台本を渡して2週間、まだ本格的な読みに入っていないんだよ。一度ざっと読み通した後、台本を元に検討ミーティングをしてるからなんだ。なんせ、時代は昭和15年だろ、場所は満州最北のソ連満州国境近く、おお、まったくの未知の世界!当時の歴史と地勢を大雑把でも掴んでおかなないと、とてもじゃないが、セリフの意味がわからない。しかも、軍の慰安所に女たちを供給すね女衒だとか、慰安婦上がりの抗日戦線兵士だとか、朝鮮人皇軍兵の脱走兵だとか、歴史本にもなじみの薄い、時代の裏側てんこ盛り、さらに、1年前の凄惨なノモンハン事件まで絡んで来るんだから、これは、しっかり時代認識、持ってもらわないとね。
今までは、本読みの合間合間に、演出、つまり俺が割って入って、背景の説明などしていたんだが、今回は、最初にまとめて持ってきた。それも、一方的なレクチャーでなく、役者たちが、自分の役を通して感じた時代やセリフに込められた思いを語るって形にした。受け身でなく、自分から役を掴んで欲しかったし、自ら考えて役作りをしていくという意識をさらに強固にしたかったからだ。
役者一人一人、自分の考えを述べたり、他のメンバーの感想やらアドバイスを聞いたりしながら、役についての理解を深めた。各自の読み込みを聞いてみると、的確に人物像に迫ってる者もいれば、自分に引き付けて理解しようとしている者、役柄を掴み切れず苦労している者など、様々だった。でも、みっちり2日間もディスカッションを行ったことで、かなり認識も深まったはずだし、登場人物やストーリーにかけた作者の思いも理解してくれたように感じている。さらに、深く知識を得たいというメンバーもいて、その人たちのために、今回台本書きでお世話になった本を持って行こうと思っている。
もちろん、作者、演出としてくどくどと話しをさせてもらった。国民と煽り煽られ戦争をけしかけた新聞マスコミのこととか、東南アジアで戦犯として裁かれた朝鮮人軍属のこととか、泰緬鉄道敷設、戦場にかける橋の舞台、の際の捕虜虐待のこととか、南京虐殺の事実とか、ノモンハン事件はもちろん、インパール作戦の戦いやその卑劣な指揮官たちのこととか、関東大震災の時の朝鮮人虐殺のこととか、中でも、慰安所の実態についてはできるだけ詳しく話しをした。
だってなぁ、こうも、歴史改ざん、嫌韓差別が横行してくると、世の中危ういぜ。演劇だって、知らんぷりしてるわけにゃいかんじゃないか。