Wilhelm-Wilhelm Mk2

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「不思議な少年」(岩波文庫)

2006-05-06 | Weblog
 トムソーヤを書いたマーク・トウェインの最後の作品。古本屋でこの本を見つけた時、モーニングに連載されている同名の漫画を思い出したが、間違いなくこれを元に描いていると思われる。
 舞台はまだ魔女狩りが横行していた頃のオーストリア。主人公の少年達の前に「サタン」と名乗る不思議な美少年が現れる。彼は自分を魔王サタンを叔父にもつ同じ名字の「天使」だといい、少年たちに数々の奇跡を見せる。同時にこの奇跡によって村人の生活や人生を変化させ、それによって態度を変える人々を少年達に見せつける。そして天使という超越した立場から淡々と「人間の本質」を話して聴かせる。時には時空までを超えて、いかに人間の歴史が戦争と不当な搾取で築かれたかをも少年達に説明する。「それなのに人間は「良心」を持っているという、一体どこにそんなものがあるのだ?」その語り口があまりにも超然としているので、作者自身が「サタン」ではないかと思われるほどだ。そして最後にサタンは、この世の全てを、「夢」=「虚構」であると言い切り、神の存在も何もかも(自分を含めて)が人間の想像の産物だといい消え去って行く。
 トムソーヤなどで一世を風味した作者だが、晩年は借金を背負ったりと苦労が耐えなかった事がこのようなペシミズムに溢れる作品を書かせたと言われている。キリスト教大国のアメリカでこのような作品が出版(作者の死後だが)できたのが不思議なくらい、キリスト教文化に対する嫌みと非難が書き綴られている(特に魔女狩りについて)。さすがはストーリーテラーのトウェインというべきか、ストーリーの展開が素晴らしく、きちんと表面上の物語としてもクライマックスを用意してくれている。私としては非常に共感した。こんなペシミズムの本に共感してどうかとも思うが、日頃何となく考えていることを見事に文字にしてくれている。久々にはまった本。この本に対するアメリカでの評判を調べてみたい。

 作品中のサタンの発言の一部。
「獣みたいだなんて、とんでもない言葉のはきちがいだな。獣のほうが侮辱だと怒るよ。あんなことは、獣はしやしない。」
「人間は嘘ばかりついて、ありもしない道徳をふりかざしたがる。そして、実際は本当に道徳をわきまえていない。」
「人間は良心を善悪を区別する働きだというけど、十中の九までは悪のほうを選んでるだけじゃないか。」
「人間は羊と同じなんだ。いつも少数者に支配される。多数に支配されることなんて、まずない。感情も信念も抑えて、とにかくいちばん声の大きな一握りの人間についていく。」
「君主制も、貴族政治も、宗教も、みんな君たち人間のもつ大きな性格上の欠陥、つまり、みんながその隣人を信頼せず、安全のためか、気休めのためか、それは知らんが、とにかく他人によく思われたいという欲望、それだけを根拠に成り立っているのだよ。」
「正気の人間に幸福なんてありえないよ、当世人生は現実なんだから。狂人だけが幸福になれる。」(幸福になると予言しておいた神父を狂人にしたことから。)
「あの世なんて存在しないよ。」(別れを告げるサタンに際し、主人公があの世で会えるか?という質問に対して。)

1 コメント

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あのね (ヤルちゃん)
2006-05-09 11:57:33
始めましてっ(^^)

色んなトコ見てたら飛んできました。

私もblog作ってみたので、よければ見てもらいたいなぁ~(結構H系?)

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