スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

戸口の雑感⑬&コナトゥスと自然権

2022-09-03 19:23:53 | NOAH
 戸口の雑感⑫の最後のところでいったように,1979年8月26日に,東京スポーツが主催したオールスター戦が開催されました。戸口はこのとき藤波とも戦ったのですが,それに関連して戸口は藤波に対して簡潔な評価を与えています。
 でいったように,戸口は大木金太郎と組んでインタータッグの王者になった後,一時的にアメリカに戻っています。このときにカロライナで藤波と一緒になったそうです。戸口からみると藤波は身体が小さかったので,アメリカでやっていくのは厳しいだろうと感じたそうです。藤波はジャンボ・鶴田と比べられることが多かったレスラーですが,戸口はこの点で鶴田と藤波には歴然とした差があったというように認識しているようです。なのでもしも藤波が全日本のレスラーで,美獣とかファンクスといった超一流のレスラーと戦ったとしても,善戦することもできなかっただろうといっています。これは僕にとっては思いのほか厳しい評価でした。とくに戸口は後に新日本で藤波と実際に戦っているので,よりそのように感じられました。戸口にいわせれば,藤波が成功することができたのは,新日本プロレスで,それもジュニアヘビー級だったからだということのようです。佐藤と藤波のエピソードで紹介したように,おそらく藤波は選択の余地などなく新日本プロレスで仕事をすることになったのだと思われますが,戸口からすれば,それは藤波にとっては幸運なことだったということになるのでしょう。一方でこの評価からは,戸口自身の身体の大きさに対する自負も感じられます。
 当時の全日本プロレスのチャンピオンカーニバルは総当たりのリーグ戦でしたので,戸口は日本陣営に加入した後も,1980年と1981年のリーグ戦で鶴田とシングルマッチを行っています。どちらも時間切れ引き分けでした。このことについては戸口はふたりの試合はタイムアップが定番となってしまったので,その流れは断ち切りたかったと思っていたそうです。つまりこの流れは,戸口にとってよいものではなく悪いものだったことになります。しかしそのように両者に傷をつけないのが,馬場流のやり方だったと戸口は言っています。

 自然権jus naturaeがコナトゥスconatusによって規定されるということになると,ふたつの事柄が帰結します。これは『国家論Tractatus Politicus』では論じられていないのですが,重要なことなので僕の方から説明しておきましょう。
                                   
 コナトゥスを論じている第三部定理七は,何度かいっているように,人間にだけ固有に成立する定理Propositioではなく,現実的に存在するすべての個物res singularisに適用される定理です。したがって,コナトゥスが自然権を規定するのであれば,少なくとも概念notioとしては,現実的に存在するすべての個物が,その個物に特有の自然権を有しているといわなければなりません。ここで僕が概念としてというのは,多くの個物は人間のようには自然権を認識したり意識したりはしないでしょうから,そうした認識cognitioとか意識とは無関係に,つまりある個物が自身の自然権を何ら認識したり意識したりしないとしても,その個物には自然権があるというように解さなければならないということをいいたいがためです。
 僕はかつて,ライオンの自然権について語ったことがあります。おそらくライオンは,人間が自然権を認識するcognoscereようにはライオンの自然権を認識しないでしょう。それでもライオンには自然権があるというように解するべきです。なぜなら,現実的に存在する人間にはその人間に固有のコナトゥスがあるように,現実的に存在するライオンにはそのライオンに固有のコナトゥスがあるのであって,このコナトゥスが自然権を規定するからです。
 僕はそのときに,ライオンにはシマウマを食う自然権があるといういい方をしました。僕は生存権というのも自然権の一部と考えますので,ライオンにシマウマを食う自然権があるというのは,ライオンにはシマウマの生存権を,つまりは自然権の一部を侵害する自然権があるという意味になります。そしてこのことは,ライオンのコナトゥスとシマウマのコナトゥスとの相違によって生じるのです。いい換えれば,ライオンの現実的本性actualis essentiaとシマウマの現実的本性の相違によって生じるのです。このために,ライオンはシマウマを食う権利jusを有しているのであって,同じことですがライオンはシマウマの自然権を侵害する権利を有していることになるのです。
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