役場の人から、お礼の品です、って小さな箱をもらった。えっ?お礼って、なんかしたっけ?墨田区からです、墨田区。ああ、交流事業で向こうの子どもたちの民泊引き受けたことね。そうそう、思い出した、夏休みに女の子二人をお世話したんだった。そう言えば、芋掘りとか一緒にしたなぁ。
で、その箱の包み紙を見て、驚いた!いや、驚喜した!
電気ブラン、神谷バーの電気ブランじゃないか!電動掃除機?なんて聞かないでよ。ブラシじゃない、ブラン、ブランデーのブラン、酒だよ、酒、れっきとした酒だ。いや、れっきとはしてないか。なんせ合成酒だから。
一緒に入っていた由来書きによれば、明治15年製造・販売開始。時代は文明開化、なんでも新しいものにゃ電気って付けたってことだ。ブランデーをベースにワイン、ジン、キュラソーなどがカクテルされてます、なんて書かれてるけど、瓶に貼られた原料表示には、カラメル色素、香料ってしっかり書いてある。そう、今はともかく、以前は、醸造用アルコールに味も香りも色も、すべて添加物で付けてたはずだ。
なんだってそんなまがい物、もどき酒を喜ぶかって?そりゃ、今じゃ東京下町の一大名物になってるからよ。いやいや、今に始まったことじゃない。僕が東京にいた40年も前だって、庶民の酒として有名だった。しかも、それが飲めるのは、浅草の神谷バー!この酒場が実にいい。何度か横を素通りするたびに、昭和初期のカフェを思わせる赤茶けた明かりの店内を羨ましげにのぞき込んだものだった。酒場やバーで酒を飲むという習慣のなかった当時、いや、今だってないが、憧れてはいても、なんか入りそびれてしまっていた。
墨田区、気が利くよねえ、電気ブランをお礼の品って届けるなんて!って、一人ほくそ笑んでいたが、待てよ、子どもたちの面倒みたのって、神さんだった。なのに、男が喜ぶ電気ブラン、いいのかね?多分、他の受け入れ家庭だって事情は同じだと思うけど。神さんが留守中の我が家では、不平不満も、いざこざもなく僕一人喜んでるが、きっと他の家では、女性たちの怒りが爆発してることだろう。こわーーっ!と、すると、この粋な計らいも、今年限りかもしれない。となると、なおさら愛おしい電気ブランってことだなあ!!