![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/52/c22ce107ba08e639555ac7c2f0874413.jpg)
昼間に学校でバックハウスのカーネギーリサイタル(1954)をずっと聴いていたが、やはりバックハウスは最高だ。これは何度も書くが、本当に音色の移り変わりが絶妙で、まるで人間国宝の伝統職人の手技を見ているようだ。テンポはかなり目まぐるしく変わるものの、それを意識させないほど滑らかで自然で、曲が心底から体に染み付いているという感じだ。世間的にはバックハウスは無骨で即物的な奏者のように紹介されがちだが、私は古き良き時代のロマン主義(舞台演奏家としても)をしっかりと引き継いでいるピアニストだと思っている。絶妙なルバートに加えて、和音をさらりと分散に変えてみたりと名人芸の粋さがあちこちに感じられる。テンペストではあれだけ熱く奏したのに、25番では何とも可愛らしくまとめ、最後の32番では果てしない深淵さ演出する。信じられん。バックハウスも信じられんが、これだけの曲を次々に書いたベートーヴェンも信じられん。そう、演奏を聴いてその奏者にだけでなく、作曲者についてもここまで感動させてくれるのはバックハウスだけだなあ。そしてアンコールがまた粋な選択だ。ここでベートーヴェンの時とは全く違う音、表現するのが難しいがロマン派のショーピース用の音にがらっと変わるのがまた驚きだ。シューベルトの即興曲(絶品。これは後にバックハウスの最後の演奏の曲となる。)、シューマンの愛らしい幻想小曲「何故に」、リスト編曲のシューベルトのウィーンの夜会(なんという粋さ!)、そして最後はブラームスの間奏曲で決めてくる。うーんたまりません。こんな演奏会を生で体験出来た当時の人々は幸せでした。