トシの読書日記

読書備忘録

疾走する妄想

2009-09-11 15:07:27 | た行の作家
田中慎弥「切れた鎖」読了



しかしこれもすごい小説でした。なんでも三島由紀夫賞と川端康成文学賞を史上初で同時受賞というふれこみに興味を持って読んでみたのですが…

なんの予備知識もなく読み始めたんですが、いやもうすごいですね。笙野頼子もかくやと思わせるような破天荒な内容で、びっくりしました。



「不意の償い」「蛹」と表題作の「切れた鎖」の三編から成る短篇集なんですが、最初の「不意の償い」で度肝を抜かれました。幼馴染の男女が彼の部屋で初めて結ばれたとき、すぐ近くのスーパーで火災があり、そこで働くそれぞれの両親四人が焼死するという、なんとも凄まじいストーリーです。

そしてその事が男のトラウマとなり、結婚してからもずっとそれが頭から離れず、そして妄想が妄想を呼び…という話です。



2作目の「蛹」。これは主人公がカブト虫なんですが、虫とか動物を擬人化した話は、はっきり言って好きではなくて、いやぁまいったなと思いながら読み始めたんですが、これがどうして、すごい話で一気に読まされてしまいました。しかし、この短篇を読んだ驚きをうまく言葉にできません(笑)


そして表題作の「切れた鎖」。これが一番現実に近いというか、まともでした(笑)

これは、梅代という、昭和の初めにコンクリート事業で財を成した桜井一族に嫁いだ女の、母から自分、そして娘、さらに孫へと続く系譜を縦糸に、そしてその家のすぐ裏手にある在日朝鮮人が活動する協会(統一原理?)との確執を横糸にして描いた一族の物語で、読了後、なんともやるせない思いをしました。



田中慎弥という作家、初めて読んだんですが、なんとも不思議な、また侮れない作家です。

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