トシの読書日記

読書備忘録

完結した自己と世界との一致

2014-07-04 16:00:30 | は行の作家
星野智幸「俺 俺」読了



ブックオフで何か面白い本はないかと眺めていたら、本書が目に止まりました。奥付を見ると、この作家は三島由紀夫賞、野間文芸新人賞、大江健三郎賞(本作品)と、かなりの実力者ではないかと思い、買って読んでみました。



が、それほどでもなかったですね。テーマはなかなかいいと思いました。「私が私であるとはどういうことか」という哲学的問いをこの作家流に小説にしたと、そういうことだと思うんです。ストーリーもプロットもなかなかよくできていて面白いです。が、いかんせん文章がちょっと稚拙なんですね。やはり、文章のうまくない作家はちょっと自分としてはどうかという思いが、どうしてもあります。



ちょっとしたいたずら心でオレオレ詐欺のようなことをしてしまった「俺」は、いつの間にか別の「俺」になっていて、そのうち「俺」が何人も出てきて、さらに「俺」がどんどん増殖していって、しまいには自分の上司、母親、姉の夫、父親までもが「俺」化してしまうという、なんとも奇想天外な話であります。目のつけどころはなかなかいいと思いましたね。




「俺」と「俺」だからこそお互いに完璧に理解しあえる、それがかけがえのない瞬間だと主人公の「俺」は言うんですが、やはりそれは仮想の世界でしかあり得ないんですね。やはり、きびしい現実の世界を見すえて生きていかねばと思うのであります。

















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