無意識日記
宇多田光 word:i_
 



いかんいかん、思わずきりやんに「Casshernの脚本は妥協の産物じゃなかったの?あれのクォリティーが高いと本気で思ってる?」とツイートしてしまいそうになった。あたしゃ映画はまず映像だと思ってるので脚本が酷くても笑って済ませるので同作品は高く評価してます念の為。

ま、そんな楽しくならなさそうな話は脇に置いておいて。今夜の話は「受け手の集中力について」。


年末が近付き今年を総括する時期になってきた。こと深夜アニメに関していえば「進撃の巨人」が今年最大の話題作だった事に異論を挟む人は少ないだろう。同作品の春夏2クール放送が終わり、どうも秋アニメは二期モノを除き話題性に乏しいが、なんのなんの、質は確実に向上している。とても見切れてないけれど、この業界はまだまだ発展成長中である。嗚呼羨ましい。

そんな秋アニメの中でツートップに挙げたいのが「キルラキル」と「のんのんびより」だ。この2作品は、しかし、視聴者に要求するものが全く対極にある。

「キルラキル」は画面が情報の洪水である。デシ秒単位で次々と小ネタを挟んでくる密度の濃さは、先日の第1~6話一挙放送終盤のコメントを「まだたった6話…見るの疲れた…これ2クール一挙放送やったら死ぬわ」で埋め尽くす程のものだ。確かに内容は抜群に面白いが、兎に角観てて疲れる。

一方「のんのんびより」は、タイトル通りの作品だ。美しい田舎の風景を描く背景美術、のどかなバックグラウンドミュージック、何も起こらない脚本、のんびりした空気。日々の生活に疲れた人が30分間何も考えずにぼーっとテレビをつけておくには最適な作品である。正直、面白いかと言われれば評価が難しいが、癒やされる事間違いなしである。


あなたは、どちらの作風が好みだろうか。受け手としての負荷に耐えてでも、超密度の意義在る内容を得たいのか、兎に角何も要求されない心の安寧を得たいのか。どちらが優れているという事はないだろう。それこそ、キルラキルな気分の日もあればのんのんびよりしたい日もある。人間、多面性が大切である。

さて、ヒカルの曲で、「聴き手に負荷がかかるが、それに見合うだけの感動を与えてくれる曲」は何かあるだろうか。すぐに思い付いたのは「Passion~after the battle~」である。6分34秒というヒカルの楽曲の中でも屈指の長編曲、という時点で聴き手に負荷がかかっているが、特に後半のインストパートの緻密な構築美を味わうには、ヘッドフォンをしてじっくりと耳を傾ける必要があるだろう。

同じ理由で、「桜流し」もまた、聴き手が集中力を注げば注ぐほど感動が増大する楽曲である。何度も聴き込んでこの楽曲の構成を把握した瞬間の感動は筆舌に尽くし難い。いや素晴らしい。


翻って、何も考えずに接する事が出来る、聴き手に全く負荷を与えない楽曲は何かあるか。これはもう答が決まっている。ぶっちぎりで「ぼくはくま」だ。この歌を聴く時、口遊む時、あなたは何か小難しいことを考えるか? 少なくとも私は何も考えていない。ただただ、気が付いたら鼻歌を歌っている。まさにそれだけの曲である。これだけシリアスに、極上の技術で歌い込む本格派の歌手のレパートリーにこんな"ふざけた"楽曲が存在するとは、いやはや、これまた素晴らしい。本人に至っては当時この曲を"最高傑作かもしれない"と言っていた程だ。いやはや、くまくま。


という訳で、恐らく、Pop Musician 宇多田ヒカルとしては、出来るだけ聴き手の負荷は減らす方向性で行きたいんだと思う。Passionや桜流しのような、聴き手に集中を強いるような曲はまだまだ本丸ではないのだ。1日活動して疲れて帰ってきた時に何気なく鳴らして癒やされるような楽曲。次の新曲はそっちの方向性でもいいな。まぁ私は、どちらのスタイルが来ても大歓迎ですがね。…いつになるやら。(笑)

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指が追いつかなくなってきたのでガラリと話題を変えて。

昨年のオフ会だったか、「好きなアルバムは」と訊かれてSCv2と答えた覚えがある。disc2は勿論、disc1も含めた正直な感想だったが、このアルバムを聴くと、馴染み深い楽曲たちでも本当に色々な見方が出来るものだなと感心させられる。

ぼくはくまは、オリジナルではその後に虹色バスだったからスムーズだったがThis Is Loveが来るとその落差には吃驚させられるとか、Be My Last から誰願叶の流れは、今聴くと、前者が切実な個々人の感情を唄い、後者が大局的な運命観を歌っていて、本来ならリリース順が逆になるのが自然なんじゃないの、それならここでやっとその"自然な"曲順に落ち着いたのかもね、とかそこからのBWPbAMの"エンディング感"の半端でなさ、ただボートラ的に最後に収録しただけの筈なのにEVA破からの先入観と相俟って見事な構成に結果的になってるな、とか種々の感想が込み上げてくる。ただ時系列を遡る曲順にしただけでここまで風景が変わるのか、と。

それなら、と考える。Disc2も含めて逆時系列順にしたらもっとその風景が際立つのじゃないだろうか。つまり、先にDisc2の曲を、そこの曲順も逆にして聴いてみるのだ。即ち、キャンクリ~愛のアンセム~グッハピ~SMLNAD~嵐の女神~Prisoner Of Love~Stay Gold~という曲順である。

いきなりピアノバラードから、というのも、キャンクリの朗らかなメロディーラインだと気にならない。寧ろ華やいだ幕開けの印象すら受ける。そこから愛のアンセム~グッハピの流れのよさは聴いてみれば一聴瞭然だろう。そこにShow Me Loveが畳み掛けてくる。その後に聴く嵐の女神はまさに台風一過という趣だ。こうして聴くと嵐の女神のエンディング感も素晴らしいが、その安寧をPrisoner Of Loveが切り裂く緊張感も素晴らしい。SCv2d2~HEART STATION~ULTRA BLUEという3部作をBWPbAMが締めくくるという構成。Disc1だけだと「2枚のアルバムからの抜粋」となってやや物足りなさが残るが、こうやって3部作で聴けばあの死ぬほどヒット曲満載のSCv1のボリュームを大きく上回る満腹感をこの作品は与えてくれる。個々の聴き方に大きく依存するものの、宇多田ヒカルの最高傑作は今のところやはりこれだろうなぁ、と私自身は納得せざるを得ない。

そして、この次が桜流しという事実が、このアーティストのとんでもなさを象徴しているんですけどねぇ。いやはや、どこまで行くんだろうかな。

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