翌朝、奥日光湯元は、盛大な降雪。
すでにある1mの積雪にまた新雪が加わっている。
ここはまだまだ完全に冬の中だな。
帰途のバスに乗ると、中禅寺湖畔で雪が雨に変わった。
バスは、雨の東武日光駅前に着いた。
これで春休み最後の温泉旅は終わりで、これ以上記す必要はないのだが、以下の2点を追加で記しておきたい。
1つは、今まで黙っていたが、実は往きの特急電車の中で、帽子(KANGOLのウールのハンチング)を忘れてしまった。
それに気づいたのは、東武日光で降りて、バス停に達した時。
バス停で寒風にさらされて帽子をかぶろうとしたら見当らない。
すぐに特急電車の座席に置き忘れたと判ったが、バスに乗る時刻が迫っているので、駅に戻って遺失物届けを出す暇がない。
しかたなしに諦め、宿に着いてから連絡を試みる。
宿の客室は自分のWiFiの圏外だったが、幸いロビーは無線LANが使える(最近そういう宿が増えた)。
そこにiPadminiをもっていき、東武鉄道のサイトにアクセスして、遺失物の問合せ先を確認。
そこに携帯で電話をかける。
ところが、電話は混んでいて全然繋がらない。
数度トライして、やっと繋がった。この機を逃せない。
特急の座席券をまだ持っていたので、乗った列車だけでなく、座席の特定もできた。
調べてもらった結果、確かに帽子が見つかり、特急の終着駅の鬼怒川温泉に保管してあるという。
次いで、鬼怒川温泉駅に電話して、帽子の受取の話になる。
帽子があるのは鬼怒川温泉、でも私は日光にいて、帰りもそのまま東京に戻る。
そこで、先方は私が東武日光駅に着く前に、そこに運んでくれるという。
丁寧に礼を述べて電話を切った。
翌日、東武日光駅で、無事に帽子を受けとった。
実は、ここ数年で帽子を紛失したのは2度目で、しかもいずれも栃木で、ともに戻ってきた。
私が栃木に行くときは、帽子はかぶらないほうがいいようだ。
そもそも脱いだ帽子というものは、存在感がなくなって、紛失しやすい。
何か対策が必要だ。
そしてもう1つ。
私は日光に行くたびに、二社一寺の”日光山内”手前の日光市街地を無性に歩きたくなる。
すでにあちこちの道に足跡を残している。
トリビアな名所旧跡を探すためではない。
住民のように街中を知り尽くしたいという気持ちが湧いてしまうからだ。
なぜなら、私にとって日光が、第二の故郷、勤務先兼住居になるはずだったから。
20年以上前の話だが、日光市内に短大を作る話にお誘いをいただき、
当時非常勤職しかなかった私にとって、念願かなう常勤職ということで喜んで参画した。
準備室が街中の借家に設けられ、担当者ではなかった私は、東京からそこに泊まって市内の候補地を見学した。
その頃は、自分がこの日光市内で生活することを思い描いていたのだが、
結局その話は立ち消えになり、今はその痕跡すらない。
私自身、名古屋に別の常勤先を得て赴任し、結局、日光との縁は結ばれなかった。
その未完の縁が心残りなのか、今でも日光を訪れると、自分は成行きによってはこうしていたかもしれないと、市内を歩きたくなってしまうのだ。
さて、湯元温泉に入る。
宿の浴室は石造りで、木造好みの私としてはちと残念だが、浴槽に満ちる湯が白濁して硫黄(正しくは硫化水素)臭をあげており、"this is 温泉!"という雰囲気は充分。
湯の色は季節によっても異なるらしく、今は緑白色。
さてまずは源泉の分析表を解読してみよう。
湯元の源泉は温泉街の北のはずれにあり、そこを歩きまわることもできる(熱傷に注意)。
この宿が引いている源泉の泉温は66℃。
pHは6.6と中性。
溶存物質の総計は1411g/kgと1000は越えているので、なんとか療養泉に合格。
ただし決して濃くはない。
陽イオンではナトリウム、カルシウムが多く、陰イオンでは硫酸が断トツ。ついで炭酸水素、塩素と続く。
以上より、泉質は、「含硫黄−カルシウム・ナトリウム・硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物泉」。
泉質適応症としては、ナトリウム・炭酸水素塩などが皮膚によく、硫黄・硫酸関係が、高血圧・動脈硬化に効果。
ただし高血圧・動脈硬化は熱い湯そのものが禁忌になっている。
ちなみに、基本的に源泉かけ流しで、湯温調整のために加水しているかもしれないが、塩素循環湯ではない。
さて、私による浴槽の湯口からのサンプル試験の結果は、
残留塩素0.0mg/L(当然)、pH7.5(源泉よりアルカリ化している)、Mアルカリ度は180mg/L。
湯が白濁するのは、源泉にアルカリ成分が加わるためだともいうので、その結果か。
そして電気伝導度は1384μS(39℃)と、期待した程の値でないのは、源泉自体が濃くないためである。
驚いたのは、酸化還元電位で、なんと−225mV。
今まで測った中の負の最高値(それまでの最高値は玉川温泉の水道水の−100mV)。
値が負に傾くほど還元水の度合いが高いという。
酸化還元電位の負への方向は、水・温泉における”新鮮さ”の指標なのだが、これほどの値だと逆に新鮮さ以外の何かが影響していると思いたくなる。
源泉かけ流しなので、上がり湯はしないで、しかも温泉につけたタオルで体を拭いて、温泉成分を肌に残しておく。
そしてそのまま寝たら、朝まで体が火照って、部屋の暖房は止めて寝ても暑くて掛け布団を足で剝いで寝たほど(それでも冷えなかった)。
といっても温泉を肌に付けたままだと体が硫黄臭いので、帰宅する朝湯の後はさすがに上り湯をして、温泉をきれに流した。