駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

どうするんだろうなあ

2013年05月21日 | 診療

         

  Yさんの家に往診に行く。

 「こんにちわ」。

 「はいはい」。

 割烹着姿のYさんが姿を見せる。とても九十のお婆さんには見えない。腰が少し曲がってはいるが足腰は勿論、頭もしっかりしている。廊下の奥に患者さんが寝ている。患者さんは今年67歳のN子さん、脊椎疾患で両下肢が動かない。Yさんのお嬢さんで、もう四十年近く寝たきりだ。頭はしっかりしておられ、丁寧に質問に答えられる。とても六十代には見えない。染みと皺はあるが五十そこそこに見える。世間の灰汁芥を浴びることなく生きてこられたせいだろうか。週一回、デイサービスに行くのをとても楽しみにしておられる。それはそうだろう。毎日、壁とにらめっこで、話し相手と言えば年老いた母しか居ない。

 Yさんも高血圧と不整脈で通院しておられ、月に一度受診される。

 「この頃、年を取って物忘れをするようになりました」。と嘆かれ、次いで「くたびれたわ」。と呟いて苦笑された。

 「あの子がね。お母さん倒れないでねって言うんですよ」。

 幾ら元気と言っても、九十歳の人がいつまでどこまでやれるものだろうか。うまく返す言葉も浮かばず、芸もなく「ああ、そうですね」。「ああ、そうですか」。と肯くばかりだ。

 帰られた後、「どうするんだろうなあ」。と看護婦と顔を見合わせた。

 

 

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4 コメント

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限界超過 (柳居子)
2013-05-21 09:20:57
 「あの子がね。お母さん倒れないでねって言うんですよ」。 ある意味 お母さんの元気のファクターとは言うものの 大変な事です。

母子の会話内容で、日々の生活 暮らし向きまでを窺い知る事が出来ますね。
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ご指摘の通りでしょう (arz2bee)
2013-05-21 19:22:40
 面倒を見なければいけないと感じられるからこそ、この年で世話が出来るのだと思います。
 現実は厳しいので、心配です。
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Unknown (ryuji_s1)
2013-05-24 16:07:05
arz2beeさん
すごい努力
それが生きがいも
たいへんな現実ですね
だも人間は強いですね
がんばらねばと思います
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Unknown (arz2bee)
2013-05-24 18:58:58
ryuji_s1さん、世の中には厳しい現実もあります。それでも頑張って居られる方も多いです。
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