ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

極楽!築地で朝ごはん21食目…『すしざんまい』の、握り盛り合わせ

2006年04月08日 | 極楽!築地で朝ごはん
 築地場外市場で屈指の活気と賑わいを見せるのは、何といっても寿司店、それもチェーンの寿司屋や回転寿司の店である。店の宣伝をスピーカーからガンガン流し、店頭は派手目の看板と多彩なメニューで賑やか。いわば築地への「観光客」向けの店だから、早起きしなくてもお昼を回ってもやっているし、中には24時間営業、土・日曜も無休なんてところもあるぐらい。市場の食堂なのに休市日にも休まず営業しているとは、仕入れなどどうしているのだろう… と余計な心配をしてしまうが、こうした店は築地で働く人が食事する「市場食堂」とは、また違ったジャンルの店ということなのだろう。

 そんなわけで、築地場外市場で寿司で朝食、の3軒目は、チェーンの寿司屋にチャレンジである。築地を訪れるいつもの9時ぐらいなら、こうした店でもまだそれほど込んでおらず入りやすい。通りを歩いていれば見かけるいくつかの店舗の中で、築地中通りの『すしざんまい』を選んで店内へ。築地界隈で5店舗、ほか都内で18店舗あまりを構える大チェーンの1軒で、場外にある本店とその向かいにある「廻るすしざんまい」のあたりでは、呼び声がにぎやかに響いている。ここ別館はそれら2軒と離れているせいか若干空いていて、テーブル席にひとり落ち着くことができた。店内は明るくきれいで、魚が泳ぐ水槽、カウンター上のネタケース、木札風の品札が、本格的な寿司屋のイメージである。

 これらチェーンの寿司屋の特徴は、とにかく安いこと。築地界隈の一般的な寿司屋では、握り1人前でおまかせだと3000円以上はするところを、こうした店では1000円台という驚くべき値段で出している。支店が多い分一度に大量に仕入れるから、コストが抑えられるという利点もあるのだろうが、それにしても破格だ。ここも店内や店頭にセットや個別の値段を表示してあるのが親切で、握りは1カン98円から、盛り合わせも1480円とある。朝ごはんで寿司屋に入るときは、いつも予算に気を配っているが、これなら安心して盛り合わせをお願いできる。

 盛り合わせは値段の安さだけでなく、マグロに鯛、カツオ、イカ、甘エビ、イクラなど11カンプラスマグロの手巻き寿司、卵焼き、サラダ、みそ汁が付く豪華版だ。中でもマグロは、社長自ら仕入れに自信を持っているここの看板商品。3カンもある中でまずはトロから手を伸ばすと、脂たっぷりで柔らかくジューシー、これはとろけるように旨い。赤身は対照的に柔らかくさらりとした食感で、身の旨みがしっかり楽しめる。手巻きにも続いて手を伸ばしてマグロ3品をさっそく平らげたら、サーモン、サバなど脂ののったネタへ。のり具合が程良いため適度に甘く、ネタの旨さが際だっている。白身のネタの中でも特筆は鯛。はじめはほんのりした味わいで、かむごとに甘みとこくが出てくる。

 あれだけあったのにあっという間に平らげて、気が付いたら締めのオクラの軍艦巻き、卵焼きで後口がさっぱりと仕上げとなった。先に書いてしまうが、築地場外の「チェーン・回転寿司」部門では、この店が一押し。値段の面でも味の面でも、場外市場で気軽に入れる寿司屋だろう。また休日や休市日に築地を訪れても、ここで寿司を食べたなら満足すること請け合いである。(6月下旬食記)

極楽!築地で朝ごはん20食目…『市場鮨』の、赤身の刺身がたっぷりのった鉄火丼

2006年04月06日 | 極楽!築地で朝ごはん
 築地場外の飲食店の全店網羅を志した以上、観光客が集まる有名店から市場で働く人御用達の店はもちろん、看板を全く出していないような怪しげな店や、ちょっと場末風? なところへも足を向けなければならない。別に義務感で、ということではなく、かえってそんなところの方が思わぬ「当たり」に出くわすのでは、という期待もあるのだが。

 場外市場で賑わっているエリアの外れあたり、築地東通りの晴海通り寄りの一角に、小ぢんましりたビルが立っている。今まで市場を散策する際に何度か前を通ったが、あまり気にかけたことがなくいつも素通りしていた。この日はビルの入口にあったパン屋で、あんぱんが気になってちょっと覗いていると、ビルの奥へ数軒の店が並ぶの目に入ってきた。最奥から2番目の店は寿司屋のようで、ここからはやっているかもよく分からないが、店頭まで来てみるとどうやら暖簾と看板は出ている様子。周囲に人気はなく入りづらい雰囲気だが、とりあえず暖簾をくぐってみることにした。

 築地場外の飲食店にしては店内は広く、市場の寿司屋ではなく町で見かける普通の寿司屋の印象。もっとも時間帯のせいか、客も市場の人がひとりいるのみである。無人のカウンターの一角に腰掛けて、まだ仕込み中といった感じの板前さんと差し向かいながら、品書きをざっと眺める。握りや丼物などが並ぶ中、朝ご飯にピッタリのものはないか探したところ、鉄火丼630円というのを発見。朝から数千円出してにぎり寿司は少々豪華だが、これなら量も値段も朝ご飯にはちょうどいい。

 この『市場鮨』、もとは場内でマグロ専門の仲卸をしていただけあり、寿司ネタの中でもマグロの品揃えの良さには定評がある。赤身を豪華にのせた鉄火丼のほか、カマトロを使った大トロ丼にネギトロ丼など、マグロをネタにした丼物は多彩。ほかにもランチの握りや具だくさんの海鮮丼などお得なメニューが揃い、そのものズバリの店名の通り、なかなか本格的な市場の寿司屋のようである。

 カウンター越しに差し出された丼には、表面を覆い尽くすようにたっぷりとマグロの赤身がのっている。ざっと数えても10枚ほどはありそうだ。ひと切れ箸でつまんでみるとかなり厚く切ってあり、これは食べ応えがある。中トロや大トロのふっくらした味わいと対照的に、全体的に歯ごたえがありざっくりした食感。味の方もかなり淡泊であっさりしているから、これまた朝食向きか。

 刺身が厚めなので、ご飯と一緒にかき込むというよりもつまんではご飯を食べ、という具合なので、先に刺身だけなくなってしまった。残ったご飯をあら汁と一緒に平らげてひと息。ちょっと気を付けなければ見つけられなさそうな場所で、思わぬマグロのうまい店を見つけたな、と、ちょっと得をした気分で店を後にする。相変わらず人の気配があまりないビルの飲食店街から出ると、そこは築地東通り。買い物客が行き交い、店の人の呼び声が響き渡る、いつも通りの築地の喧噪が広がっていた。(6月下旬食記)

極楽!築地で朝ごはん19食目…『ととや』の、希少なボンジリ入り焼き鳥丼

2006年04月04日 | 極楽!築地で朝ごはん
 前回の「築地寿司」で、築地場外の食べ歩きで、ようやく「寿司デビュー」を果たした。これを転機に、これからの築地食べ歩きの展開に変化が訪れるか… と思ったが、とりあえずこの日も築地6丁目界隈へ。築地への買出し客や観光客が少ない、いわば通好みのこのエリアが気に入ってしまい、観光客も多く出入りする寿司店の探訪はまあ、ぼちぼちということで。昨日寿司を食べたから、という訳ではないが、この日選んだのは肉系、鳥料理である。

 今日は路地裏へと分け入らずに、晴海通りに面した鳥料理の店『ととや』に早々に決め、暖簾をくぐることに。築地の魚づくしに飽きたときに、カレーや牛丼、ラーメンなどを食べてきたが、鳥の専門店は始めてである。店は9時からなのでまだ開いて間もないせいか、テーブル席中心の店内にはほかに客の姿はなく、おばあさんがひとり、いすで店番している。BGMなど流れておらず、活力あふれる築地にあって珍しく、静かで落ち着いたたたずまいの店である。

 つくね焼き鳥丼や五目そぼろ丼など、卓上の品書きにある数種の丼物から、選んだのは焼き鳥丼。昼だけの限定メニューで、柔らかいモモ肉を特製の甘辛いタレにつけ焼きにした、照り焼きをのせてある。品書きに「モモ肉とボン」と書かれている「ボン」とは、ボンジリのこと。尻まわりの貴重な肉で、1匹から1切れしかとれない貴重品だ。ほとんど脂だけ、その分鳥の旨みをたっぷり含んでいて、鳥好きにはたまらない味という。ほか、大盛りも「大盛り、中盛り」のほか「肉大盛り」なんてのがあるのがおもしろい。

 運ばれてきた丼に肉は5~6切れのっていて、ご飯が見えないほど。見るからにボリュームありそうだが、肉を2、3切れつまんでみると、柔らかくかなり淡泊な味わい。味が淡いのでテーブルのタレや、薬味であるかんずりを足しながら、さらに肉をガツガツ。かんずりとは新潟県新井特産の香辛料で、地場産の唐辛子を雪にさらしてアクを抜き、麹や塩、天然の香料を加えたもの。辛味が強いが爽やかで、鶏肉の淡い味わいによく合う。そして目玉のボンチリ。かみしめるとジュッとジューシー、脂のみだが良質のため、くどさや雑味がなく意外にさっぱりとしている。肉の丼とはいえ、これはあっさりと朝食向き。食が進み、大盛りにしておけばよかったかな、とちょっと後悔してしまう。

 締めくくりに、追加で頼んだうずらとつくね入りのスープをグッと飲み干す。おかげで脂が流れ、口の中がさっぱりした。ごちそうさま、と店を出ると、梅雨の間の晴れ間が広がっている。築地の食べ歩きを始めて、もうすぐふた月。日差しはすっかり、夏模様である。(6月中旬食記)

極楽!築地で朝ごはん18食目…『つきじ寿司』の、6色だが色鮮やかなレインボー巻き寿司

2006年01月15日 | 極楽!築地で朝ごはん
 ここまでほぼ毎朝、築地場外の飲食店を20軒ほど食べ歩いてきたが、築地といえば外せないあのジャンルの店が、未だ1軒も紹介されていないのにお気づきだろうか。そのジャンルとは「寿司」。実は当初、寿司屋は朝の食べ歩きから除外するつもりだった。理由は単純で、値段が高いから。築地のガイドブックにはトロやウニ、イクラなど極上のネタを使った握りがきれいな写真で掲載されていて、「おまかせ」や「特上」と称して1人前3000円程度とある。築地周辺の寿司屋のほとんどが、最上クラスの盛り合わせはこの値段で合わせているといわれており、これでは朝ごはんどころか、晩御飯でだって毎日気軽に食べられる値段ではない。

 そんな方針を変更することに決めたのは、築地6丁目のその名も『つきじ寿司』を訪れてからだ。店の前を通りかかった時、店頭の看板に大書された「ランチは1050円」の文字に思わず足を止めたが、寿司屋だしランチでは朝食の食べ歩きには関係ないか、と思い返す。するとその横には何と、「ランチは7時から」。そういえば築地時間のランチはその頃合からだなあ、と再び思い返して苦笑い。寿司といってもこの値段なら無理なく頂けるので、この日のランチというか朝食はここに決め、暖簾をくぐることに。店内はカウンターがぐるりと伸びていて、いかにも寿司屋といった感じの店である。

 お茶を運んできたおかみさんにランチの握りをお願いして、非常に愛想のいい親父さんとカウンターを挟んでしばらく談笑する。場外のはずれにあたるここ築地6丁目界隈は、一般の買い物客や観光客で込み合う場外の中心部を避けて、仕事帰りの河岸の人が飲みに来る穴場的店が中心という。ここ2、3日通っていると、確かにそうしたこぢんまりした飲み屋や、隠れ家風の料理屋をちらほら見かける気がする。「ほかにも銀座や八丁堀のサラリーマンとか、茅場町の『株屋』もよく顔を出すよ。連中、朝が早いからね」と、築地のはずれにありながら、客層はビジネス街どまん中の社用寿司屋顔負けといった感じだ。

 ランチ握りは握り8カンに巻物つきで、1000円ちょっとという値段からすれば破格の内容である。しかも盛り合わせて出されるのではなく、1カンずつ握っては目の前のつけ台に出されるのが、回転寿司やチェーンの寿司屋と違い本格的でうれしい。寿司は握りたてが一番とばかり、マグロにサーモン、白身と、出てくる順にどんどん頂く。中でもマグロには特にこだわりがあり、長年取引のある仲卸業者に脂ののりがいいものを厳選して入れてもらっているという。大衆魚をネタにした握りもなかなかのもので、軍艦巻きの小柱はコリコリと甘く、アジも脂が程良くしっかりのっている。

 朝っぱらから贅沢に握りを楽しんだら、ここからがこの店ならではのオリジナル。名づけて「レインボー巻き」の登場だ。4つ並んだ中ぐらいの太さの海苔巻きの、断面の色鮮やかなこと。キュウリの緑、ヤマゴボウのオレンジ、タクアンの黄、マグロの赤、あとごはんの白とのりの黒を入れても1色足りないが、そこはまあご愛嬌か。彩りのよさももちろん、味のほうも山ゴボウとお新香の酸味に、マグロの赤身がしっかりと引き立てられている。田舎でお祭りのときに食べる太巻きを思い出す味わいで、目からも舌からも華やかな気分にさせてくれる。

 鯛やヒラメのあらでダシをとった、磯の香強いあら汁で締めくくり、「またどうぞ、夜はお酒だけでも結構ですからいらしてください」と気分良く見送られて店を後に。考えてみれば、寿司は何も特上を頼まなきゃいけないこともない。朝ごはんなら朝ごはんらしく、相応の値段のを注文すればいいのである。観光客御用達、しかも高価なガイドブックのおすすめ握りには目をつぶり、本編ではこれから1000~2000円の並寿司で手軽に朝ごはん、といくにしよう。(2004年6月18日食記)

極楽!築地で朝ごはん17食目…『めし丸』の、朝酒の市場男衆に混じって頂く刺身定食

2006年01月13日 | 極楽!築地で朝ごはん
 場外市場の最奥にあたる築地6丁目界隈は、ごった返す人ごみで賑わう場外の中心部と対照的な静かな雰囲気に、何とも惹かれるものがある。昨日訪れた天ぷらの「黒川」のように、市場食堂とはまたタイプの違った個性の強い飲食店が点在しており、ちょっと濃密な空気が漂っているよう。この日は一直線に、民家が集まる路地へと入り込み、昨日の「黒川」の向かいの『めし丸』へと足が向く。昨日も中を覗いてみたものの、ちっぽけなカウンターには市場で仕事を終えたばかりの常連ばかりと、とても一見で入れなさそうなムードだったこの店が、どうにも気になって仕方がなかったからである。

 アルミサッシの扉をがらりと開けると6席ほどの小さなカウンターがあり、テーブル席は隣の民家との狭い路地に「オープンエア」の特別席? が設けられている。すでに河岸で仕事を終えた客が数人、仕事帰りに一杯の時間のようで、この間誰々が酔って騒いで大変だったとか、誰々はもう36だけど結婚は… とか、河岸も時代に合わせて変わらないと… とか、酒の席らしく硬軟取り混ぜた話題が飛び交っている様子。まさに河岸の社交場的な店で、思っていたよりも入りやすい雰囲気に安心して、カウンターの奥へと席をとった。カウンターの奥はまるで普通の家の台所のようになっていて、まるで普通の民家を改造したようなこぢんまりした店である。

 店内には手書きの品書きが数多く掲げられ、カツオやマグロの刺身や盛りあわせ、定食、どんぶりなど、どれも魅力的。中でもこの日の「刺身定食」はマグロの赤身と中トロ、イカ、金目、アジの4種盛りとあり、850円という値段の割には充実しているのでこれに決め、カウンター越しにご主人に注文する。それに合わせるかのに、隣で討論していた河岸の若衆風の男が、ジョッキでチューハイをお代わり。いつから飲んでるのか知らないが、前にはかなりの数の空いた皿が並んでいる。夜中の2時、3時に市場に入る彼らにすれば、朝の9時過ぎなどまだまだ宵の口なのだろう。

 酔客で賑わうカウンターとは対照的に、その向こうでひとり黙々と調理を進めているご主人は、東京や大阪の寿司店での修業経験があるという。料理に使う魚介は、自ら吟味して仕入れており、一品料理も丼物も定食もいずれも、味の良さには信頼がおける。刺身定食は大きな青い角皿に、色とりどりの刺身に厚焼き玉子と大盛りで、種類が多い分、様々な味が楽しめるのがうれしい。イカはねっとりせずパキパキと新鮮、アジは脂が濃厚、ふわりとした歯ごたえのトロも脂がしっかりのって甘い。醤油とみりんで甘辛く煮付けるのが定番の金目鯛を刺身で頂くのは珍しく、トロよりもさらに強いトロリとした甘みが、口の中に広がっていく。ややマグロに筋、イカに固いところがあるが、値段からすればご愛嬌の範囲内か。みそ汁と小鉢が付いており、カウンター上の大皿に盛られた卯の花をよそった小鉢が、家庭料理的な素朴でいい味を出している。

 居酒屋でよそ者がひとり、酒を飲まずにご飯を食べているような気分で黙々と飯を食い、きれいに平らげて支払うと「まいどどうも」とご主人。ちょっと場違いな一見客に対して、常連扱いのようで何だかうれしい。小さいが実力派の店が点在する築地6丁目界隈、ちょっと築地の空気に慣れてきた今時分には、鮮烈でなかなか刺激的なエリアである。(2004年6月17日食記)