臨床医学は対象が多様広範で何十年従事していても難しい。しかも駅前の最前線の医院には病気よりも他の要素で難しい患者さんがしばしば受診される。
何か参考になることはと難しい患者の対応技法という本を買ってみた。殆どが同様の経験をした症例が書かれている。睡眠薬を求めてくる患者、話の長い患者、とにかく全部調べてくれと希望する家族、きちんと薬を飲まない患者・・・残念ながら魔法のような対応法は書かれていなかった。それは当然と言えば当然なのだが、何かいい方法があるかもしれないと思って購入したのでちょっとがっかりした。
この本を書かれている医師達よりも私は前線にいるので、病院のような大きな建物も検査機器も後ろには控えていない。それだけ患者さんには身近で与しやすい面もあり、ある種の患者さんの我が儘を押し返すのが難しい。今日も夫が三日前から右手が重いと言うと老夫婦が受診された。十年前から高血圧で通院中なのだが、奥様が中々手強い人なのだ。握力に異常なく字も書ける。診察しても神経学的な異常はない。まあ。それでも脳内病変を完全には否定できないので、脳神経専門医に紹介することにした。ああそこはちょっと、あそこは混んでいるからと体よく何軒かの開業医と総合病院を断り、一番大きい総合病院にしてくれと言う。そこまでの病態とは思わないがには先生のお力でとか言って引き下がらない。電話口の担当医は塩辛い声で、普通はお断りするんですがしょうがないというご返事だった。
いい年をしてこの程度のことで不甲斐なく感ずることもないのだが、手強い患者を何人か診た夜はユーチューブで裳岬や宗右衛門町ブルースを聞いている。