漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

深き森は悪魔のにおい

2013年11月07日 | 読書録

「深き森は悪魔のにおい」 キリル・ボンフィリオリ著 藤真沙訳
サンリオSF文庫 サンリオ刊

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 舞台はフランス沖合に浮かぶ、ノルマンディー諸島のジャージー島。そこでは裕福な移住者たちが、悠々自適な暮らしをしている。ある時、その平和な島に、連続レイプ事件が起こる。最初に被害にあったのが、主人公であるチャーリーの友人二人の妻君。話によると、犯人はゴムのマスクを被り、ヤギのような嫌な臭いがして、腹には剣の絵が描かれてあったという。それは島に伝わる伝説のけもの男を思わせる特徴だった。チャーリーたちはその犯人を捕らえようとするのだが……というストーリー。
 「どうしてこんな本を出したの?」って聞きたくなるような珍品をたくさん出しているサンリオSF文庫。中にはひどいのもあるけど、これはそうした珍品の中では、悪くない一冊だった。翻訳は聞いたことのない訳者だが、癖がないので、ちょっと変わった小説の割には読みやすい。
 ただし、これっぽっちもSFではない。じゃあ何だと言われれば、ドタバタ小説、あるいは現代文学だろうとしかいいようがない。女性蔑視な語りに眉をしかめる人も多いとは思うが、黒いユーモアを前面に出した語り口は、(時々スベってる気もする気もするけれど)もしかしたら、SF作家とされることも多いカート・ヴォネガットが比較的近いのかもしれない。あるいは、ウィリアム・コッツウィンクルとか。ただし、文学性という点では、ヴォネガットよりは幾分落ちる。この本がサンリオSF文庫に収録された理由は、著者のボンフィリオリがイギリスのSF雑誌「SFインパルス」の編集長だったことがあるという点が大きいのだろうから、いかにもサンリオらしいチョイスではある。
 一応、ミステリー的な要素はあるのだが、解決編で明らかになる犯人は、「まあ、そんなもんだろう」という感じで、謎解きは自体は、ついでみたいなものと思った方がいいかもしれない。それよりも、何だか切ない余韻のようなものに浸る方が正解のような気がした。