やはり今回の新型ウイルス騒動でも、流言(飛語)が発生している。
流言は、真実でない情報の感染拡大現象だ。
●まずは、チェーン・メールによる「このウイルスは26-27度の温度で殺される」というもの。
それで暖かいお茶を飲みましょう、とつながっている。
私の所にも来た。
内容的に実害はないものの(むしろ無防備にする)、27℃で死ぬなら、深部体温37℃の人体に入った途端死滅するわけだから、感染症は起こせない。
この流言、初歩的な論理破綻をきたしているのだから、受け取った人は広める前に吟味しよう。
仄聞したところ、このウイルスの死滅温度は50℃台だという。
なので咽喉についたウイルスを殺すつもりで飲むなら、”熱い”お茶やコーヒーでないと(それはそれで別のリスクが)。
流言の定型文法として、「”ある人”から聞いた話」ではじまるのが特徴。
この”ある人”は、流言の内容に応じて、権威のありそうな人(今回は、武漢の医者)だったり、関係が近い「知り合い」だったりする。
いずれも話の信憑性を高める布石だ。
幸い私は、この文法・布石に免疫がある(抗原に対する抗体ができている)。
1978年、日本中に「口裂け女」の流言が吹き荒れた時(発信源は岐阜県)、私もあちこちの人からこの流言を語られた。
目の前でこの流言を話す人は一様に「知り合いが口裂け女を見たんだって!」という。
ところが、この話をする誰一人として、「自分がこの目で見た!」という実際の目撃者は登場しなかった。
すなわち、その人の知り合いが直接見たのではなく、その人の知り合いもまた「知り合いが見た」という話を聞いて、それが連鎖したわけで(知り合いが幾重になっても、それは一重の”知り合い”で表現される)、いくら情報源をたどっても口裂け女の目撃者にたどりつけるものではない。
流言の文法とはこういうものかと理解し、以後、「聞いた話なんだけど」ではじまる又聞き情報(多くのチェーン・メール)は眉に唾をして聞くようになった。
●それから、またもや「トイレットペーパーがなくなる」という流言による買いだめパニック(非合理的群衆行動)が起きている(”パニック”は、最近では個人現象に使われているが(パニック障害)、本来はこのような意味)。
これは1973年のオイルショックの時に、大阪の主婦の間の流言から発生したことで有名。
この記憶がある人なら、同じ愚を繰り返えさないように。
といっても、マスクが不足している現在、買いだめされてトイレットペーパーもマスク同様に入手困難になっては困ると思うかもしれない(この不安がパニックの原因)。
安心あれ、マスクとは同じ現象にならない。
マスクはウイルス騒ぎが拡大する中で、誰も彼もが使い捨てマスクを付けだし、その結果、使用量が爆発的に増えてしまった(日本人全員が1日ごとにマスクを取り換えれば、毎日1億枚ずつ消費される)。
だから、実際に生産・流通が追いつかない。
ところが、トイレットペーパーは、呼吸器系(≠消化器系)疾患のウイルスが広がっても、使用量が爆発的に増えることはない(読者のみなさんの使用量増えてる?)。
すなわち、買いだめした人のストックが膨大になって置き場所に困るだけの話。
トイレットペーパーの供給量は実際には減らないのだから、一部の人が買いだめして一時的に店頭から姿を消しても、そもそもの使用量が増えないのだから、結果的に供給不足になることはない(上の不安は客観的根拠がない)。
1973年の時もそうだった。
だから、こっちの件にも私は免疫がある。
今回のウイルス騒動では、情報的な”免疫力”も上げた方がいいようだ。
ちなみに、上の2つとも、社会を混乱させるために、愉快犯が意図的にウソ情報を流したのなら、それは自然発生的な流言ではなく、悪質な”デマ”だ(かように学問的には、流言とデマは区別される)。
こういう悪意のあるデマに乗らないのも、情報リテラシーという免疫力が必要。
たとえば、過去の流言・パニック事例を知るだけでも、情報的な”抗体”が作られる。