野呂邦暢「諫早菖蒲日記」読了
本書は平成22年に梓書院より刊行されたものです。
幕末の諫早藩の砲術指南役、藤原作平太。その家族は妻(名前失念)、娘、志津、下男、吉、下女、とら で構成されています。
佐賀藩から碌を減らされ、内情の苦しい台所を切り回す母を見つめる志津の眼差しがいいですね。そして会社でいうと中間管理職の役どころのような父親の苦しい立場を子供なりに理解する志津。作平太は長年の砲術の試し打ちで、耳を悪くしていて、要人と会って話をするときは、必ず志津を通訳代わりに連れて行くため、志津は自ずと藩の内情に詳しくなるわけです。
この小説がいいのは、作平太の娘、志津の視点で描かれていることで、これが自分の苦手な歴史小説の重苦しさを和らげてくれています。こんな歴史小説は野呂邦暢でないと書けないですね。面白かった。
そしてこれが先日読んだ「花火」へとつながっていくわけです。諫早菖蒲日記の15才の志津は、「花火」では15才の娘、むめを連れています。読書が後先になってしまいましたが、この、志津からむめへと流れる時間を考えると、なんともいえない気持ちになります。
野呂邦暢、やっぱりいいですね。堪能しました。
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