この夏の家族旅行・大阪での日程は、宿題対策で美術館博物館めぐりをしたり、
そこで、長居公園の大阪自然史博物館で、学校の宿題の課題だった「ダーウィン展」を見学した後に、晩御飯は「私の好み」に合わせてちょっと立ち寄り。地下鉄御堂筋線を動物園前駅で降り、ミナミ屈指の繁華街、新世界へとやってきた。ベイエリアにあるおしゃれなUSJオフィシャルホテルへ入る前に、子供たちにコテコテ浪花ワールドにも、浸っていってもらおうか。
駅を出てJRのガードをくぐったところ、アーケードの商店街が新世界方面への入口である。その名も「ジャンジャン横丁」に入ったとたん、フライを揚げる香ばしい香りが漂ってくる。沿道はお好み焼きや串カツ、立ち飲み屋などが軒を連ね、開きっぱなしの扉の中は、まだ日が高いのに親父さんたちが、ジョッキ片手にご機嫌の様子である。息子が店頭のどて煮の鍋を、珍しそうに眺めてデジカメで記念撮影。今商店街には将棋会館や弓道場もあり、浪花の下町情緒があふれる一角、といった感じだ。
香ばしい香りのもとは、大阪B級名物の串カツの店で、通りの中ほどにある「八重勝」と「だるま」の店頭では、行列が折り返すほど賑わっている。ともに串カツの評判店で、八重勝にはかつて寄った事がありひかれるが、カウンターのみの店なので大荷物の家族連れ旅行者は、地元の常連客の迷惑になりそうで気がひける。
とりあえず通りの外れにある、これまた大阪B級名物のミックスジューススタンドで、子供たちののどを潤していこう。コップ売りで、それぞれバナナジュースとミルクセーキをミキサーから注いでもらい、地元のおばちゃんらに混じって店頭でグイッと一気飲み。ほかにパインや冷コーラもあり、ミルクセーキを味見すると激甘。子供たちに110円を渡して自分で払いに行かせると、「はいおおきに」とおばちゃんがにこやかに応えてくれた。二人とも生で聞く大阪弁に、ちょっとびっくりした様子である。
大阪B級名物・ミックスジュースのスタンド。ミキサーで売っているのが妙にうまそう
通天閣をバックにお約束の記念撮影をして、通りを歩いてみると、派手な店の多くが串カツ屋なのに気付く。「朝日」「横綱」「えびす」と並ぶ店は収容人数が多く、座敷や掘りごたつ席もあるらしい。ジャンジャン横丁の人気店2軒が、カウンターのみで店頭も内装も質素なたたずまいだったのとは対照的だが、これなら旅行途中の家族連れでも気軽に利用できそうだ。
通天閣に登り、展望台にいた商売繁盛の神様・ビリケンさんに、足の裏を掻いて執筆依頼が増えることを祈願して、子供たちは大阪限定キューピーやらを友達の土産に買ったら、ちょうど夕食にいい時間となってきた。ベイエリアのホテルでディナーバイキングという選択肢もあったが、ここはお父さんの権限発動。大阪らしい街で大阪名物を食べていこう、ということで、通天閣の真向かいにある串カツの店『壱番』へと、一同向かうことになった。
木造の一杯飲み屋風の店頭では、ハイアースのホーロー看板がお出迎え。店内にもボンカレーや学生服の看板があしらわれ、通された掘りごたつ式の座敷にも、昔の映画やキリンビールのポスターが。昭和レトロの飲み屋をイメージしたインテリアが、何とも落ち着ける。
店頭では水原ひろしがお出迎え。なぜかケロリンの桶も飾られている
こちらもお腹が空いているので、卓につくとさっそく、ズラリと貼られた串カツの短冊を目で追いながら、おのおの狙いを定めている。食べ盛りで肉目当ての息子は、豚バラに手羽先、ミンチ串あたりに、腹が減ったのか餅なんてのに注目している。肉より魚好きの娘はまずはエビを発見、あとイカやタコ、さらに大好きな卵もあったのでひと安心の様子だ。
まずは盛り合わせ10本と、子供らふたりのリクエストを好きなように追加。自分は「どて煮」とポテトサラダも頼んで、まずはビールで一杯モードである。飲み物が揃ったところで、大阪旅行の初日はお疲れ様、で乾杯。
そうそう、串カツが出される前に、子供たちに重要な話をしておかなければ。「今から話す注意点は、大阪のあらゆる決まり事の中で、もっとも遵守しなければいけない『鉄の掟』なので、心して聞くように」と、わざと大げさに前置きをした後、壁に掲げられた「ソース二度漬けお断り」の但し書きを指差して説明。前置きが効き過ぎたのか、二人とも神妙な面持ちで聞き入っているのが何だかおかしい。
串カツが大阪名物として人気があるのは、卓上の缶に入ったソースに自分で串を浸して食べるという、アトラクション性も見逃せない。このソース、客ごとに用意されるのではなく、卓にずっと据え置かれていて、客が入れ替わってもそのまま使い続けられる。そして営業が終わったら濾した後、翌日以降もさらに使われるのだ。俗に言う「ソース二度漬けお断り」は、そのように使われるソースに一度口にした部分を浸すのは、衛生上よろしくないのが理由なのである。
同じソースをいろいろな客が使い、しかも何日も使い続けると聞いて、やや前に騒動となった大阪の某老舗料亭の件を思い出す人もいるかも知れない(失礼)。とはいえ、前述の「掟」を遵守すれば何ら問題はなく、使い残しが出ないから無駄もない。加えて様々な串揚げが日々浸され続けられることで、ソース自体の味が良くなるとも。値段も安いB級名物ながら、合理的かつ実質本意な、大阪の食文化の特徴が色濃い料理といえるだろう。
しっかり浸さないと、2度目はない?深めに漬けて、串をクルリと回すのがコツ
中でも自分の好みはやはり、定番の牛串。薄切りの牛肉に衣をつけてカラッと揚げてあり、薄い分肉のいい味と香りがする。最定番メニューなのに1本80円と、全品書きの中でほぼ最安値なのは、マックでいえばスタンダードなハンバーガーのような位置づけなのか。
1回戦が終了したので、追加はこの牛串をさらに5本まとめてと、鶏モモ、豚バラ、あとバランスをとるために野菜も多めに… と、そうだ、野菜といえばあれを頼むのを忘れてた。
お姉さんにひと声かけて持ってきてもらったのは、山盛りの生キャベツである。二度漬け禁止ソースと並ぶ、串カツのデフォルトアイテムで、なんと無料でおかわりし放題がどの店でも当たり前。脂っこい串カツと一緒に食べると胃もたれを防ぐ役割があり、タダなのに気分爽やかになれるとは、マックでいえばスマイルのようなものか(ちょっと違う?)。
キャベツのおかげで、牛串とレンコン串がてんこもりのトレイが運ばれてきても、まだまだ戦意は衰えない。子供たちはたこ焼き串やシュウマイ、チョリソーソーセージなど、変化球の串にも挑んでいる。自分は牛串を中心に、ピリ辛のししとうやホッコリ甘いニンニク揚げと、徐々に野菜にシフト。酒の追加もビールではなく、ヘルシーにホッピーにしてみよう。最近再流行の兆しを見せており、自分もこれが初体験だ。ビアテイスト飲料だが、焼酎をこれで割った酎ハイ系の安酒感がまた、串カツの場末感とぴったりマッチする。
と、慣れてきて気が緩んだのか、息子がかじった鶏モモ串を再びソース缶に差し出そうとしており、寸前のところで「これっ!」と阻止。ソースが足りないときは、銘々皿にこぼれたのをつけるのが基本、と指導を入れる。ちなみにこんなときに役立つのが前出のキャベツで、これでソースをすくい、串カツの上からかけるのが、通の裏技なのだとか。
食べ盛りを二人擁していると、食べ放題のバイキングでない時は外食の際の支払いが気になるが、ここは1本100~150円だから、遠慮なくいってもらっても大丈夫なのがありがたい。デザートにイチゴ串、バナナ串になんとアイス串も用意されているのはさすが、串カツ屋。それぞれデザート串も1本ずつ平らげたところで店を後にすると、通りの看板群に明かりが灯り、より輝きを増している。
明日の今頃は、USJでディナーを頂いた後に、パレードを見物しているかもしれないが、二度漬け禁止の串カツといい、ど派手できらびやかな新世界の町並みといい、これもまた大阪の旅ならではのシーン。後で子供たちの絵日記に書かれるのは、USJの花火か、日立の広告に明かりが灯った通天閣か。意外と、串をソースに浸している家族みんなの絵だったりして。(2008年8月26日食記)