藤井七冠が永瀬王座を三勝一敗で下し、前人未到の八冠を僅か二十歳二か月で達成した。八割を超す勝率からすれば当然のように見えて、実際にはいくつかの幸運があった。何局も藤井負けの局面を相手が間違えて勝つことができた。王座戦第三、四局も終盤一時永瀬が勝勢になったのだが、永瀬が取り返しのつかない一手を間違えて藤井が勝った。藤井は勝利の女神に愛されている。
永瀬は有利になりながら最終盤戦で唯一の正解を見付けることができず負けてしまうのだが、藤井に対し終盤まで五分で戦うことができる棋士は殆んどいないので、異能異才の棋士と高く評価したい。
将棋は公平公正なルールの下で戦われる頭脳競技であるが、現実の人間界は憎しみの連鎖で不公平で不公正な争いが絶えない。八冠達成の慶事に余計な一言かもしれないが、パレスチナに平穏をと願う。