トシの読書日記

読書備忘録

なんのとりえもない犬

2020-06-20 15:10:35 | や行の作家


吉田知子「そら―吉田知子選集Ⅲ」


がん治療で入院するということで、本を5~6冊持って行ったんですが、抗がん剤と放射線治療の副作用で読書どころではない状態が続き、少し苦しみました。ただ、入院直後と退院間際は、それほど体調も悪くもなく、そんな中で2冊ほど読んだので、レビューします。


本書は2014年に景文館書店より発刊されたものです。吉田知子選集全3巻のうちの「Ⅲ」です。「Ⅰ」の「脳天壊了(のうてんふぁいら)」、これにもすごい作品が目白押しなんですが、こっちの「そら」もすごい。もちろんどちらも再読です。そういえば、入院する前に「Ⅰ」も読了してたんですが、レビューを書くのを忘れてました。なので、それも合わせて書いてしまいましょう。

「Ⅰ」の「お供え」。もう何度読んだかわからないくらいなんですが、やっぱり名作ですねぇ。今まで自分が読んだすべての短編の中で、間違いなくベスト5に入ります。ほかにもいろいろあるんですが、すみません、ちょっと面倒になりました。


そして「Ⅲ」の「そら」。この作品集も名作ぞろいです。出色はやはり「ユエビ川」です。これも何度読んでもぞくりとします。一昼夜荒野を走り続けたトラックから放り投げるように荷物と共に降ろされた男、「A」が少し歩いた先にある建物に入っていく。何人かの男たちが寝泊まりしているようなのだが、そこがホテルなのか、なにかの施設なのか、明らかにされないまま物語は不穏な空気と共に進んでいきます。最後、「A」と男たちは殺し合い、「A」は生き残るのだが、迎えに来たと思い込んでいた飛行機から機銃掃射を浴び、あっけなく死んでしまうという、「え!?」という話なんですが、これが吉田知子の世界なんですね。誰にも真似できません。


自分はあと何年生きられるかわからないんですが、今は新しい小説に取り組むより、過去に読んだ自分の中の名作をもう一度味わい直すということをやっていこうかなと思っております。


前のブログではっきり書いてなかったんですが、お店は癌治療に専念するため、今月いっぱいで閉めることにしました。今、自分は店に出ていないんですが、まかせられる優秀な子がいるので、彼女にまかせているところです。こんな形で店を閉めるのは痛恨の極みではありますが、癌の治療ということであれば致し方ないです。


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