、家庭や学校、職場などさまざまな場所で、人々が物事を暴力で解決しようとする姿勢が背景にあるのではないか」と言う。【4月23日 毎日】
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日本や欧米世界で重視される理念や理想といったものを受け付けない、むき出しの憎悪という現実が全ての世界・・・という感があります。
それだけ現実の抱える問題・状況が厳しいということでもあるのでしょうが。

もっとも、「ヘイトスピーチ」的なむき出しの憎悪は最近の日本などでも見られるところで、そうしたものの行き着く結果は、アフリカ的な暴力の世界に他なりません。

なお、反政府軍を率いるマシャール前副大統領は、“「私はもう戦いたくなかった」。マシャール氏は最近にAFPが反乱軍の拠点で行ったインタビューで、こう語った。人々は、彼がゲリラ軍の指揮官として戦ったスーダン内戦によって、もう戦いはこりごりだと思っているという”【4月22日 AFP】とのことです。
だったら、なぜ・・・という話ですが。

避難民虐殺を座視するのか?】
冒頭記事に“日本の自衛隊が参加する国連平和維持活動(PKO)部隊が展開しており、主な任務を国造り支援から市民保護や人権監視に変更することや、紛争当事者に対する制裁の必要性などが議論され、国際社会の危機感が浮き彫りになった”ともあるように、内戦状態への国連PKOの対応が議論されています。

日本が派遣しているのは施設部隊で、通常は武器を携行していません。
現行のPKO協力法などは正当防衛や緊急避難などの場合に限り、必要最小限度の武器使用を認めていますが、避難民など文民保護を目的とした武器使用は憲法が禁じる「海外での武力行使」につながりかねないとして認めていません。

しかし、その日本の部隊も“今年1月上旬、首都ジュバの宿営地付近で銃撃戦が起きた際、全隊員に武器と銃弾を携行させ、「正当防衛や緊急避難に該当する場合は命を守るために撃て」と命じていた”【4月21日 朝日】という状況に直面しています。

陸上自衛隊の井川賢一・派遣隊長は、そのときの状況について、以下のように語っています。

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「隊員を死なせるわけにはいかない、最低限の自衛だけはさせる必要があると考えて全隊員に武器と弾薬を携行させた。隊員には『各自あるいは部隊の判断で、正当防衛や緊急避難に該当する場合には命を守るために撃て』と命じた」

「例えば目の前で避難民が殺されても、それが正当防衛や緊急避難に該当しなければ我々は撃てない。我々は国内法に基づいて行動する。正当防衛や緊急避難に該当する場合には撃つという、厳しい判断にならざるを得ない」【4月21日 朝日】
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****法改正か撤退か、国民的議論を 記者はこう見た****
ジュバにあるPKO施設の避難民居住区は、人で埋め尽くされていた。砂ぼこりと強烈な汚物の臭い。トイレは設置されているものの、子どもたちが道の真ん中で便をしている。

施設内で暮らす避難民は約3万人。守るのはルワンダなどの部隊だ。装備や隊員たちの熟練度は見るからに自衛隊の方が上回っている。それでも、自衛隊員たちは避難民を守るための武器使用が許されない。もし自衛隊がいながら、すぐそばで避難民の虐殺が起きた場合、国際世論は「仕方ない」と見なすだろうか。

国連PKOは避難民などを守る文民保護に焦点を移しつつある。だが、文民保護には相応のリスクと覚悟が伴う。避難民を保護すれば敵対勢力の目には「敵」と映り、戦闘に巻き込まれる可能性が高まるためだ。

事実上の内戦状態にある南スーダンで、自衛隊はこれまで通りの構えで国際社会から期待された任務を遂行できるのか。

現地を取材した私の考えでは選択肢は二つしかない。
憲法解釈の見直しやPKO協力法などの改正によって派遣部隊に避難民を守るための武器使用を認めるか、現地が内戦状態にあることを認め、「停戦」を前提とする現行法を順守して南スーダンから撤退するかのどちらかだ。

中部ボルでは今月17日にも、武装勢力がPKO施設内で銃を乱射する事件が起きている。国民的な議論が急がれる。機を逸すれば国際的な信用だけでなく、避難民や隊員の命を失いかねない。(ジュバ=三浦英之)【4月21日 朝日】
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これまでも何回も取り上げているように、ルワンダ大虐殺の混乱当時にルワンダ愛国戦線(RPF)を率い、現在ルワンダ大統領の席にあるカガメ大統領は、目の前で虐殺が行われているときじっと動かなかったUNAMIR(PKOである国連ルワンダ支援団)司令官ダレール将軍のことを「人間的には尊敬しているが、かぶっているヘルメットには敬意を持たない。UNAMIRは武装してここにいた。装甲車や戦車やありとあらゆる武器があった。その目の前で、人が殺されていた。私だったら、絶対にそんなことは許さない。そうした状況下では、わたしはどちらの側につくかを決める。たとえ、国連の指揮下にあったとしてもだ。わたしは人を守る側につく。」と評しています。

日本も平和憲法の精神はゆるぎなく堅持する必要はありますが、国際社会における具体的行動としては、避難民・人を守る行為に参加することは国際社会の一員として果たすべき責務であると考えます。
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パレスチナ  ファタハとハマス、パレスチナ分裂の解消が進む可能性 しかし、和平交渉は更に困難に

2014-04-24 20:49:33 | パレスチナ

(統一暫定政府樹立で合意し、記者会見で笑顔を見せるファタハ幹部のアルアハマド氏(左)とハマス最高幹部のハニヤ氏=ガザで23日、ロイター 【4月24日 毎日】)

分裂状態が解消される歴史的進展の可能性
ヨルダン川西岸地区を支配するパレスチナ自治政府の主流派組織ファタハと、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが統一暫定政府を樹立することで合意したと発表、2007年以降続くヨルダン川西岸とガザ地区のパレスチナ分裂の解消が進む可能性が出てきました。

しかし、イスラエル敵視政策を堅持するハマスを自治政府が取り込むことで、中東和平交渉が頓挫することが懸念されています。

****パレスチナ:暫定統一政府で合意…ファタハとハマス****
パレスチナ自治政府の主流派組織ファタハとパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは23日、統一の暫定政府を樹立することで合意したと発表した。

ただ、米国やイスラエルはハマスをテロ組織と認定しており、昨年7月に約3年ぶりに米国の仲介で再開した中東和平交渉を一層困難にする可能性がある。

ガザで行われた共同記者会見によると、ファタハとハマスは5週間以内に暫定政府を発足させ、6カ月後にもトップの議長や議員を選ぶ選挙を実施することで一致した。
実現すれば、ハマスが2007年にガザを制圧して以降続く、ヨルダン川西岸パレスチナ自治区とガザ地区の分裂状態が解消される歴史的進展となる。

ただ、両者は11年以降、エジプトの仲介などを受け統一政府樹立で合意しながら、権力闘争や対イスラエル戦略の違いで繰り返し決裂している。

米国務省のサキ報道官は23日の会見で合意発表について「失望した」と述べ、「事態を複雑化させる」と強い懸念を示した。ハマスがイスラエル国家の存在を認めない姿勢を貫いていることから、「(統一)政府と(イスラエルは)交渉できないだろう」と語った。

ケリー長官はネタニヤフ・イスラエル首相と電話で対応を協議した。また、米国政府は自治政府側に合意に伴う懸念を伝えたという。

イスラエルのネタニヤフ首相は23日、「イスラエルとの和平に向かう代わりに、彼(アッバス議長)はハマスとの和平を選んだ」と述べ、ハマスとの統一政府を目指すのであればイスラエルとの和平はありえないとの見解を明確にした。23日夜に予定されていたイスラエルとパレスチナ両交渉団による和平協議は中止された。

ファタハを率いるアッバス議長は中東和平交渉が行き詰まるなか、ガザとの共存を掲げることでパレスチナ市民の支持を強めたい思惑があるとされる。

一方、人と物の出入りを制限するイスラエルの封鎖政策を受けるガザ地区のハマスは、同じムスリム同胞団出身のエジプト・モルシ政権が昨年夏に崩壊して以降、エジプトからの支援が途絶し困窮。パレスチナ自治政府の仲介によるエジプト政府との関係改善に期待を寄せている。【4月24日 毎日】
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“合意の発表を受け、ガザ地区では多くの人々がパレスチナ自治政府の旗を掲げて通りに繰り出し、歓喜に沸いた。”【4月24日 AFP】

なかなか進展しなかった統一政府づくりが動き始めた背景には、上記記事最後にあるように、エジプトの支援が途絶したハマス側の経済的苦境があるように思われます。

ハマスの政権参加で和平交渉の継続は困難
一方、敵対するハマスの参加に猛反発するイスラエルは、この合意発表直後にガザ地区を空爆したと報じられています。

****中東和平交渉、決裂の危機=猶予は「5週間****
パレスチナ自治政府の主流派ファタハと自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが23日、統一暫定政権の発足で合意し、米国が仲介する和平交渉は決裂の瀬戸際に立たされている。

5週間以内とされる暫定政権発足までに、米国が打開策を取りまとめることができなければ、交渉継続は絶望的だ。

イスラエルや欧米は、「テロ組織」とみなすハマスと交渉する条件として、(1)イスラエルの承認(2)武装闘争の放棄(3)パレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)などの順守―を求めてきた。

米国は、ハマスが関与する暫定政権にも3条件受け入れを迫っているが、ハマスは拒否するとみられる。
欧米が暫定政権を承認せず、制裁に踏み切れば、和平交渉の継続は困難となる。【4月24日 時事】 
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実質的前進のためには必要なステップではないか
現実的な話の流れとして、ハマスの政権参加で和平交渉が難しくなったということは理解できますが、形式的な交渉進展ではなく、今後の実質的な進展を得るためにはハマスの政権参加はむしろ必要なことではないでしょうか。

交渉とは互いが譲歩しあうことですが、国内に反対強硬派を抱えていてはこの譲歩はできません。
ハマス抜きで自治政府が譲歩を示して和平交渉を進めれば、ハマスの絶好の攻撃材料となり、自治政府の求心力は急速に低下するでしょう。

また、仮にそういう形で何らかの合意がなされたとしても、反対を続けるハマス・ガザ地区とイスラエルとの間で衝突が起きて、合意が紙くずになることは目に見えています。

ハマスも野にあるときと、政権に参加した場合とでは、微妙に対応も変わってくると思われます。
特に、財政的に追い詰められている現状では。

回り道のように思われても、ハマスも参加したパレスチナ統一政府との交渉によってのみ、実質的交渉前進は得られると思います。
対応しやすい相手だけを選んで交渉していても仕方がありません。

ハマスが参加する統一政府は完全には“3条件”を受け入れることはできないでしょうが、それでも統一政府の交渉前進への姿勢を引き出し、一方でイスラエルの首に縄を付けてでも交渉の席に引っ張り出し、両者に譲歩を迫るのがアメリカの仕事だと考えますが・・・・。
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ブラジル  W杯開催を控えて続く社会混乱

2014-04-23 22:13:06 | ラテンアメリカ

(デモが暴徒化したコパカバーナビーチ近くのファベーラ(スラム街)で、男女に銃口を向ける警官 【4月23日 AFP】)

【「新しい競技場よりも病院の建設を」】
6月12日からのワールドカップ開催が目前に迫るブラジルで社会混乱が続いています。
W杯開催への抗議行動が断続的に行われ、これを鎮圧する警察との間で衝突が起きています。

****競技場より病院を」 サッカーW杯に抗議のデモ****
サッカーのワールドカップ(W杯)が6月12日から1カ月間、南米ブラジルで開催される。過去19回のW杯に全て出場し、うち5度優勝しているのもブラジルだけだ。
だからこの国ほどサッカーが盛んな国は他にないと、誰しも思う。

しかし、国民のサッカーに対する視線は意外に冷ややかだ。
例えば昨年、プロリーグ戦の平均観客数は1万4951人。競技場の客席が38%しか埋まらなかった計算だ。日本のJリーグ1部でも1万7226人を集めている。

昨年来、W杯の開催に抗議するデモがブラジルの各地で発生している。時に暴徒化する若者たちの主張は「税金を無駄遣いするな」の一点に集約される。

サンパウロでは不動産バブルに乗じて雨後のたけのこのように高層マンションが林立。半面、全世帯の1割強はファベーラと呼ばれる貧民街に住む。舗装や下水も整っていないレンガ造りの掘っ立て小屋から、マンションを仰ぎ見て暮らす人々がいる。

中産階級もまた、ブラジルの急速な経済成長の恩恵を享受していないと感じ、不満をためている。サッカーは所詮、娯楽に過ぎず、W杯の誘致で暮らし向きが劇的に改善されるはずもない。

公立病院の前では毎朝、暗いうちから患者が行列をなし、診察時間を待つ。ブラジルでは公立病院の診察は無料だ。しかし医師が足りず施設も手狭なため、待合室と廊下は患者であふれる。

私立病院を受診するために必要な民間医療保険は、保険料が高額で国民の4人に1人しか加入できない。
「新しい競技場よりも病院の建設を」というデモ隊の訴えは至極まっとうだ。

4月8日に発表された世論調査結果でブラジル国民のW杯母国開催に対する意見が明らかになった。賛成48%、反対41%だった。【4月19日 毎日】
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下記の抗議デモは直接にはW杯に対するものではないようですが、人々の不満は様々な形で噴出しているようです。

****リオでデモ隊が暴徒化、男性が撃たれ死亡****
2014年サッカーW杯ブラジル大会の開幕が約2か月後に迫ったブラジルで22日、リオデジャネイロ有数の観光地として知られるコパカバーナビーチ近くのファベーラ(スラム街)で、抗議デモを行っていた群衆が暴徒化し、警官隊と衝突した。このデモの中で男性1人が銃で撃たれ死亡した。

国内の報道によると、先週末、ダンサーの男性(25)が警察に麻薬密売人と間違えられた後に死亡する事件が発生。群衆は男性が警察に殺害されたとして抗議していた。

デモ参加者らがバリケードやタイヤに火を付け、ガラス瓶を投げるなどしたことから、周辺の主要道路2本が封鎖された。

国内メディアはまた、地元の市役所職員の話として、デモに参加していた30歳の男性1人が頭部に銃撃を受けて死亡したと伝えている。誰が発砲したかは明らかになっていない。【4月23日 AFP】
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ブラジルでは、昨年6月にもFIFAコンフェデレーションズカップ2013開催時に大規模な抗議行動が起こっています。

“デモは当初はバス、鉄道、地下鉄の運賃値上げに対する抗議に端を発し、ブラジルの複数の都市で起きたが、当初は公共交通機関の運賃無料化を目指す政治団体「無賃運動」のごく一部の政治運動から始まった。 デモ参加者に対する警察の残虐行為のようなものも抗議の対象に含まれるようになった。6月半ばには、運動は1992年のフェルナンド・コロール・デ・メロ大統領に対する抗議運動以来の最大の規模に発展した。”【ウィキペディア】

100以上もの都市で200万人を動員したと言われる昨年の抗議行動に比べると、今年の抗議行動は数千人規模と小さくなっていますが、“「ブラック・ブロック」と呼ばれる無政府主義者のグループが参加するようになり、過激化しているとも言われている。”【2月1日 産経】とも。

低迷する経済成長 インフレで中間層の困窮化
こうした社会不安の背景には、経済成長の恩恵を享受していないと感じる貧困層、政府の貧困者向け対策によって逆に生活が苦しくなった中間層の存在がありますが、ブラジル経済自体の低迷で政府の対応策も選択の幅が狭まっています。

****S&P:ブラジルを「BBB-」に格下げ-経済成長低迷で****
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は24日、ブラジルの長期外貨建てソブリン格付けを引き下げた。経済成長の低迷と拡張的な財政政策で政府の債務レベルの上昇に拍車が掛かっていると指摘した。(後略)【3月24日 ブルームバーグ】
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****ブラジル特集 不調の経済が課題****
ワールドカップ、そしてオリンピックの開催が次々に決まったブラジル。
2010年には、GDP・国内総生産が7.5%の高い伸びを記録。経済成長が続くと見られ、当時は高層ビルの建設が相次いだ。

しかし、最近は空き室が目立つ。ビルのオーナーは「部屋が売れず、借り手もいないとコストだけがかかってしまう」と話す。
サンパウロのオフィスビルでは、空き室の割合は増える一方で、今や18%に上っている。エコノミストのルイス・カラード氏は「不動産市場は以前は良かった。しかし、今はもうかっていた時とは違う」と話す。

経済低迷の理由。それは天然資源や食料品などの輸出が、ヨーロッパの信用不安や中国の景気減速を受けて、停滞したからだ。

さらに、国内を襲ったのがインフレの加速だった。政府が一時押し進めた通貨レアル安政策の影響もあり、物価が上昇。ブラジル経済に大きな打撃となった。
レアル安の影響は、国内企業を直撃した。電源装置を製造するこの企業でレアル安で中国などから輸入する部品の価格が上がり、製造コストが大幅に増えた。

さらに足かせとなったのが、政府がインフレ対策として打ち出した金利の引き上げ。借入金の利子が膨らみ、経営を圧迫しているという。
会社のジョイルソン・ラセルダ社長は、「低金利政策を実施してほしい.今の金利レベルは現実的ではない。ワールドカップだけでなく産業にも投資してほしい」と話す。
この企業では生産ラインの一部を止め、従業員200人のうち50人を解雇せざるを得なかった。インフレによる物価の上昇で個人消費は冷え込んでいる。

自動車市場では、消費者の関心が値段の高い新車から中古車へと移り、中古車フェアが賑わいを見せている。かつては右肩上がりだった新車の販売台数は、去年10年ぶりに前の年を下回った。
中古車フェア主催団体の責任者は「ここ3か月に訪れた人は、去年と比べ30%増えた。中古車の価格は下落していて、市場はとても魅力的になっている」と話す。

新車を売り払い中古車に乗り換える人もいる。デザイナーのエバンドロ・サントスさんは、2年前に日本円で210万円の新車を購入した。ところが保険代などの維持費だけで年間20万円かかるため、手放すことにした。中古車に買い換えれば、維持費も半分にできるという。エバンドロ・サントスさんは「稼ぐお金よりも、出費のほうがかさむので、もっと経済的な車にしたい」と話す。(後略)【4月13日 NHK】
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新車から中古車へ・・・・インフレの進行により生活が苦しくなっている中間層については、下記のようにも説明されています。

****サッカーをこよなく愛するブラジルで、ワールドカップ反対デモが起こる理由****
・・・・ブラジル政府は国民生活の底上げを、近年努力して行ってまいりました。貧困層と呼ばれている層の底上げを積極的に行い、最低賃金を2倍にするなど、貧困層の生活面の向上を図りました。実はそれが、デモなどのワールドカップの開催不安に寄与しているのです。

状況をたとえで説明します。ブラジル社会をAの裕福層からEの貧困層まで分類する事が出来たとしましょう。
いわば近年のブラジル政府はEの貧困層を一つ上のDのクラスに上げる施策を打ち、バラマキ施策などと言われながらも実質Dのクラスが増加しました。

確かにこの事は、ブラジル経済の消費増加に貢献しました。

しかし、一方でこの施策を快く思っていない層があります。それは今まで中間層を形成していたCの人たちです。
新Dクラスの消費の増加に伴い、物価が大幅に上昇しました。その為、収入の変わらないCクラスの人たちは物価上昇の影響を受け実質Dクラスに落ちてしまったのです。

今年10月には大統領選挙が予定されています。今のブラジル政府の票の基盤は、EからDに上がった人や、これからDに上がろうとしているEの人たちです。

ブラジルの選挙は国民の義務となっており全員が選挙に行かなければ罰則を受けるシステムです。その為、投票率は基本100%です。一票に貧富の差はありません。だから、大票田である層に対して、依然として現ブラジル政府はこの底上げ施策を進めています。

その為、デモという行動に出ているのがこの施策を快く思っていない、旧Cクラスの人々です。彼らはFacebookを使う層です。そこで本来は楽しみしていたワールドカップを利用し、政府に対して抗議をしている。というのが、今のワールドカップの反対運動の原因の一つと言われています。(後略)【3月29日 Mega Brasil】
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垣間見える無責任さ
基本的には好調な経済を背景にしたバラマキ政策のつけが回ってきている・・・そうした事態にルセフ大統領も適切に対応しきれていない・・・・という感があります。

票集めのバラマキ政策に終始する政治を含めた社会全体に、目先の自己の利益ばかりに走る無責任さも垣間見えます。

****ストで警察不在、略奪横行=W杯開催地で40人死亡―ブラジル****
サッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の試合会場となるサルバドルで15日から2日間にわたって警察官が賃上げを求めてストライキを行った。

この間、スーパーマーケットや家電量販店を狙った略奪が横行。地元メディアは、混乱の中で約40人が死亡したと報じている。

ルセフ大統領は「市民を危険にさらすような事態は受け入れられない」と指摘し、軍隊の出動を指示。州警察の上部組織に当たる連邦警察の部隊も街頭に展開し、約5000人がサルバドルの治安確保にあたった。【4月18日 時事】
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警察がストを行うなかで略奪が横行、40人が死亡・・・本来は国の安定を揺るがす大変な事態ですが、続報がないところみると、ブラジルではそれほど深刻には受け止められていないようです。

無責任さはW杯関連施設の準備状況にも表れています。

****サッカー大国ブラジルがW杯で屈辱的「敗北」?****
ブラジルのサッカーには、常に最上級の賛辞が贈られてきた。
1930年にワールドカップ(W杯)が始まって以来、世界で唯一全大会に出場し、過去5回優勝を勝ち取った。

だが今年のブラジルは、史上最悪のW杯開催国として屈辱的な「敗北」を喫するかもしれない。
大会開幕まであと2ヵ月だが、試合会場やインフラの準備が間に合いそうにないのだ。

国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター会長が今年1月、過去40年のW杯の中でどこよりも遅れていると語った。

大会に掛かる費用は推定110億ドルと史上最高。熱烈なファンのはずの国民も昨年は、税金はW杯より医療や教育に使えと抗議デモに繰り出した。

改築している12の競技場のうち、3ヵ所はまだ未完成だ。開幕戦が行われるサンパウロの会場は半分しかできていないように見える。工事の遅れで開催地の地位を失いかけた市もあった。

空港や地下鉄など56の交通インフラ整備のうち、完成したのは7つだけで、大半は中止された。
北東部のサルバドでは、地下鉄建設が途中で民間に丸投げされ、完成はW杯終了後になった。
リオデジャネイロ国際空港の新しい滑走路は、16年のオリンピックに間に合うかどうかも分からない。

ルセフ大統領は強気の姿勢を崩さず、ブラジル大会は「最高のW杯になる」と言う。だが本当に天変なのは、W杯の後だろう。折からのインフレや高失業率に加え、2年後にはオリンピックの開催が待っている。【4月22日 Newsweek日本版】
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後れを取り戻そうと無理をするせいか、工事関係者の犠牲も出ています。

****W杯競技場でまた死亡事故 死者6人目、同じ会場で3件目 ブラジル****
今年6月にサッカー・ワールドカップ(W杯)が行われるブラジル北部マナウスのアマゾニア競技場で7日、クレーンの部品が落下し、直撃した建設作業員が死亡した。アマゾニア競技場の建設作業中の死者は3人目となった。

AP通信によると、作業員(55)は、競技場の屋根を設置するために運び込まれたクレーンを解体する作業を担当。クレーンの金属板が何らかの理由で落下し、作業員の頭や胸を直撃した。競技場関係者によると、工事は97%完成しているが、事故原因の調査で完成が遅れる可能性もある。

ブラジルでは競技場建設が急ピッチで進められており、アマゾニア競技場以外でも、サンパウロのイタケロン競技場で昨年11月、作業員2人がクレーンの下敷きになり死亡するなど死者は計6人に上っている。

国際サッカー連盟(FIFA)のブラッター会長は今年1月、競技場建設が滞っていることに触れ、「これほど準備が遅れているW杯はない」と語っている。【2月8日 産経】
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問題が山積しているように見えるブラジルですが、10月の大統領選挙に向けてルセフ大統領の世論評価は安定しており、再選が濃厚とのことです。

なかなか外部からはわからないことも多々あります。
タイのタクシン派政権、ベネズエラのチャベスおよびその後継政権など、バラマキ政策で貧困層の支持を得た政権は選挙では強さを見せます。

しかし、16年には更にオリンピックが控えていますが、どうでしょうか・・・・。
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タイ  狭まるインラック政権包囲網 新たな混乱の幕開けか 打開に向け、タクシン一族の政界引退提案も

2014-04-22 22:03:02 | 東南アジア

(4月5日、バンコク郊外で4か月ぶりに開催された、タクシン派「反独裁民主統一戦線(UDD)」の大規模集会(警察発表で参加者4万人) 【4月7日 anngle】http://anngle.org/newsclips/redshirt2014april5.html)

今月末から来月初めには一定の結論
反タクシン派の反政府行動に直面してきたタクシン元首相の妹であるインラック首相が、反タクシン派の牙城とも言える憲法裁判所や国家汚職追放委員会によって失職の危機にさらされていることは、これまでも再三取り上げてきました。
(4月1日ブログ「タイ 憲法裁判所の総選挙無効判断で深まる混迷 漂流するタイ政治」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140401

状況は次第に煮詰まってきた感じで、今月末から来月初めには結論が出そうです。

****退陣へ狭まる「首相包囲網」 タイ、職権乱用審理や汚職告発****
政治の混乱が続くタイで、インラック首相が近く退陣に追い込まれるとの観測が高まってきた。
国家汚職追放委員会による告発や、憲法裁判所による有罪判決などが予想されるからだ。反政府と政権支持の双方の摩擦が再び過熱する事態も予想される。

汚職追放委の広報担当者は18日、政府のコメ買い上げ政策の不正をめぐり、インラック首相の処遇が来月初めにも決まるとの見通しを示した。追放委が告発すれば首相は停職処分となり、上院で弾劾手続きが始まる。

また、憲法裁は2日、国家安全保障会議の事務局長人事をめぐり、首相が職権を乱用したとする訴えを受理した。憲法違反と認められれば首相は失職となる。
ロイター通信によると、憲法裁は首相に弁明を許すか否かを23日にも決めるが、早ければ今月末にも有罪が確定する可能性がある。

インラック氏が失職しても、内閣から首相代行などが任命されれば、同氏の兄で国外逃亡中のタクシン元首相一派を一掃するという反政府派の目的は達成できない。

このため、反タクシン派が多いとされる憲法裁は、「憲法の条項解釈などもからめ、インラック氏だけでなく内閣を総辞職に追い込む」(地元メディア)とみる向きもある。

現行憲法は、首相は下院議員から選ぶと定めているが、2月2日の総選挙が反政府派の妨害で無効となり、やり直し総選挙は早くても7月ごろになる見通し。

非常事態にはプミポン国王が首相を任命できる仕組みも憲法に盛り込まれており、反政府デモ隊を主導するステープ元副首相もこれを支持すると表明した。
ステープ氏は、仏教暦の正月を祝う「ソンクラーン休暇」が明けた17日、一時休止していた活動を再開。

一方、タクシン派の団体「反独裁民主統一戦線(UDD)」も、憲法裁が有罪判決を下すなどした場合には大規模デモを開催すると警告しており、双方の衝突を懸念する声も強まっている。【4月22日 産経】
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先ずは、インラック首相の抗弁期間延長を憲法裁判所が認めるか否か、明日23日に判断が示されます。
憲法裁判所で争われているのは、インラック首相が首相就任直後の2011年に当時の安全保障事務局長を異動させたことが不当な介入として違憲に当たるかどうかという問題です。

“当時のタウィン事務局長は反タクシンの民主党政権時代に任命された人物だった。タウィン氏は行政裁判所に地位保全の訴えを起こし、今年3月7日、最高行政裁が手続きに違法性を認めて同氏の復職を命じ、政権も従った。

これを受け、反タクシン色の強い上院議員らが「大臣による人事介入で違憲」として憲法裁に提訴。憲法では、これが認定されれば大臣資格は喪失。さらに別の条項で、首相が大臣資格を失った場合は内閣は総辞職すると規定している。”【4月3日 朝日】

国家汚職追放委員会(NACC)が問題としているのはインラック政権の看板政策である米買い取り制度です。

“NACCによると、国家コメ政策委員会の委員長を兼務するインラック首相は、同制度で約2000億バーツ(約6330億円)相当の損失が出たとの報告や、深刻な不正につながる恐れがあるとの警告を受けていたのに、制度の推進を主張。これが職務怠慢と職権乱用の罪に当たると判断された。・・・NACCが最終的に上院に首相弾劾を求めることを決めた場合、その時点で首相は職務停止となり、上院が弾劾を決議すると首相の座を追われる。”【2月18日 時事】 

いずれについても、選挙では農民・貧困層の支持が強いタクシン派を追い落とせないこと、そもそも農民や貧困層が政治決定に参画すること自体に抵抗感を持つ既得権益・反タクシン派が、選挙によらずに司法手続き等でタクシン派インラック政権を追い詰めようという試み・・・ともとれることも、これまでのブログで触れてきたところです。

憲法裁判所にしても国家汚職追放委員会(NACC)にしても、反タクシン勢力が強い組織ですので、政権にとっては厳しい判断が予想されています。

****憲法裁と汚職制圧委、タイ政府を厳しく批判****
インラック首相が違法人事に伴う憲法裁判所の判断によって失職、また、コメ質入れ制度の不正横行に絡む職務怠慢で国家汚職制圧委員会(NACC)が罷免を請求し停職となるとの見方が強まるなか、憲法裁とNACCは4月18日、政府の治安対策本部、平和秩序管理センター(CAPO)が17日に「憲法裁とNACCの越権行為によってインラック首相が失職・停職となって政治空白が生じた場合、政府は国王陛下のご判断を仰ぐ必要がある」との見解を示したことを厳しく批判した。

憲法裁によれば、憲法裁が違法人事に関連する首相の責任について審理することは権限の範囲内。これにCAPOが口出しすることは憲法裁への不当な干渉であり、また、CAPOの権限から大きく逸脱しているという。

サンサンNACC事務局長もまた、「政府に有利な判断を示すようNACCに圧力をかけるものだ」とCAPOを強く非難した。【4月19日 バンコク週報】
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タクシン派は“報復措置”へ
もしインラック首相の失職・弾劾ということになれば、これまで反タクシン派の動きを静観してきたタクシン派・赤シャツ隊の抗議行動が一気に噴出し、タイは新たな混乱に直面することが予想されます。

****タクシン支持グループ、首相失職なら憲法裁に報復****
憲法裁の判断によりインラック首相が違法人事に絡んで失職するとの見方が強まっていることについて、タクシン支持組織のひとつ、民主主義擁護ボランティアグループ(DPVG)のスポン代表は4月20日、「憲法裁が首相に有罪を言い渡したら幹部会議を開いて報復措置を話し合う」と明言した。

「ランボー・イサン」(東北タイのランボー)とのニックネームを持つ同代表によれば、インラック首相による国家治安委員会(NSC)事務局長の異動については、民主党政権で当時のアピシット首相(民主党党首)も同様のことをしており、インラック首相だけが違法とされたのは不当とのことだ。

なお、DPVGは先に東北部ナコンラチャシマ県で2日間にわたりトレーニングコース を開いたが、ここにDPVGのメンバー1万5000人以上が参加したことだ。【4月21日 バンコク週報】
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“東北タイのランボー”・・・・相当に暴れまわりそうな名前です。
“2日間にわたるトレーニングコース”というのは何でしょうか?ただの勉強会でしょうか?それとも武闘訓練のようなものでしょうか?

タクシン派の地盤であるタイ北東部チェンマイには、首都バンコクに対する反感も根強くあるようです。

*****タイ北部が分離独立?=陸軍、タクシン派を告発****
タイ陸軍は3日、タクシン元首相支持派の一部組織が刑法に違反し、タイ北部の分離独立を唱える活動を行ったとして、組織幹部を警察に告発した。

告発されたのは、インラック首相の地元である北部チェンマイ県のタクシン派組織「ラック・チェンマイ51」幹部ペチャラワット氏。「ソー・ポー・ポー・ラーンナー」の名称を使って北部の分離独立を訴える横断幕を掲げるなどしたとされる。

ラーンナーは13世紀末から19世紀末にかけてタイ北部に存在した王国の名前で、「ソー・ポー・ポー・ラーンナー」はタイ語で「ラーンナー人民民主共和国」の略語を意味する。インラック首相の辞任を求める反政府運動が続く首都バンコクや南部に対抗した動きとみられる。【3月3日 時事】 
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まあ、現段階では?マーク付きの動きでしょうが、新たな混乱の背景となる住民感情をも示しています。

なお、タクシン派も軍によるクーデターの動きを警戒しており、双方が牽制しあっている感があります。

****軍が反論、「タクシン元首相はクーデター妄想症****
国外逃亡中のタクシン元首相が訪問先の中国・北京で支持者に対し、「東部プラチンブリ県に本部を置く第2歩兵師団の兵士たちがクーデターを起こそうとしている」と述べたとされることについて、同師団の幹部らはこのほど、「元首相はクーデター妄想症だ」と述べ、根も葉もない憶測だと反論した。

同師団は「ブラパパヤック(東のトラ)」と呼ばれているが、その幹部たちによれば、クーデターを起こすには少なくとも40大隊に及ぶ兵員が必要。ひとつの師団だけでは到底不可能とのことだ。

なお、関係筋によれば、2006年9月の軍事クーデターで当時のタクシン首相が政権の座から追われたことから、タクシン派は現在も軍部を恐れているとされるが、元首相やタクシン派幹部が「クーデターの可能性」にたびたび言及するのは、支持者の結束を強化するとともに、同派への同情・支持を集めることを狙ったものとも考えられるという。【4月22日 バンコク週報】
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【「犠牲になるのをいとわない」・・・「タクシンはうそつきだ」】
上記のようなインラック政権包囲網が狭まる状況で、タクシン氏が一族の政界引退を提案しているそうです。

****タクシン一族「政界引退も」=元首相が言及―タイ****
反政府陣営から辞任要求を突き付けられているタイのインラック首相の兄タクシン元首相は、長期化する政治対立を打開するため、タクシン一族が政界から身を引く可能性に言及した。
タクシン氏の法律顧問を務めるノパドン元外相が21日、記者団に明らかにした。

ノパドン氏によると、タクシン氏は「(タクシン一族は)犠牲になるのをいとわない。政治家としての役割に終止符を打つ用意がある」と強調。一方で、反政府デモも同時に中止すべきだと主張し、総選挙が問題を平和的に解決する唯一の手段だとの考えを示したという。

インラック首相が憲法裁判所や国家汚職追放委員会(NACC)の判断次第で失職や職務停止となる可能性に直面する中、タクシン氏としては、一族の政界引退にまで言及することで、ステープ元副首相ら反政府陣営に妥協を促した形だ。

しかし、ステープ氏は21日夜の反政府集会で行った演説でタクシン氏の発言に触れ、「われわれは過去、何度もうそをつかれ、だまされた」と指摘。「タクシンはうそつきだ」と述べ、タクシン氏との取引には応じない意向を強調した。【4月22日 時事】 
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新たな混乱を避け、今後の国民和解を進めていくうえでは、タクシン一族が政界から身を引くことが現実的な出発点として評価できるように思われます。

“タクシン氏との取引には応じない”と言ってしまえば、どうにもなりませんが。
憲法裁判所や国家汚職追放委員会の判断への影響は・・・よくわかりません。
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ナイジェリア  アフリカのイメージを払拭する経済成長 それでも“アフリカ的な”テロの横行

2014-04-21 23:41:14 | アフリカ

(ナイジェリアの経済活況を示す写真を探したのですが、適当なものが見当たらず、定番のテロ関係の写真で。【4月14日 AFP】)

2050年までにはドイツに迫る
3月3日ブログ“ナイジェリア イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」による連日のテロ”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140303)でも取り上げたように、西アフリカの地域大国ナイジェリアの人口は、2050年にはアメリカを抜いて世界第3位になると予測されています。 

人口が拡大すれば、基本的には経済規模も拡大していきます。
将来的な市場拡大をにらんで、多くの欧米企業もナイジェリアに進出していますが、すでにその経済規模が計算しなおしたところ、実はアフリカ最大になっていた・・・とのことです。

****ナイジェリア経済、南ア超えアフリカ最大に****
ナイジェリア政府は6日、国内総生産(GDP)を再計算した結果、南アフリカを大幅に上回り、アフリカ最大の経済となったと発表した。

今回の計算結果には、1990年にGDP計算のための指標が定められてから生じた製造・消費における変化が考慮されており、新たに通信事業や映画産業にも焦点を当てている。

データによると、2012年のナイジェリア経済は4530億ドル(約46兆8100億円)に成長し、世界銀行(World Bank)が算出した2640億ドル(約27兆2700億円)を大幅に上回った。世界銀行は、2012年の南アフリカ経済を3840億ドル(約39兆6700億円)と算出している。

ナイジェリア当局は首都アブジャ(Abuja)で開いた記者会見で、2013年のGDPはさらに多い5100億ドル(約52兆7200億円)になる見込みだと述べている。【4月7日 AFP】
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GDPが一夜にして2倍近くに膨れたことになり、一体今までの数字はなんだったのか?ということになりますが、併せて、今回の数字は本当に信用できるのだろうか?という疑問もわいてきます。
南アフリカの数字も、同様に精査すれば全く違うものになるのかも・・・。

中国の経済統計が信用できないという話はありますが、アフリカの数字ははるかに怪しげです。

まあ、それはさておき、ナイジェリアを含むアフリカ諸国の経済が急速に拡大していることは間違いないところです。
アフリカというと、内戦、テロ、伝統的な因習・・・・など、ネガティブなイメージが先行しますが、現実はそうしたイメージと大きく異なる(側面がある)ことは十分に留意する必要があります。

****南アを超えたナイジェリア―資源だけでない成長の原動力****
ナイジェリアの首都アブジャで14日朝、爆弾テロが発生、71人が死亡した。国民の関心は一気に事件に向かったが、事件が起きるまでは経済の急成長が話題になっていた。

今月6日、同国は昨年の国内総生産(GDP)が前年の2倍近い5100億ドル(52兆2100億円)となったと発表した。世界で最も高い経済成長率を記録した上、規模でも南アフリカ(3840億ドル)を抜いてアフリカ最大の経済大国となった。世界ランキングでは、12カ国を追い抜いて主要20カ国・地域(G20)のすぐ下の24位につけた。

ナイジェリア経済に奇跡が起きたわけではない。いわば統計の魔法によって生じた事態である。
ほとんどの先進国は消費動向の変化を反映するため、ほぼ5年ごとにGDPの基準を改定しているが、ナイジェリアでは1990年以降、この改定が行われていなかった。

つまり、1億2800万人もの携帯電話利用者がいるにもかかわらず、GDPにはこれまで移動体通信の急増も反映されておらず、著しい発展を遂げ被用者数が2番目の娯楽部門も含まれていなかった。

破たん国家の集まりで、外部による救済が必要――。サハラ以南のアフリカについて、西側の支援団体や政治家、ジャーナリストは、あまりにも長い間、ご都合主義的に、こんなイメージをまき散らしてきた。

紛争や貧困、病気というイメージばかりが強調されたため、観光客は恐れをなして近づかず、企業も本腰を入れて進出しようとしなかった。

しかし、実像は異なっている。民主主義が広がり、経済は急成長している。毎晩、空腹を抱えながら眠りにつく人より太りすぎの人のほうが多いのがサハラ以南のアフリカの現状なのである。

アフリカ経済の4分の1を占めるナイジェリアはまさに象徴的な存在である。政治の失敗が続き、国家が十分に機能してこなかったためだろう、ナイジェリアには起業家精神があふれている。

GDP急増の原動力はサービス部門と存在感を増しつつある製造業だった。アフリカ一の富豪アリコ・ダンゴテ氏はナイジェリアでセメント企業と食品企業を経営している。
これまで経済を支えてきた石油・ガス産業は今や、GDPの14%を占めるにすぎない。

ナイジェリアには今でも、宗派間の対立の傷跡が残っている。腐敗もあれば貧困もある。
同国は世界24位の経済規模を誇るが、国民1人当たりのGDPでは100位にも入っていない。
基準改定後のGDPによると、同国の税収は悩ましいほど低い。
しかし、大富豪の出現でナイジェリアはアフリカ最大のプライベートジェット市場に成長した。

新興中産階級の購買力に支えられて、シャンパンとコニャックの消費が急増している。「ノリウッド」として知られるナイジェリアの映画産業は年間1000本もの映画を製作、米国、インドに次ぐ世界3位の興行収入を挙げている。

ゴールドマン・サックスはナイジェリアの経済規模が2050年までにカナダやイタリアを抜き、ドイツに迫ると予想している。

世界の経済成長率ランキングのトップ10のうち6カ国はアフリカが占めている。世界で人口が最も若いのもアフリカだ。
ナイジェリアはそのアフリカ大陸にある54カ国のうちのたった1カ国にすぎない。エチオピア、ガーナ、ケニア、モザンビーク、タンザニアもナイジェリアと同じように急速に発展している。

アフリカの中産階級人口は既にインドを超えていて、消費支出の原動力になっている。世間の認識とは異なり、アフリカで急成長している国のほとんどは天然資源に依存していない。

抜け目のない多国籍企業はアフリカへの参入を急速に進めている。
米ゼネラル・エレクトリックは今年、今後数年間でサハラ以南のアフリカでの売り上げを倍増させると発表した。同社はこの地域のガスタービンの販売台数が米国の販売台数を超えるのも時間の問題とみる。飲料メーカーやファストフード企業、ホテルチェーンとの提携も予定している。

グラクソ・スミスクラインは今後5年間で2億1600万ドルを投じ、数カ所に新たな工場を建設する計画を発表したばかりだ。経済発展に伴って慢性疾患が増え、治療の需要が増加するアフリカに製薬会社が関心を強めているのだ。

世界銀行によると、アフリカでは乳幼児死亡率が低下し、伝染性疾患は抑制されているが、今後15年間でがんや心臓病など非伝染性疾患が死因の約半数を占めるようになるという。

アフリカの人々は自由に物を買う力を手に入れたが、公共サービスの質は悪く、年金制度も整備されていない。ここでも、資本主義と消費主義が変化を促している。

英保険大手プルーデンシャル(最高経営責任者(CEO)はアフリカ生まれだ)は1日2ドル50セント未満で暮らす人々に保険を販売するガーナの企業グループを買収した。

ケニアやナイジェリアでは、貧しい家庭でも子どもを二流の公立学校に行かせるより、個人教授を選ぶことが多い。アフリカでもコンピューターマニアがインフラ未整備や不正医薬品、銀行サービスの不足といった問題を技術的に回避する方法を考え出している。ケニアの携帯電話を使った金融サービスシステムM-Pesa(エムペサ)のような最先端の技術もある。

アーンスト&ヤングなどの調査によると、アフリカに進出した投資家は非常に前向きだが、未進出の企業は悲観的な見方にとらわれている。

筆者は最近、プレミアリーグに所属する英国のサッカーチームの最高経営責任者に西アフリカでツアーを行って、現地のサッカー人気を生かしたらどうかと勧めると、CEOは軍隊に守ってもらわなければならないと言って笑った。残念ながら、このCEOのように近視眼的な人は非常に多い。

深刻な問題もあるが、それは世界のどの地域でも同じである。アフリカの多くの地域は中国に匹敵する急上昇期を迎えようとしている。

ナイジェリアのGDPが急増した理由が統計上のねじれであったとしても、アフリカ大陸の急激な経済成長とすさまじい変化は本物である。これを見逃せば、のちのち、時代を見る目がなかったと後悔することになるだろう。
(イアン・バーレル氏は英国の新聞「デイリー・メール」と「メール・オン・サンデー」の寄稿編集者。英国のデービッド・キャメロン首相の元スピーチライター)【4月21日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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それでも止まない「ボコ・ハラム」のテロ
未だに多くの国民が貧困から抜け出せずにいるなかで、“アフリカ最大のプライベートジェット市場に成長した”ことや、“シャンパンとコニャックの消費が急増している”ことが、どれだけの評価に値することなのか? 
“政治の失敗が続き、国家が十分に機能してこなかった”ことに、改善の兆しがあるのか?

上記記事のように手放しでナイジェリア経済の成長を評価できない側面は残りますが、“民主主義が広がり、経済は急成長している。毎晩、空腹を抱えながら眠りにつく人より太りすぎの人のほうが多いのがサハラ以南のアフリカの現状なのである”ということであえば、それは大いに喜ぶべきことです。

ただ、ナイジェリアの場合、貧困層の残存、政治の腐敗・汚職といった問題のほかに、どうしても看過できない問題が存在します。
南部キリスト教徒と北部イスラム教徒の宗教対立、イスラム原理主義「ボコ・ハラム」のとどまるところを知らないテロの問題です。

パキスタンに旅行していた1週間ほどの間にも、2件の大きな事件が報じられています。

****ナイジェリア首都で爆発、71人死亡…過激派か****
AP通信によると、ナイジェリアの首都アブジャ郊外のバス待合所で14日朝、大きな爆発があり、通勤客ら少なくとも71人が死亡、約120人が負傷した。

同通信によると、治安当局は、爆発物が持ち込まれたとの見方を示した。犯行声明は出ていないが、同日、現場を訪れたジョナサン大統領は、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」の犯行との見方を示した。

ボコ・ハラムは石油産地である北東部を拠点にテロを繰り返しており、多くの市民が犠牲になっているが、首都周辺で犯行に及んだのは異例といえる。【4月15日 読売】
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****ナイジェリア:女子高生100人拉致 イスラム過激派か****
西アフリカ・ナイジェリアからの報道によると、同国北東部ボルノ州チボクで14日深夜から15日未明にかけ、女子高校に武装集団が侵入し、宿泊施設で休息中の女子生徒ら100人以上を拉致した。

テロ攻撃を活発化させているイスラム過激派ボコ・ハラムの犯行である可能性が強い。

AFP通信は目撃者の話として、生徒たちがトラックに乗せられて連れ去られたと報じている。

(中略)ボコ・ハラムは2002年にボルノ州の州都マイドゥグリで結成されたイスラム過激派で、政府やキリスト教会などへのテロ攻撃を繰り返している。

名前は現地語で「西洋の教育は罪」の意味で、教育機関も敵視。今年2月に北東部ヨベ州ブニヤディで男子生徒ら59人が死亡した寄宿学校襲撃も、ボコ・ハラムの犯行とみられている。【4月16日 毎日】
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アムネスティ・インターナショナルによると、今年に入ってからでも、キリスト教会や政府施設へのテロなどを通じて1500人以上が犠牲となっています。

こうした「ボコ・ハラム」の活動を抑えきれないということは、国民の生活を改善するはずの経済成長がナイジェリアにおいては大きな欠陥を有しているのではないか・・・というふうにも思えてきます。
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