FXと暗号資産(Crypto)とゴールド(金)についての随想です。コメント欄は承認制になっています。
やまはFX・Crypto



最近時々書いている貨幣乗数についてちょっと補足である。
 
貨幣乗数というのは、マネタリーベースが何倍のマネーサプライになって市中に流れているかの指数である。つまり、中央銀行は、紙幣発行によって流動性を供給するが(マネタリーベース・流通紙幣と中央銀行の預け預金)、それが銀行預金になって貸し出されたりして、実際の数倍の量になり(いわゆる「信用創造」)、マネーサプライ(市中にある現金・預金等)として存在するのがふつうの形である。だから、貨幣乗数は、別名、信用乗数とも言い、金融が健康であるかどうかを判別することができる。
 
ところが、現在は、米国では、昨年の金融危機時に、FRBの無制限の流動性供給で、マネタリーベースが通常の2倍程度に増やされたが、その後も、それが減らされることなく、むしろここ一ヶ月ほどはさらに増加しているのが実情だ。(下のチャート)




ここで、景気が回復すれば、それが預金となって貸し出しされて、全体としての現金量は増えて、貨幣乗数も回復していくはずだが、現実には、マネーサプライはほとんど増えていない。それが貨幣乗数の減少となって示されている。



つまり、景気を刺激しようとして、いくら紙幣を印刷(実際はコンピュータ上で発行)しても、株価や商品市場に流れ込むばかりで、実体経済の回復にはつながっていないことが、このふたつのチャートからは如実に読み取れるのだ。このままでは、どんどんとプリンティングマネーが進み、ついには金利を引き上げないと国債が売れなくなる事態が来ることが予想されるというのがLEAP/E2020などの言うところであるが、あとは時間との勝負だろう。流動性の過剰投入でバーナンキの思うような実体経済の回復まで持って行けるのかどうか。このチャートを見る限り、かなり悲観的にならざるを得ないと思う。ヘリコプターベンのあだ名のごとく、猛烈な勢いでお金をばらまいているが、それが育っていないで、投機マネーとして、米国金融機関のトレード収入となり、史上最高のボーナスとか言われているのは皮肉である。というか、それを可能にしているのが、FRBのシステムなのである。

昼休みに今週の『東洋経済』誌を読んでいたら、著名な経済評論家・大学教授のN氏が「金融危機は克服されつつある」として「アメリカの大手金融機関は今年になってから増益を記録しつつある。ゴールドマンサックスの・・・最終利益は・・過去最高になっており・・こうした状況を見て痛感されるのは先端的な金融技術の威力である。」と書いているが、どう考えてもおかしいだろう。現在GS等は、政府公認で、本当の損失を計上していないことはこの分野に関わる人には常識であり、また、上のマネタリーベースの状況等をN氏がご存じでないはずがない。知っていてこのように書いているのは、米国に遠慮するなんらかの事情があるからとしか思えないのである。私に誤解があるかもしれないが、諸氏のご教示を御願いしたいところである。



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