「心の多重過程モデル」※を、人間の心の進化過程と重ね合わせると、
まずは、現行人類(サピエンス)が到達したシステム2を中心軸に、それより進化的に遡るシステム1(動物レベル)、システム0(生物レベル)と、たどることができる。
この視野は「進化心理学」に相当し、人間の心の起源を遡る視点だ。
※心の多重過程モデル:”心”を以下のサブシステムからなる高次システムとみなす私のモデル
システム0:覚醒・自律神経などのほとんど生理的な活動。生きている間は常時作動
システム1:条件づけなどによる直感(無自覚)的反応。覚醒時に優先的に作動
システム2:思考・表象による意識活動。システム1で対処できない場合に作動
システム3:非日常的な超意識・メタ認知・瞑想(マインドフルネス)。作動負荷が高い
システム4:超個的(トランスパーソナル)レベル・霊的体験。作動しない人が多い
実際、心理学の行動実験でマウスなど動物を使うように、動物と共通したメカニズムが存在している。
これは時間軸からみても、後退すなわち後ろ向きの心理学だ。
システム1・2だけを扱う現行の心理学は、生物学的基礎(システム0)に依存することもあって、この後ろ向き心理学がメイン。
それに対し、現在のサピエンスのシステム2から創発されるシステム3以降に眼を向けるのは、人間の心の可能性を追求する視点。すなわち前向きの心理学。
これにはヒューマニスティック(人間性)心理学、トランス・パーソナル心理学が該当するが、その実現者が少ないこともあって、すこぶるマイナー(特に後者は心理学界から無視されている)。
「心の多重過程モデル」はシステム0からシステム3以降までを視野に入れる拡大モデルなので、現行心理学と違うのは、「前向きの心理学」を含んでいること。
むしろその点にこそ、このモデルの意義がある。
しかも「後ろ向」きの視点をも含んでいる。
私自身、システム3以降に注目しているので、その立場からすると、現在盛んに出版されている心理学書は、システム1・2レベルの問題に終始していて、つまらない。
後ろ向きだから。
前向きになって心の構造を変えることが、システム1・2の問題解決につながるのだ。
構造を変えるといっても従来のシステムに手を加えるのではない。
新しい部分(過程)を加えるのだ。
そうすると、心の構造全体(バランス)が変化して、下位システムの役割が相対的に小さくなる。
たとえば、動物的欲求の位置が相対的に低下する(マズローの欲求階層説を思い出してほしい)。
さらに高次システムは低次システムをある程度制御できる(これがトップダウン経路、その逆のボトムアップ経路も存在する)。
その結果、人間は自然な形で、心を向上させることができる。
動物的欲求を禁欲的に抑圧するような不自然な方法は、必ず歪みが生じる。
心の一切を否定しない。
心(マインド)のすべてを認めて、フルに発動させること。それが真の”マインドフルネス”。
ただしシステム3以降もきちんと作動させること。