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三・目をつぶる思い

再び車を走らせ、私は自分で袋の先端を破り、そこから少しずつパンを出し、手が直接パンに触れないようにして食べようと思い、そのままにしていたが、玉山村のまっすぐな道を走行中に突然大幡は

「小用を足すから車を止めてくれ」と言う。

左端に車を寄せ、停車灯を点滅させ、降りて行って助手席のドアを開け、大幡を降ろして車の後ろに連れて行き、道路に背中を向けさせ、用を足すように話し、それから車の運転席へ戻った。

一瞬バックミラーを見ると、なんと!大幡はいつの間にか国道の方を向いて放尿しているではないか!道理で皆が私をも笑って通り過ぎていくはずだ。急いで車を降りて大幡へ駆け寄り、急に回れ右させた。

大幡は「あっ!」と言ったが、その時は何が「アッ!」なのか解らなかった。

用の足し終わった義兄を車の助手席に乗せ、車が速度を余り落とさずに通って行く中、私も運転席へ慎重に戻って又車を走らせたのである。

私は先ほどのアンパンを運転しながら食べようと左手に取ったところ、大幡は「危ないから俺が取ってやる」と言いながら包装の袋をはぎとり、右手にアンパンを持って私に差し出した。

私にとっては有りがた迷惑なのだが、大幡は私に対する親切心でそうするのである。私はそれを左手で受け取ったが大幡の持った箇所が濡れている。

さては先ほどの「あっ!」は手に小水をかけてしまった時の声だったのだ。すぐに言って貰えばハンカチやテイッシュを提供するものを!

これは私の油断だった。私がもっと気をつけるべきだった。そう思いながら、大幡から受け取った一部に小水の付いた濡れアンパンを「目をつぶる思い」で食したのである。それから紙パックの牛乳を大急ぎで飲み込んだ。

間もなく義兄の不機嫌な表情に気付いた,

『どうかしたの?』

「俺が飲もうとしていたもう一本の牛乳を何故飲んだ!」と言う。
おかしくなってくると、相手のことを思う心の余裕は全くなくなる特徴を持つのだ。

自分がモット飲みたいと言ってくれれば何本でも買って提供するものを・・・

『次で買うから待っててください』と言ってもまだプリプリ怒っている。
私はただ黙って耐えるしかなく次の自販機を探すしかない。
・・・あいつは運転手に続く。




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