無意識日記
宇多田光 word:i_
 



『Find Love』の歌詞が2004年の『The Workout』や2009年の『Dirty Desire』を意識しているのではないかなという話で気になるのが、

『Slow down, you won't get there by hurrying』

の一節だ。対訳はこう。

『焦らないで、急いでも
 辿り着ける場所じゃない』

この『焦らないで』にあたる『Slow down』、『The Workout』にも『Dirty Desire』にも出てこない熟語だが、ただ、『The Workout』で"down"の一語は大量に出てくるのだ。

『get down』
『push it down』
『pull it down』
『keep it down』
『pull me down』
『Up and down』
『down my spine』

これらがリフレインの度に連呼される。いやはや、downばかりである。

ただ、これらの『down』はどれもイケイケ押せ押せのテンションで使われるものばかりだ。日本語で言えば「下す(くだす)」にあたるような。「鉄槌を下す/hammer it down」みたいな。打ち下ろすとか、そういう上から目線のdownばかりなのよね。

『Find Love』の『Slow down』のdownはそれらとは対極にある、勢いを落とす、スピードを下げるという意味のdownである。もしヒカルが『The workout』との対比を念頭に置いていたのなら、これほど鮮やかなものもないだろう。同じ単語を使って対極を描いたのだから。


『Find Love』の中の歌詞としてもここの展開は興味深い。何故ならそこまでの歌詞の中に

『Not gonna park my desire』
『欲求を駐車するつもりはない』

の一節があるからだ。ここでなんでわざわざ『park/駐車』という単語を使ったのか。それは、その後にこの『Slow down』があるからだろう。"slow down"をグーグル先生に訳して貰うとまず「徐行する」というのが出てくる。スピードを落とすことなのだ。その前フリとして、ブレーキをかける意味で『駐車/park』という単語を使ったと。既述のように元歌詞の違和感を残した対訳にしたのはこういった意図があった為と思われる。つまり、

『駐車するつもりはない』

に対比する格好で同じ楽曲の中で

「スピードを落とそうか」

と歌っているのである。御存知のように、楽曲のサウンド面でみてもこの『Slow down』のあたりから曲のテンポがレイドバックする。LSAS2022の映像で観ればドラマーの人の演奏の雰囲気がガラリと変わるのがわかるはずだ。余談だけどここの片手ストロークでのシンバルワークのスピードと正確さは凄いよねぇ。

なので、またまたここでもいつものように、ひとつの歌詞に複数の意味が込められていることになる。

・「駐車するつもりはない」という、歌の主人公をいさめる一言
・バックの演奏もスピードを落とすよ宣言
・若い頃は急いてたかもなぁ、という38歳の感慨

これらの3つの意味を託されてヒカルが『Slow down』を歌ってると思いつつこの淑やかなパートを聴いてみるのも、なかなかよろしいのではないでしょうか。

コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
Unknown (Unknown)
2022-06-23 14:12:13
宇多田ヒカルは藤三郎に姿かたちがよく似てるね! 
 
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