トシの読書日記

読書備忘録

雨の匂いのする男

2008-01-21 14:54:11 | さ行の作家
桜庭一樹「私の男」読了

こんなにぞくぞくしながら小説を読んだのは久しぶりのことです。
また、読み終わったあとこんなにすぐ読み返したくなったのもしばらくなかった。

それくらい面白い小説でした。面白いというか、すごいというか、ヤバい感じ?

2008年から1993年に物語は遡る形で進行する。ここがまず面白い。

養女、花と養父、淳悟の濃くてそしてある意味醜いつながりが延々と続く。

登場人物の心理を描くのに説明的すぎるきらいがあったり、会話の部分も稚拙なところがあったり、直木賞選考委員の北方謙三氏の言うように物語の整合性に問題があったりと、いろいろまずいところはあります。けれどもしかし、それを補って余りある迫力!読む者をぐいぐい引き込むのではなく、逆にこっちにどーんとぶつかってくる感じ。読了後、しばし茫然としました。
そしてはっと我に返ってまたすぐさま逆から読み返しました。物語がどんどん過去へ戻っていくので、今度は時代の流れに沿って読んでみようと思ったのでした。
逆から読んでみて普通に読んだのとはまた違う感じ方もできて、よりいっそう深く読むことができました。そしてラスト、第1章のクライマックスへとつながるのです。

おりしも、読んでいる最中に直木賞の発表があり、同作品が第138回直木賞受賞の報を聞き、さもありなんと納得した次第。

まだ今年にはいったばかりだというのに、すごい小説に当たりっぱなしです。
「私の男」は、今年のベスト3に間違いなく入ると思います(多分)。

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