駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

多面的に患者さんを診たい

2015年08月03日 | 診療

               

 高血圧で十五年通院しているNさん、来年は八十になられる。通院を始めた頃、工場で機械に巻き込まれ右手が不自由になり、随分辛い思いをされたが今は持ち前の陽気な性格を取り戻され楽しく診察させて貰っている。先日ちょっとと真顔になり奥さんのことを相談された。腰痛と不眠症で整形外科と精神科に通院しているが一年で5kgばかり痩せた、何か病気が隠れているのではと心配だ、付いてはきちんと調べて貰いたいので、総合病院を紹介してくれないかということだった。

 それではと総合病院の総合診療科に紹介した。紹介状を書く時、一度診察した感触では胃癌や糖尿病などの病気が隠れている印象はなかった。

 一週間ほどして返事が来た。器質的な疾患(癌や糖尿病)はない、認知症が出てきて食事量が減っているのが体重減少の原因と思う。もう総合病院へ来る必要はないと説明しました。ご主人も理解が悪いようで認知があるのではないかとしたためてあった。納得の行く結論であったが、返事の書き方には微かに違和感を持った。 

 病院の先生方の中には世間話などする暇はない、それは患者を集めたい開業医がすれば良いと極端なことを言われる人も居る。難病や重症の多い病院では一面の真実でも、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣の関わる病気を診てゆくには信頼を築くためにも世間話は必要なのだ。患者を集めようと愛想良くしているわけではない。

 総合診療科の医師がそういうことを思っておられる訳ではないと思うが、Nさんが理解が悪いというのはちょっと違うんだがなと思った。Nさんは露骨に言えば教育がなく、慣れないところでせかされては理解していても上手く受け答えが出来ないのだ。希望を言えば、なにがしかのリスペクト(敬意)を払ってあげれば上手く話せたと思う。医学用語の飲み込みは悪くても、板の削り方ではプロなのだ。

 

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