脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

正常から認知症への移り変わり「スピードが遅すぎて怖いんです」

2008年06月06日 | 正常から認知症への移り変わり

脳の老化が加速されたとき、つまりボケ始めたら車の運転に関してはどんなことがおきるのか話してみましょう。
  「ちっとも顔を見せないんだから・・・」(人の見当識)4/29
  「♪今日もコロッケ、明日もコロッケ・・・」(料理)5/17
  「部屋で鶏でも飼わなくっちゃ」(食作法)5/22
に続く第4弾です。
今朝撮った我が家の日本アジサイたち
(花の直径は6~8センチ足らず)
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小ボケ(ほとんど男性)の付き添いの家族の方(ほとんどその妻)がよく言われることばです。
「お父さんの車に乗ってると、スピードが遅すぎて怖いんです」

他の車が50キロを超えたくらいのスピードで走っている道で、よく言えば悠然と、正確に表現すればまったく自分のことだけしか考えずに(これも正確に表現すれば、考えられずに)、30キロくらいのスピードでトロトロと運転する人がいます。もちろん以前は普通に運転ができていたのですよ。

もともと加齢とともに難しくなってくる注意集中・分配能力は、前頭葉の老化が加速されると、早い段階から影響を受けることになります。ちなみにそのために「かなひろいテスト」ができなくなるのです。

小ボケ状態になっても、運転はできるのです。それどころか中ボケの人が運転していることだってあります。
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農業を長くやってきた高齢者は、体に染み付いて体が覚えているような行動、鍬を振るう。畝を立てる。苗の植え付け。草取り。支柱の用意。収穫の手際etc
農作業そのものは上手にこなすことができます。

小ボケの主婦が、単調ではあっても家事をそれなりにこなすというのと同じです。
小ボケは家庭生活には支障を起こさないという所以です。

ついでにお話しすると、中ボケになると、その作業中に判断が必要な状態が起きたら、トラブルが起きてきます。
やたらと苗を植え替える。雑草と一緒に苗も抜いてしまう。食べごろのものを収穫できないetc

運転は、本来的には注意集中力も注意分配力も大きく要求される作業なのですが、いったん体が覚えてしまったら、実際には前頭葉を関与させずに体が覚えたレベルでの運転もできるのです。
ただし、本人は周りの状況に注意を分配させることができないので、その道路の車の流れに乗ることはとても難しくなります。自車にしか注意は向けられていませんし、手際は悪くモタモタしますから、その結果「スピードが遅すぎる」状態になるのです。

私の今までの経験では、北海道別海町の保健師さんから
「小ボケの人の運転はほんとに怖い。冬の雪道を100キロくらいで運転した人がいます!」と聞いたのが、「スピードを出しすぎて怖い」唯一のケースです。
この場合は、もちろん注意集中・分配力にも問題はおきているはずですが、それ以前の状況判断力に問題があると考えるべきでしょう。
アクセルを踏み込まないという抑制が効いていないことも考えられます。
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具体的な例を挙げておきます。 

①軽い接触事故が多くなる。
自宅の車庫入れの時にちょっとぶつける。
ことは誰にでもあることかもしれませんが、それを繰り返す。
塀や壁にちょっとぶつける。
ことは誰にでもあることかもしれませんが、ぶつかった後にバックせず、そのまま前進を続けるためにコツンと当たっただけの傷が線状になって痛手が大きくなる。
バックのときに、確認しないままにバックしてちょっとぶつけてしまうことを繰り返すこともあります。

②駐車場でのトラブル。
広い駐車場でなかなか自分の車が見つけられない。
ことは誰にでもあることかもしれませんが、一度その体験をしたら覚える工夫を普通はします。小ボケになると毎回困惑してしまうのです。
会社に出勤してまず1階に駐車し、その後ちょっと出かけて今度は2階に停めたような場合、退社時「車が無くなった」と大騒ぎ、時には警察にまで連絡したりします。

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③運転マナー。
フラッシャーが遅い。どころか出さないままに右左折をしたり車線変更をしたりします。
中央線寄りを走っているので右折の準備かと思っていると、まったく関係なかったり、逆に左折したりします。
半ドアに気づかずにそのまま走ることもあります。
駐車の時、幅寄せや縦列駐車が極端に下手になります。

④出会い頭の事故が多くなる。
四つ角でも、トロトロ出るので大事故にはなりません。
「確かにこちらを見てたのに出てきた!」と相手側が憤慨することもよくあります。

⑤道を間違える。
慣れた道を運転しているときに、どうしてこの道を選ぶのかわからないような行きかたをしたり、「アレッよくわからない」と呟きがもれたりします。
普通運転しているときは、現在の運転そのものにも注意を集中しますが、一方で、どこに何のためにどのようにして(道の選択)行くのかも同時進行的に考えています。そこがあいまいになるということです。
どこかに行くときや帰るときに、予想外の時間がかかってしまうことがよくおきるようになるのです。
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⑥事故を起こしたときの対応ができない。
万一、事故がおきたとき、特に人身事故の場合はその後の対応がとても大切になります。
怪我があるようならば、まず救急車。警察や保険屋さんや家などに連絡しなくてはいけません。
そのあたりが、まったくお手上げ状態になるのです。
いわば腰を抜かしたような状態とでもいえばいいのでしょうか。その場の状況に適切に対応する前頭葉がうまく機能していないのですから当然といえば当然ですが。

その行動を起こしているときに前頭葉はどのように関与しているのかを考えるようにしましょうね。
行動のパターンは前頭葉が働いた結果なのですから、以前と比べてどう変化したかも大切な指標です。