トシの読書日記

読書備忘録

諫早の干潟に想う

2013-07-18 15:04:16 | な行の作家
野呂邦暢「白桃――野呂邦暢短編選」豊田健次選 読了


以前、岡崎武志のブログで紹介されていた野呂邦暢の随筆集を読み、その文章の華麗さ、情景描写の巧みさに、うっとりと読ませてもらった覚えがあるんですが、短編集が出ていたとはつゆ知らず、早速買って読んだ次第です。


全部で七編の短編が収められているんですが、どれもこれもやっぱりいいですねぇ。この作家の文章の巧みさは、文体は全く違うんですが、堀江敏幸に通じるものがあります。センテンスを短く切った、骨のある文体とでもいえばいいんでしょうか、読んでいて心地良いリズムがあります。また、作中の主人公の心情を夕暮れとか朝の風景に比喩させて表現するところなど、本当にうまい。


「鳥たちの河口」という作品の中で、こんな描写があります。

〈太陽はいつのまにか西に移動していた。風によって雲のさけ目がひろがると日光の束も太くなった。男は息をのんだ。夕日が今、黄金色の列柱となって葦原に立ちならび、壮大な宮殿がそびえたようであった。日に照らされた枯葦はまぶしい黄と白に映えた。葦の茎は一本ずつ鮮明な影をおび、よくみがいた櫛の歯の鋭い輪郭を作った。〉

この美しい光景が目に浮かぶようです。


久しぶりに純文学の美しい小説を堪能しました。今、満ち足りた気持ちでいっぱいです。

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